赤沢「私がいないものになるわ」(136)

※シリアス&ネタバレ全開注意

―第二図書室―

赤沢「という訳で、これから演劇部には出席できなくなります」

千曳「なるほど、分かったよ。部活のことは心配しなくてもいい」

千曳「それにしても、赤沢くん自ら"いないもの"に名乗りを上げるとはね」

千曳「先生も驚かれていたんじゃないかい?」

赤沢「……」

――本当によろしいのですか、赤沢さん。

――はい。ずっと考えてたことですから。

――分かりました。

――これは重大な役目です。くれぐれもよろしくお願いします。


赤沢「……そうみたいでしたね」

千曳「正直な所……ほっとしているよ。君なら安心だ」

千曳「しかし、対策係の仕事は大丈夫なのかい?」

赤沢「これも仕事のうち、ですよ。他の人にもちゃんとお願いしているので問題ありません」

赤沢「大体、ひとたび<災厄>が始まってしまえば、対策係など無力だということは千曳先生もよくご存知では?」

千曳「……」

赤沢「結局、この『おまじない』だけが私たちの講じられる唯一の対策なんです」

赤沢「ならば私がやるべきことはただ一つ。それに……」

千曳「それに?」

赤沢「いつ自分の責務を投げ出すとも知れない他人なんかに、こんな大役任せられない……!」ギリッ


千曳「……和馬くんの年、か」

千曳「確かに、あの年は9月に"いないもの"を務めていた生徒がその役割を放棄、災厄が始まってしまった」

千曳「そして10月の犠牲者が……和馬くんだったな」

赤沢「……はい」

千曳「彼も君と同じで対策係だったからね、だいぶ苦労していたよ」

千曳「あの時"いないもの"を務めていたのは、佐久間くんという男子生徒でね」

千曳「二学期に入ってすぐ、"いないもの"の重圧に耐え切れなくなり、その役割を放棄した」

千曳「しかし、他の子たちも必死だったのだろう。そんな彼を初めは誰も受け入れなかった」

赤沢「"いないもの"として扱い続けた、ということでしたね」

千曳「そうだ。……逆上した佐久間くんは、随分と暴れたらしい」

千曳「結局、見るに見かねて彼を"いないもの"として扱うことをやめると決めたのが……」

赤沢「おに……いえ、和馬兄さんだった」

千曳「その通り。彼の名誉のために付け加えておくと、彼も相当迷っていたんだよ」

千曳「私のところにも何度となく相談に来ていてね」

千曳「おまじないをやめてしまえば<災厄>が始まる可能性は高い。しかしクラスでは佐久間くんによって怪我人も出ている状況だ」

千曳「彼の狂乱ぶりに、『<災厄>が形を変えて現れたのではないか』という噂まで持ち上がるほどだった。」

赤沢「……」

千曳「未だ実体のない<災厄>と、現実として目の前にある脅威……」

千曳「その板挟みの中で出した結論だったんだ。結果がどうあれ、誰も和馬くんを責めることなど出来ないさ」

赤沢「(お兄……)」

―――――――――

――――――

―――

――なあ、泉美。

赤沢「ん?どしたの、お兄?」

和馬「いや……何でもないよ、ごめんね」

赤沢「呼び止めておいてそれはないでしょう……」

赤沢「大方、悩み事ってところかしら、それもお兄個人の問題じゃなくていろんな人の」

和馬「……すごいや。泉美は何でもお見通しなのかい?」

赤沢「そんなこと無いわよ、昔からお兄が悩むのなんていつも他人のことでしょう?」

和馬「あれ、そうだったかな?」

赤沢「そうよ、いつも自分のことはさっさと決めるくせに、他人のためになると考えこんじゃって」

赤沢「そんなに他人に優しくしてる暇があるなら、少しは私にも分けてほしいわね」

和馬「泉美に厳しくした覚え、無いけどね」

sssp://img.2ch.net/ico/tora.gif
いいぞ…

赤沢「まあ、それもそうね……」

和馬「……なんか話をしたらちょっとスッキリしたよ、ありがとう」

和馬「でも優しいのは泉美だっておんなじさ」ナデナデ

赤沢「えへへ///」


―――

――――――

―――――――――


赤沢「……それも結局は、逃げでしかなかったんです」

赤沢「だから……だからあの人は……兄さんは……」グスッ

千曳「赤沢くん、何もそれ以上言うことはない」

