女僧侶「勇者様にプロポーズされました」(529)

男「え?」

女僧侶「……」

男「ごめん。いま何て?」

女僧侶「勇者様に……プロポーズ、されました」

男「え……そ……そう……なのか……」

女僧侶「うん。きみには、言っておこうと思ったの」

男「……」

男「また急な話…だね」

女僧侶「ううん。実は魔王討伐の前から、言われてたの。帰ったら、結婚してくれないかって」

男「そうなのか?こっちに帰ってきてから、そんな話一言も」

女僧侶「返事は保留してたんだ。私も突然でビックリしてたし、お付き合いをしてたわけでもなかったし」

女僧侶「でも、つい昨日、また申し込まれて」

男「いきなり結婚を申し込んだってこと?お互いのこと何にも知らないんじゃ」

女僧侶「でも、ずっと一緒に旅はしてたから。……そうだね、いまのは間違いかもしれない」

女僧侶「もしかしたら知らない間にそんな感じだったかも……うん。たぶん、そうだと思う」

男「……受けるの?」

女僧侶「うん。受けようと思う」

男「!」

女僧侶「勇者様はお父様を亡くされて、とってもつらそうだった。できる限り、支えてあげたいんだ」

男「そ、そうか……そりゃあ、また…」

男「…おめでとう……」

女僧侶「……ありがとう。ごめんね、きみには一番最初に言いたかったんだ」

男「は、はは…。そっか、うん。そうだな…幼馴染だもんな、俺ら」

女僧侶「うん」

男「す、すげえよ!勇者様の伴侶か!」

男「参ったな、世界を救った二人が結婚か……こりゃ国をあげての大騒ぎになるだろうな」

女僧侶「……そうだね」

男「おめでとう。お前みたいな幼馴染がいて、ホントに誇らしいよ」

女僧侶「ありがとう。ふふ…きみならそう言うと思ってた」

女僧侶「それじゃあ、私は教会に帰るね」

男「お、おう。またな」

女僧侶「うん。またね」タタタ

男(……)

男(そうか……結婚するのか、あいつ)

男(あいつが……)

~15年前~

青年「今日からこの村に越してきました。よろしくお願いします。こっちが、娘です」

幼馴染「……」ギュッ

父「やあ、よろしく!友人が増えて嬉しいよ。ほら男も挨拶しろ」

男「……」ギュッ

青年「どうやらお互い人見知りなようですね」クスッ

父「まったくで」ハハッ

父「おい。挨拶はちゃんとしなさい、ほら」

青年「お前も、ほら」

幼馴染「ん……」

男「……」

幼馴染「……こ、こんにちわ……」

男「…………」

幼馴染「…………」

男「……よろしくな」

幼馴染「!は、はい!」

父「よしよし。素敵な彼女ができて良かったなあ」ナデナデ

男「うぅ///」ナデナデ

~14年前~

男「うりゃあああ!」バシャーン

幼馴染「きゃああ///」バシャーン

青年「おーい。二人とも!あんまり水辺で騒ぐなよ、気をつけて」

青年「1年は早いな。子どももあっという間に仲良くなる」

父「幼ちゃんは良い娘だ。子どもが少ないこの村ではいいお友達だよ」

父「何より優しい娘だ」

青年「はははっ。ありがとう。誰に似たのか、死んだ妻かな。男親としてはこれからが心配だけど」

父「うちも家内に似れば良かったんだがなあ。どうも粗雑で」

青年「男の子はあれぐらいがちょうどいいよ」

男「うりゃああ!」モミモミモミ

幼馴染「あ、あ!あん!やあ、やめてえぇえ///」

青年「ごらああああ!!うちの娘になにしてやがんだああああ!」

<ギャー
<キャー

父「はっはっは。お互い妻を持たないと苦労するね」ハハッ

~13年前~

男「とーさん頑張れ!」

幼馴染「あうう……お、お父さん!頑張って!」ドキドキ

青年「だ、そうだ。そろそろ訓練も終わりにしよう、お昼も食べないといけないしね」チャキ

父「っ」チャキ

青年「はっ!」キン!

父「ぐっ!」ギィン!、カラン

青年「勝負ありだな」

男「あー……」

幼馴染「えへっ」ニコニコ

男「……」モミモミモミモミ

幼馴染「あっ!やああ!あん!お、お父さん助けてぇええ」

青年「やめんかごらあ!」

男「」ビクッ

幼馴染「ふぇえ…」

青年「まったく…もうちょっと女の子の扱い方を頼むよ」

父「い、いや~。悪い悪い……それにしたって本当に強いな、お前は」

父「前から不思議だったんだが、どこかで剣の訓練を積んでたんじゃないか?」

青年「ははっ。買いかぶりだよ」

父「まあ、おかげで俺もこうして教えてもらえるんだけど」

父「……最近は魔物の動きもますます活発化してきたからな。やはり自衛くらいはできるようにならんと」

青年「……そうだな」

父「よっしゃ、昼飯くったらもう一度だ」

青年「ああ」

~12年前~

魔物A「ぐるるる」

青年「ぜあっ!」ズバッ

魔物A「ぎゃあああ――」

魔物B「きしゃあああ!」

青年「まだいたか!」キンッ

魔物B「ぐるる」
魔物C「ぎししし…」

青年「……」

青年「……」チャキ

魔物「「きしゃああ!」」

青年「…ハヤブサ斬り」

キン!ジャキィィィン!

――ギャアアアア……ドサドサッ

青年「ふぅ」チンッ

父「………」ゴクリ

男「……」

幼馴染「お父さああん!」ガバッ

幼馴染「うぇええん……」

青年「なに泣いてるんだ。あんな魔物に父さんが負けるわけないだろ」

幼馴染「だってぇええ…」ブワッ

青年「だあ!鼻水!!」

男(すっげー……)

男(幼のお父さん…めちゃくちゃ強い……)

父「だ、大丈夫か…青年」

青年「問題ないよ」

父「お前、本当に何者なんだ?あんな技…とてもそこらの剣士とは思えないな」

青年「……」

父「……お前が話したくないならいい。ともかく、ありがとう!おかげで村は助かったよ」

青年「くっくっ。とても隅で震えていた男のセリフとは思えないな」

父「う、うるせー!強すぎんだろいまの!!」

青年「はっはっ。まだ鍛練が足りないんだよ」

父「ぐぬぬ」

青年(……)

青年(……確かに、いまの魔物……これまでとは格が違った)

青年(やはり魔王……本格的に動き出したか……しかし……)グッ

―――
――


男(幼のとこ行こうかな……っと)タタタ

男(ん?)

『……です』


男(何だろ、話声が…)コソッ

兵士「やっと、見つけましたよ」

青年「………」

男(おじさん?……なにしてるんだろ)

兵士「どうかお戻りになってください。魔物の勢いはもはやとどまるところを知りません」

兵士「あなた様がお戻りになれば兵たちの士気もあがるはずです」

男(……兵隊、さん?)

青年「ぼくは、戻らない。この村で静かに娘と暮らしたいんだ。どうか邪魔しないでくれ」

兵士「しかし!!」

青年「……頼む。妻を亡くしたぼくの気持ちは、きみも知ってるだろう」

兵士「奥様は残念でした。だが今は国が滅びるかどうかの瀬戸際なのです!」

男(……?)

青年「……もう娘を一人にしたくないんだ。妻は魔物に殺されて……」

青年「……あのとき、ぼくが家にいればあんなことにはならなかった」

青年「あのときの娘の顔……きみは、見てないからそんなことを言えるんだ」

青年「泣くでもなく、怒るでもなく……ただただ呆然として、まるで死人のようだった」

青年「この村に来て、ようやく以前みたく笑うようになった」

青年「もうあいつには……二度とあんな顔して欲しくないんだ」

兵士「…………」

青年「帰ってくれ」

兵士「…また、来ます」ザッ

青年「…………」

青年「……」

青年「男。そこにいるんだろう」

男(!?な、なんで)ビクッ

青年「いまの話は、誰にも言うな。もちろん幼にも」

男「……おじさん」スッ

青年「頼む」

男「……うん」

青年「ありがとう。そうだ、きみは剣を学びたいそうだね。幼から聞いたよ」

男「あ……でも、お父さんからは『まだ早い』って」

青年「あいつらしいな」

青年「だがこの先、世界はどんどん魔物が勢力を増していくはずだ」

青年「早いうちに剣を学んで損はない。どうだ?今の話を黙っててくれるなら、代わりに剣を教えよう。もちろんこっそりね」

男「!ほ、ほんと!?」

青年「ああ」

男「ありがとう、おじさん!」

青年「よし。……なら今日はもう行くんだ。幼と遊ぶつもりだったんだろ?」

男「うん」

青年「なら剣は明日からにしよう。毎日…そうだね、昼すぎから一時間ほど教えてあげるよ。明日また来るといい」

男「うん!!ホントにありがとうおじさん!!」

男(やった……やったあ!)

男(おじさんから剣を教えてもらえる!)

