咲「お姉ちゃん!」照「誰?」(152)

咲「お姉ちゃん、私、ここまで来たよ」

照「は?」

咲「お姉ちゃん、何か言ってよ!」

照「(こいつ確か、清澄の大将…)」

咲「お姉ちゃん!」

照「私はお前の姉などではない」

咲「お、お姉ちゃん…」

和「酷いです!」

照「は?」

和「咲さんはあなたと会いたくて、あなたと仲直りがしたくてここまで来たのに…!」

照「仲直りも何もそんな奴は知らない、私は一人っ子だ」

咲「お姉ちゃん…う、うわああああああん」

和「咲さん!」

照「(やべぇ、こいつ、やべぇよ、逃げよう)」

照「失礼させてもらう」

和「待ってください!」

咲「お姉ちゃあああああああああああん」

照「ひいいいい」

菫「聞こえてたぞ」

照「そ、そうか」

菫「何があったのかは知らないが、妹にあの態度はないんじゃないのか」

照「私に妹なんていない」

菫「また、そんなことを言って…」

照「いや、本当にいない」

菫「え…」

菫「じゃあ、なんだ、あれは妄想か何かということか?」

照「多分…」

菫「有名人は大変だな…」

照「冗談じゃない、全く」

ドア「ドンドン」

照「!?」

咲「お姉ちゃん!」

照「!!??」

咲「お姉ちゃん、話聞いてよ!」

照「は、はわわわ」

菫「お、おい」

照「す、菫、なんとかしてくれ!」

菫「な、なんとかって…」

ドア「ドンドンドンドン」

咲「お姉ちゃん!」

照「ひいいいい」

淡「何事?」

咲「誰?」

和「白糸台の大将ですよ」

咲「あなたが…」

淡「?」

咲「あなたがお姉ちゃんをおおおおおおお!カン!」ドゴォ

淡「ぐはぁ!」

菫「おい、大星が襲われてるぞ!」

照「ひいいい」

菫「助けないと!」

照「あ、開けるなぁ!」

ドア「ガチャ」

咲「お姉ちゃん!」

淡「…」

菫「おい、大星!大丈夫か!」

咲「お姉ちゃん、やっと分かってくれたんだね」

照「何を!?」

咲「お姉ちゃん!」

照「ち、近付くな!」

菫「おい、お前!」

照「邪魔しないで!カン!」ドコォ

菫「ぐはぁ!」

照「菫ぇ!」

照「(やべぇ、こいつ完全に頭逝ってる…)」

咲「お姉ちゃん」

照「ま、ままま、麻雀で勝負だ!決勝で負けたらお、お前の言うこと聞くからぁ!」

咲「決勝で?」

照「そ、そうだ!だから、帰れ!帰ってください!お願いしますぅ!」

咲「分かったよ、お姉ちゃん」

照「分かってもらえましたか」

咲「じゃあ、明日の決勝、楽しみにしてるね」

照「は、はい」

照「おい大丈夫か」

菫「なんとかな…」

照「おい」

淡「…」

照「大星!」

淡「…」

照「死んでる…」

菫「いや、息はしてる」

照「良かった…医務室に運ぼう」

照「宮永咲、長野の清澄の大将…」

菫「宮永、か…」

照「なんなんだ、あいつは」

菫「お前の記事を見たり、話を聞いて同じ名字のお前を姉だと思い込むようになった、とか?」

照「知らない…」

菫「どんな脳内設定なんだろうな」

照「知らない…」

照「警察と大会本部に通報しておこう」

菫「いいのか?」

照「何がだ」

菫「決勝の約束は?」

照「そんなもの無視に決まっている」

菫「それで納得するのか?」

照「どういう意味だ?」

菫「死刑や無期懲役になるわけでもあるまい、解放された時どんな行動を起こすか」

照「ひいいいい」

菫「短絡的過ぎたな」

菫「とにかく事を荒げるのは得策じゃないな」

照「清澄の主将に話を聞いてみるか」

菫「そうだな」

久「決勝の対戦相手、それも王者の主将から直々に及びが掛かるなんてね」

照「前置きはいい」

