兄「一週間お前と結婚することになった」妹「え……?」(166)

兄「一週間お前と結婚することになった」
妹「え……?」

突発で書きためなんもないから遅いです

兄「俺たちの家【高濱家】は、知っての通り少しは名の通った家だ」
妹「そりゃ、しってるけど……」

兄「そしてその分家【高座宮】【竜宮橋】【慰山城】【城野口】から、婿または嫁を貰うことになっている」
妹「知ってるけど……」

兄「そして今現在、なんと……」
妹「なによ?」
兄「その全ての家の子が女性という事態に陥った」
妹「え、えええ……」

兄「【高濱家】のしきたりで、女性は十六で必ず結婚しなければいけないことになっている」
妹「そ、それで……」
兄「例外処置として、こたび俺とお前が結婚することになった」
妹「えええ……」

妹「あれ?でも一週間ってどういうこと?」
兄「このたび、めでたく【城野口】から男の子が生誕することになった」
妹「へえ。……ちょ、ちょっと待って……」
兄「お前の将来の花婿だ」
妹「……いい加減にして」

妹「私、今日で十六なんだけど」
兄「そう、そして【城野口】の赤子が生まれるまで、俺と形式的に結婚するわけだ」
妹「犯罪じゃないの……いろんなところで……」

そしてなんだかんだで……


リンゴーン
神父「永遠の愛を誓いますか?」
兄「誓いませんが誓います」
妹「ち、ちか……え、ええぇえー……」


二人は無事式を開きましたとさ

兄「綺麗だぞ妹」
妹「ありがと……私は結構死にたい……」
兄「なぜ?」
妹「こんな綺麗なウエディングドレスを着て熱いキスを交わすのが兄だなんて死にたいです」
兄「ふむ。正直俺もすごく虚しい気持ちだ」
妹「だよね……」
兄「だが安心しろ。一週間後には本当の花婿と出会える」
妹「……私どうするんだろ、この状況」

結婚一日目


妹「はい貴方、夕食」
兄「ありがとう」
妹「今日もお勤め御苦労さま」
兄「有能な部下共に偉そうな顔をしていただけだけどな」
妹「今日はシチューです」
兄「ありがとう」
妹「……なんだか、いつもと変わらないね」
兄「あくまで形式だからな」
妹「そっか」

妹「あ、食器は私が片付けるって」
兄「一緒に片付ければいいだろう」
妹「ん、じゃあ、食器拭くのよろしく」
兄「任された」

深夜


妹「……あのさあ」
兄「ん?」
妹「なんで、同じ布団で寝てるの?私たち」
兄「夫婦だからだ」
妹「あ、そう」
兄「まさか欲情するわけでもないだろうに」
妹「それは無いけど。…………」
兄「どうした?」
妹「……なんでもない」

二日目


妹「お?今日はお仕事休みなんだ?」
兄「うむ」
妹「どったの?別件の用事?」
兄「ああ。今日は、お前の婿に会いに行く」
妹「え」

行間1行分あけてくれると見やすいな

屋沙部中央病院――

白いソファに、腹が異常に膨れた綺麗な女性が座っていた。
物静かで、肩まで伸ばした黒髪が異様に美しい。

兄「こんにちは」
女性「あ、こんにちは。久しぶりね」
妹「こ、こんにちは」
兄「紹介しよう。こちら、城野口 静葉さん」
静葉「始めまして、妹さん」
妹「ど、どうも……」

>>20
了解

妹(この人のお腹にいる子が私の花婿……)

妹(じ、実感湧かない……)

