夜神月「囲碁界の神に僕はなる!」(610)


月「まったく……つまらない……」

月「毎日が同じ事の繰り返し……この世は腐ってる」


ゴトン!

月「ん、なんだ今の音?」

月「あれは……碁盤?」

月「なぜ校庭に……」

‐放課後‐


月「誰も気づいていないのか」キョロキョロ

月「ふぅん。そういえば、確かうちには囲碁部があったな。届けてやるか」

月「にしてもずいぶんと汚れているな」

月「あれ? 拭いてもとれない」


???「聞こえるのですか?」

月「!!」

???「私の声が、聞こえるのですか?」

月「だれだ!! 死神か!?」

???「神よ……感謝いたします」

月「うわ! うわー!!」


・・・


月「……なるほどね。だいたい事情は察したよ」

月「つまり君は平安時代に死んだ碁打ちで、僕につく以前は寅次郎とか言う奴に取り憑いていたわけだ」

月「そして何の因果か、時代を経てこの僕に巡りあった」

佐為「ありがとうございますライト!」

月「待て佐為。まだお礼を言うのは早いよ」

佐為「え……」

月「僕は事情を察しただけであって君に付き合って囲碁をする気はない」

佐為「そんな……うぅ……そんなぁ……」シクシク


月「う゛っ、オエ」

月(なんだ!? 急に吐き気が……?)


月「佐為!! お前、ぼ、僕を取り殺す気なのか!?」

佐為「そんなつもりはありませんが。うぅ、碁を打てないなら私は一体なんのために」シクシク

月「オエ、わかった。泣き止んでくれ」

佐為「打たせてくれるのですか!」

月「……悪いけど、僕は受験生でね。わかる? 勉強に忙しい身なんだ」

月「これから塾にいって夜まで勉強だ」

佐為「忙しいのですか……いえ、わがままは言いませんライトに時間があるときで良いので」

月「おとなしくしてるならそれでいい」

佐為「はい♪」


【塾】

佐為「何を読んでいるのですか」

月「囲碁のルールブックだよ。さっき書店で買ってたろ?」

佐為「ライトは碁の打ち方を知らないのですか?」

月「全くね。いくら東大A判定余裕の天才の僕でも、興味のないものはさすがに知らない」

月「だいたい現代には娯楽なんていくらでもあるからね。ゲームとか漫画とか、まぁ僕はそっちも興味ないけど」

佐為「そうですか……」



月「それよりも」パタン

月「ざっと本に目をとおした感じだと、恐ろしく時間を食いそうなボードゲームだな」

月「オセロとくらべて手の数が多すぎる」

佐為「そうなんです」ニコニコ

月「さすがの僕でもルールを覚えるのに三十分かかった」

佐為「もうすべて覚えたのですか!」

月「あぁ。といってもルールを覚えただけであって、実際に打つのは君だけどね」

佐為「ライトは打たないのですか?」

月「まさか。片手間に勉強でもしているよ」

佐為「……」シュン


月「そうだ佐為」

佐為「はい」

月「この講師の授業は退屈だから平安や江戸時代のウラ話でも聞かせてくれ」

佐為「もちろんです!」

月「ククク、佐為は運がいいよ。僕のような、要領が良くて物分りの早い人間にとり憑けて……」

佐為「神に感謝しております」

月「ただし僕は自分の限られた時間は有効に使う。あくまで君の相手をするのは暇つぶしだ」

月「それを忘れなければ、存分に碁を打たせてやると約束する」

佐為「ありがとうございますライト!」ギュム

月(幽霊のくせに感触があるとは……)

月「さて、役にたたない授業もおわったし帰るとするか」

月「ん、雨か。めんどうだな。傘をもってきておいて良かった」

月「佐為、見てろ」

佐為「はい?」

バサッ

月「……」ドヤッ

佐為「……?」

月「……おかしい何故驚かない……お前は唐傘しか知らないだろ?」

佐為「え? あぁ、傘ですか。すごいですよね時代は知らず知らず進むものです」

佐為「私が生きていた時代からは考えられない進歩です」

月「……」


女「あ、夜神君。傘もってきたんだ偉いね」

月(えっと……誰だ?)

佐為「可愛いらしい子ですね。ライトの知り合いですか?」

月「……あぁ、念の為にね。参考書が濡れたら困るから」

女「それより夜神君! さっきの授業で」

月「!!」

月(こいつ……まさか僕と佐為のやり取りを!?)

女「碁の本よんでたでしょ! 囲碁に興味あるの!?」


月「…………いや、ちょっとね。暇だったから」

月(そうだ思い出した……こいつ、うちの高校の……名前は……)

女「興味があったら囲碁部に来てよ! 次の大会までは三年生も活動してるから!」

佐為「ライト! 行きましょう! ぜひ!」

月(うるさいぞ佐為よくわかってないくせに)

女「って、夜神くんは東大めざしてるんだよね。ごめんね。部活やってる時間なんてないよね」

月「藤崎さん。(で合ってるはずだ)よければバス停まで傘入っていく?」

佐為「優しいんですねライト」

月(まぁね。僕の顔と器量ならこの子もあっという間に僕の虜かな)

女「あ、ううん大丈夫。もう迎えがくるから」

月「そ、そうなんだ……」


女「あ、ううん大丈夫。もう迎えがくるから」

月「そ、そうなんだ……」

男「おーいあかりー! わりー検討おもったより長引いちゃってさ、ちょっと出んの遅れた」

女「お疲れ様。じゃあ夜神君、また学校でね!」

月「……あ、あぁ。そっちの彼は、藤崎さんのお兄さん?」

女「えっと、幼馴染……かな?」

男「あかり、この人誰?」

女「同じ学校の夜神君。東大目指してるすっごい頭いい人なんだよ」

男「へーよくわかんねぇけどすげぇな!」

月「君はどこを目指してるの?」

男「俺? 俺は……そうだなぁ」

男「神の一手、かな?」

佐為「!」

月「?」

男「じゃあな! 勉強がんばってな」


・・・



佐為「……」

月「どうした、佐為。行くぞ」

佐為「……あの少年……私は……」

月「佐為?」

佐為「……彼もまた、私とおなじ道を往かんとする者」

月「何をいっているんだ佐為。どうみてもただのフリーターだ」

月「前髪だけ染めた奇妙な金髪。おまけに聞くところによると中卒じゃないか」

月「あんな髪型が許される仕事なんてアルバイトくらいしか僕は知らないよ」

月「社会の底辺を垣間見た。僕はああはなりたくないね」

月「学年のマドンナ的存在の藤崎さん、こんな大事な時期にあんなのと付きあうなんて」

月「まぁ、いい。僕には関係ない」

月「あと言っとくけど僕は言い寄られたから女の子の相手をしているだけで、別に女漁りが趣味なわけじゃないからな」

佐為「やけにしゃべりますね悔しかったんですか?」


月「……ッ。今日は帰ったら寝る」

佐為「そんなぁ~! 碁は打たないのですか!」

月「気分が乗らない」

佐為「楽しみにしてたのにシクシクシクシク」

月「うぐ、ォェ……い、一回だけだぞ」


・・・


母「怖いわねぇ」

月「ただいま母さん。どうしたの幽霊でも見た?」

母「物盗りですってー。ライトもさゆも気をつけなさいよ」

月「物盗り?」

母「ご近所にプロの碁打ちの人いるでしょ?」

月「いたっけ。僕は母さんほどご近所話に詳しくないよ」

母「そこのお宅に物盗りがはいったんですって。大事な碁盤を盗まれたそうよ」

月「……へぇ。わかったよ戸締りはしっかりしとく」


・・・

佐為「平和な時代にみえても悪人はいるのですね」

月「まぁね。むしろ見えないところで悪さするやつは増えてる」

月「仮に僕に犯罪者を裁く力があればきっとそういう人間をさばいていただろうな」

佐為「はぁ……それよりもライト!」

月「あぁわかってる。打つんだろ」

佐為「はい♪」

月「とはいっても。僕の家には碁盤は碁石がない。つまりは碁は打てない」

佐為「……ライトの嘘つきー!!」

月「だけど、佐為。よく見ててご覧。時代はここまで進歩したんだ」

月「……」カタカタ カチッカチッ

月「どうだい? いまやインターネットを通じていつでもだれとでも対局ができる!」ドヤッ

月「仕組みを説明しても佐為には理解が及ばないだろうけど。簡単に言えば、これがあれば対局相手に困ることはないってことさ」

佐為「……」

月(おかしい……何故驚かない)


佐為「す、すごいですね! この箱で……碁を……」

月「佐為?」

佐為「すいません……ライトに出会ってからどうも頭の中に霧がかかったような感じがして」

月「幽霊のくせに頭をぶつけでもしたのか?」

月「佐為……まさか碁を覚えてないなんていうんじゃないだろうな」

月「記憶があやふやな幽霊なんてなんの価値もないじゃないか」

佐為「大丈夫です。碁は打てます」

月(打てますといっても結局PCの操作をするのは僕なんだけどな)

カチッ カチッ

月「名前はなんにする? そうだな……K……I……R……A!」ターン!

月「KIRA! なんてどうだろう?」

佐為「?」

月「……冗談。そんな顔しないでくれ。せっかくだから佐為の名前を使おうか」

月「s a i ……sai、っと」カタカタカタ ターン!


月「あれ、結構名前かぶってるな」

月「ややこしいな、変えたほうがいいか?」


 【 L・Lが対局を申し込んできました 】


月「な、なんだこいついきなり僕に対局を!」

月「クク……まぁいい。僕の実験台第一号はL・L、お前だよ」

月「そして佐為。僕にどれほどボードゲームのセンスがあるかみせつけてやるよ」

佐為「え、あれ、ライト!? 私に打たせてくれるのでは!?」

月「僕だってルールを覚えるだけじゃまだわからない所があるからね」

月「それに、実際に自分で打ってみないと佐為がほんとに強いかどうかわからないだろ?」

佐為「そ、そうですけど……うそつきーウソツキー……」

月「後ろでみてなよ。僕が華々しく初勝利を飾る瞬間をね」



 【 対局を開始しました 】



月「……まずは四隅からだな」カチッ

月「そして辺をかためていく」

月「ふふふ、どうだ。ここは僕の陣地だ。簡単には侵入できないだろう」

月「ははは! なんだ、簡単じゃないか佐為!」

佐為「……」

月「天才の僕に陣取りゲームで勝とうなんて100年早い、いや生まれ変わっても無理だよ」

月「それにしても、対局閲覧者数がものすごいな」

月「世界中が僕の囲碁デビューに注目している……というのは考え過ぎかなw」

月「さてと、なぁ佐為。形成はどうだい」

佐為「投了したほうがいいですね」

月「……ば、ばかな! 本気でいってるのか!? ふざけるなあああ!!」


月「まだ対局ははじまったばかりだぞ! 中盤にも差し掛かっていない!!」

佐為「この者の実力、並大抵のものではありません」

月「クッ、コイツ、よくみれば上位クラスのアベレージじゃないか……!! 初心者狩りか!!」ガタッ

佐為「碁をおぼえたてのライトが勝てる相手ではないでしょう」

月「僕が……負ける!?」

月「嘘だ……そんなの……ありえない……」

月「テニスでも勝った。勉強も、チェスも、ゲームもなにもかも!!」

佐為「私が教えてあげます。共に成長しましょう」

月「いやだ……負けたくない……負けたくないいいい!!!」

カチカチカチカチ

佐為「でたらめに置いても勝てませんよ。囲碁は運で決まるものではありませんから」

月「ハァ……はぁ……」

月「ごめん。すこし取り乱しただけだ。ストレスがたまっててね」


【 saiが投了を選びました。L・Lの勝ちです 】


月「……いつのまにか閲覧者たちもいなくなっている……どういうことだこれは!」

佐為「私に聞かれましても……」



そのころ 中国


リ・リンシン「また偽saiか……釣られたよ」

リ・リンシン「やはりsaiは三年前のあの一局以来……ネットの闇に消えてしまったのか……」

リ・リンシン「もう忘れよう……」

リ・リンシン「中国アマNo.1のL・Lともあろうこの私が……これではネットストーカーではないか」

月「……」

佐為「ら、ライト……気を落とさないで。互先で最初から勝てる者などおりません」

月「佐為、次の相手は君が完膚なきまでに叩き潰せ。いいな?」

佐為「……し、しかし」

月「さて、誰にしようか」


 【 L が対局を申し込んできました 】


月「またさっきのやつか!! いや、Lが一つ少ない……それにアベレージが低いな」

月「なんにしても腹立たしい。佐為」

月「手抜きは一切許さない。潰すんだ再起不能になるまで徹底的に」

佐為「……!!」

月「もし少しでも情けをかけたら……わかるな? 僕はすこし機嫌が悪くなる」

月「それと言っておくが僕は幽霊に対して情は抱かない」

佐為「……わかりました」



……




 【 L が投了を選びました。saiの勝ちです】


月「ふぅ……よくわからないうちに終わったな。瞬殺だ」

佐為「ぅ……私はこんな碁を打ちたかったわけでは」

月「対局相手はいまごろ悔し涙を浮かべているだろうね。ははは!」

月「気分がいい」カタカタカタカタ


 [sai:みたか僕の勝ちだ!!!!!!!]
 [ L :お強いですね囲碁歴は長いんですか?]

