八幡「べ、別に嫉妬とかしてねえし」 (103)

俺ガイルSSです
体育祭以降修学旅行前です

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文化祭、体育祭と大きな行事も終わり、学校全体を包んでいた夏の名残のようなものが消え去った10月。
季節は移り変わり、制服も冬服に変わり、久々に着たブレザーの首周りの違和感も消えてきたある日の放課後。
野球部をはじめとする体育会系の部活は三年が引退し、若いメンバーが中心となって元気な号令を上げている。
そしてそれにエールを送るかのような吹奏楽部の練習が彩りを加える。
そんな青春を謳歌する若者たちの影で、俺、比企谷八幡はいつもどおりの学校生活を過ごし、いつもどおりの放課後を迎え、
そしていつもどおり部活に参加している。

奉仕部。

その名のとおり、悩みを持つ生徒の相談に奉仕をする部ではあるが、
依頼がなければ特にこちらからPRしたりするわけでもないお役所仕事な部活である。
とはいえ一旦部長が仕事を請けると決めたら理不尽な仕事量をこなさなければいけないブラック部活であり、
俺に現在進行形で働く喜びの正反対の感情を養わせてくれている。
学生時代に無給でこれだけ仕事させられてるんだから、もう卒業したら働かなくてもいいよね?

最初は嫌で嫌で仕方がなかった部活動だが、
今でも決して乗り気ではなく辞められるものなら今すぐにでもやめてしまいたいのだが、
そうは言っても俺も平塚先生に殴られたくないし、学校に毎日来るのと同じで嫌々ながらも続けている。

「……」

「……」

部室には俺ともう一人、この部の部長であり、学年一の美少女であり、学年一の秀才であり、
そして学年一性格が悪い女、雪ノ下雪乃の二人がいる。
俺と雪ノ下はそれぞれいつものようにバラバラに座っていつものように本を読んでいた。
早いものでもうこの部に入れられてから半年が経ったが、俺たちのこの距離は変わらない。
別に近づいたりしないし、あっちから近づいてくることもない。
部室には本をめくる音と、遠くから聞こえる運動部の連中の声だけがかすかに響いている。
俺も雪ノ下も無駄な会話が好きではない。
挨拶(一方的に俺が傷つけられる暴言を挨拶に含むかは諸説あるが)も済めば後は用件がなければお互い不干渉となるのが毎度のことである。

もっとも、俺はこの空気は嫌いじゃない。
決してお互いを無視しているとかではなく、これが俺たちのいつもの距離、いつもの空気なのだ。
クラスの連中のように、お互いの顔色を伺いながら話をなんとか盛り上げようとするやつらの気が知れない。
あれはまるでボクシングの試合で左ジャブで牽制しあっているようなものだ。
彼らはああやってお互いの精神を削りあいながら自分の存在を確認しているのだ。

『あぁ、この痛みこそ青春だよね』と。

ぞっとする。
だが俺のようなぼっちであればそんなことをする必要はない。
自分の存在は自分が認識できているから十分なのだ。
個々のアイデンティティが希薄であるがゆえに他人を通して自己の確認をする必要があるというのなら、
相対的にそんなことをする必要のないぼっちはアイデンティティが強固に確立していると言えるだろう。

まあどれだけ強固なアイデンティティが確立していようとも他人から干渉を受けないんで意味ないんですけどね。
あれ?単に周りに存在が認識されてないから自分だけで認識するしかないだけじゃね?

「……」

「……」

もっとも、俺にとってはまあ居心地悪くはない空気というものもそう長くは続かない。
なぜなら、今はまだここに来ていない、この奉仕部第三の部員が登場すれば、
この部室は嫌でも騒々しくなるしかなくなるからである。
あいつは俺たちがどんなにマイペースに本を読んでいようと、ニコニコしながらまとわりついてくる。
そしてこの空気をあっという間に吹き飛ばしてしまうのだ。
雪ノ下がちょっと困った顔をしてされるがままになっている姿なんておそらくここでしか見られないだろう。
最初の頃は俺にも当たり前のように話しかけてくることに戸惑い、特別な何かがあるのではなどと勘違いしたりしまいと己を諌めたものだが、
最近はまあ、その……なんだ。まあそのことは置いておいて、だ。

