結衣「ゾンビが居るから部屋の外に出ちゃ駄目だ」(107)

京子「ん、んんぅ……」ムクッ

結衣「京子?目を覚ました?」

京子「あ、あれ、結衣、ここは……」

結衣「ここは私の家だよ」

京子「あれ、今日、結衣の家に泊りに来てたっけ……」

結衣「……なに言ってるの、京子」

京子「あ、もうこんな時間じゃん、早く学校行かないと」

結衣「……京子」

京子「ほへ、どうしたの、結衣、真剣な顔で」

結衣「……ショックのあまり、記憶を失っちゃったんだね」

結衣「あのね、京子、部屋の外はもうゾンビだらけなんだ、外には出れないよ」

京子「……ぞんび?」

結衣「そう、ゾンビ」

京子「……」

結衣「……」

京子「あははは、結衣ってば、冗談ばっかり!」

結衣「……うん、冗談なら良かったんだけどね」


ドンドンドンッ!


京子「うわっ!」


ドンドンドンッ!


京子「あ、あの、結衣?誰かが玄関の扉叩いてるんだけど……」

結衣「……うん、あれはね」

結衣「あかりとちなつちゃんだよ」

京子「あ、あかりとちなつちゃんが遊びに来てるの?じゃあ入れてあげないと」

結衣「……駄目だよ、京子、二人は」

結衣「もうゾンビだから」

京子「……え?」

結衣「あかりも、ちなつちゃんも、綾乃も、千歳も、千鶴も、大室さんも、古谷さんも、会長さんも、西垣先生も」

結衣「みんな、みぃーんな、ゾンビになっちゃったんだ」

京子「み、みんな?」

結衣「うん……だから、ね、京子は私の部屋から出ちゃ駄目」

結衣「出たら、ゾンビに襲われちゃうから」

京子(みんなゾンビになっちゃったって……そんな……)グゥー

結衣「あ、京子、お腹空いてる?」

京子「う、うん、何かずっとご飯食べてないみたいな感じ」

結衣「じゃ、ご飯にしようか、缶詰とかは大量に集めてあるから、何カ月かはこれで持つと思う」ガタガタ

京子(……結衣の言ってる事、本当なのかな)

京子(皆がゾンビになっちゃったにしては、反応が淡泊だけど……)

結衣「はい、京子、鯖の缶詰」

京子「あ、ありがと、結衣」

京子「……」モグモグ

結衣「……」

京子「……」モグモグ

結衣「……」

京子「……結衣は食べないの?」

結衣「あ、うん、私はさっき食べたしね」

京子「そっか……」モグモグ

京子「……あの、結衣、窓が板で塞いであるのはどうして?」

結衣「……私の部屋は三階だからゾンビが直接窓から入ってくる事は無いけど」

結衣「私達の姿や声が外に漏れるとゾンビ達が集まってきちゃうからね」

結衣「その予防策……京子も、窓開けちゃ駄目だよ」

京子「ふーん……」モク゚モグ

京子「テレビは?そんな大事件が起きたのならテレビで何かやってるんじゃない?」

結衣「……テレビは、もうずっと映らないよ」

結衣「きっと、テレビ局もゾンビに襲われたんだと思う……」

京子「……え」

結衣「自衛隊とかもね、もう活動してないんじゃないかな」

京子「じ、自衛隊も?」

結衣「あ、けど大丈夫だよ、京子、この部屋に居たら安全だから」

結衣「私が、絶対に京子を守ってあげるから」

結衣「……あかりや、綾乃達には、絶対に渡さない」

京子「結衣……」

結衣「あ、京子、缶詰食べ終わった?じゃあ、片付けて来るね」

京子「う、うん……」

京子(……自衛隊やテレビ局までやられたなんて、ちょっと信じられないよ……)

京子(そ、そうだ、結衣が台所に行ってるこの隙に……)ピッ


TV「ザーーーーーーッ」


京子「……テレビ、本当に何も映らないや」

京子(あれ、けど電気は来てるんだよね)

京子(結衣が台所で水を使ってるみたいだし、水道も生きてる?)