久「話ってのはあなたの妹について、でいいのよね」

照「合ってるが違う」

久「?」

照「私に妹などいない」

久「何があったのかは知らないし、人の家庭に口出しするのは気乗りしないんだけど、妹のことを…」

照「本当にいない!」

久「え?」

久「咲は妹じゃないの?」

照「違う」

菫「本人から直接聞いたのか?」

久「そういうわけじゃなんだけど、なんとなく反応というか、あとは頭の∠とか」

菫「他人に『自分は照の妹だ』と言ってはいないということか」

久「私じゃちょっと分からないわね」

照「そうか…」

久「(大分疲弊してるわね)」

久「で、聞くだけ聞いてさよなら、は無しよね、何かあったんじゃないの?」

菫「うむ…実は…」

久「咲がそんなことを…」

菫「ああ」

照「…」ブルブル

久「その咲にやられたっていう大星さんは?」

菫「今は医務室だ」

久「大会本部にこの話は…」

菫「いや、していない、決勝の約束をしておいて反故すれば、奴が何をしでかすか分からない」

久「そうね」

久「あなたには妹はいない、そして咲は、理由は分からないけど、あなたを姉だと思い込んでいる、ってことよね」

照「そうだ」

久「あなた、出身は?」

照「生まれも育ちも東京だ」

久「長野に来たことは?」

照「一度もない」

久「そう…」

照「とにかくあいつは断じて私の妹などではない」

久「うーん、なんとか話を聞いてみるわ」

照「頼む」

久「咲、ちょっと話いいかしら」

咲「なんですか?」

久「明日決勝で白糸台と当たるんだし、この際はっきりしておきましょう」

咲「…」

久「宮永照はあなたの姉なの?」

咲「…」

久「咲」

咲「そうです、宮永照は私のお姉ちゃんです」

久「(完全に食い違ってるわね)」

久「何故、今は離れ離れに?」

咲「私、お姉ちゃんを怒らせちゃったんです」

久「怒らせた?」

咲「優しかったお姉ちゃんを…」

久「…」

咲「私に嶺上開花の意味を教えてくれたお姉ちゃんを」

久「咲…」

咲「いつも笑顔だったお姉ちゃんを」

久「ちょ、咲」

咲「家族の中心だったお姉ちゃんを」

久「(こわっ!)」

菫「お姉ちゃん、というのは実の姉という意味ではない可能性は?」

照「どういう意味だ?」

菫「あっちが昔は東京にいて、近所だったとか」

照「いや、近所に宮永という名前はいなかった」

菫「従姉妹だったりは」

照「私の従兄弟は男しかいない」

菫「完全にあちらの思い込みか」

照「そうだ」

菫「もしくはお前が記憶を失っている、とか」

照「それはない」

ドア「トントン」

照「!?」ビクッ

久「私、清澄の竹井よ、開けてもらってもいいかしら」

菫「ああ、今、開ける」

照「待て、菫!」

菫「?」

照「ひ、1人か?」

久「そうよ」

照「本当に1人か?」

久「ええ」

照「奴がこっそり後ろから付いて来てるなんてことは?」

久「大丈夫よ」

菫「(ビビリ過ぎだろ)」

久「咲に話を聞いてみたわ」

照「それで?」

久「咲が嘘を言ってる感じはしなかったわ、少し異常な気はしたけどね」

菫「異常?」

久「ええ、あなたのことを語り出して止まらなかったわ、何言っても無駄」

照「ひいいい」ブルブル

久「嶺上開花の意味を教えてもらったとか言ってたわよ」

照「そんなエピソード知らない…」

菫「相当キテるな」

菫「何を言っても無駄か」

久「もう決勝で勝つしかないんじゃない?」

菫「それが対戦相手の言うことか」

久「実際それしかないし、もちろん手加減する気はないわよ」

菫「まぁ、そうだな」

照「手間を掛けさせて済まなかったな」

