エレン「歪んでしまった」(206)

キャラ崩壊あり

いつか母さんに言われた事がある。

『ミカサを守ってみせな』…と。

その言葉は俺の中で燻ぶり続け、気がつくと形を変えた。

…そう、歪んだ形になっていた。

まるで対極の形だった。

―――

昨日俺はミカサを誰にも使われなくなって久しい倉庫に呼びだした。

なんの疑いも警戒もしないミカサは俺が噛みつくようにキスをすると目を丸くした。

そのまま押し倒し、ぬるりと舌を絡ませても乱暴に服を開いてもその体に舌を這わせても目を丸くしたままだった。

仕上げと言わんばかりに下着に手をかけるとはじめて思い出したように小さな抵抗をした。

そう、本当に小さな抵抗だった。

弱々しく抵抗とも呼べないようなものだった。

『嫌だったらもっと抵抗しろよ。おまえなら簡単に出来るだろ?』

『家族にこんな事されて黙ったままでいいのかよ』

あまり覚えていないが、その場で思いつく限りの言葉でミカサを攻めた。

ミカサは悲しそうな顔をしていたがそのまま構わず犯した。

女にとって初めては痛いらしい。

ミカサは涙を流していた。

俺の下でなんの抵抗もせず受け入れているだけのミカサを見ていると…快感だった。

普段俺を守ると言うミカサがこの様だ。

俺のどうしようもない感情がが少し薄くなっていくような気がした。

俺に逆らうな。

俺に服従しろ。

俺に守られていろ。

不思議と罪悪感はなかった。

「おはよう」

「ん、おはよう」

眠い目を擦りながらアルミンと挨拶を交わした。

「今日の座学、僕楽しみなんだ」

「立体機動のテストがもうそろそろだね」

「今日の朝食は味が濃かったらいいな」

などと他愛のない話をしていた。

俺も適当に相槌を打つ。

「あ、ミカサ!おはよう」

食堂に着くとミカサが座っていた。

俺の心臓が少しだけ跳ねる。

昨日の今日でミカサはどんな態度をとるんだろうか。

気まずい顔をするのか。軽蔑の眼差しを向けるのか。

少しだけわくわくした。

「おはようアルミン。エレン」

ミカサはいつも通りだった。

俺はミカサの隣に、アルミンは俺の正面に座った。

「二人の分もトレーをもらってきた」

「ありがとう」

「…おう」

訓練生活にも慣れてきてそれぞれ気心の知れたグループが出来上がっている。

食事中はそんなグループが固まる事が多いのでざわざわと賑やかになる。

俺たちもそんな『グループ』の一つだ。

今日はアルミンがよくしゃべっている。

アルミンは自分の持つ知識を聞かせるのが好きで一度話しだすと中々止まらない。

俺はそんなアルミンの話をよく聞き流す。

アルミンも多分承知している。

俺は気付かれない程度にミカサを見る。

ミカサはアルミンの話を黙って聞いていた。

普段は俺と同じでミカサもアルミンの話を聞いたり聞き流したりしている。

それが今日は真剣に集中して話を聞いている。

…まるで隣にいる誰かを避けるように。

ああ、やっぱ昨日の事気にしてるんだな。

それに気付くと微笑んでしまう。

…自分でもわかるくらい邪悪な笑みだった。


―カンカンカン…

食事の終わりを告げる鐘が鳴る。

「今日は僕がトレーを片づけておくよ」

そう言ってアルミンが俺達から離れた。


「ミカサ」

名前を呼ぶとミカサの肩がビクリと震えた。

「…何?」

それを誤魔化すように平静を装っている。

からかうようにミカサの耳元に唇を寄せ囁く。

「昨日は痛かったか?それとも気持ちよかったか?」

ミカサは耳までカァっとなった。

スカートをギュッと握っている。

ああ、俺はこういうミカサを見たいんだ。


―ミカサを辱めたいんだ。


なんて感情を抱いてしまったんだ。

俺は『家族』失格だ。

「どうしたの?」

戻ってきたアルミンがいつもと違う俺達の様子をみて怪訝な顔をした。

「なんでもないぞ。なあミカサ?」

「ええ…なんでもない…」

