やすな「ソーニャちゃんを無視してみる」(118)

あっさぁぁぁ(アニメのあの声で)

通学路。
前夜に降った雪がくるぶしのあたrまで積もっている。
ソーニャ、一人で歩いている。
そろそろやすなと合流するころだな、と思っている。

ソーニャ「・・・ん?」

しかし通学路を半ばまで歩いてもやすなはやってこない。
いつもなら背後から急接近してきてソーニャに勢いよく挨拶するのだが。
風邪でも引いたかな、と思う。
それともこの積もった雪でテンションがあがってどこかで転んでるのか、と思う。
ありそうだな。ソーニャ自身は気づいていないが口元がちょっぴり笑っている。
なんとなく後ろを振り返ってみる。今まさに駆けて来るかもしれないな、という風に。
10メートルばかり後ろを歩いてるやすなが目に入る。

ソーニャ「(なんだ。いるじゃないか)」

やすなに変わった様子はない。風邪を引いてる感じでもない。
ただクリーム色のマフラーが顔を隠しいているように見える。誰かの視線を遮るかのように。
ソーニャの頭に軽い閃き。なるほど、今朝はそういうことか。

ソーニャ「(大方、私に気づかれないように接近でもして、後ろから襲うつもりだったんだろうな。バカめ)」

やすなの行動パターンは読めているつものソーニャ。毎日毎日、あのバカのバカ騒ぎに振り回されてるからな・・・。
ふふん、とほくそ笑む。今日は私からやすなにアプローチしてみようか、そんな気持ちが湧き起こる。
ソーニャ、やすながこちらに歩いてくるのを見計らって、声をかける。

ソーニャ「どうしたんだ?風邪でも引いたのか?」

やすな、ソーニャのその声を無視して、脇を通り過ぎる。
ソーニャ、停止。

やすな、通学路を進む。
前を見て、雪をさくさくと踏みながら、いつも通りという風に。

ソーニャ「おい・・・」

ソーニャ、やや低めの声が我知らず出ている。思わず手を伸ばす。
肩、に置こうとした手は、すっと空を切る。
肩を掴めずに引きとめられなかった分だけの距離が、ソーニャとやすなの間に生じる。

ソーニャ「おい!聞こえなかったのか!」

通学路に居た他の生徒達や通行人が軽く驚くほどの強い声がでる。
ソーニャ、なんだかイラついた気持ちになる。やすなの悪戯に振り回されている時とは違う、せっぱつまったような苛立ち。
やすな、止まらず。足を動かし続ける。遠く離れる。
ソーニャ、不意に身体が動き出す。
やすなに駆け寄ろうとして、しかし雪に足を取られて、無様にひっくり返る。

やすな、止まる。少しだけ振り返る。
ソーニャ、勢いよく転んで身体が痛くて、雪がとても冷たい。
だがやすなの視線が自分に向けられているのを感じて、他の事はなんだかどうでもよくなるような気がしないでもない。

やすな「・・・・・・(もごもご)

やすなの口元を覆うマフラーがもぞもぞと動いたように見える。
顔をあげる。やすなはもう前を向いている。
足が、動き出す。やすな、転んだままのソーニャから遠ざかる。
ソーニャ、心の中に猛烈な怒りがいきなり炎のように燃え盛るのを感じる。
素早く立ち上がり、雪も払わず走り、今度こそやすなの肩を掴んだ

ソーニャ「や・・・」

何かを言う前に、その手を邪険にふり払われた。
まるで虫にまとわりつかれたかのように。

ソーニャ「何だよ・・・」

やすな「・・・」

やすな、無表情でソーニャを見ていたが、興味を失ったかのように通学を再開する。
ソーニャ、怒りが萎え、代わりによく分からない、何だかしょんぼりしたような気分になる。
やすなの後ろをやや離れてついていく。

言葉もないまま、学校につく。

ひーるやーすみー(あの声)

