ちなつ「仕方ないから傍にいてあげる、あかりちゃん」(241)

結衣「ちなつちゃん、大丈夫?私が持とうか?」

ちなつ「ええ、そんな、平気です!結衣先輩は座っててください!」

結衣「それくらいさせてよ、私たち、その、付き合ってるんだから、さ」

きゅん。大袈裟なんかじゃない、本当に胸の奥がそんなふうに締め付けられて私はいてもたってもいられなくなってしまう。
だってこれは夢じゃないのだ。私の夢でも、妄想なんかでもない。紛れも無い現実で。
「そそそ、そんな、こんなところで……!」なんて一人じたばたしているうちに今買ったばかりのハンバーガーを乗せたトレーをひょいっと
取り上げ結衣先輩が席を探しに歩いていく。その背中まで凛々しくてかっこいい。本当に、すてきだ。

ちなつ「あぁん、結衣せんぱぁあい」

慌てて追いかけながら、私は幸せな気持ちだけに浸っていく。
本当に、すてきなのだ。私はきっと、今、世界で一番の幸せ者。

きゅん。って表記久々に見てなんか笑った

支援

中学生の頃からずっと好きだった先輩と付き合い始めたのは、高校生になってすぐだった。
告白したのは、結衣先輩が卒業する日。そしてその返事をもらったのが私が卒業する日。約一年越しだったから、もちろん戸惑った。
ほとんど、諦めかけていたのだから。それが今こうして誰よりも近くにいられるのだ。

ちなつ「……ふふっ」

結衣「ちなつちゃん?どうしたの?」

ちなつ「い、いえっ、ただ、すごく嬉しいなあって……」

ちょうど放課後真っ盛りで小腹の空いた同じ学校の生徒でごったがえしている店内。
その奥のあまり目立たない位置にある席に向かい合って座りながら、私はついニヤニヤとしてしまう。
そんな私を見て、結衣先輩は「そっか、よかった」と優しく微笑んでくれた。

ちなあか久しぶりだな

結衣「ごめんね、最近あんまり一緒に帰れなくて」

結衣先輩は高校生になってから、陸上部に所属するようになった。足が速いから、きっと結衣先輩にはぴったりだと思う。
いつも凛々しくて時々可愛くて、こんなにも優しい先輩でおまけにスポーツだってできちゃって――だからもちろん、先輩のファンが沢山いるわけで。
今だって視線を感じるのは気のせいじゃない。そしてこの視線が私に向けられてると思うほど、私だって自意識過剰ではないのだ。
その視線は同じ女の子だったり、たまに男の子だったりもして。気にしちゃいけないとわかってはいても、どうしても気にしてしまう。

ちなつ「し、しかたないですよ!もうすぐ大会、あるんですよね?私、ぜったい!見に行きますからね!」

視線たちを振り払うように私はぶんぶんと首を振って言った。“ぜったい”に力を込めたおかげか、結衣先輩が「ありがとう」とおかしそうに
笑ってくれた。
これだけで、とてつもなく私の心は満たされていく。いいなあ、やっぱり。

ちなあかと聞いて

ちなあか!
ここから?

   〃:| /   { {   :  ハ∧ }|  l''´l
    _.ゝ| {  { ハ∧{ : j / j  V| |  |: |
  / :::: | ヽ V { ___\{′x:== 、jイ  j:|: |
  ヽ::::::|  \{ 〃⌒`     ::::::: | ./:|}リ
   \:| !   { ::::::   '_ .    |/: : j/
      (´ |ヽ ト 、   V  }   /j/ィ/j/
      \/ヾ  >ー-r-‐ '{/:`'く
       ヽ | ∧:::::/_ -/::::::::::::;ゝ、
          \/  \{::`ン::::::: /   | これ…とうとう
         |    (;;)ー ''´/   |   きちゃったかな!
  七._  -/┐ヽ |  |  /l⌒ヽ  n 土  ノ__」_ヽ _」__\''
 (_乂 )  / /     _/  V  ノ  ヒl 寸  |  |_  ノ _|

アッカリン出てこねえwwww俺に見えてないだけか?

好き。
何度となく、心の中で囁く。声に出しては言えないけれど好きなんですと、このどうにかなりそうなくらい大きな気持ちが結衣先輩に伝わって欲しい。
そして、その優しい笑顔のままぎゅっと抱き締めてほしい。「大丈夫、私もだよ」なんて、そんなふうな言葉でキスして――
そんな欲求が少しずつ、私の中に溜まっていってしまうけれど。

結衣「今度の大会、さ」

ぽつりと結衣先輩が漏らした。
私は「はい?」と顔を上げる。結衣先輩はハンバーガーの最後の一口を飲み下すと、「すごく、大事だから」
まるで言い訳するみたいな口調。私は「……はい」とまた小さく頷いてみせた。そんなこと、わかってます。そんな意味を、必死にこめて。

ちなつ「私のことなんて気にしないでください、結衣先輩の走る姿、とってもかっこいいし!」

それにそれに、私の先輩なんだよってみんなに自慢しちゃえますよ!
つい、早口になってしまう。あまり目立たないようにぼそぼそと話していたのに、これじゃあ意味がない。案の定周囲がざわついてしまって、
結衣先輩が少し焦ったような表情になった。

結衣「う、うん、ありがとね」

ちなつ「……あ、す、すみません」

慌てて声を小さくして身体まで萎縮させると結衣先輩は「嬉しかったから」とそう言ってくれるけど。俯いて見えないし、見たくもないけれどその表情はきっと
苦笑に近いだろう。

結衣「……そろそろ、出ようか」

こくん、と頷く。それから空になった袋をのせたトレーを持ち上げようとして、結衣先輩がまたもや私からそれを取り上げてしまった。
「ちなつちゃんは先に出てて」
そんな言葉を残して、私に背を向ける。

ちなつ「……はい」

もう一度、こくんと頷いた。


そろそろ夏も終わりに近付いていた。
高校初めての夏休みは終わって二学期が始まり、ようやく狂っていた生活リズムが治ってきた頃。
日が暮れるのも随分と早くなってきた。残っていた暑さもやがては寒気に変わってしまうと思うと、自然と身体がぶるっと震えてしまう。

明るい店内から一歩出て、ぼんやり空を見上げた。
オレンジ色はほとんどなくなり、だんだんと濃い暗さが見え始めている。これからこの季節が完全に終わってしまうまでは、結衣先輩と一緒に帰るチャンスは
まったくと言っていいほどないだろう。夏休みに入る前もそうだったのだから、なんとなく予想はついている。

私は結衣先輩の彼女だ。
けれど、それでも私を一番に優先して、なんて言えるはずもない。結衣先輩は何にでも真面目だから、勧誘されて入ったとはいえ中途半端に活動するなんてはずないのだし
そんな結衣先輩だから私はよけいに好きになった。最初は確かに一目惚れに近かったのかもしれないけど。

いつものちなあかの人か

結衣「それじゃ帰ろっか、ちなつちゃん」

ほどなくして結衣先輩も店内から出てくる。私はぱっと振り返って「はい!」と出来るだけ明るく笑ってみせた。
今日こうやって一緒に帰れたのはほんの偶然だ。
たまたま結衣先輩たちの使っている練習場所が昨日降った雨でぐしゃぐしゃになっていたりしてオフになったのだという。それで校門を出たところで一緒になって。

最近はメールばかりだったから、とても嬉しかった。
だから暗い気持ちばかりになっていてはだめなのだ。こうやって先輩と寄り道もできたんだから、いいに決まっている。

ちなつ「結衣先輩」

結衣「うん?」

欲張りなんて、しちゃいけない。
私は少し先に立って歩く結衣先輩を呼び止めて。そして顔を振り向かせた結衣先輩の手に、自分の手を滑り込ませようとして。
欲張りなんて、しちゃいけない。

京子ちゃん…

ちなつ「……あ、明日は晴れるといいですね!」

結衣「今日も晴れてたけどね」

小さく笑いながら、結衣先輩が言う。私も「それもそうですね」と笑い返しながら。
知っているのだ、結衣先輩が周囲の目を気にしていることくらい。ずっと見ていたのだから、結衣先輩を。
そんなこと、わかりきっている。だから私の気持ちをがむしゃらに押し付けてはいけない。それが少しばかり、苦しいけど。

でも、仕方ない。
結衣先輩は私を選んでくれたのだ。だから、自信を持ちなさいチーナ!

