P「もう会社辞めたい……」(246)

それは、定例ライブの打ち上げの席でのこと。

その日は、大人が4人……私とプロデューサーさん、それに音無さんと社長で
一つのテーブルに座って、お酒を飲みながら色々なお話をしていたんです。

でも、社長は途中から春香ちゃんたちに呼び出されてお酌をされていたので
実質このテーブルには三人しかいない状態でした。

さらに、音無さんはほろ酔い気分でどこか遠いところを見ているし、
プロデューサーさんは飲み過ぎて気分が悪いのか、テーブルに突っ伏していました。

だから……この時のプロデューサーさんの言葉をハッキリ聞いていたのは、私だけだったんです。


P「もう会社辞めたい……」


って。

あずさ「え……プロデューサーさん?」

P「zzz......」


プロデューサーさん、寝てしまいました……
ど、どうしましょう。プロデューサーさんがそんなことを言うなんて……


あずさ「あの、音無さん」

小鳥「結婚したいよぉ……ずっと独身なんてやだぁ……」


……音無さんは酔って、さっきのを聞いてなかったみたい。
困ったわ……社長もあっちにいるし。じゃあ、これを聞いたのは私だけ?

結局プロデューサーさんは起きないまま、打ち上げは終わってしまいました。
さっきの言葉が本心か、確かめたかったんですけど……

その後、プロデューサーさんと音無さんは自力で帰れそうにない状態だったので
プロデューサーさんは社長、音無さんは私が付き添って送って行くことになりました。

付き添いと言っても道中はタクシーなので、吐いたりしない限りあまり大変ではないんですけど。


小鳥「ひっく。あずささぁん」

あずさ「なんですか~?」

小鳥「私より先に結婚しないでくださいねぇぇ」

あずさ「あ、あはは……ぜ、善処します~」

小鳥「運命の人でしたっけぇ……そんなの簡単に見つかりませんよぅ」


……私は、プロデューサーさんが運命の人だと思ってる。
だからプロデューサーさんが辞めるのは、絶対にイヤ……

翌日の朝。
私は事務所に着くなり、プロデューサーさんの席に向かいました。


あずさ「おはようございます、プロデューサーさん」

P「おはようござッ……!」

あずさ「?」

P「あたた……す、すみません、頭痛がひどくて。二日酔いなんです……」

あずさ「あらあら~」


確かに、昨日は相当飲んでて……あんなに飲んだプロデューサーさんは初めて見たと思う。
あの言葉といい、もしかしてストレスが溜まってるのかしら……

あずさ「最近、溜まってるんですか~?」

P「へ……」

あずさ「溜め込むのはよくないと思います~。定期的に発散しておかないと、イライラしちゃいますから」

P「……だ、大丈夫です。俺は2、3日に1回は発散してますから」

あずさ「本当ですか~?」

P「ほ、本当ですって。なんで朝からこんな話を……」

あずさ「それならいいんですけど。溜め込み過ぎたら私もお手伝いしますから、いつでも言ってください~」

P「!?」


……どうしてプロデューサーさん、そんなに驚いているのかしら。
ストレス発散のお買い物やカラオケならいつでもお付き合いします、って言っただけなのに。

あずさ「それで、話は変わるのですけど」

P「あ……はい」

あずさ「プロデューサーさん……会社辞めよう、とか考えてません?」

P「いっ!?」


途端に目を丸くして驚くプロデューサーさん。
もう、分かりやすい人……じゃあやっぱり、あれは聞き間違いとかじゃなかったのね。


P「……誰にも話してないのに、よく分かりましたね」

あずさ「昨日、プロデューサーさんがご自分で言ったんですよ~?」

P「えっ……なにそれ、全然覚えてませんけど」

あずさ「だと思います~。それより、どうしてですか? もしかして私たちが至らないばかりに」

P「い、いえ! そうではないんです。ただ、理想と現実の狭間で揺れ動いているというか……」

P「俺は、社長の誘いがきっかけで765プロに就職しました」

あずさ「その話、音無さんから聞いたことがあります」

P「まあ自分で言うのも何ですけど、今ではこの仕事も板についてきたと思います。Aランクアイドルも何人か輩出しましたし」

あずさ「素晴らしいことじゃないですか~」

P「……でも、足りないんです。全然」

あずさ「えっと……何がです?」

P「お金ですよ。お金」


お金……? プロデューサーさんくらい活躍していれば、
