魔王「勇者が弱すぎる」 (20)

―魔王城―

魔王「よく来たな。勇者たちよ」ドンッ

女勇者「お前が魔王…ッ」

エルフ「あら、まぁ」

ダークエルフ「……」

ドワーフ「随分すんなり玉座まで来てしまったな」

魔王「……」

ダークエルフ「……極滅火炎呪文」ボワッ

エルフ「え、あれ、会話イベントキャンセルですかぁ? じゃあ私も、水の精よー」ザパーン

ドワーフ「ふぅ、……唸れ雷斧」ビリビリ

チュドーン

モクモク

ドワーフ「やったか?」

魔王「……はぁ」

女勇者「む、無傷……」

エルフ「あらあら、全力でしたのに」

魔王「言っておくが、アレだ、俺には超強いオートバリアがある。これを突破できるのはそういう能力を持った武器だけだ。……誰か持ってないのか?」

エルフ「あ、自分で解説した」

女勇者「みんな下がって! 私の聖属性と、この聖剣なら通るはず!」

ドワーフ「ふむ、そういう予言であったな」

魔王「そうか。じゃあそれ使え」

ダークエルフ「……サポートする。身体能力超強化呪文」ピロピロ

女勇者「ああああああ! 喰らえぇえええええ!」ピカー

魔王「……」

パキーン

ちょっと期待

カランカラン

女勇者「……ッ! せ、聖剣が」

エルフ「魔王の肉体に弾かれて、…折れましたわ」

ドワーフ「な、なんという…」

ダークエルフ「……」ガタガタ

魔王「……」

シーン

女勇者(終わった……全部終わった…)

魔王「あー、そのなんだ、お前らのレベルはいくつだ?」

女勇者「え」

魔王「レベルだよ、レベル」

エルフ「全員Lv99ですわ」

魔王「……そうか、ビックリするくらい弱いな」

勇者一行「」

シーン

女勇者「ま、魔王!」

魔王「ん?」

女勇者「私は、…私はどうなってもいい。だから他のみんなは」

魔王「帰っていい」

女勇者「助け…え?」

魔王「もう帰っていいぞ」

ふむ

この魔王は何がしたいの?

魔王「たった今、俺が創造した1000万体のゴーレム兵は全て破壊した。世界は平和になった。だからもう帰れ」

エルフ「なん…」

ドワーフ「だと……」

ダークエルフ「…」

女勇者「……そんなこと信用できるか!!」

魔王「ならどうする? 1000万の兵を操りつつ限界まで手加減した俺にかすり傷一つ付けられないお前らが、どうするというんだ」

女勇者「……」

ダークエルフ「…アナタはこれからどうする気?」

魔王「俺か? そーだな、俺は超強力な再生能力もあるから自殺も出来ないし、まぁ、どこかに身を潜めてひっそり暮らすさ」

ダークエルフ「…解せぬ」

ドワーフ「それではまるで、殺されるためにワシらを招いたようだの」

魔王「そうだな。第二希望だったが、それは叶わなかった」

女勇者「……ふざけるなッ!」

魔王「本気だ」

女勇者「自殺したい? そんなの勝手にしてろ! お前のせいで一体どれだけの血が流れたと思っている!?」

魔王「だから出来ないんだって、自殺」

エルフ「先ほど『ひっそり暮らす』と言っていましたわねぇ。最初からそうしていればよかったのでは?」

魔王「それも無理だったが、今なら出来るだろう」

エルフ「どういうことかしら?」

魔王「人間、エルフ、ダークエルフ、ドワーフが互いに手を取り、協力し、ここまで辿り着いた。それで十分だろ?」

勇者一行「…」

女勇者(嘘ンゴ、本当はレベル0,0000000000000000000000000000000000000000000000001ンゴ)

女勇者(魔王、弱すぎンゴ)

女勇者「……お前は、何者なんだ? どこから現れたんだ?」

魔王「俺は人間だ。別の世界のな」

エルフ「……人間が平行世界を超えてきたというのですか?」

魔王「そうらしい」

エルフ「らしいって…」

魔王「俺にそんな能力は無い。この星の神、或いは力なき者の願いといったところか。そういった力が俺を召喚したんだ。お前らに対する特効薬としてな」

女勇者「特効薬だって?」

魔王「最初は気付かなかった。ただ漠然と呼び出されて、状況も分からず彷徨っていた。だがそんな俺を助けてくれた女の子がいたんだ」

魔王「幼いエルフの女の子でな、ロリコンの俺は、あぁよく分からない世界だけどこの幼エルフを守って生きていこう、そう思ってたんだ」

エルフ「うわぁ…」

うわぁ

魔王「しかしそれは叶わなかった。弱かった俺は彼女を守れなかった。人間の歪んだ欲望の餌食になり、殺されてしまったんだ」

魔王「人間を恨んだよ。だからそこで俺は人間を辞めた。すると信じられないほどの力が湧いてきた。その町に居た人間を一瞬で皆殺しにするほどのな」

魔王「その時に気付いたんだ。これは誰かが仕組んだ運命なんだってな。かなりムカついたな。そいつを探しだしてぶち殺してやろうと思った」

魔王「だが世界中を探してもそんな奴は居なかった。代わりにこの世界の真実を見せつけられた」

魔王「人間はエルフの奴隷を売買し、エルフは縄張りに入った人間を無差別に殺す。ダークエルフは人間、エルフ相手に略奪を繰り返し、ドワーフはその全てに武器を売る。それがこの世界の姿だ」

魔王「一体どれだけの血が流れたか、と聞いたな勇者よ。…ハハ、俺などとてもお前らには及ばんよ」

魔王「魔王である俺が言うのも何だが、何度も地獄を見てきたよ。よくもまあ、あそこまで残虐になれるものかと怒りを通り越して感心すらしたぞ」

魔王「同じ言葉を話し、意思疎通が出来るというのに、世界の端から端まで悪意に満ち溢れていた」

魔王「お前らは等しく生きる価値がないと思った」

勇者一行「……」

魔王「だが一方で俺を助けてくれたあの子が居た世界でもある」

魔王「だから試してみたくなったんだ。お前らが共存の道を選ぶのか、滅びの道を選ぶのかな」

うわぁ

魔王「だからこの勝負はお前らの勝ちということだ」

女勇者「そんな……そんなのって……」

魔王「どうやらお前に神託を授けた神と、俺に力を与えた存在は違うモノらしいな。本来なら俺の役目はここで終わりなんだろうが、力が衰える気配すらない」

ダークエルフ「……ぐぬぬ」

ドワーフ「……なんと不器用で哀れな男よ。お前は弱い。心がな」

魔王「或いは、そうかもな」

ドワーフ「………………ん?」

ブオーン

ドワーフ「な、なんじゃ、あの異常な魔力の渦は」

ダークエルフ「……」

エルフ「なんという強力な術式ですの…」

ブオーンブオーン

エルフ「どんどん広がって行きますわ。あれは……ゲート? なのでしょうか?」

魔王「…………そういうことか」

女勇者「どういうことだ!? 何をする気だ?」

うわぁ

魔王「……クククク……ハハハハ! そうかそうか! どうやら次の世界が俺という魔王を待っているらしい!」

魔王「傑作じゃないか! 俺はまたあの地獄を見せられるのか!? また絶望し世界を焼きつくすのか!? 面白い筋書きを考えたものだなクソッタレ!! ハハハハハ!!!」

勇者一行「「「なんだって!」」」

魔王「……はぁ、ま、仕方ないか。何だかんだで結構殺したもんな俺。罰としちゃ妥当だわな」

女勇者「魔王…」

魔王「……と言うわけだ。長々と語って悪かったな。お前らは魔王を打ち倒した英雄として各々の種族を導いてゆくといいさ」

エルフ「……さよなら、ですわね」

ドワーフ「礼など言わんぞ。貴様は永遠に大罪人として歴史に刻んでやる。……じゃがその意志はワシらが引き継ぐと約束しよう」

ダークエルフ「……かっこつけんなバーカ」

女勇者「魔王!……私は、…私は!」

魔王「時間切れのようだ。じゃあな、お前ら。…………さよなら、幼エルフ」

バシュン

―時空の狭間―

魔王「…………何してんのお前」

女勇者「ヒッグ…グスッ…さ、させないからな!」ダキツキ

魔王「殺しをか? 無理だよ。だってお前弱すぎるもん」

女勇者「違う! ぜ、絶望なんてさせない!…から…わ、私が付いているし!」

魔王「……はぁ? お前やっちまったな。多分もう二度と戻れねーぞバーカ」

女勇者「うぐ゙ぅ…バカじゃな゛い゛も゛ん゛! 勇゛者゛だも゛ん゛! うぇぇ、うぇえええ!」

魔王「あーあ、後悔しまくってるじゃん。ガキかよ」

女勇者「ガキじゃないし! 13歳だし!」

魔王(…ストラァァアアアイク!)

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