結衣「明日、雨が降ったらまた一緒に帰ろうか」

ぽつり、と結衣先輩がそう言って。
たったそれだけ。なのに私の心はふわふわと宙に浮いたような感覚に陥ってしまう。はいっ、と今度は元気たっぷりに頷いた。

―――――
 ―――――

私の通う高校は、最寄の駅から数駅離れた場所にある。比較的にコンビニや大きなお店が立ち並んでいるところだから、寄り道はしやすい学校だと思う。
けれど一人で帰るときはどうしてもどこか寄ろうという気はしなくて、いつもはさっさと学校を出て駅に向かうのだけれど。
その次の日、なんの気紛れかふらりと近くの雑貨屋に入った。

雨が降ったときのために傘を持って来ていたけど残念ながら降らなくて、だから私は結衣先輩と一緒ではないけど結衣先輩のことを考えながら
先輩の応援をするためになにか購入しようと思ってのことだった。

支援

先輩がいない日、私はいつも一人だ。
クラスに馴染めていないわけでもないし、ましてやいじめられてるわけなんてない。むしろその逆で、どちらかといえば高校生活を楽しんでいるほうだろう。
けれど同じ方向に帰る子はいないし、いたとしてもあまり一緒に帰りたいとは思えない。

雑貨屋を一通り見たあと、無難だけど可愛いスポーツタオルを購入して店を出た。
まだあまり遅くはない時間だからか、夕日は明るく照らしてくれている。雑貨屋のお洒落なピンクの袋を提げ、私は溜息を吐いたあと歩き出す。
携帯で時間を確認する。電車はさっき行ったばかりだろう。帰宅部は放課後の電車の時間がなぜか自然と頭に入っているのだ。次に来るのはだいぶ先。
ここから駅まではそう遠くないから、駅でだいぶ電車を待たなければならないだろう。どうしようかな、ぼんやりそんなことを考えていると。

ちなつ「……あかりちゃん?」

自然とそんな声が漏れていた。

>>21
>まだあまり遅くはない時間だからか、夕日は明るく照らしてくれている。
→まだあまり遅くはない時間だからか、夕日は周囲を明るく照らしてくれている。

しえすた

自然とそんな声が漏れていた。
ふと視線を上げて、少し前のほうに見覚えのある後姿が見えたから。呟いた声は、きっと遠すぎて聞こえない。けれど、確かにあかりちゃんだ。
たとえばあの頭のお団子や、あの歩き方。あかりちゃんに違いない。私はそう確信して、もう一度大きな声で「あかりちゃん!」と名前を呼ぶと
走り寄った。

あかり「え、ちなつちゃん?」

振り向いたあかりちゃんは、目を丸くしつつも突然の私の突撃を受け入れてくれた。
しばらく誰にも触れていなかったから、誰かの体温がひどくあったかい。

あかり「わぁ、ちなつちゃんだ!」

ちなつ「あかりちゃん、久し振り!」

きゃあきゃあと路上で喜び合えるのは女子高生の特権だと思う。言葉どおり本当に久し振りだから、つい声にまで嬉しさが溢れ、自然と握り合った手の
力まで強くなる。

ちなつ「え、どうしたの?あかりちゃん、なんで?」

同じような問い掛けばかりになってしまう。
積もりに積もった話だって沢山あるけれど、とりあえずあかりちゃんがどうしてここにいるのか訊ねるのが先だ。

JKあかり

OLあかねさん

中学校の頃、ずっと一緒に居たあかりちゃん。
高校が離れてしまった今でも変わらず連絡を取り合ってはいるけれど、実際会ったのは入学式の日、お互いの制服を見せ合った以来だからかなり久々だ。
あかりちゃんが行っている学校は確か、京子先輩と同じのはずだ。そのとおりセーラー服で、県内でもかなりトップクラスの高校に通っている。
私はとてもじゃないけれどそんな学校には手が届くはずもなくて、おまけにぎりぎり受かるか受からないかの学校に結衣先輩がいたから追いかける目的で今の学校に入学した。

ちなつ「なにかバイト?」

言ってから、そんなはずはないと思い当たる。あかりちゃんの学校は確かバイトが禁止のはずだし、そもそも勉強でそんな時間なんてないと聞く。
あかりちゃんが校則を破ってバイトするはずなんてないし。京子先輩ならありえるかもしれないけど。

そういえば、どうして中学背の頃あんなに仲の良かった結衣先輩と京子先輩が違う学校に行ったのかはよくは知らない。
「船見さんと歳納さんって、かなり仲いいよね……」
ただ、二人の噂は時々私も耳にしていたから。
そして、その噂が大きくなるにつれて二人がだんだん余所余所しくなっていく様子も見ていたから、だからなんとなくはわかっている。

結衣先輩がどうしても噂を気にしてしまう理由だってわからないでもないし同じようなことになって結衣先輩を苦しめたくない。
そしてそれでも結衣先輩は私と付き合うと言ってくれたのだし、ちょっとくらい我慢しなくちゃと私が思うのは、そういう理由もあるから。

支援

あかり「あ、ううん、そうじゃないんだけどちょっと買物しようと思って」

あかりちゃんが慌てて首を振る。
そういえば、あかりちゃんたちの学校の周辺にはあまり高校生が寄り道できそうな場所はない。だからよくうちの学校の制服以外の学生の姿も見るので違和感は感じなかった。
あかりちゃんはそれから、少し言い難そうに視線を迷わせたあと、「ちなつちゃん、今時間あるかなぁ」と。
あかりちゃんから誘ってくるなんて珍しい。そうは思いながらも、私はあるよ、と頷いた。


昨日と同じファストフード店の、結衣先輩と座った同じ席にあかりちゃんと一緒に座った。
改めてあかりちゃんと向かい合ってみると、やっぱりしばらく会っていなかったせいで少し緊張したけれど、なにか適当な話題を見つけて話していれば
もう最初のほうの「なにを話せばよかったっけ」という雰囲気はすっかりなくなってしまった。きっと、ずっと一緒にいたから。

鬱展開になりませんように…

carvipでしょそれ

私もあかりちゃんもお互いに、掴むべき距離感が見付かったみたいだった。

あかり「えへへ、やっぱりちなつちゃんと話してると楽しいなぁ」

ちなつ「そう?」

あかり「うん、すごく楽しいよぉ」

ちなつ「ありがと」

真直ぐな言葉は相変わらず変わっていない。「私も楽しいよ」こうして答えられるのは私が大人になったからだろうか。
それでも少しは照れるけど。あかりちゃんがそれを聞いて嬉しそうな笑みを溢したから、この恥ずかしさもまあいいかな、なんて思ってしまう。
食べかけのポテト。これは二人で割り勘して、一番大きなサイズのものを買った。それをつまみながら、私は頬杖をついてあかりちゃんにぽつりぽつりと結衣先輩とのことだったりを話す。
あかりちゃんの笑顔を見て、なんだか中学生の頃に戻ったみたいな錯覚に陥る。ただ一つ、昔と違うのは私と結衣先輩の関係だろうけれど。

卒業式の日、結衣先輩から来たメール。
それを見て大いに戸惑った私の背中を押してくれたのは、ほかでもないあかりちゃんだった。
どうして今さら、と思って中々踏ん切りがつかない私に、あかりちゃんは「それでもまだ結衣ちゃんのことが好きなんだよね?」と、普段と違う強い口調で。

あかりちゃんは私のどんな話もちゃんと聞いてくれる。
こくこく、と頷いて、時々一緒に笑ってくれたり一緒に悲しそうな顔をしてくれたり。あかりちゃんは今も昔も変わらず聞き上手だ。

けれど。

ちなつ「あかりちゃんは、どう?」

あかり「え?」

ちなつ「学校。楽しい?」

私ばかり話すのはあかりちゃんに悪い。私もそれくらいわかるくらいには大人になったはずで。本当のことを言えば、だんだん話すことに
飽きてきたからなんだろうけど。
訊ねると、あかりちゃんはそれまでの楽しそうな顔から一気に困ったような顔になった。