月「囲碁歴だって? ふふふ……はははははは!」

 [sai:聞いて驚け! 僕は囲碁歴なんとたったの一日だよwwwwwwwwww]
 [sai:その僕に! 負けた! お前は!!! 雑魚め!!]
 [ L :はい。今回は私の負けです]


月「なんだこいつ。僕の挑発にのらないなんて」


 [ L :ですが、次は負けません]

月「何を言っている……ネットは広い。もうお前と出会うことはないよL」

 [ L :sai、私はあなたを必ず見つけ出し……]

月「え……」

 [ L :公衆の面前に晒しあげる! ]
 [sai:!!!]

月「な、なにを言っているんだ……」ガタガタ
 
 [sai:ふざけるなぁーーー!!!]
 [ L :そして佐為、私は今回の対局で一つ大きなヒントを得た]
 [sai:なんだと!?]
 [ L :リアルタイムで対局することでお前がどこからアクセスしているかおおまかにつかめた]
 [ L :sai! お前は今日本の東京にいる!]
 [sai:なに!!!!] 



月「……ッ!! こいつまさか僕のプロフィールとIP情報を!!」

月「……いや、だがこの程度で個人の特定はできないはずだ」

月「だいたいどうして何もしてない僕が晒しあげられなきゃならないんだ……ネットに潜むキチガイめ……」

佐為「ライト、対局のあとはお礼を言わないとだめですよ」

月「そういう問題じゃないんだ!!」ガタッ


 【 L が退室しました 】


月「……佐為。ネット碁は今日で終わりだ。コイツに粘着される」

月「ネットに個人情報を晒されたらたまったもんじゃないからな」

月「まさかこんなことになるとは……」

佐為「あの、よくわからないのですが」

月「ここで打つと危険なんだ。それにやっぱり碁は直接手で打つに限る。そうだろ?」

佐為「は、はい♪ 碁石の音が聞きたいです!」


月(しかしどうする。明日駅前の碁会所にいってみるか……?)


・・・翌日


カランコロン


市河「あらいらっしゃい。初めてよね?」

月「えぇ」

市河「ふふ緊張しなくていいのよ。若い子もたまにくるから」

市河「あなたの棋力はどれくらい?」

月「棋力?」

市河「どれくらい打てるかってこと」

月「あぁ、そういう。そうですね……僕、結構強いですよ」ニヤッ

佐為「はい♪ へぇこんなところで打つんですか」

市河「あらすごい自信。じゃあ相手探すわね」


???「よければ打ちましょうか」

市河「あ、ならちょうどいいわ。竜崎さんお願いね?」


月「この人と打てばいいんですか?」

竜崎「はじめまして竜崎です」

月「夜神月です。お願いします」

竜崎「珍しい名前ですね。お願いします」

月(佐為、ここではあまり目立ちたくない。わかるな?)

佐為「わかりました」

月(本当の強さをこいつに悟られない程度にごまかして戦え)

佐為「はい。しかしライト。このものに私は不穏な空気を感じます。気をつけて」

月(打つのは僕じゃないし、打ち間違えなんてしないよ。気をつけるとしたら佐為の方だ)

佐為「そうですが……」

竜崎「では私が握りますね」

月「あの、その座り方は……?」

竜崎「すいませんこうしないと思考力40%ダウンです」

月「そうですか……」

佐為「ライト早く早く!」ワクワク


・・・


佐為「14のニ。ハネツケ」

月(佐為、こいつの実力はどうだ)

佐為「なかなかのものです。ですが負けることはありません」

佐為「しかし……」

竜崎「……」コトン

月(あぁ同情するよごめん佐為。コイツ、なんて手つきだ……はじめて碁石をさわる僕よりひどい)

竜崎「夜神君。なかなかお上手ですね」コトン

月「そうかい?」パチッ

竜崎「しかしあまり経験はないとみました」コトン

月「!!! それは竜崎の方だろ? 石の置き方がめちゃくちゃだ」パチッ!!

竜崎「そうですね……無駄口失礼しました」コトン

・・・


佐為「これで終局です」

月「僕の2目半勝ちかな。惜しかったね」ニヤッ

竜崎「ええ……私の負けです」

月「ありがとうございました」

竜崎「ところで夜神君。ひとつ聞きたいことがあります」

月「なんだい?」

竜崎「夜神君はどこで囲碁をおぼえましたか?」

月「僕? あぁ、ネットでね」

竜崎「いつ頃からやってますか?」

月「うーん……結構前かなw」

竜崎「だと思いましたしかしこうやって碁盤で打つ経験は少ないようですね人差し指の爪がとても綺麗ですので」

月「えっ」

竜崎「私がLです」

月(何ッ!!!!!!!!!)


月(落ち着け……こいつはこっちを反応をみているに過ぎない)

佐為「やはり昨日の者ですか」

月(佐為! わかっていたなら何故言わない!)

佐為「すいません……あの箱の世界ことはよくわからなくて」

月(クッ、完全に油断していた)

竜崎「どうしました夜神君」

月「ええと……L? 何のことだ、何かの暗号?」

竜崎「あ、すいません。私はネット上でLと名乗り、とある打ち手を捜索しているのです」

月「へぇ……ハンドルネームはLっていうのか」

竜崎「とある打ち手……saiを追っています」

月「sai……」ゴクリ

竜崎「もちろんライト君も知っていますよね?」

月「あぁ。なんかいっぱいいるよな今」

竜崎「ですが私が探しているのは本物のsaiです」

月「何をもって本物と判断するんだ?」

竜崎「無論、棋力です」

月「あぁそうだね。無粋な質問だった忘れてくれ」

竜崎「実は私、昨日本物のsaiと対局しまして」

月「……」

竜崎「勝ちました」ニヤッ

月「なんだと!!!!!!」

佐為「え? 確かに私が勝ちましたよ? ライト、この者は嘘をついています!」

月(そんなことわかってる!)

月(のせられるな。あくまでこっちの動揺をさそっているだけ)

月(こいつに僕がsaiだとバレたら……ネット上に晒される!!)

月「ふー……そうなんだ。すごいな。でもいま僕に負けた君がsaiに勝てるなんて……」

竜崎「はい。だから夜神君がsaiの可能性がわずかにあります」

月(ふざけるな!!! 道理にかなっていない!!)

月「ははは、僕がsaiか。なるほどね褒め言葉として受け取っておくよ」


月「きっと君が昨日打ったsaiは偽物だったんじゃないか?」

月「昨日saiに君が勝ったなら今日も勝てるはずだろ?」

月「つまり僕はsaiじゃない」

竜崎「その可能性もあります。大いに」

月「だろ? だいたいsaiって名前のやつなんて五万といる。確認なんてとれやしないさ」

竜崎「おっしゃるとおりです。ですが私は確信しています。昨日対局し勝った相手は本物のsaiであると」

月「だとしたらsaiも大したことないな。こんな碁会所の客に倒されるようでは」

竜崎「えぇ、そうですね」

佐為「ライト! もう一度戦わせてください! この嘘つきをこらしめます」

月(バカ言え。バレたらおしまいなんだよこっちは)

佐為「碁の勝敗で嘘をつくなんて! 私はズルが許せません!」

月(落ち着け佐為。こいつはバレるの上等で見え見えの嘘をついているだけだ)

佐為「しかし……」

竜崎「夜神君いい忘れました。私はただの碁会所の客ではなく、雇われ探偵です」

月「た、探偵!?」


月「なぁ、竜崎。お前さっきから僕に何を言いたいんだ?」

月「僕の実力なんてたかがしれてるだろ? 僕はただの学生だよ」

月「だいたい外に出られてそんなに棋力があるならとっくにプロになっているよそうは思わないか?」

竜崎「そうですね。いまのところsaiはネット上にしか存在しません」

竜崎「申し訳ありませんでした」

月「じゃあなんで僕にこんな尋問めいたことを」

竜崎「探偵ですから。一応の探りです。すでにsaiの住んでる地域は絞り込めています」

竜崎「saiが私を警戒してネット上に現れない以上、こうしてわざわざ足をつかっているのです」

竜崎「夜神君以外のそれらしい人物にもたくさんアプローチをかけてみましたすいません」

月「……そうか。でも疑われるほうは気分がわるい」

月「悪いことをしていないのに罪に問われた気分だ」

竜崎「ご迷惑をおかけしました。ではこれからは囲碁友達になりましょう」

月「友達……か……」

月「まぁ僕も適当に打つ相手は欲しかったし、かまわないよ」

佐為「良かったですねライト!」

竜崎「では友達ですので以降はライト君と呼びます」

月「勝手にしろ」

竜崎「ライト君に早速聞きたいことがあるのですが」

月「まだ質問があるのか? 尋問は断るぞ」

竜崎「いえ意見を伺いたいのですが。この棋譜をどう思いますか?」パサッ

月「棋譜か……」

月(棋譜ってたしか対局記録のことだよな。クソっこんなの見ても読めないぞ)

佐為「……」

月(佐為、どうなんだ?)

佐為「非常に素晴らしいものです。おそらくは私と同等かそれ以上の者が残したもの……!」

月(そんなに!)

竜崎「……」


佐為「しかしライト。一つ問題が」

月(なんだ)

佐為「私はこの棋譜を読むことができません。記録に使われた文字が違うからです」

月(お前が憑いた秀作は江戸時代の人間だったな……)

月(アラビア数字が入ってきたのは明治初期……くそっ)

竜崎「どうしました難しい顔して」

月「あ、いやっ、すごい棋譜だなって思って」

竜崎「当たり前です。とある日本の元トッププロと、それに拮抗する実力を持つ者の対局ですから」

月「なるほど……悪いけどそこまでのレベルになるとどう意見していいか」

竜崎「……」

月「? どうした?」

竜崎「実はこれ、三年前のsaiと塔矢行洋のネット対局の棋譜なのですが」

月(何ッ!!!!!)


佐為「私の棋譜……?」

月(佐為! お前!! 僕に何かかくしているな! 三年前だって!?)

佐為「いえ、そんなことは一切っ!」

月「……」

竜崎「知らないのですか?」

竜崎「ネット碁ユーザーなら誰でもしってる、現代で最も有名な棋譜なのですが?」

月「……あ、あぁそうだったね。最近みてなかったからすっかり忘れてたよ。たしかにすごい一局だった」

月(こいつ……わかってるんだ! 僕を完全にハメようとしている!!)

竜崎「……」ニヤッ

月「やはりsaiはすごいな。半目差とは言え、あの塔矢行洋に勝ってる」

月(塔矢行洋といえば……引退記者会見もやっていた五冠の王……)

月(囲碁界のことをまるでしらない僕でも名前くらいは知ってる)

竜崎「ええ碁をはじめて間もない私が見てもすごい一局です」

竜崎「が!」ゴソゴソ

月「?」


竜崎「実はもう一枚あるんです」 パサッ

月「!!!」

竜崎「これは日本のとある若手プロの発見をもとに、途中から手順を書き換えた架空の棋譜です」

竜崎「彼の指摘の通りに打つと、なんと、反目逆転しているのです!」

竜崎「そう、saiの半目負けです」

佐為「!! 確かに! ここの一手、黒は切断に備えずに隅に置いていれば、白は抑えるしかなく、逆転しています!」

月「……」

竜崎「この二枚目こそ。実は真に有名な棋譜なのです」

竜崎「ライト君。ネットでしかあまり碁をしないあなたが何故しらなかったのですか?」

竜崎「これほどの棋力をもってして、何故ですか」

月「……」

月(まずい。完全にボロがでた)

佐為「もう打ち明ければいいんじゃないですか?」

月(だめだ。ここで僕がsaiだと認めれば、もしかしたらなんらかの罪でしょっぴかれる可能性がある)

月(わずかな可能性として、僕の知らないところでこのsaiがなんらかのネット犯罪に手を染めてるかもしれないだろ)


