一夏「インフィニット・ストラトス」(699)

~エピローグ~

「―――――――」

青年「え、何か言いました?」

「いや、空が澄み渡って気持ち良いなと思ったんだ」

青年「え? 確かにそうですけど……」

「どこまでも続いているんだろうなーって。この空みたいな人間になりたいよな」

青年「はい。それは思います」

「ところで、妹さんはまだ大学生だっけ?」

青年「そうですよ」

「まだおまえ身の回りの世話して貰ってるの?」

青年「いや、最近は忙しいらしくって……僕も自分で掃除や洗濯をよくするようになったんですけど、やっぱ大変ですね」

「ははは。今まで頼りっぱなしだったっていう訳だ」

青年「そうなんでしょうね。守ってきたと思っていたんですけど、実は自分の方が助けられていた……最近よくそう思うようになりました」

「…………」

青年「小学生の頃からあいつを守ろうと決意してたんですけどね。あの時代にあなたに会って、今みたいに空の下で稽古付けて貰って……」

「よし、それじゃあ稽古再開するか」

青年「そうですね! お願いします!」

――――――

―――




ブン! カン! シュッ!


青年「はっ!」コンッ!

「うっ……!」

青年「ふうっ……!」

「おまえ……強くなったなあ。最初に会ったときの腕からは想像できないぜ」

青年「ずっとあなたを追い掛けてきましたからね!」

「そっかそっか。教え子に超えられるなんてセンセイからしたら涙がこぼれるほど嬉しい話だね。さすが道場師範代、実力は本物だ」

青年「ま、まだまだですよ! 今のところ勝率半々くらいじゃないですか!」

「気を使うなよ、もっと自信を持っていいよおまえは。よし、そろそろ上がろうぜ。昼飯食おう」

青年「良いですね。いつもの定食屋にしますか?」

「そうしよう………」

「…………………………………」

青年「どうしたんですか? また空を見上げて……?」

「…………いや、大昔のことをふっと思い出しちまってな。俺がまだ小学生の頃の話さ」

青年「へえ。どんな内容なんですか?」

「いや、何でもないような記憶なんだ。ああ、でも本当に気持ち良いなあ……!」

青年「……?」

「………………」

青年「思い出に浸るのはそれくらいにしてもうそろそろ行きましょう…………あっ」

「ん?」

青年「迎えが来られてますよ」

「…………あっ!」ダッ

「―――!」

「――――」

「――――♪」

「―――――!」



青年「はぁ……まったく……あの人たちはいつまで経っても……
   二人とも若々しくて、一緒になるとお互い本当に楽しそうに笑って……」

青年「こりゃ飯に行くのが更に遅れるなあ

青年「……………」ジーッ

青年「でも……」

青年「この光景も守りたいな」

青年「………」

青年(本当に……空が綺麗だ。優しさを感じる……)

途中で落としてしまったようで……
楽しみにしてくれていた皆さんすみませんでした

―本編


【一夏の部屋】

一夏「うーん……朝か……」

一夏「ふわぁ~あ」

一夏「それにしても懐かしいような妙な夢を見た。子どもの頃の俺が空の下でずっと走ってた」

一夏「なんでああいうイメージを見たんだろう……?」

一夏「ま、いいや。準備して食堂行こっと」


~ホームルーム前~

一夏「今日は妙だったな。食堂であいつらが声を掛けて来なかった」

一夏(ん? あれは箒とセシリアじゃないか)

一夏「よう二人とも! おはよう」

箒「……」サッ スタスタ

セシリア「……」プイ スタスタ

一夏「えっ……お、おい」

セシリア「あ…」

鈴「!」

一夏「あ、シャル、鈴おはよう。ちょっと箒とセシリアがおかしかったんだけど」

セシリア「……」スタスタ

鈴「……」スタスタ

一夏「ちょ、ちょっと待ってくれよ! なんですぐ行っちゃうんだよ!?」

ラウラ「むっ」

一夏「ようラウラ。皆がどうも素っ気ないんだが、何か知らないか?」

ラウラ「おまえと話すことはない」

一夏「え!?」

ラウラ「さらばだ」スタスタ

一夏「どうしちまったんだ……? 俺なんかしでかしたかな?」

一夏「もうHRの時間だ。とにかく教室に行こう」

――――――

―――

【1組教室】

一夏(……五人が同時に無視してきたことから考えて、あらかじめあいつらの間で示し合せたのかな?)

一夏(箒……どうしたんだ?)チラッ

箒「!」ビクッ アセアセ

一夏(あれ、箒も今こっち見てたな? 慌てて前を向きなおしたよな?)

一夏(そういや、皆無視してきたときには冷たい印象は受けなかった。何か隠してるって感じだった)

山田「織村君、どうかしましたか? 急に難しい顔して……」

一夏「あ、いや、平気です。心配かけてすみません」

一夏(うーん……どうすりゃいいんだろう? 今日の授業終わったら千冬姉に相談しようか)

一夏(こういうケースは初めてだしなあ。弾にも話を持ちかけてみるか)

一夏(……こういう状況って嫌だな。あいつらとは楽しくやっていきたいぜ)

キーンコーンカーンコーン

一夏「箒! 明日早朝の訓練どうする?」

箒「……」

一夏「お、俺もさ、最近自信付いてきてさ。もう本気でやったら剣道で箒に勝てちゃうかもな!」

箒「……」ジロッ

一夏「は、はは……」

一夏(反応がないって辛いな)

プロローグじゃなくてか?

一夏「いやいや、ごめんごめん。まだまだ追いつけてねえよなあ」

箒「当分訓練は止めだ。剣道部の朝錬もあるからな」

箒「あと、しばらく声をかけないでくれ……」スタスタ

一夏「あ……」

シャルラウラ「……」ジ~

一夏「よ、よう、二人とも! 明日の休みに一緒にまた買い物でも行こうぜ!」

一夏「シャルもラウラもスタイル良いもんな! 似合いそうな服、俺が見繕ってやるよ」

シャルラウラ「!」ピクッ

シャル「別にいいよ」

ラウラ「おまえの世話にはならん」

>>12
このSSの仕様です

一夏「そ、そうだよな! 俺のセンスなんかあてにならねえもんな!」

シャル「ラウラ、部屋に戻ろっか」

ラウラ「……」スタスタ

一夏「は、はは……」

セシリア「あら」

一夏「セシリア!……ちょっとカールの巻き型変えたんだな! いい感じじゃないか」

セシリア「!」 ドキッ

一夏「いつもより魅力的に見えるぞ!」

セシリア「……失礼しますわ」スタスタ

一夏「え、別に失礼なことは言ってな……って、セシリア! 待ってくれ!」



のほほんさん「おりむ~なんか必死だね~~奥さんに逃げられてるみたい」

夜竹「でも、篠ノ乃さんたちがあんな風になることって珍しいわね」

鷹月「どうしたのかしら……?」

【二組の教室】

一夏「えっと」キョロキョロ

一夏「あ、鈴! ちょっと勉強で分からないところあるんだけどさ!」

鈴「……」ピクッ

一夏「ここは一つ、中国代表候補生の鈴さんのお力添えをと思いまして」

鈴「あたし、忙しいから」

一夏(おだてる戦法も通用しないか……)

鈴「そこ、通りたいからどいてよ」

一夏「そっか、ラクロス部だったよな! 練習頑張ってるの見てたぞ!」

鈴「!」

一夏「正直、ルールは良く分かってないんだけどさ。でも鈴が活躍してるってのはわかった!」

一夏「今日は忙しくて残念だ。でも、試合の日には応援に行くよ!」

鈴「……!」スタスタスタ

一夏「じゃ、じゃあな! 練習頑張れよ!」



一夏(皆の反応見るに、俺をハブにしようって目論見は感じられなかったけど……じゃあなんでだ?)

一夏「……………………はあ」

千冬「どうした織斑? 珍しく気落ちして」

一夏「あ、千冬ね……じゃなかった、織斑先生! それが、箒たちが俺のことを避けるんですよ」

千冬(ふむ。あの小娘どもがどういう風の吹きまわしだ?)

鷹月「あそこにいるのは織斑くん……? 先生になにか相談かしら」



一夏「避けられるようなことしたのかと思ったんですけど心当たりは無いんです」

千冬「…………」

一夏「もう一回自分から声掛けてみても駄目だったんで、もうどうすればいいか」

千冬「はあ……」

一夏「あ、あの……」

千冬「それくらい自分で何とかして見せろ」

一夏「え?」

千冬「たったそれだけのことで情けない。大体何故無視するのかなどあいつらに直接聞けば済む話だろう」

一夏「でも、何か隠してるみたいなんです。きっと誰も俺を困らせてやろうなんて考えてない気がして……
   いきなり聞くのって無作法だし、何よりちゃんと答えてくれなさそうで」

千冬「だとしても、これからどうするかはおまえの気持次第だ。あいつらの気を損ねたくないなら別に聞かなくても構わん」

一夏「俺の気持ち次第って……そりゃそうですけど」

生徒「織斑せんせーい! ちょっと聞きたいことが……って今取り込み中ですか?」

千冬「いや、構わん。どうしたんだ?」

生徒「ISにおけるスラスターの種類とその性質のことで、ちょっと聞きたいことがあるんですけど」

千冬「勉強熱心だな、感心感心。まずはな……」ペラペラ

一夏「あのー、俺のことは……」

一夏(どうしよう。話が終わるまで待ってりゃいいのかな?)


生徒「で、この方式だと……」

千冬「ああ、そのタイプはレース競技用として開発されたもので……」


一夏(……まだかな)

千冬「……ん」チラッ

一夏(お、こっち見てくれた)

千冬「……」ジトーッ

一夏(う、『さっさと去れ』って言ってる……)

一夏「す、すみません。失礼します」

千冬「それはまだ総合的な機動力強化のために実験データを収集している段階で……」ペラペラ

生徒「この形式の問題点は……」ペラペラ

一夏「お忙しいところ時間取って頂いてありがとうございました」ペコリ

一夏「……」



鷹月「織斑くん……」
―――――――

―――



一夏(千冬姉も忙しいんだろうな。仕事も重要な役職を任されているらしいし、俺の悩みなんていちいち相談に乗ってられないんだよ)

一夏(でも、途中から入ってきた生徒には親身で分かりやすい受け答えをしてたな……)

一夏(俺には突き放すようなことしか言わなかったのに……弟はどうでもいいのかよ? 俺だってここの生徒なんだぞ?)

一夏(腐ってても仕方ない。直接聞けっていう千冬姉のアドバイスが正しいのかもしれないし、言う通りにしてみようかな)


簪「…………」ピクッ  

ttp://mrykk-24s.blog.so-net.ne.jp/upload/detail/m_DSCN0617-2a268.JPG.html

一夏「おお、簪! 今から部屋に戻るとこか?」

簪「あ…………」

一夏「前に貰ったDVD、面白かったぜ」

一夏(……そうだ、簪なら女の子がこういう態度を取るときどう接したらいいか分かるかも)

簪「時間……ない……」

一夏「そっか。なら明日の朝はどうだ? 一緒に飯を食いながらでも……」

簪「む、無理っ!」

一夏「な、なんか予定あるのか?」

簪「………………」

簪「~~~!」ダッ

一夏「おーい!」

一夏「簪まで……いや、多分予定があったんだろう。きっとそうだ」

一夏「………………」

一夏(本当に俺何かしたっけな……?)

一夏(そういや、俺ってよく鈍感だの唐変朴だの言われるんだよな……冷たくされる原因も、自覚してないだけで俺にあるのかも知れない)

一夏「よ、よし、明日は休みだったな。」

一夏「大丈夫大丈夫……また皆と笑えるさ……きっと……」

一夏「風呂に入って暗い気分を洗い流すかな……」

ガチャ

楯無「あら」

一夏「げっ……またですか、楯無さん。シャワーまた勝手に使ったんですか?」

楯無「うふふ、どう? 風呂上がりの女の子ってより魅力的になるでしょう? 濡れた髪からシャンプーの甘い匂いもして……」

一夏「誘惑するようなこと言わないでくださいよ! 今日は何の用ですか!?」

楯無「特に。久しぶりに一夏くんと二人で過ごしたいな―って思っただけよ」

一夏「そうですか……でも、先の事件で負ったお怪我はもう大丈夫なんですか?」

楯無「うん、そのことなんだけどね……ううっ……」ウルウル

一夏「え……」

楯無「うっ……うっ……それがね……」

一夏「ど、どうかしたんですか?」

楯無「…………ううぅ」

一夏「楯無さん!」

楯無「右肩を触ってもらったらわかるわ……すんっ……すん……」

一夏(まさか後遺症が……? な、なんてこった!)

一夏「そんな……」スッ

楯無「……」ニヤリ

楯無「はっ!」グイッ

一夏「うおっ!!」

グルンッ!! ドサアッ!

楯無「すっかり調子が戻っちゃったのよね♪ 久々におねーさんに投げられて嬉しいでしょ?」

一夏「痛てて……嬉しいわけないでしょ……」

一夏「完治したならそう言って下さいよ! 無駄に心配しちゃったじゃないですか!!」

楯無「くすくす、ごめんね。一夏くん見ると可愛がってあげたくなっちゃってね」

一夏「もう……あなたって人は……」

一夏(人が落ち込んでるときに自分のペースで掻き乱して……困らせることがそんな楽しいのかよ)

楯無「うん? どうかしたの?」

一夏「いえ……」

楯無「嘘ね。何か隠してるでしょ?」

一夏(だんまり決め込める相手じゃないか……)

一夏(待てよ? 人たらしの楯無さんならこの状況を打開するいいアドバイスをくれるかも)

一夏「あの、実はちょっとした悩みに今ぶつかってて」

楯無「あら。鈍感の一夏くんも頭を抱えてることがあるのね」

一夏「鈍感って……確かによく指摘されますけど、そんな言い方はないでしょう!」

楯無「うふふ、ごめんごめん」

一夏「まったくもう……で、相談に乗って頂けるんでしょうか?」

楯無「いいわよ。あ、そうだ! その前に……」スッ

楯無「はい、プレゼント! 一夏くんにエクレアの差し入れがあったことを忘れてたわ!」

一夏「え?」

楯無「一夏くん、私が治療室のベッドに寝てるときにけん玉と編み物セットを届けてくれたでしょ? そのお礼ってわけ」スッ

一夏「えっと……」

楯無「まあまあ、おいしいもの食べたらそれだけで結構ポジティブになれるものよ。悩みには前向きな気持ちでぶつからないとね!」

一夏「そうですか……じゃあ頂きます」

楯無(ふふふ……)ワクワク

一夏「あ、おいしそうですね! 最近甘いもの食べてないから余計にそう見えますよ」

楯無「食べたらその味にびっくりしちゃうわよ~~!

一夏「そんなうまいんですか!」

楯無「……」

楯無「さあ早く! 男らしく豪快にかぶりつきなさい!」

一夏「いただきまーす♪」バクッ

一夏(楯無さんはよく俺を困らせてくるけど、こんな気配りもできるから素直に尊敬できる……ん?)モグモグ

一夏「うっ……!? ごほっ! か、辛えっ!!」

楯無「ぷっ……くくっ……」

一夏「げほっげほっ! なんだこれ!? 中にタバスコがたっぷり塗られてるじゃないか!?」

楯無「あはははは! や~いまた引っ掛かった~! 今の顔おっかし~い!」キャッキャッ

一夏「えっ……!?」

楯無「一夏くん、前にもおんなじ方法で騙されてたでしょ? うふふ、学習しないわね~♪」

一夏「ひー……ひー……楯無さん、あ……あんたって人は……」

一夏(落ち込んでる人間を騙して喜ぶなんて……さっきも心配してるところをいきなり投げ飛ばしてきたし……)イラ~

楯無「ダメじゃない、同じ手に二度もハマるなんて。鍛え直さなきゃね~~」ケラケラ

一夏(俺にはどんなことしても全部笑って済ませられるとでも思われてるのか…………!)ブチ

楯無「ぷぷっ……本当に一夏くんたら飽きないわ。ほーら、そんな怖い顔してな」


                 バシッ!!


楯無「いで……」

楯無「……痛……はたかれ……」

一夏「……」

楯無「え? ど、どうしたの」

一夏「見損なった。人を小馬鹿にするのも大概にしろよ」

楯無「い、一夏くん……?」

一夏「俺に食わせたもん、あんたも食ってみろ。半分以上残ってるぞ。ほら食えよ」

楯無「……!」

一夏「かぶりつけよ。俺にやらせたみたいに」

楯無「……えっと……それは……」

一夏「人に食わせて笑ってた癖に自分が食うのは嫌だってか。分かった。あんたはそういう人間なんだな。はいはい」

楯無「う!?」

一夏「そろそろ出て行ってくれよ。頼むから。タダが嫌なら金だって払うからさ」ゴソゴソ

楯無「ご、ごめんなさい!!」

一夏「いや今更謝らなくていいから。はした金で申し訳ないが一万円で勘弁してくれ」ヒラッ

楯無「……! 本当にやめてよぉ!」ジワッ

一夏「ほら、あんたが大好きな嫌がらせのせいで食えなくなったエクレアだ。ちゃんと持って帰れよ」ブンッ!


ベチャ!……コロコロ……


楯無「…………………………………………」

楯無「……………………」

楯無「…………」

楯無「―――ごめんね。お姉さんが悪かったわ」

楯無「一夏くんと過ごすのが楽しくて、何しても許してくれたから調子に乗っちゃったわね」スッ

一夏(エクレアを拾ったか。持って帰って処分してくれ)

楯無「……本当に悩んでたのにね、馬鹿な会長だね……」パクッ!

一夏「な!」

楯無「……ごほっ……けふっけふっ……うええぇっ……」

楯無「もぐ……ひー! ひー! か、辛い……」ジワッ

一夏「! 楯無さん……! 床に落ちたもん食べるとか何やってるんですか! 元から食べられるもんじゃないのに!」

楯無「(あ、あと一口)……えいっ!」パクッ

楯無「もぐ……く、えふっ…………」ゴクン

一夏「そうだ、水だ!」ダッ

楯無「喉が痛い……けほっけほっ……汗もいっぱい出てきた……涙も……」

楯無(私は悪戯のつもりでこんなの食べさせてたんだ……ごめんね、ごめんね……)

一夏「水入れてきましたよ! どうぞ!」スッ

楯無「あ、ありがとう……」

一夏「すみません。俺もあそこまで怒らなくても良かったのに……大馬鹿でした」

楯無「ん……んくっ……」ゴクゴク

一夏「楯無さんはいつも通りちょっと俺をからかって楽しもうとしただけなのに……マジになっちゃって」

楯無「なーに言ってるのよ。どう見ても非があるのは私の方よ」

楯無「生徒会長が生徒の気持ちを踏みにじるような真似しちゃ駄目に決まってるのに。もっと私も精進するから、一夏くんも応援してくれるかな?」

一夏「……楯無さんは時間割いて俺を特訓してくれたり、いろんなことを教えてくれました。そんな恩人をはたくなんて言語道断です」

一夏「俺の方こそこれからの指導よろしくお願いします。この未熟者がちょっとでもマシになるようにガンガン鍛えてください。
   あと、本当にすみませんでした!」

楯無「一夏くん……」

一夏「……ちょっと不安になったり不機嫌になったくらいで関係ない人に八つ当たりしちまうなんて、生徒会の恥ですね」

楯無「恥なんかじゃないわよ。これからも一夏くんには助けて貰うわ……あら、床がクリームで汚れちゃったわね」

一夏「俺が投げたから付いたんですよ。あとで掃除するから大丈夫ですよ」

楯無「いいの。この件は私の戒めとしなきゃいけないからね……」ゴシゴシ

一夏(! 膝をついて制服の裾で拭くなんて……)

一夏「そんなことしちゃ駄目ですよ! 楯無さんの服が汚れるじゃないですか!」

楯無「いいの。ていうかやらせて。こういう普段やらないようなことすれば、今日の出来事が更に深く私の記憶に残るでしょう」ゴシゴシ

一夏「でも……」

楯無「うん、これで綺麗になったわね……あら、もうこんな時間。そろそろ帰らなきゃ」

一夏「あ。そ、そうですね」

楯無「ごめんね。一夏くんの悩み聞いてあげたかったんだけど……今度でいいかな?」

一夏「い、いえ、考えてみればそんな深刻な悩みでもありませんでした。やっぱりいいですよ」

楯無「あら、そう? でも、私が下らない悪戯したせいで時間なくなっちゃったね。本当に申し訳ないわ」ペコリ

一夏「頭を上げてください。謝らなきゃいけないのはこっちなんですから!」

楯無「でも」

一夏「ああもう! ならもうお互いに謝るのは無しにしましょうよ。いつも通りに接する方がお互い気が楽でしょう?」

楯無「……そうね。じゃあ明日からは両方とも水に流してってことで………」

一夏「はい……」

一夏楯無「……………………」

楯無「じゃ、じゃあね……」

パタン

一夏「……何やってんだよ俺は!!」

一夏「楯無さんはちょっと楽しもうとしただけだろうが! それにカッとなって手を上げて怯えさせちまうなんて……!」

一夏「くそ……最低だ。別れ際の楯無さんの目が潤んでたのは見間違いじゃなかった」

一夏(それにしても、周りの反応がちょっと変わったくらいでこのザマとは……俺って弱すぎるな)

一夏「俺はどうしたいんだ?……それは決まってる。またあいつらと仲良くなっていつも通りの学園生活に戻りたいんだ」

一夏(そのために皆に声をかけていかなきゃならないんだが……とてもそんなことができる気がしない。
   また不用意なこと言ってしまうかも知れねえし、それからなぜか聞きに行きたくない気持ちがある。
   無視されるのを怖がっているのか……?)
   
一夏(まあいい。明日は気分転換がてら弾とこ行って話を聞いて貰うか。思いがけない解決策が見つかる可能性もあるし) 

一夏(それにしても一人でも大変なのに五人同時にか。いや、簪ももしかしたらカバーしなきゃいけないかも……
   楯無さんとのわだかまりの解消も早いうちに行わないと)

一夏「やることいっぱいだ……はあ……白式ごめんな、こんな奴が主人でよ」

白式「……」

――――――

―――



【篠ノ之束の研究所】

束「ふんふん。いっくんたら白式を大分使いこなせるようになってるじゃ~ん!」ピョンピョン

束「そうと分かれば新型ゴーレムの完成を急がないとね! 
  これには前々から実装を狙ってた機能をようやく載せられそうだし、凄いマシーンになるよ~~♪」

束「武装に凝るだけじゃ芸がないからね~~♪ 画期的な変革をもたらすのは従来より異なる視点と大胆な発想だよ!」

束「今回のキーワードは……『コア・ネットワーク』と……『自己進化機能』! この二つだね!」

束「ふっふっふ……! インスピレーション沸いてきたよ~~♪」

楯無(一夏くんには悪いことしちゃったわね。反省しないと)

楯無(でも、頬をはたかれたあの一瞬……油断してたとはいえ私が反応できなかった……)

楯無「ほっぺ……結構痛かったな」

楯無(静かだけど、妙な迫力があったなあ。思わず謝っちゃった。
   一番怒らせたら怖いのはシャルロットちゃんだと思ってたけど、もしかしたら一夏くんはもっと……
   普段は温和で怒ることすら滅多にないのに、一度スイッチが入るとあの凄みだもんね)

楯無(悩み相談を受けなくてもいいとわかったときは正直、安心しちゃった……。
   別れ際にいつも通りに接するってお互い了承したけど、やっぱり気まずさは残ってるし、正直一夏くんへの恐怖心も持ってしまってる)

楯無「……はあ……でも悩んでいる生徒を放っておくって、生徒会長としてそれでいいの……?
   相談するほどのことでもなかったって言ってたけど、一夏くんもあの状況の後じゃ打ち明ける気もしぼんじゃうわよね」

楯無(あ、そうだ。気が引けるけど、簪ちゃんにそれとなく一夏くんの悩みを探ってくれるように頼もう。
  ……そもそも簪ちゃんと和解できたのは一夏くんのおかげだから、結局彼の功績に甘んじることになっちゃうけど……)

楯無(簪ちゃん。きっとお姉ちゃんを助けてくれるよね?)

ひとまず今回はここまで
続きは明日張っていきます

【簪の部屋】

簪(………一夏に相談されたのに……突っぱねちゃった……お話できるチャンスだったのに……)

簪「……はあ……自分から機会を逃しちゃうなんて……」

簪「仲良くなりたい……篠ノ之さんたちみたいにもっと気軽に声掛け合えるようになりたい……」

簪「それができたら篠ノ之さんたちの輪にも……一夏といつも一緒にいる専用機持ちグループにも入れるかな……
  ううんきっと無理……今更私なんかが……」

簪(一夏も……他の専用機持ちの五人とは私より付き合い長いし……私が入り込む隙なんて元からなかった……)

簪(私を助けてくれた一夏を深く知りたい……そのためには積極的に攻めていけばいいんだろうけど、今の関係が壊れちゃうかも知れない……)

簪(身を引かなきゃ……そうすれば、ずっと一夏とお話しできる仲でいられる……)

簪「……はぁ……一夏っ……」チクリ

簪(そう納得させたはずなのに……どうして胸の痛みは続いてるの……?)ドクン… ドクン…

簪(せめてなんでも話し合えるような仲の友達が一人でもいれば相談できるのに……本音はああ見えて気を遣ってくるときもあるし……
  打鉄弐式の開発に整備課の人たちが協力してくれたのも、一夏の仲介があったから……
  一人で誰かに声を掛けたりするのって凄く苦手だよ……)

簪「ようやく一枚殻を破れたと思っていたのに……! 結局私は及び腰な人間ってことなの……?」

簪「……私の機体だって、専用機持ちの子と仲良くなれてたらもっと早く完成してたかも知れないのに……
  自分から友達を作ることもできない私が、男の子と恋仲になろうなんて土台無理な話だったのかな……」

簪「遠目で篠ノ之さんたちのこと見てると……すごく仲良さそうで……羨ましいよっ……」

【シャルとラウラの部屋】

ラウラ「…………」

シャル「ラウラ、ココアできたよ」カチャ

ラウラ「……いらん」

シャル「来週ね、料理部で創作イタリアン作ろうかって話になったんだ。出来上がったらラウラにも分けてあげるからね」

ラウラ「………」

シャル「冷めちゃうよ」

ラウラ「いらんと言った! 放っておけ!」

シャル「ラウラ、グッピーのクラインが死んだのは残念だけど、いつまでも引きずってちゃ駄目だよ」

ラウラ「!」

シャル「一夏に冷たくしてるのも、きっとそれが原因なんでしょ?」

ラウラ「……」

ラウラ「……あいつがすべてのきっかけだ」

ラウラ「二週間ほどまえに一夏とデパートに行ったとき、ペットショップの熱帯魚コーナーに私は釘付けになってしまった」

ラウラ「一夏が興味あるなら飼ってみろ、良い経験になると言ってな……
    飼いやすいグッピー四匹を飼育器具一式とともにプレゼントしてくれた。あのときは嬉しかったさ」

シャル「うん。ラウラは一生懸命水を換えたり餌あげたりしてたじゃない。
    図書館から本借りて生態研究までしてたのにはびっくりしたよ」

ラウラ「ああ……世話を続けていると、胸が温かくなるような妙な感覚になることが度々あった。
    忙しなく動いて餌をついばんだり、水槽を軽く突くと驚いてサッと散開したり……
    そういった一つ一つの仕草がとても胸をくすぐられるようで……」

シャル「うん……一匹一匹に名前をつけて、寝る前には『諸君、おやすみ』って欠かさず声を掛けてた。
    ラウラのそういうところを見てると、僕まで嬉しい気持ちになったよ」

ラウラ「……」

シャル「そう言えば、ラウラを一回怒らせちゃったことあったなあ。
    『名前付けてるけど見分けはつくの』って言ったら、ちゃんと違いがあるんだって怒鳴られてさ」

ラウラ「そうだぞ。個体ごとに細長かったり尾が鋭かったり、異なった部分はある。同じものは他に一匹もいないのだ。
    クラインの特徴は小さかったことだ。飼い始めたころからどこか元気が無く、特に目を掛けていたんだが……」ジワ

ラウラ「う……ううぅぅ……」

シャル「!」

ラウラ「私がぁ、もっと、もっと気を遣っていれば……」ポロポロ

シャル「ラウラ……」スッ

ギュッ

シャル「君は凄く優しいんだね……!」

ラウラ「くそう……胸が張り裂けそうだ……うぅぅ」

シャル「大丈夫……?」

ラウラ「はっ……」バッ

シャル「あっ!! き、急に抱きしめてごめんね……」

ラウラ「そんな声を掛けるな……もうこんな気持ちは二度と味わいたくないんだっ!!」

ラウラ「昨日クラインが横になって水面に浮かんでいるのを見つけたとき、私は何度も声を掛けた! しかし再び動くことはなかった!
    ようやく事態を把握すると……今まで味わったことのない苦しみが胸に広がった!
    この気持ちはどんなに客観的に捉えようとしてもダメなんだ……生き物は死ぬものだと頭は分かっているのに!」

ラウラ「本当に得体が知れない………空を見上げるとクラインが生きていた日々が思い出されて、喉の奥から空気が漏れそうになる…」

ラウラ「一夏のせいだ! 知る必要のない世界にあいつが私を引き込んだからだ!!
    私はこの程度のことで揺らぐほどに弱くなってしまった! 全部全部あいつのせいだ!」

シャル「……一夏を避けるのはそれが理由なんだ」

ラウラ「あいつといると私はどんどん弱くなっていく! 訳のわからない感覚に囚われる!
    だからもう、あいつとは慣れ合うことはしない……!」

シャル「そう、だから僕まで拒絶するの? 皆と一緒にご飯食べたりしなくていいの?」

ラウラ「私は元の強い自分に戻りたいんだ! おまえたちは強くなるための糧として利用してやる!」

ラウラ「おまえもこれからは私に気軽に声を掛けるなよ。必要最低限の会話しか許さんからな」

シャル「ラウラ、君は」

ラウラ「もう私は寝る!」スタスタ

シャル「……」

シャル「ラウラ、君は誰かの支えを必要としてるんじゃないの? 今胸中を打ち明けたのだって、僕と苦しみを分かち合いたかったからじゃ……」

ラウラ「…………くどい」

シャル「君は残った三匹の世話を今まで以上に一生懸命にやってるじゃない。優しさは捨てられないんだよ、ラウラ」

ラウラ「もともと私は戦いのために試験管の中で作られた兵士。そもそもそんな感情とは無縁でいるべきなのだ」

ラウラ「私はわかった……どんなに他人の交流を重ねようが、自己の根本は変えられん。結局生まれによって人生は決まる」

シャル「!」ピクッ

シャル(『生 ま れ に よ っ て 人 生 は 決 ま る』) ブルッ

シャル「ち、違うよラウラ! 絶対そんなことない!」

ラウラ「ふん……」

シャル「黙って聞いてたら自分勝手なことばっかり言って! 拗ねてるだけじゃないか!」

ラウラ「どうした? 何か私の言ったことが気に障ったか?」

シャル「ぐっ…!」

ラウラ「どういう生き方をしようが私の勝手だろう! 放っておけ!」

シャル「ああそう! なら好きにすればいいじゃないか!! 僕もわざわざ話を聞いて損したよ!」

ラウラ「ふん……」

シャル「もう!」

シャル「………………」

シャル「あーあ、ココア冷めちゃったなあ。自分の分も淹れてたけど、僕も飲む気分じゃないや……」

シャル「はあ……」

シャル(ラウラがあんなことを言うから……僕もついカッとしちゃった……)

シャル(お父さんが……先日こんな手紙を送ってきたもんだから……)ピラッ

シャル(僕の偽装がばれたことが原因で本国ではバッシングを受けてるらしいし。
    娘と和解したがってるのは低迷する信頼度を回復するためかな?
    新機体開発にガッツリ関わらせて商品化が達成できれば市場での一発逆転だって狙える……とでも考えてるんだ)

シャル(でもさ……)

シャル「ううぅ……!」

シャル(この言葉を信じたい気持ちがくすぶってるのはどうしてなんだよ!?)

シャル(いつかお父さんが僕らの元に帰ってきて……皆で仲良く笑いながら過ごせたらいいなって……
    どうして子供の頃に抱いた幻想を、今頃描き出してしまうんだよ!)

シャル(それに、ずっと不安だった……この学園を卒業したら僕はどうなるんだろうかって……
    申し出を拒んだり会社が倒産したりしたら僕へのバックアップも無くなり、帰る場所も消えてしまう……
    大人しく言いなりになったらその後はずっと商品開発のために利用され続けるだけ。そのどちらかなんだ)

シャル(天涯孤独の身か、一生飼い殺しか……僕が進める道は二つに一つ……
    一人はもう嫌だ。ここで手紙の内容に同意すれば……でも、この学園を去りたくないよ!
    僕を受け入れてくれた一夏を忘れられないよぉ……!!)ジワッ

シャル(どうしたらいいんだろう? 僕はどう生きれば楽になれるんだろう?
    ずっと悩んでいるのに、答えは出ないよ……いい加減辛いよっ……!)ポロポロ

ラウラ「…………」チラッ

ラウラ「ふん」プイッ

シャル「ぐすっ……」

シャル(こんなに辛いのも……きっと妾の子なんかに生まれたからだね。
    ラウラの言葉はあながち嘘じゃないね)

シャル(……僕みたいな面倒な女、一夏の周りにいちゃダメなんだ。一度話したら、ずるずる一夏に甘えてしまうに決まってる。
    僕の鬱々とした人生にまっすぐ生きる一夏を巻き込みたくないよ)

シャル(一夏……もう君とお話することはないと思うけど……ひとときであれ僕の味方になってくれて嬉しかったよ)

シャル(もうすぐ手紙の返事書かなきゃ……どう答えたらいいんだろう?
    お父さんとの仲でこんなに悩むなんて……学園で僕くらいだよね……)

【鈴の部屋】

~ベッドの中~

鈴(お父さんとお母さんが離婚して、あたしが中国に戻ったのが中二の頃だったっけ。いきなりだったから一夏もびっくりしたでしょうね)

鈴(昨日……お父さんからいきなり電話が掛ってきて、『お母さんとヨリを戻そうかと思ってる』って……
  あの喧嘩して別れたウチの親がよ?)

鈴(電話越しに聞いたお父さんの声……すごく嬉しそうだったなあ。お店も改めて始めるらしいし……
  お母さんと手紙のやりとりしてるとも言ってたなあ、私の知らないところで結構動いてたんだ)

鈴(お母さんの手紙がもうすぐあたしの元に届くとも言ってたわよね。お母さんも乗り気なんだね……)

鈴(懐かしいなあ。二人が喧嘩したとき、あたしは怖くなっちゃって……寒いのに外に逃げ出して……つい最近の話よね)

鈴(お父さんとお母さんが……そっか……)

鈴「…………ううっ」

鈴「あ、あたしも……戻りたいよ! 寒い外に出て行くんじゃなしに、暖かい家の中に迎えられたいよ!」

鈴(退学するってことなんか考えたこともなかったのに……
  お父さんとお母さんと一緒にまた中華料理屋をやりたいって気持ちがどんどん膨らんできてる!)

鈴(あたしの学園生活……一夏と別れた寂しさを紛らわせるためにISの勉強に打ち込んで、代表候補生にもなってさ。
  鳴り物入りで編入してきたとこまでは良かったわ)

鈴(でも、この学園じゃいいとこちっとも見せられないし、あたしだけ一夏とクラス違うし……正直嫌になってきた気持もあるのよね……
  セシリアたちは見た目も垢抜けてるけど、胸も背丈もない田舎娘のあたしじゃいくらお洒落してもあんな風になれない。
  ラウラだってちっちゃいけど大人びてるところがあるし、やっぱり違うわね。見た目も中身もスタートから差がありまくりなのよ)

鈴(このまま逃げ帰ろうかな……あの冬の日、家の外に飛び出して遊園地に駆け出したときみたいに。
  もしそうしたら一夏はどうするのかな?)

鈴(一夏を諦めたくない。この気持ちに嘘はないわ。
あのとき途方に暮れるあたしに手を伸ばしてくれたけど……今回ばかりは同じことされると辛いよっ……
 それに、あいつと一緒にいたら居心地良くなってずるずる決断を先延ばしにしてしまいそうだし……)

鈴(本当に実家に帰ろう。学校やめてさ。
  政府があたしに期待してくれてるのは分かるけど……
  辞めるまでデータ取りに力入れて、事情をしっかり話せば、強く引き止めることはしてこないでしょうね)

鈴(……うん、きっとそう)

鈴「………………」

鈴(あたしってなんでIS学園に来たんだろう……)ジワッ

鈴(なんかの役に……立てたのかなあ……? セシリアは一人で外敵を追い払ったことがあるのに……
 山田先生に負けてラウラに負けて、イベントの度に乱入してきた連中にいいようにやられちゃってさ……!)

鈴「ひくっ……ううっ………ひっく……惨めだよっ……もう嫌だよっ……あたしは帰るのよ……!」ポロポロ

続きは次の機会に

【セシリアの部屋】

セシリア「惨めなものですわね……この私も……」

セシリア(一夏さんの家庭事情が見えてくるにつれ、私ももう一度両親のことを見つめなおそうという気になって……
     ここまでは良かったのですわ)

セシリア(今までわたくしは父のことを不甲斐ない人間の代表だと思っていました。
     母に頭が上がらず、誇りも矜持も感じられない一介の凡夫だと)

セシリア(そんな父のことを見下していました。一夏さんに近づきたかったのは、彼が父にはない熱情を持っていたからでした。
     しかし彼と過ごすうちに……強く雄々しい男だと思っていた一夏さんは、寛容で温かい一面を持っていたことに気付きました)

セシリア(最初に好意を持ったのはそこが理由ではなかったはずなのに……わたくしはほだされ、はしたない真似までして……)ポッ

セシリア「う…………」カアァァァ

セシリア「こ、紅茶でも淹れましょうか」スッ

セシリア(あの日……事故で両親が亡くなった日に、どうして父と母が一緒にいたのか……今までは分かりませんでした)カチャカチャ

セシリア(しかし今は一つの仮説を立てることができます。きっと母は父の優しさに気付いていて、ずっと気に掛けていたのではないか――
     ちょうどわたくしが一夏さんの温容さを知っても幻滅はせず、彼への想いを断ち切れずにいるように)トポトポ

セシリア(ようやく、わたくしも父のことを認められるくらいには成長できたということでしょうか?
     一夏さんとの交流を通じて、雄々しいだけが、強くぶつかっていくことだけが男性の魅力ではないことを知れたから)

セシリア(そう言えば、一夏さんがマッサージに来てくれたこともありましたね。
     クラス代表決定戦で始まった彼との関係……ここまでの変化が起きるとは自分でもちょっぴり驚きですわ)

セシリア「この茶葉、良い香りですわ……」

セシリア(しかし……今まで父のことを見下し続けていたというのは……我ながらとても酷いことのように思えますわ)ジワッ

セシリア(もう、真相はわからない……母が、父が、どういう想いを持って動いていたのか、その心を追うことはできません。
     すべては土煙りと倒れた列車の中で失われてしまいました。
     あの事故も更新され続けるニュースの波に飲まれ、世間の記憶から消えてしまったでしょうね)

セシリア(…………)

セシリア「もう二度と……父に謝ることはできないのですね……」ポタッ

セシリア「あら、紅茶が少ししょっぱくなってしまいましたわ……ふふっ……」

セシリア(しかし、一夏さんの顔を見るのは正直……辛いですわ。目を合わせると父を見下していたときの記憶が鮮明に思い出されるから。
     その度に深い後悔と自責の念に苛まされてしまっては、身が持ちません……
     でも自立するいい機会かも知れません、いつまでも殿方の背を追い続けているわけにはいきませんもの……)

セシリア(わたくしは……格調高いオルコット家の当主なのですから、もっと強い人間にならなければ……
    父を蔑視していたときのような、狭い考えを持ち続けていてはいけないのですわ)

セシリア「ふう」

セシリア「あなたと過ごした楽しい時間はかけがえのないものでしたわ。ありがとう、一夏さん」

セシリア「そしてさようなら。わたくしの初恋の人」

【箒と鷹月の部屋】

箒(私の初恋の人……織斑一夏……)

鷹月「ねえ、篠ノ之さん! なんで織斑くんに冷たい態度を取るの!?」

箒「静寐……いや、その件だがな」

鷹月「彼、戸惑ってたわよ。織斑先生に相談してたけど、すげない対応されてたし。
   他の専用機持ちの子たちと一緒になって困らせようとしてるの?」

箒「なに? あいつらも一夏を避けているのか?」

箒「……一夏がセシリアたちに何かをしたというのか?」

鷹月「それは分からないけど……」

箒「…………」

箒「分かった。明日は私から一夏の元へ行ってみる。ちょうど休みだしな」

鷹月「そうしてあげてよ。織斑くんがかわいそうよ」

箒「ああ」

箒(私の心の中でうごめく纏まりのない問いかけの渦……まだ答が出ていないと言うのに)

鷹月「ところで、なんで今まで織斑くんにそっけなかったの?」

箒「いや、それはな―――」

~次の日 休日~

箒「一夏、いるか?」コンコン


シーン……


箒「………返事はなし、か。もう出掛けてしまったのかも知れないな」

箒「せっかくの休日だし、余り早く来すぎても一夏が戸惑うだろうと考えて少し遅い時間を選んだのだがな。それが仇となったか……」

セシリア(お父様にはもう二度と会えない……謝れない……)

箒「おおセシリア。一夏がどこに行ったか知らないか?」

セシリア「……」

箒「セシリア?」

セシリア「あっ、はい! こんにちは箒さん、なんでしょう?」

箒「いや、一夏が部屋にいないんだが、居場所に心当たりはないかと思ってな」

セシリア「存じ上げませんわ」

箒「そうか……」

箒(どうしたんだ? 物想いにでも沈んでいたのか、目の焦点があっていない……)

40

箒「そうか、ありがとう……なあ、セシリア。おまえたちも一夏を避けていると聞いたが、それは本当か?」

セシリア「……申し訳ありませんが、そのことに関しては触れられたくないのですわ」

箒「なぜだ?」

セシリア「……」

「ちょっとちょっとあんたたち! 一体どうしたっていうのよ!?」

箒「!」

セシリア「この声は……」

↑の40はミスです

シャル「…………」

ラウラ「鈴音か。貴様の出る幕ではない」

鈴「なに下らない口喧嘩なんかしてんのよ! 二人とも仲がよかったじゃない!
  特にシャルロット、あんたはこういうしょうもないことを止めに入る方でしょ!?」

シャル「はぁ……面倒だなあ……」

鈴「?」

シャル「鈴は外部の人間でしょ!? 僕のこと何も知らない癖にしゃしゃり出て来ないでよっ!」

ラウラ「邪魔だ! さっさと去れ! おまえに口を挟む権利などないぞ!」

鈴「なっ!」

鈴(『外部の人間』……!?『邪魔』……!? それに『口を挟む権利などない』って……)

鈴「……っ」シュン

セシリア「お二方、どうかされましたの?」

箒「おい鈴……しっかりしろ」

鈴「…………うっ」ジワッ

シャル「もう……また増えた」

ラウラ「ふん。付き合いきれんな」スタスタ

箒「おいラウラ! 待て!」

鈴「ごめん……あたしも部屋戻るね……」

箒「だ、大丈夫なのか?」

鈴「う、うん……平気よ、ありがと箒」トボトボ

シャル「…………」

箒「鈴があれほど気落ちしているのは初めて見た……
  シャルロットよ、よければこれまでの経緯を教えてくれないか」

シャル「まあ、いいけどさ……」

シャル「今朝、僕はラウラがアリーナにいる生徒たちに片っ端から勝負を仕掛けてるとこを見かけたんだ」

シャル「そのときのラウラは動きが荒っぽかったし、いらだって見えたから僕がなだめようとしたのがそもそもの始まり」

箒「ラウラが不機嫌になった原因に心当たりはないのか?」

シャル「………」

シャル「僕が知る訳ないよ。それでラウラが僕に勝負を挑んできて、こっちも大人しくさせるために了承した」

シャル「勝負自体は僕の負け。でも模擬戦が終わったあとラウラが『やはりその程度か』って、僕を見下すような発言を浴びせてきてさ」

箒「ま、まさか……そんなことがきっかけで……?」

シャル「うん。今思えば馬鹿だったよ。僕もカチンと来て言い返しちゃって……向こうも殺気立ってたから、口論に発展したのは自然な流れだった」

箒(シャルロットが……? いや、そもそもラウラが心を許していたシャルロットを蔑むというのも妙だ)

シャル「鈴が割り込んできたのはお互いの熱が最高潮に達してたときでね……
    あそこで止めてくれなかったらもっとひどいことになってたかも知れない」

箒「おまえ、どうかしたのか?」

シャル「え?」

箒「今の話を聞いているとどうも違和感が拭えないのだが……
  シャルロット、おまえは安い挑発に乗るような性格ではなかっただろう?」

シャル「……またそれ?」

箒「また、とはどういう……」

シャル「僕だってねえ……いっつも泰然としていられるわけじゃないんだよっ………!」

箒「今もそうなのか? 口調に焦りと怒気がこもっているように聞こえるが……」

シャル「気付いてるなら、もう放っておいて欲しいものだね」

セシリア「…………」

シャル「僕、もう行くね」スタスタ

箒「あっ!」

シャル「あと、悪いけど」クルッ

箒「?」

シャル「鈴に悪いことしちゃってごめんって伝えといてくれないかな……」

セシリア「シャルロットさん……」

シャル「じゃあね」スタスタ



セシリア「どうされたんでしょうね?」

箒「う、ううむ……」

箒(ああも神経過敏なシャルロットは初めて見たな……何か、不安を抱えているような印象を受けたが……)

セシリア「鈴さんに謝意を伝えるよう頼まれましたが……すみません箒さん、お願いできますか?」

箒「一人で行けというのか!? おまえも来てくれると助かるんだが……どうもこういうのは慣れないのでな」

セシリア「申し訳ありませんが、わたくしは用事がありますので。さようなら」スタスタ

箒「おい、待ってくれセシリア! おい……!」

――――――

―――



鈴「はぁー……どうしたんだろ、あたし……」

鈴「昨日あんなことを考えたあとだったからかな? どうも『外部の人間』とか『邪魔』とか言われると過敏に反応するようになっちゃった……
  おまえは必要ない人間なんだって、強く罵倒されてるみたいで」

鈴「やっぱ……あたしってやっぱいらない……? 一人だけ組違うし、肝心なときに全然活躍できないし……」

鈴「ううっ……トラウマだわ……あの程度の言葉でこんなにダメージを受けるなんて……ぅう……ひくっ」

鈴「お父さんたちのところに帰れば、少なくともここに居続けるよりは情けない思いせずには済むでしょ……うっ」

鈴「ううぅぅぅ……でも、何で、まだ心がゴチャゴチャしてるの……? 訳分かんない……ひくっ……ひっく……」ジワ

コンコン

箒「鈴、いるか?」

「箒?」

箒「ああ。シャルロットがさっきの件を謝りたいと言っていたぞ。その旨を伝えに来た」

「ぅ……うん。大丈夫よ。気にしてないからっ…………」

箒(嘘だな……言葉に嗚咽が混じっている。いつも元気な鈴があれ位のことでここまで落ち込むとは……)

箒「その……平気か? 声が震えているぞ。とりあえず中に……」

「だめっ!!」

箒「な、何故だ?」

「今、ちょっと人に見せらんない格好してるからっ……ごめん、しばらくほっといて!」

箒「そ、そうか。それはすまなかった」

「…………ぅう」

箒「……ではな」

箒(元気を出すんだぞ、鈴)



箒「セシリアも鈴もシャルロットもラウラも……一体どうしたというんだ?」

箒「皆どうも様子がおかしい。攻撃的になったり些細なことで変に気落ちしたり……」

ガタッ

箒「ん?」クルッ

箒「気のせいか……? 今見られているような気配を感じたが……」

箒「…………」

箒「私も一旦部屋に戻るか」



簪「危なかった……見つかるところだった……」ドキドキ

簪「篠ノ之さんたち……どうしたんだろう……?
  シャルロットさんとラウラさんは口論してたし、それを止めに入った鈴音さんは泣きそうになってて……
  セシリアさんはたまに遠くを見るような眼差しをしてて、上の空になってた……」

簪「……………!」

簪(私、今詳しいことを知りたくなってる……? どうして……?
  どうせ今更あの子たちの輪には入れないって、重々分かってるつもりなのに……)

簪(話しかけたい……でも、怖い……)

箒(……どうもあいつらのことが気に掛かる)

箒(一夏を巡る恋敵であるが、共に窮地を切り抜いてきたかけがえのない仲間でもある。
  そんなやつらがささくれだったり落ち込む様を見るのは気持ちのいいものではない……)

箒「それに、私だって……一つの迷いを抱えている」

箒「……どうすればいいのだ?」

箒「…………」

箒「はあ」

箒(行き詰まっている閉塞状況を打開するためには、やはりあいつが必要なのだろう)

箒「一夏、おまえは何をやっている?」

【五反田食堂】

蘭「どうぞ。お兄の部屋で待ってて下さい」

一夏「サンキュ! 蘭」

蘭「あのバカ兄貴ったら最近変なんですよ。口数少なくなったし、柄にもなく机に向かったりすることが多くなって。
  一夏さんが来たら、昔の感じが戻るかも知れないですね!」

一夏「あいつが? へえ、変わったんだな……」

蘭「そうなんですよ! 正直ちょっと気持ち悪くて……」

一夏「そっか。話ぶりからすると、蘭は昔の弾の方が好きなのか?」

蘭「へ、変な言い方しないでください!……でもお兄のこと……お願いしますね。
  お兄、御手洗さんともちょっと衝突したみたいで、仲が険悪なんですよ」

一夏「弾と数馬が? バカ騒ぎの最中にふざけあうっていうのはよくあったけど……」

蘭「はい。もうすぐ帰ってくると思うんで、それとなく話を聞いてやってください。ではわたしは行きますね」

一夏「おう。ありがとう、蘭。いきなり訪ねてきてごめんな」

蘭「は、はい! では失礼しますね!」バタン

蘭(あーあ。もっとお話したかったのになあ……でも私もこれから友達との約束があるし……)



一夏「さてと、帰ってくるまで待つとするか……」チラッ

一夏「弾の机か。小奇麗に片付けてやがる、あいつらしくもない」

一夏「ノートが載ってる……あいつが勉強に打ち込むようになったってのは信じられないな」

一夏「何が書いてあるのかなっと……」ピラッ

一夏「…………!」

――――――――――――――――――

IS基礎研究編
篠ノ之束によって開発されたマルチ・フォーム・スーツ。
開発当初は宇宙空間での活動を目的として作られたが、現在は他に大きな目的ができたのか中断。
日本に向けて発射された世界中ミサイル2000発以上を謎のISが無傷で撃墜した「白騎士事件」によってポテンシャルを証明。
各国は軍事転用をおこない、主力兵器として戦闘機に取って代わった。
ISを構成するのは核となる「コア」と腕部・脚部を纏う装甲である「ISアーマー」である。
その性能は従来兵器では辿りつけなかった領域まで高められており、攻撃・防御・機動・通信をサポートする各種機能も揃えられている。
現代世界で中心的に運用されているのは第二世代機であり、各国は新しい発想に基づく装備の搭載を目指した第三世代機の開発に注力している。
~~~~~~~~~~~~~~~~
~~~~~~~~~~~~~~~~
――――――――――――――――――――

一夏(弾の奴、どうしてISの研究なんてしてるんだ!?)ピラッ

一夏「うわっ! あとのページにもビッシリ書き込んで!」


「あ、お兄お帰り! 一夏さんが来てるよ!」

「一夏が?」

一夏「げっ!」バッ

ガチャ

弾「…………」

一夏「よ、よう弾。遊びに来たぜ」

弾「よう……」

一夏「最近そっちはどうだ?」

弾「まあぼちぼちだな。待ってろ、今茶でも入れるからよ」

一夏「おお」

弾「…………」ガチャッ バタン

一夏(ノート読んだこと気付かれてないよな?)

――――――

―――

一夏「でさあ、凄い美人が俺にタキシードを買ってくれたんだよ! あのときは驚いたなあ」

弾「マジかよ!? なんでおまえばかり?」

一夏「俺だって分かんねえよ! 申し訳ないから絶対代金を返したいんだけどな」

一夏(弾のやつ、俺の話には一見以前と変わりない反応をしてくれているように思う)

弾「でも、スゲー話だなぁ」

弾「…………」

一夏(しかし、たまに目が笑ってないように感じられるのは俺の気のせいか?)

弾「で、今日は何の用だ? ラッキー体験を自慢しに来ただけじゃねえんだろ?」

一夏「ああ、ちょっと相談があってよ」

弾「相談? なんだよ」

一夏「うん。実は俺……学園で仲良かった友達から無視されてるんだ」

弾「無視だって?」

一夏「弾、おまえ前に俺の誕生会に参加したよな。そのとき来てた子たちだよ」

弾「篠ノ之さんたちか。確か鈴もいたと思うが、あいつからもシカトされてんの?」

一夏「そうなんだ」

弾「う~ん……これだけじゃ何も言えねえな。その子たちについて詳しく教えてくれよ」

一夏「おう。まずは箒からな。こいつは俺と一緒におまえの店に来てた子で―――」

――――――

―――



一夏「―――で、この事件のあと簪はちょっと明るくなったと思ったんだけど、今はまた素っ気なくなってるんだ」

弾「…………」

一夏(弾、話が進むにつれ段々表情が消えていっているんだが……真剣に考えてくれているのか?)

一夏「で、これからどうするかっていうのが問題なんだけど」

弾「…………」

一夏「弾?」

弾「贅沢な悩みだなおい」

一夏「え?」

弾「おまえはいいよな。たまたまIS学園に入れてよ。顔も良くて勝手に女が寄って来るんだから気楽なもんだよな」

一夏「な、何を言って……!?」

弾「本当のことだろ。唯一ISを動かせる男ってことでちやほやされて来たんだろ。
  各国の代表候補生とお近づきになれた癖に、その子たちから冷たくされて悩んでますだあ? 甘えてんじゃねえよ!」

一夏「バカ言え! 俺だって楽じゃねえんだよ! 男だから損な役回りもさせられるし、死にかけたことだってあるんだ!」

弾「そーかい。でもおまえなんかにできるなら、ISを動かせさえすれば俺でもなんとかできそうだな」

一夏「……! お、おまえなんかおかしいぞ? そんなこと言ってくるやつだったか?」

弾「……おまえと違って変わっていってんだよ。今話で出た子たちもそうなんじゃねえか?」

一夏「!」

弾「相手にされなくなったって話だが、割とマジでおまえに愛想つかしたんじゃねえの?
  率直に言ってガキだもん、おまえって」

一夏「はあ?」

弾「おまえ、話を聞いてりゃどの子も守ってやりたいと考えてるみたいだな?」

一夏「それが何か悪いのか!? 困ってる人を助けたいから力を貸す! おまえは間違ってるって言うのかよ!」

弾「力もねえ癖に大それたこと抜かすんじゃねえってこった。
  例えば、シャルロットさんの話だが、彼女は実家との問題があるって言ってたよな」

一夏「ああ。詳しいことは話せねえけどな」

弾「多分、おまえの機体のデータを採ろうとして本社から派遣されたんだろ?
  で、彼女は良心の呵責に耐えられなくなって、父親と決別する道を選んだってとこか?」

一夏(……! そのことは伏せていたのに……)

弾「その顔からすると、俺の推測は当たってるみたいだな」

弾「シャルルくんはフランスの代表候補生だったシャルロットさんだった。おまえはその事実を受け入れた上で、彼女の味方になった」

弾「しかし後のことはまるで考えちゃいねえ。卒業後はどうするんだ? もしかしたら在学中に本国に呼び戻される可能性もあるぜ。
  そんときはどうすんのおまえ? 千冬さんに泣き付くのかよ?」

一夏「うっ……!」

弾「……多分、彼女自身も完全に本国との関係を断ち切れたとは思ってないだろうな」

一夏(確かに、装備はデュノア社から送られてるらしいし……
   機体の稼働データ採取に協力する代わりにバックアップを受けていると考えるのが自然か)

弾「シャルロットさん自身は代表候補生なんだよな。ってことはフランスもそれなりに目を掛けてるだろう。
  あんな大々的な嘘をついたデュノア社が潰れないでいるっていうのは国がバックにあるからかも知れねえ。
  そんな彼女が卒業後も日本に留まり続けるっていうのは難しい相談だ」

弾「結局彼女は自由もなく、一生デュノア社に隷属して過ごすことになる。
  刃向かうか? そうしたら紛いなりにも会社という居場所を持っているのに、それすら失っちまう」

一夏「…………」

弾「今は第三世代の開発に向けて各国が躍起になっている状態だ。
  フランス政府も自国の競争力強化のために、国内企業のデュノア社を支援するだろうな。
  貴重なIS操縦者とデータ提供のために好き勝手に利用できる人材はありがたいし、彼女に対する会社の決定を黙殺する公算も高いぜ?」

一夏「ま、まさか」

弾「シャルロットさんは父親の命令に従って、その気はなかったとはいえ世間を騙すことに加担した。重役共々檻の中に入ってもおかしくない。
  そんな彼女が今でも代表候補でいられる理由と、会社がまだ平然と業務を続けている実態の裏側をもう一度よく考えてみるんだな」

一夏「…………どういうことだ?」

弾「わからねえか? 国にとっちゃ、国産装備の使用に慣れた優れた資質を持つIS操縦者を自由に扱えるようになるなんてありがたい話なんだ。
  IS関連事業に活かすことができるからな。デュノア社にしても彼女がもしフランス代表として活躍してくれればイメージアップと宣伝効果が見込めるし、
  シャルロットさんに関して国から下された命令を従うだけで援助も受けられる。企業と政府と社会のwin‐win‐winの関係ってやつさ」

一夏「何だよそれ!? シャルの考えを無視しやがって!」

弾「ま、推論ばかりごちゃごちゃ述べたけど、それ以前に家族の問題でもあるってことを忘れちゃいけねえ。
  部外者のおまえが首を突っ込んでいい話かどうか、もう一回考えてみな」

一夏(家族……)

一夏「お、俺は」

弾「鈴だって結構問題あるんだぜ? 両親の離婚を理由に中学校を出ていったことがあったろ?」

一夏(そうだ……あいつ、冬の凍える風に晒されて、この世の終わりみたいな寂しそうな目で立ち尽くしてて……)

弾「おまえの誕生会のときは元気そうだったけどな。
  今おまえを無視してるってことは、見た目からは伺い知れない苦悩が胸に巣食ってる可能性がなきにしも非ずだな」

弾(鈴はおまえのことが好きだったのに、遠ざけるような真似するってのはよっぽどのことなんだぜ? 分かってんのかこの鈍感王は)

弾「自分の見通しの甘さが分かったか? 他の子たちだってそうだ。
  皆心に鬱積した問題を隠してるのかも知れないぜ。おまえなんかが到底理解できない気持ちを抱えてる人もいるだろう」

一夏「あいつらはっ……少し前までは俺と騒いだり、協力して外敵に立ち向かったりしてたんだ……」

一夏「箒もセシリアも鈴もシャルもラウラも簪も……俺のかけがえのない仲間だ……」

弾「『だから全員守りたいでーす!』ってか。アホかおまえ。
  おまえがスルーされてんのは、そういう馬鹿げた考えが遠因になってるんじゃねえの?」

一夏「なんだと?」ピクッ

弾「実際問題自分のことも満足に面倒見れないおまえができるわけねえんだから。
  人一人だけでも幸せにしようと思ったら相当な覚悟と労力がいるんだ」

一夏「……!」

弾「それなのに仲良くなった子全員に無責任な甘さを振り撒きやがって。結局誰一人満足に助けられてないんじゃねえか?」

一夏「ぐ……うぅぅ……」

弾「篠ノ之さんたちがおまえに冷たくなったのは、実際のところ理由は分からない。
  いくらなんでも今まで仲良くしていたのに急に離れていくなんて……まあ現実なんかそんなもんかも知れないが、やっぱり妙だ。
  悩みを抱えているのか、おまえとの繋がりを断ち切って自分の足で進もうとしてるか、そのあたりだろうな」

弾「で、お前がしてやれてることはなんだ?」

一夏「!」

弾「俺のところ来てる場合じゃねえだろ。おまえは全員守りたい、救いたいと思ってるんだろ?
  ならすぐ彼女たちの元に行って話を聞いてやれよ。彼女たちが抱えているものがなんであれ、まずはそっからだろ」

弾「失笑物の信念だけど、何とか現実にしようと行動を起こしてるならそれなりに認めるところはあるんだよ。
  幼稚な考えを今まで抱えて来たんなら、それを捨てるか足を動かすかさっさと決めろや」

一夏「…………」

一夏「……弾」

弾「ん?」

一夏「今日は……すまなかったな……俺、行くよ……」スクッ

弾「おう」

一夏「蘭に、よろしく、言っといてくれ……俺が、受験、応援してたって……伝えといてくれ……」

弾「オーケー」

一夏「ありがとうよ……じゃあな…………」フラフラ

弾「待て、一夏」

一夏「何だ……?」

弾「一人に照準絞った方がいいんじゃねえかな。心から力になりたいと思う誰か一人に」

一夏「へ?」

弾「俺はおまえが甘っちょろい理想を手放すことを希望してるんだが、おまえのことだからまだしがみついてるかも知れねえと思ってな」

一夏「……」

弾「最後にもう一度だけ忠告しとくが、それは止めとけ。全員に良い顔しても結局良い事ねえぞ。それどころか皆不幸になるのが確実。
  一人だけにしろ。もう誰にするか選んじまえ。それが皆のためだ」

一夏「……」

弾(どうせ篠ノ之さんや鈴だけじゃなく全員に惚れられてんだろ。女の子たちが誕生会でおまえに向けてた目はきらめいてたもんなあ……)

一夏「……」

弾「一人を選ぶのは嫌だろう。他の子を見捨てることになるとおまえは考えるかも知れない。
  でもそれが一番なんだ。周りから恨まれようが、絶対にこの人だけは守りたいと思えるやつと共に歩むんだ。
  今のままじゃきっと誰に対しても半端にしか助けられず、束の間の安らぎを提供するだけで終わる」

弾「全員を助けようとするのは比類なく優しさが発揮されているようでいて、その実最も残酷だと俺は思う。
  結果的に背負わせなくてもいい苦しみを強いることになる。だから一夏、もう―――」

一夏「…………………!!」


バタン!

