アルミン「大丈夫(24)

ミカサ「大丈夫」
エレン「大丈夫」
の続き。

蛇足感満載。


ミカサが死んでからしばらくたった。


最近変わった事と言えばエレンに少し自由が増えた事だった。

僕と言う監視付きで。

あの日ミカサを失ったエレンに対するせめてもの慰みに…と言う事らしい。

表向きには。


家族を失ったエレンが自棄を起こし、壁内で暴れては困る。

本来ならリヴァイ兵長が力づくで、となっていたが彼は負傷している。

そうなる前に唯一親しいであろう僕が抑え役に抜擢されたわけだ。

…僕の予想でしかないけれど。


壁内の人々は巨人を―…エレンを恐れている。

エレンは恐れられるような奴じゃないのに。

多分親友の僕しか理解者がいない。

…いなくなってしまった。


―――

ミカサが死んでからエレン自身も変わった。

昔のエレンは誰からも好かれるような奴ではなかった。

いつも何か険しい表情をしている。

自分の主張は曲げない。

目的意識がはっきりしている。

一生懸命で真面目。

誰かがサボる事を許さない。

そんな色々とめんどくさい性格もあってか友人と呼べるような人物は少なかった。

要は浮いていたのだ。

…僕もあまり人の事は言えないけど。


なんというか…優しくなった気がする。

丸くなったというのかもしれない。

…特に女の子に対して優しくなった。

昨日の話だがエレンは女の子とぶつかった。

ぶつかった女の子はよろけて倒れそうになったがエレンが優しく抱きとめ手を握る。

とどめは優しい笑顔で『大丈夫か?』ときたものだ。

まるで映画のワンシーンのようだった。

僕も少し見惚れてしまったのが悔しい。


―最近エレンは女の子に優しくなったね。タラシってやつ?

―そうか?普通だろ。女の子は繊細だからな。

などと恥ずかしげもなく言うのを聞いた。

…そんな風になったエレンはモテた。

壁内の人々は巨人を―…エレンを恐れている。そうなのだが、世の中は少々変わっている。


巨人になれるダークな面をもった悲劇の美少年。

一部、そんな認識を持つ女の子達がいるらしい。

幼い頃からエレンを知っている僕からみたらいつも通りの悪人面である。

美少年と言われるのを聞いていると『ん?』となるのだが…

女の子の脳内補正とはすごいものである。

ちなみにそんな女の子達に恋文やラブコールをもらったとエレンは言っていた。

笑えるだろ?と寂しそうに言っていたのがやけに印象に残った。


―――

エレンは最近夜にふらふらと部屋を抜け出す。

朝方に特に何も問題を起こさず帰ってくるので何も言わなかった。

だが今日はこっそり後をつけてみる事にした。

好奇心である。

…もしエレンが女の子と逢引してたらこっそり帰ろう…


着いたのは街から少し離れた場所…墓地だった。

―ああ、途中からそんな気はしていた。

エレンは墓の前に座り込んだ。

それは言うまでもなくミカサの墓だった。

今日のエレンはマフラーをしていた。

ミカサの遺品を。


「今日は冷えると思わないか?」

エレンはそう問いかけてきた。

目の前のミカサではなく僕に。

「…気付いてたんだね」

「気配でわかるぞ」

「それもそうか」

クスッとエレンは笑った。

「エレンは最近よく笑うようになったね」

「そうだな。…笑うようにしてるんだ」


「…なぁ、アルミン。最近俺はおかしいんだ。何をやっても生きている気がしない。

今まで巨人を駆逐することだけを生きがいにしてきて、今が一番充実している筈なのに…

もしこのまま巨人を駆逐して、壁の外を探検してもそれは楽しいんだろうか?

素晴らしい事なんだろうか?感動するんだろうか?

俺の人生の最終目標達成してむなしくなったりしないだろうか?

ミカサがいなくなって、おまえも死んで一人になるかもしれないのに俺は笑っていられるだろうか」


独白のようだった。

僕話しかけてるようで話しかけてない。

未来への漠然とした不安。

ミカサを失った喪失感。

…そして罪悪感か。


「ミカサが生きてる時は絶対するもんかって思ってた事を他の女の子にしてみたんだ。

そしたらさ、なんか喜んでくれるだろ?嬉しそうにするだろ?

手を握ったり、容姿を褒めたり、そんな簡単な事でさ。

…そんな簡単な事で喜ぶならミカサにもしてやればよかったって後悔してるんだ。

あいつの気持ちも知ってたのに。ひどい話だろ」

エレンはそう言うと、どこからか取り出したマフラーを墓に巻いた。


「今になってできるのはこんな事くらいだ。…新しく買って来たんだ。今日は冷えるだろ?

ミカサが巻いてたマフラーは俺がもらったからな。

ミカサは喜んでるのかどんな顔をしているのか、わからないけど」

エレンは墓石にそっと手をあてる。

「こんな墓があるからいけないのかもしれないな。母さんが死んだ時は墓も何もなかったから憎しみだけで

やってこれたから」


「…僕はエレンと一緒に壁の外に行きたいよ」

後ろ向きな事ばかり言うエレンの話を黙って聞いていたが耐えられなくなって口を開いた。

「ずっと話してきた外の景色を見たいと思ってたよ…もうそれは僕だけの夢なの?

エレンはミカサが死んだからって夢はどうでもいいの?」

言葉が勝手に溢れだしてくる。

…君は僕の心の拠り所も奪うの?


「ミカサが死んだ時僕も悲しかったよ。

でも僕以上に悲しい君がいたから泣かなかった。

君のために。

いつか二人で壁の外に行くまで頑張るために泣かなかった。

なのに君は…一緒に共有してきた夢をそんな風に言うの?」


はっとした目でエレンは僕を見ていた。

墓石にかけられたマフラーが風で揺れる。

「…悪かった。ちょっと弱気になってた」

エレンが笑った。

それは幼い頃外の世界について語りあった笑顔だった。

少し安心した。


「僕もごめん。自分勝手な言い方だったかもしれない」

「いや、なんだかすっきりした。やっぱアルミンがいるといいな」

エレンは僕に背を向けて少し伸びをした。

目尻に光る水滴があった事は黙っておこう。

男は如何なる時も涙を見られたくないものである。


「そういえばさっき想像の中で僕を勝手に殺してよね?」

「え?…あ、いや…別に…」

少し焦っている。

それがなんだかおかしい。

「大丈夫。僕は死なないよ」

僕もニッと笑った。


エレンと壁の外を探検して、僕達が死んだ時にたくさんその話をミカサにしよう。

ミカサの事だ。

嬉しそうに笑うエレンを見るとミカサも嬉しそうに笑うだろう。

そんなミカサを見るのが楽しみだ。


おわり

タイトルに」つけ忘れとる…
本文だけじゃなくタイトルまで誤字ってしまうとは…

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