月「……竜崎」

竜崎「はいなんでしょう」

月「僕はこれでも受験生でね。もうここ数年ずっとパソコンにはログインしていない」

月「最後に碁をうったのもずっと前のことだ」

佐為「ライトまでそんなに嘘をつくなんて!」

竜崎「ライト君……その割にはずいぶん強いですね」

月「あぁ、僕は碁が強い。だけどsaiほどではない」

竜崎「はい」

月「竜崎。君と打ち、君にsaiだと疑われたことで火がついたよ」

竜崎「そうですか」

月「君より先に、saiは必ず僕がみつけだして……」

月「処刑台に送る」

佐為「もう死んでます」

竜崎「saiは犯罪者ではありませんよw」

【月の部屋】


カタカタカタカタ

月「……竜崎め、やってくれる」

月「あいつはたったあれだけのことで、間違いなく僕を疑っている」

月「僕はsaiであってsaiでないのに、いい迷惑だ」カタカタ カチッカチッ

月「sai……か……。ちょっと調べただけで真偽不明の噂話がたくさんでてくるな」

月「ネットでの100連勝。多数のプロ撃破。そして最後のあの一局か……」


月(この謎のネット棋士saiってやつと同一だと僕は疑われてしまった)

月(偶然にも僕に取り憑いた佐為の名前を使ってしまったから……)

月(偶然……? ふふ、馬鹿なことを)


月「佐為、お前がこのsaiだよ」

佐為「ええと……私は藤原佐為ですが」

月「違う。三年前のコイツ。間違いない」


月「僕は頭の回転が早いからすぐわかった。お前は三年前にも一度この世に現れている」

佐為「いえ、そんなことは」

月「そしてその時のことが記憶から消えている。それだと全て辻褄があう」

月「棋譜をみたらわかるだろ? お前だよ」

佐為「確かに、私と打ち筋はよくにています」

月「幽霊がどうやって記憶を保つのか、なぜ存在しているのかさっぱり理屈はわからないがそれ以外考えられない」

佐為「私は神によってこの世に再臨することができました。それも二度も」

月「二度……秀作と僕か……だとすると僕が三回目だよ」

月「僕と秀作の間に誰かいたはずだ。確実に! さぁ思いだせ!」

佐為「……と言われましても」

月「……無いものは仕方ないか。なら僕が探しだして証拠をつきつける」

佐為「……ライト」




月「もしかしたらお前の失われた記憶がもどるかもしれないし、本物のsaiを見つけることで僕の疑いも晴れる」

月「saiは普通に考えたら一人しか存在しえないからね」

月「saiであるがゆえに僕はわかる! 僕以外のsaiがいることを!!!」

月「saiめ! Lめ!!」

月「ふふ、ふははははは! 碁以上にいい退屈しのぎになりそうだよ!!」

佐為「ライト、打ちましょうよ」

月「あぁそうだな。僕も囲碁界を調査する以上ある程度棋力があったほうが便利だ」

月「碁打ちはどうやら棋譜をみるだけで個人を特定できるようだ」

月「うかつだったよ。あやうく言い逃れできない失態をおかすところだった」

月「この先むやみにsaiのちからを使うのは危険かもしれないな」

佐為「はぁ……」

月「なんだノリ気じゃないな」

佐為「いえ、別にそういうわけでは」


月「それに調査といってももう実は目星が付いているんだよ」

佐為「え……」

月「インターネットは便利だね。プロ棋士の過去の成績を見れるなんて」

佐為「……プロ棋士?」

月「先代のsaiは間違いなくプロの棋士だ。それも日本の」

佐為「なぜ断定できるのですか?」

月「佐為、所詮この世は金なんだよ」

佐為「お金?」

月「どんな人間であれ、お前ほどの力を手に入れればそれを利用する」

月「プロに対局で勝てるんだ。つまりプロになることなんて容易いってわけ」

月「知ってるかい? 棋戦の賞金は数千万単位なんだ。塔矢行洋なんて億単位の収入があったらしい」

佐為「それはすごいですね」

月「そいつは佐為に取り憑かれた後、まずは佐為の実力をネットでテストしていたんだ」

月「実際に使い物になるかどうかね」

月「おそらくそれネットでの100連勝とプロつぶし。ふふふ僕は冴えてるな」


月「そしてテストの結果、使い物になると判断した彼はその力を巧妙に利用して一気に囲碁界を駆け上がった」

月「しかし障壁はあったみたいだ。それが塔矢行洋。タイトル獲得を目指す以上必ず壁になる実力者だ」

月「塔矢行洋のタイトルを奪わないと多大な賞金は得られない」

月「考え悩んだそいつは佐為ではなく、saiを利用した」

佐為「さっぱりわからないのですが……それにライトすこし妄想が過ぎますよ……」

月「saiの力を利用し、公式手合いとは別の舞台を用意し、塔矢行洋を叩き潰し引退においこみ……」

月「冠位を奪い取った!!」ガタッ

佐為「!」ビクッ

月「僕の思考のレベルだと、もはや簡単なプロファイングで答えはでる」

月「L、格の違いをみせてやるよ」

佐為「それで、誰なのですか?」

月「犯人は現在のタイトルホルダーで、三年前に一気に囲碁界を駆け上がり」

月「ネットの利用に長け、頭脳明晰、塔矢行洋と個人的に対局の約束ができる関係性にある人物……」


月「緒方精次・十段碁聖!!!」ビシッ

佐為「この眼光の鋭い者ですか?」

月「決まりだよ佐為」

月「お前は以前、この写真の眼鏡男に憑いていた」

佐為「そんな記憶ありませんが」

月「さらに言うと、この緒方という人物、過去にsaiに対して異常に執着する怪しい素振りをみせていたと噂されている」

月「決定的だよ。自分はsaiでなく、saiを追う者であるとアピールをしつつ、裏ではsaiの力を利用してのし上がった」

佐為「果たしてそうなのでしょうか……」

月「いまや彼が一番数多くのタイトルを取得しているからね」

月「きっといまごろ佐為を失って焦っているだろうな。実力の伴わない偽りのタイトルホルダーめ」

月「ふふふ、緒方十段……お前の失墜はもうすぐだ」

月「お前の力はいまや僕が手に入れた! もう時代は終わったんだよ」バンバンバン

月「こいつに接触し口止めさえすれば、次は僕が大手を振るうことができる」

佐為「え……」

月「わからないのか? 佐為の力を存分に使い」ククク


月「囲碁界の神に僕はなる!」

佐為「神……!?」

月「プロになり、頂天までのぼりつめ、それと同時に自分が真のsaiであったと公言する」

月「哀れな敗北者たちは誰しもが僕を崇め、僕にすりより、僕の言うことをきく」

月「富も名声も手に入れれば! Lがいまさらどう動こうが住所を晒されようがなにも関係がない!」

月「なぜなら僕の力は! 『真』であるからだ! そして誰も疑うことすらできない!」

月「僕は囲碁界で絶対の権力者になる未来を手に入れたんだ!」

月「はははははは!」

佐為「私は……こんなことのために……」

月「こんなことのため? 違うよ佐為。これはそう、運命だ!」

佐為「運命……?」

月「僕を囲碁界の神の座にひきあげるために、神は君を僕の元へ送りこんだ。そう考えるのが普通じゃないか?」

佐為「違います。私は神の一手を……追求するために……」

月「……佐為、間違っているよ」


月「僕の一手一手が……神の一手になるんだッ!!」

-翌日-

カランコロン

佐為「またここへ来たのですか!」ワクワク

月「あぁ、多くの情報をあつめるなら一人より二人だよ」

月「どっちみち証拠探しという当面の目的は同じだしね」

月「ま、少しのリスクはあるけど僕なら大丈夫だ」


竜崎「どうもライト君昨日ぶりですね」

月「やぁ竜崎。実は僕、昨晩一人でsaiについて考えてみたんだけど」

竜崎「はい」

月「おおざっぱなプロファイリングで目星はついた。これが資料だ」

竜崎「そうですか」

月「saiは緒方十段。どうだろう?」

竜崎「ライト君すごいですねたった一日でこれほど調べあげるとは」

月「……ふふ」

月(無論、僕しか知りえない決定的事実はお前には教えないがな……!)


竜崎「……ですが残念はずれです」

月「何!」

竜崎「緒方さんはsaiではありません」

月「……な、何を根拠に」

竜崎「なぜなら……あ、来たようです」

緒方「よぉ竜崎。まさかここに来ていたとはな」

竜崎「どうも緒方さん」ペコリ

月「なっ!」

月(お、緒方精次!!)

佐為「これがライトの言っていた私の元宿主ですか?」

月(バカな……何故ここに!)

緒方「こっちの少年は?」

竜崎「私に捜査協力してくれてる夜神君です碁も打てます」

月「お、おい竜崎!?」

月(な、ななな、ぼぼぼ僕の推理が!? 外れれ!?)


緒方「君もsaiを追っているのか」

月「あの、僕は……」

竜崎「彼が私の依頼人です」

月「!!!」

緒方「なんだその資料は? まさか君、竜崎と同じように俺を疑うのか?」

月「えっ」

竜崎「私も依頼当初、夜神君と同じ結論に行き着きました」

緒方「失礼な奴だったよ。依頼主をまっさきに疑うなんて」

竜崎「しかし実際に囲碁をおぼえてみて」

竜崎「彼ではないと確信しました」

月「そ、それはなぜ」

緒方「優れた碁打ちなら、打てばわかる」

佐為「そのとおりですね!」

月「!!!」

月(打てばわかるだと……!? そんなことが!?)

竜崎「はい。棋士にはそれぞれ一定のリズムがあります」

竜崎「意識してもなかなか拭い取れない癖のようなものです。少なくとも緒方さんはsaiとは打ち筋が異なります」

緒方「そういうことだ。残念だったな」

月「……すいません」

竜崎「また、仮に緒方さんがsaiだとしたら不自然です」

月「それはなぜ……」

竜崎「名実ともに備わっている緒方さんがわざわざ謎の打ち手saiを名乗る意味がないからです」

月「!」

竜崎「夜神君。あなたの推測をきかせてください」

竜崎「仮に緒方さんがsaiであったとして、saiであることを公にしない理由付けを」

月「そ、それは……」

竜崎「ないんですね? それとも何かしっているのですか? わたしの知らないことを」

月「い、いや……」

緒方「おいおい困ってるじゃないか。お前の誘導尋問のようなやりかたはあまり好きじゃないな」

竜崎「すいません」


月「あの、どうして彼に依頼を?」

緒方「俺はただsaiと打ちたいがために、ネットの闇に消えたsaiを探している。それだけだ」

緒方「俺は忙しい身、以前は自分で足をつかってあちこち調べていたがいまはなかなか時間がなくてな」

竜崎「そんな緒方さんに今日はプレゼントがあります」

緒方「!」

月「プレゼント?」

竜崎「夜神君にもあとで見せてあげます」

緒方「はやく渡せ。そのために検討もすっぽかしてここへ飛ばしてきたんだ」

竜崎「どうぞ」ペラリ

月「その紙は?」

竜崎「先日の私とsaiのネット対局の棋譜です。印刷してきました」

竜崎「電話で伝えても信じてもらえなかったので直接棋譜をみたいと」

月(……佐為、どうだ?)

佐為「はい、確かに先日の対局の棋譜ですね」


緒方「……」

竜崎「どうですか?」

緒方「……ッ」

緒方「竜崎。残念だがこいつはsaiではない」

佐為「えっ」

月(……!)

緒方「saiは……saiはもっと優美で華麗なウチ回しをする」

緒方「俺の知ってるsaiは、こんな他人を一方的に痛めつけるような碁は打たない!」

緒方「だれが相手であろうと紳士的な態度は崩さなかった! 匿名のアマチュア相手でもだ!」

佐為(……この者……一体)

月(……運がまわってきたな。これでLの捜査はほぼ白紙……)

竜崎「そうですか。では捜査をやりなおします。引き続きネットでsaiを名乗る打ち手に探りをいれます」

竜崎「同時に私は、プロ棋士になります」

月「!」

月「捜査のためにそこまでやるのか!?」

竜崎「はいそうです。実は先ほどのライト君のプロファイリング、決して遠からずです」

竜崎「私もライト君同様に日本のプロの中にsaiがいるとふんでいます。そして実力を巧妙に隠しています」

月「おい昨日は僕のことを疑ったくせに」

緒方「そうなのか?」

竜崎「疑っている相手なんて星の数ほどいます。相手は匿名、日本のネットユーザーすべてが対象です」

竜崎「しかし、現在一応の目星をすでにつけています」

竜崎「あとは証拠詰め。楽しい詰碁のはじまりです」

竜崎「ここへ来ているのはプロ試験までの時間つぶしも兼ねているんです」

月「……」

月(クソっ……どこまで人をバカにしているんだ)

緒方「プロ入りすればプロとの交流が増える。無論プライベートの付き合いもな」

竜崎「はい。実力も手に入り、捜査が捗ります」

緒方「竜崎ならきっと探し当ててくれると信じている」

竜崎「全力でがんばります。緒方さんには莫大な依頼金を頂いているので」

緒方「俺はsaiと打ちたい! どうしてもだ!」

月「なぜそこまで……」

緒方「奴は俺の師である塔矢名人に勝ち、引退に追い込んだ!」

緒方「そして俺はなにより、saiと打ったやつらのことが羨ましい!!!!」

月「! 緒方十段……」

佐為(この身があれば……いますぐにでもあなたと……)

竜崎「そういうわけなのでライト君。もうあなたとはしばらく会えないかもしれません」

竜崎「私はしばらく碁の勉強をしなくてはなりません」

竜崎「東大に簡単に入る頭脳があっても、碁はそうはいきませんから」

月「竜崎……健闘を祈るよ。じゃあ僕はこれで」

市河「あら、もう帰るの?」

月「えぇ、用事は終わったので」

市河「もうちょっといてくれたらおもしろい人にあわせてあげたのに」

月「受験生なんで、勉強忙しいんです」

市河「残念! またきてね」


-街中-


月「Lがプロを目指すか……僕もプロになる」

佐為「あの緒方という男、ただものではありません」

月「当たり前だろ、日本のトッププロの一人だぞ」

佐為「並々ならぬ執念を感じました。怖いほどに」

月「何度も化けてでてくるお前ほどじゃない」

佐為「彼と、打ってあげてくれませんか?」

月「無理だ。僕の計画に狂いが生じる。舞台を整えるのが先だよ」

佐為「私は彼と打ちたい」

月「すぐにかなうさ。僕はプロになるんだからね」

佐為「私のちからで?」

月「まぁ、それもあるし。僕自身も精進するよ。自信はあるんだ」


月(竜崎……行き着くとこが同じだとしたら、必ず僕が先にたどりつく)

月(プロ試験か……おもしろいよ)

月(退屈しのぎにはちょうどいい)

月(お前は囲碁界の神となった僕の前にひれ伏すんだ)

月(saiはネットだけでなく、現実世界でも神になる!)


