キリコ「…IS学園?」(155)

俺はまた戻ってきた。

空白の32年、それは俺に何も与えてくれなかった…

――キリコ…私はお前の生き方を、認めん!――

かつて「ネクスタント」と呼ばれた女の声が俺の頭の中に響く

過ぎ去った過去、消えぬ硝煙の匂い、交易都市グルフェーでの戦い

何も残りはしなかった。全ては塵と消えたのだ…そう全て

「…あれはなんだ?なぜあんなものを持っている。答えろ」

目の前の女が問う、俺は再び戦いに巻き込まれる予感を感じていた…

「あれはATだ。アーマードトルーパーと呼ばれる装甲騎兵だ」

「ふむ……」

女は発言を聞くや否、感心したような息を吐いて佇む騎兵を見つめた
長身且つスーツ姿と呼ばれる衣服に身を包んだ姿が印象的な女性
胸元に付けてある名刺を見る限り「織斑 千冬」と読める女性は再び訪ねた。

千冬「ではもう一つだけ問おうか。なぜ、そんなものを持って何故この学園にいる。」

今居るのは薄暗くATが入るほどの広さをもった一種の格納庫のような場所だった
千冬の言葉を受けた赤い耐熱服の青髪の男は学園、と聞くと少しばかり不思議そうな面で見返した
だが、体に纏わりつく警戒の気を解くことは未だなかった

キリコ「……」

千冬「答えたくないのか?…それとも、記憶を失っているのか。」

千冬「ここはIS学園。現世界で最強と呼ばれる兵器“インフィニット・ストラトス”、通称“IS”を使えるものを育成する学園だ」

キリコ「IS……」

キリコがその言葉を口に出すと千冬は小さく頷いた。
初めて聞くその名前にもキリコは恐ろしい程冷静だった
所詮、戦争と言う点ではATと同じだろう。使われる道具という点では…と。

そして、キリコは千冬から多くの事を聞いた
男女の社会的パワーバランスが一変、女尊男卑が当たり前になってしまった時代、兵器ISの出現

千冬「…そして、次はこのATとやらだ。こんな物を一般市民が、いや、企業や政府が作り出したとは考えにくい」

千冬「場合によってはお前はテロリストの容疑を掛けることも出来る。その他、この学園への不法侵入及び銃刀法違反」

千冬「今からでも告知するには十分な素材だ。」

信じるはずがあるまい。自分はアストラギウス銀河の人間だと言う事を、触れ得ざる者としてしてされた事を
キリコ・キュービィーとはそういう存在であり、それをこの世界の人間達に説く事など初めから無理と言う事だ
ましてや鉄の装甲騎兵を所持し腰に装着する「バハウザーM571アーマーマグナム」と呼ばれる拳銃を所持しているとなれば尚更の事だった。

千冬「……だが。」

千冬「それを言うのは無しだ。そのかわりお前はこの学園に入学してもらおう」

キリコ「ここに、だと?」

千冬はそう言い切った。
真っ直ぐと、凛とした表情のまま驚いた声を上げたキリコに対して千冬は続ける

千冬「仮に、私が政府や他の奴らに言いふらしたとしよう。お前はこの学園からもおさらば、私達も余計な面倒をせずに済む」

千冬「だがもし、そうやって言いつけた後のことはどうなるか。恐らくだが、このATとやらを利用する奴が出てくるだろう」

千冬「見た所、ISほど複雑な構成はしていない筈だ。専用機を作るにしても量産をするにしても十分すぎるものと言えるだろう。このATとやらは」

千冬「もしそんな事が起きるとしたら…まぁ、後は言わずとも分かるだろう。」

100年戦争…キリコは一人、あの地獄のような戦争を思い出していた。
確かに千冬の言う事は可能性としては捨てられない。ISと呼ばれる兵器が開発されている以上、ATを分解するなど容易い作業だろう
だが、それは織斑 千冬と言う個人に対しても言える事だ。今の状況はこれを独り占めしている他ない。

