QB「少しくらい、本当の奇跡が起こってもいいじゃないか」(261)



ある病室のベッドに、一人の少女が眠っていた。


正確には眠っているわけじゃない。

意識はちゃんとあって、色々なことを考えていた。

でも彼女は頭に大きな怪我を負っていて、動くことも感じることも、殆ど出来なかったんだ。


目も、耳も聞こえず……真っ暗闇の中。 風が体を撫でる感覚と、その匂い。

彼女を死体だと勘違いしたハエが体を這う感触。 一日一回、看護師が体の位置を直していく感覚。

その手を握る者ももう居ない彼女にとっては、それが世界のすべてだった。


彼女は途方も無い、退屈な時間の中で……ただ夢を見ていた。

共に戦う仲間、生きる目的、大切な家族。 そのすべてがある世界を……

……つまり幸せな日常を、彼女は夢想していた。


闇の中、一人孤独に……ずーっと。


――――――――――――――――

――――――――――――――――


タッ タッ タッ タッ タッ タッ タッ タッ



まどか「はっ、はっ、はっ、はっ……」



タッ タッ タッ タッ タッ タッ タッ タッ…



まどか「はっ、はっ、はっ……はあ……」



EXIT



まどか「………?」



コッ コッ コッ コッ コッ…



ガチャッ… ガチャンッ


まどか「んっ……く」

まどか「……あっ!」



ほむら「………!」



バッ!



ほむら「――っ!」

ほむら「―――ぁっ!!」



まどか「ひどい……」

QB「……彼女には荷が重すぎたと思うかい?」

QB「でも、彼女も覚悟の上だろう」



ほむら「――っ!」ググッ



まどか「そんな、あんまりだよ!」

まどか「こんなのってないよ!」


ほむら「―――ぁ……」



まどか「……っ!」



ほむら「――――っ!!!」



QB「……諦めたらそこまでだ」

まどか「あっ……」

QB「でも大丈夫、彼女ならきっと運命を変えられる」

QB「避けようのない滅びも、嘆きも」

QB「すべて覆すさ……」

QB「……そのための力が、彼女には備わってるんだから」

まどか「……本当なの?」


まどか「こんな状況でも……本当に何かできるの?」

まどか「この結末を変えられるの?」

QB「もちろんさ!」



QB「だから僕と契約して……魔法少女になったんだろう?」



―――――――――



まどか「……ふあ」パチッ


まどか「…………」

まどか「はあ……夢オチ?」

QB「うう……」

QB「……まどか?」モゾモゾ

まどか「ひゃっ!?」ビクッ

マミ「あなた誰なの?」
QB「確かに “この僕” は、三時間ほど前まで君のそばにいたのとは別の個体だよそちらは暁美ほむらに撃ち殺された」
黒い魔法少女。暁美ほむら。あの女だけは、絶対に許さない。
まどか「わたしの願いでマミさんのそばにいた子を蘇生すれば、ほむらちゃんのこと許してあげられませんか?」
こんな感じの旧QB蘇生キュゥマミ魔法少女全員生存ワルプルギス撃破誰か書いてくれたらそれはとってもうれしいなって
マミ「今日も紅茶が美味しいわ」

1. 初恋ばれんたいん スペシャル
2. エーベルージュ
3. センチメンタルグラフティ2
4. Canvas 百合奈・瑠璃子先輩のSS
5. ファーランド サーガ1、2
6. MinDeaD BlooD
7. WAR OF GENESIS シヴァンシミター、クリムゾンクルセイド
SS誰か書いてくれたらそれはとってもうれしいなって

QBの魔法少女全員陵辱姙娠出産誰か書いてくれたらそれはとってもうれしいなって
QB「魔法少女は産む機械」


QB「何をそんなに怯えているんだい……」

QB「……というか、随分早起きだね?」

まどか「あ、ごめん……」

まどか「なんか、変な夢見ちゃって」

QB「ふーん? 僕はまだ眠いっていうのに……」ゴロゴロ

QB「君があんまり強く抱きしめるから、苦しくて起きちゃったじゃないか」

まどか「……ごめんなさい」ショボン


QB「まあいいさ……ふわあ」

QB「僕は二度寝するけど、君はうっかり寝過ごさないようにね……」

QB「……くう……くう……」スヤスヤ

まどか「……相変わらず早いなあ」

まどか「…………」

まどか「……でも、なんであんな夢見たんだろう?」

まどか「あれ、ほむらちゃんだよね……」

まどか「夢に見るほど気になってるのかなあ? うーん……」


まどか「……ま、いっか」


………………………………


――朝 まどか宅



テレレッテレーン♪ オハヨウゴザイマス…ニュースノジカンデス…



達也「うー……」キュムッ

達也「……あっ!」スポンッ!


コロンッ…


詢子「おっと!……ってあれ?」

詢子「おかしいなあ……確かにトマトが落ちたと思ったんだけど……」キョロキョロ

まどか「あーっ……見間違いだよきっと!」アタフタ


詢子「? そう、かな……」

まどか「やだなあ、まだ寝ぼけてるんだね……」ガシッ

QB『わっ、なんだいまどか? 急に尻尾を掴まないでよ』

まどか『……もう! 落ちたもの勝手に食べないでよ!』


QB『失礼な、ちゃんと落ちる前にキャッチしたよ』

まどか『そういう問題じゃないよ! バレたらどうするの?』

QB『見えないから平気さ……きゅっぷい』

まどか「はあ……」

知久「まどか? さっきからうつむいて、どうしたんだい?」

まどか「えっ?」

知久「不味かったかな……?」

まどか「いや、全然! 美味しいよ!」モグモグ

知久「……そうかい? なら良かった」



ツギノニュースデス… サクバンオキタジコデダンジョフタリガ…


詢子「おっ、もうこんな時間か……」


チュッ チュッ  パンッ!


詢子「……よし! それじゃ、行ってくる!」

まどか・達也・知久「「「いってらっしゃーい」」」

知久「……さ、まどかも急がないと」

まどか「えっ? あ、うん!……はむっ」モクモク

QB『急いでるなら、それ僕が食べてあげようか?』

まどか『いいよ……食いしん坊だなあ』

QB『きゅっぷい!』


………………………………



――通学路



さやか「……あっはははははは!!」


まどか「えっ!? なんで笑うの?」

さやか「いやー、だって……そんなに転校生のことが好きか!ってさ」

仁美「まあ……やっぱりそういうことでしたのね」

まどか「違うよ、そんなんじゃないって……」

仁美「いいえ! これは言い逃れできません」

仁美「夢は人の願望を反映すると言いますからね」

まどか「そんな……」

QB「……ところで君たち、僕の扱いについては何も疑問を持たないのかい?」


さやか「え? そんなに違和感ないけど」

仁美「そうですね、それはそんなに……」

QB「……落ち着いてくれさやか、僕がそんな、怪しい契約とかするように見えるのかい?」

さやか「見えるけど」

仁美「見えますね」

まどか「まあ……ちょっと怪しい感じはするね」

QB「………!」ガーン

QB「……き、君たちはいつもそうだよ」

QB「地球外から来たというだけで、やれ侵略者だの、外敵だのと……」

さやか「あーあ、また始まっちゃった」


QB「……大体おかしいよ、なぜ自分より高度な文明をもった生物を冷徹だと思い込むんだい?」

QB「技術が発展すれば、それだけ人の心も充実するに決まっているじゃないかもう……」

まどか「ご、ごめんねキュゥべえ……」

さやか「まあ、その……何? 魔法少女っての?」

さやか「なんかすごそうな感じだし、それとキュゥべえを結びつけるのは当然でしょ」

まどか「そうだよ! ほら、テレパシーとかできるし!」

QB「……本当にそう思ってるかい?」ジトッ

まどか「もちろん!」

QB「なら……いいけどさ」キュップキュップ

さやか(うわ面倒くさ)


QB「ほらほら、早く行かないと遅刻しちゃうんじゃないのかい?」ペシペシ

さやか(急に調子乗りだしてるし……)

まどか「あ……そうだね、走ろうか」タッ

仁美「あっ、ちょっと待ってください! まだ話は……!」タッ

さやか「ちょっ、置いてかないでよ……」タッ



ほむら「…………」ジーッ



……………………


―――――――――――



……しかし、そんな彼女にも話相手が出来ることになる。


ある時、彼は突然現れて――といっても、周囲の状況が何もわからない彼女にとっては、

何もかもが突然だけど――彼女の手を握った。

彼女は久々に手を握られたことに驚き、それが誰なのかに疑問を持った。

まず彼女は家族を思い浮かべ、次に友人を思い浮かべた。

しかしすぐに、そんな可能性は無いことに気付き……それが医者か、入院患者のものだと結論づけた。


それでも、彼女にとって嬉しい客であることは間違いない。

彼女はその、細い指と小さな手のひらの感触を、そこから伝わる体温を、しばらく堪能することにした。

すると彼は、彼女の手を持ち上げ、手のひらに人差し指を当ててくすぐりだした……という風に、彼女は感じただろう。

実際、それが手のひらに文字を書くことで、会話を試みているということに気づくまで何時間も必要だった。


――わかりますか? イエスならからだのどこかをにかいれんぞくでうごかして


彼女はこの最初のメッセージを受け取ると、言われた通りに、わずかに動かせる指先を二回動かした。

彼は了承した、というサインのつもりか、彼女の頭を優しく撫でた。


彼女は感動しただろう。 もう二度と出来無いと思っていた他人とのコミュニケーションが、成立したんだから。

しかし、彼はそれくらいでは満足しなかった。

彼は再び彼女の手を取ると、その手のひらに文字を書き始めた。

何を書いたかはわかるだろう? 話が通じることがわかったら、次にすることはひとつ。

自己紹介だ。



――やあ ぼくはキュゥべえ!



