垣根「俺はあの男を安価でぶっ潰す」フィアンマ「やれるものならやってみろ」 (976)

・垣根くん再構成

・若干のキャラ崩壊&ヤンデレ化あり?

・エログロは安価次第(ホモは基本なし、百合はいいんじゃない?)

>>1は安価としては遅筆

・今回は完結させたい

・まさかの2スレ目

前スレ
垣根「ヤンデレ……? 俺の安価にその常識は通用しねえ」【禁書ss】 - SSまとめ速報
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SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1384779157

新スレ開始!




よろしくお願いします

「たす、けたい……」

御坂のか細い声は悲痛なものだった。
普通ならこの少女に情けや憐れみを覚えるだろう。
だが垣根は違う。
垣根は彼女の瞳には強い決意が見える。
だから自分と同じ顔をした少女の姿に怒りを覚えたし、研究所を破壊する暴挙にもでた。
その意思の強さを垣根は素直に評価する。

「……なら、お前は今自分が何をすべきかわかるはずだ。……人の力は無限じゃない。お前も、俺もな」

「……わかった」

御坂は強く呟いた。
あの子を救う、と。




「……振り出し、かい?」

「いや、そうでもねえ」

木山の問いに垣根は笑って答えた。
彼はPCを操作しながら言葉を続ける。

「普通に考えてみればクローンを二万体を三千万ぽっきりで製造
しきれる訳がねえ……間違いなく、他の口がある」

彼がリストアップしたのはそのプロジェクトに関連していると思
われる施設だ。
木山もPCを覗き込む。

「……ほう? それで次はどんな手をうつんだい?」

「安価下2」

「天井を利用する。ここと深い関係にある会社の令嬢がソイツの奥さんだって話だからな」

「……フフ。見逃すとの約束はどうするのかな?」

「問題ねえ。可能な限り保護はするさ」

垣根は笑って席を立った。
すでに天井の弱みは握っている。
後はその奥さんとやらを上手く垣根が扱えるかどうかだ。




(さて、と……)

垣根は大規模なビルの前に立っていた。
そこは手広い分野で進出している学園都市屈指の会社である。もし『フィアンマコーポレーション』がなければさらに大規模になっていただろう。
垣根は一歩、踏み出した。
受付には女性がいる。その女性が天井の妻だ。



天井の奥さん 安価↓2(禁書女性キャラ。一名)

「……どちら様でしょうか?」

黒髪に大人びた姿の女性。
五和。
天井にはもったいないと思いながらも垣根は口を開く。

「申し訳ありません。少々、天井さんの事で話たい事が」

「……わかりました」

その場をもう一人の女性に任せ、五和は垣根についていく。
垣根は適当なベンチに五和を座らせた。
そして声色を変えて言う。

「この会社が『フィアンマコーポレーション』と繋がってる情報はすでにある。……お前は天井との関係から何かに関わっているはずだ。全て、答えろ」

「……できません」

「へえ、どうしてだ?」

「安価↓2」

「あの人は私のことが嫌いだから何も知らされてないのです」

(……なるほど、な。つまりダミーか)

この険悪な関係をフィアンマが見逃すはずがない。
もし五和の話が本当なら、これほど扱いやすい人物はいない。科学者としてなら優秀な天井はそれくらいの役には立つだろう。
だとすれば。
天井と繋がっている人物は他にいる。

(……『フィアンマコーポレーション』単独なら、黒美たちは簡単に製造できる。だが、第三位となればその権利は適用されねえ。だとすれば外部を使わざるをえないはずだ。と、すると……)

垣根は五和をチラリと見た。
沈痛な表情でうつむく五和に垣根は問いかける。

「……どうしてそんなヤツと婚姻関係を結んでいる?」

「安価↓2」

「私が一方的に関係を迫ったんです。なし崩しに既成事実を作って……でもそのせいで亜雄さんは自由に研究できなくなってしまったんです」

「……つまりお前がわるいんじゃねえか」

「そ、そうです。でも、あの人は……とても誠実な人で、」

「あーそういうのいいから」

おかげで振り出し。
そう言わんばかりに垣根はいらだちを見せる。

(だがこことフィアンマが何か提携してるのは確実だ。……そういうのがなけりゃ、本当にコイツらは痕跡すら残さずに動ける事になる。間違いなく、ここに何かある)

垣根の確信は当たっているはずだ。
もし何もないのなら、他という事になるが特定が難しすぎる。

「……五和。お前が知る範囲でここに怪しい点はあるか?」

「安価↓2」

「木原数多開発部長が行方不明で」

「木原、数多……」

ここでその名前。
垣根の中に確信ができた。
御坂が破壊した研究所は木原数多の所有になっている。
これは、金の流れがはっきりしたという事だ。
垣根は思わずほくそ笑んだ。



「……証拠は充分。後は――」

垣根が勝利の笑みを浮かべた直後にそれは起きた。
木山が血相を変えて走ってきた。

「どうした?」

「まずい……第一位にクローンが一体、殺害された」

「……まさか、」

フィアンマの策略。
どういう事かわからないがフィアンマは垣根と天使の賭けを把握していた。
つまり敗北条件を知っていても不思議はない。

「……あの野郎!」

垣根は怒りを見せながら空へ純白の翼を広げた。





「……あァ? いつぞやの第二位様か。どォしたァ?」

「どうやらお前は殺した方がいいみたいだな」

その言葉に一方通行は笑う。
まるで思惑通りと言わんばかりの表情だった。

「文句あるならはっきり言えよ、第二位」

「安価↓2」

≪今日はここまで。皆さんお疲れ様でした≫




「この世から消えろ」

垣根は冷たく言った。
一方通行がその言葉にアクションを起こそうとした直前。
烈風が一方通行へと吹き荒れ、周囲を砂塵が包みこんでいく。

「……一方通行。俺はお前と戦い、その法則を全て理解した。お前は俺に勝てない」

「ハハハ! やれるモンならやってみろォ!」

二人の怪物。
その力が交差する。
周囲に広がるその力は確実に被害を大きくしていた。
そのさなか、一方通行は問いかける。

「……俺がフィアンマとかいう野郎ォから聞いた話じゃオマエは冷酷って聞いてたンだがなァ……周りの人間庇うとかどこのヒーロー気取りだっつーの」

「安価↓2」

フィアンマ編はきついなー頭使うの難しい…




それでは開始

「前の世界にはヒーローがいなかったからな。せめてこの世界ではと思ってよ」

「……ハァ? 意味わかンねェぞ」

「なら一生わからなくていい。これは俺個人の話だからな」

もしかするとこれはそういう問題だったのかもしれない。
誰かが人を救えばいい、ではなく自分が救いの手を差し伸べる。
それこそが垣根にとっての救い。これが、真実なのかもしれなかった。

(……もし)

そう。
もしあの場所で。あの一方通行と戦わず、いやもっと前から別の選択ができていたなら。
暗部なんて束縛を無視して、守りたい何かを見つけていればこんな天使との賭けもなかったはずだ。

(イヤ……いまさら遅い。もう、戻れねえ)

もしかすると垣根は永遠に天使と戦い続けなければいけなくなるかもしれない。
それでも構わない、と。
諦めなければ勝てるという確信を持って、垣根は純白の翼を大きく広げる。

「……そうだ。思い出した。お前の役割は――」

垣根は今度こそ本当に理解する。
一方通行の『役割』を。
その第一位は怪訝な顔をして、たたずむ垣根に問いかけた。

「オマエ……何を言ってンだ? どォいう……」

「安価下2」

≪普通に安価上でいきます≫




「お前の役割、それはお前自身が天使になることだ」

「……?」

一方通行は眉をひそめる。
いつの間にか、猟奇的な瞳はどこかへ消え去っていた。
ただ、垣根の言葉が頭を回る。

(……どォいう意味だ。普通ならバカにして、終わらせられる。だが……第二位であるアイツの翼は間違いなく天使。何の隠喩も含まれてねェはずが――――!?)

一方通行が何かを認識した直後。
無数の光が彼の体に突き刺さった。





垣根の手は一つだけではなかった。
内部を切り崩す手段もあったのだ。
第七位。
彼の性格を利用し、一枚の書類を送りつけていた。

「……おい社長さん。これはどういう事だ」

「はて……思い当たる節がないな」

とぼけるフィアンマに削板は強く言う。

「おい! これだ! クローンを別の形で悪用する計画が存在するって情報が流れてきた。……これは、本当なのか!?」

(垣根帝督……か)

これは多少の計算外だった。
削板は垣根を抑えるための役割を持っていたのだが、その彼を逆に引き抜こうとするとは思わなかったのだ。
世界最大の原石である削板を失うのはさすがにきついものがある。
だが。
この事実はいつまでも隠せるものじゃないだろう。

「フィアンマ……俺はアンタに協力するのが一番だと思っていままでやってきた。でもこんな根性のかけらも感じねえ事が事実なら、俺はアンタをぶっ飛ばさなきゃならなくなるんだ。……だから、答えてくれフィアンマ」

「安価↓2」

「何をそんなに怒っている。お前は今までクローン肉便器システムを認めていたじゃないか、根性つけてやるとか言って思いっきり挿入していたじゃないか。今更何に怒っているのだ」

「……違う」

削板は重く呟いた。
その瞳にうっすらと涙が浮かぶ。

「確かに……俺は一時の欲望に負けて根性のねえ事をしたかもしれない。でも、だからって見捨てていい事にはならねえだろ! 俺がどんなに根性のねえクソ野郎だったとしても、アイツらがこのまま利用されていい事にはならない!!」

強く机をたたき、フィアンマと向き合う。
フィアンマはまるで猿でも見るような目で削板を見つめる。

(……これだからバカの考えている事はわからん)

フィアンマの冷めきった思考。
それを読めない削板は熱く、まくしたてる。

「……フィアンマ。この計画の最終目的はなんだ! 俺は、もう! 誰かに利用されるだけでは終わらねえ! だから……答えろ」

「安価↓2」

「一方通行を依り代に天使を降臨させる事だ」

フィアンマの言葉。
それは削板に真実を告げていく。
お前は所詮道具だ、と。

「それには異界から天使を連れてくる為の空間移動能力者、足場となる膨大な磁場の形成をする電気能力者が必要なのだ。それぞれ20000人な」

「何、だよそれ……アイツらは人柱だってのか!?」

「ふむ……その儀式が終われば百人も残るまい。そういう意味でお前の言っている事は正しいよ。……一人死んでもつくりなおせば問題はないしな」

「テメエ……人の命を何だと思っているんだ!」

「クローンなど人ではないよ。……所詮、科学の産物だ」

「ふざけるな!!」

バリン! とガラスが割れる音が部屋に響く。
風が書類を吹き飛ばし、フィアンマの赤髪もその風に靡いた。

「……どうする? 俺様に勝てないのは変わらんぞ、第七位」

「安価↓2」

「怒りの超すごいパンチ!!」

削板は強い怒りと共に叫ぶ。
その直後。
フィアンマの体が窓の外にまで吹っ飛ばされる。
だが。

「ほう、怒りで力が強まるのか。これは意外だったな……。だがここで騒ぎを大きくしたくはない、眠れ」

フィアンマは右腕を軽く振るう。
彼の肩口から飛び出す巨大な手が凝縮された衝撃を削板にぶつけた。
常人では考えられない身体能力を持つ削板の意識が一撃で刈り取られる。
フィアンマはその少年を見て、わずかに呟いた。

「……もう限界、だな」




直後。
第一位と第二位の胸を強く圧迫する何かが学園都市に広がった。

「……何だ、コレ」

それに呼応するように世界が灰色に止まる。
一時の休息、になるのか。
それは唯一色づく垣根の前に立つ天使のみが知っている。
天使は、笑った。

『……さて、もうそろそろ私が舞台に上がりそうだからな。先に君に会いにきたよ』

「うるせえ。こんなタイミングで出てくるんじゃねえよ」

『冷たいな……だが、一つ言わなければならない事がある。この世界のフィアンマと私の関係だ。やれやれ、色々な世界で気にいった人間と関係を持つのは楽しいが、ややこしいな』

何でも無い事のように呟くエイワス。
垣根は茶番に呆れながらも、問いかけた。

「それで、関係ってなんだ」

『安価↓2』

『私のペットだよ』

「ペット……?」

垣根の疑問にエイワスはうなずく。
天使の目には悦楽の色が見える。
永遠の時と無限の世界を生きる者の、唯一の道楽であり悦び。
それが、人間を弄ぶ事だった。

『彼はな。ある戦いで負けたところを私が拾った。その意思の強さ、信念の強さに惹かれてな。ある時は徹底的に痛めつけ、ある時は壊れてしまう程に愛する。……フフ、君もいずれ私のモノだ』

「……ハハハ」

垣根は怒らなかった。
少し前なら感情的になって、天使に反抗していただろう。
だが今は違う。
何かを変える為に、どうすればいいかを冷静に判断できる。

「そうはならねえ。俺はお前に必ず勝利する。そろそろお前のペットも化けの皮が剥がれたんじゃねえか?」

『さあな。肉体は束縛できても心までは上手くいかない。……結局はフィアンマ次第ではなかろうか』

「ふぅん……それでお前は俺をペットにしてどうしたい?」

『安価↓2』

『永遠に愛し続けてやろうではないか。君は私のお気に入りだ』

「……最悪だな」

さすがにそう呟かずにはいられない。
まさか自分が屈するとは思えないが、その屈辱は想像する事も拒んでしまう程だ。
天使はその様子に笑って言う。

『安心したまえ。少し時間がたてば君も病みつきになるさ』




世界が色づく。
胸に残る不快な感覚と共に世界が時を刻み始める。

「……どォした。気でも狂ったか?」

垣根の様子に違和感を覚えた一方通行が問いかける。
彼にしてみれば一瞬の時間に過ぎないのだから無理もない。
第一位もペットなのか。
ふとそんな疑問がよぎり、振り払う。
自分の愛した人間がそんなはずがない。

「さて、決着といこうぜ。第一位」

「あァ、そォだな。いい加減に契約不履行になりそうだ」

互い、わずかに笑う。
直後。
弾丸となった二人の少年が交錯した。



コンマ判定↓2

偶数 一方勝利
奇数 垣根勝利

≪今日はここまで。皆さんお疲れさまでした≫




「……クソ」

垣根は思わず呟いた。
その呟きを合図に純白の翼が霧散し、その体が崩れ落ちる。
一方通行の口が三日月に歪んだ。
彼が大きく笑う直前。

「フハハハハハハハハハハハハ!!」

もう一つの声が場を支配した。
フィアンマ。
彼はこれまでの冷酷な印象とは打って変わって、感情をむき出しにする。

「計画以上だ! まさか第一位だけでなく第二位まで俺様の懐に飛び込んでくるとは……これであの天使を召喚するのも容易になった」

垣根はその言葉に危機感を覚える。
だが、第一位に痛めつけられた肉体は簡単に動いてくれず、その激痛で演算も上手くいかない。
それでも、力を振り絞り垣根はフィアンマに問いかけた。

「……天使を、召喚して……どうするつもりだ。アイツはお前を弄んでるだけだろうが……」

「安価↓2」

新スレ始めるのは何も問題ないがまだ残ってる前スレの処理を放り出すのは良くないぞ

乙!
なんか勝利条件とも敗北条件とも離れた展開になってるな

>>61
すいません……勝手ながら残り数レスなので埋めをお願いします

>>62
実はまだ完全に離れた訳じゃないです



それでは開始

「だからこそだ。だからこそ天使を地上に引きずり降ろしこの手で殺す。これが最後のチャンスなのだ」

彼にとってここまで都合のいい世界はなかった。
自身の隠してきた術式は天使に一度しか通らない。だから、耐えしのんできた。
そのたった一度のチャンスが今めぐってきた。
フィアンマはこれを逃さない。

「……あの天使を強引に世界の内側に組み込む。それさえできれば俺様は解放される!」

勝利への執着。自由への希望。
それだけがフィアンマを突き動かしていた。
垣根には理解できる。
だが。

「……お前、むなしくねえのか。そんな事言って、勝ったとして。その後どうするんだよ」

「安価下2」

「もう一度世界を救うんだよ」

「……、」

フィアンマはやはり垣根とどこか似ている。
それは虚しい過去の自分を見つめているようで垣根は少し辛かった。
誰からも必要とされず、ただ力を求めていたあの時の自分と同じ。
もう一度、という事は前に同じ失敗をしたのだろう。なのにフィアンマはまた繰り返そうとしている。
ここでどれ程苦渋を飲んでも、大切な何かを見つけられれば彼は救われた。
でもそうしない。そうするのが何よりも敗北のような気がして。彼は踏み出せないのだ。

「……フィアンマ。俺はお前を勘違いしてた。この世界で一番冷酷なフィクサーがお前だと思っていた。……でも、違ったんだ。この世界で最も救われるべきは世界でも俺でもねえ。……お前自身なんだよ」

「な、に……?」

もしかすると。
これは天使の思惑通りなのかもしれない。
こうすればフィアンマに勝てる、と教えられるように垣根の思考は回っていく。この全てがあの天使の狙い通りなら、垣根はそれこそ遊ばれているだけだ。
だが、垣根はそれで構わないと思う。
今の自分には、それを超えられるという確信があるから。

「だから、もうやめろ」

「できん……」

今度はフィアンマが口を開く。
彼の目は強い怒りを見せている。それを赤の瞳が際立たせていた。

「俺様は、勝つと決めた。……あの時、アイツが誰にも追いつけんところに勝っていたように、俺様は今度こそ神を超えて見せる!」

フィアンマを中心に赤く、巨大な魔方陣が地上を覆う。
それは世界へと蔓延し、法則を支配する。

「……今度こそ、世界に正しき救済を」



コンマ判定↓1~↓6

ゾロ目なし フィアンマ術式成功
ゾロ目あり フィアンマ術式失敗

ゾロ目2つで……?

またこんなに参加者必要なことして

>>69 そうかもですね…次から方法変えます≫




バリン! という音が無慈悲に響き渡る。
力が、たりない。
フィアンマの魔方陣がガラスのように砕け散り、その願いごと霧散させていく。

「ああ……」

フィアンマはまるで何かに絶望したように地面に手をついた。
その綺麗な赤の瞳から滴る水滴が地面を濡らす。
ここまでなのか、と。
自分はやはりあの天使には勝てないのか、と。

「……垣根帝督。俺様はダメだった。だがお前のゲームはまだ続いているだろう? 俺様を殺せ。そうすればお前だけでもこの悪夢から逃れられる」

その目は最後に誰か一人を救おう、というせめてもの感情ではない。
ただの諦め。ただの慰め。
全てを自分勝手に終わらせる為の選択肢に過ぎなかった。
確かに。
ここで垣根がフィアンマを殺せば、フィアンマはともかく垣根はどうにかなるかもしれない。
だがそれでいいのか。
その終わらせ方が最善なのか。
垣根は息を吐く。
決心したように彼は言った。

「安価↓2」

「さらばだ宿敵」

それが答え、それが決意。
フィアンマは垣根の短い言葉に笑って答えた。

「……後は任せた」

直後。
純白の翼が血に染まる。
垣根はその翼を霧散させ、ボロボロの体を引きずった。
目の前には一方通行がまだいる。
おそらく術式の影響だろう。彼は意識を失っていた。
逃げるなら今しかない。
短い期間にいろいろな事がありすぎたのだ。

「……黒美」

「帝督様……どうしてそんな、」

目の前には黒美がいた。
彼女は小さな手で垣根に触れる。
その手はおそるおそるで、握りしめれば折れてしまいそうな弱弱しさだった。

「……なんだ?」

「私は……帝督様が私の為に戦った訳じゃない、という事だけはわかります。でも、それでいいんですの。……ずっと奴隷でも、生きていけるだけマシと、そう思ってきたので……」

「……、」

垣根はじっと少女を見守る。
今必要なのは彼女の本音であり、言葉だ。
少女は垣根に縋るように抱きつくと言葉を続けた。

「なのに、フィアンマ様を殺したのが、帝督様自身の為だとわかっていても……どこかで私の為だと期待する自分がいて……抑えられなくて、どうしようもなくて、そうだと考えるだけで心地よくて……黒美は、クローン……でも、帝督様は人間だ、から……」

とぎれとぎれの言葉。
しかしその意味を垣根はしっかりと理解する。
残された時間も少ない。
垣根は少女にそっと囁いた。

「安価↓2」

「お前も俺と旅をしようぜ」

垣根の言葉に黒美ははっと顔を上げる。
見上げた垣根の顔はどこまでも優しかった。

「いいよな天使様」

それが引き金となるかのように天使が現れる。
天使の無機質な顔は喜びと疑問を織り交ぜたような表情だった。

『もちろん構わない。……だが君は二度もゲームに勝利した。これまでの世界で一生を終える選択をしても構わないのだぞ?』

それは誘惑とかの類ではなく、純粋な興味からくるものだった。
なぜ彼は世界を旅をやめないのか。
垣根という人間が見せる不可解な一面に対する疑問。

「……、」

対して垣根は注意深く天使の言動を観察する。
黒美もそれにならい、じっと天使を見つめた。

『つまりだな……君の愛した一方通行のいる世界でそのクローンと三人で暮らすという選択肢もある。無論、君は女になってしまうがな』

元の世界にも戻れる。
場所も時間も自由に選べる。
ただしやり直しだけはできない。
天使はそう告げていた。
垣根は迷うように黒美を見る。
少女は「任せます」といった表情でほほ笑んだ。
そのほほ笑みに安心したのか垣根は強く、答えた。

「安価↓2」

≪今日はここまで。皆さんお疲れさまでした≫




「俺もまだよくわかんねぇけど、俺はまだ『答え』を見つけれていない気がすんだよ」

垣根の目には暗部時代の暗い陰はない。
あるのは、未来を求め続ける好奇心だけだった。

「だから、可能性を、経験値を。お前の見せる世界でもっと知りたいんだよ」

『フ、フフ……面白い。だからお前は魅力的なんだよ、垣根帝督。もし君に並ぶ人間がいるなら……イヤ、この話はまたいつか、だな』

「ああ。だからさっさと世界を変えろ」

「……?」

一人ついていけない黒美の頭に手をおき、垣根は笑う。
大丈夫だ、と。
黒美もその言葉に力を抜き、目を閉じた。
それはどこまでもついていくという意思表示。
ほほえましい光景を眺めながら、天使は次の世界を定めた。



垣根と黒美のいく次の世界 安価↓2

そういやこの世界に残されたクローン達はどうなったんだろ

前の垣根が戻ってきてもロクな扱いしないだろうし下手したら再び奴隷生活かも

>>94
冷静に考えたら今までも解き明かされてない部分ありますね



それでは開始

『……垣根帝督。今回は全て終わった世界にいってもらおう』

「……?」

黒美も垣根もその言葉に首をかしげた。
天使曰く、第三次世界大戦によって崩壊した世界らしい。
学園都市も、アメリカも、イギリスもない。
その世界では力のみがものを言う。
垣根は大体の状況を把握した。

「なるほど……そういう事か。しかし第三次世界大戦なんざいつ起きた?」

『それはあちらに行ってからの方がいいだろう。君もゲームに勝つのがうまくなっているからな。あまり情報を与えたくない』

いつまでそうするつもりかは知らない。
今はまだ利害が一致しているからこそ、付き合っているが邪魔になれば全力で戦う。それが格上であってもだ。
垣根にはそういう強い意志がある。

『さて……今回のゲームはどうしようかな?』

天使は気まぐれに、条件を定めた。




勝利条件 ↓2

敗北条件 ↓4

一度設定した10の問題のうち、3つ以上解決出来なかった場合

『そうだな。君にはこの先、十個の試練を超えてもらう。……そしてそのうち3つを解決できなければ君たちの負けだ』

「……つまり2つ目までは失敗してもいいってワケだ」

『そのとおり。……だがそうして手を抜くのは感心できんな』

「安心しろ。やるなら完全勝利だ」

垣根の言葉に天使は笑う。
その様子は不審そのものだったが、次の言葉ではっきりする。

『そこまで言うなら条件を新たに用意しよう。その解決法は問わないが、能力の使用によるものだけは禁止、だ。その場合も失敗となる。無論、そっちのクローンも使う事は禁止する。だがあくまで移動のみ程度ならば問題はない。あくまで、直接的に関わった時のみだ』

「……面倒だな」

垣根はそう言いつつも天使へ手を差し出す。
黒美もそれにならって同じ行動をした。
直後。
新たな世界が二人の前に広がった。





「……おー、こりゃひでえ」

素っ気なく呟いた垣根の目の前には異常な光景が広がっていた。
立ち上る黒煙。崩れた町並み。そこには学園都市の面影などなかった。
ただ、街を囲む巨大な壁と『窓の無いビル』だけがその存在を認識させている。
黒美はその光景を信じられないと言った表情で見回す。
そして、しばらくして言った。

「……帝督様。あそこに人が倒れてますの」

「マジだな、おい。やれやれ、勝手わからぬまま一つ目の試練だぜ」

呆れながらも垣根はその倒れた人影へと歩み寄る。
そしてそっと背中に触れながら問いかけた。

「おい、大丈夫か?」



倒れていた人物 安価↓2(禁書キャラ一名)

「おい……」

垣根もさすがに絶句した。
ボロボロになって倒れていたのは一方通行だったからだ。
あの第一位が重傷。さすがの垣根も背筋に冷たいものがはしる。
彼をここまでにしたのは一体誰なのか、という疑問が残るから。

「……テメェ、生きてやがったのかァ?」

「まあ色々とあって、な。……それにしても酷いケガだ。立てるか?」

「うる、せえ……オマエの力は借りねェよ」

フラフラと起き上がった一方通行はチョーカーのスイッチを入れる。
これで三十分間だけだが、彼は最強の力を振るうことができるのだが……。これがどこまで意味のある行為かは不明だ。

「……一方通行。お前、何があった?」

「安価↓2」

「……戦争以来能力が効かなくなった無能力者どもにリンチされた。まるで、上条当麻の幻想殺しが無能力者の全身に宿ったかのよォなンだ」

一方通行はそう言って、唇をかんだ。
彼にとっては三十分の制限すら致命的だというのに何故か能力が効かない相手まで出てきたのだ。冷静になれというのが無理な話だった。

「……なのに原因はわからねェ。これじゃァ最強どころか超能力者も引退じゃねェか」

自虐する一方通行の瞳に力はない。
まるで、全てを諦めた人間のように。

「……一方通行」

これが最初の試練なのかは垣根にはわからない。しかし、それをどうにかすれば十個の試練が九個に減るのだ。これをやらない手はない。
だが、能力を直接的に使ってはいけないとなるとかなりの制限を受ける。
微妙な判断だった。

「……なンでオマエが生き返ってンのかは聞かねェ。互いに話したくねェ事もあるだろォしな。……それでも一つだけ聞かせろ。オマエの雰囲気があの時と違うように感じるのは俺の気のせいか?」

それは当然の疑問だった。
十月九日の垣根帝督と今の垣根帝督は似て非なるものだ。
それを今、一番証明しているのは黒美である。
一方通行が最も気にしたのは垣根が誰かと一緒にいるという事だった。
かつての彼は常に孤高の存在であろうとしていたはずだ。人は短期間では変われない。
そういう現実論からくる疑問。
垣根はそれに笑って答えた。

「安価↓2」

今はまだ、気のせいだと言っとくわ。まだ完全に変われたって胸はって言える程じゃねぇからな

「今はまだ、気のせいだと言っとくわ。まだ完全に変われたって胸はって言える程じゃねぇからな」

「それは、どォいう……」

「いいから能力きれよ。お前の住んでる場所まで送ってやる。こっちには優秀なテレポーターがいるからな」

一方通行が黒美を見る。
少女はその赤い瞳に畏怖を覚えながらもペコリと頭をさげた。
その幼い行動を見て、一方通行は気が抜けたのか、呟く。

「……わかった。とりあえず道は教える」




一方通行が案内した場所は崩れかけのアパートだった。
部屋の中には趣味、娯楽品の類は一切ない。ただ中央にテーブルとボロボロのソファがある。
一方通行はソファにごろりと寝転がる。

「……そっちの部屋にベッドがある。オマエらが使え」

「おいおい、そりゃ男女で添い寝しろって言う事か?」

「別に、うるさくしねェなら俺は一切口出ししない」

一方通行が意味ありげに言う。
その言葉に垣根は呆れつつも隣の部屋をのぞく。
そこには確かに垣根と黒美の寝るスペースがありそうなベッドが鎮座していた。
だが、それでも抵抗はある。
黒美の過去を振り返れば、気が引けてしまう。

「私は、その……帝督様さえよろしかったら」

それを察したのか黒美がボソボソと呟いた。
逆に気を遣わせてどうする、と垣根は自分を責める。
とりあえず黒美をベッドに座らせた。
外の日は沈みかかっているが、街灯の類は全く点灯していない。
垣根は何気なく一方通行の前まで歩き、問いかけた。

「おい、今の学園都市はどういう状況なんだ?」

「安価↓2」

一時休戦状態、だな。

弱いやつは強いやつらが作る"チーム"の傘下にはいる事で身を守るンだが、強いやつらは強いやつら通しで戦いあい、潰し合い、その部下を傘下に加えて大きくなる。

今はちょっとでかいチーム間争いの後の処理の為の小休止期間ってとこだ

「世界が崩壊した後、一部の能力者たちは全常盤台生を仲間にして、強い能力を持つ自分たちこそが学園都市に残された人々を支配する権利があると主張した。しばらくの間無能力者たちを弾圧していたンだが、無能力者たちが全身幻想殺しを手に入れてからは形成は逆転。無能力者たちが能力者であるヤツらを支配するようになった」

「……何だかややこしい展開だな」

「……そォだな。まァその支配者たる無能力者たちにも『国』が存在していて利権欲しさにあちこち争っているんだがな」

世界の崩壊。
それは食料や水など、あって当たり前のものすらも貴重にしてしまった。そういう資源を奪いあって、多く獲得した者こそが強者なんだと一方通行は語る。
しかし一方通行すらもボロボロなのだ。自分もどこまで対応できるかわからない。

「……その幻想殺しは能力を打ち消すってやつだったよな?」

「あァ。上条当麻だけの力だったはずだ」

「ならおかしい。そんな貴重な力がどうしてそんなに拡散しているんだ? 上条当麻が何かしたのか?」

「安価↓2」

科学は日々進歩する。『魔術』もまた進歩する。

かつて貴重なもンだったとしても、未来も貴重とは限らねェ。

ようは、解析され、バラされ、『量産』されたンだよ

「科学は日々進歩する。『魔術』もまた進歩する。かつて貴重なモンだったとしても、未来も貴重とは限らねェ。ようは、解析され、バラされ、『量産』されたンだよ」

誰がやったかは関係ない。
確かなのは上条当麻という一人の人間がその生贄にささげられたという事だ。
そしてそれがちっぽけな何かを貫きとおそうとする人間を踏みにじる行いに繋がっているという事。
一方通行。
彼は最大の被害者なのかもしれない。

「……魔術、か」

「俺も詳しくは知らねェ。ただ科学とは全く違う法則で動くってのだけは確かだ」

垣根はふと思う。
自分の背中から生えるあの翼。
あれもまた魔術に関係する何かなのではないか?
そう考えればあの天使も一方通行が見せた黒い翼も、魔術という共通項でまとめられる。
だが、今はそれどころではない。
垣根はもう一つ、気がついた。

「打ち止めはどうした。お前のことだから見捨ててはいないはずだ」

「安価↓2」

…そこにいる。

その冷蔵庫の中で、かつてのオマエみてェに、俺の代理演算とMNWの統括者の役割を果たすためだけに。

情けねェが、俺が決死の覚悟でも…守れたもンはそれだけだった

「上条に託した」

「……は? ちょっと待て。上条は……」

「あァ、普通なら死ンでる。だが、ヤツは『特別』だったンだ。幻想殺しは上条当麻の右肩からはえている右腕に宿る。……誰も解き明かせなかった唯一の謎だ。ヤツの右腕を切断すれば、無能力者どもは『幻想殺し』を使えなくなる。すぐに再生しちまうから無駄なンだがな」

「……、」

謎は、深まる。
上条に託した理由も、上条の右腕の正体も垣根には見当がつかない。
ただ何となくわかる。
この一方通行は自分の愛した一方通行ににている。
誰かが支えなければ簡単に崩れ落ちてしまう程の脆さ。それを持っていた。
だから今度こそは、と垣根は誓う。
彼を守りきってみせると。





「……話は聞こえてましたの」

「盗み聞きはよくねえな。まあ今回は仕方ねえけど」

寝室と呼ぶには寂しい部屋で二人はベッドに添い寝した。
とは言っても、垣根の背中に黒美がしがみついているだけなのだが。
きゅっと垣根の背中を細い指先で握りしめた黒美は顔を隠しながら言う。

「私は、この世界で何かできる自信がありませんの。……第一位の一方通行様ですら、あの有り様。私など、虫のごとくひねり潰されるにきまってますわ。だから……いざとなったら私はお見捨てください」

それは染みついてしまった家畜精神が吐き出させた言葉だった。
自分を卑下し、人間じゃないから仕方ないと割り切る考え方。
だが、垣根はそういう思考を一蹴してしまう程、無鉄砲ではない。
まだ人間としての感情が乏しいならこれから教えていけばいい。
垣根は黒美の方へ向き直り、その頬に手をおいて言った。

「安価↓2」

…あのなぁ、そんな事言ったら、俺だってどこまでやれるかわかんねーよ

大体だ。なんのためにお前をわざわざ連れてきたと思ってんだよ

≪今日はここまで。皆さんお疲れさまでした≫




「…あのなぁ、そんな事言ったら俺だってどこまでやれるかわかんねーよ」

「……え?」

きょとんとする黒美に対し、垣根は言葉を続ける。
それは当たり前の事で、黒美にとっては未知な事だった。

「大体だ。なんのためにお前をわざわざ連れてきたと思ってんだよ」

「そ、れは……」

黒美にはわからない。
肉便器にまで成り下がった、人間ですらない自分にここまで感情を寄せる理由がわからない。
それが負の感情ならともかく、垣根のそれは正の感情だった。
だからそれが嬉しくもあり、怖くもある。
自分で大丈夫なのか。期待に答えられるのか。最後は裏切られるのではないか。
そんなマイナスな思考ばかりが頭を回る。