男(……でも)

男(何だったのかな…)

男(さっきのは……)

男(ま、いいか)

~11年前~

父「……最近は……魔物のせいかな。作物もすっかり育たなくなってきてる」

青年「王もそこは考慮してくれている。無理な税の徴収もない」

父「そりゃそうだが……このままじゃ、食料も底をついちまう」

父「隣の村も魔物に襲われたらしいし……弱ったよ」

青年「………ああ」




男「お父さんたち、ずいぶん話しこんでる」

幼馴染「うん……みんな、つらそう……」

男「魔王のせい?」

幼馴染「わかんない。でも……お父さん、最近つらそうなんだ。すごく悩んでるみたい」

幼馴染「それに最近、剣をよく振ってるの」

幼馴染「……どうしたんだろう。少し、怖いよ」

男(……)

男「大丈夫だよ。お前には俺も、その…ついてるし」

幼馴染「え…あ///」

男「お、おう。だから安心しろ」

幼馴染「……う、うん//」

男「あは、あははは///」

幼馴染「えへへ///」




青年「……」ジャキン

父「落ち着け」

男「だああ!」キィン

青年「むっ」ギン!

男「てあ!」キン!

青年「ふむ」ガギン

青年(なかなか筋がいい。この1年で成長したな)

青年(しかし、まだ甘い。……それにだな)

幼馴染「男!頑張って~!」

青年「これは親として負けられんな!」ガギン!!

男「うあっ!」カキン!

キン……カタンッ

青年「ふっ」チャキ

男「くっそ~……」

幼馴染「!」タタタ

青年「やあ、幼。どうだ、パパの勇姿を見
幼馴染「男!!」

青年「」

幼馴染「だだ、大丈夫?」

男「へーき、へーき!こんなのいつものことだって…悔しいけど」

幼馴染「あんまり無茶しないでね」ウルウル

男「大げさなんだよ、お前はさ。泣き虫か」

幼馴染「うぅ……」ウルウル

男「おじさん!次は絶対に勝つからな!!」

青年「……ふっ」

青年「ああ。楽しみにしてるよ。……またな」

男「…?う、うん」

青年(……)

―――
――

兵士「では一週間後、お迎えに参ります」

青年「ああ。それと約束は忘れてないな」

兵士「はい。村の減税および食料支援、並びに周辺地域の警戒強化。すべて王より承っております」

兵士「こちらがその確約書です」

青年「うん…ありがとう。すまないね、我が儘を言わせてしまって」

青年「ああ。それと、例の剣は?」

兵士「こちらです」

兵士「隼の剣…どうぞ。お返しいたします」

青年「……うん」

青年「またこれを持つことになるなんてなあ」チャキ

兵士「全ての兵と民が待ち望んでいます。必ずや魔王討伐を成し遂げましょう」

青年「……ああ」

―――
――

幼馴染「……え?」

青年「聞いた通りだ。パパは一週間後、お城へ戻る。そしたら幼は男くんたちと住むんだ。父には話をしてあるから」

幼馴染「………嘘」

青年「突然ですまないね。けど、パパは決めたんだ」

幼馴染「そんな……そんなのっ!」

青年「だから……」

青年「……」

青年「男と、仲良くな」

~10年前~

幼馴染「……ん」

幼馴染「こんなものかな」

男「おーい、幼。まだ洗濯かかる?」

幼馴染「ううん。いま終わったとこだよ」

男「そっか。じゃあ行こうぜ。父さん待ってる」

幼馴染「うん」

幼馴染(もう……1年か。早いなあ)

男「っと、大事なこと忘れてた」

男「おじさんから手紙きてたぞ」

幼馴染「!本当!?」

男「ほらこれだ。読んだら来いよ?」

幼馴染「うん。ありがとう!」

男(嬉しそうな顔しちゃってまあ)タタタ

幼馴染「……」ドキドキ

幼馴染「……」パラッ

『やあ、幼!!元気かい?パパだよ。
10才の誕生日おめでとう!
ぼくはいま、とある火山の近くの街にいる。
心配はしなくていい。順調に魔物の討伐は進んでる。心強い兵士たちも一緒だしね。
なあに、かすり傷ひとつない。パパを誰だと思ってるのかな?はっはっは。
仮に死んでも化けて出るのがパパさ!
ああ、男くんは元気かい?仲良くやってる?
……いいかい。彼は素直でいい子だが、簡単に心を許したらいけないよ!!
少なくともパパが戻るまでは絶対にね!!!
そうそう、そう言えば…』

~9年前~

男「っと」サクッ

男「よっ」サクッ

男「ふぃ~」

幼馴染「畑、頑張ってるみたいだね」トテトテ

男「ん?うん。土の匂いって落ち着くしね」

幼馴染「ふふっ。でも少し休憩したほうがいいよ。さあ、お弁当たべよ。こっち来てね」

男「おう」

幼馴染「あ、下に敷くからそっち持って……うん、ありがとう」

男「おじさんは元気?また手紙きてたろ」

幼馴染「うん。……危ない地域に入るから、しばらく連絡とれないかもって」

男「そっか。まあおじさんなら大丈夫だろ……と」ポフッ

男「さ~て、腹へった。くおうぜ」

幼馴染「う……うん」

男「いっただきま~……」

男「……んあ?」

幼馴染「え?どどど、どうしたの?」

男「いや……なんか父さんの弁当にしては色が、こう……とりどり」

幼馴染「あはは?お、おじさん頑張ったんじゃないかな」

男「かな~。まあいいや、いただきまーす」

ぱくっ。

男「……」モグモグ

幼馴染「…………」ゴクリ

男「まずっ」

幼馴染「」

~9年前~

幼馴染(……お父さんから手紙がこなくなって、もう1年以上になる……)

幼馴染(お父さん。元気にしてるよね……?)

幼馴染「……はぁ」

男「どうした?ため息なんかついて」

幼馴染「あ……ううん。何でもない」

男「おじさんのことか?」

幼馴染「……うん」

男「心配するなって。あれだけ強かった人が、そんな簡単にどうにかなるかよ」

幼馴染「……うん」

男(まじ上の空じゃん。こりゃ重症だなあ)

男「……」

男(うん)

男「なあ、幼。遊びにいかないか?」

幼馴染「……」

幼馴染「ふぇっ?」


―――
――

男「つうわけで」

幼馴染「あわわわわ」

男「来たぜ地下水道!」

幼馴染「あ、遊びに行くっていったのに!」

男「え?遊びじゃん」

幼馴染(oh...男の子)

男「ほら、剣だってあるしな」キラッ

幼馴染「わたしは……?」

男「はいこれ。ひのきのぼう」

幼馴染「えっ」

男「っしゃー!いくぞおおおおお!!」ダダダダダ

幼馴染「あ、あっ!待ってよ~!!そんなに急いだら怪我するよ~!!」トテテテテ




男「……痛い……」

幼馴染「だから言ったのに……だから言ったのに」

男「ちょっ、怒るなよ。転んだだけだろ」

幼馴染「むうぅ。……ほら脱いで」

男「え///」

幼馴染「ちち、違うよ!?変な勘違いやめて///」

幼馴染「怪我したとこ見せてって言ってるの!」

男「んだよ、最初からそう言えよ」メクリ

幼馴染「……け、けっこう痛そうだね」

男「まあ地味に」

幼馴染「……すぐ治すよ」

幼馴染「一番やさしい魔法だから、安心して」……

男(あ……)

幼馴染「……」パァァ

男(傷が…)

幼馴染「……」パァァ

男(ふさがってく……)

