比企谷「海老名さんと付き合ってみる」(145)

俺ガイルSSです。初投稿でご迷惑かけるかもですが
ゆっくりがんばって行きます。

修学旅行も終わって学校の行事という行事は無くなって、今年もあと1ヶ月
といったころ。
風さえ吹かなきゃ暖かい小春日和の陽気に誘われて、ある日曜日に俺は
ちょっと遠くにある図書館へ行ってみることにした。

目的は最近興味を持った外国のSF作家の短編集がそこにしかなかったこと、
というのが発端だが、まぁ暇をもてあましてというのがもっとも大きな
理由だ。

二流のボッチは暇を嘆くが、一流のボッチは暇を上品に消費してゆくのである。あまり知らない街をゆっくりと歩いて行く俺。
やばい、ちょっと小説の一ページみたい。

で、図書館についたら目当ての本といくつかの読みたかった本をついでに
借りてぶらりと自販機コーナーで迷うことなくMAXコーヒーを購入して
顔を上げると―――。


「ひゃっはろ~、で良かったんだっけ? あ、それともヒャッハァだったかな?」


赤いフレームのめがねに指をかけて、ニコニコと俺に話しかける海老名さんが
居たのだった。

「なんでこんな所にいんの……?」


「本を探しにちょっとね。ああ、別に趣味の方ではなくて、まぁ勉強のため……かな?」


半眼で見つめているであろう俺の視線を受けても、彼女―――海老名姫菜は
芝居がかった照れ隠しのようなしぐさで頭を掻くふりをしている。

俺はというとMAXコーヒーを見ることもなく自販機の取り出し口から
手探りで取り出し、それをバックにつめて。


「そっか……。じゃ、またな」


軽く右手を上げてきびすを返すことにした。

まさに飛ぶぼっち後を濁さずの模範生である。

数秒後に海老名さんはここで
誰と会ったかも分からなくなるのではないかというくらい鮮やかなターンだ。

本当に我ながら惚れ惚れしちゃうぜ。
ターンのときに靴の裏がきゅっとも言わないんだぜ、足音殺すのが癖になっ
ちゃってるなこりゃ。

「ちょいちょい、まってよヒキタニくん。そんなに慌てて帰んなくてもいいん
じゃない? すこーし、私に付き合あおうぜ~」

「あ、ちょっとすそ引っ張るのなしなし! 手はなして、手。伸びんじゃん、
俺のお気に入りのコーデが台無しになっちゃうじゃん」

「ふむふむ、○ニクロか。1,980と見たけどいかに?」

「ちょ、ユニ○ロ馬鹿にしてるようじゃ、おしゃれ気取りのにわかって
呼ばれちゃうぜ」

「あれ、ズボンもユニク○? 全身ユニってるのもどうかと思うよ?」

「まぁ、母親が買ってきた服だし、俺が自分で欲しい服を着てるわけじゃない
から、俺のせいじゃないと思う」

「親が買ってきた服を黙って着ている方が痛い気がするけどね」

「まぁ、今日はたまたまだから許してくれ。あと、手を離して欲しいし、
帰りたい」

「手は離そう。服のセンスもまぁいいよ、色使いは気にしてるみたいだし。
でも、帰っちゃだめ」

「じゃあ、別の図書館に行くので家へは帰らない。また明日な」

「言い方が悪かったらごめんなさい。ここに、私と居て、少しおしゃべりを
しない? って言ってるんだけど」

「ええっと、今何分たった? もう「少し」まであとどのくらいかな」

「ヒキタニくんは本当に一人が好きなんだね。じゃあ、手間取らせちゃわるい
から、ちゃっちゃとそこの風除けがあるベンチに行こう」

「ちょっと、離して! そこ、服じゃない、パンツだからッ。下着引っ張ってる
から。食い込む! 食い込んじゃう!!」

強引かつ張り付き笑顔である種のポーカーフェイス―――海老名姫菜。
彼女とこうやって向き合って会話するのは、修学旅行以来だった。

