結標「お隣さん?」 (21)




 一方通行×結標になる予定で、タイトル通りお隣さんで色々あったりするお話です。


 基本はこの二人がメインですが、打ち止めたちもちらほら。


 今回はプロローグ的なもので短めなお話から始まります。


 それではどうぞー

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 季節に合わせたひらひらとレースが舞うワンピースにを身に着けて。

 春物のカーディガンを羽織ってローヒールのリボンがついた靴を履いた。

 こんな女の子らしい格好は久しぶりで落ち着かないが、いつまでもあんなものを着ていたら笑われる。

 くるり、と回ってみるといかにも自分は女であることを知る。

 その姿を鏡で確認して、照れくさくてちょっと寂しく思ってしまうのは。

 結ぶ必要もなくなった、軽い髪の毛のせいなのだろう。




 一回深呼吸して、先に待っててくれていた相手の一方通行が別人を見るみたいな目つきをしていた。
 落とした低めのトーンの声で、自分よりも先に口を開いた。

  「髪、切ったのか」

 肩まできっちり揃えられた髪は耳にかかる程度で、一方通行の伸びた手がさらりと頬にかかっていた髪の毛に触れてきた。
 つい最近までは腰よりも長い髪を二つに結っていて、下ろすことはなかったけど、少しは自慢だったのだ。
 艶やかな髪の毛を保ちたくてシャンプーとトリートメントは銘柄のよさげなものを使って、決して誰にも綺麗だ、と褒められたことはなかったがひそかに気を遣って一人だけ心の中で誇らしげにしていた。
 自分の中に残っていた数少ない普通の女の子としてのこだわりの一つであり、もちろん髪を切ってもらう時にはやっぱり、という気持ちがあった。
 切ってもらって鏡で見つめ合うと、指先に控えめな長さとなってしまった髪の毛を絡めてみると、寂しかった。
 それでも髪の毛を切りそろえたのは、まぎれもなく目の前で不思議そうにしている一方通行も缶嘉永していた。
 あれから一方通行に会いたくて、仕事関係で交換していた携帯電話で連絡を取った。もしかしたらもう使えない番号かもしれなかったが偶然にも繋がり、こうして待ち合わせをした。
 ファミレスの、隅っこの方で、だ。

  「イメチェンよ」
  「あれだけ長ったらしくしていきなりイメチェンかよ。女の考えることはわかンねェな」
  「あなたが鈍感なだけよ。それに、髪伸ばしっぱなしにしてたら思い出すもの。暗部の時のこと」
  「嫌な思い出も綺麗に切り捨てたかった、か」

 正直に言うと一番の理由はそれだった。
 もう今の自分は、暗部の人間じゃない。自覚はしていても、この平穏さに馴染もうとしてもこの長い髪の毛を結う度にこの手でしてきたことをフラッシュバックさせる。
 時間が経てばいずれその時間も背負っていけるようにはなるだろう。だから嫌な思い出を切り捨てる為に切ったんじゃない。あの頃の自分から変わる為に、受け入れる為に切った、というのが正しい。
 そして、もう一つあるのだが。

  「・・・似合わない?」
  「・・・・俺に感想求めンじゃねェよ」
  「あなた、正直だから嘘つかなさそうじゃない。お世辞も下手そうだし」

 無糖のブラックを表情を崩さずに平然と口にしていると、舌打ちで返された。

  「・・・似合ってねェ、とは言ってねェだろ」

 きょとんと呆然としていると、また舌打ちをされながら一方通行は足を組みなおして私の真正面を、まあガンを飛ばして見つめていた。固まった姿勢で行儀よくつい膝に手を重ねて、冷や汗に顔色を悪くした。
  (何で、何で私がにらみつけられてこんなふうに固まんなきゃなんないのよ)
 だって、今のって裏返して言えば曲がりなりにも褒めてくれたってことなのに。
 顔と表情が全く合っていない。
 まるで、これじゃあ私が悪いことをして怒られているみたいだ。
 たかだか髪を切って、感想を聞きたかっただけなのに。
  (・・・・そうだわ、そもそも、何で私こんな人に一番に見せようなんて思ったのかしら)
 あ、そうだ。そうだった。