「ったく。俺がパートナーに選んだ時点でお前は有能だよ。……少なくとも他人の力で威張り腐ってるこの世界の無能力者どもに比べたらな」

「は、はい……」

黒美は垣根の胸にぎゅっと顔をうずめる。
垣根の服が少女の涙でぬれていくが、そんな事はどうでもよかった。
ただ、少しだけ。
このわずかな時間が永遠であれば、とは思う。

「……帝督様」

「どうした?」

「安価↓2」

乙。安価なら

もう少し、このままで…

まだかな

>>137
遅くなりましたが来ましたよ



それでは開始

「あちらのベンチに例の常盤台の人たちがいます」

「ああ?」

垣根は思わず振り返った。
部屋の隙間から見えるベンチ。そこには間違いなく異常な光景があった。
一人の少年にひざまずく三人の少女。
垣根は勢いよく起き上ると、その隙間から外へ出た。黒美もそれに続く。

「おやおや……こんなところにまだ能力者がいるとは」

(……コイツ、『メンバー』の馬場じゃねえか)

資料だけだが垣根も暗部の構成員を把握している。
彼は無能力者だった。つまり、『幻想殺し』を全身に宿しているという事。
垣根はこんなクズでもか、と笑いながら問いかける。

「ここで、何をしてるんだ? お前」

「安価下2」

「見てわからない? 躾だよ躾。ほらお前たち、休んでないでしっかりしゃぶるんだ」

「は、はい……」

黒髪ロングストレートの少女が返答すると、三人はまた馬場のもとに顔を近づけていく。
その醜く浅ましい光景。
黒美は今までの境遇からさほど抵抗はないが、垣根は違う。
くだらない、という感情が表情を冷めきったものへと変えてしまう。
馬場は『全身幻想殺し』があるという自信からか、ニヤニヤと垣根を見下している。

「……あー、ムカついた。お前みたいな野郎は本当、久しぶりだぜ」

二つ目の世界の一方通行。自分が女だった時の上条当麻。
何の信念も理想も持たずにただ欲望をぶつけるだけの存在。
そんな存在に嫌悪感を覚えながら、垣根は言った。

「……黒美。あれがお前の昔だぞ。どう思う?」

「安価↓2」

「なんと申せばいいか…ただ、ただただ不愉快な感じです」

「だろうな。俺はあの男に殺意しかわかない」

「うーん? 嫉妬かな?」

力くる驕り。
有象無象の力に頼り切っているだけで頂点を手に入れたかのように錯覚している愚かな人間。
垣根はそんな浅はかな人間には何の感情も抱かない。
だが、三人の少女は哀れだと思った。
だから。

「だから、お前は今ここで俺が倒す」

「ハハハ! 僕に能力が効かないのが……うわぁ!?」

馬場が何かを言う暇すら与えない。
彼の座っているベンチを破壊し、足場を崩す。
腰をぬかし、動きを止める馬場に垣根は勢いよく飛びかかった。

「一つ、いい事を教えてやる。その力はな、異能が起こした二次現象までは打ち消せないんだよ。……例えば、このまま首をしめて殺す、とかな?」

「ひ、ひぃ……やめろ!」

「ああ、やめてやるさ。だからもう行け」

何やら捨て台詞をすてさる馬場。
彼を逃す事による報復のリスクはわかっている。
それでも安易に人を殺す事はしたくない。
仮にそれで天使との勝負に勝てたとしても、それでは変わる前と同じだから。
垣根はそっと三人の少女に手を伸ばした。

「おい……大丈夫か?」

「あ、あの……ありがとうございます」

黒髪の少女がその手につかまり、地面に足をつける。
他の二人も同じように立ちあがらせた。

「あんまりこういう時に言いたくないだろうが……お前らがいた『国』ってのはどういう状況だ?」

垣根の問いに黙り、その状況を察した黒髪の少女が答えた。

「安価↓2」

「安定はしていますが規模としては中間くらいです。奴隷にレベル5はいません」

「……なるほどな」

奴隷となりえるのは五人。
自分と一方通行は違うのだからそういう計算になる。
だがそれがいないのはありがたい。垣根と言えどもどの程度苦戦するかはわからないからだ。

「とりあえず、来いよ」

垣根は一方通行の家へと三人を連れたった。



「……おい、何で今日だけで居候が五人も増えるンだ」

「いいじゃねえか。今さら変わんねえよ」

くだらない言葉をかわしながら二人はソファに三人を座らせる。
ボロボロとはいえ、一位と二位がいるのだ。これ以上安心できる場所はない。
婚后、泡浮、湾内。
そう名乗った三人の少女は縮こまって辺りを観察した。
そして婚后が一つ問いかける。

「あの……そちらは白井さん? ですか」

白井黒子のクローン。
同じ常盤台というのを忘れていた垣根は自分の甘さに呆れながらも答えた。

「安価↓2」

「あー、『妹』だ。それ以上の説明はできねーし、するつもりもねぇ。オーケー?」

「は、はぁ……」

その答えにどこか納得がいかないが、納得するしかない。
流れる沈黙。
それを破ったのは垣根だった。

「なあ、一方通行。このままやられるのもイヤじゃねえか?」

「あァ?」

怪訝な顔する一方通行とは対象的に垣根は笑っている。
その目はすでに決意したかのように、光を帯びていた。誰かが止められるレベルではない。

「……『国』ってのを俺らが統一する。どうだ?」

垣根の言葉は無茶苦茶だった。
能力者の頂点である二人がそんな事をすれば周りの無能力者達はこぞって潰そうとするはずだ。
そして、黒美やようやく抜け出した三人にも被害が及ぶ。
危険しかないこの状況。
だがこれが成功すれば世界で唯一の『秩序』を手に入れられるかもしれなかった。
一方通行は垣根のあまりの変化に呆れながらも答える。

「安価↓2」

≪今日はここまで。皆さんお疲れ様でした≫




「あの三人の哀れな境遇を見てそう決心したのか? だとしたら冗談じゃねェ。いいか、これはアイツらのよォな『思いあがった能力者』が築き上げた業の末路だ。アイツらは今まで、能力という『借り物の力』を己の力と錯覚し無能力者連中を蹂躙してきた。かつての俺達のよォにな……」

一方通行はそこで一度言葉をきった。
この場には能力者しかいない。蹂躙して、驕っていた者しかいない。

「だから同じ『借り物の力』を己の力と錯覚したヤツらに蹂躙される。冷蔵庫にされたお前ならわかんだろ」

「ああ、お前にされたな」

垣根は笑う。
その笑みが何を意味するのかは本人にしかわからない。
垣根はその口をゆっくりと開いた。

「……もし、能力を借り物っていうなら俺らの体だって親の生殖細胞からうまれた借り物って事になる。……だから違うんじゃねえか。親は確かに子を産む。でも、子供を完璧にコントロールはできない。能力だって同じ、暴走すれば制御不能だ。だからそこを論じれば意味はない。……でもな、人間てのは自分がされたくない事を平気で人にする。ソレが今の状況だろ? だったら俺らも自分勝手に身を守ろうってワケだ。俺は、お前の言った聖人のような行いはできない」

人なんてそんなものだ、と垣根は言葉を付け足す。
それは事実。誰だっていじめられるのはイヤだが、人をいじめる。それが主犯であれ、周りに流された共犯であれ、結局はそうなる。
だから自分勝手でいい、と垣根は思う。
誰を傷つけてでも、何をしてでも自分を守る。それでいいと垣根は信じる。
それがあるべき形だ、と。

「……私は帝督様についていきます。そう、決めてますから」

黒美は躊躇しない。
そういう雰囲気がつくられる。

「お前が決めろ」

垣根はそれでも一方通行にそう言う。
大切な人を守れなかった一方通行に、そう告げる。
思考がぐちゃぐちゃになり、第一位の頭脳もクソもなくなり、それでも彼は自分の言葉を紡いだ。

「安価↓2」


そもそも借り物がどうとか関係ないしな

>>158
まあその辺はそれぞれの見解なんですよねって感じです



それでは開始

「分かった乗る、乗ってやる。確かにやられっぱなしてのはつまンねェ。やるなら徹底的にやってやるよ」

「ああ、やろう」

垣根は黒美を見る。
少女は何かを悟るようにほほ笑んだ。
勝てる。そう確信し、垣根も笑った。





さて、ここで一つ問題がある。
それは四人の少女が寝る場所だ。
垣根と一方通行は問題ないが、ベッドはせいぜい二人。ソファも一人となると、一人だけ床で寝る事になってしまう。
さすがに一人だけ仲間はずれはいたたまれない。

「……オマエが連れてきたンだからどォにかしろ」

「え、ちょっと待て。ここは家主のお前が責任を持つべきだろ」

「ハァ? 別に俺の家ってわけじゃァねェしィ?」

「に、逃げやがったな……」

くだらない問答を交わしてはいるが、これはそこそこ深刻な問題だと垣根は訳もなくそう思う。

「あ、あの……帝督様。私なら床でも問題ありませんが」

「いや、駄目だ! 女がそんな場所で寝るのは多分ダメだ」

根拠もなく叫びながら、垣根は焦る。
何となくプライドがそれを許さないのだ。

「おい、一方通行。何かいい方法ないか!?」

「安価下2」

「お前らが抱き合って寝ればいいンじゃねェの?」

一方通行はそう言うと、ソファにふてぶてしく寝そべった。
ここは俺の場所だ、と言わんばかりに。
それと同時のタイミングで黒美が垣根の手を掴んだ。
気付けば目の前の景色が寝室の天井に切り替わっている。

「おい、黒美?」

「大丈夫ですの。私は小さいからつめれば何とかなりますの」

「いや、そうじゃなくて……って、お前らもちょっと待て!」

結果。
四人の少女と一人の少年がベッドの上でぎゅうぎゅうづめという意味不明な状態に陥った。
垣根の理性的な問題は大丈夫だが、自分が中央にいるせいで少し動けば誰かがベッドから落ちる程の圧迫感だった。
こうなると垣根よりも男性慣れしていない常盤台三人組の方が緊張してしまう。
ちょうど横向きに寝ている垣根の目の前には湾内がいる。
後からの圧迫で垣根の体に身を預けるしかない彼女は顔を真っ赤にしたまま体を硬直させ、震えてしまう。

「……、」

気まずい。
というより、周りの雰囲気に垣根まで無駄に緊張してしまう。
垣根はこれでは眠れないと判断し、湾内にそっと囁いた。

「安価↓2」

「馬場とはどこまでやったんだ」

「……え?」

垣根の唐突な問いに湾内は思わず彼の顔を見上げた。
一瞬、そういう目的なのかとも思ったが違う。それはわかった。
ただ、何を考えているのかもさっぱりわからないのだが。

「……その、最後までです。自分たちに能力が効かないのをいい事に彼らは毎日やりたい放題……」

「なるほど、ね。彼らって事は一つの『国』に複数の無能力者がいる計算になるな……」

無能力者は元々百二十万人もいたのだ。一つの国に百人いたとしても一万二千もの『国』が存在する事になる。
しかしそんなには多くないだろう。実際には大規模な『国』で一万人を超える無能力者を擁しているところもあるはずだ。
それだけの数に囲まれれば、垣根と言えども勝てる保証はない。そういう環境で彼女らは生き抜いてきたのだ、
たとえ、一時の恥をかぶる事になってでも。

「……あの」

「どうした?」

湾内は一瞬何か言うのを躊躇う。
だが、それを振り払うように言った。

「安価↓2」

「さっき私があの方に何をしていたか、見てたでしょう? 汚らわしいとは思わないんですか?」

「……そう思ってほしかったのか?」

「い、いえ……そういう訳では」

湾内は結局また顔を伏せてしまう。
もしそうならば彼女を受け入れてくれる者など馬場のような人間がいる『国』しかないという事になる。
それでは自分たちは一生、そういう扱いしか受けない。
そう思うとどうしようもなく、悔しかった。
自分の無力さが。
少し前までは常盤台というブランドの元、優秀な能力者として扱われていた自分が気付けば堕ちるところまで堕ちていた。それは自分の本質が弱かったという事を痛感させると同時に、自分がどれほど傲慢だったかを思い知らされる事にもなった。

「……だって、そうじゃないですか。こんな惨めで、力のない中学生なんて。……私はレベル3の水流操作ですが、今はそんな力、全く意味がありません。……それこそレベル5でなければ、能力なんてもう無意味なんです。そして力が全てになったこの世界で、弱い者は強い者に文句を言う資格はない。私なんかを助けるメリットなんて、ないじゃないですか」

それは事実だった。
だが、同時にこういう事も考えられる。
メリットがどうとか、複雑な理由で人助けとはするものなのか? と。
垣根は安心させるように答えた。

「安価↓2」

「俺は女に欲望をぶつけるバカ共が嫌いだ。だからあいつらが嫌がることをしたい、だからお前らを幸せにしたい」

それは間違いのない本音だった。
全員を幸せにできるとは思わない。
でも、自分が定めた人間くらいは救える。
いつかの一方通行のような、何の考えももたない獣のような人間からは絶対に守れる。
そういう自信が垣根にはあった。
でも、そう強く思うからこそ感じる事もあった。

「だからこそ聞きたい、なぜ無能力者どもを弾圧なんてした? どうして仲良く生きていこうとは思えなかった?」

「……それは、秩序を失った学園都市の支配権をめぐって争い続けたのは能力者で無能力者は逆にその奴隷でしたから……。当然、その能力者の中には私なんかよりはるかに強い人も……」

「違う。俺が聞きたいのはそんなバカでかい話じゃない。お前にそこまで背負う必要はさすがにねえだろ。……だがよ、お前はそれには反対だったんだろ?」

「当然です! そんな……酷い事は私にはできません」

「だったら目の前で傷ついてる無能力者をたった一人でも守ろうとしたか? 巨大な力には勝てなくても、大きな流れに逆らおうとしたか? 周囲が壊れていく中、お前だけはその信念を貫いたか? 俺が言っているのは、そういうものだ。綺麗言を語る資格は善人とかヒーローって呼ばれる人間しか口にしちゃいけないんだよ」

少なくとも、垣根はそういう人間を見た事はない。
ただ自分に正直な人間はいた。それが上条当麻であったり一方通行であったりフィアンマだった。
そういう自分の考えを持っている人間はいる。その為なら悪にでもなれる人間がいる。
それが正しかったからたまたま周りから勝算されただけの話だ。
彼女の言っている事はそれに当てはまる。
だが、彼女は本当にそうしたのか。
湾内は唇を噛みながらも答える。

「安価↓2」

「……何もしませんでした」

「だろうな。お前らお嬢様の決意なんてそんなものだ。努力するのだって、そういう高い地位から落とされたくないとか、そんな消極的な理由だろ? けどな、本気で生きてるヤツってのは気迫が違う。どうしようもない現状を打ち砕くために、どんなにつらくても前に進み続けてる。お前らとは正反対なんだよ」

後ろなど振り返らない。後先など考えない。
そこまでやらなければ前へ進めない。そこまでやらなければいけない程、人間は弱い。
だが、そこまでできる人間というのはそんなに多くない。垣根だってそこまでやれと言われてすぐにできるはずがないのだ。

「……、」

黙り込む湾内に一転して垣根は優しく言った。

「すぐに変われ、とは言わない。でも変わるための努力はするべきだ」

「……はい」

湾内もその言葉に安心したのかほっと力を抜く。
すぐ後には五人分の寝息が響くだけだった。




垣根はけだるい倦怠感と共に瞼をひらいた。
左右にはやはり四人の少女が寝ている。
背中では黒美。目の前では湾内。
やはり昨日のあれは夢ではないらしい。

(……いろいろ恥ずかしい事言っちまったな)

自分を冷たく客観的に振りかえりながら、四人を起こさないように自分の体を持ち上げる。
そこに同じタイミングで一方通行が入ってきた。

「朝からどうした?」

「安価↓2」

「……未元物質でベッド増やすかな」

「お前、名案だな!」

「いや、昨日の時点で気付けよ」

「昨日は疲れてたからな……」

そっとベッドから地面に足をつけ、居間へと向かう。
明るくなるとよりわかるが、部屋は明らかにボロボロで荒らされた形跡がある。
おそらく、力を手に入れた無能力者が第一位への報復で行ったのだろう。
本人の心情を思えば、それを聞く気にはならないが。

「なァ……垣根。お前、昨日アイツらと何か話してたろ」

「聞いてたのか?」

「はっきりとは聞こえねェよ。能力をそンなのに使うのもバカらしいしな。……ただオマエがアイツらに何を言ったのかは気になる」

垣根はソファに腰をかけながら、一方通行の差し出したコーヒーを啜る。
やや間をおいて、垣根は答えた。

「安価↓2」

≪今日はここまで。皆さんお疲れ様でした≫




「自分たちも加害者だって気付かせてやっただけさ」

「ふゥン……」

一方通行の気の抜けた返事に垣根は怪訝な顔をする。
彼の表情は眠気を残した力の無いものだった。

「……何だよ。その引っ掛かる返事は」

「オマエの事だから四人とも喰ってるのかと思っただけだ」

「俺にどんな印象持ってんだ、お前」

「女たらし」

そこまで言って一方通行は息を吐く。
それは覚悟を決めるようなため息に見えた。

「……なァ、どうやって『国』を取るつもりだ」

「安価↓2」



ヒロインが4人とも中古って斬新だな

>>192
4人とも悲惨すぎる



それでは開始

「まずはその国の仕組みを知る。トップがすげ替えられても機能するシステムならトップを殺す。その他ならまた考える」

「結局、その場しのぎになるンじゃねェか」

それは当り前だ、と言わんばかりに垣根は笑う。
彼は別に自分が善人だとは思わない。ただ、自分に正直なだけだ。

「……そっちの方が俺らのやり方にはあってる。アイツらを巻きこむのは気が引けるがな」

「オマエ、マジで変わりすぎだろ」

「……思春期なんてそんなものだよ」

「そォかよ」

一方通行も垣根の隣に座る。
それからは微妙な距離感で、黙々とコーヒーをすすった。
しばらくして黒美が寝室から出てくる。
彼女は垣根と一方通行の隣り合っている姿を一瞥すると、眠い目をこすりながら言った。

「安価下2」

「現在の学園都市の状況の詳細を調べました。第一に、現在の学園都市の総人口は能力者無能力者合わせて一万人以下です。ただこれは国が出来てすぐの情報のようですのでもっと少なくなっている可能性もありますが。第二に、国は6つ存在していて人口3000と1000の国がそれぞれ2つ、2000が1つ。第三に、それら国のトップおよび主な使用兵器がわかっているのは人口3000と1000の国のそれぞれ片方、それと2000の国、この3つだけです」

「……ふぅん、なるほど」

「よく調べたじゃねェか」

「え……? 今ので理解できましたの?」

この程度当たり前と言わんばかりで二人は顔を見合わせた。
こうなると、黒美はついていけない。

「ンでェ? どォすンだ」

「セオリー通りなら、一番小さい1000人の国で兵器とトップがわかっているところだな。……情報は多く、勝ち目がある方に行くのは定石だ。……だが、」

「……いきなり3000落としてヤツらの鼻をあかすってのもありだなァ?」

「まあ待て。俺とお前はともかく、他は荷が重すぎる。ここは1000からおとすぞ。……黒美。その1000人のとこのトップと使用兵器を教えてくれ」

わずか十数秒のやりとりでここまで決まる。
あまりの速さに戸惑いながらも黒美は答えた。

「安価↓2」

安価してから気づいたけど勝手に一人でこんなに設定作っちゃってよかったのだろうか

安価なら下

>>198 この程度なら問題ないです。まずい場合はこちらで判断します≫




「トップの名は土御門元春。使用兵器はパワードスーツです」

「……面倒だな。お前の同僚だろ、一方通行」

「あァ。アイツは絶対におごらない。……しかも『全身幻想殺し』を持ってる。はっきり言ってつけいる隙はねェぞ」

「……いやある。ヤツに隙はないかもしれない。だからこそあるはずだ」

人間ならば完全無欠であるはずがない。
自分自身は取り繕えても、周りまでがそうできる人はいないだろう。
それに土御門相手には交渉の余地がある。垣根と一方通行はともかく、他の四人は事情を話せば受け入れる可能性はある。土御門とはそういう人間だ。

「……相手が頭のいい人間で助かった。おかげでこっちも選択肢が増えたぜ」

「ものは考えよう、かァ……面白ェじゃねェか」

「遊びじゃないんだ。こっちは四人の命背負ってるんだぞ」

「いざとなりゃァ、俺らが死ぬだけだ」

罵り合うように言葉をかわして、二人はソファから席を立つ。
一方通行はようやくやりがいのある仕事に取り掛かれる喜ぶからか、早口で垣根に問いかける。

「どォする?」

「安価↓2」

「他の二つの国のトップと兵器を教えてくれ」

「随分と慎重だなァ、おい」

「まあ気にするな。とりあえずだよ」

垣根が黒美へ向き直ると、それを察して少女も口を開いた。

「まず兵器は2000の国に大量の武器弾薬。これは学園都市製ですので、性能はかなり高いですわ。……もう一つ、3000の国は偵察機との名目で製造された航空機、通称『六枚羽』を中心とした航空部隊を編成しております。軍事力の観点では他をよせつけません」

「なるほど、ね……。だが武器に関しちゃ、俺達には問題無い。絶対に、潰せる」

垣根の自信満々な声とは真逆に黒美の表情は重たい。
調べるうちにこの世界の厳しさを知ったのだろうか。
それとも自分は生きられない、という思いが強まってしまったのか。
彼女はゆっくりと口を開いた。



2000の国のトップ ↓2

3000の国のトップ ↓4

それぞれ禁書キャラ一名ずつ

鳴護アリサ
無理なら浜面仕上

>>207 アリサって純粋な無能力者? じゃないと思うので浜面でいきます≫




「2000の国が浜面仕上、3000の国はフレメア=セイヴェルンです」

「……あァ? なンで幼女がトップなンだよ」

フレメア、という人物に一方通行は過剰に反応した。
その様子に垣根は若干、引いた様子で表情をゆがませる。

「ロリコンだったのか……打ち止めの時点で予想はしてたが」

「うるせェ! いいからさっさと土御門の野郎ォと会うぞ!」

ちぐはぐでもかまわない。
彼らは勝利へとまい進していく。




「……第二位。どうやってよみがえった」

「まあ色々あってな。こっちの事情だ」

一方通行と垣根の二人を土御門は無条件で受け入れた。
というよりは単純に話だけは聞くべきだと判断したからだろう。
現に、厄介ものを見るような目を土御門はしていた。

「それで、お前らが今さら『国』と接触した理由はなんだ」

「安価↓2」

「アンタの天下統一に手を貸してやるよ」

垣根の言葉に土御門は笑った。

「おいおい、たった千人で他の『国』を落とせる訳ないだろ? 俺はこの箱庭で安全を保てればそれでいいのさ」

「とぼけるなよ。お前の腹はわかってる」

千人が精いっぱいなのか。
今は千人で充分だと考えているのか。
もし後者なら俺達は使える。垣根はそう伝えていた。
そして土御門はその程度で満足するような男ではない。
大きく息を吐くと中央のテーブルに大きな地図を用意した。

「……ここから北西十キロ程の地点に、大量の食料・医薬品、そして三機の爆撃機を配備した拠点がある。だがそこには十五人の爆撃機を扱える傭兵に、百人近い無能力者……つまり『全身幻想殺し』を持った人間。おまけに二十人程度の高位能力者まで配置されていて、とても手を出せない。俺達はすでに六人の死傷者と三十一名の負傷者を出して、あげた成果はその情報だけだ」

「なるほど……組織内での威厳と、物資確保のために一肌脱げってことか」

「ああ。……それとこっちはもう人員を割けない。だが二度の襲撃に生き残ったヤツがいるからソイツ一人は貸せる。これが三度目の正直になる事を祈るよ」

「二度ある事は三度ある、って言葉もよく聞くよなァ?」

一方通行の言葉に垣根も思わず噴き出した。
自分たちが失敗するはずがない、という自信の表れ。悪く言えば、それは驕りや油断とも見える。
だが彼らの性格を矯正などするつもりもない土御門は部屋を後にすると、協力者を連れてきた。



今回の協力者 安価↓2(禁書キャラ一名)

「いやーよろしゅう頼むで、お二人さん」

(……イヤなヤツが来たな)

垣根は思わず眉をひそめた。
青髪ピアス。
前の世界では完全に会社の思い通りの人間だった訳だが、この世界ではどうなのか。
彼は前回をほうふつとさせる軽さで二人に話かける。

「イヤー第二位はんはイケメンやなあ、ほんで第一位は女の子みたいでボク好みやで!」

「青髪、ジョークはそのくらいにして早く車を用意しろ。……今度こそ攻略してもらわなければ困る」





土御門にせかされる形で三人は防弾使用の車に乗り込む。
青髪が自然に覚えたという運転技術を披露しながら三人は拠点へと車を進めていく。

「……それにしても土御門はなぜ三度も攻略に乗り出す?」

「そら、周りからのイメージや。『土御門元春という優れたリーダー』というイメージで強さを保っているうちの国は一にもニにもイメージやからね。彼がどんな奇策を打ち出すかわからないという恐怖心が他の国から身を守ってるんや。そんな国が何度も同じ場所を落とせないとなると周りが動きかねんやろ? だから難攻不落の拠点にこだわるんや」

「……なるほど。それで、その知将様が苦戦してる拠点に攻めた感想は?」

「安価↓2」

≪今日はここまで。皆さんお疲れ様でした≫




「ボクは向こうに女の子がいればそれでええんや」

「……お前に聞いた俺が間違いだった」

垣根は呆れて車の外を見る。
崩れた景色には確かにかつての面影はない。ここが何学区だったかなど見当もつかないのだが、気になる事はある。
窓の無いビル。
そこに住まうという統括理事長。彼は今、何をしているのか。
この状態すら『プラン』の内側なのか。
だとすればアレイスターは本物の化け物だと垣根は思う。
ボーっと考えていると、車が唐突に止まった。

「ここから先は徒歩や。これ以上進めば近づく間もなく撃墜されてまう。……ボクは所詮、ただの人間やから」

「ああ、そうだったな。そういう弁えた態度は嫌いじゃない。……一方通行、そっちは?」

「銃もチョーカーも問題ねェ。……いつでもいけるぞ」

三人はゆっくりと、慎重に歩を進めていく。
十五分程で彼らは目的の拠点を発見した。
十台程度のジープには機関銃。そして拠点の入り口と思われる粗末な扉には二人の見張りがいた。奥には爆撃機のフォルムも一部見えている。
ここに無能力者と能力者が加われば確かに厄介な戦力だ。

「……どォする。死角はねェように見えるが?」

「どうせなら少数精鋭の利を活かそう。……大勢で攻めかけたように見せかけて、敵をかく乱する」

「悪うないとは思うけど……こんな平地じゃ身を隠しながらは近づけへんで?」

「……ああそうだな」

垣根は考える。
わずか三人でこの巨大な拠点を落とす方法を。



三人目線でどうする? 安価↓2

そもそも10の試練とやらが何なのか明らかになってないから大丈夫かと

国6つあるってなってるけど5つしかないじゃん

>>225
それなんですが、戦闘とかにはしないつもりです。それだと能力無しがきついので…


>>226
すいません…5つに脳内変換お願いします


それでは開始

「未元物質で大量の兵をつくる。そいつらに手間取ってる隙に俺らは穴から拠点内に侵入するぞ」

「いわゆるモグラ作戦やね!」

「そこまで大層なモンじゃねェだろ。……だが、まァ陽動は必要になるよなァ?」

一方通行はチョーカーのスイッチをいれ、足元の小石を拾う。
そしてそれを軽く上へと放った。
普通ならばすぐ目の前におちるだろう。
だが、第一位の能力でコントロールされた小石は飛来する爆弾のように拠点へと落下した。
遠くで巻き上げられる砂塵を見て、垣根も蝋人形のような兵士を拠点へと攻めよせさせる。
その数、およそ二百。
さらに一方通行が地面に腕を突っ込み、地中への道をつくりあげる。
ちょうど三人が一列に通れそうな穴がわずか数秒でできあがった。
その穴を垣根が深めながら、三人は歩を進める。

「おい、青髪。拠点内で注意すべき事はあるか?」

「安価下2」

「なんもないで。強いて言うなら無能力者が多いから触られないようにせえって事くらいや。……ま、そんなの君らが一番わかっとるわな」

軽い調子で答えて青髪ピアスは口笛を吹く。
重く考えようと、軽く考えようと不利は変わらない。
そう割り切れるあたりが彼をここまで生き残らせたのだろうか。

「……この辺に施設があったはずや。上に出るで」

十分程、奥へ進んで青髪が呟く。
垣根もそれに従い上へと穴を掘り進めた。
奇襲は成功。
どこかでそう確信するつもりもあった。
だが。

「……そりゃそうだよな。こんだけ重要な場所、一人くらい有能なヤツはいるにきまってる」

明らかに三人を待ち構える形でソファに身を預ける人影があった。
三人に背を向ける形で座っていた人影はゆったりと腰を上げる。
そして、笑った。



立ちふさがった人物 安価↓2(禁書キャラ一名)

「やれやれ……こんなばればれのやり方にこのトール様が騙される訳ねーってな」

「トール……? 北欧神話の神に自分をなぞらえるとは大した自信だな」

だが、その名前だけで想像はつく。
彼は『魔術』という垣根にとって未知の力を振るう人間のはずだ。
なら、垣根がとる行動も自然と決まってくる。

「お前らは先に行け。コイツは俺がやる」

「……おい、行くぞ青髪」

「あ、気いつけや! アイツはここじゃかなりの主力やでー!」

遠ざかる声を笑って垣根は聞き流す。
トールはその様子に不審さを覚えて、問いかけた。

「いいのか?」

「三人じゃ効率が悪い。ここはバラバラの方がやりやすいだろ? ……それにここで俺が派手に暴れれば自然と戦力がこっちによってくるしな」

「へえ、さすがに頭が働くな。第二位」

魔術師でありながら垣根が第二位という世間には公開されない情報を知っている。
やはり、彼もそういう人種なのか。
だがそれはどうでもいい、と垣根は考えを振り切り口を開く。

「魔術……ね。正直なところ半信半疑だが、結局は能力者と似たようなもんだろ? その待遇はよくねえはずだ。……でも奴隷って感じでもねえ。お前は何だ?」

「安価↓2」

「俺は永遠に無能力者達の味方であり能力者どもの敵だ。そして俺の目的はこの世から能力者どもを欠片も残さず一掃することだ。それは未来永劫変わらない」

トールの声は強く響くものだった。
しかし垣根はその奥にある何かも同時に感じ取る。
少年の中で渦巻いている、闘争本能。
垣根にだって同じようなものはある。それは間違いない。
だから、彼らは同時に動いた。
垣根が三対六枚、純白の翼を広げたかと思うとトールもすでにその指先から閃光を迸らせている。

「『投擲の槌』供給確認。確認次第接続開始」

台本のセリフを吐くように、彼は淡々とその力を強めていく。
指先から伸びるブレードが肥大化する中、彼はポツリと呟いた。

「俺はな、お前みたいな才能だけの人間が大嫌いだ。お前らのその行為は凡人が積み上げた百の努力を一瞬で吹き飛ばす。……それがどんなにすごい事かはわかる。それでも俺はそういう天才に届いちまった。勝てちまった。……だったら俺の目の前で、俺の努力を否定はさせねえ!」

トールがその華奢な腕を横薙ぎに振るう。
ブレードは施設の壁を高温で溶かし、切断していく。
垣根はそれを悠々とよけながらも考察した。

(……確かに、ただの能力や化学製品としての溶接ブレードとは違う何かが入り込んでる。だが、理解不能ってワケじゃねえ!)

今度は垣根が翼でそのブレードを受け止めた。
翼とブレードの間で火花が散り、甲高い金切り音を連続させる。
一度目の接触が終わり、地面に降り立ちながら垣根は問いかけた。

「……トール。お前の力は才能だ。確かに、俺のように何もしないで開花はしなかったかもしれない。だが、努力して天才に勝てるお前も間違いなく才能のある人間なんだ。……それを理解してるはずのお前がなぜ、能力者を敵対視する」

「安価↓2」

「戦争終了直後と現在の学園都市の人口を比べてみろ、何でこんなに減ったと思う? 能力者共が殺しまくったからだよ」

トールの言葉は垣根に一つの疑問を投げかけていた。
なぜ、能力者の頂点を占めるお前が何もしない? と。
トールはその口に怒りを帯びさせながら言葉を続ける。

「それと、お前の言うとおり俺は才能のある人間だ。だからこそ俺は俺を唾棄する、だからこそ俺は才能無き者たちに天才に勝てる力を与えた」

それはある意味では正論である。
『全身幻想殺し』は確かに無能力者虐殺の抑止力になった。
だが、垣根は否定する。
トールという天才の、彼なりの方向性を自分の才能で否定する。

「クソだな。お前の考えはまだまだ甘い。……確かにその事実は見過ごすべきじゃねえ。何せ、百二十万の人間が死ぬかもしれなかったんだ。そういう意味じゃ、お前が手を差し伸べるのは正解だ。だがな、お前はその差し伸べ方を間違えた。無能力者の中には別の方面で才能を持つヤツがいる。そういうヤツにならその力は与えるべきだったかもしれない。……だが、無能力者じゃなく無能な人間はどうだ? そんなヤツには釣り合わない力だろ」

「だったらどうしろってんだ。無能力者でありながら才能を持つ……そんな人間は一万もいねえだろ」

「その重荷を背負うのが天才だ。その重荷を屁とも思わないのが天才だ。……憎しみを憎しみで返す愚かな人間に力を与えた結果が現状の『国』だとは思わねえのか」

確かに有能な無能力者はいる。
土御門はもちろん、青髪ピアスだって必死に生き抜いているのが垣根には伝わっていた。
だが、同時に。
馬場という人間の風上にも置けない者もいる事を垣根は知っている。
抑止力はどこまでも抑止力として使うべきだった。
垣根はトールにそう暗示した。それで彼も理解できると思ったから。
だが。

「……ふざけるなよ」

トールは拳を握りしめる。
心なしか、ブレードの輝きが増したように見えた。

「お前らレベル5が何もしねえから部外者の俺が肩代わりしたんじゃねえか。……学園都市の事だろ。科学サイドの事だろ。……そこまで、俺より的確な判断を下せるお前が何故、何もしなかった!!」

それが本心。それが全て。
自分の才能を呪った少年が自滅覚悟で選んだ道は間違いだった。
だが、所詮はまだ成熟していない子供。なまじ才能があるだけにそんな間違いを認めきれなかった。
垣根はゆっくりと答えた。

「安価↓2」

「否定はしねえ。確かに”今まで”の俺は何もしなかった。だから……今からやるんだよ。俺のやりたいようにな」

「……だったら俺も、俺のやり方を貫き通すだけだ」

両者が互いの力をぶつける。
施設の天井、壁、床に至るまで亀裂が入り今までトールの勢力が築いてきた要塞の面影が少しずつ薄れていく。
だが、トールはそんな事は気にしない。彼は別に、一つの『国』にこだわって戦っている訳ではないからだ。

「……やるじゃねえか。俺の『未元物質』とここまで張り合えるのはお前で二人目だよ」

「笑わせんな。お前だけはここでブッ倒す!」

トールがブレードで全てを薙ぎ払い。
垣根はその全てを受け止める。
破壊と創造。
しかし、トールは何かを守るために。垣根は既存の停滞した何かを壊すために。
力と目的が真逆の性質を帯びる二つの力が激突した。
そして。

「……トール」

勝利したのは垣根だった。
彼はまるで勝利を確信していたように呟く。

「俺の力は確かに何かを壊す。……だが、創造は破壊の後にしか来ないんだよ。だからお前は負けた。この絶対的な法則にな」

地面に倒れ込み、意識もあるかわからないトールに向かって垣根は淡々と言葉を続けた。
その目にはどこか寂しげな色が見て取れる。

「……早くここまで来い。お前ならできるはずだ」

そこで言葉を止める。
背後にいる二人の気配を感じたからだ。

「一方通行、そっちはどうだった?」

「安価↓2」

≪今日はここまで。皆さんお疲れ様でした≫




「問題無い。早いとこ物資を持ってズラかるぞ」

「了解。そんじゃ行きますか」

一方通行の後では青髪がせっせと食料と医薬品を運んでいる。
車に積めるだけの物資を積むと、三人は土御門の元へと帰還した。





「ご苦労だったな。本来なら部外者にやらせる事じゃない。……状況だけにお前らには割の合わん事をしたと思ってる」

帰って早々に土御門から謝罪され、気持ち悪そうな顔をしたのは一方通行だ。
今までの暗部でなら、こんな事はまずあり得ない。
だが利害を弁えての発言は土御門らしいと言える。

「おかげで当分は食糧に困らん。なくなるまでに新しく手に入る事もあるだろうしな。……医薬品のおかげで負傷者達にも手厚い治療ができる。そこで、だ。何か望むものがあれば言ってほしい。無論、こっちにできる範囲でという制約はついてしまうがな」

「俺は別にねェ。垣根、オマエの好きにしろ」

「安価↓2」

やっと試練に入れる…




それでは開始

「この国がどういうものか見せてくれ」

「……そんなものでいいのか? 俺が言うのも変な話だが、現存する国で最弱だぞ」

「だからだよ」

「……わかった。しばらくの間、ここにいるといい」

「あー……増えてもいいか?」

「構わん。お前の働きは十人増えてもなくならんさ」

土御門は肩をすくめながら言った。



『……さて、そろそろいいかな? ゲームを始めよう』

「ああ、こっちも退屈しそうだ」

垣根は全てが止まった世界で天使と相対する。
この慣れたやりとりが今回、もっとも多くなるだろう。
天使もわかっているのか、笑った。

『そうだろうな。……今の君は一流のギャンブラーにも似た心理を持っている。損得ではなく、ただ賭けをしたい。そうしなければ気をすまない。そうだろう?』

「……、」

垣根はなにも言わない。というよりは否定できない。
今の彼は損得勘定では動いていなかった。自分の強さを求め、経験を求めて動いている。
だとすれば天使の言葉は真実だ。

「……それはそうだが。それならさっさと一つ目を教えろ。……どうせあの三人だろ?」

『そうだな……そのあたりが定石、か』

天使は軽い調子で打ち出した。




一つ目の条件 安価↓2(婚后・湾内・泡浮に関わるもの)

『三人と馬場という男の関係を一定まで修復する。……そうだな、一人につき一つ。つまり三つになるぞ?』

「……足枷か。放っておけば俺は負けるって寸法。……つまりは看過できない」

『フフ……無論、記憶消去などの工作は禁止だ。あくまで君の口先だけを武器にやってもらう』

「ああ、面白え」

垣根が呟く言葉を聞きたかったのか。
わずかに天使が目を細めると世界が色づいた。





土御門は『国』をよく統制していた。
兵器の管理はもちろん、食料や医薬品。さらには人一人に対してまで手厚い防護を施している。
数少ない施設にはボードゲーム類の娯楽品も多少はあり、日常生活にも事欠かない。
だが。
そんな常人の空間では垣根と一方通行は当然、退屈する。
天使との勝負も期限がないだけにチャンスをつくるしかない。
彼らはわずか三日で覚えた囲碁を適当にうっていた。

「……なあ、一方通行」

「なンだ。……先に言っておく、殺し合いの類はゴメンだぞ」

「そんなんじゃねえ。……お前さ、どうして上条当麻に打ち止めを託した? お前なら一人でもできるはずだ」

裏になにかを感じた。
例えば『黒い翼』。あれもある意味では科学の枠組みを超えている。
そう考えれば一方通行なりの理由もあるはずだと思ったからだ。
一方通行は垣根の質問に、呆れた様子で答えた。

「安価↓2」

「俺はあのガキに嫌われちまッたンだよ」

「……ロリコンがばれたのか」

「違ェ! ……ただまァ、俺としてもあまり面白い話じゃねェ」

一方通行はそう言って、碁盤へと黒の石を指す。
垣根も白の石でそれに応じながら、会話を続ける。

「……だから気になるんだろうが。それに考えてみればアイツはお前が暴走した時もお前を助けようとしてたらしいじゃねえか。……アイツがお前を嫌う理由ってのは相当のモンだろ?」

「……そォだな。アイツが俺を汚物のように認識した目で見たのはアレが最初で最後だ」

「お前、本当に何したんだ?」

「安価↓2」

「……俺は、アイツを守るためにオリジナルを売った」

「第三位か……そりゃ、嫌われるだろうな」

二人の碁を進める手がぴたりと止まる。
一方通行はその手を握りしめながら、ゆっくりと口を開いた。

「……仕方なかった。突如、現れたあの力はオマエの『未元物質』と違って、解析できねェ。『反射』そのものを無効にしちまうからな。アイツを守りながらとなればなおさら、選択肢は狭められた。……俺だってやりたくてやった訳じゃねェンだ。ただ、あの場面でどちらかしか助けられなかったとすれば……俺がどっちを選ぶかなンざ火を見るより明らかだろォが」

「そうだな……」

垣根は笑う。
彼はやはり、自分が愛した一方通行に限りなく近い存在だ。
それが嬉しくもあり、男である自分が憎い。

「……けどな。そこでお前が踏ん張れば第三位を助けられたかもしれない。……お前が本当に罪を背負うつもりだったなら、そこでまた生き残って。第三位に何と罵られても守るべきだったんじゃねえか?」

それは真実。
第一位の方が第三位より勝気がある。そんなのは当たり前だ。
つまりこれは一方通行の覚悟が中途半端なものでしかなかった事の証明。
垣根はソファからすっと立ち上がり、問いかけた。

「……第三位は今どうしてる。お前の事だ。その程度の情報は掴んでるんだろ?」

「安価↓2」

「……フレメア=セイヴェルンの国にいる。後は察しろ」

「そういう事、か」

フレメアなど所詮は子供。
その実態は操り人形な事くらい小学生にだってわかる。
むしろ危険視すべきなのは陰でフレメアを操っている人物。
もしその人間が幼い少女をトップに据えた意味を正しく理解しているなら、その人間は相当狡猾だ。
垣根は笑う。
そして怪訝な顔をする一方通行に垣根は言った。

「取り返すぞ、オリジナル」





「垣根、どういうつもりだ。……フレメア=セイヴェルンの国について動向を知りたいってのは」

「安心しろ。攻めるにしてもお前らには配慮する。……何ならあっちに協力して矛先をかわしても構わない」

ただしその時は手加減しない。
垣根は言外にそう告げていた。
土御門はため息をついて、肩の力を抜いた。

「……それで?」

「とりあえず、御坂美琴を救出したい。そのために……あの国の影のトップ。それと御坂美琴がどうなってるか教えろ」

土御門は一方通行をチラリと見る。
逃げるように視線をそらす彼を見て、土御門は確信する。
御坂の扱いを知りたいと言ったのは一方通行に現実を見せるため。
影のトップに関しては単純な情報のパーツとしてだろう。
土御門は無駄と諦め、答えた。

「安価↓2」

≪早いですが今日はここまで。皆さんお疲れ様でした≫




「あの国は木原一族が治める国で木原数多と木原病理の双頭体制。……木原の扱いといえば言わなくてもわかるだろう」

「実験動物、か」

いくら木原が無法者の一族と言っても、学園都市の制度は確実に彼らを押さえつけていた。
だが、その一種の抑止力が消えてしまえば彼らは思う存分科学を振るう。それが何万もの犠牲を産んだとしても、だ。
御坂はもう死んでいるかもしれない。
そんな思考が一方通行の頭をよぎる。
垣根はそれを一瞬で察知し、釘をさした。

「……たとえ死んでいたとしても墓を建てる。これもお前の仕事だろ。この作戦は絶対に決行する」

「……あァ」

そして隙はある、と垣根は思う。
木原数多と木原病理。
もし片方を引き抜けば、千人対三千人が二千五百人対千五百人へと変わるのだ。
そして、もう一つの可能性。
それぞれの世界で見られた人格の一部は間違いなくどの世界でも見られる。
木原病理が見せる女性としての一面。
そこをつければ垣根としても勝機は広がる。

「土御門。木原病理と俺が二人きりになれる方法ってあるか?」

「安価↓2」

≪今日はいきなり行きます≫




「ヤツはお前の能力にかなり入れ込んでいた。良くも悪くも気に
入られてたな。……そこを利用すれば誘い出すのは容易だと思う
ぞ」

「そうか……なら、いけるな」

しかしほくそ笑む垣根に土御門は険しい表情で言った。

「……しかしヤツが何をしてくるかはわからんぞ」

「わかってるさ」

垣根は軽い調子で答える。
土御門には垣根の考えが読めない。
だが、彼には確信があった。
病理は落とせるという確信が。




「よう、木原病理」

案の定、垣根が病理と会いたがっているとの情報に彼女はつられ
てきた。
もっとも、それが裏の裏まで察知しての事かはわからないが。

「……どうやってあの冷蔵庫から抜け出したんですか?」

「まあいろいろあってな」

垣根はそう言って、瓦礫の上に腰をかける。
木原病理はまだ垣根の変化に気づいていない。
ならば不意打ちも可能だろう。

「……それで、私に話とはなんでしょうか?」

木原病理のとぼけるような問いかけに垣根は答えた。

「安価下2」

「バトルしようぜ!」

「……はい?」

垣根の言葉に病理は首を傾げた。
彼の意図が全く読めない。
そして垣根もこれでいいと笑う。
彼女は一度決めれば絶対に判断を変えない。たとえそれが死に繋がるとしてもだ。
だが、決めるまではとことん疑う。全てを疑い、一つ一つを懐疑的に模索する。
だから、不意打ちに弱い。自分の思考の外から来る何かに対応できない。

「……バトル、ですか」

「ああ、そうさ」

病理はうすら笑いを消して、目を細めた。
垣根が土御門の国に身を寄せている事は彼女も知っているだろう。
その宣戦布告ともとれる一言。
木原病理は慎重に問いかけた。

「……どういう意味で言っているのですか?」

「安価↓2」

「俺とお前のガチンコ。そのままの意味だよ」

病理は垣根の言葉にうすら笑みを戻す。
それは何かを確信したようなものだった。

「……フ、フフフフ。面白いですね、第二位のアナタが言ってしまえば一科学者の私と一対一? そんな条件を飲むと思っているんですか?」

「ああ、飲むね。お前は必ず飲む。……飲まずにはいられない」

「……、」

木原病理はまた笑みを消した。
彼女の知っている垣根帝督とは違う。
彼は彼女の知る以前の垣根帝督よりも目から殺気が消えている。人を殺してきた、という匂いが消えている。
だが、今の彼の方が何倍も狂っていると思ってしまう。
垣根はそんな狂った目で病理を見つめた。

「お前が勝ったら俺はお前に何をされても文句を言わねえ。……つまりは実験動物にだってなってやる」

「……アナタが勝ったら?」

「安価↓2」

「木原病理、お前が俺のモノになれ」

「わかりました。……それでは三日後にもう一度ここで。さすがに今すぐは卑怯ですよ?」

「ああ。あくまで人員は俺とお前の二人。……武装に関しちゃ好きにできる」

「……異論はありません。それでは、三日後」

木原病理は笑う。
垣根の言葉を聞いてからの笑み。
彼はそれを理解しながらも、病理の後ろ姿を一瞥し、背を向けて歩き出した。





「どういうつもりだ、垣根帝督!」

「どうもこうもねえ。言ったろ、今回の件はお前と国には関係ない。……互いの縁も三日後までだ」

「しかし……木原病理は科学サイドと魔術サイドが行った『幻想殺し』解析の実験に関わった一人だぞ! 今、世界で最も危険な人間の一人だ!!」

垣根は土御門の部屋にあるソファに寝転びながら天井を見つめる。
土御門は確かに優秀だ。パワードスーツと実質三百人程度であろう戦闘員だけで国としてのシステムを維持しているのだから。
そして、そういう方向での才能がある分だけ垣根の思考は理解できない。
それを理解したのは、壁に背を預け話を聞いていた一方通行だ。

「やめとけ、土御門。……ソイツ、狂ってやがるぞ。十月九日のソイツははっきり言って少しも怖くなかった。だが、今のソイツに俺が勝てるかどォかは怪しい」

要するに気迫が違う。
常に複数の策を持っている土御門はいつでも路線変更できる。
だが、垣根にはそれがない。彼にはその土御門が当たり前に用意している選択肢がない。
そこまで理解できてもなお、一方通行には垣根の意図は読めなかった。

「……いくらオリジナルを助け出すためとはいえ、オマエのやってる事は無謀だ。狙いくらい話てもいいンじゃねェか?」

「安価↓2」

「そんな事したら第三位が死ぬ」

「……ハァ?」

一方通行には垣根の言葉の意味がわからない。
第一位の頭脳をもってしても理解できない。
垣根はその様子を一瞥すると、ソファから起き上がった。

「まーだわからねえか。……まあいいさ。お前らは理解できなくていい。お前らが理解できないって事は同時に病理や数多ですら理解できないという事だ」

「……、」

二人は顔を見合わせた。
垣根の狙いは、わからない。





三日後。
病理と垣根は同じ場所で向かい合っていた。
車いすに座る病理に頼りなさはない。その笑みは勝利への確信があった。

「……始めましょうか」

「ああ、そうだな。あんまり時間もかけたくない」

相手は何をするかわからない『木原』のトップランカー。
時間をかければかける程、垣根の裏をかいてくる確率は上がる。
病理はそれでも最後に問いかけた。

「……しかしアナタが『国』にこんな形で関与してくるとは思いませんでした。以前のアナタならすぐにでも組織を膨張させたはずなのに。こんな勢力も地盤も定まった時に私をピンポイントで狙うんですか?」

それは揺さぶり。
木原病理は推測の中に一つの可能性を見出していた。
第三位を助けるつもりか? と。
垣根は再び狂気を帯びた目で病理を見つめながら答えた。

「安価↓2」

「いやぁ、お前が急に欲しくなっただけだよ、な? "しょうがない"だろ?」

「そうですね……それなら仕方ありません。――――私はずっと前からアナタが欲しかったんですからねえ!!」

甲高い金切り音が響いた。
木原病理の車いすが百を超える速度で動いた。
自身の体にかかる負荷を度外視したその動きで垣根との距離を確実に詰めていく。
垣根も純白の翼を大きく広げ、それに応戦した。
直後。
病理の車いすから、無数の砲弾が垣根へと迫る。
全てを翼で受け止め、ゆっくりと空へ浮かんだ垣根は笑った。

(……案の定、フル装備できやがった。となるとアレも来るな。……まあいい。その為にルールを甘く設定したんだからな)

そしてこの状況にほくそ笑むのは病理も同じだ。

(その程度、一瞬で気付きますよ。……ですが彼は私がどういう立場の人間か忘れている。何を解析したグループの一人かを忘れている)

その思考を読まれない為にだろうか。
病理は空で浮いている垣根に問いかけた。

「また、どうして急に私を狙うんです? 単純に若い女を狙えばいいでしょう。アナタならそれができますよね?」

「安価↓2」

「愛に歳の差なんて関係ねぇだろ?」

垣根が翼を横薙ぎに振るう。
それを病理は物量で受け止めようとした。
だが。
その全てが砂のようにサラサラと溶けていく。

「……なるほど」

「悪いな。……さっさと終わらせてもらう」

殺す訳にはいかない。
殺しては勝負した意味がない。
それが両者に共通する唯一の思惑。
そして垣根の『未元物質』が病理に届く直前。
消えた。

「……あ?」

『幻想殺し』を疑う。
だが病理が自分にそんなマネをするはずがない。
とすれば思いつくのは一つ。

「そういうモデルの兵器の実装……」

「さすがです。……超能力に関しては第一位の能力ですら無効にできる絶対の力です。魔術には使えないのがネックですけど」

「……相変わらずゲスいな。あの右手ってのは」

少し前の世界を思い出し、垣根は身を震わせる。
もしこれだけの力をあの上条当麻が使っていたなら垣根は間違いなく女として死んでいただろう。
だが、木原病理は上条当麻ではない。
だから、問いかける。

「……どうやってあの難解な右手を解析した?」

「安価↓2」

「彼女を倒せたら教えてあげます。いでよ! 『戦闘獣レールガンダー』!!」

現れたのは巨大で醜悪なガマガエル。背中に背負った太鼓だけがオブジェクトである。他はまぎれもない生物。
病理はその醜い姿を見て、笑う。

「フフ……御坂美琴は奴隷でありながらも逆らい続けた。そんな彼女の肉体を焼き尽くし、脳髄のみを移植してその能力を完璧に移植したのがこの醜いガマガエルです! この姿こそが科学の本質。どす黒い正体です!!」

ガマガエルの目がぎょろりと垣根を写す。
肉体が大きいという事は単純に耐えられる負荷も増える。脳のサイズも数倍増しになる。
つまり御坂を超える性能。
垣根の肩がふるえている。
病理はそれを恐怖と受け取った。
この二人のどちらが勝っても同じ結末を迎えるだろう。
ただし、どちらが勝つかによって主導権は移る。それは確実。
だから垣根が敗北を恐れていると思った。
物量による敗北。自明の理。
だが。

「フフ……ハハハハハハ」

垣根はそのガマガエルを見つめて、笑う。
狂ったように笑う。
それが病理には不審に見えてならなかった。

「何がおかしいんです……?」

「安価↓2」

≪今日はここまで。皆さんお疲れさまでした≫





「御坂をそんなにした。お前死刑決定」

「……え?」

垣根の目から全てが消えた。
殺気も、狂気も、わずかな生気さえも。
それを病理が認識した直後だった。
気付けば彼女の体は宙を舞っていた。

「……!」

素早く車いすを立て直し、高速で移動する。
同時にガマガエルを操作して垣根への電撃を指示。
圧倒的な物量は小さな工夫を押しつぶす。
病理はそう確信していた。
なのに。

「……どうして」

落雷を超えるかもしれない電圧は確かに垣根へ直撃した。
だが、彼はその全てを堂々と正面からうけとめたのだ。
まるで横綱相撲。王者が誰かを知らしめるかのような立ち振る舞い。
刹那の優位が崩れさる。

「……どうして、どうしてアナタにそこまでできるんです。アナタはそんな力を持っていなかった。なのに、どうして!」

「安価↓2」

垣根自身は人を畜生呼ばわりできるほどの聖人じゃないってのは覆らないからな
今の垣根単独で体作るの成功するかは不明だし、病理の脳も冷蔵庫化して回収した方が良いんだろうか

肉便器で済んでいただけ婚后さんたちは幸せだったな

>>326
そこは安価次第です

>>327
確かにそうかもしれませんね



それでは開始

「誰かを守る為なら何だってできる。お前みたいな畜生にはわかんないだろうがな」

垣根の言葉が病理には理解できない。
表面的な意味はわかっても、その本質にはとどかない。
それが、木原病理の限界。

「……あなたが言えた事じゃないでしょう」

「ああ、そうだな」

だから、格下の病理の言葉など気にも止めない。
正直言って、垣根は病理に幻滅していた。
そしてそう感じられるだけに病理はいらだちを募らせる。

「……何があったんです。資料だけでもわかる程、前のあなたはぶっ飛んでいた。それこそ私が興味を持つくらいに。……でも今のあなたは……」

怖い、という言葉を必死で飲み込む。
垣根はそういう病理の言いかけた言葉を読んで、答えた。

「安価下2」

「ヒーローごっこしてるだけだ」

垣根はそう呟く。
既に勝負は決まっている。
だとすれば戦うだけ、時間の無駄だった。
翼を大きく広げる。目的は『未元物質』の拡散。
ガマガエルの周囲に絶縁体となる物質をばら撒く。これで電撃は封じた。
そうしている間に垣根は猛スピードで病理に迫り、その動きを止めさせる。

「……くっ!」

無理に抜け出す事もできなかった。
病理にまとわりつくように白い塊がウネウネと体を這うからだ。
まさに流れ作業。
垣根は病理の人間としての器を試したのだ。初めから力の差は歴然だった。
病理もそれを察したのか自嘲するように言う。

「殺さないんですか? ……勝負はアナタの勝ちです。私はご覧の通り。これで何もしない方がおかしいです。……もっともアナタがごっこ遊びで第三位に哀れみを覚えたのは意外でしたが」

彼女の言葉に勝つ気などは一切見られない。
ここでもか、と垣根は思う。
トールという少年に続き木原病理も垣根と勝負するには差があり過ぎた。
残念そうな表情を見せながら垣根は病理に覆いかぶさる。
そして、耳元で囁いた。

「安価↓2」

「これでお前は俺のモノだ」

「……そう、ですね」

病理はほっとしたように答えた。
これで『諦め』られる、と。
彼女は戦い続けるには気力がなさすぎた。能力を引き出すソレがなければこの世界では生きていけない。
つまり彼女はここが限界。
だがそれでも彼女の能力は低い訳ではない。垣根が規格外なだけだ。
そして垣根が病理から体を離す。
直後に一方通行の影が遠くに見えた。
彼はゆっくりと歩みより、垣根に言う。

「……オイ、なンだあのでけェカエルは」

「第三位の肉体を焼き尽くし、脳髄だけを移植させた怪物だよ」

一方通行は一瞬だけ表情を歪めた。
もう御坂美琴の人格はこの世に存在しない。それをすぐに理解してしまったからだ。
顔を伏せた一方通行。
だが垣根はそんなものには流されない。

「おいおい。泣きたいのはクローン共だろ。打ち止めだろ。……御坂美琴だろ。お前ではねえよ、間違ってもな。お前にできるのはそんな結末を滑稽と笑うか、加害者として出来る限りの重荷を背負うか。……器となる肉体だけなら修復してやる。ただし、人格までは保障できねえがな。……一方通行、お前はどうしたい」

主人となる木原病理の指示がない限りガマガエルは動かない。
そんな、自分がまいた種の哀れな末路を見て一方通行は言った。

「安価↓2」

「頼む、試すだけ試してくれ」

「……わかった」

垣根は重々しく答えると右手を振るった。
サラサラとガマガエルの体が溶けていく。
それと同時に垣根はその溶けた部分から『未元物質』を構築し、御坂の最後の面影である脳髄を全力で保護する。
ここで失敗すれば、人格どころの騒ぎではない。
そうして慎重に創り上げた白く巨大な容器。その中は『未元物質』で満たされており、かつての垣根が培養液に浸されていたのと同じような状況になっている。
その中で、少しずつゆっくりと御坂美琴の体を構築させた。

「……、」

白い容器から出てきたのは茶髪に常盤台の制服を着た少女。
形だけなら完全に御坂美琴だ。
第一段階はクリア。
次は人格。これが残っているかどうかで全てが決まる。



コンマ判定↓2

偶数 成功
奇数 失敗

「……成功したはずだ。何か話かけろよ」

そう言って笑う垣根の額には大粒の汗。
相当の集中力を要する作業だったのだろう。その顔も青ざめている。
御坂はと言うと、その体の感触を確かめながらも状況には不審を抱いている。
当然だ。死んだはずの自分がよみがえったのだから。

(……レコーダーのわずかな凹凸から音を読み取るようなものだった。正直、脳髄のわずかなオリジナリティから脳そのものの復元なんざ無理だと思ってたが……どうやら『未元物質』にはまだ先がありそうだな)

笑う垣根。
対象的に一方通行は震えていた。
自分の罪は許されない。それでも彼女の重荷を肩代わりするチャンスが生まれた。
そして打ち止めともう一度だけなら会える機会が生まれた。
だが、何よりも先に。
一方通行は御坂に頭を下げた。

「……すまなかった。俺が、あの時俺が囮になるべきだった」

手遅れなのはわかっている。取り返せないのはわかっている。
だが、けじめは必要だと感じた。これは醜く浅ましい言いわけではない。
覚悟の表れ。どんなに泥をかぶっても、今度は守るという覚悟の表れだった。
御坂は体の調子を確かめながら答える。

「安価↓2」

「…打ち止めは大丈夫かしら」

それは無視だった。
彼女の目には一方通行が映っていない。
そんな人物は記憶に存在しない。

「……ッ、」

一方通行は唇を強く噛んだ。
だが、今の彼は御坂に殺されても文句は言えない立場なのだ。無視だけで済んでよかったのかもしれない。
垣根は一方通行の肩をたたき、後ろへ下げさせた。

「……打ち止めなら上条当麻が預かってる」

「アンタは?」

「第二位、垣根帝督。別に恩を売るつもりはねえがお前の体と人格を戻したのは俺だ。一言あってもいいんじゃねえか?」

「そ、ありがと」

素っ気なく御坂は答える。
垣根はそのふてぶてしい態度に呆れながらも問いかけた。

「……それで、今のうちに知っておきたい事はあるか? 答えられる範囲なら答えてやる」

「安価↓2」

「私が捕まってた木原の国の情報をあるだけちょうだい。あの国にはまだ妹たちがいるの。戻らないと」

「やれやれ……せっかちなお姫様だ」

垣根はうんざりとしたが、自分から言った事なのでやむなく言葉を続ける。

「木原病理は俺が倒した。……病理が指揮を執っていた分も数多に入るだろうが、しばらくは指揮官の変更に戸惑うはずだ。だが、ヤツらはまだ『六枚羽』も無能力者による人海戦術も使っていない。今すぐはやめておけ、ここは俺について来い。いいな?」

「……わかったわ。で、木原病理はどうするの?」

「安心しろ。アイツは俺が上手に料理しておくさ」

垣根は不遜に言って、御坂を連れ歩いた。




垣根に与えられた個室。
そこには木原病理と垣根帝督の二人しかいない。
優位は垣根にある。
だが病理としても、ただやられる訳にはいかなかった。

「……さっき私を上手に料理するって言ってましたけど、貴方にそんな事できるんですか?」

「当たり前だろ? 俺に虚言癖はねえよ」

「フフ……ならどうするか見物ですね」

病理はそう言ってベッドに身を預けた。
別に誘っている訳ではない。抵抗しないという意思表示だけ。
後は垣根次第だった。


垣根目線でどうする? 安価↓2(アバウトでも可)

「知っている事は全部言え。……嘘も隠し事もなし、だ」

「そんな事言われましてもねえ……アナタが知らない事の方が――――」

その言葉を言い終わる前に垣根は病理の肩を押さえつけた。
その目にはぎらついた殺気を帯びている。

「ふざけてんのか、テメエ」

「いえいえ、別に話さないと強がっている訳じゃありません。……ただ、奴隷にもある程度の権利が認められるべき。そうは思いませんか?」

やはり木原病理はあざとく、狡猾だ。
少なくとも、今この段階で病理は殺せない。
御坂が戻る、と決めている以上はこの女しか国の情報を知っている訳じゃないのだ。
垣根はあまりにも堂々とした病理に舌打ちしながら言う。

「それで……? 俺が何をすればいいんだ」

「安価↓2」

「第三位を仲間にするならレールガンダーに殺された人たちの仲間に会うべきです。第三位と一緒に」

「……第三位は完全に利用されてた。不本意な形でな。そこまでアイツが背負う義理はない」

「そんな正論を御坂美琴が飲みますか?」

「……、」

言い返せない。確かに御坂がそう聞けば、止まらない。
しかしこれだけ不利な状況で、急所だけは突いてくるのだから彼女の頭脳は相当きれる。
利用できればかなりの戦力だが、やはり裏切りのリスクが大き過ぎた。

「ここで大人しくしてろ」

垣根は病理に釘をさすと、部屋を後にした。




「よう、体の調子はどうだ?」

「……前の体よりも快適ね。基本的に不調にならない。ありとあらゆる病気に抗体を持ち、アンタさえいれば体の変えもきく。……人間味が消えたのは唯一の悩みどころ」

施設内の談話室のようなところで二人はソファに座り、向かいあう。
さすがの垣根もこの理不尽な話を切り出せずにいた。
すると、それを察した御坂が目を細めて言う。

「……何か言いたい事があるなら言うべきだと思うわ。今の私ははっきり言ってアンタにしねって言われても動じない」

「そうか……なら言うぞ。木原病理が情報と引き換えにお前が怪物となったせいで殺されたヤツの仲間に会うべきだって言ってる。……念のため、お前の答えを聞いておきたい」

御坂は目を閉じる。
彼女のプライドを傷つけたのは事実。だが、その人物が傷ついたのも事実。
プライドと命を天秤にかけ、彼女は答えた。

「安価↓2」


「会いに行くわよ。でもあの車いす女も一緒にね」

「当たり前だろ。……ちょっと待ってろ」

垣根は席を立つ。
ものの五分もしない内に戻ってくると、車イスで病理を引っ張ってきていた。

「全く……人使いが荒いですね」

「うるせえ。お前に人権何かがあると思うな」

冷たく言い放ちながら垣根は再びソファに腰をかける。
そして病理に軽く問いかけた。

「ソイツには会えるのか?」

「ええ。毎日、同じ時間に小さな墓へお参りに行っていますからね。……何をしでかすかまでは読めませんが」

そう言って不敵に笑う病理。
しかしこんなのを気にしていたら話が進まない。

「それで、その仲間を殺されたヤツってのは誰だ?」

「安価↓2」

「白井黒子……と言えばわかりますか?」

「……黒子? うそでしょ……」

「白井黒子……マジで貧乏くじだな」

言ってしまってから二人は顔を見合わせた。
垣根は白井と御坂の関係を知っている。だが、垣根がなぜ白井を知っているのかを御坂は知らない。
白井黒美。
白井黒子のクローンである彼女の存在がバレればひと波乱起きるだろう。
だが。

「何でもねえ……」

御坂にそこまで抱え込ませる訳にはいかない。
垣根は誤魔化すように呟いた。




翌日。時刻は午後一時くらいだろうか。
ひっそりと建っている木の墓に白井黒子は手を合わせて、目を瞑る。
そこに現れる三人の人影。
白井はその一人が御坂である事を認識する。

「……、」

「く、黒子……ごめんなさい。私、記憶がないの。だから……何があって、黒子がどう思ったのか正直に教えて?」

白井は御坂の言葉にため息をつく。
やや間をおいて少女はゆっくりと口を開いた。

「安価↓2」

なんか今回は終わりが見えないな
まだ勝利条件一つも達成出来てないし

>>365このスレ丸一つと予想≫




「おや化け物こんにちは。この間は随分と食欲旺盛でしたわね。初春はおいしかったですか? 固法先輩の肉感たっぷりの身体はさぞ美味だったことでしょう。アナタは最低ですの! そうやって私達をだまして喰い殺して……! 今度は私を喰らうつもりなんでしょう!」


「……、」

御坂は肩を震わせる。そうしなければ耐えられなかった。
この状況で垣根はあえて口を出さない。御坂の心理面がどれだけ辛いかはわかっている。
だがこれには彼なりの確信があった。
御坂美琴なら超えられるという確信が。

「……佐天、さんは……?」

ここで白井は唯一、佐天涙子の名前だけを出さなかった。
もしかすると彼女だけは生きているかもしれない。
垣根の期待しているものとは裏側にある、彼女の甘えだった。
白井は歯ぎしりする音を御坂に届くほどの強さでして、言う。

「安価↓2」

「アナタのお仲間である木原数多に殺され犯されましたよ、彼女はもう死んでいるのに」

「……そんな、」

いくら御坂がこの厳しい世界で生き抜いてきたと言ってもまだ十四歳。
まだ、重すぎた。
白井はとどめをさすように冷たく言い放つ。

「さ、もう帰ってくださいな。……化け物と会話している時間はありませんので」

帰り道。
御坂は一言も話さず、ただ泣き続けた。





『フフ……この世界はやはり面白い。四つ目に一方通行と打ち止め、五つ目に御坂美琴と白井黒子の関係修復が追加だな』

時の存在しない世界で天使は悠々と語った。
だが、垣根には一つ気になる事がある。
天使がいつ出てくるかなどどうでもいい。こうして、自室のくつろげる場所で出てきてくれるのだから。
しかし疑問はある。