妹「あ、あの」

静葉「はい?」

妹「お腹に触れてもいいですか?」

静葉「ふふ。どうぞ」


胎児が宿った腹は微かに温かい。
ふと、気付いた。己の腹を見降ろす静葉は何故か悲しそうな表情だった。

兄「どうだった?未来の花婿は」

妹「実感湧かない……」

兄「そうか……。ま、少しずつ触れ合えばいいさ」

妹「…………」

兄「どこか寄ってくか?」

妹「いや、帰ろう」

兄「そうか……」

深夜


妹「……ねえ、兄」

兄「なんだ?妹」

妹「思ったんだけどさ、彼女の子が生まれたとしても、後継者が生まれるのってずっと先じゃない?
  精通っていつよ?」

兄「……今日はもう疲れた。寝よう」

妹「そう?……おやすみ」

翌日


兄「……すまんな」

妹「は?」

兄「すまんな、妹」

妹「……急に、なに?どったの?」

兄「……いや。……すまん」

妹「いや、だからなに――」

兄「時間だ。仕事に行ってくる」

妹「え、あ、うん。行ってらっしゃい……」

兄の態度が気になった。
ふと、静葉さんに話を聞いてみようと思い立った。使用人に住所を訪ね、静葉さんの家にお邪魔することに――。


妹「あ、こんにちは」
静葉「こんにちは、妹さん。どうぞ上がってくださいな」
妹「ありがとうございます」
静葉「…………」


静葉の表情は、なぜかぎこちない。

静葉「今日は、なんの御用で」

妹「まあ、将来の花婿のことをちょっとでも知っておこうと」

静葉「そうですか。ありがとうございます。…………。……随分、自然体なんですね」

妹「え?」

静葉「普通、こんな理不尽な婚約、反発するものかと。……過ぎた言葉、お許しください」

妹「……私も、【高濱家】の者です。今までさんざその恩恵に授かってきました。それくらいの理不尽、受け入れますよ」

妹「まあ、嘘ですけど」

静葉「……ふふふ」


静葉は出会って初めて、自然に笑ったように思えた。

妹「この婚約になにか裏があるのは明白です。兄の態度からも、あなたの態度からも分かる。
  ……なにを隠しているのです?」

静葉「……あと五日。今日を入れて」

妹「は?……ああ、婚約までの期間ですか」

静葉「はい。…………」

妹「…………」

静葉「すみません妹様……。今日はこれでお引き取り願えないでしょうか……?」

妹「……分かりました」


どうにも、きな臭い。




兄「ただいま」

妹「おかえり。今日はオムライスです」

兄「おお、珍しいな」

妹「自信作です」

兄「そうか」

兄「……上手いな。凄いな、なんだこれ。ケチャップが少なめで、でも今まで食べたどのオムライスよりも美味しい」

妹「へへ、自信作って言ったでしょ?」

兄「ああ、凄い」

兄「ごちそうさま」

妹「はい、お粗末さま」

兄「風呂に入ってくる」

妹「はい」

婚約者といえど形式上のもの。風呂も別々で寝床に付いた。
二人、適当にどうでもいい雑談しながら。
…………。


妹「……なあ、兄」

兄「なんだ?妹?」

妹「愛ってさ、SEXって意味かな?」

兄「……え?」

妹「あのさ、昔、街の大きな祭りに二人で脱走したこと、覚えてる?」

兄「……ああ、覚えてる。お前は本当に祭りというものに憧れていたからな。俺が連れ出したんだ」

妹「あのとさ、ほんと、楽しかった。周りでカップルとかがイチャイチャしてるんだけど、私のほうが絶対幸せだって、すごく自慢したい気分だった」

兄「…………」

妹「はしゃいで、兄の忠告無視して走り回ってさ。ほんと、楽しかった」

兄「…………」

妹「あのさあ、いままで言えなかったけどさあ、最初に『兄と結婚する』って聞いた時、まんざらでもなかったよ」

兄「…………」

妹「そりゃ、結婚式でウエディングドレス晒したりキスしたりしたのは虚しい気分になったけどさ、でも」