月「神の一手は僕のものだ……」ボソッ


青年1「え?」

青年2「どうした進藤」

青年1「いや……別に。行こうぜ! 市河さんとの約束に遅れちまう」

青年2「遅れるのは君があんな相手に手こずるから」

青年1「うるせー! お前だってリーグ戦がけっぷちじゃねーか!」

青年2「次勝てば問題ない!」



-月の部屋-


月「さて」

佐為「またその箱ですか?」

月「あぁ。僕のアテが外れた以上、Lの先手を打たないといけない」

月「同時に第一のsaiをあぶりだす」

佐為「どうやってですか? ていうかほんとにいるのですか?」

月「いるよ。何度も説明したろ」

佐為「やはり身におぼえのないことですからなかなか腑に落ちなくて……」

月「僕が予想するに、いま第一のsaiは突然佐為を失ったことに対して非常に焦っている」

月「だけどそこに第二のsaiが現れたとしたら……」

佐為「?」

月「……お前は碁以外はあまり頭のまわりがよくないのか?」

佐為「す、すいません。まだこの世に来たばかりなので」

月「……第一のsaiは必ず僕に接触を試みるはずだ」カタカタカタカタ


 
佐為「またネット碁というやつですね!」ワクワク

月「あぁ。アカウントを取りなおした……さて、誰を餌にするか」

月「手っ取り早く自分の力を証明するには、できるだけ強いやつを倒すほうがいい」

月「レーティングの高い強いやつほど、閲覧者数も多いからな。多くの人間の目にとまる」

佐為「私、打てるのですか!?」

月「打ってくれ、だけど手は抜くな。思い切り力を見せつけるんだ」

佐為「またですか……」

月「zelda……よし、レーティングが高いこいつにしよう」

 
 【 zelda に対局を申し込みました 】


月「ククク……公開処刑のはじまりだよ」

佐為(碁が打てるなら……いまは文句を言うまい……行きますよ!)


 【 saiが黒です。対局を開始します 】



【とあるアパートの一室】


和谷「……なんだ……つええ!」カチカチッ

伊角「和谷が押されている……?」

奈瀬「なによこいつ!? アマじゃないって事!? 和谷! やっちゃいなさいよ」

本田「いや、アマでもなかなか強い奴はいるよ……ここまでは見たこと無いけど」

和谷「sai……本物か? あのsaiなのか!?」

伊角「ものすごい閲覧者数だな。いつもの5倍近いぞ」

本田「人気が人気を呼んでいるんだ。流れるコメントの量もすごいぞ」


 zeldaこと和谷義高五段がsaiに公開処刑ワロタンゴwwww
 ガチsai復活キタ――(゚∀゚)――!
 オワコンのsaiさん降臨wwwwww
 和谷五段涙ふけよwwwww
 sai俺と打て! とあるプロだ! メールアドレスは
 sai強すぎ吹いた
 現役プロ棋士がボコられてると聞いて

 zeldaよええwwwwww 
 ↑じゃあ互戦でzeldaに勝ってみろよ雑魚 
 一方的だな……挽回できるか?

 ゼwwwルwwダwwwww厨二乙


和谷「ッ!」

伊角「とても激しい碁だ……」 

本田「荒れているな」

奈瀬「和谷……」

和谷「……ここまでかッ……ちくしょう」カチカチ


 【 zelda が投了を選びました。saiの勝ちです】


 sai大勝利キタ――(゚∀゚)――!!
 zelda生贄第一号wwwwww
 sai俺と打て! とあるプロだ! メールアドレスは→
 これがsai……しびれるね(笑)
 圧倒的すぎワロタwwwwww
 zelda明日森下九段に殺されるんじゃね?wwww
 zelda弱いな プロってこんな程度か
 ↑じゃあプロになってみろks 
 toyakoyoとの再戦キボンヌ
 つかこのsai本物?
saiとは強さの記号である……
 s a i 完 全 復 活 




奈瀬「何よ! 好き勝手コメントして! むかつく!」

和谷「負けた……3年前より……こてんぱんに」

伊角「和谷……元気だせ。お前はよくやったよ」

和谷「ちっくしょおおお!!」ドンッ

和谷「くそっくそっ! お前は一体!!」カタカタカタ


 [zelda:誰なんだ! 本物か!? あのsaiか!?]


 [sai:はい]


和谷「答えた!?」

伊角「saiってチャットしないんじゃなかったか?」

和谷「普通はそうだけど、なぜか俺は昔saiと少しだけチャットしたことがある」

本田「本当か!!」


和谷「……」カタカタカタ

 [zelda:あなたはプロですか]

 [sai:いいえ]


和谷「じゃあアマなのか!」カタカタカタ ターン!


 [sai:いいえ。神です]

 [sai:I'm A GOD ]


和谷「GOD!?!?」

本田「神だって!? 俺の初手天元さえ決まれば……」

奈瀬「なによこいつ! ふざけてんの!?」

伊角「だがしかし、saiは神がかった強さを持っている」

和谷「……力は認めるしかない。俺は負けた!」

本田「和谷、仇は俺がとる……任せろ」

奈瀬「本田! 無謀よ!!」


 [ zelda が再戦を申し込みました ]


本田「……」ドキドキ

伊角「本田、落ち着いていけ。負けても得るものはあるはずだ」


 [ saiに断られました ]


本田「……」


  
  s a i は 神
  zeldaだせぇwwwwww
  お断りします( ゚ω゚ )
  神のサイに虫けらのようにつぶされるゼルダwwwww
  和wwwww谷wwwwwwwwよしたかーwwwwww
  いまの対局動画サイトにうpるわwwwww
  やべぇ閲覧数15マソwwwwwww
  海外からのアクセス多いな
  お前らzeldaさんの実力しらんくせに調子のんなksdm
  sai俺と打て! とあるプロだ! メールアドレスは→
  sai俺と打て! とあるプロだ! メールアドレスは→
  sai俺と打て! とあるプロだ! メールアドレスは→
  sai俺と打て! とあるプロだ! メールアドレスは→
  ↑スクリプト通報しといた^^



・・・外国


フランク「オーイェルさん! やはりsaiですよあの!」

オーイェル「そうなのか?」

フランク「zeldaは日本のプロだというのは有名。それに勝ったんだ!」

フランク「そしてその後現在4連勝」

フランク「どれもネット棋士の強豪相手だ!」

オーイェル「オランダアマNo.1のキミが言うなら本当なんだろうな」

フランク「嬉しすぎて心臓が破裂しそうだ!」

フランク「対局の申し込みが途切れないよ! 僕もまた対局したいな!」

オーイェル「長引きそうだ。コーヒーをいれてくるよ」

フランク「シュガーはスティック5本で頼む」

オーイェル「知ってるよ」



リ・リンシン「さいいいいいいいいいい!!!! はぁはhぁhぁはsaiだ!!!!間違いない!」



リ・リンシン「先からそこそこチャットをしているようだな」

リ・リンシン「くそっ! 日本語の勉強をしていればよかった!」

ヤンハイ「どれどれ?」

リ・リンシン「や、ヤンハイプロ!」

ヤンハイ「へぇ。俺がおもった人物像とはずいぶん違うんだなsaiってのは」

リ・リンシン「な、なんて書いてあるのか読めるのですか?」

ヤンハイ「俺は一応語学が趣味だからなぁ」

リ・リンシン「教えてくれませんか?」

ヤンハイ「失望するなよ?」


  
 私は囲碁界に舞い降りた神だ
 私は誰にも負けない絶対の存在だ
 私は日本のどのプロより強い
 私に勝てる自信のあるものはいどんでくるといい
 
 [sai:私は近いうちに囲碁界の全てを手に入れる!]
 



・・・


佐為「ライト、なぜこのような事を」

月「なぜかって?」

月「神だから」ニヤッ

佐為「……」

月「強いものが上にたつ。それがこの世の摂理だよ」

佐為「……」

月「現にもうネット棋士の中には僕の敵はいない。そうだろ?」

月「数年間くすぶっていたsai信者のコミュニティにも火がついた」

月「実力、実績、人気ともにsaiの一人勝ちだよ」

佐為「囲碁はそのような競技ではありません」

月「いや、全ては勝ち負けを競う競技だ」

月「そして竜崎! お前はもはやネットの神ことsaiを追うことすらかなわない」

月「僕にはたくさんの信者がいるからね。そんなことをしたらネットに住処がなくなるよ」


・・・


竜崎「やられましたね」

緒方「……」

竜崎「しかしもはや名実ともに彼がsaiである以上。あなたはsaiと対局することができる」

竜崎「つまり、もう私の使命は」

緒方「いや、違う」

緒方「俺のしっているsaiはこんな奴ではない……気がする」

竜崎「……困った依頼主ですね」


ヒカル「そうだよ緒方さん。こんなのsaiじゃない」

緒方「進藤……」

ヒカル「saiは……佐為は……こんなひどい碁を打たない」

アキラ「同感だな。緒方さんもsaiのことはよく知ってるでしょう?」

緒方「アキラ…………ふっ、そうだな。すこし気が動転していた」

竜崎「プロ三人がそういうのでしたらそうなのでしょう。調査を続けます」


緒方「腹立たしいな。こんなヤツにsaiの品格が落とされるなんて」

アキラ「僕もそう思います」

竜崎「しかし、実力がすべての世界です」

ヒカル「……確かに」

市河「なぁにみんなして怖い顔して」

緒方「この偽saiをなんとか黙らせられないものか。偽物だと証明できれば」

竜崎「方法はあります」

アキラ「教えてくれ竜崎」

竜崎「勝てばいいんですよ。saiとは無敗の最強の棋士である称号。負ければなんの意味もありません」

ヒカル「!」

アキラ「そ、そうだな……」

緒方「だが対局しようにもつながらないからな。みろこのアクセス数。どこから湧いてきた」

緒方「それに俺は、リクエストを送りすぎてついには通報されて垢BANされてしまった」

アキラ「やりかたが悪いんです」

ヒカル「……やりかた、か」




・・・




ヒカル「……ただいまー」

ヒカル母「あぁヒカル!」

ヒカル「どしたの?」

ヒカル母「見つかったのよ! あんたの大事な碁盤!」

ヒカル「え……? まじ!?」

ヒカル「あかりちゃんの高校にあったそうよ。あかりちゃんが見つけてくれたの」

ヒカル「あかりの!?」

ヒカル母「あかりちゃん運んできてくれるって。あんた取りに行きなさい」

ヒカル「うん!」



・・・


あかり「あ! ヒカルー!」

ヒカル「あかり! どうしてお前の高校に!」

あかり「わかんないよ。でもこれヒカルのでしょ? 私見慣れてるからわかっちゃった」

ヒカル「確かに俺のだ……よかったぁ……」

あかり「大事な碁盤だもんね」

ヒカル「あぁ。じいちゃんに買ってもらった思い出の碁盤だ」

あかり「不思議なこともあるもんだね! 泥棒はどうして私の学校に捨てたんだろう」

ヒカル「不思議……か……。不思議……」

あかり「ヒカル?」

ヒカル「わり、あかり俺ちょっと用事おもいだした!」

あかり「えーー! これ私が運ぶの!?」

ヒカリ「今度うめあわせすっから!」

あかり「もーー! ヒカルったらちっとも変わらないんだから」



・・・


都内ネットカフェ


店員「いらっしゃいませ」

ヒカル「三時間パックで」

店員「かしこまりました」


ヒカル「ここにくるのも相当久しぶりだな」

ヒカル「三谷と三谷のねーちゃん今頃なにしてんだろうな」

ヒカル「……」カチッ カチッ


ヒカル(もし、もし佐為が再びこの世に現れているのなら)

ヒカル(俺にだけ……俺にしかわからない方法で……なんとかコンタクトを!)

ヒカル(気づいてくれ、佐為……!)


カタカタカタ カチカチッ

【月の部屋】


月「メッセージボックスは対局申し込みでいっぱいだな」

佐為「大人気ですね」

月「……ふふふふ」

佐為「どうしました?」

月「なぁ佐為。僕の2つ目の目標が達成されたよ」

佐為「2つ目? なんでしたっけ」

月「一つはLの無力化。そしてもうひとつは」

月「第一のsaiのあぶりだしだ!」


  件名:初手天元様 が対局を申し込んできました。
  件名:Frank様 が対局を申し込んできました。
  件名:アクアリウム大好き様が対局を申し込んできました。
  件名:アクアリウム大好き様が対局を申し込んできました。
  件名:アクアリウム大好き様が対局を申し込んできました。
  件名:アクアリウム大好き様が対局を申し込んできました。
  件名:アクアリウム大好き様が対局を申し込んできました。
  件名:L・L様  が対局を申し込んできました。

  件名:寅次郎様が対局を申し込んできました。


佐為「寅次郎? 寅次郎と書いてあります!」

月「はははは! わかりやすいやつだ」

月「あとはコイツとコンタクトをとれば……!」

月「L! 僕の勝ちだ!」

佐為「対局するのですか?」

月「いいよ。力を失った偽saiの彼に見せつけてやろう」

月「本物のsaiのちからをね!」


 【 寅次郎様と対局を開始します 】



・・・



ヒカル「やっぱり……佐為!!」

ヒカル「間違いない……!」

ヒカル「戻って……? きたのか……?」



月「さぁ。はじめようか」


  [sai:次はこの方を血祭りにあげます]
  [寅次郎:よろしくおねがいします]
  
  キタ――(゚∀゚)――!!
  寅次郎wwww名前だせぇwwwwwww
  なんかのアニメキャラだっけ?
  sai! sai! sai!
  20人目の生贄wwwwwwww 
  がんばってね
  30分で瞬殺オネシャス
  ――このアカウントは停止されています――
  ――このアカウントは停止されています――
  ↑こいつ先から必死すぎwwwwwww
  ↑どうせzeldaだろwwwwwwwww
  俺じゃねぇよ!
  sai様おろかな愚民どもに粛清を
  寅次郎ってなんだっけ



月「さぁ、見せてみろ」

佐為「……いささか緊張しますね」

月「なに、相手は力を失ったあわれな人形だよ」


月「はじまったか」

月「佐為、最初の布石は僕が打つ」

佐為「……」

月「大丈夫だよ。僕もそこそこに覚えた」

月「それにいくらでも挽回できる。だろ?」

佐為「なら好きにどうぞ。どうせ私には関わりのない碁です」

月「ふてくされるなよ。僕のほうが立場は優位なんだ」

月「囲碁に飽きればやめて、あとは東大生(予定)として人生を満喫するだけさ」

佐為「……」


月「さてと、まずは四隅からだな」

カチカチッ

月「どうせ布石程度じゃ実力なんて測れない」


    みろ! これが神の布石じゃwwwwww
    お前らうるさすぎwwww
    参考になるわぁ~ 
    初手天元おかないのか? 悪手だろ
    ↑なんやこいつめっちゃキモいわ
    sai! 俺だ! いますぐ俺と打て! メールアドレスは→
    sai! 俺だ! いますぐ俺と打て! メールアドレスは→
    ↑何回アカウントとりなおすんだよwwwwww
    もと囲碁部部長の僕の見解としてはこの布石はなかなかレベルが
    コーヒーいれるか…
    寅次郎ってなんかきいたことあるんだよな
    sai! 俺だ! いますぐ俺と打て! メールアドレスは→
    sai様……まさに神の一手


月「閲覧数もそこそこだな」

月「初代saiの抹殺にはふさわしい舞台だ」

月「……ふふふ」

月「……ん?」


 [寅次郎:huzakeruna mazimeni ute!]


月「なっ!!」


月「ぼ、僕が……まじめじゃないだと!?」

佐為「……そろそろかわりましょうか?」

月「!!」

佐為「この先の数手が勝敗に大きくかかわってきますよ」

月「何!?」

佐為「……この者は、強いです」

月「ば、ばば馬鹿な! そんなわけ……」

月「こいつはお前のちからを借りたまがいものだぞ!」

佐為「……」

月「納得がいくところまで僕が打つ!」

月「なぁに、劣勢から逆転すればパフォーマンスになる」

月「神である以上、愚民どもに飽きられてはだめだからね」

月「エンタメ性を維持するのも一つの仕事さ」

月「寅次郎。僕は必ず勝つ!」カチッ

月「ハァ……はぁ! どうだ!!」

佐為(あまりに劣勢……相手の実力を鑑みると逆転はもう……)

月「佐為、そろそろ行くか?」

佐為「……どうなってもしりませんよ」

月「勝て。それがお前の条件だ」

佐為「では……」


  【 寅次郎 が投了を選びました。saiの勝ちです】


月「え……」

佐為「……」


   sai20連勝キタ――(゚∀゚)――!!
   圧倒的実力差wwwwww
   とwwwらwwwじwwろwっうwwww
   戦意喪失はええ粘れよwwwww
   次は俺が相手だ!
   金払ってでも対局したいれす^p^


月「な、何故だ……え? 僕に恐れをなしたのか?」



  [寅次郎:Arigatou Gozaimasita]
  [sai:あまりに弱い……そんな実力で私に挑んでくるとは無謀でしたね]


月「なんだ? なぜ投了した? あれだけの手数で勝てないと察したのか!?」

月「ふふ、やはり僕は強い! お前の力を借りなくても僕は強いってことだ!」

月「佐為! みてただろ!? ははは」

佐為「……ライト。画面をみてください」

月「え……」


  [寅次郎:yokatta omaega sai zyanakute]
 

月「何を言っている……僕はsaiだぞ」


  [寅次郎:dakara mou omae ha doudemoii]


月「!!!」

月「ど、どうでもいいだと!? 僕を……神のことを!?」



    で、でたー廃車の負け惜しみwwwwwwww
    寅次郎日本語でおk
    日本語変換しろks
    てかこんな雑魚いままでいたかよwwww
    なぁ寅次郎って秀作の幼名じゃね?
    秀www作wwwwww過去の棋士wwwww
    いまはsai様一強時代だろJK
    toyakoyoも強いよ?
    zeldaも強いし
   

月「どうでもいい……何を考えている第一のsai」

佐為「そのままの意味でしょう」

月「……!」

佐為「ライト、あなたの負けです」

月「バカな! 僕は勝ったぞ! みろ! 20連勝だ」

佐為「はい。saiは20連勝しました」

佐為「でもあなたは……?」

月「……う、う、ぅ、;ああああ!! ぐっ、あああ第一のsaiめぇええ!!」
 
月「くそう!! 許さないこんな屈辱はじめてだ!!!」


月「間違いなく! 僕には佐為の力がある!」

月「なのにこいつはどうでもいいって……どうでもいいだとおぉおお!!」

月「寅次郎!! 僕はお前を絶対につきとめる!!」

月「つきとめた上で、コテンパンにしてやる!! いやそれだけじゃすまさない処刑台におくってやる!」

佐為「……私が、打ってですか?」

月「僕自身がだあああああああ!!!」ガシャーン

佐為「ライト……箱が」

月「うるさいうるさいうるさい!! 天才なんだ僕は、なんでもできる……絶対に……こいつなんかに……」

月「うるさいぃぃいい……!!!」ワナワナ

佐為「ライト。まだあなたは碁を覚えて日が浅い」

佐為「なのにこれだけ碁のことをわかるようになりました。それはすごいことですよ」

佐為「たぶん、あなたには才能があります。いいえ、間違いなくあります」

月「……あぁ、当たり前だろ。僕はプロに、いや、囲碁界の神になる男だ!」

佐為「はい。着実に力をつけましょう。あなたのために」

佐為「そして私とともに、神の一手を!」

・・・


和谷「saiのやつ、また消えちまったなー」

伊角「さすがに連日打ちすぎて体調不良でもおこしたんじゃないか?」

奈瀬「神が?w」

本田「またひょっこりでてくるんじゃないか」

和谷「神出鬼没だからなsaiは」

和谷「けど俺実はだいたいの目星つけてるんだぜsaiの!」

ヒカル「へぇ、聞かせてよ」

和谷「saiは学生だ!」

ヒカル「なんで?」

和谷「なんでって……出没時間的に?」

奈瀬「なによそれ」

伊角「でもたしかに端々の言動が子供っぽかったな」

和谷「あぁ、あれで確信した。俺が三年前チャットしたsaiとあいつは一緒だ!」

ヒカル(なんだかなー)


奈瀬「それより進藤。リーグ本戦入りおめでと」

ヒカル「あぁうん」

伊角「まさか三次リーグまで突破するとはな」

ヒカル「塔矢だって同じさ。負けてられねぇよ」

和谷「タイトル挑戦者になったらなんかおごってくれ」

奈瀬「えー? 普通逆じゃない?」

和谷「いいの! これが森下流なの!」

ヒカル「ははは」

伊角「もうすぐプロ試験か……」

和谷「とびっきりの暑い夏がくるぜ」

ヒカル「今年はどんな奴はいってくるかなー」

和谷「進藤お前にうろちょろ付きまとってるあいつらは?」

ヒカル「あー、岡と庄司? 見込みありって感じかな」

本田「若いやつがプロ入りしてくれないといよいよもって北斗杯のメンバーが危ういよな」

伊角「同感だな。22歳までにひきあげてくれればいいのに」




・・・



夏 プロ選抜試験 予選



月「やれやれ。僕ほどの実力者が予選をうけなきゃならないなんて」

竜崎「当然です私たちは院生とは違い、外来なので」

月「三勝したら本戦だろ? スムーズに進むために竜崎とはあたりたくないな」

竜崎「私もですライト君が一日遅れで本戦にくることになるのは忍びないので」

月「ッ! ……お前は」

竜崎「それよりもライト君よくプロのなる決断を」

月「まぁ、暇だからね」

竜崎「学業はどうするんですか?」

月「僕は効率がいい人間でね。それにプロ試験は夏休みを含んでるから出席日数も大丈夫さ」



竜崎「うまくいけば現役東大生のプロ棋士の誕生ですね」

月「必ずうまくいくさ」

竜崎「私も必ずsaiを捕まえます」

月「sai・・・か」

佐為「もうあれから三ヶ月ちかく前になりますね」

月(まだそんだけしか立ってないんだよ)

月(いまでもネット上はsaiの再臨を求める声であふれてる)

月(だけどまだ時期尚早だ)

月(僕は名実ともに……saiに……神になる!)

竜崎「その握りこぶし。気合入ってますね」

月「一応お金かかってるしね」

竜崎「親御さんは承諾したのですか?」

月「タイトルホルダーになれば一年でこの家を2つ建てられるっていったら父さん呆然としてたよ」

竜崎「なるほど」


・・・


月「ありがとうございました」

筒井「ありがとうございました……」

月(これで一勝……ぬるすぎる)

筒井「く、やはり強いな……」

月「筒井さん、大学生でしたっけ?」

筒井「えっ、うん」

月「その実力でよくこれましたね」ニタァ

筒井「!!」

筒井「き、記念受験みたいなものだよ。来年からは司法試験の勉強するから」

月「そうですか。まぁがんばってください」

月「一勝っと」

佐為「あの眼鏡の彼、非常に正確なヨセでした。感心しましたよ」

月「あぁ、僕の10分の1くらいの実力はある」



竜崎「どうでしたライト君」

月「どうもこうもないさ。予選は昼寝しながらでも勝てるな」

竜崎「というよりも私はライト君以外歯牙にもかけていません」

月「……ふふ、僕もだよ」

竜崎「ライト君はいい加減身の振り方を考えたほうがいいです」

月「それはお前のほうだろ。あんな座り方して、対局相手に失礼だ」

竜崎「まぁお互いに言いたいことはやまほどありますが」

月「竜崎。本戦で会おう」

竜崎「はいそうですね。よけいな馴れ合いをしている暇があればライト君は勉強したほうがいいです」

月「若いころの時間は貴重だからね」

佐為「時間……ですか」

月(千年この世にいるお前には関係のない話だったか)

佐為「はぁ……しかし暇ですね。ライト以外ともうしばらく打ってませんし」

月「そうだな。僕としてはあまり危険なことはしたくないんだけど」




月「たしか棋院にはフリー対局スペースがあったな」

月「いってみるか」

佐為「いいんですか!?」

月「少しだけだぞ。打つ相手は素人に限る」

佐為「はい♪ それでもいいですので」

月「まったく。めんどくさい」

佐為「ライト少しだけ丸くなりましたよね」

月「僕にはもとから刺なんてないよ」


・・・


門脇「え? いまから俺と対局? まいったなぁ」

月「一局だけお願いできませんか?」

月「この中ではおじさん一番つよそうですし」

門脇「おじっ!? ま、まぁいいだろ。座れよ」


月「全力でいきます」

門脇「なんだぁ? いやに自信ありげだが、この時期ってことはプロ試験の受験者か?」

月「えぇ、まぁ」

門脇「ふぅん……w」

門脇(俺のことを知らねーみたいだな。懐かしいぜこういうシチュエーション)

門脇(いっちょ先輩棋士様がもんでやるか)

門脇「よし、俺が黒だ」

月「おねがいします」

門脇「おねがいしますっと」



・・・



門脇「あ、が……え? え? 負けました」

月(まずい……コイツ、実力者だ)

佐為「ありがとうございました。とても心躍るたのしい一局でした」


門脇「なぁ、君……」

月「……」

月(まずい、どうする!?)

門脇「今年はよぉ、レベルがたけーのが入ってくるって思っといていいのか?」

月「え」

門脇「へへ、楽しみだぜ」

門脇「絶対まけんなよ。プロになって俺が雪辱を晴らすまで負けんじゃねーぞ!」

門脇「じゃあな」コツコツ


月「なんだったんだ?」


ヒカル「あ、門脇さん! こんなとこにいた」

門脇「よぉ進藤くん。今日の手合い頼むぜ。負けねーから」

ヒカル「また素人相手にして景気づけ?」

門脇「ま、そんなとこかな。行こうぜ」


月「あいつ……藤崎の隣にいた金髪」

佐為「……」

月「プロだったのか」

佐為「彼とも交える時がいずれやってくるのですね」

月「僕は負けないよ。誰にも」

月「寅次郎を探し出し屈服させると誓ったんだ」

月「負けることは許されない」

佐為「でも毎晩私に負けてますよね」

月「うるさいぞ。それは別の話だ」


月(雪辱戦か……)

月「ふふふ、ふはははははは!!」

月「はははははは!!!」

受付「ちょっと静かにしてください対局してる人がいるんですよ」



・・・


プロ試験予選 三日目


篠田「おめでとう夜神くん。本戦出場決定だ」

月「どうも」

篠田「よくがんばったね。本戦でも良い対局をみれることを期待してるよ」

月「僕が目指すのは全勝です」

篠田「懐かしいなぁ。昔そう言った子がいるんだよ」

篠田「結局、ライバルにまけてしまったけどね」

月「僕はライバルにも勝ちますよ」

篠田「ほう、クールな子かと思ったら意外と熱いんだね」

月「碁は戦いです。冷静につとめるだけでは勝てませんよ」



月(L、寅次郎……! 僕に盤上で血祭りにあげられる日を震えながら待つといい!)

竜崎「ライト君」

月「竜崎か」

竜崎「私は、碁の中には必ず真実が潜んでいると信じています」

月「真実?」

竜崎「えぇ。真実です」

月「僕は何も偽らないよ」

竜崎「saiがネットから姿を消した途端。あなたはプロの道をめざすと言い出しました」

月「なんだそれ。こじつけか?」

竜崎「打てばわかります」

月「すっかり碁打ちだな。探偵業をおろそかにするなよ」

竜崎「私は頭をつかうのが好きなので」

月「奇遇だな。僕もだ!」

竜崎「では、本戦で」


佐為「宣戦布告されちゃいましたね」

月「かまをかけてきただけだ。あいつのうっとうしいアプローチも僕が神の座につけば終わる」

‐プロ選抜試験 本戦開始‐


月「全部で25戦か。総当たりってのはめんどうだな」

佐為「わぁー、ここにいるのみんな碁の道を極めんとする猛者たちなのですね」

月「の卵だよ」

佐為「早く戦いたいです!」

月「打つのは僕だ」

月「一日で10戦出来れば楽なのにな」

佐為「時間がたりませんよ」

月「いまの僕なら全部中押しで勝てる」

佐為「うぬぼれすぎです」

月「そうかな?」

佐為「碁を甘くみるライトなんて予想外に苦戦して泣きをみればいいんです」

月「はいはい」

月「とりあえずサクっと白星をつかんでくるよ」


おっさん「負けました」
院生A「負けました」
院生B「負けました」
院生C「負けました」
おばさん「負けました」


月「ありがとうございましたw」


佐為「……」

月「どうした佐為。気に入らなそうな顔して」

月「五日経って5連勝。全部中押しだ」

佐為「い、いえ……強くなりましたね」アセアセ

月「強くなった? ふはははは僕は元から強いんだよ」

月「負けちゃいないさ寅次郎にも……Lにも!」


佐為(あなたの負けん気の強さ、どこか懐かしく感じます)

佐為(この気持は何?)

佐為(私は一体この先どうなるのでしょうか)


月「勝ったほうが勝敗をつけるっていうシステム」

月「実に気分がいいな」ポンッ 

月「夜神月、中押しっと」

竜崎「ライトくん。はんこを貸してくれませんか」

月「竜崎……勝ったのか」

竜崎「負ける気がしませんし、負けてはこの先仕事になりません」

月「そうだったな探偵」

月「絶対にプロにならなきゃならないお前は僕以上に必死ってわけだ」

竜崎「はいそうなんですだからこの後も秘密の特訓です」

月「特訓?」

竜崎「はい私のバックにはたくさんの有能なプロがついていますので」

月「なるほど。強いわけだ」

竜崎「ライト君は誰かに弟子入りしてるのですか?」

月「僕? ははは、そんなわけないだろ独学だよ」

竜崎「なるほどわかりました。やっぱりライト君はすごいです」




月「竜崎め。あいかわらずおちょくってくるな」

佐為「実はライトのことを好きなんじゃないですか?」

月「……佐為、冗談でもそんな気持ち悪いことは言わないでくれ」

佐為「ライトはモテるのに特定の相手をつくらないのは不思議でたまりません」

月「特定の相手ね……」

佐為「好きな女性はいないのですか? あの塾の子とかは?」

月「佐為、いまの僕の恋人は」

佐為「はい……?」

月「囲碁だよ」ドヤァ

佐為「ライト♪」

ギュ

月(ちょろいな……僕は男か女かよくわからない幽霊を口説くセンスもあるみたいだ)


院生D「負けました」
院生E「負けました」
院生F「負けました」
院生G「んっひwwwwwwww」
福井「負けましたぁ~夜神くんつよいなぁ~」
飯島「負けました……」


月「ありがとうございました!」

佐為「すごいすごい! 10連勝ですよ」

月「現在竜崎と同率で戦績一位だ。もう合格は固いな」

佐為「万に一つこの先を落とすって考えはないんですね」

月「ないよw」

佐為「竜崎との決着は」

月「第20戦目だ。あと十日……それまでは力を蓄える」

佐為「竜崎もおそらく万全の状態で望んできます」

月「あぁ。僕も全力で迎え撃つ」


プロ選抜試験本戦 第20戦目


篠田「やぁ竜崎君夜神君」

月「おはようございます先生」

竜崎「おはようございます」

月「竜崎、いつにもましてすごいクマだな」

竜崎「……眠たいので手加減してくれますか?」

月「ふざけるなそんなわけないだろ」

篠田「今日が実質の頂上決戦だね」

篠田「今日勝ったほうは合格確定だ」

篠田「20勝したら残りすべて落としても上位三人に入れる」

月「……」

竜崎「私が一抜けとさせていただきます」

月「それはできないな」

佐為(ついにこの日が……)

佐為(あぁ羨ましい。ライバルとの血沸き肉踊る対局)

佐為(私に自由な体があれば、どこへなりといって強者と相見えるというのに!)

佐為(ライト、絶対勝ってください。私の想いも一緒にお願いします)


月「僕は勝つ」

竜崎「私に勝ったらライト君がsaiである可能性が3%から8%になります」

月「ッ! お前ぇ!」

竜崎「ライト君、これは心の削り合いですよ」

月「一方的すぎる!」

竜崎「それはsaiだから怒っているのですか?」

月「ふざけるな」

佐為「ライト、惑わされてはいけません。心を落ち着けて」

月「だいたいお前、碁の中に真実があるっていっただろ! 盤外からの攻撃なんて」

ビー!

竜崎「さぁ、はじめましょう。お願いします」


月「……」イライライライラ

佐為「ライト……」

月(黙ってろ佐為。これは僕の戦いだ)

佐為(あぁ……私の声が聞こえるようでは……)

佐為(集中できていない)



竜崎「……」コトン

竜崎「……」チラッ?

月「ッ!」パチン


佐為(布石の段階で早速ペースを崩されるとは)

月(まだこの手つきなのか……ええい落ち着け……安い挑発にのったらだめだ)

月(僕はいまや実力者。冷静に戦えばこんなふざけた奴に負けるはずがない)


竜崎「……」コトン

竜崎「……」チラッ?


月(なにが碁の中に真実がある、だ)

月(竜崎、見損なったよ。キミがこんなくだらない手をつかうなんて)


竜崎「……」コトン グダー


月(……いや、違う!)

月「……」パチッ

月(これが竜崎流なんだ)

月(以前言っていたな。この座りかたじゃないと思考力がダウンするって)

月(こいつはこいつなりの全力をもって僕を迎え撃っている!)

月(それを卑怯だのなんだのってケチをつけて……僕は、僕は!!)


月「……」スッ


佐為「ライト!」


竜崎(どうやら引き出してしまったようですね。彼の本性を……)



竜崎「……」パチッ

月(ここでキリ!? 強引なやつめ)

月(守らないと右辺は全滅する……)

月(だが、こいつ……)


竜崎「……」ニヤニヤ

月(まるで読めない。まるで僕の力を試しているかのようだ)

月(試されているのか!!?)

月(僕がsaiだから!? 様子をみているんだ)

月(ふふ、面白いよ竜崎。まさか盤面でまで探りをいれてくるとは)

月(あぁ、僕はsaiさ。真実ならくれてやる。だが口に出さない限り確証は得られない)

月(君の挑発、僕流でうけてたつよ)


月「……!」スッ

竜崎「……!」ニタァ


佐為(両者激しい攻防……しかしライト)

佐為(あなたの碁はほんとうに進化しましたね)

佐為(私も、いつかあなたと真に向い合って打てたらいいのに……」

佐為(竜崎、あなたともです)

佐為(あなたの策略。残念ながら私にはお見通しですが)

佐為(きっとこの先もっと巧みになる。私はそう予感しています)

佐為(いつまでもライトの好敵手であってください)



月「ッ」スッ

竜崎「!」コトッ



篠田「打かけにしてください。お昼は45分ですませてください」

月「……打ち切ろう竜崎」

竜崎「えぇ」


篠田(ここもここも、一体どういう手順なんだ)

篠田(展開が早すぎる! この二人……やはり逸材だ)

篠田(塔谷先生……また日本の囲碁界に新しい風がふきこんできましたよ)

篠田(いまは、どこで何をしていらっしゃるのか)



竜崎「ありがとうございました」

月「……ありがとうございました」

篠田「おお! 決着したか」

佐為「素晴らしい碁でした。実に」

佐為「私が見てきた数カ月の中で過去最高とも言える内容です」

佐為「しかし……どんなに素晴らしい碁でも勝者は一人」



竜崎「ライト君、お見事です」

竜崎「saiである確率。いまは3%のままにしておきます」

月「……」

【月の部屋】


月「……」

佐為「ずっと頭かかえてますね」

月「……」

佐為「ライト……良い内容でしたよ?」

月「……」

佐為「惜しかったですけど……竜崎は大いにライトの期待に答えてくれました」

月「……ふ、ふふ」

月「ふははは、ふはははははは!!」

佐為「ら、ライト……」


月「ははははははは!!! はははははははは!!!」

月「お゛も゛しろ゛いよぉ竜崎ぃ!!!!」ガターン

月「この雪辱ぅ!! 必ず……必ず……ッ!! ははははは!!!」


佐為(こ、怖い……)


月「佐為ぃいい! 今日の一局を検討するぞぉお!!!」

佐為「は、はい。やりましょう。思う存分っ」

月「つぎはぁ!!! 竜崎ぃいいい!! お前をおおお!!」


白湯「お兄ちゃんうるさいよー! お母さん怒ってるー」


月「僕は神になる!! 敗北は許されないぃぃ!!!」

佐為「この先負ける度にこれですか?」

月「早く並べろおおお!! 検討するっていってるだろおおお!!」

佐為「碁石持てないんですけど」


月「それもそうだな」

月「ま、合格は揺ぎないし。いつまでもひきずったらそれこそ本当の負けだ」

×白湯
○粧裕


プロ選抜試験本戦 21戦目


庄司「負けました……」

月「ありがとうございました」

庄司「ありがとうございました……はぁー」

月「……」

庄司「今年こそはいけると思ったのに、外来でこんなに強い人が二人もくるなんて反則だぜ」

月「僕もそう思うよ。自分の才能がおそろしいからね」

月「僕はプロになる。プロと院生のお祭り、若獅子戦でまた会おう」

庄司「……」

岡「なんなんだあの人……」

庄司「しらねー、変態だろ。たまに一人で叫んでるし」

岡「やっぱああいうおかしい人しかプロになれないのかな」

庄司「弱気になるなよ……来年こそがんばろぜ」

岡「……おう」



月「……やった」グッ

篠田「おめでとう夜神君。君もそうして喜びの表情をみせることがあるんだね」

月「先生……」

篠田「これで君の合格は確実になった。残りすべて落としても」

月「じゃあ明日からは欠席します」

篠田「え」

月「僕の中で、不戦敗は負けではないのでどうでもいいんです」

篠田「え、ちょ、夜神くん?」

月「プロになったらさっそく新初段戦ですよね?」

篠田「ああそうだよ。冠位もちのトッププロとハンデつきで対局することになる」

月「指名ってできますか?」

篠田「それはできないよ」

月「そうですか。じゃあ誰でもいいです。どうせ名前しらないので」

篠田「お、おい!! 夜神くん!? どこへいく!? 明日ちゃんとくるんだぞ!?」



‐授賞式‐


佐為「ついにライトもプロですねー」

佐為「これからさらなる手練と相まみえるとは、感慨深いです」

月「しばらくは低段者としか打てないんだ。前座だよ。全員」


竜崎「ライト君無事合格おめでとうございます」

月「竜崎。やっぱりお前も後の手合いすっぽかしたんだな」

竜崎「はい興味ありませんでしたので」

月「そういうのは心の中にしまっとけ。口にださないほうがいい」


佐為「ライト! この前の人いますよ!」

月「あぁ? あの金髪の」


ヒカル「あ、お前!」


月「僕?」

ヒカル「お前か、以前門脇さんを倒したっていう謎の一般人」

月「夜神月だ。今年からプロになる」

ヒカル「そうか。そんじゃ対局できる日を楽しみにしてるぜ」

月「ええ……君にはなにかとてつもないシンパシーを感じるよ」

ヒカル「はぁー?」


和谷「おい進藤! 主賓がなにやってんだよ。はやく準備しろ」

月「ん、zeldaか」

和谷「あぁ? 誰だお前」

ヒカル「俺とタメの後輩」

和谷「あぁ。プロになったのかおめでとう」

和谷「早くあがってこいよな。俺たちは一応低段者じゃないからすぐには対局できねーぜ」

月「そうですか。すぐに追いつきます」

和谷「なっまいきなやつだな。例のsaiみてぇ」


月「sai……か」

竜崎「どうしました?」

月「いや……なんでもない」

月(ここからはじまる……僕の神の物語が!!)

月(ここに来ている多くの賞の受賞者たちも、いずれ僕にひざまづく)

月「ふふふふ」

佐為(この顔、またよくないことを考えてますね……)

月「楽しみだよ……」ニヤァ

竜崎「なにがですか? もしかしてsaiとして囲碁界の頂点に君臨する妄想でもしましたか?」

月「そんなわけないだろ。お前はいくらなんでも妄想のしすぎだ」

竜崎「いえ、あくまで推理です」

月「はずれたら妄想だろ」

竜崎「可能性があるかぎりは推理です」

月(しつこいな……だが竜崎、お前の推理は正しい。しかしその正しさすらすべて無意味なものになるんだ)

月(新初段戦で僕の実力をみせつける!!)



数日後


粧裕「お兄ちゃん! 棋院から手紙きてるよ!」

月「きたか!」

粧裕「みせてみせて!」

月「粧裕がみてもわからないだろ?」

粧裕「ぎゃっ、ケチ」

月「緒方十段だとやりがいがあるが……さて、どいつに決まったかな」

  
 新初段戦のお知らせ

  対局相手:進藤ヒカル8段(本因坊)

  
  ○月×日 13時開始
  
  日本棋院幽玄の間 にて



月「進藤……ヒカル?」    


佐為「現在の本因坊が相手ですか」

月「ふっ、佐為にとっては感慨深いか?」

月「だが悪いな僕にとっては新初段戦は通過点でしかない」

月「ハンデは逆コミ5目半もあるんだ。ぬるすぎる」

月「若い世代の実力と、格の違いをみせてあげるよ」

月「時代遅れの年寄りどもは僕のつくる新囲碁界には必要ない!」


月「まずは本因坊のじいさんをみせしめだ」

佐為「進藤……ヒカル……」


月「竜崎は誰に決まったかな。電話でもしてみるか」

月「もしもし? 竜崎? saiじゃない、僕だ」

月「いちいちかまをかけてくるな」

月「それより新初段戦。僕の相手は本因坊だ」

月「へぇ、名人相手か」

月「塔矢? あぁ、あの塔矢名人……は引退しなかったか?」

月「僕は勝つよ。必ずね」

月「竜崎は一度痛い目をみておいたほうがいいんじゃないかな」

月「僕としても竜崎の高い鼻が叩き折れるところを見てみたいし」

月「ま、健闘を祈っててくれ」

月「じゃあな。あといっとくけど僕はsaiじゃない」


月「くそっ、竜崎のやつ」

月「隙があれば僕を探ろうとしてくる」

佐為「彼の執着心は異常ですね」

月「あんなやつのことで気をもんでいる場合じゃない」

月「進藤ヒカルとやらの棋譜をとりよせて対策をたててみるか?」

月「いや、それもおもしろみがないな」

佐為「すごい自信ですね」

月「ゆとりのない神なんて嫌だろう?」

佐為(ライトの場合はゆとりというよりも傲慢なのでは……)

月「だんだん僕もお前の顔をみてるだけで何を考えているかわかるようになってきたよ」

・・・・

【幽玄の間】


月「へぇ、中にまでカメラが入るんですかw」

天野記者「緊張するかい?」

月「特には」

天野「落ち着いてるねぇ。例年だと新初段のみんなはガチガチなんだけど」

月「あくまで通過点にすぎません」

天野「こりゃ大物だ! ありし日のアキラ君や進藤君を思い出す」

月「進藤、くん?」

天野「あぁ、もうくんなんて呼んじゃいけないよなぁ」

天野「進藤本因坊、まだこないのかな。そろそろ記念写真のとりたいのに」

佐為「……ライト」

月(佐為、どうした)

佐為「幽玄の間……この張り詰めた空気……ライトは感じますか?」

月「さぁね。テスト中の教室のほうがよっぽどピリピリしてないか?」


佐為「こんな場所で打てたら……どれほどの幸せであるか」

月「……佐為、お前」


ヒカル「すんません。遅れちゃいました」

月「あ」

ヒカル「よ!」

月「……天野さん、進藤本因坊遅いですね」

ヒカル「俺俺! 俺だよ」

月「今日は採譜のために来てくれたのか?」

ヒカル「はぁ~!? せっかくお前のために高い服きてきたのにそれはないぜ」

天野「夜神くん、本気で知らないのか?」

天野「今日の君の対局相手の進藤本因坊だ」

月「えっ!」

ヒカル「よろしくな、夜神」

月「な、ま、おま……え?」


ヒカル「そうかたくなるなって! 気楽にいこうぜ」

月「……あぁ、はい」

ヒカル「天野さん、ちゃっちゃと撮っちゃって」

ヒカル「俺こいつと早く打ちたかったんだ」

天野「その前にインタビューいいかい?」

ヒカル「え?」

天野「なぜ進藤本因坊は、今回特別に夜神くんを指名したのですか?」

月(指名だと……!)

佐為「本因坊から指名だなんて、すごいんじゃないですか!?」

ヒカル「……なんでって」

ヒカル「ビビっときたからだよ。あと門脇さんのお礼参り」

月「そ、そんな理由で……ふ」

月「……ふふ、ははははは! はははは!!」

月「僕をなめるなぁ!!」

ヒカル「なめてねーよ。だから全力で行く。夜神も『持てる力』全部だしきってくれよな」


ヒカル「座れよ」

月「……本因坊。いずれその座ももらいうける」

ヒカル「新初段がいう台詞かよ!」

月「……すいません」

ヒカル「譲らねー。これだけは。絶対」

月「なら奪いとるまで!」


奈瀬「ハンデは逆コミ5目半。新初段が黒をもちます」


月「空気が変わった……」

佐為「……」

月(佐為……どいてくれないか?)

天野「夜神くん? すわりなさい」

ヒカル「……」

月(どくんだ佐為。帰ったらいくらでも打ってやる)

佐為「……はい。ごめんなさいライト」


月(これは僕の囲碁界征服の第一歩となる記念すべき対局だ)

月(いくらなんでも……お前に譲ることはできない)

月(それに別室ではあいつが見ている)

佐為「竜崎……」

月(だけじゃない。緒方十段が来ているとなおのことややこしいことになる)

月(あいつらはsaiの打ち筋研究科だからな)

佐為「わかります」

月(諦めてこの金髪本因坊が僕にけちょんけちょんにされるところを横から見ていろ)

佐為「はい」



月「おねがいします」

ヒカル「おねがいします」

ジャラッ…


月(まずは四隅からだ)


月「……」スッ


天野「カシャカシャ」

天野「よかった。今年も割りとすんなりはじまった」

篠田「進藤くんが塔矢名人にいどんだときは初手20分でしたからね」


ヒカル「……」チラッ



ヒカル「……」パチッ

月「……ふん」スッ


佐為「どうやら一通り頭の中で組み立ててきたようですね安心しました」

佐為「ライトの言う通り、私の出る幕ではありません」

佐為「が……! え……」


月(こ、こいつ!!)

月(秀策のコスミ! な、なぜこんな古い定石を)


月「……」ドクンドクン


佐為「この者の打ち筋……ま、まるで……!」

月(なぜだ、なぜ……)

月(秀策……本因坊だからか?)

月(僕に対して接待プレイを? いや所詮新初段戦だから華をもたせる気か!?)

月(だが全力でくると確かにこいつは言った)

佐為「ライト……」

月(秀策……いや、違うな! こいつが言いたいのは……!!!)


月(……寅次郎、というわけか)ギロリ

ヒカル「……」スッ


月(なめるな……)

月(なめるな僕を!!!)

月(お前は僕に! 一度!! まけているんだ!!!! 今回も僕が勝つ!!!!)


ヒカル「……」スッ

月(まただ。完全に僕を挑発している!!!)

佐為「ライト、あまりに自意識過剰です」

月(しっててやっているとしか思えない。まさか僕を、saiを誘い出す気か!)

月(だが佐為の力をつかっては……Lが……くそっ)

佐為「ライト……」

月(決めた! 僕が力でねじ伏せる!)

月(プロ試験でついた『中押しの夜神』の異名は伊達じゃない!!)

月「!」パチッ


ヒカル「……」スッ

月(どれだけ先を読んで荒らしてもしのがれる。こいつの読みの深さは異常だ)

月(だが、僕ほどではない!! 僕なら勝てる!)

月(コイツが一億手先を読むなら! 僕は一億一手先を読むだけ!!!)


佐為「ライトの力。それはこの圧倒的な執念と異常なまでの自信……まったく感服いたします」




【別室モニター】


竜崎「攻めますねライトくん」

アキラ「だが進藤は手堅く防ぐよ」

竜崎「それを見越して一本キリが入ってます」

アキラ「だが進藤はそれすらも見越して先手をうっている」

竜崎「なるほど、しかしライトくんはそれ機能させないように新手をくりだしてきました」

アキラ「だが進藤はものともしない。ほら」

竜崎「しかしライトくんは強引に突破しますよ」

アキラ「だが進藤はまたたくまに」

竜崎「ここでライト君ノータイムで急所に」


緒方「だまって見ていろ」


月(進藤……なんてやつだ! 逆コミ5目半のハンデをものともしない)

月(いや、当然か。若手最強棋士の一角だからな……)

月(だが僕がここでお前を下す! 僕に敗北は許されないんだ!!)


ヒカル(おもったより出切ってきたな。さすが俺が指名しただけあって楽しませてくれる)

ヒカル(なぁ夜神……お前は一体……?)

ヒカル(佐為……ちがうのか?)

ヒカル(ほんとはそこにいて、俺たちの対局をみてるんじゃないのか?)


ヒカル(答えろよ! 佐為!)

パチン!


月「!!!」

佐為「……」

月(ぐ…・…な゛、まずい、形勢が……!!)

月(バカな!! ココに来てさっきの悪手が絶好の位置に!?)


・・・


アキラ「決まったな」

竜崎「いまのは致命的ですライトくん」

アキラ「夜神くんがミスをしたんじゃない。進藤がすごいんだ」

竜崎「さすが名人と本因坊」

アキラ「進藤は優勢になったら今以上に冷静になる」

竜崎「おそろしいですね」

アキラ「進藤のことが、おそろしいほどに冷たく感じるときがあるんだ」

竜崎「私も進藤くんと打ってみたいです」

アキラ「まずは明日僕が相手になる」

竜崎「負けません。夜神くんと約束しましたから」

アキラ「だけどその夜神くんはもうここからだと厳しいんじゃないかな」

竜崎「いえ、夜神くんを侮ってはいけません。彼の追い詰められた時のポテンシャルは」


緒方「黙ってみていろ! 追い出されたいのか」



・・・


月(まずい、立て直せるか!?)

月(……バカな。僕は何を言ってるんだ。ここから本因坊相手に立て直すだと!? 無謀だ)

月(逆コミの貯金は尽きた。これ以上劣勢になっては……もはやヨセまで保たない!)

月(つまり……負ける!? 僕が!? ハンデがあるのに!? 僕が負ける!?!?)

月「……ぅぅ、うぐぐぐががががっ」パチッッ


ヒカル「!」


月(負ける゛ぅ!!? 僕がァああああ!?)

月(あ゛ぁりえないんだ! こんなことありえない゛!!)

月(僕の野望への第一歩だぞ!!!)

月(踏み外していいものか!! 滑り落ちていいものかぁ!!!)

月「あガガガがギギギ!!! あううぅぅぁぁlああ!!!」ガタガタガタガタ

ヒカル「……・」スッ


佐為「ライト……このままではあなたの精神が……!」

月(あ゛ああああああああああ!!)

月「あ゛ああああああああああ!!」

月(あ゛ああああああああああ!!)

月(嫌だ。負けたくない。嫌だ。負けたくない。いやだ)

月(僕はsaiなんだ。神になる男だ。世界最強の……絶対の存在に……)

月(こんなところで本因坊ごときに。本因坊に……進藤おおおおお!!!!)

佐為「ライトぉー!!」



月「   」

ヒカル「……?」

月「……」スッ

ヒカリ「!」


月「……」スッ

ヒカル「なっ……!」



・・・



越智「彼、壊れちゃったみたいだね」

アキラ「……」

竜崎「……」

越智「ほら、また考えられないような悪手だ。もう終わりだよこの碁は」

伊角「……黙れ越智」

越智「!!」ビクッ


竜崎(夜神くん……)

アキラ(進藤……)

緒方(sai……)

ヒカル「……」パチッ

月「   」スッ

ヒカル「……」パチッ

月「   」スッ

ヒカル「……」パチッ!


月「……」

佐為(ライト……あなたはほんとうに成長しました)


ヒカル(コイツ、さっきから様子がおかしい)

月「……」スッ

ヒカル(この、かすかに感じるこの空気は……?)チャッ

月「……」パチッ

ヒカル「はっ!」


・・・

越智「ひょ!? さっきの悪手が……なんで!」


アキラ「……この打ち方」

緒方「夜神月はいつのまにか進藤の弟子にでもなっていたのか?」

越智「だとすると進藤が彼を指名したのもわかりますね」

伊角「違う……この展開は!!」

アキラ「進藤!! 馬鹿な!!」ガタッ

緒方「……夜神月……何者なんだ」ゴクリ

竜崎「緒方さん。ご依頼の捜査、おおきく進むかもしれません」

緒方「えっ」


竜崎「碁は嘘をつきません。碁の中に真実があるのですよ」

竜崎「そして進藤本因坊はこの中でそれを一番よくしっています」

竜崎「まぁ、私の推測は外れるんですけどね」

アキラ「竜崎、僕も君と同じ意見だ」

緒方「お前たち、いったい何を」

竜崎「いつか必ず解き明かします。その時は進藤本因坊を重要参考人として呼ぶかもしれません」


ヒカル「……」

月「……」


奈瀬(もうっ、なにやってんのよ進藤! この一手でどれだけ時間かけてるの)

奈瀬(たしかに、さっきの夜神新初段のはすごい一手だったけど……まだまだあんたが優勢じゃない!)

奈瀬「進藤……? え、なにっ? どうしたの?」

天野「進藤くん? 体調でも?」


ヒカル「……よく、しってるんだ。この打ち方。とても、よく」

ヒカル「なぁ……勉強、したのか?」

月「はい」

ヒカル「そっか……」

月「……」

ヒカル「ありがとな、夜神」パチッ



月「……ありません」ペコッ


・・・


アキラ「投了したぞ!」

越智「進藤、さすがに強いな」

伊角「進藤……どこまで先へいくんだ」

竜崎「帰ります。家にかえって見直したい棋譜がたくさんあるので」

緒方「送っていこう」

竜崎「ありがとうございます」


竜崎(夜神くん。君はどうあがこうとも、間違いなく、一人の立派な碁打ちですよ)

竜崎(碁は嘘をつきません。いまあなたのだしきったすべてが、あなたなのです)

竜崎(再戦を楽しみにしています)




・・・


天野「いやぁ良い内容でした」

天野「夜神くん良かったよ。結果は負けだけど自信をもっていい」

月「そうですね。僕もそう思います」

ヒカル「……天野さん。すこし二人でいまの内容検討させてください」

天野「あぁ! わかった。終わったらもう一枚写真とるから声かけてくれ」

ヒカル「奈瀬もすまないけど」

奈瀬「う、うん」




月「完敗ですよ本因坊。いや、寅次郎といったほうが?」

ヒカル「……そこに、いるんだよな?」

月「……はて、なんのことです?」

ヒカル「やめろよ。そういうの」

月「……」


ヒカル「なぁ、佐為。どうだった?」

ヒカル「俺、本因坊になったんだ!」

ヒカル「どうしても、欲しくて、桑原のじいちゃん倒して……さ」

ヒカル「佐為、俺、お前に話たいこと山積みだ」

ヒカル「なぁ……頼むよ。もう一度、俺の前に……」


月「……進藤」

月(だけど、佐為はもう君のことを……)


佐為「ヒカル……」

月「!」

月(佐為! お前……!)

佐為「感謝しますライト」

月(え……)

佐為「あなたのすべてをかけた一手」

佐為「私はそれを見た瞬間、なにもかも理解しました。私という存在……あなたという存在を」


月「僕……が?」

ヒカル「……え?」

月「そうか……」

ヒカル「夜神? おい夜神?」


月(僕は……そうか。悔しいが、神となる僕ですら、運命の歯車の一つでしかなかったというわけか)

月(やれやれだ……)


ヒカル「夜神ぃ?」

月「ヒカル」

ヒカル「!!」

月「大きく、なりましたね」

ヒカル「佐為……?」

月「ここにいます」

ヒカル「佐為……お前! なんで、なんで消えたんだよ!」


月「あなたを育て、あの一局を見せ、私の役目は一度尽きました」

ヒカル「あの一局……塔矢先生との?」

月「はい」

ヒカル「でも、お前は神の一手をまだ極めてない!」

月「大丈夫。神の一手は、あなたと、この子が目指してくれます。ですよね?」

月「私のすべてを託しました。そして、あなたたちは受け取ってくれた」

ヒカル「佐為……」

月「私は、きっとあなたのために千年の時を永らえ」

月「そして、きっとあなたの果てしない成長を一目みるために」

月「数年の時を経てこの子と出会った」

ヒカル「夜神……」

月「……そういうことだ進藤」

ヒカル「お、おいまてよ。まだ俺は話したいことが山ほど」

月「進藤。お前は棋士だ。語り合いたいなら石を握れ」

ヒカル「!」


月(佐為)

佐為「ありがとうございます月。なにも伝えられない私の代わりに」

月(いいんだ。きっと、これが僕に課された使命なんだろう)

月(僕だって、神を信じているからこそ、神になりたい)

佐為「あなたには感謝してもしきれません」

月(僕もだよ、佐為。囲碁、おしえてくれてありがとう)

佐為「ライト……最後に、ひとつだけわがままきいてくれますか?」

月(最初にいったはずだよ佐為。僕は幽霊に情なんてうつらない)

月(でも、お前は友達だから)

月(僕に、見せてくれ。本当のsaiを)


佐為「はい!」


月「ヒカル、私が黒です。コミは五目半、いいですか」

ヒカル「……あぁ!」

佐為(ヒカル……)

佐為(あの頃と比べて、背が高くなった)

佐為(声も低くなりましたね)

佐為(もちろん、強くなりました)

佐為(あなたとすごした日々。すべておぼえています)

佐為(ごめんね? 私はきっととても哀しい思いをさせたでしょう)

佐為(私のこと探しまわったりしちゃいませんでしたか?)

佐為(泣いちゃいましたか?)

佐為(でもヒカルは負けずに、ここまでこれた)

佐為(私はそれだけで、生まれて良かったとすら思えるんです)

佐為(ヒカル、いままでありがとう)

佐為(ライト、ほんとうにありがとう――――


ヒカル「……!」パチッ

月「はっ!」

月「……」

ヒカル「……佐為? 長考か? 珍しいな」

月「……」

ヒカル「……」

月「進藤。残念ながらこの棋譜は、永遠に完成しないものとなった」

ヒカル「!!」

月「……」

ヒカル「ぁ……・そ……っか」

月「だけど」

ヒカル「ぅ……佐為……また……お前は」

月「僕でよければ、続きを打とうか?」

ヒカル「!」

月「どうだろう?」

ヒカル「そうだよな……。ありがとう……夜神」


月(佐為……楽しかったよ。そして……さようなら)

・・・・


ヒカル「でさぁ、あかりのやついきなり言うんだぜ?」

アキラ「まぁ僕らもそういう歳だし、彼女の気持ちはいい加減汲んであげなきゃだめじゃないか?」

竜崎「若いお二人がうらやましいです」

ヒカリ「つか竜崎って何歳なんだよ。外来うけれたってことは、まだ二十代だよな?」

竜崎「それは究極の秘密です」


カランコロン


市河「あら、いらっしゃい東大生さん」

夜神「はは、やめてくださいよ。入れたのだってラッキーなんですから」

ヒカル「よ! 夜神ぃ! いまから早碁すんだけどやる?」

夜神「あぁ、もちろんやるよ。早碁は頭の回転の早い僕の一番の得意種目だからね」

ヒカル「あぁ?」

夜神「睨みつけてる暇があったらはやく握ってくれ。僕は碁だけ打ってるわけにはいかない忙しい身でね」

竜崎「はい私もです。本業は探偵ですので」


ヒカル「探偵ってあれだっけ?」

竜崎「えぇ。saiを追っています。必ず見つけて公衆の面前にひきずりだします」

ヒカル「佐為をみつける、か」

月「ふっ」

竜崎「何故笑うんですか? いまの嘲笑を考察するに実はライトくんがsaiで可能性が一気に13%に」

アキラ「sai……か」

ヒカル「なんだか途方もない話じゃないかなー」

竜崎「そうですか? たしかに証拠詰めはかなり大変かとおもいますが」

ヒカル「いや、いいんだいいんだ頑張ってくれよ。俺もsaiがいたら会ってみたいし」

夜神「僕もだよ。きっとすさまじく冷徹で頭のめぐる人間だろうな」

竜崎「いいえ夜神君。私なりに過去のsaiの棋譜や対局データをプロファイリングした結果」

ヒカル「結果?」

竜崎「……saiはとても温厚で、おもいやりのある人物かと推察されます」

ヒカル「へぇ! そりゃ初耳だぜ! なぁ夜神?」

夜神「ははは、新説だな。でも、いい線いってるかもね」

×夜神「
○月「


竜崎「塔矢くんはどう思いますか?」

竜崎「saiをみつけるにはどこをあたれば効果的だと考えますか?」

アキラ「うーん、どうだろう」

アキラ「少なくとも、saiは僕らの胸の中にいる。それじゃだめかな?」

竜崎「だめです。そんなことを報告したら緒方さんにひどい目にあわされます」

ヒカル「よっし、そろそろ始めっか」

月「そろそろ進藤本因坊に引導をわたして重圧から解放してあげないと」

ヒカル「まだまだ負けねぇぞ!?」

月「それと、僕は本気で本因坊のタイトルを狙うよ」

ヒカル「え?」

月「神の座を、神の一手を、目指すにあたってね」

ヒカル「……! あぁ、待ってるぜ!」



おわり

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