杏「プロデューサー、どんなプレゼントなら喜んでくれるかな」(119)

杏「えっ……午後の打ち合わせって中止になったの?」

凛「せっかく、みんな時間合わせて集まったのに」

P「すまん! 急にレコード会社と新規の商談が入って……」

楓「……まあ、決まってしまったものはしょうがないですから。では午後からはフリーですか?」

P「そうですね。自主練なり帰宅するなり、自由ということで」

凛「わかったよ、プロデューサー」



杏「……どうしよ。午後からヒマになっちゃった」

杏「急に休みって言われても別にやることないんだけど……」

きらり「おけおけ! 杏ちゃんのおうちできらりゲームすぅう☆」

杏「なんで勝手にウチでやることにしてんの……ってか、別にゲームする気分でもない……」

楓「あら珍しい。いつもは事務所に携帯ゲームを持ち込むくらいなのに」

杏「う~ん。一応仕事しようかなって思ってたから、今から遊べって言われても気分が乗らないよ……」

凛「『一応』って……」

杏「楓さんはどーすんの。大人の女性はどーいう午後を過ごしちゃうのー?」

楓「そう言われると、特には……あっ、ショッピングにでも行こうかしら。新しい服も欲しいし」

凛「それ私も行きたい。楓さん、一緒に行っていい?」

楓「ええ、もちろん」

きらり「じゃーきらりも行くぅ☆ ねーねー杏ちゃんはー?」

杏「面倒だから行かない。しばらく事務所でごろごろしてるー」

楓「そういえば……今朝プロデューサーが話してたんだけど、プロデューサーって明日が誕生日らしいの」

杏「……えっ?」

凛「そうなんだ。全然知らなかった」

楓「私も、世間話ついでに聞いただけだから」

きらり「うきゃー! じゃねじゃね、Pちゃんお誕生日プレゼントできゅんきゅんさせぅ☆」

凛「…‥プレゼントかあ。プロデューサーにはいつもお世話になってるし、誕生日くらい何かあげたいよね」

楓「そうね……ちょうど午後から時間も空いたことだし、プレゼントを買いに行きましょうか」

きらり「おっけおっけ☆ みんなでプレゼント選べばたのすぃ!」



杏(……プロデューサーはいつも、嫌がる私を強引に働かせるけど……まあ、その、確かにお世話にはなってる)

杏(たまにはお返しでプレゼントくらい、あげてもいいかな……)

杏(……でもなぁ。さっき行かないって言っちゃったし、いまさら一緒に行くなんて言いづらい……)

杏(だからって私が1人で選んでも、最近の流行りとか男の人の好みとか、全然わかんないし……)

