男「鬼と豆のハロウィン」 (36)

ピンポーン

男「はーい、どちらさん?」ガチャ

女「とと、とりっくおあ……とりーとっ!」

男「おう!」ビシィ

女「痛ッ! な、なにするんですか!」

男「鬼大豆だ。節分の時の余り物」

女「私は鬼じゃないです!」

男「似たようなもんだろ。ハロウィンと節分も似てるっちゃ似てるし」

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女「全然違います! そもそもお菓子じゃないですよねこれ!」

男「チッチッチッ。鬼大豆だって立派な菓子だ。実家じゃ季節構わず、老若男女問わず定番のお菓子といえばこれだ」ポリポリ

女「嘘だっ! 絶対今考えたでしょ! というかそんな古い大豆食べちゃって大丈夫なんです?」

男「……まあ、大丈夫だろ。密封されてたし。とりあえず、菓子はやったろ? さあ帰った帰った」ガチャ

女「い~や~で~す~」

男「こら、足を扉の隙間に挟むんじゃない。新聞の勧誘員かお前は」

女「お菓子くれるまで帰りません! くれないならイタズラしちゃいますよ?」

男「ほほう、どんなイタズラだ?」

女「そーですねぇ……たとえば先輩がベッドの下に隠してるえっちな本の内容を職場のみんなにバラすとか……」

男「地味だけど効果的な社会的抹殺はやめたまえ」

男「そもそもベッドの下とかそんなベタな場所には隠してないぞ。どんだけテンプレ人間なんだよ、お前の中の俺は」

女「あ、そうでしたね。本当は本棚のスポーツ雑誌の間に挟んであるんですもんね!」

男「……な、何の話かな~後輩クン?」

女「とぼけてもダメですよ? いいですよね~、年上の巨乳お姉さん…私も好きですよ! ……ちょっと内容がハードでしたけど!」

男「…わかった、俺の負けだ。……何が望みだ?」

女「ふふふ、最初からそういえばよかったんですよ。素直な先輩って、嫌いじゃないですよ」

男「俺はいつだって素直だろ。…それで? あいにくウチにはさっきの豆以外菓子に分類されるものは何もないぞ?」

女「ノープロブレムですっ! 昔の偉い人はこう言いました。『お菓子がないなら、買いにいけばいいじゃない』って」

男「『パンがなければ、お菓子を食べればいいじゃない』の間違いじゃないのか?」

女「細かい違いはこの際どうだっていいじゃないですか! さ、行きましょう! 私ケーキが食べたいです!」

男「もうハロウィンとか関係なくね…?」

女「何か言いましたか? 年上のお姉さんにあんなことやこんなことをされたいド変態の先輩?」

男「オーケー、落ち着こう。シャワーだけ浴びてくるから、ちょっと待ってろ」

女「先にシャワー浴びてくるんですか!? もう……先輩ったら大胆です! そういうイタズラでもいいならお菓子は諦めますけど」

男「…ッ! バカ言うな。俺はお前にそういう感情は持ってないって前から言ってるだろ」

女「巨乳のお姉さんじゃないですもんね~、残念無念」

女「でも先輩、知ってました? 巨乳ってアラフォー近くなると垂れるんですよ? ほら、後のことも考えるなら、私ってお買い得だと思うんですけど」

男「はいはい。とにかくシャワー浴びてくるから」

女「軽くスルーしないで下さいよ。あ、寒いから中で待ってますね! よーし、先輩の新しいコレクション探しちゃおーっと!」

男「……やめて、割とマジで」


◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


サァァァァァァァ

男「(はぁ、せっかくの休みなのに…いや、休みだからこそ部屋でグータラ過ごすのも勿体無いか)」

男「(あいつ…ほんといっつも元気だよな。昔からそうだったが…)」

男「(好奇心の赴くままに俺をあっちこっち引っ掻き回して、そのくせそそっかしくて目が離せない奴だよな…)」

男「(一人っ子だった俺にとっては…まるで妹みたいで、一緒にいて楽しかったなぁ…)」

男「(けど、さすがに最近のあいつの行動には、驚かされるっていうか、やり過ぎっていうか…)」

男「(やっぱり、あの時から……あの事件のせいで…………)」

男「はぁ、どうしたもんかね…」ハァ

女「なに景気の悪いため息ついてるんですか?」ガラガラ

男「お、おまっ…な、何しに来た!?」

女「それはもちろんナニを…じゃなくて、お背中流そうと思って!」

男「な、何考えてんだよ! というかま、前、隠せ! タオルか何かで隠せ!」

女「いいじゃないですか見たって。別に、減るものじゃないですし…」

男「それ、女の子が裸を見せつけながら言う台詞じゃないから! むしろ男の台詞だから!」

女「昔は一緒にお風呂入った仲じゃないですか! 今更恥ずかしがることもないですって…」

男「小学生に上がるか上がらないかの話だろ!? あの時と今じゃ全然違う!」

女「そんなこと言って…先輩、もしかして私の身体に欲情してるんですか? 思わず昇天するほど嬉しいですね!」

男「断じて違うぞ! 教育上大変よろしくないから言ってるだけだ!」

女「そこまできっぱり言われると傷つきますよ!」

男「とにかく出てくか隠すかしろって…いや、出てけ」

女「じゃあお言葉に甘えて…隠しちゃいます///」

男「日本語おかしくね?」

女「ほらほら、遠慮なさらずに~」

男「遠慮してねえから! とにかく出てけ!」

女「でも先輩、股間の先輩は正直ですよ?」ジー

男「なっ」

男「いやこれは……不可抗力っつうか……」

女「お背中、流すだけでいいですから…ね? ほんとにそれだけしたら出ていきますから」

男「……好きにしろよ」

女「もう先輩ったら、素直じゃないんですから」


◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

女「うわー、先輩の背中ってこんなに大きかったんですね~。洗い甲斐があります!」ゴシゴシ

男「……なあ」

女「どうかしました? あ、痒いところあります?」

男「…いつまでこんなこと続けるつもりだ?」

女「えっと、先輩に振り向いてもらえるまで…ダメですか?」

男「ずっとじゃねーか」

女「あ、バレました?」

男「バレバレだ。…俺なんかのどこがいいんだよ?」

女「うーん、どこなんでしょうね。正直、私にもわかりません」

男「…なんだよそれ。もっとこう…顔がいいからとか、面倒見がいいとか、実は料理が上手いとか色々あるだろ?」

女「え、料理上手かったんですか? 初耳なんですけど」

男「まあ、一人暮らし始めて結構経つしな…俺の作る飯、同僚達の間じゃ評判いいんだぜ?」

女「料理のことよりも、人並みに同僚と付き合いがあるという事実に驚きを隠せません。先輩ってそんなに社交的でしたっけ?」

男「…色々あんだよ。やっぱ人間、一人では生き辛いしさ」

女「先輩には私がいるじゃないですか!」

男「お前は……またちょっと"違う"じゃねえか」

女「…………」

男「す、すまん……」

女「わかってるつもりですよ。私の立場くらい……」

女「ここに来ちゃいけないことくらい……」

男「………(気まずい)」


サァァァァァァァァァァァァ

男「……あのさ」

女「気休めなら、いらないです…」ゴシゴシ

男「気休めじゃないから」

女「聞きたくないです。振り向いてくれないなら、先輩が何を言っても私には響きませんよ…」

男「なら、振り向く」クルッ

女「そういう意味じゃなくて……」

男「まぁ、聞けよ」

男「俺は別に一言も、お前が迷惑だなんて言ってない。ここに来るなとも言ってない」

女「口にしなくてもわかりますよ。迷惑じゃないわけないじゃないですか。こんなストーカー紛いの子」

男「自覚あったんだ。…じゃなくて」

男「…お前は好きで今ここにいるんだろ? ここに来るのにはそれなりの理由があるんだろ?」

男「俺は別にそれを咎めはしないよ」

女「…………」

男「どした?」

女「…………ずるいです」

男「ずるい?」

女「先輩は、ずるいです。いっつもいい加減で、意地悪で、グータラなロクデナシのくせに…言うことと顔だけはカッコ良くて…」

女「バカな話ばっかりしてるくせに、私の気持ちも、ここにいる理由もわかってて……わかっててそんなこと言うなんて、ずるいですよ」


男「………」

女「わかってますよ…このままじゃ、このままじゃいけないことくらい。私にだって…」

女「でも……」

女「私は…」

男「……もういい。もう言うな」

女「…………」

男「わかってるよ。お前の気持ち。…お前が苦しんでることも。全部俺のせいなのも」

女「だったら……なんで…」

女「なんで……ひっぐ……」

女「せんぱいは………ぐすん」

男「…………お前が満足したら、いなくなっちまうんだろ?」

女「…………」

男「この世に未練がなくなったら、成仏するんだろ?」

女「…………」

男「俺は…嫌だ。たとえお前がこの世の理から外れた存在になっても…お前はお前だから……」

女「せん…ぱい…」

男「お前が傍にいるのが当たり前になり過ぎててさ……ワガママなのは解ってる。解ってるけど……けどさ……」

男「あの日から……お前が死んでしまったあの日になってようやく気付いたんだ」

男「バカみたいだよな、いなくなって始めてわかるんなんてさ…」

男「だから、幽霊になったお前と、こうしてまた言葉を交わせる事が嬉しくて仕方なかった」

男「でも、ホントの気持ちを言ったら、お前が何処かへ行ってしまうんじゃないかって……ずっと……怖くて」

男「だから……」

女「……大丈夫ですよ。私、先輩を一人ぼっちになんてしません。ずっとこうやって、傍にいますから…」

女「……続き、聞かせてください」

女「ちゃんと最後まで、先輩の口から直接聞きたいんです。…私だって、女の子なんですよ?」

女「惚れさせたなら、責任とってくださいよね?」

男「……わかったよ」

男「一度しか言わないからな。よーく聞けよ?」

女「……はい!」

男「お前のことが……好きだ」

男「俺が死ぬまで、いや、死んでも傍にいて欲しい」

女「…私もです、先輩」

女「…………えへへ…嬉しいなぁ」

女「やっと言ってもらえた。これでもう、思い残すこともないかな……」

男「お、おい!」

女「もちろん冗談ですよ? あれ、本気にしちゃいました?」

男「お前なぁ…」

女「ドッキリ大成功ですねっ!……ふわっ!?」

男「本気で心配……したんだぞ」ギュッ

女「せ、先輩……!?」

男「お前がいなくなったらどうしようって…俺、ずっと怖くて怖くて…」

女「大丈夫ですよ、先輩……私の居場所は、ここですから」ギュッ

男「……ほんとうに?」

女「ほんとですってば、疑い深いですねぇ~」

男「…よかった」

男「ほんとによかった……」ウルウル

女「……あれ、先輩…もしかして泣いてるんですか?」ニヤニヤ

男「ッ! な、何言ってんだ! こ、これは石鹸が目に入っただけだ! やるからにはちゃんと洗えよ!」

女「はいはい、そういうことにしておきますよ」

男「~~~~~!!」


◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

女「ん、意外といけますねこれ」ポリポリ

男「結局食ってるし…」

女「あ、私って何個食べればいいんでしょう? 14……いや、18かな?」

男「今は節分じゃねえし好きなだけ食えばいいだろ。どうせ余り物だ」

女「そっか、それもそうですよね! じゃあ全部食べちゃおっかな!」

男「…腹壊すなよ」

女「大丈夫ですって、そもそも私、壊すお腹がないですし」

男「それもそうか」

女「はい! あ、でも心配ありませんよ! あんなことやこんなことはちゃんとできますから!」

男「…ッ! お、お前なぁ…」

女「こう見えて私、処女なんですよ? 優しくしてくださいね!」ニコッ

男「うるせー、早く食っちまえ!」

女「食べたら私を食べるんですね! わかりました、急いで食べます!」

男「食べないから!」

女「あ、そうだ…ヤるって話で思い出しました。前から言ってみたかったことがあるんですよ。ハロウィンに」

男「…なんだ? どうせまたくだらないことなんだろうが、言ってみろ」

女「trick or fuck……犯してくれないならイタズラしちゃいますよ?」

男「…ハハッ、最低だなそれ」

女「そうですか? 韻が踏めててなかなかいい出来だと思うんですけど…」

男「酔っ払ったおっさんのダジャレレベルだぞ、それ」

女「酔っ払いをナメちゃいけませんよ! 結構ハイレベルなギャグを飛ばしてくるんですよ、あの人たち」

男「知らねーよ。と、とにかく今日はダメだ」

女「ちぇ……先輩ってやっぱり奥手ですよね。ま、そこも可愛いから好きなんですけど」

男「奥手言うな。気持ちの整理とか、色々あるだろ……」

女「わかりました。じゃ代わりにチューしましょ!」

男「…ッ! 今、ここでか?」

女「ダメですか……?」ウルウル

男「(うっ、その眼には……弱い…)」

男「わ、わかったよ。ほら、こっち来いよ」


女「うわぁい! 今行きます!」トテトテ


男「…………」ジー

女「そ、そんなに見つめられると…照れちゃいますよ///」

男「幽霊でも、照れるんだな」ニヤリ

女「そりゃ照れますよ…先輩の前ですもん」

男「それじゃ……えっと」

男「それじゃ……えっと」

女「いいですよ…先輩、来てくださ…んんんっ///」

男「(これが……後輩の唇……)」

女「(ああ……私、キスされてる…先輩に……嬉しいな……)」

男「(ほんのり温かくて……不思議な感触だ……幽霊なのに)」

女「(甘くて…蕩けちゃいそうです……)」

女「(ふふふ、お菓子……あるじゃないですか)」

女「(とっても甘い…甘いお菓子が)」










男「(大豆の味がする……)」

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