垣根「君が教えてくれた花の名前は——」 (967)


少年が泣いている。
髪は少し茶色がかった少年。

その少年を困ったように見つめる女の子がいた。
女の子は少年よりあきらかに幼い。
女の子の目には涙は浮かんでいない。
その代わりに強い意思が浮かんでいた。

——絶対に泣くもんか、私は強いんだ。

そんな意思が燃えている。

女の子は少年の柔らかそうな髪の毛をくしゃくしゃと撫でる。
泣かないで、と言うように無言で撫でる。

超高層ビルが立ち並ぶ街の中、二人の存在はあまりにも小さすぎる。
小さく丸まる少年はまるで自分の存在を確かめるように、そして失わぬ様にしているようにも見えた。

女の子が少年に何かをつぶやく。
そしていい終わると少年から離れた。
迎えだろうか、無表情の男達に無言の圧力をかけられているようだ。

——速く来い。

と。

その日から七年が過ぎた。

幼い女の子は少女となり、少年は青年へと成長した。

少女は脆い強さで自分を作り、少年は絶対的な強さで涙を捨てた。



心に大きな穴をあけたまま。



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〜〜〜

路地裏に銃声が響く。
ゴミと排水と汚物の匂いがこもった路地裏。
そんな所に態々足を踏み入れるような物好きは街に行き場を失ったスキルアウト達か必死に何かから逃げようとするが、表の機関に助けを求める事が許されない後ろ暗いものを抱えた奴らだけだ。

「おいおい、いきなり撃ってくるとは酷い事するじゃねぇか……大丈夫だ、大人しくしてれば命を取ったりはしねぇよ」

茶髪の青年は撃たれたと言うのにケロリとしている。
銃弾は彼の足元に三発転がっていた。

「お前が情報を流した先は何処だ?それを答えたら命は助けてやるよ……安心しろよ、取引先からの報復なんて来ないからよ」

爽やかすぎるくらいの薄っぺらい笑顔を浮かべる。
黒いスーツに身を包んだ男はガタガタ震える手で銃を構えながら青年から距離を取ろうと一歩一歩後ずさる。
が、足はほとんど動いていない。

青年が一歩前へ出る。

男は悲鳴にも唸り声にも聞こえる声を出し、とうとう尻餅をついてしまう。


「ほら、早くしろよ」

もう一歩近づく。

男は今度は明確に悲鳴とわかる声をあげた。

「早くしろ」

感情の一切こもっていない冷めた表情で男を見下ろす。

「わ、わかった――」

男が観念して喋り出そうとした時、青年の携帯電話が着信を告げた。

「残念、他のお仲間がもう吐いたようだぜ?」

携帯電話についたストラップを持ち、本体を男の前にちらつかせる。

「という事で……さようならだ」

青年の後方には翼。
天使のように真っ白な幻想的な翼。

ただ、それは天使の翼なんて美しいものではない、その翼は命を刈り取る凶器。
鬼畜、外道の道具である。

「ごめんな、でも俺もそのうちお前と同じような死に方をするからさ、お互い殺されても文句ない事しかやってねーんだ……しょうがねーよな」

動かなくなった男に一人語りかける。
月だけが彼を見ていた。

「次はもっとまともに生きろよ……これもお互いにだ」

男に背を向けると、汚れた翼で飛び立った。


〜〜〜

「超つまらない依頼でしたね。私なんにもしてませんよ」

ファミレスに四人組の女がたまってる。
三人は高校生くらい、一人は中学生くらいの一風変わった四人組だ。

その中の一人、一番年下の少女がドリンクバーのジュースをすすりながらぼやく。

「楽に越した事はありませんけどなんかもっとこう暴れる機会が超欲しいです」

「いやよそんな依頼は、フレンダ一匹で片付けられる楽な仕事ばかりの何が不満なのよ」

リーダー風の大人っぽい女性がめんどくさそうに息を吐く。
金髪の少女は興味なさげに缶詰を開き、ぼーっとした少女は机に突っ伏し眠っている。

店はほどほどに混雑しており、学生がはしゃぐ声が心地よい雑音程度に聞こえた。

「結局、絹旗はなんでそんな暴れたいのよ?」

金髪の少女は缶詰を開け、一口食べると満足気に微笑んだ。

「そう言われると超わかりませんね……何ででしょう?もしかしたら第一位が出て来るような依頼を超受けたいのかもしれません」


「昔の事で第一位恨んでるって訳?」

「超違いますよ、第一位のせいで辛い目にはあいましたが、第一位のおかげでここで生きれる能力を手に入れましたしね」

くたっと机に頬をつけ、昔を思い出すような遠い目をした。
昔といってもたかだか五、六年前であるが、少女にとっては人生の約半分だ。

なんとなく口を開いていけない空気になった。
その空気が五分ほど続くと急に携帯電話が鳴り響いた。

「あ?わかった……りょーかい。邪魔するやつは殺していいんでしょ?……詳しいのはまたメールで送れ」

「超依頼ですか?」

「そうよ、今からとある研究所で大暴れして来いって依頼」

「なにそれ?盗んで来いとか殺して来いじゃないの?」

「殺しても盗んでもいいわよ?……滝壷、起きなさい。行くわよ」

ピンク色のジャージを着た少女の頭を軽く叩き、起こす。

「さ、お仕事お仕事」

これが暗部組織アイテム、そしてそこに属する絹旗最愛の日常である。


〜〜〜

「嫌んなるねぇまったく」

携帯電話を閉じると垣根はため息をついた。

「なぁに?今度はどんな依頼?」

ベッドの上から下着姿の少女が甘ったるい声を出す。

「起きてたのか……また人殺しだよ、今度はこの街に麻薬を持ち込んだ組織をぶっ潰せだとよ……報酬はその麻薬を外の世界に売った金で払うからこの街で売られるまえにさっさと片付けろとさ」

「それって学園都市がいらない奴らをあなたに殺させるために仕組んでるんじゃないの?」

クスクスと笑いながら少女はベッドを降りる。
そして、ソファに座る垣根に近づきその首筋にそっと口付けた。

「やめろ……俺たちは別に恋人って訳じゃねぇんだ。互いが溜まったら互いで発散する、そんな関係のやつにキスされても嬉かねぇんだよ」

少女はまた小さく笑うと首筋に思い切り噛み付いた。

「なにしやがる……いてぇじゃねぇか」

「ふふ、貴方があんまりひどいこというから……こうして肌を重ねた後くらい、部屋を出るまでは恋人って事でいいじゃない」

「……クソビッチが」

「あら、貴方としか経験ないわよ?失礼ね」

胸を押し付けるように、体を密着させ耳元で囁く。

「それ、相手した奴全員に言ってるんだろう」

「……正解、よく分かったわね」

二人はねっとりとくちづけを交わす。

人を殺し、金を得る。
その金で良い家に住み、女と遊ぶ。

それが、垣根帝督の日常だ。


〜〜〜

「おーおー、溜まってんねぇ絹旗ちゃん」

アイテムのリーダー麦野が大暴れする絹旗最愛を見て笑う。
今回の任務はただ暴れるだけ。
何を壊しても何を殺してもいい。

――ったく、なんの意味があんだよ、この無意味な虐殺に……。

麦野は決して人を殺す事を嫌がっているわけではない。
部屋にハエが入り込みそのハエを殺すのを面倒臭がる、そんな心境だ。
彼女にとって人の命とはその辺を飛び回る小虫と同じなのだ。
それは、同じ組織に属する仲間も同じ事。
彼女の世界には自分とムシケラしかいない。

「はぁ……めんどくさ。
フレンダァ、あたし先車戻ってるわ」

言いながら、出入り口の前でカタカタ震える事しかできない研究員の頭を吹き飛ばす。
『進行方向に虫がいたから手で追い払った』
ただ、それだけの事だ。

「……わぁかったー!
でも結局、絹旗一人でも問題ないわけよ……ってことでぇ……」

「却下、死ね。つーか殺されたいか?」

金髪の少女の言葉は読めている。
うんざりという風に麦野はそれだけいうと大混乱の中を悠々と歩き出した。


「ちぇー……ま、いっか」

金髪の少女ことフレンダは麦野が建物を出たのを確認すると、カチと発信機のボタンを押した。
すると出入り口は一瞬にして吹き飛ぶ。

「ざーんねんでした。結局、鬼が居なくなったからって簡単に逃げれるほど人生甘くないってわけよ」

フレンダの視線の先には麦野が出て行ったことにより、今なら逃げれると考え出入り口に走った数人が数十個の肉片に変わり転がっていた。

頬についたそれらの返り血を丁寧にハンカチで拭き取りながら、空いている手で銃を撃つ。

「……撃っていいのは撃たれる覚悟のある奴だけだ!って何のセリフだっけね」

銃を持ったまま撃つことなく絶命した男に問いかけるが、返事はない。

「……しっかし、絹旗やるわね」

何に怒ってるのかわからないが、怒りをぶちまけるように絹旗最愛は暴れまくっていた。

その様子を見て、感心したのか呆れたのかはわからないため息をついた。


〜〜〜

絹旗が大暴れしている頃、垣根帝督は街を歩いていた。
日は暮れかかり、街中の学生たちはどこか満足したような疲れたような顔で自宅を目指し歩いている時間だ。

――組織のリーダーは……あん?

頭の中で情報を整理しながらターゲットの隠れ家を目指していると、自分には日常的な、しかし一般の普通の学生には非日常的な音が微かに聞こえた。

――そう遠くはねぇけど近くもねぇな。ターゲットの隠れ家第三候補あたりか?

建物の崩壊など、大きな音を打ち消す技術を持ったものが暗部組織には一人必ずいる。
垣根がリーダーを務める組織グループでは垣根がその役目も請け負っている。

――こういう音の響き方は、能力じゃあねぇな。恐らく建物の周囲に音を散らすチップをばらまいたんだな。

本来他の暗部が任務をこなしているところに別の組織のしかもリーダーがいくべきでは無い。
暗部で生き残っているものなど、だいたいが血の気の多い跳ねっ返りばかりだ。
同じ暗部といえど、諍いが起こるのは目に見えている。

――関係ないな。俺に勝てる奴なんざ……いねぇしな。

垣根はニヤリと笑うとそのまま歩き出す。

そこで目にするもの、それがなんなのかも知らずに……。


〜〜〜

「はぁっ……はぁ……ち、超疲れました……」

絹旗は血液と瓦礫で満たされた空間に寝転んだ。
薄く星が見えて、一番星だなどと考え目を閉じる。

息を整えながら、何故こんなにもがむしゃらに暴れまくったのかを考え始めた。
暴れに暴れ、頭がスッキリしたのかもしれない。
思考はスムーズに止まることなく次々と答えが出てきた。

――ただ、イラついていたんですね。

誰に?

――超、自分に。

なんで?

――汚れて……しまったから。人を殺すことに何もためらいを持たなくなったから。

人を殺したくなかった?

――当たり前じゃないですか。

どうして?

――私は……守りたい人がいるんです。人殺しじゃ、何も守れやしないんですよ。

守りたい?本当に?

――えぇ、だってあいつは……弱いから、きっと今もどこかで超泣いているから。

守るために強くなった。それで何が不満だ?

――やり方を間違えたってだけですよ。確かに私は守るために超強くなりました。でも暗部の強さは人を守る強さじゃない。……自分を守る強さなんですよ。そのことに、今更気づきました。

後悔してるのか?

――後悔なんてして意味はあるんですか?


「きーぬはた!そろそろいくよー」

頭の中に響く、自分じゃない自分との問答はフレンダのその言葉で打ち切られる。

「超了解です……」

絹旗が、目を開き起き上がろうとしたまさにその瞬間、天空から純白の翼が舞い降り、絹旗の頭を思い切り踏みつけた。

「どうも、スクールの垣根帝督だ。
こいつをしらねぇか?」

垣根は絹旗の頭を踏みつけたまま、フレンダへ問う。

「なっ……は?え?」

あまりにも唐突なことで、流石のフレンダも咄嗟に動けない。

「あ」

急ぎ銃を構えようとするが、絹旗が踏まれたまま動けない様子を見て抵抗することを諦めた。

「……はぁ、スクールって事はあんた結局第二位ってわけ?垣根帝督っていうんだ。いい男じゃん」

「あぁ、知ってる。
いいから質問に答えろ、金髪」

「とりあえずその写真こっちに投げてよこの距離だとよく見えないからさ」

手を延ばしかけ、銃を持っている事を思い出すとそれを投げ捨てる。
そして、早くよこせと言うように指を軽く降った。


「ほれ、この近くに隠れてるらしいんだが」

垣根もおとなしく投げ渡す。

「あー……これって殺しちゃまずいやつだったりするわけ?」

「んな事はねぇよ。そいつ……ってか、そいつの組織を潰すのが目的だからな」

恐る恐ると言う風に口を開いたフレンダに級友に話しかけるように垣根は軽く答える。

「あー、よかった……。
さっき殺しちゃった男だと思う。
死体は……あの辺に転がってると思うよ」

建物の出入り口があった付近を指差す。

「そうか、大人しく従ってくれてありがとう。お前、長生きするぜ」

「は、はは……」

その言葉でフレンダの虚勢は一気に崩壊した。

「んじゃ、探すかな……お、悪い悪いあまりにいい踏み心地だったから忘れてたぜ」

そして、垣根は絹旗の頭から足をあげ、挑発する。

しかし、絹旗は動かなかった。

「あ?死んだか?」

「も、もう一度超名前を聞かせてもらえませんか?」

頭を地面に埋めたまま震えるような声をだす。

「……垣根帝督だ」

「私の事……覚えていませんか?」

「あ?俺がお前みたいなガキを相手にするとは思えねぇが……酔った勢いとかあるしな、一応聞いてやるよ。
どこでヤった女だ?」


何かが切れた音がした。

同じ女だからだろうか、フレンダはビクッと体を強張らせ一歩後ずさった。

絹旗は起き上がり、そのまま垣根の顔面を狙って思い切り拳を振り抜く。

本来あり得ない金属が打ち合ったような音が響き、そのまま三人はしばらく沈黙した。

「……おい、お前なんのつもりだ?」

垣根がやっと口を開く。

「……お前こそ一体なンのつもりですかァ?」

絹旗はドスの効いた低い声で、静かに怒鳴る。

「あンだけ超遊ンで、あンだけお前を超守ってやった私を忘れ……挙句『どこでヤった女だ?』だとォ?超殺してやる」

「お、まえ……」

そこで、やっと垣根も思い出したようだ。

「最愛……なの、か?」

「えェ、そォですよォ……?
第二位だかなンだか知りませンが……私に対する侮辱、超土下座させてやりますよ」

「な、んで……お前が……」

蘇る幼い頃の記憶。
何人の女を抱いても、どんな美女を抱いても埋まるのとのなかった心の穴。
見たくないからと蓋をしたはずの自分の記憶。

それが、無理矢理こじ開けられた。

「クッ、ソ……が」

垣根は絹旗を蹴り飛ばすと、そのまま超高速で飛んで逃げた。

こんな感じで垣根×絹旗みたいな?

シリアスに見せかけたギャグになっていくと思う
よろしく



〜〜〜

「はぁ……はぁ……なんでだなんでだ……」

『ふむ、見違えたよ。垣根帝督』

「くそっ、やめろやめろやめろ」

『ほう、彼もレベル5の可能性が?』

「なんだよなんだよなんでなんだよッ!」

『見てしまったか……ならば君には暗部に入ってもらう。……最後に情けをかけてやろう、一つだけ願いを聞いてやる……なんだと?
絹旗……絹旗……あぁ、あのガキか。
わかったいいだろう。あの子は暗部なんて関係ない明るい綺麗な世界で生きれる事を保証しよう』

「な、んであの野郎が暗部なんてもんにいやがるんだよ……約束は……どぉなったってんだ……」

自宅近くの路地裏へ、無様に落ちる。

「クッソ……クッソ……なんなんだよマジで……俺ぁ……なんのためにこんなクソみたいなとこに堕ちたってんだよ……あのバカモアイのやつ……」

七年ぶりに見る絹旗はまだ幼さは残るが、しっかりと成長していた。

「あいつと別々のところに引き取られたのは確か11くらいの時だったよな……そん時、あいつは7歳だった気がするから……つまりあいつまだ14か?
……14のガキに『どこでヤった女だ?』とか聞いたの?俺、最低過ぎね?」

何かしていないと落ち着かないのだろう。
垣根は一人で喚き散らす。


「あーもー、最低最低!
つーかさ、本当になんであいつ暗部にいるんだよ。俺がなんのためにこの力を人を殺すために使ってると思ってんだ?
馬鹿野郎が人の決意踏みにじりやがってクソガキが……」

家のドアを乱暴に開けると、目についた食器棚を思い切り殴る。
ガラスが肉に突き刺さり、出血するが気にしない。
イライラとした気持ちを何処かへぶつけなければ壊れてしまいそうだった。

――違うな。壊れそう、じゃない……俺はもうとっくに壊れてる。暗部に入った時に優しさとかそういう弱さにつながる物を捨てたその時から……。

「でも、だから俺は、いままで生きてこれた……」

〜〜〜


〜〜〜

垣根帝督が第二位としての力を開花させたのは、今から五年前――絹旗との別れから二年後だ。

絹旗と離れ離れになった時、垣根はわんわんと泣いた。
その頃までは、垣根帝督は非常に素直で感情豊かなよく泣き、よく笑い、よく怒る、どこまでも子供らしい子供だった。

そんな垣根を変えたのはたった一つの紙切れだった。
その紙の内容は覚えていないし、当時のまだ普通の少年だった垣根には理解出来ぬものだった。
だが、それが他人の目に触れた、たったそれだけの事が引き金になった。

『な、なんだよ……お前たちは……やめてよ、どこに連れていくんだよ!
や、めてよ……』

『君には暗部組織に入ってもらう』

『暗……部……?』

全てを捨てろと言われた。
捨てずにとっておいていいのは、垣根帝督という名前だけだと言われた。

『わかった……意味わかんないけど、俺の言う事一つ聞いてくれるなら……俺は名前以外の全てを捨てる』

強くならなくてはと初めて思った。

『最愛ちゃん……絹旗最愛を暗部組織とやらには巻き込むな。
あいつには、十分な幸福を約束してくれ……そうしたら、入る』

目に貯めた普段なら流れてくる涙を垣根は必死に食い止めていた。

この時、垣根帝督は泣き虫な弱っちい垣根帝督を殺した。

「なのに……なんで……」

かすれた声でつぶやきながら、床に膝から崩れた。


〜〜〜

アイテムの隠れ家の一つ。
ソファに座る麦野沈利が床に座る絹旗とフレンダを睨みつけている。

その様子を滝壺はお菓子を食べながらぼんやりと見つめる。

「んで?」

麦野沈利は氷のような声で目の前に座る二人の少女を問い詰める。

「だーかーらー!何度も言ってるでしょ?
スクールのリーダーが私たちが撤退しようとしたところに突然現れて、あいつらのターゲットの情報をよこせと言われたって訳よ」

「そう。
それで?素直に情報を渡した訳か?」

「じょ、情報って言っても結局私がもうそいつ殺しちゃったってって教え――」

フレンダの言葉を遮るように、すぐ真横を原子崩しが発射される。

「ホイホイ情報くれてやってんじゃねぇよブロンド女は馬鹿ってのは本当だったんだなぁオイ?」

「……つまり、麦野は第二位に貸しを作って起きたかって事ですよね?」

萎縮し固まったフレンダの代わりに絹旗が、口を開いた。


「大丈夫ですよ……私は第二位にでかいでかい貸しが超ありますから」

「あ?」

「暗闇の五月計画。あの馬鹿天使も私と同じ実験の被験者です。
そこで私が何度あいつを助けてやったか……」

「ほう……それは知らなかったわ。
でも、そんな昔の事を律儀に守るやつかしら?」

「今こうして麦野にすら敵わない私が麦野よりも序列が上のあいつに逆らっても生かされてるのが何よりの証拠です。
精神的な部分で私はあいつよりも優位に立ってるんですよ。
それにあいつの探してた死体も超回収したじゃないですか。
そんなに怒らないでくださいよ」

「チッ……わかったよ。
オイ、フレンダ……悪かったよ、虫の居所が悪かった」

麦野は髪をぐしゃぐしゃとかきあげると、そのまま立ち上がり部屋を出ようと歩き出す。

「むぎのは第二位と戦ってみたかったんだよね。
仲間外れにされたと思って怒ってるんだよね」

「うるっさい!……シャワー浴びて寝るわ。明日は仕事もねぇし、ミーティングも特にする事ないから各自自由だ」

言い捨てると、バタンと大きな音をたて扉を閉めた。


〜〜〜

「うっわ、なにこれ?どうしたの?」

垣根の部屋に勝手に上がり込んだ少女が驚きの声を上げる。

「……うるせぇ」

「あら?一人?」

「うるせぇ……」

「ま、いいわ。依頼は?」

散らばったガラス片を踏まないように注意しながら垣根の座るソファへ向かう。

「もう死んでた。金が入るかは微妙だ」

「……何かあった?」

「……ねぇよ。あったとしてもお前には関係ない。あと俺今日そういう気分じゃないからそれが目的なら帰れ」

隣に座った少女を見向きもせずに、垣根は暗い声で言った。

「イヤよ、こんなあなたを放っておけるわけないじゃない。ご飯は?何か作るわよ?」

「……食ってない」

「じゃあ、適当に作るわ。ガラス片付けておきなさい」

ため息混じりにそうつぶやくと、垣根は素直に頷いた。
そんな垣根の頭を少女は軽く撫でる。

「なんで?」

「何がよ?」

「今日は、やけに優しいじゃん?」

「……失礼ね、私はいつだって優しいわよ?」

そうか、とつぶやくと垣根は少女にもたれかかった。

「あなたこそ、今日は随分甘えん坊よ?」

「もう、なんか嫌になった」

助けたと思った大好きな人が、自分と同じ暗黒の世界に堕ちていた。
その事があまりにも大きく、そして辛かった。
自分の無力さを突きつけられているようで……。
自分の小ささをみているようで……。

捨てたはずの弱さが、隠しただけだったと思い知らされるようで……。


〜〜〜

――おかしい。

シャワーを終え、リビングのように使っている部屋で麦野は一人コーヒーを飲んでいた。
他の三人は、一緒に風呂に入っているようだ。

――絶対におかしい。

麦野の感じる違和感。
それは、自分自身についてだ。

フレンダから「第二位とバトっちった」と軽く言われた時、腹の中が溶岩をぶち込まれたかのように熱くなった。

――なんなんだよ……。何が気に障った?滝壺のいうとおり、ただ第二位と戦いたかっただけか?

時計の秒針だけがカチコチと音をたてる静かな部屋。
時折、フレンダと絹旗がやいやい騒いでいるのが聞こえるが、それはひどく遠くの出来事のように感じる。

「クッソ……マジで意味わからねぇ」


コーヒーを全部飲み干すと、ちょうど三人が部屋に入ってきた。
どうやら風呂中で騒いでいたのではなく、より近い廊下で騒いでいたようだ。

「いやぁ……楽しかった。麦野も明日は一緒にはいろーよ!」

フレンダは先ほどの事など忘れたというように明るく話しかけてくる。

「……パス」

対して麦野は、未だに何かを引きずっている。

――本当、こいつの性格はたまにすごく羨ましいわ。

「むぎの、胸大きいからね」

「……関係ないだろ?むしろ普通胸がないやつのが嫌がんない?」

「ない、というわけでは超ありませんよ!まだ超成長中なだけです!私はフレンダとは違います!」

麦野の言葉に、手に牛乳の入ったコップを持った絹旗が声をあげる。

「ちょ、私だってあるわよ!私たちは麦野見慣れてるから普通が小さく、やや大きめが普通、巨乳がやや大きめ、って具合に感覚狂ってるのよ!」

「むぎのは、おかしいよね。
きぬはたも、鮭ばっか食べたらいいかもよ」

絹旗に抗議するフレンダと、相変わらずよくわからない滝壺。
これもまた、アイテムの日常だ。


殺戮集団とは言え、女の子の集まりである。
場所が戦場でなければ、普通の女の子として振る舞えるのだ。

そんな事をふと考え、麦野はため息をついた。

――でも、もう日の当たるところには戻れねぇからな。

心の中で、忠告する。

――私らは、闇から闇へと消えていく駒でしかねぇんだ。自分以外を捨てる覚悟がなきゃここでは生きて行けぇぞ。

それは楽しい、と思ってしまった事への戒めなのかもしれない。

「揃いも揃って私を奇形みたいにいうんじゃねぇよ!」

麦野は何かを恐れるように、話を切り上げた。


〜〜〜

「ところでさ、きぬはたが作った貸しってどんな貸しなの?」

麦野の言葉で胸談義を終えた四人は、この隠れ家だけにある畳の大きな部屋に布団を敷いた。

この部屋以外にもちゃんと寝るための個室はあるのだが、フレンダが今日はここでみんなで寝たいと言い出したのだ。
この部屋を使うのは絹旗が五年前に暗部入りし、アイテムへとやって来てから初めてだ。

「それも気になるけど、結局私としては麦野がみんなで寝るの承諾してくれた理由のほうが気になるわけよ……」

何度か同じような提案を即答で却下された事を思い出すようにいう。

「あ?そんなのあれよ……」

麦野は理由を説明しようとするが、出来ない。

「どれよ?」

フレンダの追求に、冗談で誤魔化そうとする。


「……き、絹旗があまりにも溜まってる様子だったからさ……それに絹旗は可愛いし喰っちまおうかにゃーんって思ったり?」

しかし、その冗談があまりにも笑えない。

「ちょっと!絹旗はってどういうこと?“は”ってなによ!」

「えっ?突っ込むところそこですか?
というか、女同士ですよ?何言ってんですか!」

「二人ともズレてる。とりあえずふれんだ……私たちは違う部屋で寝よっか」

「滝壺さんが一番ズレてますよ!やめてくださいよ、超ここにいてくださいよ」

「あの、いや……その、すまん、冗談だから!
落ち着けお前ら、滝壺もまくらおいて、ほら寝なさいよ……で?どんな貸しなのよ?」

本当に部屋を出て行こうとする滝壺を引っ張り戻し、床につかせる。

「冗談なんですね?超本当ですね?私このまま麦野の隣に寝てて平気ですよね?」

「当たり前だろ!その話はもう忘れろ!そんでさっさと話せ」

「わ、わかりました」

そして、絹旗は今まで話すことのなかった実験の話と、それまでの日常について話し始めた。


〜〜〜

「さ、最愛ちゃん……」

涙を流しながら、少年が自分よりも幼い少女の名前を呼ぶ。

「はぁ……超なんですか?というかあなた私よりも四つも年上でしょう?
年下の超可愛い女の子に泣きつくってどうなんですか?」

「うぅ……でも、最愛ちゃん優しいし、ぼくより……強いし」

「はぁ……わかりましたよ。
本当に、ていとくは私がいないとだめだめですね」

うんざり、という風にいうが顔は綻んでいる。
頼られるのも満更ではない様子だ。

「うん!」

少女の言葉に少年は本当に嬉しそうに、目を輝かせ頷く。

「ていとくにプライドってものは無いんですか?」

「いいんだ、最愛ちゃんだけだもん。
ぼくがまだなんのちからも発現してないのに、遊んでくれるのは……。
それに、ぼく最愛ちゃんの事大好きだもん!」

迷わずにそう言い切る。

「いや、好きならなおさら私に泣きつくのはどうなんですか?」

「だってかっこ悪いところ見せないようにしたらもう最愛ちゃんの前から消えるしかないもん」

「あぁ……うん……超納得です」


〜〜〜

「ってな具合に『最愛ちゃん、最愛ちゃん』って超常に私に寄って来ましたよ」

絹旗の話が一区切りすると、フレンダがいきなり吹き出した。

「ちょ、ごめ……まって……」

「なによ、あんた」

「いや……麦野は垣根帝督と面識ないから『あらあら、かわいいわねぇ』って感じで聞いてられるのよ!
今のあいつみたら絶対に笑うから!何がどんな成長したら『どうも、スクールの垣根帝督です』ってキメ顔で降りてくるアホになるってのよ」

「まぁ、男らしくなったってことでしょうよ……。
かっこ悪いところ見せないには絹は他の前から消えるしかないって言い切るのも男らしいっちゃらしいのかもしれないが……」

フレンダはあまりに大きなギャップに笑いが止まらない。
麦野は今の垣根を知らないからか、フレンダの言うとおり「可愛い子供ね」くらいの気持ちで聞いているようだ。

「超全然男らしくありませんよ!
第二位はその時九歳、私は五歳ですよ?
五つの女の子に泣きつく男とか、情けなさすぎますよ。
しかも、第二位ってば超メルヘン思考だったんです。
好きな絵本はシンデレラ、好きなものはお花!とかなんの臆面もなく超言い切るやつだったんですよ」

メルヘン思考というのが、さらにツボに入ったのか、フレンダはもう声をあげることすら出来ないくらい笑っている。


「……第二位、実は女の子フラグ?」

さすがの麦野も、若干引いている。

「あ、それはないですよ」

「きぬはた、どうしていいきれるの?」

「え?だってちゃんとついて……って、なにいわせんですか!」

「だいたんはつげん」

滝壺の何気ない質問に、素直に答えそうになり、真っ赤になって飛び起きた。

「昔の話ですよ昔の!
それに、五歳といえば小学校超低学年ですよ?
あれとは超姉弟みたいなもんでしたし。
それに……そうです、風呂なんてみんな一緒に入れられてたんですよ!そうですそうなんです!」

真っ赤なままバタバタと手を振る。

「おーおー、まぁガキだしな。
私はガキの頃から風呂は一人で入らせろって研究員脅してたけど」

からかうように、麦野はにっこりと笑った。

「というか……今の“きょうだい”って絶対あんた漢字にしたら“姉弟”って書いてたでしょ?」

笑いの発作が治まったのか、はぁはぁと息を切らせながらフレンダも会話に参加して来た。

「よく、わかりましたね。あいつは私の永遠の超弟ですよ!」

これ幸いと、絹旗はフレンダが突っ込んだ別のところに飛びついた。

「まぁ、今の話聞いてる限りなら絹旗十歳、垣根五歳、みたいな感じよね。
あー、私も今の垣根に会いたくなって来たわ」

恥ずかしさで能力込みで暴れられたら面倒である、と麦野も大人しく引き下がる。


「絶対笑うよ。私つぎ垣根に会ったら笑っちゃうもん……殺さたりしないよね?」

「さぁ?まぁ、殺されたら超しっかり叱ってあげますから安心してください。
めっ!って言えば大抵のことはやめましたよ」

「結局殺される前にお願いするわ」

まだまだ沢山ネタはあるが、昼間暴れまくった絹旗は話しながら眠ってしまった。
ちなみにどんな貸しがあるかと聞いた張本人の滝壺は一番に寝ている。

二人の寝息が聞こえる中で麦野とフレンダがポツポツと会話していた。

「ねぇ……」

「あぁ、多分私も同じことを思ってる」

二人は一回同時に黙り、そして同時に再び口を開いた。

「五歳であの口調って、おかしいよね」

「五歳であの口調とか、おかしいよな」

もそもそと、二人は起き上がり顔を見合わせる。

「五歳児が『プライドってもんはないですか?』とか言うか?……やべ、笑える……やべ……ふっくく」

「第二位は別格であれだけど、絹旗も絹旗で変なガキよね……くっくくく……」

そして、笑いあった。


ここまで

ちなみに

滝フ
麦絹

って感じに布団並べてます

ではまた



〜〜〜

「ごちそうさまでした」

自分を慕う少女、その少女の名前を垣根は知らない。
知っているのは心理定規という能力名だけだ。
何度も肌を重ね、何度も求めあったにも関わらず垣根はこの少女が料理できることすらも知らなかった。

「お前、料理なんて出来たんだな」

心理定規の淹れてくれたコーヒーをのみながら、ポツリとこぼす。
カップを持つ手には、綺麗に包帯も巻いてある。

「失礼ね、ってあなたは何回言わせる気?
料理くらいこの年頃の女なら出来るわよ」

そういえば歳も知らなかったな、と改めて何も知らないことを思い知る。

――いや、知ろうとしなかっただけか……なんでだろ?

熱くなった頭が冷えた事でいろんなことにきがつけるようになった。

――この五年間、俺は誰とも深く関わろうとしなかった。
組織の構成員とすら関わりを絶ってきた。

垣根が暗部入りし、仕事用と支給された携帯電話には四人の番号が刻まれている。

一人はこの少女、心理定規。
もう二人は組織の構成員、名前すらしらない。
そして最後の一人は指令を下してくるやつだ。


――つーかよ、俺心理定規以外の構成員と会ったことすらねぇぞ?

携帯電話を渡された日、構成員を一度集めて顔合わせと早速入った依頼のミーティングをしろと言われた。
垣根はそれを無視し、依頼は一人でこなしたのだがその理由がわからない。

今まで下される指令はレベル5の垣根がわざわざ赴くまでも無いような簡単なものばかりであった。
垣根は構成員に指示をし自分は極力手を汚さずにいる事も可能だったのだ。

「あれ?じゃあお前はなんでここにいるんだ?」

湧き出た疑問。
それは、この少女だけは何故ここにいるのかというものだ。

「なによ、急に……。あなたがここにいるから私もここにいる、それだけじゃない」

「そうじゃない。なんでお前はスクールにいる?」

「あぁ、そういう事ね。
それも簡単よ、暗部入りしてスクールというところで働けって言われたけどいつまで経ってもリーダーから連絡こないから私のほうからあなたに会いにきたのよ。
なに?忘れたの?」

「あぁ、正直お前の顔すら今の今まで忘れてた気がする。
俺は……一体何をしようとしてたんだ?何をそんなに頑なだったんだ?」

少しだけ怒ったような顔をした心理定規を気にせず、垣根は問いかける。
だが勿論そんなことを心理定規が知るはずもない。


「わからないわよ、あなた本当にどうしたの?変よ」

あまりの垣根の様子のおかしさに、怒りを忘れ本気で心配そうな顔をする。

「……昔の、友人に再会した」

「暗部に堕ちてたの?」

「……あぁ」

「それって、絹旗最愛ちゃん?」

「な、なんでお前がそんな事知ってんだ!」

心理定規から出るはずのない一番大切な人間の名が出たことに驚く。

「あなた、たまに寝言で『最愛ちゃん、どこ?見つからないよ』って言ってるから……調べたのよ」

衝撃の事実であった。

「おま、それ……なんで言わなかった?」

「あなたのことが好きだから。
あなたの口から他の女の話なんて聞きたくないのよ」

「冗談はやめろ、俺は真剣なんだよ!」

カップを置き、思わず立ち上がり机を叩く。
綺麗に巻かれた包帯に、血がにじむ。

「本当に何回言わせる気なの?失礼な人ね、って……悪いけど、本気よ」

「なっ……馬鹿、じゃねぇの?」

「そうね、でも恋なんてしたら、誰でも馬鹿になるわよ」

何も言えなかった。
垣根は大人しく座り直すと、またカップに手を伸ばす。

「ま、いい機会だし……聞かせてよ愛しい愛しい最愛ちゃんのことを」

心理定規はからかうように言う。

「……そう、だな……。
少し整理したいこともあるし……な」


〜〜〜

「最愛ちゃん!あそぼ!」

自由時間になるたびに垣根はすぐに絹旗の元へと寄って行った。

「……いいですけど、何するんですか?」

絹旗はやれやれまたか、という風にため息をつくと、読んでいた本を閉じる。

「んーと……図鑑!」

垣根は少し考えると、目を爛々とさせながら答える。

「図鑑?図鑑で何するんですか?殴りっこですか?なんなんですか、その頭の悪い答えは!」

「う、怒らないでよ……」

絹旗の迫力に、一歩後ずさり涙目になる。

「あーっ!もう!超イライラしますね。
男ならシャキッとしてください!だいたいあなた私よりも四つも年上じゃないですか!」

「最愛ちゃんは、とても五歳には思えないほどしっかりしてるよね!
難しい言葉も使うし」

ころっと表情を変え、今度はニコニコと笑う。

「こんなの私たちの育ってる環境を考えたら超普通です!あなたがパーすぎるんですよ!」

馬鹿にされたにも関わらず、何故か垣根は照れたようにえへへと笑った。
その様子が絹旗をさらに苛立たせる。

「あー、もういいです。あっち行ってください。邪魔です、超邪魔です」

しっしっと手で追い払うが、垣根は動かない。
再び本を開き読み始めた絹旗をじっと見つめていた。

絹旗は気にしないように努めるが、気にしないようにと考えれば考えるほど気になってしまうものだ。
そして、十五分程過ぎたところでついに折れた。

「……あー、わかりましたよ!超わかりました!図鑑でも何でもいいですよ!早くしてください」

その言葉を聞くと垣根はぱぁっと笑い、本棚へ走って行った。


〜〜〜

「すごくウザがられてるじゃない」

「それでもいつも遊んでくれてたぜ?」

心理定規は嫉妬だとかヤキモチだとかそういうところを考える余裕もなかった。

「あなた、凄いアホの子だったのね。
というか、どんな成長したらそれがそんな風になるのよ」

「幻滅したか?まぁ、どうでもいいけどな。
俺はすげぇ泣き虫ですげぇ馬鹿ですげぇ弱虫だったんだ。
でも、暗部入りした時にその弱さを捨てた……はずだった」

垣根の声がだんだん暗くなる。

「でもよ、何か引っかかる。
あいつが暗部入りしてたってだけでここまで動揺するなんておかしいんだ。俺はいつか暗部の中であいつと会った時のことも考えてはいたのに……その考えすら吹き飛んで……なんだろうな」

「……続きを聞かせてよ……その答えはきっとあなたじゃなきゃわからないわ」


〜〜〜

「花、ですか……あなた本当に男ですか?
いや別に男が花好きでも超構いませんが、普通動物とか恐竜とか宇宙とか、そういうの超持ってきません?」

絹旗の言葉に垣根はキョトンとする。

「はいはい、なんでもないですよ。
んで?花の図鑑で何するんですか?」

「見るの!一緒に!」

何故か自信満々にそう答える。

「……一人で――」

「ヤダ!一緒に見たいの!」

「……わかりましたよ。
帝督は好きな花とかあるんですか?」

結局絹旗は、そうしていつも垣根の相手をしてやっていた。

「向日葵ですか……私はカミツレが好きですね。ほら、載ってたかわいいですよね!」

「うん!でも、最愛ちゃんのほうが可愛いよ!」

「花と比べられても……」

絹旗もこれがもし少なくとも年相応の精神年齢をした男の子に言われたら多少はドキドキしただろう。
しかし、相手は五歳児から見てもアレな垣根である。


「色んな花があるねー!
沢山花が咲いてるところとか最愛ちゃんと行ってみたいなぁ」

垣根自身も何かを意図して言っているわけではない。

「はぁ……私は嫌ですよ。行くなら一人でどうぞ」

「最愛ちゃんにいっぱい綺麗な花教えてあげるね!」

「人の話を超聞かない人ですねぇ……。
というか、一緒に図鑑見てたら知識量は同じ……いや私のほうが上になりますよ?」

「それでもいいよ!
別に教えてあげるのが目的じゃないもん」

垣根は当たり前のことのように言う。

「最愛ちゃんと、見たいんだよ!」

「……そうですか。あ、そろそろ実験の時間ですね。行きましょうか」

垣根は返事をすると自然と絹旗の手を取る。
絹旗ももはや何も言わない。


〜〜〜

「あぁ、あなたがたまに花の写真撮ってるのってここにルーツあったのね」

「俺も今思い出した。自然と撮っちまうんだ」

「好きな花は?成長して変わったりした?」

少し考え込み、垣根は答えた。

「そう、だな……名前が思い出せない。
確か最愛が教えてくれたんだ……。
そん時は何言ってるかわからんかったけど、暗部入りした頃に分かって……あれ?」

「はいはい、少しずつでいいから。
ちなみに私は……ナズナが好きよ」

「ぺんぺん草か、渋いな」

「馬鹿……」

「あん?」

「なんでもない、さぁ次次」

「あぁ、じゃあ遊んでくれた話じゃなくてあいつが俺を助けてくれた話をひとつ」


〜〜〜

「超ふざけた真似してくれるじゃありませンか。
防御に特化した私の能力でも、防御しか出来ねェわけじゃないンですよォ?」

絹旗が珍しく研究員に切れていた。
その横では垣根が倒れている。
顔色が悪く、口と鼻から出血している。

「さ、いあい……ちゃん……」

「帝督は超黙っててください。死にますよ?」

「ぼくが、悪いんだから……なかなか、能力、でな、い……ぼくが……」

いつまでたっても能力を発現させない垣根に痺れを切らした研究員達が無茶苦茶な負荷をかけた実験をした。
その結果、垣根はぶっ倒れ、鼻血を出しついには吐血した。

そんな垣根に対し、舌打ち暴言をはき挙句放っておけと言った研究員が絹旗は許せなかったのだ。

「帝督は超何も悪くありませんよ。
能力が発現していない子なんて沢山います」

絹旗は研究員を睨みつける。
絹旗がこの研究に放り込まれたのは一年前だ。
そして絹旗は誰よりも早く能力を開花させ、目的でもある第一位の演算パターンを組み込むと言うのに適合した。

現在暗部で生き残るその力は、既にこの時習得していたのだ。

「超殺してやる」

垣根は絹旗にとって手はかかるが大切な友人だ。
その垣根を傷つけられた事がこれほどまで絹旗の逆鱗だったとは絹旗自身が一番驚いていたかもしれない。


〜〜〜

その二日後、垣根は医務室から出られるようになり一人読書に耽っていた絹旗の元へと飛んできた。

そして、開口一番こういった。

「駄目だよ、ここの人に逆らったら。
最愛ちゃんが殺されちゃったら……いやだ」

と。

勿論、自分が殺されそうだったというのに何を言っているんだ、と絹旗は怒りを覚える。

「帝督が死ぬのは超良いんですか?」

「嫌だけど、最愛ちゃんが死ぬよりはいい」

「じゃあ私もそうですよ。帝督が死ぬよりは……いや、やっぱなしです!超なんでもありません!」

本を勢い良く閉じると、そのまま垣根から逃げるように部屋を出て行った。

その頬は少しだけ赤に染まっていたことを、垣根は特に気にしていない。


〜〜〜

「今考えると、俺たち両想いじゃね?俺は勿論大好きだったし、最愛のほうも満更じゃない感じじゃね?」

「というか、あなたが九歳で最愛ちゃんが五歳よね?そこに違和感を覚えるわ」

若干引き気味に、心理定規は垣根の顔を見る。

「あー、あいつはガキらしくなかった。
五歳の時からなんか難しそうな本読んでたしな。ずっと研究機関で育ってるから当たり前だといっていたな」

「まぁ、もうそういうことにしておきましょうか。
あと気になったのがあなたはじめから超能力者って言ってなかった?」

「ん?あぁ、発現するのに時間かかっただけ。
厳密にいうと、レベル0からレベル5って事だな」

「そういうことね。あなたが最愛ちゃん助ける話とかはないの?」

心理定規の質問に少し考えたあと、垣根は自信満々に言い切った。

「……ないな!」

「本当にダメダメな子だったのね」

哀れむように、心理定規はため息をついた。

ここまで


〜〜〜

「よくねた」

翌朝、一番はじめに起きたのは滝壺であった。
滝壺はまだスヤスヤと寝息をたてる三人を順番にみると、満足そうに頷き和室を出る。

「ごはん、作ろうかな。
確か……あった、鮭の切り身……これできぬはたもむぎのみたいになれる」

一人にっこり笑い、早速調理に取り掛かった。

鼻歌なんぞを歌いながら、手際良く料理を完成させて行くと、絹旗が起きてきた。

「超おはようございます。
あ、ご飯作ってくれてたんですか?ありがとうございます!
何か超手伝いましょうか?」

「ううん、大丈夫。
顔洗ってきなよ、そしてむぎのとふれんだ起こしてきて」

断ったのは絹旗は料理が出来ないからという理由では決してない。
実際のところもうほぼ完成しており、あとは並べるだけなのだ。

「おふぁよ〜、なんか……変な夢みたわ」

「あー、私もよ……絹旗がなんか……図鑑持って追っかけてきた」

朝からげっそりとした顔つきで二人が起きてきた。


「あれ?きぬはたは?」

「あー?私ら起こしてからトイレかな?わかんね、どっかいったわ」

「……まぁ、いいか。ご飯ならべるの手伝って」

「あ、その前に顔洗ってくる……フレンダ、私が顔洗ってる間やっとけ」

この隠れ家は脱衣所、洗面所が狭く、絹旗、フレンダ、滝壺はよく三人で風呂にはいるため少しでも広くしようとタオル類の入ったタンスはリビングとして使っている部屋においてある。

そのタンスから綺麗にたたまれたタオルをひとつ取ると、麦野は洗面所へ向かった。

「今日の朝ごはんなぁに?……おぉ、鮭の切り身にお味噌汁、ほうれん草のおひたしに納豆とは……これまた朝からすごい豪華ね!ありがと、滝壺!」

「ううん、最近戦闘ばっかでわたし車で待機ばっかだしね。
これくらいはやるよ」

「結局そんなの気にしなくていいってことよ!
適材適所なんだし、昨日なんて私と麦野もほぼ突っ立ってただけだしね。
おぉ、お味噌汁に麩がはいってる!私これ好きー!」


フレンダは寝起き直後はぼんやりしているが一度スイッチが入るとすぐにフル回転する脳みそをしているようだ。
きゃっきゃと楽しそうに滝壺の作ったものを並べていく。

「お、鮭の切り身とは流石滝壺ね。サンキュー!
オラ、フレンダてめぇも顔洗ってこい」

麦野は顔を洗うのがスイッチのようだ。
洗顔後の麦野はやけにシャキッとしている。

「……きぬはたは?」

「……部屋で寝てんのかな?見てくるわ」

「よろしく」

一番寝起きが悪いのは絹旗である。
誰かが起きるとそれにつられ起きてはくるのだが、またすぐどこかで寝てしまう。
まだ子供なので、仕方ないといえば仕方ないのだが。

麦野も消え一人になった滝壺は残りの料理をすべて並べ終え、あとは食べてくれる人を待つだけの食卓を見て満足そうに笑った。

それから少しすると、完全にスイッチの切り替わった麦野、フレンダとまだ眠そうにしている絹旗が揃って入ってくる。

「よし、じゃあたべよう」

各々が席に着くと、麦野の言葉でアイテムの一日が始まった。

「んじゃ、いただきます!」


〜〜〜

「……ん、朝……か」

「あら、ちょうどいいわ、そろそろ起こそうと思っていたのよ」

上体を起こし、ぼんやりしているとリビングのほうから心理定規が顔を出した。

「あれ?俺昨日……あれ?」

「気持ち良かったわよ?」

「……えー、記憶ねぇんだけど……えー、俺こんなダメなやつだったっけ?」

「冗談よ、昨日は同じベッドに入ったけどなにもしてないわ。
あなた自信満々に『俺が最愛を助けたことはない!』って自分で言ったあとショックうけてそのまま寝ちゃったのよ、覚えてないの?」

「……あぁ、全く覚えてねぇな。
というかなんか昔の自分に引きずられてねぇか?
ショック受けて寝込むとか……ありえねぇだろ」

垣根は一晩眠ったら完全に暗部入り後の精神に安定したらしい。
昨夜昔話をしたことを失敗したという風に、舌打ちした。

「まぁ、いい。腹減った飯作ってくれ」

「起こしにきたって言ったでしょ?ごはん、出来てるわ」

心理定規は呆れたように軽く笑うと、そのままリビングへと戻って行った。

「……ナズナ、ね」

成長した今の垣根は冷酷だが頭はいい。
精神不安定な状態時の事さえも、頭が覚めてくると同時に思い出してきた。

『ちなみに私は……ナズナが好きよ』

草花に堪能な垣根だ。
勿論、花言葉も知っている。


「本当、強い女だな」

花言葉というのは、何種類か意味があるものもある。
人に送ると意味の変わるものもある。

ナズナの花言葉は「すべてを捧げます」そして「あなたにすべてお任せします」である。

心理定規は恐らく「私を選んだら、私はあなたにすべて捧げる」という意味と「どうするかはあなたの自由にしてください。私はあなたの選んだ道を応援します。私とあなたの今後の関係、すべてあなたに任せます」という二つのことを言いたかったのだろう。

「そんなの、答えは決まってる……お前を……というか、俺は誰も選ぶことはないし、俺とお前の関係も変わらない」

昨夜素になりかけた時には、自分の中の感情をひとつひとつ解き明かそうとしていた垣根だが、睡眠を取ることにより再び仮面を被ってしまったようだ。

「さて、今日もサクッと人殺しか」

起き上がり、心理定規の作ったごはんを食べにリビングへ向かう。
部屋を出る時、ベッド脇のテーブルの上に鉢植えがひとつ置いてあるのに気がついた。

「……はいはい、わかったよ」

垣根はその意味を瞬時に理解し、微笑んだ。

「心理定規には情けねぇところ見られちまったし、俺が忘れたものを取り戻すにはお前が必要みたいだ。
お前には辛い思いさせちまうかもしれねぇが……お前を信じるよ」

その花を軽く指ではじくと、冷めるから早くきなさい、と心理定規が垣根を呼んだ。


〜〜〜

「ねーねー、絹旗」

朝ごはんを食べ終え、片付けを滝壺以外の三人で済ませると、仕事のない面々はぼんやりとリビングのソファに座りテレビを眺めていた。
それに飽きたのだろうか、フレンダが映画のパンフレットをめくる絹旗に声をかける。

「なんですか?キャッチボールなら超壁としててください」

「あたしゃ野球好きのあんたの弟か!
暇だし、昨日の話の続き聞かせてよ」

「昨日の話?」

「第二位のバカ話ってわけよ!
絹旗が暗闇の五月計画にいたのって二年くらいでしょ?だったら結局まだまだあるでしょ?」

フレンダは目の前にオモチャを出された犬のように目を輝かせる。

「あー、別にいいですけど」

「じゃあ、おふろの話聞きたい」

「ちょ、滝壺さんっ!」

「じょうだん、怒らない」

「まぁ、暇だしな昼までそれ聞いて昼は適当に食いに行きましょ……たまには奢ってやるわ」

麦野も乗りきでテレビを消し、絹旗の逃げ道を上手にふさぐ。
冗談はド下手くそな麦野だが、相手を追い詰めるのは得意だ。

「まぁ……私にとって痛い話はないですしいいですけど……」

「あ、じゃあ――」

「おふろは超却下です!」


〜〜〜

「最愛ちゃん!」

その日は雨だった。
ザァザァと雨音が鬱陶しい中でも垣根は元気いっぱいに絹旗の元へとやって来る。

「今日は何ですか?」

「カタツムリ!」

「はぁ……カタツムリ?」

相変わらずの頭の悪いセリフにうんざりする。

「うん!雨だしカタツムリ取ろう!」

「馬鹿なんですか?」

「うん!」

馬鹿なんですかと聞かれ笑顔でうん、と答える垣根に若干イラつく。

「超雨なんですから外行きたくないですよ、だいたいカタツムリはバイキンまみれなんですよ?
帝督なんてただでさえ弱いのにバイキンまみれのカタツムリ触ったら超死んじゃいますよ?」

「うー……じゃあ見るだけ……行こ」

「いや、ですからね……外にまず行きたくないんですってば」

「行かないなら最愛ちゃん嫌いになる!」

垣根は絹旗に背を向ける。

「……あぁ、はい……そうですか!どうぞご勝手にっ!」

「……ばかー!」

絹旗が言うと、垣根は泣きながら走り去ってしまった。

「なっ……超なんなんですか!」


〜〜〜

「というかさ、第二位って発達障害かなんかなの?
精神年齢というか、知能指数ヤバそうじゃない?それで九歳でしょ?」

絹旗の話を途中で止め、麦野が思わず口を出す。

「えぇ、まさか第二位になってるとは超思いませんでしたよ……というか、冷静に考えたら今私あいつに負けてるんですよね……なんか超死にたくなってきました」

「天才と馬鹿は紙一重だからね……それよりもおふろは?」

お煎餅をぱりぱりかじりながら、滝壺はしつこくお風呂で絹旗をからかう。

「超黙れ、もう滝壺さんは超黙れ!」

軽く流せばいいのに、絹旗もその度に顔を赤くし反応してしまうのだった。


〜〜〜

その後垣根は自由時間が終わり、実験が始まってからも戻ってこなかった。
外から聞こえる雨の音は激しさを増している。

――超大丈夫でしょうか……?

絹旗は、モヤモヤとしたものを胸に抱えながら窓の外を見つめる。
当然、意識が外に散っているので、実験は散々な結果だった。

その結果で、研究員に口汚く罵られもした。
しかし、そんなのは些事だ。

いまの絹旗にとっては、垣根帝督がどこに行ったのか、というほうが重大であった。
そしてそれ感情を絹旗は弟を心配する姉のような心境だと自分に言い聞かせていた。

――まったく、本当に手がかかる人ですね。……私がいなきゃ何も出来ないくせに。

窓の外をじっと見つめる。

――こんな雨の中にあの貧弱がいたら超風邪っぴきになります……けど、そういえば帝督は私が嫌いなんでしたね……じゃあ、迎えに行かないほうが……いいです、よね。

なぜこんなにも垣根帝督に嫌いだと言われたことが引っかかるのかわからなかった。
単純に自分より弱っちいやつに噛みつかれたのがムカついただけかもしれない。
まとわりついて来るうるさいのが消えて急に静かになったから不安になったのかもしれない。

――ダメだ、やっぱ超イライラしますね。よし、帝督の気持ちなんて無視です。探し出して一発超ぶん殴ってやりましょう。

しかし、絹旗はここでうじうじとするような子ではない。
自分のやりたいことをやる。
それが、絹旗最愛だ。

そして、その性格が絹旗を孤独にもしていた。


〜〜〜

「カタツムリ……かわいいのに」

垣根は雨ガッパを着てさらに傘をさした状態で紫陽花の葉の上に乗っかるカタツムリを眺めていた。

「最愛ちゃんのばか……あじさい、雨降った方が綺麗だから見せたかったのに……。ばか……」

頬を膨らまし、目を閉じ傘が雨を弾く音に心を溶かす。

――雨、すこし怖いけど好きだ。この音聞いてると頭がすぅっとする。

しばらくそのまま雨音を聞きいる。
頭の中には焼き付けたキラキラ光る紫陽花を思い浮かべながら……。

垣根としては数分の感覚だった。

しかし、実際は数時間たっており、次に垣根が目を開くとあたりは暗くなっていた。

「えっ!なんで、どこ?」

パニクり、わけのわからぬことを口走る。

「えっ?えっ?どうしよう、どうしよう!……うぅ……」

そして、ついに泣き出した。

晴れた日ならば職員が気づいただろうが、今日は土砂降りだ。
誰も垣根の声には気づかない。

「うう……最愛ちゃん……」

そんな時決まって垣根が呼ぶのは絹旗の名だ。
そして、決まって助けに現れるのも、絹旗最愛だ。


「超、探しましたよ……この、ばか……」

絹旗は傘も差さずに、ずぶ濡れになりながら息を切らしていた。

「最愛ちゃん!」

垣根にとって絹旗は光そのものであったのかもしれない。
絹旗の顔を見た瞬間涙も不安も恐怖も吹っ飛んだかのように笑った。

「ほら、さっさと帰りますよ……カタツムリ、触ってないですよね?」

「うん!みてただけ!」

「なら、いいです。……カタツムリじゃなくて紫陽花を見ようって誘ってくれたら、私も行きましたよ」

ふい、と垣根から顔をそらしながらいう。

「うん、ごめんね?
でもね……あじさいって、うつりぎ?って意味があるんだって……あじさいはきれいだから見たかったけど、それを見にいくってすると、なんか……不安だったんだ」

垣根はうつむいた。

「……変わりませんよ、帝督はずっと私の……と、友達です!超友達ですよ!」

呆れたようにため息をつくと、絹旗はすこし恥ずかしそうにそう言った。

「うん!僕も最愛ちゃんだぁい好き!
ずっとずっと、大好き!」

「……嫌いになるって……はぁ、もういいです」


〜〜〜

「ねぇ、結局一体垣根帝督のどこに惚れたってわけよ?」

カタツムリ事件の話を終えると、フレンダが本当に不思議そうに尋ねた。

「ほ、惚れたぁ?私が?あの馬鹿に?馬鹿な事言わないでくださいよ!あ、寝言ですか?フレンダ超寝てるんですか?窒素ぱんちいっときますか?」

「無自覚かよ……」

「超麦野まで何言ってんですか!惚れてたのはあいつで私は別になんとも?」

絹旗は真っ赤になりながら、否定する。

「……まぁ、いいや。惚れる要素ねぇしな」

「そ、そうね!うん。子どもってそういうところあるもんね!」

麦野が何やら心配そうな顔つきになり、この話題を打ち切ったのをフレンダは的確に読み取り、その流れに乗る。

――なんだぁ?なんか、こう……そういや絹旗って暗部入りするまえ何やってたかしらねぇな……。嫌な感じがしやがる……。

絹旗最愛という少女の闇を、麦野は知りたいと思っていた。
しかし、そのことに麦野は気づいていない。
そして、その感情が好奇心などというものではなくもっと純粋なものだとは当然のごとく、わかるわけもない。

ここまで

あとレスありがとう


レスありがとう!
あとあげさげとかは気にしなくていいっすよ

今日はちと今飯食ってからそのまま寝ちゃってたからこれるかわからぬ
来れたら日付変わる頃か夜中に来ます

〜〜〜

――お母さん、どこ?

――お母さん……どこなの?

「垣根帝督くん、かな?」

――おじさん、だれ?

「おじさんは君を迎えに来たんだ」

――いやだ、あっちいけ。ぼくはお母さんと一緒にいるんだ。

「君のお母さんはもういないよ」

――うそつくな、お母さんはぼくとずっといてくれるってやくそくしてくれた。

「いないよ、君が――殺したんだ」

――ち、がう!ちがうちがう!ぼくがお母さんをころすわけないだろ!あっちいけ、くそじじい!

「……仕方ないガキだな……おい、殺さん程度になら痛めつけても構わん、連れて来い」

――やめ、ろ!なにすんだ!はなせ!やめろぉおおお!


〜〜〜

「お、金はいってら……」

朝食を終えると垣根はパソコンをつけ口座をチェックした。
フレンダが垣根のターゲットを殺したのだが、報酬はしっかり入っていた。
どうやら、ターゲットが死ねばその方法や過程は本当にどうでも良かったらしい。

「えーっと、今日の仕事は……あぁ?研究施設の警護?……警護なんて初めてじゃねぇか?」

続いてメールをチェックすると、本日の仕事が指令役から届いていた。
最初は電話で仕事を受けていたが、最近はメールだ。
指令役と電話をするのは死体処理の依頼や、必要物資の要請の時だけになっている。

「しっかし……警護対象がまた人を舐めてやがるな」

対象は垣根もよく覚えている、散々垣根を罵ってきた暗闇の五月計画の生き残りであった。

「ご丁寧に研究員の名簿まで送って来やがって……どういう意図だ?」

しかし、垣根は賢くなった。
絹旗に甘えっぱなしだった幼少期とは違う。

「ふん、暗闇の五月計画は空中分解したって訳じゃないんだな。
そして、たかが一枚の書類を見ちまっただけでここに堕とされた俺も……学園都市に不要な超能力者というわけじゃないらしいな」


暗部に堕とされ五年。
暗部に堕ちている超能力者は垣根と麦野のみだ。

その意味を垣根はずっと考えていた。
二百三十万のトップに君臨する超能力者がクソみたいな暗部に堕とされる理由。

それはつまり、不要な存在だということだ。

そう、思っていた。
しかし、今更過去の遺産を引っ張り出してくるということはその根底が覆る。

「初めから、仕組まれてたって事かね。俺が母親にここのクソどもに売り飛ばされたその時から全部予定通りってわけだな」

しかし、その目的がわからない。

「……何故、俺は学園都市にいる?何故、俺は親に捨てられた?」

自分のこれまでを振り返り、垣根は基本的な疑問にぶつかった。
いままで何故考えることが無かったのかが不思議なほどの根本的な疑問だ。

『何故、自分は学園都市に売られたのか』

「やべぇ、なんか笑えてくるな」

今まで本当に自分から目を逸らして生きてきた事を実感した。

「やめよ……今それに向き合うチャンスが来た事を素直に喜べばいいんだ」

メールの内容をすべて頭に叩き込むとそのメールを消去する。

「とりあえず、この仕事はいつもより注意深くやんねーとな」

大きく息を吐くと、パソコンの電源を落とした。


〜〜〜

「ほれ、好きなもん頼みな」

アイテム一行は昼食に出て来ていた。
麦野以外の三人はてっきりいつものファミレスに連れていかれると思ったが、たどり着いた先は普通の学生には縁のない超高級レストランであった。

「ありがとうございます……あ、あの……私達超場違いじゃありませんか?正直メニュー見る余裕が無いんですが……」

その店の雰囲気にあてられ絹旗とフレンダはそわそわしっぱなしだ。

「というか、結局ドレスコードとかあるもんじゃないの?なんでこんな適当な服でいれてくれちゃうの?」

「あーあー、わかったわかった」

やかましい二人に耐えかね、麦野は手を軽くあげる。

「如何されましたか、麦野様?」

「いやさ、この子たちが店の雰囲気にビビっててとても飯食うどころじゃないからさ……あの部屋空いてるか?」

「はい、あの部屋は麦野様以外には極力使わせるなとオーナーよりきつく言い渡されていますゆえ……移動なさいますか?」

まるで漫画に出てくる執事のように、その初老の男は丁寧な口調で麦野と会話していた。


「麦野超ここによくくるんですか?」

男が準備が整うまで待っていてくれ、というような事をいい立ち去ると絹旗は気を紛らわそうと麦野に尋ねる。

「ん?あぁ、ここのオーナーとさっきのじいさん、昔からの知り合いなんだよ」

「……むぎのは本当はお嬢様だもんね」

特に気後れした様子を見せないマイペースの権化滝壺が変わった形のグラスをいじりながら言う。

「結局麦野ってレベル5じゃなくてもこういうお店これる財力を持った家で育ったってわけ?だから余裕なの?」

「……否定はしねぇが、おまえらも気後れなんてする必要ねぇだろ。
怒られたらごめんなさいでいいんだよ。
でもま、個室が空いてるらしいからな、個室ならのんびり食えるだろ?」

「あぁ、はい。多分超平気だとおもいます。はい。……はい」

――こういうところは普通の女の子なんだよな……。

麦野はそわそわキョロキョロとする絹旗を、じっと見つめた。

その後個室に移った四人は楽しく昼食を摂る事ができ、満足した様子で帰って行った。


〜〜〜

「やぁ、どうも久しぶりだな」

任務開始は午後九時からであった。
垣根は指定された場所へ行き、懐かしい顔と再会した。

「しっかり働けよ」

相変わらず、第二位になった垣根を見てもそいつは小馬鹿にしたような、垣根を垣根として見ていなかった。

――腹立つな……殺してやりてぇが……それをしちまったらこいつの勝ちだ……耐えろ。

必死に自分の自制心に言い聞かせる。

「んで?何からおまえを守ってやりゃ良いんだ?」

「簡単だ……襲ってくるもの全てからだ。今新しい実験をしているのだが、それを妨害しようとする輩がいる。
表に知り合いを作ったモルモットは扱いにくくて敵わんな……」

「……あぁ、わかったぜ」

ぶん殴りたいのを我慢しながら垣根は答える。

――相変わらず人を人と思ってねぇんだな。とりあえず今は妨害してくる連中の中にアイテムがいねぇ事を祈るだけだな。

期間は三日。
その後は違う組織が引き受けるらしい。

――んでもって、あいつなら俺がここに売られた理由を知ってるだろ。なんとか聞き出さなきゃな……。

今回の一番の目的は自分の事を知る事だ。
情報さえ残してもらえたら、あの研究員が死のうが生きようが関係ない。

ただその情報というものは、刃物よりも鋭利に人の心に突き刺さる。
その事を垣根はまだ知らない。


〜〜〜

「今日はわたしとむぎの、きぬはたとふれんだでおふろね」

滝壺はそういうと、了承を得る前に麦野の腕を取り風呂場まで引きずって行った。

「超なんでしょう?」

「さぁ?結局滝壺の考えなんて麦野にすら読めないってわけよ。みた?あのすごい困惑した表情」

フレンダはもう滝壺のやる事は説明があるまで考えないようにしているのだろう。
諦めたような表情で笑った。

「というか、あれフレンダがやったら超原子崩しですよね。
滝壺さんのあの強さというかなんかこう……超なんなんですかね?」

「あれはもう才能よね、能力の一種でいいとすら思えるわ……麦野ですら対応不可なんて……滝壺ってばやっぱすごいわ」


〜〜〜

「……んで?」

麦野は湯船に滝壺と向かい合いながら浸かっていた。

「やっぱおっきいね」

そういいながら滝壺は当たり前のように麦野の胸を触ろうとするが、流石にその手は弾かれる。

「あんたがここまで強引って事はなんかあるんだろ?言えよ」

「……」

滝壺は何か考えているのか、それとも何も考えていないのか、それすらわからない。
そんな読めない表情に麦野は怒りではなく、不安を感じた。

「……むぎのさ」

滝壺は唐突に話始める。

「なにか、悩んでる?困ってる?とにかく、ここ最近変だよ。なにかあったらわたしにくらいは相談してね?」

滝壺は軽く微笑むと「それだけ」といい、さっさと風呂を上がる。

「……悩んでる?私が?……なにに?絹旗の事か?でもそりゃ……違うだろ、悩みとかじゃなくて……興味……?いや、違うな……はぁ?」

残された麦野は一人ブツブツ言いながら考える。
それはつまり滝壺の言葉を否定する事なく、気づいていなかった悩みを素直に受け入れたという事である。


〜〜〜

「さいあい?もあい?もあ?」

「さいあいです!最も愛されるで最愛です!」

垣根はバカのくせに、漢字など暗記系は何度かいわれるとすぐ覚える子だった。
絹旗の名前をみて、考えられる名前を口にしていく。

「次もあいとか言ったらぶっ飛ばしますからね」

「最……愛……?」

キョトンと首を傾げる。
何かが引っかかったが、それがわからない。
わからないので垣根は忘れる事にした。

「最愛ちゃん!遊ぼう!」

「……超却下です。私は本を読みたいので一人で遊んでてください」

絹旗は垣根に背を向ける。

――真っ先に私のところに来た……。

そんな絹旗の気持ちなど知る由もなく、垣根は少し考えたあと、トテトテと何処かへ行ってしまった。

――あ、また名前聞けなかったですね。

字を追うが、内容が頭に入ってくる事は無かった。
初めてこの街に来た日の朧げな記憶が理解の邪魔をする。


――……超ダメですね。もう寝ようかな。

小さくため息をつくと、背中に負荷がかかった。

「……なに、してんですか?」

「ぼくも読書ー!」

「いや、なんで私に寄りかかってるのかって聞いてるんですが?」

「最愛ちゃんが好きだから」

「んなっ……馬鹿なんじゃないですか?」

まだ、絹旗は垣根がバカだという事を知らない。
垣根帝督が本物のバカだと気づくまで、絹旗は垣根の言動に振り回される事になるのだが、おそらくそんな昔の事は二人とも覚えてはいないだろう。


〜〜〜

「はぁ、いい湯だった!」

下着姿でフレンダ、絹旗はソファへ体を沈める。

「はぁ、ソファのこの冷たいのが超気持ちいいですねぇ」

「二人とも、風邪ひくよ。なんか着なさい」

滝壺は言いながら、タオルケットを二人に投げ渡す。

「あぁ、風邪と言えば帝督はよく風邪引いてましたよ」


〜〜〜

「超ちゃんと寝てますかー?」

絹旗は小声でベッドに眠る垣根の顔を覗き込む。

「あ、さいあいちゃん……元気?」

「私は超元気ですよ。それにしても帝督は貧弱すぎです……熱は?」

「んー……にゃい!」

「にゃい!じゃありません!超計らせろ」

聞きながら、おでこに手を添える。

「最愛ちゃんの手、冷たくて気持ちいい」

垣根はふにゃっと笑った。

「私の手が冷たいんじゃなくって、帝督が熱すぎるんですよ。超高熱じゃないですか……あ、冷えピタみたいなの貼りますか?」

「ううん、大丈夫」

「そうですか」

「うん……あ、もうそろそろ実験の時間じゃないの?……行かなくて、いいの?」

泣きそうな目で絹旗を見つめる。

「……ち、超いいんですよ。ほら、手」

「手?」

「熱にうなされないように、繋いでてあげます。ね?」

「最愛ちゃん、今日はなんか優しいね……」

「私はいつも超優しいです」

「うん、そうだった。特に、ぼくには……優しい、よね」

垣根はそのままストンと眠りに落ちた。

「……超自惚れてますね」

手を握る力を少しだけ強くした。


〜〜〜

「あれ?それっていつの話?なんか絹旗がわざわざ第二位のお見舞い行くなんてらしくないじゃん?」

「ん?そういえば……そうですね。
でもこれはあの研究所で再会してすぐくらいの時ですよ」

――再会?暗闇の五月計画が初対面じゃねぇのか?

