男「そして誰もいなくなった」(585)

ツインテ「──……いやあああぁぁッッ! 先生ッ! 先生ッッ!?」

妹「ッッ!?」

男「先生ッ!? クソ! おい先生を降ろすぞ! ボサッとすんな手伝え!!」

メガネ「わかってる! 僕が下から支えてるから男は早く縄を切れ! 茶髪は他のみんなを外に出せ!!」

茶髪「……ぁ,ああ……み,みんな外にでろ……こっちだ……」

チビ子「……な,んでッ……こんな…………ぅぷっ……」

幼馴染「……せん……せ,………い,ぃやぁあああ……」

男「……ッダメだ! 縄が切れない! 切るもの! メガネ! 何か切るもの持って来い!」

ツインテ「やだ……せんせい……こんなのやだぁ……」



──── 島での惨劇は先生の自殺から始まった
     そもそもの話は2週間ほど前に遡る ────

──2週間前/部室

ツインテ「夏合宿ぅ?」

男「ああ.ほらチビ子ってセレブだから別荘持ってんだってさ.そこ使わせてくれるって」

ツインテ「別荘って……漫画の世界のお嬢じゃんかチビ子」

チビ子「いやいや! 別荘ってもそんな大したもんじゃないですから.えへへ」

幼馴染「でも……迷惑じゃないの?」

チビ子「一応パパに話通さないといけませんけど,多分大丈夫だと思います」

男「まぁチビ子もこう言ってるし遠慮することないだろ.南方の島らしいしバカンスにもってこいじゃないか」

妹「兄さんは遠慮しなさすぎです」

チビ子「南といっても日本から少し南に行っただけの離島ですよぉ」

メガネ「合宿は構わないが名目はどうするんだ.部長として上に許可届けを出さないといけなないんだが」

茶髪「んなの何でもいーじゃんか.文芸部だから……『ドキッ!? 南の島で朗読対決! ポロリもあるよ』とか?」

男「お前は黙ってろ」

ツインテ「あんたは黙ってなさい」

妹「茶髪さんは黙ってて」

幼馴染「……あの,こんなメンバーだけど本当に迷惑じゃない?」

チビ子「あはは……ちょっと不安になってきました」

男「まぁとりあえずここにいる7人が全員参加ってことでいいんだな」

メガネ「それに,引率として顧問の先生が1人だ」

──男 Side

我が文芸部のメンツは男子3名,女子4名の,計7名

ふだんから真面目に読書をしてるのは部長のメガネと,俺の幼馴染くらい

他の奴らはだいたい部室で茶でも飲みながらだらだらとダベっているだけだ

新入部員である俺の妹やチビ子(二人は同じクラスの友人らしい)はまだたまに読書してるが……

ツインテと茶髪にいたっては入部からこのかた読書をしている所なんぞ一度も見たことがない

何しにこの部活に入ったんだお前らは……

そんな奴らだが,どいつもこいつも案外付き合いやすいヤツばかりというか……

気が置けない仲というやつだろうか,部員間の関係は悪くはないと思う

今回の合宿の提案もなんだかんだでみんな乗り気らしい

仲のよい面々との四泊五日の合宿だ

それぞれ楽しみだったり若干不安だったりするのかもしれないが……

まぁ色々な意味で,いい思い出になればと思う



──男 Side:了

── 出発当日/港

先生「はいみんな注目ぅ~.ちゃんと揃ってる~?」

ツインテ「はーい」

チビ子「みんないまーす」

幼馴染「ちゃんとそろっています」

茶髪「ちょっと男子ぃ~.あんたたちも返事しなさいよね!? もぉー,ぷんぷんだぞ!」

男「お前も男だろ」

妹「この人置いていきませんか?」

先生「はいはい元気があっていいわねぇ」

先生「若さあふれるパワーではしゃぎたい気持ちも分かるけど~,ハメ外しすぎちゃって合宿中に『ハメ』ちゃったりしたらダメよぅ?」

先生「さて,一応引率としての責任があるからね.確認のための点呼を取るわよ」

先生(♀,28才)「番号~! いち!」

メガネ(♂,18才)「に!」

男(♂,18才)「……さん」

茶髪(♂,18才)「ガキじゃねーんだからハズカシーよせんせー…………はいはい,……よーん」

ツインテール娘(♀,18才)「ご!」

幼馴染(♀,18才)「ろ,ろく!」

妹(♀,16才)「なな」

チビ子(♀,16才)「はちです!」

先生「よろしい,みんな揃ってるわね.それじゃ行きましょうか! 島へは船で行くのよね」

チビ子「はい! 5日間よろしくおねがいしますね先生.えへへ」

──初日昼/島内・別荘前

茶髪「へー.いい感じじゃん別荘! チビ子ってマジで金持ちだったんだなぁ! ……あんまそんな風に見えないのに」

チビ子「だからお金を持ってるのはパパですってばぁ.私はお茶代のためにお昼を節約したりとか,……いろいろ大変なんですよ?」

妹「それにしたって予想以上だよ.うちの家の10倍……いえ15倍くらいあるかな」

幼馴染「うん正直びっくり.8人が泊まるには広すぎるくらいだよね.場所の提供ありがとうチビ子ちゃん」

チビ子「えへへ,どういたしまして.一応皆さん一人ずつの個室はご用意できますので,そこは安心してくださいね」

男「……おい.無駄話はいいから早く部屋に案内してくれ.荷物が重い」

ツインテ「あんたがジャンケンで負けたのが悪いんでしょー」

妹「男のくせにグチグチとうるさいですよ兄さん.文句言わずに運んで下さい」

チビ子「あっ,それから皆さんにお願いなんですが……」

チビ子「別荘の裏手は少し進むと崖になっているので気をつけて下さい.落っこちちゃうと危ないですから」

メガネ「ふむ.崖の淵に建っているというのは少々怖いが,景観は良さそうだな」

ツインテ「そんなこといいからお昼食べて早く泳ごうよ~!」

幼馴染「ふふ.じゃあ部屋に荷物を置いてきたら簡単なもの作っちゃうね」

妹「私も手伝います」

チビ子「私も手伝いますよ! 台所のどこに何があるか説明しないといけないし」

ツインテ「チビ子はお嬢のくせに料理できんの!? くそぅ……料理できない仲間だと思ったのに」

先生「人数が多すぎても邪魔だろうし私はパスするわ~.部屋にいるからできたら呼んでちょ~だい」

茶髪「なんだツインテは料理できねーのか.前から思ってたけどお前って女子力低いよな~」

ツインテ「うわっ.その『女だから料理ができて当然』って考え方,場所が場所ならセクハラで訴えられるよ」

茶髪「言ってろバーカ.メガネや男だって料理ができる方がポイント高いって思うだろ?」

メガネ「僕は別に気にしないな」

男「まぁ別に男とか女に限ったことじゃなくて,料理できる方が印象はいいな」

茶髪「ほーら見ろ! 女は料理できた方がいいんだよ!」

ツインテ「うっさいバカ! 二人とも別にあんたの意見に全面的に賛成ってわけじゃないじゃない!」

ツインテ「………」

ツインテ「………………でも……そっか」

ツインテ「……男は,料理できる娘のほうがいいのか」ボソッ

──初日昼/海・浜辺

──チビ子 side

女子の共同作である昼食をみんなでとった後,私たちは水着に着替えて浜辺に出た

実はこの離島は私のうちの所有物なのでこの島には私達以外に人がいない

島への出発前にそんなことを説明したら先生が,『プライベートビーチは初体験だわぁ~』とテンションを上げていた

素直に喜んでもらえてほっとしている

………

………私の家は,お金持ちだ

正確に言えばお金をもっているのは父だけれども

お家は住み込みの家政婦さんがいるほど大きいし,別荘どころか島まで持っている

当然,それを快く思わない人も少なくない

父が本邸でパーティーを開くときに父の知人達が撒き散らす粘ついた視線

────……嫉妬と,それを覆い隠す巧言

……だから,正直今回のことも少し心配だった

私の家が資産家であることは部員の間では周知されていたけど

さすがに,島をもっているとまでは思わなかったはずだ

今回の合宿のキッカケは,私が妹ちゃんにふとしたキッカケで別荘のことを話してしまい……

それを又聞きした男さんが夏合宿の話を持ちだしたことにある

でも……結局,私の心配事は杞憂に終わった

みんな,ただただ別荘での合宿を楽しみにしていて,嫉妬など微塵もない笑顔ばかり

そうだ

こんなに優しくて気持ちのいい人たちばかりだもんね

本当に素敵な親友と,素敵な先輩達ばかりで…………

……………──────なんだか,ふと,笑っちゃいそうになる

ツインテさんと幼馴染さんが笑顔で手をふっている

…………笑顔で,くすくすと

先生と幼馴染さんは胸おっきぃなぁ

…………くすくす,クスクス

妹ちゃんとツインテさんは……いや,本人の名誉のために感想は控えておこう

…………くすくすくすくすくす

そんなことをぽややんと考えていると,妹ちゃんが私の手を引っ張ってみんなの輪の中に連れていってくれた

みんな,みんな楽しそうで……笑顔で……

…………私も,楽しくて,クスクス,クスクスと笑う

そうだ,みんなあんなにも楽しんでるんだ

私も,…………─────楽しめるうちに思いっきり楽しまないと!