千曳「君まで責任を感じることなど……」


赤沢「ここから逃げ出したんです!」

千曳「違う、彼は最後まで――」

赤沢「じゃあなんで!」


赤沢「なんでお兄はあの時、夜見山から隣町に向かうバスに乗っていたんですか!?」


千曳「赤沢くん……」


ピンポンパンポン♪

「千曳先生、千曳先生」

「お電話が入っております、おりましたら職員室まで――」


千曳「……すまないね、おそらく家内だ」

千曳「このところ忙しくて電話などかけていなかったからね、心配してかけてきたんだろう」

赤沢「……」

千曳「ついでに演劇部にも顔を出してくるよ。事情の説明もある」

千曳「赤沢くんはもう帰った方がいい」

千曳「本当に大変なのは……これからなんだしね」

赤沢「……」

千曳「それじゃあ」ガラッ

赤沢「千曳先生」

千曳「なんだい?」

赤沢「私は……自分の役目を放棄することなんてしません」

赤沢「"いないもの"として、対策係として……この<災厄>と最後まで戦います」

千曳「……ああ、君は強い子だ。そんな心配、初めからしちゃいないさ」

千曳「ただ、覚悟はしておきなさい」

千曳「君が立ち向かおうとしているのは、到底敵うべくもない相手なんだということをね」

赤沢「……はい」

千曳「じゃあ、今度こそ失礼するよ」

ガララッ、ピシャン


赤沢「……」

赤沢「……お兄の、ばか」

赤沢「なんで死んじゃったのよ……ばかぁ!」

赤沢「うっ……ううっ……」

三沢かと思ったがあいつはすでに居ないものだった

赤沢「……ん……」

赤沢「(いつの間にか、寝ちゃったのね)」

赤沢「(時間は……6時20分か)」

赤沢「(部活が終わってそろそろ千曳先生も帰ってくるでしょうし、迷惑になるわね)」

赤沢「(早く帰らないと)」


赤沢「(いつの間にか廊下に電気が点いてる。もう外は真っ暗ね)」ガラッ

赤沢「!」バッタリ

鳴「……」

赤沢「……ぁ……」

赤沢「(課外時間や学校の外なら大丈夫という『指針』はあるけど……)」

赤沢「(話さない方がいいわね)」

赤沢「……」

鳴「……」

鳴「……」プイッ

コツ…コツ…コツ…


赤沢「(良かった……向こうも上手く察してくれたみたい)」

赤沢「(それにしても)」

赤沢「(これからずっとこんな生活が続くのね)」

赤沢「(……どうってことないわ)」

―帰り道―

赤沢「(……"いないもの"をつくる対策の成功率は五分五分)」

赤沢「(何が成否の要因なのかも分かっていないのが現状)」

赤沢「(クラスとの接触を徹底的に避けておくに越したことはないわね)」

赤沢「……うーん」ブツブツ


???「わっ!?」

赤沢「きゃっ!?」ドンッ


ドサッ

赤沢「いたた……(前見てなかったわ……)」

???「すみません……大丈夫ですか?」スッ

赤沢「いえ、こちらこそすみま……せ……」ガシッ


恒一「?」

赤沢「!!!」

sssp://img.2ch.net/ico/kuma-16.gif
赤沢さんがクラスの男子をフェラしまくるSSだと思ったら想いのほかシリアスだった

バッ

恒一「あ……」

タッタッタッ……

恒一「……?」


赤沢「ハァ……ハァ……」

赤沢「(家まで走って来ちゃった……)」

赤沢「大丈夫……よね……?」

―榊原家―

鳴「……榊原くんに伝えておくべきことは、こんなところね」

恒一「その、いないものになった人って……」

鳴「赤沢さんのこと?」

恒一「……名前、言っちゃっていいの?」

鳴「え?」

恒一「いや、だから名前」

鳴「学校の外だから大丈夫よ……たぶん」

恒一「(たぶんって……)」

鳴「とにかく! ルールとしては問題ないはずよ……きっと」

恒一「(声がどんどん小さくなってるけど)」

>>17
はやくスレを立てるんだ

ギャグもいいけど、シリアスな方がいい

鳴「そ、それに……対策が完璧でも、ダメな場合だってあるんだし……」

恒一「……そういう問題じゃないと思うんだけど」

鳴「……それよりも榊原くん、今日は病院だったんでしょう?」

鳴「明日はどうするの?」

恒一「明日? 明日は学校に行くつもりだけど」