京子(自衛隊がやられるような事態なのに、ライフラインだけ生きてるなんて、そんなことあるのかな)

結衣「京子」

京子「は、はいっ!」ピッ

結衣「テレビ、見てたの?何も映らないって言ったのに」

京子「あ、う、うん、何時もの癖でさ、あははは」

結衣「もう、しょうがないなあ、京子は」クスッ

京子「あれ、結衣、手に持ってるのって……」

結衣「うん、ラムレーズン、京子好きだろ?」スッ

京子「あ、ありがと、結衣……」

京子(……食事は缶詰なのに、ラムレーズンは置いてあるんだ)

京子(結衣を疑うのはいやだけど、何か不自然だよ……)

京子(本当に、ゾンビなんて居るのかなあ)

結衣「さ、ご飯も終わったし、そろそろ身体を綺麗にしよっか」

京子「……お風呂?」

結衣「あはは、お風呂に入れたらいいんだけどね、そんなに沢山お水を使うと無くなっちゃうだろうから」

結衣「最近はずっと濡れタオルと石鹸で身体を拭くだけだったよ」

京子「そ、そっか……」

結衣「というわけで、京子、服脱いで」

京子「……え?」

結衣「服、脱がないと身体拭いてあげられないだろ?」

京子「い、いや、あの、それくらい自分でするよ///」

結衣「もう、今さら何を照れてるんだよ、ほら、脱いで脱いで」ギューッ

京子「ちょ、服ひっぱらないでって///」

結衣「暴れちゃ駄目だよ、京子、服が破れちゃったら勿体ないだろ?」

京子「だ、だめ、駄目だってっ!」


シュルシュル

結衣「はい、お疲れ様、京子」

京子「はぁ……はぁ……結衣に無理やり裸にされて体中触られた///」

結衣「変な言い方しないで、身体綺麗にしてあげただけじゃない」

京子「う、うう、酷いよ結衣……」

結衣「……京子、これからずっと二人で過ごすんだし、こういうのに慣れないとこの先生き残れないよ?」

京子「この先……ずっと?」

結衣「うん、ずっと」

京子「……」

~数時間後~


京子「……」

結衣「……」

京子「結衣、暇だよ」

結衣「……そうだね」

京子「外の様子見てきていい?」

結衣「駄目」

京子「いいじゃん、ちょっと気になるしさ」

結衣「駄目」

京子「……じゃあいいよ、一人で見に行くから」

結衣「京子!」

京子「……!」ビクッ

結衣「駄目だって、言ってるだろ」ガシッ

京子「ゆ、結衣、痛いよ、そんなに掴まないでよっ」

結衣「私は、京子を失いたくないんだ、だから、お願い、外にはいかないで……!」グイッ

京子「わ、判った、行かないよ、結衣、ここにいるから……!」

結衣「ほ、ほんと?」

京子「う、うん、だから手を離して、苦しい……」

結衣「……そ、そうか、判ってくれれば、いいんだよ」パッ

京子「……」ホッ

結衣「ごめんね、京子、乱暴にして……」

結衣「けど、私は京子の事が心配で……」

結衣「大丈夫、京子は、京子は私が守るから、大丈夫……」ブツブツ

京子「結衣……」

~夜~

結衣「……そろそろ、寝ようか、京子」

京子「うん……」

結衣「じゃ、布団敷くね……」

京子(あれから何度か外の様子を見ようとしたけど、結衣に止められて見れなかった)

京子(本当に、ゾンビなんているのかな)

京子(本当に、あかりたちはゾンビになっちゃったのかな)

京子(全部、全部結衣の妄想なんじゃ……)

結衣「……京子」

京子「ん……?」

結衣「そっちの布団に行ってもいい……?」

京子「……うん、いいよ」

結衣「ありがと……」ゴソゴソ

京子「……」

結衣「きょうこ、あったかい……」

京子「……うん、結衣もあったかいよ」

結衣「うん……」プルプル

京子(結衣、凄く怯えてる)

京子(こんな結衣は初めてだな……)

結衣「きょうこ……」

京子「なに、結衣」

結衣「きょうこは、ずっと私と一緒に居てくれるよね……」

京子「……うん、ずっと一緒だよ」

結衣「……そっか」ホッ」

京子「……」

京子(本当にゾンビが居るのかどうかはわからない)

京子(けど、こんな状態の結衣を放ってはおけないかな……)

………

……




京子(あれから数日たった)

京子(朝起きて、缶詰を食べて、ラムレーズンを貰って、身体を拭いて、寄り添いあって過ごして、夜になったら寝る)

京子(そんな生活を続けている)

京子(時々、誰かがドアが激しく叩くけど、それ以外に異変は無い、平凡な生活)

京子(不思議なのは、ラムレーズンが無くならない事)

京子(結衣が時々夜中に外に出てるようだから、その時に調達してるのかな……)

京子(そんな疑問を抱いてる時、私は偶然、ある物を発見した)

京子「毎日缶詰ばかりだと飽きるなあ……」

京子「何か他に食べ物ないかな……」ゴソゴソ

京子(お、冷蔵庫の底に何か……)

京子「……あれ」

京子「これ、私の携帯……」

京子(てっきり、無くなったもんだと思ってたけど……何でこんな所に)

京子(ひょっとして、結衣が隠してたのかな……)

京子(電源は……入る)

京子(っていうか、アンテナも立ってる!)

京子(この部屋の電話はつながらないけど、もしかしたら携帯なら誰かにつながるかも……!)

京子(今、結衣はトイレに行ってる)

京子(よ、よし、今のうちに……あれ、良く見ると着信履歴が……)

京子(一番最近のは、綾乃から……日付は)

京子「……昨日だ」

京子「あ、綾乃、生きてるんじゃん!やっぱり生きてるんじゃん!」

京子(あ、綾乃に電話をっ……!)ピッピッピッ


トゥルルルー


京子(綾乃!綾乃綾乃!)


カチャッ


結衣「ふー……あれ、京子、何やってるの?」

京子「いや、別に何でも無いよ、結衣」スッ

結衣「あ、お腹空いたの?じゃ、そろそろご飯にしようか」

京子「うん、今日のご飯は何?」

結衣「今日は京子の好物のミートスパ缶詰だよ」

京子「わあい!またか!」

京子(綾乃が出る前に切っちゃった……)

京子(けど、着信が残ってたら綾乃も気づいてくれるよね)

京子(なら、きっと向こうから連絡してくれるはず……)



ドンドンドンッ


京子「……!」ビクッ

結衣「また玄関の扉叩いてる……気にする必要ないよ、京子、またあかりとちなつちゃんだろうからさ」

京子「う、うん……」

京子(綾乃がゾンビになってたっていうのは、嘘だった……)

京子(という事は、この扉を叩いてるのだって、あかりとちなつちゃんのゾンビじゃないんじゃ……)


ドンドンドンッ


京子「……結衣、何時も、ありがとうね」

結衣「え?」


ドンドンドンッ


京子「こんな状況になる前からそうだったんだけどさ、わたし、いっぱい結衣のお世話になってた」

結衣「……そんなの、気にする必要ないよ」

京子「結衣……」

結衣「私が好きで京子の世話やいてたんだしね」


ドンドンドンッ


京子「……うん、それでも、やっぱりお礼は言いたいかなって」

京子「ありがとう、結衣」

京子「わたし、これからもずっと結衣と一緒に居たいと思ってる」

結衣「京子……」

京子「だからね、結衣には本当の事を言ってほしいの」

結衣「え……?」

京子「本当は、ゾンビなんて居ないんでしょ?」

結衣「……!」

京子「本当は、私をここに留めておくために、ゾンビが出たって嘘ついてるだけ、なんだよね?」

結衣「そ、そんなことない……!ゾ、ゾンビは本当に居るんだ!」

京子「……あかりや、綾乃達もゾンビになっちゃったの?」

結衣「そ、そうだよ!みんな!みんなゾンビに!」

京子「嘘」

京子「結衣、私の携帯、冷蔵庫の中に隠してたでしょ」

結衣「……!」

京子「あの携帯の中に、綾乃の着信、残ってたもん」

結衣「そ、それは……」

京子「日付は昨日……結衣が言ってる通り、綾乃がゾンビになってるなら、着信なんて残ってるはずないよね?」

結衣「……」

京子「……結衣、本当の事を言って?」

結衣「京子、私は……」

京子「……私は、ゾンビなんていなくても、結衣と一緒に居たいと思ってるよ?」

結衣「きょう……こ……」


ドンドンドンッ


京子「……お願い、結衣、私を信じて」


ドンドンドンッ

結衣「……京子は、疲れてるんだよ、こんな慣れない状況だから仕方ないと思うけど」

京子「結衣!」

結衣「ひ、一晩休んだらさ、きっと冷静になれると思うから、ね?今日はもう寝よう?」

京子「……」


ドンドンドンッ


京子「結衣が正直に言わないなら……」

結衣「え……?」

京子「今ここで、結衣が言ってる事が嘘だって証明してあげる!」タッ


ドンドンドンッ


結衣「京子!?」

京子「はーい!今開けまーす!」カチャッ

結衣「だ、駄目!京子!玄関の扉開けたら……!」

ガチャッキィー


あかり「……」フラッ

ちなつ「……」フラッ

京子(ほら、ゾンビなんかじゃない、普通のあかりとちなつちゃんじゃん)

京子「結衣ー、あかりとちなつちゃん来てくれたよー!」

結衣「京子!離れて!」

京子「もう、結衣ったら往生際が悪いなあ……あかり、ちなつちゃん、こんにちわ」

あかり「……」フラフラ

ちなつ「……」フラフラ

京子「あー、ひょっとして何日も学校休んでたから心配して来てくれたの?」

あかり「……」

ちなつ「……」

京子「ちょっと説明するのはややこしいけど……私と結衣は元気だから、心配しないで?」

結衣「京子!」グイッ

京子「うわっ!」バタンッ

京子「いたたた……結衣、突然ひっぱらないでよ、こけちゃったじゃ……」


ピチャクチャ


京子「あ、あれ、ゆ……い……?」

結衣「……っ!」

あかり「……」クチャクチャ

ちなつ「……」クチャクチャ

京子「あ、あかりとちなつちゃんが、結衣に噛みついて……」

結衣「きょ、きょうこ……逃げて……」

京子「あかり、ちなつちゃん、だ、駄目だよ……」

あかり「……」ガリッ

京子「ゆ、ゆいを食べちゃ、駄目だよ……」

ちなつ「……」ブチブチッ

京子「う、うそ、うそだよ、こんなの……」

結衣「……京子!」

京子「ゆ、ゆい、わたし、わたし……」

結衣「おねがい、きょうこだけでも、生き残って……」ガクッ

京子「ゆいっ……!」

あかり「……」クチャクチャ

ちなつ「……」クチャクチャ

結衣「……」ビクンッビクンビクンッ

京子「や、やめて、やめて二人とも……」

あかり「……」ブチブチッ

ちなつ「……」ガリガリ

京子(ふ、二人を止めないと、結衣の身体が無くなっちゃう……)

京子(そ、そうだ修学旅行で買った木刀が部屋の隅に……!)

京子(こ、これで結衣を助けないと……!)

京子「う、うわああああああっ!」ブンッ

ボカンッ


あかり「……」ギロッ

京子「あ、あかり、止めてよ、結衣を食べないでよぉ……」ウルッ

あかり「……」フラッ

京子「う、うわ、こっち来たぁっ……」ビクッ

京子(ど、どうしよう、何処に逃げたら……そ、そうだ、窓の外……!)