幼馴染「……んっ。これでいいかな。痛くない?」

男「うん」

幼馴染「えへへ。よかった……ちょっと自信なかったんだ」

男「お前、治癒魔法なんて使えたのか…」

幼馴染「うん。お父さんに教えてもらってたの」

幼馴染「お父さん……剣だけじゃなくて、魔法も凄く勉強してた」

男「へぇ…」

幼馴染「男はお父さんから剣を教えてもらってたし」

幼馴染「私も……何か覚えないとって思って。でも、私は剣はわかんないし」

幼馴染「だから、魔法かなあ……って」

幼馴染「それに、治癒魔法なら何かあったとき治してあげられるし」

幼馴染「今みたいにね?」エヘヘ

男「……そっか」

幼馴染「うん」

男「ありがとな」

幼馴染「見直した?」

男「見直した見直した。割とマジで」

幼馴染「え……えへへ//」

幼馴染「……」

幼馴染「うん。役に立ってよかったよ。さあ、もう上に戻ろ?」

男「だな」

幼馴染「うん!」

~8年前~

その日は雨が降っていた。

幼馴染「……」

男「………」

幼馴染は、家の軒先でぼんやりと外を眺めている

幼馴染「……」

男はそっと彼女の横に座った。

幼馴染「…ねえ、男」

男「……」

幼馴染「……」

幼馴染「もしかしたら……って、覚悟はしてたつもりだったのに」

彼女が握りつぶしている手紙。そこには淡々と、こう綴ってあった

『討伐隊、破れる』

『青年、死す』

『――遺族へ』


幼馴染「……つらいよ」


彼女は、泣いていた。

そして噂は国中を駆け巡る

『剣聖、堕つ』

~7年前~

父「……教会に、入る?」

幼馴染「はい。城下町の教会に入って、僧侶になろうと思うんです」

男「なんで急に……」

幼馴染「急じゃないよ。…お父さんが死んだって聞かされたあの日から、ずっと考えてた」

幼馴染「いつまでも、おじさんたちに甘えるわけにはいかない」

幼馴染「自立しなきゃって思った」

幼馴染「私には治癒魔法があるし」

幼馴染「それなら教会かなって――」

父「幼」

幼馴染「は、はい」

父「俺はお前を預かったあの日から、ずっとお前のことを……
息子以上に可愛いがってきた」

男「えっ」

父「そんなお前のことだ。考えぬいた末の決断だろう…まだ若いのに大したものだよ。
息子とは大違いだ」

男「えっ」

幼馴染「はい。わかっています」

男「えっ……」

幼馴染「だから」
父「ダメだ」

幼馴染「――っ。ど、どうしてですか……!」

父「お前は、まだ13才の子どもだ。しかも預かっている身だ」

父「自立したい気持ちはわかったが、すぐに「はい」とは言えない」

父「俺にはお前が道を踏み外さないよう見守る責任がある」

幼馴染「道を踏み外すだなんて、そんなことありません!」

父「わかってる。お前が拍子でそんなことを言う子でないことはしってる」

父「他人の幸せを、心から願える子だ。きっと僧侶に向いているだろう」

父「いや。『向きすぎている』と言ってもいい。だから怖いんだ」

父「自分を犠牲にしてでも他人を救いたいと思う……思ってしまう」

父「そんなお前だから……もう少しゆっくり考えて欲しい」

父「こんな時勢だ。いったん教会に入り僧侶の道を踏み出せば、否応なく危険な道を行くことになる」

父「あるいは優しい心が、お前自身を滅ぼしてしまいかねない」

父「そんなことになれば、あいつに…顔向けできん」

幼馴染「……」

父「だからな、幼。俺にも考える時間をくれ」

父「俺が充分に考えたうえでお前を送ると決め、そのときまだ幼の決心が変わらないままなら」

父「……そのときは、笑顔で送りだしてやる」

幼馴染「おじさん……」

父「それまでは今まで通り自分で勉強するんだ。いいかい?」

幼馴染「……はい」

男(……幼)


―――
――

男「なあ~……」

幼馴染「うん?」

男「本気で教会に入るつもりなのか?」

幼馴染「本気だよ」

男「そっかー」

幼馴染「……男はどう思った?」

男「オレ?」

幼馴染「私が教会に入るの、やっぱり反対?」

男「はあ?反対するわけないじゃん」

幼馴染「え」

男「そりゃまあ、寂しくなるけど。お前が決めたことだろ」

男「いいんじゃない。オレは応援するよ」

男(止めたって聞かないだろうし)

幼馴染「……そっか」

男「おう」

男「それにああは言ってたけど、父さんだってもうわかってるさ」

男「お前の気持ちは変わんないだろうし」

男「なら、あとは父さんが覚悟を決めるだけだろ。どう決着させるかは知らないけど……」

男「ま~。知ったこっちゃねえよ。あんまり長くなるようなら勝手に出てけよ、説得はしといてやるって」アハハ

幼馴染「……」

幼馴染「……うん。あの、さ。男……」

男「お礼とか、むずがゆいからやめてくれよ」

幼馴染「ん」

幼馴染「あはっ――」

幼馴染「うん。わかった。でも勝手には出ていかないよ」

幼馴染「おじさんが良いって言ったら、行く。そこまで迷惑はかけたくないよ」

男「そっか。なら……待ってな」

男「でも、あの父さんだからな~。たぶん長いぞ。優柔不断だし」

男「1年は見といたほうがいいな」

幼馴染「待ってるよ。それくらい……だから、それまではよろしくね」

男「おう!」

~6年前~

神父「それでは、お預かりいたします」

幼馴染「……今までお世話になりました」

男「元気でな」

父「いいか、幼。寂しくなったらいつでも帰ってくるんだぞ?お前の家はうちにあるからな?いいな!?」ブワッ

男「やめろよ、みっともない……」

男(結局、幼の14才の誕生日だもんな…時間かかりすぎだろ)

幼馴染「はい。ありがとうございます。……またね、男」

男「うん。またな……あ」

男「ねえ、神父さん」

神父「はい?」

男「こいつに渡したいものがあるんだけど、教会ってそーいうの平気?」

幼馴染「!」ッ

神父「……俗世を離れ神に捧げる身なれど、愛すべき友より贈られる品を拒む理由はありませんね」

男「そうか。なら良かったよ。断られたらどうしようかなとか思ってた」

男「はい、これ」

幼馴染「これ……ロザリオ?」

男「女僧侶になるなら必要だろ?なけなしの小遣いで買ったんだぜー」

神父「まあ教会から配布されますけどね、それ」

男「なん……だと……」

幼馴染「あはっ」

幼馴染「……嬉しいよ。すごく嬉しい。絶対大切にする。……ありがとう」

男「……おう」

男「またな」

幼馴染「……またね」

~5年前~

男「武道家さん?」

武道家「うむ?」

男「あ、やっぱそうなんだ……いや、カンだったんだけど」

武道家「何か用かボウズ」

男「あのさおっちゃん…実は俺、剣を使うんだけど」

武道家「ふむ」

男「武道家さんみたいな人たちって、みんな拳で戦うけど怖くない?だって素手じゃん」

武道家「カッ!まあ確かに怖くはあるな」

武道家「しかし気を高めれば我が拳……鋼はおろかオリハルコンさえ打ち砕く」

男「おお」

武道家「……予定だ」

男「予定かよ!」

武道家「まだ修行の途中でな。まだまだ未熟……しかし、あと5年以内には完成しているはずだ」

男「そんなん完成したら、魔王倒せるんじゃないの」

武道家「ふむ?そうだな……魔王討伐か。道を極めるに必死で考えたこともなかったが……」

武道家「なるほど、悪くない考えだ。道中、我が拳の完成も早まるかもしれん」

武道家「なるほど、ガキンチョ!そうするべきか!はっはっは!」

男「俺もう15だし。ガキンチョじゃねーよ」

武道家「なに、嫌味のつもりはない。そうだな……礼をしてやるべきか」

男「なに?何かくれるの?」

武道家「いや。我が拳が完成した曉には、お前に我が拳舞を見せてやる!目の前でな!!!」

男「い、いらねえ……」

武道家「まあそう言うな!はっはっは!!」

男「ちぇっ……」

―――
――

女僧侶「……」

神父「女僧侶」

女僧侶「……神父様?」

神父「祈りの最中、すみませんね。あなたに尋ね人です」

神父「懺悔室にいらっしゃいます。ぜひあなたに聞いて欲しいことがあるそうです。行ってきなさい」

女僧侶「私…ですか?」

神父「ええ」

女僧侶「誰だろう……」

~懺悔室~

?「……」

「迷える子羊よ」

?「……はい」

「悔い改めることあらば、神に祈り懺悔なさい。神は慈悲深くあなたの罪をお許しになるでしょう」

?「……」

?「幼馴染さん。私は兵士長と言います」

「!」

兵士長「ずっと、あなたに伝えねばならないことがありました」

兵士長「許されずとも構いません。私の罪をどうか、お聞きください」

「………」

~4年前~

女僧侶「男!久しぶり!」

女僧侶「神父様からお許しが出たの。今日はゆっくり出来るよ」

男「……」

女僧侶「……えと……お、男?」

男「え?あ、ああ……」

男(2年合わないうちに……すっげー可愛くなってるような……)

男(き、気のせいだよな……ちっちゃい頃から知ってるし今さら)

男(服装のせいもあるな、うん。青いし)

男「……ひ、久しぶりだな幼」

女僧侶「ふふっ。今は僧名をもらってるから、女僧侶だよ」

男「そうなのか?悪いな……女僧侶?」

女僧侶「いいよ、幼のままで。きみからはそっちで呼んでもらいたいよ」

男「そうか……そうだな。じゃあ、幼」

女僧侶「なに?」

男「え?……いや、呼んでみただけ……すまん」

女僧侶「ふふっ。うん、わかってるよ?」

男「からかうなよ」

女僧侶「からかってないよ」

男「からかってるだろ」

女僧侶「バレた?」

男「……くくっ」

女僧侶「えへへ」

男「お帰り、幼」

女僧侶「ただいま、男」

男「ま。色々話もあるからさ、家に入って――」

ガチャッ

父「幼おぁぁお!」ガバッ

女僧侶「きゃあああ!?」

父「こいつ!こんなにおっきくなりやがって……なりやがってんはあ!」グニグニグニ

女僧侶「おじさん、やめ、ひゃああ///」グニグニグニ

男「父さん!!」

女僧侶「やああ//やめて、やめてくださいぃ///」

父(青年よー、お前の娘は立派に育ってるぞー)

男「やめろっつってんだろうが!早く離れろ!」

女僧侶「あわわわ…///」

―――
――

父「久しぶりだね、幼」

女僧侶「今さら真面目な顔したってダメです」

父「手厳しいね」クックッ

父「……お帰り、幼。立派になったな」

女僧侶「はい。まだまだ修行中の身ですけど……」

男「こっちにはいつまで?」

女僧侶「明日のお昼。それが終わったら、またしばらくは来られないかな」

男「そっか…短いんだな」

女僧侶「うん。でも、その……だから、今日はその分たくさんお話できるよ」

男「おう」

女僧侶「うん」

男「んじゃ、飯もくったし俺の部屋行こうぜ」

父「え///」

女僧侶「なな、なんでおじさんが顔赤くするんですかっ!」

父「その…大胆だなと思って」

男「いや、違うし」

女僧侶「変な勘繰りはやめてください!」

父「冗談だよ。お前ら兄妹みたいなもんだしな」

女僧侶「……そ、そうですよ。弟です」

男「え?妹だろ」

女僧侶「私がお姉ちゃんだよ。男が怪我したときも、治してあげたでしょ」

男「地下水道の話か?それなら基本オロオロしてたのお前じゃん」

女僧侶「私が姉です」

男「俺が兄だろ」

父「父です」

女僧侶「いいよ、もう……部屋に行こ?」

男「だな」

父(無視された。悲しい)