鳴「そう、もし何かあったら学校で頼ってくれても構わないから」

恒一「学校にはもう連絡してるから、そうそう滅多なことは無いと思うけど……」

恒一「何かあったらよろしく頼むよ」

鳴「うん、それじゃあわたしはこれで」

恒一「ありがとう、わざわざ家までごめんね」

鳴「いいの、これもわたしの仕事のうちよ」キリッ

恒一「(そこは自信満々なんだ)」

鳴「さようなら、榊原くん」

恒一「うん、さよなら」

バタン


恒一「(赤沢さん……か)」

―翌日・通学路―

赤沢「(……寝坊したわ)」

赤沢「(満を持して"いないもの"になったはいいけど、既にこのザマ)」

赤沢「(もっと気を引き締めなきゃダメね……)」

赤沢「(しかし、まあ……)」

赤沢「("いないもの"の私は、勉強さえ大丈夫なら授業は出なくてもいい訳だから)」

赤沢「(今のところは、この状況を楽しむことにしましょう)」

赤沢「(……重役出勤って、こんな感じなのかしら)」

赤沢「……ふふっ」

いいぞ

―教室前―

赤沢「……」

エーコレハギジンホウトイッテ…

赤沢「(どうしよう……ものすごく入りづらい……)」

赤沢「(今私が入ったところで誰も反応しない、というかしちゃいけないのは分かってるけど)」

赤沢「(やっぱり勇気が要るわね……)」

赤沢「(それに、こんな突飛な行動をしておまじないがダメになったら洒落にならない)」

赤沢「(……今日はひとまず、千曳先生のところに行きましょう)」

―第二図書室―

赤沢「あれ?」

赤沢「(千曳先生がいない……)」

赤沢「(教室に行くのも気が引けるし……)」

赤沢「(……仕方ない、今日は帰りましょう)」

赤沢「("いないもの"は……本当にいないのが一番いいでしょうしね)」

赤沢「(念には念を入れるべきだわ)」

赤沢「(……決して面倒臭くなったとかじゃないわよ?)」

結局、私は次の日から図書室に登校することにした

千曳先生はそこまでする必要はないと言うけれど、何が影響するか分からないのも確かだ


千曳「……つまり不信任案が可決されれば、過程はどうあれ最終的に内閣は総辞職するということだな」

赤沢「なるほど、さすが社会科の先生だっただけありますね、千曳先生」

千曳「もう、みんな忘れているだろうけどね」


たまに授業に出ることもあったけれど……その時は常に細心の注意を払った


赤沢「(隣の人の似顔絵か……私は適当な人を見つけるしか無いわね)」カキカキ

鳴「(で、わたしに来るのね……これは下手に動かないほうがいいのかしら? それとも……)」

猿くらうぞ

まあ、とにかく、その成果もあってか……


千曳「どうやら……無事に、終わってくれたようだね」

赤沢「はい!」

――――――――――――――――――

鳴「だから言ったでしょう? 大丈夫だって」ドヤァ

恒一「はいはい」


――我が三年三組は、誰一人欠けること無く一学期を終えたのだった――

――夏休みのある日・榊原家――

鳴「こんにちは、榊原くん」

恒一「やあ、見崎。美術部は終わったの?」

鳴「今日は休みよ。毎日活動してるわけじゃないから」

鳴「……ここに来たのは、ただの気まぐれ」

恒一「……そっか」

鳴「榊原くんは何してるの? ひょっとして、家にこもりきりなのかしら?」

恒一「まさか、そんなこと無いよ。その証拠に……」

勅使河原「おーい! サカキー!」

望月「榊原くーん!」

恒一「……ね?」

いないものとしては尋常じゃない有能さ

勅使河原「あれ? 見崎じゃんか!」

望月「こんにちは、見崎さん」

鳴「……こんにちは」

勅使河原「なあサカキ、ひょっとして……俺たちを呼んだのは見せつけるためか!?」

勅使河原「やってくれるぜ、まったく!」グリグリ

恒一「痛いって……見崎がいるのは、たまたまだよ」

望月「まあまあ、勅使河原くん……」

望月「見崎さん、これから3人でイノヤに行くつもりだったんだけど……」

望月「良かったら一緒にどうかな?」

鳴「……いいんじゃないかしら、勅使河原くんがいても」

勅使河原「いやいや、俺は初めから行くつもりだっつーの! お前だお前!」

恒一「ははは……それじゃあ、みんなで一緒に行こう」

これ赤沢さん√?

