美緒「宮藤、リーネ、席につけ。座学の時間だ」芳佳「はいっ」 (149)

美緒「今日は基本的な陣形についてだ。二人とも、手元の資料を見ろ」

リーネ「はい」

美緒「書かれてるのは扶桑で広く知られている陣形で、鶴翼の陣と呼称されている」

ペリーヌ「防御に適した陣形ですわ」

美緒「その通りだ、ペリーヌ。ところで、ペリーヌは私の座学に参加しなくてもいいんだぞ?」

ペリーヌ「いえ。こういうことは反復が大事ですから」

美緒「ほう? 感心だな。流石はペリーヌだ」

ペリーヌ「いえいえ。そんな、おほほほ」

芳佳「あの、坂本さん」

美緒「なんだ、宮藤?」

芳佳「ずっと疑問だったんですけど、号令とかいいんですか? 坂本さんの講義を受けてからまだ一度も号令がないんですけど」

美緒「号令?」

リーネ「号令って? 基本教練にあるような?」

芳佳「違うよ。ほら、授業が始まる前に「きりーつ、れい、ちゃくせき」ってやつ」

リーネ「扶桑ではそんなことしているの?」

芳佳「そうだけど、ブリタニアにはないの?」

リーネ「う、うん」

ペリーヌ「ガリアにもそのような慣習はありませんわ。だからこそ、坂本少佐もしていませんの」

芳佳「そうなんですか」

美緒「宮藤は号令があるほうがいいのか?」

芳佳「なんか身が引き締まるというか。私はあったほうがいいかな、なんて」

美緒「確かに、扶桑では号令をすることにより生徒に気持ちの切り替えを図ってはいるが」

リーネ「あの、どんな風にやるんですか?」

美緒「簡単だ。教員、もしくはクラスの代表が「起立、礼、着席」と順に言う。全員は掛け声に合わせてその通りの動作を行う。基本教練と同じだ」

ペリーヌ「そうなのですか。そこはテストにでますか?」

美緒「いや、出ないぞ」

芳佳「でも、リーネちゃんもペリーヌさんも馴染みがないなら、いいかな」

リーネ「芳佳ちゃんはそのほうがいいんだよね?」

芳佳「ううん。ただ少し違和感があっただけだから。すぐに慣れると思うし」

美緒「ならば続けるぞ」

リーネ「あのぉ」

美緒「なんだ、リーネ?」

リーネ「やりませんか? その号令」

芳佳「リーネちゃん……」

リーネ「ほ、ほら。ミーナ中佐の座学なら必要ないかもしれないけど、坂本少佐の座学なら取り入れてもいいかなって思って」

ペリーヌ「しかしですね。時間には限りがありますでしょう? 文化の違いを受け入れるのもまた勉強ですわ」

美緒「そうか。リーネも取り入れたいか。ペリーヌはどう思う?」

ペリーヌ「え? あの……少佐は?」

美緒「実はいうとな。私も宮藤の意見には賛成だ。やはり扶桑のやり方のほうが私自身もしっくりくる」

ペリーヌ「では、やりましょう」

美緒「そうか。では、最初からやるか」

芳佳「ありがとう!! リーネちゃん!! ペリーヌさん!!」

リーネ「ううん。私も興味あるから。芳佳ちゃんがどんな感じで授業を受けていたのかって」

ペリーヌ「お静かに」

美緒「……号令!!」

芳佳「……」

リーネ「……」

ペリーヌ「……」

美緒「……おい、宮藤」

芳佳「え? はい?」

美緒「号令はどうした?」

芳佳「号令は委員長の仕事ですけど」

美緒「委員長はダレだ?」

芳佳「え? リーネちゃんじゃ……」

リーネ「え!? 私!?」

芳佳「違うの?」

リーネ「違うよ!!」

芳佳「えー!? ずっとリーネちゃんだと思ってた!!」

リーネ「どうして?」

芳佳「だって、ほら、いつも資料とか配ってくれるし」

リーネ「そ、それは、芳佳ちゃんの手を煩わせたくないからで……」

ペリーヌ「少佐。委員長というのはクラスリーダーと考えてもよろしいですか?」

美緒「ああ、そのようなものだ。実際は教員の雑用係だがな」

ペリーヌ「……わかりましたわ。その役目はわたくしが請け負いましょう」

芳佳「ペリーヌさんが?」

ペリーヌ「この3人の中で委員長に相応しいのは誰か。お分かりになりませんこと?」

芳佳「私はリーネちゃんが……」

リーネ「私は芳佳ちゃんが……」

美緒「リーネでもペリーヌでも宮藤でもいい。さっさとやれ」

ペリーヌ「では、起立!!」

芳佳・リーネ「……」ガタッ

ペリーヌ「礼!!」

美緒「……」

ペリーヌ「着席っ!」

美緒「よし。それでは改めて。おはよう、お前たち」

芳佳「おはようございます!!」

美緒「今日は基本的な陣形について学んでいくことにする。だが、そのまえに黒板に注目」カキカキ

リーネ「なんだろう……?」

美緒「私は、お前たちの担任である坂本美緒だ!!!」バンッ!!!

