ブギーポップ・クロス Part2 ~神様のクラクション~ (70)

前作
禁書×ブギポ
ブギーポップ・クロス ~ネオンライトのガラス玉~

今回はハルヒ×ブギポです
ではよろしく


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~~~

「もう……やめて」

珍しくハルヒがしおらしい声を出した。

瞳には涙まで溜まってやがる。

ハルヒの横には地面から生えてるように黒い筒が立っている。

そいつはただ無感情な真顔を貼り付けて、何だかよくわからない壮大な雰囲気の口笛を吹いていた。

まるで、俺たちに鎮魂歌を送るように。

まるで、俺たちが消えるのが当たり前だと言うように。

「お願い、私には……必要なのよ……」

団長様が泣いていらっしゃる。

その涙を、拭うのは……きっと雑用その一である俺の仕事だ。

なのに、

「くっそ……動け、よ……」

身体が全く動かなかった。

ワイヤーのようなもので完全に固定され、無理矢理動こうとすれば肉を破り痛みが走る。

「なんで、だよ……なんでこうなっちまうんだよっ!
おい、ハルヒ!泣くな!」

イモムシみたいに少しずつ動きながら、俺は精一杯声を出した。


動くたびに傷が増えていくが、気にしない。

「嫌だ、やめろッ!俺はまだそいつといたいんだ!」

土壇場になって気がついた。
気がついた、と言うよりも自然と言葉が出てしまった。

つまり、これが俺の正真正銘の本音だ。

「おい……頼むやめてくれ……俺はそいつが好きなんだよ。
やっと気づいた、やっとわかったんだ……ハルヒには笑ってて欲しい、泣いてるハルヒなんて……見たくない」

口笛が止まった。

「……君はまるで逃げ回るばかりの道化〈スカラムーシュ〉だな。
残念だけど、僕に命乞いなんて無駄だ」

氷のような表情が俺に向けられる。

「僕は自動的なんだよ。世界に危機が迫った時、自動的に浮かび上がってくる。
だから名を……不気味な泡〈ブギーポップ〉という。
世界の敵を、殺すだけの存在だ」

目の色、表情、呼吸の仕方、どれをとってもブギーポップは無だった。


この日、俺たちSOS団は――壊滅した。


誰も気づくことのできなかった神様のクラクションに、死神が終止符を打ったのだ。






『ブギーポップ・クロス Part2 ~神様のクラクション~』


~~~

人は未知の状況を経験した時こそ神の存在を信じる。

神に助けを請う。

では、神が未知の状況に陥ったら一体誰が助けてくれるのだろうか。

全知全能の神ならば問題ない。
しかし、全知と全能は両立し得ない。

神は誰も気づかぬSOS〈クラクション〉を鳴らし続けるしかない。

霧間誠一『神様のクラクション』