ベンチには俺と海老名さんがサッカーボール一つ分くらいの間を空けて座って
いる。
風除けもあって寒くはない。てか、むしろ汗が、変な汗が背中を濡らしている。

下着を……、いや服を引っ張られて連れて来られたベンチに座り込む俺たち。
座って、現在会話のない空白状態が続いていた。

「あの、もし用がないのなら、俺……」

「あのね、やっぱりヒキタニ君は……いいね」

帰らせてはくれない海老名さんだったが、いきなり何を言い出すのか。

「『いいね』って、俺みたいに一人になりたいってことか?」

俺に対して羨ましがる所といえばもはや孤独のみ。
まぁ、三浦や由比ヶ浜や戸部やら人間関係とのしがらみは切っても切れんし、
そういう気持ちもあるのか。
俺が意外そうに彼女を見ていると、彼女がそんな俺の顔を見て苦笑する。

「いや、そこまでボッチに憧れはないけど……、ヒキタニ君は孤独を大切にし
ているのかな。うんうん、まぁどっちにしたって羨ましいってわけじゃなくて
ね。グット、って意味で私は言ったの。君は良いね、ってね」

「言っておくが、金ならない。今月は新刊が出た数が多かったのと、妹と遊び
に行った時にたかられたので、もう……使ったぜ。いや、もっとストレートに
言おう、貸せない。というかむしろ貸して欲しい」

「あはは、お金は無いんだね。それじゃ仕様が無いか。じゃあ、お金はいいよ。
それでね……」

「か、……体か? いやいやいやいや、体はもっと不味い。俺、体力は見かけ
どおり無いし、ホントだって! 腕立てもまともにできない奴なんだ。スマホ
で突き指するくらいだし……」


≫4 たぶん初じゃないが、俺がんばるぜ!

「くっ、ふふ! 上手すぎ、軸ぶらすの。どんだけ私に喋らせないつもり?
あははぁ、燃えてきた来たかも」

眼鏡のレンズがいい具合に光を反射して、目線を隠しているために―――
ちょっと怖い。やり過ぎた感が今更だが下腹をキリキリさせる。はぁ、
もうそろそろ終わらせるか。帰りたいし、本当に。

「って、燃えてきちゃうのかよ。……はぁ、んで。話があるんだろ。聞きますよ、
聞かせてくださいよ。じゃなきゃ、帰してくんなさそうだし、さ」

「……うしっ!」

え、牛? そう俺が気を取られた隙を、彼女は上手く突いてきた。
ひやり、っとした感触が自分の汗ばんだ手に重ねられて。

「ねぇ、ヒキタニ君」

「う、え……」

「お試しで、良いからさ」

「おた、え……」

「私に彼氏ってやつが居る気分を教えてくれないかな?」

「かれ、え……?」

「君さ、彼女いないよね? 結衣とは、まだ付き合ってないよね?」

「きみ、え……?」

「……ちょっと、めんどくさい。動揺する振り、いい加減にやめない?」

「……わりぃ、でもまだ言ってる意図は見えていないんだが。てか、近いし、
手を離してく……くださいよ」

「くふふ、やっと緊張してくれた? ヒキタニ君はさ、ちょっと面白すぎるん
だよね。凄く興味を持っちゃうというか、君ちょっと普通じゃないから」

「普通じゃないってどういう事? 俺はそこまで異常なボッチ者ってことか?」

「良い意味で、って前置きしなきゃだめなの? はぁ、私だって女の子なんだよ、
恥ずかしい事言ってるんだからさ、もう少し拾いに来て欲しいな。頭の回転は
いいのに、こういう自分への好意はシャットアウトしている感じなの?」

「自分で意識的にしてる訳じゃないけど。で、なんなの? 彼氏が欲しいって
こと? 奉仕部の俺に彼氏を探して来いってこと?」

「イ~エース! そんでもって、彼氏役も既に決定済み。比企谷君、
君が彼氏になって欲しいの。じゃ、そうだね。うん……、3週間は付き合って
みちゃおうっか? 私の事は姫菜って呼んでね、八幡」