妹「兄とずっと一緒にいれると思ったら、まんざらでも、なかったよ」

兄「…………」

妹「急だと、思うか?」

兄「え?」

妹「急だと、思う?いきなりこんなこと言うの」

兄「……そりゃ、いきなりって言うくらいだから、急に感じるだろ……」

妹「だよね。……なあ、兄。愛ってさ、SEXって意味かな?」

兄「…………」

兄「…………」

妹「このままでもいいって、思うんだよね。今日さ、静葉さんに会ってきた」

兄「!」

妹「でも、正直、駄目だよ。やっぱり、駄目、としか思えなかった。色々、ね」

妹「なあ、兄」

妹「私と、駆け落ちしてくれないか?」

兄「…………」

妹「兄」

兄「…………。……ごめん。それは、できない」

妹「…………」

妹「……そっか」

兄「ごめん」


当然、今は夜で、辺りは暗闇だ。
だけど、確かに見たような気がした。
兄の目から濁々と流れ落ちる涙を。


兄「ごめん……」

妹「…………」


兄は顔をあちらに向けてしまった。
……この件には、やはり何かがありそうだ。
兄はその後も、私に謝り続けた。

婚約まであと四日。

今日も静葉さんの家にやってきた。


静葉「あら、妹さん。いらっしゃい」

妹「お邪魔します。…………」

妹「静葉さん」

静葉「はい?」

妹「単刀直入に問います。今回の婚約には、なにがあるのです?どんな裏が、あるのですか?」

静葉「…………」


静葉は膨れた腹を撫でて黙りこんだ。

静葉「…………」

妹「べつに、糾弾するつもりは無いんです。ただ、知りたい。婚約というのは、本当に、大切なことですから……」

静葉「…………」

静葉「……ごめんなさい」


静葉は、ただそう言って私に謝った。
彼女は、いきなり私に抱き付いてきた。


静葉「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい――」


謝り続ける彼女。どこかでこの様子を見たことがあると思ったら、昨日の兄にそっくりだった。


静葉「でも、でも――」

妹「でも?」

静葉「う、ぐ、ごめんなさい……」


どうやら今日は話にならないようだ。
明日なら、真相を聞き出せる気がする……。

婚約まで、あと三日――。

もう三度目となる静葉さんの家の居間は、沈痛な沈黙に支配されていた。
私はおそらく何時間でも黙っているし、静葉さんも覚悟が整うまで何時間でも黙っているだろう。

昨日の兄は終始沈んでいた。
いや、本当は気付いていた。
婚約の話を持ち出したときから、兄はどこか沈んでいたことには――。

今、事の真相が明らかになる。

静葉さんは、いきなり切り出した。

静葉「この子は、この腹の中の子は」


静葉「兄さんと私の子です」


妹「」「」「」「」「」「」「」「」

蒼白になる意識。
しかし容赦無く静葉さんの追撃は続く。

静葉「兄さんとは、一年と半年前から関係がありました。恋人同士でなければ、もっと長い間……」

妹「…………」

静葉「……【高濱家】の仕来りを知っていますか?」

妹「……ええ」


当たり前だ。
私の家だぞ。
だが。
駄目だ。
駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ。

静葉「【高濱家】の十六歳の女子は、子を成さなければいけない。その相手は――」

【高濱家】の子は、子を成さなければいけない。
その相手は。

婚約者。

当たり前だ。

しかし今は状況が少々――いや大分に複雑。

第一候補。
兄。
現在の婚約者。


第二候補。
兄の子。
未来の婚約者。


そして第三候補。
……静葉さん。
生まれた男児がなんらかの理由で子を成せない場合、その母親が種となる。
昔ならいざ知らず、現在は女性同士での種の確率も保障されている。近い血による奇形児の可能性を訴えれば、その案は通るであろう。