「ねぇ、絹旗」

気になった麦野は、直接聞いて見る事にした。

「なんですか?」

「今再会って言ったけど、その前にどこかであってたの?」

絹旗は少し考え込むと、首を横に振った。

「いや、会ってないです。
でも確かに私『再会した』って超言いましたね、多分こないだ再会したからかな?言葉の綾ですよ」

そして特に気にした様子もなく笑った。
麦野の胸には更なるモヤモヤしたものが残った。

ここまで


〜〜〜

「……最愛。最も愛される子……そういういみがあるんじゃないの?」

それが絹旗最愛が外の世界で最後に言った言葉だ。

「そう……そっか……好きってきもちは……なくなっちゃうんだね。
じゃあ、わたしはひとを好きになんかならない。ひとりで生きる……。
わたしを最も愛するのは、わたしだけ」

絹旗最愛は素晴らしく聡明な子だった。
好奇心が強く、言葉を話始めると、すぐに文字も覚え絵本や童話を読み漁っていた。

そしてそんな聡明さが彼女を日の当たらない暗部へと引っ張り込んだ。

『ここ、どこ?』

――学園都市ってところと関わりのある研究所だよ。最愛は頭がいいから学園都市の中でも一番になれるかもしれないよ。

『いやだ、そんなのいらない。おとうさんとおかあさんが一緒にいてくれたら……それだけでいい。それがいちばん』

――大丈夫、何があってもおとうさん達は最愛を愛しているから。ずっと一緒さ。

――レベル3?凄いじゃないか!

『うん!ええと、ちっそが……うぅんよくわからないけど重いものも持てるようになったよ!』

その時の両親の顔を絹旗は覚えていない。
忘れたいほどの顔をしていたのだろう。

能力開発をして、直様それを自分のものとした我が子を絹旗の両親は迷わず捨てた。

少なくとも絹旗にとっては両親の行動はそう映った。

「しらない。しらないしらないしらないしらないしらない!もう、しらない」

学園都市へ向かう車の中絹旗最愛はひとつの決心をした。

「もう、泣かない。もうだれもしらない」



〜〜〜

「警護ってか、警備?なんでもいいや……ヒマすぎる」

対象が現在の垣根を前にしても余裕を持てるほどの狂った奴だ。
大抵の刺客ならばある程度は撃退できるはずだ。

「やっぱ、俺をこの街に欲しがった野郎が何か仕掛けてくると考えていいよな」

――そういや、最愛は……俺と離れ離れになったあとどうやって暗部へと堕ちたんだ?

一人屋上から目を光らせながら垣根は様々なことを考える。


〜〜〜

絹旗と垣根が離れ離れになったのは、現在から七年前だ。
垣根はその後約二年間暗部組織と関わりのある研究施設にいた。
そしてそこで目にした一枚の紙切れが彼を暗部たたき堕とした。

絹旗はというと、能力の更なる向上を目指しより過酷な状況に放り込まれていた。
窒素装甲の効果範囲を拡大するため薬漬け実験漬けの日々を送っていた。

そんな絹旗を支えたのは意外にも垣根であった。

絹旗は垣根を守らなくてはいけないという強迫観念にも似た何かを持っていた。
だから、耐えることが出来た。

そして、垣根帝督を守る最大の方法、それが暗部入りだったのだ。

予定では三年かかる実験工程を一年半で終わらせ、絹旗は窒素装甲の最大の弱点である効果範囲の狭さをある程度克服した。
強度は落ちるが、自分の周囲五mまで操ることができるようになっていた。

「素晴らしい」

研究員は醜く笑う。

「超どうでもいいです。約束通り、また一歩レベル5へと近づきましたよ?そっちも約束通り、垣根帝督には手を出さないでくれるんですよね?」

「あぁ、約束しよう。垣根帝督には手を出さない。
そうそう、君もそろそろ能力名をつけたらどうだろうか?」

「そんなもの窒素装甲とでもしとけばいいんじゃないですか?読み方はお任せします。では」

「ふむふむ、窒素装甲……ね。
君は今日から私たちの間では“窒素装甲”だ」

ニヤリと、気味悪く笑ったが、それを絹旗は見逃していた。


〜〜〜

「そういやさ、暗闇の五月計画ってどうして頓挫したの?」

大きな電気を消し、灯っている豆電球を見つめながら麦野が尋ねた。

「あー、それ私のせいらしいんですよね。
なんでも、第一位の演算を組み込むだけじゃ解決出来ない問題があったらしく、それで帝督と私は離れ離れになったんです」

「つまり、その解決出来ない部分を解決するためにお前は違うところへ送られたってわけか……それがなんで暗部になんか堕ちた?」

隣に横たわる絹旗の横顔をみながら聞く。

「んー……あれ?何か取引をしたような気がしますけど忘れちゃいましたね。
というか、麦野がこんなこと聞いてくるの超珍しくありませんか?」

何故か嬉しそうに微笑んだ絹旗が、麦野方を向く。
目が合ったが麦野はなんとなく気まずさを感じすぐそらした。

「いや、別になんとなくだよ。気に障ったか?」

「それこそ超麦野らしくありません。
もっと麦野は超魔王みたいじゃないと……」

「ぁあ"?」

「そうそう、それです。麦野は私たちの超頼れるリーダーなんですから、そんな私に変な気なんか使わないでください」

はっきりとした拒絶を感じた。
絹旗にとって自分の内部に関わるわかりやすい情は不快なものなのかもしれない、と麦野は思った。

「まぁいいや。なんか寝れねーし第二位の話もっと聞かせろよ」

「そうですねぇ……じゃあ花を見に行った時の話でもしましょうか」


〜〜〜

「うわぁ!すごいすごいすごい!学園都市にもこんなところがあったんだね!」

垣根は職員に頼み込み、絹旗と共に植物園へと来ていた。

「はぁ……あなたいったいどうやってここへ来る許可取って来たんですか?」

「……」

額に汗を浮かべ、目を逸らした。

「ちょっと?超心配になってきましたよ?……待て!どうやったか超話しなさい!」

「え?い、いやーそんなことより……ほら、あそこ最愛ちゃんのすきなカミツレあるよ!」

わざとらしく大きな声をだす。

「こら、帝督!……めっ!」

絹旗と垣根の関係をいちばん良く表している言葉が「めっ!」であるかもしれない。
どんなことでも、絹旗が垣根に対しこういうと、垣根は全てを諦め白状するのだ。

「う……その……最愛ちゃんが……ここ壊すぞって脅し、た?」

そして、目を左右に泳がせながら、垣根はしどろもどろとそういった。


〜〜〜

「あっははは……結局垣根も結構やるじゃん!」

「ね、パーなかきねとは思えないナイスアイディア」

「というか、あんたどんだけ研究員から信用なかったのよ」

絹旗の話を聞いていた三人は笑った。

「いや、まぁ……あの時は帝督守るためなら超なんでもやってましたからね。
多分研究員が帝督のお願いを却下したら大泣きしたでしょうし、大泣きしてるあいつを見たら私はその研究員に殴りかかっただろうし……まぁ、私はお姉ちゃんですからね!」

絹旗は胸を張った。

「結局あんたらの関係性がイマイチわからないってわけよ。
アイテムはいってからの五年間は仕事以外は基本自由じゃない?
なんで絹旗は垣根を探そうとしなかったの?」

フレンダが尋ねたその内容に麦野はかるく舌打ちする。

「そんなの……会えるわけないじゃないですか。私は人殺しなんですよ?」

絹旗の声が曇る。


「そんな、人殺しの私が……まぁ、もう守る必要もなくなってましたけど、帝督を守れるわけないじゃないですか。
汚れた手では、何も守れないんですよ。
何も……」

小さな声で何かを呟いたが、それは三人の耳には届かなかった。

「……さて、続きは超明日にしてもう寝ましょう」

五分ほどの沈黙が続くと絹旗が、パッと明るい声を出しさっさと布団をかぶってしまった。

「ご、ごめん」

麦野の刺し殺すような冷たい視線に、フレンダは本当に申し訳なさそうな声をひねり出した。

このバカ、と麦野は口を動かすと、そのまま布団をかぶった。

「滝壺……私って結局空気読めない子?」

「結局、というかなんというか……ふれんだは普通に空気読めないよ」

「……はっきりいってくれてありがとう。
今夜はまくらを涙で濡らすわ」

冗談っぽくそういうと、フレンダは少し真面目な顔をして絹旗の頭を撫でた。

「ごめんね、絹旗……今度映画奢ってあげるわ」

そしてそうつぶやくとフレンダも布団をかぶった。


〜〜〜

「ダメね、全然ダメ」

「……そうか、悪かったな」

風の音が心地よい屋上に垣根と心理定規は立っていた。

「かなり無茶して調べて見たけど……あなたの両親は見つからないわ。両親どころか、あなたがこの街に来る前の情報は何者かに一切合切消されてるわ」

「つまり、俺は外の世界にはいない人間ってわけか。
こりゃ、次仕事で外に行く機会があったらそこで殺されるかもな」

俺を殺せるかは別問題だが、と最後に付け足す。

「あと二日でこの仕事終わりでしょ?どうするつもりなの?」

「どうするもこうするも……仕掛けられるのを待つのみだ」

「私の能力使ったらいいんじゃない?って言ってるのよ」

「バッカ、あいつが好意を持つってのはより研究価値のあるモルモットってことだ。好意持たれても殺されるだけだ」

この街の研究者は例外なくぶっ壊れている。
垣根はそのことを痛いほどわかっている。いや、垣根だけではなく、暗部に堕とされた子供達ならば誰でもわかっていることだ。

「そう、じゃあ私は帰ってもいい?
襲撃された時ここにいたら足でまといにしかならないし」

「おう、もう夜中だし下部組織に迎えきてもらえ」

「……はいはい」

心理定規はがっかりしたように返事すると、カツカツと靴を鳴らして消えた。


〜〜〜

「ここが今日からお前の部屋だ」

垣根はぼんやりとしながら頷く。
学園都市へ連れてこられもう二年がたっていた。

「……」

無理矢理車に押し込まれ、見慣れた故郷を連れ出されてから垣根は単語しか発していない。

そしてそれは決まって「おかあさん」であった。

「……」

職員が消え一人になると部屋を見回す。
特に何もない。

置いてあるのは机とベッドだけだ。

ベッドに腰掛けてみる。
かたく冷たいベッド。

母親が干してくれた太陽の匂いのする暖かいベッドを思い出した。

「うぅ……う……」

母親のことを思い出すと垣根はいつも泣いた。
そして気がつくと眠っていて、夢を見る。

優しい母親。
綺麗な母親。
自分に笑いかけてくれる母親。

目を覚ますと消えてしまう幸せな光景。


〜〜〜

「ん……ふぁ……」

垣根が目を覚ますした翌日の朝であった。

どうしたらいいのかわからず、とりあえず部屋をでてみる。

キョロキョロとあたりを見回しながら、施設内を歩き回った。

「超どうかしましたか?」

フラフラとしていると、急に後ろから声をかけられた。
その声に驚き、大げさに振り向く。

立っていたのは自分よりも小さな女の子だった。

「……あ、なた……」

女の子は垣根の顔をみると少しだけ驚いたような顔をした。

「……」

垣根は困ったように首を傾げるだけだ。

「っ……食堂はあっちですよ」

その子はぶっきらぼうにそういうと、通路の奥を指差しさっさと行ってしまった。

「……」

垣根はその女の子の背中をぼんやりと見つめる。

――なつ、かしい?


〜〜〜

「実験のある日は名札をつけてここにいろ。無い日はどこにいてもかまわん」

朝食を終え部屋にいると、職員に大きな部屋へと連れられた。
そして、それだけいうとさっさと部屋を出てしまう。

部屋の中には十数人の子供がいた。
垣根を見てる子もいれば、全く興味も示さない子もいた。

「あ……」

垣根はその中に先ほどの女の子を発見する。
恐る恐るその子に近づき、名札をみるとそこには「絹旗最愛」と書かれていた。

――さいあい……?もあい……?

「さいあい?もあい?もあ?」

「さいあいです!最も愛されるでさいあいです!」

絹旗は反射的に振り返りながらそう答え、尋ねて来たのが垣根だとわかると何故か少しだけひるんだ。

「つ、次にもあいとか言ったらぶっ飛ばしますよ」

「最……愛……」

垣根は絹旗の名前を繰り返す。


「最愛ちゃん、遊ぼう?」

頑なに心を閉ざし、思い出に浸っていた垣根が、その心を一瞬で開いた。
その相手が絹旗最愛であった。

懐かしい。
何故かそう、感じた。
そして、それが母親を懐かしむ気持ちと重なった。
だから垣根は迷わず絹旗に心を開けた。

絹旗は驚いたように数回大きく瞬きすると「却下です!読書するんです」と言った。

しかし、やっと見つけた光である。
垣根は絹旗の却下をさらに却下し自分も本を引っ張り出してきて、絹旗に寄りかかるように座った。

「……なに、してるんですか?」

「ぼくも読書!」

「いや、なんで私に超寄りかかってんですか?って聞いてるんです」

「最愛ちゃんが、好きだから!」

「バカなんじゃないですか?」

なんと言われようと構わなかった。
ただ、絹旗最愛は垣根帝督に必要だったのだ。
それを、垣根は理解していただけである。

そして、なぜ必要であったのか、それを思い出した時、この二人の関係は変化する。

ここまで

黒ちゃんはまだわからぬ
出るとしても過去話に出る程度だと思う

時系列どこかミスってるかもしれない

垣根→七歳で学園都市入り、九歳から十一まで絹旗と過ごす、十三の時暗部入りで現在十八歳

絹旗→三歳の時学園都市入り、五歳から七歳まで垣根と過ごす、九歳ころ暗部入り、現在十四歳

こんな感じ
ミスってるところあったらこれが正しい
しかし、こんな三歳児本当にいたらこわいよなー

すまん、トリミスった


〜〜〜

「はい、今日は仕事入ってるんだが……絹旗、お前は待機でいい」

朝ごはんを食べ、のんびりくつろいでいると麦野が突然そんな事を言い出した。

「な、なんでですか?私超なんかミスしたりしました?」

戦闘要因が待機命令を出される、それはつまり自分の力を否定されたようなものである。
己の力が全ての暗部でそれは、実質的な死につながりかねない。
絹旗は困惑しながら麦野に噛み付く。

「違う、そうじゃない。
今回の任務は……あんたみたいなぶっ壊す能力より、フレンダみたいな暗殺術のほうが向いてるってだけよ」

「そんなので納得出来るわけないじゃないですか!
暗殺だって何件もやってきてます。
なんで今回だけ超待機なんですか?」

「……アイテムの頭は私だ。私に従えねぇならぶっ殺すぞ」

「違います、アイテムの要は滝壺さんです」

子供のようにつっかかる。


「……あぁ、そうだな。私でも代わりが効くんだ、だったらお前ごとき代わりなんて掃いて捨てるほどいるってわからねぇか?」

「ちょ、麦野言い過ぎだって!」

非常に珍しい麦野と絹旗の言い合いに、思わずフレンダが口を出す。

「うるせぇぞフレンダ……殺されたくなきゃ黙ってろ」

麦野の一言にフレンダはひるみ、黙る。

「……麦野なんて」

絹旗は唇を噛みしめながら泣きそうな声をだす。

「麦野なんて、超殺ししか出来ないくせにっ!」

そしてそう言い捨てると、壁をひと殴りして隠れ家を出て行った。

「……むぎの」

「わかってるっ!わかってるから、少し黙ってて」

「……とりあえず、今回の任務……内容教えてよ」

それくらいは聞く権利があるはずだとフレンダが麦野を少し睨みながら言う。

「……勝手に読め」

麦野は自分で説明しようと口を開きかけるが、苦々しい顔をすると指令の届いた携帯電話をフレンダに投げ渡した。


「……何だってのよ」

その態度にフレンダもイラつきを隠さない。

しかし、受け取ったそれを見て、麦野の気持ちを理解した。

「……こ、れ……マジ?」

「……私だって、信じたかねぇよ……いろんな意味でな」

「だって……こんなのって」

フレンダの顔には恐怖と驚きが浮かんでいる。

「……やっぱり」

フレンダの後ろから指令を覗き見た滝壺は麦野の態度である程度の予想は立っていたのか、あまり驚かない。

「暗闇の五月計画は……まだ終わってなかったんだね」

指令の内容、それは現在垣根帝督が警備している施設への襲撃。
条件は麦野沈利の生存と滝壺理后の生存。
それはつまり、垣根帝督と絹旗最愛・フレンダの殺し合いを要求するものであった。
そして、ここでフレンダはおまけであろう。
リーダーである麦野沈利と、絹旗も言ったとおり実質的なアイテムの要である滝壺理后は失ってはならない。
しかし、そこにただの構成員であるフレンダまでいれてしまうと、絹旗と垣根を戦わせたいのが丸わかりとなる。
その為の、フレンダ死亡容認だ。


「……てか、結局私の立場って……」

「安心しろ、私がリーダー張ってる間は例え鬱陶しいお前でも死なせはしねぇよ」

「……ありがとう、涙出てきたってわけよ!」

「暗闇の五月計画って、なにが目的なのかな?
七年ごしでしかけてくるなんておかしくない?」

滝壺はあくまで冷静に敵を知ろうとする。

「……表向きってか暗部の中では第一位の演算パターンを適合化させて……能力の向上を目指すって感じだな」

「それは、もうすでにきぬはたが成功例だよね?」

「結局垣根だってある意味成功例でしょ?
あの実験の中にいて、レベル5になってんだもん」

三人は真面目に考え込む。

「……いや、垣根はわからねぇぞ?もともと才能の片鱗みたいなものを見せたガキを使ってたみたいだし……第一位の演算パターンがむしろ邪魔になって発現が遅れたって可能性もある」

「あぁ、そっか。レベル5なんて『自分だけの現実』の塊みたいなものだもんね」


「でも、第一位の演算パターンに触れた事でかきねが覚醒した可能性もあるよ」

答えを誰も持っていない問答だ、三人は自然と黙る。

「……やめよ、とりあえず今夜垣根帝督と……話が通じるかわからねぇが話してみよう」

「結局それしかないってわけね。……絹旗は……麦野の対応正しかったかもね。
あの子無自覚だけど垣根にベタ惚れだし、でも無自覚だからこそ垣根とぶつけたら悲惨な事になってたと思う」

「だね、最善ではないかもだけど、間違ってはいなかったとおもう」

これで麦野のやや暗い表情が晴れるとは思わなかったが、フレンダは言わずにはいられなかった。


〜〜〜

「結局、私はアイテムがいつのまにかすごい大事な居場所になってたってわけよ」

三人はそれぞれ、特にフレンダは仕事前は準備に時間がかかる。
麦野のような自分自身が兵器な超能力者とは違い、フレンダのスタイルは道具ありきだ。

超能力者、それも麦野沈利よりも序列がうえの垣根にフレンダの小細工が通じるとは思えないが、出来る限りの事を準備する。

「うん、私ははじめから……むぎのとふたりだった頃からむぎのが居場所で、きぬはたやふれんだが増えてからさらに大事になったけど……」

ぽつりとフレンダの後ろにおいてあるベッドに座る滝壺が、いつも通りの口調で話す。

「そうね……正直はじめはやばくなったら一人でトンズラするつもりだったわよ」

「うん、むぎのもきっと前までならきぬはたとふれんだだけ向かわせてたとおもう。
なにがむぎのを変えたのかは知らないけど、きっといいことだよね」

「うん!……あ、私が「めっ!」って言っても効くかな?」

「……ころされるとおもうよ。
腰から一直線に真っ二つ、そうしたらお約束の「まて、私の足!」ってやつやってね」

目をキラキラさせながら、滝壺は期待に満ちた表情をした。

「……結局、滝壺実は私のこと嫌いだったりするわけ?」

フレンダは低い声でそう唸った。


〜〜〜

――あー、超イラつきますね。

当てもなく飛び出した絹旗は、一人イライラと街を徘徊していた。

――本気で意味がわかりません。なんで私が……私は、ここでも……要らない子、なん、ですか……?

イライラが段々と悲しみへ変化して行く。
力強く地面を踏みしめていた足も、力を失いついには止まった。

――やっぱり、私の名前は私のためだけにあるんですね。最愛、私をもっとも愛するのは……私。

『違うよぅ……』

「え?」

突然聞こえた声に、絹旗はハッと我に返る。

「……え?」

あたりを見回すが、声の主らしき人は見当たらない。

「超空耳?……ダメダメですね、私」

自嘲するように、フッと笑うと、また静かに歩き出す。

「あーあ、あの頃はなんだかんだ言って超楽しかったですね」

空をみながら思い出すのは垣根と過ごした幼少期だ。

いつも自分について回る年上の男の子。
何故だか守らなくてはと思った男の子。
その“何故”を考えたことはない。


――お父さんやお母さんは今頃なにしてるんでしょうね。

もう今更なんの未練もない両親のことを思い出す。

――大きかったお父さんの手。優しかったお母さんの手。
お父さん、お母さん……私はあんたたちの捨てた娘は……手を血で汚してますよ?どんな気分ですか?

とっくに吹っ切ったと思った両親への恨み言がポンポン出てきた。

――……虚しいですね。映画……って気分でも無いし、買い物って気分でもありません。普通の中学生はこんな時何して超遊ぶんですかね?

アイテムの誰かがいないと暇すら潰せなくなっている自分に少しだけ驚きながら、街中を歩く学生を見つめた。

羨ましい、とは思わない。
結果的に無駄に終わったが、絹旗が暗部に堕ちたのは自分の目的の為であったから。
しかし、楽しそうだ、とは少しだけ思った。

――もしも、私も帝督も暗部なんかに堕ちずに、普通に開放されていたら……今頃、あんな風に歩いてたんでしょうかね?

手をつなぎながら微笑み合うカップルをみながらそんな事をぼんやり考えた。


〜〜〜

垣根に警備の任務が入ってから二日目。その日、変化は起きた。

「……おーおー、わかりやすく正面からくるとはなかなか見所あるじゃん?」

屋上から飛び降り、堂々と闊歩してきた麦野の前へ立ちはだかる。

「やぁ、こんばんは。
アイテムの麦野沈利、か?
俺はスクールのリーダー垣根帝督だ」

自身の能力の象徴、純白の翼を舞わせながら、垣根は不敵に微笑む。

「……ぐっ、くく……」

「……あん?なんだおい?お前いきなりなに笑ってんだ?」

垣根を見るなり顔をそらし必死に笑をこらえる麦野に、苛立ちながらも不審に思う。

「ちょ、ごめん……待って……少し、待って……まじ、で……本当にごめん……頼むから、その翼……しまって」


堪えきれなくなり、麦野は細かく笑いながら垣根の背中のそれを指差しながら言う。

「……チッ……失礼なババアだ。
さい……絹旗に免じていきなり殺したりはしねぇが……ムカついたな」

「ちょ、待てって!落ち着け、ドンパチやりに来た訳じゃねぇよ!それにやるつもりなら絹旗連れて来て盾にするっつーの」

麦野はこのままでは殺されると直感で理解し、慌てて垣根を宥める。

――くっそ、こんなの私のキャラじゃねぇだろ……。

そう思いながらも、垣根の発する今まで感じたことのない冷酷さをした殺気に本能が生きろと命じてくる。

「……じゃあなんだ?レベル5の麦野様が、俺とニコニコ穏やかにお話しようと思ったってのか?あ?」


「答えは、イエスよ。悔しいけどね。
腹探りあっても意味ねぇから単刀直入に言うぞ?
アイテムに来た今回の依頼、簡単に言ったら玉砕覚悟で第二位を殺せってものなのよね。
でも私は死にたくねぇから代わりに絹旗とフレンダ……この前ふたりとあったんでしょ?この二人差し出すわ」

「……つまり、それでお前と滝壺理后を見逃せって事か?」

「そうよ、絹旗とはお友達らしいし、渡したあとは何してくれても構わないわ。
力でねじ伏せて犯そうが、×××に×××しようが、あんたの勝手よ。
フレンダのほうも、馬鹿だけどツラとスタイルはいいし、悪くない条件だと思うけど?」

麦野は二人をまるでゴミを差し出すかのように、冷たい口調でそういった。
数十秒ほど垣根はうつむいたまま黙り込むとやがてぽつりとつぶやく。


「……わかった」

恐ろしいほど平坦で、それでいて色の濃い声。

「やべ、やりすぎたかも」

麦野が本気の焦りを見せるのと同時に、垣根の背中から先ほどとは比べ物にならない巨大な翼が現れる。

「ゴミカスが、最愛を侮辱するんじゃねぇよ……死んで詫びろよクソッタレ」

『麦野、盾だして!』

耳に貼るタイプのイヤホンから、フレンダが指示を出す。

それにすぐさま反応し、麦野は能力を展開させた。
それと同時に爆発と、それによって少しだけ起動のずれた白い翼が麦野のすぐ横の空間を切り裂いた。

「あっぶね!てめ」

反射的に反撃しようと考えるが、そのスキすら与えずに垣根は追撃してくる。


「やべ」

すぐ目の前に、死神のカマが迫っていた。

――死……。

「んで……ない……?」

目の前に迫ったそれは、カァンと耳触りのいい音をさせながら横へ吹っ飛んだ。

翼が吹っ飛んだ方向と逆の方向を見ると、フレンダがどこから用意して来たのか、巨大な銃と共に倒れていた。

「フレンダぁ!」

垣根も自身の攻撃が麦野ではなく自分にちびりそうなほどビビっていたフレンダに二度までも阻止されたことに動揺したのか、追撃を忘れた。

「いっちち……肩、ちゃんとついてる?怖くて見れないんだけど……」

半泣きになりながら、フレンダはへへっと得意気に笑う。

「ついてる、ついてる……馬鹿が、無茶すんじゃねぇよ!」

「それ、結局麦野には言われたくないってわけよ……。
というか、再会一言目が「どこでヤった女だ?」のやつが絹旗侮辱するなって結局無理あるわよね」

フレンダは右肩を抑えながら、ゆっくりと起きあがる。

「……あれ?なんで取引材料の金髪がここにいるんだ?」

動揺から一気に頭が冷えた垣根は目の前の光景を見て状況の不自然さに思考を始めた。

「お、垣根ってば頭はいいわね。
滝壺に体晶使わせなくて大丈夫っぽいよ」

「あ、あぁ……そうだな」

麦野はフレンダを支えながら、頷いた。

「……どういう訳だ?」

そして、垣根は一人状況に取り残されたまま、困惑顔で立ち尽くす。


〜〜〜

「た、ただいま?」

絹旗は恐る恐ると隠れ家の扉をあけた。
中に入るが、麦野に殺されそうになったら即座に逃げれるように、ドアは閉めない。

「ち、超誰もいないんですかー?」

ビクビクしながら抜き足差し足で部屋の中へと入って行く。

「きぬはた」

「ひゃあぅっ!」

「……傷つく」

「た、たたた滝壺さん!傷つくとか言われても、部屋電気もつけないでそんな廊下の端から声かけられたら誰だって驚きますよ!」

「えへへ」

「超えへへじゃありませんよ!
仕事は?終わったんですか?……というか麦野は?超、怒ってますか?」

段々と声に覇気がなくなって行く。

「うん、カンカンだよ。
リビングで待ってるから、私はきぬはたが逃げないための見張り」

滝壺はいつも通りの優しい穏やかな口調で言う。

「うう……行かなきゃ、駄目ですかね?超まだ帰宅してないってことで……」

滝壺にねだってみるが、滝壺は首を横に振った。


「もう無理、さっきの悲鳴できぬはたが帰って来てることはみんなわかってる」

「う、うぅうう……」

泣きそうな顔で絹旗は唸った。
そして、覚悟を決めてリビングのドアを開ける。

「……座れ」

麦野は顔もあげずにただそう言った。
そして絹旗はおとなしくそれに従う。

「……」

「……」

お互い無言で、時計だけが正確なリズムを刻む。

「おい、お前……」

時計の針が午前零時を刺したのと同時に、麦野は口を開いた。

「今、何時だと思ってんだ?」

「超、十二時ですけど……?」

「私が仕事の話して、お前が飛び出したのは何時だ?」

「えぇっと……午前十時半くらいですかね?」

「ガキがそんな時間からこんな夜中までどぉこほっつき歩いてやがった?
私らが仕事行ったのが、七時過ぎ、帰ってきたのが八時半……それからてめぇ……」

麦野は机を叩くと、絹旗を睨みつける。


「えぇ?そんなことで怒ってんですか?麦野に暴言吐いた事じゃないんですか?」

「んなもんただのケンカだろぉが!
それより、てめぇまだ十四だろぉが!ガキがフッラフッラ深夜徘徊してんじゃねぇぞクソバカが!」

「いや、別に私襲われてもたいていのやつなら――」

「んなことはカァンケェイねぇんだよ!
お前は午後十時からの外出禁止だ」

「な……はぁ?仕事で日付変わることもザラにあるじゃないですか!」

「そりゃあいいんだよ、私も一緒にいるだろ。
つーか、お前今まで一人でこんな遅くまで出かけてることなんか無かったじゃねぇか……心配したんだぞ」

麦野は絹旗の頭を乱暴に撫で回した。

「は、はは……なに、言ってんですか?
私は……アイテムに、要らな――」

予想外の展開に絹旗は呆然とする。

「あーっ!絹旗いつ帰ってきたのよ!」

そして、絹旗の言葉を遮るようにフレンダが部屋へ入ってきた。


「本当にバカね、ちょっと仕事外されたくらいでプチ家出なんて……超バカよ、結局絹旗は超バカってわけよ」

何時の間にか部屋に入ってきていた滝壺が微笑みながら絹旗に頷いた。

「はは……超、ごめんなさい……。
私、ここにまだ必要ですか?」

絹旗はうつむきながら三人に尋ねた。

「当たり前のこと聞くなバカ」

「絹旗居なくなったら結局つまんないってわけよ」

「かわいい」

三人はそれぞれ、絹旗の言葉を即座に肯定した。

ここまで

アイテム回フレンダ回

〜〜〜

時はフレンダが裏技ともいうべき方法で垣根の攻撃を止め、垣根が事態に置いてきぼりにされているところへと戻る。

「おい、意味わからねぇ……説明しろ麦野沈利」

「簡単にいうと、暗闇の五月計画はまだ終わっちゃいない。
あの実験はなんのためのものか……お前に聞きにきた」

「それとさっきの暴言、なんか関係あんのか?」

「お前が絹旗にまだ惚れてるかどうかの確認だよ。××××ヤローが」

口汚く垣根を罵る。
絹旗から過去の情けない姿を聞いていたためより一層現在は第二位という自分より上の力を持っていることにだんだんと腹が立ってきていた。

「惚れてる?確かに絹旗の事は大好きだが……別にそういうあれじゃないぞ?
ただ、なによりも大切にしたい、それだけだ」

垣根は麦野の言葉にキョトンとする。
フレンダは信じられないという表情で「まじか」とつぶやいた。

「……まぁ、いい。
今回私らにきた仕事は、絹旗とフレンダをお前にぶつけろって物だった。
丁寧に私と滝壺……アイテムの切り札だ、私らは死ぬなって条件付きでな」

垣根はブツブツと呟きながら思考をまとめて行く。

「つまり、最愛と俺を戦わせるのが目的って事か……でもなんで?暗闇の五月計画は最愛が完成例のはずだ、今更っつーかその当時でも失敗例の俺と完成例のあいつを戦わせてなんの意味がある?
なにが狙いだ?なんなんだ?」

考えれば考えるほどわからない。
無意味、ただその言葉だけが重くのしかかってくるだけだ。


「ちょっとまて……お前は失敗例なのか?それも確認しときたい」

「あ?あぁ、俺は失敗例だ。
暗闇の五月計画の中では能力は出なかった。その後他の施設で普通の能力開発したら一気に覚醒したからな……第一位の演算パターンが邪魔だったんだろうな」

「そうか……お前、なんで暗闇の五月計画に参加出来たんだ?」

「そりゃあ才能があったからだろ。当時能力発現してなかったけど、今はレベル4って奴が暗部に何人かいるし、なんかこう能力の欠片みたいのを測定する方法でもあるんじゃねーの?」

垣根は考えても明確な答えは出ないとわかっているように、適当に答えた。

「んなもんあったら学園都市に無能力者があふれるわけねぇだろ、バカメルヘンが」

麦野はそんな垣根の態度に腹を立てる。

「口がきたねぇな麦野様は」

「それより、誰がしかけてきてるのかもよくわからねぇし、スクールは調べたところお前と女の二人なんだろ?
だったら、うちも絹旗失うわけにはいかねぇからよ……同盟組まねぇか?」

「……いいだろう、お前らがさいあ……絹旗を大切にしてくれてるってのはわかったからな。
あいつを悲しませるような実験なら俺の手でぶっ壊してやる」

「おーおー、泣き虫帝督くんがいうようになったねぇ」

「……俺に常識は通用しねぇんだよ、あらゆる意味でな」

絹旗と仲が良いならば、当然過去の情けない姿も知られているだろうと諦め、開き直るようにそう言った。


〜〜〜

隠れ家へ帰る途中、麦野は思い出したようにフレンダに尋ねた。

「あ、そういえばあんたあれどうやったのよ?」

「ん?あぁ、第二位の翼吹っ飛ばしたやつ?
垣根と初対面のとき、落ちてた羽根一枚持って帰ってきてたのよ。
それを銃弾にしたってわけ」

「お前、あの翼加工出来んのか!」

麦野は素直に驚いた。

「いや、結局たまたまよ。
王水なら溶けるかなぁとか思ったけど無理だったから、自棄になって薬品全部適当にぶち込んだら溶けたってわけ」

もう二度と出来ないわよ、と笑う。

「ふれんだは、何気に優秀だよね。
あの銃も、手造りでしょ?」

「そーよー、普通の大きさじゃ心もとなかったし、一発撃ったら銃もぶっ壊れるのわかってたから試し撃ち出来なかったのよ」

だから撃った時の反動が予想より大きく、自分も吹っ飛んじゃったとまた笑う。

「……なんで、黙ってた。
言ってくれりゃ……私のコネでも使ってもっと安全策取れただろ」

不機嫌そうに麦野は顔をしかめる。

「結局時間がなかったってわけよ」

「……まぁいい。
滝壺も体晶使わずに済んだし、垣根とのパイプも出来た。三人ともほぼ無傷だし……今回は不問にしてやる」

そういいながら、ぽんぽんとフレンダの頭をなでた。


〜〜〜

「ふう……」

「誰がきた?」

研究所内へはいり、適当な椅子に腰掛けると警護対象がニヤニヤしながら垣根に声をかけた。

「さぁな、口汚ねえチンピラだよ。
殺す価値もないから追っ払った……別に殺す必要はねぇだろ?」

「……あぁ、構わない。
しかし、外に撒き散らした未元物質、あれはすぐにどうにかしろ。
お前が屋上から降りた瞬間カメラが動かなくなった原因だろう?」

思いのほか落ち着いている垣根に、研究員は不機嫌になる。

「すぐに風で流れるさ。それより、一つ聞かせてくれ」

「なんだ?」

「……俺はどうして学園都市に来たんだ?」

垣根の質問に、研究員は意外そうな顔をする。
そして邪悪に顔を歪めた。

「覚えてないのか?……そうか、なるほどな……警備はもういい、帰っていいぞ」

「おい、答えを聞いてねぇぞ!」

「そんなの、決まっているだろう?
未元物質、お前の力は外の世界では扱いきれないからだ」

先ほどの不機嫌から一転し、とても上機嫌な声で笑いながらそいつは研究所の奥へと消えた。


〜〜〜

「クソっ……バカにしやがって」

垣根はすぐさま帰宅すると、戸棚からウイスキーを取り出す。

「くそが……」

グラスとボトルをがちゃがちゃ言わせながら、垣根は一人何杯も飲み続ける。

「……あら?なんで帝督がいるのよ?
というか、飲み過ぎよ」

しばらくすると、心理定規が帰宅し、垣根の有様をみるとボトルを取り上げた。

「返せ……つかお前どこいってた?」

「だーめ……ただの散歩よ。
何があったのよ?仕事は?」

「終わった、特になんもねーよ……なんもねーのが、ムカつくんだ。
くそがバカにしやがって……」

机にそのまま突っ伏してしまった。

「もう、バカみたいに飲むから……ほら、ベッド行くわよ」

垣根の肩を揺する。

「……もう、なんか嫌になっちまったな。最愛には……アイテムの連中がいるし、俺なんかがあいつを守ろうなんて烏滸がましい事だったんだ。
それに結局、守れてもなかったし」


「何言ってるのよ、あなたらしくもない……いえ、これが本当のあなたなのかしらね?
まぁ、いいわ……とりあえず、今日は寝なさい。
あなたがどうしてここに来たか、その理由をあなたが知らないなんて事絶対にないのよ……ただ、忘れてるだけ。
そんなの、思い出したらそれでいいじゃない、その助けならいくらでもするわ……言ったでしょ?私を信じなさいって」

突っ伏す垣根の背中にそっと抱きつく。

「私の幸せは、こうやってあなたを支えること。
あなたの自然の笑顔を見ること。
それだけ……あなたを困らせたりはしないわ、だから……何も恐れなくていい。
最後に私を選ばなくてもいい、ただ諦めてしまわないで……そんなのあなたじゃない」

「何がだよ……俺は今までいろんなものを諦めてきたぞ……?」

「あなたまだ、お母さんにまた会う事は諦めていないじゃない。
あなた、絹旗さんを暗部から抜けさせる事を諦めてないじゃない。
あなた……絹旗さんとの約束を諦めていないじゃない」

「なに、言ってるんだよ、お前は……」

垣根はそのまま意識を落とした。

「あなたは、絹旗さん以外の女の人と寝ない方がいいわよ。
だって……あなたの寝言って「最愛」「お母さん」そして……「約束」ばっかなんだもん」

そっと垣根の頭を撫でながら心理定規はつぶやいた。
そして、そのまま頬に口付けた。


〜〜〜

「約束……だよ?」

垣根はボロボロと涙を流している。

「絶対、絶対に……約束だからね!守ってよ?」

「まだ今日は一緒にいれるんですから超泣かないでくださいよ。
約束の事なら……超忘れませんから……大丈夫ですよ。
誰が見捨てたって、私が帝督を一番好きでいてあげますから……私は、最愛ですからね」

泣きじゃくる垣根の頭をくしゃくしゃと撫でながら絹旗は笑う。

「最も人を愛せる子、それで最愛です。
だから、泣き止んでくださいよ……ほら、遊びましょう?」

絹旗から垣根を遊びに誘ったのはこれが最初で最後かもしれない。
ここまで垣根にわかりやすく優しく穏やかに笑いかけたのも、初めてだったかもしれない。

「最も……愛される子、じゃないの?」

「二つ意味があっても超いいじゃないですか。
二つ目の意味は、帝督のおかげで出来ました。
帝督がこの二年間私をずっと必要としてくれたから……私はやってこれたのかもしれません。
帝督のおかげで私はより強くなれました」

それは、別れの言葉なのだと垣根にもわかった。
結局、絹旗はその日泣き続ける垣根に垣根が一番欲しがっていた言葉をかけてやらなかった。


『絶対に、約束は果たしますよ』

垣根の欲しがったその言葉を忘れないという言葉で濁し、果たすとは言わなかった。

それは、絹旗の覚悟の証だったのかもしれない。
垣根との約束を果たすという希望を捨て、これからは一人きりで乗り切らなければというひどく悲しい覚悟の表れだったのかもしれない。

翌日、絹旗は最後の最後まで泣き続ける垣根に困った顔をするだけであった。
垣根のその後を案じたのか、もしかしたら自身の決心が鈍るかもという気持ちか、それは誰にもわからない。

「私以外の人とは……ダメですよ?」

絹旗が垣根に近寄り、その肩を軽く叩きながら言った。
そして言葉の意味がわからず思わず顔をあげた垣根に――。

「そろそろタイムリミットですね、視線が痛いです。
じゃあ……鳥お元気で」

二人を見ていた黒服たちには、絹旗が垣根に何をしたかは見えなかっただろう。
だから、これは二人だけの思い出だ。

例え、二人ともが忘れてしまっていても、事実は消えない――確かな思い出だ。


〜〜〜

「さて、と……これからどうすりゃいんだ?」

絹旗が寝てしまうと、他の三人はのそのそと布団から這い出てリビングに集まった。

「絹旗がここに来た事情って私知らないんだけど、結局そこに縛られてるってわけよね」

先ほどの、絹旗の言葉を思い出しながらフレンダは言った。

「あぁ、だな。
そして、垣根もなにかそういう部分があるみたいだったよな?」

「そうだね、暗闇の五月計画の条件にそういうのがあるのかも」

三人は少なすぎる情報からなんとか計画の目的を突き止めようとしていた。

そこで注目したのが、垣根帝督と絹旗最愛の共通点だ。

「ここにきた理由、か……麦野はどうして学園都市に来たの?」

なんとなく、麦野に話を振る。

「私は……純粋に超能力に憧れて、だよ……お前は?」

麦野も意外にも普通に答え、同じ事を聞き返した。

「私は結局本当に気づいたらここにいたわけよ。
外の世界でも殺し屋みたいな事やってて……この街に辿り着いたってわけ。
滝壺は?」

「私も、むぎのと同じだよ」

なんとなく三人は黙り込んだ。


「なんつーかさ……私らは望んでこの街に来て……まぁ、言っちまえば自業自得で暗部に堕ちた」

そしてぽつりと麦野がつぶやくと、滝壺、フレンダが続く。

「そうだね、でもかきねときぬはたは違う……他にも沢山きぬはたみたいな子いると思うけどさ」

「そう考えると、私らはまだ幸せだよね。
私なんかは暗部に入るためにここ来たもんだし……麦野はどうせムカついて人殺しちゃったとかでしょ?滝壺は……何したの?」

「それもむぎのと同じ。
能力が安定しなくって、周りの子を暴走させた。その結果、死人も出たよ」

「不可抗力だろうが、力を持ったらそれを制御する責任ってのがあるからな。
私らは暗部に堕ちても文句は言えねぇんだよ実際」

また、三人は黙る。
それぞれがなにを考えているのかはわからない。

――でも、アイテムで良かった。

だが、

――流れ着いたのがアイテムで良かったってわけよ。

そんな小さな幸福を感じていた事は、

――仲間がむぎのやふれんだ、きぬはたで良かった。

間違いないだろう。

ここまで



〜〜〜

「夢をみていた」

垣根は酒の抜け切っていないぼんやりした頭で起きるなりそう言った。

「……なによ、急に」

「夢をさ、見たんだ」

まっすぐ前を見つめ、抑揚のない声で喋る。

「俺がさ……母さんと笑ってる夢。
でも、母さんが俺を捨てたところだけは思い出せない。
気づいたら男たちに腕やら頭やら掴まれて、車に押し込まれてた。
俺はそこに至るまでを思い出したいんだよな?」

「そうね、それがつまりはあなたがこの街にいる理由だもんね」

だよな、と垣根は頷くがすぐさま、でも、と続ける。

「母さんの事を思い出そうとすると、最愛の事がどうしても頭に浮かんじまうんだ。
母さんみたいに俺の世話してくれたからかな?」

垣根の問いに心理定規は微妙そうな顔をして、はっきりとした肯定も否定もしなかった。
いや、したくなかったのかもしれない。

「なぁ、俺はこれから……どうしたらいい?」

「……とりあえず、昔の話をまた思い出していきましょう。
約束って言われて何かピンとくる?」

「約……束……?」

「じゃあまずそれを思い出して頂戴」

「……なんでお前はそんなに俺の事詳しいんだ?俺の忘れた事まで……」

「あなた寝言凄いのよ」

「……なるほど……最愛の前では寝れねぇな」

心理定規は逆でしょ、と言いかけたが、絹旗と垣根が同じベッドで寝ているところを想像してしまい、むしろそう思ってくれていたほうが良いと思い直した。


〜〜〜

「……じゃあもうきぬはたに直接聞こう」

「……何をですか?」

「……きぬはた、正直に言ってね?」

朝絹旗が目覚めると他の三人は既に起きていた。

そして、眠い目をこすりながらリビングへと入ると、入るなり滝壺に捕まった。

「な、なんですか?朝っぱらから超なんですか?」

「きぬはたは……」

「は、はい」

いつになく真剣な滝壺に思わず逃げ腰になる。

「私たち三人の中で、誰が一番好き?」

「……はい?」

「……だぁから、そんなの私に決まってんだろ!私が一番大人っぽいし、包容力もある!」

「違う違う、それは男に求めるもんよ。
女が女に求めるのは気安さと、さっぱりした性格ってわけよ!だから私よ!」

麦野もフレンダも何故かノリノリだ。

「ちがう、二人はダメ。一番は私。
きぬはたは私みたいなのんびりした子の方がタイプ」

「えっと……あの、超本気で聞きたいんですが、朝っぱらからなんの騒ぎなんですか?なんか三人とも普段とキャラ違くて若干引きますよ?」


三人のハイテンションについて行くのは不可能で、絹旗は低いテンションのままためらいがちに言った。

「……答えなさいよ」

しかし、フレンダは引き下がらない。

「えー、本当なんなんですか?
まぁ、いいですけど……麦野は超かっこ良くて綺麗で好きです。こう、なんというか憧れの人ですね。
滝壺さんも一緒にいて楽だし、基本すごく優しいですし好きです。超甘えたくなる人ですね。
フレンダ……フレンダは映画とか買い物付き合ってくれたり、なんかこうお姉ちゃんいたらこんな感じかなぁっていつも思います」

答えるまでは開放されないだろうと悟り、絹旗は正直な気持ちを伝えた。

「そーかそーか、お前私に憧れてんのか……可愛い奴め」

「きぬはた、甘えていいよ?」

「私が何気に一番高評価ってわけよ」

三人も素直に喜び、ニヤニヤしながら絹旗をもみくちゃにする。


「あー!もうっ!超なんなんですか!
三人ともおかしいですよ?何か変なものでも拾い食いしましたか?」

撫で回される頭を思い切り振り、三人から距離をとる。

「えー、別にいいじゃん。あんた結局この中では妹なのよ」

「私はフレンダみたいな適当な姉は超いらないです」

「照れるな照れるな」

「超うるさいです!もういいです、なんか三人とも気持ち悪いから朝は外で食べて来ますっ!」

照れてるのか怒ってるのか判断が微妙な顔つきで絹旗は出て行った。
絹旗が出て行くと、麦野がガクッと肩を落としながらつぶやく。

「……あのさ、滝壺」

「なに?うまくごまかしたでしょ?」

「いや、うんまぁ……」

得意気な顔の滝壺と真逆な疲れきった顔を麦野とフレンダはした。


「まぁ、いいや話戻そう。結局、この問題ってあの子には知られない方がいいわけ?
もう絹旗にも洗いざらい話して、垣根と会わせたらもうハッピーエンドになりそうじゃない?」

三人は昨夜からずっとこれからの事を話し合っていた。
絹旗は垣根と違いまだ暗闇の五月計画が過去の話ではなく、今なお絹旗最愛に牙を剥こうとしている事に気がついてはいない。
三人が必死に隠しているからだ。

「……なんつーかよ、絹旗の暗部入り前、そして学園都市入り前の話はタブーな気がするんだよ。
そこに触れたら絹旗は一気に壊れちまうんじゃないかって……そんなの私は嫌だ」

麦野は歯切れ悪く完全なる推測で言った。

「まぁ、とにかくきぬはたに直接聞くってのは無しで。
外の情報屋とか、アイテムのコネ使ってきぬはたが学園都市に来た理由は探ってみよう」

滝壺の言葉に二人は頷く。

そして数秒間をおき、それにしても、と麦野が少し照れたように呟いた。

「あいつやっぱ可愛いよな。困った顔とかされるとキスしてやりたくなる」

「……うん、正直『お姉ちゃん!』とか笑顔で言われたら……ヤバイってわけよ」

フレンダも同意する。

「無意味に抱きつかれて、上目遣いに『えへへ』とか笑われたら……たいへん」

滝壺も珍しく照れた様子でにやけていた。


〜〜〜

「約束、ね……最愛と離れ離れになった時……なんかした気がする。でも、俺はそれを……俺が最愛との約束忘れるわけねぇのに……俺は忘れてるのはなんでだ?」

「人は嫌な事は忘れようとするのよ」

「最愛との約束だぞ?死んでも守るべき大切なものだ。それが嫌な事になるはず、ねぇよ」

「そうかしら?例えば……絹旗さんに『私の事を忘れてください』なんて言われたらどう?」

「……それがあいつのためになるなら忘れてやるさ」

「無理ね、つまりはそういう約束じゃないってことよ。
叶えたいけど、叶えられない事がわかってしまった。だからあなたは忘れてしまったんじゃないかしら?」

「叶えられない……願い……?」

心理定規は精神系能力の高レベル者だ。
人とコミュニケーションを取る才能がある。
特にいま垣根に対し行っているような、対話者の本音や無意識の領域を引っ張り出すのがうまいのだ。


『そうですね、じゃあいつか――』

『うん!』

『……約束ですよ?絶対に二人で……』

「あ」

「思い出した?」

「いや、なんか……二人でやることに意味がある事だ。最愛が二人でって最後に言ってた気がする……」

垣根は頭を抱え込む。
記憶の扉が開いてくれない事にもどかしさと苛立ちを感じずにはいられない。


「無理に思い出したらダメよ、忘れてるって事は思い出したら辛くなるって事なのよ。
そして自然に思い出せる時が、その辛さを乗り切る力を得た時。
……この記憶はまだ、ダメみたいね」

心理定規は優しく微笑みながら垣根の頭を撫でる。

「今あなたが思い出せない事は三つ。
何故学園都市に来たのか、絹旗さんとの約束はなんなのか、絹旗さんに教えてもらった花の名前はなんなのか。
少しずつでいいわ、少しずつ強くなってくれればいい」

「……俺は強いぞ」

今までずっと主導権を握っていたのは自分の方だったのに、と垣根は不貞腐れたような声を出す。

「……それは本当に強さ?ただの虚勢じゃなくて、胸を張って強さだと言える?」

「言えるさ……」

「そう、じゃあ次絹旗さんに会ったら『俺は強くなったぞ』って言いなさいよ?」

「……言えるさ、今ならあいつを全てのものから守ってやれる。
あいつに泣きつく必要もない!俺は強くなったじゃねぇか!」

第二位という称号を得た。
強いと自信を持っていた。
それが、心理定規の言葉でいとも簡単に揺れてしまった。
それは、その強さが偽りだと自分でも心の何処かで思っていたからだ。

わからないものがまた一つ、増えた。


〜〜〜

「めそめそ泣くなっていつも超言ってるじゃないですか。なんでさっきは泣かないでいられたのに、今更泣くんですか?」

「……や」

「だーかーらー!しょうがないじゃないですか!ご覧の通り私は超グロッキーで出かけるなんて無理です!
早くいかないと超行けなくなりますよ?」

「ちがう!……とにかく、や!」

垣根が何に泣き、怒っているのか、その理由は簡単だ。

二ヶ月ほど前から申請を出し続けた外出許可がやっと通ったのだ。
垣根は朝食を食べ終え、ウキウキと絹旗の実験が終わる間出かける準備を進めていた。
そして、実験終了の時間になると絹旗のカバンも持ち、実験室から絹旗が出てくるのを待っていた。
絹旗の実験終了三時間後に目的地へ出発の予定なので、絹旗が現れたら気が早いと怒られるだろう。


しかし、いつまで経っても絹旗は出てこない。

三十分待ち、流石に研究員の一人すら出てこないのはおかしいと勝手に扉を開き中へはいる。

「さ、最愛ちゃん?いる?」

この実験室は、絹旗専用と言ってもいいくらいの部屋である。
廊下につながる大きな部屋と、他にも個室が三つほどついているようだ。
絹旗以外のものが、特に垣根が入ろうとするのを研究員は許さなかったので、この部屋を見るのははじめてである。

その中を、垣根はキョロキョロしながら歩き回る。

SFの映画に出て来そうな装置が所狭しと並んでいるその部屋は、垣根にとって恐怖しかなった。

「う、うう……最愛ちゃん?」

怖さを紛らわすため、もう一度名前を呼ぶ。

すると、垣根の声に反応するように、うめき声が聞こえた。

「ひっ……」

反応がないとないで不安になるが、あったらあったでまた不安に不安になるのが垣根帝督である。

「さ、最愛ちゃん?」

声がしたのは、入り口からみて一番右の部屋。
正直垣根は今すぐ逃げ出したい気持ちでいっぱいだったがしかし、うめき声だ。
もしも絹旗ならば、放ってはおけない。

恐る恐るとそのうめき声のした方へと近寄る。
そして、そのドアを開いた。

「っ……!最愛ちゃん!!」

絹旗が顔を真っ青にし、ぶっ倒れていた。

「だ、大丈夫?どうしたの?ぼくどうしたらいいの?
最愛ちゃん?ねぇ、大丈夫?死なないよね?」

肩を揺すろうとするが、あまり動かさない方がいいと考え直し、伸ばしかけた手を引っ込める。

「助けなきゃ……助けなきゃ……」

しかし、どうしていいかわからない。

「どうしよう、どうしよう……また大好きな人がいなくなっちゃう……どうしよう……あっ!」

カタカタ震えながら、どうするべきか必死に考える。
そして、考えが焦りで雲散するまえに、どうにか垣根は起死回生の一手を見つけた。

すぐさまそれに駆け寄り、素手でガラスを破りガラス奥のスイッチを押す。

実験室には必ず備えられている緊急用の呼び出しボタンだ。

それを押した数十秒後、大急ぎで研究員がやって来て簡易救命措置をその場で施すと、絹旗を連れて行った。

その様子をぼんやり眺め、垣根は部屋から絹旗が消えた瞬間ボロボロと涙をこぼしはじめた。

そして、あーあー、と大きな声で泣きわめいた。


〜〜〜

「最愛ちゃん?平気?」

それからだいたい二時間後、絹旗は意識を取り戻した。

「帝…督…?あー、私もしかして超帝督に助けられました?」

情けないなぁ、と嬉しそうに笑う。

「ち、がう……よ。ぼくは何もできなかったよ……。
良かったぁ……最愛ちゃん、本当に目が覚めて……良かった」

絹旗の手を、両手で包み込む。

「あ、手……超ずっと握ってたんですか?」

「……」

垣根は黙って泣き続ける。

そのまま三十分くらいすると、絹旗もそこそこ元気を取り戻した。

そして、先ほどの状況というわけだ。

「大丈夫ですよ、帝督が出かけてる間に死んだりしませんから」

「ちがう!や!ばか!」

ばか、と言いつつも絹旗の手を絶対に離さない。

「ば、ばかとはなんですか!ばかとは……あぅ……大声出すと、まだ頭が……」

表情が一気に弱々しくなり、ストンと目を閉じてしまう。

「あー、なんか……目が開きません。まったく、いつもの薬と間違えてテストしてない新薬を私に飲ませるなんて超いい度胸してますよね」

「……大丈夫?」

絹旗の言葉を無視して、頭を撫でる。

「はぁ、帝督は変なところで強いですよね……普段はビービー泣いてるだけのガキなのに……これ、目開くようになりますよね?
本当に自分の力で開けられなくて不安になって来ましたよ……?」

絹旗は垣根に言葉を無視され、さらに目が開かなくなり視覚を封印されているという状況にも関わらずとても上機嫌であった。


「最愛ちゃん、目……本当に見えない?」

「え?はい。怖いけど、帝督の鬱陶しい泣き顔見なくて済むのは超嬉しいですね」

本当に目が見えていないかの確認を終えると、垣根は手を離した。

「あれ?帝督?どうしたんですか?」

絹旗は垣根の手を求め、近くを探るが見つからない。

「……帝、督?……あ」

もう一度絹旗が垣根の名を呼んだのとほぼ同時に、垣根は絹旗を思い切り抱きしめた。

恋人を抱きしめるような優しい抱きしめ方ではなく、母親が迷子になった子を見つけ「もう目の届かぬ場所にはやらん」と安堵で力一杯抱きしめてしまう時のようなやり方だ。

「ちょ、苦しいですよ!」

「うるさいばか……しにそうに……殺されそうになったのに、笑わないでよ。もっと、おこってよ。
ぼくがどんだけこわかったか……もう、にどとぼくからはなれないで?」

「……わかりましたよ、約束は出来ませんが努力はします。
そして……そうですね、今度また外出許可貰って……二人で花を見に行きましょうね……これは、約束です」

「うん!」

「約束ですよ、必ず二人で行きましょうね。
そろそろ、本当に苦しいので超離してくれませんか?」

「……わかった。でも、さいごにおまじない」

「おまじない?」

垣根は絹旗から離れると、おでこにそっとキスをした。

「はやく、治るように!」

そして無邪気に笑い、また手を握りながら椅子に座った。
絹旗の頬が真っ赤に染まっているのに気づきもしないで……。

ここまで

相変わらずレスありがと
毎回すぐつくからびっくりする
嬉しいです

ちなみに、垣根と絹旗の過去話は二年同じところにいたうちのどの辺ってのはあまりはっきり決めてない

けど、今回の絹旗倒れる話は二人が離れ離れになる少し前
あんまり重大ではないが一応

一応ついでに、最初は絹旗が倒れてるんじゃなくて研究員にイタズラされてるって設定だったけど流石に引かれそうだからボツにした
という裏話があったりする

では、また

眠い

すみませんが今日の更新は無しです

明日は来れると思います

おやすみなさい



〜〜〜

「王子様のキスでお姫様は目覚めました」

「なによ、急に気持ち悪いわね」

垣根は心理定規の反応を無視し、考え込む。

「どうしたの?
というか、顔すっごい赤いわよ?」

熱でも出したのかと心配になり、おでこに手を当てる。

「俺……お前と何度もキスしたよな?」

「えぇ、あなたからしてくれたことはないけどね」

「おれ、お前……抱いたよな」

「そうね、私のはじめてはあなたよ」

「違う約束を……思い出した」

冷や汗をかきながら今度は真っ青になっていく。

「……なに?私以外の女とキスするなとか言われてキスでもしてたの?それともまさか十歳と六歳が——」

「バッカかてめぇは!流石に後者は無いわ!」

「え?じゃあキスはあったの?」

「……俺のファーストキスは最愛だな。しかも唇は奪われた。
そんでその前に、俺一回最愛のおでこにキスしてるわ……ってなんで俺こんなことお前に言ってんだろ……。
やべぇな、七年越しの照れはやべぇな」

真っ青からまた真っ赤になる。

「信号機みたいよ……あと、今のあなたやばいくらい気持ち悪いわよ?
でも、その『私以外の人とキスしないでね』が忘れてた約束ならつじつま合うわよ?
あなたキスどころか複数の女と最後までヤってるし」

心理定規は特にそのことは気にしていないらしい。
淡々と話す。

「いや、違う。
約束だよって泣いてる俺に……私以外とはだめですよって言ってちゅっとされた。
その前だよ!その前がメインなんだよ!」

「まぁ、ゆっくりでいいじゃない。
強いかどうかなんて話でも今みたいに確信の近くを思い出すことはあるんだしね」

心理定規は優しく微笑む。

「……ありがとな」

そして垣根もその優しさに素直に甘えることにした。


〜〜〜

——そういえば……帝督はあれからどうしてるんでしょう?

適当な喫茶店で朝食を終えると、数日前自分を見て酷く狼狽えながら逃げた垣根の事が気になって来た。

——あれから、ちゃんと生きてますよね?というか、私が怒るなんて珍しくないのに……どうしてあんなに超うろたえてたんでしょう?

