妹「私はお兄ちゃんを卒業します」 (54)

兄「なんだよ突然に」

妹「私もジリツしたいのですよ、お兄ちゃん」

兄「はあ、どうぞ」

妹「だから一緒に私がジリツする方法考えてよ」

兄「お前まず自立って辞書で引いて来いよ」

妹「引いて来たよ!」

兄「お前は律儀か」

妹「自立、自分だけで物事を行うこと」

兄「おう」

妹「……?」

兄(これは「辞書を引いてみたけど結局どういうこと?」って顔だわ)

兄「なんかもう断わるのも面倒臭いから付き合ってやるよ」

妹「ありがとうお兄ちゃん!」

兄「あー、まずはあれだ、目標を決めようぜ」

妹「モクヒョウ?」

兄「例えばな、買い物に行くならスカートが欲しいとかマフラーが欲しいとか決めてから行くだろ」

妹「あーなるほどー」

兄「で、どうしたいわけ、お前は?」

妹「ジリツしたい!」

兄(あー話通じない奴の相手面倒臭ぇー、超面倒臭ぇー!)

兄「具体的に答えろ。具体的ってのは、何色のシャツが欲しいとかそういう意味だ」

妹「大人のレディーな感じにジリツしたい!」

兄「んーなるほどなー! そういう事じゃねーんだけどな!」

妹「お兄ちゃんって話通じないよね」

兄「ははは。……あー、じゃあ、あれだ。お前、なんで俺を卒業したいの?」

妹「んー、やっぱり私も中学生だしさー、もうお兄ちゃんって歳じゃないじゃん?」

兄「そうだねー、じゃあもう部屋から出てってくれねぇ? マジで」

妹「酷いよ!」

兄「どっちがだよ」

妹「お兄ちゃんの意地悪!」

兄「マジでどっちがだよ!」

妹「もういいよ! お兄ちゃんなんて知らない!」

兄「おう。じゃあな」

妹「……」 ムスッ

兄「だから出てけよ! なんで俺の部屋でむくれるんだよ!?」

妹「……」

兄「……」

妹「……」 ガサゴソ

兄「……」

妹「……」 ペラッ ペラッ

兄「……」

妹「ぷっ、ぷぷぷっ。何これ、超ウケる」 パタパタッ

兄「ジリツの話はどこに行ったんだ?」

妹「え、何が?」

兄「ジリツするんだろ?」

妹「何それ、お兄ちゃん急にどうしたの?」 ポカーンッ

兄「お前バカにしてんの?」

妹「あ、思い出した!」

兄「やっとか」

妹「友ちゃんに宿題写させてもらう約束してたんだ!」

兄「せめて自分でやれよ? つーかジリツは? ジリツはどこに行ったわけ?」

妹「んー、明日の朝でいっか。友ちゃんにメールしとこ」 ポチポチ

兄「せめて人の話くらい聞けよ」

妹「それでね、ジリツしたいの」

兄「あっそ。すれば?」

妹「お兄ちゃん冷たい」 シュンッ

兄「今更落ち込まれてどうしろと?」

妹「私いらない子なんだ、邪魔な子なんだ……」

兄「そういうウザい所から治せばいいんじゃねえの?」

妹「私ウザいんだ……」 ドヨーンッ

兄(構えばウザいし構わなくてもウザい……) ドヨーンッ 

妹「ウザいんだ……私ウザいんだ……」 イジイジッ

兄「はあ。自立したいならウジウジするなよ」

妹「私ウジウジちゃんだし……」

兄「俺が悪かったよ。ごめんな」 ナデナデ

妹「……」 ジッ

兄「何かして欲しい事は?」

妹「お腹減った」

兄「何食べたい?」

妹「ケーキ」

兄「買ってくるよ」

妹「一緒に行く」

兄(自立って何だっけ)

妹「嫌だって言ってるのにいっつも頭叩いてくるの、国語のタッキ―」

兄「タッキ―って滝中?」

妹「そう! 酷くない? 体罰だよ!」

兄「あの先生まだ現役なんだなー」

妹「やめちゃえばいいんだよ! あ、でも良い所もあるんだよ。タッキ―奥さんの話する時面白いし」

兄「あーあれな、鉄板ネタだな」

妹「昨日も……げほんげほん。あー、あー。
  『うちの嫁が、熊が出たんですって怖いわね、なんて言うから、お前なら熊の方から逃げ出すよ、と言ってやったよ』
  って言ってたよ、顔に包帯撒いて! 今の似てた? 似てた?」

兄(ビックリするくらい似てない物真似だなぁ。早くケーキ屋付かねえかなー)

