真美「真美、双子だし……」(188)


「おっは→、真美だよ→。……って兄ちゃんだけか→」
事務所の扉を開きながらその言動と裏腹にそれほど落胆していない様子で
765プロ所属のアイドル双海真美はそう呟いた

彼女は普段からポジティブで前向きだったが、そんな性格も最近は彼女のとある悩みから表面上だけのものと化していた


「だけってひどいな……。って今日は真美オフじゃなかったのか?」
事務所の奥で仕事していた兄ちゃんは仕事の手をとめるそぶりも見せずにそう呟いた

…そう
兄ちゃんの言うとおり本当は今日真美はお休み

……けど、家で一人っていうのもつまんないし、
あわよくば兄ちゃんを独占できるかも→って事に気づいたから事務所に来ることに至ったのだ


「んっふっふ~。兄ちゃんに会いに来たんだよ?」
真美は冗談めかしくそう呟いた
兄ちゃんが可哀そうだから一応フォローもしておいた→


「はは、何だよそれ……」
兄ちゃんは相変わらずノートパソコンと睨めっこしている


……あれ?そういえばピヨちゃんの姿が見えないような?
「兄ちゃ~ん。ピヨちゃんは?」

「あぁ、小鳥さん?今日は休みらしいぞ……」


…!
……今日はホントに兄ちゃんと二人っきりっぽいぞ→!


「そっか~……」

……それからしばらく事務所には兄ちゃんの叩くキーボードの音だけが響いていた


あ~、暇だなぁ~……
ってこれじゃあ事務所に来た意味ないじゃん……!


そんなことを考えていると兄ちゃんが先に口を開いた
「……ところでさ、真美最近元気なくないか?」


!?
真美は思わず俯いていた顔を上げた

兄ちゃんは仕事が一段落したようで書類をまとめていた


……確かに悩みはあった
でも、表面上は明るく振舞っているつもりだった
事実皆にもいつもと変わらずで接していた

……でも兄ちゃんは気づいていたのかもしれない


「ん~、そかな?」
探りを入れる意味も込めてとぼけてみた


「なんか無理してるって言うかなんていうか……。まぁ気のせいならいいんだ」
兄ちゃんは書類を棚に収めながら言った


……やっぱ兄ちゃんは真美が何か悩んでるってこと気づいてるっぽいな→

そう思った真美はとりあえず話題を変えてみることにした
「……じゃあさ→。兄ちゃんはさ、悩みとかないの……?」


書類を納め終わった兄ちゃんは手を顎を当てながら答えた
「ん~……。悩みか……。皆をどうやってもっと売れっ子にするか…とか?」


んもー!真美が聞きたいのはそんなんじゃないのに!