砂糖とミルクのたっぷり入ったカフェオレをちびちび飲みながら考える。

——いや……むしろ私が動揺しなかったのが不思議ですね。

揺れるカフェオレの表面を眺め、ため息をつく。

——再会することなんて、ないと思ってたんですけどね……。

それが絹旗が暗部に入った最大の理由だ。
泣き虫で弱虫の垣根に、平穏な人生を与えるため。
裏の実験関わったそのために、学園都市の裏に居続けなくてはならなくなる可能性もある。
しかし、ひとつの実験の成功サンプルが自ら暗部へ志願し入ったとなればひとつくらいは強気になれる、実際絹旗は暗部へ入ることを条件に垣根帝督には二度と手を出さないという約束を取り付けた。
その約束が守られている限り、裏の絹旗と表の垣根は再会することなどないはずなのだ。


——それなのに帝督が私を覚えていなかったことに切れたりして……矛盾しまくりですね。

自分を固めてきた強さの脆さを痛感させられ、思わず笑みが出る。

——超ダメダメですね。

自分の中にぽっかり空いた穴。
その穴はもうなにで埋めたらいいのかすらわからない。

そのを満たしてくれる物がなんなのか、自分が求めている物がなんなのか、それを忘れてしまうほど絹旗は狂った街に慣れてしまった。

「……帰りますか」

冷めたカフェオレを一気に飲み干し、店を出ようとすると見知らぬ女性に話しかけられた。

「こんにちは、絹旗最愛さんよね?」

「……超そうですが、誰ですか?」


〜〜〜

「さてと」

心理定規はベッドから起き上がると、あまり派手でないワンピースへ着替えた。

「朝飯、俺はいらない。
お前もなんか適当に外で食って来いよ」

垣根は寝転がりながら言った。

「わかったわ……それじゃ、またね」

垣根の家から出ると、心理定規はまだ朝の空気を残している街中へと歩いてゆく。
そしてそんな空気に浮かれたのだろう。
バスと電車を適当に乗り降りし、普段はこない区画へと辿り着いた。

——へぇ、この辺初めて来たけど……なかなかいい感じじゃない。

小綺麗な雰囲気の雑貨屋やカフェが並んでいる通りを機嫌良く歩く。

「あら?」

まだ人の少ない喫茶店内に、知った顔を見つけた。

「……絹旗最愛さん……よね?」

どうしようか、と考える。
ここで絹旗と話せば、何か現在の具体的な事が何もわからない現状を打破するカギが見つかるかもしれない。
しかし、ここで絹旗に話しかけてしまうことは何か決定的な破滅へのスイッチを押す事に繋がりかねない気もした。


「ま、適当にごまかすとしましょうかね」

ようは垣根帝督の関係者とばれなければ問題はないのだと考え直し、店のドアを開いた。

カランカランとドアのベルが鳴り、店員が笑顔で「お好きな席へどうぞ」と店の中へ招いてくれた。

心理定規も笑顔で会釈し、絹旗の元へとまっすぐ向かう。

「こんにちは、絹旗最愛さんよね?」

絹旗はちょうど席を立とうとして居たところらしく、上げかけた腰を再びおろし心理定規をにらみ上げた。

「……超そうですが、誰ですか?」

可愛い顔をしているくせに、ずいぶん凶悪な雰囲気を出せるものだと感心する。

——そうよね、ずっと暗部で生き続けてるんだもんね。

「あら?覚えていない?
まぁ、あなたは垣根帝督以外目に入っていなかったし、私も目立つ子ではなかったからしょうがないか……」

「は?」

「私も、暗闇の五月計画に参加させられて居たのよ」

——もちろん嘘だけどね。でもこれなら怪しまれずに話を聞ける。


「……」

絹旗は目を点にさせ、数回瞬きをした。

「あ……えっと……なんで、私の事知ってんですか?……いや違う、なんで私のことなんか覚えてんですか?」

そして、敵意を引っ込め、尋ねる。

「だって、あなたは常に一番の優等生、そしていつも一緒にいるのはあの……馬鹿というかアホというか、ネジの足りないメルヘタレンなんだもの。嫌でも目についたし、覚えちゃったわ」

「……帝督は馬鹿でもアホでもありませんよ。
それに、なんですかそのメルヘタレンってのは」

イラついた声をだす。

「メルヘンなヘタレ。花とかシンデレラとか、メルヘンな物好きだったし、いつもあなたに泣きついてたし……どう?」

「メルヘンは否定できませんが、あいつは別にヘタレというわけでもないですよ。助けられてたのは……本当にあいつが必要だったのは超私の方でしたからね」

完全に怒った風に、絹旗はそっぽを向く。


——……わかってたけど、負けたわ。もしも絹旗さんがもうあの人を好きでないなら……って期待するだけ無駄だったみたいね。

絹旗に気づかれぬよう小さく笑い、心理定規は絹旗の向かいの席へ座る。

「相席はちょっと勘弁してください。
あ、もしかして奢ってくれるんですか?」

「違うわよ馬鹿、少し話さない?
あの垣根帝督があなたにどんな影響与えてたのか知りたいわ……どうせもう会う事もないだろうし、ね?」

絹旗は少し考え込んだあと、ため息をつき了承した。

「……はぁ、まぁいいか。
いいですよ、でも次気に障る事言ったらここ超あなたの奢りですからね」

「いいわよ、私も暗部だしお金に困ってないもの」

「あ、なんかカチンと来ました。そんな可愛いワンピース着ちゃってなんかムカつきました。はい、奢り決定ですね」

そういうと絹旗は店員を呼ぶと、パフェやらケーキやらを大量に注文する。


「ちょっ……あ、私はこのモーニングセットで」

苦情を言おうとするが、定員に「あなたは?」と聞かれ慌てて注文する。

店員が去ったあと、絹旗のほうへ向き直り、恨みを込めてその名前を読んだ。

「絹旗さん?」

「さ、何が聞きたいんでしたっけ?」

絹旗はそれをスルーし何事もなかったかのようにけろっとしていた。

「はぁ、わかったわよ。
あなたの大事な大事な王子様のお話を聞かせてもらうんだもんねぇ……このくらいの情報料は払わなきゃね」

もう奢ることは決まってしまったので、心理定規も存分にからかい楽しむことにしたようだ。

「あ、店員さーん!デラックスパフェとシュークリームと特製プリンも超追加お願いしまーす!」

「ちょっと!追加はなしよ」

店員は心理定規の言葉に困ったように絹旗の方を見る。

「これのことは気にしないで超持ってきてください」


「……これ、ですって?」

「超お仕置きですよ。
それで?何が聞きたいんですか?」

「はぁ……いやね、ずっと気になって聞いてみたかったのよ。
どうして優秀なあなたがあんなのと仲良しだったのか、あいつの何に惹かれたのかってのをね」

心理定規も諦めたように本来の目的へと話を戻す。

「そうですね、でもその前にあなたが今どの組織に関わってるのか聞かせてもらえませんか?」

——やっぱり、この辺は暗部ね。しっかりしてる。

心理定規はそれでいい、というように頷く。

「そうね、私は今特定の暗部組織には入ってないわ。
関わったことがあるのは……グループ、メンバー、スクール……その辺かしらね。
あ、アイテムのついた仕事の事後処理とか情報収集もやったことあるわよ」

もしものためにとそのくらいの嘘はつける程度に暗部組織を調べておいてある。

絹旗はアイテムのどの仕事の協力をしたのか詳細に聞き出すと、一応は信頼したのか話を始めた。


〜〜〜

「それじゃあ、超ご馳走様でした」

そのままそのカフェでお昼も食べ、二人は店の前で別れた。

「貴重なお話ありがとう、お土産代含めた数万円の価値はあったわよ」

心理定規は、垣根を馬鹿にするたびに追加注文を繰り返した絹旗を氷のような笑顔で見つめる。

「あなたがどれだけ王子様を好きかってこともわかったしね」

店をでてしまえばもう怖いものはない、とでもいうようにわかりやすくからかう。

「同じ実験被験者の優等生窒素ぱんち食らっときますか?」

「そんなに恥ずかしがることもないじゃない。……暗部にいてもあなたも私も女よ、恋くらいするしむしろその人間らしさだけはなくしちゃいけないものだもの」

「……でも、暗部にいるってことはそういう人間らしさを捨てないと超生きのれないってことですよ。
この五年……いえ、帝督と離れ離れになってから私が心から笑ったり泣いたりしたことはありません。
アイテムの人たちは好きですけど……でも、それでも友達ではありませんしね」


「……なるほどね、帝督があなたの人間らしさなのね」

絹旗には聞こえぬようつぶやく。

「え?なんですか?」

「いえ、なんでもないわよ。
じゃあ、もう会うこともないと思うけど……お互い長生きしましょうね」

そう言い残し、立ち去ろうとする心理定規を意外にも絹旗は呼び止めた。

「あ、超まってください!
名前、教えてくださいよ……私だけ知られてるなんて超不公平です」

絹旗が自分の名前に興味を持つとは思っていなかったため、心理定規は焦る。

「……」

しかし、それを悟られてはいけない。

「どうしたんですか?変な名前でも笑いませんよ?」

「私の名前は……し、心定なずな……よ」

「新庄なずな……超いい名前ですね。
知ってますか?なずなって下町っぽい素朴な花に思えますけどその花言葉は超ロマンチックなんですよ?」

「野球選手とは違う字よ。心を定めるって書くの……よぉくわかってるわよ、それじゃあね最愛さん」

「はい、では!」

アイテムの“仲間”とは違う友人のような絆を、絹旗は感じていたのかもしれない。
どこか嬉しそうな表情で別れを告げると、仲間のまつ家へと足を進めた。

ここまで

メルヘタレン使わせてもらいました
すみません


レスありがとう、嬉しいです

今日明日は来れるかわかりません
日曜日までには来ます

今年の努力が全て無駄に終わって今とても脱力感と無力感に襲われています
自分語り失礼しました

また読んでください



〜〜〜

「たーだいま」

「おう、おかえり」

垣根は本を読んでいた。
シンデレラや白雪姫ではなく、暗部に入った頃から読むものは物理学や化学の専門書だ。
心理定規はすぐさま服を脱ぎ、部屋着に着替える。

「……絹旗さんとランチしちゃった」

「そうか、良かったな」

コーヒーをすすり、本のページをめくりかけ、止まった。

「……え?」

「だから、絹旗さんとランチしちゃった。
あ、もし一緒にいる時に出くわしたら私はスクールに一時的に派遣された心定なずなってことで話合わせてね?まぁ、会うこともないと思うけどさ」

「え?お前心定なずなって言うの?」

「偽名に決まってるじゃない。
かなりおごらされたけど、なかなかいい話を聞かせてもらったわ。
まぁ、暗部に入った理由とかはうまくかわされたけど……」

心理定規は静かに微笑む。


「なんで……お前はそこまで」

垣根は自分に無償で尽くしてくれる心理定規を不思議そうに見つめた。

「……はぁ、言ったでしょう?」

心理定規はため息をひとつついた。

「私の好きな花はなずなだって……それにあなただって、絹旗さんの為だったら私と同じ事をするでしょ?……たとえ絹旗さんに死ぬほど恨まれてたとしても」

それは、心理定規が最もいいたくない台詞だっだと垣根は気づく。

「……ありがとう」

ごめん、といいかけるがなんとか飲み込み、なんと言おうと迷った挙句ありがとう、という言葉が出た。

「愛してる、とは言ってくれないのね」

笑いながら冗談めかしていう。
そんな心理定規に、垣根はなにもいう事が出来なかった。


〜〜〜

「超お土産買ってきましたよー……って超誰もいないんですか……」

玄関を開ければ、たいてい誰かが、特にフレンダが返事をしてくれるのに、と絹旗は少し寂しそうに俯き靴を脱ぐ。

「はぁーあ、みんなどこ行ったんでしょうかね?……超ヒマです」

ウロウロとリビングを歩いてみるが暇つぶしは見つからない。

「……はぁ、ここにいてもつまらないし、久しぶりに映画でも行きましょうかね」

財布を持ち、携帯に着信なりメールが入っていないかを確認する。

「……仕事ではなさそうですし、行きますか……あ、そうだ」

部屋を出ようとして冷蔵庫に目がいくと何かを紙に書いてマグネットで貼り付けた。

「ふむ、これなら別にいいでしょう」

『映画館に行ってきます。帰りは何時になるかはわからないので夕飯はどうぞ私抜きで。
冷蔵庫の中のケーキやプリンやらもご自由にどうぞ』

書き置きさえ残しておけば、たとえ映画に夢中になり麦野の言っていた門限が本気であったとしても許される、と考えたようだ。

「はぁ……映画自体久しぶりですが、一人で行くのは本当に超久しぶりですね」

最近はフレンダや滝壺がつまらないから嫌だと言いつつ一緒に行ってくれることが多かったのだ。

大好きな映画をみにいくというのに、どことなく寂しげに絹旗は家を出た。


〜〜〜

「ダメだな……俺って」

垣根は静かに涙を流した。

「……」

心理定規は黙ってそんな垣根を見つめている。

「ごめんな、ありがとうよ。
そんで、俺決めたよ……俺は……もう……生きていけない」

子供の頃のように、自然と微笑んだ。



「完璧に思い出した。悪いのは全部——俺だった。でも最期に……」

優しく微笑んだまま垣根は続ける。

「罪滅ぼしとしてお前らを……暗部から救ってやる」



〜〜〜

最愛ちゃん……。

「え?」

絹旗はあたりをキョロキョロと見回す。
B級の映画のエンドロールまでしっかりみようと思うのは、三人いた客の中では絹旗だけだったようである。

劇場内には自分しかおらず、エンドロールは音楽すらない無音だ。

「いま、超誰か呼びました?」

当然答える人はいない。

「……なんでしょう?なんか胸騒ぎが」

なんとも言えないざわつきが胸の中を駆け回る。

B級映画を三本連続でみたのが原因かもしれないとバカな事を考えながらもう一度あたりを見回し、前に向き直った瞬間、携帯電話が震えた。

「……超びっくりしました……えっと、麦野から?」

メールの内容をみて、絹旗は目を見開いた。

『今すぐ帰って来い。垣根帝督について話がある』

「帝……督……?」

そう、呟くのと同時に映画は完全に幕をおろし、劇場内は明るくなった。


〜〜〜

「あれ?絹旗まだ帰ってないよ?」

ランチを食べに行きがてら、三人は夕飯の買い物をして帰宅した。

そしてそろそろ帰ってきていて、帰宅したら家に誰もいなくて寂しがっているであろう絹旗をいじろうとワクワクしていたフレンダは残念そうにそう言った。

「あー、どうせなんかあれだろ?猫でも追っかけてんだよ」

「……違うよ、映画だって、何時帰宅かはわからないらしいよ」

滝壺はシュークリームも手にしながら、メモを読み上げる。

「あ、なにそれ、結局私も食べたいってわけよ」

「はい、絹旗からのお土産だって……麦野もいる?」

「んー、いや今はいい」

麦野は代わりに冷蔵庫に入れる必要のあるものを滝壺に渡して行く。

「まぁ、映画ならしばらくは帰ってこないだろう……ちょうどいいし垣根呼ぶぞ。
フレンダ、適当に理由つけて絹旗に帰ってくる前には連絡いれるようメールしとけ」

買ったものをしまい終えると、麦野は携帯電話を取り出し垣根へコールしながらそう指示を出した。


「あ、私だ。ちと私らの家にこい」

礼儀もへったくれもあったものじゃない。

「……あ?何言ってんだお前?あ、ちょ」

が、それは相手も同じだったようだ。

「どうしたの?」

滝壺が尋ねる。

「……わからん。
俺はもう全部思い出した。最愛はお前らに任せる、死んでも守ってやってくれ、俺はもうあいつには会えない。って……こいつどうしたの?」

「わからない……わからないけど、何か取り返しのつかない事が起きてる気がする」

緊張感が二人の間に走る。

「ねぇねぇ、今日隠れ家移動するかもしれないから家帰る前に連絡してってメールいれて怪しまれないかな?……あ、れ……?」

「……」

「……」

二人はジトリとフレンダを見る。

「あ、はは……なになに?どうしたってわけよ?聞いてなかったわ」

なるべく明るい雰囲気にしようと笑い声をあげるが、それは乾いたものとなる。


「もういいわよ、あんたはそれで……垣根がなんかトチ狂った」

「え?それ結局もともとじゃん」

「あぁ、まぁ……そうだけど違うんだよ。
全部思い出しちゃったから絹旗を私らに任せる、俺はもう会えないって」

「……もうこれさ、絹旗呼んで洗いざらい話しちゃった方が良くない?
今朝言ってた事とまるっきり逆だけど、もうここまできちゃったら隠してるの可哀想ってわけよ」

「馬鹿かお前は!んな事して絹旗ぶっ壊れたらどぉすんだ?あ?」

フレンダの提案に、麦野は切れる。

「……きぬはたよりも、むぎのやふれんだがなんで最近変わったかって事を考えた方がいいかもね」

フレンダが何かを言い返す前に、滝壺が口を挟む。

「私は別に何も変わっちゃいねぇよ!」

「そう?そうならいいけどここでもうモヤモヤしたの全部みんな吐き出しちゃお、じゃないと……合ってるけど間違った方へ進んじゃうよ」

落ち着いたいつもと変わらぬ様子に麦野は苛立ちを覚える。


「なんでてめぇはそんな落ちついてられるんだよっ!」

「なるようにしかならないからね。でもそれってなるようになるって事だよ。
ねぇ、むぎの……むぎのは私たちをいつから仲間だって、大切だって思いはじめたの?」

まるで「今日の夜ご飯どうする?」というように、滝壺はいつもの調子で尋ねる。
そしてイライラし、機嫌が悪くとも滝壺のこのような問いかけに麦野は素直に答えてしまう。

「知るか」

「多分、徹底的に思い知ったの「第二位」っていうむぎのでも敵わないのがアイテムの前に現れたからじゃない?
それまでは、気づかないほど小さくか、気づく必要がないほど当たり前に私たちをむぎのの大切にしてくれてたんだよ」

のんびりと麦野のそばに歩み寄り、その手を両手で包み込む。

「大丈夫だよ?誰も馬鹿にして笑ったりなんてしないよ?大切なものができるっていい事だよ」

「……私が……今まで虫を殺すように人を殺してきた私が……今更大切なものだなんてそんなのおかしいだろ……」

自分が持つべき感情と持ってしまった感情の差異に麦野は揺れていた。


「……はぁ?何がよ?私だって殺した数だったら麦野と同じくらいかそれ以上よ?
それでも胸を張ってアイテムが大切……あと……妹が大切って言えるわけよ」

そんな麦野に、フレンダは声を荒げた。

「人を殺すのは確かに悪い事かもしれない、でも……人を殺さなきゃ私は生きてこれなかった。私が殺されてた。そこは麦野と違うかもしれないけど罪は罪で同じ罪よ?
確かに、汚れてるって思うしフレメア……あ、妹の名前ね?フレメアにはこんな世界に関わって欲しくない。
でも、だからこそ私は血を被るよ。守りたいものがあるし、大切なものがあるから。
こんな守り方間違ってるっていう奴がいるかもしれないけど、そいつは私に人を殺さなくても生きていける道をくれなかった。
人の覚悟否定するくせに、新しい答えを示してくれない無責任なやつの嘲りなんて無視しなさいよ!」

ふん、と鼻をならしそっぽを向く。


麦野はしばらく考え込んだあと、ポツポツと話し始める。

「そっか……結局……私は恐れてるんだな。
私の周りにいるやつはみんな私の力が目的だった……」

滝壺の手を強く握り返す。

「能力以外に私は人を惹きつけるもんがねぇ……。
だから、大切な物なんかないって……自分の本心を奥底に沈めて……大切を作ってしまったら……いつか失くす……それが怖いんだ……お前らに否定されたら、お前らがいなくなったら……それが怖いんだ」


自分と向き合い、沈めた心を引っ張りあげた麦野は、どこか安心した表情をしていた。


〜〜〜

垣根の表情はどこまでも清々しく、どこまでも自然だった。
死ぬ、ということがこの世では唯一の絶対だ。

死——それこそが自然である、ということだ。

どこまでも自然な表情。
それはつまり存在するという事を極限まで突き抜けた、そんな表情である。

「……私が、みたかったのはこんなあなたじゃない」

心理定規は悲しそうに呟く。
たとえ、それが垣根に死を迫る答えだったとしても、垣根ならばそれを飛び越え最後まで生き抜いてくれると思っていた。

「そういうなよ、俺は今必死に壊れてしまいそうな自分を繋ぎ止めてんだ」

「やっぱり、私じゃあダメなのね」

「いや、お前は最高の女だよ。もしも最愛と出会ってなかったら、俺はお前と共にこの世界で生きただろうさ。
でも、ごめんな……俺は最愛と出会っちまった。俺を最も愛してくれるのはあいつで、あいつを最も愛せるのは俺なんだ」

また、微笑む。


「俺たちは、お互いに亡くした半分をお互いで補う事で生きてきたんだ。
でも、それは酷く歪んでる。こんな歪んだ世界に堕ちた俺だけど……こんな歪んだ世界にいるあいつだけど、俺はあいつだけには歪んだ世界でも真っ直ぐ生きて欲しいんだ」

「私はこんな歪んだ世界でも、あなたといたい!
あなたが私の物にならなくてもいい、あなたの心が私をみてくれなくてもいい、あなたがあなたの幸せを手に入れてくれたらそれでいい。
その時、一番にあなたにおめでとうと言えるなら……それでいい。
だから、死ぬなんて言わないで」

垣根にすがるように、腕をつかむ。

「悪いな……大事な人を殺して手に入れた生にすがりたくねぇんだよ。
俺は母親を殺した……はっきりと思い出した。
あんなに大好きだったのに……殺しちまった」

垣根は優しくその腕を振り払う。

「じゃあな、今までありがと」

垣根はそう言い残し、部屋を出た。

「……なんで、ここで追いかけられないのよ……」

それは無駄だとわかっているから。
垣根を困らせるだけだとわかっているから……。


〜〜〜

「よし、でも絹旗呼ぶのは待て」

麦野はパン、と手を叩くとスッキリとした表情で二人に指示を出す。

「なんで?」

「絹旗呼ぶ前にスクールの女と連絡取る。何か知ってるかもしんねーしな」

「でも、連絡先なんて……」

「そんなの聞きゃいいだろ」

「誰によ?」

「電話の女だよ。
仕事でスクールとぶつかれってのあったし聞けるだろ」

なるほど、とフレンダは手を打った。

「んじゃ、はい」

「え?」

はい、と差し出された携帯電話に困惑する。

「かけて、私あいつ嫌いなのよ」

ニコッと笑った。
優しいはずのその笑顔は、銃を突きつけられるよりも恐ろしかった。

「え、笑顔は威嚇行動がルーツってのは本当だったのね……」

逆らうのを諦め、フレンダは渋々と電話をかけはじめた。

ここまで

話が動いた?
絹旗×垣根といったのに絹旗×垣根要素が幼少期しかないのはどうなんだろうと少し思う
読んでてにやけちゃうような甘い話が書けるようになりたい物だなとも思う

では、またよろしく

あんまり詳しくないから教えて欲しいんだが
絹旗×垣根

垣根×絹旗
だと意味合い変わって来たりするのかな?

あ、投下します


〜〜〜

『ほら、帝督』

『うわぁ……すっごい綺麗だね!お母さん!』

それは、遠い過去の幸せな記憶。

『ねぇ、これはなんていうの?』

『それは……なんだろ?興味があるなら図鑑買ってあげるから自分で調べてみたら?』

『うん!』

——母さんはよく植物園に連れてってくれたな。

子供の頃とても届かないと思った超高層ビルの屋上に垣根は座り込み思い出に浸っていた。

——全部思い出したら壊れると思ってた。でも、案外繋ぎ止めておけるもんだな……。

『お母さん……』

『……どうしたの?帝督』

『……』

『怖い夢でもみた?……ほら、おいで』

垣根が思い出す母親はいつも笑顔だ。

両手を広げ、にっこり微笑み自分を呼ぶ母親が垣根は大好きだった。


『お母さん……』

『ふふ、大丈夫よ。私の最愛の子……あなたには私がついてるわ。お母さんは強いからね!帝督の悪い夢なんてやっつけてあげちゃう』

『……うん、お母さん……大好き』

母の腕に抱かれていると、垣根も自然と笑顔になった。

——でも、そんな母さんを……俺は殺した。

『……眠れないの?』

『こわいゆめ……みたくないんだもん。ずっと、お母さんと話していたい』

『お母さんもよ。あなたは私の最愛の子だもの……。
じゃあ、本を読んであげる。幸せな物語……』

——母さんはよく絵本を読んでくれたな。

自分のルーツに母親がいることに喜びと罪悪感を感じる。

『帝督……私の、最……愛の、子』

——母さんの最後の言葉。最後の最後まで、自分を殺した息子を愛してるといい、笑っていた。なんでだよ、母さん……。もっと、恨んで憎しみに満ちた言葉を俺にくれよ……。

真ん丸な月を見上げ垣根は涙を流した。


〜〜〜


『……おかあ……さん』

『……』

『おかあ、さん……』

『……あなたも、へんなおじちゃんにつれてこられたの?』

『……おか……さん……』

『わたしもよ、あなた、なまえなんていうの?わたしは、さいあいっていうの』

『さい、あい?』

——帝督、あなたは私の最愛の子よ。

『あ、なかないでよ。おとこのこでしょ!おとこのこは、強くなくっちゃだめなんだよ』

『……さいあい……?』

『……あぁ、もう!なかないでってば!ほら、て』

『て?』

『つないであげるから。ね?わたしがいっしょにいてあげるから』

少女はにっこりと笑った。


〜〜〜

——これが、最愛との出会い。学園都市に連れてこられて小さな部屋にぶち込まれて……そこに最愛がいたんだったな。
あの時あいつ……三歳か?ったく情けねぇな俺は……。

垣根が絹旗に一瞬で心を開いた理由。
それは、この出会いが原因だ。

絹旗は垣根の母親のようににっこり笑い垣根の手を取った。
母親を失い、絶望のどん底にいた垣根にとってそれはとても大きな存在になったのだ。

「本当に、情けないな……」

くくっと笑う。

——なぁ、最愛……お前はなんでそんなに強いんだ?俺はなんでこんなに弱いんだ?


〜〜〜

『あぁ、君が垣根帝督くんか』

母親が連れてきてくれた科学館、そこで垣根の人生は変わった。

『おじちゃん……誰?』

母親もあまり歓迎していないような顔つきを向ける男に垣根も警戒する。

『はっはっは、怖がらなくていいよ。
おじさんは学園都市っていうところからきた科学者だよ。
学園都市は知ってるかな?』

『……しらない』

『ロボットとかそういうかっこいい物の研究をしているところだよ。
そこでは超能力というものも研究しているんだ』

『ちょう……のうりょく?』

『あぁ、そして君にはその才能がある。
どうだろう?一緒に学園都市へ行かないかい?』

幼い垣根は母親を見上げる。

母親は垣根の不安そうな顔をみると安心させるように笑ってから厳しい守る顔へと変わった。

『申し訳ありませんが帝督を学園都市にやるつもりはありません。
超能力開発はつまりは脳開発だと聞きました。大切な我が子の頭の中を弄られるなんて親として認めるわけにはいきません』


『ですが、すでに帝督君は能力が発現している。時々テレビなどの電化製品がおかしくなりませんか?それが彼の力です。
今はまだいいが、そのうち制御できなくなり人を殺すでしょう、それでもいいと?』

『……私が止めます』

『……あなたはお子さんの力を甘く見過ぎだ。
例えば……』

研究員は小さなミュージックプレイヤーのスイッチを入れた。
その途端、頭を抱え垣根は苦しみだした。

『な、何をしてるんですか!やめてください!』

垣根をしっかりと抱きしめ、研究員を怒鳴りつける。

『離れていないと危ないですよ?この音は……といってもあなたには聞こえないでしょうが、能力者のAIM拡散力場を乱すものでね……ずっと聞き続ければそのうち暴走する。
その時あなたのお子さんがどれほどの災厄となるのか、わからせてさしあげようと思いましてね』

今までの愛想笑いを捨て、ニヤニヤと醜くそして邪悪に笑う。


『や、めて……あたま……いたい』

『やめてください!どうしてこんな事を……こんなひどい事を!』

『離れてないと、死にますよ?』

垣根の母親の腕を掴み、垣根から引き剥がそうとする。

『……や、めろ……やぁめろぉおおおお!』

瞬間、垣根の視界は真っ白に染まった。
どこまでも白く、何もない世界。
その中にひとつだけ色のついたものがあった。

それを、垣根はつかんだ。

『あ、あ……あぁ……』

そして、それがなんだかわかると垣根は喉を震わせ声にならない叫びを絞り出す。

垣根がつかんだもの、それは母親の手だった。
いや、母親の手“だけ”であった。

『ちょっと、痛いかな……でも帝督、気にしなくっていいわよ……お母さんを、守ろうとしてくれたんだよね?』

母親は研究員をかばうように垣根の前に立っていた。


『ありがとう、優しい子……私の最愛の、子……』

いつものように微笑みながら、片腕だけになった体で垣根を抱きしめた。

『お、かあさん……?』

ひらひらと舞い落ちる白い羽。
その幻想的な景色の中には絶望が詰まっている。

こんなところにこなければ。
こんなちからがなければ。
自分がもっと強ければ。

垣根の中には様々な感情が渦巻き、どんどんとその勢いを増す。

『お、う……ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ』

そしてついに——決壊した。

『はぁっ……はぁ……はぁ……あー……おか、あさん……おかあさん……ああぁ……あ……たすけて……たすけてよ……』

ボロボロと涙を流し、鼻水を垂らしながら、垣根はもう動かない母親を抱きしめた。


〜〜〜

「そんで、俺はぶっ壊れちまった。
バカでいりゃあ母さんが助けにきてくれるって信じてたんだろうな」

夜空にぽっかり空いた大きな穴の中に言葉を捨てて行く。

「暗部から引っ張りあげる、とは言った物の……どうしたらいいかなんて検討つかないな。
とりあえず……麦野、滝壺、フレンダを……」

月から目を離し、現実的な問題へと思考を切り替える。
ノートパソコンを取り出すと、書庫へ入りアイテムメンバーの情報を書き換えて行く。

「まずは麦野沈利だ。……学年は……高三でいいか?俺と同い年くらいだろ……」

非公開となっているが登録すらされていない箇所を書き換える。


「霧ヶ丘……って感じじゃないよな?長点か?……いや、霧ヶ丘で女王様にでもなってもらうか」

所属を、霧ヶ丘女学院高等部三年に変更する。

「滝壺理后もここでいいな。あいつは二年って事にしよう……次はフレンダ……フレンダってフルネームなんてんだ?……セイヴェルンか……かっこいいな。こいつは一年で良いや……ってこいつ能力ねーのか?霧ヶ丘に押し込むのはかわいそうかな?」

うんうん唸りながら考える。

「よし、あいつは適当な高校にぶっ込むか。
最愛は……常盤台二年でいいな」

フレンダ・セイヴェルンを適当な公立高校へぶち込み、絹旗最愛を常盤台へと所属させる。

「とりあえずあとは暗部のほうをどうにかしないとな……指令役をぶっ殺すか、もしくは統括理事長へ直訴してみるか……どうするかな?」

普段は吸わない煙草をくわえながら垣根はぼんやりと地上を眺めた。


〜〜〜

電話を終えるとフレンダは携帯電話を麦野へと返す。
どう、と目で尋ねてきた麦野に、ニカっと笑いこう答えた。

「いつものアドレスに送ってくれるってさ!」

「よし!……お、来た」

今度は麦野自ら電話をかける。

「あぁ、アイテムリーダーの麦野沈利だ。心理定規でいいか?……あぁ、いきなり電話して悪りぃな……垣根のバカとうちのばかの事で話がある。座標送るからいまからアイテムのアジトへこれるか?」

今度はしっかりとそれなりの礼儀を持って電話する。

「おぉ、ありがとうよ。じゃあ待ってるわ……」

電話を切ると、さらに携帯電話を弄り回す。

「なにやってるの?」

「絹旗にメール。
だいたい八時くらいに届くように設定すりゃいいかな……。よし……九時に絹旗が帰ってくると考えて九時までに心理定規との話にケリをつけるぞ。
絹旗来てからは失言ひとつであいつは壊れると考えろ……」

「でも、それ結局絹旗呼ぶ意味ないじゃん?
絹旗が暗部に来た理由とか絹旗は覚えてんでしょ?それ話せってのが既に地雷じゃん?」

「いや、あいつは多分垣根との出会いとか忘れてる。なんで垣根に固執するのかも忘れてる。
そのへんをはっきりさせねぇと垣根は止めらんねぇと思う。つまり、絹旗も救われねぇ」


「だーかーらー!それが一番の失言じゃん!」

「気づかせずに周りから思い出させてくんだよ。思い出すだけなら垣根だって理性は保ってたし……大丈夫だ。
垣根に出来て絹旗に出来ない訳がないからな……」

麦野も祈るように怒鳴る。

「そんなの……結局無理ってわけよ……だって、相手は絹旗だよ?
同じ暗部の、相手が何考えてるのか裏の裏まで読めなきゃ死ぬような世界で何年も生きてるやつだよ?
気づかせずに、なんて無理よ。どうせ賭けるなら一か八か直接聞こうよ」

「だめだ」

白熱する二人に、滝壺が手を上げ発言する。

「大丈夫、かきねを壊さず壊した女の人が今からくるんでしょ?
その人に任せたら大丈夫」

「……信用できるとは限らねぇだろ」

「……大丈夫だよ。だってかきねが自分の過去を洗いざらい話した相手だよ?
かきねが信じたんだから、かきねと同盟組んだ私たちも信じなきゃ」

「……はぁ、結局私らって精神感応系の能力者一人いたほうがいいってわけよ。
麦野と絹旗は嘘つきだし滝壺は何考えてるかわからないし……」

フレンダは自分のことを棚にあげ、やれやれと笑った。

ここまで

垣根回アイテム回

答えてくれた人ありがとう!

なるほど、侵入する側とされる側か……

始めて知ったぜ、ありがとう!

〜〜〜

部屋の中は時計の規則正しいリズムが無機質に流れるだけだ。
部屋には四人いるが、誰もが息を止めているかのように音を発しない。

「そ、れが……垣根帝督、なのか?」

やがて、絞り出すように麦野沈利が声を出した。
部屋に人の声が生まれた事でやや空気が緩和する。

「えぇ、そうよ。
全部話してくれたわけじゃないと思うけど……」

「でも、そんなの……結局垣根が悪い訳じゃ……」

「ふれんだ、それもし自分がふれめあ殺しちゃっても同じ事言える?」

滝壺の指摘にフレンダは黙った。

「……最悪だな。つーかあいつ原石って事か?ますます垣根帝督ってやつはわからねぇな」

「多分、自然と能力開発みたいな事をかきねのおかあさんがしてたんだと思う。
おかあさんも話聞いた限り能力開発のがどんな物か知ってたみたいだし、かきねにしてた情操教育が垣根の能力に相性がよすぎてたのかもね」

垣根の能力は心理定規から聞いている。
この世に存在しないモノを生み出し操作する能力だ。


それはつまり、自然界の観察と考察が生きてくる分野でもある。

垣根は幼い頃から不思議に思ったものや出来事は自分で調べるようにと教育を受けてきた。
特に垣根が興味を持ったのは植物や宇宙だった。そして垣根は空想の物語、ファンタジーが大好きである。

植物の神秘、宇宙の神秘、そして想像力を育てる物語。

それはそのまま垣根帝督の能力に生きている。

「でも……結局納得できないよ……力を得たんだから……復讐すればいい。まずはそこじゃないの?母親殺したのは確かに垣根だけど、原因作ったのは研究員の方じゃん。
復讐は悪いことじゃない、当然の権利ってわけよ……死んだ人が望んでないかもしれない、でも……」

「フレンダ、言いたいことは分かるが……垣根にゃ無理だ」

フレンダも分かっている。
垣根の母親は、垣根に研究員を殺させないため研究員を庇って死んだのだ。

ここで研究員に復讐しては、母親の命は無駄に消えたことになる。


「どんな気持ちなんだろ……。愛する人を殺しちゃうって……」

フレンダのその呟きに答えられるものはいない。

「……唯一の救いはあいつが死を受け入れられないほど幼かったってことかもしれねぇな。
受け入れて、死の意味を理解してたら……とっくにヤツは死んでる。
絹旗も多分私らと会うことは無かった」

「……凄い自分本位ね。
帝督にとっては、すぐに命を絶って母親と同じところに逝った方が幸せだったと思うけど?」

心理定規は挑発するように麦野に突っかかった。

「バカ言うな、なら何故今あいつが死のうとするのをお前は悲しんでる?
くだらねぇ腹の探り合いなんかやめろ……私たちは、本気だ」

「……ごめんなさい」

「いいよ、暗部だしね。
そのくらいの警戒心ないと逆に不安になる。
かきねは大丈夫だよ。だって……まだ生きてる」

「あぁ、滝壺の言う通りだ。
死ぬなんてただの逃げだ、私より上に立つものがそんな情けない真似するなんて許さねぇ。……アイテムが、垣根帝督に死ぬ以外の道を示してやらぁ」

怒りとやる気に燃える目で、麦野はそう言い切った。
フレンダ、滝壺もその言葉に頷く。

「あり、がとう……」

心理定規は涙を隠すようにうつむきそう言った。


〜〜〜

「帝督……?話?なんなんでしょう……」

嫌な予感が駆け巡る。

『最愛ちゃん!』

その予感の中で、無邪気に笑う幼い垣根が絹旗を呼んだ。

「帝督……帝督!」

ポップコーンとドリンクの空になった容器を出口に立つやる気のなさそうな館員に押し付けると、絹旗は走り出す。

「帝督……帝督……」

不安を紛らわすために、最も愛する人の名前を無意識に呼ぶ。

見慣れた通りを、壁や人にぶつかりながら進んでいく。
ガラの悪い連中に怒鳴られたが気にしない。
どんどんどんどん進んでいく。

垣根を失う。
そう思うと頭が真っ白になった。
息がうまく出来なくなりそうになった。
とにかく怖かった。

だから絹旗は、少しでもはやく仲間のいるところへ帰りたかった。

しかし、家の前まできてその扉を開く事に戸惑う。

「はぁ、はぁっ……はぁ……げほ……」

——何が、あったんでしょうか……?まさか、帝督を殺せなんて仕事?いや……それはない、殺す必要がない。
でも、じゃあ……。

恐る恐る扉を開く。

「……何があったんです?」


リビングへ入ると、心理定規がここにいる事に少し驚くが、それよりもと切り出す。

「……座れ」

麦野は冷たく言う。

「何があったんです?」

「いいから座れ、全部説明すっから……頼むから、落ち着いてくれ。私は……お前を失いたくねぇんだよ」

麦野の真剣な声色に、絹旗はおとなしく従った。

「お前が家出した日、ってか昨日か……私らに来た仕事は簡単に言うと『垣根帝督を襲撃せよ。ただし私と滝壺は死ぬな』ってもんだった」

「なっ……なんで!」

絹旗は机を叩き立ち上がる。

「そうなるってわかってたから……もしお前を連れて行ったら……垣根はお前には手を出せない、そんでお前は垣根を殺していただろうさ……『別に垣根なんてなんとも思ってない殺すのだってへっちゃらだ』とかなんとか言ってな。でもそりゃ嘘だ、だろ?」

麦野の言葉に絹旗は何も言い返せない。

「お前は垣根が大切なんだ……私らなんかよりもな。
垣根を探さなかったのも、表面上は前ぽろっと言ってた『人殺しは何も守れない』って理由なんだろうが、本心は違うだろ?お前は『垣根が既に死んでたら』って考えてそれを知りたくなかったんだろ?」

フレンダが、不安そうに麦野を見つめる。


「……違いますよ。もう、昔の私じゃない……私は帝督なんかいなくっても生きていける……私は……強いんだから。帝督を守ってやれるほど、超強いんです……。
強いから、帝督を守ってやらなきゃいけないんですよ……。あいつは、弱いから……泣き虫で、私がいないとすぐ泣くから……」

言っていることが無茶苦茶だが、本人は気づいていない。

「だから、私は帝督を守らなきゃ……帝督なんかいなくっても生きていけるんですよ。だって、私は超強いから」

麦野は顔をしかめ舌打ちした。

「結局、私の案はやめといた方がよかったってわけね。
でもまぁ、麦野……そんな泣きそうな顔しないでよ」

フレンダは絹旗を見て安心したようにため息をつくと麦野に笑いかける。
そして、絹旗の肩を掴むとガクガク揺らし始めた。

「ほら、絹旗……しっかりしなさい!」

そして、仕上げ、と言う風に頬を軽くはたく。

「強いんだったらシャキッとしろ!ったくみっともない……自分さらけ出す勇気もないくせに何が強いだ」

フレンダの物言いに心理定規はクスクスと笑っている。
絹旗のことを頼む、と特に真剣に言っていた二人がいつまでたっても自分に喋るチャンスをくれなかったことがおかしかったらしい。


「……フレンダ……あれ?私は……」

「落ち着きなさい絹旗……あなたは最愛でしょ?
最も愛される最愛ちゃんでしょ?
私も麦野も滝壺もあなたを愛してるから……恐れないで……不安なこと、怖いこと、全部話してごらん。
誰も絹旗を要らないなんて言わないから」

きゅっと抱きしめながら、頭を撫でる。
まるで妹をあやす姉のようだ。

「帝督……は?」

「なんかあいつ、全部思い出したみたいよ。この街に来た理由、絹旗への想い、なんかよくわからないけど、思い出したみたい。
それで、死ぬつもりらしいよ」

「……え?死ぬ……?帝督が?」

「そんなの嫌でしょ?だから結局私たちは話し合いをしているってわけよ。絹旗が嫌なことは、なるべく起きて欲しくないから」

落ち着いた、と判断したのかフレンダは絹旗から体を離す。

「ね!垣根が全部思い出して行動にでたなら、絹旗だって全部思い出さなきゃ!
だから、がんばろ?」

珍しく頼りがいのある笑顔を浮かべ、フレンダは絹旗をみつめた。

「……超、わかりました」


〜〜〜

ソファに移動すると、絹旗は話を始めた。

「私が、学園都市に来たのは……三歳の頃です。
親に……捨てられて、ここにくるしかなかったんです。
すっごい泣きました。あーあーと泣きました、それはもう帝督みたいに……。
その時思ったんです『最も愛されるって名前は嘘なんだ』って」

絹旗は言葉を探しながら話を続けた。

「好きって気持ちはなくなる。だったらもうそんなのいらないって……この名前は、私が私を最も愛せるって意味にその日からなったんですよ」

「じゃあ、どうしてかきねを大切にしてたの?」

「わ、かりません……」

「あなた、初めてこの街に来た日帝督と会ってるのは覚えてる?」

「……あぁ、そうですね、そうです。
思い出しました。ふんわりと覚えていましたけど……はっきりと……そうだ、ずっと泣いてる帝督を羨ましいと思った……。
私も本当は泣きたかった……けど……悔しくって、悲しくって、強くなってやるって……それで……強くなるなら守らなきゃって……だって、お父さんは強くってかっこ良くっていつも私を超守ってくれたから……。
だから、私は……帝督を守ろうとした?……いえ、違います、なにか違います……もっと、もっと何か理由が……」


頭を抱え、パニック状態になりかけた絹旗を今度は麦野が抱きしめる。

「落ち着けって……垣根だってすぐに死ぬわけじゃない。
だから……落ち着け。時間があるわけじゃないけど全くないわけじゃないんだ」

豊満な胸に絹旗を埋めるように抱きしめる。

「……すみません」

絹旗もすぐに正気に戻り、また話を進める。

「他の理由、他の理由……あ、私は……必要と、されたかった?
泣いてる帝督なら、手を差し伸べたら必要としてくれるって……思った?
だから、私は……捨てられて要らないって言われた悲しみを埋めるために……帝督に縋った……んですね」

「なるほどね、帝督も絹旗さんもお互いを親の代わりにしていたってわけね」

簡単に言えばそういう事である。

垣根は失った母親の優しさとぬくもり、庇護を求めて絹旗を頼り絹旗は自分を愛してくれていた時の両親を垣根に求めた。

垣根の言っていた歪んだ関係とはこの事である。

「帝督がいたから、私は強く……いえ、強がれたんです。
私は……帝督を盾に嘘の強さで自分を作っていたにすぎないんですね。
帝督を守るのが目的なんじゃなくって、帝督に必要とされる、愛されるのが目的だったんですね……。
本当に、最低です私……」


「それは、帝督も同じよ。
あなたに甘えるのが目的、この街で一番最初に優しくしてくれたのがあなただったからってだけで……多分きっと、最初は別にあなたじゃなくてもよかったのよ。最初は……ね」

心理定規はまっすぐと絹旗を見つめる。

「だんだん、帝督はあなたでなくてはならなくなって、あなたは帝督でなくてはならなくなった」

「そう……ですね、私は帝督が好きです。超好きです……こんな、わかりきったことどうして今まで目を逸らしてたんでしょうね……。
好きじゃなきゃ、守ろうなんて思わない。好きじゃなきゃ、離れ離れになるのが辛いなんて思わない……。
好きだから……私は帝督を超死なせたくない……けど……帝督は?
私をまだ、必要だって、大切だって、大好きだって……言ってくれますかね?
もしかしたら、もう私の事なんて……」

不安そうに、絹旗はうつむいた。

「……帝督は、あなたが教えてくれた花が一番好きだと言っていたわよ。
その花がなんなのかは……教えてくれなかったけど……帝督にとってあなたはかけがけのない代わりの効かない最愛の人よ。
それは……間違いないわ」

「……そういえば、なんでなずながここにいるんですか?」

心理定規の言葉に少しだけ頬を赤くし、今更な質問をする。


「私スクールで帝督と活動してたのよ。嘘ついてごめんなさいね」

「……お二人の関係は?」

不機嫌そうに絹旗は質問を重ねる。

「……躰で慰め合う関係?」

どうせバレるなら、と心理定規は誤魔化さずに事実を話した。

「何度も肌を重ねたわ……でも、帝督の心にはいつもあなたがいた。
帝督はあなたを求めて、あなたがいない寂しさを……私で忘れようとしていただけよ。
キスすらあの人からしてくれた事はないもの」

生々しい話に、絹旗は黙り込む。

「……麦野って経験あるの?」

そんな二人の後ろで、アイテムの三人はボソボソと話す。

「……ねぇよ、まだ十八だぞ?無くても普通だろ?」

「意外と貞操観念しっかりしてんのね」

「悪かったな……お前は?」

「……初めて殺した奴は男よ」

「……悪い」

「別に、もう……気にしてないし。滝壺は?」

「ないよ。実験もずっと私専用のだったから同年代の子と仲良くなったのはアイテム入ってからだし」

絹旗も心配していたよりは軽く済み、安心からかどこか真面目な空気は薄れている。

ちゃんとに設定練ってから書くべきでしたと後悔してる。
なんつーか弱い。
やっぱ勢いだけじゃダメだな

では今日はここまで

こんばんは、いつもレスありがとう
今日書けなかったので多分つぎは週末になると思う



〜〜〜

「なぁ、どうしたら暗部から日の当たる表の世界へ帰れるか教えてくれよ」

「……未元物質か……」

「……まぁ、なんでもいいけどよ。で?どうしたらアイテムと心理定規を暗部から救える?」

「……なに、簡単だ」

垣根を暗部に堕とした男はにやぁと笑った。

「お前ら暗部なんていなくなってもまた代わりを補充するだけのカスなんだ。
やめたきゃやめたらいい。私たちは別に暗部にいる事を強制はしていないぞ?」

「……なるほどね、わかったよクソ野郎。
ぶっ殺したいが我慢してやる。
……じゃあな、俺のやりたいようにさせてもらうぜ」

ナイフのような鋭い目つきで垣根は男を睨んだ。

——代わりが効く……か。

代わりの効く自分。
そして、代わりの効かない最愛の人。
その人も、また自分以外にとっては代わりの効く自分なのだ。

「……俺もお前らにすべてを捧げてやる」

部屋を出ると、垣根は空を見上げそうつぶやいた。
思い浮かべる顔は自分に尽くしてくれた少女と、自分の存在を守り続けてくれた少女だ。

「じゃあな」

そして、その二人に別れを告げる……。


〜〜〜

「まぁ、あいつの性事情は超置いておくとして……帝督はどこにいるんですか?」

咳払いをし、絹旗は四人に尋ねる。

「さぁ?」

「しるか」

「知らないわよ」

「しらない」

四人は声を合わせ、知らないと言う。

「じゃあ……どうするんです?」

麦野は少しだけ考えると自分の予測を話し出す。

「あいつは罪滅ぼしに私らを暗部から救うと言っていた。
私らみたいな頭の先からつま先までどっぷり沈んだ裏の人間を今更すくい上げるなんて普通のやり方じゃ不可能だ。
それが出来るとしたら——」

「学園都市自体を転覆させるってわけね」

「……まぁ、そうだな」

台詞を取られ少しだけむくれる。

「だがそんな事が起きたら『垣根帝督を抹殺しろ』って仕事がくるはずだ。そんで得体のしれない暗部の上層部の事だ……それが私らを救うためだって事もわかってるはずだ」

「それでも超仕事来るんですか?」

「きっと来るわ、私たちが帝督を命令通り止めようとしたら帝督にはそれだけでダメージになるわ。
それに帝督に協力しようとしたら、私たちごと消せば良いだけだしね」

「でも、第二位と第四位……それに使わせたくないけど滝壺に体晶使わせたら第三位や第一位が出て来ても勝てそうじゃない?」

フレンダが不思議そうに言う。


「私らが滝壺に体晶を使わせる事はないってわかってるんだろうな。
そして滝壺なしじゃあ第三位はアイテムだけでも倒せない事はない。だがそれでも私らが結託するのを止めにこないってことは……第一位が出て来たら垣根と組んでも私らじゃ勝てないって事だ……」

「……じゃあ、垣根はどうするつもりなのよ?」

「帝督は自分は超死ぬつもりなんですよね?
だったら……」

絹旗は言いたくないのか、言葉をつまらせた。

「……大丈夫だ、どんな方法をあいつが取ろうがお前には私たちがいる。絶対にお前が泣く結果になんかさせやしない」

少しだけ安心したがやはり考えたくはない事だったらしく、絞り出すような弱々しい声で絹旗は言った。

「……あいつの……脳とかそういうのを担保にするって……あり得ませんか?」

「あー……なんか、普通にこの街だとあり得そうで嫌ってわけよ……。
外の世界なら笑い飛ばせるけど……ここだとそれ、ちょっとリアルで考えるの嫌よね」

絹旗の思いつきに、フレンダは納得するように気重い声をだした。

「うう……ですよね。この街だと笑えませんよね……」

「えぇ、本当に笑えないわね」

不安そうな声を出した絹旗に、心理定規は冷たく言った。
怒っている、というのが誰が見てもわかった。


「あなたが一番帝督バカにしてるわ。
そんな、不確かな約束を……あなたに関わる約束で……そんなバカな事するわけないでしょう。
すでに一回学園都市は帝督との約束を反故にしている。
あの人は……バカでだらしなくて弱いけど学ぶ事の出来る人よ。
もう絶対に学園都市と約束なんかしない」

絹旗を想う垣根の気持ち、それはある意味心理定規が一番理解しているのかもしれない。

「……少し話変わるけどかきねときぬはたはどうして暗部に堕ちたのかな?
約束をただ破っただけだと、学園都市側に負い目が出来るよね?そんなバカな事しないと思う」

しん、と静まったなか、滝壺がいつも通りの声色で言葉を発した。

「……私の方が若干暗部に入るのが早かったみたいですから……厳密には帝督との約束は破ってませんよ」

「暗部組織と関わらせるな、がかきねの取引条件だから、かきねが堕ちた時にきぬはたは暗部から消えてなきゃいけないと思う」

五人は黙り込んだ。
滝壺の言うとおり、学園都市がただ約束を反故にしたならば垣根、絹旗の起こす行動に正統性を与えてしまう可能性があるのだ。
もちろんそんなものを学園都市、それも暗部組織が気に病むの事はない。
だがしかし、正統性というものは弱者に力を与える。
自分の行動は正しいという信念が生まれてしまう。
信念を持った、確固たる想いを持った人間ほど、暗部組織にとって扱いにくいものはない。
暗部組織はその構成員の“暗部反抗に対する正統性”または“信念”はへし折るべきなのだ。


「……全くわからねぇな」

麦野は髪をぐしゃぐしゃとかきわけ、舌打ちした。

「……細かいところまでその時の会話思い出してよ」

「えぇっと……。
『垣根帝督には手を出さない。そうそう、お前もそろそろ能力名をつけろ』とか言われたと思います」

少しだけやり難そうに絹旗は答える。

「それで、能力名を窒素装甲にしたんですけど……そうしたら『君は今日から私たちの間では“窒素装甲”《オフェンス・アーマー》だ』って」

「……別に、普通ね。
帝督も『絹旗最愛を暗部組織に巻き込むな』って言って了承を得たと言っていたわ」

また、五人は黙り込む。

そのまま数分がたち、そろそろ麦野が爆発しそうだな、と滝壺がぼんやり思いはじめたころ、フレンダが「あ……」と声をあげた。

「超どうしたんですか?」

「いや、馬鹿な話かもしれないけど……麦野って電話の女に名前呼ばれた事ある?滝壺は?絹旗は?なずなも、スクールの指令役に名前呼ばれた事ある?」

怒られるかもしれない、という不安を抱えながらフレンダは四人に尋ねる。

「私はないってわけよ。いつも『金髪』とか『やかましい子』とか『無能力者』とかって呼ばれてるわ」

「私だってねぇよ、いつも原子崩し、とか第四位、だ」

「私も、能力追跡とか電波とかだよ」

麦野ははやく核心を話せ、とイラついた声で、滝壺はいつも通りの穏やかさで答えた。

「私も超女とか窒素装甲とかですね」

「私は……というか心定なずなって偽名だからね?
呼ばれ方は心理定規よ」


四人の答えを聞くと、フレンダは頷き話を続けた。

「もしかしたらさ……あいつらにとって、例えば麦野沈利に原子崩しがあるんじゃなくて……原子崩しって能力に麦野沈利って名前がついてるんじゃない?」

「どういう事だよ」

「だからさ『絹旗最愛は暗部には関わらせないけど、窒素装甲は引き込むよ』みたいなさ。
『垣根帝督に手を出しやしないけど、未元物質には手を出すよ』とかさ……これならギリギリまぁ筋は通る……と思わない?」

四人の動きが一瞬止まり、フレンダは苦笑いを浮かべる。

「……フレンダ」

「だ、だよねー!結局くだらない事言ってごめんってわけよ!
もう電話の女に直接聞いてみる?私かけてもいいよ?」

あはは、とわざとらしく笑い、場を和ませようとする。

「いや、違う……それありだな」

麦野の言葉に三人も頷いた。

「今日から窒素装甲って部分を強調してたような気もしますし……垣根帝督“には”とここも強調してた気もします」

「……でも、やっぱり約束破りは約束破りだよ」

「そうね、でも理屈が通らないってほどめちゃめちゃでもない……むしろ、そこに反抗してきた帝督にこれを言ったら心折られるんじゃないかしら?
『そんなくだらねぇトンチが通用していい訳ねぇだろ……』とか言ってさ」

「……」

「どうしたの?」

羨ましいような、悲しいような目で絹旗は心理定規をみた。


「いえ……超なんでもないです」

「なによ?言いたい事あるなら言いなさいよ」

心理定規も、先ほど絹旗に強く言ってしまった事を少し気にしているのか、そんな事を言った。

「いや、ただ……私よりもなずなの方が帝督を理解してるなぁって……悔し……んん……ムカついたんですよ」

拗ねたように、プイと顔をそらした。

「……それ、かなりダメージでかいわ。
いくらあの人を理解しても……あの人の心はあなたしかいないんだもの……」

絹旗のヤキモチに、心理定規は素のかなしそうな表情を一瞬見せた。


〜〜〜

「はい、こんばんは……」

扉を蹴破り、垣根は涼しげな顔でアイテムの指令役の部屋へ無遠慮に入り込んだ。

「なっ……お前は……第、二位……だとぉ?
……なんでスクールのお前がここに来る?」

その音に驚き、次に現れた垣根に驚いたが、すぐに平常心にもどり、暗部構成員を使う側特有のニヤニヤ笑いを浮かべた。

「お前、死なないとでも思ってるのか?」

その余裕さに腹が立ち、垣根は冷たい眼差しでさらりと死の近さをつげる。

「はっ、お前が私を殺したらどうなるかお前こそわかってるのか?」

「……お前、死なないとでも本気で思ってるのか?」

言うのと同時に能力を展開させ女を壁にうちつける。

「お前は俺の言う事を奴隷のように聞けば良いんだよ。
俺があのクソ野郎を殺さないのは……母さんの命を無駄にしない為だ。
お前なんて小物を殺すのを……暗部で数えきれないほど人を殺した俺が躊躇うとでも思ったか?あ?」

翼で首を締め上げ、静かにそう言った。
女はなにも答える事ができない。

「なに、簡単な事さ……これからアイテムに回す仕事は全て俺に回せ。
そんでアイテムにはそれを適当に誤魔化しとけ……」

「なんの……ために?」

かすれた声で、垣根を睨みつける。

「お前には関係ないだろ?
お前に拒否権なんざねぇんだよ、さっきお前を殺したらどうなるかって聞いたよな?
お前を殺しても学園都市ごと潰す事になるだけだ。自分に価値があると勘違いするなよクソ女が」

まるでそれが簡単な事だと言うように垣根は言った。


〜〜〜

「結局、そういう色恋沙汰は関係者揃ってからやって欲しいってわけよ……。
今はとりあえず垣根見つけて止めるのが最優先じゃない?」

「……わかりました。
話を戻しましょう……帝督はどうやって私たちを暗部から救うかって話でしたよね」

「……かきねは第一位に勝てるのかもよ?
第一位に勝てないって前提が間違ってるのかも……それか、第一位が見方についてるとか」

「いや、第一位は暗部入りしてねーし、学園都市を潰す理由がない。
手を組むってガラじゃねぇだろ」

裏の世界にいても、第一位の事はほとんどわからない。
わかっている事は一方通行という能力名と、その能力のひとつに自動防御があると言う事だけだ。

「そもそも暗部から救うってどう言う事なの?
今まで私たちは何人もの人を殺してきてこの手は、身体は血で汚れてる。
それが表の普通の世界で暮らせるわけ?
フレンダさんなんて無能力者なんだとしたら、金銭面的に苦しくならない?」

「その辺は大丈夫ってわけよ。
実は私奨学金も結構もらってるし……というか、暗部にいても学校行けたりするわけよね。グループだかで表も裏も楽しんでるやつがいるって前に聞いたし」


垣根の考えを読み解こうと五人はあれこれと話続ける。

「というかよ、暗部を出たとしても『アイテム』を恨んでるやつはかなりいる。
その時、普通に表の世界でドンパチなんか出来ねぇだろ?
正直、私はあんぶにいたほうが都合が良かったりするぞ?」

答えの出ない問答に、イライラと麦野が言った。

「抜けたあともアイテムがしっかり動いていれば大丈夫なんじゃない?
アイテムが機能してたら『何かの理由でむぎのは学園都市から暗部を抜け、殺しが珍しい綺麗な世界へ帰ることを許された』って思うはず。
そうしたらよほどのことでもない限りむぎのを襲ったりは出来なくなると思う。
かきねだってそのくらいはわかってると思うよ。
こんな世界にいるのが都合良い、だなんて言わないで欲しいな」

麦野をなだめるように、滝壺は落ち着いた声を保つ。

「……アイテムとスクール……この二つを帝督だけで超動かすって可能なんですかね?」

「ただ仕事をこなすってだけなら問題ないが……スクールとアイテムは上が違うだろ。
暗部の中にも派閥みたいなものがあるみたいだし……あんまり現実的な話じゃないな」


暗部上層部がそんな事を許すほど頭の柔らかい連中ではないと麦野は言い切る。

「でも、学園都市を潰すって話よりは現実的じゃない?
結局垣根がこれからどう動くかがわからないと予測しても無駄だと思うんだけど」

麦野のイライラが溜まるだけよ、と付け加える。

「……お風呂入ろっか。わからないこと考えても疲れるだけだし、お風呂入ってご飯食べて今日は寝よう」

「……そうね、じゃあ、私も今日のところは帰るとするわ」

滝壺の提案に、心理定規は立ち上がるが、その腕を滝壺が掴んだ。

「なによ?」

「もちろん、なずなも一緒に入るんだよ?」

「……は?というかアイテムはいつもみんなでお風呂はいってるの?」

滝壺は当たり前というように頷く。

「……麦野さんも?」

「いや、うんまぁ私は基本一人よ」

「帰っても……」

「だめ、どうしても帰るなら本名教えて」

結局、麦野ですらかなわない滝壺に心理定規が敵うわけもなくお風呂場へと引っ張られて行った。


〜〜〜

「そうだな、まずはアイテムと心理定規を……こいつは心定なずなって名前で書庫登録しといた。
その五人を各学校所属にしといたから話つけとけ、出来ないとか抜かしたら殺す。
そんで……そうだな……麦野と滝壺は霧ヶ丘に外部とつながってるのがいる可能性があるからそれの捜索。
絹旗は御坂美琴の監視、フレンダは土御門元春への牽制とでも言って学校に通わせろ。
心理定規はスクールから指示を出すから良い」

その間に回って来た仕事は全て自分に回せ、と繰り返しとりあえずはそれで良いとだけ言うと電話の女を解放した。

「……いますぐその電話をおけ、その電話をかけたらお前の命はそこで消える」

部屋を出る直前、背中に目でもあるかのように垣根は女に忠告する。

「まぁ、もともと俺らみたいな暗部組織構成員の暴走を阻止するための組織がお前らアイテムだ。
それがこんな様だと知れたら……お前どっち道やべぇんじゃねーの?」

バカにするようにそう吐き捨てるとカツカツと靴音を鳴らし去って行った。

「……馬鹿なガキだな」

女は笑いながら、電話を取りコールする。
数コールでつながると、畏まった声で話し始めた。

「私です。予定通り垣根帝督は私のところへ来ました。
暗闇の五月計画は着々と完成へと近づいています。
アイテムは……はい、そうですか。
では、絶対能力者進化実験の方もシナリオを進めてよろしいですね?
はい、ではアイテムは一時期凍結……垣根帝督の死後、一方通行と幻想殺しを迎え……最強の抑止力を持った組織として再始動させます」

はじめから垣根帝督の取る行動は決まっていたというように、話を続ける。

「はい……はい……窒素装甲の処理はどうしますか?
えぇ……では、そうですね……未元物質には存分に悲劇のヒーローになってもらいましょう」

ニヤニヤと笑いながら通話を終えた。


〜〜〜

「……本当に仕組まれているのはどちらなのだろうな」

穏やかに笑いながらビーカーの中に浮かぶ男とも女とも言えない妙な雰囲気を持った存在がその光景をみながら言った。

「垣根帝督、一方通行、上条当麻。
この三人の邂逅を持って、絶対能力者は完成する……」

学園都市の頂点に立つ存在、アレイスター・クロウリーは静かに笑う。


〜〜〜

「……愉快にケツ振って誘ってンのかァ?」

よく通る声で、頭の先からつま先まで真っ白な男は唯一色のついた真紅の瞳で少女を睨みつける。

「……まァ、お前みたいな人形相手じゃ勃たねェけどな」

ぎゃはは、と下品に笑った。

「……童貞に抱かれてもね……とミサカは童貞であることが確定的な一方通行を鼻で笑います」

「……そンなに早く死にたいか」

「怒るなよ童貞、ミサカもまだ未経験ですから、と笑いを堪えながら慰めます」

「……なァ、これ楽しいか?正直俺の方が死にたくなって来たンだが……」

一方通行はため息をつくと、頭を抱え込んでしまった。

「罰ゲームなんですからあなたが楽しいわけありませんよ」

「ンで?お前はなンなンだ?いい加減それに答えて貰おうか」

「はい、ですから人生ゲームに勝てたらお答えしますよ、とミサカは繰り返します」

学園都市、第一位一方通行。
本名は誰も知らない。

本人すら、覚えていない。

全てを拒絶する能力を持ち、それゆえに誰よりも優しい青年に彼はなった。


〜〜〜

人通りの少なくなった通り、少ないとは言えゼロではない。
しかし、スキルアウトに絡まれている少女を助けようと言う人など誰もいなく、少女はこれから自分がどうなるか、ということを想像し涙をこぼしそうになる。

そう、本来ならばそんな自ら厄介事に首を突っ込むお人好しなどいるはずもないのだ。

「おい」

だから、はじめその黒髪のツンツン頭がスキルアウト連中に声をかけた時、連中は自分達が呼ばれているとは気づけなかった。

「はぁ……ったく、人の話は聞きましょうって小学校で習っただろうが!」

後ろから一人を思い切り蹴り飛ばし、それに驚いたスキに少女の手を取ると……一目散に逃げ出した。

スキルアウト達も何が起きたのか一瞬理解出来ず、固まるが恥をかかされたと理解するとその黒髪のツンツン頭を追いかける。

「あぁ……くそ!もっと強く蹴っ飛ばしゃ良かった!
おまえ、家はどこだ?」

助けられた少女の方も何が起きたのかは理解が追いつかず何も答えることが出来ない。

「まぁ、とりあえず……」

ツンツン頭は携帯を取り出し、何処かへ電話をかける。

『おーす、カミやん……どないしたん?』

「いまお前の下宿先の近くにいる、女の子拾ったからちょっと匿ってやってくれ」

『また、かいな……まぁええけど……カミやんそろそろ死ぬで?
相手何人なん?
とりあえず、いま土御門くんも一緒におるから五人までやったら撒くん協力するで?』

「まじか!サンキュー!相手は四人だ」

青髪と呼ばれた電話相手は「ほな」と言うと電話を切り、カミやんと呼ばれた黒髪のツンツンも電話をしまう。


「よし、今から俺の友達のところに連れてくから、そこでしばらく待ってろ。あ、帰りはちゃんと送ってやるから安心しろよ」

微笑むと、少女は少しだけ不安そうな顔で頷いた。

「あぁ、大丈夫だよ。そいつの家パン屋さんだから……俺たちは君に変なことしようだなんて考えちゃいないさ」

こっちだ、といいながら角を曲がると数十メートル先にパン屋さんの看板が見えた。

その前には青い髪をした大柄な青年と金髪アロハにサングラスというどうみても見た目は先ほどの連中と変わらない2人組が立っていた。

「大丈夫、青いほうは女の子大好きだから女の子をすごく大切にするし、金髪は……シスコンだから妹以外に興味はないからさ」

ツンツン頭は二人を間をすり抜けパン屋の中へ少女を押し込む。

「まーた上条ちゃんは厄介なもん拾って来たにゃー」

そして二人の方へ振り向いた上条へ金髪がふざけた風に言う。

「小萌先生はにゃーなんていわねぇよ……ありがとな二人とも」

「ええって、僕ら帰宅部で運動不足やし。
当麻ちゃんに何かあったら小萌センセに怒られてまうしな」

青い髪の青年はニコニコと笑いながら、上条と肩を組む。


「おい、それよりお客さんのご到着だぜい?
最近は能力持ったスキルアウトも多いから気を抜くなよ?」

わかってる、と上条は右手を握りしめる。

「てめぇ……なに舐めた真似してくれてんだ、あぁ?」

リーダー格の男が、上条らを睨むがもう慣れっこの三人は特にひるんだりもしない。

「お前こそ恥ずかしくねーのか?女の子一人によってたかって……あーあ、情けない男だねぇ、モテないわけだ!」

上条が挑発するように笑い飛ばすと、リーダー格の男は能力を展開し、火球を放った。

「はっ、ザマァ……見や、がれ?」

勝ち誇り、大笑いしようとするが、その炎の塊は上条たちへと届くことはなく、割れるような音と共に消滅した。

「……なんやって?よく聞こえなかったわ」

「俺も聞こえなかったぜい」

「まぁ、とりあえず……俺たちに勝てるなんて幻想は……ぶっ壊れたみたいだな」

ニッと笑うと、その得体のしれない力に恐怖し四人は逃げ出した。

上条当麻、幻想殺しの青年。
全てを消してしまう力を持ち、それゆえに誰よりも人と関わろうとする青年に彼はなった。

第一位、幻想殺し、参戦。
土御門さんは暗部で有名人ということにしておいて。


〜〜〜

やる気のない学生がレジに立ち大量の缶コーヒーをカゴから袋へと移し替えている。
それを黙って見ている高校生くらいの青年は髪の毛も、肌も、服装まで白一色だった。

「……悪りィな……」

ビニール袋二つ分の缶コーヒーを受け取ると、青年は真っ赤な瞳を店員に向けそう言い店を出た。

月の光と、学生寮から漏れる光がなんとも言えない雰囲気を作り出し、その中を歩く白い青年はとても絵になる。

「はぁ……」

青年は突然立ち止まるとため息をついた。
そして、まっすぐ前を見ながら誰もいない空間へ話しかけた。

「おい、狙うンなら殺気くらい消せ。
あと俺を撃ち殺そうとしてンなら無駄だぞ……お前が死ぬだけだ」

よく通る声でそう叫ぶと、あたりは数秒風の音さえ止んだ。
そして、しばらくしてからがさがさと音をたて一人の少女が現れた。

「ふう、流石は第一位・一方通行ってところですかね、とミサカ00001号は任務を諦めおとなしく出頭します」

「……女ァ?というか……常盤台の……超電磁砲か?」

襲撃者を確認しようと振り向き、一方通行と呼ばれた青年はそこにいた人物に素直に驚いた。

これが、ミサカ00001号と一方通行の出会いである。


〜〜〜

不幸とはまさに自分のためにある言葉だとその男は思っている。

道を歩けばトラブルに巻き込まれ、それならばと家でおとなしくしていてもトラブルが起きる。
工事現場の近くを歩けば鉄骨が降って来て、外食すれば五回に一回は料理をぶちまけられたり、食中毒になる。

「はぁ……不幸だ」

そして現在も、生活費をおろしたばかりの財布を探し回っていた。

「この右手切り落としたら……駄目だ右利きだから生活不便になる。
というか俺今月どうなるの?生きれるの?」

青年がブツブツと恨み言をつぶやきながら、地面を這いつくばる姿を通りかかる人たちは見て見ぬ振りだ——一人を除いて……。

「……あ、あの!」

そんな怪しい男に話しかけたのは一人の少女だ。
不幸だ不幸だと呟く青年よりも、年下の——おそらく中学生だ——可愛いらしい女の子だった。

「ん?……あぁ、お前は昨日の!」

地面から顔をあげ、その少女が誰であるのか思い出すと青年は爽やかに笑った。

「はい!昨日はありがとうございました!本当に怖くって……本当に、ありがとうございました!」

「はは、気にするな。あ、でもこれからはあんまり夜遅くに出歩くなよ?」


少女は「はい!」と返事するとやや聞きにくそうになにをしていたのかを聞いて来た。

「あぁ、財布を落としちゃってね……生活費をおろしたばかりの、上条さんにしてはずいぶん潤ったお財布を落としましてね……あはは」

上条と名乗った青年はなぜかはずかしそうにそう笑った。

「お、お礼に探すの手伝います!」

「いや、大丈夫大丈夫。
それに探してて帰るの遅くなったら危ないだろ?
おれはこういうの慣れっこだからさ」

笑う上条にそれ以上食い下がられない妙な空気を感じ、少女は再度お礼を言うと逃げるように去った。

「……ま、いいさ」

その後ろ姿を少しだけさみしそうに上条は見つめる。

「……諦めようかな」

なんだか面倒になり、財布を探すのをやめ公園を出る。
自販機でジュースを買おうとするが、ポケットに入っていた小銭では十円足りなかった。

「ついてねーな……いや、これが俺の平常運転か……ありゃ?」

ふと視界に入った……いや、視界に入るはずのものが何ひとつないという違和感に首をかしげた。

「……おかしい……なんで俺以外の人がいないんだ?」

あたりを見回しても誰もいない。
先ほどまで財布を探す自分を変な人を見る目で見ていた通行人たちも一人残らず消えていた。


「……まぁ、いっか。考えてもわからねぇし……帰って明日からどう食いつなぐか考える方が……こっちも考えてもわからない気がするけど……まぁいいや」

大きくため息をつき、とぼとぼと歩き始める。
毎日こんな風に誰もいなかったら自分の不幸に巻き込まれる人も、首を突っ込む不幸も少なくなるかもしれない、などくだらない事を考えながら上条は歩き続ける。
そして、新しい違和感が上条を襲った。

「……なんで上条さんは何回も同じところをぐるぐるしてるんでせうか?」

赤点補講三昧の頭でも、気がつくとジュースを買う事のかなわなかった自販機前へと出ている事は気づけたようだ。

「おっかしーな……精神感応系能力者が見せてる幻覚とかなら俺には効かないはず……だとしたら」

上条は勉強は出来ないがバカではない。
それは即ち自分の事を知っているということだ。
自分の体質、右手の力、仮説だろうがなんだろうが自分に出来ることと出来ないことは理解している。

「つまり、これは俺を標的とした能力じゃなくて街の構造自体を変えちまってるって事か?」

上条がイメージしたのは細かく切り刻んだ地図を適当に貼り合わせたあべこべな地図だった。


「それなら、一応俺も巻き込まれる……よな……?」

何故暗部でもない“戦闘”というものとは無縁の上条がここまで自分の力について考え尽くしているのか、それは色々なものを消してしまう不幸の右手が原因だ。
時には人との絆さえも己の不幸で壊してしまう上条は、誰よりも人と関わることを望んだ。
消えてしまったならまた作ればいい、そのためには自分に出来ることは理解しなくてはならない。
それが上条の考えだからである。

どうにかこの無限ループ迷路を抜けようと解決策を模索する。

「どんな能力かは知らんが……」

そして、地面にそっと触れてみるが変化はない。

「……てことは繋ぎ目みたいなところにしか能力は干渉してないってことか?
でも繋ぎ目なんて言われてもわからんよなぁ……まさか右手地面につけたまま家帰るわけにも行かんし……」

自販機にもたれるように座り込む。
空を見上げどうしようか考えていると、驚くべき光景が飛び込んで来た。

「……翼の折れてないホスト風エンジェルが急に現れるとか……こわい」

「あん?一般人か?」

そのホスト風エンジェルも上条に気がつき、困ったような顔をした。

これが、生み出す力を持った垣根帝督と打ち消す力を持った上条当麻の出会いである。


〜〜〜

「はァ……缶コーヒーか……いや缶コーヒーしかねェわ。缶コーヒー飲むか?」

銃を取り上げると、一方通行は事情を聞くために自分の家へとミサカ00001号を連れ込んだ。

「いえ、お構いなく。シャワー先浴びてきてもいいですか?とミサカは連れ込まれたということはそういうことだろうと覚悟を決めます」

「違いますゥ……ただ俺を殺そうとした理由を聞きたいだけですゥ……」

「据え膳食わぬは男の恥というのを……あぁ、童貞ですもんね、すみません」

「お前シャワー浴びる前に脳洗浄してやろうか?
だいたいなンで被害者と加害者で加害者がそンなに馴染んでンだよ」

「性格ですかね、とミサカはしれっと答えます。あ、このクッキー美味しいですよ」

ミサカ00001号は一方通行宅へ上がりこむとさっさとソファに座り、リビングの机につまれたお菓子を何時の間にか開封し食べていた。

「……というか、お前マジでなンなンだ?御坂美琴、ではないンだろ?」

「ふぁい、みはかはほねえさまのふんようふろーんでふ」

「何言ってるか全くわからねェからとりあえず口の中のもン飲み込ンでから喋りやがれ」

「……ミサカはお姉様……御坂美琴お姉様のクローンです、とミサカは自己紹介します」

「クローン?クローンは国際法で禁止されてるだろォが、ンなもンいくら学園都市とはいえ……」

だんだん自信がなくなり、声がしぼんでいく。

「あり得ない、なんてあなたが言うと笑えますよ? とミサカはこの街で最も非人道的扱いを受けてきた第一位を見つめます」


「……そォ……だな。
しかしなンでクローンが俺を殺しにくる?」

「違いますよ。ミサカは第一位を殺しにきたんではありません」

「あ?人に銃突きつけといて何言ってやがる」

「それはたかが銃では殺せない、と知っていたからです、とミサカは無感情に答えます」

「むしろお前が死ぬ……ってまさか」

「ええ、さすがは第一位ですね、とミサカは察しが良い第一位に好感を持ちます」

「……なンのために……?
もう一度聞く、お前はなンなンだ?」

今度のこの質問は、ミサカ00001号がどういう者かではなくミサカ00001号がどのような目的を持った者なかを問うものだ。

「……そうですね、では人生ゲームに勝てたら教えてあげましょう、とミサカはお菓子と一緒に未開封だったボードゲームを広げます」

「は?」

「しかしあなた友達いないのにこれ買ったんですか?」

「いや、それは俺の名前使う許可出したら送ってきやがったンだよ……じゃなくて!
なンなンですかァ?バカなンですか?そンな『好き人だァれ?』『えー、じゃあじゃンけン勝ったら教えてあげるーふふふふ』みたいなノリの話じゃねェだろォ!」

机を叩き、ミサカ00001号に凄んでみるが効果はないようだ。

「あなた資料の情報と全く違ってすごい面白い人ですね、とミサカは問答無用で殺されると思っていた事をなんだか悪く思います」

「……はァ……もういい、俺赤い車な」

「えぇ、ではミサカ00001号は……白で」

こうして最強無敗の一方通行が五連敗するという屈辱を味わう事となるのだ。


〜〜〜

「くっそ、厄介だな……」

電話の女を脅してから一週間が経ったある日、垣根は早速入ったアイテムの依頼をこなしていた。

任務の内容は殺しだ。
逃がし屋と呼ばれる学園都市内部の情報を狙うスパイを外へとその名の通り逃がすというのを生業にしているチームの殲滅。
まともにぶつかれば目を瞑っていても遂行出来る任務だ。
しかし、その名は伊達ではなく垣根に苦戦をしいていた。

「ったくめんどくせぇな……」

同じところをぐるぐると旋回しながら、垣根はぼやく。

「あん?一般人か?」

報告通り見事にどの場所も人がおらず、一般人を巻き込むのを嫌う点だけは逃がし屋の美学のような誇りを感じ始めた頃、可哀想にも巻き込まれてしまった一般人を発見した。

「はっ、よほどの幸運の持ち主らしい……」

皮肉を込めそうつぶやきながらぼんやりと自分の方を眺めるその男の元へと舞い降りた。


〜〜〜

「こっちに向かってきてる?……あぁ、不幸の予感しかしない」

翼のはえたホストがだんだん近づいてくるのをみて、上条はまたもため息をついた。

「……こんにちは、俺は垣根帝督だ」

茶髪に整った顔、ますますホストだ。

「上条当麻です……これは……あんたの能力?」

「いいや、違うよ」

「そっか、多分地図を切り貼りするようにこの空間作ってるんだと思うんだけど……繋ぎ目ってどこかわかる?」

無駄かな、と思いながらも一応聞いてみる。

「繋ぎ目なら四つほど見つけた。
だが、それがわかったらなんかあんのか?」

「おっ、まじか!ならなんとかなる!
そこ教えてくれ!」

「……なんとかなるってどういう事だ?」

「あー、俺の右手はさ能力消す事が出来るんだ。ほれ」

言っても信じないだろうと思い、右手差し出す。

「掴んで能力使ってみ?無理だから」

垣根は言われたとおり、上条の右手を掴み能力を展開しようとするが……もちろん、失敗する。


「……なんなんだお前?演算は出来てるんだが……何故出ない?」

「だから、そういうものなんだって」

「お前まさか第六位か?」

「まさか、無能力者だよ。レベル5認定されりゃ財布落としたくらいで焦らないですよ……」

とほほ、と笑いながら手を離した。

「……まぁいい……だが繋ぎ目に触って解除できるなら歩き回ってる時に解除されるんじゃないか?
異変に気づいてるって事はしばらく歩き回って見たんだろ?」

「……そういやそうだな。いや困った……じゃあ……どうする?」

「こんな大掛かりな事出来るにもかかわらず超能力者じゃねぇってことは……能力が限定的、あるいは一時的なものだからだ」

この迷路からはやく出るために垣根も掴んでいる素直に情報を開示する。

「ふむ……限定的だったら何か一手間というか条件がいるって事だよな?
一時的だったら待ってりゃ消えるのか」

垣根は黙って頷く。
焦った様子も恐れている様子もない上条に少しだけ違和感を覚えるが、オタオタされるよりはマシである。

「多分だけど限定的だ。一時的で効果が切れるなら俺が繋ぎ目を通った時解除されるはずだ」

上条は考えながら落ち着いたように話す。


「そうだな……限定的の条件としたら……まず繋げる場所、ここにひとつだな。
多分半径3〜4キロいないの場所しか繋げない」

「根拠は?」

「まず今がそうだろ?学園都市は学区とかで割とタイルに特徴あったりするじゃん?ずっと俯いて歩いてたけどそれに気づかなかったから繋がってるのは全部学区だ。しかもここは割と端っこの方だ、ちょうど西に3〜4キロ行けば隣の学区だしな」

「気づかれないように意図的に違和感無いようにしたって可能性もあるぜ?」

「なんのために気づかれないようにするんだよ。追われてて逃げてるならなるべく追手を混乱させようって考えるだろ?それに俺でも三周ほどして気づいたんだ、いくら違和感なくしてもすぐに気づかれる。だったらめちゃめちゃにつないで混乱させた方がいいだろ」

——ふむ、馬鹿ではないらしいな。というかむしろ戦闘員としては優秀だ。

まだまだ謎の残る上条だが、一応の信用はしてもいいと垣根は思いはじめた。


「そんで、多分一人や二人じゃなくて最低でも5人組だ。それが大きな条件だと思う」

「なるほど、つまり視覚的に繋げる場所を見ていないとダメってことか。
カメラでもいい気がするけど、それだと機動性が落ちる。だから精神感応系の視覚共有能力者を集めて繋げてるってわけだな」

「あぁ、多分これは見ているものを繋げる能力。
繋ぎ目で飛ばす能力者じゃないから俺もこの袋小路に閉じ込められたってわけだ。
解くには本人叩くしかねーけど……無理だな。本人も巻き込まれてるなんてありえねーだろうし」

「……だがまて、あべこべに繋がってるのは能力の影響だろ?
俺はさっきから自分の能力でここの酸素濃度を下げ続けてる。もちろん自分には擬似酸素を供給してお前だけ昏倒させようとしたもんだ。
これも空間を変化させるって点で同じだが、お前は無事だ。つまり——」

垣根のいいたいことを察し、上条が続けた。


「……結局は能力の影響だから繋ぎ目を通った時解除されなきゃなんねーんだよなって事だよな。それは俺も思ってた。
漫画みたいにお札をはったところ同士を繋ぐって感じならそれ触らなきゃ解除出来ねーけど……そんな能力は能力じゃないよな」

「あぁ、頭の中で思い描いた世界を顕現させるのが能力だから」

結局、タネが解明出来ず、二人は黙り込んだ。

「……まぁ、解いてくれるの待とうぜ。わからんこと考えてもしょうがねーよ」

「……だな。能力が解除されてないってことはうちの下部組織が追ってるって事だろうし」

垣根もため息をつくと、先ほどの上条のように自販機へもたれるように座り込む。

「あ、ジュース飲むか?おごるぜ?」

沈黙しているのも居心地が悪いので、垣根は都合良く置いてある自販機に金を突っ込んだ。

「お、悪いな!実は財布落としてポッケにあった小銭じゃ足りなくてさ……いやー、ありがたい」

上条も遠慮せずにボタンを押し商品を手にする。

「……そういやさ、お前の組織ってなんなの?」

「聞くな」

「わかった」

「……聞き分けいいな」

ジュースをちびちびのみながら二人は淡々とした会話を数回交わした。


〜〜〜

「なんか一緒にお風呂はいるの抵抗なくなってる自分が怖いわ」

垣根が上条と出会った日の夜、アイテムの隠れ家は住人を一人増やした生活に全員が慣れてた様子でくつろいでいた。

「いきなりなに言ってんですか?昨日とかなずなのほうから超誘って来たじゃないですか?」

「なんか数回大勢ではいるとあの広いお風呂一人ではいるの嫌になるのよね」

「あー、超わかります。なんか怖いですよね。
というか、私たちこんなに落ち着いていていいんですかね?
帝督の事なんにもつかめてませんよ?」

心配そうに声を潜める。

「私らに仕事が回ってくる間は心配ないからな。
それに、この状況下で回ってくる仕事だ。垣根に関わりがないはずがねぇ……」

麦野は不機嫌そうに仕事の資料をみながらつぶやいた。
不機嫌な理由はその仕事の内容である。

「だが、正直やりたくねぇよ……なんだって制服なんか着て学校通わなきゃなんねーんだよ!」


我慢ならない、というように資料をテーブルに叩きつけ叫んだ。

「麦野はまだいいじゃん!私なんて一人だよ?しかもあの土御門への牽制!
結局私はアイテムの中で唯一死んでも痛くないってわけ?」

その麦野に、自分の方が悲惨だとフレンダは涙目になりながら真剣に噛み付く。

「私なんて超超電磁砲の監視ですよ?荷が重いです!麦野交換……あ、無理ですね」

「おい、窒素どういう意味だ?」

「結局そのままの意味ってわけよ。
高校生でもギリギリなのに中学なんて……」

「ねー」とフレンダと絹旗は頷き合う。

麦野はプルプルと震えながら、ゆっくりと顔をあげると二人を見つめた。

「二人とも」

そして、にっこりと笑う。

「いまならゆるしてあげるわよ?」

「ひっ……」

「あ、あの……超調子乗りました!ごめんなさい!
ほら、麦野はスタイル良くて大人っぽくて綺麗だからとても中坊には見えないって言いたかったんですよ!ね!フレンダ?」


「そ、そうそう!私たちみたいなちんちくりんじゃないから、もし麦野が常盤台なんて行ったら一日で麦野様派閥が一位になっちゃうってわけよ!」

睨まれるよりも恐ろしい笑顔に二人は死を覚悟し、必死のフォローをした。

「なーんてね、怒っちゃいないわよ」

「そうよね、むしろ通用するって言われたらそれでそれで悲しくなるわよね」

心理定規は麦野の演技を見破っていたようだ。
二人の本気で怯えた表情をクスクスと麦野と笑い合う。

「まぁこんな機会だし、みんな素直に普通の女の子を楽しもうよ」

ふざけてるときも真剣な時も、最後を占めるのは滝壺である。
能力的な側面だけでなく、アイテムは滝壺が要である事を全員が理解し、甘えていた。

そんな事が素直に出来るほど、全員が全員を大切にし合い、それを素直に表に出すようになっていた。

——いいわね、なんか……羨ましいわ。


そんな四人をみて、心理定規はどこか寂しさを覚えた。
四人がまるでテレビの中の事のように思えて仕方なかったのだ。

——唯一いつも一緒にいてくれた帝督も失って、他に友達も仲間も家族もいない……別にそれでいいはずだったのにな……。

「なずな?」

遠い目をしている心理定規に気づき、絹旗は呼びかける。

「超どうかしましたか?
何か不安や悩みでもあるんですか?」

「……いえ、なんでもないわ。あとなずなって呼ばないで頂戴」

微笑みながら、心理定規は絹旗の言葉を否定した。

「……ならいいですけど」

納得し切っていない表情だが、絹旗はおとなしく引き下がった。

「……」

その様子を、滝壺はじっと見つめる。

「さて、そろそろ寝るか……明日から学校だしな……」

心底嫌そうに麦野はつぶやくと、さっさと寝床へと行ってしまう。
麦野ももうフレンダや絹旗が誘わずとも自然と個室ではなく全員の寝れる部屋へと行くようになっていた。

麦野に続き、フレンダ、絹旗、心理定規と続いて部屋を出るが、その心理定規の腕を滝壺が掴んだ。

「どうしたの?」

「……今日はわたしとふたりで寝よう」

「え?いやよ、なんかこわい」

「大丈夫、そんななずなも応援してる」

「いや、応援とかそういう問題じゃ……」

必死に抵抗してみるが、滝壺に敵うわけもなくなし崩し的に滝壺の部屋へと

ここまで

逃がし屋とか細かいところはあまり気にしないでね!


いそうだけどな逃がし屋

>>287
逃がし屋さんはもっと設定考えてから出したらそれで一本かけそうだなと思ってる。
浜面あたりを囮役として出したらすごいコメディになる気がする


今日は映画を見にいくので来れるかわかりません
キリのいいところまで書こうとすると最近余裕で一万文字弱届くから追うのも大変だと思いますがよろしく

映画まで時間が出来たので投下しまふ
いわゆる投下できないかも詐欺ですね




〜〜〜

慣れない制服を身に纏った四人は、各々を見比べる。
その表情はどこか嬉しそうでもあり、嫌そうでもある複雑なものであった。

鏡の前で変じゃないかと新品の制服を着た自分を何度も見直す。

「えー……どうよ?」

「どうよ、と言われましても……以外と普通でコメントしにくいです」

「結局可愛いかどうか聞きたいってわけよ」

「あぁ、それはバッチリです。超可愛いですよ?私たちはみんな元が良いですからね!」

絹旗はどこか自分に言い聞かせるように自信たっぷりに言った。

「否定はしねぇが……霧ヶ丘とフレンダのとこの公立高はなんか地味だよな。
まぁ、私が着ても常盤台のは似合わねぇと思うが……フレンダはそれより常盤台の方が似合うんじゃねぇか?」

麦野も恥ずかしそうに制服姿の自分を見ながらいつもより少しだけ饒舌になった。
滝壺はもそもそとまだシャツを着ている最中だ。
そんな四人をまた心理定規は羨ましそうな目つきで見つめていた。

——なんか、いいな。仲良し姉妹って感じね。

「……はぁ……まぁ、いくか。
ほら、滝壺……って、あんたまだシャツきてるの?てかとりあえずスカートはきなさいよ!その全部抜いでから服着る癖いい加減直しなさい!」

「私少し遠いから先行くってわけよ……あぁ、あの土御門と同じクラスとか考えただけで吐きそう……」

フレンダは帽子をかぶり、必要書類を確認するとそれをカバンにしまった。
そして、そう四人に声をかけると一足先に登校していった。


「私も超行きますね」

続いて絹旗も鏡の前でくるりとまわり最終確認をすると家を出た。

滝壺はまだシャツのボタンを止めている。
麦野はやんややんやと急かすが、滝壺はのんびりのんびりとマイペースだ。

「着れた!さ、むぎの……もう遅刻だけど行こっか」

「あんた明日から私たちより一時間早くおきなさい。……じゃ、留守は任せた!
家の中のものは自由に使ったり飲んだり食ったりしていいから……ってそんな寂しそうな顔すんなよ、行きにくくなるだろ?」

玄関で靴を履くと、見送りについてきた心理定規をからかうように笑う。

「べ、別に寂しそうになんか!」

「あんたももうアイテムの一員だ……大丈夫だよ、私が頭やってる限りお前だけ仲間はずれなんて事にはしねぇから」

「……なによ、それ。いいから早く行きなさいよ」

「問題ない、もう遅刻確定だから逆にゆっくり行くつもり」

滝壺はピースしながら心理定規に笑いかける。

「何の逆だよ……ったく、もうこうなったら学校では猫かぶるのはやめて霧ヶ丘の番長になってやらぁ」

滝壺のマイペースさにもう呆れを通り越し諦め、投げやりに言った。

「この、似たものバカップルが」

「……別になんでもいいがカップルっていうより姉妹じゃねーか?
一応従姉妹って設定だし」

「もうさっさと行け!」

とぼけたようにいう麦野に怒ったようにそう怒鳴ると、心理定規は二人を外へ押し出した。
そして扉をすぐ閉めるとそのまま玄関に座り込んでしまう。

「……本当に……バカばっか……」

目からこぼれ落ちた涙の意味はどういうものなのか、それはきっと本人にしかわからない。


〜〜〜

職員室、というのは不良学生ましてや殺し屋なんという職業をやっているフレンダにとっては居心地のいいものではなかった。

「だから、なんでお前は高校生にもなって——」

たかが窓ガラスをそれも不注意で割ってしまっただけで教師というのはわめき散らし、学生も根は真面目なのだろう、しょぼくれながら黙って聞いている。
窓ガラスなんて金を払えば元通りになるじゃないか、金をいくら積んでも取り戻せない命というものをいくつも割ってきた自分はどれほど怒られるのだろう……なんてばかげた事を考えているとジャージを着た教師が笑いながらフレンダの前へ座った。

「いやー、悪いじゃんね。朝っぱらからうるさくて」

「……別に、わざとじゃないんだからあんなに怒らなくってもいいじゃない」

「ん、あぁ……でも、悪い事をしたら怒ってやる。それが教師の仕事じゃん?
特に親と離れて暮らすのが基本のこの街だ、私らは生徒全員の親代わりでもあるってわけじゃん。
今怒られてるあいつ、あいつの事を本当に大切に思ってるから私たちは全力で叱るし、全力で許すじゃん。
悪い事して怒られないってのは……つまりは諦められてるって事だからな」

フレンダの反抗的な態度にその教師は大真面目に答えた。

「……バッカみたい。結局、治安最悪なこの街でそんな事言われてもただの絵空事ってわけよ。
目の前にいるものだけを守れればそれでいいんでしょ?綺麗事ばっかいうから教師ってのが嫌いなわけよ」


「でも、そんな絵空事でも続けていけばきっと理想に届くじゃん……ま、この話はまた今度にして……私は黄泉川だ。
フレンダの担任ではないが……何かあったら頼るじゃん?」

黄泉川という教師はそういうと立ち上がり、自分のデスクから出席簿を取ると職員室を出た。

——……やっちゃった……。

フレンダは黄泉川が職員室を出て行くのを確認すると頭を抱え込む。

——真面目な優等生で行こうと思ったけど……やっちゃったわね……だって、怖いんだもん!

今から行くクラスには土御門元春がいる。
暗部内でも特に素姓がしれず、統括理事長ともコネがあるという話だ。
何のために暗部にいて、どんな力を持っているのかその全てが謎の男。

——まぁ、謎って部分では私もどっこいだけど……。

フレンダもアイテムのメンバーにすら話した事のない秘密を持っている。
最初はアイテムを見限った時この力で切り抜けようと隠していたものだが、今は違う。
レベル5とレベル4の集団内に自分のような存在がいるとわかると、大抵敵はフレンダを潰しにくる。
だが、敵の標的がわかっていればトラップはいくらでもやりようがあるし、まず自分にくるとわかっていれば最初の一手で仲間が死ぬ事はない。
自分は危ないがそれでいいと思っている。

「お待たせしましたー!
早速ですが、教室へ行きますよー?
フレンダ=セイヴェルンちゃん、であってますよね?あぁ、そういえば黄泉川先生とお話してたんですか?」


自分の思考の中へダイブしているとどうみても幼稚園生にしか見えない女性が可愛らしい声で話しかけてきた。

「……先生ごっこなら幼稚園に帰ってやった方がいいってわけよ?怒られるわよ?」

「違うのです!先生はちゃんと先生なのですよ!
フレンダちゃんの担任の先生の月詠小萌です!
……フレンダちゃんは黄泉川先生の言ったとおり、気の強い子ですねー」

言いながら、さぁさぁ、とフレンダの手を取り引っ張って行く。

「え?まじ?こんな幼女が私より年上でしかも教師なの?結局……大丈夫なの?」

「あんまり失礼な事いうと怒りますよー?」

昨夜の麦野のような恐ろしい笑顔を浮かべ、小萌はフレンダをみる。

「は、はい……というか私転校って初めてなんだけどどうしたらいいってわけよ?」

「そこは先生に任せてください!では、少しここで待っててくださいね!」

教室の前へつくと小萌はフレンダを廊下に残し、先に部屋の中へと入った。

「————!」

「————?」

中で何かやり取りをしているが、特に興味もないので聞き流す。
しかし男たちの歓喜の叫びと「だが上条は死ね」というハチャメチャな叫びは嫌でも耳に入ってきた。

「はーい、ではフレンダちゃん中へどうぞー」

——はぁ、もう猫かぶっても仕方ないし……普通に行くか。

扉を開き、自分に集まる数十人の視線に独特の威圧感を感じながら黒板に名前を書いた。


「えーっと、フレンダ=セイヴェルンです。特技はあんさ……違った。特技は……あれよ、うん……なんか色々?好きなものは麦野、得意教科は……まぁ、色々よ。
結局まぁ、なにが言いたいかというと、よろしく頼むってわけよ」

「……って、それじゃあ名前と好きなもの麦野って事しかわからんにゃー、しかも麦野ってなにかわからんから、結局名前しかわからんぜよ」

自己紹介を終えると、後ろの方に座る金髪にグラサンというみるからにヤンキーな学生がそう突っ込んだ。

「……名前以外あんたらにはなにも教えたくないって事よ、このやられ役ヅラ」

カチンときたのか、フレンダもつっかかる。

——場を白けさせて、それでも接触を図ろうとしてきたらそれが土御門って事でいいや。というか、目標の写真くらい載せときなさいよ!

突っかかってから、このクラスには土御門元春がいるという事を思い出し、穴だらけの作戦へ方向転換する。

「……たまらん」

「は?」

しかし、こういう態度で行ったら白い目で見られるものだと思っていたが、このクラスは変人が多いらしい。

「金髪にお人形さんみたいに綺麗な顔、スカートから伸びる芸術作品のような美しい脚線美……フレンダちゃん!僕ぁ青髪ピアスや!付き合ってくれ!」

「ドン引きされる覚悟で噛み付いたら逆にドン引きだわ……」


「そしてその蔑みの目と態度がもう……もうっ!なぁカミやん!」

生理的に受け付けない気持ち悪さの青髪ピアスとかいうやつは、前に座る黒髪のツンツン頭に同意を求めた。

「あぁ、確かにフレンダは可愛い。だが青ピ、お前は間違っているぞ……色々と。
とりあえず土御門も転校早々で緊張してる女の子をからかってやるな……あとで吹寄に怒られるのは何故か俺なんだから」

「土御門ぉおお?」

——このやられ役みたいなみるからにヤンキーなのがあの土御門?違うじゃん!やばいやつって結局見た目はわりと普通だったりするじゃん!

カミやんと呼ばれた生徒が、自分の噛み付いた金髪を土御門と呼んだ事に思わず声をあげてしまった。

「……にゃー、俺が土御門だが?それがどうかしたかにゃー?フレンダちゃん?」

明らかにフレンダが暗部組織のものだとわかっている上でにやけヅラで土御門はすっとぼける。

「……あっはは……まさかあんたが土御門元春だったとは……あはは……はは」

「ん?二人は知り合いなのか?」

「いんや、俺は知らんぜい?でもあっちは知ってるみたいだにゃー?
あぁ、悪いな青ピ、カミやん……どうやら今回フラグが立ったのは俺みたいだぜい!」

「いや、まだ僕は諦めへんで……!」

三人のやり取りに、クラスの中は笑いに包まれる。


——やっちゃったー!やっちゃったー!どうしよう、どうするの?てかどうなるのぉ!

フレンダは頭をかかえ座り込む。
隣で小萌先生がなにか言っていたが、それどころではなかった。


〜〜〜

「資料は意図的に凶暴に書いてあンだよ。
そうすれば、俺に喧嘩売ろうとするやつも減るだろ?だから機密レベルも誰もが見れる低さに設定してある。
その上で喧嘩売ってきたらそれはもう叩き潰すしかねェけど、極力俺は人を傷つけたかねェンだよ」

負けたら一ついう事を聞く。
このルールで人生ゲームをやり続け、一方通行はミサカ00001号のおもちゃにされ続けていた。

「ほう、では本当は優しい人だったのですね、とミサカは一方通行のイメージをオオカミからウサギへとチェンジさせます」

「……なァ、そろそろマジでなンなのか教えてくれよ。
クローンがどォして俺に殺されに来るンだ?
第三位はこの事知ってンのか?」

ゲームを片付けながら、一方通行はもう我慢ならんというようにミサカ00001号へと懇願した。

「仕方ありませんね、お姉さま……オリジナルの第三位は知りませんよ、と心の広いミサカは負け犬の質問に慈悲の心で答えます」


「じゃあ、なンでお前が生まれてきた?DNAマップなンざ……まて、確か昔なンかの実験で……筋ジストロフィーかなンかの治療でDNAマップを提供した電撃使いがいたな……まさかそれが第三位か?」

喋りながらなにか手がかりはないかと記憶を辿ると、電撃使い、DNAマップという単語が医療研究チームの実験にヒットした。

「おぉ、とミサカは良すぎる頭脳を持った一方通行へ尊敬の眼差しを向けます」

「でもよ……」

「えぇ、言いたい事はわかります。そのときお姉様はまだレベル2〜3というところでしょう。
ウチのお姉様は寝てても一位のあなたとは違いますからね、とミサカは一方通行のチートっぷりに改めて驚きます」

苦いからか缶コーヒーをちびちびと飲みながら一方通行の疑問に「まぁ、たまたまレベル5までいっちゃったというだけでしょう」と答えた。

「……たまたま、ね」

一方通行はなにか引っかかることがあるのが、あまり納得し切ってはいないようだった。


〜〜〜

——やばいよね?やばいよね?やばいよね?

「————?」

フレンダには聞こえてないが、一時間目の予鈴が鳴ると小萌はとある生徒にフレンダを任せ教室をあとにした。

フレンダはそのことにすら気づかずに頭を抱えたまま
——ここまで動揺すると逆にツッコミどころを増やすだけだという判断すら出来ないくらい動揺していた——
ブツブツと「やばい」「死ぬ」「どうしよう」と繰り返していた。

当然、小萌にフレンダを任された女生徒の言葉も耳に入らない。

「フレ————?大——ぶ?……ねぇってば!」

反応のないフレンダが流石に心配になったのか、その女生徒はフレンダの肩を割と強めに揺すった。

「はっ!おはようございました!」

「お、おはよう?……じゃなくって、あなたの席はあそこよ、上条の……あの、黒髪のツンツン頭の隣。バカ三人のちょうど真ん中で悪いけど、ひと月我慢して頂戴」


「え?うん、ありがとう。……え?土御門の前ってこと?」

わけのわからん挨拶にも困ったようにだがしっかり対応し、その後の指示もテキパキとしている。
きっとこういうのを委員長というのだろうとフレンダは思いながら指定された席をみると、土御門と目が合った。

「つ、土御門の前?無理無理無理、殺されちゃうってわけよ!」

「こ、殺される?なんでよ?大丈夫よ!あんな格好でバカだけど割といいやつよ?」

「はぁ?あんた——むぐっ……」

あいつが何者なのか!と言おうとするが、それは先ほどまで席についてニヤニヤしていた土御門に口を塞がれ阻止された。

「むむみかも!」

「にゃー、この子俺の事なんか誤解してるよにゃー?
何だって俺がこいつを殺さなきゃいかんですたい」

「……というか、フレンダさんは何で土御門知ってるの?あ、あと私は吹寄よ、困ったらなんでも言ってね」



「ぷはっ……いきなり口塞ぐとかなんなのよあんたは!
別に、知り合いってわけじゃなくって……。
そう、あれよ……この前スキルアウトに絡まれたとき……そいつらからこの学校に土御門元春っていう伝説の不良がいるって聞いたわけよ。
能力者五十人で襲撃しても、土御門と舎弟二人にあっさりやられた……って感じのね」

吹寄という生徒の問いはクラス全員が聞きたかったことのようで、フレンダの答えは教室中に響き渡った。
その答えを聞くと、事情を知っている土御門は何かを疑問に思う顔をし、ほかの何も知らない一般人たちは一斉に笑い始めた。

——流石に無理があったかな?

軽くした打ちすると、これまたいつのまにか寄って来ていた上条が目に涙をためるほど笑いながら、言った。

「いやー、それは多分色々と脚色しすぎだよ。
多分舎弟二人ってのは俺と青ピのことだよな?」

笑った笑った、と言いながら土御門へ同意を求める。土御門もぎこちなく笑いながら頷いた。

——あれ?結局もしかして今の適当なごまかしで私が暗部と関係なく転校してきたかもしれないって思ってくれたりしたわけ?


その可能性に、フレンダは少なからず心が軽くなった。

「まぁ、一番派手な格好だからリーダーだと思われたんだろうけど……むしろこいつと青ピは俺を助けてくれてるんだよ。
俺は……まぁトラブル体質でな、すぐケンカに巻き込まれるからそれの処理をこいつらが助けてくれるんだ」

巻き込まれにいくんでしょうが、と呆れたように吹寄はため息をついた。
それに対し、上条は何故か照れながら笑う。

「ま、だからさこいつは悪いやつじゃないよ、安心しろ!……あと三人で勝てたのは20人が最大だ。20人と言っても次々湧いて来る感じだから5、5、6、4みたいな感じだったけどな」

——いや、多分かなり手加減してるってわけよ。私でも20人くらいなら……あ、こいつらは相手を殺しちゃいけないんだっけ?

差し出された上条の手を取り立ち上がりながらクラスの雰囲気を眺める。

——思いのほかみんな暖かい目で迎えてくれるわね。


暖かい、というよりも同情に近かった。
これから新しい学校生活が始まるというのに初っ端からバカにおちょくられ、バカに惚れられ……。
唯一の救いは上条が初対面でのフラグ建設に失敗したということだろう。
ここでフレンダが上条に惚れてしまっていたらおちょくられ、惚れられ、転校早々女生徒の90%以上がライバルになる。
という意味不明な状況に叩き落とされていたのだ。

「てかさ、お前カバンとかは?」

「は?何がよ?結局教科書なんてまだ持ってないし、ノートなんか取るつもりないし……いらなくない?」

「お、おぉ、赤点仲間が増えたような気がする」

その清々しいほどの授業放棄宣言に上条ですら若干引いた。

「……赤点ね、まぁそれも青春ってわけよ!
この私がそんな無様な点数取るわけないけど」

フレンダはふふんと笑うと先ほど言われた自分の席へと歩いていった。


〜〜〜

常盤台は流石というべきか、二時間目までをもし友人とはぐれ不慣れな学内で迷っても大丈夫なようにと完璧な説明を行っていた。
その中には外での態度、常に常盤台の生徒だという誇りを云々などお堅い部分もあったが、ギリギリ起きていられるレベルを保っていた。

学校生活の話をあらかた終えると、教師はパンフレットのようなものを数冊取り出し、寮の説明を始めた。
学舎の園の中と外に何個か寮を持っているらしく、常盤台の生徒は寮に入るのが規則らしい。
一瞬、それも良いかもしれないと思ったが、周りにいるのはもれなくお嬢様お嬢様したお嬢様ばかりだ。
ゴミの中を生きて来たような根っからの暗部組織の人間の絹旗はもしもそんなところに入れられたら発狂するだろう。

——ふむ、それに麦野達と離れて暮らすなんて嫌ですしね。ここは何がなんでもお断りしましょう。

「絹旗さん?聞いていますか?」

「いえ、超必要ありませんから」

「は?それは……もうすでにどの寮に入りたいか決まっている、ということですか?」

「いえいえ、違いますよ。私は寮なんてものには超入りません、ということです」

これで校則、学校理念、教育信条などそういう教育機関の掲げるものがどういうものなのか絹旗が全く理解していないことがわかるだろう。

自信満々にそう言い切ると、説明役の教師ににっこりと笑いかける。

「あ、あの……それは無理です。
常盤台の学生は寮にはいる、というのが規則ですので……」


「規則守って精神壊れたら意味ありませんって。お嬢様の中に放り込まれて二十四時間ですわうふふなんてしてたら三日で病みますよ」

「ですが……」

「ですがもなにも超無理ですって!私だってあなたを困らせたいわけじゃありませんよ?
優しく説明してくれましたし、割りと好感持ってます、でもこれは無理です。
寮といったらご飯とかの時間も決まってるんですよね?個室じゃないですよね?無理ですよ」

あまりにも拒否できるのが当たり前という態度に、説明役の教師も言葉を失った。
何年も新入生、転入生への「常盤台の過ごし方」を説明してきたベテランも、
この根拠のないであろう自信の前では「実は寮なんて入らなくてもいいのではないか?」とすら思えてくるほどだ。

「話は終わりですか?ではサクッと私の教室を教えてください!」

「あ、あー……いやいや、何言ってるんですか?
あのレベル5の御坂美琴さんですらきちんと寮生活をしているのですよ?」

「そういう超能力者を特別視するような人が、御坂美琴を孤独にさせてるって超わからないんですか?」

「……それは今関係ありません。あなたの事を——」

「先に超超電磁砲の名前を出したのはそちらですよ?まぁ、とりあえずこの話はまた後日にしましょう。
私も今住んでるところの契約などあって寮にはいるとしてもすぐには超無理なので」

こうして主導権を握られてしまえばいくら教師だろうが大人だろうが、生ぬるい表の世界で生きてきたものは年端もいかぬ少女に負けてしまうのだ。
暗部という世界は、虚勢とはったり、弱みを見せない事が生き残る絶対条件である。
一般常識としての規則やらルールに縛られたものでは勝てるわけがないのだ。


〜〜〜

「絹旗最愛です。最愛ですよ?もあいとかふざけた事抜かしたら超ぶっ殺しますよ。
まぁ、私はあなた方みたいな温室育ちではなく超雑草なので、下品だったりマナーがなってなかったりすると思いますが……よろしくお願いしますね」

多少破天荒だが根は真面目な子、という印象を持ってもらえたらそれでいいと絹旗は思っていた。
御坂美琴の生活態度はお世辞にも優等生とは言えないものだと資料を読みわかっていた。
なので、あまり上品な自分を演じても近づくチャンスは少なくなる。
むしろ自由奔放なやや不良っぽい方が馴染みやすいと考えたのだ。

「で、では……絹旗さんの席は……御坂さんの横ですので、席へついてください。
御坂さん、絹旗さんをよろしく頼みますよ?」

言われたとおり、御坂美琴の隣へ座ると御坂は裏表ない素直な笑顔を絹旗へ向けてきた。

「やー、なんか気が合いそうな子で良かったわ。
これからよろしくね!」

そして、言いながら手を差し出して来る。

「……はい、超よろしくです!……これ、手をとってもビリっと来ませんよね?そういう新人いじめみたいなの超ありませんよね?」

「絹旗さんってお嬢様学校にどんなイメージ持ってんの?」

呆れたように笑うと更に手を絹旗の方へ伸ばした。

「いやー、靴に画鋲とか、女王様みたいのがいて『あなたは一番の新入りなのですから私の下僕ですわ』みたいな感じですかね?」

御坂の手を取り、握手を交わした。

フレンダとは打って変わり、絹旗の学生生活は順調な滑り出しを見せた。

フレンダ回
絹旗回

主人公の垣根さんは相変わらず空気ですね
次は麦野さん滝壺さん回なのでまだまだ空気です

では


絹旗と美琴、黒子絡むかな

おつ
絹旗はスカート短くしてるのかね



麦野さんがどんな学園生活をスタートさせるのか気になる

麦野は年齢的に入学を学校から拒否さr

おーい、314が赤と黒のオブジェになってるぞー


〜〜〜

女の子という生き物は男の目がないとだらしなくなる。
これが通説であり、また真実でもあるのだが、しかしそれは超が三つほどつく名門校である常盤台には当てはまらないようであった。

「……授業終えた感想は?」

授業終了のチャイムがなり、ぼんやりと教室を見回している絹旗に御坂がニコニコしながら話しかける。

「難しかった?」

途中編入など基本的には認めない常盤台に入ってきたということはそれなりの頭脳をしているはずだ。
その頭脳を唸らせるほどの授業を毎日自分は当たり前のように受けている、ということが御坂はなんだか嬉しかったのかもしれない。
少しだけウキウキしたような、お姉さんぶるような口調であった。

「え?授業?正直授業自体はこんなものか、って感じですね。
それより驚いたのがみんなお行儀が超良いことですよ。
もっと中学生って居眠りしたり、女子校なら男の目を気にせずだらぁっとしてるものかと思ってました」

「絹旗さんって余程頭良いんだね……常盤台の授業をそんな風に言っちゃうなんて……」

先ほどまでの態度が恥ずかしくなったのか、御坂は顔をそらした。


「まぁ、特殊な環境にいましたからね。
だらぁっとしてたのなんて——」

絹旗はそれに気づかず次の授業の支度をしながら話を続けようとした。
が、それは転校生を珍しがるクラスメイトにより打ち切られた。

「絹旗さん、御坂様とばかりお話なさってないで私達ともお話ししましょう?」

「前はどちらの学校にいたんですか?」

「部活動はお入りなる?」

「ご家族は?」

「絹旗さん、スカート短すぎると怒られてしまいますわよ?」

次々と順番に答える間もなくお嬢様がたは柔らかくほほえみながら絹旗に質問を投げ続ける。

「え?あ?……ちょ、落ち着いて……部活なんて入りません!
家族は姉っぽいのが四人ほど!スカートはこれで良いんです!
計算し尽くされギリッギリ中身は見えません!」

された質問を思い出しながら、ぽんぽんぽんと答えていく。
そのあともさらに質問を投げられ、それを必死に打ち返した。

——うわぁん!御坂超助けろ!

御坂へと助けて信号を送るが、しょうがないわよ、という風に笑っただけであった。

——ちくしょう……あァ?

それでも必死に御坂へ信号を送り続けていると、とある質問が数ある中から鮮明に絹旗の脳に刻み込まれた。


『最愛って名前素敵ですね。きっとご両親も素敵な方なのでしょう?』

絹旗は無意識のうちに立ち上がっていた。

「家族」ならばいい。
家族なら出来たから。
仲間が家族になってくれたから。

だが——。

「おい、オマエ今……なァンて言った?私の両親がァ……素敵な人ォ?ハッ、ふざけた事抜かすとぶっ殺すぞォ……」

それだけは代わりの効かない物だ。
そこだけは触れてはいけないのだ。

「ひっ……」

絹旗を囲んでいたクラスメイトは絹旗の豹変に気がつくと、一斉に一歩後ずさった。
絹旗からひしひしと感じるのは殺意。
今まで経験したことのないような鋭いそれは刺すような痛みを錯覚させるほどのものだった。

ジロリと自分に向けられた恐怖の眼差しをひとつずつ睨み返すと、とりあえず目の前にいる奴から殺そうと手を伸ばす。
だが、手を延ばしただけでは届く距離にはいない。
チッ、と舌打ちすると一歩前へ出ようとするが、自身の前には机がある。
進めない。

イライラが蓄積され、とりあえず机から叩き壊そうと腕を振り上げた瞬間——。


——その拳に電撃が当たった。

「あ?なァにしてくれてンですかァ?」

「落ち着きなさいよバカ」

御坂は静かに怒鳴った。

「お前も死にたいンですか?」

「あんたの地雷踏んじゃったのは確かにその子達が悪いのかもしれないけど、無理ってもんよ。
それが地雷だなんて知らなかったんだし……聞かれたくないなら両親の話はするな、とでも言っときなさいよ。
それが出来ないなら両親の話が出た時に切れるんじゃなくて話したくないって言いなさいよ。
いきなり切れるんじゃないわよ、みっともない」

絹旗を遠くから見ていた生徒達も、絹旗を囲んでいた生徒達も、絹旗自身もみんなが黙った。
否、絹旗以外は声が出せなかった。
その点では御坂は流石なのだろう。
本気の殺意を振りまく絹旗に全く恐れを感じずに説教をしてのけたのだ。

「……超、ごめんなさい。
両親の話はいい思い出じゃ無いのでこれからはしないでください。
御坂……様?の言うとおりいきなり切れたりして超ごめんなさい」

カチコチと時計の針が何回か音を奏でると、絹旗そう言いながら頭を下げた。

御坂に様をつけたのは先ほど目の前の生徒達がそう呼んでいたからだ。

「え、えぇ……驚いたけれどこちらもごめんなさい。
転校生が珍しくってはしゃぎすぎてしまったみたいですわ。
この事は水に流してこれから仲良くしてくださいます?」

女生徒達も、絹旗から殺意が消えた事で呪縛が解けたかのように話し始めた。
こういう時に引きずらずすぐに友好的な態度を取り戻せるのは温室育ち故だろう。
にっこりと笑いながら絹旗の顔を覗きこんできた。

「超勿論です……」

ぎこちなくその笑顔に笑顔で返すと絹旗は御坂の方へ体ごとむいた。

「御坂様……御坂様ってなんなんですか?
これ超嫌ですね。
私は御坂……いや、美琴って呼びますよ?
美琴も悪かったです、止めてくれて超ありがとうございました」

そしてまっすぐと御坂の目を見て謝罪と感謝をする。

「……うんっ!私もそのほうが嬉しいわ最愛!」

御坂様、と最初呼んだ時少しだけ悲しそうな顔をしたが、
絹旗が「それは嫌だ、美琴と呼ぶ」と言うとぱぁっと笑い、御坂も絹旗を「最愛」と名前で呼んだ。


〜〜〜

フレンダ、絹旗、そして心理定規が今の麦野を見たら笑い死ぬだろう。

——滝壺の野郎ぉ……。

笑顔のまま心の中でこうなった原因である滝壺に怒りを募らす。

「麦野さん?どうかした?」

「あ、いえ……大丈夫です。なんでもありませんよ」

「そう?なんかあったらすぐにいいなよ?みんな力になるから!」

短髪の活発そうなその子はイメージ通りの明るい笑顔で麦野に微笑みかける。

「ありがとう、嬉しいわ……」

——やっべぇ、これはマジでやべぇ……。

こうなった原因は朝学校に着いたところまで遡る————。


〜〜〜

「おい、もう一時間目終わってるぞ?」

「そうだね、朝早く起きたのにね」

「なぁ、一発でいいからビンタしていい?」

「嫌だよ、何言ってるの?」

一時間目が終わり、十五分ほどの休憩時間である。
学校内はどこかざわざわとしていてた。

「……もういいや、行くぞ理后」

「うん、しずりん」

「なぁ、やっぱ一発殴らせて?本当に頼むから、土下座してもいいから一発殴らせて?」

「いやだよ。ほら、いこしずり」

終始滝壺のペースに翻弄されながら二人は学内へと入っていく。
客用の玄関から入り、職員室を目指そうとするが学校などという場所の構造を知らない二人はそれがどこにあるのかすら見当がつかなかった。

「……今回の依頼おかしくねーか?制服以外霧ヶ丘の資料なんてほぼなかったろ?
普通ならもっと地図とか学生名簿とか、そういうの用意するだろ」

「そうだね……まぁ、裏があってもそれがどんなものかまだわからないし、今は我慢の時期だよ」

廊下を適当に進みながら、職員室のプレートのかかった部屋を探す。


「お、あった」

「うん、入ろう」

「お、おい……心の準備ってもんが——」

なんの迷いもなく滝壺はそのドアを開くと、職員室中に聞こえるように珍しく大きな声を出した。

「すみません、遅れましたぁ!
しずり……あぁ従姉が貧血起こしてしまって……」

そしてこのアドリブである。

「あぁ、麦野さんと滝壺さんね?
心配したわよ。貧血って……大丈夫なの?」

滝壺のその声に駆け寄ってきた教師に話を振られ麦野は戸惑ってしまう。

「へ?あ……は、い?」

「ごめんなさい、しずりは人見知り激しくて……あと体が少し弱いからおとなしいんです」

はきはきとメガネをかけた割と若めの教師に滝壺はとんでもない設定を話していく。

「あら、そうだったの?
辛くなったらすぐ言うのよ?麦野さんは私のクラス、滝壺さんは……あ、今入ってきた人のクラスだから」

「あ、じゃああの先生に私は指示を貰いますね。
じゃあね、しずり……お昼に迎えにいくよ」

にっこりとここはいつも通り笑うと滝壺は自分の担任の先生の元へと足を進めた。


「あ、うん……」

——まてまてまてまて!なんだこの難易度インフェルノは!

決して演技していたのではなく、話についていけず呆然としていたらたまたまおとなしい子に映ってしまっただけである。

「本当に、麦野さんはおとなしい子なのね。
滝壺さんはしっかりしてていい妹さんね」

「いや、従妹……です」

「あらごめんなさい。あまりにも仲良さ気に見えたから……。
ええっと、こう言うと気を悪くするかもしれないけれど、超能力者って聞いていたからこんなおとなしい子で少し驚いたわ」

「はぁ……」

この人は私が実はもう数え切れないくらいこの手を、能力を、全身を血で濡らしたと言う事を知ったらどんな表情をするのだろうか。
そんな事を考えながら曖昧に頷いた。


「さ、二時間目はあなたの自己紹介とクラスの自己紹介をするわ!
ちょうど私の授業でよかったわ!
そうと決まればさっそくレッツゴー!」

この若い教師は話をしているとだんだんテンションが上がって行くタイプの人らしい。
最初の落ち着いた雰囲気は消え去り、今や学生と言っても良いくらいのノリであった。

「あ、ちょっと……ひっぱらないで」

なんとか滝壺の作り上げた、というよりでっち上げたキャラを崩さずにそれに対応できるあたりが麦野沈利のすごいところだろう。

「あら、ごめんなさいね」

てへへ、と可愛らしく笑う先生はどこか犬を思い出させた。

——いやいや、んなのんきな事考えてる場合じゃねぇ!これ、やばくね?

初めから気持ちお淑やか目に行こうとは考えてはいたが病弱、人見知りという設定はなかったのだ。

——……クッソ自分はニコニコ笑いやがって。

滝壺は担任の先生とすでに仲良くなったようで笑い声をあげながら麦野達より一足早く職員室を出て行った。


〜〜〜

————とまぁ、要は滝壺の悪ノリである。

「そうですね、休日はソファで横になったり、読書をしたりなど家で過ごす事が多いですかね」

——うっそでーす、元気にビームで人殺ししてまーす。

「あぁ、両親ともに健在ですよ。とても良い親で月に一回は必ず電話をくれるんです。
このくらいの頻度のほうがお前も楽しみに出来るだろって……私は毎日でも話したいんですけどね」

フレンダ、絹旗、心理定規抱腹必須のにこやかモードの麦野はにこっと営業用の微笑みを浮かべながらクラスの人たちの質問に答えていく。

——これまたうそー……両親なんか覚えちゃいねぇよ。

「ん、そうですね……大切な人……やっぱり理后ですかね」

——これはまじ。絹旗やフレンダ、心理定規も大切だがな。

大切な人はいるのか、その質問にだけ麦野は本音で答えた。
その笑顔も営業用の仮面ではなく、本心から出たとても美しい可愛い笑顔だった。


「まぁ……素敵!」

麦野を囲むようにしていたクラスメイト達は少しだけ頬を赤く染め麦野に見惚れている。
いや、見惚れているというよりは……。

——あ?なんだこの微笑ましいカップルを見た時のような顔は?

そう、それは大切な人、つまり彼氏はいるのかという意図の質問に迷わず従妹の名前をあげた麦野を「可愛い」と見つめる視線だった。

——……あっ!

ややあって、麦野も投げかけられた質問と自分の解釈のズレを認識した。

「あ、あの……もしかして先ほどの大切な人って……」

「あぁ、いいのよいいのよ……わかっているわ。
大丈夫、応援するからね!」

「いや、違……」

「照れるな照れるな、愛の形なんて人それぞれなんだから」

——うぉおおお!イ・ラ・つ・くぅうううう!なんで女子高生ってのは人の話を気かねぇんだよ!

心の中でクラスメイト全員を三回ほど殺したところで麦野への質問タイムは終了となった。

こうして、麦野の辛い辛い学生生活がはじまったのである。


〜〜〜

「やっと飯やー!フレンダちゃん、一緒に食おうや!」

「あんたなんかと食べたら結局腹壊すわけよ。
屋上でも行って一人で食べるわ」

「あ、ちょっと——」

上条がそんなフレンダを止めようとするが、

「ふんふふっふーん」

完全に無視し鼻歌なんぞを歌いながら、購買ってどこにあるの、と出入り口付近にたむろしていた学生に気軽に聞き、楽しそに去って行った。

「……まずいぜい、フレンダはこの学校の購買の恐ろしさを知らんにゃー。
ってなわけで誰か助けにいってこいにゃー」

「くぅ!僕が行きたいが、パンあるのに行ったらなんかもうストーカーみたいやから行けへん……!」

青髪は本気で泣きそうな顔をしながら下宿先の主人が焼いてくれたパンにかじりつく。
青髪ピアスの下宿先はパン屋さんである。

そして————。

「……え?俺?」

二人の視線に気づいた上条は間の抜けた声を出した。

「嫌だぜ?今行っても無駄だし、止めようと思ったのを無視したのはあいつだろ?」


「おいおい、カミやんらしくないぜい?困ってる人がいたら死んでも助けるのがお前だろう?」

「いやいやいや、困ってなかったじゃん!というか青髪が行って来いよ!
惚れてんだろ?そのパンなら俺が食っといてやっから」

「どうせあとで行くんだろ?だったら今いくにゃー」

人気のパンはなくなるが混雑が収まった時が購買へ行くベストタイミングである。
その事を知っている上条は昼休みになった瞬間は動かない。
そして少しでも赤点を回避しようという気持ちはあるのか教科書を広げるが結局は土御門、青髪と駄弁るのだ。

「いやいやいやいやいや、上条さんの不幸を知ってるだろ?欲かいてここで行ったら買えるはずのパンも買えなくなる」

「カミやんはいつから困るであろう女の子をほっとける男になったんや?ん?」

「……わかったよ、もういいよ行くよ行きます行きますよっと……あぁ、不幸だ……」

フレンダとは裏腹に上条はとぼとぼと教室をあとにした。



〜〜〜

チャイムがなり、教師が教室を出ていくとクラス内はホッとしたような気の抜けたような穏やかな雰囲気に一変した。

——まぁ、名門とはいえガキの頃から勉強だ実験だと詰め込まれた私らには余裕だな。

教科書、ノートを机の中にしまう。

——滝壺が来るとか言ってたけどどうなんだろ?覚えてんのか?

教室のドアをチロチロ見ながらお昼をどうするか考える。

「……な、なんですか?」

その様子を周りの生徒が微笑ましそうに眺めているのに気づき、謎の恐怖に似た感情を感じた。

「いえ……ただ、理后さんを待っている麦野さんが可愛くって……。
昼食に誘おうかと思っていたのですが……お邪魔してはいけませんね」

そう言うと、彼女らはまたニコニコとまた麦野を眺める。

——うっわ、ぞわっときた。なんだこれ……ん?

「あの、ならば私は気にせず先に食べていていいですよ?」

「あぁ、気にしなくていいですよ。大丈夫です」

「そ、そうですか?……あ」

そんな会話を交わしていると廊下から滝壺がひょこりと顔を出した。


「しずり、来たよ。大丈夫だった?」

「うん、平気だった」

——どの口が大丈夫とか言いやがる!そわそわぞわぞわしっぱなしだコラ。

「じゃあ、行こっか……学食あるんだって」

周りの生徒が一切見えていないかのように滝壺はまっすぐ麦野の元へと進み、その手を握る。

「キャッ」

その様子を見ていた麦野のクラスメイトはそう声を上げると、じゃあ、と言い残し去って行った。

「……滝壺、覚えてろよ?」

数時間ぶりに麦野様が素を出した。

「大丈夫、そんなしずりも好きだから」

「……バカにしてんの?」

ふるふると首を振ると麦野を引っ張るように滝壺は歩き出した。

「そっちはどうでした?」

廊下には生徒が何人かいるため、演技をしなくてはならない。

「普通かな、普通がどういうのかわからないけど……しずりは友達出来たみたいだね」

「“は”って、なによ。理后だって出来たでしょ?」

「まぁね。みんな良い人だよね、お嬢様っぽくないのもいたけど」


〜〜〜

「滝壺理后です。一緒に転校してきた三年生のむぎのしずりは従姉です。よろしく」

ぺこりと頭を下げると、先生が生徒達に何か質問はないかと聞く。
すぐさま赤髪のおさげの子が手を上げ、質問した。

「以前はなんて学校にいたの?」

その挑戦的な瞳に、暗部につながりのある存在だと気づく。

「……いってないよ。小学校も中学校も個人的な理由で通えなかったから学校に通うのはじめて」

だが、ここであたふたするような滝壺では無い。

「あなたお名前は?」

「……結標よ、結標淡希。よろしくね」

面白くない、という顔をしながら結標はそう名乗ると席についた。

「他にはある?」

先生を無視し、滝壺がクラスメイトに尋ねる。
すでにクラスの雰囲気は滝壺の空気に侵されているようだ。

「ないなら終わり。あったら休み時間とか気軽に話しかけてね」

気軽に話しかけてね、とは普通迎え入れる側の言葉なのでは……とクラスの全員が思っていたはずだ。


〜〜〜

「結標淡希か……どっかで聞いたことあるな」

購買でパンを買うとひと気の無い校舎裏でそれを食べる。
滝壺と二人の時は周りに誰もいないほうが都合が良い。

「多分、暗部に何かしらの形で関わってる。
能力は空間移動系らしいよ」

「思い出した、案内人とかいう奴だ。
どこに誰を案内してるのかは知らねぇが、完璧表の人間でも無いな。
だがそいつは電話の女が口を滑らせた時に知ったんだぞ?そいつが外とつながってるとは思えないな……」

「おぉ」

麦野の言葉に滝壺は何かを思い出したかのように声をあげた。

「なんだよ?」

「仕事の事すっかり忘れてた。というか忘れたままでいたかったな」

「おいおい、垣根がいまなにしてるかわからん。
わからんが、絹旗と私たちの為になんかしてるってのは確かだ。
だからこそ、私たちはしっかり仕事こなして、あいつが学園都市に消される前に止めなきゃならねぇんだぞ」


「わかってるよ。でもさ、多分こうして私たちが話してるのも暗部とか統括理事会には筒抜けだよ。
かきねを助けるのが最善の方法なら、学園都市がそれを許すはずが無い。
きっといまも、かきねすら学園都市の手のひらで転がされてるだけ……」

滝壺のいう「大丈夫」それは自分達は死ぬ時は一緒で生きてる間は引き離される事がない。
ということだ。
絹旗と垣根にしたって、連絡を取り合う方法などいくらでもあったはずである。
それをしなかったのは絹旗の意地と垣根がそれを思いつけなかったからだ。

「でも、こうして日の当たる表の世界でみんなで生きれたら楽しいと思う。
だから、逆に仕事はしない。仕事して怪しい人見つけたら、それを消さなきゃいけなくなる。
そんな事してたら抜け出せない」

「バカか、仕事しない構成員なんざそれこそすぐ消されるぞ」

「バカはしずりのほうだよ。
今、私たちが消えたらクラスメイトがおかしいと思ってくれる。
きぬはたはきっとみさかと仲良くなるし、ふれんだもなんだかんだ言いながらつちみかどと良い関係を築くとおもうし」

「それがなんなんだよ!」


「わからない?みさかとつちみかど、この二人が私たちの後ろ盾になってくれてるってことだよ。
みさかは第三位、しずりよりも序列が上の超能力者だよ?
つちみかども『ミスらしいミスをしていない奴を消す暗部』だったら反逆してくる可能性が出てくる。
これだけいろんな暗部組織に名が広まって生きてるつちみかどだよ?
学園都市側もなるべくおとなしくしててもらいたいはず。
それに、そもそもこんな仕事をアイテムに回してくるのがまずおかしい。
私たちは『殺す』のが主な仕事だよ?
それに私がいる意味は『対能力者』ってこと。
それが、こんな調査だ監視だ、なんておかしい。
今回の仕事の資料も急造品って感じでひどいなんてものじゃなかったし、
私たちがいまここにいるのは多分垣根が手を回したから……だから仕事なんて本当はないんだよ」


「……だとしたら……なんだ?私たちの本来の仕事は……いまあいつ一人でやってるって事か?」

なんでそんな事を、と麦野は吐き捨てるように言った。

「それで私たちが救われると信じてるんだろうね。
そのうち電話の女からも連絡こなくなって、こっちから連絡するのもできなくなって……そこで初めてかきねとしては成功だったんだろうね」


「あいつは……死ぬつもりなんじゃねぇのかよ……死ぬ事があいつの救いなんじゃねぇのかよ」

「自分が救われるよりも、死ぬより辛い暗部できぬはたを守りたかったんじゃない?」

午後の授業の始まりを告げるチャイムがなった。
それは、まるで滝壺の言葉を肯定する正解を告げる音のように麦野には聞こえた。

「だとしたら……もう、あいつを救う方法なんて……ないじゃないのよ……」

「死ぬのが救いなら、まだ道はあったけど……生きてきぬはたを守るのが救いになっちゃったら……そうなるかもね」

死ぬのが救いならばまだ道はあった。
垣根が死ぬ事により絹旗は永遠に救われなくなる。その事をわからせれば良かったのだ。
そして、垣根の中に根付く『母親を殺した』という罪悪感、それを取り除く事も時間はかかるかもしれないが出来ない事はない。
垣根の母親が命をかけてまで垣根に伝えたかった事、
それがなんなのかを垣根がしっかりと理解すれば死んで救われるなどという結論が出るはずがそもそもないのだ。

「——でも」

滝壺は珍しく目をしっかりと開き真剣な顔をしていた。

「まだ、大丈夫だよ。
言ったでしょ?これすらも学園都市の手のひらの中だって。
何をするつもりかわからないけれど、垣根がどんな道を選ぼうがあと一回。
あと一回は必ず私たち……少なくともきぬはたの前に現れる」

どこからその自信がくるのかはわからない。
だが、かつてないほどの力強さで滝壺はそう言い切った。


〜〜〜

「もうめんどくさいので実験について説明しますね、とミサカはゲームに飽きた事を遠回しに主張します」

「おォ……全然遠回しじゃねェけどな……」

一方通行はぐったりした顔でトランプやらオセロなどのゲームを片付ける。

「絶対能力者進化実験、という実験です。
内容は二万体の妹達……あ、ミサカ達クローンの事です。修道女って意味ではないです。
二万体の妹達を一方通行が二万通りのやりかたで殺す事です、とミサカは簡潔に説明をします」

「はァ?なンだそりゃ……そンな実験するわけねェだろ!」

持っていたゲーム類を床に思い切り叩きつける。

「ここのクソ共は半殺しにしてやったってのにまァだ懲りてねェのか?」

ギロリとミサカ00001号を睨む。
ミサカ00001号に罪はないとわかっていても当たってしまう。

「おい、どの研究所のなンて野郎だ。そいつを殺してくる」

「わかりません、とミサカは正直に答えます。
恐らく貴方が激昂する事もわかっているのでしょう。
研究所内でも研究員は全員マスクをしていましたし、研究所を出る時も目隠しをされていましたから」


「……どォすりゃ止められる?」

「さぁ?とミサカはその答えを持っていませんので答えようがありません」

「なンでオマエはそンなに淡々としてられるンだよっ!
オマエが死ぬ実験だぞッ!」

ミサカ00001号の態度に腹が立ち、怒鳴る。

「何を言っているのですか?ミサカは殺される為に生まれて来たんですよ?」

その答えに一方通行は言葉を失う。

「……そンなの……あっていいわけないだろ……」

力なくそう呟くのがやっとであった。

「何をそんな悲しそうな顔をしているのですか?とミサカは一方通行の顔を覗き込みます」

「オマエは、絶対に死なせない……」

近寄って来たミサカ00001号を一方通行は思い切り抱きしめた。

「実験も絶対ェ潰す……能力は……人を助ける為のもンだ。
それを、人殺しになンか俺は使わねェ」

その目に宿る力は決意。
今までなんとなくで能力の使い方を間違えなかった最強の能力者が初めて心の底から建てた誓い。

「俺は、全てを守ってみせる」

ここまで
今日すごい長い

アイテム回
一方通行回

垣根さんは未だに空気ですね


たまにはレス返してみる

>>311
美琴とは絡みました
>>312
こういうことです
>>313
これまたこういうことです
>>314
これからは逃がし屋さんをご利用ください
>>315
そのオブジェ気に入ったら持って帰っていいよ?

絹旗の制服姿は絶対かわいい

麦野の制服姿は事実としてイメクラにしか見えないと思うの

ちょっと忙しい
18日まで多分来れない


>>343
違うな、間違っているぞ!絹旗は制服“も”可愛いんだ
あと>>344は逃がし屋さんに依頼しとけ

では

しばらく書けないわ
まじでちょっとリアルが上条さん並みに不幸続きで精神的にいま無理

二ヶ月無理そうなら落としてまた落ち着いたら立てますわ
完結はさせる


〜〜〜

「第一位が選んだ道は第二位、そして幻想殺しを救うかもしれないな」

ビーカーの中に浮かびながら統括理事長アレイスター・クロウリーは笑う。

「だが、しかし……救いとは時に絶望よりも悲惨な結果に終わる」

その言葉を聞く者は一人もいない。

「第二位……未元物質は救いを求めてはいない。
あいつが求めているのは……死だ」

しかひそんなことは些細なことで、アレイスターはしゃべり続ける。
アレイスターのプランの中で最も近づくことの容易でない道を、駒が勝手に進んでくれたのだ。
少なからず興奮しているようにも見えた。

「フフ……そうだな……次は……」

ここで実験を止める為に幻想殺しの青年、上条当麻が第一位の青年、一方通行とぶつかるというシチュエーションは完全に崩れた。

「幻想殺し……これの絶望だ」

プランは動く。

罪悪感で暗部に第一位と幻想殺しを縛ろうとした計画は既に消えた。

「そうだな……未元物質と幻想殺しの衝突。
ここで未元物質の死と引き換えに幻想殺しは闇に堕ちる。
そしてその後の第一位と幻想殺しの衝突。
そこで第一位の覚醒はなるだろう……。
その時、扉は開かれる……絶対能力者……神のへの扉が……」


〜〜〜

「……ん?」

「あ?どうした?」

上条と垣根が特に意味のない話をポツポツと交わしていると、上条が急に立ち上がった。

「いや、わからん。わからんけど……違和感?」

「……あぁー、逃がし屋さんの能力消えてら」

ほれ、と言いながら先ほどまでつなぎ目だったところを垣根は普通に通り過ぎた。

「あぁ、鳥が普通に飛んでるのみて違和感覚えたのか!」

「……なんつーか、お前すごい神経太いな。
それってつまりさっきのぐるぐるループに完全に適応してたってことだろ?」

「能天気なだけだよ」

呆れる垣根に、上条はのほほんと笑う。
しかし、垣根の思った通り、上条のトラブルに対する適応能力は実際かなり高い本人にその自覚はないが……。

「ま、お前がどこで何してようと関係ないけど……気をつけろよ」

空き缶をゴミ箱に投げ入れると上条はやや真剣な顔つきで言った。

——ッ……!

その表情に、垣根は本能的な恐ろしさを感じる。


——な、なんだこの野郎……?

絹旗と過ごした時間は垣根には怖いものしかなかった。
絹旗と太陽、そして草花だけが垣根にとって怖くないものだった。

——そう、怖いものしかなかった。でも、暗部に入ってからは……俺は強くなったはずなのに……怖いものなんかねぇはずなのに……。

第二位という衣で身を飾り、自信をつけた臆病な泣き虫。
強さというものがなんなのか、それを理解できていない男。

垣根が本能的に恐怖を感じたのは上条が垣根の受け入れようとしない事をあっさり受け入れているからだ。

「……忠告ありがとう。
お前も……弱みを見せんなよ、付け込まれるぞ」

仕返しのつもりか、垣根は偉そうにいう。
それに対し上条はまず笑った。
ここで垣根は自分のセリフを後悔する事になる。

——やめ、ろ……。

恐らく上条が言うであろう言葉。

必死に自分が目を逸らした言葉。


「ばーっか、弱みを見せなきゃ俺は今頃死んでるよ」

垣根にトドメを刺すように優しい笑顔のまま言葉を続ける。

——や、め……ろ。

垣根の苦痛にゆがんだ顔には気づかない。

「俺は友達や家族に頼らなきゃ生きていけない——」

そして、

「——弱いやつだからな」

言った。

「……」

垣根は黙り込むしかない。

——俺は……強いんだ……だから、守れるんだよ……違う、俺は弱くない……。

「垣根?」

やっと垣根の様子がおかしい事に上条は気づいた。

「違う……嘘なんか、嘘なんかついてねぇよ……俺は、強いんだ」

「あん?おい、平気か?どうした?お腹でも痛いのか?」

「うっるせぇえ!黙ってろチンピラ」

すっとぼけた上条に、怒鳴る。

「チンピラって……そりゃ、俺よりおまえだ。
いきなりなんなんだよ、キ印かおまえは」

垣根のいきなりの暴言に上条も流石にイラついたようである。


「うるせぇんだよ、馬鹿野郎。
底辺が超能力者様に楯突くな、死ね。
お前なんか大っ嫌いだ、死ね」

「はぁ……ガキかよ、お前は……」

腹を立てるのも馬鹿らしくなったという風にため息をつきながら言った。

「なんでもいいけどさ、お前は超能力者だから強いのか?だったら、お前なんか底辺の弱っちい俺にすら敵わねぇよ」

「……試して、みるか?あぁ?」

ここで上条を殺せれば、垣根はそれで心を蝕む感情から解放されると思った。

しかし、殺せれば、と思っている時点ですでに負けている事に垣根は気づかない。いや、気づけない。

「別に、構わないけど……弱い俺を倒してお前はそれで満足するの?
勝って当たり前、負けて当たり前の“ただの”喧嘩なんか疲れて痛いだけだし、したくないなぁ」

どこか必死さのある垣根とは対照的に上条は余裕しか持っていない。
まるで、勝って当たり前なのが自分で、負けて当たり前なのが垣根だというような口ぶりだった。


「……クソッタレ!ジュースも買えない貧乏人が、野垂れ死ね!」

もはや子供の負け惜しみ。
その事実を垣根もわかっているのでより腹が立つ。

「だから、お前はなんなんだよ……あと金あるなら貸してくれよ」

「チッ、クソが死ね!」

そして、限界点を超えた垣根は普通に札を財布に入ってるだけ取り出し上条へと投げつけた。

「死ね死ね死ね!」

「死なん死なん死なん!
そして、ありがとうございます!
これで俺は半年は生きれる!ビバ垣根様!返済は出世払いで!」

そして、上条もその金を素直に受け取った。
その上条の垣根の駄々っ子ぶりなどまるで気にしていない余裕がまた垣根をイラつかせた。

「誰が出世すんだよ、馬鹿野郎がくたばりやがれ!」

垣根はそう言い残すと逃げるように……いや、上条から逃げた。

「……いやぁ、超能力者って面白いなぁ……次垣根と会ったら返済プラン考えなきゃな」

上条の中には、垣根帝督とは長い付き合いになるものだ、という確かな確信があった。

理由など聞いてもわからないだろう。

それが、縁というものだ。


〜〜〜

——クソックソッ……なんだよ、なんなんだよ……俺は……なんなんだよ!

上条から逃げ出したあと垣根は下部組織に逃がし屋がどうなったか聞くことすらも忘れただ空を飛んでいた。

——なんだよ……なんだよ……なんであんなにあいつは……クッソ……勝って当たり前?
そんなの、当たり前だろ!俺は……強いんだから……。

「あああああああああああああああッ!」

もうわけがわからなくなり誰もいない一人ぼっちの空の中で叫ぶ。
子供のように感情を爆発させ、何かにぶつけないとダメなほど、垣根の心は乱されぐちゃぐちゃになっていた。

その中で垣根はひとつの詩を思い出す。

『そして、もう、私はなんの事だかわからなく悲しく、今朝はもはや私がくだらないやつだと自ら信ずる』

——あぁ、そうさ。俺はくだらねぇ奴だ。
だが、俺は強い。
強いならそれでいいんだ。それで大切なものを守れるんだ。
くだらねぇゴミに成り下がっても……大切なものを自分で守る力を持ってない奴よりはマシだッ!

くだらない奴だと自ら信ずる。

その詩を思い出し、そしてそれに当てはまると自分で受け入れている。
それは、垣根の精神がいかに不安定でスキだらけなものなのかを示す標となっていることに垣根は気づいていない。


〜〜〜

「……逃がし屋、ね。
こんな大掛かりな“魔術”を使って何をしようとしているんだ……アレイスター」

「……お前には関係のないことだ」

アレイスターと呼ばれた男のような女のような恐らく人間であろう生物は見下すような微笑みでそう答えた。

「関係ないだと?ふざけるな……カミやんは俺の友達だ。
それがこちら側に巻き込まれているんだぞ……」

普段にゃーにゃーとふざけた口調の金髪アロハは真面目な口調でアレイスターに噛み付く。

サングラスで隠れて見えないが、そのレンズの奥に在る目は怒りと不安で燃えているだろう。

「それも、お前には関係のないことだ。
全ては上条当麻……幻想殺しが決めること」

「こっち側に関わるかどうかなんて人生を今ここで決めろと言ってるようなものだ。
そんなものはカミやんの本来の意志じゃない」

「否応なしに巻き込まれる。それがお前の友人、そうだろう、土御門元春よ」

自分がこれ以上何を言ったところでそれすらもアレイスターの手の中で踊っているに過ぎないことを土御門は理解している。

「……もういいぜよ、でも……カミやんを甘くみるなよ、あいつはおまえの思惑すらもぶっ壊して自分の道を歩いていくぞ……。
あいつは……強いからにゃー」

土御門のその言葉に、アレイスターはただ静かに笑うだけであった。


〜〜〜

「逃がし屋はどうなった?」

飛び回り、叫び尽くしなんとか平静を保てるくらいの余裕を取り戻した垣根は、下部組織のリーダーに連絡をとっていた。

「そうか……ありがとな。
今回の詫び金はおまえらのほうで全部分けていいぞ」

その男が言うには、自分たちも垣根を見失ってから追いかけ続けたが、見失ってしまった。
しかし、今垣根から電話を受ける前に指令役の人間から任務の取り消し及び、逃がし屋の確保の連絡を受けた、とのことだった。

「いや、今回の失敗は俺のミスだ。
おまえらは悪くねぇし、俺見失ってもパニクらず目標追い続けたのは評価できる。良くやった」

リーダーとの通話を終えると、垣根は続けて電話の女へコールする。

「俺だ、取り消しとはどういうことだ?」

『たまたまよ、たまたま私の直属部隊が逃がし屋さん殺しちゃったから……取り消し、ってこと。
偶然だから無様に罠にハマったとか落ち込まなくていいわよ』

バカにするように、フッと笑う。

「……殺した?確保じゃねぇのか?
あと逃がし屋は何人組だったか教えろ」

『確保のち殺害、よ。また逃げられちゃ困るもの。
逃がし屋はグループ名じゃなく個人名よ。本名はわからないけれど能力は空間移動系のレベル4、らしいわ。
もちろん書庫には登録なんてされてないわ』


——……妙だ。おかしい。レベル4なんてレベルじゃなかった。
あのクソ野郎の言うとおり数人のグループじゃないと辻褄があわねぇのに……一人だと?

何か自分のしらない思惑が動いている、その事が垣根をイラつかせる。

——だが……その意味はなんだ?

得体のしれない不安が胸をざわつかせる。
唇を軽く噛み、電話を握る力が無意識に少し強くなる。

『ちょっと、聞いてんの?』

電話の女は垣根が考え込んでいる間何やら話を続けていたらしい。
返事のない垣根にイラついた声で怒鳴る。

「あ?うるせぇな、なんだよ」

その態度が気に入らず、垣根も冷たく返す。

『だから、次の依頼よ。
学園都市に入り込んだ逃亡者と追跡者を排除して欲しいの』

「逃亡者と追跡者?」

『資料は明日にでも送るわ。
逃亡者は一人、銀髪のシスターさんですって。
追跡者は二人、胸の大きな黒髪ポニテと赤髪の喫煙大男。
全員殺しても良いらしいわ、殺さなくてもこの街から追い出せたらそれで良いらしいけどね』

「……期限は?」

『一月ね。どうやら能力者らしくて巨乳も赤髪もびっくりするくらい強いらしいのよ。
ならばと銀髪を先に殺そうとしたらその二人に邪魔されたそうよ。
まぁ、頑張ってねぇ』

言い終えると一方的に電話は切られ、垣根は得体のしれない不安を、さらに大きくしていた。

——おかしい。何かが……おかしい。

それは小さな予感。
違和感の答えなど出るはずのない第六感とも言うべき運命の力だ。


〜〜〜

「まったく、嫌になりますね」

「あぁ、そうだね……レベル5だっけ?そんな連中が出てきたら面倒だ、さっさと禁書目録を捕まえよう」

そうつぶやく瞳はどこか寂しげで、どこか申しわけなさを感じているような色をしていた。

とある建物の上、イギリス清教必要悪の教会の二人組はごちゃごちゃとした街を眺めていた。

変える事の出来ない運命、それを目の当たりにし、絶望が色濃く染み付いた瞳。

しかし、二人の運命は……いや、三人の運命は劇的に変わる。

「シスターさんって……最愛と同い年くらいじゃねぇか……」

本来出会うべきだった幻想を壊す男ではなく、幻想を愛する男とであってしまった事が、歯車を狂わせた。

「……おなか、へったんだよ」

「見れば分かる。とりあえずファミレスにへばりつくのやめろ。
飯なら奢ってやるよ」

このまま学園都市の外に放り出しても良かった。
殺してもよかった。

だが、出来なかった。

理由はわからない。

ロリコンだから幼い子には手を出せなかったのかもしれない。
禁書目録が可愛かったから手を出せなかったのかもしれない。
それとも、シスターという存在に救いを求めたのかもしれない。

その答えは、垣根の中にしかない。

とりあえずここまで書けてたからミスって消しちゃう前に投下しとく

次回は未定

人間意外と強くて三日もすればある程度は立ち直れるんだな
年内にこれたら来ます

来れなかった時の為に、良いお年を!と言っておこう


全く先が読めない

垣根と絹旗の話だけかと思ってたら魔術サイドも参戦だと・・・
これは待たざるを得ないじゃないか。

クリスマスだしね
クリスマスプレゼントということで

>>365
おれも読めない
垣根と絹旗いちゃいちゃさせるだけのギャグ話書こうと思ってたのに何時の間にかこうなってた

>>368
ねー、なんで魔術師が出てくるんだろうね
そして絹旗と垣根のいちゃいちゃがいっこうにないというね
過去話も最近ないし

では、はじめようか


〜〜〜

目の前にある光景はなんだろう。
垣根は険しい顔をしながら眼前に広がる万国びっくりショーを眺める。

——オーケィ、落ち着こう。最愛と同い年くらいか最愛よりも少し年下くらいかな?
外人さんで顔は最愛には負けるが可愛い。

「はむはむはむ……むぐ……むむむ」

——あー、こんなゲームのキャラいたよな。
なんでもかんでも吸い込んじまう奴……。つーか、これなんだ?

新しい能力なのではないかと疑うレベルの非現実的光景。

「むむ……おいひいんだよ……ていとくも食べたら?」

——いや、もう食ったんだよ。俺割と大食いだから普通に二人前は食ったんだよ。

上条に感じた恐ろしさとは別次元の恐ろしさを感じながら垣根は苦笑いを浮かべた。

「あ、はは……金は問題ねぇけど……お前大丈夫なの?」

「もう……むぐ……三日も……むぐむぐ……食べてなかったからね!」

——三日分?おいおい、冗談はよしこさん。こんだけの食糧軽く一週間は持つぜシスターさんよ。

「ふぅ……ごちそうさまでした!……まだ食べれるけど、流石に申し訳ないからね」

「二十万も食っといて今更だろ、って話はおいといて……お前なに者だ?
こんだけ飯食わせてやったんだ、その食欲の意味と、追われてる意味を簡潔に話せ」

ここまで関わってしまったらもうただ排除して終わり、というのは気持ち悪いのだろう。

というか、ここまで金を出したのだから知る権利くらいはあるはずだ。

「……じゃあ、話せるところだけ……」

言うと、銀髪の少女はゆっくりと垣根の要望通り簡潔に話した。

「私の名前はインデックス。十万三千冊の魔道書を持ってるから、悪い魔術師に追われてるんだよ」

「オーケィ、簡潔すぎてわからねぇ。
まじゅちゅ……魔術師って何だよ」

「噛んだんだよ!」

インデックスは楽しそうにケラケラ笑う。

「うるっせ、まじゅちゅ……まちゅじゅ?あれ?」

恥ずかしいのか、少しだけ焦り魔術師、という単語がなかなか言えず垣根は顔を赤くした。

「魔術師、ね。
科学とは違う……学問だよ」

「学問?
術っていうくらいだから学問になりきれなかったもんじゃねぇのか?
錬金術、とかそういう類だろ?」

学問ならば、魔学とでもなっているはずだ。
錬金術、占星術、現在ではオカルトと認定されてしまっているものも、遠い時代では立派な学問と認識されていた。
だが、それは遠い昔の話である。
今では、科学的な根拠のないそれらは見向きもされない。

故に、錬金学、占星学とはならず、術のまま密かに息を潜めているのだ。

「うん……確かに、広く知られた学問ではないかも。
そもそも魔術には才能も必要だし、広く一般人のための学問じゃないね」

でも、ひっそりと生きてるんだよ、とインデックスはまた笑った。


〜〜〜

「さて、そろそろ行くね!」

魔術の事、追われている理由などはそれ以上語ろうとしなかった。
なので、垣根は適当にポツポツとインデックスに話をふっていた。
なぜそうしたのかはわからない。
気になる事はあるが、頭のおかしい子供の話だと思い込み、
インデックスを気絶させ学園都市内から放り出せばそれで任務の半分は完了だ。
追手は勝手にインデックスを追うか、そうしなかったらそれをまた外へ放り出せば完璧に完了だ。
逆になぜそうしなかったのか。
そんな事を考えられないほどに垣根はインデックスを“失いたくない”者として認識していたのだろうか。
それとも“失ってはならない”者と本能が理解したのか。
はたまた“救ってくれる”者と縋ったのか。
もしくは“救わなければならない”者と懺悔の証としたのか。

それはきっと最後の最期までわからない。

だから、ここで垣根がインデックスを引き止めた理由も、わからない。

「行くって何処へだよ。
おまえ追われてフラフラで俺に拾われたんだぞ?
また一人で逃げてもそのうち捕まるか飢え死にするぞ?」

「……とりあえず教会に保護を求めるから大丈夫だよ」


「おまえ追ってるのもその教会の人間だろ?
赤髪の神父服と奇抜な格好した姉ちゃん、俺は天才だからこの街の厄介ごとなんざ調べりゃすぐわかるんだよ。
おまえはガキだ。そんで俺は強い……」

「なにが、言いたいのかな?」

遠回しな垣根にインデックスは若干イラついたような、嬉しそうなごちゃごちゃした感情を顔に浮かべる。

「ガキは……弱いやつは強いやつに頼ればいいんだよ。
一言俺に助けてくれって言えば……俺はお前を助けてやれる。俺は……強いからな」

「……ていとくになにがわかるのかな?」

「わからないけど、お前はわかるだろ?俺は強い」

「……強い事と、信用できるってことは違うんだよ」

「あ?お前俺が敵だと思ってんのか?」

「ごめんね、こんなに良くしてもらってるのに、私はていとくを心の底から信じることが出来ない」

申し訳なさそうな顔でインデックスはそう言った。

「……いや、お前が正しい。お前も俺みたいに闇の中を生きてんだな……。
だが、安心しろ……俺はお前を裏切らねぇ……決して見捨てたりしねぇ。
……地獄の底までついて行ってやるよ」

なにかが垣根をここまで必死にさせる。
その何かが垣根にはわからない。


「……地獄の……底?
ていとくは馬鹿なのかな?
そんなの信じられるわけないんだよ。ますます何か裏があるんじゃないかなって……」

困ったような、怒ったような声だった。

「おいおい、お前はシスターだろ?」

だったら人を信じろよ、と垣根は力強く言った。

「信じる……信じるって何かな?
なにも持ってない私が、初めて見た人は追いかけてくる二人の人だったんだよ?
いきなり、全く知らない場所に居て、わかるのはインデックスっていう名前と私の中にある物を守らなきゃならないって事だけ……。
そして、私は二人に会ったんだよ」

信じろ、という言葉がインデックスの何かに触れたらしい。
まっすぐ垣根を見つめながら無感情な瞳で言葉を次々発する。

「ニコニコしながら私の名前を呼ぶ。
なにもわからない私は聞いたの、私は誰?私は何?あなたたちは誰?って……。
そうしたら、二人は私の友達だって……。
かおりと……すているは私を守ってくれるって言った」

——追跡者はかおりとすているって名前か。かおりってのが巨乳でステイルってのが赤髪か。

インデックスの様子がおかしい事には気づいていたが、あえて口を挟まずにいる。

ここで止めて正気に戻してしまったら取り返しのつかない事になると思った。

「はじめは二人を信じた。
二人と友達になった。
三人で仲良く、田舎町で暮らしてた……でも、そんな……そんなある日……。
二人の話を聞いちゃったんだよ」

インデックスの顔に絶望が張り付いた。

まだこの先を「聞くか?」とインデックスは無言で垣根に問いかける。

垣根は少しだけ緊張したように、頷いた。


「……私の記憶を消すって……“また”記憶を消すっていう話をしてたんだよ。
信じてたのに、記憶もない、何もない私を守ってくれるって……三人であんなに楽しい時間を過ごしたのに……。
私の記憶を奪ったのは二人で、それはきっと私の中の物を狙ってるから。
で?なんだっけ?ていとく……『人を信じろ』だっけ?」

垣根は黙り込んだ。そして考える。
起きたら自分の過去が全て消えているとはどういう感覚だろう。
その時に手を差し伸べてくれた人に裏切られるのはどういう感覚だろう。
そしてその感覚を味わったあと、人を信じることなんて出来るのだろうか。

——無理だ。

一通り考えてみて、垣根はため息を一つついた。


「無理だな、もうなにも言わねぇ、というか言えねぇ。
怖すぎる。起きたら自分を作ってきた物が掠め取られてて、唯一縋れる人に裏切られて……無理だな。
お前に信じろなんて言えないわ。
だがな、インデックス……俺に常識は通用しねぇんだよ」

もうなにも言わない。そう言った時インデックスはホッとしたような寂しいような表情をしていた。
絹旗がたまにそんな表情をしていたな、と考えながら“なりたい”垣根帝督に
垣根はなっていく。

「お前を監禁する。そうしなきゃお前どうなるかわかんねぇし、かおりとステイルは俺がぶっ殺してきてやる。
人の光を奪うようなやつは……許せねぇんだよ」

自分の光。


母親。



それを奪った学園都市。そして、自分。



垣根帝督にとって、殺さなくてはならない物。




自分とインデックスが——重なった。




ただ、大きな力を持ってしまった。

———超能力。

———十万三千冊。

故に、奪われた。

なにを?

———光を。


「インデックス……お前は俺を信じなくていい。
だが、大人しくしとけ。お前に怪我はさせたくない」

それが重なった瞬間、垣根帝督の限りない殺意は追跡者二人に向けられる。

——やっぱり、この街の闇を潰さなきゃダメだな。
母さんが守った命を奪うことになるけど……母さんを奪ったやつをどうやっても俺は許せそうにない。

そして、フラフラしていた意志もはっきり固まった。

——全員殺して、俺も死のう。全員殺せば最愛に危害が加えられることもないしな。

標的は決まった。

追跡者が二人。
そして、暗部組織に関わるもの全て。

——大丈夫だ。俺は強いからな……。

必死に言い聞かせる。

——殺すんだ。全部。殺しちまえばなにも出来ない。

それが出来るのが強さだと信じて。

——死人は……もう、なにも出来ない。
俺がもう唯一大切な最愛を傷つけることも、俺自身を傷つけることも、母さんを傷つけることも、出来ない。

それが強さだと、ひたすらに言い聞かせ。

言い聞かせる、とはつまりそれが間違っているとわかっているということだ。

だが、もう止まれない。

——俺が止まる時は死んだ時だけ。
俺の全てを守って、死んだ時だけ。


垣根の全て、それはつまり絹旗最愛だ。

いまの垣根にとって、絹旗最愛を守ること。
それが唯一人生の最終目標だ。

そして、その守るべき絹旗の中に自分はいない。

絹旗にとって何が最も大切で、何を最も愛しているかを、垣根は知らない。

否、知らないのではない。

知ろうとしないのだ。

必死に目を背けているのだ。

それをみてしまうと、弱い自分になってしまうから。

——俺は、母さんを殺した。そんな俺があの子の……最愛の側なんかにいちゃいけない。
今でも、心の底から両親を愛しているあいつの側に……親殺しなんかいちゃいけないんだ。

絹旗はいつも言っていた。

『お母さんもお父さんも捨てたんです。
私を最も愛せるのは私だけ。
私が最も愛せるのは私だけ。
お母さんもお父さんも……私を捨てたんです。
だから、私も捨てた。もう、両親は超いらないんですよ』

それでも自分は泣かない、と。
最も大切なものから「いらない」と言われても泣かない強さが自分にはあるのだと。

しかし、垣根は気づいていた。

絹旗が今でも親を愛していることを。
いらないと捨てられても、それでも愛していることを。

本当に捨てたならば、いらないならば……そもそも両親の事を口にすらしないはずなのだ。

——思考がクリアだ。もう誰も俺を止めらんねぇ……。

垣根は不気味に笑うと、伝票をとりインデックスの手を引きながら会計を済ますと、
そのままインデックスを抱きかかえ今まで使われる事のなかったスクールのアジトへ飛んだ。

高く高く飛んでいる垣根は、深く深く堕ちて行く。


〜〜〜

「な、なんなのよこの戦場は……」

パンを買いに来たフレンダは購買の凄まじさに一歩後ずさる。

「でも……」

——ここで引き下がったら昼飯は抜き、それはつまり午後の授業を腹ペコ状態で受けなくてはならないという事ッ!

真面目に授業を受けようというその発想に、学校というものを楽しんでいる事が伺える。
実にいい事だ、と垣根あたりは喜ぶだろう。

「よっしゃ!いざ尋常——」

「はい、ストップー!」

男たちが荒れ狂うその中へフレンダが突っ込もうとした瞬間、後ろから抱きつかれるように首に手が回った。

「ひゃっ……!」

「うぉ、そんな女の子みたいな声出すな!
俺が痴漢みたいじゃねぇか!」

手を回した男、上条当麻はフレンダの頭を軽くはたいた。

「いたっ……ってか痴漢よ!結局あんた痴漢ってわけよ!
私みたいな美女を女の子みたいってなんなのよ!
殺されたいわけ?」

恥ずかしいやら屈辱的やらで、フレンダは大騒ぎする。

「わー!馬鹿馬鹿、落ち着け!
あんなか入ったらお前余計ひどい目にあってたぞ!
どいつもこいつも他のやつ見えてないから女だろうがなんだろうがもみくちゃにされるぞ!それでもいいのか!」

「でも結局あんたが痴漢って事に変わりはないってわけよね?」

「ですよねー、でも普通に肩叩いただけだと無視して行っちゃうだろうし、ああやって捕まえるしかなかったんだよ」


「まぁ、いいわよ。別にそんなの気にするほどガキじゃないしね。
それより、パンどうするのよ?」

フレンダは上条の顔を決してみようとしない。
相当恥ずかしいのか、はたまた別の原因か……。

「パンは……まぁ、待ってろ。
コロッケパンと焼きそばパンでいいか?」

「……甘い菓子パンも欲しい」

「はは、女の子だな。
んじゃまぁ……行ってくるわ。
屋上で食うんだろ?持って行ってやっから屋上で待ってろよ」

上条は手を振りながら大混乱の人波の中へ歩いていく。
と、思いきや何やらそれらを通り過ぎ、職員用の玄関へ向かって行った。
屋上で待っていろと言われたフレンダだが、何処へいくのか、そして自分のお昼ごはんの行方が気になり上条についていく。
上条は「お、一緒にいくのか。セクハラしちったお詫びにパシリやってやろうと思ったのに」と自ら痴漢、セクハラを認める発言をしていた。

そして、職員用の玄関を出るとちょうど一台の車が入ってきた。

「おぉ、上条!なんだ、可愛い女の子連れて……彼女か?」

運転手はニコニコしながら降りてくると、上条の横に立つフレンダを見るとそういった。

「え?そう見えます?実は——」

「主人と下僕ってわけよ」

「お前下僕は流石にひどいだろ……」

「上条が下僕、とは言ってないのに自ら下僕名乗るとは……結局私がご主人様って自覚があるってわけね」

二人の会話を大笑いしながら運転手のおじさんは後ろのドアをあけ何かを取り出す。


「んで?今日もいつも通りのパンでいいのか?」

「いや、ご主人様がコロッケパンと焼きそばパンとチョコパンを食いたいらしいからそれもらってもいいですかね?俺はいつも通りので」

言いながら財布から札を一枚取り出した。

「おう、構わん構わん。
青髪からお前の不幸は聞いてるしな、俺もお前に助けられた事あるし、このくらいのサービスは購買のババアも大目に見てくれるってもんよ!
ん、じゃあ二人とも仲良くな!」

ホイホイっと袋にパンを詰めるとお釣りと一緒に渡す。

上条がお礼をいい受け取ると、おっさんも楽しそうに笑い、パンの入ったトレーを抱えながら通用口へ向かった。

「なんでこっから入らないわけ?」

「あぁ、ここは職員用だからな。
お客さんとかはまた別なんだよ、車おくところがないからとりあえずここにおいてあっち回るってわけよ」

「真似すんな死ね。
ほら、自販機よってさっさと屋上行くわよ」

蹴飛ばしながら、フレンダはどんどんと階段を上って行く。

「はぁ……不幸、でもないな。超絶美人と飯食えるんだもんな……うん」

上条もとぼとぼとそのあとをついて行く、午後の授業の始業ベルがなるまであと五分、必然的に二人はサボることになるのだが、それもまた青春。

やっと手に入れた日常に水をさすものはいない。

まだ、この時は……。


〜〜〜

学校初日を終え、寮にはいるとか入らないとか口うるさく言ってくる教師から逃げ出し、絹旗は御坂とファミレスへ来ていた。

「あー、しっかし明日から毎日寮にはいれ寮にはいれと超言われるわけですか。
めんどうですね」

ジュースをずずず、と吸いながら絹旗は愚痴る。

「いや、それあんたが悪いって。
常盤台は全寮制だし、あんたなんか特に寮とかにいれて監視してないと何するかわからないじゃない」

「美琴には超言われたくないです」

「残念、私は寮入ってるし、そんなに問題児でも……ないはずよ」

「だうと、超だうとです」

「そんなやる気なく「何言ってんだこいつ?」みたいに言われると凹むわね……」

なぜ二人が、というか絹旗がまっすぐ帰らずファミレスなんかに付き合っているかと言うと、
それは授業を終えホームルームを終えたところまで話は遡る。


…………

………

……



「はー、やっと終わった……美琴、これでもう今日は超帰っていいんですよね?」

担任の先生の話が終わり委員長が号令をかけると、お嬢様方も少しだけ砕けたリラックスした雰囲気になった。
そんな空気の中、ぐでっと机に突っ伏しながら絹旗は隣に座る御坂へ尋ねる。
何しろ学校が初めてなのだから当然帰っていいタイミングもよくわからない。

「あー、そうね。私たちは掃除当番じゃないし……歓迎会で——」

「最愛さん、先生がお呼びになってますわよ?」

御坂の言葉は遮られ、先ほど絹旗が殺そうとした生徒が微笑みながら現れた。

「御坂様と歓迎会ですか?私たちも混ぜてください」

「そうですよー、御坂様ばかりとお話なさって……もっと私たちとも仲良くなりましょう」

わらわらとまた絹旗の周りに集まり、チロチロと御坂を気にしながら話しかける。

「あー、はいはい。わかりましたわかりました。そのうち遊びましょう。
あと、御坂様ってのイラっとくるんでやめてください。
レベル5だろうがなんだろうが同級生、もっと超馴れ馴れしくしていいんじゃないですか?
あと、先生がなんですって?」

「え、えぇ……えっと、寮の事でお話がと」

「……よっし、超逃げます。どこで待ってると言ってました?」

絹旗の“御坂様”という呼び名に対する指摘に、集まった女の子たちは少し戸惑った。
彼女たちも気づいているのだ。


絹旗が美琴と呼んだ時の御坂の嬉しそうな顔。
今まで感じていた、自分たちが作っていた壁。

それを軽々と壊す絹旗。

絹旗がいれば自分たちも“美琴さん”と呼べるかもしれない。

そう思い、御坂が約束を取り付けてしまう前に御坂を遮り絹旗を囲んだのだ。

しかし、絹旗にはその気持ちがわからなかったらしい。
簡単にやめろといい、挙句にはイラっとくると言いのけた。

御坂とクラスメイトが仲良くなる道はまだ遠いらしい。

「ふむふむ、あの無駄に豪華な部屋ですね。
では、皆さんまた明日!
明日のお昼は超みんなで食べましょう!じゃあ!」

そういうと絹旗はカバンも持たずに教室を飛び出した。

「……カバン、持って校門で待ってたら最愛と寄り道できるわよ?」

絹旗がカバンを忘れたのは面倒だから、なのだが御坂はそれをきっかけに使えると女の子たちへ教える。

だが、誰もそれに手を伸ばそうとはしなかった。

——やっぱ、ダメか。私って怖いのかなぁ?

少し凹みながら、絹旗のカバンを手に取るとスタスタと歩きはじめた。

——最愛のおかげでクラスの子達も私を普通のクラスメイトとみてくれるようになるかも、って思ったんだけどなぁ……。

階段をおり、下駄箱へと進む。

「あ、美琴!超助けてください!」

「は?って……はぁあああ?」

その声に振り向くと、御坂の落ち込みも吹っ飛ばすほどの光景が、そこには広がっていた。


「待てッ!絹旗最愛ッ!」

「ちょ、なんで僚艦?
てか、なんで私まで一緒に逃げてんの?」

「あ、カバンは持ち歩くのめんどいから学校に放置でいいですよ?」

「それは今はいい!とりあえず状況説明しろ!」

「御坂!そいつを捕まえろ!逃亡に手を貸したら……わかっているな?」

「ひぃっ」

「ならば!」

状況もわからず板ばさみになっている御坂を救うため、絹旗は行動に出た。

くるっと周り、御坂を羽交い締めにする。そしてそのまま首をしめ、勝ち誇ったように笑った。

「それ以上追いかけてくるなら超ポキッといきますよ?」

要するに、人質大作戦である。

「ちょ、まてまてまて……意味わからんない、なんで私首……ちょ、あんたこれシャレにならないって!くる死する!」

「ほら、美琴は能力も使えないほど苦しんでますよ?
寮監ともあろう方が生徒を見捨てて超いいのですか?」

「……わかった。今日は引こう。ただし、寮へは絶対入ってもらうぞ?」

寮監は絹旗たちに背を向けると少しだけ嬉しそうに笑った。

「……超話のわかる人でしたね。
あ、美琴大丈夫ですか?」

「……ぶな……」

「え?橅?」

「大丈夫なわけあるかこのバカぁああああ!」

そういうわけで、二人はぐちぐちと言い合いをしながらなんとなくファミレスへはいったのである。

…………

………

……


「いやー、それにしてもあの人超おっかないですね。
まぁ、絶対寮なんか入りませんが」

「次人質取る時は私以外でよろしくね」

「はぁ、まぁそんな感じで……というか結局超二人だけで遊んでますね。
明日お嬢様方から何言われるやら……はぁ」

絹旗はため息をつくとそのまま机にひたいをつけた。

「……明日はあの子達と遊んであげたら?
あの子達もあんたと仲良くなりたいのよ」

「ぶっちゃけ美琴がいたら超それでいいんですけどね。
まぁ、じゃあ明日もよろしくお願いしますよ」

「え?」

「いや、あんなお嬢様方私一人で相手出来ませんもん。
当然美琴も来てくださいよ?
そこで超様呼びなんて生意気な所業をやめさてやる……」

絹旗はにやっと笑った。

「……わかったわ。んじゃ、今日はそろそろ帰る?」

「そうですね。ではまた明日!」

二人は普通に普通の女の子っぽく別れた。


〜〜〜

「あれ?もう授業始まってない?」

パンを食べ終え、ぼんやり雲を眺めていると、フレンダが思い出したように声をあげた。

「今更何言ってんだ?もうサボろうぜ、いいだろ別に」

ごろんと寝転んだまま、目すら開かない。

「あー、うん……そうね。
これも結局青春ってわけね」

「そーそー、屋上で友情を育む、それも立派な青春ですよ」

「……でも私たち男と女なわけよね?
だったら……」

フレンダはいたずらっぽく笑いながら寝転ぶ上条にまたがる。

「……青春よりも、性春ってわけよ」

そして、そのまま上条の耳元へそう囁いた。

「は、はは……冗談はよせよ」

「冗談?本当に、そう思ってるの?」

優しい色っぽい声で甘く囁く。

「せっかく学校通ってるなら恋だってしてみたいし、上条の事は……嫌いじゃないってわけよ?」

「お、落ち着け!俺たちは会ったばかりだろ?落ち着け!」

「上条……ううん、当麻は私の事……嫌いってわけ?」

ぎゅうっと体を上条へ密着させる。
胸の感触やら匂いやらが上条から理性を奪う。

「ねぇ、当麻……学校で授業中に屋上で……とか、燃えない?」

「そ、それはかなり憧れるシチュエーションですね……はっ!いやいやダメだダメだ!」

「きゃっ!」

「おおう、大丈夫か?」

無理やり起き上がり、その反動で転びそうになったフレンダを支える。

「大丈夫ってわけよ。
しかし、あんた凄いわね。
あたふたするか襲われるかのどっちかと思ったのになぁ」


「十分あたふたしましたよ!
お前ね、仮にも顔良しスタイル良し性格は……あれだけど、
髪も綺麗で足も綺麗な女の子が年頃の男にあんな事したらまじで襲われるぞ?」

上条は少しだけ本気で怒ったような厳しい声をだした。

「あそこまでやって襲ってこない男がいるとは私も思わなかったっけわけよ。
どう?胸も意外とあったでしょ?」

「うん、あの感触は気持ちよか……じゃなくてだな、もっと大切にしろよ。
あんな色っぽい声、なんとも思ってない男に聞かせるな、もったいねーぞ」

「別にそんなのどうだっていいってわけよ。幸せな恋愛なんて出来っこないし」

戸惑ったり、おちょくったことではなく、フレンダの事を思って怒った奴は初めてだった。
だから、面白くなく、不貞腐れたような口調でそうつぶやいた。

「ん?なんだって?」

「なんでもないってわけよ」

にっこりと可愛らしく笑う。

「……お前はさ、可愛いし性格も破天荒だけど大事なものは持ってる。
そんな魅力的な女の子なんだから自分大切に良い恋愛見つけろよ」

その言葉には怒りよりも悲しみが多く含まれていた。

——無理だよ、私は汚れてる。

聞こえなかったふりをして、フレンダは寝転んだ。

「とうまー……良い天気ね」

「……そうだな」

フレンダの変化。
垣根の与えた変化。

その変化がどのような結果をもたらすかはまだ誰も知らない。

ここまで

垣根回
絹旗回
フレンダ回

では、よいおとしを!


たしかフレンダって公式設定で絹旗よりスタイル悪いんだっけ

>>393
悪いわけではない、控えめなだけだ
決して悪いわけじゃないんだよ、そしてフレンダの一番の武器は足なんだよ
ペロペロせずにはいられないほどの美しい足がある分少しだけ他が控えめなんだよ
部位ごとに計算してトータルしたら……あら不思議、結局フレンダちゃんの勝利ってわけよ


〜〜〜

「すみません、遅れてしまいました」

午後の授業、麦野は少し遅れて教室に入った。

「あぁ、気にしなくて平気よ。
今日は能力測定だし、麦野さんの能力測定はあなたが所属する専門の研究機関でやる事になってるから……。
転校初日で疲れただろうし、どうする?早退しても良いわよ?」

怒られるものかと思っていたが意外にも温かく迎えられ、さらには気遣いすらしてもらえた。
しかし麦野はその触れたことのない他人からの優しさに少し戸惑う。

「あ、いや……えっと……見学?します。
少しでもクラスの人たちの事……知りたいので」

そのセリフが演技だったのか、本心だったのかはよくわからない。
咄嗟にそう言っていた。

「あら、嬉しいこと言ってくれるじゃない。
じゃ、私の自慢の生徒たちの能力でも見てってよ。まぁ、超能力者である麦野さんには敵わない連中だけどさ」

嫌味や妬みなど、そういった負の感情が込められていない「超能力者」という言葉を麦野は初めて聞いた。


「先生ひどーい!多分私たち総出でかかれば麦野さんも倒せる!……かもしれない」

「バカ、なんで戦うこと前提なのよ。
それを言うなら、総出でかかれば麦野さんよりも人の役に立てる、でしょうが」

最初に麦野に声をかけてくれた短髪の子の言葉に、先生は容赦なくツッコミをいれる。
まるで学園ドラマでもみているかのようなそんな風景。

「ふふ……」

麦野は知らずのうちに笑っていた。

「お、麦野さんに受けたよ先生。
やっぱ私ってすごくない?小動物のような警戒心の麦野さんを笑わせたんだよ?」

あー、はいはい。すごいすごい、すごいから少し黙ってろバカ。
と教師として少し問題あり気な対応をするが、それが本気で言っている事ではないとクラス中が理解しているようで、
教室内は楽しい笑い声で包まれた。

「あ、滝壺さんもあなたと同じように専門の研究機関でやる事になってるから滝壺さんと見学したら良いわ。
なにやら滝壺さんと麦野さんはあやしーい感じらしいじゃん?」

教師というよりもクラスメイトに近いノリで、先生は麦野に笑いかける。


「なっ、ちが……違いますよ?
ただ、理后はいつも私の側で支えてくれる妹みたいな存在というか……むしろ年下のくせに姉のような存在というか……」

むしろますますクラスメイトと先生を焚きつけるような自爆を麦野はしてしまった。

わたわたとする麦野に、教室にいる三十名ほどの少女はうっとりとした美しいものを愛でる表情になった。

そして、タイミング悪くこの空間に一人の来客が訪れた。

「失礼します……あ、ちょうどいいところに……しずり、午後どうする?
先生にしずりが心配って言ったら、しずりに合わせて早退なら早退して良いって」

「きゃっ」

昼休みの時と同じような声が上がった。

「うー……」

なんだかそれがとても恥ずかしく、麦野は珍しく恥ずかしさで顔を真っ赤にする。

「どうしたのしずり?」

そんな麦野に対し滝壺はまるで世界には自分と麦野以外いないかのようなマイペースを保ちながら首を傾げた。
その態度が教室内の熱をさらにあげる。


「滝壺さんって……すごく可愛いわよね」

「可愛いというより男前?まるで麦野さん以外は有象無象だと言わんばかりの……そんな視線がいいわね」

「もうっ!知りません!いくわよ、理后!」

短髪と先生のからかうような会話に、麦野はこれまた珍しく噛み付くのではなく逃げた。

「あ、待って……」

滝壺の静止を無視し、麦野はどんどんと歩いて行く。
そんな麦野の後ろ姿は新鮮で、滝壺は思わず笑いをこぼしそうになった。

一度教室内に視線を戻し、

「しずりをあまりからかわないであげて?
あの子、言ったとおり体が弱くて人と接する機会がそんなに多くなかったから」

それだけ言うと麦野の後を追った。


〜〜〜

薄暗く埃っぽい部屋にインデックスは監禁されていた。

「こんなところにいたら憂鬱な気分で死んじゃうんだよ!」

「うっさい黙れ。押し付けだろうがなんだろうが構わん、おまえは俺が救ってやる。
おまえを救うことができたら……俺は俺の道を歩ける。いわばおまえは俺の運命のテスト用紙だ」

似合わない煙草を吸いながら、垣根は答えた。

「……二人を、殺すの?」

「当たり前だ。人から希望奪うやつなんか、全部奪われて当然だろ?
命も自由も、何もかも」

インデックスから記憶と自由を奪った二人。
垣根から全てを奪った学園都市。

それらから全てを奪うことを垣根は選んだ。

——そして、全てを奪われた原因である俺自身も……最後にその全てを終わらせてやる。

ぷかぁと煙を吐き出した。

「煙に巻くっていうけど、今のていとくはまさにそれかも……本当にやりたいこととか無視してるんじゃないのかな?」

インデックスのその言葉は垣根には聞こえなかったようだ。
もしもここで、そのセリフを垣根が受け取っていたら……違う未来があったかもしれない。

絹旗を守れず目の前で失い、光を失った垣根は死ぬことも出来ずにただの能力となる。
そして、裏の世界では第一位・一方通行、幻想殺し・上条当麻率いる新生アイテムが暗部を支配し、暗部組織が更なる地獄へと化す。

そんな未来は、壊せたかもしれない。

垣根は一つ目のチャンスを失った。

救われるチャンスを失った。

自分の道を歩いた先の、自分の望む世界へたどり着くには今確定している未来を壊さなくてはならない。

しかしそれを壊すことができるのは、垣根自身ではない。

あと、何回、そのチャンスは訪れるのだろうか……。


〜〜〜

「超ただいま!なずなー!超寂しかったですかー?生きてますかー?お土産ありますよー!」

靴を脱ぎ捨てカバンを玄関に放り投げると絹旗は心理定規のいるであろうリビングへ駆け込む。

「あれ?超いないんですか?」

しかし、リビングはしんとしていていつも賑やかな分寂しさが強調されているように感じた。

「ん、んー?」

個室のほうにいるのかと思い、そちらへ向かおうとした時、テーブルの上においてある紙が目についた。

「は?」

そこに書いてあった内容はこうだ。

『アイテムの皆様、お世話になりました。
これ以上ここにいても邪魔にしかならないと思うので、私はスクールへ帰ります。
帝督がいたら話をしてみますし、アイテムにも連絡します。
では、短い間でしたがどうもありがとう。
心理定規』

「……まぁ、別になずながそうしたいならいいですけど」

絹旗は不思議そうにそのメモを眺める。

「でも……」


絹旗はお土産を見ながらいう。

「名前・心定なずな。能力・心理定規。所属・スクールからアイテムへ変更」

それは暗部組織からの言ってしまえば部署移動の手紙だ。
今頃心理定規の携帯にも連絡が入っているだろう。

「しっかし、どうしたんでしょうね?
もしかして超拗ねた?」

ソファに身体を沈め、絹旗はお土産の二枚目を見つめる。

「なお、明日から常盤台第二寮の寮監に任命するって……帝督の野郎わたしを寮に入れる気満々ですね。
いや、なずなが寮監なら形だけってことも……いやでもそうしたらなずながあのお嬢様の中で一人に……これやばいですね」

垣根の打ってきた奇策。

それは若干十六歳の女の子を中学生寮の寮監へしてしまうものだった。
確かに下手な大人よりも口もうまいし、銃器などの扱いも上手い。
防犯などそういう面でも心配はないだろう。
暗部などというところで育った分大人びているし、やれない事はないのだ。


〜〜〜

「どうしましょう……」

置き手紙を残し、半分自宅のような垣根の家へ帰ってきた瞬間、アイテムへと移動と寮監任命の命令を受けた。
しかもおかしなことにそれはスクール最後の仕事という扱いらしく、
拒否した場合「暗部の反乱分子を狩る」のをメインとする組織アイテムに心理定規抹殺の仕事がいく様だ。

「今なら……いや、もう絹旗さんあたりは帰ってきててもおかしくない時間よね。
今更あの手紙なかったことにしまーす!なんて言えるわけないし……」

かっこよくアイテムを去ったのにどのツラ下げて戻ればいいのだろう、と心理定規は頭を悩ます。

「大体コントじゃないんだからもっと早めに指令出しなさいよ!
狙った様に家ついた瞬間送りつけてくるな!」

部屋には小包も届いており、中には新しい携帯電話と身分証が入っていた。
当然、その携帯電話に垣根帝督の名前はない。

心理定規はスクール時代の携帯電話から垣根のデータを新しい携帯電話へ移すと、その携帯電話をベット横のテーブルに置いた。

「移動と言われても心の居場所は常にここに……なんてね」

何度も求めあい解け合った場所。

「あの二人が無事くっついたとしても、私はここへ帰ってくるわ」

誰もいないその部屋にそう呟くと、困った垣根の顔がすぐに浮かんできた。


〜〜〜

垣根がインデックスを監禁した頃、赤髪の魔術師は少しだけ焦っていた。

「おいおい、どうするんだ?
あの男を尾行なんて恐らく不可能だぞ」

「そうですね、でもあの方の目的は私たち、待っていればあちらから来てくれるでしょう」

赤髪の魔術師——ステイル・マグヌス——とは真逆に、長髪の奇抜な服装をした魔術師——神裂火織——は落ち着いていた。

「彼は私たちを殺すと言っていました。インデックスからすべてを奪ったのは私たちだと……こっちの気も知らねぇ野郎が、好き勝手に言いやがって」

「……わかってると思うが君は本気を出すなよ?」

「それは垣根帝督の強さによります。
彼が本気を出すまでもない程度ならば……」

神裂は一度息を思い切り吸い込む。

「しかし、本気をださざるを得ないならば……私は本気で相手をします。
救われぬものに救いの手を……それが私ですからね」

事情を知らずに二人を悪だと決めつける垣根帝督に憤りを感じながらも、神裂は垣根が今救いを必要としている事を見抜いていた。


「それに、彼は形はどうあれあの子を救ってくれました。
私も本気を出す事がないように願ってますよ」

「そう、だね……。
もう何回目だろうね、僕たちがあの子を殺すのは」

「五回ほどでしたかね?
あまり良く覚えていません」

嘘である。
きっかり五回、そして今回が六回目だ。
忘れるはずがない。五回のうち三回は逃げられた。

その時の表情も覚えているし、捕まえた時の表情も鮮明に焼き付いている。

「まぁ、ボロ雑巾みたいになって路地裏で見つけるって事はなさそうだからマシかな」

「えぇ、そう言えばあの子を捌け口にしようという輩はいましたけど……純粋に助けようとしたのは彼が初めてですね。
それに、魔術の話をすんなりとりあえず受け入れたのも学園都市の人間が初とはなんとも言えませんね」

神裂はクスリと笑った。

魔術と科学、それらが引っ掻き回された世界で交差する時——物語は激動の渦へと形を変える。

そして、その渦の中心には、心に穴をあけたままの泣き虫が一人。

その涙を拭えるのは————。


〜〜〜

「さて、行くか」

煙草を床に押し付け、火を消すと垣根は立ち上がった。

「……殺すの?」

「……お前も相当不安定だな」

垣根は仲間を見つけたというように笑った。

インデックスは人を信じる事に恐怖を感じるのと共に、二人を未だに信じていた。
記憶を奪い、そしてまた大切な記憶を奪いさろうとしている二人をどこかで信じたいと願っていた。

「悪いようにはしないさ、お前はなんか……被るんだ」

自分が勝っても負けてもインデックスとはもう話をする機会はないような気がした。

「俺が大好きで本当に守りたい唯一の女の子と被るんだよ、お前。
強いところとか……まぁ、いろいろとさ……」

自分とインデックスが重なり救いたいと思った。
しかし、それは垣根の心を占める絹旗ともまた重なっている。

両親に裏切られ、全てを失った少女。

むしろ、絹旗とインデックスのほうがより似通っている。

だから、垣根はここまで必死なのかもしれない。

「お前を救えたら、俺はあいつも救えるんじゃないかと思うんだ」

しかし、インデックスは二人よりもまだマシなほうである事を垣根は知らない。

それを知った時、垣根の心は一体どんな揺れ方をするのだろうか……。

ここまで

よいおとしを!

次も読んでくーだーさい!

あけましておめでとうございます。

では新年一発目、行きます!


〜〜〜

生活の無い寝室。
黒と白で調和の取れた綺麗な寝室。
そこにおいてある無意味に高級そうなベッドの上にミサカ00001号は寝転がっていた。

部屋の主である一方通行はいない。
思い切り抱きしめられたあの日からすでに何日か経っていた。

「……一方通行は何してるんですかね?とミサカは一人つぶやきます」

当然、答えが返ってくるはずも無い。

あの日から一方通行はミサカ00001号を部屋におき、ほぼ家に帰ってこなくなった。
朝、昼、晩のご飯は一緒に食べるが、それ以外はどこで何をしているかわからない。
現在も夕飯を外で食べ終えるとこの家にミサカ00001号を送り届けまた何処かへいってしまった。

「お姉様の知り合いにあってしまう訳にもいかず、研究所にも帰れず……
ミサカは状況に監禁されているような状態ですね」

天井を見上げ、なんどか意識的に瞬きをした。

「一方通行は何故怒ったのでしょうか。
とミサカはプログラムされていない感情に……興味を持ちます」


ミサカ00001号は一方通行にいわゆる“嫌われた”と思っていた。
だが、嫌いになるとか好きになるとか、そういう部分をミサカ00001号は知らない。

嫌い、という意味。
好き、という意味。

意味なら分かるが、それがどういうものかは知らない。

「恐らく、あの優しい一方通行があんなにも顔を歪めていた……あれが怒りでしょう。
あと飽きた、というのもわかります。たくさんゲームをやり続けるとワクワクというか、なにかこう……あれが飽きた、ということなんでしょう。
では、悲しいとはどういうことでしょうか?とミサカは自問します」

自然と口にでた言葉。

『何をそんな悲しそうな顔をしているのですか?とミサカは一方通行の顔を覗き込みます』

悲しいというのがどういう事かわからないはずの自分が、何故一方通行を見て悲しそうだと思ったのか。

「わかりませんね。
まぁ、人間で無いミサカに感情が理解できるはずもありませんか……とミサカは……なんだか息のしにくさを感じます」

恐らく一方通行がいたら目を三角にして怒られるような台詞をどこか“悲しそうに”呟いた。


〜〜〜

ミサカ00001号が部屋で考え事をしている頃、一方通行は今まで自分が関わった、関わらされた研究施設を訪ね回っていた。
どれも表に出せないような実験ばかりで、一方通行が知っているのとは違う名前に変わっていたりしたため、探すのに割りと骨を折る。

「チッ……ここも外れか。
次は……あァ……ここか」

メモを見て舌打ちする。

「垣根帝督に絹旗最愛、か……」

一方通行の心にひどく印象深く残っている実験。
それは、第二位と暗部組織のエリートとも言えるレベル4を生み出してしまった実験だったからだ。

——垣根帝督に関しちゃ俺の演算パターンが邪魔をして発現が遅れたらしいが……。

そして、もう一つ一方通行の記憶に深く刻まれている理由があった。

——絹旗最愛、こいつに関しちゃ俺がいなけりゃ表で普通に暮らしてただろォな。

それは、この実験の異質さだ。

——にしても……なンでこの実験だけは、俺が直接関わる事がなかったンだ?


「チッ」

どこかスッキリしない事柄に舌打ちが出る。

——それに、俺に直接何かするンじゃなくて……俺を誰かの模範とするなンてこれが最初で最後だ。

あともう一つある。

それは、この実験の事を一方通行は偶然にほんの数年前に初めて聞いたということだ。

——おかしいだろ。俺は無駄に貰える奨学金とかそォいうをかき集めて自分の安全と自分の能力の権利を買い取った。

それが、ギリギリその実験の前年だった。

——俺が参加する実験はいくらでも作れるがそれに参加するかどォかは俺が決めれる。
だが俺の能力を利用した実験は俺の許可がなきゃ出来ねェはずだ。
これは暗部だろォがなンだろォが破れねェ。
もしばれたら俺が必ず報復しにいくし、暗部といえど他の研究機関からの信用を失うのはこの街での死を意味する……。

その権利は一方通行が個人で持っているわけではない。
一方通行が自分で研究機関を作り、そこの研究機関が持っている形だ。

すなわち、その研究機関の意思を無視して一方通行を実験その他に“使う”と一方通行には報復する権利が生まれ、
他機関の権利を侵害したとして、研究機関同士の協力も受けられなくなる。

——それが今までばれなかったのがおかしいンだ。何故俺は知らなかった?

暗部組織の動き、暗部関係の実験は逐一チェックしていた。
それなのに、暗闇の五月計画という実験も、今回の実験も一切が一方通行の耳には届いていない。

——つまり、それほどまでしてやる価値のある実験って事か?

しかし、結果として暗部で実績らしい実績をあげ、名を轟かせているのは垣根帝督と絹旗最愛の二人だけである。
どちらも一方通行と対峙したら九割九分九厘消える命だ。
その二人を生み出す事に意味があるかと問われれば一方通行は首を傾げる他にはない。

「違う……なにか、他に思惑が……まさかッ!」

あらゆる可能性の構築、消去、再構築を繰り返す。
そして、辿り着いた最低の答え——。


「クソ野郎ども……」

目の力が強くなり、握った拳からは血が流れた。

一方通行の辿り着いたその答えとは
『暗部組織が連合を組み、
全てが協力関係になった事により能力使用権などが意味をなさなくなった』
というものだった。

もしも、もしもそれが本当ならば、いくら一方通行でもどうしようもない。
実験を組んだ研究機関を潰すという事がすなわちそのまま暗部組織を壊滅させるという事になってくる。
流石の一方通行も垣根帝督、麦野沈利、など超能力者の中でも攻撃能力に長けた二人と、
その下に連なる名門学校の生徒などお話にもならないような能力者全てを同時に相手は出来ないだろう。
そして、暗部組織の破壊に垣根帝督率いるスクールと麦野沈利率いるアイテムは全力で反発してくると思っている。

——ちと資料を見たけどよォ……垣根帝督にはもう絹旗最愛しかいねェし、絹旗最愛にも垣根帝督しかいねェ……。
そンなの、資料でしかこいつらを知らねェ俺にでもわかった。


一方通行暗部組織を壊した時、この二人は間違いなく死ぬ。

——垣根帝督だけは……第二位だけは手を抜けねェ……。
行動不能にするなンて甘っちょろい考えで本気の垣根帝督と戦ったら俺の方が殺されちまう。

そして、確実に垣根帝督は本気で一方通行を殺しにくるだろう。

「実験を止めるには、垣根帝督にら死んで貰うしかねェのか……」

ミサカ妹達と垣根帝督。
同じ命である。

どちらかを助けるためにどちらかを切り捨てるなど許されてはいけない。

一方通行はその事が当たり前に分かるくらいにまともな精神をしていた。

「いや……話をしてみるか。
仮にも俺に追いつける可能性を持った唯一の男だ……話が通じねェって事はねェだろォよ」

もう研究所を回る必要はなくなった、とメモ用紙を握りつぶした。

「問題はどォやって垣根帝督に近づくか、だなァ」

現在の垣根帝督の行方は一方通行のコネやツテをフルに活用しても秘匿情報という答えしか得られなかった。

「まずは、常盤台に潜入してる絹旗最愛から当たってみる……か?
いや、ハードル高ェな……」

常盤台が女子校だと思い出すとその案を却下する。
絹旗最愛を捕まえようが垣根帝督は捕まらない事を一方通行は知らない。

「となると……麦野沈利、滝壺理后も無理だ。
フレンダ・セイヴェルンってブロンドなら……大丈夫か?」

そして、そうなると自動的に霧ヶ丘“女学院”に通う麦野沈利、滝壺理后も外され、残ったのはフレンダ・セイヴェルンであった。

しかしここで重要なのはフレンダと一方通行の邂逅ではない。
『幻想殺し』こと上条当麻と『第一位』一方通行の邂逅こそが、最重要なのである。


〜〜〜

校庭やら体育館やら、それぞれの能力に合った場所で能力測定は行われる。
麦野、滝壺はそんな中をフラフラと歩き回り現在空間移動能力者の集まる一角へ来ていた。

「あ、あわきだ」

「あぁ、あれが案内人か。
なんかクソ生意気な目つきしてやがるな……」

周りには誰もいないため、いつもの口汚い麦野だ。

「あいつってなんでレベル4なの?空間系の能力者で一番高い能力持ってんだろ?」

「さぁ?自分も移動できるし、触れなくても物を移動できる空間系最強って聞いたけど……なんでだろうね?」

生徒の集団から外れた場所に腰掛け、二人は結標淡希を観察する。

物を飛ばす、という力の使い方は完璧と言っていい出来だと麦野は評価した。
自分が空間移動系の能力者では無いので、詳しくはわからないが、
あれだけ速く正確に物体の移動が出来るならば立派なものだと結標淡希には生意気な目つきに見合うだけの力を持っていることを認めた。


「あ、今度は自分を転移させるみたいだね」

結標淡希は少しだけ表情を硬くした。

「結標さんは自分を転移するのが苦手なのかしら?」

他生徒が近くに居たので、丁寧な口調に変わった。

みている側も緊張してしまうような雰囲気の中、結標淡希が——消えた。

「ひっ……」

そして、消えたのとほぼ同時に短な悲鳴が上がる。

「あ、バカッ!」

考えるよりも先に動こうとした結標に、麦野も考えるよりも先に能力を発動した。

ピュン、と麦野の指先から全てを貫く光線が出ると、それは結標の後ろに結んだ髪を打ち落とし、そのまま校舎の壁を少しだけ溶かした。
そのビームに驚いたのか、結標は動きを完全に止め、地面に埋まった足をさっきの勢いのまま無理やり引き抜いてしまった光景を想像し顔を青くした。

「沈利、ナイス」

滝壺はそう言うとすぐさま真っ青な顔の結標淡希に駆け寄った。

「あわき、落ち着いて。
無理やり引き抜いたら血だらけのどろどろのトラウマ映像になるよ。
私が手伝うから、能力で脱出しよ?」


滝壺の能力、能力追跡は他者の能力に干渉する力だ。
体晶を使わなければその本領は発揮できないが、能力の補正、安定化ならば体晶無しでも出来る。

「大丈夫ですよ、こんなに立派な能力なんですもの。
落ち着けば出来ます」

麦野も近寄り優しく笑いかける。
その優しい言葉と笑顔の裏には『テメェクソ生意気な目ェしてんだからそんくらいやってのけろや』という感情があるのを、恐らく滝壺以外は気づいていない。

「標準合わせた……落ち着いて」

このような時に動かなければならないはずの教師たちは、二人の堂々とした対応に見入ってしまい動けない。

「ほら!頑張りましょ?」

ニコッと笑い、結標の頬を軽く撫でる。

顔色を少しだけ良くし、結標は頷いた。

そして——。


「やった、成功」

滝壺が小さくガッツポーズすると、結標は足を埋めた地点から数メートル先へ現れた。
自分の足をみてホッとしたのかそのままへたりと座り込んでしまい、そこでやっと教師たちは結標に駆け寄った。

「さっすが!」

そんな様子を眺めていると、クラスメイトの短髪が麦野の打ち落とした結標の髪を拾いながら寄って来た。

「短髪な結標淡希嬢も可愛いね。
ところでこの髪って返した方がいいかな?」

「……え?何に使うつもりですか?そういう性癖ですか?」

「……あっれー?麦野さんなんか冷たくない?」

言いながら滝壺に顔を向ける。

「さっきからかったから怒ってるんですよ。
だからあんまりからかわないであげてって言ったじゃないですか」

滝壺は穏やかに笑いながら答えた。


「……なるほどね、麦野さんは怒ると冷たくなると」

——本来怒らせたら冷たくなるのはお前の体だぞ?

ニッコリ笑顔を貼り付けたまま、麦野は短髪に心の中で毒づく。

「ま、それは悪かったわ。はしゃぎすぎた、ごめんよ。
それで話戻すけど、これ返したらやっぱ未練というかなんというか残りそうじゃない?
こっちで処分した方がいいと思うんだけど」

「……確かにそうですね。
綺麗な髪だからこう……なんか桐の箱にとっとくのもありかもしれませんが」

「でも髪の毛ってどう処分するの?
普通に捨てたらなんか呪われそうじゃない?」

「はっは!科学の街で呪いとは滝壺さんは面白い子だね!
とりあえず……」

短髪が髪の毛を握り締めると、さぁっと髪から色が消え、そして完全に亡くなった。

「……どんな能力なんですか?」

「分解する能力とでもいえばいいのかな?
その物質を構成してるものを少しずつ分解してって消す力?
物質分解<マテリアル・アナリシス>って能力だね」

ニヤリと悪く笑うと、

「本気だしたら人間も分解出来ますぜ、へへへ」

と悪の組織っぽい声色で言った。

「人間も分解できるの?やっぱ霧ヶ丘だけあってバカそうな人もすごいんだね」

素直な感想を滝壺が漏らすと、短髪はひどい、と軽く落ち込み麦野はその様子をみて笑った。

はい、ここまで

今年もゆるゆるとよろしく

次回ちと時間かかる

ちなみにハッピーかバッドかまだ決まってない
書いてる時のテンションによるとしか言えないな

今のところバッドエンドフラグも立ってるように見えるしハッピーエンドフラグも立ってるように見える

はじめます
少しです


〜〜〜

「よぉ……」

本来ならば巻き込まれる側の人間が、待ち構える側の人間をそういいながら迎えた。

「……まったく、とんだびっくり人間だね君は」

その状況に少しだけ虚をつかれたような顔色を示したが、諦めたようにため息をつくと赤髪の神父服を着た男はそうつぶやいた。

「はっ、魔術なんてよくわからんものを使うおまえにびっくり人間とか言われたかねぇな」

「脳みそを引っ掻き回された超能力者よりはマシだと思うけど?」

「……なぁ、サンジェルマン伯爵っているよな。
錬金術師とか、魔術師とか聞いたら俺はまずそいつを思い出す。
今まで嘘だと、ただの伝説だと思っていたが……。
最後に聞かせてくれよ……サンジェルマン伯爵は存在するのか?」

煙を吐き出しながら垣根帝督はおちょくるように笑った。

「あぁ、あいつのことか。存在するよ……あいつのもただの魔術だ。
極悪非道の魔術師、僕らが殺すべき魔術師だね」


「極悪非道……ね。
それはちっこい女の子の記憶を奪うのとどっちが非道なんだ?」

「あいつがどの時代のどの場所でも目撃証言があるのは……いや、君に話したって意味がないかな。
これも意味がないと思うけど言っておくよ、インデックスを返してくれないか?」

「頭湧いてんのか?」

垣根の目に宿るのは本気の殺意。
こいつは本気で自分を殺そうとしている、とステイルは改めて実感した。

「……事情も知らないくせに首を突っ込むと絶望的なバッドエンドを迎えることになる……そのことを教えてあげるよ」

そして、説得を諦め、くわえていたタバコを手に取るとそこから炎の剣を生み出した。

「……ちとかっこいいじゃねぇか」

明らかに学園都市の能力とは質感が異なる力に、垣根は少しだけワクワクした。

「だがな、お前はもう——負けている」

ニヤリと垣根が笑いながら指を鳴らすと、その炎の剣は勢いをなくし、形をなくした。


「なっ……!
これは……どういう、事だ?」

「その謎は死んでから地獄でゆっくり考えな」

ばさっと翼を顕現させると、その真っ白な翼はステイルの首を刎ねようと襲いかかる。

「……おいおい、冗談だろ?」

間違いなく殺せたと思った。
間違いなく死んだと思った。

だが、その“間違いなく”は簡単にひっくり返され、殺せなかったし死ななかったという結果に終わる。

強大な力を持った絶対的な強者。

聖人・神裂火織の手によって。

「……二つほどお聞きしたい事があります」

言い訳も聞かず、理由も聞かず、本当にただ殺そうとしてきた垣根にも神裂は落ち着いた様子だった。

「ひとつは、何故あなたはここで待ち構えることが出来たのか、ということです」

垣根は神裂を睨みつけながら少し間を置いて答えた。

「……まず、あいつの話を信じたとしたら、十万三千冊だかなんだか知らんが……。
まぁ、とにかくそんな大きな何かを追うのがお前ら二人だけってのに違和感を覚えたからだ」


あいつとはもちろんインデックスのことである。

「そして、お前らが本当に魔術師ってやつならそれはざっくり言ったら裏の人間って事だろ?
だったら表に知られぬように何か細工をしてくるはずだと思った」

「……それだけで?」

「いや、あとはこの前俺が追った逃がし屋の件だ。
あのループに巻き込まれたのは俺と不幸な一般人だけだった。
でもそれっておかしいだろ、昼間の公園の前とかだぜ?
最初は精神系の能力者もいて人を寄せ付けないようにしてたのかと思った。
だが、インデックスと出会ったことで俺には“魔術”という新たなピースを得たんだ。
魔術で何か結界を張ったんじゃないか?って可能性くらいはバカでも考えられる。
結界なんていかにも魔術っぽいしな」

演算を一旦止めると垣根は二人から少し距離をとった。

「んで、やるならどこだ、魔術師はここの地理には詳しくない、だったら街中の広いスペースに結界かな?って思っただけだよ。
本来ならお前らの襲来を待つつもりだったからな。
当たって一番驚いてるのは案外俺かもしれないぞ?」

ヘラヘラと笑う。

その笑顔には何もなく、ただただ無表情な気持ち悪い笑顔だった。

笑っているのに無表情。
それだけで奇妙さは伝わるだろう。

「……では二つ目、あなたはどうしてインデックスを守ろうとするのですか?
あなたには関係ない人間で——」

神裂の言葉は遮られ、垣根は無表情をやめて怒りを顔いっぱいに貼り付けた。

「お前らが嫌いだからだよ。
人から希望を奪う傲慢さが嫌いだ。
人を裏切る心が嫌いだ。
人を小馬鹿にしたその態度が嫌いだ。
人を救えると信じてるその目が嫌いだ」

すうっと息を吸い込むと徹底的な一言を垣根はぶつけた。

「お前らのような希望を奪い人を裏切るクズには……人なんか——」


冷たいナイフのような言葉で魔術師二人を突き刺す。







——救えない。







〜〜〜

「フレンダちゃん……」

「な、なによ?てか、なんで泣いてんの?結局気持ち悪いってわけよ」

午後の授業が全て終わるまでフレンダと上条は屋上でゴロゴロとしていた。
そしてホームルームの時間にその事を担任に問い詰められたら面倒だと放課後になって教室に戻ると、
青髪をはじめとしたクラスの何人かの男子が「やっぱりな」という顔で若干涙目でフレンダを見つめてきた。

「で?なんなのよ?」

「いや、フレンダちゃんもカミやん病に冒されてたんやなぁ……と。
僕ぁ悲しゅて悲しゅうて……せっかく対カミやん病の砦が増えたと思たのに……はぁ」

「なによそれ」

「またお前らはそんなくだらんことを……。
俺にそんな春が来るわけねぇだろ、俺の不幸知ってるだろ?
お前らより先に彼女出来たりなんかしないから安心しろよ」

上条のその台詞に、クラスに残っていた男女の雰囲気が一気に凍った。
それに気づかず上条はさらに続ける。

「だいたい、俺に好意を持ってる女の子なんているわけないだろ。
確かに女の子と関わることは多いけど全部トラブルの中でだぜ?
怯えられることの方が多いっつーの。
こないだお前らに協力してもらった子いるだろ?あの子もこの前再会したけど気味悪いもん見る目で去っていったぞ」

あまりにも鈍い上条にクラス内はさらに凍りつく。


「あー、なるほど。そういうことか」

その雰囲気で全てを察したフレンダはクラスの男たちに逆転の発想となる奇貨を投げ渡した。

「だからあんたらは恋人の一人二人も出来ないのよ!
いい、それはむしろ当麻を誰かとくっつけちゃえばあとのフラグは全折れ!
しかもそうなったらフラグ折られた子は悲しみにくれているという口説きやすさもついてくるハッピーな展開ってわけよ!」

その言葉に女の子達も男の子達もハッと顔をあげた。
そして上条を遠ざけクラスの奴らを自分の周りに集める。

「それにこいつの性格を考えなさいよ。
バカだから二股とかは絶対出来ないってわけよ。
そして、彼女出来たら鈍さも多少はよくなると思う。
何より人のために生きてるようなバカだから好きな子できたと相談したらいい協力してくれるってわけよ。
足を引っ張るよりも、男どもは協力して上条を誰かとくっつける!
女の子達はもっと積極的に行く!
私含め女の子たちはみんなライバルってわけよ。
誰が勝っても恨みっこなしの上条争奪戦、どうよ?」

それはまさしく奇貨であった。

逆に考えるという発想。
フラグを立てられちゃってもいいんだと考えるこの発想。

この奇貨を誰が取るのか、それはまだわからない。



「あの……上条さんも混ぜて?
仲間はずれはいけないと思うなぁ?小萌先生なくと思うなぁ……なんて?」

その奇貨である上条は事態が飲み込めず、オロオロとしている。

「うるっさい」

そんなかわいそうな男をフレンダはそう一喝し、有言実行の即時行動を起こした。

「それよりも、このあとどうせ暇でしょ?
この辺はあまり来たことないから学校の周り案内して欲しいってわけよ」

女の子たちに不敵な笑みを見せつけ、男たちはパッと顔を輝かせた。
転校初日のフレンダに本気で惚れているやつなどいないので、フレンダと上条がくっつけば自分の意中の子をゲット出来る、と全員の考えが一致したのだ。

「そうだな。
上条いってやれよ!一緒に午後の授業サボるくらい仲良くなったんなら適任だ」

「え?いや、お前らいつもなら……」

快くふたりで行かせようとするクラスメイトたちに上条は少し困惑気味だ。

「で、でも女の子同士の方が女の子がよく使うところとか女の子ならではのところ案内できるから……私今日暇だし私が案内しよっか?」

しかし、ここで女の子たちのカウンターパンチを食らう。

「お、確かにそうだな。フレンダもその方がいいだろ?」

そして、上条は今起きていることをなにも理解してないままのんきに笑っている。
底抜けの鈍感バカである。

「……当麻?言葉が足りなかったってわけ?
私は、屋上で当麻が私にしたことの責任とって欲しいって言ってるってわけよ?」


もともと上条を好きというわけでもなく、ただ面白そうだから引っ掻き回そう、くらいのフレンダは迷いがない。
他の女の子たちにしてみれば迷惑極まり無いが、フレンダが積極的に行けば行くほど行動しやすくなる。
むしろ、フレンダの出現により諦めてしまうような気持ちならば早めに諦めて自分の運命の人をまた探した方が有意義とも言えるので、責められるいわれはない。

「なっ、お前変なこというなよ!むしろ何かしたとしたらお前が俺にだろ!」

「えー?あんなに色っぽい声出しちゃったのにそれも結局私のせいってわけ?」

一瞬男の子たちの顔が真顔になった。
それぞれに好きな子がいたとしてもまだ高校生。
恋をしているわけではないが、見た目だけは抜群なフレンダの色っぽい声などといわれたら、悔しさを隠さずにはいられない。

——よし、もう強引にいっちゃってもいいってわけよ。ここで脱落するような子は多分上条と付き合っても疲れるだけだろうし、早く自分に合った恋人見つけて幸せな恋をして欲しいってわけよ!

チラリと後ろの方で女の子を励ましている男の子に目がいく。

——頑張りなさいよ。

心の中でエールを送ると、上条の腕を掴み掛け出した。

「おわっと……おい、カバン!」

「そんなのいらないってわけよ!
放課後デートよ放課後デート!」

フレンダは気づいていない。
自分が今どれほど正直に笑っていて、そしてそれがどれほど可愛い笑顔なのかを。

——私が当麻に惚れるってことは無いから安心してね!

悔しそうな顔をしていた女の子連中にそう心の中で言ってみるが、その気持ちが偽りなのか真実なのかは誰も知らない。


〜〜〜

「失礼します」

「失礼しまーす」

麦野、滝壺は短髪のクラスメイトとのやり取りを終えると保健室へと向かった。
そして、学生らしく挨拶をしながら戸を開け、中に入った。

「結標さんはどんな様子ですか?」

「大怪我にはなってないわ。
もしかして、パニクって無理やり足引き抜こうとした結標さんを止めた転校生たちってあなたたちのこと?」

保健室の先生は、どこかだるそうな雰囲気を醸し出した二十代半ばくらいの女の人だった。

「はい、その時髪の毛撃ち落としちゃったんで謝っておこうと思いまして」

「精神的な疲れがドッと来たのかわからんけど、今寝てるわよ。
先生たちに抱えられるように連れてこられて、保健室の利用表書いたらそのままバタリと寝たわ。
よほど怖っかったのね」

保健室にある四つのベッドのうち、カーテンの引かれている一つを指差しながらそう言った。

「……じゃあ、待っててあげよ」

滝壺は無遠慮にカーテンを開けると、その中に入りベッド脇に置いてあった椅子に腰掛けた。

「ほら、しずりも……」

言いながらもう一つある椅子をポンポン叩く。

先生も、面倒くさそうにしっしっと手を振っていたので、そこに座った。


「起きたら髪の毛も揃えてあげて。沈利そういうの得意でしょ?」

「うん、そうね……。あ……」

布団を少しめくると、足首に包帯が巻いてあった。
流石に少しは動かしてしまったようで、かすり傷程度は負ったようだ。

「この子、平気かな?プライド高そうだし、少し心配」

「……」

「なによ?」

「いや、変わったなって。
出会った頃は人を能力出す生き物としてしかみてなかったのに、今はむすじめの心配してる。
変わったね」

「……そうね、それはきっとあんたやフレンダ、絹旗のおかげよ。
理后がいつも私を心配してくれて、フレンダがいつも私を慕ってくれて、絹旗がいつも私に甘えてくれて……。
私の理不尽をちゃんと叱ってくれたのは理后だけだしね」

麦野と滝壺の出会い。
そしてフレンダと絹旗の参入。

語られないが歴史はある。
その中で麦野はどちからかと言うとこの街の科学者のような性格をしていた。
それを変えたのは滝壺であり、フレンダであり絹旗だ。
気づいたら大切になっていた三人。
その事に戸惑ったりもしたが、今は自然にこう言える。

「ありがとね、理后」

その変化に滝壺は笑って返した。
麦野にしか見せた事のない安心し切った頼り切ったそんな笑顔だ。

ここまで

ステイルは噛ませになっちまったなぁ
まぁこのあと活躍させることが出来たら活躍させるよ

えー、流行に先乗りしてしまったため次回はかなり先になると思います
熱がね、ぐんぐん上がるの
インフルったかもしれないの

みんなも気をつけてくださいね

ノロとインフル両方喰らってた。


〜〜〜

「……ッ!」

「救え……ない……だと?」

魔術師達の目の色が変わった。
明確な怒り。怒りは行動を単調なものへと変え、スキを多く生む原因となる感情だ。
聖人である神裂のスキをついたからと言っても並大抵の人物では致命傷を与えることは出来ないとは言え、
相手の手の内がまだ鮮明でない今聖人をも殺せる切り札を持っている可能性もある。

ステイルに至ってはすでに垣根に完封されている。
垣根の能力を見極め何故自分が何も出来ずに終わったのかを知るために冷静にならなくてはならない一番の人物だ。

予測外の事が起きたらまず取るべき行動は頭を落ち着ける事だ。
決して激昂したり、ひとつの事に固執してはいけない。

「あぁ、救えない。救えるわけがない」

だが、垣根は神裂とステイルにそれを許さぬ追撃をかける。

「お前らはインデックスから記憶を奪った。
お前らはインデックスを裏切った。
そんな人間に……人を救う?
へそで茶が沸かせるぜ、笑わせんなよ……」


「……にも……ねぇ…素人が……」

「あ?」

「なにも知らねぇド素人がベラベラうるせぇぇええぞォオオオオ!」

怒りが頂点に達し、神裂は切れた。

「まずいっ……おい、逃げろ!超能力者!死ぬぞ!」

「あ? どういう——」

どういう事だ、と問おうとしたのだろう。
だが垣根が口を閉じる前に垣根の元へ一歩でたどり着いた神裂の攻撃が、垣根を襲った。

「おい、死ぬなよ。科学と魔術の喧嘩で死人が出たら大問題になる!
とにかく逃げろ!」

ブチ切れた神裂を見て、ステイルは逆に冷静になれたのか先ほどまでの怒りを引っ込めた。
引っ込めたというよりは、怒りよりも焦りが上回ってしまったというほうが正しいかもしれない。
素で垣根を怒鳴りつけると、自身も神裂から距離を取った。

「科学側で聖人が本気で大暴れなんてしたら……おい、超能力者、頼むから今は逃げてくれ。
インデックスの事情は後日必ず話すと約束する、だから今は逃げろ。
お前が強いのも知ってる、悔しいが完封されたからな。だが神裂はダメだ。
きっとお前でも勝てない、あれは規格外なんだよ」


「あ、あぁ……規格外ってのはわかる」

地球上に存在し得ない強度の未元物質で防御したにもかかわらず、神裂の拳は傷一つついていなかった。
あの力でこの堅さの物を殴ったら骨が粉砕していてもおかしくない。

「とにかく、お前は僕らの逆鱗に触れた。
おっと、僕らがお前の逆鱗に触れたのが先だ間抜けな事はいうなよ?
お前は事情も知らずに首を突っ込んで……いや逆鱗を僕らに押し付けて勝手に切れてる惨めな超能力者なんだからな」

「ステイル……下がっていてください。
私は垣根帝督を——ぶん殴らなきゃ気がすみません」

「おい、落ち着け。今の状態で一発ぶん殴ったらあれは死ぬ。
あれを殺したらこの街から追い出されるぞ。そうしたらインデックスはどうなる?」

「死なない程度に殴ります。あの子を救う、それが私が今生きている意味ですから」

神裂はまっすぐと垣根を睨みつけたまま目を離さない。

「……なんだよ……なんだよ、お前ら……」


『インデックスはどうなる?』

『それが私が今生きている意味ですから』

「お前ら……なんでインデックスの、記憶を……奪った、んだ?」

神裂の激昂は垣根をも落ち着かせたようであった。
垣根は信じたくない物を見るように二人を見る。

「な、なぁ……どうして、なんだ?」

不安定に瞳の色が揺れる。
何もみたくないと闇雲に走ってここに垣根はたどり着いた。
しかし、そこでみた物は人のために、人の名誉のために怒り狂う優しい人間だった。

——コイツハ、インデックス ノ タメニ オコッテル?

——オレノ スクエナイ トイウ コトバニオコッテル。

「それは、無力だと……言われたから、怒ってるんじゃないのか?」

突然の垣根のひとり言にステイルが不審な目を向けた。

「お、おい?どうした超能力者?」

「でも、違う……こいつらは……インデックスのために……?
インデックスを助けるには、魔術が絶対必要だから?
だから?だから?なんだ?……違う、落ち着け……」

垣根は頭を抱え、フラフラと覚束ない足取りで辺りをくるくる歩き回る。


「そっか……」

そして、答えにたどり着いた。

「あ、ははは……あっははははっはははっははは!
そうか……自分のために怒ってたのは……俺じゃん。
そんな俺が、救えないなんて未来を口にしたのが、許せなかったのか。
インデックスをバカにされたようで怒ったのか」

垣根の瞳に絶望の色が重ねられる。

「神裂、ステイル……ごめん」

「は?」

「え?」

今度は大笑いし出したと思ったら突然謝罪し始めた垣根に二人は目を点にした。

「お前ら……本当はインデックスが大好きなんだよな?
記憶を奪ったのは……何か理由があったんだよな?
お前らが本当に悪人なら……悪人で記憶を奪う方法を持っているなら……
監禁とかあいつから自由を奪う事なんて容易いもんな」

「あ……と、えっと……どういう事だ、これは?」

垣根の豹変ぶりにステイルは面食らってしまい、あわあわとみっともなく神裂の近くによると垣根に聞かれぬように声をひそめた。

「おい、神裂……あいつの頭の中で何と何が化学反応起こしたんだ?」

「い、いや……私に聞かれても……あの、正直……精神不安定すぎて怖いのですが……」

怒りをすっかり忘れ、ポカンとしながら垣根の豹変を「怖い」と神裂は評価した。

あまりにも間抜けな垣根の魔術師との戦いは、あまりにも間抜けな垣根の自己完結という意味のわからない結果に終わった。

そう、魔術師との戦いは……。


〜〜〜

「た、ただいま」

「あ、タイミング悪かったですね。
置き手紙は超よませて貰いましたよ」

「うるさい!私がどれほどここに帰ってくるのに勇気が必要だったか!絹旗さんにわかる?
というかなんで私が寮監なんかやらなきゃならないのよ!頭おかしいんじゃないの?」

恥ずかしさからか、心理定規はわあわあと騒ぐ。

「それなんですね、私も超寮に入らざるを得ない状況に追い込まれてるんですよ。
もうここが寮ってことでどうです?」

絹旗は心理定規を落ち着かせながらソファに座るように促した。

「無理ね、どの寮にいけって指定もされてるし」

「なずなが入ったことで元いた寮監は超どうなるんですか?」

「それ私も気になったから、電話の女に聞いたら「御坂美琴を絹旗さんと二人で監視よろしくね!」って言われたわ」

「……え?超答えになってなくないですか?」

絹旗は少し考えた後、ぽかんとした顔で言った。


「つまり、常盤台の中でも問題児が多い、と言っても問題児らしい問題児は御坂さんとそのルームメイトである白井黒子って子くらいなんだけど……」

そこまで言われ、絹旗にも話が読めた。

「なるほど、問題児が居て超大変だから寮監増員、てな感じってことですね?」

その通り、と心理定規は頷いた。

「……これ、超回避不可じゃないですか……?」

「だから私も置き手紙なんかしちゃったのにノコノコ帰ってくるハメになったのよ」

心理定規はため息をつきながら天井を見上げる。

「え?超関係なくないですか?
むしろそのまま寮入っちゃった方が良かったんじゃ……?」

麦野やフレンダが絹旗よりも先に帰っていてあの置き手紙を見ていたらからかわれる事は間違いないだろう。
一番早く帰る予定なのが絹旗だったからと言って、
途中でサボって帰ってくるという可能性はあるわけで、
心理定規がここに帰ってくるというのは麦野、フレンダが学校をサボらずにいるという事を信じた愚策でしかない。


「私もそうしたかったんだけど……」

心理定規は天井から視点をおろし、絹旗を一度じっと見つめると今度はうつむいた。
何を言い渋る必要があるのかと、絹旗は少し首を傾げる。

「寮にあなたが来なかったら……」

「私が来なかったら?」

その……とまた視線をせわしなく動かす。

「だから、寂しいじゃない!
ここでみんなで私を笑いものにしてるんだなぁとかそんなこと考えたくないじゃない!
だから、絹旗さんを寮に入れるように説得するために戻ってきたのよ!」

恥ずかしいのをごまかすように怒った口調で一気に喋った。

「そんな、笑い者にするなんて……超あり得ますね。
多分麦野あたりはすごいからかってくると思います。
でも、この指令書見ちゃったら私は説得なんかされなくとも覚悟決めてお嬢様がたの優雅な寮に入寮しますよ?」

絹旗はニコニコと笑う。
まるでまだ人を殺した事のない幼い頃のように無邪気に笑う。


絹旗が初めて人を殺したのは暗部組織に入ったその日だ。
その時のアイテムはまだフレンダがおらず、麦野沈利と滝壺理后だけで回していた。
当時の麦野は今からは想像できないほどの冷血女で、絹旗は滝壺が麦野と二人で二年近くやってきたという事実に心底驚いていた。
何故か、それは少しでも麦野の気に障った人間は殺されていたからだ。
目にゴミが入ったという理由で殺された下部組織の人間。
寝起きでイラついていたから殺された下部組織の人間。
挙げたら切りがないほど麦野は理不尽に命を奪ってきた。

その中で絹旗は、麦野沈利に脅されて人を殺したのだ。
相手は情報を外部へ流そうとした研究員。
ボコボコにされ、指は何本か落ちていた。
生きているのがやっとなその男を麦野は絹旗に殺させた。

その日から、絹旗の笑顔は人殺しのそれになった。


だが、今、絹旗は人を殺す前の笑顔で笑っていた。
今の状況は暗部組織の雑草として絹旗にとっては最も愚かで危険なものである。

忘れてはいけないのだ。

自分が、自分たちが……殺戮集団だという事を……。

えへへ、と無邪気に笑う絹旗。
その笑顔はもう死人に慣れた心理定規には恐ろしいものにしか見えなかった。
外の世界を感じさせる恐ろしさ。
そして、仲良くなった仲間を失う恐ろしさ。

真っ暗闇の世界で無邪気に笑う者は必ず死ぬという事を、心理定規は知っている。

心理定規は絹旗から目を離すと、この先どうするべきかと考えた。
絹旗を過去に引っ張っているのは間違いなく垣根だ。
垣根も絹旗によって引っ張られている。
頭の先から爪先まで血と泥と罪で塗れた二人は、そんな自分を忘れて過去の自分を見ている。

その先に待つものは——死だ。

世界においての自分の立ち位置を見失ったものは死ぬ。

そして、それが唯一の救いである場合も多い。

——でも……駄目よ。この二人は死なせやしない……絶対に……。

心理定規は決意を新たにする。
垣根帝督と絹旗最愛はアイテムにとって大きな存在になりすぎた。

二人が消えたらアイテムは崩壊する。
実際には絹旗が大きくなりすぎただけなのだが、垣根の崩壊は絹旗の崩壊でもある。
よって、垣根帝督も壊してはいけないのだ。

アイテムが崩壊したら、学園都市はどうなるだろうか。
たいして変わらないかもしれない。
いや、なにも変わらないだろう。

しかし、それはストーリーの中に科学だけが織り込まれている場合だ。

アレイスター・クロウリーは見誤った。
垣根帝督の恐ろしさを。
フレンダ=セイヴェルンの闇を。
滝壺理后の才能を。
麦野沈利の心を。

そして、絹旗最愛の傷を……。



ここまで、またよろしく
みんなもインフルとかノロとかには気をつけてね
俺は二つともわりと症状軽くて復活もそこそこ早かったけどまじでしにそうになるから

ぶっちゃけ記憶に関してはステイルと神裂が悪かったと思うのよ
ちょっと調べるだけで、それこそググるだけで分かったことなのに
やっぱり携帯使えないとかもそうだが魔術サイドは魔術サイドでガッチガチの魔術脳なのか
全員がそうではないとはいえ

>>478
あの二人は何が悪いって頭が悪いよね
記憶奪わないでいい方法見つける過程で記憶のメカニズム的なものとかについても調べてるだろうし、そうしたらおかしいと気づくだろうと思った

はじめます


〜〜〜

滝壺と麦野が作り出した穏やかな、例えば色で例えるならば橙色のような、
そんな温かな空気に当てられたかのように結標淡希は目を覚ました。

ぼんやりと定まらない視点が捉えたものは、まず視界の端の方、まるで恋人同士のように笑いあう二人の女生徒。
そして、授業をサボった時にじっと見つめる見慣れた天井だった。

覚醒し切っていない頭で考える。

——自分はどうしてここにいるのだろう。

思い出すのを拒否するように、脳は思考を許さない。

——確か……滝壺理后に喧嘩を売った気がする……。
その、あと……。

視界に入り込んだ二人のうちの一人がその滝壺理后だということにはまだ気がつかない。
ただ、朧げな頭でも二人が友情だとか愛情だとか、そんな口に出来る様な軽い絆で繋がっているわけではないとなんとなくわかった。

起き上がろうと全身にわずかな力が入った瞬間、脳が思い出すのを拒否していた事柄が、軽い痛みと共に脳内に広がった。

「起き上がれる?足、すこし怪我してるから無理しない方がいいよ」

そう声をかけられ、片割れが滝壺理后だとやっと気づく。


「滝……壺……さん?」

滝壺は頷き、そっと結標の体を支えながら、ゆっくり起こす。

「私は麦野沈利です。滝壺の従姉です」

麦野も学校用の仮面をかぶり対応した。
何時の間にかベッドの反対側に回り込んでおり、滝壺が結標を起こすのを手伝う。

「気分はどうですか?緊急事態だったとは言え、女性にとって命ともいうべき……特に結標さんのように
美しい髪をもつかたの髪を撃ち落としてしまい申し訳ありません」

自分も髪やお肌の手入れには気を使う方である。
その髪がバッサリ切り落とされては命がかかってたとは言え悲しくなるだろう。
だから、この麦野の謝罪は心からの本心だ。

「あ、いえ……多分、あれがなかったら無理やり足引っこ抜こうとして……」

滝壺との初対面時や、能力測定時の自信に満ちた結標ではない。
もし、足を力で強引に引っこ抜いていたら……と考え恐怖に顔を白くした。

「歩くのに問題はないとおもうけど、まだ痛いよね?
どうせこのあとも能力測定だし、車椅子借りて先に帰っちゃお。今日はゆっくり休みなよ」

そんな結標を労わる様に、優しく笑いかけた。
先ほど麦野に向けた笑顔とはやはり何かが違う。
その笑顔の対比は、特別な言葉には到底できぬような重みの繋がりを感じさせた。


「寮に一人っていうのが心細いなら私たちの家にくる?」

普段の、暗部組織に堕ちてはいなくとも関わりを持っていて、この街の闇に気づいている結標ならば、暗部組織の家、つまり、アジトに自ら行こうなどとは考えなかっただろう。
だが、結標は追い詰められていた。
自他ともに認める空間系最強という能力は、御坂美琴ほどとは言わずとも人を遠ざける原因になっていたからだ。
さらに、常盤台とは違い霧ヶ丘は上昇志向の強い生徒が多い。
結標を目標とし、一方的にライバル視している者も少なくないだろう。
つまり、結標にはこういう時側にいてくれる人がいないのだ。
勝ち続けている、うまく行き続けている時の“一人”とは意味が大きく変わる。
なので、滝壺のこの提案は結標にとってとても魅力的なものだった。

麦野も特になにも言わないし、嫌な顔もしない。
むしろ、結標に来てもらい結標に自身の本性をさらけだしたら学校生活が幾分楽になるかもしれないと考えていた。

——それに、こいつはなんかほっとくとやからしそうだ。
大きな力を持ったやつがトラウマ抱えると厄介なことになる……私たちみたいな……。

そんな事を考えながら麦野も、是非どうぞ、とにっこり笑いながら言った。


〜〜〜

外の景色が黄昏色に染まる頃、フレンダと上条は何故か抱き合っていた。

「……ど、どうしよう」

しかし、どうやら甘い展開ではないらしい。
上条当麻の独り言がそれを如実に表している。

「……んう……」

フレンダは満足そうによだれを垂らしながら、上条の胸に顔をうずめている。

「……耐えるんだ。耐えろ。耐えろ耐えろ耐えろ……耐えろ俺!」

しかし、そこで蘇ってくるのは屋上での悪ふざけ、大人っぽい雰囲気をまとったフレンダの脳に直接響くような甘い声だった。

「オーケィ、落ち着こう。俺はなんだ?そう、紳士だ。
紳士はこういう時どう行動する?」

『そりゃあ、紳士ならぎゅっと優しく抱きしめ耳元に愛の言葉でも囁くってもんじゃないのかにゃー?』

「そうそう、この華奢で柔らかい身体を……って違うだろ!」

またしても、蘇ってくる記憶は上条の煩悩に塗れたものであった。
フレンダの顔をみないようにと寝転がったまま上を見上げる。

どうしてこうなったのか、それは学校を出たところまで遡る。


〜〜〜

「結局、この辺で遊ぶとしたらなにするの?」

フレンダは何時の間にかつかむ部位を腕から手に変えていた。
つまり、二人は今手をつないでいる。
その事が当たり前というように、フレンダの表情、声色、仕草は自然だ。

「え、えっと……ゲーセンとか?ボーリングとか?
あとは……俺はあんまり好きじゃないけどカラオケとか……映画館なんかもあるぜ?
あ、駄目だ最後の二つは駄目だうん、やめよう」

そんなフレンダにたいして上条はドギマギしまくっている。
もう自分がなにを言っているのかよくわからないくらいテンパっている。

上条も鈍感ではあるが、ここまで積極的なアプローチを受ければ流石に緊張もするし、年相応の反応をするのである。

不幸なラッキースケベで何度も女性のあられもない姿を見ているだろう、などとは考えてはいけない。
そのラッキースケベの代償は暴力による痛みなのだ。
もしもこれが上条自身の意思でみようとして見た結果ならば殴られても本望だろう。
だが、そうではないのだ。
上条自身は「見たいけど絶対見ないぞ」と思っているのだから、不幸なのだ。

羨ましいがな。


しかし、今回はどうだろう。
女性の方、つまりフレンダの方から手を握ってきて、無邪気に笑いかけてくるのだ。

ここに、不幸はない。

「んー、じゃあゲーセン行くか。
上条って得意なゲームとかあるの?」

「無いな、どれも人並みだ。
ゲームは土御門や青ピのが上手いぞ」

恥ずかしさからか、フレンダの顔を決してみようとしない。

「結局あの二人はいらないってわけよ。
まぁ、当麻が私の恋人になってくれたら青髪も諦めつくだろうし、そうなったら遊んでやってもいいってわけよ」

フレンダのこれは今の時点ではまだ何から何まで計算だ。
こうしたら上条は照れる。
こうしたら上条は面白い反応をする。
それら全てを考え行動している。

今の時点では、まだフレンダは上条を恋愛対象としてはっきりとは意識していない。

「……上条さんをからかわないでくださいよ」

そういいながらも、上条は手を離そうとはしなかった。

こうして二人はゲーセンの中へ消えて行った。

そして、二人がゲーセンに飽きてきた頃、日が傾きはじめた。


ゲーセンを出た二人は、特に上条はフレンダに慣れたのか入る前よりは自然体になっていた。

「お、丁度いいな」

外の風景をみると上条は何かを思い出したかのようにつぶやくと、時間はまだ平気か、と尋ねた。
フレンダは即頷く。

じゃあ、と言い上条は自分からフレンダの手を取るととある場所まで歩いて行った。

「どこ連れてくってわけよ?」

そう尋ねるフレンダに上条はニコニコしながら、

「いいからいいから」

と答えるだけであった。

少し坂を登り、植木の間をすり抜けると、目の前は一気に開け、真っ赤な夕日が視界いっぱいに飛び込んできた。

「う、わ」

あまりにも美しいその光景にフレンダは言葉を失う。

上条は満足そうに笑いながら、そんなフレンダを見つめていた。

「綺麗だろ?前に偶然見つけたんだ。
俺のとっておきの場所だ!」

そういうと、草の上にゴロンと寝転がる。

「はぁ……これは、良いわね。
でも、私に教えちゃってよかったの?結局ここって当麻のとっておきなんでしょ?」

フレンダも、上条の横に寝転ぶ。

「ん?あぁ、いいんだよ。
綺麗なものは……友達と見た方が楽しい」

そのままお喋りをしつつ沈む太陽を見たり、茜色の空を見上げたりと二人はゴロゴロとしていた。

そして、話は戻る。


〜〜〜

「なんで俺たちは二人揃って寝ちゃうんだよ……」

実際寝てたのは数十分だ。
まだかろうじて外が明るいのでそこまで遅い時間ではない。

しかし、問題はそこではない。

問題はフレンダが上条に抱きつくように寝ているという点だ。

上条は目を覚ました時起き上がろうとすると、引っ張られるのを感じた。
そして、よくよく見てみるとフレンダが自分にくっついて無防備な寝顔を晒していたのだ。

「……起こしたほうがいいのかな?
いや、でも……はぁ」

しばらくあれこれ一人で思考を彷徨わせていたが、それにもつかれたらしい。
ため息をつくと、諦めたように微笑みフレンダの頭を撫でた。

「こいつ……まじで、可愛いよな」

髪の毛を撫でながら、もう一度ため息をついた。

「はぁ……ははっ……」

不幸だ、とその日の放課後上条は一度もいわなかった。


〜〜〜

「はい、注目!」

霧ヶ丘組が帰宅すると、麦野と滝壺は絹旗たちに結標を紹介した。
この時フレンダはまだ帰宅していない。
そして、学校の話はフレンダが帰ってきてからする事にし、麦野絹旗心理定規は夕飯の支度をはじめた。
滝壺は結標の話し相手だ。

そして夕飯が丁度完成した頃、フレンダが帰宅した。

「……なんか、超ご機嫌ですね?」

ウキウキしながら食卓についたフレンダに絹旗は何かいいことでもあったのか、と遠回しに聞いた。

「んー、クラスメイトに面白いのがいてね。そいつからかって遊んでたのよ」

シシシ、と子供のように笑った。

「ほぉ?連絡ひとつよこさずこの私に飯の支度をさせてお前は男とイチャコラしてたって訳か……」

麦野はフレンダを睨みつける。

「あ、はは……ごめん!片付けは私一人でやるから勘弁して欲しいってわけよ」

いつもとは違った食卓。
人を殺したとか殺さないとかそんな話ではなく、普通の学生のような話で盛り上がる食卓は初である。

「というか、麦野さんって……内弁慶?」

アイテムの、特に滝壺の雰囲気につられて結標もだいぶ落ち着いていた。
そして、学校での評判と今目の前にいる麦野が重ならずに不思議そうな顔をする。


「違うわ——」

麦野が今がチャンスとそれを否定しようとすると、食器を並べている時滝壺からそれとなく学校での様子を聞いていた心理定規が悪ノリする。

「そうなのよ。麦野さんって家の中では暴君なのよ、困っちゃうわ」

「そう、しずりは暴君。
りこうが激怒する時もある」

滝壺ももちろんその悪ノリに乗っかる。

事態のつかめないフレンダ絹旗コンビは困惑顔の結標と怒りでヒクヒクとしている麦野、
そしてしれっと料理を口に運ぶ滝壺と心理定規をそれぞれ見比べていた。

「へぇ……他の生徒たちには黙ってた方がいいわよね?」

結標はそれを信じたらしく、麦野に確認をする。
麦野は答えない。
滝壺と心理定規はあることないことを次々に結標に吹き込んで行った。

そして、ついに、麦野が切れた。

文字に起こしたら全部伏字にしなくてはならないほどの暴言で、心理定規と滝壺を叱りつける。
真実を知った結標は笑っていた。
フレンダと絹旗も学校での麦野を想像し、笑っていた。

このあと、置き手紙の存在を何故か知っていた滝壺により、今度は心理定規が麦野にからかわれたのは言うまでもない。

ここまで

フレンダ回
霧ヶ丘組回

次回は
一方通行回
垣根くん回をやる予定

垣根さんは主人公なのに空気すぎてやばい
頑張れメルヘタレん!

では、次もよろしくお願いします


〜〜〜

自分の事が本当は一番わからない。
上条当麻はそんな事に悩んでいた。
そして、その答えがわかった時、上条は数々の女性に土下座したくなるだろう。

——なんで、こんなに胸がざわめくんだろう……。

フレンダが起きたあと、二人はまっすぐ帰宅した。
フレンダは上条にひっついて寝ていた事など全く気にしていない様子で、そんな態度に上条は少しだけ胸に引っかかりを覚えた。

フレンダと別れたあと、そのざわめきはさらに大きくなる。

——何だってんだよ……意味わかんねぇ。

いままで感じた事のない己の感情に戸惑う。

その感情は、上条を最高のハッピーエンドに導くのか、はたまた最悪のバッドエンドへ誘うのだろうか……。

「どうしたんだろう、俺……フレンダに振り回されて疲れちまったのかな?」

空を見上げながら上条はつぶやく。

そして、もう一度だけ、つぶやいた。

「フレンダ……か」

胸のざわめきが激しくなった。


〜〜〜

「フレンダ=セイヴェルン……ってのはあいつか?」

学園都市最強の男、第一位一方通行はとある高校の校門を監視していた。

目的は一つ、フレンダ=セイヴェルンとコンタクトをとる事だ。

目的の人物は発見した、あとは要件を伝えるだけなのだが……。

「……明日にしようかな」

一方通行は女の子に耐性がない。
そして、最強の能力を持ち、第一位という絶対的な力を持っているにも関わらずチキンだ。

大量のコーヒーを買う度に、店員さんに申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
だったら毎日飲む分だけ買うなり、ネットで注文するなりすればいいのだが、毎日通うと自分の凶悪面にビビって客が減るかもしれない。
ネット注文も、もし宅配の人が来てくれた時に自分が家を空けていたら再配達を頼まなければならない。
それは配達の係りの人に申し訳ない。

だから、深夜の人がいない時間帯に、店員さんも暇をしているところへ大量のコーヒーを買いに行くのだ。

そして、その度に「悪りィな」と店員さんにそっけなく謝るのだ。


絡まれた時などは、なるべく強気に「ぎゃはっ!」とか「かかきくけけここここ!」などキチガイのような笑い声で対応するが、それは素ではない。
本当にブチ切れたら一方通行はむしろ静かになるタイプだ。
静かに笑い、静かにささやき、一瞬で相手を叩き潰す。
そういうタイプだ。

「ハードル高いよなァ……まずフレンダって外人だもンなァ……。
英語は一応話せっけど、フランス人だったらどォしよォかなァ……Bonjour mademoisell とか言えねェよ……。
フランス人はキザ過ぎるよなァ、サロンなンて文化発達させた奴は罪だよなァ」

それにしてもこの真っ白チキン、テンパり過ぎである。
自分で、しっかりと、自分の第一位の二百三十万の頂点に立つ頭で、アイテムメンバーの事は調べたのだ。
フレンダがどの国出身かはわからなかったが、日本語を話すという事は知っているはずなのである。
にも関わらず、一方通行の注目は現在「どの国の人かわからなかった」という部分のみに向いている。

「……よし、とりあえず明日にしよう。
彼氏とのデートを邪魔しちゃ悪いしな。
それにしても……あの男すげェな」

一回テンパるとどこまでも残念な一方通行〈いっぽうつうこう〉な思考回路へ迷い込んでしまう一方通行であった。


〜〜〜

まぁ、座れよ。

垣根がそう言って魔術師二人に椅子を勧めた。

神裂とステイルは垣根の変化に戸惑いながらもその椅子に座る。
その様子には、ここまで流されて来てしまったのだからもう流れに任せるしかない、というある種の諦めのような感情がみえる。
もちろん、それは垣根帝督に対しての諦めであり、インデックスに関してではない。

「まずさ、ごめん……話を聞かせてくれないか?」

憑き物が落ちたように、よく言えば垣根はそんな様子である。
しかし、悪く言えばそれは完全にぶっ壊れてしまったとも見えた。

「はは……驚いた顔してるな……まぁ無理ないか……。
でもよ、気づいたんだよ……。
お前ら本当にインデックスのことを想ってるって……お前らはあいつから希望を奪ったんじゃないって……」

自嘲するかのように笑った。


「お前らこそ……インデックスに必要な希望なんだよ……。
俺は魔術の事は詳しくない、だけど……科学の事ならこの街のNo.2だからな、ある程度の知識はある。
どうせお前らは、科学については詳しくないんだろ?
カガクテキ、とか嫌いそうだ」

自分の思い描く魔術師をイメージし、決めつける。

「た、確かに私達は科学とか機械とかそういう物は詳しくないですが——」

「で?」

神裂を遮り、ステイルは直球に核心へ迫ろうとする。

「君は何をしてくれる……いや、何ができるってんだい?
完全記憶能力をなくしてくれるとでも言うのか?」

「完全記憶能力?」

ステイルは不本意ながら垣根に全てを話すつもりなんだと神裂は気づいた。
そして、それが垣根を引かせる唯一の手だと思っていた。


「十万三千冊の話は聞いてるんだろ?」

垣根は頷く。

「あれは……いや、インデックスは手ぶらだ。
だが、十万三千冊は確かに持っているんだよ」

察しのいい垣根にはそれだけで正しく伝わった。

「なるほどね、それで?それが記憶消去となにか関係あるのか?」

「十万三千冊の魔道書をあの子は記憶しているんだ。
それのおかげであの子の脳はパンク寸前なのさ、人間は忘れる事ができるから生きていける。
だが、あの子にはそれが出来ない。
通りすがった人の顔、雨の一粒一粒、雲の形……何もかもかもを忘れられないんだ」

ここまで言えば垣根なら理解できると思ったのだろう。
ステイルは言葉を止めた。

だが、心理学を少しでもかじったことがある者ならば、きっと垣根と同じ感想を持つだろう。

「うん、で?それが記憶消去となんの関係があるんだ?」


記憶という物はひとつではない。

大きく分け短期記憶と長期記憶という物がある。
短期記憶とは、その名の通りすぐに忘れてしまう記憶の事だ。
パソコンのメモ機能をイメージすると良いだろう。
一時的に保持する記憶のことだ。
最近ではワーキングメモリーなどとハイカラは呼び方もするようである。

長期記憶も、その名前の通りの物である。
そして、長期記憶にはさらに二つに分けられる。
宣言的記憶と非宣言的記憶だ。
宣言的記憶とは、言葉での記憶、言葉で言い表せる記憶の事である。
例えば、りんごは英語でappleだとか、そういう一般的な教科書に載っているような意味的な記憶だったり、
幼い頃絹旗にキスをした、などという個人の思い出などを指す。
対して非宣言的記憶というのは、言葉で言い表せないものだ。
例えば、自転車に乗る、だとか泳ぐ、だとかそういう身体が覚えているものを指す。
そして、一般的に記憶喪失と言うと、宣言的記憶をなくす事を言う。
ピアニストは記憶を失い、ピアノというものを忘れていても、
ピアノの前に座らせたらすらすらと猫踏んじゃったなりベートーヴェンなりショパンなりを弾き始めるのだ。
それで嘘の記憶喪失がばれたという話もあったような気がする。


「だから、あの子の脳は十万三千冊のせいでパンク寸前なんだよ!
脳の八十五パーセントを使ってるんだ!
一年周期で記憶を消してやらないと、脳が壊れるんだ!」

「お前は何を言っているんだ」

「だ、から……」

「まず、記憶ってのはさ」

イラついたステイルを無視して、垣根は記憶について話を始める。

「まだよくわかっちゃいないんだよ。
大体こういう仕組みなんじゃないかってのはあるけど、それも正しいのかどうかはわからない。
でもはっきりしている事もある。
言葉で覚える記憶と身体で覚える記憶が違うのは感覚でわかるだろ?
例えばインデックスも記憶消去した後歩きかたを忘れたりはしなかったろ?
忘れたのは、言葉での記憶だけだ。
そこから、記憶というのは独立している事がわかる。
次に、一般常識はどうだった?
例えば、外出るなら服を着るとか、太陽は東から昇るとか、そういうものだ」

眉を顰めるステイルに聞く。


「……覚えていたよ」

「うん、だろうな。
記憶喪失にも軽い重いがあってさ、それはどこまで忘れているかで決まるんだ。
何もかも、ほんとうに何もかも忘れてたら起き上がる事も出来ない。
宣言的記憶をすっぽり忘れてると、動けるけど喋る事は出来ないだろうな」

回りくどい垣根にステイルは我慢の限界が来たのか、何が言いたいんだ、と睨みつけた。
神裂は何かを考え込むように、じっと垣根をみながら話を聞いている。

「まぁ、落ち着けよ。
でも、大抵の記憶喪失患者ってのは、自分の事以外は覚えてるんだ。
一般常識は覚えているから、日常生活を送るだけなら困らないんだよ」

「つまり、教科書に載っているような記憶と個人の思い出は別物……それぞれが独立したものという事ですか?」

そして、考えがまとまったのか遠慮がちに口をひらいた。

その答えに、垣根は指をパチンと鳴らしながら神裂を指差し正解、と言った。


「だから、魔道書の記憶がインデックスの思い出を圧迫するなんて事はない。
思い出を消す必要なんかない。
そもそも、記憶があふれるなんて事はない。人間舐めるな。
自閉症の中にサヴァン症候群ってのがあるんだけど、その人たちの中には記憶力が優れた人がいるそうだ。
完全記憶能力と言っても良いくらいにな……んで、その人はじいさんになるまで生きたぜ?
それで?
八十五パーセントがなんだって?
それを一年で削って事は一年で十五パーセント使うってことだろ?
だとしたら、完全記憶能力持ったやつは十歳まですら生きられねー計算になるが?」

しん、と部屋は静まり返る。

ステイルはまだ納得出来ていないようだが、神裂は自分たちの行いが“検討外れだった”ということを理解してしまったようだ。

「だって……じゃ、じゃあ!
なんで、あの子は苦しみ出す?熱を出して倒れる?」

「あのさ、ひとつ聞きたいんだけど……魔道書って俺でも読めるの?」

「質問を質問で返すなッ!」

「お前の質問に答えるために聞いてんだ、いいから答えろよ」

ステイルは舌打ちをしながら、無理だと言った。
常人なら一冊読む前に発狂するとも言った。


「そんなもんを、インデックスは自らすすんで読んだのか?
そもそも、なんでインデックスに覚えさせた?」

「僕が知るかよ、教会側が管理しやすいとかそういう理由だろう」

吐き捨てるように言う。
そんな理由でインデックスを“使う”教会に腹を立てているように垣根には見えた。

「それこそが答えなんじゃないか?
そんな理由で常人なら発狂するようなもんを十万三千冊も覚えさせるような奴らだぜ?
インデックスが裏切らないような予防線を貼らない訳がない。
記憶消すのはお前らの教会の人間にしか出来ない魔術なんだろ?
教会の庇護なしには生きられない様にしといたってだけだろ」

完全に、ステイルは言葉を失った。
興奮で何時の間にか立ち上がっていたが、ドサリと床に膝をつく。

「僕は……間違っていたというのか?
奪わなくてもいいあの子の思い出を、奪っていたというのか?
僕は……ぼ、くは……」

神裂は目を硬く閉じ、顔を背けた。

「あの子に、なんて言えば……」

そして、つぶやく。
その声は震えている。


「……追い討ちかけるようで悪いんだが、その呪いみたいなの解かなきゃ解決しないぜ?」

垣根は三人の中で一人だけ冷静であった。

「あくまで、記憶を消す必要が本当はないってだけだ。
でもインデックスは一年周期で倒れるんだろ?だったら、消さなきゃならなかった。
放置したら死んでたかもしんねーからな。
だけど生きてるんだ。
生きてりゃ……生きてりゃそれで……いいじゃねぇか。
消えた思い出よりも楽しい思い出をまた作ればいいじゃねーか」

生きていればそれでいい。
それは自分に言い聞かせるように、最愛の人達を思い出しながら口にする。

生きてさえいてくれれば良かったのに。
生きてさえいてくれればそれで良いんだ。

後悔と願望が、その台詞には混ざっている。
母を殺した後悔。
絹旗最愛が日の当たる世界で生き抜くという願望。

もう、決して会うことの叶わぬ自分に優しかった二人。
自分のせいで死んでしまった母への償いに、絹旗だけは救おうとする垣根帝督を、母親はどのような顔で見つめるだろうか。

「落ち込んでる暇はねーぞ」

うなだれる二人を、垣根は叱りつける。
この時点で垣根帝督という存在は、二人の小さな希望となった。

ここまで

宣言通り一方通行回と垣根回

次回もよろしく!

言い忘れてた

記憶の話とかは昔飲み屋で仲良くなった心理学の先生から酒のみながら聞いた話だから間違ってるところも多いと思う
ではまた

おはようございます
昨日更新しようと思ったけどねちゃった
はじめましょう


〜〜〜

どうして自分がこんな力を持っているのだろうか。

何故、自分でなくてはならなかったのか。

自分がこの力を持った事に意味はあるのだろうか。

「そんなの超決まってるじゃないですか」

六歳の絹旗は何をバカな事を、といった風に言い切った。

「私にこの力があって、この実験の被験者に選ばれた理由は——」

理由は、と十歳になる垣根はアホ面で聞き返す。

絹旗は笑っていた。
それだけは真実なんだと信じ切っていた。
それだけは絶対でなくてはならないと決めつけていた。

「帝督を、守るためですよ。
私にこの力があるのは、あなたを超守るため。
私がこの実験の被験者に選ばれたのは、あなたと出会うため。
私の全ては、帝督と一緒にいるためです」

「僕と?」

えぇ、と絹旗は頷いた。

「じゃあ、僕がここにいるのも、最愛ちゃんと出会うため?」

「それは違いますね。帝督がここにいるのは私に超守られるためです」

それがなかったら、自分は自分でなくなるような言い方だった。
自分のために垣根は存在すると絹旗は言っている。


自分の心が折れないため。
親に捨てられた事を忘れるため。

だから、能力も無く、バカで、泣き虫な、自分が守ってやらなきゃならない存在がいるのだ。
何かを守っている時ならば、自分は強くなれるんだ。
そんな風に言っていた。

「……僕じゃなくても、良かったの?」

そんな絹旗に、垣根は涙目で尋ねる。

「……相変わらずの超おバカですね」

絹旗は微笑んだ。
普段はそっけないが、絹旗はたまにものすごく素直になる子だった。
例えば、垣根が倒れた時など。
例えば、垣根が怯えている時など。

「帝督に会うためだって、超言ったじゃないですか。
帝督じゃなかったら、意味がないんですよ。
帝督の代わりなんて……超、いないもん」

ぎゅっと手を握ると、垣根も握り返した。
その手は熱く、垣根の熱が未だに高い事を知らせていた。

「最愛ちゃん……僕は、最愛ちゃんと出会うために……」

垣根の言葉はそこで途切れた。
忘れている何かがその先を言うのを拒絶していた。
その先を言ったら、ダメだと本能が告げていた。

「ほら、もう寝てください。
明日は、研究所の外を超散歩しましょう」

握った手を離すと、それを布団の中にしまう。
そして垣根の頭を小さな手で撫でた。


〜〜〜

「……超おはようございます」

「……おふぁよー」

「おはよう」

「……おはよう」

「おはようございます」

朝、時計の針は既に九時半を回っている。
滝壺以外のそれぞれが、やっちまった、と言う風に朝の挨拶を交わす様子を心理定規がコーヒーをすすりながら眺めていた。

「……あれ?みんな学校休みなの?」

わざとらしく、そう声をかけると四人のうち三人は一斉に心理定規を睨んだ。

「何で超起こしてくれないんですか!
一人優雅に超コーヒーなんぞ飲みやがって!」

子供のように駄々をこねるのが一名。

「結局、一人だけ寮監なんてポジションに放り込まれて寂しいのはわかったから起きてんなら起こして欲しかったってわけよ」

普通に文句を言うのが一名。

「……チッ、テーブルの上に起こしてくださいって置き手紙でもしときゃ良かったな」

全力で八つ当たりするのが一名。

「ま、まぁまぁ……そんな子供みたいな事言わないで……遅刻くらいいいじゃない」

噛み付いてくる三人を無視するように心理定規はコーヒーに口をつけた。


そして、結標は三人を落ち着かせようと声をかけるが、
寝起き、しかも遅刻確定、というイライラしやすい条件下の三人にはそれすら火種になる。

「はいはい、赤髪のヤンキーさんは言う事が違いますね」

「結局、私らって根は淡希と違って真面目だから遅刻とか大問題なわけよ」

「つーか、私の学校でのキャラ教えたろ?
予定通り番長でいってりゃ何も問題ねーけどよ」

文句を言いながらも、三人はそそくさと制服に着替えているあたり、本当に根は真面目なのだろう。

「言っとくけど、別に私ヤンキーじゃないわよ?
少なくとも寮入りが校則なのにそれを拒否するようなちびっ子や、
学校行くのに空っぽのカバン持ってく金髪や、
猫かぶりのインチキお嬢様よりは真面目よ」

そんな感じでギャーギャー言い合いながら準備を終えるとまず絹旗。
そして、フレンダ。
最後に麦野、結標がまだパジャマのままだった滝壺を無理矢理着替えさせ、家を飛び出して行った。

五人が消えたリビングで心理定規は穏やかに窓から射し込む土曜日の朝日を浴びながらコーヒーをすする。


「まさか四人もいて一人も気づかないとはね……」

そう、今日は土曜日である。
学校はお休みなのである。
学園都市の学校は基本的に土日は休みである。
高位の能力を持った生徒ならば、研究機関の協力要請を受ける、と言う事が珍しくない街だ。

しかし、そのせいで学校を休みがちになるのは建前上よろしくない
と言う事でそのような他機関への協力日として土日は学校を休みにしているのだ。

勿論、他機関への協力は単位制の学校ならば単位が出るし、
単位制でない学校でも、それを大学に入った時に申請すると一気に単位を貰えたりする。

「まぁ、昨日散々からかってくれたお礼よ」

クスクス笑いながら、心理定規は怒りながら帰ってくるだろう姉妹のような人達を想像した。

しかし、ここで物語は急速な収束を迎えている事に誰も気づいてはいない。

インデックスを救おうとする魔術の者たち。
ミサカを救おうとする学園都市第一位。
垣根を救おうとする少女たち。

そして、生きながらに死を求め、少女たちの礎になろうとする垣根帝督。

それら全てがここで交わる。

全ての糸が、ここで一度結ばれる。


〜〜〜

「ちくしょう、なずなの奴……」

絹旗は走っていた。
バスを待つよりも、走って走って走ったほうが早く着くし、何よりも急いで来たという体裁が保てるからだ。

携帯電話を開き、地図を見る。
現在地から学舎の園までの最短ルートを確認すると、それをさらにショートカットするために公園を突っ切ろうと駆け込んだ。

「おや?」

そして、そこで遅刻仲間を見つけた。

「美琴じゃないですか!こんなところでぼさっとしてると超怒られますよ?」

振り返った絹旗の友人は、意味がわからない、と言うように首をかしげた。

「あなた、誰ですか?とミサカは常盤台の制服をきたちんちくりんに不振な目を向けます」

「……もう、拾い食いはしちゃダメだって超言ったじゃないですか!」

絹旗は気づかない。
それが御坂美琴の姿をした別の人間だと。

「開口一番失礼千万ですね。とミサカはちんちくりんを睨みつけます」

「なんですか、その超変な喋り方は?」


「超超うるせーよ、とミサカはお前はモー娘。かとツッコミます」

二人の間の時が止まった。

絹旗にとっては明らかにおかしい御坂美琴と、ミサカにとっては見知らぬ絹旗。
話が通じるわけがない。

「……えっと、どうしたんですか?本気で、真面目に、とりあえず学校行きません?」

「一人でどうぞ、ミサカは学校には通っていませんので。とミサカはこいつ土曜日なのに学校行くのかよ、とマヌケっぷりを笑います」

ふい、と絹旗から顔をそらし、ミサカは割りと直接的に絹旗をバカにした。

「……おーけぃです、いくら超能力者とはいえ、超ムカつきました。
ぶん殴ってやる」

そんなミサカの態度に絹旗もついに切れ、ズカズカと歩み寄って行った。
その時、一つの糸が絡まった。

「あれー?最愛じゃん?なにしてんのー?」

聞き覚えのある声に振り向くとそこには、

「み、美琴ぉ?」

御坂美琴が立っていた。

「……はい、美琴センセーですよ?」

拾い食いでもしたの、と御坂は顔を白黒させる絹旗の様子を笑っている。
まだミサカには気がついていないようだ。


絹旗にとってはドッペルゲンガーか、はたまた生き霊が現れたに等しいので、口をパクパクさせるしかない。

「え?は?……いや、だって……え?」

御坂に近づき、とりあえず軽くビンタしてみる。

「痛ッ!てめぇこんにゃろいきなりなにすんのよ!」

御坂も容赦なく絹旗の頭にゲンコツを落とした。

「いたい……あれ?え?あれー?」

「……ちょっと、あんたどうしたの?」

本気で絹旗の様子がおかしい事に気づいた御坂は、心配そうに絹旗の顔を覗き込んだ。

「いや、美琴が美琴なら、あれ……誰ですか?」

そして、ミサカを指さした。

ミサカは突然の一番会っちゃいけない人の出現に判断力を失い、逃げなくてはならなかったにもかかわらずそこに立ち尽くしていた。

「……え?」

御坂美琴とミサカ。
絹旗最愛とミサカ。

そして、絹旗最愛と一方通行、という大きな運命の糸がひとつ、結ばれた。


〜〜〜

「結局、なんで私、走ってんだろ?」

フレンダはピタリと足を止めた。

「いや、だっておかしくない?
真面目に学校いく必要ないし、昨日も午後サボったし?」

なんだ、気負う必要などないではないか、とのんびり歩き始めた。

フラフラと歩いていると、そういえば朝ごはんを食べていなかったと思い出す。

「コンビニないかなー」

キョロキョロとあたりを見回すと、コンビニではなくパン屋が目に入った。

「……お、なにやらいい感じのパン屋さん発見ってわけよ、朝ごはんはあそこでいっか」

ご機嫌になりながらその店に足を進める。
そして、店の前に立ちいざ入ろうと扉に手を延ばした時、扉が自動的に開いた。

「うわっと」

決して自動ドアだったわけではない、店の側から誰かが開けたのだ。
扉に手を伸ばし、体重をかけて押そうとしたフレンダは当然のように体勢を崩した。

「あ、悪りィ……ってフレンダァ?」

そして、出てきた真っ白な男にぶつかった。
男は素直に謝ると、フレンダを見て思わずその名を叫んでしまった。

「こちらこそって……あんた誰よ?」

フレンダも素直に謝り、名前を呼ばれた事から知り合いかと顔をよく見たが、知らない人だった。

「なんやて!フレンダちゃん?」

そして、店の方から知っている顔がまたフレンダの名を呼んだ。

気まずそうな白い男一方通行。
休日に好きな女の子に会えて嬉しい青ピ。
そして、今日が休日だと気づいたフレンダ。

運命の糸はより固く結ばれた。


〜〜〜

「クッソ、タクシーでいくぞ。
滝壺、学校に電話いれとけ、多分死ぬほど心配されてる」

広い道へ出ると、タクシーを捕まえようと目の前を走って行く道路を睨みつける。

「……ごめん、私が能力使えたらパパッと行けるのに」

イライラした麦野に、居心地悪そうに結標は言った。
昨夜結標の緊張がほぐれた頃を見計らい、能力を行使した時なにか事故の影響があるかを軽くチェックした。
威力は大幅に落ちており、他人を移動させるのも困難な状況であった。

「……悪い、なんかイライラしてたわ。
考えてみりゃ遅刻くらいどうってことねーのにな。
居心地悪かったな、すまん」

がしがしと頭を掻くと、麦野は結標に詫びる。
結標が一番気にしている事を言わせてしまったという罪悪感がそこにはあった。

「ねぇ、なんで私たちここにいるの?」

なんとなく空気が重くなったところで、滝壺が口を開いた。

「あ?というか、あんたは早く電話しなさい」

「だから、なんで?
私お腹空いたし、まだ眠いんだけど」

滝壺は珍しくないイラついているようだ。
その様子に麦野は若干ひるむ。

「い、いや……学校よ?」

「休みだよ」

むすっとしながら答える。

「体調でも悪いの?大丈夫?」

素でおろおろとし始めた麦野に助け舟を出すように、結標が口を開いた。

「二人ともなに言ってるの?
『休む』じゃなくて『休み』だよ?」

麦野と結標は真顔で顔を見合わせた。

「……」

お互いなにも言わない。

そのまま三人は滝壺を先頭に、とりあえず朝ごはんを食べるために喫茶店へと入って行った。


〜〜〜

「まぁ、偉そうなこと言ったけど現場を打破する策は俺にはない」

コーヒーを飲みながら、垣根帝督は魔術師二人を見つめる。

「僕らにだってそんなものはないさ、でも見つけるんだ。
もう、こうなったら科学でもなんでも利用してやる……。
帝督、お前の信用できる人間だけを僕も信用してやる」

「そう、ですね……。
本来交わるべきではないのですが……あの子のためなら、そして……それがせめてもの罪滅ぼしになるのならば」

ステイルは紅茶を、神裂は緑茶を飲んでいる。

「んな辛気臭いこと考えるなよ。
お前らは確かにインデックスの記憶を何度も消してきたかもしれない。
けどさ、完璧な消去ってのは新しく思い出を作るよりもはるかに難しいんだ。
だから、どっか……脳じゃなくても何処かにお前らと笑いあった記憶も残ってんじゃねーかな」

垣根は優しく笑っている。
しかし、神裂もステイルもその笑顔を見てゆがんでいる、と感じた。

「……科学的でないですね、なんて私がいうのはおかしいですね」

神裂はその不安を無理矢理消すように、ぎこちなく笑った。

「あ、やっぱりそうだ。かきねだよね?」

三人の間に流れていたぎくしゃくした空気は滝壺理后のその一言で一瞬のうちに入れ替わった。

「なん、で?お前らが……ここに?」

滝壺理后のこの絶妙な空気は一種の才能だと、もう滝壺に慣れしたしんだ麦野ではなく結標淡希が最初に気がついた。

ここまで!

またよろしくお願いします!

すみません
次回投下今日書けたら今日くるけどわからん
今週中にはくるのでよろしくお願いします


あといつもレス嬉しいです
ありがとう!


〜〜〜

非常に気まずい空気が六人の間に流れていた。
魔術師二人はなるべく自分たちの側に科学の側の人間を近づけたくはないようである。
例えそれが暗部という同じ闇側でも、科学と魔術は出来るだけ不干渉を保った方がいいと考えているらしい。

第四位麦野沈利は怒っているのか喜んでいるのかよくわからない禍々しい視線を垣根帝督に向けている。
滝壺理后はいつも通りだ。
一人全く状況が読めない結標はもそもそと居心地の悪さを感じながらサンドイッチなんかを食べている。

「垣根、てめぇ……説明しろ」

「説明しなきゃならねーことなんかねぇよ」

「へぇ? 絹旗のやつがわんわん泣いてたのに?」

これは別に嘘ではない。
泣いていた、という言葉に垣根の表情が曇る。

「……最愛の事は……もう、お前らに任せる。
俺は……二度と関わらねぇ……。
あいつを暗部なんかに叩き込んだのは俺の弱さで、俺は人殺しだ」


「んなの私らも一緒だ。
そこの狂った服装の女も、赤髪のクソガキも……滝壺ですら人殺しだ。
私らは人を殺さなきゃ生きていけねぇ世界に居たんだ。
表が平和だからって裏も平和なわけじゃない」

「ただの言い訳だな。
一人殺したら犯罪者で百人殺したら英雄だ、とでも言うつもりか?
殺人は罪だ。そして……罪には罰だろう?」

垣根が自分に与える罰とは、それはつまり自身の死だ。
とても今まで奪ってきた命、特に母親の命の対価にすらならないと垣根は信じているが、
それでも死ぬ以外に垣根に心の平穏は訪れない。
そして、その平穏が訪れないことこそが最大の罰なのだと、垣根は今全てを捨てて暗部組織の中にいる。

「だったら、私らの罰はなんなんだよ。
お前の贖罪のために、私らは表に放り出され、ぬくぬく生きてくのが罰か?
お前と私らは同類なんだよ。
勿論、お前が好きで好きでたまらない絹旗もだ」

「お前らは、十分苦しんだ。
少なくとも、俺よりは……暗部の中で人をぶっ殺しながらも、心を痛めてきた。そうだろ?」


「馬鹿かてめぇは?
他の奴らは知らねぇが、私はなんの迷いなく人を溶かしてきたぞ」

どちらも折れる様子はない。
その場にいる六人の中で、垣根と麦野だけが口を開いていた。
神裂とステイルは黙って能力者たちを見つめる。

「あのさ、全く関係ない話で悪いんだけど……聞いてもいい?」

「後にしろ」

麦野は結標の方を見向きもしないで言い捨てる。
それに一瞬怯んだが、

「いいよ、あわき。
むぎのとかきねが話してても無駄だし、私たちの居心地が悪くなるだけだもん」

横から滝壺が口を出す。
麦野は滝壺には弱い。
滝壺にズバリと言われてしまうと、なにも言えなくなるのだ。

「無駄、ね。
確かにな、原子崩しと話しても無駄だ。
それがわかってんならさっさと俺らの前から消えてくれよ」


「まだご飯食べてないからやだ。かきねたち食べ終わってるし、そっちが出てきなよ」

「ふざけんな、俺らがいたところにお前らがきたんだろうが!」

「ここは飲食店、お席はご自由にって言われたからかきねに文句言われる筋合いないよ?」

張り詰めた空気は次々とゆるい穏やかな流れに変わっていく。

「た、滝壺……こいつ捕まえないと……」

滝壺の帰っていいという言葉に、麦野は反発するが、滝壺は引かない。
どこから湧き出てくる自信かは滝壺本人にしかわからぬが、いつも通りの表情をしている。

「むぎのもわかってないね。
大丈夫だよ、前にも言ったじゃん。
かきねときぬはたはまた必ず再会する」

ピクリと垣根の眉が動いた。

「お前こそなんもわかっちゃいねぇな。
言ったろ?
最愛はお前らに任せた。俺はもう関わらない」


「未来を演算して、自分ときぬはたが会うルートは避ける、とでもいうの?
そんなの、かきねに出来っこないよね。
第一位にも、無理だと思う。
でもね……」

私には、と滝壺は挑戦的な微笑みを浮かべながら垣根を見た。

「分かるんだよ」

和んだ場の空気がまた一気に凍りつく。
その笑顔に普段の優しさなど無く、ただなんとも言い切れぬ恐怖だけの笑顔だった。

「かきねときぬはたは初めて会った時、些細な事で切れてしまう糸を結んだ。
実験で再会して、その糸の結び目は少し堅くなった。
実験中、ずっと二人で生きてきて、その糸はもっともっと堅くなった。
そして、今……再会してその糸はもう解けない物になった。
だったら、あと一回再会する。
二度あることは三度あるっていうように、再会は三回起きる。
その時……かきねときぬはたの糸は神様にも切れない物になるよ」

それが、幸せな赤い糸だったらいう事ないよね、とまた空気をからりと入れ替えながら滝壺はトーストにかじりついた。


「……」

もう完全に置いていかれた魔術師二人はともかく垣根と麦野すら、なにも言葉を発する事ができない。

「……あ。
淡希、話していいよ」

しばらく沈黙したのち、思い出したように滝壺は結標に話を促した。

「え、えぇ……ありがとう。
ずっと、レベル5に聞いて見たかったのよね」

なにをだ、と麦野がぶっきらぼうに聞き返す。

「んー、この力がどうして自分に与えられたのか、その理由が私にはわからないのよ。
どうして人をも簡単に殺せる力が自分にあるのか、なぜ自分なのか、その意味はなんなのか……。
そういう事を、なんというか私より強い存在である超能力者に聞いてみたかったのよ」

結標は魔術師二人の方もチラリと見た。
しっかりと、この二人がただの一般人とは違うという事を感じ取っていた。

「……俺は……最愛と……出会……」

垣根が結標のその問いに遠い昔を思い出し、無意識に呟きそうになる。
だが、その呟きは途中で現在に戻った垣根自身によって途中で打ち切られた。




それは言ってはいけない。
垣根は口を咄嗟に覆う。

それだけは、もう口にしてはいけない。
聞かれていないかと、周りを見渡すと、神裂と目が合った。
軽く舌打ちする。

——最低だ、聞かれた。でも、麦野や滝壺じゃなくて良かった……。

一度目を閉じ、過去の自分を封じ込める。思い出を、閉じ込める。

そして、自身の中で落ち着きが取れると、ゆっくりと目を開き、神裂に「なんでもない」と言うように笑顔を見せた。
それがどんな表情だったのか、本当に笑顔だったのかは、垣根にはわからない。
ただ、神裂は困ったような、心配するような目つきで垣根を見ていた。

「私は……この力がなけりゃ暗部なんかに落ちてない。
この力がなけりゃ、学園都市なんてすぐに出て行って外の世界で生きてたと思う」

麦野は意外にも真面目に結標の問いかけに答えはじめた。


「この力で……まぁ、人を数え切れないほどぶっ殺して来たけど、
この力がなけりゃ滝壺にも、フレンダにも絹旗にも出会えなかった。
だから、クソッタレな世界で唯一大切に出来る物と出会うために……貰ったもんなんだと思ってる」

そして、その答えは大昔に絹旗が垣根に出した答えと同じ方向性を持っていた。

——……最愛は、今も同じように言ってくれるかな?

再び昔の自分がぷかぷか浮上してきて、そんな事を垣根に考えさせる。
垣根は必死にそれを自分の中に留めようとどんどん険しい顔になって行った。

「……僕は、守るためだ。どんな力かは言えないが、一人の人を守るために力を望んだ。
その人を守るためなら誰だって殺すし、どんな汚い事もやってやる」

「私も、人を救うためです」

結標が自分たちにも答えを求めている事を神裂とステイルもまた、しっかりと理解していた。


「……意味なんか無いと思うぜ。
全部、偶然だよ。
俺が第二位なんて力を持ったのも、
麦野が第四位なんて力を持ったのも、
お前がでかい力を持ったのも、
全部全部偶然だ。
意味なんかねぇよ」

垣根は結標を睨みつける。
昔の自分を思い出させる問いに対してのイラつきをぶつけるように、睨む。
つまりは八つ当たりだ。

そのまま垣根は逃げるように席を立ち、それを追うように魔術師二人も麦野達に軽く会釈して席を立った。
重苦しい空気が残された三人を包むかと思いきや、意外にも麦野が笑い出した。

「ど、どうしたの?」

第二位を、しかも暗部に所属し人を殺す事に慣れている男を怒らせた、
というのは結標にとって恐怖だったらしく、笑い出す麦野にあからさまに驚いていた。

「いや、あいつ本当は昔から何ひとつ変わってねぇんだろうなと思ってさ。
希望が見えた、あいつは死ねない」

「それが、希望なの?」

そう聞き返す結標に、麦野は当たり前のように頷く。


「あいつがいる限りは絹旗も大丈夫だしな。
しかし垣根帝督って奴は愛しい愛しい最愛ちゃんが絡むと途端にわかりやすいな」

ニヤニヤとしながら、続ける。

「あいつはあんなこと言ってたが、多分あんな風には思っちゃいない。
大方研究所にいた頃同じような事を絹旗と話したんだろうな、あいつの目は今を見てなかった」

「……垣根帝督と絹旗さんが研究所にいたのって十年前よね?
十年前にあの二人が通った道を私は通ってるって事?
なんか、悲しくなるわね」

垣根の怒りが自分ではなく突き詰めれば垣根自身に向いてい事を理解すると結標の表情も崩れた。
だが、安心と同時に徹底的に負けた気分にもなり、落ち込む。

「そりゃあ、しょうがないだろ。
暗部に関わりのあるところにぶちこまれてりゃ現実に気づくのは早くなる。
それに、あんなのでも私以上の超能力者だ。頭だけは良いのさ」



絹旗と垣根はもう一度再会する。
滝壺のこの予言に疑いを持っていた麦野も、今の垣根を見て疑いをなくしたようだった。
滝壺は満足そうに紅茶を飲んでいた。
その満足感は麦野が信じてくれたというところから来るのか、ただ単にお腹が膨れた事からくるのかは、滝壺にしかわからない。


〜〜〜

「……な、なんなんですか?今時B級映画、いやC級映画にもこんな展開ありませんよ?」

そっくりな二人が同じ顔を突き合わせ同じ顔で鏡のように固まっている。

「あんた……誰?」

御坂がほとんど意識しないまま声を出す。

「え?……えぇっとミサカは……ミサカはミサカは……えぇ?
てか、これどんな無理ゲーだよ、とミサカは一方通行の言いつけを破り外出したことを反省します」

諦めたように、ミサカ00001号はため息をつくとパニックから回復し、落ち着きを取り戻した。

「ミサカはミサカ00001号です。
初めまして、オリジナル……いえお姉さま」

御坂は未だに混乱中である。
ミサカ00001号の言葉を理解することができず、ただぼーっとミサカ00001号を見つめている。
誰だっていきなり自分と同じ容姿の人間が目の前に現れ、自分のことをオリジナルだのお姉さまだの呼び始めたら思考が止まる。

絹旗の方も、ミサカ00001号の口から出た一方通行という名前に反応した。

「第一位……一方……通行……?
それの関係、者?」

絹旗の目に怒りが染まった。


「オイ、美琴もどき……お前、今……一方通行と言ったかァ?」

「はい、言いましたが?それが何か、とミサカはちんちくりんに返事します」

「……この喋り方、聞き覚えあンだろォ?
私は、第一位のクソ野郎のせいで、ブチ切れるとこンな喋り方になっちまうように、なったンですよ」

ゆらゆらとミサカ00001号に近づく。

「……一方通行がクソ野郎?
もやし野郎の間違いではありませんか?彼はもやしですけどクソではありませんよ?とミサカは一方通行がバカにされたことに……怒り、を感じます」

暗闇の五月計画を知らないミサカ00001号は、一方通行をクソ野郎呼ばわりした絹旗に、内心少し戸惑いながらもしっかりと怒ることが出来た。

「あァ?あのクソを庇うとは、お前もクソなンですかァ?
お前に恨みはねェけど、一発ブン殴ってから一方通行の居場所吐かせてやらァ」

「上等ですよ、このちんちくりんが」

互いに睨み合い、戦闘体制にはいる。
ミサカ00001号は仮にも軍用クローン、このような言い方は一方通行は好まないだろうが、学園都市の力が作った“兵士”だ。
能力はオリジナルである御坂美琴には遠く及ばないが、体術は違う。
飛び道具を使う能力者だろうが、それを避けるくらいは寝起きでも出来るし、避けてしまえば後は懐に潜り込み肉弾戦に持ち込めばいい。
相手が今回のように絹旗など、近接戦闘もこなすタイプだった場合でも基本的には変わらない。
相手の攻撃を貰わないように回避に重きをおき、反撃を繰り返せば良いだけである。


だが、それはあくまで相手がスキルアウトの域を出ない素人だった場合だ。

ミサカ00001号は絹旗最愛を知らなすぎた。
一方通行が自分の行動を何も話さなかったせいとも言えるが、この絹旗最愛こそが、暗闇の五月計画成功個体であり、
戦闘能力に長けた人物ということをミサカ00001号は知らなかったのだ。

先に動いたのは絹旗だった。

一気に距離を詰め殴りかかる。
ミサカ00001号は最小の動きでそれをかわし、その動きを止めないように回し蹴りを仕掛けた。
それは絹旗の右側頭部に命中したが、銃弾すらも防げる窒素の壁に蹴りなど蚊が止まったにも等しい衝撃であった。
ミサカ00001号の足を左手で掴むと、そのまま思い切り引く。
足を掴まれた瞬間上体の力をすぐに抜き、絹旗の力のまま体に浮遊感を受けると、
その力の勢いをそのままを利用し、空いている足で絹旗の喉元を思い切り蹴り抜く。
だが、それも意味がない。

絹旗の左手には逆さ吊りになったミサカ00001号。
ミサカ00001号の方が若干身長が高いため、頭と地面の距離はかなり近い。

「……チッ……とミサカはこいつの体なにで出来てるんだよ、とぼやきます」

「はン、雑魚が私に刃向かうンじゃねェよ、この超縞パンが」


そう、ミサカ00001号はもちろん御坂や絹旗と同じ常盤台中学校の制服を着ている。
制服を着ているのだ、つまりはスカートである。
スカートで逆さ吊りになんてされたらそれはもう楽しい光景が待っているのです。

「……はっ!ちょっとあんた!流石にやりすぎよ!」

ぼんやりと二人の決闘とシュールな逆さ吊りな光景を見て御坂の脳内にやっと電気が走った。

二人に駆け寄り、絹旗の頭を軽く叩くとミサカ00001号の足から手を離させる。
自由になったミサカ00001号は猿のように地面に手をつき一回転すると、しっかりと足を地面に立った。

「とにかく、一方通行の話もあんたの話も、全部話してもらう。
最愛も、それでいいわよね?」

「……ビリってしました」

「美琴センセーのカミナリビンタよ。
で、いいわね?」

「……はい。てかこれ、髪の毛超平気ですか?
ビリビリでなんか超変な風になってませんか?」

絹旗がガーガー騒ぎ、御坂はそれを適当に相手する。
そして、ミサカ00001号を逃がさぬようにしっかりと腕を掴みながら、三人はファミレスに向かって行った。

絹旗は切れやすい。
切れやすいが、強い衝撃を与えればすぐに戻る。
御坂美琴は着実に絹旗最愛の扱い方を習得している。

アイテムの人間といる時に絹旗が切れないでいられるのはアイテムの人間が絹旗の爆弾を理解し、そこには触れぬように、
触れたとしても優しく爆発させないようにしているからだ。
しかし、表の人間には何が絹旗の爆弾で、そしてそれを爆発させるのがごくごく日常的なキーワードという事を知らない。
表の人間の日常的というのが絹旗にとっては非日常的であるのだ。


〜〜〜

パン屋さんの二階。
その部屋の住人には似合わないほど落ち着いた割と感じの良い雰囲気の部屋に、フレンダはちょこんと座っていた。
フレンダの前にはそわそわと落ち着きのない真っ白な男と、その男の横にはニコニコとした部屋の住人青髪ピアスが座っている。

「いやぁ、運命やなぁ!
土曜日っちゅー事を忘れてたまたま寄ったパン屋さんが僕の下宿先!
これを運命と言わずになんというか!
な!あくせられーやん!」

青髪は相手が第一位と知ってもなお、普通の友達に接するようにぱしぱしと一方通行の背中を叩く。
一方通行は困ったような恥ずかしいような表情で、フレンダに助けを求めた。

「はいはい、運命すごいすごい。
結局あんたは能天気な大馬鹿ってわけね。
あ、でもパンとココアはありがとう。
あんたの手作りってのが癪だけど美味しいわ」

——お、おっかない顔で睨むなよう……。

しかし、フレンダは平常心を必死に保っているに過ぎなかった。


——なんだって第一位が私のこと知ってるのよ! こわいよぉおお……!
睨むなよぅ……。

一方通行の助けを求める表情はフレンダには睨まれてるようにしか見えなかったのだ。

内心泣きそうな女が一人。
裏表なく楽しそうな男が一人。
そして、裏表なく困惑している男が一人。

室内は青髪の本当に楽しそうな笑い声だけが響いている。

「そ、それにしても……なんでパン屋さんで下宿してるの?」

フレンダは一方通行に話しかける事は無理だと判断し、くるりと青髪の方を向く。

「パン屋の制服が可愛かったから」

「そ、そう……なんか、むしろここまでくるとすごいなぁと思うってわけよ」

「ん?惚れた?惚れたんか?」

「あはは、死ねばいいのに」

ぐい、と顔を寄せて来た青髪に、フレンダは乾いた笑いで答えた。

「あ、あのよォ……」

青髪がなにやらくねくねとフレンダの言葉を噛み締めていると、一方通行がぎこちなく口を開いた。


「あっ!私もう帰るね!結局時間がまずいってわけよ!」

一方通行がなにを言い出すかなんぞフレンダにはわからないが、関わらない方がいいと判断し、逃げるように立ち上がった。
立ち上がったのだが、ここには陽気な男が一人いるのだ。

「えー?学校行くつもりやったんやろ?
だったら予定もクソもないやろー?
どうせならカミやんやつっちーも呼んでもっと遊ぼうやー!」

子供のように笑いながらここにさらに土御門元春を投入しようと陽気な男こと青髪はフレンダを追い詰める。
もちろん、意図しての事ではない。

——青髪、まじで、いつか、殺す。

「……いや、それはダメだ。
青髪、だっけ?悪りィな……俺ァはちとこの金髪に用があってな、ずっと探してたンだ。
ふたりきりじゃなきゃ出来ねェ話だから、俺も失礼するぜ」


意外にも一方通行が、その申し出を断り、逃げ道を確保した。
一方通行の渡したその船は助け舟なのか、それとも地獄まで流される渡し舟なのか、それはわからぬがフレンダはその船に乗るしか方法はない。

「……あんたが私だけを部屋に誘ってくれたら良かったのに……。
そうしたら結局少しくらい優しくしてやったってのに……」

フレンダは諦めたように、一方通行について部屋を出た。

「ちょ、ちょい、待ち!」

二人を追うように青髪も部屋を飛び出し一方通行を呼び止めた。

「あンだよ?」

「……フレンダちゃん泣かせたら許さんで」

「……お前如きが俺になァにが出来るってンだ?」

「さぁな、でも、許さんで」

「……チッ、大丈夫だ。
信じろ、とは言わねェが……まァ大丈夫だ」

一方通行は青髪に笑いかけると、そのままフレンダを従えフラフラと歩きはじめた。

「どうして私ばっか暗部の要注意人物や学園都市の頂点に絡まれなきゃいけないってのよ……」

フレンダは青髪と一方通行のそのやりとりは全く耳に入っておらず、自身の不運を呪っていた。

ここまで

昨日落ちてたね

ではまたよろしくお願いします!



〜〜〜


フレンダは完全に萎縮してしまっている。

青髪の下宿を出たあと、逃げ出そうかと考えていたが、
どうせ追いつかれる&もしかしたら殺されるかも、と考え直しおとなしく一方通行についてきた。

——何だってのよ……。
結局こいつ私に何のようがあるってわけ?

第二位とは戦えた。
しかし、それは麦野が側におり、滝壺が側におり、そして絹旗のためだからだ。
しかし、今ここに第一位とぶつかる理由がない。
第一位がアイテムを狙っているのだとしたら間違いなく麦野、滝壺を狙うはずだ。
ただの戦闘要因のフレンダと絹旗など第一位は寝起きでも、いやもしかしたら寝ていても殺せるはずなのだ。

「……」

一方通行も黙ったままフレンダをチロチロと見ている。
表情は固く、なにを考えているのかはよくわからない。
それが、フレンダの恐怖を煽る。

実は一方通行の方も

『やっべ、女の子と二人とかどうしたらいいの?
ミサカの野郎はなンか自然と家に連れこンどいてアレだけどどう話切り出したらいいの?』

などとパニクっているなどと思いも寄らないだろう。

何故コミュニケーションが苦手な一方通行がミサカ00001号とは自然と話をし、
同棲まがいの事まで出来ているかというと、やはり出会い方が大きな理由だろう。



銃を突きつけられ、その銃を構えているのは超能力者の中でも有名な御坂美琴と同じ顔。
その時点で相手が女だとか、そんな事は些細な事になったのだ。
しかし、今のこの状況。
最終目的をいえば、ミサカ妹達を助けるという大きな理由があるのだ。
それを考えたらその最初の一歩に苦手な女の子との対話があるなど、日曜日なのに寝起きが良くなかったくらいのどうでも良さだ。
だが、それは物事を大きな視点でしか見ていないからそう言えるのである。
細かい視点を持ってみると、自ら見知らずの女の子に声をかけ、話をする、というなんともまぁナンパしているようにしか見えないシーンである。

「……ナンパ……?」

そう考えてしまい、ついそれを口に出してしまう。

ろくに女の子と会話、いや人と会話した事のない自分がナンパ……とますます一方通行の顔色は「いっそ殺せ」という色に染まって行く。

そして、顔色が変わったのは一方通行だけではない。
もちろん、フレンダの顔色も変わった。
当たり前のように一方通行の口から出た言葉には過敏に反応する。

——な、難破? ……わ、私船に乗せられてそれごと沈められるの?
そこまでの事なんかした? なんなの?

さぁーっと青くなる。


「あ、あのよォ……」

「あの世!」

「はァ?」

「あ、あの世ってなんなのよ!
結局私なんかしたってわけ?
なんでいきなり第一位が私をあの世送りにする宣言しにくるのよ!」

即座に「あのよ」と話しかけたのがフレンダの中では「あの世」と変換されてしまった事を一方通行は理解する。
その頭の回転の良さがあれば相手の心を掴むコミュニケーションなど容易いはずなのだが、それが出来ないのが人間である。

「ち、ちが!」

慌てて訂正しようとするが、

「血がぁ……?
出血多量のち……な、難破船コース……?
あんた……私にどんな恨みがあるのよさ……」

それすらもフレンダの耳には恐ろしい言葉に変換される。

「だから!」

「身体……?体目当てってこと?
だったらなんでも言うこと聞くから殺すのはやめて欲しいってわけよ!」

もう、会話が成り立つ要素がない二人である。
一人は偏見と思い込みですべてを負の方向へ変化させて行き、もう一人はその強さゆえに人との接し方がわからずあたふたしている。
これで会話が成り立つわけがないのだ。


フレンダは度胸はある。
勇気もある、そしてそれゆえに強い。

度胸と勇気に裏付けされた強さは相手の力がわかってしまうということだ。
一方通行はフレンダと出会ってから能力はほぼ使っていない。
麦野や垣根と違い人を殺して来た人間でもない。
しかし、その身に降りかかる火の粉は全て跳ね返して来た。
殺意も妬みも憎悪も、何もかもをだ。

殺意を跳ね返すにはこちらも殺意を持って相手を叩きのめす必要がある。
妬みを跳ね返すにはこちらは本能レベルで悟らせる力の差を見せつけなくてはならぬ。
憎悪を跳ね返すにはこちらが相手よりも邪悪にならなければならぬ。

それが、フレンダの中での生きていく方法だった。

フレンダにはそれしかできなかった。

しかし、この一方通行という男は殺意をもった相手に怯え、心を痛め、哀れみながらも、
指一つ動かさず、相手を殺すこともなく、沈黙させて来た男だ。
妬みも憎悪も、すべてに心を痛め、自分を呪い、それでも殺すことも死ぬ事もなく生きてきた疑い様のない最強だ。

それが、フレンダにはわかってしまった。

——殺意を抱いても無駄。
——妬むのすら馬鹿らしい。
——憎しみなんて意味がない。

——全て、些細なこととして蹂躙される。


少し前のフレンダならばアイテムを売ってでも自分だけが助かろうとしたであろう。
もしくは、格の違いすぎる相手に出会ったことに苦笑いを浮かべつつも死を受け入れただろう。

しかし、今のフレンダは違う。

アイテムを売るくらいならば自分が盾になろう。
いくら格上だろうと生きれるならばなんでもやろう。
とにかく、生きていたい。
世の中の楽しさも、人の楽しさも、やっとわかりかけて来たのだ。

死にたくない。

何処かの天使が言えないその一言を素直に言えるだろう。

「はァ……もういい、疲れた。
一回落ち着こうぜ、まずは自己紹介しよォぜ。
俺は一方通行だ」

自己紹介ならば、好きなもの、趣味、などを本来いうべきなのだろうが一方通行は自己紹介などしたことがない。
名前を言ってそれからなにを言っていいかわからなくなった。

「うン……俺は一方通行だ」

「結局名前はわかったってわけよ。
えぇと、私はフレンダよ。
というか、私のこと殺すのにどうして自己紹介なんかさせるってわけ?」

まだ、怯えが抜けない。
そして、一方通行が自分と同じ側だと思い込んでいる。


「そりゃあ、誤解だ。
俺は垣根帝督に用があるンだよ」

やっとである。
昨日チキッたため果たせず、今日たまたま出会ってから長い道のりであった。

やっと、本当の用事を伝えることに成功すると、フレンダは今までの恐怖も怯えも全てを捨て去り、一方通行を睨みつけた。

「垣根帝督に用事……?
結局、それって……絹旗にも関係無いわけ無いってわけよね?
暗闇の五月計画の最終テストは、オリジナルの第一位の力と、
それに似せたまがい物との殺し合い、とか笑えない事言ったら……私はあんたを、殺してでも止めてやる」

殺意が一方通行に向けられた。
しかし、一方通行はその殺意を反射することなく受け入れる。

「本当ォに笑えねェな」

フレンダから視線を外し、みるからに落ち込む一方通行にフレンダは眉をひそめた。

——なんだ、こいつ……というか、どうしよう。
これがマジなら麦野に伝えなきゃならないし……てか、青髪やばくない?
私が消えたら間違いなくあいつ第一位を疑うってわけよ。
……ここではまだ死ねない、死ぬならせめて上条や青髪に別れを告げてからじゃないと……。

アイテムメンバーならば問題はない。
なぜならば、自分が死んだことは絶対に突き止めてくれるし、
自分が死んだとわかったら自分の最後の言葉くらい死体からでも遺品からでも、
読み取ってくれると信じているからだ。


「そォだな……垣根帝督に会う前に……まずは絹旗最愛に、会わなきゃな……」

とりあえずの逃げ方を考えていると、一方通行は何かに耐えるように顔をあげた。

その表情は知っている。

初めて人を殺した時にみた自分の表情だった。
人を殺すのに慣れた時にみた自分の表情だった。

取り返しのつかない事に対する、恐怖と後悔の表情である。

それを思い出し、フレンダは自分の中にまだそんな恐怖や後悔があるのかと嫌になる。

だが、ここでフレンダの戦意は折られた。

——結局、こいつ……暗闇の五月計画に後悔してるってわけね。
だったら……笑えないって言葉も、私と同じ意味って事よね。

「あいつに謝らせてくれねェか?
許して欲しいなンて言わねェし、言い訳なンかも一切しない。
だから、どうか、謝らせてくれ」

その言葉で完璧に戦意は折れた。

「……ごめん、あんたの事結局勘違いしてたみたいだわ」

「あァ、気にしてねェよ……」

「そんな事言って、本当は傷ついてるってわけね?」

一方通行が自分とは比べ様のないほど善人だとわかるともう怖いものはない。
ニヤニヤと一方通行をいじり始めた。
流石にお店の中なので上条に対してやった色仕掛けはしなかったが、延々と二時間ほど一方通行をいじり倒した。

「お前、キャラ変わりすぎだろ……」

げんなりとした第一位は、会計を終えるとそんな言葉を残しフレンダと別れた。


〜〜〜

時は常盤台の制服を着た三人組が、完全個室の小料理屋に入ったところまで戻る。

「超能力者ってのはどうしてこう超お高そうな個室料理店とか知ってんですかね」

絹旗はどこか居心地悪そうにしている。

「ばーか、お嬢様校舐めんじゃないわよ。
ここより凄いところにコネある子なんて常盤台には沢山いるわよ?」

「雑草の私には超居心地悪いです」

「超能力者ともなれば実験協力の依頼などで連れて来られる事も多そうですよね、とミサカはそわそわしてるのを必死に隠します」

「……一方通行とかそういうレベルになったら、そりゃあ超凄い生活してるんでしょうね」

刺々しい言い方で、だいぶわかりやすく一方通行と関係の深いであろうミサカ00001号を責める。

「馬鹿なちびっ子の相手をするのは面倒ですね、とミサカはごちゃごちゃやかましいモアイを馬鹿にします」

「あァ?」

「はいはい、そこまで。
とりあえず、あんたは何者なの?
一方通行とはどういう関係なの?」

自分そっくりな人間。
しかも、そいつは自分をオリジナルと言った。
そこまで来たら中学生とはいえ、むしろ中学生でここまで努力で上り詰めた御坂ならば思い当たる事はあった。


ミサカ00001号へのその問いかけは、自分の愚かしさを見る事になるのではないかと少しだけ怯んだ。
だが、その愚かな自分を見なければ、前には進めないのだという事も御坂は知っている。

「ミサカはお姉さまのクローンです。
一方通行に殺されるためだけに生まれて来たミサカ妹達の一人目、ミサカ00001号です。
とミサカはもうここまで来たら隠すのなんか無理だわと正直に白状します」

「クローン……まさか、十年くらい前の……筋ジストロフィーの時に提供した……」

御坂の顔色が変わった。
ミサカ00001号はすぐにそこにたどり着いた御坂に、流石ですね、と笑っていた。

過去の自分の愚かさは、今の自分ではとても乗り越えられないもののように感じられた。

「……どうして生まれたかは関係なくなりましたね。
この街のクソッタレさを四歳五歳の美琴に理解しろなんて無理ですし、過去を変える事なんか出来やしません。
それよりも——」

「それよりって何よッ!」

この街の邪悪さを良く知る絹旗としては、DNAマップの提供があった、それだけでクローンについては解決がついた。
では、次に知るべきは殺されるために生まれたという部分と、一方通行がそんな非道な実験をしているという事の真偽を見極める事だ。
恐らく、現れたのが自分のクローンでも、家族のように慕っているアイテムメンバーのクローンでも同じ思考をしたであろう。
それは、きっとアイテムのメンバーの誰が今の御坂と同じ状況に落とされても誰もが同じ筋道を辿っただろう。


解決したどうにもならない事は、他にやるべき事があったら一旦保留する。

暗部組織に馴染んだ者の生き方である。

「私の……私のせいで、この子は殺される運命を背負ってしまったのよ?
生まれて来て、死ぬためだけに生きて……死ぬために生きるなんて間違ってる」

だが、御坂美琴は表の人間だ。
喧嘩やなんだと荒れごとに慣れていても、人の死には慣れていない。

だから、とりあえず怒る。
人道的でない、と絹旗からしたら鼻で笑ってしまうほどの甘さで怒る。

「そんなの、超覆せば良いんじゃないですか?
ミサカ00001号はまだ生きている。
こいつが殺される前に、一方通行を殺せば良いだけですよ」

それに、とジッとミサカ00001号を見つめながら探るように尋ねる。

「やつの一方通行の庇い方は、実験のためという感じではありませんでした。
クソッタレ第一位ならば殺すような実験に嬉々として参加するかもしれませんが……。
でもまだ、一方通行がその実験をどうしたかなんてわからないじゃないですか」

部屋の中の空気が、すっと冷めたものになる。

そして、そのタイミングを待っていたかのように、襖が開き料理が運ばれて来た。


お店の人が料理を並べていく間、三人は一言も喋らない。
それぞれが考えをまとめているようだ。

全て並べ終え、出ていくと、御坂が弱々しい声色で話し始めた。

「……その可能性は、低いと思う。
なんのための実験か知らないからなんとも言えないけど、この子は今、ミサカ妹達の一人目と言ったわ。
それって、二人目三人目がいるって事でしょう?
一方通行が実験を蹴った場合、この子達を……作った、意味が……無くなる」

最後は絞り出すように言った。
決して言いたくない言葉だっただろう。

「……逆、は考えられませんか?
美琴のクローンならば、レベルも相当なものだろう。
ならば、クローンを量産して戦力にしよう。
しかし、思ったよりもレベルは上がらず、処理に困ったので……って可能性も、超あり得ます」

「……それだったら、一人目の時点で気づくでしょう?
それでも、初めから量産が決まってたって事なら、一方通行の実験以外考えられないわ」

「能力もオリジナルと同強度になる成功率が二十パーセント、とかいう計算を出していたら、量産もあり得ますって。
二万人くらいは作って、四千人レベル5が出来たら上出来、一人でも成功です。
この街のゴミどもなら平気な顔でやります」


御坂と絹旗が真剣に話している間、ミサカ00001号は目の前に広がる料理に箸を伸ばしたくて伸ばしたくて、仕方がなかった。

「その話なら最愛の正解ですよ、とミサカは悔しいが話を早く終わらせようと、敵を褒め称えます。
あぁ、あと一方通行は実験やる気ないみたいです。
むしろ、実験を潰すためにあれこれ動いてますよ?
お姉さまと同じように、私が死ぬために生まれて来たモルモットだと言ったら怒っていました。
彼は……優しいモヤシですよ、とミサカは照れ隠しに一方通行を罵倒します」

「そりゃあ、どういう事ですか?
勿論、お前が殺されないのはまぁ、嬉しいですが……実験を潰すために動いている?
一方通行が?
私たちだって辛くて、苦しい思いをしてたのに、今回だけは、助けるって超そう言ってンですか?」

ミサカ00001号が嘘をついているかいないかなどはわかり様がない。
なのでここは一応話を信じてみる。


そして、今、他にやるべき事はなくなった。
ミサカ00001号の生まれた理由もわかり、一方通行の行動も真偽は定かでないがつかめた。


ここからは、どうにもならない過去の事に怒りを燃やすだけだ。


「無茶苦茶な事やらされて、毒みたいな物飲まされて、望ンでもないのに脳内引っ掻き回されて……。
あいつが、私がどれほど苦しンだか、それを、今回は助ける?
死ぬために生まれて来たモルモットだと言ったら怒った?
だったら、なンで私たちの時はたすけてくれなかったンだ?
無理な負荷で廃人になっちまったやつもいたぞ?
どれほど、あいつが泣いて、どれほど私が苦しンだと思ってやがる」

別に助けて欲しかったわけではない。
ヒーローのように現れて救って欲しかったわけじゃない。
ただ、気に食わなかった。
強者の気まぐれで、自分の人生が引っ掻き回されるのが気に入らなかった。

いや、自分だけならば絹旗の怒りはそこまで大きくは無かっただろう。
絹旗は垣根帝督を思って怒っていた。
実験で苦しい思いをするたびに泣いていた垣根。
被験者が倒れたらそれがたとえ一言も言葉を交わした事がないものであっても心を痛めていた垣根帝督。

垣根だけは、救ってあげて欲しかった。

自分では救えなかったから。
自分では、その涙を拭ってやる事しか出来なかったから。


垣根が笑っていられる日々を何よりも望み、垣根が泣いている世界を何よりも嫌った。
自分の目の届くところで泣いているならばいい。
しかし、自分の目が届かないところで垣根が泣いていると考えたら絹旗は怖くなった。
だから、垣根が泣かない温かい世界に彼を連れ出してあげたかった。
自分には出来ないから、この実験の最高責任者よりも力を持ったもの、実験の成り立つ前提の一方通行に垣根たちのいた世界を壊して欲しかった。

「ミサカに言われてもこまりますよ。
ミサカは最愛が関わったという実験に関しては知りません。
でも、そういう事情があったならあなたが彼を悪くいうのも仕方ありませんね、ここは普通に仲直りしましょう、とミサカは大人の対応をします」

その清々しいまでのさっぱりとした性格に、絹旗も毒気を抜かれてしまう。
つり上がっていた目はしょぼんとし、反射的に目の前においてあったお茶を掴むと、一気に飲み干した。

「……一方通行に、会わせてください。
それで、全てが解決します」

「えぇ、私も会いたいわ。確かめるために……」

御坂もミサカ00001号の言葉をまるごと信じたわけではない。
ミサカ00001号を疑うというよりは、一方通行を疑っていた。
ミサカ00001号にそう思わせているだけという可能性もあるのである。

ここに来るまで、そして来てから、気づけばずいぶん時間が経っていた。
三人はとりあえず、今はもうこの話を忘れ、目の前の料理を楽しもうとやっと箸を伸ばした。

ここまで
はい、主人公の垣根帝督さんが相変わらず空気です

今回は中二日?三日?という良いペースで来れました

また次もこのくらいのペースで頑張ります

では、次回もよろしくお願いします!


〜〜〜

「あー、つっかれた」

心理定規の待つ家に最初に帰ったのは麦野たち三人であった。
昼過ぎくらいのことだ。
もっと怒って帰ってくるものと思っていた心理定規は三人の機嫌の良さに逆に不安になった。

「お、おかえりなさい」

「おう、お前が今日土曜日ってことを教えてくれなかったのは垣根にとって予想外だったみたいだぞ。
流石の第二位も女の性格の悪さは読めなかったわけだ」

麦野は楽しそうに笑って言う。

「……どういう意味?」

「垣根に会った——」

その言葉を聞いた瞬間心理定規の顔が真顔になった。

「どこで! あの人は今何をしてるの?
無事なの? なんで連れて来なかったのよ!」

麦野に掴みかかるように迫る。
その勢いに圧倒され、一歩下がった。

「お、おいおい……落ち着けよ」

「落ち着いてなんか——」

心理定規は言葉を途中で止めた。
そして、ため息をつくと、右手を額に預ける。

「ごめん、少しパニクった。
そんな、簡単な話じゃないわよね。
無理矢理連れてきても、みんなが傷つくだけだわ」

心理定規という女は、賢かった。
そして、よく出来た女であった。
自分の行動の意味を、激しい感情に襲われている時ですら、考える事が出来た。
しかし、その聡明さを目の当たりにした麦野沈利はそれを評価しなかった。


「……なんつーかよ、確かに、落ち着いて話を聞いてくれって思ったけど……それはそうするのが難しいからだ。
ムカついたらもっと怒れよ。
私に、ムカついてるんだろ?
頭では、今の言葉通りだとわかってるけど、感情ってのはそう簡単に抑え込めるもんじゃない。
切れて、当たって……それから謝って落ち着いてくれたほうが人間らしくて安心するよ」

その言葉を、暗部組織のリーダーの言葉とは思えないほどの甘さだ、と心理定規は思った。

しかし、麦野は本気でそう言っている。
それがわかるほどには彼女たちは仲良くなった。

「馬鹿、じゃないの?
そんなの、そんな事したら……付け込まれる。
死に繋がる……」

感情だけで動くのは敵にスキを見せるという行為だ。
それは最も愚かである。
感情で発した言葉を突っ込まれたら返し様がない。
その言葉を本当に言ったのかすら覚えていない場合もある。
死が当たり前の世界で感情というのはどこまでも邪魔で、どこまでも死に近いものだ。

しかし、

「馬鹿はお前だ、なずな。
お前の目の前にいる人間は誰だ?」

今目の前にいる人間は、

「誰って……麦野さん、滝壺さん、結標さん……でしょ」

「あぁ、そうだ。
私らは、敵じゃねぇだろ。
敵でもなけりゃ交渉相手でもねぇ、友達で仲間で、家族みてぇなもんだろ」

心理定規の敵ではないのだ。


「あ……」

心理定規の不安。
それが、ひとつ解けた。

当たり前のように自分を信じ、当たり前のように自分を受け入れてくれたアイテムという箱。
その箱の中にはやかましい連中がいて、偽名だと何度も言っているのに、なずなという名前で心理定規を呼ぶ。

だけど、心理定規はどこか心の奥底では疑い続けていた。
軽口を叩き合って、寝食を共にし、それでも、どこかこの箱庭を疑っていた。

ここに私はいらない。
いてはいけない。
本当は邪魔者でしかない。

学校へ行くのを送り出した時、ひどい疎外感に襲われた。

私も、一緒に行きたい。

置き手紙を残したにも関わらず戻ってきた時、底抜けの喜びを感じた。

私も、一緒に生きられる。

何故、疎外感に襲われたのか。
何故、おちょくられる事がわかっているのに戻ってきたのか。

私は、ここにいたいんだ。
この人たちの中に、いたいんだ。

垣根帝督だけが自分の帰りたい場所だと思っていた。
そうあるべきだと思っていた。

ふたつも帰りたい場所があって、両方が一番大切。
ふたつも一番があるなんておかしいと思っていた。

「私……」

涙がひとつ頬を伝う。

「帝督に、会いたい。ここに、いたい」

シンプルな答えが自然と口をでた。
大切な、ひとつの答えだ。

「みんなで、笑って……生きたい」

絹旗達がなずな、と呼び続ける理由がわかった気がした。

なずな、春の七草のひとつで、下町を思い出させる素朴な花だ。
しかし、その花言葉は壮大で、嘘のように優しい。

全てを捧げます。

アイテムは、そのメンバー誰かのためならば、全員が全力でぶつかっている。
損得など忘れ、自分の力を全て“アイテム”が生きるために捧げている。
その中に、心理定規もすでに入っていた。


〜〜〜

次に帰ってきたのはフレンダであった。
一方通行が見たら「キャラ、変わりすぎだろォ……」とまた言うだろう。

フレンダの素顔はどれなのか。
アイテムではしゃぐ顔が素なのか。
上条をからかってる時が素なのか。
一方通行で遊んでいたのが素なのか。

答えは簡単だ。
きっとフレンダはこう言うだろう。

『そんなの、結局全部素顔に決まってるってわけよ』

フレンダはこう考えている。
誰にでも同じように接するのは美しい事なのか。
いや、それは違う。
それでは、その人にとって世界は自分と他人しかいないではないか。
平等というのは周りが全く同じという事だ。
そこには愛も情もない。
あるのは偽りだけだ。

全く同じ人間など存在するはずがないのだ。
クローンである御坂とミサカでさえ、その性格は似てはいるかもしれないが同じではない。
同一のDNAを持っていてもそうなのだ。
ならば上条と麦野。
麦野と絹旗。
絹旗と滝壺。
滝壺と一方通行。
一方通行と青髪。
それぞれ全く違った存在だ。
ならば、その存在を前にした時に自然と素の自分が変わるのは当たり前なのである。
そして、それは同時にフレンダにとって相手がそれぞれ特別だという事の証明だ。
例えばコンビニ店員や道ですれ違う人、それらは他人だ。
どういう運命をたどろうがフレンダは知ったこっちゃない。
なので、それらに対してはみな同じ接し方をする。
他人を前にした時の素を出すのだ。


しかし、アイテムや結標、上条などは他人ではない。
それぞれがみんな別の役割を持っている。
もちろん、重なっている役割もあるだろう。
しかし、その人しか持っていない役割も必ずあるのだ。

だから、フレンダは人によってキャラクターが変わってしまう。
それぞれが別の人間なんだと思うとその人といる時に一番落ち着ける自分が変わってしまう。

それはもしかしたら良くない事かもしれないと悩んだ事もある。
だが、別にこれでいいや、とフレンダは思っている。
何故ならば、それが自分という存在だからである。

そして、完全にくつろいだ甘えた素顔でフレンダは家に帰ってきた。

「たーだいま! 聞いてよ聞いてよ」

ソファに座り何やら真剣な話をしている麦野達に、帰宅を告げると話をぶち切り話始める。

「私、第一位と友達になっちゃった!」

てへ、と笑いながらフレンダは今日あった事を話し始めた。

一方通行が垣根に用がある事。
絹旗に謝りたいと言っていた事。
からかいがいのある面白いやつだった事。

そして、一方通行は敵にはなり得ないという事。

「最初は暗闇の五月計画がまだ終わってなくてその仕上げのためかと思ったけど、違ったってわけよ。
むしろ、あの実験は一方通行にもトラウマになってるみたいだった。
垣根になんの用があるかはわからないけど、絹旗に会わせても問題はないと思うわけよ」


その話を聞くと、麦野は頭を抱えた。

「おいおい、このタイミングで第一位が出てくるなんて、垣根にとっちゃ最悪なんじゃねぇか?
つーか、トップ二人と第四位、超能力者がこんだけ関わるなんて暗闇の五月計画とやらはなんなんだよ」

「結局、ここで絹旗が御坂美琴がらみの暗部実験持ってきたら笑えないってわけよ。
でも逆に言えばここで暗闇の五月計画を潰せたら暗部組織自体をだいぶ参らせる事が出来るって事じゃない?」

フレンダはニヤリと笑った。

「……ふれんだにしてはなかなかいい意見だね。
超能力者が三人も揃ってやっと参らせる事が出来る程度だけど」

「……てかさ、ずっとぼんやり聞いてたけど、私これ聞いてていいの?
一応一般人なんだけど」

結標は恐ろしい事に足を突っ込んでいる事を今更思い出したようにつぶやく。

「あ?お前だって案内人とかいって暗部の人間だろ?」

「違うわよ! 案内人はバイトみたいな物!
案内する人も、案内先の人も私は知らないもん!
ただ、結構お金もらえるからやってるだけよ」

「……まぁ、あれだ。
私らが責任持って守ってやっから安心しろよ」

ここまで色々話をしてしまった以上、無関係と言い張っても無駄だろう。

自分たちは垣根を救おうとしている。
その垣根は自分たちを救おうとしている。
救うというのが何を指すのかまだはっきりとはしていないが、少なくとも暗部の上層部には面白くない結果になるだろう。
その時に、人質と狙われるのに、超能力者の自分はあり得ない。
狙われるとしたら、戦闘向きでない心理定規や滝壺をまず考える。
だが、二人は暗部で生きてきた人間だ。
それを捕らえるのは簡単だとしても、自分が助からないと判断したら自ら命を断ち、人質としての価値をなくすだろう。

そう考えると、能力は強大だが、精神が脆く一般人の結標のほうが人質としての価値は高くなる。

——ミスった。結標淡希は帰すべきだった。

垣根達と別れたあと、そのまま自分たちの住処へ何も考えず連れてきた事を麦野は後悔していた。

——こいつを怖い目に合わすのは嫌だな……。

麦野にとって暗部以外の友達は結標が初めてだ。
結標は麦野を超能力者としてではなく、一人の人間として扱ってくれる。

無論、それは滝壺にも言える事だ。
滝壺にとっても、結標は初めての友人である。
だから、気持ちは麦野と同じだった。

「大丈夫、私たちは……アイテムだもん」

麦野の肩に手を載せ、そうつぶやいた。


〜〜〜

最後に帰ってきたのはもちろん絹旗である。

麦野達は垣根帝督と遭遇した事を絹旗に言うべきかどうか迷っていた。
絹旗は垣根の事になるとまだ異常な感情の動きを見せる可能性があると、全員が思っている。

そして、迷っているのは絹旗も同じであった。

——どうしましょうかね。一方通行と会うのはみんなに黙っていた方がいいですかね?
余計な心配させるだけな気がしますし。

あまり元気のない声で、ただいま、と言いながら部屋にはいる。

「きーぬっはたぁあああ!」

そして、そんな元気のなさに全く構わずにフレンダが飛びついた。

「うわっ……なんなんですか!」

反射的に体を縮め、両手で頭をガードすると、ちょうど肘がフレンダのこめかみあたりに当たった。

「いったた……なにって、抱擁よハグってわけよ。
おとなしく抱かれなさいよ。
お土産話もあるからさ」

行動の真意は不明だが、フレンダは絹旗にジリジリと詰め寄る。
本当に、フレンダという女はなにがしたいのかよくわからないやつである。


「いや、なんか超キモイんですけど……。
ぱんちしてもいいですかね?」

「あらあら、最愛ちゃんってば私の事嫌いだっていうわけ?」

「愛をこめてぱんちしたらいいんですか?」

「まぁ、いいや。
とりあえずおかえり!
お土産話あるから手洗ってうがいして着替えたらすぐまたここ集合ってわけよ」

このまま続けたら本気で殴られると思い、おとなしく引くとたたんで置いてあったTシャツを一枚投げ渡した。

それを受け取ると、絹旗は言いつけ通りに手洗いうがい、着替えを終え、戻ってくる。

「んで、お話とはなんですか?」

「んー、めんどくさいから単刀直入に言うわ。
一方通行があんたに会いたいって言ってるけど、どうする?」

先ほどの空気と全く違う、真剣な顔つきで言った。
麦野達は黙って二人を見ているだけだ。

「……は?」

あまりにも予想外の事で、絹旗は固まるり、今の言葉ではなく、フレンダのわけのわからん出迎えの意味を理解した。


「はぁ……まぁ、なんというか……フレンダってやっぱり実は超空気の読める良いお姉ちゃんって感じですよね。
さっきのあれ、私が何か考え込んでたから、そんな時にこんな話いきなりぶつけても超パニックになると思ったんでしょう?
それで、私の気を落ち着かせるためにあんな意味わからん事したってわけですよね?」

「いや、まぁ……それは今はいいってわけよ!
で、どうするの?断る事も出来るわよ?」

少しだけ照れたようにフレンダは頬を赤くした。
そして、フレンダは一方通行が謝るつもりだという事は隠している。
それを先に行ってしまうのは、ルール違反だからだ。
謝られるとわかっていたら絹旗は本気で怒る事が出来なくなってしまうだろうし、一方通行もそんなのは望んでいないと思った。
勝手な推測だが、勝手なのが自分なのだと開き直る。

「そうですね、会いますよ。
というか、こっちでも一方通行に用があるんです。
麦野達にも聞いて欲しいんですが……。
そうですね、美琴も呼んじゃっていいですか?」

最後の一言に、麦野達は一瞬真顔になった。
そして、信じられないという困った笑いを浮かべたフレンダを一斉に見た。

「え?なんです?」

「いやぁ……やっぱ、私……空気読めてないなぁ……と」


『結局、ここで絹旗が御坂美琴がらみの暗部実験持ってきたら笑えないってわけよ』

冗談で口にした事が、本当になってしまったのだ。

本格的に笑えないくらいの大事になってきた、と絹旗とフレンダ以外の全員が、ため息をついた。

ここまで!

最近ペースいいね、良い事だ。

では次もまたよろしく!

ペース イイヨォ ハジメマス




〜〜〜

フレンダの乾いた笑い声を背中に聞きながら絹旗は御坂に「今から来れないか」という電話をした。
だが、今からは行けないとあっさり振られ、その翌日会う約束を取り付けた。

そして、日が昇り、絹旗は御坂美琴との待ち合わせ時間よりも少しだけ早く待ち合わせ場所に来ていた。

それは、なにも御坂と会うのがものすごく楽しみだったとか、そういうわけではなく家では一人で考え事が出来ないからだ。

——帝督……元気そうだったらしいから良いんですが、一緒にいたという二人組が少し気になりますね。

結局麦野たちは垣根と会った話を絹旗にしていた。

——どんな仕事を……してるんですかね。
どうして私はそこに、いないんですかね。

自分だけが日の当たるところで笑っていることに対する罪悪感が大きくなる。
垣根も同じ場所に来る事が出来ないならば、自分が垣根と同じ場所に行きたいと強く思った。

だが、その願いは自分だけではなくアイテムという大切な人達全てを巻き込んでしまう事をしっかりと絹旗は理解していた。

——だったら……潰すしか、ないじゃないですか。

何かを構成している表舞台があれば、当然裏舞台もある。
光があれば影が出来るし、影があるという事は光もあるという事である。


つまり裏舞台を壊すという事は、同時に表舞台が回らなくなるという事だ。

回らない舞台に観客はつくだろうか。
答えは簡単だ、着くはずがない。

では、舞台を止めてしまったら、舞台俳優はどうなるのだろうか。
演じる場所を、生きる場所を奪われ追われて行く。
舞台の外に帰る家のあるものはいい。
だが、自分たちのように舞台の上が唯一の場所の者はどうなる。

答えは簡単だ。

沈んで行くだけである。

暗い闇に、舞台裏よりもさらに暗い闇の中へ。

——でも、潰すなんて、そんなのは超無理。
結局は超八方ふさがりなんですよね。
はじめから歪んだゲーム盤の上で私たちは戦おうとしているんです。
全員が救われる事なんて、超あり得ません。

だからこそ、と絹旗は決意する。

「あらら、早めに着くように出たのに……おはよ!最愛」

「超おはよう!美琴!」

——表舞台の美琴や、学校の奴らだけには、この歪んだゲーム盤に気づかせない。

気づいてしまったら、落ちてしまうから。
まっすぐ立とうとしたら、滑り落ちてしまうから。
知らなくて良いのだ。
知らなくて良い事を知らないでいるのは罪ではないのだから。



〜〜〜

一方通行は泣きそうであった。
というか、半分泣いていた。

——……こわい。

場所はアイテムのアジト。
アイテムの家だ。

そこのリビングに第一位一方通行は正座している。

一方通行の目の前のソファには麦野沈利が腕を組み鬼の形相で鎮座している。

一方通行からみてその右横には真顔の滝壺理后がちょこんと座っているが、その真顔は下手したら麦野の般若面よりも恐ろしい。

左横には冷めた表情の心理定規が座っている。
恐ろしくはないが、一方通行にはこの表情が一番答えた。

居心地が悪く、思わずすいっと視線を三人からずらすとニヤニヤと楽し気なフレンダが目に入り、途端に冷静になった。

——……こいつらは、絹旗のために怒ってるンだよな。

昨日のフレンダの様子を思い出す。
自分にぶっ殺されると勘違いし、ガタガタ震えていたフレンダがフレンダの友人の名を出した途端、牙を見せた。

完全に降伏状態であった者がその恐怖をはねのけ牙を向くというのは、並大抵の事ではない。

——そっか、絹旗って奴はみンなに愛されてンだな。

「……言いたい事はわかる。
いや、わかってるつもりになってるだけなンだと思うが……」

まっすぐと三人に、特に麦野を見つめた。

「お前らは、いいな。
絹旗最愛のために、本気になったら決して敵わねェ俺にも牙を向けて来る。
そォいうのを、友達っていうンだろ?」


「……元を辿れば……お前が居たからあの実験があったんだ。
正直いますぐぶち殺してやりたいが、それは、絹旗の決める事だ」

自分のせいで暗闇の五月計画が存在した。
それは、誰が悪いとかそういう話を抜きにしても事実だ。
しかし、それは一方通行の責任かと問われればそれは違う。
昨日のフレンダの「一方通行もあの実験がトラウマになっている」という報告から、おそらく一方通行は実験の内容を知らなかった。
もしくは、実験の存在すら知らなかったと伺える。
それがわかっているにもかかわらず、麦野は言わずにいられなかった。
それをあとで後悔することになろうとも、どんな状況にも負けない冷静さなど持てなかった。

「あァ……全くその通りだ。
だから……いや、この先は絹旗最愛に言うのが正しいンだろォな……」

一方通行は笑ってそう言った。
麦野の言葉の前半は正しいが正しくない。
その間違いすらも、自分の責任だと背負う一方通行が、垣根帝督とかぶった。

どうしようもなかったことを背負い、許されることすら願わずに、裁かれることを願う。

——クソッ……なんで男ってのはこう馬鹿なんだ……。

自分の馬鹿さを棚上げし、忌々しそうに舌打ちした。


〜〜〜

「馬鹿、なんじゃないのか?」

チャイムに起こされ、玄関を開いた土御門は上条の話を聞くと開口一番そう言った。

「なんだよ!確かに上条さんは馬鹿ですが、いきなりそれはひどいだろ!」

一日ぼんやりと自分の気持ちを考えていた。
二日目もそうしようと思ったが、昼をすぎた頃で無駄だと気がついた。
だから、隣室で惰眠を貪る友人に助けを求めたのだ。

「いや……なんというか、カミやんって恋とかしたことないのかにゃー?」

「無駄だからな。俺なんかに惚れる女はいないよ」

すかさず上条の隣人、土御門元春のやや本気な拳が飛んだ。

「すごく痛いッ!なにしやがる!」

突然の暴力に普通に感想が出てしまった上条。

「お前は俺や青髪を馬鹿にしているのか?
今のは俺の分、ほら、立て……もう一発青ピの分を叩き込むぞ」

「こ、これは乱暴だ、狼藉である!理非を弁じないで腕力に訴えるのは無法だ!」

「お前はやっぱり馬鹿だな。その台詞を言った赤シャツは……」

上条に一歩近づいた。

「無法でたくさんだ。貴様のような干物……いや、お前の場合は干物ではなく頓馬だな。
貴様のような頓馬は殴らなくっちゃ答えない。
そう言われて殴られるんだよ!」

そして、普通にまた殴った。


「な、なんなんだよ……」

「ふん、鈍感も大概にしないと人を傷つけるばかりだぜい?」

「鈍感なんかじゃねぇよ。
俺みたいな疫病神を好きになっちゃいけないんだよ」

「まぁだ、そんなことを言ってるのかにゃー?
無関係な他人の言葉なんか信じるもんじゃないぜい?
お前は、疫病神なんかじゃない。
鈍感で傷つくのは、なにもお前に恋心を抱いている相手だけじゃない。
一番傷つくのはお前だ。
俺は、友達としてそんなお前を見たくないんだにゃー」

土御門は倒れる上条に手を差し伸べた。
上条もその手を迷いなく掴み、起き上がった。

「……で、殴った意味は?」

「青春っぽさ」

「つまり?」

「意味なんかないにゃー」

上条が土御門に殴りかかろうとした瞬間、もう一人の友人がパンを抱えやってきた。

「おー、なんや僕抜きで青春っぽいことやってるやんけー。
ほい、カミやん……これ僕の失敗作。
これ食って腹ごしらえしたら適当に遊びいかへん?」

「おーう、賛成だにゃー!
お前の失敗作はかたちが商品にならんだけだからありがたいぜい!」

青髪からパンの袋を奪うと、さっさと上条の部屋へと入って行った。


〜〜〜

青髪ピアスは人の気持ちがよくわかる優しい男である。

——あの様子やとフレンダちゃんは僕にもカミやんにも脈なしやな。

パンをこねながらいつもとは違う状況を整理していた。

——まず、女の子の時点でカミやんにフラグが立たんのが異常や。
あの子は恋愛なんて興味ない、意味がないってどこか冷めてる気がする。

こねたパンを焼き、商品に出来るものと出来ないものを分ける。

——そんで問題はもう一個やな。
あの、カミやんが惚れとるっちゅーアクシデントや。
きっとこれ、カミやんの女に対する唯一の弱点ちゃうかな?

上条は惚れられる事には慣れている。
気づかないふりをしているが、それは気づいていないと思い込みそう振舞っているにすぎない。
しかし、それは意識的にやっているわけではない。
それに気づいてしまってはいけないと言う無意識の思い込みがそうさせているのだ。

だから、上条は鈍感と言われることに不満を覚えるのと同時に、自らを鈍感と称するのだ。

——カミやんはアホやからなぁ……。
自分の不幸に女の子巻き込みたくないとか言って、なにもせずに諦めてしまうんと違うかなぁ……。

「よし!」

売り物にならないパンを袋につめると、店主に遊びに行くと伝え、家を出た。

「親友のために一肌脱いだろやないか!
名付けて!
『カミやんの初恋(笑)を成就させよう大作戦』や!」

青髪ピアスは、優しい男である。


〜〜〜

「んで?
インデックスにかかってる魔術に関してはなんかわかったことねーのか?」

椅子にだらりと腰掛け天井をみつめながら尋ねる。

「簡単に分かったら苦労はしない!
絶対見つけてやるが、僕はこういう封印だかなんだかみたいな魔術は専門外なんだよ……」

ステイルの足元には大量のタバコの吸殻が転がっている。
垣根が「どうせこの部屋この件終わったらもうこないから気にしなくて良い」と言ったので気にせず捨ててるのだ。

「インデックスの魔道書の中には?
なんでもあるんじゃねーの?」

「あったとしてもそれを知るのは無理だろう。
鍵と扉をセットで置いておいて罠がないはずがない」

「インデックス自身に魔術かかってんだよな?
だったら、最悪今年も忘れる魔術重ねがねして、一年毎に苦しむってことも忘れさせたらいいんじゃねーの?」

「……それは本当に、最後の手段だ」

魔術関係は垣根にはわからない。
わからないのでぼんやりとするしかなかった。

「期限は?」

「あとひと月ないくらいだ」

「……なるほどね」

ここで、ひとつだけ垣根は出来ることを見つけた。

「ちと、出かけて来る。
もしかしたら、俺の上司はとんだ狸かもしれねぇな」

依頼の期限もあとひと月ないくらいだ。
それが、インデックスのリミットと重なる。
それは偶然だろうか。

垣根はアイテムの指令役、電話の女のところへと向かった。

それすらも、アレイスターの思惑通りだと知らずに……。


〜〜〜

「どうして私たちのことは助けてくれなかったんですか?」

御坂を家に招き入れ、リビングに正座する第一位をみると絹旗はまずそう聞いた。

「その実験を最近まで知らなかった……言い訳はしねェよ」

「知ら、なかった?」

絹旗は呆然と固まった。

「俺は、自分の能力に関する権利は全部自分で買い取った。
ンで、研究機関をひとつ作ってそこに権利をうつした」

一方通行の口から出たその研究機関は最近潰れた名前だった。

「だから、俺が自分の能力関係で知らない実験は起きるはずがなかったんだ。
だが、実際には起きてた。
……申し訳ねェ……こンな言葉しか、俺は言えねェけど……言われても腹立つだけかもしンねェけど……」

「ちょっと、まてよ……それ権利を買い取ったのはいつだ?」

一方通行の謝罪を麦野が遮る。
謝罪よりも確認しなくてはならない事が麦野にはあった。

「……十年前だ。その辺も調べた。
この『一方通行』という能力の能力使用権が俺に移った二週間後に暗闇の五月計画は始まってる」

「つまりそれって……」

麦野の顔に後悔が広がる。


「その頃から、暗部内は……」

滝壺も珍しく驚きをわかりやすく顔に出していた。

「あァ、一個の組織になってたって事だ」

部屋の中が静寂に支配された。
いつもならばこの静寂を崩すのは滝壺の余裕なのだが、その滝壺すらも動揺を隠せないでいる。

「……まって、なんの話をしてるのか全くわからない。
私は、一方通行に『絶対能力者進化実験』について聞けるといわれて来たのよ?
暗闇の五月計画ってなんなのよ、一体、あんた達は何に首突っ込んでるの?
私は、何に足を踏み入れてるの?」

しかし、そんなイレギュラーはイレギュラーが壊した。

御坂の言葉に怖気付いたとか、恐怖はない。
ただ、自分の立ち位置を知ろうとしていた。
表の人間とは言え、察する部分はあるだろうし、何よりも絶対能力者進化実験は御坂も当事者だ。
この時点で絹旗の決意はすでに半分崩れたものとなっているのだが、残り半分を崩さずに、崩れた部分を直して行こうと絹旗は考えていた。
考えていたのだが、胸の奥底に眠っていた第一位・一方通行への怒り。
その怒りがミサカ00001号の言葉で『何故自分たちの時は助けてくれなかったのか』というはっきりしたものになった。
そして、その理由が『知らなかったから』であったのだ。


絹旗の感情は出口を失った。

「知らなかった……知らなかった?
私が、血を流したのも。
帝督が泣いていたのも。
私たちが、苦しんでいたのも……知らなかった?」

たったそれだけで、自分たちは幸せな拷問の中にいたのだと突きつけられた気分だった。
怒りと同時に、絹旗は第一位に感謝もしていた。
第一位だけではなく、暗闇の五月計画を始めた連中にもひとつだけ感謝していた。

それは、絹旗最愛と垣根帝督を出会わせてくれた事に関する感謝であった。

家族を奪われ。
平凡な人生を奪われ。
全てを奪われたが、奪われた結果垣根帝督という存在と、アイテムという奪われたもの以上になり得る存在を手にする事ができたからだった。

だが、幼い絹旗にとって、両親を確かに知っている絹旗にとって両親と引き離されるのは、耐え難い苦しみだった。

新しいものを手に入れたからと言ってその苦しみが消えるわけではない。

傷は癒えるが消えはしないのだ。

「そンな、理由で……知らなかったなンて理由で……私たちは、お前のたったそンな超ちっぽけな理由で変わっちまう人生しか送れないンですか?」


超能力者。
そこに壁を感じる大能力者は多い。
しかし、第一位に壁を感じる能力者はいないだろう。
何故ならば、それは決して超えることが叶わないと知っているからだ。
はじめから目標の外にあるものには、何も感じない。
感じないからこそ、一方通行は度々スキルアウトに襲撃を受ける。
スキルアウト達は勝てると思ってはいないのだ。
ただ、あの一方通行に挑むという行為に自己満足しているだけに過ぎない。

その、感じられない、感じる必要のない壁を、絹旗は一気に感じてしまった。

その壁は、持つ者と持たざる者の壁だ。

学園都市にとって、一方通行以外は持たざるものなのだと知ってしまった。
第二位の垣根帝督も、第三位の御坂美琴も、第四位の麦野沈利も……失敗作の中での成功作なのである。

「知ってるか知らないか、気分が乗るか乗らないか、それだけで……私たち持たざる人間は右往左往するんですね。
もう、なんか嫌になりました。
どうせ、腹の中では見下してるんでしょう?
持ってない奴に差し伸べる手に酔ってるんでしょう」

誰も何も言えなかった。
何かを言える空気ではなかった。
つまり、何かを言うのは空気の読めない奴の役割だということだ。


「……結局、絹旗ってば馬鹿ってわけよ」

ずっと沈黙を守っていたフレンダが口を開いた。

「持ってるとか持ってないとか、そんなこと言い出したら、この世界は神様だけになっちまうわ。
それに、知らなかったから暗闇の五月計画の被験者は苦しんだっていうけど、それは一方通行のせいなの?
確かにこのモヤシがそれを当時知ってれば助けに行っただろうし、苦しまなかったかもしれない。
でも知らなかったんだからしょうがないじゃん」

フレンダを止める者は誰もいなく、フレンダはどんどん加速する。

「絹旗が今言ったのって、この世の不幸は全て一方通行が知らなかったから起きてるっていう暴論よ?
世の中に不幸なんかありふれてる、私だって幸せな人生歩んできたわけじゃない。
でも、それを誰かのせいになんかして俯くのはつまらないってわけよ。
確かに、あんたは一方通行が知らなかったせいで苦しんだ。
けど、それを全部一方通行に投げるのは間違ってるってわけよ。
一方通行が実験を始めたわけじゃないでしょ」


最後の一言に、麦野が肩をビクッと震わせた。

「……だな、許すとか許さないとかそんなのは私にできることじゃないけど、
さっきのお前がいたから実験があったって台詞は取り消す」

一方通行が居たから実験が始まった。
確かにそれは正しい。
だが、それは、一方通行のせいではない。

「だけ、ど……じゃあ私はどうしたら良いんですか?
そんな、知らなかったなんて間抜けな理由で苦しんだのを受け入れろって?
いっそのこと、気が乗らなかったからとかそんな理由が良かったですよ」

絹旗のやり場のない叫びに、

「だったら!」

一方通行が決意を抱き、立ち上がった。

「お前らの苦しみや絶望が消せるとは思わねェし、許してもらおうとかも思っちゃいねェ。
だけど、だからこそ……それに見合う分の、最高のハッピーエンドを俺が作ってやる。
そンで、そのハッピーエンドの最後に、お前が俺を殺せ」

「……はは、超、馬鹿、なんじゃないですか?」

一方通行の言葉は紛れもなく本心からだと、その目をみればわかる。

本格的に絹旗はどうしたらいいのかわからなくなった。


「私のハッピーエンド?
そんなの、叶うわけないじゃないですか」

「言ってみろよ。お前が言ったンだ。
俺は持つ者だと、だったら、俺はお前の前では全てを叶える持つ者になってやる」

言葉にも態度にも普段の気の弱さなどなく、それ程までに本気なのだとわかる。

「帝督と……一緒に、笑えて……帝督だけじゃなくて……私の好きな人と笑って過ごせる……世界が、ほしい」

「だったら、その世界を作ってやる。
例え世界中が敵になっても、俺はその世界を作り上げてやる。
俺は守ると決めたンだ。
垣根帝督帝督も救ってやる。
アイテムも救ってやる。
御坂美琴も、妹達も救ってやる。
俺は、お前らの前では、完全無敵のカミサマにやってやる。
そンで、最後にそのカミサマを殺すのはお前だ」

何故、一方通行がここまで絹旗にこだわるのか、それは知ってしまったからだ。

懺悔する相手がもう絹旗と今居場所のわからぬ垣根帝督だけだということを。

ある日を境に、暗闇の五月計画の被験者は次々に殺されていた。
あるものは暗部の中で命を落とし、あるものは事故で死んでいた。
今、残っているのは垣根帝督と絹旗最愛だけだ。
何故、他の被験者が消されたか。
初めはそう考えたが、その考え方は間違っていた。


垣根帝督と絹旗最愛は消せなかっただけなのだ。
暗部の仕事の中で消そうと試みても、垣根は垣根自身の強さゆえに。
絹旗は絹旗自身の強さと周りのサポートゆえに。

消せなかったから、利用することになった。

垣根帝督が初めに壊れ、絹旗の解放を望むのはわかっていた。
無能力者と登録されているフレンダを、暗部の仕事という体裁を保ち送り込むのは土御門のいる学校だということもわかっていた。
同様の理由で、絹旗が第三位のいる常盤台へ行くこともわかっていた。
麦野と滝壺が、能力の特異性ゆえに霧ヶ丘へ行くのもわかっていた。

全ては、手のひらの上だった。

しかし、読み違えたこともある。

ひとつは、フレンダが上条当麻に惚れなかった事。
ゆえに、一方通行と幻想殺しの邂逅がまだなっていない。

ひとつは、垣根帝督が魔術師を救済しようとした事。
ゆえに、幻想殺しと魔術師の邂逅がまだなっていない。

しかし、最後の結末までもがすでに変わったわけではない。

そんな事は知る由もなく、アイテムの方針は固まった。


「暗部をぶっ潰す……いや、表の世界に再構築ってわけか。
まぁ、そうすりゃ超電磁砲の事情も解決するし、垣根はどうなるかわからんけど、そこは絹旗がなんとかするだろ。
暗部なんて場所でうろちょろされるよりは、話がしやすくなるし……いいんじゃねぇか」

「でも、そうしたらこの街の技術を横流しするやつらは誰が捕まえるのかな?
それは、見過ごしたら新しい脅威になるよ?
今の警備員には無理だと思うけど」

「……そうだなぁ……警備員に特殊命令部隊でも作るか。
アイテムと、垣根帝督、それに一方通行がいりゃ殺さずに捕まえる事も出来るだろうしなぁ。
殺せないとそういう案件増えるかもしれねぇけど殺しちまったら暗部をまた自分で作るようなもんだしな」

滝壺の疑問に、麦野は割と真面目そうに笑いながら答えた。
そんな未来があってもいいかもしれない、事情がよくわからない御坂と結標もよくわからないなりに笑っていた。

だが、そのしわ寄せは誰がこなすのかを誰も考えていない。
暗部という裏舞台を表舞台に引っ張り出しても、裏舞台が消えるわけではない。
その小さな闇は誰が担うのだろうか……。

だが、そんな事よりも、

「そっか、壊したあと同じ場所に新しい形で居場所を作れば……そこでまた、舞台は始まるんですね……」

その事に気づけた方が嬉しかったのだ。

少し一気にいきすぎたかもしれない

前作で準主役として書いて、主役として書きたくなった垣根なのに主役になった途端空気で笑える

では、次もまたよろしくお願いします
レスもいつもありがとうございます!
うれしいです

では!

ペースイイヨォ

〜〜〜

新しい居場所を作る。
それはとても魅力的な提案であった。
絹旗だけにとってではなくアイテムにとってそう言えるだろう。
麦野にしても、自身の変化と何かを大切にしても良いという気持ちを肯定される世界だ。
滝壺にとっても、麦野や他のアイテムメンバーが危険な目に遭わずに済む世界である。
フレンダにとっても、人を殺さなくて良い世界の住人になれたら、それは妹と本当の意味でともに生きていける。
絹旗にとっては、好きな人たちが全員笑っていける世界だ。

そんな理想の世界なのだが、素直にそれを受け入れる事が、麦野と絹旗には出来ないでいた。

それは、小さな違和感だ。
しかし、その違和感はそのまま残したらしこりになる。
それはやがて幸せな世界を崩壊させ、いまよりも暗く深い闇へと誘うものだ。

その違和感の正体を突き止め突きつけたのは、はじめから日の当たる世界にいた超能力者だった。


〜〜〜

夜の空を飛ぶのは何時の間にか怖くなくなった。
明るい街並みや、夜空にぽっかり空いた大きな月。
きらきらと笑う星たち。
その優しい光は、垣根に懐かしい瞳を思い出させる。
自分が殺した母親。
それを見て満足気に笑い、頷く白衣の男達。
そして、軍隊みたいなごつい格好をした男達に車に押し込まれる。
思い出した瞬間、全ての装置が壊れたように垣根は歯止めが効かなくなった。

だが、垣根も人間だ。
本能が自身を壊すのを必死に止めている。
それが人間の生存本能だ。

機会が回ってきたから、壊れたのだともいえる。
垣根が思い出したのは、本能レベルで今しかないと、チャンスを掴んだからだ。

彼は今絶望の中にいる。
しかし、その絶望は乗り越えられる絶望だ。
他でもない垣根自身がそう確信したから、固く閉ざされた扉が開いたのだ。

「……おい、お前の上を出せ」

ドアを蹴り開けると、そこには一人の女が座っていた。
アイテムへ命令を下す、電話の女。
暗闇の五月計画にも関係のある女。

「ドアは開けるものだって、お母様に教わらなかったの?」

的確に垣根を挑発する言葉を吐き出す。

「……もう一度だけ言うぞ。お前の上を出せ」

なけなしの理性で、垣根は女の言葉を飲み込んだ。

ここで切れてしまっては、救うと決めた者をまた救えなくなる。
そう、自分に言い聞かせた。

「……ふふっ、許可が出たわ。
窓のないビルへ行きなさい」

その言葉を聞くと、垣根は何も言わずに振り返った。
そして、自分が壊したドアを蹴り上げ道を作ると、最後に一度だけ女を睨みつけて出て行った。

「——ッ!」

その視線に、女は全身の筋肉を強張らせた。
そして、ひとつだけ、たった一つだけわかったことがあった。

それは、

「い、今……私は死んでもおかしく、なかった……」

電話の女が垣根を目の前にしても余裕でいられるのはその部屋に秘密がある。
この室内は、特殊な電波と音波で能力者は普通力を使えない。
垣根くらいのレベルになると、意味がない事が前回証明され、その電波と音波は複雑化された。
常に波長を変え、その音を防ぐ事をより難しくしたのだ。
女は垣根が翼でドアをぶち破らなかった事から、効果があったと勘違いしていた。
だが、相手は第二位なのだ。

そのような小細工は通用しない。

垣根が消えたのと同時に、音は止まった。
どうやったのかはわからない。
しかし、この街の科学力は、今垣根に敗北した。その事だけは、わかった。


〜〜〜

「あ、バイトだわ」

一方通行の大演説の後、アイテム一行と一方通行は一週間後に各々情報を集めたのち、報告会をする事でその日はお開きになった。

「バイト?淡希さん、バイトしてるの?」

結標の言葉に隣に座っていた御坂が反応した。

「あー……うん。
まぁ、なんというか……」

チラリと麦野を見る。

その視線は、御坂美琴に自分のバイトの話はOKなのかどうかと問うていた。

「美琴、そいつのバイトは18禁だからお前は気にするな。
それよりも、お前、対して話もしないで一方通行を信用して良かったのか?」

間違ってはいないが、間違った誤魔化し方をすると、麦野は御坂の興味を横へずらす。
結標だけは、複雑そうな顔をしていたが、今のうちにとそそくさと部屋を出て行った。

「え?……って、えぇ?
いや、あの……え?」

汚れを知らない心身を淡い色の制服で包んだ正真正銘の純真無垢な乙女は18禁という言葉にあたふたする。

「えっと……一方通行の件ならいいのよ。
あれで信じなきゃ、何も信じられなくなる。
それくらい、さっきの言葉は優しさと決意で染まってた」

しかし、妹達の話題を耳にすると、赤くした顔をすぐに戻し、力強く笑った。


「……私たちの過去は聞かないのか?」

思わずだ。
麦野は御坂のその力のある笑顔をみると、思わずそう尋ねていた。

その質問に、絹旗の肩が揺れた。

「……」

そして、怒られるのを怯えるように御坂を無言でじっと見つめた。

「……聞きたいけど、聞かないわよ。
私が知ってるのは今の優しいあなた達だしね。
過去にどんなことがあっても、幸せになっちゃいけない人なんかいないと思うし、過去を悔やむなら、未来でやり直せばいい。
それこそ、さっきの一方通行みたいにさ。
まぁ、あんたらの過去は最愛が……話してもいいかなって思ってくれるまでは待つわ」

『世界を作ってやる』

一方通行の出した答えは御坂の答えとは違う事に、御坂だけが気づいていない。
それが出来るのは、絹旗が、垣根が、生きているからだ。
初めから一方通行とアイテムの立っている場所は違うのだ。

アイテムは人を殺した。
命を奪った。
替えの効かない物を奪い取った。

そんな彼女らが救われて良い訳がないのだ。
その事が心の何処かでわかっているから、アイテムは今の優しい世界に憧れながらも違和感を覚えている。

未来でやり直せばいい、と御坂は言った。
それは、とても甘く甘美な響きだ。
だが、いつか自分たちも奪われるのだから、という大義名分の下にアイテムは命を奪ってきた。

その事を、その響きは思い出させた。


「……いいわけが、ないんですよ。
私に、一方通行を責める権利なんて超ないんですよ。
美琴、私は人を殺しました。
比喩ではなく、そのままの意味です。
殺したのは、殺されてもしょうがないようなクソッタレ共ですが、私たちも同じなんですよ。
同じクソッタレなんですよ」

突然の絹旗の告白に、その場にいた全員が固まった。

「これはやっぱりダメです、麦野。
すぐに戻りましょう。
私たちが日の当たる場所になんか出ちゃいけないんです。
妹達の件ならあっちに戻っても潰せます。
今すぐに、ここから消えましょう」

同じような考えに至った麦野を選び、縋る。
それは、温かい世界を諦める選択肢だ。
諦め、闇の中で死ぬ選択肢だ。

「だって、いくらそれしか生きる道がなかったとはいえ、殺しは殺しです。
表の世界が基準なんです。
裏で戦争をしていても、そこで百人殺しても英雄ではないんですよ。
人を殺して英雄になれるのは、基準世界が戦争の時だけなんですよ」

その言葉に、麦野の意思はさらにぐらついた。


「……そうか、ずっと胸の中に渦巻いてた違和感はそれか……。
私はずっと、垣根を犠牲にして救われる罪悪感だと思ってた。
けど、違うな……私らは、懲役百年二百年じゃ済まない数を——殺してきた。
罪を、重ねてきた……」

そのぐらついた意思を御坂はさらにゆらゆらと揺らす。

「ま、待ってよ!何言ってるのよ?わけわかんない!
私は嫌よ、折角最愛と……私を見てくれる友達が出来たのに……消えるってなによ!」

「だからだよッ!
お前みたいな、根っからの正義の近くにいたら、いつか絶対……後悔する。
私らの生きてきた道を、後悔するッ……。
そうするしかなかったって絶望に、殺される……」

だったら、と麦野は消え入りそうな声で呟いた。

「闇の中で、死んだ方がマシだ」

麦野の言葉が終わった瞬間、パチン、と乾いた音が響いた。

「バッカじゃないの!」

自分が殴られたと気づくのに、十秒ほどかかった。
殴られたと気づいたら、頬に痛みがじわじわ広がる。

「結局、これは前にも言ったってわけよ!
そうしないと生きれなかったんでしょ?
そうやって生きる覚悟をしたんでしょ?
何が後悔よッ!何が絶望よッ!
結局、麦野も絹旗も覚悟が足りないってわけよ!」

殴った方が、目を真っ赤にさせ涙を浮かべている。


「その罪も、後悔も、絶望も、全部背負って生きてく覚悟くらい決めなさいよッ!
私は……出来てるよ、今まで殺してきた奴に申し訳ないなんて思わない。
だって、そうしなきゃ私が殺されてた。
申し訳ないとは思わないけど、そいつらの命を奪って得た命なんだから、精一杯生きる覚悟をしてるわよ。
ねぇ、生きるって麦野にとって、絹旗にとって何?」

「い、きる……?」

頬に手をやりながら、麦野は呟いた。

「私は、幸せになる事だと思ってる。
私に殺された奴は、幸せを目指して私を殺しにきた。
だけど、同じ物を求める私に、殺された。
幸せを求めるって、命懸けなんだよ。
生きるか死ぬかの覚悟を決めなきゃ幸せなんて手に入らない。
だから、私は殺した。
当然、幸せを奪われる覚悟もしてる。
だからこそ、手に触れた幸せを私は絶対離さない、それが私の生きてきた証だから、奪ってきた証だから」

幸せを求めない殺人は、ただの機械だとフレンダは吐き捨てた。

「私は確かに人殺しだけど、マシンじゃない。
納得した上で、全てを受け入れて人を殺してきた。
後悔なんてない、後悔なんてしたら、私に殺された奴に負けた事になる。
全部背負って、それでも幸せを手に入れてやると、覚悟をして命を狩って来た」


生きることは真剣勝負なのだとフレンダは言いたいのだろう。
幸福を求め、それをかけて勝負をして来たのだと言いたいのだろう。

「賭けてる物が違うだけ、表の連中もプライドとか、意地とか、主張とか、
負けたらそういう目に見えない物が殺されてるのよ。
私たちは、それが、命だっただけよ。
それくらい、必死に幸せを追い求めたってだけよ」

殺す事が必死な証。
それが、悲惨の証。

そうやって生きることしかできなかった証。

「……何を言ってんですか?私たちがやってきたのは勝負じゃない、ただの虐殺ですよ?
金で雇われた何も知らない奴も殺してきたし、無抵抗の奴も超殺しました。
それは、フレンダも同じでしょう?」

「そうね、結局私の方がひどいってわけよ。
元々は暗殺専門だからね、遠くから撃ち殺したり、色々やったわ。
それをしなきゃ生きることすら出来なかったからね。
そしてその状況を作ってる奴を殺しただけよ。
言ったでしょ?生きる事は命懸けなのよ。
今ある幸せに満足した瞬間、死に向かうのよ、殺してきた命に殺されるのよ。
だから、私は生き抜く。
私はもう、幸せをひとつ手に入れたから」

「何を言って……」


「私は、麦野達と笑って生きていられたらそれだけで幸せだって言ってんのよ!
笑ってられるなら暗部に戻るのも別に構わない、だけど、死ぬ為に戻るなんて絶対に嫌よ。
暗部の中でも、私たちアイテムが揃ってれば笑えてたじゃん。
人間って、地獄でも生きようとしてれば笑えるんだよ。
無表情でただの殺戮マシーンになるために暗部戻るってなら、私があんた達を殺してやるわ」

そんな麦野達は見たくないから。
そんな麦野達をみたら、この先どんなことが起きようと幸せにはなれないという確信があったから。

「……全部背負って苦しみながら生きて行くしかないんじゃない?
もしも、の話なんて意味ないけどさ」

フレンダの剣幕に逆に落ち着きを取り戻した御坂は絹旗の頭に手を乗せた。

「もしも、一方通行が実験をしていたら……私は二万人の殺される命を作る手伝いをしたことになるわ。
でも、それはその可能性を作っただけで同じだと思うのよ。
それに、妹の話だと失敗作として殺されちゃった子もいるみたいだしね。
私があの時考え抜いていれば、DNAマップなんて物を提供しなかったら……。
れば、たら、を言い出したらきりがないけど今が最悪な状況じゃない。
麦野さん達は確かにラッキーじゃなかったかもしれないけど、
生まれて外の世界すら知らずに死んだ妹達よりは、マシな方だと思うわ。
だって、あなた達は生きているもの」

「お前に何がわかるんだ?
ぬくぬくと日差しの中で生きてきたお前に、マシだなんていう資格はねぇよ。
自分より悲惨なやつがいるなんて事は知ってる。
で、その悲惨な奴を生み出したのは誰だ?
暗部であり、私たちだろ!
同情なんかでそんな優しい言葉を投げかけるんじゃねぇよ」


「確かに、ラッキーな部類の道を歩いてきた私が言ったら同情に聞こえるかもね。
でも、これは麦野さん達の為に言ってるわけじゃない。
私のわがままよ。最愛を、友達を失くしたくないってだけ。
まだ出会って数日だけど、その数日でここまで思える友人なんて初めてなのよ。
きっと、私たちは生涯の友人になれる。
私はお金で買えないその財産を失いたくないから、麦野さん達にここから消えて欲しくないと思ってるだけよ。
なんというか、私の幸せにももうあなた達が入ってるみたいだわ。
ここであんたらが消えて、実験が潰れて、妹達も生きれるという結果を得ても、私は心の底から笑えないと思う。
だって、最高の友人になれそうだった子を見捨てて得た結果だもん。
それだったら、私もあんたらと同じ物を背負った方が気分がいい」

「それは、背負ってないから言えるんですよ」

「そうかもね。
それに、他の暗部の人間を見たらあんたらと同じことをやってきてるそいつらを私は許せないと思うかもしれない。
でも、言った通り私のわがままだからね。
私の為に、私と同じ世界で笑ってなさい。
こう見えても私第三位だし、なんなら、力で
『美琴様の為に生きます』
とでも言わせてやってもいいわよ?」

美琴も必死だ。
人の出会いとは不思議なもので、一言言葉を交わしただけで相手が自分にとってどういう存在になりうるかという事がはっきりわかることがある。

美琴にとってアイテムはまだ出会って数時間の存在だ。
しかし、その数時間で確信していた。
ここでこの人たちを失ったら、自分はきっと笑えない、と。
そして消えるならばせめて思いつめた顔でなく、笑顔で、違う世界で笑って生きて行ってくれる、と安心出来る表情であって欲しかった。


「……生意気言ってんじゃねぇぞクソガキ」

「それ、クソガキに生意気言われるくらい自分が情けないってことでしょ」

麦野と御坂の間に火花が散った。
絹旗も、フレンダさえ口を挟むのに戸惑うなか、ずっと黙り込んでいた心理定規が口を開いた。

「……狭き門ってあるじゃない?」

「……ジッドだったっけ?読んだことないけど」

フレンダが険悪な雰囲気の超能力者達を横目でみながら反応する。

「そうそう、私アリサの気持ちがわからないのよね。
アリサは愛する人がいて、その人から愛されていて、周りも祝福してくれている。
それにも関わらず神の国を目指して一人で死んでいく運命を選ぶのよ。
意味、わからなくない?」

チラリと絹旗を見る。

「あるかどうかもわからない神の国なんか目指して、手に入る幸せを放棄する。
それに意味があるの?」

「何が言いたいんですか?
超意味わかりません」

「意味なんてないわよ。
ただ、帝督が好きな絹旗さん。
絹旗さんを好きな帝督。
その二人を私ですら祝福してるんだから、麦野さん達が祝福してないわけないじゃない?
それにもかかわらず、絹旗さんも帝督も一人で死のうとしている……。
なんか、似てない?それだけよ」

責めているようにも、ただの雑談にも聞こえた。
幸せを放棄して一人で歩く道を選ぶのは間違った事だ、と言っているようにも聞こえた。


「もしもさ、正義の味方とかヒーローって存在がいたら、なんて言うかな?
『人を殺したから幸せになる権利がない?
それは、逃げだ!
確かに罪は消えない!
でも百人殺した事を後悔してるなら百万人を救ってみろよ!
幸せになっちゃいけない人間なんていないんだよ!』
とかいいそうじゃない?」

そんなことを言いそうな奴の顔をフレンダは思い浮かべた。

——なんか、青髪ピアスは女の子の為にはいいそうってわけよ。

そして、ピリピリした空気の中でもそんな事を頭の隅で考えることが出来るくらい自分は能天気なのだな、と実感した。

「私は『貴様らに今日を生きる資格はねぇ』っていう救世主しか知らねぇよ」

対して麦野はイラつきをそのまま吐き出す。

「もう、わからないです」

絹旗はポツリと呟いた。

「覚悟なら出来てるはずでした。
でも、その覚悟は自分のことじゃなかったみたいです。
帝督の為なら、なんでも出来る。
アイテムの為なら、なんでも出来る。
大切な人達の為なら、どんな恐怖も闇も痛みも耐えられる。
でも……」

「結局は、フレンダの言うとおりなんだろうな……」

罪の重さに耐える事が二人には出来ないでいた。
二人には幸せになった自分を明確に想像した事がなかったのかもしれない。

だから、いつか自分もこうやって死ぬ、と諦めていたのかもしれない。

そして、どうせ死ぬならそれが大好きな人たちの為になればいいと思っているから、他人の為の覚悟なら出来るのだろう。

崩壊の足音が、ひとつ近づいた。

ここまでです

今回の話は全く前に進まないむしろ後退してるんじゃね?って感じですね。
正直書き終えた時、投下するか書き直すか迷ったけど投下しました。

書き直すの面倒とかそういう理由では決してなく、
これから進むぞ!
って時に不安だとか、迷いだとか、そういうもので立ち止まってしまう事ってあると思ったからです。



ここを乗り越えるか、潰されてしまうかで結末の意味が変わってくる、そんな展開にしていくつもりです。

では、またよろしくお願いします。



人殺しをしたとかって暗部かかわってくるしそういうの一般人にほいほい言っちゃっていいのん?

今回は質問とかに全レスしてみる。

>>647
一応>>638の『全員が固まった』ってところで
アイテム「美琴(一般人)の前でこいつなに言い出してんの?」
美琴ちゃん「え?人殺しとかなんのジョーク?」
ってのを表現したつもりだけどよわかったかな。
その後は麦野もフレンダも絹旗もそんなことを考える余裕がなくなるくらい揺れてるってつもりで書いたんだけど、
もっとはっきり書いた方が良かったですね。
書いてる自分だと表現が弱いとか足りないとか気づけないからありがたいです。

美琴がすんなり受け入れたのは、妹達の件でそういう部分があるかもしれないと感づいていたからですね。
これももっと丁寧に書くべきでしたね。

何はともあれ指摘ありがとう。
またこういう事あったらどんどんじゃんじゃん言ってください!


あわきんのバイトは案内人ってことでOK?

>>649
OKです
あわきんのバイトについては次回詳しく書く
その辺ぼかした時はむぎのんもまだ動揺してなかったんだ

最近ペースいいね
次も待ってます

乙でした


ペースイイヨォ

すごい寝てた

>>651
そうなのです
ペースイイヨォ
面白いと褒められると続きかきたくなるのよさ!

>>652
次もよろしく!

>>653
イイヨォ イイヨォ ペースイイヨォ
ガンバルヨォ ダカラ コレカラモ ヨロシクダヨォ


黒子とか出ないかな

>>655
美琴さんもここからはフルスロットルGOGOだから黒子は確実に出るよ
佐天さんとうーいーはーるーはまだわからんな
正直いまでもキャラ多すぎてうまく全員かけてないのにこれ以上増やしていいのか……って感じだけどね

今日いまから書こうと思ったけど眠過ぎてむりです
明日きます
まだペースイイヨォと言える許容範囲内だからだいじょうぶ。

ゴメンヨォゴメンヨォ
ペースヨクナイヨォ
ゴメンヨォ



〜〜〜

「どうして、麦野さんも絹旗さんも自分の幸福にそんなに怯えてるの?」

沈んだ空気の中、心理定規はただ一人冷静であった。

「怯えてる?」

麦野と絹旗は、同時に聞き返す。

「うん、覚悟とか、幸せになる権利とか、そういうのって結局後付よね。
フレンダさんにしたって、初めからいまみたいな事を思ってたわけじゃないでしょ?」

「……そりゃあね、初めて殺した時は……怖かったわよ。
でも、結局そうするしか私は幸せに向かう道はなかったし、
後悔なんかするよりは、覚悟決めて進まなきゃなんにもならないってわけよ」

「それよ、そこで落ち着いて考えた時にそう考えられるのがフレンダさん。
それが出来ないのが二人なのよ。
そこがわかれば、何か解決方法があるんじゃない?
なにもみんなこのままアイテムを空中分解させたいわけじゃないでしょ?」

全員が納得できる形で前に進もうと心理定規は冷静に分析、提案した。

「……そんなの、わかんねぇよ。
わからないけど……さっき言った警備員の特殊部隊ってのをやめてさ、
私と絹旗と垣根、この三人で暗部続けるってのが一番いいんじゃないか?」

それは、アイテムの解散を意味している。
アイテムは誰よりも、恐らくどの組織よりもアイテムがアイテムである事にこだわる、そんなチームだ。
そのチームの頭が、解散を考えるほど、麦野は追い詰められていた。



しかし、それには当然の如くフレンダが怒る。

「ほっんとにバッカじゃないのッ!」

麦野の胸ぐらをつかみ、ガクガクゆらした。

「バカ過ぎるってわけよ。
超ウルトラスーパー大バカってわけよ!
そんな事して誰が幸せになるの?
ちょっと、滝壺も何か言って……やって……よ……?」

先ほどまで滝壺が座っていた場所に目を向けるが、そこに彼女はいなかった。

いや、よくよく考えると、この話が始まった時にはすでにいなかった。

「……あれー?麦野、滝壺知らない?」

予想外の事に怒りが鎮まり、フレンダは力なく麦野の胸から手を落とした。

「いや、知らん……。
……あと、悪かった。アイテム解散なんて二度と言わない。
でも……」

麦野もフレンダにつられ落ち着いたようである。
襟をなおすと、フレンダの頬にそっと右手で触れた。

「……その先は、言わないで。
もっとじっくり考えてみよう。
一方通行の出した期限は一週間。
調べる時間はちょうど六日あるから、一人一日休みで考える日を作ればいいってわけよ。
それで、来週の今日、もう一度話し合おう」

その右手ごと、自分の手で頬を覆った。
まるで母と娘のようであったが、役割としては、フレンダが母親で麦野が娘であった。

「……一週間、考える……」

絹旗はぼんやりと反芻する。


考えて何が変わるのだろうか。
何も変わらないのではないか。
いっそのこと、終わらせてしまおうか。

ぐるぐると頭の中に声が渦巻いた。

絹旗は一方通行という切り札を持っている。
絹旗が、一方通行に新しい居場所は暗部でいい。
暗部をアイテムが牛耳る、その手伝いをしてくれ、
と言えば一方通行はそれが自身の信じる道と反していても実行するだろう。

そうなれば、絹旗としては、暗部のクソのなかでも、
大好きな人に囲まれて生きる幸せと、いつ殺されるかわからないという罰のなかで生きていける。

御坂とも、笑って別れる事が出来るだろう。

しかし、その別れの笑顔も、闇のなかでの笑顔も全ては偽物だ。
仮面を被っているにすぎない。

偽物の中で嘘をつきながら生きて行く事になる。

今までは、考えなかった。

暗部の中にいるのが当たり前で、その中で死ぬのが当然だったからだ。
それは麦野も同じだろう。

しかし、今はどうだろうか。

垣根帝督により、表の世界へ帰るという選択肢が生まれてしまった。
生まれてしまったのだ。

その選択肢がなかった時は、暗部の暗く冷たい掃き溜めの中で本気で楽しみ、笑い、怒り、悲しんだ。
全てが本物だった。

だが、それが生まれた今は、普通の人間として普通の平凡な人生を叶えるという夢を持てるまでに世界が広がってしまった。

それを諦めてしまうというのは、本物の夢を諦めるという事である。

今までの夢は、暗部という逃げられない組織の中から出られないという前提の夢だったのだ。
だから、暗部というゴミの中にいても笑えていた。

「一週間、ですか……」

この一週間で全てを決めなくてはならない。


〜〜〜

「というか、私……今バイトして平気かしら?」

部屋をでて扉を閉めると、結標は今自分の能力が安定していないという重大な事実に気がついた。

「……なんで、こんな大切な事忘れてたんだろ」

一人きりで寮にいたら、恐らく不安と焦燥感で押しつぶされていただろう。
結標が能力というものがなくても普通にしてられたのは、他でもないアイテムのおかげだ。

「……はぁ、悔しいけど、麦野さんたちに感謝ね……。
おかげで私は壊れずに済んだ」

しかし、今はまだ能力が安定していない。
もしもの事があったらと考え、顔もみた事のない雇い主に初めて返信しようと携帯を開いた。

「まって、私が手伝うよ」

しかし、その手を滝壺が止めた。

「え?」

「私の能力で、あわきの補佐するから……いこ。
断って目でもつけられたら大変」

「でも、滝壺さんって体晶とかいうのがないと能力使えないんじゃないの?」

チラリと聞いた話を思い出す。

「大丈夫、乗っ取りとかそういう大掛かりな事するには必要だけど、簡単なことならなくても出来るよ」

結標の手を取り、そのまま玄関へと歩いて行く。

「ありがとう、心配してくれて」

そして、振り返りにっこり笑いながらそういった。

「……別に、心配したわけじゃないわよ。
ただ……あなたに倒れられたら麦野さんに殺されちゃうわと思っただけで……」

「ふふ、ツンデレあわきも応援してる」

部屋の中とは真逆の、穏やかな時間が二人の中には流れていた。



〜〜〜

「そんで?」

「……そんで、とは?」

パンをあらかた食い尽くすと、青髪がいきなり口を開いた。

「カミやんはフレンダちゃんの事好きなんやろ?
それをどうして認めようとしないのか、その訳を話しなさいっちゅーこんや」

「……そんなんじゃねーよ」

「誤魔化しても無駄やで」

青髪はいつも通りのニコニコした表情でまっすぐ上条を見ていた。
その視線に若干竦む。

「別に、惚れてるとかそういうんじゃない。
ただ、あいつといると落ち着かないからさ……何かトラブルでも呼び込まれたら面倒だと思って……」

青髪から目をそらし、残っていたパンを一つ掴んだ。

「じゃあなんで俺の部屋に来たんだにゃー?」

「それは、なんかお前ら知り合いっぽかったし。
というか、こんな話いいよ!
遊び行くんだろ?パンも食ったしさっさと行こうぜ」

「あかんよ、カミやんはきっとここではっきりしとかなきゃ……あかんのや。
せやないと、一生自分に嘘をつくことになる。
それは、苦しいことやと思うんや」

青髪は上条に優しくなかった。
しかし、優しさというものが必ずしも人を救うとは限らない。
時には、厳しさや冷たさが人を救うのだ。
それは、優しさとは程遠いが確かな優しさである。


人の感情とは難しいものなのである。

「俺は……嘘なんか、ついてねーよ。
だって、そうだろう……嘘なんか……」

「じゃあ、僕が本気でフレンダちゃん好きになってもええんか?」

上条の表情が、固くなった。

「あの子はカミやんに惚れてない。
そして恋愛なんてくだらないとどこか冷めてる。
つまりは、お遊びやったら誰でも相手してくれるっちゅーこんや」

「お前……ッ!」

「なんで、カミやんが怒るんだにゃー?」

普段見せないような顔つきで青髪を睨む上条を、土御門が制する。

その言葉に我に返り、目を深く閉じると唾を飲み込み、ため息をついた。

「別に、俺がそういう遊びで女と付き合うようなやつが好きじゃないからだよ。
フレンダは友達だしな、だから……だよ」

「じゃあ、真剣やったらええんやな?
僕が本気でフレンダちゃん好きやから、って言ったらええんやな?」

「よくないよ。
お前、別にフレンダの事好きじゃないだろ」

その言葉を待っていたかのように、青髪と土御門はニヤリと笑った。

「どうしてそれがわかるんや?」

上条は言葉に詰まった。


「僕ぁあの子が入ってきた日から可愛い可愛いと言ってたで?
好きに決まってるやん」

「そ、れは……」

だんだんと上条に嘘をつく余裕がなくなる。

「……じゃあ、どうしろってんだよ!」

そして、ついに上条は切れてしまった。
上条が青髪、土御門の二人と友達をやっていられるのは、二人が常識はずれに強いからだ。
上条のトラブルにまきこまれてもヘラヘラ笑いながら怪我一つしないで切り抜ける、そんなギャグ補正とでも言うべき強さがあったからだ。

「なぁ、カミやん。
僕らはそんなに長い付き合いなわけでもない。
四月からやから、半年もたっとらん。
でも、僕らは親友やん?
オオカミみたいな目を誤魔化して表では人当たり良く接してるけど、ひとつ線引いてそれを越えないし越させない。
そんなカミやんが僕らをその線の内側にいれてくれた時の事覚えてるか?」

それは、出会って数週間後のことだった。

上条はいつも通りトラブルに巻き込まれ、夜の学園都市を一人逃げ回っていた。

この時はまだクラスメイトを助けに呼ぶなどという考えは存在してない。

「……クッソ、ゾロゾロゾロゾロと増えやがって……」

相手が全員能力者だとしたら上条としては逆にやりやすかっただろう。
もしも能力を持っていたとしても中途半端な力だろうし、使う人間が誇りもクソもないチンピラだ。
相手が無能力者と決めつけ舐めてかかってくるに違いない。
上条は確かに無能力者だが、上条にとっての無能力者はその“無”が意味は変わってくる。


「ちっくしょう!ボコられて入院コースは痛いから嫌ですよー!」

無駄な体力を使うだけだとわかっているのに、上条は叫んだ。
叫ばずにはいられなかったのだ。
己に降りかかる理不尽な不幸。
理不尽な暴力。理不尽な言葉の数々。

上条は生まれた時から、理不尽の中で生きていた。
唯一信じられるのは自分を愛してくれた両親だけ。
その両親も、上条当麻の呼び込む理不尽に巻き込んできた。

いつか絶対両親も自分を愛してくれなくなる。

上条が一番恐れたのはそれだった。
だから、両親が科学的な証明のできない物を信じない学園都市へ上条を入れようかと夜中に相談をしているのを聞いた時は震えるほど嬉しかった。

——コレデ オトウサン オカアサン ヲ キズツケナイデ スム。

しかも、両親がこれほどまでに悩んでいるというのは、全寮制が基本のそこへ上条を一人送る事を心配しているからこそだからだ。

それは、両親が自分を愛してくれている証明だ。


「あれれれのれ?つっちー、あれ同じクラスの上条くんと違う?」

過去を振り払って必死に逃げていると、大声で自分の名前を呼ぶ声を聞いた。

「おー、確かにそうだにゃー。
あのツンツン具合は上条当麻くんで間違いないにゃー。
一体なにをあんなに急いでるのかにゃー?」

二人は酔っているのかと思うくらいにご機嫌でお気楽だった。

「……くっそ、めんどくせぇな」

ここでもしも自分とあの二人組が仲間だと思われたらあの二人組も巻き込んでしまう。

「お、なんやずいぶんファンがおるで?」

「あー、これはあれだぜい!
間違いなく、ピンチってやつぜよ!」

「クッソ、馬鹿かあいつらは!
おい!お前ら逃げろ!俺に関わるな!」

もうここまで派手にやってしまっては自分を追っている連中はあの二人組も襲うだろう。

せめて今逃げに転じてくれたら、走り疲れるだけで怪我はしないだろう、と上条は二人に向かって大声で叫んだ。

「んー?なにを言ってるんや、あいつは」

「さぁにゃー……でも逃げるなんて俺たちの柄じゃないぜい!」

遠くでこちらを伺っていた二人組は、蘭々とした笑顔で、こちらに向かって走ってきた。


「な、なんでだよ!」

「おい、上条……いや、カミやんと呼ばせてもらうぜい?
お前も多少は喧嘩出来るんだろ?
だったら、逃げてねーで迎え撃つに限るぜい!
俺と青ピは相当強い、もう一人喧嘩出来るのが加わりゃ……」

「二十人なんてちょろいんやで!」

上条とすれ違うと、追手の中で一番足の速かった、つまり、追手集団の先頭を走っていた男を一人ずつぶん殴った。

「ぁえ?」

急ブレーキをかけ、上条は止まる。
そして、ぶっ飛ばされた二人とぶっ飛ばした二人を見る。

「うおらー!食らえッ!冥土神拳!」

「いったぁ!誰だ今殴ったのはッ!」

二人戦闘不能にしたとはいえ、まだ敵は大勢いる。
青髪、土御門両名はその中に突っ込みながら敵を再起不能にした。
つまり、囲まれた状態での喧嘩だ。
全ての攻撃を避ける事は不可能であった。

「バッカ、野郎!」

上条もその中に突っ込んでいった。

これが、三人の出会いだ。

「……覚えてるよ。忘れるわけねーだろ」

「だったら、僕らにくらいは嘘つかんでええんちゃう?
背中合わせで闘った仲やんけ」

青髪は笑いながら言った。


「そうだぜい、つかんでいい嘘はつかなくていいんだにゃー。
……俺たちは友達だ。助けてやるさ。
お前が困ってたら、助けてやる」

土御門も、笑っている。

「どうして……お前らは……俺は、疫病神とか言われて、ガキの頃に腹ぶっ刺されたような男だぞ?
不幸しか、呼ばないんだぞ?
なんで、お前らは俺を友達だなんて言ってくれるんだよ……」

笑う二人に対して、上条は泣きそうであった。

「そんなん、決まっとるやんけ」

「お前の事を気に入ったからだにゃー」

二人のそのわかりやすい答えに、上条は驚いた顔をした。
そして、目を覆うと、小さな声でいった。

「……うん、俺……フレンダの事好きだ。
なんかわからないけど、こいつは守ってやりたいと一目みた瞬間思った。
でも……あいつを、俺の不幸に巻き込みたくない……。
だから……必死に、否定してた……」

「ばーか」

「頓馬」

二人はニヤニヤしながらそう言い放った。

「お前にとって最大の不幸は、やる前に諦めてお前自身が傷つく事なんじゃないかにゃー?
諦めるくらいなら、納得するまであがけってんだにゃー」

「せやせや、男なんて恋してみっともなくなって初めて男やでー?」

上条当麻の幸せは、きっとここにあるこれなのだろう。

両親の判断は、上条に最高の友人を与えたのだった。


〜〜〜

「……ビルの横の建物、その二階の奥から二番めの部屋……ね」

電話の女の拠点を出ると、直ぐに知らないアドレスから窓のないビルへの入り方を説明したメールが届いた。
そのメールには今垣根がいる、窓のないビルの横にある建物、そこの二階奥から二番目の部屋へいけと簡潔に書かれていた。

垣根はおとなしく従い、その部屋にはいる。
部屋にはなにもなく、ひとつだけ足が床に固定されている椅子が置いてあるだけだった。

「なんだ……拷問部屋か?」

動かない椅子に縛り付け、拷問をする様子が頭に浮かぶ。

「違うか、血の臭いもしなけりゃ床はピカピカだ。
なんだろうね、どうしたらいいんだ?」

イライラしながら、部屋を歩き回っていると、再び携帯が鳴った。

「……えぇ……この拷問椅子に座るの?」

自分の想像のせいで、気分が良くなかったが、暗部の上に会うため、ひいてはインデックスを救う事にもつながる。
覚悟を決めそこに座った。

そこに座って数十秒経つと、奇妙な浮遊感を感じ、気がついたら大きなビーカーの様な液体で満たされた容器の前にいた。

「な、なんだ……これは……」

その容器の中には、男とも女とも、若者とも老人とも、善人とも悪人とも、聖人とも囚人とも、なんともはっきり言えない存在が漂っていた。


「はじめまして、第二位」

「お、まえは……だれ……いや、なんだ?」

恐れている事を隠す余裕もなく、垣根はカタカタと歯を鳴らしながら一歩後ずさった。

「アレイスター……。
アレイスター・クロウリー……だ。
そうだな……この街の……統括理事長、とでもいえば……わかるかな?」

「なん……だと……?」

「そう、怯えるな。
私は別になにもしないよ」

アレイスターは怪しく笑った。
まるで垣根を哀れむようにも見えた。

「お前が……この街のトップ、という事だな?
暗部のトップも、お前ってことなのか?
まぁなんでもいいや、聞かせろ……インデックスは……いや、魔術とこの街の関係はなんだ?」

必死に歯を食い縛り、垣根はアレイスターを精一杯の虚勢で睨みつける。

「……あれは、もう助からない。
術をかけたイギリス清教ですら、解く事は出来ない」

「んな馬鹿な話があるかよ」

「十万三千冊の魔道書、と言えばピンときてくれるかな?」

アレイスターはずっと笑っている。
その顔がなんだかとても気持ち悪く、気持ち悪いはずなのに美しくも見え、
その奇妙な雰囲気が垣根を今これが現実なのか夢なのかわからなくさせそうになっている。

だから、普段の垣根ならばすぐに思い当たっただろうが、今の垣根には思いつかなかったのだ。


「それがどうした、というかよ、俺は関係はなんだと聞いたんだ。答えろよ」

「私も魔術師だ。
アレイスター・クロウリーの名くらい無知のお前らでも知っていよう……」

「はぁ?黄金の夜明け団のアレイスターとでもいうつもりか?
世界最大悪人のアレイスターだというつもりか?」

「その通り……世界最強の魔術師……それが、私だ。
今は、世界最高の科学者、だがね」

「……トート・タロットを作ったアレイスター?」

アレイスターは微笑みを保ったまま頷いた。

「……まじか……サインくれ」

「……なんだと?」

「いや、俺そういうのガキの頃から相変わらず大好きなんだよ。
実はステイルの炎やルーンにはワクワクしてたしな。
この街はオカルトとかそういうの誰も信じないから最近は隠してたけど、トップが実は最強のオカルトマニアとわかったら話は別だ。
なんのために魔術師から科学者になったんだ?」

「いや……お前……私に聞きたい事があったんじゃないのか?」

「イギリス清教で無理でも世界最強のオカルトマニアのお前ならインデックス助けられるだろ?
その前に、なんで魔術師から科学者になったのか教えてくれよ!
何が目的なんだ?」

——……こいつは頭がおかしいのか?

子供のように目を輝かせる垣根に、アレイスターは珍しく困った顔をした。


「……オカルトマニア、ではない。魔術師だ。
……インデックスを救うのは無理だ、十万三千冊の魔道書、その言葉の意味を考えてみろ」

自身の作った箱庭の第二位に君臨する男に、嫌気がさした。
アレイスターは案内人に連絡をいれた。
垣根はその瞬間、アレイスターの目の前から消え、部屋はもとの静寂に包まれた。

「プランに影響はない……影響はないが……あれはもはや消えても問題ない存在、ではなくなったな。
消さなくてはならない、存在だ」

何も垣根が阿呆だからではない。
魔術と科学は対立していなくてはならないのだ。
少なくとも、アレイスターのプランの中ではそうなっている。

元々垣根という駒はプランがあと少しでも進めば消える駒だ。
しかし、その消える駒は、プランの中で脇役にしかなってない者たちが救おうと思えば救える位置にいる。
その救いが、垣根にとっての救いかはわからぬが、命だけは救える。

「……面白い。
だが、邪魔だ……。
垣根帝督、所詮お前はスペアにすらなれなかった凡夫なのだ……」

ゆらゆらと浮かびながら、アレイスターは微笑む。

世界最大悪人。
世界最強の魔術師。
世界最高の科学者。

全てを思い通りに手の上で転がす存在だ。
だが、アレイスターは知らなかった。

魔術でも科学でも操る事の出来ないものがある事を……。


〜〜〜

「……なんだよ、まだ聞きたい事あったのに……。
それにしても、インデックスは救えない、か。
その答えが十万三千冊って事は……チッ」

何時の間にか足を固定された椅子のある部屋へ戻された垣根。
そこへ戻ると思考はすぐに切り替わり、本来の目的について働いた。

そして、すぐに答えにたどり着くとインデックスの護衛をしている神裂に電話をかけた。

「……」

だが、電話は一向に繋がらない。

「……」

虚しく呼び出し音だけが耳の中に入ってくる。

「……クッソ、なんでだよ!」

携帯を乱暴にしまうと、めんどうなので直接行ってしまおうとイライラしながら部屋をでた。


〜〜〜

「うわ、かおり!鳴ってる!なってるんだよ!」

「わわわ、わかってます!
大丈夫です、ボタンを押すだけだと言っていましたし……それくらいならいくら機械がダメな私でも……大丈夫です!」

ステイルが必死こいて書物を漁っている間、神裂はインデックスと遊んでいた。
もといインデックスの護衛をしていた。

IDを持たない変な格好をした、しかも刀持ちが学園都市を歩いていたら高確率で職質を受ける。
インデックスを捕まえたらさっさと出るつもりだった頃ならばまだ振り切っても良かっただろうが、インデックスにかかった術を解くまでこの街にいるとなれば、問題事は起こさない方がいい。
その判断から垣根は新しい服を買いに行くまで魔術師三人に外出禁止を言い渡した。

そんなわけで、ステイルは煙草と本を垣根にねだり、インデックスは食べ物とテレビをねだった。
神裂はインデックスの側にいられるならば何もいらないと言っていた。

というかまずは服を買う事を考えてはどうですかね、と垣根は思ったがめんどうなので言わなかった。


「かおり!早くでてくれると嬉しいんだよ!はやくはやく!」

インデックスは携帯電話に興味津々だ。

「えぇっと……あれ?ボタンなんてないじゃないですか?あれ?」

神裂は携帯電話を見回すが、ボタンらしきものはどこにもない。
当たり前だ、二つ折りの電話機を閉じたままいじっているのだから。

なんやかんやしているうちに、電話は音を止めた。
そして、数十秒すると、垣根がドアを蹴り壊す勢いで入ってきた。

「てめぇは電話ひとつでられねぇほど忙しいってのか!あぁ?」

息を切らし、神裂を睨む。
相当なスピードで飛んできたらしい事が、乱れた髪型と服装でわかった。

「す、すみません!
出方がよくわからなくって……」

「おいおい、冗談だろ?百回は教えたじゃねーか!」

神裂は申し訳なそうに目を伏せた。

「……まぁ、いい。
インデックス、お前魔術を本当は使えるだろ?
いや、少なくとも使えたはずなんだ」

垣根はため息をつき、いま立てた仮説を説明しようとした。

ココマデダヨォ

次もよろしくお願いします
投下遅れてごめんね!

追いついた!
でもペースイイみたいだし待つのがあまりしんどくなさそうで良かった

>>692
プ、プレッシャーダヨォ
モハヤ アタラシイ オイコミ ダヨォ

ハジメルヨォ
ペースイイヨォ



〜〜〜

「ふう、良かった」

無事に送り迎えを終え、結標は安堵のため息をついた。
しかし、ホッとした結標とは対照的に滝壺は険しい顔つきをしていた。

「滝壺さん?具合悪いの?大丈夫?」

その様子をみて結標も一気に不安そうな顔に変わった。

「やっぱ、能力使うの負担かかるの?ねぇ、平気?」

「落ち着いて、大丈夫。
少し考え事をしてただけだから……」

滝壺が考えていたこと、それは結標淡希についてだった。

——やっぱり、おかしいな。
あわきが今精神的に弱ってるのは暗部関係の、少なくともあわきにアルバイトをやらせてる人なら知ってるはず。

それは、バイトと結標がアイテムの家でつぶやいた時から感じていた違和感だった。

——私達といる間は監視もなかった。
学校で倒れてその学校の記録でしか暗部はあわきの状態を知ることはできないはず……。

結標が精神不安定になったのは公式の能力測定での事だ。
結標は超能力者に近い力を持っていることから、学校からは大切に扱われている。
その結標が測定の中で事故を起こしたならば、それは確実に記録に残るはずなのだ。
そして、記録に残っていたらそれが暗部の手に渡っていないはずはない。



「……まぁ、いいや。
あと、私今回あわきが案内した人だれかわかっちゃった」

ここでこれ以上考えても結標の顔色が悪くなるだけだ、と滝壺は一気に緊張モードをときてへへと笑った。

「……怖いから聞くのはやめとくわ。
でも、そうよね……一度会った事のある能力者なら場所がわかるのよね」

「会ったというか、記録した人だね。
もちろん、あわきのも記録してあるからあわきがどこへ逃げてもすぐわかるよ?」

「その力を持ったのがあなたで良かったわ。
たちの悪い男が持ってたら……怖いわね」

いつも通りの滝壺に、結標もようやく安心したのか口調が砕けた。

「……私は、女の子でも大丈夫だよ?」

「……滝壺さんみたいな可愛い子に言われたら女の子も落ちるでしょうよ」

軽いジョークをさらっと流すが、そこに初対面の刺々しさはない。
一瞬で相手の懐に飛び込み、そのまま牙を抜いてしまうのは、
やはり滝壺の才能の成せる技だろう。
結標と打ち解けたのは事故も一役買っているが、
その事故も滝壺、麦野がその場にいなかったら余計ひどいものになっていたはずだ。

そういう機会を察知し、それを利用する才能と言うと聞こえは悪いが、
滝壺は精神感応系の能力に頼らずとも、人心掌握のスキルを天賦の才として持っているのかもしれない。


〜〜〜

胸にモヤモヤとしたつっかえを感じながら、御坂は寮へと帰宅した。

——人殺し、か……。

アイテムの家を出て、一人ぼんやりと歩いていると、当たり前のように流していた絹旗の言葉が重くのしかかって来た。

——人を殺す、ってどんな気持ちなんだろう。
私は、人を殺さなきゃ生きていけない境遇になったら……どうするんだろう。

暗部という闇がどのような深さの闇かを御坂は知らなかった。
ただ、そういう汚い部分もあるうるという事をなんとなく察していただけだ。

察していたはずなのに、御坂はいざその立場の人を前にすると、正直恐怖した。

——別に最愛たちを怖いと思ったわけじゃあないわ。
ただ、なんというか世界の違いというかさ……。

御坂が恐怖したのは、同じ年頃の少女が当たり前に人を殺す世界に対してだった。
そして、自分もそちら側の世界にいてもおかしくなかったということだ。

歪んでいる。

と思った。

世界は歪んでいる。

——こんな世界で正しいもの、救い、正義……そんな綺麗なものあるの?

正しいものは別の角度からみたら、全く逆のものに変わる。
救いも誰かの犠牲がなくては成り立たなくなる。
そんな世界の正義なんて、歪んだものに違いない。

「……正しく生きようと思えば思うほど……歪んで行ってる気がする」

だからこそ、と御坂は思った。

「だからこそ、ここは絶対に譲れないんだと思う。
世界を作る、もうそれしかないんだと思う。
歪んだものをぶっ壊して、せめて自分たちが生きる世界だけでも……まっすぐに……」

だが、それは何処かにまた別の歪みを生むだけだ。


「……どうするのが一番の正解なんだろう。
どうしたら、良いんだろう」

苦しみながら生きるしかない、御坂は自分の言った言葉の軽さを後悔した。

「……ダメだな、私」

ピタリと立ち止まる。
どこまでも青く透明な空を見上げてみた。

「同じものを背負ってないのに、なんであんな事を言ったんだろ、無責任すぎるよね……」

絹旗たちの背負うものの重さ、それが想像できないほど重いものだと御坂は理解した。

「おや、お姉様……朝から何処かへ行ったと思えばこんなところで空なんか見上げてどうしたんですの?」

なんとなく空から目が離せなくなっていると、警邏中と思われる後輩が急に現れた。

「あぁ……黒子か。
風紀委員のお仕事中?お疲れ様」

御坂の後輩、白井黒子はこの街の治安維持部隊である風紀委員に所属している。
急に現れた、というのは彼女の能力である空間移動を使い移動していたからだ。

「いいえ、今終わって帰るところですの。
しかし、どうしたんですの?空に何かありまして?」

「いや……綺麗だなって思ってさ」

微笑む御坂に怪訝そうな顔を向けると、

「そうですの……?
まぁ、いいですわ。それより、今からお暇なら少し黒子について来て欲しいんですが……」

そういった。

「えぇ、少しなら良いわよ」

「では、行きますの!」

御坂の手を握ると、二人はパッと消えた。


〜〜〜

「何を言ってるのかな?」

垣根の言葉に、インデックスは呆れ顔になった。

「私は魔術なんてつかえないんだよ!
使えたら、教会が私に十万三千冊なんて渡さないかも!」

「た、確かに……インデックスは魔術に関する知識ならば誰にも負けません。
そのインデックスが魔術を使えたら……」

「そう、恐ろしいだろ?脅威だろ?
もともとインデックスが完全記憶能力を持ってたとしたら?
常人なら目を通しただけでぶっ壊れる魔道書をいくら読んでも壊れねぇ強さを持ってるんだとしたら?
学園都市はよ、レベル5までしかいない。
例え序列第二位の俺が第一位をぶっ殺してもレベル5の第二位がレベル5の第一位になるだけだ。
レベル6になれるわけじゃあない。
レベル6ってのは、神様の領域に足を踏み入れたやつの事だ……。
インデックスは、こちらでいうレベル6になりうる才能を持ってるんじゃないのか?」

垣根はなるべく落ち着いた声で話す。

「それを踏まえた上で、俺の立てた仮説を今から説明する。
その前に、ステイルのやつも呼んでやらなきゃな……」

不安そうにうつむくインデックスの頭を軽く撫でながら、垣根は携帯電話を取り出した。


〜〜〜

何度かテレポートを繰り返し、白井はビルの屋上へと御坂を連れて来た。

「少し、風がありますわね。
でも……どうですの?ここの方が、空が近くて大きいですの」

笑いながら、空を見上げた。

「あんたって子は……本当、負けるわ」

「もっと黒子に頼ってくださいまし。
黒子は、お姉様の為ならば例え地の果て、地獄の果てまでお付き合いいたしますの。
困った顔など、お姉様には似合いませんわ……お姉様には、百万ワットの笑顔がお似合いですのよ」

「……ありがとう、そうね……正直今結構キツイのよ。
どうして良いのかよくわからなくって、でも誰にも相談出来ない。
相談出来ないのは、信用出来る人がいないからとかじゃなくってね……なんというかさ、これは自分一人で考えて答えを出さなきゃ前に進めないと思うからなのよ?」

相談出来る事なら真っ先に黒子に相談するしね、と御坂も笑った。

「そういう事もありますの。
ただ、辛くなったら泣き言くらいは言っても良いんではありませんか?」

さぁっと風が吹き、二人の髪が揺れた。
優しい日常が、そこには確かにあって、御坂はこの風景を守りたいと真に思った。

そして、

「そうね、ありがとう。
私はやっぱりまだ子どもだから……間違える事や失敗することもある」

「えぇ、そうですの。
でも、その間違いや失敗にさえ、自分の身体と心でぶつかっていけば……新しい一歩は必ず踏み出せますの」

傷ついたり、苦しんだりするかもしれない、だけど、その傷や苦しみを癒す事は出来る。
白井はそう言って、再び御坂の手をとった。

「うん、ありがと……黒子」

「傷は消さなくてもいいんですのよ。
傷を負うのは、優しさの証明でもありますの」

フッと二人が消えた屋上には、清らかな風が、また吹いた。


〜〜〜

「……僕たちは柔軟性というものがないらしいね。
そういう突拍子もない発想は……出来ない」

垣根の仮説を聞いたステイルは、自信を無くしたように、ため息をついた。

「……私は……わたしは、どうなるの?」

もしも垣根の話が正しいのであれば、インデックスは救えない。

「安心しなよ、インデックス……。
要は、魔道書を君と同じくらい読めばいいだけなんだ。
僕はルーン以外はあまり得意ではないけれど……使えないわけでもない」

「それは駄目です。そんな事をしたら、良くて廃人……確実に死に至ります」

「……大丈夫さ。神裂は忘れているかもしれないけれど、僕は天才なんだよ」

おどけたように笑いながら、煙草をくわえた。
その煙草に火をつけると、ぷかぁと煙を吐き出す。

「おい、垣根……話がある」

その場にいる全員がステイルが煙草を吸い終えるまで口を開かなかった。
そして、一本の煙草を吸い終えると、ステイルは垣根にそういい、部屋を出た。


「……不意打ちなら君は神裂を拘束する事が出来る自信はあるかい?」

部屋を出るなり、垣根にそう聞く。

「……多少手荒に扱っても平気そうだし、余裕だな。
だが、何故?」

「僕が今からやろうとしている事にあいつが協力するとは思えないからさ」

「お前、何するつもりだ?」

「あの子の記憶をもう一度消す。……自惚れてるって笑うかい?」

意外にもステイルはすぐに白状した。
垣根ならば協力してくれるとらしくもなく信用しているようだった。

「……お前はどこまでかっこつけなんだよ」

「違うよ、僕は実際恰好いいんだよ」

もしも今、ステイルが命を捨ててインデックスを助けたとする。
当然、インデックスにはステイル=マグヌスという友人の記憶が残ってしまうだろう。
それでは、インデックスは自分に対して罪悪感を感じてしまうだろう、とステイルは考えていた。
何もインデックスが自分を大切に思っているなどと自惚れているわけではない。
そう考えた理由は、インデックスの優しさを知っているからだ。
例え誰であろうと、自分の為に命を落とした人がいる事を知ったら、インデックスは悲しむ。
そういう子だと知っているからだ。


「僕はね、垣根……。
あの子の為に生きて死ぬと決めたんだ」

そう出来る事が幸せだというようにステイルは笑っていた。
その笑顔は悲しく、寂しく、そして何よりも美しく見えた。

「……神裂は?あいつだって、お前の友達だろ?」

「神裂は強いから大丈夫さ」

「弱いところが人とは違うだけなんじゃねぇのか?」

「仲間の死なんて僕らの日常にはありふれてる。
それに、インデックスがいるんだ。
だから、大丈夫だよ」

「……そっか。でも悪いが俺は協力しねぇぞ」

垣根はニヤリと笑った。

「なっ……お前、この流れは協力する流れだろうが!」

「あぁ?うるせーな、俺には常識なんざ通用しないんだよ。
そんな流れは変えてやる。
それに、俺が仮説だけを立てて解決策を用意してないと思ってやがるのか?」

出来るかどうかは関係ない。
やるかやらないか、だ。

垣根は頼もしく、第二位未元物質の垣根帝督として、不敵に笑った。

「魔術で解決出来ないなら、科学で解決してやる。
報酬は……そうだな、お前ら三人の笑顔の写真でも一枚撮らせろよ」

ステイルの肩をぽんと叩くと、部屋の中へと戻って行った。


〜〜〜

ステイルと垣根が出て行った部屋の中は、ステイルが吐き出した煙がふわふわと浮いていた。

「かおり……ていとくの話は……本当かな?」

「真偽はわかりませんが……そういう可能性もあるとは思います……」

そっか、とインデックスは力なく椅子に体重を任せた。

「わたしは、どうして自分で自分に魔術をかけたのかな?」

「……脅された、という可能性が高いでしょうね。
垣根帝督の言うとおり、あなたが途轍もない魔力を有し、
なおかつ魔道書をいくら読んでも耐え得る人物だったのであれば、
あなたを力で無理やり縛り付けるのは無理でしょうから、人質でもとられたんだと思います」

「……わたしは馬鹿だね」

「そんなことありませんよ!」

「でも、これが本当にわたしがわたしにかけた魔術なんだとしたら……わたしはこのままでいいんだよ。
一年しか記憶を保てないのは、わたしがわたしに課した罰なんだよ」

インデックスは椅子の上で小さく縮こまる。