ウルトラ魔女ファイト【ウルトラマンゼロ×まどか☆マギカ】 (719)

『ウルトラマンゼロ』と『魔法少女まどか☆マギカ』のクロスSSです。

既に同じシリーズのクロスが幾つかありますが、別物としてお読みください。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1365827972


■概要(ウルトラマン)

・戦うのはウルトラマンゼロのみ。他のウルトラマン、ウルティメイトフォースゼロは活躍しません。

・ゼロは基本的に人間サイズで戦闘。巨大化戦闘は少なめです。

・ゼロの人間体はライブステージに登場したモロボシ・シン(演:宮野真守)の設定を使用しています。
 http://m-78.jp/special/premiere/cast.html

・ゼロの物語は現時点で6作あり、このSSでは1~4までの出来事を経験済み。
 1:http://www.youtube.com/watch?v=40_mOaffnPU
 2:http://www.youtube.com/watch?v=pfbcThan6Ds
 3:http://www.youtube.com/watch?v=xoWMQdfK3QU
 4:http://www.youtube.com/watch?v=UbEz-J50Dx0
 5:http://www.youtube.com/watch?v=429Twc9ZBUY
 6:http://www.youtube.com/watch?v=WsCbO5C3fww
 時系列としては、5番目の『ウルトラマンサーガ』にあたるIFストーリーになります。

・独自の解釈や設定が含まれます。又、2012年12月以前に作った話なので、
 以降に登場した公式設定が反映されていない場面があります。


■概要(まどか☆マギカ)

・物語に関わる魔法少女は本編組のみ。外伝の魔法少女は活躍しません。
 又、まどかの存在がかなり空気になります。

・ほむらは本編の出来事が起きないまま、更にループを重ねている状態になります。
 その中で、いくつか外伝の出来事を経験している設定です。

・魔女の強さや出現場所、物事が起こる時期は、時間軸ごとに変動するものとして扱ってます。
 その他、独自の設定解釈を含みます。


【救済の魔女 その1】



宇宙は一つだけではなく、平行して無数に存在する。
その宇宙の一つ『アナザースペース』では、若きヒーロー・ウルトラマンゼロが滞在し、
仲間たちとともに平和を守っている。

ゼロは今、暗躍を続ける敵の残党を追い、手分けして宇宙を巡っていた。
その最中、彼は美しい結晶地帯で機械兵士『レギオノイド』の大群を発見する。


ゼロ「ヘッ…こんな所に隠れてやがったか!」


結晶地帯に降り立ったゼロの周囲を、百体を超えるレギオノイドが一斉に取り囲んだ。
しかし、ゼロはバキバキと腕を鳴らして余裕を見せる。


ゼロ「あいつらを呼び戻すまでもねぇ。まとめて銀河のチリに帰してやるぜ!」


いざ戦いに臨もうとしたその時、ゼロの耳は聞き慣れない声を拾い上げる。


??「また、失敗だった」

ゼロ「誰だ?」


声の主に問いかけるが、返事はない。


??「この命、無駄にしないって決めたのに…何度でも繰り返して助けるって、そう決めたのに…」

ゼロ「おい、何を言って―――うぉっ!?」


声に気を取られていたゼロを目掛け、ドリルを構えた陸戦型レギオノイドが突撃を仕掛ける。

ゼロは腕をLの字に組むと、光線技『ワイドゼロショット』を放つ。
撃ち出された光線は、四方から向かってくるレギオノイドを次々と撃ち落としていく。



??「もう潮時かな…なんて考えてるの。馬鹿だよね。情けないよね…」

ゼロ「一方的に聞こえてくるだけのようだな…」


僅かな隙を狙い、キャノン砲を装備した宇宙戦型レギオノイドが一斉砲撃を開始する。

ゼロは砲撃をくぐり抜けて飛行し、頭部に装着した二つのブーメラン『ゼロスラッガー』を投げる。
念力で操作されるスラッガーは、砲撃中のレギオノイド達を切り裂き、爆破していった。


ゼロ「先にコイツらを片付けねぇとな!」


続いてゼロは戻ってきたスラッガーをキャッチし、カラータイマーの両サイドにセットする。


ゼロ「うおっらあぁぁぁーーーーっ!!」


胸に輝くタイマーから、必殺光線『ゼロツインシュート』が放たれた。
ゼロが反動を受けるほどの凄まじい威力は、残るレギオノイド達を次々と薙ぎ払っていく。


??「でも、目の前にいるのも貴方なんだよね? 貴方が望むなら、地球と一緒に…私も……」


その一言を最後に、謎の声は途絶えてしまった。

全ての敵を殲滅したゼロの心に、声の主とその言葉の意味が疑問を残す。
『地球』と呼ばれる星は様々な宇宙に存在するが、このアナザースペースは例外であった。


ゼロ(助ける、潮時、それに『地球』。別の宇宙で何かが起きてるのは間違いなさそうだな)


真相を確かめることを決意したゼロは、左腕に着けた腕輪を輝かせた。
腕輪は鎧へと変化してゼロに装着され、武装形態『ウルティメイトゼロ』となる。

腕輪の正体は、ゼロがかつての戦いで手に入れた神秘の盾『ウルティメイトイージス』。
その力は時空を超越し、様々な宇宙への往来を可能にする。


ゼロ「行ってみるか―――地球とやらに!」


次元の歪みが巻き起こり、ゼロはその彼方へと飛び去っていく。

ゼロが生まれ育った宇宙では、様々なウルトラマンが地球を守るために戦ったと聞く。
その星が一体どんな場所なのか、ゼロは少なからず興味を抱いていた。


【救済の魔女 その2】



時空を超え、ゼロが辿り着いた別次元の地球。
目の前に広がる光景は、彼が想像していた世界とは遠くかけ離れていた。

空は淀み、街は水没し、殆どの生命はその姿を消している。


ゼロ「この地球に、一体何が起こったっていうんだ?」


荒廃した世界に渦巻く、膨大なマイナスの力。
その中心へ急いだゼロの眼前には、彼を遥かに上回る規格外の怪物が蠢いていた。
おびただしい数の根を生やす、山のような巨体。その頂点には、人型の上半身が天を仰いでいる。


ゼロ「どうやら、コイツが元凶なのは間違いなさそうだな」


ゼロはかつての戦いで、超巨大な敵を相手にした経験が何度かあった。
しかしこの怪物を前にし、今までの敵とは比較にならない事を悟る。
この怪物は『神』にも匹敵する――そう言っても過言ではない禍々しさを秘めていた。


ゼロ「イージスのエネルギーも残り僅かか…早々に仕留めてやるぜ!」


イージスの力は必須と見るが、次元超越でエネルギーを大幅に消費し、最強の技までは放てない。
代わりにゼロは腕に備えた剣に残るエネルギーを集中し、怪物目掛けて一振りする。


ゼロ「シェアッ!!」


怪物の全長に匹敵する光刃『ソードレイ・ウルティメイトゼロ』が伸び、巨体を一瞬の内に両断する。
このイージスは、アナザースペースの人々と守護神から受け継いだ『心』の力。
普段のゼロが、敢えて次元移動にしか力を使わないほどに無敵―――そのはずであった。



ゼロ「馬鹿な!?」


傷は切断と同時に再生を始め、光刃が消えた時、怪物は無傷の状態に戻っていた。

先程の攻撃で敵の存在に気付いた怪物が、ゆっくりとゼロを見下ろす。
その瞬間、肉体から魂が引き剥がされるかのような苦痛がゼロを襲う。


ゼロ「ぐぅああぁぁっ!何だ…一体何が!?」


イージスの聖なる力が辛うじてゼロを守るが、そのエネルギーも刻々と限界に近付いていた。


ゼロ「少しでも気を抜けば、魂を持って行かれちまう…!」


紙一重で意識を保ち、耐え忍ぶゼロ。
しかし彼の目に、思わぬ光景が飛び込んできた。


ゼロ「人間だと?…それに、まだ生きている!」


遠くに見えるのは、半分が水没したビル。
その屋上から、ボロボロに傷ついた少女がこちらを見つめていた。


ゼロ「この星の命、完全には消えてなかったのか…
   俺もあの人間も、いつまでもここには居られねぇ…待ってろよ!!」


今の状態では退くことしかできないと悟り、ゼロは余力を振り絞って少女の元へ飛ぶ。
それに気付いた少女が身構えるより早く、眩い光が彼女を連れ去っていった。




飛び去った光は怪物から遠く離れ、やがて崩れずに残る建物に降り立った。


ゼロ「はぁっ…はぁっ…」


薄暗い建物の一室で、思わず倒れこむゼロ。
その胸には未だに異様な感覚が残っている。


ゼロ「そうだ…さっきの人間は!?」

少女「私の事かしら?」


声のする方向を振り向くと、黒い長髪が印象的な少女が、壁にもたれ掛かり座っている。
間違いなく、先程の戦いで助けた少女だった。


ゼロ「良かった、無事だったか―――って、お前随分大きくなったな!」

少女「やはり貴方、あの巨人なのね。自分の姿をよく見なさい」

ゼロ「え…お、俺が小っちゃくなってんのかぁ!?」


ゼロの姿は、巨大なウルトラマンから人間へと変化していた。

姿こそ異国の民族服を纏った長身の青年であったが、
彼の声と、腕輪へと戻ったイージスだけが本来の面影を残している。


ゼロ人間体(そうか…エネルギー抑えるため、無意識に姿を変えていたんだな)


一人で焦り納得するゼロに対し、少女は顔色一つ変えることはない。
それを見て、ゼロは非常事態であることを再認識する。



ゼロ人間体「それより、一体何が起きているのか説明してくれ」

少女「見ての通りよ。どうにかしたいなんて、考えるだけ無駄ね」

ゼロ人間体「いや、何とかしてみせる。俺はそのために別の宇宙から、時空を超えてここへ来た!」

少女「貴方も宇宙から?」


非日常を目の当たりにしている為なのか、少女はゼロの話に疑いを持っていない様子であった。
そして彼女の反応は、ゼロ以外の異星人がこの星を訪れたことを意味していた。


ゼロ人間体「どういうことだ?あの化け物も他の星から来たってのか?」

少女「いいわ、少し教えてあげる。貴方が戦ったのは『救済の魔女』」

ゼロ人間体「救済…冗談だろ?どう見ても真逆の事が起きてるぞ!」

少女「あらゆる生命を吸い上げて、待ち受ける絶望から救済する。それがあの魔女の力。
   貴方もあと一歩で救われてたところよ」


『慈悲』という怪物の本質と、常識破りの能力を知るゼロ。
ウルティメイトゼロですら数分持たなかった戦いを思い出し、その頬を汗が伝う。


ゼロ人間体「そもそも『魔女』ってのは一体何なんだ?怪獣とも違うようだが…」

少女「怪獣?貴方の事情は知らないけれど、魔女は『呪い』から生まれた存在。この世界に蔓延る魔物よ」

ゼロ人間体「蔓延るって、あんなのがウジャウジャいたってのかよ…」

少女「いえ、彼女だけは特別…そして、この事態を招いた奴等は既に地球を去った。
   もう二度と戻ってくることはないわ」

ゼロ人間体「敵とは、何者なんだ?」

少女「奴等は―――」


その時、少女の話を遮るかのように、遥か遠くで魔女の轟きが響いた。
ゼロはイージスを確認するが、消費した力は完全に回復していない。

再び時空を超えて仲間を呼ぶことは不可能。尤も、そんな猶予はこの世界に残されていなかった。
それを理解しながらも、ゼロは立ち上がる。


少女「貴方、正気なの?」

ゼロ人間体「あの魔女を止めねぇと、この地球は完全に死に絶える。だから、俺は行く!」

少女「彼女は止まらないわ。大人しくここを去って、元の宇宙に帰ったほうが賢明よ」

ゼロ人間体「でも…このままにしていいわけねぇだろ!!」


ゼロの言葉が静かな建物内に響き渡った。


一瞬面食らう少女であったが、直ぐに表情を戻すと、覚悟を試すかのように問いかける。


少女「どんなに繰り返し抗っても…この先待ち受けるのは絶望だけよ。
   貴方なら、その運命を変えられるとでも言うの?」

ゼロ人間体「確かに絶望的かもな…だが、最後まで諦めずに不可能を可能にする。
      それが『ウルトラマン』なんだよ!」


どんな揺さぶりをかけようとも、今のゼロには届かなかった。
拳を突き出すとともにイージスが光り、ゴーグルを模したアイテム『ウルトラゼロアイ』が出現する。
手に取ったゼロアイを、ゼロは自身の両目に装着した。


ゼロ人間体「デュワッ!!」


赤と青の光が渦を巻き、その体に纏いつく。
やがて、サイズは人間大のままウルトラマンとなったゼロが姿を現した。

謎の声の正体を何となくも理解していたゼロは、その相手に向けて正義を誓う。


ゼロ「俺はゼロ、ウルトラマンゼロ!必ずこの世界と君を守る。信じてくれ!」

少女「守るべきは私じゃない。でも―――」


少女は傷ついた体に鞭打つように立ち上がると、どこからか小さな宝石を取り出す。
すると、身に付けていた制服が面影を残しながらも、黒と灰色を基調としたものに変化した。
その腕には、少女には不相応な盾が現れている。


少女「ウルトラマンゼロ…私と一緒に戦って、それを証明してみせて」


ゼロの存在は、全てを諦めようとしていた少女に僅かな『希望』をもたらしていた。

殆どの命が救済されていく中で、彼女が取り残されていた理由、
それは自らに課した使命と、まだ向き合う必要があったからだ…少女はそう解釈することにした。


ゼロ「人間を超えた力を感じる…君は一体?」

少女「私は暁美ほむら。掴まって。貴方が時空を超えられるのなら、きっと―――」


ほむらと名乗った少女は左手を差し出し、ゼロは応えるかのようにその手を取った。
二つの盾が向かい合ったとき、ゼロのイージスが強い輝きを放つ。


ほむら「行ける…!」


ほむらが自らの盾に手を掛けると同時に、ゼロの意識は途絶えた。


【救済の魔女 その3】



静かな朝、ほむらは病院のベッドの上で目蓋を開く。
彼女にとって何度見たとも知れない光景であったが、この日は普段と違っていた。


ほむら「!?」


彼女の隣には、青年の姿のゼロが寝息を立てている。
それも、お互いに左手を握り合うという窮屈極まりない体勢で。

一気に嫌悪感を増大させたほむらは、ゼロを突き飛ばして飛び起きた。


ゼロ人間体「うぉわっ!?」


ベッドから転がり落ちたゼロは、その衝撃で目を覚ます。
床から体を起こすと、ほむらが無表情でこちらを見下ろしている。


ゼロ人間体「痛ってて…何だいきなり!」

ほむら「いつまで寝てるつもり?」

ゼロ人間体「そうだ!地球の終わりが――ってあれ?」


窓の外はいつの間にか、混沌とした世界から様子を変えていた。
大きなビルだけでなく緑の木々も並ぶ市街、そして青い空と、美しい光景が広がっている。


ほむら「これから全て説明する」


状況が掴めないゼロに、ほむらは一から語り始める。
この世界の真実、彼女自身の目的、そして彼女がゼロに求めること全てを。



ほむら「この世界では、『魔法少女』と呼ばれる存在が魔女の討伐を担っているわ。私もその一人よ」

ほむらが手を伸ばすと、身につけていた指輪が紫色の宝石へと変化する。
それは今の場所に移動する前、ほむらが変身に使用していたものだった。


ほむら「私たちは、この宝石『ソウルジェム』から力を引き出し『魔法』を行使する。
    衣服の変化、武器の形成、特殊能力―――用途は様々ね」
    
ゼロ人間体「ほほぅ…この世界はウルトラマンがいない代わりに、
      その魔法少女とやらが、魔法の力で平和を守ってるわけだな」


正義の巨人『ウルトラマン』の概念は様々な宇宙に存在し、その誕生や背景は世界ごとに異なる。
同じように、ウルトラマンの存在しない世界や、別のヒーローに守られている世界も数多い。

ゼロは、この世界も後者であると認識していた。


ほむら「私もそんなシンプルな設定であって欲しかったわ。解釈そのものは間違っていないけれど」

ゼロ人間体「どうしたんだよ、どの世界でも変わらない正義と悪の戦いだろ?
      正義の側までワケありなのか?」

ほむら「大ありよ、まだ説明も触りに過ぎないもの。だから私の話すこと、一つ残らず覚えておいて」

ほむら「貴方には明日…いえ、可能なら今日にでも出発してもらうから」

ゼロ人間体「出発?…って、俺はここに用はないのか?」

ほむら「ええ、貴方が守る街の名は『見滝原市』」

ゼロ人間体「…見滝原市?」

ほむら「私が見滝原市へ行くには、あと数日を要するわ。
    それより先に、貴方にはそこで魔法少女の代わりを果たしてほしい」


あまりにも唐突な要望に、ゼロ自身も驚きを隠せない。
ほむらの様子から見るに、世界の命運をわける何かが見滝原市にあるらしい。


ゼロ人間体「地球の文化もよくわかってねえのに、また急な話だな…
      でも、その前に聞かせてくれ。俺達が今いる場所―――ここはどこなんだ?」


ほむらの話に耳を傾けながらも、 ゼロの関心は最初に見た終末と現在のギャップに向かっていた。


ほむら「ここは私と貴方が出会った世界と同じ、地球よ」

ゼロ人間体「どういう事だ…さっきとはまるで景色が違うぜ?」

ほむら「停止や遡行といった時間の操作、それが私の扱う魔法。
    今私達が立っているのは、時間軸を巻き戻した一ヶ月前の世界よ」

ゼロ人間体「うそーん」


ゼロは目を見開かせ、呆気に取られる。
しかし、話はまだ始まったばかりに過ぎない。

ほむらが全てを語り終えたとき、ゼロの表情からは余裕が消えていくことになる。
それ程までに、彼女が置かれていた状況は過酷なものであった。


【救済の魔女 その4】



ゼロが辿り着いた宇宙とも、アナザースペースとも異なる宇宙『M78ワールド』。
この宇宙には、ゼロが生まれ育った故郷『光の国』が存在する。

多くのウルトラマン達が平和を見守るこの地で、マントを身に着けた戦士が一人、変化を察知していた。


セブン「ん?」


彼はゼロの実の父親、ウルトラセブン。
『ウルトラ兄弟』と呼ばれる、光の国でも別格のウルトラマンの一人。


レオ「どうしました、セブン?」


セブンの様子を気に掛け、隣に立つもう一人のウルトラマンが尋ねた。

ゼロに宇宙拳法を叩き込んだ師匠、ウルトラマンレオ。
彼もまた、セブンと同じくウルトラ兄弟の一人である。


セブン「今、ゼロが時空を越えた」

レオ「時空を…一体何故?」

セブン「世界を跨ぐ何かが起きている。もしかすると、例の来訪者に関係があるのかもしれん」

レオ「別の宇宙から現れ、この宇宙について調査していた謎の存在…ですか」


二人が語った来訪者――それは数週間前、M78ワールドとは別の宇宙から現れた。
幾つかの文明と接触を図り、この宇宙に関する情報を収集した後、どこかへ旅立ったのだという。



セブン「接触した星からの情報によれば、調査内容はこの宇宙の知的生命体、そして主要エネルギー源。
    一般的な調査とも、侵略目的とも判断ができていない」

レオ「時空を超えるほどの力や技術を持った存在は数少ない。
   ゼロの件と繋がっている可能性は否定できませんね」

セブン「確かに、気になる点はそれだけではない。
    来訪者は、私も動いた『あの一件』についても調査していたようだ」

レオ「つまり、彼等は―――」

セブン「関連性がわからない以上、憶測でしか語れないな。今はゼロの活躍を信じよう」

レオ「ふむ…」


しばらく考え込んだ後、レオが言葉を続けた。
厳格さを保ちながらも、どこか不安な様子を見せている。


レオ「ゼロが時空を超える力を授かって、一年近く。
   今いる宇宙だけでなく無数の平行宇宙を守ることになり、立ちはだかる敵もより強大になった」

レオ「ゼロ自身も強く成長しましたが、やはりまだ若い。
   …これから先も、全てを抱えて進めるでしょうか?」


全ての次元を監視することは、光の国のウルトラマンを総動員しても不可能な任務。
ゼロの強さを理解しているレオも、それを引き受けた彼の今後が気に掛かる。

一方でセブンが返した反応は、レオと違っていた。


セブン「もしかすると、背負った使命と力を重荷に感じていたのかもしれないな。
    だが、あいつは一人で全てを抱えているわけではない」

セブン「私は見た。ゼロは今、心強い仲間達と共にいる。
    荷物を分け合える存在が傍に居るから、今日まで戦い抜けたんだ」

セブン「辿り着いた旅先でも、新たな出会いがきっとある。
    絆を深め、仲間を作れば、広がった世界の分だけあいつを支える力になる」

セブン「だから心配は無用だ。何もかもが歪んだ世界であっても、ゼロならきっと…」

レオ「セブン――そうですね」


「杞憂だった」とレオは頷き、そしてセブンも頷き返す。
二人は光の国の空を見上げ、息子と弟子の活躍に期待を寄せた。

つづく


最初は放送時の記憶を元に書いていたため、ほむらの目覚めが自宅になってました。
もういいや…と思って何ヶ月もスルーしてましたが、立て直しついでに修正してます。

又、セブンとレオの会話は前回投下しなかったシーンです。
不要と思って省きましたが、伏線も含むので復活させてます。

話の基本的な流れは変わらないんだよな?


【趣の魔女 その1】



ゼロとほむらの出会いから、一週間が経過した某所。
外界と隔絶された結界の奥で、赤い服に身を包んだ魔法少女が一人、魔女と対峙していた。

結界の主は『和』を感じさせながらも、髑髏を象った頭と一本足を特徴とする『趣の魔女』。
魔女は外見に勝るとも劣らない不気味な声を発し、少女を挑発している。


魔女「羅ラra…乱…♪」

少女「はあぁッ!!」


少女は身の丈よりも大きな槍を振るい、力強くも素早い斬撃を仕掛ける。
対する魔女も一本足と思えない速度で動き回り、その刃を回避する。


魔女「戯ギ…giィ…♪」

少女「遊ばれてるってか…上等だよ!」

魔女「欺ィ♪」


魔女は腕を持たない代わりに、なびかせた髪を自在に操って攻撃を繰り出す。
少女が避けた攻撃は地面を砕き、十分な威力を持っていることを見せつける。


少女「こいつ!」


負けじと少女も連続で突きを繰り出すが、魔女は大きく宙返りして後退する。

少女から見て強敵といえる魔女ではなかったが、その素早さと巧みな回避が厄介であった。
決定打が入らず、次第に少女は苛立ちを募らせていく。


少女「思いのほか手こずらせてくれんじゃん…もう面倒臭いからさ、テメェからかかって来なよ!」


少女は敢えてその場を動かず、槍を構えて魔女を待ち構える。
魔女は相手が攻めに出ないことに気付き、一気に跳躍して間を詰めようとする。



少女(もっとだ…!)


少女を捉え、魔女は舌舐めずりしながら髪を振るう。
魔女がギリギリまで迫った瞬間、少女は機敏な動きで攻撃を避けた。


少女「そらよっと!」

魔女「愚擬ィ畏ィィッ!!」


すれ違いざまに繰り出された一閃が魔女を裂く。
カウンターが成功し、魔女は傷口からドス黒い血を噴出させて転がり落ちた。


少女「さーて、これで仕舞いだな!」


少女はとどめを刺すべく、体を起こそうとする魔女に歩み寄る。
構えた槍を振り下ろそうとしたその時、結界の上空から彼女達目掛け、燃え上がる何かが迫ってきた。


ゼロ「うおぉぉぉぉぉーーーっ!!」

少女「な…新手の魔女!?」


少女は思わず槍を戻して後退する。
現れたのは脚に炎を纏い、結界に飛び込んだ人間大のウルトラマンゼロであった。

降下によって更に速度を得た宇宙拳法『ウルトラゼロキック』が、魔女に直撃する。


魔女「擬ィ餌ァァ阿ァァーーーッ!!」


魔女は髑髏の右半分を粉砕され、炎上しながら結界の片隅へと吹っ飛ばされた。
ゼロは砂埃を上げて滑り込み、結界内に着地する。



ゼロ「ほむら以外の魔法少女か。遥々魔女を追いかけた甲斐があったぜ!」


ゼロは今、ほむらと別行動を取り、見滝原市で魔女との戦いに身を投じていた。
そしてこの一週間で、他の魔法少女と遭遇したのはこれが初めてであった。


ゼロ「俺はウルトラマンゼ―――んなっ!?」

少女「晩メシもまだだってのに、次から次へと!」


自己紹介を始める間もなく、突如として少女はゼロに襲い掛かった。
ゼロは両手にスラッガーを持ち、間一髪で槍を受け止める。


ゼロ「何すんだ!俺とお前で戦う理由はねぇ!」

少女「喋れる魔女はいても、会話できる魔女は珍しいな!しかも俺っ娘かよ!」

ゼロ「お前…誰が俺っ娘だ!!」


人型でありながら地球人と全く異なる容姿、そして赤と青を基調とした配色。
ゼロの特徴は、少女に魔女と誤解させるに十分なものであった。


ゼロ「俺は魔女じゃない!この結界の魔女を倒しに来ただけだ!」

少女「アンタが何言おうと届きゃしないさ。 魔法少女が魅入られるようじゃ、仕事務まんねぇからなっ!」


鍔迫り合いの最中、突然槍が多関節に別れる。
槍は蛇のように縦横無尽に動き回り、ゼロを削り取ろうと地面を抉る。


ゼロ「力押しの赤い奴ってのは、どの世界でも聞く耳持たねぇもんだな!」


立ち込める砂埃に視界を奪われながらも、ゼロはスラッガーで槍を弾いて耐える。
ゼロは少女の連撃を捌きながら、ふと仲間の一人との出会いを思い出していた。

しかし砂埃が晴れ始めた時、ゼロは足元を赤い魔方陣が包囲していることに気付く。


ゼロ「これは…まさか!?」

少女「バレたか。でも一気に終わらせてやるよ!」


舞い上げた砂埃は、魔法への反応を僅かでも遅れさせる為の策であった。
魔方陣の範囲から大量の槍が伸び、ゼロを串刺しにしようと襲い掛かる。



少女(外した!?)


絡み合う無数の槍の中にゼロはいなかった。
少女は魔法を解除して周囲を見渡すが、その姿は見当たらない。


少女「速ぇ魔女には当たんないか…」

ゼロ「別に速くなくたっていいんだぜ?俺は自由に体を縮小できるからな」


少女ははっとしたように声の方向を振り返ると、魔法を展開した位置にゼロが立っている。
ゼロは自身の能力を使い、数ミリメートルものサイズとなって槍の直撃を回避していた。


少女「チッ…どんな能力だよ!」


ゼロの意に反して少女は攻撃を再開し、二人は再び槍とスラッガーの刃を交える。


ゼロ(苦戦してたかと思えば、中々やるじゃねぇか!)


少女の戦闘能力はゼロも認めざるを得ないものであり、
彼女を攻撃できない防戦一方の状況はゼロにとっても厳しいものであった。


ゼロ「もう一度言う…俺はウルトラマンゼロ!グリーフシードが欲しいなら譲る。だから退いてくれ!」


説得のため、ゼロは首を振って魔女が倒れた場所を示す。

ゼロが口にした『グリーフシード』とは、倒された魔女が落とす宝石型の卵。
魔法少女達は、魔女討伐と並行してこのグリーフシードの回収も行っている。

そしてグリーフシードを回収しているのは、魔法少女でないはずのゼロも同様であった。


少女「そりゃ大人しく倒されてくれるって意味かい?」


二人は魔女の亡骸に目を向けるが、既にその姿はない。
しかしグリーフシードは見当たらず、結界も消滅するどころか変化を始めていた。


ゼロ「消えた!?」

少女「あの魔女…死んでない?」


【趣の魔女 その2】



結界内には、二人を取り囲むかのように大量の障子が現れた。
障子の裏では、黒い影が飛び跳ねている。


少女「ザコ魔女かと思ってたのに、しぶといじゃんよ」


少女は攻撃を一旦止め、ゼロと間を取る。
魔女の位置に集中するゼロだが、少女は魔女に加えてゼロへの警戒も怠ろうとしない。
それは少女にとって、どちらかへの隙を生み出しかねない状態でもあった。


ゼロ「俺のことより、ヤツに集中しな!」

少女「そうしたいのは山々だけど、そうもいかなくてね!」


少女がゼロに警戒を向けた一瞬、障子を突き破って魔女が飛び出す。
髑髏は崩れて面影を残しておらず、傷口からは新たな二つの顔と、流れ出る血で形成した触手が伸びている。


ゼロ「ボーっとすんな!後ろだ!」

少女「なっ!?」


ゼロは右腕を胸の前で曲げ、額から高速の熱線『エメリウムスラッシュ』を放つ。
光線は魔女の顔を一つ爆破するが、その隙に触手が少女の両腕を拘束する。


魔女「廃・ハイ・肺ホー♪」

ゼロ「させるかよ!!」


二発目のエメリウムスラッシュが放たれるより早く、瘴気に塗れた触手が少女の両腕を切断する。
魔女は即座に離脱して光線を避け、障子の中へ飛び込む。
同時に、少女の槍と二本の腕が地面に落ちた。


少女「うぐぁっ!舐め過ぎてたな…畜生!!」

ゼロ「おい、大丈夫か!?」


ゼロの目の前で、ショッキングかつ痛々しい光景が広がる。
しかし少女の痛覚は抑えられており、意識を保っていた。


少女(ヤバイなこれ…どっちかに襲われたら確実に死ぬじゃん…)


文字通りに打つ手がなく、絶体絶命の状況に陥る少女。
死を覚悟した彼女に応えるかのように、障子の裏で再び魔女が動き出した。



ゼロ「見てるだけで痛ぇぜ…ちょっと待ってろ!」


少女を助けるべく、ゼロは魔女に向けてゼロスラッガーを飛ばす。
スラッガーは魔女を追尾して障子の外へ引きずり出すと、ダメージを与えつつ足止めする。

その間にゼロは少女の元へと駆け寄り、胸元に手を伸ばした。


少女「お…おい、テメェっ!?」

ゼロ「ジッとしてな!」


ゼロが手をかざしてエネルギーを送り込んだ先には、少女のソウルジェムが煌めく。
ほむらのソウルジェムは紫色であったが、彼女のものは燃え上がるように赤い。


少女「アンタ、本当に魔女じゃなかったのか?」

ゼロ「さっきから言ってんだろ!俺は魔女でも魔法少女でも俺っ娘でもねぇ!」

少女「そこまで冗談真に受けるかよ…」


転がった両腕が光の粒子となり、少女の腕の断面へと戻っていく。
両腕が再び形成され、完全に修復を終えた時、その手に再び槍が握られる。


少女(あれだけの傷を、跡形も無く…)


その回復速度と精度に少女は驚いていた。
だが弱った魔女を見るや、何事も無かったかのように立ち上がり、戦闘に復帰する。


少女「お疲れさん。魔女はアタシが仕留めてやるから、そこで休んでなよ!」

ゼロ「あ…おい、待て!」


少女は槍を構えて突撃を仕掛け、魔女も唯一残った顔を伸ばしてそれを迎え撃つ。


少女「はあぁぁぁぁぁーーーっ!!」

ゼロ「シェーアッ!!」


ゼロが指を振ると、頭に戻ろうとしていたスラッガーは方向を転換し、牙を向く魔女の顔を切り落とす。
少女も魔女を深々と貫くと、即座に槍を引き抜き、駄目押しに二度切り裂いた。


魔女「魅giィィi餌ア亜アアアアアーーーーーーッ!!」


致命的なダメージを負った魔女は、断末魔の叫びと共に崩れ落ち、消滅した。


【趣の魔女 その3】



ゼロ「ここはもう大丈夫そうだな」


魔女の結界が解除され、辺りは本来の姿である森に戻っていく。
陽は既に落ち、辺りを月明かりだけが照らしている。

少女も変身を解除して私服に戻ると、残されたグリーフシードを拾い上げた。


少女「一応忠告はしとくけど、風見野市はアタシの縄張りだからな。
   決着もついてないことだし…欲しけりゃ力ずくで奪ってみなよ!」

ゼロ「風見野市って、ここは見滝原市じゃないのか?」

少女「見滝原ぁ?アンタ寝ぼけてんの?」

ゼロ「さっきの魔女に逃げられちまってな。そいつを追いかけてここに来た」


ここは風見野市と呼ばれる、見滝原市の隣街。
ゼロは見滝原市での戦いから逃走した魔女を追い、彼女と出会ったのであった。


少女「まあいいや…さっきの回復と、このグリーフシードでチャラにしてやるよ」

ゼロ「そんじゃ、俺からも一つ忠告させてもらうぜ!」

少女「こっちだってキャリア長げーんだ。バカにすんな」

ゼロ「『ワルプルギスの夜』とは戦うなよ」

少女「は……今何つった?」


話半分で聞くつもりだったゼロの忠告に、少女は耳を疑う。

『ワルプルギスの夜』とは、魔法少女達の間で伝説となっている大物魔女。
それは一度具現化するだけで、何千もの人名が失われる被害を引き起こすという。


ゼロ「大体、三週間後くらいか…見滝原の街に『ワルプルギスの夜』が現れる。
   そいつは俺がやる。お前は巻き込まれないよう気をつけろよ!」

少女「んな話だけ聞かされても、真偽がサッパリなんだよ…
   グリーフシードも集めてるみたいだし、アンタ何者だ?」

ゼロ「詳しくは話せないが、お前の敵じゃない」


少女は「魔女でも魔法少女でもない」と明言しながら、多くの事情を知るゼロを疑問視する。
しかしゼロは、自らの正体と目的を明かそうとはしなかった。



少女「手の内は明かさず、か。でもソイツには少しばかり興味あってさ…忠告、守れないかもな!」

ゼロ「おい、相手は―――」

少女「今日は色々ありすぎてマジ疲れたわ。もう帰る」


忠告を流すかのような反応を見せた後、少女はその場を去ろうとする。


ゼロ「待てよ」


少女を呼び止め、ゼロもウルトラマンの姿から人間の青年へと変わる。
その服装は初めて人間体となった時とは違い、地球の特色に合わせた若者らしいファッションとなっていた。


少女「へぇ…ますます何者なのかわかんなくなってきたよ」

ゼロ人間体「土産だ。持ってけよ!」


ゼロはポケットからグリーフシードを一個取り出すと、少女に投げ渡した。
それは彼なりの挨拶代わりであった。


少女「ははっ、中々男前じゃん。ゼロちゃんよ!」

ゼロ人間体「そんな事言っても、これ以上は譲れねーぞ」

少女「でも、うるさそうな顔してんな」

ゼロ人間体「顔がうるさいって何だ!?意味分かんねぇよ!」


ゼロを軽く茶化す少女の表面から、ほむらのような哀愁は感じられず、
むしろ魔法少女として戦っていることを前向きに受け取っているようにも見えた。
そんな彼女に親近感を覚えたゼロは、名を尋ねる。


ゼロ人間体「お前、名前は?」

少女「アタシは佐倉杏子。またどっかで会う機会があるかもな」

ゼロ人間体「死ぬなよ、杏子!」


「有り得ない」と言わんばかりに手首を振り、杏子は立ち去る。
どこか心配そうに彼女を見送ると、ゼロも自らの生活拠点へと足を向けた。


ゼロ人間体「さぁ、俺も帰るとするか!……ネットカフェとやらによ」


ほむらは自宅にゼロを滞在させる事を許していなかった。
ゼロは今、超能力で作った「モロボシ・シン」という偽の身分照明と、
ほむらから受け取った資金を元にネットカフェで生活していたのだった。

つづく


>>17
描写の追加や変更はありますが、物語の流れは同じです。


【薔薇園の魔女 その1】



翌日の見滝原市。
夕刻の街中を、ビニール袋をぶら下げた青年が一人歩いていた。

「モロボシ・シン」の名義を借りた、人間体のウルトラマンゼロである。
地球を訪れて九日目、手探りながらも彼は今の生活に溶け込み始めていた。


ゼロ人間体「へへっ、ウルトラ兄弟が絶賛してただけはあるな。何度食っても飽きが来ねえ」


袋の中に入っているのは、コンビニで購入したカレーライス。
地球を訪れた先輩ウルトラマン達は総じてこの料理を評価しており、案の定ゼロもその虜となっていた。


ゼロ人間体「公園で食ったら、また魔女探しだな」


ゼロが歩道橋を渡っていた時、虚ろな表情をした中年男が手摺に手を掛けていた。

不思議そうに見ていたゼロの前で突然、男が歩道橋を乗り越え始めた。
真下には、何台もの自動車が行き交っている。


ゼロ人間体「ばっ、馬鹿ヤロウ!何やってやがる!!」


迷わず袋を投げ捨てて駆け寄り、男を歩道橋の中へ引き戻す。
男は押さえつけてもなお、道路へ飛び降りようともがいていた。


ゼロ人間体「チッ…仕方ねえ!」


男を大人しくさせるべく、ゼロは鳩尾に軽く拳を打ち込み、気を失わせた。
倒れた男を抱きかかえると、首に黒い刻印が刻まれていることに気付く。


ゼロ人間体「これは!?」


それは魔女に魅入られた証『魔女の口付け』であった。
手をかざすと、どこからか刻印に向けて『マイナスエネルギー』と呼ばれる暗い波動が送信されている。


ゼロ人間体「どうやら、魔女の影響を受けてるようだな…ゆっくりメシ食ってる暇もなさそうだぜ!」


ゼロが指で刻印を擦ると、男の首から刻印が消えた。
代わりにゼロの指先に刻印が浮かび、マイナスエネルギーが発信され続ける。

送信元を逆探知するべく、男をその場に残してゼロは走り出した。




一方、中央病院から一人の少女が家路についていた。
少女は初めて出会った時のほむらと同じく、この街にある中学校の制服を着用している。


少女(………)


無言で歩く少女の表情は重い。
考え事をしていた彼女の足は、無意識の内に自宅とは別方向へと向かっていく。


少女「あれっ?」


ようやく彼女が気付いたとき、周囲には見慣れぬ光景が広がっていた。


少女「えっ何ここ…迷った?」


西洋的でありながら、どこか不気味さを感じる謎の迷路。
引き返そうと振り返るが、既に入り口は見当たらない。


少女「まっずいなぁ…誰か探して案内してもらわないと…」


ここが魔女の作り出した結界であることも、魔女の存在すらも少女は知らない。
不安に駆られながら、少女は先へ進むことを選んだ。


【薔薇園の魔女 その2】



マイナスエネルギーを辿ることで、迷うことなく魔女の元に到達できたゼロ。
彼は結界の高所から、薔薇園の中心で蠢く魔女を見下ろしていた。


ゼロ人間体「こいつか。中々厄介そうだぜ」


結界の主は、ドロドロの汚物にまるで蝶の羽根が生えたかのような『薔薇園の魔女』。
その魔女を守るように、髭を生やした使い魔達もひしめいている。

しかしゼロはすぐに戦闘に入らず、少しばかり何かを考え込んでいた。


ゼロ人間体(一ケ月間をこの街で暮らし、魔女と戦い続ける)

ゼロ人間体(それが、今の俺に出来ること―――)


やがて踏ん切りがついたように拳を突き出し、ブレスレットからゼロアイを召喚する。
その時、少女の声が結界に響き渡った。


少女「あのーっ、すみませーん!」

ゼロ人間体「ほいっ!?」

少女「やっぱ人いた!助かったぁー!」


突然響いた声に驚き、思わず手にしたゼロアイをポケットに直す。
ゼロが背後を振り返ると、結界に迷い込んだ少女が、通路の奥で手を上げていた。


ゼロ人間体(あの子に、魔女の姿を見せるわけにはいかないな)


少女はこちらへ向かって歩いてくる。
ゼロは待ち構える魔女に背を向け、逆に少女の方へと走って行った。



ゼロ人間体「一般人の立ち入りは禁止だぜ。どうしたんだ?」

少女「いやぁ~お見舞いの帰りだったんですけど、ぼーっとしてたらここに迷い込んじゃいまして…」


魔女がゼロへの臨戦態勢にあったためか、少女は使い魔に遭遇していない様子であった。
しかし『口付け』の見受けられないこの少女も、魔女に目を付けられた可能性は高い。


ゼロ人間体「とにかく、ここに長居は無用だ。ついて来な!」


ゼロは少女の手を取り、薔薇の咲き誇る迷路を引き返していく。
やがて魔女の殺気がこちらに向き始め、深部から幾つもの小さな影が追いかけて来た。


少女「なっ…何!?」

ゼロ人間体(使い魔か!)


現れたのは、深部の薔薇園にいた魔女の手下達。
後ろを振り向いた少女は、その姿を直視してしまう。


少女「うわ、グロい…」


ゼロは少女に使い魔を認識させてしまったことを後悔するが、今は敵の撃退が最優先であった。


ゼロ人間体「すぐ追いつく!真っ直ぐ走れ!」

少女「えぇっ?お兄さん大丈夫なの!?」

ゼロ人間体「でぇありゃっ!!」


ゼロは少女に飛びかかろうとする使い魔に回し蹴りを食らわせ、壁に叩き付けた。
人間体とはいえ壁にひびが入るほどの威力があり、使い魔も消滅する。


ゼロ人間体「な、大丈夫だろ?」

少女「すっご…!」


少女はアクション映画を見ているかのような感動を覚えるが、
すぐにゼロの指示を思い出し、走り出した。



使い魔との小競り合いを続けながらも、結界と外界の境目まで到達した二人。
そこには硬く閉ざされた扉があり、ゼロが押しても蹴りつけても開く様子はない。


ゼロ人間体「悪い、少し下がっててくれ!」


ポケットから先程直したゼロアイを取り出す。
しかし今回はゼロアイを装着せず、半分に折り畳んで扉に向けて構える。


ゼロ人間体「ついでに耳も押さえてろよ!」

少女「ちょっ!?注文多いってば!」


小銃となったゼロアイから一発の光線が放たれ、扉に撃ち込まれる。
ゼロは扉を破壊するべく、畳み掛けるように光線を連射していく。


少女「って、工事まで始まっちゃったよ!」


鳴り響く爆発音が止んだ後、ボロボロになった扉をゼロが蹴破る。
崩れた扉は消滅し、ついに外界への道が開いた。


ゼロ人間体「よし、急ぐぞ!」


ゼロは再び少女の手を取ると、夕日が沈みかけた外界へと彼女を連れ出した。
少女は自分が出てきた建物を振り返るが、その外観は只の廃ビル。

思えば階段があったりと、ビルの面影が感じられたような気もする。
しかし、この中に庭園のような迷路や怪物達が納まっていたとはとても思えなかった。


ゼロ人間体「危なかったぜ」

少女「はぁっ…はぁっ…」


廃ビルから離れた二人は、安全と判断して立ち止まる。
追っ手が来る様子もなく、結界の反応も移動してはいなかった。



少女「何かもう色々と、ありがとうございました!」

ゼロ人間体「いや、礼には及ばねえよ」

少女「でも何だったのアレ?私、悪い夢でも見てました?」

ゼロ人間体「君は、最近何か悩んだりしてないか?もしそうなら…今日見たものは全部、悪い夢だ!」

少女「やっぱ夢かぁ――って、いや無理ありすぎっしょ!」


一連の出来事を、現実と認識しつつも信じられない少女。
ゼロは少女の肩に手を置き、笑顔で全てを否定する。


少女「まぁでも、悩んでたのはホントだね。恭…友達が怪我してて、そのことで色々とさ…」


今まで活発に振る舞っていた少女が、急にしおらしくなった。
何か事情があると察したゼロも、励ましの言葉を残す。


ゼロ人間体「友達、治るといいな」

少女「…うん、ありがと。今日の事は何がなんだかってカンジだけど、もう帰るよ」

ゼロ人間体「ああ。…おっと、忘れてたぜ」


思い出したように少女を呼び止めたゼロは、意味深な忠告を残す。


ゼロ人間体「最近、魔法ナンチャラになれば願いがどーの…
      って勧誘してくる怪しいヤツがいるみたいだから、十分気をつけろよ!」

少女「何それ、都市伝説?」

ゼロ人間体「似たようなもんだ。じゃあな!」

少女「お兄さんこそ、じゃあね!」


少女は手を振りながら去り、ゼロも手を上げてそれを見送った。
彼女がいなくなるのを確認し、再び魔女の待つ結界へ戻ろうとする。

その時、何者かが彼に声を掛けた。


??「怪しいヤツってのは心外だね」

ゼロ人間体「…まさかな」


すぐさま振り返るゼロ。
彼の目の前には、白く小さな動物が座り込んでいた。



??「僕が見えているようで安心したよ。君とは直接話がしたかったからね」

ゼロ人間体「言ったそばから出やがったか!」


言葉を話す謎の小動物を前に、ゼロの表情が途端に険しくなる。


QB「はじめまして、僕はキュゥべえ!」

ゼロ人間体「ヘッ…キュゥべえだと?ゆるキャラぶってんじゃねえよ、『インキュベーター』!」

QB「驚いたよ。僕の事まで知っていたとは」

ゼロ人間体「ああ知ってるぜ。テメェの存在も、その目的も、全部な!」


ゼロはほむらと出会い、一カ月前へと遡行した初日を思い出す。
キュゥべえの存在を含め、全てを知ったあの朝を。




ほむら「魔法少女を作り出しているのは、『キュゥべえ』と呼ばれる魔法の使者。
    そいつは契約を交わした少女の願いを一つ叶え、その対価として魔女と戦う使命を授けるの」

ゼロ人間体「願いって、どんな内容でも構わないのか?」

ほむら「契約者の素質にもよるけれど、大抵は叶えられるはず。人の欲求なんて、たかが知れてるもの」

ゼロ人間体「戦う力だけじゃなくて、奇跡まで起こしてくれるのかよ。
      スゲェじゃねえか、魔法ってやつは!」

ほむら「簡単に考えすぎよ。本当の奇跡は、人の命でさえ購えるものじゃないのだから」

ほむら「たった一つの希望と引き換えに、全てを諦める…それがこの契約の真実」

ゼロ人間体「…そういえば言ってたよな、あの終末を招いた連中がいるって」

ほむら「意外と鋭いのね。そう、真の敵はキュゥべえ…いや、『インキュベーター(孵卵器)』」

ほむら「白いぬいぐるみのような外見だから、初見で疑う少女も少ないでしょうね」

ゼロ人間体「そいつが、一体何の目的であの化け物を…」

ほむら「奴等の目的は、この宇宙を延命し存続させること」

ゼロ人間体「え……それ何か関係あるのか?」




ゼロは再び、目の前の黒幕へと意識を向ける。



QB「僕が予想していた以上に核心に迫っているようだね。実に興味深いよ。
   君が何者かも含めて、詳しく聞かせてもらえないかな?」

ゼロ人間体「生憎、テメェに構ってる暇はねぇんだよ。早く魔女を倒さないと、また犠牲が増えちまう!」

QB「あの魔女のことなら、心配は要らないよ」

ゼロ人間体「あぁ?」


残してきた魔女の動向を心配していたゼロであったが、キュゥべえの言葉と共に、
廃ビルから漂っていたマイナスエネルギーの反応が消えた。


ゼロ人間体「結界が解けた…逃げられたか!?」


ゼロは急いで魔女の元へ駆け出し、キュゥべえもその後を追いかける。


ゼロ人間体「このっ、着いて来んじゃねぇ!」

QB「はぁ、魔女なら既に死んでいるよ。行くだけ時間の無駄なのに」

ゼロ人間体「黙ってろ!自分で確かめて―――」


ゼロは向かっていた方角から、一人の少女が歩いて来ることに気付く。
彼女もまた、ほむらや先程助けた少女と同じく見滝原中学の制服を着用している。


少女「キュゥべえ!もう、急にいなくなるんだから」


キュゥべえは少女の元へ駆け寄ると、その肩に飛び乗った。
少女はペットの相手をするかのようにキュゥべえと触れ合っている。


QB「早かったね、マミ」

マミ「あの程度の魔女に、後れを取るもんですか」


会話から察するに、マミと呼ばれたこの少女が、既に魔女を倒した後らしい。
普通の人間に魔女退治はまず不可能。ゼロにその方法は一つしか思い浮かばなかった。


ゼロ人間体「まさか、君も魔法少女なのか?」

マミ「!?」


思わぬ問いに驚くマミ。
彼女は見知らぬ青年がその存在を知っていることを警戒する。



マミ「…キュゥべえも見えるみたいだし、どうやら一般人ではないみたいね。確かにその通りよ」

ゼロ人間体「って事は、君が魔女を倒してくれたんだな。安心したぜ!」

マミ「えっ?」


魔女が倒され、市民が救われたことを純粋に喜ぶゼロ。
その反応を見たマミは一瞬驚くが、警戒は解かなかった。


マミ「貴方は、魔法少女の家族か関係者かしら?」

ゼロ人間体「俺はだな―――」

QB「彼は、以前話した『イレギュラーな存在』の一人だよ。
   一週間前からこの街で魔女と戦っている、魔法少女とは別の何かだ」

ゼロ人間体「オイッ!!」


ゼロが名乗るより早く、キュゥべえが口を挟む。


マミ「という事は、キュゥべえが力を与えたわけではないのね?」

QB「うん、魔法とは全く異なる力を感じるよ。彼の持つ腕輪からは、特にね」


キュゥべえは、ゼロの左腕に輝くウルティメイトイージスに目を向ける。

一方でマミは護身のため、魔法で小銃を作り出した。
その銃口は地面を向いていたが、直ぐに対応できるよう握られている。


ゼロ人間体「またこうなるか…君は、俺が結界から女の子を助けたところは見てないのか?」


杏子との出会いに続き、ゼロはまたも敵と疑われていることに不満を抱く。
少女を救出した一件で敵意が無いことを証明しようとするが、
結界内で入れ違いとなったためか、マミはそれを知らなかった。


マミ「彼の言ってることは本当なの?キュゥべえ」

QB「確かに事実だね。彼は人間や魔法少女へ危害を加えたりはしていない。
   彼が敵視しているのは魔女、そして僕だ」

ゼロ人間体「あの野郎ッ、またややこしくなるような事を!」


良くも悪くも偽りの無いキュゥべえの証言が、ゼロの行動を肯定する。
ゼロが悪人ではないことは察したマミであったが、
「キュゥべえへの敵視」という不安要素が、彼女を困惑させた。



マミ「貴方の正体と目的を教えて貰えないかしら?悪いけど、今のままでは味方と判断できないの」


マミは敢えて魔法少女に変身せず、小銃のみで対話に臨む。
それは、彼女が信用と疑心で揺れているからこその対応だった。


ゼロ人間体「言えない、と言ったら?」

マミ「長くは待たないわ。私、この後予定があるの」

ゼロ人間体「そうか、予定があるのか―――って予定だと!?」


何気ないマミの一言で何かを思い出し、焦り始めるゼロ。
彼女の問い掛けにも構わず、ゼロはこの場を立ち去ろうとする。


ゼロ人間体「悪い、急用を思い出したんでな。俺は帰る!」

マミ「動かないで。説明責任はきちんと果たしてもらうわよ」


ゼロが動くと、マミも咄嗟に銃を向ける。
一瞬立ち止まるゼロであったが、その表情にはどこか余裕が感じられた。


ゼロ人間体「名前だけなら教えてやるよ。俺はゼロ、ウルトラマンゼロだ!それ以外は秘密だ。じゃあな!」

マミ「ちょっと、待ちなさい!」


ゼロは時折後ろを振り返り、マミの持つ銃を気にしながら走り去って行く。
しかし彼女が、最後までゼロを撃つことは無かった。


QB「ウルトラマン…ゼロか」


マミの肩でその様子を見ていたキュゥべえは、静かに呟く。
その声は、マミの耳には届いてはいなかった。



QB「見逃して良かったのかい?」

マミ「色々と気に掛かるのは事実だけど、悪い人ではないのかもしれない。
   もし不審な動きがあれば、その時に対処するわ」


彼女の銃はあくまでも護身であり、ゼロが攻撃に出ない限り、引き金を引くつもりは無かった。

そして彼が本当に、魔女を倒して人を守る「正義の味方」であるのなら、
このまま見逃しても構わないという思いもあった。


QB「そうか。でも、もし君が発砲していたとしても、彼は難なく防いでいただろうね」

マミ「防いでた…あの状態で?」

QB「彼の手が微量のエネルギーを纏ってたのさ。直ぐにでも大きく展開できるようにね。
   恐らく、バリヤーでも張るつもりだったんじゃないかな?」

マミ「これは一本取られたわね」


ゼロが見せた余裕の意味を知り、マミは軽く溜め息をついた。
更にキュゥべえは、ゼロとは異なるもう一人のイレギュラーについて話を続ける。


QB「彼もだけど、数日前に現れたもう一人…暁美ほむらの動向も心配だ。
   何かを企んでいる可能性は高い。気をつけるべきだね」

マミ「それは、暁美ほむらと彼が組んでいるという事?」

QB「まだ断定はできないよ。彼女は恐ろしい程に隙が無い」

マミ「その件も含めて、色々聞いてみるわ」


長く見滝原市で戦うマミは、最近この街に現れたイレギュラー達の存在を知っている。
彼女はキュゥべえの反応から、ゼロの存在に興味を抱いている反面、
ほむらについてはかなり危険視していることを察した。


QB「そういえば、彼が結界から逃がした子、彼女にも素質があったんだ。
   マミ、君にも新しい後輩ができるかもしれないよ」

マミ「新しい…後輩」


キュゥべえは新たな魔法少女の誕生を示唆すると、どこかへ去っていく。
一人残ったマミは、どこか複雑そうな表情を浮かべていた。


【薔薇園の魔女 その3】



夜を迎えた見滝原市街。
その路地裏に、ほむらが魔法少女の姿で佇んでいた。
無表情で何かを待つ彼女の元に、一人の青年が近付いてくる。


ゼロ人間体「ここだな」


現れたのは、マミとの対峙から抜け出した人間体のゼロ。
二人は別行動を取ってはいるが、ほむらが到着して以降は数日おきに密会を続けていた。


ほむら「早く」


ほむらがそっと手を差し出し、ゼロはその手に触れる。
同時に二人を除いた全ての時が、一瞬にして止まった。


ゼロ人間体「相変わらず徹底してるな。関心するぜ」

ほむら「当然よ。もし念話にまで介入されたら、全てが奴に筒抜けになる」


ほむらは魔法少女の能力として『念話』と呼ばれるテレパシー会話も行えたが、
キュゥべえの監視を考慮し、時間停止の魔法を密会に利用している。


ほむら「遅くなったことだし、手短に済ませましょう」

ゼロ人間体「悪い、少しばかり手間取っちまってな。あの契約野郎が、俺のこと嗅ぎ回ってたからよ」

ほむら「インキュベーターに会ったのね?」

ゼロ人間体「それと、他の魔法少女にも二人会ったぜ。槍使いのじゃじゃ馬娘と、銃を持ったお嬢さんだ」


ゼロが語った魔法少女の特徴を耳にし、ほむらは僅かながらも反応を示す。
しかし、何事も無かったかのように彼女は話を続けた。


ほむら「奴は、間違いなく貴方と接触した魔法少女からも情報を集めるはず。
    余計なこと、話してないわね?」

ゼロ人間体「俺の名前と、『ワルプルギスの夜』のことを一人に伝えただけだな。
      忠告のつもりだったが、退いてくれるかが怪しいもんだ」

ほむら「その程度なら十分よ。私達が謎を抱える限り、奴は注意をこちらに向け続ける。
    この現状を、最後まで維持すればいい」

ゼロ人間体「ああ!ヤローの営業ノルマ、俺達でぶっ潰してやろうぜ!」

ほむら「只、相手は狡猾すぎる。貴方は熱くなりやすい性格だから、口車には乗らないよう注意して」

ゼロ人間体「お、おう…」


ほむらの指摘を受けたゼロは、ばつが悪そうに頭を掻き、軽く頷いた。



ゼロ人間体「おっと、これ渡しておかねぇとな」


ゼロはポケットから何かを取り出し、ほむらに手渡す。
それは、ゼロが数日間の戦いで入手したグリーフシードであった。

その数は、杏子に譲った二個を差し引いて五個。
要した日数と比較しても、十分過ぎる収穫である。


ゼロ人間体「朝から晩まで結構戦ったぜ。使い魔も会わせると、もっとだな」

ほむら「順調のようね。感謝するわ」

ゼロ人間体「へへッ」


ゼロは空いた片手で、上唇を軽く擦る。

ほむら「私の方も順調よ。貴方は引き続き、魔女討伐を続けて頂戴。
    今まで通り…この街から魔女を消し去る勢いで構わないわ」

ゼロ人間体「思ったんだけどよ、本当にそこまでやって大丈夫なのか?」

ほむら「全て計画の内よ。何も無策に言ってるわけじゃない」

ゼロ人間体「とはいえ、グリーフシード目当てに縄張り争いまでやってるくらいだ。
      一波乱起きないといいんだがな…」


ほむらの指示を受け、ゼロはこの街で相当数の魔女を倒してきた。
しかし彼は、その行動が魔法少女達の均衡を揺るがすのではと心配する。

原因は、魔女狩りの戦利品・グリーフシードにある。
それはソウルジェムの魔力を回復させる役目を持つ上、倒した魔女から必ず手に入るものではなかった。


ほむら「見滝原の魔法少女は、私を含めて今は二人。然したる影響はないわ。
    気に掛かるなら、支障のない範囲で私達のグリーフシードを提供すればいい」

ゼロ人間体(もう一人…さっきの子か)


ほむらの指す魔法少女がマミであると、ゼロはすぐに察した。
しかし杏子の時と違い、慎重な彼女が説明もなくグリーフシードを受け取るかは、疑問が残る。


ほむら「何れにせよ、魔女の反応を見つけたり、目の前で誰かが魅入られていたとして、
    放っておける貴方ではないでしょう?」

ゼロ人間体「口挟んどいて何だが、確かにその通りだ。見過ごせるわけがねぇ」


ゼロは自分の正義に従い、発見した魔女は一切見逃さずに戦っている。
迷いが生まれようと、その戦い方を変えることは出来ず、ほむらもそれを望んでいた。



ほむら「忘れないで。私達の目的は『ワルプルギスの夜』に勝利して、この一ヶ月を終えること。
    そして―――『彼女』の契約を阻止することよ。
    貴方の戦いは、彼女を非日常から遠ざけるために必要なの」

ゼロ人間体「わかったよ。俺も迷わず戦う」

ほむら「理解が早くて助かるわ。全ては上手く運んでる。お互い、上手くいくことを祈りましょう」

ゼロ人間体「ああ、やってやるよ!俺のウルトラ魔女ファイトは…こっからだぜぇぇっ!!」


ゼロは片手の拳を振り上げ、ほむらは「何を言っているんだ」と言いたげな表情で彼を見る。
こうして二人は自身の役割を再確認し、密会を終えた。

…はずであったが、ゼロは急に余所余所しい態度を取り始めた。
しばらく沈黙が続くが、埒が明かないのでほむらから話を切り出す。


ほむら「何?」

ゼロ人間体「最後に相談があるんだけどよ…」

ほむら「家には泊めないわよ」


生活の改善を直談判したいゼロであったが、ほむらは聞くまでもなく一蹴してみせる。


ゼロ人間体「少しくらいいいじゃねえか!ネットカフェじゃ背中もロクに―――」


問答無用とばかりに、ほむらはゼロの手を離す。
再び時を刻み始めた路地裏に、彼女の姿は既になかった。


ゼロ人間体「…またメシ買い直すか」


空しく呟いたゼロの手には、封筒が握られている。
中には次の合流予定が書かれたメモ、そして追加の生活資金が入っていた。


【薔薇園の魔女 その4】



ゼロとほむらが密会を終えた頃、マミは公園のベンチで一人「予定」の時刻を待っていた。
目を閉じて俯いていたマミは、軽く深呼吸し、心を落ち着かせる。

どこからか聞こえてくる足音の方へ目を向けると、ビニール袋を提げた少女が歩み寄ってくる。
その少女は、風見野市の佐倉杏子であった。


マミ「久しぶりね、佐倉さん」

杏子「そっちも相変わらずそうだな」


杏子はマミと同じベンチに、少し距離を置いて腰を下ろす。
彼女はすぐにビニール袋へ手を伸ばすと、スティック菓子を取り出して封を開けた。

以前から二人は面識を持っていたが、長らく顔を合わせておらず、どこか気まずい空気が漂っていた。


マミ「考えてもみなかったわ。貴方の方から連絡をくれるなんて」

杏子「アタシだって好き好んで来るわきゃないさ…聞きたいことが色々あんだよ」


親しげに話そうとするマミだが、杏子の反応は微かに冷たい。
世間話はできそうにないと判断したマミは、すぐに本題へと移った。


マミ「そう…何が知りたいのかしら?」

杏子「ウルトラマンゼロって奴の事さ。見滝原で魔女を狩ってる、謎の兄ちゃんだよ」

マミ「貴方も彼に会ったの!?」


杏子の口から飛び出したのは、先程遭遇した謎の人物の名前。
同じく、ゼロについて尋ねるつもりでいたマミは驚きを隠せなかった。


杏子「ん?もしかしてアンタの使い魔かよ?」

マミ「人を魔女みたいに言わないで頂戴。それに、ついさっき会ったばかりよ。 それ以上の関係はありません!」

杏子「冗談だよ冗談。真に受けんなって」


杏子の軽口に、マミはむっとした様子で言葉を返す。
このやり取りが、重苦しい空気を僅かに和ませた。


マミ「とにかく、貴方も知っているのなら話は早いわ。私達の情報を共有できないかしら?」

杏子「わかったよ。つーか最初からそのつもりだったし」


マミはすぐに話を戻すと、杏子に協力を持ちかける。
了承した杏子から先に、ゼロとの関わりで得た情報を話し始めた。



杏子「まず、三週間後に『ワルプルギスの夜』が見滝原に来るって話、知ってるかい?」

マミ「『ワルプルギスの夜』!?…本当にあの魔女は実在しているの?」

杏子「そこまで知るかよ。逆に聞きたいから、風見野からわざわざ来たんじゃんか」


ゼロの名に続き、再びマミは度肝を抜かれる。
ごく普通の魔法少女から見れば『ワルプルギスの夜』はあくまで噂話であり、存在自体が眉唾ものであった。


杏子「只、ゼロの奴が言ってたのさ。あの大物魔女を相手に戦うってね。
   危険だからアタシらは手を出さないでほしいんだと」

マミ「戦うって、『ワルプルギスの夜』が噂通りの魔女なら、相応の強さを持ってないと…」

杏子「最初、魔女と間違えて襲っちまったけど、相当なやり手だったよ。
   防御に回るばっかで、全然攻めてこなかったけどねぇ」


ゼロの力を知らないマミは、本当に彼が『ワルプルギスの夜』に対抗し得るのかを疑問を感じていた。
だが、マミから見ても実力者である杏子は、素直にその強さを認めていた。


マミ「彼と戦ったみたいだけど、一体どんな能力を?」

杏子「身体能力もハンパなかったけど、能力もすげぇトリッキーだったな。
   デコからビーム出すわ、ミジンコみてーに小さくなるわ…」

マミ(おでこからビーム?)


杏子が説明を続ける中、マミの脳内では青年が髪を掻き揚げ、額から破壊光線を発射していた。


杏子「忘れてた。あの兄ちゃんも変身して戦うんだよ。
   最初会ったときは既に変身してて、後で人間の姿に戻ったんだ」

マミ(彼も変身を!?)


長らく魔法少女として戦ってきた経験故か、マミには特撮ヒーローのような
男性の変身イメージがすぐには出てこなかった。
代わりに、青年が魔法少女の衣装を纏った姿を想像してしまう。


杏子「確か全身タイツみてーな体してて、色は赤・青・銀で、刃を二つ持ってて…」

マミ(…全身タイツ!?)