──チビ子 side:了

茶髪「おい……見ろよぉアレ」

メガネ「なにをだ」

茶髪「なにって,あのおっぱいに決まってんだろうが!」

茶髪「先生のおっぱい! Fか……いや,Gカップくらいはあるんじゃねーか!?」

メガネ「……」

茶髪「いやー普段着の上からでも巨乳だ巨乳だとは思ってたが,水着になると迫力が違うよなマジで」

茶髪「それに,幼馴染もなかなかのモノをもってんぞ…………攻撃力1500……いや,2000は堅いな」

メガネ「単位がわからん」

男「……胸とか飾りだろ.むしろ尻だ尻」

茶髪「はぁ!? バカじゃねーの!? おっぱいに決まってんじゃん!! むしろケツとかひくわー」

男「あ? やんのかお前.尻のよさが分からねーとか人生の90%は損してるわ」

メガネ「……ふぅ.やれやれ」

先生「あの子たちなに話してるのかしら~」

ツインテ「どーせエッチなことでしょ.男三人でこそこそナイショ話とか,いやらしい」

幼馴染「そう,……なのかな」

妹「まぁ,メガネさんはともかく兄さんと茶髪さんはバカですから」

チビ子「で,でもしょうがないよ! うん! 男の子ってそういうものらしいし! えへへ」

先生「あらあらぁ.『男の子ってそういうもの』なんて,いかにも耳年増な女の子の発言ね~」

チビ子「えっ!? ぁあ,いやっ,妹ちゃんがいつも男さんのことそんな風に言ってるから,そ,そうなのかなぁって」

先生「ふふ.真っ赤になっちゃって~.かわいい」

妹「みみどしま~」

ツインテ「みみどしまちゃーん」

幼馴染「うふふ」

チビ子「もうッ!? 妹ちゃんやツインテさんまでからかわないでよぉ~! 幼馴染さんも笑わないでー!」

──初日夜/別荘内

先生「おいしかったわ~.ごちそうさま」

幼馴染「ふふ.お粗末さまでした」

メガネ「いや,本当に素晴らしかった.幼馴染さんは料理が得意なんだな」

ツインテ「ちょっとー! 私や妹ちゃんやチビ子ちゃんも手伝ったっての!」

妹「ツインテさんはお皿を運んだだけですけどね」

ツインテ「なっ!? それはナイショって言ったじゃんかぁ~!?」

茶髪「いやでもマジでうまかったよ! 俺は料理できないから明日以降も頼むわー」

メガネ「む.すまないが僕も料理の心得はないんだ.洗い物くらいしか手伝えないと思う」

幼馴染「ううん.私は料理するの好きだから大丈夫だよ.ツインテちゃんや妹ちゃんやチビ子ちゃんも手伝ってくれるし」

チビ子「喜んでもらえて良かったですよぉ.私も微力ながら明日もお手伝いします! えへへ」

先生「今日は遊び疲れたからもう眠たいわ~.年なのかしらねぇ?」

男「まだ20代でしょ先生」

妹「私も眠たいので部屋に行きますね」

茶髪「俺たち男集団はもう少し起きてるだろ?」

メガネ「ああ」

男「そうだな.もう少しダベってくか」

ツインテ「私は幼馴染とおしゃべりしたいから……幼馴染の部屋に行ってもいい?」

幼馴染「うんいいよ.それじゃ行こっか」

先生「じゃ,みんなおやすみ~.夜更ししすぎないようにねー」

妹「それじゃ私も行きます.おやすみなさい」

茶髪「ツインテ! 寝小便しないようにトイレ行って寝ろよ!」

ツインテ「死ね変態!」

幼馴染「あはは…….そ,それじゃ,また明日ね」

ツインテ「崖から落ちろバカ!」

──2日目昼/別荘内

妹「……ぃさん、兄さん、起きて下さい!」ユサユサ

男「ん、ぁ……まだ……眠い…………寝るの、遅かったから…………」

妹「兄さん! そんなこと言ってる場合じゃないんです! いいから起きて!」

男「……ッ!? 朝っぱらからなんなんだよ……妹……」

妹「もう昼すぎ……って! そんなことはいいんです! チビ子が……チビ子がッ!?」

男「はぁ? なんだ、チビ子がどうした」

妹「いいから来て! 早く! お願いですから!」

>>25は投稿ミス
>>23の続きから貼り直す

──初日夜/先生の部屋

──先生 Side

……唐突だが、私は、教師という職業に誇りをもっている

教師とは生徒を一方的に教え、諭し、従える存在ではない

教師も一人の人間であり、生徒たちと共に学び、成長すべき存在のはずだ

この合宿では立場上は監督役だが、私は「大人の視線」ではなく「彼らの視線」を忘れないようにしたい

勉強や恋愛や将来のことで悩んでいる彼らの力になりたい

そして、上から道を示すのではなく、彼らが自分で道を見つけ出すための僅かな助力が下からできるならば、それでいいのだ

実際のところ、この文芸部の面々もそれぞれ思春期にありがちな悩みを抱えているようだ

ツインテちゃんや幼馴染ちゃんは恋愛関係の悩みだろうか

チビ子ちゃんは……身体の悩みかなぁ? ふふ

メガネくんは勉強や将来の悩みがありそうだ

茶髪くんは……あの子は性欲が旺盛すぎるわね……がっつき過ぎて女の子を傷つけないといいんだけど……

男くんと妹ちゃんは兄妹で似たもの同士と言うべきか、二人ともクールで分かりにくいけど……

あの2人の家庭事情は少し特殊だから、きっとそれなりに悩みをかかえているはずだ

ついでに言うと私の悩みは…………

なぜか、あまり生徒たちが相談事を持ちかけてくれないことかしら?

もぅ……そんなに頼りなく見えるのかな

間延びした口調が悪いのかしらぁ?

……さて、まだ合宿は1日目だし、鋭気を養うためにそろそろ寝てしまおう

そう考えてベッドに入ろうとしたとき

ビー! ビー!

────…………ブザーが、なった

この別荘の個室には呼び出し用のブザーがついている

ノックや外からの呼びかけが他の部屋の住人の迷惑になることを懸念しての措置らしい

……こんな夜遅くに誰かしらぁ

ドアを開けた先にいた人物は、なんとも形容しがたい表情をしていた

どうしたの?

呼びかけても返答はない

相談かしらん?

私は深く考えずに、……「廊下は寒いわよぉ。何か温かいものでも飲む~?」

できる限り優しい声で話しかけて、その子を部屋に招き入れた



──先生 Side:了

──2日目昼/別荘内

妹「……ぃさん、兄さん、起きて下さい!」ユサユサ

男「ん、ぁ……まだ……眠い…………寝るの、遅かったから…………」

妹「兄さん! そんなこと言ってる場合じゃないんです! いいから起きて!」

男「……ッ!? 朝っぱらからなんなんだよ……妹……」

妹「もう昼すぎ……って! そんなことはいいんです! チビ子が……チビ子がッ!?」

男「はぁ? なんだ、チビ子がどうした」

妹「いいから来て! 早く! お願いですから!」

ドタドタッ!!!

男「ッ!? おい! どうしたチビ子!?」

チビ子「……ぅッ……ッ……げぇぇッッ…………」ポロポロ

ツインテ「あ、男ッ!! それが、先生の部屋からチビ子が出てきて、そのッ……」

男「先生? ……ってここ先生の部屋の前だっけ」

男「先生の部屋で何かあったのかチビ子?」

チビ子「……ヒック…………ッグ……」

男「……」

男「……仕方ない、先生に直接聞くか」

チビ子「……だ、め」

男「なんだ?」

チビ子「見、ちゃ……ダ……メッッ!!!」ポロポロ

スタスタ……

メガネ「……どうしたんだ大声出して。部屋の中にいても騒ぎが聞こえてきたぞ」

茶髪「ふわぁああ……。なんだようるせーなー。何かあったのかよ」

男「いや。……俺が来た時にはもうチビ子が泣いていたから、俺も事情がよく分かってない」

チビ子「……ヒック……ヒック……」ポロポロ

男「お前らは何か知らないのか?」

妹「すみません、私たちにも分からないんです」

妹「兄さんたちと先生がお昼になっても起きてこなかったので、みんなで手分けして起こそうってことになったんですが」

幼馴染「チビ子ちゃんは先生を起こそうとして部屋に入ったんだけど、すぐに出てきてドアを閉めて、それからはずっとこの状態で……」

ツインテ「ただ、さっきからずっと、チビ子が『部屋に入っちゃダメだ!』って言ってるの」

茶髪「『部屋に入っちゃダメ』って、先生に何かされたのかよ」

チビ子「……ヒック………」ポロポロ

茶髪「……」

茶髪「あーもう、埒があかねぇ! もう開けるぞ! いいな!」

チビ子「ダメ……それ、は………」ポロポロ

メガネ「……いや、何か変だ」

妹「え……?」

メガネ「これだけ騒がしくしてるのに、どうして先生が部屋から出てこないんだ。外出中ってわけじゃないんだろう?」

男「……そう言えば、そうだな」

メガネ「女子たちは下がっていた方がいい。僕たちが開ける」

幼馴染「う……うん」

メガネ「それじゃあ、……開けるぞ」

ガチャ

ギィィ……

メガネ「…………………………、な」

男「せ、…………せんせぇッ!?」

茶髪「…………はぁ?」

茶髪「……おいおいおい、冗談だろ……なんだよこれ、笑えねーよ、なんだよこれ……」

男「先生ッ!」ダダッ

妹「兄さん……どうしたんで………」

妹「……えッ!?」

ツインテ「えっ、なに、……なにがあったの?」

幼馴染「ど、どうしたのかな……」

ダダッ

男「先生! メガネ手伝え! 早く!」

メガネ「あ、……ああ!」

ツインテ「……え? なにアレ…………え、え? なに?……なに……」

幼馴染「せ、せん……せい……ッ!?」

ツインテ「──……いやあああぁぁッッ! 先生ッ! 先生ッッ!?」

妹「ッッ!?」

男「先生ッ!? クソ! おい先生を降ろすぞ! ボサッとすんな手伝え!!」

メガネ「わかってる! 僕が下から支えてるから男は早く縄を切れ! 茶髪は他のみんなを外に出せ!!」

茶髪「……ぁ、ああ……み、みんな外にでろ……こっちだ……」

チビ子「……な、んでッ……こんな…………ぅぷっ……」

幼馴染「……せん……せ、………い、ぃやぁあああ……」

男「……ッダメだ! 縄が切れない! 切るもの! メガネ! 何か切るもの持って来い!」

ツインテ「やだ……せんせい……こんなのやだぁ……」

──メガネ Side

あれから茶髪が女子たちを部屋の外に出し、僕が台所から持ってきた包丁を使って男が縄を切った

先生は、カーテンレールに縄をくくって首吊り自殺をしていた

いや…………首吊り自殺をしていたかのように『見せかけられていた』

なぜ『見せかけられていた』と言えるのか

答えは簡単だ。首吊りの縄の跡とは違う、絞殺されたような縄の跡が首に残っていたからだった

それを無視したとしても、首吊り自殺としては不自然すぎる

カーテンレールはそこまで高い位置になく、先生のだらんと力の抜けた脚は床についていた

そう位置が低すぎるのだ

その気になればいつでも自分の脚で立って自殺を中止できるほどに

まるで、ここにいた先生以外の誰かが……

……『人ひとりを天井から吊るすのは大変なので、とりあえず吊しやすい所に吊るしました』という感じだった

これが自殺に見せかけた他殺ならばずいぶんと手抜かりの多いお粗末な犯行だ……そんな印象を受けた

他のみんなが気づいてるは分からないが、僕はこれらの推測を誰にも話さなかった

混乱し、泣きわめいている女子たちに『自殺ではなく殺人だ』と話してパニックを助長するのは気が引けたし……

茶髪や男は……

いや、あんなバカ共でも友人だ

無闇に疑ったりするべきじゃない

……疑うべきじゃないと、分かってはいるんだけれど

『この島には僕達以外に人がいない』というチビ子の発言を信じるならば、僕らのうちの誰かが犯人だと考えるのが自然だ

……ダメだ。疑心暗鬼に因われるな

先入観でモノを見る目を捨てて、冷静に判断しないと……



──メガネ Side:了

──2日目夕方/別荘内

男「ほら、ホットチョコレート。少し、落ち着いたか?」

妹「……うん、……ありがとうお兄ちゃん」

男「はは。久しぶりだな、『お兄ちゃん』なんて呼び方」

妹「なによ……悪い?」

男「いや、べつに悪くないさ」ナデナデ

妹「ん……」

メガネ「みんなほら。これでも飲んで温まろう」

幼馴染「…………あり……がと」

ツインテ「…………はぁ」

茶髪「チビ子ぉ……気にすんなってのも無理かもだけど、あんま落ち込みすぎんなよ」

チビ子「…………」

幼馴染「先生……どうして、自殺なんて」

ツインテ「なにか、悩みでもあったのかな……」

幼馴染「うん、でもそれにしたって変、……だよね」

幼馴染「自殺するほど悩んでたなら、合宿の引率なんて引き受けてくれるとは思えないし……」

ツインテ「そう……だね……」

チビ子「…………」

チビ子「…………みんな、ごめんなさい」

男「ん? なんで謝るんだ」

チビ子「私が……別荘を合宿場として提供するなんて言わなければ、きっとこんなことには……」

妹「そんなッ! チビ子のせいじゃないよ!? チビ子に感謝することはあっても責める人なんていないんだから!!」

茶髪「あぁそうだぞチビ子」

茶髪「先生にどんな事情があったのかは知らねーけど、今回の件はお前のせいじゃねーだろ」

メガネ「…………」

茶髪「だからあんま気に病むなよ。な?」

男「……誰もお前のことを悪く思ってるヤツなんていないから安心しろ」

チビ子「……はい。ありがとうございます」

男「それよりも、だ」

男「目下の大問題は電話がつながらないってことだ。これじゃ警察どころか、本島に帰るための船さえ呼べない」

茶髪「ああ、一体どうなってんだ? 携帯は元々通じねーからしょうがないとしても、なんで別荘内の電話が全部繋がらないんだよ」

幼馴染「あの……みんなの部屋の中にある電話は?」

メガネ「あれは内線しか通じないようなんだ」

男「チビ子によれば外部に通じる電話はこの別荘内に8つあるらしいが、その全部がなぜか通じない」

メガネ「パッと見で電話線が切れてたわけでもないんだが……」

メガネ(いずれにせよ、人為的なものであることは間違いない)

メガネ(間違いなく先生を殺した犯人が、電話本体か、電話線に細工をしたんだ)