つまり。
兄か、兄の子か、兄の嫁か。
その三人の一人から、私は選ばなければいけない。
あと三日で。



私は卒倒し気絶した。

目覚めた私を静葉さんは抱きしめ、「ごめんなさい」と何度も繰り返した。

彼女の腹が妙に温かかった。

夜。
私は、布団に突っ伏していた。

兄「ただいま」

兄が帰ってきた。

兄「…………」


布団に突っ伏す私を見て、兄は全てを悟ったようだ。


兄「すまん。……すまん」

妹「いいよ。人を愛すのは罪だけど、罰じゃあ、無い……」

兄「…………」

兄と交わるか。

兄の子と交わるか。

兄の嫁と交わるか。


究極の選択だった。

妹「兄はさ、彼女を愛してる?」

兄「……ああ。愛してる」

妹「そっか。後悔、してる?」

兄「……してないんだ」

妹「そっか……」

兄「……でも」

妹「でも?」

兄「……ごめん」


兄は、膝から崩れ落ちた。


兄「ごめん。後悔はしていないけれど、……いや、後悔しているのかもしれない……」

妹「……そう」

中出し君。
そう呼んでやろうかと思ったけど、やめた。

妹「人を愛すのは罪だけど、罰じゃあ、無い」

駆け落ちはできないらしい。静葉さんがいるから。赤ちゃんがいるから。

そして、【高濱家】だから。

一度でも探偵に追われた事のある者なら分かるだろう。人を探すなんてこと、たやすい。

赤ちゃんというハンディがあるなら、なおさら。

…………。

私が決めなくてはいけない。

妹「兄」

兄「……なんだ?」

妹「キスしてよ」

兄「……え?」

妹「……あ、ああ」


結果は分かり切っていた。

ちゃんとキスした。
舌も入れてくれた。

感想。
微妙な気分になった。
気分が落ち込んだ。

見ると、兄もおそらく私と同じ顔をしていた。
……だよね。

妹「決めた」



妹「私は」

妹「あなたの子と結婚する」

兄「…………」

兄は何か言おうとしたけれど、何も音にならなかった。

妹「決めた」

兄「…………」

兄「お前は、それで、いいのか……?」

妹「あのさあ」

私は、自分でも吃驚するくらいに自然に笑えた。

妹「誰でも、幸せになる権利はあるんだって」

兄「…………」

妹「兄がなにしたよ?愛する人を愛しただけでしょ?兄は、静葉さんと手を繋いで、幸せだった?」

兄「…………。ああ、幸せだった。幸せだ」

妹「じゃ、いいじゃん」

兄「でも、それでお前が……」


言いかけた兄の尻を、思い切り右足で蹴り飛ばした。

妹「私が不幸になるなんて、まだ決まってないでしょうが」

兄「…………」

妹「勝手に決めつけないで」

兄「……しかし」

妹「あのさ、兄」

兄「……なんだ?」

妹「私が、あなたの子を不幸にすると思う?」

兄「……いや。それは、想像もつかない」

妹「あなたが幸せなら、あなたを思う私も幸せ。そういうものだと思う」

兄「…………」

妹「任せろ。私は幸せになるよ」

兄「…………」

妹「だから、兄も幸せになっていいんだって。でしょ?」


私は、精一杯の笑顔を取り繕って言った。
崩れた兄を抱いて、私は涙を我慢した。

あの子は幸せにする。
……ただ。
兄は、駆け落ちはできないと言った。
当たり前だ。
……愛は、SEXという意味なのかもしれない。
そう思った。



十六年後――。

私は32歳になった。

静葉さんと兄の子、荘は16歳になった。

あと二年で、私と荘は結婚し、子を成す――。

荘「なあ、姉貴」
妹「んー?」


バニラアイスを頬張りながら、荘のほうを見やる。
父親譲りの顔に、鼻だけ母親の形。
つまり、兄の少年時代とそっくりな荘。

荘「あのさ、一つ聞いていい?」
妹「なにー?」

荘が最近悩んでいることは知っていた。
当たり前だ。あと二年で荘は私と交わることになるのだから。

兄は今や立派な【高濱家】の代表だ。ほとんど家に寄りつくことは無いが、しかし静葉さんといる兄は幸せそうだ。
なにより、なにより。

荘「あのさ、姉貴」

妹「なに?」


家出の宣言かな?
そんなことを思いながら聞いていたのだが、しかし、荘の質問は――。

荘「あのさ、姉貴と結婚すんの、べつに悪い気分じゃないよ」

妹「……あら」


予想外の言葉に、思わず素で意外な声を上げる。


妹「32歳の年増なのに?」

弟「いや32歳の年増だけどさ」

妹「ブッ飛ばすぞ」

弟「あのさあ」



「愛ってさ、SEXって意味かな?」

妹「…………」

弟「俺はさあ、このままでもいいって、思うんだよね」

妹「このままでも、いい……」

弟「姉貴は姉貴でさ。そういう選択肢も、あると思った。なあ、姉貴」

弟「キスしてよ」

妹「……え?」

妹「……あ、ああ」


結果は分かり切っていた。

ちゃんとキスした。
舌も入れた。

感想。
微妙な気分になった。
気分が落ち込んだ。

見ると、弟もおそらく私と同じ顔をしていた。
……だよね。

弟「決めた」



弟「俺は、姉貴と、駆け落ちする」

妹「…………」

弟「世間は非難するだろうけどさ、そういう選択肢もアリだと思う」

弟「あと二年。稼ぐルートを確立する時間としては、十分だと思う」

弟「姉弟でさ、手を繋いで生きていって」

弟「俺は、幸せだと思う」

弟「自分でいうのもなんだけど、俺は優秀だし、最初から持ってるルートも数多いし」

弟「なあ姉貴」

弟「愛ってさ、SEXって意味かな?」

妹「…………」


姉「……違うと、思う」


私は涙にずぶ濡れになりながら、はっきりと、答えた。


姉「あのさあ、私、幸せだよ……」


その言葉も、はっきりと弟に伝えた。
弟は顔いっぱいに微笑んで私の手を握った。

お終いです。

【高濱家】の仕来りで、本家の女が子を成せない場合、本家の男と分家の女が成した子が後継者になるという決まりがあるので、
二人はたぶん大丈夫です。……たぶん。兄と静葉なら勝手にズバボコやってるでしょうし。

お終いまで読んでくれた人、ありがとー。

面白かった

なんで駆け落ちする必要があったんだ?

>>156
【高濱家】の仕来りで、その場にいたら交わらなくてはいけなかったため

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