―――――――――――



――教室



まどか「はあっ、はあっ……」テッテッテッ

まどか「ふう……間に合った」

ほむら「あら、まどか……おはよう」

まどか「へっ? あ……うん、おはよう……」ドキッ

ほむら「……? どうかしたの?」

まどか「い、いや、なんでもないよ!」

ほむら「そう……?」

まどか(うう……みんなが変なこと言うから、意識しちゃうよ……)


ほむら(……何かあったのかしら?)

QB「やあ、おはようほむら」ヒョコッ

ほむら(なんだか顔が赤いし、ぼーっとしているし……熱でもあるんじゃ)

QB「……ねえ、ほむら?」

ほむら(そういうことは隠したがる子だし、あまり楽観視するのも……)

QB「ちょっと、無視しないでくれるかな!?」

ほむら「ん?……ああ、居たの」

QB「」


まどか「ほ、ほむらちゃん……流石にそれはちょっと……」

ほむら「……ごめんなさい」

QB「そ、そうだよ……どうして君はそんなに僕を毛嫌いするんだい」

まどか「わたしもちょっと気になってたな、どうして?」

ほむら「え? どうしても何も……」


ほむら「……気持ち悪いじゃない」


QB「」

ほむら「白に赤ってカラーリング、妙に理屈っぽい口調……」

ほむら「一見無表情で何考えてるかわからないのに、実は面倒くさい性格なのも」

ほむら「なんというか、生理的に無理なのよ」

QB「」フラッ…


まどか「あ、キュゥべえ!……行っちゃった」

まどか「もう、一度スネるとしばらく直らないんだよ?」

ほむら「ごめんなさい……つい本音が」ファサッ

まどか(全然悪いと思ってない……)


さやか「ふぃー、やっと着いた……って、あ!」

仁美「流石に疲れましたわね……」

さやか「それよりもあれ! 見てよほら!」

仁美「……?」


さやか「まどかが転校生とイチャイチャしてるーっ!」ビシッ


まどか「えっ……」ピシッ

ほむら「はっ……」ビクッ

仁美「なっ……!」


さやか「いやあ、二人共隅に置けないねえ」ニヤニヤ

仁美「そんなまさか……急展開過ぎますわ!」


ザワザワ… ザワザワ…


まどか「……ち、ちょっとさやかちゃん!? いきなり何言い出すの!」スタスタ

さやか「えーっ、だってー」

まどか「教室の空気がおかしくなってるよ! もう……!」


さやか「でも、転校生の夢を見たんでしょ? いいじゃん認めちゃえよー」ツンツン

まどか「それはもういいでしょ!? ほら、ほむらちゃんだって困って……」クルッ

ほむら「…………」

まどか「……ほむらちゃん?」

ほむら「…………」

さやか「おーい、転校生ー?」フリフリ

ほむら「…………」

さやか「……駄目だ、完全に止まってる」


まどか「さやかちゃん……」ジトッ

さやか「いや、これはあたしのせいじゃないし」フイッ

ほむら「…………」


早乙女「はーい、授業始めますよー」スタスタ

早乙女「……ほらそこの三人、イチャついてないで席につきなさい」



まどか「イチャついてませんっ!!」



……………………………



――通学路



ほむら「……じゃあ、私はこっちだから」

まどか「うん、また明日ね」

ほむら「……また明日」ニコッ

さやか「ばいばーい」フリフリ

ほむら「……チッ」スタスタ

さやか「えっ」


さやか「し、舌打ち……? 何この扱い?」

まどか「あはは……今朝のこと、根に持ってるんじゃないのかな」

さやか「そんなあ……軽いジョークじゃん」ガクッ

まどか「しょうがないよ、自業自得だもん」ニコニコ

さやか「うっ、まどかが黒い……」

QB「……僕の気持ちがわかったかい?」ヒョコッ

さやか「うわっ!?」


まどか「いつのまに……」

QB「きゅっぷい」

さやか「……お、脅かさないでよ!」

QB「ふふん……君はこれをちょっと機に反省した方がいい」

さやか「え……?」

QB「邪険に扱われればね、誰だって傷つくのさ……」

QB「……わかるだろう?」ポム

さやか(うっぜえ……)ビキビキ

まどか「ぼ、暴力は駄目だからね……」


さやか「……ま、まあね、あたしにも落ち度はあったわ」

さやか「これからはもうちょっと気をつけるって」

QB「そうだね、それがいいよ」キラキラ

さやか「」イラッ

まどか「あ、あー! そういえばさやかちゃん、病院行かなくって良いんだっけ!?」アタフタ

さやか「え?……なんで?」キョトン

まどか「いや……なんか用事なかったっけ?」

さやか「別に無いけど……」


さやか「……ああ、そういえば一時期、恭介が入院してたからなー」

さやか「でももう退院したし、行く必要無いよ?」

まどか「え?あれ……そうだったかな」

QB「僕もそうだと記憶してるけど? 最近はもっぱらコンビニだね」

まどか「……そういえばそうだね」

まどか「いつもお菓子とか買い込んでいくけど、どうしたの?」

さやか「えっ? いや、それは……その」

まどか「………?」


QB「……そうだ、そういえばこの前」

QB「君はお菓子の入った袋を抱えて、工場がある方に歩いて行ったね?」

さやか「なっ!? 何であんたが知ってんのよ!」

QB「いやあ、ちょっと尾行しただけでぐきゅっ……」

さやか「この変態宇宙人があ……っ!!」ギリギリギリ

まどか「あー! さやかちゃん、それ以上やったら死んじゃうよ!」

さやか「……ちっ」パッ

QB「ぷはあっ……ひどいよいきなり……」


QB「ぼ、僕はただ、暗いところに入って行くから心配しただけじゃないか!」

さやか「だからってついてくる? これだから外道の淫獣は……」

QB「!!」ガーン

まどか「さやかちゃん、そこまでにしてあげて……」

まどか「……それに、わたしもちょっと気になるな」

まどか「そこで何してたの?」

さやか「えっ? それは……えっと」

QB「野良犬でも飼ってるんじゃないのかい?」

さやか「うっ……」ギクッ

まどか「そうなの!?」

QB「……言っておくけど、人間の食べ物を与えるのは良くないよ」


さやか「そ、そんなんじゃないって!」

QB「じゃあなんだって言うんだい?」

さやか「それは……」グヌヌ

まどか「えー、わたしもいぬ見たいなあ……」

QB「さやか、君はまどかがかわいい動物を好きだと知っていて隠しているのかい!?」キリッ

さやか「え? そうだったんだー、キモいのと一緒に住んでるからそういうイメージ無かったわ」

QB「!!」ガーン!

まどか(……さやかちゃんって、意外とほむらちゃんとも気が合いそう)


さやか「はあ……まあ良いか」

さやか「そんなに知りたいっていうなら連れてってあげる」

まどか「本当!? いぬ……可愛いんだろうなあ」

さやか「だから犬じゃないって……」

さやか「……まあ、ある意味犬みたいなもんだけど」ボソッ

まどか「え? どういうこと?」

さやか「見たほうが早いよ……さ、行こう」タッ

まどか「うん……?」トテテ

QB「わけがわからないよ……本当に人間はいつもいつも……」トボトボ



ほむら「…………」ジーッ



………………………………………


―――――――――――――――



キュゥべえ、と名乗る人物は、それから何度も彼女のもとを訪れた。


本人によれば、彼はその病院の医者で、まだ若い。 キュゥべえはあだ名。

顔はまあまあだけど童顔で、小柄な体格もあってか女性みたいだと笑われる。

そのことと、生まれつき総白髪なのがコンプレックス。

彼女の手を握った理由は……あんまり退屈そうな顔をしていたから、つい。


彼はそのようなことを聞かれるままに話すと、今度は彼女に質問をした。


――きみは どんなことをはなしてほしい?