昨日の出来事をアルミンは知る由もなかった。

―――


いつからミカサに対する気持ちは歪んでしまったのか。


俺の中で今でも鮮明に思い出すのは家族を失い、これからどこに行けばいいのかわからず虚ろな目をしているミカサだ。

マフラーを巻いてやると暖かいと言って喜んでいた。

それが俺にとっても嬉しかった。

こいつを守ってやりたいと思った。

家族として…男として。

いつも俺の後を着いてくるミカサを愛しいと思った。

そんなある日、近所の悪ガキに囲まれた時に知った。

ミカサは強い。

俺よりも強い。

気がつくと俺はミカサに助けられ、守られる事が多くなっていた。

ミカサは俺の敵わない相手を易々となぎ倒していく。

傷だらけになった俺に手を差し伸べる。

大丈夫か、と俺の心配をする。

…ひどく惨めな気持ちになった。

「一度死んだ私を再び生き返らせた恩を忘れない」

ミカサはそう言った。

何が恩だ。

俺はただ有害な獣の駆除とミカサにマフラーを巻いただけだ。

ミカサが言うような「恩」などという大層なものに覚えがない。

そんなどうでもいい事で俺を守ろうとする。

さらに惨めな気持ちになった。

もうひとつ、ミカサと俺を繋ぐ『家族』と言う言葉。

それはミカサを縛っているのだろう。

出会った時、ついこの間。

二度も目の前で失ったから余計に執着する。

俺は最近この『家族』と言う言葉が邪魔で仕方がない。

イライラしてしまう。

そんな事を考えながら昨日と同じようにミカサを倉庫に呼びだした。

昨日と少し違うのは、ミカサは警戒していた。

怯えていたのかもしれない。

まぁ当たり前か。

なんだか微笑ましい気分だ。

俺が一歩近づくとミカサは一歩下がる。

それを何度か繰り返す。

「あ…」

壁に追い詰められたミカサは小さな驚きの声を上げた。

一歩追い詰め、一歩下がるといつか壁にぶつかる。

そんな簡単な事に気がつかなかったみたいだ。

そして昨日と同じように噛みつくようにキスをした。

口内を蹂躙する。

ミカサに逃げ場はなかった。

息が苦しいのか時々くぐもった声を上げた。

…今日もミカサを犯した。

一般的に肌を重ねるという事は愛し合った男女が行きつく行為である。

所謂セックス。

そう言う事に興味があるお年頃ってやつで深夜に度々その言葉が飛び交ったりもする。

縁のない言葉だと思っていた。

いや、今も縁はないのかもしれない。

だって『愛し合う男女』がする行為なら俺たちは違う。

『家族』なのだから。

男が女に同意なく強いる…

これはセックスではなく、俺の一方的な…強姦だ。

―――

今日の立体機動の訓練、やはりミカサは誰も寄せ付けないほどの差を見せつけた。

「歴代の中でも逸材」らしい。

まぁ見てればわかる。

他の訓練兵はミカサを遠い存在と思っている者、疎ましいと思っている者大体この2種類に分けられていると思う。

もちろんそれ以外もあるが。

俺はどちらかと言うと後者寄りだ。

でも…。

ミカサの背中を見つめていた。

ガスを吹かす音が遠くに感じる。

「エレン!…よかった…」

目を覚ますと天井が目に入った。

あれ?俺は寝ていたのか…?

ミカサが心配そうな顔をして覗き込んでいた。

「あれ…なんで…ここは…」

「医務室だよ」

そう言ったのはアルミンだ。

ミカサの一歩後ろに立っていた。

体を起こそうとすると頭がズキッと痛んだ。

「…痛っ」

「まだ起き上らない方がいい」

ミカサが俺の体を軽く押さえつけた。

「そうだよ、エレンは訓練の途中で頭をぶつけて…」

あー…そう言えばそんな感じだった気がした。

アルミンがその時の状況を丁寧に説明してくれる。

ミカサを追い抜こうとして自分の力量以上のスピードを出し…この結果であると言う事。

それだけの話だ。

「あまり無茶しない方がいい。私はエレンが心配」

その言葉にカッなる。

おまえにだけはそんな事言われたくない!