お金くらい有り余っていると思っていたのだけど、違うのかしら。

あずさ「プロデューサーさん、お給料たくさん貰ってるのでは……」

P「……765プロって、どれくらい儲かってるか知ってます?」

あずさ「え……いえ~、社長も律子さんも私たちアイドルにはそういう話をされませんから」

P「でしょうね。なんと年間の純利益、たったの1億です」

あずさ「……それって少ないのでしょうか。私には多いように思えるのですけど」

P「そう思いますか? ではちょっと計算してみましょう」

P「このうち半分は資本金に当てないと事務所の修繕・改装もできません。でも5千万は残ります」

P「更に、去年Aランクに上がったアイドルは給料が上がります。年100万程度ですね」

あずさ「去年上がったのは、春香ちゃんと真ちゃんですね~」

P「ということで200万引いて、残り300万です。ここに新しくコネを作るための交際費が入ります」

P「ランクアップしたアイドル2人に新しい仕事をくれと頼みこむのに、各々100万はかかります」

P「残りは100万です。でもこれは交通費や事務用品で無くなってしまうので……」

あずさ「……もしかして、プロデューサーさんはほとんどお給料が」

P「上がりません。というわけで、俺の家計はかなり厳しい状態です……」

あずさ「それって、もしかして横領してるのでは……」

P「かもしれないですね」

あずさ「そんな……社長には仰ったんですか?」

P「言ってクビになったり765プロが無くなったりしたら、俺も食い扶持が……」

あずさ「……聞いたらいけないのかもしれませんけど。お給料、おいくらなんですか……?」

P「入社時は年収250万、今は300万です。でも所得税、住民税、厚生年金、保険料で引かれるので手取りは250万程度ですね」

P「そこに営業の交際費が入るので、実質ほとんど貯金できてなくて……」

あずさ「……結婚とか、どうされるんですか?」

P「ほんと、どうしましょう。まあそんなわけで、辞めたくても辞められないジレンマに陥ってるわけです」

P「あ、この話は他言無用でお願いします。律子すら知らないんですから」

あずさ「わ、分かってます~」


こんな話、他のアイドルにはできないわ。
特に美希ちゃんなんてプロデューサーさんが不遇の目に遭っていると知ったら、社長に直訴しかねないもの……


P「はぁ……予定だと、あと2年くらいでいい人見つけて結婚するつもりだったのに」

あずさ「……お相手はいるんですか~?」

P「全然いませんけど……」

あずさ「で、では~。こういうのはどうでしょうか~」


あずさ「お金持ちのAランクアイドルと結婚して、養ってもらう……とか」

わ、私ったら何言ってるのかしら。
そんなの、プロデューサーさんのプライドが許さないに決まってるのに……


P「いいですね、それ」

あずさ「えっ?」

P「正直、上がる見込みも無いですし……結婚して養ってもらいながら新しい職を探すのもいいかなと」

あずさ「そ、そうですよ~! それに、Aランクアイドルならたくさんいるじゃないですか~」

P「Aランク……えーと」

あずさ「美希ちゃん、春香ちゃん、真ちゃんと、竜宮小町の3人です~」

P「俺に好意を持ってる子なんていないじゃないですか……」

あずさ「……それ、本気で仰ってるんですか?」

P「はい。俺みたいな甲斐性なしと結婚してくれる子なんているのかなって」

あずさ「………………」

あずさ「みんな、プロデューサーさんのことが好きだと思いますよ~」

P「恋愛対象としては見てませんよ。だって、俺の認識では……」

P「美希は懐いてくれてるけど、あれは年上の男性への憧れとかであって、好きのベクトルが違います」

P「春香と真はよく絡んでくるけど、ただ話し相手が欲しいだけでしょうね」

P「伊織は言うまでもなく、いつもつっけんどんで俺のことが嫌いみたいだし」

P「亜美は、そもそも恋愛が何かを分かってないような気がします」

あずさ「……そうですか」


呆れた。知ってたけど、この人すごく鈍感。
伊織ちゃんなんて普段の行動を見ていれば、むしろ分かりやすいと思うけれど。

あずさ「……ちなみに、私はどうなんでしょう」

P「え……本人を前にして言うのは、ちょっと」

あずさ「ど、どういう意味ですか~?」


私が前にいると言えないって……
嫌ってるとか嫌われてるとか、そういうこと……?


