火憐「じゃあ処女やる。私の処女あげるから」 暦「それならいいぜ」(1000)

火憐「えっ」

暦「だから、神原を紹介する変わりに、火憐ちゃんの処女をもらえるんだろ」

火憐「あ……うん……いやいや、そこは兄ちゃんが断る所では?」

暦「おいおい、何を言っているんだ火憐ちゃん」

暦「妹の処女を欲しがらない男なんているか?……否、妹の処女を欲しがらない兄貴などいない」

暦「そんな奴は、兄でもなんでもないね」

火憐「そ、そっか」

暦「ならこれで契約成立でいいか?」

火憐「神原先生を紹介してもらうえるならしょうがないさ(まぁ兄ちゃんなら……///)」

暦「オーケー、これで契約成立だ」

暦「時に火憐ちゃん、処女をもらえる権利ってことはさ……」

暦「別に相手は僕じゃなくてもいいんだぜ」

火憐「」

火憐ちゃんの処女は俺が1万5千円で買うわ

むしろ事後に月火ちゃんに見つかり
つきひ「アンタらと同じ血が流れてると思うとぷらちなゾッとする!」

かれん「は?何言ってんの。アンタだけ他所の子だから安心しなよwwwww」な展開でお願いします

火憐「まじかよ……」

暦「それにだな火憐ちゃん」

暦「処女が僕の物って事は、火憐ちゃんは勝手に性行為をしてはいけないってことさ」

火憐「へ……?」

暦「つまり、えっと暖炉沢だっけか?お前の彼氏は?」

火憐「蝋燭沢くんだよ、兄ちゃん」

暦「そう、その暖炉が火憐ちゃんと性行為をする事はできないってことさ」

暦「それよりまず、火憐ちゃんが処女だっていう証明をしなきゃいけないよな」

火憐「ま、まさか兄ちゃん……」

暦「火憐ちゃんの膜を確認だ」

暦「言っておくが今回だけじゃねーぜ。火憐ちゃんは商品みたいな物なんだからな」

暦「週一だ。周一で確認だからな」




ふぅ

瑞鳥くんだったか

まぁ月火ちゃんも僕が頂くんですけどね

>>32
はよ

>>34
すまん仕事が

と……ここまで僕は実の妹である火憐ちゃんに思ってもいないことを口走っている。

どこの世界にリアル妹の処女を欲しいと思う兄がいるだろうか、いやいるはずがない。

分かっているとは思うが、なぜ僕がこんなことを言っているかの説明をしておこう。

確実に火憐ちゃんと神原の接触を防げるからだ。

このでっかい妹は一度言い出したら頑として折れようとしないからなぁ……

ああ分かってる、みんなわかってるよ。それ以外にも何か理由があるんじゃないかって?

神原との会わせないためだけにここまでするわけがないと思ってるんだろ?

そう、そのためだけに紳士たる僕がここまで馬鹿で変態なことを言うはずがない。

じゃあなぜ僕の口はこんな言葉を紡いでいるのか?

理由は明らかである。

単純に火憐ちゃんの反応が面白いからだった。

阿良々木「さあさあ火憐ちゃん、じっくり確認させてもらおうか」

火憐「へ、変態だ!兄ちゃんが変態に変態した!」

阿良々木「はあ……この程度の関門も乗り越えられないようじゃ到底神原には会わせられないな」

いやこれはホントに。

これくらいで恥らってるようじゃあの変態レベルの変態とは到底渡り合えないし。

火憐「で、でも……そんなの……」

阿良々木「…………」

あ、どうしよう困ったぞ。女の子らしく恥ずかしがる火憐ちゃんが一瞬可愛く見えた。

火憐「…………」

やれやれ、とうとう黙り込んでしまったか。コイツは手を出すのは速いけど頭が回るのは遅いからな。

仕方ない、今日の所はこの辺で勘弁してやるとしよう。

残念だったな火憐ちゃん、勢いに任せて余計なことを口走ったのがすべての敗因だ。

それに乗じて僕も若干楽しんでたようにも感じるけれど多分気のせいだろう。

馬鹿な妹たちに振り回されてるストレスを解消したなんてことは微塵もないぞ、うん。

阿良々木「もういいよ火憐ちゃん、僕もやりすぎた。ただこれで神原のことは諦めるんだぞ」

火憐「…………いいよ」

阿良々木「ん?」

火憐「兄ちゃんだったら……いいよ」

……………………

……ここで一つの教訓を授けておこうと思う。

何事にも引き際の限度を知るべきである。

いや、うん。まどろっこしい言い方は止めることにする。現状を端的にまとめるとだ。

僕は、やりすぎてしまったのだ

阿良々木「ま、待て火憐ちゃん!」

火憐「何だよ兄ちゃん、あたしは本気だからな!」

阿良々木「分かったからとりあえずパンツに手を掛けるのは止めるんだ!」

火憐「ヤダ!兄ちゃんにあたしが処女だってことを確認してもらうんだ!」

阿良々木「その発言は何もかもが間違ってるぞ火憐ちゃん!?」

火憐「兄ちゃんが処女だって確認するんだ!」

阿良々木「お前は僕が処女か否かを確認したいのか!?」

四の五の言ってる場合じゃない、言葉で言って分からないなら無理やりやめさせてやる。

常日頃、僕はこの妹に『口で説得できないからといってすぐ力に頼るのは止めろ』

とかなんとか言ってた気がするのだが……いや、これはある意味での正当防衛だ。

そんなことが走馬灯のように頭を駆け回るうちに僕は火憐ちゃんの手を掴んでいた。

火憐「離せよ兄ちゃん!パンツが脱がせにくいだろ!」

阿良々木「それと同じセリフを過去に二回聞いたが自分のパンツを脱がせにくいと言ったのはお前が初めてだ!」

……いや、そのうちの一回は僕自身が発したものだけれども。

月火「……何やっとるんどすえ?」

阿良々木「…………」

火憐「離せよ兄ちゃん!これじゃパンツが…………」

月火「パンツが?」

火憐「…………」

火憐ちゃん、気づくのちょっと遅い。

他人の目にはこの状況がどういった風に見えているのだろうか。

パンツに手を掛けた妹とその妹の手に手を掛けた兄の図は。

月火「何で火憐ちゃんはお兄ちゃんの部屋で私の服を着ているのかな?」

火憐「…………」

月火「何でお兄ちゃんは火憐ちゃんのパンツを下ろそうとしているのかな?」

…………いや、これは仕方ない。普通は誰だってそう考える。僕だってそう考える。

一見すれば、この状況の僕はパンツを下ろそうとする妹を必死に制止しようとする兄ではなく

パンツを下げられまいと必死に抵抗する妹を無理やり脱がせようとしている兄にしか見えないだろう。

月火「で?二人は私に何か言うことはないの?」

最終弁論の時来たり……ここで会心の一撃を繰り出せばまだ生き残れるチャンスはある!

阿良々木「違うんだ月火ちゃん、これは……」

月火「これは?」

阿良々木「正当防衛だ」

月火「…………」

……そんな『何を言ってるの?』みたいな顔をされても困る。

僕自身、自分でも何言ってるのかよくわからないんだからな。

月火「ふむ……ふむふむ……」

あれ、意外と考え込んでる。あまりに意味が分からなさすぎて逆に混乱してるのか?

どうやら僕もまだ死を覚悟する必要はなさそうだ。

月火「じゃあ私が今からお兄ちゃんに何をしても正当防衛になるんだね?」

前言撤回、どうやら死を覚悟する必要しかなさそうだ。

火憐「あ、あの……月火ちゃん」

月火「…………何かな?」

火憐「うっ……」

怖い顔をして人を脅しに来る人がいる、それはやくざであったり不良であったりと様々だ。

なるほど、確かにそれは怖いだろう。それでも僕は断言したい。

一番怖い表情とは笑顔であると。

僕の妹の笑顔であると。

阿良々木「一応聞くけど月火ちゃん、何て言って謝れば許してくれるか教えてくれないか?」

月火「何言ってるの?謝ることなんて何もないんでしょ、正当防衛なんだから」

優しい言葉づかいではあるがそれに隠された真意はこういうことだ。

何を言っても許さない。

月火「じゃあ二人とも、そこに立って」

阿良々木「…………」

ダメだ、もう言うこと聞くしかないなこれじゃ。

ここまで来たら下手に抵抗せず、何を言われても素直に従っておこう。

月火「じゃあ二人とも、私の服を脱がせて?」

…………

……何が何だか分からない。

ありのまま今起こったことを話そうと思う。

僕は妹が下着を脱ごうとするのを止めようと思っていたらもう一人の妹を裸にすることになった。

何を言っているのか分からないと思うけれど、僕にも何が何だか分からなかった。

というか今でも分からない。

阿良々木「つ、月火……ちゃん?」

月火「何?」

阿良々木「……目的は?」

月火「私と火憐ちゃんとお兄ちゃんの三人プレイ」

阿良々木「ああ、なるほどゲームの話か。だったら服を脱ぐ必要はないんじゃないか?」

月火「保健体育の実習って言ったほうがわかりやすい?」

阿良々木「あ、ああ!なるほど!テニスとかか!それでも服を脱ぐ必要はないんじゃないか?」

月火「子作りの実習」

阿良々木「馬鹿だなぁ月火ちゃん、赤ちゃんはコウノトリが運んでくるんだぞ?」

月火「せっく」

阿良々木「もう誤魔化せないからそれ以上は言うな」

月火「もういい?いいんだったら早く脱がせてよ」

明らかにおかしいぞ月火ちゃん、何か悪いものでも食べたのか?

とりあえず一つ言えるのはこのままじゃ色々とマズイということだ。

阿良々木「分かった月火ちゃん、脱がせてやるからとりあえず目を瞑れ」

月火「目を?」

阿良々木「こういうことをする時ってのはそういうものだろ?」

月火「ああ、なるほど……じゃあ、はい。これでいい?」

僕の言葉に従って目を閉じる月火ちゃん、いつもこれくらい素直だったら僕としても楽なんだけど。

さて、ここからすることと言えば一つだ。


僕は、月火ちゃんが目を閉じている間にそっと逃げ出した。

さて、首尾よく火憐ちゃんとともに逃げ出したわけだが……

阿良々木「火憐ちゃん、ここで一端別れよう」

火憐「えっ……兄ちゃん、あたしのこと嫌いになった……?」

阿良々木「違う、二人で固まってたら見つかりやすいだろ?」

火憐「やだやだ!あたしは兄ちゃんと一緒にいたい!」

阿良々木「……心配すんな、あとでちゃんと落ち合うから」

火憐「ホント?絶対だからな?」

阿良々木「ああ、絶対だ」

月火ちゃんから逃げだし、火憐ちゃんとも分かれた後のこと

忍「おやおや、相当に困っておるようじゃな……お前様よ」

阿良々木「忍……お前何か知ってるか?」

忍「何がじゃ?」

阿良々木「全てだ、この状況における全てだよ」

先に、月火ちゃんの様子がおかしいと語ったがどうやらそれは訂正しなければならないらしい。

月火ちゃん『も』おかしいと言うべきだったのだ。

反応がおかしいのはあの小さい妹だけではない、でっかい妹も同じであるらしい。

さっきの反応を見れば一目瞭然だ。何というか、その……僕に対してデレすぎている。

忍「はぁ……お前様の悩みというのはまったく、どうもアレじゃな」

阿良々木「あれって何だよ、あれって」

忍「that」

阿良々木「正しいけれどもそれは違う!」

忍「何が悩みだと云うのじゃ?己の兄妹から愛されて愛されて困っておると?」

阿良々木「誤解を生むような表現は止めろ」

忍「ふむ。まあ、お前様の悩みの種……知らぬと言えば嘘になるの」

阿良々木「やっぱり……そうなんだな」

そう、火憐ちゃんが下着を脱ごうとしていたのも、月火ちゃんが妙な行動をしたのも

すべては怪異のせいだったのだ。

阿良々木「いや……怪異のせいってのは違うか。怪異ってのはそこにあるだけなんだからな」

忍「しかし困ったことになったの、はっきり言えば儂にももうどうにもならん」

阿良々木「……冗談で言ってるわけじゃないんだな?」

忍「儂は冗談が苦手じゃ」

阿良々木「へえ、それは面白い冗談だな」

忍「『恋慕狐』、一言でいえば狐の怪異じゃな」

阿良々木「……今度は狐、か」

蟹、蝸牛、猿、蛇、猫、蜂、そして吸血鬼……僕が関わった怪異の数々。

その中にどうやら、新しく狐の名が刻まれることになったらしい。

忍「狐に化かされる、一度は耳にしたことがあるじゃろう?」

忍「まあ……今回は化かされたというより憑かれた、と言ったほうが正確じゃがな」

狐……考えてみれば狐にかかわるおとぎ話っていうのはたくさんある。

イソップ童話なんかには狐が出てくる話は数えきれない。

日本でも有名どころではごんぎつねであったり、葛の葉なんて狂言もあったはずだ。

最近じゃやとわれ遊撃隊として宇宙を飛びまわったり、真面目に不真面目をやったり……

……いや、これは少し違うか。とにかく、それくらい狐とは逸話に事欠かない動物である。

やれやれ、だいぶ厄介なタイプの怪異に遭遇してしまった気がする。

忍「これだけははっきりと言っておくがの、お前様……今回はそこまで害を為す怪異とは言えぬぞ」

忍「数多くある逸話においても狐が完全悪の話はあまり聞いた覚えがないじゃろう?」

忍「強いて言うなら今回は……お前様が知り合いの異性から異様に好かれる、と言ったところか」

阿良々木「字面だけ追っていけば男の夢だな、それ」

忍「……ほう、ずいぶんとプラス思考じゃな」

阿良々木「…………?」

忍「言ったじゃろう、異性から『異様』に好かれると」

阿良々木「……忍、気を遣わなくていい。もっと直接的に言ってくれ」

忍「下手を撃つなということじゃ、貞操を失うだけではすまんぞ」

忍「重すぎる愛はいずれ藍に変わり、そして最後には殺意に変わるとも言い切れぬ」

阿良々木「…………」

さっきから表現の訂正が多く、大変申し訳ないのだが、それでも再び訂正しなければならないだろう。

だいぶ厄介どころではない、この上なく厄介な怪異である。

忍「意味は違えど、狐の嫁入りと言った言葉もあるくらいじゃ……気を付けよ、お前様」

阿良々木「……この怪異の対処法は?」

忍「さあて……そこまでは覚えておらぬな、ここまで来ては儂が喰うことも出来ぬ」

忍「ま……おそらくは時間が解決してくれると思うがの」

阿良々木「…………」

囲い火蜂と同じく……すでに発生してしまった結果を除去することは忍でもできない。

そして怪異の専門家である忍野との連絡もつかない現状では対処法を知ることもかなわない。

つまるところ、この怪異にはこの身一つで立ち向かう必要があるのだ。

阿良々木「まったく……退屈しない夏休みだな」

……………………

と、カッコつけてみたはいいものの

一体、僕にどうしろというのだ。

阿良々木「異性の知り合いに会わなければいいのか?」

……どうやって?ばったり街中で遭遇したらどうにもならないじゃないか。

家に引きこもろうにも愛しい我が妹たちがいる。

……いや、待てよ!男友達の家に行けばいいじゃないか!そこにいれば安全だし何の問題も起こるはずがない!

この怪異が作用するのはあくまで異性なのだから。

はあ。まったく、こんな簡単な解決策があったというのに……

阿良々木「……僕はそれを実行できない」


僕に男の友達など一人もいないのだから。

ごめん用事入ったどうしよう

長くなりそう、残ってれば必ず続きは書くけど落としてくれても構わない

掛け合いに違和感ないな

八九寺「あ、ほもらぎさん」

阿良々木「僕の後輩が寄ってくるからやめろ」

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遅れた

忍「さて……そろそろ儂はお前様の影に戻る、いらぬ面倒事を引き起こしかねんからな」

阿良々木「心配してくれてありがとな、忍」

忍「礼には及ばんよ、別にお前様のためのことではないのじゃからな」

阿良々木「……なあ、忍」

忍「ん?」

阿良々木「お前は……その恋慕狐にやられたりはしないんだよな?」

別に忍のことを疑うわけじゃない、ただ確認しておきたかったのだ。

高位の怪異であるこの麗しい吸血鬼も今はほとんど力が残されていない。

僕の一番近くにいる忍にもその怪異の効果が及んでしまうとするならば……

文字通り、腹をくくるしかないのだ。

忍「怖いか、お前様よ」

阿良々木「……ああ、怖いな」

今まで味方だと思っていた仲間が敵に回る、そんなのは漫画や小説ではありがちな展開で若干古臭いとさえ思う。

それでも現実にそれが起こってほしいなどとは到底思えない。

繰り返すが僕は忍を疑ったわけじゃない。怖かったのだ。

忍「いらぬ心配をする暇があれば何とかこの状況を切り抜ける方法でも考えるんじゃな」

忍「今の儂とはいえ、そんな極東の弱小怪異にやられるほど落ちぶれてはおらぬよ」

阿良々木「そうか……妙なことを聞いて悪かったな」

忍「かかっ、ま……やられても面白かったかもしれんがの」

僕の不安をよそに忍は、この金髪の美少女はにやりと笑い

忍「怪異のせいにしてしまえばお前様に甘えていくらでもドーナッツをねだれるわ」

阿良々木「……無事にこの一件が終わったら腹いっぱい食わせてやるさ」

こうして、近い将来に僕の財布が軽くなることが確定することとなった。

・・・

そんなこんなで、今の僕は目的もなくフラフラと街中を歩きまわっている。

一つの所に腰を落ち着けているのもいいと思ったのだが……それはなんとなく嫌だった。

何が嬉しくて夏休みの一日をじっとして延々と過ごさなければならないのか。

暇とは最安であり最大の麻薬であるとはよく言ったものだ。

それならばこうしていつもは気にも留めない日常の風景に目をやるほうがいい。

阿良々木「……で、こういうイベントが発生するわけか」

僕の歩く道の先、そこにはツインテールを揺らしながら大きなカバンを背負って歩く少女。

道に迷った少女、蝸牛の少女。

八九寺真宵の姿があった。

阿良々木「はぁ……」

まったく、どうしてこんなことになってしまったんだ。

先に忍から説明を受けたように今は恋慕狐とやらの怪異の影響が出ている状態である。

そんな時に限ってこうして知り合いである八九寺と遭遇する。

いや、別に八九寺なんて僕はどうだっていいんだけどさ。もう全然気にも止めていない存在だし。

それでもだよ、一応アイツとは顔見知りであって話したことだってある。

だから警戒するに越したことはないと思うんだ。

え、いつもみたいに抱き着こうとするんじゃないかって?ほっぺをスリスリしたりすんじゃないかって?

まったく何を期待しているのやら。紳士たる僕がそんなことを、ましてやこの状況でするはずがないじゃないか。

いや、それでもだ。ちょっと冷静になって考えてみよう。

確かに八九寺なんかにはちっとも興味はない、それは確定的に明らかではあるよ。

でもだ、僕が興味がなくても八九寺という女の子に対して何のレスポンスもしないのは失礼ではないか?

漢文的に言うならば……いずくんぞ、女性の尊厳を傷つける行為をする人間を紳士と呼べるんや。である

だからだ、ほんの少しくらい、頭をちょっとポンポンするくらいのことはすべきだと思うんだ。

どんなときもどんなときも、僕が僕らしくあるために。紳士らしくあるために。

はぁ、溜め息が出るくらいに僕は優しい人間だな。

よし、準備は出来た。もう何も言い残すことはない。

十分伝わったと思う、僕がいかに紳士であるか。やましいことなど一ピコグラムも考えていないということが。

無限の彼方へさあ行くぞ。


阿良々木「はっっっちくじぃぃぃぃぃぃ!!」

八九寺「きゃああああああぁぁぁっっ!?」

阿良々木「あーもうコイツめコイツめ!何でそうやってお前は僕を誘うんだこのこの!!」

何だなんだこのロリロリな体は!このプニプニのほっぺは!この艶々の髪は!

キスしてくれと言ってるようにしか見えないじゃないか!この変態さんめ!

八九寺「ひぁやあああああぁぁぁっっ!!?」

阿良々木「ちっとも興味ないなんて思ってごめんな八九寺!お詫びに一杯舐めてやるからな!」

阿良々木「あーもうクマさんパンツも可愛いなコイツ!脱がせて持って帰っちゃうぞこのー!」

八九寺「ぎにゃあああああぁぁぁっっ!!!?」

次の瞬間、僕の指先に電流走る。

阿良々木「痛ってぇぇぇ!何すんだこの!!」

はっきり言って、痛いのも、何すんだこの!!も

全部僕だった。

八九寺「ふしゃぁぁぁぁ!!」

全身の毛を逆立てて僕を威嚇しにかかる、蝸牛っていうかまんま猫だよな……

阿良々木「落ち着け八九寺!僕だ!阿良々木だ!」

八九寺「ふしゃぁぁぁ…………はっ……?」

呼びかけに反応して僕を認識できたらしく

八九寺「何だ、アマガミ暦さんじゃないですか」

阿良々木「八九寺、人のことを先輩、後輩、委員長、同級生、幼馴染、妹と甘々な恋愛をするゲームみたいに呼ぶな」

阿良々木「僕の名前は阿良々木暦だ」

八九寺「失礼、噛みました」

阿良々木「違う、わざとだ」

八九寺「かみまみた!」

阿良々木「わざとじゃない!?」

八九寺「神谷見た」

阿良々木「それは僕とそっくりの声を持つ人のことか!?」

八九寺「しかし阿良々木さん、今日は一体どうされたんですか?」

阿良々木「いや、別にどうもしないよ。ちょっとした面倒事があっただけだ」

八九寺「はぁ、面倒事ですか。本当に阿良々木さんはそういったことに事欠かない人ですね」

阿良々木「あんまり嬉しくないな、それ」

八九寺「何に巻き込まれているかは知りませんけど、あまり無理はしないでくださいね」

八九寺「阿良々木さんはすぐ色々なことに首を突っ込みたがるんですから」

阿良々木「大丈夫だ、ありがとな八九寺」

八九寺「できれば私の服の中に首を突っ込んでくるのもやめてほしいんですけど」

阿良々木「それはダメだ、ごめんな八九寺」

八九寺「どれだけ私に対するセクハラ行為に情熱を持ってるんですか!?」

一通り八九寺と話してはみたのだが……妙だ、おかしい。

何というかその、普通すぎる。いつも通りすぎて逆におかしい。

あれ?何か僕、変な思考に走ってないか?

阿良々木「なあ八九寺、お前なんともないか?」

八九寺「はい?何がですか?」

阿良々木「いや、何かいつもと違うなーとか。そんなこと感じたりしないか?」

八九寺「……?別に普通ですけど……?」

……なんだ、恋慕狐とやらの効力もそれほどじゃないらしい。

いや、八九寺は怪異そのものだから影響を受けていないだけなのか?

どちらにせよ、八九寺には何の問題もないようでとりあえずは一安心だ。

阿良々木「そうだな、普段通りでいろよ八九寺。それが一番お前らしい」

八九寺「ええ、普段通り……私はちゃんと阿良々木さんを愛してますよ」

そうして八九寺は普段通りの口調で、普段通りの明るさで、普段通りではないことを口走った。

すいません狐さん、僕はあなたを舐めていたようです。

なるほど、はいはい分かった。ああ、こういう感じね。やられちゃってるよな。

愛がファミマで二百九十八円で売ってるとか言ってる八九寺のセリフじゃないよな。

いやそもそも、僕の名前をアマガミさんとか言った時点で気づくべきだったんだ。

……これ以上踏み込むとマズイ気がする。

人としての第六感、吸血鬼としての第六感の両方が警鐘を鳴らしている。

『大至急、ココカラ立チ去レ』

阿良々木「そうか、じゃあ……そろそろ僕は行くよ」

八九寺「そう……ですか、もう……行ってしまうんですか……」

阿良々木「す、すまないな八九寺……またすぐに会えるさ」

八九寺「ですよね……必ずまた、会いましょう……阿良々木さん」

阿良々木「じゃ、じゃあ……僕はこれで……」

八九寺「あ……!」

阿良々木「…………」

そんな親を愛しむ子供のような目で僕を見るな八九寺ぃぃぃぃぃ!!

阿良々木「分かった、じゃあ約束だ。必ずまた会う。指切りをしよう」

八九寺「……古典的ですね、阿良々木さん。もっと女の子を喜ばせる斬新な別れ方はないんですか?」

阿良々木「悪いな、僕はデジモンもベイブレードもプリキュアも初期が一番面白かったと思ってるんだ」

いや、プリキュアは見たことないけども。

八九寺「はぁ……まあ確かに、思い出を回顧するのもいいですけどね」

そういって八九寺は右手の小指を僕に差し出す。

阿良々木「……なんだかんだ言って、ちゃんと付き合ってくれるんだな」

八九寺に倣って僕も小指を差し出す。

大小二本の小指はしっかりと結ばれた。

八九寺「……こうして私たちもちゃんと、結ばれるといいですね。阿良々木さん」

阿良々木「…………」

僕は、何も言わなかった。いや言えなかった。

墓穴を掘り進んで地球の反対側まで抜けていく自信があったから。

こうして指切りをした後、僕は八九寺と分かれた。

……ショックだった、色々と。

諸々の理由はあるのだが、一番の原因はあの八九寺であのレベルまで行ってしまっていること。

……これで仮に神原にでも出くわしたら一体どうなってしまうというのだ。

こちら側のすべてを見透かしていそうな羽川との遭遇もこの上ない恐怖である。

そして……戦場ヶ原ひたぎ、僕の彼女。過去を吹っ切り、髪を切った、僕の彼女。

彼女と会ったら何が起こるか……正直想像もつかない。

阿良々木「特に注意すべきはこの三人……あとは僕の妹たちと八九寺か」

「そうだね……気を付けなきゃね、お兄ちゃん」

阿良々木「…………」

気を抜いた僕の背後に延びる影、まだ幼さの残る可愛らしい声の持ち主。

その名は―――千石撫子。

蛇に憑かれた少女、千石撫子。

この少女と僕は数年前から顔を合わせていたことがあり、そしてつい最近に再び会うこととなった。

その詳細はすでに語られていることであるので、ここでは割愛しようと思う。

撫子「奇遇だね暦お兄ちゃん」

阿良々木「……そうだな、千石」

奇遇?……本当に奇遇なのだろうか?どうにも嫌な予感がしてならない。

撫子「暦お兄ちゃんに会えて嬉しいよ、お兄ちゃんは撫子に会えて嬉しい?」

阿良々木「あ、ああ。もちろん嬉しいさ」

撫子「良かった、じゃあ……今から撫子のお家に来ない?ううん、暦お兄ちゃんは撫子の家に来る以外にないんだよ?」

そっかー、それしか選択肢がないのか。じゃあ行くしかないな。

相変わらずの消去法主義である。

……先にも言ったように、どうにも嫌な予感がするので正直言うとあまり行きたくはない。

が、ここで一方的に断ればそれはそれで厄介なことになりそうなのだ。

結局のところ、最初から僕に選択権など存在しなかったのである。

と、まあそんなわけで千石の家にお邪魔させていただくこととなった。

聞くところによるとご両親は出かけていて家には誰もいないらしい。

なるほど、一人で寂しいから僕を誘ったってわけか。子供らしくていいじゃないか。

撫子「どうぞ上がって、暦お兄ちゃん」

僕が靴の脱いで家に上がると背後から鍵を閉める音が聞こえてきた。

一つ目の鍵、二つ目の鍵、……これはチェーンの音か、ずいぶんと用心してるんだな。

撫子「撫子の部屋に行ってて、飲み物持っていくから」

阿良々木「あ、飲み物なら僕が運ぼうか?何から何までやらせちゃったら悪いだろ?」

撫子「いいよ、撫子だけでやるから。暦お兄ちゃんは撫子の部屋に行ってて」

阿良々木「いやいや遠慮なんかしなくていいんだぞ?」

撫子「暦お兄ちゃんは撫子の部屋に行ってて」

阿良々木「そんな気を使わなくてもい」

撫子「暦お兄ちゃんは撫子の部屋に行ってて」

阿良々木「はい」

一体いつから僕はドラゴンクエストの勇者になったんだろうか。

本当すまん、仮眠取らせてくれ…昨日から眠れてなくて目が痛い。

さて、『はい』を選ばなければ先に進めないイベントを消化して僕は千石の部屋へとやってきた。

つい最近訪れたばかりであるせいか、久しぶりという感覚は全くしないな……

……と、こんな感傷に浸ることができるほど今の僕に余裕はない。

阿良々木「悪い忍、大至急出てきてくれないか」

自らの影に語りかける僕、こんなところを他人に見られたらどんな顔されるんだろうな。

忍「何じゃ……儂は昼は眠いからあまり呼ぶでない」

それでも何だかんだで忍は出てきてくれた。普通にいいやつだよな、ホントに。

忍「それでお前様よ……こんな場所でいきなり何の用じゃ?」

この場で僕が忍に要求したいこと、それはたった一つのみ。

阿良々木「忍、大至急僕の血を吸ってくれ」

・・・

撫子「ごめんね暦お兄ちゃん、待たせちゃって」

阿良々木「いや全然、こっちは客として上がらせてもらってるんだ」

撫子「そう、じゃあ……はい。暦お兄ちゃんはこっちね」

阿良々木「お、ありがとな」

千石の煎れてくれたお茶か……お茶の良し悪しはよく分からないけれど、綺麗な色をしてると思う。

僕はそれを受け取ると少しずつ口に含めていった。

撫子「どうかな……おいしい?」

阿良々木「うん、おいしい。千石はお茶を作るのが上手いな」

撫子「…………」

阿良々木「…………」

撫子「こ、暦お兄ちゃん……何ともないの?」

阿良々木「何が?」

撫子「い、いや……気にしないで」

阿良々木「さあ、せっかく千石の家に来たんだ。何をして遊ぶ?」

撫子「ババ抜き……ってどうかな?」

阿良々木「ババ抜きって……それは最低でも三人以上じゃないと楽しめないゲームじゃないか?」

撫子「負けたほうが罰ゲームで一枚ずつ服を脱いでいく、なんて面白いと思う」

阿良々木「千石、僕は確かに『何をして遊ぶ?』って聞いたけど、それは宴会の座敷遊びのことじゃないからな?」

撫子「撫子は暦お兄ちゃんと一緒なら楽しいよ」

阿良々木「で、出来れば他の遊びにしないか?」

撫子「……そう、分かった」

結局のところ、前にやって楽しかった人生ゲームで落ち着いた。

人生ゲームの中の僕はミュージシャンとしてデビューしたくさんのファンに囲まれているらしい。

それなのに……現実ってのはシビアであり無情なものだ。

阿良々木「そういえば千石、さっき道端で会ったとき何か袋を持ってたけれど何かの買い物か?」

撫子「えっ……も、持ってたかな?よく覚えてないや」

千石の家に来る前……そう、つまりは八九寺と別れた後のことである。

あの時僕は『奇遇』にも千石と遭遇した。

その際、彼女は何かを持っていたのである。

最初はスーパーかコンビニかで何かを買ったのかと思ったのだがどうも違うらしい。

普通なら気にも留めなかったのだろうが、どうも僕には何か感じるものがあったのだ。

決して良いとは言えない意味で。

既に僕は火憐ちゃん、月火ちゃん、八九寺のトリプルプレーを経験している。

疑いたくはなかったが、千石にも何かしら影響が出ているのではと危惧していた。

而して、結果は僕の予想通りとなってしまったらしいのだが。

ただ……それをわざわざ口にするつもりなんて毛頭ない。

先に僕が飲んだあのお茶、千石が煎れてくれたあのお茶、僕に煎れるところを決して見せようとしなかったあのお茶。

あれが本当にただのお茶であったのかどうかなんて些細なことなのである。

前回と同じく今回も千石は被害者であり、何も悪くはないのだから。

ただ、狐に化かされて普段なら考えもしないこと考えてしまっただけなのだから。

今の僕に出来ることはたかが知れてるし、何か特別なことをしようとも思わない。

阿良々木「そうか、何も持っていなかったっけか。変なこと聞いてごめんな」

撫子「う、ううん……」

だから僕は以前と同じように千石と人生ゲームを楽しんでいる。

こうして前と変わらない接し方をするのが誰にとっても一番いいはずなのだ。

僕にも。千石にも。

そして

思っている以上の好意を他人に対して抱かせ、なりふり構わず猛進させようとするこの困った怪異に対しても、

一番の抵抗であるに違いない。

阿良々木「さて、人生ゲームも一区切りだな」

撫子「うん、そうだね……楽しかった」

阿良々木「……なあ、千石」

撫子「何……?」

阿良々木「その髪型、似合ってるぞ」

撫子「えっ……そ、そうかな……?」

前髪を上げておでこを出している千石の髪型。

もっとも、下ろしていたほうが可愛いという人もいるには違いない。

それでも、前髪で額を隠すことのない、恥ずかしがらずに前を向こうとする努力が見える

今の髪型のほうが僕は好きだ。

阿良々木「困ったことがあったら僕に相談しろ、必ず力になるからな」

撫子「……じゃあ撫子、暦お兄ちゃんと結婚したくて困ってるんだけど助けてくれる?」

阿良々木「…………」

困ったことがあったら相談しろと言った手前言いにくいのだが、誰か僕の相談に乗ってほしい。

まさかここまでストレートなことを言われるとは思ってもいなかった。

つくづく狐という動物が嫌いになりそうだ。

撫子「あはは、ごめんね暦お兄ちゃん。冗談だから気にしないで」

阿良々木「……ここまで心臓に悪いドッキリも生まれて初めてだったよ」

撫子「撫子ね、暦お兄ちゃんを困らせたくない。暦お兄ちゃんには笑っていてほしいから」

千石は大きく深呼吸をして

撫子「だから、今はこれだけ……」

自分の唇を僕の頬に触れさせた。

阿良々木「せ、千石!?」

撫子「……これだけできれば今はもう何もいらない」

阿良々木「そ……そうか、それはどうも……」

いや、どうもっておかしいよな?ていうかどんなステップを踏んでさっきの状況になった?

撫子「でも……覚悟しててね暦お兄ちゃん、今はまだお兄ちゃんって呼んでるけれど……」

撫子「そのうち必ず、あなたって呼ぶようになってみせるから」

阿良々木「…………」

どうやら僕は、この少女によくわからない決意をさせてしまったらしい。

撫子「ホント言うとね、さっき撫子……ちょっとずるいことしようとしたの」

撫子「でもそんなんじゃだめ、だよね……」

阿良々木「……ああ、度が過ぎるほどのずるいことはしちゃいけないな」

撫子「ごめんね暦お兄ちゃん、でも……もうそんなことしない、心も体もちゃんと成長する」

撫子「だから、撫子が大きくなって真っ直ぐに成長できたとき……」

撫子「暦お兄ちゃんの中の撫子の存在も大きくなってたら嬉しいな」

阿良々木「……ああ、その時を待ってるよ」

そう言うと、千石はこの日僕が見た中で一番の笑顔を見せたのだった。

・・・

阿良々木「……なんだかマズイ方向へ進んでるよな、僕」

忍「ふむ……ずいぶんといばらの道を歩んでいると見えるな、お前様は」

千石の家で一悶着をした後、僕は一人公園のブランコを漕いでいた。

いや、正確には僕にくっつくように立っている忍も一緒ではあるのだが。

忍「これで既に二人、いや……妹を含めれば四人が既にお前様にべったりじゃの」

はたから見れば羨ましい限りじゃの、かかっ。などと忍は笑っているのだが……

実際、あまり笑える状況とは言えない。

忍「それで、一体これからどうするつもりじゃ?」

阿良々木「……どうしたらいいんだろうな、本当に」

むしろ誰かに教えてほしいくらいだ、これ以上一体どうしろと。

忍「もう一度だけ言っておくが儂にはどうにもならぬからの」

阿良々木「分かってる、お前に頼りっきりになるわけにもいかないしな」

「そこで一人寂しくブランコを漕いでいるのはもしかして阿良々木君かな?」

阿良々木「…………」

千石然り、最近は背後から声を掛けるのがブームになっているのだろうか。

そしてこの声、聞き間違うはずもない。

学校一の秀才、猫に魅せられた少女、そして……僕の恩人である

羽川翼その人だった。

ちょい風呂行ってくる

阿良々木「羽川か、こんなところで会うなんて珍しいな」

羽川「そう?公園で友達の遭遇するのは別に珍しいこととは呼べないと思うけれど」

阿良々木「ん、まあそうだけどさ。最近は部屋の中で勉強を教えられてばかりだったろ?」

だからこうして外で羽川とたまたま出くわすというのは僕にとっては意外に珍しいことなのだ。

もっとも、この状況では本当に『たまたま』であるかは疑わしいのだが。

羽川「阿良々木君こそ、一人でこんなところで何をやってるの?」

忍は羽川が来るのを察知したらしく、既に姿を消していた。

僕に気を使ったのか、それとも羽川と顔を合わせたくないのか、理由までは窺い知ることはできない。

阿良々木「ちょっと考え事をしててな、フラフラと歩いてここまで来ちまったんだよ」

羽川「ふーん、考え事……ね」

止めてくれ羽川、そんな目で僕を見るな。

羽川に見つめられるとなぜかすべてを見透かされているような気さえしてくるのだ。

正直言って、羽川には僕が置かれている状況を知られたくはない。

羽川「何か悩みがあるんだったら……相談してみない、私に」

阿良々木「いや、これは僕個人の問題なんだ。他人に話すことじゃない」

羽川「まあ、人には言いたくない話なら無理は聞かないけれど」

そう、基本的に羽川はこちらが踏み込んでほしくない領域にまでは踏み込んで来ようとしない。

僕は羽川のそういうところが好きだった。

羽川「じゃあ阿良々木君、もしあなたが抱えている秘密を私に打ち明けてくれたら……」

阿良々木「くれたら?」

羽川「私の胸触り放題」

阿良々木「魅力的な提案だなぁちきしょう!!」

そして僕は羽川のこういうところが嫌いだった。

羽川「あはは、ここまで言っても黙ってるなんてよっぽど大事なことなんだね」

阿良々木「お前には僕が紳士だから胸に触ろうとしないっていう発想は出てこないのか」

羽川「えっ……?」

阿良々木「何でそこで驚愕の表情を浮かべる!?お前の中の僕ってそんなに信用ないのか!?」

羽川「ん……阿良々木君はロダンの考える人って何について考えてるか知ってる?」

阿良々木「……もうはっきり最低レベルって言ってくれ」

考える人、確かあれって地獄について考えてるんだったよな……?

要するに、僕の信用は地の底レベルで低いらしい。

羽川「とりあえず、冗談はそれくらいにしておいて……本当に話したくないことなんだ?」

阿良々木「ああ……こればっかりはな」

正直、『それくらいにしておいて』で済ませるレベルではない冗談という名の暴力を受けた気がするが

羽川「分かった、じゃあもうこの話は聞かない……阿良々木君もそれを望んでるみたいだし」

阿良々木「気を遣わせて悪いな羽川、でも本当にお前が心配するようなことじゃないんだ」

羽川「そ、阿良々木君がそう言うんだったら私はそれを信じるよ」

さっきの冗談では地の底レベルで低いと言っていた羽川の僕に対する信頼度。

実のところでは意外と高いのかもしれない。

羽川「ところで阿良々木君、勉強のほうはちゃんとやってる?」

阿良々木「ああ、今日の分のノルマは終わってるよ」

ここのところ最近、僕は羽川と戦場ヶ原の二人に勉強を教えてもらっている。

おかげで勉強における才能など皆無に等しい僕の学力も徐々に上昇しつつあった。

正直、常日頃から世話になりっぱなしで申し訳なくなるほどである。

羽川「ちゃんと毎日やること、阿良々木君に一番合ったペースで宿題を出してるんだから」

阿良々木「僕に一番合ったペースって……そんなの分かるのか?」

羽川「うん、阿良々木君が一問にかかる平均時間、集中が継続する時間、難易度、ちゃんと調整してるから」

…………勉強を見てもらっているとはいえ、まさかそこまでチェックされているとは。

阿良々木「お前は何でも知ってるなぁ」

羽川「何でもは知らないよ、知ってることだけ」

羽川「知ってるのは集中が切れた阿良々木君が私のうなじと胸元をちらちら見ることくらいかな」

阿良々木「それは知らないでおいてくれ」

こんな調子で羽川と僕はたわいもない会話を続けていた。

僕のこと、羽川のこと、僕の妹のこと、学校でのこと、本当にたわいもない話だった。

その流れの中で

羽川「そうそう、阿良々木君。もう一つだけ聞きたいことがあったんだけど」

阿良々木「ん?何だよ」

羽川「ほっぺにキスされた感想は?」

阿良々木「…………」

何でもは知らないよ、それが羽川の口癖だ。

それでも、今の僕はその発言に対してはっきりこう言おうと思う。


それは―――嘘だ。

阿良々木「お前は何を言っているんだ」

羽川「キスされたんじゃないの?多分……千石ちゃん、かな?」

阿良々木「…………」

多分、ということは実際に見ていたわけではないらしい。

良かった、家の中の出来事まで詳細に知られているなど恐怖以外の何物でもない。

だが、それでもだ。

確証がないにせよ、どこをどう論理展開してその予測を立てたというのだ。

羽川「色々だよ、い・ろ・い・ろ……詳しく聞きたい?」

阿良々木「正直それを聞く度胸は僕にはないな」

羽川「それで、どうだったの?」

何で羽川がその件を知っていたのかはもう突っ込まないとしてだ

阿良々木「それを聞いてどうするんだ?何にも面白いことなんてないぞ」

羽川「気になるじゃない、そういうのって」

そんな、明日の天気はなにかしら?みたいなノリで聞かれても困るんだが。

羽川「なに、教えてくれないの?阿良々木君、ひょっとして照れてたり?」

阿良々木「照れてない!それに、お前くらい知識がある奴だったらそういうことも知ってるんじゃないのか?」

羽川「言ってるでしょ、何でもは知らないの……知ってることだけしか知らない」

羽川「色恋事については、本当に―――何も知らない、分からないの」

阿良々木「…………」

この状況、一体何を言えば正解だというのか。

正解を知っているという人間がいるのならぜひともここに来てほしい。

……と、考えたところで助け舟が来るはずもないのは当たり前なわけで。

阿良々木「そういうのは自分で経験するものなんじゃないか?人から聞いた話なんかあてにならないだろ」

いや、別に僕が経験豊富とかそういうことを言っているんじゃないけれども。

多分、そういうものなんだと思う。maybe、perhaps。

羽川「うん……うんうん……それはそうだよね……」

おっ、僕の発言に羽川が賛同の姿勢を見せるとは珍しいな。

どうやら僕の選んだ会話の選択肢は当たりだったらしい。

羽川「じゃあ実際にここでやってみなきゃね」

本当に当たりだったらしい、フグの毒的な意味で。

阿良々木「いつも以上に飛ばした冗談を言うな羽川氏」

羽川「冗談で私がこんなことを言うと思うのかな阿良々木さん」

ほう、~氏に対して~さんで返すか。シンプルだが実にいい返し方だ。

いや、そんなことは今はどうでもいい。

羽川「前にも言ったけれど阿良々木君ってさ、本当に誰にでも優しいよね」

阿良々木「……過大評価しすぎてるな、お前は僕のことを」

羽川「阿良々木君は『誰にでも優しい』っていうのを褒め言葉だと思う?」

阿良々木「…………」

誰にでも優しい、それは決して褒め言葉ではない。

僕にとっても、そして羽川自身にとっても。

羽川「だってほら、こんな簡単に近づけるんだから」

阿良々木「は、羽川!?」

気が付けば僕と羽川の距離はほぼゼロ……というかゼロだ。

触れている、主に胸が。

羽川「大丈夫、痛くしないから」

阿良々木「痛みを感じる口づけがこの世に存在するのか!?」

羽川「歯と歯がぶつかったら痛いって話はよく聞くよね」

狐にあてられているである状態でも冷静さを持ち合わせているのが羽川らしい。

手で体を押さえつけられてはいるものの、正直抜けようと思えば抜けられる。

だが、今の僕には抜けられない。

少量とはいえ忍に血を与えたことで吸血鬼に近づいた状態の僕が力を込めて振り払えば……

羽川に怪我を負わせることになるかもしれないのだ。

羽川「……なんてね、本気にした?」

ふと僕を掴んでいた羽川の力が緩み、そして表情には柔らかい笑顔が戻った。

阿良々木「友人として忠告するがな羽川……お前の冗談は心臓に悪い」

千石のときの冗談もなかなかだったが、こっちもこっちで大概だ。

……もっとも、一番悪いのは簡単にこんな状況に持ち込んでしまった僕自身だけれども。

羽川「覚えておいて阿良々木君……誰にでも優しい、褒め言葉と言われればそれまでだけど、私はそうは思わない」

羽川「だって……」

千石の時とは逆側の頬、そこにまた先に経験したのと似た柔らかさの唇が触れていた。

羽川「簡単にこういうことが起きちゃうからね?」

阿良々木「羽……川……?」

羽川「はい、私からの話はこれでお終い。付き合ってくれてありがとうね、阿良々木君」

阿良々木「ちょ、ちょっと待て!」

羽川「ん、何?」

いや何?じゃなくて、僕から今までの流れすべてが何なのか聞きたいくらいだ。

羽川「そんなに慌てなくてもいいよ、事故で唇が相手の顔に触れちゃうくらいよくあることだし」

阿良々木「少なくとも僕はそんなラッキーな事故を起こしている奴に会ったことは一度もないな」

羽川「え?だって阿良々木君、友達いないじゃない」

阿良々木「疑問を持つところはそこじゃない!」

羽川「さっきのお返しに私からの忠告……誰にでも優しい阿良々木君への忠告」

羽川「他人に対して親切にすることは素晴らしいことだし尊敬されるべきことだと思う」

でも、羽川は否定語の接続詞を用いて言葉を紡いだ。

羽川「誰にも等しく与えた優しさが、誰もを等しく傷つける刃になることもある」

阿良々木「…………」

羽川「優しさの刃で傷つけたことが原因で……本物の刃を向けられることがないように気を付けてね」

阿良々木「……肝に銘じておくよ」

羽川「うん、ちゃんと覚えておいてね」

結局、羽川の言いたいことはそういうことだったのだ。

羽川らしくて羽川らしくない、猫の散歩道のようにひどく遠回りな表現だったけれど

僕はこの少女のおかげで、あらためて大切なことを認識させられるに至ったのである。

・・・

忍「……何をやっとるんじゃ、お前様よ」

阿良々木「…………」

忍「己の妹共に加え年下の娘子二人、さらに元委員長まで口説き落とすとはの」

阿良々木「忍、羽川は確かに髪を切ったが委員長を止めたわけじゃないぞ」

忍「どうでもいいわ、このたわけ」

もうだめだ、僕というキャラを崩壊させて逆切れするしかない。

阿良々木「仕方ないじゃないか!だってもう!何かこうなっちゃうんだもん!」

忍「…………」

阿良々木「…………」

忍「…………で?」

阿良々木「すいませんでした」

全国にいる今現在、謝罪をしている皆さんに僕のこの謝罪をご覧に入れたい。

これほどまでに清々しい謝罪は早々お目にかかれないだろうから。

忍「まあ……先の元委員長の言葉、あれはお前様にとって有益なものじゃったな」

忍「努々忘れぬことじゃな、あの言葉を」

阿良々木「……面倒かけるな、本当に」

忍「まったく……我が主様は困ったものじゃ、儂がいなければ何も出来ん」

まあ、お前様に付き合わされるのもまた悪くはないがの……

そんなことを言いながら、忍は再び僕の影の中へと戻って行った。

阿良々木「……これが終わったらかならずミスド、腹いっぱい食わせてやるからな」

こうして僕は財布を軽くする決意を今ここで再び行った。

同時に、僕は店の行っている百円セールがまだ続いていることを願った。

・・・

風を感じる、とはどのような時だろうか。

唐突にわけのわからない話をして申し訳ないのだが、少しだけ付き合ってもらいたい。

自然に吹く風、それは正しい。扇風機?なるほど、それも正しい。

風使いの能力者と対峙した時?それは漫画の読みすぎだ。

たしかに最近、河原で男子高校生と文学少女が『風が騒がしいな』とか言い合ってるとの噂もあるけれど。

とにかく、日常で風を感じることはしばしばあるだろう。

その中でもポピュラーなものとして、速いものが近くを通り過ぎた時、が存在する。

それは車で会ったりバイクであったり、もしくは踏切における電車であったりと様々だろう。

だが、僕の場合はそれらと並列してもう一つ風を感じる例を挙げられる。

すなわち

神原駿河が走り抜けた時、である。

さて、風を感じるときの例を挙げたところで本筋に戻るとしよう。

僕は忍との会話が終わったのち、図書館に向かうことにしたのである。

あそこならば閉館までは楽に時間が潰せるし、人も多いので見つかる心配もほとんどない。

そう思い図書館へと続く道を歩いていた時のこと

僕は風を感じたのである。

それは車でもバイクでもましてや電車でもない、自然に吹いてきた風でもない。

その正体とは、学校でもトップレベルの有名人、運動神経の塊、そして……猿に願った少女

―――神原駿河

神原「やあ阿良々木先輩!奇遇だな!」

阿良々木「今回ばかりは自信を持って言える、こんな奇遇は存在しない!」

神原「何を言うか阿良々木先輩。私にとって阿良々木先輩との出逢い全ては奇跡のような遭遇なのだ!」

阿良々木「組み合わせの字は正しくても意味は間違ってるからな!」

……あれ、奇遇ってどういう語源なんだろうか。考えてみれば僕もよくわからないな。

もしかして本当に神原の言うように奇跡のような遭遇から発展してるなんてことは……

いやまさか、そんなことはないだろう。

……あとで羽川に聞いておくとしよう

神原「それはそうと阿良々木先輩、どこかへ向かっている途中だったのだろうか?」

阿良々木「いや、ちょっと図書館にでも行こうかと思ってな」

神原「ふむ、その口調から察するに何か明確な用事があるというわけではないらしいな」

阿良々木「まあ……」

否定はできない。その指摘通り、特定の目的があるわけではないのだから。

神原「阿良々木先輩、会って早々お願い事をするというのは非常に心苦しいのだが、聞いてもらえるだろうか」

阿良々木「ん?」

立ち止まって今さっき届いたメールを確認しつつ、神原の問いに答える。

誰からだ?

神原「恥ずかしい話、また部屋を片付けるのを手伝ってほしいのだ。ずいぶんと散らかってきてしまってな」

神原「無論、阿良々木先輩が嫌だというのならば無理強いをするつもりはないのだが」

阿良々木「……いや、行くよ。ちょうど暇だったしな」

一見して、今までの経験から言えばここは断るべき場面なのだろう。

だが、それでも僕は神原の家に向かうという選択肢を選んだ。

理由は単純である、先に送られてきたメール。

図書館で僕の妹である月火ちゃんを見かけた事を知らせる、羽川からの連絡だったのだ。

ごめん、目と頭が死ぬ、ちょい寝かせてください
こんな長くなると思ってなかった、落ちるの勿体ないとか思って軽い気持ちで書くんじゃなかった

保守時間目安

新・保守時間目安表 (休日用)
00:00-02:00 10分以内
02:00-04:00 20分以内
04:00-09:00 40分以内
09:00-16:00 15分以内
16:00-19:00 10分以内
19:00-00:00 5分以内

新・保守時間の目安 (平日用)
00:00-02:00 15分以内
02:00-04:00 25分以内
04:00-09:00 45分以内
09:00-16:00 25分以内
16:00-19:00 15分以内
19:00-00:00 5分以内

というわけで、神原家である。

今月はちょっと前にも掃除に来てるからこれで二回目、いや三回目か?

阿良々木「……神原後輩」

神原「うむ、何だろうか阿良々木先輩」

阿良々木「この前あれだけ綺麗に片付けたのにどうすればここまで散らかせるんだ?」

神原「そんなに褒めないでくれ、褒めても何も出ないぞ。ああ、もちろん胸くらいだったらいくらでも出すが」

阿良々木「褒めたつもりはないしことあるごとに服を脱ごうとするな!」

まったく、気の抜けない後輩である。

神原「ところで阿良々木先輩、私は阿良々木先輩を尊敬しているのだ」

阿良々木「それは嬉しいけど、たまにお前からの期待が僕という人間の身に余るように感じて心苦しいよ」

神原「自分で気づいていなくとも阿良々木先輩には長所がたくさんある、胸を張っていてくれればよい」

神原「ああ、男の阿良々木先輩に胸はなかったか……ならば腰を張っていてくれればそれでいい」

阿良々木「お前はその発言で僕にどこをどうツッコんでほしいんだ!?」

神原「ふむ……了解した阿良々木先輩、今すぐ裸になろう」

阿良々木「そしてどうしてその結論に至った!?」

神原「いや、阿良々木先輩が突っ込むのだろう?私に、腰で」

もう嫌だこの後輩、ああこれも全部狐のせいか。

正直この程度は平常運転な気がしないでもないのだが、ここは狐のせいということにしておきたい。

僕の精神の安定のためにも。

神原「ところでたまに思うのだ、ノリ突っ込みって……素晴らしく卑猥じゃないだろうか?」

阿良々木「卑猥なのはツッコみという単語ではなく、そこから妙なことを想像するお前自身だ!」

神原「阿良々木先輩。考えてもみてくれ、相手のペースに乗って一度希望を与えた後に……突っ込んで堕とすのだろう?」

阿良々木「漫才におけるオチを漢字で変換して堕ちと書くのは全国探してもお前くらいだよ!」

神原「この短い言葉に濃縮されたエロス……はは、素晴らしいな!阿良々木先輩、ちょっと私にノリ突っ込みをしてはくれないか?」

阿良々木「これ以上の発言は電話かけて救急車呼ぶことになるぞ、ここに頭をケガした人がいるってな」

神原「なるほど……阿良々木先輩は私の頭を穢すつもりなのか……うむ、そういうプレイも悪くないな!」

阿良々木「もう止めろ神原!僕が何でもかんでもツッコめる人間だと思ったら大間違いだ!」

神原「そうか!やはり阿良々木先輩は私に突っ込むのか!待っていてくれ、すぐ裸になろう!」

阿良々木「無限ループって怖いんだなぁ本当に!!」

どうやら、僕は神原の家の中にいるにも関わらず迷路に嵌まり込んでいたらしい。

変態という名の出口がない迷路に。

とまあ、こういった感じでドタバタを繰り広げつつ僕は部屋の整理を続けていた。

神原「整理か……もしやとは思うが阿良々木先輩、私の部屋は妊娠したりしないだろうか」

阿良々木「部屋が妊娠すると言った概念が僕には理解できないしお前が言っている意味も何一つとして分からない」

神原「この部屋は月に二回ほど整理がくるだろう?つまりはそういうことだ」

阿良々木「説明されても理解できない!?」

今日も神原は快調だ、さっきは狐のせいとか言ってたけどそんなことはなかった。

神原駿河の変態性にはもう狐の影響など関係ないのかもしれない。

常にゲージが百パーセントまで溜められているこの変態を相手に

一体なにを付けたせるというのだ。

さて……だいぶ片付いてきた、あと一息といったところか。

神原「阿良々木先輩、これをそっちに置いてもらえるだろうか?」

阿良々木「ん、渡してくれ」

背中合わせに作業する神原から何かを手渡される。

スパッツだった。

神原「阿良々木先輩、これもよろしく頼む」

ブラジャー。

神原「ああ、これは大切な絶滅危惧種だから丁重に扱ってほしい」

ブルマ。

神原「そしてこれは私のお気に入りだ」

パンツ。

阿良々木「お前はさっきから何をやっているんだ!?」

神原「無論、部屋着の整理だが」

阿良々木「僕とお前じゃ部屋着の概念が違うらしいな!」

阿良々木「終わった、ようやく……」

長い、永い戦いに終止符が打たれた。

ああもうどっと疲れたな、肉体的な意味でも精神的な意味でも。

神原「感謝するぞ阿良々木先輩、あの部屋をここまで整頓してくれるとは流石の一言に尽きる」

阿良々木「……次からはもう少し自分でも整理整頓を心がけような」

神原「そうしたいのはやまやまなのだが、あまり自分できっちりやろうとするとそれはそれで困るのだ」

阿良々木「困る?なんで?」

神原「阿良々木先輩を家に呼ぶ口実がなくなってしまう」

阿良々木「……いや、別にいつだって呼んでくれて構わないけどさ」

神原「そういうわけにはいかない、阿良々木先輩は勉強で忙しい時期だ、あまり困らせたくはない。」

神原「仮に私にいつでも阿良々木先輩を呼べる権利が与えられれば、ひっきりなしに呼んでしまうだろう」

阿良々木「それは……まあ確かにちょっと困るかもな」

神原「もしかすると阿良々木先輩が私の家族になっているかもしれない」

阿良々木「それは大いに困るな!」

神原「ははっ、やはり阿良々木先輩は良い。先輩としての垣根を感じず、気楽に話せる」

その後に神原は、もちろん阿良々木先輩への敬意には一部の傷もつけはしないが。と付け加えた。

本当にコイツはどうしてそこまで僕を敬ってくれるんだろうな。

神原「さて、ここで一つ。私から阿良々木先輩に告白があるのだが聞いてもらえるか?」

阿良々木「告白?あらたまってどうした?」

神原「いや、別に今さら言うことでもないのだが……」

その後輩はじっと僕の目を見据え、そしてはっきりとこう口にした。


神原「私は阿良々木先輩を愛しているのだ」

阿良々木「…………」

神原「好きなのだ、どうしようもなく。阿良々木先輩のことが」

……ここで、もう一度だけはっきりと明言しておくとしよう。

僕は狐が大っ嫌いだ。

神原「当然、阿良々木先輩には戦場ヶ原先輩という彼女がいることも理解している」

神原「だったら私は二番目でよい、戦場ヶ原先輩に向ける愛の一厘程度で構わない」

神原「ほんの少しだけ、私のことも愛してはくれないだろうか?」

……………………

……神原には珍しい、真剣な表情。なるほど、千石や羽川のときのような冗談ではないらしい。

ならば答えなければならないのだ。

神原への返答を、僕自身の口から。

ごめん、飯食ってた

大規模規制で巻き添え食らったっぽい
携帯からだと多分読みにくくなるけどいい?

阿良々木「断る」

神原「……そうか、阿良々木先輩ならばそう言うと思っていた」

肩を落とす神原をみているとなんだかこの上なく申し訳ない気持ちになってくる。

いつも明るい馬鹿な僕の後輩、変態でも僕を慕ってくれている後輩。

神原駿河。

その告白を僕は断った。

そうしなければいけなかったのだ。

神原「阿良々木先輩、何故私では駄目なのか……よければ教えてもらえないだろうか」

阿良々木「…………」

神原「戦場ヶ原先輩に勝てないのは初めから分かっていた、だから私は二番目でもいいと言ったのだ」

神原「……私は、阿良々木先輩の二番目になることも出来ないのか?」

髪を伸ばしている今の神原が俯くと顔が隠れて表情を見ることはできない。

それでも、神原がどんな顔をしているのかは容易に想像がついた。

たった今、僕に訴えかけた神原の声は、普段からは想像もつかないほどに震えていたのだから。

阿良々木「はっきり言うぞ、僕は神原のことが好きだ。お前みたいな奴を嫌いになんかなれるわけがない」

神原は一緒にいると僕に若干の疲労と同時にそれを遥かに上回るほどの楽しさを与えてくれる。

人当たりもいいし容姿だって抜けているし運動で鍛えた素晴らしいスタイルだって持ち合わせている。

まあ若干の変態ではあるけれども……正直僕も人のことは言えないしな。

それでもだ。

阿良々木「それでも……僕は今のお前の告白にはノーと言わなきゃならない」

神原「ならばやはり……戦場ヶ原先輩がいるから、ということなのだろうな……」

阿良々木「違う」

神原「えっ……?」

戦場ヶ原のことも確かに理由ではある、でも一番の理由はそうじゃない。

私は二番目でいい、戦場ヶ原の百分の一でいい、いつも冗談ならともかく先の神原は真剣だった。

それが何よりも問題なのだ。

見覚えのないなにかが

阿良々木「二番目なんかじゃない。お前っていう、神原駿河という人間はこの世に一人しかいないんだからな」

神原「阿良々木……先輩……?」

阿良々木「一人しかいない自分を他人と比較するな、自分を貶めるな」

学校の試験の成績や会社の営業成績で順位をつけることはあっても

自分の友人に順位をつけることなどあってはならないはずなのだから。

ましてや恋人に順位など存在するはずがないのだから。

阿良々木「だから、さっきのお前の言葉は受け取れない」

僕のために、彼女である戦場ヶ原ひたぎのために、そして何より僕にとって大切な存在である神原駿河のために。

はっきりと、その告白は断らなければならなかった。

http://beebee2see.appspot.com/i/azuYkNmPBgw.jpg

その時、僕の視界が突如として反転した。背中が部屋の床に触れた時点で状況を把握する。

僕は神原に押し倒されたのだ。

阿良々木「か、神原……!?」

神原「……動かないでくれ阿良々木先輩、狙いがずれてしまう」

耳元で囁かれる神原の声に僕は戸惑わざるをえなかった。

何だ、一体何が起きているというんだ。

神原「やはり……阿良々木先輩は良い体をしているな、実に私好みの筋肉だ」

僕の腹筋の辺りを神原の手が撫で回している、若干くすぐったいがそれは我慢しよう。

一番困っているのはこの密着した体勢。

当たってしまっているのだ、神原の色々な部分が。

>>788
抜いた

阿良々木「ま、待て神原!」

神原「心配しなくていい阿良々木先輩、私は初めてだ」

阿良々木「初めてって!?」

神原「大丈夫だ、すぐに終わる……」

ああこれダメだ畜生、抜け出せない!

確かにさっき僕は忍に血を吸ってもらったことじゃ吸血鬼に近い状態にはなっている。

それでもこの状況、密着されて上に乗られて自由を奪われたこの体制じゃ力を籠めることも出来ない。

ようするに……どういうことだ?

……平たく言えば詰んだということなのかもしれない。

神原「本当にじっとしていてくれ……間違いが起きれば阿良々木先輩にも戦場ヶ原先輩にも会わせる顔がない」

阿良々木「…………?」

その言葉の意味を理解しようと頭を回したとき、既に神原は僕の頭に腕を回して固定していた。

その次に、僕は本日二度経験したあの感触を今度は額で経験することになったのである。

それは神原駿河の唇の感触、前の二人とは似てるようでどこか違うその感触を。

僕は額で経験した。

神原「……すまなかったな阿良々木先輩、なんと謝ればいいか分からない」

阿良々木「あ、ああ……えっと……」

口を開いた神原の言葉に何と返答すべきなのか僕には分からなかった。

神原「……やはり阿良々木先輩は優しすぎる、あんなことをした私を怒りさえしないとは」

阿良々木「…………」

神原「だがしかし……それが阿良々木先輩の良さでもあるのだな」

神原「そして私の告白を断った際の言葉、心に染み入ったぞ」

阿良々木「…………」

僕は沈黙を返答とした、それは言葉に困ったというわけじゃない。

神原が今、自分の力で積み上げている自分なりの答え。

それを僕の言葉で崩してしまうのは、明らかに無粋であるのだから。

神原「……阿良々木先輩、今ここで私がしたことについては全てを忘れてほしい」

私が口にしたことも、私が口づけをしたことも……その言葉に、僕は何も言わずに首を縦に振った。

神原「今度会った私は以前と同じ可愛らしいエロっ娘ちゃんに戻っていることだろう」

阿良々木「自分で自分のことをエロっ娘ちゃんとか言うな!」

神原のことをそう呼んだのは忍野……神原の本質をスポーツではなくエロとしたのはさすがと言うべきか。

神原「それと忘れる前に聞かせてほしい……阿良々木先輩」

神原は大きく息を吸い込み

神原「もし仮に私が戦場ヶ原先輩より先に阿良々木先輩と出会い、告白していたら……」

神原「私の恋人になってくれていただろうか?」

過去における仮定の話などなんの意味もないのかもしれない。

時を戻すことなど誰にだって出来はしないのだから。

それでも、それでも

阿良々木「お前が……一人寂しく佇む僕の友達になってくれていたら。きっと、そうなっていたかもな」

少しくらいなら意味のないことをするのもいいだろう?

神原「……ありがとう、阿良々木……暦先輩」

僕の大切な後輩の、この笑顔を見ることが出来たのだから。

・・・

阿良々木「…………」

忍「何じゃお前様、狐につままれたような顔をして」

阿良々木「……羽川とお前から気を付けろって言われた直後にこれだよ、何というか……死にたい」

忍「かかっ!今のお前様は再生能力が高くなっておるからの、死ぬにも一苦労じゃな」

阿良々木「妹二人、八九寺、千石、羽川、神原……もはや取り返しがつかなくなってる気がするな」

忍「ま、考えてみれば……妹二人を覗けばみな綺麗な形で話は纏まっておるんじゃ」

そう気を病むこともあるまいて、……って言われてもな。

一体僕は戦場ヶ原に、どの面下げて会えばいいと言うのだ。

出てくる溜め息はあとを絶たない、二酸化炭素濃度が僕の周りだけ高くなってるんじゃないだろうか。

やれやれ、どうしたものか……

「あら偶然ね、阿良々木君じゃない。それとも暦君って呼んだほうがいいのかしら?」

……………………

噂をすれば影、とはよく言ったものだ。いやホント、先人たちには感服するしかないね。

……辺りに忍の姿はない、例によってまたいつの間にやら僕の影に戻っていたらしい。

自分一人で何とかしろ、ということか。

……ああ、言われなくても分かってるさ。

何故なら今度の相手は、蟹に行き遭った少女、髪をショートに変えた少女……そして、僕の彼女。

戦場ヶ原ひたぎなのだから。

阿良々木「……こんにちは、ガハラさん」

戦場ヶ原「こんにちは、暦くん」

暦くん……ね、いつも阿良々木くんって呼ばれてたから何だか新鮮に感じる。

ゴミとか犬の死体とか呼ばれてた気もするけれど多分気のせいに違いない。

戦場ヶ原「こんなところで会えるなんて驚きね、この辺りは暦くんのテリトリーじゃないと思ったけれど……」

戦場ヶ原「野良犬みたいな暦くんは野良犬みたいに歩き回ってここまでやってきたのかしら」

ガハラさん、気のせいと思わせてください。

最近は僕にデレてきてくれているけれど染み付いた言葉の暴力は簡単には抜けないらしい。

そりゃそうだろうなぁ……でもこの毒舌が綺麗になくなってしまうとなればそれはそれで寂しい気もする。

戦場ヶ原「フフ……心配しないでこよみん、ちゃんと定期的に言葉虐めはしてあげるから」

阿良々木「心を読むな、積極的に暴言を吐こうとするな、そしてこよみんってのは僕のことか」

戦場ヶ原「さて……阿良々木くん、今から真面目な話をしましょうか」

あ、阿良々木くんに戻った。暦くんとか色々模索したらしいけど結局そこに落ち着くんだな。

僕としてもそれが一番呼ばれ慣れた名前だから別にいいんだけれどさ。

阿良々木「謹んで聞こうじゃないか」

戦場ヶ原「さっきも言ったようにこの辺はあなたの活動範囲じゃないはずだけれど、何をしていたのかしら?」

阿良々木「…………」

僕は羽川と戦場ヶ原の二人にだけは嘘をつけない、下手な嘘を言っても即座に見抜かれるし

戦場ヶ原の場合、嘘がバレた後になにをされるか分かったものじゃないからだ。

阿良々木「神原の家に行った帰りだよ、部屋の片付けを頼まれてさ」

戦場ヶ原「そう、神原の家に……ね……」

僕の言葉を聞いた戦場ヶ原はつかつかと歩み寄ってきたかと思うと

阿良々木「っ!?」

僕の頭を両手で固定し、ぐっと顔を近付けてきた。

戦場ヶ原「……ねえ阿良々木くん、私は常々思っていることがあるのだけれど聞いてくれるかしら?」

阿良々木「……聞こうじゃないか、プリンセスひたぎ」

戦場ヶ原「『嘘はついていない』って主張して罪を逃れようとする人がたまに言う人がいるわね」

戦場ヶ原「でもそれって、与えるべき情報を隠している時点でそれは既に詐欺だと思わない?」

阿良々木「…………」

戦場ヶ原「二、三、四、……七人かしら……ねぇ?」

この時、僕の中を渦巻いていた思考。それは決して言い訳などではなく

有事の際には再生能力がちゃんと追い付いてくれることを神に願うことのみだった。

戦場ヶ原「きちんと説明してくれるかしら、無理やり言わされるよりも自分で言ったほうが罪は軽いわよ」

阿良々木「……分かってる、今日一日の出来事を隠さずに全部話すさ」

ただ正直、恋慕狐のことは話すか否か判断に迷う……

……と思ったのだが、今回は怪異のことも含めてきちんと説明しようと思う。

隠し事はしないようにすると以前にも約束したことがあるし、何より

『よく分からないけど何か今日は女の子からモテてモテて仕方なかったんだよなー』

などと、言えるはずがなかったからである。

というか僕が死ぬ。

ただ存在するだけの怪異に責任を求めるのはお門違いではあるけれど、今回は泥を被ってもらうとしよう。

・・・

戦場ヶ原「……なるほど、分かりました阿良々木くん。そういうことだったのね」

戦場ヶ原「つまりあなたはその狐のせいで、色々と苦労させられていると……言い換えるなら」

戦場ヶ原「大した魅力もないのに女の子を落としまくる節操のない恋愛ゲームの馬鹿主人公の如き状態なのね?」

阿良々木「比喩表現に多大な悪意を感じるが概ねその通りだ」

戦場ヶ原「で、狐に憑かれてることを言い訳に……八九寺ちゃんだったかしら?その子とは将来結ばれる約束をして」

戦場ヶ原「あなたの妹さんの友達からは頬にキスをされ」

戦場ヶ原「羽川様……じゃない、羽川さんからは逆の頬にキスをされて」

突っ込まない、羽川のことを羽川様って言ったのを僕は決して突っ込まない。

正直今はそれどころじゃないから。

戦場ヶ原「そして神原には押し倒された挙げ句に額にキスされた……間違いないわね?」

阿良々木「…………はい」

こうして羅列されると改めて感じる。

ギルティー、圧倒的ギルティーであると。

戦場ヶ原「やむを得ない状況であったことを考慮しても私にとってはあまり気持ちのいい話ではないわね」

戦場ヶ原「阿良々木くんは私が他の男から頬にキスされて一人からは押し倒された、なんか聞いたらどう思うのかしら?」

阿良々木「……正直、嫉妬するじゃすまないかもしれないな」

その野郎のところにいって、人の彼女に何すんじゃ!くらいのことは言うかもしれない。

……いや、確実に言うだろうな。

戦場ヶ原「でしょうね、そして今の私はあなたの想像の十倍嫉妬しているのよ阿良々木くん」

阿良々木「……返す言葉もない」

戦場ヶ原「謝っても許してあげないわ。今からしばらくの間、阿良々木くんには私の命令に従ってもらいます」

……ああ、甘んじて受けようじゃないか。忍や羽川から忠告されといてこの結果だからなぁ。

とてもじゃないが自分でも擁護出来ない。

覚悟は出来てる。命令されれば、犬にでも猫にでも何にだってなってやろうじゃないか。

嫉妬に狂っていると自称する戦場ヶ原ひたぎから僕に下された命令。

簡単でシンプルなたった一つの命令。

それは

戦場ヶ原「他の子たちの誰よりも、今日これから私に優しくしなさい……でないと、許さないわよ?阿良々木くん」

阿良々木「…………」

戦場ヶ原「何、出来ないのかしら?」

阿良々木「いや……いいのか、本当にそんな命令で」

戦場ヶ原「もっと何か肉体的にキツい命令が来るとでも思ったのかしら?」

阿良々木「正直に言う、そうとしか思っていなかった」

戦場ヶ原「正直なのはいいことよ、でもね阿良々木くん。前にも言ったと思うけれど」

戦場ヶ原「自分の彼氏がモテるというのは女の子からしてみればかなり嬉しいことなのよ」

もっとも、だからといってキスしていい理由にはならないけれど。と、最後に付け加えた。

戦場ヶ原「そして……その人気者の恋人を独占出来るっていうのは女の子にとって最高に嬉しいことなんだから」

阿良々木「…………ありがとうな、戦場ヶ原」

僕は、この先何が起ころうともこの戦場ヶ原ひたぎを悲しませないという誓いを込め

戦場ヶ原にキスをした。

戦場ヶ原「…………」

阿良々木「……ガハラさん?」

僕とキスのあと、ふと戦場ヶ原は俯いて黙り込んでしまった。

……ちょっと待て、僕はまた何か間違いをしでかしたのか?

不安になり、表情を伺うために顔を近付けると

戦場ヶ原「えい」

指で頬をつつかれ、そしてクスクスと笑われた。

阿良々木「ガハラさん……?」

戦場ヶ原「本当、困ったことをしてくれたわね阿良々木くん」

戦場ヶ原は笑いを抑えることもせず、ただ真っ直ぐに僕の目を見つめていた。

そして

戦場ヶ原「あなたに触れたり、会話したり、そばにいるだけで……私はとても楽しいの」

戦場ヶ原「もっと長い時間をあなたと過ごしたいし、もっとたくさんあなたのことを知りたい」

戦場ヶ原「そして……もっと深くあなたと繋がりたい、最近はそんなことばかり考えてしまうのよ」

戦場ヶ原「貝木が言っていたわね、私はつまらない女になったって」

阿良々木「貝木か……あまり何度も聞きたい名前じゃないな」

戦場ヶ原「あんなことを言われたら当時の私ならば激怒していたでしょうね」

戦場ヶ原「まあ、あの時もちょっとイラッとして殺……いえ、パチンッとしてやりたくなったけれど」

阿良々木「パチンッって可愛い表現してもそれはダメ!」

戦場ヶ原「でもね阿良々木くん、あなたと付き合い始めて触れ合った結果つまらない女になったのなら」

戦場ヶ原「私はつまらない女のままでいい、そう思ってしまうくらい……私はあなたしか見えていない」

…………

……不覚にも、実感が薄れていた。

戦場ヶ原ひたぎという女の子の彼氏でいられることがどれほど幸せなことであるのかを。

阿良々木「……僕も、お前が好きだよ。戦場ヶ原」

戦場ヶ原「そう、嬉しいわ……ありがとう、阿良々木くん」

俺「……僕も、お前が好きだよ。戦場ヶ原」

戦場ヶ原「私も好きよ。心の底からね。」

「プラチナムカつく」


ふと、そんな声が聞こえた気がした。

ハッピーエンドを迎える前に一悶着あるのはゲームや漫画ではある種のテンプレートと化している。

そして、それは現実にも起こり得ることであったのだ。

ただし今回は一悶着という単語で済むレベルではないのかもしれない。

僕の妹、小さい妹、阿良々木月火……

僕の愛しい家族、その右手には

紛れもない

刃が握られていたのだから。

┌┴┐┌┴┐┌┴┐ -┼-  ̄Tフ ̄Tフ __ / /
  _ノ   _ノ   _ノ ヽ/|    ノ    ノ       。。

       /\___/ヽ
    /ノヽ       ヽ、
    / ⌒''ヽ,,,)ii(,,,r'''''' :::ヘ
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 /    | .|           | .|人(_(ニ、ノノ

阿良々木「月火ちゃん……か」

月火「私だけじゃないよ」

火憐「…………」

阿良々木「お前も……か」

火憐「……ごめんよ兄ちゃん」

阿良々木「……………」

戦場ヶ原「阿良々木くん、あの子たち……」

阿良々木「……僕の、妹だ」

まさか、最後に立ちふさがる大きな壁が自らの妹たちであるとは予想外である。

そしてようやく理解出来た。

恋慕狐、それは恋い慕う狐の怪異……恋を実らせることが出来なかった狐の物語。

自らの一族を愛したが故に想いを遂げられなかった狐の怪異だったのであると。

月火「お兄ちゃん、誰だろうね?その女の人」

阿良々木「…………」

月火「妹が聞いてるんだよ、教えてくれたっていいんじゃない?」

阿良々木「戦場ヶ原ひたぎ……僕の彼女だ」

月火「へぇ……綺麗な彼女さんだね、お兄ちゃんには似合わないくらいに」

阿良々木「…………」

目は据わった月火ちゃんは明らかにいつもとは様子が違う。

恋慕狐の影響を強く受けるとこうなるか……まったく笑えない。

戦場ヶ原「逃げましょう阿良々木くん、少なくともここじゃ危険だわ」

阿良々木「…………」

踵を返して走り出した僕たちの背後から声が聞こえる。

「逃がさない」

月火ちゃんの放ったその声は、どことなく狐の鳴き声に似ていた。

・・・

日は既に落ち辺りは暗くなっていた。ここは誰もいない夜の公園。

ここで僕は二人の妹と相対していた。

月火「もう鬼ごっこは終わりなの?お兄ちゃん」

阿良々木「ああ、もう終わりにしよう……」

妹が兄に恋い焦がれ殺したいほど愛するなんて、馬鹿な三文芝居にすら満たない寸劇は

もう幕を下ろす必要があるだろう。

火憐「…………」

見たところ火憐は月火ちゃんのような状態にまでは陥っていない。

もし火憐ちゃんが本気を出してたらこの公園に逃げてくる途中で捕まっていたはずだ。

多分、僕と分かれた後で月火に見つかり、あの迫力と威圧感に圧されて行動を共にしていた……とか

……うん、容易に想像がつくな。

となると、実質止めなければならないのはただ一人。

小さい妹、阿良々木月火だけとなる。

阿良々木「戦場ヶ原、ここは僕一人に任せてくれないか」

戦場ヶ原「そのほうがいいでしょうね、私はあの子のことをよく知らないし……それに」

阿良々木「それに?」

戦場ヶ原「小さい子は苦手なのよ」

……いや、一応もう中学生なんだけどな。

戦場ヶ原「とにかく阿良々木くん……約束して、絶対に死んじゃダメよ」

阿良々木「……分かってる」

それに、仮に僕が月火ちゃんに殺されてしまうようなことがあれば

戦場ヶ原は間違いなく月火ちゃんを殺すだろうから。

月火「さっきからうるさいなぁぁぁっ!!」

阿良々木「!」

月火が刃物を振り上げて一直線に走ってきた、が思った以上にその動きが速い。

体育会系じゃないはずなのにどうなってるんだ、参謀担当じゃねぇのかよ!

これも怪異の影響だって言うのか!?

どうなってんだ忍!確か最初の辺りでこの怪異はそこまで害はないとか言ってたじゃないかよ!

阿良々木「くそっ……!」

迫り来る刃をギリギリのところで避ける……なんて器用な真似は到底出来ない。

狙うは一定の距離を置いて大きな隙をついて刃物を奪うこと。

誰も傷つかずにすむ唯一の方法だ。

月火「全部……全部壊れればいいんだ……!!」

突如として月火ちゃんが僕とは別方向に向かって走り出した。

月火の走るその方向の先にいたのは

戦場ヶ原「!」

戦場ヶ原ひたぎ。

阿良々木「くそっ!」

なんてことだ、僕は馬鹿か!月火の狙いが僕一人だと思い込んでいたなんて!

恋慕狐が恋の実らなかった狐の怪異だとするならば、己の恋敵を恨むのはごく自然なことじゃないか。

戦場ヶ原「…………っ!」

以前の戦場ヶ原は体中に武器となる文房具を身に付けていたが、今現在はそれらをすべて外している。

つまり、刃物の盾となるようなものは持ち合わせていない。

―――間に合え


次の瞬間……肉に刃物が刺さる音が響き渡り、赤い鮮血が公園の砂を濡らしていた。

阿良々木「ぐっ……」

戦場ヶ原「あ、阿良々木くん……!」

先の表現に誤りがあったので、ここで訂正しようと思う。

戦場ヶ原ひたぎの盾は存在する。

僕という、阿良々木暦という名の盾が。

阿良々木「離れろ……戦場ヶ原……!」

火憐「に、兄ちゃん!!」

月火「……刺さったのはお兄ちゃんか、まあいいや……結果は同じだしね」

僕の体から刃物が抜かれる、冷たい刃が引き抜かれていく感触と同時に激痛が走る。

貫かれたのは胸の辺り、心臓は無事みたいだが致命傷だ。

だが

阿良々木「……同じじゃねぇよ」

それでも、僕は倒れなかった。

普通の人間なら出血死していたかもしれないレベルの傷でも僕は倒れず立っていられた。

少量ではあったが、千石の家で忍に血を与えていたことがここに来て功を奏したらしい。

既に出血は止まり、傷も再生しつつある。

月火「なんで……?」

阿良々木「お前が……大切だからだよ月火ちゃん」

僕を見くびるなよ狐め。お前のために自分の家族を、妹を殺人犯なんかにさせてたまるか。

月火「そういうのが……プラチナムカつくんだよ!!」

二撃目を放つべく月火は大きく腕を振りかぶる、僕に更なる致命傷を与えるために。

一撃で僕を仕留めるために。

その時、振り上げられた月火の腕を掴む人影が一つ。

見覚えのあるそのシルエットの人物は

「阿良々木先輩と戦場ヶ原先輩を傷つけさせはしない」

聞き覚えのある声でそういった。

阿良々木「か、神原……?」

神原「すまなかった阿良々木先輩、まさかこのような事態になっているとは予測出来なかった」

阿良々木「なんで……お前がここに……!」

神原「私にもよく分からないのだ、ただ……気がついたら足がここへ向いていた、とでも言うべきか」

そんな都合のいい展開があり得るのか……?夜にたまたま歩いてここにやって来ただって?

神原「とりあえず、それについては他のみなも私同じであるらしいぞ」

阿良々木「みんなって……!」

撫子「ららちゃん、もう止めて!」

月火「せ、せんちゃん……?」

羽川「凄い大立ち回りになっちゃってるね、戦場ヶ原さん」

戦場ヶ原「は、羽川様……?」

八九寺「はぁ。本当に、阿良々木さんは話題に事欠かない人ですね」

阿良々木「八九寺……お前まで……!」

どうなってんだ本当に、こんなのがただね偶然であるはずが……

忍「偶然でないならば必然であるということじゃ、我が主様よ」

八九寺に続く最後の登場人物として、忍が影の中から姿を表した。

阿良々木「どういうことだ……?」

忍「引かれ合ったのじゃよ、同じ怪異にあてられたもの同士が……一人が暴走したことによっての」

阿良々木「…………」

そう言われれば、狐という動物はそういった危険察知能力に長けているらしい。

外敵の接近、自然災害の予兆、そして仲間の異変……その性質がこの怪異にもあてはまったというわけだ。

忍「ま、一つの怪異が複数の人間に影響を及ぼすなど稀有なことじゃがの」

説明を終えた忍はかかっ!笑って見せ、そして

忍「さあお前様よ、幕引きの時じゃ」

そう僕に告げた。

月火ちゃんは神原と火憐に腕を抑えられ、その体を千石が泣きながら抱きしめていた。

阿良々木「……月火ちゃん」

月火「……何さ、お兄ちゃん」

阿良々木「本当、呆れるくらいに僕たちって仲が悪かったよな?」

月火「……そうだね、お兄ちゃんが中学生の頃は喧嘩してばっかりだったし」

阿良々木「取っ組み合いの喧嘩もよくやったな、お前ら正義の味方のくせに二対一で掛かって来やがって」

あ、初代プリキュアも二対一だったか。あ、いや見てないよ僕は。あんな少女アニメ……

……はい、見てました。毎週必ず。

月火「……そうだったね、取っ組み合いなんかもやってたね」

阿良々木「……最近、そんな喧嘩してなかったな」

月火「ん…………」

阿良々木「で、どうだった?」

月火「え?」

阿良々木「感想だよ、久々に僕と大喧嘩した感想」

僕はさっきから怪異がどうとか大騒ぎしていたが、冷静に考えてみれば何のことはない。

こんなのはただの喧嘩にすぎなかったのだ。

ちょっとだけやりすぎた、多くの知り合いを巻き込んでしまった、考えの行き違いから生じてしまった

ただの、兄妹喧嘩である。

月火「……ばっかみたい、プラチナムカつく」

阿良々木「はは、結局そう言われるのか」

月火「……何か、すっごく疲れちゃった。ちょっとだけ眠っていいかな?」

阿良々木「ああ、僕が体を支えててやる」

月火「………………」

月火「………………」

月火「……ごめんね、お兄ちゃん」

阿良々木「こっちこそ、ごめんな月火ちゃん」

そして月火ちゃんは目を閉じ、僕の腕の中で寝息を立て始めた。

こうして、三文芝居にも満たないただの寸劇以下の兄妹喧嘩は

お互いの謝罪の言葉、『ごめんなさい』の一言で

幕を下ろしたのである。

後日談というか今回のオチ

忍曰わく、恋慕狐はもういなくなったらしい。

そして本来なら月火ちゃんのレベルにまで暴走することなど起こり得ないらしいのだ

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