一方「俺は、オマエの事が、」垣根「………」 (331)




・垣根と一方通行が幼馴染だったら、というお話

・ホモスレ

・時間軸不明、とある平行世界のお話

・キャラ崩壊、設定改変及び捏造注意

・ゆっくり更新


※注意※
エログロ・ホモ描写が入ります。
小ネタを単発で投下するかもしれません。




SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1365861396


机の上には、沢山の錠剤と注射器。
頭に突き刺す為の電極、及び部品。
薬臭い中、窓の外を見て過ごす。
それが、俺の、存在することを許された世界。

「………」

ぺた。

窓に触れる。
ひんやりとした、防弾ガラスの感触。
遠くには、学校のグラウンドで走り回っている少年達の姿。
俺と同じ歳の頃で、サッカーをやって遊んでいるようだ。

「……いいな…」

呟いて、視線を落とす。
俺は、車椅子に座っている。
大量の得体の知れない薬品を投与された結果、脚だけが蝋化したのだ。
ぶら下がっているだけのこの肉の塊は、もう、歩行のためには使用出来ない。
優秀な能力者を作り出せれば良い研究者は、俺のバイタルしか見ていない。
モルモットは死なない程度に実験を繰り返せれば、それで良いのだから。

「……わたし、も。…あそんでみたい、です」

少年達が何と言っているか、聞き取れない。
ただ、楽しそうに笑って、楽しそうにボールを蹴っていることはわかる。

あんな風に走れる足が欲しい。
あんな風に歩ける脚が欲しい。

自分で、脚を創り出せたなら。



サッカーをしている少年達の様子が、変わった。
何かミスをやらかしたらしい、平凡な男の子。
彼を、誰かが殴った。
その手はぐにゃりと曲がり、彼を殴った方が泣き出す。
音声は聞こえなくても、『いたいよ』と喚いているのはわかった。

「あ……」

殴られた方の少年は、痛みはなかったようだ。
驚いた顔をしながら、殴った方を見つめて。
それから周囲に糾弾され、泣きそうな顔で逃げ出した。
彼を追いかけようとして踏みとどまり、少年達は教師に言う。
教師は慌てた様子で、学校の中へ戻っていった。

「………」

あの少年の能力は何だろう。
殴った方の腕は、そのままの勢いであらぬ方向へ曲がっていた。
力の方向<ベクトル>が、そのまま反対にされたかのように。



サッカーをして、遊んでいた。
パスを失敗して、負けてしまった。

俺のせいだと落ち込んでいたら、殴られた。
いいや、殴られるのが怖くて固まっていたら、相手の手首が勝手に曲がった。
俺の能力のせいだと、思う。
思わず走って逃げていると、警備員が追いかけてきた。
銃を向けられるのが怖くて固まっていると、銃弾が俺に当たって跳ね返る。
俺の能力の使い方の一つ、『反射』の影響で。

「がッ、あああああ!!」

警備員は、痛そうに叫んで地に伏せる。
そのまま、無線機で何事かを連絡していた。
走って、泣きそうになりながら逃げ続ける。
やがて俺は、歩道橋の上へと追い詰められた。

沢山の銃口。
沢山の兵器。
沢山の視線。

俺が殴られていたら、それで済んだのか。
思わず、笑いがこぼれてくる。
くだらない。どうして、たかが子供一人に、こんな。

「………ごめん、なさい」

謝って、『反射』を解除した。
俺が傷つけば、もう、誰も傷つかないですむ。
痛いのは嫌だったが、仕方がないと、そう思えた。



あの日、逃げ出した少年が、研究所へやって来た。
色んなところをたらい回しにされたのか、見目は変わっていたけれど。
それでも、泣きそうに歪んだ顔は、忘れられなかった。

「……オマエのなまえは?」
「わたし、は。…わたしは、かきねていとく、です」

何もかも実験や研究で奪われていく中で。
性別と名前だけは、頑なに固持し続けてきた。
少年は俺を見て、名前を覚えたらしく、頷く。
そして、おっかなびっくりといった様子で、手を差し出してきた。

「……、…」
「…えっと…」

どうすれば良いのか、迷う。

俺は考えた結果、手をとってみて。
そして、手の甲に口付けてみた。
童話の中で、王子様がお姫様にそうしていたから。

「ばッ、なにすンだよ、」
「…え? ちがうのか?」
「あくしゅだろ、ふつう」

白い顔を赤くして、むすくれたように彼は言う。
思わず謝ると、別に謝らなくていい、と制された。

「…あなたの、なまえは?」

問いかけると、彼は押し黙り。

「……ないの?」
「…のうりょくめいで、いいか?」
「うん」
「…あくせられーた」
「あくせられーた? わかった」

今度からそう呼ぶね。

そう言うと、彼は嬉しそうに笑った。
彼は、俺と違って、自らという存在を嫌っていた。



研究者は、モルモット同士の会話を微笑ましく見るつもりになったらしい。
或いは、俺達二人が強すぎて、静観することに決めたのか。
少なくとも、俺達が会話をしている時に、邪魔をされることはなかった。

「かきね、さンぽしよォぜ」
「……でも、あるけませんし」
「おれがくるまいすおしてやる」

だから、一緒に行こう。

誘われるまま、車椅子を押してもらう。
外に出ると、空気が涼しかった。
長い前髪の隙間から見る空は、どこまでも青い。

車椅子に患者服、切らないままに伸ばされた長髪の少年。
白い髪に赤い瞳、目立つ黒い服に車椅子を押す少年。

どちらも悪目立ちはしていただろう。
だが、お互いしか見ていなかった俺達には、そんなことは関係なかった。

「オマエ、あるけるようになンねェの?」
「あしがあたらしくはえてこないかぎりは、むりですね」
「ふゥン」

相槌を打って、車椅子を押す一方通行。
何を想ってくれていたんだろう。



「アイスか。…くう?」
「おかねあるんですか?」
「ある」
「たべてみたいです」

研究所で育ったようなものだった俺と、元は一般学生だった一方通行とでは知るものが違う。
学園都市の街中を何も知らない俺に笑みを見せ、彼はアイスクリームを屋台の車から購入した。

「ほらよ」

差し出されたアイスクリームは、綺麗な白色をしていた。

「れンにゅうあじだって」
「あまいもの、ですよね」

俺の口調は、俺の研究していた木原病理譲りで。
一方通行の口調は、彼を研究していた木原数多譲り。

故に、研究所では『まるで二人のクローンが仲良くしているようで気味が悪い』と言われた。

「くってみろよ」
「あくせられーたは…?」
「オマエのひとくちもらえばそれでいい」
「そうですか」

もぐ。

かぶりついてみると、冷たくて甘い刺激が口内に満ちた。
自然と口元が緩み、幸せな気分へと変わっていく。

「おいしい、です」
「……ン、そォか」
「どうぞ」
「うまいならオマエひとりでくっていい」
「でも、あくせられーたがかってくれたものですから」



「おいしいですよ、あまくて。ひんやりしていて」

幸せそうな笑顔で、垣根は俺にアイスを差し出してくる。
仕方がないので身をかがめ、かぶりついてみた。
甘く、ひんやりとした心地よさが口の中に広がり。
甘すぎるベタベタとした不快感が、口周りに残った。
それでも不愉快だ、とまでは思わない。
きっと、垣根が食べさせてくれたからだろう、と勝手に思う。

「あとはオマエがくえよ」
「はい」

えへへ、とはにかむ笑顔。
甘みがかった声と、長い髪。
コイツの性別は知らない。
『ていとく』なのだから、恐らく男だろう。
けれど、女かもしれない。
別に、知らなくても良いと思っている。
何にせよ、俺を恐れず、いつも楽しそうに接してくれるコイツのことが、俺は好きだった。

「いつか」
「はい?」
「ならンであるけたらいいな」

俺の能力では、コイツの脚は治してやれない。
硬くなったまま、二度と動かないこの脚は。

「そう、ですね。わたしも、あくせられーたと、ならんであるいてみたいです」

そうしたら、世界はもっと素敵に見えるでしょうか。

そんなことを言う垣根に、少しだけ泣きそうになった。



とりあえず初回分。

あのさぁ……

酉変えてもIDまでは変わってないから意味無いぞ フィアンマスレの
>>1よ ID:XPJ/0n/m0
もっと考えてやりな なんで酉変えたのか知らんけど


垣百合かと思ったら垣一だったでござる
支援だ


最初の方で一瞬びょーりん=ていとくん的なネタかと思ってしまった
このゆるふわした感じのショタ垣根があの俺様な垣根になるのか……?


相変わらず良質SSの雰囲気がある

>>20
優しい垣根が本質なんじゃなかったか

               | │                   〈   !
                | |/ノ二__‐──ァ   ヽニニ二二二ヾ } ,'⌒ヽ
               /⌒!|  =彳o。ト ̄ヽ     '´ !o_シ`ヾ | i/ ヽ !
               ! ハ!|  ー─ '  i  !    `'   '' "   ||ヽ l |
_______∧,、_| | /ヽ!        |            |ヽ i !_ ______
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄'`'` ̄ ヽ {  |           !           |ノ  /  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
               ヽ  |        _   ,、            ! , ′
                \ !         '-゙ ‐ ゙        レ'
                  `!                    /
                  ヽ     ゙  ̄   ̄ `     / |
                      |\      ー ─‐       , ′ !

更新が楽しみなスレがまたひとつ

乙れふ
期待してるぅ
酉が変わっても>>1見た瞬間すぐに分かった
愛の力かしら///カアァッ


>>18
このスレにはフィアンマさんが一切出ないので酉変えした所存です。

>>21>>23>>24
ありがとうございます




              , -‐ ‐- 、
           />:::!:::` :ヽ::::ヽ
        /.:´:::::/::ハ::::>、;、::::l
        {::::::::/;ム ∨ ≧.}::;i
        |v‐:::l 弋_ノ  弋ノi:小
        ル!:;::|       ノ:;i
       ノ;:乂ノ、  ー イ;从   ||
         .∠:/ヘ|`ヽ工{ヽ__´_  ||      ○
        {:::::`ヽ|    ̄  V::::::/一'||)   (⌒ヽ o 
.        Y⌒V|   _  〉‐r'´ ̄||  r‐(     )
         \ }      ∧jノ   ||⌒    ⌒ヽ
        乙ノ|         | ┌「 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|┐
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.             し′  し'    /  」      |____j


垣根「俺の出番は後半から増える。一旦消えるのはメインヒロインのお約束だ」







投下。




十三歳になった時。
俺達はこれ以上開発の余地無しとして、研究所から追い出された。
どこかに所属することよりも先に、暮らす場所について考えて。

「垣根」

俺に残されたものは、たった一つ。
たった一人だけ、絶対に守りたいものだけ。
だが、それさえあれば十分だった。
相変わらず、歩けてはいない。
それはそれで好都合だと思ってしまう俺は、歪んでいるのかもしれない。

「? 何だよ」

一緒に過ごしていた間に、垣根の口調は変わっていった。
それでもその笑みは変わっていなかったし、俺を拒否しない姿勢も変わらなかった。

「…、その、…あれだ、あれ」
「あれって何だよ」

告白は、流石に出来ないままに。

「一緒に暮らさねェかって、言おうとしたンだよ」
「…俺、車椅子のままだぜ?」
「構わねェよ、それ位」

車椅子を押すことなど、とうに慣れた。
思うままを言う俺に、垣根は幸せそうに笑う。
この笑顔を守る為なら、きっと何人でも殺せると、感じた。



一方「ただいま」

垣根「お帰り。大根重くなかったか?」

一方「能力使えば余裕だ」

垣根「それ位素の腕力で持てよ」

一方「楽な方がイイだろォが。能力も実力の内ってなァ」

垣根「それ言うなら『運も実力の内』だろうが」

一方「細かい事はいいンですゥ。…誰も来てねェか?」

垣根「セキュリティーこだわるって言ったのお前だろ。今日も問題ねえよ。
   そもそも、一歩たりとも外に出てねえしな」

一方「ン、ならいい」

垣根「心配性だな」

一方「普通だろ。…髪切るか?」

垣根「あー。…切るか。今度染めてえんだけど」

一方「染めンのかよ、わざわざ」

垣根「ダメ?」

一方「別にダメじゃねェけど」



垣根「今日の晩飯はハンバーグだ。すげえだろ」

一方「あン? わざわざ作ったのか」

垣根「当たり前だろうが。既製品なんざしょぼくて食えたモンじゃねえ」

一方「……怪我してねェだろォな」

垣根「俺が動かねえのは脚だけだ。上は問題ねえよ」

一方「ン。…大根おろしは、」

垣根「お前担当」

一方「ですよねェ。…クソッタレ」

垣根「いいじゃねえか別に、手でちまちまやる訳でもねえんだから」

一方「自動でも面倒なものは面倒だ」

垣根「とか何とか言いながら準備してる辺り素直じゃねえな」

一方「……シソは」

垣根「それは俺が切っておく」

一方「わかった」



垣根「やべえ、超美味ぇ、俺ハンバーグ作る天才じゃね?」

一方「はいはい」

垣根「適当に流しやがってこの野郎」

一方「…ま、何度も作ってれば上手くもなるだろ」

垣根「まあな。お前が食いたいって言うから何度も何度も作っ、」

一方「……」

垣根「……」

一方「……」

垣根「…今の無し」

一方「無しっての無し」

垣根「バーカ、死ね」



一方「…ン、風呂入るか」

垣根「そうだな。…悪い」

一方「オマエ一人抱えるの位余裕だ」

垣根「ん、…っと」

一方「捕まってろよ」

垣根「おう」



一方「…のぼせンなよ」

垣根「気をつけるモンでもねえだろ」

一方「まァな。…入浴剤切れたな」

垣根「マジかよ。…次何買うかな」

一方「大体練乳の匂いのアレだろ」

垣根「練乳好きだからな」

一方「何か理由でもあンの?」

垣根「内緒」

一方「オイ」

垣根「秘密」

一方「…チッ」

垣根「……妬くなよー」

一方「妬いてねェし」



垣根「…ねむ」

一方「風呂場で寝ンな」

垣根「でも俺が寝たら運んでくれるんだろ。わかってるんだぜ?」

一方「見捨てて寝るかなァ…」

垣根「はは、冷てえの」

一方「…眠いンなら上がンぞ」

垣根「お前は入んねえの?」

一方「俺は『反射』があるから必要ねェ」

垣根「衛生的には便利だな」

一方「風邪は引かねェからな」

垣根「んー。じゃあ安心して寝るわ」

一方「オイ起きろ」



垣根「さて寝るか」

一方「ン」

垣根「お前は?」

一方「寝るつもりだが」

垣根「一緒に寝ようぜ」

一方「あァ」




垣根「…だめだ寝れねえ」

一方「羊が」

垣根「一匹」

一方「羊が」

垣根「二匹」

一方「羊が」

垣根「さん、……すぅ…」

一方(寝れンじゃねェか)



