戸塚「八幡、助けて!」 八幡「どうした戸塚!?」 (89)

 

教室


八幡(戸塚彩加。俺のベストフレンド。超絶可愛い。何で男なんだ。いやもう男でもいいや)

戸塚「八幡?」キョトン

八幡「あ、いや、何でもない。それで、どうしたんだ戸塚。すげえ慌ててたみたいだが」

戸塚「う、うん、大変なんだよ!」

八幡(お前の可愛さは元から大変だが)


戸塚「ぼく、呪いをかけられちゃったみたいなんだ!」

 

 
八幡「……は?」

戸塚「呪いだよ呪い!」

八幡「いやまぁ、お前は鈍いとこあるが」

戸塚「鈍いじゃなくて呪いだってば。口だけの兄って書いて呪い!」

八幡「おいやめろ、俺一応お兄ちゃんキャラだから」

八幡(それにしても呪い……か。普通なら『そんなオカルトありえません』で済ませる所だが……)チラ

結衣「えっ、な、なにヒッキー、こっち見て……キモい!///」

八幡「俺は人を見ることも許されねえのかよ人生詰んでるじゃねえか」

八幡(とっくに詰んでる気もするが)

結衣「あ、ううん、そういう事じゃないんだけど……いきなりだとビックリするというか……///」モジモジ
 

 
八幡「……その左腕、まだ治らないんだな」

結衣「そう、そうなんだよ! 陽乃さんが言うには成人するまで我慢しなさいって!」

八幡「そりゃ散々だな」

結衣「まぁ……あたしのせいなんだけどさ。あれは夢で良かったけど、願い事しちゃったのは本当だし」

戸塚「え、由比ヶ浜さんのその腕、そんなに大きな怪我なの? 大丈夫……?」

結衣「う、うん、大丈夫大丈夫! ほらこの通り!!」ブンブン

戸塚「わっ!!」ビクッ

八幡「回すな回すな。どんな設定だよお前」

結衣「あっ! …………いたたたたた!!」

戸塚「…………」

八幡「…………」

八幡(由比ヶ浜結衣は左腕を包帯でぐるぐる巻きにしている。といっても、別に大怪我をしたというわけではない。ただ左腕を隠したいだけだ)

八幡(何でも願い事を三つ叶えてくれるという猿の腕に願った結果、由比ヶ浜は左腕を乗っ取られてしまった)

八幡(つっても、女子高生があんな腕で残りの高校生活を送るってのもかなりキツイと思うが、こいつは意外と明るいんだよな)

 
戸塚「それで……あの、呪いの事なんだけどさ」

結衣「え、呪い!? ヒッキーが呪われたの!?」

八幡「俺じゃねえから。別にぼっちの呪いとかかけられてねえから」


戸塚「ぼくがかけられたのは……蛇の呪いみたいなんだ」


八幡結衣「「蛇?」」

戸塚「うん、蛇。見えない蛇が体に巻き付いて、呪われた相手を締めつけるらしくて……」

八幡「巻き憑く……ね」

結衣「た、大変じゃん! どうしようヒッキー、このままだとさいちゃんが!!」

八幡(ヌメヌメの爬虫類に体を巻き付かれた戸塚…………それはそれで結構ありだな)ウヘヘ

結衣「ヒッキー顔がマジキモい。絶対変な想像してる」

八幡「何を言う、俺はいつだって真面目だ。それで、その呪いは誰にかけられたのか知ってるのか? つかそこまで分かってるなら知ってるんだろうが」

戸塚「それは……」チラ
 

 

相模「…………」クスクス


八幡「あー、分かった分かった。いかにもそういう事しそうだわアイツ」

結衣「えっ、だれだれ?」

八幡「察しろバカ。あそこでくすくす笑ってる女だろ」

結衣「さ、さがみん!? さがみんはそんな事しないって!」

八幡「……理由はなんだよ?」

戸塚「その、ぼくも偶然立ち聞きしただけだから、後ろめたい所もあるんだけど……その時に呪いの事も言ってて……」

八幡(それは十中八九わざと聞かせたに決まってる)
 