今日もそうだが、あいつがいつも俺たちより遅れてくるのには理由がある。
あいつは友達が多い分クラスで無駄話をしたりして俺たちよりも部室にやってくるまでに時間がかかる。
クラスメイトたちと生産性のないくだらない話をし終えてからやってくるというわけだ。
この今の空気はあいつが来るまでの間だけの限られたものといえるだろう。
まあ、別に、あいつがいる部室の空気が嫌だとかってわけではないのだが。
とはいえ今日はいつもよりあいつが来るのが遅い気がする。

「……」

「……」

ちらり、と一瞬だけ時計を見る。
やはりいつもならもう来ていてもおかしくない時間だ。
言っておくが気になるとかそういうことでは全然ない。
別に来たら来たでやかましいだけなので来ないなら来ないでも全然問題ないのだが、
いつもどおりにならないとなんか気分が悪いとかよくあるだろ。
ほら、プロ野球選手が打席に入るときに決まった動作をするのと同じだ。
俺はいつもゲンを担いで、家から出るときは必ず右足から出るようにしているし、テストで使うシャーペンは普段のものとは違うものにしているし、
クラスの席替えでクジを引くときは一番最後に引くようにしてる。
あ、最後のは単に忘れられてるだけですね。

ホント最後に余ったところに決められて周囲八人から嫌な顔をされるくらいなら、
もう最初から四隅のどこかに決めておいてほしい。
それなら三人からだけで済むし。

とにかくプロのぼっちは周りのせいでルーチンが崩れることがなによりも嫌なのだ。
雪ノ下はなにか知っているのだろうか。
俺は雪ノ下のほうを見ることなく声をかけた。

「なぁ雪ノ下」

「由比ヶ浜さんならちょっと遅れるそうよ」

「……まだ何も言ってないだろ」

「あら、違ったかしら」

雪ノ下は本をパタリと閉じ、こちらを見てクスリと笑いやがった。
してやったりといった様子で、普段の大人びた雪ノ下が時々見せる子どものような笑顔だ。
くっそぅ、可愛い顔しやがって。

喉元まで出てきていた文句も引っ込んでしまった。
最近はこうやって雪ノ下に見透かされることも増えてきた気がする。
別に嫌なわけではないが釈然としない。

「気づいてないのね」

「……なにがだよ」

「あなた、由比ヶ浜さんが来るのが遅い日はいつもだんだんそわそわしてよく時計を見るのよ。
 正直なところ、気持ち悪くて直視に耐えられないわ」

「うるせえな。いちいち見てるんじゃねえよ」

そ、そわそわなんてしてねえよ。
時計くらい誰だって見るし。
由比ヶ浜結衣はこの部の三人目の部員にして、
みんな友達、みんな仲良くが信条の見た目はビッチ、脳みそはスカスカな女である。
オツムはともかく男女関係なく誰とでも仲良くできる性格に加え、
まあ見た目も悪くはないため、俺とは正反対のトップカーストの人間だ。

本来であれば俺や雪ノ下とは縁のないやつではあるが、
春先にここに相談しに来て以来このよくわからん部活の一員となった。
友達のいない俺や雪ノ下と違って部室にやってくる時間がバラバラなため、
俺のように几帳面な人間からしたらいつ来るのかと気になるだけだ。別に気にしてない。
俺が抗議の視線を向けると、雪ノ下は視線を窓の外に向けた。
窓から差し込む太陽の日差しが一瞬雪ノ下の髪を輝かせた気がした。

「……別にあなたを見ているわけではないわ。その……たまたま目に付いただけよ」

「へいへい」

「それに、その、私もだから」

「あん?」

「私も、由比ヶ浜さんが来るのが遅いと気になって、そわそわしてしまうもの。 あなたとずっと二人きりだなんて、その……」

「あぁ、そうですか」

そういや中学時代に日直で俺と一緒に放課後二人で居残りしてた女子もみんなそわそわしてたな。
俺のほうを見ようともせず。
当時の俺はそんな様子を見て、「ひょっとして俺のことが好きで照れてるの?」なんて思ってたわけだ。
死にたい。
またも無意味にトラウマを掘り出された、その時だった。
コンコンという音が響く。明らかに由比ヶ浜のノックとは違う。