~~~

「……」

文芸部の部室。

そこに俺はいた。

特に何をするわけでもなく、椅子に座りぼんやりと窓の外を眺めているだけだ。

「……」

音のない部屋は悲哀に満ちていた。

「……」

少し前までは、碁や将棋、オセロなどのボードゲームの音。
本をめくる音、お茶を淹れる音。
カチカチとパソコンをいじる音。

様々な音に溢れた部屋だった。

今は辛うじて自分の呼吸音が聞こえるだけの部屋。

自分が生きている音だけが聞こえる部屋。

自分だけが生き残ってしまった音のする部屋。

「……」

目を閉じて思い出す。

無茶苦茶ながらも楽しかった日々を。

涼宮ハルヒの、火傷しそうなくらいの満開な笑顔を……。

「……口、笛?」

どこか遠くで聞き覚えのあるメロディが口ずさまれた気がした。

俺はこの曲を知っていた。

「ニュルンベルクのマイスタージンガー……そうか、やっとか……」

そいつがいそうな場所を探してみる。

「……どこだ、ブギーポップ!居るんだろ?」

部屋の隅でカサリと音がした。

「そこか!」

振り向くと、そこには一枚の埃をかぶった栞が落ちていた。

「……幻聴か…………クソ」

見覚えのない栞が、隙間風で落ちただけだったみたいだ。

あの口笛も、ただの幻聴だったのかもしれない。

「クソ……クソぉ……」

何もできないスカラムーシュはただ泣くしかなかった。

でも、涙を流した俺は……ピエロですらなくなった。


ピエロはいつも笑っていなければならないのだ。


~~~

「ちょっとキョン!」

和やかな夢を見ていたらいきなり後ろから頭をはたかれた。

「古泉くんがいないからって寝てんじゃないわよ!」

こきつはいちいち語尾に「!」をつけなきゃお話が出来ないのかね。

ただでさえ狭っくるしい部屋に四人もいて、さらに団長様が持ち込んだ数々の備品(粗大ごみともいう)があるんだ。
当然一人一人の距離はそれほど遠くはない。
普通の声で十分聞こえるのだ。

「えぇい!うるっさい!口答えすんな!」

それで、遊び相手が来るまでの間折角休めていた俺の脳に大ダメージを与えて起こした理由はなんなんだ。
どうせ大した事ではないのだろうが、一応聞いておいてやろう。

「SOS団で小説を書きます!ジャンルは自由!季刊誌発行しないと部室取り上げるって生徒会やら教師やらがうるさいのよねぇ……。
だから、ぱぱっと書いて、本題に移るわよ!」

ホワイトボードに「小説!」そして「死神!」と大きく書きながらハルヒは言った。

……。

……おいおい、ハルヒさん。小説はまだわかる。しかしその死神とやらはなんなんだ?


「バカね、読んだ通りよ。死の神様よ死の神様!
死の神ってのもなんか変な感じだけどね。
小説を書きつつ、死神を探します!」

そのハルヒの発表に、朝比奈さん、長門の手が止まった。

当然、俺も言葉を失う。

驚いた、というよりも飽きれているのだが、そんな俺たちの顔をみるとハルヒは満足気に笑った。

「遅れました……おや?皆さん揃ってなんて顔を……あぁ、なるほど」

そんな中に、掃除やらなんやらで遅れて来た古泉がドアを開けて入ってくる。

俺、長門、朝比奈さんの順に顔を見て、最後にハルヒとホワイトボードの文字を見る。

特進クラスにもなるとそれだけで状況がわかっちまうらしい。
いや、流石は超能力者だ、といった方がいいかもしれんな。

「死神、というのは……もしかして最近噂のブギーポップとかいうやつですか?」

カバンを置くと、古泉はいつものニコニコ仮面でハルヒに尋ねる。

「その通り!キョン!古泉くんを見習いなさい!」

お前は少し平凡を愛する俺を見習ってくれ。

「雑用とは言えSOS団員にあるまじき発言ね……お仕置きが必要かしら?」

にっこりと笑うとハルヒは俺のそばに近寄って来て、ネクタイを締め上げる。


「ば、ばか……く、くるし……」

「ふん!だったら……明日の土曜日は買い出しに付き合いなさい。
他のみんなはゆっくり休んでね!
バカキョンは朝九時にいつもの喫茶店に集合!遅刻したら罰金だから!」

俺に背を向けながら、早口でまくしたてる。
拒否しても無駄なのはわかっているので、へいへい、と返事をすると古泉と朝比奈さんが顔を見合わせ笑っていた。

「へいは一回!」

「……へい!」

「よし! 古泉くんには折角来たところ悪いけど、今日もう終わり!少し早いけど解散!」

そういうと、まるで逃げるかのようにハルヒは自分のカバンを引っ掴み部室を出て行った。

「あ、あのぅ……折角ですし、古泉くんにもお茶淹れますね。
一杯でも飲んで帰ってください」

「これはこれは、ありがとうございます。
では、お茶を飲む間、一局どうですか?」

言いながら古泉は碁盤を出した。

「別に構わないが……囲碁やるよりもブギーポップについて教えといてくれ。
機関のマスコットかなんかか?」

碁石をじゃらじゃらといじりながら、先ほど古泉が口にした聞き慣れない単語のついての説明を求めた。


「ご存知ではないのですか?」

やや驚いた顔の古泉というのも少し前ならなかなか珍しいものだったかもしれない。
こいつの表情といえば笑っているか驚愕しているのかのどちらかだった。

それほど、こいつは自分を殺し、有事の時以外はニコニコしていたのだ。

「知らなくて普通。むしろ古泉一樹、あなたが知っているのがおかしい。
ブギーポップは女子の間だけに回る噂。
……本当はあなたも女?」

古泉に答えたのは、ちゃっかり新しいお茶を飲んでいる長門だった。

「……冗談、ですよね?
まさか本気で僕が女かも、なんて思ってませんよね?」

「……ユニーク」

「何がですか!長門さん?長門さーん?」

以前ハルヒに無理矢理女装をやらされた時のハルヒの一言。
それが古泉にとっては耐え難い屈辱だったらしい。

女装古泉を見てハルヒは言った。

「……正直私よりも可愛いんじゃないかしら?」

それが、古泉のプライドだかなんだかを傷つけたらしい。

ちなみに、俺はその日たまたま岡部に仕事を押し付けられたので見れなかった。
見たくもないがな。


「……まぁ、落ち着け二人とも。話を戻すぞ。
それで?ブギーポップってのはなんなんだ?まさか本物の死神がいるだなんて言わないよな?」

「……実はですね」

そっぽを向く長門から、どこか疲れた表情の古泉がこちらに視線を移した。

おいおい、俺らの前で表情豊かになったのはいいが……勘弁してくれよ。

「そのブギーポップ、という存在……機関の力をもってしても捉えられないんですよ」

さらに、と古泉は続ける。

「関東に学園都市、という街があるのはご存知ですよね?」

それくらいは知っている。
来年は大覇星祭とやらを見にいくとハルヒが言っていた気がするしな。

「実は、あの街で同じ噂が流れたんですよ。
一ヶ月ほどの間に爆発的に広まり、収束したようです」

「それって、意図的に噂を流して……そのあと風化させた人がいるってことですかぁ?」

「えぇ、恐らくは……学園都市にも機関の構成員が何人かいますが……その時期に連続自殺未遂事件が起きています」

「未遂、なら死神の仕業じゃないんじゃないか?」

その返しを待っていたかのように、古泉は声を大きくして言った。


「そこなんですよ。
そこがわからない。一体何が起きていたのか、そして……一体何が起きるのか……それがわからないんですよ」

「で、でも……」

朝比奈さんが怯えながら言う。

「もし本当に死神がいたとしたら、涼宮さんがそれを願ったという事……ですかね?」

「それはないでしょう。むしろあいつは死神すらも団員にしちまいそうです」

笑い飛ばすが、古泉は笑わなかった。
深刻な顔で、俺を見つめる。

「もう一つ、この時期に学園都市では第一位の能力者が救急車で病院に運び込まれています。
あの街に、第一位をそこまで痛めつける事のできる存在は第二位くらいです。
そして、その第二位の方は関与していない裏が取れています」

「ちょっとまてよ、学園都市の第一位第二位ってのは超能力者の中でも格が違うんだろ?
超能力者ですら一人で軍隊とやりあえるって聞くのに……そんな奴をボコれる奴なんて……」

「神、くらいのものでしょうね。
それも――死の神様くらいでしょう」

真剣な表情。

全く笑えない冗談。

ハルヒが開けっ放しにした窓から、風が入り込みカーテンが揺れた。

そのカーテンの動きに合わせるように、下手くそな口笛が聞こえたような気がした。


~~~

何故だ。

と思った。

そして、逃げた。

逃げた先には、崩壊が待っていた。

せめて、最後に助けたい人がいた。

その人を助ける事が出来たのかはわからない。

全てが消えていく中で、最後に聞いた曲はニュルンベルクのマイスタージンガーだった。

筒みたいな帽子に、黒いルージュを塗った無感情な顔が、一瞬だけ左右非対称な表情をしたように見えた。


~~~

ギリギリとワイヤーが首に食い込む。

全てを思い出し、戦った結果は惨憺たる結果に終わったが……満足している。

ただ、最後に助けたい人がいた。

自分の力で助ける事は恐らくできない。

だからあとは、任せた。