久「いえ、いい暇潰しになったわ」

照「(こっちは生死が掛かってるんだが…)」

菫「では、明日決勝で」

久「ええ」

ドア「ガチャガチャ」

照「!?」

淡「あれ、鍵が…」

照「大星か、ふう…」

菫「すまない、今開ける」

淡「何故、鍵を?」

菫「色々あってな、いや、それより大丈夫なのか?」

淡「そのことで、私は何故医務室に?」

菫「(覚えてないのか)」

照「(忘れておいた方がいいこともあるだろう)」

照「貧血で突然倒れてたんだ」

淡「そうですか」

照「菫、渋谷と亦野を呼んできてくれ」

菫「ん?別にいいが」

照「頼む」

菫「ああ」

照「今更、言うまでもないが明日は決勝だ」

菫「…」

照「絶対に勝つ!分かってるな!」

照「(そうすれば奴と関わらずに済む!)」

渋谷「(いつもそうだけど…)」

亦野「(今日は一段と凄い迫力…)」

淡「(三連覇の掛かった最後のインターハイ、当然か)」

菫「(知らないってのは気楽でいいな)」

照「私が先鋒戦で他を飛ばして終わらせる、それが最速」

菫「1人で10万点削る気か」

照「狙いは阿知賀だな」

菫「清澄の先鋒もまぁ、警戒しなくて構わないと思うが、神代はどうするんだ?」

照「…」

菫「いくらお前でも奴と同卓で自由にいけるとは思えないが」

照「いや、私はやる!やってみせる!」

決勝

照「うおおおおおおおおお!ロン!ツモ!ロン!ロン!ツモ!ロン!ツモ!ロン!」

菫「凄いな…」

照「はぁはぁ…飛ばすことは出来なかったが、大きなリードは取れた…」

白糸台  245800
永水    92000
清澄    48400
阿知賀  13800


照「後は頼むぞ、菫、渋谷、亦野、大星…」

大将戦

白糸台  275500
永水    68900
清澄    50200
阿知賀   5400


照「いけええええええええ!大星いいいい!!阿知賀を飛ばせええええええええええ!!」

渋谷「(こんな人だったっけ…)」

照「奴に…奴に勝てええええええええええええええええ!!!」

咲「ロン!ロン!ロン!ロン!」

淡「(あわわ…点数がみるみる減っていく…)」

猿「ロン!ロン!」

淡「ん?」

咲「…」

淡「(清澄、阿知賀にわざと振り込んでない?)」

咲「(逆転する前に阿知賀が飛ぶ心配は無くなった…条件は揃った…勝ってお姉ちゃんと…!)」

咲「カン!カン!ツモ!ドラ4、嶺上開花!!」

咲「カン!カン!カン!ツモ!混一色、小三元、三槓子、嶺上開花!!」

咲「カン!カン!カン!カン!ツモ!四暗刻単騎、大四喜、字一色!!」

咲「勝ったああああああああああああああああ!!」

照「…」

菫「…」

渋谷「…」

亦野「…」

照「は、はわわわわ」

ドア「ドンドン」

照「!?」

咲「お姉ちゃん!」

照「!!??」

菫「な…ほんの数秒前まで卓にいたはずなのに…」

咲「お姉ちゃん、私勝ったよ!開けて!話を聞いて!!」

照「ひいいいいいいいいいいいい」

菫「渋谷!警察に連絡を…!私は本部に連絡を…っておい!照!」

照「嫌だああああ!逃げるううううう!」

菫「窓から飛び降りようとするな!ここは3階だぞ!」

照「離せええええええええええええ!!」

菫「亦野!手伝え!」

渋谷・亦野「一体、何が…」

警備員A「君、何をしている!」

警備員B「やめなさい!」

照「やった!警備員が来てくれた!」

咲「離してください!私はお姉ちゃんと!」

警備員A「これ!暴れるな!」

警備員B「大人しくしろ!」

咲「カン!カン!」ドゴドゴォ

警備員A「ぐはぁ!」

警備員B「ぐはぁ!」