今度は彼女の脳内で、カラフルな全身タイツを着用した青年が、両手にナイフを構える。
彼女はゼロのウルトラマンとしての姿を見ていないため、断片的な特徴では全く想像がつかなかった。


マミ「ただの変質者じゃない…」

杏子「多分アンタが想像してるよりはスタイリッシュだよ…」


二人は、それぞれ異なる理由で唖然とする。



杏子「大体、アタシから話してばっかだけど、そっちは何か情報無いのかよ?」

マミ「そういえばキュゥべえは、彼に全く関与していないと言ってたわ。
   魔女を倒した力は、魔法とは全く違うそうよ」

杏子「魔法と違う、か。確かに別モンだったよ、ありゃあ」


マミの持つ数少ない情報にも、杏子は既に何かを知っている様子を見せる。
それは『趣の魔女』との戦いで、ゼロの治癒を受けた一件にあった。


杏子「ちょっと魔女相手にヤバい状況になっちまってさ、アイツに回復してもらったんだよ。
   けど、魔法とはどっか違うんだよね。なんつーか『温かい』?」

マミ「そんなことが…」


ゼロが杏子のソウルジェムに与えたのは、ウルトラマンの持つ『光』のエネルギー。
しかし杏子には、その感覚を上手く表現することが出来なかった。


マミ「佐倉さんは、彼が悪人だと思う?」

杏子「少なくとも悪い奴じゃあないでしょ。グリーフシードまで貰ってるからな。
   それに、敵じゃないって自分で言い切ってたし」

マミ「やっぱり、そうなのかしら…」

杏子「まだ何か引っかかってる様子だね。情報交換にならないから、言っちまいなよ」


何かに迷っているようなマミの様子に、杏子は鋭く切り込む。


マミ「彼、キュゥべえに敵意を持ってるの。これもキュゥべえから聞いた話だから、信憑性は高いと思う」

杏子「敵意ねぇ…確かにキュゥべえの奴、色々と胡散臭さがあるからな。
   『僕と契約して~』って壷でも買わされたんじゃないの?」


笑いながら話す杏子を見ながら、マミも釣られてくすりと笑う。
この時点で、二人の間に漂っていた重々しい雰囲気は既になくなっていた。



マミ「その件に繋がることで、もう一つ気になってるの。
   最近現れた『暁美ほむら』って名前の、黒い魔法少女を知らない?」

杏子「聞いたこともないね。見滝原の奴かい?」

マミ「ええ。しかも、キュゥべえがイレギュラーだなんて呼ぶ程の問題児」

杏子「ほーう。そいつは一体何やらかしてんのさ?」

マミ「彼女、魔女討伐の使命を殆ど果たしていないの。
   代わりにキュゥべえを襲ったり、不審な動きを繰り返してる。何を考えてるのか全く分からないわ」


ほむらはゼロに魔女討伐の殆どを任せ、自分の『目的』に集中している。
それらの行動は、マミやキュゥべえにも異質に映っていた。


杏子「サボリ魔がまかり通るほど、この契約は甘くないでしょ。
   変身してコソコソやるにも魔力がいる。グリーフシードだって―――」


全て言い終える前に、杏子の脳裏をある記憶がよぎった。


杏子「…そういやゼロのやつ、魔法は関係ないのにグリーフシード回収してたっけ。
   アイツの収穫をサボリに提供すりゃあ、合点はいくかもな」

マミ「そして二人ともキュウべえを敵視している。もしかして彼は、暁美ほむらに利用されて?」


肩代わりにも思える魔女討伐と、共通の敵意。
マミはほむらが悪意ある目的の為に、純粋な『正義の味方』であるゼロを唆したのでは考える。

それは、彼女がキュゥべえに疑いを持っていないからこその仮説であった。


杏子「ははっ!面白くなってきたじゃん!」


杏子は菓子の空き箱を袋に突っ込むと、ベンチから体を起こした。
そのままマミの正面へと歩いて行く。


杏子「連中の動向も気になることだし、たまにはこの街にも足運ばせてもらうよ!」

マミ「見滝原にもって、貴方には風見野が…」

杏子「別にアンタから縄張りを奪おうなんて考えちゃいないさ。欲しいのは情報だからね」

マミ「でも…」


不敵な笑みを浮かべながら、勝手に話を進めていく杏子。
マミは自信なさげに、ぎゅっと拳を握り締める。
少しだけ間を置き、何かを決意したかのように口を開いた。



マミ「いい機会だから、提案させて」

杏子「あぁ?」

マミ「もう一度私と組むつもり、ないかしら?見滝原も風見野も、私達二人で…」


その提案を耳にし、杏子の反応が固まる。
しかし、すぐにいつもの小憎らしい彼女が帰ってきた。


杏子「久々の連絡にすんなり応じたと思ったら、やっぱそれが狙いかよ」

マミ「……」


棘のある杏子の口調に、マミは俯いてしまう。

二人はかつて組んで戦っていた経験があったが、意見の相違から現在はコンビを解消している。
今回マミが接触に応じたのも、和解し、もう一度共に戦えないかという期待を持っていたからであった。


マミ「ごめんなさい。貴方の気持ちも考えずに…」

杏子「…で、アンタは戦うのかい?」

マミ「えっ?」

杏子「もし『ワルプルギスの夜』が来たら、戦うのかって聞いてんだ」


思わずマミが顔を上げた時、杏子は背を向けていた。


杏子「ソイツが本当に現れるってんなら…加勢してやってもいい。
   名を上げる折角のチャンス、譲るのは勿体無いしね」


最初から聞き入れられないと考えていたマミは、予想していなかった返事に驚く。
やがて沈んでいた表情が、少しずつ笑顔へと変わっていった。


マミ「もちろんよ。それが、魔法少女の使命ですもの!」

杏子「フン」


僅かに明るくなったマミの声を耳にし、杏子は鼻で笑う。


杏子「ま、今日のところは帰らせてもらうよ」

マミ「佐倉さん、久々に話せて良かったわ。―――ありがとう」


杏子は振り返ることなく立ち去り、マミはその後姿を、見えなくなるまで目で追う。
未だ全ての溝は埋まらないものの、二人の口元はどこか嬉しそうに緩んでいた。


【ウルティメイトフォースゼロ その1】



一方、ゼロが地球へ向かって数時間が経過したアナザースペース。

宇宙のとある場所に、緑の輝きを放つ巨大建造物『マイティベース』が浮かんでいる。
それは、ゼロが仲間達と結成したチーム『ウルティメイトフォースゼロ』の秘密基地であった。


??「イヤッホォォォーーゥッ!!」


どこからか火の玉が現れ、雄叫びを上げながらベース内へと入っていく。
やがて炎は消え、その中から筋肉質な赤い巨人が降り立った。


??「イェェィ!!」


彼が頭を掻き揚げると同時に、頭から炎が噴き出す。
巨人の名はグレンファイヤー。炎の力と格闘技を操る、ゼロの仲間の一人。


グレン「うおぉーーぃ!グレン様のお帰りで…って、あら?まだ誰も帰ってねえのかよ?」


しかしベース内には誰も見当たらない。
グレン以外のメンバー達は、まだ敵の残党捜索から帰還していなかった。


グレン「ファイヤーーッ!!」


意味もなく叫んでみるが、その声はベース内で反響し、空しく響く。
一人とは思えないテンションを見せていた彼も、退屈には敵わない様子であった。


グレン「揃いも揃って真面目なこった!いいよいいよ、俺は昼寝でもして待ってらぁ!」


グレンが床に寝転がり始めた時、ベースの入口からコツコツと足音が響いてきた。
顔を向けると、銀色の巨人が一人歩いてくる。



??「お疲れ様です、グレン」

グレン「ああ、ミラちゃんかよ」


その巨人からは、豪快なグレンと対照的にクールな雰囲気が漂う。
彼の名はミラーナイト。ゼロの仲間の一人であり、鏡を応用した戦いを得意としている。


ミラー「暇を持て余しているようですね。少しは掃除でもしてはどうですか?」

グレン「あぁ?俺だってあちこち飛び回って疲れてんだ。理由つけて『焼き鳥』に任せときゃ十分だろ」

ミラー「働かざるもの使うべからずですよ。それに、燃えるゴミは貴方が処分した方が早いでしょう」

グレン「ったーく!俺を焼却炉か何かと勘違いしてんじゃねえのか…
    大体、やる事ねえのはおめーも同じだろうが!」

ミラー「私は、鏡の手入れがありますから」


宇宙を守る巨大ヒーローとは思えない会話が繰り広げられるが、これもまた彼等の日常。
ある意味、ウルトラマンとして型破りなゼロを象徴するようなチームといえた。


グレン「まぁ掃除は置いとくとして、ベリアル軍の奴らはどうだったんだ?
    俺の持ち場には見当たらなかったぞ」

ミラー「私も同じでした。もう一度捜索するかは、三人の報告次第ですね。
    もうすぐ帰ってくるとは思いますが…」

グレン「あーあ、待機ってのが一番しんどい任務だぜ!」


現時点でウルティメイトフォースゼロのメンバーは五人。
グレンとミラーは、ゼロと『焼き鳥』を含めた残る三人の帰還を待つ。

今の彼等は、ゼロが次元を越えて旅立ったことなど知る由もなかった。

つづく


ゼロのヒーリング、ネカフェ生活、カレーへの愛着は、
今後のストーリー上必要だったので加えた要素です。公式設定ではありません。


【お菓子の魔女 その1】



休日を迎えた、昼下がりの見滝原市。
街を行き交う人の姿が増えてなお、魔女はいつも通りに機を狙い、息を潜めている。

同じようにウルトラマンゼロも、魔女結界の中で変わらぬ戦いを続けていた。
結界内は見渡す限りの青空が広がり、制服の掛かった電線が張り巡らされている。


ゼロ「どいつもこいつも、なんて姿だよ…」


呟いたゼロの前に、電線を伝って蜘蛛のような何かが這い降りてきた。
現れたのは、女学生の制服に六本腕という異形の『委員長の魔女』。

邪悪な敵には悪態をつくことも多いゼロだが、魔女に対してはどこか複雑な様子を見せる。
しかし、その存在が平和を乱す以上、戦闘で手心を加えるつもりは毛頭ない。


ゼロ「さあ、来な!」


臨戦態勢に入ったゼロに応えるかのように、結界の上空から大量の机や椅子が落ちてくる。


ゼロ「って、そう来るかよ!?」


戦っていたのが魔法少女ならば、電線を足場とする他ない。
しかし飛行能力を持つゼロに支障はなく、結界を飛び回ることで落下物を回避していく。

魔女は攻撃を続けながら、更にスカートの中から大量の使い魔を呼び出した。
スケート靴を履いた下半身だけの女学生達が、滑るように電線の上を駆ける。


ゼロ「ハッ!」


隙を見ては飛び掛ってくる使い魔を、ゼロはエメリウムスラッシュで正確に狙い撃っていく。
光線を魔女にも向けて発射するが、魔女は素早い動きで電線を這い回り、光線を避ける。
得策でないと判断したゼロは光線を止め、頭のゼロスラッガーを飛ばした。



ゼロ「シェアッ!」


スラッガーの狙いは魔女の本体ではなく、しがみ付く電線であった。
切断された電線は垂れ下がり、掛けられていた制服もひらひらと落ちていく。

対する魔女は電線から電線へと飛び移り、スラッガーもそれに追従する。


ゼロ「逃げ場はねえぜっ!」


ゼロが指を振ると、スラッガーは不規則な起動を描き、電線を手当り次第に切断していく。
大量の制服が舞い上がる中、魔女はついに足場を失い、落下する。


ゼロ「終わりだ!」


戻ってきたスラッガーを手にするゼロ。
スラッガー二本を重ね合わせると、それは巨大な一本の刃『ゼロツインソード』へと合体する。
ツインソードを構えたゼロは、高速飛行で魔女へと迫る。


ゼロ「はあぁーーーーっ!!」


目前に魔女を捉えたゼロは、魔女と交差する一瞬の間に、二回の斬撃を繰り出した。
ゼロはそのままは制止せず、結界の真下へと突き進んでいく。

その間に、魔女は×印の傷を青く光らせながら、一切の声も発することなく消滅した。


ゼロ「おっと!」


ゼロが着地の体勢を取った時、結界は完全に解除された。
地面に降り立つと同時に変身を解き、空から落ちてきたグリーフシードをキャッチする。


ゼロ人間体「休日にまで学校行くこたぁねえよ。ゆっくり休みな」


戦いを終えたゼロが早々に立ち去ろうとした時、背後で小さな拍手が鳴る。
振り向くと、そこには先日出会った魔法少女、マミの姿があった。


マミ「お見事ね。五分も経ってないわ」


警戒を怠らなかった前回と違い、マミの反応は丸かった。
微笑む彼女に戸惑い、ゼロは苦笑いを返す。



ゼロ人間体「はは…今日は安心しても大丈夫なのか?」

マミ「この間は銃なんて向けてごめんなさい。最初から危害を加えるつもりはなかったの」

ゼロ人間体「いや、いいんだ。そういえば君はマミと言ったかな」

マミ「改めて自己紹介するわ。私は巴マミ。見滝原中の三年生」


謝罪と自己紹介を行い、敵意がないことを態度で証明するマミ。
ゼロはその心変わりを疑問に思うも、彼女を信用することにした。


ゼロ人間体「で、君はどうしてここに?」

マミ「あれから魔女と一緒に、貴方のことも探してたの。
   結界に入って行くのを偶然見つけて、戻ってくるまでここで待機」

ゼロ人間体「そういう事か。ま、丁度良かったかもな。俺も君と少し話がしたかったところだ」

マミ「私と?」


マミは杏子と、ゼロはほむらとの密会を経て、二人はもう一度話をすることを望んでいた。
両者の意向は一致していたが、状況はまだそれを許さなかった。


ゼロ人間体「…その前に、もう一仕事済まさねぇとな」


強いマイナスエネルギーが放たれるのを感じ取ったゼロは、その方向へと向き直る。


マミ「魔女が現れたのね?」

ゼロ人間体「ああ。ここに来てベスト3に入る反応の強さだ。その上、まだ孵化もしてないときたぜ!」


ゼロは魔女の捜索において、『口付け』の逆探知に加え、
魔女から漏れ出るマイナスの力を直接察知する方法を取っている。
後者は市内を歩き回る必要があったが、今回はその必要がないほどに発信源が強い力を放っている。


ゼロ人間体「俺が行く。お茶でも飲んで待っててくれ!」


ゼロはマミを一旦この場に残し、一人で魔女の元へ向かおうとする。
しかし彼女も、同じ方角へと足を向けた。


マミ「こんなところで女の子を一人にしちゃ駄目よ。
   取り返しの付かない事になる前に、二人で一気に片を付けましょう」

ゼロ人間体「取り返しの付かない事…どういう意味だ?」

マミ「あの方角、病院があるのよ」


一瞬の沈黙の後、二人はすぐに駆け出した。


【お菓子の魔女 その2】



ゼロが『委員長の魔女』と戦っていた頃、一人の少女が中央病院へと入っていく。
その少女とは、先日ゼロが結界から助け出した見滝原中学の生徒であった。

少女は受付で見舞いの手続きを済ませると、エレベーターで上の階へ向かう。
しばらく進んだ後、廊下の真ん中で歩みを止めた。


少女(何で来ちゃったんだろ)


目線の先には、『上条恭介』の名が書かれた病室がある。
彼こそがゼロに話した友達であったが、少女はそこから先に踏み込むことを躊躇っていた。


少女(私が今入ったとして、気の利いた言葉を掛けてあげられる?
   恭介の苦しみを、少しでも和らげられる?―――無理だ)


結局入ることができずに病室を後にし、屋上へと足を向ける。
階段を上りながら、少女は前回の見舞いを思い返していた。


『僕を苛めてるのかい?弾けもしない曲を、毎日、毎日…!』

『諦めろって言われたのさ…今の医学じゃ無理だって』

『僕の手は、もう二度と動かないんだよ!!』


少女の頭に、病室の少年から向けられた言葉の数々が渦巻く。
彼へ抱く感情が『友愛』以上のものであったことが、更に彼女を苦悩させた。



屋上に到着すると、少女は腰を下ろしてフェンスにもたれ掛かる。
青空に向けて手を伸ばすと、手を握っては開いてを繰り返し、物思いに耽っていた。


少女(何で私じゃなくて、恭介なのよ…)


その時、突然の悪寒が少女を現実に引き戻す。


少女(何!?この嫌な感じ…)


得体の知れない感覚は、迷い込んだ迷路の空気とよく似ていた。
少女が思わず体を縮ませていると、頭上から何者かの声が聞こえてくる。


QB「『魔女』だよ、美樹さやか」


名を呼ばれた少女が見上げると、フェンスの上にキュゥべえが座っていた。


さやか「ぬいぐるみが喋ってる?…って、何で私の名前まで知ってんの!?」

QB「僕はキュゥべえ。君の名前も、秘めた力も全部お見通しさ」

さやか「あんた、一体何を言って…」


魔女結界の時ほどではないが、さやかは目の前の状況が掴めなかった。
そんな彼女に、キュゥべえは説明を始める。


QB「君が迷い込んだ迷路と、小さな怪物を覚えているだろう?
   その根源――『魔女』が、この病院で生まれようとしているんだ」

さやか「本当に全部お見通しかよ…つまり、この前私が見たものに関係があるんだね?」

QB「その通りだ。魔女は人間の生命力を奪う。
   弱った人間の集まる病院が狙われれば、どうなるかは想像に難くない」

さやか「そんな…どうしよう!?恭介や他の患者さん達も!」


さやかは廃ビルから自分を助け出した青年のことを思い出す。
彼ならば、この状況を救ってくれるかもしれないと。

しかしキュゥべえが提示した打開策は、全く異なるものであった。



QB「君が戦って、この病院を救うしかない」

さやか「は?私が化け物と戦うってこと!?ムリムリ、勝てっこないって!」

QB「今の君で立ち向かっても、魔女の餌にしかならないよ。
   でも僕と契約を結べば、力が手に入る。君はその素質を持っているんだ」

さやか「何なのよ、契約って」

QB「君の願いを一つだけ叶えよう。君が望むなら、どんな奇跡だって起こすことが出来る」

さやか「…どんな願いも?」


さやかの中で、想い人の姿がちらついた。
バイオリン奏者であった彼が、治った手でもう一度演奏をする姿が。


QB「その対価として、君には魔法少女になって魔女と戦ってもらいたい。
   君は願いを成就し、皆を守る力も得られる。悪い話ではないはずだよ」

さやか「魔法…少女」


キュゥべえの契約を耳にし、さやかは青年の別れ際の言葉を思い出す。


『最近、魔法ナンチャラになれば願いがどーの…
 って勧誘してくる怪しいヤツがいるみたいだから、十分気をつけろよ!』


彼の忠告がキュゥべえを指していると考え、さやかに僅かな迷いが生じる。
だが、ゼロとマミが向かっている事を知らない彼女に、選択肢は一つしか残されていなかった。


さやか「決めたよ。私、契約する」

QB「美樹さやか、君は何を願う?」


さやかは息を呑み、覚悟を決めた。


【お菓子の魔女 その3】



反応を追った二人の足は、マミの推測通りに中央病院へと辿り着く。
病院の駐輪場では、既に魔女結界が完成しつつあった。


ゼロ人間体「本当に病院を狙ってやがったか!」

マミ「まだ孵化はしてないようね。急ぎましょう」


休む間もなく、二人は結界へと飛び込む。
内側に広がる空間には、大量に積み上げられたお菓子の山が広がっていた。

その上には、斑模様の小さな使い魔が列を作って歩いている。
やがて侵入者に気付いた使い魔達は、一斉に向きを変え、二人の周囲に集まり始めた。


ゼロ人間体「甘ったるい光景だな…見てるだけで胸焼けを起こしそうだぜ」

マミ「甘いお菓子は苦手かしら?それじゃあ、私一人で食べ尽くさせてもらうわよ!」


マミが手を広げると、身につけていた指輪が本来の形であるソウルジェムに戻る。
ソウルジェムを輝かせると、彼女は黄色を基調とするクラシカルな魔法少女に変身した。


ゼロ人間体「ヘッ…共闘を持ちかけといて、そりゃないぜっ!!」


ゼロは軽く上唇を擦ると、腕のイージスからウルトラゼロアイを召喚する。
手にしたゼロアイを装着しようとしたその時、どこからか突風が巻き起こった。


ゼロ人間体「何だ!?」


二人が戦闘に入るよりも早く、高速で移動する何かが使い魔を切り裂いた。
それは青い光の軌道を描き、使い魔を次々と薙ぎ払っていく。



マミ「速い…」

ゼロ人間体「間違いねえ、別の魔法少女だ!」


使い魔を一掃した青い光は動きを止め、マントをなびかせた少女に形を変える。
キュゥべえとの契約を終え、魔法少女となったさやかの姿がそこにあった。


さやか「そこのお二人さん、この私が来たからにはもう大丈夫ですからねー!」


ゼロ人間体「君は、この間の!?」

さやか「ってあれ…迷路工事のお兄さん!?それに、もしかして魔法少女……ですか?」


剣を手にし、得意げな表情を見せるさやかを見て、ゼロは驚きを隠せない。
さやかの方も、ゼロとマミを認識すると態度が豹変した。


マミ「そうだけど、貴方達は知り合い同士?」

ゼロ人間体「あの子だよ、俺が結界から助けたのは」

マミ「彼女が?」


ゼロが助けた少女は素質を持ち、新しい魔法少女になり得る。
キュゥべえがマミに語ったその話は、現実のものとなっていた。


ゼロ人間体「大体、なんで契約してんだ!俺の忠告はどうしたんだよ!?」

さやか「仕方ないじゃん…こっちも四の五の言ってられない状況だったんだからさぁ」


ゼロは濁した表現ではなく、詳しく説明しておくべきだったと頭を抱える。
さやかの方も、頼りになる二人が現れたことで、体の力みが解けてしまった。



マミは、契約に難色を示すゼロの様子が気になっていたが、それを一旦心に留める。
その代わり、剣を地面に刺して首を垂れるさやかに、優しく微笑みかけた。


マミ「そう悲観するものでもないわ。
   貴方が魔法少女になったということは、何か願いを叶えて貰ったんでしょう?」

さやか「でも、すぐにこの中入っちゃったから何も確認できてないんすよ…
    キュゥべえも急にいなくなっちゃうし、もし嘘だったら三枚におろしてやる!」

マミ「心配しなくても大丈夫よ。キュゥべえを信じて」


彼女達のやり取りを、やりきれない表情でゼロは見つめる。
特にキュゥべえに絶対の信頼を置くマミへ、真実を話せないことがもどかしかった。


ゼロ人間体(あの野郎が、俺達に気付かなかったはずがねぇ。
      わざと黙って、契約せざるを得ない状況を作り出したってところか…!)


ゼロは拳を握り締め、キュゥべえへの怒りを滾らせた。
改めてこの二人を守り、無事に帰還させる決意を固める。


ゼロ人間体「こうなった以上は仕方ねぇ。皆で先に進もう」

マミ「貴方も一緒に行きましょう。新人さん」

さやか「う、うん」


ゼロは、さやかが魔法少女として戦いに身を投じる以上、初戦の経験が重要になると考える。
彼は同行を持ちかけ、さやかも剣を引き抜いて誘いに応えた。

三人は結界の深部へ向けて歩き出すが、さやかはその道中で、
初対面のマミだけでなくゼロにも名前を伝えていないことを思い出した。


さやか「そういえばまだ名乗ってなかったっすよね。
    私は美樹さやか。以後、よろしくお願いしまーす!」

マミ「私は巴マミ。よろしくね」

ゼロ人間体「俺はウルトラマンゼロだ」

さやか「ウルなんとかゼロ?…芸名か何かですか?」

ゼロ人間体「ウルトラマンゼロ…本名だ本名!一応『モロボシ・シン』って名義使ってっから、
      気になるならそっちで呼んでくれ!」

さやか「名義?まぁ、とりあえず『ゼロさん』って事で!」


和気藹々と絡む二人を傍目で見ながら、マミは安心感を抱く。



マミ(いつもと同じ魔女退治…なのに誰かと共に戦うだけで、こんなにも気分が違う)


目を閉じて立ち止まるマミを、さやかは不思議そうに見つめる。


さやか「マミさん?」

マミ「少し離れててね」


さやかが距離を置くと、上空から大量のマスケット銃が落下し、マミの周囲に突き刺さった。


さやか「わっ!?」


ゼロも手にしたゼロアイを折り畳み、小銃形態へと変えている。


マミ「美樹さん、来るわよ!」


お菓子の陰に身を潜めていた使い魔達が、弾丸のような速さで三人に突っ込んでくる。
先に察知していたマミは、素早く銃を振り回し、使い魔を撃ち抜いた。

マミの銃は連射が不可能であったが、一発撃つ度に持ち替えることで、複数の使い魔を倒していく。
驚くべきは動作のスピードであり、最早連射と変わりないレベルにあった。


ゼロ人間体「あまりマミに近付きすぎると巻き込まれるぜ!」

さやか「それくらいわかってますって!」


マミ以外の二人は、少し離れた場所で使い魔と戦っていた。
ゼロは小銃で応戦しながら、剣を振るうさやかに指示を仰ぐ。


マミ(いつもより体が軽く感じるのは、気のせいかしら?)


続いて、お菓子に空いた弾痕から黄色いリボンが伸び、隠れていた使い魔達を縛り上げる。
引きずり出した獲物に狙いを定め、マミは踊るような動きで次々と撃ち抜いていった。


ゼロ人間体「やるじゃねえか。いい腕してるぜ!」

さやか「すっごいよマミさん!ちょーカッコいい!」

マミ「もう、見世物じゃないのよ」


マミの優雅な戦い方にゼロは感心し、さやかも目を輝かせている。
彼女は二人を窘めつつも、満更でもなさそうな表情を見せていた。


マミ(ここに、あの子もいてくれれば…)


マミは安堵がより一層強くなると共に、杏子と会話した夜を思い出していた。



三人が再び歩き始めた時、それぞれの脳内にキュゥべえの声が響く。


QB(魔女の孵化は近いよ。後は他の道に惑わされず、一直線に進むんだ!)

さやか「キュゥべえ…じゃないよね?」


さやかは周囲を見渡すが、キュゥべえは見当たらない。


マミ「キュゥべえからの念話ね。美樹さんには、後で説明してあげるわ」

ゼロ人間体「チッ…急ごう!」


結界の道を真正面に走り抜けると、巨大な椅子とテーブルが並んだ最深部に辿り着く。
そこには壁にめり込んだグリーフシードと、それを見つめるキュゥべえの後ろ姿があった。


さやか「キュゥべえ、そんなとこにいたの?」

QB「一足先に進ませてもらったよ。孵化を監視して、君達を導く必要があったからね」

ゼロ人間体「君達、か。そいつは俺とマミが結界に向かってるのを知ってたって意味かよ?」

QB「そこは自由に解釈してくれて構わない。それより、魔女が出てくるよ!」


結界の壁にめり込んだグリーフシードが強い力を発し、お菓子のパッケージへと形を変える。
パッケージを破り、中からぬいぐるみのような愛らしい外見をした『お菓子の魔女』が飛び出した。


さやか「今度はグロくない…むしろ、カワイイかも」


魔女はふわふわと椅子に舞い降りるが、一向に動く気配はない。
その誕生を祝福するかのように、別の部屋から、お菓子を抱えた使い魔達が集まってきた。


ゼロ人間体「さやか、この魔女は普通と違う。今回は使い魔の退治に集中してくれ!」

さやか「わかった!」


初めての戦闘かつ二人を頼りにしているためか、さやかはすんなりと指示を受け入れた。
マミとゼロは魔女の座る椅子へ向かい、並び立つ。


マミ「悪いけど、この後お茶会が待ってるの。速攻で決めさせてもらうわ!」

ゼロ人間体「オイオイ、話するとは言ったが、お茶会やるとは聞いてないぜ…」


二人の銃が椅子の上へと向けられ、同時に魔女の体を撃ち抜く。
椅子から飛ばされた魔女は、結界の壁に叩き付けられ、落下した。



マミ「ここは任せて」


マミはゼロに向けてウインクすると、使い魔の時を上回る数の銃が、空中に浮かんだ状態で召喚される。
全ての銃口は魔女へ向けられ、一斉に撃ち出された。

魔女とその周囲に空けられた全ての弾痕からリボンが伸び、小さな体を絡め取る。
やがて何重にも巻き付いたリボンは、球体に近い形となって魔女を閉じ込めた。


さやか「よっしゃあ!やっちゃえマミさん!」

マミ「オッケー、最大出力でいくわよ!」


マミの目の前でリボンが渦巻き、その中から大砲が出現する。
その魔法は直ぐにでも放つことができたが、マミは威力を底上げするため、魔力を集中し始めた。


ゼロ人間体「このまま上手くいってくれればいいんだがな」


余裕を見せるマミを後ろで見守りながら、ゼロは考えていた。
強いマイナスエネルギーを放っていた魔女が、一方的にされるがままという状況が腑に落ちない。
念のため、小銃形態のゼロアイを再展開し、ゴーグルの形状へと戻す。

その予感通り、魔女がついに行動を始めた。


マミ「拘束が!?」


リボンの球が、球体とは呼べない形に変形しながら膨張を始める。
直後に拘束していたリボンが弾け飛び、中から第二形態へと変貌した巨大な魔女が飛び出してきた。


マミ「え…」

さやか「マミさん!?」


マミが魔力の供給を止めて離脱するよりも早く、さやかの声が届くより早く、
斑模様の大蛇がマミに牙を剥いた。



ゼロ人間体「デュワッ!!」


マミの危機に、ゼロはすかさずゼロアイを装着した。
青年の体を赤と青の光が包み込み、瞬時に巨大化していく。

巨大なウルトラマンの姿となったゼロは、マミへと迫る魔女の顔面に拳を叩き付けた。
吹っ飛ばされた魔女は、巨大なケーキへ頭から突っ込んでいく。


マミ「…巨人?」

さやか「で、でかっ!!」


巨体の魔女ではなく『巨人』を始めて目にするマミ、そして何もかもが初めてなさやかは驚愕していた。

今のゼロは、魔女に合わせた25メートル前後と、本来の49メートルから約半分のサイズである。
とはいえ、彼が人間大を超えて変身したのは『救済の魔女』との戦い以来だった。


ゼロ「さっきから何だかご機嫌だな、マミ。所々詰めが甘くなってるぜ」

マミ「そうね…心配掛けてごめんなさい」


ゼロの声は、結界の中に大きく響き渡る。
マミは慢心があったことを反省しながらその場を移動するが、その表情は明るかった。


マミ「だけど、その油断を貴方がフォローしてくれた。
   こんな事言ってる場合じゃないんだけど、それってとても素敵なことだと思わない?」

ゼロ「?」


マミの言葉の意図が、今のゼロにはよくわからなかった。
その内に魔女が起き上がり、ケーキをぶち撒けながらゼロへ向けて牙を剥く。


ゼロ「デェアッ!」


ゼロは寸前のところで頭を掴み、噛み付こうとする魔女を抑える。
魔女はもがき続け、長い尾をゼロの体に巻きつけていく。


ゼロ「ヘッ…あのマイナスエネルギーが全部馬鹿力に行ってるなら納得だぜ!」

マミ「待ってて、援護するわ!」


マミの放ったリボンが魔女の顎を縛り上げ、ゼロと反対方向に引き寄せた。
魔女の怪力で完全に引き剥がすのは不可能であったが、魔女を抑えるゼロの手に、少しの余裕ができる。



ゼロ「お菓子食うのに、そんな牙が必要あるかってんだよっ!」


ゼロはその隙を狙い、魔女の顔面へパンチ以上の勢いで頭突きを繰り出す。
魔女に額が接触すると同時に、零距離でエメリウムスラッシュを発射した。


ゼロ「オラァッ!!」


爆発を起こした魔女の顔面から、叩き折られた牙が飛び散る。
魔女は口から黒煙を吹き上げてふらつき、ゼロを締め上げていた尾を緩めた。

ゼロはすぐに尾を引き剥がして掴み、勢いよく振り回し始めた。
魔女の体で椅子やテーブルは薙ぎ倒され、巻き起こる風でマミとさやかも吹き飛ばされそうになる。


ゼロ「デアァァッ!!」


そのままジャイアントスイングが繰り出され、魔女は体を伸ばした状態で地面に叩きつけられた。


ゼロ「マミ、今だ!」

マミ「…ええ!」


気絶した魔女の顔の近くには、まだ放たれていないマミの大砲が残されていた。
マミは急いで大砲の元へ跳び、魔女の口に照準を定める。


マミ「ティロ・フィナーレ!!」


マミが技名を叫ぶと共に、大砲から砲撃が放たれる。
最大出力で撃ち出された魔弾は、魔女の体を一直線に貫き、大爆発を起こした。


さやか「やったっ!」


全ての使い魔を倒し終えたさやかは、爆炎を目にして思わずガッツポーズを決める。
ゼロもサムズアップを決め、マミは頷く。

勝利に沸く三人であったが、ゼロの並外れた聴力が小さな声を拾い上げた。


QB「君の本当の力は、そんなものじゃないはずだ。彼女達に遠慮でもしているのかい?」


その呟きが聞こえていたのは、ゼロ只一人。
はっとした様子で振り向くと、キュゥべえは普段と変わらぬ表情で、怪しくゼロを見つめていた。


【お菓子の魔女 その4】



『お菓子の魔女』との戦いを終えて十数分。
ゼロとマミは病院の受付前に座り、一目散に院内へと向かったさやかを待つ。


ゼロ人間体「随分と味気ないお茶会だな…」

マミ「ご不満なら、お金返して貰えないかしら?」

ゼロ人間体「いや、お茶の味は良いんだよ。味はな」


自販機で購入した紅茶を飲みながら、雑談を交わしていた二人。
さやかが中々戻らない為、マミは魔女の出現で遮られた話をこの場で切り出すことにした。


マミ「それよりも、私にしたかった話って何かしら?」

ゼロ人間体「そうだったな。忘れるとこだったぜ」


ゼロも缶から口を話すと、本題に移る。
軽口を飛ばしていた時と違い、彼の表情は真剣なものに変わっていた。


ゼロ人間体「俺は約三週間、全力でこの見滝原市の魔女と戦う。
      その間、君とさやかがグリーフシードにありつけないかもしれない」

マミ「確かに、貴方が現れてから急激に魔女の数が減ってる。
   そこに美樹さんが加われば、枯渇は免れそうにないわ」

ゼロ人間体「万が一の為だ。ソウルジェムを濁らせないよう、これを受け取ってくれ」


ゼロは服のポケットから数個のグリーフシードを取り出し、マミに差し出した。
だが、マミはそれを直ぐに受け取ろうとはしない。


マミ「見滝原にいるもう一人の魔法少女…暁美ほむらは大丈夫なの?」

ゼロ人間体「それは…!?」

マミ「やっぱり彼女と組んでたのね」


ゼロの反応に、ほむらとの繋がりを確信するマミ。
しかし彼女は警戒とは違い、どこか残念そうな表情を見せていた。



ゼロ人間体「そうだとしたら、俺は敵になるのか?」

マミ「いいえ、私は貴方を信頼したい。
   貴方を捜してたのも、信頼に値する人物かを確かめたかったから」

ゼロ人間体「その点は合格を貰ったわけだな」

マミ「でも、平和を守るために戦うのなら、暁美ほむらから離れた方がいいわ。
   彼女の行動や思考は、普通じゃない…」


ほむらの事情を知るゼロは、マミの心配が不要であることを知っている。
とは言え、彼女について多くを語るわけにはいかなかった。


ゼロ人間体「その事なら大丈夫だ。それに、俺はあいつを守ると誓ったからな。
      途中で投げ出すわけにはいかないのさ!」

マミ「相応の理由があるのね…それ以上の詮索はやめておくわ」


マミはゼロのグリーフシードを受け取り、会話は終わりを告げた。
ゼロの行動に理解を示したかに思われたマミだが、只一つの例外を心に秘めていた。


マミ(他の魔女は譲れても、『ワルプルギスの夜』だけは譲れない。
   あの子との繋がりを、もう一度取り戻すために…)


二人とも紅茶を飲み干し、しばらくの沈黙が続く。
そこから少し経って、マミから口を開いた。


マミ「美樹さん、遅いわね。あの子の願い…怪我や病気に関係があるのかしら?」

ゼロ人間体「さやか自身は健康そうだしな。怪我といえば、もしかすると…」


病院に入って三十分が経過した頃、ようやくさやかが受付に戻ってきた。



さやか「凄い…本当に奇跡も魔法もあったんだ!!」


現れたさやかは、二人を待たせたことを謝り忘れるほど、歓喜に身を震わせていた。


さやか「ゼロさん、マミさん、ちょっと時間いい?
    二人になら相談してもいいかな…なんて思っちゃって」

マミ「私でよければ、聞かせて頂戴」

ゼロ人間体「まぁ、俺も構わないぜ」


三人は病院の入り口を出て、市内へと歩いて行った。

途中でベンチを見つけた三人はそこに腰を下ろし、さやかも自らの心の内を語り始めた。


さやか「まず願いの事なんだけどさ…私、好きな人がいて、
    その人が動かせなくなった手をキュウべえに治してもらったんだ」

ゼロ人間体「やっぱり願いって、友達の腕のことだったんだな」

マミ「自分以外の誰かのために…貴方は本当にそれで良かったの?」

さやか「もちろん!後悔なんてあるわけないですよ」


さやかが病室へ急いだ時、現代医学では治せなかった上条恭介の腕は、見事に完治していた。

彼はさやかの起こした奇跡を知らず、彼女が恩人として感謝されることはない。
それでも、さやかの心は十分に満たされていた。


さやか「でも、後先考えずに契約しちゃったのも確かなんだよね。
    魔法少女になって戦う事がどういう事なのか、キュゥべえの話だけじゃ実感が湧かなかったしさ」

ゼロ人間体「その事なら仕方ねえよ。お前は病院を守るために戦おうとしたんだ。立派だぜ」

さやか「でも…」

マミ「後悔はないけど、この先が不安なのね?」


さやかは静かに頷く。



さやか「前もって体験コースみたいなものがあれば良かったんだけどなぁ…
    覚悟決めて戦ったつもりだけど、二人を見たら安心して肩の力抜けちゃいましたもん」

さやか「だからさ、心構えとして聞いておきたいんだ。
    ゼロさんやマミさんは、何で平和を守る為に戦ってるの?」


不安そうな言動とは打って変わり、さやかは真剣な眼差しを二人に向けた。
回答に迷ったゼロは、目線をマミに送る。


マミ「え、私?」

さやか「あ、やっぱりマズかったですか?」

マミ「…いえ、貴方のこれからに活きるのなら、幾らでも聞かせてあげるわ」


了承したマミの顔付きは、先程と比べてどこか暗い。


マミ「私の家族はね、交通事故で既に死んでるの」

さやか「交通事故…」

マミ「私もその時に死にかけて、キュゥべえとの契約で何とか命を繋いだのよ」


マミの語った思わぬ過去に、さやかだけでなくゼロも驚いていた。
さやかは俯き、余計な詮索をしてしまったと後悔する。


マミ「大切な人を亡くす悲しみは、本当に辛くて苦しかった」

マミ「でも、魔法少女として戦い始めて、こう考えるようになったの。
   魔女の呪いで悲しむ人達を、授かったこの力で減らしたいってね」

さやか「マミさんごめん…辛いこと聞いちゃって」

マミ「そういうことはいいから、最後まで聞きなさい」


マミは笑い、気にしていない様子でさやかを気遣う。


マミ「でも、獲物を巡って争ったり、使い魔を見逃したり…この世界も結局は損得で動いてるわ。
   同じ魔法少女にも中々理解してもらえなくて、私が間違ってるんじゃないかって、よく悩んだものよ」

さやか「そんな事ないっすよ!」

ゼロ人間体「んな事ねえよ!」


ゼロとさやかは思わず立ち上がって叫ぶ。
二人は顔を見合わせ、直ぐに腰を下ろした。



さやか「あ、ゴメン…なさい」

ゼロ人間体「ちょっと熱くなっちまったな…」

マミ「ふふ、ありがとう。私が話せるのはこんな事くらいね。それじゃ次は貴方の番」


マミは理解を貰えたことを喜びながら、今度はゼロへと顔を向ける。


ゼロ人間体「俺は―――別に理由なんてねえよ」

さやか「えっ?」

ゼロ人間体「ずっと昔からそうやってきた。ただ、それだけのことさ」


それはゼロの嘘偽りない答え。
そして、あらゆる次元の『ウルトラマン』に共通する意志であった。
シンプルな言葉ではあったが、さやかとマミはその背景にある重みを感じ取る。

それぞれ理由は異なれど、二人に共通する『正義の心』を汲み取ったさやか。
彼女は、魔法少女としての在り方について決意を固めた。


さやか「よーし決めた!私もゼロさんとマミさんみたいに、この街を守る正義の味方になってみせる!
    ……というわけでお二人方、私を弟子にしてください!」

ゼロ人間体「はぁっ!?」

マミ「えっ!?」


大きく頭を下げ、さやかは二人への師事を希望する。
突然の提案に、二人は驚きを隠せない。


ゼロ人間体「ちょっと待てよ…俺はウルトラマンであって、
      魔法少女とは事情も戦い方も違うからな。マミに教わるべきだ」

マミ「確かに、同性でしか話せないこともあるかもしれないし…」


押し付け合いにはならず、マミが面倒を見る形で二人の話は進んでいく。
その中で、さやかはゼロの言葉に別の興味を示した。


さやか「やっぱゼロさんって、キュゥべえと契約したわけじゃないんだね。
    その『ウルトラマン』って一体何なんですか?」

ゼロ人間体「それはだな…」

QB「彼は、別の宇宙から来た勇者だよ」

ゼロ人間体「…何?」


前触れもなく現れたキュゥべえが、口を噤むゼロに代わってその答えを提示した。
困惑するゼロを気にも留めず、キュゥべえは話を続ける。



マミ「別の宇宙?」

QB「そう、人類の理論で説明すると『マルチバース』と呼ばれるものだ」

さやか「まるちばーす…って何?」

QB「僕達がいるこの宇宙の外には、別の宇宙が無数に存在している。
   概念も文明も、全く異なる宇宙がね。それが多世界宇宙(マルチバース)だ」

ゼロ人間体(こいつら、やっぱ知ってやがったか…)


ゼロの故郷『光の国』を始め、別宇宙の存在を知る文明は数多い。
インキュベーターの文明がそれを知っていることも、ゼロは少なからず想定していた。


QB「けれど宇宙の境界を超越するには、並大抵ではない条件をクリアする必要がある。
   彼はそれを成し、別世界からこの宇宙を守るためにやってきたというわけさ」

さやか「嘘でしょ?ファンタジーからSFの世界になってる…!」

マミ「中々に話が飛躍したわね…まさかゼロさんが宇宙人だったなんて」


二人はゼロが別世界から来た異星人という事実に驚きはしたものの、反応は薄い。
さやか自身も、非日常に耐性がつき始めたのかもしれないと自覚していた。


ゼロ人間体「おい、何故俺のことを知ってる!?」


ゼロの問いに対し、キュゥべえの答えは念話となって返ってきた。


QB(その質問に答えるには、僕からも一つ確認が必要になる)

ゼロ人間体(確認だと?)

QB(『ビートスター天球』を攻略したのは君だね?ウルトラマンゼロ)

ゼロ人間体(それがどうし―――たぁっ!?)


数ヶ月前、ゼロは「有機生命体の抹殺」を目的とした巨大な人工天球と戦った。
しかし戦いが行われたのは、この宇宙ではなく『M78ワールド』。
この宇宙の存在であるキュゥべえが、別次元で起きた事件の結末を知る筈がなかった。



さやか「どしたの、ゼロさん?」

マミ「さっきも、結界の中でキュゥべえの声が遠くから聞こえたでしょう?
   これはテレパシーで会話を行う『念話』という魔法なの」


さやかには、ゼロがキュゥべえを睨み付けているようにしか見えていない。
そんな彼女に、マミは念話について説明を始めていた。


ゼロ人間体「テメェ、それ一体どこで…」

QB「どうやら本人で間違いないようだね。またの機会に、全て語ることを約束しよう」

ゼロ人間体「おい、待て!」


そう言い残し、キュゥべえはどこかへと走り去っていった。
立ち尽くしていたゼロは、次第に焦りを感じ始める。


ゼロ人間体「悪いが、俺はもう行く。後は二人でゆっくり話し合ってくれ!」

マミ「何だか深刻そうね。後は任せて」


どんなやり取りが行われていたのかを気に掛けつつも、マミはさやかの指導を引き受ける。


さやか「ゼロさん、また一緒に戦える?」

ゼロ人間体「ああ、またいつかな!でも絶対に無理するんじゃねぇぞ!」


ゼロは二人に別れを告げ、キュゥべえの去った方角とは別方向に走っていった。


さやか「それじゃ改めてよろしく、マミさん!」

マミ「私も、同じように戦う仲間が出来て嬉しいわ。
   みっちり指導してあげるから、覚悟しておきなさい!」

さやか「えーっ!お手柔らかに頼みますよぉ~」


こうして新たな魔法少女のコンビが誕生した。
しかし、その様子を物陰から何者かが見つめていた。


杏子「…アンタはこれが見せたかったのか?」

QB「僕は只、魔女が生まれることを君に教えただけさ。
   反応が強かった割に、随分と早く倒されてしまったようだけど」

杏子「そうかい」


そこに居たのは、見滝原を訪れていた杏子、そして三人の元から離れたキュゥべえ。
杏子は歩いていくマミ達を追わず、苛立ちを押し殺しながらその場を後にした。

つづく


ビートスター天球は、OV作品『ウルトラマンゼロ外伝 キラー ザ ビートスター』の敵です。
http://www.bandaivisual.co.jp/zero_gaiden/

このOVが映画『ウルトラマンサーガ』の前日談になっているので、
SSでも違った形で関わるよう(強引に)設定しています。


【鎧の魔女 その1】



マミ「少し時間かかっちゃったけど、どうかしら?」

さやか「うん、めちゃうまっすよ!」


『お菓子の魔女』との戦いから早三日。
二人はマミが一人で暮らすマンションで、手製のアップルパイに舌鼓を打っていた。


マミ「本当にごめんなさい、全然実践にならなくて」

さやか「いやいや、魔女の探し方とか教えてもらいましたし、十分ですって!」


さやかの師事後、マミは魔女捜索から戦闘と、一連の流れを体験させる予定だった。
しかし魔女を見つけることができず、今日は知識面を指導しようと自宅に招いたのであった。


マミ「そう言ってもらえると助かるわ。その分も埋め合わせできるよう、私も頑張るから」


マミは机の上に積まれた大量のノートを抱えると、テーブルの横に置いた。
手に取ったさやかがページを捲ると、渋い顔とともに思わず声が漏れる。


さやか「ゲッ…」


中には、今までマミが戦ってきた魔女の特性や戦法など、詳細なデータが書き込まれている。


マミ「実践だけじゃなく、知識も伴って初めて一人前よ」

さやか「わかってますよぉ…それより、今頃ゼロさんどうしてんのかなー」

マミ「こら、話を逸らさない」


さやかを窘めつつも、内心はマミもゼロの戦いが気になっていた。
二人がゼロの事を考えていた頃、彼は見滝原市内を駆け回っていた。



ゼロ人間体(何故だ…)


キュゥべえから自身の正体に関わる話を聞かされて以降、ゼロはほむらとの合流を急いでいた。
しかし彼女の姿は自宅や学校を含め、市内のどこにも見当たらなかった。


ゼロ人間体(何故どこにもいない……ほむら!)


ゼロは走りながら、ほむらの安否と今後について不安視する。
彼がある豪邸を横切った時、ゼロの背後を何かが追いかけてきた。


ゼロ人間体「この感じは!?」


それは明らかにマイナスエネルギーの塊であった。
気配の元はすぐにゼロに追い付き、素早く結界を展開する。


ゼロ人間体「ヘッ…魔女の方から喧嘩ふっかけてくるたぁ珍しいな!」


魔女結界には石柱や石像が宙を浮かび、やがてその奥から大柄な魔女が歩いてきた。
立ちはだかったのは、体に布を纏った一つ目の魔女。だが、その目蓋は固く閉じられている。


ゼロ人間体「捜す手間省けたのはありがてぇが、あまり構ってやれる暇はないぜ!」


身構えるゼロに対し、魔女は伸縮自在な両腕を伸ばす。
腕は捻れた刃のようになっており、ゼロを切り刻まんと襲い掛かった。


ゼロ人間体「おっと!」


ゼロは攻撃を軽くかわし、外れた両腕は地面に突き刺さる。
青年の姿のまま魔女の懐へと飛び込んだゼロは、そのまま胸部目掛けて拳を振るう。



ゼロ人間体「うおらぁぁーーーっ!!」


パンチが命中した魔女の体から、鐘を打ち鳴らしたかのような音が響き渡った。
この姿でも使い魔を倒せる威力はあったが、魔女は微動だにしていない。

魔女はすぐさま地面から両腕を引き抜き、ゼロを振り払った。


ゼロ人間体「うぉわっ!」


振り飛ばされ、結界を転がるゼロ。
即座に起き上がって体勢を整えると、今度は自分の拳を押さえる。


ゼロ人間体「堅ってえなオイ…」


魔女に目を向けると、ゼロの攻撃で纏っていた布がずり落ち、その下の鎧が露わになっていた。


ゼロ人間体「『鎧の魔女』ってところか…手間を惜しんだ俺がバカだったな!」


鈍い痛みを我慢しながら、拳から手を放すゼロ。
すぐにイージスからゼロアイを召喚し、ウルトラマンの姿へと変身した。


ゼロ「ハッ!」


ゼロは頭部からスラッガーを飛ばすが、二本とも魔女へ向かわず、彼の目の前に浮かんだ状態で固定される。


ゼロ「でぇあぁっ!」


ゼロは勢いよく回し蹴りを放ち、スラッガーを魔女目掛けて蹴り飛ばす。
蹴りの威力で、本来以上の加速力を得たスラッガーは、魔女の両腕を難なく切り落とした。

唯一の武器である両腕を失い、丸腰となった魔女。
スラッガーが頭部に戻ってきたことを確認したゼロは、再び魔女の懐へと飛び込んだ。



ゼロ「今度のは効くぜぇぇっ!」


ゼロの右拳が魔女の鎧に命中し、右拳を引くと同時に左拳が繰り出される。
その動作は次第に速度を上げ、機関銃のような連打に変わっていった。


ゼロ「しゃあらららららららららら!」


間髪入れずに繰り出される拳の勢いは、魔女の巨体を後退させていく。


ゼロ「ららららららららららららららら!」


やがて鎧にひびが入り、閉じられたままであった魔女の目蓋が見開かれる。


ゼロ「ららららららららららららららら!」


そしてゼロは最後の一撃に、自身の持てる最高の威力を込めた。


ゼロ「ららららららららららあぁぁーーーっ!!」


炎を纏った拳が打ち込まれ、魔女の鎧ごと胴体を貫く。
魔女は目を思い切り血走らせた後、鎧もろとも粉々になって崩れ落ちた。

宙に浮かんでいた石柱が次々に落下し、魔女結界が解除されていく。
その場には、拳を伸ばしたゼロの姿だけが残されていた。


ゼロ「…ったく、こんなこと今までで初めてだぜ」


普段は反応を追って走り回っているだけに、魔女の意外な行動にゼロは驚いていた。
彼が拳を戻すと、手のひらにはグリーフシードが握られている。


ゼロ「まぁいいか…それより、次にほむらと会うのは明日の夕方。それを待つしかないようだな」


ゼロは人間体に戻るとグリーフシードを直し、再び夜の市街へと消えていった。


【鎧の魔女 その2】



翌日の午後、ゼロは魔女退治の合間を縫い、見滝原中学の通学路に立っていた。


ゼロ人間体(来てるかどうか怪しいもんだが、少しでも早く合流できればな…)


ほむらが予定通りに現れるかを心配していたゼロは、下校中の生徒達に目を配り、彼女の姿を捜している。
そんな彼の姿を真っ先に見つけたのは、ほむらではなかった。


さやか「あれ?」

ゼロ人間体「ん?おっ、さやかじゃねえか!」


駆け寄ってきたさやかを見たゼロは、彼女とマミが、ほむらと同じ学校に通っていたことを思い出す。


さやか「久しぶりっす!こんなとこで何を?」

ゼロ人間体「ああ、ちょっと生徒が魅入られてないか確認をだな。それより、マミとのコンビは順調かよ?」

さやか「もちろん、めちゃめちゃ頑張ってますよ!昨日なんて何十冊ものノートを…」


ゼロはほむらの件を上手く誤魔化しながら、さやかの近況について尋ねる。
話し込む内、さやかの後ろにもう一人、別の少女が立っていることに気付いた。


ゼロ人間体「ん、その子は誰なんだ?」

さやか「私の友達だよ。仁美っての!」

仁美「はじめまして。私、志筑仁美と申します」


仁美と名乗った少女は、言葉遣いから立ち振る舞いまで、
活発なさやかとは正反対のお淑やかさを持っていた。



ゼロ人間体「礼儀正しいな。ホントにお前の友達かよ?」

さやか「んなっ!?ガラ悪そうなのはそっちも同じじゃないっすか!」

ゼロ人間体「よく言うぜ!それより仁美、俺はウルトラマンゼロだ。よろしくな」


仁美への自己紹介で、包み隠さず自分の名を名乗るゼロ。
それを聞き、さやかはゼロの腹を裏拳で軽く叩いた。


ゼロ人間体「何だよ?」

さやか「どう見ても日本人の兄ちゃんなんだからさ、それ色々とマズイっすよ」


さやかは小声でゼロに指摘する。
彼女の心配どおり、その名を疑問に感じた仁美が尋ねた。


仁美「ウルトラマンさん?外国の方かしら?」

さやか「うーんと、この人俳優みたいなこと色々やってんだよ。芸名とかそんなカンジ!」

ゼロ人間体「お、おう…モロボシってんだ。モロボシ・シン!」

仁美「お芝居ですか。興味深いですわね」


ゼロは慌てて、仮の名前で自己紹介をし直す。
日本人らしい名前を聞き、仁美は納得した様子であった。


さやか「ホントなら、まどかも紹介したかったとこなんだけどなぁ」

ゼロ人間体「『まどか』?」

さやか「ここにはいないけどさ、私の友達。
    先週来た転校生が学校サボりまくってて、代わりに雑用引き受けちゃってねぇー」


『まどか』という名前を耳にしたゼロが、思わず反応を示した。
それに気付いたさやかは、ゼロを茶化しにかかる。


さやか「ほほぅ…まどかに興味深々っすか。
    残念!さやかちゃんが既にツバつけてましたぁ~!」

ゼロ人間体「バカ、そんなんじゃねえよ!」


親密そうに話すゼロとさやかについて行けず、一人それを眺めていた仁美。
彼女は戸惑いながら、口を開いた。



仁美「お尋ねしたいのですが、さやかさんとモロボシさんはどういったご関係なのですか?」

さやか「どんな関係か…そう言われるとなぁ……兄貴分兼師匠みたいなもん?」

ゼロ人間体「だから、俺は弟子なんて取らねーぞ」

さやか「いーや、志は受け継いだからもう師匠同然っすよ!」


仁美の質問は、再びゼロとさやかだけの会話に変わってしまう。
楽しそうに話す二人を、仁美はただ黙って見つめていた。


さやか「あ、ゴメン。全然答えになってなかったよね」

仁美「いえ、とても仲が良い事はわかりましたわ」


しばらくして仁美を待たせていたことに気付き、二人は話を切り上げる。


さやか「それじゃ私たちそろそろ帰るよ。ゼ…モロボシさん、またね!」

ゼロ人間体「ああ、二人とも元気でな!」


さやかは手を振って去り、仁美もゼロに軽く微笑み返す。
ゼロは二人の後ろ姿を見送ると、再びほむらを待った。


仁美「気さくな方でしたわね。さやかさんにはお似合いかもしれませんわ」

さやか「いやいや、そんなんじゃないんだってマジで!
    それに年離れすぎだし!……って、あの人何歳なんだろ?」

仁美「そんな些細なこと…愛に年の差なんて関係ありませんのよぉーー!」

さやか「だぁーからぁー!」


誤解しているかのような仁美の発言に、さやかは狼狽してしまう。


さやか「も、もう…私ちょっと先輩と待ち合わせしてるから、今日はここでね」

仁美「ええ、それではまた明日」

さやか「そんじゃ!」


ペースを乱されたさやかは、マミと合流するため、逃げるように仁美と別れていった。
去っていくさやかを見つめる仁美の表情は、どこか穏やかではなかった。


さやか(もう、仁美のやつ…私が好きなのはゼロさんじゃなくて)


さやかは歩きながら、リハビリに励む恭介を想い、頬を染める。
彼の事を考える内に、マミとの合流場所である公園に到着した。



さやかはベンチに腰を下ろし、マミを待つ。
だが、一向に彼女が現れる様子はない。


さやか(おっそいなぁ、マミさん)


十数分が経った頃、さやかの前に誰かが歩いてくる。
しかし姿を現したのはマミではなく、さやかの知らない人物であった。


杏子「よお、ルーキー」

さやか「え、誰?」

杏子「アタシは風見野市から来た佐倉杏子ってんだ。ヨロシクな」


やって来たのは、普段どおりにビニール袋を提げた杏子。
彼女と面識のないさやかは疑問に感じるが、すぐに何かに気付いた。


さやか「もしかして…」


さやかは軽く手を上げ、指輪に変化したソウルジェムをちらつかせる。


杏子「ご名答」


杏子は持ったビニール袋ごと手を突き出し、指を一本伸ばす。
そこには、さやかと同じくソウルジェムの指輪があった。



さやか「びっくりすんじゃん…魔法少女なら先に言ってよ!」

杏子「キュゥべえから聞いたのさ。アンタまだ契約して日が浅いんだろ?
   アタシが色々と教えてやるよ」


自分と同じ魔法少女と知り、さやかは安心する。
指導を引き受けようとする杏子に感謝しつつも、まだ現れないマミのことが気に掛かる。


さやか「でも私、別の人とコンビ組んでるんだよね。良かったら一緒にさ…」

杏子「放っとけよ」

さやか「え?」


杏子の言葉を耳にし、さやかの表情が固まる。


杏子「マミなんかより、もっと有意義な魔法の使い方ってやつを叩き込んでやるからさ」

さやか「あんた、マミさんの事…」

杏子「それより―――」


杏子はビニール袋からスティック菓子を取り出し、封を開ける。


杏子「食うかい?」


さやかに菓子を差し出す杏子。その顔には、歪な笑みが浮かんでいた。


一方、ゼロはさやか達と別れた後、続いてマミと出くわしていた。
ほむらの動向を気にかけていたマミから、彼女が今日も登校していないことを聞かされたゼロは、
数時間後に控える密会に備え、その場を後にした。


【鎧の魔女 その3】



ゼロとの会話で時間を割いてしまい、マミは急ぎ足でさやかの元へ向かう。
遅れて公園に到着するも、周囲にさやかの姿はなかった。


マミ(美樹さん、まだ学校かしら?それともお見舞い?)


さやかが一度この場に来ていることを、当然マミは知らない。
立ったまま彼女を待ち、その間に今日の指導内容を考える。


マミ(基礎知識なら、昨日で大方身についたはず。今日は実践ね)


マミが後輩を導く使命感と、自身の充実感に浸っていた頃、
当の後輩は少し離れた廃工場の敷地内にいた。


さやか「使い魔は見逃せってどういう事よ…」


魔法少女に変身し、偶然見つけた使い魔との戦闘を終えたさやか。
彼女は、私服のまま傍観していた杏子を問い詰める。


杏子「そのまんまの意味だよ。しばらく放っといて、魔女になってから狩りゃあいいのさ」

さやか「なっ!?その間に街の人が襲われたらどうすんの!」

杏子「知ったことかよ。グリーフシードのエサになりゃ儲けモンでしょ」

さやか「あんた…!」


軽蔑の眼差しを向けるさやかに対し、杏子は呆れ顔を見せた。



杏子「はあ…くだらねー事願っただけあって、オツムの方もサッパリだね」

さやか「くだらない?私の願いを知って…」

杏子「惚れた男のために、契約して怪我治してやったんでしょ?
   貴重な願いを自分の為に使わないなんて、損だよ損損!」

さやか「お前に…何がわかる!!」


さやかは、少しずつ込み上げてくる怒りに肩を震わせる。
杏子はそれに気付きながら、挑発混じりの話を続けた。


杏子「アンタさ、今のうちに介護の勉強でもやっときなよ」

さやか「はぁ、介護?」

杏子「その剣でヤローの両手両足ぶった斬りゃあ、一生アンタと幸せな―――」


さやかの平手打ちが、杏子の悪態を止めた。
魔法少女として力の加減をしたつもりであったが、その勢いで杏子は張り倒される。


さやか「信じらんない…あんた、本当に魔法少女なの!?」


杏子は一言も発さぬまま起き上がると、血の混じった唾を飛ばす。
彼女は指輪をソウルジェムに戻すと、魔法少女の姿に変身した。


杏子「本当も何も、見ての通り魔法少女さ」


変身と同時に長い槍が握られ、その先端はさやかの喉元に突き付けられている。
さやかの頬を冷や汗が伝うが、杏子はすぐに槍を下ろした。


杏子「先輩に対する敬意ってモンがまるで感じられないねぇ。
   だったら、体に直接教え込んでやるよ!」

さやか「お前みたいな奴には、絶対負けない!」


杏子は槍を持ち直し、さやかに向けて構える。
さやかも剣を握り締めると、同じ魔法少女を相手に戦う覚悟を決めた。


さやかは猛スピードで杏子に迫ると、その周囲を移動してかく乱を狙う。
対する杏子は、青い軌道を目で追うこともせず、気だるそうにその場を動かない。


さやか「はあっ!」


さやかはすれ違いざまに剣を振るい、杏子の槍を弾こうとする。
だが、その攻撃は難なく捌かれてしまう。


杏子「どこ攻撃してんのさ?ちゃんとアタシを狙えよ、このウスノロ!」


杏子が繰り出した槍の一撃を、さやかは間一髪で回避する。
その刃先は、明らかにさやかの体を狙っていた。


さやか「…ッ!」

杏子「これ殺し合いなんだけどさぁ、試合か何かと勘違いしてない?」

さやか「殺し合―――いっ!?」


杏子の槍から、重く速い攻撃が何度も繰り出される。
あまりの激しさに、さやかは防戦一方の状態に追い込まれてしまう。

さやかは後ろに大きく後退して距離を取るが、杏子はすぐに間を詰めていく。


杏子「いつまで持つかねぇ!」

さやか「くそっ!」


杏子を相手に、剣術やスピード等の基本能力だけでは限界があった。
少しでも戦いの流れを変えるため、さやかは密かに構想していた技の実践を決める。


さやか(応用させてもらうよ、マミさん!)


刃を交える二人の上空から、複数の剣が降り注ぐ。
マミが使用した銃の召喚を真似た魔法だったが、さやかが不慣れなこともあり、その本数は少ない。

杏子はさやかの振るう剣を押し返すと、その場を離れて剣の雨を回避した。
さやかは地面に突き刺さった剣を引き抜き、杏子目掛けて投擲する。

彼女もいつの間にか、相手を殺すことを前提に戦っていた。



さやか「食らえぇっ!!」

杏子「ド素人にしては中々やるじゃん。数も力もまだまだだけどな!」


杏子は槍を多関節に分割すると、鞭のように振り回して剣を落としていく。
一本を残して剣を使い切ったさやかは、最後の剣を握り締め、杏子と睨み合う。


杏子「そういやアンタ、一度も魔女と戦ったことないんだってね」

さやか「それが何よ?」

杏子「楽しいだろ?こうして惜しみなく魔法使えてさぁ。
   んなカンジで、自由気ままに魔法使えばいいんだよ!」


杏子は槍の関節を元に戻し、さやかに突撃を仕掛ける。
さやかも物怖じせず、自ら杏子へと向かっていった。


さやか「私はお前みたいに、自分のためだけに魔法を使ったりしない!
    私は、正義の味方になるんだあぁーーーっ!!」


剣と槍の先端が接触すると共に、両者の魔力が激しくぶつかり合う。
しかしパワーは杏子が勝っており、さやかは数秒ほど耐えた後で弾き飛ばされてしまった。


さやか「うぁ…」

杏子「正義の味方?笑わせんなよ」


杏子は倒れたさやかに近づき、その姿を見下ろす。
さやかが手を伸ばす先に転がっていた剣を、彼女はにやにやと笑いながら蹴り飛ばした。


さやか「…やっぱマミさんの言ったとおりだ」

杏子「ああ?」

さやか「損得ばっか考えてる奴には、理解できないって事よ」

杏子「ははっ、そりゃマミの思考がおかしいのさ。一緒にいるアンタも同じようにね!」

さやか「大体、マミさんとどういう関係なのよ…それに何で私なんかに執着すんのさ…」


その問いかけに対し、杏子は無表情のまま何も答えない。


さやか「ふぅん…もしかしてあんた、私とマミさんが組んでることに嫉妬してんの?」


さやかは薄ら笑いを浮かべながら、杏子を挑発する。
その一言は、杏子の頭へ一気に血を上らせた。



さやか「な…何!?」


倒れているさやかを取り囲むように、地面に赤い魔法陣が広がった。
危険を察知したさやかは、余力を振り絞って立ち上がろうとする。

しかし彼女を逃がすまいと、杏子の槍がロープのように巻き付き、再び地面に叩きつけた。


杏子「そのまま寝てろよ、一生な」

さやか「がはっ!?」


さやかは拘束から逃れようともがくが、槍は彼女を堅く締め上げている。


杏子「あばよ、クソルーキー!!」


杏子が叫んだ時、一発の銃声がなり響く。
同時に、槍の関節となっていた鎖が一つ弾け飛んだ。


マミ「美樹さん!」

杏子「なんでアンタが…」


銃声の方向には、魔力の衝突に気付き、駆けつけたマミの姿があった。


さやか「マミさん?…来てくれたんだ!」


さやかは杏子からは解放されたものの、まだ巻き付いた槍から抜け出せていなかった。
身動きが取れない彼女を救うため、マミは銃を投げ捨てて跳躍する。


さやか「マミさん、ここは危な…!!」


さやかの元に向かうマミを見て、杏子は動揺していた。
彼女の心に影響され、一点に集約されるはずだった大量の槍は、目標を定めずに伸びた。


杏子「な…」

さやか「マミ…さん?」


魔法陣から、四方八方へ不規則に突き出た槍。
マミが魔法の範囲からさやかを助け出した時、内一本がマミの胸部を深々と貫いていた。

その光景に、杏子は頭に上っていた血が完全に冷めていくのを感じた。



さやか「マミさぁーーーーん!!」


さやかの悲痛な叫びが、廃工場に響き渡った。
マミは口と胸から血を流したまま、力なく槍に支えられている。

すると、さやかに応えるかのように、空から緑色に光る物体が二つ飛んで来た。
その形状は、間違いなくゼロスラッガーであった。


さやか「あれ、ゼロさんの…」


スラッガーの一本はマミを貫く槍を、もう一本はさやかを縛る槍を切り裂き、二人を解放した。
さやかは自身の疲労も構わず、マミの元へ駆け寄る。

役目を終えたスラッガーが空に昇っていくと同時に、上空から男の叫びが響いた。


ゼロ「杏子おおおおおぉーーーーっ!!」

杏子「テメェまで…!」


空から猛スピードで下降してきたウルトラマンゼロが、杏子の目の前に着地する。
その衝撃で、アスファルトの地面が砕け飛んだ。


杏子「正義の味方のバーゲンセールかよ…笑えないっての!」


新たな槍を作り出した杏子に対し、ゼロも腕のイージスを輝かせた。
青白い光の中から、自身と似た配色の槍『ウルトラゼロランス』を取り出す。

杏子が振るった槍は、ゼロランスによって受け止められた。


ゼロは槍と槍の応酬を続けながら、杏子の攻撃が二人に向かわないよう抑える。
最初の出会いとは全く異なる杏子の雰囲気、そして行動に、ゼロは内心戸惑っていた。


ゼロ「お前、自分が何やってるかわかってんのか!?」

杏子「見ての通り新人教育さ!邪魔すんな!」

ゼロ「バカ言うな!魔法少女のお前が、魔女と同じ事やってんじゃねえぇっ!!」


ゼロの言葉に杏子が反応を示し、一瞬その力が緩む。


杏子「…アタシは、魔女じゃない」

ゼロ「デェアァッ!」

杏子「チッ!?」

ゼロ「ここまでだ!」


生じた隙に、ゼロは杏子の槍を奪って投げ捨てる。
同時に自分の槍も引き、手のひらを突き出して彼女を制止した。



一方、さやかが幾ら呼び掛けても、マミからは反応が返って来ない。
彼女は救出を優先して痛覚を制御しなかったらしく、完全に意識を失っていた。


さやか「マミさん!マミさん!どうしよう…」


うろたえながら、さやかは杏子と対峙しているゼロを見る。
しかし、彼ばかりに頼るわけにはいかないと、すぐに視線を戻した。


さやか(今は私が何とかしなきゃ…でも、どうやって?)


さやかは自分が何をすべきかを必死に考える。
やがて彼女が思い出したのは、昨日マミとの勉強会で教えられた知識だった。


『魔法少女が扱える魔法は、キュゥべえと契約した時の願いに左右されるの』

『美樹さんは『癒やし』の願いで契約したから、それに関連する力に特化しているはずよ』

『そんな風に得意分野を理解して、長所を伸ばすことが大切なの。
 自分にしかできない事を皆で補い合えば、どんな強敵にも負けたりしない』

『少なくとも、私はそう信じてるわ』


さやかは自分の手を見つめ、マミを救うためには、どう魔法を応用すべきかを考える。


さやか(私にしか出来ないことをやるんだ―――私自身の『癒し』で!)


意を決して傷に手を伸ばした時、ゼロの声がそれを遮った。


ゼロ「さやか、少しどいてろ!」

さやか「あっ…」


ゼロは急いでマミに駆け寄り、さやかを押し退けた。
髪飾りに付いたソウルジェムに手をかざすと、『光』のエネルギーを送り込んでいく。

それは以前、傷を負った杏子を回復させたヒーリングと同じものだった。


深かったマミの傷は、輝きを放ちながら徐々に塞がっていく。
さやかはその様子を、ただ見つめることしか出来なかった。



ゼロ「これで大丈夫だ」

さやか「うん、良かった…」


マミをゆっくりと地面に寝かせたゼロは、再び杏子に向き直る。
しかし、既に彼女の姿は消えていた。


ゼロ(杏子、何故あんな事を…)


魔法少女同士が戦う現実に、ゼロは少なからずショックを受けていた。

それからしばらく経った後、マミが意識を取り戻した。


マミ「ん…」

さやか「あっ、マミさん!」


目を開けて起き上がろうとする彼女を、ゼロは止める。


ゼロ「無理すんな。人間なら死んでる傷だったんだぜ」

マミ「ゼロさん?貴方も来てたのね」

ゼロ「ああ、魔力同士がぶつかるのを感じたからな。急いで飛んできたんだ」

マミ「また心配掛けてしまって、ごめんなさい」


マミは少しだけ首を上げ、周囲を見渡す。
そこにはゼロとさやか以外の姿はない。


マミ「彼女は?」

ゼロ「ここにはいない。もう行っちまったよ」

マミ「そう…」


マミは残念そうな様子で、魔法少女の衣装から制服に戻る。

マミと杏子に何らかの繋がりがあることに気付くゼロだが、
彼女の体調を気遣い、この場で尋ねることはしなかった。



ゼロ「さやか?」


続いてさやかに声を掛けるゼロ。
彼女はマミを見つめていたが、何か考え事をしており、反応は返ってこない。


ゼロ「さやか、一人で帰れそうか?」


ゼロはさやかの肩に手を置いて、聞き直す。
ここでようやく彼女はゼロに気付いた。


さやか「えっ?ああ、私は大丈夫。回復力なら人一倍だから!」

ゼロ「そうか。俺はマミを送っていく。気を付けて帰るんだぞ!」


実際はかなりの疲労を溜め込んでいたが、それを隠して普段どおりに振舞う。


さやか「それより一度でっかい姿見てるから、その大きさ何か違和感あるなぁ。
    まるでチビトラマンっすよ?」

ゼロ「お前、誰がチビトラマンだ!」

さやか「ぎゃーー!!」


ゼロはさやかの頭を掴み、髪をくしゃくしゃにする。
二人のやり取りは、表面的にはいつもと何ら変わらないものだった。


ゼロ「さぁーてとっ!」


陽も沈みかけ、ゼロはマミの背中と足に手を伸ばして抱え上げる。
その体勢は、いわゆる『お姫様抱っこ』だった。


マミ「えっ!?この格好は…」

ゼロ「遠慮すんな。案内してくれりゃあ、家まで送ってやるからよ!じゃあな、さやか!」

マミ「ゼロさん、ちょっと待―――」


二人の姿は一瞬の内に光となり、空へ消えていった。
さやかはその様子を手を振って見送る。


さやか(そうだよ…経験のない私より、ゼロさんがやった方が確実だったもんね)


魔法を解いて、制服姿へと戻るさやか。
彼女はしばらくその場に立ち尽くし、物憂げな表情を浮かべていた。

つづく


再投下に時間かかってますが、今週半ばまでには終わらせます。


【天球ガーディアン その1】



その夜、ゼロは市街の路地裏で一人しゃがみ込んでいた。
彼は何かを考えながら、深い溜め息をつく。


ゼロ人間体「はぁ……」


時間が経つにつれて杏子達の一件が気に掛かり、その表情は浮かない。
しばらくして響いてきた足音を聞き、ゼロが呟く。


ゼロ人間体「お前、ずっと捜してたんだぜ」


彼の前には、数日かけて捜し回ったほむらが、何事もなかったかのように姿を現していた。


ほむら「………」


ほむらは無言のまま魔法少女に変身すると、ゼロに近付き、肩に手を置いた。
同時に、二人を除いた全ての時が止まる。


ほむら「予定なら、今この時間だとメモは残したはずよ」

ゼロ人間体「だからってな、今まで一体どこにいたんだ?」

ほむら「決戦に向けての準備よ。そのために、この街を離れる必要があったの」

ゼロ人間体「せめて一言教えてくれれば、俺が連れてったのによ」


ほむらは数日間をどのように過ごしたのか、詳しく語らなかった。
だが、ゼロが変身して移動すれば、数日の予定を数時間で終わらせることは容易なはずだった。


ほむら「全ては私達の秘密を守るため。迂闊には接触できないわ」

ゼロ人間体「もし、その秘密がバレたとしたら?」

ほむら「どういう事?」

ゼロ人間体「インキュベーターの野郎、俺の正体を知ってやがった…」

ほむら「!?」


ゼロの一言が、二人の間に流れる空気を大きく変えた。


ほむら「少し前まで、奴は貴方の事を何も知らなかったはず。何か心当たりは?」

ゼロ人間体「心当たりか…」


この世界を訪れるまで、キュゥべえとは全く面識のなかったゼロ。
両者を結び付ける要素が、一つだけ存在した。



ゼロ人間体「…ビートスターの事くらいだな」

ほむら「ビートスター?」

ゼロ人間体「この世界に来る前、俺と仲間達が戦ったコンピューターの怪物だ」


ゼロは、事情を知らないほむらに語り始めた。

時空を超える巨大な人工天球『ビートスター天球』
そして、それをコントロールしていた『天球ガーディアン』ビートスターについて。


ゼロ人間体「そいつは無人の人工天球で、色々な宇宙を旅してた。
      でも、その目的は観光なんかじゃない…訪れた宇宙の生命体を滅ぼすことだったんだ」

ゼロ人間体「だから俺は、仲間や親父達と力を合わせて食い止めた。
      惑星に衝突寸前だったり、中はロボットの巣窟だったりで大変だったぜ」

ほむら「成程、そいつの行動原理は?」

ゼロ人間体「天球を動かしてたビートスターは、『有機生命体の抹殺』を掲げてた。
      機械による支配が、全宇宙に平和をもたらすと信じてな」

ほむら「…どの世界にもいるのね。独善的な価値観を押し付けてくる連中が」

ゼロ人間体「でも、どうだったんだろうな。奴は…」


ほむらに話を続けながら、ゼロの記憶に顔のないロボットの姿が蘇る。


『有機生命体は宇宙を滅ぼす癌細胞である。
 我々機械が支配することで、この天球のみならず、宇宙の平和と秩序が守られる!』

『有機生命体は、脆く不完全な存在である。それ故に、破滅をもたらす!!』


そして、ロボットの最期の言葉も。


ゼロ『心を持たないお前なんかに、俺たちの命を裁く権利はねぇ!!』

『何故だ…私が間違っていたというのか…?』

『私は間違ってなどいない…私が正しい…』

『私があってこそ…全ての宇宙は平和と秩序が保たれる…』

『私があってこそ…私が…私が……』


『私は、怖かった…』

ゼロ『えっ?』


はっとしたように我に返るゼロ。
目の前には、ほむらがいつもと同じ表情でゼロを見ていた。



ほむら「あまり本調子ではないようね」

ゼロ人間体「すまねぇ…とにかくインキュベーターの野郎、この件について何かを知ってやがる」

ほむら「そいつを作ったのが、インキュベーターの文明という線はあるの?」

ゼロ人間体「ビートスターを作った文明もその宇宙も、遠い昔に滅んでる。それはありえないな」

ほむら「…私もそう思うわ」


二つの繋りが未だ見えない中、ゼロはビートスターが語ったある言葉を思い出す。


ゼロ人間体「只、奴が言ってたんだ。『邪悪な異星人』の侵略で故郷の宇宙が滅んだってな。
      もしかして、そいつが…」

ほむら「貴方は、インキュベーターがその侵略者だと考えてる?」

ゼロ人間体「え?」


キュゥべえとより長く関わってきた彼女だけに、何か気になる点があるようだった。


ほむら「あの朝にも話したけれど、奴等の目的はこの宇宙を延命し、存続させることよ」

ゼロ人間体「ああ。そのために地球…いや、地球人の少女に拘ってる」

ほむら「奴等が自在に時空を越えられるなら、地球なんかに固執せず、
    より発展した世界からエネルギーや技術を持ち込むはず。そう思わない?」

ゼロ人間体「滅ぼす以前の問題ってことか…ますます見当がつかなくなってきたぜ」


あくまでもほむらが立てた予想であるが、それを聞いたゼロも一理あると考え込む。


ゼロ人間体「あの野郎、いずれ全て話すなんて言ってやがったが、一向に現れる気配もないしな」

ほむら「奴は狡猾だけど、嘘は言わないし約束は必ず守る。
    その時が来るまで、今は保留しましょう」

ゼロ人間体「ああ、そうする他なさそうだな。でも、話はもう一つあるんだ」


キュゥべえが何故ゼロの存在や別宇宙の事件を知っているのか―――
その解決は先へ送り、二人は次の話に移った。



ゼロ人間体「他の魔法少女に、俺達が組んでることを感づかれてた。
      巴マミっていう前に話した銃使いだよ」

ほむら「巴マミが?」

ゼロ人間体「でも、俺達の事を詮索するつもりはないようだ。俺にも信頼を置いてくれてる」

ほむら「それは貴方に、でしょう?」


ゼロとマミは『お菓子の魔女』戦で共闘して以降、互いを仲間と認識できる程に信頼していた。
しかし、マミがほむらへ向ける不信は未だ変わっていない。


ほむら「問題は彼女の信頼ではない。情報がインキュベーターに渡ってるか否かよ」

ゼロ人間体「悪いが、そこまでは確認してねえんだ」

ほむら「そう…こちらから迂闊に聞き出すのは、逆に危険を伴いそうね。
    巴マミにもインキュベーターにも、その件には触れないよう注意して」

ゼロ人間体「じゃあ、俺達は今後どうしたらいい?」

ほむら「接触を望んでるという事は、貴方への関心を失っていない証拠よ。
    加えて私が秘密を守り抜けば、奴を最後まで繋ぎ止められるはず」

ゼロ人間体「つまり、方針は変わらないってことか」

ほむら「ええ。今まで通り貴方は魔女と戦い、私が『彼女』を奴等から遠ざける。それだけよ」

ゼロ人間体「わかった」


彼女は密会を締めくくるべく、ゼロに封筒を差し出す。
ゼロも思い出したかのようにグリーフシードを取り出すと、彼女に手渡した。

そこでゼロは、ほむらにある質問を投げかける。


ゼロ人間体「そういえばお前、マミとは知り合いなのか?」

ほむら「知り合いと言えば違いないわ。彼女はこの一ヶ月を繰り返すたび、必ず現れる魔法少女だから」

ゼロ人間体「それなら、佐倉杏子と美樹さやかの二人はどうだ?」

ほむら「巴マミと同じよ。今まで彼女達の力は必須だったから、何度か手を組んだわ」


対立していた魔法少女達に繋がりが生まれ得ることを知り、
ゼロは少し嬉しそうに話を続けた。


ゼロ人間体「なんだよ、あいつらが仲間だったなんて話初めて聞いたぜ。
      何で早く教えてくれなかったんだ?」

ほむら「必要ないからよ」

ゼロ人間体「…えっ?」


ほむらの一言は、ゼロの期待を冷たく突き放した。



ゼロ人間体「必要ないってお前…あいつらは仲間じゃないのか?」

ほむら「一概には言えないわ。殺されかけた事だってあるもの」

ゼロ人間体「殺されかけた…?」

ほむら「苦労して彼女達を集めなくても、今は貴方の力がある。
    この時間軸で全てを終わらせるために、足手纏いは必要ないの」


ほむらは、ゼロに情報を隠しているわけではない。
魔法少女三人の存在も含め、不要と判断した情報はゼロに伝えていなかった。


ほむら「貴方の話から察するに、美樹さやかは既に契約してしまったようね。
    残念だけど、彼女のことは諦めた方がいい」

ゼロ人間体「諦める?おい、何を言って…」

ほむら「私も監視しておくべきだったと後悔してるわ。美樹さやかは『彼女』に近すぎる」

ゼロ人間体「だから何を言ってるんだ!」


ゼロは声を張り上げる。
ほむらは一旦話を止めるが、すぐに口を開いた。


ほむら「美樹さやかに限った話ではないわ」

ほむら「どの時間軸でも、彼女達は魔法少女の『現実』に大きく揺れる。
    絶望に身を焦がすか、魔女に殺されるか…何れにせよ、決戦までに全員は揃わない」

ゼロ人間体「全員はって…そんな事させるかよ!」

ゼロ人間体「俺がいる限り、この時間軸は終わらせねぇ!
      皆でこの一カ月を越えて、地球も魔法少女も全部救ってみせる!!」

ほむら「頼もしい限りね」


着々と迫る『ワルプルギスの夜』との決戦に向け、ゼロは決意を新たにする。
だが、ほむらの眼差しはゼロの『正義』を冷ややかに見つめていた。


ほむら「彼女達と関わるのは自由だけど、目的だけは見誤らないで」

ゼロ人間体「わかってるさ…」


彼女はそのやり取りを最後に、ゼロの肩に置いた手を離す。
路地裏には、一人しゃがみ込む青年だけが残された。


ゼロ人間体(あの日の声と、今の非情さ―――本当のお前はどっちなんだ?)


