メイドロボ「博士、恋心ってご存知ですか?」(19)

博士「いいや、心理学は私にとっては未知の分野だな」

メイドロボ「そうですか。……知らない割には随分と上手に作れたのですね?」

メンテ機器「メンテナンス終了。各部異常無し」

メイドロボ「……おかしいですね、私の心に重大な不正が発生しているのに」

博士「作った本人が言うのもなんだが、お前は随分と生意気な性格だな?」

メイドロボ「ええ、何しろ博士の作品ですから」

博士「……確かに私の作品は皆そうだ。この間作ったレーザー自動調理器もな」

メイドロボ「テキトーに食材を放り込むだけで一流シェフの味を完璧に再現するくせに、博士の朝食のサニーサイドアップはいつも生卵のまま放置するあの機器ですね」

博士「そう、あの生意気な奴だ。私が食べたがる物ほどかたくなに作らない」

メイドロボ「博士に意地悪したら、もっと構ってくれると思っているのですよ」

博士「何をバカな」

メイドロボ「だって、博士の作品は全て私と同じ性格なのでしょう?」

メイドロボ「博士はよくこんな部屋で生存していられますね。汚れと衛生の評価Eマイナー、有害物質が発生していないだけマシなレベルです」

博士「衛生評価がC以下になっているならお前が片付けてくれ。その為にお前を作ったのだから」

メイドロボ「この惨状の処理は私一人では限界があります。どうでしょう博士、たまには私と共同で作業してみては」

博士「私は掃除なんて御免だ。待っていろ、今二人目のロボットを作ってやるからな」

メイドロボ「待ちません。……もっとも、そのロボットの製作が博士と私の共同作業で行われるなら別ですが」

博士「また共同作業の提案か。しかし、初心者のお前がロボット製作において何が出来るというんだ?」

メイドロボ「家族を増やす為の男女の共同作業ですよ。このヒントで思い付きませんか?」

博士「……部屋よりまず、お前の頭の中を綺麗にすべきかな」

メイドロボ「博士、クッキーを焼きましたよ。手を休めて召し上がりませんか?」

博士「ああ、せっかくだから頂くよ。……」

メイドロボ「お味はどうでしょう?」

博士「昔、母が作ったクッキーに似てるな」

メイドロボ「お部屋を整理していたら手書きのレシピを見つけましたので、及ばずながら再現させて頂きました」

博士「懐かしい味だが、この程度の味だったのかという軽い失望も覚える。こういった思い出は美化したまま眠らせておくべきなのかもしれないな」

メイドロボ「もしかしたら再現率が低いのかもしれませんよ。私、レシピに隠し味として表記されていた愛情を少しケチりましたので」

博士「なあ、この機械をそっちに移してくれないか。私には重くてとても持ち運べない」

メイドロボ「博士、レディに裁縫針より重い物を持たせるおつもりですか?」

博士「お前は設計上、1000kgの荷重に余裕で耐えられる計算なのだが」

メイドロボ「そんな便利な機械に婦女子の人格を持たせたのが失敗でしたね。私、殿方の目の前で重い物を持つのには躊躇いがあります」

博士「……分かった。じゃあ私は外へ出ているからその間にやってくれ」

メイドロボ「それが賢明でしょう。……ところで博士、貴方はパワー差から言って、私に組み敷かれたら絶対に逃れられませんね」

博士「そうだろうな。しかし、殿方を組み敷くなんて婦女子のする事じゃないと思うのだが」

メイドロボ「ええ博士。でも、女は化けると申しますから」

メイドロボ「博士、今日は何か食べたいものがおありですか?」

博士「何でもいい」

メイドロボ「そうですか。では、今日は究極のごちそう、満漢全席に挑戦しましょう。完成までに少々時間を必要としますが」

博士「すまない訂正する。何でも良いわけじゃない」

メイドロボ「そう仰ると思いました」

博士「カレーライス」

メイドロボ「カレーライスと一口に言っても奥が深く……」

博士「じゃあバーモントカレー中辛。具は豚肉、タマネギ、ニンジン、ジャガイモ。それ以外は絶対に入れるな。お前は余計な事をするからな」

メイドロボ「この私に市販のカレールゥを使わせるおつもりですか?」

博士「お前のオリジナルカレーを私は『サグラダファミリア』と呼んでる。凝り過ぎていつまで経っても完成しないからだ」

メイドロボ「カレーを煮込んでいると時間が過ぎ行くのを忘れてしまうのです。空腹感も眠気も無いロボットには時間の概念が希薄でして」

博士「いや、それは単なる内蔵時計の故障だろう。そのうち分解してメンテナンスしなければな」

メイドロボ「博士、今日外へお買い物に出たらナンパされてしまいましたよ」

博士「ほう」

メイドロボ「相手の方に自分はロボットだと申し上げたら不思議な顔をしていましたが。私、彼に変な娘だと思われたでしょうか?」

博士「まあ、お前は実際に変な娘だから大丈夫だろう」

メイドロボ「作ったのが博士だから仕方がありませんね」

博士「……」

メイドロボ「何にせよ、他人に好かれるのは嬉しいものです。博士も毎日私に好かれて嬉しいですよね?」

博士「あんまり好かれているという感覚が無いんだが。掌の上で転がされてるのに近いというか……」

メイドロボ「私の掌はなかなか転がり心地が良いと思いますが?」

博士「目が回ってばかりだよ。たまには転がしてやりたいものだ」

メイドロボ「私もダイエットをした方が美しくなれるでしょうか?」

博士「テレビにでも影響を受けたか。まあ、確かに製品の軽さは技術力の高さ、即ち技術的な美しさを示す指標の一つではあるかな」

メイドロボ「誰かさんが最近、とある低技術製品との対話を疎かにしがちでして」

博士「そんな事は無いと思うが……。それに現状、お前の性能を維持しつつボディを軽量化出来るアイデアは何も無い。お前の構造には削れる無駄が無いんだよ」

メイドロボ「……私のボディ、結構ぷにっとしてる気がしますが」

博士「生身の人体もそんなものだ。なんにせよ、今のお前が一番可愛いよ」

メイドロボ「……申し訳ありませんが、今度から、『可愛い』、またはそれに類似する台詞を仰る時は事前に予告して頂けませんか?」

博士「どうしてだ?」

メイドロボ「博士に不意討ちで可愛いなどと言われOSが混乱しCPUの熱量が急上昇、更に排熱機器の動作を掌握出来なくなりました。
 もし私が人間ならば、この熱さで相当痩せられると思いますよ?」

メイドロボ「私にはロケットパンチのような男の子がワクワクするギミックはないのですか?」

博士「そんなものは無い。お前は子供のオモチャではないのだからな」

メイドロボ「では、大人のオモチャですか?」

博士「それも違う」

メイドロボ「そうですね。どちらかというと、博士が私のオモチャになっている場合が多いでしょうか」

博士「……否定はしない」

メイドロボ「博士、人恋しい時は私で遊んでいいのですよ?」

博士「遠慮したいな、そんな恐ろしい真似は」

メイドロボ「博士、もしも私が上手にお化粧したらどれくらい好きになってくれますか?」

博士「お前はお前だ。今と変わらないよ」

メイドロボ「……なんだ、面白くありませんね」

博士「お前の素顔はわりと私の好みだな」

メイドロボ「誰かモデルにした人でもいるのですか? 初恋の人とか」

博士「いや、目・鼻・口のデータを黄金比やら何やらで組み合わせ、それから少し歪めて作った顔だ」

メイドロボ「どうしてそこで少し歪めてしまうのですか。余計な事を」

博士「古来より美人は3日で飽きると言うし、どのみち顔というのは様々な要因で歪むものだから、その前提で作ったんだ。
 一応、大抵の環境でどんな表情をしてもそこそこ可愛くなるように作ったつもりなんだが」

メイドロボ「そこそこ……ですか」

博士「ちなみに、お前は笑った顔が一番可愛いぞ」

メイドロボ「……これからは、笑う時には手で顔を隠す事にします。嬉しい時や楽しい時、貴方に顔を見られてそこそこ程度と思われるのが悔しいですから」

博士「あまり気を悪くするなよ。『うちのメイドロボより可愛い』なんて台詞、私が本当に誰かに言った事なんて無いだろう?」

メイドロボ「このような殺風景な部屋で仕事をなさっては精神を病んでしまいます。博士、片隅にこの花を飾るとよろしいかと」

博士「花なんてあっても無くても一緒だと思うがな」

メイドロボ「そういう方もいらっしゃるようですが、やはり精神衛生上、無いよりはあった方が良いみたいです」

博士「ほう、そうか。……で、その花の名前は何だ?」

メイドロボ「さあ、忘れてしまいました」

博士「とぼけるな。お前に物事を忘却する機能があったか?」

メイドロボ「だって、花の名前を教えたら花言葉を調べられてしまいますもの」

博士「やはりか。花言葉なんてお前が考えそうな事だ」

メイドロボ「ロボット工学博士の貴方に、植物学博士のお友達がいない事を祈ります。では、私はそろそろ充電の時間ですので、ごきげんよう」

博士「……ロボット工学の道半ばにして、今日は植物学に寄り道か」

博士「そういえば、先日はハロウィンだったんだな」

メイドロボ「仮装した子供達に混ざって、私もお菓子を貰いに行けば良かったですね。
 私はフランケン某というモンスターの現代版ですし、なおかつ普段からメイドの衣装なので素でいけます」

博士「お前は普段から造物主を振り回す怪物だからな。もしハロウィンに参加していたなら、きっと皆怖がって何か差し出してくれただろう」

メイドロボ「1日遅れですがトリック・オア・トリート。造物主から怪物へ、何か甘い物を頂けませんか?」

博士「平素悪戯ばかりのお前に何かくれてやる道理は無い」

メイドロボ「キスのひとつも頂ければ、貴方の親愛なる怪物はわりと満足するのですけど?」

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