 
戸塚「何でも、えっと、実は最近相模さんが好きな男の人にフラれちゃったらしくて」

八幡「うは、ざまあ」

結衣「ヒッキーさいてー!」

戸塚「それでね、相模さんをふる時にその男の人、ぼくの事が気になってるとか言ってたみたいで」

八幡「はぁ!? おいふざけんなどこのどいつだぶっ殺す」

結衣「ヒッキーマジギレしすぎ……ていうか、さいちゃん男の子なのに……」

戸塚「他のクラスみたいだし、たぶん知らないんだと思う……あはは、ぼくって男らしくないし」

八幡「大丈夫だ戸塚。何があっても俺が守ってやる」キリッ

結衣「なんかヒッキーってさいちゃんにだけ本気だよね」ムスッ

八幡「戸塚だけじゃない、小町……妹もだ」

結衣「それフォローになってないから……」
 

 
八幡「まぁとにかく、相模が逆恨みしてきて蛇の呪いをかけてきたってわけだ。やる事が陰鬱だねぇ」

戸塚「ぼくも悪いんだよ……もっと男らしかったらこんな事にはなっていないんだし……」

結衣「そんな事ないって! そういう事なら、あたしもやっぱりさがみんが悪いと思う!」

八幡「おのれ相模……どんな目に遭わせてやろうか」グヘヘ

結衣「ヒッキー明らかに犯罪者の顔になっててキモい」

戸塚「べ、別にぼくは相模さんに何かしたいとかじゃないって! ただ、この呪いだけでも何とかできないかなって……」

八幡「呪いっつってもなぁ。そもそも、本当にそんなもんがあるかどうか分かんねえだろ」

結衣「あるよ! 絶対あるって!!」

八幡「……まぁ、お前はそう言うだろうな」

八幡(とりあえずは確認だけでもしてみるか……)
 

 

自宅


プルルルルルルル……ガチャ


陽乃『ひゃっはろー! 何でも知ってる陽乃お姉さんだよ!』

八幡「ども、比企谷っす。実は相談したい事があるんですけど、いいすか?」

陽乃『うんうん、何でも訊いて! 比企谷くんには雪乃ちゃんの件でお世話になったからね』

八幡「いや、それは別に……」

八幡(そういやこの人、俺が奉仕部を辞めたっていうのは知ってるだろうに、何も言ってこねえな。それならそれでいいんだが)

八幡「相談っていうのは、かくかくしかじかって事で、何か分かんないすか雪ノ下さん」


陽乃『蛇切縄』

 

 
八幡「は?」

陽乃『蛇切縄だよ、それは。蛇を遣わせて対象を縛る。あ、それと私の事は陽乃でいいよ』

八幡「……で、雪ノ下さん。そのじゃぎり……なわ? ってのはどうすれば解けるんですか」

陽乃『君も強情だなぁ。それに解く必要もないよそれ』

八幡「え、でもこのままだと戸塚が……」

陽乃『あのねぇ、そういうおまじないが何でもかんでも効果出ちゃったら世の中大惨事だよ。普通はきちんとした手順を踏まないと発動なんかしないの』

八幡「はぁ」

陽乃『で、その相模って子は由緒正しき陰陽師やら巫女やらの末裔だったりするの?』

八幡「それはないですね」

陽乃『なら問題なし。放っておいても発動しないし、現にその呪いを受けた子も何ともないんでしょ?』

八幡「えぇ、まぁ」

陽乃『ぶっちゃけ私的には、裏側の方が気になるんだよね、それ』

八幡「裏側?」

陽乃『うん。例えばさ――――』
 

 

次の日 学校


八幡「つーわけで、素人知識で呪いは発動しないらしい。いい気分はしないだろうが、ほっとけ」

戸塚「よ、よかったぁ。ありがとう八幡!」ホッ

八幡「いや俺に礼言われても困るんだが。あと可愛いなお前」

結衣「んー、でもあたしは別にそういう知識があったわけじゃないのに……」

八幡「お前の件とも少し違うだろ。お前の場合は自分から呪いに突っ込んで行ったようなもんだし」

戸塚「何の話?」

結衣「あっ、何でもない何でもない!」アセアセ
 

 
八幡「だが、このままアイツはお咎め無しってのもダメだな」

戸塚「えっ、い、いいってば、ぼくはもう気にしてないから!」

八幡「いいやダメだ。ここで痛い目見ておかないと、アイツまた同じような事するぞ」

結衣「うーん……まぁ、あたしも一言くらい言ってもいいと思うけどさ……」

八幡「はっ、一言? 『コラ!』って怒るのか? 甘すぎるぜマックスコーヒーかよ」

結衣「じゃあ何するの。流石に暴力とかはドン引きなんですけど……」

八幡「ばっかお前、そんな事したら俺が捕まるわ」

戸塚「じゃあ……何をするの?」

八幡「目には目を、だ。戸塚、今日俺んち来い」

結衣「……それが目的なんじゃないの」ジト

八幡「うるせーな俺にだって友達が家に遊びに来るイベントがあってもいいじゃねえか」

戸塚「うんっ、八幡の家ならぼくも行きたいな!」

結衣「あっ、じゃ、じゃあ、あたしも行くっ!」

八幡「何でお前まで……いや別にいいけどよ」
 

 