芳佳「は、はい!」

美緒「では、手元の資料を見ろ」

芳佳「はい」

美緒「これは扶桑で広く知られている陣形の一つで――」

美緒「――では、今日はここまでとする。皆、復習をしておくようにな。号令!!!」

ペリーヌ「え!? は、はい!! 起立!!」ガタッ

ペリーヌ「礼!! 着席!!」

芳佳「ペリーヌさん、着席は「ありがとうございました」って言ってからですよ」

ペリーヌ「そ、そうなの?」

リーネ「ありがとうございました」

美緒「よし。宮藤とリーネは30分後の1100時から飛行訓練だ。遅れないようにな」

リーネ「了解!」

芳佳「あー。楽しかったぁ」

リーネ「私も。芳佳ちゃんはあんな風に授業を受けてたんだね」

芳佳「うん。なんだが懐かしいなぁ。少し前まで居たのに」

リーネ「そう……」

ペリーヌ「さてと、わたくしも訓練の準備をしませんと」

芳佳「ペリーヌさんもありがとう!」

ペリーヌ「別に。貴女のためではありませんから」

廊下

芳佳「でも、たった3人だけじゃやっぱり寂しいよね」

リーネ「仕方ないよ。他の人たちはわざわざ座学を受けるまでもないし」

芳佳「それはわかってるんだけど。みんなと一緒ならもっと楽しくなるかなって」

リーネ「それはそうだけど」

芳佳「ルッキーニちゃんとか誘ったら来てくれるかな?」

リーネ「難しいと思うよ?」

芳佳「えー? どうして?」

リーネ「ルッキーニちゃんが座学に参加しなくていいのは、シャーリーさんが普段から個人的に色々教えているからみたいだし」

芳佳「あぁ……そうなんだぁ……」

リーネ「サーニャちゃんも夜間哨戒の関係で朝からの座学には参加できないし……」

芳佳「エイラさんは?」

リーネ「エイラさんも受ける必要がないかも」

芳佳「だったら、ハルトマンさんもバルクホルンさんもそうだよね……。はぁ、やっぱり難しいのかなぁ」

滑走路

美緒「――よし。そこまで!」

芳佳「はぁ……はぁ……ありが……とう……ございます……」

リーネ「はぁ……はぁ……」

美緒「午後は射撃訓練だ。それまでは自由時間とする。以上、解散」

芳佳「つかれたぁ……」

リーネ「早く食堂にいこ」

芳佳「うん、そうだね」

シャーリー「お二人さん。今日も随分と扱かれてたな」

リーネ「いえ、もう慣れてきましたから」

シャーリー「またまた。肩が上下してるぞ?」

リーネ「あはは……」

芳佳「……あの」

シャーリー「ん?」

芳佳「シャーリーさん、坂本さんの座学に興味ありませんか?」

シャーリー「え? 少佐の?」

リーネ「芳佳ちゃん」

芳佳「でも、シャーリーさんが参加してくれたら、ルッキーニちゃんも顔ぐらい出してくれるかもしれないし」

リーネ「そうだけど……」

シャーリー「あれは宮藤やリーネみたいな新人のための講義だろ? あたしが参加しても意味がないからね」

芳佳「そ、そこをなんとか!!」

シャーリー「いや。その時間をユニットのセッティングに充てるほうがあたしとしては有益なんだけど」

芳佳「……」

リーネ「芳佳ちゃん、無理は言わないほうがいいよ」

芳佳「そうだね。ごめんなさい、シャーリーさん」

シャーリー「いや、いいよ」

芳佳「一緒に食堂に行きませんか?」

シャーリー「そうだな。ハラもへったし、いくか」

リーネ「はいっ」

食堂

シャーリー「大盛りにするかー」

バルクホルン「後続のことも考えろ、リベリアン」

シャーリー「あぁ? 早い者勝ちだろー?」

バルクホルン「おのれ!! 早く代われ!!」

ペリーヌ「ちょっと!! お二人とも!! クリームシチューを盛るぐらいで揉めないでください!!」

エーリカ「いっただきぃ」

ルッキーニ「今日は芳佳の手作りじゃないんだ……」

エイラ「じゃ、おかわりはいらないな」

芳佳「ルッキーニちゃん」

ルッキーニ「んにゃ?」

芳佳「坂本さんの座学に参加しない?」

ルッキーニ「なんで?」

芳佳「みんなでやったほうが楽しいかなって」

ルッキーニ「うーん……やだっ」

訓練場

芳佳「……はぁ」

美緒「リーネ」

リーネ「あ、はい?」

美緒「宮藤のやつ、どうかしたのか? 顔色が悪いようだが」

リーネ「坂本少佐の座学にルッキーニちゃんやエイラさんを誘ってみたんですけど、みんなに断られて」

美緒「なに?」

リーネ「芳佳ちゃん、みんなで坂本少佐の座学を受けたいみたいなんです」

美緒「エイラもルッキーニも受ける必要のないものに参加するような奴ではないからな。ルッキーニにいたっては召集をかけてもこない場合も多いというのに」

リーネ「ですよね」

美緒「まぁ、その考えは嬉しいがな」

リーネ「でも、私もみんなで受けられたらって楽しいだろうなってことは思います。賑やかになりそうですし」

美緒「しかしな。ルッキーニはともかく、他の者は基本的な戦術やユニットの構造等を学んでも既に熟知……いや、若干名不安な者もいるが、時間を浪費するだけだ」

芳佳「みんなで……授業うけたいなぁ……」

格納庫

ルッキーニ「ふんふーん」

シャーリー「うーん。ここが甘いか。もう少し速度を上げるためには……」

ルッキーニ「ねえねえ、シャーリー。さっき、芳佳に少佐の座学に参加してって誘われちゃった」

シャーリー「ルッキーニもか」

ルッキーニ「あれって楽しいの?」

シャーリー「どうだろうな。ルッキーニみたいに型にはまらないタイプには退屈だと思うぞ」

ルッキーニ「そうなのー?」

シャーリー「おまえは天才だからな。覚えなくても体が自然と動くだろうし」

ルッキーニ「そっかー。なら、いいやー」

シャーリー「しかし、参加者を増やそうとするなんて、大人数でしたいってことなのか」

ルッキーニ「朝から少佐の長話は聞きたくなーい」

シャーリー「あははは。確かにな」

美緒「……ほう?」

シャーリー「……いや、ルッキーニ。少佐の話は常に為になるだろ? 何言ってるんだ。全く。めっ」

ルッキーニ「うにゃぁ!? でたぁ!!ごめんなさい!!」

美緒「落ち着け。別に今の話を咎めるつもりはない。シャーリーの言うとおりでもあるしな。お前たちは馬耳東風にしてしまうようなことしか教えていないからな」

シャーリー「はぁ……たすかったぁ……」

美緒「とはいえ、参加しても構わんぞ?」グイッ

シャーリー「え?」

美緒「私の話は為になるのだろう?」

シャーリー「それは……あのぉ……」

美緒「ルッキーニ」

ルッキーニ「ひゃい!?」

美緒「お前も学校というものはどういうところなのか、体験しておいてもいいと思うぞ」

ルッキーニ「学校……」

美緒「今朝、宮藤の提案で限りなく学校の授業に近い形式で座学を行ったのだ。ただ人数が少ない分、雰囲気がでなくてな。宮藤はそれが不満なのだろう」

シャーリー「ふぅん……」

ルッキーニ「……」

美緒「興味があるなら顔ぐらい出してくれ。席はいくらでも余っているしな。はっはっはっは」

翌日 ミーティングルーム

リーネ「はい、芳佳ちゃん。今日の資料だよ」

芳佳「ありがとう、リーネちゃん。やっぱり、リーネちゃんが委員長に向いてるような気がするよ」

リーネ「そうかなぁ?」

ペリーヌ「……何か、文句でもありまして?」

芳佳「い、いえ……別に……」

美緒「席につけー」ガチャ

芳佳「あ、きた」

リーネ「……」

美緒「では、座学を始める。号令!!」

ペリーヌ「起立!!」

芳佳・リーネ「……」ガタッ

ペリーヌ「礼!!」

芳佳・リーネ「「おはようございます!」」

ペリーヌ「着席っ!」

美緒「はい、黒板に注目しろー」カキカキ

ペリーヌ「……」

美緒「いち、たす、いち、はー?」

ペリーヌ「え? え?」

芳佳・リーネ「「にー」」

美緒「ふむ。では、手元の資料を見てくれ。今日は基本空戦術だ」

ペリーヌ「……ちょっと、宮藤さん」

芳佳「なんですか?」

ペリーヌ「い、今のはなんですの?」

芳佳「扶桑ではよくやることですよ?」

リーネ「昨日、坂本少佐が話してくれて」

ペリーヌ「やるならわたくしにも一言いってください!!! 戸惑うでしょう!?」

芳佳「あ、すいません」

美緒「こら!!!」

ペリーヌ「ひっ!! も、もうしわけありません!!」ビクッ

美緒「――遅刻だぞ、馬鹿者」

ペリーヌ「へ?」

芳佳「遅刻?」

ルッキーニ「あにゃぁ!? バレたぁ!?」

美緒「立ってろ」

ルッキーニ「えぇぇ……」

芳佳「ルッキーニちゃん!!」

リーネ「来てくれたの!?」

ルッキーニ「うん。楽しいなら、参加してみようかなって」

芳佳「ルッキーニちゃん!! ありがとう!!」

ルッキーニ「にゃははは」

シャーリー「せんせー。時間がもったいないんで、はやくしてくださーい」

ペリーヌ「シャーリー大尉!? いつの間に……!?」

シャーリー「あぁ? 最初からいただろ? 何いってんだよ?」

美緒「……シャーリーも立っていろ」

シャーリー「おい、ルッキーニ。もう少し時間稼いでくれよな。あたしが上手い感じで馴染めなかっただろ」