今回はここまで。
ほのぼのパート終わり。
当スレは垣一垣スレです。

> 一方「羊が」

> 垣根「さん、……すぅ…」

こいつら可愛いな


頭が痛い。
垣根がそう言い始めたのは、二ヶ月前の事だった。
俺の能力を応用して計測してみたが、特に目立った異常は無く。
医者にかかる程ではないだろうと、適当な判断を下してしまった。

「偏頭痛かな」

だるい、とテーブルに伏せる垣根の頭を撫でる。

「おー、…少し楽になった。お前すげえな」

そんな軽口を叩いて、垣根は小さく笑う。
その額や頬に汗が伝っていたことに、気がつけなかった。
いいや、気がついていて尚、俺は軽視していたのかもしれない。
怖いことに、嫌なことに、全て見て見ぬフリをして。
平穏を守る為に、恐怖から目を背けた。



そして、その日はやって来た。




「アクセラ、レー、タ」

ドサリ。
バタリ。

人が倒れる音というのは、存外重いものだった。

「か、きね?」

俺に向かって伸ばされた手。
細い手指が、力なくフローリングに落ちた。
呼吸は浅く、瞳は虚ろで、何度も咳き込んでいる。
身体中の血液の向きが、逆向きになったかのような。
衝撃と湧き上がる垣根が死ぬという恐怖に、思わず怯えた。
怯えながら、慌てて携帯電話を取り出す。

「きゅう、きゅうしゃ、」

学園都市第一位の脳が、まともに働いていなかった。
携帯電話、その数字を三度押し、耳にあてがう。
垣根の手を握り、バイタルを計測してみた。
何の異常も見当たらないのがかえって不気味で。

「あ、たま、痛い、」

言うべきことは伝えた。
まもなく救急車がやって来るはずだ。
俺は携帯電話を放り出し、垣根の手を握った。
低体温症にでもかかっているのか、氷のように冷たい。

「垣根、大丈夫だ、もォすぐ救急車来るからな」
「……お、れ、…どう、なって…?」
「わかン、ねェ。……悪りィ」

ぼんやりとした表情で、垣根が数度咳き込む。
背中をさすって、抱きかかえた。



救急車が来て。
同乗して、その手を強く握った。
救急隊員は俺達を兄弟か何かだと思ったらしく、何も言わないままに。
淡々とバイタルを計測・記録しては、何の異常もないことに首を傾げていた。
どんどんと体温は下がり、まるで死体のように垣根の様子は変化していく。

「アクセラ、レータ」
「なン、だよ」
「頭、痛ぇ。……後、寒い…」

手近な毛布をたぐり寄せる。
垣根の身体を包んでやっても、その体温は一向に上昇しない。
このまま死んでしまうのではないかと思うと、涙が出そうになった。
どうしてこんなことになってしまったのか。
体調不良の原因は不明だ。だが、もっと早く医者に相談すべきだったということはわかる。

怖いから、見ないフリをした。
垣根にこれ以上薬品を摂取させたくなかった。
平和な毎日に水を差したくなかった。

すべてが、俺の甘えと、惰性に過ぎなかった。
本当に垣根の身体を想うなら、医者へ診せてやるべきだった。

「死に、たくねえ。…まだ、お前と、並んで歩いてない、のに」

げほ、と噎せた咳に、赤黒い痰が混じる。
強く手を握り、胸元を摩った。

「死なせねェよ、俺が」



病院に到着して。
医者の診断結果は、単純なものだった。
単純で明快であるが故に、誰を恨むことも出来なかった。

能力の暴発。

元元、垣根の能力———未元物質(ダークマター)は、特殊なものだ。
この俺、『一方通行』の次に並ぶ程に。
この世に存在しない物質を観測し、引き出し、操る能力。
小規模の暴発や制御不能へ陥った事は、時々あった。
垣根の背に顕現した翼が暴れ、部屋が滅茶苦茶に荒らされたことも。
垣根本人の意思によるところではなく、能力だけが、まるで意思を持ったかのように。

『悪い。一人に、してください』

口調が不安定になり、泣きそうな顔をして。
自分自身に怯えていた垣根を、何度も慰めた。
精神疾患を疑うことは、しなかった。
自分の愛する人間が精神疾患を患っていると、考えたくなかった。

「強いストレスがかかっていたようだね?」
「強い、ストレス」
「日常的に、計り知れない程膨大なストレスを感じていたようだよ?」

それが、今回の大規模な暴発、能力暴走の原因。
俺と暮らしているのが嫌だったのか。
そんなことはないと、自信を持って、言い切れない。



能力暴走を自分自身の力で抑え込んだ結果。
垣根は、昏睡状態へと陥った。
医者によれば、未元物質を未元物質で抑え込み、制御している状態だという。
無意識下、意識下、両方の演算によって、脳は酷使され。
結果として、いつ起きるかもわからない昏睡状態に。
眠れる能力暴走者。学園都市では、よくある光景とはいえど。

あんまりだ、と思った。

垣根が、何をした。
何か、悪いことをしたのか。
能力だって、研究所が無理矢理に発現させたもので。
日常生活でかかっていた強いストレスとやらの原因はわからないが、それにしたって、この現状は酷い。

「…、……」

ぺたり、と頬に触れてみる。
先程よりは冷たくない。
静かに呼吸は繰り返され、目が開けられることはない。

「な、ンで」

二度と起きないかもしれない。
それは即ち、死んだことと同義。

「なンで何も悪い事なンかしてねェ帝督が、こンな目に遭わなきゃならねェンだよ…!!!」

みっともなく、膝から崩れ落ちそうになる。
垣根は、何も悪いことをしていないのに。

車椅子生活で、俺の手を煩わせる度に悪いなと苦笑いしていた。
料理が上手く出来れば、得意げになって笑っていた。
誰かに傷つけられるのが嫌で、ずっと家に閉じこもっていた。

そんな垣根が、こんなに酷い目に遭わされて良いのか。
起き上がれない、話せない、笑えない、何もできない。

「なンで、こンなことになっちまったンだろうな」

答えは、出ている。
俺の、せいだった。



「………」

静かに眠り続ける姿は、綺麗だった。
容姿は整っていて、それは誰しもが認めるところであり。
そんな見た目の良さを抜かしても、俺はコイツが好きだった。
いつか、一緒に歩けるようになったとき。
隣を歩いてくれた時、言おうと思っていた。
告白しようと思っていた。一生、叶わなくなってしまったが。

「俺は、オマエの事が、」

好き、なンだ。

言いたかった。
マッサージ等をしていく生活の中で。
いつか帝督が歩けるようになったら、言うつもりだった。
これから先もずっと、緩やかでくだらない日々が続いていくはずだった。

「………」

一生起きないかもしれないだなんて、認めない。
俺が、何としてでも起こしてやる。

唇を噛み締め、誓った。

ふと、携帯電話が震える。
とある研究機関の人間からの電話だった。
狙いすましたかのようなタイミングに、腹が立つ。

「すぐ戻るからな」

告げて、病室の外へ出る。



「もしもし」
『やあ、一方通行。君に実験の依頼がある』
「くっだらねェ内容なら殺すぞ」
『まさか。…絶対能力者という言葉なら、聞き覚えがあるだろう』
「神様の答え。…SYSTEMか」
『ああ。……君の現在状況は調べたよ』
「趣味の悪りィ野郎だ」
『君が望むものは、神様の答えの中に存在しているかもしれない』

求めているのは、たった一つ。
垣根帝督が再び目を覚まし、普通の生活をすること。
更に欲張るのなら、垣根帝督が自力で歩行出来るようになること。

「…面白ェ。受けるかどうかは別として、その実験内容、教えてもらおうか」






「無敵になりませンか、ってお誘いだった」
————学園都市第一位の『超能力者』・一方通行(アクセラレータ)
 



「うわっ、ごめんなさい!! 怪我ありませんか?」
————学園都市第三位の『超能力者』・御坂美琴(みさかみこと)




「被験者一方通行ですか、とミサカは確認をとります」
————『超電磁砲』の体細胞クローン『欠陥電気(レディオノイズ)』・ミサカ00001号



 



今回はここまで。
ヤンデレータかデレデレータか迷います。


ていとくん……


なんだこれ、俺ホモじゃないのに男同士の描写で甘すぎて砂糖吐きそうになってる
なにこの……なに?

そういうカプってあるよなあ

>>63
ヒント:自分では気づいてないだけで
本当は自分はホモ

乙!
続きが気になってしかたない

ヤンデレータ風味のデレデレータがみたい


やっぱ>>1のSS面白いな
>>1のSSによってギャグホモ以外のホモSSにも抵抗無くなったからなあ

>>63
安心しろって!
お前もホモだってばよ


人類は大体ホモだよ(便乗)

>>67
そう言っていただけるとすごく嬉しいです






投下。



一方通行は、とある研究所へとやって来た。
表向きは筋ジストロフィーや人体についての研究施設。
その現状は、とある超能力者の体細胞クローンを生み出す機関。
他の研究所とも連携しているが、その全てが前述の機関だ。
非人道的な研究によくもまあ精を出すものだ、と呆れ半分に一方通行は思う。

「お待たせしてすまないね」

やややつれた様子の男。
彼は、天井亜雄。
元はレベル5の能力者である超電磁砲の量産を目指した実験の責任者だった。
超能力者(レベル5)を生み出す遺伝子配列のパターンを解明し、偶発的に生まれる超能力者を確実に発生させることが目的。
交渉人を介して書庫に登録させた御坂美琴のDNAマップから、彼女のクローンである量産軍用モデル『妹達』を誕生させようとする。

が、理論を確立し、量産体制を構築しようとした計画最終段階で。
『樹形図の設計者』の予測演算により、『妹達』の能力は超電磁砲のスペックの1%にも満たない欠陥電気であることが判明。
遺伝子操作・後天的教育問わず、クローン体から超能力者を発生させることは不可能と判断された。
結果としてすべての研究は即時停止、研究所は閉鎖し、計画は凍結と相成り。
借金塗れの所を、今回一方通行が引き受けるか迷っている絶対能力進化実験に辛うじて拾われた男だ。

「…ンで? 内容は?」

『絶対能力者進化実験(レベル6シフト)』。

パイプ椅子に腰掛け、缶コーヒー片手に、一方通行は傲慢に問いかけた。



『絶対能力者進化実験』。

樹形図の設計者の算出したプランに従い、最強の超能力者『一方通行』を絶対能力者(レベル6)へ進化させる実験。
天井亜雄、芳川桔梗、布束砥信といった一線級の研究者が参加している。
実験内容は、"20000通りの戦闘環境で量産能力者(レディオノイズ)を20000回殺害する"。
ただそれだけ。綿密に内容を練る必要はあるが、単純な内容ではあった。

「雑魚スライムプチプチ潰していきゃァ、いずれはレベルアップ……ねェ」

国際的に禁止されている人間のクローンを作り出していいのか、だとか。
殺害によってレベルが上がるなどという理論はおかしい、だとか。

その辺りはもはや、突っ込む部分でもなかった。
一方通行が身を置いてきた研究所では、もっと酷い実験内容をしていたのだから。
それでも一応、まだ人を殺したことはなくて。故に、戸惑う。

「っつーかよォ、レベル6って何が出来ンだよ」
「理論上の話になってしまうが、多重能力者の可能性すら浮上している」
「……」
「ベクトル操作に限って言うなら、…時間に架空のベクトルを設定することも可能になるだろう」
「……時間操作…?」

時間を操れる。
それはつまり、過去に戻す事が出来るということ。
垣根を起こすことも、彼の脚を治すことも、出来るということだ。
僅かにやる気を出した一方通行に、天井亜雄は笑みを浮かべる。
それは一般的には下卑た笑みと呼ばれるものであったが。

「何、殺すといっても相手は単価にしてたった18万円の人形だ。
 ロクな感情もなければ、叩き込まれているのも戦闘方法や一般常識を少々程度。
 人間として見るに値しない存在だ。何を気負うこともなく二万回壊せばいい」

たったそれだけだ、簡単だろう。

天井亜雄の言葉に、一方通行は悩み。

「とりあえず、その人形とやらを見てみたいンだが」

答えを保留してみることにした。



二人は、部屋を移った。
軍事用ゴーグルを着用した常盤台中学の制服を纏っている少女が、窓を見つめている。
その瞳はどこまでも虚ろで、しかしそれ以外はオリジナルたる超能力者とそっくり。
細胞レベルで同じなのだから、そっくりというのも当たり前の話に過ぎないのだが。
彼女はしばらく窓の外を見つめた後、ようやく二人の存在に気がついた。

「被験者一方通行ですか、とミサカは確認をとります」

彼女は、ミサカ00001号。
実験の為に生み出された、御坂美琴の体細胞クローン。
ぼんやりとした表情を浮かべ、彼女は首を傾げる。

窓の外を見つめる寂しそうな視線。
茶色みがかった綺麗な髪。
椅子に座ったままの、細い脚。

身長も性別も何もかも違うのに。
一方通行の目には、彼女に、垣根帝督の姿が重なって見えた。

「あァ」
「……どうかね?」
「そォ急かすなよ中年。……なァ、あー…妹達」
「この個体のことはミサカ00001号とお呼びください、とミサカはナンバリングを口にします」
「ン、なら1号。オマエ、マトモなモンは喰った事あるか」
「? 流動食以外の食物は摂取経験がありません、とミサカは答えます」
「……お、おい?」

焦る天井亜雄をよそに、一方通行は誘った。

「散歩、付き合え」



一方通行は、ミサカ00001号を伴って外へ出た。
やって来たのは、かつて垣根と共にやって来た場所。
即ち、アイスクリーム販売のワゴン車が停っている、休憩所。

「ここで待ってろ。アイス食わせてやる」

告げて、一方通行は離れた。
勧められたままに、00001号はちょこんと席に座る。
一方通行は慣れた様子で、ワゴン車に近づこうとして。

軽く、人にぶつかった。

「痛っ」

彼女は走っていたようだ。
勢いよく一方通行へぶつかり、『反射』により強く跳ね返って。
そのまま、地面にぺたんと尻餅をついた。

「っつー…たたた…」

彼女は太ももとお尻をさすり。
そして一方通行を見上げ、慌てて立ち上がった。

「うわっ、ごめんなさい!! 怪我ありませんか?」
「…問題ねェ」

『反射』されたかどうかは、わからない。
故に、強い勢いでぶつかったが故に反動で自分が吹っ飛んだと思ったらしい。
一方通行が共に歩いていたクローンのオリジナルたるその少女は、ごめんなさいと頭を下げ。
そして再び、バイオリンのケースらしきものを抱えて走り出した。