「兄ちゃん、それお決まりのセリフ過ぎるよ!ほかに何かないの?」
さらに掘り下げて聞いてみた


「いや、ないこともないけど……。ほら、悩みって人には話辛いじゃないか。だ、だから……その…秘密な!」
兄ちゃんは少し慌てた様子でそう言った

反論しようと思ったが事実、真美自身も兄ちゃんに悩みを打ち明けていない以上それははばかられた


「そういうもんですかね→……。ところでさ、兄ちゃん」
真美は兄ちゃんが後ろを向いた隙にゆっくりと立ち上がった

「ん、なんだ?」
兄ちゃんは真美が立ち上がったことに気づいていないようだ
んっふっふ~。兄ちゃん、無防備ですな……


真美は兄ちゃんにそろりそろりと近づき背後から抱きしめた

「!?ま、真美何して……!」

慌てている兄ちゃんとは裏腹に真美はゆっくりと呟いた
「……暇なんだけど」

重すぎワロエナイ…

風呂入ってきます

再開します


「だからって抱きつく理由には……!」
兄ちゃんは取り乱してはいるが真美を引き剥がそうとはしなかった

「ん→……。……抱きついたのはただ兄ちゃんに抱きつきたくなったから?」
真美は兄ちゃんの背中に顔をうずめながら答えた

「こ、こら!分かったからとりあえず離れてくれ!」

「ちぇ→。分かったよ……」
このまま兄ちゃんが取り乱したままだと埒が明かないと悟った真美はゆっくりと兄ちゃんから離れた

「……で、何をするんだ?」
兄ちゃんは少し渋々、といった様子で真美に尋ねた

「じゃあ→……」
「たっだいま→!!」

真美が答えようかと口を開いたそのとき事務所の扉が開かれると同時に元気な声が事務所に響いた


「ただいま戻りました~」
「ただいまー……ってプロデューサーと真美だけじゃない」

亜美が帰ってきたのを皮切りに竜宮小町のメンバーが続々と事務所に入ってきた


……どうやら竜宮小町は今仕事を終えてきたところらしい


「ただいま戻りました~」
「ただいまー……ってプロデューサーと真美だけじゃない」

亜美が帰ってきたのを皮切りに竜宮小町のメンバーが続々と事務所に入ってきた


……どうやら竜宮小町は今仕事を終えてきたところらしい


「おぉ、お帰り皆。仕事どうだった?」
兄ちゃんはさっきとはうって変わってにこやかな表情で竜宮小町のメンバーにそう尋ねた

「ん~とね、もうトップアイドルも夢じゃない→!って感じだったよ!」
兄ちゃんに仕事のこと尋ねられたのが嬉しかったのか亜美もとても嬉しそうにそう答えた

「確かに今日はなかなかの出来だったわね」
りっちゃんもそれに同調する



「……真美もう帰るね」
この場にいるのはなんだか少し場違いな気がしてきた真美はそそくさと退散することにした

「あら~。真美ちゃんさようなら~」
返事をしたのはあずさお姉ちゃんだけだった


あそこで事務所を出たのは正解だったのか……
兄ちゃんは真美が突然帰ったことを不自然に思ってくれるだろうか……

そんな自問自答を繰り返す
しかし今更事務所には戻れない……

真美の悩み……
それは亜美についてだった


真美と亜美は皆さんもご存知の通り双子のアイドル
765プロに入ってからも昔はいつも一緒に仲良く話していた

……しかし

ある時からその関係は崩れていった


……そう、亜美が竜宮小町のメンバーに選ばれたのだ

なぜ真美ではなく亜美が、と言う思いがないわけでもなかったが
最初は純粋に竜宮小町に選ばれた亜美を祝福し、共に喜んだ

そしてすぐに追いつけると思っていた


亜美は竜宮小町としてのデビューを皮切りにどんどん多忙になっていった
……そして真美と亜美の会話はめっきり減ってしまった


真美一人で過ごす時間が増えるにしたがってなぜ亜美だけが……という思いは強くなっていった

765プロ全員が売れっ子になった今でもやはり765プロを引っ張って行っているのは竜宮小町だった
……真美ではなく亜美の方が人気が高いのは言うまでもなかった

亜美は近そうで手の届かない場所に行ってしまっていた


双子でも真美の方がお姉ちゃん、ということがこの思いをさらに強くさせた


いつもまこちんは言っている
「ボクを女の子として見てほしい」と

しかし女の子として見られないのなんてまだいい方だ
真美は双子の「人気のない方」として扱われるのだから

「真美を真美として見てほしい」
日に日にこの思いは強くなっていった


真美は溜め息をつきながらそんなことを考えて肌寒い街を歩いていた

……どれだけ時間がたっただろうか

聞き覚えのある声が前方から聞こえてきた
ふと顔を上げる

あれは兄ちゃんと……竜宮小町のメンバーだ

……亜美と兄ちゃんが楽しそうに会話しているのが目に付いた

兄ちゃんは真美と亜美だったらどちらを選ぶんだろうか……
そんな疑問がわいてきた

……今度確かめてみようかな


――翌日

「おっはっよ→!」
真美はそう言って扉を開けた

事務所には兄ちゃんとはるるんが居た

今日は午後からはるるんと……亜美との仕事が入っている
亜美は午前個別の仕事が入っているらしく朝早く家を出て行っていた


「ねえ真美聞いてよ、プロデューサーさんが……」
「ごめんって!ホントにゴメンって!」

……兄ちゃんとはるるんはなにやらもめているらしい
「どしたの、はるるん?」

「私がね、プロデューサーさんに私の特技について聞いたらプロデューサーさん、『これといってないよな……』って言ったんだよ!?」
はるるんは若干涙目になりながら真美に訴えた

「いや、ホントにゴメンって!」
兄ちゃんも必死に謝っている


しかし…そんなに単刀直入に言うとは……
「兄ちゃんって結構ひどいんだね→…。そんなこと言う兄ちゃんも兄ちゃんだよ→」

「いや、俺も結構考えたんだけど思いつかなくて……」
兄ちゃんは申し訳なさそうに横目ではるるんを見ながら答えた

「お菓子作りとかあるじゃん!……兄ちゃんははるるんが作ってくるお菓子ただぱくぱく食べてただけなんだね→」
真美はジト目で兄ちゃんを見ながら言った

「あ……。お菓子作りがあったか……」
真美の答えを聞いて兄ちゃんは頭を抱えながらつぶやいた


「……もう、いいです。どうせ私は無個性ですよ……」
……はるるんはそっぽを向いてそう言うと事務所の奥のほうに歩いていった

「あ…春香……!」
兄ちゃんは何かはるるんに声を掛けようと手を伸ばしたが掛ける声が見つからなかったのか兄ちゃんは何もいえなかった


「……兄ちゃん、はるるん結構傷ついてたよ→?」
真美は事務所の奥のソファーの上で体操座りをしているはるるんを眺めながら言った

「まいったなぁ……」
兄ちゃんは死にそうな顔で呟いた


「真美、春香の機嫌を治すいい方法ないかな…?」
兄ちゃんは相変わらず死にそうな顔で呟いた


……流石に兄ちゃんがかわいそうになってきた真美は何かいい方法はないか考えることにした

土下座……はちょっとあれだし→


……あ、そうだ!

「じゃあさ、何でも言うこと聞くから機嫌直してくれ→!ってのは?」
真美は軽く俯いている兄ちゃんの顔を見ながら言った

兄ちゃんは顔を上げて答えた
「……なるほど。……確かに機嫌は治してくれそうだな


「……じゃ、謝ってくる」
兄ちゃんは若干緊張した面持ちでそういうとはるるんの方にに歩いていった


……そういえば兄ちゃんなんで真美が突然帰ったのか聞いてこなかったな→
……まぁそれどころじゃなかったっぽいけど→
でもやっぱ兄ちゃんって亜美か真美どっちか居たらそれでいいんじゃ……

そんなことを考えていると事務所の奥ではるるんと兄ちゃんの話し声が聞こえてきた

…どうやら成功したらしい


「はるるん機嫌治ってよかったね→」
真美はさっきと打って変わってほっとした面持ちの兄ちゃんに言った

「あぁ、ありがとうな真美。こういうときに真美は亜美よりお姉ちゃんなんだなーって実感するよ」

……!
これはあの質問をするチャ→ンス!

「じゃあさ→!真美と亜美どっちが……」
「ハロハロ→ン!亜美参上だよ→!」

……真美の目論見は事務所に帰ってきた亜美によって阻止された


「おぉ、亜美か……ってもう仕事の時間じゃないか!真美、春香準備して!」

「え!?兄ちゃん突然すぎるよ→!!」
「ぷ、プロデューサーさん!私全然準備できてないですよ!?」
兄ちゃんの一言で真美とはるるんは大急ぎで準備を始めた

その後真美たちは準備を終えると兄ちゃんの車で仕事場へと向かった


「休憩は五分でーす!」
スタッフの声がスタジオに響いた

結局あの後仕事場にはギリギリに到着し息つく間もなくスタジオ入りした
そして今やっと休憩となり一息つけることとなった

ふと周りを見回すと兄ちゃんの後姿が目に入った
スタジオの端で何もせず暇そうに立っている

……んっふっふ→、真美良い事考えた→

寝るの?
保守るのは構わんけど、その代わり、もしアイマスSS他の作品かいてたら教えてほしい

>>69
雪歩「私、運動御地だし……」
みたいなSS書いた

あと春香以外ヤンデレのSSをのっとった
スレタイは忘れた



じゃ寝るから!
朝戻って来たい

おはよう諸君

気持ちの良い朝だ

保守ありがとうございます


再開します


そろりそろりと背後から兄ちゃん近づき、真美の小さい手で兄ちゃんを目隠しする

「はい!問題で→す!私は亜美でしょうか→、真美でしょうか→!」
……我ながら最初に亜美をもってきたのを少しズルイと思った

「うわ!?ちょ……!」
兄ちゃんは突然の出来事に動揺している


「ほらほら→、早く答えて→!」
真美は動揺している兄ちゃんを急かした

兄ちゃんは堪忍したのか落ち着きを取り戻して言った
「……目隠ししてる人と声出してる人が違う、とかないよな?」

「ないよ→。そんなこといいから早く答えてよ→!!」
実際、真美としても亜美が来てややこしい事になってたら困るので早く答えてもらいたかった


「分かった…。ズバリ………!俺の後ろにいるのは………!」


「………亜美?」


兄ちゃんの目を覆っていた手から力が抜け腕はまるで真美の物ではないかのように体の横でダランとぶら下がった

兄ちゃんはゆっくりと振り返る
答えたときに何も返答がなかったことから半ば悟っていたかもしれないが
改めて自分の背後にいたのが亜美ではなかったことをその目で確認してどんなことを思ったのだろう


「休憩終わりでーす!スタンバイしてくださーい!!」
再びスタジオにスタッフの声が響く

何も言わず、何も言えず、言いたくて、もどかしい気持ちになった


……そんな気持ちをごまかすように真美は何も言わず足早にステージに向かった


「お疲れ様でしたー!」


少し収録は伸びてしまったものの仕事は無事終わった

真美は軽く辺りを見回した
兄ちゃんの姿は見えない

「兄ちゃんならはるるんと次の仕事場に行ったよ?」
真美が誰を探しているのか分かったのか、亜美は真美にそう言った


幸か不幸か兄ちゃんはスタジオから去っていた
……はるるんが早速願い事を使ったのかな?

兄ちゃんはいったいどんな気持ちで次の仕事現場に向かったのだろうか……

そんなことを考えつつ真美はスタジオを後にした


吹きすさぶ冷たい風が頬を貫く
真美は亜美と横一列になって冬の街を歩いていた

「寒いね→、真美」
亜美は白い息を吐きながら呟いた

……さっきのこと、亜美が知ったらどう思うんだろうか
そんなことを思いながら真美は我ながらそっけなく相槌を打った
「……そだね」

「……真美なんかさっきからおかしくない?」

………遂に亜美に指摘された


言い逃れようにも言い訳が思いつかなかったし
言い逃れするくらいなら……という思いが頭をよぎった

「実はさ→」
……気づいたら真美は口を開いてしまっていた

「…休憩のときにね→。……兄ちゃんに目隠しして私は亜美でしょうか真美でしょうか→って聞いたの」
亜美は真美の顔をまじまじと見つめて話を聞いている

「……そしたら兄ちゃん、真美のこと亜美と間違えてさ→。……真美、兄ちゃん信じてたのに」
そんな亜美と目も合わせようとせず真美は軽く俯きながら続けた


「うわ→。兄ちゃんサイテ→だね」
亜美は淡々と呟いた
思いの外ケロッとしている

そんな亜美の様子を見て
真美の思いも知らずに……という言葉が浮かんできたが我慢した


「でもさ→」

亜美は鉛色の雲で覆われていてで星や月なんてろくに見えない夜空を見上げ言った
「それって兄ちゃんが亜美か真美、どちらを選べって言われたら……」


「亜美を選ぶってことじゃない?」


「え?」
真美は思わず亜美の顔を見た
亜美は無表情で空を見上げていた

いつものような無邪気な笑顔はそこにはない


真美の視線を気にせず亜美は続けた
「だってさ、竜宮小町に選ばれたのも亜美だよ?」

「傍から亜美も真美も違いなんてそんなにないはずだよ?」

「わざわざ双子のアイドルを引き離すなんてデメリットなはずだよ?」

「亜美より真美の方がお姉ちゃんなんだよ?」




「……だけど亜美は選ばれた」

「………今も昔も、亜美が選ばれてきた」


「これって真美より亜美が優秀ってことじゃない?」


亜美の言葉を聞きながら以外にも冷静に働いている自分の頭に驚いた
亜美は真美が気にしていたことをすべて言った

流石双子、という所だろうか

でも一つだけ真美の想像と違う点があった


……亜美は子供

………真美と亜美を比べれば真美の方が大人だと思っていた

……しかしそれは違った

………亜美も真美も知らぬ間に大人になっていたのだ


まぁ驚くほどのことでもないか……
双子だし……

「……いつからそう思ってたの?」
真美は純粋な疑問を亜美にぶつけた


「ん→……。竜宮小町に入ったころからかな」


亜美の答えは真美の想像を再び覆した

亜美は真美よりずっと早く……


……大人になっていたのだ


じゃあ亜美はずっと真美のことを……?
そんな考えが浮かぶとさっきの冷静な思考は吹き飛び怒りが思考を支配した

「じゃあずっと亜美は真美のことを……見下してたの?」


「言い方は悪いけど……。まぁ負ける気はしなかったよ」


……亜美が肯定したことで真美の怒りはさらに加速した

真美はいつか追いついてみせるって思ってたのに………!


「竜宮小町に選ばれたのはりっちゃんが総合的に見てバランスがいいって思っただけで
それが真美より亜美が優れていることの証明にはならないでしょ!?」
真美は立ち止まって亜美に向かって声を張り上げた

「そかな→。りっちゃんのことだから出来るだけ優秀な方選ぶと思うけどな→」
そんな真美とは対照的に亜美は冷静に答えた

……真美の顔を見ようともしない


「じゃあ具体的にドコが優れてるってわけ!?」
真美は立ち止まろうとしない亜美の腕を掴み言った

「ん→、例えば性格……とか?真美って亜美に比べると少し暗いよね→」

……暗い?

………確かに真美は亜美に比べると大人しくて落ち着いているって言われたことはある

でも、それが優れてる点?

……いや、でも性格以外に真美と亜美にどれほどの違いがあるだろうか


「それにさ→」
思いを巡らす真美を無視して亜美は続けた


「兄ちゃんも真美だったらもし間違ってても良いかな→って思って亜美って言ったんじゃないの?」
真美が一番気にしていたことを亜美は指摘した

「兄ちゃんがそんなこと思うわけ……!」

「でも確立二分の一だし→、運任せだったらそういう決め方もアリじゃない?」

「っく……!」
真美は何も言えなくなり泣きながら駆け出した

背後で亜美が何か言ったのが聞こえたが気にせず走り続けた

亜美の考えも
兄ちゃんが真美と亜美を間違えたことも
真美より亜美が優れているかもしれないという事実も

そして何より亜美に追いついてみせると考えていた過去の自分

すべてが悲しかった


泣きながら風を切った
涙で濡れた頬がとても冷たかった

服の袖で涙を拭ったがすぐまた目から涙が零れてきた

次第に力が抜けていく脚で地面を蹴りながら真美は765プロの事務所を目指した


なんて言ってくれるかは分からない
でも、兄ちゃんの声が聞きたかった

……もう帰ってしまったんじゃないか
そんな考えが一瞬よぎり再び脚に力が入った

……どれだけ走っただろうか

時間がなくても車をとばせば遅刻ギリギリにたどり着ける距離にあった仕事場が幸いし思いの外早く事務所にたどり着いた


外から事務所の窓を見上げる

765の文字が浮かび上がっているのが見えた

明かりはまだ灯っていた


真美はビルの扉を開け階段を一気に駆け上った

そして事務所の扉の前で立ち止まった


事務所の灯りが灯っていたとしても兄ちゃんがまだ事務所に残っているとは限らない
ふとそんな考えが頭をよぎったが真美はそんな考えを振り払うように事務所の扉を開けた


事務所の奥へ進む


そこにはあのときと同じようにノートパソコンに向かう兄ちゃんがいた


真美の気配を感じ兄ちゃんは顔を上げた
そして兄ちゃんの顔は一瞬にして凍りついた

「め、目が赤いぞ?……泣いてるのか?」
兄ちゃんは立ち上がりながら確認するように言った

そんな兄ちゃんを見ていると様々な感情がこみ上げてきて乾きかかっていた頬を再び涙が湿らせた

「兄ちゃん……!」
思わず真美は泣きながら兄ちゃんの胸元に飛び込んだ

「ま、真美……。……ごめんな、俺のせいだよ……な?」

兄ちゃんの言葉に対し兄ちゃんの胸の中で真美は泣きじゃくりながら首を振った

「ち、違うのか?何があったんだ?」
兄ちゃんは若干ほっとした様子で言った

……その問いに答えるのには真美が落ち着くのを待たなければならなかった


「……落ち着いたか?」
しばらく経って兄ちゃんはやさしく真美に尋ねた
真美は黙って頷いた

「……何があったか話せるか?」
再び真美は頷いた

……でも


「……そのまえに一つだけいい?」



「どうしてあの時亜美って言ったの………?」


真美の言葉を聞き兄ちゃんは再びさっきの不穏な表情に戻った
……が、次の瞬間には意を決した顔になる

兄ちゃんは軽く俯きながら言った
「………声だけじゃ分からなかったんだ。……だから先に名前が出た亜美を選んだんだ」

……!
………あのときの真美の思いつきに兄ちゃんが引っかかったってこと?
真美は兄ちゃんが亜美を選んだ本当の理由を知り安堵の溜め息をついた

「……もしかして泣いてるのは亜美が関係してるのか?」
察しのいい兄ちゃんは真美に尋ねた

「……うん」
真美はぽつりぽつりと先ほどあったことを話し始めた

「………亜美にね、兄ちゃんが真美の声を聞いて亜美って答えたことを話したら」
「……それは真美より亜美の方が優秀だから兄ちゃんが亜美を選んだんだって」
「……亜美の方が優秀だから竜宮小町に選ばれたんだって」

「……亜美がそんなことを?」
兄ちゃんは神妙な面持ちをして言った

「……ねぇ兄ちゃん」
真美はさらに言葉を紡いだ
「兄ちゃんは真美と亜美どっちを選ぶの……?」


数秒の沈黙が二人の間に流れた
兄ちゃんは迷っているのだろうか……?
それとも何か別の理由で……?

真美がそんなことを考えていると
兄ちゃんは先ほどの表情を崩さぬまま言った

「……実はその質問をされるの一回目じゃないんだ」

「……え?」


「……兄ちゃんそれどういうこと?」
真美は兄ちゃんを問いただした

兄ちゃんは苦々しく呟き始めた

「……実は竜宮小町が結成されてすぐ後に亜美に同じ質問をされたんだ」

「俺はプロデュースするんなら、って意味で亜美はそんなこと言ったんだと思ってさ」


「律子がバランスを考えて亜美を竜宮小町に選んだんだから、俺は『真美を選ぶ』……って言ったんだ」

……!
……だから亜美は?


「……亜美はずっとそのこと気にしてたのかもな」

「………だから真美に強く当たってしまったんだと思う」


話し終わった後も兄ちゃんは俯いたままだった


亜美のことも気になるけど……

……真美はまだ肝心なことを話してもらってない

「………じゃあ、そういうのなしだったら真美と亜美どっち選ぶの?」
真美は兄ちゃんに再び尋ねた


「ま、真美それは……」

「兄ちゃん、実は亜美の真意に気づいてたんじゃないの?」
兄ちゃんが何か言いかけたところで真美はそれを遮るように言った

「……でもそんなこと言ったら面倒なことになるからプロデューサーの立場を利用したんじゃない?」


……兄ちゃんは何も言い返せなかった

確かに兄ちゃんは真美や亜美のことを傷つけないようにと思ってそう言ったのかもしれない

……でも結果的に兄ちゃんの言葉は誤解を招き亜美は傷ついた
……そのせいで真美も傷ついた
……兄ちゃんの本当の気持ちを聞いたらまたどちらかが傷つくかもしれない

………でも


「………真美は兄ちゃんの本当の気持ち知りたい」


「……ほんと、真美って鋭いよなぁ」
兄ちゃんは苦笑いしながら顔を上げた

「……分かった。それが亜美と真美のためになるなら話すよ」

「………俺がどちらを選ぶか」
そう言った兄ちゃんの顔からは先ほどの苦笑いは一瞬のうちに消えていた

真美はゴクリと生唾を飲み込んだ
事務所の中は特別暑いわけでもないのに体の心が熱くなり
口が渇いていくのが分かった

心臓の鼓動が頭の中に響く

兄ちゃんの一挙一動に目を配る

……兄ちゃんが真美と亜美どちらを選ぶのか分かる

そう思うと体が火照って仕方がなかった

兄ちゃんはゆっくりと口を開き、言った
「俺は……」





「………真美を選ぶよ」

祈るような気持ちで事務所の床を見つめていた真美は思わず顔を上げた
兄ちゃんはまた先程と違う表情
……恥ずかしそうな表情で少し照れながら横を向いていた
そのような表情が兄ちゃんの言葉は嘘ではないことを物語っていた

「……兄ちゃん!」
真美は思わず兄ちゃんに抱きついた

「うわ、よ、よせ!」
そう言いつつも兄ちゃんは抵抗しようとしなかった

真美は兄ちゃんの胸に顔をうずめながら尋ねた
「……どうして真美を選んでくれたの?」

「……ほら、今日だって真美は俺のこと助けてくれただろ?」

頭上で兄ちゃんの声が聞こえる
どのような表情かは窺い知れない

「それで、頼りになるかと思ったらやっぱりヤンチャでさ……」
「でもふとした時に一瞬だけまじめ…って言うか悩んでる顔してる真美を見たんだ」
「最初は気のせいかと思ってたけどだんだんそんな表情する回数がふえってってる気がしてきたんだよ」

「……それが最近で一番の悩みだったよ」

……兄ちゃんの悩みって真美についてだったんだね→


「そんな真美を見てたら力になってやりたい…って思いが日に日に強くなっていったんだ」

「でも真美はいつもどおり振舞おうとしてるからどうしたらいいかわからなくてさ……」

「それで気づいたら亜美より……いや、誰よりも特別な存在になってた…って感じかな」

真美は顔を上げ兄ちゃんの顔を見た
兄ちゃんは照れ笑いしながらこちらを見返した
そしてゆっくりと口を開いた


「……真美も兄ちゃんが大好きだよ」


「……でも真美兄ちゃんが真美と亜美間違えたことまだ許してないから」
真美は再び顔を兄ちゃんの胸にうずめ敢えて表情が分らないようにして言った

「ゆ、許してくれよ……。……な、何でも言うこと聞くからさ」

……兄ちゃん、真美が伝授した言葉ばっちり使ってるし

「じゃあさ……」
再び顔を上げ兄ちゃんの顔に近づける

真美は兄ちゃんが真美と亜美どちらを選ぶか聞いたとき以上に緊張しながら言った


「兄ちゃんなりの"お詫び"……してほしいな」


―――

――



―――どれくらい時間が経っただろうか

…いや、時間なんてそれほど経っていないかもしれない
……ただこの時間、空間が真美にとって堪らなく愛しかった


頭の中でそんな柄にもないロマンチック→な言葉を並べながら
真美は兄ちゃんと見つめ合っていた


しかし突如、事務所の扉が勢い良く開かれる音が沈黙を破った
真美が思わず振り向くとそこには……


亜美がいた

すいませんでかけます

遅くても夕方……夜には再開したいと思います

ほんとすいません

★お出かけ代行始めました★
お出かけしたいけど時間が無い、目的地に行きたいけど道が分からない、そんなときに!
散歩で鍛えたスタッフたちが一生懸命あなたの代わりにお出かけしてくれます!
モチロン目的地を用意する必要もありません!スタッフがあなたの家の近くからお出かけします!
1時間\1200~ 24時間営業 年中無休!

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     , ' ⌒´` ,
      l  ノ`´)リ  お出かけ代行では同時にスタッフも募集しています
     iゝ(゚ ヮ゚ノ!  筋肉に自身のあるそこのアナタ!一緒にお仕事してみませんか?
    ノ ⊂('y)つ  お出かけするだけの簡単なお仕事です!

    (,_ /j__,ゝノ
       `し'ノ

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