遊星「丸くなったな」 (55)

アキ「出来た……会心の出来だわ」

アキ(栄養バランスと彩りも完璧。それでいて遊星の好みもキチンと抑えられている)

アキ(私が持ち得る料理の技術が全て、このお弁当に込められていると言っても過言ではないわ)

アキ(遊星にお弁当を作ってあげると言って早数週間……思えば長い戦いだったわね)

アキ(けど今日こそはその目的を果たす事が出来る! 遊星の空腹ポイントを0にする時が来たのよ!)

アキ「時間的にも丁度いい感じ……さあ、早速遊星に届けに行くわよ!!」フンス

ポッポタイム・ガレージ……

龍亞「アキ姉ちゃんって昔と比べて大分雰囲気変わったよね」

クロウ「んっ、いきなり何だよ?」モグモグ←昼食中

龍亞「昨日龍可と2人で遊星達と初めて会った時の話してたんだけどさ、アキ姉ちゃんが一番今と変わったなって話になったんだよ。
あ、変わったって言っても勿論良い意味でね」

クロウ「そうなのか? 俺は最初からあんな感じだと思ったけどな」モグモグ

龍可「そういえばクロウはフォーチュンカップの頃のアキさんの事あまり知らないんだっけ?」

龍亞「怖かったんだよ、黒薔薇の魔女時代のアキ姉ちゃん。俺最初に会った時、おしっこ漏れるかと思ったもん」

龍可「もう、あんまりそういう話を掘り返さないの」

クロウ「ふ~ん、黒薔薇の魔女ねぇ」モグモグ

…………

アキ「クククッ、我は黒薔薇の魔女『†ザ・シックスティーンス・ナイト†』。
闇の女神『ブラック・ローズ』と契約を結びし者なり……我に近づく者は地獄の業火に包まれる」キリッ

…………

クロウ「まあ16歳っていったら丁度そういう時期だしな……俺もわりとつい最近まで覚えがあるぜ」モグモグ

龍可(クロウったら何を想像したのかしら?)

ブルーノ「でもアキさんが昔魔女って呼ばれていたの、僕にも分かる気がするよ。
普段は確かに優しいんだけど、時々僕を鋭い目で睨んで来たりするんだ」

クロウ「それって単にお前がアキに何かしたんじゃないのか?」モグモグ

ブルーノ「そんな覚えは無いんだけど……」

龍可(多分、遊星とブルーノが仲良く喋っているのにヤキモチ妬いちゃってるだけなんだろうな)

龍亞「そうだ。遊星はどう思うの?」

遊星「ん? すまない、作業をしていて話を聞いていなかった」カタカタ

龍亞「もう、ちゃんと聞いててよ。だからさ――」

…………

アキ(さて、ガレージの前まで来たけれど……やっぱりここまで来ると緊張して来たわね)

アキ(大丈夫、今回は大丈夫よ。遊星の好きな肉団子やオムライスもちゃんと入れてるし、きっと気に入ってくれるわ)

アキ(行くわよ、アキ! 今日こそ私はガッツポーズで勝利を抱きしめる!!)グッ

遊星「俺がアキをどう思っているかだって?」

アキ「!?」

アキ(え? 今扉の向こうから聞こえたのって遊星の声? ていうか私の事って……え? え?///)

アキ(な、何の話をしているのかしら?)キキミミー

龍亞「だから――最近――アキ姉ちゃ――だけど遊星は――思うの?」

アキ(龍亞の声が聞こえるけど、何て言ってるかは良く分からないわね……もう少し近付きましょう)

アキ(正直盗み聞きするのは気が引けるけど……遊星、こういう話は自分からしないし……やっぱり気になるし……)