俺は押さえつけていたミカサの手を乱暴に振り払った。

その衝撃でまた頭が痛んだ。

「ミカサ、とりあえず先に訓練に戻って。僕も後から行くから…」

アルミンが俺からミカサを庇うように言う。

「…わかった」

それだけ言うとミカサは医務室を出た。

足音が遠ざかる。


「エレン」

う…きた…

アルミンが腕を組んで俺を見下ろしている。

そして深いため息をつく。

「どうしてそうミカサに対してぶっきら棒な態度をとるの?」

「確かにミカサもエレンの心情を読みとれてないところはあるけど…」

俺の心情も察しているらしい。

「それでも純粋に君の心配をしているのにあの態度はないんじゃないか?」

その上でさらに俺を責め立てた。

「もう少しだけミカサに優しくしてあげたら?」

手を乱暴に振り払った時のミカサの顔を思い出す。

何とも言えない悲しそうな顔をしていた。

…はじめて犯した時よりも。

あの時、罪悪感は感じなかった。

でも今は少しだけ胸が痛む気がした。

「ミカサの事好きなんだろ?」

「好きだよ」

そう言うとアルミンが面くらった顔になる。

少し顔を赤らめながらまごまごしていた。

「そんなきっぱり言うとは思わなかった…」

「? どうしてだよ?」

「だってミカサ本人には言わないだろうから…」

「当然だろ」

フッ笑うアルミン。

「そうだね。とりあえず僕も訓練に戻るよ。また来る」

そう言ってアルミンはドアを閉めた。

「そうそう」

と思ったらもう一度ドアを開ける。

「ミカサに言ってあげた方がいい」

「絶対に嫌だ」

「今じゃなくてもいつか…ね」

アルミンは手を軽く左右に振り今度こそ訓練に戻った。

―――

ちくしょう…モヤモヤする。

最近ずっとこうだ。

その原因を思い浮べる。


『…………………行かない』


そう言ったミカサの言葉が頭から離れない。

今までは頼んでいなくても俺についてきた。

母のように、姉のように、そして俺に従順だった。

それが気に入らなかった。

いつでも嫌なら俺の手を振り払えばいい。

見限って捨ててしまえばいいって思っていた。

だが、ミカサのはじめての拒絶の言葉は思った以上に大きなダメージを俺に与えた。

「おいイェーガ―集中しろ!巨人の餌になるのか!?」

教官の声にハッとなった。

馬に乗った教官に高い位置から見下ろされている。

今は兵站行進の訓練である。

重い装備に少しよろけながらがむしゃらに走った。

―おい、大丈夫か。

しばらくすると俺の少し後方からライナーの声が聞えた。

振り向くとミカサが転倒していた。

…珍しい光景である。

俺の心臓がドクンとなった。

「少し木の根に躓いただけ。平気」

ミカサはすぐに起き上がった。

「びっくりした…ミカサが転ぶとか珍しいね」

近くにいるアルミンが心配そうな声を上げる。


「アッカーマン、大丈夫か」

教官がミカサの傍にやってきた。

普段遅れている者はそのまま放っておかれるが、珍しい光景に思わず声をかけてしまったらしい。

「大丈夫です」

ミカサは心臓を捧げるポーズをとった。

「ならいい」

そう言うと教官は再び馬を走らせた。

「本当に大丈夫か?」

「平気」

ライナーの問いに短く答えるミカサ。

するとライナーは立っているミカサの足首を軽く蹴った。

同時にアルミンは少しだけ驚いた顔をした。

「っ…!」

ミカサはあからさまに顔を顰めた。

ライナーは痛みを感じるほど強く蹴っていない。

「足首を捻ってるね。これは」

アルミンがミカサの様子をしげしげと見ながら言う。

ライナーは『やっぱりな』と言いたげな顔をしていた。

「後少しの距離だから大丈夫。ライナー、アルミン、ありがとう」

そう言って一歩踏み出したミカサだったが接地の軽い衝撃でまた顔を顰めた。

「思ったより重症だな。仕方がない。俺が背負ってやる」

そう言って装備を外し両腕を背中側へ広げ跪いた。

「迷惑をかけたくない…」

「遠慮するな。人外のミカサとはいえ一応女の子だし役得だ」

ニッとライナーは笑う。

…俺自身もだが、改めてライナーが仲間から信頼を得ている理由がわかった気がした。

「もう少しの距離だし、なんとかなるから…」

まだミカサは渋る。

「いいから乗れよ」