30分ほど離席します…。

>>77より

男「で?」
女僧侶「え?」

男「どうなんだ、教会は」

女僧侶「うん。みんな優しくしてくれるよ。いい人たちばっかり」

男「そりゃ良かった」

女僧侶「男は?その…どうなの?か、彼女とか…できたり?」

男「うん」
女僧侶「」

男「嘘に決まってるだろ……まさかそんな固まるなんて」

女僧侶「からかわないでよ……」

男「可愛いなお前」

女僧侶「だから!からかわないでよ」

男「真面目に言ってる」

女僧侶「……」

女僧侶「ふぇっ?」

男「あー、その……ホントさ。可愛くなったと…思うよ、うん」

女僧侶「あ……えーと」

女僧侶「……あ、ありがと……」

男「……」

女僧侶「……」

女僧侶「///」ボッ

男「///」

父「あかーーん!!」ガチャッ


男「!?」女僧侶「!?」

父「ええい、なんだこの耐えられざる空気は!青春か!甘酸っぱいわ!」

女僧侶「ち、違います!」

父「ダメだぞ!父は許しません!!」

父「お前らやっぱ兄妹じゃねえ!男と女だわ!!油断も隙もねえなホント!!」

女僧侶「ちちちちち違がががが///」

女僧侶「や、やめてください、おじさん……」

父「テメェら同じ部屋じゃ寝せないからな!父は許さないから!」

女僧侶「だから違います!!!」

男(……疲れる……)

~3年前~

父「聞いたか、男」

男「何を?」

父「神託があったそうだ。ついに勇者様が誕生されたと」

男「勇者様が……?」

父「ああ。これはいよいよ魔物たちとの決着がつくかもしれないな」

父「それと、驚け。神託を受けたほか三人のお供…」

父「その一人が、幼だ」

男「!!」

父「まさかあの子が勇者様のお供になるなんてなあ」

父「……親父も素晴らしい剣士だったけど、血は争えないのかね」

男(幼が、勇者様のお供)

男「……」

男(そうか…凄いな、お前……)

男(……死ぬなよ、幼)

~2年前~

魔物A「ぐるるるる…!」

男「っ」ザンッ!


魔物A「が――」
魔物B「きしゃああ!」

男「はあっ!」ザシュ!
魔物「――」ドサッ

男「……」チンッ

男「ふぅ」

男「みんな、もういいよ」

村人「はぁ……」

父「おお……お、お前……強くなってたんだなあ」

男「訓練は欠かしてないからね」

父「それに……なんだ、剣があいつとそっくりだな」

男「おじさん?……まあ、そりゃ師匠だし」

父「えっ?あいつから剣を習ってたのか?」

男「あれ、そうか。父さんには内緒にしてたっけ」

父「悲しい」ブワッ

男「仕方ないだろ、あんときは止められてたし」

男「それにしても……魔物が入りこむなんて、ずいぶん久しぶりだ」

父「前にもまして魔物が活発化してるのもあるが…」

男(兵隊たちの周辺警備も最近はとんと薄い。…余裕がないんだろうな)

男「とりあえず、俺はまだ魔物がいないか少し村中を見て回るよ」

父「気をつけてな」

男「へーきへーき」

男(幼。いまどこだ?無事なのか?お前は……)

男(……幼)

~1年前~

女僧侶「女神ルビスの名において……」

女僧侶「……アーメン」

村長「……」
村人A「……」
村人B「……」

勇者「……」

女戦士「……」

武道家「……」

女僧侶「……皆さん、顔をおあげください。故人への優しき祈りは神に届き、その魂は天に召されました」

女僧侶「御心に導かれた彼らはまた、女神に安息を約束され、天より皆様をお守りくださることでしょう」

女僧侶「では、どうか故人のため棺に花を……」

女僧侶(……)

女僧侶(魔王に近づけば近づくほど……魔物たちは、強くなり数を増す)

女僧侶(村や街は荒れ、人は傷つき……倒れる)

女僧侶(この1年でも見慣れたりしない)

女僧侶(……つらいよ)

女(……男)

―――
――
村長「ありがとう……ございました」

村長「これで死んだみなも救われたと思います、僧侶様」

女僧侶「礼など不要です。神に使える身として当然のことですから」

村長「ありがとうございます……ありがとうございます……」

女僧侶「……」ビクッ

女僧侶「で、では……失礼いたします」

村長「はい。ありがとうございます……ありがとうございます……」

女僧侶「……」トテトテ

女僧侶「……ふぅ」

女僧侶(――また逃げた)

女僧侶(ダメ……私は僧侶なのに。乗り越えなきゃいけないのに)

女僧侶(でも、ダメ。遺族やみんなの顔を見てると……怖くなる)

女僧侶(胸が引き裂かれそう!……苦しいよ)

女僧侶(……まだ私は……未熟ですね。神父様)

勇者「女僧侶」

女僧侶「ゆ、勇者様」

勇者「村人…大丈夫か?」

女僧侶「はい。呪いも解けました。さ迷える魂は1人足りともありません」

勇者「そうじゃない」

女僧侶「はい?」

勇者「きみだよ。ひどい顔色だ」

女僧侶「え?あ――も、申し訳ありません」

勇者「謝らなくていいさ。ただ、つらかったら言ってくれ……仲間を支えることくらいできる」

女僧侶「はい。お心遣い感謝いたします……勇者様」

勇者「……ああ」

勇者「それじゃあ、そろそろ次の場所へ急ごう。女戦士が退屈してたよ」

女僧侶「はい!」

~半年前~

勇者「――帰ったら、結婚してくれないか」

女僧侶「……」

女僧侶「ふぇっ?」

勇者「はは……驚いたな。きみでも、そんな声を出すんだ」

女僧侶「――!!ま、待ってください勇者様!何を仰います!」

勇者「……魔王まで、あと少し。長かった旅ももうすぐ終わるはずだ」

勇者「ぼくらは必ず魔王に勝てる。そして国に戻ったとき……」

勇者「ぼくは、みんなの前で、きみを妻に迎えたい」

女僧侶「――!!」

女僧侶「――!!」

女僧侶「わ、私ごときを妻にだなんて」

勇者「……聞いてくれ」

勇者「魔王を倒しても、すぐに世界が平穏になることはない」

勇者「いや。あるいは魔物という存在が消えることで…もしかしたらより多くの血が流れるかもしれない」

勇者「それまで魔王が支配していた地域を、大国はこぞって奪いにくるだろう」

勇者「穏便に話し合いですめばいいが……残念ながらそれはないと思ってる」

勇者「遅かれ早かれ小競り合いが始まる。やがて戦争になるかもしれない」

女僧侶「……はい」

勇者「人々はいま魔王の攻勢で疲弊しきっている」

勇者「ようやく訪れた平和……そこにもし国々の争いなんてことになれば」

勇者「……世界はさらに混乱する」

勇者「だから人々には象徴が必要だと考えてる」

女僧侶「象徴、ですか?」

勇者「ああ」

勇者「平和の象徴だ。人々の心を支える存在」

勇者「魔王を打ち倒せば、ぼくは必ず国の政治に利用される」

女僧侶「勇者様!我が国の王は、決してそのような方では」

勇者「ああ、違う違う。そうじゃない。王を信頼しているからこそだ」

勇者「『抑止力』になると言いたかったんだ」

女僧侶「抑止力……」

勇者「魔王を倒したあと、王は『平和の象徴』としてぼくを『使ってくださる』はずだ」

勇者「国々の争いを抑えるために、ぼくは必要不可欠になる」

勇者「もちろん、きみたちも。たぶんぼくらは、ぼくらが思っている以上に人々の象徴になる」

勇者「魔王を討ち滅ぼした勇者――そして仲間たち」

勇者「混乱するであろう世界を支える存在」

勇者「……それは構わない……元よりこの身はただ、人々のために」

女僧侶「……世界を……」

女僧侶「……つまり、その存在をより強固にするものとして。……私を?」

勇者「……いや。それは、建前だよ」

女僧侶「……」

勇者「たぶん、ぼくも……疲れる」

勇者「いまはこんな聖人君子みたいなこと言ってるけど」

勇者「……疲れると思う。だから、きみにそばにいて欲しい」

女僧侶「……」

勇者「きみと旅をして、きみの優しさを知って……きみといるとホッとする」

勇者「父を亡くしたとわかったときも、ずっとそばで支えてくれた」

勇者「本音を話せる」

女僧侶「……」

勇者「きみの存在は、勇者にもぼくにも必要なんだ」

勇者「だから……結婚して欲しい」

女僧侶「――!!」

勇者「もちろん答えはすぐじゃなくていい……けど」

――この旅が終わったら。

――真剣に、考えて欲しい

――ぼくは、きみを……愛してる

~1ヶ月前~

――勇者ご一行、凱旋!