~~~

出来る事がなかった。

ただ涙を流し、見ている事しか出来なかった。

それでいい、と言ってくれた声はいままでで一番優しいものだった。

その人が消えるのと同時に、自分も世界から消えていく。

その人の優しさは、残酷なほどに私の心に穴をあけた。

その穴が広がっていくように、徐々に体から力が失われ、意識と感覚が消滅していく。

こちらを見る助けなくてはならない人にうまく笑えたか自信がない。

とりあえずここまで

ではまたよろしくナンダヨォ


~~~

土曜日。その日、外に出ると雨が降っていた。

一瞬思考が固まる。

自転車で行くつもりであったのだ。
雨が降っていては歩いていくしかない。
つまり、遅刻確定。
そして今日あの場所で待っているのはハルヒだけである。

傘を引っ掴み、俺は珍しく全力疾走した。

傘が傘の意味をあまり果たさず、体はどんどん濡れていくが、遅刻した時にハルヒが別のことに興味を持つよううまいこと誘導してくれる古泉が今日はいないのだ。

なんの買い出しをするのかは知らないが、買い物中ずっと不機嫌になられると面倒臭い。

「悪い!ギリセーフ、だよな?」

待ち合わせ場所に着くなり、見覚えのある傘に、後ろから声をかけた。

「……私より遅い時点で遅刻だけどね。まぁ、デッドラインは越えなかったから許してあげるわ」

時計をみると、約束の時間まであと30秒ほどあった。

思いのほかハルヒもピリピリしておらず、むしろどこかホッとしたような安心したような顔をしていた。


「まぁ、今日はかなりギリギリになっちまったし、素直に奢ってやる。
とりあえずいつものとこ入ろうぜ」

こちらも団長さまの機嫌に安心し、自然と頬が緩んだ。

「……そうね。いい心がけだわ」

言いながら、ハルヒはカバンからタオルを一枚取り出した。

「ほら、あんた濡れてるわ。風邪ひくから拭きなさい」

タオルを俺の顔に叩きつけるように、押し付ける。

「お、おう。ありがとうな。……なんか、今日はやけに静かだな?変なもの食ったか?」

「!」がないハルヒに、不覚にも少しどきりとした。

顔だけは抜群に良いから、おとなしくしていると思わず見惚れそうになるのは男ならばしょうがないだろう。

しょうがないんだよ。

「……失礼な奴ね。
ま、いいわ。今日は小説書くための原稿用紙と、そろそろ寒くなってきたからマフラー欲しいのよね」

なるほど、原稿用紙を買ったら帰っていいということだな。


「……」

ハルヒはジッと俺の顔を見た。

「待て、お前なんかやっぱおかしいぞ。
普段ならここでぶっ叩くか罵詈雑言の嵐だろうが」

「しみじみとキョンって馬鹿だなぁと思ってたのよ……馬鹿」

今思えば、この時から既にそれははじまっていたのだろう。
俺は現実を見ないように、必死に逃げていただけの愚か者だった。

その愚かさが、SOS団の崩壊を招くことになってしまった。

神様がいるのならば是非聞かせてもらいたい。
何故、俺たちだったのか。
何故、俺だったのか。

何故、俺たちが世界の敵になっちまう世界をお造りになったのか。

「……まぁ、どうせ暇だしな。あ、俺がマフラー選んでやろうか?
ハルヒならセンスない俺が選んだ物でも着こなすだろうさ。
ほれ、さっさと店入ろうぜ」

俺がハルヒの前に立って目的地に行く、というのは何気にこれが初めてだったかもしれない。

「フン……バカキョン」

「はいはい、さっさといくぞ。
雑用に前歩かれたら団長の名が泣くだろう?」

そういうとハルヒは怒ってんだかなんだかしらんが、大股で俺の前に出た。

そう、これでいいんだ。

俺は……いや、俺たちSOS団はハルヒが前に立ってなきゃはじまらないのだ。



そう、思っていた。


世界はハルヒを中心に回っていると、信じて疑わなかった。

「ほら、キョン!はやくしなさい!」

こうして団長様が笑っていたら世界は安泰だ、どうしてそんなバカなことを思ったのだろう。

ハルヒが楽しけりゃ、世界は平和。

そんな思い込みは、根拠のないただの妄想だ。

「へいへい、急に元気になりやがって」

この時の俺は、言葉とは裏腹に表情はきっとにこやかなんだろう。

そんな平穏な日々が、いつまでも続くと信じて疑わなかったんだ。


~~~

「次に……統和機構が動き出した」

機関の司令がその名前を口にすると、森さんと新川さんの表情が少しだけ動いた。
この二人が表情の変化を僕のような若輩者に気づかれるのは初めての事だ。

気づかれぬよう目だけで周りをサッと見回すと、機関の中でも中枢に近い人物の顔ほど曇っている。

「あ、あの……統和機構って……なんですか?」

司令も他の幹部たちも話を進めようとしないので、恐る恐る聞いてみる。

それが、部下の仕事だ。

「……古泉、すまん。
出来ればお前だけには統和機構の存在を知られたくなかった」

「ですから、その統和機構とは?」

「……私たち機関の人間はMPLSという新人類に分類されているの」

司令が黙り込んでしまったので、森さんが説明を始めた。
しかし、また初っ端から知らない単語が出てきてしまう。
彼ではないがやれやれと言いたい気分だ。

「いえ、私たちが、というよりも涼宮ハルヒが、でしょうね。
涼宮ハルヒのMPLS能力の一部、と言った方がより正確かしら?」

「……つまり、MPLSというのは僕らのような特殊な能力を持った人間という事ですね?
それと統和機構にどんな関係が?」

「この世界を支配しているのは誰だと思う?」

機関にいるとどうも説明が回りくどくなるらしい。
僕が物事の説明をしだすと彼の機嫌が悪くなるのもわかったような気がする。


「涼宮さん、でしょう」

森さんは首を横に振った。

「……なるほど、この世界には神様の他に魔王様がいたという事ですか。
それで?その魔王の存在を僕には知られたくなかった理由は?」

つまり、そういう事だろう。
機関が唯一絶対と認める涼宮ハルヒがこの世界の頂点ではないのならば、涼宮ハルヒですら勝てない存在がいるという事だ。

「それも違うわ。
そもそも統和機構は涼宮ハルヒをただのMPLSと分類している。
つまり、全く相手にしていないのよ」

勇者の存在を全く無視する魔王などいない。
逆もまた然りだ。

「統和機構にとって涼宮さんはスライムって事ですか?
では長門さんは?」

「長門有希に関しても同様だ」

「涼宮さんは能力を自覚していないし、さらに僕らがいる。
だから、まだ危険度が低くても納得は出来ますが……長門さんもスライム扱いですか?
一体全体統和機構とやらはどんな超人集団なんです?」

「……世界を裏で支配し、MPLSを監視するシステムだ。
そして、不要なMPLSを処分するのもここの仕事だ」

……僕をおちょくっているのだろうか。
そんな嘘では子どもですら騙せない。


「へぇ、じゃあブギーポップって死神もその統和機構の人なんですかね」

思い切りバカにしたように鼻で笑いながら言ってやった。

「ブギーポップ、か……あれは最早特異点と呼ぶべきだろうな。
あれの前では全てが無意味。
それと、あれはMPLSでも人間でもない、ましてや死神でもない。
あれは――」