弾「……………」

弾「あそこまで言う気は無かったのによ。俺もどうかしてたな」

弾「でもよ、一夏。中学時代の仲間が自分を置いてガンガン進んでいく様ってよ、見てて嫉妬することもあるんだぜ?」

弾「中学の同級生の内、倍率一万倍のIS学園に籍を置く人間が二人。入学する予定の妹が一人。
  そしてあの人も入れると、周りにはIS関係者が四人もいるんだ」

弾「焦るぜ、俺も……あの人と会うと自分が何も目的を持たずフラフラしてるだけの空っぽな人間だって気がしてくる」

弾「今日もやるか。仲間やあの人に劣等感を感じずに済むように、必要最低限の知識は付けねえと。あいつらとの共通の話題にもなるしな」

――――――

―――

一夏「ううぅ………」トボトボ

一夏(千冬姉も俺が相談したとき言ってたな……『それくらい自分で何とかして見せろ』って)

一夏「……もう分かってたじゃないか。何をどうするべきなんて……どうして俺は回り道ばっかりしてたんだ?」

一夏「…………」

一夏(そうだ……俺は怖かったんだ。あいつらに突き離されて無視されることを恐れてたんじゃない。
   あいつらの冷たい態度は俺のしてきたことが原因で引き起こされたのかも知れない。それが事実だったと知ればショックを受けてしまう。
   だから向き合うことを避けたかったんだ。なのに誰かを相談することを逃げる口実にした)

一夏(笑わせるぜ。「皆を守りたい」って考えてた癖に、真っ先に自分の身を守ろうとしてるんじゃないかよ)

一夏(そもそもだ。俺の考えは弾の言う通り、幼稚で不完全なものなのか……? 全部間違ってたっていうのか……?
   俺のやってきたことは苦しみを先延ばしにしたり、結果的に痛みを増やすだけだったのか……?)

一夏(…………!)

一夏「違う! 違う違う違う!」

一夏「そんなわけねえ! そんな、馬鹿な話が……あってたまるかよ! 俺は皆に幸せにいて欲しいだけなんだ……
   あいつらが苦しむところなんか見たくねえ! 力になってやりてえよ!」

一夏「……でも、俺だけで……全員を一人で救いきるなんて……」

一夏「…………」

一夏「一人を選ぶ……か」

一夏「でも弾の言うことももっともかもな……俺一人の力で……全員を助けるなんて無理な話なんだ」

一夏「最初にあいつに指摘されたこともあながち間違ってない。たまたまIS学園に入れて、幸運にも専用機を貰えた。
   鍛えてくれる環境もあったし、優れた功績を残した姉もいる。
   皆とは偶然の連続で今の仲になれたようなもんで、普通に生きてたら接点がなかったり再会できなかった人間ばっかりだ」

一夏「そんな、危ういバランスの上で成り立ってた環境に慣れ過ぎて、俺は良い気になってたのかな……
   中学時代まではごく平凡なガキだったっていうのによ」

一夏「でも、誰を選ぶ……? 特別な思い出のある人間にしようか……」

一夏「箒……セシリア……鈴……シャル……ラウラ……簪…………誰が一番だと俺は思っているんだ?」

一夏「………………」

一夏「全員じゃねえかよぉ!!」

一夏(何だ!? 俺は誰に対しても……『おまえを一番守りたい』とか…… 
   そういう甘っちょろいセリフを吐けちまうような人間ってことか? 選択した理由を後からいくらでも言い繕えるのか?
   そうか、誰を選ぶにしても「絶対にこの人じゃなければいけない」って理由を俺は……)

一夏(俺は……持ってないんだ……!)

一夏(俺に冷たくしたり、もしくは頼ってくる子が一人だったら俺はそいつを選んでたかも知れねえ……
   そんで、他の連中にも今まで通りいい顔をするだろうな。選んだ子の気持ちを考えずに)

一夏「……………………………………そっか」

一夏(俺は芯が無い上に誰にも良い顔したがって……支えにしてた「誰かを守ってみたい」って考えも甘っちょろくて穴だらけで……)

一夏「うううぅぅぅ……」

一夏(捨てられねえ! やっぱりこれを手放すことなんてできねえ! 皆みんな救いたい!
   夢だと言われても、これを放り出したら俺じゃなくなる!、誰かを犠牲にして誰かを救うなんて……)

一夏「…………はっ!!」

一夏(……………)

一夏「待てよ……!? これなら……! この方法ならちょっと希望はあるんじゃねえか!?」

一夏(一人で全員助けるのは無理でも――)

【IS学園 廊下】

千冬「ふう、小娘どもの面倒を見るのは疲れる………ん、あれは」


一夏「………」

千冬(何だ? 一夏のやつ、思いつめた顔をして……)

一夏「あ、織斑先生」

千冬「どうした?」

一夏「先日は助言ありがとうございました。やっぱり箒たち、ちょっと悩んでるみたいなんでそれとなく話を聞いてやってください」ニコッ

千冬「ああ」

一夏「では」

千冬(それだけか?)

千冬(…………)

一夏「…………」キョロキョロ



鈴(ふう……しばらく泣いたらスッキリした。でも、トラウマワードには今後要注意ね)

一夏「よう、鈴! 飲み物買いに出てきたのか?」

鈴「あ、一夏……」

一夏「なあ、俺の気のせいじゃなければさ、昨日からおまえ俺を避けてるよな?」

鈴「…………」

一夏「正直、おまえから無視されるのって辛くてさ。何か俺に落ち度があるなら言ってくれよ」ニコッ

鈴「…………!」ズキッ

一夏「鈴?」

鈴「……」

鈴「ごめん、今あんたと話す気分じゃないの」

一夏「ん、そうか」

一夏「なあ鈴……おまえさえよければちょっと頼みたいことがあるんだよ」

鈴「話す気分じゃないって言ったわ。じゃあね、あたし部屋戻るから……」スタスタ

一夏「鈴!」

鈴「……」スタスタ

一夏「箒たちのことはおまえも友達だと思ってるだろ? 
   あいつら、もしかしたら今問題抱えてるかも知れないんだ!」

鈴「……」スタスタ

一夏「おまえの方からそれとなく何を考えてるか探ってみてくれないか!?
   そして、もし余裕があったら助けてやって欲しい!」

【鈴の部屋】

鈴「ふう……」

鈴「一夏のやつ、『俺を頼ってくれ』ですって……? 馬鹿じゃないの!? 
  あんなこと言ってくるから、また心がグチャグチャになっちゃったじゃない……!
  もう道は決めたつもりだったのに……!!」

鈴「一夏……」

鈴(そういえば……あいつ最後に箒たちが困ってるから助けになってやってくれ、って言ってたわね)

鈴(確かに皆、何かおかしかったなあ……喧嘩止めに入ったら怒鳴られるんだもん……
  もう嫌よ。あんな苦しい思いするのは……周りの悩みを聞いてやる余裕なんて今のあたしにはないわよっ……)

鈴(…………そうよ、皆なんだかんだでうまく切り抜けるはず。あたしと違って優等種だもん……
  それにもう私は学校辞めるんだから……)

――――――

―――

一夏「……」

コンコン

一夏「シャルー! ラウラー! 部屋にいるかー!?」


シーン


一夏「……いないのか?」

シャル「…………あっ」

一夏「おうシャルロット! 部屋を空けてたのか」

シャル(一夏が僕の部屋の前に……心配してくれたのかな。でも、君の人生に僕なんか必要ないんだよ)

シャル「ごめん、どいて」

一夏「なあ、シャル」ガシッ

シャル「わっ!」ドキッ

シャル「う、腕を掴まないでよ!」

一夏「なんか様子が変だぜおまえ。俺に隠し事をしてるんじゃないか?」

シャル「…………!」ピクッ

一夏「なあ、何かに苦しんでいるなら俺に相談してくれよ。できる限りの手助けをするつもりだ」

シャル「…………!」

一夏「表情が曇ってるぞ、シャル」

シャル「……どいて」

一夏「シャル!」

シャル「離してってば!!」バシッ!

一夏「うっ……」

一夏「ど、どうしたんだよ? いつものおまえらしくないぜ」

シャル「一夏……君って凄く残酷だね……」

一夏「え?」

シャル「何食わぬ顔で僕が一番苦しむことをしてきてさっ……!」

一夏「…………!!」ズキッ


ガチャ


ラウラ「…………」ジロッ

一夏「あ、ラウラ……」

シャル「じゃあね」スッ

一夏(あ、ラウラが開けた隙間から部屋に入っちまった……)

ラウラ「何の用だ?」

一夏「ラウラ! シャルのやつどうかしたのか? 同室のおまえなら何か知ってるだろ?」

ラウラ「知らんな。興味もない」

一夏「おいおいラウラ……もしかしてシャルと喧嘩でもしたのか? とげとげしい雰囲気を纏ってるけど……」

ラウラ「おまえには関係ない」

一夏「そ、そうか。じゃあ、ラウラ、おまえ自身は最近辛いことは―――」

ラウラ「そんなものない!!」

一夏「……昨日から俺に対して辛辣なんだが、俺はおまえに謝らなければいけないことをしちまったか? 
   もしそうなら頭を下げる。そんで、できれば事情を聞かせて欲しい」

ラウラ「それもない! 失せろ!」

一夏「やっぱり変だぜ、ラウラ。おまえはそんな奴じゃ―――」

ラウラ「おまえに何が分かる!!」

一夏「うっ!」ビクッ

ラウラ「一時期とはいえおまえに惹かれた自分が憎い! そのせいで私はかつてない苦しみを味わうことになった!
    貴様の笑みの下の欺瞞に気付かず、思いがけない罠に掛かったんだ!」

一夏「……!」ズキッ

一夏「ど、どういうことなんだ! 教えてくれよ! 俺は―――」

パァン!


ラウラ「くどい!! 顔も見たくないわ! さっさと消えろ!」

一夏「ってぇ………」ヒリヒリ

一夏(思いっきりはたかれた…………最初に会ったときと同じ…………)

ラウラ「…………」ギロッ

一夏(な、なんて冷たい目だ。そうだ、確か「ドイツの冷氷」って呼ばれてたって……)

一夏「ラ、ラウラ、どうしちまったんだよ……す、少し前までは俺と一緒に模擬戦したり遊んだりしてたじゃないか?」

ラウラ「ふん、忌わしい過去を持ちだしてきたな。もう私はそういう俗な行為はせん。
    これからは今までの私に戻り、ただ己を一つの武器として鍛え上げるのみだ」

ラウラ「生み出された理由通りに、な」

一夏「!」

ラウラ「もう二度と来るな」スッ

一夏「ま、待ってくれ! 最後に一言聞いてくれ」ガシッ

ラウラ「ドアを離せ!!」

一夏「俺に冷たくするのは構わねえ! けど、周りにそんな態度を取るなよ!」

ラウラ「!?」

一夏「この学園に来て、おまえを助けてくれる仲間ができたはずだ! 何度も一緒に戦ってきた仲間が!
   そいつらには俺に対してと同じようにぶつかるんじゃねえぞ!」

ラウラ「黙れ」

一夏「おまえだって、誰かを助けてやれることができるんだからな! 一人で抱え込んじゃダメだ!」

ラウラ「黙れ……!」

一夏「奥にいるシャルも聞いてくれ! 苦しいことがあるなら俺はいつだって協力するから! 
   俺に言いにくいことならおまえの仲間を頼れ! きっと助けてくれるはずだ!」

ラウラ「黙れと言っている!」ドンッ!

一夏「ひゅっ……!」

一夏(み、鳩尾に……)

一夏「かはっ…………! ごほっ! げほっ!」

ラウラ「………………」

一夏「はっ…………………げふっ………ふうっ……!」

ラウラ「ふ、ふん」


バタン


一夏「はぁ、はぁ……………」

一夏「よし、立てる。行動に支障はないな。俺も苛立って楯無さんに手を上げちまったし、良い罰だよ、うん……」

一夏「ここでへこたれてるわけにはいかないぜ……ははは……」

一夏「…………」フラフラ

【シャルとラウラの部屋】

シャル「……………」チラッ

ラウラ「……………」チラッ

シャル「ふん」プイ

ラウラ「ちっ」プイ

シャル(模擬戦のあとの口論で、ラウラとはますます距離ができちゃったなあ)

ラウラ(一夏め……未だに私の心に入りこもうとするのか。もうあいつには騙されんぞ。強くあると私は決めたんだ!)

シャル(さっき彼は僕の力になってくれるって言ってた……でもね、一夏。
    結局君の行為は苦しみを先延ばしにしただけだって、僕は気付いたんだよ)

ラウラ(しかし……)

シャル(だけど……)

ラウラ(この居心地の悪さはなんだ!?)

シャル(一夏と離れるのは身を切るように辛いよ……!)

ラウラ(あと、妙なことを言っていたな……)

シャル(ドアの隙間から聞こえた最後の言葉……)

ラウラ(私が『他の人間を助けてやれることができる』だと?)

シャル(『おまえの仲間を頼れ!』だって……?)

ラウラ(何故私が愚劣な連中に手を貸さなければならないんだ! ふざけるな!)

シャル(僕の悩みなんか話されても迷惑だし、そもそも分かってくれる人なんていないよ!)

シャル「…………」チラッ

ラウラ「…………」チラッ

シャル「ふん!」プイッ

ラウラ「ちっ!」プイッ

シャル(ラウラもいつまで意地張ってるんだよ! 一夏の話を聞いてたときの様子を見る限り、君は彼のことを断ち切れてないじゃないか!)ズキッ

ラウラ(シャルロット、貴様が一夏に対しあんな態度に出るとは予想外だったぞ……)チクッ

シャル(ああもう! 一夏のやつ、変なこと言ってきて!)

ラウラ(また割り切れない妙な気持ちになってきた……! くそ、私は―――)

【セシリアの部屋の前】

セシリア「率直に申し上げてあなたの顔を見たくありませんの、一夏さん」

一夏「な!」

セシリア「さっき、私がすげない態度を取るのは自分に責があるのではと不安がられておられましたが、そのようなことは一切ありません。
     わたくしの極めて個人的な理由に依るものですから、どうぞご安心ください」

一夏(セシリア……話し方が丁寧を通り越して他人行儀になってる)

セシリア「私は部屋に戻って熱いシャワーを浴びたいのです。ではこれで」

一夏「お、おう。じゃあさ、俺が最後に言ったこと―――」

セシリア「箒さんたちが懊悩しておられるかも知れませんので然るべき対応を、ということでしたわね」

一夏「そう!」

セシリア「はあ……ねえ、一夏さん」

一夏「なんだ!?」

セシリア「皆さんはひょっとしたらあなたのことで悩んでいるのかも知れませんわよ」

一夏「え……!? そ、そのことについて詳しく聞かせてくれないか!」

セシリア「申し訳ございません。私もあなたの顔を見るのはいささか心苦しいのです……!」  

一夏「!」ズキッ

セシリア「さようなら。できればこれからはあまり声を掛けないで下さい。紳士的な対応を期待します」スタスタ

一夏「…………………………」



【セシリアの部屋】

セシリア「うっ……」

セシリア「わたくしは何を言っているんですの! 一夏さんに非は無いというのに! あんな言い方をするなんて……」

セシリア(でも、彼の顔を見ると自分の見たくない部分が思い出されてしまう! 
     父親を憎んでいた醜い過去に押し潰されそうになる!)

セシリア「そうなると、ついつい慇懃無礼な態度で接してしまう……! 
     一夏さんから自立するという決意が揺らぎそうになってしまって……!」

セシリア(それに、一夏さんは箒さんたちが問題を抱えていると考えておられるようでした……
     しかし、わたくしは自分のことすら満足に面倒を見れない偏狭な女なのですよ? そんな未熟者に何ができると言うのです?)

セシリア(矮小な価値観に縛られて父を見下し続けた酷い女! 皆さんを見ていると自分が恥ずかしくなりますわ!)

一夏「え……!? そ、そのことについて詳しく聞かせてくれないか!」

セシリア「申し訳ございません。私もあなたの顔を見るのはいささか心苦しいのです……!」  

一夏「!」ズキッ

セシリア「さようなら。できればこれからはあまり声を掛けないで下さい。紳士的な対応を期待します」スタスタ

一夏「…………………………」



【セシリアの部屋】

セシリア「うっ……」

セシリア「わたくしは何を言っているんですの! 一夏さんに非は無いというのに! あんな言い方をするなんて……」

セシリア(でも、彼の顔を見ると自分の見たくない部分が思い出されてしまう! 
     父親を憎んでいた醜い過去に押し潰されそうになる!)

セシリア「そうなると、ついつい慇懃無礼な態度で接してしまう……! 
     一夏さんから自立するという決意が揺らぎそうになってしまって……!」

セシリア(それに、一夏さんは箒さんたちが問題を抱えていると考えておられるようでした……
     しかし、わたくしは自分のことすら満足に面倒を見れない偏狭な女なのですよ? そんな未熟者に何ができると言うのです?)

セシリア(矮小な価値観に縛られて父を見下し続けた酷い女! 皆さんを見ていると自分が恥ずかしくなりますわ!)

一夏「次は箒だ……部屋にいればいいな……」フラフラ

一夏「今度は少しだけでも、本当にほんの僅かでも取り合ってくれたら嬉しいな……」フラフラ

一夏(でもよ、続けて意味あるのか? 全然手応えねえし、もうやめた方が……)

一夏「俺のやってることは正しいのか……? 本当にこれでいいのか……?」

一夏(誰か保証してくれ! あいつらに対して俺ができる最善の方法を教えてくれよ!)

一夏「…………」


――――――あんたのそういう優しさが私の枷になるんしょうがっ……!!


一夏「俺は……」


――――――何食わぬ顔で僕が一番苦しむことをしてきてさっ……!


一夏「あいつらを励ましたり……一緒に戦ったりしてきた……」


――――――貴様の笑みの下の欺瞞に気付かず、思いがけない罠に掛かったんだ!


一夏「段々仲良くなれたし……それが嬉しかったんだ……」


――――――申し訳ございません。私もあなたの顔を見るのはいささか心苦しいのです……!


一夏「でもよっ……結果的に一番残酷なことをしてしまったのかも知れないって、今になって思うぜ……
   弾、おまえの言ってたこと、多分あってるよ」

一夏「俺が力もない癖に中途半端な真似したから、俺は皆に見限られたのかな…………」フラフラ

一夏「いいや……今日は帰って頭冷やそう……」

山田「あら、織斑くん」

一夏「! や、山田先生! こんにちは!」

山田「今日はどう過ごしました? リフレッシュはできましたか?」

一夏「は、はい!」

山田「そうですか! それは良かった」ニコッ

山田「…………はぁ」

一夏「どうしました? 顔色が優れないようですが」

山田「い、いえ。何も……」ジワッ

一夏(目尻に涙が……!)

一夏「隠しだてしないでくださいよ! 先生っていつも生徒の相談に乗ってくれてるんだし、たまには自分の悩みを打ち明けてもバチ当たりませんよ!」

山田「ふふ、優しいこと。さすが織斑先生の弟さんですね! 心配してくれてありがとう」ニコッ

山田「…………うぅ」ポロッ

一夏「あ、山田先生! 俺なんか無作法なこと言いましたっけ!?」

山田「い、いえ。大丈夫です……う……ふうぅうぅ……」ポロポロ

一夏「なんで急に泣き出すんですか!? 誰か来るかも知れませんから、とりあえず人目につかない所へ!」

――――――

―――

鷹月「篠ノ之さん、織斑くんに会えたのかしら」スタスタ

鷹月「専用機持ちの子たちは今まで織斑くんと仲良かったのに……どうしてああいう態度を取るのか謎だわ」


センセイ、ココナラダイジョウブデスヨ  ハイ…スミマセン


鷹月「うん……? 空き教室から声が……?」

鷹月(あれは……織斑くんと山田先生?)

【空き教室】

一夏「先生……どうしたんですか?」

山田「いえ、織斑くんは知らなくてもいいことですから……」

一夏「……………!」

山田「その気持ちだけで私は十分嬉しいですよ……」

一夏「先生!」

山田「は、はい」

一夏「先生はいつも物腰柔らかく、親身に指導してくれています! 俺もすごく助けられました! そんな先生が悲しそうに泣く姿は見たくないんです!
   打ち明けられるものなら、明かした方が楽ですよ!」

山田「……ありがとう織斑君。教え子からそう言ってもらえるなんて教師冥利に尽きるというものですよ」ジワッ

一夏「先生、本当にどうしたんですか?」

山田「些細なことなんですけどね。少し前に転校する生徒の両親とお話しする機会がありまして……」

山田「その席で、私に対しての手厳しいお叱りをいくつか賜ったわけなんですよ」

一夏「…………はい」

山田「その子の両親は安全性が不安になってIS学園を辞めさせる決断を下されたんです。
   何度も襲撃を受けている学校に可愛い娘を通わせるなんて、親御さんからしたら心配で堪らないですからね。
   その指摘に対してはただただ頭を下げ、我々の不備を詫びることにしているんですが……」

一夏「それって先生が悪いわけじゃないじゃないですか!」

山田「実際に会って言葉を交わすのは私ですし、保護者の皆さんは私を学校の代表と考えるものなんですよ。
   学校で起きたすべての問題の責任を求められるのは困りますが、それも仕方のないことだと割り切っています」

山田「でも、そう簡単に流せない話題もありましてね……」ジワ

一夏「どういうことですか!?」

山田「織斑くん、私の体のこと……どう思います?」

一夏「え!! ど、どうと言われても……」

山田「やっぱり、この無駄に大きい胸が目障りだと思いますか?」

一夏「そんなこと……ま、まさか先生の体について悪口を言われたんですか!?」

山田「まあ、そんなところです……は、はは……」ウルウル

一夏「先生、目が笑ってないですよ」

山田「織斑くんの目はごまかせませんね。私、一週間前に言われたことがどうしても頭から離れなくて……」

一夏「どんなことを?」

山田「…………む、胸は……」

一夏「はい……」

山田「『大きい胸は生徒を指導するのに必要なのか』とか『代表入りできなかったからコネで入ってきた教師』とか……
   酷かったのが『どうせ今までの地位は体を使って手に入れたんだろう』と言われたことで……ショックでした……」

一夏「…………!」

山田「その親御さんも話し合いが進むにつれ段々ヒートアップしてきて、そのために言動が乱暴になってしまったとは理解しているんです。
   ほら、私って上がり症でしょう? しどろもどろになって滑らかな受け答えができなかった私にも原因があるのだと言い聞かせて……
   ひっ…く……くぅぅぅ………」

一夏「先生、ゆっくりでいいですから」

山田「そう言い聞かせてっ……こ、心を、落ち着かせようと、し、してるん……ですけどっ……」

山田「う……うううぅぅぅ……」

ポタポタ……ポタポタポタ……

一夏(大人の女性がこんなに涙を流すなんて……)

一夏「せ、先生! 大丈夫ですか!?」

山田「私っ……そのときはまさかそんなことまで言われると思ってませんでしたから、頭が真っ白になってしまって……
   顔を真っ赤にしたまま、言葉の雨が止むまでうつむいて合槌を打つことしかできなくてっ……!」ポロポロ

一夏「…………」

山田「代表候補まで行けたのは一生懸命練習に打ち込んだからなのに! 後進のためにがんばろうと決めて教師になったのに!
   胸は全然、本当に全然関係ないのに!」ポロポロ

山田「なんでそこまで言われなきゃならないんでしょうか……? それとも、受け流せない私が未熟なんでしょうか……」

一夏「先生はそのときに受けたショックが残ってるみたいですね」

山田「ええ。面談があったのはちょうど今くらいの夕暮れ時ですね。この件があってから、この時間になるとそのときのことが思い出されるんです。
   深い憂鬱に沈み込んで、悔しさやら悲しさやらが一緒くたになって、胸に、溢れて来てっ……」

一夏「押し殺そうと今までがんばってきたんですか……」

山田「はい……他の教師は皆同じような経験を乗り越えて来たのかも知れないと思って、私だけ弱音を吐いていられないと自分を叱責してたんです」

山田「その結果苦しみを倍増させてしまったわけですから、ダメダメですね。でも、今織斑くんにお話ししてずいぶん楽になりました。
   こういったことは生徒に漏らすべきではないんでしょうけど……あなたの言葉に、どうしても気持ちが押さえられなくなってしまって」

一夏「そんな! 気にしないでください!」

一夏「先生はド素人の俺に嫌な顔一つせず付き合ってくれました。
   専用機持ちが集まるクラスを受け持つのは大変なはずなのに、そのことを生徒の前で愚痴をこぼしたことは一度も見たことありません」

一夏「誰かが山田先生のことを蔑んでも、親切で根気強いとても良い教師だという俺の評価は変わりません!
   先生の優しさと正しさは俺が保証します! だから、あまり自分を責めないでください!」

山田「…………!」ドキッ

一夏「中身を見てる人はちゃんといるんだってことは分かってください!」

山田「あ……ああ……!」

山田「お、織斑くん……ありがとう」

一夏「いえ。あっ、涙の筋が付いたまま外に出ると変に思われるかも。えっと、ハンカチはっと……」ゴソゴソ

一夏「はい、じっとしててください」フキフキ

山田「えっ! あっ……はい」カアァァァ

一夏「安心してくださいね。今日聞いたことは絶対他言しませんから」ニコリ

山田「ふ、二人だけの秘密、というやつですね……」

一夏「?」

【廊下】

山田「……今日は助けられちゃいました。織斑くんは器が大きくて強いんですね」

一夏「強い? 俺が?」

山田「そうですよ。だって、人の話を受け止めて、背中を押してあげられるなんて強い人にしかできませんから。
   私なんか鬱屈した感情を抱え込んだせいで、周りを見る余裕がなくなっちゃってたんですよ?」

一夏「そ、そんな」

山田「今日は助かりました。また明日ですね、織斑くん♪」スタスタ

一夏「あ……さようなら、山田先生!」

一夏「…………」

一夏(…………山田先生も苦労してるんだ。俺の話なんか聞かせたら余計な心労を増やすだけだろうな。
   ただでさえ迷惑掛けてるのに、これ以上手を煩わせたくはない)

一夏(これから箒のところへ行く予定だったけど、鈴たちの反応見る限りどうせ無駄足だろうな……そう、無駄足……)

一夏(……箒)チクッ

一夏(先生……俺ほど腑抜けなやつはいませんよ。今だって、あいつらに言われたことに心が揺さぶられてるんですから)

一夏(俺、逃げたんですよ……これ以上自分を否定されたくないって思ってしまって……自分のダメな部分を自覚させられたくなくて……)

一夏(弾に会ったあと自分の意思をもう一回見つめ直して、それを貫きたい気持ちがあることも確かめて、一つの考えに辿りついた。
   そこまでは良かったんです。でも、その考えを実行に移す第一段階でもうグロッキーになっちまったんです)

一夏「はあ……」

一夏(「皆を助けたい」っていう考えはやっぱり捨てたくねえ。皆には笑っていて欲しい。
   どんなに甘い理想だと言われようと手離すことはできねえ……!!)

一夏(でも、実現させようと現実の行動に移しても今んとこ良い感触が返ってこないし……挫けそうになる)



鷹月「織斑くん……」

鷹月「彼……山田先生を話しているときの表情は明るかったのに、一人になった途端あんな憔悴しきった顔をして……」

鷹月「……」

【箒と鷹月の部屋】

鷹月「ねえ、篠ノ之さん。さっきね、織斑くんと会ったんだけど」

箒「何、帰って来ていたのか! 探し疲れたからといって部屋に戻るんじゃなかった!」

鷹月「うん。だけどね、織斑くん、ちょっと疲弊してるようだったわよ」

箒「一夏が?」

鷹月「うん……私が最初に織斑くんを見たとき、彼は山田先生と一緒にいてね。話をしている最中はいつも通りの笑顔で明るかったわ。
   でも、一人になった途端色が抜けたって言うか、落ち込んだように見えて」

鷹月「これって、珍しいことなのかな? 織斑くんは実は寂しがり屋だったとか……」

箒「一夏が……? そんな記憶はないが……」

箒(…………)

箒「静寐。そういえば昨日、一夏がセシリアたちから冷たくされていると言っていたな?」

鷹月「ええ」

箒(皆揃って一夏を避けるとは妙だし、今日私も会って奴らにおかしなところがあるのは認められた)

箒「…………」

鷹月「ねえ……織斑くんも、他の専用機持ちの子もちょっといつもと違わない?」

箒「ああ。実はさっきセシリアたちを夕食に誘ったんだが、取り合ってもらえなかったんだ」

鷹月「そうなの……ねえ、篠ノ之さん。どうにかしてあげられないかな……?」

箒「分かっている」

鷹月「?」

箒(私にもできることはあるはずだ……!)

【一夏の部屋】

一夏「……はあ」

一夏「逃げた。逃げちまった。自分の考えが間違いだと思いたくなくて、抵抗してたのに……真っ向から拒絶されて……」

一夏「ダメだ! ダメだこんなんじゃ! よし! 明日からは絶対逃げないぞ! いくら遠ざけられてもあいつらの力になって……」

一夏「力に……なって……」

一夏「それが……俺が力を貸そうとすることがあいつらの痛みに繋がったときは……どうすればいいんだ?」

一夏「俺だけで皆救えるとは思ってない。でも全員救いたい。
   その夢を本当にするために頭捻って考え出した解決法……それすらも砂上の楼閣ってやつなのか……?」

一夏「でも、信じ抜いてやっていくしかない……! 俺ができるのなんて、これくらいしかないじゃないかよ……!」

一夏(やっぱり先生に相談……いや、山田先生は日々の仕事で苦労しているし、俺の問題で手を煩わせる訳にはいかないってさっき決めたじゃないか。
   それに千冬姉にも自分で何とかして見せろって言われてるし……)

一夏(そうだ……この程度で他人に相談するな。情けない……大体もうこれからの道筋は立てただろうが! 逃げようとしちゃ駄目だ!)

一夏(…………)

一夏「くそ! 皆……俺は……」

一夏「俺は……寂しいよっ……!」

~一夏中学時代~

【五反田食堂】

厳「よう一夏」

一夏「厳さん、こんにちは。といってももう帰るんだけど……」

弾「俺も店手伝わなきゃいけないからなー。いつもこの時間から混んでくるし」

厳「弾、そろそろ準備しろ!」

弾「へいへい。まったく、俺だけじゃなく蘭にも手伝わせろよ」

厳「あいつはおまえと違って勉強が忙しいからな」

弾「じゃあ仕方ねえな……っておい! 俺だって宿題あるんだよ!」

厳「おまえは終わってからやればいーだろが、この」クシャクシャ

弾「いてて、乱暴に頭触んなよ!」

蓮「二人とも、遊んでないでさっさと体を動かして」

弾「ち……分かったよお袋」

一夏「…………」

一夏「じゃあな、弾!」

弾「お、おう。また明日」


【一夏の家】

ガチャ

一夏「……ただいま」

シーン…

一夏「晩飯は……一昨日作ったカレーの残りにするか」

――――――

―――

一夏「明日は新聞配達だったな。早めに寝よう」パクパク

一夏「…………」パクパク

一夏「弾の家は賑やかだなあ。おじさんもおばさんも良い人でさ」

一夏「弾の奴はうっとおしいだけって言ってたけど、いつも話せる身近な人がいるってやっぱり羨ましいぜ」

一夏「千冬姉だっていないと寂しいしな。今何してんだろう。代表じゃなくなっても忙しいのは変わらずか。」

一夏「………………」

一夏「このカレーちょっとすっぱい……時間を置き過ぎちまったみたいだ」

一夏「でも勿体ないし食う。これくらい我慢しよう」

一夏「…………………………………」

ひとまずここまで

ありがとう
がんばるよ

~次の日 昼休み~

【IS学園廊下】

簪(……ううっ……どうしよう)

簪(お姉ちゃんの頼み……安請け合いするんじゃなかった……)

簪(「一夏くんが悩んでるみたいだから話を聞いてあげてくれない?」って……
  できっこないよ……まず私が一夏へどう接していいか測りかねてるのに……)

簪(でも……お姉ちゃん本当に不安そうだった……話しているとき、いつもの余裕が見られなかったもん……
  一夏のことで心を痛めてたんだ、きっと……)

簪(そんな様子見てたらほっとけないじゃない……! 
  私と同じように悩んだり怖がったりする人間だってことを見せつけられたらさっ……)

簪(うう……どうしよう……篠ノ之さんたちも教室の中にいるはずだし……はち合わせたらきっと気まずいよね……
  でもいつまでも何もしないでいたら約束を反故にしちゃう……そしたらお姉ちゃんを幻滅させることになる……)

簪(一歩踏み出す勇気を出せたのは一夏のおかげ……彼のために動けなきゃどうするのよ……! あっ、でも……
  あのとき、行動を起こせたのは一夏がいたからなのかも……私、一夏がいなければまた元の殻に篭りがちな自分に戻っちゃうんじゃ……)

「更識簪か?」

簪「!」ビクッ

箒「やはりそうか! 先の無人機との戦いでは世話になったな」

簪「あなたは確か篠ノ之さん……? こ、こんにちは……」

箒「1組なんかに来て……何か用事でもあるのか?」

簪(どうしよう……ばらしていいのかな……)

箒「もしかして、一夏に伝えたいことでも……」

簪「あ、いや……別に………」

箒「?」

簪「失礼しました……」 

箒「……」

箒「簪」

箒「どうだ?」ニコッ

簪「…………!」ピクッ

簪「うん……行く! わ、私も……お話できたらなって思ってたし……!」

箒「そうか! そうと決まれば早く食堂に向かおう! 席が埋まってしまう」

簪「多分大丈夫……海が見える席なんだけど、そこは空いてることが多いから……」

箒「む、詳しいな」

簪「ま、まあね」

箒「それはいいことを聞いたぞ! さっ、行こう行こう!」

簪(びっくりした……篠ノ之さんの笑顔……一夏みたいだった……)

簪(優しく包み込むようで……思わず誘いを受けちゃった……)

――――――

―――



【食堂】

箒「何!? 一人で専用機を作ろうとしていたというのは本当なのか!?」

簪「うん……でも行き詰まっちゃって……一夏とか整備課の皆の協力が無ければ絶対完成しなかったと思う」

箒「そうか……私も専用機を持っているが……いや、やめておこう」

簪「そう言えばすごい性能だよね紅椿って。敵の熱線からシールド張って私をかばってくれたし……」

箒「ああ、最高の機体だ。こいつには何度も助けられた」

箒「しかし、主がこれではな……」ゴニョゴニョ

簪「?」

箒「いや、何でもない。そうだ、おまえはタッグマッチでは一夏と組んでいたんだったな」

簪「うん……」

簪(そうだ……一夏のことで1組に来たのに……)

箒「あいつと行動を共にしたのなら分かると思うが、なかなか妙なやつだろう? 苦労したんじゃないか?」

簪「うん……確かに会う前は専用機のことで恨みもあったけど、引っ掻き回されてる内に、段々と……ね。
  打鉄弐式も一夏のおかげで完成したようなものだし……今は感謝してる」

簪(お姉ちゃんとも仲直りできたのも、一夏がいてくれたから……)

箒「そうか!」

簪(……一夏のことを一緒に話せるのって何か……嬉しいな……)

箒「おっと、簪、話に夢中になるのはいいが早く食べないとかき揚げうどんが伸びてしまうぞ!」

簪(お姉ちゃんから言われたことも……打ち明けられるかも……)

箒「ど、どうした?」ニコッ

簪「ちょっと抱えているお話があるんだけど、聞いて貰える?」

箒「もちろんだ!」

簪「昨日ね……お姉ちゃんから一夏が悩んでいるらしいから話を聞いてあげてって言われて……
  でも、1組に入り辛くて今まで実行できずにいるの……」

箒「ほう。なぜ入り辛いんだ?」

簪(どうしよう……私が篠ノ之さんたちに対して腰が引けてたことを打ち明けるべき……?)

簪「……っ」

箒「…………」

簪「えっと、入り辛かったっていうか……こういうことに慣れてなくて……
  頭ではすぐ行動すれば良いことは分かってるんだけど中々行動に移せなかっただけで……」アセアセ

簪(逃げちゃった……また……嘘で壁作っちゃった……)ギュッ

簪(やっぱり私……)

箒「簪」

簪「な、何……?」

箒「私には真実を明かせないか? 私は信用されていないのか?」

簪「!」

箒「おまえは私と同じく、人を騙すのも自分を騙すのもそれほど上手くないらしいな。すぐ目の動きや仕草に出る。
  抱えているものがあるならどうか……溜め込まないでほしい」

簪「う……」

箒「頼む……な!」ニコッ

簪(また一夏みたいな微笑みを……そう言えば一夏言ってた……)


―――俺は、戦うよりも逃げる方が怖いからな


―――逃げたら、もう俺には戻れない気がするから


簪「っ……」

簪「私、一夏のことをずっと憎んでた」

箒「うん?」

簪「でも、あの日とぼけた顔の一夏が四組の教室に来たときから変わり始めたの。
  私の席に来て、声を掛けて来たのがきっかけだった」

簪「一夏は私の専用機を作るのに協力してくれてね。稼働実験中にブースターの不具合で飛べなくなったとき、助けてくれたりもして。
  タッグマッチに乱入してきた無人機に襲われたとき、私に一歩踏み出す言葉を掛けてくれたことは鮮明に思い出せる」

簪「優しくて、強くて、まっすぐで……私も、少しずつ……」

箒「………」

簪「もう、はっきり言うね」

簪「私……一夏のことが好きになっちゃったの……」

箒「!」

簪「不思議だね。一夏と一緒にいると、こっちの態度や考えも段々変わってくるの。
  交流を続けて、今までの殻を破って新しい自分になれた……と思ってたんだけど……」

箒「どうしたというんだ?」

簪「また及び腰になっちゃってたみたいなの。
  一夏を好きになって、もっと仲良くしよう……と思ったけど、もう周りにはたくさん他の子がいて……」

箒「ふむ……」

簪「『今更この子たちには追いつけない』って思って、一夏を諦めかけちゃったの。
  篠ノ之さんたちと比べて、一夏と交流してきた時間が圧倒的に少ないなって」

簪「どうせ競争に勝てる訳ないんだから、せめて一夏とお話できる関係は維持したかった。
  私の空想がかなうことが無くても、せめてもっと気軽に声を掛けられるようになりたかった」

簪「もっと肩ひじ張らずに付き合えるように……篠ノ之さんたちみたいに、ね」

箒「…………」

簪「でも、勝手に専用気持ちの子たちに苦手意識持っちゃってたみたい。
  多分、ずっと一夏と過ごしてきたあなたたちを羨ましく思う気持ちが変わっていったのね」

簪「教室に入れず立ち往生してたのはそういう訳なの」

箒「な、なるほど」

簪「ふう……何かすっきり、した……全部ばらしたらこんなに楽になるものなんだ……」

箒「私から言わせてもらえば……」

簪「ん?」

箒「私は一夏と一緒にいた時間が一番長いが、そんなものはあまり意味を成さないぞ」

簪「……! ど、どうして?」

箒「皆違った魅力を持っているからだ。私はあいつと過ごした時間が長い方だと思うが、そんなリードは他のことで容易に埋められてしまうもの。
  あの四人はそれぞれ気高く、明るく、器用で、純真で……繊細で、勇猛で、冷静で、堅剛で……私にはない魅力を備えている」

簪(他の子の魅力をちゃんとわかってるんだ……)

箒「そしてやつらは皆祖国の期待を背負う代表候補生だ。この時点で一つ私は格が落ちる」

簪(篠ノ之さんも私と同じように自分にコンプレックスを……)

箒「でも一夏のことは諦めたくない。諦める気は無い」

簪「!」

箒「この気持ちを押し殺すことはできなかった。
  なら、私にも他の四人に負けないものがきっとあると信じて、ひたむきに、まっすぐにぶつかっていくしかないと考えた」

簪(私も……この気持ちは押さえられないよっ……他の子に負けないものは私にだって……)

箒「だから、簪。おまえも私たちに引け目を感じることは無いぞ。
  そして、おまえさえ良ければ私だけでなく他の連中にも会ってやって欲しい」

簪「う、うん」

箒「そうそう、言い忘れていたが、私たちは一夏を巡る恋敵同志ではあるが、同時にかけがえの無い戦友でもある」

簪「ふうん」

箒「……ううむ。考えてみれば妙な関係だ……一緒に一夏の家で料理大会をしたこともあるし、トランプで遊んだりも……」

簪「大切な仲間……なんだね……」

箒「そう。簪、おまえもな」ニコッ

簪「えっ!?」

箒「何を驚くことがある。大体私たちだって集まろうとして集まった訳ではない。
  共に戦いを潜り抜け、少しずつ会話を交わす中で自然と互いを認め合って来たんだ」

箒「おまえは先の戦いで私たちと共に戦っただろう。おまえがいなければ皆助からなかったかも知れん」

簪「そ、そんな」

箒「改めて礼をいう。本当にありがとう」ペコリ

簪「私だって、篠ノ之さん……にだけじゃなく一夏やお姉ちゃんにも助けられたし……それより、私も仲間って……ほ、本当に!?」

箒「ああ! おまえとは共に競い合いたい。一緒にもっと語らいたい! 他の四人だってそう思うはずだ!
  何より専用機を一から作り上げ、一夏を救った恩人なんだからな!」

簪「…………!」

簪「私、篠ノ之さんのこと……凄いと思う」

箒「え?」

簪「私……ライバルだけど……尊敬する。認めるけど……負けたくないって思う」

簪「そして、私に手を伸ばしてくれたあなたに、ありがとうって言いたい」

箒「ふふっ」

箒(表情が明るくなったな、簪)

簪「私、馬鹿だった。一夏が奮い立たせてくれたのに、また臆病者に戻ってさ……もう絶対戻りたくない」

簪「正直、顔を合わせてお話しするのは怖かったけど、取り越し苦労だった。なんだか今は嬉しい気持ちでいっぱいだよ……!」

箒「それは良かった。と、そう言えば、簪は一夏の悩みを聞いてやってくれと楯無さんから頼まれていたんだったな。
  ええと……この時間は昼食を取りに食堂に来ているはず……」キョロキョロ

簪「……いないね」キョロキョロ

箒「むう……まあ、また会える機会はあるだろうが―――」

簪「……そうだね。また改めて訪ねてみるよ」

箒「そう言えば一夏の奴、朝食時間にも食堂にいなかったな。授業中はいつも通りの雰囲気だったが……」

箒(しかし、昨日静寐から言われたことは気に掛かる。しかし、一夏が暗い顔をするとはあまり想像できない……)


「もう聞いてこないで!」


簪「あ……ねえ、あそこにいるのって鳳さんとデュノアさんじゃない」

箒「ん?」

鈴「な、何よ。ラウラと仲直り出来たのかどうか聞いただけなのに」

シャル「だから放っておいてよって言ってるじゃない……! 鈴には関係ないでしょ」

鈴(『関係ない』……!)ビクッ

鈴「っ……」

シャル「じゃあね。僕は行くから―――」

鈴「…………」

鈴「あたしが聞いても答えてくれないのは―――庶民生まれのあたしを見下してるから?」

シャル「え?」

鈴「天才科学者の妹でもなく、名門貴族の世継ぎでもなく、軍のエリートでもなく―――
  大企業の社長令嬢でもないから、話もしてもらえないのかしら?」

シャル「何を言って……」

鈴「やっぱり、生まれが恵まれている人は違うわね。ちょっとあたしとは感覚が違うみたい。男装して学園に来るくらいだもんね」

シャル(『生まれが恵まれている』だって……!? こっちの事情も知らない癖に……!)カチン

鈴「そういうことならもう聞かないわ。今まで迷惑かけてごめんなさいね」

シャル「ちょっと待ってよ! 深く関わって欲しくないのは誰にだって同じだよ! 何も鈴だから言わないって訳じゃないよ!」

鈴「ふーん……じゃあ、自分を特別扱いしてるってことかしら?」

シャル「どういうこと!?」

鈴「自分のことなんか誰も分かるはずないと、あんたは孤独な女王を気取ってるんじゃないの?」

シャル「…………!」

鈴(……何言ってるの! 自分の事情を聞かれたくないのはあたしも同じじゃない!)

シャル(こういう状況になった大元の原因を知らずに好き勝手言って……!)


 ザワザワ ナニアレー? ケンカー? コワーイ

シャル「じゃあ何? 分かるの? 君のお父さんは―――あっ……」

鈴(お父さん?)

シャル「う……」

鈴「な、なんでお父さんのことが出てくるのよ……」

箒「二人とも、いい加減にしろ! 皆が見ているぞ!」

鈴「あっ……箒。それと……」

簪「さ、更識簪です」

シャル「…………」

シャル「う、うう……」ダッ

箒「おい、シャルロット! どこへ行く!」

鈴「ほっといて欲しいんだって。わがままね」

箒「鈴……どうしてしまったんだ? 昨日も様子は変だったが、今日はまた別の方向に―――」

鈴「…………」

簪(私も昨日見てたから知ってる……涙ぐんでた……)

鈴「箒。私、シャルにひどい言い掛かりつけちゃった……」

箒「何?」

鈴「シャルが大企業の社長の娘だってことを鼻にかけたことがないのは、私だって知ってるのに……う……うぅ……」

箒「!」

鈴「どうしよう……もう……頭ごちゃごちゃして、訳分かんなくなる……」

箒「鈴。おまえも……抱えているものがあるのではないか?」

簪(鳳さん辛そう……私は皆のことは伝聞くらいで全然知らない……でも……)

簪(力になりたい……! 篠ノ之さんが誇りに思う人たちだもん……私と同じように一夏と共に戦った仲間だもん……!
  それにそれに……そんな不安に歪んだ顔を見たら、昔の私を思い出しちゃう……!)

鈴「抱えてるもの……?」ピクッ

箒「そのせいで、昨日のように泣いたり、今日のように急に皮肉っぽくなったりしているのではないか?
  いつもの快活さはどこに消えた?」

鈴「う、うるさいわね。あんたには分からない……はっ」

鈴(これじゃあ、私がシャルに向けていった皮肉じゃない……!)

箒「なあ、どうか教えてくれ。もし、私のことを仲間だと思っているのなら……」

鈴「…………」

鈴「箒、あたし……何か疲れちゃった……嫌な言葉を掛けられたり、人に対して皮肉っぽくなったり……
  シャルロットに言った悪口の内容を自分がそのままなぞったり……今のままは、もう……嫌だよ……!」

箒「なら、吐き出してしまえ。ここはどうも注目を浴びてしまうから場所を変えるか。一番近い空き教室にしよう」

簪「うん」

簪(シャルロットさん……)

簪「ねえ、篠ノ之さん! 初対面の私がいたら話しにくいかも知れないから、ちょっと席離れるね!」ダッ

箒「あ……ああ、すまん」

【空き教室】

箒「鈴、一体何があった……?」

鈴「…………」

箒「鈴」ニコッ

鈴「う……」ピクッ

鈴(笑顔が眩しいのね箒って……普段笑わない印象があったからそのせい? どことなく一夏と似てるし……)

鈴(……一夏)

箒「ここなら他の人間は誰もいないぞ?」

鈴「うん……」

鈴「箒……なんだかごめんね……世話焼かせちゃってさ」

箒「構うな。溜め込んではロクなことにならんぞ」

鈴(……そうだよね。最近の私って泣きやすくなるわ、友達に無神経な物言いしちゃうわ酷いもんだし)

鈴(もう……このままじゃ色々きつい……)

箒「頼む、鈴」

鈴「うん」コクッ

鈴「……あたしね、学校辞めようと考えてるの」

箒「は!?」

鈴「急に言われても困るよね。そもそもの始まりから話していくね」

鈴「あたしの家、中学時代に両親が離婚してさ。そのせいで中国に帰ることになって、一夏ともお別れするはめになったの」

箒(……無理矢理一夏と引き裂かれた……私と同じ……)

箒「そうだったのか」

鈴「箒、あんたも確か国の方針で各地を転々とさせられたんでしょ? 単なる一夏の幼馴染同士ってだけでなく、こういう嫌な共通点もあったのね」

箒「む………」

鈴「それでね、続きだけど……そもそものきっかけは、お父さんとお母さんがよりを戻してまたお店開くっていう連絡が先日あったことでね」

箒「そうか、それはめでたいと思うが……」

鈴「あたしも嬉しかった。声を聞くと、親子三人でお店を切り盛りしてた時代が鮮明に思い出されちゃってさ。
  たまにお店に出ると、お客さんたちから可愛い可愛い言われて照れちゃって、お父さんもお母さんもその光景見て微笑んで……」

鈴「……良かったなあ……あの時代は……」

箒「…………」

鈴「本当に良かった……今なんか霞むくらいにさ」

箒「何を言っているんだ? 今のおまえも十分にすごいと思うぞ」

鈴「ありがと。でもね、肝心なときに全然良いとこ見せられなかったり無様な姿を皆の前に晒したことを思い返したら……自信も失うわよ」

箒「そんなに気にすることではないだろう!」

鈴「セシリアたちみたく生まれも育ちも庶民離れしてたり、一夏やあんたみたいに偉大な身内を持ってたりもしないしさ。
  そんな中で雑草みたいなあたしが組も違う癖に混ざってるのって……やっぱり変じゃない?」

箒「何を言っている!」

鈴「だからさ……もう、疲れて、嫌になって……辞めたくなって……」

箒「…………」

鈴「そう決めたら楽になると思ったんだけど……ちょっとしたことで泣くようになったり、友達に皮肉言うようになったり、ますます頭がこんがらがって……」

箒「…………」

鈴「もう、お母さんとお父さんのお店を手伝う道を選んだのに……なんで……」

箒「!」

箒「一つ言わせて貰うぞ」

箒「あの臨海学校のとき、私は力に溺れた挙句一夏を危険な目に会わせてしまった。
  そのあと、落ち込んでいた私を奮い立たせてくれたのはおまえだ」

鈴「……」

箒「なあ、鈴。おまえはさっき自分のことを雑草みたいだと言ったが、おまえは家のバックアップなしに代表候補生まで上り詰めたんだろう?
  それは誇るべきことだと思う。こんな友人ができて、私は幸運だ!」

鈴「!」

箒「少なくとも私は、おまえの格好悪いところを見ようが出身が特別でなかろうが、おまえに抱く敬意は変わらない!」

鈴「……箒」

箒「だから……おまえがどの道を歩むにしろ、おまえという人間は素晴らしいもので、自信を持つべきだと、私は考える。
  ううむ……言葉にするというのはどうも苦手だ……口ぼったい表現ですまん」

鈴「あ、あたしが……? 本当に?」

箒「そうだ。私が言いたいのは、自分に無いものを見たり昔の失態を思い出すよりは……
  持っている魅力を誇りそれを胸に進んでいく方がいい、ということだ」

箒「………………………………」

箒(私は何を偉そうに言っているんだ?)

鈴(持っているもの……か)

箒「そして……鈴。おまえの前向きな姿勢や明るさは誰にもないものだぞ」ニコッ

鈴「…………!」

箒(鈴、立ち直ってくれ)

鈴(一夏と別れたくない。その気持ちが学校への未練になってると思ったけど……それだけじゃなかったんだ……)

鈴「ありがとう。箒、本当にありがとう……!」

箒「鈴!」

鈴「あたし……忘れてたみたい」

箒「ん?」

鈴「辛いときに助けてくれる仲間がいたことをさ……どうして気付けなかったんだろう?」

鈴「そうだよね。私たちが集まったのは、出自がどうとか、育ちがどうとかといった共通点は全然関係なかった」

箒「そうだろう?」

鈴「皆あいつにモーション掛けて、一生懸命がんばってさ。共闘して、競争して、互いに認め合った仲だったってこと、失念してた」

箒「うむ。妙な仲だが、意外に悪くないものだとおまえも気付いていたはずだ。そうだろう?」

鈴「そうね。あ、シャルにさっきのこと謝らなきゃ……自分のことばっかり考えて、きつい物言いしちゃったからさ」

箒「よし、私も付き添おう」

鈴「どうしよ……学校辞めて二度と目に触れないから許してって言ったら、見逃してくれるかな……」


「辞めないで!」


箒「!」

鈴「!」

シャル「鈴……! 君は辞めちゃ駄目だよ……!」

鈴「シャル! どうしてここに?」

簪「私が連れて来たの」

箒「簪!」

簪「シャルロットさんの部屋を訪ねて、鳳さんが謝りたがってるから話を聞いてあげてって伝えたの……」

箒「おまえが連れて来たのか……」

シャル「彼女の目が真剣だったから、思わず頷いちゃったよ。空き教室で箒と話をしているって聞いて、ここの前の廊下に来たんだ」

シャル「そしたら、なんだか真剣に話し込んでるみたいでさ。二人の話が一段落してから入ろうかと思って待ってたんだ。
    お喋りの内容にちょっと興味が出て、聞き耳を立ててたんだけど」

簪「……」

箒「……」

鈴「聞いたんだ。あたしが抱えてた気持ちを」

シャル「うん。学校を辞めようとしてるってことも、自分の家庭のことや出身のことで悩んでたことも全部聞いたよ」

鈴「…………」

シャル「その上で言う。僕は君に辞めて欲しくない!」

鈴「!」

シャル「僕も、家庭や出身のことで苦しんでいたんだ……! 
    少しでも周りに目を向ける余裕があれば、君に冷たい態度を取ることも無かったはずだった!」

シャル「君みたいに家の後ろ盾もなく代表候補生入りするような努力家は、いつも明るくて親しみやすいムードメーカーは出て行っちゃいけないよ!」

鈴「あんた、『家庭や出身のことで苦しんでいた』って……」

シャル「…………!」

箒「シャル……」

簪「…………」ハラハラ

箒「どうやら、やはりおまえも誰にも秘密を明かさなかったために窮迫していたらしいな」

箒「もう陽の下に引きずり出してしまえ。おまえが私たちを信用しているなら、頼むからそうしてくれ」

鈴「あたしも自分のことを聞かれたからって訳じゃないけど、やっぱり言ってみて欲しいな。
  こんなので償いになるとは思わないけど、食堂で酷いこと言っちゃったからさ」

簪「私からもお願い」ウルウル

シャル「みんな……」

シャル(そう……胸にあるものを誰にも―――あの一夏にも言わなかった結果、にっちもさっちも行かなくなった。
    もう苦しんだり、皆と衝突するのはもうご免被りたい)

シャル(……何でも話せる仲間はすぐ傍にいたのに、見まいとしてたのかな。
    箒……セシリア……鈴……ラウラ……そうだ。僕たちを繋げているのは家柄や国籍じゃなかったじゃないか!
    そんなのより、もっともっと尊い繋がりで結ばれてる……それを信じなくてどうするんだよ!)

シャル「ねえ………」

箒「!」

シャル「……ちょっと、僕の話を聞いてくれるかな?」

箒「もちろんだ!」

鈴「言ってしまった方が楽になれるわよ。そのことはあたしが保障するわ」

簪「………」コクコク

シャル「じゃあ、まず…………僕のそもそもの生まれから始めるね……」


――――――

―――




箒「…………そうか。シャルロットはそういう枷に縛られていたのか」

鈴「ひっどい話ねえ……娘の意思を無視して勝手に物事を進める親父なんか縁切りなさいよ!」

簪(世界的企業のデュノア社がそんな真似を……)

シャル「一夏には話したんだけどね。嬉しかったなあ……一夏は僕のことを助けてくれて……」

箒(一夏……)

シャル「………………」ポロッ

鈴「ど、どしたの!? 涙なんかこぼして!」

シャル「いや、鈴たちがちゃんと受け止めてくれたのが嬉しいなって。僕、考え過ぎてたのかも……」

箒「心外だな。 それとも何か? 
  友人が愛人から生まれた子だと知ればすぐさま見下すような冷血漢だと、私たちのことを思っていたのか?」

シャル「ううん! そんな訳ないじゃん!!」

鈴「で……それが本題じゃないんでしょ」

シャル「うん。それで、しばらく本社の方も僕に対しての積極的な働きかけはなかったんだけどね」

シャル「でも先日フランスに戻ってこいっていう文書が届いたんだ。
    それで僕は一度は回避したと思ってた問題に、また向き合わされることになった」

鈴「そんなの蹴ればいいじゃない! シャルロットの人権はどうなってんのよ! オール無視!?」

シャル「そうできるものならしたいさ。僕、今も手紙を持ってるんだけど見てもらえるかな?」ゴソゴソ スッ

箒「どれ……」

シャル「末尾に追伸文があるでしょ……そ、それがさ……」

鈴「ふんふん……墓参り……一緒に…………」

鈴「っ…………!」

簪「鳳さん?」

箒(鈴も親との問題を抱えていたから、この文の効力がどれほどかは痛いほど分かるのだろうな)

シャル「ちゃんと分かってるんだよ、頭では。こんなの、僕を引きずり込もうとする罠だってことはさ。
    でも、どうしても、信じることを諦めきれなくて……」

鈴「これは……えげつないわね」

シャル「それにさ、もしデュノア社が倒産してお父さんの行方が分からなくなったりしたら……僕の身を保障してくれるものはなくなるんだよ」

箒「そんなっ……!」

シャル「装備の供給もストップするし、帰る家もなくなるし、きっと牢獄に入れられちゃうって思うと……怖くて、不安で、た、堪らなくなって……」

シャル「だから会社が潰れちゃわないように、戻って開発に協力した方が僕のためにもなるかもって、思っちゃって……う、ううう……」

シャル「うっうっ……ぐすっ………う、うわああぁぁぁ…………! ひぐっ……ひぐっ……! ど、どうしよう……!」

箒「これは……」

簪「シャルロットさん……」

鈴「…………!」


バンッ!!