杏「はぁ……」ジー

楓「……あら?」

凛「じゃあ、3人で色々見て回ろっか」

楓「ちょっと待って。杏、一緒に行く?」

杏「えっ!?」

凛「楓さん、杏はさっき誘ったけど行かないって」

楓「…………行く?」

杏「………………」

楓「ああ、残念だわ。杏がいれば、いいプレゼントが選べると思ってたのに」

杏「え……」

楓「私や凛は渋めのチョイスに偏りがちだし、きらりは女の子っぽい可愛い物しか選ばないし」

楓「杏ならプロデューサーが満足するプレゼントを選べるはずなのに……」

楓「でも、どうしても行きたくないなら無理強いはしないけど」チラッ

杏「………………」

楓「……どうする?」チラチラッ

杏「……しょ」

楓「しょ?」

杏「しょうがないなぁ~! そこまで言うなら、うん、私が着いてってあげようじゃないか!」

楓「ありがとう。それじゃあ、行きましょうか」

一時間後、デパート:男性服売り場―――


きらり「にょわー! きらりこういうとこはじめて☆」

杏「きらり、デパートはじめてなのか」

凛「へぇ、そうなんだ」

楓「いや、男性服売り場が、でしょう。二人ともボケてどうするの」

杏「え?」

凛「別にボケたつもりはなかったよ」

きらり「楓ちゃんおっかしーの☆」

楓「……えっ、私が悪いの……?」

凛「それで、なんで男性服売り場なの?」

楓「ここは服以外にも、ハンカチとか靴とか、色々売ってるから。みんなで手分けして良い物を探しましょう」

きらり「わかったにぃ!」

杏「はーい」

凛「手近なところでハンカチから当たってみようかな」

きらり「うっぴょー! Pちゃんにばっちし似合いそうなメガネはっけーん☆」

凛「センスは嫌いじゃないけど『2002メガネ』はやめておいた方が良いと思うよ」

きらり「しょぼん……」

杏「さすがきらりん、いきなりそう来るとはね~」



杏(……って言っても、正直私もプロデューサーの好みとか分かんないし……どうしようかな)

杏「プロデューサー、どんなプレゼントなら喜んでくれるかな~」

楓「……さて、私も探さないと。何から見ようかしら」

楓「そういえばプロデューサー、新しいネクタイが欲しいって言ってたわね」

杏(ん……ネクタイ?)

楓「いつも似たような色の地味なネクタイばかりだから、選ぶなら明るい色のネクタイね」

楓「ああ、でも私だとうっかり渋い色を選んでしまいそう。誰かセンスのある人が選べば良いのに」チラッ

楓「しょうがないわ。ネクタイは他の誰かに任せて、私は別のを見て回ることにしましょう」チラチラッ

杏(………………)

杏(えっと、明るい色のネクタイか。どこだろ……)


楓「…………」

杏「お、ネクタイのコーナーはここか~」

杏「……って、多っ! うぇぇ、探すのめんどくさい……」

杏「でも、プロデューサーのためだしなー……ダルいけど、端っこから見ていこ」

杏「プロデューサー喜ぶかなー。ものぐさな私からプレゼントなんか貰ったりしたら……」

杏「………………」

杏「……うひっ、うひひひ///」

1時間後―――


杏「こっちがいいかな……でも男の人ってこういう色の方が好きなのかなぁ」

杏「うーん……」


凛「楓さん、アレ見て」

楓「杏のこと?」

凛「うん。いつも二言目には休みたい、ダルいしか言わない杏が、仕事でもないのにあんなに真剣になってる」

楓「いいことじゃない」

凛「信じられないよ。楓さん、杏に何か言ったの?」

楓「いいえ、何も言ってないわよ? それに周りが何を言っても、こういうのって結局本人の気持ち次第じゃないかしら」

凛「……ふうん。そんなものかな」

きらり「あっ、杏ちゃん! きらりもいっしょに選ぶぅう☆」

ドドドド...

楓「!?」

凛「きらり、店内ではしゃがない」

楓「いけないわ……凛、きらりを止めて! 今の杏に接触させてはダメ!」

凛「えっ……?」

楓「凛が言った通り、あの杏が自分の力だけで何かをしようとするのはとても珍しいこと」

楓「でも大事なのはプレゼントをプロデューサーに渡すことじゃなくて、プレゼントを渡すまでの過程なの」

楓「途中で他の誰かが介入したら、また杏はやる気をなくしてしまうかもしれないわ」

凛「な、なるほど……」

楓「……それに、きらりのセンスが杏のそれに混ざると、ワケが分からないことになりそうだし……」

楓「とりあえず、きらりにストップをかけましょう。私も手伝うから」

凛「わ、分かった。きらり、止まって!」

ガシッ ガシッ

きらり「うきゃー! ふたりともこんなところでお相撲さんごっこ?」

ズズズズ...

凛「うっ……!?」

楓「ぜ、全然止まらない……何食べてこんなに大きくなってるの、この子……!」



卯月「……ん? ねえみくちゃん、あれって」

みく「にゃっ! ウチのアイドルのみんなだにゃ~☆」

卯月「あの~、楓さん」

楓「ハッ……う、卯月とみく、どうしてここに」

みく「二人でお買い物に来てるんだにゃ! 楓にゃん達こそ、こんな所で何してるにゃ?」

凛「そ、それが色々あって……」

ズズズズ...

凛「お、押し切られる! とにかく二人とも、きらりを止めるのを手伝って!」

卯月「へ? 止めるって、なんで?」

楓「理由は後で話すから!」

卯月「そう言われても」

楓「しまむらァァァァァァァ!!」

卯月「は、はい、すみません!」

みく「うっにゃ~! きらりんなんて、みくのねこぱんち☆でノックアウトにゃ!」

きらり「にょわー! なんでみんなきらりにいぢわるするのぅ☆」

5分後―――


きらり「はひゅうー、きらりもうつかれたー!」

楓「ぜぇー、はぁー、ぜぇー、はぁー……」

凛「ふう。やっと止まってくれた」

みく「にゃんにゃん☆ さすがに4対1じゃ負けないにゃん!」

卯月「そうだね。でも私あんまり体力ないから役に……どうしたんですか、楓さん?」

楓「ぜー、はー、ぜー、はー……す、少し、休ませて……」

凛「楓さん、息切れてるよ」

みく「だらしないにゃあ」

楓「はぁー……はぁー……」

卯月「しょうがないよ。私は17歳でみく達は15歳。楓さんだけ25歳だし、年齢のハンデがあるんだって」

楓「………………」グスン

ちょっと離席

杏「おーいみんなぁ、ちょっとこのネクタイ……え、どしたのこれ。楓は凹んでるし、卯月とみくも増えてるし」

凛「なんでもないよ。それよりネクタイがどうしたの?」

杏「あ、うん。この水色のストライプのやつ、プレゼントにどうかな……」

みく「おおっ☆ なかなかセンスあるにゃん! 誰にあげるんだにゃ?」

きらり「Pちゃんだよぉ! 誕生日プレゼントでPちゃんハピハピできぅう☆」

卯月「へー、プロデューサーさんの誕生日プレゼントなんだ。いつも紺や茶のネクタイばかりだしちょうどいいかも」

凛「やるじゃん、さすが杏」

杏「そ、そうかな……///」

楓「じゃあそれは杏からのプレゼントということにして、私たちは別の物を選びましょうか」

凛「しれっと楓さんが復活した……」

みく「卯月にゃん、みく達も何か買ってくにゃ!」

卯月「うん、そうだね! プロデューサー、喜んでくれるといいなぁ」

翌日、レッスンスタジオ前―――


P「ふー、今日は飛び入りの仕事もなく済んで良かったよ」

杏「今日もしっかりレッスンさせられて……プロデューサー、印税で楽して暮らせるって言ったのにさ」

P「まったく働かなくていいとは言ってないからな」

杏「詐欺じゃないかぁ。うう~……」

P「そう言うなって。杏はこの後直帰だったか?」

杏「ううん、一回事務所に戻る。やらなきゃいけないことがあるし」

P「え!?」

杏「……なに?」

P「仕事すらサボろうとするお前から『やらなきゃいけない』なんて言葉を聞くとは……一体どれほど重大な用事なんだ?」

杏「し、失礼なっ!」

事務所―――


杏「ただいまー」

P「はい、お疲れさん」

ヴィー ヴィー

P「……ん? 今の音なんだ?」

杏「私の携帯。メールかな」

杏(……楓からだ。『Pを会議室に連れてきて』だって)


杏「……ねープロデューサー。この後時間ある?」

P「時間……あると言えばあるな。今日やらなきゃいけない仕事は全部片付いてるし、他は明日でも」

杏「じゃ、ちょっとこっちに来てよ」

ガチャッ

P「わざわざ会議室まで呼び出して、なん――」


パーン パーン!


P「うお!? じゅ、銃声!?」

楓「クラッカーです……プロデューサー」

「「「お誕生日、おめでとうございま~す!!」」」

P「…………へ」

凛「お誕生日会、だよ。ほら、放心してないでここに座って」

卯月「ちゃんとケーキもありますよ!」

P「………………」

杏「……プロデューサー? どしたの?」

P「……そりゃあ、確かに今日は俺の誕生日だけど」

杏「?」

P「ここ数年は何のイベントも無く終わってたし、まさか女の子に誕生日を祝ってもらえるなんて……」

杏「へー。学生の時にそういう甘酸っぱいイベントは発生しなかったんだね」

P「もう全然だよ……うう、生きてて良かった……」

きらり「Pちゃんきゅんきゅんしてぅう?」

P「うん、してる、してるよ……ありがとな、みんな……」グスッ

みく「あははっ! 泣くほど喜んでもらえるとは思ってなかったにゃ☆」

杏「……成功?」

楓「ええ、大成功。ちょうど今日、プロデューサーが出かける用事があって良かったわ」

卯月「杏ちゃんのレッスンが無かったらサプライズは無理でしたもんね!」

杏「はぁ~……このイベントのためとはいえ、今日は人生で一番頑張った気がするよ~……」

卯月「電気消してー」パチッ

みく「ローソクに火つけてー」カチッ

P「おお……」


「「「はっぴばーすでーとぅーゆー」」」

「「「はっぴばーすでーとぅーゆー」」」

「「「はっぴばーすでーでぃあ」」」

杏「プロデューサ~」


杏「……!?」

杏「な、なんでみんなそこだけ黙っ……///」

きらり「うきゃー! 杏ちゃんまっかっかになってぅぅ☆」

凛「くくっ……楓さんどうしよう、私ニヤニヤが止まらない」ニヤニヤ

楓「大丈夫、私もだから……」ニヤニヤ

30分後―――


楓「それでは宴もたけなわでございますが、いよいよお誕生日プレゼントの贈呈会に移りたいと思います」

きらり「にょわぁ☆ ぞーてーかい?」

杏「かたーい、かたいよ楓さん」

凛「もっとマイルドにしようよ。私も人のこと言えないけど」

楓「じゃあ……わたしたちぃ、プロデューサーにプレゼントをあげちゃうぞ☆」

P「ブフッ」

楓「!? ぷ、プロデューサー、そんな吹き出すほど笑わなくても……!」

卯月「かwwwwえwwwwでwwwwwwwさwwwんwwwwwwwww」

みく「にゃはっ☆ でも楓にゃん、みくはそういうのキライじゃないにゃ!」

楓「……フォローありがとう。でも、もう二度とやらない」ショボン

楓「コホン。では気を取り直して……まずは私から。はい、おめでとうございます」

P「ありがとうございます。開けてもいいですか?」

楓「どうぞ」

ガサガサ...

P「おっ、名刺入れ! しかも高そうだ……」

楓「名刺入れは座布団と言いますし、お客さんに安物は見せられないでしょう?」

P「いやー、まったくその通りです。今使ってるのも痛んできたところだし……本当に嬉しいですよ、楓さん」

楓「いえいえ。喜んでいただけたようで何よりです」

凛「次は私から。はい」

P「これは……ノートか。少し小さめだな」

凛「うん。営業って外回りが多いから、持ち歩きできるサイズのノートがあればいいかなって」

P「確かに。電話しながらとか急な打ち合わせとか、よく使うからいくらあっても足りないんだ。さすが凛、よく分かってる」

凛「う、うん……ふふっ」

きらり「PちゃんPちゃん! 次はきらりんのプレゼントでハピハピ☆」

P「おっ、きらりは何をくれるんだ?」

きらり「にゅふー☆ えっとねぇ、なに選んでもみんなにだめーって言われちゃうから」

P「から?」

きらり「えへへ……Pちゃん、むちゅー☆」

チュウウウウウゥゥゥゥゥ!

P「んむ~~~!!」

「「「!?」」」

凛「ちょっ……きらり何してるの!」

きらり「ぷはぁ! Pちゃんのハートにずっきゅん///」

P「き、きらり……おま、アイドルが、お前、あばば……」

きらり「ハピハピしなぁい?」

P「……いや、嬉しいけど……」

きらり「うきゃー! プレゼントだいせーこー☆」

杏「かっ、楓さん。あれは、その……いいの?」

楓「普通にダメよ……でもきらりだし、あまり深い意味は無いのかしら」

卯月「だ、大胆だねきらりちゃん……///」

みく「にゃふ……みくもやってみたいにゃ……///」

みく「そ、それじゃ次はみくの番だにゃ。はい、プロデューサー」ポスッ

P「ん? 今、俺の頭に何つけたんだ?」

みく「ネコミミにゃ! これでみくと同類だにゃ☆」

P「あ……ありがとう……?」

楓「……意外と似合ってますね。私は可愛い物は似合わないので、少し嫉妬です」

卯月「ネコミミが似合う人なんてかなり限定されてますよ……」

杏「そうだ! プロデューサー、私の代わりにアイドルやらない?」

P「さもいいアイデアが出たみたいに言うな」

杏「プロデューサーの稼いだ印税で養ってもらえると思ったのに」

P「なんでお前の懐に入ることが前提になってるんだ……」

卯月「プロデューサー! 私からはコレをプレゼントします!」

P「おっ、卯月……ハンカチか。ありがとう」

卯月「……え、それだけですか?」

P「う、うん。他に何か言った方が良かったか?」

凛「色も派手なわけでもなく、質も平凡。無個性で売り出してるアイドルだけあって、プレゼントも無個性だね」

楓「これではプロデューサーもコメントしづらいでしょうね。十把一絡げに売られているようなハンカチでは」

卯月「うぐっ……く、クール勢のダメ出しが……」

みく「これならきらりんのチューの方がまだ良かったかもしれないにゃ」

卯月「ええっ!? わ、私、プロデューサーとキスなんて……きゃっ///」

P「いや、そういうのはいい」

卯月「…………だからって、そんな淡白に言わなくても」

杏「めんどくさい女だなぁ」

楓「じゃあ、最後は杏ね」

杏「…………うう」

杏(男の人にプレゼント渡すなんて初めてだよ……こ、こうなってみると結構緊張するなぁ……)

楓「がんばって」ボソッ

杏「……あ、ありがと」

P「いやー、こんなに色々貰っちゃって」

杏「あ、あのさっ、プロデューサー! しょうがないから私からもプレゼントをあげようじゃないか!」

P「え……杏!? 杏まで何かくれるのか!?」

杏「……そんな意外?」

P「『プレゼント買うのも面倒くさい』とか言いそうだし……」

杏「さっ、さすがに私だってそれくらいやるよ!」

P「もしかして仕事をサボる口実に買い物に行ったとか……」

杏「ちょ、ちょーっと待った! 勘違いしないでほしいんだけど!」

P「だよな、悪い悪い。そもそも昨日の午後はフリーだったし」

杏「サボりたくて買い物に行ったんじゃないから。私がプロデューサーにプレゼントしたくて……」

P「えっ」

杏「あ、いや違うし! プレゼントはついでで、仕事をサボりたくて……そ、それも違うぅ!」

楓「うふふ……」

きらり「杏ちゃんきゃわぃいいい☆」

凛「うん、かわいい」

杏「と、とにかくプレゼント! はいコレ!」

P「……え、ネクタイ? なんで俺が欲しい物知ってるんだ?」

杏「へへ~、私には何でもお見通しだよっ」

P「すごいな……しかも色も結構好みだし。ありがとな、杏」ナデナデ

杏「あっ……///」

杏(やばっ、なでなでされてる……気持ちいい……///)

卯月「……杏ちゃんだけナデナデしてもらって、ズルい」

みく「まったくだにゃ~」

楓「私も……」

凛「えっ」

そんなこんなでお誕生日会も終わり、翌日―――


P「おはよう、みんな」

杏「おーす」

P「おはようございます、だろ! 挨拶くらいちゃんとしろ!」

杏「いいじゃん……あっ、そのネクタイ」

P「ったく、せっかく付けてきたのに……」

杏「へー、まあまあ似合ってるよ」

P「そうか? ありがとう、ってなんで上から目線なんだよ」

杏「うへへ……じゃあプロデューサーもゴキゲンってことで、今日はお休みに」

P「ならないからな。分かって言ってるだろ」

杏「ぶー」

凛「杏、プロデューサーが来るのずっと待ってたよ」

楓「ええ。それはもうそわそわしながら、学研のおばさんを待つみたいに」

杏「よ、余計なこと言わなくていいよ……!」

卯月(……学研のおばさんってなに?)

みく(みくも知らないにゃ……昔のCMのネタとかなんじゃないかにゃ?)

凛「杏、頑張ってプレゼントした甲斐があったね」

杏「……まあ、そういうことにしとくよ」

凛「素直じゃないなあ」

P「よし……ネクタイも付けてるし、名刺入れもノートもハンカチも持った。これで今日の仕事も完璧だな!」

みく「ネコミミは付けてくれないのかにゃ?」

P「いや、さすがに外回りにネコミミは……」

きらり「いってきますのチューすぅう?」

P「そっちはもっとダメ! まったく……ほら杏、行くぞ」

杏「え? なんで私?」

P「今日はお前がCDの売り子だろ! なにあたかも関係ないみたいに言ってんだ!」

杏「うそぉ……今日は事務所でゲームしながらだらだらする予定だったのにぃ」

P「おいおい、本当に忘れてたのか。今更だけど、杏は俺がいないとダメだな……」

杏「うん。だから早く養ってよ、プロデューサー」

P「お前と同棲か結婚しろってか。プロデューサーとアイドルの関係分かってるよな?」

杏「じゃあアイドルやめたら養ってくれるの!?」

P「……前向きに検討する」

杏「あ~、うそつき政治家みたいなこと言わないでよー」

P「もう、どうすればお前は満足なんだよ」

杏「…………じゃあ、なでなでして」

P「は?」

杏「なでなでしてくれたら、お仕事する……///」

P「………………」

ナデナデ

杏「いひっ、うひひひ……///」

きらり「いいないいなー杏ちゃんうらやましす☆」

P「はい、終わり。ほら行くぞ」

杏「ほーい///」

トテトテ...

楓「……さすがプロデューサー。杏のコントロールが絶妙ね」

卯月「でもあれだと、これからずっとなでなでしないと仕事に行かなくなるんじゃ……」

凛「たぶん……あの二人はそれでいいんだよ、きっと」

楓「そうね。ポテンシャルの高い杏が仕事をしてくれれば、ウチの事務所も安泰だし」

卯月「いえ、単純に羨ましいなって思っただけなんですけどね……」

杏「仕事、楽しみだなー」

P「え? あ、杏が仕事を……楽しみ?」

杏「うん。私って基本めんどくさがりだし、何かご褒美がないと働く気がしないけど」

P「知ってる。すぐお金が手に入らないからって、いつもやる気無いしな……後から印税ガッポリって何回も説明してるのに」

杏「でも、今日は違うよね……」

P「え?」

杏「お仕事終わるたびに、プロデューサーがなでなでしてくれるしさ……///」

P「は!? そんな約束して――」

杏「あっ、帰りたくなってきた。急に帰りたくなってきたよー」

P「分かった分かった! それでいいよ……いくらでも撫でてやるから、仕事はちゃんとしろ!」

杏「うへへぇ……約束だよ、プロデューサー///」



終わり。

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