ツインテ「この島には他に電話はないの?」

チビ子「……はい。そもそもこの島にはこの別荘以外の建物はないので」

妹「それじゃ……3日後に来る船を待つしかないってことですか?」

チビ子「……ごめん、ね」

妹「あっ! ち、違うよ! 別にチビ子を責めてるわけじゃなくて!」

茶髪「まぁ……そのくらいの日数なら待ってもいいけどよぉ」

茶髪「でも、先生はどうすんだ? 夏だし、放っておいたら腐ったり……」

ツインテ「ひッ!?」

男「茶髪! 黙ってろ!」

メガネ「空気よめよなバカ」

茶髪「あ、わ、悪ぃ……」

男「──……そんじゃ俺、夕飯作ってくるわ。お前らは休んでろ」

茶髪「え? お前メシ作れんの?」

男「食事はいつも妹と交代制で作ってるからな」

妹「あ……お兄ちゃん、私も手伝うよ」

男「いや、お前は無理すんな。まだ顔色悪いし」

妹「ううん……今はお兄ちゃんのそばにいると安心するから……」

男「そっか……。じゃあ俺が仕切るからお前は簡単な作業を頼む」

妹「うん。わかった」ニコ

ツインテ「…………」

──妹 Side

私の両親は2年前に死んだ

父は事業に失敗して背負った借金を苦に自殺し、母も父の後を追って1週間後に自殺した

両親の死後も私は住み慣れた我が家に執着したが、遺産相続は親の借金までも背負うことになるため、仕方なく諦めた

父親の借金の連帯保証人は父の姉、つまり私たちの叔母だった

本来ならば両親はおろか私たちを恨んでも当然なはずの叔母は、あろうことか私たちの保護者を買って出てくれた

叔母は未婚の女性で、私たちのことは実の子のように扱ってくれた

兄と私が両親の死から立ち直れたのは、叔母の優しさに依るところが大きかったように思う

……とは言え甘えてばかりもいられないので、料理・掃除・洗濯などの家事は私と兄に任せてもらっている

叔母はお金の心配をするなというけれど、兄さんは借金と家計のことを気にしてアルバイトをしている

最近も少し勤務時間を増やしたらしく、妹としては無理しすぎではないのか気が気でない

高校卒業後もすぐに就職しようと考えているようで、叔母と私が大学進学を進めても聞かない

……わかっている

それもこれもぜんぶ私と叔母のため

兄さんは自分の人生を、両親から受け継いだ責任の清算と、私の将来の援助のために……使い捨てようとしているんだ

優しいから

優しい……人だからだ

一見クールな性格に見えるけど、単に不器用なだけで、実はとても情の深い人

さっきだって、動揺している私のことを察してか頭をなでてくれた

暖かくて大きな手……

私もまた兄さん同様、愛情を分かりやすく示したり甘えたりするのが苦手な質だけど……

今回の件は、やはり私の心を動揺させているのだろうか

何故だかいつもよりも素直に兄さんに甘えられる

──……トントントン

小気味のよいリズミカルな包丁の音

台所で調理をする兄さんの背中を、ふと見つめる

頼りになる背中

お父さんやお母さんの代わりに私を守ってくれる、大きな背中

……兄さんの、背中

……兄さんの、手

……兄さんの、……横顔

私のことを大切にしてくれる兄さん

私の大切な兄さん

兄さん、にいさん……

ニイサン、兄さん、…………ニイさん、にいさん,ニイサン,兄さん……………────────

お兄、……ちゃん



──妹 Side:了

──2日目夜/別荘内

メガネ「……で、夕飯を食べながらでいいんだが、これからのことを話し合わないか」

茶髪「これからって?」

メガネ「さすがにもう遊ぶ気にはなれないだろ。迎えが来る3日後の昼まで、別荘内で大人しくしてるってことでいいか」

幼馴染「そう……だね」

男「それでいいんじゃないか。先生は……あのまま部屋のベッドに寝かせておこう」

ツインテ「うん。私もそれに賛成」

妹「私もそれでいいと思います」

茶髪「チビ子もそれでいいか?」

チビ子「……はい」

メガネ「それで……。これからはできるだけ二人以上で行動するのがいいかもな」

茶髪「はぁ? なんでだよ」

メガネ「いや、その…………ほ、ほら、僕達はいいとしても、女子達は精神的に不安定な子も多いし」

茶髪「まぁ……そりゃそうか」

ツインテ「うん、そうしてもらえると私たち的にも……ありがたいかな」

ツインテ「ねえ幼馴染、今日、一緒の部屋で寝てもいいかな?」

幼馴染「うんいいよ。私もなんだか一人は心細いから」

幼馴染「チビ子ちゃんや妹ちゃんはどうする?」

妹「私は……お兄ちゃんの部屋で寝ようと思います」

ツインテ「えっ!?」

ツインテ「ちょ、ちょっと待ってよ。男と一緒に寝るの?」

妹「なにかおかしいでしょうか? 兄妹ですし問題ないと思いますけど」

ツインテ「いや、でも……一応は男女だし」

男「ばーか。兄貴にとって妹は女じゃないって。俺は別に一緒に寝てもいいぞ。行くか」

妹「……う、うん」

茶髪「じゃあチビ子はどうする? なんなら、俺と一緒に寝るかぁ? へへ」

チビ子「いえ……。私は一人で寝ようと思います」

幼馴染「でも、一人で大丈夫? 心細くない?」

チビ子「大丈夫です。ちゃんと、鍵をかけて寝ますから」

メガネ「…………」

メガネ(鍵を……かけて?)

──2日目夜/幼馴染の部屋

──ツインテ Side

あの後、私の発言は何だかうやむやな空気に溶かされたままとなり、結局どうしようもできず幼馴染と共に部屋に戻った

男は妹と一緒に、茶髪とメガネとチビ子はそれぞれ一人きりで寝ることに落ち着いたようだ

全ての部屋のベッドがダブルサイズであり、二人で寝るのに窮屈ということもない

冷暖房はもちろん、シャワールームやトイレやクローゼットも室内に完備している

生活するのに何の不自由もない環境

なに不自由なく

快適そのものだ……

そんな快適な空間の中で

…………なぜだろう。なんだか、胸の奥がチクチクとする

チクチクと、ちくちくと、チクチクと、ちくちくと…………

ベッドの中にもぐりこんで、ギュッと目をつぶる

ちくちくとした感じが、いつのまにかジクジクとした感じに変わる

それはとてもとても不快な感覚で

眠ってしまえばいい、イヤなことは考えない、忘れればいい

眠れ、眠れ、眠れ、忘れろ、忘れろ、忘れろ…………

隣からは、すぅすぅと幼馴染の規則正しい寝息が聞こえる

ゴトッゴトッ

──…………廊下で物音がした、気がした

……なんだろう

……だれだろう

隣からは、幼馴染の規則正しい寝息が聞こえる

……すぅー、……すぅー、……すぅー、……

その規則正しい寝息に耳を傾けていると、心が落ち着いてきた

うとうとする

眠気が強くなってくる

うとうとと、ウトウトと、うとうとと、ウトウトと……

気持ちが……いい

隣からは、……すぅすぅと……すぅすぅと……幼馴染の規則正しい寝息が聞こえる

このまま眠気に身を任せて寝てしまおう

廊下の物音はきっと気のせい

なにも問題なんてない、なにもイヤなことなんてない、なにも不快なことなんてない

そう、まだまだ…………───いくらでも『機会』はあるんだから

でも
           でも?
    でも……

ああ、でも、そうだ──

「………………………………………………寝る前に、トイレに行ってこなくちゃ」

ぼんやりとした意識で、

私は、ベッドから抜け出た



── ツインテ Side:了

──3日目朝/別荘内

男「…………」

妹「おにい、ちゃん…………こ、れ…………」

男「……あぁ、マズイ……な」

男「妹。部屋に入って鍵をかけろ。俺の声が聞こえるまで絶対に開けるな。誰か来ても無視しろ。いいな」

妹「う、うん……」

タタッ

男「…………」

男「…………メガネ」

男「おい、起きろ」

茶髪「ふわぁ……あ? なに、なんで俺の部屋にいんの?」

男「鍵くらいかけろバカ」

茶髪「べつに鍵かけなくても危険なこととかねーじゃん」

男「……そうも言ってられなくなった」

茶髪「は?」

男「メガネがまずいことになったかもしれない」

茶髪「え? まずいことって……ってぇ、アイツは自殺するようなタマじゃねーだろ。はは」

男「…………自殺なら、まだマシな方かもな」

茶髪「…………」

茶髪「なんだ、こりゃあ……」

男「俺はチビ子を起こす」スタスタ

ビー! ビー!

…………ガチャ

チビ子「……おはようございます、男さん」

男「チビ子、いきなりで悪いがマスターキーを貸してくれ」

チビ子「えっ。どうしたんですか」

男「待て。廊下には出ない方がいい」

男「落ち着いて聞け。メガネの部屋なんだが……ドアの下の隙間から血が流れ出ている」

男「部屋には鍵がかかっていて、ブザーを鳴らしても出てこない」

チビ子「え……」

チビ子「……それ、……なんで…………」

男「分からない。それを確認するためにマスターキーが必要なんだ。貸してもらえるか」

チビ子「ぁ……は、……はい……ちょっと待ってください!」

ガサゴソ

チビ子「……あ、ありました。これです」チャリ……

男「分かった。俺が声をかけるまで外に出ない方がいい。少し時間がかかるかもしれないが待ってろ」

チビ子「は、はい……」

茶髪「おい! 早くしろって!」

男「大きな声を出すな。幼馴染やツインテが起きてくる」

男「……開けるぞ」

ガチャ

ギィィ……

男「…………」

茶髪「…………お、い」

男「メガネ…………」

茶髪「冗談、だろ? なんだよこれ? おかしいじゃねーか……。なんで、こんな…………」

男「とりあえず、メガネをベッドに移そう」

茶髪「え? あ……な、なんでだ?」

男「こんなとこに放置しとくのは可哀想だろ。ほら、足をもってくれ」

茶髪「お、お前……なんでそんなに冷静なんだよ……。ショックじゃねーのか?」

男「十分ショック受けてるよ」

男「ただ、少し慣れてるだけだ。こうやって死体を運ぶのは3回目だから」

茶髪「慣れてるって……おま、どこで」

男「俺の両親。二人とも自殺で、どちらも第一発見者は俺だった」

男「……まぁそんなことは今はどうでもいいだろ。とにかく運ぶの手伝え」

男「ベッドに移したら床の血の掃除……は、さすがに素人が勝手に片付けちまっちゃマズイか」

茶髪「……上から、なにか大きめの布か何かをかけて女子たちには見えないにすればいいんじゃねーか」

男「あぁ、そうだな」

──3日目昼/別荘内

ツインテ「ごめん。お昼まで寝ちゃったー」

幼馴染「私もごめんね。やっぱり……少し疲れてたみたい」

茶髪「…………」

チビ子「…………」

妹「…………」

ツインテ「あれ、どうしたの。何かあった?」

男「……ああ。……少し、いや、かなり大きな問題が起きた」

男「二人とも、きちんと心構えをして聞いてくれ」

ツインテ「な……なに? 脅かさないでよぉ」

幼馴染「…………どう、したの?」

男「メガネが…………死んだ」

幼馴染「えッ!?」

ツインテ「…………うそ」

茶髪「男……言いにくいのはわかるけどよ、今後のこともあるし、ちゃんと事実を正確に伝えてやった方がいいと思うぜ俺は」

男「……」

男「……殺されていたんだ。眉間に矢が突き刺さっていた」

ツインテ「ひッ!?」

幼馴染「そ……そん、な…………なんで…………」

男「はっきりしたことは分からないけど……」

男「ドアには鍵がかかっていたから、たぶん、来客用の小窓を開けてドアの外を覗いたところを、ボウガンか何かで撃たれたのかもしれない」

ツインテ「……そ、それって、まさか」

男「ああ」

男「俺たちの中に────…………殺人犯がいる」

ツインテ「……いや……」

ツインテ「いやよぉ…………もう嫌ぁあああッッッ!!!」

ツインテ「なんで!? 昨日は先生が自殺して、今日はメガネが殺された!?」

ツインテ「もうわけわかんない! わけッわかんない! あああぁぁぁああああああああああぁ!!」ブンブン!!!

茶髪「ちょっ! 落ち着けツインテ!」

ツインテ「やだぁぁああ! 触んないでッッ! 放っといてよぉッ!」バシッ!!