友「あ」

兄「あ」

妹「ん? あ、友ちゃんだ!」

友「あ、うん。こんにちは、妹ちゃん。それにお兄さんも」

兄「おう」

妹「友ちゃんも一緒にケーキ食べに行こ!」

友「え? 私これから塾が……」

妹「お兄ちゃんがおごってくれるんだよ! ね、行こうよ! ね!」 グイグイッ

友「あ、でも、あの、あ、ちょ」 ヨロッ

兄「何やっとんじゃ」 バシッ

妹「あぶっ」

妹「い、痛い」

兄「嫌がってんのが見えんのか、お前は」

妹「だって」

兄「だってじゃねえよ」 バシッ

妹「あぶっ」

兄「人に迷惑掛けてんじゃねえ」 バシッ バシッ

妹「あぶっ、ぶっ」

友「あ、あのお兄さん、もうその辺で」

兄「あ、そう? ごめんね、うちのバカが」

友「慣れてますから」 ニコッ

妹「う、うぅ……」

兄「急いでたんだろ? ごめんな」

友「いえ、まだ時間に余裕ありますから」

兄「そうなの? なら聞きたい事あるんだけどいいかな?」

友「私にですか?」

兄「うん。あのさ……実は」 ボソッ

友「ひゃっ!?」 ビクッ

兄「え、な、何?」

友「ご、ごめんなさい、耳に息が掛かって、その、もぞもぞして」

兄「悪い」

友「いえ……」 モジッ

妹「ぶった」

兄「あ?」

妹「お兄ちゃんがぶった!」

兄「おう」

妹「ぶった」

兄「誰が悪いんだ?」

妹「……っ」

兄「なあ?」

妹「……私です」

兄「分かればよろしい」

友「えと、それでお話って?」

兄「ああ、ごめんね。……妹、先に行って選んで来い」

妹「……」 ツーンッ

兄「ほら、千円渡しとくぞ」 ピラッ

妹「やったー!」 パシッ

兄「やってねえからな? 預けたんだからな?」

妹「行ってきまーす!」 タッタッタッ

兄「聞いてねえな」

友「聞いてないですね……」

兄「で」

友「はい」

兄「うちの妹が俺を卒業するだの自立するだの言ってるんだけど、心当たりないかな?」

友「あー」

兄「あると?」

友「実は……」

同級生『そういえば妹ちゃんって普段何してるの?』

妹『んー、全然憶えてない!』

同級生『ええー……。昨日とかは?』

妹『お兄ちゃんとゲームしてたよ』

同級生『一昨日は?』

妹『一昨日はー、お兄ちゃんと映画観てカンフーごっこしてたかな』

同級生『それって……』


友「ブラコンじゃないの?って言われたんですけど……」

兄「あいつブラコンの意味分かるの?」

友「まさか!」

兄「友ちゃんってナチュラルに酷い所あるよね」

友「ち、違います! 今のはそういう意味じゃないですっ!」

兄「あーうん、ごめんごめん。続けて」

友「……むぅ」

妹『ブラコンって何?』

友『ブラザーコンプレックス、お兄ちゃん大好きって事だよ』

妹『あ、じゃあ私ブラコンかも』

同級生『ええ? ブラコンとかないと思うよ』

妹『なんで?』 キョトン

同級生『自立できてないって事でしょ? それに兄妹で仲良いのって……なんだか』


友「気持ち悪い」

兄「なるほど」

友「あ、私は全然そんな事思ってませんよ?」

兄「その自己フォローは逆に思ってるっぽくなるわ」

友「じゃ、じゃあ思ってます!」

兄「はあ、結局そう思われてるんだ」

友「えええ!?」

兄(ああ、ちゃんと思った通りの反応をしてくれる……) ジーンッ

友「……とにかく、そういう事で自立したいって言ってるんじゃないかと思います」

兄「ふーん」

友「どうするんですか?」

兄「放っとくよ」

友「いいんですか?」

兄「すぐ飽きるでしょ、どうせ」

友「ふーん」

兄「何?」

友「お兄さんも案外寂しかったりするんじゃないですか?」

兄「は?」

友「妹ちゃんが兄離れしちゃったら」

兄「ないわ」

友「どうでしょうねー」 ニコニコッ

兄「仕返しのつもり?」

友「ふふふ」

友「あ、そろそろ行かなくちゃ」

兄「はいはい、頑張ってね」

友「ありがとうございます。それでは」

兄「またね」

友「はい。また」 スタスタ

兄(自立ねぇ。……特に困らないなぁ、正直あいつの相手するの面倒臭いし)

妹「モンブラン、ショートケーキ、ティラミス、ガトーショコラ!」

兄「お前ケーキの名前はすらすら言えんのな」

妹「私、女子力高い! 私、ケーキ食べる!」

兄「なんか人間力低そう」

妹「もう公園で食べようよ!」

兄「いや公園に皿とかねーから」

妹「あー! ケーキの声が聞こえる! 私に食べてって言ってる!」

兄「統合失調症の恐れがあります、今すぐに病院に行きましょう」

妹「ケーキ! ケーキ!」 ニコニコッ

兄(実の妹よりも妹の友達の方がノリ合うってどうよ?)