あかり「あ、ええっと……」

入学してからすぐは、あかりちゃんも新しい生活に慣れないながらも楽しんでいたみたいだったけど。
この表情から察するに、今はあまり楽しくはないのだろうか。

あかり「楽しいのは、楽しい、かなぁ」

ちなつ「あー、あかりちゃんのとこ、勉強とかすっごい大変そうだもんね」

保って守るよ

フォローをいれるようにそう言うと、あかりちゃんは「うん」と頷いた。その表情は笑っていたみたいだけど、とてつもなく疲れているように
思えた。
あかりちゃんのこんな顔を見るのは初めてで、私は少しだけ戸惑ってしまう。

私だけじゃない。あかりちゃんだって大人になったのだ。たった半年くらいしか、経っていないけれど。
そうは思っても、少しだけ、戸惑ってしまうのだ。

あかり「勉強のことも、あるのはあるんだけど……」

ちなつ「違うの?友達いない……わけはないよね」

あかりちゃんのことだから、友達ならすぐにでも作れそうだ。
けれど、あかりちゃんは「いないというか……」と言葉を濁した。

・・・まさかっ

ちなつ「い、いじめられてる!?」

あかりちゃんの様子に、まさかとは思いつつガタッと椅子を蹴って立ち上がった。
周囲の視線が一気に集まった気がするけれど、気にしない。
あかりちゃんは「ええ!?そ、それはないけど」と困惑したような表情をしたのを見て、私はほっとして椅子に座りなおす。
とりあえず、それだけで安心した。

ちなつ「あかりちゃんをいじめられるのは私と京子先輩だけだもんね」

あかり「それってどういう意味で!?」

ちなつ「いい意味でだよ」

つまりこれはデキてますね

しえん

さるったかな

いい意味もなにもないよぉと膨れるあかりちゃんを見るのが久し振りすぎて、逆に新鮮に思える。
もうちょっとこんなあかりちゃんを見ていたい気もしたけれど、ふとあかりちゃんは真顔に戻って。

あかり「あかり、あの学校合わないのかなぁ」

今度は私が「ええ!?」と声を上げる番だった。
真面目なあかりちゃんに、真面目な校風の学校だからぴったりだと思うのに。そう言うと、けれどあかりちゃんは「ううん」と元気なさそうに
首を振った。

あかり「たぶん、合わないんじゃないかなって……」

ちなつ「合わないって、人が?」

訊ねると、あかりちゃんはこくっと頷いた。
あかりちゃんがそんなふうに言うなんて、少し意外だった。けれどこれは悪口とかなんでもなく、あかりちゃん自身が本当に困っているからなのだということは
なんとなく伝わってくる。

あかり「なんかね、あかりだけ場違いな気がしちゃう」

ちなつ「そんなことないよ、あかりちゃんかしこいのに」

あかり「そ、そういうことじゃなくって」

じゃあどういうこと、と。
そう訊ねようとして、けれど私もあかりちゃんの言いたいことがなんとなくわかるような気がした。

浮いているわけでもない。友達がいないわけでもない。
けれど、やっぱりなんとなく違う、というような。妙な疎外感が、確かに私にも存在していて。

あかり「……昔に戻れたらいいなぁ、なんて」

そんなこと思っちゃうんだぁ、最近。
あかりちゃんが苦笑交じりの弱弱しい笑顔を見せた。
昔に戻れたら。その言葉に少なからずどきっとしてしまう。

昔に戻ってしまったら、今結衣先輩との幸せな時間は振り出しに戻ってしまう。
けれど、時々、思うのだ。振り出しに戻って、この関係をなかったことにしてしまえたら、なんてこと。
本当に時々、だけど。
結衣先輩のことで苦しくなってしまったとき、どうしても、付き合うなんてなかったことにしてしまいたい、と。

そして、ざわざわとした今の空気ではなく、大好きな友達ばかりに囲まれた、そして今こうして一緒に居るあかりちゃんの隣で、笑っていたいと。

だから私は、「ちょっとわかるかも」
そんなふうにぽつりと漏らした。あかりちゃんが「ちなつちゃん、今すごく楽しそうなのに」と言うから、かき消すようにすっかり冷めてまずくなった
ポテトに手を伸ばすけど。

なんだか、落ち着かない。
毎日が忙しすぎて、ちゃんとした気持ちは届かなくて、誰かのことを深く知ろうとする時間すらない。そんな気がして、どうしても落ち着かなくて。
何もなくったってひどく楽しかった中学生の頃が懐かしくて仕方がない。

あかり「……でも、ちなつちゃんも同じ気持ちならちょっと、嬉しいかなぁ」

京子ちゃんはあかりをほっとかないと思います

あかりちゃんはポテトの最後の数本に手を伸ばし、やっぱり私と同じようにぽつりとそう漏らした。
そういえば、こんなふうにあかりちゃんの話を聞くことはほとんどなかったことを思い出す。
いつも私が一方的で、そしてあかりちゃん自身ほとんど私に自分自身のことは話してくれなかった。そんなあかりちゃんがこうして話してくれているのだから、
少しでも力になりたいと思う。思ってしまう。

他の中学校の頃の友達にも時々会うけれど、「またメールするね」とか「また遊ぼうね」なんていう言葉が果たされることなんてほとんどない。
そういうものだと思うし、これからだってきっとそうなのだろうけど。
でも、離れたくない友達だって、いるのだ。

ちなつ「また今度、遊ぼうよ」

あかり「え、いいの?」

ちなつ「私、なんの部活も入ってないし。いつでも誘って」

昔から入る気満々だった茶道部は、結局入らなかった。それは諦めたとか飽きたとかそういう理由ではなく、ただうちの学校にその部活が
なかったからというだけなのだけど。
そしてあかりちゃんも今はなんの部活にも入っていないと聞いていた。

支援

ごらく部なんてものを京子先輩がまた高校で作るのかと思っていたけれど、そんなことはなかったみたいで。
京子先輩は京子先輩でなにか別の部活に入っているらしいから、あかりちゃんも今はあまり話さないのだという。
というよりも、だんだんと結衣先輩と京子先輩の距離が離れていくにつれあかりちゃんや私との距離も微妙に変わっていってしまったから。

今では私も、京子先輩と連絡をとることはほとんどない。

あかり「えへへ、ありがとう」

私の言葉に、あかりちゃんは心底嬉しそうに笑ってくれた。

ちょっと切ない



次の日から、徐々にあかりちゃんと会う時間が多くなっていった。
結衣先輩と一緒に帰れないこともある。というよりも、きっとそっちのほうが大きいけれど。理由としては、あかりちゃんだって同じだと思う。

寂しさの埋め合わせ。

ちなつ「あかりちゃん、今どこ?」

あかり『今、学校から出るところだよぉ』

ちなつ「じゃ、いつものコンビニのとこいるから待ってるね」

最近ではそんな通話も当たり前になってきていて。
いつものコンビニというのは、家の近くのコンビニだった。駅から家に帰る途中のあかりちゃんもちょうど立ち寄れる場所だから、
会いたいなと思ったときはそこで落ち合うことがほとんど決まりのようになっていた。

携帯の通話を切って、思うのは結衣先輩のこと。それから最近は徐々にあかりちゃんのことを思うことも増えてきた。
――たぶん、別に変な意味ではなくって。
中学生の頃からあかりちゃんも可愛かったけど、今はなんというか、やっぱりすごく大人びているように見える。

一度、あかりちゃんに訊ねてみたことがある。
「あかりちゃん、高校で好きな人できた?」なんて。
するとあかりちゃんは「い、いないよぉ」と少し赤くなっていた。昔のあかりちゃんなら、好きな人というのが恋愛としての意味だというのを
きっとよくわかっていなかったと思う。だから、そんな反応に、あかりちゃんもそういう恋愛ごとというのを意識しはじめたんじゃないだろうかとか。