――世界の敵の敵。




その響きが、どうしようもなく僕の胸に突き刺さった。

「世界の……敵の、敵……?」

「あれは統和機構以上に謎だ。
以前出会ったのが機関にもいたが……あれは自身のことを【自動的な存在】と言っていたそうだ。
世界に危機が迫った時、自動的に現れてその危機を消し去る……そう言ったそうだ」

司令は僕らを見回した。

「この中にはブギーポップと統和機構の構成員がいないことを願うよ」

それだけいうと、席を立ってしまう。

他の幹部も次々に席を立ち会議室から出て行く。

五分後にその部屋に残っていたのは僕と森さん、そして新川さんだけだった。


「……え?会議終わりですか?
結局僕統和機構の危険性やブギーポップの事なんにも理解出来てませんよ?」

「説明されて理解できる物ではないわ。私も同じだった」

でも、と森さんは続ける。

「一度でも、あいつらと対峙すればわかる。
神人なんて比べ物にならないわよ」

森さんは統和機構という名前すら口にしたくないようだった。
あの森さんが、ここまで恐怖する統和機構という存在が僕は逆に気になった。

「外ではその名前を口にしない方が賢明ですか?
差し支えなければ、彼には話しておきたいのですが」

二人は微妙な顔つきになった。
統和機構とはそれほどまでのトップシークレットなのだろうか?

「お前の判断に任せる」

新川さんがため息をつきながらそういうと、

「ちょっと新川ッ!こいつは危険性を理解していないのよ?」

森さんは思い切り噛み付いた。

「森、ならばなぜ迷った?
古泉に聞かれた時に何故却下しなかった?」

静かな、それでも迫力のある声で、新川さんは問い詰める。


「そ、れは……」

「お前も理解しているのだろう?
我々にできるのはバックアップのみ。
神人狩りですら、前線に立っているとは言い難い」

新川さんの視線が森さんから僕へ移る。

「お前がお前の仲間とどうにかするしかないんだ。
お前のような未来ある若者に……一番危険なことをさせている我々を許せ」

どうやら、僕が思っている以上に統和機構が動いた、というのは大事件らしい。

「……顔をあげてくださいよ。
僕は平気です。彼もいるし、涼宮さんもいる。
長門さんに朝比奈さんもいる。
それに……お二人がいてくれる。
いつも僕の両脇に立って、僕を支えてくれる」

「古泉……」

何故か森さんは泣きそうな顔をしていた。


~~~

「おい、ちょっと待て」

喫茶店を出ると、まずは文房具屋へと向かった。
本格的な漫画やらイラストやらを書くための道具が揃った大きめの店だった。

「何よ?」

「小説を書くのに何故そんな定規やらわけのわからん色のペンが必要なんだ?
原稿用紙だけでいいじゃねぇか」

むしろ、各々USBくらい持っているだろう。
パソコン室の使用許可だけ貰えばそれでいいのではないか?

「バカねぇ……原稿用紙なんて学校の備品使えばいいし、むしろいらないわ!」

わぁ、すごい。この人数時間前に自分が言ったセリフもう忘れてる。

「お前今日は原稿用紙買いに行くって言ってたじゃねぇか!」

「清書用のは買うわよ?」

「んじゃそりゃ?」

そう言うと、ハルヒは呆れたように「何もわかってないわねぇ」とため息をついた。

「いい?私たちSOS団が出す小説誌よ?
パソコンで打って終わりじゃダメなの!
オール手書きだから、勿論挿絵も書くわよ」

さらには、

「しかも、一冊限り!」

そう言ってのける。

こいつはバカなのだったと思い出した。

そんなことをしたら教師や生徒会の怒りを買うことは明白だ。

一冊限りの部内誌など聞いたこともない。

だけど、俺はどこかホッとしていた。

ハルヒが教師や生徒会の言いなりに小説を書くとか言い始めたのではないことに、何故だか安心したんだ。

「……はぁ、お前らしいよ」

すべてを諦めそう言うと、ハルヒは太陽みたいに笑った。


~~~

「はい。はい……わかってます。
明日が、分岐点ですよね?わかってます。必ず……必ず――」

彼女。朝比奈みくるは時空間通信機に向かって話している。
表情は強張っており、口調も硬い。

彼女が話している相手はおそらく未来の朝比奈みくるだろう。

彼女が来た時間よりもさらに未来の朝比奈みくる。
それが彼女の上司だと推測できる。

一度朝比奈みくるの上司を調べようとしたら、エラーが出たことがあった。
過去現在未来、すべての時間軸に彼女の上司は存在しており、また存在していない、というものだった。

彼にそのことを報告すると、彼は微笑みながら、朝比奈さんは敵ではないから気にする必要はない、と言った。

しかし、彼女は嘘をついている。

その嘘を、私だけに告白している。

本来ならば、彼らに報告するべきなのだろうが、私はそうしなかった。

出来なかった。

何故ならば、彼女がやろうとしていることの方が……私の言語機能には今の私の感覚を表す言葉がない。
だから、なんと言えばいいのかわからないが、ぽかぽかするのだ。



心臓よりもやや下で、おへそよりも上の部分が、ぽかぽかと温まる。

その感覚はエラーだと情報統合思念体は言うが、私にはそうは思えなかった。

理由はわからない。

考え事をしていると、彼女の話が終わったようだった。

「――その世界へ続く道だけは閉ざしてみせます」

これが、彼女がみんなについている嘘。

彼女の任務は自分のいた世界へつなげること。

しかし、本当は自分のいた世界への道を閉ざすことが彼女の目的。

彼女の世界は涼宮ハルヒを憎んでいる。

涼宮ハルヒから開放されたがっている。

涼宮ハルヒの力が存在する世界を断ち切ろうとしている。

それを、支配からの脱却だと言っていた。

神ではなく、人間が支配する世界が望みだと言っていた。

「……長門さん、わたし……怖いです。
もしも、自分のいた世界への道を閉ざして、上司たちの予想と違って消えてしまったら……」

情けない顔で彼女は私に縋りつく。

「……大丈夫。あなたは必ず私が守ってあげる」

あなたが消えたら彼が悲しむから。

彼の心の平穏を保つのも、全能に近い力を持った私の役目だから。

朝比奈みくるを抱きしめながら、それだけではない気がなんとなくした。

なんか急に書き込めなくなった、なんでだろ?

とりあえずここまで

長門にぽかぽか言わせたかっただけの回

次回は今月中にはくる
のんびりやろうと思ってる


つぎもヨロシクナンダヨォ

~~~

「人は……何故……夢を見るのか……」

買い物袋を両手に下げた男子高校生と、その横で笑顔を浮かべる女子高校生を見下ろす影があった。

「それは……希望が……あるからだ。
神も……希望を見つけて……夢を……見ていたのだろう……」

その影は、まるでそこには存在していないかのような、まるで空気のような、そんな存在であった。

「……運命を……紡ぐ事は出来ない……ただ……繋ぐだけだ。
やっと……お前たちに近づけた……」

鬼太郎のような髪型のその男。

酸素という名前をもつその男。

統和機構の中枢にて、因果律の支配者。

「世界の異常……見過ごせない……異常……」

視線を男女から、自身の前方へと滑らす。

「……やはり……存在して……いたか……世界の敵を……排除する者よ……」

「自動的な存在なものでね……。
望もうが望ままいが……世界に危機が訪れたら、浮かんで来ちまうのさ」

世界の敵の敵と統和機構の中枢が視線を合わせた。

両者ともに、敵意も殺意も悪意もない。

ただ、純粋に互いの姿を見ているだけであった。

「君には……運命というものが……ないのか……」

「世界の敵、それを倒す。
僕にあるのはそんな運命だけだ。
もしも運命とやらが糸のようなものなら……僕と世界の敵は赤い糸で繋がってるだろうね」

「……あまり……笑えない……」

空気に溶けるように、酸素の男――オキシジェン――は消えた。

「……どうやら僕にはユーモアとかそういった素質は無いらしいね」

静かに消えたオキシジェンとは対照的に、世界の敵の敵――ブギーポップ――は口笛を吹きながら影に溶けるように消えた。


~~~

「……俺は……どうしたら世界の敵になれるんだろう……」

ひとりぼっちの道化は死んだ目でつぶやく。

「はやく……逝きたい。
あいつらがいるところへ……」

ひとりでいる事をこれほど退屈に思ったことなどなかった。

ひとりきりで、今までなんでもやってきた。

世界が変わってしまったのは、涼宮ハルヒと出会ってしまったからだ。

いつでも笑顔で、有り余るエネルギーを爆発させながら、SOS団を引っ張るリーダー。

だが、涼宮ハルヒはもういない。

もう二度と……。



涼宮ハルヒは笑わない。


~~~

買い物を終えると、ちょうど昼メシを食うのに良い時間になっていた。
なっていた、というよりもなるまでダラダラと買い物を引き伸ばしていた、の方が正しいかもしれない。

「昼、どうする?
午後はマフラー買うんだろ?デパートで食うか?」

文具屋を出ると、太陽が顔を出していた。
うむ、ハルヒの笑顔に負けないくらいの明るさだ。

「……ちょっと、行きたいお店が……あるんだけど……」

「ん?ならそこにしようぜ、なんの店だ?」

「パスタ。前にたまたま通りかかって、なんか雰囲気いいなと思ったのよ」

なんとなく話し方がぎこちない気がしなくもないが、ハルヒの様子にいちいち構うのは古泉の仕事だ。

俺は気にしない。

電話がならない事だけは、願ってやるがな。

「おう、いいな。ピザもあるかな?
なんか久しぶりにピザでも食いたい気分だ」

そうハルヒに言うと、ハルヒはパッと顔をそらしてしまった。

「あ、あるんじゃない?
うん、きっとあるわよ!」

「おい、流石にそっぽ向かれると傷つくぞ」

ハルヒの頭を掴み、無理矢理こちら側へと向かせる。

「ちょ、馬鹿やめろ!この変態っ!」

あれ?普段ならむすっとした顔をこれで拝む事が出来るのだが……。

「あんた……他の女にもこういう事するわけ?」


「するわけないだろ。男友達みたいに自然に楽に接することが出来る女友達なんて、お前くらいのもんさ」

「……つまり、キョンは私のこと女として見てないわけね!こんなに可愛くてスタイルもいいのに……あんた頭大丈夫?」

「そのセリフそのままお返しさせてもらおう。
可愛くてスタイルがいいのは認めるが、頭がおかしいのは明らかにお前だ」

なんだかまだぎこちなさを感じるが、やっといつものハルヒに戻ったような気がした。

なんとなく今日のハルヒはやりにくい。

「なんであんたが私のスタイルが良いとか言えんのよこの変態」

「お前は俺に掴みかかって来たりするだろう、ちょうどいいから言うけどあの時胸がすごい当たってるからな。
それに、バニーやらなんやら肌の露出の多いコスプレもしてるし……」

ハルヒの顔が真っ赤になった。

「今更照れてるのか?」

「むしろあんたはなんで平然としてんのよ……」

「もう慣れた。それに意識したら妙な距離感をとっちまうだろ?」

微妙な距離感で一緒にいる事ほど精神的にキツイ事はない。

「あんたってよくわからない……けど、少し見直した。
やっとあんたもSOS団員ね!」

何をどう見直され、何故設立当初からいる俺が今頃団員と認められているのかさっぱりわからないな。

だが、

「ほら、キョンいくわよ!お腹空いちゃった!」

涼宮ハルヒが笑ってる。

それだけで俺は良かった。


~~~

「……朝比奈さん、確認ですが……お二人は別に彼氏彼女の関係ではないのですよね?」

二人の様子を見ながら、古泉くんは言った。

「えぇ、おかしいですよね。あんなに二人でいるのが自然体なのに……」

私と古泉くんは、涼宮さんとキョンくんをつけていた。

「……さて、僕らもお昼にしましょうか。
同じ店だと流石に暴露ますので……向かいの蕎麦屋で構いませんか?」

「えぇ、あったかいお蕎麦食べたいです」

何故私たちがお二人を尾行しているのか、それは長門さんの呼び出しから始まった。


~~~

「統和機構、というものを知っている?」

キョンくんと別れたあと、私たちは長門さんに呼び出され、マンションへと向かった。

長門さんは私たちが揃うとなんの前置きもなしにそう言った。

「……名前だけは……昨日知りました」

古泉くんの声が、今まで聞いた事のないような重苦しいものになった。

「わ、私はなにも……しりません」

いつだってそうだ。
いつも私はなにも知らずに、なにも出来ずにいる。

「そう……反統和機構組織が最近この辺りで動いている。
明日、涼宮ハルヒが巻き込まれる可能性は99.6%。
機関の方で何か対策は?」

古泉くんは首を横に降った。

「あ、あの……統和機構とか、反統和機構とか……なんなんですか?」

せめて、何が起きているのか、それは知りたかった。

知っても無意味なのはわかっている。

どうせ私に出来る事などない。

「統和機構、というのは世界を裏で支配し、MPLSという新人類を監視するシステム、だと聞いています。
そして、反統和機構というのは……文字通り、その支配に抵抗している組織、という事でしょう」

正直、そんな子ども向け番組の悪の組織みたいなものを信じる事など出来なかった。
何か反応をしようとすると、

「違う」

長門さんが即否定した。


「違う、のですか……?」

長門さんは微かに頷いた。

「統和機構、それの本来の目的は人間社会の維持。
MPLSの監視及び管理はその一環に過ぎない」

MPLS、というものがなんなのかはイマイチわからない。
それでも、その管理すらも統和機構という組織の仕事の一部でしかない。

そして、普段感情をあまり見せない長門さんの、少し焦ったような不安そうな声。

事態の大きさだけが、私にのしかかって来た。

「……それに、反抗するような……というか、出来る組織って……なんなんですか?」

古泉くんは統和機構、という名前を口にするのを無意識に避けているように感じた。

「反統和機構組織として一番勢力があるのは、ダイアモンズ、という組織」

ダイアモンズ、と組織名を反芻する。

「リーダーは不明。確認できる構成員は、ジィドという男とパールという合成人間」

「合成人間、ですか?」

言葉の響きだけで恐ろしさを感じた。

「合成人間とは、人工的なMPLS。
パールは、エコーズというMPLSを元に造られたマンティコアタイプの合成人間」

次々と出てくる新しいワードに、もう私は頭の処理が追いつかなくなっていた。
せめて古泉くんくらいの理解力と推察力があればと自分の無力さを嘆くしかない。


「マンティコア……確か人を喰う者、でしたっけ?」

「そう。人を殺し、捕食する事からその名を……ブギーポップがつけた」

「ブギーポップ……長門さんは……ブギーポップを知っているのですか?」

「昼間は、話せなかった……私たちSOS団には、今監視がついている。
監視しているのが誰かはわからない。
だが、確実に言える事がある」

静かな瞳が、私と古泉くんを順番に見つめた。

「この世界にとって、私たちは敵。
私たちは――世界の敵になってしまった」

世界の敵。

その響きは途轍もないほどに心に刺さった。

「明日、間違いなく涼宮ハルヒは反統和機構と接触する。
だから、二人には涼宮ハルヒの監視をして欲しい。
私は……他にやらなければならない事がある」

長門さんの目に、初めて見る色が灯った。

きっと、それは私が気づかなかっただけの色。

キョンくんや古泉くんはずっと前から知っていた色。

私だけが見ることのできなかった色。

涼宮さんを、愛するのと同じくらい、憎んでいた私にだけなかった色。


~~~

蕎麦をすすりながら、考える。

涼宮ハルヒという女の子が何故願望実現能力などという力を持ったのか。

何故、僕が超能力者として選ばれたのか。

何故、世界は僕たちを敵と認識してしまったのか。

「美味しいですねぇ」

目の前でぽやぽやと笑う彼女を、僕は静かに見つめる。

この人も世界の敵。

目の前の彼女とは正反対で、表情をあまり変えないもう一人の女の子。

その子も世界の敵。

それが納得いかなかった。

「えぇ、朝比奈さんの時代にも蕎麦はあるのですか?」

「ありますよぉ~。私お蕎麦大好きですもん!」

ニコニコと世界を癒すように笑う彼女が世界の敵。

彼女たちにそんなワードは似合わない。

「そうでしたか。では、今度美味しいお蕎麦屋さんへ招待しましょう。
いくつか知っているんですよ」

彼女たちの前だと素顔の笑顔が自然と出てしまう。

はじめは敵対組織の下っ端どもくらいの認識だったが、僕は彼女たちを、好きになった。

恋なんかじゃない。

きっと、これは……家族愛だとか、そういうものに近いんだと思う。

僕の世界は変わった。

嘘をつくことを極力やめ、機関というペルソナを脱ぎ捨て素顔で人と接することが出来るようになった。

そして、それと同時に全てを失ったような気がする。

心が満たされても、別の部分がぽっかりと口を開けている。

「わぁ……嬉しいです~!
あっ、長門さんも誘いましょうよ!」

無邪気に笑う彼女と、些細な表情の変化で喜びを表すあの子だけは、守りたいと思った。


~~~

「お、キョンか……こんなところで何やってんだ?」

名前すら思い出せない教師が誰もこないはずの教室へやって来た。

「……」

俺はそいつを無視して、必死に思い出に浸ろうとする。

「はは、無視は辛いな……。
そうだ、お前ここに入らないか?
実は文芸部は数年前に潰れてしまったんだ」

文芸部なんざ興味はない。

俺がなにか部活動に入るとしたら、それはSOS団だけだ。

「そんで、その潰れた時の最後の部員が俺だ。
だからさ、復活させるの手伝ってくれよ。
この部屋片付けて……本読んだり書いたりが嫌いなら、俺とボードゲームでもしようぜ!」

そいつは笑っていた。

俺は、なんだかわからなくて、なんだか泣きたくなった。


~~~

「……あなたが、ブギーポップ?」

なにもない町外れの丘の上。

黒いルージュに黒い筒のような帽子をかぶった死神を長門有希は捕捉した。

「違う、と言ったらどうするんだい?」

「……あなたが、ブギーポップ?」

ブギーポップは肩を竦め、左右非対称な微笑みを浮かべた。

「あなたの目的はなに?」

「君ならわかっているだろう?
SOS団を殺すことさ」

すっと奇妙な笑顔が消え、雪のように真っ白な無表情がブギーポップの顔面に張り付く。

「僕はね、自動的なんだよ。
世界に危機が迫ったら、自動的に浮かび上がってきて……世界の敵を殺す。
世界の敵の敵なんだ。まずは……君から」

マントの中から細い腕が伸びた。
腕の先、つまり指先からは、光を受けてキラキラと光る紐状のものが伸びている。

「無駄」

しかし、その極細のワイヤーは世界の敵へと届く前に形を失った。

「流石だね」

ブギーポップは焦ることなく、そんな台詞を長門の耳元で囁いた。

ブギーポップの言葉が聞こえて来た位置に、長門は珍しく驚いた顔を晒しながら、振り返った。

「おっと……失敗失敗……」

長門が振り向きざまに放った拳はブギーポップの服にすらかすらず空を切った。

ブギーポップは無感情な表情のまま、長門の首と頬から流れる血を見つめる。

「声をかけなきゃ、今殺せたな。
流石だよ、と言っておこう……。
まぁ、いい……君と戦う必要は本当はないんだからな」

風が吹くのと同時に、ブギーポップは口笛を吹きながら消えた。

ここまで

気づいたら11月終わってた
次は年内にくるつもり
流石に大晦日とかあるし、気づいたら12月終わってて……は無いと思う

では、またよろしくナンダヨォ

エコーズってMPLSなの?

生存報告


~~~

「あのガキがねぇ……」

ヒョロリとした小柄の男がイタリアンレストランの店内を覗いていた。

よくみるとしっかりと鍛えられているその男は不遜に笑う。

視線の先には一組の男女だ。

「涼宮ハルヒ……こいつが統和機構と共倒れしてくれれば良いんだよな」

「えぇ、私は一度失敗してしまった。
でも――彼女の才能を開花させたのは私。
だから、私のために消えてもらうのよ」

男の隣に立つ二十代半ばの女性は、その可愛らしい顔つきには似合わないセリフを吐く。

「任せておけ、パールよ」

「世界ごとなかったことにされるのは辛いわ」

セリフと表情は悲哀を帯びた十代にも満たない少女が禍々しいオーラを放ちいった。

「こういう裏工作みたいなのは好きじゃねぇんだけどなぁ……」

男はニヤニヤと少女の全身を見つめた。


~~~

「ハルヒ?」

「……なに?」

「最近、というかこの時期考え事してること多くない?」

「そうかしら?」

「あぁ、付き合ってもう六年だ。
どこの誰よりお前の精神鑑定には自信があるよ」

ニパッと笑うこいつも、ハルヒハルヒと笑顔でよってくる知り合いたちも、どこか存在感がなく本物の人間に思えなかった。

それは、ある日突然だった。

高校二年の今の季節。

もう、あれから三回も季節は巡ってしまった。

世界から何かが欠けた喪失感は、未だに埋まっていない。

はじめは、性欲が変な風に昇華されてしまったのかと思った。

二十歳になって、彼を受け入れてみた。

しかし、いくら求めても、いくら抱かれても、埋まることはなかった。

私はいま幸せだと思う。
恋人がいて、友達がいて、家族がみんな元気で……でも、喪失感は拭えない。

幸せなはずだったのに……。


~~~

「ハルヒ?」

「なによ?」

「ん、いや……」

なんでもない、と誤魔化す。
誤魔化す、というか本当に用はなかったんだ。
なんとなく、呼んでみたくなっただけ、というか……。
一瞬ハルヒの存在感が薄くなったというか存在自体が希薄になったというか……。

まぁ、なんだろうな?
よくわからん。

「なによ……気持ち悪いわね」

「き、気持ち悪いとはなんだ」

「……あんたのそれ、なんだっけ?」

「海老のクリームソースパスタ」

「……一口交換しましょう」

「え?あ……おう!」

皿ごとハルヒの方へ押してやろうとすると、ハルヒは自分の料理を上手にフォークでくるくる巻いてこちらに突き出してきた。

「ほら」

「あ、あのー……なぜパスタを巻いたフォークをこちらに?」

「ッ……いいから食え!」

「お、おう……頂きます。……うん、うまい。
ほら、じゃあお返しだ」

交換ということだったで、というか元々ハルヒが俺のを一口食いたいといった訳だからな。

パスタを巻いたフォークを今度は俺が差し出した。

「……うん、美味しいわね」

まるで普通の少女のようにハルヒは微笑んだ。

若干頬が赤く染まっているように見えたのは俺の見間違いだろう。

「まぁ、この俺が食わせてやったんだから、通常の三倍はうまいだろうさ」

「かもね」

は、ハルヒさん?なんか反応が違くないですか?

「なんでもないわよ」

いつもの勝気な笑みでも、いたずらっ子みたいな笑みでもない今まで見た事のないような笑い方をハルヒはしていた。

優しさと温かさとなんというか慈悲に溢れたそれはそれは可愛らしい微笑みを浮かべやがった。

「あー……うん、まぁな……」

何が「まぁな」なのかは全くもってわからないがいいだろう。
何故こういう時に特殊スキル“難聴”&“肝心な時に余所見”が発動しないのだろうな。
聞こえたくなかったし、見たくなかったぞ……なんか意識しちまうだろうがっ!


~~~

「前回の結末、それは幸せだったのかな……」

どこからも反応はない。

「幸せって、なんなのかな」

どこからも反応はない。

「神さまみたいな力を持ってるのに、出来ない事がどうしてあるのかな」

どこからも反応はない。

「願望を叶える、なんてそんな力欲しくなかったな」

どこからも反応はない。

「……願いは一つ。かけがえのない友人を助ける事だけ。それだけでいいのにな」

反応などあるわけもない。
何故ならば暗闇の中には神のみしか存在しておらぬのだから。


~~~

ハルヒと買い物に出かけた翌日、俺は目を覚ますなりある事に気がついた。

「特殊スキルって、ハーレム物の主人公が持ってるものだよな。
じゃあ発動しなくて当たり前じゃないか……」

多分寝ぼけていたのだろう。

昨日はあのあと大変な目にあったしな。

そして、その大変な事とは違った大変な事が現在起こっている。

「おはよう、古泉。何故おまえがここにいるのかアホな俺にもわかるように説明してみろ」

「おはようございます。
起こすのも悪いので起きるまで待っていました」

茶なんぞを飲んでいる事から、勝手に上がり込んだわけではないようだ。

「あ、お母さまが出してくださいました」

心を読むな、ニヤケ仮面。

寝起きに見る顔がこいつという最悪な日曜日にため息をつきたくなるが、我慢してやろう。

「さて、昨日の件を話合いましょうか。
機関は統和機構と交渉をしても良い、との事ですが……涼宮さんは納得しないでしょうね」

「あぁ、そうだろうな。
でも話合いは後だ。とりあえず布団出してやるからお前少し寝ておけ。
その間に俺は長門でも呼んで昨日あのあとどうなったのかを聞いておく」

「はい?」

うちの親は騙せても俺は騙せねぇという事さ。
いや、俺だけではなく朝比奈さんですら騙せないだろう。

「……そうですね、すみません。
実は結構限界でした。お言葉に甘えさせてもらいますよ」

言うなり古泉は大きな大きなあくびをした。

雑用その一でも顔をみりゃ団員の寝不足くらいはすぐわかるのさ。


~~~

古泉は寝ている時ですら古泉だった。

アホ面を晒す事なく、蝋人形のように微動だにせずに一定の寝息をたてていた。

そんなので疲れは取れるのだろうか?

「問題ない。疲労の蓄積は軽度になりつつある」

ブラックジャックも裸足で逃げ出しそうな長門先生が言うのならばそうなのだろう。

「……」

長門先生は古泉の顔をジッと見つめたまま固まってしまった。

恐らく寝ている古泉が珍しいから観察しているだけなのだろうが、何か重病でも見つけたのではないだろうか、と少し不安になってしまう。

「……」

せめて、何か喋ってくれるといいんだがなぁ、と思った瞬間、

「……今度こそ」

と長門先生はつぶやいた。

今度こそ?

今度こそって、なんだ?

「なんでもない。独り言。忘れて欲しい」

……忘れる事は出来ないけど、忘れたふりはしてやろう。

俺が知る必要はないって事なんだろう?
知るべき時が来たらお前なら隠さず教えてくれると信じてるぜ。

「……ありがとう」

「それより、古泉が目覚めたら驚くだろうから観察するならもう少し離れてやってくれないか?」

「……わかった」

長門と古泉の距離はやっと普通の距離になった。

別に本気でキスする五秒前な距離に嫉妬したわけではない。

起きたらいくら古泉でも超至近距離に可愛いとはいえ人の顔があったら驚くからだ。

古泉の……親友の事を思っての発言である。

あとで古泉にこの事を話したら「どうしてあなたはそういういらない気を回すのですか、寝起きに長門さんのどアップとかご褒美じゃないですか」と怒られた。

古泉もすっかり素直になったものだと嬉しくなった。


~~~

「しかし、ダイアモンズですか……」

古泉が目を覚ましてからだいたい一時間ほどたっていた。
俺たちは場所を部屋から公園へ移し、朝比奈さんを迎え作戦会議をしていた。

「はい、未来ではその痕跡すらも残っていなかったので、詳しい事はわかりませんでした……」

「反統和機構勢力の中でも力を持っている組織の痕跡がない、というのもおかしな話ですね」

統和機構、ダイアモンズ、そして我がSOS団。

敵の敵は味方、というが全部が全部と敵の時はどうしたものなのかね……。

事の発端はいつも通りハルヒである。
ランチを終えたあと、俺らはマフラーを買いに店を目指したのだが、その時の道選びを失敗した。

近道、と言って俺とハルヒが選んだ道で俺たちは出会ってしまった。

『……お前らを…………殺す』

本能で理解した。

こいつはやばい、と。

見た目は普通だった。

中肉中背で、顔も良くも悪くも特徴のない普通の顔だった。

とにかく、普通だった。

いや、普通すぎて異常だったとも言えるかもな。


そいつは冗談みたいな速度で俺らに突っ込んで来て、流石にこれは死んだかなぁ、と妙な気持ちになったんだが……。

『問題ない。既に情報連結は解除済み』

我らが誇る公式チート長門先生にまたもや助けてもらっちまったわけだ。

「まぁ、いい。それで?朝お前は統和機構とやらと交渉するとかなんとか言ってたろ?」

話を現在にもどす。

「えぇ、昨日あなた方を襲ったのは戦闘用の合成人間らしいです。合成人間を管理しているのは統和機構なので、統和機構にあなた方を狙った理由などを聞いて、やめてもらうように交渉しようと思いましてね」

どことなく嘘くさい。
まず古泉が俺とあまり目を合わせようとしないのに違和感を覚えるぞ。
普段は近すぎるくらい近寄って来やがるくせに。

「そもそも、その統和機構ってなんなんだよ。
機関の仲間か?」

「敵対組織、とでも思っておいてください。
機関が設立された時に、方向性が合わずに追い出された連中が作り上げた組織らしいですよ?」

こいつはまちがいなく嘘を話しているのだが、何故だがそこには触れたらいけないような気がした。
それ程までに、古泉は必死に統和機構とやらと俺を遠ざけようとしているように感じてしまった。

「……だが、そんなのハルヒが納得するわけないだろ?
朝比奈さんの未来アイテムで襲撃の記憶はもっと柔らかいものになったみたいだが……示談で済ませるようなやつじゃない。
多分、統和機構とやらを引き寄せて徹底抗戦するようになっちまうんじゃないか?」

ハルヒの願いはかなってしまうのだから……。


「……そこで、ダイアモンズですよ。
反統和機構組織である彼らを潰し、私たちが統和機構に賛同も反対もしないと宣言しちゃえば……」

しかし、構成員もなにもわからないのにどうやって戦えば……というか、戦うにしても長門頼みになっちまうよなぁ……。

「……長門さん、なんか心配事でもあるんですかぁ~?」

朝比奈さんは急に話題を変え、長門の顔を覗き込んだ。

「…………ない。なにも心配はいらない」

ジッと見つめたあとふい、と長門は朝比奈さんから目を逸らす。

「本当に?」

「………………ない」

なんともまぁ珍しい光景だった。

「長門さん、もう話してしまいましょうよ。
新たな突破口が見えるかもしれませんよ?」

普段こういう時に中立を守ろうとする古泉にまでそんなことを言われたら、流石の長門も負けたようだ。

「……ブギーポップと交戦した。
アレに勝つことは私では不可能。古泉一樹でも、朝比奈みくるでも、あなたでも、涼宮ハルヒでも不可能」

ゆっくりと瞬きを二回して、

「あれは、災害と同じ。避けようとして避けれるものでもない。
万全の対策もない。
ただ、過ぎるのを待つしかない」

そう締めくくった。

長門でも勝てない。ハルヒでも勝てない。

そんな化け物をどうしてハルヒは望んだんだろう。


~~~



答えは絶望。
答えは羨望。
どちらに先にとりつかれるかで、未来は大きく変わってしまう。




霧間誠一『死にたがりの道化』

ちょっと宇宙からパワーを受けてここからの展開全部考え直してたら遅くなった
>>50-51がなんかのトリガーを引いたよ
もちろん良い意味でね

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2014年02月19日 (水) 16:03:21   ID: pFw9cV-c

前作もまとめてほしい

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