放課後 自宅


結衣「わ、わぁ……ここがヒッキーのお家……お邪魔します」キョロキョロ

八幡「あれお前来たことなかったっけ」

結衣「中まで入った事はなかったよ」

八幡「ふーん。けどそんなキョロキョロしてもエロ本なんか置いてないぞ」

結衣「そ、そんなの探してないし!」

戸塚「とっても綺麗なお家だねぇ……お邪魔します」

八幡「全然お邪魔じゃないぞ、むしろずっと居てくれ」

結衣「むぅ、あたしの時と対応が全然違う……」


小町「そ、そんな……まさか……お兄ちゃんが現実のお友達を連れてくるなんて……っ!!」ガクガク


八幡「おい架空のお友達は連れてくるような言い方はやめろ」
 

 
結衣「ど、どうもー、由比ヶ浜結衣です」

戸塚「初めまして、八幡のお友達の戸塚彩加です」

小町「これこれはご丁寧に、妹の小町です……んん?」

結衣「…………」モジモジ

小町「んー……」ジー

八幡「おい小町、人の顔じろじろ見てんじゃねえよ」

小町「いやでも……結衣さんでしたっけ? 確か前に」

結衣「あ、えっと、あの時は本当に」

八幡「いいからそれは」

八幡(事故の事なんて思い出したくもねえしな)

戸塚「どうしたの……?」

八幡「何でもない何でもない」
 

 
小町「まぁ、そういう事なら……それにしてもお兄ちゃん。いきなり可愛い女の子二人も連れてくるとか、どんな犯罪犯したの」

八幡「犯罪と決めつけるな失敬な。それに戸塚は男だ」

小町「まーたお兄ちゃんはわけ分かんない事を……」

戸塚「うん……ぼくは男だよ」

小町「…………何この敗北感」ガクッ

八幡「なにorzってなってんだお前」

小町「というかお兄ちゃん。最近ゆき……もがっ!」

八幡(いきなり何言い出すんだよこの愚妹は。全力で地雷踏み抜きにいってんじゃねえ)

結衣「??」キョトン
 

 

八幡の部屋


八幡「今日ここに集まってもらったのは他でもない」

結衣「小町ちゃんに友達ちゃんと居ますよアピールしたかったからじゃないの?」

八幡「違う。俺がぼっちなのは小町にもバレてるし、今更取り繕ったりしないわ」

結衣「そ、そう……」

戸塚「八幡はぼっちじゃないよ! ぼくがいるし!」

八幡「やばい本気で泣いてるわ俺」ポロポロ

結衣「うわぁ」
 

 
八幡「とにかく、相模に仕返しする為の作戦会議ってやつだ。で、俺はこれを使いたいと思う」スッ

結衣「なにそれ?」

八幡「シールタイプのタトゥーだ。水に濡れても落ちないが、専用リムーバーで綺麗に落ちるお手軽なやつ」

戸塚「へぇ、八幡ってタトゥーとかいれるの?」

八幡「中学生の時に何度かな。かっこいいドラゴンとかいれまくったら小町に本気の哀れみの目で……って何言わすんだ誘導尋問こえーな」

結衣「うわぁ」

八幡「おい由比ヶ浜。さっきからゴミを見るような目で俺を見るのやめてくんない」
 

 
戸塚「そ、それで……そのタトゥーをどうするの?」

八幡「もちろん、戸塚の体に俺がいれてやるんだ」グヘヘ

結衣「ヒッキーキモい! 通報する!!」

八幡「おい待てお前はゆき…………かよ」

結衣「……ヒッキー?」

八幡「あ、いや、何でもない。通報はやめろ。結構真面目な理由だから」

八幡(あっぶねえ……これじゃ小町の事言えねえじゃねえか)

戸塚「ぼ、ぼくがタトゥー? それで男らしさを出すの……?」

結衣「ていうか、校則違反じゃない?」

八幡「お前が校則どうのこうの言うな。すぐ消すから大丈夫だ。見せる相手に見せたら、な」ニヤ

戸塚「見せる相手?」
 

 

ある日 学校


スタスタ……


相模(まったく、戸塚の奴、ウチをバカにして。まっ、呪いに怯えてるみたいだからいい気味だけど)

結衣「(ね、ねぇ、ヒッキー。これやばいって)」ヒソヒソ

八幡「(くそ……大丈夫か戸塚?)」ヒソヒソ

相模(今の声……こっちかな?)ヒョコ

戸塚「うぅ……痛いよぉ……」ウルウル

相模(戸塚? 何で上半身裸…………えっ!?)