  「おい」
  「ぇ」
  「あー、その、何だ。悪くはねェ」
  「・・・・何それ」
  「だから、」

 ぴったり視線が合ってから。

  「顔がよく見えるから、お前にはそういう髪の方が似合う」

 肝心なところは、視線を合わせないで一度だけ、瞳を見つめて言った。
 彼なりの、褒め言葉。

  「前髪も、たまに上げてみろ。そっちの方が、」
  「・・・・そっちの方が、何?」
  「いや、いい。俺の好み押しつけても余計な世話だろ、好きにしろ。今の忘れろ」

  (・・・・な、何よ今の)
 前髪はあえて切らずに目の上に少しかかってしまうくらいなのだが、それをくるくる弄ってみる。
 真ん中の部分の髪の毛を持ち上げて、額を見せてみる。上目で確認で尋ねてみる。

  「これは?」
  「・・・・・・・」
  「何でいきなり黙るのよ」
  「・・・・・オマエやっぱ前髪上げンのやめろ」
  「あなたがいいって言ったんじゃない」
  「調子狂う」
  「え、」
  「これ以上言わせンな。とにかく目のやり場に困るからやめろ」

 ぶつくさ文句を言って、大人しく前髪を下ろした。
 そういえば、彼とこうやってプライベートなところで会うのは初めてなのかもしれない。
 携帯に連絡を入れた時の高翌揚感と似たものが、今でもあるのがわかった。それはさっきの、不器用な一方通行の言葉のせいかもしれない。目を伏せながら、揺れる紅茶の表面に映る自分を見ながら、そう思った。
 考えてみれば、会いたくない、と思えばきっと会うこともなかったかもしれない存在。
 けど、先日荷物の整理をしていた途中でふと出てきたものがあって、それは真っ赤な血が染みついた包帯で思い出したのは怪我の理由とかではなく一方通行だった。
 そうだ、手当てをしたのもあいつだった。
 そんなことが思い浮かんで、色々考えて、結果的に会いたくなった。
 会いたくなったといっても、何の目的もないわけじゃなくて理由はある。

  「・・・・・結局、オマエ今日は俺に何の用だよ」

 こうやって聞かれた時の為の答えは、準備してあった。
 どうしても言いたかったこと。
 聞いてほしかったこと。

  「素直じゃないあなたに、お礼を言いに来たのよ」

 すると頭を抑えてばかじゃねェのか、と言われてしまった。

  「あとは、このイメチェンの感想を聞きたかったの。それだけよ」
  「・・・・くっだらねェ」
  「そのくだらない用も、もうすぐ終わるわよ。最後まで聞きなさいよね」
  「勝手にしろ」

 軽くなった髪の毛をふわりと揺らして、口元に笑みを浮かべた。

  「・・・ありがとう、一方通行」





  「というわけで私の用事も終わったし、迷惑そうだから帰るわね」

 用事も済んだし、ついでにこの後見に行く目当ての場所も寄ってしまおう。

  「・・・オマエ、これからどォするつもりだ?」

 手を引かれたように、質問をされてしまい振り返った。

  「そうね、一応マンションでも借りるつもりよ。一人暮らしをするつもりよ」

 立ち止まったのは、多分これからもうあまり会うこともないだろうから少しの雑談に付き合ってもいいかもしれないと思ったから。

  「それ、どこだ」

 興味があるのだろうか。最近決まったそのマンションの場所を教えると、黙って嫌そうな顔をされた。

  「・・・・黄泉川が隣に誰か来るっつって、にやついてやがったからまさかとは思ったが」

 首を傾げると、問いかける前に教えてくれた。

  「そこ、俺の部屋の隣だ。多分」

 傾げた首はそのまま、え、としか声に出せなかった。

  「・・・それって、つまりは」

 つまり。









  「・・・・オマエ、これから俺のお隣さンっつゥことになンじゃねェのか」









 その後部屋の番号を言うと、一方通行の隣のものと一致して。




 偶然にしては出来すぎた関係がここで出来上がってしまった。




 だがそれは、以前のような関係ではなくもっと違う関係になれることを予感させた。




 運命的な、偶然だったのかもしれない。










 今日の投下は短いながらここまでです。


>>44
 あわきんも切りすぎたとは思ってるので、今後伸ばしたりするつもりですがそれはまた後で書いていく予定です。



 読んでくださった方乙でした


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