茶髪「いいから冷静になれって!」

ツインテ「うるさいッ!! この中の誰かが殺人犯かもってことは、あんたがその犯人かもしんないんでしょ!?」

茶髪「なッ!? 俺がやったってのかよ!? ふざけんな!」

ツインテ「あんただけじゃないよ!」

ツインテ「チビ子だって…………怪しいよ」

チビ子「……えっ?」

ツインテ「男は『ドアの外から殺した』みたいなこと言ってるけど……」

ツインテ「部屋の中で殺して、外から鍵をかけたっていう方がよっぽど自然じゃんか!!」

ツインテ「もしそれが真実だったら…………マスターキーをもってるあんたが一番怪しい」

チビ子「……そ、そんな…………わたし……ちがッ……」グス

妹「やめて下さい! チビ子がそんなことするはずないでしょう!?」

ツインテ「どうして言い切れるの!?」

ツインテ「もしかして、なにか……チビ子をかばう理由でもあるんじゃないの?」

茶髪「このッ……クソ女がッ!! くだらねーことばっかベラベラ言いやがってッッ!!」

男「やめろお前ら!」

茶髪「だってコイツがッ!!」

男「仲間割れして、バラバラになって行動して、犯人の思うツボか!?」

ツインテ「……ッ」

茶髪「……い、いや……そりゃあ……」

男「ツインテも、無闇に人を疑うようなことを言うな」

男「そんなことをして反感を買ってもお前に何の得もないだろうが」

ツインテ「……ヒック…………」ポロポロ

ツインテ「……ご、……ごめん、なざい………ヒッグ……ヒック………」ポロポロポロ

男「チビ子はこの島にいるのは俺達だけだって言ってるが、チビ子も知らないような誰かが島内にいる可能性だって否定できないと俺は思う」

チビ子「…………」

until death do us part

幼馴染「そ、そうだよね……。まだ私たちの誰かが犯人だって決まったわけじゃないよね」

幼馴染「……でも、そうだとしても……どうしてこんなことを?」

チビ子「そう、ですよね……」

チビ子「先生もメガネさんも、誰かに殺されるほどの恨みを買っていたとは思えないですし……」

妹「……ちょっと待ってチビ子。『先生も』ってどういうこと? 先生は自殺でしょ?」

チビ子「あ……」

チビ子「…………」

男「チビ子、何か知ってるのか?」

ツインテ「まさか、やっぱり……あんたが先生とメガネ……を?」

チビ子「ち、違います! そ、その、実は昨日、先生の部屋に入って先生を見たときにすぐ気がついたんですが」

チビ子「首吊り跡とは別の…………誰かに首を絞められたような縄の跡があったので……」

いや、マジでおもしろいわ(・`ω・)

茶髪「ちょ、マジかよ……それ……」

幼馴染「部屋に入って先生を見て……すぐそんなことに気づいたの?」

チビ子「私……視力がかなり高いので……」

ツインテ「視力とか、………そういう問題じゃない気がするけど」

妹「チ、チビ子はふだんから洞察力の鋭い子なんです! 変な疑いを向けないでください!」

男「だーかーら、犯人探しはやめろっての!」

男「だいたい、犯人が誰かなんてどうでもいい」

茶髪「どうでもいいってお前……」
男「そんなことよりもよっぽど重要なことがあるってことだよ」

茶髪「ちょ、マジかよ……それ……」

幼馴染「部屋に入って先生を見て……すぐそんなことに気づいたの?」

チビ子「私……視力がかなり高いので……」

ツインテ「視力とか、………そういう問題じゃない気がするけど」

妹「チ、チビ子はふだんから洞察力の鋭い子なんです! 変な疑いを向けないでください!」

男「だーかーら、犯人探しはやめろっての!」

男「だいたい、犯人が誰かなんてどうでもいい」

茶髪「どうでもいいってお前……」

男「そんなことよりもよっぽど重要なことがあるってことだよ」


※細かいけど訂正(セリフの間の改行)

幼馴染「重要なこと?」

男「ああ。……俺達が、これ以上犠牲を出さずに生き残ることだ」

幼馴染「…………そう、だよね。……うん、そうだよね!」

男「だからとりあえず、俺達はこれから一時も離れない方がいい」

男「食事や就寝は全員が一箇所で行う。風呂やトイレなんかで離れるときも必ず3人一組で行動する。少し不便だけど、死ぬよりはマシだろ」

妹「3人一組?」

男「ああ。ここにいるのは6人だから。1人きりとか、2人きりって状況を作らないためにはそうするしかない」

男「……とにかく。可能な限り全員で一緒にいるのが最善策だろ」

ツインテ「うん、……わかった。私もそれでいいと思う」

幼馴染「そうだね。うん、少し希望が見えてきたかも……」

男「みんな、異論はないな」

男「それじゃ、メシにするか」

男「朝食もとらなかったし、何か手早く作るよ」

妹「じゃあ、私も手伝います」

幼馴染「私も手伝わせてもらっていい?」

チビ子「…………私は、少し調子が悪いので休んでてもいいですか?」

茶髪「あー、じゃあ俺とチビ子とツインテの3人が待機ってことだな」

ツインテ「……ッ」

ツインテ「わ、私も手伝う!」

茶髪「はぁ? さっきの男の話聞いてなかったのかよ。3人一組が原則だろーが?」

ツインテ「あ、あんた達2人と一緒にいたくないもん! 6人の中であんた達2人は怪しい気がするし……」

茶髪「……お前まだッ!」

チビ子「…………」

ツインテ「で、でもッ……」

男「やめろ!!」

茶髪「…………チッ」

ツインテ「…………」

男「全員で台所に行くぞ。チビ子と茶髪は何もしなくていい」

男「とにかく可能な限り全員で行動した方がいいのは間違いないんだしな」

──3日目昼/ダイニングルーム

妹「いただきます」

チビ子「……いただきます」

男「とりあえず飯を食ったら居間で過ごそう。明後日の昼までそうやって乗り切ればいい」

ツインテ「うん、そうだね」

茶髪「スパゲッティかぁ……ちょっと手抜きじゃね?」

男「凝ったもの作る精神的余裕なんてないだろ。文句言わずに食べなさい」

茶髪「はーいお母さーん」

妹「もう……こんなときまで、ほんとバカなことばっかり」

幼馴染「ふふ。でもこんなときだからこそ、少しありがたいかな……」

茶髪「チビ子はお嬢だから、こんな庶民の味付けは口に合わないんじゃね?」

チビ子「そ、そんなことないですよ。パスタは……好きですから」ニコ

妹「チビ子は洋食を作るのが上手なんだよね。私は和食の方が得意だから、帰ったらチビ子に洋食を教えてほしいな」

チビ子「う、……うん。えへへ。わ、私は厳しいよぉ~?」

妹「ふふ、その代わり私は和食を厳しく教えてあげる!」

チビ子「うーん。妹ちゃんのご指導は遠慮しようかなぁ?」

妹「ちょっとぉ!? もー、それどういうことぉ?」

チビ子「え、えへへへ」ニコ

ツインテ「……でもでも、男ってばホントに料理上手だよね?」

幼馴染「そうだね。手際がいいって言うか、作り慣れてる感じ」

男「そんなに褒めても……次からおかずが一品くらい増えるだけだぞ」ニヤ

ツインテ「あはは! それじゃ、もっとたくさん褒めないと!」

幼馴染「男くんの味は世界一だよ!」

妹「ふふ。お兄ちゃん頑張って!」

茶髪「ちぇー。モテモテじゃんか男ぉー。俺も料理がんばろっかなぁ」

男「ははっ。悔しかったらお前も………………って」

男「?」

男「…………どうした、チビ子?」

チビ子「…………」

超保守

チビ子「…あ…ぁ……うッ……」

妹「……チビ、子?」

チビ子「…………グッ……ゥッ……」

チビ子「……ァウグェェェァッッッ…………」ボトボトボトォッッ

茶髪「おい! どーしたんだよチビ子ッ!? しっかりしろッッ!!」

ツインテ「なんなの!? ……なんなのよ一体ッ!?」

チビ子「………グ………ル…シッ…イィィ…………」

幼馴染「な……なんで急に……?」

寝たの?

チビ子「……タス……ケ………グェエッ…………」ポロポロ……

妹「チビ子ぉッ! しっかりして! ああぁ……どうしよう……」

妹「お、お兄ちゃん! どうしよぉお兄ちゃんッ!? チビ子が……チビ子がぁッ!?」

幼馴染「……まさ、か………………ど、……く?」

男「ッッ!?」

男「悪いチビ子! 口に指突っ込むぞ!!」

男「チビ子! 全部吐け! 胃の中にあるもん残らず吐け!」

チビ子「……ォエェッッ………カヒュー…………ゲェェッッ……」ボトボトッ

妹「いやあぁぁぁぁああああ!!! チビ子ぉッッ」ポロポロ

妹「お兄、ちゃッ……グス…………ぉ、お願いぃッ!! ……ヒック……お、お願いだから、チビ子を、助けてぇッッ!!!」ポロポロポロ

──茶髪 Side

……チビ子が死んだ

散々苦しんでビクビクと痙攣した後、大人しくなった

動かないチビ子の口元に俺の手を当てると、…………息をしてないことが確認できた

食卓が静寂につつまれる

チビ子の死に顔を見ていると形容しがたい感情が胸を圧迫して…………ツラい

俺はコイツが好きだった

ちびっこくて、胸もなくて、色っぽさなんて皆無だったけど

……でも

俺はチビ子が好きだったんだ

コイツの明るさが好きだった

コイツの優しさが好きだった

コイツの慌てる顔が、照れる顔が、拗ねる顔が、そのころころと変わる表情の全てが……好きだった

でも、死んだ

──……いや、殺されたんだ

食事に薬を盛る機会は全員にあった

男と妹と幼馴染は料理をしていたし、俺とツインテとチビ子はパスタの皿を運んだ

結局、誰が犯人なのかは誰にも分からないだろう

ただ一つ確実に言えることは……

男の言っていた『外部犯』の可能性が消えたってことだ

チビ子の遺体は俺と幼馴染と妹の三人で運んで、チビ子の部屋のベッドに寝かせた

最初は男が運ぶことを名乗り出たが……

案の定ツインテが男と離れることを嫌がってまたヒステリーを起こしたから、こういう組分けになったわけだ

もちろんそれぞれの組に何の問題も起こることもなく、チビ子を運んだ後で速やかに合流した

今回の件は、さすがの男もキツかったらしいのか憔悴している

妹や幼馴染も涙で顔がぐしゃぐしゃだ

ツインテは悲しみよりも恐怖と混乱で頭がまいっているらしい

まぁ……目の前で死なれたんだ

ショックを受けない奴なんていない

ショック…………

そうだ、急な事態で感覚がマヒしていたが、俺もひどくショックを受けている

そう……チビ子は、もういないんだ

チビ子は、もうこの世界にいない

チビ子の身体はあるが、チビ子という人間はいなくなったんだ

アイツの笑顔を見ることはもうできない

アイツをからかって拗ねる顔を見ることは……もうできないんだ

チビ子……

あんなに明るく、常日頃、向日葵みたいな笑顔を振りまいていたアイツの最期の表情は……

苦痛に歪んでいた

……苦痛、だったんだよな

……イタかったよな

……苦しかったよな

苦しい、苦しい、苦しい、苦しい、俺も…………俺も苦しいよチビ子

苦しい、苦しい、チビ子の歪んだ表情に心を痛めて、俺の表情も苦しげにグニャグニャと歪む

イタイ、イタイ、チビ子の痙攣する身体を思い出して、俺の表情も痛みをこらえてグニャグニャと歪む

助けて、助けて、チビ子の喘ぐ声に応じて、俺の表情も救いを求めるようにグニャグニャと歪む

歪む、歪む、世界が歪む、顔が歪む

グニャグニャと、…………ぐにゃぐにゃと…………

ぐにゃぐにゃ…………ぐにゃぐにゃ…………

──────…………知らず、頬の筋肉が釣り上がるくらいに、俺の顔はぐにゃぐにゃと歪んでいた



──茶髪 Side:了

1時間ほど休憩した後に再開

普通のSSと違って推理モノなので予想や先読みはいくらしてくれても構わない
結論までの道筋は決めているので、途中でバレても最後まで絶対に書ききる

保守感謝(特にID: 5SLrE8go0)
再開

──3日目夕方/男の部屋


男「認識が…………甘かった」

幼馴染「……」

妹「……」

男「まさか毒物まで使われるなんて想像もしてなかった。……すまん」

ツインテ「男のせいじゃ……ないよ」

ツインテ「悪いのは……」チラ

茶髪「…………」

茶髪「おい、いい加減にしろよテメェ……」

茶髪「温厚な俺でもそこまで挑発されりゃキレんぞオラ! んなに死にてーならマジで殺してやろうか!? ぁあッ!?」

ツインテ「ひぃッ!?」

男「やめろ茶髪ッ!! ……ツインテも、みんなの輪を乱すようなこと言うな」

ツインテ「で、でも! ちょっと考えてみればおかしいって分かるじゃん!」

妹「……なにがですか?」

ツインテ「メガネが殺されたのって、昨晩のうちでしょ」

ツインテ「私と幼馴染は二人とも一緒に寝てたからアリバイがあるし、男と妹ちゃんだって一緒だったんだからアリバイがあるでしょ!」

ツインテ「メガネ以外に一人きりだったのはチビ子と茶髪の二人だけだもん!」

茶髪「……」

ツインテ「だから、二人のうちのどっちかが怪しいって…………チビ子なんてマスターキー持ってるから特に疑ってたけど……」

ツインテ「チビ子は死んじゃったから……残るのは茶髪だけじゃんか!」

ツインテ「男が犯人探しを嫌がってるから、みんながそんな感じのムードになって深く考えないようにしてるみたいだけど……」

男「……」

ツインテ「さっき男は『私たち以外の誰かが島内にいるのかも』って言ってたけど、チビ子を殺したのは間違いなく私たちのうちの誰かなんだよ!?」

幼馴染「……」

妹「……」

ツインテ「そ、そうだ! そう言えば昨晩、廊下で何か物音を聞いたのよ」

ツインテ「アレあんたなんでしょ!? あの時にメガネを殺したんだ!! 白状しなさいよ!!」

茶髪「……ッ」

茶髪「いい加減にしろテメェッッ!!」ガタン!!