ほむらの持つ裏表に違和感を感じながら、ゼロは路地裏を後にした。


【天球ガーディアン その2】



翌日の朝、登校の準備を終えたほむら。
彼女は真っ白な部屋でソファーに座り、考え込んでいた。

目線の先には、ある魔女に関する資料がいくつも並べられている。
そこに記されているのは、ゼロとほむらの標的『ワルプルギスの夜』。


ほむら(美樹さやかが契約したのは、私がこの街を離れた数日間の事。
    ここから先、学校に奴が現れる可能性は高くなる)

ほむら(迂闊に魔法が使えない分、気は抜けない。…だけど、問題はそれだけじゃない)


彼女が気に掛けるのは、さやかの契約によるキュゥべえの行動の変化。
そして、契約したさやか本人。


ほむら(理解と反発、どちらに傾こうと知ったことではない。
    でも、彼女だけは巻き込ませない―――絶対に)


ほむらは資料から時計へ目を向ける。
しばらく針を見つめた後、ソファーから立ち上がり、鞄を手に取った。




同じ頃、マミも学校へ向かうべく玄関を出る。
鍵を閉めようとした時、一人の青年が腕を組んで立っていることに気付いた。


マミ「あら、ゼロさん?」

ゼロ人間体「よう、朝早くから悪いな」

マミ「ずっと待ってたの?呼んでくれれば、朝食くらいご馳走できたのに」


マミが扉の横にある、インターホンのボタンを押してみせる。
扉の奥から僅かに「ピンポーン」というベル音が聞こえてきた。


ゼロ人間体「すげえ…そう使うのか!ネットカフェの飲み物といい、地球のボタンは凝ってやがんな!」

マミ「ネットカフェ?」


ソフトドリンクの台を指しているであろう一言に、不安を感じるマミ。
彼女はまさかとは思いつつも、念のために確認をする。


マミ「もしかしてゼロさん、そこで寝泊まりして…」

ゼロ人間体「ああ、ここに来てからずっと住んでるぜ。
      背中は痛いわ、目の前の機械は使い方わかんねーわで苦労したが、もう慣れた」

マミ「そ、そう…」


マミはゼロを自宅に滞在させて助けたい気持ちがあった。

しかし彼女の部屋には時折キュゥべえが姿を現す。
ゼロとの敵対関係を考え、話を持ちかけることを止めた。


ゼロ人間体「ま、とにかく調子良さそうで何よりだ」

マミ「いくら魔法少女とはいえ、下手したら死んでいたかもしれないわね。
   改めてお礼を言うわ。昨日はありがとう」

ゼロ人間体「死んでいた?え…ああ、そうだな」


「死んでいたかもしれない」
何気なく口にしたマミの言葉に、ゼロは濁した返事を返した。



マミ「それより、本当はお見舞いというわけでもないんでしょう?」

ゼロ人間体「実を言うと、その通りだ。すぐにでも聞きたいことがあってな」

マミ「…昨日のことね?」


ゼロは真剣な顔つきで頷いた。


ゼロ人間体「勝手な推測なんだが…お前、佐倉杏子とは知り合いだな?」

マミ「…その通りよ。あの子とは、以前コンビを組んで一緒に戦ってたの」

ゼロ人間体「マミさえ良ければ、俺に教えてくれ。杏子について知っている事を」


その質問が興味本位でないことは察するが、マミはすぐに返事を返せなかった。


マミ「あの子のプライバシーに関わることだから、そう簡単に教える事は出来ないわ。
   貴方は、それを聞いてどうするつもり?」

ゼロ人間体「俺は、何故杏子がさやかを襲ったのかが知りたい。
      あいつの抱えてるものを理解して、力になりたいんだ」

マミ「……」


その気持ちはマミも同じだった。
しばらく考えた後、ゼロに全て話すことを承諾した。




一方、さやかも普段と同じように家を出て、学校へ向かっていた。
通学路を歩いていると、道の先にほむらが佇んでいる。


さやか「あれ、転校生?おはよ!」

ほむら「……」


黙ったまま挨拶を返さないほむらに、さやかは自ら駆け寄って行く。


さやか「…っていつまでも『転校生』じゃ失礼よね!『ほむら』でいいかな?」

ほむら「好きにするといいわ」

さやか「素気なっ!いつまでもクールぶってると、私と絡んでて苦労するぞぉ~!」


陽気に接するさやかに、ほむらはいつもと変わらぬ態度で尋ねた。


ほむら「率直に質問するわ。貴方は、魔法少女としてどう在りたいの?」

さやか「え、魔法少女!?…ってまさか」

ほむら「巴マミからは聞いてないのね。私も魔法少女よ」

さやか「へ、へぇ…そうだったんだ。初耳だよ」


意図せぬ魔法少女との出会いに驚くさやか。
昨日の件もあって僅かに警戒心が生じ、自慢の笑顔も少し引きつっていた。


ほむら「もう一度聞くわ。貴方は魔法少女としてどう在りたいと考えてる?」

さやか「そうだね…私は、正義の味方として平和を守りたい」

さやか「私の力で、不幸になる人達を減らせるように精一杯頑張りたい。
    なんでそこまでするのって聞かれたら、理由なんてないって答えられるくらいに!」

ほむら「そう…」


再度の質問に対し、さやかは自分の目標を堂々と答える。
杏子と関わったことで、彼女の中でその思いはより強くなっていた。


ほむら「致命的ね」

さやか「えっ?」


無表情だったほむらが突然、鋭い眼差しを向けた。



ほむら「私たち魔法少女がどんなに身を捧げても、見返りなんて有り得ない」

さやか「べっ、別に私は見返りなんて…」

ほむら「本当にそうかしら?」

ほむら「貴方はこの先もきっと、それをわきまえることはできない。
    本当に平和の役に立ちたいと望むなら―――貴方は何もしない方がいいわ」

さやか「はぁ!?」

ほむら「この街で魔女と戦う青年の存在は知っているはず。
    貴方は何もせず、彼に全て任せていればいい」


ほむらの言う青年がゼロであることは、さやかにもすぐに理解できた。


さやか「何言ってんのよ…ゼロさん一人に全部押し付けて、魔法少女の私達が楽しようって事!?」

ほむら「そうじゃない」

さやか「だったら何よ?」

ほむら「貴方が動けば、事態がより悪い方向に向かうという事よ」

さやか「え…」


杏子のように笑うことも茶化すこともせず、無表情かつ冷静にさやかを全否定する。
ほむらのその対応は、さやかにより大きなショックを与えた。


さやか「そんな…それじゃ私が魔法少女である意味がないじゃん…」

ほむら「そう、最初から貴方は魔法少女になる必要なんてなかった」

さやか「最初から…」


思い返せば、意を決して契約した『お菓子の魔女』との戦いも、結局はゼロとマミが駆け付けて討伐した。
そして杏子との戦いで、傷を負ったマミを救ったのもゼロだった。

立ち去ろうと背を向けていたほむらは、再びさやかへ向き直る。


ほむら「大事なことを言い忘れてたわ」

ほむら「貴方がこの先魔法少女として迷うことがあっても、それは日常の世界とは無関係であるべきよ。
    間違っても、親しい人達に救いを求めようなんて思わないで」

さやか「………」


そう言い残し、ほむらは足早に学校へと足を向ける。
その場に残されたさやかは黙って駆け出し、先を行くほむらを追い抜いて行った。




そして、ゼロの頼みも聞き入れたマミは、彼に杏子の過去について語り終えていた。


マミ「私が話せるのはこれくらい。でも誰かに口外しないと約束して。
   それが貴方の組んでる、暁美ほむらであっても」

ゼロ人間体「ああ、約束だ」


地球を詳しく知らないゼロが、指切り等で約束を表現することはなかった。
だが彼の雰囲気だけで、マミは十分信用に値すると感じ取れた。


マミ「その代わりと言っては何だけど、私のお願いを一つ聞いてもらえないかしら?」

ゼロ人間体「お願い?」

マミ「私と美樹さんを、貴方の魔女討伐に同行させてほしいの」

ゼロ人間体「同行…っておい、急にどうしたんだ?」


意外な要求に驚くゼロに対し、マミは不安げな表情で話を続けた。


マミ「美樹さんの、魔法少女としての経験が心配なの。
   あの子、今のところ一度も魔女と戦えていないから」

ゼロ人間体「そうか、病院の時は使い魔を任せたんだったな」

マミ「病院の戦いで美樹さんの同行を許したのは、あの子の今後を考えての事でしょう?
   同じ事を、もう一度経験させたいの」

ゼロ人間体「マミには朝早くから無理言っちまったからな。
      よし、わかった。明日の夕方にまたここで会おう!」

マミ「ええ、お願い」


ゼロは再びこのマンションでの合流することを約束した。
最後にマミはゼロの生活を気遣い、自宅への滞在とは別の話を持ちかける。


マミ「それと明日の夜、美樹さんも呼んで三人で夕食でもどうかしら?
   私が作るから、希望があれば何か教えて?」

ゼロ人間体「いいのか?じゃ、カレー作ってくれ!」

マミ「カレーなんかでいいの?手間なら惜しまないわよ」

ゼロ人間体「当ったりめぇだろ。俺の故郷ではちょっとした伝説なんだぜ!
      特にウルトラ兄弟の十男が異様に推しててよ―――」


ゼロが地球と故郷の食文化について熱く語り始める中、
マミは忘れかけていた大切な事を思い出す。


マミ「いけない…そろそろ学校が!」

ゼロ人間体「あ、忘れてたぜ」

マミ「ごめんなさい、また明日の夕方に会いましょう!」


マミはゼロの話を遮って頭を下げると、慌ててマンションを降りて行った。


【天球ガーディアン その3】



昼休みを迎えた見滝原中学校。
ほむらの言葉を朝から引きずっていたさやかは、三年生のいる階へと向かっていた。


さやか(マミさん!)

マミ「あら、美樹さん?」


クラスメートと昼食の準備を始めたマミに、さやかの念話が伝わる。
マミが振り向くと、教室の扉の前でさやかが手を振っていた。


マミ「ごめんなさい、ちょっと後輩が呼んでるみたい」


マミはさやかの元へ向かい、友人達もそれを快く了承する。
二人は学校の屋上へと場所を移し、弁当を広げた。


さやか「せっかくの昼休みに押しかけちゃってすみません。でも、いつも通りで安心しましたよ」

マミ「いいのよ。こっちこそ余計な心配かけちゃったみたいね」

さやか「私がもっと上手く戦えてれば、あんな事には…」

マミ「大丈夫よ。ゼロさんのお陰で、体の方はまるで何事も無かったみたい」

さやか「ほんと凄いっすよね、あの人…」


話を進める内、さやかの表情は沈み、昼食を食べる箸が止まる。
それに気付いたマミは気分を和らげようと、穏やかに接する。


マミ「美樹さん、彼女のことなら気にする必要はないのよ」

さやか「…やっぱテンション低いの、バレてました?」

マミ「当然よ。急に落ち込まれたら気になるでしょ。
   彼女に何を言われたとしても、私達は私達のやり方で平和を守りましょう」

さやか「あの佐倉杏子ってやつ、マミさんとは知り合いなんですよね?
    例えどんな関係でも、私にはもう関係ないっすから」

マミ「…どういう事?」

さやか「容赦しないって意味です」


さやかの言葉は、普段の彼女らしからぬ暗さを含んでいた。



さやか「あいつ、使い魔を見逃そうとしただけじゃない。私の事も殺そうとした。
    それにマミさんだって…」

マミ「その事なら私は…」

さやか「でも私が許せない。もし悪事を働くような奴なら、私は魔法少女が相手でも戦い―――」

マミ「はい、もうその話はおしまい!もっと前向きな話をするわよ!」


杏子の件にさやかを深く関わらせてはいけない――そう感じたマミは話を遮る。
新たに持ち出した話題は、今朝にゼロと取り付けた約束だった。


マミ「明日の夕方、ゼロさんの魔女探しに私達も同行することにしたの」

さやか「…え、ゼロさんと?ああ、そうなんだ!」

マミ「あの人の力を借りて、美樹さんの実戦経験を補うのよ。
   その後、私の家で食事でもと考えてるんだけど、予定は空いてる?」

さやか「それなら大丈夫!今以上にレベルアップしてみせますよー!」


さやかは口調が暗くなっていたことに気付き、普段通りを意識して言葉を返す。


マミ「それじゃ明日の放課後、校門で合流して私のマンションへ行きましょう。
   ゼロさんともそこで待ち合わせてるから」

さやか「…その、代わりに今日の待ち合わせ、少しだけ遅れても大丈夫です?」

マミ「構わないわよ。もしかして…」

さやか「あはは、そういう事です」


その放課後、さやかは友人達に断りを入れ、足早に中央病院へと走った。




さやか「え、退院してたんですか!?」

看護師「あら、上条君から聞いてなかったのね」


中央病院へと着いたさやか。しかし、恭介の姿は既にそこにはなかった。

急激な回復を見せた彼は、足のリハビリを終えて退院し、
明日から学校にも出るだろうという話だった。


さやか(無駄足じゃん…電話の一つでもくれれば良かったのに)


恭介の元気な姿を見ることで、自分が魔法少女である意味をすぐにでも再確認したい。
その当てが外れたさやかは、気を落としたまま受付を去った。


さやか(ん?)


病院の玄関を出ると、そこには仁美の姿がある。
下校前に別れたはずだったが、さやかは彼女に病院へ行くとは伝えていない。


仁美「やはり、ここにいらしたんですね」

さやか「あれ、仁美?どこか悪いの?」

仁美「いえ、さやかさんにお話したいことがあったんです」

さやか「学校で言ってくれれば…って今日の私、一日中上の空だったよね。ゴメンゴメン!」


笑ってみせるさやかだが、仁美は何時になく真剣な表情でこちらを見ていた。


さやか「えと、用事は?」

仁美「恋の相談ですわ」

さやか「恋?」

仁美「実はずっと秘密にしてきたのですが、私も上条くんをお慕いしておりましたの」

さやか「あはは…そうだったんだ。恭介の奴も隅に置けないねぇ。
    けど、『も』ってのはどういう意味かなぁ?あいつとはただの幼なじみで…」

仁美「自分に嘘をつく必要はありませんわ」

さやか「仁美…」


思わぬ告白に無関心を装うさやかだったが、動揺は隠しきれていなかった。



仁美「私ね、本当は隠し通して身を引くつもりでいたんです。さやかさんの想いは知ってましたから」

さやか「それが、何で急に…」

仁美「昨日モロボシさんと関わるさやかさんを見て、考えを改めることにしたんです」

さやか「だ、だからあれは誤解だってば…仁美も習い事の先生や先輩と話すことくらいあるでしょ?」

仁美「愛に年齢は関係ない…私がそう考えているのは本当です」

さやか「えっ?」

仁美「上手く言えないのですが、私にはさやかさんがモロボシさんに、
   お友達や先生とは違う信頼を置いてるように見えました」

仁美「貴方の心には誰が映っているのか、その答えが知りたいんです。
   だから上条君が学校に戻ってきた日の放課後、私は告白します」

さやか(そんな…恭介はもう退院してて、明日…)

仁美「その間にどうするかは、さやかさん次第です。
   貴方は大切なお友達…貴方と上条君が結ばれることになっても、私はきっと祝福しますわ」


そう言い残して、仁美はその場を去っていった。

仁美は恭介の退院を知らず、彼は恐らく、明日から学校生活に復帰する。
そして仁美が告白するであろう放課後には、マミとゼロの魔女討伐に同行する約束があった。

今から恭介に会いに行くべきか、電話で思いを伝えるべきか。
立ち止まって悩み続けていた時、さやかの背後から別の少女が声を掛けてきた。


杏子「ったく、病院の前で痴話ゲンカやってんじゃねーよ」

さやか「その声…!?」


物陰から姿を現したのは杏子だった。
咄嗟にさやかはソウルジェムを手にし、握り締める。



さやか「一体どの面下げて来たのよ…マミさんあんな目に合わせといて!」

杏子「魔法の間合いに飛び込んできたのはアイツの方だ。アタシの責任じゃない」

さやか「どこまでクズなのさ、あんたって奴は!」

杏子「それに、ゼロの奴がいたから大丈夫だったろ…」


怒りを露わにするさやかとは対照的に、杏子の態度は昨日と違っていた。
先程までのさやかと同じく、どこか気分が沈んでいるように感じられる。


杏子「それより、さっきのやり取りは何さ?
   せっかく治してやった男、あいつに取られちまってもいいのかよ?」

さやか「あんたには関係ない」

杏子「早いとこ告れよ。ほんとはアンタの契約、ヤローの気を引く口実だったんでしょ?」

さやか「違う」

杏子「強がんなよ。人間誰しも見返りを求めんのがフツーなのさ。
   マジでアンタが他人のことだけ考えてるより、そっちの方が私も安心できるっても―――」

さやか「だから違うって言ってるでしょ!!」


杏子の落ち着いた口調が、今朝のほむらと同じようにさやかを揺さぶる。
さやかは声を上げ、杏子の誘導を振り払おうとする。


さやか「知った風な口聞かないでよ…結局のところ、私が気に入らなくて喧嘩売ってるだけでしょ!」

杏子「…そうかもな」

さやか「図星かよ」

杏子「何もかも、駆け出しの頃のアタシと似すぎてて気に入らねぇ…」

さやか「何それ、意味わかんない」


昨日のように突っかかってくる様子のない杏子に、さやかも調子を狂わせていた。


さやか「あんたの過去とかマミさんとの関係とか、私には関係ないからさ。
    誰にも迷惑がかからない形なら、いくらでも相手してあげるよ。私も負ける気ないし」

杏子「………」

さやか「何もないなら行くわよ」


さやかはソウルジェムを再び指輪に戻し、マミの待つ公園へ向かっていった。


【天球ガーディアン その4】



陽も落ちた市内を、一人歩き回っていたゼロ。
彼は魔女を探し続けながら、今後について悩み続けていた。


ゼロ人間体(本当の意味で皆を救うには、俺がこの一カ月を越える必要がある)

ゼロ人間体(でも、決戦に全員は揃わないとほむらは言っていた。
      そして他の魔法少女と違って、さやかには確実に命の危機が訪れる)

ゼロ人間体(何時、何が原因になるのか…明日の魔女探し、気を抜くわけにはいかねぇな)

ゼロ人間体(それに、杏子の事も…)


考えるほどにその足は重くなり、商店街の外れで歩みを止める。
しばらく立ち止まっていると、ゼロの感覚は建物の隙間を縫って迫り来る、マイナスエネルギーの反応を捉えた。


ゼロ人間体(この感じ…またか!)


ゼロの周囲から、爪の生えた触手が無数に伸びた。
同時に魔女結界が展開し、地面は様々な柄を縫い合わせた布に変化していく。


ゼロ人間体「デュワッ!」


ゼロはイージスからウルトラゼロアイを取り出し、両目に装着する。
だが、変身より早く触手がゼロを包み込み、握り拳のような袋を作り上げてしまった。

袋の上には、猫の二面と手足を持つ『猫の魔女』が降り立つ。
閉じ込めた獲物にとどめを刺そうと、魔女は笑みを浮かべて涎を垂らしていた。



魔女が爪を振り上げた時、ゼロの入った袋が一瞬、強い光を放つ。
異変を感じた魔女は、すぐに跳躍して袋から離れた。


ゼロ「はあああああーーーーっ!!」


ゼロの声が響くとともに、袋が白熱化し、爆発する。
立ち込める煙の中からは、腕をL字に組んで立つウルトラマンゼロの姿が現れた。


ゼロ「エネルギー満点のエサなら、くれてやるぜぇっ!!」


四つの目を全てゼロに向けて驚く魔女に、そのままの体勢でワイドゼロショットを放つ。
反応するより速く光線が命中し、魔女はその威力に押されて後ずさっていく。


ゼロ「フィナーレェッ!!」


どういう意図かマミの真似をすると、駄目押しにワイドゼロショットの出力を上げる。
やがて耐え切れずに吹き飛ばされた魔女は、結界内の巨大なミシンに衝突し、大爆発を起こした。

ゼロは魔女が爆死した近辺まで歩き、グリーフシードを探す。
しかし周囲にグリーフシードが落ちている様子はなく、ゼロは人間の姿へと戻った。


ゼロ人間体「この前と同じだ…何故魔女の方から俺を襲う?」


自分の結界に籠もることなく、直接ゼロを襲撃した『鎧の魔女』を思い出す。
完全に『猫の魔女』の結界が解けたとき、ある声が疑問に答えた。


QB「それは、君も狙われているからさ。
   一部の魔女は、人間を超えた君の力に目を付け、陰から口付けする機を伺っているよ」

ゼロ人間体「インキュベーター!?」


ゼロの背後に突如として現れたのは、キュゥべえだった。


ゼロ人間体「毎回いきなり現れやがって…大体『呪い』の存在が、俺の『光』を扱えるわけねえだろ」

QB「彼等が欲しいのは『生命力』の方さ。君自身のエネルギーの性質は問題ではない」

ゼロ人間体「ほう…向かってくるなら蹴散らすまでだな。どのみち放っておくわけにもいかねぇしよ」

QB「でも、十分に気をつけるといい。君に迷い・焦燥・悲しみ、そんなマイナスな感情が芽生えたとき、
   魔女はここぞとばかりに君を狙うだろう」


改めて振り返ると、『鎧の魔女』の襲撃はほむらの不在を心配していた最中だった。
そして今も、ゼロは別の迷いを抱えている。


ゼロ人間体「忠告は有り難く受け取ってやる。だが、俺が聞きたいのはそんな話じゃねえ!」

QB「そうだったね。それじゃ、ついて来て!」

ゼロ人間体「おい、待て!」


駆け出したキュゥべえを追い、ゼロも走り出した。




その頃、マミとさやかは人気のない空き地で模擬戦闘を行っている最中だった。


マミ「私の『レガーレ・ヴァスタアリア』、いつまで持ちこたえられるかしら?」

さやか(かなり厄介だ…ドヤ顔にツッコむ余裕もないよ)


さやかの周囲に次々と銃弾が撃ち込まれ、その弾痕からリボンが伸びる。
様々な位置から迫るリボンを、さやかは剣を振るって切り捨てた。

マミはリボンの拘束魔法を多用し、さやかのスピードを活かした回避能力を鍛えている。


マミ「逃がさないわ!」


さやかは移動速度を上げてリボンを回避するが、
足元に張り巡らされていた細いリボンに気付かず、足を取られてしまう。


マミ「足元がお留守になってるわよ?」

さやか「やばっ!?」


その隙を付いて、複数のリボンがさやかの体を絡め取った。


マミ「はい、そこまでよ!」


リボンによって宙吊りにされるさやか。
手足をはじめ、首から腰までをリボンが締め上げ、抜け出すことは不可能だった。


さやか(これは…)


魔法を受けたさやかの頭に、槍を抜け出せなかった杏子との戦いが思い出される。
その光景が蘇るとともに、さやかの意識は「訓練」から遠ざかっていった。



マミ「まだまだね。私が思うに――」

さやか「まだ、終わりじゃない」


小さな声でさやかが呟く。
その直後、上空から複数の剣がさやか目掛けて降り注いだ。


マミ(あの剣、まさか!?)


その剣はさやかの体ごとリボンを切り裂き、地面に突き刺さる。
拘束から脱して地面に落ちたさやかは、体中から血を流しながら体を起こした。


さやか「く…あっ!」


痛覚の遮断を上手く扱いきれていないため、さやかは苦痛に顔を歪める。
しかし瞬時に回復魔法を展開して傷を治すと、剣を一本引き抜いてマミへと向けた。

その顔には、まるで何事もなかったかのように怪しい笑みが浮かぶ。


さやか「以外に簡単なもんだね。上手くやればどんな魔法少―――魔女にも負ける気しないわ」


その呟きが微かに聞こえていたマミは、さやかの元へ歩み寄った。


マミ「貴方は何を…そんな戦法、危険すぎるわ!」

さやか「慣れてしまえば大丈夫っすよ」

マミ「大丈夫なはずないでしょう!もし昨日の戦いを引きずっての事なら、やめておきなさい」


マミの一喝に、さやかは黙り込んでしまう。
少し間を置いた後、さやかは口を開いた。



さやか「…佐倉杏子のことだけじゃない」

マミ「他にも、誰か関わってるの?」

さやか「暁美ほむらにも言われたんです。私が動くと、事が悪い方向に向くって」

マミ「彼女が…」

さやか「才能のない私があいつらやマミさん…そしてゼロさんに追い付くには、こんな方法しかないんだ」


マミの中で、次第にほむらに対する怒りが湧き上がっていく。
今はそれを堪え、さやかの両肩に手を置いて説得に集中した。


マミ「才能の有る無しなんて、誰かが決めつけることじゃない。
   不得意なものがあっても、皆で補い合えばいいのよ」

さやか「でも、他の魔法少女とまるで分かり合える気がしないよ…」

マミ「私がついてるわ。それにゼロさんも。だから一つ一つ経験して強くなりましょう?」


さやかは俯いて、目線をマミから隠す。
しばらく体を震わせた後、思いきってその顔を上げた。


さやか「ありがとう…マミさん。明日の魔女探しも頑張りましょう!
    魔法少女さやかちゃん、本当の戦いはこれからだぁぁーっ!!」

マミ「その意気よ、美樹さん」


マミは微笑みながらも、内心はさやかの自身を省みない戦い方に、言い知れぬ不安を抱いていた。
そしてさやかも、不安を完全に拭い去れたとは言い難かった。


【天球ガーディアン その5】



キュゥべえを追った末に、市街にある高層ビルの屋上へと辿り着いたゼロ。
ゼロがその端まで近付くと、見滝原市の夜景を背に、キュゥべえが赤い目を光らせていた。


ゼロ人間体「おい、こんな所まで誘導して何のつもりだ!」

QB「僕も追われてる真っ最中でね。邪魔が入らないよう、場所を変えただけだよ」

ゼロ人間体(追われてる…ほむらの事か?)

ゼロ人間体「まあいい。それより何故俺を知ってるのか、全部答えてもらうぜ!」

QB「では、順を追って話すとしよう。まだ夜はこれからだ」


ゼロはその場に座り込み、話に耳を傾ける体勢を整えた。


QB「まず僕達が地球の存在ではないことは、既に君も知っているだろう。
   その役目が、この宇宙を延命させるためであることも」

ゼロ人間体「ああ知ってるぜ。信じてるかどうかは別の話だけどな」

QB「それでいいよ。ただ、前提を再確認してもらっただけだからね」


ここまでは、既にほむらから聞いた通りの話。
彼女も知らないゼロとの繋がりについて、キュゥべえは語り始める。



QB「僕達の文明が別宇宙へ旅立ったのは、最近の話なんだ」

ゼロ人間体「嘘つけ」

QB「嘘ではないよ。多次元の存在は仮説として存在していたけれど、
   憶測の域を出ないその理論に、僕達は長い間興味がなかっただけさ」

QB「けれど認識を改めざるを得ない出来事が、半年ほど前に起きたんだ」

ゼロ人間体「半年前?」

QB「この宇宙に、惑星をも凌駕する規模の人工天球が現れた」


キュゥべえの目が赤く光り、ある映像をゼロに向けて映し出す。
それは、この世界で起きた出来事の記録。しかし見滝原での日常とは程遠い内容だった。


ゼロ人間体「これは…」


ゼロの周囲に広がったビジョンは、どこかの惑星に巨大な人工天球が迫っている光景。
やがて天球は惑星に衝突し、文明もろとも粉々に粉砕してしまった。
脱出艇と思われる船団も映っていたが、天球から放たれた光弾によって次々に撃ち落とされていった。


ゼロ人間体「ビートスターが、この宇宙にも!?」

QB「そう。天球は僕達の対話にも応じず、この宇宙に存在する幾つもの文明を滅ぼしていった。
   でも僕達を含め、この宇宙で天球に対抗する術は存在しなかったんだ」


映像の視点は天球内部へと移動し、霧の立ち込める一室を映し出す。
暗闇の中では、顔のないロボットが両手を掲げている。

その姿は、マスターコンピューターであるビートスターに間違いなかった。



QB「けれど、僕達が地球への侵攻を危惧していた時、天球は忽然と姿を消したんだ」

QB「大きな損害を被った僕達は調査に乗り出し、その結果、
   天球が全く異なる次元へ転移したことを突き止めた」

QB「天球の動向を調査する為、僕達は次元を越える方法の確立を急いだ。
   その第一段階として、ある方法を試すことにしたんだ」

ゼロ人間体「嫌な予感しかしねえな…」

QB「そう難しいことじゃないよ。
   ごく稀に宇宙で観測される空間の歪み、その内部に踏み込むことさ」

ゼロ人間体「空間の歪みだと?」

QB「その先に見つけることができたよ、多次元に跨る異空間をね」


キュゥべえのビジョンは、宇宙の歪みを潜り抜け、爪のように岩が突き出た大地を映す。
その空間には半透明の怪物達が浮かび、空を埋め尽くしている。


ゼロ人間体「ここは、まさか!?」

QB「君も知っていたようだね。あの異空間の存在を」

ゼロ人間体「なるほどな、『怪獣墓場』に入ったってわけか…!」

QB「君のいた世界では『怪獣墓場』と呼ばれているんだね。では、僕達もそう呼ばせてもらおう」


怪獣墓場とは、様々な次元の宇宙に繋がる異空間。
命を落とした怪物の『魂』が数多く漂着し、永遠の眠りにつく聖域。

そしてゼロが初めて『ウルトラマン』として戦った、忘れられぬ場所でもあった。



QB「怪獣墓場と繋がる、各宇宙への通り道。それを調べるには、まだしばらく時間が必要になる。
   僕達は足掛かりとして、上空に存在する『門』を調査することにしたんだ」


視点は怪物達の魂よりも、更に上空へと昇る。
そこには、複数の輪を組み合わせたような巨大人工物が映っている。


ゼロ人間体(なんてこった…こいつら)

QB「門を抜けた先に広がっていた、未知の宇宙世界。
   そこで数々の文明と接触を計り、運良く天球の最期を知ることができたというわけさ」

QB「そして、天球を制した君達の存在もね」

ゼロ人間体(こいつら…『グレイブゲート』を通って、俺の故郷にまで!!)


その人工物こそ、キュゥべえの指す『門』こと『グレイブゲート』。
このグレイブゲートは、怪獣墓場とM78ワールドを繋ぐ通り道であった。


ゼロ人間体「ようやく理解できたぜ…全く、ヒヤヒヤさせやがって!」

QB「それは僕達も同じことさ」

ゼロ人間体「ヘッ…『感情を持たない』テメェらと一緒にすんじゃねーよ」

QB「一種の喩えさ。時空を駆け、間接的にもこの世界を救った勇者が、
   まさか地球の街一つを守っているとは想像もしてなかったからね」

ゼロ人間体「とんだ営業妨害だったろ?でもすぐには帰らねーぜ。
      テメェらからすれば、邪魔で仕方ねえだろうがな」

QB「そうでもないよ」

ゼロ人間体「えっ?」


キュゥべえの視線が、ゼロの左腕に向けられる。
その瞬間、キュゥべえの頭部が血しぶきを上げて弾け飛んだ。



ゼロ人間体「!?」


首から上を失ったキュゥべえの体は、ビルの真下へと落下する。
同時に周囲の映像は消え、再びビルの屋上へ戻っていく。

ゼロが背後を振り向くと、そこには銃を構えたほむらの姿があった。


ゼロ人間体「ほむっ!?」

ほむら「もう構わないわ」


ほむらの名を最後まで言いかけるが、途中で口を噤む。
一方で、ほむらはそれを気にしていない様子だった。


QB「やはり君達は繋がっていたようだね。彼に知識を授けたのも君だろう?暁美ほむら」

ほむら「答える義理はない」


屋上の出入口の前に、新たなキュゥべえが姿を現す。


QB「彼女に捕まると色々と厄介だからね。ウルトラマンゼロ、また会える機会を楽しみにしているよ!」

ほむら「貴方は引き続き魔女討伐を」

ゼロ人間体「お、おう!」


階段へと逃げ去っていくキュゥべえを追い、ほむらもゼロを残して走り出す。


ほむら(時間を多く確保できてるとはいえ、順調過ぎると思ってた)

ほむら(この時期まで彼女が目を付けられなかった時間軸は、
    意図的に遠ざけられていた『あの時』を除いて他にない)


ほむらがふと思い出したのは、水晶玉を持った白い魔法少女と、彼女を守護する黒い魔女。
その姿は、ほむらの思考から一瞬にして消えた。


ほむら(奴の様子からして、想像してた以上に彼へ関心を抱いてる)

ほむら(…でも今回ばかりは譲れないわよ?インキュベーター)


ビルの階段を駆け降りながら、ほむらは再び銃口をキュゥべえに向ける。


ほむら(彼は、最後の希望―――『ウルトラマン』の力は、私のものよ!!)


ほむらがゼロに垣間見た希望、それは仲間や理解者といった『支え』とは全く異なっていた。


【ウルティメイトフォースゼロ その2】



グレンファイヤーとミラーナイトが帰還し、一時間が経過したアナザースペース。

近くの小惑星でグレンがゴミを燃やしていると、
マイティベースへ赤と紫、二つの光が入っていくのが見えた。


グレン「ん?ありゃあ…」


機械音と共に、ベースに二人のロボットが降り立つ。
彼等はウルティメイトフォースゼロのメンバー、通称『ジャン兄弟』。


ジャン兄「遅くなった」


彼はゼロの仲間の一人、ジャンボット。
メンバー内でも特に規律正しく、機械でありながら正義の『心』を宿している。


ジャン弟「念入りに探したんだ。遅くて当然だろう」


もう一人は生意気な弟分、ジャンナイン。
ビートスター最強の刺客ロボットであったが、正義に目覚め、ゼロ達と行動を共にしている。


ミラー「お疲れ様です」

グレン「おー帰ったか、焼き鳥ども!」


二人をミラーナイトが出迎えるとともに、グレンもベースの内部へ戻ってきた。


ジャン兄「私は焼き鳥ではない!ジャンボットだ!」

ミラー「後にして下さい。まずは結果の報告からお願いします」

ジャン弟「僕達のエリアに敵は確認できなかった。他はどうだったんだ?」

ミラー「私とグレンも同じです。残るはゼロだけということになりますね」

ジャン兄「ふむ、ではゼロが戻るまで待機だな」

グレン「えー、またかよぉ…」


四人はゼロの帰還を待ち続けるが、数時間が経過しても、彼が戻る様子はない。



ジャン弟「…遅い」

ミラー「これは、ゼロの持ち場にベリアル軍が現れたという事でしょうか?」

ジャン兄「それにしては時間がかかり過ぎている。ゼロがあの機兵に後れを取るとも思えない」


ゼロの身に何かが起きたのではと、メンバー達の間に不安がよぎる。
只一人を除いて。


グレン「けっ…どーせ任務ほったらかして、若い女の子達とキャッキャウフフやってるんだろうさ!」

ミラー「何故そう破廉恥な発想に…」

ジャン弟「『ハレンチ』とは、何だ?」

ジャン兄「お前は知らなくていい。ともかく、私がゼロのエリアを確認してこよう」


ジャンボットは一人で出口へと歩き、ミラーナイトはその後を追う。

ベース外へ出たジャンボットの体は、緑の粒子を散らしながら変形を始め、
やがて『ジャンバード』と呼ばれる宇宙船形態へと姿を変えた。

彼が『焼き鳥』と呼ばれるのも、これが理由である。


ミラー「一人で大丈夫ですか?」

ジャン兄「問題ない。それより、ジャンナインの方を頼む」

ミラー「貴方の代わりにグレンに絡まれるのは目に見えてますからね…わかりました」


ジャンバードはブースターを起動すると、ゼロの担当エリアへ向けて飛び去っていった。
教育係でもある兄が去り、残されたジャンナインはグレンとミラーに指示を請う。


ジャン弟「僕は、どうすればいい?」

グレン「はっはぁ~!そんじゃヒマつぶしに、お前のアニキの裏話でも教えてやるよ!」

ジャン弟「裏話?」

ミラー「またそんな事を…後でジャンナックル食らうのは貴方なんですよ、グレン」


別次元の過去で繰り広げられるゼロの『ウルトラ魔女ファイト』、
そして仲間達の退屈との戦いは続く―――

つづく


まどマギしか知らない人は「わけがわからないよ」と感じるかもしれませんが、
怪獣墓場とグレイブゲートの設定について補足します。



■怪獣墓場
昭和のウルトラシリーズ初期から、現在まで登場する異空間。
様々な次元の宇宙から、死んだ怪獣や宇宙人の魂が漂着する吹き溜まりのような場所です。

魂が漂流するルートは不明ですが、命を持った存在が中に入るには、
それぞれの宇宙で発生する空間の歪み(ウルトラゾーンとも呼ばれる)を通り抜ける必要があります。



■グレイブゲート
2009年の作品から登場した、怪獣墓場の上空に浮かぶ門。
M78ワールドの宇宙空間にも同じ門があり、歪みを経由せずに二つの世界を行き来できます。



このSSでは、インキュベーターの文明はまだ時空を超える手段を確立しておらず、
下記のルートを通り、M78ワールドを調査することができたと設定しています。

まどマギ世界の宇宙 → 宇宙空間の歪み → 怪獣墓場 → グレイブゲート → M78ワールド



しかし『ウルトラゼロファイト』第二部で、一度だけ敵がゲートからアナザースペースへ向かう描写が登場し、
上記のSS設定が崩れかねない状態になってしまいました。

『ゼロファイト』ではアナザースペースと怪獣墓場の二つの世界が舞台になりますが、


・第一部、二部共にゼロ本人がゲートを通る描写がない。

・第一部のラストで、ゼロ達はゲートとは別方向に向かってアナザースペースへ帰還した。

・『ゼロファイト』以外にも、現時点でM78宇宙以外にゲートが存在する映像描写がない。


などの理由から、アナザースペースにはグレイブゲート以外の直通ルートがある
(そして公式が深く設定してないだけ)と解釈し、SSのストーリーを作成していました。

公式設定がはっきりしない上、内容の修正もできそうにないので、
「グレイブゲートで往来できる宇宙はM78ワールドだけ」という前提で物語を進めます。



長文失礼しました。


【影の魔女 その1】



学生達が目覚め始める早朝、マミはキッチンに向かっていた。


QB「ご機嫌だね、マミ」

マミ「あら、おはよう。キュゥべえ」


鼻歌を唄いながら鍋に火を通すマミに、どこからか現れたキュゥべえが声を掛ける。


マミ「貴方がこの家に来てくれるなんて久々よね。最近はほとんど顔も見せてくれないし」

QB「イレギュラー達が活躍するお陰で、僕も多忙なのさ。でも、君も中々忙しそうじゃないか」

マミ「ふふっ、わかる?」


マミは笑顔で鍋をかき混ぜる。
その中には、彼女が作って一晩寝かせたカレーが煮立っていた。


マミ「これ、調味料を一から買い込んで作ってみたの。初めてだったし、味は保証できないけどね」


キュゥべえがテーブルの上に飛び乗ると、そこには小麦粉など、手を付けられていない材料も置かれている。


マミ「それは、食後のデザート用にと思って出してるの。
   もし時間があれば、カレーを食べて貰ってる間に何か焼けるかなってね」

QB「いつにも増して力が入ってるようだね。一体誰が来るんだい?」

マミ「ゼロさんと美樹さん。今日は三人で魔女を探す予定なの。
   それが終わったら、この家に招いて三人で夕食よ」

QB「それは賑やかになりそうだ。存分に楽しむといい」


マミは学校の支度を始めるべく、鍋の火を止めてキッチンを離れる。
残ったキュゥべえは、少し何かを考えた後、静かにマミのマンションを去った。




朝のホームルームを控えた見滝原中学。
退院した恭介は、松葉杖を突きながら教室に姿を現した。

心配していた友人達は、彼の元に集まっては声を掛ける。


友人「上条、ひでー怪我だったんだろ?もう大丈夫なのかよ?」

恭介「ああ、手の方は全く問題ないよ。もうしばらく松葉杖は手放せそうにないけどね」


恭介が翌日に登校するなど、予想もしていなかった仁美。
彼女は戸惑った様子で、前の席に座るさやかを見た。


仁美(さやかさん…?)


当のさやかは調子が悪そうに立ち上がり、教室を出ていく。
別の友人もさやかを心配していたが、一人で行くとでも言われたのか、その後を追わなかった。


さやか(昨日の夜決めたことじゃん…私はずっと魔法少女として、この街を守るんだ)

さやか(私は見返りを求めて契約したわけじゃない。
    告白なんてしたら、佐倉杏子の言い分を認めるのと同じこと)

さやか(だから忘れるんだ…)


昨日の出来事を通して、さやかは魔法少女として戦い続けることを選んだ。
しかし、その思いは恭介の顔を見ただけで簡単に揺らいでしまっていた。

そんな自分を恥じ、さやかは心の中で戒めの言葉を呟き続ける。


仁美「さやかさん」

さやか「仁美!?」


突然聞こえてきた声にさやかは驚く。
恐る恐る振り向くと、そこには彼女を心配し、着いて来た仁美がいた。


仁美「大丈夫なのですか?まどかさんも心配してますわ」

さやか「私なら心配いらないよ。保健室くらい一人で行けるからさ」


さやかは登校時から、まるで何事もなかったかのように振る舞っていた。
彼女が教室に入って直ぐに不調を訴えたことから、仁美は昨日の件が関係しているのではと気に掛っていた。



仁美「私、こんなに早く上条くんが戻ってくるとは思ってませんでした。
   だから、さやかさんの心の整理がつくまで時間を…」

さやか「私のことなら、これっぽっちも気にしなくていいよ」

仁美「えっ?」


さやかの様子を見て、仁美は告白を宣言したことに少なからず後悔を感じていた。
しかし、さやかは可能な限りの明るさで、逆に仁美を安心させようとする。


仁美「やはり、貴方はモロボシさんの事を?」

さやか(モロボシ……ゼロさん…)


地球で活動するため、ウルトラマンゼロが使う仮の名前。
それを耳にしたさやかの頭に、青年の姿と仁美の言葉が蘇る。


『昨日モロボシさんと関わるさやかさんを見て、考えを改めることにしたんです』


さやか(あれ?…ゼロさんがいたから、私は苦しんでるの?)

さやか(ゼロさんがいなければ、私は恭介と一緒になれたの?)

さやか(…違う!私は魔法少女!見滝原を守る正義の味方!恋愛なんてしてる暇なんてない!!)


慌ててさやかは、内に傾きかけた意識を現実に引き戻す。


さやか「あの人の事は本当に関係ないから。
    周りからどう見えてるのか、自分でも良くわかんないけどさ…」

仁美「では何故、上条君のことをそんな簡単に…」

さやか「仁美、言ってたじゃん。大切な友達だから祝福できるってさ。
    それは私も同じこと。だから堂々と伝えなよ!」

仁美「本当に、後悔はありませんね?」

さやか「そっちこそ、ここまで言っといて今さら撤回しちゃヤだよ?」

仁美「さやかさん…わかりましたわ」


仁美は保健室へ向かうさやかをこれ以上追わず、一人教室へと戻っていく。
残るさやかは、湧き上がる感情を鎮めようと胸を強く押さえた。


さやか(いいんだよ、これで。私が守るから…二人のこれからを)




同日午後の風見野市。
杏子は棒付きのアイスを食べながら、建物の屋根でぼんやりと空を眺めていた。


杏子(こんなはずじゃなかったんだ…)

杏子(あの女……美樹さやかの奴が現れてから、どうにも調子が狂っちまう)

杏子(アタシはただ、もう一度…)


考え込んでいる内にアイスはなくなり、棒だけを口に咥えていた。
それに気付いた杏子は、指と顎に力を込めて棒をへし折る。


杏子「クソッ!マジで何がしたいんだよ、アタシは!!」


割り切れずに「く」の字に曲がった棒を、声を上げながら投げ捨てる。
棒が飛んだ先に白い小動物が現れ、素早く棒を避けた。


QB「いきなりゴミを投げつけるなんて、ひどいじゃないか」

杏子「なんだ、キュゥべえかよ」

QB「不機嫌そうだね、杏子。あまり苛立ちを溜め込むことは僕もおすすめしないよ」

杏子「久しぶりに顔を見せたかと思ったら、余計なお世話だ。
   それに溜め込むのがダメってんなら、誰かで発散するしかないよねぇ…!」


不敵な笑みを作って見せる杏子。
しかしキュゥべえは、彼女が口にしない内面を見抜いていた。


QB「君は経験上、物事を割り切るのが上手い方だと思っていた。
   けれど彼女達のこと、随分と引っかかっているようだね」

杏子「…何が言いたいのさ?」

QB「君が取った行動については、既に把握しているよ。だからこそ言おう。
   もう一度美樹さやか、そして巴マミと向き合う必要があると思わないかい?」

杏子「……」

QB「実は今日の夕方、二人はウルトラマンゼロの魔女探しに同行する。
   彼の現在までの動きから、見滝原のどこで魔女を探すのか、大凡検討はついた」

杏子「アタシにどうしろってんだよ」

QB「どうするかは君次第だ。只、その区域に強い魔女の反応を見つけたよ。
   ウルトラマンゼロなら、確実にその場所を嗅ぎ付けるだろう」

杏子「ふぅん…別にその魔女、狩ってしまっても問題はないわけだ?
   アタシは魔法少女の役目を果たすだけだしね」

QB「どうするかは―――」

杏子「あーもうわかったわかった。聞かせな、その場所」


その二時間後、見滝原中学の下校時間が訪れる。


【影の魔女 その2】



放課後の見滝原中学。
教室を出たさやかは友人と別れ、校門前でマミを待っていた。


さやか(駄目だ…昨日の比じゃないよ)

さやか(今日だけでもこんななのに、二人が付き合うことになったら…)


さやかは仁美の後押しをしながら、恭介への恋愛感情を全く抑えられずにいた。
今も告白の結果が気が気でなく、下校する生徒達の中から二人を探してしまう。


さやか(忘れろ…私は魔法少女…私は正義の味方…)


心の中での呟きを続ける内、ある人物の姿が目に止まる。
それは黒髪をなびかせて歩く、暁美ほむらだった。


さやか(あいつ…)


ほむらはさやかの方を一度も見ることなく、校門を出て行く。
教室では一切関わらないよう避けていた彼女を、さやかはいつの間にか目で追い、睨みつけていた。

その後ろ姿が見えなくなった時、対抗心からか、少しだけ気が紛れていることに気付く。


さやか(…感謝するよ。あんたのお陰で、ほんの少し楽だわ)

さやか(恋愛してる暇があるなら、誰よりも強くならなきゃね。
    あんたの言ったこと全部否定できるくらい、意味のある魔法少女になってやる)

さやか(この街の平和を守るために…)

さやか「…あはっ」


さやかの口元から、軽い笑いが洩れた。



しばらく経って、さやかの元にマミが近づいてきた。


マミ「美樹さん、待ったかしら?」

さやか「そうでもないっすよ。早く行きましょう、マミさん」

マミ「そうね、ゼロさんももう待ってるかもしれないし」


合流した二人は、共にマミのマンションへと向かう。
歩きながら、マミは普段よりも真剣な口調でさやかに声を掛けた。


マミ「美樹さん」

さやか「はい?」

マミ「もし魔女が見つかったとしても、絶対に昨日みたいな戦い方をしては駄目よ。
   ゼロさんも、貴方のことをきっと心配する」

さやか「うん」

マミ「いざという時は、私達が貴方を助けるから。だから無茶だけはしないでね」

さやか「わかりました」


さやかの応答を、どこか素っ気無く感じるマミ。
昨日から思い悩んでいると知っているだけに、それを指摘することはできなかった。


さやか(ゼロさん、ねぇ…)


さやかの表情が曇る。



やがてマンションに辿り着いた二人。
入り口の前には、腕を組んで立つゼロの姿があった。


ゼロ人間体「お、やっと学校終わったか!」

マミ「お待たせ。ゼロさんは準備できてる?」

ゼロ人間体「任せな、いつでもオッケーだぜ!」


マミと会話するゼロの横顔を、さやかはただ眺める。


さやか(違う)

さやか(思い違いもいいとこだったね、仁美)


昨日、仁美に指摘されたことから、さやかはゼロに対して、
自覚がないままに恋愛感情を抱いているのではないかと考えていた。

しかしゼロを見ても、恭介のような感覚に陥ることはない。
その上、今までになかった別の感情が湧き上がってくる。


マミ「美樹さん、私の部屋に荷物を置いていきましょう」

さやか「あっ、はい」


無表情でゼロを見つめていたさやかに、マミが声を掛けた。
気付いたさやかは、彼女の元に駆け寄る。


ゼロ人間体「じゃ、俺はここで待ってるぜ」

マミ「ごめんなさい、すぐ戻るから!」


ゼロを一旦その場に残し、二人は共にマンションの中へと入っていった。



準備を整ったマミとさやかを交え、ゼロは見滝原市が載った一枚の地図を広げる。

彼が想定していたルートは、キュゥべえが予測を立てた区域と同じ、
朝から現在にかけて探索を行っていない場所だった。


ゼロ人間体「これが今回のルートだ。晩メシもあることだし、六時半を過ぎたらフィナーレだな!」

マミ「えっ、『フィナーレ』?」


心当たりのある単語に、思わずマミが反応する。


ゼロ人間体「いや、前にノリノリで技名叫んでたろ?あれ聞いて、俺も言ってみたくなったんだよ」

ゼロ人間体「必殺技の決め台詞に『ゼロ・フィナーレェェッ!!』ってな!」


ゼロは声を上げながら人差し指を伸ばし、手で銃の真似をする。
それを見かけた通行人が、クスクスと笑っている。


マミ(私の魔法、人にはこんな風に映ってたのかしら?なんだか恥ずかしいわね…)


マミは他人事ではないと感じながら、苦笑いを返していた。


ゼロ人間体「それと、最後に渡してから結構経ってたな。これは追加だ」


ゼロは数個のグリーフシードを取り出し、二人に手渡した。
それは獲物に出会えない魔法少女のため、ゼロとほむらで決めた措置。


マミ「ありがとう。ほとんど美樹さんとの訓練だったから、大きな消費はなかったけどね」


さやかはゼロの過剰な魔女退治について、マミから話には聞いていた。
受け取ったグリーフシードを見つめ、ある言葉が脳裏に蘇る。


『貴方は何もせず、彼に全て任せていればいい』

さやか(守られて、与えられるだけ?私は守る側なんだよ?)


さやかはグリーフシードを直し、目線を戻す。


ゼロ人間体「さぁ、そろそろ行こうぜ!」


気合を入れて、行き先を指差すゼロ。
魔法少女二人を交えた、いつもと違う魔女探しが幕を開けた。



開始から数十分が経過した、とある路地。

魔女探しの最中でありながら、ゼロは何もせずに先へと進んでいく。
ソウルジェムを使って探知する魔法少女との違いが気になり、マミはゼロに尋ねた。


マミ「ちょっといいかしら?」

ゼロ人間体「ん、俺か?」

マミ「病院の時から気になってたの。ゼロさんは一体、どんな方法で魔女探しを?」

ゼロ人間体「そうだな…俺は魔女や使い魔から滲み出てる呪いを、体で感じ取って探してるんだ」


この世界で表現される『呪い』は、ゼロが知る『マイナスエネルギー』とほぼ同質といえるもの。
ゼロは二人に伝わり易くするため、敢えてその表現を避けた。


マミ「つまり、ゼロさんは道具が必要ないのね」

ゼロ人間体「ああ。魔女に魅入られた人間がいれば、口付けから反応を追うこともできるぜ」

ゼロ人間体「どっちにせよ、一度反応が掴めれば後は走るだけだ。
      結界の迷路にだって、迷うことはねぇからな」


ゼロの探索手段を知り、マミは納得を示す。
すると、口数の少なかったさやかがふと言葉を洩らした。


さやか「ふぅん…私達が苦労して魔女探してるのとはワケが違うんだね」


一瞬、三人の間に流れる空気が固まる。


マミ「美樹さん?」

さやか「あ、ごめん…すごくカンジ悪い言い方になってたっすよね」

ゼロ人間体「いや、別にいいさ。俺は気にしてないからよ!」


その一言に含まれた棘に、ゼロもマミも気付いていた。
無意識の発言であったが、さやかはすぐに謝罪を入れる。


さやか(駄目だ私、何でゼロさんに当たってんの…)


さやかは頭を押さえながら反省する。
これを機に、三人の口数は次第に少なくなっていった。




開始から約二時間。魔女の反応を全く掴めないまま、陽は暮れ始める。

無言で先を進み続けていた時、ゼロは超能力でマミにテレパシーを送った。


ゼロ人間体(なあ、マミ)

マミ「えっ?」


突然の声に少し驚くマミであったが、すぐに念話で返事を返す。


マミ(ごめんなさい、何かしら?)

ゼロ人間体(いや、お礼を言っておこうと思ってな)

マミ(お礼?)

ゼロ人間体(まぁ結果的にはバレちまったんだが…
      俺とほむらの事、今まで誰にも言わないでいてくれたんだろ?)

マミ(その事ね。確かに、キュゥべえにも美樹さんにも伝えていないわ)

ゼロ人間体(俺を信じてくれて、ありがとな)


以前から二人の繋がりを疑っていたキュゥべえが、確信に至ったのは昨晩のこと。
それまで、マミは二人の関係について口を閉ざしていた。


マミ(でもね、ゼロさん)

ゼロ人間体(ん?)

マミ(本当は全部キュゥべえに相談してしまおうかと考えてたの)

ゼロ人間体(相談…っておい、何でだよ!)


ゼロは驚きが表面に現われないよう、注意しながら先を進む。


マミ(彼女が美樹さんに何を言ったか、貴方は知ってる?)

ゼロ人間体(あいつが、さやかに?)

マミ(美樹さんが動けば、事態が悪い方向に向かうって。
   それ以上は聞けなかったけど、まだ他に何かを言われているみたい)

ゼロ人間体(さやかの様子がおかしいのは、ほむらが原因だったのか…?)

マミ(私の中で、貴方への信頼が深まるほどに、暁美ほむらへの不信が強くなってる。
   彼女との関係、もう一度考え直す気はない?)

ゼロ人間体(考え直すって、俺はあいつを…)


『お菓子の魔女』戦後の段階では、ほむらが信頼に値すると言い切れていたゼロ。
しかしその後の密会を経て、マミの「普通じゃない」という言葉が、彼の中で現実味を帯び始めていた。



ゼロの中で様々な思いが渦巻き、一旦テレパシーを打ち切った。
返事が途絶え、マミはゼロを横目で見る。その姿は、黙々と歩くだけのいつもの彼。


ゼロ人間体(確かに俺にもわからねぇ。ほむらの考えてることが)

ゼロ人間体(でも、あいつは大切な人を守りたくて、余裕がないだけなんだ。
      あの日届いた悲痛な声が、その証拠だ)

ゼロ人間体(…待てよ?本人は何も答えてはくれないが、あの声は本当にほむらだったんだよな?)

ゼロ人間体(大体、何故あの声は俺に聞こえたんだ?しかも、俺が跡を辿れるような反応を残してまで…)


思考が別の疑問へとすり替わった時、ゼロが漏れ出るマイナスエネルギーを察知し、足を止めた。
ゼロが見つめる先には、建設中の工事現場がある。


マミ「魔女、見つかったのね?」

ゼロ人間体「ああ。どうやら、この先で結界を張ってるようだ」

マミ「早速行きましょう。魔女を取り逃がさない内に」

ゼロ人間体「でも待ってくれ。この反応、さやかにはまだ…」


ゼロが感じ取った魔女の強さは、恐らくさやかの力量以上。
さやかを戦わせるべきか心配するゼロに、本人は若干苛ついた様子で割って入った。


さやか「私はやりますよ。どんな相手でも諦めずに戦うのが、正義の味方だからね」

ゼロ人間体「それでもな…」

さやか「いいじゃないっすか。今日は私の経験を補うための集まりなんですから」

マミ「私も、今回は美樹さんに任せたい。万が一に備えて、私達はサポートに徹しましょう」

ゼロ人間体「…わかったよ。でも、危なくなったらすぐ言うんだぞ!」

さやか「うん」


二人に根負けする形で、ゼロは戦いを了承する。
その僅かなやり取りの中で、さやかに再び暗い感情が湧きあがる。


さやか(…上から目線かよ)



ゼロが先導して反応を追っていくと、並んだコンテナの近くに結界への入り口があった。


ゼロ人間体「病院の時ほどじゃねえが、こいつも間違いなく強敵だ。
      使い魔を地道に倒しながら、油断せず行こうぜ!」

さやか(一人でもやってみせる。これは、平和を守るための大事な一歩なんだ)


さやかは意気込みながら、指輪をソウルジェムに戻す。
三人が結界に踏み込もうとした時、何者かの念話が伝わってきた。


杏子(…ホントに来てやんの)

ゼロ人間体「この声、まさか!?」


すぐさまゼロとマミが振り向き、見上げると、ビルの鉄筋の上に杏子が座っていた。


マミ「佐倉さん!」

ゼロ人間体「杏子…」


杏子を見るマミの中では、数日前に起きたさやかとの戦いが、
ゼロの中には、マミから聞いた彼女の過去が蘇る。


ゼロ人間体「杏子、降りてきてくれ。今度は武器じゃなくて、言葉を交わしたいんだ」

杏子「ご指名どーも。でもアタシが話したいのは美樹さやかの方。アンタらじゃない」

さやか「一人で喋ってなよ」


さやかは杏子を一切振り向くことなく、魔法少女の姿に変身する。
そのままゼロとマミを残し、一人で結界の中へと飛び込んでいった。


ゼロ人間体「おい、勝手に!」

杏子「チッ…」


後を追いたいゼロであったが、杏子のことも放っておけず躊躇してしまう。
そんな彼に、マミは結界を指さして後押しする。


マミ「行ってゼロさん、美樹さんをお願い!」

ゼロ人間体「いいのか、マミ?」

マミ「今は佐倉さんのこと、私に任せてほしいの。
   それより、あの子の気持ちが先走って危ない戦い方を始めたら、すぐに止めてあげて!」

ゼロ人間体「危ない戦い方?よくわからないけど任せな!
      この俺がいるからには、何が何でも守り抜いてみせるぜ!」


ゼロはイージスからウルトラゼロアイを取り出すと、続いて結界の内部へと飛び込んで行く。
残ったマミと杏子は、しばらく無言でお互いを見つめ合っていた。



「この魔女の性質はおそらく『独善』。倒したければ、黒色の苦痛を知らなくてはなりません」

「あの少女は、立ち向かうに足る苦痛を既に手に入れています」

「でも貴方の方はどうなんでしょうねぇ、ゼ~ロぉ~?」





【影の魔女 その3】



只一人、薄暗い結界の最深部へと到達したさやか。
彼女の眼前には、崖のような一本道と太陽を模した塔があった。

塔の下を見ると、黒い少女の姿をした『影の魔女』が、祈るように座り込んでいる。


さやか(あいつだね、魔女は)


さやかは無言で剣を握り締めると、全速力で魔女へと向かっていく。
すると魔女の背中から、無数の影が触手のように伸び、さやかに襲いかかってきた。


さやか(二人が来る前に、切り刻んでやる!!)


さやかは迫る影を素早く切り払うが、新たな影は次々と伸びてくる。
俊足を活かして攻撃を避け、魔法を足場に空中を蹴って進む。

しかし、あらゆる方位から迫りくる攻撃で、魔女に近づくことすらままならない。

やがて複数の顔を持つ『影』の使い魔が現れ、牙を剥いてさやかの足首に噛み付く。
動きが止まった一瞬、使い魔の顔が次々とさやかに喰らい付き、その体を捕えた。


さやか「くっ…」


動けないさやかに、魔女から伸びた影が纏わりつき、樹の形となって彼女を内部に閉じ込める。
直後、二本のゼロスラッガーが、緑の軌道を描きながら樹の周囲を飛び交った。


ゼロ「シェアアァーーーッ!!」


響いてきたゼロの声とともに樹は切り刻まれ、中のさやかを開放する。
遅れて飛んできたゼロの両手に、スラッガーが戻っていく。


ゼロ「待たせたな、さやか!あんまり考えなしに突っ込むなよ!」

さやか「ゼロさん?」


駆け付けたゼロに対し、さやかが発したのはその一言のみ。
ゼロは見ていなかったが、その目つきは彼女の本音をわかりやすく表していた。

「余計な事を」と。



魔女と使い魔の影は、さやかだけでなくゼロにも襲い掛かった。
ゼロは手にしたスラッガーを振り回し、絶えず伸びる影を切り刻む。


ゼロ(俺はいいとしても、さやかの消耗が続くのはマズいな…)


ゼロは全ての影を薙ぎ払った直後、スラッガーを頭部に戻す。
続いて腕を横に伸ばし、速度に優れるエメリウムスラッシュの発射動作に入った。


ゼロ「だったら本体を―――ってまたかよ!?」


その隙をつき、新たな影が迫る。
ゼロはやむなく光線を中断すると、再度スラッガーを手にして応戦する。


ゼロ「光線がムリなら、これでどうだ!!」


影の攻撃を避けながら、二本のスラッガーを合体させ、ゼロツインソードを形成する。
その場で回転して周囲の影を切り払うと、続けざまにツインソードから緑色に光る斬撃を飛ばした。

すると魔女を守るかのごとく、軌道上に使い魔達が集まってくる。

使い魔は迫り来る斬撃に次々と頭をぶつけ始め、自らの死で威力を弱めていく。
瞬く間に使い魔は減り、最後の一匹が消滅したとき、飛ばした斬撃は消えてなくなっていた。


ゼロ「こいつら、芸人並みに体張りやがるぜ…一体どう仕留めるか」

さやか「別に私一人でやれますから」

ゼロ「おい待て!突っ込むなって言っただろ!」


ゼロの攻撃に巻き込まれないよう注意しながら、使い魔と戦っていたさやか。
彼の手が止まったのを見るや、自分の番とばかりにクラウチングスタートで魔女に突撃を仕掛ける。



ゼロ(今回は経験どころじゃねぇ…あの魔女、さやかとは相性が悪すぎる)

ゼロ(ここは、やっぱり俺が!!)