「…あれが、"オリジナル"。『超電磁砲』か」

ぽつりと呟き。
一方通行は、再びワゴン車に近寄る。
そして財布を取り出すと、かつて注文したものと同じものを頼んだ。
数年前の、『本日のおすすめフレーバー』を。

「練乳味。シングルで」



「ほらよ」

差し出されたアイスクリームは、綺麗な白色をしていた。

「練乳味だ」
「甘い物ですね、とミサカは興味を向けます」

彼女は素直にコーンを受け取り。
興味深そうにジロジロとアイスクリームを観察して。
そうしてから、かぶりついた。

もぐ。

かぶりついてみると、冷たくて甘い刺激が口内に満ちた。
自然と口元が緩み、幸せな気分へと変わっていく。

「おいしい、です。と、ミサカは判断しました」
「……ン、そォか」

彼女は、幸せというものを知らない。
『学習装置』によって叩き込まれた感情しか識らない。
だけれど、今、アイスが美味しいということは、わかった。

「………」

彼女は、無理矢理に表情筋を動かしてみる。
酷くぎこちない笑みが、浮かんだ。

「ありがとうございます」
「…ン」

その笑顔が。
かつての垣根の笑顔に重なって。
一方通行は、目を細め、少しだけ、笑った。



そして、一方通行は再び病室に戻って来た。
人工呼吸器を取り付けられ、垣根は眠り続けている。
静かに眠っているその様は、童話に出てくる姫にすら見えて。
そういえば昔からお前は童話が好きだったな、と一方通行は呟く。

「……」

手を伸ばす。
数年前に切って染めた彼の髪を、優しく撫でた。
高いスキ鋏を買って、長めに切ったのが懐かしい。

「………帝督」

いつもなら、こそばゆいだの、名前で呼ぶとは何だだの、照れくさそうに起きてくれて。
俺の手を優しく払って、本当にくすぐったそうな顔で笑うのだ。
そんな笑顔と下らないやりとりが嬉しくて、楽しくて、何度もやって。

「オマエを起こす王子様になる為の方法を聞いてきたンだ」

髪に触れるのをやめ、手を握る。
彼の右手を、両手できゅっと握った。
深く腰掛けたパイプ椅子が、ギシリと軋む。

「無敵になりませンか、ってお誘いだった」

呟く。
どこか八つ当たり気味に。

「クローンとはいえ人形だから気にすンなって言われたンだけどな。
 どう考えても、オマエに似てて、普通の人間なンだよ。
 殺せる訳ねェンだよ、そンなモン。でも、帝督が起きる可能性が出来るって言うンだよ」

震える手で、強く、手を握る。
齢にして14の彼に、人の生き死にを決める勇気など無かった。

「どォすれば、イインだよ……」



今回はここまで。
ショタ時代垣根くんの口調はカブトムシ05を参考にしています。



垣一なの一垣なの垣一垣なの


綺麗な一方通行
恋は人を綺麗にするってこういうこと……なのか?

>>65>>67
ちげーし、ホモじゃねーし!
>>1の描写が(良い意味で)ホモホモしくなくて、一方さんとていとくんが中性的な感じだから俺セーフだし!

>>84
わかってる。わかってるよ(優しい目)

一垣だよなどう見ても

>>83
>>41

一垣でも垣一でも二人が幸せになれるならどっちでもいいじゃないですか(憤怒)

でも一方さんは百合子とかあって右側配置されやすいからか
垣根が右側だと新鮮でいいって>>1の過去スレ読んで気付いた俺は>>1のお陰でフィアンマさんの魅力に気付いた勢

乙。珍しいな


ヤンデレに流れつつあったのに心優しいマジキチレータになってきた。げせない。
いつも通り鯖落ちの日でしたね。

>>88
ありがとうございます。>>1にこれといったこだわりはありませんが割と一垣派です

>>89
(気づいたんだ。俺が立てなければ誰かがフィアンマスレ立ててくれるんじゃないかって)









投下。




一方「はよ。…とりあえず、答えは留保してきた」

垣根「………」

一方「夏までには決めてくれ、だと」

垣根「………」

一方「人を殺すかどうかの決定を急げって」

垣根「………」

一方「…俺、さァ。…オマエの為なら、何人でも殺せると思ってた」

垣根「………」

一方「何の迷いもなく、殴って、蹴って、グチャグチャにぶっ殺せるって」

垣根「………」

一方「でも、違った」

垣根「………」

一方「オマエが目の前で襲われてンならともかく。
   オマエを起こす為に、脚を治してやる為に、殺すのは怖い」

垣根「………」

一方「腰抜けだよなァ。たかがメスガキ一人殺すだけだってのに」



一方「理由は怖いだけじゃねェ」

垣根「………」

一方「オマエに似てるっていう理由もある」

垣根「………」

一方「アイス奢ってやった時の反応がそっくりで」

垣根「………」

一方「こンなもの初めて、って」

垣根「………」

一方「昔のオマエみたいなツラして、昔のオマエみたいな声で言うンだよ」

垣根「………」

一方「見た目は全然似てねェのに」

垣根「………」

一方「俺、…俺、だから…怖ェンだよ。…オマエを、殺すみたいで」



一方「"オリジナル"にも偶然会った」

垣根「………」

一方「闇のやの字も知らなそうなガキだった」

垣根「………」

一方「俺達と違って、虐げられた事の無いヤツの匂いがした」

垣根「………」

一方「………」

垣根「………」

一方「…なァ、起きてくれよ」

垣根「………」

一方「オマエが居ないと、ロクに物事も決められねェンだよ」

垣根「………」

一方「垣根……」



一方「飯買ってきた」

垣根「………」

一方「一応、オマエの分も」

垣根「………」

一方「コンビニの飯食うのは、オマエが体調崩した時しかねェな」

垣根「………」

一方「……」

垣根「………」

一方「…オマエは、何がストレスだったンだ?」

垣根「………」

一方「俺との生活が、そンなに嫌だったのか?」

垣根「………」

一方「……出来るだけの事はやってきたつもりだった。…足りなかったンだよな」

垣根「………」

一方「…もう、慢心しねェから、……だから…起きてくれよ…」

垣根「………」



一方「結局朝から晩まで入り浸っちまったなァ」

垣根「………」

一方「…ン、おやすみ」

垣根「………」

一方「明日も来るからな」

垣根「………」

一方「明後日も」

垣根「………」

一方「明々後日も」

垣根「………」

一方「その次の日も…」

垣根「………」

一方「…だから、早く起きろよ…」



今回はここまで。

乙乙
がんばれ一方通行

ワンツートップと妹達が絡んでるのがすごく好きだ


ヤンデレータ可愛いよ

乙。何故かなんとはなしに仲いい兄弟に見えてきた…


>>105
友達以上恋人未満()だから…(震え声)

書き溜めがなくなってきて焦っている。











投下。



一方「はよ」

垣根「………」

一方「実験はとりあえずまだ保留だ」

垣根「………」

一方「オマエが起きたらやる意味ねェし」

垣根「………」

一方「……、」

垣根「………」

一方「…治療、受け付けないンだってな」

垣根「………」

一方「そンなに、起きたくねェのかよ」

垣根「………」

一方「無意識下の能力行使で治療を拒否する位ッ、」

垣根「………」

一方「…俺と、…一緒に、並ンで歩きたいって言ったのは…嘘だったのかよ」



赤い瞳が、潤む。
泣いてなるものかと、上を向いた。
自然な流れとして、涙は鼻水へと変化する。
ぐず、と鼻をすすり、一方通行は数度深呼吸をした。
垣根が起きない訳がない。
仮に起き上がらないのなら、自分が起こすまで。

ただ、その為に手を汚せるのか。
垣根を傷つけた訳でもない少女を殺せるのか。
何の害ももたらさない、生まれたての年下の少女を。

『おいしい、です。と、ミサカは判断しました』

ぎこちない笑み。

『おいしい、です』

柔らかな笑み。

綺麗な二つの笑顔が、重なる。

「…る訳、ねェだろ!!」

苛立ち紛れに叫んで。
一方通行は、落ち着きを取り戻そうと呼吸を繰り返した。
獣のような浅い呼吸に混じって、垣根の呼吸と、ピ、ピ、という電子音。
規則正しい電子音が、やがて一方通行の精神を鎮静化する。

「……殺せ、ねェよ」

年若い少年。
何だかんだで闇の底を這いつくばってきたにせよ、彼は普通の少年だ。
孤独な少年同士肩を寄せ合い、必死に生きてきただけの心優しい少年なのだ。
誰かを愛するまっとうな精神の持ち合わせだってあるのに。
そんな、ゲーム感覚で殺人など気軽に始められるものか。

まして、愛する人にどことなく似通った非力な少女など。



「…また来る」

言い残して。
一方通行は、立ち上がった。
ギシリ、とパイプ椅子が地味に軋み、嫌な音を立てる。
コツコツ、という硬質な靴音を伴って、彼は病室から姿を消した。

待ってくれ、という言葉。

垣根の唇は、動かない。
こんなにも思っているのに。
たくさんのことを考えているのに、届かない。
何一つ、小さな声すらも、絞り出す事が出来ない。

『アクセラレー、タ』

待ってくれ。
もっと話をしてくれ。
一緒にいてくれ。

沢山の言葉は、思考の海で溶け消えるのみ。



どうして、こんなことになったんだろう。

垣根は、考えてみる。
指先の動き一つままならないものの、思考だけは自由だった。

俺は、一方通行が好きだった。
特殊な意味で。恋愛的な意味で。
見た目だとかそんなものではなく。
依存にも等しい、ずっと奥深い部分で。

だが、俺の存在が一方通行にとって迷惑であることはわかっていた。
脚は動かない、女でもない、可愛い系の見た目でもない。
手間をかけさせ、一方通行の人生を食いつぶし、不幸にしてきた。
そんな俺が、一方通行に告白していいはずがない。そんな権利はない。
いつかさよならをして、一方通行が誰かと幸せになれるよう応援しなければならない。

しなければならない、と。
こうしたい、の。

そんな、想い二つの板挟みにされていた状態が。
俺にとっては、俺が思っていた以上にストレスだったんだろう。
起き上がりたい気持ちと、このまま眠っているべきだという気持ちが交錯していて吐き気がする。

『一方通行……』

お前の手を握って、謝りたい。
倒れてまでお前の人生を縛り付けて、ごめん。

お前を不幸にしちまって、ごめん。




学園都市最強は、公園のベンチに座っていた。
既に時刻は午後五時過ぎで、夕方。
暮れゆく夕陽を眺め、先程自販機で購入した缶コーヒーを開けた。

プシッ、パキリ。

小気味良い音と、コーヒー豆の良い匂い。
一方通行は、静かに缶コーヒーを啜った。
遠くでは幼い子供の帰り路だろう、遊んだり、笑う声。
自分にもあんな頃があったものだ、と少年は思う。
最も、発現していた能力によって粉々になった優しい思い出だが。

「……」

静かに啜る。
ふと、目の前が暗くなった。
一人の少女が、覗き込んでいた。

「それは何ですか、とミサカは問いかけます」
「オマエ外出てイインかよ」
「研修です、とミサカは答えました」
「ふゥン。…これは缶コーヒー」
「美味しいものですか、とミサカは疑問を持ちます」
「苦ェ」
「…マゾヒスト的な趣味をお持ちなのですか、とミサカは不審がります」
「ンな訳あるか。ただの嗜好品ですよォ、嗜好品」

くだらない、とばかりに言い。
一方通行は、だるそうに缶コーヒーを飲んだ。
ブラックの酸味と苦味が、口内を潤す。

「……オマエは、死にてェの?」
「この個体の生殺与奪権は貴男と研究者にあります、とミサカは」
「そォじゃねェ」

ギロリ。

一方通行は、鋭い眼光を向けた。
迷った結果、被害者に決定権を委ねる事にしたのだ。



「オマエ自身は生きたいのか死にたいのかって聞いてンだよ」
「…………ミサカは————」
   






「"生きてみたい"です。これはあくまで独り言です、とミサカは補足説明しました」
————『超電磁砲』の体細胞クローン『欠陥電気』・ミサカ00001号




「モノは相談、早く首吊って死ンでくれないかなァ?」
————学園都市最強・一方通行




「ほうれ、お父さんから素敵なプレゼントだ。ゲイセラちゃん?」
———『木原一族』の科学者・木原数多



 



今回はここまで。
絶対能力者進化実験にあたって展開に斬新さを捜していたら>>1のいつものパターンに落ち着きそうです。

モツカレー

乙。確かに一周回って戻ってきちゃった感じだな

一方さんが輪姦されて戻ってきた?(幻聴)


とても残念なお知らせです。
>>1がスランプになりました。しばらく更新出来ないと思います…。
リハビリすべく一生懸命色々と書いてみます。

おおそうか
ゆっくり気分転換してふっと頭にネタ降って来るといいね
>>1のSS好きだから気長に待ってる


フィアンマさんが輪姦されて戻って来た?(難聴)


ひとまずスランプは治りました。お騒がせしました。









投下。

 



「"生きてみたい"です。これはあくまで独り言です、とミサカは補足説明しました」

彼女は、掠れた声で言った。
ぽつりと。呟くように。
或いは、懇願するようにも。
一方通行はたっぷりと数時間沈黙し。
そうして、少しだけ相槌を打った。

「そォか」

死にたいとは言わなかった。
しかし、生きていたいと言ったも同義。
ならば、自分が成すべきことは何となくわかる。

「ン、研修戻れよ」
「はい、とミサカは返答を返します」

軍用ゴーグルを装着して。
彼女は、一方通行へ背を向け、歩いて行った。
空になった空き缶を、ゴミ箱へ適当に放り。
そろそろ帰るべきかとうっすら思ったところで。

「よう、一方通行」

嫌な声が聞こえた。
忌まわしい、研究者の、男の声だった。



彼は、顔の左側に刺青をしていた。
白衣こそ纏っているものの、その体つきは研究者らしくない。
学園都市における研究者の中でも、一部では有名な一族。
即ち、『木原一族』の一人である、木原数多だった。
"一方通行"を開発した天才科学者である。
あるいは、天才マッドサイエンティスト、か。