――魔王を討ち果たす!


――世界に平和あれ!


――国に栄光あれ!


――民に、幸あれ!

男「魔物がいなくなったせいかな。きっと、いい穂が育つよ」

父「ふぅむ……魔物か」

父「……幼のやつ、帰って来ないな」

男「ん?……ああ、忙しいんだろ。今は国をあげての大騒ぎだ」

男「きっと祝賀会やらなんやらで泡食ってるんだろ」

女僧侶「誰が?」

男「あはは。お前に決まって……」

父「」

男「!?」

女僧侶「ふふっ」

父「よ……幼?」

女僧侶「はい。ただいま戻りました、おじさん」

父「幼おおおおおおお!!!」ブワッ

女僧侶「きゃあ!?おじさん!ちょ、くっつかないでくださ、ひああ///」

父「んはああああ!この柔らかさは間違いなゴズン

父「」

女僧侶「はぁ…はぁ…」

男(強くなってる…)

女僧侶「全然変わってないんだから……」

男「……安心した?」

女僧侶「……うん」

男「……」

女僧侶「……」

男「お帰り、幼」

女僧侶「ただいま……男」

父「」


その日は幼を迎える大騒ぎになり、村の明かりは一時も途絶えることはなかった

そして 夜 が あけた!


―――
――

男「おい、幼。朝飯だから起き…」
ガチャッ

女僧侶「……」

男(あ……)


窓を開き、その身に朝日を受けながら。
彼女は目をつむり膝をついて、ひたすら静謐にそこに『いる』
そのとき、彼女が手にしているロザリオにふと目がいった。
本来なら輝かしい銀色にきらめいているはずの十字架だが、それは少しばかり塗装がはげ、茶色い下地が見えていた。

男「……」

男(朝の祈り……かな)

男(そっか。僧侶だったな)

男(……綺麗だ)

女僧侶「――あ」

女僧侶「男。おはよう」ニコッ

男「お、おう」

女僧侶「?どうしたの?」

男「なんでもない。朝飯、出来てるぞ」

女僧侶「うん。ありがと」

男「……あ、ああ」

女僧侶「?……変な人」クスッ

女僧侶「……」

男「……」

食事のあと。
幼と二人で、かつて彼女が住んでいた家に赴いた。

女僧侶「もっと汚れてるかと思ってた」

男「ちゃんと定期的に掃除してたからな」

女僧侶「男が?」

男「みんなが」

女僧侶「……そっか」

男「……おじさん、喜んでるだろうな」

男「実の娘が、なんたって世界を救ったんだからさ」

女僧侶「やめてよ。…きみの前では、幼馴染でいたいよ」

男「そ、そっか?なんか、ごめん」

女僧侶「あ……ううん。…私こそ変なこと言っちゃった。ごめんね」

男「……」
女僧侶「……」

男「家具も、きちんと揃えないとな」

女僧侶「え?あの、そ、それは……」

男「さすがにこの年じゃ、一緒に住むにゃ抵抗あるだろ?」

男「あとは食器とか寝具とか…ちゃんとお前が住めるようにしないとな」

女僧侶(あ……)
女僧侶「……」

男「?」

女僧侶「そうだね。でも、もうしばらくはあの家にいたいな」

女僧侶「きみたちと一緒にいたいよ」

男「そうか?お前がいいならいいけど」

女僧侶「うん」

男「んじゃ、これからもよろしくな」
女僧侶「……うん」

そして、迎えた。
今日。

――『勇者様からプロポーズされました』

――『受けようと思う』


男(幼が……結婚)

男(……考えたこともなかったな)

男(小さい頃から、ずっと一緒にいて……)

男(そりゃあ、確かに離れてた時期も長かったけど)

男(……それが、当たり前だと思ってた)

男(……そりゃそうか)

男(当たり前だ)

男(あいつ、女の子だもんな……いつかは結婚する)

男(ただ、相手が勇者様ってだけで)

男(……ははっ。勇者様の伴侶か。すげぇや)

男(……)

コンコン

男「……うん?」

父『俺だよ。今、いいか?』

男「ああ。いいよ」

父「入るぞ」

男「どうしたん?」

父「……実はさっき、幼が来てな」

男「……うん」

父「結婚するそうだな」

男「うん」

さるさんくらったぜ…

~翌日~

男「畑の様子を見てくるよ」

父「まあ、待て。俺も行くよ」

男「足はもういいの?」

父「あんなもんで延々休めるか。任せっきりにゃできんよ」

男「そうか。じゃあ行こうよ」

父「うむ。剣は持ったか?」カチャ

男「なんで剣?もういらなくね」

父「少なくなったとはいっても、まだいなくなったわけじゃないだろ」

男「ん~……そだね。じゃあ持ってくか」カチャ

父「おう」

男「……」テクテク

父「……」テクテク

父「幼、今日にも王へ報告に行くと言ってたぞ」テクテク

男「そっか」テクテク

父「……」

父「なあ、男。意地を張るのはやめたらどうだ」

男「意地なんて張ってないよ」

父「いいや。張ってる」

男「張ってないよ」

父「素直になれ」

男「うるさいな」

男「父さんが勝手に邪推してるだけだろ?」

男「あいつは……妹で、姉で、幼なじみで」

男「……大切な人だよ」

父「……」

男「ああ、わかった。言うさ。好きさ。大好きだよ。いつからか知らないけど、大好きだ」

男「……ずっと一緒なのが当たり前だって思ってた。離れてたって、帰ってくると思ってた」


男「幼だって……そう思ってくれてると、思ってた」

男「……そうさ……そう」

父「……」

男「でも今さらだ。あいつは勇者様と結婚を決めたみたいだ」

男「なら今さら伝えたって迷惑なだけだろ?
自惚れるつもりはないけど、万が一それであいつの心が揺れたら……」

男「相手は勇者様だ。俺なんかじゃ側にいる資格もないし」

男「国を相手すんのと同じさ。世界を相手にすんのと同じだよ」

男「あいつは世界を救った選ばれた人間で」
父「かぁぁぁぁぁつ!」

男「」

父「お前なんなの?グチグチグチグチ言い訳ばっかり並べやがって」

父「相手が勇者様だからとか世界を救った人間だからとか」

父「言い訳ばっかすんじゃねえぞ。お前、もし幼がただの女の子だったとしても」

父「断言してやる。お前は何も言わない」

父「伝える勇気がないだけだろうが」

男「っ」

父「ずっと、一緒にいると思ってた?」

父「じゃあ何か?幼のやつから『きみが好き』と言うのを待ってたってか?」

父「なめんな……人生なめんな!!あんないいコが一緒に住んでたこと自体が奇跡だろうが」

父「んな都合いいことばかりが人生でひょいひょいあると思うなよ!!」

父「いいか?気持ちはな、言わなきゃ伝わんねえんだよ」

父「大抵の物事はな。自分から踏み出さねえと始まらねえんだよ」

男「……っ」

父「酸っぱいわ!むずがゆいわ!青春か!」

父「恋愛なんぞ当たって砕けろ。ダメで元々、くよくよすんな」

父「だけどな、これだけは言える」

父「伝えずに終わった気持ちはな……伝えて終わった気持ちより」

父「何倍とつらいぞ」

男「う……」

父「……幼がお前のことをどう思ってるかは別にしてもだな」

父「言い訳せずに、言ってこい」

父「いいじゃねえか平民風情」

父「主人公か!!?」

父「走れや!」

父「行ってこい!!」

男「――」

父「相手は勇者様だ!気合いいれてけよ!!」

気づくと、彼は駆け出していた。
心臓が痛いほど高鳴っている。
思えばこの十数年、こんな気持ちになったことはなかった

――大抵の物事はな

――自分から踏み出さなきゃ始まらないんだ

父の言葉が、痛かった

男「はぁっ、はぁっ」

すでに夕刻。

あるいは勇者たちは報告を終え、家路についた可能性もある。

だが不思議な確信があった――『間に合った』

男「城は……あっちか!」
男「っ!」

走る。走る。
城門へ。
そして――

兵士A「止まれ!!」

兵士B「何者だ!!」

門番が立ちふさがる。
勇者以外には易々と通ること叶わぬイベント――

男「どいてくれ!」

兵士A「馬鹿なことを言うな!!」

兵士B「ここは城だ!平民がおいそれと立ち入ってよい場所ではない!」

兵士A「まして今は『勇者様たちが来ておられる』のだぞ!」

男「っ!」

腰にある鞘から、剣を引き抜く。

兵士A「キサマ…この神聖なる王の御前にて!逆賊めが!」

兵士B「切り捨ててくれる!」

男「どけよ!!」

「何の騒ぎだ」

剥き出しの殺気が、一瞬にして鎮まった。
城門より出てくる影がふたつ……

武道家「まったく騒がしいな。このめでたい日に」

女戦士「なんの騒ぎだ?おい」

兵士「は!この者が、城へ侵入しようと暴れた次第でして」

女戦士「へえ」

男「……!!」


ゆらり、と。
こちらを向いた女戦士の笑顔は、かつて感じたことのない圧力を孕んでいた

それもそのはずだ。

彼女が背負った得物は、身の丈を遥かにこす特大長剣――

目を疑う。
あれを扱う人間がこの世にいる、それが信じられなかった

選ばれし者たち。

そんな一言が頭をよぎった

女戦士「……おい、お前」

男「……う……」

女戦士「名前は何だ」

男「……男……です」

女戦士「男……何の用事か知らねえけどよ」

女戦士「剣を持って乗り込んでくるからには、ちったあ腕に自信があるんだろうな、ええ?」

片腕が背中に伸びる。
またぞろ信じ難いことに、彼女は背中の大剣を、右手一本で軽々と振り扱った
まるで曲技のように、長大なそれが小枝のごとき軽さで虚空に軌跡を描く

女戦士「ちょうど退屈してたんだ……楽しませろ」

男(……)ゴクリ

男(これ…殺される……)

