杏子「……なんだよ」タツヤ「ティヘぇ♪」(311)

公園


杏子「もぐもぐ」

杏子(うん。ブーム去った感はあるけどやっぱ白い鯛焼きはうまいなぁ♪)

杏子「もぐもぐ」

タツヤ「じーっ…」

杏子「……なんだよ」

タツヤ「たいやき!それ、たいやき!」

杏子「…やらねーぞ」

タツヤ「ええーっ」

杏子「ふんっ」もぐもぐ

タツヤ「じーっ…」うるうる

杏子「……」

タツヤ「じいいーっ…」

杏子「…だああっ!もう!ほらよ!それ食ったらどっか行ってくれよ」

タツヤ「…ティヘぇ♪」

タツヤ「もぐもぐ」

杏子「ったく…」

タツヤ「ちょんまげー」

杏子「はっ?」

タツヤ「ちょんまげーっ」

杏子「ちょ…ちょんまげじゃねえ!これはポニーテールだ!可愛い女の子だけに許された髪型なんだぞっ」

タツヤ「ちょ・ん・ま・げーっ♪」ぐいっ

杏子「いでっ…おまっ…引っ張んな!」

知久「こおーらっ!ダメじゃないかタツヤ。女の人の髪の毛引っ張るのダーメ!」タツヤを抱き上げる

知久「すまなかったね。ちょっと目を離すとすぐにはぐれちゃう子なんだ」

杏子「べ、別に…」

タツヤ「ちょんまげ♪ちょんまげーっ♪」

知久「ん?タツヤ、それどうしたんだい?」

タツヤ「ちょんまげにもらったー」

知久「そうなのかい?優しいお姉ちゃんでよかったね。ちゃんとありがとうしないとね」

杏子「///」

杏子「や…やってねえ!そいつに取られたんだ!」

知久「ええっ!?ご、ごめん…だったらお金返さないと…」

杏子「い…いらねえよっ!」すたすたすた

知久「あ…きみ…」

タツヤ「ちょんまげ♪ちょんまげーっ♪」

杏子「ったく…!だからガキは嫌いなんだ!自分が欲しい物はなんでも手に入ると思ってやがる!」すたすた


モモ『お姉ちゃん、エビフライ食べないならちょーだい♪』

杏子『はぁ?またかいモモ。これは最後に食べるから残してるんだよ』

モモ『ええーっ』

佐倉母『ダメよ。モモはもう自分の食べちゃったんでしょう?』

モモ『だってーっ モモはエビフライ大好きなんだもん…』しゅん

杏子『……』

杏子『仕方ないなぁ。ほら、お皿出してモモ』

モモ『くれるのっ?わぁーいありがとうお姉ちゃん』

杏子『まったく…モモがいる限りあたしがエビフライ食べられる日は来ないよ』

佐倉母『ふふっ』

杏子『なによぉ、お母さん』

佐倉母『そういって杏子はいつもモモにあげちゃうんだから』

杏子『///』


杏子「……」

杏子「狩りの前につまんねえ事思い出しちまったな…」

杏子(見滝原はマミと組んで回ってたから土地鑑はある…それに)

ソウルジェムが魔力に反応して輝く

杏子(魔女が出没し易い場所は前と変わらない)

杏子「病院か。暗く沈んだ気持ちの掃き溜まりだもんねぇ。よっと」結界を切り裂き侵入する


杏子「おりゃああ」ズバン

魔女「うぎゃああ」ぽろっ


杏子(見滝原はグリーフシード稼ぎには最高の町だ。風見野より少しは都会だし人も多い。人の想いの集まる場所に魔女も生まれやすい)

ソウルジェムの穢れをグリーフシードに吸わせる

杏子(こいつはもう限界だな。魔女が孵化しちまう)

杏子(わざと孵化させた魔女をまた狩るって手も考えたけど、キュウべえの話じゃあ
魔法少女の穢れを吸って孵化した魔女はその分元の魔女より強力になっている。
あたしの穢れから生まれた魔女はあたし自身の手には負えないものになっているらしい…)


※↑俺の脳内設定。ストーリーとは無関係なのでスルーして

キュウべえ「杏子?この町に戻っていたのかい」

杏子「ああ、マミがくたばったって聞いてね。凱旋記念にさっそく一匹狩ってきたとこだ。こいつをたのむ」ぽい

キュウべえ「きゅっぷい」

杏子「それにしてもあんた、いつもちょうどいいタイミングで現れるよね」

キュウべえ「たまたまこの場所にいただけさ。実はさっき契約を一件すませてきたところでね」

杏子「なんだって!?」

翌日 見滝原タワー 


展望台で杏子が魔力で強化した望遠鏡を覗いている


杏子「う~ん」

キュウべえ「なにか面白いものでも見えるかい?」

杏子「いやさ…昨日あんたが言ってたルーキー、ぶっ潰すにしても顔くらい知っとかなきゃと思ってねぇ」

キュウべえ「……」

杏子「魔力の反応を頼りに探してるんだけど…いまひとつでさ」

キュウべえ「さやかならこの時間は学校のはずだよ」

杏子「…ああそっか。“普通の家の子”はそうだよね」

キュウべえ「…放課後にはよく、昨日君と会った病院に行ってるみたいだよ」

杏子「ふーん。それならまた夕方来てみるさ…おっ!あそこの屋台うまそうだな…♪」

タツヤ「ちょんまげーっ!」ぐいっ

杏子「いでっ!?」

杏子「なにしやが…ってまたお前かよ…」

タツヤ「ティヘぇ♪」

杏子「なんも面白くねえし」

タツヤ「ちょんまげなにしてるのぉ?」

杏子「別に。お前はまた親とはぐれたのか?」

タツヤ「きのうねーちゃんがパパのめだまやきたべてないた」

杏子「知らねえよ」

知久「タツヤぁ、先に行っちゃダメだって…」

杏子「」

知久「あ、あはは…また会ったね…」

杏子「……自分の子供の面倒くらいちゃんと見とけよ」すたすた

知久「はは…そうだよね。面目ない」

タツヤ「パパぁ!ひゃくえん!ひゃくえん!」

知久「はいはい。おぉ!すごいなこの望遠鏡。風見野の方まで見えるじゃないか!」

杏子(やべっ!魔法解除し忘れてた…)

タツヤ「あぁーん!タッくんがみる!タッくんがみるの!」ぴょんぴょん

知久「ん、ごめんごめん。見てごらん。遠くが見えるから」タツヤを抱き上げる

タツヤ「ふわぁーっ!……ねえパパぁ、あれなにぃ?」

知久「どれだい?…ああ、教会みたいだね。今はもう使われていないみたいだけど」

杏子「…!」

タツヤ「きょうかい、ってなぁに?」

知久「えっと…神様のお家…でよかったのかな?」

杏子「…な、なぁ」

タツヤ「ふぇ?」

杏子「その教会…好きか?」

知久「???」

タツヤ「……うん!ボロボロだけどキラキラしてるね!」

杏子「そっか…」

知久(笑った…?)


タツヤ「パパぁ、タッくんあれみにいきたい!」

知久「う~ん…風見野は遠いからなぁ。また今度ね」

タツヤ「ええーっ いーくーのぉー!」


杏子「……」すたすた

水辺の公園


キュウべえ「君は子守の才能があるんじゃないかい?」

杏子「よしてくれよ…それよりさっきの続きだ。その新顔の事であたしの役に立ちそうな事があれば教えてくれないか」

キュウべえ「魔法少女同士の潰しあいの為の情報提供はできないなぁ」

杏子「ちぇっ…まあいいさ。どのみち契約したてのペーペーにあたしが負けるはずないもんねえ」

キュウべえ「さやかはまったくの素人という訳じゃないよ」

杏子「…どういうことさ」

キュウべえ「さやかはね、もう一人魔法少女の素質を持った友人と魔女に襲われかけたところをマミに助けられたんだ。
それからマミの提案で魔法少女の戦いがどういうものか見学するためにしばらく行動をともにしていたんだよ」

杏子「相変わらず他人の世話まで焼いてたんだなぁ…マミは」

キュウべえ「……」

杏子「おい…待てよ、じゃあそいつはいつでも契約できる立場でいてみすみすマミを死なせちまったのかよ!?」

キュウべえ「そういう事になるね。ふたつ返事で承諾してくれる子が多い中でさやかは随分悩んだ方だから」

杏子「そいつが契約したのは昨日のことなんだろ!?マミが死んだのは!?」

キュウべえ「一昨日だね」

杏子「たった一日の違いで…」

杏子「うじうじ悩んで…結局契約して…どうせなるならもう少し早く決断してマミを助けてやりゃ…あいつだって死なずにすんだのに…!」

キュウべえ「仕方ないさ。彼女は決断までの最後の一押しを他にゆだねる傾向がある。
契約せざるをえない、そんな状況に追い込まれるのをどこかで期待していたんじゃないかな。
彼女が契約に踏み切れたのは彼女の願いの強さとは別に、自分が魔法少女にならなければ
見滝原を守れる者がもう他にいないという必然性が生まれていたからじゃないかと僕は思うんだけどね」

杏子「なんだよそれ…」

キュウべえ「どうしたんだい?マミのことを残念に思っているのかい?君らしくないじゃないか」

杏子「うるせえ…とにかくそいつ…なんか気にくわねえ」

キュウべえ「…とはいえ流石に君が相手じゃあ今のさやかには到底太刀打ちできないだろうけどね」

杏子「当たり前だ。そんな奴あたしがそっこーでぶちのめしてやる」

キュウべえ「やれやれ。グリーフシードやテリトリーを巡って魔法少女同士がぶつかるのは珍しい事じゃないけど
なぜ君たちは強力して魔女退治にあたろうとしないんだい?グリーフシードの取り分を人数で割る事になっても
その分効率的に多くの魔女を倒せるだろうし、君がさっき言ったとおり仲間がいれば命の危険は格段に減るじゃないか」

杏子「そんな単純なもんじゃないんだよ。あたしとマミの時だって…結局ダメにしちまっただろ?」

キュウべえ「確かに徒党を組んで戦う少女たちは遅かれ早かれそのほとんどが解体していくね。
思春期の強い感情エネルギーは奇跡を実現させるほどの力を持つ一方で、その不安定さ故に他者とすぐ衝突を起こしてしまう。
それでいて誰かを傷つける事にひどく臆病で、感情の昂りが鎮まったあとは
決まって自分の残酷な言動を激しく後悔するんだよね。まったくわけがわからないよ…」

杏子「あたしはそんな甘ちゃん連中とは違う。気に入らない奴はぶっとばしておしまいさ」

キュウべえ「やれやれ。君には困ったものだよ。
どうあっても僕の話は聞き入れてくれないらしい。せっかく苦労して取りつけた契約だったんだが…」

杏子「なぁに、でしゃばらないって約束するなら殺しまではしないさ。
ソウルジェムが濁りきらない程度におこぼれを頂戴してやってもいい」

キュウべえ「……」

杏子「……」

タツヤ「ちょんま…」

杏子「あたしに同じ手は二度通用しないよっ!」ぱしっ

振り返って背後に忍び寄っていたタツヤの手を掴む杏子

杏子「髪は女の命だ。気安く触るんじゃない」

タツヤ「ティヘぇ♪つかまったー」

杏子「二度あることは三度、か…」

タツヤ「ちょんまげどぉしてさっきだまってかえっちゃったのー?」

杏子「どうして…って別にお前と遊ぶ約束してたわけじゃねーんだぞ。断っとく必要ねーじゃん」

タツヤ「いっしょにおべんとうたべよぉ」

杏子「はぁ?」

知久「あぁ、いたいた。タツヤ お姉ちゃん見つけたのかい」

杏子「…三度目は偶然ってわけでもないのか。あたしなんかつけ回してどういうつもりさ?」

知久「いや、タツヤが君の事すっかり気に入ったみたいでね。探してほしいってせがまれて。すまないね、迷惑だとは思ったんだけど」

杏子「ああ。いい迷惑だ。あたしは…」タツヤを知久に押し付ける

杏子「忙しいんだ」キリッ


ぐうう~~っ


杏子「」

タツヤ「ちょんまげおなかすいてるの?」

杏子「あ、あたしだって人の子なんだ!腹くらい減るさ!」

知久「忙しいっていってもお昼を食べる時間くらいあるんだろう?お弁当たくさん作って来ちゃったんだ。
一緒に食べてもらえるとタツヤも喜ぶし僕も助かる」にこっ

杏子「うっ/// 」

知久「にこにこ」

杏子(まぁ忙しくなるのは日が暮れるころだしなぁ…)

杏子「…いま差し出してるそれは…私の分なんだよな?」

知久「そうとも」

杏子「てことはそれはもう私の食い物なんだな?」

知久「そうなるね」

杏子「じゃ、じゃあ仕方ねえ///食い物を粗末には出来ないからな///」

知久(いい子だなぁ)