さやかが正面から魔女に向かったため、この直線上で必殺技は使えない。
飛行能力で塔の裏に回ろうと考えていた時、ゼロは大きく地面を踏みつけた。


ゼロ「しつけぇんだよ!」


足の下には、使い魔が密かに伸ばしていた触手がある。
すると、元々不定形である影は一気に形を変え、ゼロの足に巻き付き始めた。


ゼロ「なっ…これを狙ってやがったのか!?」


更に様子を窺っていた数体の使い魔が、一斉に顔を伸ばす。
先程のさやかと同じようにゼロへ噛み付き、瞬く間に押さえ込んでしまった。


ゼロ「こっの!放しやがれぇっ!!」


影の拘束から抜け出せず、ゼロは声を上げて抵抗する。
後ろで何かが起きていることに気付き、さやかも振り返った。


ゼロ「さやか?」

さやか「………」


一瞬目が合う二人だったが、さやかは何も言わず、助けに戻ることなく背を向けた。
その様子を見ていたゼロは、思わず叫ぶ。


ゼロ「さやか!避けろぉぉーーっ!!」


魔女へ向き直ったさやかの前には、数十本もの影が迫っていた。




時は少し遡り、ゼロが結界に入った直後に戻る。
マミと杏子は向き合い、公園での再会以来となる言葉を交わしていた。


マミ「こうして話すのって、久しぶりね」

杏子「この前は現れていきなり寝込んじまったもんな、アンタ」

マミ「でも目覚めは良かったわよ。ゼロさんのおかげで」

杏子「もう完全にゼロの奴がナイト様状態じゃん。一体どうやってたらし込んだのさ?」

マミ「平和を守りたいって思いが一致してるだけのことよ。
   それにあの人は、別の世界から来た宇宙人だったの。人間の色目なんかに惑わされたりはしないわ」

杏子「そーかい。お堅いねぇ、正義の味方ってやつはさ」


杏子は『お菓子の魔女』戦後の会話を盗み聞きしたことで、ゼロの正体を知った。
だが、マミは彼女があの場にいたことを知らない。

しばらく中身のないやり取りが続いた後、マミは本題に入る。


マミ「それより佐倉さん、これ以上美樹さんを目の敵にするの、やめてもらえないかしら?」

杏子「ハッ!それの何が悪いのさ?」

杏子「向こうもウダウダ説明するより、体で理解した方が早いでしょ。
   魔法少女の競争がどんなものかをね!」

マミ「確かに…言葉を並べるより行動で示すのが貴方よね」

杏子「その通り。だから魔法は自分のためだけに使うし、目障りな奴は即ブッ潰す。
   続けられないコンビならすぐに解しょ…」


マミが急に寂しげな表情を見せ、杏子はそれ以上続けるのを躊躇ってしまう。


マミ「佐倉さん…貴方が美樹さんにこだわるのは、やっぱり昔の自分をあの子に重ねてるから?」

マミ「それに本当は、感情的に動きすぎて自分でも収拾がつかなくなってるんじゃない?」


どちらも図星だった。
杏子はそれを悟られまいと、口を噤む。



マミ「でも、これだけは理解してあげて。あの子は、病院の人たちを助けたい一心だった。
   それに契約の内容だって、選んでいる余裕がなかった事を」

マミ「それと、貴方が引きずらないよう、これだけはハッキリさせておくわ。
   ……私、この間のことは気にしてないから」

杏子「は?」

マミ「貴方の魔法に巻き込まれたこと、何一つ気にしてないって言ったのよ」


その言葉を聞き、杏子の様子が変わる。
本人は平静を維持したかったが、余裕が消えていることはマミから見ても明らかだった。


杏子「何でアンタから離れたのか、まるでわかっちゃいないんだな…
   どうして平然としてられんのさ!ワケわかんないっての!!」

杏子「そうだよ!否定なんてしねーよ!誰かのために祈って、正義の味方目指して、アンタの世話んなって…
   あの女、まるで昔のアタシじゃん。それがムカつくってんだ!!」

マミ「きっとそう感じるはずよね…でも勘違いしないで、佐倉さん」

杏子「勘違い…何がさ」

マミ「私のことは構わない。でも美樹さんのことは、本人にしっかり謝りなさい!」


マミの口調が僅かに強くなり、杏子も思わずたじろぐ。


マミ「謝って、しっかり互いを理解し合って。そしたら皆で一緒に『ワルプルギスの夜』と戦いましょう?」

マミ「私たちに美樹さん、それにゼロさんも加えた四人でね」

杏子「それアタシが持ちかけた話だろ…何主導権握ってやがんだ…」


マミを直視できずに目を逸らした時、杏子の視界に結界が映る。
それを見た杏子は魔法少女に変身し、鉄筋から飛び降りる。


杏子「あのバカども…!!」

マミ「佐倉さ―――まさか!?」


杏子はマミを横切って結界に飛び込んでいく。
只ならぬ様子であることにマミも気付き、杏子の後を追い掛けた。




結界の中では、『影の魔女』を相手に二人の苦戦は続いていた。
迫る十数本もの影に対し、さやかは一切の回避行動を取らず、一直線に魔女へと向かっていく。


ゼロ「バカ!避けろって言ってるのが聞こえねぇのか!!」


さやかは夢中で剣を振り回すが、全ての影を捌くことは不可能だった。
魔女に剣を突き立てようと空中へ飛び上がった瞬間、数十連もの影の突きが撃ち込まれる。


ゼロ「さやかぁぁーーーっ!!」


直撃したさやかの体は、血を流しながら地面に落ちた。
しかし、倒れたさやかの周囲に魔法陣が展開し、その傷を瞬く間に癒やしていく。


さやか「あはは!どっちが先に力尽きるか、勝負だね!」

ゼロ(待てよ)


完治すると同時にさやかは飛び起き、再び魔女へ向かっていく。
痛覚を遮断して影の猛攻を受け止め、再び傷を作りながら魔女への距離を詰める。


さやか「あはは!あっははははっ!!」

ゼロ(ちょっと待て…何て戦い方してるんだ、あいつは)

ゼロ(そんなに傷ついて、痛みさえ忘れて、何で笑ってんだよ!?)


さやかは傷ついては回復を何度も繰り返し、魔女から退く様子は全くない。
マミが言っていた『危険な戦い方』の意味を理解し、ゼロは唖然としていた。

さやかはマントを翻すと、中から複数の剣を飛ばし、張り巡らされた影を裂く。
道を開くことに成功したさやかは、ついに魔女の目前に到達する。


さやか「あっはっはっは!これで、終わりだぁぁっ!!」


とどめを刺そうと剣を振り上げた時、無理が祟ったのか、その体がふらつく。



さやか(あれ?)


膝をつくとともに、視界が霞んで見える。
顔を上げたその一瞬、さやかには魔女の後ろ姿が別のものに映っていた。


さやか(何で、こんなところに仁美が?)


それは、親友の一人であり、恋敵となった志筑仁美の後ろ姿。
さやかが一度瞬きすると、その姿は真っ黒な『影の魔女』に戻っていた。


さやか「いや、違―――!!」


影の一撃がさやかを突き飛ばす。
倒れ込んだ彼女を狙い、魔女の触手が一斉に襲い掛かる。


さやか(何なのよ、何で仁美が…)

さやか(もしかして私、心のどこかで仁美を殺したいとでも思ってたの?)

さやか(私、二人がくっ付いても守るって誓ったじゃん!)

さやか(そうだよ…私が全部守らなきゃ!私が…!!)


疲労と消耗が見せた幻が、さやかの心を惑わす。
攻撃が迫っているにもかかわらず、さやかは手元から離れた剣を握れずにいた。


ゼロ「そうだ、もう気ィ遣ってる余裕なんてねえ!!」


彼女を救うため、ゼロもある決断を下していた。
さやかが迫りくる影に気付いた時、突如として轟音が響き渡る。



さやかを狙っていた影は、一斉に方向を変えて轟音の元へ向かっていく。

振り向くと、押さえ込まれていたゼロの体は10メートル近くにまでに巨大化している。
だが影の拘束は強力で、ゼロはそこから抜け出せてはいなかった。


さやか(この魔女は、私が…)


魔女にとどめを刺す絶好のチャンスであったにも関わらず、
さやかはその場にへたり込み、動くことができなかった。


ゼロ「まだ足りねぇか…なら見せてやるぜ!!」


ゼロは影に拘束されたまま、結界の真下へと飛び降りてしまった。
直後、先程を遥かに上回る轟音が結界中に響き渡る。

やがて、さやかの真横から更なる巨大化を果たしたゼロの顔が出現した。


さやか「ひっ!?」


『影の魔女』の姿は、ゼロが作り出す巨大な影に覆い尽くされる。
今のゼロの姿は、種族として本来の大きさである49メートル。

ゼロはここで初めて、自分たちが巨大な石像の腕に乗って戦っていたと知るが、
それは今の彼にはどうでもよい事だった。


ゼロ「さやか、すぐその場から離れろ!!」


さやかの反応はなく、ただゼロの姿を見上げているだけ。
それを見たゼロは手の先から眩い光を放ち、さやかの体を包み込んで移動させる。

その間、彼女の中ではある記憶が蘇っていた。


『さやか、少しどいてろ!』


数日前、マミを救おうとした治癒魔法を、ゼロに遮られた出来事が。



ゼロは巨大な拳を構えると、魔女目掛けて一気に振り下ろす。
迫り来る拳を食い止めるべく、魔女の影と使い魔の影全てが絡み合い、巨大な樹を作り上げた。


ゼロ「うおおおおぉーーーーっ!!」


影の大樹がゼロの拳を受け止める。
だが魔女の全力を以ってしても、その勢いを殺すことは不可能だった。


ゼロ「デェアァッ!!」


ゼロの拳が直撃し、魔女は塔もろとも叩き潰されてしまった。

地震のような衝撃が巻き起こり、石像の手首から先は崩れ落ちていく。
結界の最深部へ急いでいた杏子とマミにも、その衝撃は伝わっていた。


杏子「何だよ、何が起こってんだよ!」

マミ「美樹さん、ゼロさん…無事でいて!」


迷路を抜けて、二人の元へ到着した杏子とマミ。
彼女達の前には、額と目、そして胸のカラータイマーを怪しく光らせる巨人のシルエットと、
傷だらけのまま座り込むさやかの姿があった。


杏子「マジかよ…」

マミ「これが、本当の『ウルトラマン』…」


杏子は、初めて目にする巨大なゼロを唖然としながら見上げる。
マミもまた、以前見た25メートルを上回るゼロ本来の姿に、ただ圧倒されていた。

そしてさやかは、崩れ落ちた正面の道を眺め、
心の中でせき止めていた何かが溢れ出るのを感じていた。


【影の魔女 その4】



魔女が死んだことで、結界の空はひび割れ、崩壊を始める。
ゼロは今の大きさで外界に出るわけにはいかず、人間大まで縮小した。

結界が完全に消滅し、周囲は夜の建設現場へと景色を変えていく。
すると四人の元に、一連の戦いを見物していたキュゥべえが歩み寄ってきた。


QB「なるほどね、ウルトラマンゼロ」

ゼロ「あぁ?なんだ、テメェも来てたのかよ」

QB「君がその戦い方を続ける理由、エネルギー消耗を抑える目的だけではなかったんだね」

ゼロ「こいつ…」


また一つ秘密を暴かれたと知り、ゼロは不機嫌そうにキュゥべえを睨む。
そのやり取りを耳にし、杏子は尋ねた。


杏子「キュゥべえ、その戦い方ってどういう事よ?」

QB「君達が結界の中で目にした通りさ。今まで彼は、全く本気を出して戦っていない」

杏子「本気じゃないって、十分強ぇのにまだ…」

マミ「待って!病院に現れた魔女は強敵で、私達は力を合わせて戦ったわ」

QB「確かに君たち魔法少女から見て、強力な魔女だったのは間違いないね。
   でも、ウルトラマンの力なら余裕で倒せたはずだよ」

マミ「余裕で…?」


ウルトラマンの力が魔法少女を上回っていることは、マミも杏子も既に受け入れている事実。
だが想像を超えた戦力差に、マミが抱いていた「肩を並べて戦う仲間」という意識は大きく揺らぎ始める。



QB「彼はね、一つの宇宙を滅ぼせるほどの敵と戦い続けてきた、正真正銘の正義の味方なんだ。
   『ワルプルギスの夜』以外に、まともに戦える魔女がいるとは到底思えないね」

QB「しかも、彼の腕輪は僕の想像を超えた力を宿している。
   その力を全て解放した彼が一体どれほどの強さを持つのか、本当に興味深いよ」


関心をウルティメイトイージスにも向けられていると知ってなお、ゼロは話に口を挟めずにいる。
それほどに気まずい空気が、今この場に漂っていた。

その時、地面に突き刺さる剣の音が沈黙を破る。
キュゥべえを含めた全員がその方向を向くと、傷を治し終えたさやかが佇んでいた。


マミ「美紀さん、無理しては駄目よ。まだ動かないほうがいいわ」


マミはさやかに近付き、両肩に手を置いて彼女を気遣う。
しかし、さやかはその手をそっと取り、肩から下ろした。


さやか「あーあ、拍子抜けだわ」

さやか「意気込んで戦ってたのがバカみたい。最初からあいつの言ってた通りにすれば良かったんだね」

ゼロ「バカなもんか…今日の魔女はお前と相性が悪かったんだ。また次がある!」


「あいつ」が誰を指すのかが引っかかりながらも、ゼロは態度を和らげて接する。
さやかはゼロに顔を向けるが、その目に輝きはない。


さやか「もういいよ。ゼロさん一人で全部やっちゃえば?
    化け物みたいにでっかくなって、魔女叩き潰せばお仕舞いなんだし」

マミ「何を言ってるの…」


さやかが洩らした言葉は、鋭いナイフとなってゼロの心を突き刺した。



ゼロ「俺が……化け物?」

さやか「その通りじゃないっすか。パワーにスピード、それに回復…
    私の長所なんて、ぜーんぶゼロさんの下位互換」

さやか「しかもその腕輪、主人公だけが貰えるパワーアップアイテムみたいなもんでしょ?
    もう色々と化け物じみてて、全ッ然追いつける気しないんだわ」

ゼロ「待ってくれ…俺は…」


マミは双方に気を遣いつつも、さやかを静止しようと割って入る。


マミ「言い過ぎよ、美樹さん。知っての通りゼロさんと私達では事情が違うの。
   劣等感を感じる必要なんて全くないのよ」

マミ「それに貴方がこうして魔法少女になったから、願いは叶えられた。
   大切な人を、絶望から救えたじゃない」

さやか「…ぶっちゃけ恭介の怪我ってさぁ、ゼロさんが回復すれば何とかできましたよね」

さやか「私の願いって、人生懸ける意味ありました?
    もっと他に何かあったんじゃないのって思うわけですよ。金銀財宝とか、不老不死とか―――」

マミ「それは…」


自らの願いさえ否定する姿は、更なるショックをゼロに与えた。
それはまるで、心に突き刺されたナイフをぐりぐりと抉られるかのような苦痛だった。

大きく動揺するゼロに助け舟を出したのは、キュゥべえだった。


QB「さやか、これをごらん」


キュゥべえが座る場所に目を向けると、足元には粉々に砕けたグリーフシードが散乱している。
それは『影の魔女』が孕んでいた卵が、本体もろともゼロに叩き潰された結果だった。


QB「グリーフシードは、君たち魔法少女の命を繋ぐ貴重品だ。無駄にはできない」

QB「でもウルトラマンゼロ、君が全力で戦えばグリーフシードを無傷で回収できる保証がない。
   力を抑えて人間大で戦うのは、それが理由だね?」

ゼロ「ああ…そうだよ」


ゼロは胸を押さえながら、普段よりも小さな声で答えた。


QB「わかるかい、さやか」

QB「彼は何も君達を見下してなんかいない。敢えて自らリスクを負っているんだよ。
   この街の人々だけでなく、魔法少女も守るためにね」


俯いたさやかは、左右の手のひらを思い切り両頬に叩きつける。
自制を利かせようと、さやかは自分なりに戦っていた。



さやか「…ごめんゼロさん」


やがて顔を上げたさやかは、涙目になりながらゼロを見る。


さやか「今の私、都合の悪いこと全部ゼロさんのせいになってしまってるんだ…」

さやか「もう、これ以上私と関わらないほうがいいよ。
    でないと私、もっとゼロさんのこと傷付けちゃうよ…」

ゼロ「…さやかっ!」


ゼロへの謝罪を口にすると、さやかは魔法少女の姿のまま走り去ってしまう。
追いかけなければならないと理解していながら、ゼロはすぐにその場を動くことが出来なかった。


QB「それでは、僕が彼女の様子を見てくるとしよう」

ゼロ「待てよ」

QB「きゅっぷ…!」


ゼロはキュゥべえが反応できないほどの速さで、その首を掴み上げる。
マミは思わず止めに入ろうとするが、穏やかではないゼロの様子がそれを躊躇わせた。


ゼロ「テメェ…さやかに何かしやがったのか?」

QB「何を言ってるんだい?僕はさやかが契約して以降、彼女に殆ど関与していないよ」

ゼロ「…んだと?」

QB「彼女に生じた歪み、そのきっかけとなった人物は複数いる。
   そして、その一人はウルトラマンゼロ、君自身じゃないか」


ゼロの手から一気に力が抜け、ウルトラマンの姿から人間体へと戻っていく。
キュゥべえは体をくねらせ、ゼロの手から抜け出した。


ゼロ人間体「俺がいたから…さやかは傷付いたのか?」

QB「否定はできないね」


ゼロを更に大きな虚脱感が襲う。
冷や汗を垂らしながらその様子を見ていた杏子に、キュゥべえからの念話が響く。


QB(そして杏子、この事態を招いた一番の原因は君にある。それを忘れないでね)

杏子「…畜生ッ!!」


居ても立ってもいられず、杏子もどこかに走り去ってしまう。
そして残されたマミは、キュゥべえと肩を落とすゼロを前に戸惑い続けていた。


【影の魔女 その5】



『さやかは俺が必ず連れ戻す。だから先に家に帰るんだ』

『後のことは、どうか俺に任せてくれ』


マミにそう言い残し、ゼロは市街へと向かっていった。
同じようにキュゥべえもどこかへ去り、マミは一人マンションへと帰宅する。

部屋の電気をつけると、リビングには自分とさやかの鞄が置かれている。


マミ(美樹さんのご家族、心配するかしら?)

マミ(私の家に泊めるって、連絡しておかないとね)


美樹家への電話を終えてキッチンへ向かうと、テーブルの上には手付かずのデザート材料が残っていた。
黙々とそれを片付け、続いてコンロに目を向ける。

目線の先にあるのは、夕食のメインとなるはずだった手作りカレーの鍋。
マミは鍋を火にかけようと手を伸ばすが、途中でその手を戻した。


マミ「食欲、湧かないや」


結局夕食を取ることなく、マミはリビングへと引き返す。


マミ「どうしてこうなっちゃうかなぁ…」


体と心の疲れが一気に押し寄せ、制服を着替えることすら億劫に感じる。
マミは寂しげな表情を隠すように、うつ伏せでベッドに倒れ込んだ。




午前一時を過ぎた見滝原市。
さやかは月明かりの差し込む暗い部屋で一人、膝を抱える。

自分自身を見つめ直すべく選んだのは、『薔薇園の魔女』が潜んでいた廃ビルの一室。
さやかにとって「全ての始まり」といえる場所だった。


さやか(私って最低だ…あの二人ならまだしも、
    親友の仁美や関係ないゼロさんまで憎んじゃってる)

さやか(それにこの感情、全然消えてくれない…)


自覚してもなお拭い去れないマイナスの感情は、彼女を完全に自己嫌悪に陥らせていた。


さやか(マミさんだったら、笑顔で全部受け止めてくれるんだろうな…
    でも、こんな私あの人には見せられない)


心中を誰かに吐き出したい衝動に駆られるが、
「正義の味方」を全うするマミの存在が、手の届かないもののように思えてしまう。

代わりに浮かび上がったのは、魔法とは無縁の世界で自分を支えてくれる人達の姿。


さやか(パパやママは、こんな夢みたいな話でも信じてくれるかな…)

さやか(そうだ…きっとまどかなら、全部信じて慰めてくれるよね)


親友ならば安心して打ち明けられる。
そんな期待を抱いた時、思い出したのはほむらの残した言葉だった。


『間違っても、親しい人達に救いを求めようなんて思わないで』


さやか(いや…あいつの言うとおり、無関係なみんなを巻き込んじゃダメだ。
    これは私が向き合わきゃいけない問題なんだ)

さやか「でも、抱え切れないよ…」


さやかの目から何度目ともわからない涙が零れる。
彼女の後ろで、キュゥべえはその様子を無言で眺めていた。



QB「ようやく見つけられたようだね」


キュゥべえは何かに気づき、さやかとは別方向を振り返る。
すぐに視線を戻すと、さやかに近づいて声を掛けた。


QB「今の自分に絶望しているのかい?」

さやか「キュゥべえ…その通りよ」


さやかはキュゥべえを見ることなく、俯いたまま言葉を返す。


さやか「そうだ…ずっと聞けず仕舞いだったから教えてよ。
    魔法少女の強さってさ、才能の違いとかあったりするの?」

QB「確かにそれは事実だね」

さやか「やっぱりね。無能なくせして、無理して首突っ込むからこうなるんだ…
    ゼロさんだって、最初会った時から忠告してくれてたのに」

QB「心配しなくても君は有能さ」

さやか「私が?」

QB「そうとも。実に有能で、効率のいい卵だったよ」

QB「まさか契約から一週間でこの段階まで来てくれるとはね。
   さやか、君はとても素晴らしい感受性の持ち主だ」

さやか「卵って…何の話よ?」


キュゥべえの言葉の意味が理解できず、さやかは振り返って説明を求める。
すると、それを遮るかのように気迫のない男の声が聞こえた。


ゼロ人間体「さやか、そいつの話に耳を傾けるな」

さやか「!?」


部屋の入口に、人間体のゼロが姿を現した。



さやか「どうしてここが…」

ゼロ人間体「言ったよな、俺は『呪い』を感覚で追いかけてるって。
      さやか、自分のソウルジェムをよく見てみるんだ」


さやかはソウルジェムを取り出し、目を向ける。

彼女はゼロから貰ったグリーフシードに触れようともしなかったため、
ソウルジェムは穢れを溜め込み、怪しい輝きを放っていた。


ゼロ人間体「傷ついたお前の心が、呪いを生み出して消耗を速めてるんだ」

さやか「私が、呪いを…」

ゼロ人間体「それに、さっきの戦いで魔力を使い過ぎてる。さぁ、早くソウルジェムを浄化しよう」


ゼロはポケットから取り出したグリーフシードを持って、さやかに近づく。
ソウルジェムの穢れを吸わせようと、手を伸ばした時だった。


さやか「言ったじゃないっすか。もう関わらない方がいいって…」


さやかは手に持ったソウルジェムを使い、魔法少女に変身する。
変身と同時に振るわれた剣は、ゼロのグリーフシードを瞬時に真っ二つにしていた。


ゼロ人間体「な…!?」


唖然とするゼロの手から、二等分となったグリーフシードが落ちる。

それを見たキュゥべえが、躊躇いもなく二人の間に駆け寄ってきた。
するとキュゥべえの背中が蓋のように開き、その穴でグリーフシードを回収してしまう。

役目を終えたキュゥべえは、素早く二人から離れていった。



キュゥべえの行動によって、緊迫した空気は一時的に解かれる。
最初に口を開いたのは、話し相手を求めていたさやかの方だった。


さやか「…私がゼロさんにひどいこと言っちゃった理由、わかります?」

ゼロ人間体「全部…俺のせいだ」


自分を責めるゼロに対し、さやかは目を閉じて首を横に振った。


さやか「実は仁美も、恭介のこと好きだったみたいなんすよ。
    私とゼロさんの仲が疑わしいから、自分も告白するって言い出してさ」

さやか「そして思っちゃったんだ。
    ゼロさんがいなければ、いずれ私が一緒になれたかも知れないのにって」

さやか「たったそれだけのことなんすよ。
    後はもうなんでもかんでも理由つけてゼロさんのせい。…幻滅ですよね」

ゼロ人間体「そいつの事、心の底から好きなんだな」


さやかは黙って頷く。


さやか「本当はわかってるんだ…意地になって告白しなかった私の責任だって。
    それに、仁美の告白がどうなったかだって知らないのに…」

さやか「だけど…他にも色々あって、強くなろうとして、全部一人でやろうとして…」

さやか「あはは…私ってもうヒーローものによくあるアレっすね…
    正義の側にいるのに、力を求めて闇に堕ちちゃう奴?」

ゼロ人間体「力を求めて、闇に…」

さやか「そうです。あはははははっ」


さやかの言葉で、ゼロの中に一瞬かつての記憶が蘇る。
怪獣墓場で初めて『ウルトラマン』として戦う―――それより以前の自分の姿が。



ゼロ人間体「辛いよな」


笑い飛ばすしかないさやかを前に、ゼロはイージスからゼロアイを取り出して装着する。
真っ暗な廃ビルを一瞬、赤と青の光が照らした。


ゼロ「さやか、今助けてやるからな」

さやか「助けるって、悪に堕ちた私をぶっ殺してやるって事?
    それ、私からもよろしくお願いしますよ」


ウルトラマンへと変身したゼロは、もう一度イージスを輝かせる。
中から取り出したのは、攻めの武器ではなく『ウルトラゼロディフェンダー』と呼ばれる盾。

傷付けることなく助けたいというゼロの意思表示に、さやかは体を震わせていた。


ゼロ「そんな事できるかよ…本当のお前を、これから取り戻す!」

さやか「もう…もうこんな私救おうとしないでよおぉーーっ!!」


さやかは叫び声を上げ、ゼロへと迫る。
彼女が振るった剣の一撃を、ゼロはディフェンダーで受け止めた。


さやか「てああぁっ!!」

さやか「はあっ!!」


さやかは泣きながら、何度も何度もディフェンダーに剣を振るう。
ゼロもまた、黙ってその攻撃を受け続ける。


さやか「はっ!…ぐすっ…」


やがて滲む涙で、さやかの視界が塞がってしまった。
剣の刃でディフェンダーを押し、その感触を確認しながら片手で涙を拭う。



さやかは再び目蓋を開け、剣を振り上げる。
しかし、目の前にはディフェンダーだけが宙を浮かび、ゼロの姿は消えていた。


さやか「いない…まさか!?」


さやかが目を閉じた一瞬の内に、ゼロは背後へと回り込んでいた。
そのまま彼女を背後から抱き締め、剣を手放させる。


ゼロ「こんな方法で悪いが、お前の呪いと穢れ…俺の光で吹っ飛ばす!」

さやか「は…放せっ!」


ゼロの腕から逃れようと、さやかは暴れて抵抗する。
次第にゼロの体が強い輝きを放ち、彼女の体も同じように光に包まれていく。


ゼロ「さやか…今までずっと、そいつだけを見てきたんだろ?
   仁美よりも長く、仁美よりも近い場所で」

ゼロ「相手もきっとそれを知ってる。
   お前のことを選んでくれてるはずだ。それを信じようぜ」


ゼロは仁美の失恋を願ったわけではない。
ただ、さやかを安心させたい。言葉の意図はそれだけだった。

やがて、さやかが言葉を発せないほどに光は高まり、溢れるかのように空へ昇る。


ゼロ「うおぉぉぉぉぉ―――っ!!」


光に押し出されるように、腹部についたソウルジェムからドス黒い障気が抜け出していく。
同時にさやかは意識を失い、魔法少女から制服姿へと戻っていった。

すぐにディフェンダーをイージスへ戻したゼロは、倒れこむさやかを支える。


QB「ソウルジェムが…まさか、こんなことまで!?」

ゼロ「かなり強引な浄化だ。人間相手に何度もやるもんじゃねえよ」


さやかが握っていたソウルジェムは、一点の濁りもない青い輝きを取り戻している。
それを見て、ゼロは少しだけ安堵していた。



QB「確かにこの方法、グリーフシードを用いた本来の手順から大きくかけ離れているね。
   それに、問題の先送りであって根本の解決にはなっていないよ」

ゼロ「先送りだと?」


キュゥべえの指摘は、ゼロの安堵を一瞬にして消し去った。


QB「そう。幾らソウルジェムから穢れと呪いを取り除こうとも、
   彼女自身が生み出した呪いは、彼女の心が変わらなければ何度だって生まれ得る」

QB「遅かれ早かれ、彼女は再びソウルジェムを濁すことになるだろうね」

ゼロ「そんな…」


ゼロは言葉を続けられず、目を閉じたままのさやかを見つめる。
今の姿が人間体であれば、ゼロの表情は悲しげなものになっていた。

そんな彼の心境などお構いなしに、キュゥべえは話を続けようとする。


QB「そこでウルトラマンゼロ、君に話があるんだ!」

ゼロ「………」


ゼロはキュゥべえを無視すると、そっとさやかを抱え上げる。
直後、その姿は光となって外へ飛び去って行った。

残されたキュゥべえは、その光が見えなくなるまで廃ビルの窓から空を見つめていた。


QB「…もうひと押しといったところかな」


見滝原市の空を飛びながら、ゼロの中に今回の出来事、向けられた言葉の数々が蘇る。
その一つ一つが、彼の自信を確実に奪っていた。


ゼロ(俺は誰かに『心』を教えることはできた。でも、救うことは…)


地球人一人の『心』がどれほど複雑かを痛感したゼロ。
だが、抱えた少女の真下には夜の市街が広がり、更に幾千もの『心』がひしめいている。


ゼロ(そういえば、どっかの宇宙で噂に聞いたっけな。
   邪悪な心だって救える『慈愛の戦士』の話―――)

ゼロ(俺は、そいつにはなれない…)


ゼロは、夜景から目を逸らすかのように月を見た。

つづく


元々ゼロと魔法少女が仲良く共闘する物語ではなく「クロスキャラが万能すぎて余計ギスギスするまどマギ」と、
ウルトラ恒例の「地球人の闇にウルトラマンが迷う回」を意識して作ってます。

両作品をディスる意図はないので、キャラ叩きはやめてあげてください。(特にさやか)


【芸術家の魔女 その1】



駅のベンチにさやかが座っている。
彼女は正面を見つめながら、淡々と言葉を続けていた。


さやか「結局私は、一体何が大切で何を守ろうとしてたのか…
    もう何もかも、ワケわかんなくなっちゃった」

さやか「確かに私は何人か救いもしたけどさ、だけどその分、
    心には恨みや妬みが溜まって、一番大切な友達さえ傷付けて…」

さやか「誰かの幸せを祈った分、他の誰かを呪わずにはいられない。
    私たち魔法少女って、そういう仕組みだったんだね…」


ようやくこちらを見た時、さやかの目には涙が滲んでいた。


さやか「私って、ほんとバカ」


彼女の目から零れた涙が、頬が伝う。
流れた涙が落ちた先には―――



ゼロ人間体「さやかっ!?」


薄暗く狭い個室の中で、ゼロは声を上げて飛び起きる。

周囲を見ると、そこは彼が寝泊まりするネットカフェの一室だった。
夢であると理解し、大きな溜め息をついて椅子の背もたれに体を倒す。


ゼロ人間体「…夢オチかよ」


夢で涙を流していたさやかの姿が、深夜の出来事と重なって見えてしまう。
完全に目が覚めてしまったゼロは、再び体を起こした。



ゼロ人間体「まったく、嫌な夢見ちまったぜ…
      これからあいつを助けなきゃならねえってのに」

ゼロ人間体「…いや、さやかだけじゃなかったな」


更に、さやか以外の少女達が脳裏をよぎる。
魔法少女同士の対立を見せ付けた杏子、目的のために手段を選ばないほむら、二人の顔が。


ゼロ人間体「俺一人の力だけでは、この世界は救えない…
      でも一カ月の中であいつらを守れるのは、俺しかいない」

ゼロ人間体「俺にあるのか?魔女退治以外にやれることが…」


頭を抱えるゼロは、何かを思い出したかのように時計を取り出した。
時刻は、既に午前十時を過ぎている。


ゼロ人間体「こんな時間まで寝てたのかよ…そろそろ魔女を探さないと」

ゼロ人間体「そういえば今日は土曜日だったな。あいつらも魔女を探しに出るんだろうか?」

ゼロ人間体「俺の戦いが魔法少女を傷付けるなら、鉢合わせないように……」


ドンッ!!


ゼロ人間体「!?」


突然、自室と隣室を隔てる薄い壁が揺れた。


ゼロ人間体(何だよ…)


ゼロの考え事は、本人の自覚がないままに言葉となって発せられていた。
どうやら苛立ちを募らせた隣室の客が、壁を殴ったらしい。

それに気付き、ゼロは思わず口元を押さえる。


ゼロ人間体(俺はいつの間に…悪かったよ)


幾ら苦悩しようと、他人にとっては独り言を呟く薄気味悪い客でしかない。
申し訳なさそうネットカフェを後にしたゼロは、魔女退治へと向かっていった。




さやか「ん…」


ゼロが街へ出て一時間が経った頃、さやかはベッドの上で目を覚ます。
寝ぼけ眼で周りを見渡すと、そこは自分の部屋ではなかった。


さやか「ここ、マミさんのマンション…」

さやか「そうだ、私ゼロさんに助けられ…た?」


浄化を受け、意識を失う直前までの出来事は鮮明に思い出せる。
ソウルジェムを改めて確認すると、溜め込んでいた穢れも綺麗になくなっていた。


さやか「また、守られたんだね」


ゼロや仁美のことを考えると、複雑な心境になることに変わりはなかった。
しかし、妬みや憎しみといった負の感情は、心の中で温かい何かに掻き消されてしまう。

その感覚を不思議に思っていると、様子を見に来たマミが部屋に入ってきた。


さやか「マミさん…」

マミ「目が覚めたのね。調子はどう?」

さやか「あ、うん…悪くはないよ。心配かけてごめんね」

マミ「無事で良かった。今日は魔女討伐もお休みして、ゆっくり休んだほうがいいわ」

さやか「………」


昨夜の出来事がなかったかのように、マミは普段通りの笑顔を見せる。



さやか「そういえば、ここに私を連れてきたのゼロさんだよね?あの人は…」

マミ「行ってしまったわ。貴方をここまで送り届けて、すぐに」


ゼロがマミのマンションを訪れたのは、彼女が眠りについていた夜中の二時半頃。
助けたさやかをマミに預けると、ゼロは辛そうな様子で早々に去って行った。

その際、何が起きたのかゼロは語らず、マミも触れることはなかった。


さやか「そうなんだ。私のこと何か言ってました?」

マミ「特には…ただ、貴方を頼むと言われただけよ。
   それよりも美樹さん、カレー作ってあるんだけどお腹は空いてない?」

さやか「ご飯は、今はいいかも」

マミ「やっぱり、寝起きにカレーはきつかったわよね。食べたくなったらいつでも言って」


その後もマミとの会話は続くが、彼女が返す言葉や態度は、
どことなく昨日の件を避けているようでもあった。

違和感を感じたさやかは、敢えて逃げようのない言葉を選ぶ。


さやか「ねぇ、マミさん」

マミ「どうしたの?」

さやか「昨日の事とか…私に何があったのかは聞かないんだね」


マミが一瞬、ドキッとした様子を見せた。
だが、彼女はすぐにいつもの様子で質問に答える。


マミ「それは…貴方が思い詰めてることを知ってたからよ」

マミ「今は、気持ちを整理する時間も、考える時間も必要でしょう?
   だから、私からは聞かない。貴方がここにいてくれるだけでいいの」

さやか「そっか、やっぱマミさんは優しいや。…でもその優しさ、逆に辛いっすよ」

マミ「…辛い?」

さやか「マミさんが聞かないなら、私から言っちゃうね」


さやかは昨日のような豹変こそ見せず、新たな呪いも生み出してはいない。
その代わりに、残された自己嫌悪が彼女を苦しめ続けていた。



さやか「ここに連れて来られる前、私ゼロさんに剣向けて襲ったんだ」

マミ「ゼロさんに!?」

さやか「あの人は反撃もせずに助けてくれたけど、それだけじゃない」

さやか「昨日の魔女に斬りかかった時、見えたんだ。魔女の姿が一瞬…恋のライバルにさ。
    ゼロさんにまで放っておかれてたら、本物の仁美に何しでかしてたかわかんない…」

さやか「恋も戦いも上手くいかずに、嫉妬に狂ったバカ女。それが本当の私なんだ。
    こんな奴、正義の味方失格ですよね」

さやか「これ以上私と一緒にいたら、いつかマミさんまで悪い影響受けちゃう。
    その前にさ……コンビ解消しよう」

マミ「なんで…」


突然の提案に、マミは大きく動揺していた。
彼女はさやかに近寄ると、その手を取って強く握り締めた。


マミ「私は…私はそんな事気にしないわ!
   貴方がどんな人間だったとしても、一緒にいるだけで心強いもの!」

さやか「私なんかがいなくても、マミさんは大丈夫っすよ。
    今まで、ずっと一人でこの街を守ってきたんですから」

マミ「…美樹さんしかいないの」

さやか「え?」

マミ「佐倉さんも離れて、ゼロさんも私達が肩を並べられるような存在じゃなかった…
   私には美樹さん…もう貴方しかいないの!」

マミ「もし貴方が正義の味方でいられないのなら、私も一緒にバカ女になってあげる」


マミから飛び出した思わぬ一言に、淡々としていたさやかまでもが焦り始める。


さやか「何言ってんのマミさん…違うよ!そんなのマミさんじゃないよ!」

さやか「マミさんは私やあいつらみたいな魔法少女とは違う!
    たとえ一人でも、正義を貫くような人であってほしいんだ!!」

マミ「勝手な理想押し付けないで…私はそんな強い人間じゃないわ。本当は―――」

さやか「ごめん、それ以上は聞きたくない!」

マミ「美樹さん!!」


さやかはマミの本心から逃げるかのように手を振り払い、立ち上がる。
部屋に置かれたままの鞄を掴むと、制止も聞かずにマンションを飛び出していった。


【芸術家の魔女 その2】



ゼロの魔女探しは、何の収穫も得られないまま昼を迎える。
あまり食欲が湧かないながらも、ゼロは昼食を買うためにコンビニを訪れた。


ゼロ人間体(少し無理してでも食っとかないとな。体は資本ってやつだ)


弁当類には手を出さず、おにぎりを二つ取ってレジの最後尾に並ぶ。
混み合う最前列に目を向けると、黒髪の少女が会計している最中だった。


ゼロ人間体(ほむらと同じくらいの歳か)


少女の姿に、ほむらの面影を見るゼロ。
声が外に漏れないよう注意しながら、彼女の事を考える。


ゼロ人間体(そういえば、明後日の夜はあいつと合流する予定だったな)

ゼロ人間体(さやかに起きた事、報告するべきなのか?
      でも、あいつは他の魔法少女にまるで関心を持ってねぇ…)

ゼロ人間体(いや、逆に俺から追及しておかないとな。さやかに何の目的で、一体何を言ったのかを)


客「チッ、早くしろよ」

客「後ろつっかえてるんですけどー」


ふとゼロの耳に入ったのは、心ない声の数々。
気付けば最前列の少女が小銭を落としており、それを黙々と拾っていた。



ゼロ人間体(何で誰も手を差し伸べようとしないんだ?客も、店員も…)

ゼロ人間体(皆で拾えば早く終わるはずなのに、陰口まで…)


周囲の無関心さに苛立ちを感じたゼロは、少女に手を貸そうと列を抜ける。
その時、ゼロよりも先に誰かが少女へと近付いた。


ゼロ人間体(あ…)


小銭集めを手伝い始めたのは、長身の少女だった。
その少女には、どことなく仁美を彷彿させるお淑やかさが感じられる。


ゼロ人間体(あるじゃねえか、優しさは)


先ほどまでの光景に、一瞬とは言え、地球人全ての感性を疑いかけてしまったゼロ。
二人の姿を見ながら、彼はそれを反省する。

自分まで手を貸すとかえって拾いづらくなると気付き、再び列に戻ろうとする。
振り返ると、作業服を着た中年の男が列を詰めており、戻ってきたゼロを睨みつけた。


ゼロ人間体(………)


突き刺すような眼差しに、助け合いの余韻は一気に冷めてしまう。
ゼロはおにぎりを棚に戻すと、コンビニを後にした。


ゼロ人間体「いつもと同じ見滝原…そのはずなのに」


人混みから目線を下げれば、誰かがゴミを投げ捨てる様子が。
目を閉じれば、雑踏の中から他人を貶める噂話が聞こえてくる。


ゼロ人間体「何故、地球人の悪い所ばかり見えちまう…?」


ゼロは歩くペースを早め、逃げるように市街から離れていった。



それから数時間、町外れを歩きながらゼロは戸惑い続けていた。
怪獣や侵略者との戦いとは、別の側面に立つことで見えてきた現実に。


ゼロ人間体(同じ人間とはいえ、ここはエスメラルダでもアヌーでもねぇ…『地球』だ)

ゼロ人間体(俺が関わった地球人といえば、ZAPって宇宙開拓者くらいか。
      あいつらの心にも、裏があったりするんだろうか…?)

ゼロ人間体(そして、こことは別の地球を守り抜いた親父やウルトラ兄弟達―――
      みんなは、地球人の心の闇とどう向き合ってきたんだ?)

ゼロ人間体(わからねぇ…冗談抜きにわからねぇ!)


アナザースペースやM78ワールド、それ以外の宇宙で、多くの惑星を訪れてきた。
今のゼロには、その中のどれよりもこの地球が異質に映ってしまう。

当てもないまま足を進めていると、どこからか穏やかな声が聞こえてきた。


??「そんなに悩むくらいなら、いっそ死んだほうがいいよ」

ゼロ人間体(死ぬ、か。確かにウダウダ悩むよりは楽なのかもな)

??「そう、死んじゃえばいいんだよ」

ゼロ人間体(そうだな、死んで―――)


何者かの誘導であることに気付き、ゼロは立ち止まる。
歩いていたはずの道路は見る影もなく、地面は絵画と化していた。


ゼロ人間体「――って、んなわけねえだろ!!」


背後を振り向くと同時に、ゼロはキックを繰り出した。
その蹴りは、背後から迫っていた人型の使い魔を勢いよく吹っ飛ばす。

ゼロは今、全く自覚のない内に魔女結界へと取り込まれていた。



蹴り飛ばされた使い魔が消滅するのを確認すると、再び正面へ向き直る。
そこには、門を模した姿の『芸術家の魔女』が現れていた。


ゼロ人間体「ウルトラマンゼロ、一生の不覚だぜ…
      こんな安々と引き込まれて、気付きもしないなんて」


門の中から使い魔達が現れる中、ゼロはキュゥべえの忠告を思い出す。

より強い生命力を求め、自分を狙う魔女が存在すること、
自分に生じた迷いが、魔女に付け込む隙を与えてしまうことを


ゼロ人間体「奴の言ったとおり、機会を窺ってた魔女が今になって出てきたわけか…」


手を伸ばして迫る使い魔を睨み、ゼロは拳を構える。


ゼロ人間体「上等だぜ…まとめてかかってきやがれ!!」


一人の青年が、人の形をした何かを殴り、蹴り、投げ飛ばす。
それはヒーローと怪物の戦いというよりも、一対多数の喧嘩に近いものであった。


ゼロ人間体「うおおおおぉーーーっ!!」


ゼロの人間体は、魔女や『影』の使い魔は不可能でも、大抵の使い魔を倒せるだけの格闘能力を持つ。
その力を存分に振るい、『芸術家』の使い魔は最後の一体を残すのみとなった。

使い魔の顔面に渾身のパンチを打ち込むとともに、伸ばした腕からゼロアイを召喚する。
最後の一体が仰け反りながら消滅すると同時に、ゼロアイを手に取って両目に装着した。


ゼロ「次はお前だ!!」


ウルトラマンの姿へ変身したゼロは、魔女に狙いを定めて駆け出した。



直後、空中へと跳躍したゼロの足が炎を纏う。


ゼロ「デアアァーーーッ!!」


魔女を目掛け、ウルトラゼロキックが正面から叩きつけられる。
地面に固定されていた魔女の体は、破片を撒き散らしながら後方へ倒された。


ゼロ「シャッ!」


着地したゼロは、倒れた魔女へと歩み寄る。
彼は門の支柱を掴み、抱え上げると、そのまま結界の上空まで飛び上がっていく。

真下に広がる、巨大な絵画。
その中心に狙いを定め、加速をつけて急降下する。


ゼロ「砕け散れよ……ゼェーロォッ!」

ゼロ「ドライバァァーーーッ!!」


魔女の体が一気に地面へと叩きつけられ、衝撃音とともに絵画に大穴が開く。
激突の威力に耐えられず、魔女は大穴の中で粉々に粉砕されていた。

本来、人型の敵にしか使わないはずの体術『ゼロドライバー』。
ゼロが抱える様々なマイナス要素が苛立ちとなり、格闘技ばかりを選択させていた。


ゼロ人間体「はぁっ…はぁっ…」


魔女の残骸が消滅するとともに、結界は解除された。
その中から、人間体のゼロが元の道路へと帰還する。

彼は息を荒げながらグリーフシードを拾い上げると、休む間もなく、次なる魔女を探しに駆け出した。





「反応を殺して貴方を狙う魔女、意外と多いみたいですよ?
 さっきの魔女の性質は『虚栄』。どうやら相当な自信家だったと見えます」

「とはいえ、所詮『ウルトラマン』の敵ではありません。
 ―――そう思ってたらこのザマ!貴方らしくないですねぇ~っ!」

「ですが、面白くなってまいりました…!」

 

つづく


おりキリにこれ以上の出番はありません。

時系列的には『サーガ』と同じですが、ダイナとコスモスも登場しませんので、
ゼロがストロングコロナとルナミラクルを入手するかは後の冒険次第ということで…


【芸術家の魔女 その3】



日曜日を迎えた翌日の昼。
マミは、普段あまり訪れない市内のある区域に足を運んでいた。

住宅街の並ぶ通りから外れ、人気のない道を進む。
やがて彼女は足を止めると、代わりに口を開いた。


マミ「精が出るわね。こんなに明るい内から、結界の外でその姿なんて」


建物の上から、ほむらが魔法少女の姿でこちらを見下ろす。

ここはほむらが見滝原市を訪れて以降、主に活動する縄張り。
彼女は今日も休息をとることなく、『目的』の為に徹底的な防衛を続けていた。


ほむら「以外ね。貴方は縄張り争いにはあまり興味がないと思ってた」

マミ「間違ってないわ、暁美ほむらさん。ちょっとお話いいかしら?」

ほむら「私も暇じゃないの。手短に頼むわ」


ほむらは高所から飛び降り、マミとの対話に応じる。
しかし態度は相変わらずであり、内容に全く関心を示していない。


マミ「貴方の行動は、私もキュゥべえも以前から警戒していたわ。
   色々あって黙認していたけれど、正直なところもう限界なの」

ほむら「貴方に危害を加えた覚えはないけれど、何か気に触るようなことしたかしら?」

マミ「呆れた…自覚がないのね。なら、先輩として教えてあげる」

マミ「キュゥべえを襲って、ゼロさんを利用して、
   …それに新人の美樹さんまで蹴落とそうとして、貴方一体何が目的なの?」


平然としていたほむらの態度が変わり始めたのは、ゼロの名が出てからであった。



ほむら「成程。で、それを知ってどうするの?」

マミ「内容次第で貴方を止める。この場で戦ってでも」

ほむら「事を構えたいだけなら、止めておいた方がいい。
    私は貴方の手の内を知っているけれど、貴方はその逆。勝ち目はないわ」

マミ「状況を荒立てようとしてるのはどちらかしらね。今から試してみる?」

ほむら「試すまでもなく、貴方の魔力を浪費するだけよ。
    折角分け与えてるグリーフシード、無駄にしないで頂戴」

マミ「グリーフシード?……そういうことね」


ゼロが提供するグリーフシードに、ほむらの思惑も関わっていると知る。
魔力のストックすら彼女が握っていたことに、マミは屈辱を感じていた。


ほむら「それに私が全て語ったとして、貴方は素直に信じるかしら?」

マミ「………」

ほむら「私が説得力を持たせて説明してあげてもいい。
    でも真実を知った時、貴方は『巴マミ』という人間を保てなくなる」

マミ「言ってくれるわね。どこにその根拠があるというの?」

ほむら「経験」

マミ「ふざけないで!これ以上私に関わる誰かを巻き込むなら、穏便には済まさないわ!!」


マミは怒りを露わにし、魔法で作り出した小銃を握る。

銃口とともにマミが向けたのは、警戒心ではなく明らかな敵意。
彼女は一見落ち着いているようで、普段の冷静さを欠いていた。



ほむら(まるであの時ね。忘れもしないわ)


只ならぬ彼女の様子は、ほむらにある過去を思い出させる。


『みんな死ぬしかないじゃない!』


記憶の中のマミはそう叫びながら涙を流し、自分に銃を向ける。

それは遠い以前の時間軸で、彼女に「殺されかけた」経験。
時間を巻き戻したことで正しい歴史ではなくなったが、実際に起きた出来事。


ほむら(確かに、貴方からは後輩として色々な事を教わった。
    魔法少女としての知識と経験、末路に至るまで)

ほむら(そして一番の教訓は、私の中で今も活きている)

ほむら(理解者なんて必要ない)


マミの視界から、ほむらの姿が一瞬にして消えた。


マミ(何、この速度!?)


すぐにマミは振り返って銃を構える。
彼女の背後にいたほむらは、冷たく鋭い形相でこちらを睨んでいた。


マミ「なっ…」

ほむら「私からも忠告しておくわ」

ほむら「ウルトラマンゼロと馴れ合いを楽しみたければ、好きにすればいい。
    …でも私達の目的を妨げるようなら、命はないわよ?」


気付けば銃を持つ手はほむらに掴まれ、その銃口は自分の顎に突き付けられている。

行動次第で、彼女は躊躇いなく引き金を引く。
そう感じるほどに底知れない威圧感が、マミを襲っていた。



ほむら「結局の所、貴方がここにいる理由は美樹さやかの件でしょう?」

ほむら「何が起きたかは彼に聞くとして、美樹さやかには明日学校で謝罪する。
    それで文句はないはずよ」


あまりにも強引な方法でマミを落ち着かせると、ほむらは手を放して何処かへと消える。

結果的に話は屈折し、彼女の言う『真実』については有耶無耶のままとなった。


マミ(そうよ…貴方の言うとおり)


今日マミが接触を図った理由、それはほむらが指摘した通り。

返答を求められれば、別の答えを返したかもしれない。
だが実際は、さやかの意識を変えた存在―――杏子でもゼロでもないもう一人に、
行き場のない感情をぶつけたい。それが全てであった。


マミ(でも、やっぱり彼女は普通じゃない…まるで、私たちと別の世界を生きてるみたい)

マミ(いや、別の世界を生きてるのはゼロさん、貴方もよね…)


その後、マミは夕方からの魔女捜索に備え、一度マンションへと帰宅する。

キッチンの鍋には、手作りカレーがマミ以外の誰にも口にされず、半分近くを残している。
マミは黙って昼食分だけを取り分けると、残りを袋に移し替え、ゴミ箱へと捨てた。
 

つづく

新規分の投下が遅くなって申し訳ない…




その日の夜遅く。
ゼロはネットカフェへ帰るべく、歓楽街を通り抜けていた。


ゼロ人間体(結局何もできないまま、一日が終わる)


今日の魔女探しは思うように行かず、代わりにまたもや魔女の襲撃に遭った。
撃退は容易だったものの、さやかの心を救う方法はこの日も見つかっていない。


ゼロ人間体(何が『ウルトラ魔女ファイト』だよ……俺には戦うことしかできねぇのか)


自問自答だけでは解決できないと、理解はしている。
だが迂闊に魔法少女と顔を合わせれば、更なる悪影響を与えてしまうかもしれない。

そんな恐れをゼロは抱いていた。


ゼロ人間体(………)


黙々と進むゼロの前に、二人のホストが歩いている。
意識が内に向いていたにもかかわらず、彼等の会話は自然と耳に入ってきた。


ホストA「言い訳とかさせちゃダメっしょ。稼いできた分はきっちり全額貢がせないと」

ホストA「女って馬鹿だからさ、ちょっと金持たせとくとすぐくっだらねぇ事に使っちまうからねぇ」

ホストB「いやー、ホント女は人間扱いしちゃ駄目っすね!」


ゼロ人間体(…何なんだ、コイツらは)


ホスト達の会話に耳を傾ける内、ゼロの目つきが険しくなる。


ホストB「犬かなんかだと思って躾けないとね。アイツもそれで喜んでる訳だし。
     顔殴るぞって脅せば、まず大抵は黙りますもんね」

ホストA「ちょっと油断するとすぐ付け上がって籍入れたいとか言いだすからさぁ、甘やかすの禁物よ」

ホストA「…ったく、テメーみてぇなキャバ嬢が十年後も同じ額稼げるかっての。
     身の程わきまえろってんだ。なぁ?」



ゼロ人間体(『躾け』だと?)

ゼロ人間体(自分と同じ人間を、人間とも思ってねぇのか…?)


地球人の負の側面に対し、より敏感になっていたゼロ。
しかも、ここはそれらが日常茶飯事的に繰り返される歓楽街。

ホスト達が笑いながら語る女性観は、彼の怒りを一気に沸点へと到達させていた。


ホストB「捨てる時もさぁ、ほんとウザいっすよね。その辺ショウさん巧いから羨ま―――」

ゼロ人間体「おい」

ゼロ人間体「…本当に何も感じないのか?」

ホストA「あ?」

ゼロ人間体「テメェらが捨ててきた女達に、何も感じないのかって言ってんだよ!」


思わずゼロは、二人を呼び止めていた。


ゼロ人間体「愛ってやつは、一方的で空回りするものかもしれねぇ。
      だがな、愛する側はいつでも真剣なんだよ…」

ゼロ人間体「あいつも…さやかだってそうだ。
      心を壊しかけるくらいに悩んで、悩んで、悩み抜いて……」

ゼロ人間体「……許されねぇ」

ゼロ人間体「テメェらを想う一途な心を、小遣い稼ぎのために弄ぶとは―――絶対に許さねぇ!!」


ゼロもまた冷静さを欠き、勢いに任せて言葉を並べる。
知らない名前までもが飛び出し、ホスト達は内容を殆ど理解できていない。


ホストA「何言ってんのこいつ、知り合い?」

ホストB「いえ、さやかって女は俺知らないっす…」

ゼロ人間体「俺はこの世界と一緒に、テメェらみたいな連中まで守らなきゃならねぇ…それが使命だからな」

ゼロ人間体「…だからこそ言わせろ」

ゼロ人間体「テメェらが生きる世界だろうが!この世界の価値、自分で下げてんじゃねぇぇっ!!」


ゼロが凄まじい剣幕で、ショウと呼ばれていたホストの胸倉を掴む。

その時、彼の肩に何かが飛び乗った。
ぬいぐるみのような白い小動物、キュゥべえだった。



QB「やめておいた方がいい」

ゼロ人間体「今はテメェの相手をするような気分じゃねえんだ。さっさと失せ―――」

ホストA「放せコラァッ!!」

ゼロ人間体「ぶっ!?」


キュゥべえに気を取られた一瞬、ホストの拳がゼロの顔面を直撃していた。
殴り飛ばされた体は、道の中心で大の字となって倒れる。

ホストは更に追い打ちをかけようと迫るが、もう一人がそれを静止する。


ホストB「ショウさん、人も見てるしヤバいっすよ!下手したら警察沙汰に…」

ホストA「ケッ、雑魚野郎が」


二人組は、ざわつき始めた周囲から逃げるように立ち去って行く。
ゼロはゆっくりと体を起こし、鼻を押さえた。


QB「大丈夫かな?」

ゼロ人間体「ったく…テメェのお陰で、この俺が雑魚呼ばわりだ」

QB「まさかとは思うけど、君は彼等に手を出すつもりだったのかい?」

ゼロ人間体「それは…」


キュゥべえの言葉に、はっとしたような様子を見せる。
気づけば、周囲の人々がこちらを見ながら話をしている。


QB「移動した方がよさそうだね。このまま話を続けても、周囲には君の独り言だ」

ゼロ人間体「チッ」


腰を起こして立ち上がると、その肩に再度キュゥべえが飛び乗る。
ゼロはそれを振り落とさず、共にその場を後にした。

 




歓楽街の路地裏に場所を移し、腰を下ろすゼロ。
膝を抱えて黙り込む彼に、キュゥべえは尋ねる。


QB「ウルトラマンゼロ、君は故郷以外の惑星に長く滞在した経験はあるかい?」

ゼロ人間体「…当たり前だろ。何年か前まで、K76星でずっと修行してたんだ。
      あとは惑星チェイニーで、数週間ロボットどもとグダグダ戦ったっけか」

QB「チェイニーって惑星は、まだ僕も把握していないなぁ」

QB「でもK76星といえば、君の出身宇宙にある磁気嵐の凄い惑星だね。
   そこは生命体が殆ど存在しない、過酷な環境だったはず」

QB「つまり、異星の文明に溶け込んだ経験はないというわけだ」

ゼロ人間体「…悪いかよ」


今までに経験した異文明との深い関わり、それはアナザースペース来訪時に繰り広げた、人間達との冒険。
そしてマイティベースで今も続く、仲間達との共同生活。

ゼロは複数の宇宙を行き来できるが、長期的に一つの文明を守る任務は受けていない。
それこそが、彼と歴代のウルトラマン達との違いでもあった。


QB「どうだい?人間の心の闇は、深くて大きかったろう?」

ゼロ人間体「………」

QB「たった数人の暗黒面に触れただけで、君の心はこんなにも揺れている。
   本当にこの星を守りたいと願うなら、地球人の全てを受け入れる必要があるんだよ」

ゼロ人間体「んな事わかってんだよ!」

QB「君は僕達から見てもまだ若い。頭で理解していたとしても、
   汚れた世界に長く干渉し続ければ、君の心はその影響を受けてもおかしくないだろう」

QB「でも僕達と共に歩めば、それを直視することなく宇宙を守ることができる」


キュゥべえは俯いたゼロに近づくと、その顔を覗き込む。
両者の目線は一致するが、ゼロはすぐに目を逸らした。



ゼロ人間体「なんだ、俺を利用しようって魂胆か?」

QB「利用?とんでもない。僕達はこの宇宙を救う為、君に協力を求めたいだけさ」

ゼロ人間体「協力…エネルギー集めるパシリになれってのか?」

QB「いいや、君にしかできない役目だ」

QB「僕達は『ビートスター天球』の一件で学んだよ。
   この宇宙を滅ぼす脅威が、別の宇宙からも現れうるということを」


以前にもキュゥべえは、自分達の文明では天球に対抗できないと話していた。
しかし、少女達に『奇跡』を提供する彼等がその力を持たないことに、ゼロは疑問を感じていた。


ゼロ人間体「ヘッ…テメェらの商売道具は、そんな時何の役にも立たねぇのかよ?」

QB「その通りさ」

ゼロ人間体「あ?」

QB「真の意味で奇跡を起こすのは僕達じゃない。人間の方だ。
   少女達が背負った因果、そして感情から生まれる『祈り』の力が、不可能を可能にするのさ」

ゼロ人間体「人間が、不可能を可能に…」

QB「応用しようにも、僕達が感情を持たない以上、交渉材料として扱うことしかできない。
   僕達は、他の文明が超常的に捉えている物事を科学で解明したに過ぎないからね」


それが果たして事実なのか、ゼロには判断できなかった。

だが、ほむらは以前キュゥべえについてこう明言している。
「嘘は言わない」と。


QB「話を戻そう。『ビートスター天球』は、まさにその科学が生んだ脅威だった。
   僕達の文明が戦力を重視していないことが裏目に出てしまったけれど、
   いずれはあの規模の敵にも対抗が可能になるだろう」

QB「でもね、君の故郷…いや別の宇宙を調べて理解できた。それだけではまだ足りないんだ」

ゼロ人間体「わからねぇな。一体何が不安なんだよ?」

QB「科学だけでは届かない領域。『祈り』と『呪い』の更に上位に位置する概念。
   ―――『光』と『闇』の戦いだよ、ウルトラマンゼロ」
 



QB「多世界宇宙の中には、人の心に巣くうものより更に強大な『闇』が潜んでいる。
   それは、君もよく知るところだろう」

QB「その悪意の数々が、いつこの宇宙に矛先を向けるともわからない。
   そんな時、対抗し得る力は強大な『光』を除いて他にないんだ」

ゼロ人間体(『光』と、『闇』…)


ゼロは、腕に輝くイージスの光を見つめる。
キュゥべえが向ける関心の理由を、彼は完全に理解できた。


QB「でも、君はこうして現れた。エネルギーをはじめとした『科学』は僕達が、そして『光』を君が。
   この二つを補い合えば、この宇宙の平和は永久的に守られる」

QB「だからウルトラマンゼロ、僕と協力してこの宇宙の守護者になってよ!」


役割こそ違うが、少女達の運命を変えてきた売り文句が、ゼロにも向けられる。


ゼロ人間体「この宇宙の守護者に…俺が?」


間違いなく彼等の文明は、この宇宙の制覇ではなく、守護のために『科学』を行使している。
それを知り、ゼロは答えを見い出せない。

だが、直後に現れるもう一人の存在が、彼に更なる迷いをもたらすことになる。


ほむら「前に言ったわよね?口車には乗らないでって」


突如聞こえてきたほむらの声に、思わずゼロは顔を上げる。
目の前には彼女がキュゥべえを掴み上げ、その額に銃を突き付けている。


ゼロ人間体「ほむら、お前何故ここに…」

ほむら「こいつの監視よ」


ほむらは躊躇うことなく引き金を引き、飛散する血が彼女の体を汚した。



キュゥべえの死体を投げ捨てたほむらは、ゼロの元へ歩み寄る。

すぐに新たなキュゥべえの個体が姿を現すと、転がった死体を貪り始めた。
彼女はその光景を気にも留めず、話を続ける。


ほむら「奴の勧誘、いつもの暑苦しさで切り捨てないのね。
    貴方、まさかインキュベーターに寝返ろうなんて考えてる?」

ゼロ人間体「俺は…」

ほむら「はっきり答えて」


ほむらはゼロの胸倉を掴み、ぐっと顔を近付ける。
同時に、彼女は周囲の時を止めた。


ほむら「忘れてないわよね?奴の手段が、多くの少女の悲しみを生み出していること」

ほむら「そして、希望を失った魔法少女のなれの果てが『魔女』であることを」

ゼロ人間体「…忘れてないさ」


ほむらが口にした事実を、ゼロは忘れることなく胸に秘め続けている。
しかし、目の前で起こる出来事の数々に、気を取られ過ぎていたのも確かだった。


ほむら「最終的にどうするか、決めるのは貴方よ。
    でも、これ以上の戦いを望まないというのなら今すぐ教えなさい」

ほむら「私はこの銃で、左手を撃ち抜いて死ぬわ」

ゼロ人間体「なっ!?」


ゼロの表情が、驚きとも呆然とも取れないものに変わる。

彼女の右手には、キュゥべえを撃ち抜いた銃が。
ゼロを掴む左手の甲には、埋め込まれたソウルジェムが煌めいていた。



ゼロ人間体「何なんだお前、何で平然とそんな事が言えるんだ…」

ほむら「貴方と出会ったあの日、私は既に命を諦めてた。それが少し遅れるだけのこと」

ゼロ人間体「馬鹿言うな…命は一つきりなんだよ。そんな軽々しく投げ出していいもんじゃねぇ…!」

ほむら「その一つきりの命、握っているのは貴方よ。命だけじゃない――『希望』すらも」


ほむらは顔中に返り血を垂らしながら、ゼロを繋ぎ止めようとしている。
その姿を目の当たりにし、彼の背筋にぞくりと悪寒が走った。


ほむら「さぁ、どうするの?ウルトラマンゼロ」

ゼロ人間体「……決まってんだろ。俺は、お前を守る」

ほむら「それでいいのよ。当然、私から離れることは許されない。
    彼女の平穏を手に入れる、その日まで」


ほむらがゼロを掴んだ手を放すと、一時的に時は動き始める。
だが、ゼロの肩に手が置かれるとともに、再び時は止まった。


ほむら「そうね…明日合流する予定だったけれど、今からでも構わないわ。
    この数日間、一体何があったのか聞かせて頂戴」

ゼロ人間体「………」


ゼロは地球人の少女一人を前に、
魔女やキュゥべえにすら感じることのなかった『恐怖』を覚えていた。
 

つづく


設定に色々と制約をつけてるためか、
時折ウルトラでもまどマギでもない別の何かを書いてるような感覚に陥ります。


【芸術家の魔女 その4】



翌日、登校する生徒達の中にさやかはいた。
新たな週を迎えたにも関わらず、彼女は朝から疲れを見せる。


さやか(サボりたい…)


ゼロを罵った金曜日の夜に始まり、マミの元を去った土曜日、それらを引きずったまま魔女を探した日曜日。
さやかが過ごした休日は、とても安息といえるものではなかった。

そしてこれから向かう先には、顔を合わせづらい人物が何人も待ち構えている。


さやか(………)


途中、何かに気付いた彼女は、ふとゼロが残した言葉を思い返す。


『さやか…今までずっと、そいつだけを見てきたんだろ?
 仁美よりも長く、仁美よりも近い場所で』

『相手もきっとそれを知ってる。
 お前のことを選んでくれてるはずだ。それを信じようぜ』


さやか(信じる、か)


目を細め、通学路の少し先に視線を向ける。
そこには松葉杖を突きながら登校する恭介、そして、彼と並んで歩く仁美の姿があった。


さやか(現実はこんなもんだよ、ゼロさん)


さやかは二人が気付かないよう、大きく距離を取って歩く。
気持ちを抑えきれなかった先週とは違い、今は冷ややかな目でそれを見ることが出来る。

だが、彼女自身が気づかぬままに、ソウルジェムには僅かに呪いが生まれ始めていた。



その時、誰かがさやかの肩に手を置いた。


さやか「!?」


振り返ったさやかの前には、杏子が立っている。


さやか「あんた…」

杏子「ちょいと場所変えるぞ。話がある」

さやか「何言ってんのよ、これから学校が…!」

杏子「いいから来い!」


思わず身構えたさやかの手を、杏子が掴む。
杏子はその手を引くと、強引に通学路とは別方向へ歩き出した。

わけもわからず、さやかは手を引かれるがままに進む。
しばらく歩いた後、思い切って杏子の手を振り払う。


さやか「いい加減放せってば!一体何の用なの!?」


立ち止まったさやかに合わせ、杏子も同じように歩みを止める。


杏子「………」

さやか「何か言いなさいよ」

杏子「今まで突っかかってきたこと……悪かった」

さやか「は?」

杏子「だから…今までのことは悪かったって言ってんだ」


浄化前のような目を見せていたさやかが、きょとんとした表情に変わる。
 



さやか「…ごめん、もう一回」

杏子「テメェぜってー聞こえてただろ!もう三度も言わねーからな!!」


杏子は腕を組み、さやかに背を向ける。
さやか自身もふざけてはおらず、本当に彼女の真意が理解できていない。


さやか「ちょっと待って。これ、どういう風の吹き回しよ?」

杏子「まんまの意味以外に何があるってんのさ…
   アタシはアンタに対して色々やりすぎた。だから謝った」


マミを戦闘に巻き込んだ辺りから、自分の責任は自覚していた。
その後目の当たりにしたさやかの豹変は、杏子に強い後悔を抱かせることになった。

二日間の迷いを経て、マミの示した方法でさやかと向き合うべく、杏子はここにいる。


杏子「伝えることは伝えたし、もう帰るからな」

さやか「…あーあ、あんたのお陰で完全に遅刻だわ。どうしてくれんの?」

杏子「はぁ?」


立ち去ろうとした杏子を、さやかは呼び止める。


さやか「今更学校行っても行かなくても同じようなもんだし…
    空いた時間、責任持って潰してよね」

さやか「どうせ暇なんでしょ?…例えば、あんたはキュゥべえに何を願ったとか、
    何で今みたいな戦い方してんのとか、色々聞かせてよ」

杏子「話題は他にもあるってのに、何でそんな事知りたがるのさ?
   アタシの過去なんて関係ないんじゃなかったのかよ?」

さやか「ただの心変わり。今のあんたと似たようなもんよ」

杏子「はぁ…」

杏子「……ちょっとばかり長い話になるぞ」


さやかは遅刻と言いながらも、内心は学校へ行かずに済むいい機会とも考えていた。

一方の杏子は、痛い所を突かれたとばかりに溜め息を漏らす。
杏子は再び歩き出し、さやかもその後に続いた。



杏子はどこかへ向けて歩き出すと、自分の過去について語り始める。


杏子「アタシの親父はね、教会の神父をやってたんだ。とにかく正直で、優し過ぎる人だった」

さやか(だった?)

杏子「新聞やテレビで毎日のように事件を知っては心を痛めてさ、
   『信仰』で世の中を変えていきたいって、いつも言ってたよ」

杏子「それから、親父は教義にないことも説教するようになったんだ。
   次第に信者は途絶えて、本部からは破門されて、世間からはカルト宗教同然の扱いだ」

杏子「そのしわ寄せで、アタシの一家は食う物にも事欠く貧乏生活。
   当然だよね、人に共感を貰ってナンボの仕事で、誰にも理解されないんだから」

杏子「親父が信じて説いてたことは、何一つ間違っちゃいない。
   ただ『人と違うこと』を話してた。それだけで世間の目は途端に白くなったんだ」

杏子「悔しい…許せない…我慢できないと思っていた時、キュゥべえが現れた」

さやか「あんたの願いって、もしかして…」

杏子「そう、沢山の人に親父の話を聞いてもらう。それがアタシの願いさ」


その願いは、明らかに自分のためではなく、誰かの幸せを願ったもの。
今までの主張と矛盾する過去に、さやかは疑問を抱く。


杏子「その翌日から、信者はどっと増えていったよ。
   それが目的ってワケじゃなかったけど、アタシら一家の生活も持ち直した」

杏子「こうして魔法少女の仲間入りしたはいいけれど、
   魔女ってやつは、駆け出しのアタシにはどいつこいつも強敵でね」

杏子「ある日、危うくやられかけた所をある魔法少女に助けられた。
   そいつが巴マミだったんだよ」

杏子「それから色々と教わるうちに、マミとはコンビとして行動するようになった。
   といってもアタシは新人だったし、相方ってよりは弟子みたいなもんだ」

さやか(私と同じ、マミさんの『元』弟子…)

杏子「でも、あの頃は毎日が充実していたよ。
   アタシと親父で、表と裏から世界を救うって理想を持ってたし、
   何より魔女との戦いでも、一緒に戦う先輩がいるから心強かった」
 



杏子「けどある日、魔法少女として戦ってるところを、親父に見られちまった。
   事情を分かってもらおうと説明したけど、親父の反応は間逆だった」

杏子「特に、信者を集めたのが魔法の力だって知ったときは酷かった。
   魔女と戦ってきたアタシを『魔女』だって、毎日のように責め続けたよ」

杏子「それから親父はどんどん不安定になって…壊れちまった。結果、どうなったと思う?」

さやか「どうなったって、私が知るわけ…」

杏子「かなり前に、どっかの教会で一家心中が起きたニュースは知ってるかい?
   それがアタシを除いた、佐倉家の末路さ」

さやか「………」


さやかは何も言えなかった。

同じような事件は、毎日のようにどこかで起きている。
その報道に覚えはなかったが、もしかすると、どこか見聞きしたことがあるのかもしれない。


杏子「誰かのために手に入れた魔法が、結果的に相手を不幸にした。
   なら、こう考えずにはいられないでしょ」

杏子「『全ては自業自得なんだ』、『自分の魔法は、自分のためだけに使い切るんだ』ってね。
   そんなこんなで、アンタが嫌ってる今のアタシがあるのさ」

さやか「…それから、マミさんとは?」

杏子「こうして開き直ったアタシが、『正義の味方』と同じように戦えるわけがない。
   だから、マミとも方針を巡って意見が食い違うようになった」

杏子「それに、アタシがどんなに自分を責めようと、『佐倉さんは悪くない』って笑顔で手を差し伸べる。
   その優しさが、あの時のアタシには苦痛で苦痛でたまらなかった」

杏子「だからコンビを解消した」


今のさやかも、かつての杏子と同じ事を考え、同じ行動を取ってしまっている。
マミに二度も決別を経験させたことを申し訳なく感じるが、それを撤回する意思はなかった。


さやか「…あんたの事、色々と誤解してた。その事はごめん。私からも謝るよ」

さやか「でも、あんたは他人なんてどうでも良くて、自分のためだけに生きてるんでしょ?
    何で私なんかに関わろうとするの?」


さやかは自ら謝るとともに、以前杏子が答えなかった質問を再度ぶつけてみる。



杏子「…前にも言ったけど、アンタはまるで昔のアタシなんだよ。だから無性にイラついた。
   どうにも見てらんなくて、考え方を根本から変えてやろうと思った」

杏子「でもアンタは変わらなかった。だからアタシも余計に頭に血を上らせちまった。
   アンタ自身の事情も考えずにね…」

さやか「私だって、あの時は途中から殺すつもりで戦ってたんだ。
    あんたばかり非難出来ないし、そんな資格もない…」

杏子「………」


やがて、会話と共に杏子は足を止める。
道の先には一件の古びた教会――杏子の思い出の場所が見えてきた。

二人は遠目でそれを見つめるが、中にまでは踏み込もうとしなかった。


さやか「それよりさ、マミさんと和解する気ないの?
    あの人とても寂しがってる。また一緒に戦ってあげなよ」

杏子「アタシはもう戻れない。だから代わりにアンタとゼロがいるんだろ」

さやか「私、コンビ解消したんだ」

杏子「は?…何でだよ!?」


杏子は今回の会話で、一番の驚きを見せる。


さやか「この間の夜に見たでしょ…悪い意味で『変わった』私を。後は大体あんたと同じ理由」

さやか「私はマミさんやゼロさんみたいな『正義の味方』にはなれない。
    かといって、あんたのスタンスも受け入れられない…ホント、どうしたいんだか」

杏子「…だろうね。アタシだって、今更同意を求めてここに来たわけじゃない。
   でも魔法少女になっちまった以上、考えなしでも戦い続けるしかないのさ」

さやか「そうだね…」

杏子「こんな場所まで連れて来て悪かったよ。今度こそ本当に帰るからさ」


杏子はそう言ってさやかに別れを告げ、道を引き返していく。
さやかは一人で教会を見つめながら、物思いにふけっていた。


さやか(あいつの根っこは、思ってたような奴じゃなかった。
    私にも、向こうの考えを理解する姿勢が足りなかったのかもしれないね)

さやか(もしかすると暁美ほむらも、本当は―――)




同じ頃、見滝原市街の某ネットカフェ。
その一室で、人間体のゼロが椅子に体を預けていた。


ゼロ人間体(全く、駄目なウルトラマンだぜ…)

ゼロ人間体(まさかこの俺が、一歩も外に出たくないなんてよ…)


彼は既に目を覚ましていたにもかかわらず、椅子から体を起こせずにいる。
魔女探しに出かけたのは、それから一時間が経過してからの事だった。

つづく


芸術家の魔女編はこれで終了です。
残りは4~5章を予定。


悲しいかな虚淵ワールドで愛と勇気、希望という言葉ほど胸虚しい物はないんだよね
そういう意味じゃウルトラマンみたいなヒーローとは水と油なのかも


ウルティメイトイージスくれた人と合体してた人達に助言して欲しいね

>>194
ほむ「またダメだった…」
ノア「そこで諦めんなよ!まだやれるよ!!」
ほむ「まだよ…まだ諦めないわ…!」
ノア「声小さいよ!もっと大きくはっきりと!!」
ほむ「私は諦めない!例えまどか以外がどうなろうとも!」


ノア「ないわー最初から見捨てといて諦めないとかマジないわー」
ほむ「」


【ハコの魔女 その1】



更に翌朝も、さやかにとって予想外の出来事が起きた。


さやか「あんたまで?」

ほむら「どういう事かしら?」

さやか「あ、いや…こっちの話」


一日の欠席を経て登校したさやかは、廊下で誰かに呼び止められる。
その相手は、彼女が歪む要因となった一人、暁美ほむら。


さやか(昨日といい今日といい…意外だわ)

さやか(まさか、こいつまで謝ってくるなんて)


彼女から告げられたのは、またしても『謝罪』だった。
立て続けの事態に、さやかも驚きを隠せない。


さやか(こうして謝ってくれたのは確かに嬉しい。でも、佐倉杏子の時とはちょっと違うんだよね…
    言葉も目つきも、どこか空っぽというか……)

さやか(…何か、別のこと考えてない?)