「八幡って……、おい。冗談きついぜ。この前だって愛だ恋だよりも今の
友達関係が大事だって、そう言ってたばかりじゃねーか」

「八幡は私の友達じゃないじゃん。だから全然オッケーだよ、人間関係を
キープしながらも私には素敵なステディが!」

「ま、まてまて。海老名さんは男×男が大好きな、清く正しい腐女子で
いらっしゃいましたでしょう?」

「ふふふ、あ、いや、腐腐腐か! それは趣味だけど、私の性癖としては
いたって正常の男女交際を望むものでしてよ?」

「ちっ、……じゃあ、何で俺なんだよ。奉仕部の男は俺だけだからとか、
そういうことか? だいたい、奉仕部に依頼するんなら平日にしてくれよ。
俺が勝手に受けちゃったら、また怖い部長が更に金色夜叉として俺を攻め立て
に来るだろうが……」

「それは……厳しいかな」

テンポ良く、というと会話が弾んでいたかのように思われちゃうので迷うが、
ここに来て少し海老名さんの表情と声色が曇った。

「奉仕部にはさ、結衣と雪ノ下さんが居るでしょ。二人が居る前でこんな
お願いは出来ない」

「だったらこの依頼は受けられ……」

「ヒキタニ君はさ、葉山君と私、二択しか選択肢が無かったら、どっちを恋人
に選ぶ? どちらも選ばないっていうのは無しだよ」

「なんだよ、その二択は。男女って選択肢はおかしいだろ、普通。で、この
二択に答えた先に俺の依頼拒否を打ち消すなにかがあるっての?」

「君だって、いつか誰かと恋をして、告白して、付き合う……、いや付き合い
たいと思うよね」

「……そりゃ、まーな。普通だろ、そんなの」

「それは―――――――、男の子?」

「いや、女の子だよね、普通は。俺はいつからガチホモ扱いを受けてるの?
虐めなの? 遊び半分? 学校側ではいじめは認識していないの?」

「あはは、くくく。ごめん、嘘だよ、嘘。私がいいんだよね」

「いや、女の子がいいよ」

「私は女の子だよ」

「女の子であれば誰でもいいとか、俺って最悪なやつなの!?」

「選択肢では、男の子は葉山君で、女の子は私だったよ?」

「ああ、そこでその二択がくるの? で、結局何が言いたいのかが分からない
んだけど……」

「だからね、お互いに本命を目の前にしてもしくじらない様に、練習が必要だ
と思うんだけど、ヒキタニ君。君も決してテクニシャンじゃないんでしょう?」

「おい、テクニシャンって、なんかそのイヤラシイというか……」

「まぁ確かに。でもでも、3週間の試行期間でお互いに意気が統合すれば
ひょっとしたらヒキタニ君のテクニックが炸裂する機会だって……」

「おい、恋人の真似事で処女捧げちゃうって何事よ!」

「ふふん、処女って決め付けてくれるんだ。ふふっ、私って結構清純なイメー
ジが在るみたいだもんね。腐ってるのに」

「腐っているかどうかは知らないけど、ちょっと話を整理しようぜ。今の会話
で俺なりに読み解くと、お互いの今後の男女交際のテクニックについてレベル
アップを図ろう、と。そういう事でいいのか?」

ニコッと微笑んで、海老名姫菜は親指をぐぐっと立てて見せるのであった。



≫14
初めてで、改行の勝手が分からんのですタイ。当方PCです。

「なぁ、そりゃ俺も付き合った経験なんか無いわけだからありがたい研修なの
かもしれないけど、それって本当に海老名さんに必要なのか? しかもなぜ今
のタイミングで?」

「まぁ、そこは追々語っていくとして。ヒキタニくん的には、オッケーして
くれるって認識でいいのかな? それとも私みたいな腐った女子とは付き
合えない? 結衣や雪ノ下さんに悪いかな?」