しえしえ

入口のドアが開いて、私は新作のお菓子に伸ばしかけていた手を止めて顔を上げた。
あかりちゃんがきょろきょろとしているのが見えたので私はよいしょと鞄を背負いなおすとあかりちゃんに駆け寄る。

あかり「あ、ちなつちゃん」

あかりちゃんは私を見つけると、必ずと言っていいほど嬉しそうな顔をする。
それを見ると、私まで嬉しい気持ちになってしまうのだから性質が悪いというかなんというか。

一緒にいる時間が増えるにつれて、昔の思い出話より今についての話のほうが多くなっていく。
私とあかりちゃんの距離も、当たり前みたいにまた縮まっていって。
学校が違うことに、もどかしいくらいの距離に、いやになってしまう。仕方ないとはわかっていても。

結衣先輩のことで頭がいっぱいなのに、あかりちゃんといると、ただ、一緒にいるだけで心が満たされていってしまう。
そのことに気付いたのはもうすっかり秋の色が見え始めてきた頃だった。

そんなある日。
今日は結衣先輩と帰れるかな、という雨の日だった。雨はざあざあ降りで、そう簡単には止みそうに見えない。
放課後になっても、私はぼんやりと教室の机に座っていた。

結衣先輩からのメールを待ってるより、自分からメールした方が早いというのはわかっているけれど、
最近あかりちゃんと一緒にいるせいかメールする時間がだんだん減ってきていたために少し自分からメールするのが気まずかった。
最初の頃は、時々結衣先輩が教室まで迎えに来てくれていたからもしかして、なんて。そんな淡い期待を抱いていた。

突然、携帯が震えた。
ぱっと顔を上げ、携帯を覗き込む。

ディスプレイに流れた名前は結衣先輩ではなくあかりちゃんだった。

ちなあかはもっと増えるべき

ちなつ「あ……」

あかりちゃんから電話をくれるのは、そういえば珍しい。
なんだかんだ言いながらもあかりちゃんから電話をかけてくることもメールを送ってくることもなくて、遊ぼうと誘うのは専ら私のほうだった。
どうしよう。
私はその時、そんなふうに迷ってしまった。

別に悪いことをしているわけではない。
昔の友達と、また仲良くしているだけなのだから。
結衣先輩に対しても、悪いことをしているわけではないはずなのに。

罰が当たったような気がしたのはどうしてだろう。

ちなつ「……ゆい、せんぱい」

窓の外。
あの黒い傘は。その傘から覗く優しそうな笑顔、は。

間違いなく結衣先輩で。
どれだけ遠くたってわかってしまう。だって、いつでも結衣先輩の姿を追いかけていたのだから。

結衣先輩は誰かお友達と帰っているんだ、なんてわかってる。
私がメールすれば、結衣先輩はきっとここに迎えに来てくれた。それは確実だ。それ以外、ありえない。
けれど私がなにも動かなかったから。結衣先輩だってもう私が帰ってると思ったのだ、きっとそう。

ちなつ「……はい」

だから、私は携帯を開け通話ボタンを押した。
出た声は、少しだけ震えていたけどきっと、あかりちゃんにはばれていない。

>>62
>窓の外。
→ふと目をやった窓の外。

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6. MinDeaD BlooD
7. WAR OF GENESIS シヴァンシミター、クリムゾンクルセイド
SS誰か書いてくれたらそれはとってもうれしいなって

あかり『ちなつちゃん』

それに。
あかりちゃんの声のほうが、よっぽど震えていたから。

あかり『ちなつちゃん……あのね』

ちなつ「あかりちゃん……?」

あかり『……あのね、あかり』

その声が、いつもとは違ったから。
なにかあったのだということは、大体察しがついた。なにがあったのかは、わからないけれど。結衣先輩のことは気になるのに、きっとこのときだけは、
ただあかりちゃんのことを考えた。

あんたが書くSSは毎回京子ちゃんの扱い雑だから斜め読みしかしないけど
今回もひどいな

嫌なら見なければいい
ばいばい

ちなつ「あかりちゃん、今どこ?」

あかり『いつもの公園……』

いつもの、公園。
というのはコンビニの前にある小さい公園のことだろう。時々あそこのベンチで二人、おしゃべりをすることがある。今日はけれど、こんなにも
天気が悪いのに。

ちなつ「待ってて、すぐ行くから」

私はそう言うとあかりちゃんの返事も聞かずに通話を切り、それから鞄を手に持つと教室を飛び出した。
今だけは、今だけは、だ。今だけはただ、あかりちゃんのことだけを考えていたくて。



電車を乗り継いで、雨で滑りそうになりながらも私はあかりちゃんのもとへ急いだ。
それでも息も切れ切れにあかりちゃんの言った場所に辿り着いたのは、その電話から数十分経った頃で。

ちなつ「あ……」

雨はますます強くなってきていた。
その中を走ってきたせいで、制服はすっかりびしょ濡れで。けれど、見つけたあかりちゃんの姿は、私なんか比にならないくらいに濡れて、
そこのベンチにただぼんやりと座っていた。

ちなつ「……あかりちゃん、風邪引くよ」

わざわざちなちゅに京子の悪口言わせたり京子の性格悪くしたりなら嫌だけど
出番ないくらいなら別に

なんて声をかけるべきかわからなくて、結局そんな当たり障りのない言葉になってしまった。
それでもなにかあったの、なんて単刀直入に聞くのは違う気もしたし、これが一番いいような気がした。
あかりちゃんの頭上にそっと傘を差し掛けると、あかりちゃんは「あ」とやっと気付いたかのように顔を上げて。

あかり「……ちなつちゃん」

ぼんやりとしたあかりちゃんの目が、徐々に私を捉えていくのがわかった。
それからおもむろにふらりと立ち上がって。
そんな自分自身にハッとしたように、あかりちゃんは「ちなつちゃん、あかりね!」と電話のときと同じような声でそう言って私の肩を強く強く掴んだ。

ちなつ「ちょ、ちょっと、あかりちゃん!?」

あまりに突然だったから、持っていた傘を落としてしまった。
それで結局、私たち二人ともが強い雨に打たれてしまう。これじゃあもう、傘の意味はない。

ちなつ「あかりちゃん、大丈夫だから、一旦落ち着いて」

こういうとき、私はどうすればいいんだろう。
ふとそんなことを考えれば、出てきたのはやっぱり結衣先輩だったことに少しだけ痛みを感じながらも。結衣先輩ならきっと、こんなふうに
優しくあかりちゃんに声をかけるはずだから。

あかりちゃんは、私の肩を掴んでいた手をのろのろと離すと、今にも泣きそうな顔で謝った。

あかり「ご、ごめんね……」

ちなつ「もう、すごくびしょびしょじゃない」

わざと私はそんなふうに言うと、落ちた傘を拾い上げてあかりちゃんの手を掴んだ。ぎゅっと。
それから、「帰ろう」と。私はそう言って、「ね?」とあかりちゃんを安心させるみたいに笑ってみせた。

―――――
 ―――――

びしょ濡れのままあかりちゃんを家に送り届けるわけにもいかなくて、まだ近い自分の家にあかりちゃんを連れて行った。
高校生になってからうちの親は一日中留守のことが多くなった。お姉ちゃんも今は一人暮らしだから、家には誰もいない。
だから私は「こ、こんな恰好じゃ上がれないよぉ」と慌てたように帰ろうとするあかりちゃんを引っ捕まえて無理矢理お風呂に放り込んだ。

ちなつ「着替えとかは適当に出して置いとくからね」

あかり「う、うん……」

ごめんね、と申し訳なさそうに言うあかりちゃんを無視して、私も乾いたタオルで自分の頭を拭う。
あかりちゃんよりは濡れていないので、私は後から入ればいいだろう。さすがに一緒に入るのは憚られたから、昨日出したばかりのストーブの前で
暖をとりながら思う。

あかりちゃんが出てきたのは数十分後、シャワーをあびてだいぶ自身を落ち着かせていたのだろう、私の身体もすっかり温まり、髪もだいぶ乾いてしまった頃だった。
「ちなつちゃん、ありがとぉ」と言ったあかりちゃんの表情は暗いものの、声はさっきよりもだいぶいつものあかりちゃんに戻っていた。

ちなつ「どういたしまして」

あかり「え、っと……」

うちに来るのはほとんど一年ぶりくらいだろうあかりちゃんは、久々に会ったあの日と同じように少しだけよそよそしい感じで部屋に
入ってきた。
その様子が少しおかしくて笑ってしまう。

すみません離席します
朝には戻る

そんなぁ

朝って離籍ってレベルじゃねえwww

なんだって……!!