しかし彼女の対応には、素っ気無さとは別の違和感が残る。
さやかはその本心を見抜けず、会話を続けた。


さやか「でも、どうして急にこんな事…あんた、もしかして私に起きた事知ってんの?」

ほむら「ええ、知ってるわ。いずれこうなるのではないかと警戒していたから」

さやか「どっから情報が……大体、あんたの発言が原因の一つなんだけど…」

ほむら「そうかもしれないわね。でも、私が干渉するしないに関わらず、
    いずれ貴方は破滅に向かい、他の誰かにも矛先を向けかねなかった」

ほむら「私が指摘したのは、そういうことよ」

さやか「………」


自分の心理状況を省みるに、ほむらの話を否定することはできなかった。



ほむら「けれど、正直貴方がここまで思い悩むとは思ってなかった。
    気持ちまで汲み取れなかったのは、私の落ち度よ。だからこうして謝罪に来たの」

ほむら「最後に伝えたことさえ守ってくれれば、私をどう憎もうと構わないわ」

さやか「『親しい人達に救いを求めてはいけない』だったよね。
    良い意味には受け取れるんだけど……あんたの目的って、何なの?」

ほむら「詮索は無用よ。今は、私の謝罪だけでも受け入れて」

さやか「無用って…そうやって隠すから余計に誤解招くのよ」

さやか「でも…わかったよ。大半は私の責任だったわけだし」

ほむら「理解してくれて有難う。私はこれで失礼するわ」


杏子の件もあってか敵対心は薄れ、この謝罪を受け入れることに決めた。
表面上の和解を果たした二人は、それぞれ別方向へと別れていった。

さやかは振り返ると、黒髪を揺らす後姿を見つめる。


さやか(結局、あいつの心の内は読めなかった。最終的に何がしたいのかも、全然)

さやか(でも誠意は見せてくれたわけだし、責めるのはもう止めにしよう)

さやか(…本当の問題は、これから入る教室の方)


一方、ほむらの思考は『誠意』と全く無縁であった。


ほむら(これで少しは大人しくなるはず。でも、彼の報告とは随分違うわね)

ほむら(美樹さやかは、呪いを再発しかねない不安定な状態だと言っていた。
    なのに、持ち直してる?)

ほむら(いずれにしても、私には関係のない事。
    再度心を壊すような馬鹿であるならば―――魔女になった後で始末をつければいい)
 




その日の昼、ゼロは木陰に座り目を閉じていた。
一時の休息であったが、内心はこのまま休んでいたい、ネットカフェの個室に戻りたい…そう考えている。

その思考を振り払おうとする内、脳裏には杏子の言葉が蘇った。


『アタシは佐倉杏子。またどっかで会う機会があるかもな』

『見ての通り新人教育さ!邪魔すんな!』


ゼロ人間体(杏子…お前はきっと、さやかに昔の面影を見てるんだよな。
      それが原因で、後ろを振り返らずにはいられなくなってる)

ゼロ人間体(もしさやかが先に進めれば、お前も前を向いていられるのか?)


この数日で何度も繰り替えし、答えの出なかった自問自答が始まる。
続いて浮かび上がったのは、さやかの言葉。


『よーし決めた!私もゼロさんとマミさんみたいに、この街を守る正義の味方になってみせる!』

『もういいよ。ゼロさん一人で全部やっちゃえば?』


ゼロ人間体(さやか、お前を癒せる言葉が見つからねぇ。
      この世界は、今まで見てきた世界と何かが違う…俺の思いが、上手く届く気がしないんだ)

ゼロ人間体(一度会って話をするべきなんだろうな…
      でも答えのないままにお前と顔を合わせるのは、危険すぎる)


『危険』――その単語が連想させたのは、ほむらの二面性。


『この命、無駄にしないって決めたのに…何度でも繰り返して助けるって、そう決めたのに…』

『私はこの銃で、左手を撃ち抜いて死ぬわ』


ゼロ人間体(危険といえば、ほむらも考えてた以上にヤバい状況らしい。
      魔女とは違う意味で、俺が戦ってきた連中に近いものを感じるぜ…)

ゼロ人間体(『ワルプルギスの夜』を俺が倒せなければ、あいつは本当に…)


そして最後に思い出したのは、抱え込んだ全ての逃げ道となりうる言葉―――
キュゥべえからの誘いだった。


『僕と協力してこの宇宙の守護者になってよ!』


ゼロ人間体(そしてインキュベーター、テメェらは…)

ゼロ人間体(課題が多すぎるぜ…この世界。いや、俺自身の方か…)


ここでゼロは目蓋を開き、現実へと意識を戻す。
彼はその場から立ち上がると、木陰を出て日差しを浴びた。


ゼロ人間体(俺は、あいつらと一緒に新たな一カ月を迎えられるのか?
      そして、最後まで『仲間』として繋がっていられるのか?)

ゼロ人間体(『仲間』か。…たった何週間か会ってねえだけなのに、無性に懐かしく感じるぜ)

ゼロ人間体「なぁ…ミラーナイト、グレンファイヤー、ジャンボット、ジャンナイン。
      お前等は今、どうしてる?」


ゼロは青空を見上げ、遠く離れた仲間へと問いかけた。



QB「彼等も一緒だよ、君が望むなら」


微かな声を聞き取っていたキュゥべえが、背後から近づいてくる。
その姿を見た瞬間、ゼロは溜め息をつき、頭を抱えた。


ゼロ人間体「はぁ……テメェ、俺の頭をパンクさせに来やがったのか?」

QB「それは僕達との協力関係に関心を示し、悩んでくれている…という事かな?」

ゼロ人間体「バカ言え…」

QB「でも、五人の戦士で構成された宇宙警備隊『ウルティメイトフォースゼロ』。
   君の故郷の宇宙でも、随分と話題になっていたよ」

QB「君がこの宇宙に留まる意思を示してくれれば、残る四人の仲間達も歓迎しよう。
   僕達が技術を提供し、生活拠点も備えた基地を建造することだってできる」

QB「そう、君は一人じゃない」

ゼロ人間体「本当なら力が湧いてくるはずの言葉なのに、何でだろうな。
      テメェが言うと違和感しか感じねぇ…」

ゼロ人間体「それに今度は特典かよ…生憎だが、基地なら間に合ってんだよ」

QB「そうか。まぁ、すぐに結論を出す必要はないよ。
   この提案は強制ではないし、僕達は君の意見を尊重したい」

QB「だから自分の頭でよく考え、答えを出してほしい。
   ―――『ワルプルギスの夜』を迎える前にね」


最後の一言には、何らかの意図が含まれていたのかもしれない。
しかし今のゼロに、注意を向けるほどの余裕はなかった。

その内、キュゥべえは何処かへと消えた。


ゼロ人間体「あぁっ、クソッ!!」


魔法少女が戦えない平日の日中、キュゥべえの目は殆ど彼に向けられている。
いつ何処で見ているともわからない不快感を払拭するため、ゼロは走り出した。

体を勢いに任せながら、自問自答に挙がらなかったもう一つの繋がりを想う。


ゼロ人間体(お前は本当にスゴイやつだぜ。
      他の魔法少女だけでなく、俺までがこんなになっちまってんのに…)

ゼロ人間体(ただ一人、前向きに『正義の味方』として戦ってるんだからな―――マミ)
 

つづく


>>193
物語を作る際に、世界観のギャップは少し意識してます。
表現が悪いかもしれませんが、

・アナザースペース、M78ワールド…「子供向け作品の世界」
・まどマギ宇宙…「奇麗事が通用しない世界」

という解釈です。


【ハコの魔女 その2】



もうすぐ日付も変わる、夜の見滝原市。
ある魔女結界の内部を、鳥と人間を掛け合わせたかのような使い魔が飛び回っている。

その真上から、鎖で繋がれた巨大な鳥かごが、勢いよく落下する。
かごの中には下半身だけの姿をした『鳥かごの魔女』が、何度も足を踏み鳴らしていた。

魔女が押し潰さんとする先には、ウルトラマンの姿でゼロが立っている。


ゼロ「ハッ!」


迎え撃つゼロは両手にゼロスラッガーを握り、素早くカラータイマーに装着する。
タイマーからはゼロツインシュートが放たれ、鳥かごと激しくぶつかり合った。


ゼロ「でぇあああぁぁーーーっ!!」


押し合いの形になるが、光線の威力によって底部は次第に穴が開き始める。

やがて光線は鳥かごを完全に貫通し、魔女を直撃した。

大爆発を起こして消え去る『鳥かごの魔女』。
彼女もまた、ゼロの精神につけ込もうとした魔女の一体だった。


ゼロ(これでいい…もう帰ろう)


結界の解除とともに、人間体へと戻ったゼロ。
彼はこの戦いを最後に、今日一日の魔女退治を終えた。
 




戦いを終えて歩くゼロの前に、生活拠点とするネットカフェが見えてきた。
疲れ切った心身を休めるべく、彼は足早に自動ドアをくぐり抜ける。


ゼロ人間体(いつにも増して空気が重いぜ…俺も相当疲れてやがるな)


毎日のように過ごす空間だが、今の店内には言いようのない居心地の悪さを感じる。
受付を済ませようとアルバイト店員を待つが、カウンターには誰も姿を現さない。


ゼロ人間体(遅いな)

ゼロ人間体(店員もそうだが、今日は何かおかし……!?)


気付けば店内のあちこちから、暗い波動――マイナスエネルギーが漂っている。
それは明らかに魔女や使い魔が発するもの。

思わずゼロは店外へ飛び出し、イージスの光の中からウルトラゼロアイを手にする。


ゼロ人間体(やべぇ…俺の感覚、相当に鈍ってやがる)

ゼロ人間体(それに、立て続けとはな…)


一呼吸置き、ゼロは再び店内へと踏み込んでいく。

それぞれの個室から人の気配は感じられる。
一室を覗き込むと、狭い個室の中に三人の男が密集し、何かを呟いていた。


店員「わかってるよ…いつまでもこんな所でバイトしてるわけにはいかないって…
   でも見つからねぇんだよ…正社員で俺を雇ってくれる場所なんて」

客A「俺も似たようなもんだ…いい歳して、住む家もなく日雇いの生活だからな」

客B「もう、死ぬ意外に何かいい方法あるか?…ないだろ」


彼等が食い入るように見つめるPC画面には、『死』を憧れるかのような文章が並ぶ。
その内容は、所謂「自殺サイト」だった。



『自殺』という発想に、思わずほむらを思い出しかけるゼロ。
今はそれを押しとどめ、目の前の事態に集中する。


ゼロ人間体「おいお前ら、変なもの見てんじゃねぇ!しっかりしろ!」


ゼロの呼びかけにも応じず、男達は画面から目を放さない。
その画面の明かりは、男達の首筋にある刻印を微かに照らし出していた。

男達の個室を離れ、ゼロは店内を歩き回る。
他の部屋の客と店員も、『魔女の口付け』によって同じ状態に陥っていた。


ゼロ人間体(魔女の仕業で間違いないか。でも、この店の中には…いない?)

ゼロ人間体(……いや)


感覚を集中したゼロは、店外から迫る何かを察知する。
気配が彼の元へと辿り着いたとき、突如、目の前のPC画面が点灯した。


ゼロ人間体「…来やがったか!」


ゼロアイを構えようとした瞬間、周囲から水色の靄が溢れ出す。
同時に画面の中から、天使を象った人形型の使い魔が一斉に飛び出した。


??「うokiettoもmuotnnebオahodnnok」

??「ネiatik異atam」

??「えnatタkisona血nウotnnohahうoyk」

ゼロ人間体「!?」


不気味な声と共に、大量の使い魔がゼロを押さえ込む。
その隙を突き、一体がゼロアイを奪って画面の中へと帰ってしまった。


ゼロ人間体「ゼロアイが…しまった!!」

ゼロ人間体「おい!放せこの野……うおぁっ!!」


身動きの取れないゼロの体は、使い魔の力で細切れのように分解されていく。
その欠片は一つ残らず、使い魔によって画面の中へと引きずり込まれてしまった。
 





QB(緊急事態だ、暁美ほむら。君の力を貸してほしい!)


数分後の某所。
監視を続けていたほむらの頭に、突然キュゥべえからの念話が届く。


ほむら(力を貸す?何の冗談かしら)

QB(冗談を交わしている暇はないよ。君の相棒、ウルトラマンゼロが危機に陥っている)

ほむら(彼が危機?)

QB(彼はつい先程、魔女の策略で結界に引き込まれた。
   しかも変身に使う道具を奪われた状況にある。早く助けに行ったほうがいい)


やがてキュゥべえがほむらの元に辿り着き、その姿を現した。

ほむらは赤く小さな目を睨み、露骨な不快感を見せる。
キュゥべえが何らかの思惑を秘めていると察したからであった。


ほむら「本当は全部知りながら、彼に助言をしなかった。…違う?」

QB「確かに、そうとも言えるね。でも僕達は―――」

ほむら「…もういいわ。場所だけ教えなさい」

QB「彼がいつも寝泊りしているお店だよ。さぁ、行こう!」


その一言を聞いた瞬間、ほむらは全速力で駆け、ネットカフェへと向かう。
同じように、キュゥべえもその後を追いかけた。

つづく


連休中に投下できるのはここまでです。


「憧れは全てガラスの中に閉じ込めてしまう、筋金入りの引きこもり魔女。
 性質は『憧憬』といったところですか」

「う~む、引きこもりVS引きこもり予備軍…
 これ、対戦カードとしてどうなんでしょうねぇ?」

「ともかく…悩み続けたところで物語は進みませんよ、ゼロ。
 さぁ戦ってください。貴方の敵は、貴方自身―――!!」





【ハコの魔女 その3】



何段ものメリーゴーランドに囲まれ、木馬がPCのモニターを運ぶ魔女結界。
その異様な空間の中を、ゼロは呆然としたまま漂っていた。

結界に引きずり込まれる際に分解された体は、いつの間にか元に戻っている。


ゼロ人間体(ヘマしちまったぜ)

ゼロ人間体(あれさえ取り戻せればこっちのもの……だってのに)


彼の目線の先には、使い魔がゼロアイを持って飛び回っている。
手足を動かしてみるが、今の状態では体勢を維持することすらままならない。

やがて二体の使い魔が、真下から一台のモニターを運んできた。
モニターの両側面には、少女のような髪が伸びている。


ゼロ人間体(こいつが、この結界の魔女?)


ツインテールを生やした謎のモニター。
その正体である『ハコの魔女』は、画面の中に少女のようなシルエットを映していた。


ゼロ人間体(何としてでもゼロアイを取り戻して、ここを出るんだ…)

ゼロ人間体(俺は、早く『答え』を見つけなきゃならねぇんだよ!)

??「フハハハハハッ!!」

ゼロ人間体(なっ!?)


必死にもがくゼロの耳に、何者かの笑い声が響く。
覚えのあるその声、そしてモニターの画面に映った姿にゼロは驚愕する。



??「何言ってやがる。そんな虫ケラみてぇにちっぽけになっちまって!」


それは一人のウルトラマンの顔。
しかしゼロとは違い、体は黒色で、その目は大きく釣り上がっている。


ゼロ人間体(こいつは、まさか!?)

ゼロ人間体(いや、お前はあの時倒されたはずだ……俺達の『光』で!)


その姿は、かつて二度渡る戦いの末に倒され、今もなおアナザースペースに残党が潜む宿敵。
暗黒のウルトラマン『ベリアル』に間違いなかった。


ベリアル「お前にはもう何もない。絶望の恐怖を味わうがいい!!」

ベリアル「フハハハハハハッ!!」

ゼロ人間体(ふざけんな…俺にはまだ…)


画面の中のベリアルは、ゼロを指差して何度も動揺を誘う。
だが、発せられる言葉には一つの規則性があった。


ベリアル「お前にはもう何もない。絶望の恐怖を味わうがいい!!」

ゼロ人間体(待てよ…この台詞、どこかで……)

ゼロ人間体(そうか、ここは魔女の作り出した結界の中。このベリアルも本物じゃない)

ゼロ人間体(だが……悪趣味にも程があるぜ!)


発せられる言葉の数々は、聞き覚えのあるものばかり。
画面に映るベリアルの正体、それは魔女がゼロの精神に干渉し、見つけ出した過去の記憶であった。

ゼロがそれに気付くと同時に、映像は何度も巻き戻される。



ベリアル「絶望の恐怖を味わうがいい!…絶望の恐怖を味わうがいい!…絶望の恐怖を味わ…」

ベリアル「絶望の恐怖…絶望の恐怖…絶望の恐怖…絶望の恐怖…絶望の恐怖…」

ベリアル「絶望…恐怖…絶望…恐怖…絶望…恐怖…絶望…恐怖…絶望…恐怖…」

ゼロ人間体(!?)


巻き戻される間隔は徐々に短くなり、ベリアルは狂ったように同じ台詞を繰り返す。
やがてメリーゴーランドの木馬が乗せたモニターにも、別の映像が流れ始めた。

生気のない目で、自分を淡々と罵り続けるさやか。
涙を流しながら何度も剣を振るうさやか。

怒り狂い、槍を振り回す杏子。
自分の胸倉を掴み、顔中に血を滴らせるほむら。

そして、暗闇で光る赤い目。


ゼロ人間体(変なもん見せてんじゃねぇ…)

ベリアル「絶望恐怖…絶望恐怖…絶望恐怖…絶望恐怖…絶望恐怖…絶望恐怖…」

ベリアル「絶望恐怖絶望恐怖絶望恐怖絶望恐怖絶望恐怖絶望恐怖絶望恐怖…」

ゼロ人間体(やめろ)

ベリアル「絶望絶望絶望絶望絶望絶望絶望絶望絶望絶望絶望絶望絶望絶望絶望…」

ベリアル「絶望絶望絶望絶望絶望ぜtmんm、ccxじdl;ぽmzをkl、えs……」

ゼロ人間体(やめろ…!)

ベリアル「jんkdしい小戸f、kmf歩jvcしゅえんぢお;l、。rdp@p@l;・。s……」

ベリアル「sdtりえwmkれ眼rえれりおおいれkmmklれおいおいれmkmrw。・……」


ベリアル「本当の恐怖はこれからだ」

ゼロ人間体「やめろって言ってんだろ!!」

ベリアル「キャハハハハハハッ!!」
 



ゼロは目を堅く閉じ、頭を抱え出す。
対するベリアルの声は、突如として少女の高笑いに変わった。

画面にはノイズが走り、その映像は『ハコの魔女』の姿に切り替わる。

魔女が招集をかけたのか、飛び回っていた使い魔が一斉にゼロの元へ集まり、その体を押さえつけた。
ゼロアイを持つ、一体だけを除いて。


ゼロ人間体(そうだ…こいつらの狙いは俺の生命力。
      腑抜けた今の俺に勝ち目はねぇ……ここで仕舞いってわけか)

ゼロ人間体(はは…呆気ないったらないぜ)


逃げられないゼロの顔に、ギリギリまで画面が迫る。
その中に潜む魔女が、少しずつ画面の奥からこちらへ近づいてくる。


ゼロ人間体(結局俺は、色々な宇宙を飛び回って、力だけを振るっていれば良かったのか?)

ゼロ人間体(俺が守らなければならないものは、どうしようもなく大きくて広い。
      それなのに俺は、一つの宇宙の、一つの星の、一つの街の―――)

ゼロ人間体(たった数人の人間にこだわっている)


ゼロアイを奪ったままの使い魔に、ゼロは届かぬ手を伸ばす。
その手も、別の使い魔によって抑え込まれてしまう。


ゼロ人間体(これはその罰…なのかもな)


ゼロはいつの間にか抵抗することを止め、ここで消えることを受け入れていた。

その時、悠然と空を舞う使い魔目掛け、瞬時に鎖のような何かが巻きついた。
絡めとられた使い魔は、ゼロアイもろとも真上に引き寄せられていく。


ゼロ人間体「お前…」

杏子「無断でアタシの映像使うなんて、調子乗り過ぎだよねぇ?」


結界の上空から、舞い降りるかのように赤い魔法少女が現れた。

つづく


次の土日は投下できないかもしれません…

魔女・魔獣→怪獣
魔法少女→防衛チーム
って考えると昭和シリーズとは結構近い気がする


杏子はゼロを見下ろし、複雑そうな表情を浮かべる。
ゼロもまた、意外な人物の登場に驚いていた。


ゼロ人間体「…杏子?」

杏子「こんなとこで何やってんのさ、バーカ」


杏子は締め上げる槍の力を強め、使い魔を粉々に破壊する。
投げ出されたゼロアイを奪い返すと、それを一旦しまう。


杏子「それよりも肖像権…だっけ?
   その罰金、テメェのグリーフシードで払ってもらうおーか!」


杏子は槍の関節を元に戻すと、先端を魔女へ向けて挑発する。
ゼロを押さえていた使い魔達は、侵入者に狙いを定め、一斉に襲いかかった。


杏子「ハッ、チョロすぎだっつーの!
   そんなんでアタシを倒せるとでも思ってんのかよ!!」


迫ってきた天使の人形達を、振るわれた槍が一体二体と破壊していく。
杏子は大量の使い魔を相手に、たった一人でも余裕を見せる。

結界を漂うゼロは、その戦いを見守りながら何かを考えていた。


ゼロ人間体(さやかを殺そうとした、あの時のお前…あれは俺の見間違いだったんだろうか?)

ゼロ人間体(何故だろうな…今のお前にも感じるんだ)

ゼロ人間体(初めて出会った日と、同じものを…)


杏子は最後の一体を思い切り蹴飛ばすと、その反動を利用して魔女の元へ突き進む。


杏子「いつまでも閉じこもってんじゃねーよ!
   やる気ねーなら、アタシが引きずり出してやる!!」


杏子が擦れ違いざまに振るった槍が、ツインテールを伸ばすモニターの底を切り裂く。
底部分とともに、モニターの中から潜んでいた魔女が落下する。

画面では黒いシルエットしか見えなかったその姿は、まるで少女の人形のようであった。


杏子「食らいなっ!!」


杏子は落ちていく魔女に向け、魔力を込めて槍を投擲する。

槍は魔女の体を貫き、落下する以上の速度で結界の底へ叩きつける。
串刺しにされた魔女が抵抗する間もなく、魔力を解放した槍は爆発を起こした。



杏子「あー面倒くさ…」


戦いを終えてネットカフェを後にした杏子は、動けないゼロを抱えながら街を駆ける。
嫌々ではあったものの、変身した今の彼女ならば青年一人を持ち上げることは容易だった。

しばらくすると公園に到着し、ベンチにゼロを座らせる。
大きな荷が下り、杏子は魔法少女の姿から私服へと戻った。


杏子「ほらよ、大事なものなんだろ?」

ゼロ人間体「悪いな…」


杏子は俯いたままのゼロに、取り戻したウルトラゼロアイを差し出す。
ゼロは力なくそれを受け取ると、再び黙り込んでしまった。


杏子「じゃあな」


鬱屈したゼロの様子と自分の立場を考え、杏子は会話をすることなくその場を立ち去る。
しばらく歩いた後で振り返るが、ゼロは俯いたまま動こうとしなかった。


杏子「………」




ほむら「………」

QB「…おかしいね」


ほむらとキュゥべえがネットカフェに駆けつけた時、そこにゼロはいなかった。

店内には倒れた客達と、紙に印刷された自殺サイトのページが散乱している。
加えて、倒された魔女の微かな気配も残されていた。


ほむら(どうやら、先客がいたようね)


ここに居続ける理由がないことを確認したほむらは、無言で時間停止を発動する。

再び時が動き出すと、店内に彼女の姿は既にない。
そしてキュゥべえの額には、一つの穴が開いていた。

つづく


土日の予定がブッ潰れたので、続きを書くことにします。

>>217
真っ先にMACが思い浮かびました。


杏子が魔女の気配に気付いたのにマミさんも気付かないのは不思議だな
魔法少女に成り立てのさやかが気づかないのは当然としても



『ハコの魔女』討伐から、数十分が経過した深夜の公園。
そこにビニール袋をぶら下げ、再び杏子が現れた。


杏子「やっぱりな」


杏子が向かう先には、ベンチから一歩も動いていないゼロの姿がある。
しかし彼女が歩み寄っても、彼は全く反応を示さない。


杏子「………」


杏子はベンチの裏に回ると、袋の中から缶ジュースを一本取り出した。
手を伸ばし、冷えた缶をそっとゼロの首筋に当てる。

途端に、ゼロは勢いよく俯いた顔を上げた。


ゼロ人間体「冷たッ!!」

杏子「何だ、ちゃんと意識あんじゃんかよ」

ゼロ人間体「杏子?お前、いつの間に…」

杏子「アタシと話がしたかったんだろ?時間作ってやるから、まぁ飲めって」


さやかだけでなくゼロとも向き合い、会話に応じる。
それは杏子自身も迷った末の行動であった。

杏子はゼロの横に腰掛けると、缶を手渡す。
彼女は袋からもう一本の缶を取り出し、その蓋を開けた。


ゼロ人間体「………」

杏子「調子狂うよな、テンション低いアンタを見てんのはさ。
   やっぱこの間のこと、まだ引きずってんだ?」

ゼロ人間体「まあな…」
 



ゼロは普段の調子を保てないながらも、可能な限りの声で言葉を返す。


ゼロ人間体「…あれからずっと悩んでた。
      さやかだけじゃなく、どうやったらお前達を守れるのかを」

杏子「で、結局守られたのはどっちの方だよ…
   それに何度も戦ったアタシまで、わざわざ助ける義理があんのかよ?」

ゼロ人間体「あるさ…俺はみんなに、最後まで笑っていてほしい。
      お前の過去に何があったのかも、マミから聞いたんだ」

杏子「チッ、マミのやつ余計なことを…」


飛び出したマミの名前に、杏子はきまりが悪そうな態度を取る。


ゼロ人間体「マミを責めたりはするなよ。あいつだって、お前の事を本気で心配してるんだ」

杏子「知らねーよ、そんなこと…とにかくアタシはアタシでやってんだ。
   誰かに何かやって貰おうなんて望んじゃいないからな」

杏子「それより、まだ色々と抱え込んでんのはアンタの方だろ。一体何にビクついてんのさ?」

ゼロ人間体「………」


思わず言葉に詰まるゼロ。
彼はしばらく沈黙した後、その心中をさらけ出した。


ゼロ人間体「『闇』だ」

杏子「闇?…って、アンタが日ごろ戦ってる魔女も同じようなもんじゃん。
   そんなの怖がってて、正義の味方が務まんのかよ?」

ゼロ人間体「平和を乱すことが生き甲斐の悪党どもなら、俺は怖くねぇ。
      俺と仲間達で、全員まとめてブッ倒してやる」

ゼロ人間体「でも、そんなんじゃねぇんだ…」

杏子「ん?」
 


ゼロ人間体「この世界では…今まで普通に笑ったり喜んでたりしてたやつが、
      何かのきっかけで、躊躇いなく自分や人を傷つける」

ゼロ人間体「何かに取り憑かれたわけでもなく、自分の意思で、突然な…
      そんな地球人の心の闇、俺はそれが怖いんだ」

ゼロ人間体「そして考えちまった。この世界を守る価値について…」

杏子「………」


ゼロが語る地球人の闇、その一人には自分も含まれている。

『ハコの魔女』が流していた映像を思い出し、それを理解した杏子は、
敢えて話題をさやかの件へと逸らした。


杏子「美樹さやか…アイツは道を見失っちまってるよ。
   アタシみたいに割り切ることもできずに、自己嫌悪に苛まれてる」

ゼロ人間体「お前、あれからさやかと会ったのか?」

杏子「まぁね、ついでに全部謝ってきた。
   その時に聞いたけど、アイツ…マミとのコンビを解消したらしい」

杏子「多分アイツが一番引きずってるのは、『正義の味方』を貫けないことなんだ」

ゼロ人間体「マミとも…」


杏子が良い方向へ変わっていることに安心を覚えるゼロであったが、
それ以上にさやかの行動が不安を煽る。

ゼロはマンションにさやかを送り届けて以降、一度もマミと顔を合わせていない。
彼女の周辺の出来事も、その心理状態さえ、全く把握してはいなかった。


ゼロ人間体「お前もさやかのこと、心配してくれてるんだな」

杏子「散々突っかかっといて、意味不明だろ?
   でも、これはアタシ自身が撒いた種でもあるからさ…」

杏子「だけど、アタシの言葉もマミの言葉も、アイツを変えるには不十分だった。
   そして残るは一人。やれるとしたら多分、アンタだ」
 


ゼロ人間体「マミでも出来なかったのに俺なのか?
      それに、さやかにかける言葉が全く思いつかねぇ…」

杏子「まぁ…『ウルトラマン』の力、こんな時に使っても罰は当たらないでしょ」

ゼロ人間体「えっ?」

杏子「別に言葉でなくてもいいじゃんか。アンタは魔法少女じゃないんだ。
   やれる事の選択肢は、アタシ達よりも多いんだろ?」

杏子「どんな方法でもいいじゃん。
   アンタが信じてるものを伝えて、『正義の味方』の何たるかを教えてやればいいのさ」

ゼロ人間体「言葉以外の方法…そして、俺が信じてるもの…」

杏子「何もないのかよ?」


自分が強く信じ、力に変えているものは何なのか―――
ゼロが真っ先に思い浮かんだのは、今まで自分と関わってきた者達の姿。

ウルティメイトフォースゼロのメンバー。
M78のウルトラ戦士達や、宇宙開拓のクルー達。
アナザースペースで共に旅した人間達。
その他の星で出会ってきた多くの存在。

彼等との繋がり、そこに答えがあった。


ゼロ人間体「『仲間』…」

杏子「仲間、ねぇ」

杏子「要するに、『仲間がいるから戦える』ってことか。
   むず痒いね……まるで子供番組のノリだよ」

ゼロ人間体「……だよな」


『仲間』――それはゼロにとって心強い支えであるとともに、守るべきもの。

だが、杏子から返ってきた言葉は辛辣なものであった。
その反応に、ゼロは肩を落とす。
 



杏子「でもアンタは、そこからブレちゃいけないんだ」

ゼロ人間体「ブレない?」

杏子「この世界、元いた世界と比べて相当な歪みっぷりなんだろうね。
   アンタがこうしてウツっちまうくらいだし」

杏子「でも、そんな世界で信じるものを貫けるヤツの姿は、希望になるんだ。
   迷路の中に閉じ込められたままの、誰かの希望にね」

ゼロ人間体「俺の生き方が、希望に…」


杏子を見ると、彼女は少しだけ寂しそうな表情を浮かべている。
彼女はゼロの視線に気付かないまま、言葉を続けた。


杏子「アタシも、親父にはそうあってほしかった」

杏子「正直に言うと…アンタには何となく感じてたんだ。
   親父がなれなかったものになれる、アンタはきっと、そういう存在なんじゃないか…ってさ」

ゼロ人間体「杏子…」


ゼロは静かに目を閉じる。


ゼロ人間体(…大事なことを忘れかけてたぜ)

ゼロ人間体(宇宙を守る神秘の盾――ウルティメイトイージス。
      この力は、腑抜け野郎じゃねぇ。『ウルトラマンゼロ』に授けられたものだ)

ゼロ人間体(俺が信念を見失わない限り、どんな世界だって守り抜ける。
      そう信じて、俺を使い手として認めてくれたんだよな)

ゼロ人間体(わかったよ…もう綺麗事と思われようが構わねぇ。
      杏子の言うとおり、今までどおりの俺で『心』と向き合うんだ)

ゼロ人間体(やってやる…最後まで『ウルトラマンゼロ』を貫いてやるぜ!!)
 



それは、ようやく得ることの出来たゼロの答え。
同時に体中に力が漲り、数日ぶりに心を覆っていた暗雲が晴れたような気がした。


ゼロ人間体(それに…いつまでもクヨクヨ迷ってたら、イージス没収されて帰れなくなったりしてな)

ゼロ「…ははっ」


目を閉じたまま、ゼロは微かに笑う。
その様子を見て、杏子も少しだけ微笑んでいた。


杏子「フッ…」

ゼロ人間体「杏子、ありがとう」


ゼロが再び目を開けると、杏子はこちらに向けて手のひらを伸ばしている。


ゼロ人間体「何だよ、その手は」

杏子「レスキュー代にカウンセリング代。あぁ忘れてた、ジュース代もよろしくね」

ゼロ人間体「お前な…」


杏子が見せたのは、半分は本気の悪ふざけ。
ゼロが呆れ顔を作る裏で、彼女はささやかな期待を抱いていた。


杏子(何これ、まるでアタシが相談役じゃん。…でも、もっと早くに話をすれば良かったよ)

杏子(アンタなら見せてくれるのかな、アタシがずっと前に憧れてたこと―――)

杏子(最後に愛と勇気が勝つストーリーってやつをさ)
 

つづく


>>223-224
夜も遅いので、マミは既に帰宅してます。
杏子が駆けつけた理由については次回触れる予定です。



>>236
でも、この世界って過去に魔法少女の存在がバレて魔女狩りがおこったらしいからな
魔法少女で、これなのにウルトラマンなんて存在が現れたら…
正直この世界は魔法少女の存在及び真実が世間に知れたら漫画版デビルマンみたいな事になる可能性が高いと思う

寧ろウルトラマンが愛想尽かさないかどうかが心配

>>238
ゼロ「これが・・・これが・・・俺が守ろうとした人間の正体なのか!?」
絶対こんな台詞言わないだろうけどさ

ウルトラマンでも「怪獣使いと少年」みたいなえげつない話があったりするからなあ

皆さんの乙と談義に感謝。

先週は仕事が忙しすぎて作成の時間が取れませんでした。
今週中には投下できるよう頑張りますので、もうしばらくお待ちください。


【ハコの魔女 その4】



PC機器が並ぶどこかの暗い部屋。
照明の変わりに、モニターの明かりがほむらの姿を照らし出す。

彼女が再生しているのは、ゼロが滞在するネットカフェから持ち去った監視カメラのテープ。
画面には店のカウンターが映るが、店員の姿はない。

しばらく映像を眺めていると、一人の青年が入店した。


ほむら(彼ね)


それは一日の役目を終えた、人間体のゼロ。

カウンターで数分待機していたゼロは、突然、急ぎ足で外へ飛び出していく。
ゼロはすぐに再入店し、店内の奥へと踏み込んでいった。


ほむら(彼女は…)


更に数分後、何かに気付いたほむらは映像を停止する。
そこには、彼女よりも先に魔女討伐へ駆けつけた少女が映っていた。


QB「佐倉杏子だね。あの場所に残された魔力から、予想はついていたよ」

ほむら「………」


閉じられていたはずの部屋に、キュゥべえが姿を見せる。
しかし、ほむらは構わずPCの操作を続けた。
 



QB「使い魔を見逃して魔女を育て、率先して縄張り争いを起こす。
   貪欲なまでに自分の損得を考えていた彼女だけど、ここ最近で随分と見違えたよ」

QB「何しろ、見滝原市へ頻繁に出入りしながら、
   拠点である風見野市でしか魔女を狩らなかったんだからね」
   
QB「恐らく、かつて師弟関係にあった巴マミに気を遣っていたのだろう」

QB「現状、この街は君とウルトラマンゼロによって魔女が激減している。
   杏子はそれを知りながら、マミの収穫になるかもしれない魔女を討伐した」

QB「これは何故だと思う?」

ほむら「あら、私に話してたのね。独り言だと思ってた」

QB「目的以外の物事に、本当に興味がないんだね。恐れ入ったよ」

QB「つまり、彼女は偶然見つけた反応を放置することができなかったのさ。
   複数の人間達が、魔女の犠牲になりかねないと気付いてね」

QB「ウルトラマンゼロも、杏子が見せた『正義』によって救われたわけだ。
   …そのお陰で、君について調べる機会も失われたけれど」

ほむら「抜け目ないわね」


関心を示す素振りこそ見せないが、ほむらは全て漏らすことなく聞き取っている。
ここで、彼女はようやくまともに言葉を返した。


ほむら「彼女が駆けつけずとも、私は彼を確実に救い出していた。
    その上で、私が取る行動を探ろうとしたのでしょう?」

ほむら「無駄な事を…お前にできるのは、私に全てを覆される様を見ていることだけよ」

QB「そこで僕の観察力が物を言うわけだ」

QB「君に何度も殺されたことで、攻撃の特性も既に把握できたからね」


マウスを動かすほむらの手が、一瞬止まる。
 



QB「僕が契約した覚えのないイレギュラーな魔法少女。
   有り得ない知識量と僕への異常なまでの敵対心から、その正体も見えてきた」

QB「君が扱うのは、時間操作の魔術。
   そして君は魔法の力によって、別の時間軸からやってきた人間だ」

ほむら「……ッ」

QB「あとは君の目的を炙り出すだけさ」


ほむらは振り向くことなく、苛立った目つきでモニターを見つめ続ける。

度重なるループの中で、キュゥべえに魔法の性質を見極められたことは何度もあった。
しかし幾ら経験しようとも、秘密を暴かれる感覚に慣れることはない。


QB「本当は君のことだけでなく、『光』の確保にも全力を尽くしたいんだけどね。
   でも、本星が限られた数しか僕を送ってくれない以上、そうもいかないんだ」

QB「僕は僕に与えられた、本来の役目が待っている。
   バランスを上手く調整しながら、全て達成してみせるさ」

QB「それじゃあ僕はここで失礼するよ」


ほむらへの牽制という目的を終え、キュゥべえは部屋から去ろうとする。
その足を、ほむらの一言が止めた。


ほむら「また、誰かを絶望へと落とすつもり?」

QB「当然だ。利用できるものは何でも利用しないと、勿体ないじゃないか」

ほむら「下衆ね」

ほむら「……でも、同感よ」


相容れない互いの立場を表すかのように、背を向ける両者。
そしてほむらの目は、画面に映る杏子の後ろ姿を凝視していた。
 

つづく


各所で荒らしが出没しているため、今回は全部sage投下で。
作成が追いつけば、また明日投下します。


【ハコの魔女 その5】



さやか(あの日から、私はフリーの魔法少女。
    ゼロさんやマミさんとは、一度も顔を合わせてない)

さやか(それでもやってる事は変わらない。魔女から使い魔まで、全部倒すつもりで探してる。
    ま、全然見つけられてないんだけどさ)

さやか(変わらないのは、日常生活でも同じだね。
    仁美にまどか――そして恭介とも、今までどおりの『友達』関係)

さやか(全てはゼロさんやマミさんに出会う前に戻ったんだ。
    ただ一つ違うのは、私に魔法少女の使命が与えられたこと!)


さやか(…そう自分に言い聞かせて、取り繕うしかないんだ)


さやか(溢れ出てたドス黒い感情も、それをかき消してくれた温かさも、もうどこかに消えちゃった。
    残ってるのは、どっちにも染まれない抜け殻みたいな私だけ)

さやか(…恋愛に振り回されて、平然と誰かを傷つけられるやつが、
    よく『正義の味方』なんて目指せたもんだよね)

さやか(それに、あんなに憎んでた二人が急に謝るもんだから、
    あいつらへの憎しみとか、そんな感情を力に変えてた自分がクズに思えてくるんだ)

さやか(この先どうすればいいのか、全然わかんないよ)

さやか(そういえばキュゥべえの奴が言ってたっけ、私は『卵』だって。
    それは、こんな最低女でもまだ生まれ変わることができるって意味なの?)

さやか(…なんてね。さ、そろそろ出掛けよう。今夜こそ魔女を探してやっつけるんだ)



その晩も、さやかは魔法少女の使命を果たすべく自宅を抜け出す。
静かに玄関のドアを閉じ、夜の市内へ向けて歩き始めようとした。

その時、さやかの動きが止まった。


さやか「!?」

ゼロ人間体「久しぶりだな、さやか」


自宅の前で、ゼロはさやかが現れるのを待っていた。
ずっと遠ざけていた存在を前にし、さやかの中で緊張が高まる。


さやか「ゼロさん…」

ゼロ人間体「魔女を探しに行くんだろ?付いて行ってもいいか?」

さやか「あ……うん…」


あまりにも突然の出来事に、さやかは拒むタイミングを完全に逃してしまっていた。


特に目的地を決めているわけでもなく、二人は並んで歩き出す。
さやかは会話の内容を必死に考えるが、何も思い浮かばない。


さやか「………」

ゼロ人間体「そう硬くなるな…ってのも、無理な話だよな」

ゼロ人間体「こうして会うのも、あの夜以来だ。
      俺も色々と思うところがあって、お前の事を避けちまってた」

ゼロ人間体「でも、もう逃げねぇ」

さやか「避けてたってのは私の台詞であって…ゼロさんは何も悪くないっすよ」

さやか「ズルズル行っちゃうよりは、こうして来てくれて良かったのかな…と思う」

ゼロ人間体「そうか」


数日前、マミが見せた依存から思わず逃げ出してしまったさやか。
同じように、本当はこの場からも逃げ出したくて仕方ない。

その葛藤は、さやかからある言葉を引き出した。



さやか「恭介と仁美、上手くいってるみたい」


突然飛び出したのは、恭介をめぐる恋の結末。
ゼロは敢えてすぐに言葉を返さず、さやかが話を続けるのを待った。


さやか「仁美、私には遠慮してるっぽいけど、見てるだけで毎日が充実してるってわかるんすよね」

さやか「それに、まどかには結構ノロケ話してるみたいだし…」

さやか「………」

さやか「…ゼロさん、私は選ばれなかったんだよ」


さやかの言葉には、仁美への憎しみも祝福も含まれていないように感じられる。
それを聞きながら、ゼロは浄化を施した時、さやかにかけた言葉を思い出していた。


ゼロ人間体「…『信じる』ってことは、前に進むために必要なことなんだ。
      困難な道を乗り越えるための、原動力みたいなもんだからな」

ゼロ人間体「でも、幾ら強く信じたからといって全てが叶うわけじゃない」

ゼロ人間体「あの時の俺の言葉、無責任に感じるか?」


ゼロの問いに、さやかはどこか申し訳なさそうな素振りを見せていた。
しかし、ここで偽るべきではないと考え、小さく頷いた。


さやか「ごめん、前みたいにゼロさんを責めたいわけじゃないんだ。
    でも、自分でももうわけがわからなくなっちゃってる」

さやか「恋愛のことだけじゃない。
    『正義の味方』から外れた私は、この先何のために魔法少女を続ければいいんだろ…とか」

さやか「もし、こうして魔女を探すことさえやめちゃったら、
    私がこの世にいる価値なんてなくなるんじゃないか…とかさ」
 



さやか「でもゼロさんにとって戦いは当たり前で、別に理由なんてない。
    たぶん、私のことなんてわからないっすよね…」

ゼロ人間体「確かに、平和を守る戦いに理由なんてねぇ」

ゼロ人間体「けどな、何のために強さを求めるのか、
      何が俺を強くするのか――その答えは持ってるつもりだ」

ゼロ人間体「俺が持ってる答えと、お前が手にするかもしれない答え。
      二つは全く違うものかもしれないけどな」

さやか「…こんな私でも、見つけられる?」

ゼロ人間体「前に自分の事をこう言ってたよな。『正義の側なのに、力を求めて闇に堕ちる奴』だって」

ゼロ人間体「もし一度闇に堕ちかけて、道を正せた奴が目の前にいたとしたら?」

さやか「それ、どういう事?」

ゼロ人間体「その前に…」

ゼロ人間体「いるんだろ?出てこいよ!」


ゼロは立ち止まると、建物の陰に呼びかける。
しばらくすると、その声に応えるかのように何者かが姿を現した。


さやか「あんた、毎回どこから湧いてくんのよ…」


隠れて二人の様子を窺っていた人物とは、杏子であった。


杏子「何だ、どっから気付いてたのさ?」

ゼロ人間体「俺が着く前からさやかの家の近くに隠れてたろ。そこからずっとだよ」

杏子「最初からバレバレかよ…こういうのは得意分野だと思ってたのに。
   自信なくすね、こりゃ」

ゼロ人間体「そう言うなよ。お前が目ェ覚ましてくれたおかげで、すげー冴えてただけだ!」

ゼロ人間体「だから自分に自信を持て、自信を!」

杏子「うっぜぇテンションだな…もう一度ウツって引きこもってろよ!」

さやか(この二人、微妙に打ち解けてる?)


初めて出会った日のような関係性を取り戻しかけていたゼロと杏子。
知らぬ間に変化している二人の様子に、さやかも驚いている。

そしてゼロは、さやかだけでなく杏子も交えた上で、何かを始めようとしていた。
 



ゼロ人間体「さぁ、そろそろ始めるか」

さやか「始めるって、何を?」


腕を突き出すと、イージスの光からゼロアイが飛び出す。
ゼロはジャンプし、高く舞い上がったゼロアイを装着した。

彼の周囲に赤と青の光が収束し、その姿はウルトラマンではなく、白い光球へと変化した。
空へと上った光球は、直後にさやかと杏子目掛けて急降下する。


杏子「何で変身して――って、おい待ッ!?」

さやか「わっ!?」


光球が衝突すると同時に、二人は視界を遮るほどの光に包み込まれていった。


二人が再び目を開けると、辺り一面は真っ白な光に囲まれている。
その奥から、人間体のゼロが歩いてきた。


さやか「ん…?」

杏子「なんだここ、結界じゃあないよな?」

ゼロ人間体「ここは俺が作り出した光の空間だ」

杏子「光の?んなもん作って、一体何する気だよ?」

ゼロ人間体「言葉だけでは伝えきれないもの、『ウルトラマン』の力で補うだけさ」


ゼロが目線を向けた先に、一つの映像が浮かび上がる。
それは宇宙空間に輝く、緑色の惑星。


ゼロ人間体(言葉だけじゃなく、映像もあればより詳しく伝わるってもんだろ!な、杏子!)

杏子(……あー、そういう事ね)


杏子に向け、ゼロは一点の迷いもない凛々しい顔でテレパシーを送る。
一方の杏子は、何ともいえない表情で念話を返した。


杏子(何つーか、アタシが想像してたのとは随分違うんだけど…)

杏子(まぁ『どんな方法でもいい』なんて言っちまったのはアタシだし、
   とりあえず見守るしかないよな…)

 

つづく


ちょい補足すると、ゼロが二人に使っている能力は
『ウルトラ銀河伝説』でメビウスがレイに協力を求めた時と同じものです。



ゼロ人間体「本当はさやかだけのつもりだったんだが…
      杏子、お前がこうして付いてきたのも何かの縁だ」

ゼロ人間体「あまり時間は取らせねぇ。だから二人には、最後まで見てほしい」

ゼロ人間体「俺の過去。そして、俺の心の内を」

さやか「わかったよ、私も逃げない」

杏子「しゃーない、アタシも最後まで見てやるよ」


二人の了承とともに、映像の視点は惑星へ向けてぐっと近づいていく。

その遙かな大地には、巨大な都市が広がっている。
建ち並ぶ建造物の数々は、まるで結晶で構築されているかのように美しい。

幻想的な街並みを、ゼロと同じ種族の人々が歩き、会話を交わし、空を飛ぶ。
地球とはどこか似ているようで大きく異なる、巨人達の暮らしがそこにあった。


さやか「綺麗…」

ゼロ人間体「これは、遠く離れた別の宇宙にある『光の国』。俺の故郷だ」

杏子「これが、アンタの故郷…」

ゼロ人間体「ああ、誰もが宇宙の平和を願い、犯罪者もいない。そんな世界で俺は生まれ育った」


都市の上空には、巨大な塔がそびえている。
視点は塔へと近づき、その入り口から内部へと踏み込んでいった。

しばらく上層へ上っていくと、塔の中枢と思われる場所に辿り着く。
そこには、祀られるかのように強い光が輝いていた。


ゼロ人間体「光の国は、太陽の爆発で一度は光を失った星なんだ。
      でも、科学者達が諦めずに作り上げた人工太陽が、この星を蘇らせた」

ゼロ人間体「この塔は、光の国を照らす人工太陽の本体。
      そしてあの光は、強大なエネルギーを秘めた人工太陽のコアだ」


しかし映像の中では、何者かが光に向けて手を伸ばす。
その姿は、二人にも見覚えのある戦士―――ウルトラマンゼロに他ならなかった。



さやか「ゼロさん?」

杏子「何しようとしてんだ?」

ゼロ人間体「俺はより強くなるために、この光を手に入れようとしたんだよ」

さやか「え…」


その時、何者かがゼロの腕を掴む。


セブン『待て!』


ゼロを振り払って制止したのは、同じように頭部にブーメランを装着した赤い戦士。
ウルトラ兄弟の一人・ウルトラセブンであった。


ゼロ『邪魔すんな!』

セブン『その光に近付くな。お前にはまだ早すぎるんだ』

ゼロ『舐めるなよ。俺はこの力を使いこなしてみせる!』


だが、セブンに続いて更に数人のウルトラマンが駆けつける。
彼等は一斉にゼロを取り押さえ、エネルギーコアの元から引き離した。


ゼロ『…ッ!?放せ……放せよぉっ!!』

セブン『残念だが…お前にはもう、ウルトラ戦士を名乗る資格はない』


聖なる光に触れることは、この国では大罪。
禁を破ったゼロは身柄を拘束され、連行されていく。

セブンはその様子から目を背け、悲しそうに俯いていた。
 



ゼロ人間体「ホント、我ながらありえないぜ…」

さやか「………」

杏子「………」


映像を見つめ、ゼロは自分の過ちを反省していた。
さやかと杏子もそれぞれ何かを考え、黙っている。

しばらくして、二人の反応に気付いたゼロは話を再開する。


ゼロ人間体「ああ…悪い。それから俺は故郷を追放され、辺境の惑星で修行を命じられたんだ」


ゼロ『こんなギア着けてたって、負ける俺じゃねぇ!!』

さやか(!?)


以前キュゥべえとの会話でも触れたことのある星『K76星』。
強い磁気嵐が吹き荒れる中で、二人の巨人が激しい戦いを繰り広げていた。

一人は訓練用の制御アーマーを架せられたゼロ。
そしてもう一人は、彼を鍛え上げる役目を受けたウルトラマンレオ。


レオ『イアァーーッ!!』

ゼロ『うっ…ぐあっ…』

レオ『お前はまだ、小手先の力しか信じていない。そんなものは、本当の強さじゃない!』

ゼロ『偉そうに…ゴタゴタ言ってんじゃねぇ!!』

ゼロ『デェアッ!!』


だが、ゼロは本来の力を発揮できず、一方的に叩きのめされるばかり。
その結果を受け入れられず、苛立ちを剥き出しにして再びレオに挑んでいく。

ヒーローとして、『正統派』とは言い難い性格をしているゼロ。
しかし映像が見せる過去は、現在の彼が想像できないほどに荒れていた。

 



杏子(何だろうね…笑えない)


自分の為だけに生きると誓って以降、他者を傷つけることに躊躇いのなかった自分。
怒りに身を任せ、隣に立つ少女を自らの手で殺そうとまでした自分。

杏子はさやかに過去の姿を見たように、荒れたゼロの過去も自分と重ねていた。


杏子「…大体アンタ、何でこんな事しでかしたんだ?」

ゼロ人間体「ずっと昔から、平和を守るために戦うのは当たり前のことだった。
      理由なんて考えたこともなかった」

ゼロ人間体「だからこう考えた。より強い力を手に入れて、
      片っ端から悪を叩き潰せば、平和は守られるってな」

ゼロ人間体「あの時の俺は間違っていた。力に見合う『正義』を持っていなかったんだ」


レオの猛攻を渾身の力で受け止め、投げ飛ばすゼロ。
すると、レオが叩きつけられた岩山がひび割れ、崩れ落ちていく。

それを目の当たりにし、ゼロは一目散に駆け出した。


ゼロ人間体「でも、この長い修行は俺に気付かせてくれた」

ゼロ人間体「今まで足りなかったもの…命を慈しみ、弱きものを助ける心を!」

さやか「あ…」


黙っていたさやかの口から、思わず声が漏れる。

映像の中では、ゼロは巨大な落石を持ち上げていた。
その足元には、人間ほどの大きさをした怪獣が跳ねている。

ゼロが咄嗟に助けようとしたのは、その小さな『命』。


ゼロ人間体「こうして俺は答えを手に入れた。
      守ることが『戦う』こと…そして、それこそが本当の『強さ』であり『正義』だってな!」

さやか(守る…それがゼロさんの答え)


さやかは一度映像から目を離し、俯いて考え込む。


さやか(私も、何かを守るためにキュゥべえと契約した。
    でも、魔法少女になって守りたかったものって…本当は何?)

さやか(病院にいた患者さん達?身近な人達?この街に暮らす人ぜんぶ?)

さやか(それとも―――)


頭の中で、一人の少年の顔が浮かびかける。
その時、杏子がゼロに訊ねた。

 



杏子「ちょっと水を差すようで悪いんだけどさ、一つ聞かせなよ」

杏子「もしアンタが変われなかったら、今頃どうなってた?」

ゼロ人間体「丁度、それについても話そうと思ってたところだ。
      俺が答えを手にした裏で、光の国ではとんでもねぇ事件が起きていたんだ」


映像はK76星の荒野から一転し、棍棒のような武器を手にした黒い巨人を映す。
更にその背後には、百体近い巨大な怪物たちがひしめいている。


杏子「何だよこりゃ…魔女より馬鹿でかいのがウジャウジャと…
   それに、こいつも『ウルトラマン』?」

ゼロ人間体「俺と同じ種族でありながら、闇に堕ちた暗黒の戦士――『ウルトラマンベリアル』だ」


ウルトラマンのようで禍々しいその姿に、違和感を抱く杏子。
『ハコの魔女』の結界でもベリアルの映像は流れていたが、杏子はそれを目にしていなかった。


杏子「でもさ、おかしくない?さっき故郷には犯罪者がいないって言ってたじゃん」

ゼロ人間体「こいつはその中で唯一の例外なんだよ。…まぁ、俺の件はもうノーカンらしいが」

ゼロ人間体「でも、こいつが犯した罪…それは俺と同じ、
      人工太陽のコアを手に入れようとした事から始まったんだ」

ゼロ人間体「失敗して故郷を追放され、憎しみに支配されたベリアルは、
      宇宙の闇に魅入られて暗黒の戦士へと変わり果てた」

ゼロ人間体「光の国に再び現れた奴は、破壊の限りを尽くした後に投獄されたんだ。
      俺の故郷の歴史じゃ『ベリアルの乱』だなんて呼ばれてる」

杏子「だとすると、アンタがあの光に触れていたら…」

ゼロ人間体「力に溺れ、身を滅ぼし、こいつのように闇に堕ちていたかもな。
      ベリアルは『こうなっていたかもしれない』俺の姿でもあるわけだ」

杏子「なるほど、ねぇ…」

ゼロ人間体「俺はあの時、道を踏み外しそうになった。でも、それを止めてくれた人がいた」

杏子「さっきのウルトラマンの事?」

ゼロ人間体「ああ、あの戦士の名前は『ウルトラセブン』。俺の親父だ!」

杏子(『親父』?)


その言葉に、杏子が思わず反応を示す。


杏子「…立派な親父じゃん」

ゼロ人間体「そう思うだろ?親父は俺の誇りだからな!」


父の存在は、ゼロにとって偉大なものであることが伝わってくる。
杏子は笑みを見せながらも、どこか羨ましそうであった。
 

つづく



ゼロ人間体「でも親父達はその頃、絶対絶命の状況に陥っていた。
      あのベリアルが復活し、光の国が壊滅状態に追い込まれたんだ」


すると、映像は塗り潰されるように『怪獣墓場』で繰り広げられる決戦へと切り替わる。

ベリアルと、百体から数を減らした数十体もの怪獣軍団。
対する光の勢力は、わずか数人のウルトラマンと地球人達という絶望的な状況。

更に、そこには重傷を負い、力なく地に伏したウルトラセブンの姿があった。


ベリアル『もう飽きた。そろそろ終わりだ!』


満身創痍の戦士達に、ベリアルはとどめを刺そうと動き出す。
その時、放たれた一筋の光線が、怪獣達を薙ぎ払った。

巻き起こる爆発が晴れた後、駆け付けた光がセブンを安全な場所へと運んでいく。


ベリアル『誰だ!?』


ベリアルの問いに、その戦士は拳を強く握り締めて振り返った。


ゼロ『ゼロ…ウルトラマンゼロ!セブンの息子だ!!』

ベリアル『セブンの息子だと?だったら親父同様、地獄に落としてやる!!
     行けぇぇぇーーーーっ!!』


光の国の危機を知り、駆け付けたウルトラマンゼロ。
一斉に襲い来るベリアルの怪獣軍団に、彼はたった一人で戦いを挑む。

エメリウムスラッシュ、ワイドゼロショット、ゼロスラッガー、
持てる力と技の全てを振るい、次々と怪獣を撃破していく。



ゼロ人間体「さやか、お前は力を求める意味を…『正義』を契約した時から持っていた。
      だけど俺は、手にするまでに長い時間がかかっちまった」

ゼロ人間体「それに気付けたとき、俺はやっと『ウルトラマン』になれたんだ。
      そしてこれが、本当の意味で最初の戦い―――」


圧倒的な力で怪獣軍団を全滅させたゼロ。
彼を倒すべく、ついにベリアル自らが立ちはだかる。


ベリアル『小僧、今度は俺様が相手だ!!』

ゼロ『貴様だけは、絶対に許さん!!』

ベリアル『ほざけ!今ブッ倒してやるからなァァッ!!』

ゼロ『シェーアッ!!』


ついに相対し、武器を交えるゼロとベリアル。
激しい攻防を見つめながら、さやかは自分が『守りたいもの』に対して一つの結論を出していた。


さやか(そうだ…私は恭介も他の患者さん達も、みんなを守りたかったんだよ)

さやか(そしてマミさんとゼロさんの戦いを見て、今度はこの街そのものを守ることに憧れたんだ)

さやか(どれか一つが正解ってわけじゃない…全部私の、本当の気持ちだった)

さやか(でも…)


戦いの末、放たれたゼロツインシュートがベリアルを直撃する。
その威力にゼロは反動を受け、ベリアルは押し飛ばされていく。

やがてベリアルは怪獣墓場の谷底まで吹き飛ばされ、流れる溶岩の中へと落ちていった。


杏子「これがアンタが『正義の味方』になるまでの顛末か」

ゼロ人間体「まぁ、この後もまだ少し戦いは続くんだが―――」


直後、ベリアルは余力を振り絞り、全長四千メートルにも達する怪物を作り出す。
……のだが、その回想はさやかによって遮られることとなる。
 



さやか「最終的にゼロさんは光を取り戻して、故郷を救って、
    みんなから一人前の戦士として認められましたとさ……めでたしめでたし」

さやか「…この後って、大体そんな流れっすよね?」

杏子「おい、どうしたんだよ?」


ゼロが回想を続けようとした時、さやかが突然口を挟む。
以前のように攻撃的ではないものの、その様子はどこかおかしい。


ゼロ人間体「俺から説明したかったが、確かにそんなところだ」

さやか「ゼロさんはほんとスゴいっすよ…
    スゴすぎて…スケール大きすぎて…自分がちっぽけに見えちゃうよ…」

さやか「私は無敵の『ウルトラマン』じゃない…弱い『人間』なんだ」

杏子(こいつ…また前みたいに?)


さやかは、立ち直ったゼロの姿と自分とを比較してしまっていた。
杏子はその精神状態を心配しながら、ゼロの言葉を待つ。


さやか「あんな簡単には変われない…やっぱり、私はゼロさんとは違うんだよ!」

ゼロ人間体「いーや違わねぇ!」

さやか「!?」

ゼロ人間体「確かに俺達の間には、種族として力の差がある。
      でもな…人間もウルトラマンも、同じ『心』を持った存在だ!」

さやか「私達が同じ…ウソだ」

ゼロ人間体「嘘なんかじゃない。ウルトラマンだって悩み、苦しむんだ。
      そして自分一人の力では、全てを変えられない」

ゼロ人間体「人間と同じようにな」


ゼロの能力が新たな映像を浮かび上がらせる。

広大な青い空間が広がり、巨大なシャボン玉のような粟粒が無数に浮かんでいる。
その美しい光景に、さやかのすべての意識が一瞬、引き寄せられた。
 



杏子「な……これが、別の宇宙ってやつ?」

ゼロ人間体「宇宙よりも更に上、多世界宇宙(マルチバース)の超空間だ」

ゼロ人間体「この泡の一粒一粒に、別の宇宙が広がってるんだ。
      俺の故郷や、俺が滞在する宇宙、そして俺達が今いる宇宙もな」


ゼロが作り出した光の空間、その全面を使って映し出されるマルチバース。
さやかだけでなく、杏子もその幻想的な光景に圧倒されている。


ゼロ人間体「『ウルトラマン』になれた俺にも、まだ足りないものがあった。
      それを戒めるため、俺は故郷とは別の宇宙へ旅立つ任務に志願したんだ」

さやか(ゼロさんに足りなかったもの?これ以上何が…)


ゼロはまだ、自分に何かを伝えようとしてくれている。
それが何なのかを見届けるまで、さやかはしばらく口を開かないと決めた。


ゼロ人間体「だが、辿り着いた宇宙で待ち構えていたのは、最悪の敵だった」

杏子「最悪の敵?一体どんなバケモンだよ?」

ゼロ人間体「ベリアルだ」

杏子「またかよ!?」


映像のゼロは、マルチバースの超空間から泡の一つへ飛び込んでいく。
次元の壁を潜り抜けると、そこには別の宇宙空間が広がっていた。

その宇宙こそ、ゼロの拠点とする『アナザースペース』の一年以上前の姿。


ゼロ人間体「ベリアルの野郎は、生き延びて別の宇宙へと流れ着いていた。
      そして皇帝を名乗り、宇宙全体を混乱に陥れていたんだ」

ゼロ人間体「前の怪獣軍団とは、比べ物にならない戦力を率いてな」
 

つづく



ゼロが新たに見せたのは、ベリアルの手を模した超巨大な要塞、そして周囲を飛び交う凄まじい数の戦艦。
更には、光の国とは異なる緑の惑星が、要塞によって鷲掴みにされている。

敵勢力の名は『ベリアル銀河帝国軍』。
ゼロが今の宇宙を訪れる前に戦ったロボット達は、その残党であった。


ゼロ人間体「俺は自分の力を信じて、何でも一人でやろうとし過ぎていた。
      別宇宙への旅で改めたかったもの、それは『慢心』だ」

ゼロ人間体「最初は、この軍隊相手に俺一人で突っ込もうなんて考えてたからな」

杏子「この数をかよ?無謀過ぎんでしょ…」


燃え盛る炎の中から、赤いマントを纏ったベリアルが配下を引き連れて行進する。

だが、この時さやかの目に映っていたのは、ベリアルとは別のものだった。


さやか(勝てもしないのに一人の力で……私もそうだ)

さやか(強くなりたいからって、身の丈に合わない魔女と戦って、
    結局ゼロさんが倒しちゃって、それを見て私は……)

さやか(…駄目だ、思い出しちゃ駄目!)


それは、『影の魔女』と戦う自分の姿。
平然を装いながら、必死にその記憶を振り払おうとする。


杏子「でもさ、アンタの思い出話になってるってことは……あの悪トラマンに勝ったんだな?」

ゼロ人間体「ああ、今度こそ地獄へ送ってやったぜ!」

杏子「ヒーローのセリフじゃねーだろ、それ…」


ゼロが指を軽く鳴らすと共にベリアルの姿は消える。
周囲は、再び真っ白な光の空間へと戻っていった。
 



さやか(そうだよ…負けてたらゼロさんはここにいないもんね)

さやか(ゼロさんはあんな敵にも勝っちゃうヒーローじゃん。
    私なんかと一緒にしたら駄目なんだ……)


ゼロと杏子の会話であっさりと判明した、戦いの結末。
それを聞き、さやかは再びゼロとの比較を始めてしまう。


杏子「おい、その過程は…」

ゼロ人間体「さっきも言った通り、俺は勝った。事細かく実況してたら長くなっちまう」

杏子「んな中途半端な…逆に気になんじゃん」

人間体「仕方ねぇ、ちょっとだけだぞ!」


空間上に、手のひらを広げたかのように展開した要塞が映る。
次の瞬間、要塞の中心に光が収束し、大爆発を起こす。

そして要塞は跡形もなく崩壊し―――映像は途切れた。


杏子「短ッ!?」

ゼロ人間体「インキュ…じゃなくてキュゥべえの野郎も言ってたろ?
      俺が一つの宇宙を滅ぼせるような相手と戦ってるって」

ゼロ人間体「そんな戦いを続けていられるのは、俺一人だけの力じゃない。
      心から信頼し、助け合える奴らがいてくれたからだ」

さやか(一人だけの力じゃ…ない?)

ゼロ人間体「『仲間』の存在、それが俺のもう一つの答えだ!」


『守る』ことと並行して伝えたかったもの、
それはゼロの言葉とともに光の空間に姿を現した。

三人を囲むように浮かび上がったのは、大勢の巨人達の姿。
 



杏子「こりゃあ、もしかして…」

ゼロ人間体「遠く離れていても、俺の心の中にいてくれるみんなの姿だ」


ゼロの指が空間の斜め上を指し示す。
二人が見上げると、筋肉質な戦士、スマートな騎士、二体のロボットの姿があった。


ゼロ人間体「燃えるマグマの筋肉バカ『グレンファイヤー』、鏡を作るのが得意な『ミラーナイト』」

ゼロ人間体「そして俺達と同じ心を持ったロボ兄弟、『ジャンボット』と『ジャンナイン』」

ゼロ人間体「俺が作った宇宙警備隊『ウルティメイトフォースゼロ』。
      普段はこいつらと騒ぎながら、宇宙の平和を守ってるんだぜ!」

杏子「何つーか、巨人達がワイワイ雑談してる様ってのも想像――――」


杏子はウルティメイトフォースの四人から視線を下ろすと、ゼロの顔をじっと見つめる。


杏子「…できるね」

ゼロ人間体「…何だよ?」

杏子「いや、別に」


その時、杏子は自分達と同じ目線の位置に、何者かの姿を見つける。

巨人達に気を取られて気づかなかったが、
そこには青年と少年、そして高貴な雰囲気を醸す少女が佇んでいる。


杏子「人間?さっき映ってた連中とは違うけど」

ゼロ人間体「その三人は、ベリアル軍との戦いで旅を共にした人間達。
      惑星アヌーの兄弟『ラン』と『ナオ』、そして惑星エスメラルダの王女『エメラナ』だ」

杏子「他の星なのに、アンタと違って元からこの姿なんだな……不思議だよ」

ゼロ人間体「それだけ宇宙は広いってことだ。もし地球人を探してるなら、ここにいるぜ」
 



ゼロが向きを変えて別の場所を指差す。
その位置には、青い宇宙船を背に五人の男女が並ぶ。


ゼロ人間体「故郷の世界で、宇宙を開拓している地球人『ZAP』のクルー達。
      後ろにいるのが、そいつらの頼もしい相棒だ」


宇宙船の更に上を見上げると、恐竜のような姿をした怪獣の姿もある。
それはクルーの青年レイが操る、味方怪獣『ゴモラ』。


杏子「…こいつが、相棒?」

ゼロ人間体「ああ、絆に種族なんて関係ねえ。怪獣だって同じだ!」

ゼロ人間体「そして忘れちゃいけねえのが、親父や故郷の戦士達」


ゼロの背後では、父のセブンと師のレオが姿を見せる。
その二人を中心に、更に何十人ものウルトラ戦士達が立ち並んでいた。

彼ら以外にも、ゼロが様々な星で出会ってきた人々が、次々に浮かび上がってくる。


さやか「色んな人達が、ゼロさんを支えてたんだね」


ゼロの真意を理解出来たさやかは、ついに口を開いた。


さやか「ゼロさんと同じもの…本当は私のすぐ近くにもあるんだよね?」

さやか「そして、今の私には…見えてない」

ゼロ人間体「大丈夫だ。閉ざしかけてる心をもう一度開けば、きっとお前にも見えてくる」

ゼロ人間体「そうだな…杏子が今ここにいるのは何故だと思う?」

杏子「…チッ」


突然名指しされた杏子は、ゼロとさやかから目を背ける。


ゼロ人間体「お前を心から心配し、立ち直ることを願ってるからだよ」

さやか「私を…?」

杏子「……」

ゼロ人間体「杏子だけじゃない、俺だってお前の事を―――」


ゼロは二人の背後をそっと指差す。
 



振り向くと、そこにはさやかと杏子、彼女達自身の姿があった。
そして、同じようにマミも笑顔で佇んでいる。


さやか「これ…私達?」

杏子「フン…」


さやかの顔が一瞬驚きを見せた後、少し綻んだ。
杏子も自身の姿を見つめながら、微かに笑う。


さやか「それにあいつまで?」

杏子(この間の結界でも映ってたけど、誰だ?)


二人が気付いたのは、少し離れた場所に立つ黒髪の少女の後ろ姿。
杏子にとって接点のない魔法少女、暁美ほむらであった。


杏子(『黒い魔法少女』…ってほど黒くないけど、もしかしてこいつが例のサボリ魔?)


杏子がほむらを目にしたのは、『ハコの魔女』の結界に映った映像のみ。
ホラー映画と見紛うような血だらけの顔を見せていただけに、印象に残っている。

又、その正体についての心当たりも持っていた。
それは以前マミとの会話に挙がっていたもう一人のイレギュラーの存在。

杏子は彼女が気になりつつも、今はそれを心に留める。



ゼロ人間体「『仲間』ってものに、関わってきた時間なんて関係ない」

ゼロ人間体「みんな、俺の大事な仲間達」


ゼロの心を映した空間に、自分は仲間として並んでいた。
さやかは彼の思いを目と耳で実感するとともに、ある言葉を思い出す。

仁美が感じていた、さやかが抱くゼロへの『信頼』を。


『上手く言えないのですが、私にはさやかさんがモロボシさんに、
 お友達や先生とは違う信頼を置いてるように見えました』


さやか(今ならわかる気がするよ。仁美が言ってたこと)

さやか(それは友情でも尊敬でも、恋愛感情でもなくて―――)

 



ゼロ人間体「お前の存在は、俺を支える力の一つだ!
      だからお前も俺の事を…いや、俺達を信じて進んでみないか?」

ゼロ人間体「そしてもう一度、『正義の味方』に戻ろうせ!!」


思いの全てを最後の一言に乗せ、ゼロは勢いよく手を差し出す。

さやかはすぐに反応を返さず、夢中で思考をまとめていた。


さやか(強さを求めるのは、目の前の命を『守る』ため)

さやか(いつまでも強くいられる理由は、支えてくれる『仲間』がいるから)

さやか(そして『正義の味方』として戦う、それ自体に理由なんてなくて―――)

さやか(全部キッチリ教えてもらえたじゃん。後は私が一歩踏み出すだけ)

さやか(そうだ…変わるなら、今しかないんだ!!)


さやかは目を閉じると、拳を握って大きく力む。
ブルブルと震え始めた彼女の様子を、杏子は固唾を飲んで見守っている。


さやか「……本…の戦…………」

杏子「おい…?」

さやか「………当……いは……」

ゼロ人間体「ヘヘッ」

さやか「魔法少女さやかちゃん!本当の戦いはこれからだぁぁーーーっ!!」


迷いの全てを吹き飛ばすかのように、さやかは腕を伸ばし、声を張り上げる。
杏子は呆気に取られ、ゼロは親指で上唇を擦っていた。



さやか「ありがと、ゼロさん」

さやか「…もう大丈夫。私、もう一度やってみるから!」

ゼロ人間体「おう!!」


二人は固い握手を交わし、互いに微笑みあう。
杏子は少しだけ距離を置きながら、満足げにその様子を見つめていた。

すると、さやかはゼロから手を離し杏子へ歩み寄っていく。


杏子「な…何さ?」

さやか「そしてありがと、杏子」

杏子「…どーも。アンタもこれ以上ブレんなよ?」

ゼロ人間体「オイオイ、まるで他人事みてーだな!」


照れ隠しに目を合わせず、適当な態度を取る杏子。
そんな彼女に、ゼロはニヤニヤと笑みを浮かべながら肩を押す。


ゼロ人間体「『アンタ』じゃねえだろ?名前で呼べよ」

杏子「は?何言ってんだ!?」

ゼロ人間体「ほら、言えよ!」

杏子「おい…アンタも何か言……」


杏子は狼狽し、助けを求めるかのようにさやかを見る。
だが、当のさやかも何かを期待しながらこちらを見ていた。

根負けした杏子は顔を赤くしながら、一言だけ呟く。


杏子「……さやか」

ゼロ人間体「よーし繫がったぜ!俺達はこの世界を守る、仲間だ!!」

 
 



三人の間に強い信頼が芽生えたことを、その場の誰もが感じていた。

その一方で杏子は、二人を仲間として認めるとも、戦い方を改めるとも口にしなかった。
代わりに、どこか厳しい口調でゼロに言葉を投げかける。


杏子「でもねぇゼロ、アタシらにそこまでの信頼を求めるってんならさ…」

杏子「…言いたいことはわかるよな?」

ゼロ人間体「ああ、わかってる。いつまでも『仲間』に隠し事を続けるのは、俺も気が引けるしな」


杏子が求めるのは、ゼロが隠し続けているものに対する説明。
ゼロは真剣な眼差しで二人を見つめ、真実を語る時がやってきたのだと考えていた。


ゼロ人間体(さやか、杏子、そしてマミ。
      強い心を持った今のお前達なら、この現実にもきっと打ち勝てるよな)

ゼロ人間体(でも、そのためには―――)


しかしゼロが全てを語るには、相応の準備が必要だった。
そこで、日時と場所を改めることを提案する。


ゼロ人間体「明後日の夜、時間は空いてるか?」

さやか「土曜日だし、たぶん大丈夫」

杏子「アタシは年中暇だ」

ゼロ人間体「お前達に来てほしい場所がある。
      そこで、マミも交えて俺が知る真実を伝えたい」

さやか「真実?」

ゼロ人間体「それは魔法少女にとって、恐ろしい事実かもしれない。
      ……でも、これだけは忘れないでくれ」


ゼロ人間体「お前達にはまだ、輝く希望がある!!」
 

つづく


『仲間』については、コネクトにもそれっぽい歌詞が含まれてるので、
まどマギ世界でも通用する前向きな要素だと思ってます。




数時間後。
某所で一つの結界が消滅し、中から魔女討伐を終えたマミが現れる。

外界へ出てすぐに、彼女は疲れ切った表情を見せる。
溜め息とともに目線を落とすと、何かの存在に気付いた。


マミ「……あら?」

QB「やあ、マミ」

マミ「キュゥべえ…!」


マミの前には、待ちわびたかのようにキュゥべえが座っている。
その姿を目にした彼女を、安堵が包み込んだ。


マミ「そうだ、ほら見て?久しぶりに見つけられたの」


彼女はキュゥべえに向け、握られた手を差し出す。
開かれた手のひらにあったもの、それは戦利品のグリーフシードだった。


マミ「この街の魔女は殆どゼロさんが倒しちゃってるけど、
   だからといって魔法少女が手を抜くわけにはいかないものね」

QB「そうか、君なりに自分ができることを頑張っているんだね」


得意気に微笑むマミ。
しかしキュゥべえは、大きな関心を示すことなく別の話を持ち出した。
 



QB「それはそうとね、マミ」

マミ「どうしたの?」

QB「ウルトラマンゼロと美樹さやか、どうやら二人は和解できたようだ」

マミ「え……」

QB「二人だけじゃない、あの佐倉杏子までもがその輪に加わっているよ」

マミ「佐倉さんまで…!?」


三人に生まれた繋がりを、この時既にキュゥべえは把握していた。
その事実を知り、マミの微笑みは一瞬にして掻き消される。


マミ「どうやって……きっかけは、何なの?」

QB「一体どんなやり取りが行われていたのか、それは僕にもわからない。
   でも、結果的に三人は『仲間』として繋がった」

QB「君一人だけが、取り残された形になってしまったね」

マミ「………」


思考が上手く働かず、無表情のまま硬直するマミ。
そんな彼女の様子を、キュゥべえもまた無表情で見つめている。


マミ「今日は…それを伝えに?」

QB「そうだよ。君は杏子とさやかの様子、随分と気にかけていただろう?」

QB「良かったじゃないか?もうその心配は必要なくなった。
   彼女達は彼女達で、これから上手くやっていくことだろう」

QB「君も先輩として負けてはいられないね。これからも一人で頑張ってね!」


それだけを伝え終えると、キュゥべえは物陰へと消える。

立ち尽くすマミの手からはグリーフシードが落ち、地面を転がっていった。
 


【ウルティメイトフォースゼロ その3】



一方、ゼロの旅立ちから十二時間が経過したアナザースペース。
マイティベースでは、ゼロを待つ仲間達の間に驚きが走っていた。


グレン「はあぁ?ゼロが時空を超えただってぇーッ!?」

ミラー「成程、帰ってこないわけです」


中心にいたのは、ゼロの捜索から帰還したジャンボット。
彼が持ち帰った情報が、メンバー達を困惑させる。


ジャン弟「それは本当なのか、兄さん?」

ジャン兄「時間が経ってはいたが、間違いない。
     ベリアル軍の残骸とともに、時空を超えた痕跡が残っていた」

グレン「でもよぉ、一体何が起きたんだ?」

ミラー「ゼロが時空を超える一番の理由なら、里帰りでしょう。
    もしかすると、故郷からお声が掛かったのかもしれませんね」

グレン「まさか、バーベキューに呼ばれたとか?」

ミラー・ジャン兄「ないない」

ジャン弟「番組のナビゲーターを頼まれた」

ミラー・ジャン兄・グレン「ないない」

ジャン弟「違うのか…」

 


メンバー達がそれぞれ心当たりを探す中、グレンはある言葉を思い出していた。

それはビートスター天球との戦いの終わり、
セブンをはじめとしたウルトラ兄弟が彼等に残した言葉。


グレン「ゼロちゃんの故郷といやぁ…
    天球の野郎と戦った後に、親父さん達が何か忠告してたよな」

ジャン弟「『今、宇宙に不穏な空気が流れている』―――確かそう言っていた」

ジャン兄「そしてゼロは、我々との合流を待たずに旅立った。
     帰郷なら、マイティベースに戻ってからでも遅くはないはずだな」

ミラー「つまり事態は一刻を争うという事。
    その不穏な空気が、正体を現したのでしょうか?」

グレン「だとすれば…ここは俺達ウルティメイトフォースゼロの出番ってこったな!」

ジャン兄「うむ」

ジャン弟「うん!」

ミラー「はい!」


拳をバキバキと鳴らし、自らの士気を高めるグレン。
彼だけでなく、残るメンバー達にも緊張が走る。


ジャン兄「では戦闘も想定し、各自出動の準備を整えるとしよう。そして―――」

ミラー「待機ですね」

ジャン弟「了解」

グレン「……って、結局そうなるのかよ!!」


宇宙警備隊『ウルティメイトフォースゼロ』は、アナザースペースの範囲内だけでなく、
別宇宙で起きた事件の解決にも力を尽くしている。

だが、それはゼロが持つイージスの力があってこそ。
今の彼等にできるのは、ゼロを信じ、その帰還を待つことだけであった。
 

つづく


皆さんの乙に感謝。
これでハコの魔女編と、全体の3/4が終了です。

皆さんレスありがとうございます。

先週は多忙で作成時間が取れなかった為、投下できませんでした。
出来るだけ早く仕上がるよう頑張ります…

終盤は残り3章を予定。(プロットは既に作成済み)
物語はまだまだ火種を抱えていますが、今後も宜しくお願いします。

合間を縫って作成は続けておりますが、今回も投下できそうにありません。
ホントに申し訳ない…

代わりと言ってはなんですが、もしSSに関する質問があれば次回投下時に答えます。

いつも乙です
気長に待ってますんで、どうぞお気楽に
身体壊さないようにしてください

待ってるぜ乙
もう少しでギンガ始まるな

ここ読んでまどかマギカも見て見ようと思うんだけど、
中学生の娘(声オタ)と一緒に見て大丈夫な感じ?
娘は一緒に見てくれると言ってるが、親父的に気まずくなったりするシーンがあったらやだな
年頃だから気を使っちゃうよ

作者です。

三週間近くお待たせしている状態ですが、今週中には少し投下できると思います。
もうしばらくお待ち下さい…


>>302
仕事の都合上、7月末までは忙しい日が続きます。
必ず完結させますので、宜しくお願いします。

>>303
ウルトラワールドをどう広げてくれるのか、今から楽しみです。
あと、ギンガ開始までの完結は無理そうです…

>>304
既に全話視聴された頃でしょうか?
このSSが興味を持つきっかけになった事を嬉しく思います。有難うございました。


【暁美ほむら その1】



跡形もなく破壊され尽くし、水没した見滝原市。
荒れ果てた光景の中心には、山のような何かがそびえ暗雲を突き抜けている。

半分が水に浸かったビルの上には、目を見開いてそれを見上げるほむら、
そしてキュゥべえの姿がある。


QB「あの魔女は地球上のあらゆる生命を吸い上げ、結界へ誘っているようだ」

QB「そうすることで、全ての魂を絶望から救おうとしているのだろう。
   さしずめ『救済の魔女』といったところだね」

QB「この星はもう、収穫場として機能することはないだろう。
   だけど最後に有り余るほどのエネルギーを回収することができた」

QB「僕たちインキュベーターの役目はここまでだ。
   だけど君たち魔法少女には、魔女を討伐する使命が残っている」

QB「あの魔女だって例外ではないよ。まず勝てっこないだろうけど、頑張ってね!」


何の躊躇いもなく地球を切り捨て、キュゥべえは姿を消した。

それからしばらく間を置いた後、ほむらは力なく膝を折り、手をついた。


ほむら「また…失敗だった」

ほむら「この命、無駄にしないって決めたのに…
    何度でも繰り返して助けるって、そう決めたのに…」

ほむら「もう潮時かな…なんて考えてるの。馬鹿だよね…情けないよね…」


俯いた彼女の目から、涙が溢れ出す。

数えるのをやめる程に時間を巻き戻し、目的のために戦ってきた。
しかし何度繰り返そうと、それは叶わない。

自分の無力を痛感した時、彼女のソウルジェムを呪いが浸食し始める。


ほむら「う…うう……」


ソウルジェムの穢れが半分近くに達した時、ほむらは涙に濡れた顔を上げた。
眼前の『救済の魔女』を見上げ、彼女は何かを考える。


ほむら「でも、目の前にいるのも貴方なんだよね…?
    貴方が望むなら、地球と一緒に…私も……」

ほむら「…死んじゃおうかな」


やがて穢れは徐々に遅くなり、浸食は完全に停止する。

彼女が物言わぬ魔女に語りかけている間にも、着々と地球上の魂は吸い上げられていた。



それから、約一日が経過した。

ほむらは膝を抱えながら魔女を見上げ、自分が救済される瞬間を待ち続ける。

彼女の心は、魔女に救われたいという思いによって繋ぎ止められていた。
だが期待に反して、魔女の能力が向けられる様子は全くない。


ほむら「まだ、連れて行ってはくれないの…?」

ほむら「私、ここにいるよ?こんなに近くで待ってるんだよ?」

ほむら「早く私を救ってよ…」

ほむら「まどかぁ…」


この状態が長く続けばどうなるか、ほむらは自分でも薄々理解していた。
救われる事さえ否定された彼女の心は、再び呪いを生むしかない。

時間を戻すという選択肢は既に彼女の中にはなく、
成り行きに任せようと再び俯き、膝に顔を埋めた。


その時、どこからか叫び声とともに眩い光が飛来した。


ゼロ「シェアアァーーーッ!!」

ほむら「!?」


光は少しずつ人の輪郭を形作ると、魔女の前に立ちはだかる。

顔を上げたほむらの目に映ったのは、鎧を纏った一人の巨人。
アナザースペースから時空を越えて駆け付けた、ウルティメイトゼロ。


ほむら(巨人?いや―――)

ほむら(『光』?)





ほむら(『光』…)


はっとしたように目を開けると、そこは自宅の部屋。
どうやらソファーの上で、うたた寝をしていたらしい。


ほむら(寝てた…いつの間に?)


時刻を確認したほむらは、ゆっくりとソファーから立ち上がる。


今日は土曜日。
ゼロとほむらが数日置きに行う、密会の予定日。

そしてゼロが、さやか達に全てを語ると約束した当日。
 

つづく

今回は短くてすみません。
余裕があれば土日にまた投下します。


【暁美ほむら その2】



約束を一時間後に控えていた頃、ゼロの姿は市内の路地裏にあった。
彼の前には、数日ぶりの再会となるほむらもいる。

ゼロが合流を約束していたのは、さやか達だけではない。
ほむらと最後に会った夜から、この日の密会は既に決まっていた。


ゼロ人間体「よお」

ほむら「………」

ゼロ人間体「さ、早いとこ時を止めて話そうぜ。今日は終わった後」

ほむら「一緒に魔女を捜すわよ」

ゼロ人間体「お前に来てほしい場所が―――」

ゼロ人間体「えっ?」


ほむらをさやか達に合流させ、共に真実を語る。
それこそがゼロが必要と感じていた準備。

しかしこの日は、いつも通りには終わらなかった。


ゼロ人間体「ちょっと待て。今日は報告し合って、
      グリーフシードと生活費を交換して…の流れじゃ終わらないのか?」

ほむら「貴方、今日という日がわかってる?」

ゼロ人間体「そりゃ今日は……何だ?」

ほむら「…『ワルプルギスの夜』の到来まで、残すところあと一週間よ」


いつもの調子から一変、ゼロの表情は真剣な面持ちへと変わる。

この密会を早々に終わらせるという考えは、改めざるを得なかった。
 



ゼロ人間体「一週間…そうだったな」

ほむら「下準備として、今から魔女もしくは使い魔との戦闘に入りたいの。
    反応、探してもらえるかしら?」

ゼロ人間体「下準備?今後のために、何か必要な事があるんだな?」

ほむら「ええ。見つからなければ、長引くことも覚悟して」

ゼロ人間体「だとすれば、いつまでも突っ立ってるわけにはいかねぇな。行こうぜ!」


ゼロは深く追及することなく同意を示すと、まだ今日の探索を終えていない地域へ歩き出す。
その後を、ほむらも黙って続いた。


感覚でマイナスエネルギーを探りながらも、ゼロの中では二つの物事が気に掛かっていた。
一つはさやか達との待ち合わせ、そしてもう一つはほむらの提案について。


ゼロ人間体(いきなり魔女捜しとは…俺がヘタレてたとはいえ、何で前もって伝えなかったんだ?)

ゼロ人間体(気まぐれじゃないとは思いたいが、ほむらの計画と行動、何かがな…)

ゼロ人間体(相手の気持ちを無視したり、キリのねぇインキュベーターをわざわざ殺したり)

ゼロ人間体(本人は完璧なつもりなんだろうが……)


隣を歩くほむらの様子を、ゼロは横目で窺う。
彼女は気づいているのかいないのか、無表情でただ前を見続ける。


ゼロ人間体(…とはいえ、協力を惜しむつもりも毛頭ねぇ)

ゼロ人間体(あいつら待ちぼうけにする前に、早いとこ反応を探すとするか!)

 



一方のほむらにも、気に掛かることがあった。

最後に会った夜、ゼロは迷い、打ちひしがれていた。
にもかかわらず、今は何事もなかったかのように明るく振舞っている。

同じように、今の協力関係も簡単に覆ってしまうのではないか―――
湧き上がったその疑心が、彼女の足を止めた。


ほむら「再確認するわ」

ゼロ人間体「ん?」

ほむら「私に全力で従う、その覚悟は決まったのね?」

ゼロ人間体「何かと思えばそんな事か。…ったく、心配性にも程があるぜ」

ほむら「そうかしら?あの時の貴方は、かなり不安定だった。
    すぐにでもインキュベーターに籠絡されそうなほどに」

ほむら「でも、今の貴方は何かが違う。
    その変化の過程に興味はないけれど、これだけは確信させて」

ほむら「貴方の協力が、揺るぎないものであることを」


ゼロ人間体「覚悟なら、俺達が出会ったあの日に見せた通りだ。
      それに、この間もキッチリ約束したはずだぜ?」

ゼロ人間体「俺はお前を守るってな」

ほむら「そう…」

ゼロ人間体「でもな、俺もこの間のお前を見てわかったよ。
      お前にとって俺は仲間じゃない。力さえあればそれいい…そうなんだろ?」

ほむら「…その通りよ」

ほむら「私は誰かに心を預けるつもりはない。理解される気もない。
    ただ一人、無事でいてくれればそれでいい。そのためには、手段も選ばない」

ほむら「代わりに、貴方も私を信用する必要はないわ。
    でも、それを理由に協力を拒むというのなら―――」


冷たい目線とともに彼女が口にし掛けた言葉、それはゼロによって阻まれた。
 



ゼロ人間体「安心しな。俺がやるべき事は全部見えてる」

ゼロ人間体「ほむら、お前も俺の『仲間』だからな。その期待には応える」

ほむら「………」


どんな手を使ってでもウルトラマンゼロを従わせる。
ほむらの望み通り、今のゼロは動いている。

だが、ほむらの思惑と相反するように、ゼロは自分を信じ『仲間』と言い切る。
その感覚は、荒んだ今の彼女には理解できないものだった。


ほむら「…同意の上ならそれでいいわ」

ほむら「もはや私の力では、戦いを終わらせることは叶わない。
    たとえ巴マミ、佐倉杏子、美樹さやかの助力があったとしても」

ほむら「でもウルトラマンの力さえあれば、この永遠の迷路を脱することができる。
    そう、貴方は迷路の壁を打ち砕く『鉄槌』よ」

ゼロ人間体「『鉄槌』てオイ…何かもう少し正義の味方らしい表現はないのかよ?」

ほむら「意味のない喩えよ。貴方自身で好きに訂正すればいい」

ゼロ人間体「じゃあ俺は、そうだな―――」


ほむらの表現に納得できず、ゼロは自分なりの表現を考えてみる。
少し間を置いた後、閃いたかのように上唇を擦った。


ゼロ人間体「お前を出口へ導く『光』だ」

ほむら「………」

ほむら「……行きましょう」

ゼロ人間体「って、何か反応しろよ!?」


ほむら(『光』…)


軽く流されたかのように思えたゼロの言葉。
だが『光』という表現は、ほむらの中に引っ掛かっていた。

終末の世界で初めてウルトラマンを目にした、その瞬間の記憶とともに。
 

一旦つづく

仕上がれば今日中にもう一度投下します。




ゼロとほむらが、魔女の捜索を始めて数十分後。
陽も落ちた暗い夜道を、マミは一人歩いていた。

目的は魔女の捜索ではなく、その手にソウルジェムは握られていない。


マミ(…?)


無言のまま進むマミの前方からは、部活帰りの高校生達が歩いてくる。
彼等は談笑しながら、彼女の横を通り過ぎていった。

マミは立ち止まって振り返ると、その後姿を目で追いかける。


『君一人だけが、取り残された形になってしまったね』

『これからも一人で頑張ってね!』


同時に思い出されるのは、キュゥべえから伝えられたゼロ達の和解。
その時の言葉が、マミの脳裏に焼きついて離れない。


マミ(私には誰もいない…)

マミ(みんな、私から遠ざかっていく)

マミ(美樹さん…佐倉さん…私は先輩として貴方達を支える義務があった。
   なのに何故、重荷になってしまうの?)

マミ(私は…これから先も、誰とも繋がることができないの?)

マミ(見滝原市の平和のため、戦い続ける孤高の魔法少女…)

マミ(…そんなもの、一体いつまで続ければいいの?)


学生達から目を背け、マミは再び向き直って歩き始める。


マミ(違うの…私が求めてる関係は、クラスの友達やキュゥべえとは全然違うの!)

マミ(私が本当に求めてるのは―――)

マミ(なのに何故、歩み寄ってくれるのは貴方だけなの?)

マミ(…ゼロさん)


ゼロが信頼に値する存在である事は、マミは十分に理解している。

彼は正義の味方として、この街を守ろうと戦っている。
それを知っているからこそ、ほむらとの関わりも黙認できていた。

しかし、ウルトラマンと魔法少女の戦力差から感じた『隔たり』。
それだけが、彼女の望む『仲間』の在り方と噛み合わずにいた。
 



やがて見えてきたのは、公園の入り口。

この場所に来てほしいと、ゼロに告げられたのが昨晩の事。

マンションを訪ねてきたゼロからは、「話がしたい」と時刻と場所を伝えられただけ。
何を語るとも、誰が現れるとも彼は教えてくれなかった。


不安を残したまま入り口を抜けると、ベンチには誰かが座っている。
その人物の姿を目にし、沈んでいたマミの表情は驚きへと変わった。


マミ「美樹さん?それに…佐倉さん?」

さやか「!?」

杏子「………」


予定よりも早く、約束の場所で待っていたのは、さやかと杏子。
マミの登場にさやかは驚き、杏子は無関心な素振りを見せる。

敵対していたはずの二人の組み合わせを目にし、
マミはキュゥべえの話が事実であった事を改めて理解した。


マミ(この二人、本当に…)

さやか「来てくれたんだ…」

さやか「マミさん、本当にごめん!!」

マミ「えっ!?」


マミが歩み寄るより早く、さやかは彼女の元へ駆け、勢いよく頭を下げた。
突然の行動に、マミは状況がよく飲み込めていない。


さやか「本当はもっと早く会うべきだったんだろうけど、
    ゼロさんと相談して、この場を使って謝ろうって決めたんだ…」

さやか「この前は『正義の味方』が…マミさんの存在が眩しすぎて、
    自分も同じように戦っていく自信が持てなくてさ…」

さやか「だから、カッコいいマミさんがそんな自分に染まってしまうのが怖くて…逃げてしまったんだ」

 



さやか「でも私、もう一度『正義の味方』としてやっていく決心がついたんだ」

さやか「マミさんが私に合わせる必要なんてない!私がマミさんみたいになってみせる!」

さやか「…だからもう一度、一緒に戦わせてください!!」


精一杯の謝意を込め、さやかは再び頭を下げた。


さやか「お願いしま…!?」


さやかが顔を上げると、マミの目からは一筋の涙が零れていた。
それに気付いたマミは、両手で顔を覆い隠し、鼻を啜る。


マミ「ぐす…」

さやか「え、マミさん?」

マミ「大丈夫。嬉しくてつい、ね…」


コンビを一方的に解消された後も、マミは何度かさやかと接触を持とうとした。
しかし、さやかはその度にマミを避けてしまっていた。

もう繋がることはできない…そう諦めていた相手が今、こうして手を差し伸べている。


マミ(キュゥべえが言ってた事なんて、気にする必要はなかったのよ…
   信じて待っていれば、傍で戦ってくれる誰かがきっと現れる)

マミ(そして、美樹さんはこうして帰ってきてくれた)

マミ(そうよ…私は一人なんかじゃない!!)

 



マミ「ありがとう、美樹さん。改めてよろしくね」

さやか「はいっ!」

マミ「でも、罰として手作りカレーと食後のデザート、今度こそ食べてもらうわよ?」

さやか「カレーでもハヤシでも、もう何なりと!!」

マミ「ふふ…」

さやか「えへへ…」


マミは手をそっと放して涙を拭うと、笑顔でさやかを受け入れた。

涙を拭き取ったマミは、改めて今の状況について尋ねる。


マミ「貴方達もゼロさんに呼ばれてここに来たのよね。詳しい事、何か聞いてる?」

さやか「うん。今晩、私達に真実を伝えたいって。それが何なのか、私達もわからないんだ」

マミ「そう…美樹さん達も知らないのね」

さやか「でも、この間『恐ろしい事実』がどうとか言っててさ、ちょっと不安かも…」

マミ「恐ろしい事実…」


一つの心当たりを思い出し、マミの脳裏を不安がよぎる。

それは、ほむらと対峙した際に告げられた言葉、
マミが真実を知った時、彼女は自分を保てなくなるというものだった。


さやか「大丈夫っすよ、マミさん。ゼロさんはこんな事も言ってたから」

さやか「私達にはまだ、輝く希望がある!…ってさ!」

マミ「輝く…希望?」

さやか「だからマミさん、一緒に覚悟を決めよ?」

マミ「…ええ、もちろんよ」


杏子「………」


和解を果たし、再びコンビとして繋がることができたマミとさやか。

しかし杏子だけは、自分からマミに歩み寄ることもせず、
別方向を向いたまま平然を装い続けていた。
 

つづく

今日の投下はこれで終わります。




夜景の明かりによって照らされた、夜の高速道路。
そこには不自然に看板が立ち並び、白線が道路ではなく空間上を流れていく。

ここはゼロの力で発見できた魔女結界。
比較的早い段階ではあったが、捜索開始から既に一時間以上が経過していた。


ほむら「…来るわよ」


既に変身を終えた二人の前には、足音とともに巨体の魔女が姿を現す。

敵は、全身が茶色に錆び付いた『銀の魔女』。
金属片やバイクのパーツで人型が形成されており、その胴体だけは黒煙に包まれている。


ゼロ「ようやっとのお出ましか。さて、俺は何をすればいいんだ?」

ほむら「貴方はそこで休憩していて。あの魔女は、私がやる」

ゼロ「何の用事かと思えば、お前の肩慣らしだったのか?
   そんじゃ、エネルギー食っちまう前に人間の姿に戻るか…」

ほむら「その必要はないわ。貴方はこのまま、ウルトラマンの姿でいて」

ゼロ「このまま?」

ほむら「そう、このままよ」

ゼロ「…まぁ何するつもりかは知らねぇが、気をつけろよ!」

ほむら「言われるまでもないわ」


ほむらは迫り来る魔女へ正面から向かっていく。
ゼロは少し離れた場所で腕を組み、彼女の戦いを見守ることにした。

魔女は拳を大きく振り下ろし、力押しでほむらを潰しにかかる。
どうやら特殊な能力を備えていない、完全な攻撃特化のようであった。

対するほむらは、何度も繰り出される打撃を軽快に回避していく。



ゼロ(俺が立ち直ってから、魔女の襲撃はぱったり止んじまったな)

ゼロ(今も不安がないといえば嘘になる…が、付け入る隙ならもう二度と与えねぇ!)

ゼロ(だが、見滝原の街一つでも、魔女はこうして現れる。
   今まで逃げおおせてきた奴らだけじゃない、新しい魔女もどこかで生まれ続けてやがる)

ゼロ(残り一週間か。早く、この馬鹿げた現状を―――)


戦いを眺めながら物思いにふけるゼロ。
彼が見守る前で、開かれた魔女の右手がほむらの体を捕えた。


ゼロ「おい、ほむら!?」


ゼロはほむらを救い出すべく、スラッガーを手にして魔女へと向かおうとする。
そして魔女も敵を握り潰すべく、右手に力を込め始める。

その瞬間、その手は爆発を起こした。


ゼロ(!?)


周囲には破片が散乱し、先端を失った魔女の手首から煙が上る。
悶絶する魔女の頭上には、いつの間にかほむらが立っていた。


ゼロ「余計な心配だったな」


立ち止まったゼロはスラッガーを戻し、再び腕を組み直した。

怒り狂った魔女は、ほむら目掛けて左手を伸ばす。
…が、動作より早く、左手も爆散した。
 




『銀の魔女』戦と同時刻の公園。
当然、約束の時間を過ぎてもゼロは姿を見せなかった。

さやかとマミの関係が戻ったにも拘わらず、彼女達を取り巻く空気は重苦しい。
その要因は、沈黙を続ける杏子にあった。


マミ(佐倉さん…)

杏子「………」


杏子とも関係を修復したい。
そう願うマミは、何度も杏子の様子を横目で窺う。

杏子もまた、それに気付きながら反応を返さない。


さやか「………」

さやか「……あぁもうっ!!」


この空気に耐え切れず、業を煮やしたさやか。
彼女はマミの背後に回ると、背中を押して杏子の正面まで誘導する。


マミ「え、美樹さん!?」

さやか「ちょっと杏子、いい機会なんだから強情張ってないであんたも―――」

杏子「うるせぇ」

さやか「んなっ!?」


さやかの気遣いも、杏子の冷たい態度によって一蹴されてしまう。

杏子はマミを前にしても、正面から向きを変えることはしない。
だが、その目は堅く閉じられたままであった。


さやか「あんたねぇ…!」

マミ「いいの、美樹さん。私は佐倉さんの気持ちを尊重するわ」

マミ「彼女が望まない事を、私が強制するわけにはいかないから。
   ……ごめんなさい、佐倉さん」

杏子「………」


杏子の顔は無関心そのもので、元いた場所へ戻るマミは寂しげに見える。
さやかは納得こそできなかったが、余計な世話だったのかもしれないと少し後悔していた。

代わりとして、さやかは溝を埋めるかのように二人の中間に立ち、ゼロの到着を待った。
 



それから数分が経過するが、一向にゼロが現れる気配はない。

しばらく続いた静寂、それを破ったのは何かを思い出したマミだった。


マミ「恐ろしい事実…」

マミ「…もしかして『ワルプルギスの夜』の事かしら?」

さやか「それって、マミさんが何度か話してた大物魔女っすよね?」

マミ「ええ。実は近いうちに、この見滝原市にやって来るらしいの。
   本当は美樹さんにも、その討伐に参加してもらおうと思ってた」

さやか「ええっ!?そんなの初耳っすよ!!」

マミ「もう少し強くなってから…と思って黙ってたの」

マミ「…だけど、その必要はもうなさそう」

さやか「それって、どういう事?」

杏子(は!?)


その言葉の真意が気になり、さやかはマミに訊ねる。
そして杏子は、無言を貫きながらも反応を示していた。


マミ「キュゥべえが言ってた事、覚えてる?
   ゼロさんと渡り合える魔女は、『ワルプルギスの夜』くらいだって」

マミ「ゼロさんと私達の間には、どんなに足掻いても届かない力の差がある。
   あの人と同等かそれ以上の魔女に、魔法少女が対抗できるとは到底思えないの」

マミ「…私達が加わったところで、足手纏いにしかならないはずよ」

さやか「マミさん…」


マミの考察を、さやかは好意的には受け取っていなかった。

理屈としては正しいのかもしれないが、
『正義の味方』の意義から、どこか外れているようにも感じたからであった。

その様子に気づいたマミは、宥めるように声を掛ける。


マミ「そんなに暗くならなくてもいいのよ?
   本当に現れるかどうかも怪しいんだから、そんなに深く考えちゃ駄目」

QB「『ワルプルギスの夜』の到来、それは紛れもない事実だよ」

さやか「キュゥべえ!?」

マミ「キュゥべえ…」


ゼロの代わりに姿を現したのは、キュゥべえだった。
 


突然の登場に、三人は驚きを隠せない。

特にマミは、二日前に掛けられた言葉を抱え込んでおり、
少し複雑な表情をキュゥべえに向けた。


QB「世界中を移動する『ワルプルギスの夜』の反応、
   その進路から考慮して、次に顕現するのはこの街とみて間違いない」

QB「そして当然、ウルトラマンゼロは立ち向かうつもりでいる。
   彼だけじゃない。もう一人のイレギュラー、暁美ほむらもだ」

マミ「彼女も一緒に?」

QB「ウルトラマンゼロを戦わせることで、大量のグリーフシードをストックできているし、
   以前には数日かけて、海外の軍事基地で武器も収集していた」

QB「用意周到だよ、彼女は」

さやか(暁美ほむら…)


以前ゼロが光の空間で見せた『仲間』のビジョン、その中にもほむらは姿を見せていた。
その関連性が気になったさやかは、思わずキュゥべえに訊ねる。


さやか「ねぇ、あいつとゼロさんって何か関係あんの?」

QB「おや、マミからは何も聞いていないのかい?」

さやか「いや、何も…」

マミ「………」

QB「マミは多分、君に気を遣っていたんだろうね。
   ウルトラマンゼロと暁美ほむらは、普段は別々に行動してるけど、裏で繋がっている」

QB「共通する何らかの目的を隠してね」

さやか「目的…」

QB「ところで、君達三人が揃っているのも珍しいね。
   『ワルプルギスの夜』の到来に備えての会議かな?」


偶然通りかかったかのように振る舞うキュゥべえ。
だが、魔法少女三人が集まるこの状況から、何かを嗅ぎ付けたのは間違いなかった。


さやか「ゼロさんと約束してるんだ。今日この場で、あの人が知ってる『真実』を教えるって」

QB「真実か」

QB「あのコンビが隠している真の目的―――それが明かされる事を期待してもいいのかな?」


キュゥべえは大きな関心を示し、三人とともにこの場に留まろうとする。
 


表面上は和解しているとはいえ、ほむらの内面まで理解することはできなかった。

ほむらの存在は不安だが、ゼロの事は信じたい。二つの思いは、さやかの中で葛藤を生んでいた。


さやか「信じていいんだよね、ゼロさん…」


さやかの口から零れた不安。
それを耳にした杏子が、ようやく重い口を開いた。


杏子「…なぁキュゥべえ」

QB「なんだい?」

杏子「ゼロだけじゃなくてアンタもさ、アタシらに何か隠してんじゃないの?」


その言葉は重苦しかった空気を一変させ、
代わりに緊張感をもたらした。


マミ「佐倉さん…貴方までキュゥべえを疑ってるの?」

杏子「…なんか腑に落ちないのさ」

杏子「ゼロの奴、『正義の味方』なだけあって善悪にすげー敏感だ。
   多分、一度でも良心を見た相手はとことん信じ抜くタイプだろうね」

杏子「散々悪いとこばっか見せてきたアタシの事まで、仲間だと思ってんのがいい例さ」

杏子「なのにゼロはキュゥべえ、アンタを敵視してる。
   アタシらをサポートして、魔女を倒す側にも拘わらずだ」

杏子「暁美ほむらとやらに唆された程度で、そこまでアンタを嫌えるもんなのか…?」

さやか「………」

マミ「………」


さやかとマミにも、思い当たる節は正直あった。
時折発せられる意味有り気な言い回し、そして自分を陥れようとしているかのような言葉。


杏子「…で、そこんとこどうなのさ?」

QB「いいや、僕は別に隠したりはしないさ」

マミ「そうよ、キュゥべえは私達の……」

QB「ただ、訊かれなかったことに対する説明を省いただけだよ」

マミ「…え?」

QB「ウルトラマンゼロが伝えようとしている真実、
   もしかすると、僕が省略させてもらった部分と関係があるのかもしれないね」

QB「だけどウルトラマンゼロがこの場で全てを語るのであれば、
   第三者である彼よりも、僕が説明したほうが遥かに正確だ」

QB「歪曲された事実が伝わらないようにする事も、
   君達にこの『システム』の素晴らしさを知ってもらう事も、僕の役目と言ってもいい」

QB「いいだろう。君達の疑問、僕が責任を持って答えてあげるよ!」


キュゥべえが見せた思わぬ反応。
魔法少女達を、更なる不安が包み込んだ。

 
 




その頃、ゼロとほむらが戦う結界内部。
焦げ付く匂いと黒煙が漂う中、ほむらの前には魔女の頭部のみが残されていた。

魔女は最後の抵抗とばかりに、頭部のライトを激しく点滅させている。


ゼロ「おい、何故とどめを刺さないんだ?」

ほむら「『ワルプルギスの夜』との決戦、その前に私と貴方の連携を試す必要がある。
    今日は言わば、リハーサルといったところね」

ほむら「そのために、この特別な空間が必要になるわ。
    死なない程度に生かしておけば、魔女は結界を張り続ける」

ゼロ「結界の中なら外にも影響はないってわけか。
   確かに…あの魔女には悪いが、一度やっておく必要はあるな」

ゼロ「そんじゃ、行くぜ!」


抑えていた力を解放したゼロは、瞬時に巨大化していく。
ほむらは、ゼロが完全なウルトラマンに戻った事を確認すると、その肩へ飛び乗った。


ほむら「見せてもらうわ、貴方の全力。そして―――」

ほむら「あの『鎧』の力を」






「暁美ほむら―――以下ほむほむ。
 その心の錆び付き具合、まるであの魔女の体と同じですねぇ」

「…ですが、魔女の性質は『自由』。
 強い目的意識に縛られている貴方とは、根本が大きく違います」

「何が貴方をそうさせるんですかぁ~~ほむほむ!
 気になっちゃうじゃありませんか、そのヒ・ミ・ツ!」

「そして、『時間操作』の力とやらも」
 

つづく

また少し期間が開くかもしれませんが、ご了承を。

予告通りに間が空いてしまい、申し訳ありません。
今週中には投下できるよう作成は続けておりますので、もうしばらくお待ちください。


前回投下分、改めて読み返すと台詞足らずや表現の間違いが目につくなぁ…
>>337の「考慮」は、「考察」もしくは「推測」です。


【暁美ほむら その3】



その後もゼロは姿を見せず、代わりにキュゥべえが魔法少女三人の視線を集めている。

地球に持ち込まれ、定着した魔法少女のシステム。
不要と切り捨てられていたその核心について、キュゥべえは語り始めた。


QB「願いの対価として魔法少女が担う、魔女討伐の使命。
   それを遂行するために魔力が与えられ、君達は常人を凌駕する力を得た」

QB「でも、生き残るために必要なものは魔力だけじゃない」

QB「人間の体はウルトラマンとは違い、弱点だらけだ。
   魔女との戦闘で受けるダメージは、人間を容易く死に至らしめてしまう」

QB「魔法少女になっても、ダメージを受ける肉体が元のままでは何の意味もない。
   だから少しでも安全に戦ってもらうため、君達の体にも大きな変化が与えてあるんだ」

マミ「その話、身体能力の強化や痛覚の調整とは別物という事?」

QB「関係がないわけではないけれど、この話は魔力の応用とは違う。
   体の構造そのものについてさ」

マミ「…続けて、キュゥべえ」

QB「まず契約を結んだ少女の肉体から、僕の力で『魂』を抜き出す」

さやか「『魂』?」

QB「人類の科学は『魂』の存在を立証できていない。だから実感が湧かないのも無理はないよ。
   でも『魂』は確実に存在し、君達の肉体に宿っている」

QB「そして僕達は抜き出した『魂』を固形化し、魔力を運用しやすい形を与えるんだ」

さやか「形を与えるって…私達の魂、目に見えるわけ?」

マミ「魔力の運用―――まさか」


自分の手に目線を落とすマミ。
見つめる指先には、填められた指輪が煌めいている。


QB「察しがいいねマミ。君達が持つ魔力の源、ソウルジェムさ。
   これこそが君達の本体というわけだ」

マミ「ソウルジェムが、私達の魂そのもの…!?」

杏子「んなアホな…違和感なんて何もなかったのに」


彼女達に、肉体の変化に対する自覚は全くない。
マミと杏子が驚く中、さやかは恐る恐るキュゥべえに訊ねた。


さやか「これが私達ってことは、今動いてるこの体は一体何なの?」

QB「魔女と戦うための、外付けハードウェアってところかな」

さやか「外付け…」


思わず言葉を失う三人。
その中でも、さやかが見せる動揺は特に大きかった。
 



QB「みんな、何だか空気が重くなってるよ。この変化はもっと前向きに捉えるべきだ」

QB「魔力を応用すれば、知っての通り痛覚の調整は自由自在。
   それに回復魔法を使えば、どんなに肉体が損傷しようと修復することができる」

QB「つまり、君達は無敵といえる肉体を手に入れたんだよ!」

QB「例えばマミ、君は杏子の槍で体を貫かれた事があったろう?」

マミ「…それが、どうしたというの?」

杏子「………」

QB「あの程度の傷だって、君達の体では致命傷になり得ないんだ」

マミ「…!?」

QB「だけど、これらの話は君達のソウルジェムが破壊されない事が前提だからね。
   コンパクトで守りやすくなったとはいえ、注意は必要だ」

QB「マミの場合、ソウルジェムは髪飾りに付いているだろう?
   病院で孵化した魔女との戦いは、かなり危なかったね」

マミ(病院の…)


キュゥべえが言葉を続けるまでの僅かな間に、マミは思い出していた。

ゼロ、さやかと結界を進んだ数週間前の共闘。
その後に起きる不和の数々を、想像すらしていなかった自分の姿。

やがて、牙を剥き出しにして迫る『お菓子の魔女』の記憶が、彼女を現実に引き戻した。


QB「あの時ウルトラマンゼロが助けに入らなければ、
   魔女の牙によって、君の首から上はかじり取られていたよ」

QB「そして骨や血肉、脳と一緒に、ソウルジェムも魔女の口の中でミンチの具材と化していただろう」

QB「そうなっていたら、もはや再生は不可能だ。
   さやかの前で、無惨な姿を晒していたかもしれないね」


杏子はさりげなくマミの様子を窺う。
街灯の灯りだけでは顔色を確認できないが、その表情は明らかに青ざめていた。

だが、只ならぬ様子を見せていたのはマミだけではない。
さやかも両肩を掴み、体の震えを抑えようとしている。


しかし、キュゥべえに彼女達を慮るような『感情』は備わっておらず、
その精神を追い詰めるかのような暴露は続く。
 



QB「続いて、ソウルジェムの仕組みについて補足させてもらおう」

QB「魂と肉体の現状は、先ほど話した通りだ。
   でも、ソウルジェムが身体をコントロールできる距離には制限がある」

QB「約100メートルの範囲を越えてしまうと、その肉体は活動を停止してしまうんだ」

さやか「酷い…」

QB「そこまで気にする必要はないさ。
   普段から離さず身につけているものだし、紛失による活動停止なんてそうそう起きるものじゃないよ」

さやか「そんなこと言ってんじゃないわよ…!」

さやか「私の心も魂も何もかも、この体には入ってないんでしょ…?
    それ、もう死体がラジコンみたいに動いてるようなもんじゃん…」

さやか「これじゃ私…只のゾンビじゃん…」


さやかの声は、生気を感じないほどにか細い。
だが、キュゥべえが見せる反応は「落胆するにはまだ早い」と言わんばかりであった。


QB「うーん、これでも全体の半分も終わってないんだけどなぁ。
   むしろ君達が気にするべきはもう一点、ソウルジェムの穢れの方だ」

QB「魔力を消費すれば、ソウルジェムには穢れが蓄積されていく。
   グリーフシードを入手して穢れを浄化しなければ、魔力は元に戻らない」

QB「ここまでは君達にとって基本中の基本だよね。でも、この先が本題だ」

QB「人間の精神は、自分や他者、この世界そのものに絶望した時、
   その対象へ強いマイナスの感情を生み出してしまう」

QB「魔女の力の源、『呪い』の事だね」

QB「でも魔法少女の場合、呪いはソウルジェムの中で生まれ、魔力の消耗を加速させてしまう。
   この点は、さやかは身を持って知っているはずだよ」

さやか「………」

QB「君達がこの先生き延びたいと思うなら、魔力だけでなくメンタルの管理も怠らないことだ」

QB「もし絶望に立たされた心が限界を超えた時、君達に命はない」
 



杏子「つまり魔力が空になって、反撃できずに魔女に殺される…そういう事でしょ?」

QB「違うね」

杏子「は?」

QB「君の言う危険性も間違ってはいないよ。でも、僕が今伝えている事とは別件だね」 

杏子「じゃあ限界を超えたら…どうなる?」

QB「心は魔力を操る術を失い、その場には抜け殻となった肉体だけが残される。
   そして、穢れに満ちたソウルジェムはグリーフシードへと形を変えるんだ」


さやか「グリーフシード…!?」

さやか「まさか、卵だの何だの言ってたのって…」

QB「そういう事さ。グリーフシードから生まれるものが何かは―――わかるよね」

マミ「うっ…」

さやか「マミさん!?」

杏子「…やめとけ」


事情を察したマミは、口を押さえながら公園のトイレへと駆け込む。
心配して追おうとするさやかを、杏子が静止した。

ソウルジェムが魔女を生む―――
明かされたその事実は、マミには重過ぎるものだった。


QB「マミが戻ってくるまで、一時中断だね」

杏子「おい」

QB「何だい?」

杏子「テメェ…何で今まで隠してた!?アタシらの命、一体なんだと思ってやがんだ!?」

さやか「ゾンビにされた揚句に、最後は『魔女』…?
    あんた、私達を騙して一体どうしたいのよ!?」


キュゥべえに対し、怒りを露にする二人。
当然、キュゥべえに悪びれた様子はない。


QB「『騙す』か。理解に苦しむよ」

QB「僕は君達に、これらを強制したわけではないんだよ。
   対価として君達が一生努力しても成し遂げられない願いを叶えてあげた」

QB「双方に対等の条件が与えられている。これは『契約』だ」

QB「まぁ…いくら説明したところで、結局は理解してはもらえないんだよね。
   今までの魔法少女達もそうだったよ」

杏子「こいつ…」
 

つづく

もう少し投下する予定でしたが、今日はここまで。

娘とまどマギ見たかった者です
急な出張やら娘の部活やらで一気に見る事は出来ませんでしたが、ようやく全部見終わりました

ちょっとネタバレ感想
一応控えめに改行しときます



最終回は涙を堪えるのが大変w
親の立場として見てしまった為か、存在そのものが消えてしまうという結末が
それまでのいろんなシーンが全て吹っ飛ぶくらいの衝撃だった
俺は娘達を忘れたくはないなぁ
もっと語りたい気持ちはあるけどあまりにもチラ裏なので止めときます
全話見てからこのスレをまた読み直したんだけど、これまではウルトラ側しか
知らなかったから、いろんな見落としがありましたね
これからも楽しみに読ませて貰いたいです
スレ主さん良いものをありがとう
では名無しに戻ります
何だかんだで長文失礼しました



キュゥべえは、理解されることを最初から諦めているように溜息をつく。

怒りに対する反応の数々で、さやかと杏子は理解できた。
彼等が、人間やウルトラマンとは全く相容れない存在であることが。


しばらくして、目元を赤く腫らしたマミが戻って来た。
マミの姿を確認すると、キュゥべえは説明を再開する。


マミ「けほっ…」

QB「ようやく戻ってきたようだ。それじゃあ、話を続けよう」

QB「さやか、君はさっき僕にどうしたいのかと訊ねていたね。その答えはただ一つだ」

QB「僕達はこの宇宙の寿命を伸ばし、守り続けたいと考えている」

杏子「ワケわかんねぇ…」

杏子「日常の裏に潜んでるバケモンとの戦いが、何で宇宙レベルの話になってんだ…
   テメェ、一体何なんだ!?」

QB「僕達の名は『インキュベーター』。
   地球とは異なる惑星で文明を築く、この宇宙の守護者だ」


『宇宙の守護者』という表現から三人が連想したのは、ウルトラマンの存在。

だが魔女の正体が明かされた今、キュゥべえがそれを自称することには強い抵抗を感じていた。


杏子「アタシらが死ぬように仕向けて守護?ふざけんな!!」

さやか「そうよ…何のためにこんな…」

QB「『エントロピー』」

杏子・さやか「はぁ?」



QB「簡単に例えると、焚き火で得られる熱エネルギーは、木を育てる労力と釣り合わないってことさ」

QB「エネルギーは形を変換する毎にロスが生じる。
   宇宙全体のエネルギーは、目減りしていく一方なんだ」

QB「だから僕達は、熱力学の法則に縛られないエネルギーを探し求めてきた。
   そうして見つけたのが、魔法少女の魔力だよ」

QB「僕達の文明は、知的生命体の感情を、エネルギーに変換するテクノロジーを発明した。
   ところが生憎、当の僕等が感情というものを持ち合わせていなかった」

QB「そこでこの宇宙の様々な異種族を調査し、君達人類を見出したんだ」

QB「人類の個体数と繁殖力を鑑みれば、一人の人間が生み出す感情エネルギーは、
   その個体が誕生し、成長するまでに要したエネルギーを凌駕する」

QB「君達の魂は、エントロピーを覆すエネルギー源たり得るんだよ」

QB「とりわけ最も効率がいいのは、第二次性徴期の少女の、希望と絶望の相転移だ。
   ソウルジェムになった君達の魂は、燃え尽きてグリーフシードへと変わるその瞬間に、
   膨大なエネルギーを発生させる」

QB「それを回収するのが、僕達インキュベーターの役割だ」


宇宙のためエネルギー源として命を捧げ、その魂は魔女となって人々に牙を剥く。
キュゥべえが語った魔法少女の存在意義は、彼女達が目指す『正義の味方』とは、遠くかけ離れたものだった。


杏子「やっとわかったよ、ゼロが毛嫌いしてた理由…」

杏子「テメェはアタシらの敵だ!!」


杏子は激怒し、変身を行わないまま魔法を行使する。
その手には小さな槍が握られ、キュゥべえへと向けられた。
 



対するキュゥべえが見せた冷ややかな反応は、
突き出されようとしていた槍を直前で食い止めた。


QB「やれやれ…僕を幾ら殺しても、この運命からは逃れられないよ。
   今ここで抗うより、少しでも先を生き延びる事を考えた方が賢明なんじゃないかな?」

杏子「黙ってろよ。アタシ達にはまだ―――」

QB「無駄だ、希望なんてないよ」

杏子「…!?」

QB「ウルトラマンゼロが何とかしてくれる―――君はそれを期待しているんだろう?
   でもね、ウルトラマンに出来るのは目の前の脅威と戦う事だけだ」

QB「祈りと呪いの概念は、人類が洞穴で暮らしていた遠い昔に持ち込まれたものだ。
   彼の力で、地球全体に定着したこのシステムを覆せると本気で思っているのかい?」

杏子「……ッ」


杏子は反論できず、槍を消して黙り込んでしまう。

彼女に代わりマミが、小さく掠れた声で問いかけた。


マミ「こんな事以外に、方法はなかったの…?」

QB「僕達はこの数週間、別の宇宙世界を幾つか訪れた。
   調査の中で、魔法少女のシステムと同等、それ以上に魅力的な手段は見つかっている」

QB「でも、別宇宙間の資源運搬、この宇宙での確立が難しいテクノロジーなど、
   成立までにクリアしなければならない問題は数多かったんだ」

QB「最大効率を考えると、結局は現状の維持に行き着いてしまう。今のところは諦めるべきだね」

マミ「…ふふ……そう…」


全てを諦めたような笑みを見せると、マミはベンチに腰を下ろした。

首を垂れて動かないマミ。
彼女を奮起させようと、今度はさやかが歩み寄る。
 



さやか「マミさん…立って。立ち上がって、私達と一緒に何とかする方法を探そう…!」

さやか「ゼロさんって心強い仲間もいるんだ…きっと大丈夫だよ…!」


前向きな言葉で励ますが、その『大丈夫』に根拠はない。
その上、さやかの心そのものが、今回の暴露によって折れかけている。

更に、キュゥべえからの意図なき追い打ちが襲いかかった。


QB「それはどうだろう?」

さやか「…?」

QB「彼の使命は、全宇宙の平和を守る事だよ。
   この宇宙を見捨てずに防衛したいのなら、僕達の文明と協力を結ぶ他ない」

QB「僕からも既に協力は要請している。後は彼からの回答待ちさ」

さやか「そんな事…あの人が本気で応じると思ってんの?」

QB「それはまだわからないよ。でも、以前見た彼は迷っていた。
   僕達と手を組むか、組まないかの狭間でね」


ゼロもキュゥべえに手を貸しかねない。
ほむらの存在以上に不安を煽るその事実は、早くもゼロへの信頼を揺るがし始める。


さやか「きっと大丈夫だよ…あの時見た『仲間』に、こいつの姿なんて…」

杏子「おい…ブレんなって言ったろ!」

さやか「杏子…」


さやかからは、徐々に平常心が奪われていく。
それを止めようとしたのは、杏子の叱咤だった。


杏子「アイツを仲間って認めたんだろ?信じるって決めたんだろ?」

杏子「アイツはここに来てない…手のひら返すにはまだ早すぎんだよ!」

さやか「わかってる…わかってるよ…!!」


さやかは平常心を取り戻そうと内なる戦いを続け、マミは顔を伏せたまま何も話さない。

この場で現実を受け止めきれているのは、三人の中で杏子一人。
彼女は話の内容以上に、マミとさやかの反応に困惑を見せていた。


杏子(クソ…自分で決めたくせに、一体どこで何やってんのさ…!)

杏子(今だからこそ、アンタのテンションと、裏表のない綺麗事が必要なんだ…
   だから、早く姿を見せやがれ―――)

杏子(ウルトラマンゼロ!!)

 




その頃、ゼロとほむらは『銀の魔女』の結界を後にしていた。

二人の間に会話は無く、ほむらの表情からは強い焦りと苛立ちが感じられる。
原因は、連携の中で起きた予想外の出来事にあった。


ゼロ人間体(まさか、こうなっちまうとはな…)

ゼロ人間体(イージスを切り札にと思ってたが、今回はどうするべきか…)

ほむら「………」

ゼロ人間体「ほむら…ちょっくら公園寄ろうぜ。そこで少し話そう」


ゼロはさりげなく、さやか達の待つ公園へとほむらを誘導していった。
小さな先客の存在など、知る由もなく…

 

皆さんレスありがとうございます。

続きが遅くなって申し訳ありません。
8月から仕事量が落ち着くはずなので、投下ペースも改められると思います。


>>355
原作も楽しんで頂けたようで何よりです。
外伝作品の要素も取り込んでいるため、わかりづらい部分もあると思いますが、今後も宜しくお願いします。

チラ裏ですが、「俺は娘達を忘れたくはないなぁ」という言葉が数日間ずっと心に残ってます。
何気ない一文だったのかもしれませんが、家族観を考える良い切っ掛けになりました。
ありがとうございます。


【暁美ほむら その4】



ほむら「これ、一体何のつもり?」

ゼロ人間体「誰一人脱落させずにここまで来たぜ!
      ―――って、お前に言ってやるつもりだったんだ。本当ならな」

ゼロ人間体「なのに、何でテメェがここにいる…」

ゼロ人間体「…インキュベータァッ!!」


公園に到着したゼロとほむら。
二人の目に映ったのは、キュゥべえを前に愕然とする三人の魔法少女の姿だった。

予想だにしなかった状況にゼロは憤り、ほむらは冷たい口調で問いただす。


さやか「ゼロさん…」

杏子「…ゼロ!?」

マミ「………」


怒号を耳にし、さやか達もようやくゼロの到着を知る。
マミはその存在に気付きながらも、顔を伏せ続けている。


QB「やれやれ、遅かったのは君の方じゃないか。
   だから君が伝えようとしていた事を、僕が代理として説明してあげたというのに」

ゼロ人間体「余計なお世話だ!…それより、どこまで話しやがった!?」

QB「全部だよ」

ゼロ人間体「チッ…」



杏子「遅せーんだよ馬鹿ヤロウ!!」

ゼロ人間体「杏…!?」


キュゥべえを睨み付けるゼロの耳に、杏子の張り上げた声が突き刺さる。
振り向けば、怪訝な表情で杏子が立っていた。


杏子「こんな遅くまで待たせやがって…何してやがったんだ!?」

ゼロ人間体「すまねぇ、どうしても抜け出せない理由があったんだ。魔女もいたしな…」

杏子「……くそっ」

杏子「大体、隠し事の中身、黒過ぎるにも程があるつーの…
   アンタが遅すぎるから、先走って問い詰めたらこのザマさ…」

ゼロ人間体「…悪かった」

杏子「いいから、早く何か話せよ…」


ゼロはほむらを除いた三人の魔法少女に目を配る。

目の前の杏子は、普段と同じく強気に振舞いつつも動揺が隠せていない。
ベンチに座るさやかは、肩を押さえながら不安げな目でこちらを見ている。

そして、さやかと同じベンチに座っていたマミは、いつの間にかゼロの近くまで歩み寄っていた。


マミ「ゼロさん…」

ゼロ人間体「マミ…」


察するに、三人の中で精神的なダメージを最も受けているのはマミ、次点がさやか。

マミは心を強く持っている…そう考えていたゼロは、
彼女の様子を全く気にかけていなかったことを後悔した。



マミ「…教えて、ゼロさん」

マミ「貴方は前に、癒しの力で私の傷を治してくれた…
   私、あの時貴方が命を救ってくれたんだって、ずっと思ってた」

マミ「でも、本当は致命傷なんかじゃなかったの?あの程度では私、死ねないの…?」


マミは胸に手を添え、掠れた声で問いかける。

ゼロは少し戸惑いながらも、その答えを簡潔に示した。


ゼロ人間体「………」

ゼロ人間体「…ああ」

ゼロ人間体「俺は銀十字の――医療部隊の出じゃないからな。
      あの回復でも、命に係わる傷はまでは治せないんだ」

ゼロ人間体「俺が死にかけた命を救うには、そいつと融合して一心同体になるしかない」

ゼロ人間体「魔法少女の体は、その必要がないくらい簡単に治せたよ。
      お前の言うとおり…あの時のお前は、瀕死なんかじゃなかった」

マミ「何もかも本当だったのね…」


落胆を隠せず、マミは肩を落とす。

同じくゼロから治療を受けた杏子、間近で回復を目にしたさやかもまた、
キュゥべえの語った肉体の話が事実なのだと理解した。


マミ「キュゥべえから聞いたわ。この『体』と『魂』に関わる事、
   そして私達がこの先どうなるのか、何もかも…」

マミ「貴方は全てを知りながら、何故戦っていられたの?」

マミ「魔女が……魔女の正体が私たち魔法少女と知りながら、どうして平然と戦い続けていられたの?」

ゼロ人間体「………」
 


マミ「私、耐えられないの…」

マミ「平和を守るために続けてきた戦いが、同じ魔法少女を殺すことだったなんて…
   いずれ私自身が魔女になって、誰かを呪い続けるなんて…」

ゼロ人間体「俺だって平然なわけあるかよ…」

ゼロ人間体「けど、躊躇いなら全てを知ったその日にふっ切った。
      誰かが魔女を倒さないと、別の誰かが犠牲になる。俺はそれを見過ごすなんてできねぇ!」

マミ「確かにウルトラマンなら、この先も戦っていけるわ。
   でも私達は違う…常に死や魔女になる危険が付きまとってる…」

マミ「そういえば、美樹さんを立ち直らせたのもゼロさんよね…
   どうしてその時、あの子を戦いから遠ざけようとしなかったの?」

さやか「!?」

マミ「美樹さんをこんな絶望の道に引き戻す必要が、本当にあったの!?」


マミが言い放った指摘は、さやか本人が気にも留めていなかったもの。
それを初めて自覚した時、彼女の中で新たに疑心が生まれてしまう。


ゼロ人間体「正直に言うぜ」

ゼロ人間体「俺は、お前達にこの先も戦い続けてほしかった。だからだ」

マミ・さやか・杏子「!?」

 



マミ「…本当はゼロさんに少し期待していたの。
   魔女になった子を元に戻せる能力とか、何か持ってるんじゃないかって」

マミ「やっぱり、そんなに都合良くはいかないわよね…」


さやか「え……ゼロさんが仲間について語ってたのは…」

さやか「つまりさ…『輝く希望』って、慰め合って乗り越えようって精神論?」

さやか「ごめんゼロさん…本気で意味わかんない!!」


杏子「意味わかんねぇのはアタシだって同じさ。もっと納得いく説明、貰えるよな?」


ゼロが求めているのは、魔女と戦い続ける使命を背負い続けること。
そう解釈した三人の目が、一斉にゼロへと集中する。

ゼロは厳しい視線を受け止めながら、静観を続けるパートナーの名を呼んだ。


ゼロ人間体「…ほむら」

ゼロ人間体「ここに三人を集めたのは、魔法少女の事だけじゃない。
      俺達に関わる真実も一緒に伝えたかったからなんだ」

ゼロ人間体「だから、ほむらも一緒に全てを語ってくれ」

ゼロ人間体「頼む」

ほむら「………」


不機嫌を絵に描いたような彼女の顔を、ゼロは固唾を呑んで見守る。
全ての視線が集まる中で、ほむらは何かを考えている様子であった。

しばらくして、何かが吹っ切れたかのように彼女は態度を一変させた。


ほむら「いいわ」

ゼロ人間体「えっ」

ほむら「折角だから場所を変えましょう。私の家、招待するわ」


ほむらが簡単に承諾するはずはないと考え、後の説得に向けて身構えていたゼロ。
以外な反応を受け、ゼロは驚きとともに、引っかかる何かを感じていた。

 

つづく

今週中にこの章が終われるよう急ぎます。




公園からほむらの自宅へと、ゼロ達は改めて話し合いの場を設けることとなった。
誰にも心を許さないはずの彼女の部屋には今、主要人物の殆どが集っている。


ゼロ人間体(ここがほむらの家か)

ゼロ人間体(そういや、あいつと出会ってから一度も呼ばれたことなかったっけか…)


初めて訪れた部屋の光景を、ゼロは不思議そうに見渡す。

真っ白な部屋に浮かぶのは、ほむらが収集した多くの資料。
その一枚に近づいた杏子の目に、歯車と人形を掛け合わせたような奇妙な絵が映った。


杏子「何これ、魔女?」

ほむら「そう、こいつが『ワルプルギスの夜』」

ほむら「一週間後、こいつが見滝原市に現れて破壊の限りを尽す…
    私はウルトラマンゼロの力を借りて、奴に戦いを挑むつもりでいるわ」

杏子「その話ならとっくにキュゥべえの野郎から聞いたよ。問題はその先さ」

杏子「ゼロとつるんでる理由、イレギュラーだなんて呼ばれてる理由、気になる事は色々あるしね」

ゼロ人間体「確信に入りたいところだが…まず邪魔者を一匹追い出さねぇとな」

QB「ん?」


ほむらの部屋には、魔法少女達だけでなくキュゥべえも何食わぬ顔で同行している。

ゼロはアイコンタクトを送り、気づいたほむらは頷いて承諾を伝える。
すると、ほむらはソウルジェムを手に取り、魔法少女の姿に変身した。


ほむら「ここから先の話、他言することは絶対に許されない。
    もし計画に支障をもたらす者がこの中から出れば、私は容赦しないわ」

ゼロ人間体「おい…!」

ほむら「聞くか帰るか、選ぶのは貴方達よ。その覚悟があるのなら、この手を取って」



並び立つ杏子、さやか、マミに向けて、ほむらは盾を装備した左手を差し出す。
真っ先に関心を示したのは、三人中の誰かではなく、キュゥべえだった。


QB「僕にもその権利はあるかい?」

ほむら「愚問よ」

QB「だろうね。それじゃあ僕は、ここで見物させてもらうとするよ」


だが、ほむらがそれを認めるわけもなく、諦めたキュゥべえはその場に座り込む。
代わりに、ほむらの横に立つゼロが最初に手を重ね合わせた。


ゼロ人間体「安心してくれ。ほむらはキツい事言ってるが、もし何かあったら俺が止める」

杏子「その時はその時さ。妙なマネしやがったら、アタシの手で返り討ちにしてやるよ」

杏子「…でも、それ以前にアタシは何も知らなすぎる。
   アンタだけじゃなくて、相方の事も詳しく説明してもらわなきゃな」


ゼロの手の上に、続いて杏子が手を重ねる。


さやか「信じてたいからさ…」


折角取り戻した繋がりを、こんな形で終わらせるわけにはいかない―――
そう感じるさやかも、最後まで聞き届ける覚悟を決めた。

その手は杏子の上に重ねられ、残るはマミ一人となる。
答えを出さないマミに、ほむらの視線が向けられた。


ほむら「魔女化をその目で見ていないとはいえ、まだ自分を保てているのね」

ほむら「でも、随分と無理をしているようにしか見えないのだけれど」

マミ「馬鹿にしないで…!!」


気遣いなのか挑発なのか、ほむらのマミに対する態度は厳しい。
反発を抱いたマミは、勢いに任せてさやかの上に手を重ねた。



ゼロ人間体「ほむら、そこまで言う必要は…」

ほむら「彼女は自分の意思をこうして示した。同意と見なすわ」

ほむら「それに貴方も、全員に話を聞いてもらう事を望んでいるはず。違う?」

ゼロ人間体「そうだけどよ…」


最終的に、誰一人としてこの場を去る事はなかった。

そして本題に移るため、ほむらは盾に手をかける。
発動した魔法によって、五人を除いた全ての時が止まった。


杏子「空気が変わったね。一体何が起こったのさ?」

ゼロ人間体「時を止めたんだよ、ほむらの魔法でな」

杏子「時間の停止?」

ほむら「私の魔法の特性は『時間操作』。
    私が止めた時間の中に、力を与えたこいつでさえ踏み込むことはできない」

杏子「こいつ、ホントに止まってんのかわかんねーよ…」


ほむらが目線を変えた先には、キュゥべえが普段と変わらぬ表情でこちらを見ている。
時が止まっているにも関わらず、今にも動き出しそうな不気味さが漂っていた。


杏子「けどさぁその魔法、使い方次第で相手を一方的にタコ殴りできるわけじゃん。
   そんな強力な技、簡単にバラしちまっていいのかよ?」

ほむら「確かに、リスクは大きすぎるわね。誰がインキュベーターに情報を漏らすとも知れないのだから」

ほむら「でも私は、無駄な事ではないと思ってる」

ゼロ人間体「ほむら…?」

ほむら「長いこと待たせていたのでしょう?早く初めるわよ」

ゼロ人間体「ああ!ようやく話せるぜ、本当に伝えたかったことが…!」

ゼロ人間体「まずは、俺からで構わないんだよな?」

ほむら「好きにして」


円を作るように立ち、中心で手を重ね合わせている五人。
まるで団結を表すかのような光景であったが、それぞれの思いは未だ交わっていない。

そしてゼロは、その団結を現実にするべく語り始める。


マミ「………」

さやか(マミさん…)


一方、強がりを通したマミの手は微かに震えている。
彼女の手が重ねられたさやかだけが、それに気づいていた。

 



ゼロ人間体「まず、俺がこの世界にやってきたのは三週間前…」

ゼロ人間体「…いや、一週間後になるのか?」

ゼロ人間体「待てよ…どう説明すりゃいいんだ!?」


軽く混乱し、ゼロは空いた片手で頭を押さえる。
場を和ます意図も何もないリアクションであったが、誰一人反応を返すことはない。


ゼロ人間体「まぁいいか…俺が元いた宇宙で戦ってた時の事だ。
      俺の耳に、今すぐにでも消えちまいそうな誰かの声が聞こえてきた」

ゼロ人間体「不思議だろ?数ある宇宙の中から、一人の人間の声が俺に届くなんて。
      何故だかわからないが、確かにそれは聞こえたんだ」

ゼロ人間体「その声を辿って俺はこの地球に辿り着いた。そこで出会った最初の人間がほむらだったんだ」

ほむら「………」


ゼロが今回ほむらを呼んだのは、さやか達に秘密を語らせるためだけではない。
他にも、この合流に懸けていた事があった。

ここで真実を打ち明ける事が、ほむらが他の魔法少女達に心を開くきっかけになるかもしれないと。


ゼロ人間体「えーと、俺とほむらは『時間そこーしゃ』ってやつで―――」

ほむら「交代よ」

ゼロ人間体「なっ…俺まだ何も話してないぞ!?」


時間遡行に触れようとしていたゼロを遮り、ほむらは自ら説明を始める。


ほむら「私が持っている『時間操作』の魔法は、こうして時を止める以外にも用途がある。
    それは時間を巻き戻し、遡ること」

ほむら「私はこの力で何度も同じ時を繰り返し、
    『ワルプルギスの夜』の脅威、インキュベーターの策略と戦ってきた」

杏子「つまり…アンタは未来から来たってわけ?」

ほむら「私だけではないわ。ウルトラマンゼロもまた、前回の時間軸から連れてきた未来の存在」

杏子「ゼロもかよ…!?」

マミ「…つまり貴方達の目的というのは、歴史の改変?」

ほむら「その通り。敵は強大…過酷な戦いは避けられない。
    私の望む結末へ導くために、彼の力は必ず必要になる」

ゼロ人間体「とんでもねぇ強さの魔女とは聞いてるが、俺はまだそいつを見ても戦ってもいない。
      だが、どんな相手だったとしても俺は絶対に負けねぇ!」

ゼロ人間体「ま、勝つのは当然として……俺は決戦が終わったら、この宇宙を出ていくつもりだ」


ゼロがその言葉を発した瞬間、ほむらを除く三人は、
自分達の時までもが止まったかのような感覚に陥る。


杏子「…出ていく?」


意外にも、最もショックを受けていたのは杏子だった。

 



杏子「待ちなよゼロ…」

杏子「『ワルプルギスの夜』が魔女の親玉ってわけじゃないんだよな?
   倒したって、全ての魔女が消えたり、アタシらが元の人間に戻れるってわけじゃないんだよな!?」

杏子「ハッピーエンドの一つも見せないまま、そそくさ帰る気なのか…?」

マミ「佐倉さんも…ゼロさんの正体を知ってるなら想像はついたはず」

マミ「ゼロさんは様々な宇宙を守る守護者。この宇宙だけに固執することはできないわ。
   去った後は、残された私達の手で魔女と戦っていくしかない……そういう事よ」

杏子「……クソッ」


歪みきったこの世界に、ゼロの存在は何かをもたらしてくれる。
それを期待していた杏子の落胆は大きかった。

そしてマミの反応は、杏子と違いどこか冷めていた。


ゼロ人間体「確かにマミの言うとおりだ。
      この宇宙以外にも、俺の力を必要としている宇宙が他にもあるのかもしれない」

ゼロ人間体「でもな、それは目の前の命を…お前達を見捨てる理由にはならねぇ。
      後腐れを残したまま、次に進んでいいわけがねぇ!」

ゼロ人間体「…『希望』の事、忘れてないよな?」

さやか「!!」


さやかは俯いていた顔を勢いよく上げる。


ゼロ人間体「俺一人の力では、完全な形でこの地球を救うことはできない。
      …でも、故郷にいる仲間達の力があれば話は別だ」
 



杏子「故郷…『光の国』だな?」

ゼロ人間体「ああ、俺は一度『光の国』に帰る。そして魔法少女、魔女、インキュベーターの事、
      一ヶ月の間に体験してきた全てを必ず報告する!」

ゼロ人間体「俺が『ワルプルギスの夜』に勝って故郷に帰れば、
      全ての魔法少女を、この地球を、あるべき姿に戻せるかもしれない」

さやか「あるべき姿…ってことは、私たち今までどおりの日常に戻れるの?」

杏子「『光の国』なら、その方法があるってのか?」

ゼロ人間体「方法ならきっと見つかるはずだ。いや、絶対に見つけてみせる!」

ゼロ人間体「光の国では、昔から『命』の研究が行われててな…
      中には、『命』を形にする技術を作ったすげぇ科学者がいる」

ゼロ人間体「そのウルトラマンなら、ソウルジェムに変えられた魂の仕組みも解明できるかもしれない」


さやか「…その話、キュゥべえが言ってた『魂』を固形化するって話に似てるね」

ゼロ人間体「ああ、似てるな。でも『命』と『魂』、二つは別モンだ。
      『命』の技術ってのは、一度死んだ者に『命』を定着させて甦らせる医術だからな」

杏子「それ、魔法少女以上の不死身じゃんか!?」

マミ「貴方達…ウルトラマンは『死』さえも克服したというの?」


想像を超えた技術の存在に、魔法少女達も驚きを示す。
しかし地球人とウルトラマンの間に、『命』の価値観に対するズレは存在していなかった。


ゼロ人間体「そんな大層なもんじゃないし、良いことばかりとも言えねぇよ。
      蘇生だって必ず成功する保証なんてない―――結局、命は一つきりなんだ」

ゼロ人間体「それに昔、この技術が原因で戦争をふっかけてきた悪党もいたらしい。
      そいつらのせいで、『光の国』でも無関係な人達が犠牲になった」

ゼロ人間体「確か、情報をよこせと要求して、断られた逆恨みだったと聞いたな。
      名前なんつったっけか…バル…いや、バドじゃなくて……」

ゼロ人間体「ああ、思い出したぜ―――『バット星人』だ」

 



『バット星人』

それはゼロの記憶にもない遠い昔、命の技術を求めて『ウルトラ抹殺計画』なる計画を企て、
『光の国』を襲った侵略者の名前。
結果的にウルトラ戦士達の活躍によって、戦争は大敗に追い込まれてしまったと言われている。


しかし直接の関係がない魔法少女達にとって、その話は関心の外。
気付いたゼロも、話の起動を修正しようとする。


ゼロ人間体「…少し話が脱線しちまったかな」

ゼロ人間体「散々考え抜いたが、俺にできる最善策はこれしかない。
      だから絶対に方法を見つけて、もう一度この宇宙に帰ってくる!」

ゼロ人間体「お前らの未来は輝いてるんだ。燃料なんかにはさせねぇ…!!」


ゼロが今後成そうとしていることを、ようやく全員が理解できた。

しかし、マミはまだ何かが納得ができていない様子だった。


マミ(そんな不確かな希望、今の私達には―――)

杏子「アタシはさ…そういうのを期待してたんだ」

マミ(…佐倉さん?)