結局、昼休みまでやすなとの間に交流はない。
やすな、授業中はじっと黒板のほうを見つめて勉強に励み、休み時間もふらりと何処かへ行き、ソーニャには一瞥もくれない。
ソーニャ、何だかこちらも依怙地になり、決してやすなの方へと視線を向けない。
(ふん・・・やすなの奴、どういうつもりだ?いつもは鬱陶しいぐらいにまとわりつくくせに。なんだ、そういう遊びか?)
(あえて私を無視しているのか?それで私の反応を見て楽しもうという、そういう遊びか?)
(ふん。まぁ、やすなの、考えそうな、ことだな?)
(別に私にそんなふざけた遊びに付き合う義理はないんだが・・・まぁしょうがないな、やすなに、あえて、付き合ってやろう)
(あえて。そうあえてだ。いつもの私なら、やすなが何か遊びに誘ってきても、まずはそれに反発してみた。文句をつけてきた)
(でもまぁ、たまには・・・何も言わずに、やすなにどういうつもりなのか、問いたださずに、付き合ってやろう)
(他意は、ない・・・)
ソーニャ、そんなことをぐちぐち考えながらいつの間にか昼休みになっていることに気づかない。


実はクラスメイト、いつも周りが這入りこめないぐらいに仲良しの二人が今日は一体どうしたんだ、
喧嘩でもしたのか、とざわざわしているが、それは別の話。

やすな、席を立つ。右手には無地の水色のハンカチにくるまれた弁当。
ソーニャ、思わず時計を見上げ、今が昼休みだと知る。
やすな、教室のドアを開けて廊下にでる。
ソーニャ、その背中を何もせずに見送る。昼食をとりにいくんだな、とぼんやり思う。
教室、開放的なざわめきに溢れている。
ソーニャ、自分も鞄から弁当をとりだす。といってもコンビニで買ったカツサンドだが・・・。
サンドイッチの包装を開けようとして、今日は一人なのか、と思い、なぜ一人なのかと言えば、
やすなに無視されているからだと思い、すべての動きが止まる。

ソーニャ「(やすなに・・・無視されている・・・?)」

無視。
ソーニャ、その言葉の意味を考える。
人が無視されるのはどういう状況だろうか?
という問いに、真っ先に浮かび上がってきた答えは。

ソーニャ「(嫌われているから・・・?)」

ごん、と大きな音がした。
クラスメイト、びくりと震えて、音源に目を向ける。
頭の両脇に結った金色のツインテールが特徴的で、白い肌と冷たい青い目がとてもクール、
ミステリアス雰囲気で人をなかなか寄せ付けず、だが折部やすなとは微笑ましいぐらいn仲良しな美少女が、
机に顔面を押し付けて震えている。

ソーニャ「(・・・・・・・!!!)」

ソーニャ「(やすなに・・・嫌われている・・・?)」

ソーニャ、そう思うだけで何故か心臓が早鐘を打った、脈が乱れた、背筋がわざわさした。

ソーニャ「何故だ・・・)」

その何故だは、何故やすな如きにまぁ嫌われたぐらいでこんな風に取り乱しているのだの何故だであり、
何故私はやすなに嫌われてしまったんだの何故だであり、つまりはとっても心が痛くなる何故だなのであった。

ソーニャ「(待て・・・遊びの可能性もあるぞ・・・さっき私が自分で考えたように・・・)」

思い浮かべる。
やすな『そーだ!ソーニャちゃんを無視したらどういう反応が返ってくるか試してみよう!』
やすな『ははぁん。ソーニャちゃんったら、慌てちゃうかも。私に嫌われちゃった、なんて思っちゃったりして!』
などと楽しそうに言っているやすなの姿があまりにもリアルに想像できる。

ソーニャ、ほっとするぐらいに身体の力が抜ける。そうだ、そうに違いない。これは遊びだ。やすなのいつもの気まぐれ、
しょうもないイタズラ。私がため息をつきながら、あきれながら、それでもしぶしぶ付き合って、最後にはドーンとぶん殴っておしまい。
いつものパターン。いつもの日常のありふれた光景。ソーニャの心に平穏が戻る。
落ち込んでいた体勢を直し、しっかりと頭をあげる。
ふぅ、私としたことが、危うくやすなの思惑にはまってしまうところだったな、と思いながら、
昼食を再開しようとして、カツサンドは右手の中で握りつぶされている。