かわいい、と正直にそう思う。

今だって、眉毛をへの字にして、それでも笑顔は絶やさずにこっちを伺って
くる彼女は美しいというより、可愛らしかった。

由比ヶ浜ともちがう、純粋な可愛らしさではなく、少し儚げで、それでいて
ミステリアスな、可憐な少女。
雪ノ下や由比ヶ浜のことがチラッと脳裏を掠めた。

二人とも喜びはしないだろうな―――と思った反面、悲しむ理由も思いつか
ない。
いや、正確に言うならば二人が俺に好意を寄せていて欲しいと思う願望はある
ものの、あくまでそれは願望で、俺が誰と付き合おうが彼女たちがヤキモチを
焼くなんて事は……想像するだけでも厚かましいことだと、そう思ったのだった。

「オッケーだ。というか、こんな事になるとは思わなかったけれど、俺だって
海老名さんと話すのは嫌じゃない。だけど、具体的にはどうすんの?
お互いに彼氏だ、彼女だと念じれば言い訳?」

「いやいや、それで何を学ぶことを期待したらいいわけ、私は。まずはメルア
ド交換しよ。電話番号は……変えるの大変だからパスしよっか。そもそも
電話って苦手だし」

「あ、それ分かるわ~。電話ってかかって来たらなんか緊張するし。あと、
寝てるときにかかってきても、寝てないって見栄張っちゃうし」

「うんうん、あと家族とかいたら話す内容聞かれるの嫌だし、冬の寒い日に
コタツから出て、気づいたら玄関で冷たくなってまで話さなきゃいけない友達
の恋バナとかこの世の中に存在するの?」

「「電話番号はなしで!!」」

「じゃあ、俺は海老名さんとメールで恋人の振りというか、お互いに恋人で
あるようなシミュレーションを行うという事か」

「メールだけじゃ寂しいな、という事で。週に一回はこの図書館周辺でお忍び
デートと行きましょう」

「えー! 遠い!」

「あー!? 比企谷君、君は約束したよね。私と恋人が出来た時の練習してく
れるって。メールだけで君は恋人と過ごすわけ?」

「うーん、省エネという捕らえ方で行けばそれも……」

「ない。というわけで、週に一回、待ち合わせ時間決めて、ここでデート、
の練習するからね。ふふふ、私が男であったのならば撮影班を組んでドキュメ
ンタリー映画を3本、いや4本は作れたものを!!!」

「海老名さんが男だった場合、俺が即効で拒否しているから」

「ですよねー。じゃあ、受けてくれたって事は、私のことぎりぎりでも女の子
としてみてくれてるでいいのかな?」

「ぎりぎりていうか、趣味の事はおいとくとしても海老名さんは可愛いと、
……思うのですがね、世の男性は」

「……うん、ありがと。ってか、なぜ一般論なのかな? かな?」

それで俺と彼女の奇妙な3週間が幕を開けたのだった。

明日以降つづくんじゃよ。今日は寝まする。

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2013年11月12日 (火) 11:03:44   ID: ko_sMlvG

完結してなくてフィルタ外すと続きがあるお

2 :  SS好きの774さん   2013年11月12日 (火) 19:10:39   ID: w0I32vJt

みれますた。ありがとうございます

3 :  SS好きの774さん   2014年07月04日 (金) 14:18:24   ID: gWPHLd5n

フィルタってどうやって
はずすんですか?

4 :  SS好きの774さん   2014年07月09日 (水) 09:04:28   ID: KDll3r61

俺も聞きたい!誰か教えて!

5 :  SS好きの774さん   2014年10月19日 (日) 19:18:44   ID: BsLWkmp9

フィルタの外し方は俺もわからんがこのssの題名で検索すれば続きあるよん。

6 :  SS好きの774さん   2014年10月26日 (日) 04:26:21   ID: Tq6_i1Fa

フィルタはssの最後にある広告の下にあるよ。『無効化 : 有効』って感じに。
あとはしたい方をクリックすればいい。

7 :  SS好きの774さん   2014年10月26日 (日) 04:27:59   ID: Tq6_i1Fa

ごめん、追記。
よく見たら一番上にもあると思う。
そっちも同じ感じ。

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