俺は寝て3:50に勉強ずるからついでに保守する。朝まで勉強してるから
お前ら2:30持たせろ。それ以降はここは何分毎に保守ればいいんだ?

3日保守の悪夢を思い出してしまった

2回ほどあったよな
この人のSSでは

どうせ5時くらいまでは起きてる

夜ちゃんと寝るのはいいことだ

しえn

あげ

相変わら書きだめしてないのか

どうせ支援するならただ支援するより短いSSで埋めたくなるがゆるゆり読み込んでないので無理だorz

保守目的だとしても乗っ取り紛いの行為はやめておけ

保守するくらいなら原作読み込んでこい
1ページ1分はかけてじっくりとだ

今追いついたと思ったら朝までないなんてやだー!いいところだったのにー

えんご

逃さん

@ @

 @

ほしゅればいいのか

うおおスレ残ってた

              ____
          ´ で         `ヽ
         ,′ く  ス お
           i   だ レ 願   i
           |   さ 落 い   |
          l   い .ち し   .|
               な ま
            ヽ     い す  ノ
             `ー--v--‐ ´
                .-─- 、

               . ´..:.:.:.:.:.: ´:. : .\
          /..:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.ヽ_

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.          / .. .:r==、、:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.ノ/! )
         /{.-┴- i i ..:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:///{'
       .´ 丶'   `ヽヽ.:.:./マァァ77////
.       ,′´   ヽヽ i i/  }廴////
      i       i i | !ヽ  { 廴/
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       jハ{ | |  !l !リ<¨ __ノ
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the

war

残ってた、ありがとうございます
>>77から続ける

あかり「ど、どうしたの?」

ちなつ「ううん、なんでも」

あかり「うぅ、ちなつちゃんに笑われちゃったよぉ」

私はそんなあかりちゃんを手招いて、ストーブの前に座らせた。一人部屋用のものなので小さいけど、あたっていないよりはマシなはずだ。
私の隣に腰を下ろしたあかりちゃんは「ちなつちゃんは大丈夫なの?」と訊ねてきた。

ちなつ「お風呂?」

あかり「うん、入らなくて」

やった再開

私はうーんと迷いながら自分の髪に触れてみる。もう乾いているとはいえ、雨に濡れたために少し気持ちが悪い。
それでも、あかりちゃんの話を聞くほうが先じゃないのか、なんてことも思ってしまうから。

「あかりちゃん、私たちなんでも話そうね」

今より少し幼い頃、そんな約束とも言えないような約束を交わしたことがある。
実際なんでも話していたのはきっと私だけなのかもしれないけど。
あかりちゃんは、いつでも私の話に耳を傾けてくれていた。暴走気味の私の話でも、ちゃんと。

ちなつ「あかりちゃん、それより……」

だから私は、さっきあかりちゃんが言いかけたことについて切り出そうとして――
あかりちゃんがふと私の肩に触れ、「ちなつちゃん、あかりはいいから入ってきて」なんて。

ちなつ「え、いいよ。服もちゃんと着替えたしストーブあるからあったかいし」

あかり「でもちゃんと温まらなきゃだめだよ!」

ちなつ「そ、そう……?」

なんだかその力強い言葉に、私はきょとんと首をかしげて。あかりちゃんはやっぱり力強く頷いた。
確かにこんな心地じゃ話聞こうにも聞きにくいだろうし……。
私の心はだんだんと揺れて――結局、その言葉に甘えることにした。

おお、来たか

――――― ――

やっぱりどれだけストーブで温まっていたって、シャワーでお湯を浴びるほうが格段に身体の芯まで熱を感じられる。
それでも一人だけほっこりとしている場合でもない、はずだ。私は急いで頭を洗おうと頭からお湯をかぶった後、そういえばバスタオルを
脱衣場に出していなかったことを思い出した。

迷いながらも、一旦シャワーを止めて私は大きな声で「あかりちゃーん!」と呼んでみた。
ここから私の部屋までなら声は聞こえるはずで。
案の定、部屋の戸が開くような音がして「どうしたのー?」と声が返って来た。それからきっと、あかりちゃんの足音。すぐそこまで来てくれたらしい。

ちなつ「えっと、バスタオル出しといてくれない?」

あかり「うん、いいよぉ」

脱衣場の戸が開く音がして、あかりちゃんが入ってきたのがわかった。
私はまたシャワーの蛇口を捻って、「そこの棚の奥に入ってるから」と。それだけですぐにわかったのか、「あ、あったよー」とあかりちゃんの声。

ちなつ「じゃあそこに置いといて」

あかり「うん」

そのまま、なんの音もしなくなった。
戸の開く音もしなくて、私はそっと扉のほうに目を向けて。あかりちゃんはまだ、そこにいる。あかりちゃん、と名前を呼ぼうとして、中々声が
出てくれなかった。その代わり、あかりちゃんの「あのね、ちなつちゃん」と少し頼りなさげな声が落ちる水の音の間から聞こえた。

支援

私はなんの返事もせずに、ただあかりちゃんの次の言葉を待った。いつのまにか手の動きは自然と止まっていて。

あかり「変な噂、聞いただけなの」

なのに、びっくりしちゃって。あかり、どうすればいいのかわからなくなっちゃって。
ぽつりぽつりと、言い訳するような口調で、あかりちゃんは言う。
シャワーの音に紛れてところどころ聞こえにくいところもあったけれど、あかりちゃんの声をただ、一言も漏らさないように。

あかり「……ちなつちゃんは、京子ちゃんのこと、悪い子だなんて思わないよね」

ちなつ「え……?」

突然出てきた名前に、私はかなり間抜けな返事を返していたと思う。
でも、ここでまさか京子先輩の名前が出てくるとは思わなかったから仕方ない。

ちなつ「そ、それは……」

まさか入るつもりだった茶道部が廃部で、入るつもりのなかったごらく部へと足を踏み入れてしまった数年前の私。
その当時はミラクるんに似ていると言って頻繁にスキンシップをはかってきておまけに結衣先輩を困らせたりする京子先輩のことが、
正直なことを言えば苦手だったし――

けれど、一緒に過ごしていくうちにだんだんと京子先輩のいいところを見つけてしまって、嫌いになんてなれなくなってしまった。
私は結衣先輩やあかりちゃんより、京子先輩のことはよく知らない。
けれど、京子先輩が悪い人じゃないことくらいは、ちゃんとわかる。

>>122
>けれど、京子先輩が悪い人じゃないことくらいは、ちゃんとわかる。
→それでも、京子先輩が悪い人じゃないことくらいは、ちゃんとわかる。

復活やったぁ!

西垣先生がメガネ発明して
かけると人が前の日に何回オナったかわかる
みたいなSS覚えてる人いませんか!
かなり前のだけど
もっかい読みたいんです!

綾乃「自慰の回数が分かる眼鏡ですって…」で検索!

人間が居たぞ!やっちまえ!
ちょ、削除は勘弁して
エキサイト先生のウザさは異常

支援

ちなつ「思うわけ、ないでしょ」

あかり「……うん、そうだよね」

そりゃ思えたらもっと気が楽だったのかもしれない。
けれど――「船見さんと歳納さんって、かなり仲いいよね……」――あの噂を、信じていたわけじゃない。信じていたというより実際にそれは
事実だったし。その噂の言いたい意味についても、そうなんじゃないかって薄々勘付いていた。

今はもう、よくわからないけど。
結衣先輩が京子先輩のことを好きだったことには間違いない。結衣先輩が大切にしてた人なのだ。だからやっぱり私は。

あかり「あかりも、信じてるわけじゃないよ」

ちなつ「うん、わかってる」

キュッと蛇口を閉め、私は答えた。
あかりちゃんが「えへへ」と小さく笑ったのが聞こえた。

あかり「……あのね」

ちなつ「うん」

あかり「京子ちゃんが今、とっても悪いことしてるんだって」

ちなつ「うん」

あかり「そんな話、聞いちゃったから」

とっても悪いことがなんなのか、あかりちゃんは言わなかった。
それでもそのニュアンスで、なんとなくの予想はついてしまう。

>>127
ありがとうございます!
ほんとありがとうございます!