ルッキーニ「シャーリーがあたしを囮にするからじゃん」

シャーリー「なにをぉ」

ルッキーニ「シャーリーが悪いぃ」

シャーリー「いーや。ルッキーニが悪い。初日に遅刻なんて最悪だ」

美緒「仲がいいな。遅刻組は」

シャーリー「それはもう」

ルッキーニ「にゃはー」

美緒「バケツも持つか?」

シャーリー「そ、それはちょっと……」

ルッキーニ「ごめんなさい」

リーネ「かわいそう……」

芳佳「ふふっ」

リーネ「どうしたの?」

芳佳「あ、ううん。シャーリーさんとルッキーニちゃんには悪いけど、その……なんだが、すごく学校っぽいなって」

ペリーヌ「あれがですの?」

芳佳「う、うん」

リーネ「扶桑の学校って厳しいんだね」

美緒「5分経てば着席してもよし。いいな」

シャーリー「はぁーい」

ルッキーニ「りょうかーい」

美緒「では、続けるぞ。この空戦術は主にカールスラントで主流のもので――」

芳佳「……」チラッ

シャーリー「もう5分だよな?」

ルッキーニ「だね」

シャーリー「よぉーし」

ルッキーニ「にひひ」

美緒「――まだ1分も経っていないだろう?」

シャーリー「え? あ、そうですか? おかしいな。あたしの体内時計は、5分をお知らせしているんですけど」

美緒「……もういい。座れ。話が進まん」

美緒「まず、このAのロッテが目標に向かっていき、Bのロッテは逆側から――」

シャーリー「ふんふふーん」

ルッキーニ「すぅ……すぅ……」

ペリーヌ「ちょっと」ツンツン

ルッキーニ「にゃに?」

ペリーヌ「少佐の話は真面目に聞きなさい」

ルッキーニ「これ、知ってるもん」

ペリーヌ「わたくしも知っています! ですが少佐の話中に眠るなんて失礼でしょう!?」

ルッキーニ「ペリーヌ、うるさい」

ペリーヌ「なんですってぇ!?」

美緒「ペリーヌ。静かにしろ」

ペリーヌ「あ……はい……」

芳佳「……」ポイッ

ルッキーニ「……んにゃ? なんか、飛んできた」

ルッキーニ「……」ペラッ

『きてくれて ありがとう 芳佳』

ルッキーニ「……にゃはっ」カキカキ

ルッキーニ「えいっ」ポイッ

芳佳「……」パシッ

シャーリー「ん?」

芳佳「……」ペラッ

『たいくつだから なんか面白いことして ルッキーニ』

芳佳「(えぇぇ……)」

ルッキーニ「にひぃ」

芳佳「(無理だよぉ)」フルフル

ルッキーニ「ぶぅー」

シャーリー「……」ポイッ

芳佳「ん? なにこれ……?」ペラッ

『あたしも参加する シャーリー』

芳佳「(違いますよぉー。遊んでるわけじゃないんですぅ)」フルフル

美緒「宮藤?」

芳佳「は、はい!?」

美緒「シャーリーが気になるのか?」

芳佳「えぇぇ!? いや、違います!!」

美緒「そうか」

リーネ「……」スッ

芳佳(リーネちゃんまで……)ペラッ

『仲間はずれにしないでね リーネ』

芳佳「……」

リーネ「……どうしたの?」

芳佳「違うの。遊んでないよ」

リーネ「え? そうなの?」

ペリーヌ「そこっ! 私語は慎みなさい!!」

芳佳「すいません!!」

美緒「……話を聞け」

美緒「今日はここまでとする。宮藤とリーネは午後から訓練だ。忘れるなよ」

芳佳「はいっ!」

ペリーヌ「起立!! 礼!!」

リーネ「ありがとうございました」

ルッキーニ「あー。よくねたー」

シャーリー「結局、ルッキーニが起きてたの10分ぐらいだったな」

ルッキーニ「でも、芳佳から手紙が飛んできたのは面白かった」

芳佳「あれはお礼を言いたかっただけで、遊ぶためじゃなかったのに」

シャーリー「扶桑では講義中にああやって言いたいことをいうのか?」

芳佳「まぁ、その、手紙を回すのはよくやってました」

シャーリー「あははは。へえ、そうか」

ペリーヌ「あのですね。参加するのは構いませんが、それなりの態度で臨んでくださいな。坂本少佐に失礼でしょう!?」

シャーリー「宮藤、あれって秘密の会話にも適してるよな。好きな人とかいいあったりしたのか?」

芳佳「えぇ? それはぁ……」

リーネ「そうなの? そんなこともするんだ!」

食堂

シャーリー「でも、やっぱり実のある話を聞けるわけじゃないから退屈ではあるなぁ」

ルッキーニ「うん。シャーリーから教えてもらったことばっかりだったしぃ」

芳佳「今日は本当に嬉しかったです」

シャーリー「そうか?」

芳佳「はいっ! なんだが、学校って感じで」

リーネ「やっぱり、人数が増えるっていいね」

芳佳「うんっ!!」

ルッキーニ「そっかぁ。なら、また気が向いたら行ってあげるね」

芳佳「うん! 絶対だよ!!」

シャーリー「……」

ペリーヌ「人数が増えてもあのように注意力が散漫になるようでは、悪影響しかないように思えますけど?」

芳佳「それは……」

シャーリー「そこはあれだろ? クラスリーダーの……なんだっけ、委員長か。委員長のペリーヌがなんとかするところだろ?」

ペリーヌ「シャーリー大尉とルッキーニさんがわたくしの注意ぐらいで態度を変えてくれるとは、到底思えませんわっ!」

リーネ「芳佳ちゃん。やっぱり言うことを聞かない子は先生が叱ってたの?」

芳佳「それもあるけど、委員長とは別にリーダー的な存在っていうのは必ず一人はいたからね。そういう子が裏でみんなをまとめてくれていたこともあるよ」

シャーリー「裏リーダーか。かっこいいなぁ」

ルッキーニ「おぉー! なら、あたしが裏リーダーになりゅぅ」

シャーリー「ルッキーニはそれだけの器か?」

ルッキーニ「だめにゃのー?」

ペリーヌ「裏リーダーですか。それはわたくしのためにあるような役職ですわね」

芳佳「ペリーヌさんはもう委員長っていう役職があるじゃないですかぁ」

ペリーヌ「兼任しますわ」

リーネ「それは無理じゃ……」

ペリーヌ「なにか?」

芳佳「もう少し、その、大人びた人のほうがいいような」

ペリーヌ「ちょっと!! 宮藤さん!? 今、どこを見ていました!? 胸の辺りをみていましたわよね!?」

芳佳「き、気のせいですよぉー」

シャーリー「あははは。賑やかだなぁ、相変わらず」

廊下

エイラ「ふわぁぁ……」

サーニャ「……」

エイラ「サーニャ、サウナにでも行くか?」

サーニャ「うん」

ペリーヌ「――ですから、クラスのみなさんを纏め上げられるのは能力的な面から言ってもわたくししかおりませんでしょう?」

シャーリー「それを自分でいうのはどうだろうな」

ペリーヌ「では、シャーリーさんはどうお考えで?」

シャーリー「あたしは、リーネがいいんじゃないかって思うけどな」

ペリーヌ「ルッキーニさんよりはマシですけどね」

シャーリー「あのな。ルッキーニは確かにリーダーなんてものは任せられない。それは何故かっていうと――」

サーニャ「……」

エイラ「サーニャ? どうした?」

サーニャ「ううん。行きましょう」

エイラ「ああ」

格納庫

バルクホルン「ふぅ……」

ミーナ「お疲れ様、トゥルーデ」

バルクホルン「ああ」

エーリカ「よーし、ごはんだー!!」テテテッ

バルクホルン「……ミーナ?」

ミーナ「なに?」

バルクホルン「今、宮藤はどうしている?」

ミーナ「え? 朝の座学はもう終わっているから……今は、食堂にいるんじゃないかしら?」

バルクホルン「そうか。ありがとう」

ミーナ「なに? 最近、宮藤さんと話せてないのかしら?」

バルクホルン「そういうことではない。新人とは話す機会があまりないから、ふと気になっただけだ」

ミーナ「あら、そうなの? それならトゥルーデも朝の座学に参加してみたら? 宮藤さんとリーネさん、それからペリーヌさんとの交流も増えていいわよ?」

バルクホルン「少佐の講義は新人のためだろう? 私が居ても意味はないし、宮藤たちに余計なプレッシャーを与えるだけだ。遠慮しておく」

ミーナ「そう。シャーリーさんも今日から参加し始めたみたいだし、トゥルーデがいても問題はないと思うけれど……」

食堂

リーネ「洗い物は終わったね。そろそろいこっか」

芳佳「うん」

エーリカ「とーちゃくぅ」

リーネ「ハルトマンさん、おはようございます」

芳佳「おはようございます」

エーリカ「おっはよう。私のごはんは?」

リーネ「ありますよ。どうぞ」

エーリカ「やりぃー」

芳佳「では、失礼しますね」

エーリカ「んー」

バルクホルン「あ」

芳佳「あ、バルクホルンさん。おはようございます」

バルクホルン「ああ……。おはよう。昼食は済んだのか?」

芳佳「はい! 今から訓練があるんで、また夕食のときに」

バルクホルン「あ、ああ」

エーリカ「トゥルーデ?」

バルクホルン「……」

エーリカ「バルクホルン大尉ぃー?」

バルクホルン「なんだ?」

エーリカ「どうしたの、浮かない顔して」

バルクホルン「なんでもない」

エーリカ「そういえば、最近宮藤たちとまともに会話してないよね」