マトモに立ち向かえば、おそらくかすり傷ひとつ負わせることができない。

圧倒的な存在感と迫力で、身体中の毛が逆立つ。
動けなかった。

――「カッ!」

そんな状況を破ったのは、小気味よい笑い声だ。

武道家「くくく……」

女戦士「……なんで笑ってんだ?」

武道家「いやいや。なあ……ああ、男だったか」

男「……はい」

女戦士とはまた違う、静かな殺気だった。
彼女を剣そのものに例えるなら、彼は毒針だった。
一見頼りないが、その実は必殺の技を備えている。
そんな人間だった。

武道家「お前、なんの用事でここに来た?」

女戦士「なあ、もういいからやらせろよ」

武道家「まあ落ち着け」

武道家「……で、なぜだ?」

男「……幼なじみに会いにきた」

武道家「うん?」

男「本当に今さらだけど……後悔するから」

男「…女僧侶を……幼馴染に、伝えに来たんだ」

兵士「……」
平民「……」

どっ、と笑いが起きた。
何を戯れ言を、と嘲り笑う民衆がいた。
なんと愚かなと呆れる兵士がいた。

兵士A「おい。そんな訳のわからんことで命を落とすこたないぞ」

兵士B「そうだな。さすがにくだらん
悪いことは言わん。死なないうちに去れ」

笑いが大きくなる。耳鳴りのように響く。

武道家「うむ」

武道家「変わってないな、ガキンチョ」

その瞬間。
彼の隣にいた女戦士がぶっ飛んだ。

兵士「」
男「」

派手な音とともに真横の城壁に叩きつけられ、石細工が見事に瓦解した。
しかし彼女はすぐに這い出てくると、狂気の目を武道家へと向けた。

女戦士「てめぇ……おい、武道家、なんの真似だ」

武道家「おいガキンチョ」

男「えっ」

女戦士「無視してんじゃねえぞ!」

武道家「5年前、お前が俺に示した道……なるほど、確かあのとき俺はこう言ったなあ」

男「え?え?」

武道家「『我が拳が完成した曉には、お前の目の前で披露しよう』」

男「……」

男「え……あ、あのときのおっちゃん!?」

武道家「はっはっ!まあ、お前は運がいい!!」

武道家「行くがいい。今度はお前の道、俺が示してやる……おい」

兵士A「は、はい?」

武道家「そいつを通してやれ。なに、責任は全て俺と勇者が取る」

兵士A「し、しかし」

武道家「ただし勇者は強いぞお……我々よりはるかに強い。行くならば心せよ」

男「……おっちゃん」

兵士A(聞いてない)

武道家「女戦士」

女戦士「いやいや、わかってるぜクソ野郎」

女戦士「てめえ面白がってるな。くくく、いいね」

女戦士「実を言うと、お前とは一回戦ってみたかったんだよ……なあ……」

真っ黒な狂気に濡れた目が見開かれる。
大剣を振りかざすと、巻き込むように風が吹き荒れ、周囲の壁が弾け飛ぶ。
同時に飛び上がった女戦士は、勢いそのまま剣を武道家に叩きつけた
――しかし。
信じがたいことに、武道家はまたその一撃を、左腕で『受け止めていた』。

武道家「くっくっ……」

女戦士「へへへ……」

武道家「はっはっは!!」

女戦士「ははははは!!」

二人「「――殺す!!」」

心なしか、二人は嬉しそうで。

兵士A「た、退避!!退避いいい!周辺の民衆を避難させろ!死人が出るぞ!」

男(そこまで!?)

女戦士が大剣を振るう度に空気が唸り、

武道家が踏み込むほどに大地が震える。

肌が焦げるほどの熱気が辺りに爆砕し、息をつくことすら躊躇われた。

およそ考えられる限りにある人間の戦いではない。

平民として生きてきた自分に口出しできるものでもなかった。

武道家いわく、勇者は彼らより強いらしい。

男(……ひょっとしたら)

男(ケンカ売る相手、間違えたかな……)

慌ただしく動く兵士たちのどさくさに紛れ、男は城内へと駆け込んでいく

しかし兵士は城内にこそ多くいる。
次から次に現れては、彼の行くてを阻む。

兵士長「止まれ!」

男「どきやがれぇえ!」ギン

兵士長「っ!」キィン

兵士長「神聖な王の御前で、こいつ!」カキン

男「うるせえ!」キィン

兵士長「!!」

男「どいてくれ!」

兵士長「黙れ!」

男(もう逃げないって決めたんだ……!)

男(お前に伝えるんだ!)

男「幼ぉおおお!!!」

―――
――

女僧侶「!」ビクッ

勇者「ん?」

女僧侶「……」

勇者「外が騒がしいね」

女僧侶(今の声は……!?)

女僧侶「っ」

勇者「……行こうか」

女僧侶「……はい」

もう心は決まっている。

王に会いさえすればそれは二度と揺るがないだろう。

決めたのだ。

人々の象徴になる。

それこそが、真の平和への道となる。

謁見の間はもうすぐそこにある。

あと少し、もう少し前に足を踏み出していくだけでいい。

……なのに。

女僧侶(なんで……なんで来たの……?)

女僧侶(なんで…もう少し早く、私があの村にいるときに……)ジワッ

女僧侶(言って、くれなかったの……!)ポロポロ

勇者「……女僧侶?」

足が止まる。

女僧侶「うぅ……う」

兵士長「待てこらああ!」

男「待てと言われて待つかこらああああ!」

追いかけてくる兵士を背に階段をかけ上がり、まっすぐに走り抜ける。

男「畑仕事で鍛えた脚力なめんな!!」

男「――!!」

男「幼!!」

女僧侶「!!」

勇者「――!」

男「幼!俺だ!!」

男「一緒に村に帰ろう!」

男「一緒に来てくれ!」

女僧侶「っ!」

兵士C「こいつ!」ジャキ
兵士D「捕らえろ!」ガチャ
男「はなせ、いつ!」





勇者「静まれ」

しん――

兵士長「……」

男「……」

女僧侶「……」

勇者「どうぞ、お静かに…彼と少し話がしたい」

兵士長「は……はい」

男(空気が……変わった)

男(この人が、勇者様)

男(なんて、落ち着いてるんだろう)

男(なのに、この、存在感)

男(おっちゃんたちとも、比べものにならない)

男(この人が世界を救った……勇者様)

勇者「……」

勇者「正直、何が起こってるか」

勇者「わからないんだ」

男「……はい」

勇者「外の騒ぎはきみ?」

男「だいたいそんな感じです」

勇者「あの二人をよくかわしてこれた」

男「その二人が争ってるので」

勇者「えっ」

勇者「……そうか。まあ、そういうこともあるかな」

男「あります…かね?」

勇者「あはは。いろんなことがあったからね。今さら驚かないよ」

男(笑ってる)

男(ああ……そういや)

男(俺も……勇者様に喧嘩ふっかけるつもりで息巻いてたけど)

男(いつの間にか、普通に話してる)

男(……違う。俺なんて、当たり前で。おじさんたちとすら違う……)

器がちがう。

男(勇者様なんだ……この人が)

勇者「なぜ、こんなことを?」

男「……えと」

勇者「狙いは彼女?」

男「……はい」

女僧侶「……」

勇者「きみは彼女のなんだろう?」

男「幼なじみです」

勇者「……そうか」

勇者「わかった」

勇者「……みな!剣を納めよ!!」

兵士長「!?しかし、勇者様」

勇者「彼は女僧侶の大切な人だ」

男「……」

勇者「全責任はぼくが持ちます。必要とあらば許しを請いましょう」

女僧侶「あ…」

勇者「ですから、剣をお納めください」

女僧侶「わ、私からもお願いします!!」

兵士長「女僧侶様まで…」

女僧侶「すみません。たぶん……いえ、絶対に。この責任は私にもあります」

女僧侶「ですから、どうか剣を……」

男(う……)

兵士長「……」ハァ

兵士長「勇者様からの願いを、なぜ我々が拒めましょう」

勇者「ありがとうございます」

勇者「それから客間の用意をお願いしたい。悪いけど二部屋頼みます」

兵士長「……はい」

勇者「無礼は承知ですが、王には遅れることもお伝えしてください」

兵士長「はい!」

勇者「ありがとうございます」

女僧侶「勇者様、申し訳ありません。これは私の不徳のいたすところです」

勇者「気にしなくていい。きみの隣人なら、ぼくにとっても大切な人だ」

女僧侶「ありがとうございます……勇者様」

女僧侶「……男」

男「……」

女僧侶「なんてことをしているの?あなたは……!」

男「……っ」

男「……」

男(ああ、そっか)

男(当たり前だろ。怒られて、当たり前のことしたんじゃないか)

男(……けど……すげー、なのに)

男(悔しい……!!)