照「!?」

咲「お姉ちゃん、開けて!」

ドア「ガチャガチャガチャガチャ」

菫「ま、まずいぞ」

照「ひいいいいいいいい!誰か、誰かあああああああああ!!」

菫「警察はまだか!」

ドア「バキッ」

菫「!?」

ドア「ガチャ」

咲「お姉ちゃん!あれ…?」

菫「て、照なら会場の方に行ったぞ…お、お前に会いにな」

咲「お姉ちゃんの匂いがする…」

菫「(匂い!?)」

菫「さ、さっきまでいたからな…匂いが残ってるのも当然だ…」

咲「いや、この匂いは…あの棚から…」

菫「!?」

照「ひいいいいいいいいいいい!」ガクブルガクブル

咲「お姉ちゃん」

照「(こ、こうなったらツモで鍛え上げたコークスクリューブローで…)」

亦野「こっちです!」

警備員「いたぞ!」

警察「君!待ちなさい!」

警備員「取り押さえろ!」

警察「一斉に掛かれ!」

咲「やめ、離して!お姉ちゃん!お姉ちゃあああああああああああん!!」

照「ひいいいいいいいいいいいいいいい!」

照「た、助かった…名も知らない警察官と警備員ありがとう…」

菫「良かったな」

照「ああ、こんなに生きてて良かったと思ったことはない」

渋谷・亦野「(三連覇ならずはどうでもいいのか…)」

空港

菫「警察の取り調べでも『私のお姉ちゃん』の一点張りだそうだ」

照「…」

菫「奴の持っていた本に、それまで仲が良かった姉妹が不和で離れ離れになってしまう、という内容のものがあったらしい」

照「姉妹が…?」

菫「詳しくは分からないが、数年後再会して仲直りするそうだ…」

照「その本を読んで妄想が広がって…?」

菫「さぁ、どうなんだろうな」

照「まぁ今となってはもう関係無い」

菫「本当に行くのか?学校を休学してまで、海外に…」

照「あぁ、今まで麻雀しかしてなかったからな、色んなものを見たい」

菫「お前なら留学という名目もあったんじゃないのか?」

照「いや、下手に麻雀に関わると奴に知られそうでな」

菫「…」

照「いつか、いつになるか分からないが、日本に帰ってきたら、また一緒に麻雀を打とう」

菫「ああ、待ってる」

照「大星や渋谷、亦野にもよろしく言っておいてくれ、白糸台を頼むと」

菫「分かった…」

照「世話を掛けるな」

菫「気にするな」

照「出発の時間だ、それじゃあな」

菫「ああ、またな」

菫「こうして照は旅立った、それから連絡も無いし名前も聞かない」

  「あいつほどの腕で名前が響かないということはやっぱり麻雀はやっていないのだろう」

  「三連覇はならなかったが、翌年、渋谷・亦野の頑張りで白糸台は再び全国王者となった」

  「大星は…行方不明になってしまった、それも仕方のないことだと思う」

  「私だってあそこに同卓していたら、牌の音を聞くのも嫌になるだろう」

  「そして、奴、宮永咲のことはどうなったのか知らない」

  「あれ以降の大会にも出ていないようだ」
  
  「更生出来ていれば幸いだと思う」

機内

照「さよなら日本、さよなら麻雀、ここから私の第二の人生が始まる」

スチュワーデス「お飲み物はいかがですか?」

照「ああ、コーヒーを頼む」

スチュワーデス「はい、そちらのお客様はどうですか?」

隣「私もお姉ちゃんと一緒のものを」

照「…は?」

スチュワーデス「姉妹でしたか、はい、どうぞ」

照「いや…え?は?え?」

咲「お姉ちゃん…」

照「はわわわわわ」

咲「これからはずっと一緒だね!!」

照「ひいいいいいいいいいいいいい」

終わり

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