「おい。何で今までの短期決戦じゃなくてこんなに長い条件を提示した?」

天使はようやくか、といった表情を見せる。
まるでその質問を待っていたかのように天使は答えた。

『安価↓2』

≪今日はここまで。皆さんお疲れ様でした≫




『それはこの世界には解決すべき問題点があるからだ』

天使はそう平坦な調子で言った。
その言葉に垣根は笑う。

『……何がおかしい?』

「いや、お前がこの世界に俺を閉じ込め屈服させる。とかだったらマジでビビるところなんだがな」

『何、私もそこまで鬼ではないさ』

天使も笑って答える。
彼らとの賭けはまだ終わらない。




「……帝督様?」

天使との会話が終わると垣根は部屋に黒美を呼んだ。
理由はそこまで深くはない。
単純に白井と見比べたかったのだ。それに最近はほとんど会っていない。

「どうだ、あの三人は?」

「元々、気丈な方々ですので問題ないかと……」

「そうか……」

垣根は黒美を自分の膝に座らせると、目を細めその頬を撫でた。
黒美はその暖かい感触に脱力しながらも首を傾げる。

「……どうかしましたの?」

「安価↓2」


なかなか大変な展開だな

>>380
だがそれが面白い



それでは開始

「打ち止め、御坂、一方通行で話し合いの場を設けたい。協力してくれ」

「それは構いませんが……」

黒美は不安そうに目をそらす。
垣根はその表情を白井と重ねた。
確かに、似ている。
見た目もそうだが内面的な部分もどことなく近いものがある。
そんな考えを隅におきながら垣根は言葉を続けた。

「……もちろん、御坂と上条当麻は白井黒子を知っている。だからお前がクローンだともばれちまう。下手すると俺らが他の世界から来た事すらも気づかれる可能性がある」

御坂はともかく上条当麻ならあり得る。
垣根よりもずっと弱い黒美にそのリスクは伝えるべきだった。
だが、黒美はそんな事は恐れない。

「……帝督様を私は信じています。ですが、具体的に何をすればいいのでしょうか?」

「安価下2」

「黒子のフリをして御坂を慰めるんだ。それで御坂をいい気にさせて一方通行と仲直りさせる」

「……できるでしょうか。私はオリジナルと会ったことなど一度か二度しか……」

「そこは問題ねえよ。口調も見た目も同じだ。一つあるとすればお前の方が格上って事だな。……雰囲気が違いすぎる」

それでも御坂にはそこまで察する能力がない。
ましてや打ちひしがれている今の彼女が気付くはずもなかった。

「できるな?」

「……はい」

黒美はそれでも不安だったのか、垣根に縋るように抱きついた。




しかし、白井は一度御坂を遠ざけている。
そこで違和感を与えては御坂に気付かれる可能性があった。
ここからは黒美の才能が試される。

「……お姉さま」

黒美は慎重に、探る様に御坂に声をかける。
彼女は部屋の片隅で小さくうずくまっていた。ずっと泣いていた所為か、目は赤くはれ上がっている。
御坂はそんな虚ろな目で黒美を見つめた。

「……幻、覚?」

きょとんと首を傾げる御坂。
精神的に相当きている彼女に黒美は優しく言った。

「安価↓2」

「さっきはごめんなさい。つい感情に任せてひどい事を言ってしまいました」

黒美は御坂の前で深く頭を下げる。
御坂はそれをまだ抜け殻のように見つめている。

「ともかく悲しまないでくださいお姉さま。初春も固法先輩もお姉さまに食べられて、お姉さまの脳の一部となれて幸せだったはずですの」

「……、」

御坂がまるで獲物を見つけた獣のように肩を跳ね上げた。
徐々にだが、その目に生気が宿っていく。

(……やはり、私では)

冷静に考えれば、これはいい手とは言えない。
おそらく垣根にだってそんな事はわかっている。
もしかすると垣根の狙いは他にあるのかもしれない。
御坂と黒美。この二人がどこまで使える人間なのかを試す。
この言葉の駆け引きには逃げ場がない。
黒美は騙しきるしかないし、御坂も気づかなければ白井との関係修復はより困難になる。
だから、両者とも躍起になる。
御坂は顔を黒子の前までぐっと近づけた。
互いの息を感じる程の距離。
彼女は気付きかけたその疑念と共に口を開いた。

「安価↓2」

「そうよね…はは、そうよ私は間違ってないわ」

その目は奥の底まで狂っていた。
黒美は恐怖を覚える。
彼女は間違いなく黒美より高い場所に存在していた。
勝てるわけがない。
彼女は気付いている。

「……ありがとね。おかげでやっと気づけた」

それは黒美に言っているようで違う。
その奥にある何かに語りかけるような言葉。
そして御坂は笑って言葉を続けた。

「……でも何でだろうね。何で黒子がこんなところにいるんだろうね」

「あ……ぁあ」

今度こそ確信する。
存在している場所が違う、と。
御坂は黒美ではなくその後ろにいる垣根を見ていた。
これは黒美と御坂ではなく、垣根と御坂の駆け引き。
黒美はただの伝言役に過ぎない。
そして御坂は垣根の意図に気付いている。

「……ねえ、アイツは何て言ってたの?」

どろりと黒く淀んだ目で御坂は問いかける。
あまりの圧迫感に震えながら、黒美は答えた。

「安価↓2」

「割り切れよ、でないと死ぬぞ……それだけですの」

「……そう」

御坂は黒美から顔を離し、立ち上がる。
そして部屋を出る直前、わずかに呟いた。

「……私も覚悟を決めなきゃね」





「……気付いた、か」

垣根は自室でくつろぐ。
そのはずだったが、彼の後ろには一人の少女が佇んでいる。
御坂美琴。
狂いかけの目で垣根を見つめる彼女は傲岸な態度でソファに腰をかけた。
それは何度も死線をくぐってきた者の挙動に等しい。

「……全く、随分とややこしい事をしてくれたわね。直接言えばそれで良かったのに」

「よせよ。それじゃあお前は気付かない。今のお前とさっきまでのお前じゃ別人だ」

「……そうね。多分、今の私の方が人間的にはかなりおかしいわ。……でも、こっちの方が今はやりやすい」

御坂はそう言って、ソファに肩肘をついた。
その姿はとても十四歳とは思えない。

「だけど、一時的とはいえ黒子を諦めるのは納得いかない」

「そこまで気付いてるなら話しは早い。……一方通行と話しくらいしてくれるよな?」

「……イヤよ。私に頭下げる第一位と話す事なんてないわ」

理由が今までと違う。
自分へした事の嫌悪感を捨ててしまっていた。
彼女はわずかな時間でここまでどす黒くなっている。

「……じゃあどうすればいい?」

「安価↓2」

「……とりあえず木原病理と木原数多を殺す」

「おいおい、数多の方はともかく病理は俺の所有物なんだが?」

「そうなの? じゃあアンタから奪ってからにするわ。でも数多は死刑確定ね」

御坂は淡々と呟いていく。
それはセオリー通り。彼女にとってはそうなってしまった。
だが、この世界ではその思考回路こそが正常。
御坂の気迫など垣根には怖くもない。
しかしそれを無視するのもそう仕組んだ本人としてはいたたまれなかった。

「……まあ、少し待ってろよ」






垣根は御坂と別れ病理と会う。
色々と忙しいと思いながらも嫌な気はしない。
そんな表情を読み取ったのか病理は隣で笑う。

「……随分と生き生きしてますねえ。私はこんなにも退屈だと言うのに」

「そうだな……なら少し刺激を与えてやる。第三位がお前を殺したいらしいぞ?」

「へえ……」

病理はベッドから身体を起こし、垣根を見つめる。
そして、挑発するように囁いた。

「手放せるんですか? 私を……」

確実に手放さないという保証はない。そんな事は病理もわかっている。
だが、これくらいしなければ刺激とは呼べなかった。
垣根もその挑発にのり、答える。

「安価↓2」

「つーかさっさと情報教えろボケ。望みは叶えただろうが」

「えー? そんな事したらアナタに殺されちゃうじゃないですか。……私はもう少しアナタと遊んでいたいんですよ」

命を惜しむのとは意味が違う。
そもそも病理に勝ちなど存在しない。
だからその負けるまでの間にできるだけの事をしようとしている。
他でもない自分の為に。

「私、わかったんですよ。アナタのその狂った目の正体。……私は見れば見る程、吸い込まれてしまうその目の本質が。……アナタはゲームをしている。それはギャンブル。もっとも、誰と何を賭けているかまでは知りませんがアナタはその誰かに勝つために、自分を壊した」

それが今の高みだと。第一位すら及ばない精神だと。
病理はそこまでたどり着いていた。
垣根は病理に感嘆した。
最初の世界で垣根の入れ替わりを確信したのも木原病理。
天使との賭けに気付いたのも木原病理。
さすがに彼女は優秀だった。
だが。

「……いいからさっさと話せよ」

もう遅い。
逆転できる状況ではなかった。
垣根は病理を押し倒す。

「あの国について、話してない事、全部だ」

「安価↓2」

「隠すも何も木原を濃縮したような国ですよ。実験動物の確保には事欠かないですし学園都市時代でものびのびとやれています。やっぱり最終目標はレベル6ですね。もう一度超電磁砲と『妹達』を利用してレベル6を作ろうとしたりする計画なんかもありましたよ」

まるで昔を懐かしむ老人の感慨。
病理は死を覚悟して全てを話した。

「さて……これで私の役目はなくなりましたね。殺しますか? ……本当に利用価値はありませんか?」

(……コイツ)

病理はまだ勝利を諦めていない。
逆転できると踏んでいる。

「……何が言いたい」

「私はまだ使えます。ここが落ち目ではありません」

目を、細める。
彼女は誘っていた。
垣根を試し、殺すのかまだ生かすのかを試していた。
奴隷がここまで優秀だと上の人間も扱いに困る。
だが垣根に限ってそんな事はない。
彼は悠然と答える。

「安価↓2」

「まだ殺さない、まだだ」

垣根は呆れたように答えた。
彼女はまだ使える。
少なくとも木原の国を滅ぼす時までは。

「……ですよね。アナタはそんなに甘くない」

病理はそう言ってベッドに身を預けた。




「……さて、どうしたもんか」

御坂美琴は大きく成長した。
これで役者はそろう。
だが、問題があった。
垣根はソファで顔を俯ける一方通行に言った。

「おい、上条当麻と打ち止めはどこにいる?」

「安価↓2」

≪今日はここまで。皆さんお疲れさまでした≫



「わからない」

一方通行は大きく息を吐きながら呟いた。

「ただ人間離れした実力者の上条に加えてあらゆる魔術を使いこなすインデックスまでもが打ち止め守ってる。……この世界でもくたばってるとは全く思わない」

「……それじゃあ生きている事しかわかんねえだろうが」

垣根は頭を抱えた。
これでは黒美がやった事も、御坂が割り切り精神的な強さを獲得した意味もない。
だが見つける方法がない以上、先へは進めない。
それに学園都市の外へ出る方法すらないのだ。
まさに八方ふさがり。

「……本当にヒントもなにもねえのか」

「あァ、悪ィな」

「ったく……使えねえな。第三位すら多少はマシになったのに、な」

その言葉と同時に一方通行はチョーカーにスイッチを入れる。
その勢いで壁に垣根をおしつけ、言った。

「……ふざけンじゃねェ。俺がオリジナルに負けてるだと?」

「ああ、そうさ。アイツは今まで一番近い人間から否定されても立ち直った。……だがお前は赤の他人から罵られただけで不安になる。……足りねえんだよ、覚悟が。アイツのように死ぬ気もねえくせにな」

「……、」

一方通行は何も言い返せずに垣根を睨んだ。
垣根はそれを冷たい表情で見つめる。
その間に耐えられず一方通行が口を開いた。

「……なら、どォしろってンだ」

「安価↓2」

とりあえず安価↓を採用しました




それでは開始

「もっと狂えよ、なに一万人殺してまともぶってんだよ。なんなら…俺がネジを緩めてやろうか?」

ぴちゃり、という水音が響いた。
一方通行はそれを垣根が『未元物質』で自分を攻撃するためにした事だと判断する。
だが。

「……あ?」

それは人の形をしていた。
そして一方通行が一万回以上、殺してきた少女にそっくりだった。
『妹達』。
それは一方通行の罪の象徴であり、御坂美琴の悲哀の形。
一方通行には壊す資格などない。
しかし壊してしまった。たとえそれが形だけを写した偽物だとしても。

「……テメェ」

一方通行は垣根へ向き直り、にらんだ。
垣根は笑ってその怒りに応える。

「おいおい。俺はただ御坂の予備の体をつくっただけだぞ? それを壊すって……やっぱお前は狂ってるんだよ、根本的
にな」

「……今の状況を鑑みれば攻撃と判断するのは当然だろォが。そンな言いわけが通るのか?」

「じゃあ、お前が今壊したのだってその理由だけで正当化されるのか?」

互いの切り口は双方の奥を深くえぐる。
だが垣根にはそんな事は関係ない。一方通行と違って、彼は自分を顧みない。
そして何も言い返さない一方通行を鼻で笑った。

「……結局そんなものなんだよ、お前の覚悟は。存在すら否定されて当然の事をやっておいて、いざとなれば言い訳をす
る。ノーリスクで問題をクリアしようとする。そこがお前と御坂の違いだ。アイツは少しばかりは代償を払う覚悟を持っ
ている。まあ、それでも大した事ないんだが」

「……、」

確かにその通りかもしれない。
御坂を見捨て、打ち止めと逃げたのだって心のどこかで自分が傷つきたくないという思考があったからだ。上条に打ち止
めを託したのだって、彼女から自分を否定する言葉を聞きたくないからだ。
それを打ち止めのためとごまかして、彼は自分を守っていた。
だから今回の戦争につながった。
彼が命を捨てる覚悟で選択していれば回避できたかもしれないのに。

「目は覚めたか? 甘ったれた第一位さんよ」

「安価下2」

「ああバッチリな」

一方通行はため息をつきながら、杖を手に取った。
その目にはさっきまでの迷いはない。

「……だが、感謝はしねェぞ」

「ああ、そんなのされたらこっちが気持ち悪くなっちまう」

垣根もそれに答え、肩をすくめる。
その上で問いかけた。

「お前が上条と打ち止めの居場所を知らないってのはわかった。……でも手掛かりなしってワケじゃねえだろ?」

「……どォいう意味だ」

「とぼけるなよ。アイツらの居場所を知ってるのが誰かくらいはわかるんじゃねえかって話だ。ソイツと会うのが困難なのか楽勝なのかはさておき、だ」

一方通行は垣根を鋭く見つめた。
彼は笑みを崩していない。
お前ならそれくらい知ってる、と決めつけてかかっている。
一方通行はその根拠のない思考に呆れながらも答えた。

「安価↓2」

「第七位なら知ってる。アイツは根性バカだが、だからこそ信用できる…信頼はしてないがな」

「……わかった。取り敢えずこの件は俺に預けろ、いいな?」

「好きにしろ」

吐き捨てるようなに一方通行は言う。
だがそれは決して逃げの姿勢ではない。獲物を狙う獣の目だった。





「第七位、か……」

垣根は当てもなく、外に出る。
こうして見ていれば第七位がバカみたいに突っ走っているかとも思ったがさすがにそれはない。
むしろその様子を不審に思った土御門が垣根に近寄る。

「どうかしたのか?」

「いや、実は第七位を捜してる」

「……上条当麻だな。アイツの居場所を知ってるのはナンバーセブンくらいのものだ。……元親友の俺ですら全く見当もつかん」

土御門はあえて『元』親友と上条との関係を示す。
そこには上条を守りきれなかったというプロとしてのプライドがあった。
垣根はその沈んだ様子を見て笑いながら告げる。

「別にいいだろ。結果的にお前は千人の人間の生活を守ってる。お前は充分やってるよ」

「……多少の気休めにはなった」

「そうか。じゃあそのついでに第七位がどこにいるか知ってるだろ?」

「安価↓2」

「全く知らん。ヤツは風来坊だからな。何をやろうとしているかは知らんがとりあえず後回しにした方がいいぞ。アイツを追いかけるなんて時間がいくらあっても足りん」

「……ふぅん、なるほど」

垣根は笑った。
土御門はその笑みに違和感を覚え問いかける。

「……何だ、俺が嘘でもついてると思うのか?」

「いーや。お前はここ一番でしか嘘はつかないタイプだろ? だから信じるさ。だが何もこっちから追いかける必要はねえ。向こうがこっちに来てしまうような状況を作ればいいのさ」

「……、」

土御門は考え込む。
確かにそっちの方が、追いかけるよりは確率はぐっと高まる。
だが今までそんな方法をしてこなかったのは、その動きが他の国に察知される事を恐れたからだ。
この方法は名目上、無所属となっている垣根なら問題ない。

「……お前の言うとおりだ。だが、どんな方法を取る? 上条当麻の居場所は俺も知っておきたい。できる事なら協力するぞ」

「安価↓2」

「どこかで残虐事件が起きる予定はないか? この国のでなくてもいい」

「……むしろこの国だった方が困る。だがそれでも厳しいな……」

「意外と少ないのか?」

「いや、多すぎて困るという話しだ」

土御門はそう言ってわずかに間をおく。
そして、垣根を自身の個室へと連れ込んだ。
その簡素な部屋ではひと際目立つ本棚を見せながら彼は口を開いた。

「……ここには他の誰にも見せられない情報がある。それこそいくらでもな」

垣根はその言葉を聞くと、読む許可を目でもらいその一冊を手に取った。
その内容はちょうど垣根が来る直前のもので、土御門の国はかかわっていないが死者が二千名を超える大事件となっていた。おそらく崩壊後間もなくの事だったのだろう。
垣根はその資料を適当にめくりながら土御門に問いかける。

「それで……? お前の事だから掴んでるんだろ? 次に起きる予定の抗争」

土御門は垣根の気軽な言葉に表情を曇らせながらも答えた。

「安価↓2」

「いや抗争というか何というか……その……」

土御門の躊躇う表情に垣根は嫌な予感を覚える。
彼がここまで話す事を渋るという事はそれほどまでに首を突っ込むのが危険なのか、と。
だが、そんな心配も杞憂に終わる。

「戦士たちの戦争意欲向上のため、浜面キングダムで性奴隷を用いた性祭をするらしい」

「……変な間をおくな。心配しただろうが」

浜面仕上。
かつて垣根と戦い、あっけなく敗れた『アイテム』の下っ端構成員だったはずだ。
彼も無能力者であったため、全身に幻想殺しを有している。
しかしそんな事をしては器の底が知れてしまうのではないか?
もっとも、彼がそこまで計算して、あえて隙を作っているのなら多少は苦戦するのだが。

「……それはいつあるんだ」

「三日後だよ。……あくまで『予定』らしいがな」

浜面は2000の人口を有するちょうど中間規模の勢力である。
どっちつかずな為、守備に徹していれば負ける事はまずない。リーダーの浜面がその状況に満足していればの話しにはなるが。

「……誘われるだけ誘われてみるか。おい、何か警戒した方がいい事は?」

「安価↓2」

「全くない。あれでお前がどうにかなるとは思えん。……ただあえて注意するなら、お前の知り合いが奴隷になってても泣くなよ」

「……大丈夫だろ。あんまり情けねえと呆れるな」

「まあ、そう言うとは思ってたが」

土御門に資料を渡す。
すでに垣根の思考は定まっていた。





彼は今回、先手を打った。
三日後ではなく二日後を目安に出発したのだ。
理由は相手の不意を突くため。そして気の早い第七位を待ち伏せる為だった。
とは言ったものの、祭りの一日前は普通に準備で人が多い。
垣根は見つかるくらいの覚悟で言った。
そこはすでに瓦礫などが完全に撤去され、テントのような個室まである。
ところどころに立った白い看板には奴隷の売り込みでもするつもりなのだろう。
これではただの風俗と変わらない。
あまりの低俗さに呆れながらも垣根は歩く。
案の定、五分を待たずに垣根は呼びとめられた。

(……誰だ?)

そこに多少の好奇心を覚え、垣根は振り向く。



呼びとめた人物 安価↓2(禁書キャラ一名)

「……、」

垣根はその人物を見て、思ってしまった。
これは現実か? と。
目の前にいる少女の容姿は間違いなくかつての同僚である心理定規。
だが、いつもの派手なドレスではなく、少し控え目でシックなマタニティドレスを着ている。
そしてお腹の膨らみ。
だが、垣根は一縷の望みと共に言う。

「よう、見ない間に太ったな」

「冗談よしてよ、普通に妊娠してるってわかるでしょ?」

「やっぱそうか……」

垣根は完全に諦めた。
まさか本当に呆れるハメになるとは思っていなかっただけにこれは厳しい。
別に、自分は傷つかないが彼女ならもう少し賢く生きられるとも思っていた。
心理定規はそんな事もいざ知らず、垣根に問いかける。

「アナタが冷蔵庫から抜け出してるなんてね……お祭りに参加しにでも来たの?」

「安価↓2」

「お前こそ随分愉快な状況になってるな」

「……それが実を言うとそうでもないのよね」

心理定規はクスリと笑う。
その目はまるでこの状況が思惑通りだと言わんばかりだった。

「このお腹のおかげで私はあの祭りに参加しないで済む。……参加したとしても奴隷側にしかなれないしね。それなら妊娠して子供生む方がまだマシよ。私はアナタと違って、力だけで生きていける程強くないの」

「ハァ……なるほどね。まあお前らしい選択と言えばそうだが」

垣根も腰を据えて彼女と向き合う。
別に彼女と駆け引きなんかするつもりはない。暗部時代から彼女など怖くも何ともなかった。

「……聞かせろよ。そうなるまでに何があった?」

「安価↓2」

「暗部のほとんどが浜面様に掌握されちゃったの。だからこの国の人間のほとんどが元暗部よ」

「……浜面様か。お前、一方通行の時といい本当に滑稽だよな」

「……どういう意味かしら?」

「いや、こっちの話しだ。気にするな」

そう呟いてから垣根は辺りを見回す。
おそらく監視の目が届いているはずだ。そうじゃないなら心理定規本人が、浜面に堕とされた。
もっとも後者の可能性を否定できないのが辛いところだが。

「……聞きたい事が二つある。一つはこの国のシステム。もう一つはその胎児がお前と誰の間の子なのかだ」

心理定規は垣根の強引なやり方にため息をつく。
だがそれだけ。
逆らう事もままならない彼女は呆気なく答えた。

「安価↓2」

「浜面様の独裁体制。様をつけないと処刑される可能性が否定できないほど神格化がひどいわね。……取り巻きはブロック、メンバーが中心よ」

「なーるほど。弱小暗部共が寄ってたかってるってワケか」

おそらくその二つの暗部に『アイテム』が加わって、幹部を成しているのだろう。
だが、垣根を驚かせたのはその後の言葉だ。

「この子の親はフィアンマってヤツね。……名前だけ聞いてもわからないでしょうけど」

「……フィアンマ、だと?」

垣根は知っている。
彼もまた垣根と同じく天使と戦っていた。
天使の作為で同じ世界にいたとしても不思議ではない。
とん、と柔らかい音が響いた。
その靴音は徐々に垣根と心理定規の元へ近づいてくる。

「心理定規……捜していたぞ」

右方のフィアンマ。
垣根と戦うにひとしい男。まさに好敵手。

「……フィアンマ。久しぶりだな」

垣根は思わず呟く。
このフィアンマに通じるかはわからないが、とりあえず試してみた。
そしてフィアンマもゆっくりと答える。

「安価↓2」

「まさかまた貴様に会うとはな……あの天使も見ているのか?」

「当たり前だろ……って普通に世界変えるときに会うだろ?」

「ふん、俺様はお前と違って自力で世界を飛べるんだよ。……もっとも、ランダムなはずなのに重なるという事は多少の違和感を感じるが」

心理定規は二人をきょとんと見つめた。
彼らの会話が露ほども理解できない。

「……にしても心理定規と貴様が知り合いなのには驚いた」

「そんなものどうでもいい。何で心理定規を妊娠させた」

フィアンマはその問いに笑う。
まるでその感情をあざ笑うように。
彼はその笑みを張りつかせたまま、答えた。

「安価↓2」

「ああ、それは心理定規にかけた暗示で本当ではない」

フィアンマは垣根の耳元に顔を近づける。
そして心理定規に聞こえないように注意しながら言葉を続けた。

「心理定規は度重なる強姦、そして妊娠の果てに心が壊れていたからな。心苦しいがやらざるを得なかった。実際は誰の子かわからん」

「……そうか。お前、結構いいヤツなんだな」

「元々、酷い人間だと言った覚えもない」

フィアンマはおそらく天使に勝つ事に執着している。
だとすれば彼を利用することができるかもしれない。
心理定規の子は自分との間のものだと言える立場に彼はあるという事だ。組織内でもそこそこ上位にくみしているはず。

「……おい、明日の祭りをぶっ壊したいんだ。条件ならある程度飲む。協力してくれるか?」

「安価↓2」

≪今日はここまで。皆さんお疲れさまでした≫




「この大会を機に俺様が主導するクーデターを起こす事になっている。協力しろ」

「……ちょっと待て。クーデター、だと?」

垣根の言葉にフィアンマは怪訝な表情をとる。垣根の思考が読み切れていないのだろう。
こういう催しに乗じて反乱をおこすのは定石だ。なぜなら敵の気は緩み切っているから。
だが、定石というのは総じて読まれやすい。
つまりこれは餌。フィアンマという魚を釣り上げるためのえさ。
そう考えればこの他国に対して無警戒な状況も多少は納得がいく。

「……まずいな。そうなったら逆にお前が潰されるぞ」

「俺様に勝てるヤツなどそうそういないと思うがな」

「そういう意味じゃねえ。クーデターそのものに成功しなきゃ意味ないだろ。……お前は勝利条件を履き違えてる」

「ならばどうしろと言うのだ。今更計画を変更などできん」

垣根はチラリと心理定規を見る。
彼女は暇そうに設置されたベンチに腰をかけ、空を仰いでいた。
その姿にため息をつきながらも垣根は言う。

「安価↓2」

あれ? >>465はフィアンマの台詞だよな?
>>446だと垣根の言葉にフィアンマは怪訝な表情をとる。垣根の思考が読み切れていないのだろう とあるが

>>472
うわ…すいません。垣根とフィアンマが逆です。すいませんでした



それでは開始

「しょうがない、俺が悪者になってやる。お前は仲間に第二位という未知数の存在が現れたから計画を中止ないし延期と
伝えろ」

「……それは構わん。だが、お前はどうする?」

「あいにくと俺の目的はこの国を滅ぼす事じゃないんでな」

垣根はそう言って不敵に笑う。
さすがのフィアンマもその狙いは読めない。
というより垣根は本来の目的から遠回りしている。このやりとりだけで気づくのは無理だ。
フィアンマもそれを察したのか諦めたように言う。

「……訳のわからん男だ。だが、一理ある」

やはり彼は頭がいい。思考がよく働く。
それだけに垣根も理による誘導をしやすい。

「ここはお前に従う。それで、お前はどうするのだ?」

「安価下2」


「いろいろ疲れたしな、今日は休む。そして明日この国の醜さを存分に見学させてもらう。……作戦を立てるのはそれからでも遅くはないだろう」

「……気に食わんな。俺様は明日に照準を合わせていたというのに」

「そう言うな。お前が崩壊すればこの国を止めるヤツはいない」

垣根はフィアンマという絶対的な指導者がいなくなれば彼の組織は崩壊すると考えている。
そしてそれはおそらくあたっているだろう。
彼はあまりにも絶対的すぎるのだ。だから、君臨してしまう。
フィアンマはそれを理解しているのか、垣根に呟いた。

「……俺様も少し疲れた」





「……それにしてもまたこうやって会えるなんて思わなかったわ」

垣根は心理定規の呟きをベッドの上で聞き流す。
フィアンマは気を利かせたつもりだろうが、垣根としては迷惑だ。
心理定規の膨らんだ腹が垣根に不思議な感覚を与える。
そしてそれはすぐ確信に変わった。
心理定規は食蜂に続く精神系能力者と言っても過言ではない。いくらフィアンマが暗示をかけたとはいえ、そんな簡単に支配されるだろうか。
その、心までを。
垣根がその疑念と共に、振り向くと心理定規は笑って言った。

「安価↓2」

「気付いてるわよ。そのくらい」

「……やっぱりな」

おそらく心理定規は最初、本当に暗示を受けていたのだろう。だが途中から自力でその暗示を振りほどいた。
そしてフィアンマもその事には気づいている。
もしそうならどこまでも駆け引きを要求される関係。相手に気付かれているとわかりながらも気付かれないようにふるまう。
互いに自分のした事を正当化させる、ただそれだけの為に。

「……にしても産むんだな」

「ええ、産むわよ。誰だって我が子は可愛いもの。……まともな人間ならね」

それは垣根は狂っている、という皮肉でもあった。
今までの垣根は悪党。言うなれば、強大な力を持った悪党の基本形。
だが今の垣根は違う。根っこの部分が明確にずれている。
心理定規はそれを一目で見抜いていた。

「……もしアナタが最初からそうなってれば、十月九日にそうなってれば今日はこんな事にならなかった」

どこまで変えられるかはわからない。だが、何か変わってはいたはず。
そんな当たり前の可能性。

「……何があったのか、なんて野暮な事は聞かない。でも、これからどうするかくらいは教えて?」

「安価↓2」

すいません。急用できたので今日はここまで


安価は下

決めるのは浜面とフィアンマの求心力と組織構成確認してからだな、国が分裂したんじゃあまり意味は無い
聞きたいんだが、浜面はどうやって暗部を掌握した?

>>488
そこは安価で決まる方が面白いと思います



それでは開始

「革命を起こす。明確なビジョンはないが今はこれだけだな」

「……できるとは思えないわ」

もし垣根がそんな事をすればほとんどの無能力者が敵に回る。
いくら垣根といえども、苦戦を強いられるはずだ。
ましてや彼が今いる国の国主、浜面はおそらく最強の戦力を保有している。
つまり現状、垣根が土御門と協力できたとしてもその勝算は低い。
心理定規はそれを言外に言っていた。

「……お前らしいな。確率、利害……」

垣根は笑う。
それは構わない。それはある意味だたしい、と。
だが。
それでは所詮二流どまりだとも同時に思う。

「……全てをそれだけで説明できる訳じゃねえだろ。お前がフィアンマと一緒にいるのだってその枠を超えた何かがあるはずだ」

「安価下2」


「彼は強い。だから私は従ってる。それだけよ」

「まあ、そうだろうな。それが賢明な判断だ」

垣根はその選択を認めた。
だが、その上で彼は言葉を続ける。

「……同時にその賢明なだけの判断が今の状況を作ったとは思わねえのか? 強い者に従う。都合のいい人間を利用する。そうやって来た結果だろ」

「……、」

心理定規は否定しなかった。その事に彼女は薄々気づいていたからである。
彼女が生き残るためには、浜面の下につくのが最適だったのだろう。
でも、もしそこで。
多少リスクはあっても、浜面より力は持っていなくても。
一人一人の人権を真剣に守ってくれる土御門の下にいれば、結果は変わったのではないか?
リスクは確かに危険だ。
だが、そこに踏み込む勇気も必要な時がある、と垣根は言っていた。
しかしそれでも疑問はある。

「……最初から力のあった訳じゃないあの下っ端がどうやってここまでのし上がった?」

「安価↓2」

「さあ? 噂によると木原と手を組んだとか」

「木原ねえ……」

垣根は心理定規の言葉に思わずため息をつく。
0930事件で死んだとなっている木原数多がなぜ生きているのか、今からすれば謎だがこの世界では死ななかった。そんな程度の誤差でしかない。
問題は両者がどこまで深く繋がっているかである。
おそらくは利害だけの関係だろうが、それでも両者が同時に動けば、それこそ現状の割拠した勢力が一気に滅んでしまう。
この二つの国に主導権を持たせるべきではない。
だが、どうすればそうなるのかがピンとこない。
垣根の心を見透かすように月が煌々ときらめいた。




翌朝。
予定通り、ふざけた祭りは開催された。
道は元無能力者であろう男たちでにぎわっており、出店という名の風俗も盛況だった。
もっとも垣根の心はそうなればそうなる程、憂鬱になる。
そしてそんな表情をこんな場所でしていれば目立ってしまう。
彼はもう一人、自分と同じ表情をしている少年を見つけた。
雷神トール。
彼もまた、この祭りに参加していたのだ。
もっとも、目的は単純ではないだろうが。

「……よう、トール。こんなバカげた茶番にお前が来るとは何事だ?」

「安価↓2」

「あそこの哀れなレベル5がちゃんと罰を受けているのか見に来たのさ」

トールが指をさした方には見覚えのある顔が二つ。
一人は食蜂操祈。学園都市第五位だった頃の面影もなく、彼女は四つん這いになり奴隷としての役目を果たしている。
そしてその相手が馬場。やはり彼は性根が腐っているのかやる事は程度が低い。
わずかに反応する垣根の肩を押さえつけ、トールは言葉を続ける。

「言っとくが助けるなよ? あれは俺がこの国の連中に頼んだ事だ。……あいつはな、遊び感覚で無能力者達を洗脳して殺し合わせたクズだ。しかも俺がここに差し出す前は学園都市外でゴージャス生活を営んでやがった。だから死骸になるまで一生を無能力者にささげさせるべき、お前もそう思うだろ?」

その話しが本当なら、確かにトールの言っている事は的外れではない。
世間知らずのお嬢様である食蜂が自身の力でそのくらい暴走してしまうのはあり得る事だし、その報復で今のような扱いを受けるというのも納得できる。
自業自得と言ってしまえばそれまで。
だが垣根はその先に意味を見出していこうとする。

「……お前は本当に才能の無い奴の味方なんだな。弱い奴ではなく、才能のない人間の」

「……何が言いたい」

垣根の言葉は思わせぶりで、トールを挑発するには充分だった。
そして垣根はトールの顔を見て笑う。

「ワンパターンだって言いたいんだよ。そりゃ、女のアイツに与える罰なんざ、あのくらいしかねえが工夫が足りねえだろ。……それにもしアイツの精神が快楽に堕ちたらどうすんだ? それは罰でも何でもなくなる。本人が永遠に苦しむ方法ってのが正しい罰だ」

御坂は人格と肉体を取り戻した時に頭を下げた一方通行を無視した。それは彼にとって罪を糾弾される何倍も辛い事だっただろう。
だが、トールはそれに比べて安易過ぎた。状況を良く見ず、ただ自分の思い込みで食蜂を裁いてしまった。

「……なら、他に方法はあったのか」

トールは怒りを見せながら言う。
また垣根に自分の行為を否定されたという事が無性に彼の感情を逆なでした。

「……アイツにとって何が一番苦しむ方法が何なのかなんて、本当の意味じゃ俺もわからねえ。だったらお前にはわかるのか? 精神的には二百三十万の頂点に立つあの女の思考がお前に読めるのか!?」

「安価↓2」

「さあな。俺にもわからねぇ。……でもお前のやっている事はただの自己満足だ」

「……、」

トールは何も言わない。ここは受けに徹すると判断したのだろうか。
そしてそれを感じた垣根も言葉を続ける。

「今、お前が才能なき人間に与えている『幻想殺し』だって、元をたどれば上条当麻っていう唯一無二この力を扱える一種の天才から与えられたモンだろ。……それを自分のモノだと錯覚させているのは間違いなくお前だよ。全てがお前の責任とは言わねえが、お前がその一端を担ってるのは確実。……そうだろ?」

トールはまだ口を開かない。
あるいは何を言うべきか迷っての沈黙か。
普通に考えればこんな言葉など無視してしまえばそれでいい。
だがこの場合にトールがそんな事をしてしまえば、それは負けを認めて逃げてしまうのと同意義だ。
いずれ障害となるであろう垣根にそんな事はしたくない。

「トール……俺はお前を評価してるつもりだ。それだけの行動力を持った人間が今、この世界に何人残ってる? ……でもお前はその行動力の使い道を間違えた。なぜ、その力で無能力者にチャンスを与えなかった。下手すれば上条当麻の気まぐれ一つで失いかねない力を無能力者に与えた。天才を憎み、自分を唾棄するのはわかる。だったら何で自分を犠牲にして才能の無い人間が活躍できるような道を与えない。……お前は感情的すぎるんだよ」

言うなれば心理定規の反対に存在する者。
利害だけで動く彼女と真逆に、彼は感情を先走らせる。そしてそれを自分の才能で強引に実現させている。
おそらく彼もそんな無茶苦茶な事をやめられない自分が嫌いなのだ。止めようと思っても止まらない。
わかってる。
そんな表情でトールは口を開いた。

「安価↓2」

「なんか勘違いしてないか。別に上条当麻の気分しだいで全身幻想殺しがなくなったりしないぞ、つーかあの力の維持に上条当麻はもう関係ない」

「……マジ?」

トールは垣根の質問に頷き、言葉を続けた。

「まあ他は同意せんでもないが理想論だな。それだと無能力者は能力者に殺されるぞ。確実に」

「だろうな。……俺の言った選択を選ぶには遅すぎた」

「ああ……つーか自分を犠牲にしてって何? 働きに働いて死ねと言うのか?」

今度は垣根が沈黙した。
確かにそういう意味でとられても仕方ない。
そしてトールも安い言葉を聞く気はなかった。
彼は垣根に食蜂のいる方向を示して言う。

「……なら教えてくれよ。自己満足じゃなくて、本物の自己犠牲を。今ここで食蜂を助ければお前は無数の人間を敵に回す。見せてくれよ、お前の選択を。お前はこの状況でどうするんだ? 奴隷どもを助けるのか? それとも見捨てるのか? もっともっとぶっ飛んで奴隷どもを穢す側に回るのか?」

垣根はトールの言葉に息を吐く。
彼は何かを履き違えているような気がする。
垣根の根本的何かを。
垣根はトールを少し見下すような目で言った。

「安価↓2」

≪今日はここまで。皆さんお疲れさまでした≫




「今は無理だが近いうちに必ず助ける。必ずな」

「結局はそうやって先延ばしにする。……何も出来ないヤツの常とう手段だ」

「ああ、言い返す言葉はない。……今はな」

垣根はまだ笑みを崩さない。
否定できないというよりは否定する気はない。
彼にとってそんな誤魔化しは無意味なものだった。
トールにもそれくらいはわかる。

「この祭りには少なからず第三者の利害が混じってる。俺のようなヤツは一人じゃない。……まあ楽しめ」

「皮肉にしか聞こえねえよ」

トールはその言葉にひらひらと手を振って答える。
そして去り際に立ち止まり、含みのある声で言った。

「安価↓2」

「やっぱり食蜂にはあの罰が最適だな。あいつは、ゴージャス生活送っていたあいつは自分が見くだされるのを何より嫌った。だが見ろあの顔を。今のあいつは見くだされてよろこんでいる。腰を振られる度に悦んでいる」

トールの言葉は自分の行為を正当化させるようなもの。
だが、現に食蜂はトールの言ったような状態になっている。

「……まあせいぜいあがけよ。お前じゃこの世界は変えられない。絶対にな」

トールはそう言って今度こそ立ち去る。
垣根はわずかの間、その背中を見ていたが、馬場が食蜂の元を離れ、食蜂がふらふらと仮設のテントに入っていく。
そこで垣根が一気に食蜂へと距離を詰めた。
垣根は食蜂の肩に手をおいて、呼び止める。
食蜂はそれに振り向き、垣根の顔を見ると笑った。

「あらぁ? 珍しいお客さんが来ましたねぇ……」

食蜂が目を細める。
垣根はその何かを失ったような目を持つ少女に問いかけた。

「……お客、か。まさか自分の立場がわかってない訳じゃねえよな? 第五位」

そのポジションに、第五位という地位に何も感じないのか。
そこまで堕ちてしまったのか。
垣根のそんな問いに食蜂は笑って答えた。

「安価下2」

「あはは、そうですねぇ……大丈夫ですよ。私が自分を失うなんてありえないですから。それでこれから何をするつもりなんですか?」

「……バカ野郎が」

垣根個人の願いとしては。
たとえどれだけの能力者が堕ちていってもその中でレベル5だけは、その威厳を保ってほしかった。
第五位が戦闘向きでないのはわかる。幻想殺しのせいで自分の能力が意味を成さないのもわかる。
だが、それでも負けてほしくはなかった。
そんな諦めたような目をして欲しくはなかった。

「今のお前はただの奴隷だよ。……何をするか? そんなもん聞いて、相手の顔色窺ってる時点でお前はもう負けてるんだよ」

「……そうですかねぇ」

食蜂は自身に与えられた個室へと入る。そこには冷蔵庫やトイレなど、本当に必要最低限のものしかない。食事も配給制をとっているのだろう。
まるで戦争時代に来た気分だ。いや、下手するとそれより酷いかもしれない。
そしてベッドに腰をかけると彼女は大きく息を吐いた。

「確かに否定はしませんけどぉ……戦闘力のない私が生き残るにはこれくらいしか方法がないですから。それに堕ちません。私は絶対に……」

それは信じるというよりも妄想。
堕ちたくないという思いと堕ちてしまうという予感の狭間での葛藤。
垣根はベッドに腰をかけ、食蜂に囁いた。

「安価↓2」

「ん、あのTVなにを……」

垣根は外にあるスクリーンを見る。
そしてそこに映し出される映像を見て笑った。
これは挑発。食蜂に見せなければならない。

「なるほどな。あのビデオカメラでさっきのお前の晴れ姿撮られてたみたいだぜ。……全部見とけ、それでどれだけお前の言葉が空虚かわかる」

食蜂もその言葉に、スクリーンを見た。
そこにはさっきまでの馬場との行為が映し出されている。
食蜂は頬を紅潮させ、自ら腰を振っていた。
その自分の姿に震える食蜂に垣根は問いかける。

「……どんな気持ちだ?」

「安価↓2」

「オチンポ……オチンポぉ! お願いします馬場様ぁ! 食蜂のここに、もう一度馬場様のオチンポを!」

食蜂はまるで薬物中毒者のように窓をたたき叫ぶ。
先ほどまで、自分は違うと否定した事を忘れ彼女は窓を何回も叩いた。
垣根はそんな乱れた少女を窓から引き離し、ベッドに押さえつける。

「落ち着け……叫んでも馬場は来ねえよ」

「じゃ、じゃあ……アナタでもいいから、お願い……」

食蜂は垣根の首に手を回し、彼の顔を自分の前まで持ってきた。
互いの息が届く中、食蜂の吐息が垣根の鼻を刺激する。
無論、垣根だって男だ。食蜂ほどの女に誘われて無反応と言えば嘘となる。
食蜂は垣根を強く抱きしめ、とどめをさすように言った。

「ねぇ……お願い」

わずかな沈黙が流れる。
瞳を潤ませる食蜂の頬に手を置いて、垣根は答えた。

「安価↓2」

「……いい加減に目を覚ませ! お前は常盤台の女王、心理掌握の食蜂操祈だろうが!」

垣根は食蜂の手を振り払う。
驚きを隠せない彼女に垣根は言葉を続けた。

「お前、そんな大層な呼び名を持って置いて、いざとなればそんな簡単に堕ちるのか? 全く、第五位が聞いて呆れるな……。いいか、これ以上恥をさらすな。見ているこっちが泣きたくなるんだ」

「……、」

食蜂は何も言わずに唇をかみしめた。その噛みしめる力と反比例するように垣根を拘束する力が弱まっていく。
そんな事はわかっている。わかっていても止まらない。やめられない。
そうして、最後は抵抗しようとする心も失ってしまう。
それが見えるから彼女は現実から逃れようとした。

「でも……今さらどうしろっていうのよ」

涙を浮かべ、そう嘆く食蜂に垣根は答える。

「安価↓2」

これみさきち全裸なの? 安価下

>>533 一応服着てます。そこは書いておくべきでした。すいません≫




「俺のとこに来い」

垣根は優しく言った。
だが、その言葉に食蜂は重たい色を見せる。
この国から逃れる事は不可能。
逃げようとして捕まった奴隷を食蜂は何人も見てきた。だから、諦める。

「……できるわけないわぁ」

それは当然の公算。当たり前の理論。
しかし。
垣根は笑った。

「俺にそんな常識は通用しねえよ」

食蜂がその言葉に不思議な安堵を覚えた直後。
ドアが開いた。

「あらら……お楽しみ中だったか?」

まるでチンピラのような雰囲気を漂わせる金髪の少年だった。
浜面仕上。この国の頂点に立つ者。
突然の登場に垣根は食蜂の上から身体を起こし、問いかけた。

「何の用だ? 浜面様」

明らかに皮肉を交えた一言。
お前には不釣り会いだ、と言わんばかりの言葉。
浜面はその言葉に何の感情も見せず、肩さえすくめて答えた。

「安価↓2」

「いや第二位様がここに来てるって聞いてな。会いに来たってわけだ」

「……はっ、下っ端がよくもまあほざきやがるぜ」

互いに言葉を聞き、笑みを深める。
浜面の目には垣根が一度だけ見た時には絶対に見せなかった、いや持っていなかった目を持っている。
それは言うなれば天使との勝負の中で垣根が手に入れたものに近い。

「……なるほどな。随分と過激な経験したみてえだな」

「まあな」

浜面の目はぎらついたような光を帯びる。
十月九日のように一方的にやられる事はあり得ない。
彼らの立場は今、平等だ。
それを自覚しつつ、垣根は言った。

「……『アイテム』の連中はどうした? アイツらも奴隷か?」

「安価↓2」

≪今日はここまで。皆さんお疲れ様でした≫




「さあな、この国が出来る前に行方くらませやがったからな。……知らねえな」

「クク……哀れだな。力を手に入れても女には逃げられる、か」

垣根がそう言って笑った直後。
浜面は大きく一歩踏み出すと、垣根の襟首をつかんだ。
素早く垣根の首を自分の手で掴む。これで能力は封じた。

「……どういう意味だ。今のお前なら簡単に殺せるんだぞ」

それは脅し。
能力者の時代は終わったんだという宣告でもあった。

「ダメだな。そんなんだからアイツらはお前を頼らなかったんじゃねえか?」

「……、」

浜面には垣根の言葉の意味がわからない。
そのはずだ、と確信し垣根は告げた。

「安価↓2」

「今のお前は、お前たちを虐げてきた能力者と変わらないんだよ。結局、特別な能力にすがってるだけだ」

「……そんなのお前らも同じだろうが」

浜面はわずかに垣根の首を絞める力を強めた。
その表情が怒りに染まっていく。

「お前らがそうしてきた! 秩序も無視して、お前らは俺達を人として扱わなかった。だが俺たちはお前らに復讐しなが
らもその秩序を生みだしてる。だから三千もの勢力に昇りつめたんだ!」

それは自信。それが根拠。
だが垣根はそれをあっさりと否定する。

「……永遠に続くと思った能力者の優遇は今、こうして壊れてる。お前らの天下が続く保障もどこにもねえんだよ」

「……ッ、だがお前の命は今ここで終わらせられる」

勝利を確信した言葉。
しかしまたも浜面に誤算が生じる。
食蜂操祈。
彼女が浜面に自分の体をぶつけはねのけた。

「第五位……テメエ、どういうつもりだ」

彼女にもそんな事ははっきりとしない。
それでも彼は自分を見捨てはしなかった。そんな事実とともに食蜂は言った。

「安価下2」

浜面の国は2000人だったはずだが

>>548 すいません…脳内変換お願いします≫




「もう……そんな演技はやめたら? 浜面」

「……はあ?」

その言葉に怪訝な顔をしたのは垣根だった。
浜面は食蜂を目で威圧するが、彼女は止まらない。

「私は精神系能力者のトップですよぉ? ……能力なんか使わなくたって相手の感情力を読むくらいは楽にできる訳だしぃ……まさか、誰も知らないと思ってたんですか? アナタが泣きそうな顔してる事……」

食蜂は笑う。
おそらく、これは彼女がここ一番に切ると決めていた切り札。
そしてその能力を鑑みれば、説得力も充分にある。

「……まあ大体察しはつきますよぉ? 自分の周りの人間が自分を頼ってくれないのが辛かったんですよね? だから力を手に入れて、大きな勢力と安全地帯を作って、そうすれば戻ってきてくれると思ってた。……でも、違った。だから暴走した。そうですよねぇ? 浜面」

呼び捨てにしている。
食蜂は基本的に人を呼び捨てにしない。
それをしているのには何か理由があるはずだ。
垣根は食蜂の横まで歩み寄り、そっと問いかける。

「……おい、どういう事だ?」

「安価↓2」

「この人は私が奴隷になって初めての相手だったから、私の大切なものを奪った仕返しよ。……でもやっぱり駄目ねぇ、あの時の事を思い出すと震えが止まらないわぁ」

そう言う食蜂の膝はガクガクと笑っていた。
背中を嫌な汗がつたう。
だが、これで屈辱を晴らせる。垣根がいれば浜面にだって勝てる確率は高い。
浜面もその計算に気付いているのか、笑って言った。

「……ああ、そうだな。俺はお前に復讐した。麦野と同じ超能力者っていう理由だけでそんな事をした。……確かに俺はスキルアウトやってた頃よりずっとクズ野郎になった。だが先に仕掛けたのはお前らだ。これは正当な復讐だ。死んでいったヤツらの為にも、俺はもう止まれない」

その表情が徐々に狂気に支配される。
垣根のものとはまた質の違う狂気。それは現実逃避に近かった。
何よりも、彼の持論を支えるものが弱すぎる。

「……バカ野郎が。その思考のせいで取り戻せないものがあるって何故わからない」

「だったら力づくで取り戻す。……他に方法はない」

「いいや、あるはずだ」

垣根の安易な言葉に浜面は声を荒らげた。

「じゃあ何だ!? お前にはわかるのか? ……優秀な第二位様からはさぞいい回答を得られるだろうな。……そうやって力がある、方法があるって前提で話を進めるから俺はお前らが嫌いなんだよぉぉぉぉ!!」

浜面が右手を垣根へと大きく伸ばす。
しかしそんな単純な攻撃は垣根に通用しない。
その程度の軽い、何の意味もない攻撃を悠々とかわしながら、その直前。
垣根は浜面に告げた。

「安価↓2」

「無力を嘆く事しか出来ないヤツは、例え力を得ても何もできねぇ。……今のお前を見てるとよくわかるぜ」

その呟きと同時に、浜面の拳が空を切る。
垣根は身体をくるりと回し、腹に回転蹴りをカウンターで入れた。
浜面が後ろへよろけた隙に食蜂の手を掴み翼を大きく広げ、仮設の施設を吹き飛ばす。
烈風と共に、三人の姿が外にさらされる。
周りには無数の無能力者。ここからどうなるかなど垣根が一番わかっていた。

「……飛ぶぞ、食蜂」

食蜂はその言葉にきょとんとするが、そんな事を垣根は気にしない。
一気に翼をはためかせると、空へ舞う。
とりあえず、ここは撤退。
垣根がそう判断した直後だった。

「すごいパーンチ!」

ビリビリと空気を刺激するかのような声と共に地上で莫大な衝撃が生まれる。
能力の二次現象で吹き飛んだ瓦礫は無能力者達へ確実にダメージを与えていた。
そしてそんなマネができる人間は今、数少ない。
削板軍覇。
彼は辺りをきょろきょろと見回すと、怒りと喜びを交えて言った。

「こんなふざけた祭りやる根性なしがいるかと思えば、一人でそれをぶち壊すくらい根性のある奴もいる。……まだまだ世の中捨てたもんじゃねえな」

彼の視界にはほとんどの無能力者は入っていない。
というより、彼にとって最優先事項は奴隷の解放と祭りの中止であった。
垣根も削板の横に食蜂を抱えたまま降り立つ。

「……グッドタイミングだ。ナンバーセブン」

削板は垣根の言葉に二コリと笑い、答えた。

「安価↓2」

「おう! 根性あるな! 一緒にこの祭り壊すか!」

「……提案には乗るが、意味がわからねえな」

だがそれくらいでいい。それくらいぶっ飛んでなければこんな事をしても命知らずの突貫で終わってしまう。
そして、第七位の参戦による波紋はまだ終わらない。
一部の視線は浜面の権力の象徴である巨大なビルへと向けられていた。
厳密にはその頂上。
人が一人、立っている。
その人間は何の躊躇もなく屋上から飛び降りると、綺麗に地上へ着地する。
右方のフィアンマ。
彼の周りには三十名程の護衛部隊がついている。

「……少々手違いが起きてな、予定よりは少ないが能力者二十二名、無能力者十名。そして神の右席が右方のフィアンマ。これより第七位と第二位を支援する。……己が命に替えても勝利をもぎ取れ」

その言葉が火ぶたを切る。
フィアンマの部下たちが一斉に飛びかかったかと思うと、浜面の部下もまたぶつかっていく。
今や力がないのと同意義の能力者は逃げまどい、一部の高位能力者は前線へと駆り出された。
そんな乱戦状態の中で垣根だけが異質に落ち着いている。その落ち着きは隣で垣根へ身を預ける食蜂にも不思議な安堵感を与えた。

「……全く、読まれてるから動くなって言っただろうが。相手の戦略が効率的。……どう見ても読まれてる前提で攻め込んだとしか思えねえんだよ、バカが」

「へへ……負けるとわかってて守りに行くなんてアイツもいい根性してるじゃねえか」

二人の会話はまるで負ける訳がないと思っているような雰囲気だった。
食蜂はその根拠がわからず、問いかける。

「……何で、そんなに落ち着いていられるんですかぁ?」

「安価↓2」

「俺たちが正義だからだろ」

垣根は別に正義という思想を信仰している訳ではない。
だが、正義の側に立つという事はそれだけで不思議な流れを呼び込むのもまた事実。
勝負において、これは絶対条件だ。
そしてその流れはどこまでも垣根達の背中を押す。

『ヤッホー! こちらは稀代の大うそつき、土御門元春ぜよ! ……お前ら一人として逃げられると思うなよ』

少しばかり遠くから響く拡声器の声。
それは一つの国が浜面の国へケンカを売ったという合図。戦争のはじまり。
リーダーである土御門は決して多くないパワードスーツを投入し、この戦いに参加した。
フィアンマ、垣根と削板、そして土御門。
三方面からの攻撃に耐えられる程、浜面の統率力も部下の力も高くはなかった。
勝負は一時間ほどかかったが、理想的な形で終わる。
垣根はほとんど傍観していただけだが、ほとんどの奴隷を解放、そして浜面と主要な無能力者を捕まえた。

「……おい、土御門。浜面はどうするんだ?」

「安価↓2」

「ちょいと…『尋問』をするさね。まぁ殺しはしない」

「そうか……」

これで良かったと思う。
もしこれが木原なら相当危険な実験体になっていただろう。土御門に捕まったのは不幸中の幸いである。
そして辺りを見回す土御門は一人の人間を見て、歯ぎしりした。

「……馬場、か」

「どうしたんだ?」

垣根は土御門の視界の先で捕まっている馬場を見て嫌な予感を覚える。
このまま行けば彼は殺される。そんな雰囲気を感じ取ったからだ。

「……馬場芳郎だよ。アイツには国としての恨みがあってな。浜面はまだ何とかなるが、ヤツは殺さざるをえんかもしれん」

「おいおい、何しでかしたんだ。あのバカは」

「安価↓2」

≪今日はここまで。皆さんお疲れさまでした≫




「馬場が何かしたわけじゃない。ただウチのショタコン結標がヤツに惚れているんだ」

「……何だそりゃ。心配して損した」

垣根は大きく息を吐くと言葉を続けた。

「なら馬場を結標に引き渡す前に俺に預けさせろ。報酬はこれでいい」

「やれやれ。俺は頼んでないが……結果を見ればその程度の頼みは飲んで当然、か」

土御門は呆れたように呟き、馬場の周りにいる部下に指示を出した。
するとテキパキとした動きで馬場が垣根の前に引きずられてくる。
馬場は垣根を覚えていたらしく、酷く怯えた様子で叫んだ。

「な、何をするつもりだ……ッ!」

垣根の雰囲気に気圧されて馬場はろくに声も出せない。
そんな小物でも垣根の命運を左右するのだから、人生とは何が起きるかわからない。
垣根はとりあえずその問いに答えた。

「安価↓2」

すいません。

水曜日まではお休みさせていただきます

皆さんお久しぶりです。

家の事情で少し遅れましたが再開します


それでは開始

「残念ながらお前が行くのはブタ箱じゃない。三人の女が住む家だ。これからお前はあの三人と同じ立場になり同棲して親密になってもらうぜ」

「は、はあ……?」

馬場は垣根の言葉に怪訝な表情をとる。
そもそも彼は三人というのがだれをさすのかすらわかっていない。

「な、何でこの僕がそんな事を――――あがぁ!?」

叫ぶ馬場に腹蹴りをいれ、垣根は言った。

「……いいか。お前はもはや逆らう権利なんざねえんだよ。黙って従え」

「ひ、ひぃ……」

垣根の威圧する意を込めた言葉に馬場はただ恐れることしかできなかった。





垣根はその後、浜面と会った。
もっとも彼に関して垣根は何の決定権も持たない。
だが話すことくらいはできる。

「……何の用だ、第二位。俺をバカにでもしに来たのか」

浜面はイスに拘束された状態で言った。
そこにはかつて国のリーダーだった頃の面影はない。
そんな転落の速度に驚きながら垣根は答えた。

「安価下2」

「まぁ、それもあるけどな。今どんな気分だ?」

垣根は少し心配して問いかけた。
この意図が通じるかはわからないが、浜面は垣根の想像以上に成長している。
彼をただ失うのは垣根個人の目的にマイナスの要素を与えてしまう。
たった一人の無能力者に対する垣根なりの敬意のようなものだった。
それを知ってか知らずか、浜面は愚痴を言うような調子で口を開く。

「……最悪の気分だよ。守りたいヤツを守るために力を手に入れて、でも守りたいヤツは俺を見限った。そして今度は唯一の頼みだった力すらも失う。……これじゃあ何も成長してねえんだよ。スキルアウトだった時も『アイテム』の下っ端だった頃も……同じなんだよ」

それは無力な男の慟哭に過ぎない。
だがその形を変えれば何か大きな原動力になる可能性も秘めていた。
彼は2000人の勢力を支配出来る程の実績を持っている。だからこその確信。

「……過去を引きずるつもりはない。でも俺はこれからどうすればいいんだよ。このまま死ぬのか? だったら死ぬまでにできる事はないのか?」

垣根は浜面をじっと見る。
もう垣根など彼の視界には入っていない。一人ごとを呟くような調子だった。
それでも垣根は小さく言葉を彼に投げかける。

「安価↓2」

「お前ら俺達をどう思ってるんだ。今度は落ち着いて言ってくれ」

「……落ち着け? 悪いがそんな状態じゃねえ。だが、どう思ってるかは言えるぜ」

浜面は垣根をぎろりと睨みつける。
そして強い気迫とは反対に静かな声色で言った。

「無能力者はお前らを心の底から憎んでる。特に学園都市崩壊直後、幻想殺しが手に入ってすぐの時期は酷かった。能力者をどれだけ多く奴隷にできるかが国の強さになってたくらいだからな」

浜面は話をさり気なくぼがしていた。
確かにこれを聞けば無能力者の能力者に対する感情がわかる。普通ならここで切ればいい。
だが浜面は一国のリーダー。彼の意見や言葉が確実に流れを左右する。
つまり、彼個人の感情を聞いてはいなかった。

「お前はどう思ってる。お前に同調するヤツがいたからこそここまで大きくなったはずだ。……お前個人の意見はどこにいった」

「安価↓2」

「正直、俺は能力者が羨ましかったんだよ。学園都市の歴史を見てみろ。表の者にしろ裏の者にしろ、いつだって時代を馳せたのは能力者であり、それ以外がいかに頑張ろうと決して主役になる事はなかった。だがそれがヤツらの増長を産んだ」

垣根は浜面の言葉に何の口もはさまない。
かわりに、その目は子供を見るような哀れみを帯びていた。
浜面はそれをあえて無視し、言葉を続ける。

「……だから俺たちがこの力を手に入れた時は嬉しかったよ。これで同じ、仲良くできるんだって。でも違った。奴らは俺達を『能力の効かない、理屈の通用しない化け物』と呼んだ」

徐々に浜面の言葉から覇気のようなものが消えていく。
それは彼の奥にある劣等感がさせる事だった。

「同じじゃなかったんだな、俺達と学園都市産の能力者じゃ。……奴らは『能力』と『自分』を切り離す事ができない。奴らにとって能力を否定する存在が現れるのは、能力を否定されるのは……自分自身をも否定されるのと同じ事なんだ。『自分だけの現実』の弊害……いや、もはや能力者にかけられた呪いというべきだな。それに気付かず殺しにかかる能力者達をたたきつぶしていたから滝壺たちにまで『化け物』呼ばわりされたんだ。まあその呪いのおかげで奴らは我を失い、その隙に倒す事ができたとも言えるがな」

最後の一言に彼の全てが込められているように垣根は感じた。
彼の言葉は一つ一つに確かな重みがある。おそらく無能力者で彼ほどの雰囲気を持つ人間はいないはずだ。
だからこそ、と垣根は思う。
なぜそこまでわかっていて、あと一歩気付けないのか、と。

「だから俺を含む無能力者における能力者への憎しみ、侮蔑の感情は大きい。……これを変える方法はただ一つ。能力者が一切の力を放棄し、俺らと手を取り合おうとする事だ。能力者が『能力』という暴力でしか自分を表現できない限り、学園都市に未来はない」

これが彼の原動力。
垣根が一歩届いていないと判断した力。
垣根はゆっくりと口を開いた。

「……違うな。確かに能力者にはそういう連中もいる。だがそれは無能力者だって同じなんだ。力は、能力開発やたった一人の右腕から与えられるものかもしれない。でもそれを扱うのは一人一人の意思だ。アイツらは多分、お前の力じゃなくて心を化け物と呼んだんだよ。……無意識にでもそう感じちまったんだ。……この状況でも流されずに戦ってるヤツってのはそこを理解してる。意識的かどうかは別にしてな」

心。
確かに浜面は守る事にしか頭がいっていなかったかもしれない。滝壺たちの心を見ていなかったかもしれない。
たとえどんなにつらくても、いや辛いからこそそうするべきだった。
彼は守り方を間違えたのだ。
ぽたぽたと涙がこぼれる。悔しさが彼の感情を支配する。
それでも浜面は地面に頭を叩きつけ血さえ流しながら、強く言った。

「安価↓2」

≪今日はここまで。皆さんお疲れさまでした≫




「かぁーっ、さすが超能力者様だ! 言う事が違うね! だったら今すぐ愚か者たちにその高潔な精神を教えてやれよ。まあそんな恵まれた立場からの言葉なんて届きやしないだろうがな」

浜面は最後の最後で笑った。
彼の理想は自分のものよりも無謀で滑稽に感じられたから。
だが。
垣根もまた笑っている。

「……俺は別に全ての人間がこの考えを理解できるとは思ってねえよ。だけどな。お前ならわかるはずだ。何も全員じゃない。一握りの人間がこういう思想を頭の片隅に入れるだけで状況は一変するはずなんだ。わかるだろ? 誰かを守ろうとしたお前なら」

「……、」

浜面は笑みを薄めさせた。
口惜しいのか、何なのかはわからない。
でも浜面は何かに抗うように言った。

「安価↓2」

「そうやって選ばれた者達によって平和な世を創造する訳か。めでてえめでてえ」

浜面は卑屈に笑った。
それは才能のない人間の思いを代弁するような口調。

「そんでその方法は? どうせ暴力だろ。学園都市の人間は、特に能力者はいつだって物事を能力という暴力で解決してきた。それ以外の方法を取ろうともしない。お前らさあ、能力という暴力以外で解決した事があるのかよ。相手を屈服させずにわかり合おうとした事があるのかよ」

垣根の理論の穴を問い詰める。
浜面は彼の言葉を嘲笑っていた。

「ないよな。お前らはいつだって上から目線だった! 昔も!今も!」

「……よく言うぜ。自分がどういう人間かわかっていないようだな」

垣根も笑う。
彼としては浜面の言葉は子供じみたものにすぎない。

「……十月九日。まだお前が本当に一人のチンピラだった時にお前はもう才能ある人間を倒してるじゃねえか。第四位という怪物をよ」

「……、」

偶然だ、と言い返そうとして浜面は口ごもる。
その奇跡を引き寄せられる時点で尋常の限りではない。

「お前が無能力者目線に立つ事はもう不可能なんだ。……お前はもう、屈服させる側の人間なんだよ」

浜面は歯ぎしりを大きくした。
ずっと、そこから目をそらしていた。誰にも気づかれないようにしてきた。
だが垣根が見逃すはずもない。
隠してきた一点に浜面は答えた。

「安価下2」

「俺が屈服させる側の人間だから何だ? それで今までお前たちが力で屈服させてきた……いや屈服させる以外の方法を取ろうとしなかった事実は何の変わりもしないぞ。誤魔化すんじゃねえ」

「別に誤魔化してはいないさ。それは認める。……だからお前も誤魔化すなよ。お互いにちまちました屁理屈こねるからこんな拘泥した状況に陥るんだ。今、横暴を働いているのはどう考えても無能力者。だったらこれでイーブンじゃねえのか? お前の失脚は無能力者の衰退を意味してる。……もっとも、それで能力者側が絶対に勝てるってワケでもねえ」

だから自分の身を守るのはやめようと。次に勝った方が理想とする社会をつくろう。
垣根は浜面にそう言っていた。
そしてこの議論が無意味な事は浜面にもわかる。
だからこそ、強い決心と共に答えた。

「……いいんだな。俺はお前を全力で潰すぞ。他の能力者だって容赦しねえ」

「ああ、構わない。これはそういう勝負だ。手段なんか選ぶなよ」

垣根は浜面の目をじっと見つめる。
彼の両目にはまた、憎しみに近い狂気が沸々と湧き出していた。



「……さて、と」

種は大方蒔き終えた。後はもう一つだけ知ることがある。
収穫はその後だ。

「おお、垣根!」

まだ戦場で能力者の保護にあたっていた削板を垣根は捕まえる。
そして、さり気ない調子で問いかけた。

「……上条当麻の居場所を知らないか? どうしても会いたいんだ」

「安価↓2」

≪今日はここまで。皆さんお疲れ様でした。明日は個人的な事情によりお休みします≫



「アイツはどっかの魔術組織を潰すまで俺達とは会えんし連絡もできんそうだ。だがそれが終わったらすぐに学園都市に来るそうだ。俺たちは安心してアイツを待てばいい。ここでやる事もあるしな」

「……そうか」

この場合、垣根と削板のするべき事は一致しない。
垣根は別に学園都市を守ろうとは思っていないからだ。今回はたまたま、彼と目的が一致しただけ。次の日には殺し合っている可能性だって充分にある。

「……魔術組織」

暗部という科学サイドの秘密結社のようなものがあるのだから、これ自体は不思議じゃない。
だが、その組織がどんな動きをしているのか知る必要があった。
垣根は削板と別れ、土御門に会う。
おそらくこの返答次第で垣根はすぐに動く事になる。

「……土御門。上条当麻が追っている魔術結社ってのはどんな組織だ?」

「安価↓2」

「まったくわからん。俺も学園都市の事で精一杯だにゃー」

「……ま、無理もねえか」

ここで上条当麻という不確定要素にこだわるのは愚策だろう。
天使との賭けは彼一人の動きで決定されるようなものではないのだから。

「とにかく行方が知れたら教えてくれ」

「わかった。……もっともその時にはお前は知っているだろうがな」





「……クソ、クソ!」

馬場は連れ込まれた施設の一室で何度も拳をカーペットにたたきつけた。
場を共にしていた三人の少女はそれを怯えた様子で見つめる。
いつもならここで彼女らを襲えばいいのだが、今の馬場がそんな事をすれば瞬殺されてしまう。

「おー、もう来てたのか。土御門も仕事が早いな」

垣根はそういうよどんだ空気を無視して呟いた。
その軽い様子を見せる垣根に馬場はかみつくように問いかける。

「……こんな、僕をあんな奴隷と同棲させてどうするつもりだ!」

「安価下2」

「お前にはコイツらと仲良くしてもらわなきゃ困るんだよ」

垣根の言葉を理解できる者はいない。
もしそれでも捜すなら右方のフィアンマただ一人という事になる。
だから、この四人には理解できない。
だが垣根の意図は何となくわかる。

「後は任せたぞ。お前らだって馬場と仲良くなりたいって言ってたろ」

垣根はそう言って部屋を立ち去る。
その所作はいかにも四人を信頼しているようなものだった。

(もっとも様子は監視カメラで確認させてもらうがな)

部屋を出てから垣根は誰にもわからないように笑う。
その笑みがどういう意味なのかは今はわからない。




「……アナタって私の十倍は酷い人ですよねぇ」

「かもな。自分を押し上げるお前と他人を堕とす俺じゃ、比べ物にならねえ」

垣根は部屋に戻り、コーヒーを啜る。
目の前には部屋に仕掛けられたカメラの映像を確認するためのモニターがある。
そして垣根の膝には身体を横向きにさせた食蜂が座っていた。
彼女はニヤニヤとしながら垣根の顔から一瞬たりとも視界をそらさない。

「……何だよ」

「安価↓2」

「あの子たち私の知り合いでしてね。これからどうするのか気になるんですよぉ……」

そう言って食蜂は垣根の腕を抱きしめた。
垣根のそんな安い誘惑が通用しない事くらいわかっている。
もう片方の手でコーヒーを啜りながら垣根は口を開く。

「別にお前に話すような事じゃねえ。……俺自身の為に言っておくが、そういう趣味じゃねえからな」

「違うんですか……? まあそれくらいの意思力がアナタに無いはずないですよねぇ」

食蜂はようやく垣根から視界を異動させ、モニターを見た。
部屋の四人は未だに何も話さず、ぎすぎすとした雰囲気を漂わせている。
彼女はそれを見て笑い、もう一度垣根を見つめる。
それだけではない。
今度は顔をギリギリまで近づけ、息の届くほど距離を詰めた。
そして垣根を試すように問いかける。

「……方法はあるんですかぁ? まさかこのままで終わるわけないですよねぇ?」

「安価↓2」

「とりあえず今はあいつらに任せる。それ以上の事はお前に話す気はない」

そこまで言って垣根はコーヒーカップをそっとテーブルに置く。
だが。
次の瞬間にはそのゆったりとした動作とは真逆の、人を殺しかねないような目で食蜂を睨んでいた。

「だいたい誰の許可を得てここにいるんだ快楽殺人者が」

「……何の事ですかぁ?」

「とぼけるなよ。俺が知らないとでも思ったか? 学園都市崩壊直後から奴隷になるまでにお前がしてきた事をよ」

「……、」

食蜂はその言葉を聞くと垣根から身体を離した。
そしてベッドにポンと座り込み、そのまま身を預ける。

「……人を殺すのを生業とした組織のリーダーとは思えない発言ですね」

「俺は別に好きでやってた訳じゃねえ。……仕事と割り切っただけだ。それで言いわけできるとは思ってねえが、お前よりはるかにマシだとは思うぞ?」

食蜂は身体を垣根の方へ転がし、ベッドに寝そべったままじっと見つめた。
垣根もその間を察して問いかける。

「……どうしてそんなバカげたマネをした?」

「安価↓2」

「だって、あいつらがうるさかったから。私だってしたくてした訳じゃないんですよ」

「……なるほどな。お前、相当のクズ野郎だったか」

垣根はソファから腰を上げるとベッドの前まで歩き、食蜂を見下ろす。
だが、第二位と向かい合っても食蜂は笑みを崩さない。
垣根を見上げ何かに対し笑っていた。

「垣根さぁん。私は別にアナタに殺されるなら構わないくらいの覚悟力はあるんですよ? ……そこらにはびこってるゴキブリに殺されるなら」

食蜂は囁くように言うと、垣根の手を握りベッドへ引き寄せた。
そして勝利する者の笑みを浮かべる。

「……殺してもかまいませんよぉ? どうせ私には抵抗力なんてありませんし、一瞬で終わる……」

「……、」

ここで安易に食蜂を殺せば垣根は自分の株を落とす。
その程度で憤るような人物なのか、と。格下に挑発されて乗るような人間なのか、と。
それに食蜂の思い通りに進むのも面白くない。
さらに垣根は食蜂から別の何かを感じ取っていた。

「……お前、何で俺のところに来た?」

「フフ……随分と自意識過剰ですね」

「そういう意味じゃねえよ。お前、俺を利用して何かしたかったんだろ?」

「安価↓2」

「そうじゃありません。ただ身の程知らずに私をけがした劣等種の惨めな姿を、あなたという優良種と共に見たかったんですよ」

食蜂はそう言ってモニターを指差す。
確かに大半の無能力者は馬場のように自分一人の事しか考えられない愚かな人間だ。
だが、それで食蜂が優れているという証明にはならない。

「その後二人でこの国を乗っ取って再び能力者による統制世界を作りましょう。あんな連中と共存なんてやっぱり無理です」

「……そうか」

元々、無能力者を見下していた上に奴隷扱いをされては当然の結果と言える。
だから垣根も否定する気はなかった。
食蜂はそんな垣根の心理を読み取ってもなお、自分の側に引き込もうとする。

「……ダメ、ですか? せめてアナタに私を綺麗にして欲しいかったんですけど……」

腕を垣根の首に回す。
彼女はまだ垣根を試していた。
自分と釣り合う人間かどうかを。



垣根目線でどうする? 安価↓2(行動or台詞)

≪今日はここまで。皆さんお疲れさまでした≫




「あーわかったわかった」

垣根はそう言って食蜂の頬に手を置く。
その様子にほくそ笑んだ彼女だが、笑っていられたのは一瞬だけだ。
垣根が『未元物質』を彼女の体内に送り込むと、彼女は呆気なく意識を失う。

「……さて、と」

垣根は黒美を呼ぶとそのまま彼女を地下牢へと運ばせた。




地下牢と言っても土御門の所有物である。
つまり食蜂の管理を土御門に一任したという事だ。

「……垣根さん? 冗談ですよね?」

食蜂の震えた声に垣根は笑って言った。

「はっきり言おう。お前は馬場以上にブタ箱行きがふさわしい雌豚だ」

「……そんな」

垣根は振り向き、地下室を黒美と共に後にする。
最後まで聞こえた食蜂の叫び声を無視して部屋に戻る。
すると、唐突に黒美が力なく垣根に身を預けてきた。

「……どうした?」

「安価↓2」

「彼女の気持ちが分かってしまう私は……帝督様にとって目障りな人間ですか?」

黒美もまた、奴隷として扱われた事がある。
だからこそ人間を、特に男性をそういうものだと決めつけてしまう。

「……もちろん帝督様は例外に当たるでしょうし、他にもまともな方がいる事も承知しています。……ですが、もし帝督様にとって私が少しでも邪魔なのでしたら……殺してください」

黒美はこの世界では完全にイレギュラーだ。
しかも白井黒子というオリジナルにその存在が知れれば、ただではすまない。
だから黒美には垣根しかいない。彼に身捨てられれば彼女は滅びるしかないのだ。

「……帝督様、私は一体どうすれば……」

黒美は垣根の体にしがみつき、震える。
垣根の一言で彼女はどうとでもなってしまうだろう。

「黒美……」

垣根はそんな弱く細い少女の頭に手をおいて、そっと囁いた。

「安価下2」

「お前はこれからも俺の相棒だ。もし間違っちまったら殴ってでも修正してやるよ」

「帝督様……」

垣根はそう言って笑う。
黒美がそういう感情を持ってしまうのは無理のない事だ。それをなくさせようとは思わない。
むしろ、そんな人間もいると認識した方が物事に対して懐疑的になれる。

「さあ共に監視しようぜ」

「は、はい……」

二人は同じソファでとなり合いモニターに目を向けた。





「……ふむ、ここの紅茶は悪くない。第七位は有能だったが紅茶が熱すぎた」

フィアンマは悠長にそんな事を呟く。
目の前では土御門がサングラスの中から、彼を睨んでいた。
フィアンマはカップをテーブルにそっと置く。

「そう不思議そうに見ないでくれ。……俺様なりの事情があるのだ」

「……第三次世界大戦直後に姿を消したという情報が入っている。だからお前がここに居たとしてもまあ納得はできる。……だが、どうしてお前は右腕を持っている? お前の右腕はそんな簡単に代替のきく代物じゃなかったはずだ」

「……こちらにも事情はある。それに関しては答えられん」

「だと思ったよ。……だとすればお前の目的は何だ? この世界をもう一度救済したいのか?」

フィアンマは土御門の気早な態度とは対照的にゆったりと笑って答えた。

「安価↓2」

「そんなつもりは毛頭ない。ただ無能力者による一方的支配をどうにかしたいだけだ」

「……納得できないな」

土御門は当然ながら、怪訝な顔をする。
フィアンマはその表情に少し呆れながら言葉を続けた。

「信頼できなければ四六時中銃を突きつけていればいいだろう。……もっともその銃が俺様に通用するかはわからんが」

「……、」

土御門は反論できない。
本物の怪物の持つ力がどれだけ理不尽で絶対的かを知っているからだ。
だから彼は悠々と立ち去るフィアンマをじっと見ている事しかできなかった。





「……すまんな、心理定規。お前をあまり一人にさせたくはなかったのだが」

「別にいいわ。それにアナタには充分助けられてるし」

心理定規はソファに身を預けて、思わせぶりにそう言った。
フィアンマは一瞬でその意図を察する。
もう暗示は解けている、というサインだった。

「……そうか」

「ええ、それでも私が一カ月も気づかないんだから、アナタって天才よね」

「ふむ、暗示は別に得意としている訳ではないのだが……」

フィアンマは冗談交じりにそう呟いて、ため息をつく。
彼女が精神系の能力者と知った時点でこうなる事は予測していた。それでもあえてそれ以上の事はしなかったのは、彼女は本当の意味で立ち直るべきだと思ったからだ。

「それでお前はどうする? 腹の子を産んだ後、何か当てでもあるのか?」

「安価↓2」

「残念ながらないわね。とにかく生き残る事を考えないと」

「まあ、そうだろうな。俺様も可能な限りは協力する。……そうだな、第二位にも言ってみるだけ言っておこうか。……ヤツも何だかんだいって使える男だからな」

その言葉に心理定規は思わず眉をひそめる。

「……アナタ、何であの人と?」

「何、お前が気にするほどの事じゃない。ちょっとした腐れ縁のようなものだ」

この時、心理定規はフィアンマの浮かべた笑みの意味に気付く事はできなかった。





フィアンマは垣根の部屋へノックもせずに入ると、傲岸な態度でソファに座りこんだ。
その挙動に垣根は呆れるだけだが、黒美は露骨に怯えて垣根に抱きつく。

「……大丈夫だ。アイツ程度なら俺でも何とかなる」

垣根は顔さえ青ざめさせる黒美を片腕で抱きしめ、安心させながらフィアンマを見た。
フィアンマはそのその様子を滑稽そうに見つめながら口を開く。

「随分と人情家になったものだ。……そんな事でいざという時に迷わないか心配だよ」

「テメエに心配されるような事はねえよ。……それより何の用だ」

「何、少々手を貸してほしくてな」

そこで、フィアンマはあえて心理定規の名を出さなかった。
協力といえば心理定規しか思いつかない垣根は意表をつかれ、不審そうに表情を歪める。

「……何だ、言いたい事があるならはっきり言え」

気味の悪い程、もったいぶるフィアンマは垣根の言葉と同時にようやく言った。

「安価↓2」

「その作業が終わり次第、心理定規の今後の生活計画を考えてくれ」

「……そんなものお前がやればいいだろうが」

「俺様はそういうのには向かん。何しろ肉体そのものが人間のものと乖離しているのだからな」

フィアンマはソファから腰を上げる。どうやら垣根から回答をもらうつもりはないらしい。
垣根もそんなフィアンマにため息をつきながら、拒否はしない。
これ以上、この場で拘泥しては黒美の方が危ないからだ。

「……大丈夫か、黒美」

「は、はい……」

ただそれでもフィアンマが去った後の黒美は疲れ切った様子で垣根に身を預けていた。




「……垣根」

翌朝、まだ対して変化のないモニターを見つめていると土御門が少し面倒そうな様子で部屋を訪れた。
彼は頭をガシガシと掻きながら垣根に言う。

「第五位の事なんだが……」

「? おい、まだ一日しか経ってないぞ。アイツがどうかしたのか?」

「安価↓2」

≪今日はここまで。お疲れさまでした≫




「……動かなくなった」

「は?」

垣根はあきれた。
大方、一人で狭い空間に入るというストレスに耐えられなくなったのだろう。だが、いくらなんでも精神系能力者の頂点に立つ者がこの体たらくでは情けない。

「面倒だな。こっちはどうすんだよ」

「あ、あの……こちらは私が見ておきます。何かあったらお知らせしますの」

「……そうか。すまねえ」




垣根は黒美へ一時的に馬場達の動向を監視させ、食蜂のいる地下牢獄の前に立った。
そこではベッドに力なく身を預ける食蜂が死人のような目で垣根を見つめる。

「……おい、まだ生きてるか? 食蜂」

「……、」

食蜂は垣根の言葉に顔をわずかに上げる。
表情は変わらず力の無いままだったが、それでも食蜂は言った。

「安価↓2」

「私は優れた存在……能力を持たない下等生物とは違うのよ」

ぶつぶつと言葉を連ねていく食蜂を垣根は呆れたように見つめる。
土御門は冷淡な目をした垣根に言葉をさりげなく促した。

「……どうするべきか」

「おいおい。アイツをここにぶち込んだのはお前だろう。こっちが聞きたいくらいだ」

彼女は能力的に価値がある分、扱いに困る。
もし何かの拍子に無能力者が力を失えば、彼女の能力で鎮静化を図る事だってできるのだ。
そういう役割が考えられるだけに今すぐ切り捨てるのはもったいない。

「……これはお前の問題だ、垣根。処理はお前に任せる」

垣根は面倒くさそうにため息をついて、その言葉に答えた。

「安価下2」


「こんな雌豚裸にひんむいて家畜のブタと同じ扱いすればいいんだ。……俺は忙しいんだ、あばよ」

「……ちょっと待て」

ここで垣根を止めたのは土御門だった。
彼は重い雰囲気で一拍置くと、口を開く。

「俺にそんな事ができると思うか? 俺が今日まで生き残れたのは信頼というものを集められたからだ。……いくらソイツがクソ野郎でも非人道的な行いは出来ない」

「……だろうな。まあそう言うと思ってたさ」

垣根は笑った。
直後。
世界が一時的に灰色に染まり、色づくのは垣根だけとなる。
そしてその空間にいつの間にか現れていた歪な光を放つ天使は垣根を一瞬だけ愛おしそうに見つめた。

「やはり君と話せないというのは暇だな。……この長い長いゲームが終わったら一生手元に置く事にしようか」

「うるせえ。さっさと条件追加しろ。……全部でそろわねえと意味ねえだろうが」

「そうか、そうだな。……食蜂操祈か。少々面倒だが……」

天使はどうでもいい物を見るような目で食蜂を一瞥すると、ゆったりと告げる。

「安価↓2」

「彼女を馬場に絶対服従のメイドにする。これでいいだろう」

「……どう考えても馬場にかかりすぎだろ」

「ところがそうでもない。……彼女には人に従うという考え方も与えるべきだ。それにこれが成功すれば馬場の欲求も彼女へ行く。つまりあの三人との和解もスムーズに行くとは思わないかい?」

確かに天使の言っている事は事実だ。
人間、逃げ場やよりどころがあれば自然と余裕が出てくる。そうなれば妥協という形だとしても他三つの和解の道も見えてくるというものだ。
垣根としてはこの天使に気を使われたという事実が残るため、気に食わないが今さら条件が変わるはずもない。

「……わかった。今回はそれで終わりだな」

「ああ、また次の条件時に現れるとしよう。……もっとも、私と話したい人間はもう一人いるようだが」

垣根は怪訝な顔をしてドアの方を振り向いた。
そこには赤く色づく男。
右方のフィアンマ。
彼もまた何らかの理由で天使に魅入られ、永遠に等しい世界に身を投じている。
天使はフィアンマを見ると、目を細め言った。

「フィアンマ……どうかしたのかい?」

「安価↓2」

「その条件は却下だ」

フィアンマの言葉に真っ先に反応したのは垣根だった。
彼は怪訝な顔でフィアンマに反論する。

「おいおい。これは俺と天使の賭け。……お前は関係ないだろうが」

「……、」

フィアンマは何も言わずに垣根から顔をそらし、天使を睨みつけた。
天使は何が何だかという表情でとぼけるが、彼の心理を読み取っているようにも見える。
天使はそんな調子で、まるで子供をあやしつけるような調子でフィアンマに問いかけた。

「フィアンマ。垣根帝督が困っている。理由があるならはっきり言ったらどうだ?」

フィアンマは天使に噛みつかんばかりの調子で一歩踏み出すと、言った。

「安価↓2」

「もし馬場が食蜂を妊娠させたとしてその子をおろせなどとほざいたらどうする? 許せんだろ。だから馬場が食蜂を妊娠させた場合に限り責任を取らせて結婚させ対等な関係にさせるのだ。もちろん妊娠しなければ絶対服従のメイドのままでいい」

「ふむ……どうだ、垣根帝督」

天使の言葉に垣根は肩をすくめた。

「どうも何も……今の馬場を縛る鎖が出来るならそれでいいさ」

天使はその言葉に笑って頷くと姿を消す。
時間が動きだすと同時にフィアンマも消えた事に驚く垣根を土御門が不審そうに見つめていた。



「……やれやれ。どういうつもりだ?」

土御門に保留、とだけ伝え垣根は地下を後にした。
廊下を適当に歩いているとフィアンマが思わせぶりに通ったので、誘いに乗り声をかける。

「……フィアンマ。どうしてあそこで邪魔をした。食蜂が特別ってワケでもねえだろう?」

その問いにフィアンマは笑う。
垣根をあざ笑ったかのようなその笑みを崩さずに、しかしどこか重みをもって彼は言った。

「安価↓2」

≪今日はここまで。皆さんお疲れ様でした。……馬場が優遇されすぎぃ!≫




「妊娠した子には罪はない。死ぬべきではないというだけだ」

「……なるほど。お前らしいと言えばそうなっちまうのか」

垣根はわずかに考え込む。
フィアンマという人間は掴みどころがない。
白井黒子のクローンを大量生産して何人もの人間を苦しませるかと思えば、たった一人の人間をできる限り守ろうとする。
垣根には彼の行動原理が理解できなかった。
もっとも、そこまで必死に理解しようとも思っていないのだが。
そんな思考をする自分自身に、呆れた直後。

「帝督様……馬場達に動きがありましたの!」

黒美が焦りを見せながらテレポートしてきた。
垣根は黒美を少し落ち着かせてから問いかける。

「どうした……?」

「安価↓2」

「その……三人が馬場と一緒にお風呂に入ってますの。みんな何も隠さず、馬場に体を密着させております」

黒美は戸惑ったように一拍置いた。

「しかし、これはどういう事なのでしょう? 精神系能力者なら馬場の力で無効化されるはずですし……彼女たちの心にいったいどのような変化が?」

垣根もさすがに驚いたのか、わずかに考え込む。
そして一つ一つ確かめるように問いかけた。

「他におかしな動きは?」

「ありませんの。一瞬も目を離さず見ていましたが、怪しい動きや和解したような会話も……」

こうなると、人の心の話だけに垣根の脳だけでは推測しきれない。
それを理解しても不安なのか黒美は問いかける。

「あの、どうするべきでしょうか……?」

「安価下2」

「……風呂に入って三人にどういう事か聞いて来い」

「は、はいですの!」

黒美は垣根の言葉を聞くと素早くテレポートしてその場から消える。
そして壁に背を預け天井を向いた垣根をフィアンマがニヤニヤとみていた。

「……何だよ」

「いや、お前がそんなに人間的だとは思わなかったという話しだ。……あの少女がお気に入りなのか?」

「違えよ。あいつは……相棒だ」

わずかに間をおいて答える垣根。
しかしそれではフィアンマのペースだと思い、話しをすりかえる。

「……お前こそどうなんだ。あの天使とお前の関係性ってのはなんだ?」

「安価↓2」

「ぜひとも倒したい相手だ。それにしても人間とはわからんものだな。相手が自分に酷い事をした者でもそんな対応ができるのだから」

「……かもしれねえな。まあ、俺は自分自身をまだ捜してる最中だし、理解しようとも思ってねえけど」

フィアンマは垣根の言葉にわずかに感嘆の声を洩らした。
だが、そうしたかと思うとフィアンマは急に考え込む。
そして、何かに気付いたように言った。

「……もし、仮にこう思わせる事が天使の狙いだったなら? 俺様とお前が人間を辟易し、自分だけを見るように誘導させる事が目的ならどうなる?」

「それはねえな。アレがそんなに短絡的なハズねえだろ」

「いや、違う。……今は何もないが、この先に俺様とお前すら超えられない試練があるとすれば――――」

フィアンマの懸念するような不安を与える言葉はそこで途切れる。
黒美がテレポートし、戻ってきたからだ。
フィアンマは彼女の姿を見ると、肩をすくめ言葉を止める。
それに入れ替わるように黒美が言った。

「安価↓2」

「彼女達は馬場に愛情を感じているようです。さらに詳しく聞こうと思いますので私も彼女たちと同じようにお風呂へ入ります。聞き逃しのないようにお風呂で監視してください、では」

黒美はそう言うと素早くテレポートし、往復する。
垣根はそれを少し不安そうに見送り、自室へと戻った。





「……何でお前もいるんだ」

「何、俺様が創り上げたクローンがどこまで有能か見たくなったのだよ。何か見つければ報告する。それは約束しよう」

フィアンマは含みのある口調でそう言って、紅茶を啜る。
そしてその味に満足したのかゆったりとモニターを見つめた。
少しの間、沈黙が流れる。

「……おい、」

その数分間の沈黙を破ったのはフィアンマだった。
垣根は怪訝な顔で彼を見返す。
しかしそんな垣根を無視してフィアンマがモニターをさして言った。

「安価↓2」

≪今日はここまで。皆さんお疲れ様でした≫




「馬場とかいうヤツが勃起している。……しかも女どもはそれを見て嬉しそうだ」

フィアンマが言うとおり、三人は馬場の下をちらちらとみては頬を赤らめる。
黒美は慣れている所為か、ほとんど気にもせず身体を洗っているがさすがに雰囲気には反応しているようだ。

「……あー、アイツって女堕とす魔力でも持ってるのか?」

「その類の術式は感知できんが」

「そういう事じゃねえよ……」

垣根は真面目に返答したフィアンマに呆れながらもモニターを見つめる。
ここからは、黒美の仕事だ。





「……、」

黒美はこの状況を危惧していた。
このまま行けばこの雰囲気に自分が飲まれるという予感があったからだ。
しかし垣根の為にもここで負けるわけにはいかない。
徐々にではあるが三人と馬場の距離が縮まっている。
止めないという事は垣根はまだ自分に判断をゆだねているという事だ。
つまりこの状況で四人を上手く和解に持ち込めば、垣根も自分を認めてくれるはず。




黒美目線でどうする?

すいません 安価↓2です

今度こそお疲れ様でした

とりあえず皆様の意見を尊重し、安価取得は連続二回まで
三回目は安価↓とさせてもらいます



それでは開始

(……馬場たちと距離を縮めて、本心を探りますの。いざとなれば帝督様が手を――)

そんな算段をつけて黒美は四人の輪に加わる。
ただ互いに背中を流しあう間も四人の何とも言えない雰囲気は消えなかった。
その後、湯船に入り、落ち着いたタイミングを見計らい黒美は湾内にそっと近寄る。

「……どうかしましたか?」

きょとんとした様子で首をかしげる湾内。
そんな雰囲気に溶け込んだ彼女に黒実は誰にも聞こえない声で囁いた。

「なぜ、馬場へそんな態度をとりますの? ……あなたがたにとっては仇にひとしい相手でしょうに」

「安価↓2」

「気付いたんです。私達がこの人に愛情を感じているって。そしてこの人もまた愛情を求めて生きている人なんだって。……でもそれは恋愛感情とは違う。例えるならそう……母性愛」

「母性……愛?」

黒美には本質的に理解できない言葉だった。
頭に上手く入らない言葉だが、それでも黒美は彼女の言葉に耳を傾ける。

「だから母親と子のように心も身体も裸になって触れ合おうと思ったんです。それがお互いのためだと思って……////」

そう言いながらもやはり恥じらいがあるのか湾内は頬を赤らめた。
それを見つめる黒美の目はますます動揺を強める。こうなると、今まで人と感情をぶつけた事のない彼女はこういう話しには疎い。
黒美は助けを求めるように隠しカメラに視線を移した。





「……垣根よ。何やら困ってるようだが?」

「そんな事はわかってる」

元々、マイクから音を拾えている垣根はわずかな音からでも状況を傍受できる。
状況はこのままなら垣根の理想通り進むだろう。
だがその過程で馬場は調子に乗り、暴走する可能性もある。
彼は食蜂をしもべにできる権利を知らず知らずのうちに獲得しているのだから、その辺りの利も餌に使えるだろう。
フィアンマはそんな思考にふけっている垣根にいたずらっぽく問いかけた。

「どうする……?」

「安価↓2」

「まあ、これはこれでいいんじゃねえか。暴走したら止めればいいだけだ。そうならないよう忠告しておくが」

普通なら暴走なんてあり得ない。
だが、垣根と天使の勝負にそんな安易なものが入り込んではならないのだ。
だからこそ垣根は慎重になる。
しばらくすると五人は入浴を終え、黒美が逃げるように部屋を後にしていた。
テレポートで戻ってきた彼女はふらふらと疲れたように歩き、垣根に身を預ける。
近くに生みの親であるフィアンマがいる事にも気付かないところを見ると、よほど一連の出来事が理解不能だったらしい。

「……、」

黒美は垣根の膝にの身体をちょこんと座らせると、そのまま彼の胸に顔をうずめた。
垣根もそれを拒絶するような事はしない。ただ黙ってその小さな背中を撫でる。
しばらくその温かさに浸っていた黒美はすっと顔を上げると、呟いた。

「安価↓2」

「訳がわかりませんでした。あれはいったい何なのでしょう」

「……そうだな、あえて言うなら自己暗示、か?」

垣根は別に他人の心理を読める訳ではない。
それでも推測はできる。状況と立場からその人間が出すであろう最適解を求める事くらいはできる。

「アイツらは屈辱を受けた馬場に優しくする事で自分の尊厳とかプライドみたいなものを守ろうとしているのかもしれねえ。……恋は一種の催眠状態とも言うしな。まあ、それだけで説明しきれる訳がねえんだが、こういう部分はあるはずだ」

「……自己、暗示ですか」

黒美はポツリと呟く。
その言葉は彼女にとって少し残酷なものだったかもしれない。
今、自分が垣根を慕っているのは偽物のものであり、自分だけの為という可能性を示されたのだ。これでは彼女のよりどころがなくなってしまう。

「……それでは私も彼女達と一緒という事なんですの?」

「安価↓2」

≪今日はここまで。皆さんお疲れ様でした≫




「そうかもしれない、違うかもしれない。その判断をお前に任せる、だから今は監視していようぜ、それを確かめる為に」

「はいですの……」

そう答えながらも黒美はやはり不安そうだった。
もしこれがその通りなら、垣根と一緒にいられる気がしない。
そう思うと、異様な不安が自分を襲ってくるからだ。






(……ふむ)

馬場は横柄な態度でソファに腰をかけていたが、さすがに気付いた。
いくらなんでも態度が変わり過ぎだ、と。
精神系能力者なら自分に触れた段階で洗脳が解けるはず。
だとすれば何か狙いがあるのか。
そんな疑いを持って馬場は婚后に問いかけた。

「いやー、気持ちよかったよ。しかしどうして急にこんな事を?」

「安価↓2」

「まあまあ。……そんな事はどうでもいいじゃないですの――――ええ――――どうでも、ね?」

「……ッ!?」

婚后の声は確実に何かを含んでいた。
馬場の背中にイヤなものが走り、一気に不安が広がる。
このままでは致命的な何かが起きてしまうような悪寒。
よく見れば三人ともこちらを見る目がどこかおかしかった。

「……なんだ。その目は何だ!」

馬場はさっきまでの優位も忘れて叫ぶ。
彼女たちからは殺気は感じられない。威圧感もない。
ただ、確実に三人は結託している。

「お前ら……何を考えている!?」

馬場の悲痛な声に婚后は笑って答えた。

「安価下2」

≪さばけるけどその後がきつそうなので安価↓。それと指定したのはあくまで婚后だけなので…≫




「あなたが私達にしてきた事を今度は私達からしてあげる、というだけの事ですわ」

そう言う婚后の笑みはどこまでも黒かった。
その奥に何があるかなんて馬場に読み切れるはずがない。
彼は今まで、自分が有利になるように安全な手を打ってきただけの彼は本質的な意味で人の思考を知らない。
その証拠を示すかのように、一瞬だけ間を開けて婚后は馬場ではなく天井を見上げる。
そこには垣根の仕掛けた監視カメラ。
そして、彼女は別の誰かへ聞かせ、見せつけるように言った。

「……あなたが悪いんですよ? 普通なら私は変わらない学生でいられたのに――――」





「……思ったよりやるなあ、アイツ」

垣根はカメラへ目線を向ける婚后を見て、そう呟いた。
しかし彼の表情に焦りや戸惑いの類はない。というか、彼女程度がいくら反抗しても垣根は揺るがない。
それでもカメラに気付かれた、というのは少々意外だった。しかもその上で自分の裸まで見せる、という行為は彼女らが覚悟を決めたという事を示している。

「よかったな、黒美。お前はアイツらよりずっといい奴だぞ。……人間らしさもあるしな」

垣根は黒美の頭を撫で、安心させるようにそう言った。
黒美は垣根が大丈夫だ、と言外に言っているのがわかっていても不安になる。そうなりながらこの程度の行為でその不安が消えてしまうのだから質が悪い。

「……その、あの――」

黒美はそうやって薄れる思考を必死に動かしながら言葉を続けようとする。
だが、続かない。どこかで止まってしまう。

「どうした?」

垣根に問いかけられて、黒美はようやく先へと会話を進めた。

「安価↓2」

≪今日はここまで。皆さんお疲れ様でした≫



「……彼女達の目的は何ですの?」

「そうだな……単純に言えば復讐で終わらせられるし、それが自然だ。だが俺はもうちょっと面白い展開を期待してるんだがな」

その言葉に首を傾げる黒美にペットのような可愛らしさを覚えながら垣根は言葉を続ける。

「例えば後に誰かがいて、ソイツが国を乗っ取る為に波を起こそうとしてる、とかな。……何かするには準備が必要。その猶予は今の状況なら、ある程度あった方がいい。……ま、ソイツが誰なのか知らないし、いるとも限らねえけどな」

「……なぜ俺様を見る」

フィアンマは呆れて垣根の視線に答えた。
確かに、彼が本気を出せば最低でもこの国の均衡は崩れる。
前の世界で一大企業を生み出した事と、反乱の際の手際でそれは証明されていた。
フィアンマという男は人の上に立つべくして立っている。

「で? お前はどう思うんだよ。……この先どうするべきだ?」

垣根はその可能性が低いとわかっていて、あえて皮肉交じりに問いかけた。
彼はまだこの国に来て日が浅い。そんな事をする態勢はさすがに整っていないだろう。
そこまで読んでいて、問いかけるのは彼の思考を見て見たいから。
フィアンマは笑って答えた。

「安価↓2」

「復讐とか打算の上辺だけで仲良くさせても駄目だ。そこを解決しなければ。……そもそもなぜあの娘らが馬場に媚びる事
で国を乗っ取る波の一端になる。理由を言え」

「……たとえば今、この国で反乱が起きてもすぐに鎮圧されちまう。その理由は土御門が完璧な防護体制を作ってるから
だ。浜面の国を倒し、領土と武器、そしてその他の資源を手に入れたアイツは徹底して足固めに動いている。これじゃあ、
俺でも多分、失敗するだろうな。……でも、土御門の意識が他に行けば?」

フィアンマはそこで眉をひそめた。
確かに土御門以上の人間がいるとすれば、それこそリーダークラス。
だとすれば彼の意識のないところからこの国に切りこめば、間違いなく隙が生まれる。
確かに根拠はあった。だが、動機がない。だからこれは仮説で止まってしまう。

「……お前の理論は間違ってはいない。今、そういう事をするならあの四人が一番扱いやすいからな。しかしその確率は
極めて低いぞ?」

「懸念の話をしているだけだ。俺もあり得ねえとは思うよ。……九割九分な」





「……お前らぁ」

その時、馬場はすでに冷静に思考していた。
彼女らは自分に能力を使う事ができない。つまり、勝つ手段がないのだ。

「わかっているのかい? そんな事をしてもボクには勝てない」

馬場は悠然と言う。
彼女らの復讐が成功などするはずがない、と。
しかし婚后はそれに笑って答えた。

「安価下2」

「そうかもしれません。でも意地くらい張ったっていいでしょう」

婚后はそう言うと、もう一度チラリと天井を見て腰をあげる。
ゆったりとした挙措でソファに座った彼女は明らかに馬場を誘っていた。
その一見、相手を憎む感情を押し殺すかのような動作の中で彼女はクスリとほくそ笑む。

(それに復讐なんてバカなマネを考えてるのは私だけですわ。湾内さん達のは心からの接近なのに……愚かな男)

これで馬場は勝手に湾内と泡浮を疑いだす。
彼は元々、その場の勢いだけで判断してしまうだけにこういう誘導は簡単だ。
しかしおそらく、上手くはいかない。
カメラの向こうの人間はそれに気付いているはずだから。




「……俺様は戻るぞ。少し所要があってな」

「所要……? おいおい、お前は暇人だろ」

唐突に部屋からフィアンマが去ろうとする。
もし彼が協力する気なら裏で何かするつもりなのだろうか。
それとも彼個人として別の狙いがあるのかはわからない。
だが、そんな垣根の懸念を無視してフィアンマは言った。

「安価↓2」

やけに遅かったけど何かあったのか

安価なら、
婚后を馬場から引き離す。おそらく復讐を考えてるのはあのガキだけだからな

>>764一回文が吹き飛んで…すいません≫




「婚后を馬場から引き離す。おそらく復讐を考えているのはあのガキだけだからな」

フィアンマは去り際にそう呟くと部屋を後にする。
廊下を歩きながらも彼は笑った。
これでようやく天使へ反撃できる、と。

(フフ……垣根帝督と俺様を一気に手籠めにするつもりだったのだろうが、そうはいかん。永遠に後悔させてやる、エイワス)

あの天使はどの世界にも存在するし、どの世界にも存在しない。言うなら、世界という枠そのものからはみ出た存在。だからこそ一つの世界に足をつける必要はない。
だが、それ故に全ての世界で完全な勝利を得る事ができるとは限らないのだ。
そんな事を考えながら足早に部屋の前に来ると、ちょうど婚后が出てきたところだった。
彼女はフィアンマを見ると、とぼけたようにほほ笑む。

「あら、フィアンマさん。てっきり垣根さんと一緒かと思いましたが……」

「茶番は好きではない。俺様は早急な解決を望んでいる」

「フフ……」

婚后は笑った。
そこには常盤台のお嬢様の面影はない。ただ、一人の悪女が佇むだけ。
彼女はフィアンマに歩みよると、囁いた。

「安価↓2」


「馬場に復讐しようとして何が悪いんですか? それが普通の女の子の感情ですわ。なのにあの子たちったら馬場の事が好きになったなんて世迷言を口にして、おかしいとは思いませんか?」

「ふむ……俺様からすればお前もおかしいがな。普通の女とやらは復讐しない、とは思うぞ?」

婚后は今、復讐しか頭にないのかもしれない。
全ての行動がその為と考えてしまう。
しかしこれではダメだ。復讐を成し遂げてしまえば、彼女は異常な虚無感に襲われるだろう。

「……だから何ですの。私には関係ありませんわ」

それを知ってか知らずか……いや、おそらく知らないのだろう。彼女にはそういう経験がない。
ただフィアンマは知っている。それがどんなに無意味かを。
その後が辛い。自分を埋めるためにまた同じような事をする。そうしてまるで麻薬のように無限に繰り返すのだ。
だが彼女はブレーキのかけ方を知らない。だから堕ちてしまう。

「あなたに何がわかりますの? あなたは別の国で悠々とその力を誇示していた。……確かに私達にも責任はあります。ですが、それで終わらせる訳、できるわけ……ないじゃありませんの」

彼女の両目がわずかに潤みを帯びる。
今まで必死に抑え込んできた何かが婚后の中で溢れてしまった。
フィアンマはその言葉に答えるべく、ゆっくり口を開く。

「安価↓2」

≪今日はここまで。皆さんお疲れさまでした≫




「お前たちが今まで何人の無能力者を黙殺していたか知ってるか。その数何と百万だ。その者達はお前らと同等、いやそれ以上の苦しみを受けてきた。その中には子供だっでいた。あすなろ園の子供たちなどがな。想像してみろ。妊娠もできないほど未成熟な身体を能力という凶器で欲望のまま蹂躙された苦痛を」

炎で焼き尽くす。
水でおぼれさせる。
風で吹き飛ばす。
電撃で感電させる。
そのほかにも特殊なものを考えれば、その方法は無数に思いつく。
確かに婚后は何人かの無能力者を見捨ててきた。というか常盤台のほとんどの学生がそういうどっちつかずの態度だった。
明確に自分の意思で行動していたのは御坂と食蜂、そして白井黒子くらいだろう。
しかし、婚后はそんなものを歯牙にもかけず強く言った。

「だから何ですの? 無能力者の人たちはその後、私達への復讐を開始しました。……ならどちらかが滅びるその瞬間まで戦い続ける……そらくらいの覚悟は必要ですわ。それとも他に方法がありまして?」

「安価↓2」

「案外食蜂の言ってたのも普通の反応だったかもしれんな。……ヤツも出して『更生』させるとしよう。お前たちには実際、そこまでの覚悟などないだろう? だからこそあの時の醜態がある」

「……何を言っていますの。私は決意しました」

フィアンマは婚后の短絡的な言葉に呆れた。
彼女には先を見る、という点が致命的に足りていない。

「そんな言葉は誰にでも言える。……だがな、人間が譲れない一点を全力で示す時に言葉などは必要ない。ただ行動だけでそれを周りに知らしめる。それができるのが……本当に強い人間だ」

フィアンマを負かしたあの少年はそうだった。
最後の最後まで自分の信念や思想を貫き、敵だった自分に何の躊躇いもなく手を差し伸べたあの少年は。
確かにあれだけ強くなれ、とまでフィアンマは言わない。だが、覚悟は必要だ。どんな危機に瀕しても、それだけはやり通すという気概は必要なのだ。
婚后からはそれが感じられなかった。

「奴隷解放というのはな。一部の覚悟を持った人間が、便乗するだけの人間を焚きつけておこすものだ。……お前は自分の意思で行動しているようで、状況に流されているだけだ」

「……、」

浜面という無能力者が支配する国が滅んだ。
それは能力者にとっては嬉しい情報なのかもしれない。いや、そうに違いない。
だから婚后の思考に無能力者へ復讐するという気持ちが芽生えた。

「……それで忘れろと? 確かに無能力者へ酷い事を自主的にした人もいて、その人を無能力者の方が憎むというのも自然な事でしょう。でも、その復讐に巻き込まれた能力者にはそんな事に関わらなかった人の方が多い。そんな人さえいなければよかった! そんな人と同じ物差しで測られた! 私は……私は何もしていないのに!! 何で私達ばかりが責められ、甚振られなければなりませんの……?」

「安価↓2」

「百聞は一見に如かず、この映像を見ろ。お前たちはこれを知っていたはずだ。なのにシカトした。復讐される理由としては充分だ」

その映像は一人の少女が複数の男に犯されるものだった。
佐天涙子。
婚后も多少は見知っている彼女を見て悦に浸っているのは食蜂操祈。
それは常盤台の学生なら、誰もが知る事のできた事実。

「この少女はここまでされても諦めなかった。……現に御坂美琴は最後まで彼女を守ろうとした。化け物に変えられるまではな。白井黒子もそれを信じた。お前は少しでも協力したのか? していないはずだ。お前は常盤台という安全地帯でのうのうと暮らしていた。違うか?」

「……、」

婚后は何も言い返せない。
確かに彼女は何もしていない。だが、何もしていないというのは助けられる命も見捨てて、安全地帯に逃げたという事の証明なのだ。

「お前のような人間は普段こそ何もないが、こういう状況ではその無能さが露呈する。……お前は一人で何かを成し遂げられる人間ではない、という話しだよ」

フィアンマは踵を返し、わずかに婚后を見た。
その目は婚后になにかを考えさせ、暴挙を止めようとするようなものだった。




「……さて、食蜂操祈」

フィアンマは地下牢に来ていた。
元々、土御門はここの警備を必要以上に強固にしていない。
もし彼女を狙う人間がいるなら、そちらの方が都合がいいからだ。

「お前がいなければこっちが先に進めん。……いい加減に目覚めろ」

食蜂は壁に背を預け、壁をボーっと見ている。
しかしその口は何かを刻んでいた。

「安価↓2」

「私は不幸になる力を与えられてしまったからせめて仮初めの幸せだけでも維持しようと思っただけなのに……」

彼女は婚后とは根本的に違う。
自ら理想とする環境をつくり、前へ進もうとしていた。たとえそれが間違っていたとしても、少なくともその行動力だけは褒めるに値するはずだ。
しかし彼女は挫折を、敗北を知らなかった。
だからこうして自分の何が悪いのかを認める事ができずにいる。
そんな人の話が聞けるかもわからない少女へ、フィアンマは話しかけた。

「俺様も似たような事をしようとした。……だが、ダメだった。おそらくあれは人間に出来る事じゃないのだ。見ず知らずの人間を救えるはずがない。俺様やお前のように万人の上に立とうとする人間ができるのは、せいぜい平均的に全ての人間がすごしやすい環境を整えるくらいだ」

それは彼女に語りかけるというより、彼の独白。
しかしフィアンマと規模は違えど、彼女もまた同じような方向へ進もうとした。
それがどこから暴走したのか。
それは彼女にもわからない。ただ気付いたら、誰にも同情する余地がなくなるほどに進んでいた。
だが、フィアンマにはわかる。そのあがきようのない何かがわかる。

「……食蜂、だからいい加減に起きろ。ここに居ると本当に全てが終わる。屈辱を取り返すなら今しかない」

「安価↓2」

「結局信頼できる人間なんて一人も見つからなかった……このまま出たとしてもまた信頼できない狼たちを洗脳して手足として使うだけよ。全ての人間をうまく支配できないならもうここから出ても意味がない」

「……お前の場合は支配ではなく押さえつけているだけだな。支配とはもっと重厚で絶対的なものだ。俺様が無能力者どもに潰されんようにな」

そう言い返しながらフィアンマは内心ほくそ笑む。
少しずつ、食蜂が外へと思考を移し始めている。

「……あの人も私を止めずにどこかへ消えた。御坂さんは最後まで私を無視した。派閥の皆は行方知れず。どうして……誰一人、私を止めようとすらしなかったの?」

「……さあな。まあそんな事はどうでもいい。しばらくは俺様が守ってやる」

食蜂はその言葉に力なく笑みをこぼした。
まるで、全てを諦めたようなその表情に第五位や常盤台の女王としての面影はない。

「アナタを信頼しろって事……?」

「安価↓2」

≪今日はここまで。皆さんお疲れさまでした≫




「とにかく死なせはしないから安心しろ。まあ、これからずっと屈辱的な目に合うかもしれんがそこは自業自得だ。文句は言うなよ」

「フフ……いい度胸してるじゃない」

フィアンマの言葉に食蜂はようやく視線を向けた。
彼女はゆっくりと腰をあげ、まだ感覚を取り戻しきれない足取りで牢の鉄格子を掴む。

「私がこの程度で沈むと思うのかしらぁ? 残念だけどアナタ程度の人間力に私は絶対に屈さない」

「……言うな、俺様もお前程度なら簡単に支配できるが?」

フィアンマはかつて、世界規模の戦場をつくりあげた。
その自信からか食蜂の頬を指先で撫で、挑発するように笑みを浮かべる。

「ふぅん……見た目だけなら悪くないわね。で? 私をどうしたいのかしらぁ?」

「安価↓2」

「とりあえず俺様の助手となって付き合ってもらう。垣根からもらったアイデアだがな」

「……アナタもあの人も下僕にしてあげるわぁ。私の魅力で」

「ふむ、ジョークが言えるなら大丈夫そうだな」

「ジョークじゃないんだけどぉ……」

フィアンマは少し呆れたような表情で、食蜂を閉じ込める牢の扉を開ける。
何らかの施錠を施されていたその扉もフィアンマの前では無力だった。扉は呆気なく開き、食蜂を解放する。
そこから出た食蜂の目には女王としての威厳が戻っていた。





フィアンマと食蜂は互いに自分が上だと誇示するように並んで歩く。そして部屋に戻ると、
心理定規がその様子を怪訝な表情で見つめる。

「俺様の助手になる事になった食蜂……いや、お前なら知ってるしわざわざ言う事もないか」

「それは知ってるけど……」

心理定規は食蜂を見る。
食蜂はその視線に不敵に笑って答えた。

「……フィアンマさんをいただく予定の第五位、食蜂操祈でぇす。よろくくだゾ☆」

「安価↓2」

「馬場にいいようにされてた間抜けな第五位でもあるわよね」

「は、はあ!? あれは手加減よぉ!」

「アンタの生き方ってはっきり言って、女王というより傲慢なだけよね。『パンがないならお菓子を食べればいいのに』とか言いだしそうで怖いし」

食蜂は心理定規の言葉に肩を震わせる。しかし震わせるだけで何も言い返さない。彼女の言ってる事は遠からず当たっているからだ。
心理定規はその様子を見てさらに饒舌に、しかも悠然とソファに腰をかけながら言う。

「それに比べて私は上手く立ち回っているわよ? それなりに無能力者も助けたし。……まあ、その後の事はあまり知らないんだけどね」

「私は理想のために戦ったのよぉ……たとえどれだけ傲慢な理想だったとしてもね」

互いに一歩も譲らず、持論を展開する。
しかしそれを傍観し、紅茶を優雅に啜っていたフィアンマがボソリと呟いた。

「安価↓2」

「そんなに大層なものならこの結果はないと思うんだがな」

フィアンマがそう言って放ったのは馬場たち無能力者と食蜂のビデオだった。
食蜂はそこで彼らにレイプされているように見える。
だが、フィアンマはその映像を見て肩をすくめた。

「おーおー自分からあんなに求めちゃってまあ」

適当なところで映像を切り、フィアンマは食蜂に告げる。

「……こんな様なら本当に奴隷コース確定だな?」

「……、そんなはずないじゃない」

食蜂は強く反論する事ができない。
確かに無能力者が幻想殺しを使えなくなったとしても、フィアンマや垣根がいる限り好き勝手できないからだ。
結局、食蜂には第二第三の手札がない。能力が効かない相手には絶対に勝てないというのが弱点。
だとしても。それがわかっても。

「……それでも私の能力に操られる人間はいっぱいいる。それに私、元々心理学って得意なのよぉ?」

「その程度、私も専攻してるわ。……それにフィアンマはそんなものじゃどうにもならないくらい強い」

心理定規の知ったような言葉に食蜂はきょとんとする。
そうして、その直後にいたずらっぽく笑った。

「フフ……そういえばアナタとフィアンマさんてどういう関係なのぉ?」

「安価↓2」

「レバニラとニラレバのような関係よ」

「……ああ、うん。全然わかんないわぁ」

「それでいいわ。……ようは割合の問題、とでも捉えておいて。二ラが多いか、レバが多いかってね」

心理定規はそう言ってクスリと笑った。
もっとも彼女自身、自分とフィアンマの関係など言い表せない。
恋人とか夫婦のような切っても切れない関係ではない。だが、完全な他人と言う訳でもない。
そういう微妙な駆け引きの中に存在している。
ただ言える事はフィアンマと会話する時は異常に感覚が研ぎ澄まされるという事。おそらく、相手の感情が読めないだけに必至で読もうとする精神能力者、それも高位の能力者特有のものが働いているのだろう。

「……なーるほどぉ、つまり意識してるわけねぇ?」

「アナタの言ってる意味とは別の意味でね。……まあ根がお子様のアナタにはわからないとは思うけど」

「何よそれ……気に入らないわぁ!」

食蜂は怒ったようにふるまい、部屋を出る。
そして隣の部屋のベッドに身を預けた。思えば、まともにこの感触を感じるのも何日ぶりだろうか。
久しぶりにぐっすり眠れる、と瞼を閉じようとすると視界に赤い影がさした。
右方のフィアンマ。
彼はベッドに腰をかけ、食蜂の頬を撫でながらじっと見下ろす。
食蜂はそれが最初、幻覚が何かかと思った。
しかし違う、とわかった途端に頭が熱くなる。

「え、あの……へ?」

素っ頓狂な声を上げ、あたふたと身を悶えさせる食蜂にフィアンマはそっと囁いた。

「安価↓2」

≪今日はここまで。皆さんお疲れさまでした≫




「これからイケメンと素敵なランデブーが始まるとでも思ったか? 残念だが俺様はお前など相手にはせん。お前は一生、馬場のメイドだ」

「……?」

一瞬、フィアンマの言葉の意味がわからなかった。
もちろん彼の事だからそう単純な事とは思っていない。
だが、今回の言葉は意味そのものが理解できない。意図がわからない。
フィアンマはそんな食蜂の心の機微を読み取り、言った。

「悪いが、俺様にも倒さなければならない存在がいる」

食蜂はその言葉と共に意識を失った。




「あーあー、可哀そうにな、食蜂」

「……え?」

次に彼女が目を覚ました時、目の前にいたのは垣根帝督だった。
横に黒美を侍らせながら、垣根は悠然と口を進める。

「お前は今から馬場に絶対服従のメイドになってもらう。……まあ妊娠しちまえばアイツと対等の立場になれるがな。つまりお前は一生、馬場のものってワケだ」

「……何、これ。結局、皆私ばかりをいじめる。私ばかりをいたぶる。何が楽しいのよ!!」

食蜂の必死の叫びに垣根は隣の黒美の頭を撫でながら言った。

「安価↓2」

「お前だって無能力者をいじめてたじゃねえか、いたぶってたじゃねえか。それで楽しんでいたじゃねえか」

垣根はそこまで言うと、影のさした笑みをこぼす。
そして言葉を続けた。

「その程度のヤツにはその程度の刑がお似合いってこった。つまりお前には偉そうにする権利も文句言う権利もねえんだ
よ。いい加減に身の程を知りやがれクズが」

その言葉は食蜂を諦めさせるには充分だった。
自分はもう助からない。
右方のフィアンマ、垣根帝督。
この二人を自分が超えられる訳がない、と。
そして垣根帝督は念願ともいうべき条件の一つを達成した。





そして、これは誰にとっての幸運なのか。
あの男も学園都市に戻っていた。
上条当麻。
この世界を変革する確率が最も高い男。『幻想殺し』を持って、何かへ到達した男。
彼は左右に禁書目録、打ち止めを従え崩壊した学園都市に堂々と凱旋する。

「とーま、これからどうするのかな?」

インデックスの問いに上条は笑って答えた。

「安価↓2」

なんで昨日こなかったん?

>>810 すいません。最近リアルが忙しくなりまして…≫




「決まってんだろ。あの戦争を起こし、父さんと母さんを殺したフィアンマをこの手で殺すんだ。……おっと一方通行もだったな、打ち止めよぉ」

「え、……うんってミサカはミサカは躊躇いながら頷いてみる」

インデックスは上条を心配そうに見つめるが、彼は止まらない。わかっているからインデックスも止められないのだ。
打ち止めだってどこまで本気かはわからない。純粋に人が死ぬ事に抵抗があるだけかもしれないし、一方通行に死んでほしくないと思っているのかもしれない。
ただ一つだけはっきりしている事がある。
上条当麻は本気だ。

「……安心しろよ。お前は見る必要すらない。御坂も助けなきゃならないし、この争いも止める。……この街にだってやるべき事はたくさんあるんだよ」

上条は確かめるように学園都市の地面を踏みしめながら、二人のペースに合わせて進んでいく。
そうしてしばらく歩いた後、唐突に立ち止まった。

「やれやれ……お早い歓迎だな」

上条のその声と共に、瓦礫の隙間から人影が現れる。



誰? 安価↓2(禁書キャラ一名。既出キャラでも可)

「……上条」

「何だ、削板かよ。てっきり俺を狙う科学者かと思ったぜ」

安心して語る上条とは対極的に削板の顔はどこか物憂げだ。
上条もそんな彼の雰囲気を感じたのか、首を傾げる。

「おいおい、どうしたんだよ。……俺もこんな事、言いたくないがこの街には絶対に信用できない人間もいる。……でもお前は絶対に裏切らない。そうするには明確な理由がある。そうだろ?」

上条の確かめるような一言は削板の心に深く突き刺さった。
もしかすると。
上条当麻は自分が裏切らざるを得ない何かをしてしまったのかもしれない。

「……上条、お前は外で何と戦っていたんだ。お前は――――何を見てきた?」

地獄とかそんなものは学園都市で事足りる。
もし上条がその先を見てきたのなら、本当に削板には想像もつかないレベルだ。
だが、上条は何でもない事のように笑って答える。

「安価↓2」

「クソ共をにきまってんだろ。倒しても倒してもアホみたいに沸いてきた。お前のせいでな」

上条は冷たく言い放ち、息を吐いた。
それは削板に対する一種の失望のようなものかもしれない。
とにかく、上条はそんな感情を交えさせながら言葉を続ける。

「お前さ、浜面帝国の奴隷解放したんだってな。えらいえらい。……その結果がこれだからな」

ごろんと地面を転がった少女の首。
かつて上条のクラスメイトだった吹寄制理の首だった。
思わず身をたじろがせる削板に上条は表情をゆがませる。

「お前らが短絡的に行動を起こしたから、各地に散らばってた程度の兵士の往復でこうなっちまった。浜面帝国の奴隷は逆らいさえしなければ殺されないんだ。お前が頭のいい奴と組み、共に考えて作戦を立てていれば、より犠牲の少ない結果が出ただろうに。お前らははヒーローぶれて楽しかったかもしれんがこっちはいい迷惑だよ」

まるで、氷だった。
かつての上条当麻が徹底的な感情論で迫りくる炎とするなら、今の上条はそこにいるだけで周囲を凍えつかせる氷。
唯一の共通点は周りへの影響力が高すぎるという事。
しかし、削板もまた、自分を強く持っていた。

「そ、れは……確かにそうかもしれない。俺は、バカで……お前程の根性もねえ。だから、助けられる命もあったんだと思う。けど、それで奴隷のヤツらが奴隷のままでいい事にはならない! そんな安息は絶対に間違ってる!!」

「ああ、そうさ」

上条は笑った。
そして右手を広げながら、「だから」と言葉を続ける。

「本物のヒーローがどういうものか……お前に教えてやる」

直後。
防ぎようもない程、圧倒的で理不尽な力が削板へ襲いかかった。




「……病理」

垣根は焦ったように病理へ喰いかかった。
彼は直感的に感じていたのだ。上条当麻の持つ『幻想殺し』の恐ろしさを。
病理はその様子を見て察したのか、余裕を持って応じる。

「どうしたんですか……?」

「上条当麻は何だ。……幻想殺しの異能を打ち消すって力の奥には何がある? ……答えろ!」

「安価↓2」

「……自分だけの現実などありえない。現実とは全ての存在と共有しているものだ。自分だけしか持たない現実など他者を踏みつぶす為の詭弁でしかない。ここまで言えばわかりますよね?」

病理は笑うと垣根から距離を一歩ぶんだけおいて、たたずまいをただす。
垣根はそんな病理など気にも留めずに、思考へと身をおとした。

(……自分だけの現実は詭弁、か。だとするなら幻想殺しは間違いなくこの世界に存在するもの。つまりアレに打ち消されるものは本来的には存在してはいけないって事か……って事はあの力の本質は能力の打ち消しじゃなく……)

仮に世界を画用紙とする。
現実に起きている出来事はボールペンで紙に書き込む。そして異能による現象は鉛筆。そして幻想殺しは消しゴムだ。
これなら単純。しかし幻想殺しはそこにはとどまらない。
そもそも能力を打ち消した、という情報はどこに書き込まれるのか? もちろん消しゴムで書くなんて事はできない。
とすれば幻想殺しの性質もおのずと変わってくる。
言うなれば基準点。白紙そのもの。
だが。

(……ダメだ。実物を見るまでは判断できねえ)

垣根がそう判断しようとすると、今度は病理横で不敵に笑った。

「案外、臆病なんですね」

「……どういう意味だ」

「安価↓2」

≪今日はここまで。皆さんお疲れさまでした≫




「あなた程の自信家ならすぐにでも打って出ると思っていたのですがねぇ……」

病理の言葉は間違いなく垣根を挑発するものだった。
思ったより臆病なんですね、と。
彼女からすれば上条と垣根の殺し合いは魅力的な研究材料になる。上手く行けば全く新たな法則や物質が生まれる程のぶつかり合い。そういうものを彼女は望んでいた。
しかし垣根がそんな下らない思惑を気にするはずがない。だからこの程度の挑発では動かない。
そしてそう決心する垣根に合わせるようにフィアンマが部屋に入ってくる。

「どうした、フィアンマ。……上条か?」

フィアンマはその言葉を聞くと、少し機嫌を悪くする。それは、彼という存在がフィアンマにとってどれほどのものかを語っているようにも感じられた。
とにかく、そんな風を見せながらフィアンマは答える。

「安価↓2」

「奴と削板が戦闘を始めた。辺りはもうしっちゃかめっちゃかだ。……あのままだとどちらか死ぬかもしれん」

「……クソ、仕方ねえか」

上条は垣根の勝利条件には必要になってくる人物。
削板も数少ない信用できる人間。だから、できるだけ死なせたくはない。
結局、垣根とフィアンマはその場所へと向かうのだった。




「……あーあ、こりゃひでえ」

垣根の口から最初に零れたのはそんな嘆息だった。
周囲は元々瓦礫だらけだったが、上条と削板の戦闘によりそれらが吹き飛び逆に更地となっている。だが、それだけで終わるはずもなくところどころには小さなクレーターのようなものまで見られた。
そしてその中央に佇む二人の怪物。
しかし息を荒らげる削板とは対照的に上条はわずかに笑みをこぼし、余裕さえ感じられる。そしてその後ろにいるインデックスと打ち止めもどこか安心して見守っていた。
垣根は削板の後ろに翼を折りたたませながら着地し、問いかける。

「……上条はどんな感じだ?」

「安価↓2」

「ふざけたことに吹寄に謝れと言ってやがる。俺は奴隷解放した英雄なんだぞ。一人くらい犠牲になったってスルーすればいいじゃねえかバーロー」

半ばやけくそ気味に言い捨てた削板の目は少し憂い気だった。
それはかつて根性とかの精神論だけでやっていけると信じていた事に対する代償。超えられない壁と直面した時の反動とも言えるだろうか。とにかく彼は揺れていた。
自分の信じるもので全てが超える事ができるかどうか。
そして削板の言葉を聞いた上条はさらに右手を握りしめる。

「ふざけんじゃねえ……どうしてそんな事が言える。どうしてそんな風に人を見捨てられる! 確かに、助からねえヤツやどうしようもないクズ野郎はいる。俺はそういう人間も見てきた。だけどな、吹寄は何もしてねえ。しかも幻想殺しを手に入れても能力者を傷つけなかった! だったら助けろよ! こんな……こんないい奴を見捨てて、他人を平気で傷つけたヤツじゃなくて、こういうヤツこそ助けるべきだっただろうが!!」

握りしめた右手から血が滴り落ちる。
それほどの怒り。それほどの悲しみ。
おそらくこんな事が何度も続き、上条当麻は壊れてしまった。
そんな上条は垣根が女だった時の世界と同じような表情に見える。
何かに必死に執着し、放さないように必死で執着するあの姿。それこそが今の上条当麻。不幸に打ち負けない少年の奥に隠された弱さ。
その、ヒーローとはほど遠い姿の少年に垣根は問いかけた。

「……お前がここにいればそんな事は起きなかったかもしれねえ。お前が相手してた魔術結社ってのはそんなすぐに滅ぼさないといけないものだったのか?」

「安価↓2」

「削板から聞いてないのか? 奴らはカニバリストなんだよ。小萌先生は奴らに食われて死んだ!」

「カニバリスト……おいおい、さすがの俺もマジで呆れるぞ」

垣根は別に死体を見て、特別恐怖を抱くような事はない。
しかしそんな性癖というか趣向のようなものを理解する事もあり得ない。
彼はそっと後ろの削板を見た。
彼に聞かなければいけない事が生まれたから。おそらく上条は自分の正当性を証明する為に、その問答を待つだろう。

「……削板。もう一度だけ聞いておく。上条当麻は誰と、何のために戦った?」

「安価↓2」

「何を今さら、アイツは愛と正義の為に戦ったんだろ?」

「……もう訳わかんねえな、コレ」

削板は本当に何も知らされていないのだろう。だから上条を信じている。
あれほど、狂った男の言葉を信じている。

「ダメだな。……フィアンマ」

「やれやれ……」

赤に身をまとった男が戦場へと降り立つ。彼もまた、上条の変貌に呆れていた。
右方のフィアンマ。
彼にとって上条当麻はもっと孤高の存在であるべきだった。それが今は見る影もない。
しかし上条はフィアンマの姿を見ると、表情を一変させた。
それは怒り。

「フィアンマ……お前の、せいで!!」

上条の言いたい事はフィアンマにもわかる。
同時にフィアンマは天使と戦い、広い広い世界を見てきた。だからこそ上条と同じ目線に立てる。互角に戦える。
そんな確信を持ってフィアンマは言った。

「安価↓2」

≪今日はここまで。皆さんお疲れ様でした≫




「ひとまず眠ってもらおう」

その言葉と共にフィアンマの右腕が躍動する。
その肩口から生まれた龍のような右手が横薙ぎに振るわれ、上条へ襲いかかった。
しかしここで上条は冷静に対処する。
右手を前に出すと、その衝撃を一身に受け止めてそのまま握りつぶした。そこには第三次世界大戦よりもさらに成長した少年の姿。
だがフィアンマは思う。
軽すぎる、と。あの時の彼の方がもっと熱く、重くのしかかるような何かを放っていた、と。

「……お前のせいで母さんと父さんが死んだ!」

「途中から記憶がないのに思い入れはある……そこだけは認めるよ。お前は、元ヒーローだ」

「ハハハ……なら今の俺はなんだ?」

「安価↓2」

「ただの抜け殻だ。今のお前からは何も感じられん。信念も、気慨も、……生きているという気配すら、な」

もしかすると。
第三次世界大戦で上条当麻は二度目の死を迎えていたのかもしれない。
一度目は記憶。
そして二度目には『誰かを守る』という象徴を。彼がヒーローである証。それを失った彼はもはや、ただ彷徨うだけの抜け殻。
だが。

「フフ……アハハハハハハハハハハハハ!! それでも構わない。俺は、俺のままでいたい。……今の俺こそが本当の俺なんだからさ」

その言葉と同時にインデックスが動いた。
彼女はすっと瞳を閉じて、何かを口ずさむ。
その言葉の力なのか、光がインデックスを包んだかと思うと莫大な交戦が垣根とフィアンマへ降り注いだ。
それを垣根が純白の翼で受け止める。
垣根はその翼から伝わった圧力に驚きながらもインデックスへ問いかけた。

「お前……どうして上条当麻に従う? お前にとっては大事なヤツなのかもしれねえが、今のコイツがまともじゃない事くらいわかるだろ? ……ならどうして何もしない?」

「安価↓2」

「私にも責任があるから……だよ」

少女は自分が情けなくフィアンマに操られた事が発端だと受け入れる。
巻き込ませたくない、という最初から立場はあっという間に逆になって巻き込まれるだけの存在になり下がった自分。
だから少女は自らの首輪を解いて、戦場で少年と隣り合う道を選んだ。
彼が壊れているとわかりつつ、それは自分のせいだと受け入れて、彼に従い続けた。
実際、上条は強くなっていたし自分も滅多な事では負けるはずがない。
だが。

「クソだな。……まるで子供。お前も、上条も……な」

垣根の知っている上条は狂っていた。
死で例えるなら、死の恐怖を乗り越えた強い人間ではなく死にたがり。そんな種類の狂人。
女を求め、よりどころにしていた上条当麻は少なくとも壊れるような脆い人間ではない。だから、この上条よりも強い。
そして垣根は言い放つ。

「責任? そんなもの気にするのは凡人だけで充分だ。そんなモン何でも無く、無条件で背負いこめ。……上条当麻はお前が助けるべきだろうが」

「……そんな事できたらとっくにやってるんだよ」

「ま……それもそうか。なら最後に一つ。お前らが戦ってた魔術結社は何て名前だ? リーダーは?」

「安価↓2」

「新約・フィアンマコーポレーション。リーダーはもちろんフィアンマなんだよ」

「……だとすれば、確かに通る筋もある。だが……」

垣根は上条と対峙しているフィアンマをチラリと見る。
上条のフィアンマを見る目は確実に憎悪が込められていた。インデックスが言うような状況は考えられなくもない。
しかし。
なら、フィアンマが学園都市にいる時点で上条はどうしてすぐに戻らなかったのか? あるいは戻れない事情があったのか。
その目線の先で上条は叫んでいた。

「フィアンマ……お前、が。お前さえいなければぁぁぁぁああああ!!」

右手でフィアンマへ掴みかかる。
それをひらりとよけながら、彼は上条へ問いかけた。

「……何が何やらだな。俺様はこの世界でフィアンマコーポレーションを作った事などない」

「うるせえ……」

上条は怒りの形相でフィアンマを睨みつける。
そして強く言った。

「安価↓2」

「第三次世界大戦で世界の救済に失敗して切羽詰まったてめえが巨大な力をぶちかましたせいで学園都市を始めとした世界中が無茶苦茶になってんだろうが。しかもその後こんな組織作ってのうのうといきてやがる。……てめえのせいでどんだけの人が死んだと思ってるんだ」

「ふむ……考えたこともなかったな」

フィアンマは肩をすくめて上条の言葉を聞き流した。
そしてその行為は上条を挑発する以外の何ものでもない。

「……お前は死んでもらう。死んで、永遠に後悔しろ」

上条の言葉の直後。
二つの右腕が激突した。




雷神トール。
彼は決死の覚悟で土御門の国へと侵入した。
彼は立場上、簡単に上条に接触できない。その時は選ばなければならないのだ。
そのわずかな乱れをついてトールは御坂美琴に接触した。
御坂はトールを疑い深く観察しながら、言う。

「――で、アンタがアイツと垣根の戦いに私を連れていきたいのはわかったわ……けど、アンタはどっちの味方をするつもりなの?」

「安価↓2」

「……アイツにきまってるじゃない。私はそうするって決めてる」

「そうか……ま、俺は口を挟む気はねえよ」

行こうか。
トールはにこやかにそう言って、御坂へ手を差し出す。
しかし御坂はその好意を受け取らない。彼から別の思惑を感じ取ったからだ。

「アンタは……?」

「は? 何だよ」

「アンタはどっちの味方するのって聞いてんの」

「おいおい……もし垣根って答えたら、俺を殺す気か?」

「いいえ、今は殺さないわ」

今は、という部分を強調する御坂に呆れながらもトールは答えた。

「安価↓2」

≪今日はここまで。皆さんお疲れ様でした≫




「上条だな……俺も個人的に垣根やフィアンマが気に入らねえ」

「そう……ならよかった。お互いに頑張りましょう?」

そう言って笑う御坂の目はどこか淀んでいた。
まるで、上条のように。




「……垣根、どうやら俺様達が劣勢らしいな」

「ああ、最悪だ」

垣根とフィアンマは思わず苦笑いをする。
眼前には魔神クラスのインデックスと未知数の上条。
そして背後にはトールと御坂。この二人が援護に回るとなると、さすがの二人も厄介だ。
垣根は嫌な予感を背中に背負いつつ、問いかけた。

