橘純一「森島部長と遊ぼう!」(170)

森島「橘君?君には視察に行ってもらいたいところがあるの」

橘「ど、土日にですか!?」

森島「今時休日出勤くらい普通でしょ?」

橘「……はい」

森島「そう……わかってもらえて嬉しいわ」

橘(ここのところ遅くまで残業続きでヘトヘトだったから、土日はゆっくりしようと思ってたんだけどなぁ)

橘(その残業も森島部長からの嫌がらせのようなものだったけど……)

橘(やっぱり、許してもらえないよね)

橘「部長、視察はどちらに?」

森島「それはね……」

森島「君には最近開発の進んでいる、例のリゾート地へ視察しにいってもらうわ」

橘「あぁ……この前の会議の議題になったあそこですか」

森島「視察はね、橘君?」

森島「……仕事を忘れて、心の底から遊んできてちょうだい?」

橘「え?どういうことですか?」

森島「一応、マーケティングはしているのだけど」

森島「社員の生の声が欲しいということでね」

森島「……公私混同も甚だしい君に白羽の矢がたったわけよ」

橘(ぼ、僕……そんなに公私混同してたかな?)

森島「それで、感想をレポートにして提出してくれればいいわ」

橘(レ、レポートとかあったら仕事を忘れられないじゃないか!?)

森島「せいぜい羽を伸ばしてくることね」

森島「……そうそう、視察には同行者がいるから」

橘「同行者、ですか?」

森島「一人では入り辛い場所や、やり辛いこととかあるでしょ?」

森島「だから、二人で視察してきて頂戴」

森島「あぁ、それと同行者は女性だから、粗相のないようにね?」

橘「じょ、女性なんですか!?」

森島「……嬉しそうね、橘君?」

橘「そ、そんなことは……」

森島「まぁ、それはいいのだけれど」

森島「土曜日の……朝9時に空港にきて?」

森島「旅券やその他の手配などは同行者に任せてあるから」

橘「……わかりました」

~土曜日~

橘「リゾートかぁ……仕事とかじゃなければ最高なのに」

橘「……スーツで来ちゃったけど、大丈夫だよな?」

橘「……そういえば、同行者って誰なんだろう?」

橘「教えてくれなかったんだよなぁ……部長」

橘「と、とにかく!待ち合わせ場所に急ごう!」

橘「粗相がないように……って言われてるしな」

~待ち合わせ場所~

森島「遅いわよ、橘君」

橘「ぶ、部長!?」

森島「ほら、早く搭乗手続きすませるわよ?」

橘「ど、同行者って……」

森島「……私だけど?」

橘(何てことだ……よりによって森島部長だなんて……)

森島「ところで何で君はスーツできてるの?リゾート地よ?」

森島「……もう、仕方ないわね」

森島「君の服は現地で買いましょう」

橘「は、はぁ……」

森島「ほら、行くわよ?」

橘「は、はい!」

~機内~

森島「橘君?水着は持ってきた?」

橘「は、はい!それは勿論です!」

森島「……遊ぶことには抜かりないのね」

森島「そうそう、視察の件で話があるわ」

森島「……視察中は私のことは『はるか』と呼びなさい」

橘「え?」

森島「リゾート地で部長だのなんだのきこえたら、他の方々が興醒めでしょう?」

橘「た、確かに……」

森島「……その代わり、といったらおかしいけど」

森島「私は君を『純一』と呼ぶから。構わないわね?」

橘「了解しました」

森島「純一?それでね……これは手配のミスなんだけれど」

橘(あ、純一って……帰るまでが視察です!みたいなことなのかな?)

森島「ホテルの部屋、一部屋しか取れてないから」

橘「えぇ!?」

森島「……これは私のミスよ。責めたければ責めなさい?」

橘「い、いえ!滅相もない!」

橘(森島部長がミスするなんてらしくないな……部下のミスは自分のミスってことなのかな?)

森島「……どんな服がいいかしらね?」

橘「え?」

森島「純一の服の話よ」

森島「いいのが手に入るといいわね」

橘「そ、そうですね!」

森島「……はぁ」

森島「純一?気まずいのはわかったから」

森島「正直なことを言えば、私も気まずい」

森島「だけどね、こんなギスギスした男女を他所から見たら、どう思う?」

橘「……余計な勘ぐりをしてしまいますね」

森島「それはリゾートには似つかわしくないわね?」

橘「その通りです」

森島「……だからね……そのっ……」

森島「し、視察の間だけは……あの日以前の……私達でいよう?」

橘「……も、森島部長!?」

森島「もう!私のことは『はるか』って呼ぶ約束でしょ!?」

橘「す、すみません!」

森島「なんなら先輩って呼んでもいーよ?」

橘「……それはさすがにどうかと思いますよ」

橘(森島……部長、切り替え早いなぁ)

橘(口調が一瞬にして変わるなんて)

橘(表情もどこか柔らかい感じになってるし)

橘(……僕も頑張らなきゃな!)