――その翌日・第二図書室――

赤沢「……ずっと考えていたことがあるんです」

千曳「なんだい?」

赤沢「……<災厄>は、本当に始まっていないのか」

千曳「気にしすぎだよ、赤沢くん」

千曳「現に、このクラスでは誰も死んではいないだろう?」

赤沢「クラスは大丈夫でも、その親族が犠牲になっている可能性だってあります」

千曳「……一学期、そのような理由で休んだ生徒はいないよ」

千曳「君の説が正しいとすれば、今までに最低でも4人の生徒の身内に不幸があったことになる」

千曳「その4人全員が、それを黙っていると言うのかい?」

赤沢「4人は……さすがにあり得ないですね」

>>34
そういう期待には応えてあげられない内容かも……ごめんなさい

千曳「だろう?」

赤沢「でも、1人や2人だったらあり得るのでは無いですか?」

千曳「!」

赤沢「『毎月一人以上』というルールには反しますが……」

赤沢「おまじないの効力による、イレギュラー。そういうことにはなりませんか?」

千曳「……完全に否定はできないね」

千曳「だが、すると今度はそれが<災厄>だと断定することもできなくなるよ」

千曳「<災厄>に関係なく、偶然そういった不幸が起こったのかもしれない」

赤沢「それは……」

千曳「何度も言うが、気にしすぎだよ」

赤沢「……」

千曳「……赤沢くん、君は十分過ぎるほど努力しているよ」

千曳「そして結果がこうして表れている」

千曳「あとは卒業までこれを続ければいいだけなんだ。君は辛いかもしれないがね」

oh…
ま、立て逃げや途中で投げ出すよりかはマシか

支援

赤沢「……そういうことじゃないんです」

千曳「赤沢くん……?」

赤沢「……単刀直入に言います」

赤沢「もっといい方法は無いんでしょうか?」

赤沢「こんな受け身の『おまじない』なんかじゃなくて、それこそ……」


赤沢「この<災厄>そのものがなくなるような、そんな方法が」



千曳「……」

千曳「……」

千曳「……」

赤沢「……千曳先生?」

千曳「ん? ああ……すまない」

千曳「その……あまりにも、似ていてね」

赤沢「……誰にですか?」

千曳「和馬くんさ」

赤沢「……!?」

千曳「あの時……『おまじない』をやめて、最初の犠牲者が出た時にね」

千曳「彼もまったく同じ事を言ったんだよ」

これは藤岡未咲どうなってるんだろう

千曳「……彼はひたすら自分を責めていた」

赤沢「(自分の判断で……<災厄>を招いたから……)」

千曳「だがね、彼は決して諦めてなどいなかった」

千曳「私にそんなことを尋ねたのがいい証拠だ」

千曳「だから私もできる限りの協力をしたんだ……一度、資料の全てを彼に委ねたこともあった」

赤沢「……」

千曳「そしてそれを返しに来た日……私が和馬くんと会った最後の日でもあるが……」

千曳「彼の表情は、逃げ出す者のそれでは無かったよ」

赤沢「……!」

1. 初恋ばれんたいん スペシャル
2. エーベルージュ
3. センチメンタルグラフティ2
4. Canvas 百合奈・瑠璃子先輩のSS
5. ファーランド サーガ1、2
6. MinDeaD BlooD
7. WAR OF GENESIS シヴァンシミター、クリムゾンクルセイド
SS誰か書いてくれたらそれはとってもうれしいなって
エーベルージュを語るスレ 3年目
センチメンタルグラフティ総合35代目
Canvasシリーズ総合 Part21
初恋ばれんたいん スペシャルを語るスレ
◆◇◆TGL総合スレPart 1◆◇◆
MinDeaD BlooD 4
【シヴァンシミター】WOG【クリムゾンクルセイド】

千曳「だから……彼が逃げたなんて、私にはどうしても思えないんだ」

千曳「きっと何かが……それこそ<災厄>に立ち向かえるような何かがあったのさ」

赤沢「千曳先生は……どうお考えなのですか?」

千曳「すまないが……私には想像もつかない」

千曳「和馬くんは、何かを遺してはいないのかね?」

赤沢「……兄さんが死んでから、部屋には入っていません」

赤沢「……見るのが、辛くて……」

千曳「もちろん、無理強いをするつもりはないが……」

千曳「その気があるなら、調べてみるといい」

千曳「何かの手がかりがあるとすれば、あとはもうそこだけだろう」

赤沢「……」

――同日・美術室――

美術部員「……」ジー

鳴「……その絵がどうかした?」

美術部員「え!? ああ、いや……すごく、綺麗だと思ったので……」

鳴「わたしが描いたのよ」

美術部員「そうだったんですか?」

美術部員「月並みな感想ですけど……素晴らしいですね」

鳴「……ありがとう、あの子もきっと喜ぶわ」

美術部員「?」

鳴「(……未咲……)」

――同日・赤沢家――

赤沢「(ここが、お兄の部屋)」

赤沢「……」

赤沢「入るわね、お兄」

ガチャ…


お兄の部屋は、何もかも昔のままだった

自分でそれを壊すのは嫌だったけど……

もしかしたら、私は何か大きな勘違いをしていて、今まで過ごしてきた

そう思うと、動かずにはいられなかった

そして……


赤沢「……これ、手帳……?」

予定表の、10月1日

お兄が死んだ日

その一文は、あった


「15:00、ホテル〇〇で松永さんと 災厄が止まった合宿について←有力情報?」


赤沢「ああ……お兄……」


逃げたわけじゃ、なかったんだ

最後まで、戦ってたんだ……


赤沢「……ごめんね……」

赤沢「ごめんなさい……!」

さるよけ

次の日、私は千曳先生を訪ねた

なんでもその年は、災厄が止まった年らしい

ならば、その年に卒業した松永なる人物が何かを知っている可能性は、高い

千曳先生の手助けもあり、私はすぐに接触を試みた

隣町に住む彼は、数日後に夜見山に来る用事があるらしい

話はその時に、ということでその場はまとまった

場所はイノヤ、時間は……15:00

――イノヤ――

知香「あら、いらっしゃい」

赤沢「……どうも」

赤沢「(まだ、来てないみたいね)」

知香「ご注文は? いつものかしら?」

赤沢「ええ、そうなんですけど……」

赤沢「今日は待ち合わせをしてるので、注文はその時に」

知香「そう、じゃあごゆっくり」

――数分後――

男「……」ガチャ

知香「松永さん? こんな時間に、珍しいですね」

松永「ちょっと用事と、待ち合わせがあってね……」キョロキョロ

赤沢「こっちです」スッ

松永「ああ、君かい? 赤沢さんは」

赤沢「はい、今日はよろしくお願いします」

知香「えっ」

知香「(どういう関係なのかしら……)」


知香「ご注文は?」

赤沢「コーヒーを」

松永「へえ……コーヒーが好きかい?」

赤沢「ここのコーヒーは、本物ですから」

知香「ふふっ、ありがとう」

松永「じゃあ俺はジントニックを」

赤沢「……?」

赤沢「(ジン? ジンって……お酒よね?)」

赤沢「(確か名探偵コ◯ンで読んだ覚えが……)」

これは支援

支援

知香「……今から飲む気ですか?」

松永「大丈夫だよ、今日だってバスで来たんだし、もう予定も無いから」

知香「ここ、今はまだ喫茶店なんですけど」

松永「カタイこと言わないでくれよ。できないわけじゃないだろ?」

知香「……時間、かかりますよ」

松永「別に構わないさ、ねえ?」

赤沢「……私は大丈夫です」

赤沢「色々、聞きたいこともありますから」

知香「そうなの?」

知香「……じゃあ、ごめんなさいね」

タッタッタッ…

松永「さて、俺に聞きたいことがあるそうだね」

松永「それも『呪い』について」

赤沢「はい」

松永「すまないがね、正直なところ……何も覚えちゃいないんだ」

松永「合宿のことだって、君との電話でようやく思い出したくらいさ」

赤沢「……そうなんですか」

松永「ああ。情報なら、君の方がよっぽど持っているはずさ」

松永「……こっちも一つ、聞いていいかな?」

赤沢「何でしょう?」

松永「赤沢和馬という人は、もしかして君の……」

赤沢「……兄、です」

赤沢「正確には、従兄弟ですけど」

松永「……そうか。お悔やみを申し上げるよ」

松永「バスに落石が直撃するだなんて、そうそう起こらない事故」

松永「その上亡くなった人が、来なかった約束相手だったから、記憶に残っていてね」

松永「あれも……『呪い』なのかな」

赤沢「……おそらくは」


知香「お待たせしました」


松永「ふう……」カラン

赤沢「……」

はよはよ

松永「……お役に立てず申し訳ない」

松永「ただね、さっきも言ったように俺にはもう用事もないし、暫くここで飲むつもりだ」

松永「君が納得いくまで、何でも、とことん聞いてもらって構わない」

赤沢「ありがとうございます。それじゃあ……」


その後もとりとめのない会話は続いた

その中で、有益な情報は結局のところ一切得られなかったけれど

千曳先生、両親以外と、久しぶりにする会話だったからなのか

不思議と帰る気は起きなかった


「……千曳さん? あの人まだいるのか!?」

「やっぱり、有名なんですね」

……本当に何の意味もない会話だったけど


「それで私、何も言えなくなっちゃって……」

「ああ、青春ってやつだねぇ。懐かしいよ」

「あ、おかわりもう一杯ね!」

「……はぁ」


そして……


松永「……」スースー

赤沢「……松永さん?」

知香「やれやれ、やっぱりこうなっちゃったか」

赤沢「……すみません」