ツインテ「ひッ!?」

茶髪「…………」

茶髪「……チッ。…………確かに俺は昨晩、部屋を抜けだしたよ」

ツインテ「ほ、……ほら! やっぱり!」

茶髪「決めつけんな! ……先生のことがあって寝付けなかったから、別荘の外に出て軽く散歩してきただけだ」

ツインテ「……う、ウソなんでしょどうせ」

茶髪「はッ。……そうまで言うなら俺も言わせてもらうけどな、俺も昨晩、お前を廊下で見たぞ」

ツインテ「えっ?」

茶髪「散歩から帰ってきて部屋に戻ろうとしたとき、半分寝てるみたいなフラフラした足取りで廊下を歩いてるお前を見た」

ツインテ「う、嘘ばっかり言わないでよ!?」

茶髪「嘘でも何でもねーんだけど。寝ぼけてたのか何なのか知らんけど、……ってかお前、マジで夢遊病の気があるんじゃね?」

茶髪「案外お前が無自覚にフラフラさまよってて、その間にメガネを殺してたりしてな」

ツインテ「ぅ、うるさい! ウソつき! あんたの言うことなんて信じない!」

ツインテ「お、幼馴染! 私、昨晩は外に出なかったよね? ね?」

幼馴染「……それは…………」

ツインテ「……」

ツインテ「…………え、うそ…………ホントに?」
幼馴染「……う、うん。ツインテちゃんが夜遅くに部屋の外に出たとき、その物音で私も目が覚めたんだけど……」

幼馴染「きっと寝付けないから散歩したいのかなとか、台所で夜食でも作るのかなって…………あまり深く考えずにそのまま寝ちゃったから……」

ツインテ「う、嘘ばっかり言わないでよ!?」

茶髪「嘘でも何でもねーんだけど。寝ぼけてたのか何なのか知らんけど、……ってかお前、マジで夢遊病の気があるんじゃね?」

茶髪「案外お前が無自覚にフラフラさまよってて、その間にメガネを殺してたりしてな」

ツインテ「ぅ、うるさい! ウソつき! あんたの言うことなんて信じない!」

ツインテ「お、幼馴染! 私、昨晩は外に出なかったよね? ね?」

幼馴染「……それは…………」

ツインテ「……」

ツインテ「…………え、うそ…………ホントに?」
幼馴染「……う、うん。ツインテちゃんが夜遅くに部屋の外に出たとき、その物音で私も目が覚めたんだけど……」

幼馴染「きっと寝付けないから散歩したいのかなとか、台所で夜食でも作るのかなって…………あまり深く考えずにそのまま寝ちゃったから……」


※修正:コピペ元の改行がきちんと反映されてないことがある

やっぱり反映されなかった
何度もスマナイ
再開

妹「そう言えば……」

ツインテ「な……なに?」

妹「あ、いえ……初日の夜、深夜に目が覚めて喉がかわいていたのでキッチンに行ったんですけど……」

妹「部屋に戻る私の目の前をツインテさんが横切ったので、声をかけたんですが……気づいてないようでした」

妹「そのときは『寝ぼけてるのかな』としか思わなかったんですが……」

茶髪「おいおいおい……人のこと危険人物扱いしておいて、お前の方がよっぽど危なくねぇか?」

ツインテ「ち……ちが……わ、わたし……は………………」ウルッ

男「そこまでにしとけ!」

男「何度も言ってるが、犯人探しの果てに待ってるのは分裂と孤立化だ」

男「そんなことになって喜ぶのは犯人だけなんだよ!」

妹「………」

妹「じゃあ……これからどうするの、お兄ちゃん」

男「…………」

男「……やっぱり基本的な方針は変わらない」

男「三人一組ってわけにはいかなくなったから、今後は常に五人全員で行動することにしよう」

男「食事は、缶詰類を食べるか…………最悪、何も食べなくても残り2日弱なら乗り切れると思う」

幼馴染「……うん……そうだね……」

男「寝るときもこの部屋で全員で寝よう。女子は男と一緒の部屋で寝るのが不安なら、包丁とか……身を守るための武器を携帯して寝てもいい」

茶髪「……はぁ。まぁそんな所だろうな」

茶髪「今後の方針はそれで行くとして……とりあえず、風呂に入りてーんだけど」

男「じゃあ、この部屋に備え付けのシャワールームを使おう。部屋の中だから目の届く範囲だし、1人ずつ入っても問題ないだろ」

──3日目夜/男の部屋

男「俺は床に布団敷いて寝るから、女子はベッド使っていいぞ」

妹「私は……お兄ちゃんの布団で一緒に寝る」

ツインテ「私は男の隣に布団敷いて寝るわ」

男「それじゃあ、幼馴染はベッドで寝ていいぞ」

幼馴染「えっと……でも、いいのみんな?」

茶髪「他のメンツが床で寝たいってんならいーんじゃね? どうせ男組には選択権ねーしな。はは」

幼馴染「う、うん。ありがとうみんな。それじゃあ……ベッド借りるね」

男「今日はいろいろ辛いことが多かったから、ゆっくり休みな」

妹「うん……」

妹「あのね……お兄ちゃん。眠るまで、手、握ってもらっててもいい?」

男「……」

男「……ああ。握っててやるから、安心して寝ろ」

ツインテ「……」

妹「うん……。なんか、今日はすごく疲れた……」

妹「おやすみ……、お兄ちゃん……」

男「おやすみ」

茶髪「お休みお兄ちゃーん……ちゅっ♪」

男「黙って寝ろ」

幼馴染「ふふ。お休みなさい、みんな」

ツインテ「……おやすみ」

──3日目深夜/男の部屋

──幼馴染 Side

────…………目が、覚めた

……いない

部屋の中に誰もいない

眠りにつく前は部屋に五人もいたのに、目覚めると私一人だけという異常

ベッドから降りて思案する

置いて………いかれた?

一瞬不安になったが、かぶりをふる

さすがにそんなことはない筈だ

「みんな、どこに行ったんだろう……」

広くぽっかりと空いた薄暗い空間に、私のつぶやきが冷たく響き渡った

……廊下に出る

みんなは別荘内のどこかにいるのだろうか

廊下は暗い…………暗いところは、怖い

闇への恐怖は本能的とも言えるもので……知らず、足早になってしまう

──はぁっ……はぁっ……

なぜだろう、なぜか息切れをしてしまう

──はぁっハぁッ……はぁっハぁっ……

何かに追い立てられるように、早足は小走りへと移り変わり

──はぁっハァッ……はぁっハァッ……はぁっハァッ……

いくつもの部屋を通り過ぎて、誰も見つからない不安が心臓を叩いて、小走りから次第に駆け出して

──はぁっハァッはぁっ……ハァッ……ハァッはぁっ…………ハァッはぁっはぁっ…………はぁっはぁっ……

あちこち探しても見つからなくて、泣き出しそうになって、躓きつつ、髪を振り乱して、身体を壁にぶつけながら、

────…………わたしは、いつしか、全速力で駆けていた

────ざぁぁッッッ

潮騒のざわめきが星空に吸い込まれる

……外に出た

どこをどう走ったのだろう

気がつけば、10メートルほど先に男くんが立っていた

その足元にはツインテちゃん

彼女はぐったりと倒れ伏して動かない

着衣には乱れが見られ、股のあたりから血が流れていた

ツインテちゃんは動かない

動かない

動、けない?

ひょっとして

もう……動けない?

だれがやったの? / なぜやったの?

ここにいるのはきけん? / にげたほうがいい?

おかしたのはだれ? / つぎはだれがおかされる?

混乱する頭が凍りついた心臓の拍動を強制的に速める

……ひッ

意図せずして肺から少量の空気が漏れでたかもしれない

蚊の鳴くようなほんの小さな悲鳴は、ひっきりなしの波の音の中でも…………何故か、よく響いた

男くんが振り返る

その顔には何の感情もなく、無機質で…………

──── オ カ サ レ ル / こ ろ さ れ る

錯綜する思考がそう判断した瞬間

「……──イヤあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁッッッッッ!!!!!」

ありったけの声を張り上げて叫んでいた



──幼馴染 Side:了

茶髪「──……どうしたッ!?」

幼馴染「あ……、ぉ、お、男くん、が…………」

茶髪「男? いねーみたいだけど……」

幼馴染「私が叫んだら、どこかに走って行ってしまって……」

幼馴染「あっ! そ、それよりツインテさんは?」

茶髪「え? なっ……。こりゃひでーな……」

茶髪「あいつ……こんなことするクソ野郎だったのかよ」

茶髪「……」

茶髪「ダメだ。……息してない」

幼馴染「そん……な……」

タタタッ

妹「幼馴染さん!」

幼馴染「妹ちゃん! どこにいたの!?」

妹「皆さんを探して別荘の中にいたんですけど、外から幼馴染さんの悲鳴がしたので急いで出てきたんです!」

妹「それより……これは……」

茶髪「言いにくいんだけど……お前の兄貴がやったみたいだな」

妹「え……?」

妹「……そ、そんな。……嘘ですッ!! 兄さんがこんなことするはずない!」

茶髪「でも……幼馴染はあいつがツインテを襲ってるところを見て悲鳴をあげたわけだしなぁ……」

幼馴染「…………」

妹「嘘……ウソです、そんなの……」

茶髪「とりあえず、こんなところに放置してたら可哀想だし、ツインテを部屋の中に運んでやろうぜ」

幼馴染「う……うん……」

おはよう

                                 /\___/ヽ
    (.`ヽ(`> 、                      /''''''   ''''''::::::\
     `'<`ゝr'フ\                  +  |(●),   、(●)、.:| +
  ⊂コ二Lフ^´  ノ, /⌒)                   |  ,,,ノ(、_, )ヽ、,, .::::|
  ⊂l二L7_ / -ゝ-')´                 + |   `-=ニ=- ' .:::::::| +
       \_  、__,.イ\           +     \   `ニニ´  .:::/    +
        (T__ノ   Tヽ        , -r'⌒! ̄ `":::7ヽ.`- 、   ./|
         ヽ?.   / ノ`ー-、ヘ<ー1´|  ヽ | :::::::::::::ト、 \ (  ./ヽ
          \l__,./       i l.ヽ! |   .| ::::::::::::::l ヽ   `7ー.、‐'´ |\-、