彼女はわずかに動く指先で、アルファベットの小文字を使い、彼にその意思を伝えた。


――キュゥべえがいちばんとくいなこと


彼はそれを一生懸命聞き取り、答えた。


――なら ものがたりでもつくろうかな


――とくいなの


――ああ ぼくはいろがしろいからあまりそとにでれなくてね

――しょうせつをかくとか そんなことばかりしていたんだよ


――きたい



――じゃあ まほうしょうじょのはなしでもしようか



―――――――――――――――



――廃工場近辺



さやか「えーっと、確かこっちの方に……」

さやか「……あった」

まどか「えっと……工場?」

QB「のようだけど……既に廃工場みたいだね」

さやか「そうだよ、でも人が住んでるんだ」

まどか「え……人?」

QB「そ、それって……ちょっと、まずいんじゃないのかい?」


さやか「あはは……あんた達が想像してるようなのじゃないから、安心してよ」

まどか「そうなの……?」

さやか「まあ、見たほうが早いって! お邪魔しまーす」スタスタ

まどか「え? あ……」

QB「まどか、とりあえず入ってみようよ」

まどか「うん……」トテトテ


――廃工場内部



杏子「……ん? お、さやかじゃん」

杏子「またお菓子持ってきてくれたのか?」ワクワク

さやか「うん、ポッキー買ってきたよ」

マミ「あら美樹さん、紅茶入ってるわよ」カチャカチャ

さやか「あ、マミさん! ありがとうございます」

マミ「ふふ、どういたしまして」

杏子「……ところでさやか、そいつらは?」

さやか「ん?」

まどか「…………」ポカーン

QB「……これは一体何の集まりだい?」


さやか「ああ、あたしの友達」

さやか「気になるっていうから連れてきちゃった」

杏子「……なるほどね」

まどか「あ……えっと、はじめまして、鹿目まどかです」

QB「僕はキュゥべえだよ」

まどか「えっ?」

QB「何を驚いているんだい、彼女にも僕は見えてるよ」

QB「さっき、僕らのことをそいつらって言ってたじゃないか」

まどか「ああ、そういえば……」


杏子「ああ、お前らが……へえ、本当にぬいぐるみが喋ってるんだな」

QB「僕はぬいぐるみじゃ……!」

QB(……いや、待てよ? これは可愛いと思われてるってことじゃあ……)モンモン

まどか「わたしたちのこと、知ってるんですか?」

杏子「ああ、さやかがよく話すからな……っと、そういえばこっちの自己紹介がまだだったか」

杏子「あたしは佐倉杏子、色々あってこの教会に住んでるんだ」

さやか(またアバウトな説明ね……)

マミ「……私は巴マミよ」

マミ「はじめまして、鹿目さん」ニコッ

まどか「………!」


――ズキッ


まどか「……は、はい、はじめまして」


まどか(……なんだろう、今の?)

まどか(なんか、頭が痛い……)

まどか「……あの、マミさん?」

マミ「? どうしたの?」


まどか「その……前に、どこかで会いましたか?」


マミ「え? えーっと……」

杏子「へえ? 随分と古い口説き文句だなー」

まどか「ふえっ!? そ、そんなんじゃ無いよ!」

さやか「ま、まどか……もしかしてあんた、初対面の美人には毎回これを」

QB「なるほどね、ほむらに言ったらどんな顔するかな?」

まどか「だから違うってば!」


マミ「ふふ……そうね、残念だけど覚えがないわ」

マミ「まあ学校は同じみたいだし、どこかですれ違ったことがあるんじゃないかしら?」

まどか「そ、そうですよね! 変なこと聞いちゃってすみません」

マミ「別に気にしないわよ」

さやか「まどか……もしかしてまた夢で会ったとか言い出すんじゃないだろうなー?」

QB「あったねえそんなことも」

まどか「それはもういいでしょ!? 忘れてよ!」

さやか「あれはやっぱりキャラ作りだったのかな……」

QB「末恐ろしいなあ……」

まどか「何でこんな時だけ仲いいの!?」

マミ「ま、まあまあ落ち着いて……」

杏子「そうそう、喧嘩なんかしても腹が減るだけだぞ」モシャモシャ


さやか「……って杏子、何勝手に食べてんのよ」

杏子「これはもうあたしの物だからな」モシャモシャ

杏子「ほら、あんたも食うかい?」スッ

さやか「いいよ……本当によく食べるね」

杏子「そうか? まあ食べられるものが目の前にあるなら、食べたいな」ジーッ

QB(……なんかものすごく視線を感じる)ダラダラ

まどか(よかった、話題が変わった……)ホッ


QB「ぼっ、僕は食べられないからね!」

杏子「はは、わかってるよ」ジーッ

さやか「目が笑ってないよ杏子……」

QB「……マミ、助けて」スリスリ

マミ「よしよし」ヒョイッ

杏子「……マミ、そいつちょっと抱かせてくれないか?」ジリッ

杏子「大丈夫、かじらないから」

QB「ひっ!?」

さやか「あははは! 本当にすごいね杏子の食欲は……」



さやか「……その内、マミさんを頭からがぶっ!ってやったりしてね!」



ビキビキビキビキッ!


まどか「……っ!?」


まどか「あっ……ううっ!!」


さやか「……まどか?」

さやか「ちょっと、どうしたのよ?」


まどか「……は、あ……っ!」


QB「どうしたんだい?」

杏子「どっか、具合でも悪いのか?」


まどか「うううう……!」


マミ「鹿目さん? 私は……」



まどか「いやあああああああっ!!!!」


マミ「あ……えっと」ビクビク

まどか「はあっ、はあっ……」

QB「ま、まどか? ……何か、気に触ることでもしたかな?」

杏子「おいさやか、大丈夫なのかこいつ……? なんかの病気か?」

さやか「いや、そんなの聞いたことないけど……」

まどか「はあ、はあ……」フラッ

さやか「……まどか? どこ行くの?」

まどか「ごめん……なんか、気分が悪くて」

まどか「今日はもう、帰るね……」フラフラ


さやか「あ、あたしも一緒に……」

まどか「いい! 来ないで!」

さやか「ひっ……ご、ごめん」

まどか「…………」フラッ…


テッ テッ テッ…


QB「……どうしちゃったんだろう、まどか」

マミ「私、何かまずいこと言ったかな……?」

さやか「…………」



――廃工場近辺



テッ テッ テッ テッ…


まどか「…………」

まどか(私、何であんなこと……)

まどか(……わからない)


……ズキッ


まどか(……っ! 痛い痛い痛い!)ブンブン


まどか「はあ……はあ……」

まどか「……あ」グラッ…


――ガシッ



ほむら「まどか……大丈夫?」



まどか「ほむらちゃん……?」

ほむら「…………」

まどか「あ、ごめん……ちょっと、気分悪くって」

ほむら「……ねえ、まどか」


まどか「え? なに?」

ほむら「……もし」



ほむら「この世界が……全て夢だったら」



……ビキッ!



ほむら「……どうする?」


まどか「え……? ど、どういうこと……」ズキズキ

ほむら「これは……全部あなたの夢で、本当はまだ眠っているとしたら?」


ビキッ!


まどか「うっ……!!」

ほむら「起きれば、地獄のような現実が待ち構えている――」

ほむら「――友人も、仲間も、大切な人は皆死んで、絶望だけがそこにあるとしたら」


ビキビキッ!



まどか「……ああああああ!! やめてっ!!」


ほむら「…………」

まどか「うええ……ひぐっ……」

ほむら「……まどか、ごめんなさい」スッ

ほむら「いきなりこんなことを言って……」

まどか(……あ)

まどか(ほむらちゃんの中指……指輪?)

まどか(こんなの、今日の昼には無かったのに……)


ほむら「もしそうなら、私は……」

ほむら「あなたに、起きてなんて言えないわ」

まどか「……え?」

ほむら「あなたには、大切な家族も、友達も、未来もある」

ほむら「たとえそれが夢でも……私には、それを奪う権利なんて無い」

まどか「…………」

ほむら「……でも、私は!」


まどか「……ねえ、ほむらちゃん?」


ほむら「……何?」

まどか「もしかして、今わたしの前に居るほむらちゃんは……」

まどか「……わたしの知らない、ほむらちゃんなの?」

ほむら「…………」



ほむら「ええ……多分、あなたの知らない私よ」



まどか「そうだよね……」

まどか「わたしの知ってるほむらちゃんは、泣き顔なんて見せてくれないもん」

ほむら「え?……あっ」

ほむら「……ご、ごめんなさい」グシグシ


まどか「ふふ……良いんだよ」

まどか「…………」

まどか「……ねえ、夢は人の願いを反映するって言う、らしいけど」

まどか「もし、これが全部夢なら……」

まどか「ほむらちゃんがこんなに泣き虫で、わたしのことを大事に思ってくれてるなんて」

まどか「一生、わからなかったのかな?」

ほむら「まどか……」

まどか「ほむらちゃん、さやかちゃん、仁美ちゃん、キュゥべえ……」

まどか「皆、わたしの見たい姿ばっかりで……本当の気持ちは、一生知ることができないのかな?」

ほむら「…………」



まどか「なら、それはやっぱり……ただの夢でしか無いんだね」スクッ



タッタッタッタッ…


まどか「………?」


タッタッタッタッ… タッ


さやか「はあっ、はあっ……まどか! 大丈夫?」

まどか「さやかちゃん……」

さやか「ご、ごめん! どうしても心配になって、追っかけてきちゃった」

まどか「そんなの気にしないよ……ありがとう、さやかちゃん」

まどか「……でも、ごめんね」

さやか「え? 何が?」




まどか「さやかちゃんは……もう、いないの」



さやか「……は?」


まどか「本当は、上條くんは退院してないの」

まどか「一生治らないくらいの大怪我を負って……もう二度とバイオリンが弾けなくなっちゃった」

さやか「ま、まどか? なに言ってるのか、よくわかんないんだけど……」

まどか「それで……さやかちゃんは」

まどか「その怪我を治すために、魔法少女になったんだよ」

さやか「魔法少女? 何? また夢の話……?」

まどか「でも、さやかちゃんは……絶望して、自棄になっちゃって」

まどか「魔女に、なって……」



まどか「……死んだの」



さやか「……変なこと言わないでよまどか」

さやか「あ、あたしが死ぬわけ、無いじゃん?」


まどか「…………」

さやか「あたしが……そんな、自棄になって死んだりすると思う?」

まどか「…………」

さやか「だいたい、恭介の怪我を治したからって何で絶望するのよ?」

さやか「あたしがそういう人間に見えるの?」

まどか「…………」

さやか「まどかを、大切な親友を置いて、一人でいなくなるなんて……そんなこと」

まどか「……あるよ」


さやか「え?」

まどか「さやかちゃんには……わたしよりもずっと、大事なものがあるの、大事な人が居るの!」

まどか「それを否定しないで!」

まどか「……さやかちゃんを馬鹿にしないでっ!」

さやか「………!」

まどか「こんなの……本当のさやかちゃんじゃない!」

まどか「本当の世界じゃない!」



まどか「……わたしの世界は、ここじゃない!」




バキッ!



