雪乃「……この感じ」 (18)

雪乃「私としたことが……ブラジャーを付けるのを忘れていたわ……どうりで胸に解放感があるわけね」

雪乃「そういえば、心なしか、今日一日中周囲の視線が胸に集中していた気がする……ばれていたのかしら」

雪乃「しかし今更わざわざ付けに戻るのも馬鹿らしいし、どうせ後は部活だけなのだからこのままで行きましょう」

雪乃「もっとも、その部活にこそ、最も危険な人物がいるのだけれど」

雪乃「あの男の事だわ、きっと下卑た視線で私の胸をねめつけ、頭の中で弄び、それだけでは飽き足らずきっと……」

雪乃「///」

雪乃「……コホン。警戒を怠らないように注意しなければね……」

雪乃「……フフッ」

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ガチャッ

八幡「うーっす」

雪乃「こんにちわ」

八幡「おう」ガタンッ

雪乃「……んーっ……」ノビー

八幡「ふわぁー……」

雪乃「……んっ……」チラッチラッ

八幡「……」ペラッ

雪乃「……ちょっと、暑いわね」

八幡「そうか?」

雪乃「えぇ。上着を脱ごうかしら……」

八幡「んなもん勝手にしろ」ゴソゴソ

雪乃「……ふぅ。さて、脱いだのだけれど」

八幡「そうか。ブレザーに皺が付かないように保管しろよ……ンフッ」ペラッ

雪乃「……んっ」

【雪ノ下雪乃、五分ぶり三回目の上体反らし】

雪乃「……」チラッ

八幡「ンフフッ……」ペラッペラッ

雪乃「……」

ガチャッ

結衣「やっはろー!」

八幡「おーう」ペラッ

雪乃「……こんにちわ、由比ヶ浜さん」

結衣「ふんふんふふーん♪」ガタタッ

八幡「……」ペラッ

雪乃「……んんっ……」チラッ

【雪ノ下雪乃、二分三十秒ぶり三十二回目の上体反らし】

結衣「ふんふーん♪」カチカチ

八幡「……ンクフフッ」ペラッペラッ

結衣「また本読みながら笑ってる……ヒッキ―、本当それ止めた方が良いよ、マジキモいから。ねぇゆきのん」

雪乃「えぇ、そうね……んっ」ノビー

結衣「……あれ? ゆきのん今日――」

雪乃「!! えぇ、そう、実はその――」

結衣「やっぱり!! 具合、悪いなら早く帰って休んだ方が良いよ?」

雪乃「この私らしくもないミスだわ周囲に貞操観念が薄弱なのだと勘違いされては迷惑ね特にそこで気付かないフリをしながらてチラチラと
こちらに盗み見ていた唾棄すべき覗き谷――って、え、あ、ぐ、具合……?」

結衣「うん……ってあれ?凄い声小さかったから何言ってるか解からなかったけどいつものゆきのん?あれ?どっち??」

八幡「雪ノ下、何か勘違いしているようだがな、覗きや盗聴はぼっちの必須スキルだ。よくいえばライフラインなんだよ」

結衣「なんでよく言ったし!?ていうか覗き肯定とかヒッキ―最低マジキモい!!」

八幡「仕方ないだろ!そうやってしないと移動教室の変更に対応出来ないんだからよぉ!!」

結衣「あっ……ごめん……」

八幡「いや……俺の方こそ……悪いかったな、つい声荒げちまって……」

結衣「あの、今度から聞いてくれたら、ちゃんと教えるから……ね?遠慮しないで、ね?」

八幡「うっ……ありがとう……」グスッ

八幡「とまぁ茶番はそれまでにして……大方寝不足かなんかだろ?さっきからやたら欠伸しているみたいだし。
今日はこれで解散、ってのはどうだ?」

雪乃「いいえ……まだよ……!」グイー

八幡「あっそ」フイッ

雪乃「……」

キンコンカンコーン

結衣「あ、もう下校時間だ!」

八幡「うっしじゃぁ帰るか……」

雪乃「……んっ」

【雪ノ下雪乃、二秒ぶり百八十五回目の上体反らし】

八幡「今日はゆっくり休めよ、じゃあな」

結衣「ゆきのん、途中まで一緒に帰ろう!」

雪乃「……」

雪乃「……」

雪乃「……」

結衣「……ゆきのん?」

雪乃「……えぇ、そうね……」

雪乃「おかしい。こんなことは許されない」

雪乃「いえ、別段私にそういった願望があるというわけではないのだけれど。しかしこれは逆説的には私の女性としての尊厳への冒涜ではないかしら」

雪乃「それに……同じ女である由比ヶ浜さんも……いえ、彼女の場合はまぁ、仕方ないわね……彼女はアレだから……」

雪乃「……」

雪乃「……もう一日、もう一日だけ……形が崩れてしまうと言うけれど……致し方ないわ」

雪乃「そうこれは私の汚された誇りの為の尊い犠牲であり決して私の中に淫乱の気がある事とは同義にはならないわ。
何よりも此処で諦めてしまうことこそが雪ノ下雪乃としての最大の損失であり何よりもあの男への最高の教育よ。
ふふっ、ありがたく思いなさい比企谷くん。この私自ら貴方の腐りきった浅慮で愚鈍な性根を還してあげるのだから。
ふふっ、ふはっ、ふはははははははははははははははははははははははははは!!!!!!!!」