「どうぞ」

雪ノ下が振り返り声をかけると、扉が開く。
廊下から入ってくる僅かに冷たい空気が俺の頬を撫でた。

「こんにちは」

挨拶と共に入ってきたのは見覚えのない男だった。

とりあえずここまで
SS始めてだから原作片手に必死にそれっぽく書いてるんだけど、
誤字脱字、変な表現とか原作と矛盾するとことかあったら指摘してくれるとありがたい

すまんオリキャラ出すならちゃんと>>1に書いておくべきだったなすまん
それから他の人が書いた作品とかぶってたらホント申し訳ない
あと改行とか行間とかどうすりゃいいのかわからんからとりあえず改行してみたけどどうだろうか

微かに染められた髪をワックスで立たせ、目をつけられない程度に制服を着崩している。

背はそこまで高くないが低くもなく、
スポーツに人生かけてますといった鍛え方はしていないのだろうが痩せているというわけでもない。

まあどこにでもいるような普通のイケメンだった。

[ピーーー]ばいいのに。

男は部室に入り戸を閉めるとさっと室内を見渡し、遠慮がちに口を開いた。

「えっと……俺は2年B組の江ノ島っていうんだけど、奉仕部っていうのはここでいいのか?」

「ええ、私はここの部長の雪ノ下。そこの男のことは気にしないでいいわ」

相変わらずな紹介だ。こっちのほうを見もせず、しかしドヤ顔が腹立たしい。

もっとも、江ノ島とやらも俺のほうを特に見ようともしないし、
俺も面倒は御免なので何も言わない。

どうせ面倒ごとになったら嫌でも仕事をさせられるのであれば、
面倒ごとになるまでは極力関わらずにいたい。

それが俺のジャスティス。

今は発売したばかりの新作ラノベの続きが気になるしな。

雪ノ下は白い手を差し出し江ノ島に椅子を勧める。

江ノ島が席につくと早速とばかりに口を開いた。

「奉仕部に用事ということであれば、何か依頼したいことがあるということでいいのかしら?」

「あぁ、ちょっと相談したいことがあって、
 柔道部の友達がいるんだがそいつからここのことを教えてもらったんだ」

「そう……。ならさっそく依頼内容を聞かせて頂戴」

単刀直入に用件を聞き出そうとする雪ノ下。

俺は目の前のラノベを読むペースは落とさず、しかし耳から入ってくる情報も同時に処理をする。

ぼっちは同時に複数のことができなければ生き残れない。

俺くらいになってくると周りに5人くらい人がいてバラバラに話をしていても聞き分けれたりする。

とはいえ必死に勉強に集中してても周りの雑音が聞こえてきてしまうので、
中学時代はクラスメイトの


『比企谷必死に勉強して聞こえないフリしてるよ(笑)』


といった嘲笑は全部聞こえていた。

そういえば柔道部の連中とは夏休み前に相談事に乗ってやったことがあったな。

それでか、クソ。
仕事というものはさっさと片付けるに限るのだが、
厄介な仕事を片付ければ片付けるほど次から次に仕事を回されてしまったりする。

この前やったイベントスタッフのバイトもそうだった。

優秀すぎる自分が恨めしい。

まあとりあえずは話は雪ノ下に任せておこう、俺もヒマじゃないしな。

うむ、やはりガガガ文庫は面白い作品ばかりだな。

読みやすいしサクサク進むぜ。

「実は……その……」

「聞こえないわ。頼みごとがあるならはっきりと言いなさい」

相変わらず初対面でも容赦のない雪ノ下。氷の女王と呼ばれる由縁である。

いや、呼んでるの俺だけかもしれないが。

てか他のやつらと話をしないんだからわかるわけがないが。

雪ノ下の冷たい声音に気圧されつつも江ノ島は続ける。

「えっと。実は、好きな子がいるんだけど」

「……恋愛相談、というわけね」

そう言って小さくため息をつく雪ノ下。

気持ちはわからんでもない。