タツヤ「ちょんまげタッくんといっしょにすわって!」

杏子「へいへい」

知久「ほら、遠慮しないでたくさん食べて」

杏子「じゃあ、まぁ…」もぐもぐ

杏子「…!」


知久「あーほらタツヤ!服にこぼしてる!」

杏子「……」もぐもぐ

タツヤ「ちょんまげこれみてー♪ろらきゅらーっ」←フライドポテトを牙みたいに口に挿している

杏子「…食い物で遊ぶな」

タツヤ「……あぅ」

知久「…そ、そうだぞタツヤ。お行儀よく食べないと」

タツヤ「…はぁい」しゅん

タツヤ「……これいらなーい」

知久「またタツヤはしいたけ残すのかい?」

杏子「……」もぐもぐ

タツヤ「だっておいしくないんだもん」

知久「一口でいいから食べなさい。身体にいいんだから」

タツヤ「やーらぁー!」じたばた

杏子「……」もぐもぐ

知久「仕方ないなぁ。あとでパパが食べるから残しておきなさい」

タツヤ「ティヘぇ♪」

知久「あ、君も苦手なものがあったら言って。気を遣わなくていいからさ」

杏子「……実はあたしもしいたけは苦手だ」

知久「あ、ああそうなのか。ごめん…」

タツヤ「タッくんといっしょだぁ♪」

杏子「他にも苦手な物は色々ある。だけど…あたしは残したりは絶対にしない」

タツヤ「???」

知久「はは…そうだね。好き嫌いはよくないから」

杏子「そういうことじゃない」

杏子「食える事に感謝しろってことだ」

タツヤ「…かんしゃってなぁに?」

杏子「お前、今にも死にそうなくらい腹が減ってて他に食う物がない時に
しいたけがあっても嫌いだからって食わないのか?」

タツヤ「ふぇ?」

杏子「どうなんだ、食わずにいられるのか」

知久「……」

タツヤ「たべないとしんじゃうなら…たべるとおもう…」

杏子「だったらいつでもそういう気持ちでいろ。そういう気持ちでいれば苦手なものでも食べられるはずだ。
食える事に感謝するってのはそういう事だ」

タツヤ「ううう~っ…ゆってることわかんないぃ~」

知久「…お姉ちゃんは残さず食べなさい、って言ってるんだよ」

タツヤ「やーらぁー!これきーらーいー!」

杏子「嫌いでも食べないとダメだ」

タツヤ「なんでそんないじわるゆうのっ!ちょんまげもきらぁーいっ!」

杏子「あたしが嫌いでもいい。全部食べろ」じっ

タツヤ「……」

タツヤ「うぅ…」ぱくっ

杏子「……よし」

知久「すまないね。こういう事は本来親の僕がきちんと躾けないといけない事なのに…」

杏子「……」もぐもぐ

知久「あの…おいしくなかったかな?」

杏子「……」

杏子「…いや、うまいよ。かなりうまい」

知久「そうかい?ならいいんだけど」

杏子「奥さん料理上手なんだな」

知久「えっ?」

杏子「あんたの目玉焼きは娘が泣き出すほどまずいのにな」

知久「えっ?ああ…いや、ははは」

杏子(家庭の味ってやつだな…店で売ってる食い物じゃあ絶対表現できない味…ものすごく久しぶりの、懐かしい味だ…)


オカアサン──


杏子「……」じわっ

杏子(うわっ…!バカかあたし…弁当くらいでなに泣いてんだよ…)ごしごし


知久「……」

知久「君、中学生だろう?学校はどうしたんだい?」

杏子「……」

知久「いや、いいんだ言わなくて。娘も君と同じくらいだから少し気になっただけなんだ」

杏子「…おっさん、仕事はどうした?」

知久「はは…僕は専業主夫ってやつでね。奥さんに働いてもらってるんだよ」

杏子「ふーん」

知久「タツヤも普段は幼稚園に通わせてるんだけど、インフルエンザの子がたくさん出てしばらく休園になって。
園からは外出は控えるよう言われてるんだけど、家に篭りきりだと気も滅入るしタツヤも退屈していたからね。
天気もいいことだし外でお弁当でもと思って出てきたんだ」

杏子「ふーん」

杏子「…あれ?じゃあこれ作ったのって」

知久「うん。僕なんだ」

杏子「わ、わるい!変な嫌味言って。この弁当がうまいのは本当だよ!?」

知久「いいんだ。この間の目玉焼きはたぶん失敗しちゃったんだよ。娘もおいしい、って気を遣ってくれてたけどね」

杏子「いや…たぶんその子さ、幸せだったんだよ」

知久「え…?」

杏子「なにか…分かんないけどなにかきっかけがあってさ…父親が作ってくれた料理を食った時
自分に家族がいることがどれだけ幸せか身に沁みて…それで泣いたんだと思うよ」

知久「にこにこ」

杏子「あっ///」

杏子「そ、そんなもんだよ…中学の頃なんて///」

知久「ふふ…君だって中学生じゃないか」

杏子「えへへ…学校行ってないけどね」

タツヤ「みてーっ!ぜんぶたべたぁ」

知久「おっ、偉いじゃないかタツヤ」

杏子「……」すっとタツヤに手を伸ばす

タツヤ「あぅ…」びくっ

杏子「タツヤ、だったね。いい子だ」なでなで

タツヤ「…ティヘぇ///」

タツヤ「あのね…」

杏子「なんだ?」

タツヤ「きらいってゆったの、うそだからね」

杏子「…そうかい」

知久「君は…きっといいお家のお嬢さんなんだろうね」

杏子「はぁ?なんだそれ嫌味かよ」

知久「嫌味なもんか。君みたいに優しい娘さんを育てられるご両親は立派な人に決まってる」

杏子「///」

杏子「く…食ったんだからもう行くよ」

知久「あぁ。僕とタツヤの我侭に付き合ってくれてどうもありがとう」

杏子「弁当、うまかったよ。あたし今まで食える事にしか感謝してなかったけど
今度からは作ってくれた人にも感謝することにした」

知久「あはは。すこし大袈裟じゃないかな。でも…うん。それはとてもいい事だね」

タツヤ「ちょんまげぇー またあそんでねー」

杏子「残念でした。これからはお前に見つからないようにするもんね。
ガキのお守りなんて冗談じゃない。あたしは忙しいのさ」

タツヤ「ええーっ!?もうあえないのぉ?」

杏子「へへ…そこで諦めちゃわずにさぁ、こう…意地でもあたしを探し出すんだぁ~!くらいの熱意を見せてみなよ。
それくらいの気持ちがないと欲しいものなんか手に入らないし、そういう情熱的な男に女はなびくもんだよ」

タツヤ「???」

杏子「じゃ!そういうことで。ごっそーさん」すたすたすた


知久「…また会えるよ」

タツヤ「…………うん!」



杏子「あああああああああああっ///」ガンガンガン

杏子「恥ずかしいこといっぱい言っちゃったああああああっ///」ガンガンガン
 
杏子「なに考えてんだ…あたしってほんっっっとアホ!」じたばたじたばた


そんな事情もあり、その日の夕暮れには初対面のさやかに余計つらく当たってしまう杏子ちゃんであった

見滝原中学 昼休みの屋上


仁美「あらあらさやかさん、またお野菜ばかり残してるんですの?」

さやか「んあ~…うん。お母さんあたしが食べないの分かってて毎日お弁当に入れるんだもんなぁ」

仁美「いけませんよ。さやかさんの身体の事を想うお母様の気持ちを無下にしては」

さやか「なになにぃ?好き嫌いしないと仁美みたいなナイスバディ~になれちゃうわけぇ?」

仁美「当然!苦手なものを克服し続けてきた結果、今日のスタイルに至っているのですわよ♪」

さやか「否定とかはしないんだ…」

仁美「とーにかく!ちゃんと食べるまで許しません!」

さやか「うえぇ…いいじゃんそんな~ちっちゃい子叱るみたいに…」

仁美「もう小さな子じゃないんだから尚更です!」

まどか「あはは…でも家のタツヤ、今朝は嫌いだったサラダもちゃんと食べてたよ」

さやか「へぇ。えらいじゃんタッくん。なんか心境の変化でもあったのかな」

まどか「それが変なんだよね。残さず食べろってちょんまげが言ったから、だって」

仁美「ちょんまげ…?子供番組のキャラクターかなにかですの?」

まどか「ううん。なんか街で何度かあった人なんだって」

さやか「なにそれwww見滝原のラストサムライかぁ?」

仁美「ほらほら、タツヤくんですらちゃんとしているのに恥ずかしくないんですの!?」

さやか「ちょ…かんべんしてよぉ~」

まどか(あの…さやかちゃん…本当に大丈夫なの?)

さやか(へっ?)

まどか(昨日の子と戦っていっぱいケガしてたから…どこか苦しくて食べられないとか…それなら仁美ちゃん止めないと…)

さやか(あははは!へーきへーき!心配ないよ。どんな傷もすぐ塞がっちゃうのが私の能力なんだって。
これはマジで野菜がダメなだけなのよ)

まどか(そっか…ならいいんだけど)

さやか(よくないってば~!仁美はなんとかしてよぉ!)

まどか(ダ~メ。そういう事なら甘やかせないよ♪)

さやか(まどかぁ~)

見滝原 繁華街のスーパー


知久「タツヤは晩御飯なにがいい?」

タツヤ「え~っとねぇ…」

タツヤ「わかめ」

知久「わ、ワカメかぁ…それは仕度が楽でいいなぁ」

知久「おっ、珍しくキャベツが安い」

タツヤ「きょろきょろ」←何にでも興味を示す

知久「タツヤ、パパからはぐれちゃダメだぞ」

タツヤ「はぁーい」

知久(そういえばこの間の挽肉の残りがまだあったなぁ)

知久「タツヤ、ロールキャベツなんかは…」くるっ




知久「いない…」がくっ

タツヤ「ティヘヘ♪なんだあれ!なんだあれ!」とてとて

タツヤ「あーっ!」

タツヤ「たべてもいいやつだぁ!」とてとて

ウインナー焼いてるおばちゃん「うふふ。よく知ってるね。はい、食べてみて」

タツヤ「おいしーい♪」

おばちゃん「そうでしょう。気に入ったらママにおねだりしてみてねぇ」

タツヤ「ママぁ?」

おばちゃん「うん。早くママのとこに行ってあげないと探してるわよぉ」

タツヤ「そうなのぉ?」

おばちゃん「うん。きっとすご~く心配してるよ?」

タツヤ「……じゃあママのとこいく!」とてとてとて

おばちゃん「可愛いわねぇ。うちの子にもあんな頃があったのに今となってはぶつぶつ…」

店長「中沢さん、私語禁止ですよ」

知久「タツヤー?タツヤー?」

知久(いないなぁ。まぁ黙って一人で店から出るなとは散々言い聞かせたからそこまで心配はいらないけど…)

知久「今度という今度はガツンといって聞かせないと!」


タツヤ「ママぁ~」とてとてとて

自動ドア「ありがとうございました」ウィーン

一応母の職場へは行った事のあるタツヤはなんとなくこっちだろうと当たりをつけた方角へ走り出した。が…

タツヤ「ふわ~ぁ!」ぱぁぁ

すぐさま何かに興味を引かれ立ち止まってしまうのであった

見滝原 繁華街のゲーセン


ほむら「……」ぽりぽりぽり

杏子(自分で勧めといてなんだけど本当に食うと思わなかった…)

ほむら「あら、あの子まどかの…」

杏子「なんか言ったか……うげっ!?」

タツヤ「ふわ~ぁ!」ぱぁぁ

UFOキャッチャーの筐体を覗き込んだタツヤは瞳を輝かせている

ほむら「ぼく、こんなところでどうしたの?お家の人は?」

タツヤ「ふぇ?」

杏子(おまっ!?なに話しかけてんだ!)

タツヤ「ああーっ!ちょんまげだぁ!」

杏子「///」

ほむら「あら…知り合いだったの?」

杏子「ちょ、ちょっとだけな///」

ほむら「今までにないパターンね」ぼそっ

タツヤ「ちょんまげがタッくんにあいにきてくれたぁ♪」ぎゅっ

杏子「はぁっ!?たまたまだ!だきつく…なっ!」ぐいっ

タツヤ「ぶう~っ だっこだっこぉ」ぴょんぴょん

ほむら「…ずいぶん可愛らしいボーイフレンドね」

杏子「黙れ!おいタツヤ!あの草食親父はどうした?どうせまた近くにいるんだろ?」

タツヤ「タッくんねぇ、ママのところにいくんだよ」

杏子「はぁ?お前のお袋は仕事じゃねーのかよ?」

タツヤ「でもおばちゃん、ママがさがしてるってゆったもん」

杏子「わけわかんねえ…」

ほむら「タツヤくん、今日はどうしてお出かけしたのかしら?」

タツヤ「パパがおかいものするからついてきたの」

ほむら「お夕飯のお買い物?」

タツヤ「うん」

ほむら「となると…その先のスーパーかしら?」

タツヤ「うん。そう」

ほむら「…とりあえずこの子を連れて行ってあげましょう。そこにお家の人もいると思うわ」

杏子「意外だな。あんたみたいな奴でも子供には甘いのか?」

ほむら(まどかを心配させるような真似はできないもの)

杏子「あたしは知らねーぞ。あんたがひとりで連れていきな」

ほむら「あら、でもあなた随分気に入られてるみたいだし」

タツヤ「ちょんまげぇ~」すりすり

杏子「」

ほむら「たいした時間はかからないわ。行きましょう」

タツヤ「ふぉーぜ!ふぉーぜ!」

杏子「は?」

タツヤ「ちょんまげ、ふぉーぜとって!」景品のぬいぐるみを指差す

杏子「…知るか。行くぞ」

タツヤ「あぁーん!ふぉーぜほしいーぃ!」じたばた

杏子「うっさい!何がフォーゼだ!おにぎりのバケモンみたいな格好しやがって」

ほむら「いいじゃない。とってあげなさいよ。お金なら私が出すわ」

杏子「おいおい…なんでこいつをそんなに甘やかすのさ?」

ほむら「……それなら別にかまわないでしょう?」

杏子「はぁ…まぁいいけどさ、あたしこれあんま得意じゃないんだよなぁ…」チャリン

テッテテレテーテー♪

テッテテレテーレー♪

すかっ

杏子「」

タツヤ「とーってーっ」ゆさゆさ

杏子「揺らすな!店員がくるぞ!」


テッテテレテーテー♪

テッテテレテーレー♪

すかっ

テッテテレテーテー♪

テッテテレテーレー♪

すかっ

テッテテレテーテー♪

テッテテレテーレー♪

すかっ

杏子「……」

杏子「おいほむら、次あんたがやってみな」

ほむら「私…こういったものは経験が…」

杏子「そう思ったから言ったんだ。ビギナーズラックってものもある」

ほむら「そう…かしら…」


テッテテテレ…ばんっ!