~翌日の放課後~


八幡「うし、じゃぁそろそろ帰るわ」

雪乃「……」

雪乃「……待ちなさい」ボソッ

八幡「……」ガチャッ

雪乃「比企谷くん!!」ドンッ

八幡「うひっ!? えっ、お、俺ぇっ……!?」

雪乃「そこに座りなさい」

八幡「……えっ?」

雪乃「そこに座りなさい!!」ドンッ

八幡「ひゃっ、ひゃいっ!!」ガタタッ

結衣「ゆ、ゆきのん!!ちょっと……どうしたの?なんか怖いよ……?」

雪乃「……由比ヶ浜さんごめんなさい。先に帰ってもらえるかしら?」

結衣「えっ? ぅ、ん、あっ、いや、あたしもっ……!」

雪乃「また明日ね、由比ヶ浜さん」ニッコリ

結衣「……ハイ、マタアシタ……」スタスタ

八幡「……!」ダラダラ

雪乃「……」ゴトッ

八幡「あ、あのぉ……もうすぐ下校時間が……」

雪乃「……」バンッ!!!

八幡「ひっ……!?」

雪乃「……比企谷くん」

八幡「は、はいっ!」

雪乃「……わかるわね?」

八幡「……は?」

バンッ!!!!!

雪乃「どうして残されたのか、解からないの?」

バンッ!!!!!!

雪乃「ねぇ」

バンッ!!!!!!!

雪乃「本当に解からないの……?」

八幡「わ、わがびばばぜん……!」ズズッ

雪乃「どうして貴方が泣いているのかしら……?泣きたいのは私の方なのよ?
貴方に傷付けられて私の心はボロボロだわ」

八幡「そ、そんな、俺は何も!!」

バンッ!!!!!!!!!

雪乃「……」

八幡「本当に何もしていないのにぃ……」

雪乃「……昨日、そして今日……私の方、チラチラ見ていたでしょう?」

八幡「えっ、いや」

バンッ!!!!!!!

雪乃「……見ていた、でしょう?」

八幡「……はいぃ……」

雪乃「ふーん……へぇ……そう……」

雪乃「女の子の体を覗き見るなんて最低ね……怖気が走るわ」

八幡「(……おっ、若干嬉しそうな顔に……こ、これは好機だ!!此処で一気に同調を畳みかけて敵意がないことを認識させ、
此処を出た後平塚先生に全容をチクってもう金輪際こいつに会わない環境を形成してやる!!)」

八幡「いや~、雪ノ下くらい可愛い女の子とこんな狭い部屋で居たらさ、やっぱり、ね?俺としても気になるわけで……本当ごめん!
いや、許してもらえるだなんて思わない!人の尊厳を踏み躙る最低の行為は厳罰に処すべきだ!だからさ、こんな奴が居たら邪魔だよな?
もう俺の顔なんて見たくないよな?おま――、ゆ、雪ノ下サンからも平塚先生に口添えして、こんな奴退部させちまおうぜ?な??」

八幡「(完璧だ……完璧すぎる……よく噛まずに言えた……グッジョブオレ……ミッションコンプリート……!!)」

雪乃「……」

八幡「(さぁ雪ノ下……!言え……言うんだ……!『そうね。貴方が消えてくれたら清々するわ。最近は顔だけじゃなくて臭いまでゾンビっぽかったし』とでも悪態を吐いて俺を取り巻く全てから解放しろ……さぁ雪ノ下……!第六天魔王雪ノ下雪乃!!)」

雪乃「……」スゥッ


バンッ!!!!!!!!!!!!!!!!!


八幡「ひぃっ!? にゃんでぇ!!??」

雪乃「貴方の浅い考えなどお見通しよ。今の貴方、私に交際を申し込む男達と同じ軽薄な顔をしていたのだから」

八幡「なん……だと……!?」

雪乃「随分と、この私に稚拙な真似をしてくれたわね……どこまで虚仮すれば気が済むのかしら?」

八幡「滅相もない!!」

雪乃「そう。では次の質問に移ります……何故、私にその腐った目から獣欲に満ちた視線を送っていたのですか? 十……九……」

八幡「いや、だからそれはお前が可愛いからだって!!」

雪乃「五……三……」

八幡「ちょっおいなんで数字が急に飛んでんだよ!?五の次は九十二だぞ間違えんな!!」

雪乃「一……零」



「破ァ!!」

ぼぅっと、後ろから飛んできた白い靄が雪ノ下を包んだ。

「もう大丈夫だ」

振り向くと、出入り口で背筋をピンと伸ばして煙草をくゆらせる平塚先生と、煙に当てられて咳き込む由比ヶ浜が立っていた。

「先ほど由比ヶ浜から雪ノ下の様子が変だと言われてな、見に来てみれば予想通りだったというわけだ」

「先生、雪ノ下は一体……」

「まぁ、思春期にありがちな些細な情動の爆発だ。心配するな、目覚めた頃には全て忘れているだろう」

「えっ、何それ困る……」

ちゃんと反省してもらわないと……。

ていうかそれ何一つ解決してないよね?

絶対またこういうこと起きるよ。

「その時はまた助けてやるさ」

やだかっこいい……。

アラサ―独身ってスゴい。改めてそう思った。


~完~

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