P「悪い意味じゃなくて、なんか恥ずかしいなって」

あずさ「な……なぁんだ、びっくりしました~。それじゃあ、言ってください」

P「えぇ? ま、まあそれは次の機会ということで」

あずさ「今ですっ。今言ってくれないと、さっきの話をみんなに広めちゃいます~」

P「そ、それシャレになってないです!」

あずさ「では、今お願いします~」

P「マジですか……」

あずさ「マジですっ」

プロデューサーさんの想いを聞く、いい機会だもの。
もしかしたら、一歩前に進むチャンスかもしれないわ。


P「……あずささんはさっきみたいに、よく俺のことを気遣ってくれますよね」

P「同じ大人で目線の高さが似ているからか、俺が自分で分かってないところにも気付いてくれる」

P「それが誰にでも向けられるものかっていうと、どうにも俺だけ……のような気がしてて」

P「飲み会とかでも、よく隣に座ってくれるし……」

P「……た、たぶん、他のアイドルよりは……可能性がある、というか……」

P「す、すみません! たぶん俺の勝手な自惚れです!」


……大変。

とても……顔が熱い。
たぶん、真っ赤になってる。

気遣ってるとか、隣に座ってるとか。
私、さりげなくやってるつもりだったのに……!

本当は、好きだって言いたい。

でも、ダメ……逆にプロデューサーさんが私をどう思ってるかは、まだ分からないし。
それにここで言ってしまったら、私はプロデューサーさんを束縛することになる……


あずさ「え、ええと~」

P「はい!?」

あずさ「その……だいたい、合ってると思います~」

P「え……」

あずさ「だから……プロデューサーさんのこと、ちょっといいなって思ってます」

P「………………」

あずさ「もう、何度も言わせないでください~……」

P「ごっ、ごめんなさい」


……うん。今はこれくらいでいいわよね。

後々プロデューサーさんが他の女の子を好きになったとしても、
私のことは『少しいい人だと思われてた』程度に思ってくれるはず。

それなら、後腐れなく他の女の子を見ることができるもの……そんなの、本当はイヤだけど……

あずさ「……でも、フェアじゃないです」

P「フェアじゃないって……」

あずさ「私は自分の気持ちを言ったんですから、プロデューサーさんの気持ちも聞きたいです~」

P「そ、それは本当に勘弁してください!」

あずさ「……じゃあ、10段階です。結婚したいくらい好きなら10、知り合い程度なら5、顔も見たくないなら1ですっ」

P「え、ええ!?」

あずさ「プロデューサーさんっ」

P「わ、分かりました! それならきゅ……な、7くらいです」

あずさ「えっ……」

P「……どうしました?」

あずさ「いえ……そう、ですか」


……思ったより低いんだ、私。
さっきのプロデューサーさんの反応からすると、もうちょっと好かれていると思っていたのに。

プロデューサーさんは自分が自惚れてたって言ったけど……自惚れていたのは私の方。
こんなのじゃ、結婚どころかお付き合いもできないわよね……

あずさ「はぁ……」

P「あ、あずささん」

あずさ「……そろそろ、お仕事に行ってきます……」

P「え……テンション凄く下がってますけど、大丈夫ですか?」

あずさ「大丈夫です……では、支度がありますから」

P「あっ……どうしたんだ、あずささん。急に落ち込んで……」


――――――――

――――

――

昼頃――


小鳥「プロデューサーさん、一緒にご飯食べませんか?」

P「いいですけど、俺今日は菓子パンですよ」

小鳥「私もですよ。机だと汚れちゃうので、そっちのテーブルにしましょう」

