【マテリアル・パズル】魔法少女マテリアル☆まどか【まどマギ】 (964)

注意事項

・このSSは、魔法少女まどか☆マギカとマテリアル・パズル(無印のみ)のクロスSSとなります。
・舞台は見滝原、マテパの方の時間軸はメモリア魔方陣開幕前となっております。(っていうかここ以外ねじ込める空白時間がない)
・ちょっとゆっくりめの更新となるかと思います。週1~2程度できれば御の字ですかね。
・なんか甘党の高校生とか他にもいろいろ出ます。



ぼくは またこの板の前に立っている
この物語を綴るために――

この物語の向こうには――――

この物語の向こうには

この物語の向こうには……!

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1349879118

立て直しました。では、再開です。











第1章:見滝原の魔法少女達









第1話 お菓子の魔女とあめ玉の魔法使い

「急がないと……不味いわね。行きましょう、鹿目さん」
「はい、マミさんっ!」
そこは不可思議な空間だった。
辺りを見渡せば、そこにあるのは色とりどりのお菓子の山。
けれどそれは人の食欲を刺激する類の物ではなく、むしろどこか毒々しく、禍々しさすら感じさせる色合いで。
そんな空間を、二人の少女が歩いている。
先頭には黄色い髪の少女が立ち、油断無く辺りを見渡しながら慎重に、けれど迅速に奥へ奥へと進んでいく。
そんな少女に手を引かれ、桃色の髪の少女が後に続く。

黄色い髪の少女の名は巴マミ。魔女と戦う魔法少女。
そして桃色の髪の少女の名は鹿目まどか、今はまだただの少女。
けれど、魔法少女となる素質をもった少女。


魔法少女。それは願いと引き換えに、魔女と戦う定めを負う事となる少女。
まどかと、その友人である美樹さやかの二人は共に魔法少女としての素質を秘めていた。
そして魔法少女の事を知るために、契約によって魔法少女を生み出す生物、キュゥべえとマミに導かれ
魔法少女の敵である魔女退治に付き合うこととなるのだった。
そして今、病院に発生した魔女の生み出した結界に囚われたさやかを救うため
二人は結界の中へと突入していた。それが、この不可思議な空間であった。

「もうそろそろ美樹さんのところに着くはずよ、急ぎましょう」
まどかの手を引き、歩き出そうとするマミ。
けれどまどかはどこかを見つめたまま、動こうとはしなかった。
「……鹿目さん?」
訝しげに問いかけたマミに、まどかは我に返ったように振り向いた。
「ご、ごめんなさい。マミさんっ」
「何かあったの、鹿目さん?」
「……もしかしたら、私の見間違いかも知れないんです。でも、今……そこに女の子がいたような気がして」
お菓子の山の向こうを指差して、まどかが不安げに言った。
その声にマミもまた息を呑む。
もしそれが魔女の結界に囚われてしまった一般人なのだとしたら、助けないわけにはいかない。
マミは立ち止まり、軽く目を伏せた。


――キュゥべえ、聞こえる?

――マミ?もう近くまで来ているのかい、こっちは今のところ大丈夫だよ。

それは所謂テレパシーというもので。
マミの声は魔女の結界の最深部にて、さやかと共に二人の到着を待つキュゥべえの元へと届けられた。

――そう、それなら今のところは一安心ね。キュゥべえ、もしかしたら他に結界に囚われてしまった人がいるかもしれないわ。そっちで何かわからないかしら?
――なんだって、それは本当かい?……確かに、マミ達とは別の反応があるね。でも、この魔力は……。



テレパシーを介したキュゥべえの言葉を告げられるより早く、二人の前に少女が現れた。
黒い長髪に細身の身体、どこか冷たいを宿したその瞳には、ありありと焦燥の色が浮かんでいた。
「……そう、貴女だったのね。暁美ほむら」
その姿を認めて、マミの表情からは緊迫の色が消えた。
代わりに浮かんできたのは、あからさまな警戒と、敵意の色だった。

暁美ほむら。彼女もまた魔法少女であった。けれど、その行動には多くの謎がある。
あたかもそれは、新たな魔法少女が生まれることを阻止しようとしているように見えた。
魔女を退治することにも非協力的で、それがマミに不信感と敵意を抱かせていた。

「言ったはずよね。二度と会いたくないって」
その不信感と敵意を隠そうともせずに、棘のある口調でマミが言う。
「今回の獲物は私が狩る。貴女たちは手を引いて」
ほむらもまた、冷たくそう言い放つ。
睨み合う二人の間には、凍て付くように冷たく、そして張り詰めた空気が漂いはじめた。
「わざわざ付け回すような真似をして、そうしてまで獲物が欲しいのかしら?
 でも今回だけは駄目よ。美樹さんとキュゥべえを迎えに行かないといけないもの」
一瞬、ほむらの表情に怪訝そうな色が浮かぶ。けれどそれもすぐに、冷たい色に塗りつぶされてしまって。
「そんなことをしていたつもりは無いわ。それに、その二人の安全は保証する」
「信用できると思って?」
酷薄な微笑を浮かべてマミは答え、ほむらはぎり、と小さく歯噛みした。


「残念だけど、貴女にこの場を任せることも、貴女と協力することもできないわ」
時間が惜しい、とばかりにマミは言葉を打ち切る。そしてほむらが動くより先んじて、その手から光を迸らせた。
それはすぐさま黄色いリボンへと変わり、ほむらの全身を拘束した。
「馬鹿っ……こんなことやってる場合じゃ!」
ほむらは必死にもがいたが、その拘束はまったく緩まる気配を見せなかった。
「大人しくしていれば、帰りにはちゃんと解放してあげる。……行きましょう、鹿目さん」
「っ……あ、はい。マミさん。……ほむらちゃん、ごめんね」
呆気に取られていたまどかもマミの声に我に返り、拘束されたほむらを申し訳なさそうに見つめた。
そして、名残惜しそうにしながらもマミの後を追うのだった。

(あの時見えた女の子、本当にほむらちゃんだったのかな。もうちょっと、小さかったような……)
内心の悩みと不安を抱えつつ、それでもまどかはマミの手を取り、結界のさらに奥へと向かうのだった。

「なんだったんだろうね、今のは」
少女の声。
それは先ほどの三人のものと同じか、もしくはもっと幼いかもしれない声。
魔法少女同士の交錯の一部始終を見届けて、声の主は訝しげに呟いた。
「気がついたら変なトコに飛ばされてるし、おまけに妙なガキどもまで出てくるしさ。どーしたもんかね」
その口調は途方に暮れたようでもあり、そんな状況ですら楽しんでいるようでもあった。
「とりあえず、ちょっとちょっかい出してみるかな」
そう言うと、少女は肩にかけたバッグに手を差し入れ、小さな何かを取り出した。
包み紙に包まれたそれは所謂あめ玉という奴で。包み紙を解くと、綺麗な水色のあめ玉がころりと転げ出た。
それをひょいと口の中に放り込み、軽く噛み締めて、少女は不敵な笑みを浮かべた。
そして、今尚もがき続けるほむらの元へと歩き出すのだった。



「っ……こんなところでこんなこと、してる場合じゃないのに」
ほむらの表情は焦燥と苦悶に歪んでいた。
どれほどもがいてもマミによるリボンの戒めは解ける事は無く、この状況を打破する術を
今の彼女は何一つとして持ち合わせてはいなかった。
「巴マミが、ここまで性急に仕掛けてくるなんて……このままじゃ、まどかが」
脳裏に最悪の光景が浮かぶ。それを現実にさせるわけには行かない。
だが、焦る心と裏腹に、状況は一切の変化を許しはしない。


「随分と、面白い格好をしてるね、あんた」
それは少女の声で、唐突に投げかけられたその声にほむらは驚いたように、どうにか動く首を巡らせた。
辛うじて見えたその姿は、黒いローブを纏った小さな人影。その姿は、小柄なほむらよりもさらに小さい。
「っていうか、あんたらはこんなとこで何してるのさ。
 急にこんなわけわかんないところにつれてこられて、こちとらめちゃくちゃ困ってるんだけど?」
その少女の放つ声には、興味深げな様子とどこか刺々しい感じとが入り混じっていた。

「……まさか、美樹さやか以外にも、巻き込まれた人間がいたなんて」
その事実もまた、ほむらを驚愕させた。
「ちょっとー、あたしが質問してるんだけど?ちゃんと答えて欲しいんだけどー?」
そんなほむらの様子に気分を害したのか、少女の声の刺々しさが更に増す。
状況はよいとは言えない。だが、ほむらにとってはこれは好機でもあった。

「わかったわ。事情を説明するから、まずはこれを解いてくれないかしら」
この拘束さえ解ければ、直ぐにでも魔女を倒して脱出できる。
努めて冷静にほむらはその少女に声をかけた。けれどその少女は、一つ不満げに鼻を鳴らして。
「やだね、先に何がどうなってるのかを話しな。でなきゃ解いてやらないよ」
と、どこかおどけるような、嘲るような言葉を返すのだった。
「悠長に事情を説明している余裕はないの!ここは危険なのよ!」
魔女は魔法少女にとって倒すべき敵。けれどその魔女は、人間の命を刈り取る化け物でもあった。
そしてその眷属たる使い魔もまた、魔法少女にとっては取るに足らない相手だが
ただの人間にとっては恐るべき存在なのだ。
今はまだ魔女は目覚めてはいないのか、使い魔の動きも大人しい。だが、それはいつ牙を剥いてもおかしくない。
だというのに、まるで危機感のないその少女の言動は、さらにほむらを苛立たせた。

「危険?ここが?……確かにちょっと気味の悪い場所だけどさ、どこが危険だってのさ」
少女はそれを鼻で笑った。
けれど、そんな少女の背後に一匹の使い魔が忍び寄っていた。
少女はそれにまるで気づいていないかのように、バッグをごそごそと探り、そこから棒のついたあめ玉を取り出していた。
「いいから早く解きなさいっ!このままじゃ、貴女も危険なのよ!」
魔女も使い魔も、普通の人間には知覚する事が出来ない。それが出来るのは、魔法少女とその素質を持つものだけ。
それ故に目の前の少女は、自身に迫る危機を理解してできていないのだとほむらは推測していた。
この状態では使い魔の相手すらも難しい。とにかく是が非でもこの拘束を解かなければならない。
ほむらの声にも、焦燥の度合いが強まっていた。

だが、そんな必死の叫びを嘲笑うかのように使い魔はその牙を剥き、少女へと飛び掛る。
凄惨な光景を予期して、ほむらの表情が強張った。




「――だから、何が危険だってのさ?」


迫り来る見えざる脅威に。
否、脅威と言うにはあまりにも貧相なそれに、少女は不敵な笑みを浮かべて
その手に握った棒付きあめを軽く振った。
直後。少女に襲い掛かろうとしていた使い魔が、爆ぜた。

「え……っ!?」
予想外の光景に、再びほむらは驚愕する。
ほむらの知る限り、目の前の少女は魔法少女ではない。もしそうであれば、すぐにわかるはずなのだ。
だとすれば彼女は何者なのか、ほむらの思考は、たちまちのうちに疑問で埋め尽くされた。

「ったく、これじゃ埒が明かないね。まあいいや、向こうの二人に聞いてみようっと」
少女はほむらに興味を失ったかのようにふい、と視線を奥へと移し、そのまま歩き出してしまう。
「っ!待ちなさい、貴女は一体何者なの!?」
それを捨て置けるはずも無く、ほむらは少女に呼びかける。
少女は振り向き、ほむらに小さく舌を突き出して、意地悪そうに笑みを浮かべて。
「教えてやーらない♪」
とても楽しそうに一言そう言って。
「……本当に危険だってなら、さっさと帰んな。ガキの出る幕じゃないよ」
更に一言冷たく言い放ち、今度こそそのまま歩いて去っていった。

「……この時間軸で、何が起こっているというの」
少女の姿が見えなくなると、ほむらは力なく項垂れ呆然と呟いた。
その視線の先で、何かがきらりと小さく光る。
「あめ玉?」
あの少女が落としたのだろうかと、疑問を抱いたその刹那。そのあめ玉が光を放ち炸裂した。
「ぐ……っ」
強烈な閃光と衝撃が走る。けれど、熱さは感じない。
それらが過ぎ去った後には、ほむらを戒めていたリボンはボロボロになっていた。
これならば、もがけばどうにか抜け出せるだろう。

「……とやかく言っても始まらないわ。とにかく、急がないと」
状況は混迷を極めていく。
それでも彼女のやるべきことは、如何なる時においても変わりはしないのだから。



魔女の結界の最奥で、それは静かに脈動していた。
それはグリーフシードと呼ばれる、魔女を生み出す漆黒の種子。
その様子を、青い髪の少女と奇妙な白い生き物が緊張した面持ちで、遠巻きに見守っている。
彼女こそが美樹さやか、そしてその傍らの生物こそが契約によって魔法少女を生み出すもの、キュゥべえ。

「マミさん……まどか、まだ来ないのかな」
魔女はまだ目覚めていない。けれどその目覚めは近い。
それが分っているからこそ、さやかの声は極度の緊張で張り詰めていた。
「近くまでは来てると思うよ、後は魔女が目覚める前に、マミが間に合ってくれるといいんだけどね」
この様子なら恐らく間に合うだろう。キュゥべえもそう考えていた。
「でも、この魔力の反応は……」
付け加えるように呟いた言葉は、何か気がかりな事があるような口調で。

「魔女でも、魔法少女とも違う……」
「ちょっと、キュゥべえ!あれ、何か動き出してる」
キュゥべえの呟きを遮ってさやかが叫ぶ。
グリーフシードは今にも何かが湧き出て来そうなほどに、禍々しく脈打っていた。
「まずいな、魔女が出てくるよ!」

グリーフシードが姿を変える。そこにあるのは、巨大なお菓子の袋のようなもの。
それは内側から食い破られるようにして裂け、そこから何かが現れた。
ともすれば、愛くるしい姿のぬいぐるみのようにも見える。
けれどそれは遂に目覚めてしまった魔女であり、恐るべき敵。



お菓子の魔女――シャルロッテ。

お菓子の魔女は、まるで赤子のように頼りなく周囲を見回した後
物陰に隠れて様子を伺っていたさやかとキュゥべえへと視線を向け、その唇を軽く吊り上げた。
「……さやか、願い事は決まったかい?」
マミは未だ現れず、まさに絶体絶命の危機。
キュゥべえはさやかに決断を促した。願いと引き換えに契約し、魔女と戦う定めを背負う。
魔法少女になるという決断を。
「流石に、もう迷ってなんていられないか」
魔女の姿を見つめて、震える声でさやかが言う。
その愛くるしい姿を見ても、さやかの表情には一欠けらの余裕も見られなかった。
さやかは今までに数度、マミの魔女退治をその目で見ている。
それ故に、魔女の恐ろしさを彼女は身をもって理解していた。

「あたしの願いは……」
「駄目よ、そんな簡単に決めたりしちゃあ、ねっ」
その声は、閃光と共に舞い降りた。
「マミさんっ!」「マミ、間に合ったんだねっ!」
その声は、まさしく希望そのものだった。

「ええ、どうやらギリギリ間に合ってくれたみたいね」
それまでの制服姿ではなく、魔法少女の服装に身を包んだマミは
その手のマスケット銃から矢継ぎ早に閃光を放ち、そのままさやか達の側へと降り立った。
「さやかちゃんっ!よかった、無事で……」
マミと共に降り立ったまどかは、すぐさまさやかに飛びついた。

「さあ、速攻で片付けるわよ!」
自らを鼓舞するようにマミはそう叫ぶ。
そして魔法の弾丸に射抜かれ、地面に縫い付けられた魔女に向けて駆け出した。
マスケット銃の銃身を握り、まるでゴルフクラブか何かのように銃床を魔女に叩き付ける。
壁際にまで吹き飛ばされた魔女に、続けざまに魔法の弾丸を撃ち込んでいく。
だが、魔女もただ黙ってやられはしない。
使い魔達がその射線に飛び込み、自らの身をもってその弾丸を遮った。
それのみならず、更に数に任せてマミへと殺到する。

「あんなに沢山。いくらマミさんでもあれじゃあ……」
不安げに声を漏らすさやか。
マミはそんなさやかに軽く視線をやると、大丈夫とでも言うかのように力強い笑みを浮かべた。
マスケット銃を握った両手をそのまま左右に払う。するとそれは何本にも分裂し、マミの周囲を取り囲むように展開した。
マミはまずその一丁を手に取ると、迫る使い魔の群れの先頭に魔法の弾丸を叩き込む。
その隙を突いて迫る使い魔には銃床を叩き付け、撃ち終えた銃を放り投げると同時に次の銃へと手を伸ばし
そしてまた撃ち放つ。まるで踊るような仕草で、魔法の弾丸と銃床を叩き込み、次々にその数を減らしていった。

「すごい……マミさん」
「さっすがマミさん、いいぞ、そのままやっつけちゃえーっ!」
その動きにすっかり魅了され、圧倒されている二人。だが、歓声を上げる二人の眼前にも使い魔が迫っていた。
「うわわっ!?こっち来るなーっ!!」
マミの戦いに見惚れていた二人は、逃げるのが僅かに遅れてしまった。
その僅かな時間は間違いなく、致命的な隙だった。
マミにもまた危機は訪れる。次々に押し寄せる使い魔の群れに、遂に銃も全て撃ち切ってしまった。
武器を失ったマミに、頭上から新たな使い魔が襲い来る。
そんな危機的状況にあっても、マミは静かな笑みを絶やさなかった。それは、絶対の自信からなるもので。

「甘いわよっ!」
牙を剥き、喰らいつこうとした使い魔の側面を、高く蹴上げたマミの左足が捉えていた。
そのまま右足を軸にし身体を回転させると同時に、その勢いも乗せて使い魔を蹴り飛した。
蹴り飛ばされた使い魔は、見事にまどかとさやかに迫っていた使い魔にブチ当たり
二体まとめて吹き飛ばされて、その姿が掻き消えた。

「もう少しの辛抱よ、すぐに終わらせるからっ!」
二人に言葉をかけると同時に、使い魔の群れを引き寄せてマミは跳躍する。
空中で再びマスケット銃を生み出し、使い魔の群れへと向けて撃ち放つ。
使い魔を打ち砕き、地面に無数の弾痕が刻まれる。だが、その全てを撃破するには至らない。
「まずは邪魔な使い魔から。一気に片付けるわよ!」
だがその弾痕から生じた光の帯が、群れ為す使い魔を戒め、縛り、一所へと押し固める。
狙い通り、とマミは更にその笑みを深くし、着地すると同時に手にした銃を巨砲へと作り変えた。
その巨砲から、今までのそれとは比べ物にならない威力を帯びた弾丸が放たれ、押し固められた使い魔の群れを根絶した。
「さあ、後は魔女だけね」
巨砲を通常の銃へと戻し、マミは鋭く魔女を見据えた。
使い魔を悉く撃破され、その力に魔女も恐怖したのだろうか、まるで逃げるかのようにその身体が宙を漂い始めた。
だが当然、マミはそれを逃さない。

「これで終わりよっ!」
魔女を追って跳躍。そのまま魔女を跳び越し、落下の勢いを乗せて銃口を突き刺すように、激しい突きを叩き込んだ。
急速に落下する中、押し付けた銃口から二発、魔法の弾丸が魔女の身体に食い込んでいく。
そして地面に落下し、その衝撃に地は砕け、あたかも土煙のようなものが沸きあがる。
それすらもマミが手を払えば、まるで風にさらわれたかのように掻き消えていく。
魔女の身体に埋め込まれた弾丸から、再び光のリボンが生じ魔女の身体を空中に拘束する。
最早魔女に抵抗の術は無い。後はただ、とどめの一撃を叩き込むだけだった。

再びその掌中の銃が巨砲へと変わる。十分に魔力を高め、必殺を期してそれは放たれる。


「ティロ・フィナーレ!」

放たれたのは必殺の弾丸。
撃ち貫くと同時に光の帯で捕縛し圧殺する、マミの最大の一撃だった。
その弾丸は確実に魔女の胴体を射抜き、更に生じた光の帯がリボンと化して、頭を残して魔女の全身を拘束した。
後はそのまま、押し潰すのみ。

「やったぁ!」「さっすがマミさんっ!」
マミの勝利を確信し、二人が歓声をあげる。
マミもまたそれに答えて二人を見つめ、自信気な笑みを浮かべた。
勝利の余韻と安堵、そして新たな魔法少女となるかも知れない仲間を、守り抜くことが出来たという喜び。
それがマミの心を埋め尽くしていた。今度こそそれは、余りに致命的過ぎる隙だった。

捕縛され、圧殺されるのを待つばかりであったはずの魔女。
だが、その口の中から何かが溢れ出た。それは奇妙に姿を変え、肥大化し、一気にマミへと迫る。
気を緩めていたマミは、それから逃れることはできなかった。
悪趣味な化け物、そう言うより他にないそれは、巨大な顎を開き、濡れた牙を覗かせた。
そしてそのまま、目を見開き硬直したマミの身体に喰らいつく。


その直前。マミの視界に、何か小さく光るものが見えた。


「マミさ……っ、うわぁぁぁっ!?」
魔女の変貌と、マミの窮地にさやかが悲鳴を上げる。
けれどそれは、突如として巻き起こった激しい爆発によって遮られた。

「これは……一体?」
突如としてマミと魔女との間に発生した、激しく迸る光の炸裂。
それはこの場にいた誰にとっても予想外のものだった。
キュゥべえもまた、その表情に驚愕の色を張り付かせて言葉を放った。
「何……何なの、これ?」「そうだ、マミさんはっ!?」
迸る光が収まり、激しい光に焼かれた視界がようやく戻る。
そこにはマミの姿も魔女の姿も無い。二人が慌てて周囲を探ると、すぐにそれは見つかった。

見つかったのだが。


「……えーっと。マミ、さん?」
マミは突然の爆発に吹き飛ばされ、床へと叩きつけられていた。
それだけならまだ二人も純粋に心配できたのだろうが、その状況は到底そうすることを許さなかった。






「「犬○家!?」」
吹き飛ばされたマミはそのまま頭から地面に落ちた。
丁度そこはケーキのように柔らかな場所だったのだろう。
完全にその身体は地面に埋もれ、足先だけが突き出ていたのである。


実にスケキヨである。

「何か勝手に死にそうだったし、手ぇ出させてもらったよ」
声と同時にケーキの高台の上に現れたのは、ほむらの前に現れたのと同じく、黒いローブを纏った人影だった。

(女の子の、声?)
その声は少女のそれで、その姿にまどかは見覚えがあった。
「あれは……あの時の」
ほむらと出会う直前、まどかが垣間見た人影とその姿はよく似ていた。
その人影は高台から飛び降り、まどか達の側へと降り立って。
「あんた、一体誰なの?もしかして、また新しい魔法少女の登場ってわけ?」
驚きと不安、そして多少の怯えを帯びた声で、さやかが問いかける。
「魔法少女?そんな可愛らしいもんじゃないよ。あたしは……」
ローブの少女は振り向いて、僅かにさやかに視線を向けると。


「――魔法使いって奴さ」
言葉と同時に、轟音が鳴り響いた。


吹き飛ばされ、文字通り目をぐるぐると回していた魔女が目を覚まし
瓦礫やお菓子の破片を吹き飛ばしながら起き上がる。
魔女は、新たに現れた脅威であるローブの少女を視界に捕らえると、瞳に怒りを宿し再びその牙を剥いた。

「ふん、化け物の癖に生意気だね。あんたらは離れてな、巻き添え食っても知らないよ」
少女は尚も強気に言葉を告げる。
ローブの端から覗いた口元には、不敵で余裕の笑みが浮かんでいた。
「なんだかよくわかんないけど、行こうまどか!マミさんを助けないと」
「っ、うん!」
まどかは心配そうに少女を見つめ、それでもさやかに続いて駆け出した。

再び魔女が動き出す。
どんなものでも噛み砕いてしまいそうな鋭い牙を構えた顎が、少女を噛み砕かんとして迫る。

「そんなに食いたきゃ、これでも食ってろ!」
迫り来る魔女に、少女は何かを放り投げる。
魔女はそれを意にも介さず飲み込み、更に少女目掛けて突き進む。だがその直後、再び激しい爆発が生じる。
それは魔女の体内より生じたもので、内側から光に焼かれ、魔女の表情が苦悶に歪む。
だが、それでも魔女を倒すには至らない。
魔女はまるで蟲が脱皮するかのように傷ついた身体を脱ぎ捨て、一回り小さくなった姿で更に少女へと迫った。
「しぶといね、ったく」
小さく呟き、少女は矢継ぎ早に何かを放り投げる。
それは次々に爆発し、光の炸裂を生み出していく。だがそれは、魔女を捉えるには至らない。
身体が小さくなった事で機動性が増したのか、魔女は続けざまに生じる爆発を全て回避していた。

「ふん、面倒臭いね。……丁度いいや、こいつで一気に決めるよ」
苛立たしげに鼻を鳴らし、少女は魔女を睨み付ける。
けれどその視界の端に何かを見つけて、その唇が吊り上った。

突如として少女は走り出す。
爆発の雨が止んだことで、余裕が出来た魔女も少女の後を追う。
爆発に煽られ傷ついた身体を今一度脱ぎ捨て、更に一回り小さく、そして速くなる。
恐るべき速度で魔女は迫り、その牙は今にも少女を噛み砕こうとしていた。
だがそれに先んじて一歩早く、少女はそれを掴み取った。
それは人の頭ほどもある巨大なロリポップ。
血の色のような赤と、目に痛々しい蛍光色の青の混じったそれは、とてもではないが食欲をそそられるようなものではない。
けれど、少女にはそれで十分だった。

「ぶっ……壊れなぁっ!!!」
握り締めたそれを、少女はすぐ背後にまで迫っていた魔女に叩き付けた。
巨大なロリポップが魔女の顔面にめり込み、そして一際大きな爆発が巻き起こった。

「マミさん!大丈夫ですか、マミさんっ!」
「……ええ、みっともないところ、見せてしまったわね」
どうにか掘り起こされ、スケキヨ状態から抜け出したマミとまどか達の元へも、その光の余波が吹き荒れた。
「何が……きゃぁぁっ!?」
光に目を焼かれ、吹き荒れる衝撃に吹き飛ばされそうになりながら
三人は互いに身を寄せ合い、身を屈めて必死に耐えるのだった。

そしてその光の爆心地で全身を光に焼かれ、魔女がその存在を失っていく。
その光が収まると、爆心地には魔女の姿は一片たりとも存在せず。そこにはただ、無傷の少女の姿だけがあった。
纏っていたローブは、衝撃に煽られ吹き飛ばされていて。
その下には、得意げな表情で笑みを浮かべる、小さな黒髪の少女の姿があった。

「――キミは、一体何者なんだい?」
その戦いの一部始終を見届けて、キュゥべえは少女に問いかけた。
それは彼女が、キュゥべえによって生み出された魔法少女ではないということを、言外に示しているようなもので。
その声に、少女は振り向いた。そして。



「あたしはアクア。大魔導士アクア、よろしくね」
核たる魔女を失い急速に崩壊していく結界の中で、少女――アクアは名乗った。
あたかもそれは、世界に自らの存在を知らしめるかのように。


魔法少女マテリアル☆まどか 第1話
     『お菓子の魔女とアメ玉の魔法使い』
           ―終―

【次回予告】
魔法少女と魔法使いは出会った。出会ってしまった。
ありえるはずのない出会いは、小さな歪みを生み出した。
生まれた歪みは、少女達の運命さえも揺るがしていく。

けれどこれはまだ、その序章に過ぎないのだ。


「別の世界からやってきた、ってこと……なのかな?」
「こんなの、普通じゃ考えられないわ」

出会ってしまった少女、アクアは自らを魔法使いと名乗った。
「結構面白いね、こっちの世界も」
「家に……来るしかない、わよね。やっぱり」

それぞれの目的のため、同じく魔法の名を冠した少女達は結託する。
「あんたらにはあたしに協力してもらう。嫌とは言わせないよ」
「貴女となら、獲物の取り合いになる心配はなさそうね」


「アクア?しっかりして、アクアっ!!」
「まさか、この反応は……」



次回、魔法少女マテリアル☆まどか 第2話
       『魔法少女ともう一人の魔法使い』

きょうはここまで、つづきはまたあすにでも

うぼぁ

乙です

では、本日も参りましょうかな。
投下します。

第2話 魔法少女ともう一人の魔法使い


魔女の結界が砕けると、そこに広がっていたのは夕暮れ時を通り過ぎた暗闇で。
そしてその暗闇の中で、白い建物が明かりに照らされていた。それは病院。
この魔女は、病院をその巣として取り込もうとしていたのだ。

魔女は通常であれば結界から出る事は出来ない。
故に、不幸な人間が結界の中に迷い込みでもしない限り、魔女が直接人を害する事はまずないと言ってもいい。
だが、魔女は人を操りその心を蝕む。それは不安や猜疑心、そして絶望という形を成して人の心に去来する。
そしてその絶望に飲まれた者は、やがて遠からずその命を絶つこととなる。
故に魔女は人の天敵で、心身の弱った人間の多い病院に発生すれば、多くの犠牲を生みかねない。
だが、魔女は討たれた。それを討つべき魔法少女ではなく、突如として現れた謎の魔法使い、アクアによって。

兎にも角にも、危機はひとまず去ったのである。


「どーやら、ちょっとはまともな場所に出たみたいだね」
少女――アクアは、辺りの景色ぐるりと眺めながらそう言うと。
「……でも、やっぱりメモリアとは違うね」
と、小さな声で呟いた。

「ええと、それで……アクア、さん?」
なにやら物思いに耽っている様子のアクアに、マミが静かに声をかけた。
「……ああ、そうそう。そういやこっちの話もまだだったね。
 そう、あたしはアクアだよ。名乗ってやったんだから、あんたらも名乗りな」
「そうね、私は巴マミ。見ての通り……とは言えないけれど、魔法少女よ」
既にマミの服は魔法少女のそれではなく、彼女らの通う見滝原中学校の制服へと変わっていた。
結界が解ければそこはもう日常の世界。魔法少女の姿のままでは、いささか目立ってしまう。

「あ、あたし……美樹さやか。一応魔法少女……見習い、って感じかな」
「私は、鹿目まどか。えと、同じく魔法少女見習い……かな?」
未だ緊張の抜けない表情で、さやかとまどかもそう答えた。
とは言えその緊張の理由は、魔女との戦いによるそれというよりは
恐るべき破壊を生み出したアクアの存在によるところが大きかった。

「で、なにこの妙な生き物。あんたらのペット?」
「ペット扱いは心外だな、ボクはキュゥべえって言うんだ。よろしくね、アクア」
「あ、喋った。動物なのに喋るなんて、面白いねー、うりうり」
今更ではあるが、キュゥべえは見た目自体は愛くるしい生き物である。
よくできたぬいぐるみのようにも見える、その見た目がえらく気に入ったのか、アクアはキュゥべえに手を伸ばした。
撫でてみたり持ち上げてみたり、耳を軽く引っ張ってみたり、アメ玉を食らわそうとしてみたりと
その後はもうやりたい放題である。いい加減に辟易した様子のキュゥべえが
マミに助けを求めるような視線を送った。

「アクアさん、そのくらいにしておいて話を続けましょう。貴女に色々聞きたいのだけど……」
「待った、質問はあたしが先だよ。こちとらわからない事だらけで頭がこんがらがってるんだ。
 まずはその辺どうにかしてくれないと、答えようにも答えらんないね」
言葉を続けようとしたマミの機先を制して、アクアがずいと手のひらを突き出して言った。
「わかったわ。でも、私もこの状況に戸惑っているのは事実だから
 何でも答えられるわけじゃないけど、それでもよければ」
「そ、じゃあ色々聞かせてもらうよ」
そう言ったきり、アクアは軽く目を閉ざす。そして、とん、と軽く指でそのこめかみを突いた。
何をしているのかとマミ達が訝しげな表情を浮かべ、問いかけようとした時に
アクアは小さく一つ頷いて、目を開いて話し始めた。



「質問の数は、6つ」
その口調は、まるで誰かに言われたことをそのまま言っているような、少しばかりの違和感を感じる口調だった。

                                 「あの化け物は何だい?」





         「魔法少女ってのは何なのさ?」





「あんたの他にも、魔法少女ってのはいるのかい?」





                「あんたらが使ってる魔法ってのは、一体何なんだい?」





                              「ここは一体どこだ?」






   「アクロア大陸、メモリア王国、マテリアル・パズル、大魔王デュデュマ。この中に聞き覚えのある言葉はあるかい?」

その全てを言い終えて、アクアは一つ大きな吐息を漏らした。
対するマミは、どこか困惑した表情を浮かべたままアクアの問いに答えた。
「ほとんどの質問には答えられると思うわ。でも、多分かなり時間がかかると思う。
 だから、一度場所を変えないかしら。私の家なら人目にもつかないと思うわ」
「……なるほどね、おおっぴらには出来ない話ってわけだ。いいよ、案内してよ」
アクアもそれに頷いた。

マミは、どうも話についていけない風のまどかとさやかの二人の方を向き。
「彼女の話は私が聞いておくから、今日はもう帰ったほうがいいわ。
 随分と遅くなってしまったし、明日にでもまた来てくれたら、その時にわかった事は説明するから」
そう言われ、二人は不安げにマミとアクアの顔を交互に見つめて。
「……わかりました、マミさん。でも明日の朝一番で行きますから、ちゃんと事情、教えてくださいね」
「私も、明日必ず行きますから。……それじゃあマミさん、アクアちゃん。また……明日」
それでも意を決したようにそう言うと、二人は互いに寄り添いあったまま、ゆっくりと家路を辿り始めるのだった。
魔女との戦いに巻き込まれた疲れが、今になってどっと押し寄せてきたのだろうか。
その歩みは、どうにも頼りないものだった。

「二人はボクが送っていくよ。マミ、後でボクにも話を聞かせてほしいな」
「ええ、しっかり頼むわよ、キュゥべえ」
そしてそんな二人の後を、キュゥべえが追いかけていた。

「あんたも送って行ってやったほうがいいんじゃないの?」
どうにも頼りない二人の様子を見て、アクアはマミにそう言った。
けれどマミは何も言葉を返すことはなく、そのままその場に蹲ってしまった。

「――っ、ァ。はぁ……ッ、く、う、うぅ……」
「ちょっと、おい。あんた……しっかりしなよ、ほら」
漏れ出したのは嗚咽。
蹲り、食いしばった歯の隙間から、消しきれない声が漏れていた。ガチガチと歯の根の震える音と共に。
その姿にアクアは事実を悟る。
魔法少女と呼ばれるそれは、魔法の力を持つそれは、例えその力がどれほど強力であろうとも
精神まで人間離れしてしまったわけではないという事を。
事実、恐怖に震えて必死に嗚咽を噛み殺しているマミの姿は見た目相応……
というにはいささか幼い気もするが、ただの少女としては当然の姿にしか見えなかったのだから。

だからこそ、アクアはそんなマミに手を伸ばした。
膝を抱えるその手を掴み、無理やりにでも立ち上がらせた。
「ごめんなさい……でも、今頃になって、足が震えてきちゃって……笑っちゃうわよね」
手を引かれて立ち上がるも、その足はガクガクと震えていて。
自嘲気味にそう言うマミの姿は、先ほどまでの魔法少女の姿から見ればあまりにも頼りなく見えた。

「ったく、泣き言言ってんじゃないよ。これでも食ってな」
嗚咽交じりの息を漏らしたマミの口に、ひょいと何かが放り込まれた。
舌先に甘みを感じたのも一瞬。マミはそれをそのままごくりと飲み込んでしまった。

「んぐ……けほ、ちょっと、一体何を飲ませたの!?」
「ん?アメ玉」
「えっ」
その言葉に、元々青白かったマミの表情が更に白く、いっそ蒼白といえるほどに変わる。
一瞬の交錯であるとは言え、マミもまたアクアの戦う姿を目撃していた。
彼女が武器に使っていたものが何であるかを見てしまっていた。
それ故に、ある程度の予測は立てていた。
お菓子を武器にする魔法少女……ならぬ魔法使い。
それはそれで可愛らしくていいものだが、故にこの状況は実に不味い。

「ちょっと、そんな……冗談じゃっ」
足の震えも忘れて立ち上がり、一気にアクアに詰め寄るマミに。
「さっさと立って案内しな。でないと、内側から爆破しちゃうよー」
にんまりと、実に愉快といった感じの笑みを浮かべてアクアは言い放った。
マミはといえば、驚愕が呆然とした表情に変わり、それがすぐさま引き攣って。
「……わかったわよ、さっさと行きましょう」
諦めたように吐息を漏らして、足早に歩き始めるのだった。
けれどその足は、もう震えてはいなかった。



(まったく、お菓子の魔法使いなんて可愛いものかと思ったら、とんでもない子だったわ)
内心に嘆息と、大きな不安を抱えていたとしても。


彼女――暁美ほむらは、その一部始終を病院の屋上から眺めていた。

「今回は、巴マミが生き残った。でも、あの状態の巴マミが、一人であの魔女を倒せるとは思えない。
 だとしたら魔女を倒したのは……」
マミの拘束魔法より逃れ、ようやく結界最深部へと到着したほむらがその時見たものは
激しい光の炸裂の中に消えていく魔女の姿。そしてその光の中心に立つ、一人の少女の姿。
「新たな魔法少女だとでも言うの?今までにこんな事は無かった……一体、何者なのかしら」
呟きながらも思考は巡る。けれど、今のほむらはそれに対する答えを見つけられずにいた。

「考えていても仕方ないわ。何にしてもこれで、巴マミは生き残った。
 けれど、彼女と協力関係を結ぶのは難しい。……だとすれば、やはりアレを倒すためには彼女の力が要る」
何事かを話しながら、ゆっくりと遠ざかっていくマミとアクアの姿を見つめて。


「巴マミ。今しばらく、見滝原は貴女に任せるわ。そして、まどかも」
言葉と同時に、ほむらの姿は虚空に消えるのだった。

かくして、魔法少女と魔法使いは連れ立って帰路を辿る。
だが、アクアにとってここはまるで見知らぬ地である。当然大人しくいていられるわけもなかった。

「ねえねえ、マミ。ありゃ何だい!?」
遠くに見えるビル街を見て、可愛らしい装いのファンシーショップを見て
なんだかんだとアクアはマミに尋ねるのである。
当然、いちいち足止めを喰らっては帰宅が捗るはずもなく
気づけばあたりはすっかり暗くなってしまっていた。

「はぁ……一体どこまで付き合わせるつもりなのかしら。
 アクアさん、あんまりゆっくりしていると、帰って話す時間も――」
今度は野良猫(ねこではない)を見つけて、物珍しそうに追い掛け回しているアクアに
もううんざりといった様子でマミは声をかけた。否、かけようとしたのだが。

「ねー彼女、ちょーっといいかな?」
横合いからかけられた声が、それを遮ったのだった。
声の主は、金髪に右耳だけのピアスをつけ
サングラス越しで目元は伺えないが、それなりに整った容姿の男だった。
そんなマミよりも頭一つ半ほど高い背丈の男が、いきなり眼前に躍り出てきたのである。
流石のマミも驚いて、思わず一歩後ずさりながら。
「……なんですか?今急いでいるので、ごめんなさい」
こういう手合いは、さっさと話を打ち切って逃げるに限る。マミは言葉少なにその場を立ち去ろうとしたのだが。
「あー、ちょっと待って待って。そりゃいきなりこんな事言われたら怪しがるのはわかるけどさ
 まずは名刺だけでも見て頂戴よ、ね?」
けれど男も中々にしつこく、横をすり抜けようとしたマミの前に更に立ちふさがって、懐から慌しく名刺を取り出した。
そしてその浮ついた容姿とは裏腹に、どこか人好きのするような笑みを浮かべるのだった。

「鴻上……プロダクション?」
「そ、要するにタレントをプロデュースしてる事務所、ってわけ」
その名刺には、確かに鴻上プロダクションという社名に加えて、なにやら男の名前らしいものが書かれていた。
けれど今のマミには、それ以上の情報はただの文字の羅列としてしか認識できていなかった。
呆然と目を見開いて、名刺と男の顔を交互に眺めるマミの様子に何がしかの手ごたえを得たのか
男は更に言葉を続けた。

「沢宮エリナちゃんって知ってる?」
沢宮エリナ。彼女はここ最近ブレイク中の高校生タレントである。
魔法少女の戦いに勤しむマミも、その名前くらいは知っていた。
曖昧に頷いたマミの様子に、更に男は笑みを深めて。
「あの子もうちのプロダクションの子でさ、こーやってスカウトされた子なわけよ。
 あ、そしてこれは俺の直感。君も絶対エリナちゃんみたいなアイドルになれるっ!」
指輪のはまった指先を突きつけ、自信たっぷりに男は告げた。
男の審美眼もあながち間違っているとも言えない。
マミのスタイルは女子中学生のそれというにはあまりにも大人びている。
それでいて、無駄に背ばかり高いということもない。
そして間違いなく、磨かずとも光る何かをその身の内に秘めている。
とは言えそれは、芸能の才などではなく戦う力だったのだが。

「そういうわけだからさ、俺の事務所と契約して、アイドルになってみない?」
困惑しきっているマミに、どこかキュゥべえのそれを思わせるような口調で男は告げた。
マミは思わず胸元を手で押さえ、どうにか返す言葉を捜しているようだった。
魔女と戦う運命を背負い、戦い続けた長い日々。
そんな日々に突然差し込んだ、光の差す場所への誘い。それを嬉しく思う気持ちも、確かにあった。
けれどそれを受けられるはずも無い、魔法少女という存在の重さを、マミは良く知っていた。

それでも、どうしても迷ってしまう。

「なーにやってんのさ、マミ。そろそろ行くよ」
そんな迷いを、アクアの声は容赦なく打ち砕くのだった。



「ん、あの子は友達か何か?うーん、あの子も顔立ちは悪くないけど、ちょっと目つきがきつすぎるかなー……」

物理的に。



「いきなり何を抜かす、失礼な」
不機嫌そうに顔を歪めたアクアが男に向けてアメ玉を放り投げると、それは小さく炸裂した。
「ぶぇーーっ!?」
相手はただの一般人である。当然耐えることもよける事もできず、炸裂に飲まれて吹き飛ばされた。
奇声をあげながら吹き飛んだ男は、そのまま壁に激突しぐったりと動かなくなってしまった。

「ちょ、ちょっとアクアさ……アクアっ!一般人相手に魔法を使うなんて……っ!」
いくらなんでも、マミにとってそれは見過ごせない。
魔法の力は魔女を倒すために使うものであって、一般人相手に振りかざすものではない。
どんな理由や事情があるにせよ、許されてはならない事だった。

「別に死んじゃいないよ。ちょっと邪魔だから吹っ飛ばしただけさ」
悪びれもせずにそう言うアクアに、マミは咄嗟に手を伸ばした。
服の襟元をぎゅっと握って、そのままアクアを睨み付けて。
「もう絶対にこんな事はしないで。それが出来ないなら、貴女は魔女と同じよ。私が貴女に話すことは何も無いわ」
これだけは譲れないと言わんばかりに、マミの語勢は強かった。
アクアもまたマミの視線を真正面から受け止めて、僅かにその目を細め、好戦的な色を浮かべていた。
睨み合う両者、その間には一触即発の、緊迫した空気が流れていた。

「……ま、いきなり右も左もわかんないような場所で、ドンパチやらかすのも不味いか。
 わかったよ、普通の奴には魔法は使わない。それでいいんでしょ?」
やがて、アクアは根負けしたかのように軽く鼻を鳴らしてそう言うと、マミの手を振り払った。
「……信じるわよ、その言葉」
一抹の不安は感じつつも、それでもマミはアクアの言葉に頷くのだった。

「それじゃあ私はこの人の治療をしていくから、アクアは少し待ってて頂戴」
いかなる心情の変化があったのか、いつの間にやらマミはアクアを呼び捨てにしていた。
マミはそう言い残し、壁にもたれてばっちり気絶している男の元へと向かった。



「……今更、選べないわよね。そんな道」
どこか、寂しげな呟きを残して。


――今のは君が悪かったと思うよ、アクア。

「……わかってるよ、とりあえず今は大人しくしとく」
アクアは電柱に背を預け、軽く目を伏せそう呟いた。
身の内から湧き上がる、その声に応えるようにして。




「――ティトォ」
その呟きは、誰の耳にも届く事は無く。

「やっと着いたわね」
その後の道中は比較的穏やかに、といってもどうにも緊迫した空気のままで帰路は進み
ようやく二人はマミの家へとたどり着く事ができた。

「ふぃー、歩き通しで疲れちゃったよ。勝手に邪魔させてもらうよー」
マミが鍵を開け、扉を開くや否や、アクアはその中へと飛び込んだ。
「はぁ、本当に落ち着かない子ね。ちょっと待って頂戴。お茶とケーキくらいは用意するから」
奥から帰ってきた、子供そのものの元気な返事。それに苦笑しながら、マミはアクアの後を追うのだった。

(こうしてみるとまるで子供ね、でも……)
内心の疑念は拭えない。けれどそれは、きっとこれから解明されるのだろう。

「んー、お茶もケーキも美味しいじゃん。これ、マミが作ってるの?」
ケーキを一つ、二つと平らげて、紅茶で喉を潤して。満足げにアクアが言う。
「ええ、お口に合ってくれたようで何よりよ。……さあ、そろそろ本題に入りましょうか。それと、これ」
向かい合って座るマミが、黄色の刺繍の入ったハンカチをアクアに手渡しながら言う。

「ここ、クリームついてるわよ」
苦笑交じりに言いながら、マミは自分の頬を指で指した。
「ああ、こんなもんこうしちまえば、ほら」
アクアはそれをけらけらと笑って、親指でそのクリームを拭ってそのまま舐め取ってしまった。

「もう、子供じゃないんだから……まあいいわ、今度こそ本題に入りましょう」
食器を片して、今度こそマミはアクアに呼びかけた。

「ん、じゃあそうしようか。……まずは、あたしの質問に今度こそ答えてもらうよ」

「答えられるところといえば、これくらいね」
先のアクアの質問を思い出しながら、マミは静かに口を開いた。
人の世に災いと絶望をもたらす存在であり、結界に潜み、今尚多くの人の命を脅かしている存在である、魔女。
そしてその魔女と戦うために、キュゥべえと契約する事で生まれる存在。救いと希望をもたらす魔法少女。

「なーんか、胡散臭い話だね。希望や願いをちらつかせて、人を戦わせるだなんてさ」
アクアはなぜか不機嫌そうな表情で、鼻を鳴らしてそう言った。
「確かにそう見えるかも知れないけど、その願いで救われた人もいるのよ。
 その結果、魔女と戦う定めを背負う事になったとしても」

「あんたもそのクチ、ってわけ?」
その言葉にマミは一瞬言葉に詰まる。それでもすぐに言葉を次いで。
「……否定はしないわ。話を続けましょう」

「そう言うわけだから、魔法少女は一人や二人じゃないの。
 今この時も、世界中で魔女が人々に害を為している。それと戦うために、世界中に魔法少女が存在しているの。
 ……なんて、これはキュゥべえの受け売りなのだけどね」
「なるほどね、くぁ……ふ。こっちも随分物騒なわけだ」
さほど興味はない、といった様子でアクアは欠伸をかみ殺しながら答えた。
けれど、続く言葉にその目の色を変えた。

「そして、これが魔法少女の証であるソウルジェム。
 魔法少女の願いによって生み出される、魔法少女に魔法の力を与えてくれるものよ」
マミが手にはめていた指輪が小さく輝くと、その後には綺麗な装飾を施された卵のような宝石がその手の内に生じていた。

「それがあれば、何も知らない小娘でも魔法が使える。そーゆーことかい」
アクアは一瞬目を見開いて、ソウルジェムを睨み付けた。
「誰でもって訳じゃないわ、あくまで素質のある少女だけ。
 でも確かに、逆に言えば素質さえあれば誰でも、キュゥべえと契約して魔法少女になることが出来る」
「……なるほど、ますます気に食わないね」
相変わらず顔を顰めたまま、アクアはソウルジェムから視線を反らした。
それを見届けて、マミも再びソウルジェムを指輪へと戻して。

「それで、あとの二つの質問だけど……これについては、こう答えたほうがよさそうね」
今までのやり取りで、既に何かの確信を得ていたのだろうか。マミは静かに言葉を続けた。
「ここは地球という星の、日本という国。その中にある、見滝原という街よ。
 多分、聞き覚えのある名前じゃないんじゃないかしら?」
「んなこったろうと思った。確かに、全然知らない名前だね」
アクアも一つ頷いて、二人は同時に言葉を放った。

「ってーことは」「と、言う事は」



「あたしは、別の世界からここに来ちまった……ってこと、なのかね?」
「貴女は、別の世界からやってきた、ということ……なのかしら?」

それぞれにとって、衝撃的な事実を。

所変わって。


「おかしーですねぇ」
一人の男が、不審げに声を漏らした。
そこは不可思議な空間。とは言え魔女の結界ほどに理不尽な空間というわけでもなく。
殺風景で真っ白な空間が、どこまで続いているような場所。
その只中に立てられている柱も地面に突き立てられているわけでなく、中空に浮いたまま固定されていて。
男はその柱の上に座って、頬杖をつきながらなにやら手元の機械を操作している。

「奴等の反応が消えやがりました。今更奴等がメモリアを離れるとは思えねーんですけどねぇ?」
長い銀髪を揺らし、その青白い顔を怪訝そうに顰めた。大きく開けたその額には、不可思議な模様が刻まれていて。
「仕方ありませんねぇ。直接聞いてみましょうか」
諦めたように吐息を一つ吐き出して、男は再び手元の機械を操りだした。それをまるで携帯電話かのように耳元にあて、そして。


「聞こえてやがりますか、コルクマリーさん?」
――ああ、聞こえてるよ。大体用件もわかってる。
「そりゃ何よりですが、いちおー伝えておきます。奴等の反応が消えました。メモリアの方に何か動きはありやがりますか?」
――メモリアも同じだよ。突然彼らが姿を消したらしくて、城内は大騒ぎだ。
機械越しに、コルクマリーと呼んだ相手と言葉を交わして、男は首を傾げた。

「もしかすると、メモリアにとっても予想外の何かが起こりやがったのかも知れませんねぇ。
 何が起こるかわかんねーですし、貴方は引き続きメモリアの監視を続けていてください」
――いいのかい?彼らがいないなら、今は仕掛ける絶好のチャンスだと思うけど。
「ええ、メモリア魔方陣はどーしても開幕してもらわなけりゃなりませんからねぇ」
――そうだったね。わかったよ、また連絡する。
「頼みましたよ、それじゃあまた」
会話が打ち切られ、その手の機械を下ろした男の背後には、別の人影が浮かんでいた。

「……アダラパタ」
それは小柄な人影で、ローブを着込み、仮面をつけている。故にその姿形、顔立ちさえもうかがい知る事はできない。
ただその声が、歳若い少年のそれであることだけはわかった。

「おや、貴方から話かけてくるなんて珍しーこともあるもんですねぇ、クゥさん」
背を向くこともなく、アダラパタと呼ばれた男は答えた。
「ああ、そうそう。貴方達にも知らせておこーと思ってたんですよ。奴等が……」
「わかってる、彼等が消えたんだろう」
クゥと呼ばれた少年の声は、歳不相応なほどに落ち着いていて、どこか底冷えのするような声だった。

「おや、もう気づいてましたか。そーなんですよねぇ、奴等はメモリアから消えてしまいやがりました。
 一体何があったんでしょうねぇ?」
「メモリアから、じゃない」
感情を一切見せないその声に、アダラパタは訝しげに振り向いた。

「この星から、彼等の反応が消えたんだ」
「なん……だと?」
そして、その目を見開き驚愕した。

そして再び、話はマミの部屋へと戻り。

「それで大体納得がいったよ、道理で何もかも見たことが無いものばかりなわけだ」
異世界に来てしまったのだという事実。その衝撃から立ち直り、ようやくアクアは小さく頷いた。

「私達の知らない魔法、そして、まったく知らない大陸や国の名前。これはもう定番ってものじゃない!」
「……そういうもんかね?」
合点が行き過ぎて、なにやら興奮している様子のマミに、アクアは冷ややかな視線を向けて。
「そう言うものよ、おかげでアクアの正体も大体わかったわ。
 アクアは世界を脅かす大魔王デュデュマと戦う正義……っていうのはちょっとアレだけど、そういう魔法使い。
 どうかしら、結構いい線行ってると思うんだけど?」
一体何が琴線に触れたのか、マミは爛々と目を輝かせてアクアに詰め寄った。



「……それじゃ0章じゃん」
マテリアル・パズル第0章。ゼロクロイツ全9巻、現在好評発売中である。絶版はまだ無いはずである。多分。



メタい話はさておいて、アクアは呆れたように息を吐き出して。
「大外れだよ。大魔王デュデュマってのはね……おとぎ話さ。
 あたしらの世界じゃ誰だって知ってるおとぎ話。それを知ってりゃ、少しは話が通じるかと思ってね」
「そうだったの……ちょっと残念ね」
あからさまに落胆し、それでもマミはさらにアクアに問いかけた。
「さあ、これでそっちの質問には答えたわよ。今度は私の質問に答えて頂戴」
「あー、ケーキだけじゃなんかやっぱ腹は膨れないよねー、何かお腹空いちゃったよ。何か無いの、マミ?」
そんな言葉に耳も貸さずに、アクアはひょいとソファーに飛び乗り、クッションに顔を押し付けたまま横になった。

「ちょっと、アクア!」
「腹が膨れたら話すよー」
咎めるマミの声にも、ひらひらとその手を軽く振るだけで。
「わかった、わかったわよ!すぐに用意するから、食事を済ませたらしっかり話してもらうわよ」
ぎりぎりと歯噛みするものの、力押しで事情を聞ける相手でもなくて。
疲れたような表情で、マミはキッチンへと向かうのだった。

マミの姿がキッチンに消えたのを確認して、アクアはクッションから顔を上げた。
その顔は朱に染まっていて、額には汗が浮いていた。
いっそそれは病的で、アクアは苦しげに息を吐き出して。
「……丁度いい、や。説明するの、苦手なんだよ。後、頼むね……ティトォ」
何かしらを呟いて、その身体がクッションに突っ伏した。

「アクア、貴女何か食べられないものとかって……アクアっ!?」
そんなアクアの様子を、マミは見てしまった。
「ちょっと、どうしたの……アクアっ!?」
思わず駆け寄り、その額に触れる。思わず熱さを感じるほどにその身体は熱を帯びていて。

「酷い熱……一体どうしてこんな、っ。まさか!」
それを見たのは何かの映画だったろうか。地球に訪れた異星からの来訪者。
けれど彼らに待っていたのは、恐るべき死の定めだった。
地球ならばどこにでもいる風邪のウィルスであれど、彼らにとっては未知の病原体である。
それに対して一切の抵抗力を持たなかった彼らは、地球の土を踏むことなく潰えてしまったのである。
同じ事が、アクアの身にも起こっているのではないか。そう危惧したマミは、すぐさまその身を魔法少女のそれに変えた。

「しっかりして、アクア。今治療するから……っ!」
ぎゅっとアクアの手を握り、光のリボンでその身を包み、内部を魔力で洗浄した。
そうして出来た即席の無菌室で、アクアに癒しの魔法を振りかけた。
マミは癒しに特化した魔法少女ではない、けれどその魔法は、僅かにアクアの表情を和らげる事には成功していた。

「……ぁ、っ。は……ぁっ。いいよ、マミ。そんなこと……しなくて」
額に汗を浮かべ、ぎゅっとアクアの手を握るマミ。アクアは弱弱しくその手を振り払おうとして。
「バカ言わないで、このままだと貴女、死んでしまうわよ」
「死なない、さ。っ……あたしは、不老不死…なんだから」
途切れ途切れの苦しげな声で、それでもどうにか口元を笑みの形に歪めてアクアは言った。

「こんな時まで冗談言わないで!……回復魔法もほとんど効き目が無い。どういうこと?」
どれだけ回復魔法を注ぎ込んでも、すぐさまアクアの身体は死へと向かって滑り落ちていく。
まるでその身体には、元から抵抗力や免疫の類がまるで備わっていないかのようだった。
「だから、いいんだって、マミ。……説明できる奴に、換わるだけ…だ、か……ら」
そう力なく笑って、弱弱しくマミの手を握り返していたアクアの手から、力が抜けた。弱弱しく上下していたその胸が、吐息が、止まった。

「え………嘘、よね」
震える手を口元に添えて、マミは呆然と声を放つ。離されたアクアの手は、力なくだらりと垂れ下がって。


「死ん……だ」
魔法少女は常に死と隣り合わせである。それは自分の死でもあり、他人の死でもある。
それでもそれらは全て魔女の結界の中でこそ起こるべきことで、こんな場所で起こっていいものではなかった。

「何が、どうなってるのよ……本当に」
呆然と呟くマミのすぐ側で、それは起こった。

息絶えたはずのアクアの身体が、光を放って宙に浮く。
その手が、足が、身体中が光の中で、ばらばらに分解されていく。
同時に生じる、恐ろしい程の魔力の奔流。

「きゃっ……何、この…魔力はっ!?」
迸る魔力に弾き飛ばされ、マミは驚愕の声を上げる。
その間にも、事態は次々に進行していった。
ばらばらに砕け、小さな光の欠片と化したアクアの身体。それが再び渦を巻き、何かの形に作りかえられていく。
即席の無菌室を作り上げていた、マミのリボンを巻き込みながら。


その魔力の波動はマミの部屋のみならず、どこまでも広く伝播していく。
それを感じ取れる者はほとんどいないだろう。
だが、それを感じ取れる者にとっては決して見逃すことの出来ないものだった。

「……何なんだい、今の魔力の波動は」
「私にもわからないわ。けれどきっと只事では済みはしない。未来が大きく歪むのが視えるわ」
大気を響かせ、肌をぴりぴりと震わせるその波動に、落ち着かない様子の黒い少女。
その少女に、険しい目つきで椅子に座った白い少女が話しかけていた。



「なんだか、今日は大気が騒がしいね。やっぱり、今日はやめとくべき?」
震える魔力の声無き声が、少女の鼓膜を震わせた。
耳障りなその声に顔を顰めながら、少女は眼下に並んだ少女達を睨み付ける。
彼女達も同じように、耳鳴りを堪えるように耳元を抑えていたそれは。

「いいや、もう待てない。時間が無い。始めるよ――プレイアデス」
憎悪と狂気をその声に秘めて、彼女は眼下の少女達へと襲い掛かった。



まどかとさやかを送り終え、工事現場のタワークレーンの頂上から街を眺めていたキュゥべえにも
その魔力の波動は伝わった。
「尋常じゃない魔力だ。でも、これはやはり魔法少女のものでも魔女のものでもない。そしてこの反応は……星の」
呟く声とともに、その赤い眼が見開かれた。

「間違いない、彼女は……」

崩れたアクアの欠片が、別の形に再構成されていく。
それは質量保存を無視するかのように膨れ上がり、再び人の形を取った。
その形が定まっていくにつれ、光と魔力の奔流は収まっていく。そして遂に、一つ大きな炸裂と共に消失した。

後に残されていたのは、マミよりも少し背の高い少年の姿。

「あ………あぁ」
その少年は軽く辺りを眺めてから、呆然と立ち尽くすマミに小さく笑みかけて。

「はじめまして、ぼくはティトォ」
そう名乗るのだった。







そこは寂れたゲームセンター。今や訪れる人もなく、古びた筐体が寂しげに佇んでいる。
その中で唯一つ、光を放つ筐体があった。
三枚の液晶を抱えた、横長の筐体に備え付けられた長椅子に座っていた少女は
握っていたレバーから手を離すと、後ろに振り向き口を開いた。

「今のとんでもない魔力の波動、あんたの仕業?」
その赤い長髪を揺らし、好戦的な笑みを浮かべて、少女――佐倉杏子は問いかけた。

「いいえ、私にもわからないわ。……本当に、色々な事が起こるものね」
その声に、一つ小さな嘆息を漏らしてから、暁美ほむらは答えるのだった。


魔法少女マテリアル☆まどか 第2話
      『魔法少女ともう一人の魔法使い』
              ―終―

【次回予告】
アクアの死と共に現れた少年は、自らをティトォと名乗った。
彼の口から語られる、異世界の魔法使いの真実。差し迫る事情を背負った彼らは、元の世界へと戻るために動き出す。


「それが、その力が……魔法(マテリアル・パズル)」
「ぼく達には、あまり時間は残されていないんだ」


そしてそんなイレギュラーを抱えつつ、物語はあるべき姿へと進んでいく。


「二週間後、見滝原にワルプルギスの夜が来る」
「じゃあ、まずは実力を見せてもらおうじゃないの」


そして再び少女達に危機が迫ったその時。


「仁美ちゃん……どうして?」
「これが……貴方の、罪?」


もう一つの魔法が、眼を覚ます。



「――マテリアル・パズル、ホワイトホワイトフレア」


次回、魔法少女マテリアル☆まどか 第3話
                 『たい焼きとハコの魔女』

実は地味に修正してたりします。
アイドルネタは完全に思いつきですが、うっかり出せたら面白そうだなあという思いも。

>>22-23
ありがとうございます。
これからも笑いと感動に溢れたのんびりほのぼの熱血青春ギャグラブコメディーを書き続けて行きたいと思います。

甘党の高校生から一言。
『騙されるな!!これはひどい詐欺だ!!!』

彗龍一本乙
俺得マテパSSだ

おもしろい!
神無神無を待ちながら楽しませてもらっています

0章終わってたのか
なら本編が始まるな、長かった
久しぶりにガンガン買うかな

乙!面白かった
途中に色んなキャラが出てきてワクワクしたわ
あとQBの目的とか考えるとどうなるんだろうな…
そして甘党の高校生にはパン屋さんの作ったクリームパンをあげよう

>>53
作者が入院したりもしててまだ4章は始まってない
でもBBBも面白いよ

乙!
1人ずつしか出られないTAPを展開の速いまどマギのストーリに
どううまく絡めていくのか楽しみにしてます。

>>54
冒険王ビィトの二の舞にならなければいいが・・・・・

マテリアルはフェアリーテイルとも相性良さそう。魔法の原理はまったく違うけど・・・・・

さて、本日も投下します。
またしても今更ですが、このお話はバトルが多めです。

そして今回は、完全に趣味回です。
では、参りましょう。

第3話 『たい焼きとハコの魔女』

「それで、一体あたしに何の用なんだい?あたしの縄張りを分捕りにでもきたってわけ?」
傍らの袋からたい焼きを取り出し、それを頭から頬張り杏子は言った。
ちなみに、基本的に筐体では飲食は厳禁である。よい子のみんなは絶対に真似をしないように。

「そのつもりはないわ。佐倉杏子」
杏子の鋭い視線を真っ直ぐに受け止め、表情を変えずにほむらは答えた。
対して杏子の顔に浮かんだのは、疑念と不信。

「……どこかで会ったっけ?名乗った覚えはないんだけどね」
訝しむ杏子の様子を気にもかけずに、ほむらは更に言葉を続けた。

「二週間後、見滝原にワルプルギスの夜が来る」
ほむらの言葉に、杏子はたい焼きに伸ばしていた手を止めて。
「なんでそんな事がわかる?ってゆーか、それをあたしに知らせてどうする?見滝原は巴マミの縄張りだ」
そう、この街は見滝原ではなく、その隣街の風見野で、この街は既に杏子の魔女狩りの縄張りとなっていた。

「理由は秘密。そして、巴マミではワルプルギスの夜を倒す事はできない」
「で、あんたは一緒にワルプルギスの夜を倒そうって、わざわざあたしを誘いに来たわけかい?
 巴マミに唆されてさ」
不信感を滲ませていた杏子の表情に、確かな不快感と怒りの色が混じった。
その表情は、彼女と巴マミとの間に何らかの確執があることを明確に示していた。

「それも違うわ、私はただ奴を倒したいだけ。その為には、貴女の力を借りるのが一番確実と判断したまでよ」
相変わらずほむらの表情は揺るがない。そんな様子に杏子は、小さく一つ鼻を鳴らして。
「巴マミだって、魔法少女としてはベテランだぜ。あたしに勝るとも劣らねぇ」
「よく知ってるわ。それでも、貴女と手を組むのが一番いい」
軽く眼を伏せ、ほむらは更に言葉を続けた。

「ワルプルギスの夜は結界で身を隠す事なく、直接見滝原に現れる。
 間違いなくその戦いでは街に大きな被害が出る。それを無視して戦えるほど、巴マミは非情にはなりきれない」
「……本当に、いろいろよく知ってやがるんだな」
杏子は驚いたように眼を見開いて。
「でも、絶対に巴マミはちょっかいを出してくるぜ。ワルプルギスの夜と巴マミ、三つ巴なんてのは御免だよ?」
「彼女には、私が話をつける」

そして、どちらもぱたりと言葉が途切れ、睨み合う両者。
やがて杏子は一つ、納得したように頷いてから。
「大体の合点はいった。あたしはワルプルギスの夜のグリーフシードさえ手に入ればそれでいい。
 あれだけの魔女だ、さぞかし溜め込んでるだろうしな」
再びたい焼きに手を伸ばし、それを頬張りほむらを睨み。

「でも、あたしはまだあんたを信用できない。だからさ」
キン、と一つ小さな澄んだ音。
それは杏子の指に弾かれた硬貨の音で。くるくると宙を舞うそれを掴み取ると、背後の筐体の投入口へと叩き込んだ。

「腕を見せてもらおうじゃないさ」
始まったのはゲームではない。その筐体が、内側から裂けるようにして割れた。
そしてその中へと、ほむらと杏子は吸い込まれていった。
そう、それは魔女の結界。杏子がここにいたのも、この筐体だけが動いていたのも偶然ではない。
全ては魔女の存在あってのことだったのだ。


          ♪
                     ♪

   ♪  ah         ah
                ah
――ah―  ah――ah        ah――
                  ah   ♪

    ♪        ah       
                 ♪


「歌?……海で歌たぁ、さしずめここの魔女はセイレーンってとこか?」
「恐らく、そんな可愛らしいものではないわ」
聞こえてくるのは歌うような、独特の戦慄の声。それは微かな女性の声で。
そこは四方を透明な壁に囲まれた空間。その壁の向こうには、青く透き通った水が広がっている。
そしてその中を、魚の様な姿をした使い魔が泳いでいた。
魚の様とは言いもするが、その下半身は人間のそれに近く、泳ぐといってもバタ足なのだから格好がつかないものである。

「ここの魔女を倒せば、私を認めてくれるのかしら?」
「ああ。と言っても、あたしもみすみす獲物を逃すつもりはない。
 足手まといにならない程度に使えてくれりゃあ、一応信じてやるよ」
杏子の姿が魔法少女のそれとなり、その手に真紅の槍が生じる。
それを頭上でぶんと一振りし、そのまま真下に突き立てた。
その場所から足元の壁に、そして周囲を取り巻く壁全体に、ひび割れが広がっていく。