──3日目深夜/ツインテの部屋

茶髪「……ふぅ。三人がかりとはいえ、けっこう疲れたな」

幼馴染「…………」

妹「…………」

茶髪「ん? なぁ妹ちゃん。なんで包丁なんて物騒なもん握りしめてんだ?」

妹「…………もう、誰が敵か分かりませんから」

幼馴染「妹ちゃん……」

妹「お二人には悪いですが、私は自分の部屋にこもります。明後日の昼まで部屋から出ません。それでは」

茶髪「……」

妹「…………最初から……こうしてればよかったのかもしれませんね」

妹「……」

妹「いえ。そうしていたらしていたで、やっぱり兄さんの言う通り犯人の思う壺だったのかも」

妹「いずれにせよ今更ですよね。……おやすみなさい。5日目のお昼まで、さようなら」

ガチャ……

バタン

幼馴染「……」

茶髪「……妹ちゃんはあぁ言ってるけど、幼馴染ちゃんはどうする?」

茶髪「男が次に狙うとしたら、妹ちゃんよりは幼馴染ちゃんの方だろうし……俺といた方が安全だと思うけど」

幼馴染「……」

茶髪「……まぁ妹ちゃんみたいに部屋にこもるってのも一つの手だろうけどね」

茶髪「でも、あいつ実はさ、メガネの部屋の鍵を開けるときにチビ子からこの別荘のマスターキーを借りてたはずなんだよ」

幼馴染「えっ!?」

茶髪「あの鍵……チビ子に返してたようにも見えないから、今でもアイツが持ってるんじゃないかな」

茶髪「だとしたら、妹ちゃんみたいな籠城作戦は最悪だよ」

茶髪「むしろいざという時に逃げ場がなくなってアウトでしょ」

幼馴染「……」

茶髪「な? 俺と一緒にいよーよ? 俺も誰かがそばにいた方が心強いしさ」

幼馴染「う、……ん」

茶髪「うん……今日は疲れたからさ。もう寝ちゃおーよ」

茶髪「とりあえず俺の部屋に行こう」

幼馴染「……」

幼馴染「……妹ちゃんは、大丈夫かな」

茶髪「……まぁ、いくらアイツでも実の妹に手ぇ出すほど鬼畜でもないでしょ」

茶髪「だから、幼馴染ちゃんは妹ちゃんのことよりも自分の心配をした方がいいよ」

茶髪「…………自分の心配を、ね」ボソ

──4日目早朝/島内某所

──男 Side

……昨夜のことだ

目が覚めると、茶髪とツインテが部屋にいなかった

ツインテの不在は想定の範囲内だった

ツインテは夢遊病の気があるとの話だったので、今日もフラフラと部屋を抜けだしたのかもしれない

しかし茶髪までいないとなると……ツインテの身が危険だ

知人が次々と死んでいく極限的な状況で、ツインテも茶髪もどこかおかしくなった

ツインテは過剰なまでにヒステリックになり、茶髪は目が血走ってキレやすくなってしまった

そして疑心暗鬼の中で、お互いに対立を深めていったんだ

……ぐっすりと眠っている妹と幼馴染を横目に、二人を起こすか否か逡巡する

──足手纏いになる可能性が高い

瞬時にそう判断して、俺は一人で部屋を抜けだした

別荘内をザッと見まわっても二人は見つからなかったため、別荘の外にまで出て探索を続けた

───………ツインテの遺体を発見した

着衣の乱れ、股から流れる血、殴打の跡……

ここで起こった出来事はすぐに把握できたが、衝撃を受けたのは否定しようもなく、しばらく……呆然として立ち尽くしてしまっていた

だからだろうか

いつの間にか近くまで接近していた幼馴染の存在に気づけなかった

驚愕と恐怖

そして悲鳴

その瞬間、残りの生存者4名のうち、茶髪と幼馴染の2名は間違いなく俺の敵に回った

『みんなで生きて帰る』という御題目はこの一時に霧散し、『妹と二人で生き延びる』ことが至上命題となった

だから…………迷わずその場から逃げだした

そして一睡もせず一夜を過ごし、翌早朝の今、別荘の裏手から中に入ろうと様子をうかがっている

……茶髪がいた

崖のあたりでウロウロして、悪態をつきながら地面を蹴り上げている

時折崖下を覗き込み、頭を掻きむしっている

そうやってしばらくのあいだ奇行を繰り返したのち、別荘の中に戻っていった

アイツが別荘内に入っていったのを確認して、崖の先端に歩み近づいて下方を覗き込む

────…………眼下で幼馴染が死んでいた

ピクリとも動いていない

崖から落ちたらしい……、あるいは落とされたのか

いずれにせよ、この高さからでは……

時間をかければ崖下に降りていって遺体を引き上げてやることもできないことはないが、今は妹の方が心配だ

一刻の猶予もない

俺は踵を返して別荘の方へと駆け出した



──男 Side:了

──4日目早朝/妹の部屋

ガチャ……

茶髪「妹ちゃーん」

妹「なっ!?」

茶髪「おはよう! 妹ちゃん!」

妹「な、なんで……鍵をかけておいたはずなのに……」

茶髪「おいおい。朝なんだから挨拶しないと~。ほら。『おはよーございます』!」

妹「……あなた…………」

妹「そう……マスターキーってこと…………」

妹「ソレは兄さんがチビ子から借りていたはずだと記憶してましたが……盗んだんですね……」

茶髪「なーにボソボソ独り言いってんの~?」

茶髪「この島はさ~……狂ってるよな!」

茶髪「こんな狂った島だからかなぁ? 俺も自分の新しい一面に目覚めたって言うかさ、新しい性癖を発見したってゆーか……」

妹「……ギリッ…………」

茶髪「まぁでも~。俺だけが悪いわけじゃないじゃん、これって?」

茶髪「あの女もさぁ~、せっかく『仲良く』しようとしただけなのに、俺のことグーで殴りやがって…………クソが……」

妹「いけしゃあしゃあと…………人殺しのくせにッ!!」

妹「チビ子を返せ!! この殺人鬼ッッ!!!」

茶髪「ん……」

茶髪「んんぅ~……まぁいいかぁ…………面倒だし。それはともかく、俺と『仲良く』しようよ妹ちゃん♪」

妹「近づかないで!!」

茶髪「え~……近づかないと『仲良く』できないじゃん」

妹「それ以上、一歩でも近づいたら……」

茶髪「ん? なになに? そのプルプル震えてる両手で握った包丁で俺を刺す? いーよ試してみればぁ? できるもんなら」

妹「それ以上……近づいたら…………」

妹「…………自殺、します」

茶髪「えっ」

妹「あなたに好きなようにされて殺されるくらいなら、自ら死を選びます!!」

茶髪「…………」

茶髪「あはははっははははははっははははははは!!!!!!」

妹「……ッ!?」

茶髪「あははっはははは。あーあーあー。あーおかし~。え? なに? ひょっとして俺にレイプされるとでも思ってるぅ?」

茶髪「いやいやぁ、そんなことしないって! そんなことしたってなーんにも楽しくないじゃんか!!」

茶髪「お前の兄貴みたいなクズ野郎と一緒にするなって!!」

妹「は? …………な、なにを……今更」

妹「ツインテさんをあんな風に弄んでから殺したのはあなたなんでしょう!?」

茶髪「………あぁ~」

茶髪「………なるほどねぇ。……やっぱりそういう勘違いしてるんだ。どいつもこいつも馬鹿ばっかりだなぁ……」

妹「……う、うるさい! この殺人鬼! お前の言うことになんて耳を貸さない!!」

茶髪「ふーん……。まあいいや。死にたきゃ死ねば?」

スタ……

茶髪「……ほら一歩近づいたよ。どうしたのかな?」クスクス

妹「……ッ」

茶髪「言っとくけど俺は妹ちゃんが死んでも1ミリも困らないんだ。いやマジで。今すぐ死んじゃっていいんだよ」

スタ……

茶髪「ほら! もう一歩。ははッ。どしたの? 威勢がいいのは言葉だけ?」

妹「……ギリリッ…………」

妹「…………」

妹「…………お兄ちゃん、ごめんなさい……」

妹「お兄ちゃんのこと、大好きだった」

茶髪「…………へぇ」

妹「私がいなくなったらお兄ちゃん一人ぼっちになっちゃうから、死にたくなかったんだけど……」

妹「でも私、他の男にいいようにされるのは我慢できないから」

妹「ごめんねお兄ちゃん……」

妹「さよなら…………生まれ変わったら、また、私のお兄ちゃんになってね」スゥッ……






男「──────断る。お前をここで死なせるつもりはないからな」

茶髪「へぁっ?」

ガンッッ!!!!

茶髪「ッァ…………!!!」

バタン!!! ガシャ!!!!

妹「お兄ちゃんッ!?」

男「ふぅッッ!!!」

ガンッガンッッガンッッッ!!!!!

茶髪「ぃがッッ…………グゥッ……いぎゃッッ……!!!」

男「ふッ! ふぅッ!!」ガンッッガンッッッガンッッッ!!!!

男「はぁー……はぁー…………」

男「……ふッ!」ガンッッッ!!!

男「…………………………ふぅ。とりあえずこんなもんか」

男「悪いけど感動の再会は後でな。とりあえずコイツを縛らないといけないから、手伝ってくれ」

妹「う……うん!」

13:00までには本編終了の予定
一睡もしてないからさすがにその後は少し寝させてくれ
解答編は起きたときにスレがあったらきちんと書く

──4日目昼/男の部屋

男「落ち着いたか?」

妹「うん」

男「一人にして悪かったな……」

妹「本当だよ! なんで昨日の夜、私を置いて独りで行っちゃったの!?」

男「茶髪が部屋から消えてた時点で、アイツが今回の一連の事件の犯人だって気づいたんだよ」

男「そこに妹や幼馴染を連れて行ったんじゃ、場合によっては人質にとられたり…………まぁ、足手纏いになりかねないと思ってさ」

妹「でも、結局その気遣いが裏目に出たんじゃない!」

男「あぁ。…………判断ミスだったって思うよ。ごめんな」

男「結局そのせいで、幼馴染も死んじまったしな」

楽しみ~

茶髪「くっ・・・クソ!」

時計型麻酔銃「シュバッ!」

男「しまっ・・・!!ガクッ」

茶髪「フッ、みんな勘違いしていたみたいだが工藤新一はメガネじゃなくて俺だったて事さ・・・」

妹「え!? 幼馴染さんも……死んじゃったの?」

男「あぁ……崖から落ちたんだ」

男「茶髪に突き落とされたのか、追いつめられて自殺したのかは分からないけどな……」

妹「……そう、なんだ」

妹「それじゃ、この島にはもう……」
男「ああ。生きているのは俺と妹と茶髪の三人だけだ」

男「茶髪は何重にも縄をかけて縛ってるから、万が一にも縄が解けることはないし、さすがにもう安全だよ」

妹「うん……」

男「怖い思いもさせたけど……」

男「お前を守ることができて、本当によかった」

妹「お兄ちゃん……」

男「普段から、あまり兄貴らしいことしてやれてなかったからな」

男「たまには格好いいところを見せないと威厳がないだろ。はは」

妹「……ううん」

妹「お兄ちゃんは、いつも私を守ってくれてたよ」

妹「私は……お兄ちゃんに守ってもらってばかりで、少し……心苦しいくらい」

男「……馬鹿。そんなこと気にすんな」

男「兄貴が妹を守るのは……当然なんだからさ」

男「……ふわぁあ…………っ」

男「わりぃ……実は深夜に起きてから今まで一睡もしてなくてさ……」

男「夕方まで寝てていいか?」

妹「うん、いいよ」

妹「私がそばにいてあげるから、安心して眠ってね」

男「ああ……何かあったら起こしてくれ……」

男「……おや……すみ…………」

妹「おやすみお兄ちゃん」

妹「安心して、いい夢を見てね」

妹「…………」

妹「………………」チュッ

──4日目夜/男の部屋

──男 Side

……目が覚めると、妹がそばにいなかった

夕飯の準備でもしてるのか、あるいは風呂にでも入っているのだろうか

随分長い間寝ていたおかげか、目覚めはすっきりとしている

さて

これから何をすべきだろう

妹の顔でも見に行くか……

……いや

とりあえず、一応茶髪の様子を確認しておこう

部屋を出ると、……静まり返った廊下がやけに寒々しかった

なんだろう、なんとなくイヤな雰囲気だ

ねばつく空気を振り払うように、茶髪を縛り上げて放り込んでいる部屋に向かった

────…………茶髪が死んでいた

なぜ?

俺が何度も強く殴りすぎたせいか?

…………まさか、違う

死因は一目瞭然だ

顔面を刃物でめった刺しにされている

誰がやった?

この問いも馬鹿げている

この島の生存者は残り2人

俺と…………妹だ

背筋が凍った

ちがう

それは違う。そんなことはありえない

ありえないさ

…………とにかく、妹と話をしないと

……妹がいない

妹の自室にはいなかった

キッチンにはいなかった

大浴場にもいなかった

チビ子のところか?

2人は親友だ

親友の亡骸の前でその死を悼んでいるのかもしれない

なんだろう……先ほどまでのすっきりとした目覚めがウソみたいだ

目の前に霞がかかったようにぼんやりとしている

何が現実で、何が夢なのか

熱に浮かされたかのような朦朧とした意識で、チビ子の部屋に向かう

────…………チビ子の遺体が消えていた

わからない

何が真実なのか分からない

わからないワカラナイわからない

チビ子はどこに消えたのだろう

誰がチビ子の遺体を動かしたのか

……いや

そもそも

チビ子は本当に死んでいたのか?

チビ子が死んでいると判断したのは誰だっけ?

なんで死んでいると決めつけたんだっけ?

「息をしていなかったから」

そう、息をしていなかったんだから死んでいるに決まっている

でも、…………それは本当に?

もしかしてぜんぶ演技で、ただ『死んだフリをしていた』だけだったら?

ありえない………………だってそんなことをする意味が、ゼンゼンワカラナイじゃないか

────…………妹が溺死していた

いろいろな場所をさがした結果、とある一室で、湯をためた浴槽に頭をつっこんで死んでいた

なぜ?

いや、その問いはむいみだ

だれがやった?

いや、そのといもむいみだ

だって、事故しだろ?

だれかがころしたとか

誰かにころされたとか

そんなこともんだいにならないハズなんだ

いもうとはきっとじこでできしした

そうじゃないとわからない

だって このしまには

もう

おれ ひとりしか いないんだから …………

崖にきた

なぜここに来たんだろう

──自さつ

そんなことばが頭をよぎる

これが夢ならば、しねばめ覚めるんじゃないか

がけの下をのぞきこむ

────…………幼馴染の遺体が消えていた

……ほら、やっぱりこれは夢だ

わけのわからないことばかりが起こる

だって、だれが彼女の遺体をうごかしたっていうんだ

…………ばかばかしい

ばかばかしいばかばかしい

ばかばかしいバカバカしいばかばかしいばかばかしいバカバカしい!!!!!!!!

ちがう、違う!! それはちがう!!!