橘「は、はるか」

森島「なぁに?純一?」

橘「……その」

橘「色々楽しみだね!」

森島「うん!」

~現地~

森島「じゃあ、早速純一の服を買いにいかなきゃね」

橘「どこで買うんですか?」

森島「本当は街に出て買い物したいんだけど」

森島「洋服を見てるだけで一日が終わっちゃいそうだしね」

森島「だから~……もうあそこでよくない?」

橘「お、お土産屋でですか?」

森島「リゾート地なんだから、それっぽいシャツとか売ってるんじゃないかな?」

橘「かな~り浮かれた人の完成ですね」

森島「私が選んであげるから、きたいしててね!」

橘「……お手柔らかにお願いします」

森島「ぷっ……くくくっ……」

橘「は、はるか!?」

森島「ごめん、ごめん!」

森島「その……ね?」

森島「われながら面白いのを選んだなーって」

橘「こ、これ!背中に地名が入ってますよ!?」

森島「びっくりするほどセンスないよね」

橘「じゃ、じゃあ!他のに!」

森島「橘君?部長命令よ?その服で過ごしなさい」キリッ

橘「こ、こんなときばっかりズルいですって!」

森島「あははっ!私が気に入ったからいーの!」

森島「店員さん、これください!」

橘「……腹をくくろう、腹を」

森島「さて、と」

森島「荷物もあるし、とりあえずホテルにチェックインしに行こうか」

橘「そうですね、脱いだスーツ邪魔ですし」

森島「……その、本当にごめんね?部屋のこと」

橘「大丈夫ですよ、最悪床で寝ますから」

森島「あれ?添い寝してくれるんじゃないの?」

橘「え、えぇ!?」

橘(そ、そんな!添い寝……だなんて!何かいやらしいひびきが!)

森島「……純一?冗談だからね?」

橘「で、ですよね!」

~ホテル・客室~

森島「この部屋ひろ~い!」

橘「こ、こんな高そうな部屋だったんですか!?」

橘(ぼ、僕の稼ぎじゃこんなところこれないな……経費万歳!)

橘(それに……ソファがある!床で寝ることは避けられるな)

森島「ね、ね!純一!外を見てよ!」

橘「……う、海がすぐそこに!」

森島「このホテルはプライベートビーチを持ってるからね」

森島「さっすがリゾート地よね!」

森島「……早速だけど、泳ぎに行っちゃう?」

橘「い、行きましょう!」

橘(僕が先に着替えて廊下で待機、と)

橘(まぁ、さすがに)

森島「純一……私、水着に着替えるから……後ろ向いてて?」

橘(……な展開はないと思ってたけどね!)

橘(……今この部屋の中で森島部長着替えてるんだよなぁ)

橘(……覗いちゃう?)

橘(……って何を考えてるんだ、僕は!もういい歳なのに!)

橘(……きっと森島部長と触れ合ってるから、気持ちが若返っちゃってるんだな)

橘「はぁ……何で僕はあんな馬鹿なことを……」

森島「純一~?まだそこにいるよね?」

橘「は、はい!」

森島「あのさ~、お願いがあるんだけど」

橘「何ですか?」

森島「日焼け止め、塗ってくれないな?」

森島「背中に上手く塗れなくて~」

橘「あ、はい。それぐらいなら」

森島「じゃあ、部屋入って?」

橘「わかりました」

ガチャ

橘(こ、これは……!)

森島「年甲斐もなく、頑張ってみたんだけど……どうかな?」

橘(パレオってヤツだよな、これ)

橘(何ていうか……その)

橘(森島部長の妖艶な肢体とマッチしてて、凄くいい!)

橘「に、似合ってます!凄く!」

森島「そう?よかった!」

森島「日焼け止め、塗ってもらるかな?」

橘「は、はい!」

森島「私……背中弱いから……その……ね?」

橘「や、優しくします!」

森島「ふふっ、お願いね?」

橘「で、では!」

ヌリヌリッ

森島「…………あっ」ピクッ

橘「く、くすぐったいですか?」

森島「だ、大丈夫。気にしないで塗って?」

橘「はい、わかりました」

森島「…….んっ……ひぁっ……」

橘(こういうノリ……懐かしいな)

橘(しかし、スベスベでハリのある肌だなぁ……)

橘(僕の肌なんて、もう年相応にガサガサしてて弾力もなくなってきてるのに)

橘(すごいよなぁ……仕事漬けなのに、部長)

森島「……んっ……じゅ、純一?」

橘「は、はい!?」

森島「背中が終わったら、ついでにうなじの辺りも塗って?」

森島「塗るの忘れちゃってたからさー」

橘「わかりました」

橘(部長……髪の毛アップにしてるから、うなじがくっきり見えてるよ)

橘(……ゴクリ)

橘(だから!年甲斐もなく何やってるんだ、僕は!)