半年ほど前に俺が強制的にこの部活に入れられたときははっきり言って依頼なんてほとんどなかった。

それが最近はなぜかまったく見知らぬ連中から突然依頼を受けることが増えてきたように思う。

メールで受け付けだしたことや、由比ヶ浜が言いふらしてたり、
生徒会関係からの依頼や紹介(丸投げとも言う)だったりが理由だろう。

というか生徒会の連中はもう少し自分たちだけで仕事はなんとかしてくれませんかね?

まあそれ自体は他愛もないものも多いのでこの際置いておくとして、
依頼内容が問題なのだ。

まあぶっちゃけ高校生の悩みなんて大半は恋愛がどうとかといったものだったりするんだよな。

しかも自分の中で結論が出てたりするものとかも多い。

つまり面倒くさいのだ。

いつもだったら雪ノ下が冷たくあしらったところに恋愛脳の由比ヶ浜が口をはさみ、
適当に話をして帰ってもらうパターンなのだが、今日は残念ながら由比ヶ浜がまだ来ていない。

まったく、肝心なところで役に立たないやつめ。

「申し訳ないのだけれど、あまりそういう相談には力になれそうにないわ」

そう、雪ノ下にそんな相談するなんて間違ってるよな。

まちがってる、なんて言っておきながらホントはまちがってないんだろなんて言うやつもいるが、
そんなのはラノベの世界だけだ。

まあ見てくれだけはいい雪ノ下はモテるみたいだから色恋の騒動に巻き込まれることも多いらしいが、
本人がこう、なんていうんですかね、そういった感情の発露といったことと正反対な人間なんですよね。

理屈でバッサリ切り[ピーーー]のとかは得意なんだろうが、なんというか、
例えるなら切断することだけは超得意なブラックジャックって感じか。

なにそれ超怖い。

ちなみに俺には相談をされてないので無視しているが、
俺に相談されたからといってなんとかできるかといったらもちろんない。

大体こういうことを平気で他人に相談できる精神が理解できない。

まあ恋愛相談に限らず俺は相談できるような友達はいないわけだが。

「そう言わずに頼むよ。他に相談できるやつもいないんだよ」

「そもそもそういうことはまずは友達に相談するべきでしょう」

「いや、それはそうなんだが……」

なにやら歯切れが悪い。

が、雪ノ下の追求を誤魔化せるはずもなく、数瞬の後に江ノ島は続ける。

「前に友達に相談して引っ掻き回された上にフラれてるんだよ、その子に」

あー、いるよね。

いるいる。

こっちの好きな子の名前を聞いてきて、善意でくっつけようとしてくれるんだけど逆効果でしかないやつ。

悪気はないんだろうけどマジで疫病神。

俺も中学のとき好きだった陽子ちゃんのこと聞き出されて、
その日のうちに陽子ちゃんに伝わって泣かれてホームルームで槍玉に挙げられたことあった。

俺何もしてないのに。

俺何も悪くないのに。

なんなの?俺には憲法で保障されている内心の自由もないの?中世?

あ、って言うかこれは友達でもないし悪意しかないから違うか。

「俺の友達がその子の友達に頼んで俺と二人きりにしようとしてくれたみたいで、
 そのとき全部伝わったらしくてその子の友達経由で断られちまったんだ」

「なるほど。それで、諦めきれないというわけね」

「いや、二年になってクラスも変わっちまったし、ぶっちゃけ諦めてたんだよね」

「ならなぜ今更またその、好きになったというの?」

「いや、この前の文化祭でその子が飛び入りでバンドに参加したみたいで、
 ステージで歌ってる姿見て、やっぱり可愛いなって思ってさ。
 なんとかして付き合いたいってまた思ったんだよ。でも友達は頼りたくないし」

なんだそれ。

一回諦めたくせに今更になってまた付き合いたいってか。

いや、それよりこいつ今なんて言った?