遊星「そうだな。アキは……」

アキ「…………」ゴクリ




遊星「丸くなったな」

アキ「」

遊星「ああ、初めて会った時と比べて随分丸くなったと思う」

アキ「…………」

遊星「本人に改めて何か言うつもりも無いが……」

アキ「…………」

遊星「アキが元気ならそれで良いと思う」

アキ「…………」

アキ「…………」トボトボ

龍亞「ふぅん、じゃあ遊星もアキ姉ちゃんは変わったって思ってるんだ」

遊星「そうだな。もっともアキの根本的な良さは何も……ん?」

クロウ「どうかしたのか?」モグモグ

遊星「今外に誰か居なかったか?」

龍可「ジャックが帰って来たのかしら?」

ブルーノ「でも誰も居ないみたいだけど?」

クロウ「遊星の気のせいじゃないのか?」モグモグ

遊星「…………」

十六夜邸……

節子「あら、お帰りなさい。早いわね、遊星君の所に行っていたんじゃないの?」

アキ「…………」

節子「アキ?」

アキ「……ママ、これ」トスッ

節子「何これ? お弁当?」

アキ「パパにでもあげて……」トボトボ

節子「そりゃ喜ぶでしょうけど……ちょっと、アキ?」

洗面所……

アキ「…………」

遊星『アキは丸くなったな』

アキ「…………」

アキ「(ボソッ)私、そんなに太ったのかしら……」

アキ「…………」

アキ「…………(汗」

アキ「……覚えがあり過ぎてやばいわ(滝汗」

アキ(最近、料理の練習をする度に摘まみ食いしてたし)

アキ(この前も学校帰りにクレープ食べたし)

アキ(鏡を見る限りだと自分ではそんなに変わったとは思えないんだけど……)チラッ

体重計「」ドン☆

アキ(やっぱりちゃんと量った方が良いわよね?)ゴクリ

アキ「そういえば最近ご無沙汰だったわね、あなた。出来ればあまり対話したくない相手なのだけど」

アキ「最後に乗ったのは3ヶ月くらい前だったかしら? あの時は確か(禁則事項)キロぐらいだったはずだわ」

アキ「さすがにそこまで増えては……ねぇ?」

アキ「……何1人でブツブツ言ってるのよ。フン、こんなの怖くも何ともないんだから」

アキ「この十六夜アキを見くびらないでちょうだい! さあ、デュエルよ!!」バッ

…………

節子(あら? 今向こうの方で誰かのライフが0になった様な……)

英雄「遂に娘の手料理を食べられる日が来るとは……ああ、写真撮ってブログに上げなければ!!」ムハー

アキの部屋……

アキ「…………」チーン

アキ(まさかあんなに増えていたなんて……夢なら早く覚めて欲しいわ)グスッ

アキ(でも当然よね、あんなにバクバク食べてたんですもの。遊星に丸いって言われて当然だわ)

アキ(やっぱり遊星もこんなに丸い子が近くに居たら嫌がるかしら? でも遊星は優しいし、それに……)

遊星『俺はアキが元気ならそれで良いと思う』

アキ(多分このままの私相手でも、普段通りに接してくれるでしょうね……)

アキ「…………」

アキ(……駄目よ)

アキ(仮に遊星が気にしなくても、私が気にするもの)

アキ(それにこんな姿じゃ、遊星に堂々とお弁当も渡せないわ)

アキ(だからこれは私自身の戦い……聖戦なのよ)

アキ「……痩せてやる」グスッ

アキ「絶対に痩せてやるんだから!」グスン

1週間後……

アキ「ご馳走様」

節子「あら、もう良いの?」

アキ「ええ、もうお腹いっぱいだから」

節子「最近あんまり食欲が無いみたいだけど、何処か体調でも悪いの?」

アキ「別に何ともないわよ。じゃあ私、ちょっと出掛けて来るから」

節子「遊星君の所?」

アキ「町をブラブラしに行くだけよ」

節子「そうなの。休日は何時も遊星君の所に行ってるから今日もそうだとばかり思ってたわ」

アキ「……今はあんまり遊星に会いたくないから」

節子「あら、珍しい。喧嘩でもしたの?」

アキ「別にそんなんじゃないけど……とにかくもう出るから」

節子「夕飯までには戻るのよ」

節子「…………」

…………

アキ「はっ、はっ……」←ジャージ姿で走ってる

アキ(ダイエットで大事なのはやっぱり食事制限と運動)

アキ(この一週間で少しは落ちたけど、目標の3ヶ月前の体重にはまだ戻っていないわ)

アキ「もっと頑張らなきゃ……ん?」グー

アキ(うぅ、やっぱりもう少し食べておけば良かったかしら? というか今の音、誰にも聞かれてないわよね?///)キョロキョロ

アキ「あ、遊星とも一緒に食べたクレープ屋……もう次の新作出たんだ」

アキ「…………」ジュルリ

アキ「って、駄目よ! ここで甘い物なんて食べたら、1週間の頑張りが全部無駄になるわ!」ブンブン

アキ「あら、お洒落なパスタのお店ね。そういえば最近オープンしたってウチにも広告入ってたわ」

アキ「…………」ジュルリ

アキ「って、だから駄目だってば! これ以上太る訳にはいかないのよ!」ブンブン

アキ(どうしてかしら? 今日はやけに食べ物屋さんが目に入るわ……)

アキ(くっ、こんな誘惑には屈しないわよ!)