ソーニャ、若干落ち込みながら、手を洗い、飲み物であるジュースだけを飲んで昼食を終える。
やすな、昼休み終了5分前の予鈴がなったところで戻ってくる。
ソーニャ、ちらりとやすなに目を向ける。今朝と同じ無表情。冷たい表情、とも言える。
こいつにこんな顔は似合わないな、とナチュラルに思う。ナチュラルすぎて自分でも気づかない。
やすな、自分の席に座る。弁当箱を鞄にしまい、教科書をとりだす。次は英語。
ソーニャ、ふふんと内心でほくそ笑む。むしろこいつは。
むしろこいつは、やすなは、私がこの『無視ゲーム』に対して反応を見せないことに戸惑ってるはずだ。
なかなか堂に入った無表情だが、なに、すぐに崩れるさ。放課後になるころには辛抱を切らすか、
ゲーム自体に飽きて、いつも通りに、ソーニャちゃーん、なんて馴れ馴れしく話しかけてくるはずだ。
私は殺し屋なのにな。むしろ私がやすなを無視するべきなんじゃないのか?そうだ、そうしたら今度は私が無視してやるのも面白いな。
ふふっ。

ソーニャ、真相を看破したような気分なので鷹揚と構えている。
昼の授業開始の鐘、教師が入ってくる。
授業開始、しばらくして教師が告げる。

教師「隣の席の人とお互いに、英語でしゃべってみてください」

ソーニャ、停止。

クラスメイト、それぞれの相手と向き合い、教科書を片手になんだか微笑ましい英語トーク。
そんな和やかな雰囲気の中、しーんと静まり返った一画。
ソーニャ、何も考えられずに停止したまま、横目でちらちらとやすなを伺う。
やすな、じっと前方を見つめている。
ソーニャ、先ほどまでの余裕はどこへやら、どうするんだどうするんだ、でも授業だしな、などとわさわさ考えてる。
このまま黙っててもしょうがな、授業態度に問題があってはいけないだろう、うんそうだ、意を決しやすなに声をかける。

ソーニャ「や・・・」
やすなはそれを待っていたかのように席を立つ。ソーニャの方を見向きもせずにすたすたと歩くと、
ある一人のクラスメイトに声をかける。
やすな「ねぇ、一緒にやらない?」
そのクラスメイトも隣の席の人が欠席していたので相手が見つからなかったのだろう、すぐに頷く。
やすなとクラスメイト、楽しげにお互いに拙い英語でしゃべりはじめる。

ソーニャ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

ソーニャ、しょんぼりした様子で帰りの道を歩いている。
夕暮れの太陽の光がなんだか切なくソーニャの影を伸ばしている。
結局、英語の相手は、一人で呆然と席に座ったままのソーニャに声をかけた教師だった。

やすなは笑っていた。あのクラスメイトと一緒に。
今日、決してソーニャが見ることがなかったあの笑顔。
聞くことのなかったあの声。
それをあのクラスメイト(名前は・・・知らなかった)に向けて・・・。
そのクラスメイトといえば、いいの?という戸惑った表情をソーニャに時折、向けていた。
こうして自分がやすなの相手をしていていいのか、それはソーニャだけの役目なのでは、と言いたげなその目に、
しかしソーニャは何と答えればいいのか分からず、ただ下を向いていただけだった。何かに耐えるように。

ソーニャ「(やすな・・・)」

授業が終わると、やすなはすぐに教室を出て行った。
ソーニャちゃーん、なんて声をかけてこなかった。
それどころか一瞬でもソーニャを観ようとすらしなかった。
ソーニャは悟った。