「御坂……何しに来た?」

「安価↓2」

>>856
>「――で、アンタがアイツと垣根の戦いに私を連れていきたいのはわかったわ……けど、アンタはどっちの味方をするつもりなの?」

>>859
>アイツにきまってるじゃない。私はそうするって決めてる」

どういうことだってばよ

>>866 すいません……間違えました。トールが質問って事で脳内変換お願いします。年内最後の投下開始!≫




「世界を元に戻しに」

御坂は凛として答えた。
彼女の中では上条こそあこがれの存在。辿りつきたい場所。その隣に立つ事こそが願いだった。
そしてそれが今、叶う。
その少年が壊れているとも知らずに、彼女は戦場へと降り立つ。

「……御坂、わかってねえようだから教えてやる。今の上条当麻はまともじゃない。少なくともお前の知ってる上条当麻とは別人なんだよ。だから、今はやめとけ」

どの道、御坂は上条に味方する気だ。目を見ればわかる。
だが、事実を持って訴えれば彼女は揺らぐはずである。上条が正常になるまでの間くらいは垣根に協力するかもしれない。
そんな利害の誘いに御坂は答えた。

「安価↓2」

「じゃあ観戦してるわ」

「……やれやれ。我がままなお嬢様だ」

垣根が呆れたように肩をすくめた直後だった。
青白い閃光が御坂の背後で瞬き、一人の少年が垣根へと飛びかかる。
雷神トール。
垣根は彼の射出する『投擲の槌』を純白の翼で受け止め、わずかに後退する。

「……トール。思ったよりねちっこい野郎だな」

「うるせえよ。……それに俺はこの現状を作りだした全ての人間を排除するって決めている」

一つは能力者。二つに魔術師。
そして最後には自分自身すら滅びる覚悟で彼は垣根に挑んでいた。
しかし。
トールは次に垣根ではなく上条を見据えて言った。

「安価↓2」

「お前がフィアンマが憎いんだな。一緒に潰すか」

「……ああ」

トールの言葉に上条は獲物を見つけた獣のように頷いた。
戦闘が、始まる。
圧倒的な怪物たちの戦闘が。
まず動いたのはトールだった。
彼が『投擲の槌』を振るうのを見て、上条もフィアンマへと突っ込んでいく。

「……俺様を集中狙いとは、いい度胸だな!」

対してフィアンマも負けじと第三の右腕で相対する。
そして莫大な閃光が垣根の視界を覆った。



安価↓2 コンマ判定

00~09 フィアンマ重傷
10~19 トール重傷
20~29 上条の右腕進化
30~49 フィアンマ軽傷
50~79 トール軽傷
80~99 上条、インデックスに参戦促す

≪今日はここまで。皆さんよいお年を≫



「……インデックス」

上条の言葉と同時にインデックスが頷く。
彼女は今度は詠唱らしき口ずさむ言葉すらないまま、その目に魔方陣を宿す。
フィアンマはそれに少し焦りを浮かべ、そちらへの防御に意識を向ける、向けてしまう。
その隙をトールが逃さない。
だが、ここでもフィアンマに攻撃は届かなかった。

「トール……さすがに三対一は卑怯だろ? 俺も混ざらせてもらうぜ」

「垣根ッ……! 面白え、まとめて殺してやる!!」

そう。
トールは勝てる、と思っていた。
圧倒的な右腕を持つ上条と魔神クラスのインデックス。この二人の協力があれば勝てるような気がしていた。
でも、そのはずなのに。
垣根帝督はその不利を一瞬で覆す。

「――――甘えよ」

そう囁く声しか聞こえなかった。
次の瞬間にトールは既に地面へ倒されていた。
垣根はまるで少女のようで中性的な顔立ちの少年をじっと見据える。
トールはそんな垣根に憎悪をこめて問いかけた。

「……んで、テメエは……そんだけの力持ってて誰も助けねえ……! だから、死ななくていいやつまで死ぬんだろうが!!」

「安価↓2」

お久しぶりです。

新約九巻を買いつつ再開します。

予定が立て込んで再開が遅くなって申し訳ありません

「そっくりそのまま聞き返すがなんでお前も助けないんだ? ただやられた事をし返すだけの無能力者に協力するだけで助けなかっただろ。お前も」

「……、」

トールの言葉が止まる。
そのわずかな隙を逃さず、垣根は言葉を続けた。

「その仕返しをされた連中のなかには全く関係のない連中もいたかもしれないのに、考えたことあるか?」

考えたことはあるのだろう。
だがトールは何もしてこなかった。できたはずだ。
完璧とはいかなくても、彼なりの方法で最善を尽くせば救えた命はいくらでもあったはずだ。
でも、だからこそ。
トールはその事実から目をそらし続けた。そのつけが回って彼を暴走させていたとするなら。
だが。

「……まあそんな事はどうでもいい。いい加減テメエとの腐れ縁的な関係にも楔を打ちたいと思っていたとこだ」

垣根はトールから手を離し、距離をとると手を大きく広げる。
まるでその場を支配するような王者の姿勢。
その両手はだらりと垂れ下がっているが、その目だけは歪な光を宿し続けていた。

「全力で来いよ、トール。テメエの思い全て乗せてよ。それもろとも俺が全力で粉砕してやる」

「面白え……」

トールの体がわずかに武者震いする。
思えばいつだろうか。
最後、純粋に戦えたのは。何のしがらみも感じなくてよかったのは。

「いいぜ、やってやる。俺は全力でお前を、殺す!」

直後だった。
トールの指先から伸びたブレードが垣根へと振りかざされる。





「……禁書目録に幻想殺し。さすがの俺様もこれはきつい」

フィアンマは苦い笑みを浮かべながら二人へ向き直る。
上条はそれを嬉しそうに見つめて言った。

「どうした? まさかもう打つ手なしとか言うんじゃねえだろうな。……お前にはもっと抵抗してもらわなけりゃならねえのによ」

「安価下2」

>>1おかえり

>>887
ただいまです。

昨日は安価こなかったけど今日は来ますかね?

それでは開始

「――――とはいえ。まさかこの俺様がこの程度で終わると思ったか?」

ずず……、とフィアンマの右腕が脈動した。
今までの出力との異質なまでの違いに上条は身構える。
初めて、動揺を見せた上条に笑いながらフィアンマは肩をすくめた。

「おいおい、これでも俺様はかつて神をも超える『神上』にまで至った存在だぞ。いくらお前とて、あまり舐めてくれるなよ」

フィアンマの肩口から生み出された『台さんの右腕』がもぞもぞと動きだす。
その動きはやがて陽炎を生みだし、空間を歪ませる。
フィアンマはその陽炎が安定したのを見計らって右腕を軽く横に振るう。
それが合図だった。
周囲に莫大な閃光が迸ったかと思うと、その光は正確に上条へと突き刺さる。
しかし上条も負けていない。
その光を右の拳で殴り、軌道をそらすとそのままフィアンマへと突っ込んだ。
その脚力は前よりもはるかに強靭で、力強い。
フィアンマが次の一撃を放とうとする頃にはすでに上条は後一歩というところまで距離を詰めていた。
そして。

「フィアンマ!」

「……ッ!」

両者の右腕が交差した。



コンマ判定↓2

奇数 上条勝利
偶数 フィアンマ勝利

≪人いないようなので安価↓コンマを採用します。というか安価↓なのに↓2にしちゃった……≫




上条の右腕がフィアンマの顔へと伸ばされる。
その拳が突き刺さる直前。
フィアンマの右腕が上条を掴んだ。
とっさに右手でその大きな手に触れるがあまりにも大きな力なのか、完全に打ち消す事が出来ない。

「……クソ、ちくしょう!」

上条は右腕に噛みつかんばかりの勢いで吐き捨てる。
しかしその叫びには何の意味も、力もない。
勝った。
フィアンマがそう思った直後だった。

「やめて! とーまを……放して」

インデックスがフィアンマの前に立つ。
かつて操られるだけだった少女も今は魔神の領域にまで達していた。
だが上条が人質に取られては万が一を考え、攻撃できない。

「……、」

フィアンマは悲痛で泣き出しそうな表情をするインデックスを見つめる。
そして思わず問いかけていた。

「……禁書目録。俺様は、『この世界』で何をしていた? 第三次世界大戦はどういう結末を迎えたんだ」

「安価↓2」

「……世界の救済を謳い行動するもアナタは失敗し、『第三の右腕』が暴走。それに反応したガブリエルが世界中を破戒して回った。またそれを阻むべく核兵器が飛び交い世界中が焦土と化す。……そして物資の供給さえ不可能になり戦争は終結したんだよ」

「……、」

おそらく誰も悪意なんて持っていなかったのだろう。
核の使用を命じた人たちだってそうなる事のリスクと使用しない事のリスクを天秤にかけて、苦渋の決断を下したはずだ。
フィアンマだってあの時は純粋に自分の方法が一番正しいと思っていた。
だけど。
なのに。
結局、世界を滅ぼす最大の原因は自分自身だった。
そしてそう思い始めると、天使と戦い続けボロボロになっていた心と体が悲鳴を上げ始める。
気付けば『第三の右腕』は上条の拘束を解いていた。
地面に落とされた上条はふらふらと立ち上がる。

「……テメエ、どういうつもりだ」

「安価↓2」

≪今回はここまで。安価くるけど遅いな…繰り返せば早くなるかな?≫



「……興が削げた。これでは俺様が殺す、という意味そのものがなくなる」

「は、ハア……? 何言ってるんだ、お前」

上条にはフィアンマの言葉が理解できない。
しかし。

「こんな……下らない茶番のような世界はもういらん」

その言葉で上条の中で何かが切れた。
沸々と、怒りがわき上がる。

「……ふざけんなよ。全部、お前が始めた事だろうが。第三次世界大戦なんてなければ、吹寄は死ななかった。今だって平凡だけど充実した生活を送れてたはずだ! 他だって……世界中の何人があの戦争で全てを壊されたかわかってるのか!?」

「さあな。俺様は世界になど興味はない。……ただ、目標があるだけだ」

「目標? 世界を完全に終わらせることか? 人類を滅ぼすことか? ……これだけの事して何でまだそんな当たり前の事が言える!!」

「安価↓2」

しかし>>889の台さんの腕にちょっとわろた
誰だよw

>>901
誰でしょうかね…(震え声



それでは開始

「お前は知る必要のないものだ。だがな……あの時、誰にも追いつけん場所に立っていたはずのお前にそんな顔をさせて
しまった事に、俺様ではない別の俺様ががやった事とはいえ思うところはあるんだぞ?」

自分があの上条当麻と同じように人助けを自己満足で出来るとは思っていない。
ただ何となく、あの時の上条当麻は本質的な意味で自分より高い場所に立っていたとは思う。
神とかそれを超える存在とか、そんなものにすら干渉されない絶対的な場所。人でなければたどり着けない境地に彼はい
たんじゃないかとは感じた。
しかし、そこから生まれる憧れに近い感情を振り払うかのようにフィアンマは言葉を続ける。

「……別にだからどうというわけでもないがな。お前の憎悪は止まらんだろう。好きなだけ俺様を憎むといい。憎みたい
相手の下らん事情を知ってしまう事で憎みたくても憎めなくなるのならな」

「……、」

あの上条当麻はどこにもいない。
目の前の少年は同姓同名の別人。
フィアンマはそのくらいの認識しかしていなかった。
おそらくどこかで一つだけ何かが変わるだけであの上条当麻は存在しなくなるのだろう。
誰よりも強く見えて、そんな脆さを持つ。それが上条当麻という少年の本質。

「お前……」

「もう何も言うな。……これ以上お前に話せる事はない」

フィアンマはほんの一瞬だけ哀しげに顔をそらした。
それに気づいてか、気づかずか。
上条がポツリと呟く。

「安価下2」

「まあいいや死んどけ」

突き出された上条の拳にフィアンマはアクションを取らなかった。
その拳が彼の顔に突き刺さり、地面へと投げ出される。
だが、上条はそれだけで止まらなかった。
フィアンマへ馬乗りになるとその首へと両手をかけ力を込めていく。

「死ね……死ね!!」

叫ぶ上条の目から不意に涙がこぼれた。
それは守ってきたちっぽけな何かを失った事に対する悲しみ。
それは積み上げてきた何かを奪われた事に対する怒り。
その全ての原因はフィアンマにあった。
これで殺せる。
しかし殺してしまえば後戻りはできない。そうわかりつつ、上条がフィアンマに止めの数秒を与える直前だった。
バチ、とわずかな紫電が迸る。
御坂美琴。
状況を見かねた彼女が上条の身体を吹き飛ばしたのだ。
その衝撃に上条の身体が地面を転がる。

「ゴホ……御坂、テメエ。どういうつもりだ!」

「安価↓2」

「アンタ、誰よ?」

「……は? 何言ってんだお前。まさかビリビリやり過ぎて記憶飛んだとか言ってんじゃねえだろうな」

「そんなんじゃないわよ。……ただ私の知ってるアイツはそんなじゃなかったなって」

「……お前に俺の何がわかるんだよ」

「わからないわよ」

御坂は即答すると、上条にゆっくりと歩み寄る。
誰もその動きを止める者はいない。
その場の主役に立っているのは間違いなく御坂だった。
彼女は上条の胸倉を両手で掴む。その掴んだ手の甲には水滴がぽたぽたと落ちていく。

「だから、返しなさいよ。目の前の一人を必死こいて、ボロボロになりながら助けて。次の日には何食わぬ顔で元に戻る……それがアイツよ。……だから、返しなさいよ。私が……私が、憧れて! いつか隣に立ちたいと思ったアイツを返しなさいよ!!」

その後は言葉にもならなかった。
御坂はただ、ただ嗚咽のような泣き声を洩らし続ける。それだけが戦場に寂しく響いた。
垣根も。トールも。インデックスも。立ちあがったフィアンマさえが上条をただじっと見据えている。
場が、上条当麻の言葉を求めていた。
その雰囲気に流されるように上条は御坂にそっと囁く。

「安価↓2」

「……ごめんな」

どこで間違えたのかはもうわからない。
どうすれば戻れるのかもわからない。
ただそれでも思う事がある。
自分は幸せだ、と。
褒められない事をしても自分の為に泣いてくれる少女がいるのだから、と。
だからこそ上条は後戻りできない。
彼女が好きだった『上条当麻』の経歴にわずかな汚点も残す訳にはいかない。
自分は汚いままの自分でいい、と。
そっと御坂の手をほどき、ゆっくりと上条は立ち上がった。
フィアンマもそれに答えるように右手をゆらりと腰のあたりで揺らす。

「……いいのか。本当に後悔はないのか」

「安価↓2」

≪今日はここまで。皆さんお疲れさまでした≫


「後悔しようがしまいがお前は死ななければならない。これは絶対応報だ」

上条が地面を強く蹴りだし、フィアンマの懐へと飛び込んでいく。
フィアンマはそれでも何一つ動かないで殴られた。
当然、彼の華奢な身体は宙を舞い背中から打ち付けられる。
そのフィアンマに追い打ちをかけるように上条は何度も追いうちの拳を叩きこんだ。
何度も。
何度も。
何度も。
何度も。
だが上条の復讐心はこれっぽちも満たされなかった。

「……クソ、クソ! 何で……どうして、」

「もういいか? ……お前は人を殺すには弱すぎる。泣いてる人間を笑わせるのが精いっぱいだ。それで我慢しろ」

結局。
上条当麻は人を殺すには自分勝手で優しすぎたのだ。
悪になると決意しながらもそれに恐怖する。
そんな当たり前の弱さを見せる上条にフィアンマは告げた。
かつて世界を支配しようとした戦犯として。

「安価↓2」

上条さんの台詞なら「……何だよ、それ……。わけ分かんねえよ!!」

フィアンマなら「……世界が違っていても、やはりお前は『上条当麻』なのだな」

「……世界が違っていても、やはりお前は『上条当麻』なのだな」

フィアンマのポツリとした呟きは全てを物語っていた。
インデックスがずっとついてきていたのも。
御坂が涙を流してまで懇願したのも。
全ては『上条当麻』という存在を守るためだったのだ。

「……ちくしょう」

上条は思わず歯ぎしりをした。
金づちで殴られたかのような衝撃が上条の思考を揺らす。
どうして気付かなかった、どうして止められなかった。
家族やクラスメイトを失った悲しみを、どうして彼女らを守るという方向に持っていけなかったのか。
そう考えるとフィアンマなんかどうでもよくなってしまった。

「インデックス……御坂……吹寄、クソ……」

上条はその場に力なく崩れ落ちる。
それをインデックスが後ろからそっと抱きしめた。

「イン、デックス……?」

どうすればいいのか。
そんな路頭に迷ったような表情の上条にインデックスは優しく言った。

「安価↓2」

もういっそ下1固定でいいんじゃないかな
連投制限つけて

安価はとうま、もう一度一からやり直そう

>>924 次からそうします。安価は連続取得禁止で≫




「とうま、もう一度一からやり直そう」

「……一から? 何をすりゃいいんだよ、今さら」

上条の諦めるかのような言葉にインデックスは笑った。
何でもいい、と彼女は言わなかった。

「前と同じでいいんじゃないかな。誰か一人を助ける為にボロボロになって、また次の日にはその子が笑ってる……今度は私も協力するから」

「……わかった」

上条にとってその言葉は軽いものではない。
見捨ててきたものが戻ってくる訳ではない。償える訳でもない。
ただ、背負っていこうとは思う。全部自分に押し付けて、その分強く生きていこうとは思う。
少年は、新しい一歩を踏み出した。




「……あーあ」

トールはそれを横から見て、呆れたように息を吐いた。
彼には今、味方する人間がいない。ただ一人でフィアンマや垣根を相手にしなければならなかった。
垣根はその優位に乗じてトールに告げる。

「まだ続けるのか? もう勝敗は見えてると思うがな」

「安価↓2」


間違えた…安価↓です

「とりあえず帰るわ。まあ諦めないけどな」

おそらく彼はまた垣根を殺しに来る。
上条がダメなら他の誰かを利用してでもそうするはずだ。
そうわかっていて、垣根は不用心に背を向けるトールを追撃しなかった。
今は別の目的があるから、垣根は不敵に笑い答える。

「ああ、次はもっと強いヤツをつれてこい。――何度でも俺が勝つけどな」

トールはそれにひらひらと手を振って応じた。





「……カミやん」

半ば連行されるような形で土御門の前に上条は現れた。
かつての親友との再会をフィアンマはソファに座って適当そうに、垣根は壁に背を預けニヤニヤとみている。
だが、そんな事は二人には関係ない。
申し訳なさそうに眼をそむける上条に土御門は言った。

「安価↓」

「久しぶりに人間らしいカミやんを見れて安心したよ」

「……そう、かもな」

土御門は肩から力を抜くとイスに腰をかけた。
少しの間、天井を見つめ何かを思索すると土御門は垣根を見る。

「どうした?」

「……一方通行はどうしてる?」

「さあな。今頃打ち止めにボコられてるんじゃねえか?」

皮肉を自分で言ってから少し気まずくなったのか、垣根は一言残すと部屋を後にした。
それに乗っかるようにフィアンマも退室する。
上条と土御門。
二人きりになった密室で土御門は問いかけた。

「……これからどうする? 禁書目録もいるだろう。こっちでも出来る限りの事はするぞ」

「安価↓」

≪今日はここまで。皆さんお疲れさまでした≫



「この街で苦しんでいるヤツを助けに行く」

「……らしいな。ただ無理だけはするなよ。カミやんを必要とするヤツはたくさんいるんだからな」

「ああ……わかったよ」

上条は明日出ていく、とだけ言って退室した。
部屋に一人残った土御門はポツリと呟く。

「……押しつぶされそうだよ、カミやん」






「……打ち止め」

一方通行はソファから立ち上がることも忘れて少女を見据えた。
打ち止め。ラストオーダー。
彼がこの世界で生きる希望としてきた存在。
出来る事なら抱き締めたかった。抱きしめて泣きじゃくりたかった。
でも出来ない。ただ見つめて震える事しかできない。
そんな無力な第一位に打ち止めが口を開いた。

「安価↓」

「なんであの時、時間を稼ぐため木原病理や木原数多他多数の兵器に突っ込んで行ったお姉様を見捨てたのってミサカはミサカはアナタを問い詰めてみる」

その言葉に感情なんてなかった。
ただ機械的に打ち止めは言う。
それが一方通行にとって一番辛い事だとわかっているから。

「……あの時は、アレが最善だと思った」

「最善? 最善って何? ……ミサカあの時、お姉様を助けてって言ったよね。確かにお姉様は自分を見捨てても構わないと思っていただろうけど、違う。ミサカは……」

「……だったらどォして欲しかったンだ」

ソファに座りうなだれた状態で一方通行がポツリと呟いた。
その一言は言いたくはなかったが、言ってしまうと止まらない。

「あそこには無能力者が何人もいた! 確かに俺が突っ込めばオリジナルを救えたかもしれねェ。……でもオマエを救えるって保障はどこにもねェンだ! 俺は神じゃねェ! 俺はただ……一万人殺して殺人鬼になっただけだ。誰も彼もを救えるヒーローじゃない!!」

それは悲痛な叫びだった。
ただ御坂美琴と打ち止め。どちらの見捨て、その罪を背負うか考えた時に軽い方へ流れてしまっただけ。むしろ人間としては自然な事だった。
だが、そんなものを理解できる人間は多くない。理解できても受け入れてくれる人間はもっと少ない。

「……ヒーローだから救うの? ヒーローじゃなかったら見捨てていいの? ……あの人はそんな事は言わなかった。どんなに他人を傷つけてもソレだけは言わなかった。アナタはそれだけでお姉様を見捨てたのってミサカはミサカはもう一度問い詰めてみる」

自分は何をしたかったのか。
これだけ全てを失って、一人の少女をなりたくもない化け物にしてでも守り抜きたいものがあったはずだ。でもそれすら見失って彼は何も見えなくなった。
ただ、それでも。
その暗闇の中でまともに狂う事すら許されない事は一方通行にもわかる。きっと、第二位は、垣根帝督は自分が知らない間にそれを知っていたのだろう。
打ち止めは泣きそうな顔で、必死に何かを抑えるように問いかけた。

「……アナタは今、何のために生きているの?」

「安価↓」

「……オマエの為だよ。それ以外は二の次だ」

「お姉様は生きてるからいいけど、もし本当にもう会えなかったら自分が死んだ事と変わらないってミサカはミサカはアナタの命さえあれば何でもいいって理論に反論してみる!」

「うるせェ! ……俺は、オマエさえいればそれで良かったンだ。俺がそンなに優しい人間に見えたか!? 誰でもニコニコ笑顔で救うヤツに見えたか!? 一万人殺してきた俺がそンな風に見えてたならオマエの頭は本当にどォかしちまってるンだろうよ!」

言ってしまって、時間が止まるような錯覚を一方通行は感じた。
打ち止めの泣き出しそうな顔が一気に色を失い、茫然とした表情になる。
その後、少女は何も言わずに部屋を出た。
それをどこかほっとしたように見つめて、一方通行は頭をかかえ呟く。

「……最低だ」




部屋に戻ると、黒美に飛びつかれた。
垣根はそれに対した嫌悪感も抱かない。疲れはあるはずなのに不思議な感覚ではあった。
こういうのを信頼、というのかもしれない。
黒美は垣根がソファに座っても離れなかった。

「ふぇぇ……よかったでずのぉ」

「おいおい、まさか俺が負けるか死ぬとでも思ったのか?」

「でも万が一を考えてしまいますの」

「ハァ……わかったわかった。じゃあお前を心配させた詫びにお願い一つ聞いてやるよ。何でもいいぞ?」

黒美はその言葉を聞くとかなり真剣に考え込む。
そして、二コリとした笑顔で答えた。

「安価↓」

「そんなものは必要ありませんの、あなたがこうしてここにいるだけで私は満足です」

「……お前、」

垣根は黒美をじっと見つめた。
その幼くあどけない顔立ちからは確かな不安を感じ取れる。
そんな黒美の表情に魅入られるように垣根は顔を近づけていく。
少女の頬が赤みを増し、鼻と鼻とが触れるかという距離で――――

――――ドアを開く音が部屋に響き、二人を現実に引き戻した

「……邪魔したか」

入ってきたフィアンマはソファで寄り添う二人から少し申し訳なさそうに顔をそらす。
その気遣いが二人、特に黒美を余計に気まずくさせた。

「……自覚あるならさっさと出てけよ」

「生憎、そうもいかん。俺様には俺様なりの目的がある。……天使をどうするつもりだ。勝負は早く仕掛けるに越したことはないぞ。……向こうは世界を好きにいじくれるかもしれんのだからな」

「安価↓」

「お前の右手でどうにかならないのか」

「……はっきり言って無理だ。俺様の右腕は様々な補強や相乗効果でようやく扱える程度の代物にすぎん。無力と笑っても怒らんが、お前の能力も似たようなものだと言う事を忘れるな」

「……、」

事実、垣根も『未元物質』をくまなく理解出来ている訳ではない。
そこを含めてのゲームなのかもしれないが。

「だが問題もねえだろ。クリアしたのは食蜂一人だが、あの三人のうち二人は実質クリア、婚后ごときじゃ俺らをどうこう出来ねえだろ」

「そうだな。……だが、御坂美琴と一方通行はどうする? ヤツらは一筋縄ではあるまい」

「別に仲良しこよしじゃなくて単純な和解だろ? なら問題ねえさ。打ち止めを使えばどうとでもなる」

「そうか……時に、垣根帝督。一つ気になった事がある」

「?」

フィアンマは怪訝な顔をする垣根に笑って言った。

「安価↓」

「馬場たちは何をしているんだ? 様子を見たいのだが」

「……そういや忘れてた。黒美」

「あ、はい……さっきまで見ていましたが帝督様が行く前と変化はなかったですわ」

一応の報告をして黒美はモニターをつける。
そこでは確かに変化のない馬場と二人の少女の姿があった。部屋の片隅には食蜂もいるのがわかる。
ただ馬場の表情は終始硬い。やはり婚后の言葉から疑いを晴らせないのか。

「……もう少し、だな」

「フン……しかし天使はこんなゲームをして何がしたいんだ」

「前は俺達をペットにするとか言ってたような気がするけど」

「……やはりわからん。俺様とお前をペットにするくらいならそれこそ第五位の方がいいのではないか?」

「さあ? アイツ人間じゃねえからその辺の基準はわからねえ」

「ふむ……俺様にも一つ仮説があるのだが」

「仮説?」

フィアンマはまた笑った。今度は少し冗談っぽく。
何か嫌な予感がしたがフィアンマはそれを口に出す間を与えずに言った。

「安価↓」

≪今日はここまで。皆さんお疲れ様でした。最近、非安価でオティヌススレを建てたいとか思ってます≫




「アイツは男が好きなんだ。その証拠にアイツが気にかけているのは男ばかりだ」

「……ばかりって俺とお前だけじゃねえの?」

「さあな。そもそも平行世界とやらがいくつあるのかも把握できん。ならば同様に何人いるのかも把握できるはずがなかろう」

「おお……さすが」

「気付いていたくせにな。性別の概念がないから異常でも正常でもないが……いや、異常か」

言ってフィアンマはドアへと踵を返した。
そして最後に一言だけ残す。

「……天使に捕まるなよ。あれの誘惑は一度はまれば逃げられない、絶対にな」

フィアンマがいなくなり、部屋には黒美と垣根の二人が残る。
話しを聞くだけだった黒美はそうなるとほぼ同時に呟いた。

「安価↓」

「私を一人きりにしないでください」

自分は垣根がいなければいけない、と黒美は改めて自覚する。
たった数時間、彼と離れただけで自分はこんなにも不安になり、フィアンマの言ったちょっとした冗談にさえ恐怖を抱く。
垣根はこんな自分を疎ましく思うかもしれない。でも、そうじゃなければ自分は生きていけない。

「……安心しろ。俺はお前を捨てたりしねえよ」

垣根はその思いを受け止めるかのように黒美を優しく抱きしめた。




「……少し、いいか」

しばらくして一方通行が部屋に入ってきた。
彼を纏う雰囲気は重く、暗い。

「どうした?」

「……俺は、アイツに最低な事をしちまった」

一方通行は打ち止めと自分の間にあった事を隠さずに垣根へ打ち明けた。
単純に一人で抱え込むよりそっちの方が楽だと思ったから。自分に一番近い立場の垣根なら少しは理解してくれると思ったから。

「――――俺は、どうすればいいンだ……?」

垣根は一方通行の話が終わるとため息交じりに言った。

「安価↓」

「殺人鬼を自称してるくせに守りたいものは護る。中途半端なんだよ。善人なら善人、悪人なら悪人で徹しろ」

「うるせェよ。オマエだってクローン侍らして似たよォなモンだろォが。……俺は、ただアイツが横に居てくれればよかったンだよ」

それはただの愚痴だった。
過去を悔いているくせに、改めるのではなく他の何かのせいにして責任を逃れようとする。
一方通行はそんな自分の感情に気付いても、打ち止めを手放したくなかった。どれだけ醜い存在になろうとも、あの少女だけは手放したくない。

「……中途半端でいいンだ。世界が滅びたって構わねェ。でも……アイツだけはそばに居て欲しいンだ」

「我がままだな」

「あァ……俺なンてそれでいいンだよ。悪人にも善人にもなれねェ。……強いて言うなら愚かな怪物だな。愛を欲し、愛に滅びる。何となく、俺はそォやって死ぬよォな気がする」

「最高だと思うぞ? お前としては」

一方通行は垣根の言葉に頷き、天井を見上げる。
しばらく考え込むようにそうしていた彼はふとつぶやいた。

「わかった……俺のしたい事」

「つーかそんなの最初から自分で決めろよ。俺のところに来る程じゃねえだろ。……ま、一応聞いてやるよ」

一方通行はソファから腰を上げ、垣根を見据える。
そして、強く言った。

「安価↓」

「打ち止めを犯したい」

「……ロリコンが本性出しやがったな」

「そう思われても仕方ねェだろォなァ……」

一方通行は杖をつきながら、部屋を出る。
それと入れ違いに黒美が戻ってきた。

(……そうだ)

垣根はふと思いつくといたずらっぽく笑い、黒美を手招きする。
そして、きょとんとした顔でひょこひょこ寄ってくる黒美の手を掴むとベッドに押し倒す。
一方通行の言葉で浮かんだ子供のような思い付きだったが、黒美には効果抜群だ。

「あ、あわ……あの、帝督様?」

顔を真っ赤に身体を震わせる黒美に垣根は不思議なおかしみを覚える。
そしてその頬をそっと撫でて、言った。

「安価↓」

「なぁ、スケベしようや……」

「ふ、ふぇえ……その帝督様がそうしたいなら、」

黒美をそう言って、ぎゅっと瞳を閉じた。
震える身体は恐怖とはまた違う何かで、単純な喜びでもない。
ただ、嬉しくはあった。垣根との距離がわかりやすく縮まるのであれば黒美は受け入れる。
垣根は自分にとっての全てだから。

「……黒美」

つつー、と頬をなでる手を胸におく。しかしその指先は動かない。
黒美がもどかしそうに腰をくねらせた。
その瞳が徐々に潤みを帯びていく。




垣根目線でどうする? 安価↓

≪今日はここまで。新しいスレのプロットが進まん…≫




「とりあえず肉便器時代どんな事してたか俺に教えてくれよ」

「は、はい……」

垣根の言葉からは何故か悪意を感じられなかった。
むしろ、彼にそう言われ不思議と脳の奥が痺れるような衝動が襲ってくる。
黒美は小さな体を起して垣根へしなだれかかると、唇をささげるように合わせた。

「ん……ぷはっ――――」

慣れた作業のはずだ。でも、垣根とわずか数秒しただけで息があがる。呼吸をするのが苦痛になる。
垣根はそうやって苦しそうにする黒美を抱きよせ、耳元で囁いた。

「安価↓」

ちょっと質問なんだけど、>>1はこのスレ終ったらまた別の安価スレたてるの?

このスレの垣根は童貞じゃないぞ!!
どこでも垣根=童貞とは限らねえ

>>964
今考えてるのは何個かありますけどこれが終わったらしばらくはやらないと思います

>>965
そうだそうだ! 1スレ目で番外個体骨抜きにしたじゃないか!



それでは開始

「俺の未元物質が白い翼出してお前の法則を改変したがってるぜ」

「……フフ、」

垣根のおどけたような声に黒美も思わず笑みをこぼす。
そして小さく細い腕を垣根の背中に回した。

「帝督様はおかしな事をおっしゃるのですね。…・・・私を変えたがってるのはアナタ自身でしょうに」

「変なところで大人だよな、お前」

互いの息が届く程の距離で二人は軽く会話をする。
しかし、どこか一歩踏み出せないのか、垣根はそこから何もしようとはしなかった。

「どうかされましたか……? 私は、アナタに全て捧げると決めてますから……構いませんわよ?」

そんな少し臆病な垣根を促すように黒美は言った。
垣根はその挑発にも近い言葉に少し眉をゆがませると、黒美をベッドに押し倒す。


垣根目線でどうする? 安価↓

「尻の穴を舐めてくれ」

「ゴホ……ッ、聞き間違い、ではありませんわよね」

出来るにはできるが、というような調子だがさすがの黒美もこれには驚きを隠せない。
垣根は軽く肩をすくめると、軽く言った。

「……冗談だよ。でもお前、そんな事もされてたんだな。少しかわいそうだ」

垣根はゆっくりと黒美の制服に手をかける。
慣れた手つきで服を脱がせると、幼い身体が露出した。

(……この身体で性奴隷か。ロリコンばっかだったんだな)

自分ならもう少し大人っぽい奴隷にするな、と勝手に思いながら垣根は指先を黒美の胸へ持っていく。

「ん、あぁ……」

ピンクに染まった個所を指先でいじくると黒美は初々しく反応する。
興奮、というよりは可愛らしさすら垣根は覚えた。
じっとペットを観察し、じらすように同じ動きを繰り返す。

「帝、督様……」

しばらくすると黒美が切なげに垣根の服を掴む。
垣根はさらに嗜虐心をくすぐられ、いやらしい笑みを浮かべる。

「どうした……?」

「安価↓」

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