シャル「う!」ビクッ

鈴「シャル、あんたの気も知らず食堂であんなこと言ってごめん。
  生まれがどうか、育ちがどうかを基準にあたしたちは集まったわけじゃなかったってあたしも気付いたわ」

鈴「安心してシャルロット。もしあんたの父親があんたを好き勝手に操ろうってんなら、そのときはあたしが中国政府に会社の悪行をリークしてあげる」

シャル「え……」

鈴「といってもそれだけじゃ弱いか。フランスとは競走中だし、中国も敵の基幹を支える企業の黒い噂を検証するでしょうけど……
  どれだけ働きかけてくれるかはわからない」

簪「私……」

箒「ん?」

簪「もしかしたらデュノア社の所業にはフランス政府も噛んでるかも知れないって思う……
  だって、デュノア社は自国のIS産業を担う企業だし、政府も守ろうとするんじゃ……」

シャル「!」

鈴「……もしそうだったらますます旗色が悪くなるわね。どうしたら……」

シャル「ううう……やっぱり……もう八方ふさがりなのかな……」

箒(シャルは父の愛情を知らずに……私は父と切り離されたが、こういった形で癒着してくる親もいるのか……)

箒「…………」

箒「シャルロット。会社が無くなったら帰る場所が消えてしまうを思っているようだが……
  もしおまえさえよければ私の叔母さんのもとで面倒を見てもらうこともできるんだぞ」

シャル「え!」

箒「先生に事情を話す……と言っても、シャルロットが性別を偽って入学できたことを考えると大きな効果は期待できないだろうな。
  上層部の方は既にデュノア社とフランス政府の圧力を受けていたり、取引がなされていると考えた方がいいだろう」

箒「しかし、私が姉さんにおまえを救うよう頼めばなんとかなるかも知れん。各国政府も篠ノ之博士の動向に対しては下手に動けないと思う」

箒「…………」

箒(また姉に頼るのか……いや、これは友達を救うためだから仕方ない……)

鈴「いいわね。そうだ! セシリアやラウラにも頼みましょうよ! 
  二人とも代表候補生だし、特にセシリアは由緒正しい貴族の家柄でイギリス政府からの信用も厚いだろうし!」

箒「そうか。あいつらなら快く協力してくれるはずだな!」

鈴「同時に何ヶ国もの国から追及されたらフランスだって迂闊な真似できないわよ!」

簪「わ、私もお姉ちゃんに相談してみる。きっと力を貸してくれるはず」

箒「そうか、簪の姉はあの人だったな。よし、織斑先生にも事情を打ち明けて協力を求めよう! あの人は教師の中でも別格だ」

鈴「なんか凄いわね~~! 何でも出来そうな気がしてきた!」

シャル「…………」

シャル「どうして……皆そこまでしてくれるの? 僕なんかに、どうして……」

箒「今更その質問はないだろう」

鈴「そんなの仲間だからに決まってるじゃない! 
  あたしらの腐れ縁は簡単に忘れられるものじゃないし、あっさり見捨てられる仲間は一人もいないってこと!」

簪(篠ノ之さんの言った通り……すごく安心できる繋がりだ……私が考える前に動いちゃった)

シャル(……!)

シャル「……あ、ありがとう。本当にありがとう皆……」ジワッ

鈴「シャルロット……何言ってんのよ、仲間じゃない!」

箒「そうだ。しかしシャルロット、フランスに戻るかどうかは自分の意思で決めるんだぞ」

シャル「うん……」コクッ

箒「なあに、安心しろ。おまえには私たちが付いているんだ」

シャル「そうだったね」

シャル「…………」

シャル「……僕はスパイとしてIS学園に入学したけど、ここに来てよかったよ……本当にさ……」

シャル「だって……こんなに心強い仲間ができたんだもん……!!」

鈴「ふふ。と言っても、あたしたちだけでは上手くいきそうにないから、多くの人の手を借りることになるんだけどね」

シャル「そんなの全然関係ないよ。僕を助けようとしてくれる、その姿勢が嬉しいんだよっ……!」

箒「ふふっ……」

簪(篠ノ之さん……笑ってる)

シャル「僕、やっぱり戻らないことに決めた。これからきちんとした手紙を書いて、拒絶の意を示すつもり」

シャル「皆と話したら、だんだん自分の道が見えてきた気がする。どうせ向き合わなきゃいけない問題だったんだしね。
    いざとなったら、いくらお父さんと言えども戦うよ」

箒「その、親父さんとの墓参りはいいのか?」

シャル「うん。今はここで皆と過ごしたい。お父さんと一緒にお母さんの前に行けるって話は、本当だったら嬉しいけど……
    ここに一生戻れなくなる可能性があるならお断りさ」

鈴「今を選ぶってことね」

シャル「うん。死んだお母さんもきっと僕の決断を許してくれると思う」

鈴「…………」

鈴「あたしも……」

鈴「なんかもう、ふっ切れた。あたしが両親が待つ家に戻りたかったのは、心地良い家庭に逃げようとしてただけだったんだ。
  温かく迎えてくれる家がない子もいたのに、あたしだけそうするのは情けないわ」

箒「そうか」

鈴「落ち込むなんてガラじゃないしね! そんな暇あったら攻めるのがあたしだったはずよ」

鈴「心から負けたくないと思える最高のライバルと、心から助けたいと思える最高の仲間が同時に何人もできた。
  それなのにあたしだけ尻尾巻いてバックれるわけにはいかないでしょ!」

箒「さすが鈴だな。やはり、おまえたちがいないと私も寂しい」ニコッ

シャル「……」

シャル「箒さあ、君はそんな顔して笑うんだね。滅多に見たことないから新鮮だよ。どことなく一夏を思い出す……」

箒「なっ!? そ、そうか!?」

箒「こほん…………シャルロット、一つ、やるべきことを忘れていないか」

シャル「え?」

箒「昨日、ラウラと衝突していたみたいだが……仲直りはできたのか?」

シャル「っ……」

鈴「そういや昨日は……はは、ま、いっか」

シャル「鈴、あのときはごめんね。自分を見失ってた」

鈴「いいっていいって!」

シャル「…………」

シャル「僕、行かなきゃ……」

シャル「ラウラも苦しんでるんだよ! 僕が助けなきゃ! もう彼女とギスギスするのは嫌だっ!」

箒(そう言えばセシリアもどこか様子が変だったな……奴にも当たらなければ)

箒「そうと決まれば早速行動を起こそう。ラウラはどこにいる?」

シャル「確か、食堂に行かずにアリーナに向かったみたいだったけど」

簪(ボーデヴィッヒさんって……確かドイツの代表候補生で特殊部隊出身だって聞いたことがあるけど……)

箒「そうか、昼休みもあと十五分ほどで終わるが一応行ってみるか」

鈴「あいつ荒れてたからねえ~~人様に迷惑掛けてなきゃいいけど」

シャル(ラウラ……ごめんね。僕がもっと付いてあげなきゃいけなかったのに)

――――――

―――

今回はここまで

【第三アリーナ】


ピッ! ピッ! ピッ! 


ラウラ(相も変わらずビット頼みか。芸が無い!)


ヒュンヒュンヒュン! ピシッ……ピシッ……


ラウラ「おっと掠ったか、危ない危ない。妙な動きをすると思ったら偏向射撃を身に付けたのだな」

ラウラ「ふふふ…………! 中々腕を上げたではないか! ただのblauaugig※ではないようだ」

セシリア「謝罪しなさい! わたくしの家を侮辱したことを! わたくしのみならず先祖や両親に対する冒涜ですわ!」


※ 青い目を揶揄するスラング。単細胞というニュアンスが込められている。

ラウラ「良い気迫だ! 古式張った家柄に縛られている割には中々軽やかな動きをする!」

セシリア(ラウラさん……! いくらあなたでも許せません! 叩き潰してやらなきゃ気が済みませんわ!)


~十五分前~

【アリーナ前】

ラウラ「ふむ……一人で訓練とはいささか刺激に欠ける。もっともっと実戦を積みたい」

セシリア「…………」テクテク

ラウラ(セシリアか……あれで我慢するか)

ラウラ「おいセシリア。私の模擬戦の相手をしろ」

セシリア「あら、ラウラさん。申し訳ありませんが今はちょっと……」

ラウラ(ちっ……どいつもこいつも……)

ラウラ「腑抜けめ。ならさっさと去れ」

セシリア「…………」

ラウラ(ここはこんな腰抜けばかりか)

ラウラ「ふん、おまえのようなものが英国の代表候補生だと? 水準の低さが窺い知れるわ」

セシリア「…………」スタスタ

ラウラ「話によるとおまえは貴族の家の出身らしいが、代々続いてきた家を守るのは荷が重いだろうな。
    こんな臆病者が世継ぎなら実家の格も怪しいものだ」

セシリア「!!」ピクッ

セシリア「なんですって……?」

ラウラ(ん? 挑発に乗ってきたか)

ラウラ「だから貴様の門閥も取るに足りぬものであると言ったんだ。おまえの臆病振りを見る限り、そう突飛な見解ではあるまい」

セシリア「!」

ラウラ「大方、沈みゆく日をただ指をくわえて見ているだけだったのだろう? 貴様の覇気のない目を覗けば容易に想像がつくわ」

セシリア「……なさい……!」

ラウラ「ん?」

セシリア「撤回しなさいと言ったのです! いくら仲間のあなたでも今の言葉は看過できませんわ!」

ラウラ(仲間だと……!?)


―――この学園に来て、おまえを助けてくれる仲間ができたはずだ! 何度も一緒に戦ってきた仲間が!

   
ラウラ「……」ギリッ…


―――そいつらには俺に対してと同じようにぶつかるんじゃねえぞ!


ラウラ「ふざけるなっ!!」

ラウラ「おまえなど、おまえたちなど仲間ではないわ! 私がより強くなるための……ただの糧だ!」

セシリア「え!?」

ラウラ「ふーっ……ふーっ……」

セシリア(『仲間ではないです』って……!?)

セシリア「…………なるほど」

セシリア「昨日シャルロットさんが怒ったことも得心が行きました。そうやって自ら敵を作ろうとして……理解に苦しみます」

セシリア「分かりました。あなたの決闘の申し出、受けて立ちますわ! その代わり家を侮辱した言葉は取り消してもらいます!」

ラウラ「本当のことを指摘されてとさかに来たらしいな……! 
    撤回させたければ力尽くで言うことを聞かせればいいだろう! 最も、できればの話だがな」

セシリア「後悔しますわよ……!」

ラウラ「馬鹿め。二人掛かりで私にいいようにやられたのを忘れたか?」

――――――

―――

ピッ! ピッ! ピッ! ピッ!

ヒュン! ヒュン!


セシリア「スターライトmkⅢを………」ジャキッ

ラウラ「レール砲(カノン)安全装置解除……初弾装填準備」

ラウラ(ふむ……ビットを私の停止結界に止められないよう高速で操作しているのか。所詮浅知恵だ)

ラウラ(おまえの狙いは分かっているぞ。BT(ブルー・ティアーズ)の乱射撃は当てることを目的としていない。
    私の動きを限定するために使用しているのだろうが……見え見えだ!)

ラウラ(私の周囲を囲むように展開しているのは読めているぞ! 
    恐らくライフルの狙撃を私が避けた所を、間髪入れずに一斉射撃をする二段構えで来る!
    その前に私のレールカノンがおまえを吹き飛ばすがな!)


ヒュン! ヒュン!


セシリア「!」キッ


ビュン!


ラウラ(銃で撃たずにこちらに向かってくるだと? 馬鹿が! 貴様の白兵戦能力の低さは割れている!)

セシリア「はああぁぁぁ!」ブンッ!

ラウラ「甘いわ!」サッ


《AIC 発動》


セシリア「ぐっ!」ピタッ……

ラウラ(ライフルの柄で殴ろうとするとは……愚直にも程がある。至近距離からのレール砲の餌食に―――はっ!)

セシリア(わたくしを止めるために集中を必要とするA.I.C(アクティブ・イナーシャル・キャンセラー)を使えば……あなた自身の動きも制限される!)


ピッ! ピッ! ピッ! ピッ! ピッ!


ラウラ「っ!」


ドンドンドンドンドン!


ラウラ「ぐあっ! がっ! ぐおおぉぉ!?」

セシリア(A.I.Cが解除された……! 作戦通り!)

ラウラ「ぐう!」

セシリア(渾身の力で――)

セシリア「えい!!」ドガッ!

ラウラ「ぐあっ!!」

ヒュウゥゥゥゥ~~……… 

ドサァッ!!

ラウラ「うっ……うう……」


ザッ


ラウラ「!」

セシリア「はあっ……はあっ……」

ラウラ「う……!」

セシリア「読み勝ったのはわたくしの方でしたわね」

ラウラ(私と奴の距離は大体十メートルほど……)

ラウラ「おまえは銃で私を仕留めたかったらしいが………ふふふ……甘い! まだ、ワイヤーブレードが……」ブンッ!

セシリア「無駄ですわ」

ラウラ「…………!」

セシリア「あなたが低俗なスラングを吐く前に、苦い思い出のあるワイヤーの射出機構をBTのビームで封じさせて頂きました」

ラウラ「なっ」

セシリア「そんなことにも気付かないなんて、BTのビームを伝えるアラームで損傷表示が紛れてしまったのかしら?」

ラウラ「単に掠ったのではなく……これを使用不能にしていたのか……ふっ……」

ラウラ「ライフルで殴りかかる直情馬鹿にしてやられるとはな……」

セシリア「それも作戦ですわ」

ラウラ「?」

セシリア「インターセプター(ショートブレード)で飛びつくこともできましたが、そうするとプラズマ手刀で迎撃されてしまう可能性も高くなります。
     AICで停止したところ一斉射撃するという計画も崩れ去るでしょう。
     そうならないように手刀よりリーチが勝り、かつ動きが大振りなライフルで突撃することでA.I.Cの使用を誘ったのです」

ラウラ「ははは……」

ラウラ「はははははははははははははははは!」

ラウラ「出し抜かれた……か。気の抜けた女だという認識を訂正せねばなるまい。何がおまえをそうさせた?」

セシリア「話したところで……守りたいものを持たないあなたには分からないでしょうね」

ラウラ「…………!」

セシリア「さあ、わたくしの家を貶した報いは受けて貰いますわ! 覚悟しなさい! ラウラ・ボーデヴィッヒ!」ジャキッ!



「やめろセシリア! 勝負はついた!」



セシリア「!」

ラウラ「!」

箒「もういいだろう! 模擬戦でそこまでする必要はない!」

鈴「あんたたち……あたしが言うのもなんだけどちょっと派手にやりすぎじゃない?」

簪「私もそう思う……」

シャル「ラウラ! 君またやったの!?」

ラウラ「ちっ、あいつらか。いつここに来たのだ」

セシリア「ラウラさんはわたくしの血族を侮辱したのですわ! 撤回させなければ気が済みません!」

箒「だからといってとどめをさすのはやめておけ! これでラウラが気を失えば謝罪の言葉を聞くのが更に遠くなるぞ!」

セシリア「……!」

シャル「ねえ、セシリア! 僕からもお願い! どうか許してあげて!……ラウラも決して本心から言った訳じゃないんだよ!」

ラウラ(シャルロット……!)

シャル「頼むよ! 僕も、僕も一緒に謝るから!」

セシリア「別にシャルロットさんには……」

鈴「ど、どしたのよ? ちょっと抜けてるお嬢様だとは思ってたけど、あんたがそこまで怒るなんて見たことないわ」

箒「そうだ。おまえ、ここのところ上の空になったり、かと思えば仲間に対して激昂したり……少し妙だぞ?」

簪(…………昨日見たときはぼーっとしてたけど、やっぱりいつもは違うんだ)

セシリア「仲間……ですか。はっ、この方が……?」

セシリア「…………」フィィィィィン……


《ブルー・ティアーズ 展開解除》


セシリア「…………やる気が殺がれましたわ」

ラウラ「ちっ………」フィィィィィン……


《シュヴァルツェア・レーゲン 展開解除》


ラウラ「ぐ………」ダッ

箒「ラウラ!」

シャル(ラウラ、君……目が潤んで……)

セシリア「放っておいて差し上げたらいかがです? 
     わたくし達は仲間ではないと言っていましたから、追いついたところで突っぱねられますわ」

鈴「ラウラがそんなことを? まさかIS学園に来たばかりの頃に戻ったって訳……?」

シャル「僕、ラウラを追うよ!」

セシリア「落ちついてください。じきに昼休みも終わりますわ。わざわざ追わなくても教室で会えます」

セシリア「それにシャルロットさん、あなたも彼女には酷い目に遭わされたのではなくて?」

シャル「……でも、放ってはおけない! あんな寂しそうな彼女を見捨てておける訳ないじゃない!」

箒「シャルロット、セシリアの言う通りもうそろそろ予鈴が鳴る。ラウラに当たるのは次の休み時間にしよう」

シャル(ラウラ……ごめんね。僕も自分のことで手一杯で……君のことを全然見てあげられなかった……)

鈴「大丈夫よ。あたしたちだって協力するから、ね?」

簪「シャルロットさん……ファ、ファイト!」

セシリア「ふん……」

箒「…………」ジーッ

箒「なあ、セシリア。おまえも何かに悩んでいるのでは……」

セシリア(…………お父様)

セシリア「……お先に失礼しますわ。皆さんもあまりグズグズしていると遅刻しますわよ」スタスタ

箒「そうだな。私たちも急ごう!」

シャル「うん……」

鈴「次の休み時間、1組に顔出すから!」

簪「私も!」




「………」

「セシリアとラウラの間に出ようとしたら、箒たちに割り込まれちまった」

「あいつら……簪も一緒に集まってたけど、どういうことなんだ?」



一夏「…………………………………………………………」

【1組前廊下】

鈴「どう? ラウラのやつ、授業中は大人しかった?」

箒「ああ。不貞腐れていたようなところがあるがな。ただ、怒気を撒き散らすことはないが更に塞ぎこんでいるように見えた」

簪「シャルロットさんは? あの人が一番心配してたみたいだけど」

箒「もう行っているよ……誰よりも早くな」



シャル「ね、ラウラ……君が一番今のままが嫌だって気付いているんじゃないの?」

ラウラ「…………」ギロッ

シャル「皆の輪に戻ろうよ。僕も改めて受け入れて貰えたときすごく嬉しくてさ。君にも優しさに触れて欲しいんだ」

ラウラ「黙れ! 気軽に声を掛けるなと言ったはずだぞ!」

シャル「そう言う君が一番周りにちょっかい出してるじゃないか!
    模擬戦のあと僕を挑発したり、セシリアに失礼なことを言ったり!」

シャル「君がそういうことをするのは心の底では他者に興味を持ってるからじゃないの?
    わざわざ敵意を買うような真似をするのは、君の不器用なコミュニケーションの形なんじゃ―――」

シャル「でも……」

ラウラ「ふん。休み時間だと言うのに……おまえの顔を見ていると息が詰るわ」

シャル「……!」



箒「うーむ……やはりラウラは頑なだな」

鈴「あたしたちも行った方が良くない?」

箒「いや、シャルロットに『一対一で話したい』と告げられてな……」

簪「でも……苦戦してるみたい」

「放っておいて差し上げたらと助言したはずですわ」

箒「ん?」

セシリア「彼女はクラスメイトの家を平気で侮辱するような人間なのですよ?」

箒「セシリア……」

鈴「やっぱセシリアちょっと変。一体どうしたっていうのよ?」

セシリア「……」

鈴「ねえ、あたしにも言えないことなの? あんたとあたしは腐れ縁なのか、よく一緒に行動した仲じゃない。
  ウォーターワールドで熱戦を繰り広げた記憶はどっか行っちゃった?」

セシリア「鈴さん……」

鈴「ラウラは……まあ、こっぴどい目に遭わされたこともあるけど大切な仲間じゃない。
  あんたもちょっと家を馬鹿にされたくらいで根に持ち過ぎじゃないの?」

セシリア「!」ピクッッ

セシリア「鈴さん、あなたにわたくしが家を貶されたときの気持ちが……いや、止めておきますわ」

鈴「な、何よ……?」

セシリア「失礼」スタスタ

鈴「あ……行っちゃた……」

箒「ふむ。どうしたものか……」

鈴「そうねぇ……まあ、シャルロットが戻ってくるのを待ちましょ。
  話し始めは明るかった表情が曇ってきたから、もう限界よ」

鈴(セシリア……相棒みたいな存在のあんたがそういう風に変わっていくのは、見てて辛いわ……)


~数分後~

シャル「皆……」

箒「シャルロットか。ラウラはどうだった?」

シャル「色々話してみたんだけど、全然ダメだったよ……まともに取り合って貰えなかった」

簪「大丈夫だよ、きっと。悩みを抱えてるときは周りが見えにくくなるものだから」

簪(……そうだ。色々なことがあって失念してたけど、お姉ちゃんから一夏の悩みを聞くよう頼まれてたんだった)

簪(えーと……一夏は……)キョロキョロ

ラウラ(……守りたいものを持たない私には分からないというセシリアのあの言葉……)

ラウラ(過去、教官は何故あなたはそんなに強いのかという私の問いに守るものがあるからだと答えた)

ラウラ(やはり……強くなるためにはそれが必要なのか?
    しかし、守りたいものを失ってしまったときの痛みについては誰も教えてくれなかった……教官もだ……)

ラウラ(私は元凶である一夏を捨て去り、一夏と会ってからの自分を闇に葬り、苦しみから逃れようとしたのに……
    なぜ、今も割り切れない思いが胸中に渦巻いているんだ?)

「ラウラ」

ラウラ「うっ……また貴様か! 私の机に近寄る許可を出した覚えは無い!」

一夏「へへ、ま、そう言うなよ!」

一夏「なあ、さっきのシャルとのやりとり見てたけど、ああいった態度はよくないぜ?」

ラウラ「出歯亀が趣味だったとはな。ただでさえ底値だったおまえの評価は地に潜ったぞ」

一夏「ははは! きっつい冗談だなあ!」

ラウラ「ふん」

ラウラ(どこまでも気楽で能天気な男だ。こいつは今まで何一つ苦しみを味わって来なかったのだろう)

一夏「でもよ、マジで皆とは仲良くした方がいいぜ? ラウラだってホントはそうしたいんだろ?」

ラウラ「黙れ」

一夏「……ラウラ、おまえのレーゲン痛んでるんじゃないのか? 整備課行って直してもらってこいよ」

ラウラ「…………」ギロッ

一夏「はは……」

ラウラ「目障りだ」

一夏「え?」

ラウラ「失せろ! 眉間にナイフを刺しこまれたいのか!?」

一夏「い、いやいやいや!」

ラウラ「……」

一夏「じゃあ俺は行くけど、ちゃんと修理してもらうんだぞ? ISは大切にケアしないとへそ曲げちゃうぜ」

ラウラ「おまえの声はこれ以上聞きたくない!」

一夏「……はい」

一夏「じゃ、じゃあな」トボトボ



ラウラ「ふん。やっと行ったか」

ラウラ(だが……確かにISの損傷具合は確認しておかねばならないな)

簪(一夏……ボーデヴィッヒさんのとこ言ってお話ししてる……)

箒「一夏のやつ、笑っているな。元気そうで安心した」

シャル「やっぱり、僕と同じようにうまくいってないみたいだね」

鈴「あいつもよくやるわ。なんか一夏って、いつもああいうことしてる気がする。
  仲良くしてくれるか分からない相手に自分から声掛けて、笑い掛けて……そういうとこ天然なのよね」

箒「確かに。ん……? 一夏とラウラの話が終わったようだな」

鈴「めちゃめちゃラウラに睨まれてるじゃない……」

簪(あ、一夏がこっちに向かってきた……)



一夏「よう! 皆お揃いで。何やってんだ?」

箒「ううむ。それが……はっ」

箒(私は一夏にしばらく話しかけるなと言ってしまったのに……)

鈴「あ、一夏……」

簪「…………」

一夏「どうしたんだ? 箒、鈴、シャル、簪……ちょっと話聞かせてくれよ」


鈴(昨日あんな対応したあたしに、なんでそんな気軽に声を掛けてこれるの……?)

シャル(一夏は鈍感だけどすごく大らかなんだよね。君を突っぱねた僕を避けずにいてくれてるなんて……)

簪(一夏は悩みを抱えてるっていうお姉ちゃんは言ってたけど、何も胸に閊えてるものがあるようには見えないなあ)

一夏「なんだよ、皆黙っちまって……そうだ、簪! 放課後に整備課に行ってラウラのIS直すの手伝ってくれないか?」

簪「えっ……」

箒(どうしてシュヴァルツェア・レーゲンが損傷したことを知っているんだ? 
  あそこまで頑なだったラウラから聞き出せたようには見えなかったが)

一夏「一応他の知り合いにも頼んでるんだけどよ、やっぱり数が多いに越したことはないって言うか」

簪「私が、ラウラさんのISを……」

一夏「どうだ?」

簪(…………)

簪(篠ノ之さんは私を仲間の輪に入れてくれた。
  鳳さんやシャルロットさんも仲間を助けようと母国に陳情することを決意したり、拒まれても必死に声を掛け続けてた)

簪(私にも……誰かのためにできることがあるはず……)

簪「わかった。放課後だね」

一夏「おう! 頼むぜ! 箒たちももし時間があれば付き添ってやってくれないか? 
   あまり知らないやつの専用機を直すのってやりにくいかも知れないし、ラウラと簪の橋渡しをして欲しいんだ」

箒「う、うむ。部活には少し遅れて練習に行くと伝えておこう」

鈴「あたしもそうするわ。あ、でもあんたは来ないの?」

一夏「ああ。それと、ラウラには俺がISの修理をおまえらに頼んだってことは伏せておいてくれ」

鈴「どうして?」

一夏「俺、ラウラの機嫌を損ねちまってるみたいなんだ。
   俺が修理に手を貸したりおまえらに手伝うように言ったことが知れたら、あいつは反感持って修理を拒む可能性もあるからさ」

箒(一夏が全員から無視されていたという静寐の話はどうやら本当らしいな……)

簪「そうなんだ……確かに、あのラウラさんの態度じゃ他の整備室の人たちは協力してくれないかも知れないし……」

シャル「機体を直すのはいいけど……ラウラはこのままじゃクラスからも孤立しちゃうよ」

一夏「あ、そういや教室に戻る前にセシリアと会って少し話をしたんだ。ちょっと不機嫌そうだったな、あいつ」

鈴「ラウラに家のことを侮辱されたらしくって、ずっとそのことで怒ってんのよ」

一夏「うーん……鈴、おまえはいつもセシリアとつるんでたけど、どうにかしてあいつから話を……」

鈴「無理だった。もう聞いてみたけど」

一夏「そっか……」

シャル「そうだ。セシリアに謝りに行かなきゃ」

簪「えっ……?」

シャル「ラウラがあんな調子だからさ。僕がセシリアに頭を下げてラウラへ持っている反感を抑えないと」

簪「そうだね。このままだとどんどん二人の仲は険悪になって行きそうだし……」

シャル「うん。それにセシリアも前からちょっと変だったしね。丁寧な対応をしていかないと」

鈴「シャル、あんたなんでラウラがああなったか知らない? 同じ部屋なんだし、何か思い当たることくらいあると思うんだけど?」

一夏「……!」

シャル「そうだね。ラウラに起こった変化について僕が知ってることを皆には話しておこうか」

箒「ああ、頼む」

箒(…………そうだ。一夏はまだ自分が避けられていた理由を一つとしても知らないのか。ここで一緒に話した方が良いだろう)

一夏箒「なあ皆―――」

一夏「いっ!?」

箒「あっ……」



千冬「授業だ。席に付け」

全員「はいっ!」

シャル「あっ……続きは放課後でいいかな?」ヒソヒソ

箒「ああ」

鈴「オーケー。あたしも先生に叩かれないうちに戻るわ。簪も急いで」

簪「うん」

千冬「ほらほら、他の組の専用機持ちが二人揃って何をしている。私はこいつらだけで手一杯なんだがな」

鈴「し、失礼しまーす!」

簪「しまーす……」

千冬(全く……また一夏に群がってきたのか)


~授業中~

箒(ふむ……結局一夏に私たちの事情を打ち明けることはできなかった)

箒(しかし静寐の話だと一人になった途端落ち込んで見えたと言っていたな。
  その原因は恐らく私たちが一夏に対して急に素っ気なくなったことにある)

箒(いつも大らかで寛容な態度でいるから想像しにくいが、あいつも一人の高校生だ。
  私たちから一斉に無視されたら堪えるだろう……当たり前だ)

箒(私もあいつに対して酷いことをしてきた……頭に血が上ったときは、何度も一夏に向けて武器を振りかざした……)チクッ

箒(一夏……おまえの抱えている不安は、私たちが事情を話せばきっと消えるからな?)チラッ

一夏「…………!」ビクッ アセアセ

箒(ん? 一夏が今こっちを見ていた気がする……慌てて前を向き直したような……)

千冬「タッグマッチでは、当たり前だが一対一の場合より行動の選択肢が増え、またそのために最善策を見極めるための判断力もより必要とされる」

箒(危ないところだったな。千冬さんが生徒側に背を向けていたから助かったようだが)

千冬「また広い視野を持つことも重要だ。ここで言う視野とは目で見える光景に限らない。
   敵二人と相方を認識し、彼女らの特性を良く掴み、それを計算に入れた行動を取れと言うことだな」

一夏「…………っ」

千冬「例えば敵の一人が遠距離からの狙撃を得意とし、もう片方が格闘戦に自信を持っている場合には―――」

箒(一夏……?)

次回に続きます

【廊下】

ラウラ「……………」スタスタ

ラウラ(くそう……前の休み時間に一夏とシャルロットの戯言を聞かされたせいで、また落ちつかない気分になってきたではないか!)

ラウラ(いや待て、この程度のことで精神が乱されるとは、まだ強かった私に戻りきっていないということだ。
    もっと冷徹になるんだ。甘さを捨てろ……)


ラウラ「…………」


―――守りたいものを持たないあなたには分からないでしょうね


ラウラ「くそう! 何故セシリアのあの言葉が耳から離れないんだ!?」

ラウラ「くそくそくそ! 訳が分からない! また割り切れない妙な気持ちになる!」

「ボーちゃん落ちついて~~」

ラウラ「!」

のほほんさん「や~や~ボーちゃん。あんまり苛立ってたら、周りに迷惑だよ~~?」

ラウラ「ぼ、ボーちゃ……な、何だ貴様は? 私に用でもあるのか!?」

のほほんさん「ボーちゃん、逆だよぉ。私が君に用があるんじゃなくて、君が私に用……あ、そうだ。言っちゃいけないんだった」

ラウラ「はあ? な、何を言って……?」

のほほんさん「こほん。とにかく、何か困ってるなら私が力を貸すよ~~」



箒「ラウラはもう先に行ってしまったのか」

簪「うん。篠ノ之さん、ちょっと遅かったね」

箒「すまん。ホームルーム後、先生に何か悩んでいないかと聞かれてな。
  無いことは無かったんだが、ラウラたちのことが心配で早々に切り上げたよ」

箒(ホームルームのあとに事情を一夏に話すことはできなかった……
  私は千冬さんに悩みは無いかと尋ねられているあいだに、また部活に貸し出されて行ってしまった)

箒(そう言えば何故千冬さんは私に声を掛けたのだろう? 私が一番変に見えたのだろうか……?)

簪「ラウラさんが見えたよ……あ、本音。何をやっているの!?」

のほほんさん「あ~、かんちゃんだぁ。私は~~ボーちゃんのISを直してあげる使命を与えられているのです」フンスッ

簪「……そうなの」

簪(……一夏が他の知り合いにも頼んだって言ってたけど……本音のことだったんだ……)

箒(布仏も一夏から頼まれたのか……? いつ? 
  昼休みの次の休み時間か? 一夏はラウラから話を聞いてからでなければ頼めないはずなのに、その時点から予鈴がなるまでは私たちと一緒にいたぞ)

ラウラ「?」

箒(まあいい。今はラウラが先だ)

箒「こほん。おまえのISの損傷具合は途中から観客席で見た私たちにも伺えたんでな。修理に協力してやろうというということだ」

のほほんさん「わぁ。皆も手伝ってくれるんだ~~」

ラウラ「私がおまえたちに力を借りるだと……? いらんわ、そんなことしなくていい」

鈴「馬鹿。あんたのシュヴァルツェア・レーゲンがかわいそうでしょうが」

ラウラ「!」

箒「おまえも機体を点検しなくてはいけないことは分かってるんだろう。さっさと行くぞ」グイッ ダッ

ラウラ「あっ、お、おい!」

簪「行こう行こう!」

のほほんさん「わぁ~~! 皆でゴーゴー!」

鈴「ちょっとは私らを頼りなさいよ!!」

ラウラ「う………うう………」

ラウラ(何故こいつらは私に構うんだ……孤高の道を歩みたいのに……)



【整備室】

ラウラ「……………………」

簪「機体全体の損傷レベルは低いよ。ワイヤーブレードを発射できなくなってるけど、すぐ直せる」

のほほんさん「ふむふむ。修理するところはあんまりないね~~」

ラウラ「…………」

のほほんさん「そうだ~~! 機体修繕が終わったらもっと効率的に稼働できるようにしちゃおうよぉ」

箒「ふむ、それがいいな」

ラウラ「え?」

簪「うん。各種ブースターのバランスは改善の余地があるよ。シールドバリアー展開時のエネルギー効率ももっと見直せそう」

鈴「なら、機材を借りて来なきゃね。その役は私がやるわ」

ラウラ「そ、そこまでする必要はない」

箒「好意は受けておいた方がいいぞ?」

ラウラ「…………」

ラウラ「どうして……」

鈴「ん?」

ラウラ「どうしておまえらは私に纏わりついてくる!? 私はおまえらを糧にしようとしている人間なんだぞ!」

ラウラ「おまえたちとの安い繋がりを絶って、ドイツの冷氷という二つ名にふさわしい自分を取り戻そうとしているのに!」

ラウラ「そして私は……もっと……強くなりたかっただけなのに……どうして……こうも混乱しているんだ……」


鈴「……………」

のほほんさん「ボーちゃんどしたの……」

箒(強くなりたい、か……)チクッ

ラウラ「くそう……ペースが乱される」

箒「…………」

箒「なあ、ラウラ。強くなるという目的なら、簪たちに機体を調整してもらうことで叶えられるではないか」

ラウラ「何?」

鈴「そうよ。あたしたちも暇なら模擬戦の相手ならできるし、お互いに気付いたところをアドバイスし合えばもっと成長できるじゃん」

ラウラ「!!」

箒「なあ、ラウラ。おまえに何があったかは知らない」

箒「偉そうに聞こえたら済まないが……おまえは自分が選びとった道を本当に納得しているのか?」

ラウラ「うぅ」

箒「割り切れていない様子だが、おまえの心の奥底では皆と結び付きたいと思っているのではないか」

ラウラ「結び付き……だと? 私が……?
    私は試験管から生まれた人造兵器。そんな俗なものとは縁が無いのだ……」

鈴「そうかな? さっきも言ったように強くなりたかったら仲間の手を借りた方がいいじゃん。
  それに、あたしらと遊んでるときはそれなりに楽しそうだったけどねぇ」

ラウラ(手を借りたことでメリットが得られるのは確かにそうだ。
    しかし、こいつらと伍するのは悲しい未来を連れてくるだけなのではないか……)

簪「…………」

簪「ラウラさん。私も篠ノ之さんや鈴さんとの関係のことで悩んでいたことがあったの。自分なんかが今更輪の中に入ってきていいのかって」

鈴「そうなの?」

簪「うん。でも、篠ノ之さんが私を快く歓迎してくれて……今、こうして皆といられるの」

ラウラ「…………」

簪「ねえ、あなたならもう気付いているんじゃない? 私にだって篠ノ之さんたちの温かさが伝わったんだよ。
  付き合いの長いラウラさんなら、仲間として誇らしい人ばかりだってことを分かってるはずじゃあ……」

ラウラ「くっ…………」

ラウラ(私は元の冷徹さを取り戻したかったはず……しかし、今胸を騒がすものは何だ?)

ラウラ(教官は守るものがあるから強いと言った……やはり……私が選び直した道の方が間違いなのか?)

ラウラ「こういうときはどうすればっ……!」

箒「ラウラ」

ラウラ「!」

箒「おまえがどう思っているかは分からんが、私は―――いや、私たちはおまえのことを今でも仲間だと思っているぞ」

ラウラ「仲間……」ドクンッ

箒「おまえの本心は何と言っている?」

ラウラ「!!」

ラウラ(私の本当の気持ち―――)


ポタッ……


箒「あっ」

ラウラ「どうして……だろうな。こんな経験したことはなかったからか……」

ラウラ「試験管の中で生を受け、人を無力化――殺す技術を学び、ただ訓練に明け暮れていたのに」

ラウラ「教官と出会い、一夏やおまえたちと出会い、共に戦い、新しい世界を見て……胸の中に新たな芽が吹き出していたんだ」

鈴「ラウラ……」

ラウラ「わ……」

ラウラ「私だって皆と一緒にいたい!」

ラウラ「守るものを失った悲しみを知っても、守ろうとした気持ちは捨てられない!!」

鈴「ラウラ!」

ラウラ「もう嫌だぁ! こんなに頭を悩ませるのも、皆に酷いこと言うのも言われるのも……後で苦しくなってばかりだ!」ポロポロ

ラウラ「悲しみによる胸の痛みから逃れようと皆を遠ざけて来たのに! そうしようとするとまた一層の苦しみに襲われる!」

ラウラ「ひくっ……ひくっ……どうしてだ……どうして……!!」

箒「おまえが優しいからだろう」

ラウラ「え!」

箒「何故おまえが私たちを遠ざけようとしたかは分からないが、酷い悲しみに包まれたことがきっかけらしいな」

鈴「……でもね、深く悲しむことができる心を持ってる人は、人のぬくもりを感じられるんだとあたしは思う。
  そして、ぬくもりを知った人間はそれを易々と手放すことができない」スッ


ギュゥッ


ラウラ「んっ」

鈴「こんな小さな体によく鬱積した想いを溜め込めたものね。ま、あたしも人のこと言えないか」

ラウラ「心……感じる心……」

ラウラ「私に……そんなものが……?」

簪「心は皆持ってるよ。ラウラさんが持ってないはずない」

ツーーッ……


ラウラ「…………私は……飼っていたグッピーのクラインが死んで……打ちのめされて……」

ラウラ「もう二度とあんな思いはしたくない。でも、悲しむことのできる自分を捨てることは、もっと難しかった」

鈴(ペットのグッピーの死が原因かあ……ラウラ、すごく純粋で傷付きやすいのね)

鈴「急に抱きしめて驚かせちゃった? ごめんね、どうしてもやらなければならないような気がしたの」パッ

ラウラ「…………いや」

箒「ラウラ!」ニコッ

ラウラ「あ……!」

のほほんさん「ん?」ピクッ

ラウラ(箒の笑顔が一瞬一夏のそれと重なった……)

箒「私たちも少なからず悲しい思いをしてきたし、これからどうするべきか頭を抱えたこともあった。
  だからおまえの気持ちが全く分からないというわけじゃない」

箒「ラウラよ、私たちとまた一緒に集まろう。また共に進んでいこう」

鈴「あたしからもお願い」

簪「これ以上同じこと続けても苦しいだけだよ」

ラウラ「…………!」

ラウラ「すまん。皆……心配を掛けた。鈴、昨日は邪険に扱って悪かったな」

鈴「あ、あたしはもういいけど……もっと謝らなきゃいけない人がいるんじゃない?」

ラウラ(シャルロット……セシリア……そして一夏……)

ラウラ「ああ。分かっている」

ラウラ「私の守りたいものはすぐそこにあったのに……! 自ら手放してしまうところだった。
    このまま行っていたら、もっともっと悲しい思いをしていたかも知れない」

ラウラ「すまん。今からシャルロットたちを探しに行きたいんだが、機体の修理・調整は頼めるか?」

簪「いいよ!」

のほほんさん「任せといて~~」

鈴「ほらほら、さっさと行ってきな」

ラウラ「ありがとう。本当にありがとう!」ペコッ

箒「しっかり謝るんだぞ! そうすればきっと許してくれるだろう」

ラウラ「ああ。箒、すまんがおまえも付いてきてくれないか?」

箒「え、私がか?」

ラウラ「うむ。別に一緒に謝ってほしいと言うのではない。ただ、おまえがいてくれるとなんとなく心強くなるから……その……」

箒「!」

箒(…………今、胸に嬉しい気持ちが広がってきた……)キュウゥゥゥ

箒「構わんぞ。私も同行しよう。あ、でも途中で剣道部に行くことになるかも知れんが、それでもいいか?」

ラウラ「もちろん」

のほほんさん「いってらっしゃ~い」



~20分前~
【IS学園 廊下】

セシリア「…………」スタスタ

シャル「ねえ、セシリア……機嫌直してよ……」

セシリア「シャルロットさんも変わった方ですね……
     あなたとラウラさんとの間の不和はまだ解消されていないのに、何故そこまでなさるのです?」

セシリア「彼女の傲岸不遜な態度はあなたも知っているはず。侮辱したまま謝らずに去るなんて不道徳もはなはだしいですわ」

シャル「ラウラは今ちょっと混乱してるんだよ! だからお願い、許してあげて」

セシリア「シャルロットさん、あなたもいい加減に―――はっ」

セシリア(先の休み時間で一夏さんに対して犯したミスをまた繰り返してしまうところでしたわ……)

セシリア(あのとき、苛立ちから『話しかけないでください』と強く怒鳴ってしまって……
     でも一夏さんは、皆には本音を言うのはいいがそういった攻撃的な態度は取らない方がいいと言われて……)

セシリア(全く、わたくしもどうかしていますわ)

セシリア「はあ……今日はテニス部の練習はお休みですから、じっくり本でも読もうかと思っていますの。
     シャルロットさんも私の邪魔をなさらないで頂きたいですわ」

シャル「ごめん……で、でも」

セシリア「ともかく、我が誇り高き血統を踏みにじられたからには、相応の態度を見せて頂かねば許せません!」

シャル「………セシリアは家を本当に大切にしてるんだね。凄いなあ」

シャル「なんか……羨ましいよ」

セシリア「…………?」

セシリア「どうしましたの、シャルロットさん?」

シャル「セシリアはきっと自分のお父さんのことも尊敬できてるんだろうなって、ふっと思ってさ。
    ごめんね、急に変なこと言って」

セシリア(父?)ビクッ

セシリア「どういうことですの? あなたは自分のお父様のことを尊敬しておられないのですか?」

シャル「……うん。僕は多分、できていないと思う」

セシリア「どうして?」

セシリア「ともかく、我が誇り高き血統を踏みにじられたからには、相応の態度を見せて頂かねば許せません!」

シャル「………セシリアは家を本当に大切にしてるんだね。凄いなあ」

シャル「なんか……羨ましいよ」

セシリア「…………?」

セシリア「どうしましたの、シャルロットさん?」

シャル「セシリアはきっと自分のお父さんのことも尊敬できてるんだろうなって、ふっと思ってさ。
    ごめんね、急に変なこと言って」

セシリア(父?)ビクッ

セシリア「どういうことですの? あなたは自分のお父様のことを尊敬しておられないのですか?」

シャル「……うん。僕は多分、できていないと思う」

セシリア「どうして?」

↑はミスです

セシリア(ひょっとしてシャルロットさんも私と同じように父のことで悩みを……)

セシリア「シャルロットさん。少しそのことについてお聞かせ願いませんか?」

シャル「うん。あ、そうか。セシリアには話してなかったね。僕の出自と、今までの人生のことを」

セシリア「私『には』とは……皆さんはもう知っているのですか?」

シャル「そうだね。箒たちには話したよ」

シャル「生まれについて負い目を感じてさ、今まで言わなかったんだ」

セシリア「そうですの。ねえ、シャルロットさん。あなたのお父様は―――」

シャル「それも含めて今から話すよ。僕と父親の関係も、ね」


――――――

―――



セシリア「……………そうだったのですね。昨日シャルロットさんが珍しく余裕を欠いていたのはその手紙が原因でしたの」

シャル「うん」

シャル「ねえ、僕のこと幻滅しちゃった?」

セシリア「いいえ。あなたはラウラさんの代わりに私に謝りに来てくれました、シャルロットさんは誇るべき友人ですわ」

セシリア「それよりわたくしが興味深かったのは、あなたへ酷い仕打ちをしたあなたの父親のことですわ」

シャル「うん……でも、この手紙の末尾の文は、本当か嘘か分からないの」

セシリア(……………まだ父親と和解できると思っているのですね……健気な……)

シャル「箒たちに話して、学園に残ることに決めたんだけどね。
    卒業後に本国に帰ることになっても、皆が協力して僕のこと助けてくれるって言ってさ」

セシリア「そうですの! もちろん私もあなたのことは援助しますわ」

セシリア(そう……生きているなら……まだどんな未来も希望はある……)

セシリア「……わたくしは父のことを見下していました」

シャル「え?」

セシリア「母の後ろに隠れ、母の顔色を伺い、母の言うことに逆らえない父のことを不甲斐なく思っていました」

セシリア「しかし、父は昔の私には分からなかった長所を持っていたと……
     わたくしの知らないところで静かな闘争を続けていたと思えるようになりました」

セシリア「でも、もう二度と父に謝ることはできないのです。もうはるか前に列車事故で母と共にこの世を去ってしまいました
     死の間際に母と交わしたであろう言葉を知る術を永遠に失ってしまい、そのことを知ったとき、わたくしは……」ジワ

シャル「セシリア!!」

セシリア「ね、ねえ、シャルロットさん。わたくしはあなたが黒い罠に絡め取られないよう力を貸すつもりです」

セシリア「しかし、それとは別に……あなたがあなたのお父様と笑って食卓を囲める日が来ることを、心の底から祈らせて頂きますわ!」ニコッ


ポタッ……


シャル(涙……)

セシリア「あ、あれ、なんでしょう? おかしいですわね。
     シャルロットさんが羨ましくなったのかしら? 嫉妬の涙というのもあるのですね」ポロポロ……

セシリア「最初はシャルロットさんがわたくしのことを羨ましがったのに、もう何が何だかわかりませんわね。ほほほほほ」ポロポロ……

シャル「えっと……」


「これを使ってくれ」


セシリア(ハンカチ?)

ラウラ「セシリア、これで涙を拭け」

セシリア「あっ!」

シャル「ラウラ!」

箒「セシリア、大丈夫か?」

セシリア「あなたたち……」

シャル「ラウラ、謝る気になったの!?」

ラウラ「ああ。セシリア。おまえの大切な家のことを馬鹿にして本当に悪かった」

ラウラ「…………ごめんなさい」ペコッ

セシリア「えっと……」

箒「セシリア、今だけはラウラの言葉を聞いてやってくれ」

ラウラ「おまえは家を大切に思っていたんだな。私が軽々しく貶していいものではなかったんだ。
    友人が守りたかったものを私は傷付けてしまった。どれだけ頭を下げても許されるものではないだろうが、それでも謝らせて欲しい」

セシリア「…………」

ラウラ「思えば、私がおまえたち相手に瀬踏みをしていたのは、心のどこかで人との接触を求めていたのかも知れない……」

シャル「セシリア、ラウラは―――――――っていうことがあったんだ」

セシリア「大切にしていたグッピーを失って、もうそのときの感情を味わいたくなかった、と……なるほど。
     純粋なラウラさんらしいと言えばらしいですわね」

ラウラ「すまん、セシリア。本当にすまん……」

セシリア「…………ラウラさん」

ラウラ「な、なんだ?」

セシリア「ハンカチ、お貸し頂けませんこと?」

ラウラ「あ、ああ! 使ってくれ!」シュビッ!!


フキフキ……


セシリア「ありがとうございました。ラウラさん」

ラウラ「お、おう! 礼には及ばん!」

シャル「ラウラ! 君、よく変われたね!」

ラウラ「ああ! 整備室で箒たちが私を後押ししてくれて、本当の私を見つけ出す手助けをしてくれたんだ!」

シャル「そうなんだ!」

箒「ま、まあな……は、はは……」

シャル(そっかそっか! 僕が一人でぶつからなくても……他の仲間がフォローしてくれるんだ!)

セシリア(あのラウラさんが……人はこうも変われるものなのですね……)

セシリア「ラウラさん。今回の件は水に流します」

ラウラ「本当か!?」

セシリア「ええ。でも、もう二度とああいった真似をしてはいけませんわよ! 誰より自分を押し下げる行為ですからね!」

ラウラ「ああ、面目ない……」

ラウラ「本当に大事なものと、自分の奥底の気持ちに気付いたんだ。私は再び変わる」

箒「ラウラ、シャルロットはおまえに凄く目を掛けていたんだぞ」

ラウラ「そうだった! シャルロットよ、おまえにも心配掛けたな」

シャル「うん。すっごく不安だったんだからね」

シャル「本当に……ぐすっ……良かった……」

ラウラ「私も辛かった……すまなかったな、シャルロット」

ラウラ(うう……『ハンカチを渡してやれ』という箒のアドバイスを聞いて良かった。うまく行った……)

シャル「僕もごめんね。そうだ! 今日の夜またココア淹れてあげるよ!」

ラウラ「本当か!」パアァァァ


セシリア「あらあら」

セシリア「…………」

箒「セシリア。おまえは父親に対する自分の認識の変化に戸惑っていたらしいな」

セシリア「あら、盗み聞きとは感心しませんね」

箒「すまん。入り込む隙が中々見つからなくてな……悪いと思ったが聞かせて貰った」

セシリア「ふう……」

箒「もう悩んではいないのか?」

セシリア「どうでしょう。父に対して悪いことをしたという自責の念はまだ残っていますけれど」

セシリア「しかし、ラウラさんが自分を変えて必死に謝ってきたのを見て……わたくしもいつまでもうつむいている訳にはいかないと思いました」

箒「そうか!」

セシリア「内に籠るのでなく、周りに目を向けることも必要でしょう。
     シャルロットさんが自分とまた違った父とのすれ違いを抱えていたことは、わたくしに大きな示唆を与えてくれました」

箒「ほう」

セシリア「恥ずべきと考えていた過去を打ち明けて貰えるほど、わたくしを信頼してくれている仲間がいたことに気付くことができ……
     そしてもっと思い返してみると、私の変化に目敏く気付いて心配してくれる仲間もいたのですね」

箒「そうだぞ! 皆おまえのことで気を揉んでいたんだ」

セシリア「ありがとう。そうでしたわね」

箒「礼も良いが、周りの仲間を助けてやってくれた方がいいな。皆もおまえと同じように抱えているものを下ろせずに苦労していたんだ」

箒「また皆がつまづいたり悩みを抱えているように見えたときは……今度はおまえが力を貸してやって欲しい」

セシリア(わたくしが皆さんを……ですか。
     そうですわ、他の方が一生懸命動いてくれていると言うのに、このセシリアは傍観しているだけというのは、実家の沽券に関わりますわ)

セシリア「…………」

セシリア「わたくしも……これからどうするべきか見えてきた気がします」

セシリア「わたくしという一人の人間として両の足でしっかりと立ち、自分を磨き、仲間を助けられる家名に恥じない人間になること。
     それが私に見本を示してくれた母に対するわたくしからの精いっぱいの返礼であり、見下し続けた父への贖罪なのですわ」

箒「さすがだな、セシリア。立派な目標だ」ニコッ

セシリア(……………!)

セシリア(一瞬一夏さんを思い出しましたわ……)

箒「ふふ……あ! そうだった! 急いで剣道部に行かないと! すまんが私はここまでだ! じゃあな皆!」ダッ

ラウラ「ああ……箒、ありがとう」

続きは明日

【放課後 整備室】

鈴「あ、時間だ。ごめん、あたしラクロス部行ってくるね」

簪「うん。手伝いありがとう」

のほほんさん「さよなら~~」


のほほんさん「ふ~ん♪ ふふ~ん♪」カチャカチャ

簪「…………」

簪「ねえ、本音。あなたはいつ一夏にラウラさんのISを修理するよう言われたの?」

のほほんさん「昼休みの次の休み時間ですよ~」カチャカチャ

のほほんさん「授業が終わってすぐ、わたしのところに来て~~真剣に頼まれちゃいましたぁ」

簪(一夏はその休み時間にラウラさんと話してるのを見たけど、そこで初めて事情を知ったんじゃなかったの……)

簪「……あなたの協力が得られて助かったわ」

のほほんさん「いえいえ~~。おりむーがねぇ、昼休みに私を励ましてくれたから~~そのお礼って訳じゃないですけどぉ」

簪「一夏に励まされた……?」

のほほんさん「うん。私、進級したら整備課に入りたくて~~でもちょっと不安もあって……」

簪「あなたが不安を?」

のほほんさん「あ~~! 今、想像できないって顔した~~! む~~!」プンプン

簪「ご、ごめんごめん」

のほほんさん「もう……! おりむーはちゃんと汲み取ってくれたのに……」

簪「悪かったって。ねえ、良ければもっと聞かせてくれない?」

のほほんさん「はい。私、こないだ生徒会の仕事をとちっちゃってお姉ちゃんたちに迷惑掛けちゃったの」

のほほんさん「ほら、かいちょーは先の襲撃事件が起きてからしばらく療養してたじゃない?」

簪「……うん」

のほほんさん「その間にどんどん雑務が増えていってね~~お姉ちゃんと私とおりむーでいつも以上にがんばって働いてなんとか回してたんだけどぉ」

簪「あなた、足引っ張るから生徒会の仕事は手伝わないようにしてるんじゃなかったの?」

のほほんさん「でもぉ……何もせず見てるだけじゃ悪い気がして~~」

のほほんさん「がんばってたんだけど、お仕事続けてると慣れない作業で疲れちゃって~~ちょっとの間居眠りしちゃったの~~」シュン

簪「もう……」

のほほんさん「お姉ちゃんには怒られちゃったけど~~私が寝てる間、おりむーは上着掛けてくれてたんだ~~」

のほほんさん「起きたあと、申し訳なさそうにしてた私にコーヒーも淹れてくれてね~~『良く眠れたか?』って笑い掛けてくれてさぁ」

のほほんさん「それがあってから、私もおりむーにはいろいろ話していいかなぁって思って……
       今日の昼休みに、私みたいなおとぼけが整備課に入れるか不安に思ってるって話したの」

簪(本音まで手を伸ばしてたんだ……一夏っていっつもそういうことをやってるのかな……?)

簪「一夏はどう答えたの?」

のほほんさん「それがねぇ……こほん」

のほほんさん「かんちゃん、打鉄弐式の調子はどうですかな?」

簪「……? 異常なしよ。まだまだ改善していかなきゃならなそうだけど」

のほほんさん「そ~~。良かった~~」

のほほんさん「おりむーは~~かんちゃんのISを作るのに協力してくれた私に感謝すると言ってくれたよ~~」

のほほんさん「『のほほんさんがいなかったら簪が参戦できなくなって、皆助からなかったかも知れない』ってね~~」

簪「確かにそうね。実戦に投入できるレベルまで完成度を高められたのは、あなたや京子さんたちのおかげ」

のほほんさん「えへへ……『だから自信を持ってくれ』って笑顔で言われてね……
       私も、整備の腕を磨くことでおりむーたちをバックアップできたらいいなぁと思ってさ~~」

簪「うん。私もあなたを応援する。私もあなたに差を付けられないようにもっとがんばる」

のほほんさん「はい! やりたいことに向かって走って行きましょうお嬢様!」

簪「……そうだ、一夏の様子にどこか変なところはなかった?」

のほほんさん「うん? 私と話してるときは~~いつもの明るく優しいおりむーだったよ?」

簪「悩みを抱えてるように感じられなかったのかしら」

のほほんさん「う~~ん……そもそも~~おりむーが何かに思いわずらうことなんかあるのかな~~」

簪「どうだろう……」

簪(あの日、私の席にきたお気楽そうな男子……交流を続けていくと、しっかりとした信念と意思を秘めていることは分かった)

簪(一夏は私に道を示してくれた。彼はおせっかいで無神経で鈍感で強引だけど、優しくてまっすぐで広い心を持ってる)

簪(そんな一夏が……ねえ……)

のほほんさん「おりむーは人の話に付き合うのが得意じゃない? 
       何か自分の内に抱えてるものがあったらそんな余裕はないと思う~~」

簪(確かに……午後の休み時間だって、ラウラさんに突っぱねられたあとで私たちにも話しかけてたし……)

のほほんさん「なんでそういうこと聞いてくるの~~?」

簪「いや、お姉ちゃんに頼まれてね。一夏の様子を探るようにって」

のほほんさん「ふーん……でも、大丈夫だと思うけどなぁ」

簪「そうだよね……」

簪(明日一夏に話しかけてみて、それで特に変わったところを見受けられなかったらお姉ちゃんに報告しよっと)

のほほんさん「さあ、ボーちゃんのISを徹底チューンアップしちゃおうよ~~」

簪「そうね! きっと仲直りしてくるでしょうし、私たちの調整が遅れたせいで笑顔を曇らせる訳にはいかないしね!」

~消灯十分前~

【一夏の部屋】

一夏「箒や鈴には普通に話してもらえるようになって、ちょっと安心したぜ」

一夏「よーし。明日あいつらに事情を聞いてみよう。今日はもう休むか」

一夏(……………………)

一夏(ラウラとセシリアは、お互い相手への憎しみをかなり滾らせてたな)

一夏(あの戦いを止めたのは、箒たちだった……)

一夏(あいつらがほとんど顔を知らないはずの簪まで一緒にいたのはどういうことなんだろう? やっぱり箒が声を掛けたのかな?)

一夏(仮にそうだとしたら、別に俺が動き回ることないんじゃ……それならうっとおしがられることも無くなるだろうし)

一夏「………!」

一夏(いやいやダメダメ! 仲間たちを繋げるのが俺の役目だろうが!)

一夏「ふう……」

一夏「俺のやろうとしてることは……合ってるはずだよな」

一夏(もっと周りの仲間と助け合って行けるように、ラウラたちを誘導しなきゃ。
   俺は外のあいつらが世界を見る余裕を持てるよう、困ってる人の話を聞いたりして心の重荷を下ろす手伝いをするだけ)

一夏「……これが俺の仕事」

一夏(そうだ……これが俺の価値なんだ……)

一夏(弾の言う通り、俺はたまたま恵まれてただけなんだ)

一夏(偶然ISを動かせて、良い機体を貰って、俺を鍛えてくれる人もいて。縁がなかった女の子たちと仲良くなれた)

一夏(でも俺である必要は―――「織斑一夏」でなければならない理由は無かったんだ。
   同じ環境に置かれたらもっとうまくやる男はたくさんいたはずだ。俺みたいに鈴たちを苦しめるような真似をすることはないだろう)

一夏(……何が『力がついたら誰かを守ってみたい』だ。
   俺一人で誰かを助けられたことなんか一度も無かった。それどころか皆を傷付けてちゃ世話ないぜ)

一夏(でも……確かに甘っちょろいけど、皆の力になりたいって考えは持ち続けなきゃ。周りの皆の笑顔を守りたいし)

一夏(ただでさえ皆には色々して貰ってるんだ。俺のせいで苦しめてしまったことの罪滅ぼしも兼ねてこれくらいは返していかないと)

一夏(そうだ。今の行動を止めたら本当に無価値な人間になっちまう)

一夏(でも俺のせいで皆が苦しまないように。俺はあいつらから一歩引かなきゃな……
   できるだけ遠ざかって、今までのように変に出しゃばらないようにしないと)

一夏「…………」チクッ

一夏「できるんだろうか、俺は……ん?」


キラッ


一夏(白式のガントレットか)

一夏(IS……)

一夏「直訳すると『無限の成層圏』なんだよな……それが女性を守る機械仕掛けの鎧の名前……」

一夏「……!」

一夏「は、はは。そっか、何か見えて来たぜ……」

一夏「俺は『IS』になれば良いんだな……!」

束「ふんふふ~ん♪」カタカタカタカタカタカタ

束「よーし! 他ISの起動妨害機能……搭載成功!」

束「今までは邪魔者がたくさん入って、いっくんと箒ちゃんの活躍の機会が奪われちゃってたからね」

束「前回は何体も投入したのに、ちーちゃんは出撃してくれないしー。仕方ないから今回は二人の実力を探るだけに目的を絞るよ」

開発中無人機「…………」

束「先に完成しそうなのは初期の鉄巨人タイプに近い方だね」

束「ふふふふふ……これら新型ゴーレムが完成し、二人の共闘を促すことができれば、更にいっくんと箒ちゃんの仲は進展するね!」

束「戦闘用AIの改善は当初の目論見通り自己進化機能に手を加えることで上手くいきそうだし、これはもう……」

束「束さんは世紀の大天才ってことかな!?」ターン&ブイサイン!