ソーニャ「(私はやすなに・・・嫌われてしまったんだ)」

ソーニャ、しかし心当たりは無い、と思う。
何か嫌われるようなことをしてしまっただろうか。
思い返してみる。
回想は5秒で終わる。
心当たりしかなかった。

真冬だというのに、全身から汗が噴き出そうだった。

やすなを殴った記憶ばかりが脳裏を流れては消えていく。やすなの親しげな言葉を鬱陶しいと
無遠慮に切り捨てている自分。名前を呼びかけられても面倒くさげにしか答えない自分。やすなの
持ってきた玩具をバカらしいと壊す自分。ただ朝の挨拶をしようとしただけのやすなの腕を脱臼させている自分。
ナイフなどの凶器を得意げに振り回してやすなを怖がらせている自分。殺し屋なんかダメだよとおちゃらけた
態度の下で本気の心配をしていたやすなを邪険にあしらってた自分。

ソーニャ、自分で自分の事をこいつは酷いと思う。
嫌われて当然だ、とも。

ソーニャ「(いやだって・・・やすな、うざいしなぁ・・・)」

やすなが鬱陶しいのは事実だ。周囲の目も何も気にせずに無遠慮に大きな声で人の名前を呼ぶし、
こっちの気分などお構いなしで子供じみた遊びに付き合わせようとするし、それを拒否すればやっぱり
子供じみた挑発をしてきてイラッとさせるし、じゃあ遊んでやるかとなると大抵はロクな結果にならない。
というか殆ど私だって酷い目にあってきただろう。池に落ちたり、犬に追い掛け回されたり、落とし穴に転落したり・・・。
ソーニャ、私がやすなを、ぞんざいん扱ってしまうのも当然だ、と思う。
ソーニャ、でも・・・と思う。

でも、何だろうか。
次に続く言葉。
それは。

ソーニャ、前方不注意により、朝と同じように雪に足をとられて転ぶ。

ソーニャ、雪に全身を埋めたまま、なんだか起き上がる気がせず、そのままでいる。
雪。
ソーニャ、もし今日がいつもと同じ日だったなら、と思う。
やすなはきっとこの雪を使った遊びに、私を誘ったんだろうな。
雪合戦か、雪だるまを作ろうと言い出すか、やすなは手先が意外に器用だから、
雪で何か別のものを作るかもしれない。きっと私を呆れさせる何かを作って、私はそれに実際に呆れてみせて、
やすながバカな事をして、私はそれに怒って、なんだろう、雪玉を思いっきり投げたりするのだろうか、そして投げ合いになって、
お互い雪まみれになったところで、なんだか笑えるようなおかしな気分になる、でも私はそれを顔に出さないように冷静に振る舞って、
最後にはうざったいやすなに痛い目を合わせるのだ。そこでやすなが、うぅ酷いよソーニャちゃん、と言って、ここで私は初めて
ニヤリと笑って見せる。お前はバカだなという風に、本当は。

本当は。
ソーニャ、目元に水のような感触。
ソーニャ、顔についた雪が溶けて水になって、目元から流れていくに違いないと思う。
その液体の、雪解け水ならばちょっと考えられないような温かさ、熱さはあえて無視する。

ソーニャ、雪積もる地面に倒れこんだまま、だんだん身体が冷たくなっていくのを感じる。

不意に頭の後ろに衝撃。

ざらざらした何かが髪の毛にからみ、耳の穴のはいり、頬を伝って顔を滑り落ち、服の隙間から背中に侵入してくる。
そして冷たさがざらざらに触れた部分に襲い掛かってくる。
雪だ。
ソーニャ、瞬時に跳ね起きて、とりわけ背中に入った雪に四苦八苦する。
誰かに雪をぶつけられたのだ、と頭がおいつくと、辺りをきょろきょろと見渡す。

ソーニャの前方5メートルぐらいにいる。
地面からすくった雪を両手でぎゅっと丸めている、やすなを発見する

ソーニャ、今日何度目かになるか分からない呆然とした顔、そのど真ん中にやすなの放った雪玉、二発目が命中する。
ぐらり、と身体が傾ぐ。が、何とか踏みとどまる。
頭を振ると髪に付着した雪が、夕暮れの光をあびる。金色の髪がキラキラと光っているみたいだ。
やすなはすかさず三発目の雪玉の製作にとりかかるべく、足元の雪をすくおうとして、ソーニャが怒鳴る。