相模(なに……戸塚の体に浮き出てる……あの、蛇の鱗みたいな……の……)ブルッ

 

 
結衣「ど、どうしようヒッキー!」

八幡「おいバカ、あんま大声出すな。今は耐えるしかねえんだ」

結衣「そんな……大丈夫、さいちゃん? 痛いよね……?」

戸塚「う、うん……でも……頑張るよ、ぼく……」

相模(そん、な……ち、違う、ウチの……ウチのせいじゃ……!)ガクガク

八幡「頑張れ戸塚。この蛇が呪った本人に返っていくまでの辛抱だ」

相模(……えっ)ゾクッ

相模(呪った本人に……返る? そ、それって……ウチに……返ってくるって事……?)

相模(……いや…………いやよそんなの……っ!!!)ブルブル
 

 

夜 相模宅


相模(とにかくチャット……!!)カタカタ


みなみ:お願い、助けて!

いろはす:どうしたんですか?

みなみ:あの呪い、自分に返ってくるなんて聞いてないんだけど!

いろはす:あぁ、すみません。知っているものと思って言っていませんでした。「人を呪わば穴二つ」って言葉も有名ですし

みなみ:なによそれ! 早く助けてよ!!
 

 
いろはす:分かりました。でもツイていますよ、みなみさん。ちょうどその辺りには由緒正しい神社があります

みなみ:そこでお祓いをしてもらえばいいの?

いろはす:いえ、蛇をぶつ切りにして殺してください

みなみ:そんな事できない! 気持ち悪い!

いろはす:でもそれしかないんですよ。蛇切縄から逃れるには切るしかない。蛇そのものに巻き付かれるよりはマシでしょう?

みなみ:それは、そうかもしれないけど。でも、そんなの

いろはす:悩んでいる暇はありませんよ。痛いですよー蛇切縄は


相模「……うぅ」ブルブル

相模(やるしか……やるしかない……!)
 

 

ある日 学校


相模「…………」ブルブル

「大丈夫、南?」

「そんな厚着して……寒いの?」

相模「う、ううん、大丈夫だから! あはは……」


八幡「……くははっ」

八幡(蛇柄のタトゥーシール程度で効果てきめんだな)

結衣「ヒッキー……流石にやり過ぎたんじゃないかな……さがみん本当に怯えてるみたいだよ」

戸塚「うん……もう本当の事教えてあげてもいいんじゃ……」

八幡「別にいいだろ、そんな事しなくても。その内、何もないって気付く。由比ヶ浜じゃねえんだから」

結衣「むぅ! そうやっていつもあたしをバカにしてー!!」ポカポカ

八幡「いてえ! いてえってマジで!」

結衣「あっ、逃げるなー!」
 

 

スタスタ……


八幡「ふっ」ドヤァ

相模「何か用?」キッ

八幡「いや何も」

結衣「ご、ごめんね、さがみん」

相模「……別に謝られるような事された覚えないし」

八幡「あぁ、その通りだな」

結衣「もう、ヒッキー!」

八幡(にしても何だ相模のこの厚着、こうすれば蛇が巻き付いてこないとでも思ってんのかね。元々あんな呪いが発動するはずもねえのに)
 

 

結衣「……あれ?」


八幡「由比ヶ浜?」

相模「まだ何かあんの?」

結衣「あっ、ううん! 何でもない!」


スタスタ……


結衣「……ねえ、ヒッキー。さがみんの首元に鱗みたいの見えなかった?」

八幡「はぁ? そんなの見えなかったぞ。ただの見間違いだろ」

結衣「うーん……やっぱそうかなぁ……」


相模「うぅ……!」ズキズキ

 

 

それからしばらく俺は相模に一泡吹かせてやった事により、珍しく優越感に浸った。

まさか悪い事をしたとは思っていない。自業自得だ。戸塚を苦しめる奴は許さない、絶対にだ。

むしろ、こうやって為になる経験をさせてやった事に対して、感謝してほしいくらいだ。

どうせアイツの事だし、喉元過ぎればなんとやら、というやつだろうが。


ただ、一つ気になる事を挙げるとすれば。

最初に陽乃さんに電話した時、あの人が微妙に含んだ言い方をした辺りだ。


『ぶっちゃけ私的には、裏側の方が気になるんだよね、それ』

『裏側?』

『うん。例えばさ――――』


『そのおまじないの元々の出処、とか』



おわり

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