知香「いいのよ、加減を知らないこの人が悪いの。いっつもこうなんだから」

赤沢さんの場合、親は知ってたら止めそうだな。『いない者』の役とか

知香「後は私がやっとくわ。あなたはもう帰りなさいな」

知香「ほら! バスで帰るんでしょ!? しっかりして!」

松永「…………だ」ブツブツ

赤沢「?」

松永「隠したんだ……教室に……俺は……」

赤沢「……松永さん?」

知香「また……なの?」

赤沢「えっ?」

知香「前も、似たようなことを口走ってたの」

知香「あとで聞いても覚えがないっていうし……」

sssp://img.2ch.net/ico/kuma-16.gif
さるよけ

赤沢「(教室……隠した……?)」

知香「まあ、気にしても仕方ないわ」

知香「あなたもこんな時間まで付き合わされて、とんだ災難ね」

赤沢「いえ、そんなことは……」

知香「松永さーん? あなたそれ何回言うわけー?」

赤沢「……じゃあ、お金だけ置いていきます」

知香「ええ、またいらしてね」

知香「ほら、もう空でしょう? グラス返しなさい!」

松永「……還すんだ……」

松永「……"死者"を……死に……」

赤沢「……!」

知香「(だんだん言うことが物騒になってきたわね)」

――第二図書室――

千曳「教室に隠したと、確かに彼はそう言ったんだね?」

赤沢「はい」

千曳「松永くんの頃だと……まだ、旧校舎か」

千曳「行ってみるかい?」

赤沢「えっ?」

千曳「だから、その教室に」

赤沢「今からですか?」

千曳「行動を起こすなら早い方がいい」

千曳「それに、ここの二階は立入禁止だ」

千曳「どのみち、赤沢くん一人では行かせられないな」

赤沢「……行きましょう、今すぐ」

――旧校舎二階・旧三年三組――

赤沢「……千曳先生」

千曳「……荒らされているな」

赤沢「ここに、誰かが入ることは?」

千曳「学校側がここを使うことは無いはずだ」

千曳「つまり、ここに入る用事があるのは……」

赤沢「……『三年三組』の生徒だけ」

千曳「『いつ』の三組かまでは分からないがね」

赤沢「……」

千曳「とにかく、我々も探そう」

千曳「まだ目当てのものが無くなったと決まったわけじゃない」

赤沢「……はい」


――数十分後――

千曳「赤沢くん、これを見てくれ。ロッカーの天板だ」

赤沢「これって……」

千曳「ここに、何かが貼りつけられていたようだね」

千曳「先を越されたか……」

赤沢「……」

先客がいたとは…面白くなってきた

――再び、第二図書室――

千曳「そう気を落とすものでもないよ、赤沢くん」

千曳「逆に言えば、誰かがそれを手に入れたんだ。いつの誰かは分からないがね」

千曳「ならばその人がまた何かを残した可能性だって……」

赤沢「……」

千曳「……松永くんは、他に何と?」

赤沢「……そういえば」

赤沢「『死者を死に還すんだ』……とも言っていました」

千曳「!」

赤沢「増えた"もう一人"を殺せ」

赤沢「そういうことですよね?」

がんばれ

千曳「……だろうな」

赤沢「でも、無理です」

赤沢「誰が"もう一人"かなんて、それこそ超能力でもないと……」

千曳「……今は『おまじない』のおかげで誰も死んでいないんだ」

千曳「誰が"死者"か分からない以上、この方法は手当たり次第ということになる」

千曳「そんな危険な手段には訴えられないな」

赤沢「(……それに、松永さんがこの方法で<災厄>を止めたのだとしたら)」

赤沢「(それで<災厄>が止まるのは、その年だけ)」

赤沢「(<災厄>そのものは無くならない……)」

赤沢「(そんなんじゃ、お兄の仇討ちにもならないわ)」

赤沢「(結局、振り出しね)」


???「……」タチギキ




――その夜・???――

カチッ…

『死者を死に還せ』

『これが<災厄>を――』

カチッ…


  「…………」

――翌日・旧三年三組――

赤沢「……」ガサゴソ

赤沢「はぁ……」

赤沢「(一人でもう一度探してみたけど、ダメね)」

赤沢「(……ここで全てが始まった)」

赤沢「(なら、いっその事ここが無くなれば……)」

赤沢「……全部燃やしちゃう?」

赤沢「(そんな甘いもんじゃないわよね)」

赤沢「……まだ、半年あるわ」

結構展開早いな

――旧校舎一階――

赤沢「よっ、と」ヒョイッ

赤沢「さてと、いつも通り千曳先生のところに――」

赤沢「(あれ?)」

赤沢「(美術室……開いてる?)」

赤沢「(今日は確か、土曜日)」

赤沢「(美術部は毎週土日はいないはずなのに)」

赤沢「(……目立つ行動は避けるべきだけど……)」

赤沢「(……ちょっと気になるわね)」

――美術室――

赤沢「(誰もいない……扉の閉め忘れ?)」

赤沢「……ん?」

赤沢「(この絵……)」

赤沢「(人形? いや、羽が生えてる……天使?)」

赤沢「(それより、この絵に描かれてるのって……)」


ガララッ、ピシャン

鳴「その絵が気に入った? 赤沢さん」


赤沢「!?」

鳴「それはね……わたしの半身なの」

赤沢「……な……」

鳴「もしかしたら……半分以上の、あの子かしら」

赤沢「……なん……で……」

鳴「……」

鳴「(やっぱり、そうなのね)」

赤沢「せっかく……私が……今まで……」

鳴「……赤沢さん」スッ


    ドスッ


赤沢「……え?」

鳴「……ごめんなさい」



鳴「――あなたが今年の"死者"なのよ」

えっ












えっ

赤沢「く……うっ……」ドサッ

赤沢「(私が……"死者"……?)」

赤沢「(もう……死んでるってこと……?)」

赤沢「どうして……そんなこと……」

鳴「……わたしには分かるの」

鳴「信じてはもらえないでしょうけど……」

鳴「信じてもらう必要もないわ」ス…

赤沢「……!」

鳴ちゃん…

バンッ!