バルクホルン「新人には覚えるべきことも多いからな。私たちよりもするべきことは多くなる。共有する時間が少なくなるのも当然だ」

エーリカ「私にはトゥルーデが宮藤に上手く話せないようにようにしか見えないけど? 昨日だって昼食は一緒だったのにさぁ」

バルクホルン「昨日はシャーリーの所為で食事の時間が遅れたんだ。そもそも食事中は黙って食べるべきであってだな」

エーリカ「折角、仲良くなれても話せないんじゃ、疎遠になるよ?」

バルクホルン「共同生活をしていて疎遠になるわけがない」

エーリカ「いや、501が解散したあと、普段から交流もなかった相手のことなんて気にしなくなるでしょう?」

バルクホルン「……宮藤は、そんな奴ではない」

>>45
エーリカ「私にはトゥルーデが宮藤に上手く話せないようにようにしか見えないけど? 昨日だって昼食は一緒だったのにさぁ」

エーリカ「私にはトゥルーデが宮藤と上手く話せないようにしか見えないけど? 昨日だって昼食は一緒だったのにさぁ」

廊下

ミーナ「はい、美緒。約束の資料よ」

美緒「いつもすまないな。ミーナに資料整理を任せて」

ミーナ「あなたは新人の教育。私はそのお手伝い。そうでしょう?」

美緒「今度、肩でも揉んでやる」

ミーナ「楽しみにしているわ」

美緒「ふむ。これだけの資料があれば十分だな」

エイラ「あー。もう一眠りしたいなぁー」

サーニャ「今、寝ると起きたときが辛くなるわ」

エイラ「そうか?」

美緒「エイラ、サーニャ。今日は早めに起きたようだな」

エイラ「ん。ああ」

サーニャ「おはようございます」

バルクホルン「――少佐!!!」

美緒「どうした、バルクホルン? 何かあったか?」

バルクホルン「毎朝行っている少佐の座学だが、私も何らかの形で参加させてもらえないだろうか?」

美緒「構わないぞ。あれは自由参加だからな。宮藤とリーネに関しては強制だが」

バルクホルン「そうか」

美緒「だが、お前にとってはなんら意味のないものだぞ?」

バルクホルン「私もいつかは少佐の立場になることもある。そのために今から準備を進めても良い筈だ」

美緒「そうか。もう引退後のことを視野にいれているのか。寂しい話ではあるが、悪いことではないな」

バルクホルン「だろう?」

サーニャ「……」

エイラ「サーニャ、行こう」

サーニャ「……うん」

エイラ「どうした?」

サーニャ「なんでもないわ」

エイラ「……」

バルクホルン「私は何をすればいい? 個人授業か?」

美緒「いや。バルクホルンは居てくれるだけでいい。それだけで全員が緊張感をもって講義に臨んでくれるはずだ」

翌日 ミーティングルーム

芳佳「今日は何するの?」

リーネ「ユニットの構造だと思うよ。資料を見た限りだと」

芳佳「私、こっちのことは全然分からないんだよね」

リーネ「私もエンジンのことなんてさっぱりだよぉ」

芳佳「寝ないようにだけ気をつけないと――」ガチャ

バルクホルン「……」

芳佳「え!?」ビクッ

リーネ「バルクホルンさん?」

バルクホルン「なんだ?」

芳佳「あの……どうして?」

バルクホルン「私が居てはいけないのか?」

芳佳「そういうわけじゃ……。とりえあず、そんな後ろに立っていないで座りませんか?」

バルクホルン「私はここでいい。気遣いは不要だ」

リーネ「え……」

バルクホルン「……」

芳佳「(なんだか、ずっと見られてる気がするんだけど……)」

リーネ「(姿勢を崩せないよぉ……)」

ペリーヌ「おはようございま――!?」ビクッ

バルクホルン「……」

ペリーヌ「(宮藤さん!! リーネさん!! 後ろで佇んでいる大尉はどういうことですの!?)」

芳佳「(わかりません。最初からあそこにいるみたいで……)」

ペリーヌ「……」チラッ

バルクホルン「……」

ペリーヌ「(あんな風に睨まれていては少佐の講義に集中できませんわよ!? 宮藤さん、なんとかしてください!!)」

芳佳「(そんな無理です!!)」

リーネ「(ペ、ペリーヌさんが言ってください……)」

ペリーヌ「(いえるわけありませんでしょ!?)」

シャーリー「よーし! 今日はヨユーだ!!」

ルッキーニ「うにゃぁ……にゃ!?」ビクッ

美緒「――揃っているか? では、始めるぞ。号令」

ペリーヌ「き、起立!」

芳佳・リーネ「……」ガタッ

シャーリー「ふわぁぁ……」

ルッキーニ「すぅ……すぅ……」

バルクホルン「シャーリー大尉は立つのが遅いな」

シャーリー「……」

バルクホルン「ルッキーニ少尉に関しては寝ているし。どうなっている? 学級崩壊寸前のクラスか?」

シャーリー「あたしたちは自由参加だ。とやかく言われる筋合いはない」

バルクホルン「参加している以上は姿勢をただし、相応の態度であるべきだ。それができないのなら――」

ペリーヌ「……れい」

芳佳・リーネ「「おはようございます……」」

シャーリー「さっきからなんだよ。なら、お前が出て行けよ」

バルクホルン「私がここにいるのはリベリアンのような者を出さないためだ」

美緒「おい。始められんぞ。静かにしてくれ」

美緒「当然のことではあるが、エンジンは各国に特色がある。カールスラントの冷却――」

シャーリー「……」ポイッ

芳佳「ん?」ペラッ

『後ろのやつに出て行けって言ってくれ シャーリー』

芳佳「えぇぇ!?」

美緒「どうした? 確かにカールスラントの技術は凄いが叫び声をあげるまでに感動したのか?」

芳佳「あ、えーと……はいっ!!」

バルクホルン「……」パチパチパチ

芳佳「え?」

バルクホルン「良く分かっているな。宮藤」

芳佳「ど、どうも……」

シャーリー「……」クイッ

芳佳「……!!」フルフル

シャーリー「ちっ……」

バルクホルン「リベリアン。講義に集中できていないようだな? 立つか?」

シャーリー「おまえが――」ガタッ

芳佳「あ、あの!! 坂本さん!!」

美緒「どうした?」

芳佳「バルクホルンさんはどうして後ろで立っているんですか? 参加するなら私たちと同じように座るべきかなって……」

美緒「バルクホルンは私の補佐をしてくれるといってな。それでああして立ってもらっている」

バルクホルン「気遣いは不要だと言っただろう」

ペリーヌ「あの、大尉? 失礼を承知で申しますと、その、後ろに立たれるとすごく気になるのですが……」

バルクホルン「なに?」

シャーリー「ほら、みろ。みんな集中できないんだってさ」

バルクホルン「……私が座学会の妨げになっているというわけか?」

芳佳「そういうわけじゃ……。ずっと立ってるのって辛いじゃないですか……」

リーネ「は、はい」

バルクホルン「わかった。座ればいいのか。――これでいいか?」

芳佳「……はい」

シャーリー「後ろの席に座っただけじゃ変わらないだろう……」

美緒「――今日はここまで。号令!!」

ペリーヌ「起立!! 礼!!」

芳佳・リーネ「「ありがとうございました」」

美緒「ふむ。宮藤、リーネ。今日の訓練は休みだ。自由にしていてよし」

芳佳「え? いいんですか?」

美緒「ああ。自主訓練はやってもらってもいいがな」

芳佳「わかりました!」

バルクホルン「……なるほど。こういうものだったのか。講義内容自体は退屈だが、見ている分には面白い」

ルッキーニ「にゃぁ。今日はよく眠れなかったよぉ」

シャーリー「そうだよなぁ。バルクホルンがいると息がつまる」

芳佳「そ、そんなぁ」

ペリーヌ「仕方ありませんわね。大尉には独特の威圧感がありますし」

ルッキーニ「明日はやめようかなぁ」

芳佳「ま、まって!! バルクホルンさんのような存在は、その、学校には必要不可欠なんです!!」

リーネ「そ、そうなの!?」

シャーリー「おいおい。宮藤ぃ。どんな教育現場で育ったんだよ」

芳佳「その……ああいう人を番長っていうんです」

ルッキーニ「バンチョウってなに?」

芳佳「昨日言った、ほら、裏リーダー的な存在の人のことだよ」

ペリーヌ「裏リーダーはあのような風体でなければならないということですの?」

芳佳「はい」

リーネ「そうなんだ。確かに先生のいうことを聞かない人でも、バンチョウさんの言うことは聞いちゃいそうだね……」

芳佳「でしょう?」

シャーリー「こんな堅苦しい奴がいるなら、あたしは参加しないぞ」

ルッキーニ「あたしもぉー」

芳佳「シャーリーさん、ルッキーニちゃん……」

シャーリー「そんな悲しそうな顔されても、講義中にネチネチ言われたくもないしなぁ」

ルッキーニ「うじゅ……」

リーネ「あの、なんとか考え直してください

シャーリー「うーん……」

食堂

芳佳「ダメなのかなぁ」

リーネ「あまり乗り気じゃなさそうだったね、シャーリーさんとルッキーニちゃん」

芳佳「どうしよう……。折角、増えてきたのに……」

リーネ「そうだね……」

エイラ「――宮藤」

芳佳「あ、エイラさん。おはようございます。どうしたんですか?」

エイラ「毎朝、少佐の講義受けてるんだろ?」

芳佳「ええ、そうですけど?」

エイラ「それ、昼とか夕方にできないのか?」

芳佳「ど、どうしてですか?」

エイラ「質問してるのは、私だろ」

芳佳「す、すいません……。えっと、坂本さんの都合もあるみたいですから……」

エイラ「……そうか」

リーネ「エイラさんも参加したい、とか?」

エイラ「私は別に参加したくない。面倒だからな」

芳佳「そうですかぁ」

エイラ「どうした?」

リーネ「その、今日バルクホルンさんが参加してくれたんですけど……」

芳佳「今度はシャーリーさんとルッキーニちゃんが参加してくれなくなりそうで……」

エイラ「ふぅん。大尉たちは相変わらずだな」

芳佳「エイラさんも参加してください。そうしたらきっとシャーリーさんも考えてくれるかも」

エイラ「なんでだ?」

芳佳「みんなが参加するってことになれば、シャーリーさんだって参加したくなると思うんですよね」

エイラ「それはどうだろうな。だって、シャーリーはバルクホルン大尉がいるから嫌だって言ってるんだろ?」

芳佳「嫌とまでは言ってませんけど……」

エイラ「シャーリーとルッキーニはもっと面白いことがないと参加しないんじゃないか?」

芳佳「もっと……面白いことですか……」

リーネ「一緒に学ぶだけじゃダメなんですね」

エイラ「あの二人はそういうところあるからなぁ。サーニャはないけど」

リーネ「うーん……。芳佳ちゃん」

芳佳「なに?」

リーネ「扶桑では係ってないのかな?」

芳佳「係?」

リーネ「ブリタニアではクラスで役割が決まっていて、分担作業をするんだけど」

芳佳「あるある! 生き物係とか!!」

リーネ「それはないかな……」

エイラ「生き物係ってなんだ?」

芳佳「教室や学校で飼っている動物の世話をするんです」

エイラ「へえ。なら、宮藤係っていうのもありか?」

芳佳「はい?」

エイラ「宮藤の世話をするだけの係だ」

芳佳「そんなのなしですよぉ!!」

リーネ「……なしなんだ」

エイラ「でも、そういう面白味で釣ってみるのはいいかもな」

廊下

美緒「……そうか」

エーリカ「どうする?」

美緒「そうだな……」

リーネ「あの……」

エーリカ「あれ、リーネ。どうかしたの?」

リーネ「は、はい。坂本少佐、お話が」

美緒「言ってみろ」

リーネ「座学の時間、夕方ごろにできませんか?」

美緒「なに?」

エーリカ「へえ……」

リーネ「サーニャちゃんが参加したいんじゃないかって……思って……」

美緒「何故だ?」

リーネ「エイラさんが、時間を気にしていたので……。で、でも、ダメならいいんです。ごめんなさい」

美緒「……」

格納庫

シャーリー「これとこれが手に入ればベストなんですけど」

ミーナ「そう……。考えておくわ」

シャーリー「どうも」

芳佳「ミ、ミーナ中佐ぁー!!」

ミーナ「あら、宮藤さん。どうかしたの?」

芳佳「そ、相談したいことが!!」

ミーナ「いいわよ。言ってみて。でも、無茶なことは言わないでね。胃に穴が開くかもしれないから」

シャーリー「それ、殆ど脅しじゃ……」

芳佳「ミーナ中佐も、座学に参加してくれませんか?」

ミーナ「え? 私が?」

シャーリー「なんでまた」

芳佳「えーと……。そのほうが楽しいですから。シャーリーさんも参加したくなりませんか?」

シャーリー「中佐まで一緒って、全員強制参加か何かか……」

ミーナ「あら、私が参加することに何か不都合でもあるのかしら、シャーロット・E・イェーガー大尉?」

シャーリー「いえ、特にありません!」

芳佳「ダメ、ですか?」

ミーナ「私も参加したいのは山々だけど、毎日のように書類整理があるから」

芳佳「やっぱり……」

ミーナ「でも、時間ができたら顔を出すわね」

芳佳「あ、はい。お願いします」

ミーナ「それじゃ」

芳佳「ありがとうございました」

シャーリー「勇気あるなぁ、宮藤」

芳佳「え? 何がですか?」

シャーリー「中佐に頼みごとなんて中々できることじゃないぞ」

芳佳「でも、ミーナ中佐がいてくれたら……!」

シャーリー「え?」

芳佳「あ、いえ、なんでもないです」

シャーリー「……」

ミーナの部屋

ミーナ「さてと、これを美緒に渡してこないと……」

美緒「ミーナ」

ミーナ「あら、美緒。今、明日使う資料を持っていこうと思っていたのよ。どうぞ」

美緒「すまないな」

ミーナ「シャーリーさんから聞いたわ。トゥルーデが迷惑をかけたみたいね」

美緒「いや。そんなことはない。いい緊張感があった。とはいえ、しばしばシャーリーと言い争いを始めるのは参観者としては失格だが」

ミーナ「トゥルーデもシャーリーさんと同じような扱いにしてくれていいわよ?」

美緒「次からはそうするつもりだ」

ミーナ「そう。よろしくね」

美緒「……時間を変更することにした」

ミーナ「え?」

美緒「すぐには無理だが、数日後には座学の時間は夕方からにしようと思う」

ミーナ「誰の為に?」

美緒「誰のためということもない。そういった要望があっただけだ。飛行訓練等の時間と入れ替えるだけだから、なんら支障はない。ではな」

サーニャの部屋

サーニャ「……」

サーニャ「……夜間哨戒にいかないと」

エイラ「サーニャ!!」ガチャ

サーニャ「なに? ノックして」

エイラ「ごめん!! い、今さ、少佐から聞いたんだけど、座学の時間、夕方からになるって!!」

サーニャ「え……?」

エイラ「あ、その、それだけダ」

サーニャ「エイラ……」

エイラ「サーニャには余計な情報だったか?」

サーニャ「……ありがとう……エイラ……」ウルウル

エイラ「サ、サーニャ? どうした?」

サーニャ「ありがとう……エイラ……」

エイラ「サーニャ!? あれ!? なんで泣くんだ!? ごめん!! 次からはちゃんとノックするから!!」

サーニャ「ありがとう……エイラ……だいすきよ……」

廊下

芳佳「え? 夕方からですか?」

美緒「ああ」

リーネ「ありがとうございます!!」

美緒「何、リーネからだけの要望というわけではなかったからな」

リーネ「エイラさんですか?」

美緒「あと、ハルトマンだ」

リーネ「……」

芳佳「あ、だったら、サーニャちゃんも参加できますね!!」

美緒「そういうことだな」

芳佳「やったぁー!! これで大幅に参加者がふえるねー!! リーネちゃん!!」

リーネ「うん!! そうだね!!」

芳佳「わーいっ、わーいっ」

美緒「参加者が増えるのはいいが、あの座学はお前たちのものだからな。それを忘れるなよ」

芳佳「は、はい!!」

数日後 ミーティングルーム

芳佳「今日からだね」

リーネ「うん。はい、今日の資料だよ」

芳佳「ありがとう。もう、みんないるのかなぁ」

リーネ「どうだろうね。結局、朝の時間はシャーリーさんとルッキーニちゃん来なくなったから……」

芳佳「うん……寂しいね……」

リーネ「で、でも、ほら、サーニャちゃんは必ず来てくれると思うし、もしかしたらエイラさんも……」

芳佳「うんっ! だよね!!」

リーネ「もう、いるはずだよ――」ガチャ

バルクホルン「……」

芳佳「おぉ……」

バルクホルン「……」

リーネ「は、はやいですね」

バルクホルン「そうか? いつも20分前行動を心がけているだけだが?」

芳佳「あ、そうですか」

バルクホルン「……」

芳佳「こないね……」

リーネ「うん……」

サーニャ「……」ガチャ

芳佳「あ! サーニャちゃん!!」

サーニャ「よかった……。今度は芳佳ちゃんとリーネちゃんがいた……」

リーネ「どうかしたの?」

サーニャ「10分ぐらい前に来たんだけど、そのときバルクホルンさんしかいなくて……」

芳佳「怖くて入れなかったの?」

サーニャ「……」コクッ

芳佳「そう……」

リーネ「エイラさんは一緒じゃないのかな?」

サーニャ「ごめんなさい。エイラは面倒だからいかないって……」

芳佳「残念だなぁ。エイラさんも一緒なら楽しいのにぃ」

バルクホルン「……」

芳佳「今日の資料だよ」

サーニャ「ありがとう。途中からでもついていける?」

リーネ「サーニャちゃんならきっと退屈するぐらいだと思うよ」

サーニャ「そう、なの?」

芳佳「新人のためのものだから」

サーニャ「そうなんだ。でも、楽しいな」

芳佳「まだ、始まってないけど」

サーニャ「こうして一緒にいられるのが、もう楽しいから」

リーネ「そうなんだ」

芳佳「サーニャちゃんはクラスの花だね」

サーニャ「花?」

芳佳「いるだけで見とれるっていうか」

サーニャ「そうかしら? そんなことないと思うけど……」

ペリーヌ「ちこく……ちこく……」テテテッ

芳佳「あ、ペリーヌさん。こんにちはー」

ペリーヌ「あら? サーニャさん、今日から参加しますの?」

サーニャ「よろしくお願いします」

ペリーヌ「では、自己紹介をしておきましょうか。わたくしはこのクラスを取り仕切るリーダー、ペリーヌ委員長ですわ」

サーニャ「いいんちょう?」

ペリーヌ「講義の開始と終了の号令を任されているとても名誉ある役職ですわ。わたくしのことは敬うように」

サーニャ「はい、分かりました。委員長様」

ペリーヌ「そ、そういう敬い方はしなくていいですけど」

サーニャ「難しい」

芳佳「難しく考えなくていいから。もっと自然体でね」

サーニャ「うん」

バルクホルン「少佐が来たようだ。早く座れ」

ペリーヌ「は、はい!!」

美緒「――揃っているか? おぉ、サーニャか。よろしくな」

サーニャ「こちらこそ。よろしくお願いします」

美緒「では、号令!!」

ペリーヌ「――着席!!」

美緒「では、早速――」

サーニャ「あの」

美緒「ん? どうした?」

サーニャ「ペリーヌ委員長さんのほかにはどんな役職があるんでしょうか?」

美緒「何故だ?」

サーニャ「あの、もし何か失礼があったらいけないと思って」

美緒「はっはっはっは。そうか。後ろを見てみろ」

サーニャ「はい」

バルクホルン「……」

美緒「バルクホルン番長だ。恐ろしいことに番長でありながら参加してから無遅刻無欠席を誇る猛者だ」

サーニャ「バ、バンチョウ……?」

バルクホルン「前を見ろ」

サーニャ「は、はい!」

美緒「宮藤が勝手につけた役職だが、本人も気に入っているようでな。定着させた」

芳佳「定着させなくても、よかったんですけど……」

リーネ「そうなの?」

ミーナ「――やってるわね」

ペリーヌ「中佐!? どうして!?」

ミーナ「副担任として参加させてもらうわ。夕方なら融通が多少は利くから」

美緒「……そうか」

ミーナ「あと、みんなにプレゼントもあるの。バルクホルン大尉、とりにきて」

バルクホルン「なんだ?」

ミーナ「これよ」

バルクホルン「これは支給品か?」

ミーナ「シャーリーさんがノートとペンぐらいはあってもいいんじゃないかって言ってね。用意してみたわ。資料に直接書き込むよりはいいでしょ」

バルクホルン「……」

ミーナ「どうしたの?」

バルクホルン「いや……。なんでもない」

ミーナ「早く配って。バンチョウなんでしょ? 意味は良く分からないけど」

バルクホルン「お前たち、取りに来い!!」

芳佳「は、はい!!」

リーネ「これ、いいんですか?」

ミーナ「大事に使ってね」

リーネ「は、はい!!」

ペリーヌ「これぐらい自分で用意しましたのに」

サーニャ「私の分まである……」

芳佳「あとでシャーリーさんにお礼言わなきゃ!」

サーニャ「うんっ」

美緒「ほら、静かにしろ。始めるぞ」

芳佳「はーい!!」

ペリーヌ「しっかりと聞きますわよ」

リーネ「なんだか、気合が入りますね」

サーニャ「……」ウトウト

芳佳「サーニャちゃん、まだ寝るのは早いよ」

美緒「――ここからオラーシャの歴史的な背景も語っていくことになるが、サーニャもいるし丁度いいな」

サーニャ「え?」

美緒「サーニャ、三枚目の資料を見ろ」

サーニャ「は、はい……」

美緒「一行目から音読しろ」

サーニャ「りょ、了解」

美緒「眠気も飛ぶだろう?」

サーニャ「す、すいません」

リーネ「やっぱり良く見てるね」

芳佳「うん」

ペリーヌ「あんな豪快に船を漕いでいたら、誰だって気づきますわ!」

バルクホルン「少佐」

美緒「なんだ?」

バルクホルン「便所にいく」

美緒「……いってこい」

格納庫

シャーリー「今日はこんなもんでいいかな」

ルッキーニ「シャーリー、おわりぃ?」

シャーリー「ああ。さー、メシにするかぁー」

バルクホルン「シャーリー」

シャーリー「……なんだ?」

バルクホルン「ペンとノートだが、お前たちの分もあるぞ」

シャーリー「予備だろ。あたしたちの分じゃない」

ルッキーニ「……」

バルクホルン「私の所為でこないというなら、私はもう参加しない」

シャーリー「は?」

バルクホルン「宮藤たちにはプレッシャーを与えている。私はあの場では害悪でしかないようだからな」

シャーリー「おい」

バルクホルン「私が抜けては宮藤も悲しむだろうが、二人が参加するなら問題はないはずだ。頼むぞ」

シャーリー「あ、こら!!」

廊下

シャーリー「あいつ、変な勘違いしてるんじゃないか?」

ルッキーニ「シャーリーがちゃんと言わないからぁ」

シャーリー「まぁ、そうだけど」

エイラ「ミエナイ……キコエナイ……サーニャは大丈夫か……?」コソコソ

シャーリー「エイラ?」

エイラ「おぉ!? な、なんだ?」

ルッキーニ「どったの? のぞきでもしてんのー?」

エイラ「い、いや、参観だ。参観」

シャーリー「なら、中に入れよ」

エイラ「いや……。サーニャにいかないって言っちゃったから、恥ずかしいし」

ルッキーニ「いいじゃん、いいじゃん、はいろー」

エイラ「あ、ま、まて。心の準備ぐらいさせろ」

シャーリー「あたしたちは遅刻になるから、後ろからこっそりいく。それでさも「は? 最初からいましたよ?」みたいな雰囲気を出していれば大丈夫だ」

エイラ「わ、わかった」

ミーティングルーム

美緒「――ペリーヌ。1937年には何があったか知っているか?」

ペリーヌ「そんなの常識ですわ! 扶桑海事変がありました!!」

美緒「その通りだ。そして――」

シャーリー「……」ガチャ

ルッキーニ「そろーり……そろーり……」

エイラ「ど、どこに座ればいいんだ?」

シャーリー「いいから、適当に座れ。エイラ、先行しろ」

エイラ「りょうか――」ドンッ

エイラ「いてっ。なんだぁ?」

ミーナ「……」

エイラ「……!!!」

ミーナ「どうしたの、エイラさん? この世の終わりみたいな顔をしているようだけど?」

エイラ「あ、いや……」

美緒「そして、スオムスにて結成された第507統合戦闘航空団の前身部隊はなんという? エイラ、答えてみろ」

エイラ「あ、えっと……たしか、スオムス義勇独立飛行中隊だったか?」

美緒「正解だ」

芳佳「エイラさん!!」

サーニャ「エイラ、きたの?」

エイラ「いやぁ……あはは……」

ペリーヌ「あら。興味ないと言っていたのでは?」

エイラ「うるさいな。サーニャ、隣いいか?」

サーニャ「ええ」

美緒「エイラ」

エイラ「な、なんだ?」

美緒「立っていろ」

エイラ「うぇ……」

ルッキーニ「当然だー」

シャーリー「遅刻者が簡単に座れると思うなよー」

ミーナ「シャーリーさん、ルッキーニさん。立っていなさい」

シャーリー「まさか中佐が後方にいるとは思わなかった」

ミーナ「副担任ですから」

ルッキーニ「うじゅぅ」

エイラ「シャーリー。私をデコイにしただろ!?」

シャーリー「え?」

ルッキーニ「ナニイッテルカワカラナイヨー」

エイラ「おまえらぁ……!!」

ミーナ「エイラさん、お静かに」

エイラ「……はい」

美緒「全く。遅刻だと分かっていて何故入ってくる?」

エイラ「別にいいだろ。気が変わったんだ」

芳佳「あれ……? バルクホルンさん、遅いね」

リーネ「そういえば……」

ペリーヌ「何かあったのでしょうか?」

シャーリー「あいつなら来ないよ。早退したみたいだ」

芳佳「ど、どうして!? 体調を崩したんですか!?」

シャーリー「そういうわけじゃないと思うけど」

美緒「そうか。ほら、まだ終わっていないぞ。席につけ」

芳佳「坂本さん!! 心配じゃないんですか!?」

美緒「思うところでもあったのだろう」

リーネ「シャーリーさんとルッキーニちゃんが来てくれたのに、今度はバルクホルンさんが来なくなるなんて……」

ペリーヌ「反発ばかり。同極の磁石じゃあるまいし」

サーニャ「……」

芳佳「あの! 私!!」

美緒「後にしろ」

芳佳「でも!!」

美緒「これは自由参加だ。そもそも宮藤とリーネのための講義だぞ? 他のものが早退しても問題はない。遅刻者には罰があるがな」

シャーリー「そこだけなんとかなりませんか?」

美緒「ならんな」

ルッキーニ「たいばつだぁー!」

食堂

バルクホルン「……はむっ」

エーリカ「あれ? トゥルーデ? なんで、ここにいるの?」

バルクホルン「何か問題でもあるか?」

エーリカ「ないけど。まだ座学の時間だろ?」

バルクホルン「もう参加するのはやめた」

エーリカ「だからって、一人で夕食か?」

バルクホルン「時間は合っている。問題はない」

エーリカ「ま、トゥルーデが決めたんならいいけどさぁ」

バルクホルン「……」

エーリカ「いいの? 宮藤のことだから心配してると思うけど。体調を崩したんじゃ!!とか叫んでそう」

バルクホルン「さぁな」

エーリカ「私もたーべよっと」

バルクホルン「……」

エーリカ「おー、おいしそー」

ミーティングルーム

美緒「本日はここまで。号令!!」

ペリーヌ「起立!! 礼!!」

芳佳・リーネ・サーニャ「「ありがとうございました」」

シャーリー「あぁー、やっとおわったぁー」

ルッキーニ「うじゅじゅー」

エイラ「これ、楽しいか? 少佐の言ってること全部知っているんだけど」

サーニャ「楽しいわ」

エイラ「そうか。なら、楽しいナ」

芳佳「シャーリーさん、ペンとノート。ありがとうございます」

シャーリー「ああ。宮藤もリーネもノート使ってないのがちょっと気になったからさ。ペンはまぁ、ついでだけど」

リーネ「資料に直接書き込めるので、それでいいかなって思ってたんですけど」

シャーリー「ノートあるほうが自分なりにまとめられて見やすいだろ?」

リーネ「はいっ」

芳佳「あの、シャーリーさん。バルクホルンさんのこと何か知ってますよね? どうして早退したんですか?」

美緒「ミーナ」

ミーナ「トゥルーデのこと?」

美緒「何か聞いているか?」

ミーナ「いいえ。でも、想像はつくわね」

美緒「奴のことだ。自分が空気を悪くしているとでも思ったのだろう」

ミーナ「事実でしょう?」

美緒「あんな険しい顔で後ろにいられてはな。番長としては相応しいが」

ミーナ「私から言ってもいいけど」

美緒「いや、その必要はなさそうだ」

ミーナ「……そうかもね」

芳佳「シャーリーさん……」

シャーリー「あたしは軽口のつもりだったんだけど、思いのほかあいつが気にしてたみたいでさ」

リーネ「それじゃあ、今日まで参加しなかったのはバルクホルンさんの所為じゃないんですか?」

シャーリー「いや、宮藤とリーネが悲しそうな顔してたから、時間が空けば行くつもりだったよ。元々、朝の時間はユニットの調整に充ててたしね。そっちを優先しただけさ」

ルッキーニ「あたしはシャーリーが一人になっちゃうといけないから、シャーリーに付き合ってただけだよ」

廊下

エーリカ「るんるーん」

バルクホルン「お前は興味ないのか?」

エーリカ「少佐の座学会? ないねー。新人時代に飽きるほどやったことだろ?」

バルクホルン「……そうだな」

エーリカ「無理しちゃって」

バルクホルン「なんのことだ?」

芳佳「バルクホルンさぁぁん!!!」

バルクホルン「……」

エーリカ「みやふじぃ。座学会、終わったの?」

芳佳「は、はい!!」

シャーリー「……」

バルクホルン「何か用か?」

シャーリー「何か用かじゃないだろ。用があるから来たんだ」

芳佳「シャーリーさん!! やめてください!!」

バルクホルン「……なんだ?」

芳佳「バルクホルンさん、坂本さんの講義に参加してください。みんなで一緒にやりましょう?」

バルクホルン「すまないが、もう不参加を決めている」

芳佳「あの……」

バルクホルン「ではな」

エーリカ「おーい」

シャーリー「バルクホルン。中佐が後ろに立ってくれることになったんだ」

バルクホルン「ミーナが?」

シャーリー「ああ。夕方からなら時間に余裕があるんだってさ」

バルクホルン「そうか……」

エーリカ「よくミーナが協力してくれたねー」

シャーリー「宮藤が銃殺覚悟で頼み込んだからな。バンチョウのために」

エーリカ「バンチョウって?」

バルクホルン「……」

芳佳「バルクホルンさんが後ろで怖い顔をしていたのは、みんながふざけないかどうか気にしていたからですよね。でも、もう大丈夫です。ミーナ中佐がいますから。だから……」

バルクホルン「宮藤、お前……」

シャーリー「自由参加だから、暇なときでいいんだ。参加してやれよ」

バルクホルン「……」

芳佳「あの、お願いします! みんなが揃えば坂本さんもきっと嬉しいはずですから!」

バルクホルン「……」

エーリカ「どうするの?」

バルクホルン「考えておく」

エーリカ「だってぇ。期待しないほうがいいよ、宮藤?」

芳佳「……ハルトマンさんは、参加してくれませんか?」

エーリカ「んー。考えとく」

芳佳「わかりました……」

バルクホルン「……」

シャーリー「意地悪」

エーリカ「そう?」

シャーリー「そうだよ」

食堂

エイラ「なんだ、中尉と大尉は濁したのか」

芳佳「ダメそうです……」

ペリーヌ「何を言っていますの、宮藤さん。過半数が出なくてもいい講義に参加していますのよ? これ以上は贅沢ですわ」

芳佳「でも……」

ペリーヌ「エイラさんまで顔を出すことにしたというのは予想外でしたけど」

エイラ「サーニャがどっかのツンツンメガネに虐められないか心配だったんだ」

ペリーヌ「誰のことですの!!」

エイラ「誰とも言ってないぞ」

ペリーヌ「わたくしのことでしょう!?」

エイラ「自覚あんのか? いいことだな」

ペリーヌ「きぃぃぃ!!!」

芳佳「やめてくださいよぉ」

リーネ「ペリーヌさん、エイラさんっ」

ペリーヌ「エイラさんが悪いんですっ。ふんっ」

坂本の部屋

ミーナ「美緒。明日の分よ」

美緒「悪いな。刷る量も増えてしまって」

ミーナ「いいのよ。でも、みんなの分を用意する必要あるの?」

美緒「全員が同じ教科書を持っているほうが、らしいだろう?」

ミーナ「そうね。それにしても美緒、最近楽しそうね。ああいうこと好きなの?」

美緒「ん? そうだな。嫌いではない」

ミーナ「好きってことでしょ?」

美緒「ミーナはどうなんだ? 興味があるのなら、教卓を譲ってもいいぞ」

ミーナ「今はいいわ。貴女が教鞭をふるっているのを見ているのは楽しいもの」

美緒「悪趣味だな」

ミーナ「いいものよ。戦いを忘れた顔を見るのは」

美緒「新人教育の一環だ。常に戦いのことしか頭にない」

ミーナ「うそ? あれで?」

美緒「まて。私はどんな顔であいつらの前に立っているんだ?」

翌日 ミーティングルーム

芳佳「……」ガチャ

リーネ「どう?」

芳佳「いない……」

リーネ「そっか……」

サーニャ「バルクホルンさん、来てないの?」

芳佳「うん」

リーネ「芳佳ちゃん。仕方ないよ。バルクホルンさんも忙しいだろうし」

芳佳「そうだね……」

サーニャ「芳佳ちゃん」

エーリカ「入り口前でなにやってんだよー。さっさとはいれー」ドンッ

リーネ「きゃぁ!? ハ、ハルトマンさん!?」

芳佳「き、きてくれたんですか!?」

エーリカ「暇だったから、きちゃった」

サーニャ「よかったぁ……」

エーリカ「何時間やるのー?」

リーネ「大体2時間ぐらいです」

エーリカ「ながーい。サーにゃん、あそぼー」

サーニャ「いえ。ノート取らなきゃいけないんで」

エーリカ「真面目だなぁ……」

ペリーヌ「ごきげんよう」

エーリカ「あ、委員長だ」

ペリーヌ「中尉!? 参加、しますの?」

エーリカ「文句あるのか?」

ペリーヌ「い、いえ。座学会の邪魔をしなければ……」

エーリカ「なんだ、その言い草。シュトゥルムでめちゃくちゃにしてやってもいいんだぞぉ?」

サーニャ「や、やめてください」

芳佳「ハルトマンさん!!」

エーリカ「冗談だって。そんな酷いことするように見える?」

リーネ「はぁ……」

エイラ「セーフ!」

ルッキーニ「うにゃぁー」

サーニャ「エイラ。もうすぐ先生きちゃうわ」

エイラ「ルッキーニのトイレが長いからだぞ」

ルッキーニ「エイラだって中々出てこなかったじゃん」

ミーナ「揃ってるかしら?」

芳佳「あ、ミーナ中佐!」

ミーナ「まだ、見たいね」

ペリーヌ「あ、あの、坂本少佐は?」

ミーナ「もうすぐ来るわ。私は資料を配りに来ただけだから」

芳佳「……」

リーネ「芳佳ちゃん。元気出して」

ペリーヌ「あら、ルッキーニさん。シャーリー大尉はどうしたの?」

ルッキーニ「あれ? まだ来てないの? 先に行くって言ってたのに」

エーリカ「ふぅん」

ミーナ「はい。今日使う資料は行き渡ったかしら?」

ルッキーニ「ふたつあまったー」

ミーナ「そう。持ってきてくれる?」

ルッキーニ「あーい」

美緒「――席につけー」

芳佳「あ……」

リーネ「……」

シャーリー「おりゃぁぁぁ!!!!」ズサァァ

エイラ「おぉ!?」

シャーリー「セーフか!?」

美緒「ギリギリな」

シャーリー「はぁー。危なかったぁ」

ルッキーニ「シャーリー! こっちこっちぃ!!」

シャーリー「おー。ルッキーニ。元気そうだなー」

バルクホルン「早くはいらんかぁ!!! 私を遅刻させたいのかぁ!!! リベリアン!!!」

芳佳「バルクホルンさん!!!」

美緒「ふっ。早くしろ。座学の時間だ」

シャーリー「はいはーい」

バルクホルン「全く……!! バンチョウが遅刻しては示しがつかないだろう」

芳佳「来てくれたんですね……」

バルクホルン「暇、だったからな」

芳佳「ありが――」

美緒「号令!!!」

ペリーヌ「起立!!」

バルクホルン「急ぐか」

芳佳「あ、あ……」ガタッ

リーネ「(芳佳ちゃん、これ……)」

芳佳「(あ、うん)」

ペリーヌ「礼!!」

「「おはようございます」」

美緒「今日は随分と生徒が多いな。新顔も居るようだから自己紹介しておこう!!」カキカキ

美緒「――お前たちの担任である坂本美緒だ!!!」バンッ!!!