「それなら話は早いわ。さっさと片付けましょう」
ほむらの姿が変わると同時に周囲を覆う壁が砕け、大量の水が流れ込んできた。
その勢いに流され、押され。それでもすぐさま体勢を整えると、二人は迫る使い魔の群れを視界に捉えた。

「お……っせーんだよぉっ!」
その水は実際のそれはと違うようで、呼吸や言葉を妨げはしない。
ただその動きを妨げるには十分で、足場のない場所では、接近戦が主体の杏子には不利にも見えた。
だが魔法少女の持つ力は、その程度の不利を難なく覆す。
魔法によって生み出した足場を踏みつけ、勢いをつけて跳ぶ。
足場はそのまま真下から迫る使い魔を防ぐ壁として、振りかざした槍で頭上から迫る使い魔の群れを薙ぎ払った
「まとめて捌いて下ろしてやるよ、どんどんかかって来な!」

そしてほむらは、水中に静かに浮かんで佇んでいた。
それを格好の獲物と見たのか、使い魔達が群れを為して襲い来る。
その群れをギリギリにまで引き寄せて、ほむらの姿が掻き消えた。
直後、使い魔の群れの中心で起こる巨大な炸裂。破片や熱によるダメージは水に遮られて完全に減殺されている。
しかしその衝撃は大気中よりも疾く水中を駆け抜け、殺到していた使い魔の群れを打ち砕いた。
「この状況では重火器の類は使えない。それでも、戦うには十分よ」
その炸裂の範囲外で、ほむらは魔力で防水加工を施した銃から弾丸を放ち、撃ちもらした使い魔を撃ち抜いていく。

「あらかた片付いたか。さて、そろそろ魔女のお出ましか?」
半魚人とでも言うかのような使い魔の群れをねじ伏せ、杏子は更に結界の奥へと視線を向けた。
それは更なる深みへと続いていて、見通す先では光も薄く、暗闇の海が広がっていた。

「いいえ、まだよ」
その仄暗い水の底から、高速で少女達に迫る影。それは無数の節からなる身体を持った異形の海蛇。
それはまさしく水中を滑るように駆け抜け、二人の頭上を追い越した。

「かなり速いな。ちぃっ、突っ込んでくる気かっ!」
頭上を通り越した海蛇はそのまま旋回し、自らの身体を弾頭と化して杏子に迫った。
回避も困難。迎え撃つしかないと覚悟を決めた杏子の眼前で、海蛇の周囲で無数の爆発が巻き起こった。
激しい水泡が湧き上がり、その中に海蛇の姿が消える。そして再び、離れた場所にほむらの姿が現れた。

「あんたの仕業?不思議な技を使うもんだね」
「信用する気になったかしら?」
「さあ、どうだかね?」
不敵な笑みを浮かべ、杏子がそう言った直後。
水泡の渦を貫いて、全身に無数の傷を刻んだ海蛇が、杏子目掛けて再度突撃を敢行した。
水泡にその視界を遮られ、杏子の回避は一瞬遅れた。その一瞬が命取りとなる。
海蛇は杏子を掠めるように突撃し、そのままその長い身体で杏子の身体を絡めとり、締め付けた。

「がっ……は、ぁ」
全身を恐ろしい力で締め上げられ、杏子の口から苦悶と共に水泡が漏れた。

「杏子っ!」
ほむらの顔にも焦りが見える。杏子が囚われたままでは、先ほどのような爆発による攻撃は行えない。
「……へっ、心配すんなっての。あたしが、このくらいでくたばるかよ」
みしみしと悲鳴を上げる身体、それでも杏子は握り締めた槍を離さなかった。
堅く強く握り締められたその槍は、その柄を無数の節へと分割させた。
分割された節の一つ一つが、まるで意思を持っているかのように分たれ、そして動き。その槍の穂先を幾重にも翻らせた。
一閃。そしてまた一閃。光が通り過ぎて一秒の後。
杏子の身体を締め付けていた海蛇の身体が、その節ごとにばらばらに切り刻まれて消えていった。

――Close your eyes――

蒼海の最中、大気中よりも遥かに響くその歌は続く。
――Close your head――

その歌をBGM代わりにして、二人の魔法少女が魔女の生み出した海の、更なる深みへと潜っていく。

「そろそろ最深部へ到着するわ。気をつけて」
「わかってるよ、この魔力のでかさ、かなりの大物だな」

そして迫り来る使い魔を次々に打ち倒し、遂に二人は魔女の結界の最深部へと到達する。
いつしか水ばかりであった周囲の景色も、ごつごつとした岩場へと変わっていった。
突如として鳴り響く警告音。それと同時に赤き光が海を照らし、蒼海を血の如く朱に染める。

「何か来るな。……こいつは」
せり上がってきたのは、まるで液晶の画面のような何か。
そしてそこに浮かび上がってきたのは、水の揺らぎに奇妙に歪んだような文字。

+
マテパとはまた珍しいものをwwwwww



テンションあがってきたぜぇえええええええ






―――THE WHICH OF RUMBLING SEA―――



           G.N.CLARISSA



  ―――IS  APPROACHING FAST!―――

現れた文字の、その画面の裏側を。巨大な何かが横切った。

「来るわ」
「ああ、わかってるっ!」
それは画面の向こうで深海を優雅に回遊していた。
この海には、それを邪魔する者は誰もいないはずだった。けれど今、恐るべき侵入者がこの静寂の海に侵入している。
平穏と静寂、それを乱そうとする侵入者を排除せんがため、魔女がその巨躯を翻した。
再び画面の向こうに映る巨大な影。遂にそれは、画面を打ち破り現れる。

『ユオ゛オ゛オ゛オ゛ォォォォォォン!!』
異形なる雄叫びと共に現れたそれは、巨大な鯨。海鳴の魔女『グランデ・ノワール(大いなる漆黒)・クラリッサ』の姿であった。
そしてその出現と共に、朱に染まった海が漆黒のそれへと姿を変えていく。

「デカブツが、さっさと切り身に……してやるよっ!」
魔法で生み出した足場を踏みつけ加速して、杏子は一気に魔女との距離を詰める。
そして気合一閃。魔女の鼻先に鋭い槍の一撃が突き刺さる。
「……こいつっ!?」
だが、その一撃をものともせずに魔女はその身を翻す。
その勢いに負け、魔女の身体より槍は振りほどかれ、その勢いのままに杏子の身体が投げ出された。
吹き飛ばされた先には鋭く尖った岩塊。直撃すればただではすまない。

「っ……舐めんなぁっ!!」
言葉と同時にかざした手から、生じたのは真紅の帯。
それは真っ直ぐに岩場へと伸び、そして絡みつく。更に杏子の身体を絡めとり、その勢いをどうにか減殺した。
だが、その頭上に迫る巨大な影。魔女がその巨躯を弾頭と化して、杏子を押し潰さんと迫っていた。
だが、その眼前で生じる無数の爆発。それも一つや二つではない。
同時にいくつも生じたその爆発が、魔女の虚を突きその動きを押しとどめた。

「油断しないで、奴の相手は一筋縄ではいかない」
そしてそれと同時に、ほむらの姿が杏子の側に現れた。
「どうやら……そうらしいな」
体勢を整えると同時に帯をかき消し、再びその手に槍を構えて杏子が吼える。
対する魔女は当然のように、水泡の中から再びその巨躯を見せる。そしてその大口を開き、再び咆哮した。

「余裕ぶってんじゃねぇっ!!」
杏子は再び跳躍し、魔女へと踊りかかる。
ほむらの姿はそのまま掻き消え、次いで魔女の周囲で再び無数の爆発が巻き起こる。
湧き上がる水泡の向こうに僅かに見える魔女の姿を目掛けて、再び杏子は槍を振りかざした。



切り結ぶこと数十合。
杏子は魔女に肉薄し、その巨躯による突進や口から吐き出される衝撃波や
体内で生成された追尾性能を持つアンカー状の弾丸といった攻撃を、どうにか回避しつつ矢継ぎ早に魔女に斬撃や刺突を加えていく。
ほむらもそんな杏子の意を察し、巻き込む危険のある爆発による攻撃は避け、銃撃を加えていく。
即席とは言え、そのコンビネーションは悪くはない。というよりも、杏子が銃の使い手と共に戦う方法を熟知している。
そしてほむらもまた、杏子の戦い方を熟知している。
お互いがお互いの戦い方をよく知っているがため、自然にそうなっているようでもあった。

「このまま削りきれば……なんとかなるかね。
 ったく、これでグリーフシードもいいのをくれなけりゃ、割に合わないってもんだね」
「……望み薄だと思うけど」
「やりきれねぇ……なぁっ!!」
振りかぶった槍で深々と魔女の背に大きな裂傷を刻み込み、そのまま魔女の身体を蹴飛ばし、距離を取りなが杏子が叫んだ
戦況は始終二人に有利に進んでいる。このままいけば、時間はかかれど押し切る事は出来るはず。杏子はそう確信していた。
だが、魔女もそうは甘くない。

『ユオ゛オ゛オ゛オ゛オ゛ォォォォン!!』
全身に無数の傷を刻まれ、そこから漆黒の血を流しながら、再び魔女は咆哮した。そしてその鼻先にぽっかりと大きな穴が開く。

「何しようってんだか知らないけど、そろそろ終わりにさせてもらうよっ!」
動きの鈍った魔女を目掛け、杏子は渾身の一突きを叩き込んだ。
しかしその一撃は、その穴から吐き出された何かによって食い止められていた。
渾身の一突きでも貫く事のできない、堅く鋭いそれは。

「ドリ……ル?」
そう、ドリルである。正確にはその弾頭をドリルと化したミサイルのような物、ドリル弾とでも言うべきだろうか。
ドリルであれば当然それはそのエッジを高速回転させるもので、食い込んだ槍の穂先を巻き込んで、エッジの回転が始まった。
「なっ……うぁぁっ!?」
咄嗟に槍を放すのも敵わず、その回転に巻き込まれて杏子の身体がぐるぐると振り回され、そのまま吹き飛ばされてしまう。
放たれたドリル弾はそのままほむら目掛けて飛んでいく。

「あれは……っ」
ほむらの顔にも焦りが浮かぶ。それと同時にその姿が掻き消え、遥か遠くにその姿は移動していた。
同時にいくつも放たれる銃弾がドリル弾に喰らいつく。けれどそのどれもが高速回転を続けるエッジの前に阻まれて。
阻止することも敵わず直進を続けたドリル弾は、一際巨大な閃光と衝撃を伴い爆散する。
その衝撃は、離れた場所にいたはずのほむらにまで到達し、激しい衝撃が彼女の身体を揺さぶり、そして吹き飛ばした。


盛大に沸き立ち、狂ったように暴れる漆黒の海。その只中で。

『オ゛オ゛ォォォン……』
勝ち誇るかのように、魔女は短く咆哮した。
だがその声が海の最中に消え行くより早く、超高速で射出されたそれが魔女の顔面に突き刺さり、再び大きな爆発を巻き起こした。

「備えあれば、ね。まったく」
纏わりつく水泡をまとめて払い、その身に少なからぬ傷を負いながらほむらはそう呟いた。
「でも、まだ足りない」
再び沸き立つ漆黒の海。水泡の壁の向こうで、巨大な影が蠢くのが見えた。
それはまだ、魔女は力尽きてはいないということで。

「今度は何しやがったんだ、あんた」
圧し掛かっていた岩をまとめて吹き飛ばし、ようやく再起した杏子が尋ねる。
これまでの戦いを経てほむらの戦い方をある程度理解し始めていた杏子にとっても、今の一撃は予想外に強烈なものだったのだ。

「魚雷よ。一応用意しておいたのだけど、まさか役に立つとはね」
「……どっから持ってきたんだよ、それ」
「それも秘密」
相変わらずの態度のほむらに、杏子は呆れたように一つ息を吐き出して。

「何にせよ、そろそろ決めないとまずいね。……あんた、今の魚雷はもう打ち止めかい?」
「何をする気?」
「決まってんだろ、叩っ斬んだよ」
槍をぎゅっと握りなおし、その穂先を水泡の向こうへ向けて、不敵に笑って杏子は言った。

魔女はその身を一度大きく旋回させると、その身がその尾が視界を覆う水泡を打ち払う。
そしてその先にいる敵の姿をその視界に捉えた。
その魔女の巨躯からすれば、相対する少女の存在はあまりに矮小。
そんな矮小な存在に、ここまで自分が追い詰められているという事実。それは魔女にとっては耐えがたきものだったのだろう。
激昂し、咆哮と共に迫り来る。それは杏子にとっては絶好の好機だった。

「一発勝負だ、後は任せな」
ほむらがその手についた盾をかざすと、どこからともなく再び魚雷が現れた。
魔法によってその機能を強化された魚雷は、すぐさま超高速で魔女へと向かっていくだろう。
その直前に、杏子はそれに飛び乗った。更に赤い帯で、その足を魚雷に固定した。
直後魚雷は放たれる。猛烈な加速度が衝撃となり、杏子の身体を襲った。

「上……っ等ぉぉぉっ!!」
全身にかかる衝撃でその身がみしみしと軋む、それでも杏子の表情にあるのは、純粋に戦いを楽しむ不敵な笑みだった。

一直線に迫る魔女へ向け、魚雷は一直線に打ち出された。このままそれが炸裂すれば、杏子ともども粉微塵である。
そして当然、そうはならない。
正面から衝突するはずだった魚雷は、不自然にその軌道を捻じ曲げる。
そして丁度魔女の横を擦過するかのようなコースをとった。急な動きに魚雷も杏子の身体も、共にみしりと悲鳴を上げる。
それでも杏子は、手中の槍を握り締め、振りかざし、そこに更なる魔力を込めた。
込められた魔力の量に比例するかのように、その穂先が巨大な刃と化して、音速に近い速度を持って魔女の身体に食い込んだ。



「お……っらぁぁぁぁッ!!」
『ユオ゛オ゛オ゛オ゛ォォォォォン!!』


杏子の怒号と、魔女の苦悶の声が交差する。
そのあまりの衝撃に、槍の柄が、穂先がひび割れそして砕けていく。
その一片までもが粉微塵に砕けようとするその瞬間に。



赤い閃光が一筋、魔女の身体を両断して駆け抜けた。



『ユオ゛……オ、オォォォ』
両断され、多量の漆黒の血をブチ撒けながら、力を失った魔女の体が沈んでいく。

「ったく、手間ぁかけさせやがって」
魚雷から飛び降り、槍を振るって岩場に降り立ち、杏子は吐き捨てるように言った。
乗り捨てた魚雷は遥か彼方へと飛んでいき、そして炸裂する。
まるで水槽のガラスが割れたかの様に、漆黒の海を構成していた液体が流れ出していく。
魔女が潰えたことで、その結界もまた終わりを迎えたのだった。

漆黒の海は全て流れて消え去り、そこには再び朽ち果てたゲームセンターの景色が戻ってきた。
先ほどまで唯一動いていた三画面の筐体も、その内に巣食う魔女が失われた事により、その機能を失った。
最後に一度、その画面にでかでかと『GAME OVER』という文字を残して、その画面から光が消えた。

「……ほんと、割に合わないね」
機能を停止した筐体の、そのコイン返却口に突き刺さるようにして収まっていたグリーフシードを摘み上げて
うんざりしたように杏子が呟いた。
そのグリーフシードは、あの魔女の手強さからすればあまりにも物足りないものだった。
魔法少女がその力を行使する時、その代償としてソウルジェムは穢れを溜め込む。
それはまるで煤のようにソウルジェムの内に溜まり、その輝きを鈍らせる。それのみならず、生み出される魔力さえも減じてしまう。
魔女を生み出す卵であるグリーフシードは、それであると同時にその穢れを除去するためのものでもあったのだ。
そして今生み出されたグリーフシードは、今回の戦いで消費した魔力を補うには、あまりにも不十分なものだったのである。

「一応、山分けってことにしとく?」
指先で摘んだグリーフシードを、ほむらに見せ付けるようにして杏子が言った。
「いいえ、それは貴女がとっておけばいい」
「……ま、これじゃ山分けするにも物足りねえか。じゃあこのまま使わせてもらうよ」
そっけないほむらの言葉に、小さく鼻を鳴らして杏子はグリーフシードをしまいこみ、そして。

「あんたが何を考えてるかはともかくとして、腕は確かみたいだね。
 あたしとあんたの二人がかりなら、確かにワルプルギスの夜でも倒せるかもな」
見定めるように、それでいてどこか面白そうにほむらを見据えて、杏子は唇の端に不敵な笑みを浮かべた。

「それは、こちらの提案を呑む、ということでいいのかしら?」
「そういうことだな、っと。それじゃ流石に名前も知らないままってのは不便だ。
 あんたが何であたしの名前を知ってるのかは知らないけどさ、今度はあんたの名前、聞かせてよ」
杏子の言葉に、ほむらは肩にかかった髪を払って静かに一言。
「暁美ほむらよ。ほむらでいいわ」
「そうか、じゃあよろしくな、ほむら」
杏子はその唇の笑みを深くし、筐体におきっぱなしになっていたたい焼きの袋を掴み取り、何かに気づいたかのように顔を歪めた。

「あんたも食うかい……って思ったけど、さすがにあんな魔女とやりあった後で、これを食うってのも何だな」
軽く肩を揺らして苦笑する杏子。そんな杏子を尻目に、ほむらは真っ直ぐその手を伸ばし。

「いいえ、頂くわ」
無造作に袋の中に手を伸ばすと、たい焼きを一尾掴み取り、その頭から齧りついた。
恐らくすっかり冷めていて、お世辞にも美味しいとは言えないであろうそれを。

「……へっ」
そんなほむらの様子を見て、杏子はその笑みを更に深めるのだった。

では本日の更新はここまでということで。

気がついたらTAITO回でした。
杏子とほむらの共闘とかも書いてみたかったところもあり、ですかね。
マテパドコーなお話でした。

>>51
貴方にとっても私にとっても得な話になりますように。
そう願って書いていこうと思います。

>>52
正直これが終わるまでに何らかの情報が出てくれれば……と本気で思います。

>>53
54さんが代弁してくださいましたが、正直そう言うことです。
未だに4章の音沙汰はありません。一応清杉ろ6巻でちょこっと情報は出ましたがね。

>>54
第1章の内は出来るだけ登場キャラを絞っていきたいとは考えています。
それでもいろんなキャラを匂わせておくと、後々思わぬところで拾えそうなのです。
ふふふ、それはもちろん色々と考えておりますとも。QBもなにやら思うところはあるようです。

ああ、清村くんがすごいいい笑顔でクリームパンにぶっ飛ばされてる姿が見える。

>>55
色々考えてはおります。そしてそれゆえのバトルバトルまたバトルなお話になりそうな予感もします。

>>56
土塚さんのご健康をお祈りしております。マジで。

>>66
今回はマテ……パ?な回でしたが
次回更新はちゃんと話が動いてくれると思います。ご期待ください。

もう立て直してたのか


>>66をみて思ったが
ドルチルが魔法少女になったら
魔女化させるのも永遠にさせないのも自由自在な気がする

乙です。
マテパが大好きなので応援してます。

眠い、けど今が投下するチャンスだ!


いきます。

「ティ……トォ?」
アクアの死と共に、入れ替わるようにして現れた少年――ティトォに、マミは呆然と言葉を放つ。
それから数秒の後、ようやく我に返ったようにティトォに詰め寄った。
「一体何がどうなっているの?貴方は誰なの?アクアは一体どうしたの!?」
その剣幕に、ティトォは少し困ったように苦笑して。
「あー……ちょっと、待ってくれるかな」
詰め寄るマミを手で制し、とん、と指先を軽く自分のこめかみに当てる。
何事かを思索するかのような顔をして、それから軽く頷いて。

「……うん、なるほど、そう言うことになってたわけか」
神妙に呟くと、ようやくマミへと視線を向けた。
「待たせてごめん。巴マミ、だったよね?」
出会ったばかりの少年が、自分の名前を知っている。驚き僅かに眼を見開くマミに、ティトォはそのまま言葉を続けた。
「まずはアクアの事だけど、それなら大丈夫だ。
アクアは今ぼくの中で眠っているだけだから、また後で会えるよ。だからまずは、落ち着いて話を聞いて欲しい。
アクアの代わりに、ぼくが君の質問に答えるから」
落ち着かせるような口調のティトォに、マミの表情から少しだけ不信と驚愕の色が薄れた。
それを見て取って、ほっとしたようにティトォは息を吐き出して。

「長い話になるけど、大丈夫かな?」
「それじゃあ、先に腹ごしらえを済ませてしまいましょう。元々そうするつもりだったの。
 ティトォは、何か食べられないものとかあるかしら?」
そうと決まれば行動は早い。マミは早速中断していた料理の続きにとりかかろうとしていた。
「……なんだか、いきなりお世話になっちゃってるね、ありがとう。
 特に食べられないものはないから、気にしなくていいよ」
「わかったわ、それじゃあ少し待っていてね」
そしてキッチンに消えたマミの姿を見送って、ティトォは改めて部屋の中を見渡した。
可愛らしい小物やインテリアの多い、実に女の子女の子した部屋である。

つい先日作者が劇場版を見ていなければ、きっとこの部屋はもう幾分か閑散としていた事だろう。

「……なんか、落ち着かないな」
そんな部屋で、椅子に腰掛けティトォは呟いた。
そして思いついたかのように、アクアが下げていたバッグから何かを取り出した。
「うん、やっぱりこういう時はこうするに限るや」
などと呟いて取り出したそれは、紙とペン。辺りを見渡し、壁際においてあったくまのぬいぐるみをその視線に捉えると。
そのまま紙になにやらペンを走らせ始めた。

熱中する事十数分。手早く二人分の食事の用意を済ませてマミが戻ってくると、そこには。
「……うん、できた。結構いい出来なんじゃないかな」
なにかしらを書き上げて、自信気にそれを見つめているティトォの姿があった。
その姿はまるで子供のようで、自分よりもいくつかは歳が上であろうティトォのそんな様子に、思わずマミは小さく笑みを浮かべた。

「何を書いていたのかしら?ティトォ?」
「うわっ!?……あ、ごめん、マミ。ちょっとね、絵を描いてたんだ。ただ待ってるだけってのも退屈だしさ」
「絵を描くのが趣味なのかしら。上手く描けてる?」
ひょい、と覗き込もうとしたマミの視線を遮るように、ティトォがノートに覆いかぶさった。
「あー……うん、気にしない気にしない。そんなことより早く食事を済ませて、本題に移ろう」
その口調は、どう見ても誤魔化そうとしている魂胆が見え見えである。当然、マミにもそれはわかっていて。

「ええ、そうね。でも……その前、にっ!」
一度テーブルに皿を置き、離れるようなふりをして。一気に距離を詰めてそのノートに手を伸ばした。
「あーっ!?だ、ダメだってそれはまだ書いてる途中で……」
ノートを取られたティトォが、すぐさま慌てて取り返そうとするけれど、時既におすし。いや、遅し。
そこに描かれたなにかしら、恐らくぬいぐるみであろうそれを見て、マミの表情が固まった。

「ティトォ?これ、何かしら。魔女?」
「……うん、わかってるんだ。やっぱり上達しないんだよなあ」
そこに描かれていたのは、身体のバランスがどえらく崩れ、なぜか右手だけが異様に大きな奇妙な生き物。
おまけに顔はなぜか全てのパーツがえらく中央に寄っている。
とてもではないが、くまというにも無理がある。マミが魔女と間違えたのも無理からぬ出来であった。
ティトォもそれを理解していたようで、諦めたような、哀しそうな笑みを浮かべて呟くのだった。


「……えっと。何か、ごめんなさい。さ、さあ。食事にしましょう、ね?」
「あ、うん。そうだね……」
なんとなく空気が重いなか、いただきますの声が二つ重なった。


食事は何事もなく、どこか重い空気を引きずったまま終わる。
けれど腹もくちくなれば、自然とそんな空気も吹き飛んでしまうもので。
「ごちそうさま。……さて、それじゃあそろそろ本題に入ろうか」
幾分か緩んでいた口元を正して、ティトォがそう切り出した。
「それで、マミは何が聞きたいんだい?多分、大抵の事なら答えられると思うけど」
切り出したティトォに、マミは先に食器を片付けようかと考えたけれど、ひとまずそれは思い直して。

「そうね、聞きたいことは沢山あるけれど、とりあえず4つくらいかしら」
軽く息を整えて、続けざまに問いを投げかけた。


「まず一つ、貴方達は何者なの?アクアはどうしたの?」


「二つ、魔法使いといったけれど、それはどういうものなの?私達魔法少女とは違うようだけど」


「三つ、貴方達は何故、この世界に来てしまったの?もしかしたらこれは、貴方達にもわからない事かもしれないけれど」


「そして四つ……簡単なものだけだったけれど、お口にあったかしら?」
最後に一つ、冗談っぽく付け加えてマミは笑った。混乱は過ぎ去り、その表情にも幾分かの余裕が見て取れた。
そんなマミの言葉をひとしきり聞き終えて、ティトォは軽く頷くと。


「それじゃあ、まずはぼく達の話からしようか。
 ……簡単に言うと、ぼく達は一つの身体に三つの魂を共有している。ぼくとアクア、そしてもう一人。
 そしてぼく達は死ぬたびに表に出てくる魂が入れ換わるんだ。さっきみたいにね」
「一つの身体に魂が、三つ。ちょっと俄かに信じられない話だけど……でも、目の前で見せられたのも事実なのよね」
魂、という言葉にもいまひとつピンと来ない。
今のマミには少なくともそうで、どうにも釈然としない表情でそう返すのだった。

「信じられないのなら、今すぐここでもう一度換わって見せてもいい。
 少なくともこれを信じてもらわないと、この先面倒なことになりそうだからね」
対してティトォは事も無げにそう言うと、静かな瞳でマミを見つめた。
その瞳は人形のようで、そこには感情らしい色はあまりにもおぼろげにしか見て取る事ができなかった。
けれどその瞳は、言葉以上に雄弁にそれが事実なのだ、とマミに訴えかけていた。
「……それって、死ぬってことでしょう?さっきのアクアの時みたいに。
 たとえ換わるにしても、目の前で人に死なれるのは気分が悪いもの。信じる、ということで話を進めましょう」
そんなティトォの口ぶりに、ぞくりと背筋に嫌なものが走るのを感じながらも、マミは努めてそれを表に出さないようにした。

「でも、死ぬたびに入れ換わっているんじゃ、まるで死なないみたいじゃない」
ふと、頭に浮かんだ疑問をマミが口にすると。ティトォは少しだけ眼を細め。
「その通り。三人で一つの身体を共有するようになってから、ぼく達は不老不死になった。
 歳を取る事もなく、死にながら、入れ換わりながら生き続けているんだ」
小さく息を呑む声が聞こえて、そして。

「……一体、どれだけの時間を、そうして過ごしてきたの?」
恐る恐ると、マミは問いかけた。


「大体百年くらいかな。三人で過ごすにしても、長い時間だったよ……って、マミ?」
僅かな感慨を込めて呟いたティトォだったが、マミの表情に思わず訝しげな声をあげた。
その表情は、なんというか。
「……え、あ、いえ。なんでもないのよ。百年も生きてるなんて、確かにすごいわね。
 別に何千年とか何万年とかかと思ってたから、ちょっと拍子抜け……なんてことはないのよ、ええ」

微妙、な感じであった。
今日び物語を漁ればいくらでも不老不死の話は出てくるのである。それこそ何千何万という恐ろしい単位の話だっていくらでもある。
それに比べてティトォの語る、百年という時間はどうにも現実味があるようで、微妙に物足りなさを感じる年月であったのだ。
というか、三等分すれば33年とちょっと、別に大したことでもないのでは、とうっかり思ってもいたらしい。

「え、ええと。話を続けましょう。それで、一体何でそんな不思議な身体になってしまったのかしら。
 当然、何か理由があるはずよね?」
取り繕うように曖昧な笑みを浮かべてマミが言う。ちょっと調子が狂うな、と苦笑しながらティトォは答えた。

「それを説明する前に、マミ。この世で一番強い魔法って、何だと思う?」
「それは、何かこの話と関係があるのかしら?……そうね、一番強いとなると何かしら。
 一切の攻撃を封じる盾とか、なんでも切り裂く剣だとか。
 ああ、でも時間を操作したり、いっそ概念を操作して世界を変えてしまうなんていうのも……」
あれやこれや、マミは最強の魔法とやらを考えているようで。なにやらメタい話まで出始める始末である。
そんな様子に更に苦笑を深めながら、ティトォはそれを遮って。

「この世界ではどうかはわからないけど、ぼく達の世界では存在魔法、それが何より強い魔法なんだ」
「存在魔法?」
「そう、草にも木にも、鉄にもアメ玉にも、そして大地にも、あらゆる物に魔力が宿っている。
 大地がその存在を許しているから、ぼくらはここに存在していられる。それが存在魔法」
表情に困惑を浮かべ、首をかしげているマミに、ティトォは更に言葉を続ける。

「昔、ぼく達は死にかけたことがあったんだ。でも、ぼく達はまだ死ぬわけには行かなかった。
 だから、あらゆるものの存在を司る力。その結晶体に、三人の魂を移したんだ。
 そうすることで、何とかぼく達はその命を繋ぎとめることができた」
何故だかいつしか、マミは眼を輝かせて話に聞き入っていた。その手の話が好みなのだろうか。
「だけど、その代償としてこの死ねない身体が残されてしまった。
 そして、この存在の力を狙う敵と戦う運命を背負うことになったんだ。
 ぼく達が使う魔法は、そういう敵と戦うために生み出した力なんだ」
ティトォが語るその言葉、そして彼らの背負った運命は、マミに魔法少女のそれを想起させるには十分すぎるもので。

「貴方達にも敵がいるのね。私達と同じように、戦うべき、敵が」
境遇は違えど、背負った運命は戦いのそれ。
近しき運命を背負った相手に、何かしらの親近感を抱き始めていたのだろうか。
「うん。そしてぼく達には、あまり時間は残されていないんだ。
 どうにかして元の世界に戻って奴らを止めないと、ぼく達の世界は大変なことになってしまう」
とは言え、戻る方法など思いつきもしない。内心の焦りを堪えつつ、ティトォはマミにそれを告げた。
その言葉を聞き終え、噛み締め。マミは一度瞳を伏せてから、小さく頷くと。


「私に何ができるかわからないけれど、私にも協力させてもらえないかしら」
決意をその瞳に宿して、マミはそう言葉を放つのだった。
「いいのかい?もちろん、助けてくれるのは嬉しいけど……マミも、魔女との戦いがあるんだろう?」
「もちろんそれはあるわ。でも、たとえ違う世界でも、そのために戦っている人を放ってはおけないもの。
 ……でも、もしよかったらだけど、ティトォ達が一緒に魔女退治に付き合ってくれたら、私も助かるわ」
その瞳に浮かんでいたのは使命感。そしてその奥に密かに隠された、孤独。
マミはずっと一人で戦い抜いてきたのだろうか。見た目はともかくまだ幼いはずの少女には、それは過酷でないはずがない。
放っておけない。マミが言ったその言葉と同じ気持ちが、ティトォの胸中にも確かに存在した。

「……わかったよ、マミ。こっちの世界で行動するにしても、頼れる相手がいるのは都合がいい。
 それに、魔女が人を襲うというなら、ぼくもそれを放ってはおけない」
とん、と一つ指先でこめかみを突いて、ティトォははっきりとそう言った。
その言葉に、マミの表情がぱっと明るくなり、そして。
「決まりね。いつか貴方達が、元の世界に帰れるようになる日まで。一緒に戦いましょう、ティトォ」
その手を、差し出した。

「ああ、よろしく頼むよ、マミ」

伸ばした手と手が、結ばれた。

「さあ、それじゃあ話の続き……と行きたいところだけど、もうこんな時間ね」
随分と話し込んでいたようで、すっかり夜も更けていた。
「続きはまた明日、鹿目さんと美樹さんが来てからにしましょう。今日は色々あったし、ちょっと疲れたから」
手早く食器をまとめて抱え、マミはそのままキッチンへ向かう。

「そうだね、じゃあ続きは明日だ。……っと、じゃあぼくはこのままソファーで寝かせてもらうよ。
 毛布か何かあればいいんだけど」
実際の年齢はともかく、見た目は若い少年少女である。当然何もする気はないが、離れて寝るに越した事はない。
ごくごく自然に寝床を用意しようとするティトォに、マミはキッチンから僅かに顔を覗かせて。
「来客用の布団くらい用意してるわ。……使ったことがないから、ちょっと奥の方にしまってあるけど。
 それを出すから、そこで寝てちょうだい」
途中で一瞬、その表情が曇ったような気もするが。それは気のせいだろう。ううん、知らないけどきっとそう。


「じゃあ、お休み。マミ」
「ええ、お休み、ティトォ」
寝室。ベッドにはマミが、そして床の布団にはティトォが寝ることとなった。
明かりが消え、静寂が満ちる寝室。互いの吐息の音だけが、微かに聞こえてくるだけで。

(初めてね、誰かを家に泊めるのなんて)
知らず緊張しているのだろうか、いつもならすぐに訪れるはずの眠りが、今日はどうにも訪れてはくれない。
マミは、一つ小さな吐息を漏らして。

「……ティトォ、まだ、起きているかしら?」
「どうしたんだい、マミ?」
返事はすぐに返ってきた。どうにも寝付けないから、マミは少しだけ話をしようと切り出した。

「一つだけ、聞かせて。……ティトォ達が、そんな身体になっても生き延びようとした理由。それは何なの?」
戦いの運命を背負ってでも、その命を繋ごうとした理由。単に死にたくないというだけかもしれない。
けれどティトォならば、何か違う答えを持っているのではないかと、そんな淡い期待も抱いていた。

ティトォはそんなマミの問いかけに、僅かな沈黙の後に答えた。

「ぼく達は罪人なんだ。……だからその罪を償うまでは、絶対に死ぬわけにはいかなかったんだ」
「罪……?」
ティトォは、それ以上を黙して語ろうとはしなかった。
マミもまた、それ以上を問い詰めることはできず。再び暗闇に静寂が戻った。
そしていつしか、意識も眠りへと落ちていくのだった。

説明する事が多くてにんともかんとも、もう少し早めに動かせたらよろしいのですがね。
どうもティトォの口調とQBの口調が被って困る。

>>77
>ドルチルが魔法少女
待て、その理屈はおかしい。
まさか実はアレ女……いやいやいやいやないないないない。

まあギャグキャラなら、基本的に大体どうにかなりそうな気はしますけどね。

>>78
応援ありがとうございます。
まだまだゆっくり進行ですが、そろそろ話も動かせるようになるんではないでしょうか。

乙!

お互いの世界の説明は必要だけどちょっと面倒だよねー
それはそうとマミさんの料理はおいしかったのだろうか?

乙首卍龍
ドルチルはお母さん似で女装もいける、つまり魔法少女としてもいける

それにしても流石におめんは被せられないか

さて、今日もなんだかんだで落ちてたらしいですね。
それはそうと、劇場版前後編とTDSを見終わりました。

何これ超滾る。

というわけで今日も投下です。

朝、早朝というには遅くもあるが、人々の動き始める時間にはまだ少しだけ早い。
そんな時間に、マミの家の前には二人の人影があった。

「本当に朝一番に来ちゃったね。マミさん、迷惑しないかな」
その一人であるまどかは、苦笑交じりにそう呟いて。
「あたしはちゃんと、朝一番に行きますからねーって行っといたからね、きっと大丈夫大丈夫。
 それに気になるでしょ、あの子の事。魔法少女でもないみたいだしさ」
そしてさやかがそれに答えて、その瞳に好奇心の色を覗かせながらそう言った。
「でも、後で学校で聞けばよかったんじゃあ……」
「はいはい、もうここまで来ちゃったんだからそういうこと言わない!」
まどかの言葉を遮りそう言うと、さやかは呼び鈴を鳴らした。

「あら、こんな時間に誰が……ああ、鹿目さんと美樹さんね」
鏡台の前に座って、巻き毛のセットをしていたマミが、来客に気づいて扉の方に視線を向けた。
その視線の先にあるリビングでは、ティトォが興味津々といった様子でテレビの画面に食いついていた。
どうやら、ティトォ達のいた世界は地球ほど文明が発達していないようで
朝起きてからというもの、ティトォはこちらの世界の文明の利器に、何から何まで興味津々といった様子なのである。
けれどもその使い方を教えるよりも早く、ティトォはほとんどのものの使い方や構造を把握してしまっていた。
それにばかりは、マミも随分と舌を巻いているようだった。

「ティトォ。お客さんが来たみたいなの。今手が離せないから、ちょっと出てきてくれないかしら」
マミのトレードマークとも言うべき所謂ドリルロール的な髪型は、当然セットをするにも時間がかかる。
毎朝ちょっとした大仕事であるが故に、今は手を離すことができなかった。

「わかったよ、ちょっと行ってくる」
テレビを見つめていたティトォは立ち上がり、玄関の方へと向かっていった。
「ふふ、なんだかこういうのも悪くないわね」
その後姿を見送りながら、マミはなにやら嬉しげに笑った。


そしてその直後、自らの失策に思い至り、その表情が硬直した。

「っ!ちょっと待って、ティトォっ!!」
髪のセットも放り出し、ブラシやらなにやらをその髪につけたまま、マミはティトォを静止しようと飛び出した。
けれど、それは遅すぎた。

「いやー、マミさんもすみに置けませんなぁ~、魔法少女は恋も遊びもしてられない
 なんて言って、こっそり彼氏さんと同棲してるだなんてねぇ」
そこで繰り広げられていた光景は、ティトォと、慌てて現れたマミの姿を交互に見つめながら、思いっきり顔をにやつかせるさやかと。
「しかも年上だよ……マミさん、大人だなあ」
手で顔を覆って、けれどその隙間から赤らんだ顔を覗かせているまどかの姿だった。
「ちっ、ちちち違うのよ、これはそういうアレとか同棲とかそう言うのじゃなくって……
 ああもうっ!貴方からも説明してちょうだい、ティトォっ!」
頼れる先輩、というイメージを極力保とうとしていたマミには、それは随分と致命的な一撃だったようで。
すっかり取り乱してしまって、ティトォとさやか達の間に割り込んだ。

「わ、もう呼び捨てにするような間柄なわけ!?それに名前からして外人さん?さっすがマミさん、進んでるなあ……」
けれど、それこそまさに逆効果。マミももはや言葉も告げず、口をぱくぱくとさせることしかできなくて。
「っと、じゃああたしたち、もう帰りますね!ほら、二人きりの時間とか邪魔しちゃあれですし。
 あ、でも昨日の事はちゃんと学校で聞かせてくださいよ。それと、彼氏さんのこともですよっ!」
もはやにやけ顔を隠そうともせずに、さやかはそう言い駆け出そうとする。
「なんだか……ごめんなさい、マミさん。それじゃ、また学校で」
まどかもそんなさやかの後に続いた。

逃すわけには行かない。ここで誤解を解いておかなければ、後で何を言われるか分ったものではない。
マミの頭の中を、その一事が完全に支配した。

「わっ!?」
「きゃっ!?」
駆け出した二人の身体を、柔らかな黄色のリボンが繋ぎ止めていた。
その元を辿れば、マミの掌中のソウルジェムからそれは生じていた。

「あ、あのー……マミ、さん?」
手足を絡め取られ、全く動けない状態でどうにか首だけを巡らせマミの方を向き、恐る恐るさやかは尋ねた。
「中に入って頂戴。とにかく事情を説明するから。……ね?」
最後の『ね?』に有無を言わさぬ重さを乗せて、マミはその表情に焦りを浮かべてそう言った。
セット途中の髪は随分乱れてしまって、頼りになる先輩像も既に大分形無しになっている感はあるのだが
それでもこのまま行かせてしまうよりは、ずっとマシだと考えたのだろう。

そして、なんとなく気まずい雰囲気の漂う中、二人はマミの家へと連れ込まれていくのだった。



「つまりそういうことよ……事情は、大体わかってくれたかしら」
紅茶のカップがテーブルに四つ。流石に朝からケーキは控えたようで。
少女が三人に少年が一人、テーブルを囲んでなにやら話し込んでいた。
「えっと、要するにティトォさんは別の世界から来た魔法使いで、アクアが変身した姿……てことだよね」
なんだかますますファンタジー染みて来たぞ、と困惑と好奇心を半々くらいに混じり合った表情のさやかが、確認がてらにそう言った。
「変身、っていうのとはちょっと違うけど……大体そんな感じでいいと思うよ」
ミルクティーに軽く口をつけ、僅かに口元を綻ばせてティトォは答えた。

「なんだ、それじゃやっぱり彼氏さんってわけじゃなかったんだ。うーむ、残念なようなほっとしたような……」
さやかは納得したようなそうでないような、どうにも微妙な表情を浮かべていた。
「ってことは、ティトォさんも魔法使い……なんだよね?男の人でも、魔法が使えるんだね」
どうにも落ち着かなさそうにしていたまどかも、ようやく少しは事態を飲み込む事ができたようで。
魔法少女とは異なる魔法使いというものに、なにやら興味を抱き始めたようだった。

「そうそう、その事も今日はちゃんと聞いておこうと思ってたのよね。ティトォ。
 そろそろ貴方達の魔法について、教えてくれてもいいと思うのだけど?」
渡りに船、とばかりにその話題にマミが飛びついた。
これ以上甘酸っぱいような話題を穿り返されては、完全に先輩イメージが崩壊してしまうからである。

「そうだね。じゃあそろそろ、ぼく達の魔法のことについても説明しようか」
とん、と軽く指でこめかみを突き、軽く三人を見渡して。ティトォは静かに話し始めた。

「マミには昨日話したよね、ありとあらゆるものに魔力が宿っているっていう、存在魔法のことは。
 ぼく達の使っている魔法は、そのものに宿る魔力、それを分解して、別の形に作り変える。
 そうすることで、魔法としての力を発揮させているんだ」

「たとえばアクアなら、アメ玉に宿る魔力を変換して、あらゆる物を破壊するエネルギーへと変換する魔法
 『スパイシードロップ』を持っている。他にも水の魔力を変換して自分の力に変えたりだとか
 風の魔力を変換して羽を作り出したりだとか、魔法の種類は千差万別だ」

「ただ、マミが使っているソウルジェムを介した魔法のように、それ一つで何でもできるわけじゃない。
 あくまでも新しい法則を生み出し、その法則に従った力を発揮する事ができるというだけなんだ」

ひとしきりの事を話し終え、ティトォは三人の反応を待っていた。
けれどやはりどうしても、まるで理の違う世界の話である。そう易々とは理解できない様子で。

「要するに、この世に物からある何かを、まったく別の何かに作り変えてしまう。
 それもこの世に存在するはずもないものに。……そんな感じでいいのかしら?」
いまひとつピンと来ないながらも、それでも魔法少女として長い経験を積んできたマミには
辛うじてそれがどういう力なのかを理解する事ができていたようで。
「ああ、大体そんな認識で問題はないと思う。もう一つこっちの魔法と違うことといえば
 ぼく達はソウルジェムのように、魔法を使うのに特別な道具を必要とはしない。
 魔法の構築は、長い知識と経験によって生み出される技術のようなものなんだ」
もっとも……と、何事かを付け加えようとして、その言葉は途中で遮られてしまった。

「ってことは、魔法少女にならなくても、あたしらだって練習次第で魔法使いになれちゃうかもしれない、ってことなわけ?」
ずい、とテーブルに身を乗り出して、さやかが興味深げに言葉を放った。
ティトォはその剣幕に、思わず僅かに身を反らしながら。
「不可能じゃない……とは思うけど、そういう風にして魔法が使えるようになる人間なんて、すごく稀なんだ。
 素質を持った人間が何十年も修行して、それでやっとなれるかなれないかってレベルにね」
「……なんだ、それじゃもし使えるようになったとしても、その頃にはすっかりよぼよぼのおばあちゃんじゃん。
 残念だな。って、それじゃあティトォ達は一体どうやって魔法使いになったのさ?」

「それは……」
知れず、マミとティトォの視線が交差する。どちらとも無く小さく頷くと、ティトォは自らの身に秘める事実。不老不死のそれを打ち明けた。



「いや、流石にそれはびっくりだわ……マジ話ですか、それ?」
「そんなの、普通じゃ考えられないよね……不老不死、なんて」
当然、二人は目を丸くして驚くのだった。

「それはともかく、アクアがそうであったように、ティトォも何かの魔法が使えるってことなのよね。
 どんな魔法なのか、教えてもらえないかしら。一緒に戦うんだもの、それくらいは教えてくれてもいいでしょう?」
驚く二人はさておいて、マミは軽く首を傾げてティトォに尋ねた。
「一緒に戦う……って、魔女と?」
その言葉を聞きとめて、さやかが今度はこっちに食いついた。
「ああ、元の世界に帰る方法が見つかるまでの間、マミには色々とお世話になりそうだからね。
 恩返しってわけじゃないけど、魔女退治につき合わせてもらおうと思うんだ」
ちょっと気は引けるけど、と苦笑交じりにティトォは言うが、どうやらその言葉は相当にさやかを驚かせたらしい。

「ま、まままマジですかーっ!?それってほんとにマジで同棲しちゃうってことなんじゃないんですかーっ!?」
「だ、大丈夫なんですか、マミさんっ!?」
さやかどころかまどかまで、マミに詰め寄る始末である。
これにはマミもティトォも困ってしまって、僅かに顔を見合わせてから。

「信じてくれ、と言って素直に信じてもらえるとは思わないけど、それでも言わせてもらうよ。
 マミはぼく達にとって、右も左もわからないこの世界で唯一の頼れる人だ。わざわざ彼女の気分を害するようなことはしないよ。
 ……それに、多分ぼくの力じゃマミをどうこうってのはできないと思うしね」
苦笑交じりにティトォが言うが、二人の不安げな眼差しはやはり和らぐ事は無く。
「それじゃあつまり、貴方の魔法は……」
その言葉に、マミが何かを思い至ったその時である。

「わわっ!?マミさん、さやかちゃん!時間、大変だよっ!」
まどかの声に、二人が同時に時計を見つめる。
丁度時計の時刻は、走ってぎりぎり学校に間に合うかどうかというくらいの時刻を指していた。
「うっわ!ほんとにやばっ!急がないと遅刻だぁーっ!!」
それまでの話題もどこへやら、あたふたと鞄を掴むと、まどかとさやかは動き出す。

「ええと……ゆっくり話してる時間はないみたいね。学校から戻ったら、また話の続きをしましょう。
 鍵は置いていくから、外に出るなら夕方までには家に戻ってきてね」
そう言い残し、マミもまた外へと急ぐ。手入れ途中の髪はさっさと、魔法で整えてしまったらしい。

「あー、マミ、ちょっとだけいいかな?」
「どうしたの、ティトォ?」
「今日は図書館に行こうと思うんだ、こっちの世界の情報も仕入れたいからね。それで、多分一日ずっと向こうに缶詰めになってると思うから、学校が終わったら直接図書館で合流できないかな?」
申し訳なさそうに、それでいてどこか好奇心をその瞳に覗かせて、ティトォは軽く片手で拝むようにしながら言った。
「それは構わないけど、道はわかるのかしら。図書館は結構遠いわよ?」
マミの問いに、ティトォは自信気に笑みを浮かべ、軽くこめかみを指で突き。

「大丈夫だよ、この街の地図はもう、頭の中に叩き込んでおいたからね」
「……それならいいのだけど、もし迷ったりしたら、その時は誰かに頼んでこの番号に電話して頂戴、携帯番号、置いておくから」
さらさらとメモに番号を残し、マミは二人と連れ立ち学校へと向かうのだった。

さて、とティトォは一人ごちた。静かな室内、誰もいない。ゆっくりと考え事をするにはもってこいの時間である。
とは言え図書館に行くという用事もある。あまり時間をかけてはいられない。
眼を伏せ、考え事をするときの癖である、指先でこめかみをつつく仕草を繰り返しながら、ティトォは思考へと没入していく。

まるで知らない世界。魔女という正体不明の敵。
それと戦う魔法少女、魔法少女の力の源であるソウルジェム。
いずれもわからない事だらけだ。
そもそもにして、なぜこのような事になったのか。ティトォはその原因たる事象に思いを巡らせる。

「あれは確か、マジックパイルの実験をしていた時のことだ。
 それなりに実験は上手くいっていて、メモリアの外で一度実験してみようって事になったんだ」
眼を伏せ、とんとんとこめかみをつつきながらティトォは呟き続ける。だんだんと、その記憶が蘇ってくる。
「そうだ、確かあの時、マジックパイルが暴走して……
 でも、いくらなんでもそれで世界を飛び越えて、別の世界に行ってしまうだなんてこと……起こり得るのか?」
何にせよ、思い当たる節などそれくらいしかない。
だとすれば、それと同じ力があれば、再び世界の壁を越える事ができるのだろうか。
「試してみる価値はある。だけど、それは今じゃない。今はこの世界についての情報が圧倒的に足りない。
 それを仕入れてからでも、遅くは無いはずだ。メモリア魔方陣の開始まで後三ヶ月はある。大丈夫、時間はあるはずだ」
自分に言い聞かせるようにしてティトォは呟き、閉ざした眼を開いた。

「とにかく動こう。今は立ち止まっている場合じゃないんだ」
意を決し、鍵と携帯番号の書かれた紙を服のポケットに突っ込むと、足早に、振り向くことなくその場を後にするのだった。

説明終わらNEEEEEE!

一応今更ながらですが、この話はある程度両方の作品を知らなくても読めるように書いています。
書いてしまっています。説明が多少増えるのはしかたないですが、よもやここまでとは。

>>90
上記の事情により、やはりどうしても説明が増えてしまうようです。
そろそろバトルモードに以降できそうなのですが。
そしてマミさんの料理は言うまでも無くおいしかったはずです。

>>91
となると一体何で契約しやがるんでしょうね、あのバカは。
今度は豚丼か何かでしょうか。
多分現行の流れだとコクマ絡みの願い事でしょうが。

残念ながらおめんは持ち合わせがありませんからね。
おめんの魔女とか出てきたらきっと嬉々としてつっこんでいくのでしょうが。

乙!
バトル展開期待してるぜ


WWFさんが色々と活躍する予感
BB…いやなんでもない


プリセラは原作的に強いからほぼ出番ないだろうなぁ・・・・・
オレのイメージでは12人のかずみクローン相手でもお釣りが来るレベル

マテリアルパズルを日5あたりでアニメ化してくれないかなー
バンブレの劇中CMを見てから、ずっと待ち望んでいるんだよね

プリセラさんは強いけど、強さだけじゃなく魔法少女のメンタルケアもできそうなとこに期待したいな

>>106
子供にもかなり受けそうな雰囲気の漫画なんだけどね。

今日は早めに投下するぞぉぉぉぉー、という訳で投下です。

「それで、マミさん。今日はこれからどうするんですか?」
夕暮れ時、三つの影が連れ立って歩いていた。
「そうね、ティトォは図書館に居ると言っていたから、まずは彼を迎えに行って、それからまた魔女退治、かしらね」
さやかの問いに、マミは唇に手を当て、考え込むような仕草をしながら答えた。
とは言えこのまま歩いていけば、図書館に着く頃にはそろそろ暗くなるころだろう。
そんな時間までずっとティトォはいるのだろうか。そんな微かな疑問を抱きながらも、その歩みは止まらない。

「………」
「どうかしたのかしら、鹿目さん?」
そんな三人の内、一人。まどかの表情だけが、僅かに陰りを帯びていた。
それを見とめてマミが問いかけると、まどかは心配そうな口調で答えるのだった。
「ほむらちゃん、今日学校来てなくて。大丈夫かな……って」
そう、その日学校にほむらは姿を表す事はなかった。急な風邪だと、担任の教師である早乙女はそう言っていた。
けれどそれは本当なのだろうか、まどかには不安でならなかった。
実際のところは、ほむらはその頃まだ杏子と共に風見野にいただけなのだが
その事実を知らないまどかは、どうしてもその不安を拭い去る事ができなかったのだ。

「転校生のこと?確かに……そりゃちょっとは心配だけどさ、あいつも魔法少女なんだよ。
 わざわざ心配してやるような相手じゃないって」
「そう、なのかな……でも、やっぱり心配だな、って」
「風邪だって言ってたということは、きっと連絡は入れられる状態なのだと思うわ。
 美樹さんの言うとおり、彼女も魔法少女なのだし、そう滅多な事にはならないはずよ」
俯きがちなまどかを安心させるように、マミは優しく声をかけた。

「きっとまた魔女が現れれば、いやでも彼女は姿を表すと思うわ」
できればもう、会いたくは無いのだけど。そんな呟きをまどかの耳に届けるわけにも行かず、マミはその言葉を飲み込んだ。

そして再び連れ立って、三人は図書館への道を辿るのだった。

図書館とは、本来静謐であるべき空間である。
けれどその日、見滝原中央図書館は、静かなざわめきに満ちていた。
そのざわめきの中心にあるのは、読書スペースとして用意されていた一つのテーブル。
その上には所狭しと本が積み上げられており、その本の山の中で
一人の少年が一心不乱にページをめくり、その文面に目を走らせていた。

少年――ティトォはぱらぱらと手早くページをめくり、一気に本を最後まで見てしまうと
すぐさまその本を脇によせ、次の本へと取り掛かった。そんな事が、昼前からずっと続いているのである。
それほどの速さで読んでちゃんと文面を理解できているのだろうか、だとか。
食事も取らずに一心不乱に、一体何が彼をそこまで駆り立てているのか、だとか。
いつしか周囲の好奇の目線を一身に集めながら、それを一顧だにすることなくひたすらにティトォは文面を追う作業を続けていた。
テーブルの上に並んだ本が全て片付くと、ちょっと危うい仕草でそれを抱え、また元の場所へと戻していく。
かなりの量だというのに、ほとんど見知らぬ場所だというのに、全く迷う様子は見られなかった。



外はそれなりに暗くなってきた頃。そろそろこの恐るべき本の虫を、司書の誰かが止めに入るだろうと思われたその時に。
「……まさか、一日中そうしてたの、ティトォ?」
呆れたような驚いたような、マミの声が飛び込んできたのだった。

「ん……マミ?もう学校は終わったのかい、随分早いんだね」
声に気づいて本を置き、マミ達の方を向いてティトォはそう言った。
「いや、全然早くなんかないでしょーが、あれ、見てみなさいっての」
最早呆れるより他にない、といった様子でさやかは言うと、壁にかかった時計を指した。
時計の針は、随分と長い時間、ティトォがそこにいたことを示していて。
「あー……そうか、もうこんな時間だったのか」
「もしかして、ずっと本を読んでたの……?」
時計を見つめて驚いたようにそう言うティトォに、呆けたようにまどかが呟くのだった。

「そういうことなら仕方ない、この世界の事も大体はわかったからね、今日はここまでにしておこう」
立ち上がり、手早くほんの山を片付けて。


「それで、これからどうするんだい、マミ?」
人々の注目を集めながらも図書館を後にし、夜道を四人で歩きながら、ティトォはそう問いかけるのだった。
「これから、早速魔女退治……と行きたいところだけど
 ティトォ、貴方もしかして、食事もロクに取らずにずっと本に噛り付いていたんじゃない?
 腹ごしらえくらいは、済ませておいたほうがいいんじゃないかしら?」
呆れ顔は相変わらずで、マミはそう問いかけた。
目的に向けて全力で動き続けようとするティトォの姿は、それ自体は凄いとは思うけれど
どうしても危うくも見えてしまっていた。

「それなら問題ないさ、ちょっとくらい食べなくても……」
なんて言おうとしたティトォの言葉を、盛大になった腹の音が遮った。
「……問答無用ね。美樹さんも鹿目さんも、ちょっとだけ寄り道、いいかしら?」
軽く鼻を鳴らして、マミは二人に振り向いて。
「わかりました、マミさん。それじゃあちょっと、家に連絡しておきますね」
「あー、そっか。あたしも家に連絡しとかないとだ」
これ以上長居をしては、帰りが遅くなってしまう。
魔法少女やそれに関わる者と言っても、彼女達はまだ中学生なのである。
一人暮らしのマミならばともかく、まどかとさやかの二人には、その帰りを待つ家族がいる。

そんな二人の様子を、少しだけ羨ましそうにマミは眺めていた。
帰るべき場所に、迎えてくれる家族がいる。それがどれだけ尊い事であるのかを、彼女はよく知っていた。



軽く食事を済ませ、マミ達がようやく魔女探しに乗り出した頃。
あたりは既にすっかり暗くなってしまっていて、魔女探しへと乗り出すのもかなり遅れてしまっていた。

「見つけたわ。魔女の反応よ」
その手にかざしたソウルジェムが、魔女の反応を感知した。
けれど、直後に感じた反応に、マミの表情が険しくなる。
「まずいわね、既にかなりの人が、結界の中に取り込まれている」
ぎり、とマミは小さく歯噛みした。結界の中に取り込まれてしまえば、普通の人間に助かる術は無い。
時間を食ってしまった事が、まさかこんな結果に繋がってしまうとは。

「そんな、じゃあ中の人達は……」
「いいえ、まだそうと決まったわけじゃないわ。今すぐ行って助ければ……きっと!」
驚愕と絶望に飲まれ、呆然と言葉を放つさやか。そんな彼女を勇気付けるように
そして自らにも言い聞かすように、マミは力強くそう言い切った。

「行きましょう、ティトォ。……それと、美樹さん、鹿目さん。今回はここで待っていてちょうだい」
「マミさん……それは、やっぱり」
間に合わないかもしれない。その考えはやはり、マミの胸中を渦巻いていた。
そこにいるのが如何なる魔女かはわからない。けれど、もし助けられないのだとしたら
そこでは人の死を見ることになる。できることなら見せたくは無い。
そんなマミの思いを知ってか知らずか、まどかは思い悩むマミの顔を見つめてそう言った。

「……こういう事を言いたくはないけれど、多分あの中にいる人達は、助からない可能性のほうが高いわ。
 貴方達に、できれば人の死ぬところを見せたくはないの」
伏し目がちにそう言うと、マミは目の前のシャッターに視線を向けた。
そこは打ち捨てられた廃工場で、その内部から魔女の気配が放たれていた。

「待ってください、マミさん」
そんなマミの手を掴み、まどかは真っ直ぐマミを見つめていた。
「鹿目さん……?」
「私も、連れて行ってください」
「まどかっ!?」
さやかもマミも、共に驚いたような声をあげた。

「確かに、人が死ぬのを見るのはいやです。
 でも、それって魔法少女になったら、いやでも見なくちゃいけないこと……なんですよね」
片手はマミの手を掴み、もう片方の手で胸元を押さえながら
途切れ途切れに震える声で、それでもまどかはそう言った。
「昨日の戦いで、マミさんが死にそうになって、すごく怖くて
 私も魔法少女になったら、そんな風になるんじゃないかって思ったら、怖くてしょうがないんです。
 でも、だからこそ、ちゃんと見ておきたいんです。いつか本当に叶えたい願いが見つかったときに、迷わなくてすむように」
決意というにはまだ弱い、けれどその瞳には、確かな意思の輝きがあった。

「あたしも行くよ。まどかだけを行かせるなんてこと、できないし。
 ……それに、あたしももしかしたら、叶えたい願い事、見つかったかも知れないんだ」
マミとまどかの重なる手と手に、さやかが更にその手を重ねてそう言った。

「美樹さんまで……ちゃんと覚悟を決めているなら構わないけれど
 今回はちゃんと守りきれるかどうか、わからないわよ?それでもいいの?」
マミの脳裏に浮かぶのは、昨日の苦い敗北の記憶。
恐らくアクアがいなければ、あの場で自分は死んでいただろう。そうなれば、彼女達を守れるものは誰もいない。
守りながらでも戦える。先輩として、それに恥じない戦いをしてみせる。その自信は、今はもうそのナリを潜めてしまっている。
だからこそマミには、二人をこれ以上魔女退治に付き合わせる事はやめたほうがいいのではないかと、そう思い始めていた。


「……仕方ないわね。それじゃあ、一緒に行きましょう。ティトォ、貴方もそれでいいかしら?」
「ぼくとしても、できれば来るべきじゃない……とは思うけど、そう言うことなら二人はぼくが見ておくよ
 ぼくの力でも、二人の身のの安全位は守れると思うから」
少女達の幼い決意。それに彼は何を思ったのか、その表情に苦笑じみたものを浮かべて、ティトォはそうマミに告げた。
「そういうことなら、貴方の力も見せてもらうわよ、ティトォ。……行きましょう」
かざしたソウルジェムが、更にまばゆく光を放つ。すると閉ざされたシャッターに、魔女の結界をあらわす紋様が現れた。
その光の中にまずマミが飛び込み、続いてさやかが、そして僅かに躊躇ってからまどかが飛び込んだ。
その全てを見届けて、ティトォもその光の中へと飛び込んだ。

「っ……これは」
「なんて……こと」
まず最初に感じたのは、なんともいえない息苦しさ。そしてまるでプールの水のような塩素の臭い。
そして次に飛び込んできた光景は、まさに地獄のような光景だった。
倒れ付し、身動き一つしない無数の人々。
それを囲んで、踊っているかのように動き回っている、出来損ないの天使のような、魔女の使い魔たち。

「これは……塩素ガスか。なるほど、これが魔女の手口か」
その臭いの源たる有害ガス、その正体をすぐさまティトォは把握して、口元を押さえながら油断無く、周囲に視線をめぐらせた。
一方すぐさまマミは動き出す。その瞳には怒りの炎を滾らせて。

「はぁっ!!」
ソウルジェムをかざすと、激しい光と共に突風が吹き荒れ、その場に充満していた臭いの源である塩素ガスを吹き飛ばした。
そして光の収まった後には、魔法少女へと姿を変えたマミが立っていて。
そのまま手をかざすと、迸る黄色の光が、人々を囲む使い魔の群れを撃ち払った。
「お願い、間に合って……っ」
祈るようにマミは言い、そして倒れた人々の下へと駆け出した。
三人もそれに続いて駆け出したのだが、すぐにその足は止まる事になる。
正確には、まどかとさやかのその歩みは、無常な現実によって押しとどめられる事になった。

「嘘……そんな」
「嘘…だよね、仁美ちゃん」
倒れ伏す人々の中には一人、見滝原中の制服を纏った姿があった。
そしてそれは、まどかとさやかにとってはよく知る人物。彼女達の友人である、志筑仁美の姿であった。
魔女に惑わされ、既に全身を毒に侵されてしまったのだろう。
その顔色は病的なほどに青く、まったくと言っていいほど生気が感じられなかった。

「そんな……いや、仁美ちゃん、起きて、目を開けてよ、仁美ちゃんっ!!」
そのまま崩れ落ちてしまいそうになる足にどうにか力を込めて、まどかは仁美の身体に縋りつき、抱き上げた。
その瞳は虚ろに見開かれたままで、抱き上げればがくりと、力なくその首が垂れ下がった。

「……あたし達が、間に合わなかったから。だから、仁美がこんな……あぁ、あああ」
さやかは最早立っていることすらままならず、その場にへたり込んでしまう。
驚愕に表情は染め上げられ、呆然と放たれた言葉は絶望の色に染まっていた。

それだけの絶望を前にしても、マミの行動は早かった。
その衝撃からいち早く立ち直ると、その手を伸ばして仁美の首筋に触れた。
弱弱しくも、まだ小さく脈打つ感触を感じる。まだ、辛うじてその命は現世に繋ぎとめられていた。
けれどその小さな命の灯火は、まさに風前の灯、今にも消えてしまいそうなほどに弱弱しい。
このまま捨て置けば、そう遠からずその魂は魔女の虜となることだろう。


「マミさん……お願いです、仁美ちゃんを助けて!」
まどかはぽろぽろと涙を零しながら、マミの腕を掴んで懇願した。
「大丈夫よ、この子はまだ死んではいないわ。でも……」
恐らくは、ここに倒れ付している人々も皆同じ状態なのだろう。
だとすれば、やはり彼らも助けなければならない。けれど、彼ら全てを助けている時間はあるのだろうか。
そもそもにして、それだけの魔力を消費した上で、魔女を倒すことなどできるのだろうか。

お菓子の魔女との戦いで感じた、死の恐怖。それが再びマミの心を縛る。
挑むのならば万全に、これだけの人を守りながら戦おうなどと考えてしまえば、きっと自分が殺されてしまう。
けれど、逃げたくないという気持ちもある。魔女から人々を守るために戦う魔法少女。
その旗を掲げて戦う事を誓った自分を捨てられない。そんな自分を尊敬してくれる後輩を、裏切るような真似はできない。

「マミさん……助けられるんですか、仁美は?」
絶望に打ちひしがれ、それでもほんの僅かな希望に縋り、マミを見つめるさやかの姿。その姿が、マミの心を決めた。
「ええ、大丈夫よ。全員救って見せるわ。魔女が来る前にまずは、みんなを治してしまいましょう。
 ティトォ、貴方も協力してくれるわよね?」
その言葉に、それまで無言で人々の様子を見ていたティトォは、立ち上がりそして答えた。
「いや、ここはぼくに任せて欲しい。マミは、魔女を倒してきてくれないか?」
その瞳には怒りの炎が燃え滾り、拳は堅く握り締められていた。

「ティトォ。助けられるの……この人たちを」
「助けるよ。ぼくの魔法なら、それができる」
堅く握られていた拳が開かれる。握られていたのはライターで、そこから炎が噴き出した。
けれどその炎は赤々と激しく燃えているわけでも、静かに青く燃えているわけでもない。
白い炎が、ライターの先からあふれ出し、きらきらと輝いていた。

「それが…貴方の魔法?」
マミの言葉に、ティトォは険しい顔で一つ頷いて、その手に白い炎を宿したまま仁美の側へと近づいた。
そして、白い炎を仁美に触れさせた。炎はすぐさま仁美に燃え移り、彼女の身体を包み込む。

「っ、ちょっと、あんた何やって……っ!」
「そんな、やめてよ、ティトォさんっ!」
一見すればその光景は、魔法で仁美を焼き尽くそうとしているようにも見えた。
それを止めようとした二人だったが、そこで起こった光景が二人の動きを再び押しとどめていた。

「これは……回復魔法?」
白い炎に包まれた仁美の、その病的に青い顔に血の気が戻っていく。
ピクリとも動かなかった身体が、酸素を求めて呼吸を再開させていた。
彼女の身体を蝕む毒が、その影響のすべてが、僅か一瞬で治癒されていたのである。

「これがぼくの魔法。炎の魔力を変換し、回復のエネルギーに作り変える魔法。
 こうして生み出された炎は、もう何も燃やす事はない」
仁美の状態が安定したと見るや、ティトォはその手を離し、再びその手に炎を戻らせて。


「――マテリアル・パズル、活力の炎(ホワイトホワイトフレア)。それが、ぼくの魔法の名前だ」


そしてティトォはすぐさま次の人のところへと向かい、魔法での治療を続けながら。
「ここの人達はみんなぼくが助ける。でも、ぼくの魔法がこんなのだからね、直接魔女と戦えるような力は無いんだ。
 だから、マミ……魔女を頼む」
その言葉を聞き届けて、マミは一つ大きく吐息を漏らした。
誰も見捨てずに済む、死なせずに済む。マミには、ただただそれが嬉しかった。
となれば後は、魔女を倒せばすべてが丸く収まる。そこから先は、自分の仕事だ。

「任せて頂戴、鹿目さん、美樹さん。貴女達はその子の側にいてあげて。……それじゃあ、行ってくるわね」
生気を取り戻した仁美の身体にすがり付いているような二人にそう言い残して、そしてティトォの顔を見つめて、小さく一つ頷いて。
マミは、結界の奥へと向かっていくのだった。

やっと……バトルが、見えて、きたー!