ちなつ「京子先輩が、そんなことするわけないでしょ」

あかり「そうだよね」

ちなつ「あかりちゃんが心配したら逆に失礼だよ」

まあ、私は結構失礼なこと言っちゃってたけどね。
そう言ってみると、あかりちゃんが扉越しに少し噴出したのがわかった。

―――――
 ―――――

あかり「ちなつちゃんのお家泊まるの何年ぶりかなぁ」

ちなつ「何年ぶりってほどじゃないだろうけど」

あかりちゃんのためにベッドのすぐ隣に布団を敷きながら私が笑って言うと、あかりちゃんは「でもすごく久し振りだよ」と。
確かに、思えばあかりちゃんが泊まりに来ていたのは三年生のはじめまでだった気がする。
別になにか理由があったわけじゃなく、部室でもずっと二人きりだからなんとなくしなくなっただけだったりするものの。

紫炎

ちなつ「はい、できた」

あかり「えへへ、ありがとう」

あかりちゃんは「服も全部貸してもらっちゃってごめんね」と言いながら家にメールでも送っていたのだろう、携帯を閉じていそいそ布団の上に移動した。
明日は学校があるものの、この土砂降りの中帰るのはきっと大変だろうからとあかりちゃんを引き止めたのは私だ。
時刻はいつのまにか10時くらいで、話し込んでいる間に随分と時間が経っていたんだと改めて気が付く。

>>99
おまえらなあよくPC起動したまま寝るけどなあ、いいか?よく聞けよ、風邪ひくぜ…?

>>132
まあお前意外全部俺の自演なんですけどね
あ?Google先生呼ぶぞコラ

ちなつ「あかりちゃん、眠くない?」

あかり「どうして?」

私もベッドに移動しながら訊ねると、あかりちゃんがきょとんと訊ね返してきた。
その様子を見るからに、少し眠そうだけれど。
中学生の頃は、あかりちゃんはたしか九時寝だったはずだ。今でもその習慣は変わっていないのだろうか。そう思うと少し微笑ましい気分にもなる。

支援

ちなつ「ううん。じゃあそろそろ寝よっか」

なんでもないよというように首を振って、私は電気を消すために立ち上がった。
それを見てあかりちゃんが「えぇ!」と声を上げる。

あかり「まだ大丈夫だよ、ちなつちゃんはいつもこんなに早く寝ないでしょ?」

ちなつ「ま、まあそうだけど……」

でもあかりちゃん、すごく眠そうだし。
そうぼそりと言えば、あかりちゃんは「うぅ」と言葉に詰まったようだった。

ちなつ「ううん。じゃあそろそろ寝よっか」

なんでもないよというように首を振って、私は電気を消すために立ち上がった。
それを見てあかりちゃんが「えぇ!」と声を上げる。

あかり「まだ大丈夫だよ、ちなつちゃんはいつもこんなに早く寝ないでしょ?」

ちなつ「ま、まあそうだけど……」

でもあかりちゃん、すごく眠そうだし。
そうぼそりと言えば、あかりちゃんは「うぅ」と言葉に詰まったようだった。

>>142
すまんミス

ちなつ「いいよ、あかりちゃん。無理しなくても」

そう言いながら電気の紐を引っ張ると、ふっと周囲が暗くなった。
カーテンもきっちり閉めているから、光なんて入ってこない。もちろん窓の外は依然雨が大きな音をたてて降り続いているから、月明かりや星の明かりなんて
ロマンチックな光は入ってこないけど。

しばらく、無言だった。
ベッドに潜り込み、あかりちゃんも布団に潜り込んだような音が聞こえて、何も言わない。もう寝たかな、そう思ったとき、「ちなつちゃん」と
名前を呼ばれた。突然のことだったから、ついどきりと心臓が動いた。

しえん

飯かさるか

たのむから帰ってきてくれ

落ちたな

にゃ

hosyu

>>82
12824

>>91,96
10200

うわああああああ

ちなつ「なに?」

小さい声で答えると、「やっぱりもうちょっと話してたいなって」
あかりちゃんも同じ、小さい声でそう言った。

ちなつ「……あかりちゃんって結構甘えん坊だよね」

あかり「そ、そんなことないけど……!」

そんなことすごくあるよ。
私は軽く笑って、起き上がった。

きたーー!!

来てたか

ちなつ「あかりちゃん、そっちいっていい?」

あかり「え、いいけど……」

その返事に、私はさっきのあかりちゃんと同じようにいそいそとあかりちゃんのいる布団に移動した。
「一緒に寝てくれるの?」と嬉しそうなあかりちゃんに、「こっちのほうが話しやすいもん」と変な言い訳のようなこと。

あかり「えへへ……」

そんなに大きな布団ではないから、いつも以上に私たちの距離が近くなる。
そういえば昔もこんなふうに一つの布団で寝たことがあるけど、高校生になった今は身体が成長したせいかほとんどくっつかなきゃいけない状態だ。

夜のテンションというやつと、そしてそのことも相俟ってか私はえいっとあかりちゃんの足に自分の足を絡めてみた。
あかりちゃんが「きゃあ」と笑い反撃してくる。

あかり「ちなつちゃんの足冷たいよぉ」

ちなつ「あかりちゃんの足だってー」

小さい子供みたいに布団の中でもぞもぞと足を絡めあう。
こんなことをするのだって本当に久し振り。ついおかしくなって噴出したのは、ほとんど同時だった。

あかり「も、もう……ちなつちゃんのせいでちょっとだけ目覚めちゃった」

ちなつ「むしろ感謝するとこでしょー」

向き合ったまま、絡めた足は徐々にお互いの体温で温かくなっていく。
こんなふうに一緒にいられるのはあかりちゃんだけなのだと、ふと、そんなことを改めて思った。

どれだけ高校の友達がいたって、どれだけ結衣先輩が好きだって、どれだけ――

布団の中を探る。見つけた手を、私はそっと握った。
「どうしてかなぁ」とあかりちゃんが言う。

あかり「どうして、ずっと一緒にいられるって思っちゃってたんだろう」





――寂しいよ、ちなつちゃん






あかりちゃんにどこに行くの、と初めて訊ねたのは三年生になって何度目かの進路調査のときだったと思う。
それまでも何度か受験や高校の話はしていたけど、具体的に学校名を訊ねるのは初めてで。

その時は、別になんとも思わなかった。
あかりちゃんの口から私じゃ冗談でも言えないような学校名が出てきたことに対して、
わあ、あかりちゃんはやっぱりかしこいもんね、なんて。
ただ、すごいなあと、そんなふうに考えただけで。

きっと、よくわかっていなかったんだと思う。

私も、あかりちゃんと同じだった。
一緒にいることが当たり前すぎて、学校が違ったって一緒にいられるなんて、そんなふうに思っていたのだろうか。
だとしたら私はきっととんでもなくバカで。それとも私の感覚がマヒでもしていたのだ。

「じゃあ、また明日ねあかりちゃん」

「うん、また明日、ちなつちゃん」

離れるということがどういうことなのか、ちゃんと気付いたのは高校に入学してしばらく経ってからのことだった。
卒業式の日、その言葉で私たちは別れた。
言わなきゃいけなかったさよならだったりありがとうだったりは、言うことなんてできなかった。そんなこと、思いもよらなかったから。

けじめなんてつけられなかった。だから私たちは今でも、お互いに寄りかかったまま。

まだ、朝とは言えない明け方。
カーテンの外はけれど少しずつ白みかけていて、雨はもうすっかり止んでいるのだとわかった。
まだぼんやりしている頭で、気持ち良さそうに寝息をたてているあかりちゃんの寝顔を見詰める。

あかりちゃんだったら、よかったのに。

ふと、そんなことを思った私自身に驚いた。
結衣先輩じゃなくってあかりちゃんだったら、なんて。でも、と言い訳するように私は枕に顔を埋め、そしてずっと握ったままだった手の
力を、さらに強くした。

でも、結衣先輩には触れられない。
こうやって触れられるのはあかりちゃんだからだ。

ちなつ「……」

そういえば昨日、結衣先輩にメールしてない。
気付いたのは、あかりちゃんが目を覚ましてすぐだった。

あかり「んん……っ」

ちなつ「……あ、あかりちゃん」

おはよ、と声をかけると、あかりちゃんは寝ぼけ眼のまま「おはよぉ」と答えた。

4

―――――
 ―――――

トーストと牛乳だけの朝ごはんを済ませ、昨日のうちに乾かしておいたそれぞれの制服に腕を通す。
違う制服というのが少し変な感じだけど、そのことに違和感を感じることもだいぶなくなっていた。

ちなつ「あかりちゃん、次の電車じゃなきゃだめなんだっけ?」

あかり「うん、ちなつちゃんは?」

ちなつ「私はその次の電車でも間に合うから平気」

あかりちゃんの学校よりも、私の学校の方が比較的近い。
「そっか」とあかりちゃんは言うと、先に靴を履いて玄関を出た。
鍵をかけて追いかけると、あかりちゃんは「ごめんね、朝の時間までつき合わせちゃって」と申し訳なさそうに。

>>175
>ちなつ「私はその次の電車でも間に合うから平気」
→ちなつ「私はその次の電車でも間に合うから平気なんだけど」

さるったのか

ちなつ「私もたまには早く行きたいからいいよ」

あかり「そっか」

それに。
あかりちゃんは学校の用意を取りに帰ることはせずに、一緒にいてくれようとした。
話すことは、まだまだ沢山ある。ありすぎて、間に合わないくらいだから。
私たちはそこからただ、黙って駅までの道のりを歩いた。

駅に近付くにつれて、朝の空気が濃くなってくる。
ざわざわとした改札口の近くで、私たちは立ち止まった。

>>4,98
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一応さるよけ

向き合って、そのまま、私たちはなんと声をかけるべきか迷いあぐねていた。
少なくとも私はそうで。

ちなつ「……」

あかり「……」

絶対に会えなくなるわけじゃない。
会おうと思えばいつでも会える。けれど会おうと思わなきゃ私たちはもう会えないのだ。

じゃあ、また。
正しい、正しくないというのはもうこの際きっと関係ない。じゃあ、また。そう言おうとした私をけれど、あかりちゃんはいとも容易く止めてしまった。





ちなつちゃん。
あかりね、やっぱりだめだよ。ちなつちゃんと、ずっと一緒にいたい。





それはこの朝の空気には似合わないような、熱を孕んだ、言葉。
私は視線を逸らした。あかりちゃんも、視線を逸らした。
今度は、また明日も、じゃあまたも、なにも言えなかった。
ただずっと、心の奥が締め付けられるような感覚に苦しさを覚えて、そして、私は。

支援



京子と会ったんだ。

ぼんやりとした頭に入ってきた結衣先輩の声は、確かにそう言っていた。
私は「え?」とトレーに敷いてある紙に落としていた目を上げ、結衣先輩を見た。

結衣「……なんかあいつ、べつになにも変わってないんだけど、なんていうか、その」

そう言いあぐねている結衣先輩は、ひどく心配そうで辛そうで。
そのことに、先輩自身はきっと気が付いていない。

              /⌒
         ゝ´⌒`´⌒` 丶.、

     ィ'⌒>'´          `<⌒ヽ
     {{ ∨             ヾ: }}
    八/ /   / |   | |  l ヽ  ハ八
    / /    / 八 | { ∧ l  | |  〉
    \{ l l /∨  \{ 八{ ノハ | |/
      | l N三≧    ≦三 ノ ノ |  私、主役の赤座あかりです
     | :八|{ '''          ''' イ  .l
     从 ハ      _ ノ    .l  .ノ
      \Y^ゝ、. ____ /⌒Y/
        |\  Yミ∀彡(  ノ\
        .| ̄ ̄ |"∧^´| ̄ ̄ | .}!
        .| ::::   | !::! | ::::   |ミノ
        | :::: :: | |:::| | :::::   /
  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄乂__ノ  ̄ ̄ 乂_ノ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

あかりちゃんとは、お泊りの日以来もう数週間は会っていなかった。
結衣先輩の陸上部の大会も終わって(結果は四位という微妙な位置だった)、また一緒に帰る日が増えたこともある。
けれど、なによりあの日最後のあかりちゃんの言葉がずっと頭から離れないというのがきっと一番大きい。
高校生になってから会わない日のほうが多かったはずなのに、しばらく会う日が続いてしまえば会わないことに少なからず変な気分を感じてしまう。

ああ、だからだろうか。
これもきっと、罰があたったのかもしれない。

ちなつ「そ、そうですか……」

彷徨う視線をとらえられないように、私は俯いた。
いつもならなにか違う言葉を繋げられたのかもしれないけど、今はそれが精一杯だった。

しえ

―――――
 ―――――

時々、チカチカと光る携帯。
メールボックスには未読のメールがたまっているけど、返事が返ってこない事を察したのだろう、ここ数日はもう新しいメールが入ってくることは
なかった。

ちなつ「……」

あかりちゃんだったら。

ふと、そんなことをまた、考えてしまう。
あかりちゃんだったら、良かったのに。あかりちゃんだったら、私たちは、私は、こんなふうな気持ちにならなくてもよかった――のかどうかは
やっぱりわからないけれど。

『ちなつちゃんのこと、ちゃんと好きだから』

別れ際、最近よく、結衣先輩はそう言ってくれる。
優しい声で、好きだと、そう囁いてくれるのだ。

嬉しかったし、嬉しかったけど、「私もです結衣先輩」なんて答える気には到底なれなくて。
それは奥底に京子先輩の影を感じるからなのか私自身が結衣先輩のことを――きっと、そんなわけはない。
それでも結衣先輩への気持ちは確かでも、でも、なにか違う。そう思う私はなにが違うのか、わからなくて、だからよけいに、苦しくなって泣きたくなってしまう。

その度に、傍にいてほしいと思うのはやっぱりあかりちゃんなのだ。

スレタイ「仕方ないからあかりちゃんの傍にいてあげる」にしろよ

4ってなんだ?支援のし?

>>201
そう

>>201
違う

仕方が無いなあの4

4円


いつのまにか秋も深まり、冬が近付いてきていた。
あかりちゃんからの連絡は一向になくて、私は時々あかりちゃんのことを考え、結衣先輩はたまに京子先輩に会っているみたいで、それでもずっと
私と一緒にいてくれた。

一緒にいるだけじゃ満たされないことはたくさんある。
そしてきっと、お互いがお互いを傷つけないようにするのはとても難しい。いつ崩れてしまうかわからないような私たちの関係はもうきっと、
ほとんど限界に近かったのかもしれない。

結衣「おはよう、ちなつちゃん」

結衣先輩と通学することがここ最近習慣になっていて、朝一番に結衣先輩の優しい声と笑顔が飛び込んでくる。
やっぱり私は、結衣先輩のことが好きなのだと、そう思う。
けれど、好きだからこそ、きっと違ったのだ。遠くから見詰める結衣先輩の姿が、愛しかった。こんなにも近くにいるのに触れられないのなら、
ただ遠くでその姿を見詰めているだけでよかったのだ。それで私は完璧には満たされなくったって、諦めがついたのだから。

昨日の夜、一件だけ着信があった。
あかりちゃんからだった。
メールがぱったりやんで以来、電話もしなくなっていたのに、それが突然。

なにかあったのかもしれない。
そう思って何度も電話をとろうとした。もちろん、とれるはずはなかった。あかりちゃんからの電話を無視してしまった私は、だけど。
尚更、あかりちゃんのことが未だに気に掛かっていて、話したいと、一緒にいたいと、きっとそう思っているのだということを自覚させた。