千曳「……赤沢くん!!」

鳴「……千曳さん」

赤沢「……千曳……先生……」

千曳「これは……これは一体、どういうことなんですか!?」




千曳「――見崎先生ッ!!」

sssp://img.2ch.net/ico/kuma-16.gif
ほう

sssp://img.2ch.net/ico/tora.gif
なんと…

鳴ちゃん…その積極性は本編でやって欲しかったよ

千曳「三組担任のあなたが、"いないもの"である赤沢くんの所在を私に聞くなんて……」

千曳「何かあるとは思いましたが、こんな……」

鳴「今年の"死者"は、赤沢さんです」

鳴「まだ幸いにして被害はないけれど……」

鳴「思い出した以上、放ってはおけません」

千曳「しかし……どうして、彼女だと?」

鳴「覚えてないんですね、わたしの『眼』のこと」

鳴「もっとも、わたしもこれを見つけるまでは"死者"をどうすればいいか、全く思い出せませんでした」

そういう展開だったか

赤沢「……それって……旧校舎の……」

鳴「いいえ」

鳴「このMDがあったのは……現在の三年三組」

鳴「そしてこれを残したのは、勅使河原という10年前の卒業生よ」

鳴「松永さんの残したテープは、私たちが10年も前に見つけていたの」



赤沢「…………」

赤沢「(何が何だか、全く分からないわね……)」

赤沢「(ただ、一つだけ分かるのは……)」

赤沢「(私は、もう長くない……思い切り刺してくれちゃって、よっぽど自信があるのね……)」

赤沢「……見崎先生……」

鳴「……?」

赤沢「……分かるんでしょ、"死者"が」

鳴「……」コクリ

赤沢「だったら、必ず止めなさいよ……これ」

赤沢「……今年だけじゃなく、ずっと……それこそ」

赤沢「私とお兄を弄んだ、この馬鹿げた<現象>が無くなるまで……戦って」

鳴「……ええ」ス…

千曳「見崎先生……」

面白いな

赤沢「(……ごめんね……お兄……)」

赤沢「(でも私も……最後まで戦ったよ……?)」



赤沢「(……ああ……)」




    ヒュンッ



赤沢「(こう……い……ち……く……)」




    ドッ…





鳴「――必ず約束するわ、赤沢さん」

――2008年・8月20日・第二図書室――

ガラッ

千曳「おや?」

恒一「お久しぶりです、千曳さん」

千曳「榊原くん! 久しぶりだねぇ」

恒一「前に会ったのが4月の初めでしたから、もう4ヶ月ぶりですね」

千曳「ああ、あの時は驚いたよ」

千曳「10年前に卒業したきりだった君が、いきなり『明日会えませんか』ときたからね」

恒一「……あの時は突然電話してすみませんでした」

千曳「いや、構わんよ」

千曳「……お仕事の方は、どうなのかな?」

恒一「ここは10年ぶり、ですからね」

恒一「いろいろと、作品にいい影響がありましたよ」

恒一「……体にも、ありましたけど」

千曳「再発するはずのない気胸の再発か……」

千曳「<災厄>のせいではない……と思うがね」

恒一「ええ、単に僕の精神的な問題です」

恒一「……ここではいろいろと、あったので」

千曳「……そうか」

千曳「見崎先生……いや、見崎くんのほうがいいか」

千曳「彼女からは、なにか?」

ここでも赤沢さんは救われんかったんや・・・

恒一「こっちに来たばかりの時に、いろいろ聞いたんですけどね」

恒一「見崎が美術教師になって夜見北にいること、よりによって三年三組の担任になったこと」

恒一「まだ<災厄>が続いていること、今年は<ある年>だということ」

恒一「……そして対策として、"いないもの"が生徒の中から選ばれたこと」

千曳「……」

恒一「その時に、見崎は僕にその生徒の名前を教えてくれたみたいなんです」

恒一「もう、覚えてないんですけど……それが」

千曳「赤沢泉美くん……君の同級生だったね」

恒一「本当に赤沢さんだったんですね……」

千曳「ああ、今は私も彼女が10年前、あの合宿で亡くなったことは覚えている」

千曳「……だが、確かに彼女はいたんだ。この4ヶ月の間」

恒一「……」

千曳「"いないもの"として、彼女は実に優秀だったよ……お兄さんのことがあったから、尚更ね」

千曳「事実、無事に一学期がこうして終わっている」

千曳「だが、それも……」

恒一「"死者"が"いないもの"になっていたから……」

千曳「……そうだったのかもしれないな」

恒一「勅使河原のMDのことは、千曳さんは?」

千曳「見崎くんから初めて聞いたよ、彼は元気なのかい?」