「大丈夫、歩ける」

そんな鬱陶しいやりとりがしばらく続いた。

あーもう…

「おい、ミカサ」

俺はぶっきら棒に名前を呼んだ。

「エレン!?」

「エレン、いたんだ」

俺が見ていた事に気付かなかったらしくミカサは驚いた。

「せっかくのライナーの厚意だ。素直に甘えればいいだろ」

「でも…」

俺はガシガシと頭を掻いた。

装備を外し、地面に投げ捨てる。

ミカサの腕を掴みそのまま背負った。

何が起こったかわからずミカサは驚いて目を丸くした。

アルミンが茶化すような目で見ていたのが少し気に入らなかった。

…ついでにライナーも同じ目で見ていた。

「家族なら遠慮いらないだろ」

「……!」


後で投げ捨てた装備を回収しに来よう。

ケガ人を運ぶのなら別に構わないだろう。

多分。

「仕方ない、俺がエレンとミカサの装備を運ぶか」

「ぼ、僕も片方持つ!」

「いや、無理だろ…」

「無理じゃない…!」

アルミンはそう言ってライナーの手から片方装備を奪った。

…後で二人に礼を言っておかないとな。

「走りにくいからしっかり掴まってろ」

ミカサがギュッと首に腕をまわす。

「……エレン…ごめんなさい…」

俺は最近その言葉が嫌いだ。

聞きたくない。

「おまえは装備よりずっと重いからいい訓練になるよ」

「……うん…」

「後、こういう時は『ありがとう』にしてくれ」

「……うん…ありがとう」

しばらく風を切って走っていた。

俺の息遣いが、心臓の音が、やけに響いてる気がした。

…この沈黙がなんとなく嫌だった。

「…なんでこの間倉庫に来なかったんだよ」

ミカサの体がビクっと反応した。

体が密着しているせいかダイレクトに伝わる。

「女の子には…色々あって…」

「どこでそんな言葉覚えたんだよ」

「…今度私にジャガイモの皮むきを教えてくれたら…理由を言う…かもしれない…」

「『かも』…かよ。ていうかおまえジャガイモの皮くらい自分でちゃんと剥けるだろ」

「エレンのように上手に剥けるようになりたい」

「これ以上うまくなってどうするんだよ」

「………教えてくれないの?」

「…わかったよ」

そう言うとミカサが少し笑った。顔は見えないけど。



「私だって昔からエレンがジャガイモの皮むきが得意なのは知っていた」


その言葉がどういう意味を持つのかわからない。

聞えなかったふりをした。

…なぜだかわからないが顔がやけに火照っている気がした。

―――



最近まともにミカサの顔が見れなくなった。

おかしい。

心臓が大きく音を立てる。

顔が火照る。

病気なんじゃないかこれ…

「エレン、どうしたの?」

ミカサが顔を覗き込んでくる。

「なんでもない」

俺はミカサの頬を掴みその表情が見えないように無理矢理背けさせた。

「? エレン何?」

ミカサは困惑した顔をしているだろう。

一番困惑してるのは俺だけど。

「アルミン、これはなんだと思う?」

就寝前の寮のベッドの上。

そんな最近の自分の状態をアルミンに話してみた。

心臓の音が大きくなる事、顔が火照る事、ミカサの顔が見れない事。

アルミンは頭がいい。

きっとすぐに答えを出してくれるだろう。

「え…?ん…?本気で言ってるのエレン…」

「なんだその反応…」

「いや…ちょっと前の会話を思い出してて…」

「?」

「答えは自分で言ってるじゃないか」

「??」

「エレンはミカサの事が好きって事」

「いや、好きだけど…」

アルミンが呆気にとられた顔をしている。

変な事言ったか俺…

「僕が言いたいのはエレンはミカサが好き。恋愛対象。ラブ。愛してる。 …って事。わかる?」

アルミンはまるで幼い子どもに接するように言う。

失礼な奴だ。

…って…

「…好き。恋愛対象。ラブ。俺がミカサを愛してる?」

言われた言葉を反芻する。

「そうだよ!」

アルミンは拳を握り締め力説する。

俺はしばらく茫然とした。

「エレン…?」

アルミンは心配そうに俺の様子を伺う。

「はっ! いや…俺がミカサに恋愛感情を持っている…」

自分の事なのにまるで他人事のようだ。

意味がわからない。

「以前『好き』って言ってた事覚えてる?」

「いや、好きだよ。でも恋とか愛とか…考えた事なかった…」