アキ(嫌なのよ、丸いなんて思われるのは……だから、だから!!)

アキ「負けるもんですかぁぁぁぁ!!」

ぐにゃ~~~~

アキ「はれ?」

アキ(何か急に世界が歪んで……あれ? あれれ?)

アキ「にゃんで? にゃんでみんにゃグルグル回ってりゅの……?」

アキ(何か……目の前が……真っ暗に……)

……バタン!

…………

アキ「……うぅ~ん」

アキ(ここは……公園のベンチの上?)

アキ(私、何でこんな所に? 確か走っていたら急に気分が悪くなって、それで……)

遊星「――気がついたか?」

アキ「って、きゃあ!? ゆ、遊星?///」ビックリボー

アキ「なっ、何で遊星がここに?」

遊星「お前のお母さんから連絡があったんだ。最近アキの様子がどうもおかしいとな。
それで今は町に出てると聞いたから、気になって探しに来たんだが……」

遊星「来て正解だったな。まさか行き倒れているとは思わなかった」

アキ「うぅ……///」カァァ

遊星「とりあえずこれ。近くの店で買って来た」

アキ「サンドイッチ……?」

遊星「お腹空いているんだろ? 寝言で食べ物の名前をブツブツ呟いてたぞ」

アキ(わりと本気で死にたい……)ズーン

遊星「すきっ腹で走るからこういう事になるんだぞ」

アキ「……ごめんなさい」

遊星「ダイエットか?」

アキ「……さすがに分かるわよね」

遊星「正直、俺は今のアキにダイエットなんて必要ないと思うけどな」

アキ「…………」

アキ「……嘘つき」

遊星「アキ?」

アキ「私の事、丸いって言ってたくせに」

遊星「え?」

アキ「私、聞いたんだから……遊星が最近の私、丸くなったって」

遊星「……やはりあの時外に居たのはアキか」

アキ「盗み聞きしたのは悪かったけど……私が居ないところでああいう話をする遊星達も悪いと思うわよ?」

遊星「そうだな……それは俺達が悪かった。すまない、アキ」

アキ「私だって……一応は女の子なのよ?」

アキ「誰かに丸いって、太っているって言われるのはやっぱり嫌だし」

アキ(特に遊星、あなたには……)

遊星「…………」

アキ「だから私は、早く痩せようって頑張って……」ウルウル

遊星「アキ、お前は大きな勘違いをしているぞ」

アキ「へ?」グスッ

遊星「何処まで聞いたのか知らないが、俺が丸くなったと言ったのは『性格』の話だ。『体系』の事じゃない」

遊星「最近のアキは最初に会った時よりも優しい雰囲気が前に出て来た。だから丸くなったと言ったんだ」

アキ「…………」ボーゼンマイン

アキ(た、確かにそれでも話の辻褄は合うわね。じゃあ何? 単に私の勘違いだったって事?)

アキ(だけど事実体重は増えてたし、それに……)

アキ「う、嘘よ! 遊星は私が傷つかない様に嘘をついてるのよ!!」

遊星「俺の言葉が信用出来ないのか?」

アキ「だ、だって遊星は……優しいから」

アキ「優しいから、誰かを傷つけない為なら、嘘だってつくし……」

遊星「…………」

アキ(何を言ってんだろ、私……何で素直に受け止められないの?)

アキ(遊星が優しいって知ってるなら……陰で誰かの悪口になる様な事を言うはずないって、分かるはずなのに)

遊星「……アキ、1つ言っておきたい事がある」

アキ「……何よ?」

遊星「俺はお前が思っているほど、優しい男じゃない」

アキ「え?」

遊星「だから我が儘だって言う事もある」

アキ「遊星?」

遊星「もう無理なダイエットは止めて欲しい。さっきお前には必要無いと言ったのも本心だ。なぜなら――」

遊星「俺は今のアキが一番好きだからだ」

アキ「ふえ!?///」

遊星「だから今の姿を無理に変えて欲しくない。それは『体系』も『性格』もだ」

遊星「勿論これは俺の我が儘だ。無理の無いダイエットなら続けてくれても構わない」

遊星「だが俺は今のアキが一番良いと思っている。その事を、心の中に少しでも留めておいて欲しい」

アキ「…………///」

アキ「……はい///」コクン

…………

遊星「さて、そろそろ帰るか。家まで送って行くよ」

アキ「……ねえ、遊星」

遊星「何だ?」

アキ「私、本当に丸く無い? ダイエット、必要ないと思う?」

遊星「ああ、むしろ運ぶ時に軽過ぎて少し心配したくらいだ」

アキ「運ぶ時?」

アキ(そういえば私、倒れた場所からベンチまで遊星に運ばれたのよね? という事は……)

