亜美「錯覚のレンアイ」 (12)

「亜美っ、 亜美っ……」

絞るような甘い声と小さな水音が、深夜のひっそりとした部屋に響く。

あぁ、今日も私は片割れの想いに目を閉じ、耳を塞ぐのだ。


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私と真美は生まれた時から一緒だった。一応は真美の方がほんのちょびっとだけお姉さんらしいが、そんなものは些細なことだ。

双子として産まれ、起きるのも、ご飯を食べることも、寝るのも一緒。ママやパパに甘えるのだって一緒。学校へは並んで行ったし、勉強も向かい合わせでやった。

本当にずっと離れなかった。

あの日、今日の歪みに至る発端の日。その日も、私は当たり前のように真美の隣に居た。

それを見つけたのは多分私だったはずだ。

どこのバカが持ってきたのか、表紙を艶めかしい表情の女性が飾っている、いわゆるエッチな本が教室にあったのだ。

私たちがもう少し純真なら、或いはもう少し真面目なら、ばっちいからと蓋をして先生に密告する選択肢もあったろう。

でも当時の……当時からと言うべきか、ませていた私たちはエッチなことが日常への反逆のような刺激的なものに見えて、こっそりとランドセルにそれを仕舞い込むと、悪者になった気分でこそこそと家へ持ち帰ったのだった。

今の私から言わせれば、それは随分と幼稚な内容だったし、直接的な描写は殆どがぼかされて分からないようにされていた。

でもあの日、部屋の隅っこに縮こまりながら顔をくっつけて読んでいた幼い二人には、びっくりするような刺激の世界だった。

「きゃー」とか「わー」とか言っていたのに、最後には口をつぐみ、ただドキドキと逸る心音を聞きながらページを捲っていた。

「す、凄いね……」

「うん……」

お互いに赤い顔をしているのは分かっていたから、本を閉じた後も気恥ずかしくて相手の顔を見れず、そんな感想をぼそぼそと零すことしか出来なかった。

そんな中で最初にバカなことを言いだしたのも私だった。

「ね、ねぇ、本当に気持ち良いのかな?」なーんて、少し期待した声で。

「ま、真美に言われても、その……分かんないよ……」

「試して、みる?」

真美はごくりと唾を飲み込み、喉の動きが妙に色っぽく映った。

上気した頬、潤む瞳、煩い心臓。髪が汗で額に貼りつき、胸が荒く上下している。

自分と同じ顔、同じ仕草、同じ表情の相手が隣に居て、顔を近付けるタイミングも同じだった。

その時の私達は幼いながらもしっかりと興奮していて、キスには頭がぼーっとしたし、見慣れているはずの裸に一層心臓はドキドキと跳ねた。

それでも、良かったのか悪かったのかはしらないが、この日のエッチとも呼べない触り合いで気持ち良くなることは互いに無かった。

真美も私も性的興奮を受け取るには体が余りに未成熟で、胸を触ってもくすぐったいばかりだったのだ。

性器を舐めようとして「おしっこ臭ーい」と文句を言った私の言葉がきっかけとなり、まるでシャボン玉の弾けるように場を包んでいた甘い雰囲気は消え去り、そこからは何時もの戯れ合いに戻ってその日は終わった。

過ちの原因の本は次の日朝早くに学校に登校して元あった場所に戻した。これでまた普段の生活になる。何となく雰囲気に呑まれ、何となくやってしまったことだ。無かったことにしよう。

そうなれば良かったのに、そうはならなかったのが悲劇の始まりだ。

記憶に刻み込まれてしまったこの日の興奮は暫く私達の中で燻り続け、人目を盗んでのキスが増え、胸や性器を触り合うこともするようになってしまった。

勿論、知識も乏しく、身体も未成熟、更にはムードもない触り合いで性の目覚めるのはこの時点では無かった。

ただ触るだけの行為を「やっぱ意味ないね」と笑い合いながら、それでも止められなかったのだ。

いけないことをしている感覚が、誰にも言えない秘密のあることが、二人の絆をより強くすると錯覚に陥っていた。

錯覚が終わったのは、記憶に残っていた幼い興奮も薄れ始めた頃。触られる気持ち良さは既に覚えていて、幼い性欲を満たし合っていた頃だ。

何と言うことはない。授業で知識としての性をきちんと知っただけのこと。

なるほど、あの本に書いてあったことは子作りのことで、男性の陰茎が女性の膣内で精巣内で作られた5000万から1億にもなる精子を放出(膣内射精)すると、精子は卵巣にある原始卵胞が成熟の最終段階に入り排出(排卵)された卵子がある場所の卵管先端部を目指して中心部で作られるエネルギーを消費して後部のべん毛を運動させ、そして一番早く辿り着けた精子が卵と受精卵を成して子宮内膜の一ヶ所に張りついて着床が完了すれば妊娠となる。

あの日の本にあったのは脈々と受け継がれる生物の営みであり、男女の営みだったワケだ。

なら、私と真美のしていることは何なのだろうと思った。

家族で、女の子で、双子の私達がしている行為は一体何に属されるのかと。

悩んで悩んで悩んで、たどり着いたのは"いけないこと"だという簡単な答えだった。

前からいけないこととは薄らと分かっていた。だから、キスも性行為も人目を忍んで行った。

でも、この日にはっきりと理由を書いて自分たちの行為を否定出来るだけの知識を得たのだ。
私達のしていることは生物への反逆で、人間社会を裏切るものだと。

さすが双子と言うべきか、真美もまったく同じ答えに至ったようで、この日からお互いに言葉にすることもなく行為は凍結した。

しかし、それで二人でしてきた甘美の跡が嘘のように消えて無くなるなんてことはなく、胸の奥に解消のあてのないモヤモヤが増えていくことになった。

765プロというアイドル事務所に応募してみたのも、きっとそんなモヤモヤを何か別のことで昇華させようと思ってみてのことだったのだろう。

とにかく、私も真美もまっとうになろうと必死だった。

そうしたら運が回っていたのか、二人ともあっさりと合格。765プロ所属のアイドルとして活躍することとなった。

性に合っていたのだろう。アイドルでいることは思いのほか楽しく、営業回りをしている間、歌や踊りの練習をしている間、仲間たちと談笑している間は確かにモヤモヤを忘れて活動出来ていた。

アイドルになってからも真美とは一緒で、一緒に悪戯をしかけてみたり、一緒に励んでみたり。そこに汚れた関係は存在せず、ただ純真だった幼い日の仲良しに戻ったと、そう思っていた。思っていたのに……。

ある夜のことだ。

その日は疲れているにも拘らず眠ることが出来ずにいて、ベットの中で何度も寝返りをうっていた。

草木も寝静まる頃合いにようやく眠気が身体を覆いはじめ、ふんわりとした心地に意識も手放そうとした時「亜美、もう寝た?」と真美が聞いてきた。

眠気に支配されかけ返事を返すのも億劫で、寝ていますよの合図の代わりに返事をしないでいると「寝てるよね……」と真美の声が確認するような音を孕んだ。。

はいはい寝ていますよと1つ寝返りをうって間を置かず、隣からしゅるりと布の擦れる音がして甘い声が静かな部屋に静かに漏れだした。

何をしているか分からないなんて訳は当然になく、カァッと体温が上がり、眠気なんてものは何処かへと消え去ってしまった。

口端から漏れ出る音、布が擦れる音、水気を帯びてくる指の音。声に含まれる熱が私の身体をも熱くし、繊細な水音が指の動きの一つ一つまで思い浮かばせる。
私は言うまでもなくドキドキしていた。

「亜美……っ!」

真美の唇が私の名前を紡いだ時も、私の中に生まれたのは共感と喜びと渇望で、嫌悪する気持ちは露一粒ほどもなかった。

自分も真美の手を想って耽ることがあり、真美以上に想える人は未だ居らず、真美とまた触れ合いたかったのだ。

だからこそ、余計に気持ちを抑えつけた。

「ごめん、亜美……」

行為の後の真美の懺悔に続いて私も心の中で懺悔をした。

何の懺悔をしているかは、多分一緒だ。

片割れを想ってしてごめんなさい。片割れを好きでいてごめんなさい。まっとうに成りきれなくてごめんなさい。

私たちはまた錯覚に落ちていた。あの日々のものよりもっと深くて重い錯覚に。

真美の想いを知ってから、私はそれまで以上にもがくようになった。

格好良い男の人を見つけたら良いね、と言ってみたり、格好良くて優しそうな人が居たら真美が近付けるように背中を押してみたり。

自分は一生この恋に溺れたままだろうとは予想が出来ていて、とにかく真美が良い人を好きになってくれるようにひたすらに祈った。

しかし、私という存在は随分と脆弱だったようで、真美が何時もの可愛らしさを振りまいて男性と仲良くする姿を見ていると、胸腔が随分と痛んだし、イライラが表情や態度に溢れてしまいそうになった。

そんな消耗の日々に湧いた竜宮小町の話は正しく天恵だった。

アイドルとして更に輝きたいという思いが第一ではあったが、精神を削ることへの逃避、依存からの脱却という思惑も確かに持って私はこの話に承諾した。真美も本心からの反対はしなかった。

お互いに距離を置かないと何時の日か息が出来なくなると感じていたが、一緒にいることが当たり前になり過ぎて、もはや理由でもなければ離れられなかったのだ。

りっちゃんは厳しいし、いおりんはツンツンしてるし、あずさお姉ちゃんは何処か抜けている。そこに私もいるものだから、毎日がそれはもう騒がしい。
でもみんな優しくて、真美と離れていて寂しかったけれど、毎日が楽しかった。竜宮小町のメンバーも活動もどんどん好きになっていった。

真美の方もソロ活動や他メンバーとの活動に精を出しているようで、お互いが独立してきていると確かな実感があった。

だが、そんな日々を得てもまだ私たちはまっとうに成れていない。

「あみっ……!」

一際甘美な呼び声で相方の果てるを知り、荒く吐かれる吐息の中で今日も一緒に懺悔をする。

裏切れなくてごめんね。
裏切ってごめんなさい。

これからも、私は片割れの想いに目を閉じ、耳を塞ぎ続けるだろう。

もしかしたら、真美も私の想いに目を閉じ、耳を塞いでいるのかもしれない。

私たちは双子だ。同じことに気づき、同じ思いを抱いている。そうであっても不思議なことはない。

好きを殺し、愛を殺し、私たちはまっとうになれる日を待ち続けている。

短いけどおわり.。いま気づいたけどsaga忘れてた

次は大人なあずささんと必死な千早のコンビで誰か書いてください。オナシャッス!

題材は良い凄く良い
だからこそ亜美が使わないような言い回しが邪魔だった

でも良かった(シュッシュッ

乙。
口調は確かに片手落ちな気もするがツッコミの入らないボケを見続けるのもしんどそうだ
「亜美たちは尾翼の鳥で便利の枝だった。お互いを月曜非差別だと感じていた」とか書かれてもキツイwwww

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