飛び入りでバンドに参加して歌ってって――

「ちょっと待ってくれるかしら。あなたのその、好きな相手というのは……ひょっとして」

「あぁ、ごめんごめん。あ、そういえば雪ノ下さんもバンドに参加してたよね。
 あの時一緒に歌ってたF組の由比ヶ浜さんだよ。雪ノ下さんって由比ヶ浜さんと仲いいの?」

……あ、そういうことか。なるほどね。へー。なるほど。

まああの時は目立ってたしそういうやつもいるよね。

うん、わかる。

「別にあなたには関係ないでしょう。その……彼女とはと、友達で……」

雪ノ下は江ノ島から視線を外す。

はい、デレ入りました。

友達だっていうだけなのになんでそんなにテレてるの?

こいつ由比ヶ浜のこと好きすぎだろ。

それよりこの男知らないみたいだから、
ちゃんと由比ヶ浜がここの部員だって教えてやったほうがいいんじゃないのか?

そのうち部室に由比ヶ浜が来ちゃったら面倒なことにならねえかこれ。

まぁ俺はどうでもいいから何も言わないけどな。

今はこのラノベ読むのに忙しいし、それどころじゃないし。

しかし最近のラノベはテーマが重厚なものが多いからかなかなか頭に入ってこないから困る。

国語学年三位の俺を苦しめるとはやるじゃねえか。

もうライトじゃねえよこれ。オブジェクトがヘビーだよ。

「あ、そうなんだ。息ピッタリだったもんな。
 じゃあ雪ノ下さんは由比ヶ浜さんに付き合ってるやつとかっているか知ってる?」

「付き合っているって……」

……なんだよ。

こっちのほう見るなよ。

忙しいって言ってるだろ、察しろよいつもみたいに。

雪ノ下は小さく息を吐くと、江ノ島にキリッとした視線を向けた。

「悪いけれど、そういった個人的なことに答える義理はないわ。
 知りたいのなら本人に聞きなさい」

「まあそうなんだけど、それができないから相談に来てるんだよ」

「いえ、だから、それとこれとは――」

おいおい、だんだん雪ノ下がイライラしてきてるだろ。

こいつ結構空気読めねえタイプか。

戸部あたりと似たタイプだな。

なんでもいいからさっさと出て行けよ。

ほら――

……トタトタ

いつものあいつの足音が微かに聞こえてくる。

来ちまったじゃねえかよ、ったく。

雪ノ下も気づいたらしく、ハッと頭をドアのほうに向けるのと、同時だった。

ガラガラ

「やっはろー!ゆきのん、ヒッキー、遅くなって――あれ?」

やっぱり面倒くさいことになるじゃねえか。

俺はきょとんとした顔で俺たちの顔を眺める由比ヶ浜を尻目に恨めしい視線を雪ノ下に送った。

とりあえずここまで
また書けたら投下します

由比ヶ浜「ごめんねーあたしヒッキーと付き合ってるからさー」

雪乃「」


ちょっとだけ投下します

「あれ?えっと、江ノ島くんじゃん。どうしたの?」

「ゆ、由比ヶ浜さんこそ。どうしてここに?」

渦中の人物の突然の登場に驚く江ノ島。

由比ヶ浜、なんでこのタイミングで来るんだよお前は。

普段来てくれって思ってもなかなか来ないくせに何考えてるんだ。

いや、別に来てくれなんて思うことはないんだがな。

「どうしてって、あたしここの部員だし」

「え?」

江ノ島は聞き返し、一瞬視線を雪ノ下に向けた。

最初に教えてやるべきだったよな、うん。

しかしどうするんだよこの微妙な空気。

変な間ができたせいで居辛い。

まあ居辛いのはいつものことだが。

由比ヶ浜はきょとんとした顔でしている。

当たり前だが、俺たちがどんな話をしていたかなんてわかるわけがない。