ソーニャ「おい!何のつもりだ!」

見れば、顔から足元まで漏れなく全身雪まみれだ。ぶるぶると頭をふる姿は子犬を連想させて、やすなは思わず、ぷっ、と吹き出す。

ソーニャ、何が何だか分からないけれど、だけどなんだろう、やすなのそういういつも通りの憎たらしい顔を見ていると、
ははぁこいつはどうやら私にぶっ飛ばされたいようだな、とこちらもいつも通りの怒りが湧いてくる。
本当にいつも通りのあの感じ。言いたいことはあるけれど。

ソーニャ、すかさず足元の雪をかき集めて素早く雪玉を作る。

やすな、慌てて自分も同じようにする。
ほぼ同時に雪玉を完成し、ほぼ同時に投げられ、しかし命中するのはソーニャの剛速球だけ。

やすな、後頭部から勢いよく倒れこむ。
ソーニャ、あ、と声を漏らす。
やすな、立ち上がる。
ソーニャ、内心ドキドキだが、顔は、ふふん、という感じ。
やすな、ちょっと間を置いて、そして満面の笑みを浮かべると、

やすな「やったなーーー!ソーニャちゃーーーーん!!」

下から上へと両手を振り回し、除雪車のようにソーニャに雪をばら撒いてきた。
ソーニャ、あとは言葉にならず、やすなと遊んだ。

ゆうがたぁぁぁ(アニメのあの声で)

場所、川沿いの広場のベンチ。
二人、遊び疲れてベンチにお互いの身体を寄せ合うようにして座っている。
服越しに、身体の柔らかさと仄かな体温が伝わってくるが、荒い息を整えるので精一杯でそれどころではない。

雪玉をさんざん投げ合った後、めぼしい雪を投げつくしたのに気づいた二人は場所を変えると、雪がまだ誰にも踏み荒らされていない
この広場を発見、テンションがハイになったやすなは哀れな新雪を転がることによって蹂躙した。その転がる動作から雪だるまの製作を思いつき、
ソーニャちゃん、雪だるまつっくろーよっ!と声をかけ、やれやれやすなは子供だな、というお約束のような事をいうソーニャと一緒に雪だるまを
6つ作成した。作成している最中、やすなのどうしようもない思いつきと気まぐれ、それに対するソーニャの手痛いツッコミ(ナイフは出さなかった)によって作業はしばしば中断、
そしてようや製作が終わり、6つは作り過ぎだよぉ!いくらなんでも!とやすなが自らツッコミをいれたところで体力が空っぽになる。

でもちょっと微笑むぐらいの体力はあった。

やすな「ソーニャちゃん・・・ニヤニヤ笑っちゃって。どうしちゃったの?」
やすな「はっ、もしかして!そんなに雪だるま作るの楽しかったんだ!ははーん、ソーニャちゃんてば子供だなー!」

ソーニャ、その快活なやすなの言葉になんだか嬉しくなりながらも、腕を極めた。

やすな「いたたたたたたた!ごめんなさいごめんなさい!」

腕を極めながら、ソーニャは今更のように気づく。
やすなの服装、コートを着込んでいるので離れているときは分からなかったが、コートの下は制服ではなかった。
ソーニャも何度かしか見たことのないやすなの私服。
一度、家に帰ったの「いたたたたソーニャちゃん腕放してよぉ!」だろうか?とりあえず腕を放した。
やすな、ふーっふーっと大袈裟に腕に息を吹きかけながら、くそぅくそぅ、と小声で毒づいている。
ソーニャ、率直に聞いた。

ソーニャ「お前、一回、家に帰ったのか?」

やすな、その言葉に、?、を頭に浮かべた。
何を言っているのか分からないと言う顔。
ソーニャ、不意に物凄く嫌な予感に襲われた。
なんだろうか・・・私は何かとんでもない馬鹿げた勘違いをしていたような・・・。
それでも聞いた。