―――
――

勇者「彼女が、好きなんだね」

男「い、いきなり核心つくんですね」

勇者「こんなことまでしたんだ、察しはつくよ」

男「……はい。好きです。幼のこと、ずっと好きでした……」

男「ただ、言い出す勇気がなくて……けど!」

男「やっと勇気が出て……もちろん、勇者様には失礼なことだとわかってます」

勇者「……」

男「でも……一緒に、村に帰りたいんです」

勇者「それはぼくらが決めることじゃない。彼女が、決めることだ」

男「……はい。わかってます。だからお許し願いたいんです」

勇者「気持ちを伝えたい?」

男「はい」

勇者「とめないよ。…彼女は隣の客間だ。行ってくるといい」

男「……はい」

勇者「ぼくはここで待ってる。彼女がきみの気持ちに応えるなら、一緒に帰るといい」

男「はい」

勇者「……ただ、勘違いしないでくれ。ぼくは彼女を『その程度』と思ってるわけじゃない」

勇者「信頼してるから待つんだ」

男「……はい。行ってきます」

男「……」

……パタン

女僧侶「……」

男「幼」

男「一緒に村に帰ろう」

女僧侶「……どうして?」

男「好きだ」

女僧侶「……っ」

男「いつからかは分からない。けど、俺は……お前が好きだ」

男「ずっと一緒なのが当たり前だと思ってた」

男「そして、お前も……たぶん、同じ気持ちでいてくれると思ってた」

男「勝手に……思い込んでた」

女僧侶「……」

男「だけど、違う。いまはハッキリわかったし、伝えたいんだ!」

男「好きだ。俺と一緒に……村に、帰ってくれ」

女僧侶「………」

女僧侶「……ね、男」

男「……?」

女僧侶「覚えてる?一番やさしい魔法……あなたが、地下水道で怪我をしたときに使った魔法」

男「ああ」

女僧侶「私ね。それまで、一回もあの魔法が成功したことなかったんだ」

男「そうなのか?」

女僧侶「……うん」

女僧侶「あれは、本当に…私の最初の魔法」

女僧侶「あなただけが知ってる、私」

女僧侶「……嬉しかった。魔法を使えたこともそうだけど、何よりきみを治せたことが」

女僧侶「お父さんからの手紙が途絶えて……落ち込んでた私を元気づけようとしてくれたこと優しい気持ちがすごく嬉しかった」

女僧侶「あの魔法が使えたのはきみのおかげ」

男「……」

女僧侶「ありがとう。今の私がいるのもきみのおかげだよ」

女僧侶「そんなきみにだから淀みなく応えたい」

女僧侶「私は勇者様についていきます」

体から力が抜けていく気がした。
頭が、真白になる。

女僧侶「勇者様はとても、尊敬できるお方」

女僧侶「そしてこれからの世界には、確かに…平和の象徴が必要になる」

女僧侶「これは私個人だけの問題じゃない。昨日今日の話でもない。ずっと考えて、そう結論を出した」

男「……」

女僧侶「きみは誰より、私の気持ちをわかってくれる人。それはこの先も変わらないと思う」

女僧侶「……だけど」

女僧侶「あなたについていくわけには、いきません」

男「……」

女僧侶「今まで、ありがとう」

――さよなら

~翌日~

――勇者様、女僧侶様、ご婚約!


――世界に平和あれ!


――国に栄光あれ!


――民に、幸あれ!



……そして……

~eplogue~

男「あれ……何か足りないような気がする」

父「弁当忘れてるぞ…なんだ成長しないな、お前」

男「うるせー」

父「……今日は、幼たちの結婚式だな」

男「だね」

父「パレードは出なくていいか?」

男「やめとく。さ、んなことより畑仕事行こうぜ」

父「くっくっ。まだ時間がかかるみたいだな」

男「そりゃね」

父「……ま、仕方ないさ。何もかも上手くいくわきゃないんだ」

父「また次の恋が見つかるさ。な!」

男「……うん」

男「わかってるって」

父と歩くいつもの道。

心地よい風も吹いている。

辺りにはたくさんの麦穂が揺れていて、まるで黄金色の絨毯のようだった。

男「……」

どちらかと言えば、この1ヶ月で幼への想いはさらに強くなっていた。

もう少し早く自分の気持ちを伝えていれば、何かが違ったかもしれない。

だけど、それは過去の話。

『もし、あのとき、こうしていれば』なんて意味がない。

だから前を向くしかない

男(結婚式、か)

男「いい天気だな」

――空は確かに、晴れやかだった。


―――
――

シスターになってからは、青の僧服ばかりを身にまとっていた。

女戦士(しかしよー、僧侶のやつ綺麗だなー)ヒソヒソ

武道家(くくっ。お前も着たくなったか?)ヒソヒソ

女戦士(うるせー、相手がいねっつの)ヒソヒソ


だからかもしれない。

「白いウェディングドレスはよりいっそう映える」と神父から言われた

神父「――新郎、勇者」

神父「汝は幼馴染を妻とし、健やかなるときも病めるときも生涯を共にすることを誓いますか」

勇者「はい。誓います」

晴れやかな日。
各国の王や仲間、これまでに出会った様々な人が集まり、彼女を祝福している

神父「――新婦、幼馴染。汝は勇者を夫とし、健やかなるときも病めるときも生涯を共にすることを誓いますか」

女僧侶「……」

女僧侶「誓います」

女僧侶(今となっては……これが正しいと思える)

女僧侶(だから、私が貫き通した純潔は、今日このときより勇者様へ)

女僧侶(ねえ、男)

神父「では指輪の交換を」

女僧侶(……あなたと会えて……本当に……)

女僧侶(――良かった)

これでぼくの黒歴史はおわりです






と、いつから錯覚していた

ばん!

指輪をはめる直前。
突然、式場の扉が開かれた。

勇者「!」
女僧侶「!?」

場内の視線が、一斉にそちらへと向けられる。


「……ダメだな」

兵士長「何者だ!――衛兵は何を……」

兵士長(……ん?)

「エピローグにはまだ足りない」

女僧侶「……え?」

兵士A「捕らえろ!」
兵士長「待て!!」

兵士長「……そんな」

女僧侶「!!」

「何が足りない?お前ならわかるだろ、幼」

女僧侶「う……そ」

勇者「……何者ですか」

「またご挨拶だね。それで新郎とは恐れ入る」

「いいさ。知らないなら、教えてやる。ぼくはその娘の――」




青年「父親だ」

~epilogue~

父「畑は問題ないな」

男「実りもいいね」

父「今年は豊作だ。これなら……」

兵士長「失礼」

男「!」

男(騎兵さん?なんでまた今日この日に…)

兵士長「男くんだな」

兵士長「悪いが、私と一緒に来てもらいたい」

父「男をお連れするのですか?……まさか、こないだの件で」

兵士長「違う。その件はもはや終わったこと。これはある方のご意向である」

男「……」

男(騎兵さんが、結婚式のこの当日に?……まさか、幼の身になにか)

兵士長「案ずるな。女僧侶様の身になにかあったわけではない。いや、なかったわけではないが」

兵士長「急いでいるゆえ、馬に乗って欲しい」

男「……でも」

男(……行ったって何にもならない)

男(俺は……伝える言葉は全て伝えたんだ)

男(今さら……)

男(……なのに)

男「……わかりました」

父「いいのか?」

男「…うん。断ったらそれこそ死罪になりそうだ」

兵士長「減らず口を。……まったく、城の件といい、お前はつくづく問題を起こすのが好きなようだ」

兵士長「さあ、乗れ」

男「はい」

父「気をつけてな」

兵士長「さて、飛ばすぞ。掴まれ――はっ!」

掛け声にあわせて馬が高々と足をあげ、嘶きとともに走りだす。

父「死ぬなよ!」

兵士長「だから、そういうことではないと言っておるに……」

男「あの、いま、喋れますか?」

兵士長「問題ない」

男「何があったんですか?」

兵士長「それは自分の目で確かめよ。私が口にするにはあまりにおそれ多い」

男「……はい」

兵士長「ときに……剣聖様がおなくなりになって、どれほどになるか」

男(剣聖……?ああ、幼の親父さんのことか。そんな噂、聞いたっけか)