アキ「ゆ、遊星。私を運ぶ時、あなたどうやって私をここまで連れて来たの?」

遊星「どうやってて……普通に抱きかかえただけだが?」

アキ「そ、それってまさかお、お、お姫様だっこ、とか?///」

遊星「ああ、そうだな」

アキ「途中……だ、誰かに見られたりとかは……?///」プルプル

遊星「そりゃ街中を歩いたからな。そういえばアキくらいの年ごろの女子3人がやけにこっちを見ていた気がするが……アキ?」

アキ(……もう絶対に空腹で外を走ったりしない)ズーン

十六夜邸・風呂場……

カポーン

アキ(何だか慌ただしい1週間だったわ。でも最後は……)

遊星『俺は今のアキが一番好きだからだ』

アキ「…………///」

アキ(わ、分かってるわよ。遊星の事だからそういう意味で言った訳じゃ無い事くらい!)

アキ(それに遊星は今のままで良いって言ってくれたけど、さすがに太り過ぎだと思うし)

アキ(せめて3ヶ月前の体重には戻さないと。遊星も無理をしなければダイエット自体は続けても良いって言ってたし)

アキ「とりあえずそろそろ上がりましょう……さすがにのぼせそうだわ」

アキ「ああ、良いお湯だった……あら?」ホカホカ

アキ(体重計が……変わってる?)

アキ「ママ~」

節子「なあに? 着替えでも忘れたの?」

アキ「そうじゃないんだけど、体重計……」

節子「ああ、そういえばアキには知らせて無かったわね。前の壊れてて、今日新しいの買ったのよ」

アキ「へ?」

節子「今度のは新しい機能が色々付いているみたいよ。試してみなさいな」

アキ「……ひょっとして」

アキ「~~~♪」←声にならない喜び

アキ(3ヶ月前と同じ体重~♪)バンジャーイ

アキ(そうよね、見た目も全然変わってなかったもの! 良かった、本当に良かったわ!!)

アキ「…………」

アキ(……でも1週間ダイエットして3ヶ月前と同じ体重って事はやっぱり少しだけ太ってたのかしら?)

アキ「い、良いのよ、とりあえずは元に戻ったんだから……早く服を着ましょう、うん」

アキ(でも本当にお腹や足とかに変化はなかったのよね。一体何処にお肉付いたのかしら?)


アキ「…………」

アキ「……う~ん?」

アキ「気のせいかしら……最近ブラのサイズがきつくなった気がするのよね」

おわり

   /.   ノ、i.|i     、、         ヽ
  i    | ミ.\ヾヽ、___ヾヽヾ        |
  |   i 、ヽ_ヽ、_i  , / `__,;―'彡-i     |
  i  ,'i/ `,ニ=ミ`-、ヾ三''―-―' /    .|

   iイ | |' ;'((   ,;/ '~ ゛   ̄`;)" c ミ     i.
   .i i.| ' ,||  i| ._ _-i    ||:i   | r-、  ヽ、   /    /   /  | _|_ ― // ̄7l l _|_
   丿 `| ((  _゛_i__`'    (( ;   ノ// i |ヽi. _/|  _/|    /   |  |  ― / \/    |  ―――
  /    i ||  i` - -、` i    ノノ  'i /ヽ | ヽ     |    |  /    |   丿 _/  /     丿
  'ノ  .. i ))  '--、_`7   ((   , 'i ノノ  ヽ
 ノ     Y  `--  "    ))  ノ ""i    ヽ
      ノヽ、       ノノ  _/   i     \
     /ヽ ヽヽ、___,;//--'";;"  ,/ヽ、    ヾヽ

読んでくれた人、ありがとうございました。今更ですがこの話は以前書いた、

『アキ「遊星ってちゃんとご飯食べてるのかしら?」』

『アキ「ある日の午後」』

の続きとなっています。もし上の二つを何処かで見かけたらよろしくお願いします。ではまたクリスマスにでも。

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