ソーニャ「お前・・・制服をどうしたんだ?」

やすなは今日一日を引っ繰り返した。

やすな「制服?今日は学校に行ってないから来てないよ?あ、言ってなかったっけ。風邪ひいてさ、家で寝てたんだよ!」

ソーニャ、頭の中に数えきれないぐらいの、まさか、の言葉が躍る。
まさか。
あのオチか。
まさか・・・。
今日これまで一度も姿を見せなかったあいつか?
あいつが。まさか。でもそんな。いいのか?そんな安直な答えで。

ソーニャ、とんでもなく険しい顔で沈黙する。
やすな、それに気づかず今日の己の行動を説明する。

今日朝起きたらちょっと体調が悪かったんだ。昨日の夜、アイスを食べまくったのがいけなかったのかも。でも炬燵に入りながら食べるアイスって美味しいよね。
でも窓から外を見ればもう一面の銀世界!これは学校に行かねば、と準備万端で家を出たのはいいんだけど、いつもソーニャちゃんと合流するあたりの
ちょっと手前で倒れちゃって、頭もなんだかふらふらするし、あーどうしようかなーって、でも雪が冷たくて気持ちいいなーって思ってたら、
大丈夫ですかー
って声をかけられて。

ソーニャ、心の底から聞きたくなかったけど、聞いた。

ソーニャ「・・・・・・・・誰に?」

やすな「え?あぎりさんだけど」

ふざけるな、とソーニャは思う。
時間を返せ、という気分になる。

あぎりさん、偶然通りかかったんだって。それで家まで運んでもらって、ベッドまで付き添ってもらっちゃって、
それであーもう学校にいけないなー、ソーニャちゃんと遊べないなー、そういえばソーニャちゃんであれやってみたかったなーって、
自分でも気づかないうちに独り言を言ってたみたで、あぎりさんが、

あぎり「あれってなんですかー?」

って聞いてきて。こう言ったの。

 ソーニャ、どっと疲れる。いやもう本当に疲れたとう感じ。
 やすなが何て言ったか?それはもう分かっている。

やすな「ソーニャちゃんを無視してみようかなーって」

あぎりさん、首を傾げて、なんで無視するんですかーって聞いてくるから、うーん、なんでっていうか、
昨日アイスを食べながら何となく思いついたことだからよく分からないけど、

やすな「ソーニャちゃんがどんな反応するのか見てみたいかなー・・・」

って、そしたらあぎりさん、分かりましたーって部屋を出ていって、何が分かったんだろうって思ったけど
そこで疲れて寝ちゃって、それで起きたらもう夕方で、なんだか身体の調子もいいし、これは雪で遊ばなければ!
って外に出て歩いてたら、なぜかソーニャちゃんが倒れてて、思わず頭に雪をぶつけちゃった。ごめんねソーニャちゃん。

 ソーニャ、どうやらあの時、私は無意識のうちにやすなの家のあたりを目指していたらしい、と思う。

ソーニャ、あの忍者に良いように踊らされていたなんて、と深く落ち込む。
今思い返してみれば、今日の学校でのやすなには違和感をずっと覚えていた。
たぶん・・・。
マフラーで顔を隠していたとか、声をソーニャに聞かせようとしなかったとか、関わってボロを出さないようにしてたとか、そういう感じの・・・。
ただ、私は。
通学路でやすなに無視されたときに、私はきっと酷く動揺してしまったんだろうな、と思う。
正確にはやすなに化けたあぎりだが・・・。
それで今日はずっと戸惑って、悩んで、迷って、馬鹿みたいに落ち込んで、空回って。
強がって。
そして英語の授業の時の、あれで、私は決定的に。
決定的に・・・。ソーニャちゃん?