あー…だから素直に言っちゃったんだね。とアルミンは自分で納得するように言っている。

「アルミンは恋した事あるのか?」

「えっ」

「参考に聞かせてくれよ。どうしたらいいんだこれ…」

「えっ」

「なぁ、教えてくれよ」

アルミンは俺から視線を逸らす。

「ない」

「え」

「偉そうに言ったけど僕は誰かに恋した事は…ない…ごめん…」

「そうなのか…」

「所詮本で得た知識だよ…だから、エレンは自分で確かめた方がいいと思う」

「いや、無理だろ」

今まで自分がミカサにしてきた事を思いだす。

今更どの面下げて『愛の告白』をするんだよ。

「どうするか決めるのはエレンだからね。僕は何も言わない」

「少し羨ましいな。僕も誰かを好きになって悩みを相談してみたい」

「こんな感情邪魔なだけだぞ」

「…それでも」

アルミンが少し微笑んだ。

その時二段ベッドの下から急に歓声が聞えた。

話の中心にいるのはフランツのようだ。

「ええーおまえハンナと付き合ってんのかよ」

「マジか!そういえば最近よく一緒にいたな!」

「黙ってたけど付き合い始めてから結構たつんだ」

「マジかよー羨ましい!」

「よかったじゃねーか」

「俺も彼女ほしい…」

「密かに狙ってたのに…許せん…」

「ははは」

フランツを中心に同期達の祝福と怨嗟の声で盛り上がっている。

「で、だ。どこまでいったんだ?」

「え!言わないよ!?」

「Aか?Bか?それともCか?」

「ハンナって結構スタイルいいよなー」

「もうヤッちゃったのか!?」

気がつけば耳を塞ぎたくなるような下世話な話に移行していた。

…俺達はそういうお年頃なのだ。

「だから言わないって!」

「これは…フランツはもう…」

「くそーマジかー…大人の階段登っちゃったのかー」

「裏切り者め」

「な…何も言ってないだろ!」

焦った様子でフランツが弁明しようとする。

「ハンナは非処女かー」

「はっきり言うなよ」

フランツは色々諦めて話題から少しづつ遠ざかろうとしている。

周りはそんな様子にもお構いなしだ。

「この104期で他に非処女はいるのかなー」

「あいつは?○○。あいつなんか非処女っぽい雰囲気」

「わかる」

「××は?なんか大人しそうな顔して…とか」

気がつけば話題が同期の女子に移っていた。

…女子に聞かれて殴り殺されても文句は言えないな。

「なんか下世話な話してるね」

「喋らせとけばいいんじゃないか?それよりもう寝ようぜ」

俺は掛け布団に手をかける。

「ミカサはどうなんだろう?」

ピクッとあからさまに反応してしまった。

「あいつ…顔はかわいいけどなんていうか、人間じゃないよな…」

「まったく想像できねぇ」

「かわいいけど俺はパス」

「おまえが相手にされるわけないだろ」

少しの無言の後、気がつけば俺は注目されていた。

「エレンがいるからな」

「おいエレン、ミカサはどうなんだよ?あいつが非処女か処女か」

「明日のパン賭けようぜ!」

「じゃあ俺は処女!」

「俺も俺もー」

ゲラゲラと下品に笑っている。

めんどくさいのに絡まれたな…

「どっちなんだよ。家族なら知ってんだろそれくらい」

「そうそう、いつもべったりくっついてまちゅからねー」

「うらやましいなー」



「あいつは非処女だよ」

そう言うと部屋が静まり返った。

…雑音が消えてよく眠れそうだ。

隣のアルミンを見ると目が点になっていた。



「おやすみ」

そういうと俺は布団をかぶって目を閉じた。

―――

消灯後。

周りは寝静まっていた。

ミカサとの約束を果たすため起き上る。

俺に気付いたアルミンが「勝率100パーセントだよ。いってらっしゃい」と言ってきたのに少し怯んだ。

もはやすべてを見透かしてそうだ…

俺は倉庫に向かった。

「待たせたか?」

「私も今来たところ」

倉庫に着くとミカサが適当な箱の上に座っていた。

窓からわずかに漏れる月明かりにミカサは照らされていた。

見た事のない女がいるような気がした。

「エレン」

ミカサが俺の名前を呼ぶ。

いつも呼ばれているのに今日に限って緊張した。

「手を握ってもいい?」

「え?あ、ああ」

ミカサは俺の手を握った。

俺を待ってたせいかミカサの手は冷たかった。