サーニャ「……!?」ビクッ

美緒「そして、後ろにいるのが――」

ミーナ「どうも。副担任のミーナ・ディートリンデ・ヴィルケです」

エーリカ「前門の猛犬、後門の狼だね」

エイラ「怒られるぞ」

美緒「聞こえているぞ」

ミーナ「ハルトマン? 減点よ?」

エーリカ「なんで!?」

芳佳「……」カキカキ

リーネ「(できた?)」

芳佳「(う、うん。投げでもいいかなぁ)」

リーネ「(回したほうがいいと思うよ)」

美緒「それでは始める。各自、手元に資料があるな? 今日は陣形についてだ」

芳佳「(……ペリーヌさん)」

ペリーヌ「(なんですの? 始まっていますわよ?)」

芳佳「(これ、読んでから回してください)」

ペリーヌ「(貴女ねぇ……!!)」

芳佳「(お願いしますっ!)」

ペリーヌ「(全く……)」ペラッ

ペリーヌ「……」

ペリーヌ「(……ルッキーニさん?)」

ルッキーニ「すぅ……すぅ……」

ペリーヌ「ちょっと」ツンツン

ルッキーニ「にゃに?」

ペリーヌ「(これを読んでから回してください)」

ルッキーニ「うにゃぁ?」ペラッ

美緒「陸軍では有名だろう。テストゥドという陣形だ。これは――」

ミーナ「……」

シャーリー「サーニャ、これ」

サーニャ「……?」ペラッ

サーニャ「……はい」

エイラ「なんだ?」ペラッ

エーリカ「なんて書いてんの?」

エイラ「ほら」

エーリカ「ほうほう。はい」

バルクホルン「……なんだこれは?」

エーリカ「読めばいいじゃん?」

バルクホルン「講義中だぞ。少佐の話を聞けないのか。いくら退屈だからって、こんなことをしていいわけが……」ペラッ

『今日は本当に楽しいです 学校に居るみたいで私もリーネちゃんもとっても幸せです ありがとうございます みなさんのこと大好きです 芳佳・リネットより』

バルクホルン「……」

美緒「えー、では、次のところは読んでもらうとするか。シャーリー、立て」

シャーリー「はぁ!?」

美緒「なんだ? 嫌か? でも、読んでもらうぞ」

シャーリー「えーと……このじきのぉ、リベリオンではぁー、ウィッチがぁ……」

美緒「……」

バルクホルン「(ハルトマン、これはどう処理すればいいんだ? もらってもいいのか?)」

エーリカ「(サーニャから聞いたけど、扶桑ではメッセージレターを丸めて意中の相手に投げるのが慣わしなんだってさ)」

バルクホルン「(知っている。シャーリーがしていたからな)」

エーリカ「(そうなんだ)」

バルクホルン「……」カキカキ

バルクホルン「……」ポイッ

ルッキーニ「――いたっ。うにゃ? なんか飛んできた」

バルクホルン「しまっ……!?」

美緒「どうした? 島?」

バルクホルン「い、いや……」

シャーリー「島なんて出てきてないぞ。出てきたのは大陸だ」

エーリカ「トゥルーデ? さては寝てたんじゃないのぉー?」

ミーナ「……」

ルッキーニ「なんだろー?」ペラッ

バルクホルン「やめろ!! ルッキーニ少尉!!!」ガタッ!!!

ルッキーニ「えぇ!?」

美緒「どうした!?」

バルクホルン「あ、いや……これは……」

エイラ「なんだー? バンチョウが授業妨害かぁ?」

サーニャ「バンチョウ……」

芳佳「バルクホルンさん……。そこまで番長に成りきらなくても……」

リーネ「バ、バンチョウってこういうことをする人のことなの?」

ペリーヌ「なんて野蛮な……。ただの不良生徒ではありませんか」

ミーナ「バルクホルン! 席につきなさい!」

バルクホルン「ま、待ってくれ!! 回収だけさせてくれ!!」

美緒「何の回収だ?」

ルッキーニ「これのこと?」ペラッ

バルクホルン「あぁー!! やめろぉー!!!」

シャーリー「おいおい。何やってんだよ。落ち着けよ。ルッキーニが何かしたのか?」

バルクホルン「離せ!! シャーリー!! あの機密文書を読まれるわけには!!!」

ミーナ「ちょっと!! 何を言っているの!?」

美緒「貴様!! 番長としての馬脚をついに現したか!!」

エーリカ「大変だー。学級崩壊だー」

エイラ「うわー!!」

サーニャ「そんな……折角……みんなが揃ったのに……」

ペリーヌ「落ち着いて!! 冷静になって!! ここは宮藤さんから教わった『おかし』の精神ですわ!!」

芳佳「それ違いますよ!!」

ペリーヌ「え? 『おはし』でしたか?」

リーネ「それ、避難訓練じゃ……」

エイラ「ペリーヌ、混乱しすぎ。肩でももんでやるから」

ペリーヌ「それはどうも」

ルッキーニ「わたしも、だいすきだぞ……みやふじ……リーネ、だって」

エーリカ「へぇー。みんなー、トゥルーデに好きな人いるらしいぞー」

美緒「――もうこんな時間か。今日はあまり進まなかったな。話せなかったところは明日にする。一応、目は通しておけ」

芳佳・リーネ「「はいっ」」

美緒「では、号令」

ペリーヌ「起立! 礼!」

「「ありがとうございました」」

美緒「ではな」

芳佳「――バルクホルンさん!!」

リーネ「大丈夫ですか!?」

バルクホルン「エーリカが……いじめる……」

エーリカ「ねえねえ、知ってたぁ? トゥルーデって宮藤とリーネのことが好きなんだってー」

シャーリー「マジか? すげー意外だなぁー」

エーリカ「コクっちゃえよー」

バルクホルン「うぅぅ……」

芳佳「ハルトマンさん!! やめてください!! バルクホルンさん、泣いてるんですよ!?」

リーネ「そうですよ!!」

エイラ「ハルトマン中尉と仲良くしちゃダメだかんな?」

サーニャ「気をつけるわ」

ペリーヌ「中尉を敵に回すと恐ろしいですわね……。隙を見せたら、やられてしまいますわね」

シャーリー「なんかバルクホルンよりもバンチョウしてるよなぁ」

ルッキーニ「新バンチョウだー」

エーリカ「え? 私がバンチョウ? 仕方ないなぁー。二代目としてがんばるよ」

芳佳「バルクホルンさん。あの、私たちは嬉しいですから」

リーネ「はいっ」

バルクホルン「くぅぅ……こんなクラス……嫌だ……」

ミーナ「あらあら……」

美緒「501組の勢力図が2時間で覆るとは。それも新勢力によって……」

ミーナ「私のほうからハルトマンには注意しておくわ」

美緒「頼む。ならば、明日の資料作成は私がやろう」

ミーナ「いいの?」

美緒「構わん。お前にばかり苦労させるわけにはいかないからな」

美緒「――もうこんな時間か。今日はあまり進まなかったな。話せなかったところは明日にする。一応、目は通しておけ」

芳佳・リーネ「「はいっ」」

美緒「では、号令」

ペリーヌ「起立! 礼!」

「「ありがとうございました」」

美緒「ではな」

芳佳「――バルクホルンさん!!」

リーネ「大丈夫ですか!?」

バルクホルン「エーリカが……いじめる……」

エーリカ「ねえねえ、知ってたぁ? トゥルーデって宮藤とリーネのことが好きなんだってー」

シャーリー「マジか? すげー意外だなぁー」

エーリカ「コクっちゃえよー」

バルクホルン「うぅぅ……」

芳佳「ハルトマンさん!! やめてください!! バルクホルンさん、泣いてるんですよ!?」

リーネ「そうですよ!!」

食堂

バルクホルン「おのれぇ!!! ハルトマン!!! 私によくも恥をかかせてくれたなぁ!!!」

エーリカ「え? 授業中に手紙を投げているほうが悪いじゃないの?」

バルクホルン「がっ……!?」

エイラ「大尉の……まけー」

バルクホルン「あぁぁぁぁ……」ガクッ

芳佳「バルクホルンさん!!」

リーネ「しっかりしてください!!」

シャーリー「いやぁー。あんなに面白いものだったなんてなぁー。あれなら毎日顔だすよ」

ルッキーニ「にひぃ! あたしもぉー!!」

エイラ「サーニャは毎日出席するって言ってし、私も出るぞ。サーニャを守るためにな」

ペリーヌ「全く!! 騒がしくするのは今回だけにしてください!! 少佐に対して失礼千万ですわ!!」

芳佳「バルクホルンさん……あの……」

バルクホルン「……心配するな。時間に余裕がある限り、顔は出すつもりだ」

芳佳「よかったぁ……。これからもよろしくお願いしますね」

数日後 ミーティングルーム

エーリカ「ねぇー? しってるぅー? エイラの好きな人ってサーニャなんだってぇー」

エイラ「うわぁぁぁ!!! 私になんの恨みがあるんだぁぁぁ!!! やめてくれぇぇぇ!!!」

ペリーヌ「ハルトマン中尉!! もうすぐ始まりますから!!! お静かにぃ!!」

バルクホルン「ハルトマンの主導権は揺るがないのか……!! くそっ!! このままでは501組の平穏は永久にこないぞ!!」

シャーリー「先生に言うか?」

バルクホルン「それしかあるまい」

サーニャ「みて、芳佳ちゃん。新しいペンを買ったの」

芳佳「わぁ、可愛いねー。キャップが猫になってる」

リーネ「それどこで買ったの?」

ルッキーニ「サーニャ、あたしにちょーだい」

サーニャ「ダメ。買った場所を教えてあげるから」

ミーナ「はい。みなさん。席についてー」

美緒「楽しい座学の時間だ。しっかり聞けよ」

芳佳「はいっ!」
             おわり

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