束「…………………」

束「さてと、作業に戻ろっと」カタカタカタカタ

束「うふふ……箒ちゃん……お姉ちゃんに任せときなさい」

束(そう言えば、今も十分だけど昔の箒ちゃんも可愛いんだよね)ゴソゴソ

ピラッ

束(うふふ。いっくんとちーちゃんも写っているこの写真……いつ見てもいいものだねえ)

束(もう一回だけ……こういう写真撮りたいな。今は皆色々と忙しいしもんね、いつかはそんな日が来るのかな)

束(でも、箒ちゃんとはそろそろまともにお話できるかも知れない。昔みたいにお互い何の遠慮もせずに……)

束(箒ちゃん、ごめんね。私が振り回したせいでたくさん迷惑掛けちゃったね。
  小学校変えられて、いっくんと離れ離れになってさ。年端もいかない頃から固っ苦しい尋問を受けさせられてたのも把握してる)

束(箒ちゃんは心がか弱いところもあるから……学校を変えられるたびに色々傷付いてきたんだろうなあ。
  そうそう、高校も自分の意思で選べなかったんだよね。いっくんと会えたのはそりゃ嬉しかったんだろうけどさ)
  
束(………………)

束「でも安心して箒ちゃん。これからはたくさん埋め合わせをするからさ」チラッ

無人機「……」

束「箒ちゃんはとっても強い精神と肉体を備えているし、紅椿を上手く操れるようになってるからきっと倒せるよね」

束(今はこういう不器用な形で繋がることしかできないけど、また仲良く顔を合わせて笑いたい……)

束「ふう」

束「さてと、あと何体か調整しようかな」

―――――――――――――――――――――――――――――

一夏「……」

一夏「ここは……」キョロキョロ

一夏「篠ノ之神社の道場か……」

一夏「懐かしいな。箒いるかな」

一夏「…………」

一夏「……いねえなあ。ちょっと見回してみよっと」

一夏「うーん……なんだか変だ。道場から掛け声は聞こえなくて妙に静かだし……ちくしょう、西日が眩しいな」

一夏「もう練習は終わったのか? それとも今日は休み?」

一夏「だとしたらここにいても意味は……ん?」



少年「…………」


一夏「井戸端に座ってるのは誰だ?」

一夏「おいちょっと、君に聞きたいことがあるんだけど」

少年「………………」クルッ

一夏「!!」

一夏「え……!? ガキの頃の俺!?」

少年「……………」ジワッ

一夏(目尻に涙が……)

少年「うっ…………」

一夏「ど、どうした……?」

一夏(何だ? 凄く懐かしいような)

少年「…………」

一夏(でも触れるのが怖いような……)

少年「ど……」

一夏「?」

少年「どうしてっ………行っちゃったんだよ……!」

一夏「へっ?」

少年「何も言わずどうして!? 俺が何かしたのか!?」

一夏「な、何を」

少年「う、うう……」

一夏「何でおまえはそんなに寂しそうに……あ」

一夏(夕暮れどき……閉まった剣道場……稽古で良く使った井戸に腰かける俺……)

一夏「………………………」

一夏「あ、ああ!」



ポタッ

~次の日 昼休み~

【食堂】

箒「そうか。先生方に伝えることはせず、まず父親に手紙を送ると。その決定でいいんだな?」

シャル「うん。セシリアが昨日励ましてくれたてね。それでこうしようって思ったんだ。
    ただ帰国を断るだけじゃなくて、お父さんが本当は僕のことをどう考えているのか尋ねるつもり」

鈴「どうせ聞こえの良い言葉ばかり並べてくるんじゃないの?」

セシリア「でも、わたくしは良いと思いますわ。この期に及んで実の娘を騙そうとする親なら、オルコット家が直々に処断しますわ」

シャル「あはは。ありがとう」

ラウラ「そのときは私も力を貸そう。とんでもないのを敵に回したことを骨の髄まで分からせてやる!」

簪「はは……おっかないね」

ラウラ「そうだ、更識簪よ。昨日は私のレーゲンを修理してくれてありがとう。そのうえ動作を最適化してくれて……本当に感謝する!!」

簪「え!! い、いいよ。こっちが勝手にやり始めたことだし……」

セシリア(この方が更識簪さん……楯無生徒会長の妹さんということですが、ずいぶんと印象が違いますわね)

箒「…………」

箒「セシリア、そう言えばおまえはまともに簪と顔を合わせるのは今回が初めてか」

簪「そうだね」

ラウラ「セシリア! 簪は良いやつだぞ! 見ず知らずの私のレーゲンを直してくれたんだ!」

シャル「そう言えば、僕が鈴とぎくしゃくしてたときに間を取り持ってくれたんだったね」

セシリア「そうですの」

セシリア(皆さんがそこまで言う人なら、きっと素晴らしい方なのでしょう)

簪「ええと……これからよろしくお願いします。セシリア……さん?」

セシリア「こちらこそ。あと、わたくしの名前は呼び捨てで構いませんわ」

簪「そ、そう?」

箒「皆そうしているしな」

セシリア「思えば、わたくしだけですわね……皆さんに敬称や敬語を使っているのは」

鈴「セシリアはそれでいいのよ! 今更キャラ変えされても困るし」

ラウラ「確かにな。まあ、セシリアの好きなようにすればいいと思う」

セシリア「ふふ、どうしましょうか……ねえシャルロット?」

シャル「え!?」

セシリア「その反応……やっぱりわたくしが使うのは合わないようです」

シャル「な、何で僕を実験台に選んだの!?」

鈴「あんたが一番やりやすそうだもんねー」

ラウラ「うむ」

簪「……確かにそんな感じ……」

シャル「か、簪まで! もー!」

箒「おまえは大らかで親しみやすいからな。いいところだぞ」

シャル「むう……」

箒(なんだか嬉しいな……一時は繋がりにひびが入っていたセシリアたちとまた集まれるとは)チラッ

簪「ふふ」

箒(……そのうえ新しい仲間も加わった)

「ね~~一緒に食べていい~~?」

箒「ん?」

簪「本音……」

のほほんさん「いつも一緒に食べてる子たちが~~用事あってね~~」

箒「もちろん構わんぞ!」

ラウラ「布仏本音か! 私の隣が空いているぞ!」

のほほんさん「ボーちゃんありがと~~」テクテク

ラウラ「礼には及ばん」

のほほんさん「チキン南蛮一個あげる~~」ヒョイ

ラウラ「お、おお。すまん」

シャル(ラウラって結構表情豊かなんだよね。こうして見ると分かるけど)

のほほんさん「かんちゃんもお仲間入りしたんだ~~やったね~~」

簪「う、うん。本音も良かったらこれからも一緒に食べようよ。お友達呼んでさ」

のほほんさん「いいの~~?」

鈴「もちろんよ!」

セシリア「構いませんわ!」

のほほんさん「わ~い! 皆、結構専用機持ちの子たちを知りたがってたから、喜ぶよ~~」

箒「そ、そうなのか」

箒(ふむ……クラスメイトともっと近づけるチャンスだ。もっと輪を広げられるかも知れない)

箒「……皆と一緒に食べたいのは私も同じだ。他の生徒が何を思っているか、私も知りたい」

のほほんさん「分かった~~私も今度からも入れて貰うね~~」

ラウラ「うむ!」

箒「もう二学期も終わろうという時期だが、クラス内の事情については知らないことが多い。親交を深めるにはちょうどいい」

シャル「うん。実は僕もそれほど皆のこと分かってるわけじゃないし」

シャル(周りを見る余裕もできたし、ね)

セシリア「確かにもう冬休みですものね。にしても色々とありましたわね。クラス代表決定戦がもう遠い過去のように思えますわ」

鈴「うん。クラス対抗タッグマッチや臨海学校での事件は結構きつかったわね」

ラウラ「二学期に入ってからも慌ただしい生活は変わらなかったな。むしろ忙しくなった」

シャル「楯無生徒会長も加わって拍車が掛かった感があるよね」

ラウラ「むう……! あいつにはいつも迷惑を掛けられっぱなしだ! 
    気まぐれに部屋に勝手に忍び込んではこちらに被害を出して帰っていく!」

簪「……ごめんね」

ラウラ「あ! か、簪! おまえが悪いわけではないぞ!」

箒「ははは。しかし早いものだな。冬休みか……」

のほほんさん「そうだ~~! お休みに入ったら皆で集まって騒ごうよ~~!」

箒「え?」

鈴「あ! それいいわね! 一回皆で遊びましょうよ!」

セシリア「ええ! 皆さんと一緒に余暇を過ごしたことは実のところあまりありませんし」

シャル「賛成!」

ラウラ「私も異論は無い!」

簪「…………えっと」ドキドキ

箒(簪はあまり皆で遊んだ経験がないのだろうか……?)

のほほんさん「しののんはどう?」

箒「あ、ああ。もちろん私も参加するぞ! 簪、おまえも来てくれると嬉しい!」

簪「う……」

箒「簪!」ニコッ

簪「そうね……私も皆と一緒に遊ぶ!」

箒「良かった。細かい段取りは追々決めていこう」

鈴「ええ! あ、もうそろそろ鐘が鳴るじゃない。話し込んで気付かなかったわ」

シャル「本当に。じゃ、戻ろっか」

ラウラ「うむ」


――――――

―――



~放課後~

箒(抱えてるものを吐き出したら、皆の繋がりが一層深まったような気がするな)

箒(あいつらの嬉しそうな顔……ここへは自分の意思で入学した訳ではなかったが、今ならここに来て良かったと言える)

鷹月「篠ノ之さん! 嬉しそうね!」

箒「静寐! セシリアたちとまた一緒に過ごせるようになってほっとしているんだ!」

鷹月「良かったじゃない! 昨日部屋に帰って来てからも話を聞いたけど、うまく関係修復できたみたいで何よりだわ」

箒「ああ。静寐があいつらのことを教えてくれたから私も動くことができたんだ。ありがとう」

鷹月「いいわよ、礼なんて。そうだ、織斑くんはどうだった?」

箒「そう言えば今日はあまり姿を見ていないな。朝昼と食堂にいなかったし、教室を空けることが多かった」

鷹月「え、じゃあ皆が織斑くんを避けてた事情を彼自身はまだ知らないってこと?」

箒「……! そ、そういうことになるな……」

箒(何故私は一夏のことを考えなかったんだ? 皆と一緒に過ごすのが楽しくて意識から外れていたのだろうか?)

箒(一夏……すまん)

鷹月「そうなの……ま、織斑くんは大丈夫でしょ」

箒「ん?」

鷹月「私は織斑くんが一人でいるとき気落ちしてる姿を見たけど、それはあなたたちに避けられていたことが原因だったと思うの。
   篠ノ之さんの話だと皆元の優しさと快活さを取り戻しているし、これからは彼を無視することもないでしょ」

箒「ううむ、そうか……」

鷹月「よく考えたら織斑くんっていつまでも思いつめるような繊細な神経してなかったと思うし」

鷹月(……あの鈍感値ランキングなんかあったら世界ランカーに上り詰めるであろう織斑くんのことだしね)

箒「そうだな。神経はともかく、あいつは強い男だ。まっすぐで大らかで、困った人がいたら手を差し伸べずにはいられない心根の持ち主でもある」

鷹月「…………」

鷹月「篠ノ之さんって、本当は織斑くんのことをすごく認めてるのね。彼にはいつも手厳しい態度を取ってたように感じてたけどさ」

箒「……」

箒(明日楯無さんに提案して一夏と私に特訓を付けて貰って、そのときに教えようか?……そろそろ一夏にあいつらの事情を話してやらなければ)

箒(きっと優しいあいつのことだ。笑って水に流してくれるに違いない)

箒(しかし、セシリアたちと話していてもほとんど一夏の話題が出ることが無かったな。意外だ……)

鷹月「どうしたの? 難しい顔して」

箒(そう言えば…………)

箒「一夏がいなければ、皆が出会うこともなかったんだな」

鷹月「え?」


山田「はーい! 授業ですよ! 皆さん席に戻ってくださいね!」

鷹月「あ……じゃあね」

箒「うむ」

鷹月(山田先生……織斑くんに悩み聞いて貰ってからより明るくなったわね。自信が付いてきたっていうか)

箒(…………一夏の後追いをしてるだけなのだな、私は……)

続きはまた明日!

【第三アリーナ】

楯無「……………槍も使わせてもらうわよ。一夏くん」スッ

一夏「はい」

楯無「……行くわよ」


ビュン!


一夏(正面からの突撃……!)

楯無「…………」スッ

ボゥン!!

一夏(前方に爆発!? 攪乱か!)

【白式アラート:右方向からの襲撃】

一夏「こっちか!」クルッ

ギュウゥゥン!!

一夏(向かって来たのは水のナイフ!? こっちもブラフだ!)バシッ!!

ボゥン!

一夏(くっ―――! 爆発した!?)

一夏「…………」


ゴオォォォォ!


楯無「………!」

一夏「後ろ!」グルン! バシッ!

楯無「あっ!」

一夏(槍はいなした! 今だ!)

【雪羅 零落白夜発動】

楯無(でも……!)

一夏(右手の蒼流旋対処完了―――敵左手に異変―――優先的に破壊――!)

一夏「はあっ!」ブン!

楯無「!」サッ ギュゥウンッ!

一夏「っ…………」


ヒュゥゥ……


楯無「ふう」スタッ

一夏「剣は左手とヴェールにかすっただけですか」

楯無「……いやあ、段取り組んだ攻撃が全部防がれちゃうなんて思いもしなかったわ。驚いちゃった。
   最初の煙幕も効果なかったし」サッ フッ

一夏「?」

一夏(何か今楯無さんの纏っていた水のヴェールが変に動いたような……)ジーッ

楯無「すごいじゃない一夏くん」

一夏「楯無さんこそ。ナノマシンで形成した水のナイフを遠隔操作して布石に使ってくるなんて予想外でした」

一夏「弾いても小規模の水蒸気爆発が起きて、あやうく体勢を崩しそうになりましたよ」

楯無「はは……」

楯無(本当はそこで注意を逸らして、後ろからの突進に対応する余裕を奪えてたはずなんだけどね。
   水のナイフを見せるのは初めてだったのに……弾かれたときに爆発する二段攻撃のギミックまで通用しなかったか)

楯無(あの技も潰されちゃうし……)

一夏「どうかしました?」

楯無「うん。でもやるじゃない一夏くん。後方からの突撃への対処も完璧。防御時の基本動作はほぼ身についたみたいね」

一夏「はい! 相手が片手で繰り出した攻撃を両手を使って防いだ場合、もう片方の手の動きに対応できなくなるから極力こちらも片手で捌くんですよね。
   それについては自分でもある程度形になってきたと思います」

楯無「そうよ。君の白式は特性上人一倍エネルギー管理に気を付けなければいけないんだから、防御技術を上げて無駄なダメージを避けなきゃダメよ」

一夏「分かっています!」

楯無「攻撃の方も抜本的に見直したいって言ってたけど、それについては君が最初に提案した方向は間違ってはいないと思うわ」

一夏「本当ですか?」

楯無「白式は元々の燃費が悪い上に必殺の零落白夜はシールドエネルギーまで消費する。
   それだけでも大変なのに、雪羅になると追加されたバリアシールドやスラスターのせいで輪を掛けて活動限界時間が縮まってしまう」

楯無「その問題を解消するために一夏くんは一つのスタイルに辿り着いた。
   エネルギーを消費する動きを極力控え、カウンター時に一瞬だけ発動した零落白夜を叩きこむスタイルにね」

楯無「瞬間加速もどうしても必要なとき以外使わず、相手の動きの隙を捉えたらすかさず必殺の一撃を叩きこむ――完成したら強い戦法だと思うわ」

一夏「そうですよね!」

楯無「完成したら、の話ね。この方法は言うのは簡単だけど実現させるのはかなり難しいと私は感じるのよ」

一夏「そ、そうですか?」

楯無「相手の攻撃を最小限の動きでかわす、っていうのは相当の熟練と集中力が必要なのよ」

楯無「アラーム類がいくら高性能だからって言っても、実力が拮抗した相手から被弾を抑えることは難しいわ。
   各種武器の特性をもっともっと理解する必要もあるし、セシリアちゃんのビットみたいな多方向からの同時攻撃などにも対応できるようにならなきゃ」

一夏「う……」

楯無「もちろん俊敏さや察知能力、相手の癖を見抜く力も要求されるわね」

一夏「…………」

楯無「エネルギーを無駄遣いしないことを考えの中心に置いたのは良いと思うの。
   だからまずは零落白夜や雪羅の荷電粒子砲、瞬間加速を的確な場面に使えるようになれればいいんじゃないかな?」

一夏「そうですね」

楯無「……ま、全段防がれた私が偉そうに言うことじゃないかも知れないけど。私からのフィードバックはこれくらいかな。さ、そろそろ戻ろうか」

一夏「はい」

楯無(…………)

楯無(今日は一夏くんから話しかけられて身構えちゃったわ。
   一夏くんの方から特訓の申し出をしてくることなんて、あの一件の後だから当分無いかなって思ってたのに)

楯無(そうしてきたところを見るに、簪ちゃんが言っていた通り今の一夏くんは悩みに苦しんでなさそうね)

楯無(そう言えば、私に報告をしたあとの簪ちゃん、嬉しそうな顔してたっけ。
   どうしたのって聞いたら『友達ができたの』って満面の笑顔で答えてくれたなあ)

楯無(良かったわね……本当に……今までロクなことしてこなかった私の依頼を聞いたから、神様や仏様が取り計らってくれたのね)

一夏「楯無さん、簪のこと考えてるんじゃないですか?」

楯無「へっ!?」ドキッ

一夏「やっぱりそうですか」

楯無「ま、まあね」

一夏「俺も簪が箒たちと楽しそうに過ごしているのを見たんです。
   あいつ、あんまり笑わなかった記憶があるんですけど、最近は気持ちいい笑顔を見せてくれるようになりました」

楯無「そうよね。私も嬉しいわ」

一夏「あの、楯無さん。良かったら簪たちと一緒にご飯食べたらどうですか?」

楯無「私が……簪ちゃんと一緒にご飯?」

一夏「ええ! もう苦手意識は消えたでしょうし、隔てる壁はもはや無いじゃないですか」

楯無「…………」

一夏「きっと、簪も楯無さんのことを気遣ったり心配したりしてると思うんです。あいつ、不器用だけど優しい奴ですから」

楯無「そう、ね。でもたまに思うことがあるの……」

一夏「?」

楯無「確かに私たちの距離は縮まったわ。今ならお互いに思っていることを胸を割って話せるかもね。
   でもね、そうしたら私……もしかしたら簪ちゃんにもっと弱みを見せてしまうかも知れない」

一夏「え……」

楯無「実は言うとね、ええと……そっか、あのときに感じた気持ちを伝えるにはこっちの事情をばらさなきゃいけないか」

一夏「何を言っているんです?」

楯無「一夏くん。あなた三日ほど前に私に悩み相談を持ちかけてきたわよね?」

一夏「あ、あれはもういいんですよ!

楯無「あの日、私一夏くんの部屋を出たあと、簪ちゃんに一夏くんが本当に大丈夫か探って貰おうと思ったのよ。
   あのときの私は君と直接会うのが怖くなってたから、代役を立てた訳ね」

一夏「そんなことしてたんですか」

楯無「君は相談するほどのものじゃ無かったって言ってたけど、あの後の雰囲気じゃもし心に重荷を抱えてたとしても言いづらかったでしょうし。
   一夏くんに悪いことしちゃったっていう負い目もあって、とにかく何とかしようとしてたわね、私」

一夏「……あれは俺が……」

楯無「もう言いっこなしよ。それで、簪ちゃんに頼むとき精一杯お願いしたんだけど、気乗りしない風だったわ。
   当たり前よね、こんな私の責任を取らされるなんて」

一夏「でも簪は……受けたんでしょうね」

楯無「そう。でもね、それは―――」

一夏「……ありがとうございます。楯無さん」

楯無「え?」

一夏「先輩は本当に俺のことを心配してくれてたんですね」

一夏「きっと簪はそのときの楯無さんが抱えてる不安な気持ちを察したんでしょう。
   あいつ、こういったことは苦手そうだったのに、依頼を受けたということは楯無さんのことを助けたかったんですよ」

楯無「……そうだね」

一夏「きっと楯無さん、あいつに弱いところを見せてしまったんじゃないですか。あいつは楯無さんが困ってたから引き受けたはずです」

楯無「うん……それで簪ちゃんは見事依頼を果たしてくれたわ」

楯無「で、報告によると一夏くんは悩んだりしてないということだったから、私から君に声を掛けようと思ったんだけどね。
   放課後に君の方から笑顔で声を掛けられたもんだから調子崩されちゃった」

一夏「そうですか、すみません。俺も早いとこ関係修復したかったもんで」

楯無「考えてることは同じだったわけね。で、私は今更ながら簪ちゃんに迷惑掛けたことで後悔してるのよ」

一夏「え? 簪とはもう和解できたんじゃ―――」

楯無「うん。でも今回は反省の連続。頼んだときには必死だったから気付かなかったけど一方的にこっちが余計な仕事押し付けただけだもんね」

一夏「簪はそんなこと思っていませんよ」

楯無「多分そうなんだろうけどね。でも、私の方は自分の行為に納得できない所が多いのよ」

一夏「納得できないとは?」

楯無「私は……そう。簪ちゃんと和解したときは、これからこの子をより近い距離で見守ってあげたいと思ったわ。
   もし危ない目にあったらすぐ飛んで行って助けてあげよう、今までの埋め合わせをたくさんしようって」

一夏(守る……か)

楯無「そのときの私は自分の問題を妹に押しつけてしまうことになるなんて思いもしなかった。
   私が描いていたイメージの中にはそういう絵は無かったの」

一夏「…………」
  
楯無「何だろう。自分を強く見せたいと思うのは生徒会長やってる職業病みたいなものなのかな。それとも姉特有の傲慢さから来るもの?
   勝手に助けたいと思って、弱いところを見せたくなかったのに……こっちが助けられてる」

一夏「楯無さん」

楯無「弱いところをもっと見せてしまうのを恐れてるのよ、私は。
   このままじゃ私の方が妹に苦手意識を持ってしまいかねないわ……」

一夏「誰だって完璧じゃありません」

楯無「でもそう見られたい欲求は消せないわ。特に今まで迷惑を掛けた妹に対しては。ああ、また尊大になってるかも」

一夏「っ…………」

一夏「そういう気持ちって、実は簪のことを信じ切れていない気持ちから来るんだと思います」

楯無「……え」

一夏「楯無さん、あいつはあなたが思っているより強いと思うんです。
   でも、あなたは自分がしっかりしていないと簪を不安にさせることになると考えているんじゃないですか……?」

楯無「そうよ、だから…………」

一夏「あなたはもう簪に強く見せようとする必要はありません。今のあいつには仲間がいます!」

楯無「!」

一夏「もしあなたの妹に辛いことが襲いかかったとしても、そのときに支えてくれる人間を簪は獲得してるんですよ。
   楯無さんだけががんばる必要はありません」

楯無「で、でも」

一夏「楯無さんだって……一人で奮闘していたらいつか限界が来るはずです。
   強くあろうとする生き方に疲れたときは簪たちに助けて貰えばいいんじゃないですか?」

楯無「え……?」

一夏「弱みを見せたって良いじゃないですか。姉妹なんだし。むしろ唯一の姉妹なんだからもっと打ち明けるべきです」

一夏「簪はあなたを支えられるほどの力は持っています。虚さんやのほほんさんにももっと心の内を見せていいでしょう」

楯無「…………」

一夏「俺だって、今みたいに及ばずながらアドバイスくらいはできると思いますし……身の程知らずだと受け取られるかも知れませんけど」

楯無「……………」

一夏(やべっ……生意気なこと言い過ぎたかな……?)

楯無「簪ちゃんを信じ切れてない、か…………言ってくれるじゃない」

一夏「……………す、すいません」

楯無「確かに……忘れてたわ。あの日、夕日色に染められた医療室で簪ちゃんに掛けた言葉のことを」

楯無「『あなたは、私の大切な妹よ。とても強い、私の妹――』って、ちゃんと、伝えた、はずなのにね……」

一夏「…………」

楯無「…………最近はさ、まみえた敵さんに出し抜かれたり、ボロボロになるほど追い込まれたりして、ちょっと自信失ってた所があったのかも」

楯無「だから、せめて妹に持たれてる良いイメージは崩したくないと思っちゃったんだろうね」

一夏「楯無さん、あなただって人間です。まだ成人もしてない女の子なんですよ。
   無類の強さと人徳があっても、人並みに人間関係や不調で悩んだりすることもきっとあるはずです」

楯無「そう……ね……」

一夏「…………そのときは…………力不足ながら俺も手を貸しますから」

楯無「うん。ありがと……」

一夏「な、何かごめんなさい! 勝手なことばっかり言って! 俺、今なんか猛烈に恥ずかしいです!!」

楯無「良いのよ。私たち姉妹のことを心配してくれたんでしょ? ありがとう、一夏くん」
   今私に話してくれたことを見ても、やっぱり君を簪ちゃんの元に派遣したのは正解だったと確信するわ」

一夏「…………」

楯無「さ、そろそろ戻りましょ。疲れたでしょ?」

一夏「は、はい!」

楯無(簪ちゃんともっと仲良くなりたかったけど、そうなるためには強い自分を演じてちゃいけないのよね。素の自分でぶつからなきゃ……)

一夏(いや―……うまく行ってよかった。俺の着想が形になる日もそう遠くないかも……)

楯無「話は変わるけど、一夏くん、今日の最後の立ち合いは見事だったわよ。おねーさん驚いちゃった」

一夏「そう言って頂けると励みになります。あ、そう言えば楯無さん、決着後に妙な動きをしてましたよね?」

楯無「え」ドキッ

一夏「あれは一体……」

一夏「………………………!」

一夏「分かった! 左手にアクア・ナノマシンを集中させてたんだ!」

楯無「!」

一夏「多分、ミストルテインの槍の小型版でしょう! そうか! 蒼流旋を右手だけで持ってたのはそのためですか!」

楯無「えっ……何しようとしたのか分かっちゃったの? 私、その技を使えなかったのに?」

一夏「水のヴェールが変にうごめいたのが気になったもんで……後ろからの突進に振り向いて対処したときも、ちらっと左手に違和感を持ったのもありますけど」

一夏「槍による突きが捌かれたとしても、左手を貫手の形にして刺し込めばダメージを負わせられる運びになってるんですね。
   煙幕から始まり、遠隔操作により投擲された水のナイフとその爆発、背後からの突進、それが止められたときのための秘密兵器、ですか……恐ろしい」

楯無「待って。一夏くんが零落白夜で私の左手を狙ったのは、こちらの狙いに気付いてたから?」

一夏「一瞬ですけど何かやばいな、と感じて咄嗟に左手を狙っただけですけど……具体的にどういった攻撃が用意されてるのかすぐに分かりませんでした。
   アクア・ナノマシンの移動もわずかでしたしね」

楯無「ふーん……す、すごいじゃない」

一夏「俺もちょっとはマシになりましたかね?」


――――――

―――

【IS学園 廊下】

一夏「今日もありがとうございました」ペコリ

楯無「はいお疲れ様」

一夏「明日もよろしくお願いしますね!」

楯無「うん。じゃあね」スタスタ

一夏「さようなら」スタスタ

一夏「ジュース買って行こうかな」

一夏(楯無さんも妹には不器用になるんだな。唯一の弱点と言えるか)

一夏(あの人も少しずつ変わってきたなあ。簪と気兼ねなく付き合えるようなれば良いんだけど―――)

「おい織斑」

一夏「!」

千冬「特訓の帰りか」

一夏「織斑先生。どうかしましたか」

千冬「いや……ちょっとおまえについて気になることがあってな」

一夏「と、言いますと」

千冬「ここ数日、山田先生の言動が妙なんだ」

一夏「え?」

千冬「私が職員室でおまえのできの悪さを嘆いていると、変に庇おうとしてな。元々甘いところはあったが、このところその傾向が顕著なんだ」

一夏(山田先生……)

千冬「しかし、上の空になることが無くなって前向きになっていることも伝えておくべきだろう」

千冬「織斑。おまえあいつに何かしたのか?」

一夏「いえ……」

千冬「…………」ジロッ

一夏「…………」

千冬「教師にすら手を出すようなら相応の処断を覚悟して貰うぞ」

一夏「な、何を言っているんですか」

千冬「ふん、まあいい。あーあと……こほん」

千冬「篠ノ之たちが悩んでいるとのことで話を聞いてくれと頼まれていた件だが、現時点ではそういった問題は無いように思われる」

一夏「え……」

千冬「確かにオルコットが注意散漫になっていたり、ボーデヴィッヒが不機嫌そうにしていたりといった歓迎できない変化は見られた」

千冬「しかし今日は元の自信を取り戻したり、布仏などとも話すようになっている。あいつらは昼休みには笑い合いながら食事をしていたぞ」

千冬「特に心配することは無いと思うが、今後も異変に敏感に気付けるように生徒の観察は続けていく」

一夏「はい……!」

千冬「私からは以上だ」クルッ

一夏「あ、あの……」

千冬「何だ?」

一夏「お仕事忙しいんでしょうが、無理はしないで下さいね」

千冬「おまえに心配されるまでもない」

一夏「………………」

千冬「そう言えばおまえの方は解決したのか。あいつらから無視されていたと聞いたが」

一夏「えっと……はい! 大丈夫です!」

千冬「そうか」

一夏「…………」

千冬「…………ではな」スタスタ



一夏「行ったか」

一夏「…………」

一夏「俺、楯無さんには姉妹だから自分のことを簪にもっと打ち明けても良いって言ったのに……俺は自分の姉に対して全然出来てないなあ……」

――――――

―――



~数十分後~

楯無「ふう…………」スタスタ

楯無「高校生の男の子って、皆一夏くんみたく成長早いものなのかな?」スタスタ

楯無「私、二つも隠し技使ったのに……全部いなされた」スタスタ

楯無「あはは……一夏くん、君、もしかしたらとんでもない男の子かも知れない」

楯無(一夏くんには驚かされたり支えられたりしてばっかりだわ……こんな子、今までいなかったわよ)

楯無(もしかしたら……来年には学園最強を譲る可能性もあるわね)

楯無(そうなったとき、私に付いてきてくれる人はどれくらいいるんだろう―――)

「お姉ちゃん!!」

楯無「!」

箒「楯無さん、こんばんわ。今からお食事ですか?」

楯無「まあね。今日はお休みの予定だったのに一夏くんが特訓に付き合ってくれないかって言ってきてね。
   しばらく前までアリーナで汗流して、今シャワー浴びて来たとこよ」

箒「た、楯無さん……!」

楯無「お願い聞いてくれてありがとね! 簪ちゃん!」

簪「お礼なんかいいよぉ……」カアァァァ

簪(お姉ちゃんになんかしてあげられて私も嬉しかったし……)ボソッ

楯無「何か言った~~? 簪ちゃん?」ギュウゥゥゥ

簪「きゃああっ!」

箒「楯無さん……」

簪「お姉ちゃん、ほら、箒が見てるよ……」

楯無「箒ちゃん! これからも妹と仲良くしてあげてね!」

箒「は、はい」

簪「…………」カアァァ

パッ

楯無「さ、行こうか♪」

簪「うん!」

箒「…………」

箒(仲の良い姉妹だ……簪も楯無さんも、お互いのことを想っているのがわかる。他人行儀ではなく、親しく気軽に付き合っている)

箒(性格は全く違うが、面貌の造りは似通っているな。自信が付けば簪も会長のような顔つきになるのだろうか)

箒(……………姉さん)

箒(私が意地を張っている限り、私たちがこうなれる日はずっと来ないのでしょうね……)

楯無「簪ちゃん、整備課の子たちから聞いてるわよ。凄い技術の持ち主だって驚いてたわ」

簪「う、うーん……」

箒「……」ジーッ

箒「そうだ、先に食堂に言っておいてください。私は一夏を誘ってきます」

簪「私たちも一緒に行くよ?」

箒「いや、いいんだ。楯無さん、席が込んでいるかも知れないので、スペースの確保をお願いします」

楯無「そっか」

簪「じゃあ、箒に任せて先に行こうかお姉ちゃん」

楯無「うん!」



箒「ふふ……」

箒(しばらくの間姉妹水入らずにしておこう………)

箒「さてと、あいつは何をしているかな?」

箒「……あ! きっと他の連中が部屋に誘いに来ているかも!」

箒「そうだ! 今までのパターンだとそうに違いない! くそう! 早く行かねば!」ダッ!

【一夏の部屋】

箒「一夏ー! いるか!?」コンコン

シーン……

箒「いないのかー?」

箒「…………」

箒「また入れ違いか……?」


「あれ、箒か」


箒「!」

一夏「俺の部屋の前で何して……あ、メシ誘いに来てくれたのか」

箒「あ、ああ」

一夏「おまえの方から来るなんて珍しいな……」

箒「そ、そうだろうか?」

一夏「ちょっとジュースを買いに部屋空けてたんだよ。待たせちまったか」

箒「いや、今来たばかりだが」

一夏「まだ俺シャワー浴びてないんだよ。ちょっと待って―――」

Prrrrrrrrrr

箒「あ、すまん。メールだ」カチカチ

一夏「誰からだ?」

箒「えーと……」カチカチ

箒「鈴からだ! 『皆食堂に集まってるから一緒に晩御飯食べましょうよ! もちろん簪と楯無先輩も入って貰ってるわ!』とあるな」

一夏「…………」

箒「そうか、急がなければ―――」

一夏「なあ」

箒「ん?」

一夏「最近特に仲良くなってるよな、おまえらって」

箒「わ、分かるか?」

一夏「どうしたんだよ? 簪まで輪に入ってたじゃないか、昼時に食堂で一緒にいるのを見たぜ?」

箒「いやな、皆悩みを抱えていたんだが、それを他の人間に打ち明ける勇気を出したら距離がずっと縮まったんだ」

一夏「へえ……じゃ、じゃあセシリアや鈴は自分から周りに助けを求めたのかな? 苦しいから手を貸してくれって……」

箒「う、うむ……それなんだが、恥ずかしながら私が声を掛け始めたことが、絆を深めるきっかけになったんだ」

一夏「!」

箒「あいつらの様子が普段と違うものだから心配になってしまってな。
  個人的な話を聞きに行くのは得意だとも思っていないが、運よくうまく行ってくれたよ」

一夏「そうか……おまえが聞いたから、皆話を打ち明けたってことか」

箒「まあそうなるが……」

一夏「……そうか」

箒「!」

箒(何だ? 一夏の不安と焦燥をないまぜにしたような目は……)

一夏「……………」

箒「ど、どうした? 一夏?」

一夏「なんでもないよ」

箒「おまえ……確かラウラの機体が損傷したことを何故か知っていたな。おまえはセシリアとラウラの戦いを見ていたのではないか?」

一夏「…………」

一夏「…………箒」

箒「何だ?」

一夏「早くあいつらの所へ行ってやったらどうだ? 待たせちゃ悪いぜ」

箒「!?」

一夏「来てもらって悪いけど俺はメシいいや。今から俺が身支度整えるを待っていたらもっと遅れちまうだろう? 
   どのみち今日は疲れちまったから、シャワー浴びて寝るつもりだったし」

箒「一夏!」

一夏「…………」

箒「専用機持ちから爪弾きにされていたと、静寐から聞いたぞ! その事情もおまえは知らないだろう!」

一夏「じゃあな。また明日」ガチャ

箒「皆に話すよう頼んでみるから! 安心してくれ! 私が最初におまえを遠ざけたいきさつも白状しよう!」

一夏「箒」

箒「何だ!?」

一夏「俺のことは気にしないでいいんだ。ほら、早く行けよ……」

箒「そういう訳にはいかない!」

一夏「っ……」

箒「どうしたんだ? なあ、一夏―――」

一夏「ごめん……今日はほっといてくれ……」

箒「!?」


バタン


箒「一夏…………」

箒「何だあの目は……ああいう表情は初めて見たかも知れない」

箒「…………」

箒「せっかく、セシリアたちと深い仲になることができたのに……心地よい気分を楽しんでいたのに……」

箒「おまえのそんな顔を見たらすっきりしないではないか……」

箒「っ…………」

箒「私がっ……皆の心中の重りを外す手伝いができたのは、おまえのおかげなんだぞ!」

箒「……どうしたと言うんだ? よく状況が飲み込めないぞ……?」

箒「おまえも食堂に来たらどうだ。話をしたいぞ」

箒「皆と一緒に過ごすのは好きだったはずだろう? 笑えない冗談をまた聞かせてくれ」

箒「……………」

箒「私たちのせいなのか?」


Prrrrrrrr


箒「……………………一夏」


Prrrrrrrr Prrrrrrrr


箒「優しく強かったおまえの心は……今どうなっているんだ?」


Prrrrrrrr Prrrrrrrr Prrrrrrrr ...

続きはまた明日

【食堂】


Prrrrrrrr ...


鈴「…………出ないわねぇ」

セシリア「どうしたのでしょうか?」

楯無「あっ、今一夏くんとお話してるんじゃない? 箒ちゃん、彼を誘ってくるって言ってたから」

シャル「え、一夏を誘いに行ってたんですか?」

楯無「うん。ごめんね、ここであなたたちに席を一緒にする誘いを受けてからずっとラウラちゃんで遊んでたから言いそびれちゃった」ナデナデ

ラウラ「あたまを……なでるなぁ……」

簪(可愛い……)

のほほんさん「猫みた~い」

鈴「そうだったのね。箒が後で来ると分かってたら、わざわざメールすること無かったのに……早とちりしちゃった」

Prrrrrrrrr ...

『もしもし』

鈴「あ、箒? さっきメールしたけど読んでくれた?」

『……ああ。今すぐ行く』

鈴「ならいいわ。一夏は誘えたの?」

『いや、疲れているらしくてな。もう休んでしまったようだ』

鈴「そう。なら早く私たちの所へ来なさいよ。皆待ってるわよ」

『分かった。わざわざ電話を掛けて貰ってすまないな』

鈴「いいっていいって」

ピ!

シャル「何て言ってた?」

鈴「一夏はもうベッドに入っちゃったんだって。箒は今から来るみたい」

セシリア「数日前の朝の食堂でも姿を見せませんでしたね」

簪「ちゃんと食べてるのかな……」

ラウラ「一夏は来ないのか」

ラウラ「…………」

鈴(そう言えばあたしまだ一夏に謝ってないし、事情を話してもないわ)

セシリア(わたくしがああいう対応を取った背景を彼は知らないのですね……)

シャル(一夏……あのときは八つ当たりみたいなことしちゃった……
    考えてみれば僕は一夏に正体ばれたときに国へ追い返されてたはずで、一夏はそうならないよう僕を支えてくれたのに……)

ラウラ「一夏に謝らなくては」

楯無「どしたの? ラウラちゃん」

ラウラ「私はあいつに酷いことをしてしまった。話し掛けてきた一夏を自分勝手な理由で突き離してしまったんだ」

楯無「え……」

シャル「僕だって。目の前に降りかかってきた問題に必死になって、一夏と距離を置こうとしちゃった……」

セシリア「皆さんもですの……? 確かに、あの日、放課後の教室では一夏さんに対して素っ気ない態度を取られていましたね」

鈴「何だ。あたしとおんなじじゃん」

簪(私もうまく接することができなかったな……途中で話を切って逃げちゃったし……)

楯無「ちょっとちょっと、皆何を言っているの」

シャル「…………」

ラウラ「どうやら、私たちは同時に一夏を避けていたようだな……」

セシリア「一夏さんには悪いことをしましたわ」

楯無(そっか、私が最後に一夏くんの部屋へ行った日に彼が相談したかったことってそれについてだったんだ……)

楯無(…………! え、でも……)

楯無「ね、ねえ、どうも君たちは一夏くんに冷たく当たってたみたいだけど、そのことについてまだ本人に釈明してないの?」

ラウラ「ああ」

セシリア「はい……」

楯無「…………」

楯無「皆、個人的な話に踏み込むようで悪いけど……そのことについてちょっと聞かせてくれないかな?」

シャル「…………」

鈴「会長に、ですか……」

楯無(やっぱ言いにくいわよね……私は皆にたくさんちょっかい掛けたし、あんまり良く思われてないんだろうなあ……)

簪「ねえ……」

簪「私からも……お願いしていいかな? 私、皆のこともっと知りたいし……
  同じことで胸を痛めてるなら、それぞれのお話を聞けばきっと気分も楽になるよ……!

簪「鈴やシャルロットのことは分かってるんだけど……皆改めてお互いの事情を把握し直しといた方が……いいと思う!
  セシリアやラウラは皆の抱えてた問題についてほとんど知らないでしょうし……」

セシリア「簪さん……」

簪「じ、実はね……私も一夏との距離について悩んで、そのせいで一夏に対して失礼な対応しちゃったの」

簪「私もそのことについて皆に話すから……だから……ね?」

鈴「簪……あんたも似たようなことあったの?」

セシリア「それを私たちに話す、と」

簪「う、うん」

簪(ああ~~! 何か私すごく的外れなこと言ったような気がする……私の事情なんか聞かせても皆は何も得しないじゃない……)

シャル「そうだね。ねえ、皆……簪の言う通りいっそのこと共有しちゃおうよ」

簪(!)

鈴「ええ!」

セシリア「異論ありませんわ! わたくしも皆さんのことをもっと知りたいですわ」

ラウラ(皆のことを……信じるんだ)

ラウラ「わ……」

ラウラ「私も……賛成だ!」

シャル「ラウラ!」

簪(み……皆……!)

楯無(簪ちゃん……私に助け船を出してくれたのね)

楯無(それにしても驚いたわ。簪ちゃんが自分から周りに働きかけるなんて……成長したんだ。
   きっと一夏くんの言う通り、いい仲間に恵まれたからなんだろうね)

楯無(私の弱みを見せていい人はもしかしたら一夏くんと簪ちゃんだけじゃないかも知れないなあ……)

セシリア「では、わたくしから……思えば、あのときのわたくしの態度は皆さんに心配を掛けてしまいましたね……」

――――――

―――

楯無「そうなんだ……皆色々あったのね」

シャル「はい。でも僕らはもう大丈夫なんです。でも一夏が……」

楯無(一夏くん……簪ちゃんの報告だと平気そうにしてたって言ってたけど……
   私に特訓を申し出てきたときも元気そうだったから、てっきり悩みは解消されたのかと思ってたわ)

楯無(そもそも彼自身、相談するほどのことじゃなかったと撤回してたわね。
   できればアドバイスを受けたいくらいの気持ちで元々大して深刻に考えてなかったのかしら……)チラ

簪「…………」

楯無(簪ちゃんの視点からもそういう風に映ったんだから、私個人の狭い主観による独断じゃないわよね)

鈴「今、私たちあいつをハブったみたいになってるわね」

シャル「……何で忘れてたんだろうね。皆してさ」

楯無(私、皆が悩みを抱えているときものんきに一夏くんの部屋ではしゃいでたのよね……
   今更だけど、せめて彼女たちを元気付けてあげないと)

楯無「まあまあ、皆そんな暗い表情をすることないわよ。あなたたちは整った顔立ちしてるんだから、辛気臭さで台無しにしちゃもったいないわ!」

簪「お姉ちゃん……」

楯無「そうそう、一夏くんは今日私に特訓の申し出してきたのよ。そのときの彼はいつも通りで変わったところなんて無かったわよ!」

楯無「彼はあなたたちに遠ざけられたことをいつまでも抱え込んで悩んでないって。
   ちょっとフォローするのが遅れたからって気に病むことないわ!」

シャル「そうでしょうか……」

楯無「うん! 彼はきっと気にしてないし、そう重く受け止めることないよ!」

楯無(彼は私の妹への顕示欲について助言をくれたしね。悩んでる人間が他人の面倒なんか見れないって)

ラウラ「そう言えば一夏のやつ、あのときの私が何度も手酷い言葉を掛けたのに笑っていたな。私の席に来て話を振ってきた」

シャル「僕たちが集まってるときにラウラのISを修理してやってくれって頼んできたこともあったよ」

セシリア(教室の外で荒れていた私に柔らかい対応を見せてくれました……)

鈴「私たちも考え過ぎてたのかな?」

セシリア「でも、今まで一夏さんへはほとんどノータッチだったという点については罪悪感がありますわ」

楯無「ま、謝れば一夏くんも笑って流してくれるわよ。せっかく皆と一緒に食事できるんだから私も楽しみたいわ!」
 
簪「それにしても箒遅いね……あ、来たみたい」

楯無(箒ちゃん……? 少し思い悩んでるような顔をしてる?)

箒「すまん皆。すぐ行くって言ったのに遅れてしまった」

鈴「何してたの? 電話で話してから結構経ってるけど」

箒「いや、ここに向かう途中で本音と布仏虚先輩に出会ってな。少し立ち話をしてたんだ」

セシリア「そうだったのですか」

鈴「何の会話してたの?」

箒「…………」



~数分前~

【IS学園 廊下】

虚「最近お嬢様に何かあったのかしら? 前見かけたときは嬉しそうにしてたわ」

のほほんさん「ふふふ~~~それはね~~しののんたちのグループにかにゅーしたからだと思う~~」

虚「篠ノ之さんたちって……専用機持ちの一年生のことかしら?」

のほほんさん「そだよ~~」

虚「ふ~ん……」

のほほんさん「嬉しそうと言えば~~昨日お姉ちゃん何かはしゃいでたような~~」

虚「わ、私がはしゃいでたって!?」

のほほんさん「上機嫌で廊下歩いてたの見たよ~~なんかいいことあったんでしょ~~うりうり~~♪」

虚「ば、馬鹿! 忘れなさい………」

虚(多分、彼からの電話で話しこんでしまったあとの話よね……)

虚(あのとき、弾くんったらいつになく積極的に押してきてどきどきしちゃって、通話が終わったあとも心地いい興奮に包まれて……
  でも、見られてたなんて……あう……)カアァァァ

のほほんさん「……ん~~? あれ、しののんじゃ~ん!」

箒「あ……」

虚「あら、篠ノ之さん。こんばんは」

箒「え、ええ」

のほほんさん「どうかしたの~~? ちょっと雰囲気暗いよ~~」

箒「いや、ちょっとな。さっき一夏を夕食へ誘いに部屋へ行ったんだが、少し元気が無いようで心配しているんだ」

のほほんさん「おりむーが~~?」

箒「ああ」

箒(鈴からのメールの内容を知ったのが原因なのだろうか? 私たちが一夏を仲間外れにしているように思われたのでは……)

箒(いや、違う。あいつの顔色が曇っていったのはその後の会話でだ)

箒(そう考えると、これは私たちが一夏を遠ざけたことだけが原因で引き起こされた問題では無さそうだ)

のほほんさん「へえ~~意外~~おりむーも元気無くなることあるんだ~~」

虚「本音、織斑くんを自分と一緒にしないの」

のほほんさん「む、むぅ~~」

虚「まあ、きっと織斑くんは大丈夫よ。今まで元気だったんだし」

のほほんさん(かんちゃんとのお話でも言ったように、私はおりむーについてはいつもケロッとして優しいイメージがあるな~~
       元気なかったのはお腹でも痛かったんじゃ?)

箒「そうですよね……すみません、私は友人を待たせているのでこれで」

虚「ええ。さよなら」

のほほんさん「ばいば~い」

箒「…………」

箒(よし、食堂で待つあいつらに一夏に話しかけるよう言おう!)

箒(しかし、待たせてしまったから怒っているかも知れない……まず謝るのが先決か)

「ねえ、篠ノ之さん」

箒「ん?」

虚「織斑くんのことなんだけどね、ちょっと伝え忘れたことがあったわ」

箒「布仏先輩」

虚「実は昨日五反田弾くんと電話でお話ししてたんだけど、そのときの彼が織斑くんのことを探ろうとしてたような気がしたのよ」

箒「五反田と言えば、一夏の中学時代の男友達でしたね」

虚「ええ」

箒(そうか……前に一夏の誕生日会で二人が一緒にいるところを見たが、やはりそういう関係だったのか)

虚「篠ノ之さん……あんまりこのことを他言しないでね。気恥ずかしいから」

箒「は、はい。それで、五反田弾に一夏のことを聞かれたんですか?」

虚「うん。彼の最近の様子だとかを尋ねられたわ。変なことしてないかとか、焦ったり苛立ってたりしてないかとか……」

箒「どうして五反田がそういうことを聞いてくるんでしょう

虚「さあ……ただ、お喋りの話題作りに共通の知人を出したって感じじゃなかったの。
  真剣に織斑くんの動向を気にしてるみたいだったわ」

箒「…………」

虚「何か彼と一夏くんの間であったのかしら」

箒(五反田は何かに気付いたと言うことか……?)

虚「そのときはいつも通りよって答えといたけど……篠ノ之さん、一夏くんのことを気遣ってあげてね。
  同じ生徒会と言えど私じゃあ細かいところまで見切れないから」

箒「え、ええ」

虚「大丈夫だと思うけどね。今日も会長へ特訓の申し出してたし。
  夕食の誘いに乗らなかったって言ってたけど、単に疲れてただけなんじゃない?」

箒(そうだろうか……? それではあのとき見せた陰りのある表情は一体……)

虚「……ごめんなさい、時間とらせちゃって。一応報告しといた方が良いと思ったから」

箒「いえいえ。それでは失礼します」

虚「さようなら……」

虚(弾くんに一夏くん……あなたたちの間に何があったの?)

~~~~~~~~

箒「何の話……か。ここにいる皆に関係のある話だと答えれば分かるか?」

セシリア「……」

ラウラ「一夏のことか」

箒「ああ。そのことなんだがな」

シャル「はは。何となくそうかなって気はしてたよ」

鈴「あたしたちもさっき話してたとこよ」

簪「皆一緒に集まってたのに、中々一夏の話題が出なかったもんね」

箒「そうか。なら好都合だな」

楯無(仲間って良いものね。一人じゃ思い悩んでしまうような問題にぶつかっても、心の負担を分散できるから……)

箒「……食事を取りながら話そう。何だか腹が空いてしまった……」


――――――

―――

~十分後~

【IS学園廊下】

箒「あのまま待っていても出てこなかったから、もう食堂へ向かったのだろう」テクテク

箒(一夏……)

箒(私たちは今までおまえに心配を掛けてしまっていたな。
  安心しろ、昨日皆と話しておまえに一度きっちり事情を打ち明けることに決めたぞ)テクテク

箒(しかし、それで一夏の陰った顔は本当に晴れるんだろうか? 今になってそんな疑問が浮かんでしまう……)

箒(的外れなことをやると決めて喜んでいるような気もするが、このままあいつを遠ざけたままにしておくという訳にも行くまい……)

箒「……風にでも当たっていくか」

箒「やれやれ、セシリアたちの問題が片付いたと思ったらまた新しい問題が出てくる……」テクテク

箒「あ!」

一夏「よう箒。おはよう」

箒「お、おはようだな!」

一夏「今から朝飯か? ちょうどいい、一緒に行こうぜ!」

箒「あ、ああ」

箒(いつもの一夏だ……表情も昨日私に見せたものとは違う……)

一夏「どうした?」

箒「い、いや。そう言えば今までおまえは何をしていた? 部屋にはいなかったが」

一夏「……ほら、これ」スッ

箒「竹刀?」

一夏「いつもの箒との稽古がなくて体が寂しがってよ。中庭の目立たないところで基礎のおさらいと新戦術の練りこみやってたんだ」

箒「そうだったのか」

箒「…………」ジーッ

一夏「そんなまじまじ見つめられても困るぞ……俺の顔に何か付いてるか?」

箒「一夏。今まで心配を掛けてすまないな」

一夏「え?」

箒「昨日も言った、おまえは皆にいきなり距離を置かれていたんだな」

一夏「…………」

箒「皆と昨日の夕食の席で話しあってな。それぞれ抱えていたことをおまえに話そうと決めたんだ。無視したことを謝ろうともな」

一夏「ん、そうか。うーん……」

箒「聞きたくないのか?」

一夏「いやー……そういう訳じゃねえんだけどな。うん……」

箒「一夏。先日は話しかけないでくれと言って悪かった。ただでさえ私は自分を見失うことが多いのに、また迷惑を掛けてしまったな」

一夏「気にするなよ。俺は割とこういうことには慣れてるからさ」

箒「…………」

箒(一夏は普段通りに見える。私の考え過ぎだったか)

箒(しかし前に静寐が一夏が一人になっているときに疲れた表情をしているのを見たと言っていたような……)

「篠ノ之さんに織斑くん!」

箒「あ」

一夏「お」

鷹月「今から食事? 一緒に食べていいかな?


箒「私は構わないが……」

一夏「俺たちを待っててくれたのか?」

鷹月「待ってたって言うか……あなたたちの姿が見えないからちょっと心配になって入口を見てただけよ」

箒(静寐……思えば最初から私たちのことを気付き、心を砕いてくれていたな。ありがとう……)

鷹月「他の専用機持ちたちは今朝はバラバラで食べてるわよ。布仏さんや山田先生と同席してる子もいるわ。
   ラウラさんなんかあの楯無会長と一緒になってるみたい」

一夏「へえ……! 珍しいな」

箒「そう言えば一夏よ、布仏がラウラの機体の改善を行ってくれたことは知っているか?」

一夏「おう! ラウラは喜んでたって言う話だったな!」

鷹月「そう言えばラウラさんと会長、どっちも最近変わった気がするわ。ラウラさんは積極的に心を開くようになった。
   会長は楽しいことを追求し過ぎて問題を起こすこともあったけど、そういう昔の軽率さが薄れているような……」

一夏「本当かよ!! そうかそうか、良かったなあ!!」ニコニコ

箒(一夏……嬉しいのは分かるが、少しその反応大仰ではないか?)

一夏「よし、もう時間もギリギリだし、俺たちも早く食っちゃおうぜ!」

箒「あ、ああ」

鷹月「ええ」

【IS学園 食堂】

ザワザワ ザワザワ

山田「良いですか皆さん。今はたくさんの苦労があると思います。人から誤解を受けたり、中々結果が出ずに苦労することもあるでしょう」

相川「はい」

谷本(おお~~先生っぽい)

セシリア「……ええ」

山田「そういうときには気を落として自分を見失ってしまうこともあるでしょう。
   そうならないようにちょっとしたことでも周りに打ち明けるようにしてください。それだけでかなり救われるものです」

山田「がんばっている自分を見てくれている人はきっといますからね。そういう人のことを思い、毎日を過ごして下さいね」

相川「先生それ経験談~~? 何か力が篭ってるんですけど」

谷本「彼氏に悩みを聞いて貰ったりしたことあるんですか~~?」

山田「はれっ!?」ポッ

相川「あれ、ちょっと赤くなった!」

山田「こら!」

セシリア(見てくれている人がいる、ですか……分かっておりますわ。山田先生……)

箒「あっ。あそこにセシリアたちがいるぞ、入れて貰おうと……思ったら周りの席も先客で埋まっているな」

一夏「やっぱ混んでるんだな」

箒「…………」

箒「……一夏、話すのは昼休みにしようか?」

一夏「何の話?」

箒「だからおまえを無視した理由について私たちからの釈明だ」

一夏「いいよ、そんな改まらなくて。休み時間中に見つけてちょいちょい聞いていくよ」

箒「そうか……」

鷹月「…………」

鷹月(何だ。一夏くんやっぱりそれほど気にしてないみたいじゃない。もうすぐ事情を知れるらしいから前みたいに落ち込むこともないでしょう)

箒(おっと、一夏の観察に気を取られて自分のことを忘れていた。まず私が事情を打ち明けるべきだろう)

一夏「もうすぐ授業始まるじゃん! しかも俺は竹刀を部屋に戻してこないといけないからな~。もっと急がなきゃ」

鷹月「そうね」

箒(と言っても今はごたごたして無理そうか……)

~放課後~

箒「皆、一夏に言えたのか」

セシリア「はい」

鈴「ええ」

シャル「うん」

ラウラ「うむ」

簪「一応……」

箒「一夏の反応はどうだった?」

ラウラ「…………」


~~~~~~~~~~

「一夏よ」

一夏「ん?」

ラウラ「おまえに謝らなければならないことがある」

一夏「ラウラ……」

ラウラ「先日は冷たい態度を取ってしまって悪かった。私は手を伸ばしてくれたおまえにいきなり攻撃を加えてしまった」

ラウラ「まずそのことについて謝る……ごめんなさい」ペコリ

一夏「…………」

一夏「ラウラ。そのことだけどな、あのときのおまえに何があったんだ?」

ラウラ「……実はな、この前おまえに買ってもらったグッピーを死なせてしまったんだ……」

一夏「え?」

ラウラ「私はあいつらを世話し、あいつらは私に心の安らぎをくれた。
    しかし、その中の一匹が死んでしまったせいで、私は大いに混乱することになった」

一夏「ラウラ……」

ラウラ「クラインがもう帰ってこない事実を知ったとき、私の胸に今まで味わったことのない痛みが走った。
    ……もうそんな思いをしたくなかった私は心の豊かさを与えたおまえを憎み、はね付けることで元の自分に戻ろうとして……ああ、話すのが辛い」

一夏「……名前を付けるほど可愛がってたんだな。そりゃショックだったろ……」

ラウラ「クラインというのはドイツ語で『小さい』という意味だ。名前もそこから取ったんだ」

ラウラ「調べていくと、グッピーは観賞という人間の身勝手な理由で姿を変えられていった魚だと分かった。
    ……私も戦いという人間本位の目的のために試験管の中で生み出された存在だ。
    ヴォーダン・オージェを施された直後の無力だった自分を思い出し、クラインと重ねていたんだろうな」

一夏「そうだったのか。デパートで俺が買ってプレゼントしたやつだよな……」

一夏「……やっぱり俺が原因か……」ボソ

ラウラ「どうした……?」

一夏「いや、何もない。それで、おまえは周囲に迷惑を掛けてしまったんだったな。セシリアにバトル吹っ掛けたり」

ラウラ「……周りの皆は自分勝手な私に振り回されたのだろうな。ああ、私はなんてことを……見捨てないでいてくれた仲間だったのに……」

一夏「でも、ちゃんと謝ったんだろ? あいつらは皆いいやつらだから笑顔で迎えてくれたはずだ。違うか」

ラウラ「そうだが…………」

一夏「あの日、俺がラウラとシャルの部屋に事情を聞きに行ったときに俺が喋ったこと……覚えてるか?」

ラウラ「あのとき……ええと……」

一夏「ほら、おまえは皆を助けてやれるって言っただろ?」

ラウラ「あ……!」

一夏「本当に皆に対して悪いと思ってるなら、これからは皆が困っているときに力を貸してあげたら良いよ」

ラウラ「あ、ああ! そうする!」

一夏「そうそう。おまえはシャルと一緒にいることが多かったけど、最近は交流の輪が広まってきたように感じるよ。
   今日なんか食堂で楯無さんと二人で喋ってたじゃないか! あれ見たときはびっくりしたぜ?」

ラウラ「うむ……あの女もあれで私と同じようにどういった生き方をすればいいか頭を抱えることもあったようだ……
    あいつの強さと人心掌握術は私も認めるところであるし、この学園の生徒会長であることに異論は無い」

一夏「そっか。まあ、楯無さんもああ見えて楽しいことばっかり考えてる訳じゃないからよ」

ラウラ「……簪には世話になったし、な。今まで持っていた苦手意識は薄れているのは確かだし、あいつと交流を持つことも構わないと思っている」

一夏「ははは。まあ、最初の内は簪と仲良くするだけでも十分あの人は喜んでくれると思うぜ? だからさ―――」

ラウラ「その言い方は好きではないな」

一夏「へ?」

ラウラ「私は誰かに頼まれて簪と親交を結んでいるわけではない。敬意を払える仲間だと認められるから一緒に過ごしているんだ」

ラウラ「無論箒を始め他の仲間たちも同じだ。今回の件で私は却って強くなれた気さえする。タッグマッチでおまえに救われたときよりも更にな」

一夏「……!」

一夏「そうか。それはすまなかった。そうだよな、頼まれたから仲良くするなんて変だよな」

ラウラ「全く……」

一夏「そうそう、話は変わるけどよ。ラウラって楯無さんへの苦手意識は無くなったって言ってたよな。
   そんで簪やのほほんさんとも交流し始めてちょっと外向的にもなったと思うんだ」

ラウラ「うむ」

一夏「じゃあさ、もっと他の子たちと仲良くすることができたら今より更に楽しいと思うんだ!」

ラウラ「まあ、それは、な……しかし……」

一夏「おまえは特殊部隊出身だから他の生徒たちはISをファッションと勘違いしてると思ってそうだけどさ。
   今のラウラなら、周りが色々な事情を抱えていることや自分と考えや生い立ちが違う子も多くいることを理解できるだろ?」

ラウラ「…………」

ラウラ(確かに、昨日皆と話をして改めてそれぞれの事情を把握できたお陰で、自分の知らない世界が沢山広がっていることが分かった。
    親に利用されていたシャルロットや、両親を事故で亡くし、代々続いてきた誇り高い家を守ろうとするセシリア……)

ラウラ「うむ。そうだな。私も昔は世間知らずだったがな。今はそうでも無いぞ」

一夏「そうだろ? だから……例えば鷹月さんとか相川さんとかにも話しかけてみたらどうかなって思うんだ。皆良い子たちだしさ」

ラウラ「ん……? そう言えばこの前それと似たようなことを聞いたような……そうだ、食堂で他の生徒と一緒に食べようと計画したんだ!」

一夏「え、もうそういう話は進んでたのか……?」

ラウラ「ああ。時間の都合などでなかなか一緒の時間が取れなかったが、近いうちに箒たちと一緒に他のクラスメイトと食べようとは決めている」

一夏「へえ! それは良いことだ!」

ラウラ「う、うむ。それと、冬季休暇に入ったら一度皆で集まって遊ぼうという提案もあがっているぞ!」

一夏「そりゃ楽しそうだな! どういう風に遊ぶんだ?」

ラウラ「いや、それはまだ決まっていないが……」

一夏「そうかー。でもよ、ラウラがそういう風に変わってくれて……俺嬉しいぜ!」ニコニコ

ラウラ(一夏……本当に喜んでくれている……私のことなのに……)

ラウラ「ふふふ。新たなる私の門出を祝福してくれるのはありがたいが、授業の模擬戦で手を抜く気は無いぞ?」

一夏「こっちだって! 俺だって遊んでるばかりじゃねえぞ!」

――――――

―――



~~~~~~~~~~


ラウラ(一夏……ありがとう……)

ラウラ「……ああ。ちゃんと謝ったさ。許してくれたばかりか、あいつは私の新しい変化を祝ってくれたよ」

シャル「僕も、もう一回きちんと実家の事情を話したよ。あの日に起きたことをについてもね。
    そして皆が支えてくれたことと、もう大丈夫だってこともね」

セシリア「どうでした?」

シャル「うん、僕が『あのとき手を伸ばしてくれたのに自分勝手な理由で遠ざけてごめんね』って言ったんだけどさ。
    一夏はこっちの謝りの言葉にロクに答えずに僕のことを心配する言葉を掛けてきて、驚いちゃった」

箒「あいつめ……」

シャル「何ていうかさ、嬉しかったよ。許してもらえるかどうか分からなくて怖かったけど、こっちの身の安否をすごく気遣ってくれて……」

簪「へえ……」

鈴「あたしも似たようなもんね。あたしに降りかかった問題やら一夏を無視した理由やらを話してると、あいついちいち内容に合わせて一喜一憂するのよ。
  学校辞めようと思ったって言ったらショックを受けたり、箒たちに助けられて自分の道を歩こうと決めたって言ったら子供みたいに笑ったり」

セシリア「それで最後には皆さんともっと仲良くして欲しいと言われたのですか?」

鈴「うん」

シャル「言われた言われた」

ラウラ「うむ。交流を広めろともな」

セシリア「私の場合もそうでしたわ。鈴さんたちの話を伺うに、こっちが一夏さんを避けたことなんて彼自身はそれほど気にしていなかったみたいですわね」

鈴「そーね。楯無さんの言う通りだったわね。でも……あいつ、馬鹿にこっちの心配をしてたわ」

ラウラ「ああ。今更ながら不思議な男だな」

シャル「一夏はそういう人間なんだよ。きっとさ」

簪(そうかも知れない……私が一夏と出会ったのはつい最近なのに、もうこんなに大きな変化が私に起きてるし……)

セシリア「ふふ。それにしても皆と仲良くしろだなんて、言われるまでもありませんのに……ねえ?」

ラウラ「ああ」

シャル「うん!」

鈴「ええ!」

簪「そうよね」

箒「……………………」

セシリア「箒さん?」

箒「あ、いや。何でもない」

簪「?」

箒「それより、もうそろそろ夕食の時間だな。食堂に行くか!」


「「「「「おー!」」」」」


【IS学園 廊下】

箒(今朝のあいつの態度や皆の話から受ける印象からすると、昨日のあいつの顔が寂しそうに見えたのも私の思い過ごしか……?)テクテク

箒(静寐は一夏が一人でいるときに寂しそうにしているところを見たと言っていた。
  それは皆に無視された直後の話であって、今日皆から話を聞いたときには既に立ち直っていた―――そう考えるべきなのだろうか)テクテク

セシリア「一夏さんも誘いましょうか?」

鈴「あー、あたしと会ったとき今日は特訓疲れが溜まってるから早めに寝るって言ってたわ」

箒(そうさ。自分のことで悩んでいるときに他人を心配できる訳が無い。きっとそうだ……)

箒(しかし……)チク

箒(私が話しかけるなと言った理由を一夏にまだ話せていない……話そうと思っても見当たらなかったり、運悪く妨害に合ったりで中々機会が恵まれない)

箒(まあいい。時間はある……)

簪「箒。どうしたの」

箒「いや、大丈夫だ。すまない」

鈴「ねえ、今日は冬休みの集まる話進めよっか!」

シャル「いいね! 僕もこつこつプランを集めてきたんだ!」

ラウラ「夏季休暇は長かったが、冬季休暇はそれより短い分イベントは詰まっているからな。イベントの日に合わせて集まっても良いかも知れない」

セシリア「クリスマスの日などにですか? ふふ……それは楽しそうですわ!」

箒(そうだ。一夏を心配していたのは私が弱っているように見えただけの話。いつまでも心配していても仕方ない……)

箒「良いな! 本音なども呼んで盛大に騒ごう!」

続きは明日

~数日後 日曜日~ 

箒(皆が一夏にそれぞれの事情を報告し合った日以来、私は専用機持ちたちやクラスメイトと親交を深めていっている)

箒(クラスメイトたちは気が良く、優しく、一緒に過ごしていて楽しかった。
  食堂で談笑しているとそのときの話題に関心を惹かれた先輩たちが寄ってきて、そこからよく会話するようになったこともある)

箒(しかし、私はタイミングになかなか恵まれず、未だに一夏に私が距離を取ろうとした理由を打ち明けられずにいた。
  ある日の昼休みに謝ろうと思って一夏に接触したのはいいものの、静寐たちからいきなり声を掛けられて言いそびれてしまったこともある)

箒(彼女たちの笑い声に囲まれて、段々と一夏のことを考える機会が減っていったのも関係しているかもしれない
  あの日奇妙な色に染まった一夏の目を見て私が心配したことすら、友人たちとの付き合いに押されていつしか記憶から薄れていった)

箒(しかし私はそれでいいと思っていた。一夏は平気そうだったし、もう誰も少し前の話を持ち出そうとはしなかった。
  恐らく私と同じように信頼できる仲間と楽しく日々を送るのに夢中になって、他のことを考える余裕が無くなっているのだろう)

箒(今だって楯無さんがセシリアと鈴に特別講義と称して模擬戦を行っている。
  生徒会長が率先して下級生と交流しているので、上級生たちの中には楯無さんのその姿勢に影響を受けた人もいるそうだ)

箒「………」

ダリル「よーよー箒ちゃーん。準備はできてるかー?」

箒「先輩」

フォルテ「今日は先輩が揉んであげるからなー。といっても胸じゃねえぞー」

箒「あ、はい! お願いします」

ダリル「それにしても勤勉だねー。特訓付けてもらいたいなんてさ」

フォルテ「今年の一年はすごいとは聞いてるけどー。こんな向上心あるなら納得って感じかなー。ね、先輩?」

ダリル「おまえも見習えよ―」

フォルテ「先輩こそー。率先して後輩にあるべき姿を示さなきゃいけない立場じゃないんスか」

箒「あ、あの……」

ダリル「そーだ。もう一人いるって話じゃなかったな。ほら……」

簪「すいません。今来ました」

フォルテ「おー」

箒「ダリル先輩、フォルテ先輩……知り合ったばかりというのに特訓に付き合ってくれてありがとうございます」

ダリル「気にすんなって。後輩に胸を貸すのはウチらだって初めてじゃないんだからよ」

フォルテ「後輩があんなにがんばってる姿勢を見せてきたからには、エネルギー節約志向の私らでもちょっとは己を見つめ直すッスよねー」

簪「そうなんですか?」

フォルテ「聞いてねえのー? ほら話題の彼だよ彼」

箒「一夏……ですか」

ダリル「おう。一昨日に私らがアリーナでだべってるところに声掛けて来てさー」

フォルテ「デートの誘いかって思ったッスよね、あのときは」

箒「へえ……」

ダリル「ちょっと手合わせしてくれって言う相談だったんだよ。で、興味半分で受けてみたら、ビックリだったね」

フォルテ「冷や汗かかせられましたよねー」

ダリル「ほらあれだ。会長にしごかれたらしいから、その成果が出たんだろ」

フォルテ「会長様々ッスよねー。そうだ、簪ちゃんはあの人の妹なんだよなー」

簪「はい」

フォルテ「まじ強いんだろなー。お手柔らかになー」

簪「い、いえ! 私なんて全然……!」ブンブン

ダリル「じゃいっちょアリーナ行くか―!」

箒「はい!」

簪「ええ!」

簪(私も強くならなきゃ……もっともっと稼働時間を積んでいかなきゃダメ! 皆と一緒に戦いたいもの……)

箒(簪……気合いが入っているな。私も負けていられない)

ダリル「さーて……どれくらいの実力なのかなー」

フォルテ(『イージス』見せてやったら驚くだろうなー。披露するかどうかはこの子ら次第だね)

箒(ダリル先輩もフォルテ先輩もかなりの強さを誇っていると聞いている。相手にとって不足は無い!)

箒(ふふ……今日も充実した日になりそうだ。そうだ、特訓が終わったら先輩たちを遊びに誘ってみるのも良いかもしれない)


~その日の昼前~

【一夏が住んでいた町】

一夏「んー……さてと、さっさと買いに行くか。書店に戦術書とかおいてあるかな」

一夏「この一週間、休みが来るのが凄く遅かった気がする。目の前のことに夢中だったからかな」

一夏「…………」

一夏(俺がやろうとしていることは、多分間違ってないと思う。皆笑ってくれているし、話を聞く限りじゃあ悩みも解決したらしいし)

一夏(弾……あの日はおまえに厳しいこと言われたけど、俺は一つの答を掴みかけてるぞ)

一夏「…………ん?」

弾「お……」

一夏「よう弾。出前の帰りか?」

弾「ああ、まあな」

一夏「そっか、大変だな」

弾「…………」ジロー…

一夏「どうしたよ」

弾「もう選んだのか」

一夏「……」

弾「分かってるんだろ。俺が何のこと言ってるか」

一夏「ああ」

弾「それならいいや。もうあの子たちに何があったか分かってるんだよな」

一夏「おう。今はすべて分かってる」

弾「そうか。で、今までの無責任な生き方を改める気になったって訳だな」

一夏「そのことなんだけどな、弾……俺前におまえに相談に行った帰り道で色々考えたんだ。
   箒たちの事情とか、自分の立場とか……今まで俺があいつらにやってきたことと、やりたいこともな」

弾「ふーん……」

一夏「俺なりに頭回して、どうにかしてあいつら全員を幸せにする方法は無いか、考えてみたんだ」

弾「何?」ピクッ

一夏「え……」

弾「おまえ、さっき俺が『もう選んだのか』って聞いたら『ああ』って答えたじゃねえか。
  女の子たちの中から一緒にやっていく子を決めたんだろ?」

一夏「俺はどういう生き方をするかってことを尋ねられたと思って……」

弾「はあ……はいはい、まあいいや、うん。良くねえけど」

一夏「……俺、答の輪郭を掴めた気がするんだ」

弾「その前に聞いとくけどさ、おまえ、俺が言ったこと覚えてるか? おまえ一人で全員助けていくなんて無理だって」

一夏「分かってるさ」

弾「……一人を見ながら他の子たちにも気を向けるなんて最低野郎のすることだぞ」

一夏「そういうことも言われると分かってるさ。でも、皆を幸せにしたいんだよ……俺は」

弾(……何でこいつは「守る」とか「助ける」とかそういったことにここまで執着するのかね)

一夏「やるべきことが見えてきたんだ。今までのやり方と変えたんだけど、おまえには多分変わってないと言われるかもな」

弾「言ってみろよ」

一夏「俺は皆の力になりたい。誘拐事件に巻き込まれたとき千冬姉に助けられたから、俺も誰かを助けたい気持ちを持つようになったのかも知れない」

一夏「その気持ちに則って色々やって、IS学園ではたくさん仲間ができた。
   でも、皆に接触を拒まれたときはすげえ不安になったんだ。それまでは知らず知らずの内に自分のやり方は正しいんだと考えてたからさ」

一夏「それこそ、自分の世界が壊れるような感覚にも襲われたよ。皆に残酷なことした罪悪感と自分の無力感に苛まされた」

弾「それなりに悩んだってことだな。で?」

一夏「俺は理想を少しずつ形にしようって思って、つまづきながらも行動を続けたんだ」

弾「そこだ。そこを詳しく聞かせろ。どういう行動を起こしたのか、それはどういう目的に基づいているのかをな」

一夏「皆を全員笑顔にできる方法なんだ。おまえが前言った通り、皆それぞれ俺には想像できない悩みを抱えていたよ。
   IS学園戻って皆に声を掛けていったんだけど、こっぴどくはねのけられちまった」

弾(だろうな。皆愛想尽かして当然だぜ)

一夏「皆に接触しようとしたのは一つの考えがあったからだ。皆を守るためには、皆の力を借りれば良いんだって」

弾「は?」

一夏「俺一人の力では限界がある。でも、皆が助け合う関係になってくれれば、結果的に全員の悩みを解決できるんだ」

一夏「そのために俺はあいつらに周りへ目を向ける余裕を持ってもらおうとした。あいつらの事情を聞いたり、仲間を頼るよう言ったりな。
   良いやつらなんだよ、本当に。仲が良くて結束力もあって……」

弾「…………」

一夏「だから鈴たちが鬱屈した気持ちを持ってるなら、俺にそれを吐き出して欲しいと思った。
   友達同士で仲良くしていたあいつらの気持ちを信じて、交流を取り戻す後押しをしようってさ」

弾「それも全部あの子たちを守るために、か」

一夏「直接全員守るのは無理かも知れない。「誰か」一人を助けに向かうと別の「誰か」を無防備にしてしまうこともある」

一夏「でも、その「誰か」と「誰か」をお互いに心から助けたいと思える仲にする手伝いはできるかも知れない。
   助け合いのネットワークを際限無く広げ続けることはできるかも知れないんだ」

弾「……まあ大体分かった。おまえが考えてることはな」

一夏「俺も鈴たちが笑うところを見るまではかなり不安になったけどさ、間違いじゃ無かったって思うよ」

弾「ふう。おまえってやっぱり無責任な男だな」

一夏「……」

弾「肝心の悩みの解決は他の子に頼って、おまえがやることは結局裏からせこせこするだけかよ。楽なポジションだな」

一夏「俺が相談相手だと話しにくいことだってあるだろうからな。
   例えば、俺がしたことが原因で苦しんでいるときは、俺が行っても迷惑だろう。
   ま、そういう場合でもまず話は聞きに行って、悩みを話してくれとは言うけどな」

弾「そういうのが嫌な子だっているぜ。周りから干渉されることが重荷になることもある」

一夏「でもそういう人だって一人で抱え切むのが辛くなって外に助けを求めることがきっと来る。
   そのときのために想いを受け止める地盤を作っておくのは悪いことじゃないだろ?」

弾「…………」

一夏「内に篭るのをやめて心を開いた人が二、三人いれば、少しくらい気難しい人がいても包み込んでやれる」

一夏「……事実、あいつらはそうしてくれた」

弾「おまえの考えはよく分かったよ」

弾「でも、少なくとも俺はごめんだな。俺はおまえが作る相互互助の輪に入りたくは無い」

一夏「…………!」

弾「気持ち悪いんだよ。俺は真正面から応えたい人がいるから、自分の身の回り以外のことに気を回せない」

一夏「弾……」

弾「鈴たちがおまえを遠ざけたのは、おまえが原因だったんだろ」

一夏「……ああ」

弾「やっぱり今回のは元を辿ればおまえの無責任さが引き起こした事態じゃねえか。それなのに愛想を振り撒くのを止めようとは思ってない。
  そんな奴が浅知恵で導き出して縋りついてる理想なんて、早晩穴が空いちまうに違いねえよ」

一夏「!!」

弾「こういう言葉を聞いたことがあるぜ。『八方美人の行く末は八方塞がり』だってな。今のおまえはこの言葉を重く受け取らないとダメだ」

弾(皆おまえに好意を持っている可能性がある以上、いつかは彼女たちはぶつかり合ってしまうはずだ。
  そうなったら仲良しの子に何かあったとき助ける余裕を無くしてしまう人も出るに違いねえ)

一夏「……それも……分かってるさ……」

弾「いいや、分かってねえよ。今まで通り女の子をたぶらかしてるんだろ?」

一夏「……あいつらとは距離を取ってるよ。多分、鈴たちの中の俺の存在感は薄くなってると思う」

弾「あん?」

一夏「多分信頼できる仲間に囲まれてるってことが嬉しくて、俺のことなんか忘れちまってるさ」

一夏「あいつら、食堂で友達同士集まって凄く楽しそうにしててよ……あ、俺はもういらないんだって思っちゃったぜ」

一夏「…………」ジワッ

弾(え? こいつ泣きかけてんのか)

一夏「でも、そうなることは俺が追ってる理想にとって良いことなんだよな。鈴やセシリアがお互いの絆を深め合ってくれるなんて、願ったり叶ったりだよ。
   交流が深まれば自然と助け合おうと考えるようになるし……」

弾(こいつ……)

一夏「それ見たあとしばらく考えて、やっぱりああいう光景を守りたいっていう思いを強くしたよ」

弾「おまえさあ……何か無理してねえか?」

一夏「俺が無理を? 皆に無理させちまったのは俺だぜ……」

弾「自分に嘘ついてるっつーか、重要なことを全部言ってないって気がするぜ」

一夏「…………!」ピクッ

弾「ま、いいや。おまえの描いた理想の世界が実現するとは思わねえが、目標を持って行動に移してること自体はいいんじゃねえのって思うしな」

一夏「弾……」

弾「でも言っとくが、俺はおまえの気持ち悪いヒロイズムなんて認めないからな。蘭にも近づかないでくれ」

一夏(! そこまで言わなくても……)

弾「そんな驚いた顔すんなよ。胡散臭い男に大切な妹を近づけたい兄なんていねえだろ」

弾「そもそも何でおまえはそこまで『全員の力になる』とか完全な自己満目標を追い掛けてるんだよ? ちょっと異常だぜ。
  自分のしたことがきっかけで苦しめても反省してねえし―――」

一夏「…………」プルプル

一夏「……じゃあ、どうすりゃ良かったんだよ!!」

弾「何だ急に?」

一夏「鈴が冬の日に凍えているのを見かけても、他人事だとして放っておくのが正解だったのかよ!?
   シャルの家の事情を知っても、無関係を決め込んでさっさと学園から追い出した方が良かったって言うつもりか!?」

弾「そう言う訳じゃねえよ。でも線引を早い内にやっとかねえといつかはとんでもねえことになるって話だよ」

一夏「諦められねえんだよ! 向こうの事情も分からず急にいなくなられるのは誰だって嫌なんだ!
   いきなり繋がりを断ち切られたときは辛くなるんだよ! 一人で辛い気持ちを抱え込んでたらダメになっちまうよ!」

弾「はあ……?」

一夏「ふう……ふう……」

一夏「弾……おまえもIS学園に入ってみろよ。その上で俺よりうまいこと立ち回れるならやってみせてくれよ」

弾「……そんな話をしても意味ねえだろ」

一夏「さっきから好き勝手なこと言いやがるもんだからさ。いきなり放り込まれて、勉強を強制させられることなんか俺は望んでなかったんだぜ?
   生徒会に入れられたり無理に部活に貸し出されたり決められて……
   痛え思いも何回もして、骨が折れたこともある。俺が良い思いばっかりしてきたと思ってんのか?」

弾「っ……」ギリッ…

弾(こいつ……俺が持っていないものをどれだけ持ってると思ってやがる……!)

弾「その代わりおまえは羨まれる地位を持ってるだろうが! 世界で唯一ISを使えて、世界最強の姉いるんだろ!
  恵まれてる癖に苦労人面するんじゃねえ!」

一夏「それは……ぐ……」

弾(俺だって、ISを使えるなら使いたいさ……でも……男で動かせるのはこいつだけなんだ)

弾「この際だから教えといてやるよ。俺がおまえと今まで仲良くしてたのは、IS学園の女の子とお近づきになりたかったからだ」

一夏「え……」

弾「おまえはどうしてか分からねえがモテるからな。一夏くんの友達ポジションにいればおこぼれに預かれるだろうって計算してたんだよ」

一夏「弾……おまえ本気で……」

弾「でも、厄介事を持ち込まれるのは俺が望んでたことじゃない。今までは俺なりにおまえの問題に付き合ってやったが……内心うざいと思ってた」

一夏「な……に……?」

弾「もう良いだろ。アドバイスもしてやったじゃねえか。消えろよ」

一夏「おまえ……俺に厳しいこと言ってたのも……」

弾「ああ。おまえに苦しんで貰おうと思っただけだよ。どうでも良かった」

一夏「……………!!」

弾「さっさと女の子の楽園に戻れよ。おまえほど恵まれた人間なら寄ってくる女も多いだろ? 選び放題じゃねえか。
  皆守りたいなんてガキみたいなこと言ってねえで、お気に入りと好きに遊びまくるっていうのも一つの道だぜ」

一夏「……」

一夏「おい、弾」

弾「……んだよ、その殺気に満ちた目は? 暴力事件でも起こそうってのか?
  あ、そうか。おまえ国から大事に扱われてるんだっけ。何しても保護して貰えるから―――」

一夏「……!」ブン!

弾「!」グアッ!


バギャッッ!!

一夏「ぐ……」

弾「がはっ……」ヨロッ

一夏(痛え……こいつ、こんなに重いパンチを……)

弾「う……」ガクッ

弾「……てえ……くそ、同時に打ち込んだのに……」

一夏「…………」

一夏(俺は……何をしてるんだ……)

弾「流石に鍛えられてるな。専属コーチでもいるのか? それとも千冬さんの直伝か」

一夏「う……」

弾「ふん……よっと」ムクッ

一夏「あっ、弾……」

弾「…………」ギロッ

弾「一夏……俺はおまえのやり方を聞いてて、俺は違和感を捨てきれなかった。
  それは多分、おまえが何かを伏せて話したからだと思ってる」

一夏「え!?」

弾「……あばよ」スタスタ

一夏「あ、ああ…………」

一夏「行っちまった……」

一夏「弾……」

一夏「俺だけかよ。友達と思ってたのは……」

一夏「厳さんの飯食わせてもらったり、蘭の遊び相手になったこともあるだろ。
   やっぱり、高校が違うとうまくいかなくなるもんなのか……」

一夏(あのとき、弾の言ってた言葉……俺が恵まれてるって言うのは、否定できねえ事実だ。
   俺だって分かってる……でもおまえがそう思ってたなんて……)

一夏(あいつが欲しかったのは『世界唯一の男性IS操縦者の友人』っていうポジションで、俺は利用されてただけだったって、本当か……)

一夏「はは……相棒みたいな奴だったのにな……」

一夏「…………」

一夏「うう……ううううう…………」


――――――

―――


【五反田食堂前 道路】

弾(あーあ……何でカッとなっちまうかね、俺は)

弾(そりゃ、あいつに嫉妬していた面があるのは認める。でも、ここで問題なのは自分の中の悪意をかなり脚色してしまったことだ)

弾(…………)

弾(あいつが仲良くしてた女の子たちから無視されてるって話を聞かされたときも、そのことを喜ぶ気持ちが僅かにあった。
  俺はあいつに最低野郎みたいなこと言ったけど、友人が苦しんでるのを楽しんでしまった俺はもっと屑だな)

弾(でも、あいつに言ったアドバイスは俺なりにあいつのことを思って送ったつもりだ。後の方以外はまともに対応していたとも思う
  ……やれやれ、前に数馬と衝突したときといい、頭に血が上ると俺は人一倍喧嘩腰になっちまうのかもな)

蘭「あ、お兄! どうしたの、顔赤いよ! 殴られたみたい」

弾「蘭か。心配すんな」

蘭「大丈夫なの?」

弾「おー。でも物騒だからしばらく家出るのは止めとけ」グイッ

蘭「え、ちょ、ちょっとどういうこと? 何があったの」

弾「いいからいいから」

弾(今のあいつは知り合いには会いたくねえだろう……)

【喫茶店】

一夏「弾……好き勝手言ってくれたけど、真に迫る意見も多かったんだよな」

一夏(そもそも、俺自身がまだ甘すぎるんだよな……くそ)

一夏(俺にだってエゴがあるのは知ってるさ。感じてしまうものは仕方ないだろ)

一夏「俺……解決策を思いついて、それを実行して、最初はつまづいたけど形になっていくのを感じられて、心に温かさが広がっていくのが感じられた」

一夏「でもあの日、飯に誘いに来た箒に知らされた。皆が一緒になって笑い合う様になったのは箒が俺がやろうとした役割を……
   『皆を結び付ける』行動を代わりにやってくれたからだって気付いて……」

一夏「その仕事まで取られたら俺がいる意味が無くなってしまうと恐怖しちまった。
   皆が食堂で他愛もない話題で盛り上がっている光景を見たときは嬉しかったのに、それが自分がもたらしたものではないと気付いたときはショックだったさ」

一夏「結局俺は『皆を助けたのは俺だ』って言いたかっただけなんだって思って、二重にダメージを受けた」

一夏「皆に遠ざけられてた理由を聞いたときもそうだ。皆それぞれ事情があったけど、やっぱり俺の存在が悩みの遠因になっていた。
   俺が良かれと思ってやったことが、苦しみの種になって、追い込んでしまったんだ……」

一夏(もう……関わるべきじゃないんだ。あいつらと深く付き合うことを、少しずつでもやめて行かなきゃいけない)

一夏(そんな難しいことじゃないさ。そもそも出会った最初から俺のことを好意的に見てくれたケースの方が少ないし。
   邪険されて、利用しようとされて、見下されてきたのが普通だったじゃないか)

一夏(大丈夫だよな、俺)

一夏「…………」

一夏(うん。大丈夫だ。あいつらの笑顔を未来まで守ることができるんだ)

一夏(あいつらが集まって楽しそうにしてるのを見たときの、胸の奥から嬉しい気持ちがせり上がってきた感覚は強く残ってる)

一夏(山田先生だって、のほほんさんだって、楯無さんだって、俺は背中を押して外の世界に目を向けさせてきた。
   箒に朝食に誘われてとき、朗らかにして周りと交流している皆を見れて、凄く安心したんだ)

一夏(何が問題か? 俺の夢がどんどん形になっていってるんだぜ? 良いことじゃないか)


「うぇーい数馬! どうだった?」


一夏「ん?」



数馬「いけたぜ。アドレス教えてもらった」

学生A「へえ~! やったじゃん」

学生B「場数の違いが出るのかね、やっぱ」

数馬「まーな。モテるために話題のチョイスやら女子の流行やらを研究してたからな。論文発表くらいはできるぜ?」

学生A「言うねえ~」

学生B「ゲーセンでいきなり『女の子見つけたから仕掛けにいく』なんて言ったときはどうなるかと思ったけどな」

一夏(あれは数馬だ! あの二人は友達か?)



学生A「モテるための努力かあー。そういや数馬、おまえ前ベース練習してるっつってなかったか?」

数馬「ああ、あれか。だるいからやめたよ」

学生B「もったいねえなあ。いつか聞かせて貰おうと思ってたのに」

数馬「いやあ、女にモテたくて始めたもんで俺も気楽にやってたんだよ。
   でも、一緒に練習してた奴がもっと真面目にやろうぜとか言い出して、そっから全部狂った」

学生A「ああ、いるよなあ。急に意識が高くなってうざいやつ。パッとしない奴だったのに宗教入ったみたいに急に豹変したやつも知ってるわ」

学生B「そういう奴見てるとイライラしてくるよな」

数馬「そうそう。俺は今まで通りでいいよって言ったんだけど、そいつは自分で勝手に練習するようになってさ」

数馬「何つーか、ノリが合わなくなったんだよ。変に努力せんでいいのによ」

学生B「まあ、あれだ。俺らみたいなのはある程度は頑張らんと女も手に入れられんからな」

学生A「そこら努力しようとする姿勢は見習おーかな。いや、うそうそ」

数馬「あいつの真剣さは理解できねえんだよ……」

学生A「……ほら、何て言ったっけ? IS動かせた奴。俺らと同じ高一の」

学生B「織斑だろ。織斑一夏」

数馬「!」

学生A「そうそれ。何の努力もせずに女の子を手に入れたいならあいつと立場替わってもらうしかねえよ」

学生B「うんうん。一日でいいからマジで俺をあの学園に入れてくれとは、俺も何度も思ってる」

学生A「ま、でもあいつ絶対調子乗ってるよな」

学生B「めっちゃ羨ましいぜ。ネットニュースでIS学園は美女揃いだって言ってたし。
    唯一の男子学生ってことで周りからめっちゃ持て囃されてんだろうよ」

学生A「そういや、この前雑誌でモデルみたいなことやってたらしいしぜ。勘違いは確実にしてるな」

数馬「…………」

学生A「周りから気を遣われてるんだろうな。ああ、なんかムカついてきたわ。俺らは何も良いことないのに」

学生B「どうした数馬?」

数馬「あ、いや……」

学生A「なあ、数馬。織斑ってやつ腹立つよなあ」

数馬「え……」



一夏(数馬……)

学生B「俺らは悲惨な境遇に甘んじてるっつーのに、不公平だよなあ」

数馬「…………」

学生A「なあ、どうした?」

数馬(やべえ、怪しまれてるな……)

数馬「……ま……」

数馬「まあ、な。確かに、俺らと何も変わらんのにあいつだけ良い思いをしてるっていうのは、許せねえよ」

学生A「だよなあ。さっき言ってたベース一緒に練習してた奴とどっちがムカつく?」

数馬「分からんな。でも、練習仲間だった方も出来の良い妹が居たり最近になって彼女できたり、恵まれてたな」

学生B「マジかよ」

数馬「まあ、どっちも大したことないぜ。織斑の方なんかたまたま運が良かっただけだし」

数馬「と言っても、向こうも俺らみたいな奴のこと見下してるだろうけどな。世間知らずの馬鹿だから」

学生A「あー、ありそうだわ」

数馬「と……済まん、ちょっとトイレ行ってくるわ」

学生B「ここに来る前に済まして来いよ~~!」

【道路】

一夏「数馬が……そうか。俺はそう思われてたんだな」テクテク

一夏「そもそもが、俺が自分の都合の良いようにあいつらのことを捉えてたってことだな。
   弾や数馬が友人だと、疑い無しに信じてた俺が悪いってことなんだな」テクテク

一夏(そうだよ……高校が違えば付き合いも変わるし……中学時代の仲間といつまでもいられねえさ)

一夏「でも……くそ……だ、ダメだ」ジワ

一夏(喫茶店での話を聞いてるときは頭がかーっとしたけど、しばらくしたら悲しくなってきた)

一夏(そりゃ世間ではああいった声はあるだろう。それは良いんだ。でも、昔の友達にまで馬鹿にされるのってよ……
   ここまで……ショックなものなんだな……)

一夏(うう……)ポタッ

一夏「何でだよ。何で昔の友達が離れてくんだよ」

一夏「雑誌の取材だって、自分から行きたいと言った訳じゃねえよ」

一夏「俺はだってなあ、おまえら同じように遊びたいよ!
   やりたいこと探したり、それを見つけても実現できるか不安になったりしてるんだ!」

一夏「俺だって……俺だって……」

一夏「おまえらと変わんねえんだよっ……!」

一夏「……………ん」

一夏(ここは……篠ノ之神社か。なんで足がここに向いたんだろう)

一夏(前に夢で見たからかな? それとも決意を新たにしたいから、自分の原点があるここを確認したかったのかな?)

一夏「…………はあ」

一夏(最近ちょっと疲れたな。どうしようもなく落ち込んだり、嬉しい出来事にわくわくしたり、またちょっと悩んだり……)

一夏(俺の生き方が悪いのかな。弾に否定されたせいか、皆を守るっていう決意がちょっと揺らいじまってる)

一夏(でも、俺みたいな境遇の人間なんていないしな。俺自身でどうにかしないとダメなんだ)

一夏(これで良いはずだとは思ってるんだけどな。
   ……皆が笑ってる姿を見て、それが嬉しくて、でもそれは俺じゃなく箒が頑張ってくれたことで、それでまた自分の価値が分からなくなって)

一夏(小学生時代の俺は、こういうことで苦しむことになるなんて想像もしたことなかったな……)


ヤアー! タアー!


一夏「うん……? 掛け声?」

一夏(聞こえてくる方向からすると……俺たちの秘密の場所か?)


【篠ノ之神社近辺の林】

ブン! ブン! 

少年「やあー!」

ブン! ブン!

少年「面! 面!……ふー……ちょっと休憩」

少年(あいつが付いてきてないから集中できるなあ。ああ、もっと強くなりたい……)

「なあ、そこの君」

少年「へっ!?」ビクッ

一夏「ああ、ごめんごめん。掛け声が聞こえてきたもんだからちょっと気になってさ。剣道の練習?」

少年「はあ、その、えっと……そうです」

一夏「やっぱりか!」

少年(高校生くらい? ここは僕くらいしか知らない良い特訓場だと思ったけど、あんまり熱を入れると声でばれちゃうな……)

一夏「ずっとここで自主錬してるの?」

少年「……一ヶ月くらい前から、道場が休みの日はここでやってます……」

一夏「道場って、この近くに昔からある篠ノ之道場?」

少年「はい」

一夏「…………そっか」フッ

少年(あんまり怖い人じゃ無さそうだ。目も優しいし、大らかな人なのかな?)

一夏「熱心なんだな。休みの日くらいゆっくりしてればいいのに」

少年「少しでも強くなりたいんですよ」

一夏「へえ……何で?」

少年「えっと……そ。それはですねー」

少年「っ…………」カアァァァァ

一夏「ごめんごめん、初対面なのに突っ込んだこと聞き過ぎちゃったな」

少年「いえ、こちらこそすみません……ところで、お兄さんはここの人なんですか?」

一夏「うん。俺も子供の頃はそこの剣道場通って稽古してたんだぜ」

少年「え! そうなんですか!?」

一夏「おう。道場に行くことは無くなったけど、今でも特訓はしてるぜ」

少年(僕の大先輩ってことかあ……)

少年「へ、へえ~~。じゃ、じゃあ……あの、えっと……」

一夏「うん? 何?」

少年「よ、良かったら稽古の相手して貰えませんか? 
   ずっと一人で基礎ばっかり続けてて、気分転換に他のこともやりたいなって……その、思ってたんですけど……」

一夏「もちろん構わないぜ! こっちからはあんまり打ちこまないようにするから、安心してくれ」

少年「は、はい! ありがとうございます!」

一夏「よ~し、そうと決まれば手頃な折れた枝でも探してくるよ」

少年「分かりました」

少年(優しそうな人だとは思うけど、剣の腕はどれくらいなのかな?)ドキドキ


――――――

―――

~一時間後~

少年「はあ……はあ……えい!」

一夏「っと! 上段か」バシ

少年「……胴!」ビシッ

一夏「うっ!」

少年「はあ……はあ……やった! やっとまともに入った」

一夏「ふうー……やられたやられた。よし、ここまでにするか」

少年「はい。今日はどうもありがとうございました」

一夏「いやいや。こっちもいきなり話しかけて悪かったな。びっくりさせただろう?」

少年「まあ、正直……でも、話してる内に良い人だっていうのが分かりましたから」

一夏「ははは。よし、アイスでもおごって……いや、今って見知らぬ児童に対してそういうことするのダメっぽいからなあ……
   今日みたいに、初めて会った子供の稽古に付き合うのもあんまり良いことじゃねえんだろうな」

少年「……」ショボン

一夏「ま、まあそこんとこはごまかすよ。俺が自分の分買って、君に押し付けたってことにしよう!
   もし誰かにばれたらそう答えるんだぞ! この言い分なら君は共犯にならないからな」

少年「す、すみません本当に……」

一夏「いいって。でも今日俺が教えたことは忘れちゃダメだぞ?」

少年「はい。剣を振るときは竹刀を立てて打つんじゃなくて左手を攻撃するところより高く上げなきゃいけないんですよね?」

一夏「そう。基本だけどな。俺の経験だけど、左手の動きが素早くなれば自然と切る動作にもうまく繋がるようになる。
   ただ剣を伸ばすだけとか下ろすだけってやり方は早く直した方がいいって教わったな、俺は」

少年「はい……先生が言ってた気がします。僕、不器用なのか飲み込みが早い方じゃ無くて道場じゃいつも迷惑掛けて……」

一夏「でも君の剣は何ていうか気迫があったよ。確かに今は不格好かも知れないけど、そんなのいくらでも直していけるって。
   それより情熱を燃やして気持ちを込めて剣を打てるほうが大事だと思う」

少年「本当……ですか?」

一夏「おう!」

少年「へへ! じゃあ道具片付けますからちょっと待ってて下さい!」

一夏「よしよし」

一夏「…………」

一夏(ガキの頃の俺も同じ道を通ったなあ。基本だからって重点的に教え込まれた記憶が残ってる)

一夏(……もし、あの出来事が無かったら……今も道場でこの子と一緒に稽古してたかも知れないんだな……弾たちとも付き合い保ててたかも)

一夏(今更自分の身の上についてどうこう言う気は無いけどさ。
   でも、今みたいに何でもない情景を見てありえたかも知れない未来をふっと思い浮かべてしまうことはある)

一夏(この子も子供の頃に良い出会いや教えに巡り合えれば良いな。その記憶さえあればこれからの人生でも結構やっていけるから……)

少年「終わりましたー! さあ、行きましょう……って、どうかしましたか?」

一夏「い、いや。大丈夫。ごめんごめん」

――――――

―――



~夕方~

【IS学園 中庭】

一夏「…………」ボー

「こんなところで座り込んではいけないよ」

一夏「ん?」

用務員「もうじき紅葉ではなく霜が降るようになる。腰を落ち着けるなら自分の部屋があるだろう? 風邪をひいてしまうぞ」

一夏「…………」

用務員「どうしたのかね? 私の顔に何か付いているのかい?」

一夏「いえ。男の用務員さんに話しかけられたことにちょっと驚いて。ここは女の子ばっかりですから」

用務員「そうかい。驚かせてしまって済まなかったね」

一夏「いえ……」

用務員「ぼんやりとした眼差しを辺りに向けていたが、物想いに耽っていたのかな?」

一夏「うーん、まあ、そんなところです」

用務員「ほっほ。青春は悩み多き時期だから仕方ないさ。どうだい織斑くん、考え事があるなら私に話してみるというのは」

一夏「ははは……いえ、お気持はありがたいんですが……」

用務員「君の活躍は聞いているよ。学園に迫る数々の危機を打ち払ってきたそうじゃないか」

一夏「……」

用務員「男がこんな環境にいるというのは嬉しいことかも知れんが、女の子には話せない問題も出てきてもおかしくないからねえ。
    相談事があるなら何でも言ってくれて構わないよ?」

一夏「…………」

用務員「まあ、気が進まないならそれもまた良し。でも、部屋に戻ったらうがいするように―――」

一夏「俺、今までのままじゃダメだって気付いたんです」

用務員「ん?」

一夏「俺、全然気付かなかった。皆にどんな酷いことをしてきたか、自分の勝手な行為で皆をどれだけ苦しめることになったか」

用務員「……織斑くん」

一夏「それを知ったとき、自分の世界が壊れてしまうような感覚に襲われたんです。
   今は皆を暗い世界から救いあげることは出来たんですけど、それでもまだ胸にすっきりしないものが残ってて」

用務員「…………要領を得ないねえ。良ければ初めから詳しく教えてくれないかな」

一夏「……」

用務員「どうも君という人間は自分が苦しいときに気持ちを外に出さない気がするね」

一夏「そうでもありませんよ。先生や友人に頼ったりすることもあります」

用務員「はてさて、どこまで頼っているのやら。
    善後策の協議に付き合ってもらうことがあっても、君自身の深いところを明かしたことはとても少ないのでは?」

一夏「…………」

用務員「すまないな、年寄りの戯言として聞き流してくれ」

一夏「……ああ、思い出した。あなたが学園の良心と皆が噂してた人でしたか。
   何だか不思議な人ですね。器の大きな人って感じがする」

用務員「買い被りすぎだよ。私など歯牙無い一介の用務員さ」

一夏「…………俺って皆に……何ができるんでしょうか?」

用務員「ん?」

――――――

―――


一夏「で、俺はまた不安に駆られているんです。俺の役割が箒に取られちゃって、自分の価値が分からなくなって……」

用務員(なるほど……大体の事情は分かった)

一夏「エゴなんですよ、結局……皆が助け合うようにしたいっていう目標の第一段階は叶ってるんです。
   それを形にする役目は俺じゃなくても良いはずなんです。喜ぶべきことなのに、下らないことで不満を溜めて」

用務員「…………」

一夏「鈍感だの朴念仁だの言われてきましたけど、今ほど自分のそういう特質を呪ったことはありませんよ。
   一度突き付けられるまで皆の苦しみに気付かなかったんですから」

用務員「一つ尋ねるが、君は何故人の助けにならなければいけないと思ってるのかね?」

一夏「それが俺の生き方なんですよ……」

用務員「答になっていないよ」

一夏「俺は皆を守らなきゃいけないんだ。それが俺の価値なんだ……」

用務員「?」

一夏「俺は恵まれまくってる!! でも、俺ができるもの、皆に返せるものはこれくらいしかないんだ!!」

用務員「返す?」

一夏「俺は貰ってばっかりだ。ISを動かせたのは偶然だし、操縦技術を身に付けられたのは、先生や周りの皆のおかげなんです」

用務員「……」

一夏「あいつらは、俺みたいな人間に付き合ってくれました。皆悲しい過去を抱えているのに、いつも元気で前向きで……」

用務員「織斑くん」

一夏「……守らなくちゃ! 強くならなくちゃ! 求められるものに応えなきゃ!
   ―――それさえできなかったら…………俺なんか生きてる意味はねえんだよ!!」

用務員「君は……それで良いのか?」

一夏「俺は全部守り抜いて見せる! 誰一人傷付けず! 声が聞こえたらすぐ向かってやる! 倒れそうならすぐ支えてやる!
   皆には、もう皆には、ずっと幸せでいて欲しいんだ! あいつらは俺よりずっと喜びを周りに与えられるんだ!」

用務員「……誰か一人を選ぶつもりはないのかね……」

一夏「全員を助けるって決めたんだ!」

用務員「君はどうするんだ! そんな道、簡単に歩めるものじゃないぞ! 君みたいな若者がたった一人で……」

一夏「俺は……平気ですよ」

用務員「嘘を言うな。見たところ君は自分の理想を広げる一方で、自分の心の声を押し殺しているようにも見える」

一夏「…………」

用務員「そもそも人間ができることなのかね? 自分の気持ちを見せず助けも受けずに、ただただ人を救うために動くとは……まるで機械ではないか!
    周りが相互に助け合う環境を作れという命令をプログラミングされた……」

一夏「じゃあ俺は『機械』でいい! 『システム』でいい!」

用務員「何?」

一夏「俺、周りの反応が変わっただけで不安になってしまって……
   壊れそうな自分の世界を護ろうとしてしまった! あいつらに差しだすことができた手を伸ばさず、自分を優先したんだ!」

一夏「その結果、皆の痛みを長引かせてしまった……」

用務員「むう」

一夏「へへ……朴念仁が機械に変わったところで、皆気にも留めませんよ」

用務員「…………」

一夏「俺は運が良くて、顔も姉と同じ遺伝子を持ってるんだから良い方なんでしょうね。
   接触したきっかけはどうあれ、出会った女の子は皆仲間になってくれましたし、自分を鍛えてくれる環境も揃ってました」

一夏「でも……『俺じゃなきゃダメだったのか』って思っちゃって……」

用務員「そんなことを今更言ったところで……」

一夏「たまたまIS動かせて……たまたま優秀な姉がいて……たまたま皆俺に目を掛けてくれて……
   ぶっちゃけると、ISさえ動かせたら誰でも良かったんですよ。それだけでちやほやされるでしょうし、強くなるためのプランも整備されるから」

一夏「ISが動かせなければ織斑一夏という人間単体には何にも価値が無い。どう考えてもそうだったんですが、俺は受け入れたくなくて……」

用務員(そこまで思い詰めているのか……)

一夏「必死になって、自分の価値を見出そうとして『皆を守るためのネットワークを作る』っていう発想が生まれたんです。
   これは俺のやりたかったこととその答えにも繋がってて、これしかないと思いました」

用務員「だが君自身は本当にそれでいいのかね? 辛くないのかい?」

一夏「俺という人間はいつも笑っていて、ことが起きれば敵に飛び込んでいくのが正しい姿なんです。
   皆が認めてくれたのはそういう俺だったはずです」

用務員「……」

一夏「強くて、明るくて、優しくて、でも鈍感で、変なところで意地っ張り。皆が求める俺の姿はそうだった……」

用務員「今の君とはどうも違った人物のように聞こえるね」

一夏「じゃあ、今が嘘なんですよ。本物は皆に見せてる方です」

用務員「そう思わせようと考えてるのだね。こんな弱気でふらついてる君なんか、誰も見たくないと。
    あの子たちの前ではお気楽そうに笑っているのは、そういう理由なのかね」

一夏「はい」

用務員「……過ちを反省して今後の生き方を改める。これは人間として必要なプロセスだが、君は考え過ぎではないか?」

用務員「専用機持ちの子たちに対して悪いことをしたと感じているようだが、それでもその時は君なりに精いっぱいやったんだろう?
    話を聞いていると、十五、六歳の若者には荷が重すぎる問題もいくつか出ていたぞ。
    特に彼女たちの生い立ちに関する事情は、君の判断能力を超える領域にあった」

一夏「何が言いたいんですか?」

用務員「そこまで思い詰めなくて良いんじゃないか、ということだよ。
    高校生と言えば遊びたい盛りだろう? 君のことだ、皆に付き合ってばかりで自由な時間がなくなっているんじゃないのかね」

一夏「いえ……そんなことは……」

用務員「生徒会にも入っていて、様々な部活に貸し出されているという話だったが、そろそろお暇を頂くのもありかも知れないよ」

一夏「……」

用務員「今は皆の元気は戻っているんだろう? そんなときに君ばかり暗い顔をしてどうする」

一夏「すいません。もう部屋戻ります」

用務員「あ……」

一夏「話聞いてくれてありがとうございました。何故あなたに打ち明ける気分になったのか、自分でも分かりませんけど」

用務員「……何かあったら周りの先生に相談するんだぞ」

一夏(相談か……山田先生の事情を知ったあとじゃ、それもする気になれない……)

一夏「では」スタスタ



用務員「行ってしまったか」

用務員(ふむ。今聞いたことはどうしよう。楯無くんや千冬くんに話した方が良いのだろうか)

用務員(もしそうした場合、周りの織斑一夏くんへの接し方が少なからず変わるだろう。しかし、彼の自分の価値に対する疑問符まで取り除けるか分からない)

用務員(何にせよ、彼が自分で問題の答を見つけ出すことが求められる。というより、それしかない。
    思春期というのは悩み多きものだが、彼の場合複雑な状況に身を置く羽目になったために誰にも苦しみを分かち合えないと考えているのだろう)

用務員(いや、苦しんでいることを悟られることすら許されないと思っている節がある)

用務員「……ふう」

用務員(……何故彼はああいう人間になってしまったのだろう。多くの人生を見てきたこの轡木十蔵も測りかねる)


――――――

―――



【IS学園 廊下】

一夏(妙に事情通な用務員さんだったな。話していないことも知っていた)テクテク

一夏(思えば、この学園に来てからは流されてばっかりだった)

一夏(そろそろ自分の意思で何か大きなことを決めて……そんで、もっと自分に出来ることを見つけよう)

一夏(そう言えば今日は秘密の場所で思いがけない出会いがあったな。あの少年に幻滅されるようなことはできない)

一夏(また来週練習に付き合うって勢いで約束しちまったしな……あの日の辛い記憶を上書きできるような良い思い出を作れるかも知れねえ……)

【篠ノ之束の研究所】

束「これが完成していっくんたちと華々しい共闘をさせたら、いっくんたちの思い出に更なる一ページが加わるね♪」

束「そのために最終チェックをさっさと終わらせなきゃいけないんだけど、どうもISコアの反応が少しおかしいんだよね」

束(でも些細なもんだし……この程度ならもう出撃させてOKかな?)チラ

無人機「…………」

束「!」ゾワッ

束「無機質で怖い顔してるね~~我ながらちょっとびびっちゃったよ」

束「『自己進化機能』と『コア・ネットワーク』に手を加えた本機体は従来のものより段違いの性能を発揮するはず。
  その光景を見るのを隠れた楽しみにして開発をガンガン進めたのは良いんだけど、やっぱり無理し過ぎちゃったかな?」

束「ま、良いや。明日の朝調整し直すことにして今日はもう休もーっと。もう一機もあらかた出来上がってるし」テクテク

束「お休みー♪」バタン



無人機「………」

無人機「―――――!」ギロ キョロキョロ

無人機「………」ウィーン…

――――――――――――――――

一夏「…………」キョロキョロ

少女「……」

一夏「ん?」

一夏(真っ白だな……帽子もそこから流れる長い髪も……簡素なワンピースも……)

一夏「君か。また会ったな。いつ以来かな? 臨海学校で俺がドジった後に会ったんだっけ」

少女「いつも一緒にいるんだよ」

一夏「? な、なあ、俺はどうしてまたここに?」

少女「あなたは私を分かろうとしてくれた」

少女「私もあなたを分かってきた」

一夏「???」

一夏「え……君は一体?」

少女「…………」

一夏「そう言えば、前は近くに騎士みたいな人がいたけど、今は一人なんだね」

少女「あなたは私の質問に答えてくれた」

少女「どうして力が欲しいのか―――それは守るためだって」

一夏「!」

少女「それは今も変わらない」

一夏「ああ。もちろんだ」

少女「でも分からない。守るための力を与えるために私もがんばった。それがあなたの望みだったから」

少女「私は願いを叶えた。それなのに今、あなたはとても弱っているみたい」

一夏「!!」

少女「今のあなた、とっても不思議。望みを実現したあとも、更に力を付けるために他の子と競ってる」

少女「それは良いこと。夢にまた一歩近づく。でも、あなたの心は少し前から穴が空いたまま変わらない」

一夏「……」

少女「目標を実現させる行動をしているのに心は満たされていない。それどころか、暗闇がどんどん濃くなってるの」

一夏「…………!」

少女「もう一度質問させてね」

少女「『誰かを守ってみたい』―――それが今の一番の望みなの?」

一夏「お……俺は―――」

一夏(皆には大きな負担を掛けて……昔からの友達もいなくなって…………)

少女「今もその考えは変わらないの?」

一夏「……そうだよ」

一夏「それが一番の望みさ!! 全員を守り切れるくらいの力が欲しい!! 前そう答えたときより強く願っているよ!!」

少女「本当なんだね?」

一夏「ああ!! 皆を守るためなら、この身を喜んで差し出せる!!」

少女「…………」

少女「―――あなたの望みがそうなら」

一夏「……」

少女「私も――――」パァァァァァ……

一夏(う……光り出した? な、何だ? 意識が―――)



―――あなたを守るためにがんばるよ、一夏

―――覚えが遅いぞ! 裂迫の気合いを以て振り下ろせ!


束「……」


―――お父さん! もういいじゃないですか! 束が泣いていますよ!


束「……」


―――女だからと言って甘やかしてはならん! むしろ女だからこそ武術の理は必要とされるのだ!


束「……う」

束「もうやめ……」


―――苦しいだろうが今逃げてはならん! さあ剣を強く握れ! まだ30本残っているぞ!!


束「もう嫌だよっ……!!」

束「………はっ」

束「あはは………大分寝てたみたい……」

束「……もう興味ないし、あの人のことなんか。箒ちゃんたちがいれば十分」


―――すごいです! こんなむずかしいほんわかるなんて!


束「箒ちゃん……」


―――ねえさんにまけないよう、わたしもがんばります! 


束「…………」

束「ISはあなたの明るい未来を作るためにあるんだよ」フッ

束「……さてと、仕上げちゃおうかな。開発プロジェクトもフィニッシュが近いね」

束「いっくん、箒ちゃん、気を付けてね。今回のゴーレムは少し手強いよ」ガチャ

無人機「――――――」

束「……………この子は手が掛かるなあ。調整にいつもの三倍くらいの時間を費やしてるよ」カタカタカタ……

束「―――よし、完了! 近いうちに試運転を―――」


ガチャン

束「そうだ、後回しにしてた標的設定関連の処理が―――ん?」

束「何? 今の音」クルッ

ガチャ……ガチャ……

無人機「――――!」ゴゴゴ……

束「!!」

無人機「――――」

束(え? ゴーレムが動いてる?)

束「こ、こらこら! 困るなー君ー!! 束さんはまだ起動命令出してないよー!!」

無人機「――――」キョロキョロ

束「もう!!」カタカタカタカタカタ

束(早く内部プログラムを訂正しないと……どこでミスがあったんだろ?)カタカタカタカタカタ

無人機「――――――」

束(自己進化機能に手を入れたから? やばいよ! ここで止めないと私の意図を離れて暴れ出しちゃう!!)

無人機「―――――」ガシャン!


《無人機 ウイングスラスター 展開》


束「あ、ああ……」

無人機「―――――」

ビュゥゥウン!!!

束「きゃっ!!」

束「!」ガバッ!

束「あ、ああ……行っちゃった……」

束「…………今後の行動……最初に入力した命令に沿うとしたら……」

束「行く先は……IS学園……」

次回へ続く

【IS学園 廊下】

~昼休み~

山田「今日は冷えますねえ~~」

谷本「曇ってて陽の光も届かないですし……」

山田(午後からは実習ですが、織斑くんはこの寒さの下でも燃えているんでしょうね。
   少し前からぐっと真剣さが増してて、気圧されるときもあります……)


のほほんさん「さむさむ……」フルフル

ラウラ「本音、本音」チョンチョン

のほほんさん「な~に~? ボーちゃん?」

箒「ほら、前言った冬季休暇に皆で遊ぼうという計画の件だ。覚えているだろう?」

のほほんさん「忘れっこないよ~~」

ラウラ「今からそのことで話し合うんだが、おまえも来ないか?」

のほほんさん「行く行く~~!!」ピョンピョン

箒「よし!」

ラウラ「食堂に行くか! 既にシャルロット達も集まってるかも知れん」

箒「ああ」

のほほんさん「うきうきだね~~」



【食堂】

箒「もう皆来ているか」

鈴「待ってたわよ!」

シャル「早く座りなよ」

のほほんさん「は~い」

ラウラ「すまないな」

セシリア「もう休暇の計画についてのお話は始めさせて頂いておりますわ」

鈴「そうそう、おいしいご飯が食べられる場所を探した方が良いかなって意見が出てさ―――」

簪「大人数になるから早いうちに予約しておかなくちゃいけないと思うの」

箒「よし、今度の休みに探しに行ってみるか」

ラウラ「店選びか……わ、私も同行していいだろうか?」

箒「いいぞ!」

シャル「それ、僕も行こうかな」

簪(私も皆と一緒に歩きたいな……ついでにカップケーキの材料買いたいし……)

箒「じゃあ、行く日までに候補をリストアップしておこう」

セシリア「皆さん、それもよろしいですが、お弁当を持っていくという道もありましてよ」

シャル「!」ピクッ

セシリア「わたくしが全員の分を作って差し上げることもやぶさかではありませんわ!」

鈴「そ、それだけはやめて!」

箒「そうだ! おまえに負担を掛けることになるのは、私たちにとっても心苦しい!」

セシリア「わたくしは別に構わないのですけれど……」

シャル「み、皆! それについての話はひとまず置いといて、遊ぶ場所をそろそろ決めよっか!」

のほほんさん「私遊園地が良い~~!!」ピョンピョン

――――――

―――

一夏「…………」テクテク

一夏「…………ふう、目立たない場所探すのも大変だな」

一夏(……今朝見た夢に出てきたあの子はやっぱり……)チラ

ガントレットを見遣る一夏

一夏「……そうさ。想いは変わらない。皆を守るためにもっと力が欲しい」

一夏(ん? 待てよ………俺が誰かを守りたいって気持ちを持つようになったのはいつからだっけ?)

一夏(いつも自分を守ってくれてた千冬姉への憧れの気持ちを抱いていて、自分も他人を助けられる人間になりたいと思ったから―――)

一夏(そうだ。そのはずだ)

一夏「……」

一夏「分析は置いといて、そろそろやるか。あっという間に授業始まっちゃうしな」

一夏「今日は曇りか……肌寒い。特訓中に雨降ってこないだろうな?」

一夏「……ん?」

一夏(何だ? 雲から黒い影が落ちて――)

一夏「鳥か? いや、雲より高く飛ぶ鳥なんて……」

一夏「はっ!」

一夏「……来い! 白式!!」

《白式 展開 & 瞬間加速(イグニッションブースト)》


ドシュウゥゥゥゥ!!!



一夏(やっぱり……間違いない―――!)

一夏「……」ピタッ

「―――――」ギロ……

一夏(無人機……! 前に来た奴とはまた違うタイプ!)

無人機「―――――」グアッ!

一夏(いきなり突進!?)

ガキイィィィィ……!!

一夏「こいつ……馬力が……」ギリギリ

一夏(押されてる! やばい! 俺の後ろには学園がある!)

一夏「……!!」グググ… ゲシッ!

無人機「―――」ヒュン

一夏「蹴りを警戒して後ろに下がったか!」

無人機「―――」ジャキッ!!

一夏「腕部から飛び出し型のブレードか……いいぜ、やってやる!」

一夏「IS学園に踏み込めると思うなよ!!」

《雪片弐型 展開》

一夏(いつかまた来ると思って、鍛え直したんだぜ)

一夏(迂闊に飛び込んじゃダメだ。どんな武器を隠しているか分からない。警戒しないと)

一夏「ふうぅぅー……!」

一夏(こなした特訓を思い出すんだ! 楯無さんやダリル先輩たちとの対戦で気付いたことを活かせばきっと勝てる!)

無人機「―――」ギュン!!

一夏(来た! 慌てず、動きは最小限に……)


ガシイィィ!!


無人機「―――」

一夏(さっき組み合ったときの手応えで分かった。こいつはエネルギーの無駄遣いしてて勝てる相手じゃない!)

無人機「―――」グアッ

一夏「上段!」


ガキン!


一夏(剣道の基本は「見」! それはここでも通じるはず!)

無人機「――――」ギリギリ…

一夏(やばい!)ドガッ!!

無人機「――――!」グラッ

ドシュッッッ!!

一夏(鍔迫り合いのとき妙な気配を感じて何かと思えば、腹部ショートブレード飛び出しか。蹴り飛ばすのが一歩遅れてたら食らってたぜ)

一夏(……可能性を頭に入れておいてよかった。楯無さんのフィードバックが活きた)

無人機「―――」ギチチ ギチ…

グオォォォォォ!!!

一夏(また突進か! 力比べに持ち込まれたら勝ち目はねえ!! ここは距離を取る!)

《白式 瞬間加速 発動(後退)》

ギュゥン!!

一夏(距離を取ったところで―――)

《白式 荷電粒子砲 発射》

ドウゥゥゥン!!!  ……ヒュゥン!!

無人機「――――!!」バッ

一夏(バリアで塞いで突破か! なら―――!)

《白式 零落白夜 展開》

一夏「くらえ!」ブン!

無人機「―――」ヒュン!

一夏(急降下!? 回避された!)

無人機「―――!!」ギュゥウン!! グアッ

一夏(真下からの攻撃―――太刀筋は斜め左上から右下にかけての袈裟切り―――)

ブンッ!!!  ヒュッ……

一夏は無人機が空振った隙に鋭い突きを繰り出す!

一夏「……」

無人機「――――――」グラッ

無人機「ギッ――――」バチバチバチ……

一夏(見切れた……左肩に一発入れることができた!)


無人機「――――――」

《無人機 瞬間加速 発動(後退)》

一夏「逃がすか!」

《白式 瞬間加速 発動》

一夏(さっきの一撃で左腕の動きに障害が生じているはず! そこから攻める!)

無人機「――――――」ヒュウ……

一夏(速度が落ちた! 今だ!)

無人機「――――――」カチャッッ……


ドシュッッ!!


一夏(こめかみの箇所から棘が発射されただと!?)

一夏「くっ」バシッ


ドウゥン!!!

一夏(爆発した!? マイクロミサイルの一種か!)

一夏「視界が…………はっ!!」

無人機「―――」ギュィイン!!

一夏「ッ!」サッ


ズシャァッ!!


無人機「――――」ジジ…ジ…

一夏「…………」

一夏「入った……か」

右手で突きだした雪片の先に、無人機の胴が刺さっているのを確認する一夏

一夏「必殺を期すため死角の方から打ち込んでくると思ってたぜ」

無人機「――――――」

一夏(よし、とどめを―――)


ガシッ!!

一夏「!?」

無人機「―――」

一夏「こいつ……雪片を掴んで離さねえ」ギチギチ……

一夏「ダメだ……力じゃ……」グググ……  バッ!!!

一夏「うわあっ!!」

無人機「――――――」

一夏「取られちまった………! くっ!!」

無人機「――――――」ブン!! ブン!!

一夏「!」ヒュン!

一夏「危ねえ! ギリギリで上に逃れることができた! くそ、何とかして取り返さねえと……!」

一夏(雪片は白式の武装……使いこなすことはできやしない。動きを見て冷静になって……)

無人機「―――――」スッ

一夏「?」


《無人機 零落白夜 展開》


ギュオォォォォォォオオォォオオ!!!


無人機「―――」ギロッ

一夏「なっ……!?」

【IS学園 廊下(教室前)】

セシリア「もう授業が始まりますわ」

のほほんさん「楽しみだね~~~冬休み」

鈴「……」


ザワザワ エッ ソラデ? コワーイ


鈴「何か周りが騒がしくない?」

簪「私も……そう思う」

ラウラ「様子がおかしいな」

相川「あっ! 皆!」

シャル「どうしたの? そんな慌てて」

相川「良かった! 一年の専用機持ち全員いるんだ!」

谷本「大変なのよ! 今、この学園の空でね―――」

【IS学園 廊下(職員室前)】

山田「はぁ……! はぁ……! お、織斑先生!」

千冬「もう聞いている」

山田「え!! じゃ、じゃあ」

千冬「今回の襲撃は単体。学園上空で織斑一夏と交戦中のところを何名もの生徒が目撃している」

山田「織斑くんが!? し、指令は!?」

千冬「既に他の教員に連絡を入れてある。生徒へのシェルター避難命令も間もなく伝えられるはずだ。
   戦闘教員をツーマンセルで二組派遣し、残りは内部の異常検査と避難のサポートに回す。
   敵の増援を警戒し、学園での任務に当たっている教員も生徒の安全を確保でき次第ISの出撃準備をさせるつもりだ」

千冬「山田。おまえも出撃班に当たっている。速やかに発ち、外敵を討て」

山田「はい!」

千冬「この学園に入れるなよ」

山田「分かっています!!」ダッ

千冬「……」

千冬(一夏……もう少しの間だけ一人で耐えてくれ……)ギュ…

箒「一夏は……どこだ」キョロキョロ

箒(最近一夏とまともに会話していない気がする……口数が減ったし、実習でも妙な必死さを感じて話し掛けるのが憚られていた)

箒(皆との話し合いが一段落して、残り時間くらい久しぶりに二人で会いたいと思ったのだが……)

鷹月「…………」

箒「あ、静寐。一夏を見なかったか?」

鷹月「篠ノ之さん、あれ……」

箒「何だ? 空を指差して。珍しい鳥でもいるのか?」ヒョイ

箒「ん……あのISの輝きは……白式!? もう片方はなんだ!?」

鷹月「あっ……織斑くんの剣が」

箒「……奪われた!? い、一夏!!」

鷹月「ね、ねえ篠ノ之さん! 早く助けに行ってあげて!!」

箒「もちろんだ! 待っていろ一夏! 今、紅椿で―――」

「できないよ」

箒「!」

箒「そ、その声は……」

鷹月「あ……」

「久しぶりだね、箒ちゃん」

箒「な、なぜあなたがここに!?」

束「箒ちゃんが心配になってさ」

箒「くっ……すみませんが今はあなたと話している暇は無いんです! 早く一夏を助けに行かないと!」バッ

箒「来い! 紅椿!」


シーン……


箒「なっ! どうしてISが展開されない!?」

束「箒ちゃんが行くことないって。あんな怖い敵はいっくんに任せようよ」

箒「……まさかあなたが紅椿の起動を邪魔しているのではないでしょうね!?」

束「…………」

箒「何とか言ってください!」

《白式 瞬間加速 発動(後退)》

ギュンッ!!

一夏「こちらの武器を奪い取って自由自在に扱えるとは……くそ!」

一夏(頭を切り替えるんだ! 動揺を断て!!)

一夏(零落白夜は一撃必殺の切り札だ。腕部ブレードと共に振り回されたら間合いに入ることすらままならない。
   かといって、あまり距離をとると敵意の矛先が学園に向く危険性がある)

一夏(俺は消費エネルギーを抑えるために整備課に行ったり無駄を減らす運用法を考えたりして、燃費はぐっと良くなったが……
   相手はそんなの考えなくていいくらいにエネルギーを備えているかも知れない。悠長にガス欠を待ってたらあっという間にやられてしまう)

無人機「――――」

一夏(こちらができることは……やはり荷電粒子砲を相手に向けて放ち、隙が出来たところを奪い返すしかなさそうだ)

一夏(いや、待てよ……今相手の持ってる武器は―――)

無人機「――――」

《無人機 瞬間加速 発動》

一夏「!」

《白式 荷電粒子砲 発動》

ドゥゥウン!!

無人機「――――」バッ

バシャシャシャシャァッ!!

一夏(予想通り零落白夜で切り裂きつつ突進してきたな)

一夏(次の手は……)

無人機「―――」グアッ

一夏(相手の手元を狙って)ジン……

一夏(―――左の貫手!)ビュッ!!


ガシィィィィ!!


一夏(腹部の隠しショートブレードで受け止めるか……
   武器をとり戻そうとする相手からの手元への攻撃を読んでカウンターを食らわせる策か)

一夏「よし…………」


《白式 雪羅エネルギー爪 発動》

ビカッ!!!

無人機「――――!」グラッ

一夏「読めてたぜ!!」ブォン!

その場で大きな回し蹴りを放ち、無人機が握る雪片弐型を天高く弾き飛ばす

無人機「――――」

ヒュンヒュンヒュンヒュン……

一夏「よし!」パシッ

無人機「――――」ピク…ピク…

一夏(何だ? 様子が少しおかしいが……チャンスだ!)

《白式 零落白夜 発動》

一夏「くらえっ!!」

無人機「――――」ギャシンッ!!

一夏「!!」

《無人機 腕部ブレード 雪片弐型と同型に変換》

一夏(こいつ……武器が変化してる!?)

無人機「―――」ギロッ

一夏「な、何なんだ!」

《無人機 両腕部 零落白夜 発動》

ギュオォォォォォォ

一夏「げ!」

無人機「―――」ブン! ブン!

一夏「くっ!」キンキン!

一夏(こいつ……進化しやがった……! 戦闘経験を積んで新しい武装を生み出した! 紅椿と同じ無段階移行(シームレス・シフト)だ!)

無人機「―――」ブアッ

ガシィイン!!

一夏(しかも左右一本ずつ持ってやがる!)ドカッ!

無人機「――」グラッ

ヒュゥウン!!!

一夏(とにかく零落白夜を食らったらその時点でアウトだ。距離を取るか? 
   でも、あまり離れ過ぎると俺を相手するのを止めて学園の方に向かうかも知れねえから慎重に行こう)

一夏(敵は両手に雪片弐型と同系の剣を持ち、今はしまわれているが腹部にブレードを隠している。おまけに頭部にはマイクロミサイル……)

一夏(機体運用時のエネルギーの無駄を限りなく無くし、戦術を見直したのが効いてるのか、こっちは色々使ってエネルギー残量は70パーセント近く残ってるけど……

一夏(やれるか? 俺はこいつを倒せるのか?)

一夏「……」


―――でも言っとくが、俺はおまえの気持ち悪いヒロイズムなんて認めないからな


―――俺らと何も変わらんのにあいつだけ良い思いをしてるっていうのは、許せねえよ


一夏「……っ」ギリッ

一夏(何言ってるんだ! やらなきゃダメなんだよ!
  こんな状況が来たときのために技を磨いて読みを鍛えてきたんだろ!)

一夏(倒して見せるさ! この危機を打ち払ってやる! 俺の信念は強固で、ただ流されただけのボンクラじゃないってことを証明してやる!)

一夏「皆……!」チラッ

戦場と化した上空から、緊張の隙間をついてIS学園に目を落とす一夏

一夏(……負ける訳にはいかない)

一夏(安心してくれ。侵入は俺が食い止めるからな!!)

無人機「―――」ギロッ

一夏(今回の敵は攪乱やフェイントを多用して人間的な動きを見せる。相手の行動を読みきれなきゃ負けだ!)

無人機「―――」


《無人機 瞬間加速 発動》


一夏「!」

ガシィィィ!!!

一夏「そうだよな! おまえは俺よりパワーも手数も上回ってるんだ! 接近して打ち込みまくるだけで勝てるよなあ!」ギリギリ

無人機「―――」


《無人機 零落白夜 展開 ×2》ビカァァァァ!!!


無人機「―――」ブン! ブン!

一夏「っ!!」キン! キン!

一夏(二刀を持つ相手に対して両手持ちで挑むのは危険過ぎる。一方の剣を受け止めてももう一方の剣で脇腹を刺し貫かれるのがオチだ)ガキィン!!

一夏(しかし、対二刀流のセオリーを守ったところでこっちが先に限界が来るのは避けられない……よし、やってみるか)ヒュンッ!!

《白式 零落白夜 発動》

ギュオォォォォォ!!

一夏「でもって……」

《白式 瞬間加速 発動(後退)》

ドシュウゥゥゥ!!

無人機「―――」ギロッ

一夏「来やがれ!」ガチャ フィィィィィィィ……

無人機「―――」ガチャ フィィィィィィィ……


《無人機 瞬間加速 発―――


一夏(加速前の一瞬の隙! ここだ!)

《白式 瞬間加速 発動》

ドシュウゥゥゥゥ!!

無人機「―――」

加速の勢いを乗せて敵の胴を斬り付ける一夏

ザンッ!!

一夏(後退時の勢いが抜けきらないうちにいきなり加速するのはきつい……けど! 出し抜けた! 手応えもあった!!)

無人機「―――」

無人機「――――――――」ギロッ ヒュン

一夏「!」

一夏「……な……何でだよ……確かに斬ったはず……」

一夏(! 敵の腰の部分……切れているがまだ繋がってる! 慣れない戦法で僅かに手元が狂ったか!!)

無人機「―――」グアッ…… フィィィィ…

一夏(大上段に構えた!? くっ!!)

《白式 瞬間加速 発動(後退)》

無人機「――――」

《無人機 瞬間加速 発動》

一夏「!!」ガキィィィィイン!!

一夏(こいつ! 間髪いれずに俺を追撃してきた!? 剣を振り上げたのは後退を誘うエサだ!)ギリギリ……

一夏(………)ギリギリ

一夏「あ」

一夏(俺今雪片を両手持ちして受けてる……)

無人機「――――」キュイィィン…

一夏「しまっ……!」

無人機「――――!」ブゥン!!


ザシュゥゥゥッ!


一夏(! ここだ!)バッ


《零落白夜 発動》

ドスゥッ! バリバリバチバチッ!!

無人機「――――――」ジ…ジジ……

一夏「へ……へへ……」


一夏「どうだ。その腹にカウンター入れてやったぜ」

一夏(剣を振った後に一瞬の隙ができたな。ラッキーラッキー)

一夏「遂にコアが見えた。けど……」

一夏「……左腕……飛ばされちまった」フラッ


………ブシャァァァァ!!

続きは明日になります

【IS学園内 格納庫】

教員A「……原因は解明できた?」

教員B「まだ。整備不良だというわけではなさそうね」

山田「はぁ……はぁ……!! あ、み、皆さん! 早く出撃しましょう!」

教員C「……」チラッ

山田「どうしたんですか!? 学園の危機ですよ! 織斑くんがたった一人で応戦してるんです!」

教員A「分かっているわよ!」

山田「な、ならどうして!」

教員C「出来ないのよ」

山田「え!?」

教員D「起動できないの! ここに配備された機体全てが、凍りついたみたいに何の反応も見せてくれないの!!」

山田「……!!」

箒「一夏っ……!! う、腕が……!!」

束「いっくん!!」

箒「姉さん! これはどういうことですか!?」

箒「やはり、今までの事件も全部あなたが絡んでいたということですか!?」

束「…………」

束「そだよ。気付かなかったの?」

箒「……! そんな、じゃあ、私たちを攻撃して何をしようと……?」

束「どういう想像してるのかな。箒ちゃんは」

束「ここは勘違いして欲しくないんだけど、全部箒ちゃんといっくんのためにやったんだよ?
  二人が戦いを経て絆が生まれるように、共に強くなれるように取り計らったんだよ?」

箒「―――!」

束「いっくんとの距離を縮められて箒ちゃんも嬉しかったでしょ? 共に戦えるよう用意した紅椿も、破格の性能を発揮したでしょ?」

箒「紅椿は……」

束「ねえ。どうしてかな? どうしてこんなことになっちゃったのかな? 
  今いっくんの腕が切り飛ばされたの見た? くるくる血を飛び散らせながら海に落ちていっちゃったね」

箒「姉さん、あなたは」

束「どうして白式の生体再生機能が働かないのかな? あれだけの傷を負ったらまず操縦者の命を守るために回復に集中するはずなのに。
  絶対防御を妨害するシステムは組み込んだけど、その機能までカットするようには作ってないよ」

箒「ちょっと待ってください」

箒「私が喜ぶと思って一夏や仲間たちを危険な目に合わせたんですか。死人が出るかも知れないのに」

束「考えられる原因はいくつかあるね。新ゴーレムの持つ自己進化機能が新たに再生妨害能力を発現させたという説が一つ」

箒「……姉さん」

束「二つ目は、白式のコアの自意識が操縦者であるいっくんの意識と同調し、回復より戦闘行為の続行を優先したという説」

箒「姉さん」

束「切断面の出血が少しずつ止まってることから見て回復機能は今も働いてるみたい。
  普通のISも裂傷の止血くらいはできるけど、白式は操縦者の腕が切断されてもなお戦いを続けようというのかな?」

箒「姉さん!!」

束「……何かな? 箒ちゃん」

箒(目が虚ろだ……事態を把握し切れていないのか……?)

箒「は、早くあの無人機を止めてください!」

束「そうできるものならとっくにそうしてるよ」

箒「え?」

束「内蔵された自己進化機能が、自分で外部干渉を排除するよう内部システムを作り変えちゃったみたい」

箒「ということは……」

束「そ。もう束さんの命令は受け付けないってこと」

箒「じゃ、じゃあ学校側のISにあの無人機からの命令をシャットアウトできるようにする措置はとれないんですか?
  姉さんならいくつかのISにそういった施しをすることは可能でしょう!?」

束「できるかも知れないけど現実的じゃない。超簡単に説明すると、新ゴーレムが白式以外のISの起動妨害を行えるのは、
  コア・ネットワークを介して他者のコアへ命令できるようにしてあるからなんだ」

束「で、新ゴーレムによって起動を封じられたISは、通常の待機形態とは違った状態に置かれるんだよ」

束「その状態はコアが眠っているって言うか、更なる外部の働きかけを受け付けなくなるんだ。
  パソコンもシャットダウンしたままでプログラム上の操作を行うことはできないでしょ? ざっくばらんに言えばそれと同じ」

箒「そんな……!」

束「がんばれば抜け道を見つけられるかも知れないけど、今からそれをしても時間が膨大に掛かるだろうから無駄だね」

箒「ああ……!!」

束「さっき新ゴーレムの状態解析をしてたんだけど、自己進化機能で内部機能まで勝手に改造しちゃってるみたいだったし。
  もしかしたら私が他のISを起動しても、すぐにまた停止させられちゃうことになるかも知れない」

箒「……ISの自己進化機能とはそもそも、戦いの経験からより強い形へ姿を変える特性を指すのではないですか?」

束「あのゴーレムが特別なんだよ。今作は無人機の動きに幅を持たせるのと、自己進化機能の改良及び適用範囲の拡大がテーマだったんだ」

束「当初は戦闘用AIだけを改善しようとしただけなんだけど……
  より効果的な行動を展開するためには内部機能も必要に応じて改良できるようにした方がいいと思ってさ」

箒「…………」

束「今いっくんが相手をしているのはハイスピードで状況に適応し、新装備を展開できるようになった前代未聞の超兵器だね。
  形態移行したときに過去の経験から武装が追加される特質は従来のISにもあるけど、あのゴーレムは紅椿みたいにそれをもっと高頻度に行うんだ」

箒「今は一夏しかISを動かせる者はいないんですか」

束「んー、コアロック機能適用の例外は白式だけ。命令コードに組めたのはそれだけだったし」

束「もちろん紅椿に対してもこの機能を使わせないようにするつもりだったよ。
  けど、AIの不備とか新機能と従来機能の噛み合わせだとか途中で他の問題がいくつも目に付いてさ。
  開発スケジュールを見直すことにして優先度を振り分けた結果、紅椿を除外するコード入力は機体機能調整後に持ってくることにしたんだ」

鷹月「待ってください! あなたは篠ノ之さんと織斑くんを大切に思ってるんでしょう!」

箒「!?」

束「箒ちゃんまで……殺されて欲しくないし」

箒「今更何を言っているんです!! そんなこと言うなら最初からやらないで下さい!」

箒「すぐに増援に行かなければ一夏が本当に死んでしまいます!! 一夏のことはどうでもいいんですか!!」

束「行ってもどうせ勝てないよ!」

箒「一夏が倒れたら今度は学園が狙われるかも知れないでしょう!! 
  戦闘教員たちのISも使えないこの状況では、どの道私たちも助かりません!!」

束「うん。そうだね。だからこそ……」

束「最後くらい姉妹水入らずで過ごそうよ」

箒「姉さん!」

束「…………お願い、箒ちゃん。そんな睨むような目つきで見ないで」

鷹月「博士……」

束「最後の最後まで箒ちゃんに嫌われたままっていうのは、流石の束さんも辛いよ」

箒「あ、あなたは! いつも! いつも余計なことをして!」

束「……」

箒「勝手に掻き回して! 邪魔をして! 私の仲間まで傷付けて!!」

箒「ほ……本当に……こんな事態まで招いて……」

束「ごめんね。私が変な真似しなけりゃいっくんと一緒にいれたのにね」

箒「違います!!」

束「ん……?」

箒(確かに……一夏と離されたことは悲しかった……けど!)ジワ…

箒「わ……私の大切な友達まで巻き込んだっていうことも許せないんです!!」ポロッ

束「ともだち?」

箒「うっ……うううぅ……」

束「……」

鷹月「……」

鷹月「篠ノ之博士。妹さんの言っていることが本当に分からないんですか?」

束「君、誰?」

箒「静寐……」

鷹月「あなたは知らないでしょうけど、箒さんはこのIS学園でたくさんの友人を作ったんですよ」

鷹月「自分のISを手に入れた後は先輩に鍛えてもらうようになりましたし、悩んでいる友達に話を聞きに行って感謝されたこともあるんです」

箒「私の不備で作戦失敗したときも、彼女たちはフォローに回ってくれた……」

束「…………?」

箒「そ、そんな友人たちを姉妹間の問題に引き込んで、危ない目に合わせたことは……」

束「箒ちゃん……」

鷹月(こういう状況ってどうすれば良いのかしら……)

鷹月(さっき避難指示の校内放送が聞こえたけれど、篠ノ之さんは一夏くんの戦いを見ずにはいられないでしょう……)

鷹月(でも、織斑くんが戦っているのは皆を守るため……なら、彼の意思を無駄にする訳には)

束(箒ちゃん……何故そんなに悲しんでいるの? いっくんがやられてるから、だけじゃないよね?)

鷹月「篠ノ之さん、早く避難しましょ。博士も一緒に」

箒「……一夏を見捨てる訳にはいかない」

鷹月「気持ちは分かるけど! 早く行かなきゃあなたも危ないわよ!」

箒「私のために姉がしたことで、今一夏は苦しんでいるんだ。私だけ安全な場所で身を隠すのは許されない」

鷹月「しっかりしなさい! 今、あなたが傷付くことを、一夏くんが望んでいると思ってるの!?」

束(……………)

束(この子……関係ない癖に何でここまで……?)

【IS学園 上空】

一夏(シールドも荷電粒子砲も使えなくなっちまったな)

無人機「―――」ブン! ブン!

一夏「おっと」

キン! キン!

一夏(……今ので決められねえのか……!! くっ、片腕を失ったまま斬り合いを続けるのは危険だ!)

無人機「…………」

一夏(一旦引くぜ!)


《白式 瞬間加速 発動(後退)》

ギュゥン!!

一夏(……………あぶ……え?)


《無人機 瞬間加速 発動》 ギュゥン!!

無人機「―――」グアッ

一夏「な! 一瞬で詰めて……! くそ!」ブン!


ガシィィィ!


一夏(俺が引くのを見越してすぐ瞬間加速仕掛けてきた……)ギリギリ……

無人機「――――」グググ…

一夏(やばい!! 片手じゃ鍔迫り合いに勝てねえ!)ギリリ……!

無人機「―――」ギリギリ…… ザシュ!

一夏「ぐあっ!」

一夏(押し切られた……はっ!!)

無人機「―――」グアッ

一夏(蹴りが―――)


ドガアァァ!!


一夏「……っは」

一夏「が、か……かはっ……」


《無人機 零落白夜 発動》

一夏「え?」


ザシュゥゥゥゥ!!

一夏「…………」

一夏「斬られる瞬間体を引いたから、傷は浅目に留めることが出来た……でも……」

一夏(ダメだ……血を流し過ぎたか、右手にも力が入りにくくなってる……)

無人機「――――」

一夏「おまえ強いなあ……

一夏「へへ……」ガクッ フィィィィィィ……


《白式 スラスター稼働 停止》

 ヒュゥゥゥゥゥゥ……


無人機「―――――」キュィ…ィイン

一夏「…………」ヒュゥゥゥゥゥゥ……

一夏(……苦肉の策だ。片腕が無い今、力で勝る相手に斬り合ってもまともな勝負にならない)

一夏(攻撃を誘い、後ろに引いて反撃する方法は読まれてるかも知れない。これが決まらなかったら終わりだ―――)

一夏(皆、今までごめんな。迷惑掛けて、負担掛けて、余計に苦しませて)

一夏(これくらいしかできることないけど、こいつだけは俺が倒してみせるよ。皆の間に芽生えた絆を守ってみせる)

一夏(インフィニット・ストラトス―――無限の成層圏。女性を守る機械仕掛けの鎧。俺はそれでいい)

一夏「―――――――」


《無人機 瞬間加速&零落白夜 発動》


一夏「!」カッ


《白式 瞬間加速&零落白夜 発動》


一夏は高速で接近する敵機に正面から迎え撃とうと加速する

一夏「うおぉぉぉぉぉぉ!!!」

【IS学園 地下シェルターに続く道】

鈴「…………」

セシリア「一夏さんは大丈夫でしょうか?」

シャル「話を聞いてすぐ一夏を助けに行こうとしたけど、ISは何故か展開できないし……」

ラウラ「その後すぐ教官に見つかって、早く避難するよう諭されてしまった」

鈴「箒もいないじゃない……」

簪(……私たちだけ逃げてて良いのかな)

相川「皆……織斑くんのことが心配なのは分かるわ。私もよ」

のほほんさん「セッシーたちのISが起動できないってことは、もしかしたら戦闘教員が使う機体も動かせないってことかな……」

鈴「だとしたら……」

セシリア「一夏さんは今も一人で……?」

一夏「………」

一夏「っ………………」




無人機「―――」

無人機「―――――――――!」グラッ

一夏「………!」

一夏(突撃してきた俺の剣を左腕で受け止め、右腕に据えられた刃で俺を刺す―――)

一夏(そうやって咄嗟に対処されたせいで、俺はコアを破壊することができなかった)

無人機「―――」ヴゥ……ゥン

一夏(それだけじゃない。さっきの衝突の一瞬に、露出したコアを体のパーツで塞いでくるなんてことは予測してなかった)

一夏(左腕とパーツに阻まれコア破壊は失敗。でも……)

無人機「――――」

一夏「剣先が届いたのは俺が先だったな。こっちも傷は浅いながらも食らっちまった……」

一夏「はぁ……はぁ……」

一夏「敵はコアが破壊されなかったにしろ、かなりグロッキーにはなってるみたいだ」

一夏(にしても、空中で静止したままなのは、エネルギーがまだ完全にゼロになってないってことか?)

無人機「―――」ウィーン

一夏(とどめを……早く……)チャキ

無人機「―――」ガチャ……ガチャ……

一夏「ん?」

一夏「何だ……こいつ、スラスターの噴出孔を一方向に……?」

一夏「くそっ!! 逃げようってのか! この……!!」ジャキッ!!


                ビカッ
バチィッ!

一夏「…………ぐおっ!!」

一夏(何だ? 今、背後から光線が……)

一夏「くそっ! 何だ!」
          
                ビカっ


一夏「おっと!」サッ


                ギュンッッッ!!!

一夏「…………!」

一夏(あの細い体躯、バイザー型のライン・アイ……確かこの前学園に強襲して来た奴だ)

一夏「このタイミングで増援……!?」

女性型無人機「―――」キュイン

女性型無人機「――――」ドンドンドン!!



一夏「ぐっ……!! 乱射してきやがる!」

鷹月「織斑くん!」

箒「……!!」

束「ああ……!」

束「研究室で眠らせておいたゴーレムまで目覚めるなんて」

束(それに……あの機体に備わった機能は……)



一夏「はぁ……はぁ……!!」

一夏(もう一体居やがったのか……! 予想しておくべきだった……)

女性型無人機「――――」カチャ……

【女性型 腕部メーザーキャノン 発射】

ビィィィ!!

一夏「ぐあっ!!」

ビィィ!! ビィィ!!

一夏(出力も連射性能も上がってる! 飛び回らなきゃかわせない!)ビュン!!

ビィィィ!! ビィィィ!!

ビュン! ビュン!

一夏(あいつ、見たところ格闘能力に比重は置いてないのか、近接用の武装は据え付けられてないみたいだ。
   瞬間加速で一気に距離を詰めて切り込めば、隠し武器を仕込んでいたとしても使わせずに沈められるか……?)

女性型「―――」

ビィィィ!! ビィィィ!!

一夏(連射が途切れない! 被弾覚悟で突っ込むしかねえか!
  相手に向ける面積を最小にして超高速の矢になれば、致命傷は受けないはずだ)

ビィィィ!! ビィィィ!!

一夏(よし……)ジャキ コオォォ……

女性型「――!」

【白式 瞬間加速 発動】

ギュウゥゥゥゥオオォォォォ!!

一夏「食らえ! 」

女性型「――――――」

【女性型 スカート型シールドビット 展開】

一夏「!」


ガシィィィィ!

一夏(雪片が阻まれた……!?)

一夏「はっ! 敵は―――」


女性型「―――」ガチャ……

一夏(上に―――!)

【女性型 脚部マイクロミサイル群&腕部メーザーキャノン 一斉発射】

ドドドドドドドゥゥゥ!!

ビィィィィ! ビィィィ! ビィィィ!


一夏「ぐわぁぁぁぁ!!」

一夏「う……うう……」

一夏「はぁ……はぁ……くそ、かなり吹き飛ばされた」

一夏「ん…………?」

女性型「―――」

無人機「―――」

一夏(何だ……? さっき俺が倒した無人機に近寄ってる?)

女性型「―――」スアッ

無人機「―――」

【女性型 エネルギー転送 無人機へ】パァァァァァ……

無人機「―――」

一夏「えっ」

無人機「―――」ウィー……

一夏「嘘だろ……」

無人機「―――」カッ!

一夏「やばい!」

【無人機 エネルギー充填率100パーセント】

【無人機 零落白夜発動×2&瞬間加速発動】

ギュオォォォォォォ!!

一夏(……完全回復だと!?)

【白式 零落白夜 発動】

一夏「くっ!!」

無人機「―――」ブンッ!!

一夏「っ」サッ!

一夏(左側から襲ってくるなよ!)

無人機「―――」ブン! ブン!

一夏(接近戦は無理だ! 距離引いて隙を―――)ギュン!

一夏(こっちのエネルギーは半分くらいしか残ってねえ! 慎重に戦わないとガス切れで終わりだ!)

女性型「―――」キラッ

【女性型 腕部メーザーキャノン 発射】

ビィィィ!! ビィィィ!!

一夏「うわっ!!」

無人機「――――――」ギュィインッ!!

一夏「!!」

無人機は逃げ回る一夏の行く先に回り込み、斬撃を加える

ザシュゥゥゥゥ!!

一夏「――――――」

一夏(二体で掛かられたら……どうすれば……)グラッ

一夏「くっ……うっ……うぅぅ……!」

一夏(何とかするんだ……俺ができることはこれくらいしか、皆のために身を削ることしかできないんだからっ……)

続きは明日

予告外してすみませんでした

鷹月「篠ノ之さん……」

箒「あ……ああ……」

鷹月(かなりショックなのは私も同じだけど、織斑くんと幼馴染だった篠ノ之さんは計り知れない衝撃でしょうね)

鷹月(でも……)

鷹月「篠ノ之さん! 早く逃げましょう!! 織斑くんが頑張ってくれてる間に!」

束「逃げても無駄だよ。現時点での目標であるいっくんを排除したあとは学園の破壊へ移るだろうからね。
  起動妨害の機能で学園内のISは飛べなくなってるけど、それを知らずに格納庫でうろたえてる戦闘教員たちが真っ先に犠牲になるかな」

鷹月「すぐシェルターに避難させれば!」

束「好きにすれば」

箒(一夏……あんなにボロボロになって、た、たった一人で立ち向かって……)

鷹月(どうしよう……先生たちを格納庫から出るように伝えなきゃいけないのに、かといって篠ノ之さんたちを放っておくわけにはいかない)

箒(一夏は最近様子がおかしかった。物憂げに佇んでいるときもあれば、いつも以上に明るく話しているときもあった)

束「いっくん……よく戦ってるねえ」

箒(この人さえいなければ、私は―――)

箒(ISが作られなければ、そもそもこういった状況になることは無かったのに!
  一夏が左腕を失うことは避けられたはずなのに……!)

ヒュン! ヒュン!


一夏「はあっ……! はあっ……!」

無人機「―――」バッ


ガシィィィィ!!! キンッキンッ!!


一夏(攻撃をいなし続けるのも辛くなってきた。その上、動きを止めると―――)


ビィィィ! ビィィィ!   ヒュゥンッ!


一夏(もう片方がすぐ光線を打ってきやがる……どうにかして打開策を開かないと)


できるのか 俺に?―――


一夏(接近タイプを倒しても遠隔タイプに回復させられちまうかも知れないんだ。
  作戦って言っても、あえて接近タイプを近づけさせてギリギリで瞬間加速で引き離し、
  遠隔タイプを一撃で仕留めにかかるくらいしか打つべき手が無いっ……)

無理だ 左腕が無いんだぞ? 


一夏(目の前のこいつはラッシュの圧力が強くて反撃を入れにくい。
  やっぱり、タイミングを図って遠隔タイプに突進するしか……)


エネルギー充分の格上二体を相手にそもそも勝てる訳ない―――


一夏「っ……」

一夏(頭の中で弱音が渦巻いてくる……! 接近タイプを倒せたと考えたとき、集中を一度途切れさせてしまったせいか)


またシールドビットに阻まれて終わりだ――― うまくいってもその後はどうするんだ―――


一夏(どっち道ここで俺が堕ちれば終わりなんだ! だったらやるしかねえだろ!!)

一夏「……………!」

無人機「―――」グアッ!

一夏(ここだ! ここで横薙ぎをかましてっ!!)

ガキィン!!!

無人機「―――」グラッ

【白式 瞬間加速 発動】

一夏「遠隔タイプを仕留めるっ!!」ギュオォォッ!!    

一夏(さっき防がれたとき、シールドビットの反応は早かったが挙動は単純だった……操作するAIがまだ不完全なのかも知れない。
  それに零落白夜を受けたダメージは、確実にビットに残ってる。打ち破れるはずだ―――)

女性型「――――」バッ

【女性型 スカート型シールドビット展開 障壁型】

一夏(前面部を全てを覆う楯か―――!)

【白式 零落白夜 発動】


ザシュゥゥゥゥゥゥ!!!


一夏「…………くっ!!」

女性型「―――」

一夏「浅いっ………!」

一夏の握る雪片はシールドビットを全て両断しきったものの、コアを守る外装に止められていた

一夏(パワーアシストが切れてきたんだ! くそ……この攻撃に賭けたのに仕留められないなんて……)

女性型「――――――」サッ

【女性型 腕部メーザーキャノン 発射―――

一夏「うおっ!! 止めろ!」ドガッ!

女性型「―――!」グラッ


ギュオォォォォ……

一夏「…………!」

【無人機 零落白夜×2 発動】

無人機「―――――!!」ギュオォォォォ!!!

一夏(もう来やがった!)チャキッ 


ザシュッッ!!

一夏は僅かに身をずらして無人機の突進をかわし、すれ違いざまに剣を振る

無人機「―――」ジジ…

一夏「うう……」

一夏(ダメだ……通らなかった……敵の右肩を少し斬っただけ)

無人機「――――」グアッ

一夏「!」

ドカァァァァ!

一夏は、無人機の前蹴りに大きく吹き飛ばされる

女性型「――――」キュイン

【女性型 腕部メーザーキャノン 発射】 ビィィィ! ビィィィ!

蹴り上げられた一夏に、幾条もの光線が次々と殺到する

バチバチバチ!!

一夏「――――うわぁぁぁぁ!!」

一夏「がっ………! ぐ、ぐううぅぅ……!」

一夏(勝てない……のか?)


束「……………いっくん、ほんとによく頑張ってるよね」

箒「……」

箒(この人さえいなければ……最初から存在していなければ!!)

箒「あなたのせいでしょう!! 何故そんなに他人事みたいに傍観していられるのですか!」

箒「いつもいつも邪魔ばかり! そもそもISの無いままの世界だったら、こんなことにはならなかった!」

束「……」

箒「あなたがISを作りさえしなければ―――」

鷹月「篠ノ之さん!」

箒「!」

鷹月「本当に言っているの!? 確かに、今織斑くんが死闘を演じているのはあなたにとって悲しいことだし、私だって心配よ!」

鷹月「でも、あなたはこのIS学園で得たものを自分から否定するようなことは言ってはダメ!」

箒「得た……もの?」

鷹月「ISが作られなければ、この学校が出来なかったら出会わなかった人がたくさんいたはずよ。
   その中には、あなたが悩みから救った人もいる。誰よりあなたが知っているでしょう!」

箒「!」

束(まただ。この子、箒ちゃんを見る目が真剣だ……なんで?)

箒(簪……鈴……シャルロット……セシリア……ラウラ……)

箒(あいつらはずっと家族や生まれについて問題を抱えていて……それが原因で関係にヒビが入ったとき、私は……)

「箒!」


箒「え!」

ラウラ「探したぞ! 早く避難しろ!」

セシリア「あなたまで巻き込まれますわ!」

鷹月「あ、あなたたちも避難してなかったの!?」

シャル「箒と鷹月さんが見当たらなかったから探しに来たんだよ!」

鈴「先生にどやされるの覚悟でね」

箒「皆……」

簪「よ、良かった……無事だったんだ……」ポロ

箒「……」

箒(何だ……? こんな状況なのに、何故かほっとしている自分がいる)

束(あれ、箒ちゃんの目が……)

箒「……………おまえたち」

鷹月「篠ノ之さん! 分かったでしょ!? あなたがこの学園で何を得たか!」

箒「静寐……そうだった、私は……」

束(あ、分かった。この子たちを見る箒ちゃんの目って……)


―――ねえさん! きょうはめずらしいむしをみつけたんですよ!

―――あ、ねえさん。おかしくれるんですか!? ありがとうございます!

―――ねえさん……わたし、もっとつよくなりたいとおもいます!


束「…………」

束(子供の頃、私に向けてくれていた温かい視線とおんなじなんだ……)

鈴「あれ、束さんもいるの!?」

シャル「空では一夏が戦ってるよ! たった一人で!」

セシリア「どうしましょう! ISは起動できませんし……」

ラウラ「とにかく安全なシェルターまで撤回するのが先決だ!」

簪(一夏……! 左腕が無いよ……!?)

鷹月「篠ノ之さん! 早く避難しないとセシリアさんたちまで巻き込むことになるわよ! 博士も早く!」

箒「あ、ああ……分かった」

箒「ね、姉さん」チラッ

箒(危険を顧みず探しに来てくれる友人たちができたのは……姉さんがISを作ったからで……それと……)

束「…………」

束(そっか。そっかそっか)

束(私は妹を想ってISを作ったけど箒ちゃんを悲しませるだけに終わって、箒ちゃんは『友達』ができて私がいなくても平気になってたんだ)

束(剣道の才能が無くて親に失望されて、劣等感を埋めるように背伸びして難しい技術本読んで、
  慕ってくれる妹を応援するために培った知識を基にISを製作して……)

束(それは結局全部私のエゴで、馬鹿みたいに空回りし続けただけだったんだね)

束「…………………」

束「うっ……」ジワ・・・

束(じゃあ、私のやってきたことって何だったんだろう?)ポタッ

一夏「はあ……もう、エネルギー残量もわずかだ……
   でも、随分長持ちしたなあ。付き合ってくれてありがとうな、白式」

一夏(本当に相棒がおまえで良かったよ。ここまで戦い抜けたのは間違いなくおまえのおかげだ)

一夏(相手の連携だって、フォルテ先輩とダリル先輩の『イージス』ほどじゃないんだ。役割が明確に別れてるから対処できるはずなんだ)

無人機「―――」キュイン

一夏「蹴っ飛ばされて、メーザー砲浴びて、海面すれすれまで落ちちまったな……早く応戦しに戻らないと」ヒュンッ

一夏(ん? 中庭にいるのは……皆!? 避難する時間くらいは稼いだと思うのにどうして!?)

無人機「――――」キュイィィィィ…

一夏「くっ!」ジャキッ!!

一夏(俺は奴の戦法はこちらの左側から攻めた方が有利というデータを元に動いているはず。今回も確実にそうしてくる)

一夏(それを逆手にとってやる!)

ドシュゥゥゥ!!

鋼鉄の体を誇るように無人機は一夏に向けて突進する

一夏(ここだっ! 軌道に剣先を合わせる!)サッ!

【白式 零落白夜 発動】

無人機「―――」ギュワッッッ!

一夏(! 上に逃げ―――)

無人機「―――!」ドシュドシュドシュ!!

一夏(こめかみの針ミサイル!)

ドゥン! ドドゥン!

一夏「ぐっ―――」

無人機「―――」

【無人機 零落白夜×2 発動】バチバチバチバチバチ!!

無人機「―――」グアッッ!!

怯んだ隙に二振りの光剣を交差させるように切り付ける無人機

一夏「食らうかっ!」サッサッ!

一夏「せいっ!!」ブンッ!

ガシィィィィ!!

勢いよく振られた雪片が無人機の右肩に食い込む

一夏(よし、ここで零落白夜を―――!)

ガシッッッ!! 

一夏「お?」

ブンッ!

一夏「うわっ!!」

無人機「――――――」

一夏「この、また雪片を奪いやがって……返せっ!」ヒュンッ

ビィィィ! ビィィィ!

一夏「うわっ!」

女性型「――――」

一夏「くそ、あの野郎! 邪魔しやがって!」


ミシ…

一夏「!」

無人機「――――」グググ・・・

ミシミシミシ…

一夏(雪片を左腕で握りしめてやがる……まさか!)

一夏「おい! やめろ!」

ビィィィ! ビィィィ!

一夏「うわっ!」


ミシミシ……ピシッ……ピシシッ・・・!!!


一夏「やめろーーー!!」

無人機「――――」ググググッ……


ピシッ……バリィィィィン!

一夏「あっ……」

一夏「あっあっ……雪片が、唯一の武器が折られちまった……!」

続きは近日中

ラウラ「雪片が!」

シャル「コナゴナにされちゃった…………!」

鈴「もう! 動いてよ甲龍! あたしに助けに行かせて!!」

セシリア(一夏さんがやられてしまう? つまり……死んでしまうということですか?)

鷹月(織斑くん……あんなに一生懸命戦ってたけど……これじゃあもう)

簪(前のときと同じ……タッグマッチに乱入を受けたときと……
  一夏……生き残って! あなたは……私のヒーローなんだから!)

箒「あああああ……」

束「…………」

束(打つ手は無くなった。終わりだね)

束(結局……私が造ったISは世界に無用な混乱を持ち込んで、近しい人に苦しみを与えてしまった)

束(全部全部裏目に出ちゃった。箒ちゃんに嫌われ、いっくんを大怪我させて……
  望むものを与えてやれなかったし、自分の欲しいものも手に入らなかった。これが私の人生だった)

束(何が『インフィニット・ストラトス』だよ。名前に込めた意味も、今じゃあお笑い草だよ)ペタン

箒「姉さん……」

箒(あの人が無気力にへたり込んで、今まで見せなかった失意の表情を……)ズキッ

箒(どうして……憎いはずなのに……別の気持ちが……
  くそう、この状況をどうすればいいんだ!?)

鷹月(どうしたの? 篠ノ之さん……)

シャル「見て! 一夏が追い立てられてるよ!!」

鈴「もういい! もういいから! そのまま遠くまで逃げちゃいなさいよ!
  フラフラ飛んでるから狙われるんでしょ!? 自分の身を考えて!!」

ラウラ(一夏のヤツ、接近型のスキを伺っているのか……? ああ! ほらまた射撃を食らった!)

セシリア(ふらついて……ついに動きを止めてしまわれました……)

セシリア「あ」


バギャアアァァァン!!


簪「きゃああああ!!!」

束「……」

箒「一夏ああ!!」

鷹月「今、何が!?」


パラ……  パラ・・・


鷹月「な、何これ……? ……白くて、赤いものが……」

シャル「…………雪……じゃない」

シャル「……白式の破片だよ! さっき、一夏が防御したとき砕かれたんだ……!」


パラパラ……

パラパラパラパラ…………


簪(まだどんどん降ってくる……)

箒「一夏…… 姉さん……」

束(終わり終わり。もう望みなんかない。もし奇跡的にあの新型ISが停止したとしても、私がすべてを失ったことは変わらないんだもん)

一夏「ヒュー……ヒュー……」

一夏(足の装甲もやられた……! バランスが……)

一夏「…………ここで、終わるのか? もう駄目なのかっ……!?」

一夏「もう、打つ手は…………はっ!」

無人機「―――」ウィィン・・・・・・ ギュンッッッ!!

一夏「うお!」サッ!

一夏(良かった……! 避けられた……!)

一夏「! うっ!」フラッ

一夏(食らいすぎたな。左腕斬り飛ばされて、治療も無しに戦い続けてるんだからふらつくのも当然か)

白式(――――)

一夏(…………)ドクン………… ドクン…………

一夏(俺……死ぬんだろうな。もう分かる。
   昨日の夢の中で「喜んでこの身を差し出せる」なんて啖呵を切ったけど、こんなに早くそのときが来るなんて……)

一夏「なら―――」チラッ


簪「―――!」 ラウラ「――――!!」 鷹月「――――!!!」

シャル「――――!!」  鈴「―――!」 セシリア「――――!」

束「…」 箒「……」


一夏(やっぱり……皆を守り抜いて死にたいよなあ……!!!)

一夏「―――」

一夏「……!」キッ

無人機「―――」ジャキッ

女性型「―――」

一夏「救うんだ……学園を……! せっかくいくつもの糸が繋がり始めたのに……壊させるもんか……」

一夏「守るんだ……守るために飛ぶんだ……そのために、俺は、ISに――――」

白式「――――――」

【無人機 瞬間加速 発動】

ドシュウゥゥゥゥゥゥ!!

一夏(最初に現れた方の右肩を狙うしかない! さっき雪片で切り付けたから接続が甘くなってるはず!)

一夏(でも……!)


ビュンッ!!


無人機「―――」

一夏(ダメだ! 速い上に武器を振りかざしてくるからとても奪えない……!!)

一夏(攻撃を受けまくったせいで、さっきは意識が飛びかけて足の装甲を剥がされる羽目になっちまったし……)

一夏「はあっ……はあっ……」

一夏(くそ! くそくそ!! ここでこいつらを止められなかったら俺は一体なんなんだよ!!??)

一夏(俺がっ、皆を、守り抜くんだ! それができなきゃあ……)


―――そんな道、簡単に歩めるものじゃないぞ! 君みたいな若者がたった一人で……



一夏「っ……!!」

一夏(うう……ううううう!!!!)


―――なんで……いっちゃったんだよ!?


一夏(!)


―――なかよかったやつとはなれるって……こんなにつらいんだ……

一夏(……っ)

一夏(思い出したくないガキのときのことまで浮かんできやがった……)

一夏(でも今は関係ねえ! あんな弱かったときの記憶なんか今必要ない!)

一夏「だって……やるって言ったんだからな!」

一夏「そうだ……守らなきゃ……」

一夏「助けなきゃ! 庇わなきゃ! 力にならなきゃ!
   壁にならなきゃ! 楯にならなきゃ! 救いあげなきゃ! 手を伸ばさなきゃ!」

一夏「俺がっ……! 俺がやるんだ!!」

白式「――――!」

一夏「ん!?」ピクッ

無人機「――――」ブワッ!!

【無人機 零落白夜 発動】

バチバチバチバチ!!!!


一夏「うわっ!!」サッ!

一夏(何だ……? 攻撃が来る前に感じたさっきの感触は……)

一夏(とにかく、まだ見切れる! まだ立ち向かえる!)

無人機「――――」ギロッ

一夏(どう攻めるにしても……まず落ち着いて……)

白式「―――」

一夏「!」

無人機「―――――!!」バチバチバチ……!!

《無人機 零落白夜×2 発動》

一夏「くっ!」ギュン!

一夏(こいつから距離を取ると―――)

ビィィィ!! ビィィィ!!


女性型「――――」

一夏「当たるか!」

一夏(すぐさまメーザーがくる! でも、近接タイプから離れるときに遠隔タイプに注意を払っておけば対応はできる!)

一夏(まだチャンスはあるはず……どうにかして……)

白式「―――」

一夏「……そうだ!!」

一夏(瞬間加速の準備をして……) ウィィィィ…… パアァァァ……

女性型「―――」スッ

一夏(……来る!)

【女性型 メーザーキャノン 発射】

ビィィィ!! ビィィィ!!

一夏「ここだっ!」グルンッ!


一夏は勢いよく体をひねり、女性型無人機の方に背を向ける

ビィィィィィィィ!!!  バシュンッッッ!!

放たれたメーザーは白式のスラスターに吸い込まれ――――

一夏「!」キッ!

瞬間加速の爆発力を苛烈化させる!

一夏「うぉぉぉぉ!!」バッシュゥゥゥゥゥゥン!!!!

無人機「――――!」

一夏(狙いは………)

バキャアアアァァ!!


無人機「――――!」ジジジ……

一夏「…………」

一夏「奪えた……!!」

一夏「お前の右腕! 貰ったぞ!!」

無人機「―――」ギュン!

【無人機 左腕ブレード 刺突】

一夏「食らうか!!」ガキンッ

無人機「―――!」

【無人機 腹部ブレード 展開】ビシュッッッ!!!

一夏「!」ビュンッッッ!!

白式「――――――」

女性型「…………」

無人機「――――」ブンッ! ブンッ!

一夏(!)サッ! サッ!

一夏(片腕を失って敵の攻撃パターンが乏しくなってるからか? 動きが分かるぞ!)

白式「――――」

一夏(いや、戦いに集中しなきゃ! 動きが読めると言ってもこっちはもうエネルギーがないんだ。早いとこ決めないと)

無人機「―――」グアッ!!

一夏「……その猪突猛進っぷりにはいい加減勘弁してもらいたいな」

一夏(さて、敵はどう考える? 右腕をロストした状態で手負いだがすばしっこい獲物を確実に仕留めるには……)

一夏「――――!」サッ

【無人機 マイクロミサイル 発射】

ドウドウドウッ!!

一夏(やっぱり撃ってくると思った!)ヒュンッ

【白式 瞬間加速 発動】

一夏(懐に潜り込んで――――)

ブンッ!!

一夏(敵の得物をふっ飛ばす!)

無人機「――――!」サッ

敵の懐に潜り込み、回転切りを放つ一夏

ガキィィィィィン!!!

一夏(受け止められた!? けど――――)

一夏(片手歴はなぁ! 俺の方がほんの少し長いんだよ!)ギュイッ!!

手首を捻って剣先を回し、相手の腹部をこじ開ける!

一夏(序盤で左肩にダメージ与えといてよかった。動きがわずかに鈍ってる!)

一夏(そんで少し引いて!)サッ

【無人機 腹部ブレード 飛出】

一夏(隠し剣をかわして――――)

一夏「くらえっ!!」

ドスッッッ!!!

無人機「――――」ジジジ・・・

喉元に刃を刺され、無人機の動きが止まる

一夏「――――やったか?」

白式「―――!!」

一夏(! いややってない!)

無人機「―――!」

【無人機 零落白夜 発動】バチバチバチバチ!!

一夏「!」

一夏(残された左腕のブレードだけじゃなく、腹部に仕込んだ刃まで零落白夜にできるのか。
   この機体……この戦いの中、どれだけのスピードで進化してるんだ……!?)

無人機「―――」ドシュン!

一夏(来やがったか!)

一夏(もう一体の遠隔タイプからの銃撃は、俺がこの接近タイプと距離が近いときは来ないはずだ)

一夏(小回りを利かせて避けつつ、着かず離れずの距離から隙を伺う!)ヒュンッ!!!

無人機「――――――」ビュウゥゥンンッッッ!!

一夏「と言っても、かわし続けるのは無理だな……」

一夏(よし……なら)

飛行速度を落とし、無人機の軌道直線状に向き直る一夏


一夏「……ほら、来いよ!」サッ!

左半身を前に晒し、更に不敵に笑う


無人機「――――――!!」ギュゥゥゥゥン!!

一夏「………」

がら空きの一夏の脇腹を貫こうと、無人機は左腕のブレードを伸ばす!!


一夏「でやっ!!」ブンッ!!!

そのとき、無人機の右腕は一夏の手から勢いよく放たれ―――

無人機「―――!」


ガスッッッッ!!!


無人機「―――!!」ジ……ジジ……

冷たい殺意を閉じ込めた無人機の頭に突き刺さり、大きくバランスを崩す!


一夏(ここだっ!)ギュンッ!!

無人機「―――」

体勢を立て直し切れていない敵に距離を詰めた一夏は、即席の矢を機械の頭部から引っこ抜き―――


一夏「でやあっっ!!」ドスッッッッ!!!

鋼の胴体めがけ渾身の力で突き刺した!


無人機「―――」バチッ……バチバチ……!!

無人機「―――ゥ―――」

一夏(……手応えありだ)

無人機「―」フラッ……!


ヒュウゥゥゥゥゥゥゥ……………


一夏「…………」

シャル「す、すごい! あの状態から一機倒しちゃったよ!!」

簪「あ……ああ!! も、もうダメかと思ってたのに……!」

鈴「あ……あはは……」

鷹月(さっきから何……? 織斑くんのこの戦闘技能は?)

鷹月(白式より武装の数やパワーを上回り、かつ新たに進化し続ける敵を片腕を斬り飛ばされた状態で出し抜いた)

鷹月(しかし、勝利の喜びに浸る間もなく新たに遠距離戦を得意とする敵が現れて、倒したはずの無人機まで完全に復活させられた)

鷹月(そんな絶望的な状況を切り抜けて、今再び盛り返し、また接近タイプに打ち勝っちゃった……)

セシリア「一夏さん! 流石ですわ!」

ラウラ「奴はあそこまでやるようになったのか……!」

鷹月(でも……何か怖い)

鷹月(痛い思いして、不安な思いと戦って、心が折られる状況を目の当たりにしても……
   二対一という劣勢を強いられても、頼みの武器を砕かれても、新しい武装が発現することがなくても……
   それでもなお「戦おう」とする意思を捨てないのって、普通の精神じゃないわ……)

箒「い、一夏……!!」

鷹月(篠ノ之さんは私よりずっと前からそのことを気にしてるはず)

鷹月(そして私と同じように、この戦いを織斑くんが勝ったしても彼は決定的に変わってしまう……そんな不安も抱いているのでは?

箒(一夏……)

簪「でも、もう一機いるよ……」

鈴「あんな状態で倒せるの……?」

セシリア「もうここまで来たら信じるしかないでしょう!」

シャル「お願い……! 生き残って!」

ラウラ「きっとあいつは帰ってくるはずだ!」

箒(皆……)

束「……」

箒(姉さん……)

箒(さっきこの人が見せた目は昔の私のと同じだ……)

ラウラ「もう一機はどういう動きをしている!」

簪「空中で静止してるみたい」

シャル「少し前までは一夏を撃とうと移動を繰り返してたけど」

鈴「でも、なんか様子がおかしくない?」

セシリア「ええ……見間違いでなければ……こちらにキャノンを向けているような……?」

一夏「はあ……はあ……」

一夏(よし……あと一機……!)

一夏(接近タイプと戦ってるときはあいつは誤射を恐れてか撃ってこないことが分かったからな。
   その行動指針を逆手にとって、さっき仕留めた奴とは着かず離れず戦うことでメーザーを封じることができたが、これからは―――)

一夏(……!)

一夏(やばい! 俺との戦闘中は俺以外狙わねえと思ってた!!)

一夏(当然考えるべき可能性だったのに! 目の前の敵を倒すのに必死になり過ぎた!!)


女性型「――――――」スチャ………


一夏(! 学園に照準を――――!!!)

【白式 瞬間加速 発動】

一夏「やめやがれーーー!!!」ドシュゥゥゥゥン! 

女性型「―――」


ドウッ!!!!

次回へ続く!

前にも聞いたかも知れないけど、投下のたびに何日も期間空けるのは加筆修正でもしてるの?

>>495
時間が無いだけですよ、心配してくれてありがとう

【IS学園 校舎内】


タッタッタッ

轡木「くそ! 何をしているんだ……!」

轡木(一年生の専用機持ちが避難を拒み外に出るとはな……! 早く保護しないと!)

轡木(聞けば、織斑くんが一人で応戦に当たっているという。それを知った彼女たちが助けに行こうとするのは予測できたはずだ)

轡木(しかし、織斑くんまでは……救助に向かえまい)

轡木(彼が先日中庭で私に語った言葉からすると、今頃は捨身で敵に食らいついてることは想像に難くない。
   まだ学園が攻撃されていない現状を見てもその考えは裏付けられるだろう。オペレーター室に寄らずともこの程度は分かる)

轡木(襲撃事件は回数を経るごとに機体性能も規模も上がってきている。今回はもっと強くなっている可能性が高い……)

轡木(織斑くん……無責任だが、一人の生徒に対して学園を守るべき者が言う言葉では無いだろうが……)

轡木(がんばってくれ! 今は君しか頼れる人がいないんだ!)

轡木(……彼と前話したときは無理をするなと言ったのに……すまないな……本当に……)


ドガァァァァァァァァァ!!!


轡木「!!」

【IS学園 中庭】

セシリア「きゃああああ!」ヨロッ

ラウラ「セシリア! くっ!!」バシッ

シャル「よ、良かった……直撃しなかった!」

簪(でも、敵の光線が当たった校舎が崩れてくる!)


ガラガラ……ガラガラガラガラ!!!!!!

鷹月「きゃっ………!」ビクッ

鈴「ちょっと! あんた! こっち!」グイッ!

鷹月「あ、ありがとう」

鷹月(でも、篠ノ之さんは!?)

箒「皆は……無事か……」

箒「!」

束「………」ヘタッ……

ガラッ……!

箒「姉さん……! ガレキが上に―――!」

箒(ああっ―――)

束(……)



ダッ!!!



束「うわっ!」


ガシャアァァァァン!!


束「――――――」

箒「はあっ……はあっ……」

束「うっ……箒ちゃん? えっ?」

箒「あなたは! 本当に! どこまでも困らせてくれます!」

箒「助けたとき、膝を擦ってしまったではないですか」

束「な、何で……私なんかを? ひどいこといっぱいしたのに」

箒「私にだってよくわかりません」

箒「でも……見捨てられなかった。あなたにはたくさん邪魔されましたが、たくさん世話にもなっていましたから」

束「箒ちゃん?」

箒「あっ……」

箒(そうだ……私が、変わりたかったのは……この人を許したかったから……)

束「……?」

箒(セシリアたちを救おうとしたのは、あいつみたいに優しくなりたかったからだ……)

束「……」

束「ははは……」

束「ほんとなっさけないね、私って。自分一人の考えだけで突っ走った挙句、結局こんな事態を引き起こしちゃって」

束「ほ……本当に……虚しい、人間、だよ……」

束「うっ」ポロポロ

箒「泣かないでください」

束「えっ……」

箒「確かにあなたがISを作らなければ世の中は混乱せず、今のようなことには起きなかったでしょう。
  でも、ISの存在があったからこそ生まれた出会いがあり、かけがえのない仲間を私は手にすることができたのです」

箒「ここでは楽しいことも、悔しいことも、悲しいことも、涙したこともありました。
  あなたが自分の人生を無価値だと言うことは、そんな学園の日々を否定することにもなります」

束「っ……!!」

束「で、でも今いっくんは目を覆わんばかりにボロボロになってるんだよ! 私のせいだよ! 私がくだらないものを作ったから!」

箒「姉さん」

束「いっくんだってISなんか無ければ良かったと思ってるよ!! 私を恨んでるに決まってる!」

箒(……そうだ。私だって一夏が今やられているのに助けにも行けないのは悲しい)

箒(でも、どうしてもこの人に怒る気にはなれない……)

箒(この人も私と同じように、不器用で、自分を曲げることが苦手だということが分かってしまったから)

束「……本当に……私なんか……」

一夏「はあ……はあ……!! 皆には直撃しなかったか!」

一夏(思いっきり体当たりして、どうにか光線の軌道をずらすことができた……)

女性型「……」

一夏「てめえっ! よくも……よくも学園を撃ちやがったな!」

女性型「……!」

【女性型 メーザーキャノン 発射】

ビィィィィィィィ!!!


一夏「当たるかよ!」サッ

一夏(もう読めるぜ。自分でもどうかしちまったかと思うくらい、行動が分かる!)

女性型「――――」ビィィィィィィィ!!! ビィィィィィィィィ!!

一夏(やっぱりこいつ、離れたところから撃つことしかできねえんだ!!)

女性型「――――」ビィィィィィィィ!!! ビィィィィィィィィ!!

一夏(撃つテンポが一本調子だ! 連射性は高いがそれに頼りすぎてる!)

一夏「―――ッ!」

【白式 瞬間加速 発動】

ビュウゥゥゥゥゥン!!


白い矢と化した一夏は、敵機の頭部を違いざまに掠っていく


女性型「―――!」

一夏「…………」

一夏「かわされたか…… それにやっぱり武器が無いと決定打が……」

女性型「――――」

パカッ…


一夏「何だ? 両腕の一部が開いた……?」

女性型「―――!」


【女性型 ビット×2 射出】

ヒュヒュンッ!

一夏「!」

一夏(隠し武器か! この状況になるまで使って来なかったということは切り札か!)

一夏(短刀状の形から察するに防御のみならず攻撃手段としても活用できるよう搭載されたものだろう。
   本来ならシールドビットが使えなくなったときに自分を守るために使うんだろうが、飛ばしてくるってことは……)


【女性型 腕部メーザーキャノン 発射】

ビィィィィィィィ!!! ビィィィィィィィィ!!


一夏「!」サッ

女性型「――――!!」

一夏「何としても俺を今ここで仕留めたいんだな!」

一夏(撃っては逃げを繰り返す長期戦スタイルで来られた方がむしろ動きは読みやすくて楽だったんだが……手を焼かせる)

一夏「はあ……はあ……」

白式「―――!」


ヒュンッ ヒュヒュンッ  カチャッ! カチャッ!

【ビット 形状変化 「先割れ」】

一夏(な! ビットが開いて鋏みたいになった!?)

ガシガシィィィ! 

一夏の腕に飛びつくビットたち

一夏「くっ……腕を封じてきたか……!」ググ……

一夏(そうだ……メーザーを撃つタイミングはこの足止めに合わせてくるはず―――)

ビィィィィィ!!  バチバチバチ!!



一夏「うわあああああ!!!!」

一夏「ぁ……ぅ……」

一夏「…」フラッ

ガリッ!!


一夏は頬の内側の肉を噛むことで意識を強引に拾い上げる

一夏「くっ!!」ビクッ

白式「――! ―――!!!」

一夏(白式……? さっき、なんか見えかけたが……)

一夏「…………」

一夏「そうだよな…… 絶対に守らなきゃなあ……!!」

一夏(ここで死んだら、何の価値も無い流されただけの奴で終わっちゃうんだ……! ガキの頃から何も変わらなかった奴で……)

白式「……ィ」


ヒュヒュン!


女性型「―――」

一夏(またビッドが飛んできた……)

女性型「―――!」


ガシィィィ

一夏「……!」


一夏は抵抗もせず二つのビットに挟まれる

一夏「……!」


【女性型 腕部メーザー【白式 瞬間加速 発動】


ドヒュウゥゥゥゥゥゥン!!

一夏「ここだっ!!」


ビットに捕えられたまま加速し、敵機に向けて飛ぶ一夏



一夏「ここだっ!! 飛んできたメーザーを……!!」

一夏「でやっ!!」サッ


ビィィィィィ!!………バチッ! バチバチ!!


加速しつつ纏わりついたビットを剥がし、そのまま楯にして光線を防ぐ!!


一夏「っ!!」

一夏(決めるっ!! ここで!)

一夏「おおおおおお!!」


ビットを振りかざし、本体へ打ち付けに行く一夏


女性型「―――!」


ガシィィィィ!!

一夏(入った!!)

女性型「―――」ヨロッ…


機械の女人は大きく体を傾け、重力に流されるままにその身を落としていく


一夏「はぁ……!! はぁー……!」

女性型「――――」

簪「やった……! やったあ!!」

ラウラ「おお……」

鈴「一夏!」

箒「ああ……! 一夏……!」

束「……!」

束「箒ちゃん」

箒「……姉さん?」

束「いっぱい間違えてごめんね。箒ちゃんの大切な世界を壊して、自由を奪って」

箒「もういいんです」

箒「私自身、今自分があなたにどういう感情を抱いているかもよく掴めていません。
  一夏や仲間を傷つけた件については腹が立っていますし、心の奥底ではあなたと仲良くなりたい気持ちもあるんです」

箒「でも、ひとつだけ言えることがあります」

束「?」

箒「……あなたはやはり私の姉であり、おんなじくらい不器用なんだということです。
  気持ちの伝え方が分からず、自分でも駄目だと思っているのに変えられない」

束「……箒ちゃんは私とは違うよ。ああまでした私を助けるために動いてくれるなんて……」

束「友達だってたくさん作ってたみたいだし。危険を顧みず探してきてくれる友達なんて、私には……」

箒「そ、それは――」

箒(そもそも私は、あいつを手本にして……あっ)

箒「一夏……」

束「え?」

箒「一夏が危ない!」

シャル「どうしたの!?」



女性型「―――」 ヒュゥゥゥゥゥゥ……

女性型「―」ピタッ

女性型「―――――――」カッ!



セシリア「まさか…………まだ!」

一夏「くそっ……あと、あと少しだったのに腕でガードされちまった……」

一夏「ぐ……ぐうううう!!」バシュンッ!!



女性型「―――」バシュンッ!


中空を飛び交い、「二機」のISは激しくぶつかりあう

ヒュンッ ヒュンッ  ガシィィィィィ!!


一夏(メーザー砲はさっきのでイカれたらしいな!)

一夏(あとは、反応速度で負けなきゃ勝てる!)

一夏(もっと! もっと! もっと力を! 早さを! 反応を!!)

一夏(白式!! 夢で約束したろ!! 俺の願いを叶えるためにがんばってくれ! ここで終わりたくないんだよ!!)

白式「―――」

白式「………」


ヒュン! ガシッ! ビュン!!

ドシュゥゥゥゥゥゥン!!  ドガァ!!!

女性型「―――!!」

【女性型 瞬間加速 発動】

バシュゥゥッゥゥン!!


一夏(見切れる!)ザヒュン!!

女性型「――!」

一夏(……また来るな)


【女性型 瞬間加速 発動】

【女性型 瞬間加速 発動】

【女性型 瞬間加速 発動】


バシュゥゥッゥゥン!! バシュゥゥッゥゥン!! バシュゥゥッゥゥン!!


一夏「―――」サッ サッ ヒュン!

一夏「――――――」ブアッ

突進をすべてかわし、一夏は虚空へ向け蹴りを仕掛ける

女性型「―――――!」

ちょうどその蹴りの先に加速した敵機体が飛び込んでくる

ドゴッ……!


鷹月「えっ! まさか軌道を先読みして攻撃を……!?」


一夏「―――」

女性型「―――」フラッ

女性型「―――!!」

女性型「―――」ドガッ!

一夏「―――」ドガッ!!



鈴「殴り合ってる……」

鷹月「何よあれ……」

鷹月(織斑くん……何かに憑りつかれてるみたい。もうとっくに機体維持警告域(レッドゾーン)を超えて、
   操縦者生命危険域(デッドゾーン)に入っているはずなのに、何故ああまで動けるの……?)

女性型「―――!!」ドガァァァ!!

一夏「―――」

大きく殴り飛ばされる一夏

女性型「――――!」


必殺の好機に、大きく加速して仕留めにかかる敵機


一夏(――――)

一夏「―――」フラッ


白目を剥いたまま、一夏は引き合うように体を前へ向ける


一夏「―――」

女性型「―――!!」

ドガシィィィィィィィ!!!

一夏「――――」

女性型「―― ―――― ― ――」


互いの胴体には、目の前の相手の拳が突き刺さっていた


一夏「―――」

女性型「………」


「二機」のISは力を失い、共に落下していく



箒「一夏!」

シャル「ああ!」

箒「………!」ダッ

鈴「ちょっと箒!」

束「……」

簪「篠ノ之博士……?」

【IS学園の外れ 海岸付近】

一夏「う……うぐ……」

一夏(PICがギリギリで働いたか……助かった)

一夏(敵もこの近くに落下したはず。早く、戦いに戻……ぐっ!?)ズキッ

一夏(頭が……痛えっ!! なんだ!?)フラッ

一夏(そういや戦いの途中から聞こえすぎるし、見えすぎるし、感じすぎる……時間も一秒一秒が濃く感じる! 今この時も!)

一夏「がっ……げほっ!! げほっ!!」

一夏(痛みも強く長い! どうしてだ!?)

一夏「うう」

一夏(……そうか。戦ってないからだ。戦いに集中すれば痛みも吐き気も意識せずに済む。早く戦いに)

一夏「……戦いに……」ヨロヨロ

一夏「学園……守……」


一夏「……」ガクッ

―――――――

――――

――



一夏「…………」

少女「…………」

一夏「夢で見た女の子……やっぱり君は白式……?」

少女「うん」

一夏「はは……なら話は早い。敵はまだ倒れてないんだ。すぐ戦いに戻りたい、俺は行くよ」

少女「待って」

一夏「ん?」

少女「あなたの気持ちが少しずつ分かってきたの」

一夏「……なら止めないでくれ」

少女「力が欲しいなら私も手を貸すよ。でも、その前にあなたから自分の気持ちを聞かせて」

一夏「なんだよ。またそれかい?」

少女「このままじゃ、あなたは一人ぼっちで気持ちを抱えたまま死んでしまうかも知れないから」

一夏「なっ……!」

少女「だから、本当にそれでいいのか言ってくれないと」

一夏「っ……」

少女「教えて」

一夏「……それでいいよ。どうせ今までと同じだし」

少女「そうなの……?」

一夏「俺は、結局一人なのかも知れない。ISを動かせたばっかりに、男にも女にもどっちの輪にも入れない。
   大人だと言うにはまだ幼いし、子供というにはいろいろ知り過ぎた。
   自分のことは外向的な方だと思ってたけど、ちょっとしたことに怯えて内に籠ってしまうこともよくあるんだ」

一夏「こんな俺の居場所なんて、無いのかも知れない」

一夏「昔からの友達もいなくなっちゃったし。学園に来て知り合った女の子たちの中にも今更戻れやしない。どこか距離を取ってしまうんだ」

一夏「皆から遠ざけられた原因も、辿ってみれば俺にあったからさ。もうそばにいれないって。
   つくづく自分の鈍感振りが嫌になる」

少女「どうしてそんなに鈍感なの? あなたはなんでそうやって人を助けたいと思うの?」

一夏「なんでって……」

少女「本当に知らないはずないでしょう。あなたは薄々気付いているはずだよ。私に隠し事できると思わないで」

一夏「君は……」

少女「ずっと一緒にいるんだから。何度あなたのわがままに付き合ってきたと思ってるの?」

少女「あなたが戦いたいと言うのなら、私は力を貸すよ。主人であるあなたの意思に沿えるよう、全力で応援する。
   ケガしちゃったら一生懸命治す。でも、それだけじゃなくてね……」

少女「心に抱えている気持ちを閉じ込めたままにしておくことが、一夏を苦しめるのなら……その気持ちを解放してあげたい。
   元気になれるように、手助けをしたい」

一夏「……」

少女「この戦いの中でもあなたのことがどんどん分かってきた。でも、あなたは……」

一夏「……ごめんよ。今は力がいるんだ」

一夏「さっきの感覚共有と反応速度の向上は君のおかげなんだろう?」

少女「……うん」

一夏「なら、もっと強化幅を上げることはできないか? ここであいつを仕留めきらないといけない。もう少しなんだ」

一夏「なんでって……」

少女「本当に知らないはずないでしょう。あなたは薄々気付いているはずだよ。私に隠し事できると思わないで」

一夏「君は……」

少女「ずっと一緒にいるんだから。何度あなたのわがままに付き合ってきたと思ってるの?」

少女「あなたが戦いたいと言うのなら、私は力を貸すよ。主人であるあなたの意思に沿えるよう、全力で応援する。
   ケガしちゃったら一生懸命治す。でも、それだけじゃなくてね……」

少女「心に抱えている気持ちを閉じ込めたままにしておくことが、一夏を苦しめるのなら……その気持ちを解放してあげたい。
   元気になれるように、手助けをしたい」

一夏「……」

少女「この戦いの中でもあなたのことがどんどん分かってきた。でも、あなたは……」

一夏「……ごめんよ。今は力がいるんだ」

一夏「さっきの感覚共有と反応速度の向上は君のおかげなんだろう?」

少女「……うん」

一夏「なら、もっと強化幅を上げることはできないか? ここであいつを仕留めきらないといけない。もう少しなんだ」

一夏「なんでって……」

少女「本当に知らないはずないでしょう。あなたは薄々気付いているはずだよ。私に隠し事できると思わないで」

一夏「君は……」

少女「ずっと一緒にいるんだから。何度あなたのわがままに付き合ってきたと思ってるの?」

少女「あなたが戦いたいと言うのなら、私は力を貸すよ。主人であるあなたの意思に沿えるよう、全力で応援する。
   ケガしちゃったら一生懸命治す。でも、それだけじゃなくてね……」

少女「心に抱えている気持ちを閉じ込めたままにしておくことが、一夏を苦しめるのなら……その気持ちを解放してあげたい。
   元気になれるように、手助けをしたい」

一夏「……」

少女「この戦いの中でもあなたのことがどんどん分かってきた。でも、あなたは……」

一夏「……ごめんよ。今は力がいるんだ」

一夏「さっきの感覚共有と反応速度の向上は君のおかげなんだろう?」

少女「……うん」

一夏「なら、もっと強化幅を上げることはできないか? ここであいつを仕留めきらないといけない。もう少しなんだ」

すみません、↑2レス分はミスです

少女「……」

一夏「なあ……」


「力を欲するのですね」


一夏「!」

白い女騎士「守るために力が欲しい―――間違いありませんね?」

一夏「あ……! 今までどこに?」

女騎士「この子が、自分だけで話したがってましたから。あなたに相対するのは控えていたのです」

少女「…………」

一夏「そうなのか。会って早速で悪いけど力を貸してくれよ、あいつを上回れるだけの力を。学園の皆を守らなきゃいけないんだ」

女騎士「ひとつ聞かせてもらいます」

一夏「何?」

女騎士「問いの前に―――空間認識力の増大、反応速度の向上、戦闘データを参照したうえでの適切な行動選択……
    先ほどまであなたが手にしていた力ですが―――」

女騎士「これら戦いに関わる能力の上昇は、その子があなたの意識を探っていた際に、数々の条件を満たしたうえで、
    副次的に生み出された『現象』であるとまずお教えしておきます」

一夏「え?」

女騎士「普通ではまず起こりえない事態です。
    幼いISコアの自意識が操縦者をより深く理解しようとアプローチをかけるとします」

一夏「……」

女騎士「その際、ISコアの自意識は操縦者の意識とリンクしようと働きかけます。
    主人の表の主張と、その奥に眠る想念を把握し、心の実態を整理しようとするのです」

少女「……勝手に探ってごめんなさい」

女騎士「ISと人間の意識が重なると、ISコアが操縦者の思考・記憶を理解するのみならず、
    操縦者の方にもISが処理しているセンサー類からの情報や蓄積されている戦闘データが、そのままダイレクトに意識に届くようになります」

女騎士「ディスプレイを介さずに直接脳に送受され、感覚レベルで把握できるように変わるのです。
    通常時は伝えられないような細々としたデータの膨大な集積も脳に流入し、無意識レベルでの行動も置かれている状況に適合したものになります」

一夏「え……それは『同調』とは違うのか?」

女騎士「はい。同調は操縦者とISの波長が合っているだけで、それぞれの意識は保たれています。
    今回の場合は同調しようとするIS側からのアプローチで引き起こされた『不具合』です」

一夏「不具合……」

女騎士「本来ならば、非同調の状態にあってもISコアの意識はこのような強引な行動に出ることはないのですけれど。
    万一そうした場合も操縦者にかかる負荷に気づいてすぐ取りやめるはずです」

女騎士「ですが、あなたは力を欲していると強く願っていましたので。
    操縦者の脳の異常に気づいても、この子はあなたの「力が欲しい」という願いを叶えていることになっているからと、やめませんでした」

一夏「……」

少女「欲しがってるんだから力を貸してあげようって気持ちと、苦しんでるから止めてほしいって気持ちが同時に存在してる。
   でも、やっぱり自分でもこのままじゃダメだと思ったの」
  
少女「一夏はこの前のときは、人を守ってみたい、そのために力が欲しいって言ってた。
   でも、そのときの一夏の言葉と今の一夏の言葉はちょっと違う。ちょっとだけど絶対違う」

一夏「同じだよ! 皆を守るために力が欲しい! 一人だって失いたくない!!」

少女「そのために自分を捨てていいの?」

一夏「……捨てる……確かに体に良いことじゃないだろうな。
   戦いの最中ならそれほど気にならなかったけど、集中が切れたらかなりきつい状態になってることが分かった」

女騎士「もはやエネルギーはほとんど底をつきかけています。
    これ以上戦いを続行するなら、創傷の回復や出血の抑制などに回していたエネルギーまで打ち切って戦いに回すことになります。
    また、送り込まれる多大な情報量はあなたの脳に大きな負担をかけるでしょう」
 
女騎士「ただでさえ満身創痍なのに、戦いを止めないというならば、もはや命の保証はできません」

一夏「…………」

少女「どうするの……? ここが最後の分岐点だよ?」

少女「力を得て、自分の身を滅ぼすか。それともこれ以上戦うのを止めるか」

一夏「……」

一夏「俺は行くよ。どうせもうボロボロの体なんだから」

少女「!」

女騎士「構わないのですね」

一夏「ああ」

少女「……」

少女「嫌」

一夏「?」

少女「ダメ。絶対。一夏、それは哀しい」

一夏「何言ってるんだよ。早く意識をリンクし直して力を―――」

少女「私、もう一夏の気持ち分かってる」

一夏「何?」

少女「さっきリンクしたとき、知ってしまった。一夏は本当は皆と離れたくないってこと」

一夏「!」

少女「昔、仲が良かった人といきなり離ればなれにされちゃって、その時のショックが元で誰かと深く関わろうとしなくなったこと」

少女「その反面、家族もいなかったから、人との繋がりが断ち切られそうになるとすごく焦っちゃうことも」

少女「一夏、あなたが鈍感なのもそういった過去から来ているのではないの?」

一夏「なっ……」

少女「人が苦しんでると助けになりたがる癖に、自分が誰かに踏み込まれそうになるとふっと一歩引いてしまうのは、
   一夏がまだその記憶に決着を付けていないからよ」

一夏「君は! 一体何を言っているんだよ!」

少女「間違ってる?」

一夏「!」

少女「違うよね。一夏も分かってるはず」

一夏「…………」

一夏「く……」

一夏「……はっきりと思い出したよ。自分の中であえて曖昧にしてた記憶をさ」

一夏「子供の頃、ある女の子と突然別れちゃったのがショックで、考えないようにしてたんだ」

少女「……」

一夏「別れた記憶は薄れてもその衝撃は残ってる。苦しんでいる人の力になりたがったのは、あの頃の自分の姿を無意識に重ねてたからかも知れない」

一夏「鈴のときも、シャルのときも、ラウラのときも、会長と簪のときも」

一夏「見過ごせなかったんだ」

少女「うん……」

一夏「セシリアだって家族と生き別れて、もう父親と母親の声を受け取ることもできず、自分の声を届けることができないことに悩んでてさ。
   もっと早くそのことに気付くことができたら、余計に苦しむ前に励ましの言葉でもかけることができたのに」

一夏「でもさ、そういうやり方じゃダメって気付いたんだ」

少女「……」

一夏「皆、俺が中途半端に手を貸したせいで結局もっと苦しんでしまった」

一夏「俺のやり方は間違ってたってこと。俺はやっぱり、皆の中にいるべきじゃないんだよ」

少女「…………」

少女「私は、そうじゃないと思う」

一夏「……え」

少女「皆、一夏のことを必要としていると思う。今までだって、助けに入ったのが一夏だったからうまく行っていたと思うの」

一夏「そりゃ、ありがたいことに世界で唯一ISを操れる男だからな。そんなことより―――」

少女「違う。それだけじゃない」

少女「皆はISが使えるから一夏を受け入れた訳じゃないよ。皆は一夏にいなくなられたらもっと苦しむよ」

一夏「!」

少女「私なんかなくても、一夏は頑張ってたって、頑張れるって信じてる」

一夏「何をっ……!」

                  「―――――か、だい――――!」

一夏「うん? なんだ、声が聞こえる?」

少女「自分の目で見てきて。一夏の今までやってきたこと、その結晶を」

一夏「何だよ……君は……」

少女「がんばって。相互意識干渉(クロッシング・アクセス)なんかに頼らなくても、一夏は自分の口と耳があるでしょ?」

一夏「な………何だよ君は……機械の癖に……」

少女「今までありがとう。お別れだね…………」

                「……さよなら」

――――――

―――



箒「一夏!」

一夏「…………ぅ」

箒「一夏!! 意識はあるか!?」ポロポロ

一夏「箒……?」

箒「気が付いたか!! ああ……! ケガだらけだ……!」

箒「せ、せめて……腕の出血だけでも……!」バッ


シュルシュル……


一夏「箒、おまえ、その白いリボン……」

箒「構うな」ギュッ ギュッ

箒「よし……簡単な止血材代わりにはなったか」

一夏「……何で、そこまでして」

箒「おまえが心配だからに決まってるだろう!」

箒「一人で、左腕を失ってもなお戦い続けて! 無茶し過ぎだ! うぅ……」ポロポロ

一夏「箒……泣いてるのか?」

箒「見て、分からないか……!?」ポロポロ

一夏(涙を流してくれてるのか……こんな、俺のために……?)

箒「ぐすっ……一夏……」ポロポロ

一夏(そうだ……敵……倒さなきゃ)

一夏(体……まだ動くから……早く……)グググ……

箒「! じっとしていろ! もういい!」

一夏「行かせてくれ」

箒「どうしてだ! どうしてそこまでする!」

一夏「俺にできるのはこれしかないからだよ!!」

箒「なっ……!」

一夏「今までのやり方じゃダメだったんだ。だから、変えなきゃ! 戦わなきゃ!」

箒(「これしかない」……? 「今までのやり方だとダメ」……?)

箒「! 一夏……! おまえは……」

一夏「どいてくれ、箒。あと少しで終わるんだ」

箒「……一夏ぁ……うぅ」

箒「あ……ああ……」

箒(想いが纏まらない……! 掛けたい言葉が溢れだしてくるっ!!)ポロポロ

一夏「……」

箒「一夏っ!!」

一夏「え…」

箒「おまえが示した道があったから、私は仲間たちの力になれたんだっ!
  一夏がいなければ皆出会うことも無かった! そして、私たちが再び繋がり合えたのは……やはりおまえがいたからだ!」

一夏「……!」

箒「おまえが苦しいときは私がそばにいるっ……私が引き揚げてやる!」

一夏「――――――ッ!!」

箒「もう私は、二度と勝手にいなくなったりしないから!」
  
一夏「うっ……ううううううぅぅう!!!」

箒「皆を守るというおまえの夢は、いまや私の夢にもなった! そしてその『皆』の中には……」

箒「一夏! 当然おまえも含まれている!」

一夏「――――」

箒「だから……だから一夏っ……もう無理はしないでくれっ……!」

一夏「あ……」

箒「私はおまえの優しさには境界線がないと思っていたが、たった一人だけ例外がいたようだ……」

箒「一夏……たまにはその優しさを自分に向けろ!」

一夏「………ほ、ほうき…………」

箒「はぁっ…………はぁっ…………一夏」

一夏「違うんだっ……! 俺は、自分にばかり優しくして、守ろうとして……」

箒「それとそれと……そうだ。おまえに謝らなければいけないな」

箒「小学生の頃、私は勝手におまえの前から消えた」
 
一夏(! そう……俺は、あのときに……)

箒「……すまなかった! 許してほしい」

一夏「!!」

箒「でも……」

一夏「あ、ああ……」

箒「もう絶対私は消えたりしない! だから、おまえも私たちの前から勝手に消えるな!!」

箒「やめてくれ…………もう…………一人で背負い込むのは……!」ギュッ

一夏「………!」

箒(くそう、ダメだ、想いをただそのままぶつけることしかできない!)

女性型「…………」

ギチッ…… ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……


一夏「敵が……」

箒「…………!」


【女性型 瞬間加速 発―――


ズドン!!!


一夏「!」

箒「な……敵が銃弾でよろけた?」


「散々我が物顔で振る舞ってくれましたが、おふざけももうおしまいですわ」


箒「セシリア! ISが使えるようになったのか!」

セシリア「ええ。最初に来た敵機が倒されたためでしょうか? それより箒さん! 一夏さんをお願いします!」

女性型「……!」 ブワッ!!

セシリア「宙へ飛び立ちましたか!」


【女性型 瞬間加速 発動】  ギュンッッ!!


セシリア(こちらへ高速で接近―――!)


ガキィィィ!!


女性型「……」ギリギリ……!

鈴「まったく! 加速する兆候を悟らなきゃ!」

セシリア「鈴さん……! 庇ってくれて助かりましたわ」

鈴「礼ならこの鉄人形を―――」クルッ

鈴「何とかしてからねっ!」バギィ!


振り回した双天牙月をブチ当て、鈴は敵機と距離を取る

女性型「……」

【ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ ガルム(六一口径アサルトカノン ) 発射】 ドウン! ドウン!

女性型「!」

シャル「鈴! セシリア! 離れて!」ヒュンッ  パァアアア……

【ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ ブレッド・スライサー 展開】 

シャル「えいっ!!」ブン!

女性型「―――」ガシィィ! ドガッ!

攻撃を受け止め、シャルを蹴り飛ばす

シャル「わっ!」

女性型「―――」ググ……

シャル「!」

セシリア「シャルロットさん! 大丈夫ですか!? やみくもに突撃するのは無謀ではなくて!?」

シャル「大丈夫! 狙いは果たせたから!」

【女性型 瞬間加速 発―――】


「そこまでだ」


女性型「―――」ピタ!

セシリア「!」

鈴「敵が止まった!」



ラウラ「どうだ? 私のA.I.Cは? 身動きが取れんだろう」

女性型「―――!」グググ……

ラウラ「……今だ!」


「……皆! ありがとう!」

【打鉄弐式 八連装ミサイルポッド《 山嵐 》 発射】

ドドドドドドドドドドドドドドッッッ!!

女性型「―――!!」

ドゥンドゥン!! ドドドドゥン!! ドドドドドドゥン!!

一夏(皆……)

簪「……これでどう!?」

鈴「ひゃあ~全弾命中……」

シャル「すごい破壊力!」

ラウラ「油断するな! 相手は未知の機体だ!」

セシリア「爆煙が晴れてきましたわ!」


女性型「―――」シュウウゥゥゥゥ…

女性型「―――!」


鈴「生きてる!!」

ラウラ「咄嗟にバリアを展開したのだろう……!」

セシリア「装甲はほぼ全壊……コアも剥きだしになっているのにまだ動きますか!?」

女性型「―――」

【女性型 瞬間加速 発動】ドシュゥン!

シャル「あ!」

ラウラ(一夏と箒のところへ飛んだ!)

簪(あの無人機、スラスターもほとんど壊れてるのに……! 一夏! 箒!)

女性型「――――!!」


箒「…………」

女性型「――――!」


                         ザンッ!!!


女性型「――――――」ジジ……

襲い掛かる女性型無人機のコアを一閃したのは、箒の専用機【紅椿】とその武装"雨月"だった。

箒「…………」

【雨月 展開解除】

箒「…………一夏」

一夏「がはっ……はぁはぁ……箒」

箒「じっとしていろ。今エネルギーを回復させてやるから!」パァァァァ

【紅椿 絢爛舞踏 発動】

箒(白式の生体回復機能をこれで支援できればいいが……!)

一夏「何で、俺なんかを……あんな危険な相手に……」

箒「しゃべらなくていい。もう戦いは終わった。安心しろ」



ヒュンヒュン!

セシリア「箒さん!」

鈴「間一髪だったわよ!」

シャル「一夏は大丈夫!?」

ラウラ「即刻学園側に連絡を取る!」

簪(一夏が……私に勇気を与えてくれた一夏が……!!)

一夏「皆……」

一夏は自分を取り囲む少女たちを見て、安らかにほほ笑む

箒「皆も来てくれたぞ。ケガを治して、また元気な姿を見せてやらなければな」

一夏(白式……そっか。おまえは分かってたんだな)

一夏「はは……」パァァァァ……

【白式 展開解除】

一夏(認められた……)

一夏(俺の苦しみは自身の甘さから来るものだと思って、誰にも言えなかった。でも、箒はそれも受け入れてくれた)

一夏(自分の内に閉じ込めて、心を蝕んでた想いをおまえが掃き清めてくれたんだ。おかげで……楽になれた)

一夏(『力がついたら誰かを守ってみたい』……こんなガキの頃の夢が、こういう形に姿を変えるとはな)

一夏(追いかけられて、急きたてられて……呪いと同じだ。抱え込んでたらきっといつか心が壊れたに違いない)

箒「いいぞ。もう心配することは何もないからな」

一夏(でも俺は一人じゃなかった。俺には箒がいる。俺に手を差し伸べてくれた箒が。いや―――)

セシリア「一夏さん! 嫌ですわ!」

鈴「あんた……どうして一人でここまで……」

シャル「大丈夫!? 死んじゃイヤだよぉ!!」

ラウラ「教官ですか……そうです! 状況は終了しました! すぐさま治療の準備を整えて下さい!」

簪「ど、どうしよう? あっ! 早くここから運んだ方が良いじゃない!?」

一夏(……こんな、集まってくれる仲間が……居たんだな)


ヒラ……ヒラ……ヒラヒラ……

一夏(お……曇っててやけに寒いと思ったら……)

簪「雪……?」

一夏(本当に、鈍感だな。俺を心配してくれてる人たちに気付かなかくて。食事に誘いに来たとき箒が言ったくれたことから目を背けてもいたんだから)

箒「すぐ治療を受けさせてやる!」

一夏(ああ……安心したらなんか気持ちよくなってきた)

セシリア「一夏さん! よく戦い抜かれましたわ! 今は安静にしてくださいまし」

一夏(傷を治して、次に起きたときは皆に礼を言おう)

鈴「……どうしたのよ一夏。息してるわよね?」

一夏(そうだ。俺や箒の秘密の場所にいた剣道少年の稽古に付き合う約束もしてたんだったな)

シャル「あ、あれ!? 呼吸が浅すぎるよ!?」

一夏(片腕無くした姿見せたらビックリするだろうなあ。こうなったら、俺も剣術は一から鍛えなおさないと)

ラウラ「普通は展開が解除されるような損傷でも白式は動き続けてたが……まさかそのせいで生体回復機能に支障が!? 」

一夏(……でも今は眠ろう。ああ、こんなに傷ついてるのにすごく安らかだ)

簪「ダメ! 一夏しっかり!」

セシリア「そんな……!」

箒「い……一夏……」


ヒラヒラ……ヒラヒラ……




一夏(そうだ)



一夏(あの剣道少年に稽古付き合うって約束してたなあ)



一夏(ケガ治して、白式修理して、先生たちに謝って、そんで皆にお礼言って……やることいっぱいだけど……)



一夏(また目が覚めるまでは……ちょっと休憩……)

↑はミスです

一夏(ケガ治して、白式修理して、先生たちに謝って、そんで皆にお礼言って……やることいっぱいだけど……)



一夏(また目が覚めるときまで……)



一夏(ちょっと休憩……)

正しくは↑でした


ということで、次回から最終章です
割とあっさり終わるんじゃないかと思います

――――――

―――



数週間後―――

【織斑家】

千冬「さて、そろそろ準備に取りかかるか。篠ノ之」

箒「はい」

箒「もう料理のほとんどは作り終えていますし、並べるだけで済みますね」

千冬「和風ちらしずしはパーティーメニューとしてもいけるな。あとは……」

千冬「ローストチキンも抜かりはないな。塩もよく揉みこんである。よし、火を入れよう」カチャ

箒「……」

千冬「あいつら、私が料理している姿を見たらどう思うかな」

箒「………」

千冬「どうした篠ノ之。さっきから私の顔ばかり見て?」

箒「千冬さん……」

箒「あいつは……きっと後悔してないと思います」

箒「あの日……無人機を満身創痍になって撃破したあと、周りを取り囲んだ私たちにとても安らかな笑顔を向けてくれました」

千冬「……湿っぽくなってしまったな。今日は盛大に祝ってやろう」

箒「ええ。今日はあいつが主役です」

千冬「そうだな。あいつめ、一言も断りもなく勝手に……」

箒「では」

千冬「……」

千冬「篠ノ之」

箒「なんです?」

千冬「私はこれで良かったんだろうか」

箒「?」

千冬「早くからISに関わりを持ち、モンド・グロッソで優勝もした。ドイツに指導に向かったあと、教鞭を執る立場になった」

千冬「だが、弟のことを―――唯一の家族のことをろくに見てやれなかった。
   どれだけ世間から持てはやされようが、たった一人の弟の面倒を満足に見れなければそんな賞賛何も意味がない」

箒「千冬さん―――」

千冬「アルバムをめくっていると思い出してな。私が高校生だった頃、学校帰りに一夏が公園で佇んでいるところを見かけたことがある」

千冬「一夏の視線の先には両親と戯れる子供の姿があった。それに気付いて声を掛けると、あいつは笑顔を向けてその日の夕食の話をしだしたんだ」

千冬「必死に自分が考えていたことをごまかそうとするようにな」

箒「……」

千冬「もう少しあいつに寄り添えていてやれれば……」

箒「……でも、一夏はそのことで千冬さんを恨むことは無かったと思います」

千冬「どうだろうな。もうそのことは―――」

ピンポーン

千冬「お、来たか」パタパタ

ガチャ

セシリア「こんにちは。織斑先生」

鈴「ん? この匂いは……ローストチキンですね!」

千冬「ああ、今焼いているところだ」

シャル「お料理……先生がエプロンなんて意外です……」

ラウラ「教官! 今日はお誘い頂いてありがとうございます」

簪「ど、どうも……です」

千冬「そうか。よく来てくれた。すまんが、まだ準備をしている途中でな。手伝ってもらえるか?」

セシリア鈴シャルラウラ簪「はい!」

千冬「悪いなおまえたち、さあ楯無たちも早く入ってこい」

弾「……はあ」

蘭「ちょっとお兄ー! 何溜息ついてんのよー! パーティー嫌なの!?」

弾「そういう訳じゃねえんだが……」

虚「……」

数馬(はぁ~~~! 俺、IS学園の女の子たちとパーティーするんだよな……! 今でも実感が湧かねえや……! お気に入りのこの子と距離縮めるぞ~!!)チラッ

鷹月(何かしら。さっきからこの数馬っていう人、こっちを見てるような)

弾「おーい数馬、何そわそわしてんだよ」

数馬「い、いやなんでもねえし!」

数馬(弾のヤツも理知的で可愛い年上の彼女もゲットできたんだ……! 俺だって……!)

虚「でも五反田くん、ここに来るまではちょっと気が進まないみたいだったけど……どこが悪いの?」

弾「いえ! 健康そのものっすよ俺は!」

のほほんさん「じゃあど~して元気なさげなの~?」

弾(うーん……あいつの考え否定して殴り合った過去があるし、その上あいつがああなっちまうとはなあ………)

【キッチン】

セシリア「あらあら、もうお料理の方はほとんど完成しているのですね」

シャル(よ、良かった。セシリア暴走させる機会を潰せて……)

ラウラ「教官! どうやら食器の数が足りないように見受けられます! 私が迅速に手配します!」シュバッ!!!

千冬「駆け出さんでいい。紙コップや紙皿の封を切るわ」

鈴「先生、もし料理が足りなくなったらあたしが腕振るいますよ! 中華料理屋の娘ですから!」

千冬「それはありがたい。使わなかった食材が冷蔵庫に眠っているからそのときは適当に見繕ってくれ」

セシリア「鈴さん、そのときは私もお手伝い致しますわ!」

鈴「き、気持ちだけ受け取っとくわ。セシリアはゆっくりしてて!」

楯無「あっはっは。おねーさんケーキ買ってきてるから、それ食べられる余裕作っといてね」

箒「………」

箒(なんだか、この風景を見ていると心が温かくなってくる……)

簪「箒。どうかしたの?」

箒「いやいや、何でもない。私も手を動かさなければな」

数馬「あ、あの、鷹月さん、そのニットワンピース、そ、その可愛いですね」

鷹月「そう? 私も気に入っているんだ。ありがと」

弾(こいつ、鷹月さん狙いか……)

鈴「蘭、最近あんたどうなの?」

蘭「生徒会は仕事が多くて、この冬休みでようやく一息つけるかなってとこですよ。またすぐ3学期になって忙しくなるでしょうけど」

のほほんさん「ランランはIS学園に入る予定なんでしょ~? そのときは整備課に入ってね~~~! 優しく指導しちゃうよ!」

虚「あなた生徒会会長さんなんでしょう。IS学園生徒会の運営に力を貸してくれたら嬉しいわ」

虚(彼の妹さんとは仲良くしたいし……ね)

蘭「あわわ……気が早すぎますよ~~~!!」

鈴「さてと、弾と数馬。数少ない男手なんだから率先して動くとかはできない訳?」

数馬「え……」

鷹月「そうね、私も手伝わなきゃ。せっかく招いて頂いたんだし」

数馬「! い、いや! 心配いりません鷹月さん! 俺たちが全部やりますから! 行くぞ弾!」

弾「おいおい……」

ワイワイ ガヤガヤ

箒(一夏………)

箒(お前がやってきたことは、決して無駄ではなかったぞ……!)



【篠ノ之神社付近 一夏たちの秘密の場所】

少年「………199…200!」ブン! ブン!

少年「……ふうー。汗かいたな、タオルタオル」

少年(……あの人と会ってから、今日で一ヶ月。『また練習に付き合うよ』って言ってくれたけど、約束した日は姿を見せてくれなかった)フキフキ

少年「忘れられちゃったのかな。何か事情があって、来れなくなったのかも知れない……」

少年(せっかく剣を振るときの悪い癖を直せたのに……見て貰いたかったなあ……)

少年「よし、もう一頑張りしよう」

「―――」ガサ

少年「!」ピクッ

少年「あ、え……!?」


「―――――――」

少年「え? いえいえ、ぼくはそんなに顔つき変わってませんって! それよりさっそく稽古を始めましょうよ!」

少年「ぼく、前言われたとおりに剣を振るときの癖なおしたんですよ!」

「―――」

少年「はい、では早速行きますよ!!」


―――――――

―――




少年「はあっはあっ……! もう一回お願いします!」

「―――」

少年「てやあっ!!」

カァァン!

少年(面を防がせて……胴に切り替え!!) ブンッ

「……」トン!

少年(あ……防がれ……)

「――」ペシッ

少年「たっ!」

少年「ああ……足捌きで本当にわかっちゃうものなんですね……攻撃が全部読まれちゃってる……」

少年「十回打ち込んで十回とも一歩も動かず捌かれちゃうなんて……やっぱりお兄さんって結構強いんでしょう? どこの剣道部なんですか?」

「――――――」

少年「え! 剣道部には入ってないんですか!?」

「――――――」

少年「あーあ。ぼくはまだまだだなあ。もっと強くなりたいなあ」

「―――――――――――――――――――――――――――――」

少年「きっと強くなれる? 本当に?」

「―――!」

少年「ありがとうございます……でも初めて会ったとき、何で僕なんかに剣道教えてくれるのか不思議ですよ」

少年「見ず知らずの僕に親身に練習方法を指導してくれて、掛かり稽古の相手になってくれて」

少年「アイスをおごってくれたりして……」チラッ

「――――――――――――――――――――――――」

少年「え、買ってくれるんですか! やったー! 稽古がんばった甲斐あった!」

―――――――

―――



少年「えーと……ぼくは雪見大福にしますね!」

「――――――」

少年「前もそうだったなって? い、いいでしょう!」

「――――」ツンツン

少年「何です? え、自動ドアの前に誰かいるんですか―――あっ!」

幼女「……」ジー

少年「あいつは僕の妹です……もう、また探しにきたのか」

少年「見ず知らずの僕に親身に練習方法を指導してくれて、掛かり稽古の相手になってくれて」

少年「アイスをおごってくれたりして……」チラッ

「――――――――――――――――――――――――」

少年「え、買ってくれるんですか! やったー! 稽古がんばった甲斐あった!」

―――――――

―――



少年「えーと……ぼくは雪見大福にしますね!」

「――――――」

少年「前もそうだったなって? い、いいでしょう!」

「――――」ツンツン

少年「何です? え、自動ドアの前に誰かいるんですか―――あっ!」

幼女「……」ジー

少年「あいつは僕の妹です……もう、また探しにきたのか」


「――――――――」

少年「『心配してくれてるんだからそんなこと言うな』ですって?……そりゃ、わかってますけど」

少年「うーん……まったく……ちょっとすいません。行ってきます」タタタッ


「―――――――」

レジ係「お会計98円です」

「――」

レジ係「はい、100円お預かりします」


少年「こら、探しにくるなって言ったじゃないか!」

幼女「お兄ちゃ~ん……どこに行ったのかって……ぐすっ……このお店のぞいたら偶然いて」メソメソ

少年「今日は剣道の稽古に行くって言ってたろ! 道路歩くのは危ないのにいっつもおまえは……あ」

「―――」

少年「すみません、急に飛び出しちゃって……」

幼女「え、この人……」

「――――」スッ

少年「あ、アイスありがとうございます」

「―――――」

少年「そういえば稽古に付き合ってもらえる時間は五時まででしたね。あと十分くらいだから、もうお別れですね。
   ……あの、これからも稽古付けてくださいね! 僕、強くなりたいんです!」チラッ

幼女「……うん?」

少年「こいつを守れるくらいには……」ヒソヒソ

「――――――」コクリ

幼女「……あ、アイスだ~~! おにいちゃんがこの前一個くれたゆきみだいふくだ~~!」

少年「分かってるよ、やるから心配するな!」

「――――――」トントン

「何です?」

「きみ、癖直ってたね。左腕の動かし方」ヒソヒソ

少年「そうですよ! 割と苦労したんです!」

「よしよし。子供の頃の悪い癖ってずっと尾を引くからな。今正しといた方が絶対いいよ」

「……年取ってくると荒療治が必要になるからさ」

少年「……?」

「あと、妹は大切にしてやれよ。雪見大福あげる優しいお兄ちゃん」

少年「も、もう………はい、わかりました!」カァァ

幼女「?」

少年「じゃあ、ぼくたち行きますね。ほら、おまえも挨拶!」

幼女「ばいばーい!」ブンブン!!

少年「さようならー!」ブンブン!

「――――――」ブンブン!!


「――――」ブンブン!


「――」ブンブン……

「――――――強くなりたい、か」

「俺も思い続けてることだ。同じ目標を持つ仲間が増えたのは心強いぜ」

「皆はもうすでに集まっている頃か。あれだけの数の人間を家に呼んだことはないけど大丈夫かな。でも、まぁ……ん、んぅー」ノビー





一夏「さてと! 俺も行くとするか!」

次回へ続きます!

【織斑家へ向かう道路】

一夏「ふうー」

「ずいぶんと慌てているな」

一夏「お……?」

箒「皆も大目に見ると思うが、連絡をまったく入れずにふらつくとは感心しないぞ?」

一夏「よお箒! おまえも今からか?」

箒「違う。私はおまえの家でパーティーの準備を続けていたんだが、肝心のおまえがいつまでも帰ってこないから探しに来たんだ」

一夏「そっか、悪い悪い。外せない用事があってさ」

箒「用事? この日に入れざるを得なかったのか?」

一夏「前々から俺とある約束をしてた奴がいたんだが、すっぽかしちまったことがあってな。どうしても謝りたかったんだ。まあ大目に見てくれ」

箒「ふむ……まあ、いいだろう。ところで一夏、本当に体はもう良いのか?」

一夏「ああ、もう元気そのもの! まあ、左腕はなくなっちまったけどな! 子供にも驚かれちゃったぜ」

箒「それはそうだろう……」

一夏「でも、あの日襲撃してきた無人機を打ち破ったあの日、IS学園の手厚い治療を受けてなきゃ危なかったよな、俺」

箒「ああ、学園長が呼んでくれた医者に感謝するんだな」

一夏「そうだな。でも、箒たち、そのお医者さんに泣きながら礼を言いに行ってくれたらしいじゃん。術後に山田先生から聞いたぜ?」

箒「なっ! し、知っていたのか!?」

一夏「俺が意識取り戻したときも泣いてたもんな。箒って結構泣き虫なのか~?」

箒「む、むう…・…」

一夏「嘘うそ! ありがとうよ」

箒(確か……あのとき、セシリアたちだって泣きたかったはずなのに私を励ます側に回ってくれていた)

箒「一夏……今日は、皆に改めて礼を言わなければいけないぞ」

一夏「うん。分かってる」

一夏(それに……パーティーに集まってくれた人だけじゃない……俺を救ってくれたあの白式のことも、忘れちゃいけないはずだ)

箒「どうした? 考え込むような顔をして……」

一夏「いや……」

箒「やはり……白式のことか?」

一夏「! ま、まあな……」

箒(やはり、ああなったことを受け入れきれてはいないのか?)

一夏「とても良い相棒だったよ。俺にとって最高のISさ」


―――――――――――――

―――――――

―――



~一夏が意識を取り戻した次の日のこと~

【IS学園の病室】

一夏「…………」

一夏「俺、助かったんだな」

一夏「戦ってたときはもう死ぬんだと思ってたけど、白式と、箒たちのおかげで命拾いしたんだ」

一夏「……白式」

一夏「そうだ、白式は!?」

コンコン ガチャッ

楯無「こんにちは一夏くん、お加減はいかが?」

一夏「あ、会長! 俺は意外なほど痛みも残ってないですけど……」

楯無「ふーん、元気なんだ。良かったよかった」

楯無(意識取り戻した速攻で会いに行った箒ちゃんたちに遅れちゃったけど、やっと私も一夏くんの顔を見れた)

一夏「すみません会長、ちょっと聞いて良いですか?」

楯無「何かしら」

一夏「俺のIS……白式のことです。今どこにあるんですか?」

楯無「!」

楯無(うーん……どうしようかしら)

一夏「楯無さん! 知っているんですか!? 知らないんですか!?」

「あんまり大声上げるんじゃねえよ」

一夏「!」

弾「おまえの体に障らなくとも近所迷惑なんだよ」

一夏「弾!」

虚「こんにちは」

一夏「何で弾が……布仏先輩、あなたが呼んだんですか?」

虚「ええ、あなたの身に起こったことを知らせたのは私だけど……」

弾「一応見舞いに来てやろうと思ってな」

一夏(入園手続きは楯無さんたちが手を回したんだな……)

コンコン ガチャ

箒「一夏、どうだ調子は―――」

セシリア「あら、わたくしたちより先に先輩たちが」

鈴「てか、弾もいるじゃん! あたしがメールで数日前のこと教えてあげたときは素っ気ない返事しかよこさなかった癖に!」

弾(その前に虚さんから聞かされてたからな……)

シャル「一夏、お医者さんによるとまだ食事は止めといた方が良いんだって? 食べられるようになったらリンゴ剥いてあげるからね」

ラウラ「うむ、そのときは私もナイフ捌きを披露しよう」

簪(顔色も良いみたいで良かった……)

一夏「なあ皆。俺の白式が今どこにあるか知らないか?」

箒「……!」

一夏「なんだ。まさか、IS特務機関に回収されたとかか?」 

セシリア「……」

一夏「どうなったんだよ!?」

楯無「……いつかは知ることだしね。もう教えてあげようか」

簪「……そうだね」

鈴「……落ちついて聞いてね、一夏。ISは損害甚大な状態で無理に稼働させ続けると、その後の駆動に悪影響が出ることは知ってるわよね?」

一夏「……? ああ」

シャル「中枢にまで異常を引き起こすこともあるの。そうした場合、取る処置って言うのがね…………」

シャル「…………」

虚「…………」

セシリア「…………」

一夏「な、何だよ皆?」

弾「ISのコアってよ。革新的な技術がたくさん盛り込まれてるんだよな」

虚「五反田くん!?」

弾「ISの研究が進めば、ISにのみ許されたそれらは市民の生活で使われるようになるかも知れない。
  例えば、量子保存技術の他分野での応用が実現されたら旅行に手ぶらで行けるようになるだろうし、
  PICの原理が解明されたら急ブレーキでも反動が来ない自動車が登場するかもな」

弾「抑止力という役目のみならず、そういった側面からも期待されてるって訳だ。
  となると、ISって世界的に大事なモンだってことになるよな。人の営みを一変させうるものなんだから」

一夏「無駄話は止めてくれ! 白式は今どうなってる!?」

ラウラ「……ISをIS足らしめるコアに不具合が確認され、このままでは起動が出来なくなると判明した。
    動かせないISに意味は無い。それに使えないISにまだ使えるコアが占有されているのは、大きな損失だ」

ラウラ「五反田が言ったように、ISの重要性は非常に高いのだからな」

シャル「……ラウラ」

一夏「その話が白式に何の関係が……? あっ……!」

弾「もう教えたやった方が良いな。一夏、おまえの専用機である白式のコアは―――『初期化』された」

一夏「……!!」

セシリア「一夏さんは限界を超えて白式を動かし続け、迫る敵に戦い抜きました。
     斬撃に身を削られ、光線に焼かれても、白金の輝きを空に示し続けた雄姿は眩しいほどでしたが……」

鈴「でも、やっぱり代償は大きかったみたい。戦いの後、
  整備課で点検したスタッフは今までに見たことのないほど損傷してるって言ってたらしいわ」

簪「来てくれた倉持技研の人たちが診たところ、そのコアとの結合に問題があるのか、もう白式を起動できないと判断されたって……」

シャル「でね、その人たちは白式を解体してコアを初期化する決断をしたの。
    操縦者だった一夏の許可も取らずに勝手に進めて……って思ったんだけど……」

鈴「雪片や雪羅を始めとする装備もほとんど失われてたことがこの決定を後押ししてさ、機体パーツも一から作り直した方が手っ取り早いんだって―――」

ラウラ「コア自体は学園が保有し倉持技研と共同管理することになった。
    フラグメントマップのデータは取れたそうだから、以降の機体作りの参考にはされると思う」

ラウラ「コア自体は学園が保有し倉持技研と共同管理することになった。
    フラグメントマップのデータは取れたそうだから、以降の機体作りの参考にはされると思う」

弾「俺もおまえが目を覚ます前に鈴たちから聞いてよ。まあ、IS学園から除籍ってことはないはずだぜ」

一夏「え……ま、待てよ、待ってくれよ……!!」

箒「……一夏、おまえは無理をし過ぎたんだ」

箒「深いダメージを受けたまま稼働を続けると不調を引き起こす原因になるとはさっき鈴が言った通りだ。
  あのような状態で限界を超えた動きをさせていてはコアの方にも悪影響が出るのは自明だ」

一夏(そうだ……! その上女騎士があの空間で俺の感覚が向上したのは白式の不具合が原因だったって言ってた……
   白式の方も俺と意識を重ねたせいで異常が出てたのか……!?)

一夏「でも、白式が初期化だと!」

虚「コアの機能自体は生きてるんだけど、ISの人格と呼ぶべきものがかなり不安定な状況でね。
  そんな状態に置かれたISコアの観測例がなくて、放置して万が一にでもコアが使えなくなったら事だと考えての決断だと思うわ」

一夏「……………ふ、ふざけないでくれよ!!」

箒「一夏!」

楯無「気持ちはわかるけど落ち着いて!」

弾「だから騒ぐなって言ってんだろうが」

一夏「……!」

弾「そもそも、この事態はおまえが自分の道を突き進もうとしたから起きたんだろ!?」

一夏「あ……」

楯無「……! 弾くん、あのときは一夏くんしかISを起動できなかったのよ! 彼の選択を非難するの!?」

シャル「そうだよ! 一夏が立ち向かってくれなかったらこの学園は今頃廃墟になってたさ! 僕らだって今ここにいないはず!」

弾「違いますよ。俺は何も白式は一夏のせいで初期化されたと言っている訳じゃありません」

一夏「…………」

弾「一夏、白式はおまえに最後まで付き合ってくれたらしいじゃねえか。鈴たちによると限界を超えて稼働し続けて戦ってたって話だ」

一夏「ああ」

弾「それを支えた白式は最後までおまえの要求をまっとうできたんだし、おまえがそうまでして戦わなかったら学園が侵略されてた。
  騒ぐばかりじゃなく助けられたものの方に目を向けろってことだよ。俺が言いたいのは」

鈴「ちょっと弾、さっきから何様なのよあんた!」

一夏「いや、良いんだ鈴。急に知らされて驚いたけど、これは確かに……なるべくしてなったことなんだ」

一夏「……俺が生きているのは白式の持つ生体再生能力のおかげだ。いや、それだけじゃない……ここにいる皆が助けてくれたからだ。
   失ったものを嘆くより、そのことをちゃんと考えないといけないっていうのは、本当だよ」

簪「え、一夏……」

一夏「……正直言ってまだ心の整理が着いたわけじゃないけど、俺は自分のしたことに後悔はない。だって、皆を救えたんだから」

セシリア「一夏さん!」

一夏「……と言っても最後は皆に助けて貰ちゃったけどな!」

鈴「なに言ってんのよ水臭いわね~~~」

シャル「そうだよ一夏。さっきからちょっと言い方が他人行儀だよ。それに助けてもらったのは僕らも同じなんだからさ」

一夏「はは、そうだな……」

楯無「さてと。もうすぐお医者さんが検査にくる時間だし、お暇しよっか」

簪「そうね」

楯無(愛用してた機体を失ったショックから立ち直る時間もあげたいし、ね)

ラウラ「嫁よ、怪我をしっかり治すのも兵士の義務だぞ。ではまた顔を出す」

箒「……ではな、一夏」

一夏「おう!」

セシリア「さようなら。もし許可が出れば次回は差し入れをお持ちしますわ」

一夏「あ、ああ」

弾「……」

一夏「弾……」

弾「たまたま休日だったからこうして見舞いには来てやったけど」

弾「俺、あのとき聞かされたおまえの考えに賛同したわけじゃねえから」

一夏「う……」

弾「じゃあな」クルッ スタスタ

虚「?」

一夏「…………」


【IS学園 廊下】

弾(一夏の奴、IS学園を守るために片腕無くしてまで戦ったっていうのは本当だったのか)

弾(……去り際にああは言ったが、俺自身あいつに対する自分の感情がよく分かってないんだよな)

弾(あいつの人助けの輪を作る考え方は受け入れられないにしても、中学時代の友達だし、心配する気持ちが無いでもない。
  俺が欲しかったものを持っているあいつには嫉妬していたが、結構な苦労もあると分かったらなあ……)

弾(まあ、あいつは俺のこと嫌ってるだろうがな。殴りかかって来たほどだし)

虚「五反田くん」

弾「はい!?」

虚「良かったら昔のあなたと織斑くんのこと、聞かせてくれない? あなたから何度か話をして貰ったことあったけどまだ知らないことが多いのよ」

弾「え、あ、ああ構いませんけど」

虚「助かるわ。織斑くんとはこれからも同じ生徒会メンバーとして共に活動しなきゃいけないし、知っておいて損はないでしょう」

弾「ええ、でも急ですね。今回の件でそう思うようになったんですか?」

虚「そうね。あと、あなたが織斑くんと何かあったみたいだから」

弾「え!」

虚「織斑くんの病室に行く前も難しそうな顔してたじゃない? 今同じ表情してたから彼について悩んでるんじゃないかな、って」

弾「はは……」

虚「どうなの?」グイッ

弾「せ、正解です……(急に近寄ってこないでください!)」

虚「お話しすればあなたも自分の気持ちを把握することができるかもしれないでしょう。聞かせてよ」

弾「たしかにそうっすね……分かりました。でも、虚さんも昔のこと話してくださいよ!」

虚「え、わ、私?」




のほほんさん「…………お姉ちゃん頑張って~~~街に着いたらそのままデート突入だよ~~~」

箒「布仏、何をやっているんだ?」

のほほんさん「あ、しののんたち! お見舞いには行って来たの?」

セシリア「ええ。今し方」

ラウラ「おまえも昨日行ったんだろう?」

のほほんさん「うん! でも面会時間短かったし、他の子たちと皆で行ったからほとんど会えなかった~~~。
       でもでも、おりむーを励ます会をしようかと友達と相談してるよ~~~」

ラウラ「ほう、それは良いな」

鈴「本当に、今回の被害は特にショッキングだったもんね……」

シャル「うん。それをやるだけの価値はあるよ」

箒(……)

箒(今回を含めた数々の襲撃事件の黒幕は私の姉だと知ったら、皆はどう思うだろうか?)

箒(話さず胸に秘めておくべきだろうか。いや、真実を知りながら秘密にしておくのは今まで巻き込んできた皆に申し訳が立たない……)

箒(しかし、恐怖の気持ちもある。もし学園中に広まれば私も絡めた黒い噂も出るだろう。
  IS特務機関に事情聴取に招集されて今までの生活が壊されてしまう可能性もある。
  だが、無人機による襲撃は姉さんが私を想ってしたことであるし、間違いなく私が原因だ。私が口を噤み続けるのは……)

簪「箒? どうしたの?」

箒「いや、何でもない……」

簪(?)ジーッ

箒(あまり見ないでくれ……あ)

箒「簪、もし会長がおまえのために悪いことをして、皆に被害を受けさせたと知ったらおまえはどうする?」ゴニョゴニョ

簪「え!? 何? 急に」

箒「す、すまない。良ければ教えて貰えないか」

簪「そうねえ……私はそんなことしても喜ばないって伝えて、悪いことは二度としないように言うかな」

箒「そうか。で、まだそのことを知らない被害者たちにその事を伝えるか」

簪「え……そうね、やっぱり言うかな」

箒「……!」

簪「私、昔ならきっと黙っていようとすると思う。でも、今は一夏や箒が手を伸ばしてくれたおかげで変われたし、気持ちを打ち明けられる人もできたから!」

箒「!」

簪「実際はお姉ちゃんは陰ながら私を助けてくれてたんだけどね」

箒「そうだったな。悪いな、例え話とはいえ勝手に会長を悪役にして」

簪「ううん。でも何でそんな話を……? あ、もしかして……!?」

鈴「さっきから何話し合ってんのー?」

箒「……」

箒「皆、少しいいか? 聞いて欲しいことがあるんだ」

セシリア「何ですの?」

シャル「急に改まって……」

箒(どういう反応が返ってくるか怖い。でも……この仲間たちなら信じられる)

箒「皆、実はな、今までの襲撃事件は―――」


――――――

―――



セシリア「…………何とまあ」

シャル「箒、それは本当なんだよね?」

箒「ああ。姉さんの口から聞いた」

ラウラ「……他にそのことを知っているものは?」

箒「私が知る限り、そばにいた静寐だけだ」

のほほんさん「嘘じゃないんだ……」

鈴「全部が全部じゃないんでしょ? 例えば亡国機業(ファントムタスク)が起こした事件とは関わりは持ってないわよね?」

箒「それも、はっきり違うと答えることはできない」

箒(やはり、皆ショックか……)

ラウラ「もし、それが本当だとしたら私は篠ノ之博士を許すことはできない」

セシリア「ラウラさん」

ラウラ「箒、おまえ自身はそのことをどう考えているんだ?」

箒「私は……」

箒「……」

箒「身勝手な理由でここにいる皆だけでなく多くの人を危険に晒し、一夏の左腕を奪ったあの人を簡単に許すことはできない……」

簪(姉妹の仲でも、か……)

箒「しかし、だ」

箒「あの日、姉さんは私に今まで見せなかった表情を見せ、詫びの言葉も漏らした。
  頑なだった私だが、姉さんが瓦礫の下敷きになりそうになると、考えもなく飛び出してしまっていた」
  
箒「そのとき私は、自分に無いものを持つ天才科学者だと思っていたあの人も実は不器用なんだと知ってしまった。
  ……自分と似ていてどうしようもなく、な」

シャル「じゃあ……」

箒「私は、姉さんを……『認めたい』と思う。そういう人なのだと。そして、その上で……心から和解したい」

ラウラ「認めたい、か。箒自身がそう考えるなら、誰も口を挟むことはできないな」

箒「……もちろん、皆がどう思おうと自由だ。恨まれようともあの人はそれだけのことをしたんだ。
  当然元凶の妹であり、その人と和解したいなどと言う私のこともだ」

簪「……」

鈴「箒、あんた……」

セシリア「篠ノ之さん。お互いに生きてさえいれば、いつかはすれ違いや抱えた偏見を解消し歩み寄ることができるはずと、わたくしは思います」

箒「セシリア……」

簪「私も……」

簪「正直、一夏をあんなに傷付けたのは私も許せないと思ってた。でも、複雑な立場にいる箒のことを見てると、段々そんな感情がどこかへ行ってしまって……」

シャル「僕も身勝手な血縁者に振り回されたことあるけどさ。それでも不思議なもんでどれだけ嫌な人でも中々切り捨てられないんだよね。
    分かるよ、箒の気持ち。僕だってお父さんに対して似たような気持ち持ってるもん」

鈴「ごめん、あたしは今んとこどう判断すればいいか分かんないわ。保留しとく。
  でも箒。あんたのことは全然恨んでないし、あんたの進む道を応援してあげたいと思うわ」

箒「ありがとう」

ラウラ「……おまえ達は篠ノ之博士の所業を見過ごせるのか? 私は彼女を許してはおけない」
    
ラウラ「このまま放置しているとまた同じような事態を引き起こさないとも限らん。
    世界が奴に振り回されたんだ。今回嫁に起きたことを抜きにしても、第一級の危険人物だと認識するに足る材料はいくらでもある」

シャル「ラウラ……」

ラウラ「大体が、危機の渦中にあるとき心情を聞いたことで犯罪者に対し好意的になってしまうのはストックホルム症候群の典型例だろう。
    箒もしばらくすれば考えも変わる可能性もある。『やはり姉は憎むべき敵』だとな」

箒「……ラウラはそう思うか」

鈴(ま、あたしも簡単には許せないとは思ってんのよね。箒の肩を持ってあげたいって気持ちの方が強いだけで)

ラウラ「しかしだ、箒。それも肉親を持たない私だからこそそう断じてしまえるのかも知れない。
    血縁という特別な関係を持ったことがない者の無理解から来る結論だと言われても、私は言い返せないだろう」

のほほんさん「ぼ、ボーちゃん! だ、誰もそんなこと言わないよ~~~」

ラウラ「しかし他者を支えたい、繋がりたいという気持ちはおまえ達から教わった。箒……おまえに関しては鈴と考えは同じだ」

シャル「ラウラ!」

ラウラ「おまえの望む未来へたどり着けると良いな!」

箒「…………」ジワ

簪「何か、立場があべこべになっちゃったみたいだね」

鈴「ホントホント。最初、私たちの悩みを聞いてくれたのは箒の方だったのに」

箒「ありがとう……皆」

セシリア「まったく。わざわざつまびらかにせずとも、胸に秘め続けておくこともできたはずですのに」

箒「はは、しかし、な……」

シャル(僕らを巻き添えにした過去があるから、例えどう思われようと打ち明けずにはいられなかったんだろうね)

簪「箒、私もずっと距離を置いてたお姉ちゃんと仲直りできたんだから、きっとあなたもできるよ!」

箒「簪……」

箒(温かい……皆を信じて良かった)

鈴「でも、肝心の一夏がどう思うかよね。左腕無くすほどの大怪我だし、意識もしばらく戻らないところまで追い込まれたし」

セシリア「そうですわね」

箒「そうだな。一夏にも教えなければ。事件に巻き込まれた他の人も原因を知りたがるだろうし織斑先生に報告した後判断を仰ごう」

のほほんさん「ね~~みんな~~~思い出したんだけどさ~~~」

箒「どうした?」

のほほんさん「ほらあの日、食堂で冬休みにみんなでどっかに遊びにいこ~~~って言ってたじゃない?」

簪「ええ」

のほほんさん「その計画のことなんだけど、おりむーも誘って~~~クラスで励ます会する前に~~~…………」

――――――

―――

~その日の深夜~


一夏(白式は最後に俺を救ってくれた)

一夏(戦いだけじゃない。俺の心の問題まで見抜いて、励ましてくれたんだ)


―――私なんかなくても、一夏は頑張ってたって、頑張れるって信じてる


一夏(白式……俺、もっと頑張るよ。もしかしたらおまえのコアを使った新しいISで、もう一度会えるかも知れないもんな……)

一夏(……いや、会うことだけを考えちゃダメだな。自分にできることを考えて、前に進んでいかないと。それが白式に応えることになるから)

一夏(……ん? 窓が開いてる?)

フワァ……

一夏(誰かいる? 逆光でよく見えないけど、この雰囲気は……)


「やあいっくん。お加減いかが?」

一夏「束さん……!?」

束「意識は取り戻してるみたいだね。でも、眠らなくて良いのかな?」

一夏「なぜ、ここに?」

束(本来あるべき左腕が無くなってる。私のせいなんだよね……)

束「今日はいっくんにお教えすることがあって参ったのです」

一夏(何だ……? 声の調子がいつもより大人しい?)

束「さて、いっくん。先日は凄まじい戦いっぷりだったよ。流石はいっくんだね。ちーちゃんにも勝てるんじゃない?」

一夏「えっと……確か束さんはそのとき箒たちといましたよね? どうしてですか?」

束「最後になると思って会いに来たんだよ」

一夏「え?」

束「私が作ったISが暴走して、私の想像を超える事態を引き起こしたからさ」

一夏「!!」

一夏「え、じゃあ……」

束「いっくんの考える通り、すべての無人機乱入事件は束さんが引き金を引いたのです―――驚いたかな?」

一夏「…………」

束「声も出ないかな?」

一夏「嘘でしょう?」

束「ホントの話。何? 私以外が誰かが仕掛けたんだと想像してたのかな?」

一夏「いえ、想像はしてたんです。コアを作れるのは束さんしかいないし……
   亡国機業(ファントムタスク)のことを知ったときは、そいつらがやったんだと思ってました。いや思おうとしてました」

一夏「心のどこかでするはずがないと、無意識にそう考えるのを避けて……」

束「……ごめんね。残酷な現実を突き付けちゃって」

束「でもいっくん。束さんはなんだか疲れちゃったのさ。もうこんな過ちは繰り返さないよ。本当にごめんね……」

一夏「あの、一体どうしたんですか……?」

束「もう箒ちゃんやいっくん、ちーちゃんには関わらないからさ。安心して」

一夏「え!?」

束「これを言いに来ただけ。箒ちゃんにも伝えといて……」

一夏(束さんが無人機を……!? 箒との仲はどうなるんだ……!? そもそも何でそんなことを……! あ!)

一夏「待ってください!!」

束「!」

一夏「束さんはどうしてISを作ろうと思ったんですか!?」

束「どうしてって、そりゃ……」

束(箒ちゃんのために……そして邪魔者がいない理想の世界を作ろうと、願いを込めて……)

束「……そうだね。いっくんをこんな状況に追いやってしまった責任は私にあるもんね。元凶が生まれた理由を知りたがるのも無理ないか」

一夏「違います!!」

束「今更ISを作ったときの絵空事の願いを打ち明けなきゃならないなんてね……え?」

一夏「あの戦いの最後、白式は俺を助けてくれたんです! 戦闘のサポートだけじゃない! 閉じこもっていた俺の背中を押してくれたんだ!」

束「何を言ってるの……」

一夏「あの戦いのとき、束さんが作ったISは操縦者の身体だけじゃなく精神をも助けてくれました。束さんがそう設計したんじゃないですか?」

束「え……? よく分からないなあ。まず、そのときの状況を教えてよ……」

――――――

―――

一夏「……というような感じでした」

束「ふーん……急激に五感が研ぎ澄まされ、敵機の動きの先読みもできるようになったんだ……」

束「ハイパーセンサーがもたらす知覚拡大によって操縦者の感覚が急激に向上するケースは結構あるけど、
  聞いた限りじゃあそれを更に短時間でかつ凌駕する効果を発揮したみたいだね……」

一夏「気を失っているときに見た女騎士は、不具合だと言ってましたけど」

束「束さんもいっくんが死闘を演じてるとこ見てたけど、確かに真っ当な挙動じゃなかったねえ。
  蓄積されていた諸々のデータがダイレクトにアクションへフィードバックでされるようになったということは、ISになったようなものと言えるかも」

束「いっくん、終盤には思考する前に敵の行動に対応してなかった? ああいう動きをできたこと、自分で不思議と思わない?」

一夏「それは……はい。確かに、どうして俺はあんな戦い方ができたんだろう」

束「いっくんはベンジャミン・リベットっていう学者さんを知ってる?」

一夏「誰です? その人……」

束「その人が行った実験の結果によるとね、どうやら人の思考は実際の脳の活動より0.5秒ほど遅れて展開されるらしいんだ。
  言い換えれば思考に先んじて無意識は何をするかの行動を提案しているってこと」

一夏「え!」

束「すべての行動は無意識の段階で起草され、意識はそれを実行するかしないかを決めるだけっていう説だよ。
  人間は自らの思考では何一つ生み出せず、無意識の哀れな御用聞きに過ぎない……この事実を知ってそう悲嘆にくれた人もいるだろうね」


一夏「無意識って……じゃあ……」

束「白式コアの自我が無意識と接続したことで戦闘データの流入を招き、動きを先読みしてのキックなど最適な行動選択をもたらした。
  いっくんの意識には思考と言う形で上ることは無いけど、何をするべきかは白式コアがサジェストに協力してくれたんじゃない?
  もちろんいっくんの無意識もあるから、全ての行動が白式の提案通りって訳ではないだろうけどさ」

一夏「そう説明されると……俺みたいな不勉強は何も言えませんけど……」

束「でもね、これってイレギュラーだよ。いっくんが狂ってもおかしくないんだ。脳に多大な負担が掛かっているはず」

一夏「そうですか……」

束「どうしてこういう不具合が出たんだろう……」

一夏「夢の中であった白いワンピースの少女―――白式は」

一夏「俺の心を理解するためにその行動を取ったんです。そして俺を励ましてこの世界に送り出してくれました」

一夏「束さん。さっきも言いましたけど……白式がそうしたのはあなたがそう作ったからじゃないんですか?」

束「……」

束「私はそんな風に操縦者の意識に積極的に干渉する設計はしてない」

一夏「じゃあ、白式の行動の理由が―――!!」

束「してないって!! 知らないよそんなの!!」

一夏「!!」

一夏(束さん……目を潤ませて、口をまっすぐに閉じて……)

束「そんな気の利いたことなんかしてない……本当に、余計なことしかできなかった。ただただ害悪を垂れ流しただけだった」

一夏「束さん!」

束「……いっくん、白式の生体維持装置に助けられたからって別にISを持ち上げることないよ。
  いっくんを傷つけた無人機を作ったのも私なんだから」

一夏(……違う! 俺はそういうつもりで言ったんじゃない!)

一夏「俺も、ISの意味についてずっと考えてたんです。その過程で気付いたことがあります」

一夏「束さんがISを作らなければ出会えなかった人がたくさんいるってことに。経験できなかったことがたくさんあるってことに」

一夏「織斑一夏だけじゃない。ISが無ければ、IS学園が無ければ結ばれなかった絆を俺は知っています」

束「それが……?」

一夏「束さん。俺、感謝してます。白式は新しい道を指し示してくれたんです。
  それは普通の高校生活を送っていたらまず考えないようなことです」

束(そう言えば、箒ちゃんとその横にいた鷹月って子も似たようなこと言ってたなあ……)

一夏(白式があったから……それを作った束さんがいたから今の俺がある。
   俺はそのことを肯定したい……ISに救われた俺なら、ISを作った束さんの心に訴えかけられるはずだ……)

一夏「束さんはダメだったところばかり見過ぎですよ。そりゃ俺も痛めつけられましたし、襲撃に巻き込まれた人の中には許せないって人もいるかも知れません。
   でも、俺は束さんのことを怒っていません」

束「いっくん……」

一夏「俺は……束さんがISを作ってくれて良かったと思ってますよ。その考えは絶対に変わりません」

一夏「自分のやってきたことを否定された気持ちになっても、右腕を斬り飛ばされてボロボロになるまで追い込まれても、仲の良かった友達に笑われても」

一夏「俺はこの世界が好きです。この学園で出会えた人たちと過ごした日々が、そしてこれからの過ごす日々が愛しく思うんです」

束「い、いっくん……」ジワ…

束「…………」

束(そうだった、私は―――)

束「いっくん、白式が君の精神を救ったのは私がそう設計したからだと言ったね」

一夏「はい」

束「さっき答えたとおり、確立したシステムとしては搭載してない」

束「でも、最初に中核となる部分の設計に組み込んだ理念はあるよ―――『操縦者を守る』というね。それが思わぬ形をとって現われたのかな」

束「インフィニット・ストラトス―――その名前はさ、『護り』の願いを込めて付けたものだったのに」

束「雨を降らせ雷を落とす雲よりはるかな高み、穏やかで安らかな空間。邪魔なものなんて一つもない完璧な青空の世界のことさ」

束「私が欲しかったのはそれ。いっくんと話してたらさ、そんな昔のことが思い出されるんだよ」

一夏「そうなんですか……じゃあ、束さんはやはり幸せに暮らしたかっただけなんですね」

束「うん。意外かも知れないけど、ISは最初は箒ちゃんたちのためだけに作ったものなんだ。少なくとも自分ではそう思ってた」

一夏「自分では、ですか」

束「うん。でも、そういうのは本心じゃなかったと今なら認められる。
  箒ちゃんたちのことをダシにして自分のエゴを押し通したのが真実だろう、ってね」

一夏(エゴ、か……)

一夏「束さん、俺、分かります。人のためだと思ってやったことが、結局は自分のエゴに過ぎなかったと知ったときの気持ち」

束「え……?」

一夏「そんで、現実から強烈なしっぺ返し食らって、激しい後悔に囚われて……確かな支えとなるものが分からなくなるその気持ちも」

束(いっくんってこんな大人っぽい顔してたっけ……?)

一夏「しかし、俺は今まで迷惑を掛けてきたと思っていた人たちから手を伸ばしてもらって、
   案外悲観することばかりじゃないと知って……こうして束さんと話せているんです」

一夏「その人たちのようにうまくできるかどうかはわかりませんけど―――束さんが苦しんでいるなら、助けたいんです!」

束「い、いっくん。き、君は……」

一夏「二度と姿を見せないと言ってましたけど、束さんは本当は箒と仲良くしたいんじゃないですか!?」

一夏「ISを作ったときの気持ちはもう死んでしまったんですか!? 違いますよね!!」

束「え……う、うん」

一夏「なら……まだ、手遅れじゃない!!」

束「……」


―――確かにあなたがISを作らなければ世の中は混乱せず、今のようなことには起きなかったでしょう。
   でも、ISの存在があったからこそ生まれた出会いがあり、かけがえのない仲間を私は手にすることができたのです―――

―――ここでは楽しいことも、悔しいことも、悲しいことも、涙したこともありました。
   あなたが自分の人生を無価値だと言うことは、そんな学園の日々を否定することにもなります―――

束(箒ちゃんも、私にああ言ってくれた……)

束(手遅れじゃない……)ギュッ

一夏「インフィニット・ストラトス。俺、それのことを『女性を守る機械仕掛けの鎧』としか捉えてなかったんです。
   本当は深い願いが込められてた名前だったんですね」

束「ISか。そうだよ。お笑い種だけど……」

束「いっくんも箒ちゃんも白式も、この束さんの目の届くところにいたのに。
  いつの間にか束さんの手を離れて―――いや手を伸ばして貰ったんだけど―――私が気付かなかった可能性を見せつけてくれたよ」

一夏「束さん!」

束「でもね、束さんは結構長く篠ノ之博士やってきたからさ。いっくんたちみたいにそうそう変われないんだよね」

一夏「え……!」

束「さてと、もう帰ろうかな。」

一夏「束さん! そんな、こんなタイミングで……」

束「あんまり長くお邪魔しちゃあいっくんの体に障るからね~~~」

一夏(そんな、まだ話したいことがあるのに……!!)

束(箒ちゃんも、私にああ言ってくれた……)

束(手遅れじゃない……)ギュッ

一夏「インフィニット・ストラトス。俺、それのことを『女性を守る機械仕掛けの鎧』としか捉えてなかったんです。
   本当は深い願いが込められてた名前だったんですね」

束「ISか。そうだよ。お笑い種だけど……」

束「いっくんも箒ちゃんも白式も、この束さんの目の届くところにいたのに。
  いつの間にか束さんの手を離れて―――いや手を伸ばして貰ったんだけど―――私が気付かなかった可能性を見せつけてくれたよ」

一夏「束さん!」

束「でもね、束さんは結構長く篠ノ之博士やってきたからさ。いっくんたちみたいにそうそう変われないんだよね」

一夏「え……!」

束「さてと、もう帰ろうかな。」

一夏「束さん! そんな、こんなタイミングで……」

束「あんまり長くお邪魔しちゃあいっくんの体に障るからね~~~」

一夏(そんな、まだ話したいことがあるのに……!!)

束「いっくん」

一夏「!」

束「今夜はありがとう。そして、本当に今までごめんなさい。ちーちゃんにも謝っとくよ」

一夏「ちょ、ちょっと! また行方を眩ますんですか!?」

束「そんなとこかな~~~♪ じゃあねいっくん! お大事に!」ピョーン

一夏「行っちゃった……」

一夏「…………」

一夏(あの様子じゃあ、もう無人機を俺たちにけしかけて来ることもないだろうけど……)

一夏(箒や家族に対してはどうするんだろう。俺に何かできることがあるのか)

一夏(弱気になっちゃだめだ。白式に恥ずかしくないことを……IS……)

一夏(インフィニット・ストラトス……か。束さんは願いを込めてそう命名したときのことをあまり振り返りたくないみたいだったけど……)

一夏(俺は……)

――――――

―――

注:今更ですがこのSSは弓弦イズル氏の著作「インフィニット・ストラトス」を元に私が創作したものであり、原作と一切関係ありません。
  特に束がISを作ろうと思い立った理由、名前の由来については私が想像したものですので、原作と混同しないようにお願いします。


あと二回の投下で終了予定。「本当に時間が掛かるSSだな」と思ってた人ももう少しだけ付き合ってね

>>609
一夏「自分のやってきたことを否定された気持ちになっても、右腕を斬り飛ばされてボロボロになるまで追い込まれても、仲の良かった友達に笑われても」

の「右腕」は「左腕」に読み替えてください

―――数日後の夜―――

一夏「すーーー……はーーー……」

一夏「……」ドクン……ドクン……

一夏(うわあ、やっぱ俺緊張してるなあ……怖いぜ、電話かけるの……どんな反応が返ってくるか……)

一夏(束さんの言うように、脳の領域が開発されて感覚が鋭敏になったとしても、相手の考えていることは分からないからなあ……)

一夏(今思うと、相互意識干渉(クロッシング・アクセス)の空間でも、完全に相手と理解し合えるわけじゃなかったんだな。
   人間なんて自分の中でも色々意見が入り混じってて当たり前だし、何が本音かも分からない。俺だって自分のことを把握するのに時間が掛かった)

一夏(相手の本当の気持ちが分かったとしても、それが自分の考えに背く場合はどうするんだ? 潰しあうのか? そこからをどうするか、だよな)

一夏(……やっぱり、自分の耳や口を使って、自分の考え方を変えていくしかないんだ)

一夏「かけるか。怖いけど」ピッピッ

一夏(束さんが帰ったあと、決意したこと……この程度の恐怖から逃げだしちゃ、嘘になっちゃうからな)

Prrrr Prrrr Prrrr……… 


一夏「もしもし。弾か?」

「何だよ? 電話なんかして体に障らねえのか?」

一夏「悪い悪い。今ちょっと良いか?」

弾「どうしたんだ」

一夏「実はさあ、俺が退院したら皆が快気祝いを兼ねてパーティー開いてくれるらしいんだ」

弾「へえ。まあ、良かったじゃねえか」

一夏(よし、ここまでいい感じだ!)

一夏「そ、そんでさあ、弾。おまえも来ないか?」

弾「へ?」

一夏「ほら、周りが皆女の子なのに男が俺一人っていうのも場が持たないしさあ」

弾「場が持たないもなにもおまえの日常の光景じゃねえか、それ」

一夏(いかん。まずった。もう少し想定会話練ってからかければ良かった……)

一夏「わ、分かってるけど、俺の誕生日のときみたいにどうかなと思ってよ」

弾「なあ」

一夏「虚さんも来てくれるみたいなんだ。おまえも来たら喜んでくれると思うんだ。ほら、二人でこっそり話してただろ?」

弾「一夏……おまえ、マジで言ってんのか?」

一夏「え?」

弾「俺はおまえの考えを否定したし、今だってその意見は変わってないんだぜ?」

一夏「……!」

一夏「……ああ、分かってるよ。おまえは自分の考えを持ったままでいいし、俺だって自分の考えを押し付けるつもりはない」

弾「じゃあどうして」

一夏「んー、俺もベッドに横たわりながら結構考えたんだけどよ、相談に行った次のときおまえに言われたことは結構当てはまってるなって思ったんだ」

弾「あ?」

一夏「なんつーか、俺としては別におまえを恨んだりしてないんだ。ごめんな、いきなり殴りかかっちまって」

弾「あ、いや……」

一夏「俺の見舞いにもわざわざ来てもらったからよ、声掛けといた方が良いかなって」

弾(俺は俺で自分の考えを見つめなおしたんだよな……うーん……)

一夏「きっとおまえだって思うところがあったからああいう厳しい言い方になったんだろうし……」

弾(一夏は一夏の事情があったってことは、もう俺も知ってる……でも)

一夏「蘭にも誘いの連絡するつもりでさ、付き添いがてらどうかな」

弾「……まあ、行くかどうかわからねえけど……蘭に同行してやるくらいならいいかな」

一夏「そうか!」

弾「でも、本当に行くかどうか分かんねえぞ」

一夏「お、おお」

弾「あんまり期待すんなよ………」

一夏「……! おう。待ってるぜ! 虚さんにも一応伝えとくわ!」

弾「ああ。じゃ……」ピッ



一夏「…………」

一夏「ふう。緊張した……でも、誘えて良かった」

一夏(ここに来て外国の女の子たちとも絆ができたけど……昔からの友達でも声かけるのにこれほど苦労するようになることもあるんだな。不思議なもんだ)

一夏(……次は数馬に電話しよう。怖いけど、勇気を出して……)

――――――

―――

一夏「…………」

箒(白式を失ったことについて、今私が何を言っても気休めにもならないだろうな……)

箒「し、しかし意外だったぞ一夏。おまえが五反田を誘うなど」

一夏「そうか?」

箒「一緒に見舞いに行ったとき、五反田はおまえに冷たい態度を取っていたし、おまえもおまえで五反田を恐れているように見えたからな」

一夏「…………うん。もう話した方がいいか」

一夏「俺、皆から避けられているとき、どうしたら良いかわからなくなって弾に相談しに行ったんだよ」

箒「へえ……」

一夏「そのとき俺のやってきたことは間違いだと指摘されて結構堪えちゃってさ。そのときかな。あいつに対してちょっと苦手意識が芽生えたのは」

箒「おまえにそんなことを……?」

一夏「あっ、でも、あいつはあいつで俺のことを心配してくれてたんだ。
   現実的なアドバイスをくれたし、俺の心情を見抜いて自分を見つめなおすきっかけも与えてくれていた」

一夏「それも、今なら理解できる。確かにきついことも言われたけど、そのこともまとめて受け入れられるようになったよ」

箒「否定されたことで恨んではいないのか?」

一夏「うん。俺も時間をおいて自分の考えを大分整理できたし、向こうも俺のある部分は認めてくれてる感じだったからさ」

箒「……そうなのか」

一夏「でも不思議なもんで、あの日、二体の無人機相手に俺と白式だけで立ち向かったときより、
   昔の友達に誘いの電話を掛けるときの方がよっぽど怖かったんだ」

箒「え?」

一夏「箒も驚くだろ? 変わってるよな、俺」

箒「まあ……」

一夏「自分で自分を把握し切れていないっていうか……まだまだだな俺は……あっ」

一夏「そうだ。おまえが俺を無視してた理由だけはまだ知らされてなかったな」

箒「ん?」

一夏「俺さ、専用機持ちの連中から総スルー食らったことがあったんだ。
   あとからそれぞれの事情は聞いたんだが、おまえが仲立ちするまであいつらはお互いギスギスしてたらしいな」
   
箒「ああ、あのときは座りの悪い思いをしたぞ……
  あいつらがあんな風にぶつかり合う様を見るのは二度とごめんだ」

一夏「俺だってそうさ。おまえがいてくれたから、皆立ち直れたんだ。ありがとう」

一夏「で、さ……ちょっと気になるんだけど……
   もし差し支えなければ、おまえが俺に対して冷たかった訳を聞かせてくれないか?」

箒「へ?」ドキッ

一夏「ほら、おまえだって俺に『当分話しかけないでくれ』と言ってたじゃないか。 その言葉の裏が分からなくてよ」

箒「私の事情か……ううむ…………」

箒「っ…………」カアァァァ

一夏「あ、嫌ならいいからな!? すまんすまん」

箒(もう隠し事はしたくない……)

箒「私はな、よく出遅れてしまう方だ」

一夏「出遅れる?」

箒「最初の内はリードしてるんだが、それに油断して他者の追い上げを簡単に許してしまう。
  なんとかしようと焦るうちに自分に足りないものが次々に自覚させられる……!」

一夏(ISの実力のことか……?)

箒「周りは努力の末にそれぞれの地位を勝ち取った者ばかりで、私なんかが太刀打ちできないのではないかという思いがあった。
  でも、負けたくはなかった。それがまず一つ」

箒「私は機体を姉から貰うなど、どうも優遇されている。そ、そのため一般生徒やセシリアたちに申し訳ない気持ちが湧いてきた。
  つまり、ますます自分自身の価値について頭を悩ませていたというわけだ。それが二つ目」

一夏(自分自身の価値で悩んでいたって……俺と同じじゃねえか……)

箒「この二つの思いから、一夏に依存してばかりでは駄目だと考えた。
  おまえに対して距離を置いて、自分を見つめ直そう……あのときの私はそう考えていたよ」

一夏「ふーん……」

箒「こ、こほん。それでだ」

箒「自分にできることを、自分が何をしたいかを考えて……たどり着いたのが、おまえだ」

一夏「お、俺!?」ドキッ

箒「ん? 何故頬を赤らめているのだ?」

一夏「い、いや何でもねえ! それより、俺にたどり着いたってどういうことだよ?」

箒「簡単だ。おまえのやり方を学べば、皆に肩を並べられる人間になれるかもしれないと……思ったわけだ……」

一夏「…………」

箒(ううむ……本人の前で告白するのはやはり恥ずかしいな……)カアァァァ

一夏「すまん……俺のやり方に学ぶところなんかあったっけ……?
   ISの操縦はもっとうまい人がいるし、特に要領が良い訳でもねえし……」

箒「…………さっき自分で言っていたが……本当に己のことにすら鈍いようだ、おまえは」

一夏「へ?」

箒「おまえは『境界のない優しさ』を持っている。誰に対しても分け隔てなく与えられる優しさがあるじゃないか」

一夏「…………!」

箒「そして納得がいかないときは毅然と立ち向かう勇気も備えている。皆がおまえに惹かれたのはそこにあるんだぞ?」

一夏「っ…………」

箒「どうした?……あっ」

箒「す、すまん……おまえはそれで苦しんでいたんだったな。自分の価値を証明するために誰をも助けようとして……」

箒「その考えに縋った挙句、自分をどんどん追い込んで……」

一夏「違うよ、箒。今黙ってたのは落ち込んでいたためじゃない」

一夏「おまえがさ……俺のそういう部分を認めてくれていたことがすごく嬉しいんだよ」

一夏「何て言えばいいんだろうな。そういう風に俺を見てくれて、真似してくれて……そんで皆の悩みを解消して、救い回ってくれた。
   そのことが俺の存在意義みたいなものをこの上なく保障してくれている気がしてさ……めちゃくちゃ感激してるんだ……!」

箒「い、一夏……声が震えているぞ?」

一夏「で、さ……おまえはセシリアたちだけじゃなく、俺にまで手を差し伸べてくれたんだ。
   まさか自分がここまで苦しむとは思ってなかったし、そういうときに誰かに助けてもらえるなんて想像したこともなかった」

一夏「無人機との戦闘で学園の端に落下したとき、おまえに声を掛けて貰って、俺はようやく赦された気持ちになった。
   あのまま続けていたらいつか潰れてたよ……ぞっとする」

箒「……」


ギュッ


一夏「ど、どうしたよ? 急に手なんか握って……」



箒「私がいる」

一夏「?」

箒「あのとき言ったように、おまえの道を行くのはおまえ一人じゃない。あいつらの幸せは今や私の願いでもある」

一夏「…………そうだったな」

箒「おまえだって、挫けもすればつまづきもする一人の人間だ。それを理解しないとダメだぞ?」

一夏「そうだな。今回の事件―――うん、大事件と言っていいだろう、それで身に染みたよ」

箒「でも大丈夫だ! 私がおまえを助けてやるから!」

一夏「ああ」

箒(一夏の手は大きいな……辛いときは誰かに伸ばしていいんだぞ?)

一夏(箒の手ってやっぱり女の子だけあってちっちゃいな。よくこんな手で剣をあそこまで操れるもんだ)

一夏「……」

箒「……どうも歪だな。私たちは」

一夏「いびつ……?」

箒「思えばまったく逆の話だ。人を引き寄せ、結びつけるお前が敵を断ち切る『零落白夜』を振るい、
  頑固者で好んで人と関わろうとしない私が仲間に力を与える『絢爛舞踏』を授かってしまった」

箒「つい最近……ふと夢想することがあったんだ。おまえと私……身に纏うISが逆だった方がそれぞれに合っていたんじゃないか、と……
  機体の特質や能力が反対だった方がうまく行っていたのではと」

一夏「俺が『絢爛舞踏』使って箒が『零落白夜』をか。ははは、確かにそっちのが合ってたかもな……」

箒「でもな。あの白銀の剣はやはりおまえにこそふさわしかったと思う」

箒「おまえは持ち前の図太さで皆の悩みや孤独などの心の壁を崩して回ったからな」

一夏「へ……?」

箒「人が抱える痛みや恐れを知り、受け止めるために、自分からシャルロットたちに触れ合おうとしてきたじゃないか」

一夏「……!」

一夏「そうだな。でもそれを言うなら、絢爛舞踏だって箒が使ってこそだと思うぜ」

箒「え?」

一夏「俺、箒に何度力を貰ったか分からねえもん。セシリアたちだって、箒に励まされて仲間の輪を再び繋いだんだ」

一夏「今このときだって、おまえは俺を支えてくれてる」

箒「え……ど……どういたしまして……」カアァァァァ

一夏「ははっ、何だよその言い方」

箒「うるさいっ!! 普段朴念仁な癖に急にそんなセリフを言うからだろう!」

一夏「朴念仁か……そうだ箒、俺が鈍感だった原因には、おまえが関係してると思うんだ」

箒「わ、私がか?」

一夏「そう。俺さ……おまえがいなくなった数日後に道場に行って、稽古のときに使ってた井戸の縁(へり)に一人で腰掛けたんだ」

一夏「転校の知らせを聞いたときは事実を把握するのに精いっぱいで、どこか現実感がなくて……
   気持ちを整理するためにこっそり忍び込んだんだよ」

一夏「そのときまでは自分がどういう気持ちになっていたのか、確かめられずにいた。
   ただ悲しみだとか無力感だとかそういうもんじゃなかった気がする。
   胸が空っぽになった感触があって、その状態をどう捉えればいいのか分かりかねてた……うん。そうだった」

箒(一夏……?)

一夏「で、座りながら周りの景色を見渡すと……おまえと一緒に稽古したときの記憶がいくつも写真みたいに浮かび上がってきてさ」

一夏「汗を拭きながら箒と一緒に休憩したこと、俺が枝に引っかけて作った傷に箒が軟膏塗ってくれたこと、
   焼けつくような陽が差す夏の日、木陰でまどろんでた俺に箒がタオルを頭に載せてくれたこと……」

一夏「一通りおまえとの思い出を振り返ってみたのさ。そうするとじわじわと実感が沸いてきた。
   いつも当たり前のように傍にいた箒が、そばにいないことに」

箒「……!」

一夏「千冬姉から自分の周りにいた人のことくらい覚えておけって言われてたけどさ、俺はずっとその空白感を抱いた日を振り返ろうとしなかった」

一夏「子供ながらに親がいないことを寂しく思ってたんだ。でも箒はいつもそばにいた」

箒「え……?」

一夏「……何で鈍感だと言われるのか、自分でも分からなかった」

一夏「でもやっと分かったぜ。箒を失ったショックから、俺は誰かと深く関わることを……ふっと避けるようになったんだ」

一夏「その癖一人は嫌だっていう思いも強かったから、表は皆と仲良くしてよ。他人を近づけることをどこか怖がってたんだよ」

箒「…………」

一夏「なんてことはねえんだ。俺に八方美人な所があったのは、ただ自分の周りから知り合った人たちが消えていくのが嫌だったからさ」

箒「一夏」

一夏「で、いつの間にか自分が誰かと深い付き合いにならないようにしていた理由を少しずつ忘れていって……
   気が付くと、人の気持ちに向き合わない生き方と、頑固で狭い視野だけが残った」

一夏「俺は中学時代誘拐事件に巻き込まれたことがあって、そのとき千冬姉に助けられただろ。
   そういう経験から人を守ってみたいと考えるようになった……と思ってた」

一夏「それも本当だけど、もしかしたら箒との別れを経験したことも動機に繋がってるのかもな。
   寂しい、苦しい思いをしている人を見過ごすことができないんだよ」

箒「特に、自分と同じように、親しい人間との関係が無造作に断ち切られた人には……か?」

一夏「うん」

箒「……私だっておまえとの思い出を忘れないように、離れ離れになっても剣道を続けていた。それが唯一の縁(よすが)のように思えたんだ」

箒「今年の春、IS学園でおまえと再会することができた……
  そして今一度、想い続けていればやがて実現するという話を信じてもいいだろう?」

一夏「え……」

箒(一夏……おまえは自分の考えを信じたくて、ずっと笑顔の下に不安と懊悩を隠していたんだな)

箒(おまえが皆を助けようとするのは、私が剣を振り続けたことと理由を同じくするのだと分かった……)

箒(愚直なまでに私たちの助けになろうとすることで、繋がった関係を維持しようと考えたのか? 
  それしかなかったから……己の価値を、絆を、自分を構成するものを消さない方法を他に思いつけなかったのか)

箒「本当に歪だな。こんなに近かったのに、お互いの深い部分を今まで知らなかった」

一夏「でも、こうも言えると思う。『遠く離れても年を取っても、深いところは似た者同士』って」

箒「……!?」ドキッ

一夏「箒、おまえは俺のことをつまづきもする、普通の人間だって教えてくれたよな」

箒「あ、ああ」

一夏「じゃあさ。俺も人並みなことしても良いんだよな?」

箒「え……?」

一夏(言え! 言うんだ……小学生の頃から心の奥に閉じ込めてた思いを解放するんだ!)ドクン……ドクン……

一夏「箒!」

箒「な、何だ……!?」ドキ……ドキ……!

一夏「俺はおまえのことが――」


♪ブラッシュアップ! ユウキーキョーウモー

一夏「!」

箒「!」

一夏「あ……」

箒「す、すまん……電話だ」

一夏(くそ! このタイミングで……)

ピッ

箒「もしもし……」

「こらー! 何やってんのよ! 早く戻って来なさーい!」

一夏「げっ!」

箒「やはり鈴たちからか……!」

「何をしているんですの!!」

「どうした! 客人を待たせるものではないぞ!」

「皆もう集まってて料理もできてるんだからね!」

「これ以上心配かけないで……!」

チョットカワッテ! オリム~ドシタノ~? ハヤクカエッテコイヨ!
チェルシーサン,コノアトオチャデモ カエッッタラセッキョウダ!

ギャーギャー!! ワーワー!!

一夏「…………」

箒「ははは……ついつい話し込んでしまったからな……」

一夏「そうだよな。皆に悪いことしちゃったなあ」

箒「急ごう! 走るぞ!」ダッ!

一夏「おお!」ダッ!



一夏(あーあ……もう少しで言えそうだったのに……)


タッタッタッタッ…………

【織斑宅近くの路地裏】

束「いっくん。箒ちゃん」

束「今日はパーティーらしいね。何度か箒ちゃんから電話あったけど、その連絡のためにくれたのかな」

束「と言っても、怖さと申し訳なさで取れなかったんだけどさ……それなのに、何故か束さんは今、あなたたちの近くに来ちゃったのです」


束は脇に抱えた細長い箱を見やる。


束(この機械製の義手を渡したい。私がエゴで生み出したISと同じ道を歩まないように、
 そして、いっくんが認めてくれたISのようになれるように願って作ったこの義手を)

束(ほとんど悩まず作れて、完成まではスムーズに行ったのになあ。渡す段になると、怖気づいちゃうね……)

束(私のせいで世界中が混乱したし、箒ちゃんもいっくんも人生変えられちゃったし、特にいっくんは左腕を失うという大きなダメージを負った)

束(今更どの面下げて会いに来たんだって話だよね……でも……)

束(…………あの日の夜、病院でいっくんが私に訴えてきた言葉……どうしても頭から離れないんだよ)

束(私も、まだやり直せると……まだ、手遅れじゃないと、そう信じたい……)

大変おまたせして申し訳ありませんでした

どれだけの人が読んでくれているか分かりませんが、次の投下で完結予定ですのでよろしくお願いします

行くよー

【織斑宅】

鈴「たくっ! 何やってんだか」

セシリア「ゲストを待たせては礼儀知らずとそしられますわよ!」

簪「料理も用意したのにね……」

ラウラ「ふん、五反田蘭よ。レクチャーの続きだ。ナイフ格闘は近接時の選択肢として有力になってくるもので、狭い屋内で銃より迅速に行動を起こせるものであり……」

蘭(ひええっ!! 先輩に話を聞いてたらかなりノッてきちゃってるよ~~~!)

シャル「ラウラ、お菓子食べる? バッグにチョコ入れてきたんだ。あーん」

ラウラ「あーん……むぐむぐ……ふわぁ……」

楯無「可愛い~~~!!」

のほほんさん「デュッちー、私もあーん!! あーん!!」

千冬「……」

弾(さっきから千冬さん、表情が固いな……)

千冬「五反田」

弾「……何すか?」

千冬「一夏は、私をどう思ってるのだろうな」

弾「急にどうしたんすか……?」

千冬「今回の件で私の中でいかに一夏が大きな存在だったか痛感してな。
   あいつは苦しいとき、何もしてやれなかった私に不信感を抱いているのではないだろうかと……そう思ってな」

弾「うーん……千冬さんもポジション的に難しいところにいるってことはあいつも分かってるでしょうよ。
  何もしてやれなかったっていうのも、聞いたところによると先の襲撃事件は戦闘教員用のISが動作しなかったからだって―――」

千冬「いや、あの事件のとき助けてやれなかったことだけじゃないんだ。もちろんそれもあるが」

弾「?」

千冬「篠ノ之たちから一夏の戦闘時の様子を聞いてみると、およそ尋常じゃない闘志で敵に食らいついていたらしい。
   左腕を切断され雪羅を失い、雪片弐型を折られても、己の実力を凌駕する二体の無人機相手にまだ戦いを続行していた」

千冬「一夏の活躍があったから学園はほとんど無事で済んだ。それを知ったとき、弟の武勇を讃えてやる気にもなった」

弾「まあ、腐っても千冬さんの弟ですもんね。戦いの才能をいくらかでも持っていたってことでしょ」

千冬「だがな、一夏の命があったことを喜ぶ半面、いつのまにか一夏がそれほどの精神を備えていたことにショックを受けたんだ」

弾「……どういうことです?」

千冬「私は弟の変化をほとんど知らなかったのだと、学園に対してそこまでの想いを持っていたことに気付いていなかったとな。
   自分の手を離れて、少しずつ理解が及ばない存在になっていくことに、少なからず動揺したというか……」

弾「あー……まあ、年取ってくるとそうなるもんじゃないすか? 俺だって妹の考えてることよく分からないときありますし。
  それに加えて、千冬さんは学園でも重要な位置にいるそうじゃないですか。忙しくてあまり気を回せなかったからそう考えてしまうだけですよ」

千冬「確かに、事件の前に学園の防衛力を上げるべく戦闘教員の錬度強化や有事における避難プランの改善などの案件も重なっていたがな。
   単純に年齢の問題なら構わんのだが……」

弾「ま、一夏は千冬さんが心配するほど変わってないと思いますよ。
  実際に取った行動はどうあれ、守るべきものを守るために動いたという意味では、千冬さんにとって喜ばしい方向に進んでると言えますし」

千冬「そうか」

弾「まだ自分を納得させられないなら、今日からでも一夏に少しづつでも距離を縮めていけばいいじゃないんすか?
  ああ、でもこっちから声掛けたところで、あいつきっと千冬さんがここまで心配してくれてることに気付かないで、また無神経な返答するんじゃ―――」

千冬「ははは、かもな……五反田、悪かったな。私のくだらない話に付き合わせてしまって」

弾「あいつ、同じ男の俺から見てもよく分からんとこありますもん。姉とはいえ千冬さんが把握しきれないのもおかしくないですって」

千冬「ううむ……」

弾(くそっ……なんで俺があいつのフォローしなくちゃいけねえんだ……単に付き合いで来ただけなのに)

弾(一夏の奴、誘ってくるとき蘭と虚さんを持ち出してきやがったからな……包囲されたら逃げられねえだろ……)

数馬「へえ~~~IS学園ってそんな感じなんだ。俺らの行ってるような学校とは別世界だね」

数馬(よーし! 前の一夏の誕生日のときはロクに女の子とお話出来なかったけど、今回はいい感じだぜ!)

鷹月「大変だけど楽しいわよ。生徒会長もユニークな企画で学園を盛り上げようとしてくれるし」

数馬「IS学園の生徒会長ってさぞガチガチの堅物なんだろうと思ってたけど、割と理解あるんだ~~良いな~~いたずら猫っぽくて可愛いしなあ~~~」

鷹月「振り回されるときもあるけどね……」ボソッ

弾(可愛い子目の前にして鼻息荒くしてる数馬を見張っとかなきゃいけねえしな……虚さんにアプローチ掛けないでいる保証もないから)

数馬「おーい弾、さっきから元気ねえじゃねえか。このシチュでテンション上がらねえって何事だよ」

弾「別に何でもねえよ」

数馬「シけさせるようなツラすんなよ~~~」

弾(こいつ、俺とバンドの件で衝突したこと忘れてんのか? いや、一夏と違ってハナからそんなことはどうでもいいと考えてるっぽいな……)

鷹月「確かに五反田くん、あんまり皆と喋らないね」

鈴「そーそー。お腹でも痛いの? らしくないじゃない。ちょっと雰囲気変わってるし、一夏のお見舞いのときも変なこと言ってたし」

弾「おまえは見た目も中身も変わってねえな……」

鈴「なっ! どーゆー意味よそれ!!」

鷹月「……ねえ五反田くん、織斑くんってどんな子だったの?」

弾「え、それは鈴たちから聞いて知ってるんじゃ」

鷹月「男友達であるあなたからも聞きたいのよ。御手洗くんはよく話してくれるんだけどね」

数馬「まーあいつは結構向こう見ずなやつですよ。あまり喜怒哀楽が激しくないんだけど、変なときに爆発するんです。な、弾?」

弾「うーん……そうだな」

虚「弾くん、私に話してくれたことを皆にも教えてあげたら?」 

弾「……」

虚「ほら、デュノアさんたちが色々不安を抱えていたときに、あなたの元に織斑くんが相談に来たって言ってたじゃない」

鷹月「ふーん、そんなことが……」

鈴「へ~~一夏はなんて言ってたの?」

シャル「ん? 何の話してるの?」

虚「ほら、弾くん」

弾「……」


弾「篠ノ之さんたちが悩みを抱えてて、そのために冷たい態度をとられてしまっても……あいつはまだ未練がましく、皆の助けになろうとしました」

簪「……?」

弾「一夏の皆さんへの接し方について、俺は間違ってるんじゃないかって言ったら、あいつは認めようとしなかったんです」

弾「相談を持ち掛けてきてから次に俺と会ったとき、あいつは皆が手を取り合って助け合う、そういう輪を広げたいって言ってました」

鈴「……一夏が……」

セシリア「助け合いの輪を広げる、ですか……」

シャル「一夏が死にかけるまで追い込まれても戦い続けていたのは、その思いの為だったのかな……」

弾「俺はそんな夢を抱くあいつを受け入れられなかったんです」

弾「打ち明けられたとき、きつい言い方ではね付けて、そんで口喧嘩から殴り合いになって……
  今でも認められないまま、この場にいるんです」

数馬(そんなの初耳だ……)

蘭「お兄! 一夏さんにそんなことしたの!? バカッ!」

弾「ああ。俺はおまえの夢はごめんだと、言い切っちまったよ」

簪「五反田弾……くん」

楯無「…………」ジロッ

弾「すんません、俺、やっぱこの場にいられそうにないです。気に食わないにしろ、一夏は自分の守りたい世界の為に頑張り抜いたのに、
  冷たい言葉を投げかけた俺があいつとのうのうとパーティーを楽しむなんてできません。皆さんからしても邪魔でしょうし」スクッ

弾「失礼します。一夏には最初からいなかったと言っておいてください」

ラウラ「おい五反田!」



虚「待って」

弾「虚さん?」

虚「弾くん、私はすべての人間が同じような考え方をした方が良いとは思わないわ。私は一夏くんの夢を信じたい立場を採るけど、
  それを信じられないあなたの感覚も無碍にしない」

弾「……俺はあいつの夢を蹴り飛ばしたんです。実際に殴り合いさえしたんですよ? みっともなく膝を折ったのは俺の方でしたがね」

虚「彼の方もあなたとの仲にヒビが入ったと感じたかも知れないわね。
  でも、今日のパーティーに電話で誘いを掛けたのは他ならぬ一夏くんなんでしょう?」

弾「ええ。なんでそんなことができるのか、理解に苦しみましたけどね」

虚「きっと意見を異にするあなたを受け入れようとしてるのよ。一夏くんはあなたと口論になったときのことを蒸し返してきた? 
  どちらの考えが正しかったかということを話題にしてきた?」

弾「いえ、してきませんでしたけど」

虚「先の無人機二機との交戦を見てみるに、彼は本当にIS学園の皆を、そして自分の信念を強く守ろうとしていた様よ。
  そこにはただならぬ想いがあったんだと思う」

弾「……でしょうね」」

虚「でもね、弾くんと一夏くんの抱いている望みに大きな隔たりがあったとしても、二人は友達でありつづけられるはずよ。
  この二つは決して両立できないわけではないわ」

弾「…………無理ですよ。もう」

楯無「五反田弾くん、そもそもあなたが一夏くんのことを心底気に入らないのなら、今日ここに来ていないんじゃないの?」

弾「!」

虚「ねえ、一夏くんの行動と夢を間違ってるって言ったのは、彼のことを憎んでたから?」

弾「それは……そうです」

虚「目が泳いでるわよ」

弾「げ……!」

弾(確かに……一夏の夢を実現できっこないって言ったのは、自分なりにあいつを心配してのことだった……)

虚「違うみたいね」

弾「でも、一夏のことを妬んでいたのも事実です。確かに友達だった頃もありましたから、それなりに情けみたいな感情も残ってて」

虚「今はどう?」

弾「…………正直、気持ちの整理がついていません。侮蔑の感情もありますが、一方で心配する気持ちも無いわけではないです。
  未知の強敵に腕を斬られても戦い抜くという、自分にできそうもないことをしたことについては尊敬と嫉妬の念が入り混じってます」

蘭(お兄、そんなことを思って……)

虚「色々渦巻いてて当たり前よ。みんなそうなんだから」

弾「そうですね……虚さんには敵わないです。ホント……」

虚「だからさ、ごちゃごちゃした気持ちを無理に抑えつけるより、一度彼と会ってからこれからの付き合いを考えていけばいいんじゃないかしら?」

数馬「そうだぜ弾! おまえ考えすぎ! そんな繊細なヤツじゃなかったろ~~~?」

弾「数馬」

弾(こいつは俺が「私設・楽器を弾けるようになりたい同好会」を強引に解散しても、今こんな風にお気楽に笑いかけて来てるんだよな……)



千冬「五反田、あいつの姉として頼みたい。もう少しだけ一夏の面倒を見てやってくれんか」



弾「千冬さん……!?」

千冬「不躾な願いで恐縮だが。私がロクに目を掛けてやれなかった分、一夏の中では友達としてのおまえの存在は小さくは無かったと思うのでな」

千冬「だから、あいつもこいつらとのことで困ったとき相談に行ったのだろう」

弾「……そうすかね」

鈴「ま、あんたの好きにすりゃ良いと思うけど。ただ、もう来てるのに途中で帰るってのも優柔不断っぽくてみっともないわね」ケラケラ

蘭「そうそう。一夏さんを馬鹿にしたのに今日ここに来てる時点でダサすぎるんだから、せめてこれ以上の恥の上塗りはやめといたら?」

弾「蘭……」

虚「どうする?」ニコッ

弾(そうだな。もうどのみち外聞もへったくれもねえよなあ……でも……)

弾「…………」

蘭(もう。メンドクサイ男になったわね)

チョンチョン

弾「ん?」

のほほんさん「ごったん、スイートポテト食べる~~~? 私の手作りだよ~~~」ニコニコ

虚「ちょっと本音。今じゃなきゃダメ?」

弾「スイートポテト、か」

数馬「おお! うまそう! 一個貰っていい?」

のほほんさん「どぞ~~!」

数馬「あざっす!…………うめえ! 甘みが深い!」

鷹月「あら。おいしそうね、作り方教えてもらおうかしら」

のほほんさん「いいよ~~~たかちーにも教えたげる~~~そんでわたしに作ってもらう~~~」

弾「…………」

シャル「僕も一つ……おお、これは!」

セシリア「確かに、素朴で素晴らしい味わいですわね。わたくしも挑戦してみましょう」

のほほんさん「お姉ちゃんもどう?」ズイッ

虚「今は弾くんのことで話してるでしょ、もう……」


スッ


虚「ん……?」

弾「うまいっすね、これ」モグモグ

蘭「お兄……」

弾「あいつ、早く戻ってこないっすかね。篠ノ之さんも付き合わされて大変だろうな」

数馬「おい、弾」

弾「数馬、調子に乗って食い過ぎんなよ。まだ本番の御馳走があるんだからな」

虚「……残る気になったの?」

弾「考えてみたら、後日あいつの方から俺んとこの食堂に来る可能性もありますし。それなら今帰っても仕方ない」

弾「なら、俺も避けるんじゃなくいっそ腹くくって相対した方がマシかな、って思いまして」

虚「……そう」

弾「確かに考え過ぎたのかも知れないですね」

数馬「そうだって! 俺みたいにもっと遊んだ方がいいぞー」

ラウラ「鬱屈した感情はときに暴力に変わることがある。気を付けることだな」

弾「すみません、皆さん。せっかくのパーティーなのに変な空気にして」

弾「まだもう少しだけ迷惑を掛けさせてくださいね。俺も、やっぱり一夏ともう少し話してみたいんです」

シャル「いいよいいよ」

鈴「はっ。まー好きにすれば」

鷹月「でも、それにしても一夏くんたち遅いわね」

――――――

―――

【織斑家への道】


タッタッタッタッタッ……


一夏「箒、早くするんだ!」

箒「ああ!」

箒(ん? この道……)ピタッ

一夏「どうした?……ああ! 信号が赤に変わった!」

箒「…………確か、ここだ。標識や柿の樹の位置からして間違いない………」

一夏「急に立ち止まって……何かあったのか?」

箒「いや、ここの場所のこと、何か思い出すような……?」

一夏「ん?」

箒(私がこの町を去る前に、確かここで―――)

一夏「…………」

一夏「どうしたんだよ? もうちょいで青に変わるぞ」

箒「む、済まない」

箒(一夏は何も思い出さない、か。私の中で妙に記憶に残っているだけの話だったか)

一夏「おーし変わった! 急ぐぞ!」ダッ!

箒「うむ!」ダッ!

一夏「箒」タッタッタッタッタッ

箒「何だ」タッタッタッタッタッ


一夏「…………また、古(いにしえ)を稽(かんがえ)ような」


箒「! おい、一夏、その言葉は――――――!」


タッタッタッタッタッタッタッ…………

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

一夏(束さん)

一夏(あなたが作り出したISは、名前に込められた願いを実現できなかったかも知れません)

一夏(それは世界中に大きな混乱を生み、多くの悲劇を生み出して、妹との絆も断ち切りそうになった)

一夏(でも、IS学園で過ごした俺はISが紡いだ出会いがあったことを知っています。傷ついた少女たちが、かけがえのない仲間を手に入れたことも)

一夏(俺は皆と歩き続けたいと思う。俺の考えに反対し、意見を異にする人たちのことも、理解できるよう、努力したい)

一夏(この絆の円を、どこまでも続く空のように広げていこう―――彼女たちに出会い、白式と共に歩んできた俺は、そんな大それた夢を持っています)

一夏(いつか―――束さんがISを作ってよかったと思える日が来るように)

一夏(雲一つない、ずっと晴れたままの空間。永遠の安息。束さんが昔に期待した世界とはちょっと違うけど―――)

一夏(そんな世界なら、きっと束さんのことも受け止められるから―――
   これから俺が作っていきたい人と人の繋がりの輪のことを、願いを込めて自分はこう呼ぼうと思っています)



一夏「インフィニット・ストラトス」

――――――

―――

ttp://www.youtube.com/watch?v=A8YOy5lwmOs

~プロローグ~

―――7年前(一夏と箒が別れる少し前)―――

【篠ノ之道場への道】


タッタッタッタッタッ……


一夏「はあ……はあ……」タッタッタ……

一夏(やべー、練習の時間に遅れちまう!! 箒にまた睨まれるー!!)

一夏(まさか、朝練したあとに寝っ転がって曇り空を眺めてたら、そのまま眠り込んじまったなんて言えねえ!)

一夏「早く早く………あっ!」


箒「はぁはぁ……む!?」


一夏「箒!」

箒「一夏……! なぜこんなところに!?」

一夏「箒こそ……もう、とっくに道場で待ってるもんだと」

箒「……むぅ」

一夏「な、何かあったのか?」

箒「いや、何もない!」

一夏「じゃあどうして」

箒「う、うるさい! お前の方はどうなんだ!?」

一夏「俺は……寝坊して」

箒「ばかもの! たるんでいるぞ! 曇っていて暗かったからなどと言っても弁明にはならんぞ!」

一夏「うっ」

箒「もっと真剣にやれ! この前の練習試合でも剣の握りが乱れていたことを注意されていただろう!」

一夏「すまん……」

一夏(自分でも反省して朝練したのになあ……それが裏目に出ちまったか……)

箒「ふん!」

箒(…………またきつく当たってしまった)

箒(私だって、一夏に教えられるように稽古の確認と予習に夢中になってしまって……来る時間が遅くなってしまったのに)

一夏「箒……」

箒「む?」

一夏「ごめんな。こんなギリギリになっちまって……」

箒「いや、今日は私もおまえと同じく早めに来れなかったわけであるし……!」アタフタ

一夏「うーん……俺はまだまだ間が抜けてるとこあるけど、箒はしっかりしてるし」

箒「まあそうだな。妙なところで意地っ張りになるところも見られる。大きな間違いを起こす前に直した方がいいぞ」

箒(! また憎まれ口を叩いてしまった……! 意地っ張りなのは自分だってそうじゃないか!)

一夏「ははは。そうだな、箒。じゃあ……」ドキドキ

箒「何だ?」

一夏「えっと! その、さ……!」ドキドキ

箒(何だ、何を言いかねている? も、もしかして―――!)カアァァァ

一夏「お、俺の癖直すのに付き合ってくれよ!」

箒「は!?」

一夏「剣道でも、まだ身のこなしが乱れるときあるからさ。キョーセイするの手伝って欲しいなーって、そう思ってさ!」

箒「え、あ、ああ……ま、まったく仕方のないヤツだな! 私が正しい方向に導いてやろう!」

一夏「頼むぜ! あ、でもそろそろ道場行った方が良いな!」ダッ!

箒「うむぅ……」

一夏「千冬姉怒るかなー?」タッタッタッタッタッ

箒「おまえは、気にしないのか?」タッタッタッタッタッ

一夏「え? 何を?」

箒「私がこんな時間に来た理由についてだ! ほら、今しがた私がおまえが遅れたことで怒ったから……」

一夏「ああ、きっと自分で稽古してて時間のことを忘れたんだろ?」

箒「!」

箒「な、なぜ分かる!?」

一夏「それくらいしか思い浮かばなかったからそう答えただけだが……合ってたか」

箒「……………」カアァァァ

一夏「でも、すげえよ。厳しい稽古の前に誰かに言われてでもなく鍛錬してるなんて」

箒「そ、そうか?」

一夏「うん。俺も実力では負けてねえと思うけど、これからはどうなるか分かんねえ」

箒「……おまえも『いにしえをかんがえる』ことが必要だな!」

一夏「い、いにしえ?」

箒「『稽古』の元になった言葉だ! 意味は……ええと…………」

箒(忘れてしまった! 本で調べて、そこだけを覚えてしまったー!)

一夏「ど、どういうことを言ってるんだ?」

箒「う、うるさい! 次の稽古までに自分で調べてこい!」

一夏「おう……」

箒(ふう、ようやく道場が見えてきた。無駄話をし過ぎた……急がなければ)


一夏「箒、俺、色々ダメなとこあるかも知れないけど……よろしく頼むな」

箒「え!? あ、ああ、さっき言っていた剣道の稽古のことか」

一夏「うん!」

箒「ようし! だが私に頼むなら、容赦はしないぞ! だが心配するな! 必ずおまえの癖を直してやる!」

一夏「ああ! 頼む!」



千冬「こら! 二人とも何をやっている!」



一夏「げ!」

箒「申し訳ありません! ん……?」

一夏「お、陽が……」

暗雲が裂け、そこからわずかに陽光が差し込む。



しばらくすると幾筋もの細い光の糸が地に届くようになり、やがて太い照光が地を暖めていく。



一夏「眩しいなあ……」

箒「うむ……」

一夏「よーし箒! 行こうぜ!」

箒「ああ!」

二人の子供が、光に包まれた世界の中を連れ添い共に歩き出していく。


それは近いうちに別れ、やがて再会する二人の男女の幼な姿であり。


白の少年と紅の少女は歳を経ても嵐の中をも進んでいく決意を秘めて、しかし勇壮に歩を前へ進めていくだろう。


きっと、何も知らない過去のときのようには行かなくても―――




 力強く、前へ。





おしまい!

ttp://www.youtube.com/watch?v=Zxxf_ZxowHQ

これでこのお話は終わりです
今まで待ってくれてた皆どうもありがとう

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2014年02月10日 (月) 20:36:27   ID: qgZlO3jy

最後はfate/zeroラストキリツグと士郎風にしてほしい

2 :  SS好きの774さん   2014年02月17日 (月) 21:48:16   ID: vYRIW4X1

今思ったけど、訓練してる一夏が一般人の弾と殴り合って相打ちとか、弱っ

3 :  SS好きの774さん   2014年02月18日 (火) 18:58:09   ID: 9r3DQQGy

てか弾一夏の家行くってどんな神経だよ

4 :  SS好きの774さん   2014年02月18日 (火) 19:03:02   ID: oGDAFwKz

虚もかわいそうだなこんなやつの彼女なんて

5 :  SS好きの774さん   2014年03月25日 (火) 02:21:08   ID: NhFTpSf6

一夏に人間味が無いなあ

6 :  SS好きの774さん   2014年04月08日 (火) 10:45:05   ID: gs2ymxMi

弾あんな頭しといて僻みもクソもねーだろ モテるための努力なんもしねーで

7 :  SS好きの774さん   2014年04月20日 (日) 09:56:02   ID: 21DONiVQ

マジキチタグ付いてたから期待した
屑どもが酷い目にあうと

でもなんかハッピーエンド?に向かいそうなんですけど!???
それともそんな展開にイライラするからマジキチなんかな?

8 :  SS好きの774さん   2014年09月06日 (土) 14:25:53   ID: Sw5RpN4v

エタったと思ったら、まさかの復活

9 :  SS好きの774さん   2014年09月11日 (木) 00:51:05   ID: MZEuWd8N

早く最後が詠みたいです

10 :  SS好きの774さん   2014年11月17日 (月) 23:41:45   ID: 0lfRj-ZR

やったぜ! 続き来てた。主さん、完結まで頑張ってください

11 :  SS好きの774さん   2015年01月11日 (日) 02:49:33   ID: y0pE-Cch

散々引っ掻き回してなにこのss主。束より害悪だな。とっとと自殺すればあ?社会のクズ。

12 :  SS好きの774さん   2015年02月02日 (月) 01:51:05   ID: 44bLN-ce

ん?なんだよ最後?

13 :  SS好きの774さん   2015年03月24日 (火) 07:53:18   ID: sqyIDYGK

弾が妙にウザい、ウザすぎる

14 :  SS好きの774さん   2015年08月06日 (木) 15:41:06   ID: jx8lCqYD

面白かったです。

15 :  SS好きの774さん   2015年08月20日 (木) 04:07:17   ID: r5v-rpZJ

ありがとう
また書くね

16 :  SS好きの774さん   2015年09月07日 (月) 21:33:02   ID: l5VUa-tn

なぜに一夏はハーレムじゃない方が生きるんだろうな?

17 :  SS好きの774さん   2018年08月09日 (木) 04:18:57   ID: uid6YQn7

プロローグ?
最後に書くのはエピローグでは?
時系列で言うと昔だから、始まりという意味では合ってるのかもだけど……………
は?

18 :  SS好きの774さん   2018年08月20日 (月) 02:30:40   ID: Np4LJamw

冒頭にエピローグあるからそれと対応してるんでは

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