京子(た、確か窓の外のベランダに災害避難用の縄梯子があったはず……!)

京子(そ、それを使って下まで逃げれば……!)

京子(……窓にはバリケードがあるけど、中からなら開けられるはず!)


ガラッ


京子「ひ、開いた……!」タッ

京子「あ、あとは木刀でつっかえ棒をして窓があかないようにして……」ガシッ

あかり「……ウゥゥゥゥ」バンバンッ

京子「こ、これであかり達はベランダに出て来れない……」

あかり「ウゥゥ……」ポツン

ちなつ「……」ペチャクチャ

結衣「……」

京子(結衣……)

京子(ごめんね、信じてあげられなくて、ごめんね……)グスンッ

京子「……まだベランダだけど、外に出るの、久しぶりだな……」

京子「太陽がまぶしい……」

京子「街の様子は……」

京子「……え」


そこに広がっていたのは

私が予想した以上の風景だった

横転した車

家屋から出ている黒い煙

街中を歩いている歩く死体達

まるで地獄からあふれ出したかのような光景


生前の面影が残っていない死体も多いなかで

私は見つけてしまった

彼女の姿を


京子「あ、綾乃……?」


ベランダに立つ私の姿を彼女も見つけたらしい

こちらを向いて歩いてくる

唸り声をあげて歩いてくる

それに引き寄せられるかのように他の死体達も

私が居るマンションに向けて

集まって来始めた

フランク「よう嬢ちゃん」

チャック「ゾンビどもはみんな片づけちまったよ」

京子「あ、あははは、結衣が言ってた事、全部本当だったんだ」

京子「窓を開けちゃ駄目」

京子「外に出ちゃ駄目」

京子「あかりも、綾乃も、みんな、みんなゾンビになっちゃったって……」

京子「やっぱり、全部、本当だったんだ……」

京子「あ、あはは、もう、逃げられない……」

京子「ベランダにいる私の姿を目指してゾンビ達が集まってきてるから」

京子「縄梯子で下りる事も出来ない」

京子「部屋の中にはあかり達が居るから、部屋に戻る事も出来ない」

京子「もう、もう……私には行く所が……」グスンッ

京子「……ダンボール、だ」

京子(ベランダの隅に、ダンボールがある)

京子(ちょうど私が入れるくらいのダンポール……)