橘「塗り終わりましたよ」

森島「ありがとう、純一!……そういえば純一は日焼け止め塗ったの?」

橘「……すっかり忘れてました」

森島「だ、ダメだよ!大変なことになるよ!?」

橘「僕、日焼け止め塗ってきますね」

森島「待って!……私が塗ってあげるよ」

橘「えぇ!?」

森島「くすぐったいの……沢山我慢したんだから!」

森島「これは復讐よ!」

橘「そ、そんな!……や、優しくして下さい……」

森島「そこになおれ!このっ!このっ~!」

~プライベートビーチ~

森島「すごい……綺麗」

橘「間近で見るとやっぱり違いますね」

森島「来てよかったなぁ……」

橘「とりあえず、海に入りますか?」

森島「うん!入らなきゃ損だよね!」

タタタタ!……パシャッ

森島「純一~?早く~!」

橘「い、今行きます!」

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森島「大分遊んだね」

橘「久しぶりに海に来たんで、ついついはしゃいじゃいましたよ」

森島「疲れちゃったし、そろそろホテルの部屋に戻ろうか?」

橘「そうですね」

森島「じゃあ、戻ろう」

橘(……森島部長がシャワーを浴びてる間は僕は廊下で待機、と)

橘(楽しかったな、海)

橘(……しかし、身体の衰えを感じるな)

橘(ちょっと遊んだだけなのに、ドッと疲れが出てきちゃってる)

橘(…….そういえば、残業続きだったんだっけ)

橘「ふわぁ~……」

橘(……今晩はよく眠れそうだな)

橘(だって、もう眠いし……)

橘(……廊下で眠るわけには……)

橘(で、でも……す、少しだけ目を瞑るだけなら……)

橘「…………」

橘「スー、スー……」

橘「……ハッ!」

橘(しっかり眠っちゃってるじゃないか、僕!)

橘(に、二時間もたってる!)

橘(……もう森島部長、シャワーあがったよな?)

橘(とりあえず……部屋に入ろう)

橘「は、はるか~?入るよ?」

ガチャ

橘(あ、あれ?いない?)

シャー……

橘(何だ、まだシャワー浴びてるのか)

橘「……えっ?」

橘「だ、大丈夫ですか!?」

森島「……ごめんね」

森島「……わ、私……ね」

森島「楽しくて楽しくて……」

森島「……でも辛くて」

森島「じゅんい……橘君……?」

森島「橘君は辛くなかった?」

橘「……聞かないで下さいよ」

橘「辛くないわけないじゃないですか?」

森島「……ごめん」

森島「まず最初に謝ることがあるわ」

森島「視察なんて真っ赤な嘘」

森島「……そうでも言わないと橘君と二人で遊ぶなんてできないからね」

橘(そうだったのか……)