ソーニャ「え?」

やすな「ソーニャちゃん・・・どうしたの?」

鼻がくっつきそうなほど間近にやすなの顔があった。

ソーニャ、顔が真っ赤なのは、そろそろ沈みかけた太陽の今日最後の光に染められているからだろう。
やすなも同様。
ソーニャ、さりげなく頭を後ろに引いた。

ソーニャ「お前、倒れている相手に雪をぶつけるなよ」
やすな「うっ。ごめんね、ソーニャちゃん。痛かった?」
ソーニャ「冷たかった。背中にもろに入ったからな」
やすな「どれどれ」
ソーニャ「あ?」

やすな、ソーニャの背中に腕を回して、コートの上から背中を撫でまわした。
自然、さっきよりも二人の距離は近くなる。やすなの頭は今、ソーニャの頭のすぐ横にあり、顎は肩に載っている。
ソーニャ、その抱きしめられているような体勢に、髪の毛が跳びあがりそうになる。

やすな「どう?溶けた?あたたかくなった?」
ソーニャ、答えられない。
ただ己の頬にあたるやすなの髪の意外なほど柔らかさしか考えられなかった。

やすなの、背中を撫でさする手は止まる。
ソーニャ、ほっとする。なんだか危なかった気がする。
不意に二人とも押し黙り、静けさが訪れる。
ソーニャ、私もやすなの背中に手を回した方がいいのかな、と思うが、ちょっと手が動くけれども、
それは出来ない、とぐっと手を下ろす。

やすな「ねぇソーニャちゃん?」
ソーニャ「・・・何だ?暑苦しいから、離れろよ・・・」。風邪がうつる」
やすな「本当に無視しちゃったどう思う?」
ソーニャ「・・・ふん。お前にはさんざん迷惑をかけられてるからな。せいせいする・・・かもな」
やすな「えー酷いよー」
ソーニャ「間違っても怒ったりなんかしない。落ち込んだりもしない」
やすな「ソーニャちゃんらしいねー」
ソーニャ「・・・できるものならやってみろ。無視してみろ」
やすな「あはは。やんないっよ!」

やすな、ぴょんという風にソーニャから離れる。
それからニンマリと笑う。

やすな「じゃあねソーニャちゃん!また明日。・・・今日はごめんね」

え、と思う間もなくやすなは広場の外へと向かっていく。
その背中は暗さに紛れてすぐに見えなくなった。

・・・気づけば雪が再び降り始めていた。
ソーニャ、やすなの背中が消えて行った方をじっと見つめている。
その先には夜の黒さしか無い。
ソーニャ、少し考える。
果たして今日のやすなはあぎりが化けたものだったのか、
あるいは誰も化けてなどおらず、本物のやすなだったのだろうか、と。

あぎり化けていたのだとしたら、まぁ風邪を引いてダウンしたやすなの意を汲んだ、というかあの忍者らしい悪ふざけだろう、
私の無様な姿を見て笑っていたのだと思うと殺意めいた感情が沸き起こってくるが、まぁいいだろう、などなどと思う。

では本物のやすなだとしたら?
どういう意図があって?
何故?
・・・分からない。

ソーニャ、さっき抱きしめられた時の事を思い出し、なんだか顔が暖かくなるのを感じる。
・・・最後、やすながソーニャから離れる間際、やすなはソーニャの耳元に、ぼそっ、と小さくこういったのだ。

やすな「・・・はっきりしないソーニャちゃんが悪いんだよ・・・」

ソーニャはベンチから立ち上がり、歩き出した。
今日のこれは、やすなの仕返しだったのかもしれない。
だが仕返ししてはちょっと辛かった。痛すぎた。
それを認めよう。
私はやすなに無視されて辛かった。
嫌われたと確信した瞬間は決定的に傷ついた。
その後、帰り道でやすなの笑顔が自分に向けられているのを知ったとき、大いに胸が暖かくなったのを。
というわけでソーニャは密かに誓う。

やすなが無視という強硬手段をとってまで必死にソーニャに伝えたかったこと。
今日、今、己の胸にあるこの暖かさも。
そしてやすな自身を。

明日、一日ぐらいは、無視してやろうか、と。

その傑作な思いつきに、ふふんと笑いながら、ソーニャは自分の家に向かって歩き続けている。

終わり

なんて酷い出来栄えだ
安易な思いつきでSSなんて書くもんじゃねーわ
寝る
寝る

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