杏子「今まで、有耶無耶に信じてたものじゃない。
   確かなものだって、実感できる希望が欲しかったんだ…!!」

杏子「持ってんなら最初っから言えよ!このバカ!」

ゼロ人間体「いや、インキューベーターの野郎がいたしよ…」


さやか「ゼロさんがいつものゼロさんで安心したよ……私もいい加減しっかりしなきゃね」

さやか「まぁ…たとえ今がゾンビで、魔女の卵でもさ、
    終わりよければ全て良し―――そうだよね、ゼロさん!」

ゼロ人間体「さやか…!」


マミ(ゼロさんの話だって、上手くいく保証なんてまるでないじゃない…)

マミ(佐倉さん…美樹さん…貴方達はそこまでゼロさんの事を信じているの?)


さやかと杏子の表情は、ゼロの真意を知ることで大きく変化する。
ゼロが持っていた『希望』は、彼女達に間違いなくプラスの影響を与えていた。

その一方でマミは、後ろ向きな思考から抜け出すことができずにいた。


さやか「でもさ、『ワルプルギスの夜』が来る前に、一旦帰ることはできなかったの?」

ほむら「彼にはインキュベーターの関心を引き続ける役目と、私の代わりに戦ってもらう役目があった。
    そのために、私がこの街に留まり続けるよう引き留めたの」

ほむら「私と彼の目的が『ワルプルギスの夜』の討伐であることに変わりはないわ。
    でもそいつの存在は、後に起きる災厄のきっかけに過ぎない」

ゼロ人間体「『ワルプルギスの夜』を俺とほむらが止めないと、
      誰にも倒せない魔女が生まれてしまうかもしれない…」

ほむら「この地球の命運は、ある一人の少女が握ってる。彼女の名前は―――」


ゼロ人間体・ほむら「『鹿目まどか』」

 

 

つづく


説明だらけで思いのほか長くなりましたが、次回の投下でこの章は終わります。



さやか「は?」

杏子「誰よそいつ?」

さやか「ちょっと何よそれ…『鹿目まどか』って、あの『まどか』だよね!?」

杏子「だから誰だってんだよ!?」

ほむら「見滝原中学の二年生、私達と同じクラスの『鹿目まどか』よ」

さやか「んでもって、私の親友…」


『鹿目まどか』

さやかの親友であるその少女こそ、ほむらが戦い続けてきた理由であり、守るべきもの。
彼女の存在を知らないマミと杏子には、その意外性が理解できていない。


さやか「まどかが地球の運命を?ないない!
    どこからどう見てもフツーな中学生じゃん。そこまでの力あるわけないって!」

ゼロ人間体「まぁ、俺もさやかが親友だと知ったときは驚いたぜ」

ゼロ人間体「あまりに身近過ぎると、逆に実感湧かないのかもしれないな」

さやか「あ…」


さやかは思い出した。
以前、下校中に出会ったゼロが、『まどか』という名前に反応していたことを。


さやか「やっぱそれ、本当なんだ…」

ほむら「理由は不明だけど、鹿目まどかは通常では有り得ない程の素質を持っている。
    最強の魔法少女になれるだけの、膨大な因果が…」

ゼロ人間体「その素質がインキュベーターの目に留まれば、
      ヤローはあらゆる策を張り巡らせて契約を迫るはずだ」

ほむら「もし魔法少女になることを許せば、『ワルプルギスの夜』との激突は避けられない。
    その戦いの末、限界を迎えた彼女のソウルジェムは、最悪の魔女を生み出してしまう」

ゼロ人間体「俺達がやってきた事は、魔女やインキュベーターから、
      『鹿目まどか』を遠ざけるための戦いでもあったんだ」

ほむら「『鹿目まどか』は無関係な一般人。私達の戦いに巻き込むわけにはいかない」



二人が明らかにした目的を知り、
さやかは反省したかのように控えめな口調で話し始める。


さやか「…あんたの事、完全に誤解してたわ」

さやか「表向きは和解したつもりだったけどさ…結局は信用なんてできてなかったんだと思う」

さやか「でもこうして話してくれたから、今日からは違った目であんたの事を見れそうな気がする」

さやか「あんたも間違いなく『正義の味方』だよ、ほむら」


さやかは、笑顔とともにほむらの名を呼ぶ。
杏子もまた、ほむらの行動に理解を示した様子であった。


杏子「アンタについて、あまり良い評判聞かなかったからな。得体の知れない奴だと思ってたよ」

さやか「プッ……人の事言えんの?」

杏子「うっせーな!…とにかく、アンタの事情は大方理解できた。
   ソイツを守る事がこの世界を守る事に繋がるってんなら、できる限りは協力する」

杏子「改めて自己紹介だ。アタシは佐倉杏子、よろしくね」


そしてマミは、何も言葉を口にしない。
心の中では、また一つマイナスの感情が積み重ねられていく。


マミ(貴方はずっと、その子を守るために孤独な戦いを続けてきたというの?)

マミ(自分の人間性を捨ててでも、世界を救おうとしていたというの?)

マミ(そんな貴方を目の敵にしてきた私は…)

マミ(『正義の味方』どころか……まるで『悪役』…)



一通りの目的を話し終えたゼロは、ほむらにテレパシーを送り、訊ねる。


ゼロ人間体(話さなくていいのか?)

ゼロ人間体(まどかとの事、みんなに知ってもらわなくて本当にいいのか?)

ほむら(………)










ほむら(全ての始まりは、私が東京から転校した初めての朝―――)


『私、鹿目まどか。まどかって呼んで』

『だから、私もほむらちゃんって呼んでいいかな?』

『せっかく素敵な名前なんだから、ほむらちゃんもカッコ良くなっちゃえばいいんだよ!』


ほむら(新しい環境に戸惑っていた私に、彼女は手を差し伸べてくれた。
    これが私と『鹿目まどか』の最初の出会い)


『いきなり秘密がバレちゃったね。クラスのみんなには、内緒だよ!』


ほむら(そして私は知ることになる。
    呪いから生まれた怪物『魔女』、その魔女を人知れず狩る『魔法少女』の存在を)

ほむら(そしてまどかが、魔法少女の一人であることを)


ほむら(魔女に殺されかけたところを救われて以降、
    私は彼女と、先輩である巴マミの魔女討伐に付き添うことにした)

ほむら(まどかと友情を育むうち、私も少しずつ自分に自信を持てるようになっていった)

ほむら(でも、その日々はたった一体の魔女によって壊されることになる)

ほむら(そいつこそが『ワルプルギスの夜』)


『ほむらちゃん…私ね、貴方と友達になれて嬉しかった。
 貴方が魔女に襲われた時、間に合って。今でもそれが自慢なの』

『だから魔法少女になって本当に良かったって…そう思うんだ』

『さよなら、ほむらちゃん。元気でね』


ほむら(彼女は、戦いに敗れて命を落とした)

ほむら(見ていることしかできなかった自分…その無力を痛感した私は、奴に願った。
    『彼女との出会いをやり直し、彼女を守る私になりたい』と)

ほむら(手に入れた力で時を遡り、同じ魔法少女の立場でまどかと再会を果たした。
    今度こそ、彼女をこの手で守るために)

ほむら(けれど―――)


 



『ひどいよ…こんなのあんまりだよ…』

『嫌だ……もう嫌だよ、こんなの…』


ほむら(明らかになってきたのは、『祈り』と『呪い』の真実。
    私たち人類を家畜程度にしか見ていない、インキュベーターの計画)

ほむら(私は、その全てから彼女を守ることができなかった)


『私にはできなくて、ほむらちゃんにできること、お願いしたいから…』

『ほむらちゃん、過去に戻れるんだよね?こんな終わり方にならないように、
 歴史を変えられるって言ってたよね…』

『キュゥべえに騙される前の馬鹿な私を、助けてあげてくれないかな?』


ほむら(私は決めた。どんなに時を繰り返しても約束を果たすと…
    貴方を、必ず絶望の運命から救い出してみせると…)


『もう一つ、頼んでいい?』

『私、魔女にはなりたくない…嫌なことも、悲しいこともあったけど、
 守りたいものだって…沢山この世界にはあったから……』


ほむら(誓いとともに私は、初めて大切な人を手にかけた―――)



ほむら(あの日の約束から、一体どれほどの時間を繰り返してきたのだろう)










ほむら(………)

ゼロ人間体(…ま、言いたくなきゃいいさ)


最初の朝、ほむらはゼロの協力を得るために全てを語った。
しかし、三人に『鹿目まどか』との関わりを打ち明けることはなかった。

ゼロはテレパシーを打ち切ると、再び全員に向けて話し始める。

 



ゼロ人間体「俺が伝えたかったのはこんなところだ。
      でも全てを成功させるためには、お前達の助けが必要になる」

ゼロ人間体「お前達には、俺が帰った後も戦いを続けてほしい」

ゼロ人間体「この地球を救う方法を見つけて戻ってくるその時まで、
      魔女とインキュベーターから、街の人達を…少女達を…鹿目まどかを守ってくれ!」

ゼロ人間体「そしてこの中の誰も脱落することも、絶望することもないように、
      みんな『仲間』として繋がって、互いに助け合ってくれ!」


ゼロが求めるものに対し、思うところがあった杏子。
彼女は本人に気づかれないよう、さりげなくマミの様子を伺う。


杏子(簡単に言ってくれんじゃん。でも……)


杏子がマミとの間に感じる溝は、この数週間の事件を経てより深いものになっていた。
ゼロやさやかの時のようにはいかないと、杏子は視線を戻す。


ゼロ人間体「さぁてと…」


突然、ゼロは重ねた手を振り払った。
ほむらは時間停止の魔法を解除し、会話を強制的に終わらせる。


杏子「何だよ突然?」

ゼロ人間体「そろそろテメェも混ぜてやるぜ。感謝しな!」

ほむら「まさか…」

QB「戻ってきたようだね。でも、核心部分は既に終わっているという事だろう?
   今更僕に有益な情報が残っているのかい?」

ゼロ人間体「俺もこの場でハッキリさせなきゃならねぇ事がある。
      テメェが持ちかけた話の答え、俺の口から聞きたくないか?」


時の流れを戻し、ゼロはキュゥべえを呼ぶ。
その目的はキュゥべえの提案の答えを、魔法少女達の前で示す事。

 



QB「確かに、明確な返事は貰っていなかったね。君はどう答えを出すんだい?」

ゼロ人間体「テメェらが本気でこの宇宙を守ろうとしてるのはよくわかった。
      俺もテメェらも、最後に目指すものは同じなのかもな」

ゼロ人間体「だがその方法、気にいらねぇ…!」

QB「つまり、君は僕の側にはつかないと言うことかい?」

ゼロ人間体「当然だろ。誰がテメェの言いなりになるかよ」

QB「僕には、君が随分と葛藤していたように見えたのだけれど。
   …その心境の変化が理解できないよ」

ゼロ人間体「確かに、俺は人間の悪い面ばかりに目を向けすぎちまった。
      そのせいで、地球を守る事に疑問を感じたこともあった…」

ゼロ人間体「…でもな、テメェに手を貸すかどうかで迷った覚えは一度もねぇんだよ!」

ゼロ人間体「俺がテメェについて悩んだのはな―――
      どうすればテメェらを変えられるのか、それだけだ!!」


ゼロは思い切りキュゥべえを指さす。

ゼロは彼らの文明をを倒すべき敵とは見ていないらしく、
その考えにほむらは納得できていない様子だった。


ほむら「こいつを…変える?」

QB「わけがわからないよ」

QB「…僕達が行っているのは、この宇宙を守る最も効率的な方法だ。
   誰かが行動を起こさなければ、いつかの未来、この宇宙のエネルギーは枯渇することになる」

QB「それに、途方もない『闇』の脅威がこの宇宙を襲った時、立ち向かえるものは誰もいない」

QB「いずれにせよ、待ち受けるのは終焉だよ。
   君は、他の宇宙よりもこの宇宙の存在を軽視しているというのかい?」

ゼロ人間体「俺はこの宇宙に危機が訪れたら、必ず駆けつけて戦う。
      それくらい、テメェらとつるまなくたってやれるってんだよ!」

ゼロ人間体「それに、テメェらはまるでわかっちゃいねぇ…
      何故宇宙を守らなきゃならないのか、宇宙にとって本当の損失が何なのか」

ゼロ人間体「色々な星で息づいている命の一つ一つ、
      それを失うことがこの宇宙全体の損失なんだ!だから守るんだよ!!」

QB「損失?今現在で六十九億人、しかも四秒に十人づつ増え続けている地球人が―――」

ゼロ人間体「あーうるせぇ!命の価値に、大きいも小せぇもねえんだよ!
      長い時間かけてでも、テメェらの文明にその基礎を叩き込んでやるぜ!!」


ゼロが語る命の価値観を、キュゥべえは理解に苦しむ。

だが、その切り替えは意外にも早かった。

 



QB「…わかったよ。僕は、君に強制はしないと言った。
   これ以上、君に協力を求めるのは止めておくとしよう」

QB「君がさやかと杏子を説き伏せたあたりから、こうなるんじゃないかと危惧はしていた事だしね」

QB「余計な時間を使わせて悪かった。お詫びとして、君に助言を与えよう」

ゼロ人間体「助言だぁ?」


それが謝意なのか策の一つなのか、ゼロだけでなく魔法少女達もその話に耳を傾ける。


QB「この宇宙で最も強い感情を持つ種族――その少女達の『呪い』が、
   一体の魔女を中心に集合して生まれた存在。それが『ワルプルギスの夜』だ」

QB「この魔女の強さは、ウルトラマンをも凌駕する。
   舐めてかかれば、君ですら殺されかねない。腕輪の力は必須とみるべきだ」

ゼロ人間体「イージスの力が…?」

QB「でも腕輪の力を解放するのなら、小出しするような戦い方はオススメしないよ。
   機を窺い、全てのエネルギーを一撃に込めて仕留めるんだ」


ゼロが持つ腕輪、ウルティメイトイージスには二通りの戦い方がある。

一つはイージスを鎧として身に纏い、武装した状態で戦う『ウルティメイトゼロ』。
もう一つは、イージスを巨大な弓矢に変形させ、
全エネルギーを込めて撃ち出す最強技『ファイナルウルティメイトゼロ』。

キュゥべえの助言は、後者の戦法が該当した。


ゼロ人間体「要するに、俺に死なれたら困るってわけか。上等だ…有り難く受け取ってやる」

ゼロ人間体「必ず勝って、テメェにドヤ顔見せつけてやるぜ!」

QB「この情報、役立ってくれれば幸いだ。
   君が『ワルプルギスの夜』を相手にどこまでやれるのか、楽しみに待っているよ」


その助言を最後に、キュゥべえはほむらの部屋から去る。

傍で話を聞いていた魔法少女達にも、敵の脅威がどれほどのものか十分に伝わっていた。


ゼロ人間体「聞いての通り『ワルプルギスの夜』は危険だ。
      この戦いだけは俺とほむらに任せてほしい。みんなは―――」

ほむら「共に戦ってもらえるかしら」

ゼロ人間体「だそうだ。……って、はぁ!?」

 



当初、ゼロとほむらの二人だけで想定されていた『ワルプルギスの夜』との決戦。
ほむらは、その戦いにさやか達三人を加えようとしていた。


ゼロ人間体「おい、何言ってんだほむら!そいつの強さは、お前が散々教えてくれたはずだろ!?」

ほむら「強制はしないわ。参加したい者だけが加わればいい」

ほむら「奴のいう通り、『ワルプルギスの夜』の強さは桁違い。庇いながら戦えるような相手じゃない」

ほむら「ウルトラマンゼロはこの決戦の要。誰かが窮地に陥ったとしても、助けには向かわせない」

ほむら「その覚悟があるのなら、歓迎するわ」

ゼロ人間体「ダメだ…やっぱり行かせるわけにはいかねぇ!」


ゼロの意に反して、魔法少女達はこの戦いを前向きに捉えていた。

一番最初に、未熟なはずのさやかが名乗りを上げる。


さやか「…ゼロさん、私はやるよ」

ゼロ人間体「さやか?」

さやか「この前みたいな強がりじゃない。私は、私自身の気持ちでこの街を守りたいんだ。
    ジッと見守るだけなんて、できないから」

さやか「…それに、親友の危機とあっちゃあね!」

杏子「フン…利用されてばっかってのもシャクだもんな。
   元々『ワルプルギスの夜』はアタシが狙ってた獲物でもあるしね」

杏子「いいよ、一緒に行ってやるよ」

ゼロ人間体「杏子…」

 



杏子までもが賛同し、ゼロは残ったマミに目を向ける。
彼女はぎこちない表情ながらも、静かに頷いた。


ゼロ人間体「マミ…」

ゼロ人間体「本当にそれでいいのか…?お前らにもしもの事があったら…」

杏子「ゼロ」

ゼロ人間体「?」

杏子「アタシらを―――魔法少女を信じろ!!」


魔法少女達の身を案じるゼロは、杏子の言葉に驚いたような素振りを見せる。

やがて納得したように表情を緩め、親指で上唇を擦った。


ゼロ人間体「ヘッ…」

ゼロ人間体「…どんなに来るなって念押しても、どうせ勝手に来るんだろ?」

ゼロ人間体「わかったよ、お前らの思い…!!」

さやか「えへへ」

杏子「フン」

マミ「………」

ほむら「決まりね」

ゼロ人間体「俺達の力を合わせて、『ワルプルギスの夜』と戦おう!
      絶対に勝って、生き残って、またみんなでこうして集まろうぜ!!」


魔法少女の仲間達と決戦に臨む―――ゼロはそれを認めることにした。

この宇宙、地球、地球人、魔法少女の仲間達、
その全てを守るため、持てる力を尽くそうとゼロは決意を新たにしていた。


 
















それから一週間後、『ワルプルギスの夜』は見滝原市にその姿を現した。

街全体を覆い尽くす暗雲、その奥に巨大な影が浮かび上がる。
同時に、大きな高笑いが街中に響き渡った。


魔女「アハハハ…アーッハッハッハ!」


迫る脅威を迎え撃つべく、青年と少女が空を見上げる。
一人は人間体のウルトラマンゼロ、そしてもう一人は暁美ほむら。

その場に、残る魔法少女三人の姿はなかった。


ほむら「さぁ行くわよ」

ゼロ人間体「……おう!」


『ワルプルギスの夜』こと『舞台装置の魔女』、
その完全な顕現を目前に、二人は市街へと歩き出す。

やがてその周囲を、立ち込めた霧が包み込んでいった。

 

つづく


次回から舞台装置の魔女編を始めます。


【舞台装置の魔女 その1】



魔法少女だけでなくウルトラマンの力をも上回るという『ワルプルギスの夜』。

その強大な魔女の討伐に、さやかと杏子、
そしてゼロ達との共闘を否定的に考えていたマミまでもが参加することになった。

それぞれ異なる思いを胸に秘め、三人はほむらの自宅を後にする。


さやか「マミさん」

マミ「…?」


足早に去ろうとしたマミを、さやかが呼び止める。
振り向けば、そこに佇むのはさやか一人。杏子の姿は既になくなっていた。


マミ「…どうしたの?」

さやか「いやぁ、ちょっと気になってさ…
    キュゥべえのやつが言ってたこと、マミさんは上手く吹っ切れてるのかなって」

マミ「ふふ…」


さやかの気遣いに、マミはそっと笑顔を返す。


マミ「…私の事よりも、心配なのは美樹さんの方よ」

さやか「え、私なら今は大丈夫っすよ?最初はショック大きかったけど、今は―――」

マミ「そっちが大丈夫なのは知ってるわ。問題なのは、戦闘面」

マミ「全員の中で一番経験が少ないんだから、残り一週間は死ぬ気で特訓ね」



さやか「だよね…気持ちだけ前向きでもダメだもんね。今よりももっと、もっと強くならないと」

さやか「でないと私、何も守れない…」

マミ「大丈夫、美樹さんはまだまだ強くなれる。
   だから、これからはもう才能がどうだなんて言い訳はなしよ」

さやか「…うん」

マミ「でも、残されてる時間は少ないわ。せめて回避の特訓はしっかりね。
   …それと伸ばしておくべきは、美樹さんだけが特化している治癒魔法かしら」

マミ「ゼロさんの助けも借りれない程の戦いなら、精度の高い回復はきっと必要になる。
   そして、その力を確かなものにできるかどうかは、美樹さん自身の努力に懸かってるわ」

さやか「それが、私にしか出来ないこと…なのかな」


マミは再び笑顔を返すと、さやかに背を向けて歩き出す。


マミ「…そろそろ帰らなきゃ。さよなら、美樹さん」

さやか「あ…呼び止めちゃってごめんマミさん。それじゃあ、また特訓お願いしますね!」

さやか「また明日ぁーーっ!!」

マミ「ふふ…」


自信を得たさやかも笑顔で手を振り、マミを見送る。
さやかの元気な声が聞こえなくなった後、マミはそっと呟いた。


マミ「…頑張ってね」


さやかはさり気なく話をすり替えられてしまった事、そして作り笑顔に気付かない。

そしてマミの足は、マンションと全く異なる方向へ進んでいた。

 

つづく

お待たせした上に短くて申し訳ない…
続きは今日中か明日にでも投下します。

完結する前にこのスレが落ちたらと思うと身震いするww



さやか達三人が部屋を去り、残るゼロとほむらは最後の密会、そして決戦当日の合流について話し合う。

全てのやり取りを終えたゼロであったが、
このままほむら宅に泊まる事は許されず、普段通りにネットカフェへと帰っていった。


ゼロ人間体(誰一人脱落させずにここまで来たぜ!)

ゼロ人間体(…なんて言うには二万年、いや一週間早かったか。
      決戦の日は近ぇ…ここからが正念場ってわけだな)

ゼロ人間体(…にしても、今日は何から何まで予想外の連続だぜ)

ゼロ人間体(特にほむら、あのツンデレ具合は一体どうしたってんだ…?)


夜道を進む内に考えていたのは、ほむらが全てを語ることを簡単に承諾した理由、
そして彼女が「必要ない」とまで言い切った三人を決戦に招いた理由。

それらの疑問を本人が答えてくれるとも思えず、ゼロは自身の心当たりを辿っていく。
まず思い返したのは、ほむらが見せていた苛立ちの原因、『銀の魔女』の結界内で起きた出来事だった。

 




ほむら「見せてもらうわ、貴方の全力。そして―――」

ほむら「あの『鎧』の力を」

ゼロ「『鎧』ときたか。お前が見たいのはつまり……これだろ!」


イージスは強い輝きを放ち、ゼロの腕を離れる。
ほむらを肩に乗せたまま、光はゼロに纏われていく。

光が消え去ったとき、ゼロの体は神秘的な鎧に包まれていた。


ゼロ「究極武装『ウルティメイトゼロ』―――この俺のとっておきだぜ!!」

ほむら「これが、あの時の…」


この宇宙を訪れて二度目の使用となる『ウルティメイトゼロ』。
ほむらは表情こそ変えないが、期待の眼差しでその姿を見ている。


ほむら「たとえその力が『救済の魔女』に届かなくても、『ワルプルギスの夜』なら、きっと……」

ゼロ「この姿に随分と期待してるみたいだな。で、連携って結局どうするんだ?」

ほむら「作戦と呼べるほどの作戦はないわ。私が止めた時の中で、貴方には存分に暴れてもらうだけ」

ゼロ「あんまりマジでやりすぎると、この街吹っ飛んでもおかしくないんだけどな…」

ほむら「力の加減は貴方に任せるわ。『ワルプルギスの夜』さえ倒せればいいのだから」

ゼロ「おう…」

ほむら「とにかく、始めるわよ」


ゼロの肩に乗ったまま、ほむらはイージスの鎧に手を置く。
その状態で自分の盾に触れ、時間停止の魔法を発動する。

魔法は巨大な状態のゼロでも有効らしく、止まった時の中を自在に動くことができた。


ゼロ「おっ、行けるぜ」

ほむら「これな………らッ!?」

 



突如としてほむらは手を離し、時の流れを戻してしまった。
その時間は、停止を始めてからわずか数秒。

同時に彼女の体はふらつき、ゼロの肩から落ちていく。


ゼロ「危ねぇ!!」


ゼロが伸ばした巨大な手のひらが、ほむらの体を受け止めた。
彼女をそっと地面に下ろすと、彼女に声を掛ける。


ほむら「はぁ…はぁっ…」

ゼロ「おい、どうしたほむら!?」


ほむらは疲れ切った様子で左手の甲をゼロに見せた。
そこに埋め込まれたソウルジェムは、限界寸前にまで濁っている。


ゼロ「…嘘だろ?」

ほむら「それはこっちの台詞よ…まさかこれ程だなんて…」


それは「止まった時の中で、完全な状態のイージスを動かす」という行為が、
想像を遥かに超えた魔力を消耗することを意味していた。


ほむら「『ウルティメイトイージス』とは、一体何…?」


取り出したグリーフシードで魔力を回復させながら、ほむらは問う。

今まで、消耗する魔力に大きな変動はないと考えていた時間停止の魔法。
それを覆したイージスの力は、ほむらにとっても衝撃的であった。


ゼロ「…こいつは『バラージの盾』とも呼ばれてる、宇宙を守る秘宝だ。
   この中には、聖なる『光』だけじゃない…宇宙レベルでみんなの『心』の力が集まってる」

ゼロ「そしてこれを授けてくれたのは、全宇宙を見守ってる守護神で―――」

ほむら「…いえ、もういいわ。背景の壮大さなら、嫌というほど伝わった」


回復を終え、穢れを吸い終えたグリーフシードをゼロの足元へ投げ捨てる。
ゼロは軽く足を上げ、孵化に至らないようグリーフシードを踏み潰した。

 



ほむら「私としては、魔法との連携なしでもその力を使えるようにしておきたい。
    他に、何か手立てはないの?」

ゼロ「まぁ、とっておきならもう一つ残ってるけどよ…」

ほむら「教えて」

ゼロ「…イージスのエネルギー全部をぶっ放す、最強の技だよ」

ほむら「最初からそれを撃ち込むわよ。一撃で全てを終わらせましょう」

ゼロ「でも、その技はエネルギーの充填に時間がかかっちまう。
   先にヤバい攻撃出されたら、俺達の方が終わるぜ…」

ほむら「……くっ」


次第にほむらの表情は焦りと苛立ちに満ちていく。

ほむらは黙って銃を取り出すと、激しくライトの点滅を繰り返す『銀の魔女』の顔面を撃ち抜いた。


ゼロ「要はイージスさえ使わなければ、さっきみてぇな消耗は抑えられるわけだろ?
   ここは俺自身の力で―――って、おわっ!ちょっと待て!?」


とどめを刺され、魔女の結界が消滅を始める。
ゼロは急いでイージスを腕輪の形態に変え、人間体へと戻っていった。


 




ゼロ人間体(ほむらは、俺にイージスの力を使わせて一気にケリをつけるつもりだった。
      そしてインキュベーターの野郎も、そうするべきだと言っていた)

ゼロ人間体(やっぱり今回は敵が敵ってことか…)

ゼロ人間体(でも、エネルギーの充填に時間停止は使えねぇ。どうにかして時間稼ぎが必要になるな)

ゼロ人間体(ウルティメイトフォースの奴等と一緒にベリアルを倒した、あの時のように…)

ゼロ人間体(………)

ゼロ人間体(………待てよ)

ゼロ人間体「あいつ、まさか!?」


ゼロの心に引っ掛かっていた何かは、悪い予感へと変わっていく。

急いでほむらの自宅へ引き返すも、彼女は既にどこかへ去った後。
次に会うことができたのは、最後の密会となる夜だった。

 

つづく

>>403
更新できない場合は約一週間ごとに生存報告を入れますので、スレ落ちに関しては大丈夫です。



同じ頃、人気のない街外れにマミの姿はあった。
一人さまよう彼女の体は震え、その目からは流れる涙が止まらない。

魔法少女の真実を知った後、襲い来る絶望から必死に堪えてきたマミ。
さやか達に気を遣う必要がなくなった今、その我慢も既に限界を迎えていた。


マミ「うっ……くっ…」


やがてコンクリートの壁に手を付き、その場に膝を折る。

今にも心が押し潰されそうな彼女の元に、元凶は平然と姿を現した。


QB「真実を知って絶望したかい?マミ」

マミ「………」

マミ「本当なら顔も見たくないはずなのに、どうしてかな…
   もう何もかも、どうでも良くなっちゃった」

マミ「……その通りよ、キュゥべえ」


キュゥべえはマミを心配する様子もなく、彼女がどこまで魔女化に近付いているかのみに関心を示す。
最初は拒絶を貫こうとしていたマミだったが、やがて全てを諦めたかのように話に応じた。


QB「見たところ、もういつ呪いが生まれてもおかしくない状態だね。
   その命を宇宙に捧げ、魔女に生まれ変わる時は近いよ」

マミ「そう…このままだと私、魔女になってしまうのね。
   でもいいの。もう立ち直れる気がしないもの…」

マミ「これが貴方の望みなんでしょう?キュゥべえ…」

QB「僕としては、君達があの場でまとめて脱落しても、生き残って後々魔女になっても構わなかったよ。
   どちらにせよ、僕にとっては大きな意味がある」

マミ「まとめて脱落…?」

QB「君の精神面が、五人の中で誰よりも脆弱なのはわかっていた」

QB「だから可能性の一つとして考えていたんだ。
   真実を知った君が判断を誤り、さやかや杏子との殺し合いに発展するかもしれないとね」



マミも薄々気が付いていた。
自身の心の弱さが、キュゥべえが話した通りの事態を招きかねなかった事。

それこそが、ほむらが語っていた「自分を保てなくなる」の意味なのだと。


マミ「…確かに、あの場でやっていたかもしれないわね。
   誰かが魔女になるところをこの目で見ていたら……多分」

マミ「今だって思ってるもの…契約から今日まで続けてきた戦いも、
   この先の未来も、私が求めてた繋がりも、全て無意味なんだって…」

QB「『彼』がいるじゃないか?」

マミ「………」


キュゥべえが口にしたのは、ゼロの存在。
彼自身に魔法少女のシステムを壊す術はなかったが、彼なりの方法で皆に『希望』を示した。

だが、マミにとっては唯一の『希望』よりも、目の前の『絶望』の方が大きかった。


QB「君にとって、ウルトラマンゼロの存在は『希望』になりえなかったんだね」

QB「僕にも教えてくれないかな?彼が伝えた『希望』とは何か、
   そして暁美ほむらと何を成そうとしているのか、その全てをね」


キュゥべえにはマミの様子を窺うだけでなく、時間停止の中で行われた会話を探る意図もあるらしい。
それを察し、マミは核心について口を噤む。


マミ「そう簡単に口を滑らせるわけにはいかないわ…
   今の私にできるのは、秘密を最後まで持って行くことだけだから…」

QB「マミ?」

マミ「皆、運命に抗おうと必死でもがいてる。あの子達も、ゼロさんも…」

マミ「だから一人俯いてばかりの私が、皆の足を引っ張るわけにはいかないじゃない……」


マミは涙で崩れたままの顔で笑みを作ると、ソウルジェムを手に取る。
更にもう片方の手には、魔法で作り出した小銃を握る。


そして辺りには、一発の銃声が鳴り響いた。

つづく

次回分が仕上がれば、日曜に投下します。

ウルトラマンって絶対的なヒーローがいるのに、ここまで状況が好転しないSSってのも珍しいな・・・・


【舞台装置の魔女 その2】



全てが明かされた夜から二日後。
決戦が近付く中、ほむらは今まで以上に『鹿目まどか』の防衛に徹し、ゼロも隠れ潜む魔女との戦いを続ける。

そしてさやかと杏子は、かつての戦いを彷彿させる程の激しい特訓を繰り広げていた。


杏子「おいさやか!動きに無駄が多いっての!」

さやか「…うわっと!」


短い時間で最大限の成果を出すべく、杏子は容赦なく槍を突き出す。
手加減を望まないさやかも、連続で繰り出される突きを死ぬ物狂いでかわしていく。

この特訓はマミが助言を残した通り、回避を鍛えるためのもの。

さやかが決戦に向ける強い意志は、今まで以上のペースで彼女の能力を向上させていた。


杏子「随分マシになってきたじゃん。そんじゃあ次だ!!」


杏子は続いて、槍の関節を鎖に変化させる。
振るわれた槍が鞭のようにさやかを襲い、周囲を手当たり次第に削り取っていく。

さやかは跳躍しながら、空中に小型の魔法陣を作り出す。
それを足場に空中を蹴り、鎖と鎖に生まれる僅かな隙間をくぐり抜ける。


さやか「どうよ杏子?」


現時点で一撃も攻撃を受けていないさやかは、得意げな顔を見せる。

すると、槍を振り回していた杏子は突然柄から手を放す。
そのまま素早く、杏子自ら攻撃の中へと飛び込んでいった。



さやか「えっ!?」


驚く間もなく槍の先端が迫り、さやかは手にした剣で刃を弾く。
その一瞬の隙を突き、飛び掛かってきた杏子の手がさやかの首を掴んだ。


さやか「が…!?」

杏子「終わりだよ」


首を掴まれたまま、さやかの体は勢いよく地面に叩きつけられる。
ほぼ同じタイミングで槍も落下し、周囲に金属音を響かせた。

さやかは剣を手放して降参を示し、杏子はすぐに首から手を離した。


さやか「うっわぁ…そう来る?やっぱあんた敵に回すと最悪だわ」

杏子「そう来る?…じゃねえっつーの」

杏子「いい線行ったと思ったら、こんな簡単にとっ捕まりやがって…
   決戦までにもっと強くなりたいって言ったのはどこの誰さ?」

杏子「何一つ守れないまま無駄死にしたいのかよ?
   それが嫌なら……休憩なしでもっかい来な!」

さやか「…ふふ、上等よ!」


杏子は挑発を演じながら、さやかを奮い立たせる。

さやかが勢いよく体を起こしたとき、青年の声が聞こえてきた。


ゼロ人間体「よお、お前ら!」

さやか「あっ、ゼロさん!」

杏子「アンタかよ。特訓の邪魔すんなよな」

ゼロ人間体「いつかのお返しだ、ほらよ!」


現れたゼロが杏子に手渡したのは、ビニール袋に入った缶ジュースとお菓子。
袋の中身を確認すると、杏子はその場に腰を下ろした。


杏子「…やっぱ休憩するか」

さやか「おいおい!?」

 



結局、杏子の意向で特訓は中断し、休憩を取ることになった。

三人はお菓子とジュースを手に、それぞれの近況を語る。


杏子「ふーん。そんじゃアンタは、いつも通りの魔女退治を続けてるわけだ」

ゼロ人間体「まぁな。お前達にいつ見つかるともわからない魔女を捜させるより、
      時間みっちり使って特訓させた方がいいってのがほむらの考えだ」

ゼロ人間体「あいつもあいつで、多分いつも通りに頑張ってるんじゃないか?」

さやか「あれ?ゼロさんとほむらが別行動ってのは聞いたけど…
    今日はどうしたとかさ、報告し合ったりしないの?」

ゼロ人間体「いや、最近あいつとは入れ―――」

さやか「例えば、『やったぜほむら、今日は魔女○体撃破だ!』とかさ」

杏子「で、『全然足りないわ。この穀潰し』…なんて返されたりな」

さやか「あっはははは、それマジで言われてそう!!」


やがてゼロ役のさやか、便乗したほむら役の杏子による物真似が始まる。

彼女達の笑いが響く中、ゼロ本人はゆっくりと立ち上がり…二人の頭を掴んだ。


ゼロ人間体「誰のマネしてんだ、お前らはぁーーっ!!」

さやか 「あぁっ、ちょ…ジュース飲んでる途中っすよ!?」

杏子「アタシはほむら役だから関係な……ってか、うるさい顔近付けんな!」

ゼロ人間体「だから顔がうるさいって何だ!?」

杏子「行ったそばから近付くなって!」

さやか「か、髪がぁーーーっ!!」


ゼロの手が二人の髪をわしゃわしゃと掻き乱し、ふざけ半分の叫び声が響く

ここから話を仕切り直すまでに、少しばかりの時間を要した。

 



ゼロ人間体「…ともかく、あいつとは入れ違いばっかでなかなか会えなくてな」

さやか「ほむらならいつも通りに学校来てるけど、何か用事あるなら伝えるよ?」

ゼロ人間体「あ…いや、いいんだ」

ゼロ人間体「あいつ、いつも澄ました顔で何も言わないからな。
      決戦間近で力みすぎてないか心配だっただけさ」


ゼロがほむらの動きを気に掛ける本当の理由を、この場で話すわけにはいかなかった。
理由をつけて誤魔化していた時、杏子が微かに呟く。


杏子「…力みまくってんじゃないの、あいつ」

ゼロ人間体「ん?お前も会ったのか?」

杏子「…いや、何となく思っただけだよ」

ゼロ人間体「そうか」


杏子は嘘をついていた。
一昨日、彼女の前にほむらが姿を現し、二人は会話を交わしていた。

その内容を思い出し、先ほどまでの笑顔は息を潜める。

 





ほむら「『ワルプルギスの夜』との戦い、特に貴方の活躍に期待を寄せてるの。
    お互い、全力を尽くしましょう」

杏子「今更言われなくってもわかってるっつーの。
   それに、全力尽くさないとアタシらが死にかねないんでしょ?」

杏子「ま、上手くやるから心配すんなって」

ほむら「その覚悟が確かなら、一つ確かめておきたい事があるの」

ほむら「貴方、『幻惑の魔法』を持ってなかったかしら」

杏子「!?」


余裕を見せていた杏子の態度は、ほむらの一言を受けて動揺へと変化する。


ほむら「今より以前の時間軸で、何度も貴方の力を借りて決戦に臨んできた。
    その中で、『幻惑の魔法』が使える貴方と使えなかった貴方、二通りが存在したわ」

ほむら「その違いは私にはわからない。けれどその魔法、今の貴方には使えるの?」

杏子「…残念だけど、この『時間軸のアタシ』ならアンタのご期待には沿えないね」

ほむら「そう…残念だわ」

ほむら「でも、その魔法がもし新たに修得したものではなく、
    貴方が何らかの理由で『失った』魔法であるのなら……」

ほむら「死ぬ気で取り戻して」




複雑な心境で、杏子は回想を終える。


杏子(全く、どいつもこいつも簡単に言ってくれるね)

杏子(捨てたもんを取り戻すってのは、捨てるのと違って超難しいんだよ…)

杏子(魔法だけじゃない……人との繋がりだってそうさ)


ほむらが期待する『幻惑の魔法』、それは杏子の願いによって与えられた本来の魔法。
しかしその力は、家族を失い、無力に苛まれるとともに失われてしまった。

固有武器の槍で力強く攻める杏子の戦い方には、
失ったこの魔法を補うという、大きな理由が秘められていた。

 

つづく

皆さんレスありがとうございます。続きはまた今週中に。

>>415
ゼロは強敵相手のピンチはあっても、精神的な試練は経験ないよな…と考えながらクロス作った結果がこれです。
プロット作った当時は、ゼロファイト二部があんな惨状になるとは思ってませんでした。



ゼロ人間体「マミと連絡が?どうしてだよ…」

杏子(マミ?)


杏子が気付かない内に、会話は既に別の話題に移り変わっていた。


さやか「わかんない…あの夜から、マミさん電話もメールも返ってこないんだ…
    マンション行っても反応ないし、今日は学校にも来てないみたいだし」

さやか「ほむらも何も知らないって言ってるし……」


その内容とは、二日前から音信不通となっているマミの安否。
さやかとゼロだけでなく、杏子も気が気でない。


さやか「やっぱりマミさん、全部吹っ切れてなかったんだ。
    あの時気付いてれば、相談に乗れたかもしれないのに…」

ゼロ人間体「決戦に出るってのも、あの場を安心させるために無理してたわけか…」

ゼロ人間体「…わかった、後で俺も調べてみるぜ」

さやか「じゃあ、私と杏子も一緒に―――」

杏子「…いや、特訓は続ける。マミに時間割いてる暇はないね」


杏子の冷静な言葉が、さやかの心配を遮る。


杏子「今一番ヒマしてるのはゼロなんだ。ここは全部任せとけよ」

さやか「またあんたは…本当にマミさんの事心配なくせに、なんでいつも…!!」


マミが関係すると、途端に杏子は様子を変える。
本人がいなくとも変わらないその態度は、さやかに反発を抱かせた。


杏子「…だからこそ、だよ」

さやか「は?」


強い躊躇いを感じながらも、杏子は僅かに本心を打ち明け始める。

それは、マミ本人がこの場にいないからこそ出来た事だった。

 



杏子「アイツのこと裏切ってばっかのアタシが、直接出向いて何になるよ?
   余計な負担増やしちまうだけさ」

さやか「違う…」

さやか「…マミさんだって、あんたともう一度戦いたいって思ってるよ」

杏子「アイツが良くても、アタシの心がアタシ自身を許さない。
   だから今は、自分にできる事をやるしかないんだよ」

杏子「アタシの役目は、アンタがマミと並んでも恥ずかしくないように鍛えてやる事だからね」

杏子「そしてアンタの役目は、決戦までにさっさと強くなる事。
   で、こう考ればアンタも切り替えも利くでしょ」

杏子「ゼロが呼び戻してきたマミに、強くなった姿を見せてやるんだ…ってね」

さやか「杏子…」

杏子「ゼロ、前に言ったこと覚えてるよな?」

ゼロ人間体「俺の生き方が、迷路に閉じ込められた誰かの希望になる―――」

杏子「マミの事、頼んだよ」

さやか「………」


数週間前、杏子が見滝原市を再訪した本当の目的、それはマミとの『和解』。
自分の過ちを自覚し、仲間との触れ合いを経た今、杏子はそれを望むべきではないと結論を出していた。

その思いを知り、さやかは再び立ち上がる。


さやか「…十分休んだし、そろそろリベンジといこうかな。やろうよ、杏子」

杏子「ヘッ…その意気だ」

さやか「ゼロさん、マミさんをよろしくね」

ゼロ人間体「わかった。さやかと杏子こそ、あまり無理するなよ!」


ゼロは邪魔にならないようその場を去る。
杏子とさやかは再び魔法少女の姿となり、互いに武器を構えていた。

 




ゼロはその日の内に、マミのマンションを訪れていた。

以前教えられた通りにインターホンを鳴らすが、マミは玄関に現れない。


ゼロ人間対「さやかの言ってた通りか。それなら…」

ゼロ人間体「おーい、マミーーっ!!」


続いてドアを叩いて叫んでみるが、やはり返事はない。


ゼロ人間体「あいつ、まさか家にも帰ってないのか?」

ゼロ人間体「…いや、他を捜す前にもう一度だ」


そっと目を閉じたゼロは、玄関越しに室内へテレパシーを送る。


ゼロ人間体(マミ、いるのか?いるなら返事しろ!)

ゼロ人間体(みんなお前の事を心配してる。顔だけでも見せてくれ)

ゼロ人間体(………駄目か)


やはり念話によるマミからの返答は得られなかった。

ゼロは一旦その場を離れ、階を降りていく。


ゼロ人間体「一体、あいつに何が…」


マンションの入り口を抜け、マミの近況を知る方法を考える。
そしてゼロが真っ先に思い浮かべたのは、ある存在だった。


ゼロ人間体「もしかすると、奴なら…」

 



ゼロ人間体「おい、もし俺を見張ってんなら出てこいよ、インキュベーター」


呼び掛けに応え、どこからかキュゥべえが現れる。

ゼロ自身はその気配を察知できないが、近くで監視を続けていることは容易に想像できた。


QB「呼んだかい?」

ゼロ人間体「やっぱり居やがったか…俺が今マミを捜してることは知ってんだろ?」

QB「ずっと見ていたからね、当然把握しているよ」

ゼロ人間体「扉の奥で、誰かが俺のテレパシーを受け取ったのを感じた。
      …マミのやつ、部屋にいるだろ」

QB「うん」

ゼロ人間体「良かった……」

ゼロ人間体「…まぁ、俺に黙ってた理由なんて今はどうでもいい。
      ただ、マミに何があったのか…知ってること全部教えろ」


マミの安否を知り、一時的な安心を抱くゼロ。

キュゥべえがこの件に関係しているのかもわからないまま、ゼロはすぐに厳しい視線で追及を始める。


QB「彼女はね、明らかになった真実の重さに耐えられなかったんだ」

ゼロ人間体「俺は皆が絶望で終わらないよう、全て話したはずだ…なのに何故…」

QB「君が与えようとした希望がどんなものであれ、それが成功しなければ何の意味も持たないよね」

ゼロ人間体「!?」

QB「マミも同じことを考えたんだろう。
   だから彼女は絶望に染まる前に、生まれた呪いが誰かを傷付けてしまう前に、ある決断を下したんだ」

QB「自らの銃でソウルジェムを―――自殺を図ったのさ」

ゼロ人間体「自殺…テメェふざけてんのか? だったら、今あいつの部屋にいるのは誰だ!?」

QB「さっき部屋にいるって答えたばかりじゃないか…もう少し冷静に聞いてほしいものだね」

QB「僕もその場に居合わせていたんだ。状況はこれから説明するよ」


キュゥべえの話は、銃声の直後に遡る。

 






マミ「生きてる…どうして?」

QB「君か…」


銃声が止んだ後、マミは自分の意識があることに驚いていた。

放たれた弾丸は、マミの足元に痕を残す。
そして彼女の背後には、黒髪の魔法少女が銃を奪い、構えている。


ほむら「助けたのは私。後をつけて正解だったわ」

マミ「貴方…また私の邪魔をするのね…」

マミ「死なせて…私はもう、何もかも忘れたいの!!
   その銃で、ソウルジェムを……早く!!」

ほむら「そんな事、私が許さない」

マミ「えっ…」

ほむら「今、貴方に死なれると困るのよ」


その言葉を耳にし、マミは静かに顔を上げる。


ほむら「貴方の死は、ウルトラマンゼロの士気に大きく影響する。
    決戦を迎える前に、彼の戦意を削ぐような真似はやめてもらえるかしら」

マミ「………」


マミとほむらで、言葉の解釈は大きく異なっていた。
言葉を失うとともに、マミは別の何かを期待していた自分を後悔する。


QB「僕としても、一人で無意味な自殺をされるくらいなら、魔女になってもらった方がずっといい。
   自分を無くしたいと考えるなら、最終的にどんな姿になろうと構わないだろう?」

ほむら「こいつの話に耳を傾ける必要はないわ」

ほむら「けれど、せめて一週間は自宅にでも籠ってなさい。
    死ぬも生きるも、決戦が終わった後で自由に選択すればいい」


ほむらは、うなだれるマミの近くに紙で包まれた何かを置いた。
中には数個のグリーフシード、紙にはほむらの連絡先が記されている。

ほむら「念のためグリーフシードは置いて行く。呪いが浸食が始まったら、定期的に浄化する事ね」

ほむら「けれど、戦いに備えてこれ以上は譲れないわ。この個数で一週間持つかは貴方の気力次第」

ほむら「もしグリーフシードも尽きて、まだ死にたいようなら連絡して。
    誰の目にも留まらないよう、私の手で殺してあげるわ」

マミ「………」


生きることも辛い、死ぬことも許されない…
道を失ったマミの目は、完全に輝きを無くしていた。




 



QB「これがマミに起きた事の顛末だね」


成功の可能性を少しでも高めるため、必要なものを要求し、不要なものを切り捨てていく。
ほむらが最善と考える行動の数々が、ゼロには災いの引き金のように感じられた。


ゼロ人間体(そこまでやらなければ、マミは止まれなかったのかもしれない)

ゼロ人間体(でも、力みすぎだぜ……ほむら)


ゼロはキュゥべえに背を向け、再びマンションの入り口へ向かう。


QB「マミの所に戻るつもりかい?」

ゼロ人間体「当たり前だろ。魔女化だけは防いでやる」

QB「君が何を言おうと、彼女の心は変わらないよ」

QB「そして、僕達もね」

ゼロ人間体「…やってみなきゃわからねえだろ!」


キュゥべえはさり気無く、「インキュベーターの文明を変える」と宣言したゼロへの否定を含ませる。
反論する間もなく、ゼロはエレベーターへと駆け込んでいった。


ゼロ人間体(マミは戦いから遠ざかった)

ゼロ人間体(出来ればさやかと杏子も戦わせたくない。…でも、二人は今も必死で頑張ってる)

ゼロ人間体(正義に燃えてる今のお前等なら、何を言っても戦おうとするだろうな…)

ゼロ人間体(お前等を前線で戦わせて『ファイナルウルティメイトゼロ』の時間を稼ぐ、
      それがほむらの狙いだったとしても……)


さやか達の存在は、ほむらにとっては数ある武器の一つでしかない。
ゼロはそれに気づきながらも、彼女達の覚悟を無駄にできないとも考えていた。

やがてマミがいる階に到着し、ゼロは再び玄関へ向かう。


その日から毎日、ゼロはマミのマンションに通い、テレパシーで励ましの言葉を送り続けた。
しかし一言の反応も得られないまま、一週間は終わりに近づいていった。

 

つづく


昨日の仕事帰りにギンガ劇場SPを鑑賞。
ザギさんの強さと絶叫と危ない挙動は、まさに悪役の鏡でした。

叛逆のQBにも期待。

更新が遅くて申し訳ありませんが、現在書き溜め中です。
投下やレスは土曜日以降になります。



後、気晴らしに脳内再生用のCVリスト作ってみました。
作品をどちらかしか知らない人は参考にどうぞ。


ウルトラマンゼロ:宮野真守
暁美ほむら:斎藤千和
巴マミ:水橋かおり
美樹さやか:喜多村英梨
佐倉杏子:野中藍
キュゥべえ:加藤英美里

志筑仁美:新谷良子
上条恭介:吉田聖子

ウルトラセブン:森次晃嗣
ウルトラマンレオ:真夏竜

ミラーナイト:緑川光
グレンファイヤー:関智一
ジャンボット:神谷浩史
ジャンナイン:入野自由

ホストA:飛田展男
ホストB:三木眞一郎

ウルトラマンベリアル:宮迫博之
ビートスター:石塚運昇
謎の声:浅沼晋太郎

鹿目まどか:悠木碧

 


【舞台装置の魔女 その3】



決戦まで、残すところ後二日。
『ワルプルギスの夜』出現の予兆なのか、その日は一日中雨が降り続いていた。

市内の夜道では、習い事帰りの仁美、彼女の帰宅を待っていたさやかが傘を並べて歩く。
活発さを取り戻したさやかとは対照的に、仁美の様子はどこか落ち着かない。


さやか「で、最近どうなってんの?」

仁美「どう…というのは上条君の事ですか?」

さやか「それ以外にないでしょーよ!仁美ってば、私には全然話してくんないじゃん?」

仁美「まだ登下校をご一緒する以外は何も…デートもせめて完治するまではと思いまして…」

さやか「やっぱお嬢様なだけあって、お付き合いも慎ましいもんだね」

さやか「でも仁美が彼女なら、バイオリンは嫁ってくらい音楽一筋だからねぇ…
    仁美からもグイグイ積極的に行かないと、進展しないぞ~!」

仁美「そうですわね……」


ほんの数週間前なら、他愛もない会話で笑い合えていたであろう二人。

さやかは仁美に、「もう気にしていない」という意思を二人だけの会話で伝えたかった。
しかし彼女の反応はぎこちなく、関係の修復にはしばらく時間が掛かりそうに感じられる。


仁美「さやかさん…」

さやか「…ん?」

仁美「本当はまだ無理してはいませんか?」

 



さやか「え、無理?」

仁美「ずっと気になってるんです。告白のこと、私が上条君とお付き合いを続けていること、
   さやかさんが本当に後悔していないのか…」

さやか「うーん…」


ある程度予想していた流れになってしまい、さやかは頭を掻く。


さやか「…してたよ、無理」

仁美「………」

さやか「仁美の告白を後押ししておいてさ、ホントは心の底でこんなこと考えてたんだよ。
    恭介が選ぶのは、仁美じゃなくて私なんだ…って」

さやか「実はこの事ですごい荒れちゃってさ、
    私、仁美やまどかが知らない所で色々な人を傷付けてしまったんだ」

仁美「……ごめんなさい」


仁美は傘で顔を隠し、更に顔を俯かせる。


さやか「謝らなくていいよ、今は全然違うからさ。
    それに今回の事があったから、手に入ったものもあるからね」

仁美「手に入ったもの…ですか?」

さやか「うん。『仲間』ってやつ」


俯いていた仁美の目に、覗き込んできたさやかの笑顔が映る。
仁美は思わず驚きながら、その顔を上げた。

 



さやか「私が散々傷つけた人とか、コイツとは絶対分かり合えないって思ってたやつとか、
    頼れる先輩とか、みんなが私を心から心配してくれたんだ」

さやか「みんなの想いがあったから、今私はこうして仁美と話していられる」

さやか「だから、私はその人達に応えられるよう頑張りたい。みんなとやりたいことも見つかったんだ」


はっと何かに気付いた仁美は、恐る恐るさやかに訊ねる。


仁美「そのお相手、一人はもしかしてモロボシさん…ですか?」

さやか「当ったり!師匠とも親友とも、恋人とも一味違う繋がりが私たちにはあるのだ!」

仁美「…さやかさんは、本当に大切なものを手に入れたのですね」

さやか「そういうこと。だから私は、後悔なんてしてない」

さやか「それと仁美に改めて伝えたかったこと、ここで言わせてよ」

仁美「?」

さやか「おめでと!」

仁美「……さやかさん」


さやかは満面の笑みで仁美の恋を祝福する。
その言葉を受け、仁美の目には荷が下りたかのように涙が滲んでいた。


さやか「あーちょっとちょっと、ほんとに気にしてないから泣かないでよぉ…」

仁美「私の勝手でお友達を傷付けて…もしかして私の事を嫌いになってしまわれたのかと…」

さやか「なってないなってない!」

さやか「私、仁美、そしてまどか。『親友』でしょ、私達三人は!!」


さやかは微笑みかけながら仁美を宥める。
しばらくして、仁美は涙を拭い、安心したように笑顔を見せた。


仁美「……はい!」

 




その頃、見滝原と同じく風見野市にも雨は降り注いでいた。

杏子は一人槍を振り回し、先端を地面に突き立てて魔力を集中する。
彼女が人知れず続けていたのは、『幻惑の魔法』を取り戻すための訓練。


杏子(思い出せ…)


目を閉じ、魔法を使っていた頃の感覚を思い起こすべく記憶を辿る。
まず浮かび上がったのは、魔法を失った当時にキュゥべえから聞いた言葉だった。


QB『杏子、君は魔法なんて必要ないとは考えなかったかい?』

QB『もしそうなら、魔法が使えなくなった原因はそこにある』

QB『魔法の特性は、契約した時の願いに直結しているんだ。
   家族を失った一件が、深層心理で自分の願いを否定してしまったのだろう』

QB『早く能力を取り戻さないと、この先苦戦は免れない。それに―――』

QB『マミも心配するよ』


杏子(…違う)


一度目を開け、再び閉じて意識を集中する。
続いて頭をよぎったのは師弟関係を結ぶ前の、マミとの出会いの記憶。


マミ『危ないところだったわね』

マミ『はじめまして、私は巴マミ。見滝原市の魔法少女よ』

マミ『貴方が使ってたその魔法、もしかして幻惑の―――』

 



杏子(今は関係ないっつーの!)


その記憶も、今の杏子には雑念以外の何物でもない。
直ぐに思考を振り払うと、集中を再開する。


マミ『佐倉さん、貴方の必殺技名が決まったわ』

マミ『赤い幽霊(ロッソ・ファンタズマ)』


杏子「…だからアンタは関係ないだろ!!」


完全に集中力が途切れてしまった杏子は、声を上げて頭を抱える。

『幻惑の魔法』を呼び起こそうとするたび、頭にはマミの姿がちらついてしまう。
それは、今日の訓練に始まったことではなかった。


杏子(アタシの望みは、あの魔法を取り戻すこと。それだけなのに…)

杏子(どうしてマミに結び付いちまうんだよ…)


その後も訓練を続けたが、この日も力を取り戻すことはできなかった。
杏子は魔力を解除して私服に戻ると、その場に座り込む。

彼女は雨の音に耳を傾けながら、ふと現在のマミの近況を想う。


杏子(…そういえばゼロが言ってたな。あいつ、ずっとマンションに閉じ篭もり続けてるって)

杏子(………)

杏子(いや、さやかの時と同じだよ。アイツを変えられるのはアンタだけさ、ゼロ)

 




そしてゼロとほむらは、止まった時の中で最後の密会を行う。


ほむら「鎧を纏った貴方を止まった時の中で動かし、奴を一方的に叩き伏せる…
    私が想定していたこの戦法は不可能だった。作戦を切り替えるわ」

ほむら「貴方には、開始と同時に例の『最強技』を発動してもらう。
    エネルギーの充填が必要という話なら、問題はないわ」

ほむら「私は後方から貴方の援護に徹する。
    奴が妨害のために攻撃を繰り出したら、何としてでも防ぎきってみせる」

ほむら「そして佐倉杏子と美樹さやか、彼女達には正面から奴に挑んでもらうわ。
    決戦用のグリーフシードは当日に分配する。これで魔力を出し惜しみせず戦えるはずよ」

ゼロ人間体「やっぱりな…」


作戦の概要を知り、納得した様子で頷く。
そして、ほむらの狙いも大方ゼロが予想した通りだった。


ゼロ人間体「さやかと杏子は接近戦向きの魔法少女だ。
      俺達の助けもなしに二人で粘れってのは、どういう意味かわかってんだよな?」

ほむら「敵の力を考えれば、当然命を落としかねない戦いになる」

ほむら「でも、だからこそのあの二人よ」

ゼロ人間体「…だからこそ?」

ほむら「佐倉杏子の持つ本当の魔法は、自分の姿と同じ幻影を幾つも作り出す能力。
    幻影も実体を持って攻撃するから、本体を見抜くことは容易じゃない」

ゼロ人間体「杏子のやつ、そんな魔法持ってたのか…」

ほむら「そして美樹さやか、彼女はスピードと治癒魔法に優れてる。
    もし彼女が一週間で『完成』できたなら…その回避速度と再生力は十分な時間稼ぎになる」

ほむら「彼女達がどこまで成長したかで、生き残れる確率は上がっていくわ」

 



ゼロ人間体「お前、そんな事まで考えて…」

ほむら「………」


ほむらは「強制はしない」と言いながらも、さやかと杏子を確実に参戦させるつもりだったらしい。

自身の秘密を打ち明けたのも、正義に目覚めた二人が
『ワルプルギスの夜』と『鹿目まどか』を見過ごせないと知っての判断だったのだと、ゼロは理解できた。


ゼロ人間体「いや、今はいい…」

ゼロ人間体「それよりマミはどうするつもりなんだ?あいつはまだ、魔法少女の真実から立ち直れてない」


マミの状況は、ゼロにとってさやかと杏子の安否以上に不安な要素だった。

強引な浄化は意味を成さず、心に直接変化を与えるしか彼女を救う方法はない。
しかし、今のマミには言葉が届いているのかすらわからない。


ほむら「巴マミの精神面は、今回集まった五人の中で最も脆い」

ほむら「だからあの時、彼女が名乗り出たのは予想外だったわ。
    私としては、佐倉杏子と美樹さやかの協力さえ得られれば良かったから」

ゼロ人間体「つまり、マミは最初から頭数には入れてなかったって事か」

ほむら「でも、手札は何枚あっても困らない。
    奴を一秒でも食い止めてくれるのなら、それは私にとって願ってもないことよ」

ゼロ人間体「いや、あいつをこれ以上戦わせるわけにはいかねぇ」

ゼロ人間体「…そのために、俺も自分にできる事を頑張るしかないな!」

ほむら「?」

ゼロ人間体「ヘッ…!」


何かを考え、ゼロは上唇を擦る。

 




見滝原市内のとあるマンション。

マミが暮らすその一室は、電気も点けられず、部屋のカーテンは閉め切られていた。
キッチンには食器が片づけられずに残り、部屋中に衣類が散乱している。

部屋のベッドには、髪も整えずに寝間着のまま横たわるマミがいた。


マミ「………」


マミは体を起こさないまま、ソウルジェムにグリーフシードを近付け、穢れを吸い取らせる。
孵化直前まで穢れを吸ったグリーフシードを、彼女は部屋の壁へ向けて投げ捨てる。

「コン」という音とともにグリーフシードは床に落ち、回収のためにキュゥべえが現れる。


QB「暁美ほむらから受け取ったグリーフシードは、それでお終いのようだね。
   以前ウルトラマンゼロから受け取ったストックも消化すれば、君は終わる」

QB「それにしても、呪いの浸食が僕の想定よりもずっと遅いね」

マミ「………」

QB「もしかして、毎日のように訪ねてくるウルトラマンゼロが理由かい?」

QB「それとも、心のどこかで別の救いを求めているという事かな?」

マミ「………」

QB「ま、理由はどうあれ、このままのペースが続けば決戦当日には君は魔女だ。
   僕も、早く君が楽になれる時を待っているよ。それじゃあね!」


ゼロの監視に戻るのか、キュゥべえは部屋から去っていく。
マミは最後まで言葉を発さないまま、目を閉じ、眠りに落ちていった。



自分の信じるままにこの宇宙を守りたいゼロ、全てを犠牲にしてでも目的を果たそうとするほむら、
着実に自信をつけていくさやか、素直になれない杏子、そして絶望から立ち直れないマミ。

五人の思いは一つに纏まらないまま、決戦の日は訪れた。

 

つづく

仁美の評判あまり良くないけど、本当は良い子なはず。

乙っす!

ゼロのあの動作って上唇擦ってたのか
鼻を擦ってると思ってたぜ


【舞台装置の魔女 その4】



運命の朝、見滝原市には暴風が吹き荒れ、空は雷雲に包まれる。
スーパーセルの前兆までもが観測され、市民は避難を余儀なくされていた。

ほむらは『鹿目まどか』とその家族が避難所に向かったことを把握すると、
自身は避難指示に逆らい、市街へ向けて歩き出す。


ほむら「…近い」


ソウルジェムの探知に頼らずとも、『ワルプルギスの夜』の到来が近いことは肌で感じ取れた。

彼女は一歩一歩を踏みしめながら、この先待ち受ける戦いの勝利を祈る。


ほむら(この戦いで、全てが決まる)

ほむら(貴方の持つ膨大な因果、誰の目にも留めさせない…利用させない)

ほむら(貴方はこの世界で、ごく普通の少女として人生を全うする)

ほむら(だから、もう少しだけ待ってて……)

ほむら(…まどか)



そして反応を感じていたのは、別の場所からほむらの元を目指すゼロ達も同じだった。


ゼロ人間体(…近ぇ)


思わず立ち止まり、ゼロは空を見上げる。


ゼロ人間体(街全体をマイナスエネルギーが包み込んでやがる)

ゼロ人間体(まるで、俺が初めて地球に来た時と同じような…)


『救済の魔女』が秘めたマイナスエネルギーが地球全体を覆っていたように、
『ワルプルギスの夜』の影響は見滝原全域に及んでいる。

再び走り出そうとした時、ゼロを呼び止める声が聞こえてきた。



杏子「ゼロ!」

さやか「ゼロさん!」

ゼロ人間体「さやか、杏子…」


駆け寄ってきたのは、杏子とさやか。
彼女達もまた、ゼロと同じ合流場所へ向かう最中だった。


さやか「いよいよだね」

杏子「ま…アタシ達もこの一週間、やれるだけの事はやってきたんだ。
   『ウルトラマン』に遅れを取るつもりは全くないからな!」

さやか「そうそう!ゼロさんの足手纏いには、絶対ならないっすから!」

ゼロ人間体「お前等…」

杏子「急ぐよ、ゼロ!」


二人の士気は高さに、伝えるべき話を切り出しづらいゼロ。
だが迷っている時間はなく、意を決して口を開く。


ゼロ人間体「ほむらの所へ行く前に、二人に話しておきたい」

ゼロ人間体「マミの事だ」

杏子「マミ?」

さやか「……何かあったの?」

ゼロ人間体「ここに来る前、マミの家に行って来た。
      俺一人の力で説得するには、もう少し時間がかかりそうだ」

ゼロ人間体「…でも、あいつから生まれる『呪い』がどんどん強くなってやがる」

杏子「それ、確かかよ…?」

ゼロ人間体「マミはまだ家にいる。きっと、避難所へ行かないつもりだ」

杏子「まだ家に…ってアンタ、アイツ放っといてここ来たってのか!?」


未だマミを救えていない事を知り、杏子は態度を荒げる。

杏子がゼロに抱く『正義の味方』としての期待は、ゼロ本人が考えている以上に大きい。
彼女の様子はまるで、裏切られたと言わんばかりであった。

 



杏子「今すぐ引き返せよ。『ワルプルギスの夜』なら、アタシらでブッ倒す!
   だからアンタはマミを―――」

ゼロ人間体「杏子、今は話を聞いてくれ」

杏子「何の言い訳をだよ!?」

ゼロ人間体「いいから聞くんだ!!」

杏子「…ッ!」

さやか「ちょっと二人とも…」


二人の様子に戸惑うさやかであったが、
状況を理解してか杏子は感情を抑え、ゼロもすぐ落ち着いた表情へと戻った。


ゼロ人間体「このままマミを放ってはおけねぇ。この戦い、何が起こるかわからないからな」

ゼロ人間体「でも、マミの心が抱えてるものは、さやかの時とまた違う。
      あいつの心を動かすには、まだ足りないものがあるんだ」

ゼロ人間体「…そこで、俺なりにマミを助けられる方法を考えた」

さやか「方法?」

ゼロ人間体「さやか、杏子、お前達がマミを迎えに行ってくれ」

杏子「なっ…!?」

さやか「私達が?」


ゼロの「方法」は、さやかと杏子が特訓を重ねた一週間を無意味にしかねないもの。

突然の提案に、二人は呆気に取られていた。

 



ゼロ人間体「マミを決戦に連れて来なくていい。ただ、安全な所へ連れてってやってくれ」

杏子「待てよ…アタシは頼んだはずだろ、マミの事頼むって!」

ゼロ人間体「ああ、確かに頼まれたぜ。他ならないお前の頼みだ、失敗は許されねぇ」

ゼロ人間体「だからこその選択だ。この方法が『確実』だって思ったからな!」

杏子「確実って、そんなワケ…」


ゼロではなく自分とさやかが行くことが、マミを救う確かな道。
戸惑う杏子を、さやかは後押しする。


さやか「…行こうよ、杏子」

杏子「さやか、アンタまで何を…」

さやか「本当ならゼロさん任せじゃなくて、私が行きたいくらいだったしね。丁度良かったってもんだよ」

さやか「それに、マミさんがこんな事言ってたの思い出したんだ。
    『ゼロさんは肩を並べられるような存在じゃなかった』…って」

ゼロ人間体(…肩を並べる、か)


『影の魔女』の一件以降、マミと関わる機会が少なかったゼロ。

彼女がウルトラマンと魔法少女の戦力差から、
見えない壁を作ってしまっていたのだと、ここで初めて知ることが出来た。


さやか「今のマミさんには、同じ魔法少女の目線も必要なんだよ。
    それに弟子の私達の説得なら、きっと心を開いてくれるって!」

杏子「『元』弟子だ」

杏子「だとしても、アタシがアイツにできる事なんてありゃしないさ。行くならさやか、一人で行きな」

ゼロ人間体「いや、さやかだけじゃまだ足りない。お前の『力』が必要だ」

杏子「…力?」

 



ゼロ人間体「杏子、俺達が初めて出会った時、お前は俺に感じたものがあったんだよな」

ゼロ人間体「俺も同じだ。初めて会った時からお前に感じてたものがあるんだ」

ゼロ人間体「『前へ進む力』」

杏子「前へ…」

ゼロ人間体「お前はどんな困難でも、受け止めて進もうとする強さを持ってる。
      危なっかしい方向へ進んでた事もあったけどよ、今のお前なら大丈夫さ」

杏子「アタシは割り切って生きてきただけさ。力とか、そんな大それたもんじゃない…」

ゼロ人間体「でもな…お前と同じことができなくて、マミは立ち止まってる。
      少し前のさやかも同じだった。そして俺だって助けられたんだ」

ゼロ人間体「だから杏子、お前の力でマミも連れて一緒に進んでやるんだ!」

杏子「………」


裏表を感じさせないゼロの言葉に、杏子は内心揺らいでいた。


さやか「そうそう。皆にないものをアンタは持ってんだからさ、私としても心強いわけよ!だから…」

ゼロ人間体「さやか、力ならお前も手に入れてるよ」

さやか「へ?私も?」

ゼロ人間体「そう、『守り抜く力』だ」

さやか「守り抜く、力…」

ゼロ人間体「友達を治す願いから始まって、今は世界のために戦おうとここへ来た。
      その全部が「守りたい」って一つの思いで繋がってる」

ゼロ人間体「手に入れた魔法も、積み重ねてきた努力も、それをやり遂げるための力なんだ。
      …さやか、その力でマミの事を守ってやってほしい」

ゼロ人間体「そして、この二つの力が合わされば大丈夫だ。きっとマミを動かせる!」


『前へ進む力』と『守り抜く力』

それは杏子とさやかが持つ本当の強さを、ゼロなりに解釈した表現。
二人は言葉として受け取ったことで、それらの力を確かなものとして認識できた気がした。


杏子「何だよそれ…随分と都合よく解釈してくれちゃってさ…」

杏子「…ズルいっつーの」

さやか「あっ、杏子!?」


杏子はもう、自分が今何をするべきなのかが見えていた。
これ以上迷い、立ち止まってしまわないように全力で駆け出す。

彼女の向かう先がマミのマンションと同じ方角と知り、さやかも直ぐに追いかける。


さやか「私も行って来る!ゼロさんとほむらは絶対勝つって、信じてるから!」

ゼロ人間体「ああ!俺もお前達を信じてるからな、さやか!杏子!!」


ゼロも二人を見送ることなく走り出し、ほむらとの合流を急ぐ。

今の自分に出来る事―――
マミの救済ではなく、『ワルプルギスの夜』討伐を果たすために。

 

つづく

少し内容端折りました。
今日の夜か、明日にでもまた投下します。




ゼロ人間体「やっぱ早ぇな、ほむら」


杏子、さやかと別れ、一人合流の場所に辿り着いたゼロ。
彼の前には、黒髪をなびかせたほむらの後ろ姿があった。

ゼロの到着を知り、背を向けたままほむらは問う。


ほむら「具現は近いわ。戦闘の準備はできてる?」

ゼロ人間体「もちろんだ。俺はいつでもOKだぜ!」

ほむら「そう…後は佐倉杏子と美樹さやかの到着を待つだけね」

ゼロ人間体「杏子とさやかは来ない。『ワルプルギスの夜』は俺達で止める」

ほむら「…何か言ったかしら?」

ゼロ人間体「あの二人には、マミを家まで迎えに行ってもらった。
      街はもう危ない。せめて避難だけでもさせておきたい」

ほむら「『行ってもらった』…つまり、貴方の意思で行かせたと?」

ゼロ人間体「そうだ」


ほむらは黒髪を振り乱してゼロへ詰め寄る。
その表情は普段のクールな面持から一転、怒りに歪んでいた。


ほむら「貴方…自分が一体何をしたのかわかってる?」

ほむら「正攻法ではもう勝てない…奴の力が『ウルトラマン』さえ上回ること、忘れたとでもいうの!?」


ほむら「……貴方の考えなら想像がつくわ」

ほむら「私が彼女達を利用している…そう考えているのでしょう?だから彼女達を遠ざけた」

ほむら「…確かにその通りよ。貴方も彼女達も、そして私自身も、全ては目的を達成するための『手段』よ」

ほむら「けれど、誰かが命を燃やし尽くさない限り、奴は決して倒せない!!」

 



再び作戦が覆され、感情を露にするほむら。

しかしゼロは動じなかった。その顔には、以前のような迷いも恐れもない。


ゼロ人間体「それは誤解だ、ほむら」

ゼロ人間体「あいつらは、命を懸けて戦うことを決めた。
      だから俺も、その覚悟と思いを無駄にしたくねぇと考えてた」

ゼロ人間体「…でも、マミの魔女化が近い。止められるのはもうあいつらだけだ!」

ほむら「どこまで愚かなの…巴マミとこの戦い、一体どちらが大事なの!?」

ゼロ人間体「決まってる…全部だ!!」

ゼロ人間体「前に言ったはずだぜ、俺は地球も魔法少女も救ってみせるって!
      皆でこの一カ月を越えるってな!!」


ゼロを睨むほむらの目は、僅かに潤んでいた。

彼女からは刺々しさが消え、その口から悲痛な声が零れる。
まるで、この宇宙へ渡るきっかけとなった『声』を聞いているかのように。


ほむら「一体どこまで本気なの…」

ほむら「私が繰り返してきた膨大な時間の中で、彼女なしに勝利したことは一度もないのよ…!」

ほむら「貴方はその自己満足な正義を振りかざしていればいいかもしれない…
    でも、全てが失敗に終わった時、彼女の未来はどうなるの!?」

ほむら「これまで奴を倒せたのは、全てまど―――んぐっ!?」


突然、ほむらの言葉は遮られた。
彼女の口元を塞いでいたのは、ゼロが手を伸ばした手。


ほむら「………」

ゼロ人間体「………」


どこかでキュゥべえが様子を窺っているかもしれない中で、
『鹿目まどか』の名前を口にしかけていた事に気付く。

ほむらは自分の迂闊さを反省するとともに、ゼロの手を払いのけた。

 



ほむら「…もう何を言っても無駄ね」

ほむら「今あの二人を呼び戻せば、避難所への進撃を許してしまう。私達だけでやり抜くしかない」


街全体を覆い尽くす暗雲、その奥に巨大な影が浮かび上がる。
同時に、大きな高笑いが街中に響き渡った。


魔女「アハハハ…アーッハッハッハ!」


迫る脅威を迎え撃つべく、ゼロとほむらは空を見上げる。


ほむら「さぁ行くわよ」

ゼロ人間体「……おう!」


『ワルプルギスの夜』こと『舞台装置の魔女』、 その完全な顕現を目前に、二人は市街へと歩き出す。
やがてその周囲を、立ち込めた霧が包み込んでいった。

視界が遮られる中、ゼロはイージスの光の中からウルトラゼロアイを、
ほむらは指輪となったソウルジェムを宝石に戻し、それぞれ手に取る。


ゼロ人間体(必ず成功させる…そして杏子、さやか、マミ、ほむら、みんなに希望を示す!)

ゼロ人間体「デュワッ!!」


真っ先に変身したのはゼロだった。

両目に装着されたゼロアイから赤と青の光が渦巻き、空に収束する。
光の中からは、完全な状態でウルトラマンに変身したゼロが降り立ち、地面を揺るがした。

ゼロはほむらを見下ろし、巨体を見上げ続ける彼女に変身を促す。


ゼロ「どうした?勝ちに行こうぜ」

ほむら「…当然よ」

ほむら「もし敗北したら、私は死んでも貴方を許さない」


ほむらもソウルジェムを掲げ、変身に入る。
紫の光に包まれた制服は戦闘衣に変化し、左手に盾が出現する。

戦闘準備が整ったのを知ってか、霧が晴れ、魔女も二人の前に姿を現した。

 



魔女「アハハハ…アハハハ…!」


それはドレスを纏った女性と歯車が合体したかのような巨大な魔女。
上下が逆さになったまま浮遊するその姿は、他の魔女の例に漏れず異様であった。

そして開戦のカウントダウンは、突如として始まった。



『5』

『4』


映像は視覚としてではなく、イメージとなって二人の頭に流れ込んでくる。

見滝原の市街は、魔女の力によって結界内部に近い状態へと変化し、
ビルが次々と宙に巻き上げられていく。


『3』

『2』


カウントが『1』を刻むと同時に、魔女の背に後光が出現する。
戦闘開始の合図でもあるかのように、浮かんだビルが激しく燃え上がった。

決戦にかける思いをゼロは叫び、ほむらは心の中で自分に言い聞かせる。


ゼロ「さぁ、この星の未来を―――」

ほむら(まどかの未来を―――)

ゼロ「守り抜くぜ!!」

ほむら(守り抜く!!)










「おやおや、三人も欠けてしまいましたか~
 まぁ、人間が減ったところで何が変わるとも思えませんが」

「超弩級なこの魔女、その性質はズバリ『無力』。全てを無に返せるほどの力を感じますねぇ」

「心してかかってくださいよ…ゼロ!ほむほむ!
 この魔女を相手に『無力』なのは、アナタ方かもしれないのですから…!!」

 

つづく

内容の補足やレスを返したいのですが、少々忙しいので次回投下時にでも。

乙!
『3』がカウントダウンに居る事に涙した!!

談義スレで言われてたけど、>>1の酉変えた方がいいみたいよ

>>469
見てきました。
報告ありがとうございます。

申し訳ありませんが、現在書き溜め中になります。
来週までには投下分を仕上げます。

あと>>461にミスがあったので訂正。

×彼女の口元を塞いでいたのは、ゼロが手を伸ばした手。
○彼女の口元を塞いでいたのは、ゼロが伸ばした手。



>>449
正直、自分でもどこを擦ってるのかわかりません。
資料が曖昧なので上唇に統一しましたが……鼻にも見えます。

>>467
喜んでもらえて何よりです(やべえ間違えた…)


このSSでの「ほむらは本編の出来事が起きないまま、更にループを重ねている」という設定について補足します。


設定を使った理由ですが、序盤で「まどかが膨大な因果を持つ理由を知らない」まま、
「ほむらに目的を諦めさせる」というSSの展開のためです。

アニメ本編でのほむらは、時間遡行と因果の関係性を知ったことでループを躊躇い、目的を諦めかけました。
SS作成にあたり、その事実を知らない状態で不屈を折るには…と考えた結果が、
「本編よりも更にループを体験し、自分の無力を思い知る」でした。

(体験したループは「最初の時間軸~アニメ本編の時間軸」の1.5倍か2倍くらいと想定)

そこからキャラ付けしたため、今までの経験を活かすほむらではなく、
本編よりも心が荒んだ容赦のないほむらになっています。


こんな作風ですが、ほむらを悪者にする意図はありませんので、今後を見守って頂けると有り難いです。
 


本編の時点でもすでに半分くらい諦めムードが漂ってるからな…
無力を思い知ったから助けを求める、って発想すら出来ないくらいに荒んでんのか

一応ゼロが触ってるのは公式でも上唇って言ってたはず
なので問題ないと思いますー
鼻でもいいんだろうけど該当パーツないしね


【舞台装置の魔女 その5】



『ワルプルギスの夜』との決戦が始まる少し前、ようやくマミのマンションへと到着したさやかと杏子。

建物の入り口へ進もうとした時、正面からキュゥべえが歩いてくる。
二人はその姿を目にし、思わず足を止めた。


QB「やぁ、さやか。それに杏子」

さやか「インキュベーター…」

杏子「テメェ、こんな所で何やってんだ?」

QB「僕かい?僕はただマミの魔女化を最後まで見届けようと考えていただけさ。
   けれど、もうすぐ決戦が幕を開ける。どちらを優先すべきかは明白だよ」

杏子「…つまり、アイツはまだ魔女にはなってないってわけね」

さやか「急ご、杏子!」

杏子「わかってるよ」


先を急ごうとする二人を、キュゥべえが呼び止める。


QB「ところで二人とも」

杏子「あぁ?何だよ!?」

QB「こんな所で油を売っていて大丈夫なのかい?『ワルプルギスの夜』は間もなく姿を現すよ?」

杏子「いいんだよ。向こうにはゼロがいる、そしてほむらもいる。心配することなんて何もない」

さやか「私達のやらなきゃいけない事は、この先に待ってるから」

QB「つまり君達は、『ワルプルギスの夜』との決戦をウルトラマンゼロと暁美ほむらに任せ、
   マミを助けることを選んだわけだね」

杏子「そうさ。何、邪魔しようっての?」

QB「いや、僕は決戦が終わるまで君達には干渉しない。最後まで頑張ってみるといい」

さやか「…行こ!」


二人はこれ以上キュゥべえに関わろうとはせず、階を上がっていく。

決戦ではなくマミを優先した彼女達、それを促したであろうゼロの行動を、キュゥべえは理解できずにいた。


QB「…ウルトラマンといい人間といい、感情を持った知的生命体は危なっかしいね。
   目の前の物事にとらわれて、何が最善なのかが全く見えていない」

QB「ま、だからこそコントロールしやすくもあるのだけれど」

 



そしてキュゥべえは市街へと消え、二人はマミの部屋の玄関まで辿り着く。


杏子「…なぁ?」

さやか「ん?」

杏子「勢いでここまで来ちまったけどさ、アタシは何したらいい…?」

杏子「今のマミには、アタシの事なんて忘れてもらうのが一番だと思ってた。
   でも本当はそうじゃないとしたら、アタシが言ってやれることって……何だ?」

さやか「うーん…」

さやか「そんなの、私あんたじゃないからわかんないし…」

杏子「…だよな」

さやか「けど勢い任せならさ、最後までそれでいいんじゃない?
    いつも通りの自分を見せて、正直な気持ちを伝えればさ」

さやか「私もそうするつもりだから」

杏子「いつも通りのアタシか…」

杏子(そう言えば、アタシもゼロのやつに似たような事言ったっけ…)


ふと思い浮かんだのは、地球人の『闇』に迷っていたゼロと会話した夜。
この会話を機に、ゼロはどんな世界であっても「変わらぬ自分」で平和を守る意思を固めた。

同じ事が、今の自分にも求められているのだと杏子は再確認する。


杏子「…よし!」


不安を振り切った杏子は、突然玄関のドアを叩き、声を張り上げる。


杏子「おい、避難するぞマミ!早いとこ出てきやがれっ!!」

さやか「ちょ…杏子!?」


二人が立つ扉の奥、マミは部屋のベッドの上にいた。
彼女は手のひらの上で、半分近くが濁ったソウルジェムを転がしている。


マミ(…来ちゃったんだ、あの子達)


玄関を叩く音と声を耳にし、マミは二人の到着を知る。

彼女がベッドから体を起こした時、自分のものを遥かに上回る『呪い』を感じ取った。


マミ(これは…)

杏子「『ワルプルギスの夜』…」

さやか「始まったんだね…」


巨大な『呪い』はマミだけでなく、さやかと杏子にも当然伝わっている。
それは『ワルプルギスの夜』が出現し、戦いが始まったことを意味していた。

 




ゼロ「さぁ、この星の未来を―――守り抜くぜ!!」

ゼロ「であああぁっ!!」


慣らしとばかりに手首を振り回した後、魔女を指差すゼロ。
ほむらが指示を送るより先に、ゼロは魔女へ向かって走り出していた。


ゼロ「うおおぉーーーっ!!」

ほむら「いきなり何を……」


ゼロは魔女の浮遊する位置よりも高く跳躍する。
勢いを得たゼロの足が燃え上がり、宇宙拳法『ウルトラゼロキック』が繰り出される。


ほむら「ゼロっ!?まずは私の指示を…!!」


迫り来るゼロに対し、魔女は浮遊したまま何も動こうとはしない。

キックは魔女の腹部に命中、その威力で巨体を後退させていく。


ゼロ「デェアァーーッ!!」

魔女「アハハハッ…アハハハハハッ…!」


ゼロは炎で焦げ付くドレスを思い切り踏み込むと、空中で一回転して体勢を整える。

足に続き、今度は右拳が激しく燃え上がった。



ゼロ「俺のビッグバンも…合わせてお見舞いするぜぇぇっ!!」

ほむら(効いてる?…いや)


手刀の形を作り、魔女に振り上げた時だった。
魔女は微動だにしないにもかかわらず、突如として周囲に暴風が巻き起こる。



ゼロ「何!?…って、うおぁっ!!」


暴風によって炎は消え去り、ゼロの体勢が大きく崩される。
その隙を狙い、魔女から複数の炎が撃ち出された。

槍のような炎に加え、宙に舞い上げられたビルも次々とゼロに衝突していく。
続けざまに攻撃を受け、ゼロの体は市街地へと叩き付けられた。


ゼロ「ぐあぁぁっ!!」

ゼロ「……チィッ!!」


ゼロはすぐに体を起こすと、頭部のゼロスラッガー二本を手に取る。
素早く合体させてゼロツインソードを形成すると、再び魔女の元へ跳んだ。


ゼロ「シェアアーーーッ!!」


ツインソードを緑色に輝かせ、渾身の斬撃を繰り出す。
かつて何度も強敵を仕留めてきた必殺技の一つ『プラズマスパークスラッシュ』。

その刃は、魔女の首を狙っていた。


ゼロ「うぉらっ!!……って何!?」


自慢の一撃は、魔女によって止められていた。
わずか一瞬の間に、魔女が剥き出した白い歯がツインソードに食らいついている。


ゼロ「くっ…ふんぬっ!」


ツインソードを引こうとするが、幾らゼロが力を込めても、魔女が動じる様子は全くない。
その上、ツインソードからはミシミシと歪な音が響き始める。

 



ほむら「まずい…!」


ほむらは時を止めると、盾に収納していたRPGを取り出し、魔女を目掛けて撃ち込む。

時の流れを戻すと共に、魔女の顔面が爆発を起こす。
ほむらの咄嗟の援護によって、ようやくツインソードは解放された。


ゼロ「噛み砕かれちまうかと思ったぜ……助かった、ほむら!」

ほむら「余所見しないで!前よ!!」


ゼロがほむらを見た隙に、大きく振るわれた魔女の腕が襲いかかる。


ゼロ「やべっ!?」

魔女「アハハハハッ!!」

ほむら「ゼロっ!?」

ゼロ「うぐおぉっ…!!」


直撃した一撃は重く、ゼロは再び市街地に叩きつけられた。
ビルに激突し、その体を瓦礫が覆いつくす。


ゼロ「ぐあっ…!!」

魔女「ウフフフフ…アハハハハ!」

魔女「ハッハッハッハッハ!アーッハッハッハッハ!」


魔女の高笑いが響く中、崩れたビルの中からゼロが立ち上がる。

急いでゼロの元へ駆け寄ろうとするほむらだったが、彼女の周囲に黒い何かが渦巻いた。


ほむら「!?」


それは魔法少女を模した使い魔に形を変え、ほむらを包囲する。


ほむら「この雑魚ども…!!」


両手に銃を構え、ほむらは使い魔達を睨み付けた。

 

つづく


>>474
助けは借りる(利用させてもらう)けど、心までは許さないという考えです。

>>475
ありがとうございます。
全部ミスっていたのでは…とビクビクしてましたが、安心しました。




魔女『ワルプルギスの夜』を相手に、予想以上の苦戦を強いられるゼロ達。

熾烈な戦いと並行して、さやかと杏子の呼び掛けは続いていた。


さやか「マミさん、聞こえてる!?」

杏子「いい加減返事しろって!」


マミは一向に姿を現さないが、二人も決して諦めようとはしない。

その熱意に根負けしたのか、彼女達の頭にか細い念話が届いた。


マミ(…こんな所に、何をしに来たの?)

杏子「あ…」

さやか「マミさん!」


当然、念話はマミからのものだった。
二人は驚きながらも、すぐに会話をテレパシーに切り替え、返事を返す。


杏子(何をしにって決まってるだろ、アンタを連れ出しに来たんだよ!)

さやか(詳しいことは後で話すからさ、急いで準備しよ!)

マミ(そう…)

マミ(そんな事、私は頼んでないわ)

さやか・杏子(!?)


テレパシーとは言え、マミからは普段の温和さが全く伝わって来ない。
それどころか、冷たく突き放されているかのようにも感じられた。


マミ(…貴方達には、世界の命運がかかった大きな戦いがあったはず。その役目はどうしたの?)

杏子(それを投げ打ってまでここに来たんだよ…アタシらは)

さやか(確かに、『ワルプルギスの夜』は放っとけない…
    でも決戦と同じくらい、ここにいることは大事なんだ)

さやか(私達もゼロさんも、マミさんの事を守りたいと思ってるから)



さやかは偽りない想いをぶつけるが、マミは即座に反応を示さない。

返事は、しばらく経った後に返ってきた。


マミ(可愛いこと言ってくれるのね)

マミ(…でも忘れてないかしら?私がこうなったのは、貴方達のせいでもあることを)

さやか(えっ…)

杏子(………)


愕然とする二人。


マミ(どんなに繋がりを望んでも、どんなに頼れるお姉さんであろうとしても、
   貴方達は私を突き放してきた。…『重荷』と言ってね)

さやか(今は違う……私はもうマミさんを見捨てたりなんかしない!)

マミ(違わないわ。結局いつかは、裏切られてまた一人ぼっち。
   現に佐倉さんは、私と距離を置き続けているでしょう?)

杏子(あ…アタシは…!!)

マミ(だからもう、私には構わないで。戻るべき所に戻りなさい)

杏子(馬鹿言ってんなよ…アタシらが戻ったとして、アンタはどうすんのさ!?)

マミ(私は、私に待ち受ける運命に身を委ねるだけ。
   魔法少女の未来を変えるなんて、誰にも出来はしないのだから)

杏子(アンタ、それっぽい事言ってるけどさぁ…結局は魔女化を受け入れますって意味じゃねーか!)

マミ(…それでいいじゃない)

杏子(は!?)

マミ(この一週間、私は貴方達の邪魔にならないよう、浅ましく生きてあげたわ)

マミ(その間に色々な事を考えた……そして気付けたの。
   呪いも絶望も何もかも、受け入れてしまえばもう怖くない…)

マミ(そして今までとは違う、新しいやり方で繋がりを手に入れるの。
   …わかったら、ここから消えて決戦に戻りなさい)

 



マミの変貌は、二人が想像していた以上。
彼女のためにも、ここで引き下がるわけにはいかなかった。


さやか(…ますます放っておけない。マミさん、私はここに残るよ)

杏子(アタシもだ)

マミ(ふぅん…それじゃあ、貴方達を最初に『ご招待』しようかしら)

さやか(ご招待?)

マミ(そう…私はこれから毎日、ここでティーパーティーを開くつもり)

マミ(おめかしして、メイドさんにも来てもらって、みんなで楽しい一時を過ごすのよ)

マミ(せっかく来てくれたお客様だもの、ずっとずっと楽しんでもらわないとね)

マミ(だから…フフッ…みんな私のリボンで締め上げて…絶対に帰さないの)


杏子とさやかを、魔女と相対しているかのような悪寒が襲う。

『呪い』が作用しているのか、心を壊した結果なのか、
いずれにせよ、彼女の思考が正常に働いているとは思えなかった。


その時、市街から巨大な爆発音が響いた。

それは三人が経験したことのない規模のもの。
ゼロとほむらが繰り広げる戦いの激しさを物語っていた。


杏子「このバカッ…!!」


最初の爆発から間を置かず、次の爆音が響いた。
その瞬間に二人は魔法少女へと変身する。

杏子がドアを破って内部に踏み込み、さやかも後に続いた。


さやか「ここからは念話じゃなくて、本当の声で話し合おう…マミさん」

杏子「そしてお互いの顔と目ぇ見なが―――!?」


リビングに立つマミと対峙した二人。

しかしマミは寝間着ではなく、自分達と同じように魔法少女の姿。
そしてその手には、マスケット銃が構えられている。


マミ「駄目でしょう?私から『ご招待』するのを待ってくれなくちゃあ……ッ!!」

杏子「マミッ―――!?」

 



マミは躊躇いなく、杏子に銃口を向けて引き金を引いた。
さやかは咄嗟に杏子の手を取り、ガラス戸を突き破って外に飛び出す。

彼女の弾丸は、明らかに杏子の胸のソウルジェムを狙っていた。


杏子「何でだよ……」


マンションの屋上へ跳び、一旦マミから距離を置く二人。
杏子もさやかも、突然の攻撃に戸惑いを隠せない。

しかし、説得の方法を考える間もなくマミの声が響いた。


マミ「ティロ・リチェルカーレ!!」

さやか「えっ…!?」

杏子「とにかく避けろ、さやかっ…!!」


気付けば屋上の周囲は、複数の砲身によって囲まれていた。
必殺技名とともに、彼女達目掛けて砲撃が繰り出される。

二人は死ぬもの狂いで攻撃を掻い潜り、自らのソウルジェムを死守する。

全ての砲撃が終わった後、拍手とともにマミが遅れて姿を見せた。


マミ「回避、上達したのね。私のアドバイスが活きて良かったわ」

さやか「あ…はは…そうっすかね…でもまさか、マミさん相手に披露することになろうとは…」

マミ「でも…次はこうはいかないから覚悟してね。痛い目を見ても、泣き言は無しよ?」


マミの微笑みは、自分を邪魔する全てへの殺意に満ちていた。

怯えを見せるさやかに、杏子は一つの解決策を伝える。


杏子「さやか、今のアイツは聞く耳なんか持っちゃいない。
   何とかして、マトモな会話できるようにしてやらないと…」

さやか「まさか…マミさんと戦うの!?」

杏子「それしかねーんだよ…手数も力も、アタシらの方に分がある」

杏子「でも、問題はマミの消耗さ。ただでさえ『呪い』がソウルジェムを穢してんだ。
   デカい魔法なんて多用させられない」

さやか「それじゃ、一体どうすれば…」

杏子「…インキュベーターのヤローから聞いた話、覚えてないか?」

さやか「え?」

杏子「アレを奪うんだよ…無駄なく素早くね」


杏子の目線は、マミの髪飾りに付いたソウルジェムに向けられる。
さやかがそれを理解した瞬間、マミは二人にマスケット銃を向けた。


マミ「フフッ…」

 




魔女「ウフフフフ…アハハハハハッ!!」

ほむら(いつまでも遊んではいられない…!)


二丁の銃で、迫り来る使い魔を撃ち抜いていくほむら。
しかし敵の戦力も圧倒的であり、次々と新たな使い魔が現れては彼女を追う。


魔女「ハハハハハッ!!」


ゼロが立ち上がる間に、魔女の進路は避難所の方角へ向いていた。
気付いたほむらは魔女の元へ急ぐが、使い魔達に付き纏われ、思うように進めない。

彼女の代わりに、ゼロが魔女に立ちはだかる。


ゼロ「行かせるかぁぁ…っ!!」


自分の身長を上回る巨体を、ゼロは空中で押さえ込む。
しかし完全にパワーは敵が上回っており、今度はゼロが後退させられていく。


ゼロ「ぐ…ぬおおおおぁっ!!」

ゼロ「くぁっ…力で駄目なら!!」


頭部からゼロスラッガーが再び舞い上がり、ゼロの胸のカラータイマーに装着される。

タイマーには青い光が集中し、満ちたエネルギーは『ゼロツインシュート』として放たれた。


ほむら(光線の威力で奴を?)

ゼロ(うおおおおおぁーーーーーっ!!)


それは、両腕で魔女を押さえながらの近距離発射。
光線の反動がそのまま体に伝わるが、その威力は少しずつ魔女を押し戻していく。

しかし魔女も反撃の為、背後で複数のビルが舞い上げていた。


魔女「アハハハハッ…アーッハッハッハッ!!」

 



ほむらは急いで時を止めると、使い魔達を無視してゼロの元へ駆ける。
空中に跳躍すると、肩の上に降り立った。

すぐさま左手でゼロに触れ、彼の時を動かす。


ほむら「攻撃が来るわ。すぐに離れて」

ゼロ「ほむら!?」


ほむらの存在と、停止した時間の中にいる事に気付いたゼロ。

ツインシュートを止めてスラッガーを戻すと、魔女から一旦距離を置いた。


ほむら「残りのエネルギーは?」

ゼロ「まだ大丈夫だ。だが、他の技じゃ明らかに決め手に欠けてる。
   やっぱ一筋縄じゃいかないみてーだな…」

ほむら「当然よ、敵が『彼女』より劣るからといって甘く見ないで」

ゼロ「俺だってただ闇雲に突っ込んだわけじゃねえよ。
   奴の力がどれほどのものか、拝ませてもらっただけだ」

ほむら「明らかに押されていたけれど、奴の力量は測れたの?」

ゼロ「…『ウルティメイトゼロ』と良い勝負だ」

ほむら「………」

ほむら「今のままでは勝てない。鎧を纏っても消耗戦…」

ほむら「やはり残るは……」


イージスを装備した強化形態も、拮抗した戦いになればエネルギーの浪費に等しい。

キュゥべえが「機を窺って全エネルギーを放つ」方法を推奨するのも、
魔女の強さを把握しての事だったのだろうとほむらは考える。


ゼロ「…やろうぜ、ほむら」

ゼロ「俺の残りのエネルギー、全て使い果たしてでも奴を弱らせてみせる。
   その後で、イージスの『最強技』をブチかましてやるぜ…!!」

ほむら「…出来るの?」

ゼロ「出来ねぇと思うか?」

ほむら「いいえ、『出来ない』は許されない」


敵の強さを把握しても、ゼロはまだ希望を捨てていない。
そしてほむらも、残された勝機にしがみつくと心に決める。


ゼロ「ヘッ…ここからは全開だ。サポートは任せたぜ!」

ほむら「始めるわよ…私達の戦いを!」

ゼロ「目ェ覚めた心が…走り出すぜぇぇぇッ!!」

 

つづく


>>487に訂正です。

×背後で複数のビルが舞い上げていた。
○背後で複数のビルを舞い上げていた。


マミさんってさやか以上に頑ななんじゃないかと思う時がある
魔法少女関係だけでなく学校でも周りと壁を作って寄せ付けないようにしてる節があるし


正義の魔法少女という生きるよりどころにしてるものが
いつ崩壊してもおかしくない不安定なものと自覚してるんだろうね
間違ってるんじゃないかと思いつつも道を曲げられない、
ってのは多かれ少なかれまどマギの主要キャラは全員持ってる要素だけど

>>491
このSSでも、マミは頑な性格だと解釈してます。
その上求めている仲間像にこだわりがあって、ゼロやクラスの友人(>>102)はそこに該当しないと。

結果的に孤独を感じてしまい、>>484でさやかと杏子を責めていますが、
今のご乱心は「積み重なっていたマイナス要素が、明かされた真実をきっかけに暴発した」というのが理由です。



次回の投下は今週中にでも。

安価間違えてる上にsage忘れ…

>>494>>490宛てです。

それでいくと杏子とペア組んでたのは本質的に同類だから気が合ったんだろうか
気を許した相手にはとことん世話焼こうとするけど
一度拒絶モードに入ると本心はどうあれ取り付く島もない的な

>>496
周りなんてどうでもいいとは思ってないんじゃない?
皆を守る正義の魔法少女を一人でも、ずっと続けてきたんだから
ほむらとも一周目や二週目では関係は良好だったみたいだし

>>497
本質的に似ているからじゃなくて、まどかと同じく理想としているタイプだからなんじゃないかなと
まどかも杏子やさやかも人のために願って、本心から周りを守るために戦う事を望んだんだし

>>498
まどポで、その一周目に酷似してる√があるんだが
その周回でマミさんはまどかと仲がいいほむらに嫉妬してるんだよね
しかも、まどさやの時とは違ってほむらの時は積極的に勧誘しようともしなかったしほむらもマミが魔女になろうが、死のうが「鹿目さん…鹿目さん…」でどうでもいい感じだったし
お互いにまどかを中心にしてしか関わらくて、殆ど関ろうともしなかった
だから元々この二人は元々相性が悪いんだよ

後、マミさんが正義の魔法少女やってるのって本人が気付いてるのか気付いてないのかわからないけど
皆のためというのは建前で本当は両親を助けなかった罪悪感と
何もない自分に残されてるのが魔法少女の使命だけで、それに縋る事で孤独を忘れようとしている
所謂、”現実からの逃避”のためという後ろ向きな理由で魔法少女をやってるんだよね
ゼロやウルトラマン達とは根本的に異なる

だからほむらと相性が悪いのも頷けるんだよね
ほむらも「まどかを助けたい」という気持ちは間違いなくあるけど
「まどかを自分の手で守れる自分になりたい」という利己があったと思うんだよね
その結果、得たのが時間停止と何回でもやり直せる能力だし
虚淵はほむらを「一つの所に留まって前に進めないキャラ」と評していたのはまさにその通りなわけで

だから本質的にマミとほむらは結構似てると思う
建前で隠してるか隠さないかの違いだけで、二人とも後ろ向きで自分のために戦っている


>>497
追記
そもそもマミと杏子って正反対だと思う
表面上の態度は悪くて、粗暴だけど何だかんだで世話を焼いて助け舟よこす杏子と
表面上は優しそうだけど、気に入った相手以外には関心がなくて、頑ななマミさんという、全くの正反対




杏子「さやかはマミの背後に回れ。アイツはアタシが引き付けておく」

さやか「わかった!」


マミの耳に届かないよう、杏子は小声で指示を送る。
さやかが了承を示した時、マミの銃口が二人の足元を狙う。


マミ「フフッ…」

杏子「行くよ!!」

さやか「合点!!」


最初の銃撃を合図に、二人は左右へ跳んだ。
杏子は正面からはマミに迫り、さやかは指示通りに背後へ回る。

マミは余裕の表情でスカートを広げると、中から大量のマスケット銃が散らばった。


杏子(マミのやつ、また…!)

さやか(これ以上魔法を使わせたら…)


マミは素早く銃を取り、舞い踊るかのような動きで周囲に乱射を仕掛ける。

弾丸は絶えず放たれ続け、二人の接近を許さない。


さやか「くっ……うわっと!」

杏子「はぁぁぁぁーーっ!!」


さやかは持ち前のスピードで回避しながら、避け切れない弾丸を剣で防ぐ。
そして杏子は槍を回転させて弾丸を弾き、着実にマミへの距離を詰めていく。



マミ「フフッ…」

杏子「余裕そうじゃんか!」


ギリギリまでマミに近付くことに成功した杏子。
マミ目掛けて一気に槍を振り下ろし、攻撃を銃で受け止めさせた。

鍔迫り合いの最中、マミは微笑みながら語りかける。


マミ「…ねぇ佐倉さん、こうしてるとあの日を思い出さない?」

杏子「あの日?」

マミ「そう…貴方が私の元を離れる時、引き留めようとした私と今みたいに戦った」

杏子「あぁ……」

杏子「…アタシも、まさか立場が逆転するとは思わなかったよ」

マミ「あの時の貴方は本気で、私は手加減。逆といえばその通りね」

マミ「だって今の貴方達、全然本気が伝わってこないもの…!!」

杏子「!?」


マミは片手を離すと、もう一丁の銃を作り出して杏子に向けた。

気付いた杏子は素早く彼女から離れ、銃撃を避ける。


杏子(気付かれた…!?)


杏子がマミを押さえていた間に、さやかは青い閃光となって一直線にマミへ迫っていた。

伸ばした手がソウルジェムに届く直前、接近に気付いていたマミは脚を振り上げ、さやかを蹴り飛ばす。

 



さやか「ぐぁっ…!?」

杏子「チッ…!」


さやかは転がりながらも直ぐに体勢を立て直し、杏子も再びマミへ向かっていく。

マミは屋上中を飛び回りながら、二人の攻撃を掻い潜る。


マミ「貴方達の狙いなら予想がつくわ。
   この髪飾りからソウルジェムを取り外して、浄化しようと考えてるんでしょう?」

マミ「何をしようと無意味よ。そう都合良くはいかないこと、私が教えてあげる」


マミは更に魔力を消費し、大量の銃を作り出して一斉射撃を放つ。

さやかは即座に距離を取り、杏子は高く跳躍して攻撃を回避する。
杏子は空中に跳び上がったまま、槍を多関節に変化させてマミを狙った。


杏子「何を教えてくれるって?」

マミ「はっ!?」

杏子「捕まえたっと…そらよっ!!」

マミ「きゃっ……!!」


射撃後の隙を突き、マミの胴を拘束することに成功した杏子。

着地とともに槍を振り上げ、マミの体を地面に叩きつける。


さやか「杏子!ちょっとそんな乱暴に…!?」

杏子「マミの強さ知ってるならわかるだろ?こんくらいやんなきゃダメだ」

杏子「それに、これは殺すための戦いじゃないんだ」

 



さやか「そうだよね、これは『守る』ための…」

杏子「早く行け!!」

さやか「うん!!」


さやかはクラウチングスタートの体勢を取ると、速度を上げてマミに迫る。

同時にマミも行動を起こし、片手に作り出した銃で鎖を撃ち抜いた。


マミ「ケホ………『守る』って、何を?」

杏子「このっ!?」


咄嗟の行動で拘束から解放されたマミ。
しかし今の状況は、距離、スピードともにさやかに分があった。


さやか(このまま突っ込めば……取れる!)

杏子(…行け、さやか!)

マミ「フフ…」

さやか「!?…やばっ」


さやかはマミを目前にして急に減速する。

剣を盾代わりに防御の体勢を取るが、気付いた「何か」を全て防ぎきることはできず、
彼女の体中から鮮血が飛び散った。


さやか「うぁぁっ…!!」

マミ「…あら、惜しかったわね」


さやかの動きは、何かに絡め取られたかのようにマミの背後で止まる。
抵抗もままならず、その手から剣が落ちた。

 



さやか「痛…っ」

杏子「さやか!何された!?」

マミ「これよ」


マミが軽く指を動かすと、ピンと何かを弾く音が聞こえた。

フェンスの間には、魔法のリボンを極小サイズに変化させた糸が張り巡らされている。
減速したさやかは糸に捕らわれ、身動きが取れない状態に陥っていた。


杏子「糸?」

マミ「そう、さっき作ってみたの。回避で動き回ったついでにマーキングしてね」

マミ「でも残念だったわ。全力で向かってくれれば、美樹さん細切れになれたかもしれないのに」

さやか「細切れって…」


咄嗟に減速しなければどうなっていたのか―――
その場面を想像したさやかの顔が青ざめる。


杏子「拘束が得意なアンタだ。どっかでリボン使ってくるとは思ってたよ」

杏子「でも何だよそりゃ…普通に作るよりぜってぇ魔力食ってんだろ…」

杏子「命削って綾取り遊びか?……もういい加減にしやがれ!!」


肩を震わせ、声を荒げる杏子。
槍を強く握り締めて、正面からマミへ立ち向かう。


杏子「マミィィィィーーーッ!!」

マミ「怒り任せに突っ込むなんて、貴方らしくないわ。それに…」

マミ「隙だらけ」


防御の体勢も取らないまま迫ってきた杏子を、マミは躊躇いなく撃ち抜いた。


杏子「が…はっ…!!」

さやか「杏子っ!!」


弾丸は杏子の腹部を貫通し、その体はフェンスに叩きつけられる。


杏子「ぐ……」

マミ「…あら?」


続いてソウルジェムに狙いを定めるが、杏子は槍の刃で胸部を隠している。

マミは杏子から狙いを変え、彼女の左右に数発の銃撃を放つ。


マミ「さよなら、佐倉さん」


マミが撃ち抜いたのは、フェンスを固定していた個所。
破られたフェンスもろとも、杏子の体は屋上から落下していった。

 




ゼロ「目ェ覚めた心が…走り出すぜぇぇぇッ!!」

ゼロ「シェアッ!!」


止まった時の中、ほむらを肩に乗せてゼロは跳んだ。

魔女の周囲を高速で旋回しながら、額から『エメリウムスラッシュ』を発射する。


ゼロ「フッ!!」

ゼロ「ハッ!!」

ゼロ「シェアッ!!」


しかし光線の発射数は一回にとどまらず、五回、十回、二十回と撃ち出されていく。

数十発に及んだ光線は、直撃する前に空中で停止。
魔女の周囲を針が包囲するかのような光景を作り上げていた。


ほむら「一度、魔力の回復を」

ゼロ「おう!」


ゼロが滑り込むように着地すると、ほむらは触れていた手を放し、時間を戻す。

時は動き出し、あらゆる包囲から数十発もの光線が魔女に襲いかかった。


魔女「ハッハッハッハッハ!アーッハッハッハッハ!」


この一発は、元の宇宙であれば同サイズの敵一体を撃破できる威力。
それ程の爆発が立て続けに起こり、魔女は爆発に包まれながら市街へ降下した。


ほむら(ストックはまだ問題ない。けれど、やはり消費が早い…)


その間に、ほむらは決戦用に温存していたグリーフシードで魔力を回復させる。

イージスを解放していないとはいえ、止まった時の中で全力の『ウルトラマン』を動かすだけでも、
通常より魔力の消耗は早かった。

 



魔女「アハハハハッ!!」


炎の中から魔女の笑い声が響く。
敵は『救済』を除いて最強の魔女。この攻撃が決定打にならないことは、ゼロもほむらも薄々理解していた。

魔女の影は炎の中に浮かび上がり、今まで以上の規模でビルを舞い上げ始める。


魔女「アハハハハハ!アーッハ」

ほむら「やらせない」


しかし魔女の攻撃よりも先に、回復を終えたほむらがゼロに触れ、再び時を止めた。


ほむら「次よ!」

ゼロ「おう!!」


ゼロはイージスに手をかざすと、光の中からウルトラゼロランスを取り出す。
握り締めたゼロランスに力を込め、爆炎の中に覗く影を目掛け、思い切り投擲する。


ゼロ「うぉっらあぁーーーっ!!」


全力で投げられたゼロランスは、炎の中へ突き進む前に停止した。

ゼロは跳躍し、爆炎を飛び越えて反対側へ回る。
続いて、頭部からゼロスラッガー二本が飛び出した。


ゼロ「シャッ!」

ゼロ「でぇありゃっ!!」


時間停止の作用ではなく、自身の念力でスラッガーを空中固定させる。
足を激しく燃え上がらせ、凄まじい威力で回し蹴りを放つ。

蹴りの威力で更なる加速を得たスラッガーもまた、炎の直前で一旦その動きを止めた。

 



ゼロ「まっだまだあぁぁぁーーーっ!!」


スラッガーの停止を見届けると、左腕を横に広げてエネルギーを集中。
直後に地上を離れ、上空で腕をL字に組み『ワイドゼロショット』を放つ。


ゼロ「シェアアーーッ!!」


光線は数秒に渡って放たれ続け、光の帯となって停止する。

本来ウルトラマンの必殺技は、回避されないよう敵を格闘戦で弱らせておくことが多い。
しかし、ほむらの時間停止と組み合わせることで、そのリスクを負うことなく使用できていた。


ゼロ「時を!」

ほむら「ええ!」


ゼロは市街に降り立ち、ほむらは再び時を動かす。

ゼロスラッガーによるキック戦法、ウルトラゼロランス、
そしてワイドゼロショットが炎の中の魔女へ一気に襲いかかる。


魔女「ウフフフフフフフフフッ!!アハハハハハハハハッ!!」


合間を利用して魔力を回復していたほむらに、ゼロが指示を出す。


ゼロ「ほむら、一度肩から降りてくれ」

ほむら「やるのね?例の技を」

ゼロ「いいや、これで終わりと思ったら大間違いだぜ!」


爆発の中から舞い戻ってきたゼロランスを、イージスの光に収納するゼロ
続いて戻ってきたスラッガーをキャッチし、胸のカラータイマーにセットする。


ゼロ「手足の先までエネルギー絞り出してやる!!」

 



ゼロ「いっくぞおぉっらああああぁーーーーーっ!!」


追い討ちをかけるかのように、二度目のゼロツインシュートが放たれる。
その反動はゼロを後ずさらせると共に、市街の中心に更なる爆発を巻き起こした。


ほむら「凄い…まだこんな力が…」


その光景を目にし、ほむらは思わず呟いた。

魔女は突風を起こして炎を消し去り、再度姿を現す。
辛うじて空中に浮かんではいるが、ドレスはボロボロになり、体中が焼け焦げていた。


ほむら(私が集めてきたどの兵器を使っても与えられないようなダメージ…)

ほむら(もしかすると、『イージス』に頼らない彼自身の実力を、私は侮っていたのかもしれない)

魔女「ハ…ハハハ……アハハハ……」

ゼロ「ハァ…ハァ…」

ゼロ「…シェアッ!!」


ゼロの消耗は激しかったが、怒涛の連続攻撃はまだ終わらなかった。
ボロボロとなった魔女の背後へ飛び、その腰にしがみつく。


ほむら(まだ何か…!?)

ゼロ「駄ッ目押しだあァァーーッッ!!」


魔女を抱え、加速をつけてゼロは降下する。
巨体はゆっくりと降下し、やがてその頭は加速をつけたまま地面に叩きつけた。

体術『ゼロドライバー』。
光線を放つエネルギーを使い切ったゼロの、最後の一手。

 

つづく

もし仕上がれば、次回分は金曜か土曜に投下します。

またまた訂正を…


>>524
×それ程の爆発が立て続けに起こり、魔女は爆発に包まれながら市街へ降下した。
○それ程の爆発が立て続けに起こり、魔女は炎に包まれながら市街へ降下した。

>>527
×巨体はゆっくりと降下し、やがてその頭は加速をつけたまま地面に叩きつけた。
○巨体はゆっくりと降下し、やがてその頭は加速をつけたまま地面に叩きつけられた。


もう一点、読み返してわかり辛く感じたので補足。
マミ戦はマンションの屋上だけでなく、様々な建物の屋上を飛び移りながらの戦いです。




魔法の糸で絡め取られたさやかに、とどめを刺すべくマミが迫る。


マミ「さてと…美樹さんこれから死んじゃうけど、悪く思わないでね。終わるのは一瞬だから」

さやか「いやぁ、結構勘弁してほしいんですけど…私の成長、まだまだこれからなんで…」

マミ「二人掛かりでその程度なら、貴方に先はないわ。諦めなさい」

さやか「きっついなぁ今日のマミさん…前の私なら立ち直れなかったかも」

マミ「ごめんなさいね。私だけの世界…誰にも邪魔させるわけにはいかないから」


向けられた銃口、その狙いはさやかの腹部に付いたソウルジェムに定められる。

しかしマミの考えとは裏腹に、さやかは何も抵抗することはない。


マミ「…まだ抵抗しないなんて、本当に打つ手がないの?」

さやか「ない事もないんすよね…このまま強引に動いてみたり、
    剣の雨降らせてみたり…どれも自分が怪我しちゃいますよね」

さやか「でもマミさんは前に言ってくれた…そんな戦い方は駄目だって」

マミ「………」

さやか「だからもう使わない。自分の身はしっかり守る。同じように仲間も平和も守り抜いてみせる」

さやか「…マミさんの事も、絶対に!」

マミ「そんな悠長な事言ってる場合?…守りに入るだけでは、勝てる勝負も勝てないわよ?」

さやか「大丈夫っすよ。ガンガン攻めるのが得意なやつなら、もう一人いるからさ」


その時、壊れたフェンスの辺りから「カラン」と金属音が響いた。

 



マミ「…?」

さやか「杏子…!」


マミが視線を向けると、杏子の槍が、そして落下した杏子本人再び這い上がっていた。

彼女がこれで終わるわけがないと信じていたさやかに、笑顔が戻る。


杏子「ハァ…ハァ…そう、役割分担ってやつさ…」

杏子「さやかには後でやってもらわなきゃいけない事があるからねぇ…」


杏子は血の滲む腹部を押さえながら、さやかの前に歩いていく。
そしてマミと正面から向き合い、さやかを庇うように片腕を伸ばした。


マミ「それじゃあ、私はもうお役御免という事ね」

杏子「ふて腐れんなよ……アンタにも、代わりのいない役割があるんだ」

杏子「だから……見殺しにしてたまるか…!こんな所で殺されてたまるか…!」

杏子「アンタはここで、絶対助ける!!」

マミ「………」


二人の言葉を受けたマミは、銃を構えたまま黙っている。
そして何を考えたのか、銃を放り投げてしまった。


さやか「マミさん…」

杏子「…聞き入れてくれたのか?」

マミ「今の貴方達…中々絵になってるわ。
   まるで美樹さんは捕らわれのお姫さま、佐倉さんはお姫さまを守る騎士みたい」

マミ「そして私の役割はこれでしょう?…二人を襲う悪い『魔女』!!」

 



マミは手を伸ばすと、作り出したリボンを渦巻かせる。
銃の代わりに中から現れたのは、巨大な大砲だった。


さやか「杏子…これさすがにヤバくない…!?」

杏子「………」

マミ「フフッ…これを撃っちゃえば、もう何もかもお仕舞いね。
   佐倉さんの命も、美樹さんの命も、私に残ってる魔力も…全部!!」

マミ「いくわよ、ティロッ…!!」


大砲にありったけの魔力を注ぎ込もうとしていたマミ。
だが、その肩に何者かがそっと手が置いた。


マミ「!?」

杏子「させねーよ、『魔女』になんか」


振り向いたマミの背後には、杏子の姿があった。
そして正面を向けば、そこにもさやかを庇うかのように杏子が立っている。


さやか「え…二人?」

マミ「佐倉さ…?」

杏子「アンタはアタシらの大切な―――」


背後の杏子は素早くマミの髪飾りからソウルジェムを取り外す。

マミが砲撃魔法『ティロ・フィナーレ』を中断する間もなく、杏子は全速力で屋上から遠ざかった。


マミ「そういう事ね…貴方、わざと撃―――」


やがて正面の杏子は、幻でも見ていたかのように霞んで消えていく。
それを見届けた後で、マミの意識は途切れた。

 




マミを止める戦いに決着が付いた頃、ゼロとほむらの決戦も一つの区切りを迎えていた。

地面に叩き付けられた魔女は、全く動く気配はない。
そしてゼロも、胸のカラータイマーが赤く点滅を始めた。


ほむら「エネルギーは大丈夫なの?警報機が鳴ってるわ」

ゼロ「警報機じゃねぇよ!だが、もうスッカラカンだ……『俺の分』は、な」

ほむら「なら大丈夫ね。隙だらけの今ならやれるはず…行って!」

ゼロ「おうッ!!」


ゼロはその場に立ち上がると、左腕を突き出す。
腕輪状態のイージスが光り輝き、弓矢を模した形状に姿を変えた。


ほむら「これは…『弓矢』?」


かつてのループの中で、この魔女を倒すことができたのは、契約した『鹿目まどか』の魔法のみ。
そして彼女が使っていた武器もまた「弓矢」。

ほむらは今のゼロの姿に、彼女の姿を重ねていた。


ゼロ「ふんんーーーーっ!!」


ゼロが光の弦を引き伸ばすと、イージスが内包するエネルギー全てが集中し始める。
同時に、四ヶ所ある未点灯のクリスタルの一つが輝きを宿した。

だが、その強大な『光』に反応してか、魔女の体が再び宙に浮かび始めた。


ほむら「しぶといのね…」

ほむら「彼は取り込み中よ。私が相手をしてあげる!」


魔女の回復時間を稼ごうとしているのか、またも使い魔が飛び出した。

溜め込んだグリーフシードのストックを強みに、惜しみなく時間停止を乱発するほむら。
ゼロへ向かおうとする使い魔達を、たった一人で葬り去っていく。

そしてクリスタルに、二つ目の光が灯る。

 



突如として、上空で無数の爆発が巻き起こる。


ゼロ(何だ!?)


魔女による反撃を警戒するゼロ。
しかし、爆発を起こしたのは魔女ではなくほむらだった。

魔法で動かしたトマホークを時間停止と組み合わせ、魔女が舞い上げたビルを次々に破壊していく。


ほむら(例えお前に通用しなくても、お前の『武器』くらいなら…!!)

ゼロ(ほむら!…もう少しだ。もう少しだけ粘ってくれ)


幾らビルを破壊しようと、魔女が再び力を取り戻せば全て振り出しに戻る。
しかし、ゼロの充填を妨げる可能性を、ほむらは少しでも潰しておきたかった。

クリスタルに三つ目の光が灯った時、魔女に笑い声が戻る。


魔女「…ウフフフッ…アハハハハッ…!!」

ほむら(もう力が…!?)


完全には回復できていない魔女は、炎の槍を一本撃ち出してゼロを狙う。
ほむらは盾を使い、身を挺して炎の槍を防いだ。


ほむら「絶対に…やらせない!!」


次々と放たれる炎をほむらが防ぎ続ける中、ゼロは魔女に狙いを定め続ける。


ゼロ(『ワルプルギスの夜』…温かい『心』が集まったイージスとはまるで逆だぜ)

ゼロ(たくさんの魔法少女が流してきた『涙』と、味わってきた『絶望』、
   それがお前の強さであって、お前自身なんだよな…)

ゼロ(でも、もう誰も呪わなくていいんだ。誰も恨まなくていいんだ)

ゼロ(暗闇はいつか―――)


先端のクリスタルに、最後の光が満ちる。
ゼロ最強の必殺技『ファイナルウルティメイトゼロ』の充填はついに完了した。

 



気付いたほむらは直ぐに離脱し、ゼロの射程から離れる。

ゼロはイージスの先端を魔女の胸部に定め、叫んだ。


ゼロ「これが、俺達の光ッ!」

ゼロ「そして、俺がみんなに示す…『希望』だぁぁッ!!」


光の弦から手を離すと、ゼロの腕からイージス本体が撃ち出された。

聖なる光を纏ったイージスは、魔女の胸部に命中し高速回転を始める。


魔女「フフフフフッ…アハハハハ…」

ほむら(あの『ワルプルギスの夜』が、完全に勢いに飲まれてる…)

ほむら(間違いない…勝てる!!)

ほむら(それだけじゃない。まどかだって、契約どころかインキュベーターの存在すら知らない)

ほむら(…ようやく辿り着けるのね、私の望んだ結末に……旅の終着点に)

ほむら(そしてこの『力』さえあれば―――)


かつてない程に好転した状況に、ほむらの内面は昂ぶっていた。
顔にはぎこちない笑みが浮かび、体中から身震いが止まらない。

そして魔女も、激しさを増す回転にただ圧倒されていた。


魔女「アハハハハッ…アハハハハハハ」

魔女「アハ…アハハハハ?」

魔女「ハハハ…ハ…?」

ゼロ「フィナーレェッ!!」

魔女「アアアァァァァァーーーーッ!!」


決め台詞とともに、『ファイナルウルティメイトゼロ』が魔女の体を完全に撃ち貫く。

歯車はその動きを止め、魔女の体は再び市街に崩れ落ちた。

 

つづく

建て直し前に「ギンガ開始~反逆公開までには終わらせる」と言ってましたが、すみませんムリでした。
完結までこのペースが続くと思いますので、ご了承を。

ようやく『叛逆の物語』を観てきました。
SSのストーリーに変更はなく、当初のプロット通りに続ける予定です。

ですが、ゼロファイト二部放送後にマイティベースやゼロディフェンダーの設定を組み込んだように、
今作の要素を元に描写変更はするかもしれません。

前回の続きは、明日にでも投下できるよう急ぎます。

ようやく『叛逆の物語』を観てきました。
SSのストーリーに変更はなく、当初のプロット通りに続ける予定です。

ですが、ゼロファイト二部放送後にマイティベースやゼロディフェンダーの設定を組み込んだように、
今作の要素を元に描写変更はするかもしれません。

前回の続きは、明日にでも投下できるよう急ぎます。




クラスメート「ねぇ巴さん」

マミ「?」

クラスメート「駅前にすっごい美味しいスイーツのお店ができたらしくてさ、
       これからみんなで行ってみない?」

マミ「ごめんね、今日も予定が入ってて…」

クラスメート「…そっか。巴さんいつも忙しそうだもんね」

マミ「良かったらまた誘ってくれるかな?次は絶対行くから…」




マミ「大丈夫だった?」

魔法少女「ありがと、通りすがりの魔法少女さん!」

マミ「強敵だったわね、さっきの魔女…。貴方も無事で良かった」

魔法少女「全くだよ、殺されるかと思った…」

マミ「私は見滝原中学の巴マミ。良かったらこのグリーフシード、使って?」

魔法少女「…いいよ、それあげる」

マミ「え…?」

魔法少女「タダより高いものは無いって言うしねー。
     そのグリーフシードは巴マミさんの手柄ってことで、貸し借りナシにしようよ」

魔法少女「助けてもらっといて何だけど、これ以上貸しを作るのも嫌だし」

マミ「『貸し』だなんて…私はそんなつもり…」

魔法少女「…なんかアナタ、変わってるね。
     私たち魔法少女はみんなライバル同士ってこと、もっと自覚した方がいいんじゃない?」




少年「助けて…ママ…」

少年「ママァァーーーッ!!」




マミ「……ん…」

さやか「あっ」

杏子「やっとお目覚めかい?」


意識を取り戻し、マミは目蓋を開ける。
彼女の目に映ったのは、自分を見守るさやかと杏子の姿。


マミ「…私は……」

杏子「ほらよ」


杏子が差し出したのは、全ての穢れが取り除かれたソウルジェム。
浄化を終えたためか、先ほどまでの殺意は一時的に失われていた

更にさやかの魔法によって、傷が跡形もなく治癒されている。
マミの体だけでなく、杏子とさやか自身も同様だった。


マミ「……不用心ね」

マミ「魔力も体も万全にして野放しなんて…こんな時は、拘束くらいしておくものよ」

マミ「私がまた貴方達を傷付けてしまったらどうするの…」

さやか「大丈夫っすよ。マミさんの事、信じてますから」

杏子「それにまた暴れるようなら、何度でも止めてやるから」

マミ「そういう事を言ってるんじゃなくて…」

マミ「確かに…貴方が『ロッソ・ファンタズマ』を取り戻してたのは驚いたし、
   美樹さんの回復の精度も見違えた…けど……」

マミ「いいえ…ここで偉そうにするのも可笑しな話よね…私は責められる方なのに…」

マミ「ほんと…私ったら先輩失格だわ。貴方達を本気で殺そうとしてたなんて…」


突如として後悔が押し寄せ、腕で顔を覆い隠す。
その頬には、涙が一筋零れていた。

 



杏子「その…何だ?」

杏子「アタシだって玄関ぶっ壊しちまったわけだし……気にすんなよ」

さやか「私もガラス割っちゃったしね…これでお相子って事でさ…」

マミ「佐倉さん…美樹さん……本当にごめんなさい」


命懸けの戦いとは真逆な弱みを見せるマミに、二人も調子を狂わせる。

マミが落ち着くのを待ち、杏子は話を切り出した。


杏子「…謝るよ。今までの事ぜんぶ」

杏子「悪かった」

マミ「佐倉さん…」

杏子「あれこれ掻き乱して収拾つかなくしちまったのは、何もかもアタシの責任さ。
   …今更許してくれとは言わないよ」

さやか「私だって、マミさん突き放すような真似しちゃったんだ。杏子だけが責任感じる必要ないって…」

マミ「…私にだって、反省しなきゃいけない事が多すぎるわ。
   今まで言えなかったこと、ここで全部話させて…」


それぞれ責任を感じていた三人。
マミはこの機会を使い、自らの心中を語ることにした。


マミ「…私の戦いは、いつも孤独と隣り合わせだったわ。
   使命があるからクラスの子とはすれ違うし、どんなに人を助けても賞賛されることなんてない」

マミ「私の戦い方を理解してくれる魔法少女もいなかったから、家に帰れば一人で泣いてばかり…」

マミ「寂しかった…だから同じ道を志して、同じ敵を前に力を合わせる。そんな相手がずっと欲しかったの」

マミ「だから、貴方達を私の都合の良いように引き留めようとしていたのも事実かもしれない」

さやか「そんなの違う…」

さやか「私は平和のために戦うマミさんに憧れたからここにいるんだ。自分の意思だよ!」

 



マミ「でもね美樹さん、貴方の考えてる私はきっと、美樹さんの中の『理想』でしかないの」

マミ「私ね…昔魔女を倒せなくて、小さな男の子を助けられなかったことがあったの」

さやか・杏子「!?」

マミ「男の子は目の前で魔女に取り込まれて、私は泣く泣く結界から逃げたわ」

マミ「そこから、強くなるために必死で努力した…」

マミ「私が『正義の味方』って言われるような戦い方を続けてきたのも、
   本当は私が不幸にした人達への、償いがしたかっただけ…」

さやか「そんな話、初めて聞いたよ…」

杏子「アタシも初耳さ…」

マミ「当然でしょう…頼れる先輩でいなくちゃいけない私が、
   貴方達に弱みを見せるわけにはいかなかったもの」

マミ「…でも、それが間違ってたのかもね。
   人一倍繋がりを求めてるくせに、本心を曝け出そうとしない…」

マミ「繋がるための一歩は踏み出せない…魔法少女の真実には耐えられない…
   私の心の脆さ、心底嫌になるわ…」

マミ「こんな私、本当に憧れられる?」

さやか「………」


さやかを見るマミの目は、返ってくる反応に怯えていた。


さやか「憧れるよ…今でも。マミさん色んなもの背負いながら戦い続けてたんだもん。
    …尊敬する。本当にカッコいいと思う」

さやか「…でもマミさんは、本当に魔女になりたいなんて思ってたの?
    その子みたいな犠牲者、マミさんが生み出してたかもしれないんだよ…」

マミ「あれが私の本心だったのか、今でもよくわからないの。
   でも、全てが壊れ始めたのは、真実を知ったあの日から……」

マミ「何度ソウルジェムを浄化しても、穢れが溜まるたびに私の中で誰かが囁くの。
   魔女になってしまえば、もう寂しくなくなるって…」

マミ「一人で苦しむ必要もなくなるって……だから私は……」

 



マミが心に抱え続けた全ての苦悩は、一週間前の暴露を引き金に暴発した。
結果、マミの心は呪いを生み、魔女に大きく近づいてしまった。

彼女が特に苦しめていたのは『孤独』。
しかし杏子は、そこに大きな違和感を感じていた。


杏子「一人じゃないだろ…」

杏子「アンタは自分で思ってるほど『孤独』なんかじゃない…」

杏子「…この一週間、ゼロは毎日アンタの元に来てたじゃんか」

マミ「………」

マミ「…ゼロさんは『違う』の」

杏子「『違う』?」

マミ「『ウルトラマン』は、私達『魔法少女』を超える力を持ってる。
   私が想像していたよりも、遥か上を行く強さをね…」

さやか「やっぱマミさんも、前の私みたいに劣等感感じてたの?」

マミ「ゼロさんの強さを妬む気持ちはないわ」

マミ「でもね…その『差』を知ってから、今までの関わりが全部嘘のように思えてきたの…」

マミ「あの人と一緒に戦う自分や、親しげに笑ってる自分がどうしても想像できない…」

杏子「アンタがこだわってたのはそこか…」


マミがゼロに対して作り上げてしまった『壁』は大きかった。

杏子が的確な言葉を投げかけられない中、
プラス思考を普段以上に働かせたさやかが、代わりに会話を繋げる。


さやか「…それじゃあもうこの先は大丈夫だね。ゼロさんとも仲良くやっていけますよ」

マミ「…?」

 



マミ「仲良く…本当にそうかしら…」

さやか「だってゼロさん、決戦が終わったら元の宇宙帰っちゃうんだよ?
    それにもう一度帰って来た後は、私達もう魔法少女の使命から解放されるわけだし」

さやか「だから別にゼロさんと一緒に戦うことなんて考えなくていいんすよ。
    次に合う時、みんなでどう楽しく過ごすかを考えましょうよ!」

マミ「どう楽しく過ごすか……」

杏子「さやか…」


さやかの考え方に、マミだけでなく傍で聞いていた杏子も納得していた。


マミ(そっか…考える必要なんてなかったのね…)

マミ(確かに、美樹さんの言うとおりかもしれない。私、何で今まで気付かなかっ……)

マミ(……いや)

マミ(まだゼロさんの方法が上手くいく保証が―――)


しかし、解きほぐされかけたマミの心の中で最後の疑心が抵抗する。


マミ「…でも!」

杏子「そう簡単に仲直りできないってんだろ?…わかるよ」

杏子「でもゼロなら…前みたいな関係に戻るのに、そう時間はかからないよ。
   アンタ、ゼロにはほとんどタメ口だったろ?そんだけ気を許してたなら大丈夫さ」

マミ「……え!?」


杏子の突然の指摘に、マミは戸惑いを隠せない。

敵視していた初対面は例外としても、マミは今まで、
二十代の青年に擬態したゼロに対し、言葉遣いを殆ど気にしていなかった。


マミ「嘘…いつの間に…」

さやか「言われてみれば…あのマミさんが年上に敬語使わないってのも珍しいかも」

杏子「さやかの場合、敬語とタメ口入り混じって意味わかんねーけどな」

さやか「いやいや、杏子だって終始タメ口じゃん!」


マミ(ゼロさんにそこまでの安心感を…?)

マミ(別世界から来て、宇宙人で、未来人で、巨人で…信じられない要素の塊みたいな人なのに…)

マミ(それでも…仲間として認めてたのよね、私)


次第に以前のようなゼロへの信頼を思い起こしていく。
やがてマミの疑心は、少しずつ影を潜めていった。

 



説得の最中、地上ではなく空から複数の爆発音が響いた。

この時、魔女の舞い上げたビルをほむらが破壊し続けていたのだが、
彼女達はそれを知る由もない。


さやか「うわ、花火かよ!?」

杏子「いよいよヤバくなってきたのかもな…」

さやか「マミさん、避難所へ急ごう!もしかしたら、ここも戦場になっちゃうかも…」

杏子「動けないなら教えなよ。アタシが担いでく」

マミ「………」

杏子「おい、ボーッとしてる場合じゃ…」


さやかと杏子の二人で、マミの両肩を抱えて立ち上がる。
その間、マミは何かを感じている様子だった。


マミ「二人とも…感じない?」

杏子「何をさ…」

マミ「いいから…」

さやか「…何だろ?」


さやかと杏子が意識を集中すると、ソウルジェムを通して『魔力』でも『呪い』でもない、別の力を感じ取る。

それは、本来ジェムが感知しないはずの強い『光』。
しばらくして『光』は強さを増し、強大なエネルギーを解放した後でその反応を消した。


杏子「まさか…」

マミ「避難の心配、もう必要無くなったみたいね」


『光』とともに、見滝原市全体を包んでいた『呪い』の力が急激に失われていく。

それはゼロとほむらが『ワルプルギスの夜』討伐に成功したことを意味していた。


杏子「やったんだな、あいつら!」

さやか「絶対に勝つって信じてたもんね!」

さやか「…マミさん、『希望』が見えてきたよ!!」


マミ(ゼロさんはそれを本当に示してくれた。言葉だけじゃなくて、その身を以て)

マミ(だったら私も、少しずつでも信じてみようかな…)

マミ(輝く『希望』を…)


内に宿した呪いを振り払ったマミは、二人に微笑みかける。

そして三人は再び屋上に腰を下ろし、市街を見た。

 



マミ「…『ワルプルギスの夜』、倒されちゃったわね。
   貴方の手柄にはならなかったけど、これで大勢の人が救われたわ」

杏子「もういいんだ」

杏子「アタシはただ、アンタともう一度繋がるきっかけが欲しかった。
   また一緒に戦う口実……デカいイベントが欲しかっただけなんだ」

マミ「私と…?」

杏子「ゼロからワルプルギスの話を聞いたとき、これしかないって思ったのさ…」

さやか「でも、イベントが中止になったわけだし、本当の気持ちは言葉で伝えないとねー」

杏子「わかってるって」


今度は自分の『壁』を壊す番なのだと、杏子は照れ臭そうにマミを見る。
伝えることができなかった言葉も、今この場なら言える気がした。


杏子「…ゼロはいつか絶対に、このふざけた仕組みをひっくり返してくれる」

杏子「でも…その