このしまには、もう、…………おれひとりしか

ちがうちがうチガウちがう

おれはやってない おれはヤってない おれは犯ってない おれは殺ってない

おれはまともだ オレはマトモだ おれはまともだ……────

────…………あれ?

『おれはまともだ』なんて、なんだかくるってるヤツがいいそうなセリフだ

ちがう

そうじゃない

くるっているのはこのせかいのほう

くるってるんだ

くるくるくるってる

くるくる

くるくる

くるくるとまわって

がけのしたにすいこまれそうだ ──────

…………────あっ

つよい風がふいて────バランスをくずした

かぜにせなかを押されて…………崖のさきに足をふみだしてしまった

おちる?

あぁ、おちる……

さいごのいきのこりが事故死だなんて

みえないかぜにおされて死ぬだなんて

おれのせなかを後押ししたその風は…………まるで、だれかが背後からつき飛ばしたかのような感触だったけど

きっと気のせいだしそれにもうどうでもいい

ほら、あっというまに 地面が/死が ちかづいてくるから

ああ…………────ごめん

ごめんな妹

ごめん…………まもって………………やれなくt



──男 Side:了

本編終了。寝る前にいくつか

1.現時点までにスレで出た「犯人予想」に関して完璧な正解者は一人もいない。その意味で正解率0%

2.起きるのは夕方くらいかも。起きたらエピローグ(解答編)を書く。落ちたら落ちたで仕方なし。真相は脳内補完で

3.保守の間の暇潰し用に、宣伝するようで恐縮だが前作を置いておく
  http://unkar.org/r/news4vip/1325734267
  http://unkar.org/r/news4vip/1325952866

以上。おやすみ

過去作どこにあるの?

事件後の島に上陸して死んでない人間が犯人って事だわな

>>348


>>308

>>351
ありがとう(´・ω・)

おはよう
スレが残っていて嬉しい
10~20分後からエピローグを開始

──エピローグ

────…………

──……

─…

男「……ぁ」

看護師「!! 男さん!?」

男「……ここ、……は?」

看護師「目が、……覚めたんですね」

看護師「……ここは○○病院です。安心してください。何も心配はいりませんよ」ニコ

看護師「男さんは10日間ほど昏睡状態が続いていたんです」

看護師「詳しい説明は担当の医師から致しますので、少々お待ちくださいね」

カチャ……

看護師「こちら208号室です。患者さんの意識が戻りました。至急担当の先生にご連絡願います」

男「……ぅ…………」

……目が覚めて意識がはっきりするにつれて、何故だかあの島での出来事が遠い夢の出来事のように思えた

しかし叔母との面会で、アレが夢でもなんでもなかったことが分かった

妹は…………やはり死んでいたらしい

泣き腫らし、憔悴しきった顔でそう教えてくれた

いや、妹だけではない

あの島にいた俺以外の人間全員の死体が確認されたというのだ

叔母は言ってくれた

────あなたは何も心配することはない。私が守ってあげるから、と

両親の死のときもそうだった

この人は、本当に優しい人だ

面会謝絶の状態ながら、保護者である叔母は毎日会いにきてくれた

しかし、2度の精密検査が終わり、右腕の骨折以外には脳にも身体にも問題がないことが確かめられて……

ついに面会謝絶が解かれ、叔母以外に初めて面会にやってきた人たちがいた

────警察だ

俺はあの島の唯一の生き残りだ

きっと、あの事件の犯人として疑われているのだろう

……そう考えて身構えていたのだが、やってきた刑事達の向けてきた視線は厳しいものではなかった

「あの島で起こったことを、できるだけ詳しく聞きたい」

穏やかな声で頼まれ、俺は覚えている限りのことを全て話した

刑事A「……なるほど、な」チラ

刑事B「……ええ。手記の内容と完全に一致しています」

刑事A「ああ」

男「あの……『手記』って?」

刑事A「あぁすまんな。言いそびれていたが、……ホシの残した手記があるんだ」

男「えっ!? 犯人が誰か分かっているんですか!?」

刑事B「あまり詳しいことは言えないけど、……凶器の入手経路等からも犯人は既にほぼ確定しててね」

刑事B「そしてこの手記の内容の裏付けも、君の供述で得られた」

刑事B「ありがとう。捜査協力に感謝するよ」

男「そ、それで………」

男「犯人は、誰だったんです……か?」

刑事A「……」

刑事B「……」チラ

刑事A「……おい。坊主に見せてやれ」

刑事B「えっ!? そりゃマズくないっすか?」

刑事A「お前が黙ってれば誰にもバレんよ。残された手記を読めば、先ほどの供述の中で不鮮明だった事実を思い出すかもしれん」

刑事B「……も~。ホントいい加減なんっすから」

刑事B「あー……君。コレを見せるのはここだけの話ってことで頼めるかな?」ポリポリ

男「はい。誰にも言いませんから…………見せて、ください」

……そうして、刑事の片割れが、俺にその手記のコピーを手渡してくれた

────手記

私以外の人間は全員死んだ

やるべきことはすべてやった

私も当初の予定通り死のうと思う

でもその前に、気まぐれに、事の真相を書き記しておく

このメモは、私の遺書であると同時に、告白文でもある

とは言え誰かにあてて書いたものでもない

きっとこの手記は私の遺体を発見した誰かに読まれることになるだろうが……

それも私が死んでしまった後のことだ

どうでもいい

ただ、私は────どこかに吐き出さねば気持ちが悪くなってしまっただけなのだ

────………私はある人間に脅されていた

脅迫内容は、私自身の名誉に関わることなのでこの手記にも記せない

ただ、私を脅迫していた人物は私のただ一度きりの過ちにつけ込み、何度も多額の金銭を要求した

日増しにその求めはエスカレートしていったが、私には逆らうことなどできなかった

私を脅していた人物は自分の正体を明かさなかった

脅迫犯は極めて狡猾で、直接顔を見せることなく私から金を巻き上げたのだった

それでも、垣間見える情報から、その人が同じ文芸部の人間であることは突き止めた

結局、最期の最期まで、その人物が部内の誰なのかはっきりとは分からなかったが……

茶髪が脅迫内容に関しての情報を知っているかのようなそぶりを見せていたので、

今となってはアイツこそが脅迫犯だったのだろうと推測している

男が

>>1のことだから、最後に大どんでん返しがあるな

私は……耐えられなかった

毎日が苦しくて苦しくて仕方がなかった

脅されていることが? お金を要求されていることが?

……そうではない

実を言えば、顔の見えぬ不気味な脅迫も、金銭の要求も、それ自体は大した問題ではなかった

私をここまで追いつめた本当の問題は…………『お金を払うに至るまでの過程』にこそあったのだ

…………

……

一時は自殺も真剣に考えた

しかし、思いとどまった

死を選ぶくらいなら…………復讐した後で死んでやろうと思ったからだ

私をこんなに苦しめているその人物に復讐したい

しかしその人物が誰なのかは分からない

だから、私はこの合宿を利用して文芸部員の皆殺しを画策した

全員殺せば、必然、私の秘密を握って脅している人物も死ぬことになる

もちろん、1人のために他の6人の無駄死にを生んでしまうが……

はっきり言って『そんなことは知ったことじゃない』と思った

私を助けてくれない、私の異常に気づいてくれない他の人間たちも同罪じゃないか

────最初の一人を殺してからは、その思いは益々強まっていった

初日の夜、先生を殺した

この人が脅迫犯である可能性は限りなく低いが、この場で唯一の大人である彼女は最初に殺しておく必要があったのだ

深夜に部屋に押しかけて、恋愛相談をもちかけ、隙を見て縄で絞め殺した

自分を殺そうとしている人間を招き入れ、ぽややんとした馬鹿面を振りまいていた彼女は……

死ぬ寸前になっても何が起こっているのか分からない様子だった

最期まで……間抜けなヤツ

殺した後でカーテンレールに縄をくくり、自殺に見せかける

こんなものは子供騙しだが、別にそれで構わない

一時的な目眩しにでもなれば十分だと思った

先生の殺害後に、予め把握しておいた別荘中の電話を壊して自室に戻る

電話線を切る必要なんてない…………ただ、電話機本体を水につけた後で水気を拭きとってやれば事足りた

二日目の夜に殺したのはメガネ

メガネは先生の死因が自殺ではなく絞殺であることを見抜いていたふしがある

『二人以上で行動するのがいい』という発言から察せられた

賢い人間は早々に片付けた方がいい

夜中に部屋を抜けだして、メガネの部屋のブザーを鳴らして呼出す

案の定警戒していたらしく、ドアには鍵をかけたままで来客の確認窓を覗いてきた

無防備な挙動に思わず笑いがこみあげる

────瞬間、予測位置に固定していたクロスボウで眉間を撃ってやった

日本では銃器所持の難しさに反して、クロスボウは比較的簡単に手に入る

基本的に年齢確認等は必要だが、すべての販売店がそのあたりを徹底しているわけでもない

普段から偉そうな態度をとっておきながらこいつも間抜けだった

慎重で冷静な行動を心がけていたようだが、所詮はガキだ

永遠に、おやすみ

三日目の昼、チビ子を殺すのはこれまでで一番簡単だった

意外なことにチビ子もまた、メガネと同様に頭がキレるタイプのようだったので早々と排除した

先生の死を見た際の過剰な反応は、恐らく先生が部内の誰かに他殺されたことを瞬時に悟ったからだろう

方法は簡単…………食事に毒を盛ってやっただけだ

私のような一般人でも比較的簡単に手に入る毒物がある

────トリカブト

キンポウゲ科の多年草であり、漢方薬として利用されるが、猛毒にもなることでも有名な有毒植物である

そこらの涼しげな山を探せば普通に生えているが、実は市販されてもいる

トリカブトの毒には即効性があり、経口摂取後、数十秒で嘔吐や呼吸困難を起こし、ついには心停止に至る

チビ子はそのご多分にもれず……ゲロを吐き散らしながら苦しんで死んでいった

なんという惨めで、汚らしく、滑稽な死に様だろう

私は、あんな死に方したくない

私にはふさわしくない死に方だ

そして三日目の夜、ツインテが死んだ

彼女を殺したのは私ではない

最初は私も誤解してしまった

状況からして、てっきり男がツインテを『犯してから殺した』のだと思ったが

そうではなかった

実はあの茶髪が…………『殺してから犯した』のだ

あの茶髪は強姦魔ではない

……屍姦野郎だ

レイプ犯ではなく、…………ネクロフィリアだったわけだ

いずれにせよ、クソ気持ちわるい変態には他ならないが

(´・ω・)むひょ~

その事実に気づいたのは、ツインテが死んだ夜が明けた後、四日目の早朝だった

結局、茶髪の『一緒にいよう』という提案を蹴って私は自室にこもり一人で休むことにした

予期せぬ事態に疲れを感じてはいたものの、興奮する脳の状態での眠りは浅く……

ベッドに入って2~3時間で目が覚めてしまった

ふと思い立って廊下に出る

……先生の部屋が半開きになっており、室内から声が聴こえてきた

──……誰? 何?

音をたてないようにそっと中を伺うと、そこで見たものは……

茶髪が、ツインテとチビ子と先生、3人分の遺体と…………─────『仲良く』している現場だった

物言わぬ亡骸に何事かをささやきながら、裸同士で『仲良く』している姿

……あの遊び慣れた様子からすると、きっと二日目の夜のうちから既に先生の遺体に悪戯をしていたのではないか

おぞましすぎて嘔吐する

思わず声が漏れて

眼が…………合った

見つかった

全力で逃げた

逃げたのはいいものの……崖側に走ったのがまずかった

追いつかれ……

必死に抵抗して顔面を殴りつけてやったが

揉み合っているうちに突き飛ばされて、私は…………崖下に落ちた

────…………かなりの高所からの落下にもかかわらず、私は死ななかった

崖の上からでは分かりにくいのだが、崖の岩壁から木々が生えており、それが落下の衝撃を和らげてくれたのだった

そのような事情のため、死ななかったこと自体は奇跡というほどのものでもないが……

骨折すらなく捻挫程度ですんだのはやはり奇跡的だったと言える

頭を打たなかったことも幸いしていた

1~2時間ほど気を失ってはいたが、目を覚ました私は自分の無事を確認した上で、崖上へと登ることにした

崖下から崖上へはきちんと歩いて登れる道があるが、島の外周を遠回りしつつ登る道であるために時間がかかった

別荘にたどり着いた頃には……夕方になっていた

────静かに、別荘内に入る

ネクロ野郎に見つからないように慎重に慎重を期して行動していたが、……っはは

あの死姦嗜好者、男にやられたのだろうか

グルグル巻きに縛られて、猿轡までかまされている茶髪を発見した

変態野郎……

日頃の会話の内容や私に向ける粘ついた視線から、私はこの変態こそが脅迫犯だろうという推測を疑めていた

──────くるしめてやる

自室から持ちだしたナイフで、彼の顔面をめった刺しにしてやった

ただし、とてもゆっくりとしたスピードで、だ

猿轡をかまされた口元から悲鳴と嗚咽が漏れる

喋ることはできないため……、助けてくれ、許してくれ─────と、そんなふうに涙で溢れた両目で必死に懇願する

私はニッコリと微笑んで…………その両方の目玉を抉ってやった

1時間……絶命するまでたっぷりと楽しんだ

妹はキッチンで料理をしていた

自分の衣服にこびりついた茶髪の血を洗い落とさずに近づく

私に気づくと驚いていたが、茶髪に突き落とされた事情を説明すると、衣服や両手についた血を私のものだと勘違いしてくれた

私の身体はあちこち汚れており、傷口からバイ菌が入らないようにするためには風呂に入って清めた方がいいと言う

腕がうまく動かないと嘘をつくと、この阿呆は疑いもせず一緒に風呂に入ってくれると提案してくれた

せっかくなので御厚意に甘えて一緒に風呂に入り……

風呂のお湯の中に妹の顔面を抑えつけて溺れさせてやった

私の方が体格は大きいのだが、生死がかかった人間の力というのは中々にすごい

最初のうちは抵抗も強かったが、全力で湯船の中に頭を押し付けた結果、4-5分も経てばぴくりとも動かなくなった

ふふ。残念だったね……

あともう少し慎重だったら、お兄ちゃんとのハッピーエンドが待っていたのに

そして最後の一人、男を殺した

男は崖先に立っていたので、音をたてずに後ろから近づいて突き飛ばしてやった

実を言えば、私は彼に対して少なからず好意をもっていた

一見すると冷たい人間のように見えるけれど、実は心優しい人だということは幼少期からの付き合いで知っている

しかし,もちろん彼が私を脅していた人物の可能性だって……僅かではあるが、やはり捨てきれない

捨てきれない以上……他のみんなを殺してきたときと同様、虫を殺すように無慈悲に手を下した

……でも

突き飛ばしたときの感触が、少し……軽すぎた

ひょっとすると彼は、…………今まさに自殺しようとしていた所だったのかもしれない

であれば、勝手に死ぬのを見守っていればよかった

あるいはもっと早々に突き飛ばしてやるべきだった

だって気持ち悪いじゃないか

はたして私は彼を殺したのか……それとも彼は自殺したのか……最後の殺人が曖昧なままだなんて…………

これでこのお話はすべて終わり

この手記を書き終えたら、私も死ぬつもりだ

恐怖や混乱の中で苦しみながら死んでいった彼ら彼女らには悪いが、私は眠るように死にたい

手元には強力な抗鬱剤が200錠ほどある

100錠のカプセルで致死量に至ると言われている薬剤だが、念には念を入れて手持ちの200錠全てを服用するつもりだ

私の死を悼んでくれる人はいるだろうか

……いや

きっといないだろう

父は、私の死ではなく、私のしでかしたことのみに心を痛めるだろうし

母は、心を痛めている父に対してのみ心を痛めるだろう

私は独りで死ぬ

『一人を殺すために七人を殺す』というイカレタ発想に何の疑いも持てなくなるほどに追い詰められていた私は……

結局、最期の最期まで、独りきりで苦しみ、独りきりで殺し、独りきりで死んでいくんだ…………────



────手記:了

男「そん…………な…………」ワナワナ…

刑事A「…………」

刑事A「その手記を書いたのが誰か……わかるか坊主?」

男「……ッ」

男「そんなの……一人しかいないじゃないですか」

男「幼馴染が…………犯人、だったんですね……」

刑事A「……」

刑事A「……ああ。そうだ。正確に言えば茶髪がその便乗犯だった」

刑事A「女性陣の遺体についた体液のDNA鑑定をした結果、茶髪のものに間違いないと判明したそうだ」

刑事A「どうだ自分の体験と照らし合わせて? 矛盾点とか……気になることはないか」

男「…………」

男「……俺の体験との矛盾は、たぶん……ないと思います」

男「俺が崖から落ちたのに運良く生き延びることができた理由も、……分かりました」

男「でも……」

刑事B「でも?」

男「この……『脅迫』って、何なんですか」

男「幼馴染に脅迫されるような弱味があったとは思えないですし、部内に幼馴染を脅迫するようなヤツがいたとは思えません」

刑事B「……」

男「みんな……島での出来事でだんだんと変になっていっちゃいましたけど、元々は気のいい奴らばかりだったんです」

刑事A「…………」

刑事A「誰にも言わないと誓えるなら……教えてやってもいい」

刑事B「ちょっと先輩! いくら関係者だからってマズイっすよ!!」

刑事A「黙ってろ」

刑事A「こいつには……知る権利があるだろうが」

刑事B「いや! そーゆーことじゃなくってですね!! 刑事としての職業倫理というか何てゆーか……」

男「お……お願いします!!」

男「俺……みんなが……死んじゃって…………」

男「これから……7人分……せ、背負って…………生きてかなきゃいけないん、です……」グス

刑事B「……ぅ…………」

男「だから、この事件については……全部、きちんと知っておかなきゃいけないって、思うんです…………」

刑事B「……ングゥ……」

刑事A「……」

刑事A「これは単純に俺達のクビが危ないからってのもあるが……お前の幼馴染の名誉の問題でもあるから、絶対に秘密にしておけ」

男「……はい。約束します」

刑事A「確定した情報ではないんだが……」

刑事A「お前の幼馴染はな…………頻繁に、援助交際を繰り返していた形跡があるんだ」

男「え……?」

刑事A「手記の内容に鑑みて言うなら、おそらく最初の一度は興味本位だったんだろう」

刑事A「だが……それを偶然知り合いに見られてしまった。そしてその際に写真でも撮られたのか……」

刑事A「それ以降は、金を稼がせて巻き上げるために売春を強要され続けたんじゃないか、……というのが今の所の有力説だ」

男「そ、ん………」ポロ…

男「そん、な…………こと……が…………」ポロポロ…

男「でも…………でも……誰が、そんな脅迫を……」

刑事A「それは分からん」

刑事A「脅迫犯の方については何の痕跡も残っていなくてな…………真相は闇の中だ」

刑事A「茶髪が最有力の容疑者ではあるが……証拠もないから、確実とは言えないな」

刑事A「…………むしろ、坊主の方に部内での怪しい人間とかに心当たりはないのか」

男「それは…………」

男「いえ……。やっぱり、わかり……ません……」

男「さっきも言いましたけど、ホントにいい奴ばっかりでしたから……」

刑事A「……」

刑事A「そうか……」

男「なんで……幼馴染は相談してくれなかったんでしょうね……」

男「いや、俺達に相談できなかったのはまだしも、家族とか……警察に……訴え出られなかったんでしょうか……」

刑事B「その理由は、君にも想像がつくんじゃないかい?」

男「……」

男「……そう、でしたね」

男「政治家、ですもんね。彼女の親父さん」

刑事A「ああ……脅迫されていたにもかかわらず誰にも相談できなかった理由だろうよ」

刑事A「万が一にでも秘密が漏れたら、自分一人の問題ではすまなくなると考えたんだろう」

男「彼女、親父さんのことを凄く恐れてましたから……」

男「ましてや『代議士の娘が援助交際』なんてマスコミが飛びつきそうなネタ、絶対に親父さんにバレるわけにはいかなかったのか……」

刑事A「……また何かあったらいつでも連絡してくれ」

刑事B「今日のことはくれぐれもここだけの話ということで頼むね!」

刑事B「それに、今回の事件はかなりスキャンダラスなものだから、今後君のところにマスコミが大量にやってくると思うけど……」

男「分かってます。……ベラベラと喋ったりはしないつもりです」

男「事件のことは……俺一人の胸の内に」

刑事B「……うん。頼むよ」

刑事B「何か新たに思い出したことがあったらいつでも電話してほしい」

刑事A「それじゃあな坊主。捜査協力、感謝する」

男「……はい」

──ガチャ

……バタン

男「…………」

男「…………」

男「…………」

男「……………………」

男「……………………」

男「……………………」

男「妹………」

男「………………」

男「幼馴染……………」

男「…………………………」

男「……………………………………」

男「…………………………………ク……………」

男「……………………………………………………ク……クッ」

男「……………………クッ…………」

男「……くっ…………」

男「……ぐッぅぅぅううううッ…………」ギリ

男「ば…………かッ………………」ジワ…

男「ばっ……かやろぉッッッ!!!!」ポロ…

ガシャンッッ!!!

男「なん、で…………なんでッッ! 一言相談してくれなかったんだよッ! 幼馴染ぃッ!!」ポロポロ…

男「俺たち…………小さい頃から家も隣同士で、あんなに仲よかったじゃねーか!!」

男「一言でも俺に相談してくれてれば、こんなことにはならなかったかもしれないんだ」

男「あんな凶行に及ぶ前に」

男「あんな事件を企てる前に、きっとッ! 止められたかもしれないのにッ……!!」ポロポロポロ…

男「そうすれば、…………みんな、死ぬことはなかったかもしれない」

男「茶髪も、おかしくならなかったかもしれない」

男「妹を…………失わずにすんだかもしれないのに」

男「俺だけが生き残って…………誰もいなくなっちまった…………」

男「…………」

男「妹…………」ポロ…

男「ごめんな、妹…………」ポロポロ…

男「俺のせいだ」

男「お前を守るって約束したのに、守ってやれなかった」

男「避けられた出来事だったはずなんだ」

男「起こった後でも、せめて妹だけは救えたはずだった!!」ポロポロポロ…

おっふぇ…(´・ω・)

男「畜生…………」

男「ちく、しょう…………」ポロポロ……

男「ごめんな、ごめんな、妹…………」ポロポロ……

男「それに…………、幼馴染も、ごめん……」

男「俺、周りのこと見てるようで、幼馴染の想いに配慮できなかった」

男「もう少し、お前の気持ちをきちんと理解する努力をしてれば……」

男「もっと日頃からお前に優しい言葉をかけていれば、俺に悩みを、心情を吐露してくれたのかもしれない」

男「俺は……お前の眼には、信頼に値する人間として映ってはいなかったんだな」

男「結局…………日頃の俺の行いが、招いた結果だって言うのかよッ!?」

男「くそ…………ちくしょう…………」ポロポロポロ…

男「妹…………ごめん……」グスッ…

────…………俺は、道を間違えた

男「ごめんな…………」ポロポロ…

────…………失敗した、失敗した、……失敗、した

男「本当に、……ごめんな…………」ポロポロポロ……

────…………胸に渦巻くのは後悔の想いだけ

男「あぁ…………」

────…………もっとうまくやればよかった、という想いが肺腑を締め上げる

男「こんなことになるなら、本当に────…………」

────…………失意も、悔恨も、もう……何もかもが遅く、何もかもが遠すぎて────────





男「………………──────もっと、生かさず殺さず、うまく搾り取ってやればよかった」

──────その想いだけが、後に残された


──── 男「そして誰もいなくなった」 fin.

最後まで見てくれた人、ありがとう
少しでも楽しんで読んでくれたならこれ以上の喜びはない

結末を簡単に言えば、『殺人犯』は幼馴染、『便乗犯』が茶髪、然るに事件の最たる元凶の『脅迫犯』は男
男が幼馴染を脅迫して金を巻き上げていた動機は>>55-56あたりの妹の独白を参照
なお茶髪は男と幼馴染の脅迫関係に何となく勘づいていた(>>263の発言、>>391の証言を参照)

殺人犯の正体を推理する際の最大のポイントは、
 (1)(独白内容で犯人から外れた主人公を除けば)幼馴染の死『だけ』は誰もきちん間近で確認していない
 (2)幼馴染の死体がいつのまにか崖下から消えていた
という点(これだけでは犯人は確定できないが最有力候補の一人となるには十分な情報だった)

情報不足の面もあっただろうが、プロット上・演出上の都合と考えて大目に見てほしい
おかしな所があったら……VIPのSSなのでそれも大目に見てくれると嬉しい

>>1がクリスティの『そして誰もいなくなった』を読んだのは15年以上前で、正直内容はほとんど覚えてない
でも原作は推理小説史に残る超名作なので、今回のSSを少しでも気に入ってくれた人はぜひ読んでみてほしい
このSSの10000倍は楽しめるはずだから

長々とすまない。
それではまた別のSSを書く機会があったらよろしく!

乙~
過去作も面白かったよ。
次回も期待大
またミステリー希望

で幼馴染みを脅しとたのは誰よ?

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