森島「ひびきちゃんのこと覚えてる?」

橘「塚原先輩のことですよね?」

森島「うん、」

森島「あのね……ひびきに『そんなに橘君が気になるなら素直になりなさいよ』って最近言われてね」

森島「……素直になってみた結果がこれ」

森島「私、ダメだね」

森島「あなたと再開してから、私はかき乱されっぱなしだったわ」

森島「……最初は辛かった日々のことを思いだして、毎日恨んでた」

森島「何とかクビにできないかな~、なんて最低なこと考えたりね」

森島「……でもね、私の恨みなんて大したことなかった」

森島「だって……君のことが気になって気になって……」

森島「仕事は順調かなー?とか同僚とは上手くやれてるかなー?とか心配しちゃったりして」

森島「それで自分の仕事が疎かになってるの」

森島「部長様なのにね……一番公私混同してるのは私だわ」

森島「あのね、橘君?」

森島「本当はね、君に冷たい言葉をかけたかったわけじゃないのよ?」

森島「……でも変なプライドみたいなのが邪魔してて、素直になれなくて」

森島「この後暇かな?お食事でもどう?」

森島「……って言うつもりが」

森島「書類整理お願いね?どうせ暇なんでしょ?」

森島「……って言っちゃったりね」

森島「それで『私のせいで橘君が会社をやめちゃったらどうしよう!?』なんて心配し始めて、夜も眠れなくなったりね」

森島「私、大人になれたと思ってたけど……全然そんなことなかった」

森島「私はあの時から一歩も動けてない」

森島「勉強して、仕事して、偉くなって……動いた気になってただけだった」

森島「それで……時々ひびきに会っては愚痴ってたわけなんだけど」

森島「ついにひびきも我慢できなくなったみたいで」

森島「『素直になりなさい!』っていわれちゃったわけね」

森島「話は最初に戻るけど」

森島「それでこうなったわけ」

橘「…………」

森島「笑い話にもならないよね、こんなの」

森島「せっかく橘君と遊ぶんだから、思いっきり遊ぼうと思って」

森島「…….高校の時は結局下の名前で呼び合う仲には慣れなかったから、それっぽい理由をつけて下の名前で呼ばせようとしたり」

森島「辛気臭いの嫌だから、妙にテンション上げて、『まだ明るかった頃の私』を演じてみたりね」

森島「最初の方は演技だったんだけどなぁ」

森島「……橘君もあわせて演じてくれてたんでしょ?」

森島「私……演技のはずが何だか楽しくなってきちゃってね」

森島「気付いたら、自然と明るく振舞ってて」

森島「……そんな自分に気付いて、『あの頃にはもう戻れない』って実感して」

森島「それで落ち込んじゃって」

森島「何て面倒臭い女なんだろう、私って」

橘「部長……」

橘「僕も同じです」

森島「え?」

橘「部長の言う通り、僕も無理に明るく振る舞うようにしてました」

橘「でも……段々楽しくなってきて」

橘「年甲斐もなく馬鹿なことを考えては自分にツッコミいれてニヤニヤして」

橘「部長…….いえ、先輩と初めて出会った頃ってこんな感じだったなぁって」

橘「先輩のお陰で毎日が楽しかったなって」

橘「なのに僕は……先輩に最低なことをして!」

橘「……きっと、調子にのってたんですね、僕は」

橘「急に可愛い女の子達と仲良くなっちゃって、浮かれてしまって」

橘「……本当、馬鹿ですよね」

橘「自分のトラウマを、あんな嫌なことを別な人にさせてしまうなんて」

橘「……許してくれ、なんて僕はいえません」

橘「ただ、……その……」

橘「すみませんでした!」

森島「…….いいよ、許す」

橘「え?」

森島「へへっ、自分に素直になってみた」

森島「私も沢山の男の子をフってきたからね」

森島「……自分で返事しなかったりとか、本当何様だよってね」

森島「私も調子にのってた、確実に」

森島「……だから、調子にのっちゃう気持ちはわかるよ」

森島「それにね?橘君はもうあんなことしないでしょ?」

森島「だから、許す」

森島「……一応、言葉にさせて?」

森島「これはケジメだから」

橘「……はい」

森島「……私は橘君のことが好き。大好き。……愛してる」

森島「愛が重すぎるのなんて、わかってるよ?」

森島「ふふっ、おかしいよね?」

森島「それでもあなたのことを想ってしまう……」

森島「……大好きよ、橘君」

橘「……こんな僕を」

橘「ありがとうございます!」

森島「……私、橘君のそばにいてもいいかな?」

森島「……彼女とか奥さんがいるなら、すっぱり諦めるから」

森島「返事を聞かせて?」

橘「……」

橘「……すみません」

森島「……そっか……そうだよね」

橘「『そばにいていい?』って聞かれて、『いいよ』なんて偉そうなこと、僕が言えるわけないじゃないですか!」

森島「……え?」

橘「森島部長!」

橘「出来の悪い部下が二度と同じ過ちを繰り返さないように、首輪をつけて近くで見張っていてください!」

橘「この通り!お願いします!」

森島「……了解したわ」

森島「正直面倒臭いけど、馬鹿な部下のせいで私までとばっちりを喰らいたくないもの」

森島「覚悟しなさい!」

橘「は、はい!」

森島「ふふっ……なんてね!」

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ーー


森島「……って話を今度は考えてみたんだけどね」

塚原「だからね、はるか?下らない話を聞かせる為に私を呼び出すないでよ」

塚原「……でも、最後まで聞いてしまった自分が悔しい」

塚原「森島部長……よかったわね。報われて」

橘「純一君も許してもらえてよかったですね」

森島「……他人事みたいにいうのね、あなた」

森島「背広のポケットに飲み屋の女の子名刺が入ってたけど、これは何かな?」

橘「そ、それは!?」

塚原「はるか、首輪ちゃんとつけとかないとダメよ?」


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