千冬「見た所、日本出身ではなさそうだからな。ここから先、あてもない旅をするのが好みならもはや何も言うまい」

打ち明けてはいないがアストラギウス銀河に居たキリコは日本の事など知るわけもなかった。
もはや決められる答えは一つか。キリコは口を開いて告げた

キリコ「分かった。それでいい」

今の所、この千冬と呼ばれる者を信じるほかないだろう。
見も知らぬ男を学園に入れその身の保証をする千冬にとっても同じ事だろうが。

千冬「決まりだな。私が入学の手続きを行っておこう。心配するな、何もこれらの兵器を悪用するほど下種ではないさ」

千冬「このATとやらはこの貨物庫に置いていけ。学園からは場所が近いし気になったら直ぐに見に来れるだろう」

千冬「それではな。またその時になって会える事を期待する。キリコ・キュービィー」

それだけ言うと千冬は歩き始め学園に来る日時と時刻をキリコに伝え格納庫から出て行った。

キリコ「……」

――登校日~初日―――

真耶「はい、みなさん、今日はなんと転校生を紹介します!」

眼鏡を掛けた少し小さめの副担任、山田真耶の声が教室に響き渡る
それまで友達同士と雑談の繰り広げていた女子生徒の声は収まりつつ、真耶の方へ向いていた

最前列の左端に座る少女、篠ノ之箒にもその声は聞こえ皆が皆、転校生と言う言葉に惹かれていた

扉が自動でスライドし転校生と呼ばれた者が教室へ入り込んできた
途端、ある者は唾を飲みこみ、あるものはその姿を直視しじっくりと観察した
赤い耐熱服、短く切り揃った青髪、まるで地獄でも見たかのような蒼い瞳

キリコ「キリコ・キュービィーだ」

キリコ「…宜しく、頼む」

その瞬間、黄色い歓声が教室を包み込んだ

転校生についての情報は「ISを扱える優秀な者」とだけしか伝わっていなかった

誰もが予想付かなかったであろう「男」と事実が今、確証へ変わった瞬間だった。

クラスは一気に盛り上がり華々しい声に導かれ、キリコはIS学園への入学を済ませたのだった。

箒「………」

その歓声の中、ただ一人だけ篠ノ之箒は席へと座るキリコを睨み続けていた。

キリコ「………」

生徒「あの人よ、なんでも男性なのにISを使える人って!」

生徒「変だなぁ、そんな事ならニュースとか誰か知っててもおかしくないと思うんだけど…」

生徒「いいじゃない、いいじゃない、それよりも私行っちゃおうかしら…」

生徒「待ってよ、抜け駆けするつもりじゃないでしょうね!」

女子生徒が騒ぐ様子も含め、生まれて初となる教室の姿をキリコは見ていた

幼い頃から戦争の中へ足を入れ込んだキリコにとってこの現実は慣れないものであった

爆炎と機銃の音、赤い肩をした悪魔たち、皮肉にも地獄に居た方が落ち着いていたのだと実感していた。


箒「………嫌な、目だ」

ぼそり、と小さく呟く。まるで誰も寄せ付けない雰囲気を纏うキリコに対しての純粋な意見を零した瞬間、彼と目があった

箒「!?」

思わずその瞳を見遣り、意識がそっちに全てもって行かれたと思えば自分でも分からずその男に声を掛けようとして―――

キリコも自分と同じ、椅子から立とうとしない少女と目が合ったと思えば、ふと声が掛かった

「貴方が転校生、キリコ・キュービィーでしたわね。」

少し顔を上げ正面に移行していたもう一人の少女へ視線を向け直す

腰まで伸びた長い金髪、興味深々とも言える青の瞳でこちらを見つめる様子

見た目からしても上品さを兼ね備えた雰囲気の少女が言葉を紡ぐ

「転校生で、尚且つ男性とは少々驚きましたけれど……このイギリス代表の候補生、セシリア・オルコットと同じクラスになれただけでも感謝してもらいたいですわね」

「宜しくお願い致しますわ。入学早々、誰からも相手してもらえず惨めな生活を送るのは可哀そうと思いまして。」

明らかに上からの言葉でこちらが話そうとする隙を見せないセシリアの言葉を淡々とキリコは聞いた。

キリコ「………」

セシリア「…ちょっと、聞いてらっしゃるの?」

無視。完全な沈黙。それが返答だった。

セシリア「っ…!なんて無礼な!その態度、いったい何を考えてらっしゃるの!?」

キリコ「………」

我慢の限界が来たのか、それとも元より興味もないのか、がた、と音を立て椅子から立ち上がり
最後にセシリアの顔を一瞥すると、そのまま教室を出ていった。

セシリア「っっ~~~!!」

その場で地団太を踏むセシリアを余所に、キリコに対してカッコいいと思うものもいれば変わった人、と認識を改めるものもいた

箒「なんなんだ……」

何故か一人取り残されていたような感覚を味わいながらも教室を出て行ったキリコに対してそれ以上考えず

妙に疲れたのか、上半身だけを机に寝かせ過ぎゆく時に身を任せた

一日が終わって部屋に戻る。

なんだかんだで授業こそ受けISに対しての最低限の理解は出来たつもりだった。

世界最強の兵器…戦争を渡り歩いてきたキリコだからこそ、その言葉は重く深い溝へと浸かる気分になりそうだった。

今日一日を振り返っても分かる通り、此処はアストラギウス銀河ではない

なぜ、どうしてこんな所に居るのか見当も付かないがそれだけは、はっきりと理解出来た。

箒「…お、おいっ」

そして、先ほどから目の前の少女がキリコに対して控え目ながらも声を掛けるのも見ればすぐに分かった。

箒「お前、聞こえてるのか?」

キリコ「……」

箒「くっ…無視をするな!人数的な意味でこのように仕方がないとは言え今日から同室で共に過ごす者同士、自己紹介ぐらいするのが基本だろうが」

キリコ「………」ゴロン

箒「っ…貴様、いい加減に…――!」

キリコ「そんな大声を出すな。聞こえている」

箒「は?え……なっ、ならば答えろ!」

キリコ「………」

箒「っ~!!」

箒「(…流石に言い方がきつ過ぎたか…?いや、でも……)」

キリコ「……」ゴロン

箒「(…も、もう知るものか…!!)」

キリコ「……」

箒「…」チラ

キリコ「………」

箒「(本当に寝ている…のか?)」

箒「(しかし、なんださっきの態度は。確かに女しかいないこの学園に直ぐに馴染めと言う方が難しいが)
  (いくらなんでも無視はないだろう。クラスに入って来た時もそうだが、嫌な奴だ…)」

箒「(…だが、そんな個人の意見で簡単に部屋を変えれるはずもない。)」

箒「(はぁ……)」

キリコ「(今、俺の意識は隣で横になっている少女などに移ってはいなかった。)」
  
   「(此処が何処でなんなのか、突如投げ出されたこの現実を受け入れるには頭の方がまだ混乱しているらしい)」
  
   「(だが、今は眠る事しかできまい…これまで以上に慣れないベッドの上で思考を重ねながら俺は意識を闇の中へと落していった…)」

―――翌日―――

千冬「これより、再来週行われるクラス対抗戦に出る代表者を決める」

千冬「クラス代表者とは対抗戦だけでなく、生徒会の会議や委員会への出席など、まあクラス長と考えてもらっていい」

千冬「自薦、他薦は問わない。誰か居ないか?」

教室へ着き、教卓の前に立つ千冬の言葉に生徒たちは静かに耳を傾けた
新学年早々、自ら名乗り出る者は誰一人居なくお互いがお互いに謙遜し合う状況が生まれていた――が。

生徒「はい、先生! キリコ君を推薦します!」

キリコ「………」

突如、一人の生徒が挙手をしキリコを指した。
まるで他人事のように目を瞑っていたキリコも細く開眼し、その言葉を聞いた

それまで沈黙としていた教室は一人の意見により決壊しキリコを推薦したり控えながらも自ら挙手するものが現れ始めた
そして、圧倒的な支持数で集められたキリコの当選はほぼ決まりかけていた。――ただ、一人を除いて

「納得がいきませんわ!」

蹴っ飛ばす勢いで席を立ちイギリス代表のセシリア・オルコットが過激に言葉を紡ぐ

セシリア「なぜ、どうしてそのような選出を!?」
     我がクラスの代表が男などと、他のクラスに比べて恥晒しもいいとこですわ!
     大体、このように後進的な国に暮らす事すら私にとっては耐えがたい苦痛ですのに…!」

過熱した言葉は誰の横やりも許さず、席に座ったままのキリコを指さしながら叫ぶ
そして、セシリアの言葉が全て言い終わり、重い静寂が蔓延るクラス内でその男が口を開いた


キリコ「…そこまで言うなら、あんたがしたらいい」

セシリア「…は?」

キリコ「すればいい、と言ったんだ」

今までどんな台詞に対しても、何もしゃべらなかったキリコが自分に対して意見を言う姿に驚くも
すぐさま声色を直し、先ほどの言葉に対して優雅に、述べ始めた

セシリア「あら、どんな野蛮人かと思いましたら案外理解の方は早いようでしたわね」
    「それが聞ければ十分ですわ?素直に、身の程を弁えて譲る事をすればこうまで言う必要もありませんでしたし」

キリコ「……」

興味なし。キリコの態度は一貫してそうだった。
この話は間違いなくこの瞬間に終わる筈だった。
だがしかし、そのキリコの態度が許せなかったのか、これまで以上に憤りを見せながら再び指を指して告げた

セシリア「…決闘ですわ!」

セシリア「気に入りませんわね…その態度、その言いよう!
     もう言葉で論する事も出来ないみたいですし、わたくしの実力をその身に刻んでもらいますわ!」

キリコの態度もそうかもしれないが、セシリアの一方的な行動にクラス全体が息を呑んで見つめた
その中、千冬だけが存外でもなさそうに軽い笑みを浮かべながら事の顛末を見届けた

キリコ「……」

セシリア「男性でしょう?黙ってないで、言いたい事があるならどうぞ、お構いなく」

キリコ「好きにしろ」

一瞬の静寂の後、冷静に落ち着いた声でキリコが呟いた
それまで黙っていた生徒たちが一気に小さな声で話し始め、タイミングを見計らったように千冬が声を掛けた


千冬「話はまとまったな?」
   それでは、勝負は次の月曜に第三アリーナで行う
   キリコとオルコットは、それぞれ準備をしておくように」


止める必要もなく代表を決める事柄は今を持っていったん終了した
休み時間に入った途端、数人がキリコに近寄り心配する言葉を掛けたが以前反応は無く
気付けばその日の授業も終わり、それぞれ皆が部屋へと帰宅していた。

部屋へと戻ったキリコは机に開かれたISの参考書を見ながら思考していた
ISではないが自分はアストラギウス銀河の装甲騎兵、ATを所有している

その時点で持つべきものは持ってはいるのだが…

千冬曰く、自分が乗る機体の感度を知れ、そして大事にしろと言う事。
しかし、キリコにとってそんな事は重要ではなかった。

使えるべき時に使え、棄てるべきには棄てる
それが出来れば極端な話、何に乗れようと構わなかったのだ。

一つ。ここで疑問があった。

ISの造形を見る限り人間が機体に乗るのでは無く、纏うような状態で展開を重ねる
詳しい事こそ分からないが、この学園でATに乗って戦う者は自分以外存在しないと言う事。

キリコ「……」

ATを改造しなければならないと、キリコは確信した

自分が過ごした戦場の中でこれほどまでに高機動且つ高速で動ける兵器は見たことが無い。
自らATに乗り込む以上、小型化やその他の無茶な改造には限界があるが全長約4m、10mm前後の装甲厚では
機動性でかく乱された挙句、死角から蜂の巣にされることは容易に想像できた。

そうと決まれば話は早い、決闘の時刻は月曜日。
まだ時間はあるとは言え万全を整えたい思いでATの収容される格納庫向かおうと参考書を閉じた。

箒「……」

汗に塗れ、剣道着に身を包んだ箒が扉を開けて部屋へと入って来た。
部活と言うものを後でキリコが知るのだが、キリコと目も合わせようとせず自らのベッドへ座った
一連の動作を確認し次にキリコが立ち上がり部屋の外へ出ようとドアノブへ手を掛けた時、箒が尋ねた。

箒「…お前、今日自分が何をしでかしたか分かっているのか?」

キリコ「……」

箒「無視をするならして構わん。だがお前は、専用機持ちとの決闘に承諾したんだぞ?」
  まず、間違いなく負ける。あの代表者の事だ。後々面倒な事になるのは目に見えている」
 
キリコ「…決戦は月曜日だ」

箒「だから…なんだ?」

キリコ「なんとかする。」

短くそう言い切るとドアノブを回して部屋から出て行った。

急用が出来たんでちょっと消えます
ラウラ戦だけだけしたかったけど流石に最初からそれは難しい
書き溜めが消えるスピードがヤバいんでこれからどうしようかと

残っていたら続きを投下します

帰宅。今から投下します

この学園に来た初日。千冬と尋問のような会話を繰り返した所にATは保管してある

アレギュウムの赫い霍乱、グルフェーでの戦い、キリコの技術で一騎当千の働きを見せた「バーグラリードッグ」
ギルガメス軍のスコープドッグをベースに、脚部には不整地走破用のソリ「トランプルリガー」

軽量化した片手持ちの「ヘビーマシンガン」が二丁。
右肩には七発入りの「ショルダーミサイルポッド」
左肩には折り畳み式の「長距離砲ドロッパーズフォールディングガン」の装備を施されたカスタム機

武装面の方では充実したラインナップと言える装備だった。

凛として透き通った声が格納庫の静寂を破った。
初めにこのATを見た千冬に姿がそこにあって、まるで歓迎でもしているかのようにキリコに呟いた

千冬「学園初の男性入学者…まぁ、IS保持者でない所が一番の異端ではあるがな」

キリコ「…ここにあるスクラップは使っていいのか?」

千冬「ああ、好きにすればいい。元より使えなくなり廃棄された物ばかりだからな。」

それだけ聞くと千冬から目を離しキリコは作業に取り掛かり始めた。
武装面は問題ない、この期間内に新たな武装を取り付けるなど不可能だしこれ以上、機体に負荷を掛ける事は出来ない
だとすれば、取り付けるべき装備は一つ。

千冬「後は大丈夫そうだな。決闘が故、私はどちら側にも深く干渉はせんよ。」

それではな、と小さく告げると作業を始めるキリコの傍から千冬は出口へと向かった
キリコが黙々とスクラップを集める中、出口に着いた千冬が声を出す

千冬「…何時まで、そこで見ているつもりだ篠ノ之。」

箒「っ!あ、いえ……これは…」

まるで物陰に隠れているような動作で千冬に声を掛けられた箒が姿を見せた。
流石のキリコも声のする方向を見て、千冬と箒が対面する姿を確認するも、すぐさま元の作業の取り掛かった。

千冬「気になるのか?奴の事が。…まぁ、部屋も同室と聞く、気にならん方がおかしいとは思うが」

箒「い、いや!そうでは…ないと思いますが……ただ、同室者が陰で何をしているのか最低限確認しておきたいと思いまして…」

千冬「行ってやれ。」

箒「え?」

千冬「行ってやれ、と言ったんだ。言い訳は聞かんぞ。何時までもそんな姿を取られると、何故だか妙にむず痒くなる」

箒「……」ダダダッ

箒「はっ…はっ……お、おい!」

キリコ「……」ガチャガチャ

箒「その…部屋で言った事は私の方も言い過ぎだったと思う」
 「お前が決闘の時、無様に負ける姿を見るのは…お、同じ部屋の者として勘弁ならん」
 「…良ければ、私で良ければ、教えてやるし何か手伝ってやる」

キリコ「……」

箒「…迷惑なら、もうお前に干渉などしないが―――」

キリコ「助かる」

箒「あっ…ほ、本当か!?」パァァ

キリコ「その部品を取ってくれ」

箒「あ、ああ!任せろ!」


――――――――――

――――――

―――

それから数日が流れ

―――決闘・月曜日―――――

格納庫に佇むA“バーグラリードッグ・ターボカスタム”に仕上がったキリコの新たな機体に箒は呟く

箒「この機体じゃここまでぐらいしか機動力は上げられない」
 「最初はISで無いと聞いて驚いたが…運良く、ISの運動機能を向上させる装置を取り付けれた」
 「恐らく、今まで以上に抜群の機動力が出せるが操縦性が少し犠牲になっている」

キリコ「十分だ」

箒「ぁ…そ、そうか…なら別に構わないんだがな…」

傍らでもじもじしている箒を余所にキリコは思った
再びAT(これ)に乗って戦う日が来たのかと……
既に会場は観客で賑わい、箒の横には千冬の姿が在った。

千冬「準備しろキリコ、そろそろ開幕だ」

千冬の言葉に促される様に頭部のハッチを開け乗り込んでいく
以前、ウドの町で行われたバトリングの香りを思い出しながら順調にATを作動させていく。
そして今、沈黙を破り鉄の装甲騎兵が産声を上げ、起動した

セシリア「よくぞ、逃げずに来ましたわね。芯だけは腐っていらっしゃらない様子で。」

自信満々と言った様子で既に宙へ浮いたセシリアが告げる
キリコのATが会場へ姿を現した途端、ほぼ全員が驚愕しその騎兵を見るも
直ぐに受け入れられたのか、再び熱狂の渦へと舞い戻った。

キリコ「……」

その言葉に対しても無言なキリコに呆れたようにセシリアが呟く

セシリア「そう…語る事は何もなくて…残念ですわ。それなら…」

ディスプレイに映る敵機の詳細。
――搭乗者 セシリア・オルコット
――敵機  ブルー・ティアーズ
―――遠距離特化型の射撃タイプ

セシリア「お別れですわね!」

セシリアの放った一発が開幕の合図となった。

その速度は目を疑うものだった。
セシリアの持つライフルから発射された蒼の閃光。
その着弾点に居るキリコを狙い打とうとしたそのものであり、一切の躊躇なく光弾が向かう。
しかし、開幕と同時に終わるわけにもいかない。
ATの機動力、スクラップから組み立てたISの補助機能をフル活動させ、高威力のレーザーを避けた

――――

―――

キリコ「……」

二撃…三撃…
始まって数分と満たないのに高火力のレーザーを連射するブルー・ティアーズ。
それに比例するようにキリコは防戦一方。まだ武装の面を一度も使っては無かったのだ。

かくゆうセシリアも、何度も、何度も、空中から狙いを定めて撃つも――当たらない。
中間的な試合を繰り広げる一方。先にセシリアの我慢が切れた

セシリア「このブルー・ティアーズによくここまで善戦しましたわね」
     その反応速度と言い、中々のものですわ…」

キリコは返答することなく、肩のショルダーミサイルを発射した。
煙を残し、三発発射されたミサイルがセシリアにぶつかる瞬間――

セシリア「ですが…これで、終わりですわね!」

キリコ「…!」

真横から、レーザービームによる攻撃を受けた。
完全な奇襲。キリコ自身も予想しなかった攻撃がATを襲った。
見れば、セシリアの周囲に装甲が付き従い、ライフル上の構造を取っていた


キリコ「あれは……」

初めて見る武装にキリコは声を漏らした。
まるで一つ一つが意思を持っているかのように浮遊していた

先ほどの奇襲もあれの仕業、と見れば間違いないだろう。

だが、アストラギウスに居た時にはあんな兵器は見た事がなかった。
これが現最強と謳われる兵器か、などと納得しながら再び攻撃態勢を取った

セシリア「終わりと…申したはずですけれど!」

再び、自由自在に動くブルー・ティアーズがキリコを襲う
二丁ヘビーマシンガンで追撃するキリコであるが、状況は劣勢でもあった

セシリアは空中、キリコは地上

空で動く事の出来ないキリコはどうしても地上で応戦することになるが、それがハンデでもあった
戦場で空中を取られることは負けに近い。
空中の方が全てを見渡せるからだ。この場合、まさにこの状況が物語っていた

キリコ「ふぉ…!」

ブルー・ティアーズの射撃がキリコを襲った。
マシンガンで応戦し接近するブルー・ティアーズを撃墜しようと限界があった。

今の攻撃で片足の脚部が損傷した。
これからは今までの機動力で地を走る事は難しいだろう。

その隙を見逃さないセシリアは流石専用機持ちの代表と言った所か。
辛そうに地を走るATに止めをささんと言わんばかりにブルー・ティアーズが襲う
鈍い音を立て、何度も攻撃を受ける姿にセシリアは見下しながら言う

セシリア「まるで犬のように逃げ惑う姿…滑稽ですわね。さぁ、これにてフィナ…―――っ!?」

ドゴンッ!! と、砲撃を受けた。
何が起きたのか一瞬理解に苦しむセシリアはその光景を見てさらに驚愕した
“ブルー・ティアーズの攻撃を受けながら、左肩に装着したドロッパーズフォールディングガンで狙い打つキリコの姿がいた”

キリコ「……」

キリコの読みは正解した。
あの無人に動く兵器が簡単に扱えるわけがない。

それが証拠に、ブルー・ティアーズを展開している間、ライフルのスターライトmkIIIを使ってこなかった。

セシリアはこの無人兵器に意識を傾けているのではないかと…
しかし、より恐ろしいのが攻撃を食らう覚悟を持ちながら実行に移したキリコか。

セシリア「そ、そんな…馬鹿な事があって、堪りますの…!」

警戒していなかった攻撃を受けたセシリアは続く二撃、三撃を受け地上へ落下した
まるで翼を捥がれた鳥のように落下しながらも華麗に地上へ降り立ったセシリアにキリコはATを発進させた。

実況室にて千冬と共にキリコの動きを観察する箒が声を出す。

箒「よしっ、凄いぞ…!あの状況で、あんな事が出来るなんて…」

千冬「……」

片足を損傷したとはいえ、鉄の騎兵は唸り声を上げついにセシリアの近距離まで到達した
ガンナーにとってこの距離まで攻められる事は敗北を意味するだろう。
キリコはヘビーマシンガンを構え、こちらを睨むセシリアにとどめを刺そうと撃った。

セシリア「――かかりましたわね!」

近距離で発砲される刹那、腰に装着された装備がキリコを襲った
最後まで温存していたブルー・ティアーズの武器――レーザービームとは異な二つのミサイル。
至近距離ではセシリア諸ともだが効果はあった

キリコ「ぐ…!」

手に構えた二丁のヘビーマシンガンは大破し、ATの片腕が捥げた
その瞬間、展開したブルー・ティアーズを高速で仕舞い、セシリアはライフルを構えた――。
誰もがこの瞬間、セシリアの勝利を確信した

箒「キ、キリコっ!」

画面に映る無残に攻撃を受けたATを見て箒が叫。
セシリアがライフルにチャージを溜め、放とうとトリガーを引いた瞬間――。

キリコ「……」

キリコが乗るATの片腕がうねり、セシリアの方へパンチを出した
ただの殴打なら何も問題は無い。ただの殴打であれば――

セシリア「っ!…あ、がっ!?」

パンチを火薬の爆発力で杭打ち機のように叩きつける「アームパンチ」が炸裂した
近距離であるが故、トリガーを引くコンマ一秒の差を乗り越え、強烈な衝撃がセシリアを襲った

鈍い音を響かせ、セシリアのISがついに起動を停止した。
その間を縫うようにアナウンサーの声が会場に響いた

「試合終了!―――勝者、キリコ・キュービィー!」

お互いに最後の攻防が終わり、大地に立ったのはキリコだった。
ブルー・ティアーズのミサイルを受けるも次の攻撃に転じたキリコの勝利だった。
そして、これまで数多の戦場を繰り広げてきた場数の差もあっただろう。

キリコ「……」

セシリアの様子を見る限りアームパンチの一撃を受けて気絶しているようだった。
あの威力を受ければ当然だろうか、すぐさま待機していた保険医が駆け寄りセシリアを運び始めた。

会場全体を包み込む大歓声。
中破したATに最後まで乗り続け、発進したカタパルトへ戻って行った。

カタパルト、格納庫へ戻ると既に待機していた千冬、真耶、箒がいた

千冬「やるじゃないか、おめでとう。」

真耶「凄いですよ、おめでとうございますキリコ君!」

箒「…ま、まぁ無事に帰ってこれてなによりだ。」

頭部のハッチを開け三人から感謝の言葉を受けたキリコだがいつも通りの様子で流した。
勝利の余韻浸る事などなかった。ただ敵を倒した。それだけだった。

千冬「ATの方は損傷が激しいようだが…それはこちらでなんとかしよう。今日はゆっくり休むといい」

箒「良かったな、キリコ!」

片腕がもげ、片足の脚部が融解し、その他損傷多数。
出撃前とは打って変わったATの方を向いて千冬はそう呟くと、キリコは格納庫から出て行った
置いて行かれたように慌てて箒も彼の後を追った

書き溜めが切れた。もう続けれる自信がない…
飯落ち兼何とか続きを書き溜めてきます。

正直直ぐに終わるだろうと思ったけどこんなにきついとは思わなんだ…
戦闘描写とかその他色々むちゃくちゃなんですが支援してくれた方、ありがとうございます

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