テンション上がってくるかなー?

>>102
その期待にこたえられるほどのものが書けるかどうかはわかりませんが、精一杯腕と筆を振るっていくつもりです。

>>103
当然これから大活躍ですとも、いろんな方面で活躍してもらう予定ですから。
そしてバンブーブレードも面白かったじゃないですか。え、そっちじゃないって?

>>104-105
さてどうでしょう、肉弾戦では無類ですが、魔法少女も魔女も一筋縄では行かない相手です。
もちろんめちゃくちゃに強いのは事実なのですが。
全画消去はチート、これだけは認める。

>>106
やってくれると本当に嬉しいのですけどね、正直望み薄でしょう。
というか、今はまず神無が始まってくれればそれで十分です。
きっと、きっとそこで人気が出れば更なるメディア展開ががが。

>.107
知名度的には微妙でしょうが、なんだかんだで土塚さんの名前だけは色々広まってるんじゃないでしょーか。
ここは概ね普通にマテパが好きな人の集まる場所だとは思うのですが。

>>108
いろんな意味でマミさん以上にベテランですからね。
その辺りの話もうまいことやってやりたいものです、本当に。


まずは順当にお披露目だなWWF
さやかちゃんもばっちり目撃したし
先が気になるところだ

やっぱティトォ好きだなあ、三人組の中で特に。

毎回楽しみにしています!

乙ドゥーブル

キュウべぇとアダさんってどっちのほうがより外道なんだろう
人の弱みに付け込んで、ってあたりは同じか

自分が役に立たないと思った相手は容赦なく殺害するしね。
キュウべえは人間の善悪や感情がわかってないからやってるけど、アダさんは悪いとわかっててやるのも悪質。
ただ三十指より戦う事を常に考えていかなきゃいけない魔法少女の方が辛そうに感じる。

まどマギでは強い運命や因果を背負った少女ほど強い魔法少女になれるらしいけど、
そしたらミト様とかはまどマギ世界でもものすごい事になっちゃうな…

うえきの法則のうえきだったら切れているレベル

うえき「アダラパタ・・・・隠れていないで出て来い!オレが相手になってやる!」みたいな

では、今夜もいよいよ投下です。

そこは不思議な球状の空間。青々と透き通った水が、その中にはなみなみと湛えられていて。
その中で、水の揺らぎに身を任せるように揺らぎ、漂う出来損ないの天使達の姿があった。
そこは魔女の結界の最奥、押し寄せる使い魔の群れをなぎ倒して、マミは一気に結界の最深部へと到達していた。
背中を任せられる、というにはいささか語弊はあるが、それでも後ろに頼もしい仲間が居るという事と
これ以上の被害を気にする必要はないということ。
その事実が、マミに更なる力を与えていた。何一つ気負うことなく、望むがままに戦える。それ故に、今のマミは強かった。
「久しぶりね、こういう感覚も」
知れず、その唇の端に笑みが宿る。かつての仲間の事を思い出し、ほんの僅かに胸中に宿る郷愁の念を振り切って。
マミはその水中へと飛び込んでいった。

やはりそれは魔女の生み出すものであるがゆえに、その身体を濡らしはしない。
ただ纏わり着くような水の感触に、多少動きが鈍くなるだけで。けれどそれさえも、マミの前では意味を成さない。
「退きなさいっ!!」
その手のマスケット銃から放たれる弾丸は、水中でさえもその威力と速度を減じることなく、次々に迫る使い魔を打ち砕いていく。
頭上から奇襲を仕掛けた使い魔もまた、放たれたリボンに絡め取られ、そのままバラバラに引き裂かれてしまう。
最早、使い魔程度では相手にもならないといった勢いである。

「さあ、このままじゃあ貴女の可愛い使い魔は全滅よ。出てきなさい――魔女!」
叫ぶと同時に、被っていた帽子を手に取り、さっとその手を払う。
するとその帽子の中から、無数のマスケット銃が生み出され。更にマミは、その手に握った銃の銃口を、真上へと向けた。
そして放たれる、無数の黄色の閃光。
それは次々に水中を突き進み、その外側にある"何か"に突き刺さっていく。それは、この場所に水を湛えさせていた障壁。
その障壁に無数の弾丸が突き刺さり、見えない壁にひびが広がり、そして砕け散る。
大量の水が流れ出し、そのまま何処とも無く消えていく。
マミはふわりとスカートを揺らして地面に降り立つと、油断無く辺りを見回した。

刹那、周囲で激しい殺気が弾けた。ちりちりと肌を灼くそれに、マミは反射的に手を動かす。
無数の銃を再構成し、四方から迫る使い魔の群れへと撃ち放つ。
それでも止まらぬその勢いを、渾身の力を込めて振り回した銃床で打ち払い、更に追撃を加える。

次々に使い魔を打ち砕きながら、それでもマミは周囲への警戒を怠らない。
魔女は必ず、この結界のどこかで様子を伺っているはずなのだ。
今度こそ、遅れを取るわけには行かない。

「っ!?」
急速に飛来する何か。その反応を知覚し、マミはその反応の元へと視線を巡らせた。
視界を塞ぐ様に飛び来る使い魔を蹴り飛ばし、開けた視界の先に見えたそれは、パソコンのモニターだった。
それは左右に黒髪を垂らし、恐るべき速度でマミの元へと肉薄したのだった。


ハコの魔女――H.N.Elly(Kirsten)


使い魔の相手に一瞬反応が遅れたマミの眼前に
虚ろな砂嵐と、そこに映った歪な笑みを張り付かせながら、魔女の画面が押し寄せる。
あたかもそれは、マミを飲み込もうとでもするかのように。


――マミの表情が、驚愕のそれに染まった。

「ふぅ……ひとまずはこれで大丈夫かな」
倒れ伏す人々、その全員が纏っていた白い炎が掻き消えた。
額にびっしりと浮いた汗を拭って、ティトォは深く息を吐き出した。

「みんな……治ったの?」
仁美の手を握って、その手に戻った暖かさに涙していたまどかが、そんなティトォの様子に気づいて問いかけた。
「うん、身体の中に入った毒は取り除いたし、治療も済ませたよ。
 これ以上続けると、みんな目を覚ましてしまいそうだからね。後は放っておけば目を覚ますよ、もう大丈夫さ」
そんなまどかに振り向いて、ティトォは疲れた笑みを漏らした。
「大丈夫、ティトォさん?」
当然まどかもそれに気づく。心配そうに声をかけると。
「……大丈夫だよ。魔力を消費したから、ちょっと疲れただけさ」
呼吸を整え、ティトォはゆっくりと立ち上がって。

「さて、と。そろそろ行かないとね」
「行くって、マミさんのところへ?」
上着を丸めて、枕代わりに仁美の頭の下に差し入れて。さやかはティトォを見つめて尋ねた。
そんなさやかに、ティトォは疲れた表情で、それでもどうにか笑みを浮かべて。
「行くよ。ここの魔女がどんな相手かわからないけど、女の子を一人で戦わせる訳には行かないしね」
少しだけ照れくさそうにそう言って、ティトォは結界の奥へと視線を向けた。
「この部屋はマミが守ってくれているらしいから、二人はここで待っていてくれ。必ず、一緒に戻るから」
二人を安心させるように小さく笑って、ライターを握り締めティトォは歩き出した。

まどかは、そんなティトォの背を見て思う。
(きっとこの人は、すごく優しい人なんだ)
自分の身を削ってでも、見ず知らずの人を守ろうとしている。
そして今もまた、そんな理由でマミを助けに行こうとしている。
その魔法が戦いに向かないであろう事は明白であるはずなのに。それでも。

ティトォが何者なのか、それはまだまるでわからない。それでもきっと信じられる。
これだけ優しくて、みんなのために戦える人ならば、きっと。
まどかはそんな風に考えている自分が居る事を、その時初めて自覚したのだった。


そして、さやかは。
「凄い……本当に、みんな治ってる。これなら、もしかして……」
煌く白い光を見つめ、その光の残滓にそっと手を伸ばした。
それは僅かにさやかの手のひらの上で燻り、そして霞んで消えていった。
「あの力が……あれば」
その手を堅く握り締め、結界の奥へと向かうティトォの背を見つめ。

「………助けられるかな、恭介」
そして彼女は、幼馴染の少年の名を呼んだ。

「……なんて、そう何度も同じ手に、引っかかってたまるもんですか!」
マミの眼前にまで迫った魔女は、そこで動きを止めていた。否、止めさせられていた。
幾重にもその身を縛る、黄色に輝くリボンによって。

「さあ、行くわよっ!!」
その手に生み出したマスケット銃、その銃床をまずは魔女の顔面、恐らく画面に叩き付ける。
画面にみしりとひびが走り、そのまま魔女の身体が吹き飛ばされていく。
逃しはしない、反撃の隙すら与えはしない。吹き飛ばされ、壁に激突した魔女へ向けて、魔弾が更なる追撃を行う。

はずだった。

「何……これ、は」
放たれた魔弾は、あらぬ方向へと消えていった。そしてマミは、自らに起きた異変を自覚する。
視界が揺らぐ、ぼやけて、薄れて、変わりに見えてきたものは。

――黒煙と業火に包まれた地獄。


――狭く、苦しい場所。


――ぽたり、ぽたりと垂れているのは、赤黒いナニか。


――肉の焼ける臭い、そして血の臭い。


――何より強く感じるのは、死の臭い。


――微かに覗く光。それを唯一の希望と信じて、伸ばされた手。


―――その伸ばされた手の先で待つ、赤い光が、二つ。

「っ!?あ……っ」
マミの口の端から、掠れた声が漏れた。その目は驚愕に見開かれ、けれどそこには何も映る事はない。
そこに映るべき光景は、宿るべき光は全て、魔女によって奪われてしまっていた。

心の奥に潜むトラウマ。それを直に抉り出し、その心を蝕む。
マミが魔女に痛烈な一撃を叩き込むのと同時に、魔女もまたマミに対して精神攻撃を仕掛けていたのだった。

――仕方ないよね、巴さんはいつも忙しそうだし。


――魔法少女は、みんなライバルみたいなもんでしょー。


――一緒に戦う?そんな世迷言、本当に信じてたんだとしたらお笑いだね。


――彼女は、いつも独りだった。


「やめ……て」


――雪の混じった冷たい雨が、頭上から降り注ぐ。


――雨に濡れ、寒さに凍え。打ち棄てられた身体が横たわる。


――それは、初めて死の恐怖を感じた日の記憶。


「嫌……いや」


――ふらり、ふらりと揺れる綱。


――そしてその下に繋がる、人の重さと形をしたモノ。


――それはかつて、ヒトであったモノ。


――救う事のできなかった、名前も知らない誰か。


「助けたかったのに、私……私っ」

――赤い髪の少女が、彼女に穂先を突きつけていた。


――違えてしまったその道は、再び交わる事は無く。


――守ろうとすればするほど、求めれば求めるほど。


――望んだすべてが壊れて砕け、零れ落ちていく。



「ああああああァあぁアアぁぁあぁァあぁあぁあッ!!」
自分の喉が、まるで自分のものではないかのような奇声を上げるのを、マミはどこか他人事のように聞いていた。
目を押さえた手は、そのまま眼球を抉り取るかのように皮膚に突き刺さる。
けれどその眼を閉ざしても、例えその眼を抉ったとしても、その光景が消える事はない。
完全に彼女の精神が焼き切れ、その生命が果てるまで、その悪夢は終わらないのだ。

けれど、それは救いだったのかもしれない。
先ほどの強打の衝撃より立ち直った魔女が、マミに止めを刺さんと迫っていた。
その心を抉られ、戦う力を失ってしまったマミには、最早抗う術も無く。
ひびの入った画面より、魔女は再び無数の使い魔を生み出して。それは明確な死の形を成して、マミの頭上に降り注ぐ。



絶体絶命の窮地。その抗い難い死の定めを――白い炎が打ち砕いた。

迸る白い炎が、押し寄せる使い魔の群れの前に立ちふさがる。
その炎を纏った拳が使い魔を吹き飛ばし、迫り来る魔女の顔面に突き刺さった。
その拳の主は、手で眼を押さえ、声にならない呻きを上げるマミの側にしゃがみこむと。

「……助けに来たよ、マミ」
――と、力強く囁くのだった。

恐怖と狂気に染め上げられたマミの視界が開けると、そこには柔らかな白い光が煌いていて。
その中で手を差し伸べる、ティトォの姿があった。
「ティトォ……どうして」
その目元から血を流し、それでも驚愕に眼を見開いて、マミはティトォにそう問いかけた。
そんなマミに、ティトォはしっかりと一つ頷いて。
「治療はもう終わったよ。みんなもう大丈夫だ。だから……君を助けに来た!」
新手の登場に警戒しているのだろうか、少し離れた場所で使い魔を生み出しながら様子を伺う魔女。
その異貌を睨みつけ、力強くそう告げた。

辛い過去に、孤独な境遇に心を切り裂かれ、傷ついていたマミには、その姿がとても頼もしく見えた。
(今度は、信じてもいいのよね。……信じさせて、ティトォ)
祈るように念じて、マミは再び立ち上がる。傷口から溢れる血と、その眼から溢れる涙とまとめて裾で拭って
そして再び、その瞳に闘志を宿す。

「……本当に助かったわ、ティトォ。ありがとう」
一つ、大きく息を吐き出して。ざわめく心を落ち着けて。マミは差し伸べられた手を取った。

そして、様子を伺っていた魔女が再び動き出す。しかし、その行動はいままでのそれとは異なっていた。
二度に渡る殴打によって、その画面に無数のひびが刻まれて
無数に分たれたその画面の一つ一つに、まるで怒った顔のような映像が映される。
ぐるり、と魔女がその身を旋回させる。すると背後に巨大な画面が現れて、そこに映像が映し出された。
その映像はあまりに信じがたいもので。それはマミを再び驚愕させた。

「これは……一体。っ!?」
驚愕の最中、マミはその手が強く握り締められるのを感じた。思わずその手の主を見ると。
「――――っ!」
眼を見開き、歯を食いしばり。その映像を食い入るように見つめている、ティトォの姿があった。その尋常ならざる表情は、マミの脳裏にある記憶を鮮明に想起させた。

"ぼく達は罪人なんだ。……だからその罪を償うまでは、絶対に死ぬわけにはいかないんだ"

「まさか……これが」
震える声で、マミは呟いた。





「――貴方達の、罪?」


魔法少女マテリアル☆まどか 第3話
              『たい焼きとハコの魔女』
                   ―終―

【次回予告】
少女は彼らの罪を知る。それは重く、決して許されざる罪。
その重さに、その業に、彼女は何を思うのか。

「何なの、これは……っ!?」
「まさか、こんな事が起こるだなんてね」

そしてその戦いの裏側で、暗躍する陰。

「ボクと取り引きをしないかい、暁美ほむら?」
「……本当に、そんなことが?」

思惑は交錯し、更なる戦いの気配が迫る。

「貴女には、彼女の相手を任せたい」
「本気、なんだな?お前」

熾烈さを増し、混迷を極める状況に、更なる波紋が投げかけられる。

「ちょっと、行ってきやがって下さい」
「お土産もよろしくね♪ね♪」

「………駄目、か?」
「姉様……はぁ」


次回、魔法少女マテリアル☆まどか
             『彼らの罪と命の砲撃』

乙。今回も満足でした

そして次回予告で……テンションあがってきたぜえぇぇぇぇっ!!


姉様はきゅうべえ好きそうだなww

>>120
ありがとうございます。
3話はびっくりするほど伸びました。

>>121
この辺りは大体予想の範疇でしょうね。
さやかちゃんの反応も大体皆様予想できてたんじゃないでしょうか。
どうしても最初の方はテンプレ展開にならざるを得ないのが心苦しいところです。

>>122
土塚さん曰く、主人公中の主人公らしいですからね。
なんだかんだで色々活躍してもらう予定です。

>>123
ありがとうございますズラ

>>124-125
どちらも人の希望を食い物にしてることには変わりありませんね。
とはいえ、あの両者は人の感情を理解しているか否かという点で決定的に異なっていると思います。
アダさん平常運行だと、多分上条君の右腕は極楽連鞭でズタズタにされてたんじゃないでしょうかね。

>>126
一応三十指に関しては、魔法の使い方自体は自分で選べましたからね。
とは言え最終的には奴等の言いなりになるか死か、ですから
正直どっちもどっちな感じでいっぱいです。

ミト様はなあ……契約するまでもなく本物の魔法使いですから。
契約するとしてベルジの死亡後くらいしかタイミングがなさそうですね。

>>127
残念ながらうえきもよくわかりませんのです。
とは言えアダさんはマリーさんくらいぶっとんでないと気が合わないんじゃないでしょーか。


エリー強いな
慎重派ほど様子見でドツボにはまるな
あ、別にさやかちゃんがイノシシだって言ってる訳じゃry

TAPが動かなければ一生パン屋やってそうな三十指も居ましたよね

乙、そしてエリー強っ!
まぁ、まどマギ世界で精神攻撃とか本来なら反則の域だもんね
そして次回予告コレ来た!特に不憫な弟さんはアダさんなみに好きだから期待してるぜーー!!!


エリーは精神系統だから強い。あすみも同様
アダさんは、同じガンガンキャラで見るとエドとは相性×
典型的な少年漫画主人公とは本当に対立関係なんだよな。、アダさん


マテパSSとか初めて見た
しかも俺得なクロス
更新楽しみにしてるよ

乙!今回も面白かった。
ティトォは女の子と戦うのを嫌がったりリュシカを戦わせたがらなかったり
フェミニスト入ってるからかマミさんみたいな女子には相性いいのかもなぁ
助けに来たシーンがヒーローすぎてこういうのもいいかもって一瞬思ってしまった…。

ティトォ達の罪はまだ明かされてない部分があるから、SS書こうとするときにネックになるね。

そして次回予告に姉様来たー!姉様!姉様かわいいよー!姉様ー!
しかしこの精神攻撃の強さだと太陽丸の修羅万華鏡が怖いな。相手の記憶から映像作れるし。

アダさんとキュウべえってどっちもあくどい事やってるはずなのに、視聴者や読者からは
キュウべえの方が蛇蝎のごとく嫌われててアダさんはむしろ人気あるんだよな…。

>>147
アダさんには人間臭さがあるからじゃないかな?
甘いものが好きだったり、アニマルと戯れてたり、他者が自分の予想を上回った時にはむしろ嬉しそうだったりとか

ふと思ったが、存在変換で魔法少女から魔女になったり戻ったりは出来るんだろうか

なぜかこの期に及んでまどポを買いました。
……多分その内やると思います。

では、投下しましょうか。

第4話 『彼らの罪と命の砲撃』


それは、見知らぬ国の情景。
見知らぬ街の風景、そこを歩く人々もまた、見知らぬ姿をしていた。
そこは小さな島国で、故に外から訪れるものはほとんどなく、島に住まう者達は昨日も今日も、変わらぬ平和を謳歌していた。
そして、それが明日も続くものだと信じきっていた。

楽しそうに他愛ない世間話に花を咲かせる人々、器用に飴細工を作っては、互いに見せびらかしあう少女達。
食卓には大振りな海産物をふんだんに使った料理が並び、雄雄しく踊る男達が、艶やかに踊る女達が、宴に華を咲かせていた。

だが、崩壊は突然に訪れる。

それは、大地の底から現れた怪物。
地表を薙ぎ払い、人々の営みを粉砕し、其処に住まう全ての命を地の底へと引きずり込んでいった。
それは光り輝く龍にも似た、神々しさと禍々しさを同時に纏わせて
まるで神罰を下す神であるかの様に、遍く破壊を繰り広げ、全てを無へと還していった。



その日、その平和な国は。ドーマローラと呼ばれたその国は、完全に消滅した。




――たった、三人の生存者を残して。

「これが――貴方達の、罪?」
その一部始終を見届けて、震える声でマミは呟いた。
その呟きは、確実にティトォの耳にも届いていた。ティトォは握っていたマミの手を離し、再びその手を堅く握った。
白い炎の中でさえ、その血の気が失せるのが分かるほど、堅く強く。
「そうだ、これが……ぼく達の罪だ」
そして食いしばった歯から、搾り出すような声でそう答えるのだった。

「……どうして、こんな」
弾かれるように後ずさりし、マミはティトォから距離を置いた。
彼らの罪を知った今、その張り詰めた表情が、まるで人形のように感情の読めない瞳が、マミにはやけに恐ろしく見えた。
「それは……話せない。ごめん、マミ」
ティトォはすぐに気づいてしまった。自分とマミとの間に生まれた、決定的な溝の存在に。
今までならば、共に手を取り戦えただろう。けれど、彼女は自分達の罪を知った。
それがどれほどの罪で、どれほどの犠牲を生んだのかを知ってしまった。

知ってしまえば、もう今までどおりではいられない。

「言い訳はしないよ。確かにあれは、ぼく達が原因で起こってしまったことでもあるんだ」
その言葉に、マミの顔が更に強張るのが分かった。
その表情に浮かんでいた疑問の色が、曖昧な敵意へと変わるのを、ティトォは見抜いていた。
「黙っててごめん。……マミ、最後に一つだけ頼んでもいいかな」
今尚収まらぬ大破壊。その映像をバックに、使い魔の群れを引き連れる魔女を見据えて、ティトォは。
「あの魔女はぼくが相手をする。君はそのまま戻って、まどかとさやかを、他のみんなを助けてくれないかな」
最後にちら、とマミの方を振り向いたその表情は、やけに寂しげで、それで居て優しい笑みを浮かべていた。

マミは悩んでいた。どうしても、その悩みは拭えなかった。
人々を守るために魔法少女として戦うマミにとっては、ティトォ達が起こしてしまったその罪は、決して許せるものではない。
けれど、その事実を語るティトォの表情はあまりにも痛切で、自分を戦わせまいとするその行動は、あまりにも優しかった。
だから、信じたかった。けれど、彼らの犯した罪はあまりにも重すぎた。
結局マミは、迷いを胸に抱えたまま、まどか達の元へと走り出すのだった。

その姿が見えなくなるのを確認して、ティトォは魔女を睨み付けた。
「何一つ、忘れたつもりはなかったんだけどね。こうしてまざまざと見せ付けられると、改めて思い知らされるよ」
その身に纏う白い炎が、その輝きを増していく。
「ぼく達は、こんな所で足止めを喰らってる余裕はないんだ。お前を倒して、ぼく達は……帰る!」
再び降り来る使い魔の群れに向け、ティトォはその拳を握りこんだ。

「……どうして、どうしていつも、こうなっちゃうのかな」
走り始めていたはずが、いつしかそれは早足になり。そしてそれはただ歩きへと変わり、遂にはその足が止まる。
マミは、震える声でそう言いながら立ち止まり、天を見上げた。
そうしなければ、零れ落ちてしまいそうだったから。

「信じたいのに、信じさせて欲しかったのに」
それでも、堪えきれない雫がマミの頬を伝った。
「今度こそ、一緒に戦えるって思ったのに」
零れた雫を拭おうと、マミは目元に手をやった。
涙の雫が手にほろり。けれどそこには、それ以外の何の色も無かった。
自ら傷つけたはずの傷は、いつの間にやらきれいさっぱり消えてしまっていたのだ。
もちろん、マミが自ら治したわけではない。そんな事ができる相手が、いるのだとしたら。
「……ティトォ」
その名を呼んで、涙を払ったその手がだらりと垂れ下がった。

マミは、更に深く思考に沈み、思い悩む。
ティトォの魔法――ホワイトホワイトフレアは、確かに素晴らしい回復魔法ではある。
魔法少女の、それこそ治癒の魔法に特化した魔法少女の魔法にも引けを取らないほどだろう。
けれど、それは直接敵を倒す力とはなり得ない。そこまで考えて、今朝のティトォの言葉がマミの脳裏に蘇った。

"それに、多分ぼくの力じゃマミをどうこうってのはできないと思うしね"

それは即ち、ティトォの持つ能力が回復に特化しているという事なのではないか。
だとしたら、どうしてそんな能力の持ち主が単身、魔女に抗することができるのだろうか。
その事実に思い至り、マミは反射的に元来た道を引き返そうとした。そして、その足が止まった。
彼らが犯した罪。その事実が、やはり今もマミの心に根強く残っていた。
いっそ否定してくれたのなら、それを信じて眼を瞑ることもできたのに。ティトォは全てを認めていた。

だからこそ、その罪を償うためにああまで頑なに誰かを救おうとしているのだろうか。
だからこそ、不老不死になってまで誰かを助けるために生き続けて、死に続けているのだろうか。
そう考えると、胸の奥がズキリと痛むのをマミは感じていた。
助けたい。そう思う気持ちもまた、マミの偽らざる心情だった。けれど、あれだけの罪を犯したものを許すことなどできはしない。
矛盾する心が、マミの胸中で揺れていた。

「っ……こ、のぉっ!!」
白い炎を纏った拳が、使い魔の顔面を打ち砕いた。
だが、それと同時に四方から襲い掛かっていた使い魔達が、その手でティトォを殴打した。
腕に、脇腹に、顔に、出来損ないの拳が突き刺さる。
「ぐ……っ、はぁぁっ!」
痛みに顔を歪めながらも、ティトォは身の内より白い炎を吹き上げさせる。
その炎で使い魔を吹き飛ばし、どうにかその身に拳を叩き込んでいく。
けれど、戦況はなんら変わりはしない。
頭上からは魔女が生み出した使い魔が再び降り注ぎ、何度でもティトォに襲い掛かっていた。

「これは……ちょっと、まずいな」
息を荒げ、顔を歪ませティトォは呟いた。戦況は極めて悪い。
いかにホワイトホワイトフレアが優れた回復魔法であれど、所詮それだけなのである。
敵を攻撃する能力がないわけでもないが、魔女の結界の中ではそれもたかが知れている。
ましてや使い魔の群れが相手の消耗戦は、最も相性の悪い戦いと言えた。
「アクアに換わるか……いや、ダメか」
存在変換を行うことも考えたが、その間は完全な無防備となる。
その間に使い魔からの攻撃を受ければ、ひとたまりもない。

今はまだ、傷と体力を回復させつつ戦いを続ける事ができている。
けれど魔力にも限りがあり、それが尽きるのも時間の問題と言えた。
対して魔女は、それこそ無尽蔵に使い魔を生み出してくる。
一度に作れる数は知れているのだろうが、総数で言えばまるで底なしなのである。

やはり、状況は悪かった。

「使ってみるしか、ないかな」
周囲を取り囲む使い魔を睨みながら、苦々しい顔でティトォは呟いた。
その表情を歪めていたのは、苦々しい苦悩のそれと、隠しきれない恐怖のそれで。
「外で使うには、まだ全然安定してくれないけど……使うしか、ない」
言葉と同時に懐から取り出したのはタブレットケース。その中からいくつかの薬を取り出した。
果たして何をしようとしているのか、その行いの結果すら見届けようとすらもせず、使い魔達は次々にティトォに襲い来る。
最早、躊躇っている余裕は無い。

「行くよ。……アクア、プリセラ」
ティトォもその窮地に覚悟を決め、その手に握った薬を飲み込もうとして。その頭上を埋める、黄色の光に気がついた。
それは光の帯を為し、次々に使い魔に絡みつき打ち砕いてく。そしてその光の射手は、ふわりとティトォの隣に降り立った。
その、姿は。



「――マミ、どうして」
呆然と問うティトォに、マミはその手の銃を放り投げて振り向いた。
「なんで、かしらね」
困ったように苦笑して、それでも、その表情には最早迷いの色はなく。
「ただ……そう、もし立場が逆なら、貴方はきっと助けようとするだろうなって思ったの」
言葉を紡ぎ、その手は無数の魔銃を呼び起こしながら。
「だから、ちゃんと説明して頂戴。あの光景が何だったのか、あの化け物が何だったのか。
 貴方達が、一体どんな罪を犯したのか。貴方達をどうするかは、それから決めるわ」
踊るようにステップを踏み、その銃に手を伸ばす。そして尚も迫る使い魔へと目掛け、その魔弾を叩き込んでいく。
「それまでは、私は私のやりたいようにする。……私は、貴方を助けたい。
 貴方と一緒に戦いたいと思っているのよ、ティトォ」
そして今度はマミが、ティトォに手を差し伸べた。それはあたかも、ティトォがマミを助けた時とはまるで逆のようで。

「一緒に、戦ってくれるんだね?」
その眼をわずかに見開いて、マミの顔を見つめてティトォは問う。
「貴方はみんなを助けてくれたわ。そんな貴方を、今度は私が助けたいの。
 後の事は……その時に考えればいいわ」
たっぷりと茶目っ気を乗せて、手を差し伸べたままマミはそう言った。
たとえこの先真実を知り、互いの道が違える日が来るとしても。今だけは手を取り合える。
不確かな未来に眼を塞ぎ、耳を塞いだ一時だけのことだけれど、それがこのまま続かないとも限らない。
少なくともマミ自身は、そうあることを望んでいる。

(今度は、絶対に離さない)
苦い過去、決別の記憶を経てようやく今、再び得られたのかもしれない仲間。
今度こそ信じたい。自分の信じられる、ギリギリのところまで。
マミはもう、その心を決めていた。

「本当なら君を巻き込みたくは無い。でも、ぼく達にはこうするしか手段が無いみたいだ」
ティトォは真っ直ぐにマミの顔を見つめると。
「――ぼくと一緒に戦ってくれ、マミ!」
白く輝くその手で差し出された手を握り、力強く言うのだった。

いろんな意味でこの時期にTDSが出たのは僥倖と言えるでしょう。


>>140
もっとサティスファクションいていただけるように頑張りたいものです。
そしていよいよマテパ勢にも動きが出てくるようです……が、もう少しだけお待ちください。

>>141
きっと好きになりそうではありますが、見た目だけなら。
多分普通に喋って動いたりしたら、結構ポイと行きそうな気がします。

>>143
エリーに関しては公式で何も考えずにブン殴れ!でしたからね。
プリさんが相手だと多分秒殺されるレベル。

そんな子が今じゃなんだかんだでタナトスですよ。
一体何がどうなってるんだか、早く続きが読みたいものです。

>>144
私もあの妹弟は大好きです。
やってる事が事なだけに、救われちゃいけない人達ではあるんですが。

>>145
というかアダさんは本当に誰からも嫌われるタイプでしょう。
ただ上手い事安全圏に身を置くのが本当にお上手なようで。
というか敵ですし、いろんな意味で影の主人公ですし、表の連中と馴れ合われても困るでしょう。

>>146
ありがとうございます。思っていたよりも反響が大きく、私としても実に助かっております。
今後もこんな調子で、ちまちま更新していくのでどうぞお楽しみに。

>>147
やはりティトォとマミさんは相性はいいだろうなぁと思います。
っていうかなんかティトォの口調が微妙にQBと被ったりするんですよね。
そのあたりもなんだかんだでこの二人が出てきちゃう理由でしょうか。

彼らの罪については、断片的な描かれ方しかしてないのでアレなんですが
多分ほとんど全ての事情はこれまでの本編中に語られていると思います。
そういう体で話を進めております。

そして今回、いよいよ本格的に共闘が始まります。
魔法少女と魔法使いが、手を取り合って魔女に挑む。
いよいよ本格的に物語も動き出します、乞うご期待!

>>148-149
あの二人で何が違うかと言えば、自分が悪ってことを自覚してるかどうかってのもあるでしょうし
アダさんは実に楽しそうに、生き生きと動き回ってくださってます。
それを見てると私達も、実に楽しくなってくるじゃないデスか。

まあ強烈な個性と行動をしでかすヒールってのは結構人気が出るもんです。
どっかの蝶☆サイコーな人然り。


改めて考えると
シャル戦後マミさんがメイン張るのもなかなか貴重なSSだ
その分ほむほむが空気だが、まあそのうち出てくるでしょ
もっと続けろください

ティトォもマミさんも、すべてを失ってなお戦うことを選んだところも似てるのか 
そこまでの経緯は大分違うけどさ

>>158
月丸、太陽丸の姉弟にはバンブーブレードBで救済が与えられているよ

乙!
バトルも気になるがそろそろキュウべえも気になるな
ティトォと話したらボロがどんどん出てきそうだし

乙!
そういえばこの時期のティトォは仲間にすら自分の罪のこと話してないんだね
確かにあの頃の思い詰め具合だとこうなるか…。
キュウべえは物語の立場的に『悪役』ではないから余計イライラさせられるのかもな

ティトォの時にキュウべえとほむらが絡んできちゃったら狙いとか全部読まれちゃいそうだ

投下だ、とにかく投下だー。

その手が握られたその瞬間、白い炎がマミの身体を包み込む。
当然熱くはない。けれど、奇妙な感覚をマミは感じていた。
「これは……力が、溢れてくる」
魔法少女へと変身した時に感じる、全身に漲る強い力と万能感。
マミにとってそれは慣れ親しんだ感覚であるが故に、この時感じたそれに違和感を覚えていた。
それこそ一切魔力を温存せず、全魔力をつぎ込んで戦ったとしても、これほどの力を得ることはできないだろう。
それほどまでに今、マミの身体に漲る力は強大だった。

原因にはすぐに思い至る。白い炎に包まれたまま、マミは驚いた表情でティトォを見つめた。
「これは、貴方が?」
「ああ、ぼくのホワイトホワイトフレアには、もう一つの能力があるんだ」
自信気な笑みを浮かべて、ティトォは更に言葉を続ける。
「傷を癒すだけじゃない、ドレスのように全身に纏わせることで相手の力を引き出し、強化する事ができるんだ」
「なるほど、そう言うことね」
マミもまた、納得したという風に頷いて。それから小さく苦笑を浮かべると。
「本当に、貴方の力は誰かと一緒に戦うためのものなのね」
呆れと関心の入り混じったような表情でマミはそう言うと、再び魔女を睨み付けた。

「どうやら、ぼくにはこういう魔法の方が性に合ってたみたいでね。でも、ぼくの魔力が持つ限り、この炎は消える事はない。
 全力できみをサポートする、どんな傷もすぐに直す。だからマミ、きみは魔女の相手を頼む!」
力強く頷いて、そしてティトォも魔女を睨みつけた。
「ええ、任せて。今なら負ける気がしないわ!」
絶体絶命の状態から再起した二人。どちらも更なる力を滾らせている。
その勢いに魔女も臆したのだろうか。大量の使い魔を生み出し、それと同時に逃亡を図った。
いつもならば、そのまま逃がしてしまっていたかもしれない。けれど今は、逃す気も負ける気もまるでしない。

する、とマミは首元のリボンを解く。それはすぐさましなやかな刃と化して、その手の内で舞い踊る。
少しだけ名残惜しそうにしながらも、握ったティトォの手を離し。
「砕け散れっ!!」
跳躍。けれど二重の魔力によって強化されたそれは最早飛翔にも似たそれで。
マミの身体は猛烈な勢いで、魔女へと向けて突き進んでいく。
その行く手を阻む使い魔の壁に、マミは勢いを落とすことなく突っ込んでいく。その最中、無数の黄色い閃光が煌いた。
直後、無数の炸裂音。刃と化したマミのリボンが、片っ端から行く手を阻む使い魔を打ち砕いていく。
最早マミの行く手を阻むものは何も無く、そのままマミは魔女へと突撃する。
けれど魔女とてただでやられはしない。再びその能力を用い、マミの精神を冒そうとする。


――迫り来る魔女の異形。

――その大顎が、死を為して彼女に「今更……効くもんですかっ!!」


精神を冒す幻を打ち破り、その瞳に文字通り炎を宿らせマミは叫ぶ。
そして手にしたリボンを、魔女の側面に思い切り叩き付けた。
魔女はそのまま吹き飛ばされ、壁に叩きつけられた。
さらにそのまま反動で跳ね返り、今度は床へと打ちつけられた。その姿を見つめ、マミは空中で勝ち誇る。

「今の私には、一緒に戦える仲間が居る。今度こそ、私は信じ抜いて見せる。もう迷わない。もう何も……怖くないっ!」
飛び切りの笑顔で、最大限の力を込めて、リボンが魔銃へと変化する。
その巨砲にありったけの力を込めて、狙いを魔女へと定め。そして。
「今度こそ終わりよ。ティロ……っ!?」
とどめの一撃を放つべく、魔女へと向けられたその砲門が激しく振動する。
見れば、前進に宿る白い炎が、今はその砲門に集中しているのが見えた。
二つの魔力は共鳴し、増幅しあい、恐ろしいほどに膨れ上がっている。マミですら、それを御しきることは不可能だった。
「何なの……これはっ!?あ……あぁぁぁっ!!」
激しく振動する砲門は、そのまま極大の白い閃光を吐き出した。
けれどそれは一切の制御を失っており、倒すべき魔女を飲み込むどころか、あらぬ方向へと打ち放たれてしまう。
そして着弾、激しい衝撃と共に、膨大な破壊を振りまき炸裂したのだった。

その反動は大きく、空中でそれを打ち放ってしまったマミは、遥か後方へと吹き飛ばされてしまうのだった。
「マミっ!?」
「大丈夫……大丈夫だけど、一体何が起こったのかしら、今のは」
吹き飛ばされながらもどうにか体制を整え、マミはどうにか軟着陸を成功させると、駆け寄ってきたティトォに問いかけた。
「止めをさそうとした瞬間よ、急激に魔力が膨れ上がって、まったく制御が利かなくなってしまったのよ。
 貴方の魔法って、そういうこともあるの?」
暴れる砲身を押さえつけようとした反動で、まだ痺れている手をどうにか動かしながら、マミは言葉を続ける。
ティトォはいつもの仕草で考え込むと、一つ頷いて。
「ぼくもマミがさっきの一撃を放とうとした瞬間、魔力が膨れ上がるのを感じたよ。
 あれは多分……ぼく達の魔力が共鳴して、そして増幅された結果なんだと思う」
「そんなことって、ありえるの?」

驚きながらのマミの言葉に、ティトォは首を横に振りながら答える。
「いいや、普通じゃありえない。でも、心当たりはある」
とん、と一つ指でこめかみを突き、ティトォは更に言葉を続けた。
「この世界で始めて存在変換をしたとき、マミはアクアの周囲に魔力のフィールドを展開していただろう?
 そのフィールドを、存在変換の際に取り込んでしまった。だから今、ぼくの体の中にはマミの魔力が残っていて
 それがぼくの魔力と融合しているんだと思う。だから今も、同じ事が起きた。
 そしてこれほどまでに、魔力を増幅する事ができたんだ」
と、一気に捲し立てたのである。

普通であれば面食らい、頭にハテナの一つも浮かべることだろう。
けれどそこは巴マミ、ベテランの魔法少女である。ティトォの言葉の意するところを即座に察し。
「要するに、二人の魔法が合わさって最強に見える!そういうことね」
と、なにやら自信気に言うのである。
「ま、まあ……間違ってないんじゃないかな」

「でも、今はなんとも無いじゃない。どうして大技を撃とうとした時だけ、なのかしらね」
「それもきっと、共鳴が起こるにはそれだけの強い魔力が必要ってことなんだろうね。さっきの時みたいに」
ティトォの言葉に、マミは納得したように頷いた。けれどすぐにその表情が困ったような顔になり。
「大体納得できたけど、これじゃ参っちゃうわね。大技を使おうとするたびに暴走なんて……」
マミは考える。その暴走のわけは、大きすぎる魔力を上手く放出できないのが問題なのだろう、と。
だとすれば、解決する方法もあるのではないだろうか。
魔力を放出する口を大きくすれば、要するに生み出す銃を大きくすればいいのではないだろうか。
けれどそれはそれで取り回しが難しくなる。隙も大きくなって、当てるのも難しくなる。

考えてばかりもいられない。相当手酷くやられたと見て、魔女は遂に逃げを決め込むことにしたようで。
その小さな画面から、驚くほどに大量の使い魔を生み出し始めた。
そして自らは一人、結界の出口へと向かっていく。
「まずい、魔女が逃げるっ!」
「逃がすもんですか、向こうには鹿目さんや美樹さん達がいるのよっ!」
再び白い炎を纏い、マミは真っ直ぐに使い魔の群れに突撃していく。
いつもであれば距離を取り、敵を近づけさせないような戦い方が主体のマミであるが
この期に及んでそのスタイルを貫く余裕は無い。
そして、そんながむしゃらな戦い方ですら余裕を感じさせるほどに、ティトォの魔法による強化は絶大だったのだ。
至近距離から撃ち放たれた銃弾は使い魔をまとめて貫通し、振り払われたリボンの刃は、横一線に全てを両断した。
蹴上げる足ですらも、一撃の下に粉砕せしめるほどの威力を持って。

最早、今のマミに敵はいない。だが、少々数は多すぎる。
一瞬でも足止めを食っている内に、魔女はどんどんと逃げ去ってしまう。

激しい乱戦の最中、マミの脳裏を何かがよぎる。
あれだけ小さな魔女から、これだけ大量の使い魔が生み出されている。
今更不思議に思うでもないが、それは如何なる理屈で為されているのか。
たとえばそれが、押し固めて圧縮されて、出番を待っているのだとしたら。
「いけるかしら。……いいえ、やって見せるわ」
使い魔を全て片付けた頃には、魔女の姿は遠くへ霞んでしまっていた。
このままでは見失ってしまう。そうなる前に、ケリをつけなければ。

「マミ、早く魔女を追わないと、みんなが危ないかもしれない!」
ティトォの声にも焦りが浮かんだ。そんなティトォに振り向いて、マミは静かに告げる。
「試してみたいことがあるの、協力して。上手くいけば、あの魔女を倒せるはずよ」
言うや否や、マミはその手を堅く握り、魔力をその掌中に集中させる。
内なる魔力の高まりに応じ、ホワイトホワイトフレアがそれに共鳴する。
激しい魔力が掌中で吹き荒れる、手が吹き飛びそうになる衝撃をぐっと堪えて、マミはその手を堅く握り締めている。
「これは……魔力を凝縮させているのか」
ティトォもまた、ホワイトホワイトフレアを使用し続けた事による魔力の消費は少なくなく、額には汗が滲んでいた。
それでも目の前で起こる現象への興味は隠せないようで。
「そう言うこと、元々私の魔法はこういうことの方が向いてるから、きっとできるはずよ」
全身を覆う白い炎は、今やマミの掌中に完全に集約されていて
激しい光が明滅を繰り返し、魔力の振動が結界をぐらりと揺さぶった。

そして、マミはその手の中に確かに何かの感触が生まれたのを感じて、その手を広げた。
生まれたのは、胡桃ほどの大きさの小さな球体。その表面には、マミのマスケット銃とよく似た意匠が施されている。
「できた……っ!さあ、今度こそこれで終わりよっ!!」
喜色を浮かべてマミが叫ぶ、そしてその掌の球体を掲げた。
同時にもう片方の掌に生じるマスケット銃が一丁。マミはその銃口に、生み出した球体を放り込んだ。

マスケット銃、それは本来であれば前装式の銃、すなわちその銃口から銃弾を装填し放つものである。
故にそれは、マスケット銃本来の使い方に相違なく。マミはその銃弾を飲み干した銃口を、魔女の逃げた方向へと向けた。
魔力で強化を施した視覚には、一目散に背を向けて逃げる魔女の姿がはっきりと映し出されていた。
その背中目掛けて狙いを定め、そして。




――撃ち放つ。




白い炎を封じた魔弾が、魔女を目掛けて飛来する。
放たれた魔弾は過たない、それは確実に遥かな距離を越え、逃走を図る魔女の身体に突き刺さった。

そして、炸裂する。

その銃弾の内に蓄えられた、膨大な魔力を帯びた炎が吹き荒れる。
傷つき、消耗した魔女にはそれを凌ぐ術など何一つ残されてはいない。
故に魔女は、激しく迸る白い炎の奔流の中にその身を没し、跡形もなく焼き尽くされてしまうのだった。

遠めでも分かる、激しい光の炸裂。それは苛烈に、されど美しく魔女の結界を照らした。
その光景を見ながら、マミは呟いた。
「活力の炎と、私の一撃。……そうね、決まったわ」
その一撃がもたらした成果を見つめ、それからティトォに振り向いて。

「"ボンバルダメント・ウィータ" この技は、そう名付けましょう。私と貴方の、合体技よ」
飛び切りの笑顔で、そう宣言するのだった。

ちょっと短め更新ですが。

>>159
そのあたりに関してはあまり捻らずに話を広げております。
シンプルにマミさんに活躍してほしかった。
ほむら及びQBの活躍はこれからです。活躍ってか暗躍ですが。

>>160
そのあたりはティトォが対メイプルソン後に放った言葉に全て集約されているような気がします。

斎村姉妹……?いや、うん、言われてみれば確かにそんなような気も……。
天然気味な姉に振り回される弟ポジとか、近いといえば近いような……。
ヤマさんくらい分かりやすければよかったんですけどね。

>>161
確かにティトォも長い時を生きて来ていますが、彼らもまた長い時間を積み重ねています。
果たして、そう簡単にいくのでしょうかね。

>>162
なんだかんだで彼らが本当の意味で仲間になったのは、第二章の終わりになってようやく
なのかもしれませんね。

乙!
エリー戦も終わったし次回あたりからさやか関連の話に入っていくのかな
まぁキュウべえと魔法少女システム周りの話は簡単にはいかないよね
それだけにどんな結末になるかは期待してるよー
それとBBBの斎村姉弟とマテパの暗殺姉弟は誕生日が同じらしい


それにしてもこの魔法少女ノリノリである

>>170

斎村姉弟はモチーフが月と太陽で、誕生日まで月太姉弟と同じ
最後の言葉の「生まれ変わったら本当の姉弟になろう」と姉が全力で弟へ愛を注いでいる様子に
ちょっとほろりと来たよ


魔法少女が持つとnukeとbuffがあわさり最強に見えるが
魔女が使うと頭がおかしくなって死ぬんですか


マミさん生き生きしてるなあ

乙!
そういえばQBには感情がないから思考が読めない可能性はあるか…
しかし合体技先に出されちゃってリュシカが膝抱えてるかも
マミさんはスタイリッシュでかわいいなぁ

>>173
あれは太陽丸の台詞じゃなかったかと思ったけど、よく見たら>の位置的に月丸っぽいか?
血が繋がってなくてもちゃんと姉弟だったのに、生まれ変わったら本当の姉弟になりたいっていうのがな…

ひゃあ、我慢できねえ、投下だー

魔女の結界が崩壊し、平穏を取り戻した廃工場。その中から出てきた人影が四つ。
三つは小柄な女性のそれで、最後の一つはそれより頭一つほど大きな男性のそれだった。
四人は連れ合い、何事かを話し合いながら帰路を辿っていく。
その内容は聞こえないが、彼女らの様子からはそれがとても楽しげな何かであるということは見て取れた。

「あーあ、あんなにぞろぞろと引き連れやがって」
魔法で作った双眼鏡越しに、そんな様子を工場地帯に隣接するビルの屋上から眺めていた杏子は、忌々しげに呟いた。
「ってゆーか、あの男は何なのさ。男連れで魔女退治たぁ、どんだけ腑抜けてやがるんだか」
さく、と小気味よい音をさせて片手に握ったお菓子を齧ると、杏子は背後の人影に振り向いた。
「……さあ、私にもわからないわ」
その視線の先で、ほむらは髪を軽く払いながらそう答えた。
「ったく、確かにあんな体たらくじゃあ、このままこの街を任せとくってのも考えもんだな」
杏子にとっては当然に、そしてほむらにとっては意外なことに、この状況は実に予想外なものだった。

「彼のことが気になっているのかい?」
「……何か知ってるのかよ、キュゥべえ」
突然に投げかけられた声、その声に振り向きもせず、杏子はそう答えた。声の主たるキュゥべえは、ちらとほむらの方を向く。
ほむらはそんなキュゥべえに一度睨むような視線を向けたが、すぐにふいとあらぬ方を向いて。
「ボクにも、そこまで詳しいことがわかっているわけじゃない。それでも、今分かっている限りの事は話すよ」
「じゃあ、聞かせてもらおうじゃねーか」
言いながら、杏子はゲームセンターで倒した魔女の残したグリーフシードを放り投げた。
それを背中で受け止め、飲み込み。満足げな声を一つあげると、キュゥべえは静かに話し始めた。

「結論から先に言ってしまえば、彼もまた魔女と戦う力をもった存在だ。あえて言うなら、魔法使いってところかな」
「んだよ、それ。その魔法使いってのも、あんたと契約したってこと?」
杏子が眉をひそめて問う。ほむらもその話には興味があるのか、距離を置いたままキュゥべえの話に耳を傾けていた。
「いいや、僕が契約できるのはあくまで少女で魔法少女だけだ。
 多分彼は……いいや、彼らは、こことは別の世界からやってきた存在なんだろうね」
眼を伏せ、何かを考えながらキュゥべえは言い。
「なんだよそりゃあ、いよいよもってわけがわからねぇ」
「ボクにもわからないことばかりだ、でも彼は、当面はマミと行動を共にするようだよ。
 キミ達が見滝原の縄張りを奪おうとするなら、きっと大きな障害になるだろうね」
目論みを見透かされていたことに、そしてその前に更なる障害が現れたことを知り、ほむらは僅かに顔を顰めた。
杏子もまた、苦い顔で思考を巡らせていた。巴マミは間違いなくベテランの魔法少女である。
それを倒すとなれば、今の自分でよくて五分。数の上での有利があってこそ、勝算を持って挑む事ができるだろう相手である。
けれど、数の上での有利は消え去った。挙句相手の能力は未知数と来ている。まともにぶつかるのはあまりにも分が悪い。

「確かに、こいつは随分面倒になってきやがった。……どーするよ?」
今度こそほむらの方を振り向き、杏子は問いかけた。
対してほむらは、予想外の状況に苦々しく顔を歪め、何事かを考えているようだった。
「……決めるなら早めにしときなよ。無茶を承知で仕掛けてみるか、それともワルプルギスの夜はあいつらに任せるか。
 ま、あたししちゃあワルプルギスの夜とあいつらをぶつけて、残ったほうを頂く…ってのでもいいけどね。じゃあ、またね」
そんなほむらの様子に杏子は一つ小さく溜め息をつくと、そのままビルの屋上から飛び降り姿を消してしまった。

残されたほむらは、未だ苦々しく脳裏を支配する思索から抜け出せずにいた。
そんなほむらに、キュゥべえは唐突に言葉を告げるのだった。
「やっと二人で話ができるね、暁美ほむら」
呼びかけられて向けた視線は、むき出しの敵意と不信の混ざったもので。
「お前と話すことは何も無いわ」
答えを聞くこともなくそう言い切ると、ほむらもまた屋上を去ろうとした。
けれどそんなほむらの足を、更なるキュゥべえの言葉が押しとどめた。

「ボクと取り引きをしないかい、暁美ほむら?
 これは君にとっても、鹿目まどかにとっても悪くない取り引きのはずだよ」
その言葉が口から放たれるや否や、ほむらは半ば反射的に振り向いて。
「……今度は何を企んでいるの、お前は」
と、冷たい声を投げかけるのだった。

「企む、なんていい方は酷いな。ただボクは、君に一つ提案がしたいだけなんだ」
その声の冷たさにも、眼光の鋭さにも一切動じることはなく、変わらぬ調子でキュゥべえは答えた。
それはまるで、機械かなにかのように。
「キミは鹿目まどかを魔法少女にしたくないんだろう?なら、この提案は君にとっても悪い話じゃないはずだよ」
僅かな沈黙。その後に、ほむらは小さく吐息を漏らして強張った表情を緩め。

「……話しなさい」
と、静かに言うのだった。

「ったく、マミの奴……楽しそうにしやがって」
ビルから飛び降り、夜闇に紛れて繁華街へと潜り込み、夜空を見上げながら杏子は呟いた。
双眼鏡越しに見えたマミは、それはもう生き生きと笑っていた。
はしゃいでいたと言ってもいいのかもしれない。そんなマミの姿を見るのは、随分と久しぶりだった。
そう考えて、杏子の口元に苦笑が浮かんだ。
「……直接顔を拝むの自体、いつぶりだって話だよ。でも、そっか……見つけられたんだな、新しい仲間」
知れず、口元に小さな笑みが浮かんだ。それを自覚して、慌てるように杏子は無理やり口元をへの字に曲げて。
「あの男が何者なのかはわかんねーけど、これで状況は五分。
 無理につっかかって奪いに行かなくても、風見野でもそれなりに魔女は狩れる……よな」
その言葉は、まるで自分に言い聞かせているかのようで。

「……別に、無理して縄張りを奪ってやることもねぇ。
 ワルプルギスの夜だって、一人じゃないならどうにか出来るかもしれないしな」
決めてしまえば、胸の奥に痞えていた何かはふっと消えてしまった。気分もなんだか軽くなる。
「そうしよう、ほむらの奴は何か色々考えてるみたいだけど、そこまで付き合ってやる義理もなけりゃあ義務もない。
 ……ああ、それがいいさ」
意を決して踵を返す。このまま風見野へ戻ろうと、そしてもう二度と会うまいと、そんな決意を固めて。


けれど、周り始めた運命は彼女を逃しはしない。

「……お前、何だよ、追いかけてきたのか?」
帰路を辿ろうとした杏子の目の前には、ほむらが立っていた。
どれだけ急いでここへ来たのだろうか、肩を上下させながら、荒い呼吸を繰り返していた。
「わざわざ追いかけてきたとこ悪いけど、あたしはこれで降りるよ。
 わざわざでかいリスク背負ってまで、ここの縄張りを奪いたいってわけでもないからね」
そんなほむらの様子に異様なものを感じながらも杏子は言い放ち、ほむらの脇を通り過ぎようとした。
けれど、ほむらは杏子の手を掴み、それを妨げた。

「……ったく、ワルプルギスの夜の相手は付き合ってやるから、ここの縄張りの事はあんた一人で」
言葉を告げ、手を振り払おうとして。その手が更なる力で握り締められ、放たれた言葉が杏子の言葉を遮っていた。
「力を貸して。どうしても、貴女の力がいる」
「……今度は、何だってんだよ」
鬼気迫る、といった様子のほむらに、杏子は僅かに気圧されたように答えるのだった。

「貴女には、巴マミの相手を任せたい」
込み入った話をするにはということで、人通りの無い場所へと移動して、開口一番ほむらはそう言った。
「おい、お前……あたしの話を聞いてなかったのか?あたしは降りる、やるならあんた一人でやれよ」
杏子もまた、僅かに表情と口調に怒気を孕ませそう答える。
「そもそも、マミはあんたが何とかするって言ったからあたしは手を貸したんだぜ。
 それじゃあ話が違うじゃないか。マミが相手じゃ、あたしも容赦や出し惜しみはできねぇ。
 魔法少女同士の揉め事に使い潰せるほど、グリーフシードにも余裕は……」
杏子の言葉を遮って、澄んだ音がいくつか生まれた。それは、床に何かが落ちた音。ほむらの手から零れ落ちたそれは。

「お前……それは」
「グリーフシードが必要なら、いくらでもあげるわ。だから、お願い」
それはまさしくグリーフシード、一つ二つ、そして三つと地面に零れ落ち。


「本気……なんだな、お前」
グリーフシードをまとめて摘みあげ、未だ疑問の抜けない表情で杏子が問う。
「ええ、本気よ」
瞳を輝かせ、得体の知れない何かを秘めてほむらが答える。
「でも、マミに手を出せばあの男も黙っちゃいないだろ、2対1じゃあ流石にきついぜ」
「問題ないわ。あの男は――私が潰す」
そう言い放つほむらの瞳には、深くて昏い輝きが宿っていた。

「これが、奴等のいる星に繋がるゲートか」
それはまさしく門のようであった。絡み合う樹木がアーチを築き、その下の空間は捻じ曲がりそして歪んでいる。
その先に見えるはずの景色もまた、奇妙に歪んでいる。
「はい、彼らの反応を辿り、どこでも木の実とマザーを併用することでゲートを作りました。
 まだ不安定ですが、一度くらいは使えるはずです」
話をしているのは一組の人影、方や派手な衣装に身を包んだ、大柄で髪にパーマを効かせた女。
恐らく女性。
そして方や仮面の少年。それはかつて、アダラパタがクゥと呼んだその少年で。
そこは『女神の国』と呼ばれる場所の最深部。そしてその女はこの国の主、女神ことグリ・ムリ・ア。

「これを使えば奴等の下に行けるのだな。
 奴等が別の星に消えた時は、どうなる事かと思ったが……却って好都合というものだ。
 別の星でなら、三大神器を投入しても、デュデュマが反応することはないのだからな」
そのゲートを見つめ、グリ・ムリ・アは満足げに笑い、そして。

「さあ行け、三大神器よ!今度こそ奴等を滅ぼし、星のたまごを手に入れるのだ!」
その声が、高らかにこだました。








沈黙。痛いほどの沈黙。誰一人何も語らず、誰も動こうとはしない。

「どうしたんだい、クゥ、舞響大天もブライクブロイドも」
そんな沈黙に業を煮やしてか、グリ・ムリ・アは女神らしい態度を取り繕うことも一瞬忘れて
奥に控えていた二人にも声をかけた。

そこにいたのは大柄な男と、なにやら鐘のようなものを頭から被った女。
いずれも三大神器と呼ばれる、強大な魔法をその身に秘めた魔法使い。
男の名はブライクブロイド、女の名は舞響大天。
そしてもう一人、グリ・ムリ・アの側に控えるクゥもまた、三大神器の一人であった。

「ごめんねー、グリちゃん。どうやらそのゲートはまだ不安定みたいなの。
 私達みたいな大きな魔力の持ち主が通ったら、一発でパンクしちゃうのよ♪」
歌うような口調で、舞響大天が答え。
「五本の指クラスでもきついらしいぜ。ま、送れて三十指が一人か二人ってとこだとよ」
どこか残念そうに、ブライクブロイドが言葉を続けた。

「それじゃ意味が無いじゃないか、今更三十指の一人や二人でどうにかできる相手でもあるまいし。
 おまけに向こうの星がどうなっているのかも分からないときているし……」
その事実に眼を見開き、グリ・ムリ・アは忌々しげに言う。
「ですから、一度誰かを偵察に向かわせればよいかと。その者に彼らの所在と、あちらの星の情報を探らせましょう」
クゥがそう言うと、グリ・ムリ・アは眼を伏せ、何かを考えるようにして。
「できればメモリアにいる者たちを戻したくはないが……かといってエル・ボーイは頼りにならんし
 キル兄弟は暗殺以外には不向きだ。……仕方あるまい」
一つ、大きな溜め息を吐き出してから。

「舞響大天、アダラパタに月丸と太陽丸を呼び戻すように伝えるのだ」
「あら、あの子達を送るのね♪のね♬それじゃあ、伝えておくわ♪」

そして、数日の後。
「それじゃあ、ちょっと行ってきやがって下さい。月丸さん、太陽丸さん」
ゲートの前に立つアダラパタと舞響大天。そしてその二人の前にもまた一組の男女がいた。
頬に月の模様が描かれ、そして耳にも月のピアスをつけ、身体のラインを強調するような服を纏った
妖艶でどこか危うげな雰囲気すら感じさせる女。
そしてそれとは対象的に、頬とピアスに太陽を描き、女の方と比べればどこかまだ落ち着いた雰囲気を持つ男。
女神の尖兵たる魔法使い、女神の三十指が二人にして、女神直属の処刑人。月丸、太陽丸の姉弟であった。

「納得できません。俺達にはメモリア攻略の任が与えられていたはずです。
 なぜこんな事に借り出されなければならないのですか」
アダラパタの言葉に、憮然とした表情で太陽丸が答えた。
「メモリア魔方陣の開催までまだ三ヶ月以上はありやがります。
 その間にちゃちゃーっと行って片付けてくれば済む話ですよ。これは女神様の命令なんですよ。
 まさか、拒むわけじゃあないでしょうねぇ?」
さも面白い言った風に口元を歪め、アダラパタは言う。
「案ずるな、太陽丸。我らならば見知らぬ世界であれど、遅れを取ることなどあろうはずがない。
 必ずや、奴等から星のたまごを奪い取って見せよう」
拳を握り、どこか狂気染みたものをその表情に滲ませて、月丸が力強く言う。

「さ、決まりです。行ってきて下さい。いちおー不定期ですが、極楽連鞭で連絡ができるよーにはするつもりです。
 いい報せを、待ってますよ」
そしてアダラパタは、ゲートへ向けて手を差し伸べる。
「二人とも、お土産よろしくね♪ね♬」
変わらず歌うような調子で、舞響大天が言うと。
「はい、お任せください舞響大天様っ!
 お側を離れるのは寂しいですが、必ず月丸は任務を終えて戻りますから、吉報をお待ちください!」
先ほどまでの様子はどこへやら、甘えるような声で月丸は言うのだった。

「姉様……はぁ」
一方、そんな姿をどこか呆れた様子で見ている太陽丸であった。


そして、二人は異世界への門を――超えた。


魔法少女マテリアル☆まどか 第4話
              『彼らの罪と命の砲撃』
                   ―終―

【次回予告】

分たれたはずの道が、今再び交差する。
それはどちらも譲れぬ道で、激しくぶつかり火花を散らす。

「腕が鈍ったんじゃねぇのか、マミっ!!」
「佐倉さん……貴女、なんてことをっ!」

そして、戦いの影に蠢く異星の徒。その策謀。

「貴方には、ここで死んでもらう」
「なるほど、だとすればあの能力は……」

狂乱と闘争に揺れる街。
人知れぬはずのそれは、今やその姿を隠す事も無く振るわれる。
最中、舞い降りるはもう一人の……。

「これは、絶好の好機と見るべきかな」
「誰……なの、あなたは?」

次回、魔法少女マテリアル☆まどか
        『戦いと戦い、そして戦い』

専ブラだと舞響さんの音符が文字化けしやがります。
なかなかに困りモノですね。

>>171
さやかちゃんだと思った?残念またバトルでしたっ。
……ええ、なんだかまた不穏な気配が漂ってきております。

誕生日までは見てなかったですなー、単行本ではちゃんとBBBも追ってたはずなのですが。
しかしハルポリとBBBの展開がだだ被りなのは一体どうしてしまったのか。

>>172
マミさんは何かノリがよくなってしまいました。
もしかしたら超覇導天武刻輪連懺吼あたり使ってくれるかもしれません。

……全部フランス語あたりに変換して。

>>173、177
ああ、そう考えますとたしかにあの二人も大分報われてそうですね。
しかし本当に弟のほうが太陽だとは思いませんでした。

やっぱりヤマさんぐらいわかりやすけれb(ry

>>174
魔女が使うと頭がヒットして火達磨になってアワレにも結界の中でひっそりと幕を閉じる事になるあるさま
やはりWWFは格が違った!
ええ、うっかりと変な言葉がでてきてしまいました。

>>175
久しぶりにできた仲間、ですからね。
魔法少女でないだけに、グリーフシードを取り合う必要も使い魔を見逃す必要も無い。
ある意味理想の仲間ではあるのでしょう、その罪を知った時、何を思うのかという話ですが。

>>176
今のところメモリア勢は出番がありませんからね、きっとリュシカはパン神光臨の儀式でもやってるんではないでしょうか。

そして月丸太陽丸の最後の台詞についてですが
個人的にはあの二人はもともと姉弟でもなんでもなかったんじゃないでしょうか。
舞響の仕業で二人きりになって、姉弟として育てられてしまった、みたいな感じで。

乙!
一瞬マジで三大神器来るのかと思ってビビったwww
そしてやっぱりキュウべえはそう来たか、バトル展開が熱くなりそうでテンション上がって来たぜー!
ほむらの能力はプリセラさんならごり押しできそうというか、近代兵器が効く気しないけど
ティトォだとほむらが何秒時間を止められようと関係のない方法を思いつくしかないのか……あっ


QBは何言ったんだろ…
星のたまごの事とかなぁ?