きょうこ「そうだ、かくれんぼをしよう」

きょうこ「あかりたちに、みつからないように、かくれないとね」

きょうこ「わたし、かくれんぼだけは、とくいだから」

きょうこ「……」ガサゴソ

きょうこ「これでよし……」

きょうこ「わたしのからだは、ちいさいから」

きょうこ「こうやって、だんぼーるのなかで、まるまっていたら」

きょうこ「だれにもみつからないよね」

きょうこ「あかりにも、ゆいにも、だれにも」

きょうこ「だから、だいじょうぶ」

きょうこ「だいじょうぷ」

「だいじょうぶ」

「だいじょうぶ」

「だいじょうぶ」

「だいじょうぶ」

「だいじょうぶ」


パリンッ


「あ、まどがわられた」

「けど、だいじょうぶ」

「こうしていれば、きっとこわいものには見つからないよ」

「だいじょうぶ」

伝説の傭兵が愛した装備だからな

だいじょうぶ


ヒタ

ヒタ

ヒタ

「なにかがちかづいてくる」

「どうしてこんなに胸がどきどきするんだろう」

「こんな音がしてたら見つかっちゃうよ」

「もっと、もっとしずかに」

「もっとちいさく、ちいさく」

「いぬさんくらいになりたい」

「ありさんくらいになりたい」

「そうすれば、だいじょうぶだから」

トルルルルー


「……あ、けいたいの音だ」

「わたし、ばかだな、けいたいの音、けしわすれてた」


バコンッ


「だんぼーるが、とられた」

「……みつかっちゃったね」

「あかり」

「ちなつちゃん」

「ゆい」

「……じゃあ、つぎは、私が鬼かな」


『歳納先輩』


「はぁい?」

櫻子「そのまま伏せててください!」ブンッ

京子「え?」


バッコンッ


京子「う、うわっ!?」

櫻子「ふう……ごめんね、あかりちゃん、ちなつちゃん」

京子「あ……あれ、さくらこ、ちゃん……?」

櫻子「探しましたよ、歳納先輩!ベランダに出てくれてなければ見逃す所でした!」

京子「え、ど、どうして……」

櫻子「昨日、杉浦先輩の携帯に着信が残ってたんで、探しに来たんですよ」

京子「綾乃の……?」

櫻子「はい、杉浦先輩はもうお亡くなりになってますけど……携帯だけ、お借りしてたんです」

櫻子「他に生き残った人達は居ないかな―って電話しまくってたんですけど、誰からも応答なくて困ってたんですけどね」

向日葵「櫻子!急がないと奴らが来ますわ!」

櫻子「判ってるよー!うっさいなあ!」

京子「……」

京子(あかりと、ちなつちゃん、櫻子ちゃんのバットで頭叩かれて動かなくなっちゃった……)

櫻子「それで、歳納先輩、どうします?」

京子「え……」

櫻子「現状はくそったれな状況ですけど」

櫻子「そんな世界で、まだ、生き続けたいですか?」

京子「あ……」

京子(あかりや、ちなつちゃんや、綾乃まで死んじゃってて)

京子(私を守ってくれていた結衣まで、犠牲にして……)

京子(私は、これからもこんな世界で生き続けるの……?)


『わたし、これからもずっと結衣と一緒に居たいと思ってる』


京子「私は、私は……」



『おねがい、きょうこだけでも、生き残って……』


京子「私は、それでも……生きたい、生き残りたいよっさくらこちゃんっ……」ヒック

櫻子「……そうですか」スッ

京子「……うんっ」グスン

櫻子「じゃあ、私達が連れて行ってあげます」

京子「ど、何処へ?」ヒック

櫻子「楽園へ!」

~3分後~

~車内~


櫻子「ひゅー、ギリギリだったねえ、あと1分遅れてたらゾンビ達に囲まれてたよ」

向日葵「貴女がノロノロしてるからでしょう……」

櫻子「だって、船見先輩の家、缶詰がいっぱい置いてあったんだもーん、今後の事を考えると必要でしょ?」

向日葵「まったく……」

京子「……生き残ったのは、これだけ?」

西垣「うむ、今まで学校に立て篭もってたんだがな、そろそろ限界なのでこの車で突破してきた所だ」

りせ「……」コクコク

京子「そっか……」

京子(私と結衣が過ごした家が、ゾンビ達に囲まれていく)

京子(埋葬する時間もなかったから、結衣の死体はあのままだ)

京子(ごめんね、結衣……)

京子(ごめん……)

向日葵「歳納先輩……?大丈夫ですの?」

京子「あ、うん、ごめん……私は、大丈夫だから」ゴシゴシ

西垣「……」

りせ「……」

京子「……それで、行先は?櫻子ちゃんが楽園に連れて行ってあげますーとか言ってたから期待してるんだけど」

向日葵「……櫻子、歳納先輩にあんな与太話をしたんですの?」

櫻子「与太話じゃないよーだ!ゾンビが居ない南の島は本当にあるんだって!」

京子「南の島……?」

向日葵「はい、ラジオで時々流れて来るんです、南のほうにゾンビが居ない楽園のような島があるって」

西垣「まあ、南の島が何処にあるかは知らんが、ぶっちゃけ町から脱出するくらいのガソリンしか残ってないんだがな」

櫻子「まあ、行ける所まで行きましょうよ!」

京子「……そうだね」


「生ける所まで、行ってみよう」

「それが生き残った者たちの使命だ」



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