―――――――――――――


―――――――――――――


――ほむらの部屋




まどか「……あ」パチッ

まどか「…………」ムクッ

QB「やあ、目が覚めたかい?」

まどか「キュゥべえ……ここは?」

QB「ほむらの部屋さ」

QB「君はここに来て、ほむらの話を聞いている最中に突然倒れたんだ」

まどか「それで、ずっと眠ってたんだ……」

QB「仕方ないよ、これはおそらく魔女の攻撃だからね」


まどか「魔女の?」

QB「ああ……あくまで予想だけど、君はある魔女の精神干渉を受けていたみたいだ」

QB「随分とリアルな夢だったんじゃないのかい?」

まどか「うん……一人じゃ戻ってこれなかったかも」

QB「そうだろうね」

QB「……だから、ほむらを送り込ませてもらった」

QB「君を呼び戻すためにね」

まどか「やっぱり、あのほむらちゃんは本物だったんだ……」

まどか「それで、今ほむらちゃんは何処にいるの?」

QB「……君の手の中に」

まどか「え? ……あっ!」

まどか「これ、ほむらちゃんの、ソウルジェム……?」


QB「ああ、今は特殊な処理を施して、まどかの体に働きかけるようにしている」

まどか「え、えーっと……どうすれば良いの?」

QB「向こうの寝室に体の方が寝てるから、触れさせてやると良い」

QB「それで元に戻るだろう」

まどか「わかった、向こうの部屋だね」テテテッ

QB「…………」

QB「……まどか」


まどか「え? ……何?」ピタッ

QB「よく、戻ってきたね?」

まどか「……だって、あんな夢おかしいもん」

まどか「奇跡みたいなことが何の犠牲も無く起こるなんて、そんなの絶対おかしい」

まどか「あれを見続けられる人は……」

まどか「きっと、奇跡を起こすってことが、どれくらい重いことなのか知らないんだよ」

QB「へえ、初めて君と意見が合ったね」


まどか「……でも私は、そんな本当の奇跡が全く起こらないのも、おかしいと思う」


QB「……やっぱり、君の言うことはわからないや」

まどか「ふふっ、キュゥべえはやっぱりそういう人だよね」


テテテテッ…


QB「……きゅっぷい?」


――――――――――――――



……それからキュゥべえは、魔法少女の話を即興で語り続けた。


魔法少女とは、魔法を使い、悪い魔女と戦う女の子のことだ。

彼女たちは白い猫のような生き物と契約し、様々な姿に変身する。


設定はありふれていて話の展開も王道だけど、流石に得意なことと自称するだけあって、

キュゥべえの語る魔法少女の物語は実に面白く、彼女を飽きさせなかった。


彼女は毎日、彼が来るのを今か今かと待っていた。

彼にその手が握られると、内心では飛び上がりそうなほど喜んでいた。

キュゥべえが居ないときでさえ、彼女の頭は魔法少女たちのことでいっぱいだった。

あの退屈で、空虚な日々など忘れてしまったかのように……彼女の心は満たされていた。


しかしある時、彼女はキュゥべえが話を始める前に、いくつか質問をした。


彼女が知りたかったことは2つ。 魔法少女たちの名前と、この話のタイトルだった。

キュゥべえはネーミングセンスには自信が無かったのか、それらのことはずっとあやふやにしていたからだ。

困った彼は、病院によく出入りするある女の子と、その友人の名前を借りた。

そうして、魔法少女たちは名前を得たけど……タイトルはそうもいかない。

キュゥべえは散々悩んだ挙句、主人公の名前を組み込んだタイトルに決めて、彼女に伝えた。


そのタイトルは――




――魔法少女 まどかマギカ。




―――――――――――――――


QB「……さて、まどかも目を覚ましたことだし、今の状況を説明しようか」

ほむら「何かわかったの?」

ほむら「私が寝ている間、何もしていなかったというわけじゃないんでしょう?」

QB「ああ、もちろんさ……ちょっと外を回って、色々調べてきたよ」

QB「結果、いくつかわかったことがある」

まどか「……? 外? 外で、何かあったの?」

ほむら「見てみる? ひどい有様よ」


ガチャッ


まどか「……っ!!」

まどか「嘘、空が……! これって、もしかして!」


QB「ああ、君が思っている通りさ」

QB「この町は……いや、この町だけじゃない、おそらく地球全体が」



QB「一つの、巨大な結界に……覆われている」



まどか「町の人達は!?」

QB「居なかった」

まどか「居なかったって……」

QB「……ここは、見た目は現実世界に似ているけど、確かに魔女の結界だ」

QB「僕ら以外の人間たちは、今も現実世界に居るんだろうね」

ほむら「ここに引きずり込まれたのは、私たちだけ……ということね」

まどか「でも、どうして……?」


QB「……この結界の主が、何故まどかとほむら、そして僕だけをここに連れてきたのか」

QB「それは正直、わからないとしか言いようがない」

QB「何か明確な目的があるのかもしれないし、ただの気まぐれということも有り得るね」

QB「……ほむら、君はこういう経験は無いのかい?」

ほむら「…………」

まどか「そっか、ほむらちゃんは……未来から来たんだっけ」

ほむら「……残念だけど、これが初めてよ」

QB「そうか……じゃあ、やっぱりなんとも言えないね」


ほむら「……それで? 何がわかったのか、そろそろ教えてくれないかしら?」

QB「ああ、そうだったね」

QB「……わかったことは2つだよ」

QB「この結界の正体と、その主の魔女が……何なのか」

ほむら「結界の……正体?」

QB「僕の話を聞いていて、おかしいとは思わないのかい?」

QB「今、この地球は巨大な結界に覆われている……」


QB「……なのに何故、僕達以外の人間が居る『現実』なんてものがあるって言うんだい?」


ほむら「それは……」


QB「ここまで巨大な結界があったら、世界はとっくの昔に崩壊しているよ」

まどか「じゃ、じゃあここはわたし達の住んでる地球じゃないってこと?」

QB「いや、地球ではあるよ」

まどか「え? でも……」

ほむら「……まどろっこしいわね、早く説明してくれるかしら」

QB「説明しなくても、君はもうわかってるんじゃないのかい?」

QB「実際、似たような世界を何度も旅してきたじゃないか」

ほむら「え……?」

QB「……君は、何人もの『まどか』を知っているだろう? それと同じさ」

ほむら「……っ!」

QB「つまり、ここは無数に存在する平行世界の一つ……」



QB「……魔女に滅ぼされる、という可能性の先にある世界さ」


ほむら「……なるほどね」

まどか「じゃあ、この世界は……もう魔女に滅ぼされちゃった後ってこと?」

QB「そうだよ」

QB「だから人間は居ないし、地球の全てが結界に覆われているのさ」

まどか「そんな……」

QB「……そして、世界のすべてを滅ぼし、巨大な結界で覆うなんて」

QB「そんなことができる魔女は一人しか居ない」

ほむら「……じゃあ、この結界の主っていうのは、まさか……」



QB「そう……ここは、『ワルプルギスの夜』の結界さ」



――――――――――――――


――――――――――――――



そしてある時、それは彼女の元を訪れた。


キュゥべえでは無い、二人目の来客。

それは彼女に語りかけ、彼女はその声を確かに聞いた。

そして答えた。

耳も、喉も動かないはずなのに。


……それは明らかに人間では無く、「白い猫のような生き物」でも無い。


それが持ちかけてきたのは、ある契約だった。


願いをひとつだけ、何でも叶えてやる。

そのかわり、死んだ後に魂を貰う。


彼女は……当然その契約を受け入れた。

失って困るものなど、あるはずがない。

無力な、何もできない現実などあっても意味がない。

そう思ったからだろう。


彼女の願いは……現実と物語の交換だった。


歩くことも話すことも聞くことも見ることも出来ない、無力な現実を嘘にして――

――「魔法少女 まどかマギカ」という嘘を現実にすること。


彼女のその願いが聞き届けられた瞬間、世界は結界に覆われた。

人々は消滅し、空は変色し、そこにはただ……彼女と、彼女から切り離された願いだけが残った。

それ自体に意思は無く、笑いながら回転し続ける歯車に過ぎない。

……無力を呪い、現実を物語に変えることを祈った彼女の想いは、ただの舞台装置に成り果ててしまったらしい。



それが、一番最初の魔女――悪魔と契約した少女が誕生した瞬間だった。



人はそれを「ワルプルギスの夜」と呼ぶ。



――――――――――――――


――――――――――――――



ほむら「……でも、もしそれが本当なら」

ほむら「ここから出るには、あのワルプルギスの夜を倒さなくてはいけないということ?」

QB「そうだね、魔女を倒して結界自体を消滅させる以外に方法は無さそうだ」

QB「最悪、君の能力を使ってこの時間軸を脱するという手もあるけどね」

ほむら「…………」

まどか「……でもその、ワルプルギスの夜ってすごく強いんじゃ」

QB「ああ、まともに戦ってもおそらく勝ち目は無いだろう」


まどか「じゃあ、どうするの?」

QB「……それをどうにかするために、君をわざわざ起こしたのさ」

ほむら「っ!!」


ジャキッ!