「エレンの手、暖かい」

「おまえの手は冷たいな」

「エレンの手がより暖かく感じるからそれでいい」

「そうかよ…」

なんだかよくわからない状況になってしまった気がする。

握られた手が心地良いのでしばらくミカサの好きにさせた。

「私はエレンが好き」

突然の告白であった。

ふいを疲れた俺は間の抜けた顔を晒してしまう。

「エレンは私の事どう思ってる?」

ミカサはなんでもない風を装っていたが顔が真っ赤で今にも湯気が出そうだった。

冷静な表情と真っ赤な顔はアンバランスで愛しかった。

そしてはぐらかしてはいけないと思った。

「…俺から言おうと思ってたのに。なんでおまえから言うんだよ」

これが精一杯の答えだった。

やはりどこか素直になれない。

ミカサを見ると驚いた顔をしていた。

「そう、よかった…嬉しい」

そしてはにかんだ顔になる。




「でもエレン…」

「多分エレンと私の好きは大きな違いがある」

「は?」

「私はエレンが好き。男の人として。出会った時からそうだったのかもしれない」

「………」

「でもエレンは私の事を家族として好きなんだと思う。エレンは優しい。いつもなんだかんだ言って私の気持ちに応えてくれる」

「…この倉庫で気持ちをぶつけてくれて嬉しかった。本音をぶつけてくれたようで嬉しかった」

ミカサの言う『気持ちをぶつける』とは俺がミカサを犯した事を言ってるのだろう。

許されない行為を『嬉しい』と言う。

「私はエレンを止めなければいけなかった。何をしてでも。だって私達は家族だから。家族でしてはいけない事だから」

「でもどんな感情でも私だけに向けてくれるのが嬉しかった」

「そしてどんどん欲張りになってしまった」

「もっと私を見てほしいと思った。 …私だけを見てほしいと思った」

「この間も私を『恋人』と、嘘でも言ってくれて嬉しかった」

「でもこのままじゃエレンは背徳者と思われてしまう。そんなのは嫌だ」

普段口数の少ないミカサが自分の気持ちを長々と語っていた。

話は聞いていたが胸の奥でふつふつと湧き上がってくる怒りで頭にはあまり入って来なかった。

「だからエレン」

ハッとミカサの顔を見る。

「エレンを男の人として好きな私を振って。そして家族だって言って」

「そうだな」

しばらくの沈黙の後にやっと言葉を発した。

そしてミカサをまっすぐに見据えた。

ミカサはなんともいえない顔で微笑んでいた。

その瞬間俺の中の何かがプツリと切れた気がした。

俺はミカサの肩を掴むと床に叩きつける。

「…っ!」

ミカサは予期せぬ痛みに顔をしかめた。

そのままミカサにのしかかりブラウスのボタンを乱暴に引きちぎった。

「エ…エレン…」

「おまえは家族だよ。俺の一番大切な」

耳元で囁いた。

ミカサは感情のない瞳で俺を見上げている。

「だから俺の気持ちを今まで通り受け止めてくれよ、ミカサ?」

そう言ってミカサの顔のすぐ右隣に手をついた。

左手は頬に触れ、首筋に触れ…どんどん下降していく。

体が震えているのがわかった。

今日、心の片隅に用意していた『愛の告白』はすべて破棄した。

…アルミンはなんて言うだろうか。

勝率100パーセントと言っていた。

だが、実際は0パーセントだった。

ミカサは『家族』と言う言葉『俺が不利になるのが嫌だ』とそれしかなかった。

『自分』がなかった。『自分がどうしたいか』が。

ミカサはどこか歪んでいたのだ。

それでもいいか…

はじめから俺はミカサに歪んだ気持ちをぶつけてしまったのだから。


「何笑ってんだよ」

「嬉しくて」

もうわけがわかんねぇ。

俺はミカサに口づけた。




おわり

なんかモヤモヤしてすまん
読み返すとひどい色々…

誰かエロ書いてください><


http://i.imgur.com/l7mIkgw.jpg

↑原画集買ってテンションあがってかいたおまけ

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2013年12月01日 (日) 01:59:41   ID: M_ySRmt9

処女は大切な物なのに

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