P「オッケーです。よっこいしょっと……」

小鳥「もう、おじさん臭いですよ?」

P「四捨五入すればまだ20代です。そういう音無さんは四捨五入すると」

小鳥「ところでちょっと聞きたいことがあるんです」

P「うわぁ、自分で振っといて露骨に話題を変えましたね……何ですか?」

小鳥「実は……朝のあずささんとのお話をこっそり聞いてたんですけど」

P「……経理の話ですか。しまったな……音無さんは知ってるから大丈夫ですけど」

小鳥「いえ、お二人の関係についての方です」

P「ぶほぉっ!」

小鳥「きゃっ! ちょっと、焼きそばパン吐き出さないでください!」

P「げほっ、げほっ……そ、そっちですか!?」

小鳥「あの時、9って言いかけませんでした? あずささんは気付いてませんでしたけど」

P「……あそこで9とか答えたら、軽い男に見えるじゃないですか」

小鳥「うふふ。あずささんのこと、好きなんですね」

P「そうですよ。プロデューサーがアイドルを好きになっちゃ駄目ですか?」

小鳥「わっ……開き直ってますね!」

P「本人を前にすると全然言えないんですけどね……」

小鳥「……私は応援します。世間にどう言われようと、二人には幸せになって欲しいです」

P「その前に、あずささんにもっと好かれる努力をしないと。今の『ちょっといい人』程度じゃ……」

小鳥(10段階評価を求める時点で好きって言ってるようなものなんだけど……そこは自分で気付いて欲しいなぁ)

小鳥「あの評価は、相対的に見ないとあまり意味がないですよね」

P「相対的……?」

小鳥「あの子は5だけど私は6。女の子は、どれくらい好かれてるかハッキリさせたいものなんです」

P「はあ、そうなんですか……」

小鳥「例えば、春香ちゃんや美希ちゃん、千早ちゃんはいくつなんですか?」

P「え……なんとも思ってないので、5くらいですけど」

小鳥「それをさっき言えば良かったんです。あずささんは7でちょっと好きくらいだけど、アドバンテージはあるよって」

P「そんな気の利いたことできるわけないじゃないですか!」

小鳥「でしょうね。これだからプロデューサーさんは」

P「……今、あなたの評価が3になりました」

小鳥「さ、さん!?」

風呂入ってくる

【3時間後 とあるスタジオ】


あずさ「はぁ……今日の写真撮影のお仕事、失敗しちゃったわ……」

律子「表情、固かったですからね。今日は朝から調子悪かったみたいですけど……何かあったんですか?」


やっぱり私、朝のこと完全に引きずってる。
プロデューサーさんは7って言ってたけど、あれも私に気を使って言ってくれたのかも……


亜美「律っちゃん! せっかく遠出してきたんだし、亜美、買い物してから帰りたいYO!」

伊織「あら、奇遇ね。私も同じこと考えてたわ」

律子「私はこのまま別の営業に行くから……今日は現地解散ね。あずささんもそれでいいですか?」

あずさ「あ、はい……でも私、一人で帰れるでしょうか」

律子「ここから最寄り駅までは送ります。そこからは電車の乗り継ぎだけだから大丈夫だと思いますけど……」

みんなに駅まで送ってもらった後、私は発車寸前の電車に乗り込んだ。
まだ帰宅ラッシュの時間には早いのか、全体的に空いているようだった。

『次は~、大手町、大手町~』

……このままもやもやしたものを抱えてたら、いつまでも仕事に集中できないような気がする。
なんとかしないと……

『次は~、渋谷、渋谷~』

何か、自分から行動を起こさないとダメなのかしら。私っていつも受身だし。
さっきだってそうだった。プロデューサーさんの気持ちを確認してからじゃないと好きだって言う自信もない。

『次は~、中央林間、中央林間~。終点です』

でも、私にそんな度胸は……


車掌「お客さん、終点ですよ」

あずさ「あ、はい……え? ここ、どこ……?」

いつものことだけれど、どうして私は全然知らない場所に来てしまうのかしら。
三回乗り換えれば事務所の最寄り駅に着くはずだったのに……

とりあえず、事務所に電話をかけてみましょう。
もしかしたらここ、意外と事務所に近い駅なのかもしれないし。


あずさ「……あ、もしもし。あずさです~」

小鳥『音無です。お疲れ様です』

あずさ「あの~、実は、また迷ってしまって」

小鳥『……ええと。最寄り駅とか分かります?』

あずさ「ちょうど今、中央林間という駅にいます~」

小鳥『ふう……良かった、まだ神奈川だったんですね。この間は確か名古屋でしたから』

あずさ「はい、その節はご迷惑を……」

あずさ「それで……音無さん、迎えに来ていただけないでしょうか~」

小鳥『私ですか? プロデューサーさんならここにいますよ?』

あずさ「……プロデューサーさんは、ちょっと」


たぶん私、プロデューサーさんを前にしてもつらくて笑顔でいられない。
そんな情けない顔、好きな人に見られたくないもの……


小鳥『……そういうことですか。プロデューサーさん。中央林間まであずささんを迎えに行ってください』

あずさ「えっ!?」

小鳥『あずささん。気持ちは分かりますけど、逃げてても解決しないと思います』

あずさ「音無さん……」

小鳥『3の私が、7のあずささんに言っても保証にならないかもしれませんけど。逃げなければ、絶対うまくいきますから』

2時間ほど待っていると、プロデューサーさんが迎えに来てくれました。
律子さんがいない時は、よくこうやって迎えに来てもらってたんですよね……


P「お待たせしました。こういうのも久しぶりですね」

あずさ「……ありがとうございます」

P「あずささん……もしかして、まだ落ち込んでるんですか?」

あずさ「………………」

P「ううん……よし、決めた」

あずさ「?」

P「あずささん。今から俺と、デートに行きましょう」

あずさ「…………え」

P「ちょっと好きな者同士、行ったって不思議じゃないですよね。デートくらい」

あずさ「え……ええぇぇぇっ!?」

数字の評価じゃなくて、ちゃんと『ちょっと好き』って言ってくれたのが嬉しくて。
その日のデートは年甲斐もなく、はしゃいでしまいました。


P「『ぬ~ぼ~』って今売ってないんですよね。美味しかったのに」

あずさ「私も小さい頃に食べてました。あのチョコレートと食感がいいんです~」

P「分かってくれます? 美希や亜美に聞いたら知らないって言うんですよ」

あずさ「まだ中学生ですから、世代が違うのかもしれませんね~」

P「そっか……地域振興券とかも知らないんだろうなあ」


なんて、普段他のアイドルの子達とはできないような話もしてみたり。
いつも以上に話が弾んで……気がついたら、プロデューサーさんと腕を組んじゃってました。

プロデューサーさんは恥ずかしそうにそっぽを向いてるけど……
デートだって言ったのはプロデューサーさんですから。離してあげませんよ?

それから2時間ほどデートして夕食を摂った後、事務所に戻ってきました。
名残り惜しいですけど、楽しかった時間も終わり……組んでいた腕も離してしまいました。


P「ただいまー」

あずさ「ただいまです~」

小鳥「おかえりなさい。遅かったですね」

P「ええ、ちょっと……」

小鳥「うふふ」


……音無さんは、たぶん気付いてるんですよね。私たちがデートしてきたって。
でも、音無さんのお陰だからすごく感謝してます。


小鳥「あずささん、良かったですね」

あずさ「はい……ありがとうございます、音無さん」

小鳥「いえいえ、お安い御用です」

P「本当ですよ、あずささんが元気になって良かった」


『良かった』って、プロデューサーさんとデートしたって意味の方が大きいんだけど……
プロデューサーさん鈍感だから、気付いてくれなさそう。もう……

あずさ「プロデューサーさんも、今日は本当にありがとうございました~」

P「こちらこそ。また一緒にどこか行きましょうか」

あずさ「それはもう、喜んで。でもプロデューサーさん、私なんかでいいんですか~?」

P「……さっき俺『ちょっと好き』って言いましたよね」

あずさ「は……はい……」

P「でも俺は小心者なんで、デートに誘うにしても『かなり好き』くらいじゃないと誘いませんから……」

あずさ「えっ……」


そ、それってもしかして……プロデューサーさん、私が好きってこと?
うそ……私が、勝手に勘違いしてるだけじゃ……


P「……その辺の話は、今度改めて」

あずさ「は、はいっ! お、お待ちしてます……!」

小鳥「………………」

小鳥(応援したい……応援したいけど、二人を見ていると抑えきれない怒りと焦りが……)

ウエディングドレスの似合うあずさ>どてらの似合う小鳥

その日の夜。
今日の私の用事が済んだので、プロデューサーさんと音無さんに挨拶して帰ろうと思ったら。


P「zzz....」

あずさ「プロデューサーさん。ソファで寝たら風邪を……」

小鳥「あっ、寝かせてあげてください。最近徹夜が多いみたいで……さっきも無理言って迎えに行ってもらいましたし」


それって、私が道に迷ったから……いえ、私を元気づけるためにわざわざ?
プロデューサーさん。そんな状態で私のために何時間も……


あずさ「もう。そんなの、少しも言ってなかったじゃないですか~」

小鳥「男の人はカッコつけたがりなんですよ。それじゃ私も、そろそろ帰りますね」

あずさ「え……プロデューサーさんを起こさないんですか?」

小鳥「その大任はあずささんにお任せしますから。お先に失礼します」

P「ぐっ…! あ……」ヨロ… ヨロ…

ドサッ

雪歩「」
真「」

冬馬「へへ… ざまぁみろw…」

雪歩「……プロデューサー?…」
真「そんな……!」

P「」

ぎゃああああああホントに何かスミマセンorz

P「zzz....」

あずさ「プロデューサーさん」

P「zzz....」

あずさ「……ちゃんと、寝ておられますか~?」


深い眠りに落ちてるのは明らかだけど。
それでも今からすることを考えたら、確認せずにはいられなくて。


あずさ「……プロデューサーさん。こんな状態で卑怯かもしれませんけど」

あずさ「私も……プロデューサーさんが、大好きです……」


そっと……プロデューサーさんの唇に、自分のそれを重ねました。

頭の中では、後日のプロデューサーさんの告白にどう答えようかとか、
友人の友美に報告しようとか、そんなことが渦巻いていて……

公然とこういうコトができる関係になったら、私はたぶんプロデューサーさんと結婚する。
新しいお仕事が見つかるまでの間は私が養うと思うけど……運命の人だもの。きっと、なんとかなる。

……そのまま働かずに私が一生養うっていうのは、ちょっと困るけど……


P「………………」

あずさ「も、もう一回しちゃおうかしら~……」

P「………………」

あずさ「んっ……」

P「…………っ」


もう一度……今度は長めのキスをした。
プロデューサーさんの唇は、一度目のキスで少し湿っていた。


あずさ「うふふ。プロデューサーさんったら、全然起きないんだから」

P「………………」

それから、あっという間に一年が経過しました。

あの日実はプロデューサーさんが途中から起きていて
そのまま事務所で一線を越えるなんて無茶をやったけれど、今ではそんなスリルを味わうこともありません。

なぜなら、プロデューサーさんがプロデューサーを辞めてしまったから。
もう彼が事務所に姿を現すことは無いと思います。その彼が、いま何をしているかと言うと……


小鳥「結婚はさすがにできませんけど、こっそり同棲くらいならできるんじゃないですか?」


という鶴の一声ならぬヒヨコの一声で、私とプロデューサーさんは今、同棲してたりします。
私がアイドルとして働く一方で、プロデューサーさんは毎日求人情報を漁っては面接に出かけてるみたいです。


P「ただいまー」

あずさ「おかえりなさい~。ご飯にします? お風呂にします? それとも……」


なんて、昔流行ったようなやり取りもしてみたり。
その話を音無さんにしたら、割と本気で怒られてびっくりしました。何が琴線に触れたのかしら……

音無さんに怒られた日……その夕食時だったと思います。


P「そういえば今日、2社から連絡が来てさ。両方、面接合格だって」

あずさ「あらあら、おめでとうございます~。どこの会社なんですか?」

P「876プロと961プロ」

あずさ「え……えぇっ!? もしかして……」

P「うん。給料の増加が見込めるなら、やっぱり俺はプロデューサーがやりたいなって」

あずさ「……そうですか。働きすぎないように注意してくれれば、あなたはそれが一番似合ってると思います~」

P「ありがとう」

あずさ「それで……実は、私もおめでたい報告があるんです~」

P「え、何?」


うふふ。この人、どんな顔するかしら。
よくやったって喜んでくれるか、早過ぎるって焦っちゃうか……

何にしても、お仕事も決まったんだし……がんばってくださいね、お父さん!


終わり。

乙でした あとスレ汚しスンマセン

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