まどか「ほ、ほむらちゃん!?」

ほむら「……それはさせないわ」


QB「……大丈夫だよ、その心配は要らない」

QB「別に僕は、まどかと契約しようって言うんじゃないよ」

ほむら「そんなの……信用できると思う?」

QB「信用も何も……」

QB「……今は契約自体できないんだよ」

まどか「え? そうなの?」

QB「ああ、統一意思との連絡がとれないんだ……ここには、元々存在していないんだろう」

ほむら「……本当に?」

QB「そうじゃなかったら、君を起こす前に契約してるよ」

ほむら「…………」

まどか「ほむらちゃん……」

ほむら「……わかったわ」スッ


ほむら「……でも、それ以外にどんな方法があるというの?」

QB「仕方が無いだろう、ワルプルギスの夜を倒すのさ」

ほむら「正攻法では……倒せないかもしれないわよ」

QB「なら正攻法以外で倒せばいい」

ほむら「……具体的にはどうやって?」

QB「彼女の正体を掴むのさ」

QB「彼女が魔女になった経緯、生前の人物像などを知れば、もしかしたら弱点を見つけられるかもしれない」

QB「……見つかる可能性は低いけどね」

ほむら「なるほど……」

ほむら「本人の結界の中なら、それにつながるものも無いとは限らないわね」


QB「それに加えて、僕らにはもう一つ情報源がある」

ほむら「……何?」


QB「まどかの夢さ」


まどか「夢って、さっきまで見てた……?」

QB「そう、あれはおそらく、ワルプルギスの夜が見せていたものだろう」

QB「その素材にまどかの記憶と願望が使われているのは明白だけど」

QB「わずかに、魔女自身の記憶が混じっている……かもしれない」


まどか「かもしれない、って……」

QB「……どんなに小さな可能性でも、今は賭けてみるしかないのさ」

QB「このまま何もしなければ、間違いなく君たちは死んでしまうだろう」

QB「そうなったら、こちらとしても大損だからね」

まどか「あはは……キュゥべえらしいね」

ほむら「……ふん」


まどか「でも、魔女の記憶って……どうやって見分ければ良いの?」

QB「……簡単にいえば、君の記憶に無いことを探せばいいんだけど」

QB「何か、無かったかい?」

まどか「うーん……」

QB「知らない場所、知らない物、知らない人物……どんな小さな事でもいい」

QB「きっと、そこに紛れるような記憶は、魔女にとっても思い入れの深い記憶だろうからね」

まどか「うううう……知らない物、場所……?」

ほむら「落ち着いてまどか……一つずつ、確認していきましょう」

ほむら「まず、知らない場所はあった?」

まどか「場所は……わたしの家と、学校と、通学路と……」

まどか「あの工場……は、確かさやかちゃんが初めて戦った場所だよね……」


ほむら「そうね、それは私も覚えてるわ」

ほむら「じゃあ次は……物、かしら」

まどか「物は……うーん」

まどか「家具もぬいぐるみも、学校の備品とかにも変わったものは無かった……と思う」

まどか「料理も一度作ってもらったことがあるものだったし……」

まどか「……お菓子も、全部見たことがあった……かな?」

ほむら「残ったのは……人物ね」

まどか「人かあ……」


まどか「えっと、あの夢の中で会った人達は……」

まどか「……ほむらちゃん、さやかちゃん、仁美ちゃん、マミさん、杏子ちゃん、キュゥべえ」

まどか「パパ、ママ、達也、早乙女先生、クラスのみんな……」

ほむら「……これといって、おかしな人物は居ないわね」

ほむら「道路ですれ違った人は?」

まどか「うーん……たしか、登下校と工場までしか歩いてないから……」

ほむら「ほとんどすれ違ってないか……」

まどか「……ごめん、ほむらちゃん」

ほむら「気にしなくていいわ、まだ望みが無いわけじゃない」

QB「……この世界を片っ端から捜索すれば、ヒントが見つかるかもしれないね」

まどか「うん……」


ほむら「じゃあ、探しに行きましょうか」スクッ

ほむら「まどかはここで待っていて」

まどか「うん……気をつけてね」

QB「心配する必要は無いよ、ここには使い魔すらロクに居ないからね」

QB「人間も全く居ないし、事故に巻き込まれることも無い」

まどか「………!」

QB「安心して待っていると良いよ」テテテ

まどか「…………」


まどか(あれ……今、何か……)

まどか(えーっと、えーっと……確か、今のは……)

まどか(……朝に)



まどか「……あっ!!」


ほむら「!? どうしたの?」

まどか「思い出した……思い出したよ!」

QB「?……何をだい?」

まどか「手がかりだよ! ……魔女の記憶、知らない記憶!」



まどか「わたし……知らない人の顔を見てる!!」



――昨晩起きた事故で、男女二人が……



まどか「テレビのニュースで……男の人と女の人の顔が映ってた!」



ほむら「……! それは、どんな顔だったの!?」

まどか「えーっと……紙と鉛筆、貸して!」


QB「……はい、もう持ってきてあるよ」スッ

まどか「ありがとう……たしか、こんな輪郭で……」カリカリ…

まどか「髪型はこう、顔は……こんな感じ!」カリカリ…

まどか「……できた!」バッ

ほむら「確かに、私も知らない顔ね……」

まどか「キュゥべえ、この人達、誰だかわかる?」

QB「…………」ジーッ

まどか「……キュゥべえ?」

QB「……いや、そんなまさか……でも、これは」

ほむら「? どうかしたの?」

QB「…………」

QB「……僕は、この二人を知っている」


まどか「! 本当!?」

QB「ああ、特徴をよく捉えているね……多分間違いないと思う」

ほむら「魔女の正体は?」

QB「……特定できたよ」

まどか「やった……!」

QB「でも、まだ情報は足りない」

QB「……とりあえず、病院に向かおう」

ほむら「病院? ……そこに何があるの?」

QB「あくまで予想だから、確かなことは言えないけど」



QB「病院には、まだ……本人が居ると思う」



………………………………………


………………………………………


――病院



QB「……ここだね」

まどか「この病室に、その……ワルプルギスの夜が、居るんだ」

QB「ああ、魔女になる前の姿でね」

ほむら「……で、結局それはどういうことなの?」

ほむら「魔法少女だったころの、体だけが残っているということ?」

QB「いや……正真正銘、生きた彼女が居るはずだ」

ほむら「………?」

QB「まあ、それについては後で説明するよ」

QB「今はとりあえず、彼女の姿を確認する方が先だ」

ほむら「……まあ、そうね」

QB「…………」


まどか「じゃあ、開けるよ……」


ガラララララ…



???「…………」ピッ… ピッ…



ほむら「……なっ! これは……」

まどか「え……そんな、嘘でしょキュゥべえ!?」

QB「いいや、彼女が間違いなく……ワルプルギスの夜だ」

まどか「で、でも……だって!」




まどか「……この人、マミさんじゃない!」




QB「そうさ、この子は巴マミだ……さっきの二人は、マミの両親だよ」ピョン


QB「……これが、ワルプルギスの夜の正体さ」ナデナデ


マミ「…………」ピッ… ピッ…

まどか「そんな……だって、マミさんはもう!」

ほむら「……あくまで、別時間軸での巴マミよ」

ほむら「私達の知っている彼女では無いわ」


まどか「あ、そっか……」

まどか「…………」

まどか「……ほむらちゃんにとっての、今の私みたいなものなんだね」

ほむら「まどか……」

ほむら「……ええ、そうね」



ほむら「私達の、大切な先輩であることに……変わりはないわね」



まどか「……うん」


QB「……ふむ、なるほどね」ボウ…

QB「そういうことか……」

ほむら「情報の回収は済んだの?」

QB「ああ……全てわかったよ」


QB「ワルプルギスの夜が何なのか」


―――――――――――――――


―――――――――――――――



ワルプルギスの夜は、誰も居ない結界の中でしばらく回り続けていた。


しかし、それでは彼女―― 巴マミの願いが叶えられたことにはならない。

彼女の願いは、現実を物語に変えること。

そしてその物語は、魔法少女が主役なのだ。


やがてワルプルギスの夜はその世界を離れ、平行世界を回って、少しずつ物語に変えていくことにした。

魔女は時空を超えて過去に飛び、魔法少女の種としてインキュベーターをばら撒いた。

インキュベーターたちは契約を通して魔法少女を、ひいては魔女を作った。

そして時はめぐり、物語の主人公……鹿目まどかのもとにも、インキュベーターが現れる。

まどかはインキュベーターと契約し、魔法少女となるだろう。

仲間たちと力を合わせ、時には衝突しながら困難を乗り越えていくだろう。

そうして仕上げに、自分自身をまどかの最後の敵に添えれば……完璧だ。


それこそ魔法少女 まどかマギカ。 それはもはやただの物語ではなく、現実となった。

嘘と現実は入れ替わり、巴マミの願いは叶えられた。


……ただ一つ、誤算だったのは。

マミは、この物語が最後にどうなるのか……まだ、聞いていなかった。

そして、もう二度と聞く機会もなくなってしまった。

これでは、どのように終われば良いのかわからない。



だから、ワルプルギスの夜は永遠に回転し続ける。



―――――――――――――――


―――――――――――――――



QB「……そもそも、この世界には魔法少女なんて存在していなかった」

QB「当然魔女も、インキュベーターも」

ほむら「……じゃあ巴マミは、ワルプルギスの夜はどうやって生まれたというの?」

QB「多分、僕らのような存在は居たんだろう」

QB「人間の願いを叶え、その代償としてエネルギーを採取する地球外生命体はね」

QB「ただ、そのやり方は今よりもずっと非効率的だった……」

ほむら「……それを改善するために、巴マミの願いを利用した?」

QB「そう、彼らはより効率的なエネルギー採取のため、魔法少女という概念に目を付けた」

QB「……普通の人間は、願いを叶えると言われても大したことをするわけじゃないだろう」

QB「富、地位、名声……もしくは大切な人の蘇生か、能力の向上かな」

QB「そんな願いをいくら叶えても、彼らには何のメリットもない」


QB「……ただ、マミの願いは違った」


QB「交通事故で両親を亡くした上に、感覚と体の自由を失ってしまった彼女にとっては……」

QB「……この世界に、欲しい物など何も残されていなかったんだろう」

まどか「…………」

QB「彼女にとっては、キュゥべえというあだ名の医師が語る魔法少女の物語だけが全てだった」

QB「だから、マミは世界を変えることを願ったんだ」

QB「魔女と戦う魔法少女が存在する、まるでフィクションのような世界をね」

ほむら「……奴らにとっては、都合が良い願いね」

QB「そうだね……彼らは猿の手の話のように、その願いを歪んだ形で叶えたんだろう」

QB「そして、より効率のいいエネルギーの回収システム……」

QB「……魔法少女とインキュベーターを手に入れた」


ほむら「あなた達も……ただの駒に過ぎなかったということ?」

QB「残念だけどそういうことみたいだ」

まどか「……じゃあ、わたし達の知ってる魔法少女の仕組みは、マミさんが……」

まどか「……ワルプルギスの夜が、作ったの?」

QB「正確には、インキュベーターをばら撒いただけだけどね」

QB「まあ、全ての魔法少女を滅ぼすほどの力を持った魔女だし」

QB「全ての魔法少女を生み出すほどの祈りによって生まれたとしても、おかしくはないだろう?」

まどか「…………」


ほむら「……でも、そんな魔女を一体どうやって倒せば良いの」

ほむら「舞台装置だけが独り歩きしている以上……」

ほむら「例えここに居る巴マミに何かしても、影響は与えられないんじゃないかしら?」

QB「そうだね……でも大丈夫」


QB「一応、ワルプルギスの夜に対抗する手段は思いついたよ」


まどか「……! じゃあ、倒せるの!?」

QB「成功する確率はかなり低いけどね」

ほむら「何でもいいわ、やりなさい」

ほむら「ここでワルプルギスの夜を倒せたら……いろんなことが上手くいくかもしれない」

ほむら「あなた達だって、彼女の呪縛から解放されるかもしれないんだから」


QB「…………」

QB「……わかった、やろう」

QB「ただ、少し時間がかかると思うから……」



――ズンッ!



まどか「!?……何、今の音?」

ほむら「……この、感覚!」ゾクッ…



――オオオオオオオオ…



QB「……まずいね」


QB「どうやら、ここの主に見つかってしまったみたいだ」

まどか「そ、それって……まさか」

QB「ああ、多分……」




――アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!




QB「……ワルプルギスの夜が来た」



ズズン…



まどか「きゃっ……!」グラグラ

ほむら「まどか!」ガシッ

まどか「あ、ありがとう……」

QB「……まさか、僕らが元居た世界を放り出して、ここに帰ってくるなんてね」

ほむら「どういうこと? 奴の目的は、世界を戯曲に変えて回ることじゃないの!?」

QB「多分、彼女は魔法少女との対決を求めて来たんだろう」

QB「魔法少女と敵対する存在、魔女こそが……この物語での、彼女の役割なんだから」

ほむら「そうか……あの町にはもう、まどかが居ない……!」


QB「……ふう」

QB「どうやら……ここで終わりみたいだね」

まどか「え? キュゥべえ……?」

ほむら「…………」



QB「……ほむら、時間を巻き戻すんだ」



まどか「えっ……あ、諦めろって言うの!?」

ほむら「…………」

QB「仕方が無いよ……今から手を打とうにも遅すぎる」

QB「おそらくその前に、この病院ごと破壊されてしまうだろうね」

まどか「そんな……」


QB「もしそんなことになれば、全ておしまいだ」

QB「ここに至るまでの苦労も、犠牲も……全て水の泡になってしまう」

QB「……それなら、君だけでも時間を巻き戻して、この時間軸を脱したほうが良い」

ほむら「…………」

まどか「……ほむら、ちゃん」

ほむら「…………」クルッ スタスタ…

QB「ほむら?……何をやっているんだい」

QB「早く能力を使って、時間を巻き戻すんだ! 間に合わなくなるよ!?」



ほむら「……その必要はないわ」



QB「なっ……」


QB「……まさか、戦うつもりかい?」

ほむら「ええ、手持ちの武器ならまだいくつか残っているし」

QB「そんな装備で、倒せるはずが無いじゃないか……」

ほむら「……何を言っているの?」

ほむら「私は、時間を稼ぐだけで良いんでしょう?」

QB「えっ?」


ほむら「……あなたが、その対抗手段とやらを試すまでの時間を」


QB「………!」


QB「……僕を信用するというのかい? 君が?」

ほむら「勘違いしないで」

ほむら「ただ、それしか手が無いだけよ」

QB「わけが……わからないよ」

QB「どうしてそこまで、この時間軸にこだわるんだい?」

QB「君は既に、ワルプルギスの夜に対して大きな知識を得ている」

QB「それを持ち越して、次の機会に活用した方が効率的じゃないか」


QB「なぜわざわざ、危険な賭けに……」

ほむら「…………」

ほむら「……私の後ろに、まどかが居て」

まどか「………!」

ほむら「彼女を守れる可能性が、少しでもあるのなら……」




ほむら「……そこが私の、戦場だから」





バッ!



………………………………………



まどか「……行っちゃったね」

QB「止めないんだね? ……少し意外だったよ」

まどか「…………」

まどか「……信じてるから」

まどか「ほむらちゃんも、キュゥべえも」

QB「…………」


まどか「……それに、マミさんも」


QB「え?」

まどか「わたし、思ったんだ……わたし達が、この結界に連れてこられた理由はさ」

まどか「……マミさんが呼んだから、なんじゃないかな、って」


QB「マミが、僕らを……?」

まどか「そう……ワルプルギスの夜じゃなくて、この、マミさんが」


まどか「ワルプルギスの夜を止めてもらいたくって……呼んだんじゃないかな?」


QB「…………」

まどか「マミさんはきっと、希望を振りまく魔法少女が見たかっただけで」

まどか「こんな……こんな魔女ができることは望んでない」

まどか「だから、わたしと、ほむらちゃんと、キュゥべえに……」

まどか「……助けてもらうために、呼んだんじゃないかな?」


まどか「だから、キュゥべえなら……絶対できるよ!」

まどか「マミさんを、助けてあげられるよ! きっと!」



まどか「……わたしは、そう信じてるから」



QB「……君の言うことは、いつもそうだね」

QB「不確かで、想像の域を出ない夢物語ばかりだ」


まどか「…………」

QB「……でも」


QB「その確率も……0じゃないね」


まどか「……っ!」

QB「こんな状況、最初で最後だろうし……」




QB「……僕も賭けてみようか、その希望に」



……………………………………………………



――ドガッ!



ほむら「くっ……! うあああっ!!」ゴロゴロ…



ワルプルギスの夜「アハハハハハハハハハハハハハハ…」



ほむら「はあっ、はあっ……ぐっ!」スクッ

ほむら「……まだ、終わらないわよ」ジャキッ!



ドガガガガガガッ!


ほむら(……ここで終わるなんて、そんなの認めない!)ポイッ



ワルプルギスの夜「アハハハハハハハハハハハハハ…」



ほむら(私はまどかを助けて……一緒に、幸せに生きたい!)ズッ…


……ジャキンッ!


ほむら(助けられればそれで良いなんて、そんなの嘘)カチッ


ガガガガガガガガガッ!


ほむら(やりたいことも、話したいことも……まだ一杯ある!)ポイッ


ワルプルギスの夜「アハハハハハハハハハハハハ…」


ほむら(終わるどころか、まだ始まってすらいないのに!)ズッ…


ジャキンッ!


ほむら(同じ所をぐるぐる回り続けるのは……もううんざりよ)バッ!



ワルプルギスの夜「アハハハハハハハハハハ…」




ほむら「だから今! ここで!……あなたを倒す!」ジャキッ



ドガンッ!