「部員になったのは二年になってからなんだけどね。
 それでどうしたの?ひょっとして依頼人だったりするの?」

さてどうしたものか。

まさか素直に「こいつお前が好きらしくって、恋愛相談に来たみたいだぞ」と教えるわけにはいくまい。

俺には別に江ノ島をかばう義理もないんだが、面倒はごめんだ。

それにこうなったらこいつも俺たちに相談なんて状況じゃなくなったと理解するだろう。

適当に誤魔化してさっさと帰ってもらうことにしよう。

「えっと、由比ヶ浜。実は――」

「由比ヶ浜さん、彼は今度MOSの資格を取るというので、勉強の相談に来たのよ」

俺の言葉を遮る雪ノ下。

もっとも、内容は俺の考えていたこととほとんど同じだった。

ようは相談内容をでっちあげてしまえばいい。

由比ヶ浜相手ならとりあえず横文字言っておけば――

「MOS?ハンバーガー?」

うむ、これでこそ由比ヶ浜。

頭の上にクエスチョンマークが出ている。

ハンバーガーの資格ってなんだよ。

一級取らなきゃチーズバーガー作れないとかあるのかよ。

いつもであればすぐに補足説明をするところだが、
雪ノ下はそのまままくし立てるように言う。

「それで、来てもらって早速で申し訳ないのだけれど、
 今から図書館に資料を探しに行くから手伝ってくれるかしら?詳細は歩きながら説明するわ」

「え?あ、うん」

「じゃあ比企谷くんはここで待ってて頂戴。行きましょう、由比ヶ浜さん」

そういって俺に無茶振り。

雪ノ下は俺とこの男を二人で残していくつもりらしい。

え?俺になんとかしろっていうのか?

このまま適当に帰ってもらえばいいだろ?

おいふざけんな!

「おい、ちょっと待――」

「では、あとは任せたわよ、比企谷くん」

「あ、待ってよゆきのん」

畜生、俺の抗議を無視しやがった。

アホの由比ヶ浜を勢いで連れ出し去っていく雪ノ下。

部室には俺と江ノ島の二人が残された。

完全に罰ゲームだこれ。

とりあえずここまで
もうちょっとだけオリキャラ出続けますんで気に入らない人ほんとすいません

投下します






先ほどまでの喧騒も去り、遠くで聞こえていた運動部の連中の声もいつの間にやらパタリと消えている。

二人が出て行って十分程度経った。

江ノ島は無言で椅子に座ってなにやらケータイをいじっている。

先ほどから何度かこちらをチラチラ見てきていたが、俺は無視してひたすらラノベを読み続けていた。

ったく、一体雪ノ下は何を考えてるんだよ。

ぼっちに知らない人間と二人きりにさせてはいけないってぼっちの教科書一ページ目に書いてあるだろ。

いや、俺くらいのぼっちになれば別にこんなの気にならないんだが、相手が気を使っちゃうだろ。

「……なぁ」

ほら、こういう風に話しかけてきたりもする。

ぼっちは存在を消して一人でいることはいいんだがそれで他人に迷惑をかけることは本意ではない。

さらに何より、可哀相だから声でもかけてあげようなんてことになったら惨めすぎる。

「なぁ、聞いてるか?」

「あぁ、悪い。他人に話しかけられることに慣れてなかったから反応できなかった」

「そ、そうか、悪い」

おっと、またナチュラルに自虐をして引かれてしまった。

まあ別に嫌われるのも引かれるのもどうってことないし、
これで話しかけられなくなればそれはそれでいいんだが。


「なぁ、比企谷、だっけ?比企谷もここの部員なんだよな?」

あれー?こいつまだ話しかけてきてるよ。

俺の「話しかけるなオーラ」見えてないの?