男「7年ほどになります」

兵士長「そうだ。7年……あの日から7年だ」

兵士長「……」

兵士長「私は剣聖様とともに討伐隊に参加していた」

兵士長「いまだかつてあの方ほど強いお方を見たことがない」

男「勇者様より?」

兵士長「私は勇者様と旅をしたわけではないから下手なことは言えない。しかしそうであって欲しいと思わせる強さはあった」

兵士長「隼の剣。そして、一太刀乱舞の瞬神技」

男「…見たことあります」


兵士長「奥方様を亡くされ傷心なされたあと、幼かった女僧侶様を連れてきみの村へ行き……」

兵士長「あの方は、しかしそれでも立ち直り、我々とともに魔王討伐へ向かってくださった」

兵士長「…本来なら、あのときに魔王討伐は終わっていたはずだった」

兵士長「しかし……しかし!!私が未熟だった!」

兵士長「あの方は……私を庇い、倒れたのだ」

男「……」

兵士長「忘れもせぬ!魔王のあの醜悪な笑みを!私は必死に逃げ出し……いつか仇討ちをと願った!!」

兵士長「そのために鍛練を積み、兵士たちを率いる立場にまでなった」

兵士長「だが勇者様たちが旅立ち、魔王は倒された。お仲間にあの方の娘さんがいたことは…まさに運命と言えるが」

兵士長「しかし!それでも我が無念は消えぬのだ!」

兵士長「なぜあの方が死んで私が生き残る!なぜ、私など庇ってしまった!!」

兵士長「私さえいなければ……平和はとっくに訪れていたはずだ」

兵士長「女僧侶様も!!!きっと!!平和なときを、ただ過ごせたのだ!」

兵士長「余計なことは考えず!!自らの気持ちに純粋に従い!!」

兵士長「世界平和など謳わず!女としての幸せを歩んでいたはずなのだ!」


兵士長「……」

男「……」

兵士長「以前、女僧侶様には全て打ち明けた。それでもあのお方は…許してくださった」

兵士長「そして、私にだけ胸のうちを明かしてくださった!」

――私には、支えてくれる大切な人がいるから。

――だから、お父さんがいなくなっても、強く生きていけます。

兵士長(……)

兵士長(女僧侶様は、悩んでおられた)

兵士長(己の信念に従うか己の気持ちを優先するか)

兵士長(ハッキリは仰らなかったが……女僧侶様は、信念に従ったのだ)

兵士長「ならば、いま」

兵士長(あの方がいらっしゃるこのときだけは!)

兵士長「私もまた己が信念を貫こう!このときこそ我が道と知れ!!」

兵士長「走れ!!」

馬はさらに早く早く。

城下町はすぐそこだった。

避難を終えた教会は、彼ら闘いの音ばかりが響いていた。

女戦士「……ぐっ」
武道家「っ……ぬう」

青年「……」

女戦士(冗談きついぜ…)
武道家(これほどの使い手が……!)

二人が呻く。
闖入者を排除しようと飛びかかった彼らは、だが青年の見えざる剣によって、壁に叩きつけられていた。

女戦士「くそっ!」ザッ
武道家「っ!!」ザッ

そして再び。

青年「……」チャキッ

結果は同じだった。
軽やかな動作から生まれた一太刀乱舞の瞬神剣が二人を弾き飛ばす。

青年「……」

立ち込める闘気。
ただ「居る」だけで放たれる圧倒的な存在感。

女戦士(この雰囲気……)
武道家(間違いない!)

勇者「二人とも、やめるんだ」

勇者(……この人は……)

勇者(ぼくと、同じだ)

女僧侶「お父さん……」

青年「……」

女僧侶「なんで、生きてるの?」

青年「その言い方ひどくないか?」

女僧侶「……」

青年「…ああ。ぼくは死んでるよ」

女僧侶「!」

青年「だが約束したはずだよ?……あの手紙で。死んでも化けて出るって」

女僧侶「そんなの理由になってない!」

青年「……」

青年「……なあ、幼」

青年「お前はそれでいいのか」

女僧侶「当たり前でしょ!何を言ってるの!」

青年「……幼」

青年「ぼくはね」

青年「お前に、普通の女の子として生きて欲しかったよ」

青年「だからあの村に引っ越して……そして」

青年「安らかに過ごして欲しいと思った」

青年「なぜぼくが、お前を置いて旅立てたか……わかるだろ?」

女僧侶「……」

青年「彼らが……いたからだ」

青年「お前を託すに信頼できる友人……そして」

青年「お前を心から笑わせてくれる、存在」

女僧侶「……」

青年「まさか、お前が僧侶になり、あまつさえ選ばれし者になるなんて」

青年「運命は皮肉だ」

青年「だが、そんなことはどうでもいい」

青年「……勇者」

勇者「はい」

青年「きみはこの娘を幸せにできるか?」

勇者「その…つもりです」

青年「そうか」

青年「いい自信だ」

青年「なら、あとは……幼が応える番だ」

本当に男はダサいな
自分で解決出来なかったのかよ

女僧侶「私はもう応えたよ!だからこの場に…」

青年「おい馬鹿ムスメ」

女僧侶「」

青年「結婚に一番大事なのはなんだ」

青年「誓いの言葉を思い出せ」

青年「『生涯愛することを誓いますか』」

青年「お前の言葉には、愛が足りない。心が足りない」

青年「そして……ぼくは知らない」

青年「勇者か。…『彼』なのか。お前の愛がどこにあるのか」

青年「父として、今この場で聞かせてもらおう!」

女僧侶「――!」

そして。

もう一度、式場の扉が開く

男「……幼!」

女僧侶「!」
勇者「!!」

青年「来たか」

男「……え?」

青年「久しぶりだな、いやあ大きくなった」

男「おじさん…なんで」

青年「疑問は後回しだ」

青年「役者は揃った!さあ幼!いまこそ俺に!パパに聞かせてくれ!!」

女僧侶の覚悟ってのもたかが知れてたってオチ?

青年「……俺は知ってる」

青年「勇者がお前と旅し、苦難の末に魔王を倒したことを」

勇者「……!」

青年「勇者がお前を心から愛していることを」

青年「……知ってるさ」

青年「男が、ずっと、お前を支えてくれたことを」

青年「……男が、お前に、本音でぶつかったことを」

男「……」

青年「……二人の男から愛されるなんて、お前は本当に幸せだな」

青年「だから、幼」

青年「全員が揃った、いまこの場で言ってくれ」

青年「お前が愛する者の、名前を」

青年「女僧侶としてではなく!『幼馴染』として!」

女僧侶「……!!」

女僧侶「……私は……勇者様と…」

勇者「……幼」

女僧侶「!勇者様…」

勇者「聞かせてくれ」

女僧侶「けど……だけど」

女僧侶「そんな……の」

男「なあ、幼」

女僧侶「…!」

>>372
答え誘導してるよね『幼馴染』としてって

男「俺はもう、言いたいことは言ったし」

男「ま、気にすんな。俺も聞きたいだけだ」

男「俺も――お前の気持ちを聞きたいよ」

女僧侶「……」

女僧侶「私……私は…」



幼馴染「……私は」

きっと、二人を愛している
道標なき苦難をともに乗り越えた者

幼いころより支えてくれた親しい者

愛を囁くに充分すぎる二人だった。

だけど。

女僧侶としてではなく。

娘として。

『幼馴染』として語れと、言われたとき――

幼馴染「……」

大勢の前で男選ぶんだったら最初からプロポーズ受けるなよ

最初から男の嫁やってればいいのに

古い銀の十字架が、心の中で、真っ先に光り輝いた。


幼馴染「小さいときから、ずっと支えてくれた」

幼馴染「いつだって、側にいてくれた」

幼馴染「……あなたが好きで」

幼馴染「私もいつからかは分かんないけど!!ずっとずっと、好きで!」

今こそ言おう。

幼馴染「だから……私は」
世界で一番やさしい魔法。

幼馴染「――あなたが、男が……大好き!!」

式の途中で花嫁に逃げられたら訴えちゃってもいいよな。

>>415
慰謝料請求してやれって思う

幼馴染「うぅ――う、うわああああん――」ポロポロ

青年「……よく言ったな」ナデナデ

青年「きみには、悪いことをした」

勇者「……」

青年「だが、父として……娘の気持ちだけは、大切にしてやりたかった」

勇者「……いえ。なんとなく予想はしてました」クスッ

勇者「幼」

幼馴染「うっ…ぐすっ。……はぃ……」

勇者「行くんだ」

幼馴染「……」グスッ

勇者「ありがとう。大丈夫…きみの気持ちが聞けて、スッキリした部分もあるんだ」

勇者「気にしなくていいさ。ぼくは勇者だから…困難なんて、あるのが当たり前なんだ」

勇者「パーティーは解散だ」

勇者「だから、幸せに」

幼馴染「……」ズビーッ

勇者「……男くん」

男「!は、はい」

勇者「もしきみが幼を泣かすようなら、ぼくが彼女を今度こそ迎えに行くからそのつもりでね」

男「…はい」
幼馴染「ゆうじゃざま…」グスッグスッ

勇者「くっくっ。一度、こういうの言ってみたかったのかもしれないね」

男「……」

男「うん」

男「幼!」

幼馴染「!」

男「帰るぞ!村に!!」

幼馴染「……」

幼馴染「……はいっ」

純白のウェディングドレス姿のまま、愛する男のもとへ。

女僧侶が誰が好きかとっとと言っとけば茶番にならずにすんだだろうに

どこが『優しい子』なんだよ八方美人が

そして強く抱き合う二人…とは対称的に、唖然と事態を見守る二人がいた。


女戦士「なあ……私らさ」
武道家「うむ。置いてきぼりだな」

青年(幸せにな、幼)

そして青年の姿が消えた。

夢か幻想か、まるで霧散する露のように。

幼馴染「……お父さん?」
男「おじさん……」

それは女神の慈悲。
道半ばにて倒れた、かつての『勇者』の強い想いが、為した奇跡。

しかしそれは今、語られる物語ではなく――

幼馴染「…ありがとう」

今はただ、愛する二人を、祝福してほしい。



女僧侶「勇者様にプロポーズされました」

今度こそ、Fin

foooooooo!!たまんねえぜこの厨二感!!!

保守支援つまんねその他、何から何まで感謝!

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