兄「ただいま」

妹「た、だ、い、まー!」 タッタッタッ

兄「はえーよ」 スタスタ ガチャッ

妹「……」 モグモグ

兄「え、何? 今の約十秒で皿とフォーク用意したの? 何なのその俊敏さ」

妹「……」 モグモグ

兄(返事無しっすか)

兄(でもあれだな、食べてる間は静かでいいなぁ)

妹「あー」 ボーッ

兄「食べ終わるのも早ぇーよ」

兄「口の周り汚れてるぞ」 フキフキッ

妹「んー」

兄「お前は黙ってれば可愛いんだからしっかりしろよ」 ポイッ

妹「んー」

兄(こいつに自立なんてできるのかねぇ)

妹「あれ今可愛いって言われた!?」

兄「言ってない」

妹「気のせいかー、残念」

妹「ジリツかー」

兄「まだ覚えてたのか」

妹「ジリツ……」

兄「皿洗っとくぞ」


妹「ジリツかー」

兄「風呂入れよ」


妹「ジリツか―」

兄「寝る前に歯磨けよ」


妹「ジリツかー」

兄「顔くらい洗ってから学校行けよ」


友「どうしたの、妹ちゃん? 目が真赤だよ?」

妹「ジリツって何かな……」

友「え、まだ覚えてたの?」

妹「だってジリツしなきゃ」

友「どうして?」

妹「だって」

友「だって?」

妹「気持ち悪いから」

友「妹ちゃんは気持ち悪くなんてないよ」

妹「え?」

友「え?」

妹「あー、違うよ。私の事じゃなくて」

友「えと」

妹「私は気持ち悪くてもいいよ、だってバカだもん」

友(自覚あったんだ)

妹「でも私がお兄ちゃんを好きだからって、お兄ちゃんまで気持ち悪いって言われるのは嫌だもん」

友「……」

妹「だからジリツしなきゃダメでしょ?」

友「妹ちゃん」

妹「何?」

友「私の妹になろう」

妹「え、無理」

友「そんなあっさり!?」

妹「あはは、友ちゃんってば変なの。友ちゃんはお姉ちゃんじゃないんだから私は妹になれないよ?」

友「そうだね……うん……」 ドヨンッ

妹「……はあ」

友「そんなに自立したいの?」

妹「うん」

友「そっか。それじゃ私がひと肌脱いじゃおうかな」 ニコッ

巨乳姉『きゃっ! もう、兄くんのエッチ! お風呂を覗くなんて他の女の子にはしちゃダメだぞ!』

兄『俺がみたい裸は姉さんのだけだよ!』

巨乳姉『ダメよ! 私達姉弟なのよ! もう、ダメなのにぃ……あぁん!』


兄「みたいなお姉ちゃんできねえかな」

男「虚しくなるからやめようぜ」

兄「だなぁ」

友「うわぁ」

兄「い、いつからそこに!?」

友「『貧乳には貧乳の良さがある、だがしかし巨乳の魔力に男は~』っていうお兄さんの演説から」

兄「うわぁ」

男「うわぁ」

妹「うわぁ」

男「おじゃましてます」

妹「おじゃまされてます」

兄「おじゃまさせてます」

友「え、お、おじゃまさせられれてられます?」

兄「無理に合わせなくていいから」

兄「で、何この集会?」

友「あ、はい。あのですね、お兄さん」

兄「はい」

友「実は私も前々から、お兄さんと妹ちゃんが仲良しすぎると思っていたんです」

兄「はあ」

友「ここはお兄さんにも協力していただいて、妹ちゃんの自立を実現しましょう」

妹「しましょう!」

兄「具体的には何を?」

友「まずはですね、妹ちゃんがお兄さんと遊ぶ時間を減らしましょう」

兄(あ、具体的にでちゃんと通じる……) ホッ

友「中学生の妹ちゃんが毎日お兄さんと遊ぶのは不健全です!」

友「そんな風では、三十歳になってもお兄さんとばかり遊んでお局様ですよ?」

友「そうならないためにも! 今日から妹ちゃんは二日に一度しかお兄さんと遊びません!」

兄「多くない?」

友「目標は近くからです!」

兄「おー。妹の友達にしては賢いとは思ってたけど、さすがだなー」

友「お誉めに預かり光栄です」 ニコッ

友「次に! 妹ちゃんはお兄さんの部屋に一日三十分までしか入りません!」

友「その、たとえ兄妹とはいえ男女ですから、え、えっちぃのはいけません!」

友「あんまりベタベタするのはダメです!」

男「おー、ごもっとも! よっ、しっかり者!」

友「は? 馬鹿にしてるんですか?」

男「ご、ごめんなさい。……あれぇ、俺も年上なんだけどなぁ」 ブツブツッ

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