…………………………………………………

――病院



まどか「……でもキュゥべえ、どうやってワルプルギスの夜を倒すつもりなの?」

QB「……ワルプルギスの夜は、マミが聞かされた物語を元に世界を塗り替えている」

QB「でもおそらく、その物語が完結する前に……彼女は魔女になってしまったんだろう」

QB「だから最後にどう振舞っていいのかわからず、永遠に回り続けているのさ」

まどか「あ……じゃあ、そのお話を完結させれば」


QB「……それに沿った内容に、行動を変化させられるかもしれない」


まどか「なるほど……それなら、なんとかなるかも!」

QB「……でも、これには問題があってね」


QB「彼女にこの物語を語って聞かせていたのは……あくまで医師のキュゥべえだ」

QB「僕は、その代替物としては不十分かもしれない」

まどか「あ……」

QB「そもそも、マミが僕の作ったストーリーを受け入れてくれるかもわからないのに」

QB「感情もろくに無い僕が、物語を作るなんて……」

まどか「……わたしが、代わりに考えようか?」

QB「駄目だろう……あくまで、キュゥべえが語った物語でないと意味がない」

まどか「そっか……」


QB「……でも、やるしかないさ」ピョン


まどか「……うん、そうだね」



QB「じゃあ、始めるよ」スッ…


―――――――――――――――



僕は、だらんと投げ出されたままになっているマミの手に、前足を載せた。

その瞬間、マミの人差し指が三回動く。

確か……これは、キュゥべえへの挨拶だ。

彼女は、僕が語り始めるのを待っているんだろう。


……本物のキュゥべえなら、きっとすぐに語り出せたに違いない。

彼女の頭を優しくなでてやったりしたに違いない。

でも情けないことに、僕は頭の中でストーリーをまとめるのに精一杯だった。


よし、内容は大体決まった。

後は、語って聞かせるだけだ。


僕は筆のような形をした尻尾を使って、マミの小さな手のひらに文字を書き始めた。

テレパシーでは意味がない。

キュゥべえはこうやって彼女と会話していたんだから。



――やあ またせたね

――さびしかったかい?



マミの指先が、小さく二回、震えた。


―――――――――――――


……さて、お話の続きをしようか。


時を止める黒い魔法少女、ほむらは、ついに最大の魔女の元にたどり着いた。

その名はワルプルギスの夜。

魔法少女の、最大にして最後の敵さ。


なのに、戦える魔法少女はほむらだけだった。

他の魔法少女たちは皆戦えなくなり、倒れてしまっていたんだ。

皆の中で一番強かった、まどかでさえね。


―――――――――――――



ワルプルギスの夜「アハハハハハハハハハハハハハ…」



ほむら「……っ、あ」ヨロッ

ほむら(次の、武器を……)ズッ…

ほむら「……え?」


ほむら「もう……武器が、無い?」


ワルプルギスの夜「アハハハハハハハハハハハハ…」スイッ…


ほむら「……っ!」


―――――――――――――


……勝てないと思うかい?

そうだね、ほむらは一番弱い魔法少女だったから、そう思っても無理はないね。

体が弱くて、内気で、泣き虫で、すぐに逃げ出して……いつもまどかの後ろに隠れていて。

唯一、戦うための武器を持っていない魔法少女……それがほむらだった。


……でもね。 それは彼女の本当の姿じゃなかったんだ。

戦えないまどかを背に、堂々と敵に立ち向かった彼女は……


その時初めて、真の魔法少女になった。


―――――――――――――



ワルプルギスの夜「アハハハハハハハハハハ…」ズオオオ…



ほむら「っ!?」

ほむら(……まずい)

ほむら(病院のある方に……向かってる!)



ワルプルギスの夜「アハハハハハハハハハハ…」



ほむら「……だ、め」ヨロッ

ほむら「あそこには……まどかが居るのに……っ!」



――カッ!



ほむら「……っ!?」パアアアア…


―――――――――――――



……背中には一対の巨大な翼が生え、左手には盾の代わりに弓を持っている。

本当のほむらは、まるで天使のような姿をしていた。


もう時を止める必要も、巻き戻す必要もない。 他人から借りた武器も必要ない。

ただ、目の前の敵に矢を放てば良い。


なんたって彼女は、絶望の中にいる魔女を救い、人々に希望を振りまく――




――魔法少女なんだからね!



―――――――――――――


ワルプルギスの夜「アハハハハハハハハハ… ハハ」


ワルプルギスの夜「…………ハ?」


真ほむら「…………」バサッ…


ワルプルギスの夜「アハ… ハハハハハハハ!」


ゴッ!


真ほむら「…………」グッ…



ドガガガガガガガガガガッ!!



ワルプルギスの夜「…………!?」ビキビキビキッ!


ワルプルギスの夜「……アハハ……」フラッ…

ワルプルギスの夜「アハハハハハハハハハハハハハッ!!!」ゴッ!!

真ほむら「…………」



真ほむら「……はっ!」バサッ!



ブワッ!!



ワルプルギスの夜「ハ………」グラッ…



…ズズン


真ほむら「……次で最後よ」グッ…


ワルプルギスの夜「ハ……ハ……」


真ほむら「ワルプルギスの夜……」ググッ…

真ほむら「……いえ、巴マミ」ギリギリギリッ…


ワルプルギスの夜「……ハ……」


真ほむら「あなたも、今までずっと一人で……辛かったでしょうね」


ワルプルギスの夜「…………………」

真ほむら「……だから」


…ギリッ


真ほむら「……もう、これで最後にしましょう」


ワルプルギスの夜「………………フフ」





真ほむら「……ティロ・フィナーレ!!」バッ!





――バキッ!!




―――――――――――――



ほむらの放った最後の矢は、ワルプルギスの夜を粉々に砕いた。


彼女はついに、その親友を守りぬいたのさ。

僕には想像もつかないけど、二人にはこれからきっと……幸せな未来が待っているんだろうね。



……これでおしまいだ。



そう、これでこの話は終わり。 フィナーレだよ。

ああ……ありがとう。



君に会えてよかったよ、マミ。


―――――――――――――


まどか「……っ!」

まどか「ほむらちゃん……すごい、天使みたい……」


QB「どうやら、成功したようだね」ヒョコッ

まどか「キュゥべえ!」

まどか「……マミさんは?」

QB「一応納得してくれたよ」

QB「陳腐で、打ち切りみたいな終わり方だけど……」


QB「……一応ハッピーエンドだから、許すってさ」


まどか「……キュゥべえは――」



…グラッ


まどか「っ!? ……な、何? 今の」

QB「大丈夫さ、もうワルプルギスの夜は居なくなった」

QB「今の揺れは、この結界が揺らいだために起こっただけだよ」

まどか「揺らいだって……もしかして、ここは」


QB「ああ……もうすぐ崩壊するんじゃないかな」


まどか「!!」

QB「主人を失ったんだ、当然だろう?」

まどか「で、でも……そしたら、マミさんは?」


QB「この時間軸ごと、無かったことになるだろうね」

まどか「…………」

QB「仕方ないさ……ワルプルギスの夜を生み出した時点で、いつかはこうなる運命だった」

QB「それでも、最後に君たちに会えて幸せだっただろう」

まどか「そう、かな……」

QB「どうせ確認する時間なんて無いんだ、そう思っておけばいいさ」

まどか「……もう、すぐそういうこと言うんだから」



QB「僕の言葉に変な期待をしないほうが良いよ」

まどか「ふふ……わかってるよ」


…グラッ


まどか「あ、また……」

QB「……そろそろ、時間切れだね」


まどか「…………」

QB「さあ、君ももう行くといい」

まどか「……え?」

QB「多分何の害も無いとは思うけどね」

QB「一応、ほむらの近くに居た方が安全だろう……」

QB「今の彼女なら、何が起ころうとも危険は無いはずだから」

まどか「いや……そうじゃなくて」

まどか「キュゥべえは……? 一緒に来ないの?」

QB「……当たり前じゃないか」

QB「僕はあくまで、マミの願いによって生み出された存在……いわば役者側なんだから」



QB「この世界と……マミと共に、消えるよ」


まどか「……っ!」

QB「……わけがわからないね、どうして君がそんな顔をするんだい?」

QB「これでもう、魔法少女が生まれることは無い……」

QB「……君にとっては喜ばしいことだろう?」

まどか「……いじわる」

まどか「そんな風に、思えるわけ……ないじゃない」

QB「…………」

まどか「……うっ、ぐすっ……」


…グラッ


QB「……まどか」

QB「もう、僕のことなんて忘れてしまったほうが良い」

まどか「………!」

QB「僕は所詮、君たちの敵だ……覚えていたってどうにもならないよ」

まどか「そんなこと……」

QB「事実さ」

QB「君がどれだけ僕のことを知ろうとそれは変わらない」

QB「僕が契約をしてきたことが、無かったことになるわけじゃない」

まどか「…………」


QB「……そんなことよりも、君は先のことについて考えるべきだ」

まどか「え……?」

QB「これからどうやって生きていくのか、困難に当たったらどうすればいいのか」

QB「それを、考えていくんだ」



QB「それこそ……僕やマミには、もう出来ないことなんだからね」



まどか「……あっ」

QB「都合のいい奇跡や魔法は使えなくなるよ」

QB「でも君には良い友人も居るし、歩くことも話すこともできる」

QB「……もう、インキュベーターなんて必要ないんだ」

QB「そうだろう? まどか」


まどか「……うん!」グシグシ



…グラッ


QB「……わかったのなら、もう行くんだ」

まどか「うん……」




まどか「……ばいばい、キュゥべえ」


QB「……さようなら、まどか」




タッ タッ タッ タッ タッ タッ…



…………………………

…………………

………


―――――――――――


……さて。


彼女も行ったことだし、そろそろ話を始めようか。


名前なんて知らないけど、僕の上司にあたるのかな?

魔法少女ができる前に、人間の願いを叶えていた存在。

どうやら、君たちがエネルギーとして採取しているのは魂そのもののようだけど……

僕にも一応、魂くらいはある。



それを代償に、叶えて欲しい願いがあるんだ。



―――――――――――


――まどかの部屋



チュン… チュチュン…



ガバッ!



まどか「……あれ?」


まどか「わたしの、部屋?」

まどか「…………」

まどか「……あ! そうだ!」


ゴソゴソ… カパッ


まどか「…………」ピッ ピッ ピッ…


プルルルルルルル… プルルルルルル…


まどか「…………」ゴクッ


プルルルルルルル… プルルルルルル…


ガチャッ


さやか『……はい、もしもし……』

まどか「!!……さやかちゃん?」


さやか『あー……まどか……?』

さやか『朝っぱらから、何の……用……』

まどか「さやかちゃん? さやかちゃんだよね!?」

さやか『はーい……そうですけどー……』

まどか「……っ!!」ブワッ

さやか『まどかー? もしもーし?』

まどか「良かった……」



まどか「さやかちゃんが、生きてる……」

まどか「夢じゃなかったんだ……!」ホロホロ



さやか『……はい?』


………………………………


――教室



さやか「……で? 結局朝のはなんだったのよ?」

まどか「あ、あはは……えーっと」

まどか「……色々あったんだよ、うん」

さやか「色々って何? 何があったらあんなことになるわけ!?」

まどか「あー、その……」


ほむら「そのくらいにしておきなさい、美樹さやか」ファサッ


まどか「……ほむらちゃん」

ほむら「誰にだって話したくないことくらいあるでしょう?」


さやか「ほっほう……転校生のくせに生意気だなー?」ガタッ

ほむら「……え?」

さやか「そんな悪い子は……」


さやか「……こうしてやるー!」バッ!


ほむら「なっ……ひゃあっ!?」

さやか「あちゃー、まどか以上に控えめだなー」モミモミ

まどか「ちょっ、さやかちゃん!?」

ほむら「や、やめっ……ふあっ!」


さやか「ぐへへへへ! ここか? ここか!?」

ほむら「いい……加減にっ……」

ほむら「……しろっ!!」


ドスッ!


さやか「ぎゃああああ!? 目があああああ!!」ゴロゴロ


ほむら「ふーっ、ふーっ……」

まどか「ほむらちゃん、それは流石にやり過ぎじゃあ……」

ほむら「……言ってわからないバカは殺すしか無いのよ」

さやか「」ピクピク

ほむら「さ、行きましょうまどか」グイグイ

まどか「う、うん……」テテテ


……………………………………


――屋上



ほむら「ふう……」

まどか「大丈夫? 疲れちゃったかな?」

ほむら「……いえ、平気よ」

ほむら「でも、流石に前のようには行かないわね」

ほむら「美樹さやか如きにあそこまでやられるなんて……」

まどか「ほむらちゃんって、契約する前は病弱だったんだね……」

ほむら「……そうね、自分でも半分忘れてたわ」

ほむら「この眼鏡をかけるのも、随分久しぶりだし」クイッ


まどか「わたしは見るの初めてだけどね」

ほむら「……そうだったわね」

まどか「結構似合ってるよ?」

ほむら「あ、ありがとう……」

まどか「えへへ、どういたしまして……」



まどか「……それで、マミさんは?」

ほむら「…………」

ほむら「三年生の教室には、居なかったわ」

まどか「……そっか」


ほむら「美樹さやかの生存や、私の身体能力が落ちていることからすると……」

ほむら「……やっぱり、キュゥべえの存在そのものが消えている可能性が高いわね」

まどか「もしそうだとしたら、マミさんは……」

ほむら「…………」

ほむら「……奴との契約が無ければ、彼女は事故で大怪我を負うはず」


ほむら「あの結界の中で見たような状態に……なっているかもしれないわね」


まどか「…………」

ほむら「……まどか」ギュッ

ほむら「まだそうと決まったわけじゃないわ」

ほむら「病院にも行かなければ、なんとも言えない……」

ほむら「……放課後に、寄ってみましょう」

まどか「……うん」ギュッ


…………………………………



――病院前




まどか「…………」

ほむら「まどか?」

まどか「あ……ごめん」

まどか「なんか、怖くなっちゃって」

ほむら「……私だけで見てきましょうか?」

まどか「ううん、わたしも行く」

ほむら「……そう」


まどか「……でも」

まどか「もし、マミさんが居たら……どうしよう?」


まどか「もう、契約して治すこともできないのに」


ほむら「まどか……」

まどか「……ごめん、変なこと言っちゃったね」

ほむら「……まどかは、その……」



???「……君たち、マミに会いに来たのかい?」



まどか「えっ?……あっ!!」

まどか「あ、あなたは……」

???「……ああ、びっくりさせちゃったかな?」

まどか「あ、いや、その……」アタフタ

医者「大丈夫、一応ここの医者だから怪しい者じゃないよ」

ほむら(この声、それに白髪……まさか!)


まどか「……キュゥべえ、なの?」


医者「え?」

医者「……たしかに、僕のあだ名はキュゥべえだけど」

医者「どうして君が知ってるんだい?」

まどか「……あっ! えっと、それは……」


ほむら「……巴マミから聞いたんです」

医者「ああ……」

医者「じゃあ、君たちはマミのお友達なんだね」

ほむら「!……ええ」

まどか「あっ……あの!」


医者「ん?」

まどか「マミさんは、今どこに……」

医者「え? マミなら……」




マミ「……久部先生? その子たちは?」





まどか「……っ!!」


久部「ああマミ……丁度いいところに来たね」

久部「私服みたいだけど、また学校をサボったのかい?」

マミ「うっ……ご、ごめんなさい」

久部「……まあいいか」

久部「それより、お友達が君を探してたみたいだよ」

マミ「? ……友達?」

久部「違うのかい?」

マミ「うーん……知り合いでは無いけど」

久部「そうなのかい? じゃあ勘違いかな……」

久部「君にも友達が居るのか、って安心したんだけど、残念だね」

マミ「……ちょっと、それどういう意味かしら?」


久部「さあ、どういう意味かな?」

マミ「もう……あっ、そういえば」

マミ「あなた達、探してる人はどんな……」クルッ



ガバッ!



マミ「……え?」

まどか「マミ、さん……」ギュウウウ…

マミ「あ、あのー……」


まどか「……うわあああああん!」ドバーッ


マミ「えーっ!?」


マミ「え、えっと……え? 何で泣くの!?」

まどか「うわあああああん……」

マミ「えーっ……」

マミ「……よ、よしよし」ナデナデ

まどか「うっ……ひっぐ……」



久部「…………」ポカーン

ほむら「…………」ポカーン


ほむら(……キュゥべえのモデルになった医者はともかく、何故巴マミが……)

ほむら(まさか、本当に奇跡が起こったわけでも無いだろうし……)

ほむら「……あっ」

ほむら(そうか、まだ願いを叶える存在は残ってるのね)

ほむら(魔法少女が生まれる原因となった、巴マミの願いを叶えた何者か……)

ほむら(……彼らに、誰かが巴マミの生存を願ったのなら)

ほむら(誰が? それは当然……)


ほむら「……キュゥべえ、か」


久部「……君」

ほむら「へ? あ、はい!」

久部「彼女は……どうして泣いてるのかな?」


ほむら「そ、それは……」

久部「……答えにくいなら、別に良いよ」

久部「マミに、君たちみたいな知り合いができたっていうだけでも喜ばしいことだからね」

ほむら「……そうなんですか?」

久部「……僕は精神科医でね」

久部「マミの家族が交通事故で亡くなった時に、彼女の担当になったんだ」

久部「当然だけど、心に大きな傷を負ってしまっていて……」

ほむら「…………」


久部「今はもう、ほとんど克服したみたいだけど」

久部「それでも時々、夢に見たりするらしくてね」

久部「そういう時は決まって、学校をサボってから僕のところに来るのさ」

ほむら(……だから学校に居なかったのね)

久部「……でも、あの子が居たらそういうことも無くなるかな?」

久部「えっと……そういえばまだ名前を聞いてなかったね」

ほむら「……私は暁美ほむら、彼女は鹿目まどかです」

久部「へえ、いい名前だね」

ほむら「…………」



ほむら「……それは、どっちが?」

久部「……どっちもさ」


…………………………………


マミ「…………」

マミ(……あー)


マミ(……全部、聞こえてるんだけどな……)


マミ(全く、キュゥべえも好き勝手言ってくれるわね)プンスカ

マミ(私にだって友達くらい居るわよ……佐倉さんとか)

マミ(た、確かに学校には少ないかもしれないけど、それは入院していたからであって……)

まどか「……マミさん?」

マミ「へっ? ……あ、もう落ち着いたかしら?」

まどか「はい……すみません、いきなり」


マミ「気にしなくていいわ、このくらい」

マミ「……でも、どうしてあんな風に?」

まどか「え、えーっと……」

まどか「……マミさんに、会えたから」

マミ「え?」

マミ「あなたとは初対面だと思ってたけど、どこかで会ったかしら?」

まどか「うっ……そ、それは、その」

まどか「……まあ良いじゃないですか!」


まどか「今は知らなくても、これから思い出を作っていけば良いんですから」


マミ「そう、かしら?」

まどか「そうですよ!」

マミ「……はあ」


マミ(やっぱり、わけがわからないわ……)


―――――――――――――――



……そう、マミを事故から生還させてほしい。 無傷でね。


それが、僕が魂をかけるに値する願いさ。


魔法少女と魔女を消し去っても、また同じ状況になったら意味がないからね。

僕一人の魂でも、それくらいなら叶えられるだろう?


……なんでそんなことをするのかって?


僕には、まだ感情というのが何なのかはわからない。

でも、考えはすこし変わったんだよ。

まどかに影響されたのかな? ……それだけでも、奇跡みたいなことだけどね。


でも……




QB「少しくらい、本当の奇跡が起こってもいいじゃないか」




以上 こんな長々と付き合ってくれてありがとう オリジナル設定が多くてごめんね

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom