ホロ「今日から日記をつけようと思いんす」 (17)


以前投下した
*ホロ「わっちには夢がありんす」
というSSで、旅に出た二人の話を書こうと思います。


蛇足だと思われる向きもあると思いますのでご注意ください。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1365433622




*一日目


今日から日記をつけようと思いんす。





ロレンス「日記?」

ホロ「んむ。ほれ」

ドサ

ロレンス「も、ものすごい量の羊皮紙だなまた…」

ホロ「足りなくなれば買い足せばよいしのー」

ロレンス「これだけあってなお足りないかもしれないのか」

ホロ「それはこれからの旅次第じゃな!」

ロレンス「…願わくばこの旅は、」

ロレンス「俺としては、とくに記すことのない平穏な旅にしたいところなんだが」


ホロ「何を言っておる。この賢狼が記し後世に残す大切な記録でありんす!」

ホロ「精々面白可笑しい旅にしてくりゃれ?」

ロレンス「笑い話でいいのか?」

ホロ「…ふむ。では笑いあり、涙あり…」ムム

ロレンス「(まあ確かに俺が出会ってからのホロの年代記は喜劇にも悲劇にもできそうだな。多少脚色すればだが)」

ホロ「それから」

ロレンス「ん?」

ホロ「誰もが嫉妬するような。二人のお話じゃなっ」

ロレンス「…」

ロレンス「それはどういう意味でかは、聞かずにおこうか」

ホロ「くふふ。それがよいのー」

ロレンス「まったく」





……と、こうして続きを書くまでしばらく筆が止まってしまったのは、この旅の連れをなんと呼ぼうかとふと疑問に思えたからだ。


……それと見ての通り、そんなことを考えているうちに筆の先からインクが一滴羊皮紙におちてしまった。賢狼にしてはうかつだった。そしてぬしには大層笑われた。
噛みついてやろうかとも思ったが少しじゃれただけで息切れするような今の連れなので、尻尾で軽く払ってやるだけにしておいたが。


……まあ。
この派手に散ったインクの跡を見るたびにぬしの笑顔を、——こうして笑い合えたことを思い出せるのだと思えば、安いものだ。


決めるとすんなりと筆は紙を走った。

気取ることもあるまい。

わっちはここでも、ぬしのことはぬしと呼ぼう。

これは日記なのだから。





ロレンス「それにしても…この量の羊皮紙、インク、…」

ロレンス「金額を考えただけでため息が出るな」

ホロ「くふ。今ではニョッヒラ一になった湯屋の主がそんなけち臭いことを言うものではありんせん」

ロレンス「元だけどな」

ホロ「まあの」

ホロ「しかし、だからこそ、もう金勘定はぬしには不要なことでありんす」

ホロ「これからは、わっちのことだけを考えてくりゃれ?」

ロレンス「…はいはい」

ホロ「「はい」は一回でよい!」

ロレンス「はい」クスクス





かつてぬしとの旅の中でたくさんの「記録をする者」と出会った。

今では彼らの気持ちがよく分かる、だからこそわっちはこうしてペンを走らせている。


仔細に描写することは正しいことかもしれないがときに美しくはないかもしれない。
なぜこうしてわっちが日記をつけようかと思ったかをごく丁寧に説明するのは無粋でありんす。


なんて……やっぱりちょっと気取ってしまったけど。


最初の頁はこんなもので。





願わくばこれから悲劇でない結末を紡ぎたい。

今回はここまでです。

おそらく投下はものすごくのんびりになります。
それでもいいよという方、お付き合い頂ければと思います。




*二日目


この旅で初めて荷馬車で迎える朝。
それは平穏な旅の始まりを感じさせる朝だった。





ホロ「くふ。よく眠っておる」

ロレンス「…」

ホロ「…」ナデ

ロレンス「…ん…」

ホロ「…ちょっと痩せたんじゃないかや?」

ホロ「のうぬしよ。ぬしはもっと肉を食べた方がよい」

ホロ「最近はぶどう酒より甘いはちみつ酒の方が口に合うなどと、年寄り臭いことまで言い出すし…」

ロレンス「…」

ホロ「甘いものはともかく、わっちは塩辛いものも好きなんじゃがの」


ホロ「せめて死ぬまでは、わっちに付き合ってくりゃれ?」

ロレンス「…」

ホロ「何とか言いんす」バシ

ロレンス「んが」

ロレンス「…?? …ふぁ」

ホロ「くふふ。おはよ」パタパタ

ロレンス「ん…ああ。起きてたのか。おはよう」

ホロ「んむ。ぬしが起きるのに待ちくたびれてしまいんす」

ロレンス「食事が出て来るのに、じゃなくてか」

ホロ「たわけ」クスクス





荷台で毛布にしがみつくぬしの背中は紙切れのように頼りなく、吹けば飛びそうと言うのも案外言い過ぎではないように思えた。
枯れ木のようで、あまり強く抱き締めるとぽきりと音がしてどうかしてしまいそうな。



なので優しく抱き締めて、朝の静かな時間をともに過ごした。





パチパチ…


ロレンス「今朝も冷えるな」

ホロ「んむ。そうじゃの」

ホロ「ほれ。もっとわっちに寄り添ってよいのじゃぞ」スリ

ロレンス「…うん」

ホロ「まあ確かにこのところ年相応のにおいが鼻につくようにはなったが」スン

ロレンス「…思っても言うもんじゃないぞ。そう言うことは」

ホロ「くふふ」

ホロ「安心してくりゃれ。わっちは、ぬしのにおいを臭いとは思わぬ。大好きじゃ」

ロレンス「…」

ロレンス「はあ。朝っぱらから照れるようなこと言わないでくれ」

ホロ「くふ」





ぬしをからかうのは楽しかった。


しかし張り合いがないのと思ってしまったのも事実だった。

こんな風に甘い会話も嫌いではない。
ただたまには、刺激的な、もっと香辛料の効いた掛け合いもしたいものだ。


これはわがままだろうか。

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