あかりちゃんへの気持ちはたぶん結衣先輩へのものとは違う。
もちろん、京子先輩やほかの友達に向けたものとも違う。今の私にはその気持ちの名前がなんなのか、よくわからない。
だからこそ踏み出せなくて、私はいつまで経っても結衣先輩の隣に、いる。

その日はいつかの日と同じ、雨だった。
もうすぐ冬だという時期の雨は、とてつもなく冷たい。傘を忘れたと言って結衣先輩の黒い傘にいれてもらっていた私は、そっと結衣先輩を見上げ
その表情を窺った。

内ポケットが、震えていた。
誰かからの着信。けれど、それが誰からなのか、私はなんとなくわかっていた。

結衣「ちなつちゃん?どうしたの?」

ちなつ「あ、えっと……」

戸惑う私の様子に、結衣先輩が「電話?」と。
どうして、と思ってすぐにバイブの音が聞こえるのだと悟った。雨の音がうるさいはずなのに、震えている音が聞こえるほど結衣先輩との距離は今、
近かった。

結衣「出ないの?」

ちなつ「……」

今日はこれから、二人でどこかへ行こうと話していたところだった。
この電話に出てしまったら、その話はきっとなかったことになってしまう。そんな予感が確かにどこかにあって。

いいよ。
結衣先輩は突然、そう言った。立ち止まる。激しい雨が、私たちの上を容赦なく叩き付けて行く。

結衣「出て、ちなつちゃん」

ちなつ「どうして……」

結衣「だって、すごくその電話に出たいって顔、してるよ」

そう言って、結衣先輩はくすっと笑った。
少しだけ、寂しそうに。けれど、どこか安堵の表情で。
それでもまだ迷っているような私に、結衣先輩は「気付いてたかな」なんて。

結衣「ちなつちゃん、よく自分があかりの話してたこと」

ちなつ「え……」

言われて、初めて、そうだったかもしれないと気付く。
先輩を傷付けないように、私が傷付かないように、それだけのことに必死で、それなのにそんなことにちっとも気が付かなくて。

結衣「ごめんね、私は、ちなつちゃんの欲しかった私になれなかったんだよね」

そんなことないです。
どんな結衣先輩でも好きでした。

辛うじて出た言葉は、ちゃんと聞こえただろうか。
結衣先輩はやっぱり優しく微笑んで、「私もちなつちゃんのこと、好きだよ」と。どきどきとしているはずの心臓は、けれど雨の音に紛れて
その音は聞こえなかった。ただ無性に、痛かった。

日本語でおk

結衣先輩は、雨の中を駆け出していった。
私にただ一本の、黒い傘を持たせて。

本当に、最後までどこまでも凛々しくてかっこいいかっこいい人だ、と思う。本当に素敵だ。
そんな人に、たとえお互いにその意味が違ったとしても、好きだと言ってもらえて、私はきっと、世界で一番の幸せ者だった。

もったいないな、そんなふうにも思うけど。
私がずっと、結衣先輩が離れていく不安に耐え切れていたなら。あかりちゃんと一緒にいるのがなによりも安心出来ることなのだと気が付かなかったら。
でもきっとどちらにしてもこうなったのかもしれない、なんて。

私は深呼吸をすると、いつのまにか震えの止まっていた携帯を内ポケットから取り出した。
やっぱり、着信履歴には赤座あかりという名前があって、私はもう一度そっと、息をして、それからその番号を、押した。

4

呼び出し音は、すぐに途切れた。
『もしもし』と、そんな声がするかと思ったのに、ただ聞こえてきたのはあかりちゃんの息遣いだけで。

ちなつ「……」

あかり『……』

あかりちゃん。
確かめるように、名前を呼んだ。すっと、向こうであかりちゃんが息を呑んだのがわかった。

あかり『……ちなつちゃん』

やっと、聞こえた声は。
やっぱりいつかの日と同じ、震える声で。

私はだから、言った。

ちなつ「あかりちゃん、今どこ?」

あかり『いつもの公園……』

その言葉に返した言葉も「待ってて、すぐ行くから」
私はそれから、そう言うとあかりちゃんの返事も聞かずに通話を切り駆け出した。今度は逃げ出すためでもなんでもなく、きっとはっきりとした
私の意思で。

―――――
 ―――――

いつもの公園に辿り着くと、雨は一層強くなっていて、私の身体はびしょびしょに濡れていた。
なにもかも、あの頃と同じ。
「……あかりちゃん、風邪引くよ」そうかけた声だって、なにもかも。

けれど、ただ一つ違うのは。

結衣先輩の黒い傘を、私はたたんだ。
強い雨が、それでも私たちの頭上に降り続ける。けれど今はそんなことを気にしている余裕もなくて、ただ私は、「あかりちゃん」と。
近付いて、そして、雨に濡れ冷え続けた身体に抱きついた。あかりちゃんの身体が、びくっと痙攣するように震えて。

あかり「……ちなつちゃん」

どうして、とかすかな声が耳に届いた。
私だってそんなのはよくわからなかった。けれど、嫌われたのかと思ってたのに、そんなふうなことを言うあかりちゃんには、確実に違うよと
言うことができる。

あかり「やっぱりあかり……だめだって思ったの。ちなつちゃんがいなきゃ、だめだって」

私はなにも言わなかった。
雨に混じって、あかりちゃんの涙も受け止める。怯えるように、けれど、確かに求めるみたいに、あかりちゃんの手が、私の背中に回された。

なんであかりは毎回傘ささないの?
風邪ひきたいの?

4

ほし

あかり関連にしか興味身としては余計な登場人物がいなくて読みやすい
その上ちなあかですし

あかり「あかり、好きとか嫌いとか、よくわからないよ。でも、ちなつちゃんと離れちゃうのはすごく怖いって、そう思って」

ああ、きっとそれを言わなきゃいけないのは私のほう。
私だってたぶん、あかりちゃんがいなくちゃだめなのだ。ずっと離れたままだと、おかしくなっちゃいそうなくらい。
結衣先輩への気持ちとも違う、もちろん京子先輩や他の友達に対する気持ちとも違う、この感覚。

わからない。
わからないけれど。

あかり「……どこにも行かないで、ちなつちゃん」

仕方ないから傍にいてあげる、あかりちゃん。



それから私たちの関係がなにもかも変わったわけではない。
結衣先輩と京子先輩はうまくいってるとこの間あかりちゃんが報告してくれたら、きっと大丈夫だろう。
その時のあかりちゃんの表情は、とても嬉しそうだった。それまで続いていた京子先輩の悪い噂も、ぱったり途切れたというのだから。
もし苦しんでいた京子先輩を結衣先輩が救えたのだとしたら、やっぱり私は、結衣先輩と離れたことを後悔しないししたくもないと思う。

時々、少しだけ苦しくなっちゃうときはあるけど。
それでも私はきっと、今、世界で一番の幸せ者。

だって、誰よりも信頼できて、誰よりも安心できるあかりちゃんの傍にいられるのだから。
もちろんこれまでと同様、会いたいと思った時にしか会えないけれど。お互い会いたいと思っていられるのだ。それだけですごく、嬉しい。
そして私はきっと、今、そんなあかりちゃんに惹かれている。これはまだ、あかりちゃんには言えないけれど。

ちなつ「高校卒業したら、一緒に旅行したいよね」

あかり「わぁ、楽しそうだねぇ」

ちなつ「じゃ、約束ね」

あかり「うん、約束」

今は、そんな未来も一緒に見られる。けれど、それでもいつかはまた離れなきゃいけないときがくるだろう。
そのときのいつか、この気持ちを言葉にできたなら。どうなるかはわからない。
わからないからこその約束と。

そして私は、やっぱりあかりちゃんの傍にいたいから。

終わり

最後は自分でもよくわからなくなった、猛省
ここまで付き合ってくださった方ありがとうございました

それではまた

感動した乙

お疲れー

やっぱちなあかいいな乙

長丁場おつおつ

よく分からないんだけど、結局結衣と別れたの?
なんで?

これからよむよぉ
乙だよぉ

なかなかよかった。乙

内容はよかったけど文章が良くわからないところ多かったな今回はwww
いつのまにか別れて結衣が京子のほう行ってたし
とりあえずおつおつ

結京サイドも気になるけど乙だよぉ~

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