QBとしては存在目的上星の卵を横からかっさらうつもりなのは想像がつくとして、
ほむほむはワルプルだって倒さにゃならんし共闘を見切るには早い気がするが
代わりにどんな条件が提示されたのやら
TAPとほむほむの戦闘相性とか考え出すと妄想が逞しくなるな

乙!
マミさんかわいいよマミさんと思ってたら今度は杏子かわいいよ杏子状態だ
あとかっこつけても誰にも尊敬されてないからしまらないグリさんがなんかかわいく見えてきた…。
星のたまごがあればたぶん一生魔女狩りしなくてすむね!いや問題はそこじゃないんだろうけど
ほむらちゃんがほむほ・ムリ・アになってしまう…

>>190
>今のところメモリア勢は出番がありませんから
今のところ…?
しかし山ごもり中修行中のミカゼとジルさんはともかく、グリンやリュシカはTAPいなくなるとかなり動揺してそう
あれは月丸太陽丸にとって血の繋がりはそれくらい欲しかったものなのかな、とそういう意味でした。

正直アクアの戦い方見た杏子の反応がものすごく怖い

TDS読んだが、杏子の頭の中がさやかとマミさんのことばっかでワロタ
実際思い入れが強いんだろうな・・・

では、本日も参りましょう。

第5話 『戦いと戦い、そして戦い』

「それで、話っていうのは何だい、さやか」
ハコの魔女を倒した翌日の放課後、学校の帰り道。
いつもの道を少し逸れたわき道で、ティトォとさやかの二人が向き合っていた。
少し話がしたいからと、マミとまどかには先に魔女探しに向かってもらい、こうして二人で話を始めたのだった。
「あー……えっと、さ。その……」
自分から呼び出したというのに、さやかはどうにも歯切れが悪い様子だった。
それでも何度か口ごもった後、ようやく話を切り出した。

「こういうのお願いするのって、きっと良くない事だって思うけど……ティトォさん。
 あたし、ティトォさんの魔法で治して欲しい人がいるんです」
胸元に寄せた手を、ぎゅっと握って。さやかはティトォを真っ直ぐ見つめてそう言った。
ティトォは僅かに驚いたように眼を見開いて、それでも落ち着いた調子で言葉を返した。
「それは要するに、魔法でも使わない事には助けられない相手、ってことなんだね?」
その言葉に、さやかは小さく頷いた。

「上条恭介、あたしの幼馴染なんだ。……バイオリンが上手くてさ、天才ヴァイオリニストなんて言われてた。
 でも事故にあって、手に酷い怪我を負って。もう、動く見込みは無いって言われてるんだ」
思い出すだけで胸が締め付けられるような悲しみに襲われて
さやかは顔を顰めながら、静かに一つ一つ、言葉を紡いでいく。
「昨日のティトォさんの魔法を見て、死にかけてた仁美が、何事も無かったかのように登校してくるのを見てさ
 これならもしかしたら、って。そう思ったんだ。勝手なお願いだってのは分かってる。
 でも、あたしはどうしても恭介を助けたいんだ」
その声に、瞳に、表情に揺れているのは、純粋に恭介の回復を願う想い。
そして、その奥に見え隠れしているそれは。

「確かに、できないことじゃないかもしれないね。でも、それが君の心からの願いなら
 それを叶える方法は、ぼくに頼らなくても存在しているはずだ」
その人形のような瞳で、真っ直ぐにさやかを見据えながら、ティトォはそう問いかけた。
さやかの心の奥に存在している、もう一つの感情。
それは恐らく戦いの定めに自らの身を投じる事への、恐れや躊躇といったものだったのだろう。
言外にそれを言い当てられたような気がして、さやかは小さく息を呑んだ。
「……っ、それ、は」
たった一言で、さやかは何も言えなくなってしまう。
恭介の手を治したいのならば、自分で願えばそれで済む話なのだ。
その願いの代わりに、戦いの定めを受け入れなければならないというだけで。
それが怖いから、嫌だから、それ以外の方法があるから、それに縋って頼ってしまう。
そんな自分をさやかずっと自覚していた。そしてティトォの言葉にそれを言い当てられたような気がして
どうしようもない嫌悪感を感じてしまっていた。

「……ごめん、今のはちょっと言い方が意地悪すぎたね。
 それに、あんな魔女と戦うなんて、本当は女の子がするようなことじゃないよ。迷うのも、怖いのも当然だ」
小さく息を吐き出して、ティトォは俯くさやかにそう告げた。
「でも、奇跡を起こすっていうのはそういうことだ。それに見合った対価や、覚悟が必要になる。
 ……さやか、君にその覚悟はあるかい?」
投げかけた言葉に、さやかは暫し無言で佇んでいた。
その胸中には、かつて同じようなことをマミに相談した時に言われた言葉が去来していた。



"貴女は、その人の夢を叶えたいの?"
"それとも、夢を叶えた恩人になりたいの?"


――と。

自問する。



一体自分はなぜ、自分の運命を投げ打つような真似をしてまでも、恭介の事を助けたいと願うのだろう。
もう腕は治らないのだと、絶望に打ちひしがれるその様子が、あまりにも痛々しかったからだろうか。
一体自分は何を望んでいるのだろう。奇跡で恭介を助けて、ありがとうって言ってもらいたいのだろうか。
そして、それ以上の関係になりたい。そう思っているのだろうか。
そんな気持ちは否定できない。そう考えてしまっている自分が、たまらなく嫌だった。
でも、本当にそれが恭介の手を治そうとする理由なのだろうか。

考えて、考えて。考え抜いたその時に、不意にその音は記憶と共に蘇ってきた。
それは遠い過去、さやかがまだ幼い少女であったころの事。
幼いながらもステージに立ち、皆の視線を一身に受け止めながら、その小さな手で美しい戦慄を奏でる恭介の姿。
その姿が、そのメロディが不意に、そして鮮明にさやかの中に蘇り、そして彼女は思い出すのだった。

恭介の奏でる音楽が好きだった。
その音楽を、もっと沢山の人に聞いてもらいたいと思った。
そんな素敵な音を奏でることのできる恭介が――好きだった。

ううん、今でもそれが好きだっていう気持ちは変わりはしない、揺らいだりもしていない。
だから。

俯いていた顔を上げて、さやかはティトォの視線に答えて。
「覚悟があるかどうかなんて、あたしにはわからないんだ。
 でも、あたしは恭介の奏でる音楽を、もっと沢山の人に聞いてもらいたい。
 それがあたしの本当の願いなんだ。……あはは、なんでこんな事忘れてたんだろ」
その表情には、やけに晴れ晴れとした色と、それでも隠しきれない不安と苦悩の色が見え隠れしていた。
「うん、ありがとティトォさん。おかげで……ってわけかどうかは分からないけど、本当にやりたいこと、見つけられたよ」
そんなさやかに、ティトォは小さく笑みを浮かべて。
「……わかったよ、じゃあ、行こうか」
と、その手をさやかに差し伸べるのだった。

「行くって、どこに?」
「当然、恭介って人のところにだよ」
訝しげに問いかけたさやかに、さも当然と言った風にティトォは答えた。
「でも、それはあたしが……」
「ぼくはただ、覚悟はあるかいって聞いただけだよ」
唇の端に笑みを浮かべたままティトォは言葉を続ける。。
「治すとなれば、直接ぼくが魔法を使うしかない。見知らぬ人間がそんな事をすれば
 そして治る見込みのない患者がいきなり治ったりしたら、 きっと凄く面倒なことになるだろうね。
 ぼく達はこの世界の人間じゃないから、あまり深くは関われない。だから、そう言う面倒を全部背負い込む覚悟。
 それがあるかいって、そう聞いただけだよ。そして覚悟があるなら、ぼくにはそれを拒む理由は無い」
言葉が続く度に、訝しげだったさやかの表情には、だんだんと喜色と笑みが戻ってきて。
「……それに、やっぱり女の子が戦うっていうのは、あんまり見たくないからね」
そんなさやかを尻目に、ティトォは最後にそう呟くのだった。

「そういうことなら、早速行こう!場所は……えっと、前にアクアと一緒に居た病院、わかるかな?」
「ああ、それならちゃんと覚えてる、道も頭に叩き込んでおいたからね」
すっかり元気を取り戻したさやかが、ティトォを先導するように歩き出した。
「さあさあ、それじゃ早速行っちゃおうじゃないのーっ!」
「ああ、そうだね」
そしてティトォも、その後に続いて歩き出した。

――ちょっと甘やかし過ぎなんじゃないの?
そんなティトォの身の内で、アクアが小さくぼやいた。ティトォは立ち止まり、思わず小さく苦笑してしまった。
「ティトォさん?……どうか、しました?」
「あ……いや、なんでもないよ」
振り向き問いかけたさやかに、ティトォは浮かべた苦笑をかき消して、その後に続くのだった。

「……恭介、入るよ」
病室の前で、緊張した表情でさやか言うと、その扉を開いた。
病室の中には様々な生活用品や調度品が置かれ、そこにいる人物が長らくここで生活をしているのであろうことを示していた。
部屋に備え付けられた大きなベッドの上では、一人の少年が伏していた。
線の細い印象を受けるその相貌に、どこか暗い色を覗かせて。
「さやか……」
恭介は、そんなさやかにちらと視線をやると、すぐにばつが悪そうに俯いてしまった。

無理もない、それはつい先日のことである。
さやかはほぼ毎日のように、恭介の元にお見舞いに来ていた。
けれど一向に改善しない状態に、日々焦燥は募っていた。
そしてある日、その手はもう動かないと告げられて、彼はさやかにその憤りをぶつけてしまっていたのだ。
随分と酷いことを言った、もう来ないだろうとさえ思っていた。
その矢先の訪問である。いつもどおりに接することなど、当然できるはずもなかった。

「昨日は……ごめんね、恭介」
後ろ手にゆっくりと病室に足を踏み入れながら、様子を伺うように、恐る恐るとさやかは声をかけた。
「どうして、君が謝るんだい。……謝るのは僕の方だ。ごめん、さやか」
「あんな事があったんだもん、怒るのだって、当然だよ」
重苦しい空気の中、さやかは極力いつもどおりに話をしようとした。
けれどそんな努力も空しく、病室の中には同じく重苦しい沈黙が立ちこめてしまうのだった。
胸が痛くなるような沈黙。思わず気力も萎えそうになる。
このままじゃいけない、一体何のためにあたしはここに来たんだと、自分のやるべきことを思い出して。

「ね、恭介。ちょっと……外に行かない?今日は天気もいいしさ、気分転換にはもってこいだと思うよ」
ベッドの側に近寄って、さやかが元気付けるようにそう言った。
「……今は、そんな気分じゃないんだ」
けれど恭介は静かに首を振り、すぐにまた視線をベッドに落としてしまう。
このままじゃいけない。さやかは手を伸ばし恭介の手を掴むと、鬼気迫る勢いで詰め寄った。
「実は、さ。大事な話がしたいんだ。だから、恭介。一緒に……来てくれないかな」
そのただならぬ様子には恭介も驚いたようで、しばらく渋ったものの、やがてはその首を縦に振るのだった。

車椅子に乗り、恭介はさやかに押されて病院を出た。
外に出ると、確かに晴れ晴れとした青空に、沈みかけた太陽が浮かんでいた。
そんな空の色があまりにも眩しくて、恭介は僅かに目を細めた。

「それで、話って何だい、さやか」
空を眺めていると、何故だか涙が零れてしまいそうだったから。その視線を地に落として
恭介は尋ねた。さやかはしばし口ごもり、一つ喉を上下させてから。
(覚悟、決めたんだ。今更……迷ったりするもんか)
自分に言い聞かせて、そして頷いて。ようやくその口を開くのだった。

「魔法、なんてものが……本当にあるんだとしたら、恭介は……信じてくれる?」
他に誰もいない庭の中に、ざわりと風が吹き抜けた。
「何を……言ってるんだ、さやか?」
突然のさやかの言葉に、恭介は訝しげに問いかけた。
「恭介の腕、普通じゃあ治らないんでしょ。だったらもう、魔法でも奇跡でも、何でも縋ってみるしかない。
 ……それでさ、あたしは見つけたんだ。本当の魔法、本当の奇跡っていうのを」
けれどさやかは止まらない、こうと決めたら曲がらない。
「ちょっと待ってよ!一体さやかは何を言っているんだ、君は僕をからかっているのかい!」
「違うよ!あたしは、あたしは恭介を助けたいんだよ……だからお願いだよ、恭介。
 今だけでいいから……あたしを、信じて」
声を荒げた恭介に、同じくさやかも声を荒げて言葉を返す。


「間違いなく、恭介には信じられないことだと思う。……でも、これから起こる事は全部、本当の事なんだよ。
 だから……お願い、ティトォさん」
そしてさやかは、その名を呼んだ。

当然あるべきことを当然のように書き綴る作業がえらく捗りません。

>>191
来たらこの話は終わってしまいますからね。
果たしてキュゥべえは何を企みほむらと接触したのか、ほむらもまたそれに何を思うのか。
戦いの気配は迫っておりますが、今はひとまずその前置きです。

>>192
それもまた、おいおい明らかになることでしょう。

>>193
まどかの契約を阻止する、ワルプルギスを倒す。
両方やらなきゃいけないのがほむらの辛いところです。
果たして誰が如何なる戦闘を繰り広げるのか、乞うご期待といったところです。

>>194
舞響とブライクとグリ公の関係は、単純な手下とか言うのとはちょっと違いますからね。
仲間というのか、百年単位の腐れ縁というのか。そんなわけだから気楽なものです。

メモリア勢は出ます、出ます……が、相当先の事になりそうかな、と思っております。

>>195
TDS中巻はこの話を書き終えるまで封印しております。
ネタ被りとかあったら困りますので。

でもまどポやってるとそれだけでもうそんな感じで困る。


果たしてティトォに恭介を治せるのか
…さやかちゃんが契約しないSSだってあるし
大丈夫だよね?

でも公式じゃ、上条の神経は繋がっていないらしいよ

強化した生命力を腕の回復/再生に作用させる、って感じ?
即死攻撃くらったり死にかけている人間も全快できるんだ、それぐらいは余裕でやってくれそう
魔法効果が及ぶ範囲や規模も操作できるっぽいし


ここで引っ張るとかあんまりだよ!
でも治せたら治せたでさやかちゃん空気になちゃうよね


こういう話だとむしろ空気の方が幸せなんじゃないかなぁと思わんでもない…
治せなかったらアレだから魔法に関するフォローはしっかりして欲しいところ

今マミさんとまどかが別行動だから杏子に襲われてるかもな。
しかしほむらにTAPが殺せるのか。あの兵器に魔翌力って付与されてたっけ

作品を知ってれば最初の展開は誰にでも想像はつくだろうが、
予想はほどほどにしておきなされ
書きづらくなるかもしれんから

ではでは、本日の投下でござい

「もうちょっと……こう、なんとかならなかったのかな、説明とか」
そんなやり取りを陰から眺めていたティトォは、苦笑しながら二人の前に姿を表した。
「こんにちは、上条恭介君……だよね」
そんな困ったような表情のまま、どちらかといえば開き直った様子でティトォは切り出した。
「さやか、この人は?」
「ティトォさん。恭介のこと、助けてくれる人だよ」
「この人が……そうか、こいつがさやかを」
言葉を交わす内、恭介の瞳に宿ったのは明確な敵意。

「貴方が、さやかを誑かしてるんだね」
静かな口調で、けれど強い敵意と怒りを込めて、恭介はティトォに言った。
「えっ」
「えっ」
対する二人は絶句である。思わず顔を見合わせる。
そんな間にも、恭介は更に畳み掛けるように言葉を続けた。
「貴方は最低な人だ。さやかの弱みに付け込んで、取り入って、一体さやかに何をさせるつもりなんだ。
 おまけに魔法だなんだって、訳の分からない霊感商法みたいなことまで吹き込んで!」
どうやら、すっかり勘違いしてしまった様子である。




「くしゅんッ!」
遠い星、遠い場所で誰かが一つ大きなくしゃみをした。
「風邪か、アダラパタ?」
そんな彼に向けて、隣に並んだブライクブロイドが声をかけた。
「いーえ。もしかしたら誰かが、ボクの話でもしてるのかもしれませんねぇ。クキャきゃキャキャ」
振り向きながら、小さく肩を竦めて。アダラパタは耳障りな笑い声を上げるのだった。

「ちょっと、落ち着こうよ恭介。……そりゃ、まああたしの言ってることは普通に考えたら胡散臭い霊感商法とかに騙されてる人だけどさ」
「……そんなに胡散臭いかな、ぼくって」
若干、ティトォの顔が引き攣っていた。
「さやかもさやかだ!こんなのに騙されるだなんて、どうかしてるよ」
「いや、あの恭介……ちょっと落ち着いて」
その剣幕にはさやかも驚くばかりで、どうにか恭介を落ち着かせようとするのだが。

「違う……さやかじゃない……」
「えっ」
突如身を震わせて、恭介はなにやら愕然とした表情で言葉を放つ。
「さやかはもっとしっかり自分の考えを持った子だったはずだ
 その後から周りとか失敗することも多かったけど、こんな事に騙されるようなキャラじゃなかったはずだ!」

「……ここって一応喜ぶところなわけ?」
あんまりと言えばあんまりな様子に、思わずさやかは口をあんぐりとさせてしまって。

「みちこ!さやかを出せ!さやかに換わるんだ!!」
「いやいやいやいや、勝手に人を多重人格にして名前までつけないでよ」
なんだかおかしな具合である。

「……論より証拠、かな」
そんなどたばたというかボケとツッコミに、ティトォは小さく溜め息をつくと、懐からライターを取り出した。
「上条君」
そして、あーだこーだとやりあっている二人に向けて呼びかけて。
「きみが怪しむのは当然だと思う。でも、ゆっくりじっくり説明しても、多分分かってもらえないとは思う。
 ……だからちょっと、強攻策を取らせてもらうよ」
そのライターに火を灯す。するとその火はすぐさま白い炎と変わる。それは活力の炎。癒しの炎。
「な……何を、するんだ」
それは明らかに尋常ならざる光景で、恭介も驚きと恐れの混じった震える声を放つ。
けれど、手も足も満足に動かない状況とあっては逃げることもできず。

「……大丈夫だから、恭介。お願いだよ、信じて」
「っ、すっかり操られてるじゃないか。さやかを元に戻せ、みちこっ!」
「だから誰がみちこかぁっ!」
べし、と一発いいのが恭介の後頭部にヒットした。
「あ、やっば!恭介…ご、ごめんっ!」
思わずツッコんでしまったが、流石に過ちに気づいたさやかだった。


「ほんと、きみ達は仲がいいね。きっとこんな事になってなければ、いつもこんな感じだったのかな」
いっそ微笑ましくもある光景に、ティトォは僅かに笑みを浮かべた。
友人とのじゃれあいのようなやり取り。それがなんだか懐かしくもあり、羨ましくもあった。
「恭介君。きみが信じようが信じまいが、ぼくはこれからきみを治す。さやかがそれを願っているからね」
けれど、これ以上続けていても埒が明かない。ティトォは白い炎を身に纏わせると、そのまま恭介に手を伸ばした。
「何するんだ……や、やめっ」
その手が掴んだのは、包帯が巻かれた腕。動く事も、痛みを感じる事もできないほどに酷く傷つけられてしまった腕。
逃れようともがく恭介を制するように、その腕を強く掴み。
さやかもまた、車椅子から転げ落ちそうになる恭介の身体を支えた。

「うわぁぁぁっ!あ、熱……く、ない?」
その腕に燃え移る炎、けれどそれは熱さを伝えては来ない。
腕の感覚がないからという理由ではない。何も燃えてはいないのだから。
むしろ、何か暖かさのようなものすら感じている。何も感じることのないはずの、腕に。
逃れようともがいた腕に巻かれた包帯の中で、何かが動くのを感じた。
「……え、これは。腕が……僕の、腕が」
それはあまりにも久方ぶりの感触で、それが自分の身に起こっていることだと自覚することができなかった。
それでももう一度、ゆっくりとその手を握ろうとした。

包帯の下で、確かにその腕は――動いた。



「そんな、どうして……これは」
慌てた様子で、腕に巻かれた包帯を解く。その下には、生々しい事故の傷跡と、真新しい傷が一つあるはずだった。
けれど、そこにあったのは。
傷跡は完全には消えていないものの、それでもほとんど変わりのない腕だった。

「なんで……どうして、こんな」
呆然と、まるで夢を見ているかのように呟いて。恭介は何度も手を握っては開いてを繰り返していた。
「……よかった、本当によかった、恭介」
もう大丈夫だろう、と手を離し、少しだけ離れた場所でさやかは、恭介の手の動く様子をじっと見つめていた。

そうして見つめているだけで、胸の奥から熱いものがこみ上げてきて。
それはそのまま、二つの瞳からぽろぽろと零れ落ちた。
「よかった……よかったよぉ……っ」
ずっと心の奥に抱えていた悩み、自分の命をかけてまで、叶えようとすら思っていた願い。
それが、こんな簡単に叶ってしまった。とはいえ拍子抜けするような心の余裕は無かった。
ただたださやかの胸中は、どうする事もできない喜びと、安堵に満たされていたのだから。


「貴方は……一体、っ。そうだ、僕……ごめんなさい、酷い事を言ってしまって」
我に返り、恭介は信じられないものを見るかのようにティトォを見つめ、それから先の非礼を詫びた。
「ただの魔法使いだよ。さやかに頼まれてきみを助けた。……流石に、もう信じてくれるよね?」
魔法使い。そんな言葉を信じられるはずもないが、今目の前で起こったのはまさしく魔法なのである。
信じられないわけが無く、恭介は呆然と頷いた。
そしてティトォは、恭介とさやかの二人を交互に見つめて。
「今まで動かなかった腕が急に動くようになったんだ、きっと間違いなく騒ぎになると思う。
 でも、ぼくはそこまで助けてあげる事はできない。奇跡は一度きりだ。
 だからこの先は何が起ころうと、きみ達自身の力でどうにかするしかない。二人で協力して、ね」
とん、と指で軽くこめかみを突くと、ティトォは意味深気にさやかに視線を送る。
それに気づいてさやかは、ぽろぽろと零れる涙を手で拭って、それから恭介に向かい合って。
「そうだよ、恭介。大変なのはこれからなんだから。
 ……でも、大丈夫。さやかちゃんが、ばっちり恭介をサポートしちゃうんだからね!」
溢れる涙は笑顔に変えて、さやかは最高の笑顔で恭介に言うのだった。

「あ、そうそう。上条君」
最後にティトォは、付け加えるようにこう言った。
「今度機会があったら、きみのヴァイオリンを聞かせてくれないかな。
 クラシックをやってくれると、ぼくとしては嬉しいな」
先ほどまでの落ち着いた態度とは一変して、どこか好奇心めいた、子供のような笑みを浮かべて。
恭介は一瞬だけ呆気に取られたようにして、それでもすぐに、その瞳に強い意志と自信を輝かせて。
「はい、必ず!勘を取り戻せたらすぐにでも。……本当に、ありがとうございました。ティトォさん」
それを見て、ティトォは満足げに頷くのだった。

――なるほどね、それが目当てだったわけだ。
――まったく、ティトォらしいよ。
アクアがそれ見て呟く。そしてそれにもう一人、女の声が加わっていた。
「……これくらいの役得は、見過ごしてくれたっていいだろう?」
と、ティトォはその身の内からの声に応えるのだった。



「さて、と。あんまりマミ達を待たせるのもまずいし、そろそろぼくは行くよ。さやか、彼の事を頼むよ」
為すべき事は為した。言うべき事も言った。ならばもう、これ以上ここにいる理由はない。
なによりも、今の二人を邪魔したくはないという気持ちもあって。
ティトォは二人にそう告げると、踵を返して歩き始めた。
「ティトォさん。本当に……本当に、ありがとうございました」
その背中に、さやかは深く頭を垂れた。
「ありがとうございました、ティトォさん。必ず、最高の演奏をしてみせます」
そして、恭介もまた。
ティトォはそんな二人に少しだけ振り向いて、嬉しそうに笑って小さく手を振った。
そして、マミの元へと向かうべく歩き出すのだった。

歩きながら、ティトォは思う。
救えてよかった、と。そのために、この力を使う事ができてよかったと。
不用意に魔法の、奇跡とも言うべきその力を晒してしまった事は、やはり無用心だったとは思うけれど
それはきっとさやかがどうにかしてくれるだろう。
二人のあの笑顔が見られただけでも、きっと十分に意味はあったのだ。
空っぽの希望に踊らされた笑みではなく、本当の希望が生んだ、輝くようなあの笑顔を。
考えながらも、その足は着実にマミ達との合流地点へと向かっていく。
日が沈み始め、薄暗くなってきた人気のない通りを、足早に通り抜けていく。

――その、刹那。



「ぐ……っ、ぁ?」
脚に、腹に、そして胸に重い衝撃が三つ。ぐらりとティトォの身体が揺れた。
撃たれた。誰に、何故。どこから。その明晰な頭脳が状況を把握しようと思考を巡らせるよりも早く。

「そん――な」
激しい爆発と、吹き荒れる爆炎がその場を埋め尽くし、ティトォの身体を飲み込んだ。

予定調和を予定調和で書くのもアレなので、ちょっとだけ遊んでみました。

>>205-206
どうやら無事に助ける事ができたようです。
元々何かの魔法だとか呪いだとかいうわけでもないですし、どっかの世界じゃ手術で治るような怪我です。
ティトォにかかればお茶の子さいさいってなもんでしょう。

>>207
いやあ、魔法っていうのは本当にいいものですよねえ。
実際問題ぶった切られた腕だって余裕で繋いじゃうレベルなので、それくらいは治せちゃうのでしょう。

>>208
月花ヨマ戦辺りは明らかに無茶しすぎなレベルで頑張ってましたね。
ジルさんだけでもひーこら言ってたはずなのに。

>>209
無事に、極めて無事に治ってくれました。
とは言え今度はティトォがピンチです、さてはてどうなりますやら。

>>210
その後のフォローについては完全にブン投げてしまいました。
いくらティトォでも見知らぬ地で色々弁明弁解に追われるのは厄介だったのでしょう。
こんな大きな秘密と奇跡を抱えてこれから何とかやっていく覚悟。
それが、ティトォがさやかに問うたことでもあります。

>>211
しかし予想できる展開をがっつりと裏切ってこその土塚漫画。
こちらもそんな感じで行きたいものです。本当に。

乙です。

正直、恭介がみちことか言いだした瞬間、「あれ……もしかしてアダラパタの野郎、なんかしやがったか」と警戒してしまった……。
あいつは色々、あくど過ぎるから、つい。
そしてラストの衝撃的シーン。……一体何者なのか。

乙!
無事に治ってよかった、恭介くんのボケ倒しには少し焦ったけど
唐突にギャグ入れたくなる気持ちはイチ土塚ファンとしてよくわかるし
いいぞもっとやれといっておくぜ!


謎の襲撃者…いったい何者なんだ(棒)
予備知識がなければ不意打ち成功率100%だが
純粋物理弾なので存在変換によりキャンセルされる
ここまでは予想の範疇
ここからの展開が問題であり楽しみなところだ

乙!
もし治らなかったらさやかがうそつき呼ばわりされるんじゃないか…みたいな不安があったのにみちこwwwwwwww
最初にみちこ言いだした時はリアルで「!?」って顔になったよ。カイザートさんの恋人のうちの一人だったな…
予想と不安を裏切ってくれてありがとう!
TAPは存在変換中無事でいられるのか…?

たけふみかwwww

捗る、捗るぞぉー
でも微妙にまどポに時間を食われ気味だったりもします。
では、投下行きましょう。

「何かあったのかしらね」
ティトォを飲み込んだその爆発と爆音は、公園にてティトォを待つマミとまどかの元へも届いていた。
「これって魔女の仕業…なんでしょうか」
爆発という、想像はいくらでもできるものの、実際に眼にする事などない現象に、驚いたようにまどかが尋ねた。
「魔女にしてはちょっとやり方が派手すぎるとは思うけど……とにかく、様子を見に行ってみましょうか」
「はい、マミさんっ!」
そして二人は足早に歩き出した。この爆発である、恐らくすぐに人が駆けつける事だろう。
魔女の仕業だとしたら、そうなる前に結界に入り込まなければならない。
そうでなければ、そこに集まった人たちまでもが魔女の餌食になりかねない。

二人の足は公園を抜け、そのまま路地を抜けていく。日はだんだんと傾き始め、夕日が二人の目を差した。
そんな二人の眼前に、夕日の朱より尚赤いものが立ちはだかっていた。

「――佐倉、さん」
「よう、久しぶりだな、マミ」
それは、佐倉杏子の姿だった。

「え……マミさん。この人、知り合いなんですか?」
なにやら見知った二人の様子に、まどかが疑問の声を上げた。
マミは杏子から視線を反らさず見つめたままで、その言葉に答えた。
「ええ、彼女は佐倉杏子。魔法少女よ」
「ってことは、仲間ってこと……ですよね」
その言葉に、安堵の表情を浮かべたまどかであったが
「違ぇよ、あたしらはもう仲間でもなんでもない」
杏子は、冷たくそう言い放ち。
「……ええ、そうだったわね」
その言葉に、マミもどこか諦念染みた表情を浮かべて答えたのだった。

「それで、一体どういう風の吹き回しかしら。貴女がこっちにまで出張ってくるなんて」
二人の間の漂う空気はあまりにも冷たくて、それを肌で感じてまどかが一歩後ずさる。
そんなまどかを守るかのように、マミは杏子との間に立ちはだかった。
「それはこっちの台詞だ、マミ。一体どういうつもりだよ、魔法少女でもない奴をぞろぞろ連れて魔女退治、なんてさ」
強い口調でそう言うと、杏子はまどかを睨みつける。気圧されたように、まどかは更に一歩、後ずさる。
「この子には魔法少女の素質があるわ。そして私の可愛い後輩でもある、あまり脅かさないでくれるかしら。
 ……用がないのなら、そこを通してくれないかしら。今急いでいるの」
「そりゃあ無理な話だね。あたしは、あんたに用があって来たんだからね」
言葉と同時に、その身体が赤い光に包まれる。一瞬の後、そこには魔法少女姿で槍を構えた杏子の姿があった。

「そんな腑抜けたあんたに、こんな絶好の狩場を預けとくってのも癪だからさ。
 この街、あたしが貰ってやろうと思ってね」
唇の端に凶悪な笑みを浮かべて、その槍をマミに突きつけ杏子が言う。
「本気で、言ってるのかしら」
マミの瞳に冷たい輝きが宿る。その口調も同じく凍て付いて。
「試して、みるかい?」
その笑みを更に深め、杏子はぐっと膝に力を溜める。まさしく一触即発、戦いの空気が路地に立ち込めていく。

「そんなの駄目だよ、魔法少女同士で戦うなんて、おかしいよ」
けれどまどかは、そんな臨戦の場へと踏み込んだ。
「鹿目さんっ!危ないから離れていて」
「マミ、お前一体こいつに何を教えてんだよ」
マミは焦ったようにそれを制し、対して杏子は苛立ちを抑えきれないといった表情で毒づいた。
「まさかさぁ、みんなを守るとか、正義のために戦うとか、そんなことを教えてるわけじゃないよね」
ぶん、と一度頭上で槍を振りかぶり、その狙いをまどかに、そしてマミへと定めると。
「奇跡も魔法も、どこまでも自分のためだけに使うもんさ。
 それが理解できねぇってなら、魔法少女だろうとそうじゃなかろうと、真っ先に死ぬぜ」
その身の内に秘した静かな殺気が、一気に膨れ上がった。
放たれたのは赤い閃光。それを為す切っ先が、恐るべき速度でまどかの喉元へと迫った。

「ひ……っ!」
「鹿目さん、離れてっ!!」
眼前に迫る圧倒的な死に、全身を竦ませて立ち尽くすまどかのその手をマミが引き。
それと同時に黄色の閃光が弾けた。


「佐倉さん……貴女、なんてことをっ!」
突き出された切っ先をマスケット銃の銃身で受け止めながら、マミは怒気を孕んだ声で杏子に叫んだ。
「はっ、ちょっと脅してやっただけだろうが。
 そんなことで頭に血が上るなんて、先輩さんは随分と過保護じゃないか、えぇっ!」
確かにそれはマミにも分かっていた。この間合いで杏子が本気でまどかに槍を繰り出せば
 マミと言えどもそれを防ぐことは困難で。それを容易に防ぎ得たということは即ち
今の一撃に限っては杏子は本気ではなかった。その事実を示してはいた。

けれども、魔法少女ではないただの一般人にその穂先を向けた、杏子の行動をマミは許せなかった。

「どうやら、話し合いで済むような状況じゃないようね」
ぎりぎりと、穂先と銃身を押し付けあいながら、マミはあたかも宣言するかのように冷徹にそう言い放つ。
「元からそのつもりだよ、やっとあんたもやる気に……っ!?」
直後、杏子の背筋に寒気が走る。
それは恐らく、経験によって積み重ねられた直感に根ざしたもので、杏子は咄嗟に飛びのいた。
刹那、先ほどまで杏子が立っていた場所から、黄色い光のリボンが湧き出した。
あのままそこに立っていれば、拘束され、身動きが取れなくなっていた事だろう。

気づけばマミの姿もまた、魔法少女のそれへと変わっている。
距離を置き、マミは尚も杏子を睨みつけたまま、腰を抜かしたように地面にへたり込むまどかに声をかけた。
「鹿目さん。動けるかしら?」
「は……はい、何とか」
恐怖がまどかの身体を縛る。それでも震える足で、まどかは立ち上がった。
「そう、よかったわ。鹿目さん、今すぐここを離れて。ティトォを呼んできて」
「え……ティトォさんを?」
まどかが垣間見たマミの横顔に浮かんでいたのは、後悔とも焦りとも言えるような、深い憂いを湛えた色。
その横顔に、まどかは悟ってしまう。
佐倉杏子という魔法少女は、恐らくマミでさえも一人で立ち向かうには分の悪い相手なのではないか、と。

「わかり……ました、すぐティトォさんを連れてきますから、それまでちょっとだけ待っててください!」
「頼むわね、鹿目さん」
そして、まどかは震える足でどうにかその場を去っていく。
その気配が遠のくのを感じて、改めてマミは眼前の杏子へと意識を集中させるのだった。

「やっとこれで、心置きなくやりあえるね、マミ」
再び槍を頭上で回し、それをマミへと突きつけ、杏子は好戦的な笑みを浮かべる。
そんな杏子に、マミは憂いを込めた視線を向けると、静かに問いかけた。
「本当に本気なのね、佐倉さん」
「ああ、そうさ。だからあんたも本気で来な。くっだらない仲間だの後輩だの気にかけてたら、死ぬよ」
杏子は迷わずそう答えた。その内心はともかくとして、その言葉はマミに一つの決意を固めさせるのだった。

一度眼を伏せ、そして再びそれを開く。マミはどこまでも冷たい視線で杏子を射抜き、そして。
「グリーフシードのために人を見殺しにする。それはまだ理解できないわけじゃないわ。
 ……でも、自分の目的のために、邪魔な人間を害しようとする。一般人にさえ魔法の力を向ける。
 それを平気でできる貴女は、もう魔法少女じゃない」

そして、続けて放たれた言葉は。

「貴女はもう、魔女と同じよ。――佐倉杏子」
決定的な決別を意味する、言葉だった。

マミの言葉に、杏子の表情が硬直した。




蘇るのは、記憶。

大好きだったあの人に、魔女と呼ばれて蔑まれ。

そんな自分の存在が、あの人の全てを、そして私の全てを壊してしまった。

あの時の言葉が、今も耳を付いて離れない。


"そんなお前を、魔女と呼ばずに何と呼ぶんだ"


そしてまた、今も。大切だったあの人が、忘れられないあの人が、私を魔女と呼んで蔑んだ。

もう嫌だ、たくさんだ。




「あんたまで、あんたまで……あたしを魔女と呼ぶのか、巴マミぃっ!!」
メリッ。と、何か嫌な音がした。杏子は叫び、目を見開き、唇を噛み締めた。
「ああぁぁァァぁぁアっ!!!」
そして激しい雄叫びと共に、触れるもの全てを打ち砕く赤い閃光と化して、マミへと迫るのだった。

唐突の爆発が、そして激しい戦いが街を振るわせる。
そんな戦いからは遠く離れて、見滝原中の制服を纏い、肩ほどまでの黒髪を揺らした少女が一人
高みより街を見下ろしていた。
彼女は一度街の状況を俯瞰すると、快活そうなその表情に、くすりと満足気な笑みを浮かべて呟く。

「厄介な守護者は、他の魔法少女と交戦中。
 得体の知れないイレギュラーは、これまた得体の知れない敵にやられてる。
 おかげで彼女は孤立した」
その細やかな指先を、軽く唇に滑らせて。ほんの僅かに考えるような仕草をしてから。

「これは、絶好の好機と見るべきかな」
ぎらりと歯を覗かせ、凶悪な笑みと共に言葉を放つのだった。

「よし、決めた。刻もう。世界のために、彼女のために」
最後に自らに言い聞かせるようにそう言って、彼女の姿が――消えた。

「さやかちゃんのところにもいない……となるとティトォさん、どこに行っちゃったのかな」
まどかは走っていた。ティトォの姿を探して走っていた。
まずはさやかに連絡を取り、恭介の腕が治った事を喜んだ。
そしてティトォの居場所を尋ねたのだが、その時既にティトォはさやか達の元を離れていた。
爆発の現場にも向かったが、そこはもう既に野次馬でごった返しており、その中からティトォを見つけることはできなかった。
だとすれば、後はどうすればいいのだろう。まどかは途方に暮れて足を止めた。

「はぁ……はぁっ、こんなことなら、ティトォさんにも携帯、持ってもらえばよかったのかな」
思い出す、いつでも連絡が取れるようにと、ティトォに携帯を持ってもらうことにしようかと、そんな話をしていたことを。
けれどティトォは、携帯電話そのものには興味を示したものの
何か嫌なものを思い出したかのような顔でそれを拒んだのである。今更ながらにそれが悔やまれてしまう。
とにかく急いでティトォを見つけなければならないと、まどかは荒い息を整える間もなく再び走り出そうとした。

けれど、そんなまどかの眼前に一人の少女が現れた。

「きゃっ」
「おっと、失礼」
それは見滝原中の制服を着た、肩ほどまでの黒髪を垂らした少女の姿で。
「ご、ごめんなさいっ。今急いでるから、それじゃっ!」
けれどまどかはそれに構っているような暇はない。その少女に小さく頭を下げると、再び走り出そうとした。
「待ってよ。見たところ、きみは何かを探しているみたいだけど……何か困りごとかい?」
けれど少女はそんなまどかの手を掴んで引きとめ、少女はどこか芝居がかったような口調で話しかける。
「え……う、ううん。大丈夫だから」
一瞬迷って、けれどこんな事に巻き込むわけにはいかないと、まどかは小さく首を横に振った。

「そう遠慮をする事はない、今の私は実に気分がいいんだ。
 ずっと探していたものが見つかった。だから、今日の私は優しいんだ」
掴んだその手は存外に強く、まどかは振り払う事ができずにいた。
そんなまどかの様子を気にもせず、まるで独白するかのように少女の言葉は続く。
「やっと見つけた。やっと掴んだ。最悪の災厄の魔女。鹿目まどか」
その声は、熱に浮かされているかのようで。

「どうして、私の名前……それに、魔女って。まさか……貴女は」
その言葉は、まどかに困惑と疑問を抱かせる。そして少女は、すぐにその答えを提示した。
「ご明察っ!私の名前は呉キリカ。魔法少女だ」
言葉と同時に、その身が光に包まれ、変わる。
片目を眼帯で覆い、タイトな黒いコートのような衣装を身に纏い。
その変貌は、その姿はまさしく魔法少女そのもので。

突然の魔法少女の登場に、逃れようとすることも忘れ、眼を見開き呆然としているまどか。
そんなまどかを尻目に、キリカはにっこりと笑うと、その手を軽く上にかざして。
「はじめまして。そしてさよなら、鹿目まどか」
手の先に鉤爪のような光の刃を生じさせ、それを振り下ろした。

急転直下の状況ですが、こういう状況だと色々と捗るものもあります。

>>221
アダさんはいまのところ女神の国とメモリアを往復する日々のようです。
果たしてこちらに来ることはあるのでしょうか。来たら来たで面倒しか起こさない連中ですが。

そしてティトォの今後についてはまた次回以降ということで。

>>222
どこかにギャグを入れなければ、やはりマテパでも土塚作品でもありません。
とは言えあまりギャグ向きではない人間なので、どうにも苦労している現状です。

>>223
はたしてティトォはいかにして謎の襲撃者を退けるのでしょうか。
そしてマミさんと杏子の勝負の行方は、まどかの安否は。
風雲急を告げる見滝原市の、そして魔法少女達の明日はどっちだ!

てな具合に一つ。

>>224
治すところについては色々捻ろうかとも考えましたが、今後の展開的にすっぱり治っていただきました。
ティトォのクラシック好きという設定もありますし、結構気になっていたところもあるようですし。
みちこは確かにカイザートさんの恋人の一人でしたね。
もしかしたらクレアだったりジェニファーだったりするかもしれませんが。
しかし勇者カイザートの冒険は本当にやらかすんでしょうか、土塚先生。

>>225
たけふみなのです。
元ネタが分からない人は清村くんと杉小路くんよの2巻を読みましょう。

>>227
それはじかいのおたのしみです(首カクカク

乙!
おりキリ来たー!でもここに最低でも暗殺姉弟混じるとかハードすぎる……
でもやっぱ外道展開じゃないとマテパっぽくないしまどマギっぽくないから仕方ないね
大丈夫、きっとティトォがぜんぶ何とかしてくれるさ、よくわかんないけど!


おりキリ参戦とは驚いたぜ


アダさん思い出すからって便利ツール拒むティトォワロス
そういう辺りは実利主義的かと思ってたが
おりキリも参戦とは予想外
先がどうなるか目が離せないな


そういえばアダさんは主人公勢全員から嫌われてたよなww

アダさんはゲスキャラなのになぜか憎めないタイプ。ただのクズじゃないだからだろうか……
そしてかずみキャラもでるのか?出たら風呂敷がたためなくなりそうだ……

アダさんが人気なのは清々しいまでの「外道」だからじゃない?
自分が悪だという事を自覚して嬉々としてやっているから
むしろ「クズ」「外道」とか言う言葉はアダさんにとって褒め言葉

それに、どの作品でも清々しい外道は得てして人気が高いもんさ
JOJOのDID様、幻想水滸伝Ⅱのルカ様、ヘルシングの少佐しかり、からくりサーカスのフェイスレス、同じ雑誌のハガレンのエンヴィーとかな
逆に自分のやってる事に無自覚な奴は嫌われる

じゃ、烈火の炎の森光蘭は無自覚ってこと?
アイツは分かっていてやってそうだけど……

>>244
あいつも「外道」だけど、美学とかカリスマもなくて、その実はただの小物だから
追い込まれたら、醜態さらしまくりだし
だからそこまで人気もないというか・・・すごく俗っぽいけどね

それから付け加えるなら森光蘭と同じカテゴリに入るのは
ダイの大冒険のザボエラとかじゃないかと思う
小物で自己保身のためだけに周りを使い捨ての駒にするとことか
読者から嫌われてるのも同じだし

さあさあ皆さん、かんけーない漫画の話はそれくらいにしやがりなさい。
今日も投下を始めやがりますよ。ケキャきゃキャキャ。

時は僅かに遡る。
それは、ティトォを襲った謎の爆発の直後。
そこから少し離れた建物の屋上に、一人と一匹の影があった。
「ちょっと強引過ぎやしないかい?暁美ほむら」
「無駄に手間をかけるほうが面倒よ。決められる時に、一気に片をつけたほうがよほどいい」
湧き上がる爆炎を眺めながら、暁美ほむらとキュゥべえが言葉を交わしていた。
「貴方には、ここで死んでもらう。そして、星のたまごを渡してもらうわ」
炎に巻かれ、その身を焼き尽くされているであろうティトォに、ほむらは冷たくそう言い放つ。
「よろしく頼むよ。キミの為にも、鹿目まどかの為にもね」
キュゥべえもまた、その炎の渦に視線を向けてそう言った。

「……燃え尽きたりはしないわよね、星のたまごとやらは」
その炎は激しく燃え盛っている。もしやすると延焼でもしているのかもしれないと思わせるほどに。
その勢いの強さに僅かに不安を感じて、ほむらはキュゥべえに問う。
「キミはあれを何だと思っているんだい。あれは星が生み出したエネルギーの結晶体だ。
 そう簡単に損なわれるような代物じゃあないさ」
「そう、じゃあ行ってくるわ」
ほむらは左手の盾に手をかざし、炎の奥を見据える。
その奥で朽ち果てたであろうティトォから、星のたまごを奪い取る。そのために。
だがほむらが動き出すよりも早く、渦巻く炎はその容貌を一変させた。
「これは……炎が」
そう、全てを焼き尽くすはずのその炎は、その色を白へと変えていた。
ティトォのホワイトホワイトフレアが身を焼く炎を変換していたのだった。

「これが、奴の魔法……っ!」
詳細はともかくとして、その事実にはすぐに思い至る。
言葉と同時に、ほむらの姿がかき消えた。けれど直後、再びほむらの姿はそこに現れて。
「どうしたんだい、ほむら」
訝しげに尋ねたキュゥべえに、ほむらは苦い顔で首を振り。
「……逃げられた」
と、呟くのだった。

「どうにか逃げられた、かな」
地の底で、そこに漂う臭気に眉を顰めながらもティトォは呟いた。
突然の狙撃を受け、さらには爆発に巻き込まれた直後。
ティトォは即座にホワイトホワイトフレアを発動させた。
身を焼く爆炎はそのまま癒しの炎へと変換され、突然の攻撃による傷を癒していた。
けれどそれでは、すぐに追撃を受けることになるだろう。
敵はこんな街中ですらも平気で攻撃を仕掛けてくる相手。まともに立ち向かっては、一般人への被害は計り知れない。
そう言う意味では、魔女以上に厄介な相手であると言えた。
だからこそ、ティトォが選んだ選択は逃げる事だった。
傷を癒し、さらには炎を目晦ましとして、すぐにティトォは近くのマンホールの中へと逃げ込んでいた。
街の地下に網目のように張り巡らされた下水道。その存在も、ティトォは既に把握していたのだ。

頭上ではかなり人が集まっているようで、騒ぎが大きくなり始めている。
恐らくもう、謎の襲撃者もこの場を離れている事だろう。
とは言え同じ場所から出たのでは衆目を集めてしまう。
少し離れたところから、地上へと戻ろうと考え歩みを始めた。
下水道の中には、有害ガスが発生している場合もある。
流石に街の直下でそれは考えづらいが、念のためホワイトホワイトフレアは身に纏ったままにしておいた。

「しかし……一体誰が、こんな事を」
歩きながら考える。一端思考に没入すると、もはや臭気のことも忘れてしまう。
今の敵のやり口は、結界の奥に潜んだ魔女のそれとは大きく異なる。
周囲の被害を一切考えない行動はむしろ、彼らの敵である女神の、そして三十指のそれに近い。
「まさか、奴等がこの世界に……だとしたら」
最悪の想像が脳裏によぎる。この世界は魔法というものはないものと見なされている。
そんな世界で、奴等が容赦なくその力を振るえばどうなるか。
「少なくともこの街は崩壊だ。そんなこと、させるわけには行かない」
険しい顔で呟くティトォ。けれどその思考の片隅には、もう一つの疑問が宿る。

「けれど、女神の手の者だとしたら何故、魔法でぼくを攻撃しなかったんだろう」
そう、先ほどほむらの仕掛けた攻撃はあくまでなんらかの銃器による射撃と、爆発物による攻撃でしかなかった。
それではティトォ達の不死を打ち破ることはできない。
女神の手先であるのなら、それを知らないはずは無いというのに
なぜそのようなものを使ったのかがティトォには疑問だった。

「これはぼく達への警告?それとも……敵は魔法使いじゃない、のか?」
推理するにも情報が足りなさ過ぎる。それでもわかったことはある。
「どちらにせよ、この世界でもやはりぼく達は追われる立場……っていうことだね。
 やっぱり、長居はできないみたいだ」
小さく嘆息し、ティトォは上を見上げた。出口が見える、ここから出る事にしよう。
梯子を上り、マンホールの蓋を押し上げる。やけに重い。
「……あれ?」
もう少し力を込めてみる。するとぐらりと蓋が揺れた。
それでもまだ開かない。けれどこれなら、もう少し力を込めれば開きそうだ。
「ぬ……こっ、のぉぉぉっ!!」
ティトォ自身は腕っ節には自信はない。けれどホワイトホワイトフレアで身体能力を強化
更に勢いをつけて押し上げることで、見事その蓋を押し上げる事に成功した。

「はじめまして。そしてさよなら、鹿目まどか」
言葉と同時に振り下ろしたその爪は、確実にまどかの身体を引き裂くはずであった。
けれど、そうはならなかった。キリカの身体は足元から競り上がる何かによって持ち上げられ
その拍子に掴んでいたまどかの手さえも手放してしまったのだ。
「うぁ……っ、え?」
キリカは驚いて自分の足元を見た。
「きゃっ……えっ?」
まどかもまた、急に手を振り払われた事で尻餅をついてしまい
低くなった視線に映ったその人物の姿に、驚いたような声を上げた。

「ティトォさんっ!?」
「まどか?何で君がこんなところに……」
そう、キリカの足元にはマンホールがあり、それをティトォが震える腕で押し上げていたのだ。
それがまどかに振りかざされた、致死の一撃を遠のけていたのだった。

「まったく、一体何がどうなってるんだいっ!」
足を取られてバランスを崩し、咄嗟にキリカは後ろに飛びのいた。
頭上の重しがなくなったことで、ティトォはどうにかマンホールの蓋を放り投げ、そのまま外へと飛び出した。
先ずは一つ新鮮な空気を肺いっぱいに吸い込んでから、ティトォはまどかとキリカを交互に眺めて尋ねた。
「とりあえず、君はまどかを殺そうとしている。そういうことなのかな」
その手に鉤爪を携え、油断無くこちらを見ているキリカの姿。
それはおおよそ常人のそれではなく、恐らく魔法少女であろうとティトォは推測していた。
とん、とまた一つこめかみを指でついた。

「……どうやら、思わぬ邪魔が入ったようだね」
キリカもまた、突然の乱入者を油断無く睨んでいた。
突然足元から出てきたということも、ティトォが未だホワイトホワイトフレアを解いていなかったことも
そしてどうやら鹿目まどかの知り合いらしきことも。
その事象のすべてが、キリカに目の前の男が只者ではないという事を知らしめていた。

(彼が織莉子の言っていたイレギュラー、迂闊に仕掛けるのは危険かな。でも、この好機を逃す手は……ないッ!)
――この身はただ、為すべき事を為すために。救世のため、彼女のための刃たれ。
そんな覚悟と決意を胸に抱き、キリカは再び全身から激しい殺気を迸らせる。

「あの子……魔法少女だって、言ってた。それで、私を殺すって。私が……最悪の魔女になるから、って」
怯えたように身を竦ませながら、まどかは震える声でそう言った。
「まどかが、魔女に?……どういうことだ」
マミから聞いた魔女の話とは、それは大きく食い違う。
希望から生まれる魔法少女、呪いから生まれる魔女。そう言う話だったはずなのに。
「きみ達は何も知る必要は無いよ。ただ何も知らず、私と彼女の世界の為に、切り刻まれてくれればいいんだッ!」
生まれた疑問と巡る思考。その全てを断ち切るかのように、キリカは叫ぶと地を蹴って跳ぶ。
空中で大きく両手を振りかぶり、勢いもそのままに、鋭い鉤爪を振るった。

「くっ、問答無用……だなっ!」
回避するにも、まどかを巻き込む危険が高い。
敵の狙いがまどかであるなら尚更で、ティトォは咄嗟に先ほど放り投げたマンホールの蓋を掴んで持ち上げると
それをそのまま、迫り来る爪に対して盾のように掲げた。
白い閃光が三条、そしてほぼ同時にもう三条。

「な……っ」
まさに一閃である。硬質な金属でできているはずのその盾がまるで紙切れか何かのように寸断され
それを掲げたティトォの腕にも、浅くは無い裂傷が刻まれていた。

「く……このぉっ!」
「あははははっ!遅い、遅すぎるよきみはっ!
 わざわざ魔法を使うまでもない、そのまま微塵に刻まれ、果てろッ!」
キリカはあまりにも早かった。対してティトォは多少の心得はあるものの、所詮それは凡人の域を出ない。
ホワイトホワイトフレアで強化した拳で殴りかかるが、それはまるで掠りもせず。
返す刃で翻るキリカの双爪が、見る間にティトォの全身を傷で埋めていく。
「ティトォ……さんっ」
そんな凄惨な光景に、まどかはただ身を声を震わせ、立ち尽くすことしかできなくて。
「はぁ…っぐ、ぁ。まどか、君は逃げるんだ。このままじゃ二人とも殺される。だから、きみだけでも……」
「でも……ティトォさんが」
互いに互いを気にかける。けれどそれは致命的な隙を生む。

「拍子抜けだね、イレギュラー。先ずはきみから、微塵に刻んで撒いてあげるよっ!!」
その隙を突き、キリカが猛然と迫る。
回避をしようとしたティトォだが、無数に傷を刻まれた身体は限界だった。
足は動かず、そのままがくりと膝をついてしまった。
そして動きを止めたティトォの身体を――白い閃光が貫いた。

三対の爪が深々とティトォの腹部を貫き、そのまま身体を持ち上げる。
ぼた、と血の塊が流れ落ち、キリカはそれを満足気に見つめると、ティトォの身体をそのまま放り投げた。
「うん、どうやら刻む価値もなかったようだね。私の前に立たなければ、もっと長生きできたのにね」
打ち棄てられたまま動かないティトォを一瞥し、キリカは凄惨な笑みを浮かべた。
そして今度こそ逃さないとばかりに、鋭い眼光でまどかを射抜いた。

「嘘……だよね。ティトォさん」
「きみは自分の目で見たものすら信じられないのかい?そんな愚かな瞳は、私が抉ってあげようじゃないか」
血塗れて朱く染まった爪を、キリカはまどかに突きつけた。
「さあ、それじゃあ今度こそさよならだ。……?」
そしてキリカはその手を振り上げる。振り上げようとした。だが、その身体はぴくりとも動かない。
「なんだ、これは……」
その表情が驚愕に染まる。目を凝らし、何事かとその腕を見ると、そこには無数の細い何かが絡み付いていた。
「糸?何で……こんな物にッ!?」
それは細く、けれどいくら力を振るっても千切れることはなかった。

「蜘蛛の糸を強化して吐き出させたんだ、その糸は、そう簡単には切れやしない」
地に伏し、息絶えたはずのティトォが、その血まみれの顔に笑みを浮かべ、辛うじて身を起こしてそう言い放つ。
「ティトォさんっ!」
まどかの表情に希望が戻り。
「イレギュラー……まさか、あの傷で生きていられるはずが」
そしてキリカの表情には、驚愕と共に焦りの色が浮かぶ。
「ぼくの魔法は強化と癒しの魔法だ。この程度の傷、塞ぐことはわけないさ」
ティトォは余裕ぶってそう言った。けれど。
「でも、ティトォさん……ぁ」
その身体は傷だらけで、腹の傷すら辛うじて塞がれているだけだった。
そんなティトォを気遣うように声をあげようとして、ティトォがしぃ、と口元に指を寄せるのに気が付いて
まどかはその口を閉ざした。

「まどか、今の内に逃げよう」
「う、うんっ!」
「待て、逃がすもんか……く、このっ!」
未だ動けぬキリカの姿を恐る恐る見つめ、それでもどうにかその脇を抜け、ティトォの元へと向かう。
「行こう、まどか。とにかく今は……奴から、離れるんだ」
「……うん。でも、大丈夫なんですか、ティトォさん」
「いいから、急いで!」
ティトォの声は、負っているはずの深手を感じさせないほどに力強い。
その声に背を押されるように、まどかは駆け出した。ティトォもそれに続き、よろよろと駆け出していく。

ある程度距離を置き、その姿が見えなくなった頃。
「ティトォさん……その傷、本当に大丈夫なんですか」
今も尚ぽたぽたと血は流れ続けている。まどかはそんなティトォの身を案じずにはいられない。
「大丈夫……じゃ、ないかな」
その言葉に答えながら、力尽きてしまったかのように、ティトォの身体がぐらりと揺らいだ。
そしてそのまま、壁にもたれて倒れてしまう。

「ティトォさんっ!ひどい傷……魔法で治せないんですか、その傷は」
「今はもう、無理だ。昨日の今日でこれだからね、どうやら魔力が尽きてきたみたいなんだ」
掠れた声でティトォが呟く、その表情には血の気が一切見られなかった。
「そんな……それじゃあティトォさん、このままじゃ死んじゃうよ」
その姿が、まどかに殊更に死を意識させる。
「そうだね。それにここでぼくが死ねば、あいつがまた解放されてしまう。
 そうなったら君も助からない。だから――」
一度目を伏せ、その内心で覚悟を決めて。

「――換わるしか、ない」
そう、呟いた。

ん 終わりかな?

>>238
ティトォだけではどうにもなりませんでした。
正直なところティトォ一人で戦うにはあまりにも分の悪すぎる相手です。

>>239
おかげでこの話が何週目かは定かではなくなってしまっています。
おりキリはちょっとだけ迷いましたが、ここは出すべきということでご出演いただく運びとなりました。

>>240
そして徹底的にボコられるティトォです。
幾重にも傷を刻まれ、魔力すらも尽き。いよいよ存在変換です。
携帯電話についてはまあ、持たせると話にならないという理由m(ry

>>241
見る限りTAPにミカゼ、月丸にまで嫌われているアダさん。さすがです。

>>242
大体243さんの言ってる感じでいいんじゃないでしょうかね。
私も面目レス…じゃなくてフェイスレスさんは大好きですし。

かずマギは……なんかそろそろ終わりらしいし、出せるものならって感じですが。

>>243
そういう悪役論を色々考える中では、個人的なことですが。
ガン×ソードのカギ爪の男は悪役としてもかなり異質だったんじゃないかなあと思います。
クズと言うには善人すぎて、恐らく無自覚でやっているわけでもない。
なんともいえない気分になったのを覚えています。

以下、とりあえず別の漫画の話には触れない方針で。

>>256
おわりでございます

乙です
ここで出るのはプリセラかな。アクアじゃ速さに対抗できるかどうか微妙だし

乙!
クモの巣トラップは時間操作系の二人には有効すぎる戦略だよね、ほむら相手に使うと思ってた
そしてまだわからんがこれはおそらくプリセラさんフラグ!
まどかたち相手ならメンタル面でもティトォより頼りになりそうだし最強妊婦さんの活躍に期待してます。

というか大魔王アクアさま降臨しちゃったら、最低でも戦闘範囲すべてが焦土になちゃいそうだしね


交換条件はやっぱまどかの安全の保証かね(契約的な意味で)
明確に星のたまごを意識してる辺り、三十指がQBに接触済み?

乙!
魔翌力切れそろそろ来るかなとは思ってたけどこのタイミングか。
クモの巣トラップ…そういえばそういうこともやってたな。
あと彩光少年で出てきた龍油で瞬間的な高火力も魔法に変換してる描写があったし、
そういうティトォのスペックをSS内でフルに使っててすごいわ。

アクアは『素粒子レベルでの分解』っていう魔法の性質上対人戦に向かないからなぁ。
一応原作でも銃弾に対応してたし、それくらいの反応速度や能力はあるんだけどね。


まだ切り札を幾つか残しているとはいえ、直接戦闘ではさすがに分が悪かったか

星のたまご(の欠片)やマテリアル・パズルって使うだけでエントロピー超越しまくってるよね


プリセラさんは早すぎるような……まどマギじゃ勝てる相手がいないぞ!

プレイアデス星団は星のたまごの力を知ったら狙いそうだな……


襲撃者はほむらだったのか…
しかし、魔法攻撃がほぼないほむらじゃ一人相撲じゃねぇかwwwwww

>>265
『存在変換中は無防備』っていう設定があるから、物理攻撃のみでもどうにかできるかもしれない…
って言っても実際作中で存在変換してる間に手を出されたことがないから詳しくは分からないんだよね

ちょっと間が空きましたが、今日の投下を始めましょう

「腕が鈍ったんじゃねぇのか、マミっ!」
苛烈な砲火の雨をすり抜け、杏子はマミに肉薄する。
「く……このっ!」
マミもまたそれを迎え撃ち、次なる魔銃を生成し構える。
けれどそれに一拍先んじて、杏子は左手に握った槍でその銃身を打ちつけた。
その槍は通常のそれではなく、柄の短い、ともすれば剣のようにも見えるような槍で
それゆえにその一撃は鋭く疾く、マミが掲げた銃身を弾き飛ばした。

「きゃ……っ!」
放たれた魔弾はあらぬ方へと消え、その掌中より弾かれた魔銃もまたくるくると宙を舞う。
マミの表情に一瞬焦りの色が浮かび、そして。
「終わりだっ!!」
杏子の右手に握られた追撃の槍が、マミを貫かんと迫っていた。
回避は困難、無理やり避けたところで、それで追撃の手を緩めるほど杏子は甘い相手ではない。
「甘く……見ないでっ!!」
咄嗟にマミはその手を胸元に伸ばし、刹那。

黄と赤の閃光が交差した。


「ぁ……ぐ」
突き出された槍は、マミの肩口を深く抉り。
「ちっ……やりやがるな」
刃と貸し、打ち放たれた刃は杏子の首筋を掠めていた。
マミの傷は浅くは無い、けれど杏子とて、反応が一瞬遅れていれば喉を掻っ切られていただろう。

「だが……」
「でも……」
そんな交錯を経ても尚、二人の戦いは終わらない。
「「まだまだぁっ!!」」
即座に杏子は再びマミの懐に飛び込んでいく。
距離をおいての射撃を得意とするマミを相手取るには、危険を覚悟で懐に潜り込むしかない。
マミもそれが分かっているが故に間合いを取ろうとするのだが、速さという点においては杏子に分があった。

「こいつで……ちっ」
一本に束ねた槍を両手で握り、そのまま渾身の刺突を叩き込もうとして
何かに気づいたように杏子は舌打ちし、すぐさま背後に飛びのいた。
直後、黄色いリボンがつい先ほどまで杏子のいた場所へと降り注いだ。
「その手は食わねぇって言ってんだろ、相変わらずしつこいね、マミ」
飛びのいて直後、油断なく槍を構えて杏子は叫ぶ。
「本当に、悔しいくらいによく避けてくれるわね。ちょっと自信をなくしちゃうわ」
切り裂かれた肩口に手を当て、傷を塞ぐだけの簡単な治療を施しながらマミはそれに答えた。

そう、マミの魔法の最大の脅威、それは正確無比な射撃でも、必殺の威力を秘めた一撃でもない。
一度囚われてしまえば逃れる術の無い拘束魔法こそが、マミの最大の脅威であると杏子は認識していた。
リボンで拘束するのみならず、銃撃の弾丸や必殺の一撃までも恐るべき拘束具へと変わってしまう。
それを知らずにマミと対峙すれば、撃ち放たれる銃弾の雨を回避することに注力するあまり
背後や足元に忍び寄る魔法のリボンに絡め取られてしまう。
それがわかっているからこそ、杏子は常に放たれた弾丸の所在と、それが放つ魔力の波動に注視し続けていた。
故に今も尚、一度としてマミのリボンは杏子を捕らえることができずにいた。
マミ自身、自分の魔法に少なからぬ自信を抱いていたのだが、この結果はそれを揺るがしていたよようだった。

(強がってみたけど、やっぱり手強いな。……でも、勝てないわけじゃない。
 グリーフシードにもまだ余裕がある、マミの魔力切れまで粘れば、勝てる)
杏子は、この戦況をそう判断する。
実際のところ、杏子にも余裕があるとは言いがたい。魔力だけならば、グリーフシードに余裕がある分杏子に分はあるだろう。
そして実際の戦闘においても、決して杏子はマミに引けを取っていない。
(もっと、ずっと届かない相手だと思ってたんだけどな)
かつての先達が、決して及ばないと思っていたその相手が、今では自分の手の届くところにいる。
それがどうにも落ち着かない、奇妙な感情を杏子に与えていた。
それは言葉にするのなら、嬉しさと寂しさの混じったものと言えたのかも知れない。

(それだけ、強くなったってことかな)
それでも杏子はそう言って、無理やり自分を納得させた。
事実、杏子は強くなったのだ。かつての離別のその日から。
けれどこうして有利に戦闘を進める事ができていた理由は、杏子がマミの戦い方を熟知していたという事が大きい。
マミの戦い方は、かつて杏子が共に戦っていた頃には既に完成されており、今尚大きな変化は見られていない。。
そして決して短くない期間、杏子はマミのすぐ隣でその戦いを見続けていた。
その経験が、杏子をマミの戦術に対応させていた。

(強い。……本当に、強くなったのね、佐倉さん)
驚愕と焦り、そして心のどこかに安堵を感じている自分を、マミは自覚していた。
かつての仲間であり、今は道を違えてしまった杏子が、今もこうして魔法少女として生きている。
そしてこれほどの力を手にして、自分の前に立っている。それ自体は喜ぶべきことではないはずなのに。
それでもマミには、かつての後輩の成長を、心のどこかで嬉しく思ってしまっていた。

(なのに、どうして……その力をこんな事に使ってしまうの)
魔女を倒すための力であるはずの魔法少女の力を、こうして同じ魔法少女同士の潰し合いに使ってしまうだなんて。
それがどうしても、マミには我慢がならないことで。
(それにしても、こちらの手の内がほとんど読まれている……本当にやりにくいわ)
そう、杏子はマミの手の内のほとんどを知っている。だからこそこうも攻めあぐね、劣勢を強いられてしまっているのだ。
何か別の戦い方でも考えておけばよかったのだろうかと、後悔するのは遅すぎた。

(幻惑の魔法を使ってこないのも気になるし、ティトォが早く来てくれればいいのだけど)
魔法少女の持つ魔法は、大まかに二つに大別される。
一つは魔法少女であれば誰でも使える基本的な魔法。そしてもう一つが、願いに応じて生まれる固有魔法。
マミにとっては協力な拘束魔法こそが、その固有魔法であった。
そしてマミが知る杏子の固有魔法は幻惑で、それは分かっていても対応することが難しいほどのものである。
今尚それを使わない理由はわからなかったが、やはり依然として状況は悪いと言えた。

二人の思惑が、そして視線が交差する。
再び空気は緊迫の度合いを強め、溢れる殺気がちりちりと二人の背を焦がす。そして、再びそれがぶつかるかと思われたその時。
戦いによって研ぎ澄まされた二人の神経が、強大な魔力の震えを察知した。

「これは……」
杏子は驚愕し、そして思い出す。
「まさか、これは」
マミもまた驚愕し、そしてすぐにその原因に思い至る。
「あの時と同じ魔力の波動だ、一体何が……」
「ティトォっ!」
それはかつて、アクアがティトォへと存在変換を遂げたときに感じたものと同じ魔力の波動。
すなわちそれは、今再び存在変換が行われつつあるということで。
マミにとってそれはティトォの死を、本当の意味では死ではないだろうが
何かしらの危機がティトォの身にも迫っている事を知らせていた。
故に、マミは即座に駆け出した。その瞬間だけは、眼前の杏子の存在もすっかり頭の中から失念させて。
ただただティトォの元へと向かうために、半ば衝動的に動き出していたのだった。

けれどそれは、戦いにおいては致命的過ぎる隙。当然杏子は、それを見過ごしはしない。
駆け出したマミの背後を、白い光が駆け抜けた。それはバラバラの節に分解させた多節槍。
それを飛ばし、脇目も振らずに走るマミの足を絡め取る。
「きゃっ?!」
動きを遮られ、そのままバランスを崩して転倒するマミの全身に更に節を絡め、硬く締め上げ拘束し。
「余所見してんじゃ……ねぇっ!!」
杏子は槍を抱えた両手を大きく振り下ろした。その動きはそのまま、マミを絡め取る節にも通じ。
マミの身体はまるで吊り上げられるように高く持ち上げられ。
受身も防御も一切取れぬまま、猛烈な勢いを伴い地面へと叩き付けられてしまった。

「がッ……ぁ、かふ」
あまりの威力に地面が砕け、その亀裂の中心にマミの身体は投げ出されている。
全身がバラバラになりそうな衝撃がマミの身体を襲う。
骨の一つも折れて刺さったのだろうか、喉の奥から鉄の味と同時に血がこみ上げてきて、咳き込むと同時に口から零れた。
「う……っぐ」
形勢は一気に傾いた。魔法少女にとっては、これほどの傷でさえも致命傷には程遠い。
けれど傷を負えばそれだけ動きは鈍る。魔力で補うにも限度がある。ほんの一瞬の油断が、一気に状況を変えてしまった。

「なるほどね、あのバカみたいにでかい魔力は、あんたの新しい仲間だったってわけだ」
ただならぬマミの行動に、杏子もそれを悟る。
「くっだらないね、他人の心配ばっかして、勝手に散漫になってさ。
 仲間だなんだって言って、結局足の引っ張り合いじゃねぇか」
どうにか身を起こそうとしたマミに槍の穂先を突きつけて、杏子は嘲るようにそう言った。
「挙句全員死んでちゃ世話ねぇな。全く、馬鹿らしくてしょうがないよ」

「どういう……こと、佐倉さん」
杏子の言葉は、暗にティトォの身にも危機が迫っていることを証明している。
そしてティトォの能力は、1対1に向いているものではない。魔法少女が相手となれば、まず間違いなく敗れてしまう。
その事実が、マミの焦燥を駆り立てる。それに駆り立てられるように、震える声でマミは問う。
「あんたらが二人がかりだってのに、あたしがわざわざ一人でつっかかると思うかよ。
 今頃、あの野郎もこんな風になってる頃なんじゃない?」
「そんな……」
マミは目を見開き、その心を打ちのめす驚愕に震えた。
「ま、あたしの場合は仲間って柄じゃないし、単なる利害の一致って奴だけどね。
 魔法少女にはそれくらいが丁度いいんだよ。仲間だなんだって馴れ合ってたら、揃って死ぬ羽目になる。あんたらみたいにね」
杏子は頭上で一度大きく槍を振りかぶり、それをマミへと突きつける。

「さあ、そろそろ終わりにしようぜ、マミ」
内心蠢く複雑な心情はすべて、酷薄な笑みの下に押し殺して。とどめの一撃を繰り出さんと杏子は槍を振り上げた。


魔法少女マテリアル☆まどか 第5話
            『戦いと戦い、そして戦い』
                   ―終―

【次回予告】
魔法少女の、そして魔法使いの戦いは、更に激化の一途を辿る。
そしてついに現れるのは、三人目の。

「最っ…強ぉぉぉっ!!」
「私の魔法が、通じない……」

それぞれの思惑が蠢き。そして遂にその戦いは決着の時を迎える。

「これが、仲間の力よ」
「下らねぇ、これで終わりだよっ!」
「……狙い撃つ」

「何かあったのかな。なんだか街が騒がしいけど」

そんな騒乱の最中でも、それは陰より忍び寄る。

「そんな…嘘、これって」

次回、魔法少女マテリアル☆まどか 第6話
           『三人目の魔法使いと傷だらけの勇者』

レス返しはまた後日にしたいと思います。
本日はえらく疲れておりますのでorz

三人目…一体何者なんだ…


ほむら杏子オワタ


三人目が負けるビジョンが見えない


TDSの下巻と読んだ直後に来たから切なさがやばい


もうそろそろ来る、来いと思ってたけど本当に来ると感じてしまうこの戦慄…!
三人目は流石だな

地味に月花ヨマの台詞が混じっててにやりとした


どっかで聞いた台詞と思ったら仲間のくだりはヨマだったのか

さあ、6話も揚々と参りましょう

第6話 『三人目の魔法使いと傷だらけの勇者』

「さあ、それじゃあしっかりと、聞かせてもらうわよ」
それは街が激戦に揺れる日の前日。ハコの魔女を倒し、マミとティトォが帰宅を終え、ようやく一息ついた後の事だった。
三角形のテーブルを挟んで、マミは少し険しい表情でティトォにそう告げる。
「……そうだね、約束だからね」
ティトォもまた、険しい表情でそれに答え、そして。
「まずは……そうだね、ぼく達の身体のことについて、もう少し詳しく話をすることにしようかな」
「それは関係のあることなの?貴方達の……罪と」
そう、これから語られるのは彼らの罪。ハコの魔女との戦いの最中、マミに話すと約束をしていたことだった。
「ああ。そもそもぼく達がこんな身体になってしまったのも、その時に起こった出来事が原因なんだ」
そう言うとティトォは一度目を伏せて、軽くこめかみを指で突くいつもの仕草をすると、やがて静かに話し始めた。

「だから、まずは聞いて欲しい。ぼく達の事を、星のたまごのことを」

「星の、たまご?」
いくつものモニターのようなものが浮かんだ真っ白な部屋、備え付けられた椅子に座って
怪訝そうな声でほむらはキュゥべえの言葉に問い返した。
「そう、星のたまごだ。ボクはそれを手に入れたい。だからそのために、キミにも手を貸してほしいんだ、暁美ほむら」
その白い尾をふわりと揺らし、赤い瞳を煌かせ、ほむらの眼前に座るキュゥべえはさらに言葉を続ける。
「もちろんただ手を貸してもらおうとは思っていないよ、もちろん見返りはある。
 キミが首尾よく星のたまごを手に入れることができたのなら、ボクは鹿目まどかとの契約を諦めてもいい。
 それはキミの望みのはずだろう?」
キュゥべえの言葉が静かに響く。ほむらはその内心はともかく
一切表情を変えることなく暫し押し黙り、それでもやがて再び口を開くと。
「……お前が嘘をつかないのは分かるわ。でも、それでも素直に頷けるほど、私はお前を信じていない。
 星のたまごとは、一体何なの?」
その胸中に揺れるのは色濃い不信の色。そして、淡い期待の色。
そんな心の濃淡を瞳に揺らがせ、ほむらは更に問いかける。

「別に、詳しい説明をしなくとも問題はないだろう?ボクは星のたまごを手に入れる。
 キミは鹿目まどかの契約を阻止できる。お互い損をする話じゃないはずだよ」
事も無げにキュゥべえはそう言うが、その言葉はどうやらほむらの警戒を強める結果にしかならなかったようで。
ほむらは更に表情を険しくし、さらにキュゥべえを問い詰める。
「話さないということは、何か知られては困ることがあるのね。ソウルジェムの事だとか、魔法少女と魔女のことのように」
「キミは……そこまで知っているなんて、一体何者なんだい。いや、でも知っているなら逆に話は早いかもしれないね」
その言葉が意するところは明白で、キュゥべえは少し驚いた様子で、けれどすぐに考え直して言葉を続ける。

「最初に聞かせてもらうよ、暁美ほむら。キミは一体どこまで知っているんだい、魔法少女のことも、ボク達のことも」
「全てよ、インキュベーター」
ともすればそれは本当に射抜いてしまうのではないかと思うほどの殺気すらも込めて、ほむらはキュゥべえを睨みつける。
インキュベーター。その呼び名もまた意するところは明白で
キュゥべえはそんな殺気も受け流して、その表情に小さな笑みを浮かべた。
「そうか、そこまで知っているのなら、キミには全てを話してもよさそうだ」
さらにキュゥべえは言葉を続ける。その告げられる内容は、ほむらでさえも知らぬことで、そして驚愕に値することだった。




「マミには前に話したよね。ぼく達の身体がとても大きな存在の力を秘めた結晶体でできている、という話は」
頷くマミに、ティトォは言葉を続ける。
「その結晶体こそが星のたまご、その力があったからこそぼく達は三つの魂を一つの器に収めることができたし
 こうして不老不死でもいられるんだ」
そう、そこまではマミも既に知っている事実。
ただその存在の力とやらを宿した結晶体が、星のたまごと呼ばれるものであるということが新たに分かったに過ぎない。
本題はこれからなのだろう。マミは一度姿勢を正すと、続くティトォの言葉を聞き逃さぬよう耳を済ませた。

「星のたまごは、数千万年、もしかしたら何億年かも定かじゃないような長い時間をかけて
 大地の奥の奥の奥で作られるものなんだ。そして星のたまごは何かの拍子に地中で弾けたり
 地表にばら撒かれたりすることがある。そのエネルギーが星全体に広がることで
 大地が、そしてそこに生きる生命そのものが潤い、次の段階に進化する」
だとすれば、星のたまごとはまさに文字通り、星の命を育むたまごなのだろう。
確かにそれほどの力を秘めたものならば、人一人、否、三人を不老不死にするくらいはわけないだろう。
恐らくそれは、魔法少女の奇跡ですらも及ばないほどの大きな力。その力の大きさを想像し、マミは僅かに身震いした。

そんな様子を知ってか知らずか、ティトォの言葉は更に続く。
「そうして生まれた生命は、海に山に、遍く場所に広がって、再び大地を温める。
そ のエネルギーが再び大地の奥に集まって、長い時間をかけて新たな星のたまごになる」
星に生まれた生命が星を温め、そうして生まれたエネルギーが星の中で集まり星のたまごとなる。
星のたまごは新たな命を生み、新たな命は新たな星のたまごを生む。
それはまるで、終わることなき命の螺旋。食物連鎖の頂点でさえ、最後は朽ち果て地に還る。
そして再び命の苗床となる。そんな命の循環と、まるで同じものであるかのように見えた。

「……途方も無い話だわ。まるで、星そのものがひとつの大きな生き物のようね」
まるでどこかのSF小説のようだと、呆気に取られたようにマミは呟いた。
「そうだね、これは生命の循環システムと同じ、星の循環システムと言ってもいい」
ティトォは、そう答えた。

「星の循環システム……」
聞きなれないその言葉を、ほむらはもう一度繰り返して言った。
「そう、星の循環システムだ。星とそこに生きる生命すべてが、一つの大きな生命体であるかのように循環していく。
 それが星の循環システム。ライフストリーム、なんて言い方をされることもあるね」



僅かな沈黙。ほむらは思わず目を瞬かせ。
「……大丈夫なの、その。名前とか」
躊躇いがちに、切り出した。
「問題ないさ、今やスクウェア・エニックスだからね」
一体何を言っているのやら。



「さて、話を戻そうか。ボク達が宇宙のエネルギー問題を解決するために
 魔法少女と契約を交わしていることは、キミはもう知っているよね。
 でも、魔法少女の感情を利用したシステムを生み出すまでには、様々な試行錯誤が繰り返されていたんだ」
「その一つが、星の循環システムだったということね」
話を戻せば、すぐさまキリっとした顔でやり取りを始める一人と一匹である。
「察しがいいね。今説明した通り、星の循環システムによって星のたまごは生み出される。
 そしてその星のたまごを使うことで、宇宙のエネルギー問題を解決できるんじゃないか
 ボク達はそう考えたんだ。そして、それを実行した」
けれど全ては過去の事。今こうして魔法少女を生み出し続けているという事は即ち、その目論見が失敗した事に他ならない。

(だとしても、星のたまごがそれほどの力を持っているのなら……)
キュゥべえの言葉に耳を傾けつつも、ほむらは考える。

「星の循環システムの存在する星を見つけ、そこから星のたまごを収穫する。
 更に星のたまごが生まれやすい環境を整え、安定した生産を可能とする。
 そんな計画がかつて進められていたんだ」
「でも、それは失敗したのね。……それは何故?」
星のたまごは、インキュベーターの手にすらも余る存在だったのだろうか。
だとすれば、それを一個人が扱うことなどできるのか。そしてそれを為しえている彼らは一体何なのか。
ほむらの思考に疑問は尽きない。
「星の循環システムが存在する星には、例外なく守護者がいたんだ。
 星のたまごを守るために生み出された、星の守護者。そういえば、ウェポンなんて呼ばれ方をしているところもあったね」
「……だから、そういう危ない話はやめなさい」



「星の……守護者?」
聞きなれない単語に、そしてなんだかちょっと心惹かれるその響きに、マミは実に興味深そうにその名を繰り返した。
「――そう、星のたまごを悪用しようとするものが現れたとき、大地に代わってそれを裁き
 星のたまごを再び大地へと回収する。大地の分身であり、大地の底から現れる。それが……」
ティトォは一度目を伏せた。瞼の裏に映るのは、かつて彼が見た光景
そしてつい先ほどハコの魔女が映し出した光景。

突如現れた光の龍によって、跡形も無く消し飛ばされた島国、ドーマローラ。
その、光の龍こそが。
「魔女の結界の中で見た、ぼく達の故郷、ドーマローラを滅ぼしたもの。星の守護者――デュデュマ」

「それがティトォの言っていた、大魔王……デュデュマ」
呆然と呟くマミに、ティトォは小さく頷いた。
あまりに壮大すぎる話だが、それでもマミはどうにかその内容を理解できていた。
理解できたからこそ、気がかりが残る。
「それじゃあつまり、貴方達はかつて星のたまごを使おうとした、そして星の守護者
 デュデュマによって国ごと滅ぼされた。そういうことなの?……それが、貴方達の罪なの?」
だとしたら、それは到底許される罪ではない。
どんな理由があるにせよ、自分達の目的のために国一つを滅ぼしてしまうことなど、決して許されてはならない。

少なくとも、マミはそれを許せない。


「違うっ!」
「っ、ティトォ……?」
声を荒げて、その表情を怒りで一色に染め上げて、ティトォはそれを否定した。
ティトォがここまで感情を露にしたところを、マミはこれまで見たことがなかった。
「……違うんだ。それは、違うんだ」
身の内より湧き上がる感情を抑えるように、ティトォは拳を握り締め、歯を食いしばり身を震わせた。
ともすれば弾け飛んでしまいそうなほどの感情が、ティトォの中で
そしてその身の内にいるであろう二人の中で渦巻いているのが、マミにはよくわかった。
だからマミは思わず身を乗り出して、そんなティトォの震える手を握った。

「ぁ……マミ?」
「落ち着いて、ティトォ。……ごめんなさい、貴方達を疑うような事を言ってしまって」
すまなさそうにそう言って、小さくマミは頭を垂れた。
触れ合う手からは、どちらとも言えぬ暖かさが伝わってきて。それがどうにも気恥ずかしくて、どちらともなく手を離し。
「……ありがとう、マミ。そうだね、じゃあ話の続きをしようか」
「え、ええ。お願い…するわね、ティトォ」
マミは何故だか微かに頬を染めて、ティトォの手を握っていたその手を、ぎゅっと両手で握りこんだ。
その手の中にはまだ微かな温もりが残っていて、それがどうにもマミの心をそばだてるのだった。

今回はここまで!

説明回の再開です。
三人目の活躍はもう少しお待ちください。

前回の分もまとめてレス返ししていきます。

>>259
さて、果たして彼女に出番はあるのでしょうか。
色々とバランスブレイカーなお人ですからね、彼女。

>>260
今のところほむらは完全に不意打ちオンリーです。
相手の力を図るという意味もあったのかもしれません。
そのままワンチャン死んでくれたらラッキーですし。

一応これ、街の近くでやりあってるんですよね……
アクアが出たらえらいことになりそうだ。

>>261
キュゥべえはキュゥべえで既に星のたまごを知っていました。
恐らくは女神よりも先に、です。

>>262
ただ、ティトォのスペックをフルに使うとなると、後一つだけ出ていないものがあります。
ちょっと話の展開を弄ったら出す予定だったのが出せなくなっt(ry

一応魔力が高ければガードはできるようなので、魔法少女や魔女ならば耐えることはできそうです。
威力もそれなりに自由自在に調節できるようですしね。

>>263
だからこそキュゥべえもそれにエネルギー問題の解決を望んだのでしょう。
あえなく失敗したようですが、それでも今ここにフリーの星のたまごがあるのですから、狙わない理由はありません。

>>264
ふふふ、果たしてどうなりますやら。

プレイアデス勢は星のたまごを狙う組とそれを阻止する組、そして両方止めようとするかずみでもうぐちゃぐちゃになりそうです。

>>265
純粋な物理攻撃ならそうですが、多少なりとも魔力を込めれば十分に致命傷を与えられます。
だから魔力で操作したタンクローリーとかでぶちこめば(ry

>>266
基本敵がいなけりゃ変換しないですからね。
自然死とかはそういう干渉がおき難い状況でしょうし。

>>276
さあ、いったいダレナンデショウカ(首カクカク

>>277
まだまだ終わったとは限りませんとも、どちらもまだ遭遇すらしてませんしね。

>>278
でもうまいこと嵌められればワンチャンある相手ではあります。
真正面から挑むのは完全に無理ゲですが。

>>279
TDSはこの話が終わるまではネタ被りが怖いので封印です。
ああ、でも続きが気になってしょうがない。

>>280
登場を予感させるだけでこの反応、さすが姐さん。

ちょうどしっくりきそうだったので入れちゃいました。
でも個人的には死神ゆまとかのネタがのやりたかったり……入れられるかな。

>>281
そゆことです、いろんなところにちょくちょくネタを混ぜていけば少しは土塚作品らしくなるのではないでしょうか。


FFⅦネタかよwwww
あれも色々言われたけど、いいゲームだったよな。伏線の張り方が絶妙だった
それから、マミさん。これ、もしかしなくてもティトォに・・・
まどポのマミ√やTDSとか見てると、マミさんは側にいてくれる人に依存するからなぁ
境遇ゆえに仕方ない事なんだけどさ・・・それが原因で嫌な方向に向かわなきゃいいんだが


くう、三人目の登場は次回におあずけか
そういやまず最初に相対するのはキリカだった

乙!
シュウガはマザコンだけじゃなくQBの母星も一緒にぶったぎっておけばよかったかもね。
FFネタだったのか…しかしメタい。

>>291
相手の感情や発想を取り込む必要があるのでアレは魔女相手には難しそう


不意打ちでギャグ混ぜんなww
吹いちまったww

この説明だと星のたまごが
エントロピーを凌駕できるのかはちと疑問が残るかな?
魔法少女システムが熱力学を覆すのは感情をエネルギーに変換するからで
星のたまごが自然界のサイクルで生まれるまっとうな産物なら
宇宙のエネルギーの増大には寄与しない気がするし
逆に増大するならほっといたって宇宙は滅びないような

まあとにかく期待


なんていうか、たまごが育むってのは変な感じだな

乙!
今やスクエニ糞ワロタwww
>>298と同じこと考えたけどマテパとのクロスだから
虹やグラウンドゼロ操っていた様な文明が“飛び火”でそういう星滅ぼしまくってるわけで
そうなら星ごとの自然な増大じゃ追いつかないっていうのも納得っできるかな?
まぁQBの目的が自分の種の延命で宇宙の寿命うんぬんがその手段に過ぎないだけかもしれんが

前々からFF7と話は似てると思ってたんだよな
少し影響受けたのかもしれないね

投下だ、行くぞぉぉぉっ!

「……まだ長い話になりそうだし、何か飲み物でも用意するわね。ミルクティーでいいかしら」
「ああ、頼むよ」
マミは立ち上がり、キッチンへと消えていく。
残されたティトォは荒げた吐息をどうにか押さえ、その手で胸元を押さえた。
その手の下で、ドクン、と心臓が脈打つのが聞こえる。
かつての記憶、故郷を失い、三人が共に生きる事となったあの日の始まりの記憶。
思い出すだけでその記憶は、否応無くティトォの感情をかき乱す。
湧き上がる感情は怒り。けれど百年の時を経て、無数の戦いを、出会いを経て。
今尚それは怒りだけなのだろうか。少なくとも、アクアにとってはそうではないだろう。
何せ、彼女の妹は……。

(大丈夫だよ、ティトォ。あたしは……大丈夫)
巡る思考に飛び込む声。アクアの声が、その脳裏に響き。
「……ああ、そうだったね」
小さく笑って、ティトォはそう呟いた。

一方マミは、火にかけたやかんをどこかうわついた様子で見つめながら、小さな吐息を漏らしていた。
じっと見つめた手にはもう、先ほどの温もりは欠片も残っていない。
「ティトォは一緒に戦ってくれた。みんなを、助けてくれたのよね。悪い人じゃない、一緒に戦えるはず……よね」
思い出すのは絶体絶命の窮地。
無慈悲な魔女の手によって、身も心もバラバラに砕かれようとしていたあの時。ティトォは手を差し伸べてくれた。
白い炎に輝くその手はあまりにも神々しくて。それはまるで、物語の一遍であるかのように美しくて。
今尚その姿は脳裏に焼きついて離れない。
それを離したくないと願う。ずっと一緒に戦っていきたいと、ずっと一緒にいたい、と。
「っ、あ……何考えてるのかしら、私は、もう」
なにやら思考が妙な方向に迷走してしまって、思わずマミは苦笑した。

「らしくないなぁ、もう」
口元の笑みは、いつしか微笑に変わっていて。けれど口調はどこか呆れた風に呟いた。
その言葉は、まるで自分に向けられているかのようで。
ベテランの魔法少女で、頼れるみんなの先輩で。そんな風にマミはあろうとしていた。
けれどどうにもアクアが、そしてティトォがやってきてからは、そんな自分であることができずにいる。
昨日の朝のことといい、調子を狂わされてばかりなのだ。
「でも、ティトォは魔法少女じゃない。だとしたら私も、先輩ぶる必要なんてないのかしら」
先輩としてなどではなく、ただの魔法少女として、一人の女の子として、対等に。
そう考えると少し恥ずかしくもあったけれど。

「……ふふ、いいな。そういうのって」
唇から零れた言葉はやけに柔らかで、そして嬉しげだった。そんな言葉をかき消すように、やかんがぴぃと音を鳴らした。
「っと、いけないいけない」
その甲高い音に、思考の糸をぷつりと打ち切られてしまって。マミは慌てて紅茶の用意にとりかかるのだった。

「話は大体わかったわ。でも、まだ気になることがある」
ひとしきりキュゥべえの話が終わると、ほむらはすぐさまキュゥべえに問いかける。
「何が気になるんだい、暁美ほむら」
「まず一つ。星のたまごを使えば、一体なにができるの。お前達はそれを使って、一体何をしようとしているの」
ほむらは一切の表情を変えず、冷ややかな表情で問いかけた。
「ボク達はただ、星のたまごをエネルギーに変換して宇宙の維持に使う。ただそれだけだ。
 でも、星のたまごはありとあらゆる存在を司る力の結晶体だ。もしそれを何らかの目的で使うのだとすれば」
キュゥべえの言葉は続く。けれどその最中、ほむらの表情には僅かな変化が現れていた。
僅かに目が見開かれ、少々の険しさが滲み出す程度の、僅かな変化ではあるが。
「時空間やエントロピーを超越し、ありとあらゆる存在を生み出す事ができるだろう。
 この世界にあらたな存在を生み出すも、過去に失われたもの復活させるのも思うがままだ。
 その力を自由に扱えるのなら、それはもう神と言っても過言じゃないだろうね」

「……もう、一つ。奴等からその力を奪う方法は」
先だって告げられた事実は、ほむらにとってどれほどの衝撃だったのだろうか。
その声は強張り、そして震えていた。
「恐らく彼らは、星のたまごを器にして、そこに複数の魂を収めているのだろうね。
 そして表に出る魂を入れ替えることで、その姿と戦い方を変えているんだろう。
 事実、それと似た戦い方をする魔法少女も存在しているからね」
「ということは、あの二人以外にもまだ何かしらの力が存在している」
「可能性はあるね。そして、彼らから星のたまごを奪い取る方法は簡単だ。
 ただ彼らの身体から魂を引きずり出せばいい。一番簡単な方法としては、彼らを殺せばいい」
そんな冷酷な手段を表情一つ変えずにキュゥべえは言う。
そんなキュゥべえの本質を、ほむらは既に知っているようで。同じように顔色一つ変えることなく。
「そう、なら話は簡単ね」
と、答えるのだった。

「気をつけたほうがいい、彼らは恐らく皆魔法の力を持った魔法使いだ。
 複数の魔法使いの力を自由自在に入れ替える相手となれば、きっとかなり手強いはずだよ」
その力の本質はいまだ知れずとも、情報の断片からでもある程度の事象を推し量ることはできる。
キュゥべえもその程度の推測は立てていたようで。
「……問題ないわ。ただ殺すだけなら、何の問題もない」
けれどほむらは、唇の端に笑みすら浮かべてそう答える。その表情は雄弁に、絶対の自信があるということを示していた。
「そういうことなら、期待しているよ。暁美ほむら」

ミルクティーの柔らかな香りの漂う部屋で、再びマミとティトォは向かい合っていた。
間にテーブルを挟んで、そのテーブルの上にはミルクティーのカップを乗せて。
「……随分機嫌がよさそうだけど、何かあったのかい、マミ?」
そうして向かい合うマミの表情は、なんというか僅かににやけていた。
不思議そうにティトォが問いかけると、思わずマミは頬に手をやって。
「え、えっ!?そんな……にやけてたりしたかしら、私」
恐らく羞恥からであろう。頬に朱を差し慌てたように顔を手で隠すマミの姿は、まるで歳相応の少女であった。
それがなにやらおかしくて、小さく笑ってティトォは頷いた。

「もう……あまり笑わないで、ティトォ。ただ……そう。
 今日の紅茶は自信作だから、それでちょっと嬉しかっただけなんだから」
その言葉は恐らく照れ隠し。けれど漂う紅茶の匂いは当然のように芳しくて。
「あはは、そういうことならまずは紅茶をいただこうかな」
笑みをかみ殺しながらティトォは、ティーカップに手を伸ばして一口呷った。
「……うん、美味しい」
そして、満足げに頷いた。そんな姿を見ていると、やはりどうしてにやける頬を隠しきれないマミだった。
さすがに天丼をやるつもりもなく、ティトォはそれをスルーした。

「それじゃあそろそろ話そうか、ぼく達の敵のことを」
神妙な顔つきでティトォは言い、マミは一つ喉を鳴らして頷くのだった。

「クゥ、月丸と太陽丸はまだ着かないのかい?」
女神の国で、グリ・ムリ・アはどうにもそわそわした様子でそうごちた。その様子からして実にそわそわとしている。
何せようやく作ったゲートも、切り札たる三大神器や五本の指は通れないと来ている。
しかたなく呼び寄せた三十指も未だ到着していない。急ぐことではないのだが、どうにも気をもんでしまっているのだった。
「アダラパタからの連絡がありました。到着は明日になる、とのことです」
その側に傅くクゥが、苛立つ様子のグリ・ムリ・アに答えた。
「む……そうか」
その言葉に、グリ・ムリ・アはこれ見よがしに嘆息した。
「どうか、今しばらくお待ちください。グリ・ムリ・ア様」
と諌められ、ようやく彼女も落ち着きを取り戻したようだった。

「ドーマローラの二の舞を踏むわけにも行かぬからな、どうにか向こうに奴等がいる内に、星のたまごを手に入れなければ」
それでもまた、未練がましく低い声を漏らした。
そう、彼女は女神を名乗る者。ティトォ達の敵にして、星のたまごを狙う者。
百年前の惨劇を引き起こした張本人でもあったのだ。

事の起こりは百余年の昔。彼女は一度星のたまごを手に入れようとした。
その為に研究を重ね、一度はそれを手に入れた。
思い出す。研究に明け暮れる日々の中、同志としてその研究に力を貸してくれた少年の存在を。
今や彼は、彼女の目的の前に立ちふさがる厄介な敵だった。
その少年の名は――ティトォ。

ドーマローラの惨劇から百余年。
雌伏の時を過ごしながら、再び星のたまごを手にし、失ってしまった物を取り戻すための準備を進めてきた。

古来の伝承にある女神を名乗り、素質あるものに魔法の力を与え、女神の三十指を生み出した。
その目的のため、陰から世界に手を加えてきた。
そして長い時の果て、ついに星のたまごを持つティトォ達を見つけることができた。
後は彼らを殺して、星のたまごを奪うのみ。
女神の三十指は、いずれも魔法の力を修めた特A級の戦闘員。負けるはずなど無いと思っていた。
けれど彼らもまたこの百年、戦いの準備を進めていたようで。
彼らが生み出した力と仲間の前に、あるものは敗れ、そしてあるものは彼女の元を離れていった。

「待っているがいい、このゲートが完成した時が、お前達の最後なのだからな」
だからこそこの状況は、ティトォ達がこの星を離れたという状況は、彼女にとってはチャンスだった。
強大無比な三大神器の力は、この世界で使うには強大すぎる。
それはデュデュマの覚醒を促してしまいかねず、星のたまご奪還は、三十指に委ねられていた。
けれど、別の星であれば状況は大きく変わる。
デュデュマが存在しなければ、三大神器を投入して確実に星のたまごを奪うことができるだろう。
それを確信しているからか、グリ・ムリ・アは自信気に低い笑い声を漏らすのだった。

「それが、貴方達の敵。……女神、グリ・ムリ・ア」
長い話が終わった。
すっかり冷めてしまったミルクティーで喉を潤すティトォを呆然と見つめながら、マミはそう呟いた。
「そして貴方の罪、それはグリ・ムリ・アの研究に加担してしまったこと。
 その結果として、あの惨劇を引き起こしてしまった事……なのね」
ティトォは、それを否定も肯定もしなかった。

(ぼく達の罪はそんなことじゃないんだ。でも……)
それを知らせるためには、もっと沢山の言葉を必要とした。その全てを語ることは、今のティトォにですらできないことで。

「ティトォ」
思考に没入しようとしたところを、マミの言葉が呼び止めて。
「……マミ?」
視線を向け、その声に応えると。マミは再びティトォの手を取って。
「貴方達は、罪人なんかじゃない」
握る手は柔らかで、力強く。その瞳はうっすらと涙に濡れて。
「貴方達は、守ろうとしているだけじゃない。貴方達の星を、大地を。
 過去の惨劇を繰り返さないために、命をかけて戦っている」
その姿は、まさしくマミの理想だった。だからこそ言葉を告げるマミの表情は、感極まったかのように歪んでいて。
「貴方達は、私達よりもずっと大きなものを抱えて戦っている。尊敬しちゃうわ」
「あ……はは、そんな、立派なものじゃあ」
その剣幕に気圧され、苦笑気味に答えるティトォ。そんな様子もお構いなしに、マミはどこか上気した表情で言葉を続ける。
「私は貴方を信じる。だから、貴方と一緒に戦う。……いつか、貴方が元の世界に帰ることのできる時まで」
その言葉には、一片の偽りもなく。どうやら信じてもらえたようだと、ティトォは安堵の表情を浮かべ。



「ありがとう。これからも一緒に戦おう、マミ」
握ったその手に、どちらともなく力を込めた。

「……ティトォ。貴方に何かが起こっているのなら、私は絶対に貴方を助けるわ」
時は現在に戻る。杏子の一撃によって地に叩き付けられ、深い傷を負い。
今まさにとどめの一撃を放たんとしている杏子を前にして。マミは静かにそう呟いた。
助けなければならない。彼らが死ねば、もっと多くの人が死ぬ。
彼らを助けることは、多くの人を救うことになる。
だとすればそれは、正義の魔法少女足らねばならないマミにとって、絶対に守らなければならないもの。
例え、自分の命を懸けたとしても。
そんな献身じみた思想すら、マミの胸中には芽生え始めていた。

「これで、終わりだよっ!」
杏子の怒号と共に、赤い槍が振り下ろされる。
「終わらない。終わらせ……ないっ!!」
全身から響く鈍い痛みには目を瞑り。動かぬ体を無理やりに動かして、全身に魔力を滾らせマミはそれを迎え撃つ。

閃く一閃。マミは咄嗟に立ち上がり、僅かにその身を反らした。
たったそれだけの動きでは、その一閃をかわすことなどかなわない。
けれど致死の一撃を遠ざけることだけはできた。鋭い一閃はマミの腹部を抉るのみに留まり。
「っぐ……捕まえたわよ、杏子っ!!」
その槍の柄を、抱え込むように腕で押さえ込んだ。同時に一歩、踏み込んで。
「ちっ、だが、次は外さね……っ!?」
魔法少女の武器は、魔力さえあればいくらでも生み出せる。
わざわざ槍に固執する必要も無く、杏子は槍を手放し飛び退こうとした。
けれど、マミの踏み込みはそれに一歩先んじて。

マミの放った体重を十分に乗せた右ストレートが、杏子の頬骨に突き刺さっていた。

「ぐ……っぁ」
思わずよろめき、杏子は2、3歩後ろに下がり。呆然とその頬に手を当てて。
「殴っ……た?っ、はは。随分必死じゃねぇか、マミ」
どこか信じられないものを見るかのように、頬に手を当て杏子はマミを見つめる。
それでもすぐに気を取り直して、いつもの軽口を一つ叩いたのだが。
「杏子。私は、貴女を倒すわ。そしてティトォを助けに行く」
マミは既に覚悟を決めていた。為すべきことを、拾うべき命を選択していた。
最早その瞳に一切の情の色は無い。ぞくりと、杏子の背が震えた。

「は、ははっ……そんなに、あの男が大事かよ」
「ええ、大事よ。私の命なんかよりも、ずっと」
迷うことなく答えるマミに、ますます杏子の苛立ちは募る。
「なんでだよ、なんでてめぇはそんなにも、誰かの為に命を投げ捨てられるんだ。信じらんねぇよ」
「貴女には分からないわ。……そして、それを知る機会はもう、ない」
底冷えのする声。

(来る……ッ!)
杏子の背筋に戦慄が走る。最大の一撃が来る。
(でも、そいつを凌げば……あたしの勝ちだ)
油断無く身構え、再び槍を生み出し構えた。
「終わらせるわよ、杏子」
言い放ったマミの手のひらの上には、クルミほどの大きさの球体が乗せられていた。

三人目の活躍はまだお預けです。

>>293
です。結構前からこのネタを放り込もうというのは考えておりました。
そしてマミさんが今回抱いた感情は、恐らく男女の恋愛感情的なものとは違うのでしょう。
より大きな正義に身を殉じる覚悟。方向性は違えど、キリカの織莉子への盲信に近しいものなのではないでしょうか。

>>294
いよいよ次回、激突です。
うわー、かてるかなー、きりかはきょうてきだぞー(棒

>>295
メタいのもある程度やってくれるのが土塚さんです。
ジャンプの読みきりで自分の作品を宣伝するのは後にも先にもあの人くらいでしょう。

そしてアレですが、まあその内出番も来るだろうと信じて突き進む事にします。

>>296
ふふふ、吹いていただけたのなら僥倖。

まあ星のシステムの中で生み出されるものですし、もしかしたら星の循環システムのある星自体は
エントロピーを凌駕するものなのかもしれません。ただそれは星の中でのみ循環し、宇宙に還元されないというだけで。
外に出そうとするとデュデュマとかウェポンだとかががおー、と襲ってくるわけですし。

>>297
あまり上手い事説明できなかったのもありますね、今回は。
正直かいててどう説明しようか本気で悩んだ回でした。
ぶっちゃけマテパ読んでない人はここを見たりしないから、かくかくしかじかでよかったのかもしれないけどね!

>>298
結局インキュベーターにとっては、星のたまごを奪うことで星の正常な発展が妨げられようと
それで宇宙が延命されればいいわけです。
もし星のたまごの収穫が上手くいっていれば、いまごろ宇宙のあちこちに星のたまごを生み出す産卵場が作り出されていた事でしょう。

>>299
どうでしょうね、土塚さんは学生時代からこの話を考えていたようですが。
発売当時の7はほんとにセンセーショナルな内容でしたし、色々と影響はあったのかもしれませんね。

乙カレー
わかってはいたが・・・うん。すごい危ういバランスの上に成り立っているな<<マミさん
嫌な言い方だが、建前が正当化される理由もできちゃったし
これで、もしティトォ達が帰る事が確定したら・・・
まあ、らしいちゃらしいんだけどさ
魔法少女の真実も含めて、それを振り切れるほどに成長してくれる事を願う


なんか女神となんら変わらないこと考えてそうだなほむら
いやーしかしそれなら何を復活させるつもりなんだー(棒)



>>312
全てを失ったマミさんに残された唯一のものが「魔法少女としての使命」だからね・・・
彼女にとってはまどポ番外ストーリーの選択が正解のような気がしないでもない

ほむらも相当やばいな
もはや、まどかを守るためなら、どんな犠牲を出そうが厭わないみたいだし

外伝勢も含めてだが、まどマギの魔法少女は病的に何かに依存する子が多すぎる


QBそこまでわかってんのならもっと重要な情報を教えてやれよ
[ピーーー]だけなら問題ないって、ほむほむが把握してない致命的な情報があるやん

本編ではうまくやれば埋まりそうだった魔法少女間の亀裂がえらい勢いで広がってんな
非情になろうとしてなりきれいほむほむも
マミさんを心の底では慕ってる杏子も
TAP絡みで一線を踏み越えちゃってるというかマミさんが許してくれそうにない件
こういうのはクロス先キャラを媒介として和解するのが基本じゃないんですかー

乙!
まどマギ的な展開になってきたなぁ……うん、ゼロクロ的よりかはマシと考えよう
大丈夫、プリセラさんがみんなまとめて快心させてくれる

空っぽになったマミさんの元に颯爽と現れるアダラパタ

とりあえずキリカちゃんの怪我は俺がペロペロしておくわ

ゼロクロは憂鬱展開の宝庫や……個人的にはメガネさんは死んでほしくなかったな……

乙!
確かに溝がどんどん広く深くなってゆく感じだね、
プリセラさんならいい緩衝材になりそうだと思うけど。
杏子とかはアクアに似てるところあるからプリセラさん的にほっとけないタイプだと思う

魔法少女は何かに依存する子が多いけど、結局そうできないと
さやかみたいに精神的に行き場がなくなってしまうんだと思う。
あとマテパも依存型のキャラは執着・傾倒系のキャラに隠れて目立たないだけで多いと思う。グリンとか

>>319
レオドリスさんはむしろ死ぬからこその死に様がかっこいいキャラだと思う

レオドリスはあのアースカルフが素直に賛辞を送った一人だからねぇ
もっとも、アースカルフはちょっと捻くれているだけで仲間思いないいやつだったりするが
(仲間の三十士に影響されたのかもしれないけど)

最近のレスのつき具合には驚くばかりです。
どうにか今日も寝る前には投下できそうだー、ということで投下です。

「解け……たっ!」
キリカはその身を縛っていた蜘蛛の糸が緩むのを感じ、思い切り両手を振り上げた。
その手に生じる魔法の爪が、鋭く無数の軌跡を描く。
次の瞬間には、キリカの全身を縛る蜘蛛の糸は、その悉くを断ち切られていた。

「解いたということは……逃げ遂せたってこと、かな」
動けぬままで固められていたからか、僅かに違和感の残る体をほぐすように動かしながら、キリカは静かに呟いた。
「……拙いな、まさか私が仕留めそこなうなんて」
その表情は苦々しく歪んでいる。自分の存在が露見するリスクを覚悟で仕掛けたのだ
それは必勝必殺を期したはずだった。けれど、イレギュラーの存在がそれを覆した。
「織莉子の言っていた通りだ。あのイレギュラーの存在は、織莉子の未来を歪めてしまう。邪魔な、存在だ」
まだチャンスはある。次こそは必ず刻んで見せよう。胸の奥でそう誓い、一つ大きく息を吐き出した、その時である。
キリカの知覚が、迸る強大な魔力の気配を感じた。肌が泡立つようなその感触は、前にも覚えがあった。

「そうだ、この……魔力の感触。間違いない、奴だ。イレギュラーっ!」
その表情に浮かぶは歓喜と狂気。それを一切隠そうともせず、キリカは猛然と走り出す。
「近い、すぐそこだ!奴がいるなら鹿目まどかもそこにいるっ!今度こそ、刻むっ!!」
跳ぶ様に、否、まさしく跳びながら走る。走りながら跳ぶ。
タタン、とニ、三歩地を踏みしめて跳躍、その身体が弾丸のように跳ね上がり、再び地に触れてはまた跳躍する。
恐るべき勢いの疾走。そしてその足は、すぐさまその魔力の源へと辿りつく。

「見つけた。鹿目……まどかぁッ!!」
そこにはまどかの姿があった。そのすぐ側には激しい光の渦が広がっている。
それはまるで小さな光がいくつも寄り集まって、何かの形を作ろうとしているかのようであった。
けれど、そんな尋常ならざる事象でさえも、今のキリカには些事に過ぎない。
「何も言わない、何もさせない。今すぐ……散ねぇぇェッ!!」
その手の鉤爪は、禍々しい狂気を体言するかのようなおぞましい形状を為し
恐らくそれは掠っただけでも致命傷に等しい傷をまどかに与えるだろう。
そして更に速度を上げたその疾駆は、まどかに何一つ行動を起こす暇すらも与えなかった。

それはまさしく、全てを切り裂く漆黒の旋風。
一陣の風が、まどかの身体をすり抜け、微塵に切り刻もうとした。
けれどその直前に、それは光を纏って割り込んできた。
激しい光と漆黒の旋風が、驚愕と恐怖に目を見開き、立ち竦むまどかの眼前で交錯した。

乾いた音が、三つ。
「な……ぇ?」
そして続いて同じく三つ。それは全て、キリカの手に宿した鉤爪が砕ける音で。
その音を信じられないような表情で見つめながら、ぐらりとキリカの身体が揺らいだ。

全身が痺れたかのように動かない。
苦しげに開いた口は、まるで一切の酸素を取り込む事を拒絶したかのように
掠れた声を上げる以外の役割を一切果たそうとはしていなかった。
何一つ分からぬまま、意識が白く沈んでいく。
あまりの気だるさに、そして息苦しさに意識を放り投げてしまいそうになって、ようやくキリカの意識は覚醒した。


「――――ッ!!」
歯を食いしばり、倒れそうになる身体を無理やり引き戻した。
地につく足の感触をしっかりと確かめ、踏みしめ。そして蹴り飛ばす。
後方へ跳躍。ぶれ続けていた視界が、そこでようやく確かな像を為した。
「っ!ぜ……ッ、ぁ。は、ハァ……っ!?」
動きを止めると、息苦しさが再び再起し、キリカは苦しげに吐息を漏らしながら、眼前に現れたその相手を睨み付けた。
「何だ……お前っ!!」
敵意と殺意が半分、そして残りの半分に、困惑をたっぷりと詰め込んで。

それは女性の姿をしていた。細身だが引き締まった長身に、まどかのそれに似たピンクブロンドの長髪。
首筋から胸までを覆うだけの服を纏った、露出の多い上半身。
特に目立つむき出しの腹部には、『檻』という字が刻まれている。

「貴女……は」
まどかもまた、突如として現れたその人物に疑問の声を漏らす。
その女性はまどかの方を振り向いて、にこりと柔らかな笑みを浮かべると。
「始めまして。私はプリセラ。魔法使いの三人目、だよ」
そう言って、お茶目にウインクなどしてみせた。
その仕草はまるで親しい友人と話しているかのように朗らかで、その落ち着きようはあまりにも、この戦場には不釣合いだった。

その事実は、更にキリカを苛立たせる。
「私を……無視っ、するなぁぁっ!!」
そう叫び、キリカは再び鉤爪を構える。そしてまどかの方を向いたプリセラの背中に、猛然と突撃をしかけるのだった。
「プリセラ……さん、危ないっ!!」
気づいたまどかが悲鳴を上げる。一方プリセラは、どこか呆れたような溜め息をついて。無造作に、その腕を軽く振るった。

「ぇ……?」
がくり、と何かが地に落ちる音がした。それが自分の体だと気づくのに、キリカは僅かな時間を要した。
視界は先ほど以上に激しく揺れている。
分が倒れているという事実に気づいて、立ち上がろうと伸ばした手にもまるで力が入らない。
視界に移る全てのものが、二重三重にぶれている。
「何……を、したん、だ」
口すらも上手く回らない。掠れて、途切れ途切れの声が漏れた。
何かの魔法だろうか。だとすればそれは、他者の感覚を乱す魔法。幻術の類か。
だとすれば自分は既に相手の術中に嵌ってしまっている。状況は実に拙い。

「ちょっとこめかみの辺りを小突いただけだよ。さっきのはお腹。
 頭の中もうぐらぐらでしょ。気絶しなかっただけでも大したものだよ」
いつしか振り向いていたプリセラが、キリカを見下ろしそう言った。
腰に手を当て、余裕すら見せて更に言葉を続ける。
「しばらくは動けないはずだ。そのまま大人しくしてれば、これ以上は何もしないよ。後で話は聞かせてもらうけどね」
「ふ、ふふ。そうか、そういう……ことか」
けれど、帰ってきたのは不敵な笑い声。側頭部に打撃を受け、脳が揺らいで立てるはずが無い。
だというのに、キリカはぐらぐらとその頭をゆらしながら、ゆらりと立ち上がった。
「魔法じゃないなら、肉体に起こっているだけの現象なら、いくらだって無視できるさ」
項垂れたままの首がぐらりと廻り、揺らぐ視線の焦点が、ぴたりとプリセラの姿を捉えていた。
魔法の力が肉体の損傷を、脳への衝撃によるダメージを即座に修復している。
その回復力こそが、魔法少女の強みの一つである。

「徒手空拳とは珍しい。それに、どうやら相当疾いらしい。
 わざわざその姿に換わったあたり、私を相手にするにはいい選択だね」
既にキリカは、目の前のプリセラなる女が先に対峙したイレギュラーと同一の存在であるのだろうと推測していた。
姿を変え、戦い方を変える敵。確かにそれは難敵だろう。
だが、それでも負けはしない。キリカの表情にも余裕が戻った。

「あまり、抵抗して欲しくないんだけどな。やっぱり、女の子を殴るっていうのは気が進まないし」
対してプリセラもまた、余裕といえば余裕であろうが
ともすればそれはまるで、目の前の相手を脅威として認識していないかのような口ぶりだった。
やはりそれは、どこまでもキリカの精神を逆撫でする。
もとより、彼女は極めて短気である。
「そうやって余裕ぶっていればいい。その顔ごと刻んであげるよ」
そう言うと、キリカは再びその手に鉤爪を作り出す。そしてその両手をだらりと垂らした。
僅かに膝を曲げ、身を屈めるようにしてその身に力を溜め込んでいる。今までの戦い方とは、明らかに異質の戦闘スタイル。
キリカの纏う空気が変わる。肌がざわめく。何かが、起ころうとしている。
プリセラの表情から、余裕の色が消えた。

「きみがどれだけ疾くても、私の前では意味が無いという事を、教えてあげるよ」
限界まで張り詰めた空気が、ぷつり、と断ち切られた。

「さあ、散ね、散ねぇぇっ!!」
怒号と共にキリカが駆ける。同時に更に姿勢を落とし、両手の鉤爪がアスファルトの地面を抉った。
「ほぉら、これでっ!!」
その手をぶんと振り上げる。切り裂かれ、砕けたアスファルトの破片が。
そして同時に巻き上げられた砂利や土砂が、弾幕が如くプリセラに殺到する。
さらにその手を振り上げると同時にキリカは跳躍した。土砂を目隠しにし、頭上からの強襲をしかけたのだった。
「終わり……」

「うん、終わりだね」
振り上げた腕を叩き付け、交差する三対の刃で敵を微塵に切り刻む。
そうなるはずだった、そうするはずだったキリカの耳に飛び込んできたのは、やけに穏やかな女性の声。
同時に、強い力で後頭部を掴まれる。
そのままその手が前に押し出されると、無理やりに下を向けられたキリカの視界には
切り刻まれて隆起したアスファルトの残骸が、落下の速度そのままに迫っていた。

「まさか、そんな」
刹那の後に待ち受ける未来。あのアスファルトの残骸に、顔面を思い切り叩き付けられるという未来。
それを想像して、遂にキリカも恐怖を覚えた。思わず目を閉ざし、やがて来るであろう衝撃に備えた。
けれど、その瞬間は一向に訪れることは無く。
恐る恐るキリカが目を開くと、アスファルトの残骸からほんの僅か数ミリの距離で、キリカの頭は押しとどめられていた。

「流石に、女の子相手に顔を潰すような真似はしないよ。
 でも、そろそろわかったでしょ。あんたじゃ、私には勝てないよ」
そう、プリセラは目晦ましを放つと同時に跳躍したキリカに先んじて、さらに上空へと跳躍していた。
さらにはそのまま地面に叩き落すこともできたというのに、わざわざ地上すれすれでその身体を受け止めていたのである。
「な……ぁ、そん、な」
怪我一つ無く、そっと地面に下ろされたキリカ。あまりの衝撃に、更なる攻勢に移ることすらままならず。
「私の魔法が、通じない……」
愕然と、そう呟いた。

「魔法……ね。多分それは、相手の動きを遅くする類の魔法なんだろうね。大丈夫、ちゃんと効いてたよ」
事実、それはキリカの魔法の一面を正確に捉えていた。時間遅延。それがキリカの固有魔法である。
それが効いているのだとしたら何故、こうも一方的な戦いを強いられなければならないのだ。
「じゃあどうして、どうしてきみは遅くならない……そんなに、疾いんだ」
そう、魔法の力を行使して尚、キリカはプリセラの動きを一切捉えることができずにいた。
魔法が効いているのなら、そんなことはあるはずが無い。
「簡単だよ。あんたがその魔法を使っても、それでも」
プリセラは柔らかな、それでいて自信に満ちた笑みを浮かべると。

「それでも、あたしのほうがずっと疾い。それだけのことだよ」
告げられたのは何の捻りも小細工もない、極々単純な事実だった。
「そんな……そんな、バカな」
全身を奮わせるのは戦慄。表情を強張らせるのは恐怖。
ようやくキリカは理解する。今対峙している相手が、自分とはまるで別次元の力を持った存在なのだ、と。
震えるキリカに、プリセラは握った拳を突き出して。
「じゃあ、選ぼうか。このまま続けるか否か。
 断言してもいいけど、頼みの綱の魔法も通じなかった今、あんたに私を倒す事はできないよ」
口調は優しく、けれどその薄皮の下には有無を言わさぬ圧倒的な力が秘されていて。
対峙するキリカは、ガチガチと歯を震わせて立ち尽くしていた。
最初はそれが自分の歯が鳴らす音だと気づけないほどに、キリカの精神は恐怖によって覆い尽くされていた。

レス返しは次回に、今日はもう限界です
おやすみなさいませ

さすがジール・ボーイを真っ向正面からボコボコにした女


相変わらず恐ろしい
シンプルに強すぎる


本当プリセラさんは強いな!
そしてやっぱり女の子にあんまり強く当ることもしないか、色々と安心した。

キリカはなんていうか、月丸みたいなところがあるよなと思ったり


キリカ「もう駄目だぁ…おしまいだぁ…」に見えてきた
プリセラさん、この調子で杏子とマミさんの戦いを仲裁してくれ


ああ…次はほむほむの腹パンだ…
現実的にはまどかの無事を確信できれば
とっとと逃げるだろうがな


プリセラさんはたとえ速さを落とせたとしてもまだ
最新兵器の集中放火をワンパンが超えちゃう攻撃翌力と
城一つの消し飛ばす程の魔法を正面から受けられる防御力と
杏子とさやかが五十歩百歩に見えるであろうレベルの戦闘技術と
マミさんと同格かそれ以上のスタイルがあるからね
ほむほむ一人じゃまったく勝ち目無いな

強すぎワロタ

乙です。

プリセラさん初登場時のインパクトは凄かったもんなあ……

マテリアル・パズルの強さ議論スレがあったらほぼ上位にいるレベル。プリセラさんは

勝てる魔法少女はカンナぐらいじゃね?あとあすみ?


プリセラはその身体能力がファンタジーだよね

しかしプリセラの登場は案外早かったな
100話ぐらい引っ張るかと思ってたぜ

では、投下です

マミがその手にしていたのは、活力の炎を宿した弾丸。
マミとティトォの魔力が混ぜあい、恐るべき破壊力を持つ白い炎を宿した弾丸で。
その弾丸を、片手に宿したマスケット銃の銃口へと投じて。
「何を……しようってんだ、マミ」
背筋に走る嫌な予感は、さらにその色を深めて。杏子はマミに問う。マミは答えず、銃口を杏子に突きつけた。

(あれを貰ったら……まずいっ!)
これから放たれようとしている一撃は、間違いなく必殺の一撃だろう。
けれどそれは杏子の知る、巨大な砲身から放たれる一撃ではない。
巨大な砲身から放たれる必殺の一撃は、威力は大きいが隙もまた大きい。
故にその一撃を回避する事ができれば、それは大きなチャンスとなる。
けれど今、マミが生み出した銃は通常のそれと大差ない。
もしそれが、大きな隙を作ることなく必殺の一撃を放つ事を為しえたものだとすれば……。

ぞくりと杏子の背が震える。思考は刹那、そして続く行動もまた刹那。

杏子は身を屈め、下からすくい上げるように槍を突き出しながら、更にマミへと肉薄した。
「撃たせるかぁっ!!」
「くっ……このっ!」
マミの攻撃は未知数である。安全策を取るのなら、距離を置いて出方を見るべきだろう。
だが、それでも敢えて杏子はマミの懐深くに飛び込むことを選んだ。
勝負を焦ったわけではない。ただ、杏子には奇妙な確信があった。
今のマミには一切の容赦がない。攻め手を緩めれば、一手を与えてしまえば、喰われる。

かくして再び杏子はマミへと肉薄し、マミもまたそれを迎え撃つ。
新たなマミの必殺の一撃たる"ボンバルダメント・ウィータ"は、一度放ってしまえばその炸裂を抑える術は無い。
無論、こんな至近距離で放てば自分まで巻き添えを食ってしまうだろう。
図らずも杏子の行動は功を奏し、マミはすくい上げるように繰り出された槍を、銃身で受け止めるより他になかった。

槍を受け止めた銃身がみしりと軋む、そこでマミも杏子の狙いに気付く。
(武器破壊……っ!)
必殺の一撃が放たれるより早く、その一撃を放つべき砲身を破壊する。
杏子の狙いはまさにそれで、銃身ごと叩き折らんとばかりに槍を握る手に力を込めた。
みしみしと、銃身が嫌な音を立てる。
最早猶予は無い。マミは冷静に、かつ冷酷に次の為すべき手を決めた。
圧力を増し、みしみしと押し迫る杏子の槍に、マミはそれを受け止めていた銃身から手を離した。

「何っ!?」
急に相手を失い、勢いを殺しきれずに杏子の槍が振り抜かれ、その勢いのままに弾かれた銃身はくるくると宙を舞う。
マミは身を反らして突き出された槍を回避すると。
「退きなさいっ!!」
一歩踏み込むと同時に、鋭く疾く、その右足で蹴り上げた。美しい脚線美がしなり、唸りを上げて杏子に迫る。
「っぐ!」
咄嗟に腕を交差させ、杏子はその蹴撃を防ぐ。けれどその威力の前に、杏子の身体がそのまま宙に浮く。

「随分と、お行儀の悪い戦い方をするように……っ」
空中で体勢を整え、軽口の一つも叩こうとした杏子に更なる攻撃が迫る。
今や杏子は身動きの取れない空中にある。追撃を叩き込むのなら、まさしく今は絶好の好機。
跳ね上げられたマスケット銃が、空中でぴたりとその動きを止める。
まるで見えない射手が狙いを定めるかのように、その銃口が杏子の姿を捉え。
「――ボンバルダメント」
恐るべき業火を秘めた魔弾が、放たれた。

(アレを喰らったら、終わるッ!)
杏子の表情が焦りに歪む。杏子は咄嗟に真下に向けて、槍の穂先を突き立てた。
アスファルトを砕いて穂先が地面に食い込み、杏子の身体を吹き飛ばした勢いを減じた。
さらにはまるで何かの曲芸かのように、その石突を片手で掴み、見事な一点倒立をやってのけた。
吹き飛ばされた杏子の軌道を計算し、それを狙って放たれた射撃は
勢いを殺し、更に体勢を大きく変えた杏子には掠りもせずに、虚空を貫くのみだった。

「残念だったな、マミ」
身体をしならせ槍を手放し、体勢を整えて着地。同時に槍を引き抜き振りかざし。
「今度こそ、終わりだ」
マミへと向けて駆け出した。踏み出した足に力を込め、一気にその身を加速させ、神速の打突を放たんとして。
「そうね」
それでも尚、マミの表情は冷たく揺るがずに。
「貴女がもっと周囲に気を配れていたら、結果は変わっていたと思うわ」

「な……」
言葉と同時に気付く、背後に渦巻く魔力の気配。
振り向けばそこには、マミの放った黄色のリボンが幾筋も、杏子の背後の建物と建物の間に張り巡らされていた。
先に放った業火の魔弾をリボンは柔らかく絡めとり、その衝撃を吸収した。
魔弾を受け止めたリボンは引き絞られ、貫く魔弾の力と、抗するリボンの弾力が完全に拮抗し、そして。
言うなればそれは子供の玩具のパチンコが如く、リボンは自らが受けた衝撃をそのままに魔弾を弾き、射出した。
杏子が振り向いた時には既に、魔弾は眼前に迫っていた。回避など、最早望むべくもなく。

「――ウィータ」
魔弾が杏子の身体を貫く。直後、夜闇に染まり始めた街の片隅で、白い光が炸裂した。

(何だ、こりゃあ。白い……光、が)
魔弾に身を貫かれ、さらには湧き出る白い光が杏子の身体を灼いた。
(全身が、焼け……)
それはただの光ではなく、白く燃える炎。本来のそれは何一つ燃やすことはなく、あらゆる物に浸透する。
この炎もまた、それと同じ性質を持っていた。あらゆる物に浸透し、全てを内から焼き尽くす。
まさしくそれは、受けたものに地獄の苦しみを与える業火だった。
ほんの一瞬、身の内より湧き上がる白い炎は思いがけなく美しく。
すぐさまそれは、杏子の全身を焼き尽くした。

「ぎゃぁぁあァッ!!」
断末魔の悲鳴をあげる喉からも、顔を抑えたその手からも
全身至るところから白い炎が噴き出して、杏子の全身を焼いていく。
痛くて、熱くて。炎に全身を巻かれて、杏子の意識すらもが白い炎に溶けていった。

「さよなら、佐倉さん」
マミが手をかざすと、白い炎が解けて消えた。その中心にはもう、何も残されてはいなかった。
「さあ、ティトォ達のところに行かないと」
そこに残る焦げ跡に、ほんの少しだけ心は揺らいだけれど。
それでもマミは心を埋める正義と、今助けるべき仲間の為に、振り返ることなく駆け出すのだった。

「はぁ……は、ァっ」
表情を歪ませ、キリカは荒い呼吸を繰り返していた。
恐怖に駆られた身体は、やけに息苦しさばかりを伝えてくる。
その眼前ではプリセラが、拳を突きつけたまま立っている。

(勝てない……)
速度低下の魔法を以って尚、さらにキリカの上を行く速さ。まるで付け入る隙がない。
敗北することが怖いのではない、死ぬことが怖いのでもない。
ただ、目の前のプリセラの存在が信じられず、恐ろしかった。
まるで別次元の強さ。どれほどの魔法や知略を駆使したところで
全てを打ち砕かれてしまうだろうという確信すらも、キリカの中で芽生えていた。

「大人しく全部話してくれるなら、これ以上手荒な真似はしないよ。……さあ、どうするんだい?」
何より恐ろしかったのは、命を懸けた戦いの最中だというのにプリセラの表情には常に安らかで
穏やかな笑みが湛えられていたことだった。
それはまるで、彼女にとってこれはまるで取るに足らぬことなのではないかと
戦いとすら思われていないのではないかと、キリカには思えて仕方なかった。
それほどまでに圧倒的な力の差を、戦いの最中に感じ取ってしまっていた。
逃げることすらできはすまい、あらゆる術は、あらゆる希望は打ち砕かれて、キリカの心を容赦なく、恐怖と絶望が苛んだ。

「く……ククっ」
けれど、キリカの口から零れたのは恐怖の悲鳴でも、降伏の言葉でもなく。低く震えた笑い声だった。
「これだ……この、恐怖だ」
いつしか俯いていたキリカは、その視線を真っ直ぐプリセラへと向ける。
その表情には、恐怖と狂喜がせめぎ合いながら同居していた。

「この血が凍りつくような恐怖は、私への試練だ。私の愛を試してくれる、私の覚悟を試してくれる」
ぞくぞくと身を震わす感情は、恐怖。そして愉悦。その異様に、プリセラも僅かに表情を堅くして。

「きみには感謝しなくてはいけないね。きみのおかげで、私は愛の強さをより自覚することができた」
口元には引き攣った笑み、がちがちと、歯の鳴る音は止まらずに。

「私は愛に殉じる。その為なら、きみにだって立ち向かえる。
 愛は、彼女は、いつだって私に全てをくれるんだ。だから、私は――」
その身を蝕む、恐怖の全てが吹き飛んだ。目を見開き、凄惨な笑みを浮かべ。



「――私はまだ、戦える」


言葉と同時に、キリカは駆け出した。
プリセラの側をすり抜け、後方で様子を見つめているまどかの元へとひた走る。
彼女さえ殺すことができたのなら、目的はそれで達せられる。
「させない……っ!?」
けれど当然、プリセラはそれを許さない。再三の言葉を無視し、それでも尚襲い来るというのなら
最早容赦は無用。叩きのめして動けなくして、話はそれから聞けばいい。
そう決めて、すぐ脇を通り過ぎようとしたキリカを止めるべく、そのまま打ち倒すべく拳を振るった。
けれど、その拳の動きは酷く緩慢だった。それこそ常人が拳を繰り出す速度と、ほぼ変わりはないほどに。

「私のぜんぶを、ぶちまけてやる」
すれ違いざま、キリカはそう呟いた。そしてそのまま、まどかを目指して駆けていく。
「まさか……ここまで強力な魔法が」
プリセラはすぐにそれを理解した。自らの身体に生じた異変を通じて、理解する事ができた。
それは先に行使されたキリカの固有魔法、速度遅延と同じもの。
けれどその対象を限りなく限局し、さらに膨大な魔力を注ぎ続ける事で
ほんの僅かな時間ではあるが、プリセラの恐るべき速さを封じることに成功していた。

今の今まで、キリカにはそんなことはできなかった。
これほどまでに範囲を限局することも、これほどの魔力を振り絞ることも、今まではできなかった。
絶対の恐怖を抱えたギリギリの精神状態において、それを受け止め、尚立ち向かおうという覚悟が
そのために、我が身を擲たんとする強い意志が、キリカの魔法を飛躍的に進化させていた。
無論、これほどの魔法を長時間維持することなど叶わない。
それでもほんの数秒あればいい、キリカの凶刃が鹿目まどかを切り裂くまでの、ほんの数秒があればよかった。

そして、それは成し遂げられようとしていた。

「まどか、逃げてっ!」
すぐさま振り向き、プリセラはキリカを追いかけながら叫ぶ。
けれどその動きはどうしようもなく緩慢で、プリセラはただ、猛然とまどかに向かうキリカの背中を見つめることしかできなかった。
「逃がさない、きみはどこへも逃がしはしない。刻まれ果てろっ!鹿目まどかっ!!」
「ひっ……ぁ、あぁっ」
死を恐れて、尚それを踏み越えるほどの気迫。
まどかは圧倒され、逃げるどころか動くことすらままならず。キリカは遂に、まどかをその刃の射程に捉えた。
再びその手に生じた爪は、速度遅延に魔力を消費しすぎたおかげでたった一本、それも酷く弱々しい。
だが何の問題もない、心臓を一突き。それで終わりだ。


「終わりだ、今度こそ」
「まどか、まどかぁぁぁっ!!」

重い音が二つ、響き渡った。

さあ、今日もドえらいレス返しの時間ですヨー
なんか私が話を書くとおリキリは優遇されがちです、なんでかな。

>>312
今のマミさんは、何を差し置いても彼らを助けることを優先してしまうでしょう。
彼らが救おうとしているのは、マミさんがいる世界ではないということも
彼ら自身がそもそも正義のためなんかに戦っているわけではないことも、全てに目を閉ざして、です。
恐らくティトォもその危うさには気付いていたでしょう、けれど、今はそれに頼るしかなかった部分もあります。

>>313
ほむらはほむらで何かたくらんでいるようです。
……まあ、このほむらさんも目的のために全力で動いていらっしゃるようです。
正直この話はかなりほむらの外道成分多めになりそうな予感がします。

>>314
まどポはいまだ杏子編の最初で止まっております。
その内ちゃんと番外まで進めるんだ、ほんとに。

>>315
人気の少ない場所とは言え、街中で爆破を起こしたわけです。
相当なりふり構わない状態ではあるのでしょう。

そうやって縋っていたものが無くなった時、奪われた時、背後にあの耳障りな笑い声が響いてくるのであります。
ケキャきゃキャキャ。

>>316
そもキュゥべえも彼らの事をほとんど知りません。
彼らの身体の秘密も、ほとんど推測で話しているに過ぎないわけです。

気が付いたらえらい有様になってました。
ここまで人間関係こじらせるつもりは無かったというのに。
でも面白そうなのでもっとぐりぐりとやっていくことにします。

>>317
ゼロクロはなんだかんだで結局しっかり終わってくれたので、後味自体はそこまで悪くはないんですよね。
バンバン人死ぬけど、それでも死ぬなりにちゃんと見せ場はありますし。
そして早速遅れを取ったプリセラさんです。

>>318
はたして一体どうすれば空っぽになるんでしょうね、彼女はここから。

>>319
痕が残るような怪我はほとんどさせてないんですけどね、プリセラさん。

レオドリスさんは最初はただのイヤなキャラでヘタレのかませかと思ってました。
それがどうしてああなった。格好良すぎて泣けます。

>>320
マミさんがこれでもかってくらいに覚悟完了しちゃっているので、どうにも溝は深まるばかりです。
魔法少女達が次々に対立するなか、果たしてそれを打開するのは誰なのでしょうか。

そしてグリンはただ友達や家族とずっと一緒にいたいという、それだけの事すら叶わぬ哀しい子です。
長い時を生き続けるのも辛いでしょうが、一人だけ時から置いてけぼりにされるのは
果たしてどれほど寂しい事でしょう、辛い事でしょう。

>>321
パイ(未読者への配慮)を使ってる時点であいつは熱い奴です。
あの仲間達に出会うまで、彼について来られる人物が一人もいなかったというだけで。
力を認めた相手のことは、しっかりばっちり信じる子です。

>>331
ジルさんも出ますよ、その内、その内ね。
いつになるかな、ほんとに。

>>332
シンプル過ぎて逆にあまり紙面を割けないという罠があったりなかったり。

>>333
プリセラさんはやっぱり女の子にはあんまり手酷くできないと思います。
実際女の子と戦った事はないのでなんともいえませんが。
多分月丸くらいぶっ壊れてたら容赦なくボコりそうですが。

そして執着具合といい壊れ具合といい、確かに似ているあの二人ですが
全てを失ったからそれを縋るしかなかった月丸と、全てを棄てて彼女に尽くすキリカとでは
やはり決定的なところで大きな隔たりがあるんじゃないかと思います。

>>334
そこで折れないのがキリカのいいとこです。
そして杏子は燃えました。残念ながら。

>>335
最初の襲撃以来姿を見せないほむらですが、恐らく様子を伺っているのでしょうね。
もっとも、この状況をただ見ていられるかというとまた別問題ですが。

>>336
チャンスはあるでしょう、チャンスは。
ワルプルにぶつけたくらいの飽和火力を叩き込んでやれば。
でもあの人、多分爆風より早く動けるんじゃないかな。

>>337
強すぎでしょう?でもこの人、まだ50%なんだぜ(戸愚呂弟的な意味で)

>>338
まさかまさかの完全純粋肉弾キャラですからね
直前までジルさんの強さをありありと見せ付けていたところでの逆転劇ですから
本当に盛り上がった記憶があります。

>>339
かずマギは単行本派なのでどうも詳しくはわかりません。
あすみんは言わずもがなです。最初公式の何かなのかと思ってました。

>>340
多分普通に聖杯戦争とかに殴り込みをかけても大丈夫なレベルでしょう。
最初はそっちのクロスも考えてました。zeroじゃない方で。


zeroとのクロスやってる人、見てますから更新頑張りやがってくださいね。ケキャきゃキャキャきゃ。

>>342
流石にそこまで行くまでにこの話も終わりますわ。
ブラックねこ二回分とは……。


魔法少女達全員が危ういなあ
杏子がどうなったか知らないが、生きていたらこの一件がすごく尾を引きそうだな
マミさんの盲目的な正義もそうだが、ほむらのまどかを守るためなら手段を選ばない姿勢も拙い
これから先、女神側の介入も当然来るだろうし
ティトォ達が緩和剤になって、魔法少女達をいい方向に導いてくれる事に期待したい


マミさん杏子にここまでやってしまった以上は
TDSの様に自分の正義が建前である事に気付けない、いや例え気付いたとしても認めないだろ。これ
本当に取り返しがつかない事になってしまった気がする

乙!
やられっぱなしで終わらないキリカがかっこいいけど
まどマギ世界でレオドリスさん並みの死亡フラグはさすがに暴挙……
プ、プリセラさんが何とかしてくれるよね!

あと、zeroとのクロスやってる人は頑張りすぎて体壊して寝込んでるんじゃないかな(カクカク)


うわああああ杏子おおおおおぉぉぉぉぉ!!!
マミさんの精神面はひたすら危ういなぁ。わかってたけどさ…
なんかどんどん救いのない展開に転がってきてないかこれ…

>>357
あんまりバレバレの嘘ついてるとアダさんに舌を引っ張られてしまいますよ


試練とか言い出したキリカはジョジョに登場できそうな気がした

まどかのピンチだけどほむほむがかばうでしょという安心感
杏子がどうなったのかの方が気になるなー

やべぇほむらさんが止まらない。

投下です。

その刹那、まどかの視界に映っていたのは信じがたい光景だった。
言葉一つ放つ間もなく、キリカの身体が破裂するように吹き飛んだ。
まるで潰れたトマトの様に、真っ赤な絵の具がまどかの眼前にブチ撒けられた。

「え……何、が」
結果からすればそれはあまりにも凄惨な光景。
けれど、そもそもにして今のまどかには、一体何が起きたのかを理解する事ができなかった。
眼前に迫った恐るべき敵が、突然にその姿を消した。真っ赤な何かを大地に撒き散らして。
事実としてそれを認識することはできたが、それが一体何を意味しているのかはわからなかった。
「プリセラさん……なの?」
何をしたのかは皆目見当も付かない。けれどそんな事ができるとすれば、恐らくそれはプリセラだろう。
故にまどかはプリセラに呼びかけた。けれど、プリセラの姿もまたその場所から消えていた。



「……終わったわ」
遥か遠い高みから、スコープ越しに着弾を確認し、ほむらは安堵の吐息を一つ漏らした。
そして伏していた身をゆっくりと起こし、両手で抱えるようにして構えていた、その巨大な銃器から手を離した。
ほむらの身長以上の大きさのそれは、魔法によって生み出されたものではなく
明らかに人類の手によって作られたものであることが見て取れた。
それは長大な射程と、秒速1kmを超えるほどの弾速
人体に対して使用するには、オーバーキルとしか言いようのない破壊力を備え持つ重火器。
アンチマテリアルライフル、所謂対物ライフルと呼ばれるものだった。

「危なかったね、後ちょっと遅ければ、鹿目まどかは死んでいたよ」
その横に佇み、同じくその銃撃がもたらした成果を見つめてキュゥべえが言う。
「そうね。あの女の力も見ておきたかったけれど、それでまどかを危険に晒していては、本末転倒もいいところだわ。
 ……間に合ってよかった」
軽く胸元に手をあて、思いがけなく事態に高鳴っていた心臓の鼓動を手のひらに感じながら
ほむらは安堵の表情を浮かべて呟いた。
そう、ティトォが行った存在変換。その際に生じる魔力の奔流は、当然のようにほむらの知るところとなっていた。
けれどそれは即ち、彼らがまた別の存在へと変換された事に他ならない。

先の奇襲でも、相手の力を探ることなく強行したがために、仕損じる結果となってしまった。
同じ轍を踏まぬために、ほむらはしばし様子見に徹することにした。
けれど、呉キリカの存在は大きな誤算だった。そしてそれ以上に、プリセラの持つ力の強大さは、大きすぎる誤算だった。
速度遅延をものともしない身体能力、あのキリカを歯牙にもかけない戦闘技術。
それを併せ持つプリセラは、まともに立ち向かえばほむらと言えど分が悪い。
こちらの敵意を悟られてしまえば、勝算は限りなく薄い。ほむらですらもそう考えていた。

「それだけの大掛かりな武器を一度に2連射、それも別々の対象にだ。
 今までのキミの戦い方からしてもそうだ。ようやく、ボクにも分かってきたよ。キミの魔法の正体がね」
それでもプリセラがキリカと交戦を行う最中、決定的なチャンスがほむらに訪れた。
進化を遂げたキリカの魔法が、完全にプリセラの動きを封じた。今ならば撃てる。
けれど、ピンチはチャンスと同時に訪れる。キリカが振り上げた凶刃の向かう先は、当然まどかの元だった。
もちろんほむらは、それを見過ごすことなどできはしない。

「時間操作の魔法だね。キミは時間を止めて、呉キリカとあのイレギュラーを同時に狙撃した。そういうことだろう?」
確認するように問いかけたキュゥべえに、ほむらは黙して答えない。
けれどその沈黙こそが、その推測が正しい事を明確に示していた。
時間操作、正確に言えば時間停止。それこそが、ほむらの持つ固有魔法であると。

「何にせよこれで終わりよ。このまま星のたまごを回収するわ」
「ああ、頼んだよ。暁美ほむら」
まどかに迫る敵は排した。星のたまごを持つ女も始末した。勝負は決した。
後は勝利者の権利を行使するのみ。曰く、思うがままに奪い、望むがままに貪るそれを。
だが、そう。本当に彼女が勝利者ならば、それも思うままだったのだろうが。

「ぁ……っ!?」
刹那、ほむらの背筋に震えが走った。それはあまりに一瞬で
けれどそれは先にキリカが感じたものと同種の、恐怖というべきものだった。
その恐怖生まれるのとほぼ同時に、何かが砕ける轟音が一つ。
同時に彼方より飛来する何かの気配を感じ、ほむらは咄嗟に右手の盾に手をかざす。
世界が色を失い、あらゆる時間が停止する。
全てが止まった世界でほむらはそれを視認し、その表情が、驚愕の色に凍りつく。

「そんな、馬鹿な」
世界に色があるのなら、それは流れるピンクブロンドの弾丸だったのだろう。
恐るべき速度でほむらのいる方向へと跳躍したそれは。
「これでも、通用しないというの?」
――プリセラの、姿だった。

(勝てない。今の私じゃ、あいつは倒せない)
ほむらは直感的にそれを悟る。彼女に敵として認識されてしまえば、恐らく逃げ遂せることすらも困難だろう。
撤退の期は、今この瞬間しかなかった。
ほむらは対物ライフルを片手で抱え、それを盾の中へと収納した。恐らくはそういう魔法も持っているのだろう。
決して四●元ポケットだとか月衣だとか言ってはならない。

さらにそのままキュゥべえに手を伸ばし、片耳を鷲掴みにした。
「……なるほど、やっぱりキミの魔法は時間を止める魔法というわけだ。
 そして、キミに触れている間はそれが解除される、ということか」
その瞬間、キュゥべえの時も動き出す。すぐさま自分のおかれた状況を理解し、納得したように頷いた。
けれど、迫るプリセラの姿を知覚すると。
「まさか、あの一撃ですら倒すことができない相手とはね。これは、かなりやっかいそうだね」
流石にその表情を歪め、困ったように言うのだった。

「今のままでは火力が足りない、奴を倒すなら、それ相応の策が必要になるわ。……だから、今は退く」
ほむらはキュゥべえの身体を鷲掴み、そのまま隣の建物の屋上へと跳躍した。
それを何度も繰り返し、プリセラの姿がほとんど見えなくなる程にまで距離を置いて
ようやく、屋上から路地の暗がりへと舞い降りた。
これだけの距離を置き、魔力の反応を断ってしまえばまず気取られる事は無いだろう。
そう確信し、ほむらは時間停止の魔法を解除した。



キリカの背を、酷く緩慢に追うプリセラ。
(このままじゃ間に合わない。……削るしかないか)
ぎり、と歯噛みし、『檻』の書かれた腹部に手を伸ばす。けれどその瞬間、プリセラはそれを知覚する。
彼方より超音速で飛来する、大口径の弾丸の存在を。
そこに最早思考の挟まる余地はなく、プリセラは反射的に迫り来る弾丸に向けて手をかざした。
一秒の半分にも満たない時間の後、その手のひらに膨大な運動エネルギーを込めた弾丸が突き刺さる。
キリカを追いかけるために全力で走っていたプリセラは、それを受け止めることはできたものの、体勢を崩して吹き飛ばされてしまう。
廻る視界の片隅で、恐らく同様の攻撃を受けたのであろうか、キリカの身体が爆ぜるのが見えて
それがまたプリセラの表情を驚愕と怒りに染めた。
そして、衝撃。激しく壁に叩きつけられ、全身が弛緩する。
弾丸を受け止めた手がひりひりと痛む、全身がみしりと小さく軋んだ。
それほどの衝撃、それほどの一撃でさえも、ものの数秒彼女の時間をとどめることしかできなかった。

射手のいるであろう方角に視線を向け、一足飛びにプリセラは跳躍した。
まどかのことも、キリカのことすらも気がかりだった。
それでも今は、恐らく先にティトォを襲撃し、今もまたプリセラを狙撃した謎の敵。
その正体を暴くことが、もっとも優先するべきことだった。

「いない。逃げられたかな」
けれど、ほむらの姿はすでにそこには無い。
ただ色濃く残る硝煙の匂いだけが、つい先ほどまで謎の射手がこの場にいたであろうことを証明していた。
いかなプリセラとて、これほどまで距離を置かれてはほむらの存在を見つけることもできなかった。
「……何を考えてるんだ、こいつは。私だけじゃなくてあの子まで」
視界の端に見えたキリカの最後。恐らくあれでは、自分が死んだということすらも認識できまい。
それは僥倖だったのかもしれないが。

「こんなの絶対おかしいよ。あんな子供が戦って、あんな死に方するなんて。
 絶対に間違ってる。……止めなくちゃね」
受け止めた銃弾を握ったままの手が、ぎゅっと握り締められる。
一体どれほどの力が込められているのか、銃弾はまるでアメ細工か何かのように容易く形状を歪め
プリセラの拳のなかで圧縮されていく。
その手が開かれた時には、ビー玉ほどに圧縮された金属の塊が一つ、残されているだけだった。

「とにかく、まどかのところに戻らないと」
これ以上は探したところで無駄足だろう。それよりも、まどかを一人にしておく方がよほど危ない。
何よりも、あの凄惨な光景の意味をまどかが理解する前に、この場所を離れたほうがいい。
そう判断し、プリセラは尚呆然したままのまどかの元へと向かった。


かくして、見滝原を騒然とさせた一つの大きな戦いは、終わりを迎えるのだった。

「はぁ……っ、ぁ。ぅぐ」
戦いの気配が過ぎ去り、幾許かの時が過ぎた。
街は既に闇に染まり、人気の無い暗いトンネルの中に、苦しげな吐息が漏れていた。
こつん、こつんと地面を付く音と、何かを引きずるような音が互い違いに響いていた。
吐息の主はその手の槍を杖にして、危うげな歩みを続けていたが
やがてトンネルの壁に身を預けて、ぐったりとした様子で蹲った。
全身にいくつもの熱傷を刻み、纏った真紅の衣装すら、黒く焼け焦げ煤けていた。
「……ちきしょう。何が、仲間だよ」
悔しげに、忌々しげに。佐倉杏子は呟いた。

「グリーフシードも、全部使っちまったし。……それでも、このザマだってんだから笑っちまうよ」
自嘲気味に笑い、力なくその肩を揺らす。
マミの必殺の一撃を受けたあの時、杏子はありったけの魔力で身を守りながら
炸裂する白い炎の奔流に紛れて、どうにか身を隠すことに成功していた。
けれどその代償は大きい。前金代わりにほむらから渡されていたグリーフシードも
元より杏子がもっていたものも全て使い切ってしまっていた。
あの炎の中から逃れるために、そして、全身に負った熱傷を回復させるために。

最早今の杏子には、これ以上傷を癒す余裕すらもなかったのだ。
(後はどうにか自然に傷が癒えるのを待って、魔女の一匹でも、倒してやらなきゃな)
そう、どうにか命は拾うことができた。となれば次に考えるのは、その命を繋ぐこと。
(……でもきっと、マミの奴もしゃしゃり出てくるよな)
けれど、その思考に思い至ればすぐに、杏子の表情は暗澹に沈む。

(あいつは全く躊躇わずにあたしを殺そうとした。きっと、次に会ってもそうなる。
 ……その時、あたしはマミを殺せるのか?)
できるはずが無い。心の奥の素直な部分が、そう声を張り上げていた。そして今だけは、杏子もその声に従った。
(できるかよ、そんなこと。なのに、何であたしはあんなことしちまったんだろうな)
後悔が、じくりと胸を締め付ける。これが本当に自分のやりたかった事なのだろうか。
ほむらの言葉に乗せられてしまった自分に、後悔ばかりが募っていく。

「はは。はは……は。もう、合わせる顔もねぇな」
乾いた笑みが唇の端から零れた。思い出すのはかつての記憶。
マミと共に正義の魔法少女を目指して戦っていた日の記憶。けれどその理想は折れて燃え尽き、二人の道は違えてしまった。
あの日違えてしまった道は、もう戻す事はできないのだろう。自分だって、それでいいと思っていたはずなのに。

久々に訪れた見滝原。そこは懐かしい場所。

待っていたのは、懐かしい仲間。

だけど……
……なぜ?

「なんで、なんで……こう、なっちまったのかな」
ぽた、と。頬を伝う雫が、手のひらに落ちた。一度零れ落ちてしまえば、それは止め処なく流れ続けて。
「う、ぐ。えぐ……っ、ひく、あぁぁ」
嗚咽が、止められない。手で目を覆い、嗚咽と涙を零し続けていた杏子は。
「うぅ……っ!」
そこに現れた足音に、人影に、咄嗟に目元を拭って視線を向けた。

「ほむら……」
そこにいたのはほむらだった。暗がりに立つほむらの表情は、杏子からは見えなくて。
「その様子では、どうやら失敗したようね」
冷たい、底冷えのする声でほむらは言う。
「ああ、すっかりやられたよ。このザマだ。そっちは上手くいったのかよ」
どうにかいつもの調子を取り繕って、杏子はそう言葉を返す。
「いいえ、こちらも上手くはいかなかったわ。奴等は想像以上に手強い。真正面から戦って倒すのは、難しい」
「そうかい。でも、あたしはもう降りるよ。……もうゴメンだ、こんなの」
吐き捨てるように杏子が言う。ほむらは、暗がりから一歩、杏子に向けて歩み寄り。
「そう、なら好都合ね。ここから先は私一人でやる。貴女がいては、足手まといになるだけだから」
「けっ、言ってくれるじゃねーか。……でも、確かにそうかもな」
零れたのは自嘲気味な笑み。また一歩、ほむらが歩み寄る。
薄い明かりに照らされて、その表情が露になる。そこには一切の感情の色は無い。

「けれど、貴女を捨て置くこともできないわ」
「別にいいよ。自分の面倒くらいは自分で見るさ。ワルプルギスの夜が来るまでには、どうにか調子を戻して――」
不器用に自分を案じようとでもしているのだろうか。
そんなほむらの言葉ですらも、ほんのわずかに嬉しいと思ってしまって。どれだけ人恋しいのかと杏子は苦笑した。
けれど、そんな杏子の言葉を遮って。
「違うわ。貴女は多くを知りすぎている。今はまだ、私の敵意を奴等に気取られるわけには行かない。だから」
そして更に一歩。ほむらが踏み込んだ。ようやくぼんやりとほむらの姿が見えてくる。
その手に握られている、黒光りする拳銃が。

――音も無く、火を噴いた。

「なっ――」
銃弾は杏子の胸を貫き、その瞳が驚愕に、そしてすぐさま苦悶に見開かれた。
「残念だけれど、情報が漏れる恐れがある以上、貴女を捨て置くことはできない。
 それに、全てが首尾よくいったなら、貴女がいなくてもワルプルギスの夜は越えられる」
引き金を引く。闇を一瞬光が照らし、杏子の腹部に銃弾が突き刺さる。
「て……めぇっ!」
けれど杏子も、ただ黙って死を受け入れはしない。尽きかけた魔力を、闘志をかき集め、瞳に怒りの炎を灯す。
その手に真紅の槍を生み出し、ほむら目掛けて突き出そうとして。再び放たれた銃弾が、その手の甲を貫いた。
「っぎ、ぁぁぁぁッ!」
からん、と乾いた音を立てて、槍が地面に落ちた。

「さようなら、佐倉杏子。もう二度と、会うこともないはずよ」
一切の抵抗の力を失い、苦悶の声と共に蹲る杏子。
ほむらは最早それを一顧だにせず振り向くと、足早にその場を去っていく。
「待て、まだ……死んでねぇ、ぞ」
搾り出すようにその背に声をかけた杏子に、ほむらは振り向きもせずにこう言った。
「いいえ、もう終わりよ」
杏子の足元で、小さな電子音が鳴った。視線を下ろすと、そこには得体の知れない筒状の物体がある。
その正体に杏子が思い至るとほぼ同時に。

衝撃と、炎が。杏子の身体を飲み込んだ。



背後で起こった爆発に耳を澄ませ、背後から吹き抜ける風にはためく長髪を払って、ほむらは。
「これでもう、引き返せないわね。……今度こそ、全てを終わらせてやる」
瞳に昏い決意を宿し、力強くそう宣言するのだった。

どうしてこうなった!
最初の想定ではもうちょっと軟着陸する予定だったんですけどネ。

>>355
どっこい生きてた杏子に、追撃のほむら。
流石にそろそろ死んだんじゃないでしょうか。
というか本当にほむらがガチ外道になりつつあります。
おかしい、こんなはずじゃあ。

>>356
マミさんが踏みとどまれるかどうかは、まだ今後の展開にかかっているはずです。
しかし気がつけばここまでドロドロになってしまっています。
果たして一体どうなることやら。

>>357
キリカ、死因は射殺でした。
なんだかんだであんまり活躍できないプリセラです。

どっちかと言うと今の展開のがzeroっぽくて困っております(がくがく

>>358
おかしい、まだ序盤のはずなのに、月太すらでてこないのに絶望的過ぎる。
一体どうなってしまうのでしょうか。

>>359
なんだかんだでキリカはやっぱりいいキャラです。
そして当然のように助けてくれるほむら。ですが。
庇う?いいえ、射殺します。なほむらだったのです。

本編からもう何百周かくらいしてそうなほむらじゃのう

ブラボー!外道なんてとんでもない。尊敬するよ
それにしても改めてプリセラ人間じゃねー


対物ライフルなんかで撃たれたらそりゃ粉々になっちゃうよなぁ…キリカぁ…

そろそろ死んだとか言いつつ杏子は生きてるんだろ?
だって外伝キャラのキリカはともかくこの時点で杏子が退場して、
さやかは今のところ魔法少女になる動機がなくなってると考えると、
本来のまどマギ世界を廻せる中心人物が三人+一匹しかいない状態じゃないか…

プリセラさんは本当人間じゃねえや!!


プリセラさんはターミネーターより怖い
才能ないとか言ってるけど実質肉体強化魔法の使い手だろ…

白い炎だったからもしくはと思ってたのにマミさんも[ピーーー]気満々だったみたいだし
ほむほむに至っては口封じしちゃうし
とどめは確認しておけよとは思うが、これで生きていられても死ぬ死ぬ詐欺だし
第一陰惨な復讐劇にしかなりようが
うむむ…さよならキリカ&杏子ってところなのかー


対物ライフル使うとかえぐ過ぎワロタwwwwww
俺なら人が目の前で弾けるとかトラウマだわ…
なんとういう外道

キリカァァァァァァァァァァ!!!合う場所や時間が違ったらマミさんと競演できるような正義の魔法少女になった子なのに……
織莉子は未来予知はちゃんとできなかったんですかねぇ……
あとほむらはここまで外道じゃないと思うの……あんなやさしくってかわいかったメガほむ時代はどこにいった……

最後にプリセラさんは禁書のアックア(全盛期)と一方的にボコボコにしそう(>>1が禁書を知らなかったらここは無視して)

夜馬「ひでぇ事しやがるな……」
マリー「人の命を何だと思ってるんだ!」
アダ「魔法を使う資格ないですねぇ」

オメーらだけはその台詞言っちゃなんねえ!

しかし、ほむら……大丈夫かよ、色々と

今日は短め更新でございます。

「あはは、なんだかすっかり話し込んじゃったね」
日が沈み、すっかり夜の帳は下りて。さやかはベッドに腰掛けている恭介に、とても嬉しそうにそう言った。
「そうだね。これからの事とか色々話してたら、もうこんな時間だ」
外の暗さを見つめて、驚いたように恭介もそう言った。
「そろそろ帰らないとな。……ちょっと、残念だけど」
さやかは座っていた椅子から立ち上がり、一歩恭介に詰め寄って。
「じゃあ恭介、後は打ち合わせ通りに頼むよ。……明日から、結構忙しくなっちゃいそうだね」
そう、ここまで長々と話し込んでしまった理由は、そのほとんどがこれからの事を相談していたからなのである。

ティトォの魔法により、恭介の腕は完全に回復を遂げた。
それどころか気がつけば、足の怪我まで治してくれていたようで。今や恭介の身体はすっかり健康体なのである。
だとしてその事実をどう説明するか、納得させるか。
あーだこーだと考えたものの、そもそもにして魔法の所業。奇跡としか言いようのないことなのである。
結局落ち着いた結論としては、全てを奇跡の所業にしてしまうことだった。
朝目が覚めたら、すっかり手も足も治っていた、と。

もちろん疑われるだろう、怪しまれるだろう。衆目を集めることにもなろう。けれど、それが何だというのか。
まさか本当に魔法が存在するなどと、奇跡が起こったなどと信じる者がいるはずもない。
知らん振りして白を切り通せば、その内人の噂も減るだろう。ただ、それまでは随分大変な日が続くだろう。
恭介一人だけならば、それを抱え込むのは困難かもしれない。

「大丈夫だよ、恭介。あたしがちゃんと恭介の側にいてあげるからさ。
 同じ秘密を抱えちゃった訳だしさ、その辺はやっぱり、ちゃんと助けたげないとね」
そんな恭介に、さやかははにかむようにそう言って。
「それに、ティトォさんとも約束したんだ。魔法の力を借りるのは一度だけ
 その先の事は全部、あたしらが自分でどうにかするんだ、ってさ」
力強く頷いて、恭介に視線を送る。恭介もまた、それを真っ直ぐ受け止めて。
「ありがとう、さやか。……色々頼っちゃうかもしれないけど、よろしく頼むよ」
そして、そっと恭介はその手を差し出した。

「な、何さ恭介、今更そんな改まっちゃったりして……でも、うん。さやかちゃんに任せなさいっ!」
少しだけ驚いたようにして、それでもすぐに調子のいい笑顔を取り戻して、さやかは恭介の手を取った。
確かに握ったその手は暖かくて、それは幻でもなんでもなくて。
(どうしよう、あたし今、本当に幸せだ。……ありがとう、ティトォさん)
暖かいものが、さやかの心に満ちていた。

「じゃあ、また明日も来るからさ。きっと大騒ぎしてるだろうけどね」
「わかったよ。じゃあまた明日。さやか」
二人は最後にもう一度だけ、互いの顔を見合わせて笑った。

冷たい夜風が通り過ぎていく。普段なら寒ささえ覚えるはずのそれも、火照った身体には心地よかった。
「……なんだか、まだ夢見てるみたい」
思わずにやける顔を抑えながら、さやかは帰路を踏みしめていた。足取りは軽く、どこかふわふわとした様子で。
「明日になったら、魔法が解けて……なんてこと、ないよね」
口に出したら不安になりそうで、そんな嫌な想像を振り払うように、ふるふると小さく首を振った。

「何かあったのかな。こんな時間だってのに、やけに街の方が騒がしいけど」
さやかの辿る帰路は街から外れた道で。故にさやかは、つい先ほどまで街中で起こっていた騒ぎについては知らずにいた。
無論街にいた人々も、それが魔法を操る者同士の戦いであるなどとは知る由もない。
ただ、戦いの跡や爆発の跡は、消えることなく刻まれている。
何らかの事故か、はたまた事件か。はたしてそれはもう終わってしまったのか、まだ続いているのか。
定かならぬ事態に、ようやくこの街の警察も重い腰を上げたらしい。
さやかのいる場所からでも、街から響くサイレンの音を聞くことができていた。

「……もしかして、魔女の事件とか、なのかな」
結局今日、さやかはずっと恭介と共にいた。
それ故に、この日マミ達が何をしていたのかも、何と戦っていたのかも知る由もなかった。
途中で一度だけ、なにやら慌てた様子でまどかからティトォの居場所を聞かれたことを思い出す。
もしかしたら本当に、何かが起こっているのかもしれない。

考えながら、さやかの足は細い路地へと分け入っていく。
いつもならば、こんな道は通らない。そもそもにして、帰路を辿るのにこんな道を通る必要はないはずなのに。
気づけばさやかの足は、延々と続く路地をひた歩いていたのだった。
「あれ、なんであたし……こんなとこに」
それに気づいて引き返そうとした。けれど、振り向こうとして気づく。壁に描かれた意味不明の絵。
まるで子供が描いた落書きかのようなそれは、見ているだけでさやかの心を不安にさせた。
よく見れば、その絵の一つ一つがざわざわと蠢いているようにも見える。
「そんな、まさか」
さやかは、それを知っている。知っているからこそ、その事実は酷く彼女を打ちのめす。

「嘘、でしょ」
「ブゥゥ~ン」
さやかの呟きは、背後からの声にかき消された。その声は、やけにテンションの高い子供のそれで。
弾かれるようにさやかは振り向いた。
落書きに埋め尽くされた路地の中、そこにいたのもまたできの悪い落書きのような代物で。
その姿を視界に捉え、さやかの瞳が見開かれた。

「使い……魔」
直感的に、それが使い魔であるとさやかは悟る。
魔女ではない、魔女の持つ、あの圧倒的な威圧感は感じられない。
それでも例え使い魔とて、魔法少女でないさやかには、恐るべき相手であることは間違いない。

それは落書きの飛行機。継ぎ接ぎだらけの色を纏ったその機体から、再び耳障りな子供の声が響き渡る。
「に、逃げなきゃっ!」
脱兎。まさしくその言葉に相応しくさやかは駆け出した。
どこまでも続く真っ直ぐな路地を、落書きの使い魔が生み出した結界の中を、使い魔から逃れるために走り出した。
「ブゥゥ~ン、ブン、ブゥゥ~~ンっ!」
使い魔も丁度いい遊び相手が来たとでも思ったのだろうか、さらに声を高く張り上げて、さやかの後を追いかけ始めた。

「逃げないと、逃げないと……っ、はぁっ」
走る、走る、走る。終わりも無いほどの長い路地を、ただひたすらに走り続ける。
けれどどれだけ速く走っても、使い魔は付かず離れずの距離を保って追いかけてくる。

さやかは知っている。
魔女や使い魔が生み出した結界から逃れるためには、結界を生み出した相手を倒すしか方法は無い。
だからいくら逃げたところで、それは根本的な解決にはなりえない。
それでも、さやかは走り続けた。諦めてたまるかと、歯を食いしばって走り続けた。

「助けて……助けてよ。マミさん、ティトォさん……誰かっ!」
叫ぶ声は、誰にも届く事はなく。

今回はここまで。

>>372
今回のほむらは完全に容赦レスです。
一体何が彼女をそうさせたのか、概ね星のたまごのせい。

>>373
人間ですよ。プリセラさんは誰よりも人間です。
人間らしく、強く生きようとしております。

人間離れしてるのは当然ですが。

>>375
そしてさらにさやかちゃんが脱落しそうなふいんき(なぜかry
上げて落とすのは基本ですね、本当に。

>>376
ターミネーターは液体金属な奴だと、あれは物理が通るのかどうかわからないんですけどね。
常日頃からの鍛錬は大事だということです、もしかしたら百年くらい鍛えたらあんなふうになれるかもしれませんよ(カクカク

全体的にどいつもこいつも容赦がありません。
容赦の無い話ばっかり書いてましたが、リアル人間同士になると本当に洒落になりません、ほんとに。

>>377
そも何が起こったのかをまどかは理解できませんでした。
理解できたらえらいことになると思います。

>>378
キリカはどうかなあ。あの性格も魔法の為せる業でしょうし。
織莉子との出会いがなければああはならないでしょうし、織莉子と出会ってしまえばこんな風になってしまいます。
なんだかんだであの二人は、あのままの関係なのかなあと思ってしまいます。

メガほむは死にました。今の彼女は鉄の女・ほむほむです。

>>379
杉小路「まったく、なんて酷い事をするんだ。人間の所業じゃないよね」

>>380
自分でも言っている通り、もはや彼女は引き返せません。

業務連絡です。

自宅の引越しが決まりまして、引越し作業やネットの契約など諸々の事情から、更新が1~2週間程度遅れます。
ええ、ボクとしてもひじょーに残念なんですよぉ。
まさかこんないいところで、皆さんをお待たせしなけりゃならねーだなんてね。

でも、こればっかりは仕方ありやがりませんからね。
精々気長に続きを待っていやがりなさい。なあに、神無よりは早く戻ってくるでしょうよ。

それでは、また後日にお会いしやがりましょう。ケキャきゃキャキャきゃきゃキャキャきゃ。



WWFのおかげで魔法少女にならずに願いが叶ったから
このSSのさやかちゃんは幸せになれる
そう思っていた時期が私にもありました

ほむほむもだがこのSSも色々と引き返せなくなった感
そしてここでまさかの生殺し
投稿できない間に書き溜めて怒濤の更新をしてくれるに違いない(願望)

乙です。
さやかの安否を気にしつつ、続きを楽しみにしています

乙!
まぁ、ある意味当然の流れだよね
魔法少女たちがこれだけの地獄絵図になってる外道展開で
よりにもよってさやかちゃんが蚊帳の外なんてあるはずがない!
あぁ、最初からわかっていた事だ(泣)!

さやかちゃんが最後にはミト様ぐらいには幸せになれると信じて
次回の更新をのんびり待ってるよ

んー…ハッピーエンドにはならなそうだなこりゃ


次回も楽しみにしているぜ

>なあに、神無よりは早く戻ってくるでしょうよ。
これは先に神無が開始されるフラグ・・・!!

>>1さんはまどポをそろそろクリアした頃だろうか・・・

かみんぐすーん

……恐らく二、三日中には投下を再開できるかと思います。
どうかそれまでお待ちください。ではでは。

復活!復活!復活!!

ようやくネット回線が大復活しました。
というわけで、早速投下を再開しちゃいましょう。

どいつもこいつも落ちるとこまで落ちました、となれば後は?
もう這い上がるだけです。

「ぁ……ぅ、ぐ」
崩落したトンネル。降り積もる土砂や瓦礫の奥から、微かな声が響いた。
その声の主は、声を出す事ができたことでどうにか、まだ自分が生きている事を認識した。

「へ……へへ。悪運だけは、強ぇな……あたしも」
全身にずきずきとした痛みと、猛烈な圧迫感を感じながら、杏子は力なく呟いた。
そう、杏子は生きていた。ほむらによる爆撃は確かに杏子の体を飲み込み、その存在を消失させた。
けれどそれは、杏子が生み出した幻影だったのだ。
いち早くほむらの冷徹な殺気を察した杏子は、その攻撃の矛先を、自らの幻影へと向けさせていた。
それは咄嗟のことで、杏子自身ですらできるとは思っていなかった。
それでもその時、確かに杏子の固有魔法、幻惑の魔法は発動していた。

彼女の命を繋いだのは、飽くなきまでの生への意志。
どうしようもなく死に惹かれたその瞬間にこそ、彼女の命は激しく燃えていた。あらゆる生への術を模索した。
そして導き出された、生存のための最適解。それはかつて失った魔法の力。
幻影による目晦ましの隙に、どうにか杏子は逃げ出した。
けれど爆発の衝撃は想像以上に強大で。崩落したトンネルが生み出す大量の土砂や瓦礫が彼女の身体を押し潰した。

それでも彼女は、どうにか命を繋ぐ事ができていた。爆風に身を焦がし、瓦礫の下に身を伏せて。
それでも尚彼女は生き延びていたのだ。
無論、その代償は決して小さなものではないが。

「足一本、か。……まあ、命の代えにしちゃあ、安い代償か」
瓦礫を押しのけ、這うようにしてその場を離れ、壁に背を預けて杏子は、どこか他人事のようにそう言った。
全身に刻まれた無数の熱傷、打撲。そして何よりも痛々しく刻まれたそれは――



――膝から下の全てを失った、右足だった。

不思議な事に、血はそれほど出ていない。これだけの傷だ、まともに出血していたら今頃とっくに出血死だろう。
不思議には思うが、生きていられるのなら言う事はない。

「しくじったなあ。本当に」
冷たい壁に背を預け、それが身体に伝わったかのような、酷い寒気に襲われながら。
小さく身を震わせて杏子は呟いた。
その表情に浮かんでいたのは、自嘲を既に通り越し、全てを諦めてしまったかのような、乾いた笑みだった。

「誰かを信じるから、こうなっちまうんだ。分かってたはずなのにな」
吐き出す息が白く見えるほど、自分の体が冷え切っているのが分かった。
それは果たして本当に身体が冷えているのか、それとも、凍て付いているのは自分の心、なのだろうか。

「誰かを信じるから裏切られる。何かを期待するから失望させられる。
 だからあたしは、どこまでも自分勝手に、自分の為に生きようって決めてたんだ。そのはず……だったのにな」
手で目を覆い、俯いて。食いしばった唇の端から、零れたのは言葉と、涙。

「なのに、何であたしはあいつを信じちまったんだ。なのに、何であたしはマミに会いに行ったんだ。期待しちまってたんだ」
ぽたり、ぽたりと頬を伝う雫。凍て付いてしまった杏子には、その雫でさえも冷たくて。
そう、信じたかったのだ。
信用できない相手であるとは分かっていても、それでも利害の一致という名目で、同じ目的を共有できる。
その為に力を合わせられる。信じたかった、ほむらの事を。

期待していたのだ、今はもうあの時とは違う、一人前の魔法少女になった。
そんな自分がマミと出会えば、もしかしたら何かが変わるかもしれない。
力を尽くしてぶつかり合って、その先に何か見えるものがあったのかもしれない。
心のどこかでそれを期待していた。

けれど、向けられたのは絶対的な殺意と敵意。
少なくとも杏子の知るマミは、正義の魔法少女であろうとしていた。
けれどその為に、自分の全てを投げ出すほどではなかったはずだ。
自身の、それとも他の誰かの正義の為に、それにそぐわぬ者をあそこまで冷酷に排除するような
そんな恐るべき討手ではなかったはずなのだ。

けれど彼女の期待とは裏腹に、投げかけられたのは旧友への言葉でも、強敵として認め合う関係でもなく
ただ敵を無慈悲に排除する、恐るべき白い炎の炸裂だった。
そして信頼に与えられたのは背信。
身勝手な裏切りと、傷ついた彼女に追い討ちが如く振り下ろされた、死神の鎌。

「……分かってるんだよ、そんなこと」
失った足の代わりに、槍を杖にしよろよろと立ち上がる。
ところどころ焦げ付いた髪が、はらりと肩から零れ落ちた。

「それでも、あたしは信じたかったんだ。こんなあたしに、一緒に戦おうって言ってくれた奴を。
 あたしと一緒に戦ってくれた、いろんなことを教えてくれた奴を」
はらりと垂れた髪が、杏子の表情を覆い隠す。
だから誰も彼女の表情が見えない。誰も彼女の言葉を聞いてはいない。
だからこそ、強がりと独り善がりで心の奥に秘し伏した、本当の想いが口をついて出た。

不恰好に歩きだす。足と槍を交互に前に突き出しながら、ゆっくりと。その姿はあまりにも頼りなく、危うげで。
「でも、やっぱり駄目だったな」
行くあてなどはあるはずもなく、それでも杏子は歩き始めた。
歩かなければ、動かなければ、ぽきりと折れてしまうから。

折れてしまうのは心か、それとも。


「どうするかな、これから」
考えるのはこれからの事、未来の事、明日の事。一秒でも先の事を考える。
そうしなければ、振り返った過去はどこまでも暗いから。

(人目に付かないところに避難して、傷を癒して、どうにかグリーフシードを手に入れて……)
やるべき事は、いままでやってきた事と変わらない。
大丈夫だ、問題なくやれるはずだ。こんな傷くらいどうにか治せる筈だ。心の中の強がりが、いくつもいくつも言葉を放った。
けれど、今はどうしてもそれが現実になるとは思えなかった。
心の奥にどんよりと積もった重たい何かが、その身に刻まれた無数の傷以上に杏子の力を奪っていた。

あてどなく彷徨い続ける。このまま人目についてしまえば、間違いなく騒ぎになることだろう。
いっそのこと、そのまま病院の世話になるのも悪くないかもしれない。
傷が癒えたところで逃げ出せばいい。面倒な説明なんて全てはぐらかしてしまえばいい。
病院なら、魔女が生まれる可能性だって高い。考えれば、それは存外悪くないような気もしたのだが。

「こいつは……使い魔か」
ソウルジェムが使い魔の反応を捉えた。
「……大分、濁ってるな」
手のひらにかざしたソウルジェムはもうすでに、本来の燃えるような赤を失っていた。
そこに浮かんでいたのは。まるで静脈血のように濁ったドス黒い赤。

ソウルジェムが穢れきってしまえば、魔法はもう使えない。
今の杏子のソウルジェムの状態は、最早ほとんど魔法は使えないという事実を示していた。
それでも相手が使い魔ならば、恐らく敗れはしないだろう。
とは言え、グリーフシードを落とさない使い魔を相手にする理由は、杏子にはなかった。

「まあ、丁度いいか」
例え使い魔を倒す理由がなくとも、結界に踏み込む理由はある。
使い魔とは言えそれが生み出した結界は、外界とは隔絶された閉鎖空間。
人目を離れ、傷を癒すには絶好の場所であると言えた。
無論、それは衆目に触れることない代わりに、魔法少女の知るところとなる可能性は高い。
そして今、見滝原にいる魔法少女は全て彼女の敵なのだ。

「ほむらの奴は、わざわざ使い魔まで潰しにゃこないだろ」
けれど、そういう確信もあった。
ほむらの行動原理は全くもって知る由もないが、いちいち丁寧に使い魔を潰すような相手には思えない。

「マミの奴は来るだろうけど……でも、あいつになら、いいさ」
口元に小さな笑みを浮かべて、杏子は結界の元へと向かう。

「あんたに助けられた命だ、あんたが欲しいって言うなら、いいよ」
全てを諦めきったような顔で、そう呟いて。

「お待たせ、まどか」
状況が理解できず、完全に硬直していたまどかの元に、ふわりとそれは舞い降りた。
「プリセラ……さん」
我に返ったかの様に、まどかはプリセラにそう答えた。

「一体、何があったんですか。あの子は、どこに行っちゃったんですか?」
我に返ると、戦いの気配が去ったのを肌で感じているのか、まどかの表情から警戒の色が僅かに薄れた。
逆に浮き彫りになったのが、純粋な疑問。きっともうすぐ、まどかは答えに行き当たることだろう。
火薬の匂いで薄れてはいるが、キリカであったものからは既に鉄の匂いが漂い始めている。

プリセラは、深刻な表情で問いかけるまどかの頭に軽く手を乗せて。
「後でちゃんと説明するから、まずは一回ここを離れよう。
 これ以上ここにいると騒ぎになって、面倒なことになりそうだから、ね」
戦いの余韻も、胸の奥からこみ上げる吐き気を催すような怒りも、全てを腹の内に飲み込んで。
プリセラは努めて穏やかにそう言った。そんな様子にまどかも少し躊躇いながらも、やがて小さく頷いた。


「よし、じゃあ行くよ。しっかりつかまっててね」
「えっ?」
まどかが聞き返す間もなく、プリセラは所謂お姫様抱っこの要領でまどかの身体を抱き上げると。
「さあ、行くよっ!」
直後である。まどかは、自分の体が空に向かって打ち上げられていくような
まるでエレベーターの下りの時の感覚を、何百倍も強くしたような浮遊感に襲われた。
事実、その通りであった。プリセラはまどかを抱えたまま、恐ろしい速度で真上に向かって跳んだ。
まどかの視界はめまぐるしく変わり、やがて街の遥か上空で静止した。

「これ……凄い」
眼下には、見滝原の街が、概ね夜景と言っても差し支えないであろうそれが映し出されていた。
自分の住んでいる街を、こうして遥か高みから見ることなどそうありはしない。
ましてや、それが建物の上からではなく、本当に空中からとあれば尚更である。

「とりあえずマミを見つけて、合流しよう。……上は寒いから、しっかり抱きついてるんだよ」
まるで空を飛んでいるかのような跳躍の最中、まどかの身を案じてプリセラが声をかける。
まどかの身体はしっかりとプリセラに支えられている。例えまどかが手を離していようと、落ちる事などありえない。
それでもこれだけの高度で、これだけの速度で跳べば当然夜風も冷たく厳しくなる。
そんな夜風からも守ろうとしてくれているのだとわかって、まどかは少し恥ずかしそうにしながらプリセラの細い首筋に手を回した。

抱きしめた身体は柔らかくて。これほどの険しい夜風の中だというのに、とても暖かかった。
風にはためき激しく流れる長髪と、ぱっちりと大きく開いた青い瞳。
そして触れ合わずとも分かる、触れ合えば尚良くわかる、恐らくマミにも劣らぬであろう女性らしい体つき。
その全てが、力強さと美しさを兼ね備えていて。そんなプリセラの姿は、何故だかまどかに自分の母の姿を彷彿とさせるのだった。

空に打ち上げられた身体が、重力に辛め取られて落ちて行く。
身体の中を風が駆けていく。きっと普段なら、例え問題はないと分かっていても、恐怖の悲鳴を上げていただろう。
けれど今、プリセラの腕に抱かれて、まどかは恐怖を感じる事もなく、どこか穏やかな感覚に身を委ねていた。
別の建物の屋上に降り立ち、再び跳躍。二人の身体が空に打ち上げられる。

「プリセラ、さん」
息が詰まりそうになりながら、それでもまどかは心の内に生じたその疑問を投げかけた。
「ん、どうしたの?もしかして辛かった、まどか?」
「ううん、それは大丈夫なんです。ただ、ちょっと聞いてみたくて」
言葉の途中で急降下、舌を噛んでしまいそうになって、慌ててまどかは口を噤んだ。

「そっか、じゃあ…ちょっと落ち着けるとこで話、しようか」
着地、そして今度は短い跳躍。降り立ったのは、一際高いビルの屋上。ここならば、人目に付く事もないだろう。

「それで、話ってなんだい。まどか」
抱かかえていたまどかを下ろし、夜風はやはり冷たいから
軽く肩を触れ合わせ、地上の景色を眺めながらプリセラが切り出した。

「大したことじゃないんです。ただ、プリセラさんの事をもっと知りたいなって、そう思っただけで」
「え、私の事?」
まどかの言葉に、きょとんとした顔で首を傾げるプリセラ。
「プリセラさんは、すごく強くて、格好よくて。会っていきなりこんな事言うのも
 おかしいかなって思うんですけど……すごいなって、尊敬しちゃうなって、思ったんです」
寒さからだろうか、それともまた何か別の物からだろうか、まどかの頬は僅かに上気していて。

「あはは、流石にそこまで言われるとちょっと……照れちゃうかな」
「だから、教えて欲しいんです。一体どうしたらそんなにすごくなれるのか。
 やっぱり、プリセラさんも魔法使いだから……なんですか?」
強くて、優しく、見目麗しい大人の女性。
それはまどかの理想だった、母の姿を重ねてしまえば、その理想と憧れはやはり強くなる。
プリセラの在り様と立ち振る舞いを見て、まどかが受けた衝撃はそれこそ
マミが彼女に与えたものにも劣らぬものだったのだろう。だからこそ知りたいと思った。
マミは魔法少女となったことで、今のようにあることができている。
だとすれば、プリセラをそうたらしめているものは、一体何のだろう、と。

「やっぱり、気になる?」
「はい、とっても」
目をきらきらとさせて見上げるまどかの様子に、プリセラも少しおかしそうに笑って。
それから何かを懐かしむように、静かに目を細めた。

「私にはね……ん、あれ、あんなところにマミがいるね」
言葉が出かけたその時に、眼下の街並みにマミの姿を見つけてプリセラが声を上げた。

「えっ、どこですか?」
言葉につられて、まどかも眼下を見下ろした。
けれどそこに見えるのは街の灯りばかりで、その中で蠢く人の姿など、一人一人の区別は到底かなかった。
「ほら、あそこ。……見えないかな。とにかくマミも見つかったし、一回合流しよう。話はまた後で、ね」
そう言うと、プリセラは有無を言わさず再びまどかの身体を抱き上げた。
同じく身体が宙に打ち上げられる感覚が走り、再び二人の身体が宙に舞った。

「ティトォ、鹿目さん……無事でいて」
街に蠢く戦いの気配は既に遠く。それはマミにすべての決着が付いてしまったのだということを知らしめていた。
けれど、最後に残った勝者が誰かという事まではわからない。
故にマミはその表情に焦燥の色を滲ませたまま、二人を探して走っていた。

丁度その時である、マミの頭上に二人の人影が現れたのは。

「なんとか見つけられたね、よかったよ」
「マミさん、無事だったんですね!」
ふわりと、まるで重力を感じさせないかのような動きで舞い降りたのは、まどかとプリセラの二人。
その二人の取り合わせに、マミは僅かに困惑した。

(姉妹……かしら?でも、そんなわけないわよね)
髪の色は似ているけれど、流石にそれでそう考えてしまうのは安直に過ぎる。
ティトォから詳しい話を聞いていたマミは、すぐにその答えに思い至った。

「まどか……そして、貴女が三人目の魔法使い、なのね」
ならば即ち、ティトォは無事ということなのだろう。安堵の吐息を漏らしてマミはそう言った。
「そういうこと、私はプリセラ。よろしくね」
「ええ、よろしく頼むわ。プリセラ」
どちらともなくまず握手。ようやく一息ついてから、プリセラはまどかとマミの二人に言った。

「マミ、まどかの事、後は任せていいかな。私にはまだちょっとやらなきゃいけないことがあるから」
「それは構わないけれど、一体何があったの?ティトォも、まどかも」
マミの言葉に、プリセラの表情が僅かに険しくなる。
「敵が現れたんだ。それも多分一人じゃない。私らを狙ってる敵と、まどかを狙ってる敵がいるんだと思う」
まどかの表情にも、あの時の恐怖が蘇る。マミもまた、驚愕から小さく息を呑み。

「それも、まどかを狙った敵は魔法少女だ」
続く言葉に、マミの眼が見開かれた。

「どういう、ことなの」
呆然と呟くマミ。
「私にも何がなんだか分からないんです。でも、あのキリカっていう子は私に言ったんです。
 "最悪の災厄の魔女"って。私の事を、そう言ったんです」
恐怖の記憶は、思い出そうとするだけでまどかの心を蝕んだ。胸元を手で押さえて、小さく震えながらまどかは呟いて。
「この後も何が起こるかわからない。マミは、まどかと一緒にいてあげてほしいんだ」
「貴女はどうするの、プリセラ」
マミの言葉に、プリセラは少しだけ口を閉ざしてから。

「後始末をする。それから……責任を、取りに行くんだ」
何かを決意したような表情で、そう呟くのだった。

「行っちゃうんですか……プリセラさん」
頼りない様子で、不安げにまどかが呼びかける。
プリセラはそんなまどかに振り向いて、もう一度その頭にそっと手を乗せて。
「ごめんね、まどか。でも今の私には、やらなきゃいけないことがあるんだ。
 全部片付けてまた会おうよ。その時にはさ、しっかりばっちり話してあげるから」
優しく微笑んで、その視線を空へと向けて。

「頼んだよ、マミ」
「ええ。でもちゃんと説明はしてもらうわよ」
最後にそれだけ言葉を交わして、再びプリセラの姿が空へと消えた。

――どうするつもりさ、プリセラ。

「私はさ、女の子が死ぬのを見るのは嫌なんだ。助けられるなら助けたい。まだ、間に合うなら」

街の空を飛び行きながら、プリセラは内なるアクアの声に応える。
ティトォの魂はまだ深く傷つけられていて、目覚めてはいないようだった。

――正気かい?あいつはティトォやまどかを殺そうとしたんだよ?

「わかってる。わかってるけどさ……それでも、私は耐えられないんだ」

――そりゃあわかるよ。わかるけどさ。

アクアの声も、どうにも歯切れが悪いもので。

「とにかく、私は私にできる事をするんだ。これ以上、私らの巻き添えで誰かを傷つけるのは、嫌だから」
歪んだ口元に浮かぶのは、怒りと無力感に苛まれて生まれる苛立ちだった。

落書きでできた結界。時折聞こえる耳障りな声すらも、その時の杏子にはやけに遠く聞こえていた。
「……ちょうど、いいや。ここでちょっと……休んでいくか」
袋小路に疲れ果てた身を預けて、杏子は深く吐息を漏らした。
身体の中に溜まった嫌なものを吐き出すように、長い長い溜め息だった。
失ってしまった足を、膝を抱えて蹲る。小さく縮こまるようになった杏子の身体を、湧き出た赤い帯が覆った。
それは杏子の結界で、少なくとも使い魔からの干渉くらいは防ぐことができるだろう。
それはまるで真紅の卵のようで、薄ぼんやりとした赤い光がその殻の内から零れていた。

膝を抱え、文字通り卵に眠る胎児のような格好で。杏子の意識はまどろんでいった。
思い出すのは、過去の事。ゆっくりと流れる、記憶の河。
幸せの記憶。優しい父と母と、可愛い妹と、何不自由なく暮らしていた日々の記憶。

(ああ、やばいな。……何、振り返っちまってるんだよ。あたしは)
けれど、閉ざした瞳の瞼の裏に映っては消えるその記憶は、確かに彼女にとって幸せな記憶だった。
だからこそ、もう何も見たくないと思う。幸せなのは今だけだから、後はもう、辛い現実ばかりなのだから。

それでも、記憶の河は澱むことなく流れ続ける。



苦難の記憶。幸せを願い、その想いを説き始めた父の姿。
それを誇りに思いながら、それに耳を傾けない人々を怨みながら、悔やみながら
いつしか、ただ生きることすらも困難になっていく。

(駄目だ。そんなこと、してちゃ駄目だよ。親父……母さん、モモ)
見たくはないと思っていても、流れる記憶に心も揺り動かされてしまう。
どうにか彼らの苦境を救いたくて、杏子は家族の姿を求めた。

邂逅の記憶。

彼女はそれを願ってしまった。奇跡は、願いを叶えてしまった。
人々はこぞって父の言葉に耳を傾け、父の声は遍く場所へと広まっていく。
あの時の父は、まさに光の中にいたのだろう。そんな光の裏側で、闇に潜んだ魔女を狩る。

光と闇で、表と裏で世界を守る。そんな自分を誇っていた。
けれど立ち向かう魔女は手強く、一人では立ち向かうのは困難だった。
そんな彼女の前に現れた、魔法少女の先達の姿。
彼女はマミと出会い、共に願った正義の為に、魔女に立ち向かって行った。

(きつかったし、痛かった。死に掛けたことも何度もあったな。
 ……でも、楽しかったなあ。あの時は本当に楽しかったんだ、嬉しかったんだ)
目を背けたかった。幸せな日々は、その後に来る絶望の前菜でしかない。
分かっていても、流れる記憶は留められない。


喪失の記憶。

父は全てを知ってしまった。
自らを照らす光は神の光などではなく、娘の翳す偽りの光でしかない事を知ってしまった。
受け入れ難い事実は、父の全てを壊してしまった。
壊れた父は、自分の残骸を一片たりともこの世に残す事を望まなかったのだろう。
母を、妹を、全てを巻き添えにして、父は炎の中に潰えた。

残されて、考える。
何故遺していったのか。なぜ連れて行ってくれなかったのか。
答えはすぐに見つかった。きっともう、自分は父の娘ではないのだろう。
魔女と呼ばれて蔑まれた、忌むべき存在に過ぎないのだろう。

(………………………)
思う事すら許されない。圧倒的な絶望の記憶が、再び杏子の心を襲った。
彼女を包む卵の殻が、真紅の色を纏ったそれが、底からじわりと、赤黒い色に染まり始めた。
これが完全に黒く染まりきった時、その卵の中から生まれ出でるのは何なのだろうか。

離別の記憶。

信じた正義は裏切られた、潰えてしまった。それに縋れば自分も潰れる。
だから彼女は正義を棄てた。
だからもう、マミとは一緒にいられない。道は分たれ、彼女は遂に独りになった。

(どうして、あいつはあんなになっちまったのかな)
久方ぶりに出会ったマミは、相変わらず正義に殉じる魔法少女だった。
けれど、その思いはあの時よりも遥かに頑ななものになっていた。

(そうじゃないだろ、あんたの正義は、そんなに冷たくないはずだろ?……もしかして、あたしのせいなのかな)
じく、とまた胸の奥に嫌なものが込み上げる。卵の殻が、更に黒に近づいた。

(あたしは、あんたを尊敬してたんだ。あたしだって、そんな正義の魔法少女でいたかったんだよ)
込み上げるのは苛立ち。憧れの存在が、ああまで歪んでしまった事への苛立ちだった。

(それが、このザマか。……もう、笑えもしないよ)
けれど、我が身はどうだろう。
正義どころか独り善がりと自分勝手にどっぷりと浸かり、挙句かつての憧れにすら刃を向けた。
その結果の敗北と裏切り。まったく自業自得もいいところだ。

(それでも、さ。あたしは心のどこかでずっと思ってたはずなんだ……)
後悔の念が、更に彼女の心を黒く染めた。もう、卵の殻もほとんど黒に染まりきっている。


更に記憶は巡る。
その先はもう、語るべく価値もない記憶ばかりだった。記憶はついに今に至り、そして、全ての記憶が閉ざされる。



――その、直前に。














"助けて、誰か……誰かっ"
助けを、救いを求める声が響き、彼女の心を揺るがした。













「はぁ、はぁ……は、ぁッ!」
果てなく続くかと思われた路地。
それを抜けた先に広がっていたのは、見慣れた街角の風景などでは当然なく。そこもまた使い魔の結界の中で。
その中を、さやかは尚も逃げ続けていた。
いつしか彼女を追う使い魔の姿は一匹が二匹、二匹が三匹と増えていき。
耳障りな無数の子供の声が、さやかの背後を追っていた。

(遊んでるんだ、あいつら)
息を切らせてさやかが走る。恐らく本気で追い詰めようとしていれば、今頃とっくに命はないはずだろう。
そうでないということは、きっとそう言うことなのだ。
弄ばれているのは当然気分がいいはずもない。
けれどそれでも、少なくともその間は命を繋ぐ事ができる。
その間に誰かの助けが来てくれれば、まだ望みはあるはずなのだ。


けれど、救いの手は訪れることはなく。さやかの体には着実に疲労が蓄積されていく。
それが遂に、彼女の運命を決した。
走り続けようと振り上げた足は、思ったほどには上がってくれず。
引きずるように足がもつれて、ぐらりとさやかの体が傾いた。

「あっ……ぐ、ぅ」
全身に衝撃が走る。息が詰まり、肺が酸素を求めてズキズキと痛んだ。
それでもここで足を止めるわけには行かない。手をつき身体を無理やり起こした。そんなさやかの眼前に。

「ブゥゥ~ン♪」
酷く上機嫌な声を上げる、使い魔の姿があった。

「ひっ!」
弾かれるように手をついて後ずさる。けれどその背後にも、また別の使い魔の姿があった。
「あ……あぁ、あ」
掠れた声が唇の端から漏れる。
気がつけばもう、さやかは完全に使い魔に取り囲まれてしまっていた。最早逃れる術はない。
諦めが、さやかの心を埋め尽くす。


(これは……きっとあたしへの罰なんだ)
全身から力が抜ける。そのまますとんと、さやかの腰が地に落ちて。


(あたしが、自分で願わなかったから。ティトォさんに押し付けちゃったから、きっと罰が当たったんだ)
自ら願いを叶えていれば、こんな未来はなかったはずだ。戦う力はこの手にあったはずだったのだ。


(恭介……もう、会えないのかな)
恐怖に竦んだ心の奥で、さやかは迫り来る死を垣間見る。


(嫌だよ、そんなの嫌だ……誰か、助けて)




「助けて、誰か……誰かっ」
その死に目を塞ぎ、祈るように手を重ねて。さやかはあるはずのない救いを願った。
けれどそんな願いを、使い魔の魔の手は容易く引き裂いてしまう。
遊びも飽いてしまったのだろうか、使い魔がついにさやか目掛けて殺到する。
形を成した絶望が、さやかの全てを消し去ろうとした。

吹き抜けたのは、一陣の紅い風。
力強く何かを打ち据える音。何かが砕けて消えていく音。
来るべき最後は、絶望の最後はなぜか訪れない。不思議に思って、さやかはうっすらと目を開く。
そこには痛々しい紅が、傷だらけの勇者の姿があった。



「あんたは運がいい。……大丈夫、あんたは助かるよ」
力強く、優しい声が聞こえた。



ぼろぼろの紅衣を纏い、全身に無数の傷や火傷の痕を負い。
一体どれほどの戦いを潜り抜けてここに至ったのだろうか、地を踏むべき彼女の足は、その片方が失われていた。
そう、その場に現れたのは杏子だった。
使い魔を捻じ伏せ、さやかの命を力強くすくい上げながら、杏子は尚も残る使い魔を睨みつけた。

(きっとあたしは、これで最後だ。最後なら……最後くらい、本当にやりたい事をやってやろうじゃねぇか。
 本当はあたしもまたこうやって、誰かを助けて戦いたかったんだ)
先の一撃、分裂させた槍による範囲攻撃によって使い魔は既にその数を減じている。
けれど杏子の限界は近い。否、もはや限界であると言っても過言ではない。
それでも杏子は、片手の槍を杖に雄雄しく立ち。もう片方の腕で槍を振り上げ、使い魔へと突きつけた。

「……貴女、は?」
その姿は、さやかにはあまりにも眩く見えた。
どれほどの傷を負っても尚引かず、敵に立ち向かうその気高い姿。
それはまさしく物語の英雄のような、傷だらけの勇者であるかのように見えたのだった。
だからさやかは、降って沸いた救いに目を潤ませて、縋るように問いかけた。
そんな様子に杏子も少しだけ気をよくして、こう答えるのだった。


「――通りすがりの、正義の味方さ」
突如現れた邪魔者に、いきり立って叫ぶ使い魔達。それを一度鋭く睨み、杏子は槍を振り上げ声を張り上げる。


「さあ、来いよ。一人ぼっちは寂しいからさ、あんたらにも、地獄への連れ合いになってもらうぜっ!!」
どうしようもなく死に惹かれ、抗いがたい絶望に飲まれ。
それでも最後の瞬間だけは、望んだ自分の姿を貫こうとして。使い魔に挑む杏子の瞳は、爛々と強い輝きを放っていた。





魔法少女マテリアル☆まどか 第6話
         『三人目の魔法使いと傷だらけの勇者』
                   ―終―

【次回予告】
少女は命を燃やしつくし、戦いの中でその火を消した。
その燃え殻に触れる者。その燃え殻を掬う者。
既に奇跡は起こっている、少女は奇跡を手にしている。だとすれば今、起こっているのは奇跡ではなく必然。

「あたしは……死んだのか」
「ここはね、私の夢の中」

夢に根を張る大樹の上で、二人の少女は再会を遂げる。
むき出しにされた心と心は触れ合って、小さな何かが生まれて落ちた。

「ごめんね、マミさん」
「私は……間違っていたのね」

それはきっと、本物の奇跡。小さな小さな、一つの奇跡。
夢で生まれた小さな奇跡は、現実に確かな芽を宿す。

奇跡をみつめる三つの魂。夢の樹に集うは彼ら。
多くの事実を受け止め、飲み込み。彼らは遂に決意する。

「決めたよ。もうこれ以上、誰も死なせやしない」

今、大きな物語の歯車が廻りだす。

次回、魔法少女マテリアル☆まどか 第7話
                   『夢の樹と仲直り』

落とすだけ落としたので、後は持ち上げるだけの簡単なお仕事です。


そう思っていた時期が私にもありました。

我慢しきれなくなってTDS中下巻を読みました。なんだろうこの展開の被りよう。
読んでよかったのか悪かったのか微妙な感覚です。


>>389
幸せになれるかどうかはわかりませんが、二人の出会いはこんな感じになってしまいました。

書き溜めはそれなりにできてはいましたが、やはり反響なしに描き続けるのはちょっぴりしんどかったです。
概ね7話の中ごろくらいまでは書いてる感じですので、明日以降また順次投下していこうかと。

>>390
ここから急激に巻き返しに入りますので、どうぞお楽しみに。

>>391
ミト様くらいって言ったらどっちみち恭介(ネタバレ)しちゃう上にさや神様爆誕じゃないですかー、やったー!

>>392
わたし は ごつごうしゅぎしゃ です(カクカク

>>393-394
神無もそろそろ始まって欲しいとこなのですけどね、清杉ハルポリ終わったしそろそろいいじゃないですか、土塚先生!
あとガンガンの編集部!

>>395
さやかシナリオで思いっきり心を抉られて結局杏子編の最初でストップ喰らってます。
その内ちゃんとやらねばとは思っているのですけどね。


この時間軸のマミさんがちょろすぎたり、ほむらが冷徹すぎるけど杏子ちゃんはどこでも変わらないな
個人的には死んで欲しくないタイプ。クロス先的に死ぬ可能性が高いけど……

復活きたか乙
いよいよTAPが本格的に動きだすか
ただ頭脳派のテイトォが深い眠りについてるんで、そのせいで後手に回らなきゃいいんだが
「仲直り」か・・・杏子の真意を知ったらマミさんが深い罪悪感に苛まれそうだが
ほむらはどうすんだろうなあ。ここまでやっちまった以上、和解はもう絶望的な気が・・・
それから、このssでほむらがここまで冷徹なのって何か理由があったりするのか?
まどかを守るために「星のたまご」を手に入れる事での恩恵を考慮しても、あまりにも行き過ぎてる

>>420
>この時間軸のマミさんがちょろすぎ

これに関してはいつも通りな気がするなあ
まどポじゃ、ほむら√でほむらに助けられてから急激にデレはじめたし
傍にいてくれて依存できるなら誰でもいいというのはまどポやTDSでも描かれていたしね

うおおおおお!!!ヒーロー 参上!
テンション上がってきたぜー!そして乙!!

TAPとほむらが協力できたら他の魔法少女の問題も大体解決できてしまう可能性があるし、おりこ組も脅威にはなりえない
ワルプルもBBJでいけるんじゃねって感じだからほむらが敵に回らないと上手く行き過ぎるんだろうなぁという気がする

しかし味方に出来たらTAPくらい頼りになる面子もそうそういないんだが…
ほむらはかなりもったいないことをしてるなぁ

書き溜めがある程度ある内は、さくさく投下していくことにしましょう。

では、朝投下です。

第7話 『夢の樹と仲直り』

「……どこだ、ここは?」
どこまでも続く純白の空間。その只中で、杏子の意識は目覚めた。
「なんだって、あたしはこんなとこに……」
その空間はどこまでも広がっているようで、他に目に映るものといえば、足元に広がる樹の枝のようなものばかり。
その枝は空間の至るところにその身を伸ばしており、杏子の身体はその中でも一際太い枝の上に横たわっていた。

まるでこの世のものとは思えない風景を、ぼんやりと寝ぼけた頭で見つめていると
杏子の脳裏にだんだんと記憶が蘇ってくる。最後の戦いの記憶が、せめて最後くらいはと
正義の味方を気取って挑んだ戦いの記憶が。

「そうか……あたしは」
あまりにも現実離れした場所に、杏子は。
「あたしは……死んだのか」
何の感慨もなく、そう呟いた。

先制攻撃によってある程度使い魔の数を減らす事には成功したが
それでもまだ少なくない数の使い魔が杏子の眼前に立ちふさがっていた。
対する杏子は最早魔力も底を尽き、先ほどのように槍を分解して叩き付けるだけの
単純な攻撃を行う余裕すらも残されていなかった。

この状態でできることはたった一つ。その槍でもって、ただひたすらに敵を貫き続けるしかない。
けれど杏子の右足は失われ、戦況は絶望的だった。
それでも杏子は戦い続けた、幾度となく使い魔の攻撃がその身を貫き、その度に意識を手放しそうになりながら。
少しでも気を抜けば、即座に死の暗黒に滑り落ちてしまうような戦いを繰り広げていた。
機を伺い、隙を狙い。狙い定めた真紅の槍が光の軌跡を描く。
その度に、使い魔が貫かれては消えていく。気が遠くなり、自分が何をしているのかさえも定かではなくなってくる。
それでも杏子は、ただひたすらにそれを続けた。やがて使い魔も最後の一匹を残すのみとなり。
それすらも、満身創痍ながらも異様な気迫を放ち続ける杏子の姿に臆したのか、背を向け逃亡を始めた。

「逃がす……かよ」
その背に、杏子は両手に握った槍をぶんと振り上げ、投擲した。
右足の代わりに杖として身体を支えていた槍を失い、杏子の体がぐらりと崩れ落ちる。
それでも、どんどんと高度を下げ、直に床に叩き付けられるであろう杏子の視界の端で
踵を返して逃げ出した使い魔を、二条の赤い閃光が貫くのが見えた。

「へっ……ざまあ、みや…が」
その先は最早言葉にもならず、杏子の意識はするりと解けて消えていった。
ただその直前に、柔らかな何かに抱きとめられたような、そんな気がしただけで。




「そうか、あたしはあの時……死んだんだな」
ぼんやりとした調子もすっかり抜けて、はっきりと杏子はそう呟いた。
「にしても、ここはどこなんだろうね。まさか天国なんて行けるわけないだろうし、地獄にしちゃあ殺風景過ぎる」
周囲を見渡してみても、見えるのはどこまでも純白の世界と、果てしなく伸びる木の枝ばかり。
天国の門どころか、地獄の獄吏の姿も見えなかった。

「あいつ、ちゃんと助かったかな。……助けられたかな」
考えてもどうにもならないことは、ひとまず思考から追いやってしまって。
杏子は使い魔の結界に囚われていた少女の事を、さやかの事を思う。
「使い魔は全部やっつけたはずだ。きっと大丈夫だとは思うけどね。
 ……はは、でもきっと、あたしの死体抱えて相当途方に暮れた事だろうな」
杏子は再び枝に身を預けて、そのまま仰向けに寝転がる。
そこは純白の空間かと思いきや、上を見上げれば空のような青さも広がっている。雲のようなものも見える。

「ほんっと、どこなんだよ、ここは」
ぼんやりと流れる雲を眺めながら、どうにも暢気に杏子は呟いた。けれど今度はどうやら、その呟きにも答える声があったようで。

「ここは、私の夢の中よ」
それは聞き覚えのある声。その声に、杏子の表情が硬直した。
ゆっくりと首が廻り、視線が廻り。その先に見えたのはやはり見覚えのある姿。忘れようのない姿。

「………マミ」
巴マミが、そこにいた。魔法少女のそれではなく、見滝原中の制服を身に纏った姿で。

「また会ったわね、佐倉さん」
けれどその表情に浮かんでいたのは、冷たく揺ぎない敵意ではなかった。
そこに浮かんでいたのは、迷いと戸惑い。そして何か信じられないものを見ているかのような、そんな感情だった。

「わけがわかんねぇ。何がどうなってんだよ。あたしは、あんたは何でこんなところにいるんだ。
 夢の中?それこそ寝言は寝て言えよ」
理解不能な事情の連続。もはや自分も死んだ身だろうと
杏子は一切の事情を理解する事を放棄して、投げやりにマミの言葉に答えた。
そのまま不貞腐れたように、マミの顔を睨みつけると。

「……なんてツラしてんだよ。もしかして、あたしを殺した事を後悔でもしてんのかよ」
その言葉に、マミもなにかしらの思うところがあったのか。目を見開いて杏子を見つめると。
「そうね、今は悔やんでるかもしれないわ。貴女ともっとよく話をしておかなかったことを」
目を伏せて、そう呟くのだった。

「妙にしおらしいじゃんかよ。……気にするこたないよ。単にあたしがあんたより弱かったってだけさ。
 勝った方が正しい、シンプルだけどそれでいいだろ」
よくよく考えれば、自分はもう死んだのだ。だとすればこれ以上、余計な意地を張る事もない。
マミが夢だなんだと言っていたのは気になるが、それもこの際どうでもいい。
これが最後だろうから、きっともう会えないだろうから。言いたい事は言ってしまおう。

「本当はさ、あたしは縄張りなんてどうでもよかったんだ。もう一度あんたに会いたかった。
 会って話がしたかった。一人でもこんなに頑張ってるんだって、見せたかった。強くなったねって、褒めてもらいたかった」
ぽつりと、心の奥から言葉が口をついてでた。いつもならば気丈で身勝手な仮面を被せて
完全に覆い隠していたはずの言葉が、今はそんな仮面を無視して零れ出る。止まらない。
「ああやって仕掛けて見せたのだって、あたしの力を見て欲しかっただけなんだ。
 幻惑の魔法が使えなくなって、それでもあたしはこれだけ戦えるんだって
 あんたに負けないくらい強くなったんだって。見せてやりたかっただけなんだ」
杏子はひょいと上体を起こすと、マミに背を向け座り込む。このままマミの顔を見つめていたら、涙が零れてしまいそうだから。

「ほんと、どこで何を間違えちまったんだろうな。最初からこうやって素直になれてたら
 ひょっとしたら何かが変わってたのかもな」
マミは何も答えず、静かにその場に立ち尽くしている。
背を向けている杏子からは、その表情は窺い知れない。果たしてマミは何を思っているのだろう。
この身勝手な告白をどう受け止めているのだろう。
憐れんでくれるだろうか、それとも今更何を勝手なと、憤っているのだろうか。
気にはなるけれど、顔を合わせることなどできそうにない。
顔を合わせた瞬間に、きっとこの素直な自分は吹き飛んでしまうだろうから。

「……こんな事言ったら、あんたは怒るかもしれないけどさ。
 あたしは今でも、正義の魔法少女って奴に憧れてたんだ。強くて素敵で、みんなを助ける正義の魔法少女。
 そんな風になりたいって、心のどこかで思ってたんだ」
声が震える。思わず俯いて、膝を抱えて顔を隠した。ぽたりと熱い雫が頬を伝い、白い枝の上に落ちていく。
「でも、できなかったんだ。……怖いんだ。 誰かを助けるために魔法を使って、また裏切られたらどうしようって
 助けた事が巡り巡って、もっと悪い事に繋がったりしたらって。そう思ったら……怖くて怖くてしょうがないんだよ」
誰かと共にいれば別れが怖い。だから孤独を友とした。そうすればもう、離別の辛さを知る事はない。
誰かを助けようとして、助けられないことが怖い。だから自分の為だけに力を振るった。
そうすればもう、自分のせいで誰かを失う事はない。

けれど彼女は知っている。信頼を寄せ合える仲間がいることの心強さを
誰かを信じられることで、誰か自分を信じてくれることで、どれほどの恐怖が和らぐのかという事を。
誰かを助けられたとき、胸の内に込み上げる暖かな感情。
自己満足だと言われても、それがとても尊いものである事を、彼女はやはり知っている。
だからこそ、常に心は苛まれ続けていた。孤独に、無力に。
そんな痛みを、恐れを全て、強がりの仮面の下に押し殺して、今日まで彼女は戦い続けていた、生き延びていた。

「あたしは、それを貫き通してるあんたを尊敬してた。だからあたしも、最後くらいは正義の魔法少女……
 みたいなことをしてみたいって、柄にもなく思っちまったんだ」
言葉が途切れた。マミは静かに一つ吐息を漏らすと、静かに杏子に呼びかけた。

「だからあなたはあの時、美樹さんを助けたのね」
「知り合いだったのか?」
「ええ、私の知り合いで、魔法少女になれる素質のある子なのよ、彼女は」
その言葉には、杏子もちょっと意外そうな顔をして。口元に寂しげな笑みを浮かべて言葉を続ける。
「そりゃよかった、あんたの知り合いを、未来の魔法少女を死なせることにならなくて。
 あたしの最後の仕事としちゃあ、なかなか上出来って感じじゃないかな」
空元気でどうにかそれを言ってのけた杏子は、背中に何か暖かなものが触れるのを感じて、小さく身を震わせた。
背中に触れていたのは同じくマミの背で。背中同士を触れ合わせながら
互いの姿を見ることだけはせず、マミは杏子の背後に腰を下ろしていた。

「貴女は、何も覚えていないのかしら?……まあ、無理もないことなのかもしれないけれど」
その口調は、どこか呆れている風でもあった。
「何だよ、まだ何かあたしはしでかしてたってのか?」
「いいわ、聞かせてあげる。あの後何が起こったのかをね」

「何かあったのかしら、美樹さん?」
それはマミとまどかがプリセラと別れ、一旦マミの家へと戻ろうとしていた時の事。
まどかの携帯が不意に着信を告げた。そこから聞こえてきたのは、なにやら切羽詰った様子のさやかの声で
マミがいるなら代わって欲しいとまどかに話した。

すぐさま携帯はマミの手に渡り、さやかは焦った様子で言葉を続ける。
使い魔の結界に囚われてしまったこと、魔法少女が助けに来てくれたこと
けれど彼女は酷い怪我を負っていて、このままでは命が危ないという事を。

「わかったわ。すぐに向かうから少しだけ待っていて、美樹さん!」
この街に他の魔法少女がいるなどという話は聞いていない。
それにさやかの言うほど酷い怪我を負っているのだとしたら、もしかしたらなりたての魔法少女なのかもしれない。
見捨てるわけにはいかない。今度こそ、ちゃんと助けてみせる。
それでこそ正義の魔法少女なのだと、マミは決意も新たにさやかの待つ場所へと急いだ。
もちろんまどかを連れていて、おまけにそこは結界の中でもないので、あくまで常識的な速度の範疇で、ではあったが。

そこでマミを待ち受けていたのは、右足を失い、血の気のない真っ白な顔で
さやかの腕の中に力なく横たわっている、杏子の姿だった。
それを見た瞬間、マミの思考は赤熱した。即座に銃を生み出すと、その銃口を杏子に突きつけ冷たく言い放つ。

「美樹さん、そいつから離れなさい」
「な……何言ってるんですか、マミさんっ!この子はあたしを助けてくれたんですよ!
 マミさんと同じ、正義の味方の魔法少女なんです。こんなボロボロになるまで戦い続けて
 それでもあたしを助けてくれたんですよ!」
当然、さやかにはマミの思考が理解できない。身を挺して杏子を庇うように、マミとの間に立ちふさがった。

「違うわ、美樹さん。その子は正義の味方なんかじゃない。
 私利私欲のために魔法を使って、人を傷つけることすら厭わない魔法少女。魔女も同じような存在よ」
思いもよらない冷たい言葉に、さやかは思わず息を呑む。
その瞳に迷いが揺らぎ、マミの冷たい表情と、杏子の顔とを交互に見つめた。
「私の言う事が信じられないの、美樹さん」
マミの語勢が強くなる。その姿は、さやかの心に恐怖を抱かせるには十分すぎるもので
今のマミの姿は、さやかが憧れていた正義の魔法少女の姿とはかけ離れていた。
一体なぜそうなってしまったのか、腕の中の少女とマミとの間に、一体何があったのか。
さやかにはまるで知る由もない。けれどそんなマミの頑なな態度に、さやかは意を決したようで。

「信じたいよ、マミさんの言ってることなら信じたい。でも、この子はあたしを助けてくれたんだ。
 正義の味方だって、そう言ってたんだ。あたしはそれを疑いたくないんです」
杏子の身体を抱き留めたまま、さやかはマミにそう告げる。
もちろんマミの事を疑いたくはない。それでも命懸けで自分を助けてくれた相手を見捨てることは、さやかにはどうしてもできなかった。
そんなさやかの頑なな態度が、今度はマミを苛立たせる。
「……その子は、私の敵なのよ。それに、彼女は鹿目さんを殺そうとしたのよ」
だからこそマミは、恐らくさやかにとっては決定的であろう事実を告げた。
最早今のマミにとって、杏子は倒すべき敵。魔女にも等しい存在でしかなかったのだ。

「本当……なの、まどか?」
震える声で、さやかが問う。
マミの後ろに隠れるようにして立っていたまどかは、怯えたように身を竦め、それでもどうにか前に出ると。
「……それは、本当だけど。でも、きっと何か事情があったんじゃないかなって、思うんだ」
躊躇いがちに、震える声でそう呟いた。

「鹿目さん……貴女、分かっているの?彼女は貴女に刃を向けたのよ」
マミは信じられないものを見るかのような、鋭い目つきでまどかを睨んで。
「それはわかってます。……でも、さやかちゃんを助けてくれたっていうのも、本当なんだって思うんです。
 だから、きっとこんな風になっちゃったのも、何かの事情があったからで……」
「いい加減にして!貴女達の事を心配して言っているのが分からないの?
 この子は危険なのよ、今すぐ倒さないと、大変なことに……」
かつての仲間は倒すべき敵と化し、大切な後輩達はいずれもその敵の肩を持っている。
何故なのだろう、自分は正しい事をしているだけなのに。
それがますますマミの苛立ちを煽る。知れず、マミは声を荒げてしまう。
その苛立ちもそのままに、銃口を杏子へ向けて突きつけた。

「お願いだよ、やめてよマミさん。あたしはただ、命を救ってくれた恩を返したい
 命の恩人を助けたいってだけなんだ。これって、間違ってることじゃないはずだよ!」
さやかは尚も身を挺し、突きつけられた銃口に身をかざす。
「やめてよ、マミさん!どうして……どうしてこんな事するんですか。今のマミさん、何か変ですよ!」
まどかまでもがマミの手に縋りつき、突きつける銃口を下げさせようとする。
恐らくそれは、さやかの身を案じてという理由が最も大きなものではあったのだろうけれど。

マミの表情が更に引き攣った。
このまま二人を無力化し、その後で杏子に止めをさすことは、マミにとっては容易い事である。
けれどそうしてしまったら、今二人との間に生まれつつある亀裂は、きっと決定的なものになってしまう。
そんな事をした自分を二人はもう、正義の魔法少女とは見てはくれないだろう。

それでもいい、それで正義が貫けるなら。
例えどれだけ謗りを受けても、殉じるべき正義が今のマミにはある。
冷徹な心が引き金を引く刹那、マミの心が小さく揺らいだ。
一体どんな気まぐれからか、それでも誰かを救おうとして、事実救って力尽きた杏子。
そんな杏子に止めをさそうとしている自分。必死にそれを止めようとする少女達を、捻じ伏せそれを為そうとする自分。
果たしてそれは、本当に正義の魔法少女なのだろうか。

(本当にこんな私が、胸を張って先輩だなんて言えるのかしら)
そんな思いが、不意にとても強くマミの心を揺さぶるのだった。
それはきっと、正義の仮面の下に隠された、本当の思いだからこそ。
(こんな私と、彼女達は一緒にいてくれるのかしら)
答えは、尋ねるまでもなく明白で。

マミは目を伏せ、静かに吐息を漏らすと銃を掲げた手を下げた。するとその銃身は、解けるように虚空に消えて。
「……わかったわ。貴女達がそこまで言うなら、一体その子を連れて行きましょう。
 このままにしては置けないし、私の家に行きましょう」
観念したような声で、マミは静かに呟くのだった。

「ありがとう、マミさんっ!……わがまま言って、ごめんなさい」
さやかは安堵の表情を浮かべ、それからすぐに、ばつが悪そうに小さく頭を垂れた。
「……よかった、マミさん。でも、この子は一体何があったんだろう」
まどかもまた安堵の表情で、それでも気忙しげに杏子の表情を見つめていた。

(よかった……のよね、これで)
そんな二人の様子を見れば、マミの心に確信めいた思いが宿る。きっと今は、こうする事が正しいのだ、と。

ひとまずここまで、ということで。

一波乱ってレベルじゃなかったけど何とか丸く収まりそうで良かった
あとは赤い水たまりになったキリカちゃんを救うだけだね!


マミさん仮にも元弟子の仲間だったのに情の一つもねえのかよ


まさか本当に生きのびさせるとは……ほむほむ詰んだなこれ
それともごつごうしゅぎしゃなら折檻して説教して仲間入りとか
そこまでやっちゃってくれるのかな (カクカク


けど死ぬしかないじゃないの例もあるしなあ


正直言って思い込みの激しさはさやかとどっこいどっこいと言うか…まぁこの年齢ならしゃーないが

ついげきの投下で更にスレの勢いは加速した。

行きます。

「じゃあ……あたしは」
短くはない話が終わり、杏子は驚愕交じりに呟いて。
「そう、貴女はまだ生きている。……でも、どうして私の夢の中にあなたがいるのか、それは分からないのだけれど」
マミはなにやら複雑な表情を浮かべて、背中合わせの杏子に言う。

(ってちょっと待て、じゃああたしはまだ生きてて、なのにマミにあんなことをベラベラと……)
だとしたら、恥ずかしいことこの上ない。羞恥がかぁ、と杏子の表情を朱に染めた。
背中合わせだったのはきっと幸いだったのだろう。そんな表情すらも見せることはなかったのだから。

「……ってことは、もしかしたらこれはあたしの夢かも知れないぜ。
あんまりあんたが恋しいもんだから、夢にでも見ちまったのかもな」
照れ隠しをしようにも、夢の中ではそれもできない。
今ここにいるのは、強がりの仮面なんて纏えもしない、むき出しの心一つだけなのだから。

冗談めいて言葉を放った杏子に、マミもまた笑み交じりの声で答えるのだった。
「ええ、そうかもしれないわね。……でも、私はこうも思うの。
 もしかしたら、私達の夢が繋がってしまったんじゃないか、って」
「そんなことが起こるのかよ?」
「分からないわ。でも、魔法少女だもの、これくらいの不思議なことは起こってもいいと思わない?」
その口調はどこか楽しげで、つられて杏子の口元にも笑みが浮かんで。

「はは、違いねぇ。……でも、本当にここがあたしらの夢の中なら
 あたしはここでマミに会えてよかったと思うよ。きっとここで会えなかったら
 あたしは素直になんてなれなかっただろうからさ」
不思議なほどに、杏子の心は落ち着いていた。ずっと心の奥に溜まっていた蟠り。それがすっきり晴れてしまった。

「正直に言うとね、私は今でも、これが私の夢だと思っているわ。
 貴女がこんなに素直に自分の気持ちを打ち明けてくれるだなんて、ありえないことだもの」
対するマミの口調は、まるで皮肉っているかのようで。
「酷いなあ、マミ。信用ねぇのな、あたしも。……まあ、無理もないけどさ」
杏子は苦笑し、少しだけマミの背に身を預けようとした。
けれど預けていたマミの背はふわりと消えた。支えを失い、杏子はころんと仰向けに転がってしまう。
そんな杏子の視線の先では、マミが優しい笑みを浮かべて立っていた。

「でも、今言った事が本当なのだとすれば……私は、あなたに謝らなくちゃいけないわ」
マミは再び、枝の端から足を垂らすようにして座り。
立ち上がろうとした杏子を制すると、その頭をひょいと持ち上げて、膝の上に乗せた。
所謂膝枕という奴だろうか。

「なっ……マミ、何すんだっ!?」
流石に杏子もこれにはたまらず、跳ね起きようとするけれど。
「今はこのままにさせて。……ダメかしら?」
小さく首を傾げてマミが問う。杏子は少しだけ迷ってから、照れくさそうに僅かに視線を反らして。
「……別に、嫌じゃ、ない」
口元に浮かんだ笑みを気取られないように、口元は手で覆ったままで呟いた。

「だから、一つテストをしましょう。これがどちらかの都合のいい夢じゃないかどうかを確かめるの」
膝にかかる重さを心地よく感じながら、杏子の髪をそっと手で梳いて。マミは悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「テスト、って。一体何をするのさ、マミ」
髪を縛っていたリボンは、いつの間にやら外れていて。
ふわりと広がった髪を、ゆっくりと手で梳かれるのはなにやら無性に心地よくて。
夢の中だというのにどこか夢見心地で、僅かに目を細めて杏子は答えた。
そんな杏子の視界の中で、マミの顔がだんだんと近づいてくる。
一体何をしようというのか、思わず細めていた目も見開いて。

「ちょっ、マミ……おまっ、何するつもり……ぁ」
慌てる様子も露知らず、更にマミの顔が近づいて。こつん、と額が触れ合った。
触れ合う額から伝わる、少し固い感触と確かな暖かさ。
言葉もなく、目を見開いたままの杏子に、マミはくすりと微笑を浮かべて身を離すと。

「目が覚めたら、もう一度こうしましょう。……それが、これがただの夢じゃないっていう証拠。
 もしそれができたらその時は、もっといろんな話をしましょう」
「……ったく、驚かせやがって。でも、わかったよ。続きは目が覚めたら、だな」
そして、どちらともなく笑みを浮かべて。杏子は瞳を閉ざした。
すると、その体が静かに薄れていく。やがてその姿が虚空に溶けるように消えていった。
それを見届けて、マミも静かに目を伏せた。そして同じく、マミの姿も掻き消えた。

「……上手く仲直り、できたみたいかな」
そんな二人を遠目に眺めて、プリセラは満足げに一つ頷いた。

「覗き見なんて、あんまりいい趣味じゃないね」
プリセラの背後には、アクアの姿があって。
「それはわかってるけどさ、やっぱり気になるじゃない。あの二人の事。
 ……なんだかただならぬ仲、って感じだったしさ」
振り向いて、小さく髪を揺らしてプリセラは答えた。
「知ったこっちゃないさ。あいつらの事なんてね」
そっけなく答えるアクアだったが、その口元に小さな笑みが浮かんでいるのをプリセラは見逃さず
つられるように小さく笑みを浮かべたのだった。

「……でも、一体どうして彼女達がここに来られたんだろう。それも気になるな」
と、その場に飛び込むもう一つの声。声の主はティトォ。
ティトォは高い枝の上に座って、なにやら思案顔でそう呟いた。

一つの身体を共有し、決して同時に存在する事のできない三つの魂。
それが今この場においては、同時に存在する事が許されている。
ここは彼らの夢の中、唯一彼らが同時に存在する事のできる場所。

夢の樹と、彼らはこの場所をそう呼んでいた。

「ティトォ、身体の方は大丈夫?」
プリセラが、そんなティトォに気忙しげに問う。
「大丈夫だよ、そこまで心配する事じゃないさ」
小さく首を振りながらティトォはそう答えたが、続く言葉には少なからぬ不安の色が混じっていた。

「……ただ、少し魔力を使いすぎた。しばらくぼくは出られないと思う」
「ごめん、ティトォ。私がわがまま言ったからだね」
無理がかなりたたっているのだろう。プリセラは申し訳なさそうにそう言うと、小さく俯いた。
「いいや、きみが気にする事じゃない。それに多分、あの時ぼくが出ていたとしてもきっと、同じ事を考えてたと思うよ」






再び時は遡り、そこは再び夜の街。
闇夜を駆ける一つの影。まどか達と別れてすぐの、プリセラの姿である。

――わかったよ。プリセラがそこまで言うってなら、あたしももう止めないよ。

「ありがと、アクア」
嬉しそうに笑い、プリセラはビルの屋上に降り立った。
かと思えば再びその姿が空へと跳ね上げられる。幾度かの跳躍の末、プリセラはようやくその場所へと辿りついた。

そこは先の戦いの舞台。謎の魔法少女とティトォが、そしてプリセラが戦いを繰り広げていた場所だった。
その戦いは、無慈悲な横槍によって強制的に終わらされてしまったが
それでもまだこの場所には、恐らくあの魔法少女がブチ撒けたのであろう多量の血痕が残されていた。

「……」
それを見れば、到底人が生きていられる程度の出血とは思えない。
やはり無駄だろうかと、小さくプリセラは嘆息した。

「それでも、亡骸くらいは弔ってあげなきゃね」
彼女が何を思ってまどかの命を狙ったのか、そしてこうして敵対する羽目になったのか。
何一つとして分からないままに全てが終わってしまった。
もしもちゃんと話をすることができていれば、こんな事にはならなかったのではないだろうか。
あんな女の子が戦うような事に、死ぬようなことにはならずに済んだのではないだろうか。
そんな思いがどうしようもなく去来して、胸の奥をぎゅっと締め付けた。

夥しい血痕の残るその場を離れ、プリセラは辺りを探り出す。
あの狙撃よって吹き飛ばされてしまったのだとすれば、どこかにまだ身体は残っているかもしれない。
それを探して、せめてちゃんとした形で葬ってあげたかった。
けれど頭の片隅には、跡形もなく吹き飛んでしまったのではないだろうかという、嫌な想像が浮かんでしまう。
プリセラは、それをどうにか振り払う事に終始していた。
そんな最中、それは見つかった。

「血の痕だ。……こっちに向かってる」
アスファルトにべっとりと残されたそれは、夜の闇の中で判別する事も困難であった。
それでも人智を遥かに逸するプリセラの知覚は、それが血痕であることに気がついた。
その血痕はまるで引きずられるかのようにずっと続いている。それは何故か、考えるまでもない。

「きっと、この先にあの子はいる」
確信を込めてプリセラは呟く。
果たして一体どんな姿でいるのだろうか、考えれば気分が悪くなりそうで、そんな考えは極力外へと追いやって。

引きずられて残る血の痕を、慎重にかつできる限りの速度でプリセラは追う。
遠からず、プリセラはそれと出会う事になる。建物と建物の間の僅かな隙間。
そこに身を滑らせて、まるで眠っているかのように動かずにいる、一人の少女と。
ここまでの距離を、這ってどうにかたどり着いたのだろう。漆黒の衣装も血と土に塗れ、赤黒い汚れに染まっていた。

「なんて、酷い……事を」
あまりに凄惨な光景に、プリセラは思わず目をそらして唇を噛み締めた。
建物の隙間に入り込み、そこで力尽きたキリカ。
あの時の攻撃によって失われてしまったのか、それともその後に千切れてしまったのか
今のキリカには、下半身と呼べるものが何一つとして存在していなかったのだ。

血を流しつくしたのだろう。もはやその身体からは一滴の血すらも流れることはなく。
棺と呼ぶにはあまりにも無機質な建築物に囲まれて、キリカの身体は眠っていた。
それは恐るべき敵だというのに、それでもプリセラはひどく辛そうな表情を浮かべて
そんなキリカの亡骸に手を伸ばし、そっと頬に触れた。

「これ……は」
どくん。触れた指先に、脈打つ何かが触れた。
もちろんそれは、本来あるべき肉体の鼓動などではない。
数奇な身体を持ってしまった彼女だからこそ分かるその感触は、キリカの魂がまだ生きている事を示していた。

ありえない。普通であればそんなことはありえない。
肉体が死ねば、魂もそのまま消失してしまう。けれど今、キリカの魂は生きている。
今もこの肉体に宿ったままで、生きている。
傷ついた肉体さえ癒すことができれば、再び息衝く魂がその肉体を突き動かすだろう。
プリセラは、迷うことなくその名を呼んだ。

「ティトォ!お願いだよっ……この子を、助けてあげて」
ティトォは深く傷ついて、魔力さえも底をついた状態で命を絶ち、プリセラへと変換している。
ただの傷ならばまだ、再度変換する事で回復する事もできるだろうが、今回ばかりは事情が違う。
その傷はキリカの魔法によって刻まれたもので、どうしても治癒には時間がかかる。
まさしく満身創痍のティトォにもう一度変換し、さらに魔法を使うということは、あまりにも酷な選択だった。
プリセラも、それはよくわかっていた。けれどそれでも、今尚脈打ち生きようとしている、その魂を見捨てることはできなかった。

きっとそれは、ティトォにとっても同じ事だったのだろう。
言葉はなくともその身の内で、ティトォが小さく頷くのをプリセラは感じた。
「ありがと、ティトォ。……ごめん」
小さく呟いて、プリセラは懐から薬のカプセルを取り出した。
それは強制的に存在変換を発動させる魔法の薬。言ってしまえばただの劇毒。それをプリセラは、迷うことなく飲み込んだ。

再び存在変換が起こる。けれどそれは、先ほどまでの大気を揺るがすほどの魔力の渦を生むことはなかった。
今までの二回の存在変換は、いずれもティトォとプリセラという存在を、新たにこの世界に産み落としていた。
二人はいずれもこの星には存在していない人物である。
先に生じた魔力の渦は、新たに生まれた存在を、この星に刻み込むために生まれたものだった。
故に今、既にこの星に刻まれたティトォという存在を生み出す上では
先の存在変換のような激しい反応は起こらなかったのである。

「……っぐ、やっぱり、ちょっと厳しいか」
かくして、ティトォは再び世界に現れた。見た目の上では傷はすっかり癒えている。
けれどその魂には、キリカの魔法による傷が痛々しく残っていた。
魔力にも余裕はあまりない。だからこそ、やるべきことはすぐに済ませてしまわなければならない。
ティトォは死んだように眠るキリカを見つめると、取り出したライターに火を付けた。

書き溜めがある内は、それなりにサクサクぬるぬる投下していきましょう。

では、レス返しのお時間です。


>>420
確かにその二人に関してはちょっと僅かにかわってしまった感もあります
が、まあここまできてしまったので、どうにかこうにか書いていくことにします。

そして安定の杏子。なんだかんだで動かしやすくていい子です。
とりあえず一命を取り留めたようですし、まだまだ活躍してもらいたいところです。

>>421
果たして動き出すのはTAPだけなのでしょうか。
何にせよこの話で魔法少女達のごたごたはある程度ケリが着いてくれるはずです。
どんな形かどうかはともかく。

そして本当に容赦の無いほむら。
果たして彼女の目的は、本当にまどかを守ることなのでしょうか。
もしかすると……だめだ、これはまだ私の口からは言えない。

>>422
ヒーロー杏子は書いてて本当に楽しかったです。
何か一つが掛け違っていれば、こういう未来もきっとあったのでしょうからね。

そういう一面もなきにしもあらず、でしょうかね。
流石に魔女とばっかり戦ってもらうわけにも行かないですし。
ワルプルさんはまあ、そう遠からず参上してくださるのではないかと。

そしてほむらは彼らの能力をほとんど知らない状態ですからね。
おまけにこの期に至っては、下手に接触することもできない状態です。

>>436
当然救いますとも、彼らはここで起こった全ての犠牲が、自分達に責任があると考えてしまっています。
見過ごすことはできません。

>>437-439
当初の予定よりかなり頑なになってしまったマミさんです。
ですが書いてしまったものは今更どうにもならないので、そう言う方向で話は進んでいきます。
本当にこの時期にTDSがきたのはよかったのやらわるかったのやらです。
公式で色々掘り下げられるとどうしても矛盾も出てきますしね。

>>440
状況は圧倒的不利。それでもまだほむらはほむらで、キュゥべえを味方につけているアドバンテージもあります。
まあ、ほむらがアレを味方とみなしているかどうかは甚だ疑問ではありますが。

>>441
今はまだそれなりに安定してます。
魔法少女じゃないけど共に戦える仲間がいるということもあり
また、彼らがマミを頼るしかないということから、頼られていることの充実感なんてのもあるのかもしれませんね。

>>442
あれでも中学生なんですよねえ、彼女達は。
やっぱりマテパの少年少女勢と絡ませてあげたいです。ネタだけはあるんだ!

乙!
キリカちゃん助かりそうで良かった
自分はマテパ勢で絡ませるならむしろおっさんとからませたい
クライムが杏子にチョーうぜーとか言われたり
マミさんがカイザートと強大な敵に立ち向かう未来を見たり
メイプルソンの変装をティトォ張りに見破るキリカとかさ
……ネタはあるけどそれだけじゃSSにならないんだ!


キリカも助かったのか
このSSにこびりついた陰惨なイメージを改める必要がありそうだ
あとTAPは助けた責任とってちゃんと見張っとけよ

名前を間違えるリュシカ
「ありがとうございますデミさん」

グリンはしょうがないと思うけどなぁ……かわいそうな気がするけどね。本人的には同情してほしいわけじゃないけど……
あと織莉子はここまで未来予知してキリカを送ったのかな……クロス先的にあやしいけど…

さあ、行こうか。

投下です。

「はぁ……っ、キリカ、キリカ……キリカっ!」
少女は走っていた。その身には、闇に溶けるような濃紺の制服を纏って。
それ故に、走る少女につられてはためく長い銀糸は、より鮮やかに夜闇に映えた。

少女の名は美国織莉子。呉キリカにまどかの抹殺を命じた主でもある。
彼女もまた魔法少女であり、その力は未来を見通す力であった。
その力がキリカにまどかの抹殺を為すための好機を示し
彼女の未来には、確実にまどかを貫くキリカの刃が視えていた。

けれど、それは覆る。存在変換が巻き起こす、膨大な魔力の渦と共に。
この段に至り、ようやく織莉子は理解する。この魔力の渦は、彼女の未来を覆すものであると。
存在変換が起こるその時、彼女が視ていた未来は――変わるのだと。

新たに織莉子が視た未来。そこには鮮明に、キリカの敗北と死が刻まれていた。
そんな未来を認めてはいけない、覆さなければいけない。
幸いなことに、彼女の視た未来は絶対不変のものではない。
未来を識るものが、それを覆さんという意志の元に行動を起こせば、未来を変えることも不可能ではなかった。
だからこそ織莉子は走っていた。キリカの元へ、キリカのために。
けれど二人の間に横たわる距離の隔たりはとても大きく、一足飛びに超えられるほど、魔法の力は万能ではなかった。
だからこそ走る。力の限りに息を切らせて走り続けた。
ようやくキリカの元へとたどり着いた織莉子が見たもの、それは。



傷一つない姿で、まるで眠っているかのように横たわっているキリカの姿だった。

「キリ……カ?」
果たして本当に死んでいるのだろうか。恐る恐ると織莉子は呼びかけた。
するとどうしたことか、キリカはむくりと起き上がり、小さく欠伸を一つした。
それからきょろきょろと辺りを見渡し、織莉子の姿を見つけると。

「やあ、おはよう織莉子。……どうしたんだい、そんな悲しそうな顔をして。それじゃあ私まで悲しくなってきちゃうよ」
小首を傾げて、ぴょんと飛び起きキリカは織莉子に駆け寄った。
その姿はあまりにも、いつも通りの変わらぬ姿だった。
そんな姿に織莉子は一つ、大きな安堵の吐息を漏らして、そして。

「よかった。無事でいてくれて……キリカ」
今はただ、ただその身の無事が嬉しくて。織莉子はぎゅっとキリカの身体を抱きしめるのだった。

「織莉……子。はは、何を言っているんだい。私は見ての通り、ピンピンして……ぁ」
抱きしめられるのは嬉しくて、キリカの顔が綻んだ。
けれど順調に巡り始めたその思考は思い出してしまう。あの時我が身に起こったことを。

「そうだ……私は、私は」
声が、身体が震えた。
突然の強襲を受け、身体の半分を吹き飛ばされた。
それでもどうにか魔力を振り絞り、安全な場所へと逃げ延びた。けれどそこで力尽き、眠るように意識は落ちていった。
恐らくもう目覚める事もあるまいと、半ば絶望に沈みながら瞳を閉ざした。そのはずだった。

「そうだ、私はあのまま力尽きて。そのまま死んでしまうかもしれなかったのに。
 ……これってもしかして、愛の奇跡……って奴なのかな?」
何にせよ、今生きているならそれでいい。今はこうして織莉子といられる、その時間さえあればそれでいい。
あっさりすっぱりと思考を切り替えて、キリカは織莉子に笑みかけた。

「もう、キリカったら……」
織莉子もまた、今はキリカが生きていた以上に考えることなどないようで
困ったように笑って、抱きしめる手に力を込めた。
いつしかキリカが纏った衣装も、魔法少女のそれから見滝原中の制服へと変わっていて。
抱きしめた拍子に、その制服のポケットの中で、何かがくしゃりと音をたてた。

「あら、これは……」
ポケットに手を差し入れ、取り出したのは一枚の紙。折りたたまれたそれを開くと、どうやら何かのメモのようで。
「キリカ、これは貴女が書いたもの……じゃあ、ないわよね」
「ああ、私はこんなものは知らない。何だろうね、これは」
二人は一度目配せし、その文面を目で追い始めた。

「織莉子、これは」
「……ええ、これは」
読み進めていく内に、二人は互いにまた目を合わせ、どちらともなく頷いて。



「――私達への、メッセージ」

「こっちの意思は伝えた。後は彼女が……彼女達が、どう動くかだ」
閉ざしていた瞼を開き、ティトォは静かに呟いた。
あの謎の黒い魔法少女、キリカの背後には何者かの意志が存在している。
キリカの言動から、ティトォは既にそれを察していた。
もちろんそれが織莉子という魔法少女であることや、彼女の持つ能力については知る由もない。
それでも、キリカに残したあのメッセージはまず間違いなく、彼女を通じて織莉子の元へと届く事だろう。
果たして、何らかの反応を得ることができるだろうか。

「何にしても、しばらくはまどかから目を離さないほうがいいだろうね」
一度は退けたが、それでも彼女を狙う敵があれだけとは限らない。
そして魔法少女が持つ魔法の力というものは、こちらの世界の魔法使い達が持っていたものと同様に
十分に彼らにとっても脅威足り得るものなのだ。
油断はできない。あのプリセラでさえ、直接的にではなくとも遅れをとったのは事実なのだから。

「……大丈夫だよ、あの子は私が守ってみせる。もう、あんなヘマはしないよ」
拳を堅く握り締め、険しい表情を浮かべたプリセラが言った。その表情に浮かんでいたのは、一つの決意。
「決めたよ。もうこれ以上、誰も死なせやしない。
 あんな子供が死ぬのを見るのは、殺し合いなんてするのを見るのは、やっぱり嫌だからね。
 何が何でも止めてみせる。私にできるギリギリのところまで」
相手が本気で殺しにかかってくるのなら、こちらもそれ相応の覚悟を負って戦わなければならない。
たとえどんな相手であろうとも、それを忘れてしまえば喰われかねない。

それを理解して尚、プリセラは自らに誓う。
この拳と、その力の及ぶ限り。その命の続く限り、ギリギリの所まで不殺を貫くという覚悟。
プリセラにもまた、決して死ねない理由がある。
だからこそ、どうしても命を奪わねば止められない相手が現れたのならば
それが魔法少女であるのなら――それは全て、自分がこの手で始末をつけるのだ、と。

「……プリセラ。あんたがあの子達を、って言うか魔法少女って子達の事を気にかけるのは、よくわかるよ」
そんなプリセラの覚悟に、割って入ったのはアクアだった。
その表情にはいつもの勝気そのものの笑みはなく、どこか悩んでいるような様子で。
「でもね、あの子達をあんまり子供扱いしないほうがいいと思うよ。
 きっと、本当のあたしと同じくらいの歳だ。確かに子供だけど、子供扱いばかりしてていい歳でもない」
アクアには、それが気がかりでならない。プリセラが彼女達のことを気にかけるのは良くわかる。
百年余りの長い付き合い、今更分からないほうがおかしい。

「魔法少女になることを選んだのは、あいつら自身だ。
 その結果あたしらに食って掛かってくる事になったとしても、それは自業自得って奴さ」
けれど、魔法少女となったのはすべて自分で選んだからだ。奇跡を望んでしまったからだ。
それと引き換えに背負う事になってしまう戦いの運命も、その力をどう使い、どう生きるのか。
それは全て自分の責任の範疇であるともいえる。
その責任をまるで背負いきれないほどに、彼女達が子供であるとはアクアには思えなかった。
そこだけは、プリセラにも履き違えてほしくはなかった。

けれど、それでももちろん。
「……もちろん、奇跡と引き換えに力を与えて、それで戦えなんていう奴は
 あたしはもっと気に食わないけどね。やり口があいつらによく似てるよ」
不敵に勝気に、そして幾分かの苛立ちも交えて唇の端を歪めて、アクアはそう吐き捨てた。

「そうだね、確かにその辺りも気になるところだ。魔法少女とは一体何なのか。
 ぼくの考えが正しければ……あれは」
とん、と指はいつもの仕草を辿り、ティトォは思索を巡らせる。
思い出すのは戦いが終わったその後の、後始末を付けるべく臨んだ夜の事。

キリカを見つけたプリセラは、すぐさまティトォへと存在変換した。
そして再び現れたティトォは、なけなしの魔力を振り絞り、ホワイトホワイトフレアを発動させた。。
とは言え、下半身が完全に吹き飛んでいるのである。
それほどの損傷を即座に修復できるこど、ティトォの魔法も万能ではない。
傷を癒すことはできても、失われた体を修復させるとなればそれ相応の時間と魔力が必要だった。
だからこそ今のティトォにできることは、最低限の治療を行い彼女の命を繋ぐ事だけで
そうすれば少なくとも、すぐにキリカの魂が消える心配はないだろうと、そう思っていた。

けれど、そんなティトォの見立てをキリカは覆す。
ホワイトホワイトフレアに触れたキリカの身体は、まるでその身が魔力を喰らうかのように、白い炎を飲み込んだ。
その、刹那である。失われたはずの下肢が、急速に再生を始めたのである。
いっそおぞましくも見えるほどの速度で、その衣服までもが再生を遂げていた。

それに伴い簒奪されるティトォの魔力。
慌ててホワイトホワイトフレアを解除したティトォの眼前には、傷一つない姿のキリカが横たわっていた。
表情には血色が戻り、息すら吹き返したのか、胸が静かに上下していた。

「身体そのものが、別のものに変換されてしまっている。
 ……いいや、そんなんじゃない。あれはむしろ……」
身体がどれほど傷を負っても、魂とその器たる星のたまごさえ無事ならば、何度でも蘇る事ができる。
そんな自分たちのありようと、あの時視たキリカのありようは、どこか似通ったものをティトォに感じさせる。

「どれほど身体が傷を負っても、魂だけは無事に保たれる。
 そして魔力さえあれば、いくらでも身体の傷を癒して再び戦う事ができる。
 ……確かにそれは、戦うための存在としては、この上ないほどに優秀だ」
だとしたら、尚も疑問は募る。
魔法少女の身体の核たるその魂は、果たしていかにして守られているのだろうか。
考える。魔法少女だけが持ちえている何か、それは何かと自ら問えば、自ずと答えは導かれてしまう。

「ソウルジェム……まさか、アレが」
導き出された一つの推論。魔法少女の身体の特性、それを僅かに垣間見ただけで
ティトォの頭脳はそれほどまでの推論を弾き出していた。
「だとすれば、彼女達が夢の樹に導かれたのも納得がいく。
 彼女達の魂は、既に肉体を離れてしまっている。だから呼び寄せやすくなってしまっていたんだろうな」




「やれやれ、また始まったね」
「ほんと、こうなるとティトォは長いからね」
と、そんな様子を苦笑交じりに眺める女性陣であった。

「とにかく一度、確かめてみる必要はありそうだ。
 マミや他の魔法少女に、そして魔法少女を生み出す、あのキュゥべえとか言う生き物にもね」
これ以上は考えたところで何もわかりはしない。
ティトォは思索を打ち切ると、これから為すべきことへと言葉を向けた。

「そして、魔女も倒さなきゃいけないし、まどかの様子もちゃんと見ておかないとね。
 あの子がそう簡単に諦めたとは思えないし、こっちのメッセージに答えてくれるかもわからないからね」
ティトォは魔法少女の真実へと注意を向ける。
プリセラは、魔法少女とそれに巻き込まれてしまった少女達の身を案じる。
そしてアクアは、そんな二人に小さく鼻を鳴らして。

「何か忘れてないかい。確かにここの世界で色々やるのも大事だろうけどさ
 あたしらがほんとにやらなきゃいけないことはなんだい?元の世界に帰ることだろ。
 その為の方法も、どうにか見つけてやらないとね」
それもまた道理。ティトォ達にも元の世界でやるべき事が沢山ある。

女神を倒す、星のたまごを守る。そんな大きな目標だけではない。
メモリア王国に眠る禁断魔法"命七乱月"を賭けた、魔法使い同士の戦いであるメモリア魔法陣。
それに出場し、命七乱月を手に入れる事。更に激化するであろう戦いに備え、新たなる力を磨く事。
いずれも急務であり、どれ一つとして諦めるわけにはいかないことだった。

「そうだね、何にせよそう長居はしていられない。……本当に、やることは山積みだね」
難題ばかりの課題の山に、途方に暮れたようにティトォが小さく嘆息する。
それでも、たとえどれほどの難題が待ち構えていようとも、一つ一つ片付けていくより他に術もない。
「とにかく、今はぼく達にできる事をやっていこう。
 あの子達のことも、こうやって関わってしまった以上は、どうにかしなくちゃいけないしね」
いずれ必ず別れの日はやってくる。そうでなければ困る。
その日までに、一体自分達は彼女達に何をして上げられるのだろう、何を残せるのだろう。

答えはまだ、無い。


「決まりだね。とりあえず当面は、私がまどかや他の子達の様子を見てるよ。
 ティトォが回復したら、またその時に換わるからね」
プリセラもまた内心の思いはさておき、今するべきことをその心に刻む。応じてティトォも頷いた

「当面の問題はあれだね、正体不明の敵って奴。あいつをどうにかしないと、おちおち外も出歩けりゃしないよ」
未だもってその正体も、姿すらも見えない謎の敵。
プリセラの追撃すらも振り切って見せた敵の存在を、アクアもまた大きな脅威として認識していた。

「そうだね、確かにそれも問題だ。今までの攻撃の仕方から見るに
 多分敵は女神の手の者じゃない。この世界の住人の可能性が高い」
「なんだってここの世界の奴が、あたしらの事を狙ってくるんだろうね。
 姿が見えない分、尚たちが悪いよ」
ティトォもアクアも、困惑の色は隠せない。
元の世界ですら、不老不死の力を持った彼らはいつも追われる身であった。
それは女神の手の者だけではなく、不老不死の力を求める人々が、常に彼らを追っていた。

メモリア王国にたどり着き、国王であるバレットと親交を持つまでは、彼らは常に逃亡と放浪を続けていたのだ。
この世界に来れば、誰も自分達のことを知らないこの世界に来れば
少なくともしばらくは追われる心配もなくなるだろうと、そう思っていた。
だというのに、敵の影はこの世界にまで迫っている。女神の手の者ではなく、この世界の敵が。
その事実が、どうしても腑に落ちない。

「……それに、あの敵はほとんど見境なしだ。街中だろうが平気で攻撃してくるし
 その結果誰を巻き込んだとしても、平気な顔をしてるんだ。許せない。許しちゃいけないよ、こればっかりは」
強張った表情に、色濃く怒りの感情を浮かべて、プリセラが言う。
「次は必ず、見つけだしてブッ倒してやんないとね。いつまでも嘗められたままじゃやってらんないしさ」
アクアもプリセラと共に、怒りをその目に燃やしていた。

けれどそんな二人から離れ、ティトォは一人考える。

(恐らく、佐倉杏子は敵と何らかの繋がりがある。魔法少女に接触できる相手なんて
 それこそ同じ魔法少女くらいのものだ。だとしたら、あの敵は……)
考えたくは無い。けれど敵が魔法少女と考えれば、納得できないこともない。

(ぼく達を危険視して排除しようとしているのか、それとも本当に
 星のたまごを奪おうとしているのか……でも、やっぱり引っかかるな)
だとすれば何故、あの敵は魔法に頼らず通常の火器による攻撃を仕掛けてきたのだろうか。
今までのマミの戦い方を見ていれば、魔法少女の扱う魔法は多岐に渡り、当然攻撃にも使えるものだということは分かる。
できないのだろうか、それともまだ魔法を使っていないだけなのか。
どうにも情報は不足していた、今のままでは、これ以上の推測はできそうもない。


それぞれが思いに耽る中、ゆっくりと夢の樹の輪郭がぼやけていく。目覚めの時が近づいているのだ。

「目が覚めたら、また忙しくなりそうだね」
アクアが。

「ほんと、こっちに来てからずっと忙しい日が続いてるもんね。そろそろ、ゆっくりできるといいんだけど」
プリセラが。

「そうだね、ぼくもまだ、この世界の事をいろいろと見てみたいし。少し落ち着いたら、そうしようか」
そしてティトォが、三人が一つ頷いて。

夢の樹は、消失した。

今回はここまで!

>>.453
そしてそんな魔法少女の秘密についても気付き始めているティトォです。
果たしてこの事実は、物語をどう転がしていくのでしょうか。

>>454
おっさん勢は……うん、確かにネタがないことはありませんな。
織莉子とブライクさんとか。

そして死亡フラグの塊にさらにフラグを盛るのはやめてくれませんかね。
おちおちアメ玉も舐められませんよ、ほんとに。

>>455
本当はね、あそこまで極端にマジべこみする予定はなかったんです。
つい本性が……ではなく興が乗ったということで。

ここからはようやく平常運行です。すこしずつほのぼのできればいいのdすが。

>>456
もしくは病ミさんで一つ。
かまどちゃんとかさかなちゃんとかあんこちゃんとか色々いけそうですな。
あの子は。

ちゃんと出番も用意してますよ、後で。

>>.457
あっさり復活のキリカです。ホワイトホワイトフレアが万能というよりは、単純に魔力さえあれば修復できる
魔法少女の身体との相性が良かっただけのことです。身体の相性がいいとかなんか卑猥です。

いい意味で王道全開まっすぐ少年のミカゼ君は、さやかにはいい影響を与えてくれそうです。
グリン王子はね、うん。はやく出したい。頑張って書いていこうと思います。

>>458
そして織莉子についても今回のでちゃんと説明が入りました。
要するに存在変換が起こるとTAPに関わる未来はまるで変わってしまうわけです。
そりゃあある瞬間急に当事者が別の人物になるわけですから、未来も変わろうってもんです。

乙!
やっぱ面白いわ、次回も期待してるよ!
さて、自分も寝かしてるプロット起こしてさっさと書き始めようかな……


なるほど、存在変換すると未来が書き換わるのか
納得は行くしいい発想だがおりこ涙目ww
そしてまどかを狙ってたのにキリカをリリースしたのかよ
どんなメッセージ握らせたのかまだわからんけど
無責任というかみくびってんのかな


俺の嫁が生きていて良かった……
てか、これからもっと増えるのかよ!てっきり、マテパはあの姉弟と主役3人だけ出ると思った……
これはあっちの世界にまどか達が行くフラグ?

乙!
キリカちゃんリリース!
キリカを助けたことでちょっとは敵意も和らいでくれるといいんだが。

おりキリとの協力は無理でも不干渉の意志が得られればかなり状況は楽になるんだけどな
杏子がほむらに言われたワルプル襲来予報も結構重要だから、
ちゃんとおりキリと杏子、ティトォそれぞれの情報を突き合せられれば…
マミさんが「みんな死ぬしか(ry」状態にさえならなければいける!
と思ったけどしかしほむらだけじゃなく月丸太陽丸の姉弟もいたか。太陽丸がとにかく厄介だな…

そしてグリンこっちに来るのかな?
時止め能力のせいで撤退が早く捉えにくいほむらをプリセラさん以外に捕まえられるとしたらグリンなのかも

まだ書き溜めブーストは生きてます。
では、投下です。

「ぁふ……ぅん」
眠りに沈んだ意識が、ゆっくりと浮かび上がってくる。
けれどまだ、全身を埋め尽くすまどろみの勢力は強く、その誘惑は抗いがたい。
寝ぼけたような声を上げて、杏子は軽く寝返りを打った。

ここはとても暖かい。ここはとても柔らかい。瞳を開かずとも分かるほどに、ここは安らぎに満ちている。
ここは天国なのだろうか。そう思わせるほどに、ここは優しく穏やかだった。
もっとまどろんでいたい。このままずっと、この安らぎに浸っていたい。
けれど、いつまでもこうしてはいられない。

杏子は思い出していた。意識が途切れるその寸前、自分が何をしていたのかを。
そしてまどろみの向こう、あの不可思議な夢の中で一体何を見ていたのか、話をしていたのかを思い出していた。

「…………ぁ」
ゆっくりと瞼を開く。まず目に入ってきたのは、白。シーツと布団の色の白。そして、次に杏子が目にしたものは。
「マミ………さん」
「おはよう、佐倉さん」
同じ布団に包まって、添い寝をしているマミの姿だった。
解かれた金糸が、窓から差し込む朝の日差しに照らされて、きらきらと輝いていた。

まるでマミ自身が光を放っているのではないかと思うほどに、その姿は美しく見えて。
未だ定かにはならず、霞んでぼやける視界の向こうで、マミの表情が確かに綻ぶのが見えた。
どちらも二の句は告げずに押し黙る。静かで、優しい沈黙が流れて、やがてどちらともなく、互いの顔が近づいて。

こつん、と。軽く額が触れ合った。





――おかえり、佐倉さん。



――ただいま、マミさん。




言葉ならぬ声が、確かに二人の心を揺らした。

「ここ、そっか。……懐かしいな」
暖かい布団と、マミと寄り添って眠ることの誘惑はたまらなく強かったけれど
このままでは気恥ずかしさで顔から火が出かねない。杏子はそっと身を起こすと、部屋の中を見渡しそう言った。
そこは杏子にとっても馴染み深い場所。
少なからぬ昔、幾度となく通っては、マミと言葉と時間を交わした場所。マミの部屋だった。

「って、あれ……怪我が、治ってる?」
失ったはずの右足はそこにあり、動かした身体は多少のぎこちなさはあるものの、一切の痛みを伝えることはなかった。
あれほどの傷を負ったのだ、そう易々と治るはずはない。
もし仮にマミが治療をしたのだとしても、回復魔法に特化していないマミでは、完全な回復など望むべくもない。
だというのに、何故。

「ティトォが、貴女を治してくれたのよ。あんなにボロボロになっていたのに、それでも」
その疑問に答えたのは、同じ様に身を起こしたマミの声で。
「そのティトォってのが、あんたの新しい仲間って奴かい?」
ティトォなる男の存在を、杏子は遠目にしか見ていない。
果たしてどんな人物なのかもわからず、マミとよろしくやっていることには
少なからずの嫉妬のようなものも抱えていたりして。知れずその声には、小さな棘が混じっていた。

「ええ、でも。今はもういないわ。……貴女を治した後、力を使い果たして」
「まさか……死んじまったのか?」
弾かれたように振り向いて、問いかけた杏子に静かにマミは首を振った。

「色々と話さなくちゃいけないことがあるわ。ティトォ達の事も、今の私達のことも。
 そして聞きたい事も沢山ある。貴女の事、貴女が一体今までどうしていたのかも」
「そうだな、確かにあたしも、話したいことが沢山ある。聞きたい事も沢山ある。
 ……本当はここに戻ってきたのだって、こうやってもう一度話をしたかったからなんだ」
そう言うと杏子は立ち上がり、改めて自らの身体を見つめる。
確かに失ったはずの足は取り戻されていた。けれど、それよりなにより気になることがあった。

「……なあ、マミ」
「何かしら?」
再び杏子は振り返り、軽く両手を広げて見せると。
「これ、あんたがやったのか?」
その姿は、魔法少女姿でもいつもの杏子の服装でもなかった。
杏子が纏っていたのは、その身の丈よりは一回りも大きな服で。
余った袖から指先が覗き、特にその胸元はスカスカで、それがマミのものであることを雄弁に杏子に知らしめていた。

「ええ、服も血や泥ですっかり汚れていたから、勝手に着替えさせてもらったわ」
「……マジ、かよ」
かぁ、と杏子の頬が赤くなる。身体が汚れていないということは
恐らく身体まで綺麗にされてしまったのだろう。要するにどういうことかといえば。
(全部……見られたってこと、かよ。うあぁ……)
込み上げてきた羞恥が、更に杏子の頬に朱を入れる。
いっそ髪の色にも近しくなりそうな顔色で、俯き震える杏子の姿。そんな杏子に、マミは小さく笑って声をかけた。

「大丈夫よ、全部魔法で済ませておいたから。……でも久しぶりね。佐倉さんのそんな可愛いところを見たのは」
「そ、そうかっ!……いや、なら…いいんだけど、さ」
ほっとしたように、小さく安堵の吐息を漏らした杏子。マミも同じく立ち上がり、そんな杏子の側に寄り。

「まずは朝ごはんにしましょう。積もる話はその時に、ね」
優しく微笑み、そう言うのだった。その姿はあまりにも、杏子の知るかつてのマミの姿によく似ていた。
とてもよく似た、優しい姿だった。

(……あたしの知ってるマミだ。じゃあ、昨日のアレは何だったんだろうな)
思い出すだけで杏子の背筋に寒気が走った。絶対的な敵意と殺意、完全なる拒絶。
あの戦いの最中、マミが見せたあまりにも冷徹な一面。
今こうして優しく微笑んでいるマミと、ああして冷徹な殺意を向けてくるマミが
本当に同じ人間なのだろうかと、杏子には疑問でならなかった。

「……佐倉さん?」
真っ赤な表情を一変させ、ふいに押し黙ってしまった杏子に、マミは不思議そうに尋ねた。
「あ……ああ、じゃああたしも何か手伝うよ、マミ」
その声に弾かれるように顔を上げ、杏子はマミの後を追うのだった。

「……はぁ」
早朝。まどかはベッドの中で小さく嘆息した。今日は休日である。
本来ならば、少し遅い時間までゆっくりと睡眠をとり、それから楽しい一日が始まるはずだった。
けれどまどかの一日は、どうしようもなく憂鬱な幕開けとなっていた。

その原因は当然、昨日の出来事に起因する。
まどかの命を狙って現れた、キリカという謎の魔法少女。
一度は退けたとは言え、その事実は重くまどかの心に圧し掛かっていた。
果たして彼女は何故自分を狙ってくるのだろうか。考えたところで答えは出ずに
また別の魔法少女が自分を狙ってくるのではないかと、そんな危惧すらも抱えてしまっていた。

当然、家族にもそれを話せるはずもなく。
話せる相手であろうマミやティトォ、プリセラは杏子の世話に追われていた。
故にまどかはそれを誰にも打ち明けられず、眠れぬ夜を過ごしてしまった。
今にもこの窓を突き破って、誰かが襲ってくるのではないか。
そう考えると、どうしようもなく恐ろしくて、布団を被ってベッドの中で、まどかはずっと震えていた。

夜が深まってようやく、疲労がまどかの意識をまどろみへと突き落とした。
けれど張り詰めたその精神は、睡眠という休息すらも満足に受け付けることはできなかったようで。
夜が明け、空が白み始めればすぐに、まどかの意識はまどろみから引き上げられてしまった。
「……やっぱり、マミさんやティトォさん、プリセラさんに相談したほうがいいよね」
そうするしかない。そうでなければ、きっと耐え切れずに壊れてしまう。
既に恐怖はまどかの心を壊し始めている。そんな心を自覚して、まどかは助けを求めていた。
そんな時、小さな音がまどかの鼓膜を振るわせた。その音の主は、部屋の窓から聞こえているようで。

「っ!……だ、誰なの?」
窓にかかったカーテンの向こうには、確かに誰かの人影が見えた。
まさか、本当に誰かが襲いに来てしまったのだろうか。まどかの表情が恐怖に強張る。
コンコン、と。誰かが窓を叩いている。それを聞いて、恐怖に埋め尽くされたまどかにまともな思考が戻ってくる。
もし誰かが自分を殺そうとしているのなら、わざわざこんな悠長なことはしないはずだ。
だから、もしかしたらそれは。

まどかはよろよろとベッドから起き上がると、ライトスタンドを片手に握った。
魔法少女を相手にするには、あまりにささやかな武器ではあるが
それでもまどかは意を決して、カーテンを引いた。

「や、おはよう。まどか」
そこに立っていたのは、すっと軽く手を上げて、気さくな笑みを浮かべたプリセラの姿だった。。
「プリセラ……さん」
その姿を見た途端、まどかの心に張り詰めていた恐怖が瞬く間に氷解する。
張り詰めていた身体から力が抜け、すとんとその場にへたり込んでしまうのだった。

「ちょ、ちょっとまどか、大丈夫!?」
「あ……はい、大丈夫です。安心したら、気が抜けちゃって」
それでもどうにか立ち上がり、まどかは窓の鍵を外す。
早朝の冷たい風を纏って、ピンクブロンドの髪を揺らして、プリセラは静かにまどかの部屋に降り立った。

「可愛い部屋だね、まどかに良く似合ってる」
「あはは……ありがとうございます。プリセラさん」
部屋を見回し、プリセラは一つ頷いて。まどかが壁に手をつき、どうにか立っているのに気づいて。
「……あんまり眠れてないんでしょ。私の事はいいから、無理せず横になってていいよ。
 本当は、昨日の夜からでも一緒にいられたら良かったんだけどね。ごめんね、まどか。怖かったよね」
優しく、けれどどこか悔いるようなプリセラの言葉は、強くまどかの心を揺さぶった。
実際辛かったのも本当なので、言葉に甘えてまどかはベッドに腰を下ろした。
プリセラも、その隣に腰を下ろした。ふかふかの布団が、ふわりと二人の身体を受け止めた。

「そういえば、またプリセラさんに戻ってるんですね」
プリセラの存在が、まどかの緊張をいくらか和らげたのだろうか。
少しだけ眠たそうにしながら、まどかはプリセラに尋ねた。
昨夜、深く傷ついたキリカと杏子を救うため、プリセラは再びティトォに存在変換を行っていた。
けれど二人を治した時点で、ティトォの魔力は完全に底を尽き、再びプリセラへと戻ってしまっていたのだった。
「ああ……うん。みんなを治療した後さ、ティトォも力尽きて、ぽっくり死んじゃってさ……ぁ」
思わずそんな言葉が口をついて出て、プリセラは咄嗟に口を噤んだ。
けれど、飛び出してしまった言葉は元には戻せないのが世の常で。

「死んだ……って、どういうことなんですか、プリセラさん?」
驚愕に目を見開き、信じられないものを見るような目でプリセラを見つめるまどかに
プリセラはすっかりと困りきった表情を浮かべた。
まどかは、否、マミ以外の何者も、彼らの身体の本当の秘密を知らずにいた。
死ぬたびに入れ替わり、終わることなき命を生きるという、呪いにも似たその秘密を。
それをうっかりと口にしてしまって、それはまどかにとっては間違いなく衝撃的な事実であったようだった。

「やっちゃったな。できれば、話すつもりはなかったんだけど」
とは言え、今更隠すことはできないだろう。
できれば聞かせたくはないが、知ってもらう事自体はきっと悪い事ではない。
そう自分に言い聞かせて、プリセラは静かに話し始めた。

「……とまあ、そんな具合でさ。私達はそうやって死にながら生き続けてる。
 だから、別にどうしたってわけでもないんだ。こういうことは、私達には良くあることだからさ」
気負わせるようなことはしたくなくて、プリセラはできるだけ軽い調子で言葉を終えた。
けれどやはり、話を聞き終えてプリセラを見上げるまどかの瞳は、確かに潤んで揺れていた。
「じゃああの時、ティトォさんは……私を助けるために」
声が震えた。その事実がまどかの心の内に、大きな衝撃と共に染み込んでしまうよりも早く。

「はい、そこまで」
「ふぇっ!?」
ふわりと、プリセラの両手がまどかの頬を包んでその言葉を遮ってしまった。
「私達にとっては、死ぬ事の意味も、命の意味も、普通のそれとは違うんだ。
 だからね、心配する必要はないんだよ」
それから、困ったような笑みを唇の端に浮かべて。
「って言っても、きっと心配しちゃうよね。……ごめんね、本当はこんな事、知らせるつもりはなかったんだ。
 戦いにだって巻き込むつもりなんてなかった」
ぐ、と拳を硬く握って、憂いを声に表情に滲ませながら、プリセラはそう言った。

そうまでして自分のことを気にかけてくれる、そんなプリセラの姿に
まどかの心に宿った不安や恐怖は静かにその身を潜めていった。
そして代わりに、なにやら暖かな感情が胸に満ちてくる。
まどかは思う。プリセラもまた、ティトォと同じく優しい人なのだと。
強く優しく、そしてどことなく、自分の悩みや迷いも全て受け止めて、受け入れてくれるような懐の大きさを感じて。

(……本当に、お母さんみたいだな)
まどかはそんな風に思いながら、プリセラとはまた違ったタイプの強い女性である
母の事を思い浮かべていた。知れずその口元には、小さな笑みが浮かんでいて。

「大丈夫です。プリセラさんとティトォさんのお陰で、みんな助かったんですから。
 逆に私がお礼を言わなきゃいけないくらいで……あふ」
心の緊張がほぐれると、どうにもその隙間に眠気が滑り込んできて、言葉の途中で小さな欠伸が飛び出した。
まどかは慌てて口元を押さえて、それでもどうにか言葉を続ける。
「……プリセラさん。昨日の続き、聞かせてくれませんか?」
心の奥に引っかかっていた気がかりを、それを取り除くための言葉を。

「昨日の……って、ああ。そっか、そういえばあの時は、途中でマミを見つけてそれっきりだったもんね」
すぐにプリセラもそれに思い至り、小さく頷いた。
「そんなに気になるんだね、私の事。うん、それじゃあ続きの話をしようか」
どこか遠くを見つめて、懐かしむようにその口が、静かに言葉を紡ぎだす。
それは穏やかで優しく、どこか謳うような響きすらもあって。その声は、まどかの鼓膜を優しく振るわせた。

聞こえる声は優しくて、まるで子守唄か何かのようで。
そもそもにして、恐怖と不眠に苛まれていたまどかの精神自体が、既に限界を迎えていたようで。
プリセラが話を始めると、まどかの意識はするすると夢の中へと滑り落ちていった。

「だからさ、私はずっと身体を……って、あら?」
不意に、まどかはプリセラに寄りかかるようにして身を預けてきた。
不思議に思ってプリセラがまどかの様を向くと、そこには。

「すぅ……くぅ……」
とても安らいだ表情で、静かに眠るまどかの姿があった。
安心しきっているのだろう、きっといい夢でも見ているのだろう、その口元には、幸せそうな笑みが湛えられていた。

「……やれやれ、人に話をさせておいて、いきなり寝ちゃう子がありますか」
困ったように、けれどどこか嬉しそうに、笑み交じりにそんな言葉を囁いて。
プリセラは、寝息を立てるまどかの身体を優しく抱え上げた。
そのまままどかをベッドに寝かせて、しっかりと布団もかけてあげてから。満足げな笑みを浮かべて頷いて。

「続きは、また今度だね。……お休み、まどか」
そっと手を伸ばし、まどかの顔にかかった髪を払って。再びプリセラは部屋の窓を開いた。
既に外に流れる空気は朝のそれで、プリセラは注意深く周囲を見渡し
衆目を避けるようにしてその窓から飛び出した。文字通り、一気にその身体が空へと打ち上げられていく。

後には再び閉ざされた部屋と、幸せそうな笑みを浮かべて眠る、まどかだけが残されていた。

幾許かの後。

「まどかー、起きてるかい?」
部屋の扉が開くと同時に、控えめな声量で女性の声が部屋の中に飛び込んだ。
声の主はまどかの母、バリバリのキャリアウーマンにして鹿目家の大黒柱でもある、鹿目詢子その人だった。

彼女もまた、昨夜のまどかの不調にすでに気付いていた。
そしてまどかが眠れぬ夜を過ごし、夜更け過ぎに喉を潤すために、こっそりキッチンに来ていたことを今朝知った。
原因までは分からないが、いつまでも娘の不調を放っておける彼女ではない。
声をかけ、そっと扉を開いて部屋の中へと潜りこんだ彼女が見たものは
幸せそうな笑みを湛えて、安らかに眠るまどかの姿だった。
その寝顔には、やはり眠れぬ夜を過ごしたことによる疲労の色は見えていた。
けれど、今はこうして安らかに眠れている。

「……どうやら、私の杞憂だったかな」
ならばまだ、親のお節介の出る幕ではないようだ。
「今日はゆっくり寝てな。パパにもそう言っとくからさ」
にこりと笑って、詢子はそっとまどかの髪を撫で。そして部屋を出て行った。



まどかの新たな一日の幕開けは、もう少し先の事になるようだ。

怒涛のフォロー展開。これでひとまずまどかも大丈夫でしょう。

>>472
ようやく本格的にプリセラが話に絡み始めます。
いろんな意味でお騒がせなこの人ですが、果たしてどうなりますやら。
そして応援感謝です。そちらも是非とも頑張ってくださいな。

書けたら宣伝してもいいんじゃよ(チラッ

>>473
未来が変わることへの伏線自体は最初の存在変換の時に打ってあったりします。
あの時の織莉子の台詞にご注目です。
実際余裕がなかったというのもあるんですよね、あの時は。
うっかり目覚めるまで治療しちゃったらそのまま返り討ちですし。
かといって織莉子が来たら来たでまた面倒なことになるのは確実です。

果たしてこの行動がどんな展開に転がるかは、また次のお話です。

>>474
奇跡的に誰も死ぬことはなかったようです。
次の話くらいからぽつぽつ登場人物が増えていくのではないかと思います。
未だにメモリア勢の描写0ですしね。今頃大騒ぎでしょう、彼らも。

>>475
なんだかんだでまだ人間関係がそれなりに修復できたというだけで
魔法少女のこともワルプルのことも元の世界に戻る手立てもなにも解決していません。
多分展開的にはここいらあたりで第一章前半が終了するような感じだとは思いますが
果たして次はどうなることやら、です。

グリン王子はどうかな、流石に一国の王子がそうそう国を空けられますまい。
まああの子国務とかとはまったく無縁に育ってそうですが。
バレット王が奥さん一筋だからよかったものの、妾の子とかが生まれてたら大波乱ですよね。


織莉子とほむほむはいったん仕切り直しとなると
そろそろマテパ側の動きもあるかな?

やばいもう書き溜めなくなった。

というわけで次回からは低速更新で行く事になるかと思います。
何はさておき、さあ、行こうか。

ハムエッグにポテトサラダ、お皿には綺麗に切られたりんごを盛って。
どちらかといえばチャイにも近い、甘めに仕立てたセイロンティーを沿えて。
マミはさっくりと焼き上げたトーストを齧り、杏子はお茶碗に盛られたご飯を頬張った。

「……久しぶりね、こうやって、一緒にご飯を食べるのも」
「そう……だね、いつぶりだろう、こんなの」
離れ離れの時間は決して短くは無い。けれど、長すぎるというほどでもなかったはずなのに。
どうしようもない懐かしさが、杏子の胸に込み上げていた。

何から話せばいいのだろう。
話してしまえば、この穏やかな朝食の空気が霧散してしまうのではないかと
そんな予感を感じてしまって、どちらともなく押し黙ってしまう。
それでも今話さなければ、もうきっとこうして話ができる機会はやってこないだろう。
そもそもにして、あれだけ激しく戦った相手と、今こうして穏やかに食事をともにできている。
この事自体が、最早奇跡のようなものなのだから。

だから杏子は、意を決してマミに話しかけた。

「なあ、マミ」
「何かしら、佐倉さん?」
まずは紅茶で喉を潤して、少し過ぎるくらいの甘さが、今はどこか心地よくて。
杏子はマミを真っ直ぐに見据えて、少しだけ険しい表情で言葉を告げる。

「……あたしは、あんたが分からないんだ。昨日戦ったときのマミと、今ここにいるマミ。
 あたしには、それが同じ人間だとは思えない。……もちろん、あたしにだって原因はあったのわかってるんだけどさ」
マミの表情に、微かに陰りが見えた。
「そりゃあさ、あたしが悪かったってのはわかるよ。
 あんな風にいきなり仕掛けたり、魔法少女でもない奴を脅すような真似をしたりしてさ。
 ……でも、それでもやっぱりあたしには信じられなかった。あたしの知ってるマミは、ああまで冷徹じゃなかったはずだ」
一度口にしてしまえば、その言葉は止まらない。止められない。
杏子は自らの胸中に秘した、ひどく残酷な考えを打ち明けるしかなかった。

「……あたしのせい、なのかな。あたしがあんたを裏切っちまったから。あんたを傷つけちまったから。だから……なのかな」
口にすればそれだけ、やりきれない思いが杏子の胸に込み上げてくる。
杏子は裏切ってしまったのだ、ずっと一緒に戦っていられるはずだった、大切な仲間を。
正義のために、みんなのために戦おうとしていた、強くあろうとしていたマミを、身勝手な都合で裏切ってしまったのだ。

きっと、ひどく怨んだ事だろう。
離別の苦痛が杏子を苛んだのと同じように、否、それ以上にそれはマミを苛んだ事だろう。
それがマミを変えてしまったのではないだろうか。守るためにかざしていたはずの手を、敵を倒すためのそれに
胸に宿したひたむきな正義を、頑なに敵を倒そうとする覚悟へと変えてしまったのではないだろうか。
考えれば考えるほど、杏子の顔は苦痛に歪んだ。

「それは、違うわ」
沈んだ声が、同じく沈みきった杏子の心に染み入るように響いた。
「違う……違うの」
それは杏子に、そして自分自身に言い聞かせるような言葉で。
マミは首を横に振りながら、何度も違うという言葉を繰り返した。
「……マミ?」
ただならぬマミの様子に、心配そうにマミを見つめて杏子が問いかけた。

「確かに貴女がいなくなってしまった時、とても辛かったわ。悲しかったわ。
 どうしてあの時もっと引き止められなかったんだろうって、今でも悔やんでいるくらいだもの」
「それは……ごめん、マミさん。……ぁ」
思わず口調が昔に戻ってしまった。気を抜くと、本当にあの頃に戻ってしまいそうで。
それだけはしたくない、今の自分は、あの時とはもう違うのだと、杏子は自分に言い聞かせた。

「でも、だからって貴女を殺すほど怨んだつもりはないわ」
「じゃあなんだって、あそこまで容赦なく殺しに来たんだよ。正直背筋が凍りそうなくらい、怖かったんだぜ」
それが本心かどうかは分からないが、だとすれば尚の事納得がいかない。
唇を尖らせながら、不服そうに杏子が返す。

「私はね、もっと大きな、大切な正義を見つけたの」
「は?」
思いがけない言葉が飛び出して、杏子は口をあんぐりとさせた。
そんな杏子の様子に構わず、マミはどこか熱の篭った口調で言葉を続ける。

「彼らはね、私なんかよりもずっと、もっと大きなもののために、それを守るために戦っているの。
 彼らが負けてしまえば、彼らの世界そのものが大変な事になってしまう」
「え、え?いや、何の話だよ、マミ?」
当然、事情の一つも知らない杏子である。わけも分からず呆然とするばかり。

「私は、そんな彼らに憧れているの。だから彼らと一緒に戦いたい。
 そのためには、私は絶対に負けるわけにはいかなかったの。だから、許せなかったのよ」
杏子は気づく。マミが帯びた雰囲気が、言葉と共に凍て付いていくのを。
マミは再びその表情を凍て付かせ、杏子をじっと睨みつけていた。

「そういえば、この事を聞くのを忘れていたわね。杏子、貴女は知っているのよね
 ティトォ達を殺そうとした敵の事を。……そして貴女は、その敵に加担している。
 私は何より、それが許せなかったのよ」
ようやく杏子も合点が行った。一体何がマミをそこまで冷徹にさせていたのか。
それはほむらがティトォを殺そうとしていたから、そして杏子がそれに加担していたからなのだと。

(……なんだよそりゃ、結局全部あたしの勘違いかい)
そう思うと、人事ではないはずなのだが、どうにも杏子は脱力してしまうのだった。

「教えて……くれるわよね、杏子?一体誰なの?誰がティトォ達を殺そうとしていたの?知っているのでしょう、貴女は」
当然、杏子はそれを知っている。だが。

(悪いけど、そいつはまだ話せないよ。あいつは、ほむらはあたしを随分とコケにしてくれやがった。
 あいつには、あたしがこの手で落とし前を付けさせるんだ)
今なおほむらの能力は未知数。勝てる確証などはない。
けれど、やられっぱなしで黙っていられるほど、彼女はおとなしくはなかった。

そしてその心の奥には、それを話してしまえばまた、マミが自分の敵になってしまうという嫌な予感があった。
故に杏子は、偽りを一つ抱え込む。
「……く、くくッ」
だから杏子は、肩を揺らしてさもおかしいといった様子で笑うのだった。

「何がおかしいのかしら?」
当然マミはさらに気色ばみ、テーブルに身を乗り出して杏子に詰め寄った。
杏子は極力いつもの自分を装って、切り分けられたリンゴをしゃくりと一口齧り。
「ああやってけしかけてやればさ、あんたも本気でかかってきてくれるかなって、そう思ったんだよ。
 でも、まさかあんたがここまで本気で怒るだなんてね。あの時の言葉、本当だったんだな」
「……ブラフだったの?」
「そう言うこと、まあ誰かが襲われてるってのは分かってたし、あんたの様子から見れば
 当たらずとも遠からずかな、とも思ってね。まあ、こんなことになっちまうだなんて……流石に思いもしなかったけど」
吹き上げる怒りを煙に撒かれてしまって、拍子抜けしたかのようにマミは乗り出していた身を下ろした。

「……そう、貴女も知らなかったのね。残念なような、ほっとしたような、不思議な気分だわ。
 正直肝も冷えたし。そういうのはもう、二度とやめて頂戴ね」
「わかってるよ。こんな勘違いのすれ違いで殺し合いをやるだなんて、あたしだって二度とゴメンだ。悪かったよ、マミ」
こう殊勝に謝られると、マミも少なからぬ負い目を感じてしまう。
完全な勘違いにすれ違いで、マミは杏子を本当に殺そうとしてしまったのだから。

「私の方こそごめんなさい。生きていてくれたからいいものの、私はあの時
 本当に貴女を殺してしまうところだった。こんな事、私が言うのはおこがましいってわかっているんだけどね」
俯いて、まるで泣き出してしまいそうな声で。
「貴女が生きていてくれてよかった。貴女を殺してしまわなくて、よかった……っ。本当に、そう思うわ」
純粋に生きていてくれたことが、長らくの誤解がようやく解けたことが嬉しくて。
そしてもう一つ、自分の過ちが彼女の命を奪ってしまわなかったことに、マミはひどく安堵した。

そんな身勝手な心を自覚して、ちくりと自己嫌悪が胸をついた。


「……まあ、大体事情はわかったし、殺されかけた事だってお互い様だ。
 これ以上、あたしがグチグチ言うつもりはねぇよ」
杏子もまた、この関係が一つの偽りによって成り立っていることに罪悪感を
薄氷を踏むような、危うさを秘めている事に危機感を感じながらも、それを胸の奥に押し込めて。

「じゃあ……色々あったけれど、ここまでにしましょうが。
 いがみ合ったり怨みあったり、ましてや殺しあったりするのなんて、これで終わりにしましょう」
「ああ、そうだな。これで手打ちって事にしとこう。……じゃあ、まあ。改めて」
互いに後ろ暗い感情を秘しながらも、それでも今は、共にいられる時間を選んだ。争うことなく、共にいられる道を選んだ。

杏子は照れくさそうに髪を掻き毟りながら。
「ただいま、マミ」
マミもまた、どこか恥ずかしそうに笑いながら。
「おかえりなさい、佐倉さん」
かつて分たれた二つの道は、今、一つに重なった。











「ところで、そのティトォって奴は何者なのさ?魔法少女でもないのに魔法を使いやがるし
 おまけにあんたも随分と入れ込んでるようだしね。もしかして、惚れたのか?」
「ぶっ……ば、バカな事言わないで頂戴。もう……貴女まで美樹さんと同じ事を言うのだから」
思わず紅茶を噴き出しかけて、慌てて口元を拭ってから、マミは。

「貴女にも、ちゃんと話しておかなくちゃね。彼らは――」
言葉と共に、穏やかな午前の時間は流れていくのだった。

魔法少女マテリアル☆まどか 第7話

                『夢の樹と仲直り』
                   ―終―

【次回予告】

魔法少女達の諍いは、ひとまずの終着を迎えた。
無論、それで全てが終わったわけではない。むしろそう、まだ始まってすらもいないものがある。
今日この日、もう一つの物語が動き出す。それがもたらすものは新たな戦いか、それとも、更なる混沌か。

「……どうやら、このままでは目立ちすぎるようだな」
「面白いな、この世界は」

「よくお似合いですよ。彼女さんも、ほら」
「ば、ばばっ、馬鹿を抜かすな!彼女などとっ!」

異世界の姉弟が織り成す、異界情緒溢れる新感覚浪漫活劇、堂々開幕!
読者諸君!剋目してこれを見よ!

「百円玉でだッ!!!」
「はッ、相手見てから喧嘩売りなよ」
「うまっ!!!」
「姉様ーッ!!」




まあウソなんすけどね。

「丁度いい……こいつにコンティニューだ!」

次回、魔法少女マテリアル☆まどか 第8話
            『月丸さんと太陽丸くんと』

というわけでようやく次回からはあの姉弟が動き出す……はずです。
長らくお待たせいたしました。本当に。

>>490
というわけでいよいよマテパ編の開幕です。
どうぞお楽しみに。


マミさんが病んでる…
後で落とすための仕込みに見えるのは心が汚れているせいということにしようそうしよう


そういえば土塚先生がまた新しい連載始めるよー
なお神無ではない模様


土塚先生の新作はラブコメだっけ?ホントなんでもやる人だな

そしてようやく姉弟登場か。楽しみだ
次回予告のノリが良いなwww

では、8話行きましょう。

第8話 『月丸さんと太陽丸くんと』











――が始まると思った?残念、魔法少女の出番はもう少し続くんじゃ。


という訳で、二人の活躍が気になる方はもうしばらくお待ちいただきたい。

「……なん、っか。今変な言葉が聞こえたような気がするんだけど」
首を傾げて、訝しげに杏子が言った。
「気のせいじゃないかしら、私は何も聞こえなかったわよ?」
その隣でマミが、僅かに緊張した面持ちで目の前の空間を見つめて答える。
眼前には、大きな塀で囲まれた屋敷がある。その塀の一角には、まるで大きな口のような紋様が描かれている。
言うまでもなく、魔女の結界である。

「ここに……魔女の結界があるんだ。そしてこの中に魔女がいる。そういうことだね」
そこにいたのは二人だけではなかった。
怪訝そうな表情で壁を見つめながら、確認するように言葉を口にするプリセラの姿がそこにあった。
「……頑張ってね、みんな」
プリセラの隣には、まどかの姿もある。
都合四人の人間が、その実二人の魔法少女と、一人の魔法使いと、一人の少女が立っていた。

時刻は既に夕刻、目を指す夕日も届かぬような暗がりに、魔女の結界は広がっていた。

朝食の後、マミと杏子は今後の事について話し合っていた。
その中で杏子の口から飛び出した、伝説級の強大な魔女"ワルプルギスの夜"
その存在と接近は、マミにとっては相当衝撃的なことだったようで。

杏子との戦いで消耗した今の状態では、到底勝てる相手ではない。
恐らく万全の状態であったとしても、一人で立ち向かえる相手ではないだろう。
そしてそれは、杏子にも同じことが言えた。むしろ杏子の方が状況は悪いと言ってもいい。
魔力はほとんど使い果たしており、このままでは戦うことすらままならない。
普通の魔女と戦うことすらできないだろうと、マミは推測していた。

だからこそ、マミは杏子に共同戦線を持ちかける。
未だ互いの胸の奥には、消す事のできないわだかまりがある。
絶縁状態からは回復できたにせよ、この先もずっと一緒に戦って行けるかと言えば、やはり難しい。
だからこその共同戦線。ワルプルギスの夜を撃破するその日までの間だけ、力を合わせて戦おうと
その日に備えて準備を進めよう、と。マミはそう杏子に提案したのだった。
杏子にしてみれば願っても無いことではある。けれど、その胸中にはやはり暗い影が宿る。
ほむらの裏切りは、どうしても拭い去る事のできない不信を、杏子の心に植え付けていた。

マミはほむらとは違う。
それは分かっていても、それでもマミとて杏子に銃を、殺意を向けていたのは事実である。
何の拍子にそれが再来するかなど、分かったものではない。
だとしても、今の杏子には他に頼れる相手がいないというのも事実であった。
だからこそ杏子は、マミの提案を受けたのだった。

(でも、今度は油断はしねぇ。あたしらは仲間じゃない。ただ、目的が一緒だからつるんでるってだけなんだ。
 ……信じられるのは、自分だけだ)
信じたい。信じあってまた共に戦いたい。
そんな思いは確かにあるのだが、あまりにも痛い教訓が、杏子の心の奥底に焼きついていて。
それが杏子の思考を追い詰めてしまうのだった。

それでも、二人の共同戦線は無事締結されることとなる。
グリーフシードは平等に分けるという事と、それぞれに区域を決めて街の見回りを行う事
魔女には極力二人で立ち向かう事、その三つが取り決められた。
敢えて使い魔の処遇を明言しなかったのは、それを言ってしまえば確実に二人の間に再び亀裂が生じてしまう。
その事を、どちらもが良く知っていたからで。

結局それは問題の先送りに他ならないけれど、それでもワルプルギスの夜が来るその時まで
この関係を維持できればいい。その後の事は、その時に改めて考えればいい。
どうしようもなく後ろ向きではあるが、それでもそれが、二人の可能な限りの妥協点だった。

午前の時は速やかに流れ、午後から二人は魔女探しへと乗り出した。
途中でプリセラとまどかが合流し、そして時は現在に至るのである。

魔女の結界を前に、いよいよ持って空気が張り詰めていく。
マミと杏子の二人にとっては、久方ぶりの共同戦線。
さらにはグリーフシードを手に入れられるかどうかの大事な一戦である。
兎にも角にもグリーフシードがなければ、魔力を回復させることができないのである。
否応なく、二人の緊張は高まっていた。
そんな空気を知らず知らずの内に感じ取って、まどかもまた緊張した面持ちで佇んでいた。

「ってゆーかさ。あんたらも着いてくるのな」
今更ながらに、まどかとプリセラを見つめて杏子は言う。その口調には、隠し切れない不信と不安の色が滲んでいて。

「着いて行かせて貰うよ。今の二人だけじゃあ、危なっかしくて見てられないからね。
 それに、まどかを一人にしておくわけにはいかないからね」
小さく一つ頷いて、プリセラは一歩杏子に向けて踏み込んだ。
実力を疑われているのだろうと、プリセラは思う。
それも当然、未だプリセラはその力をほとんど見せてはいない。ほんの僅かな片鱗を、まどかに垣間見せただけなのだから。

「悪いけど、あたしらにもお守りをしてやれる余裕はないんだ。
 もしあんたやまどかに何かがあったとしても、助けられる保障はない。っていうか、多分助けられない。
 ……それでも来るってのか?」
その言葉には、プリセラも僅かに目を丸くした。
プリセラの見立ては間違っていた。プリセラの力が信用できないという理由も、もちろん少なからずはあったことだろう。
それでもその言葉を放った杏子の心を占めていたのは、二人の身を案じる気持ちも確かにあったのだから。
そしてそれを守ることができない自分の不甲斐なさに、どこか苛立っているようにも見えたのだから。

「……行くよ。まどかも、あんた達も絶対私が守ってみせる。だから、大丈夫だよ」
(きっとこの子はいい子だ。……死なせたくない。死なせない)
拳を握り、夢の中で誓った決意を思い出しながら、プリセラは真っ直ぐ杏子を見つめて言葉を放つ。

「言ってくれるね。別にあたしまで守れとは言わないけどさ、そいつを連れてくなら、そいつだけはしっかり守りなよ」
ひとまずは納得したようで、杏子は軽く鼻を鳴らして再び結界に向き直るのだった。

「さあ、それじゃあそろそろ行きましょう。鹿目さんは、プリセラさんの側を離れないようにね」
ひとしきり話がついたところで、マミがそう切り出した。
「は、はいっ」
まどかもそれに答え、壁に刻まれた顎門の紋様へと向き直る。

「じゃあ……行くか」
誰に言う風でもなく杏子は言い、その掌にソウルジェムをかざした。
赤黒く、鈍い輝きがソウルジェムから漏れ出して、魔女の結界の扉が開かれる。
口のような紋様はそのまま口のように開かれて、中に広がるのは毒々しい赤。

その中へと、杏子は先陣を切って乗り込んでいく。
杏子の姿が結界の中に消え、続いてマミが、そして僅かに躊躇った後、まどかも結界の中に身を躍らせた。

三人の姿が消えたのを見届けて、プリセラは僅かに顔を歪めると。
「……本当に、この中に?」
その表情は、まるで信じられない何かを見るようで。それでもやがて、恐る恐る手を差し伸べる。
その手は当然のように、開いた口に飲み込まれ。結界の中へと消えていく。

「実際に見てみるとどうにも驚いちゃうね。……さて、じゃあ行きますか」
プリセラも一つ頷いて、結界の中に身を投じるのだった。

異形の口に飲み込まれ、彼女達は結界の中へと潜り込む。
まず最初に少女達が感じたのは、乾いた風の感触。静かに息をするだけで、喉が渇きにひり付くようで。
足元に感じるのは硬質の感触。まるで磨き上げられた大理石に似た何かで。
床のみならず壁もまた、その硬質の物体で構成させられていた。

「魔女の結界にしちゃあ、随分と殺風景なところだね」
「ええ、そうね。でも油断は禁物よ、佐倉さん」
「へっ、誰に言ってんのさ」
かつん、と乾いた足音が二つ。そして続いてもう一つ。少し遅れて、もう一つ。

「……なるほど、こんな風になってたんだね。って、なんだかここ、ちょっと乾燥しすぎじゃない?」
プリセラは結界の中に入るや否や、そんな風に切り出した。
「参ったな、これじゃお肌が荒れちゃうよ。保湿液でも持ってくればよかったな」
そんな風に言う様は、とてもこれから恐ろしい敵との戦いに向かうようには見えなくて。

「んなこと気にしてる場合かっての」
「気にするよ、っていうか気にしなきゃだめでしょ、女の子なんだから」
呟く杏子に、びしっとプリセラは指を突きつけた。
「死んでからじゃ、お洒落も何もねぇだろうが。……ほら、さっさと行くぞ」
そんな様子に面食らったかのように、一瞬だけ杏子は目を見開いて。
それでもすぐに身を翻し、結界の奥へと歩を進めるのだった。


「ったく、相も変わらず趣味の悪い場所だぜ」
槍を片手に、辺りを油断無く眺めながら、杏子は吐き捨てるようにそう言った。
結界自体は、どこまでも続く大理石の回廊。それ自体はさほど気味の悪いものでもない。
けれどその中に立ち並ぶ、無数の歪なオブジェ。
辛うじて人の形をした、それでいてとても人とは思えない、人のなりそこない。

使い魔かと思えばそうでもなく、彫刻のようにも見えるそれは、触れた側からさらさらと崩れていく。
どうやらそれは彫刻などではなく、砂を押し固めて象られたものらしかった。
そんな気味の悪いオブジェがいくつも立ち並び、まるで悪趣味な美術館の様相すら呈する結界の中を、四人は静かに歩いていた。

耳を澄ませばさらさらと、何かが流れる音が聞こえる。
それが水ならば、この乾ききった空気を少しは潤す事もできるのだろうが。生憎な事に、流れているのは砂だった。
乾ききった空気は、容赦なく四人の喉を苛んだ。
魔法少女である二人や、尋常ならざる身体を持つプリセラはともかくとして
ただの少女に過ぎないまどかにはひどく辛いもので、呼吸の度にしくしくと喉が痛んだ。

「……大丈夫、まどか?」
その様子に気付いて、プリセラがまどかに呼びかけた。
「だいじょう…けほ、こほ。……大丈夫、です」
言葉を返そうとして、ひり付く喉の痛みに咳き込んでしまって。それでもどうにかまどかは言った。

「……やっぱり、今からでも帰らせたほうがいいんじゃねぇのか?」
やはり、杏子はそれを捨て置けない。
けれど。
「どうやら、そんな事を言っている暇もないみたいよ。来るわ!」
回廊の奥。暗がりの向こうを見据えてマミが叫んだ。

どすん、どすんと重い音が幾度も響く。その度に、何かが近づいてくるのが分かる。
敵が来る。
マミは片手に銃を携え、杏子は暗がりの向こうに槍を向け、迫る敵に備えた。
暗がりの向こうから現れたそれは、その姿は。まさしく巨大な両足だった。
それはまるで歩いているかのように、互い違いに地を踏みしめながら迫ってくる。

「使い魔、だな」
「ええ、そうね」
マミと杏子の二人の超えた、戦いの予兆に張り詰めて。そしてその実凍て付いていく。
油断も慢心もなく、戦うための力を振るう存在へと、二人を変えていく。
重い音をいくつも響かせ、彼女達を押し潰さんと迫る異貌の両足。
ぎらりと瞳を光らせて、二人は同時にそれを睨んだ。

「あたしは右だ」
「じゃあ、私は左ね」
短い言葉でそれぞれの獲物を選び、そして。
「行くぜっ!」
「ええ!」
掛け声も短く、二人は同時に飛び出した。杏子は一直線に敵に向かい、マミは敵の側面へと回りこむ。
接近戦を仕掛ける杏子に、誤射の危険を少しでも減らそうとしていた。
まともな打ち合わせもなくこれだけの動きができるのだから、やはり二人のコンビネーションは中々に洗練されていた。
まどかを守りながら、プリセラは二人の戦う姿を見つめてそう考える。その表情に、隠しきれない訝しさを残しながら。

魔力不足から来る身体の重さをどうにか堪え、杏子は頭上から踏みつける使い魔の攻撃をひらりとかわすと
丁度そのくるぶしの部分を両断するように、横薙ぎに槍を振り払った。
同時にマミもまた、杏子を蹴り飛ばそうとその身を振り上げた使い魔の、丁度小指の部分を狙って魔弾を放った。
よりにもよって小指である、当たれば実に痛いことだろう。
どちらの攻撃も違わず使い魔を捉え、かたや槍の一閃の前に両断され
かたやマミの射撃によって動きを止めたところを、杏子の追撃によって止めを刺されることとなった。
僅か一呼吸の間に、二体の使い魔が寸断されて形を失っていく。

(なんとかなった……か?)
ひゅん、と槍を振って肩にかけ、一息ついた杏子であった。しかし、背筋を走る嫌な予感に、咄嗟にその場を飛びのいた。
直後である。寸断された二体の使い魔の身体が、砂の塊と化していく。
二つの砂の塊は混ざり合い、一つの形を再び成した。今度は一つの巨大な手。
その掌を大きく広げ、杏子を押し潰さんと迫っていた。
咄嗟に飛びのいていなければ、今頃杏子は押し潰されていた事だろう。

「攻撃が……効いてないのか!?」
倒されて尚蘇り、再び襲い来る使い魔の脅威に杏子は悪態を吐き出した。
「きっと、敵はあの砂そのものなのね。身体のどこかに核があるのかしら。
 それとも砂そのものが使い魔なのだとしたら……ちょっと厄介ね」
核を潰せばいいのならば、多少面倒ではあるがそれでケリはつく。
だがもしも、あの微細な砂粒の一つ一つが使い魔なのだとしたら、完全に倒しきるのはかなりの手間である。
普段のマミであれば、その魔法で拘束し、必殺の一撃でまとめて吹き飛ばすこともできるだろう。
けれど今は、使い魔相手にそれをするほどの魔力の余裕は無い。

そしてどうやら使い魔の矛先は、難敵である魔法少女の二人よりも先に、魔法少女ではない相手を狙うことにしたようで。
巨大な手を為した使い魔が、後方のプリセラとまどかの元へと飛来する。

「まずい、抜かれたっ!」
「鹿目さん、プリセラさんっ!」
追いすがる二人。けれど杏子の一撃は宙を行く使い魔には届かず。
マミの攻撃だけでは、その動きを止めること適わなかった。

状況を静観していたプリセラは、二人のやりとりから敵が迫っていることを知った。

「まどか、走って!」
「っ!は、はいっ!」
迫る使い魔の姿を認めて、すぐにまどかは駆け出した。
その駆け出す姿を横目に眺めて、プリセラはそれとは逆の方を向き、迫る使い魔に相対する。
直後、プリセラの頭上から使い魔が、その掌を広げて落下した。
恐ろしい速度で降り来る使い魔に、プリセラは一切反応する事ができず、そのまま押し潰されてしまうのだった。



「な……にやってんだ、おいっ!」
あまりにもあっけない末路に、杏子は愕然と声を漏らした。
「嘘……でしょ?」
マミもまた、目を見開いて呟いた。
あまりにも容易く、使い魔はプリセラの命を奪ってしまった。
それはまるで、使い魔が普通の人の命を奪うかのごとくあっけないものだった。

「……なるほど、ね」
地面と使い魔との間に挟まれ、押し潰されたはずのプリセラは、静かにそう呟いた。
その声は、押し潰されて漏らす苦悶のそれではなく、何かに納得したかのような、そんな声だった。

声と共に、使い魔の身体がぐらりと揺らぐ。
プリセラは圧し掛かる使い魔を、まるでものともせずに起き上がると、一足飛びに背後へと飛びのいた。
その動きを追いきれず、取り残された使い魔は再び宙に浮く。
ひとまず安全圏に逃れた事を確認し、プリセラは一つ大きく息を吐き出した。

「やっぱり、そういうことなんだ」
吐き出した言葉には、苦悩の響きが刻まれていた。

「プリセラさんっ!大丈夫ですか?」
飛びのいたプリセラに、心配そうにまどかが駆け寄った。
「全然大丈夫、あれくらいなんてことないよ。……でも、このままじゃ駄目だろうね」
杏子ととマミが追いすがり、使い魔に攻撃を仕掛けている。
けれどそれは致命傷には程遠く、使い魔の動きを抑えるくらいにしかならない。
状況は最悪に近い。プリセラは今この段に至って、ようやくその事実を認識するのだった。

「使い魔とか、魔女っていうのは……確か、素質がないと見えないし、触れることもできないんだったよね」
ティトォがマミから聞いていたその言葉を、プリセラは険しい表情で繰り返した。
「きっと、私にはその素質って奴がないんだと思う。
 ……さっきから、使い魔の姿も、魔女の結界も、何も私には見えないんだ」
衝撃的な事実、それはまるで独白じみていたけれど、すぐ側で聞いていたまどかを驚愕させるには十分すぎるものだった。

「そんな……でも、プリセラさんも魔法使いなんだよね?
 それに、あんなに強かったのに……それなのに、どうして?」
信じられない、と言った様子でまどかが問う。そんなまどかにプリセラは、少しだけ寂しげな笑みを浮かべると。

「……私はね、実は魔法使いなんかじゃないんだ」
と、呟くようにそう言った。

「魔法使いってのはね、才能がないとどれだけ修行したってなれるもんじゃないらしくてさ。
 残念な事に、私にはアクアやティトォみたいな魔法の才能はまるでなかったんだ」
その表情に滲むのは、隠しきれない悔しさと。
「だから、私は身体を鍛えることにしたんだ。百年間ずっと、ずっとね。
 怖いもんでさ、若いままの身体をずっと鍛え続けてたら、止まらないんだよ。
 肉と骨がどこまでも成長……っていうか、進化しちゃってさ」
そんな自分を誇るような、それでいて無力を嘆くような、泣き笑いのような表情で。

「じゃあ……プリセラさんは」
まどかもようやくそれに気付く。プリセラは魔法使いなどではなく
ただ単に、常識外れな程に鍛え上げられた肉体を持っているだけなのだと。
プリセラ本人の素質は、ただの人間のそれと変わりないのだ、と。


「そのお陰で、私はどこまでも強くなれた。でも、悔しいな。
 どんなに鍛えても、私の拳は使い魔一匹倒す事ができない。
 みんなを助けることができないんだ。……悔しいよ、本当に」
ぎり、と堅く食いしばられた歯が鳴った。プリセラの胸中を、激しい無力感が苛んでいた。
これほどの力を、それこそ誰も及ばぬほどの戦闘能力を手に入れたはずなのに。
そうして手に入れた力は、使い魔に、そして魔女には一切通用しないのだ。
まるで自分の百年を丸ごと否定されたかのように、それはひどく絶望的な事実であった。

「く……ッそぉォ!!」
瞳を潤ませ、食いしばった唇の端から小さな唸りを漏らし、プリセラは地面を殴りつけた。
鍛え上げられた拳は、堅い地面を容易に砕き、大きなひびを刻み込んだ。
それほどの力でさえも、今この場では無力なのだ。それが、プリセラには悔しくてならなかった。

「私は……なんで、こんなに無力なんだ」
尚も戦いを続けているマミと杏子を遠目に眺めて、どうしようもない悔しさと、無力感を吐き出した。

「違います。プリセラさんは無力なんかじゃないです!」
その姿があまりにも弱弱しく見えて、まどかは思わずプリセラの手を取り、そう叫んだ。
「まど、か?」
「だって、だってプリセラさんは、私を助けてくれたじゃないですかっ!
 あんなに強くて、格好良いじゃないですかっ!」
言ってしまってから途端に羞恥に襲われて、まどかはプリセラの手を離した。

「……それ言うなら、私の方なんです。私は何もできなくて、守ってもらってばっかりで」
そして小さく俯いて、まどかは呟くように言うのだった。
そう、プリセラが抱えてしまった無力感。それは同時に、まどかが抱え続けたものでもあったのだ。

魔女との戦いに巻き込まれ、そして魔法少女にさえ命を狙われることになり、まどかは常に守られてきた。
マミに、ティトォに、プリセラに。守られてばかりの自分に、引け目を感じていないはずもなかったのだ。
そんな無力感に苛まれる自分を自覚して、それでもプリセラの事を案じるまどかの優しさが
今のプリセラにはどれだけ救いになったことだろう。
当然無力なはずはない。けれど否応なしに無力感を押し付けられたこの場において
まどかの言葉はどれだけ励ましになっただろうか。

「……ありがとう、まどか」
だからプリセラは柔らかな笑みを浮かべると、まどかの頭をそっと撫でて。
「私は何もできないけど。それでも絶対にこの状況を打開してみせるよ。……きっと、やってくれるはずだ」
そして、取り出したのは小さな薬のカプセル。存在変換を引き起こす魔法の薬

――致死量を遥かに超えた、劇毒だった。

「プリセラさん、替わるんです……よね」
他に方法はない。まどかにもそれは分かっていた。けれどそれは。
「うん、そうしないと、この状況は変えられないからね」
プリセラが一度死ぬということに、他ならない。

「……怖く、ないんですか?」
考えるだけで、まどかの身体は震えてしまう。
そんなまどかに、プリセラは少しだけ困ったような笑みを浮かべて。
「怖くない、って言ったら嘘になるかな。でもね、私たちにとっては当たり前のことなんだ。
 命の価値も、倫理観も、私達のそれは普通の人とは違うんだよ」
もう一度、軽くまどかの頭を撫でて。

「でもね、心配してくれるのは嬉しいよ、ありがとう。……きっと必ず、アクアがみんなを助けてくれるよ」
(……ほんと、頼むよ。アクア)
内心の不安は抱えつつも、今はティトォには頼れない。

――あたしを誰だと思ってんのさ。……後は任せてよ、プリセラ。

アクアの言葉にプリセラは一つ頷いて。魔法の薬を、飲み込んだ。

姉弟の話はもう少しだけお待ちください。
もうどれだけ待たせているのやら、ですが。まあ神無を待つ心積もりでどうか。

>>501
上手くいったように見えて実際内心はまだぎくしゃくしているあの二人です。
そりゃあ誤解でも何でも一回本気で殺しあってちゃあ、打ち解けるのも難しいでしょう。

>>502
始まりますねえ。
秋田の次は白泉社ですか。一体どうなってしまうのやら、あの人は。

>>.503
素直になりたくてなりきれない、そんな切ない杏子ちゃんです。
というか、あの特別編も何かに収録して欲しいんですけどね。
でないともうやきもきしちゃって。

しかしあの特別編からもいいネタを頂きました。

>>504
ノリがいいかと思ったらこれだよ!
もう少しだけお待ちください、本当に。

姉弟にはいっぱい活躍していただく予定ですので。


プリセラの意外な弱点
ワルプルさんにも役立たずなんですかやだー
……BBJさんがウォーミングアップを始めたようです

乙!
しかしプリセラさんェ…
プリセラさんは見てると元々大食い・怪力のマテリアル使い?っぽい感じだったんだけど、
魔翌力はあってもそれを魔法に構築する才能がなかった、みたいな扱いだったよね

しかし魔法少女っていうのはそうなるとマテパ世界の概念で言うとマテリアル使いでかつ魔法の才能もいるのか?
それとも魔法の才能だけでいいのかな

しかし破壊神来ちゃったか…。
食べ物を粗末にすんな派の杏子とこれしか戦う方法がないアクアの大喧嘩が始まっちゃうな

魔翌翌翌力って何だ?

プリセラは対魔法少女専用になるのかな
っていうかこうでもしないと魔女との戦闘が即終了しちまうなww
ほむらがやってるように、魔女にも物理攻撃は有効みたいだし

ちょいとペースが遅れております。

それでもどうにか投下です。

「流石にこいつは……」
「ちょっと、拙いわね」
互いに背を預けあい、背後の死角を補いながらマミと杏子は使い魔との戦闘を続けていた。
十分な魔力の無い二人では、やはりこの使い魔に対して有効打を与えるのは難しく
どうにかチャンスを伺いながらも防戦一方であった。
幾度の槍を、幾度の魔弾をその身に受けて
尚も健在の使い魔は時に寄り合い、時に別れ、変幻自在の動きで二人を翻弄していた。

「っなろ、嘗めんなっ!!」
業を煮やした杏子は、地を蹴り一気に使い魔に肉薄すると、その勢いを載せたチャージを放った。
鋭く閃く槍の穂先が、使い魔の身体を貫き四散させる。
けれど、その一撃すらも使い魔を倒すには到底及ばない。
四散したはずの使い魔は、そのまま杏子の周囲に散らばり、再び一気に収束する。
収束する使い魔の焦点には、重力に引かれて落下する杏子の身体があった。

「佐倉さんっ!!」
マミから見れば、まるで杏子が使い魔に取り込まれてしまったかのように見えただろう。
咄嗟に銃を構え、使い魔にその銃口を向けるが、引き金を引くことができなかった。
あの中には杏子がいる、迂闊に撃てば、杏子もろとも打ち抜いてしまいかねない。
だが、このまま手をこまねいていても恐らく結果は同じだろう。

どうにかしなければ、使い魔に向けたまま硬直した銃身に、誰かの手が触れた。

(これは……やべぇっ)
杏子もまた、使い魔に取り込まれながら必死の抵抗を続けていた。
けれど魔力の尽きた身体でできる抵抗などほとんどなく、砂そのもののような使い魔の身体の中で
空しくもがき続けることしかできなかった。そして、更に状況は悪化する。

(なんだ……これ、身体が…消え、て)
砂の中に取り込まれ、もがき続けていた手足の感覚が、端からじわじわと消え始めているのである。
恐らく使い魔に吸収されつつあるのだろう。痛みすら感じないことが、逆に杏子には恐ろしかった。

(まさか……あの奇妙なオブジェは)
ゆっくりと自分が消えていく感触。身の毛もよだつような恐怖に苛まれながら、杏子は理解しつつあった。
この結界に踏み込んで最初に見た、人を模した奇妙なオブジェ。
アレは恐らく、使い魔が人を飲み込み、吸い尽くした後に残された残りカスのようなものなのだろうと。
そしてこのままでは遠からず、自らもその不恰好なオブジェの仲間入りをしてしまうだろうということも
否応なしに理解させられていた。

(ざけんな……こんなとこで終われるか。冗談…じゃ)
使い魔に囚われ、闇に囚われた杏子の視界を、突如として激しい光が灼いた。
果たして光が先だったのか、それとも衝撃が先だったのか。
眩しさを感じる暇すらなく、杏子は吹き荒れる激しい衝撃に飲まれ、意識を手放してしまった。

「さぁて、久しぶりに大暴れ……させてもらおうかね」
大胆不敵、傲慢にして横暴。有無を言わさぬ力強さと
少なからぬ怒りの色さえ孕ませた少女の声が、轟音と共に響き渡った。
それはマミの声でもまどかの声でもない。当然、杏子の声でもあるはずがない。

声の主は、爆風にはためく髪をさっと手で払い、少しずれてしまった黒い帽子を被りなおして
その手に握った棒付き飴に、小さく舌を這わせた。

――そう、破壊の魔法の使い手にして、自身も実に破壊的な性格を持つ、最凶最悪の破壊神。
"アクア"が、再びこの世界に現れたのである。

アクアは先の一撃がもたらした成果である、爆発によってその半身を消し飛ばされた使い魔と
爆風に煽られ吹き飛ばされ、地面に投げ出されて微動だにしない杏子の姿を一瞥すると。

「マミ、あんたはそっちのガキを連れて下がってな、こっから先は、全部あたしが片付けてやるよ」
涼しげな顔で、マミに向かってそう言い放つのだった。

「……凄い魔力ね。わかったわ、後をお願いするわね」
直接アクアが戦う姿を見るのは、マミにとってはこれが始めてである。
だが、今アクアが見せた一撃は、どんな言葉よりも雄弁にアクアの魔法の強力さをマミに知らしめていた。

圧倒的な攻撃力。
杏子も、マミでさえも持ちえていないそれは、何気なく放った一撃だけで
あれほど厄介な相手であった使い魔の半身を消し飛ばしていた。
完全に消滅させられてしまったのだろう、失われた半身が再生されることはなく
使い魔はふらふらと宙を漂っているばかりであった。

これならば、任せたほうがいっそ安全だろう。少なくとも今のままでは、足手まといもいいところ。
マミは自らと杏子をそう判断する。故に行動は速かった。
攻撃にひるんでいる使い魔の隙を突き、マミはリボンを伸ばして杏子の身体を絡めとり、引き寄せる。
そのまま抱き寄せ、後方のまどかの元へと跳んだ。

「杏子ちゃんっ!……大丈夫、なんですか?」
「死んではいないわ。気を失っているだけ」
心配そうに二人を見つめるまどかに、マミは手短にそう告げると。
「もう少し距離を取りましょう。巻き添えを食らったら、こっちもただではすまないだろうから」
杏子の身体を抱かかえたまま、マミはまどかにそう言うと、促すように足早に、アクアの戦場から距離を置くのだった。

(貴女は……どう戦うのかしら、アクア)
恐らくそれは、アクアの戦い方を見定めるという意味もあったのだろう。

ようやく先の攻撃のショックから立ち直った使い魔が、新たな敵を認識した。
更にその敵が、自らに敵し得る存在であることを理解した。当然、それは廃さなければならない。
このアトリエに必要なのは、作品とその材料。そして彼女だけなのだから。

半身を失いながらも、使い魔はアクア目掛けて押し寄せる。
明確な攻撃の意思を表したその形は、螺旋を描いた鏃を持った銛。
見えざる射手に放たれたかのように、恐るべき速度でアクアを貫かんと迫った。

かわすか、受けるか。いずれも否。彼女の魔法の、そして彼女の為すべき事はただ一つ。


「ぬるいんだよっ!!」
迫り来る銛に、立ち向かうアクアが手にしているのは棒付き飴。
それはあくまでただの飴。けれどそれがアクアの手にかかれば、恐るべき魔法を織り成す魔法のステッキへと変貌する。
それがアクアの魔法(マテリアル・パズル)"スパイシードロップ"。
迫る銛の軌道と、振りかざした棒付き飴が交差した。直後、小さな炸裂と共に銛が消失した。
当然それ自身である使い魔の存在も、あっけなく消失したのである。

スパイシードロップは破壊の魔法。だが、その破壊は無秩序に振りまかれるものではなかった。
威力を集中させることで、一点に鋼鉄すらも容易く削り取るような威力を持たせることもできれば
極大にして広大な炸裂で、全てを焼き尽くすこともできる。
百年の時を経て練り上げられた力は、それほどまでに強大な力だったのである。


「さあ、さっさと先行くよ。魔女とやらをぶっ潰して、とっとと帰ろうじゃないの」
事もなく使い魔を打ち砕き、アクアは振り向きながら後ろの三人に向けて呼びかけた。

その日、長らく静寂と研鑽に満ちていた魔女のアトリエは、久方ぶりの外敵の侵入に沸き立っていた。
あの場所に奴等を入れてはならない。あの場所を汚させてはならない。あの場所を守らなければならない。
使い魔達は激しく怒り、奮い立ち、忌むべき外敵を廃さんがために行動を開始した。

されどその狂乱は静かに、どこまでも静かに行われる。
彼女が好むのは絶対の静寂、そして孤高と研鑽の世界。使い魔とて、それを乱すことは許されなかったのだ。

けれど、その悉くは打ち崩される。他ならぬアクアの手によって。



「吹っ飛びなっ!!」
次々に襲い来る砂礫の使い魔達は、迫る端から消し飛ばされていく。
圧倒的な攻撃範囲と、使い魔を一撃の下に葬り去れる攻撃力。
そしてどれほど魔法を放ったとしても、一向に衰えを見せない無尽蔵の魔力。
その全てが、一方的な蹂躙を演出していた。
流石のマミも、アクアの魔法がこれほどの攻撃力を持っているとは思いもしなかったようで。

「……これ、私達はいらないんじゃないかしら」
どこか遠くを見るような目で、そんな事を呟いてしまうのだった。



立て続けに巻き起こる爆発と轟音。それは魔女の望んだ静寂を悉く乱していく。
そして彼女の徒弟たる使い魔達を消し飛ばしていく。
それは彼女の領域に対するあまりにも冒涜的な侵害で、遂に――



――彼女は激怒した。

必ず、かの邪知暴虐の輩どもを除かなければならぬと決意した。



どこのメロスであろうか。

「この反応……アクア、魔女が来るわっ!」
未だ目を覚まさぬ杏子を背負って、マミが鋭く一つ叫んだ。

「ああ、分かってるよ。何かでかいのが来るってことはね」
破壊しつくされ、大理石の回廊すらも酷い損傷を受けていた。
突如として、その回廊に振動が走る。足元を見れば、一枚の石のようであったはずの地面に、無数に線が刻まれていた。
直後、その線は明確な亀裂へと変わり、足元の地面が割れて砕けて沈み始める。

「きゃぁぁっ!!」
「鹿目さんっ!……っ」
落ちる床を踏みしめ跳躍、どうにか体勢を整えると同時に、マミはリボンを伸ばしてまどかの身体を支えた。
杏子を抱えた上でのそれは、なかなかに重労働ではあったが、どうにかマミはやり遂げた。


「……なんなんだろうね、ここは」
一足先に着地して、周囲を眺めながら、アクアは訝しげに呟いた。

そこには無数の人影があった。けれど当然それは人ではない。人の姿をした何か、
それはここに至るまでの回廊に無数に並べられていた、できの悪いオブジェと同じものでできていた。
けれどここに並べられたそのオブジェ達は、精緻にして巧妙なヒトガタであった。
どこまでも精巧に作りこまれたそれは、単に人が色を失ってしまっただけのようにも見えた。

そんな作品群の中には、人の姿をしていないものもある。
たとえばそれは動物で、たとえばそれは幻想上の生き物で、ねこで、いぬで、ぱんだだったりもした。

要するにそこは、作品が並べられたアトリエだった。
となれば当然、そこにはその作り手がいる。
辺りを油断なく眺めていたマミとアクアは、同時にその存在を認識した。

「なるほどね、これがこの奇妙なアトリエのオーナーってわけだ」
「ええ、そしてこれが魔女。……魔女にしては、まだマシなセンスはしていそうね」

それは異形の巨人。むしろそれそのものが、一つの作品のようでもあった。
魔女にすればさほど大きくはないが、それでも身の丈3mを越すほどの巨躯。
使い魔に等しく砂がその身体を構成するが、けれどそれは不完全。欠けた身体の隙間からは、異形の骨が突き出している。
骨かと思えばその実それは、捩れて歪んだパイプのようで。
途中で折れた肋骨のようなそれからは、乾いた空気がひゅぅひゅぅと漏れ出ていた。








"Teekesselchen"


彫刻家の魔女、その性質は研鑽。
乾いた空気を満たしたアトリエで、ひたすらに自らの腕を磨いている。
彼女の静謐を乱すものは、悉く彼女の芸術の材料である、乾いた砂へと変えられてしまうだろう。
彼女の友は静謐と、同じく腕を研鑽する弟子たる使い魔だけである。
彼女を倒したければ、彼女の芸術に水を差してやればいい。
水の流れは彼女の作品を、静謐さえも押し流していく事だろう。

ひとまず今回はここまで。ということで。
ちょっと今月いっぱいくらいは更新が不定期になりがちになるかもしれません。

最低週二回以上はやりたいところですが。

>>524
そうでもしなけりゃ本当にもう全部こいつ一人でいいんじゃないかなって話になりますしね。
残念ながらワルプルさんにも役立たずです。
飛んでくるビルくらいなら拳一発で粉砕しそうですが。

>>525
そのあたりは単純に、魔法使いかそうでないか、その一点に絞って考えています。
魔法使いならば知覚できるし戦える。
そうでないのならどれだけ強くとも太刀打ちできない。
要するにプリセラやミカゼではどうにもならないということですが
(ネタバレ)後のミカゼや三十指は普通に魔女とも戦うことができるようになります。

単に魔法が使えるかどうか、その一点だけだと考えてください。

そしてまたしてもぶったおれた杏子ですが、魔力がほぼ空なので仕方ないといえばしかたがありません。

>>526
プリセラさんには対魔法少女で是非とも頑張っていただきたいものです。
もっとも、敵対する魔法少女なんてそうそういるわけないですよね(カクカク

後はまあ、三十指とかやってきたら無双してくれるのではないでしょうか。

>>540
確かにアレだけど本当にアクアは強いしマジックパイルのときのWWFとかアクアがいなきゃ使えないから重要なんだぞ!

しかし水を差してやればいい→アクアっていうのが上手いなぁ
この魔女戦は普通にいけるだろうけど、ほむらがやってきたりはしないよな…

これでグリーフシードもらえて魔翌力回復したとしても、月丸太陽丸相手して大丈夫なんだろうか
太陽丸は幻覚見せられるってだけでアクアにも杏子にもマミにももうヤバイ。
あともう一つの能力である『物体に映った映像を再生する』っていうので
人間関係割り出されてさやか達が案内役や人質に使われたりしたらどうしようとか先の展開が怖い

マテリアルの敵側のランク表とか作られないかな?
地味に鍵さんが強そう(鍵自体が実は……だからな)

>>542
三十指ランクってのがあるけどあれは単純に強さだけじゃなく女神への貢献度とかもあるからなぁ
あとマテパって相性があるから、強さをランク付けするのは難しい気がする。

たとえばボブリッツにはパン神が降臨した後のリュシカでもたぶん勝てないけど、
月丸太陽丸相手なら空飛んでカレーパン連打だけで勝てそうだし。

クライムは鍵穴を見つけられれば強いが、その鍵穴が目視できない以上手当たり次第に突っ込むしかない

どうにも夜が遅くなって困ります。
では、投下です。

「あれが魔女、ね。……気色悪い奴だね」
その異貌を一睨み、アクアは吐き捨てるように呟いた。
「気をつけて。どんな相手かわからないのだから、慎重に……」
舞い上がって調子に乗って、踏みしめてしまった敗北の轍をマミは忘れない。マミは咄嗟にアクアに注意を促した。
けれど、アクアがそれを素直に聞き届けるかと言えば。

「はっ!あたしを誰だと思ってんのさ。こんな奴はさっさとぶっ壊して、終わりにするよっ!!」
当然のように、絶対の自信と傲慢をたっぷりと乗せてアクアが叫ぶ。
そして同時に駆け出した。魔女へと向けて一直線に。
そんなアクアを迎え撃つように、魔女もその腕を振り上げた。
押し固められた砂の塊が、圧倒的な質量と重量を込めて振り下ろされる。

「無駄ぁッ!」
その腕に向け、アクアは咥えていた棒付き飴を叩き付ける。
破壊の魔法は違わずその力を発揮し、迫る脅威を消し飛ばす。
魔女の動きは見た目に違わず鈍重で、その巨躯もまた的が大きいだけに過ぎない。

「ちまちまするのは面倒だしね。一気に終わらせるよ」
バッグに手を突っ込んで、大量の飴玉を掴み取る。
そして片腕を吹き飛ばされ、ひるんだようにのけぞった魔女に向け、大量の飴玉を一気に放り投げた。
それはまさしく、恐るべき爆撃の散弾。放られた飴玉が次々に魔女身体に喰らいつき、その威力を示していく。
炸裂、爆発、衝撃。そして激しい閃光が、魔女の体を、その作品の悉くを飲み込んでいく。
一切の容赦も加減もない、恐るべき絨毯爆撃の衝撃は、背後のマミとまどかにさえも及んでいた。

「ちょっとアクア!いくらなんでもやりすぎよ。こっちまで巻き込まないでっ!」
吹き飛ばされて散らばった魔女の作品。それは大きな破片となって、次々にマミ達の下へと飛来していた。
マミは咄嗟にそれをリボンで受け止め、払い除け、どうにか窮地を脱した後に、咎めるようにアクアに叫んだ。
「あー……うん。すぐに終わらせるからさ、それまでどうにか耐えな」
そんな様子に、アクアは珍しくばつが悪そうな表情で答えた。
プリセラから頼まれたとあっては、まどかやマミ達の事を捨て置くこともできないようで。

「……って言っても、そうそう楽には終わらせてくれそうもないみたいだけどね」
続けざまの爆発の中に、魔女の姿が消えていく。けれどまだ終わりではない。
未だちりちりと肌を刺す殺気は、魔女の存在が未だ費えてはいないことをアクアに示している。
「さて、どうするかね。このアトリエごとまとめてぶっ壊してやりゃあいいのかね」
事実、それすらもできないわけではない。
けれどそこまで思い切りぶっ壊してしまえば、間違いなくマミ達も無事ではすまない。
どうしたものかと悩むアクアだが、行動を決めるより早く、魔女は動き出す。

薄暗いアトリエの、その四方を覆っていたビロードの暗幕が急に開かれる。
その奥に鎮座していたのは、色とりどりのステンドグラス。
けれどそれが与える印象は、綺麗なものというよりはどこかおどろおどろしいものを感じさせる。
そんな奇妙な色調のもので。

みしり。そのステンドグラスが小さな軋みを上げた。どうやらそれは、外からの圧力によるもので。

「もう、終わったんじゃない……の、かな?」
「ええ、まだ終わらないみたいね。鹿目さん、私の側から離れないで」
不安げに辺りを見回すまどか、そのまどかを手で制して、杏子を抱えたままマミが言う。
当のマミもまた、やはり注意深く辺りを見回している。

「……来るね」
ぞわ、と背筋を駆ける何かを感じてアクアが呟く。膨れ上がった殺気が、遂に弾けようとしている。
直後、周囲で響く甲高い音。それは全て、周囲を覆うステンドグラスの割れる音。
さらにその破片の全てが鋭い刃と化して、アクアの元へと殺到する。
どうやら魔女は、アクアを最優先で倒す心積もりらしい。

「だから……無駄だって言ってんだろォっ!!」
けれどアクアは動じない。その手に握った飴玉を、思い切り地面に叩き付けた。
激しい炸裂が一つ、そしてまた一つ。その中に次々とガラスの刃が吸いこまれ、当然のように消失していく。
もちろん、アクアは傷一つない。自らを決して傷つける事の無い、自分以外の全てを壊す力。それが彼女の魔法なのだから。
けれど、それでもその激しい炸裂は、ほんの一瞬アクアの視界を遮ってしまう。

その隙を、魔女は決して見逃さない。

「きゃっ!」
「何……これはっ!?」
ステンドグラスの割れた後、そこに空いた穴から漏れ出てきたのは大量の砂。
それはマミやまどかを一顧だにせず、猛然たる勢いでアクア目掛けて殺到するのだった。

先にアクアが倒した魔女の姿は、魔女の一部に過ぎなかったのだ。
彫刻家の魔女"ティーセルケッチェン"
この場に存在する砂の全てが、あらゆる物を作品に変え
取り込む事で増殖を続ける恐るべき魔女の姿なのである。

「……なんだってんだい、こりゃあ」
押し寄せた大量の砂は、魔女は、アクアを直接押し潰したわけではなかった。
それはアクアの周囲を取り囲み、激しく渦巻いている。
外から見れば、それはいささか密度の濃すぎる砂嵐であろうか。
そんな砂嵐の中心に取り残されたアクアは。それでも何事もない顔をして。

「ぐだぐだと、面倒なことをさせるんじゃないよっ!」
一歩踏み込み、アクアは砂嵐の壁に向けて飴玉を放り投げる。
それは瞬く間に砂中に没し、激しい炸裂を……起こさなかった。

「っ?」
当然のように起こるべきことが起こらない。アクアは僅かに顔を顰めて、すぐにその理由を理解した。
自らの魔法を誰よりも熟知しているアクアだからこそ、その事実にすぐに思い至るのだった。
「この砂、魔力を吸いとりやがるのか」
砂中に没した飴玉が、そこに込められた魔力を解放するよりも早く
魔女たる砂はその飴玉に込められた魔力を吸収してしまっていたのだった。

「……でも、ま。要するに取り込まれる前にぶっ壊せばいいだろ」
それでも尚、アクアの余裕は歪まない。恐らくあの砂は、取り込んだもの全てを吸収するのだろう。
魔力であろうと、人の身体であろうと。
そう考えれば、今尚目覚めない杏子にも納得がいく。
ただでさえ魔力が尽きていた時に、更に魔力を奪われてしまえばああなるのも納得はできた。

思索は一瞬、状況は速やかに変転する。周囲を覆う砂の壁が隆起する。
それはすぐさま槍と化し、アクアを貫かんとして迫る。
「ふん」
アクアは飴玉を握り締めたまま、その拳を槍に向けて突き出した。
拳の内より溢れる破壊が、砂の槍を飲み込み打ち砕いた。

「そんなもんがあたしに届くか、嘗めるんじゃないよ」
反撃とばかりに、再びアクアが飴玉を放つ。それは砂中に没する寸前で、破壊の光をばら撒いた。
魔女の砂とて、純粋な破壊の力に変換された魔力までは吸収することはできないようで。
砂の壁は破壊の魔法に砕かれて、深く抉り取られてしまう。

けれど、足りない。
穿たれた穴はすぐさま砂に埋められてしまう。どうやらこの砂の壁は、相当分厚いもののようで。
いかなアクアの魔法とて、外側から打ち砕くのは不可能だった。

外側からでは威力が足りない、かといって中に埋め込んでしまえば魔力を吸収されてしまう。だとすればどうするか。
考えるアクアにも、再び砂の槍が降り注ぐ。今度は無数に、いたる場所から迫り来る。
当然、アクアはそれを迎撃する。状況はどうにも硬直している。
けれど魔女がどれほどの全容を持つのかは未だ知れず、持久戦になれば不利であろうことはわかっていた。

あの砂は、取り込んだものを吸収してしまう。
けれど、アクアが変換した破壊の魔力を吸収することはできなかった。
ただ飴玉を放っただけでは吸収されてしまう。
だが、飴玉そのものに破壊の魔力を纏わせることができたのだとしたら……。

「しょうがないね、あんたなんぞに使ってやるのは勿体ないとこだけどね」
アクアの口元に、新たな感情の色が浮かんだ。それは余裕と不敵な笑みだけではなく、獰猛な敵意。
アクアも遂にこの魔女を、本当の敵として認めたようだ。


「アクア……一体どうなっているの」
分厚い砂の壁の向こう、そこから聞こえる炸裂音と、魔力の波動。
それを感じ取れるという以上、アクアはまだ無事なのだろうとマミは理解している。
だが、アクアは依然魔女の手中に囚われている。どうにか助けなければならない。

その時、マミはそれを感じ取った。
今の今まで激しく吹き荒れ、破壊をひたすらに振りまき続けていたアクアの魔力が、その性質を変えたのだ。
無作為に乱暴に、ただ振りまかれるだけの魔力から、練り上げられて研ぎ澄まされた、鋭い刃のようなそれへと変わる。
アクアは何かをしようとしている。マミはそれを悟り、そして。

「少し離れましょう、鹿目さん。……このままここにいたら、危ないわ」
「そんな、アクアちゃんを見捨てるんですかっ!?」
当然食いつくまどかに向けて、マミは静かに首を振って。
「それは違うわ。多分何か、アクアも大技を出そうとしているんだと思うわ。
 巻き込まれたら、今度こそただじゃすまない。……大丈夫、アクアならきっと、大丈夫よ」
それはマミ自身が、自分に言い聞かせているようで。

まずは露払い、とばかりにアクアが周囲に飴玉を放る。
無数の炸裂が起こるも、やはりこの砂塵の結界を破壊するには至らない。
けれど、それでもその炸裂は迫る砂を押しとどめ、僅かでも時間を作る事に成功した。

その一瞬の猶予、それをアクアは逃さない。再び飴玉を握り締め、それをざらりと宙に放った。
その飴玉の軌道は円を描き、その輪に一つ、また一つと飴玉が取り込まれていく。
三つの飴玉は互いに弾き合うながらも、円の軌道を描き続け、光の輪と化してアクアの指先に宿った。

「スパイシードロップマーブル!」
複数の飴玉を弾き合わせ、更なる威力を持ったその光の輪を、アクアは眼前の砂の壁に向けて打ち放った。
たちまちそれは砂中に消える。これもまた、敢え無く取り込まれてしまったのだろうか。


固唾を呑んでアクアを見守っていたマミ達は、砂嵐の中から何かが飛び出した事に気がついた。
それはアクアが放った光の輪。スパイシードロップマーブル。
光の輪そのものが破壊の力を纏っており、それが魔女の砂による吸収を撥ね退け、砂の壁を突破する事に成功していた。

「あれは……あの魔力は、アクアね!」
それは即ち、アクアが未だ健在である事を示している。マミの表情がぱぁ、と明るくなった。
「アクアちゃん、無事なんですね」
まどかもまた、そんなマミの言葉に少しだけ不安の色が薄れたようで。

尚もアクアの攻勢は続く。砂の壁を貫いた光の輪が、そのまま空中で反転。再び砂中へと飛び込んでいった。
光の輪は、もはや魔女の干渉などまるでないものであるかのように、縦横無尽に砂中を駆け抜ける。
その軌跡が閃く度、砂の壁が断ち切られ、掻き消されては崩れ去っていく。
けれどそれはあくまで線の攻撃に過ぎない。完全にこの砂嵐を沈黙させるには力不足と言えた。

「当然、こいつで終わらせやしないよっ!」
一つ、二つ。そして更に二つ。次々に光の輪が生み出され、砂中をひたすらに切り刻んでいく。
「微塵に刻んで、ぶっ壊してやる!!」
それはあくまで線。けれど無数の線が集まれば、それはいつしか面となる。そして無数の面が重なればどうなるか。
それはもはや空間そのものへの飽和攻撃。それほどまでに苛烈な光輪が、魔女の全身を切り刻んでいた。
後に残されたのは、最早壁というにもおこがましい程に切り刻まれ、無残な有様を示す砂の残骸ばかり。
けれど未だ、魔女は生きている。
無数の光輪に切り刻まれながらも、それでも尚アクアを取り込まんとして殺到した。
最早悠長に周囲を取り囲む余裕はない。直接包んで、一気に決着をつけようとしているのだろう。

その時、マミには見えた気がした。蹴散らされて薄れた砂嵐。その向こうで不敵に、どこまでも凶暴に笑うアクアの姿が。

「スパイシードロップ――」
アクアが小さく呟くと、縦横無尽に舞っていた無数の光輪が、アクアの拳に収束した。
無数に輪を纏い、激しく輝く拳を振り上げ、そして。


「――マーブルジェンカ!!!」
殺到する魔女の目標地点。アクアにとっては真下の地面に向けて、その拳を打ちつけた。
直後、湧き上がるの極大の光柱。無数の光輪に込められた力が一斉に解放されたそれは
最早あらゆる物が存在する事を許さないとばかりに吹き荒れた。
無数の砂そのものである魔女でさえ、一気に押し寄せたところにこの極大の一撃を叩き付けられれば
なす術もなく、その存在の一片までもが光の中に消えていった。



「――我が勝利、魂と共に」
目を灼く光が過ぎ去っていく。その中で、轟音に掻き消されるような小さな声で、アクアはそう呟いた。
主を失った事で、無数の犠牲の上に生まれた悪夢のアトリエは消えていく。
結界の景色自体が歪んでいく。そう遠からず外に出られる事だろう。

「終わったよ。ま、あたしにかかればこんなもんさ」
鈍い光を放ちながら、頭上に降ってきたグリーフシードをキャッチして
アクアはマミ達に振り向くと、相変わらずの不敵な笑みを浮かべてそう言うのだった。

という訳で、アクア完勝です。
対魔女戦では非常に優秀なアクアです。
基本的に周囲の被害を気にする必要がないんですから。

え?元から気にしてないだろって?ははっ

>.540
ちゃんとボスキラーだって取れるアクアです。
ただキルマークがなかなかつかないというだけで。

>>541
なんだかんだ言ってもスパイシードロップは優秀な魔法です。
自分に被害が及ばないのが色々と使いやすくていい感じなのです。

そろそろバトルバトルバトルな展開にも一息つきたいところです。
魔女も倒れましたし、そろそろ姉弟がやってきてもいい頃でしょう。
果たして何をしでかすのかは、まだまだこれからですが。

>>542
なんだかんだでアビャクさんが結構いい線行きそうな感じがします。
アビャクvsガシャロとか考えるとちょっとwktkしますし。

叫星魔渦でアビャクが取り込んだ水を吸いだせるならガシャロ有利でしょうが
それができなければ対ミカゼ戦での白兵戦能力的にはアビャク有利な気もしますし。
色々と妄想が捗るのが困りものです。

>>543
魔法レベルだって威力なのか極める難易度なのかがよくわかりませんしね。

しかし覚醒後のリュシカなら空から遠距離攻撃でボブリッツも何とかなる気がします。
結局ウィンクルディレクターでは飛ばしたものの軌道を変えることはできないっぽいですし。
そして月太は月太で遠距離攻撃主体だと、飽和攻撃ができないと幻覚に惑わされて不意打ちを喰らいそうです。
あいつらはあいつらで遠距離攻撃ができないわけでもありませんしね。


あーTAPの勝ち台詞懐かしいな
グッときた

アクアとかグリンって立ち位置が中途半端だからねー
五本の指>アクア、グリン>通常三十指 みたいな
強いことは強いんだけど



最も強い魔法が存在魔法だから
魔法レベルは構築難度、変換難度だと思ってる
テンションを熱に変換するパイナップルフラッシュはレベル7、実にシンプル
低レベルでも状況によっては格上の魔法使いすらも食える魔法
吸収系は総じて高レベル(自分の体も変換するから?)
三獅村祭は二重変換するから超高レベル

存在変換に近づくほどレベルが上がっていくんじゃないだろうか
というかマテリアル・パズル自体が限定的な存在変換っぽい