っち、うぜーな。こっちは用なんてないっつーの。

「……だったらなんだよ」

なるべくめんどくさそうに悪意を隠さずにして対応する。

江ノ島はさすがにイラっとしたのか一瞬眉をひそめるが、それでも話かけてくる。

「その……由比ヶ浜さんのことなんだけど……」

思わずビクリとなる。

はぁ、やっぱ由比ヶ浜のこと聞かれるのね。

これってやっぱあれだよな、俺と由比ヶ浜が付き合ってる的なこと疑ってるんだよね。

そ、そんなわけないっつーの、アホか。


まあ俺は他人にどう思われていようとどうでもいいし、
いちいち付き合ってないって指摘するのも自意識過剰っぽくてアレなんだよな。

とはいえ万が一にも間違った情報があいつに伝わってもアレだし、
まあ別にどうでもいいんだけど一応誤解を解いておこう。

「べ、別に俺と由比ヶ浜は付き合ってるとかひゃないし」

……やべえ噛んだ。

うぅ、めっちゃカッコ悪い。死にたい。

すでに肌寒い季節だというのに背中に嫌な汗が出まくっている俺を江ノ島が鼻で笑った。

「えーっと、それはわかってるって。
 俺が聞きたいのは由比ヶ浜さんに好きなやつとかいるのか知ってるかってことなんだけど」

……そういうことですか。もっと相手にわかるように言えよ。

ちゃんと伝わる日本語使え伝わる日本語を。

国語が超得意な俺でもわからないんだから今のでわかるやつなんてこの学校にほとんどいねーぞ。

思わず勘違いしかけて、は、恥かくところだったじゃねえか。

「……し、知らねーよそんなの」

「そっか。一年の頃から誰に対してでも人当たりいい子だったからなぁ。
 けっこうモテるのに本命とかいないのかな」

「……さぁな」

おっと、なぜだかラノベを握り締めてしまった。

あと原因不明の手汗でページが皺が寄ってしまってる。

畜生、まだ全然読めてないのに。

……それにしても、一年の頃の由比ヶ浜、か。

江ノ島は俺の知らない由比ヶ浜を知っているわけだよな。

まあ当たり前の話だし、そんなことどうでもいいから気にも留めてないけど。


「俺もなー、友達が余計なことしなきゃ結構いいトコまでいけたんじゃないかなって思うんだけどなー」

んなわけないだろ。

友達がちょっと茶々入れたくらいで上手くいかないような相手に芽なんかあったわけねーだろ。

そんなもんで芽があるなら俺なんかジャガイモかよっていうくらい芽があったことになるぞ。

ちなみにジャガイモの芽は食ったら腹が痛くなるわけだがな。

まあこいつがポジティブだろうとなんだろうと知ったこっちゃないが、
現実知らないで失敗して損をするのはこいつだし、一応釘を刺しておくか。

「……あのな、確かに由比ヶ浜は人当たりもいいし誰にでも優しいがな、
 一年の頃がどうだったかは知らんが勘違いして突っ走ったりしたら絶対後悔するぞ」

そう、由比ヶ浜は優しい。

俺みたいな人間にも優しい。

その優しさは、人々の感覚を狂わせ、距離感を見誤ってしまうような麻薬だ。

気がついたときには引き返せなくなるような誘惑だ。


「っていうかもう後悔してるんだよな」

「え?」

「今思い返せば男と付き合ったりはおろか出かけたりとかって話も聞かなかったし、結構ガード固かったのにな。
 俺も一回デート誘ったことあるんだけど上手くかわされちまったし。ぶっちゃけ今思い出したらうわーってなる」

そういってポリポリと頭をかく江ノ島を尻目に俺はそうか、と安堵の息を吐く。

安堵ってなんだよ何を安堵するんだよ。

まあ確かに見た目によらずそのへんはしっかりしてるらしい。

この前の体育祭の準備のときも下心丸出しの男子上手く避けてたもんな。

……しかし、デ、デート、か。

いや、これは深く考えないほうがよさそうだからやめておこう。

「それでなんだけど、さっき雪ノ下さんにも言ったけど、やっぱりなんとか付き合いたいし、
 でも友達はもう頼りにできないからさ、比企谷たちが頼りなんだよ。
 頼む、助けてくれよ」

そういって江ノ島は両手を合わせて頼み込んでくる。

はぁ、どうするかなこれ。

俺は読んでいたラノベを閉じ、小さくため息をついた。

ここまで
また書けたら投下します

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2015年02月20日 (金) 08:22:02   ID: E50zbsWI

中途半端に書くぐらいなら最初から書くなボケ(更新マダー?)

2 :  SS好きの774さん   2015年12月12日 (土) 23:20:10   ID: b6VxE8qc


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