杏子「おい!」

テッテテ…ばんっ!

杏子「なにやってんだ!早押しじゃねーんだぞ!?」


杏子「うん…まぁ…」

杏子「お前がUFOキャッチャーってものが全く理解できてないのはわかった」

タツヤ「へたくそぉ♪」

ほむら「……」

杏子「つーかこんな事してる場合じゃないだろ。早くこいつ連れてかないといけねーのに」

タツヤ「やだぁ!ほぉーしぃーいーっ!」

杏子「そこまで言うなら自分でとってみろ!これで取れなかったらもう行くからな!」チャリン



タツヤ「うちゅう…きたーっ!うちゅう…きたあーっ!」

ほむら「よかったわねタツヤくん」

杏子「……」

ほむら「ここでお買い物の途中だったのね?」

タツヤ「そうだよぉ」

杏子「な、なぁ…あたしはもう帰ってもいいだろう?」

ほむら「だめよ。親御さんに会えるまでタツヤくんに寂しい思いはさせられないわ」

杏子(やべぇ…このスーパー何度か万引きしたことあるんだよなぁ…)

自動ドア「いらっしゃいませ」ウィーン

ほむら「すみません」

店員「はい?」

ほむら「この子迷子なんですが──」

スーパー 事務所


杏子「……」

ほむら「……」

タツヤ「うちゅう…きたーっ!うちゅう…きたあーっ!」

杏子(なんだよこの面子…)

杏子「なぁ…あとは店にまかせとけばいいんじゃないのか?」

ほむら「親御さんが来るまで見届けてからでないと責任が果たせないわ。
さっきから何度も迷子放送してるけど誰も来ないらしいの。もしかしたら外に探しに出てしまったのかもしれないわね」

杏子(うぅ…居心地が悪い…)そわそわ

杏子(あたしの顔…店の奴が覚えてたらどうしよう…)そわそわ

ほむら「…何をそわそわしているの?おトイレならちゃんと言わないとダメよ」

杏子「は…はああっ///!?ふ、ふざけんな!子供扱いしてんじゃねえぞっ!」がたっ

ほむら「……」

ほむら「…今のはタツヤくんに言ったのだけど」

杏子「」

タツヤ「うぅ~…」もじもじ

ほむら「ほら、行ってきなさい。ひとりで出来るわね?」

タツヤ「できないよぉ…」

杏ほむ「!?」

杏子(お、おいほむら…お前連れてってやれよ…)

ほむら(で…でもっ…そうなるとつまり…見てしまうことに///)

杏子(ガキのだろ!?ここで漏らされたら最悪だぞ!?はやく連れてけよ)

ほむら(だけどそんな…破廉恥だわ///)

タツヤ「ちょんまげぇ…おしっこぉ…」

杏子「んなっ…!なんであたしなんだよ!」

ほむら(ほ、ほら…あなたをご指名よ…?)

杏子(……)

杏子(あんた…なんかがっかりしてねぇ?)

ほむら(い、言ってる意味が分からないわ)

タツヤ「も~れ~ちゃ~う~~!」

杏ほむ「!?」

杏子「だあああっ!もう!いいからお前もこい!」ぐいっ

ほむら「ほむっ!?」

スーパー トイレ


杏子「いいのかよ…女子トイレでさせちゃって」

ほむら「これくらいの子なら問題ないはずよ」

杏子「しかし…個室に三人はさすがに狭いな」

ほむら「狭いわね」

杏子「ほらタツヤ、ズボンとパンツは自分で脱げよ」

タツヤ「うんっ!」ぬぎっ

杏子「うわああバカっ///あ…あたしがいいって言ってからだ!」ぎゅっと目をつぶる

杏子「よっしゃ…いいぞぉ」

タツヤ「~♪」ぬぎっ

ほむら「///」

杏子「そんじゃあ…よいしょっと」ひょい

ほむら「何のつもり?」

杏子「いや、小さいうちってさ、こうやって抱えあげてさせるって言うじゃん」

ほむら「…よく知らないわ」

杏子「でさ、あたしはこいつ抱えてるから…その…」

ほむら「???」

杏子「お前はほら…照準あわせる役な///」

ほむら「なんですって?」

杏子「だからさ!このままさせたら床もあたしもびしょびしょになるだろ!」

ほむら「そう…なの…?」

杏子「だからお前はその…つまんでやってだな!狙いを定めるんだよっ///」

ほむら「!?」

ほむら「い…いいのかしら私そんな///」

タツヤ「しーしていいのぉ?」

杏子「わあああダメダメ!ちょっと待て!ほら、はやくしてやれって!」

ほむら「で、では失礼するわ…」ちょい

タツヤ「きゃっきゃw」

ほむら(柔らかい…)ごくり

タツヤ「くすぐったぁい」

杏子「ほら、笑ってないで早くしろって。お前けっこう重いんだから!」

タツヤ「んっ…」

ちょろろ…じょぼぼぼぼ…

杏子「う…うわああああ///」必死で見ないようにするが音はダイレクトな杏子

ほむら(ほむほむ…なるほど///)まじまじ

タツヤ「きゃっきゃw」

再び事務所


タツヤ「たいまんはらしてもらうぜ!」

杏子「なんか…すげぇ疲れたな…」

ほむら「そうね…親御さんはまだ見つからないのかしら…」

杏子「…あんた、意外と面倒見いいんだね。もっと他人に無関心なやつかと思ってた」

ほむら「…別に。こんな小さな子を一人で放っておくほど冷酷に徹する必要もないと思うのだけど」

杏子「そりゃそうだけど…なぁ、あんたの願いって何だったんだ?」

ほむら「……」

杏子「…言いたくねーなら無理に聞かないけどさ。
ただ…あんたは昨日の新人みたいに一回きりの奇跡を馬鹿な事に使っちまったりはしてねーよなと思ってさ」

ほむら「……私は、私自身の望みの為に契約して私自身の為だけに戦い続けている。
その点ではあなたと同意見よ。この力は徹頭徹尾自分の為だけに使うべきだわ」

杏子「ああ。そうだよな」

杏子「……」

ほむら「……」

杏子「…てっとーてつび、ってなんだ?」

ほむら「はじめから終わりまで一貫して、という意味よ」

杏子「へぇ。難しい言葉知ってるね」


杏子「てっとー…なんだっけ?」

ほむら「徹頭徹尾。はじめから終わりまで一貫して、という意味よ」

杏子「よし、覚えた」


杏子「……鉄工設備だっけ?」

ほむら「徹頭徹尾。はじめから終わりまで一貫して、という意味よ」

店長「あぁお嬢ちゃんたち、いま警察に連絡したんだけどねぇ」

杏子「!?」びくうっ

店長「その子のお父さん、やっぱり外まで探しに出たらしくて交番に相談もしてたらしい。
お父さんの携帯の番号聞いてるそうだから連絡しておいてくれるそうだ」

杏子(なんだ…)ほっ

ほむら「そうですか…お手数おかけします」

ほむら「よかったわねタツヤくん。もうすぐお父さん来てくれるそうよ」

タツヤ「ふぅん」

杏子「お前なぁ…」

知久「タツヤ!」だだっ

タツヤ「あ~パパだぁ♪」

知久「もう、心配したんだぞ!いつも勝手にはぐれちゃダメって言ってるじゃないか!」

タツヤ「ティヘぇ♪」

知久「まったく…」ぎゅう

知久「またタツヤがお世話になっちゃったね。中学生くらいの女の子が連れてきてくれたって聞いたから
たぶん君じゃないかと思ってたんだ」

杏子「ふんっ!あたしは関わりたくなかったんだけどこいつに付き合わされてね」

知久「そうなのかい?どうもありがとう。やっぱりいい子にはいい子の友達がいるんだね」

杏子「けっ///」

ほむら「私もタツヤくんをここまで連れてきただけで大した事はしていませんから」

知久「その制服は見滝原中学かい?家の娘もなんだよ。2年の鹿目まどかって知ってるかな」

杏子(あれ?あたしもどっかで聞いた名前だぞ。誰だっけ…)

ほむら「はい。鹿目さんとはクラスメートです」

知久「おぉ!それはすごい偶然じゃないか!」

ほむら「ですがこの事はその…鹿目さんには内緒に…」

知久「どうしてだい?」

ほむら「それはその…放課後に繁華街をふらついてる様な子だと思われたら…」

知久「はは。まどかはそんな事気にしないよ。でも、うん。そういうことなら黙っておこう」

ほむら「ありがとうございます」ぺこ

知久「お礼を言わなきゃならないのは僕のほうさ。こんな遅くまでうちの子に付き添ってくれて…」

タツヤ「パパみてぇ!ふぉーぜ!」

知久「どうしたんだいそれ?」

タツヤ「ちょんまげがくれたの」

ほむら「!?」

杏子(おいおい!それお前が自分でとったんだろ!)

知久「まさかまたお姉ちゃんに我侭言ったんじゃ…」

杏子「ち、ちがうよ!別に欲しくなかったけど暇つぶしで取れたのが邪魔だったからくれてやったんだ」

ほむら「!?」

知久「本当かい…?なんだか色々とすまなかったね」

ほむら(どういうつもり…?お金を出したのは私で、取ったのはタツヤくんよね?
なにもしていないあなたがどうして自分の手柄にしているのかしら(#^ω^))

杏子(しかたないだろ!金出してやったなんて言ったら気に病むんだよこのおっさん)

知久「なにかお礼でもと思うんだけど…」

ほむら「いえ…もう遅いので私はこれで」

知久「そうだよね。もしよければ日を改めてでもいいんだけど」

ほむら「本当にお構いなく。それでは失礼します」ぺこ


知久「君はどうかな?やっぱりお家の人が心配されるよね」

杏子「さぁね。でもそいつと関わるとろくなことにならないから私も帰るよ」

知久「何度もすまないね。とても感謝してる」

タツヤ「ええーつ!いっちゃうのやだぁ!もっといっしょがいい!」

知久「こらっ、タツヤが勝手にはぐれちゃうからお姉ちゃん帰るの遅くなっちゃったんだぞ。
これからは絶対黙っていなくなっちゃいけないよ。今日はたまたま優しいお姉ちゃんたちが助けてくれたけど
世の中には怖い人もいるんだから。もし一人でいるときにそんな人に捕まったら2度とパパたちに会えなくなっちゃうんだよ?」

タツヤ「うん…」

知久「とにかく、今日みたいなことは2度としちゃダメだ。みんなが心配するんだから。もうしないって約束できるかい?」

タツヤ「…はぁい」

杏子「……」

知久「よし、遅くなったね。お家帰ろうか」

杏子「…よくねえだろ」

知久「え?」

杏子「タツヤ」

タツヤ「ふぇ?」

杏子「……」じろっ

タツヤ「ティヘぇ♪」


ごつん!


タツヤ「ふぇ…」

知久「あ…」

タツヤ「うぅ…えええええん!びえええん!いだぁい!わああああん!」

杏子「いいか、誘拐されたり事故にあったらそれよりもっと痛くて怖い目にあうんだ」

タツヤ「あああああん!ちょんまげがたたいたぁ!」

杏子「なぁ」

知久「あ…えっ…?」

杏子「こんな歳の子供に“言って聞かせる”なんてそもそも無理なんだよ。
本当にこいつの為を想うなら、どうしても従わせなきゃいけないことは殴ってでもわからせないとさ。
痛かった思い出なら、子供の記憶にもはっきり残る。痛みからなら学習できるんだよ」

知久「あぁ…そう、だよね」

タツヤ「わあああああん!うわああああん!」

杏子「とはいえ嫌な役回りだよね…相手の為に、なんて言って動いたところで…」

タツヤ「ひぐっ…ちょんまげきらいっ!あっちいって!わああああん!」

杏子「ほら、今度こそ本当に嫌われた」

知久「ご、ごめん…」

杏子「……」

杏子「帰るわ」

杏子「……」とぼとぼ

杏子(そうさ…人のためなんて言ったところで、結局最後はこんなもんなんだ…)

杏子(べっ、別にぜんぜんさみしいとかじゃねえけどなっ!)

杏子「……はぁ」とぼとぼ


河川敷の橋の下、そこにひっそりと張られたテントが杏子のもっぱらのねぐらである


杏子「あぁ~もうくそっ!ヘコんでんじゃねーぞあたし!」ばたん

杏子「……」

杏子「さっさと寝よ…」ごそごそ


杏子「すー…すー…」←天使の寝息

杏子「ん…あれ…ここ…」

杏子「なんか…見覚えある部屋だな…」

???「あら、起きたのね。ちょうど紅茶がはいったところよ」

杏子「マミ…さん…? そっか…ここ…」

マミ「あらあら、さん付けに戻してくれるの?いい子ね」

杏子「はは…もう全然いい子じゃなくなっちゃったよ。マミさんと別れてからあたし、たくさん悪い事して…いろんな人傷つけて…」

マミ「…いいえ。佐倉さんはとってもいい子よ。昔となにもかわらないわ」

杏子「よしてくれよ…それよりマミさんこそこんな所に居ていいの?」

マミ「あら、どういう事?ここは私のお家なのだけど」

杏子「いやそれはそうだけどさ、だってマミさんは…」

マミ「私は?」

杏子「まぁいいや…大した問題じゃない気がしてきた」

マミ「くすくす…なぁにそれ。おかしな子ねぇ」

杏子「それで、どうしてあたしはここにいるんだい?」

マミ「私があなたを呼んだのよ。佐倉さんは私のところに忘れ物をしていったから」

杏子「忘れもの?」

マミ「とても大切なものなのよ?」

マミ「あの別れの日…あなたが“いらない、見たくもない”って捨てていったものなのだけど…
でも、佐倉さんならきっといつかまたこれと向き合える強さを持ってくれる…そう思ってとっておいたの」

杏子「……?」

杏子「そんな…まさかそれ…」


マミの手の平には淡く暖かな光の塊が輝いている…

マミ「今がその時だと思うの。佐倉さん」

杏子「いや…いやだっ!」

杏子「なんで…!なんでそんなものまだあんたが持ってるんだ!そんなものがあるから…!」

マミ「佐倉さん…!」

杏子「“それ”のせいで…あたしは間違ったんだ…!“それ”のせいで…みんな死んじまったんだ…!」

マミ「違うわ!」

杏子「違うもんか!」ばんっ

杏子「それを捨てたから…あたしまでは壊れずにすんだんだ…あたしは…あたしは…!」

マミ「……」

杏子「うえっく…えぐ…ううっ…」

マミ(涙……)

杏子「…さま……るし…さい……」

マミ「……?」

それはもうマミに向けられた言葉ではなかった。掠れた鼻声で、杏子は祈りの言葉をしきりに呟いているのだった。

杏子「天におられる私達の父よ…この責め苦が愚かな私への裁きなのはわかっています…ですが」

杏子「どうしてあなたは私の家族を連れて行ってしまわれたのでしょう…
罪人の私を苦しめるために罪なきものから命を取り上げることが正しい裁きなのですか。
どうして私に彼らを殺させたのですか。私が罪人ならどうして戦いの中で死なせていただけなかったのですか。
私は地獄の業火にも焼かれましょう…ですからこんな残酷なことはお止めになって彼らに命を返してあげてください。
そして…ささやかでいい、あなたの慈愛を傍で感じられるくらいの…日々の糧を与えてあげてやってくださいませんか。
あなたがいずれこの世界の闇を払い、すべての苦しみを終わらせてくださる救いの主と信じ、祈りをささげます…」

マミ「佐倉さん……」

杏子「そうじゃないと…あたしのせいでみんな救われないまま死んじゃったなんて…あたし…こんなの…」

杏子「こんなのもうやだよぉ!」

マミ「あなたはそうやって繰り返し自分を責めてきたのね……」

杏子「うううっ…お父さん…お母さん…モモぉ…ごめん…ごめんね……っ」

マミ「……つらいわね」

杏子「うえぇ…ひぐっ…」

マミ「誰かの為に生きたり、戦うのって…とても恐くてつらいことよね。だって間違う事が許されないんですもの…」

杏子「うっ…ううっ…」

マミ「でも、お願いだからこれを嫌いにならないであげて。これはあなたの信じた希望。あなたが求めた祈り。あなたが起こした奇跡…
だからこんなにも柔らかで…とてもあたたかい…」

マミ「あなたはいま変わろうとしている。大切なものを取り戻そうとしているのよ。かつての自分の祈りを嘘にしてしまわないために…」

杏子「……」

マミ「素敵な王子様が現れたせいかしらね」

杏子「はは…マミさんまで勘弁してよ…それにあいつにはもう嫌われちまったよ」

マミ「あら、一度拒絶されたぐらいで諦めちゃダメよ。今は女の子が積極的でも許される時代なのだから」

マミ「ねえ佐倉さん、これだけは忘れないで。あなたは私にはない強い心を持った女の子。
強い心の持ち主はね、その分たくさんの世の中の痛みを引き受けてしまうものなの。
あなたはきっとまだたくさん傷つかないといけない。あなたは生きているんですもの。
そうやって傷ついて、傷ついて、それでも誰かの痛みを引き受けてまた傷ついて…戦いつづける」

杏子「なんだよそれ…そんなの辛いばっかりで…バカみたいじゃん…」

マミ「そうね。だからそういう子には最後に特別のご褒美があるの」

杏子「……なに?」


マミ「ハッピーエンド、よ♪」

杏子「……」

杏子「ふふっ」

杏子「知ってた?あたしマミさんのそういうとこ、すっごい好きなんだよ」

マミ「あら♪嬉しいわ」

杏子「ねえマミさん…」

マミ「なにかしら」


杏子「助けてあげられなくて、ごめんなさい」

マミ「……」

マミ「私は幸せ者ね。短い人生でも私のことをここまで思ってくれる仲間に恵まれて」

杏子「あたしもすぐにこっちの仲間入りするだろうからさ、そうすりゃまた一緒にいられるよ」

マミ「ダメよ。次にあなたがここに来るのは皺くちゃのおばあちゃんになってから!」

杏子「はは…マミさんだけ若いままなのはズルイなぁ」

マミ「ふふ…」

杏子「…また会えてよかったよ。喧嘩別れみたいになっちゃったこと、ずっと後悔してたんだ」

マミ「私もよ佐倉さん…頑張ってね。あなたなら…きっと自分を取り戻せるから」

杏子「どうかな。あたしはもう…どうしようもなくなっちまったけど…」

杏子「ずっと気にかけてくれてて、嬉しかった」

マミ「…なにも心配はいらないわ。あなたの周りにこれからたくさんの絆が生まれようとしている」

マミ「あなたはもうひとりぼっちじゃないから…その人達のために戦えるわ…」

杏子「マミ…さん…」ポロポロ



チュンチュン

杏子「う…うぅ~ん…」

杏子「さみぃ…朝か…」ぶるっ

杏子「あ、あれ…?」頬がぬれている事に気付く

杏子「……雨漏り?」

水辺の公園


杏子「ぼりぼり」

ぼんやりコンビニお菓子をほおばる、そんな昼下がり

キュウべえ「暁美ほむらが接触してきたそうだね」

杏子「…ときどきあんたは人工衛星かなんかであたしらを監視してんじゃないかと思う」

キュウべえ「イレギュラーのこと、少しは掴めたかい?」

杏子「はぐっ…ああ、UFOキャッチャーが絶望的に下手なのはわかった」

キュウべえ「……」

杏子「まぁ口止めはされてないから教えてやってもいいけどさ…とりあえず食うかい?」

キュウべえ「…僕のことを愛玩動物みたいに勘違いして物を食べさてくる子も多いけど
君はそういうタイプじゃないだろう?」

杏子「そういう可愛くないこと言うならやんない」ぱくっ

杏子「昨日ちょっと嫌なことがあったのに、目が覚めたらなんか知んないけど気分がよくてね」

キュウべえ「へぇ。それはよかったね」

杏子「……」

杏子「あいつは見滝原をあたしに明け渡してくれるんだと」

キュウべえ「ふぅん。まぁ僕の直感だと彼女はテリトリーに固執する気はなさそうだからね」

杏子「例の新顔の始末も自分がつける。だから変わりに手を貸せと言ってきた」

キュウべえ「何をだい?」

杏子「…2週間後、この町にワルプルギスの夜が来るんだとさ」

キュウべえ「…確かにそう言ったのかい?」

杏子「あんたは知らなかったのか?」

キュウべえ「2週間先のことなんて知るはずないじゃないか。暁美ほむらこそどうしてそんなことが分かるんだい?」

杏子「ん…それなんだけどさ」ばりぼり

杏子「契約時の祈りによっては未来予知の魔法が使えるようになる奴もいるそうじゃないか」

キュウべえ「過去に預言者と呼ばれた女性のなかには僕たちと契約していた者も少なくないね」

杏子「あいつ、あたしが気付かないうちに死角に回り込んできた。あたしの動きを読まれてたんだ。
あんたはド忘れしてるみたいだけど、たぶんあいつは予知能力使いの魔法少女で間違いないと思う」

キュウべえ「……」

杏子「予知能力相手にことを構えるのは正直やっかいだと思ってたからね。ちょうどいいハナシだったよ。
まぁあたしはここをなわばりに出来ればそれでいいし、そのためならあいつに協力もしてやるつもりだけどさ」

キュウべえ「…君とはそこそこ付き合いが長いから忠告しておくけど、暁美ほむらは危険だよ」

杏子「そうかな?“あんたにとって”危険なだけなんじゃねーの?」

キュウべえ「……」

杏子「そんなに悪い奴じゃなさそうだぜ?あいつ」

キュウべえ「…杏子、君すこし性格が丸くなったんじゃないかい?」

杏子「はぁ?そんなわけねーだろ。なに言って…」

杏子「やばっ!?」フードを被って顔を隠す

キュウべえ「…なにしてるんだい?」

杏子「いま歩いてくる奴らに気付かれたくないんだよ…!」こそこそ


タツヤ「きゃっきゃw」

知久「にこにこ」


キュウべえ(なんだ。まどかの弟と父親じゃないか)

杏子「……」こそこそ

キュウべえ「……」

キュウべえ「…それじゃあ僕はこれで」ひょい

キュウべえ「おっと」からん

杏子「!?」

偶然かわざとか、ベンチから飛び降りぎわキュウべえがつまづいた杏子の缶ジュースが
ちょうど近づいてきたタツヤたちの前へ転がっていく

タツヤ「あぁ~っ」ころころころ

タツヤ「タッくんがひろってあげるぅ」ぱしっ

杏子(おいおいおい…勘弁してくれよ…)

タツヤ「はいっ♪」すっ

杏子「あ…ありがとう…」うつむいたまま受け取る

タツヤ「ティヘぇ♪」

知久(あれ?あの子…)

タツヤ「あっ!」

杏子「!?」びくっ

タツヤ「それうんまい棒だぁ」

杏子「あ…?ああ…ほ、ほら」

タツヤ「くれるの?」

杏子「うん…それやr…あげるからどっかいけ…じゃない…あ、あちらであそんでらっしゃい…ぼ、ぼうや…」

タツヤ「ん~?」じぃ~っ

杏子(そんな見てくんなよぉ…あたしだって分かったら気まずいことに…)

タツヤ「えいっ」フードをめくってしまう

杏子「!?」

タツヤ「あっ…」

杏子「うぅ…」


タツヤ「」

タツヤ「あははは!ちょんまげがいたずらしたぁ♪」

杏子「へ?」

タツヤ「タッくんぜんぜんわかんなかったぁ♪」ぎゅう

杏子「は…?お、おい…」たじたじ

タツヤ「~♪」すりすり

知久「そんなものだよ。子供の言う“嫌い”なんて」

杏子「……」

知久「昨日だってあの後タツヤは君の話ばかりしてたんだよ?」

タツヤ「ちょんまげすきぃ~♪」すりすり

杏子「は…はは…なんだよそれ…」

杏子(あたしだけあんなにヘコんでバカみたいじゃん…)

タツヤ「ねぇみてみてぇ!いちばんうえまでのぼれたよぉ」

遊具で遊ぶタツヤを杏子と知久がベンチに座って眺めている

知久「すごいじゃないか!降りる時も落ちないように気をつけるんだよ」

杏子「……ふっ」


知久「…昨日はタツヤを叱ってくれてありがとうね」

杏子「え…?いや、そんな…あたしこそ偉そうなこと言っちゃって…
他人ん家の子供を親の見てる前で殴るなんてどうかしてるよな」

知久「ううん、いいんだ。だって本当は僕がああやって叱らなくちゃいけないのに、それが出来ないんだからね。僕は…」

杏子「出来ないって…なんでさ」

知久「なんていうのかな…僕は専業主夫なんてものをやってる。別にその事を後悔したり引け目に感じてるわけじゃない。
ただ…世間一般の父親っていうものは、働いてお給料を貰ってそれで家族を養ってる。大黒柱ってやつだね。
なんだかんだ言っても父親の威厳っていうのはそういう事で保たれるんだと思うんだ」

杏子「……」

知久「その点僕はそういった事は奥さんに全部やってもらっている。
そうなるとね、子供に対してどうやって威厳を示せばいいのかわからなくなるんだよ。
所詮男の自信なんてものは、どうしても仕事に裏付けられるのかもしれない。
社会問題に取り上げられてもまだ過労死する人が後を絶たないのは、本人たちもどこかで働く自分を必要としてるからだと思うんだ。
主夫業っていうのは確かに家庭の支えにはなるかもしれない。けど、家族を守っているって実感は味わえないんだ。
時々その実感をどうしようもなく欲する自分がいたりして。つまらない事だと思うよね…でも、やっぱり僕も男なんだなぁって…」

杏子「……」

知久「あの子の姉はね、親バカに聞こえるかもしれないけど全く手の掛からない良い子だったんだ。
僕が言う事は素直に聞いてくれたし、困らされた記憶もほとんどない」

杏子「あたしとは大違いだな」

知久「そんなことはないと思うけど…ただその代わりあの子はまわりに気を遣いすぎる子になってしまった。
まわりだけじゃない、僕たち家族にすら心配をかけまいと一人で問題を抱え込んでしまうところがある。
優しい子と言えば聞こえはいいけど、それは時に痛々しく感じるほどなんだ。
そうさせてしまった原因は、きっと父親として至らなかった僕にあるんだと思う。
今も…表向きは明るく振舞っているけど何か大きな悩みを抱えてるみたいで…
もし僕がもう少し頼りがいのある父親だったら彼女も悩みを打ち明けてくれたんじゃないかって」

杏子「……タツヤをちゃんと叱れないのはどうしてかって話じゃなかったっけ?」

知久「あ、ああ…そうだね。つまり僕は子育てを通して自分が成長することが出来ていないんだ。
そりゃあまどかだって我侭を言うこともあったさ。でもどうしても聞き分けないときは叱るのは奥さんの役目だった。
いや、憎まれ役を奥さんに押し付けていた。僕は我が子に厳しくある事をずっと避けていたんだ。
親としての威厳が不足しているって自覚があったから、子供だって僕なんかに偉そうに言われたくないんじゃないかって気後れしちゃってね。
だからタツヤみたいに良くも悪くも子供らしい子供に対して言うべきときに強く言うことができないんだ。
それで僕も君みたいにびしっと言えたらなんて…はは、すまないね。こんな話されても困っちゃうよね」

杏子「……まったくだよ。いい迷惑だ」

杏子「そんな泣き言、娘くらいの歳のあたしにこぼすなんて情けなさの極みだな。
それを聞かされてあたしにどうしろっていうんだい?そんなことはない。あんたはいい父親ですって言えばいいのか?
今の話だけ聞いてどうこう意見できるほどあたしはあんたの事なんてよく知らないし、知ろうとも思わない」

知久「うん…そうだよね。はぁ…なに言ってるんだろう僕は…自分が情けなくなる…」

杏子「ただ、さ…」

杏子「あたしの家はね、食うにも困ってた時期があったんだ」

知久「そう…だったのか」

杏子「同情とかはやめてくれよ?今はもう…そんな心配はないんだし…そんなつもりで話してるんじゃない」

知久「すまない…」

杏子「親父もよくあたしらに謝ってた。ひもじい思いをさせるのは私のせいだ。自分が不甲斐ないって…
それでも自分だけは暗い顔しないようにって無理して笑ってたよ」

杏子「だけどあたしは親父を尊敬してた。だってさ、小さな子にとって親ってのはそれだけでもう尊敬の対象なんだ。
なんの根拠もなく親父をすごい人なんだって思ってた。実際うちの親父はすごい人なんだけどさ
そのすごさが理解できない子供の頃から、あたしは無条件に親父のこと尊敬してたんだ。
だから、大人が勝手に張ってる意地なんて案外空回りしてるのかもしれないよ。
子供からしてみればなにやってるのかわかんねーはずだもん。
それでも威厳とやらが必要なら、強気に出る理由は“お前は俺が生んでやったんだ”で十分じゃん。
勝手に思いつめてるのってかなりバカみたいだよ」

知久「はは…結局励ましてくれるんだね。優しいよ君は」

杏子「励ましてるんじゃねーよ。もういい大人なんだからしっかりしてくれって呆れてんの。
あんまりくよくよしてるとよくねーもんに憑りつかれる、なんて話もきくよ」

知久「そうだね…うん。子供達の為にもしっかりしなきゃ」

タツヤ「ちょ~んま~げ~」とてとてとて…ぴょ~ん

杏子「うおっと!」ぼふっ

タツヤ「ティヘヘ♪」

タツヤ「ね~ちょんまげ、ふたりでおさんぽしよー?」

杏子「は?二人でって親父はどうすんだよ」

タツヤ「パパはだめぇ~」

杏子「おいおい、仲間はずれはやめてやれよ。お前の親父結構傷つきやすいみたいだぞ?」

知久「はは…タツヤも男の子ってことだよ」

杏子「???」

タツヤ「ティヘぇ///ね~え~いこいこぉ」ぐいぐい

知久「よかったら付き合ってあげてくれないか。僕はここで待ってるから」

杏子「はぁ…まぁいいけどさ」

知久「それじゃあ後はお若いもの同士で楽しんで」

杏子「へ…変なこと言うんじゃねえ!」

少しずつ朱に染まる河川敷の土手道を並んで歩く杏子とタツヤ


タツヤ「こっちきてー!おさかないるよぉ」

杏子「川に落ちるぞ」

タツヤ「じゃぁ じゃぁ あっちまでかけっこしよぉ」

杏子「しない。疲れんのやだし」

タツヤ「んとね、じゃーね、しりとりしよ!しりとりのり、から」

杏子「離婚。はいおしまい」

タツヤ「ぷう~っ!」

タツヤ「ちょんまげ、タッくんがきらいなのっ!?」

杏子「……」

杏子「嫌いだったらこうやってかまってやるわけねーだろ?」なでなで

タツヤ「……ティヘぇ♪」


タツヤ「ねーねーりこん、ってなにー?」

杏子「…あとで親父に聞いてみな」

タツヤ「あ!そうだぁ!」

杏子「どうした?」

タツヤ「きのうふぉーぜくれてありがとぉ」

杏子「ああ、昨日のおむすびマンか。だからあれはお前が取ったんだろ」

タツヤ「パパがちゃんとありがとういいなさい、だって」

杏子「ふーん。まぁ…よく言えました」

タツヤ「ふぉーぜはねー、つよいからねー、わるいやつやっつけてかっこいいの!」

杏子「……そんなもんが本当にかっこいいのかねぇ」

杏子(~♪ そうだ、ちょっとイジワルしてやろw)

杏子「なぁ。フォーゼとあたし、どっちが好きだ?」

タツヤ「えー?」

タツヤ「ちょんまげ」

杏子「ふえっ!?」

タツヤ「フォーゼはかっこいいけどねー、でもちょんまげのほうがかっこいーもん!」

杏子「///」

杏子「う…うれしくねーんだよっ///」デコピン☆

タツヤ「ティヘぇ♪」

タツヤ「ねーねー、じゃあふぉーぜごっこやろぉ。ちょんまげはぞりあーつやってね」

杏子「なんだって?」

タツヤ「ぞりあーつ!わるいやつのやく!」

杏子「そーかい…じゃあ、先手必勝だ!」がばっ

タツヤ「きゃーっwwwまーだー!まだへんしんしてないもーんwww」じたばた

杏子「変身なんてさせるものか!悪は手段を選ばないのさっ」ぎゅ~っ

タツヤ「やーらぁーっwwwたすけてーwww」じたばた


さやか「ん…?」

さやか(子供の叫び声…?あ、あいつ…!てかあの子タッくんじゃん!)

タツヤ「きゃっきゃwww」

杏子「うふふwww」


さやか「あ…あんた…!」

杏子「あっ…!お前…!」

タツヤ「あー、さやかねーちゃんだ」とてとて

杏子「え?」

さやか「タッくん!早くこっち来て!」がばっ

タツヤ「さやかねーちゃん…くるしい…」

さやか「…やっぱりあんた、最悪な奴だ!こんな小さな子まで利用してあたし達を潰す気だったの!?
卑怯者!襲うならあたしだけ襲えばいいじゃん!まどかもこの子も関係ないでしょ!?」

杏子「はぁ?なに言ってんだてめー…」

さやか「…許せない!」

タツヤ「さやかねーちゃん…?」

杏子「……」

杏子「まぁいいや。あたしあんたに手ぇ出すなって言われてるし…」くるっ

タツヤ「あーん!かえっちゃやだぁ!」

杏子「あのさ…向こうの公園でそいつの親父待たせてんだよ。連れていってやってくんねーかな」

さやか「え…?」

杏子「たのんだぞ」すたすた

さやか「……」

タツヤ「ぷんぷん!」

さやか「だからねタッくん、あいつは悪い奴なんだよ」

タツヤ「そんなのうそだ!」

さやか「嘘じゃないってば。ね、もうあいつには近づかないってお姉ちゃんと約束して?」

タツヤ「さやかねーちゃんきらい!」

さやか「そんな事言わないでよぉ」

タツヤ「あっちいって!ついてこないで!」

さやか「ダメだよ…パパさんのとこに戻るんでしょ。あたしが送ってあげるからさ」

タツヤ「ひとりでかえれるもん!」とてとてとて

さやか「あぁちょっと…!はぁ…まぁ公園はすぐそこだし大丈夫かな」

さやか「やばっ…!恭介のとこ行かないと!」たたたたた

タツヤ「さやかねーちゃんがいじわるゆったからちょんまげかえちゃったんだ!」ぷりぷり

???「ブーンブンブンブーンwwwww」

タツヤ「あれぇ?」

???「ブブンブンブンブーンwwwブーンブーンwwww」

タツヤ「ああ~♪おえかきしてるぅ」とてとて



杏子「くそっ…なんだよあいつ!いきなりあたしを悪者扱いしやがって…わけわかんねえ」イライラ

杏子「!?」

杏子「魔力の気配だ…この感じだと使い魔か?一応行ってみるか…」


落書きの魔女の使い魔「ブンブンwwwブブーンwww」

タツヤ「まってぇ~」

杏子「…!? おい!タツヤ!」

使い魔に誘われるように結界に入ってしまうタツヤ

杏子「あいつ…!魔法少女が一緒に居といて何やってんだよ!」

杏子「仕方ねえ…!」変身する杏子

杏子「さっきの使い魔…この間あたしがわざと逃がした奴じゃん…」

さやか『あいつだってほっといたら人を殺すんだよ!?』

杏子「……」ぎりっ

歯軋りして結界に飛び込む

タツヤ「まってぇ~!タッくんもおえかきするぅ~」

使い魔「ブン!?」自分を追ってくる子供にやっと気付いた使い魔

使い魔「ブブン!ブーン!!!」

子供がクレヨンで描いたようなちゃちな弾丸が戦闘機から発射されタツヤを襲う

タツヤ「ふぇ?」

杏子「あぶねぇ!」

間一髪飛び込んだ杏子がタツヤを抱きとめその勢いで転がっていく

杏子「おい!タツヤ無事か!」

タツヤ「うー…ん…」かくん

杏子「気を失っただけか…」

使い魔「ブンブンブブーンwww」

今度は杏子めがけて弾丸が発射される…が、杏子の槍がそれをことごとく叩き落す

杏子「…うぜぇ」ずばっ

使い魔「ブブ!?ブブーンwww」

杏子は造作もないように使い魔を切り伏せ、結界が崩壊する

杏子「ふぅ…ったく。心配かけさせんなよ」

杏子「!?」

変身を解き安堵の表情でタツヤを抱えあげる杏子だが、タツヤの首筋を見て表情が凍りつく

杏子(魔女の…接吻…)

杏子(さっきの奴だけじゃなかったんだ…本体の魔女がまだ近くでタツヤを狙ってる…!)

杏子(とりあえずこの川原はあたしのねぐらの近くだからタツヤを置いてこないと…)

テントのなかにタツヤを寝かせた杏子は、すぐさま魔力をたどって魔女を探す

杏子「ここだ…!」

ほど遠くない場所で魔力の反応が強くなる。そこには川原の砂利の上にまだ新しい花束が供えられていた

杏子「水難事故か自殺か…水辺ってのは昔から死者が多く出るって聞くけど…」

再び変身した杏子は結界へ飛び込んでいく

使い魔「ブンブーンwww」

使い魔「ガタンゴトーンwwwガタンゴトーンwww」

子供の落書きのような使い魔が杏子にまとわり突いてくる。それらを軽くあしらいながら杏子は結界の奥へと進んでいく

杏子「…お前がここの大将かい」

落書きの魔女「おい、くmyんtbrヴぇcwで」

女の子の描いた出来損ないのお姫様のような魔女が杏子を待ち受けた

魔女「くぇrtfvbぎゅhに!!!」

杏子「すっとろいんだよ!」ざしゅっ

掴みかかろうと伸ばした魔女の手が杏子の槍に斬りおとされ赤いクレヨンの血しぶきがあがる

魔女「wれtふゅいおp@!」

杏子「たあっ!」かんっ!

杏子「!?」

次の一撃を加えようとした杏子の槍が、失った魔女の腕からまるで描き足されたように伸びた歪な刀に受け止められる

杏子「うぜぇ…!」ざしゅっ

今度は魔女の頭部を真上から真っ二つに叩き割る杏子。だが、裂けた頭部からこんどは下手糞なクマの顔のクレヨン画が生えてきた

杏子「こいつ…!」

魔女「qw背drftぐいうおp@yぐいwwww」

杏子をあざ笑うような奇声を魔女があげる

杏子「なめんじゃ…ねえ!」

魔女「え5ryつ!?」

杏子の繰り出した槍は途中で折れ曲がり魔女を締め上げた。そのまま杏子は魔女を振り回し
遠心力の勢いを借りて凄まじい勢いで地面に叩きつける

魔女「亜q34うぇ567い8おp9@0-!!!」

杏子「ざまーみろ。斬っても斬ってもきりがないならその不細工な見てくれのまま叩きのめしてやる!」

もういちど魔女を振り回そうと槍を振り上げる杏子だったが

魔女「rtyちうおいp;@:」

魔女は瞬時にクレヨン画の蛇に描きかえられ、槍の拘束をすり抜けてしまった

杏子「なっ!?」

杏子がひるんだ隙に魔女は屈強そうなロボットに描きかえられ、杏子の身体を巨大な手で掴み締め上げた

杏子「ぐあああああ!」

槍を落としてしまう杏子

魔女「・お。い、うmyんtbrヴぇcw!!」みしみしみし

杏子(やべえなぁ…意識が遠くなってきた…死んだら…あたしどっちに行くのかな…やっぱ地獄か…)

魔女「うybtgvrふぇいうytれfvbん!!」

杏子(地獄じゃ…みんなに会えないか…まいったなぁあたし…死んでも独りぼっちかよ…)


タツヤ『ふぉーぜはねー、つよいからねー、わるいやつやっつけてかっこいいの!』

タツヤ『でもちょんまげのほうがかっこいーもん!』


杏子「タツ、ヤ…」

杏子「へへ…このままあたしが死んだら…タツヤまでこいつに殺されちまうか…」

杏子「心配すんなよタツヤ…フォーゼとはちょっと違うけど…
あたしが悪い奴を…かっこよく倒してやるからな…!」

魔女「rtjうtjl;lmp@いうtytれc!?」ぐらっ…どしーん!

地面に突き刺さっていた杏子の槍が魔力の余韻で操られ変形して魔女の足首を絡み、すくい上げる
横転した魔女の手から脱出した杏子は素早く槍を掴むと魔女に飛び掛った

杏子「タツヤに手を出すんじゃねえ!!!」

杏子が咆える。刹那、杏子は魔女を八方から追い詰めるように走り寄る何人もの自分自身を見た。
自分の動きとシンクロして魔女に接近した彼女たちは、杏子が槍を振り下ろすと同時にいっせいに魔女の身体を細切れにする

魔女「p;お。、いむnybtvれcw!!!!」

びりびりに破かれた画用紙は、そこに何が描かれていたのかもう分からない。魔女は消滅した。
杏子の見た幻も、瞬きの間に消え去っていた。結界が崩れていく。

杏子(さっきの…ロッソ・ファンタズマ…?)

杏子(まさかね…)

タツヤ「うぅ…ん…」むくっ

杏子「気がついたか。どうだ?どこも痛くないか…?」

タツヤ「あれ…ちょんまげ…?」

杏子「ちょっと首見せてみろ」くいっ

タツヤ「うぅ~」

杏子(よし、消えてるな)

タツヤ「ここどこなのぉ?」

杏子「ああ、ここは…」

杏子(どうしよう…ガキ相手でもホームレスですって言うのはちょっと情けねーな…)

タツヤ「ちょんまげのおうち?」

杏子「いや…その……これはあれだよ!キャンプだよ!」

タツヤ「きゃんぷ?」

杏子「きゃんぷってのはだなぁ…ちょっと外出てみろ」

杏子「ほら、これはテントって言うんだ」

タツヤ「さんかくー♪」

杏子「キャンプってのはこうやって自分ちじゃないとこでお泊りする…遊びだよ」

タツヤ「たのしそー♪」

杏子「あ、ああ。楽しいぞ。釣りしたり肉とか焼いたりしてな」

タツヤ「タッくんもいっしょにきゃんぷするー♪」

杏子「ダメだダメだ。お前を親父のとこに返さなきゃ。すっかり遅くなっちまった」

タツヤ「ええーっ!おとまりしたいー」

杏子「あの親父がいいって言ったらまた今度な」

タツヤ「……はーい」

公園


タツヤ「パパいないねぇ…」

杏子(やっちまった…)

タツヤ「さきにかえっちゃったのかなぁ」

杏子「いや、あたしらの帰りが遅いから探しに行ったんだろ。もうじき暗くなる頃だ」

タツヤ「…どうするの?」

杏子「こっちまで探し回ったら余計わからなくなる。ここで待ってよう」

タツヤ「わ…わ…わかめ」

杏子「め……めんこ」

タツヤ「めんこってなにー?」

杏子「ああ…今の子は知らないか…なんか昔の遊びだよ。あたしもやったことないけど」

タツヤ「タッくんのしらないことばはつかっちゃだめー!」

杏子「そう言うけどさぁ…それって何気に難易度高くなるんだよなぁ…」

杏子「め、だろ?えっと…メダカ」

タツヤ「か…か…かんちょー♪」

タツヤ「ティヘヘヘヘwww」

杏子「…おもしろくねえよ」

杏子「えっとこの場合は“よ”じゃなくて“お”でいいんだよな」

杏子「……おしり」

タツヤ「ティヘヘヘヘwwwwおしりだってーwwww」

杏子「だからそんなウケるなよ!」

杏子「はぁ…あんたの親父こないねぇ」

タツヤ「こないねー」

杏子「しゃーない。近くを探しに行くか」

タツヤ「うん!」


5分後 公園 

知久「はぁ…はぁ…まだ戻っていないのか…」

知久「まさか二人とも事故にでも遭ったんじゃあ…」

杏子「いねーなぁ…」

タツヤ「いなーい」

杏子「しゃーねえな…」

杏子「タツヤ、自分ちの住所…言えるわけないか。ここから家まで帰る道が分かるか?」

タツヤ「えっとねぇ…たぶんこっち」

杏子「よしきた!」


タツヤ「えーっとねぇ…まっすぐ!」

杏子「次は?」

タツヤ「うーんと…あっち!」

杏子「……どこだよここ」

杏子「タツヤ、本当にこの辺り見覚えあるんだろうな?」

タツヤ「……」

タツヤ「ティヘぇ♪」

杏子「はぁ…あたしがバカだったよ」

杏子(出来ればこの手は使いたくなかったが…)

杏子「タツヤ、あたしはもう降参だ」

タツヤ「ふぇ?」

杏子「だから後は警察に任せようと思う」

杏子「…だからな、あそこの交番にはいって、お家がわからなくなりましたーって。名前もちゃんと言って」

タツヤ「ちょんまげもついてきてよぉ」

杏子「あたしはその…警察はあんまり好きじゃないってゆーか…」

タツヤ「ひとりじゃはいれない~!」ぴょんぴょん

杏子「出来るってタツヤなら。ほら、あたしにカッコいいとこ見せてよ」

タツヤ「うぅ…」

杏子「な、中に入るまでここで見ててやるから」

タツヤ「……がんばる」

杏子「よし、いい子だ」よしよし

タツヤ「……」とてとてとて…ちらっ

杏子「ほら、そこ開けて。ごめんくださーい、って」

タツヤ「……うぅ」

タツヤ「ごめんくらさーい///」がらっ

杏子(よし、入ったな。もう長居は無用だ。ずらかろう…)すたこら

タツヤ「あれぇ?」

タツヤ「だれかいませんかー」

だが机の上の“パトロールに出ています”のプレートが彼に読めるはずもなく…

タツヤ「ちょんまげー だれもいなかったー!」とてとて



タツヤ「ちょんまげも…いなくなっちゃった…」しゅん

杏子「あぁ~やれやれ…」

キュウべえ「やはり君は変わったよ。杏子」

杏子「……なんか用か」

キュウべえ「他人の為に動く事をあれほど嫌っていた君があの子の世話をあそこまで焼いてあげるとはね」

杏子「わりぃかよ」

キュウべえ「とんでもない。人類にとっては他人のため自分を犠牲にする事は美徳なんだろう?素晴らしいじゃないか」

杏子「そんなんじゃねえよ…」

キュウべえ「元々は君の望みだって家族を想ってのものだったんだし…」

杏子「……黙れよ」

キュウべえ「君が考え方を改めたのならいずれまた固有魔法も使えるようになるはずだよ」

杏子「…!」

キュウべえ「いいじゃないか。弱いものを救う正義の魔法少女。けっこう杏子にお似合いだと思うよ」

杏子「…っざけんじゃねえ!」

キュウべえ「それに引き換えさやかには困ったものだ。あの子を最後まで送り届けずにボーイフレンドの所へ行ってしまうとは」

杏子「……なんだと?」

キュウべえ「そのせいであの子は危うく魔女の餌食になるところだったよね?」

杏子「……」ぎりっ

杏子「いいか、あたしは何も変わっちゃいない。あたしの目的はこの町を手に入れる事、それだけだ。
見てろ…いますぐあのふざけたひよっこをぶちのめしてきてやる」

キュウべえ「いいのかい?暁美ほむらから手を出すなと釘を刺されたんだろう」

杏子「知った事か!」すたすたすた

キュウべえ「…杏子みたいな直情的なタイプは扱いが容易くていいね」

キュウべえ「暁美ほむらの話が事実であれば、ワルプルギスの夜の襲来はまどかに契約をせまる絶好の機会になる」

キュウべえ「その時の為に戦える魔法少女の人数を出来るだけ減らしておきたいんだ」

キュウべえ「すまないね、杏子。せいぜい頑張って潰しあうといい。僕は大助かりだよ」

数時間後…


杏子(この身体はもう……ソウルジェムが……)よろよろ

ショーウィンドウのガラスに映りこんだ自分の姿を呆然と眺める杏子

杏子(あたしの身体…たしかに…ここに在るのに…!)


親戚のおばさん『杏子ちゃん、辛いだろうけど最後にきちんとお別れをしないと、ね?」

杏子『……あれはもう、お父さんたちじゃないよ』

杏子『ただの抜け殻だもん』


杏子「…………」かたかた

おぼつかない足取りでテントまでたどり着く杏子。だが、中から誰かの気配がする


杏子(誰だ…?いや、別に誰でもいいや…もう全部どうでも…)ばさっ

タツヤ「ふぁ…」

杏子「へ?」

タツヤ「うわああああん!ちょんまげええええ!」

振り向いたタツヤは杏子に気付くなり泣き声をあげて抱きついてきた

タツヤ「うぐっ…ええええん…やっとかえってきたぁ…」

杏子「おまっ…どうして戻って来てるんだよ!ちゃんと交番連れてってやっただろ!?」

タツヤ「ひっく…だってぇ…おまわりさん…いなかったもん…」

杏子「えっ…!」

杏子「そうだったのか…ごめん。そりゃ悪い事したね…」なでなで

タツヤ「ひぐっ…そとでたら…ちょんまげもいなかったぁ…」

杏子「ああ~ごめんごめん。それでここまで一人で戻ってきたのか?」

タツヤ「うぅ…ごわがっだぁ…びええええ!」

杏子「あああ~よしよし。そうだな…車も多いのに危ない目させちゃった。とにかく…無事でよかったよ」

タツヤ「うぅ…うううぅ…」

杏子「ここは寒かっただろ?ほら、手が冷たくなってる」

タツヤの手を自分の手で包み込んで温める杏子

タツヤ「……ひっく」

タツヤ「………ティヘぇ♪」

杏子の手のぬくもりに安心したのか、タツヤはやがて泣き止み笑顔を見せる

タツヤ「ちょんまげのて、あったかいね」

杏子「……」じわっ

杏子「うっ…ううっ…」

タツヤ「???」

杏子「なぁ…あたしの手…本当に温かいか…?自分ではもう…全然わからないんだ…」

タツヤ「……ちょんまげどったの?」

杏子「へへ…いや。それより今度こそタツヤを家に帰さねーと。あんたの親にめちゃくちゃ心配させちゃってる」

タツヤ「…タッくんちょんまげといっしょにいるよぉ」

杏子「ダメだって…ここにはまた今度泊まらせてやるから。家族に心配かけちゃいけないだろ?」

タツヤ「だって…ちょんまげないてるもん」

杏子「…!」

杏子「……はは。なんだよそれ。ガキのお前に同情されなくたってなぁ…」

杏子「……」がばっ

タツヤ「ふわっ!」

強がる杏子だったが湧き上がった感情がどうにも押し殺せなくなり、タツヤを抱きしめていた

杏子「じゃあさ…今日だけ…今日だけだぞ…?泊めてやるから…お願いだ…いっしょに居てくれ……!」ぎゅう

タツヤ「……うん!」

杏子「ぐすっ…へへ…でもこれじゃあたしが誘拐犯だな」

タツヤ「ゆーかい!ゆーかい!」

杏子「腹減ったな。晩飯どうしよっか。何か食いに行くか?」

タツヤ「おにく!おにくやこ!」

杏子「え?」

タツヤ「おにくやくのがきゃんぷってゆった!」

杏子「あはは。そうだったな。じゃあ買い物してこねーと」

スーパー


杏子「焼肉の肉ってどれ買えばいいんだよ…ああ、ちゃんと書いてあった」

タツヤ「ねー!おかしかって!かって!」

杏子「…あんたってかなり図々しいよね」

タツヤ「ひとつだけでいいからぁ」

杏子「ひとつだけねえ…」

タツヤ「おねがぁい…」うるうる

杏子「ばーか。こういうのはいっぺんに色々食うのがいいんだろ♪」手当たり次第カゴに放り込む

タツヤ「すごーい♪」

再び川原。アウトドア用のガスコンロと焼き網を組み合わせ、杏子が不慣れな調理に奮闘している


杏子「あちっ…あちいっ!」

杏子「タツヤ、あぶねーからこっちくんなよ!」

タツヤ「はーい」

杏子「…あんたさぁ、本当に帰らなくていいわけ?やっぱもっかい交番に…」

タツヤ「ううん」ふるふる

タツヤ「ちょんまげのとこいたい」

杏子「///」

杏子「まったく…かーちゃん恋しくなってもしらねーぞ」

タツヤ「ならないもーん♪」

杏子「やれやれ…その歳で女のとこに無断外泊なんてとんだ不良だよあんたは」

杏子「ほら、焼けたよ。皿出しな」

タツヤ「わーい♪」

杏子「お、男のために料理してやるなんてあたしだって初めてなんだからなっ///ありがたく食えよ」

タツヤ「いたらきまぁす」もっきゅもっきゅ

杏子「…う、うまいか?コゲてない?」

タツヤ「おいしーい♪」

杏子「そ、そうか…よかったぁ」ほっ

タツヤ「んふぅ♪」

杏子(あぁ…昼間は偉そうなこと言っちゃったけど、こいつの親父の言ってた事…なんとなく分かる気がするなぁ…)

杏子(この肉買った金が自分で稼いだものだったら…タツヤのこの笑顔もまた違って見えるんだろうな…)

食後のおやつタイム


タツヤ「ぽりぽり」

杏子「ぽりぽり」


タツヤ「ねーねー」

杏子「あ?」

タツヤ「ちょんまげのパパってどんなひと?」

杏子「……ロッキー食うか?」

タツヤ「どんなひとー?」

杏子「なんだよ突然…どんなって言われてもなぁ…」

杏子「そうだな……魂の人、かな」

タツヤ「なにそれー」

杏子「いや、ごめん。あたしもよくわかんねーこと言っちゃった」

杏子「でもさ、なんつーか…親父のどこを褒めてやりたいか、って言ったらね。
給料たくさん稼いでくれるお父さんとか友達に自慢できるお父さんとか…あたしはそんなのどうでもよくてさ。
どんな最低の時だって自分の信じるものを絶対に手放したりない…
優しいけどそういう強さを…魂を持った人だったから親父のことが大好きだったな」

杏子「……まぁ、その強さを最期の時まで持っててくれたらよかったんだけどさ」ぼそっ

タツヤ「…たましいってなぁに?どこにあるの?」

杏子「……さぁね」


杏子「そろそろ寝るぞ」

タツヤ「これおもしろぉい♪いもむしみた~い」

杏子「ほらタツヤ、そんなかに入って寝転がって」

タツヤ「ティヘぇ♪」こてん

杏子「手ぇ引っ込めてなよ。指とか挟むから」寝袋のファスナーを閉めてやる

タツヤ「あったかーい」

タツヤ「ちょんまげはどうするの?」

杏子「あたしはなくても平気だし。つーかふたりで入ったら破れるだろ」

タツヤ「これちょんまげのにおいがする~」

杏子「うわっ…ごめん。くさかった…?」

タツヤ「~♪」すりすり

杏子「…き、気に入ったならいいけどさ///」

杏子「じゃあもう寝ろ。明るくなったらそっこーであんたの家探すんだから」

タツヤ「おはなししてー」

杏子「おはなし?」

タツヤ「ねるまえのおはなし。パパはしてくれるの」

杏子「…あたしはパパじゃねーもんで。おやすみ」

タツヤ「ぶうーっ!してよー」

杏子「くかーっ」

タツヤ「おきてるでしょーっ!おーはーなーしー!」ゆさゆさ

杏子「あぁもう!してやってらちゃんと寝るんだな!?」

タツヤ「ティヘぇ♪」

杏子「ったく…あたしあんたの我侭に全部付き合わされてるじゃねーか」

杏子(そうだな…よくモモにしてやったはなしでも…)

むかしむかし、ある貧しい村に女の子がお母さんとふたり暮らしていました。
その村には、もうずっと雨が降っていませんでした。
来る日も来る日も太陽が照りつけるばかりで、池も井戸もすっかり干上がってしまいました。
あ?井戸っていうのはほら、昔は水道なんかなかったから穴掘ってそこから水汲んでたんだよ。
いや、そうだけど地面の下に水が流れてるところもあるの。とにかくそこらからぜーんぶ水がなくなっちゃったわけさ。

それでえっと…村の人たちは飲む水にも困るありさまで、ついに村から一滴の水もなくなってしまった頃
とうとう女の子のお母さんが病気で倒れてしまいました。女の子が懸命に看病しても、うわごとで
「あぁ、喉が渇いた。お水が飲みたい」と繰り返すばかりです。女の子は…いや、お茶もないって。ジュースも!
それどっちも水から作るんだから。…そんなことで尊敬すんなよ。そんで女の子は…
どうにかお母さんに水を飲ませてあげたく思い、村の外へ水を探しに行きました。

だけどどこまで行っても、どこをさがしても一滴の水も見つけることはできません。
水がなくなったのは女の子の村だけではなかったのです。
へとへとになった女の子は、かさかさに干からびた草をベッドに横たわると、そのまま眠ってしまいました。
女の子が目を覚ますと、あたりはすっかり暗くなっていました。お母さんのところへ帰らないと。
だけどとうとう水は見つからなかった…すっかり気を落とした女の子がそこから去ろうとするとき
月の光に照らされてなにか輝くものを見つけました。近づいてよく見ると、驚いたことに一本の木のひしゃくに並々と水が…

はいはい、聞かれると思ったよ。ひしゃくってほら、花に水撒く時…は、そうだな。如雨露でやるよな。
じゃあほら…墓参りとかする?あれのほら、バケツから水すくってかける…そうそう。そういうやつ。
それに並々と水が注がれているのを見つけました。これはきっと神様の贈り物に違いないと女の子は喜びました。
水を探して歩き回ってすっかり喉が渇いていた女の子はさっそくその水を飲もうとしましたが
ひしゃくに口を近づけた時、家で待っているお母さんのことを思い出しました。
「そうだ。この水はこれだけしかないのだからお母さんに飲ませてあげなくちゃ。
もしお母さんがお水を残してくれたら、私はそれを飲めばいい」そう思い直し、家に向かって歩き出しました。

帰り道の途中で、向こうから痩せこけた犬がとぼとぼ歩いてきましたが、その犬は女の子の近くを通りかかると
くんくん鼻を鳴らしてこう言いました。「おや、お嬢さんお水を持っているのですか。僕が最後にお水を飲んだのは
もういつの事だったか思い出せません。どうかそのお水を少し分けてくれませんか」
…さぁ。世の中にはしゃべる犬もいるんじゃねーの。女の子は迷いました。
この犬に水を飲ませてあげたら、お母さんにあげる水が少なくなってしまう。

けれど、今にも倒れそうな犬の事を気の毒に思い、ひしゃくの水をすこし手ですくって犬の前に差し出しました。
犬はごくごくと、本当においしそうに水を飲み干すと、女の子にお礼を言いました。
水はすこし減ってしまいましたが、犬がすこし元気を取り戻したので女の子はうれしく思いました。
その時です。突然女の子の手の中でひしゃくが輝きだし、やがて銀色のひしゃくに変わりました。
女の子はとても驚きましたが、とにかくお母さんに早く水を飲ませようと、また家に向かって歩き出しました。

「お母さん、お水があったのよ!」家の扉をあけるなり喜んでベッドのお母さんにかけ寄りました。
「あぁ…お水をおくれ」弱々しい声で答えるお母さんですが
ひしゃくを受け取った時しっかりした口調に戻って女の子に尋ねました。「お前はもう飲んだのかい」
女の子は答えました。「ええ、もう飲んだわ。少しお水が減っているでしょう?あとは全部お母さんが飲んでちょうだい」

…タツヤはどうしてだと思う?そうだな。嘘をつかないときっとお母さんは飲もうとしない。女の子もそう思ったんだ。
「あぁ。冷たくておいしい。ありがとう。お前は本当に優しい子だよ」お母さんは喉を鳴らして水を飲みました。
女の子はその様子を心から嬉しく思いました。その時です。銀のひしゃくが光り輝いて今度は金色へと変わりました。
「本当にありがとうよ。さぁ、残りはお前がお飲み」すこし顔色のよくなったお母さんが女の子にひしゃくを差し出します。
全部飲んでもいいと女の子は言ったのにお母さんはまだすこし水を残してくれていたのです。

やっと水が飲めるんだと女の子が喜んだ時、背後で粗末なドアが弱々しくノックされました。
ドアを開けると、ひとりのみすぼらしい年寄りが、杖にしがみついてなんとかそこに立っていました。
「どうかこの老いぼれに水を恵んでくださいませんか。ほんの一滴でかまわないのです」
やっと水が飲めるところだったのに。女の子だってもう我慢できないほど喉が渇いています。
ですが、本当は涙を流したいのでしょうに、それすら渇ききってしまった老人の目を見ていると、女の子はひしゃくを差し出していました。

「おじいさん、家にあるお水はもうこれだけなんです。ごめんなさい」
年寄りはそれを受け取ると、底にほんのわずか水が残っただけのひしゃくをずいぶん長い事口に当てていました。
やがてひしゃくを置いた年寄りは何度も女の子にお礼を言って、外に出て行きました。
とうとう水は飲めませんでしたが、女の子は不思議と満ち足りた気持ちでいました。

その時、お母さんが驚いた声をあげました。床に置かれた金のひしゃくには、今度は七つの宝石が彩られ美しく輝いていたのです。
それだけではありません。そのひしゃくからは水がこんこんといくらでも湧き出てくるのです。
女の子はその水を水瓶いっぱいに満たしたあとで、ようやくその水を口にしました。女の子の瞳からすっと涙がこぼれます。

一息ついた女の子が柄を握り締めた手をゆるめると、ひしゃくはその手を離れ宙をただよい開け放された窓から外に飛んでいきました。
女の子が窓から顔を出すと、ひしゃくは空高く、高く飛んでいき、やがてそれは夜空でひしゃくの形に並んだお星様になり
煌々と輝きだしました。その様子をずっと見上げていた女の子ですが、自分を呼ぶ優しい声に振り向きました。
お母さんが、昔のような美しい優しい声でもう一度女の子を呼びます。ひしゃくのお水はお母さんの病気も治してくれたのです。
「あぁ、お母さん…!」女の子は涙を浮かべて、昔のようにふっくらとした薔薇色を取り戻したお母さんの腕に飛び込みました──

杏子「こうして女の子とお母さんはいつまでも幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし」

タツヤ「うっ…ひっく…うううっ…」

杏子「タツヤ?」

タツヤ「うわああああん!ま゙ま゙~!」

杏子「……」

杏子「はぁ…言わんこっちゃない。だから家が恋しくなるって言ってやったのに…」

タツヤ「ああああん!おうちかえりたいいいぃ!」

杏子「…やっぱりかーちゃんの方がいいか」

杏子「泣くなよタツヤ。あたしがすぐママに会わせてやるからさ」

タツヤ「ひっく…ほんとぉ?」

杏子「あぁ。キャンプはもうお仕舞いだ。遊びが済んだら家に帰らないとね」

タツヤ「…ティヘぇ♪」

杏子(とはいえこいつの家の場所…どうやって…やっぱ警察で聞いたら誘拐の現行犯でお縄か…?)

杏子「…?」

タツヤの服の襟元に、ちらりと紐のような物が見える。首に何か掛けているようだ

杏子「タツヤ…お前服のなかに何入れてんだ?」タツヤの服に手を突っ込む

タツヤ「ティヘヘヘヘwww」

杏子「こら!くねくねすんなって」

タツヤ「えっち~♪」

杏子「あほ!……なんだこりゃ」ずるっ

杏子「鹿目タツヤ、見滝原市○○町△△丁目◎◎の×……お前…」

タツヤ「ふぇ?」

杏子「迷子札なんてしてたのかよ…」がくっ

杏子「なぁタツヤ…お前の家って」

タツヤ「あれー♪」

杏子「…あっちの家じゃなくて?」

タツヤ「ちがーう。あれー」

杏子「しつこいけどあの家で間違いないんだな?」

タツヤ「そうだよー」

杏子(……やべえ)

杏子(家の前にパトカー停まってんじゃん…!)

杏子(さっきみたいにタツヤだけ行かせてあたしは逃げるって事も出来るけど…)

杏子(いや、ダメだ。他所の子をこんな時間まで連れまわしといて知らん振りじゃ卑怯すぎる…!)


杏子「タツヤ…」

タツヤ「なぁに?」

杏子「フォローよろしく」

タツヤ「???」

ピンポーン…


チャイムを鳴らすと数人分の慌しい足音が扉越しに聞こえた

詢子「タツヤ!?」ガチャ

杏子「あ、あの……えっ!?あんた……!?」

まどか「あ、あれっ?あなたは…」

知久「あぁ…君!タツヤも!よかった…無事だったんだね…すいませーん!ふたりとも帰ってきましたー!」

詢子「タツヤっ!」杏子の手からタツヤをもぎ取る

タツヤ「ママぁ♪」

詢子「タツヤ…あぁタツヤぁ…」ぎゅう

杏子「……」

まどか「……」

杏子「え、えっと…あの…」

ぱちんっ! 