恒一「先日会ったばっかりなんですけど、良くも悪くも相変わらずでしたよ」

千曳「……そうか」

千曳「彼がせっかく残してくれていたものに、私はずっと気づけなかったわけだ……」

恒一「見崎だって忘れていたんです」

恒一「これもきっと、<現象>なんでしょうね」

千曳「今はコピーが私の手元にあるがね、これもどこまで信用できるか……」

千曳「だが、出来る限りのことはしておきたい」

千曳「……死地に留まる見崎くんのためにもな」

恒一「見崎は……来年もまた、三組に?」

千曳「……おそらくはな」

恒一「そうですか……」

千曳「私もじきに定年だ」

千曳「だが、何とかここに残してもらえるよう学校側に掛け合うつもりだよ」

恒一「これからも、<観察者>として?」

千曳「ああ、息ある限り戦い続けるさ」

千曳「……それが彼女の、最後の願いでもある」

恒一「(……赤沢さん……)」

>>91
赤沢さんの最期の言葉が泣ける…

あれから10年後の話だったとは・・・

――帰り道――

恒一「(この川原を歩くのも、久しぶりだな)」

恒一「(……"死者"の記憶は、その死と同時に修正される)」

恒一「(もう彼女を覚えているのは、その死に深く関わった見崎と千曳さんだけだ)」

恒一「(……僕は、赤沢さんに会っていたんだろうか)」

恒一「(お互い、知り合いだとは気づけなかったにしても……)」

恒一「(……なんか、二人が羨ましいな……)」

コツン

恒一「……ん?」

恒一「(……空き缶?)」

――あなたに空き缶ぶつけたの、覚えてる?


恒一「……」


――手がね、体が……覚えてる


恒一「……」


――嘘でもいいから、覚えてるよくらい言いなさいよ……!

恒一「……ああ……」





恒一「……覚えているよ、赤沢さん」



―了―

以上で終了です。
こんな時間にもかかわらず読んで下さった方々にはもう感謝しきりです。

乙よかったぞ


次は赤沢さんを幸せにしてやってくれ

sssp://img.2ch.net/ico/kuma-16.gif
乙!感動した
素晴らしいミスリードだったよ

おつ


すごいよかったよ



>千曳「――見崎先生ッ!!」
ここでゾクッときたわそうきたかって

叙述トリックってやつか

有能なアカザーさんかと思ったらまさかまさか

シリアスなSSは数も少ないから尚良かった、乙

赤沢さんが有能なSSだと思ったらやっぱり無能だった

>>114
被害を出さなかったという点で有能だろ。おまじないが効いてたんだから

確かに報われないENDだったがいい出来だった乙!

sssp://img.2ch.net/ico/tora.gif
面白かった乙

これはいいアカザーさんだった

これは面白かった

良かった

面白かったわ ただ見崎が3組の先生になってる可能性は0かな
死の危険がある3組の関係者になって災厄を止める方法を発見するまで生きてる可能性は0じゃないからね
あるとしたら千曳ポジション

本当は潔く去るべきなんでしょうが、
読み返したら思ったよりわかりにくかったのでちょっと補足を。

・なぜ赤沢は恒一から逃げたのか?
一目惚れしたからです。やっぱり赤沢さんは赤沢さんなんです。
このことは>>60でもさりげに補強してます。

・鳴は恒一にいないものや災厄の話をして大丈夫なのか?(他言禁止ルールに反するのでは?)
他言禁止というのは「三組の特殊事情を知らない」第三者に対してです。
という訳で、三組卒業生で覚えてるであろう恒一は大丈夫と判断しました。
千曳さんがセーフみたいなものですね。

面白かった。お疲れ様!


非常に良かった。ODA化はやく

名作だった、乙

赤沢さんのファンだから面白かったとは言えないけど
非常に良かったです

シリアスながら短くまとまってて根気のない俺としてはありがたかった

死者は過去の犠牲者のなかから選ばれるんだよなあ
そんでもって赤沢さん
なるほどね

今読んだが、これはいいSSだった



本当にいいSSだった

そうか玲子さんがああなった以上赤沢さんもこうなる可能性があるわけか
他の犠牲者の面々も

殺す→死者として再利用、セカンドレイプ
現象さん性質が悪いな

叙事トリックとは・・・
赤沢さん泣けるわ・・・


感動した

どうしてみんな死んじゃったんだよお・・・

凄く面白かった乙

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom