響「ひとりぼっち……」(149)

トップアイドルになることを夢見て、島を飛び出して

知らない土地に、知らない人たち

全然わからないことばかり

全てはトップアイドルになるために

でも、もう挫けてしまうかもしれない

お母さん、ごめんなさい……

「……」

ああ、今日もはじまるんだ

自分にとって、楽しくない、1日が

「最悪の目覚めだぞ……」

夢を見ていた

事務所のみんなと、楽しい1日を過ごす夢を

笑いあって、ときには喧嘩して

みんなと、過ごす夢を

そう……夢……

「あははっ、夢は気楽で良いよね」

乾いた笑い声

虚しく、部屋のなかに響く

「準備しなくちゃ」

だるい体を動かして、朝の準備をする

顔を洗って、鏡を見ると、酷い顔の自分が映った

あはは、自分、酷い顔だ。こんなのでアイドルと言えるのかな

「ごはん食べよう」

昨日の残り物で、軽くすませよう

こんな時、料理ができて良かったと実感する

懐かしい味、お母さんに教えてもらった料理

一緒に食べてくれる人が欲しいな

でも、みんなには不評だったし、無理かな

「美味しいのになぁ……」

お腹はふくれた。気持ちはからっぽだけど

次の準備。時間は待ってくれない

食器を片付けて、歯を磨いて、身支度を整える

まだ肌寒いので、厚手のものを着ていかなくちゃ

もう沖縄は暖かいんだろうなぁ

最後に髪をまとめる。お気に入りの、浅葱色のリボン

「よし、今日も頑張らなくちゃ」

戸締りを確認して、事務所へ行こう

皆がいる、あの事務所へ

「……」

足が重い

体の調子は悪くはない

原因はわかってる。簡単なこと

体は気持ちが動かしてるんだね。面白いなぁ

「……なんくるないさー」

そう呟いて、前に進む

とても重い足を、前へ

歩くなんて簡単なことなのに

右足を動かして、次は左足

一定のリズムで交互に動かす

自宅から事務所まで、決して短い距離じゃない

でも、電車は使わない。酷い目にあったから

人間、足がついてるんだ。歩けば良い

「寒いなぁ」

ほぅ、と白い息をはく

寒いのは嫌だな

やっぱり、暖かいほうが良い

いつもの通り道を、ゆっくりと進む

少し体が温まってきた

体の真ん中は冷たいままだけど

ずっと冷たくて、温まらない

変な感じ……

「あ、たんぽぽ」

隅っこで、ひっそりと咲くたんぽぽを見つけた

鮮やかな黄色の花に、目を奪われる

春もすぐやってくるのかな

雑草に混じりながらも、堂々と咲いている

「お前は強いんだね」

自分もこのくらい堂々としたいものだ

ちょこんと触ってみると、たてがみのような花弁が揺れる

ライオンみたいだ。かっこいいな

あ、あまりゆっくりしてると遅刻しちゃう

たんぽぽにお別れして、また歩き出す

ばいばい、さようなら

少しだけ気分が良くなった

歩みも軽い。ちょっとだけど

後少しで到着だ

今日は良いことあるかな

こんなこと言ってる時点で、無いと思うけどさ

「あははっ……」

おかしくて、笑っちゃった

まぁいいや

考えるだけなら、誰にも迷惑かからないし

「……」

事務所に着いちゃった

うーん、数えられないほど来てるのに

この慣れない感じはなんなんだろ

あの子が辞めてなかったらな

……だめだめ、こんな考えはだめ

「よし……」

階段を上がって、ドアを開けて

元気に挨拶をしよう、挨拶は大事だよね

「おはようございますっ!」

良かった。きちんと声がでた

「おはよう。今日は早いな」

プロデューサーだけ……かな

他の子たちはまだいないみたいだ

少し、ほっとした

「うん、仕事の確認しておこうと思って」

「そうか。お前なら心配いらないと思うけどな」

「えへへ、自分にお任せさー!」

なんてことない会話

けど、嬉しくなっちゃって顔がにやけちゃう

「よし、じゃあ準備ができたら出発だ」

「わかったよ、プロデューサー」

今日は1人の仕事

準備をして、出発だ

「プロデューサー。準備できたよ」

「ああ、じゃあ行こうか」

タクシーを拾って、現場へ

2人並んで座るのって良いな

「良い天気でよかったな」

「そうだね、日差しが暖かいさー」

朝と違って、ぽかぽかしてる

うーん、気持ち良いな

「今日は大きなイベントだ。響らしく、元気に頑張ろう」

元気に……か

「うん、わかった」

あ……あの子たちはユニットかな

仲が良さそうで良いなぁ

自分もユニットで活動したいけど……

「響? どうかしたか」

「ううん、なんでもないよ」

切り替えなくちゃ

今は1人でも、プロデューサーがいてくれるんだから

情けないことはできないしね

「プロデューサー! 自分頑張るからねっ」

「ははっ、頼もしいな」

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