詢子が杏子の頬を思い切り張り飛ばした

杏子「……」

タツヤ「ポカーン」

詢子「うっ…ううっ…あんたっ!なに考えてんだ!人の子を…こんな時間まで連れまわして!」

まどか「マ…ママ…ダメだよぉ…」おろおろ

杏子「ごめん…なさい……」

詢子「私らがどんだけこの子を心配したのか分からないのか!あんたにだって家族が居るんだろう!?」

杏子「……!」

知久「ちょ…なにやってるんだ詢子さん!」

詢子「うっさい!だってこいつが…!」

詢子「とにかく…二度と家の子に近付かないでくれ!」

杏子「……くっ!」

警察「あ~…奥さん落ち着いて。タツヤ君無事に帰って来たんだから。ね?
お~…それと君、少しお話聞かせてもらうけどいいかな?」

杏子「……」だっ

まどか「あっ…!」

警察「に…逃げ…!待ちなさい!」だだっ

杏子「はぁはぁ…ぜぇぜぇ…」

闇の中をがむしゃらに走った杏子は、鹿目家から随分離れた繁華街の立橋まできてようやく足を止めた


詢子『あんたにだって家族が居るんだろう!?』

詢子『二度と家の子に近付かないでくれ!』


杏子「……」

杏子「ちくしょう…ちくしょう…!」


まどか「はぁ…はぁ…あっ…あのっ…」

杏子「!?」

杏子「へぇ…驚いたなぁ。鈍臭そうなのによくついて来れたね」

まどか「はぁ…はぁ…えへへ…体育でも…こんなに走った事ないんだけど…」

杏子「で、どーする?警察に突き出すってんなら大人しく従ってやるよ」

まどか「そ…そんなことしないよ!あなたタツヤにすごく好かれてるんだもん」

杏子「…それがどうした。あたしはそれを利用してあんた達を潰そうとしたんだぞ?」

まどか「そんなの嘘だよ…私思うんだ。あなた口で言うほど悪い子じゃないって…」

杏子「…ふざけんな!」

杏子「いったい何のつもりだよ…何だって追いかけてきやがった…」

まどか「さやかちゃんのこと…」

杏子「さやか…?」

まどか「さやかちゃんのこと…助けてあげて欲しいの…!
さやかちゃんもあなたもキュウべえに騙されて…あんなの…酷すぎるよぉ…」

杏子「……」ぎりっ

まどか「私だってさやかちゃんを励ましてあげたい…でも…ダメなの私じゃ…
魔法少女じゃない私には…さやかちゃんの苦しみ…分かってあげられないもん…」

杏子「……」

杏子「…化物のことは化物に任せよう、ってか?」

まどか「ちがっ…!そんなつもりで言ったんじゃないよ!」

杏子「うるせえ!お前みたいのが一番ムカツクんだよ!」

まどか「……!」びくっ

杏子「自分じゃあ何もしようとしないくせに…未練がましく戦いにくっ付いてまわって…
それで誰かが不幸に見舞われたら涙だけ流して同情か?聖母様気取りかよ…!バカにすんじゃねえ!」

まどか「ちがっ…私そんな…」

まどか「ううん…その通りかもしれない…私、いつだってキュウべえと契約できるのに…私って最低だ…!」

杏子「お、おい…」

まどか「ごめんね……!」だだっ

杏子(あいつまさか…くそっ…!早まってんじゃねーよ!)

鹿目家前


杏子(…もうパトカーは引き上げてる。あたしを探し回ってんのか)

杏子(ここに居た方がかえって安全かもね)

杏子(それにあたしが余計なこと言っちまったせいで
思い詰めたあいつが契約なんてしちまわねーように見張っとかなきゃなんねーし)

杏子(別にあいつの為とかじゃなくてこれ以上あのぬいぐるみ野朗のいいようにさせたくないだけなんだからな!)


杏子(タツヤ、もう寝たかな…かーちゃんに怒られてないといいんだけど…)

杏子(もう会わないでくれって言われちゃった…)

杏子(こんなに近くにいるのに…もう会えねーのかぁ……)




チュンチュン

杏子(やっと朝か…ふあぁ…眠っむ…無糖の缶コーヒーまじぃ…)ギンギン

ガチャ

杏子「お…」

まどか「いってきまーす」

杏子(学校に行けばほむらもいるし、取りあえずは大丈夫だろう。借りは返したぜ…)

杏子「やばっ!」さっ

詢子「行ってくるよー!ほいタツヤ、いってきますのチューして。
よっしゃ!これで一日頑張れる。そんじゃいってきまーす!」つかつかつかつか

杏子(あのおばさんおっかないから苦手だよ…)こそこそ

杏子「よし…行ったな。あたしも帰ると…」

知久「詢子さん!忘れ物忘れ物!」たたた

杏子「うげっ!?」

知久「あ…君…」

杏子「あぅ…あの…別にタツヤに会いにきたわけじゃないから安心してよ。たまたま通りかかっただけだし…そんじゃ」

知久「あ、待ってくれ」

杏子「…娘からあたしがどんな奴か少しは聞いてるんだろ?その通りの奴なんだよ。あたしは」

知久「そうか…やっぱりそうだったんだ…」

杏子「言われなくてもこの家には2度と関わりたくねーよ。これで正真正銘最後の別れになるといいな」

知久「まどかがね…君はきっと優しい子なんだと思う、って」

杏子「はぁ!?あいつまだそんな寝言…」

知久「わかってるよ…どうせまたタツヤの我侭に付き合わせてしまったんだろう?」

杏子「あたしが…勝手に連れまわしただけさ…///」ぷいっ

知久「…くすっ」

知久「昨日は詢子さんがすまなかったね。痛かっただろう?」

杏子「ひゃあ///」

知久の掌がいたわるように杏子の頬に触れる

知久「彼女を許してあげてほしい。タツヤが心配で仕方がなかっただけなんだ」

杏子「別に…あれくらいなんともないよ///」

知久「そうか。優しいだけじゃなくて強いんだね。おまけに面倒見もいいときてる」

杏子「そんなことねーけど///」もじもじ

知久「正直、タツヤを泊めてくれるならひと言欲しかったっていうのはあるけどね」にこっ

杏子「うっ…だ、だって電話番号知らないし…いや、そういう事じゃねーよな…だから…その…」

杏子「…ごめんなさいっ!」

杏子「もう2度とあんなバカな真似しない…だから…もうタツヤに会わせないなんて言わないでください!」

知久「……」

杏子「……」ふるふる

知久「…僕の奥さんね、ハイヒールなのに歩くのがとても速いんだ」

杏子「…え?」

知久「忘れ物をしていったのに、僕たちがこうして話してる間に今頃はもう電車に乗ってしまっただろう」

杏子「???」

知久「そうなるともう、僕が会社までこいつを届けに行って来ないといけない」

知久「…留守番を頼まれてくれるかな?」

杏子「……!」

知久「2階にタツヤが寝ている。昨夜は遅かったからまだ寝かせているんだけど、君がお客さんなら喜んで起きるだろう」

杏子「あ…あの…」

知久「キッチンに朝食が用意してあるからタツヤに食べさせてあげて。もちろん君も食べていってね」

杏子「///」

知久「一時間ほどでもどるから。それじゃあ頼んだよ」

杏子「あ…」

杏子「ありがとう!おじさん!」

杏子「お、おじゃましまーす…」ぎぃ…

杏子「……」きょろきょろ


杏子「階段あがって…あ、いた」

タツヤ「すー…すー…」

夫婦の寝室のダブルベッドの真ん中でタツヤは小さな寝息をたてている。
昨夜はきっと両親にはさまれて安心しきって眠りについたのだろう。

杏子「……なんか起こすの可哀想な気がしてきた」

タツヤ「くー…くー…」

杏子「もう会えないかと思ったのに…こうしてお前の寝顔を見てるなんて…」なでなで

タツヤ「うぅ…ん…むにゃ…」ぱちっ

杏子「あ」

タツヤ「……」

タツヤ「ふわああ~っ!ちょんまげだぁ♪」だきっ

杏子「うおっと///」

タツヤ「なんでー?なんでちょんまげがいるのぉ?」

杏子「あー…あれだ、ちょっと留守番頼まれて。だからいいか、おじさんが帰ってくるまであたしの言うことをよーく…」

タツヤ「ちょんまげ~好き好きぃ~♪」すりすり

杏子「……ふふっ」

タツヤ「~♪」

杏子「…なぁタツヤ、お前に聞いてもらいたいことがあるんだ」

タツヤ「ふぇ?」

杏子「まぁタツヤには難しい話だろうけど…どうしてもいま言っときたいんだ」

タツヤ「???」

杏子「あたしはね、ある時から人のために生きるのが嫌になった。恐くなったんだ。
誰かのために生きるなんて事に陶酔してると、知らない間に周りの人生を狂わせてる。
だからあたしは自分だけのために生きることを選んだ。自分の為だけに戦って、自分の人生を守る。
あたしにはもうそうやって生きる事しかできないし、それを間違いだとも未だに思えない。
ただ…そうやって生きてるだけじゃ、ここが空っぽのままなんだよ」

杏子は胸に手を当てる

杏子「どこまで行ったって…何を手に入れたって…ここが満たされることがないんだ。
好き勝手できるはずなのに、自分は何をすればいいのか、本当に手に入れたいものってなにか、わからなくなった。
いや、そういったもんがあたしの人生から全部消えちまったんだ。
だからいつもイラついてて、世の中すべてに噛み付いて…色んな奴らを傷つけて…
それでほんの一瞬だけこのクソみてーな世の中に一杯喰わせてやったような気になって
結局すぐまた空っぽの自分に気づかされて…もう暴れるだけ暴れまわってこの世界を引っ掻き回して、どうだざまーみろって…
それで気が済んだら自分もさっさと死んでやろうって…そんないじけたことずっと考えてた。だけど…」

言葉を切って杏子はタツヤの目を見つめる

杏子「タツヤに逢えてなんかわかってきた気がする。あたしがどうしたいか。何があたしの幸せなのか。
あたしはこれからだって自分の為だけに戦うよ。それだけは絶対に変わらない。
だからタツヤのために生きるなんて事は言えない。もうそんなのはこりごりなんだ。
ただ…あんたと居られるこの時間があたしの幸せなんだってわかった。
だから、あたしはこの幸せを守るために戦うよ。戦って、勝って、意地でも生き残って、何度でもタツヤに会いにくる。
タツヤ、あんたあたしに最高のものをくれたよ」

杏子「それは…“戦う理由”だ。ずっと空っぽだったここに、ようやくそれが納まったんだよ」

タツヤ「……」

杏子「…わかんなかっただろ?」

タツヤ「わかんないよぉ」

杏子「へへ…どうせわかんねーだろうから言ったんだ。結構恥ずかしいこと言っちゃってるし。
…でもまぁあたしは親切だからお前にもわかるように言ってやろう」

タツヤ「うん!おしえておしえてー!」

杏子「んとだな…ふわあ~ぁ…眠てぇ…あたし徹夜しちゃったんだよなぁ」ぽふん

杏子「おやすみー」

タツヤ「ねちゃだめー!おーしーえーてー!」ゆさゆさ

杏子「…しょうがねえなぁ。ほら、耳貸しな」

タツヤ「うん!」わくわく

杏子「……お前が好きってことだよ。タツヤ」

タツヤ「……」

タツヤ「ティヘぇ♪」

一時間後


知久「ただいまぁ~。いやぁすまなかったねぇ…」

タツヤ「すー…すー…」

杏子「くー…くー…」

知久「…おやおや」にこにこ



知久「本当にいいのかい?朝ごはんまだなんだろう?」

杏子「うん。前にも言ったろ?あたしは忙しいんだ」

杏子(…もうひとり、駄々っ子の世話を焼きに行かなくちゃいけないんでね)

タツヤ「ちょんまげぇ…いっちゃやだぁ…」

知久「だーめ。お姉ちゃん行くところがあるんだってさ」

タツヤ「ぶう~っ」

杏子「はは…またいつでも会えるさ」

タツヤ「う~…じゃあねえ…ちょんまげしゃがんで?」

杏子「ん?これでいいかい」ひょい





杏子「」

知久「くすくす」

タツヤ「いってらっしゃいの、ちゅー♪」

杏子「///」

佐倉杏子は人の為に生きることをよしとせず、他人をよせつけない暮らしを心がけてきた。
しかし、見滝原にやってきてからの数日間は奇妙な巡り会わせで常に誰かがそばに居た。
杏子と敵対する者。杏子を利用する者。杏子の力を必要とする者。杏子を気遣う者。
杏子を信じようとする者。杏子を認める者。杏子を慕う者。
それらの因果が本人すら長く見失っていた杏子のあるべき姿をかたち創っていった。
だから今、とある家を目指す彼女の足取りは実にしっかりとしている。



さやか「こんな身体になっちゃって…あたし、どんな顔して恭介に会えばいいのかな…」

杏子(いつまでもしょぼくれてんじゃねーぞ、ボンクラ)

さやか「……!」


誰かと繋がることが、空虚でおぼろげな世界を漂う亡霊に過ぎなかった杏子に自身のあり方を示してくれる。
それを学んだ彼女に、もうじき死と救済がおとずれようとしていた。


杏子(ちょいとツラかしな。話がある)しゃりっ




おしまい

あんこちゃんが7話であまりにも唐突にデレたので裏でこんな事があったんじゃないかというお話
深夜までお付き合いありがとうございました。

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