「愉快な実験のお誘いかかってるって聞いたぜぇ?」

下卑た声。
不愉快だ、と一方通行は率直に思った。
ちら、と視線を向けて、つまらなそうに言う。

「モノは相談、早く首吊って死ンでくれないかなァ?」

嘲笑半分の発言に、木原数多はやれやれと息を吐き出す。

「いやあ、ムカつくわ。ぶっ殺してえわ」

言いながら。
彼は、懐に潜めていた封筒を取り出す。
勢いつけて放り投げられ、一方通行は思わず受け取った。

「……あ?」
「ほうれ、お父さんから素敵なプレゼントだ。ゲイセラちゃん?」
「誰がお父さンだ死ね。誰がゲイだくたばれ。……、…」

中身を抜き出す。
レポートだった。
理論と、実験結果の書かれた、レポート。
たくさんの情報がびっしりと書かれている。

内容は、



『安全に心臓を止め、安全に心臓を動かす方法』
 



これは、木原数多の研究内容ではないだろう。
テーマが彼らしからぬものだ、と思う。
一方通行の視線を受け、彼は肩をすくめる。

「パクってきた。感謝しろ」
「はァ?!」
「だーから、パクってきたんだよ。"親戚"の研究結果」
「……」

木原加群という研究者が居る。
彼は科学者としてより、教師としての道を選んだ。
しかし、『木原』である以上科学から逃れることは出来ない。

『生命や魂に関する事柄からオカルトを排除した上で、命の価値は不変であることを証明する』

それが、彼の研究内容だった。
故に、前述のテーマや、そのための実験結果が綴られている。
人類の命の価値を冒涜してしまう内容だったが、今の一方通行に必要な情報だった。
これのあるなしで、選択肢の幅が変化してくるのだから。

「……有り難くもらっとく」

木原数多の思惑は、この際どうでもいい。
縋れるものがあるなら、自分の理想を貫く為の材料になるなら、何でもいい。

「で、未元物質のガキは」
「起きねェよ」
「ま、その実験の結果が出たら成果見せろよ」

興味半分で接触してきたらしい。
彼は予定が詰まっているからと、立ち去った。
残された一方通行は、レポートを眺め、立ち上がる。

返すべき答えが、決まった。



そうして、うだるような暑さの中。
夏の空気を反射して。

決断の時が来た。

有り体に言えば、実験の諾否を問われる日がやって来たのだ。
一方通行は沈黙の内に、後ろ昏い覚悟を自らに問い続ける。
本当に愛する人間の為に、誰かを殺害する覚悟だろうか。

いいや。
違う。

愛するものと向き合う為、安易で残虐な手段に頼らないという勇気について。

「答えは出たかね?」
「……俺は、参加しねェ」
「……つまり、垣根帝督を見捨てると?」
「アイツの名前を気安く呼ンでンじゃねェよ」
「…非常に残ね「それと」…?」

天井の言葉を遮り。
殺意と共に、告げる。

「現時点で存在している妹達を、一人でも"処分"してみろ。
 …不遇な扱いをした時点で、俺はオマエの首を捥ぐ」

殺す、という言葉を用いないところに、天井は強い恐怖を感じる。
引きつった笑みを浮かべて、頷く。
腹の底で、この少年をどう無理やり実験に参加させるか、その方法を練りながら。

「や、約束しよう。あれらを他実験には流用しない」
「…分かればイイ」

吐き捨てて、彼は研究所から外へ出る。
本当にこれでいいのか、と自問自答した。



『…、…つまり、垣根帝督を見捨てると?』

ガバキャッ、という凄まじい音がした。
一方通行が足元を踏み、蹴りつけ、コンクリートを破壊した音だった。
のんきに路地裏で昼寝をしていた猫が一目散に走り去っていくのを、睨む。
肩で息をしながら、わしゃわしゃと髪をかき乱した。

イライラする。
どうしたらいいのか、わからない。
誰か答えを決めて欲しい。
自分が納得出来るだけの答えを。



学園都市において、能力者の『強度(レベル)』とは、単に実力のみを指すものではない。

『自分だけの現実』。
演算能力。
研究価値、希少性。

そういった諸々の要素を総合した結果が、能力強度(レベル)。
故に、一方通行は学園都市最強の『超能力者』序列第一位に君臨している。
しかしながら、実際に最強かどうかは不明だ。
並び立てる程の特異な能力と優秀な頭脳を持った第二位が生存している限り。

「…帝督には、勝てねェ」

何故彼が今更になってこの様な事に悩み苦しむのか。
答えは簡単だ。
彼が最強止まりでいる限り、垣根を二重の未元物質(葛藤)から救い出す事が不可能だから、だ。
つまり、そこをクリアしなければ、垣根帝督が目を覚ますことはない。

「…、…」

数ヶ月前の。
木原数多が持ってきたレポートを、思い出す。
垣根と過ごしていた、優しく暖かな日々も。

「…、…。…俺、は」

逆の立場で、考えてみる。
垣根なら、どうするだろう。
あのレポートを読み込み、会得し、それからやっぱり、殺すのではないだろうか。

優しさと甘さと強さは別物だ。

自分が今進むべきは、冷酷で冷徹な道であるべきだ。
自分に対しては。

「…チッ」

舌打ちをして、再度研究所へと戻る。
答えは打ち出された。もう覆す事の無い決定事項だ。

「何とでも言え」

どうせ俺は、ヒーローにはなれねェ類の人間だ。



研究所に戻り。
彼は、端的にこう要求した。

実験の承諾。
実験開始までの猶予期間。
実験後の妹達の身柄を請け負う事。

「ンで、ご質問は?」

硫酸の瓶片手に、一方通行は問いかける。
天井亜雄は、やはり曖昧な笑顔で『特に無し』と頷いた。






「ミサカ達は実験動物ですから、とミサカは答えます」
————『超電磁砲』の体細胞クローン『欠陥電気』・ミサカ09982号




「……ふざ、けんじゃないわよ」
————学園都市第三位の『超能力者』・御坂美琴




「第一位、一方通行だ。ヨロシク」
————学園都市第一位の『超能力者』・一方通行




「さながら眠り姫を守る騎士団ですね、とミサカはふふふ」
————『超電磁砲』の体細胞クローン『欠陥電気』・ミサカ00001号


 
 



今回はここまで。
名前欄に次回予告と入れ忘れるうっかりミス。
実験編が終わったらいちゃつきに戻れるはずです。…はず。

こういう葛藤たまらんな

まさかの加群さんレポート

乙、どう描写されるか楽しみだ


木原くんが本当にお父さんっぽいことしてる

心臓止めて動かすってJOJO思い出した
というか、もしかして止める時も動かす時も一方さんは妹達のちっぱいを堪能することになるんじゃ……!?

乙っぱい


さて、アレやコレはどう扱われるのやら。


天井くンが天井くン天井くンしててワロタ


垣根くんの起こし方に迷ってます。セオリー通りならキスからのえんだああああ

あの実験なのにピリピリさ皆無。

















投下。



八月十五日。
御坂美琴は、"実験"について調べを進めていた。
そうしている内に、自らのクローンであるミサカ09982号と出会い。
文句を垂れる割に缶バッヂを返してもらえないまま、一緒にお茶をしていた。
どうせ受け取るならもっと喜んでくれたらいいのに、とむくれる美琴である。

「酷い味です、とミサカは不服を申し立てます」
「な!?」

9982号がすすっているのは、紅茶である。
一缶二万円もする超高級品にして、御坂美琴の奢りである。

「ちょ、ちょっと待ちなさい。それ二万円もするのよ!? 一缶!」
「不味いものは不味いのです、とミサカは正直に申し伝えます」

別に美琴にとっては痛くない値段だが、高級なものには違い無い。
それを無表情で不味いと一刀両断してしまう。
それも、奢ってくれた相手の目の前で言ってしまうのは不味いだろうと、姉として彼女は叱ろうとする。

(彼がご馳走してくださった甘ったるいあれの方が好みですし、とミサカは心中でぼやきます)

シングル ベンティ キャラメル アーモンド ヘーゼルナッツ
モカ ホワイトモカ チョコチップ エキストラホイップ
キャラメルソース チョコソース バニラクリームフラペチーノ

のことである。
あれは紅茶ではないのだが、要するに好みの違いである。
姉の説教をさららっと聞き流し。
そうして彼女は、時計を見やる。

"甘ったるいあれ"を奢ってくれた彼に、殺される為の準備を始めなければならない。

「バッチ、大切にしますから。お子様趣味のこれを、とミサカは言い捨てます」
「一言余計! …って、もう行くの?」

美琴にそう言い放ち、彼女は立ち上がる。
不味いと言いながらも全て飲み干したのは、美琴への義理だろうか。
9982号はこくりと頷いて、急いで駆け出した。

一人取り残された美琴は、符丁(パス)の意味を、考える。



一方。
妹達二人は、垣根帝督の入院する個室にたむろっていた。
一方通行によって殺害され、蘇生させられた妹達は、権利ある彼の言う事に従っている。
現在実験を終えて生きている全彼女達に与えられた役目は三つ。

『オリジナルのためにあまり目立たないこと』
『垣根帝督の友人であること』
『垣根帝督を護衛すること』

この三点である。
後は個人的に、彼女達は自らの意思で一方通行と友好的に過ごしている。
殺される瞬間は確かに恐ろしいし、一度死ぬのだから、辛いに決まっている。
しかしながら、一方通行はこれまでただ一人として"殺しっぱなし"にはしていない。
必ず蘇生させ、後遺症の遺らないよう努力している。
中には五体不満足、つまりは手足などが欠損してしまった個体も居るが、恨みはない。
一方通行が何のために実験をしているか、知っているからだ。
そして彼女達は、実験が存在しなければ生まれてくることが出来なかった。
故に、実験はそれぞれの個体にとっての通過儀礼に過ぎなかった。
本当に人間としての生を与えられるためには、一度死ぬ必要がある。それだけ。
自転車に乗るために、一度転んで痛い思いをする。その程度の、認識。

一方通行が実験に参加している理由。

それこそが、彼が守れと命じてくる垣根帝督という長身の少年である。
彼は未だ沈黙の眠りを守り続け、穏やかな寝息を繰り返している。
彼は自らの能力である『未元物質』に意識を拘束され、治療さえままならないまま眠っている。

「我々はさながら眠り姫を守る騎士団ですね、とミサカはふふふ」

00001号が無表情のまま口だけを動かして笑う。
00005号は、肩を竦める。

「性別が逆ですが、とミサカは言葉を返します」
「性別など些細な事だと"彼"が言っていましたよ、とミサカは返します」

のんびりと話す、同じ二つの少女の顔。
病室のドアが開いた。入ってきたのは、白い少年。



「よォ。変化は?」
「「特にありません、とミサカは報告します」」
「ン、ならイイ。…ほらよ」

彼は白いコンビニ袋二つを、彼女達に差し出す。
受け取り、二人は中を覗いてみた。

00001号は甘党のため、苺生クリームサンドイッチに、いちご牛乳。
それからデザートにティラミスプリン。

00005号は米党のため、炊き込みご飯のお握りに、焼きたらこのお握り、ほうじ茶。
それからデザートにカステラ。

「これはカステラですね、とミサカはときめきを覚えます」

00005号は米党であると共に、和食好きである。
故に、このチョイスの食事はとてつもなく嬉しかったりするのだ。
MNWで繋がれた妹達には、それぞれの個性と、共通の認識や考えがある。
食べ物の好みに関しては、それぞれの個性に基づくものだった。
00001号は甘そうなチョイスに嬉しそうに目を輝かせる。
基本敵に無表情ではあるものの、口元はぎこちない笑み。

「ティラミスプリンですか、とミサカはスプーンの所在をすかさず確認します」
「休憩所で食べてきます、とミサカは00001号の手を引きます」
「ここには残らないのですか、とミサカは不可解に思います」
「後はお若いお二人で、と言うでしょうとミサカは室外退出を促します」
「オマエら……」

お見合いの仲人か何かか、とツッコミたくなる一方通行。
彼女達は双子のように、連れたって病室を出て行く。
静謐を保ち始める個室に、残り。
一方通行は自分の分の袋から、菓子パンを取り出した。
食パンひと切れにマーガリンが塗られ、フロストシュガーの振りかけられた単純なものである。



「…今日、実験なンだ」

夜から深夜にかけて。
人を殺すのだ、という自覚と共に、彼は告げる。

「蘇生準備は、妹達の個体と一緒に済ませてある」

木原加群の理論を基軸として組み立てた蘇生装置。
学園都市第一位の頭に入っている知識全てを駆使して作ったものだ。
欠伸を噛み殺して飲み込み、もぐもぐとパンを食べる。
地味な咀嚼音が、呼吸音と共に個室に響いていた。

「無敵になったら、オマエの脚治してやるからな」

そして、起こして。
彼と一緒に歩きたい。
いつも通りを取り戻したい。

一方通行は、心からそう願う。
天才でも超能力者でも何でもなく。
愛する人を救う為に努力を続ける、ちっぽけな少年として。

「……オマエが起きたら、言わなきゃならねェ事もあるし」


すぅう、


息を吸い込み、『好きだ』と告げようとして。
御坂美琴の顔をした四人のクローンが、そろりそろりとドアの隙間から自分たちを見ている事に。
気がついた。

「……………」
「こ、これは」
「違うのです、とミサカは」
「あのですね」
「ついつい、とミサカは弁解しま」

あたふたとする彼女達に、一方通行は微笑みかける。

「もォ一回死ぬか? あァ?」

ガタッと立ち上がる一方通行。
慌てて逃げ出す妹達。
両者には、軽く笑みが浮かんでいた。
楽しんでいるのだ。ここに、本当の殺戮の意思はない。
異常な日常の中、加害者同士、被験者同士、被害者同士。
彼らは、平和だった。



同日21時00分。
09982号は、一方通行を見据えた。

「符丁を確認します、とミサカは」
「必要ねェ」

短いやり取りの後。
彼らは、戦闘を開始する。


一方。
友人の初春飾利と共に符丁の意味を読み解き。
御坂美琴は、忌まわしい実験を阻止するために走っていた。
息が切れる。が、気にしていられない。
クローンとはいえ、自分の妹だと認めた存在が殺されるのだ。
嫌に決まっていた。絶対に。許せないに決まっていた。

「はぁっ、は……!!」

前へ前へ、もっと前へ。
どうして自分はもっと走るのが速くならないのか。
能力を駆使して爆発的に駆け抜け、御坂美琴は息を切らす。

「…ッッ!!」

操車場に辿りついた時。
彼女は、09982号と目が合った。
09982号は、白い少年に殺害されそうになりながら、戦っていた。

「どうして、こんな…!」

殺される為の戦い、実験。
残酷な現状に、言葉が出てこない。
そんな学園都市第三位に、彼女のクローンは言う。

「ミサカ達は実験動物ですから、とミサカは答えます」



刹那。

09982号は、一方通行に反撃され。
右脚が、吹っ飛んだ。
 



「が……!!」

激痛に、09982号は崩れ落ちる。
衝撃に吹っ飛んでしまったバッチを、慌てて追いかける。
よろよろと近寄り、血の海の中、彼女は、バッチを抱きしめた。
美琴のくれた、お子様趣味と罵った、ゲコ太の、缶バッチ。
お姉様からもらった、最初で、もしかしたら最期かもしれない、バッチ。

「……ふ、ふふ」

9982号は、小さく笑む。
良かった。バッチを守る事は出来そうだ。
目を閉じる彼女に、機関車が降ってくる。
疲れと息切れで満足に動けないお姉様が、自分の方へ向かってきていることを見て、知り。
危ないですよ、という言葉を継げないまま、彼女は。

無残にも、機関車の下敷きとなった。

びちゃあ、と血液が滲む。
機関車の部品から僅かに突き出た左足が、痙攣していた。

「あ、あ、」

駆け寄ろうとした美琴は、そのまま崩れ落ちる。
助からない。どう見たって、致命傷だ。

「……ふざ、けんじゃないわよ」

バヂバヂバヂ、という紫電の音。
一方通行は、どこまでも冷えた視線を美琴へ向けた。
彼は内心焦っていた。オリジナルの乱入で、手元が狂ってしまった。
これでは蘇生をしても、彼女———9982号の身体欠損は著しいかもしれない。
早く助けなければ。思うも、表には出さない。自分が悪役だということは理解しているのだ。

「なンだ、オリジナルか?」
「ッッ……あ、…ああああああああああああ!!!」

絶叫。
彼女はゲームセンターのコインを懐から取り出し、一方通行に撃ちこむ。
『超電磁砲』。彼女の、十八番だった。



(マジかよ反射設定切り替えンの久々だな)

焦りと緊張と動揺と。
色んな要素が混ざって、彼の思考はただの少年でしかなかった。
超電磁砲を反射してオリジナルを殺害するのは容易いが、それは不味い。
彼はあくまで無敵になるために妹達を殺害して蘇生しているのであって、誰彼構わず殺したい訳ではない。
むしろ、なるべく誰も傷つけたくないと考えているのだから。
超電磁砲の反射方向を考えた結果、一瞬にして設定を切り替える。
彼の体にぶつかったコインは、地面に落ち、クレーターを作って終わった。

「は、…ぁ、」

美琴の肩が、怒りに震えている。
一方通行は、嗜虐的な笑みを浮かべた。
面倒だが、気絶させてさっさと9982号を助け出さなければならない。

「…ちょうど退屈してたところなンだ。やるか?」
「っ!!」

美琴が再びコインを構えようとしたところで。
その場に、妹達の個体が現れた。

「実験予定外の戦闘は実験結果に悪影響を与える恐れが懸念されます」
「おやめください、とミサカは阻止します」

妹達数人が、一方通行の前に立ちふさがる。
美琴はぶるぶると怒りに手を震わせ、彼女達を睨んだ。

「どきなさい」
「ダメです、とミサカは拒否します」

美琴が、コインを懐に戻したところで。
妹達数人は、機関車をどかし、9982号の血まみれの身体を抱え上げる。
連れて行く先は、一方通行の造りだした蘇生装置のある場所。
怒りと恐怖と哀しみと、ぐちゃぐちゃの感情を抱え持つ彼女に近寄り、一方通行は言う。



「学園都市『超能力者』第一位、一方通行だ。ヨロシク」
 


























御坂美琴は、立ちはだかる絶望に、悲叫する。






「全身が痛いです、とミサカは訴えます。お詫びは"甘ったるいあれ"で」
————『超電磁砲』の体細胞クローン『欠陥電気』・ミサカ09982号




「わ、たし。あの子を、見殺しに、したんだ」
————学園都市第三位の『超能力者』・御坂美琴




「俺は、もォ二度としくじらねェ。…そうだ、ボウリングしよう」
————学園都市第一位の『超能力者』・一方通行



 



今回はここまで。
垣根くんが起きたら喧嘩になりそうな妹達ハーレム。

熱いな。

。。。ホモネタかぁ。。。

おつー

乙乙。甘ったるいアレ、スタバのアレかァァア!頼んだ事ないな…


>ボウリングしよう

何がどうしてそんな結論導きだしたww

>ボウリング

(;^ω^)えっ?


唐突にスタバの呪文出てきてワロタ
妹達の手足の欠損も眠り姫が起きればなんとかなる可能性が一応あるな


スタバはココア(ホット)のエキストラホイップとホワイトモカエスプレッソ追加チョコソースが美味いです(ステマ)









投下。



一方通行は、走っていた。
正確には能力を駆使し、ほとんど跳んでいた。
実験場へ急いでいた、かの第三位より、更に早く、速く。

「は、ァ」

そうして、ようやくたどり着き。
00009号や01254号と共に、装置を起動させる。
心臓が再び鼓動を打ち始めるまでの間に、治療を施して。
医療道具、自らの能力、全てを駆使して、彼女の身体を治していく。

「…ン」

容態が落ち着いたところで。
9982号は、ゆっくりと覚醒する。
一方通行を見るなり、こんなことを言い放った。

「全身が痛いです、とミサカは訴えます。お詫びは"甘ったるいあれ"で」
「MNWで流行ってンのか? あれ」

やれやれとため息をつく一方通行。
そのため息には、安堵の吐息も含まれていた。



治療が終われば。
いつも通り。
妹達数人と反省会。
何を反省するかといえば、お互いの不手際である。
シナリオ通りに実験を行わなければならないのだが、双方共人間な訳で。
人間である以上、油断やミス、失敗をしてしまう。
今回に関しては、一方通行が失敗した。
オリジナルたる御坂美琴の乱入による手元の狂い。
失敗のせいで、9982号に無駄な苦痛を与えてしまったことは反省すべきだ。
別に妹達は責め立てもせず、今回の失敗点のみを簡潔に指摘する。
自覚済みの失敗を指摘され、一方通行はしばし沈黙し。

「俺は、もォ二度としくじらねェ」

宣言した。
無駄な苦痛を与えず、速やかに殺害する。
素早く実験を終わらせ、蘇生する。
それが理想で、実験における彼らの理念。
このような失敗を起こさないために、どうするか。
コントロール能力を鍛える事が必要だ、と一方通行は思い立った訳で。

「…そうだ、ボウリングしよう」

コントロールを鍛えるには野球などが一番だろうが、正直言って好かない。
ボウリングなら一人でも気軽に出来るし、と思った一方通行だったが。

「ミサカも行きます」
「ミサカも」
「ミサカも行きましょう」
「ミサカもお供します」

反応するクローン少女達。

「…誰か一人だ。一人。大勢行ったら目立つだろォが」

壮絶なジャンケン大会が始まった。



ジャンケンで誰が勝ったか後で報告しろ、と適当に告げ。
9982号の経過観察も任せ、一方通行は病院へと戻った。
垣根は静かに眠っている。穏やかに、大人しく。

「……帝督」

顔を、近づける。
腰掛けたままのパイプ椅子が、ギシリと軋んだ。
垣根の体臭は、ほとんど点滴臭さに消されてしまっている。

「……」

『わたし、は。…わたしは、かきねていとく、です』
『まあな。お前が食いたいって言うから何度も何度も作っ、』
『死に、たくねえ。…まだ、お前と、並んで歩いてない、のに』
『強いストレスがかかっていたようだね?』
『日常的に、計り知れない程膨大なストレスを感じていたようだよ?』
 
笑う顔が好きだった。
泣き顔も好きだった。
怒る事は…ほとんど無かったが。
些細な言い争いが幸福だった。

くだらない毎日が。
つまらない日常が。

幸せだった。

「………俺が、助けてやる」

自分にしか、垣根は助けられない。
一定のペースで繰り返される呼吸。
唇は動かず、言葉を発さない。
必ず目を覚まさせるのだと堅く誓い。
ほんの少しだけ泣き出しそうになって、一方通行は、病室を出て行った。



「わ、たし。あの子を、見殺しに、したんだ」

抜け殻のような彼女は、寮に戻ってきた。
眠る後輩を見つめたまま、ぼんやりと呟く。
思い出すのは、機関車の下敷きとなった妹のこと。
僅かに突き出た脚、濃厚な鉄の臭い、バッチを抱える少女。

「う…、」

ふらふらと、トイレへ。
便器に向かって、嘔吐した。
もう食べ物は出ず、胃液ばかりが吐き出されていく。
酸っぱく苦い不快感が、口内を満たした。
憎悪と恐怖が、胸の中で渦巻いていく。

「…る、さない」

あの男は、第一位だと名乗っていた。
第三位である自分に、勝ち目はない。
だが、たとえ殺されたとしても、あの実験だけは食い止めなければ。
そして願わくば、あの男と刺し違えたい。

「許、さない……」

度重なる嘔吐によるストレスで、目に涙が滲んできた。
誰かに縋って泣き喚きたい気分を堪えて、涙声を飲み込む。

どうして、何の非もないあの子達があんな目に遭わなければならないのか。

思って、また、吐いた。



翌日。
熾烈なジャンケン大会を勝ち抜いた00166号は、一方通行と共にボウリング場へと来ていた。

「この中から選ぶのですね、とミサカは知識を披露します」

靴をレンタルし。
どのボールを使用するか、棚を眺めて彼女は悩む。
一方通行はのんびりとボールを一つ手に取った。

00166号は、片目を欠損している。
だから、バランスを崩しやすかった。
欠損がある分、一方通行は他個体よりも多く、彼女を心配した。
自分を心配してくれる一方通行に、彼女個人は好意を抱いていた。
勿論男女としてのそれではなく、親に対する子供にも似たものだが。
どちらかといえば、兄に対する妹のそれかもしれない。

「重いの選ぶとロクな事になンねェぞ」
「指のサイズで選びます、とミサカはボールを選定しました」

医療用眼帯で隠された隻眼。
彼女は残された片目でボールを選び、持った。

「では1ゲーム目開始ですね、とミサカは先攻を譲ります」
「久しぶりだからな…勝手が思い出せねェ」
「経験があるのですか? とミサカは問いかけます」
「あァ、帝督と、な」

ボールを持ち。
投球フォームとやらを思い浮かべ。
一方通行は、少しだけ目を閉じて過去を想う。



車椅子生活の垣根は、立つ事が出来ない。
だけれども上半身は健康そのもので。
スポーツはし辛いが、ボウリングなら。
そんな発想から、一方通行は彼と共にボウリングをした。
一方通行が車椅子を押してやり、垣根がボールを投げる。
ぎこちなく、投げたボールはほとんどガーター行き。
だけれど、その共同作業が、たまらなく楽しかった。

『さっきアイスの自販機見つけたんだが』
『スポーツ系施設には必ずあるからなァ』
『モナカアイス半分ずつ食おうぜ』
『ン。買ってきてやるよ』

垣根のサポートを、苦だと思ったことはなかった。
垣根もまた、尽くされて当然という態度ではなく、それが心地良くて。
お互いの遠慮深さと尽力が、幸福を形作っていた。

『自力で投げられるようになったら、対決しようぜ』

そう言って、垣根は微笑んでいた。
その時は全力で勝負しよう、と一方通行も返した。

今となっては、遠く届かぬ日々。



ボールを投げる。
真っ直ぐに向かっていったそれは、多くのピンを倒し。
一本だけを残して、他のピンが倒れていった。

「後一本でスペアですね、とミサカは応援します」
『後一本でスペアじゃねえか。頑張れよ』
「……あァ」

うっすらと笑って、一方通行はボールを投げる。
再び真っ直ぐ転がっていったボールは、最後のピンを綺麗に倒した。
スペア、という過激な表示が、画面に映る。

「おめでとうございます、とミサカは祝福します」

ぎこちない笑みを形作る00166号。
一方通行は、両手のひらを見せる。

「何でしょうか、とミサカは首をかしげます」
「こういう時はハイタッチすンだよ」

00166号は、一方通行と両手のひらを合わせ、パン、とタッチする。
ここに垣根が居たなら、どれだけ更に楽しいだろう。
そんなことを思いながら、一方通行はアイスの自販機を見やる。

懐かしい日々。

遠く、届かぬ、日々。






「妹達は所詮単価18万円の劣化模造品に過ぎません」
————『超電磁砲』の体細胞クローン『欠陥電気』・ミサカ10032号




「御坂妹から離れろ!」
————学園都市の万年『無能力者』・上条当麻(かみじょうとうま)




「………ふざけンなよ、ヒーロー気取り」
————学園都市第一位の『超能力者』・一方通行



 



今回はここまで。
酉間違えなどなかった(震え声)
次回で実験編は終わります。

お、おう


ていとくんマジヒロイン



盛り上がってまいりました

次回で実験編最後か……
もうパンツしか無いのに

本当もりあがってまいりましただわ
わっふるわっふる

乙、乙。佳境か

ドリップコーヒーショートマグカップをホット+デビルズケーキも美味いです(ステマ)


デビルズケーキは美味い(ステマ)
ちょっと無理やり展開に見えるかもしれません。

















投下。



八月二十日。
上条から離れ、美琴に手を引かれ。
10032号は、彼女と会話をしていた。
というよりも、責め立てられる感じだったが。

「…あの実験、まだ続いてるのね」
「回数が20000回に達していませんから、とミサカは答えます」
「死ぬの、怖くないの?」
「妹達は所詮単価18万円の———お姉様の劣化模造品に過ぎません」

劣化模造品。
自らを物品扱いし、彼女はうつろな瞳で美琴を見つめる。
美琴はギリリと歯軋りをした。
掠れ掠れ、小さく、消え入りそうな声で言う。

「…アンタ達は、人間なの。私の、妹。…物なんかじゃない」
「……そのお言葉は有り難く受け取っておくべきなのでしょう。
 ですが、我々が実験動物であることに変わりはありません、とミサカは反論します」
「私は、ッ」
「お姉様が何を思っても、実験は進みます。これは確定事項です、とミサカは注意します」

存在意義の邪魔をするな。
実験の妨害をしないでほしい。
迷惑だ。

言葉にはされていないし、表情にも出ていない。
だけれども、そんな雰囲気を、美琴は感じ取った。

「それでは失礼します」

丁寧に言って、頭を下げ。
10032号は、研修に戻るべく、立ち去った。




一方通行は、今日も病室に来ていた。
妹達の個体が買ってきてくれた花束が、花瓶に生けられている。
カーテンを開け、白い少年は垣根を見やる。

「…今日はよく晴れてンぞ」

眠ったままの彼に、今日の天気を伝える事。
それが、一方通行の日課だった。
最近のニュースを伝える事も。
いつか彼が目を覚ました時、世の中に置いていかれることのないように。

「……やっぱ女のセンスは違ェな」

お見舞い品が、垣根の傍に積まれている。
妹達が思い思いの品を積んだのだ。
遠出は辛い垣根のために、珍しい品も多々ある。
苺おでんに関しては、妹達で消化してくれないものか、と思う一方通行であったが。

「……一万は、過ぎてる。後、一万も回数はねェ」

実験が終われば、理論上は無敵になれるはずなのだ。
そうしたらきっと、今出来ない事だって、出来るようになる。
なってくれなければ困るというものでもあるのだが。

「もォすぐ、だからな」

また、一緒に楽しく暮らすのだ。
いいや、昔よりもずっと楽しく。

赤い瞳は、真っ直ぐだった。



八月二十一日。
そうして、その日はやって来た。

目的は、『反射を適用できない戦闘における対処法』。

第一○○三二次実験だ。

いつものように始まり。
いつものように殺し。
いつものように終わり。
いつものように蘇生する。

筈だった。

「酸素を電気分解してオゾンにしちまう、か。
 よく考えたじゃねェ、か」
「ッ、ぐ」

細い体に、蹴りを入れようとして。
その一発で殺害しようとした瞬間に。

「御坂妹から離れろ!」

乱入者があった。
一方通行は、苛立ちながら、そちらを見やる。
黒いツンツン頭の、平凡そうな見目の少年が立っていた。
右拳を握り、自分に敵意を向けていた。

「……」

あの日の少年や、大人達と同じ。
一方通行の嫌いな、不条理な敵意。



「…はァ…。…どォ見ても一般人だしなァ。
 こりゃァ、秘密を知った一般人のクチは塞ぎましょうっつゥお決まりの展開か?」

ふん、と鼻で笑う。
相手が誰であれ、垣根以外に負けるつもりはなかった。
それは、重ねてきた実験に基づく確かな強さに対する自身。
妹達に対して払っている敬意の含まれた、強さへの自信。

「御託はいい、御坂妹から離れろっつってんだよ!」
「……チッ」

舌打ちをして、離れる。
部外者は、除外しなくてはならない。
御坂妹とは、10032号の事だろうと判断し。
一方通行は、彼女の身体を蹴飛ばした。
コンテナの更に向こう、安全圏へと、彼女の華奢な体が消える。
一方通行の行動に、上条は怒りで感情を支配されたことを自覚した。

「テ、メェ!!」

叫び、彼は走ってくる。
一方通行は、足元を蹴った。



鉄のレールがぐにゃりと曲がり、少年に襲いかかる。
上条は咄嗟に伏せて回避した。

「オマエ、何なンだよ。オリジナルの知り合いか?」
「ああ。テメェが殺そうとしてる御坂妹の友達でもある」
「ふゥン」

無関心に相槌を打ち。
鉄のレールを全て避けきった、上条を、一方通行はつまらなそうに見据える。

「知ってるかァ? 俺の前に立つよォな奴は、普通ならミンチになンだよ」
「っ、」

コンテナが飛んできた。
上条は咄嗟に横に転がる。
ドガゴン、という激しい物音がして、破壊されたコンテナからは白い粉末が飛び散った。

「中身は小麦粉でした、ってなァ。さて、問題」

一方通行は、欠伸を噛み殺して、歩みを進める。

「粉塵爆発とは、何でしょうか」

走り出す少年に。
一方通行は、引き裂かれたような狂笑を、浮かべた。



御坂美琴は、とある病院に潜入していた。
一方通行の大切な人間が眠る、病院へ。
妹からの拒絶、残酷な光景、上条を傷つけた負い目。
様々な要因が、彼女を凶行へと駆り立て始めていた。

「……、…」

妹達は、殺された。
ならば、彼も大切なものを奪うべきだ。
一方通行の行動範囲中、最も多く通っていた場所はここで。
どの病室に足を運んでいたか、そんなことは電撃使いの頂点に立つ彼女には筒抜けであり。

「…ついた」

上条は、きっと殺される。
ならば、仇を取るべきだ。
そして、自分も死んでしまおう。
一方通行が大切にしている、この個室の中で眠る少年を殺して。
自分も死んで、そうしたら。
全部終わる。解決はしなくても。

これは、後ろ向きな戦い。
死者の想いを騙った、復讐という名の殺戮。

「ッ!」

覚悟を決めて、個室のドアを開ける。
そこには、横たわった少年と。



大富豪で声を潜めつつ盛り上がる、同じ顔をした少女達が居た。
  



得体の知れない能力持ちの少年に、頬を殴られた。
数度顔面や腹部を殴られ、一方通行は咳き込んでいた。
悪運が良いのか、この男はなかなかどうして死なない。
直接触れて血液風船にしてやろうと思ったものの、殴られて。
そもそも何故コイツは自分の『反射』を突き破れるのだろうか。
一方通行は、困惑と混乱の極みに居た。

「何だってテメェみてえな野郎のために、妹達が食い物にされなきゃならねえんだ!」
「………」
「人を殺して楽しみやがって。あの子達だって生きてんだぞ!」
「………、」

男の声が、一方通行の耳に響く。
手足や目を欠損した妹達が、頭に浮かんだ。
確かに、自分は殺人者で、加害者だ。

だが。

「………ふざけンなよ、ヒーロー気取り」

こんな、何の苦労もしていなさそうな男に。
何がわかるのか。わかってたまるものか。

「———俺がやらなきゃ、誰が帝督を助けるンだよ」

結局は。
一方通行という少年の全ては、そこに、収束する。
どれだけ手を血に染めても、取り戻したいものがあった。
手に入れたいものがあった。幸福が欲しかった。
幸福を追い求めて努力することの、一体何が悪いというのだろう。
偽善者風情に理解されてたまるか。自分の葛藤を、自分の苦悩を。



「誰が、帝督を守れるンだよ。
 誰が、帝督を幸せにするンだよ。
 何のために、誰のために…ッ、」

暴力的な風が吹き荒れる。
風に存在しているベクトルを、一方通行は操っていた。
圧縮して巨大なプラズマ弾を作り、彼は上条を見下ろす。
上から目線で説教されるのは、もう沢山だ。
愛する人間のために手を汚した事もない偽善者に、分かってたまるか。

「死ねよ、三下」

赤い瞳に、殺意が浮かぶ。
上条は、右拳を強く強く握り締めた。



「これでミサカの上がりですね、とミサカは……お姉様?」
「お姉様ではありませんか、とミサカは困惑します」
「お初にお目にかかる個体ばかりですね、とミサカはおもてなしの用意を」
「とりあえず抹茶クッキーがありますよ、とミサカは」
「待って」

妹達の言葉を、美琴は遮る。
きょとん、とする全員に、言葉が言いよどまれた。
彼女達は、美琴に対して個体名を名乗る。
そのナンバリングは、終わった筈の実験のもの。

「…ちょ、ちょっと待って。…どういう、こと…?」
「そういえばお姉様に説明しそびれていましたね、とミサカはミサカを代表して説明します」

00166号は、よいしょ、とパイプイスから立ち上がり。
医療用眼帯のズレを直しつつ、美琴に告げた。

「妹達は実験の為、一方通行に一度殺害されています」

真実を。
現状を。
ありのままを。
ありのままの形で。

美琴の怒りや狂気が単純な焦燥感に変化するのは、早かった。



巨大な風の塊は、少年の手によって打ち消された。

と、同時に。

あまりに巨大な質量を打ち消した上条の右手首は、その衝撃に。。
ボキリ、と折れていた。

骨が折れ。
関節が外れ。
折れた骨の一部は、皮膚を突き破っていた。

「が、ぐ………」

上条は、その場に膝をつく。
激痛で、何も考える事が出来ない。
無慈悲な足音が、静かに近寄ってきていた。

「………」

一方通行の手が。
細い指が、存外強い握力でもって、上条の頭を掴む。

「……」

すぅ、と細まる瞳。

「人を殺して楽しむ、ねェ。…自覚はなかったが、オマエで証明するか」

上条は、唇を噛み締める。
つぅ、と血液が伝い、顎を伝って、地面に落ちた。

「ま、ける、訳には、いかねえんだよ」

ヒーローは、何度でも立ち上がる。



妹達20000人の脳の余剰領域。
『幻想御手』。
それらを借り、美琴は演算能力を底上げしていた。
当然、誰かを殺す為ではなく。
垣根帝督という少年を、少年の能力から救うために。
本当の意味で実験を止めるためには、こうするしかない。

「……一度で、決めるわ」

美琴は、手を伸ばす。
そっと、垣根の頭に触れた。
一方通行が戻ってくれば、勘違いされて殺害されるのは必至。
そして、演算途中に問題があれば、妹達の脳にも悪影響が出る。
素早く、一度で、垣根を救出する。
上条が殺されてしまうその前に、やり遂げなければ。
過剰演算に縛られた彼を救うためには、脳に働きかけて全ての演算を一旦やめさせれば良い。

「……」

すぅ。

息を吸い込んで、彼の脳の中へ
未元物質による激しい拒絶が、バチンバチンと紫電となって散る。

「ぐ、ううううう…!!!」

衝撃と痛みを耐えきり、そのまま侵入した。



白い羽の舞う空間で。
少年は一人で、座っていた。
蝋の脚を、手のひらで静かに摩り。

『……あなたが、垣根帝督ね?』

若い女の。
少女の声。

垣根帝督の内側に内包された精神の一部分の擬人化が、振り向いた。
白い髪にどす黒い白目、赤い瞳。
悪魔のような生き物にしがみつかれた、真っ白な少年だった。
葛藤という自ら自身に縛られた彼は、首を傾げる。

『……お前は?』
『私は、御坂美琴。…あなたを助け(おこし)に来たわ』

手を差し出される。
垣根は、自らを拘束する自らを見下ろした。

『行けねえ』
『……妹達は、一方通行がアンタを好きだって言ってたわ』
『……、…』
『アイツのために、戻ってあげなさいよ。
 私の妹達を、…私のために戦ってくれている男を。
 そして、一方通行を助けるために』
『俺が居ると、アイツに迷惑をかける』
『それが心地良いと言っているとしたら?』

少女の言葉に、垣根は黙る。
黙って、そうして、自らを縛り付けていた葛藤を壊す。

『…行きましょう』



一方通行が待ち焦がれたものは。
彼よりもずっと格下の少女達が力を合わせれば、簡単に得られるものだった。
美琴は『幻想御手』を解除し、妹達と共に少年を見つめる。
未元物質の過剰演算に縛られる事のなくなった垣根は、のろのろと起き上がった。

「……一方通行は、何処にいる」
「操車場。…運ぶわ」

垣根は、ベッドに手をついて。
妹達の手を借りて、車椅子に乗り込む。
美琴は、車椅子の押し手を持ち、病院から出た。
操車場へと向かって、走り出す。

時刻は午後八時。
一秒でも早く、と、少女は走り続けた。



複雑骨折しているにも関わらず、上条は右手を振り回した。
心臓が止まってしまいそうな程の激痛を丸ごと無視して。

「う、あああああああ!!」

絶叫と共に放たれた拳が、一方通行の顔面に入る。
ノーバウンドで吹っ飛ばされ、細い体が壁に叩きつけられた。
本当に呼吸が止まり、一方通行は目を閉じる。

「ぐ、……」

お互い、負ける訳にはいかない。
大切なもののために。
守ると決めた、ものの、ために。

「ふざ、けンじゃ…ねェぞおおおおお!!!」

叫んで、一方通行はコンテナを掴む。
巨大なそれをボールのように投げた。
正確に飛んでくるそれを、上条はその場に倒れて避けた。
お互い血まみれであり、最悪の泥仕合だった。



「一方通行」




そして。
待ち望まれた救いの象徴が、到着した。



「あ……?」

一方通行は、自分が幻覚を見ているのかと、思った。
彼は、息切れしている美琴に軽く礼を言い。
そうして自ら車輪を回し、近づいてくる。
患者服を纏ったままの垣根は、一方通行に手を伸ばした。
自然な条件反射として『反射』を解除した彼の頬を、優しく撫でる。

「ごめん」
「……てい、とく」
「…遅く、なった」

全ては、垣根の『一方通行に迷惑をかけたくない』『一方通行が愛しい』、このワガママから産まれた喜劇。
それに対して謝罪する彼に、一方通行は力なく首を横に振った。
ずっと、ずっとずっとずっと堪えていた涙が、滲み出す。
ほとんど力の入らない脚で無理やり立ち、腕を伸ばした。
垣根の身体を抱きしめ、一方通行はぼろぼろと涙を流す。
垣根はすっかり筋肉の落ちた細い腕で、一方通行をしっかりと抱きしめ返す。

「ごめんな、一方通行。ただいま」

ぼろぼろに傷ついた愛する少年を抱きしめたまま。
垣根帝督は、唇を噛み締めた。





実験は、終わった。






「……何と言えばいいか、迷ってるんだけど…」
————学園都市第三位の『超能力者』・御坂美琴




「俺の事、嫌いになったか?」
————学園都市第二位の『超能力者』・垣根帝督(かきねていとく)




「将来、結婚しよう。……何か違ェよな…」
————学園都市第一位の『超能力者』・一方通行




「デート大作戦を決行するのです、とミサカは提案します」
————『超電磁砲』の体細胞クローン『欠陥電気』・ミサカ9982号  



  



今回はここまで。
次回以降いちゃいちゃ編へ。

乙。やはりこの>>1が俺の知る限り、とある系SS最高の書き手であると思うますハイ

すばら


怒涛の展開っていうか、このタイミングでまさか美琴が眠り姫を起こすとは思ってなかった
一方さんと上条さんの泥沼の戦いは胸熱、でも仕方ないとはいえ中々酷いこと言ったな上条さん……

そういえば実験止まったから、10031までは一方通行に一度昇天(意味深)させられた組で、10032以降は記憶の共有だけの耳年増組に別れたのか

おつー

最高の書き手がスレ落とすか?ww

┌(┌ ^q^)┐オツー

ホモォが沸いたwwww


帝督おかえりー

最高の書き手(寝取られ経験有)

やっと追いついた乙
久々に良い垣一垣スレ見つけたこれで暫く頑張れる

上条さんは一方通行さんにごめんなさいしないといけないよね
一方通行さんと妹達も上条さんと美琴さんに説明不足をごめんなさいしないといけないよね

帝督はこのまま幸せロードを駆け上がるといいよ!

ゲイセラさん達が謝る必要は無いだろ……
むしろ御坂の大事なものを奪ってやる思想がヤバイ


(一生あのネタとこのネタで引っ張られるのかな。もう死ぬしかない)

誰も悪く無いのにこじれにこじれてしまった実験編。
一番の被害者は上条さんかもしれない。















投下。


 
"実験の全容"を自ら説明し。
妹達数人から『貴男のために一方通行は一生懸命且つ、常に惚気けていました』と暴露され。
一方通行少年は現在、羞恥により、垣根と離れて暮らしていた。
実験は凍結され、多くの妹達が学園都市外の協力機関へと引き取られていき。
残った妹達の個体は、欠損の残る者ばかり。
治療、もとい補填に学園都市の技術を用いている為、『外』へ出す訳にはいかなかったのだろう。
そんな訳で、今現在。
左足を引きずって歩く9982号と共に、一方通行はカフェへとやって来ていた。
ちょうど、"甘ったるいあれ"を奢ってあげなければならなかったから、という理由もあったからだ。

「…元気がありませんね、とミサカは指摘します」
「オマエらが余計な事言うからだろォが」
「個体数名が垣根帝督の生活のサポートをしていますのでご安心を、とミサカは報告します」
「……ン」

良かった、と思いつつ。
一方通行は、静かにドリップコーヒーを啜る。
注文する直前で気が変わった9982号は、ホワイトモカを啜っていた。

「…はァ、気まずい…」

せっかく目を覚ましてくれたというのに、顔を合わせるのが怖い。
一方通行も少年とはいえそれなりにプライドの高い男であり。
好きな相手に対してどもったり顔を真っ赤にしたりは、したくないのである。
今更だろうとツッコミが入るべき状況だが、垣根が眠っていた期間は存外長く。
所謂『惚れ直した』状態であるがために、初々しい気持ちで接してしまう。
しかしながら、このまま別居している訳にもいくまい。

「…ァー……」

コーヒーをすすり、うなだれて唸る一方通行。
暖かな黒い液体は胃腸に染み渡り気持ちが良いものの。
ピリピリと体が痛み、のろのろと身体を起こした。
上条に殴られた場所は、未だにちょっぴり痛む。
と、9982号が紙カップをテーブルに置いて一方通行を見つめた。

「デート大作戦を決行するのです、とミサカは提案します」
「……何だそりゃ」

珍妙な台詞に、一方通行は思わず眉を潜める。
9982号が、続きの言葉を紡ごうとしたところで。
二人は、お姉様<オリジナル>が近づいてきたことに気がついた。



彼女は、二人に近寄り。
そうして、言いよどみ。
もごもごと言葉を呟く。

一方通行が妹達を傷つけた事は、許せない。
けれど、双方了解の上だということ。
あの少年を救うために一方通行が努力していたこと。
妹達が一方通行を恨んでいないこと。

様々な要因を加味してしまうと、感情は複雑になっていくばかりで。

「……何と言えばいいか、迷ってるんだけど…」

勿論、謝る必要はない。むしろ、一方通行が謝るべきだ。
かといって責め立てに来たかというと、それも違って。
美琴はしばし言葉に悩んだ後に、白い少年を見る。

「………」
「……帝督を助けてくれた事に対してだけは、礼を言う」
「……別に、アンタの為じゃない」
「だろォな。……ま、帝督が助かった以上、もう実験は必要ねェ」
「……」
「オマエに謝るつもりもねェ。…で、何の用だ」
「……妹達に傷を付けたことは、許さないから」
「そォか。勝手にしろ」

一方通行は、御坂美琴に何を思うこともない。
傷つけた妹達に対して実験上とは申し訳ないと思う事はあっても。
彼女達を生み出すきっかけとなった美琴に対しては、垣根を救ってもらった事に対する感謝しかない。
それ以外の感情はないし、それでいいと思っている。
美琴は何かを言いかけ、黙り。
9982号をみやって、それから歩いて行った。



たとえば。
後輩の白井黒子が、昏睡状態に陥って。
自分では助けようがなくて。
目の前で倒れられたら。
そして、それが自分のせいかもしれないと医者に暗喩の言葉を放たれ。
一方通行のクローンを殺せば助かるかもしれないと計画を持ちかけられたら。
自分は、苦肉の末に、彼のように受け入れたかもしれない。
それを思うと、美琴には強く言う事が出来なかった。
彼は、妹達のそれぞれに対して、きちんとした対応をとっている。
欠損した妹達の医療費は出しているし、生活費も払ったりしていたようで。

「……、…」

自分より余程、などと思いかけてしまって。
美琴は首を横に振り。
せめて学園都市内で生活している妹達とは顔合わせをしたい、と思う。
彼女はその足で、上条当麻の見舞いへ向かった。
上条にも現状を説明して、謝罪しなければならないだろう。



「…ンで? デート大作戦って何だよ」

御坂美琴が立ち去ってから、数分黙りこくり。
気を取り直した彼は、思い出したように問いかけた。
よくぞ聞いてくれたとばかりに(無表情だが)9982号は計画を口にする。

「まずミサカ達がネットワークで連携を取り」
「……」
「綿密な打ち合わせをしてデートプランを設定します」
「ほォ」
「後はそれに沿い、我々学園都市内に存在する妹達が全力で」
「全力で?」
「貴男方のデートをサポートします、とミサカは説明しました」
「………、」
「何ですかその迷惑そうな顔は、とミサカは良い提案だったはずと思い返します」
「…別にデートなンざ他人に手伝ってもらうモンじゃねェだろ」
「我々妹達は貴男方の友人です。他人ではありません、とミサカは全ミサカを代表して言い切ります」

9982号の思ってもいなかった反論に、超能力者は口ごもる。
確かに彼女達に垣根の友人になってやれと言ったのは自分で。
彼女達の多くと食事や遊興を共有し、友人となったのは自分で。
まったくの他人ではなく友人なのだから協力するのは当たり前だと言われてしまえば。
確かに言い返せず、口ごもるばかり。

「垣根帝督の傍にいる個体にも通知済みです、とミサカは補足します」
「…もォどォにでもなれ。……ただし、変な作戦はやめろよ」
「雑誌を見ながら考えます、とミサカはトレンドチェックがバッチリであることを誇示します。
 ついでなので告白の台詞も決めておきませんか、とミサカは提案します」

オリジナル譲りの気質か、はたまた彼女達の興味か。
恋愛事を楽しむ傾向は、年若い女に多く見られるものだ。
一方通行は、しばし悩み。

「将来、結婚しよう。……何か違ェよな…」
「焦り過ぎでは、とミサカはツッコミを入れます」

緩やかな午後は、過ぎていく。



一方。
垣根帝督は、妹達から改めて自分が眠ってから目覚めるまでの全てを聞き。
自分が眠っていた原因を冥土帰しと共に分析し、把握して。
妹達数名と、一方通行とかつて共に住んでいた家へ戻ってきてから、彼は落ち込んでいた。

「俺の事、嫌いになったか? ……一方通行」

メールをしても。
電話をして、留守番サービスにメッセージを残しても。

一向に、返事が来ない。
それはもう、綺麗さっぱりと。

実際には返事を出し渋っているだけで、一方通行はメールを保護しているのだが。
加えていえば、留守番サービスのメッセージは保存してあるのだが。
相手方の様子など知る由もなく、垣根はどんよりと落ち込んだ。
妹達は懸命に彼を慰めようと言葉を練る。

「そんなことはありませんよ、とミサカは否定します」
「彼が貴方を嫌いになるのは来年までに人類が滅亡する恐れより低いです、とミサカは励まします」
「俺と一方通行が本気になったら割とすぐに人類滅亡するけどな」
「「「「」」」
「………はぁ」

もう嫌だ、と落ち込む垣根。
超能力者である彼は多少ズレているところもあるが、基本的には普通の少年だ。
一方通行が心を傷つけながら戦った理由が自分で、原因が自分の我が儘だったのだから、反省するに決まっている。
反省するということは、イコール自責の念に駆られるということだ。
妹達は顔を見合わせ、ミサカネットワーク内で話し合いをした後、示し合わせたように言った。

「「「では仲直りデートです、とミサカは提案します」」」
  






「こちら垣根帝督が乙女化しています、とミサカ00166号は報告します」
————『超電磁砲』の体細胞クローン『欠陥電気』・00166号




「ガム食っとくか。…後ミント菓子も。……ミント飴も」
————学園都市第二位の『超能力者』・垣根帝督(かきねていとく)




「……こンな手で、アイツの手を握ってイイのか」
————学園都市第一位の『超能力者』・一方通行




「こちら一方通行がオシャレ中です、とミサカ09982号は報告します」
————『超電磁砲』の体細胞クローン『欠陥電気』・ミサカ9982号  


  
  



今回はここまで。
別に垣根くんの読み仮名つきっぱなしは伏線でも何でもなく消しミスです…。

おつー


もう結婚すればいいんじゃないかな

9982号が引きずってるのは右足でした…訂正。



デート楽しみすぎる


>>1に書いてある通りエロを…ちょっと入れた方が良いのでしょうか。


















投下。



そんな訳で。
妹達がデートプランを設定し終わるのは、案外時間のかからない事だった。
元より彼女達は軍用クローン、計画立案はお手の物。
また、二万人もの人手があれば、デートプランを組み立てるに必要な資料などさっさと集まってしまう。

八月二十七日。
一方通行と垣根帝督は、各々追い立てられつつ服を選んでいた。

「………」

一方通行はというと、黒い服か白い服かで悩んでいる。
『反射』がある以上、別に暑さ寒さは気にしなくて良い。
久々に会う垣根にかっこいいと思ってもらえればそれで良い訳なのだ。

「……決まンねェ」

もういっそブランドショップへ出向いて店員に決めてもらおうか。
そんな投げやりになってしまいつつも部屋にこもり、鏡と睨めっこする一方通行。
彼の部屋の外、ミサカ9982号は彼の妹のような母親のような気分で連絡を取る。

「こちら一方通行が必死にオシャレ中です、とミサカ09982号は報告します」



MNW越しに報告を受け。
ミサカ00166号は、垣根帝督の様子を眺めて応えた。

「こちら垣根帝督が乙女化しています、とミサカ00166号は報告します」

一方。
垣根帝督はというと、既に服は決めていたのだが。
優秀な頭脳故に、先の先を想像、もとい妄想して先走り。

「ガム食っとくか。…後ミント菓子も。……ミント飴も」

目についた口臭対策グッズを口にしていた。
そんなにミント味のものを食べては食べ物の味がわからなくなりそうなものだが。

「……髪跳ねてねえ?」
「大丈夫ですよ、とミサカは返答します」
「襟とか」
「曲がっていません、とミサカは返答します」

顔が近づくかもしれない。
口臭がしないようにミント味のものを頬張ろう。
久々に会うから、一番良い格好で。
身支度は完璧にしていても、不安になるものだ。

「………」
「かっこいいですよ、とミサカは客観的に判断します」

垣根を励まし、彼女達は車椅子を組み立てる。
バッテリーをきちんと補充した電動車椅子である。

「途中まで送ります」

言って、00166号は垣根が腰掛けた車椅子の押し手を握る。
垣根は顔をあげ、視線を彼女の方へ向けて微笑んだ。

「……悪いな」
「妹達は皆貴男の友人ですのでお気になさらず、とミサカは言葉を返します」

ゆっくりと、家から出た。



行く場所は水族館。
ルートは既に決めてあり、一番混んでいない時間帯を選んで調整されている。
待ち合わせているベンチに座り、一方通行はぼんやりと考える。
ぽつりと呟くのは、重い罪悪感から出たものだ。

「……こンな手で、アイツの手を握ってイイのか」

こんな、穢れた手で。

思い出すのは、あの少年の言葉。

『何だってテメェみてえな野郎のために、妹達が食い物にされなきゃならねえんだ!』
『人を殺して楽しみやがって。あの子達だって生きてんだぞ!』

「………」

全員を蘇生させたとしても。

『……妹達に傷を付けたことは、許さないから』

妹達には恨まれていないとしても。
彼女達を自分の為に一度殺した事には、何の変わりもなくて。
彼女達の手足をもぎ、目を抉り、痛い思いをさせ、苦しめたことには、変わりなくて。

「………」

殺人者の手。
汚らしい手。

こんな手で、彼の手を握って良いのか。
こんな手で、彼の頭を撫でて良いのか。
こんな手で、彼の手を引いて良いのか。

「…………」

思考が泥沼に沈み込みそうになる。



「…俺は…」
「……い」
「……、…」
「…おい、一方通行」
「ッ!?」

急に声をかけられ、びくりとする。
気がつけば、目の前には垣根の姿があった。
いつになく完璧に整えられた容姿は、女性なら一目で恋に落ちる事だろう。
仮にそういったケの全く無い男性だったとしても、目を惹かれるに違い無い。
彼は一方通行がようやく返事をした事に機嫌を良くして、微笑む。

「何回呼ばせるつもりだよ。寝てたのか?」
「寝てねェよ。……、…その、」
「一方通行」

垣根の手が、伸びてきた。
先程までの悩みの種であった一方通行の手を、迷いなく握る。
彼は手を握ったまま、真っ直ぐな視線を赤い瞳へ向けた。

「改めて言う。…ごめん。悪かった」
「……、…俺が勝手にやったことだ」
「それでも、俺がああならなかったら、一方通行は誰も傷つけないで済んだだろ」
「…………」

否定は出来ない。
むしろ、肯定しか出来ない。

「……、」
「…妹達に、謝った。手を下したのはオマエでも、原因というか、きっかけは俺のせいだって」
「……」
「知ってました、応援していましたから、ってしれっと言いやがって。
 …俺達が重荷に考えてるのがバカバカしくなる程に軽く」

垣根は少し考えた後、言葉を付け加える。
一方通行の精神的な重きを共に背負おうとしている、それだけだ。

「冥土帰しによると、俺の能力は突き詰めれば治療に使える可能性があるらしい。
 ……だから、もし未元物質で人体の補填が可能になったら」

妹達の身体を治して、二人で謝ろう。

そんな優しい申し出に、一方通行は、唇を噛み締めた。



シリアス満点の会話が終わり。
一方通行は垣根の座った車椅子を押し、予定通り水族館へとやって来た。
水の中、優雅に泳ぐ数多くの熱帯魚を、垣根はぼんやりと眺める。
妹達が計算して予定を組んだだけあり、混んではいない。

「…そォいや、水族館は初めてだな」
「だな。動物園やら遊園地は行ったが」

水族館。
行こうという発想すら、浮かばなかった。
ぺた、と冷たいガラスに手のひらをくっつけ、垣根は目を細める。

「何か、昔思い出すな」

狭い窓。
窓の外の少年。
散らばる薬、注射器。
薬品臭い研究所。
つまらない部屋。

「お前が『普通』から追い出された瞬間、見てたんだよ」
「……、」
「あの狭い窓から。……お前と他のガキがサッカーしてて、羨ましいと思ってた」

垣根は、無言で自分の太ももを撫でる。
動く事の無い脚。介助があったとしても、歩けない。
能力と引き換えに奪われ喪った、大切な機能。

「………俺、「オマエに、言おうと思ってた事がある」…言おうと思ってた事?」

一方通行の遮りに、垣根はきょとんとする。
視線を合わせ、一方通行は周囲に人が居ないことを確認してから告げた。
もう何度目かの、それでも緊張する、面と向かって言うのは初めての言葉だった。



「オマエが好きだ、帝督。これからも、ずっと一緒にいてくれ」
  


今回はここまで

乙!
エロかー、あった方が嬉しいけど>>1の思うようにしてほしいな


エロ展開になるとていとくんが下なのですかね?どちらでも美味しいけど

御坂妹「●REC」

おつー



エロだったらどっちが下か教えてくれると嬉しいなってミサカはミサカはry


エロちょっと書いたんですけどどっちも下じゃありませんでした。








投下。



垣根帝督の、時間が止まった。
呼吸も、心臓も、感覚も。

一瞬だけ。

「お、う、あ、」

優秀な学園都市第二位の演算力を誇る頭脳が、理解を示さない。
これを理解してしまえば自分がみっともない状態になるからだとわかっていたからだろうか。
垣根は不安定に手を彷徨わせ、口ごもる。
視線がさ迷い、ぱくぱくと無意味に唇は動いた。

「…こんな、ところで言うんじゃねえよ」
「何処なら良かったンだよ」

小さく笑って、一方通行は車椅子をそっと押す。
気付けば、時刻は正午近く。
食事をする必要があった。

「…オマエ、もう固形物食えンのか?」
「ああ、大丈夫。大食いしなけりゃな」

元々そんなに食べる方じゃないし、と返して。
それから、垣根は囁くように、言葉を付け加えた。

「……俺も、お前が好きだ。…一方通行」
「……ン」

安堵に口元を緩ませ。
一方通行は、食事処へ向かう事にした。



午前中は水族館。
食事を挟み、午後はお家デート。
そんな訳で、一方通行は垣根と共に、一緒に住んでいた家へ帰ってきた。
最後に掃除をしていってくれたらしい。
妹達の姿はそこにはなく、しかし家の中は綺麗だった。

「律儀だな、アイツら」
「メイド業向いてそうだな」

言葉を交わし、垣根は一方通行の手を借りて、車椅子からソファーへと腰掛ける。
ふかふかのそこに腰を下ろし、一方通行を見上げた。
少し身長が伸びたような気がする。顔つきも、苦労を経て精悍になったような。
上条に殴られ一時腫れのひどかったことを思いだしながら、垣根は彼の頬を撫でる。

「……」

胸に残るのは、罪悪感。
自分が昏睡状態に陥らなければ。

「…帝督」
「…やっとかよ」

垣根ではなく、下の名前で呼ばれ。
垣根は幸福そうにはにかんでみせる。

と、一方通行がバランスを崩した。



ぼふり。

布の音を立てて。
一方通行は、ソファーの背もたれへ手をついた。
顔が至近距離に近づいて、双方共が固まる。
自然と緊張が高まり、言葉が出なくなった。

告白はした。
お互いの想いは確認した。
つまり、付き合っているのだ。
恋人同士なら、身体的接触が濃厚であっても良い筈だ。

「あ、あく、」

待ったをかけられる前に、唇を重ねる。
一方通行は濃厚なミントの味に苦笑いしそうになり、堪える。
甘さを僅かに帯びた唾液の味がして、背筋が震えた。

「……ン、」
「ぁ……」

唇が離れる。
ほんのわずかばかり、糸が引いた。
知らず知らず物干しげな表情になっていたことに気がつき、垣根は視線を逸らして沈黙する。
どうしようもない羞恥の炎が、内面を焼き尽くしていた。



「俺は、」
「…何だよ」
「オマエの為なら、多分、何でも出来る」
「……」
「人を殺す事だって、躊躇しながらも、きっと」
「……、」
「だからどうって話でもねェが」
「俺は、お前に人殺しさせたいとは思ってねえよ」
「………」
「自衛だって出来る。…だから、」
「……帝督」
「今度は、俺がお前を守るよ。どんな状況でも、助けに行ってやるよ」



共犯者としての自覚をここに持ちながら。
垣根帝督は、超能力者としての己をきちんと確立する。
想いも成就した以上、もう二度と眠りに就くことはないだろう。

自分のために、二万を殺す覚悟を決めた男のためなら。
自分もきっと、誰かを殺す覚悟が決まるのだろうなあ、と垣根は思った。

「罪滅ぼしも全部、同じように背負う」

動くことを許された上半身で。
垣根は一方通行の身体を抱きしめ、目を閉じる。
少し早い心臓の鼓動が、たまらなく心地良いと感じた。


ぐい


強く、押し倒される。
動揺に顔を上げた。
赤い瞳と、薄い笑み。

「……帝督」

深く口づけられ、服に手をかけられた。
不思議と抵抗する気にはなれない。



粘ついた唾液を、互いの自身へ垂らす。
一方通行の細い指の絡んだお互いの肉棒が、擦れ合った。
その度に慣れない快楽が電流のように身を襲い。
お互いに軽く唇を噛んで嬌声を堪えると共に、熱い吐息を漏らす。

「っ、一方通行、」

垣根の手が伸びる。
同じように握り、そのままシゴキあげた。
くちゅりゅちゅ、といういやらしい音が響く。
明るいリビングで性的な行為に及んでいる背徳感に、垣根は身を震わせた。
まして、朝に妹達と食事や会話をしていた、日常の空間なのだから。

「帝督、好きだ」

掠れ気味の声の告白。
舌が絡むと共に、手の動きが激しくなる。
うっかり舌を噛んでしまいそうになる垣根の口端から、唾液が伝った。
やけに生ぬるい唾液が顎を伝ってシャツを濡らし、垣根は身体を震わせる。
ややヤケクソにガムシャラな手を動かせば、一方通行の声に甘味が増した。

「っっ、く、ゥ」
「あっ、や、べ、出る、っ」

コンマ一秒の差はあれど、ほぼ同時に二人は精を吐きだした。
どこに受精される訳でもなく、白濁の子種はどろどろと二人の手を伝って無意味に床に落ちていく。
せっかく妹達が綺麗に掃除していってくれた床がそんなもので穢れてしまったことに、いっそう心理的快楽がこみ上げた。



片付けを終え。
垣根はだるだると冷蔵庫から缶コーヒーを取ってきた。
車椅子のキュルキュルという車輪の音が、涼しげに聞こえる。
恐らくそんな無関係な音が涼しく聞こえるのは、身体が火照っているからだろう。
酒があったらそちらを口にしていたのだろうな、と思いつつ。
垣根は、封を開けた缶コーヒーを一方通行へと差し出した。
ありがとよ、という礼の返事と共に、白い手が素直に受け取る。
真っ黒な甘味の無い液体は、細い喉の内側をゆっくりと伝っていった。

「……ン。まァまァだな」
「最近ハマってる銘柄はこれじゃないやつだっけか」
「まァな。とはいっても、然程味は変わンねェが」
「ブラックばっかりじゃ胃痛めるぜ?」
「今度コーヒーメーカー買ってくる。そン時にカフェオレ淹れてくれ」
「仕方ねえな」

渋々、といった様子で相槌を打ちながら。
垣根は自分用のココアの缶を開ける。
ひんやりとした茶色く甘い液体を喉に通し。
今日は緩やかな午後になりそうだ、と日常の幸福を噛み締めつつ、目を閉じた。







そんな二人を観察している誰かが居るとも、知らずに。






 「……て、…帝督じゃねェ。誰だオマエ」


                       「無視しないでーっ! ってミサカはミサカは大声を出して注目を集めてみたりいいい!」


 「別にィ。帝督の前だからカッコつけてるとかじゃありませンー」


                                            「だからまあ、俺も殺す覚悟を決めた訳だ」


 「歩けるようになったのですね、とミサカは心から祝福します」


                                     「結局、罪滅しは帝督に頼りきりになっちまったなァ……」


 「…ふむ。『第一候補』、『第二候補』、共に成長は予想を超える程に順調だ」


                                           「結局、俺は一方通行の重荷にしかならねえ」


 「帝督、何言って」








                    「「俺は、オマエが好きだった」」



余韻を残しつつおわり。

>>1の次回作にご期待ください。
一方通行の愛が世界を救うと信じて…!

ちょっと文章に矛盾が発生していたのは垣根くんがテンパってたからです。
お付き合いいただきありがとうございました。

寝取られ野郎マジ乙wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww

ふぇ?




え?




ちょっと何言ってるかよくわからないよ尻切れすぎるよわけがわからないよきゅっぷい乙

乙乙!楽しかった
>>1の文書はすごく読みやすい

後日談があったりはしないのかな

超絶乙乙!!


で、第二部はいつ始まるんですか?来週中?

嘘だろ承太郎!


後日談書いてみました。第二部はないです(震え声)
『御使堕し』からの流れはもう原作通りと思っていただいて良いような。











少しですが投下。



「それで、うまくいったのですね、とミサカは解答を濁そうとする垣根帝督にツッコミます」

00166号と垣根は現在、ファミレスに居た。
カロリーのことを考えていないらしい。
クローン少女はというと、もぐもぐとハンバーグを頬張っている。
ミックスグリルと呼称されるその料理は、ハンバーグにチキンステーキ、分厚いベーコンの乗った一品。
当然といえばそうなのだが、垣根の奢りである。
垣根はというと、やはり彼女と同じくカロリーを気にする様子もなく。
透ける青が美しいソーダにバニラアイスの乗ったソーダフロートを、ゆっくりと食べていた。

「別に濁そうとはしてねえよ」
「どこまでいったのですか、とミサカは野次馬心を露わにします」
「野次馬心って自覚があんなら抑えやがれ」
「そう言わずに、とミサカは我々の作戦が有効であったかどうかの回答を求めます」
「……まあな。仲直りは出来たし、……もう二、三歩は進んだと言って過言じゃねえ」

夜のファミレスに、人は少ない。
垣根は口の中で弾ける炭酸水の心地よさに、ゆっくりと息を吐き出す。

「ただ、」
「…ただ?」

言葉の先を、飲み込む。
何でもないと笑って、彼は甘い炭酸水で喉を潤した。



一方通行は、ぼんやりとしていた。
垣根は現在、00166号とデート中だ。
他の女相手であったら多少腹は立つものの。
妹達に対しては様々な感情を抱いている為、腹は立たない。
いつか贖罪の時が来れば、その時にようやっと女として見、敵視するかもしれない。

「……」

思い浮かべるのは、いつだって垣根の事だ。
能力以外何もかも喪った自分にとっては、彼しかいなかった。

不気味な赤の瞳を綺麗だと笑い。
老人の如く白い髪を好きだと微笑んでくれた。

それは出会う順番の問題であって、もしかしたらこの『特別』は他の誰かに向けられたかもしれない。
それでも、一方通行の心を最初に慰め、満たしたのは垣根だった。
多くの人間から見放された彼の手を握り返したのは、垣根だけだった。

「………」

汚れた手だとは、今はもう、思わない。
垣根が許してくれたから。
妹達がマイナスの感情を見せないから。
これは甘えだとわかっている。
けれど、甘えるのは子供の特権だとも、思う。

「…早く帰って来ねェかな」

ガチャリ。

扉の開く音がした。

「ン、帝督おか………て、…帝督じゃねェ。誰だオマエ」
「は? 何言ってんだよ」

入ってきたのは。

車椅子に座り。
垣根の口調で喋り垣根の服装をした。





銀髪の、小柄な少女だった。



本当に終わり。
色々と考えていくとこのSSの終着点が鬱エンドになってしまったので切り上げます。
長い間お付き合いいただきありがとうございました。


尚、寝取られを希望している方がいらっしゃるようなので次回作はNTRです
それではいつかまた。

乙!次回作も楽しみにしてる

自らトラウマに

乙機体とわくわくがとまらんのよな

鬱エンド気になるな
書かないならさらっと教えて欲しい
できたらでいいんだけど

兎にも角にも乙でした


 『御使堕し』など順調に歴史通り
→打ち止めを助けるわんつー
→同居後正史通り
→未元物質進化、妹達の欠損補填
→戦争前になってアレイスターの『プラン』一部を入手
→自分達が生きている限り達成され世界を巻き込んだ悲劇が起きると判明するわんつー
→このままではいけない、思い通りになる前に死のうと決める二人
→第一位・第二位の脳を破壊して殺すにはお互いしかその実力を持ち得ていない
→二人で戦うことに
→紙一重で垣根くんが勝利
→最期に夢を語る一方さん
→昔の思い出とか今まで過ごしてきた幸せな毎日を思い返す垣根くん
→耐えかね、自分を殺し消滅する未元物質による生命体(カブトムシ05)を産み出し自分を殺すよう命令する垣根くん
→後には何も残らない鬱エンド


な感じでした。
余談ですが次回作は幻想右方前提幻想目録且つ上琴NTR女体化というとても地雷が多い内容の予定です

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