純一「もっとみんなと、イチャイチャしよう!」(599)

【塚原響】

塚原「…………」

純一「…………」

塚原「……い、行くわよっ…? 準備はいいかしら、橘くんっ…」

純一「は、はいっ……! 大丈夫です!……どうぞ!」すっ…

塚原「っ……う、うん……それじゃあ───」すっ……

塚原「あ、あーんっ……」すい

純一「っ……あ、あーん……ぱくっ……もぐもぐ……」

塚原「……ど、どうかしら?お味のほうは……?」

純一「もぐもぐ……あ、あれ?…もぐもぐ…」

塚原「!……も、もしかして……ちゃんと出来てたかし───」

純一 バターン!

塚原「た、橘くんっ…!?」

数分後

純一「──う、うーん……?」むくり

塚原「っ!……た、橘くん! だ、大丈夫っ!?」

純一「え、あ、はい……なんだか頭が朦朧としてますけど……あれ?」

塚原「……ごめんなさい、私、また失敗しちゃったみたいで…」

純一「……え、えーと…もしかして、塚原先輩の料理でまた…?」

塚原「……そう、なのよ……まったく、その通り…」

純一「そ、そうですか……なんというか、その……大丈夫です!
   こ、今回はほら! すぐに目を覚ましましたし!」

塚原「……料理で人を気絶させるなんて、結局は変わらないのね…」

純一「き、気にしたらまけですって!
   くやんじゃ駄目です、次行きましょう! 次!」

塚原「…………」

純一「塚原先輩………」

純一(すっごい落ち込んじゃってる……どうしよう……!
   今日はなんだか張り切ってたしなぁ……)

純一(僕にちゃんとした料理を食べさせる!
   なんて意気込んでたしな……あの時の先輩、とても可愛かったぁ…)

塚原「………」

純一(って思いだしてる場合じゃないよ!
   ……こ、ここはひとつ。落ち込んでしまった先輩をどうにか元気つけないと…!)

純一「せ、先輩! 塚原先輩…!」

塚原「……なにかしら、橘くん…?」

純一「そ、その…そのですね!今度は、一緒に料理を作りませんか…っ?」

塚原「一緒に……?橘くんと、私が…?」

純一「そうです! その、僕が食べさせてもらってるばっかじゃあれですし…
   だから一緒につくって、一緒に出来た料理を食べましょうよ!」

純一「そうすれば悪いところとか、僕がみつけてアドバイスできるかもしれませんし……」

塚原「……一緒に料理、か…」

純一「だ、だめですかね……?」

塚原「……ううん、いいアイデアじゃない。やるわね、橘くん」

純一「ほ、本当ですかっ!?それじゃあさっそく、一緒に料理を作りましょう!」

台所

塚原「……ふぅ、それじゃあ行くわよ? 準備はいいかしら」

純一「おっけーです。それじゃあまずは、何を作りますか?」

塚原「そうね、そしたら……冷蔵庫の中身できめましょうか」

純一「そうですね……えっと、中身はっと…」ごそごそ

塚原「卵が安かったから、たくさん買ってあるのだけれど……それ、使ってみる?」

純一「おっ。いいですね、それじゃあオムライスとかどうですか?」

塚原「うん、いいわね。それだったら簡単そうだわ」

純一「わかりました。それじゃあオムライスってことで、まずは───塚原先輩…?」

塚原「……ん? なにかしら橘くん?」ごそごそ…

純一「ど、どうして冷蔵庫から……キムチの素を取り出すんですか…?」

塚原「えっ……どうしてって、それはオムライスに使うためじゃないの?」

純一「……オムライス、ですよね?」

塚原「え、あ、うん……あ、あれ? だ、だめだったかしら…っ?」

純一「駄目ってわけじゃないですけど……先輩って、辛いの得意でいたっけ?」

塚原「………。そんなに得意じゃないわね」

純一「ですよね、前に激辛たこ焼き食べて……悔しそうにしてましたもんね」

塚原「そ、そんなことは覚えてなくていいのよっ…!」

純一「す、すみません! えっと、それに僕もあんまり辛いのは好きじゃないですし…
   入れるのやめませんか?」

塚原「…た、たしかにそうよね……たしかに、そう……なんで私入れようって思ったのかしら…」

純一「と、とりあえずそのキムチの素はおいて……はい、おいてください。
   その隣にある卵と、お肉。あとは玉ねぎとか色々お願いします」

塚原「わ、わかったわ…! 頼りになるわね、橘くん…!」

純一「それほどでもないですよ…!」

純一(本当にそれほどでもないよ……先輩、本当に料理苦手なんだな……)

塚原「──よいしょっと。これでいいかしら?」ごと

純一「……あ、はい! それでけっこうです───って、なんで味噌がおいてあるんですか…?」

塚原「……入れたら、美味しくならない?」

純一「たぶんなりません! たぶん!」

塚原「そうなの……いけると思ったんだけどなぁ……」シュン…ゴソゴソ…

純一(……か、かわいい!しゅんとしてる先輩かわいい……けど!ここは心を鬼にしていかなきゃだめだ!)

純一「そ、それじゃあ改めて、オムライスを作りましょうか」

塚原「……そうね、じゃあ張り切って行きましょうか」

純一「えっと、まずはエンプロん付けて……」ごそごそ…

塚原「はい、これ橘くんの」すっ

純一「あ。ありがとうございます」すす……きゅ

純一「──よし、それじゃあ先輩。まずは具材を切ってから……」

塚原「んん……んっと、あれ……ど、どうしてかしらっ……?」あたふた…

純一「どうされたんですか、先輩…?」

塚原「え、えっとそのあの、エプロンがうまく……っ……」

純一「……結べないんですか?」

塚原「ち、違うわよ! そうじゃなくて、エプロンが勝手に私に巻き付いて…!」

純一「そ、そうなんですか……いや、まぁ、それじゃあ僕が結んであげますから。
   まずはちょっと落ち着いてください」

塚原「そ、そう? それじゃあお願いできるかしら……」すっ…

純一(……なんだろう、先輩。今日はいちだんとドジっこだなぁ…あんなにいつもは、
   後輩から慕われてオトナっぽいのに。緊張しているのかな…?)

純一「それじゃあ後ろを向いて、そうです、はい。ありがとうございます」

純一(そんな先輩も可愛いけど……ってうおおお!!)

塚原「っ………」すすっ…

純一(エプロンを結びやすようにって、髪を掻き上げてくれてるっ…!
   つ、塚原先輩のうなじ……いい!)

純一「なんだかえっちいなぁ……はっ!?」

塚原「……橘、くん?」

純一「い、いいえ! なんでもないです! 塚原先輩のうなじがちょっといいなって思ったりとかそんな!」

塚原「っ……ど、どこを見ているのよ…!ちゃんとエプロンを結んで…っ」

純一「す、すすすすみません! そ、それじゃあ結びますね……よいしょ、よいしょ…」すすっ…

純一「──こ、これでいいですか?」きゅっ

塚原「っ……ふぅ。いいわ、ありがとう橘くん」くるっ

純一「あ、あはは……いえいえっ」

塚原「…………」じぃ

純一「……えっと、塚原…先輩…?」

塚原「……はぁ。とりあえず、君には感謝しているんだから。
   今日もまた私の都合につきあってくれてね」

純一「は、はい……それはもう、僕が好きでやってることですから」

塚原「そ、そうなの? それだったら……いいわ」

塚原「だ、だけど!」ぴっ

純一「は、はいっ…?」

塚原「っ……そ、その……色々と勘違いしちゃだめだからねっ」

純一「か、勘違いですか……?」

塚原「そ、そうよ……今日は私の家はだれもいないけれどっ…
   私と橘くん、二人っきりだけれど……」

純一「……え、あ、ああっ! ええぇー!?
   いや、僕これっぽっちも考えてませんでしたけど……」

塚原「……じゃあ、さっきのアレはなに?」

純一「あ、あれはその……先輩がちょっと無防備で、可愛かったからで…」

塚原「っ……そ、そういうことははっきりといわないっ」

純一「す、すみません……でも、本当のことですよ?」

塚原「っ~~~……はぁ、本当に君ってば素直な子よね…あの子が気にいるわけだわ」

純一「え、あの子って誰ですか…?」

塚原「あの子はあの子でしょう。はるかよ」

純一「はるか……森島先輩!? 森島先輩が僕の事を……!?」

塚原「……急に元気になったわね、橘くん」

純一「……え? いやいや! そんなことないです!」

塚原「いいのよ、誰だってあの子に気に入ってもらえてるって知ったら喜ぶに決まってるわ」

純一「で、ですから……! 僕はその、先輩…!」

塚原「──作るんでしょう。オムライス」

純一「え、あ、はい……」

塚原「私一人じゃ不安だから、橘くんが色々と私に教えてくれたら嬉しいわ」

純一「わ、わかりました……」

純一(……空気でわかる、塚原先輩…なんだか機嫌が悪くなっちゃったぞ)

数分後
塚原「…………」とんとん…

純一(ど、どうしよう…僕が変な反応したからだよな、絶対に。
   ううっ…どうしてくれるんだよ僕! 先輩を怒らせちゃったじゃないか…!)

塚原「……橘くん、手が止まってるわよ」

純一「は、はい! すみません…!」とんとん…

純一(どうにか挽回しないと……僕は塚原先輩と仲良くなるために、ここにいるんだから!
   先輩と一緒に料理……いくらだってチャンスはある)

塚原「………いたっ…!」とんっ…がた!

純一「……ん? え、先輩!? どうしたんですか…!?」

塚原「ちょ、ちょっと包丁で指をきって……」

純一「すごい血がでてるじゃないですか…! どうしてそんな力強く切って……!」

塚原「っ……そんなこと、どうだっていいじゃないの…っ」

純一「───どうでもよくなんかないですよ!」

塚原「えっ……」

純一「ほら、早く水で洗い流してください……こっちにきて!」ぐいっ

塚原「え、あっ、ちょっ……!」

ジャー

純一「…バイキンが入ったら大変なことになりますよ。水泳の部長なんですから、気をつけてくださいね」

塚原「っ……え、ええ…気をつけるわ…」

純一「──よし、こんなもんかな。それじゃあ救急箱ってどこにありますか?」

塚原「………えっ? ああ、うん! そこの戸棚の奥に……」

純一「わかりました。それじゃあ行きましょう」ぎゅ…すたすた

塚原「………」すたすた…

純一「よいしょっと……えーと…あったあった、これだ」

純一「ちょっと染みるかもしれませんが、先輩だったら大丈夫ですよね?」

塚原「あ、あたりまえよっ……」

純一「ですよね! ……それじゃあ、ちょいちょいっと」

塚原「んっ……」ぴくん

純一「…大丈夫ですか? 染みちゃいましたか…?」

塚原「だ、大丈夫よ…! 平気平気!」

純一「それじゃあ最後に絆創膏を貼って……これでよしっ」

塚原「………」じぃー…

純一「ん、どうしたんですか? 僕の顔を見つめて」

塚原「…意外と手際よく治療してくれたわね、っと思ってたのよ」

純一「あー…えっと、その。僕の妹がよくケガをするんで、それで慣れてるんです」

塚原「なるほど……こんなにも捌けるのなら、水泳部のマネージャーになってみないかしら?」

純一「え、マネージャーにですか?」

塚原「…そう、まぁ、ちょっとした思いつきだからいいのだけれど……いいのよ、本当に思いつきだから」

純一「………なってもいいですよ?」

塚原「っ……ほ、ほんとうに? けっこう重労働多くて大変よ?色々と」

純一「いえ、それはわかってますけど……でも、塚原先輩と」

塚原「私と?」

純一「…放課後まで一緒に残ってるって、なんだかいいなぁって思うんで」

塚原「っ!………そ、それはっ……」

純一「あはは……なんて思ったりするんですけど、迷惑ですよね…?」

塚原「…………」

純一「えっと……すみません、くだらないこといって…」

塚原「く、くだらなくないわっ……いいこと、だって思う、わよ…?」

純一「……本当にですか?」

塚原「ほ、本当に本当よ!」

純一「おおっ……そ、それじゃあ僕、塚原先輩の専属マネージャーになりたいです!」

塚原「せ、専属って…プロの人じゃないんだから」

純一「でもでも! 他のマネージャーの仕事もこなしますから!
   それ以外の時は、ずっと先輩の泳ぎを見てたりとかしても……」

塚原「………そ、そんなに私の泳ぎがみたいの?」

純一「みたいです! すっごくみたいです僕!」

塚原「…………」

純一「…………」ワクワク…

塚原「──……はぁ、わかったわ。それじゃあ顧問の先生に、一応頼んでみるわね…」

純一「本当にですか…!? やったー!」

塚原「よ、喜び過ぎじゃない橘くん…っ」

純一「これが喜ばずに要られますか! だって先輩と一緒にぶかつって……はぁ~…!」

塚原「……もう、本当に君ってば……」ぷいっ…ごにょごにょ

純一(なんって、幸せだろ……先輩のマネージャーになれるなんて!
   ──も、もしかしたら専属ってことで…先輩の疲れた身体をマッサージできたりとか……!?)

純一「じゃあ明日からでもいいんですかね!?」

塚原「は、速いわね…! ま、まぁ…明日にはきくつもりだったけれど…君はそんなに早くて大丈夫なのかしら」

純一「全然構いませんよ! よっし、それじゃあ明日からはりきって行くぞ!」がたんっ! ぐらぐら…

塚原「っ!…た、橘くん危ない!」ばっ

純一「えっ──戸棚が、倒れ……駄目です先輩!」ぐいっ

塚原「え、きゃ……!?」

がしゃーん!

純一「……あたた…」

塚原「ん、んんっ……あっ…橘くん…!? 大丈夫…!?」

純一「え、ええ…なんとか」すす…がしゃ、ぱりーん…

純一「──どうやら、倒れてきた戸棚は台所においてあった机で支えられてるみたいで…
   僕には倒れこんで来ませんでしたよ…いてて…!」

塚原「で、でも中に入ってた食器とかは橘くんに……!」

純一「ええ、そうですけど……まあ大丈夫ですから。先輩の方は、怪我とかは?」

塚原「わ、私は大丈夫だけどっ……それよりも君が…!」

純一「僕は気にしないでください、それとあと……僕を簡単にかばおうとするの、やめてくださいね」

塚原「えっ…ど、どうして…?」

純一「なにいってるんですか、水泳部部長。僕はもう先輩専属のマネージャーなんですよ?
   先輩がもし僕なんかを庇って怪我なんかしたら、マネージャー失格じゃないですか」

塚原「それとこれとは…」

純一「……僕は、一緒だと思ってます。だから、先輩をこうやって守れて嬉しいんです」

塚原「……橘くん…」

純一「よいしょ……あー…すみません! お皿がこんなに割れちゃって…!」

塚原「……いいのよ、ちゃんと固定してなかった母が悪いんだから。君はなんら弁償もしなくて結構よ」

純一「で、でもっ…あとでちゃんとバイトでもして弁償しますよ…!」

塚原「……そうしたら、部活のマネージャーはどうするの?」

純一「あっ…そ、それはっ……」

塚原「2つをこなせるほどの器量が君あるって、失礼だけど思えないわ。
   ……それに、その…」

純一「その…?」

塚原「わ、わたしの専属のマネージャーになるんだから……勝手なことは許さないわよ…っ」

純一「……は、はい…!」

塚原「い、良い返事ね。おりこうさん」なでなで

純一「えへへ……って、おとと…というかどうしましょうかこの状況…」

塚原「……ええ、そうね。下手に動いたら散らばった皿の破片が突き刺さりそう…」

純一「確かに……えっと、親御さんが帰って来られるのはいつごろですか?」

塚原「……だいぶ遅くなるって言ってたから、それは期待できないかもしれないわ」

純一「そうですか……そしたら、どうしようかな…」

塚原「……ねえ、橘くん」

純一「は、はい…? どうかしましたか…?」

塚原「その……腕、きつくないかしら?」

純一「っ……えっと、なんといいますか……この腕ですか…?」

塚原「ええ、その…多分だけど、私に覆いかぶさらないようにしてるんでしょう…?」

純一「ま、まぁ……この状況だとちょっと先輩に……」

塚原「軽く腕立て伏せしている感じだものね」

純一「は、はい……!」ぷるぷる…

塚原「……べ、べつに気にしなくていいわよ?」

純一「え…? それって、力を抜けってことですか…?そ、それだと先輩の上に僕が……」

塚原「ええ…そ、そういうことになるわね」

純一「……で、でも…」

塚原「私はだ、大丈夫だから……その、橘くん。いいわよ」

塚原「──ほら、おいで。受け止めてあげるから」すっ…

純一「っ………」ドキドキ…

塚原「…ほら、遠慮しないで。腕の力を抜いて、私に覆いかぶさってもいいから」

純一「………………い、行きますよ? 本当に行きますからね?」

塚原「ええ……おいで、橘くん」

純一「……っ…じゃ、じゃあ…行きます…!」ぐぐっ…

塚原「………」

純一「…………───」ぽすっ…

塚原「はい、着陸。……腕疲れたでしょう? 頑張ったね」

純一「は、はいっ……せ、先輩! 僕重くないですか…!?」

塚原「大丈夫よ。だからほら、もうちょっと力抜いて……そうそう、そんな感じ」

純一「っ……こ、こんな感じですかっ…?」ごそごそ…

塚原「んっ…!」

純一「えっ……す、すみません! 僕、どこか変な所触っちゃいましたか…!?」

塚原「だ、大丈夫よ…遠慮せずに抱きついていいから」

純一「だ、だきちゅいて…!?」

塚原「噛んでるわよ、橘くん……まぁ、気持ちもわかるけれど」

塚原「…とりあえず、私をお母さんだと思って抱きしめなさい。
   そうすれば色々と恥ずかしく無いでしょう?」

純一「そ、そうですね……わ、わかりました…!」……ぎ、ぎゅ…

塚原「っ……ん、そう。私の頭の後ろに手を回して……そうそう」

純一「…………」ぎゅう…

塚原「…………」ぎゅ…

純一(───や、やわらかい! ふわふわ!
   せ、先輩の体温がものすごく体中に広がって……息遣いとかダイレクトに僕の耳に届いてる!)

純一(塚原先輩……とっても大人だなぁ…!
   僕がこんなにくっついても、柔らかく受け止めてくれて……なんだかいい気分だよ…)

純一(そ、それにそれに…と、特に僕の首下辺り……すごいことになってるよ!すごいことになってるよ!
   せ、せんぱいって…着痩せするタイプだったんだなぁ───あ、やばい)

塚原「っ……どうかしたの、橘くん…?」

純一「い、いえ……その、なんというか……!」

純一(───収まれ、どうにか収まってくれ本当に……っ!
   こればっかりは本当に駄目だ! このままじゃ直接先輩に───)

塚原「……?」

純一(一、男子高校生として……それだけは避けたいんだ!
   絶対に、絶対に塚原先輩にバレてしまっては……あ!)

塚原「───……え?」

純一「っ……先輩……!」

塚原「えっと……これって……」もぞもぞ…

純一「っ!……ちょ、先輩っ…! すみません、それはちょっと…!」

塚原「………………」もぞもぞ…ぎゅっ

純一「っ………───」

塚原「…………」ぎゅ…

塚原「………え、あっ、ひゃぁあ…!?」カァァ…

塚原「なっ、えっ、た、たた、たちばなっ…!」ばっ!

純一「っ~~~~! ご、ごめんなさい! 本当にごめんなさい…!!」

塚原「こ、ここここれって…! に、にに握ったのって……!!」

純一「ごめんなさいっ! どうにか、我慢しようと思ったんですけど…!
   やっぱりできなくてっ……!!」

塚原「や、やっぱりそう、なの…ね………っ~~~~~!!
   わ、わたしったらっ…に、にぎっ……い、痛くなかったっ…?」

純一「逆に気持ち、いえ! なんでもないです!」

塚原「っ~~~~~!! ば、ばかっ!」

純一「ご、ごめんなさいっ…! と、とにかく僕ここからどきますから…!
   ほんっとーにすみません……!!!」ぐいっ

塚原「え、あ、でも──きゃっ…!?」ぐいっ

純一「えっ……ええぇええー! 先輩の服がめくれ上がって……!?」

純一(僕が着ているジッパーが先輩のセーターに引っかかったのか…!?)

塚原「なっ、ちょ、下ろして…!橘くん、戻ってきて…!」ぐいっ

純一「え、あ、塚原先むぐっ!」ぽすっ

ぐぃいい~

塚原「っっ~~~~~!!!!」

純一「っ…ぷはぁ! 先輩…!! だ、大丈夫ですか…!?」

塚原「……た、橘くんっ……!」

純一「ど、どうかしましたか……っ?」

塚原「そ、そのっ……き、君のもっと…おっきくなってない…っ?」

純一「え、ああ! 先輩のピンクの下着見たらちょっとあれでして……!」

塚原「っ! い、色のことは聞いてないわよ…!」

純一「す、すみません! でも、先輩これじゃおもいっきり塚原先輩に押し付けて…!」

塚原「っ……っ………が、我慢する、わ…!」

純一「え、ええぇー! 我慢って先輩…!」

塚原「だ、だって……そ、それぐらいのことはちゃんとわかってるわ…!
   君だって、その、高校生だもの…!」

純一「は、はいっ……正直言うと、すっごくヤバイです…!」

塚原「だ、だから…大丈夫! 私は大丈夫!」

純一(顔真っ赤だよ先輩……そりゃ当たり前だよ!
   こんなにも押し付けてしまって……嫌がられるよりはいいけど…)

塚原「っ………!……」ぷるぷる…

純一(先輩──僕は、こんなにも先輩に我慢させて、僕はそれでいいのか…?)

純一(しょうがないからって、こんな状況だからってしかたないからって。
   それで済ましてもいいものなのか…?)

純一「っ……せ、先輩…!」

塚原「な、なにかしら……んっ…橘くん、ちょっと、そこに当てるのはっ……」

純一「すみません、だけど……こんな状況ですけど、先輩に言いたいことがあるんです…!」

塚原「っ……な、なにかしら…?」ぴくんっ

純一「ごくり……その、先輩…僕……!」

がらり

「──ごめんくださーい!」

七咲「輝日東高水泳部の七咲 逢というものですがー! 塚原先輩はおられますかー!」

純一&塚原「………っ!?」

塚原「な、七咲っ……!?」

純一(七咲!? ど、どうして……って当たり前か!先輩の家だもん!
   来るぐらいの間からでも不思議じゃない!)

七咲「……えっと、だれもいないのでしょうか…?
   チャイムが壊れているようなので、こうやって呼びかけて見てるのですが…」

塚原「っ……な、七咲…!いるわよ!」

純一「せ、先輩…!?」

塚原「し、仕方ないじゃない…! このままだと、七咲あがってくるはずだから…!」

純一「ええっ!? あがってくるんですか…!?」

塚原「ええ…私が居ないとき、水泳部で使ってる部活日記を部屋に置きに行ってもいいと言ってあるの…!
   私の母も信用しているし、だから今日もそれで着たのだと思うわ…!」

純一「そ、それじゃあ…七咲がこの光景をみる可能性が…っ?」

塚原「ありえるってことなの……正直助けてもらいたいけれど……今の橘くん、七咲に見られたくないでしょ…?」

純一「も、もちろんです…!」

塚原「とりあえず、七咲には玄関においてもらって帰ってもらうわ…!
   後はもうどうにかして、ここから抜け出すしか無い…!」

純一「わ、わかりました…! 塚原先輩に任せます…!」

七咲「あ、塚原先輩! 家に居らっしゃったんですか」

塚原「そ、そうよ…! 用事は日誌かしら…っ?」

純一 ドキドキ…

七咲「そうです、とりあえずあがってもよろしいですか」

塚原「ご、ごめんなさい…! ちょっと今、手が離せなくて…
   日誌だけ玄関においてもらってていいかしら…っ!」

七咲「手が離せないって……別に私がそちらに向かいますから、大丈夫ですよ?」

塚原「っ……えっと、そのね! あ、あんまり七咲には…み、見られたくないことしてるのよっ…!」

七咲「見られたくないこと…? 一体なんだって言うんですかそれ──あれ?この靴……男子用の革靴…」

純一「……っ!」

七咲「………この踵の傷…どこかで、見覚えが」

塚原「っ───………七咲! 今日は貴方にいい知らせがあるわ!」

七咲「え? なんですか?」

塚原「そ、それはねっ……た、橘くんがいるでしょ! その子が貴方にプレゼントがあるって言ってたわ!」

純一「……っ?」

七咲「橘先輩が……私に? どうしてそれを塚原先輩が知ってるんですか?」

塚原「えっと、その…相談されたのよ! 七咲になにをあげたらいいのかって……だから、それでね!
   私も触発されて……貴方に作ってるところなのよ…!」

七咲「えっ……塚原、先輩が…私にプレゼントですか…?」

塚原「え、ええ……ここでばらしちゃうのは、ちょっともったいないけれどね…!」

七咲「い、いえっ…私ったらそんなことも察しられずに……もしかしたら」

七咲「──この玄関にある革靴が橘先輩ので、いま台所で塚原先輩を押し倒して危機敵状況だって思ってました…」

純一(ほぼあってる…!)

七咲「そんなこと、思ってくれてたなんて……ごめんなさい、塚原先輩効き出すようなことをしてしまって…」

塚原「い、いいのよ…! ほら、とりあえずは今日のことは忘れて……明日になったら橘くんも渡してくると思うわ!」

七咲「わかりました……本当にありがとうございます。先輩……それでは、明日に」がらり…ぴしゃ

純一「……い、行きましたかね…?」

塚原「た、たぶん……もう大丈夫だと思うわ……はぁ~……疲れた…」

純一「……なんだか、僕もいまの驚きで落ち着いてきたみたいです…」

塚原「……そ、そう? それはよかったわ……うん、本当に」

純一「先輩、とりあえず…僕のことを思って頑張ってくれて。
   ありがとうございます……」

塚原「いいのよ…これもまた、私が料理に誘わなきゃならなかったことだから」

純一「…そ、そういえば料理をしようとしてましたね…あはは、もう色々とあって忘れてましたよ」

塚原「え、ええ…そうね。本当にそう……」

純一「…………」

塚原「…………」

純一「なんというか、その……今日は本当にすみませんでした…」

塚原「……いいのよ、これもまた橘くんの面白みなんでしょうから」

純一「……面白み、ですか?」

塚原「……はるかが言ってたのよ。君と行動すれば、絶対に面白いことが起こるって」

純一「もりしませんぱいが…そんなことを」

塚原「ええ……ふふっ、たしかに。こんなこと日常ではありえないわね」

塚原「料理をしようとして、怪我をして、治療してもらって……その後にこのザマ。
   普段の私ならどんなにひっくりかえっても起こらないわ」

純一「あはは……なんというか、すみません…」

塚原「うん? ふふっ、別にいいのよ。これはこれで。
   でもね……こうやって君と一緒にいることは……果たしていいことなのか、って思ってしまうの」

純一「…どうしてですか…?」

塚原「だって君は、いろんな子に気に入られてる。
   はるかだってどうにかすれば君の彼女になるかもしれない」

純一「そ、それは……ありえないですって」

塚原「そうかしら? それじゃさっきの七咲は、どうかしら。
   プレゼントがあるって言った時、七咲は嫌だって思ってなかったみたいよ?」

純一「そうですか…?」

塚原「意味もなくもらうプレゼントだなんて、普通は嫌がるものだもの。
   でも、君からもらうプレゼントは……いつだってもらってもいい、って思ってる証拠じゃない」

純一「……………」

塚原「……だから、ね? 君は誰とだって関係を深めれる状況にいる……それを、私は知っている」

純一「……先輩は、どうなんですか」

塚原「え……? 私?」

純一「はい、先輩は……僕と関係を深めれることを……知っているんですか…?」

塚原「わ、わたしはその……だって、あれじゃない?」

純一「……あれってなんですか?」

塚原「ほら、はるかのおまけっていうか…可愛くなくて、おせっかいで、怒ってばっかで。
   はるかの引き立て役みたいな感じじゃない……これははるかに悪いかな、ふふっ」

純一「………」

塚原「そうだって自分自身、わかってるつもりだし。それにそれ以上のことは望んでも居ない。
   だから、君との関係を深める…なんて、ことはありえ──」

純一「………」ぎゅう…

塚原「──え、あ……橘、くん…? 急に抱きしめて、どうかしたの…?」

純一「そんなこと、言わないでください……」

塚原「……橘くん?」

純一「そんな、そんなこと……塚原先輩が言ったら駄目です」

塚原「そんなことって……私はただ、事実を──」

純一「仮に先輩が……そう思った現実だとしても、です。
   僕は、そんなふうに先輩は見えてないです……」

塚原「……えっと、慰めてくれてるのかしら…?」

純一「違います!」

塚原「あ、ご、ごめんなさい……」

純一「あ、僕こそごめんなさいっ……急に大声上げて。で、でもですよ…!
   僕には先輩が…そんな小さな人だって思ったりしてません!」

純一「塚原先輩は……いつだってキラキラ光って見えて、部活の時も部長としてとってもかっこよく見えますし綺麗です!
   それにそれに…先輩がする癖っぽい、顎の下に手を置くのとか…僕はとっても好きです!」

塚原「よ、よく見てるわね…私のこと…」

純一「あ、当たり前じゃないですか…! だって、だって僕は先輩のことが───……」

純一「とってもとっても、誰よりも……好きなんです。大好きなんです!」

塚原「───………好き…?」

純一「そ、そうですよ…! この前だって料理のこと誘ってくれて……ほんとうに嬉しくて。
   先輩とまた距離が近づいたかなって。毎日毎日布団の中でにやにやしてて…」

塚原「…………」

純一「先輩とこうやって、二人っきりで会話して……学校でも僕に挨拶とかしてくれて!
   学校生活も物凄く幸せで幸せで……しょうがなかったんですよ…!」

塚原「そん、な風に……おもってたの…?」

純一「思ってました……ずっと!」

塚原「……私のこと、誰よりも……好きだって…?」

純一「そうです! 塚原先輩が…その、考えてる森島先輩とか!七咲とか!
   どぉーだっていいんです!塚原先輩がそばにいるだけで、僕はそれだけでいいんです!」

塚原「っ………はるか、も……君のこと気に入ってて……それに、君もはるかのこと…」

純一「先輩」ずいっ

塚原「っ……な、なにかしら…?」

純一「キスしてもいいですか?」

塚原「………………………え、あ、はいっ?」

純一「キスです、キス。というかもうします」ずぃ…

塚原「え、ちょ、ちょっと……! どうして…っ?」

純一「……これは僕の勝手な考えですけど、先輩。僕の事……嫌いじゃないですよね?」

塚原「そ、それは……そう、ね。は、はるかが気に入った子が嫌いになるわけ無いもの…」

純一「──それ、やめませんか?」

塚原「えっ……」

純一「はるかはるかって……先輩だって、一人の女の子ですよ。親でもないし付添人でもないです」

塚原「そ、それはっ……わたしだってっ…!」

純一「……いや、わかってないです。僕が見る限り先輩は、なにもわかってない」

純一「僕は貴方のことが好きです、ひびき先輩」

塚原「っ………」

純一「これに答えてください、なんてわがままなことはいいません……でも、先輩にはわがままになってほしい!」

純一「──先輩、どうか自分が欲しいものは自分で決めてください。
   他人がどうとかじゃなくて、逃げるんじゃなくて……ああ、もう! なんで僕がこんなこと言わなくちゃいけないんだろう…!」

純一「先輩って、大人っぽくみえるけど……ものすごく子どもっぽい人ですよね…」

塚原「そ、そんなこと……ないわよ…!ちゃんと考えて行動はしてるわ…!」

純一「……」

塚原「……してる、つもりよ……」

純一「じゃあ、どうなんですか」

塚原「…………」

純一「ぼくのこと、嫌いじゃないのなら……どうなんですか?」

塚原「っ………」

純一「…………」

塚原「……わ、わたしは……そのっ……あの……っ…!」きょきょろ…!

純一「……その?」

塚原「……き、君のこと……が、わたしは………」ちらっ…

純一「……僕のことが?」

塚原「っ………す…!」ぎゅっ…

塚原「……………すき、です……」

純一「……………………」ぼっ!

塚原「っ~~~~………こ、これでいいの、かしら…?」

純一「え、あ、ああああ、はいっ! そ、それでいいです……!」

純一「……あ、やっぱり。もう一回お願いします…」

塚原「え、えぇ!……も、もういっかい言って欲しいの…?」

純一「は、はいっ…! もういっかいお願いします…!」

塚原「……た、橘くん…!」

純一「はい…!」

塚原「す、好きよ……君のことが、私は……好き、なの」

純一「………」ぶるぶる…

純一「──もう一回、もう一回だけ…!」

塚原「すき……」

純一「さ、最後にもう一回だけ……最後に!」

塚原「す、すき…! 橘くん…だ、大好き…!」

純一(てんごくだ…)

純一「っ……ありがとうございます先輩……!」

塚原「………」こく…

純一「僕はもう、幸せでどうにかなりそうです…!」

塚原「……ほ、ほんとうに…? 私に好き、っていわれただけなのに…?」

純一「先輩だから、僕は嬉しいんです。先輩に好きだって言われるから、僕は幸せなんです」

塚原「……そう、なの。ありがとう、橘くん……」

純一「こちらこそ、ありがとうございます……」

塚原「…………」

純一「………さ、さーて…その、とりあえずはここから抜け出すことを…」ぎゅっ…

塚原「………」ぎゅう…

純一「あ、あれ? 先輩? なんで抱きしめて……」

塚原「───……は…?」ボソボソ…

純一「えっ…? なんですか…?」

塚原「───キス、は…しないの…?」

純一「え、えええ! そ、それは……!!」

塚原「…………」ぎゅっ…

純一「で、でも……さっきはそう言いましたけど、あれは景気付けというか…っ!」

塚原「……いいよ、しても」ボソッ…

純一「っ……!」どくん

塚原「っ………」

純一「…す、すみません…! ちょっと先輩の声が僕…!」

塚原「……いい、気にしない。私は大丈夫」ボソボソ…

塚原「……だって、君だから。君のだから私は平気よ」ボソ…

純一「っ~~~~~…!!」ぞくぞく…

塚原「……ほら、橘くん」すっ…

純一「……塚原、先輩……」

塚原「……おいで、ほら。こっちに」ぎゅ…

ちゅ

ひびにゃんおわりでっす
長かった 疲れた

とりあえずうんこ休憩

次は決めてないけど梅原でも書こうかな

書いたリスト
とりあえずアマガミ登場人物とイチャコラを目指してます

モジャ子
みゃー
りほっち
まなまな
ラブリー
スト子

は書いた 安価でもいいけど上げた以外の人がいいな

七咲わすれた…

とりあえず次は安価で
>>90kakimasu

るつこ

るっこ先輩で
五十分にはもどるよ

もどってきた 居間から書く
とりあえずこれは即興なので誤字脱字はご勘弁を

麻耶ちゃんは今回はおっけーで。たぶんかける

やった!僕は高橋麻耶ちゃん!

ふぅ・・・

【夕月琉璃子】

茶道部 縁側

夕月「ずずっ……はぁ~、今日もいい天気だねぇ」

純一「ずずっ……はぁ~、確かにいい天気ですねぇ…」

夕月「ん? おお、見てみ橘! これこれ~」ずい

純一「なんですか……おおっ! 茶柱!」

夕月「だろだろ~! 今日はもしや、いいことがあるかもしれないぞ~」

純一「でも、いいことってなんですかね……るっこ先輩が、喜ぶことってことですか?」

夕月「んん? あたりまえだろー? あたしが喜ばなきゃ、なんになるってんだ」

純一「ですよね……だとしたら、るっこ先輩がなにをされたら嬉しいんですか?」

夕月「そうさねー……例えばの話だが! こういきなりそらから桜餅がふってくる~……
   ……なんてことがあったら、りほっちが喜びそうだなこりゃ」

純一「あはは。確かに……って梨穂子はいいとして。るっこ先輩の喜ぶことってなんですか」

夕月「ん? ははっ、んなこと教えるかよ」ばしん

純一「あたっ!? あつィ!?」

アツゥイ!

純一「ちょ、ちょっと…! お茶飲んでるんですから、急に背中叩かないでくださいよ…!」

夕月「すまんすまん……まあ、でもあれよ? あたしにとって嬉しいことっていうのはさ…
   こうやって茶道部が続いてくれればいいってもんだけどね~」

純一「ははー……なるほど」ずずっ…

夕月「……あたしらも数ヶ月たちゃ卒業。ここの部員も数が限られてるし…このままじゃ廃部かねぇ」ずず…

純一「でも、梨穂子がいますし……あ、すみません。大丈夫じゃなかったです」

夕月「……びっくりしたよ。まさか幼馴染のアンタが梨穂子を信用するようなこと言ったと思ったから」

純一「そうですよね……アイツもまぁ、頑張ってるんでしょうけど…」

夕月「……というかアンタが入れば、それで万々歳なんだけどさ」

純一「え? 僕は駄目だって言ったじゃないですか」

夕月「しってるよ! アンタも本当に頑固者だよ……こうちゃちゃっと入部届に名前を書いてくれるだけでいいのによ」

純一「…なんですかその、悪徳商法みたいな」

夕月「悪徳いうな、これもまた一つの戦略だ」

純一「なんで戦略が必要なんですか……」

琉璃子ってもう名前から美しさが溢れ出てるよね

寝る 明日までるっこ先輩たのむー

夕月「なーに言ってんだ、部員補充は戦争そのものだぞ?
   あっちに言っては不評を垂れ流し、こっちにいっては勧誘を邪魔したり……」

純一(冗談に聞こえないのが恐ろしい……)ずず…

夕月「そうやって頑張ってみても、素直に頑張ってる正当法の部活には……
   まー負けちまうんだけどよ」

純一「だったらこっちも正当法でいけばいいじゃないですか、そもそも頑張る方向性が間違ってますし」

夕月「……橘、それ本気でいってんの?」

純一「……ごめんなさい。嘘です」

夕月「わかればよろしい。こっちは愛歌とあたしとりほっちだぜ?
   ……このメンバーでどう頑張って正当法なんか思いつくんだよ…ちったー考えろよ」

純一「嘘だって言ったじゃないですか……」

夕月「んにゃ! ここは何処かで聞いてる奴にもいってやらん問題だ!
   ……部員が集まらないのは、あたしの勧誘方法のせい…?バカ言え!」がたっ

夕月「あたしらがどう頑張って正当な勧誘できるって思うんだ! ばーか!!」

純一「ずずっ………」

夕月「──はぁ、すっきりした……お茶お茶…ずずっ……」

るっこ先輩に引っ張られて来て入部しない男はいないと思うの

純一「……でも、思ったんですけど…るっこ先輩」

夕月「ん? あんだよ?」

純一「茶道部って…よくよく考えると、けっこう勧誘の時に使えそうな物いっぱいありませんか?」

夕月「おおっ…なんだなんだ、いいアイデアでもあるのか?」

純一「ええ、まぁ……」すっ…

夕月「……おいおい。なんでそこで目を反らすんだ、もっとしゃきっと自信持って言え自信持って!」

純一「……怒りません?」ちら…

夕月「はぁ? なんであたしが怒らにゃいけないんだ……?」

純一「思いついたことは思いついたんですけど……でも、なんだかるっこ先輩怒りそうで…」ずず…

夕月「そう簡単にあたしは怒らねーよ、なんだよ。アンタ、あたしのことすぐ起こるやつだって思ってたのかよ」

純一「そ、そうじゃないですけど……まぁ、それじゃ言いますよ?」

夕月「ばっちこい!」

純一「それじゃあ、その茶道部って言えば────」

るっこ先輩だな

数十分後

純一「………まだですかー?」

『……ま、まだだよっ……ちょっとまっとけって…!』

純一「………ずずっ…ぬるくなっちゃったな……ごくごく…ぷはぁ!」

ピーヒョロロロー

純一「……いい天気だなぁ…」

『──う、うっし! できたぞ橘…! 準備オッケーだ!』

純一「おっ、それじゃあ開ますよ?」

『え、あ、あんたの方から開けるのか…?そ、それはちょっと……!』

純一「……なに恥ずかしがってるんですか。ほら、開けますよ」がらり

『あ、ちょ…! まだ心の準備がっ───』

純一「………おおっ」

夕月「……な、なんだよっ…! なんか文句でもあるのか…っ?」

純一「いえいえ、凄く似あってますよ。着物姿」 

夕月「ふ、ふんっ……だろうだろうっ…! あたしにかかれば、着物だって着こなせるんだぜ!」

純一「……ええ、見直しました。口だけじゃなかったんですね」

夕月「どういうことだ、橘……ッ!」ぐぐっ…

純一「嘘です嘘です……ほら、せっかくの着物姿なんですから。もうちょっとお淑やかに」

夕月「……良い風に言いくるめやがってっ……んま、確かに。
   この格好してるんだからちっとは大人しくすんのも一興か」

純一「一興って……まあとやかく言いませんけど。髪も整えたんですね、それって部室の櫛ですか?」

夕月「おうっ。これな、以前茶道部にいたogの山口先輩の私物なんだよ」

純一「へぇー……綺麗ですね」

夕月「だろ? 高いもんだと思うんだけどさー、あの先輩ったら意外にルーズでよー」

純一「あ、いや。そうじゃなくて」

夕月「……ん? なんだいなんだい、もしやこれをつけてるあたしが綺麗って話か~?ベタだなー!おいおい!」

純一「………」

夕月「そんな小さいネタじゃ、あたしは驚かないぞ。ふふっ……ってあれ? 橘、なに赤くなって───」

純一「そ、そうなんですよ…! いやーまさかネタがすぐバレるなんて…あはは!はは!」

着物の下に下着をつけるのはマナー的になんとか

夕月「…………もしかして、本気で言おうと思ってた?」

純一「っ……ち、違いますよ! だってほら、先輩が意外と気も姿にあってたとか、
   櫛でかきあげられた首元とか…色っぽくていいとかそんな事言ってもあれですし…!」

夕月「なっ……お、おまっ…! いってるじゃねーか!!」げしっげしっ

純一「いた、いたっ…! せ、先輩…! お淑やかに!お淑やかに!」

夕月「はぁっ…はぁっ……着物姿だと、蹴りにくいな……!」

純一「着物姿で蹴ろうという発想はなかったでしょうしね……作った人も…いたた…」

夕月「ったく……もう変なコト言おうとすんなよ! 着物着崩れちまったじゃねえか……」すすっ…すっ…

純一「………」じぃー

夕月「んだよ、そんなにじっと見つめるな」

純一「やっぱいいですね、着物って」

夕月「…だろ? こうやっていつもとは違う物を纏う。それだけで心ってもんが引き締まんだ。
   特にアンタみたいな頭ゆるゆるなやつなんかにもってこいの代物だぜ?」

純一「ゆるゆるって失礼な」

夕月「くくっ、本当のことだろ?」

着崩れた裾から…!
美しい!

夕月「んまぁ…とりあえず、よいしょっと。これで一応は着物を着てみたが……これでどうすんだよ?」

純一「…え、あ、はい。そうですね……そうですよね……うーん…」

夕月「……おい、まさか。考えてなかったとかじゃないよな…うん?」

純一「ま、まさか…! ほ、ほら着物姿でチラシ配る! とかやってみたらどうですか?」

夕月「この格好、でか?」くるくる…

純一「そうです、だってそのほうがインパクトもあるし。こうやって綺麗に着物も着こなせますよ、
   っていう宣伝にもなるじゃないですか」

夕月「……。なるほど…」ぴた…

夕月「でも、それもうやったわ。去年」

純一「えっ! やったんですか…!?」

夕月「うん。あたしと先輩と愛歌で…着物着てチラシ配って、色々とやってたわ。今、思い出した」

純一「思い出したって……なんでそんなこと忘れるんですか」

夕月「さぁ?」

純一「さぁって……本当にるっこ先輩って、適当ですよね……いたいいたい!」がっがっ!

くるくるるっこ先輩超可愛いよぉ~

>>130
>>85

夕月「…というか、去年やったんだからよ。あんただって、あたしらの姿見てないのか?」

純一「……えっと、覚えてない。かな…?」

夕月「ほら、あんただって覚えてないだろ? だったらあたしだって忘れるよ」

純一「……いや。やった本人と見かけたかどうかは、一緒にしちゃいけないと思うんですけど…」

夕月「めんどくせーな……つべこべいうな、この変態ポルノ野郎」

純一「お、その呼び名…懐かしいですねぇ…」

夕月「いや、これを懐かしく思われてもあたしゃ困るんだが……」

純一「梨穂子の時でしたっけ?……あの時はびっくりしましたよ」

夕月「それはこっちのセリフだろうがよ! ったく…本気で驚いたんだぞ、あの時は」

純一「……まぁ、若気の至りってことで。あ、お茶入れようと思うんですけど入りますか?」

夕月「ん? いや、あたしが入れるよ。こんな格好だしよ」

純一「えっ……!? る、るるるっるっるっこ先輩が……お茶を…ッ!?」

夕月「……驚きすぎだ、ゴラ」

>>132
七咲入れ忘れ ごめそ

純一「だ、だって…いつもだったら面倒臭がって…僕がいつも入れてるのに…!」

夕月「さっきもいったろーが。今回は大人しくするのも一興、なら普段しないこともやってやるって話だ」

純一「……全然おとなしくなってないけど…」ぼそっ…

夕月「なんかいったか、橘……?」

純一「お茶っ葉はここにありますんで、お願いします」そそくさ…

夕月「ったく……待て待て。今回はそれじゃないの使うからさ」

純一「え、違うのってなんですか?」

夕月「この格好だし、茶を立ててやんよー」

純一「茶を立てる……まさか、本格的なあれですか…っ!」

夕月「まあな。あんただって初めてだろ?」

純一「……ええ、確かに。結構な割合でここに入り浸ってますけど……一度も見たことなかったですね」

夕月「めんどくせーからな、あれの準備。よし、とりあえず色々準備すっぞ」ぐいっ

純一「おおっ…二の腕二の腕……ごっほッ!」ぼぐっ

数分後

純一「おおっ……全然、めんどくさくなかった…!」

夕月「そりゃー男の力があれば、あっという間だろうよ」

純一「……小さな箱取り出して、下にひく絨毯みたいなの取り出せば終わったじゃないですか…」

夕月「さーて、そんじゃ茶ーたてるぞー」

純一(スルーされた……)

夕月「ういしょっと……はぁー、着物姿だと座んのも一苦労だわ~…疲れたー」ぐたぁー

純一「ちょっとちょっと。なんて神聖な場所っぽいところで寝転がるんですか……」

夕月「……思うんだけどさ、別に型にはまったことをしなくてもよくないか?」

純一「それっぽいことをするから、いいんじゃないですか」

夕月「……確かにそうだ。忘れちまってたわ…なにやってんだ、あたしは…」むくり

純一「……前に梨穂子が、るっこ先輩は粋なものが好きって言ってましたけど。
   その欠片も残ってない姿でしたよ、さっきのは」

夕月「………そうだな。本当になにやってんだあたしは……」

純一(……あ、あれ…? 割りとショック受けてる…?なんでだろう…)

夕月「──ふぅ、さて。気を取り直して……茶を立てるからな」

純一「あ、はい……お願いします」

夕月「────…………」すっ…

純一(……おお、なんだかんだいって。すごく様になってるなぁ…るっこ先輩の姿)

夕月「……………」かしゃ…カシャシャ!

純一(へー…結構力強くやるもんなんだ。体力も必要みたいだな……うん?)じっ…

夕月「…………」シャカシャカシャカ…

純一(───力強くやってるせいで、若干着物が着崩れを……こんなにしやすいものなのかな…?
   いやでも、さっきあんだけ暴れてたし…崩れやすくなってるのかもしれない)

純一(とりあえず、先輩にそのこと伝えて───……ッ!?)ぎょろ!

純一(若干だったのがっ……む、胸元がよりいっそう着崩れしかけてる…!!)

夕月「…………」シャカシャカシャカ…

純一(な、なんということだっ……このことは、もうちょっとたってから先輩に伝えよう…!
   うん、それがいい…! だって先輩、凄く一生懸命お茶をたててるし…!)

純一「っ……」ドキドキ…

夕月(──ん? おやおや、橘。どうやらあたしの茶を立てる姿に見とれるのか?)

純一「っ……おお…!」ちらっ

夕月(……ふん! ちっとは後輩らしく可愛らしとこあるじゃないか。
   だいたいこれぐらいでいいもんだけど、もうちっとたてつづけてやるか……)

純一「……もうちょっと、もうちょっとで…」ぼそぼそ…

夕月(おお? もうちっとで終わるってことわかってるのか…すごいじゃないか)

純一「見え───……ぶっはぁっ!?」

夕月「よし、こんなもんってなんだぁ!? ど、どうした橘……っ?」

純一「つ、つけてッ…いや! なんでもないです! なんでもなくわないですけど!」

夕月「なんでもなくわないだろっ? 急に吹き出して…おいおい、大丈夫かよ?」すっ

純一「っ! あ、ちょ先輩…! 近づいてきたらもっと見え……あ、ぴん」

夕月「え? 見えるって……」ちら

夕月「…………………………………」

純一「くッ……だ、だだだだ大丈夫です! 見てません! ほら、僕めかくしてますから!ね!?」ばっ

やっぱり…!
るっこ先輩の可愛いさくらんぼが!

夕月「───橘…純一……」ぐっ…ぎゅっ…ささっ…

純一「………な、なんですか…?」ちら…

夕月「殺す」

純一「ひっ……! る、るっこ先輩…! お、おちおちち落ち着いて……!」

夕月「目ン玉抜いて、腸ぜんっぷ抜き取って梨穂子に食べさせる……」

純一「梨穂子がかわいそうですよ!それ!」

夕月「いや、あの子は喜んで食べるさ。ずんいち~おいしいよ~ってなぁ……」ゆらぁ…

純一「い、いやだ! そんな死に方絶対に嫌です…!」

夕月「そうか、だったら…今、ここで殺しちまうからよ!」ばっ ぐい… ぐぐっ!

夕月「え、あっ、きゃっ……?」よろよろ…

純一「ひっ!……ん? あれ、るっこせんぱ……むごぉ!?」ばたーん

純一「あたた……急に倒れてきて、どうしたんです───……か…」

ぷるん…

純一(……なんだろう、この二つのさくらん───)

さくらん!


着物ドーム内

夕月「っ~~~~~~!!」

純一「な、んあああなななななんで付けてないんですか…!?」

夕月「その前にみるなバカ! 変態ポルノ野郎!!」

純一「だ、だって両手は着物に絡まってて、うまく取れなくて……!」

夕月「眼つぶればいいだろう!ばか!!」

純一「そ、それは男として……」

夕月「死に急ぐって言うなら、かまわねえけどな……!!」

純一「閉じます!」ぎゅっ

夕月(くそっ……とりあえずはいいとして、着物が両手に絡まってうまく抜けだせない…!
   なんだこの状況…! どうしてあたしがコイツの上に覆いかぶさってんだ…!)

純一「…………」

夕月(横に転がるって案もあるが……それだと着物を脱ぎ捨てないとだめだ……!
   どうして橘にも着物が絡まってんだよ…! このばか!!)げしっ!

純一「いたいっ! ちゃ、ちゃんと眼はつぶってますよ…!」

夕月「……ここはしょうがねえ。おい、橘。顔を上げてあたしの顔だけを見るんだ」

純一「え、いいんですかっ……?」

夕月「…あ、ああ…とりあえずはあたしの顔だけをみるんだ……ってさっそく下を見るんじゃない!」げし

純一「あうっ……は、はい…改めて、こんにちわ…るっこ先輩」

夕月「こんにちわって言ってる暇じゃないだろうがよっ!
   …と、とにかく…今はあたしだけの行動じゃ、ここからは抜け出せないんだよ…!」

純一「えっと……どういう状況かわからないんですけど…っ」

夕月「……感覚的に分かんのは、あたしが着ている着物が…あんたとあたしの両手に絡まってるってことだよ…!
   器用に絡まりやがって……くそっ、本当に抜けだせん…!」

純一「な、なるほど……でも、先輩が横に転がれば大丈夫なんじゃ…?」

夕月「……あんたは女に、一糸纏わない姿になれっていうのかよ……あん?」

純一「そうですよね……す、すみません…!」

夕月「ふぅ……だからよ、ここは共同作業で行くんだ」

純一「……つまりは、この絡まってるのを二人でどうにかしようと…?」

夕月「それしかないだろうがっ……橘! 本気でやれよ…っ? 少しでも…い、いやらしいことしたら大声上げるからな!」

純一「わ、わかりました…! とりあえずは、僕はどうしたら…?」

夕月「お、おう……そしたら…右手のほうが若干、拘束がゆるい感じがするな。そっちをどうにか解け!」

純一「りょ、了解です……」ぐいぐい…

夕月「っ……あ、あんまり揺らすなっ……!」

純一「し、仕方ないですよっ…!こうしないと、中々取れなくて…!」ぐいぐいっ

夕月「くっ……」ぷるぷるん…

純一(……し、視界の端でなにか揺れてるっ……でも、気にしちゃ駄目だ!平常心!)

夕月「ま、まだか…っ?と、とれたかよ……っ!」

純一「も、もうっちょっとで……あ、とれた!」ぐいっ ばっ もにゅ

夕月「んっ……!」

純一「──あ、勢い余って……!!」もにゅ

夕月「っ~~~~~!!! すぅうううううう……」

純一「え、ああああ!? だめですって大声出しちゃ!」ばっ

夕月「んむぐっ!? んんー!んんんー!!!!」もがもが…

純一「落ち着いてください! まずは落ち着いて!!るっこ先輩!!」

夕月「んっ! んん~ッッ!!………がりっ」

純一「い、いたっ…!?」

夕月「───ぷはっ…こ、殺す気かあんた…! 鼻まで塞ぎやって…! はぁっ…はぁっ…!」

純一「す、すみません……でも! こっちも本気でやらなくちゃ先輩絶対に叫んでたでしょう…!」

夕月「あ、あたりまえだろーが! 人様の、む、むむねさわって置きながら……っ!」

純一「あれも不可抗力ですって…!」

夕月「あたしゃ気づいてたぞ! 触ったって気づいてから、もっかいもんだだろテメー…!?」

純一「……あ、それはその……」すっ…

夕月「目をそらすなこら……っ!」

純一「で、でもっ…!ほら! もう右手が抜け出せましたし…!これでやっと打開策が見えましたよ…!」

夕月「~~~~~っ………あ、ああっ…そうだなっ! じゃあ早く他の拘束の所、どうにかしろ…っ!」

純一「は、はい……わかりました…!」ごそごそ…

夕月(く、くそっ……あとで覚えて起きやがれっ…! みっちりし返してやるからなっ…!)

純一「えっと、これがあれだから……これで、そうで……」ごそごそ

夕月「っ……こっちは見るんじゃねえぞ…!」

純一「わ、わかってますって……これは、こう……よし、ほら僕の両手が自由になりました」

夕月「上に上げるな! ま、また触ろうとしてるかあんたはっ…!」

純一「ち、ちがいますって! そ、それじゃあ足元なんですけど……」

夕月「っ! そ、そこなんだけどよ……実はどうやら帯がからまってるみたいなんだよ……!」

純一「帯ですか……なるほど、じゃあ手を伸ばさなくて──」

夕月「いいんだよっ! ほら、あたしが手をついてる場所の横にあるから! それをひっぱればいいんじゃねえのか…っ?」

純一「ああ、確かに帯だこれ。わかりました、それじゃあ引っ張ってみますね……よいしょっと」ぐいぐいっ

夕月「っ……ど、どうだっ…?とれそうかっ…?」

純一「え、えーと……たぶん、はい。頑張りたいと思います…!」ぐいぐい

夕月(こ、これでなんとか……自由になるのか…くそ、なんてことをしちまったんだあたしは…!)

純一「こうかな…? いや、こう引っ張れば……」

夕月(愛歌やりほっちに合わせる顔がないよっ…! 茶道部でこんなはれんちなことをしちまってさ…!
   くそう……これもあれも、全てこいつのせいだ…!)

純一(な、なんだか物凄く睨まれてる気がする……)

夕月(と、とにかくっ…ここから抜け出すことが肝心だ…はやくしろ橘っ……!)

純一「──ん、あれ?なんだかたるみが出来たぞ…もしかして、取れるかもしれませんよ!」

夕月「ほ、ほんとうかっ…? じゃ、じゃあ早く引っ張れ! おもいっきりな!」

純一「は、はい! それじゃあ思いっきり引っ張って……よいしょっと!」ぐいー!

夕月「こ、これでやっと───……へっ?」ぎゅっ

夕月(な、なんだいっ…! 頭の上に、急に圧力が……!まさか、帯が頭の上に……!)

夕月「や、やめろ橘っ…! それ以上引っ張ると───」

純一「───よいしょっとぉおー!」ぎゅ…しゅるるるう…

夕月「なっ、あ、ちょ…っ!」ぐぐっ…ぐぐっ…

純一「んん~!!」ぐいっ!ぐいっ!

夕月「や、やめろっ…それ以上引っ張ると、腕が持た───」ちゅっ

純一「……んんっ!? んっ!?」びくっ!

夕月「っ~~~~~……ん、んんっ!」ばたばた!

純一「ん、んんっ! んふ、んん……!」あたふた…

夕月「んっんんーーーーーーー!!! 」ばたばた…!!

純一「───ん………」すっ…

夕月「んーーーっ……ん、んん……?」ちらっ…

純一「………」じ…

夕月「………んん…っ?」

純一「………」ぎゅう…

夕月「っ……んん!? んんーーーー1!!!」

純一「っ……んん、ちゅ…」

夕月「んんっ!? ん、んっ……っ!」ぴくん

純一「ちゅ……ちゅっ……………れろ」

夕月「んんーーーーー!?!?」

純一「…………」…ぴた

夕月「──んはっ…! んはっ……!」ぐたー…

純一「…………」じい…

夕月「……んんっん!? んん! んんん!!?」ぷんすか

純一「………ちゅっ…」ぐいっ

夕月「っっ!? んん…!?」

純一「ちゅ、れろ……────!!」

夕月「んんっーーーー!!!─────」


数分後

純一「ちゅる………ぷは、あれ…頭にあった拘束が緩んでる……」しゅる…

夕月「……はぁっ…はぁっ…はぁっ…」

純一「…先輩? ほら、もうとれましたよ」

夕月「っ……はぁっ……はぁっ…!」ぎろっ…

純一「……声も出ませんか? まぁ、ずっとキスしてましたしね……うん」

夕月「はぁ……はぁ……けほっ……はぁっ……」ぎゅっ

初めての共同作業(意味深)

純一「……すみません、なんというか。たぶん、僕が帯び引っ張ったせいで…
   お互いの顔が帯に巻き込まれて、ひっつきあったってわかったんですけど…」

夕月「っ………はぁっ……はぁ……」

純一「……なんていうか、我慢できなくなって。あはは…!キス、しちゃいました…」

夕月「……っ……はぁ…はぁ……」

純一「その、苦しかったですよね? いやでしたよね……し、舌とかも入れましたし…
   あの状況だと、キスしてたら強制的にでも入ったと思うんですけどね……」

夕月「………はぁー……っ……」

純一「……先輩、落ち着きました?」

夕月「…た、たちばなっ……」

純一「……はい、なんでしょうか。先輩」

夕月「なんで……──泣いてるんだ、よ……っ?」

純一「───えっ…僕、泣いてますか…?」

夕月「はぁ…はぁ…ああ、泣いてる、ぞ……!」

生娘みたいな反応しやがって!

純一「……本当だ、涙出てる…」ごし…

夕月「あ、あたしも……出てるけど…!…はぁ……息苦しかっただけで、あんたほどじゃないっ…はぁ…はぁ……」

夕月「けほっ……はぁ、ふぅ………」

夕月「……何で泣いてるんだ、橘純一…まずはそれを聞かせろ」

純一「……きっとあれですよ、先輩と、るっこ先輩とキスが出来て嬉しくて」

夕月「…………」

純一「嬉しくてその……いっぱいいっぱいな気持ちになったんじゃないですかね…?」

夕月「…………それが、本音か?」

純一「……いや、ちがうと、思います……いえ、違います……きっと」

夕月「………ひとつ、そんな橘にあたしから言っておきたいことがある」

純一「っ……なん、ですか…?」

夕月「───ふぅ…いいか、言うぞ?」

純一「……はい、どうぞ」

夕月「あんたのこと……別に嫌いになったりしねーよ」

純一「っ……!」

かっこいい女だメーン!

夕月「どうぜ、くよくよさっきのこと悩んでたんだろ…?
   自分からやったくせによう……本当にあんたって頭ゆるゆるだよ」

純一「…………」

夕月「……いっちゃーなんだが、その。別に…あれってわけよ…うん」

夕月「い、嫌じゃなかったってー……途中で思っちまったさー……」

純一「……そう、なんですか……?」

夕月「そ、そこで聞くかフツー…!?……ま、まぁ……そうだな、これはあたしの意見だし…
   聞かれたら答えるってのが筋か……そうさね…」

夕月「……そうだよ、橘。あんたにき、キス……されてて。アタシはいやじゃなかった、さ…っ」

夕月「…だ、だってほらっ! と、途中から……………………………ア、アタシカラモシタダロ…!」ゴニョゴニョ…

純一「……確かに。どちらかというと、途中から先輩のほうが積極──ぐはっ!?」ごすっ

夕月「そ、そそそそういうことをさらっというなってばッ!!あんただってずいぶんと、
   ごっちゅんごっちゅんやってくれたじゃねぇか! そ、そそそれに…!」

夕月「き、キスしながらッ……む、胸とか触りやがって……!!」

純一「ば、ばれてました…?」

夕月「バレるわ! がっつりわかってたっつーの…!」

純一「………」

夕月「………──と、とりあえず、ほら……もう出れるだろ?」

純一「え、あ、はいっ……」ごそごそ…

夕月「………」ポリポリ…

純一「……出ましたよ、るっこ先輩」

夕月「お、おうっ……じゃあちょっと着替えるからよ。すこし外に出ておいてくれ」

純一「わかりました……」がらり… ぴしゃ

夕月「…………」

夕月「……はぁ~…なんだろうねぇ~…」

数分後

純一「…………」ずずっ…

ピーヒョロロロー

純一「お茶、熱い……」

『───……橘、そこにいるのかー?』

純一「は、はいっ…!ここにいます!」

俺「俺もいます」

『そ、そうか……少し待っとけよ。茶菓子持ってきてやっから』すたすた…

純一「あ、ありがとうございます……」

純一「──………はぁー…だめだ、先輩と素直に話せる自身がない…っ…!」

純一「……。なんてこと、してしまたんだよ…僕……」

純一「………もう、これから茶道部に…」

純一「……これなくなっちゃうのかな───」

夕月「──んなこたぁねえだろ!おい!」ばしん!

純一「いたぁっ!?あつィ!?」

夕月「ははっ、しけた顔しやがって! 数分前まで熱いキスをした男かよそれが!」

純一「ちょっ、それは……!」

夕月「んだよ、ちげーっていうのかよ? 本当のことだろう?」

純一「そ、そうですけど……」

夕月「なら、ちったー自信持てよ! このあたしから…ファーストキスを奪いやがったんだぜ…?
   くくっ、どんな物好きってもんだよー」

純一「物好きって……僕は、先輩が!」

夕月「ん? なんだよ、あたしがどうしたって?」

アツゥイ!

夕月「まさか──……あたしのことが、好きだって言いたかったのかい?
   くくっ、そりゃーなんて面白い冗談だよ。んな小さいネタだとあたしゃ───」

純一「──そうです、好きです」

夕月「……ふーん、そうなのかい。それで続きは?」

純一「……僕は先輩のことが、好きです。好きでしょうがなくて…こうやっていっつも、
   茶道部に入り浸って…先輩といつも会うようにしてました」

夕月「ふむふむ……」

純一「でも、先輩はもうすぐ卒業…だから、僕もはやく……先輩に告白しとこうって思ってて。
   だけど、なかなかできなくて……それで……」

夕月「……それで、あの状況になった時。爆発したってわけかい」

純一「……はい、でも、気持ちは本当に先輩だけで…他の誰かってのは、全く考えられなくて…
   ……だから先輩!僕は……!」

夕月「…いいよ、続けな」

純一「っ……貴方のことが、好きです…!
   どうかこんな変態ポルノ野郎だけど…………」

純一「……僕と、付き合ってください……!」

夕月「………なるほどねぇ……うんうん、そうかそうか……」

純一「っ……る、るっこ先輩……!」

夕月「ん? なんだい、そんなに震えてさ。まるで小動物みたいじゃないか」

純一「…………」

夕月「くくくっ……ほんっとあんたってば、いじり甲斐のある可愛いやつだよ」ぐいっ

純一「え……?」

ちゅ

夕月「…いいよ、橘純一。そのネタはセンスがあった」

純一「……せ、先輩…っ」

夕月「あたしのここに、どんっ! ってきたよ。ばっちりとね」

純一「……それじゃあ、僕とっ……!」

夕月「──なーに、みなまでいうなって。とっくにあたしゃアンタに染まっちまってるんだ」

夕月「……一緒に、粋な人生歩んでみようぜ、な?」

るっこおわりー

次は梅原決めた

告白の返事すっ飛ばして逆プロポーズきた!

愛歌ちゃんは…愛歌ちゃんは書いたの…?

>>178
前回のスレの
純一「みんなと、イチャイチャしよう!」でぐぐっていただければ

今から書きます

 あれから、どれだけの時がたっただろうか。
 今から思い返せばだいぶ経ったように思うが、それは多分、違うのだろう。

「……へっくしゅんっ」

 12月の冷たい風が、寒さに凍えた体をさらに冷やしていく。
 耐え切れずに上着のポケットに両手を突っ込むと、俺はその場へとゆっくりしゃがみ込んだ。

「おせぇなぁ……まったく、なにやってんだか」

 はぁ、と。ため息が肺の底からこぼれ落ちる。実は長い間、この河原へと俺は待たされていた。 
 ──長い間。というのはいささか表現が大きすぎるかもしれないが、それでも俺という心境では。
 とても、とても、永遠とも思えるほどに。時の流れを長く感じたものだった。

「はぁー……大将、はやくこいよ」

 吐き出した吐息が、冷たい空気に白く散っていく。それはまるで──あの時の、一年前の俺を表してるようで。
 すこしばかり、なんというか。
  
 ──面白く、思っちまった。

【梅原正吉】

>>180
そうか、確か移転した時のスレだったっけ
途中まで追ってて読めなくなってたんだ
ググるわ

 輝日東高校に入学してから、はや三年が経とうとしていた。
 時ってもんはものすごく早いもんで、あっといまに卒業を迎える時期になっちまった。
 
「…………ふぅ…」

 高校生となって、何か残そうと躍起になっていた頃が懐かしいほどに。
 今の俺は廃れた──いや、からっぽな大人へと変貌しつつあるのをひつひつと感じていた。

「───寂しいねえ……なんでこう、もっと頑張らなかったんだろうか」

 なんて嘆いてみせるが、実際の所、心の中はもはや後悔の残滓も残っていない。
 ……そんなつまんねぇ男になっちまったことは、今やどうしようもなかった。

「…………」

 当時の俺はクリスマスまでに恋人作る! なんて粋がってたもんだったが。
 今考えてみるとなんて馬鹿なことをやっていたんだろうと思ってしまうのがオチで。

「まぁ……当時は本気だったんだよなあ……」

 だが、そんな思い出からにじみ出てくるのは、正直に言うと苦笑いだけだった。

梅ちゃんは田中恵子ちゃんと付き合うのがお似合いだと思うの

「…………」

 自然と俯きかけていた顔を起き上がらせると、広々とした空へと視線を伸ばす。
 河原の寒さに答えるよう広く高く昇った冬の空は、雲ひとつない晴れ晴れとした晴天だった。

「──確か、あん時もこんな空だっけか………」

 今からちょうど一年前だったな。

 記念すべき二年目のクリスマスが無事に終わっちまって。
 なんというか、まぁ、つまりは。自ら変えようとしていた日常は、ほとんど何も変わらずに。
 次の日からまた、時が流れていくだけの高校生活が始まっちまっていた。

「…………」

 クリスマスを充実させる。なんて目論んでいた俺にとって、そのような日常が始まることは。
 胸の奥底からため息が出ちまうぐらいに悔しいことで……だが、それでいて。

「……なんも変わらなかったことが……すっげー安心してたんだよなっ」

 ───なんて声に出してしまうぐらいに、心の底から安堵した瞬間だったんだ。

「…………」

 おかしな話だと思うだろ。なんつーか頭大丈夫か? とか問いただしたくなっちまうと思う。

 俺が過ごしてきた高校生活を、どうにか変えてやろうと頑張っていた当時の自分。
 俺が過ごしてきた高校生活を、なんら変わらなかったことを結局は安堵した自分。

 ──ちぐはぐだらけの、一体どれが俺の本心なのかがわからない。
 そんな別々の心を持った自分が、当時の俺の心境だった。

「結局は、お前はなにがしたかったんだよって……話だよなぁ…」

 馬鹿みたいに頑張ったくせに、なにも手に入れられなかったことがなによりも嬉しかった。
 ひたすら頑張った努力が実らなかったことが、一番の幸福だなんて。皮肉すぎやしねえかそれって。

「ま。事実だからしょうがねえわな」

 ──これもまた、俺は苦笑いしかでてこなかった。
 若いっていうのは本当に素晴らしいもんだ、結果なんて考えずに行動ができるってもんだからな。 

「……………」

 つまりは、まぁ、あれだ。
 クリスマスを充実させようとか、恋人を作ってうはうはな日常にするとか。
 んなーことはどうだってよかったんだ。実際のところは。

「──おーい、梅原ぁー!」

「ん……? おう。遅いじゃねぇか大将!」

 一つの声に、俺は見上げていた視界を河原へと戻す。
 長く遠く続く河原の端に見慣れた顔がひとつ、そこにはあった。
 ───そう、それは俺の大親友である友人。小さい時からずっと一緒に居続けた奴。

「あはは、すまん梅原。ちょっとヤボ用があってさ」

「そうなのか……まぁ、こっちも今来たところだぜ」

 そうなのか、それは良かった。と笑いながら近づいてきた友人は、俺の横へと自然にしゃがみ込んできた。
 ……何ら変わりなく、あの時と、一年前と同じように俺の横へと並んで。

「…………」

「今日も寒いなぁ……なぁ、梅原」

「だな。今日も明日も寒いだろうよ」

 いつもと変わりない、何気ない会話。これからさきもずっとこうなるだろうとわかってしまう程に。
 頑固で力強い、変化の起こることのない俺と奴との日常だった。

「───……俺は、ただ。逃げたかっただけだったんだよ」

 ───この緩くて暖かい、居心地のいい日常から、どうにか逃げようとしていただけなんだ。
 なにか目標を立てて、それに向かってがむしゃらに走っていれば、最後にはどうにかなるって。
 なんの根拠もない小さな思いを胸によ、こう頑張って逃げ出したかっただけだったんだ。

「…………」

 いつまでもこんなぬるま湯に浸かりっぱなしじゃ、俺は後々に絶対に後悔することになる。
 そうなる前に俺は頑張らなくちゃいけなかった。逃げ出すことを、本気で考えねえといけなかった。 

「………失敗、しちまったけどな」

 ……そういった覚悟はあった。だが、結局は駄目だった。
 もしかしたら何処かに甘さが残っちまってたのかもしれない───結果的には俺は安堵をしちまっているしな。

「…………」

 つまりは、俺は日常から逃げ出すために……恋人づくりを始めたんだ。
 日常を充実させる為の行為じゃなく、日常から逃げるための《努力》だったんだ。

「………ふぅ」

 ──なんて、色々と考えちまっていると、すっきりしていたはずの頭がごちゃごちゃとしてきて。
 あれから一年の時がたったというのに、後悔のひとつも無くなってきたというのに。
 すこしばかり、溜息をつきたくなってきた。

「──おーい、梅原ぁー!」

「ん……? おう。遅いじゃねぇか大将!」

 一つの声に、俺は見上げていた視界を河原へと戻す。
 長く遠く続く河原の端に見慣れた顔がひとつ、そこにはあった。
 ───そう、それは俺の大親友である友人。小さい時からずっと一緒に居続けた奴。

「あはは、すまん梅原。ちょっとヤボ用があってさ」

「そうなのか……まぁ、こっちも今来たところだぜ」

 そうなのか、それは良かった。と笑いながら近づいてきた友人は、俺の横へと自然にしゃがみ込んできた。
 ……何ら変わりなく、あの時と、一年前と同じように俺の横へと並んで。

「…………」

「今日も寒いなぁ……なぁ、梅原」

「だな。今日も明日も寒いだろうよ」

 いつもと変わりない、何気ない会話。これからさきもずっとこうなるだろうとわかってしまう程に。
 頑固で力強い、変化の起こることのない俺と奴との日常だった。

ちょっと十五分休憩
なんで地の文書いたし…

落ちてしまったら、こんどまた立てるかも
ではでは

「今日は……いきなり呼んじまってすまねぇな。色々とあったんだろ?」

「ん? いや、大丈夫だったよ。お前が僕を呼びつけるなんてけっこう珍しいことだったしね。
 だったら他の用事なんて全部、放ってくるさ」

 隣で寒そうに白い息を吐きながら、友人はそう答えてくれる。
 それはなんともソイツらしい答え方で、本当にそう思っているのだろうとわかってしまい。
 俺は、ほんのちょっと嬉しくなっちまう。

「はははっ……そうか、そりゃー悪いことしちまったな!」

「いいってば。それよりもほら、今日はどうしたんだよ?
 ……こんな所に呼ぶぐらいだからさ、しょうもない話しじゃないってことはわかってる」

 白い両手をさすりながら、奴は俺に話しを促してきた。
 ……ここまで察しられると、こんな風にコイツは察しがいい奴だったか、多少そう疑問に思ったりするが。
 これもまた高校生活の中で色々と経験をしたおかげなんだろうと、すぐにわかってしまった。

「……いや、あれよあれ。そろそろ俺らも卒業だろ?」

 そう言うと奴は、すこしばかり意外そうな表情を見せた後。そうだなと、頷いて返してきた。

「まあ確かにな。高校生活もおわって梅原は……進学せずに、お店を継ぐんだろ?」

 なにやら言い難そうに言った奴の言葉に、俺は出そうになった苦笑を堪える。
 一応は気にしてくれてんのな、なんて思ったりするが口には出さないでおいてやろう。

「……たりめーよ! 俺はなんてったって寿司屋の次男坊だぜ?」

「次男坊だからってなんだよ……普通は長男とかだったらわかるけどさ」 

 ははは、と。そのもっともな突っ込みに俺は笑って誤魔化した。
 確かにその通りで、何も言い返せないって問題じゃない。もとより、そのつもりもないしな。
 
「……本当に、よかったのか? 大学に行かなくて───」

「何度もいわせんなって。俺は自分で決めたんだからよ」

「……そうか、それならいいんだ。うん」

 そう言いつつ全然納得できていない表情をしながら、奴は俺からそっと視線を外した。
 ───いいんだよ、お前さんは気にしなくて。そう言ってやりたくもなるが。
 俺はもう、口に出す言葉は全て出し切ったつもりでいた。だからもはや、語るものは何も無いんだ。

「……なぁ、大将。お前さん」

「ん? なんだよ、梅原」

 もう一度こっちに向く奴の、瞳。
 ふたつの目ン玉はじっと俺のことを見つめていて、なんら混じりけのない眼光に身体が竦むような感覚に陥ってしまう。

「……いや、なんでもねぇ。とりあえず今日は最後にってことでよ、これをもってきたんだぜ!」

 その感情を押し切るようにして、俺は話しを無理やり口から押し出させ。
 ずっと隣に置いていた紙袋の中に手をつっこんで、とある物を目の前に取り出した。

「おおっ……! こ、これは……っ!」

「へへっ……わかるか大将っ! 俺の秘蔵のお宝本だぜ!」

 そうやって空気に晒したのは、ひとつのお宝本。
 俺が後生大切にと、部屋の奥深くに保管していたレア物中のレアだった。

「表紙を見ただけでわかるよ! と、というかどうしたんだよ…? 河原なんかまで持ってきて…」

 奴もそれがわかっているのか、ちらりと表紙を見ただけでこの興奮度だった。やはり見る目がある。
 というかそもそもフェチや趣味が殆ど一緒なのだから、好きなモノがかぶるのは当たり前だった。

「おうよ。これをな、大将にやっちまおうと思ってな」

「……えっ!? 本当にか!?」

 心底びっくりしたように声をあげ、一瞬嬉しそうな表情をした後。
 すぐに疑うような色をみせてきた。やはり察しがいいなお前さん。

「本当にだ、くれてやるよ」

 だが、そんな反応は予測済みだった。

「ど、どうしてだよ? なんでそんなにも気前がいいんだよ…?」

「進学祝いってやつだ。なに、俺も大将に気前よく何かプレゼントなんて出来るほど余裕もないからよ。
 こうやってお前さんが気に入りそうなやつを全部、もってきてやったんだぜ?」

 ──そうやって予め用意していた言葉を、ぽんぽんと口から放り出していく。
 なんともまぁ、我ながらもっともらしい話だと思う。出来すぎにも程があった。

「梅原……そんなの、べつにいいのに…」

「お? だったらいらねえのかーそりゃ残念だったぜー」

「………まて、梅原。すこし話をしようか」

「……くっくっく。遠慮んなんかするんじゃねえよ大将ぉ!もってけもってけ!」

「……ありがとう、梅原。僕なんかのために…」

「いいってことよ。俺は───お前さんの、一番の親友だからよっ」

 ──ちくりと、一瞬、喉の奥に痛みを感じた様な気がした。
 そうだ、これはただの勘違いだろう。そうじゃないと、もうだめなのだから。

「な、なんだよ……改まって。恥ずかしいだろなんか」

「へへっ! いいじゃねぇか、俺だって偶には臭いこと言いたい時があんだよ」

「……そうか、なら仕方ないな」

 ──それから二人で、多愛ない会話をし続けて。前と変わらない落ちもない話を終わらせて。
 やがてはわかれる時間となっていくだけだった。

「──はははっ……さーて、んじゃーまぁ、用ってのはこれだけなんだけどな」

「ん、そうか。とりあえずありがとうなこれ…一生大切にするよ梅原」

「そうしろよー? そんじゃ大将………おっ?」

 そういって別れを切りだそうとした瞬間、ヤツの肩越しの向こうに。

 ひとつの小さな人影ちらりと見え隠れしていた。……なるほど、そういった用事だったのか。

「───どうやら、お迎えが来たようだぜ? このこの~! 幸せもんめ~!」

 俺が気づかせるように肩をつつくと、それに合わせて奴も視線を向ける。
 一瞬驚いたように肩を揺らすと、小さな笑みをこぼして、こちらへと振り向いた。 

「や、やめろよ……からかうなって!」

「はははっ。 ───そんじゃ大将、今日はわざわざありがとな」

「ん、梅原こそお宝本ありがとな!……それじゃまた明日、梅原」

「おうっ!」

 見慣れた後ろ姿がゆっくりと遠ざかっていく。
 俺の隣から先へと進んでいっちまう背中を、俺はただただ、静かに黙って見届けた。

「…………」

 いずれその見慣れ続けた背中は、その先に奴を待っている小さな人と隣同士となって。
 俺の見慣れない姿へと変わっていくのだろう。

「……また明日、大将」

 俺はそっと小さく言葉を呟いて。見上げるようにして空へと視線を伸ばした。
 さっきと全く変わりない澄んだ青を湛える冬の空は、雲ひとつなく薄い霞でさえも浮かんではいなかった。
 
「……行くか」

 ───自然と足は動き出し、俺はゆっくりと自分の道を歩きだす。
 一人で砂利を踏みしめ、一人で行き先を見つめる。それが如何に寂しく、つまらないことであっても。
 今はもう自分の隣には誰もいない、ほんとうの意味で誰もいないんだ。だから俺は一人で歩き出さないといけない。

「……へっくしゅんっ」

 寒さに凍えた身体がぶるりと震える。
 これはもしや風邪を引いちまったか、とすこしばかり不安に思いながら。

 ───誰一人として見えないよう、小さく俺は苦笑を零した。

うめちゃんおわり

これを読まれた方は、これからさきアマガミを見てる時
梅ちゃんと大将がイチャイチャしているように見えるだろうという狙い

疲れた
次は紗江ちゃんか田中さん書きたいけど
少し寝ます お昼には起きるともう

落ちてたらそれまででノシ

>>184
わた、香苗さんの方がお似合いだと思うなぁ!

>>204
悪くないね
というか君もヒロイン枠に入ってくれよ

田中さんと香苗さんと響先輩ルートがほしいよな、アマガミには…エンターブレインさん

>>223
エンターブレイン「ダルい 複雑化面倒 却下」

梅原のスキBAD期待

良かった
残ってたのか

おきた  保守どうも
田中さん今から書く

【田中恵子】
教室 放課後

薫「恵子~」

田中「……ん~? どうしたの薫?」

薫「ちょっとさー……あんたに聞きたいことがあるんだけど。ちょっといい?」

田中「なによ、改まって……はいはい。どうぞ」

薫「…………」じぃ…

田中「?」

薫「あんたってさ……もしかして、もしかするとだけどさ」

田中「うん、なに?」

廊下
純一(ふんふふーん♪……今日も高橋先生に怒られたぞ!
   やっぱり麻耶ちゃんはきれいだなぁ~)

純一(……ん? あれ、まだ誰か教室に残ってる…あれは田中さんと薫…)

薫「───純一のこと、好きでしょ?」

田中「……え、ええええっ…!?」

純一「っ……!?」

まさかの遭遇…!

純一(ちょ、あ、ええぇええー!?
   なんだこれ……すこし、教室に入るのやめておこう…!)ささっ

教室

田中「……な、なにをいってるの薫っ…も、もうっ!変な冗談はやめてよ~…!」

薫「アタシの眼はごまかせないわよ、恵子。あんたが純一を見る瞳は……
  恋する乙女にしか見えないんだから」

田中「乙女って……い、いやいや! 違うからねっ? そればっかりは違うよ…!?」

薫「……ふーん、あくまで違うって言いたいのね」

田中「あ、あたりまえだよ~…もう、急に何を言い出すのかって思えば…はぁ~…びっくしりした」

純一(……なんだなんだ…? 状況がうまくつかめないんだけど、とりあえずは…
   薫が田中さんに、僕のことが好きなんだろうって言い寄ったってことかな…?)

純一「………………」

薫「……じゃあさ、恵子。あんたは純一のことは……嫌いなの?」

田中「嫌いってことはないけど…クラスメイトだし、好きも嫌いもないよ…」

薫「…………」

田中「……ううっ…どうしてそこで怖い顔するのよ薫~…?」

薫「……いや、だってね? アンタって……あたしに嘘をつけれるって本気で思ってるみたいだから、
  なんて言ったらいいのか考えてたのよ」

田中「っ……あたしのこと信用、してないの…?」

薫「してない。今回ばっかりは」

田中「…………」

薫「……あたしは恵子と親友のつもり。だから言いたいことははっきり言うし、
  それにあんたもそう出会って欲しいって思ってる。お互いに隠し事なしが一番じゃない」

田中「………っ…」

薫「だから、あたしには正直に恵子の口から言って欲しいのよ……純一のこと、好きなのかって」

薫「───クラスメイトとかじゃなくて、あたしの悪友だからって……嫌いとかじゃなくて。
  本当に、一人の男として……アイツのこと好きなのか、あたしは聞きたいの」

田中「………薫…」

薫「どうなの、恵子。教えて」

田中「っ………」

廊下

純一「……………」ドキドキ…

薫「…………」

田中「………っ……」ぎゅっ…

田中「………薫、その、あのっ……!」

薫「……うん、なに恵子」

田中「っ……あたし、あたしはっ……」ぶるぶる…

薫「…………」

田中「───……ぐすっ……うぇええんっ…!」

薫「……えええぇー! なに急に泣き出してるのよ…! え、ちょ…ごめんってば!」あたふた…

田中「か、かおるっ…あたし、あたしっ……!」

薫「泣くのやめてってばっ…あ、あたしがきつく言い過ぎたから…っ? それならごめん、恵子…
  …だってそうしなきゃ、絶対に言わないって思ったから……っ!」

田中「うぇえええん…っ……ち、違うのっ……ぐすっ…違うんだよ、薫……っ」ぐしぐし…

薫「え、違うって……どういうこと…?」

田中「ぐすっ…ひっく……あのね? ひっく……あたしは、薫が言ったとおり……ぐす…」

田中「……た、橘くんのこと…すき、だよ……?」

薫「いや、それはうん……ものすっごく分り易かったから、今更言われてもあれだけど……
  ……ありがとう、正直に答えてくれてさ」

田中「うんっ……でもね、でもね…? 泣き出しちゃったのは、また別のことなの…ぐすっ…」

薫「……別のこと?」

田中「うん……きいてくれるかな、薫……?」

薫「当たり前でしょ! あんたの相談だったら、なんだって聞いてあげてきたじゃないの!」

田中「……ありがとう、薫……やっぱりすごいね、薫は……」

純一(え、えええー! た、田中さん……僕のことが、好き…だって!?
   なんということだよ……まったく気づいてなかった……!)

純一(……し、しかも僕もこのタイミングで聞いてしまった……明日からどう田中さんと顔を合わせたらいいのかっ…!)

薫「……落ち着いたかしら? どう、もう喋れそう?」

田中「ぐすっ……うん、大丈夫。もう泣き止んだから………」

薫「それで、なんで急に泣き出したのよ。正直に好きだって言ったから泣いた……じゃないのよね?」

田中「そう、だね……そうじゃないの。それはいつか言うつもりだったし…
   急に言われたから、ちょっと戸惑って否定しちゃったんだけど……」

薫「じゃあ、どうしてよ」

田中「……あのね、薫が…橘くんのことあたしが好きだって、もう気づいたのに…」

薫「うんうん、最近になってだけどね」

田中「……橘くんは、全然っ………気づいてくれないの……まったくこれっぽっちも…」

薫「……え?気づいてくれないって……もしかして、アンタ結構アタックしてたの?」

田中「……が、頑張ってたよ、うん…」

薫「すごいじゃない! 恵子が男の子にアタックだなんて……キス野郎以来の快挙でしょそれ!」

田中「き、キス野郎って……まぁ、そうだけど…」

薫「それでそれでっ? 気づいてもらえないってことは……ちょっと押しが弱かったってワケ?」

田中「……そう、なのかなぁって……ちょっと思っちゃって…。
   それでちょっと涙が出てきて…ぐすっ……橘くんは、あたしのこと嫌いなのかなって……」

薫「あーもう、泣かない泣かない……うーんと、あたしが思うにアイツはアンタのこと、
  嫌いじゃないって思うけどね」

田中「……本当?」

薫「そそそ。だからさ、ちょっとどんなふうにアタックしたのか…ちょっと教えなさいよ」

薫「そうすれば、アンタが悪かったところとかあたしがアドバイスできるかもでしょ?」

田中「……うん、そしたらアドバイスちょうだい薫」

薫「ぃよし! じゃあいっちょ聞いてあげますかー」

田中「ありがとう、薫……えっとね、あれは一ヶ月前からなんだけど────」

一ヶ月前 廊下

田中「っ……た、橘くんっ…!」

純一「…ん? やあ田中さん、おはよう!」

田中「お、おはおはようっ…! きょ、今日もいい天気だね…!」

純一「……えーと、今日は曇り空だからいい天気ってほどじゃないけど…?」

田中「えっ、あっ、そうだったっ……ご、ごめんなさい…私ったら変なこと言って…!」

純一「あはは。面白いなぁ、田中さんは。朝からセンスが冴え渡ってるね」

田中「あ、あはは…そうかなっ…?」

田中(──橘くん、今日もかっこいいなぁ…なんて言えたらいいけど、そんなこと言えないよね…うん)

田中(……でもでも、頑張ってればいつか…言える日がくるかもしれないし。
   今日もこうやって朝の挨拶も出来たから……うん! 頑張っていこうっと…!)

たんぽぽちゃん…

純一「……そういえば田中さんは、廊下で何をしているの?
   薫でも待ってるのかな?」

田中「え、あうん……そ、そうじゃなくて……えっと、そのー…」

純一「うん?」

田中「ごくっ……あ、あのねっ…! た、橘くんに…ちょっとお話があって……」

純一「え、僕に? どうしたのかな」

田中「そ、そのっ……今日の放課後、暇とかあるかな~…って思って…!」

純一「放課後になにかるの?」

田中「そ、そうなの! えっと…あ、あたしのねっ? か、買い物に付き合ってくれないかなぁって…」

純一「買い物って……田中さんの買い物に、僕が付き合って欲しいってこと…?」

田中「う、うんっ…! あ、あのね! 今日は薫が忙しいっていうから、ちょっと一緒に買物行くのが
   つぶれちゃって……そ、それなら橘くんを誘えばいいって薫がいうからっ…!」

純一「……なるほど、薫のやつ…また適当なことを言いやがって。僕がなにかいってやろうか?」

田中「えっ!? い、いやそれはいいんだよ…! わ、わたしは気にしてないから…!
   だからそのー……だめ、かな?」

多分、田中恵子ちゃんは上目遣いの破壊力がハンパないキャラの一人だと思うの

純一「そうなの? えっと、うーんと……」

田中(さ、誘っちゃった~~~~っ……!! ううっ…! 大丈夫、だよね…?
   変な誘い方じゃなかったよね…何度も何度も、布団の中で練習したもの…大丈夫、大丈夫…!)

純一「今日は、梅原と遊ぶ約束があった気がするけど……」

田中「…えっ、あ、そう、なんだ……じゃあ、暇は……」

純一「……いや、べつにいいよ? アイツとはいつだって遊べるしさ、田中さんと買い物なんてめったに無いと思うし」

田中「そ、それじゃ…! 今日は大丈夫……かな?」

純一「うん。おっけーだよ! 放課後すぐに行く感じでいいのかな?」

田中「う、うんっ…! あ、ありがとう!…そ、そしたらその…裏門近くで待ち合わせでいいかな…?」

純一「え、校門前じゃなくていいの? というか教室から一緒に行っても……」

田中「そ、それはだめっ……!」

純一「そ、そうなの? わかった、それじゃあ裏門で待ち合わせね」

田中「う、うんっ……よ、よろしくおねがいします…っ」

誘い方…何度も何度も…布団の中で練習…

現在

薫「──やるじゃない恵子ぉー! なになにあんたってあたしが居ない間にんなことやってたの!」

田中「う、うん……が、頑張ってみたんだ…!」ぐっ

薫「いやー……あの臆病で引っ込み思案の恵子が、男一人をデートに誘えるなんて…本当にすごいわね」

田中「…これも、薫のおかげだよ」

薫「え、あたしのおかげ?」

田中「う、うん……そのね。前にいってたキス……問題があったじゃない。
   あの時薫ってば男子生徒に掴みかかって……ものすごい剣幕だったでしょ?」

薫「そ、そうだったかしら…? そんなに怖い顔してたあたし?」

田中「怖くはなかったよ、ただ凄く……かっこよかった。
   正直に自分の気持をぶつける薫の姿は……わたしにはかっこよくみえた」

田中「───だから、わたしも頑張って…自分の気持をぶつける勇気を持とうって…思ったの。
   だから買い物に誘えたのも……全部、薫のおかげなんだよ」

薫「恵子……このこのっ! 嬉しいこと行ってくれるじゃないのよっ」

田中「えへへ~。………でも、ね…これにはつづきがあるの薫……」

薫「……うん?続き?」

薫「続きって…そのあと買い物に行って、色々とイチャコラできたんじゃないの?」

田中「う、うんっ……それは、その…できたんだけどね…」

薫「……なにやら煮え切らない表情ね。この際、全部話してみなさい恵子」

田中「わ、わかった……それじゃあ続きを言うね────」

一ヶ月前 ショッピングモール

田中「ふぅ…やっぱり建物の中って暖かいね、橘くん」

純一「そうだね、外は冬真っ盛りだし。そろそろ雪でも降ってくるんじゃないかなぁ」

田中「…そうなると、通学の時に困っちゃうなぁ~…雪で転んだら大変だし…」

純一「あはは、心配性だね田中さんは。大丈夫だって」

田中「えへへ~…そうかな?」

純一「うん、そうだよ。……そしたら今日は買い物って言ってたけど、なにを買うつもりなの?」

田中「えっとね、ちょっとした小物とか……あとは、圧力鍋が欲しいかな…?」

純一「……圧力鍋?」

田中「う、うんっ…! お母さんが買ってきてって言うから…その、へんだよね…?」

家庭的でかわいいよ!!

純一「い、いや…別に変じゃないと思うよ。いいんじゃないかな、圧力鍋! なんだか強うそうだし!」

田中「強うそう……だ、だよねっ! それじゃあさっそくいこっか…?」

純一「うん、行こうか!」

小物ショップ

純一「いっぱいあるね……とりあえず、色々と見てまわろっか」

田中「だね。…あ、これかわいい……」そっ…

純一「ん、それは……猫の置物だね。ネコ好きなの?」

田中「う、うん……家でもむかし飼ってたんだ」

純一「へー、僕はペット買ったことないなぁ……」

田中「うんっ。とってもかわいいんだよ、こう学校から帰ってきたら…玄関でまっててくれて。
   そして足元にすりすりって……頭をすりよってくるの」

純一「………」

田中「それでそれでねっ……あ、私ったら自分の話ばっかりで…」

純一「ううん、田中さんがうれしそうに話してるから。本当にネコが好きなんだなって思ってさ」

田中「……そう、かな…うれしそうに、はなしてたかな…?」ちらっ

純一「うん! それはもうね!」

田中「そっか……そうなんだ……そしたら、これ買おっかな」

純一「気に入ったの?」

田中「うん、模様とかそっくりで顔も似ているような気がするの。だから、ちょっとお気に入りかな」

純一「そっか。そしたらもう、このお店はいいの?」

田中「そうだね、橘くんが欲しい物あったりするのかな…?」

純一「…僕は特になにもないかなぁ」

田中「……あ、そしたら洋服を見に行こうよ。橘くん」

純一「洋服?」

田中「うん、だって橘くんの私服って見たこと無いから……ちょっとどんなふうな物買ってるのかなって。
   気になって……」

純一「僕の私服が気になるって…またおかしな興味だね、田中さんは」

田中「えっ!? そ、そうかなぁ~……ほ、ほらっ! 薫っておしゃれの鬼じゃないっ?
   だからその薫と友達の橘くんってどれほどおしゃれなのかなって思って…!」

純一「あはは、でも僕はそんなにおしゃれに気を配ってないよ?…いっつも薫に言われてるけどさ…」

田中「…ふふっ。わたしもいっつも薫に言われてるよ、もっと女の子はおしゃれしなさいって」

純一「え、田中さんも? 僕も男子たるもの女性を魅力するほどのおしゃれをしなさいって言われるよ…」

田中「あはは…薫もおせっかいだよね~」

純一「本当だよっ」

服屋

純一「メンズメンズっと……ここかな」

田中「わたし、メンズショップに入るのは初めてかも……」

純一「そうなの? じゃあ初体験だね!」

田中「……えっ!? あ、う、うんっ…! 初体験…かな…?」

純一「とりあえず…僕、なにか欲しかったものあったかな…」すたすた…

田中「……あ、これなんて橘くんに合いそうだね」すっ…

純一「え、どれどれ…これ、僕に合うかな…?おしゃれすぎない…?」

田中「え? あはは…おしゃれすぎないってどういうこと橘くんってば…!」けらけら

純一「わ、笑わないでよっ……! だって、こんなおしゃれな奴って雑誌で着ている人しか
   みたことないよ僕…」

田中「でも、橘くんって背が高いし……すらっとしてるから、こういったキレイ系な服とか
   合いそうだって思うけどなぁ…」

純一「そ、そうかな…?」

田中「うん、後はこういったオプションつけて……アクセサリーとかもいいかな。
   それと髪もこんな感じみたいにセットすれば、良い感じになるとおもうよ?」さわさわ…

純一「ほほう……それは考えたことなかったよ!すごいなあ田中さん…」

田中「す、すごくなんかないよっ…! ただ思ったことを言っただけだから…!」

純一「でも、やっぱり女の子なんだなって思ってさ。おしゃれに敏感っていうか」

田中「…も、もうっ! 褒めても何も出ないんだからね…っ」

純一「あはは」

田中「……とりあえず、この服はおすすめするよ。
   値段もちょうどいい感じだし、今度買いに来てみたらいいんじゃないかな」

純一「うん、田中さんのオススメだしね。今度買いにきてみようっと!」

田中「う、うん……!」

田中(橘くんが喜んでくれたっ……うれしいなぁ。こうやって男の人に喜ばれるのって、
   けっこう楽しいことなんだぁ…ちょっと新鮮な気分)

ちょっとうんこ

うんこいったらお腹へってしまいました…

ちょっと七時まで休憩します
落ちたらそこまででノシ

うわぁ
田中恵子ちゃんのここ…すっごいおシャンティ~…

くってきた
今から書くよ

田中(……それに、何気なく髪の毛触っちゃったりしてっ…きゃー!
   わたしったらなんてことを~っ……でもでも、さり気なく触ったから大丈夫だよね…!)

純一「……おっ」

田中(……いつかこうやってまたお買い物に来て…橘くんと一緒に服を買いに来たいなぁ~…
   今度はわたしが橘くんの洋服を買ってあげて、色々とコーディネートしてあげたいな…)

純一「よいしょっと……ふむ…」

田中(そしてそして~……うふふっ、後は一緒に選びあった服を着て…何処かへ出かけるの。
   うわ~…いいなぁ、そういうのやってみたい…!)

純一「……たなかさーんっ」

田中「……あ、え? どうしたの橘くん──……きゃ」ぽす

純一「ほらこれ、田中さんに似合ってると思うんだけど。どうかな?」

田中「これって…帽子?」

純一「そうそう! メンズショップにあったやつなんだけど…なんだか田中さんに似合いそうだって思って。
   ふわふわじゃないかな?」

田中「う、うん…! あったかい帽子だね……!」

田中「でも、ちょっと…大きかなぁー……あはは、ちょっとずれちゃった」ずりっ

純一「もうちょっと小さいサイズがあればいいんだけど……まあメンズだし仕方ないか…
   …よいしょっと。そしたらレディースのほうでも探してみようよ!」

田中「えっ…そしたら、橘くん…わたしの服も見てくれるの…?」ちら

純一「当たり前だよ! だって僕のコーディネートもしてくれたし…だったら田中さんのも付き合うよ?」

田中「そ、そう……かなっ? そ、そしたら……お願いします、橘くん」

純一「おっけー。んじゃ行こうか」

レディースショップ
純一「おおっ……なんだか、ちょっと男では入りにくい雰囲気だ…」

田中「あはは。だと思うよ、でも私がいるからへいきだよ~」

純一「そ、そうだよねっ……じゃあはいろっか」

田中「うんっ…!」

純一「──へぇ~。中はこうなってるんだぁ……中までは道からは見えないから、
   色々と新鮮だよ~……」

田中「でしょ~。レディースって洋服よりも、小物がいっぱいあったりするんだよ?」

純一「あ、本当だ……これって何するものなの? 首に巻くの?」

田中「え、ええぇ!? そ、それは女性用のベルトだよ…っ?」

純一「あ、そうだよね…! びっくりしたよ!」

田中「う、うん……女性用って細いの多いから、か、勘違いしても……おかしくないかな?うん!」

純一「だよねだよね…! あ、えっとこれは何に使うものなの?」

田中「それは頭に巻くやつでね、手首に巻いてもおしゃれになるんだよ~」

純一「へ~……あ、本当だ。シュシュって書いてある……ふーん」びよんびよん

田中「あ、だめだよ橘くんっ…商品をそんなふうに扱っちゃ…!」

純一「え、あ、ごめん! なにやってんだ僕……!」そっ…

「──なにかお探しでしょうか?」

純一「え、あ、はい……?」

「色々と新作を仕入れてますので、よかったらご紹介させて頂きますが」

純一「え、えーっと……!」

田中(……た、橘くんっ……)ポソポソ…クイクイッ…

純一(え、あ、田中さん…?)

田中(あの人は店員さん、わたしたちがちょっと騒いじゃったから…近づいてきたんだよ…!)

純一(そ、そうなの…? それは悪いことをしてしまったよ…!)

「…………」ニコニコ

純一(でも…わ、笑ってる……! なんて鋼の心なんだ…!)

田中(お、驚き過ぎだよ橘くん……と、とにかく店員さんは私達の所に
   お話ししにきたんだよ…!)

純一(新作がどうとか言ってたな……なるほど、そうやって懐柔するつもりなのか…!)

田中(ど、どうしてそこまで勘繰りぶかくなるの…?)

純一(だ、だって僕が洋服を選ぶときは…こんなにも店員さんはずいずいこないよ…?)

田中(そ、そうなんだ……で、でも!とにかく!
   店員さんが話したそうにしてるから話しをきいてあげよう!)

田中「あの……す、すみません…ちょっと話し込んじゃって…」

「いえいえ、そのようにされるお客様はたくさんいますのでお気になさらずに」

純一「たくさん、ですか…?」

「はい。このお店はカップルがよくこられたりしますので、そのようにされても大丈夫ですよ」

田中「っ~~~……か、かかかっぷぷぷ…!」

純一「あ、あはは……えっと、そうなんですか~」

田中「か、かっかかぷっ……」

純一「ちょ、ちょっと田中さん落ち着いて……」ゆさゆさ…

田中「え、だって橘くんっ……!違うって、ちゃんといわなきゃ…!」

純一「あ、いや、大丈夫だよ。こういうの慣れてるからさ」

田中「…えっ…なれてる、の…?」

純一「うん? けっこう薫と買い物行ったりするし、あとは美也とか…
   美也の友達の中多さんとか七咲とか、梨穂子といったりするし」

純一「あとは高橋先生とか…うーんと、愛歌先輩とか夕月先輩とかもあるし」

田中「え、えっと…いっぱい…あるんだね」

田中(……何か今、学生として聞いちゃいけない人の名前を聞いた気が…するんだけど…)

純一「だからそうやって勘違いされるのは慣れてるんだ、だから大丈夫。気にしないでね!」

田中「そ、そうなんだ……わ、わかったよー…」

現在

田中「───えっと、それからね。あとはちょっと何か食べようってしてね……」

薫「ちょっと待ちなさい、恵子」

田中「…え、あうん。どうかしたの薫?」

薫「……いやいやいや、本当にちょっと待ちなさいって。
  今軽く話してたけど、どういうことなの?ぽろっといったアイツのこと!」

田中「アイツって……橘くんのこと?」

薫「当たり前でしょ! あたしと買い物に行ったのはいいとして……その他の連中はなんなの?
  た、高橋先生とか……純一いつの間にそこまで……」

田中「そうだよね~! わたしもびっくりしたよ~」

薫「びっくりしたよ~……じゃないわよ! それってあれじゃないのっ…!
  アンタの恋敵がいっぱいってことじゃないの!」

田中「……えっと、それって薫も?」

薫「それは除外して。やめて本気で」

田中「わ、わかった……」

田中(あの顔は、本気で言ってる時の顔だ……)

薫「なにやってんのよアイツはッ……あらかた強引にお人好し加減で、
  ほいほいいろんな所にいったんでしょうね…っ」ぎぎっ…

田中「か、薫……?」

薫「恵子を悲しませたら容赦しないんだからッ……!」

田中「ちょ、ちょっと薫ってば…! ま、まだ話は終わってないよ…!」

薫「ッ……ふぅ…わかったわ。とにかく今はその話は今度ってことにする」

田中「う、うん……そしたら続き言うね? そのあとは────」

一ヶ月前 メロンパン屋前

純一「美味しそうな匂いがすると思ったら、駅前のメロンパン屋ここにも出来てたんだね」

田中「あそこのメロンパン美味しいよねぇ! ここでも食べられるのかな?」

純一「同じ店の名前だし、そうだと思うけど……よし、じゃあちょっと買ってくるから待っててよ」

田中「あ、うん……でも、お金は…?」

純一「いいよ、さっき洋服選んでもらったし。ごちそうさせてよ」

田中「で、でも私が今日買い物に付きあわせたから…わたしが払うよ?」

純一「そんなこと気にしなくていいよ! ほら、ここは僕が───」

田中「気にしない訳ないよ! だからここは私が───」

「んぅー? 騒がしいって思えばァ~…なんだいなんだいぃ、カップルがいちゃつきあってんブルァ!」

純一「お、おう……こ、こんにちわ…!」

田中「か、かぷぷっ……イチャイチャなんかしてません…!」

「どぅーあっはっはァー! そうかいそうかい、そしたらごめんよぉう!メロンパン買っていくのかァ?」

純一「は、はい……そしたら二つください」

「まぁいどありぃ~!…と、言いたいところだが…二つは駄目だ少年ん~」

純一「え、どうしてですか…っ?」

「そこの看板、みてみんしゃい」

田中「……えっと、今日限り…カップル限定特大メロンパン注文可…って書いてある…」

「そうなのよぉ~! んでもってこれが特大メロンパンだぜぃ!」どん

純一「お、大きい…! 僕の顔よりも二回りは大きいぞ…!」

田中「え、でも料金は…?」

「……本当は普通の二倍って料金だが、あんたらの仲良しさん具合でただにしちゃうよぉ~!」

純一「え、ええぇー! これをただですか…!?」

田中「だからカップルじゃないって……!」

「恥ずかしがんなっとぅえ! ほら、もってけもってけ~!」

純一「あ、ありがとうございます……! じゃ、じゃあ行こうか田中さん?」

田中「う、うん……いこっか」

「またきてぬぇ~!」

純一「なんだかすごい人だったね……なんでパン屋で働いてるんだろうって位の迫力ある人だった…」

田中「う、うんっ…そうだったね。そしたらどこかで座って食べる?」

純一「そうだね……あ、あそこのテラスとかどうかな? ガラス張りになってて、寒くはなさそうだし」

田中「うんっ!」

数分後

純一「──…おまたせ、お茶でよかったかな?」こと…

田中「う、うんっ! ありがとね橘くん」

純一「いいよ、これぐらい。よし、それじゃあたべよっか!」

田中「……それにしても大きいね…食べきれるかな?」

純一「どうだろう…二人して頑張れば、なんとか食べれるって思うよ」

田中「男の子だもんね、橘くん。いっぱい食べれるよね」

純一「ま、まかせておいて!」

田中「あはは。それじゃいただきます」

純一「いただきます、っと」

田中「よいしょ…よいしょ……」むりり…

田中「うわぁ~…湯気が出てるよ、すごいすごい~!」

純一「出来立てほやほやなんだね、いただきまーす」

確かにエロいな

おのれ変態紳士め

弟子入りさせてください

純一「もぐもぐ……甘くておいしぃー! やっぱり駅前のやつと美味しさは変わらないよ!」

田中「ほんとうに? もくもくっ……あ、ほんとうだ! おいしいね!」

純一「でしょ? すごいなぁ、こんなにもサイズが違うのに美味しさがかわってない…これが職人の技なんだろうか」

田中「あはは、大げさだよ橘くん。でも味が変わらないってすごいよねぇ~……あ」

純一「もぐもぐ……ん? どうしたの田中さん?」

田中「あ、ううん…! な、なんでもない……」

田中(た、橘くんのほっぺに……パンのかけらがついてる…!)

田中「っ………!」じぃー

純一「もぐもぐ…?」

田中(こ、こここっここれって…! ちゃ、チャンスなのかなっ…!
   とってあげて、ぱくっ! みたいな少女漫画でよくあるあのっ…!)1

純一「……ごくん───……あ」

田中(よ、よしっ……いくっきゃない…! がんばって、手を伸ばしてそっととってぱくっ!
   それだけでいいんだからっ……うん、三秒かぞえてゼロになったら手を伸ばそうっと…!)

田中(い、いちっ……にっ……にいてんごっ! ……にいてんろくっ…!)

純一「田中さん、ほら」すっ

田中「にいてんはちっ……って、え…?」

純一「ほっぺたにパンのかけらついてたよ? どじっこだなぁ田中さんは、あはは」ぱくっ

田中「っ~~~~~…っっ!つ、ついてたの!? わたしの顔にっ……?」

純一「うん、ちょっと唇の横にさ」

田中「く、くちっ……そ、そうなんだ………ごめんね……」ぷしゅー…

純一「なんであやまるのさ。本当に田中さんは面白いなぁ」もぐもぐ…

田中「っ………た、たちばなくんっ…!」ちら

純一「もぐ……うん? どうしたの田中さん?」

田中「っ……~~~っ……!」すっ

純一「え……」

田中「っ………ぱくっ…」

田中「た、橘くんのほっぺにもっ…ついてたよ、パンのかけら…!」もぐもぐ…

純一「え、そうだったの? あはは、それはまいったなぁ~。僕もドジっちゃったよ」

田中「……う、うんっ…橘くんも、どじっこだね……!」もくもく…

純一「だね~」もぐもぐ

現在

薫「───だねぇ~……じゃねぇええええええええええっつのッッッ!!!」

田中「きゃっ…! か、薫…! 橘くんの席をけっちゃ駄目だよ…!」

薫「はぁッ…はぁッ……ごめん、恵子ぉ…あたしちょっと我慢できなくて…ッ!」

田中「び、びっくりしたよ~…! 薫が暴れだしたら、私止めようがないよ…?」

薫「だ、大丈夫よ…落ち着くから、ふぅ~……」

田中「う、うん……落ち着いてね? お願いだから…」

薫「わかってる……わかってるのよ……でも!」ぐわっ

田中「きゃっ…!」

薫「なんッ……なのアイツはぁッ!!
  こんなにも恵子が頑張ってアピールしてるのに、恥ずかしがる様子も一切無いとか!舐めてんの!?」

田中「か、薫…! 落ち着いて?ね?」

薫「──……なんだか、だんだんとわかってきたわよ。この流れ」

田中「え? それって、好きだって気付かれない理由のこと…?
   や、やっぱり私のやり方が悪かったのかな……」

薫「……はぁ~。まぁ、いいわ。とりあえず最後まで聞いて上げる。
  それから純一を殴りに行きましょ」

田中「わ、わかった……えぇえー! なんで橘くんを殴りに行くの…っ?」

薫「いいから、ほら続き続き」

田中「う、うん……なんだか話しづらくなってきちゃったけど───」

一ヶ月前 帰り道

田中「──今日はありがとね、橘くん」

純一「ん、いやいや。どうってことないよ」

田中「そ、そっか。ならよかった……」

田中(今日は楽しかったなぁ~……まさかこんな風に一緒に帰れることができるなんて…
   幸せすぎて、神様に怒られないかなぁ…)

田中(……ちゃんと圧力鍋も買えたし、今日は万々歳だよ。よかった、頑張って誘えて~)

純一「……おっ。ほら、見てみなよ田中さん」

田中「え? あ、夕日……」

純一「ココらへんからだと、海が近くて綺麗に見えるね」

田中「……そうだね。すごく綺麗な夕日…」

純一「…………」

田中「……ね、ねぇ…たちばなくんっ……!」

純一「…うん? どうかしたの田中さん」

田中「そ、そのっ……その圧力鍋もってくれてありがとう…!」

純一「いやいや、だってけっこうこれ重いからさ。家まで持って行ってあげるよ」

田中「そ、そう?……ありがとう、でもね……」すっ…ぎゅ

純一「え、田中さん…?」

田中「ほらっ…! こ、こうやって二人で持てば…もっと軽く、なるでしょ…?」ちら

今から一緒に これから一緒に 殴りにいこーかー

純一「……確かに、そうだね」ぎゅっ

田中「っ……う、うん…! でしょ! だ、だから…このまま、歩いて帰ろ?」

純一「うん、わかった」

田中「っ…………」テレテレ…

純一「…………」

田中「…………」ぎゅ…

純一「───あのさ、田中さん。今日は僕も楽しかったよ」

田中「……うん…」

純一「こうやって田中さんと二人っきりで出かけるなんて…今まで考えたこともなかったけど」

田中「…………」

純一「でも、初めてにしてはとっても楽しかった。
   もうちょっとどぎまぎするっておもってたけど、案外僕ら、相性がいいのかもね」

田中「……そ、そうかな…?」ドキドキ…

壁殴り代行大繁盛

純一「……だから、今度また。一緒に出かけたり…しないかな?」

田中「えっ……あの、その…いいの?」ちら…

純一「うん、田中さんが良ければ…あはは。こうやって出かけるのは楽しいしさ。
   田中さんもそう思っててくれると……嬉しいんだけどね」

田中「う、ううんっ…! わたしもっ…すっごく楽しかったよ!」

純一「……そう? ならよかった」

田中「うん、とてもとてもっ…楽しかったんだよ……!」

純一「……ありがとう、田中さん」

田中「……っ……うん…!」

純一「…………」

田中(……こ、これって…デートのお誘い、だよね…!
   橘くんからの、もう一回わたしと出かけたいっていう…あれだよねっ)

田中(ひぁわわぁ~っ……嬉しいっ…すっごく嬉しいよっ……どうしよう、
   手のひら汗書いてないかなっ…大丈夫かな…っ)

純一「…………」

田中「…………」ちら…じぃー…

田中(──橘くん、今日は本当にありがとう…いきなり誘ったのに、私の買い物につきあってくれて…
   そしてまた、一緒に行きたいって行ってくれて…わたし、とっても嬉しいよ)

田中(……そう、言いたいけれど。まだまだ言える自信はないなぁ……いつか、またこうやって買い物に
   行ったときに、そういればいいなぁ~…)

田中(だから、今日はここまでにしとこうっと。明日はまた色々と頑張って…橘くんにアタックするの。
   いつかはそうすれば、素直に気持ちを話せる時がくるはずだから───)

純一「…っ……田中さん……っ!?」ぐいっ!

田中「──え、あっ、きゃっ…!?」ぽすっ

ブイーン!

田中「っ……!?……!?」

純一「───ぼーとしちゃ危ないよ…! ほら、歩道から踏み出してたんだよ…?」ぎゅう…

田中「……え、そ、そうだったのっ…?」

原チャリいい仕事すんじゃん

田中(た、橘くんにっ…だき、だきしめられっ…!)ぐるぐる

純一「…何やってるんだ僕は…元から車道側を僕が歩くべきなのに…!」

田中(ど、どどどどどどうしよぉ~…!橘くん、すっごくあったかい……)

純一「…大丈夫だった? 急に引っぱちゃったけど、怪我とかしてない?」

田中「っ……っ……!」こくっこくっ

純一「そっか……よかったぁ~」

田中「…………」

純一「…………」

田中「……た、たちばなくんっ…そろそろ、離してくれると……」

純一「え、ああ! ごめんごめん! 僕ってばずっと抱きしめちゃってたよ!」ばっ

田中「あっ……う、ううん! 大丈夫だから!」

純一「そう? でも、ごめんね。苦しかったよね」

田中「へ、平気だったよ…! 本当にほんと!」

純一「…ん、そしたら行こっか田中さん」すっ…

田中「……え、手……?」

純一「だってほら、一緒に持つんでしょ? だから」すっ…ぎゅっ

田中「っ……う、うんっ…! そうだね、そうだったよねっ…」

純一「よし、じゃあ田中さんの家まで行こうか。どこら辺なの?」

田中「えっとね、ここからまっすぐいって─────」

現在

田中「───……そして後は、家まで送ってもらった……ってことなんだけど…」

薫「…………………………………………………………………………………………………」

田中「……か、薫…?」

薫「決まったわ」

田中「え、なにが決まったの…?」

薫「純一、殴りにいくことが」

田中「……や、やっぱり殴りにいくの…?」

田中「苦しかったのは胸の方…」

薫「殴る。顔は流石に後が残るから、ふともも徹底的に殴る」

田中「ふとももは地味に痛いよ……」

薫「じゃあ腹ね。それなら一発で決めて落とせるだろうしッ!」だっ

田中「か、薫……っ!」ぐいっ

薫「…なによ、これ以上に止めたらアンタまで殴るわよ。恵子」

田中「ほ、本当に殴りそうで怖いけどっ……暴力は駄目だめだよ薫…!」

薫「……はぁ。じゃあ言ってあげるけど、あたしはあんたのアピールが悪かったと思わない。
  むしろ頑張ってたと思う、ものすごくね」

田中「そ、そうなの? よかった~」

薫「よかったじゃないわよ……それがあいてに伝わってないってことなら、なんら意味ないじゃない!
  ……それも全て、あいつ、純一が鈍感糞野郎のせいで…ッ!」

田中「薫…口が悪くなってるよ…っ」

薫「悪くもなるわよ!」

田中「……そ、そうなんだ…」

田中「──でも、暴力は駄目だめ…それはなんの解決に、ならないともうから」

薫「……恵子、あんたは…」

田中「……いいんだよ。だって、私のアタックがおかしくないって…薫が言ってくれたなら。
   これから先もっともっと頑張れば……いつかは橘くんも、私に振り向いてくれるかもそれない…」すっ…

田中「それが、それが……わかっただけでも。私はとっても安心できるの。
   ありとう、薫……やっぱ薫が親友でよかった」

薫「恵子……」

田中「……えへへ。橘くんのこと、好きだっていうの…遅れてごめんね?
   ちゃんとこれから、頑張るから……応援してくれたら、嬉しいよ薫…」

薫「───…ふふん!当たり前でしょ、ばか恵子。あたしはアンタの親友!
  いつだって、いつまでもあんたのこを応援し続けるわよ!」

田中「……うんっ! ありがとう、薫……!」 がたっ

薫「っ…誰!? そこにいるのは……!?」

田中「えっ……誰か、いるの…!?」


純一「…………」すっ…

俺「っ」ガタッ

薫「じゅ、純一……!?」

田中「た、橘くんっ……!? どうしてここに……!」

純一「……………」

薫「───ッ…! あんたまさか、ずっと聞き耳を立ててたんじゃ…!」

田中「…え、ええぇー! そ、そんにゃ…! まひゃひあー!」あたふた…

純一「……………」

薫「なにか、言いなさいよこの鈍感純一ッ!
  全て聞いてたんなら、全部聞いたんならなにかいうことあるでしょ…!!」すたすた…

田中「あわわっ……橘くんっ…! に、逃げて! 殴られちゃうよ…!」

薫「なにずっとうつむいてんのよ……こっちをハッキリとみな───」ぐいっ

純一「ひっぐっ……げほっ……じゅるるる……ぐしゅっ…」ぼろぼろ…

薫「………え?」

純一「げぼっ…ぐしゅしゅ……ずずっ……」ぼろぼろ…

薫「な、なに…ガチ泣きしてんのよアンタは…?」

純一「ぐしゅ…ずずっ……かおるっ…ぼくはっ…ぼくは最低な野郎だ……っ!」ぼろぼろ…

薫「あ、うん……そ、そうよ! あんたはばかで最低でスケコマシで鈍感の… 
  ……あれよあれ!もはや橘鈍一よ!」

純一「あ、ああっ……僕はもはや、鈍一だッ……ぐすっ…なんて、ばかなことを…」

田中「っ………」おろおろ…

鈍一「……田中、さん……ぐすっ……!」

田中「──っ……は、はい!」

鈍一「ぼ、ぼくは……なんて君にひどい事をしてしまったんだと、今、気づいてたんだ……ごしゅっ…」

田中「そ、そんなっ……これは私がハッキリ言わないせいでもあるから…!」

鈍一「い、いやっ……全部、男の僕がわるいんだっ……だって、だって…」

鈍一「──よくよく思い返してみると、いっぱいいっぱいっ…田中さんがしてくれたことが、
   思い返されてきてっ…ぐす……それに気づけなかった僕が悪いんだよっ……!」

田中「橘くん……」

俺が・・・俺たちが、橘だ!

薫「……それで、純一。あんたは恵子に…なにかいうことがあるんじゃないの?」

鈍一「ぐしゅっ……あ、ああ……そうだな…けほっ……ぐすっ」

純一「──……ちゃんと、田中さんに……言わなくちゃいけないことがあるよな」

田中「っ……た、たちばなくん…」

純一「田中さん…さっきまでの話してた会話、全部僕も聞いてたんだ」

田中「っ……やっぱりそう、なんだ……」

純一「盗み聞きしてたみたいで、本当にごめん。だけど…そうやって田中さんの気持ちを…
   …僕を好きだっていう気持ちを、ちゃんとしれたのは……本当に良かったって思ってる」

田中「…………」

純一「……だから、今度はおかえしに僕の気持ちを──……君に、届けたいと思う」

純一「……いい、かな?」

田中「……う、うん…いいよ。橘くん」

田中「ちゃんと、聞いてるから……橘くんの気持ち、いってください」

純一「───……うん、そしたら…言うね。田中さん僕は…」

純一「……君のことが、好きだと思ってる」

田中「──っ……ほ、本当に…? 本当に、わたしのこと…?」

純一「うん、本当に。田中さんのことは好きだよ」

田中「……でも、全然そんな素振りを見せてくれなかったから…わたしのこと、すきじゃないのかなって…!」

純一「…それは、僕の勘違いだったんだ…田中さん…」

田中「かん、ちがい……?」

純一「そうなんだ……僕、けっこう色んな人と…女の子と出かけてたりしてて…だから、失礼な話だけど…
   田中さんもその一人だったんだ…」

田中「………う、うん……そうだよね、やっぱり…」

純一「でも……!田中さんは、田中さんは……一緒にいても全然苦じゃなくて…楽しくて、
   まるで昔からの友達だったんじゃないかって…思うぐらいに、仲良く出来て…」

純一「……もしかしたら、田中さんも…僕の事、友達だと思って接してたんじゃないかって思い始めてたんだ…」

橘さんの泣き芸は鉄板ダナ

純一「だから、僕は……田中さんを友達だと思って接してきた。
   友達より先に進んだ関係……そうだね、薫みたいに親友だと思ってた」

田中「親友……」

薫(こら恵子。それで嬉しそうにしないの……口に出さないけど)

純一「……でも、それがさっきの田中さんの言葉で……勘違いだってわかった時。
   ──僕の中でものすごく、感情が高ぶって……これはもう、わかったんだよ……」

純一「……この気持は、恋だっていうことを」

田中「……橘くん、そしたら…わたしは……!」

純一「うん、ごめんね……今まで不安がらせてばっかで。
   だからいいんだよ、もう…頑張らなくて」

純一「僕はもう、君の気持ちを知ったから。好きだって、その気持ちを知った」

田中「たち、ばなくんっ……!」ぼろぼろ…だっ…!

純一「いままでずっと頑張らせてごめん……もう、大丈夫だから…」ぎゅう…

薫(──いい話しねぇ…なんて、終わりたいところだけど。少し気になることがあるわね…)

薫(この恵子の反応……というか告白がやっとできたからって、相手に飛びつくような度胸のある子だったかしら…)

田中「たちばなくんっ……たちばなくんっ……」ぎゅう…

薫(……そして純一の反応。やけに真摯だけど…恵子の扱い方やけにうまい気がする…)

純一「………」なでなで…

薫「…ま、勘ぐるのは野暮ってもんね。そしたらお二人さん!」

純一「あ、薫……今日はすまないな。なんだか怒らせてしまったみたいで」

薫「いいのよー。こうやって恵子が幸せになってくれたんなら、あたしは問題ないわ」

田中「か、薫……ぐすっ……ありがと、ほんとうに…っ!」

薫「なーに泣いてんのよ。ほら、せっかく幸せをつかみとったんだから、離さないよう頑張るのよ?いい?」

田中「…ぐすっ……うんっ!」

薫「おっけー!そしたらおじゃま虫はそろそろ退出させて頂きます~! ではでは~」がらり…ぴしゃ

すたすた…

薫「……ふぅ、なんだか疲れたわねぇ…」

まさかのスト…

『──今日は一緒に帰ろっか、田中さん』
『──うん、橘くん……!』

薫「ん? ふふっ…急に思いが通じ合ったらラブラブね」

『そしたらそうだ……また、二人で混浴入ろうよ』
『え、あ、いいねー…! あそこの温泉でしょ?』

薫「…………ん?」

『一週間前にいったとき、だいぶ人が少なかったから…今回も二人っきりかもだよ?』
『そ、そうかな…? ちょ、ちょっと恥ずかしいよ…!』

薫「……………」

薫(───恵子が話していた過去の話は一ヶ月前。それが初めてのデートだった。
  それから今日にいたるまで純一は恵子の気持ちに全く気づいていない…)

薫(………それで、一週間前に混浴風呂にはいった……?)

『それからお風呂から出たら、またあそこの旅館にとまろっか』
『うん! 今度は二人でバイトしていこうね…!』

薫「………………」

薫「…………」

薫「……」

……バッッ!!

純一「…というか、色々と思い返してみると…田中さんといっぱいいろんな所に行ってたね」

田中「そ、そうだねっ…だって、橘くんといっぱい会いたかったから…」

純一「そっか……」

ばん!!!!

薫「はぁっ……はぁっ……」

純一「か、薫…?どうしたんだよ息荒げて、また戻ってきたのか?」

薫「……あんた、恵子と…どんな感じでこの一ヶ月過ごしてきてたか…教えなさい…!」

純一「え、どうって……それはまぁ、一緒に混浴風呂入って、旅館に泊まって。
   田中さんのご家族とご飯食べて、遊園地行って、外国に日帰りで旅行に付き添って…」

薫「……」

薫「……これ、本当に?」

田中「え、あ、うんっ…? そうだよ、これから話そうって思ってたら橘くんが教室に入ってきたから…
   ちゃんと言えなかったんだけど…」

薫「………ふぅ、そう。そうなのね……」こき メキゴキバキッ…

純一「……か、薫っ…? なんだか拳からしちゃいけないような音が……!?」

薫「………純一……いや、鈍一ぃ……こればっかりは、だめよ。だめ」ゴリリッ…!

純一「な、なにがどうしたんだよ薫……!?」

薫「………恵子が頑張ったって話じゃない……これは全て、まるっきりあんたのせいじゃない……」メキュッ!

純一「だ、だからそうだって認めたじゃないか…!!」

薫「認めてどうにかなるって話しじゃないわよ………はぁぁぁー……」コホー…

純一「た、田中さん…!!とりあえず逃げて…!!」

田中「え、あ、うんっ……!でも、橘くんっ……!」

純一「──ぼ、僕は大丈夫だからっ……だって、僕は田中さんのことが───」

「すき、だからさ……」

薫「死ね腐れ鈍感男がぁあああああああああああッッ!!!」ゴリメキャゴシャメキャ…クチャッ…

田中「た、たちばなくーーーーーん……!!!」

そこまでしても薫と同じ同列とかパネェっす

いや薫が凄いのか?

恵子ちゅわんおわり

このお話は、晩飯で食べた焼きたてのパンのかけらをほっぺたにくっつけ
それを愛犬がぺろぺろ食べたことが元になっています

どうでもいいので次安価
>>435を書くよ

ちょい休憩

香苗さん

香苗さんきたか
うーむ、頑張る

二十五分には戻る

>>435
http://i.imgur.com/35YTG.jpg
やるじぇん

先生が見たい人は
純一「…えっと、高橋先生?」でぐぐっていただけたら
読んでたらごめん

今から書く

【伊藤香苗】

下駄箱 玄関

ざぁぁー……

伊藤「………どうしようかなぁ。むっちゃ降りだしてるし…
   今日は天気予報晴れだっていってたんにさー」

伊藤「…………」

伊藤「……今日に限って桜井もいないしなぁ…置き傘もとっちゃうってのもあるけど…」

ざぁぁー……

伊藤「しかったない。ここはいっちょ、濡れて帰りますか───」

「──あれ、伊藤さん?」

伊藤「──んん? おっ、この声は桜井の幼馴染橘くんじゃん!」

純一「……うん、なにやら詳細な自己紹介ありがとう」

伊藤「あっははー! あれ、いまごろ帰り?」

純一「そうなんだ、先生に提出するはずだったプリントを片付けててね」

伊藤「……ははぁーん。さてはまた忘れたなぁ~? 相変わらずだねぇ君も」

純一「あはは……そうすると伊藤さんはどうしてこんな時間まで残ってたの?」

伊藤「……んん~? 内緒、かな?」

純一「内緒って……なんだか意味深だなぁ」

伊藤「気にしたらだめだめ~……お、そういえば橘くん。今日は歩き?」

純一「うん、そうだよ。雨がすごいけど、家に車出してくれる人間がいないからさ」

伊藤「そっかー……そりゃ残念だね」

純一「……あれ? 伊藤さんは迎えの車待ってるの?」

伊藤「んにゃ、そうじゃないっさ。ちょと天気予報にふられちゃってねー。
   見事に傘を忘れちまったのよ」

純一「ふーん、そうなんだ……」

ざぁぁー……

純一「───そしたら、僕の傘に一緒に入る?」

伊藤「……絶対に橘くん言うと思ったよ、それ」じとっ…

ジト目かわいいよ!かわいい!

ごめんかなえちゃんの一人称ってウチだっけ?

純一「え、ええぇー……どうしてバレたんだろう…!」

伊藤「……はぁーあ。桜井って子がいながら、なんって女ったらしなコトを言うのかな君はぁ~」

純一「梨穂子は関係ない、と思うんだけどなぁ……」

伊藤「……関係はあるよ、すくなくとも私にはね」

純一「……えっと、そうなんだ」

伊藤「当たり前じゃん! だからほら、気にしなくていいから橘くん。さきにかえったかえった」ぐいぐい

純一「う、うん……というかそんなに押さないでよ…!」

伊藤「ほれほれ!」ぐいぐい

純一「あ、ちょっ───……あれ? あの人、どうかしたんだろうか…?」

伊藤「──ん? どうかした?」

純一「いや、あそこの立っている人……濡れてるのに傘なんか刺さないで…」

伊藤「どれどれ~……っ…!」

純一「うーん…雨でよく見えないけど、一年の子かなぁ……あっ! 伊藤さん!?」

ざぁぁ……

伊藤「っ………」ぱしゃ…ぱしゃっ…!

純一「ちょ、ちょっと…!!」

純一(急に外に走りだして……どうしたんだ、伊藤さん…。
   外は雨がすごいっていうのに…!)

純一「……あれ、あの一年の子の前で止まった…」

『──……っ──……』
『────……っ~~……──!?』

純一(……雨音で聞こえないけど、なにやら喧嘩してる…?
   いや、喧嘩じゃないな…伊藤さんが一方的にまくし立ててるみたいだ…)

『───…………──』
『─……っ!──……』だっだっだ…

純一「あ、戻ってきた……──伊藤さん、急に走りだしてどうしたの…?」

伊藤「はぁっ…はぁっ…橘くん、どうかお願いがあるんだけど…っ…!」

純一「うん、どうしたの?」

ちょっとゲームしなおしてくる
十五分ください

みおわった
今から書く すまん

伊藤「はぁっ……傘を、あたしに…いや、あの子に貸してくれないかな…っ?」

純一「え、あの子に…?」

伊藤「そう、なんだけどね……はぁ、ふぅ……あの子。そこら辺の傘渡しても、
   絶対に捨てて帰っちゃうって思うだよね。だから、君のを貸して欲しいのよ」

純一「………」

伊藤「君の……傘が捨てられるって可能性もあるけど、そんな時はちゃんとあたしが弁償するから。
   ……どうか、今だけ、お願い…!」すっ…

純一「……まぁ、伊藤さんにはいっつもお世話になってるし」

純一(梨穂子が)

純一「……はい。なにがなんだかわからないけれど、これ使ってよ」

伊藤「…あ、ありがとっ。ほんと感謝するよ…!…じゃあ、いってくるね!」

純一「うん」

だっだっだ…ぱしゃぱしゃ…

純一「……安請け合いしたかなぁ。ま、それもいっか」

純一「………お。戻ってきた」

伊藤「うひぁ~……びしょびしょになっちゃったよ~。まいったねこりゃ~」

純一「そりゃ、この雨だもんね……えっと、あの子は帰ったの?」

伊藤「……うん、そうみたい。ちゃんと風邪ひかずに帰れたらいいんだけどね…」

純一「…………」

伊藤「……へくちっ…うーさむいさむいっ…教室に戻ってジャージに着替えるかなぁ…」

純一「……え? でも今日って体育あったっけ?」

伊藤「………そういえばなかったわ」

純一「…………」

伊藤「あちゃ~…仕方ない、か。もう雨が止むまで待つのもやめようかな…
   ああ、橘くん。あんたはこれ使ってよ」ばさ…

純一「……え? これって伊藤さんの制服だよね…?」

伊藤「うん、それで雨風を防げるとは思えないけどさ…へくち!
   一応、なにか橘くんに渡しておかないとあれじゃない」

純一「……伊藤さんはどうするの?」

伊藤「あたしは~……うん、まぁ、どうにかするつもりよ」

純一「…………」

伊藤「……まーたそうやって心配そうに見る! 悪い癖だよ橘くん」

純一「え、そんな表情してたかな…?」

伊藤「してたしてた。……とにかく、橘くんが置き傘を使うって言うならそれでいいし、
   あたしの制服を使うっていうのならそれもよし」

純一「…………」

伊藤「どっちにするの? 前者なら一応、あたしに制服を返してくれると嬉しいんだけどさ」

純一「……うん、そしたらさ」

伊藤「うん?」

純一「僕も一緒に、伊藤さんと残る。を選ぶよ」

伊藤「っ……橘くん。同じ事はにども言いたくないんだよあたしも…っ」

純一「それでも、僕は残るよ」

伊藤「…………」

純一「…それに、気になることもあるし。さっきの一年の子とかさ」

伊藤「あ、あれは…橘くんには、関係ないことだし……」

純一「…僕の傘を貸したのに? それはちょっと薄情じゃないかな」

伊藤「っ……そんなところ、たまに意地悪になる所…全然変わってないよねホンット!」

純一「あはは。とりあえず、この制服は乾かそうよ」

伊藤「………」

純一「……あと、伊藤さんは僕の制服を着ようか。ほら、僕はジャージ置きっぱなしだしさ」

伊藤「っ……た、橘くんの制服を…っ?」

純一「うん、だめかな?」

伊藤「う、うぅ~っ………」

純一「そんなに気にしなくても。放課後だし、誰も見る人なんていないって」

伊藤「っ………わ、わかったよ…そしたら、その…へくちっ…」

伊藤「…橘くんの制服借りる…からね…!」

教室

純一「……どう着れた? やっぱりおおきかった?」

『……ちょっとね。着替えたから入ってきていいよ』

純一「うん、わかった」がらり…

伊藤「……っ……」

純一「おおっ……見事にぶかぶかだねっ」

伊藤「…何でちょっと嬉しそうにいうのさ!」

純一「だって男のものの制服をきる伊藤さんって、ちょっと新鮮で……」

伊藤「っ~~~……ったく、もういいよ! ほら、とりあえず持ってる上着をあたしに」ずいっ

純一「はい、これ」

伊藤「ありがと。──とりあえず、このへんにおいておけば…おっとと…やっぱり歩きにくい…」

純一「…………」

伊藤「──これでおっけー。ふぅ、なんだかとても疲れたよ……」

純一「風邪なんかひかないようにね。伊藤さんってけっこう、免疫力弱いんだから」

伊藤「…………」

純一「……ん? どうかした、伊藤さん?」

伊藤「……ううん、今日はやけに橘くんが口を出してくるなって思ってね」

純一「……そうかなぁ? あ、でもそうかもしれないや」

伊藤「…じゃあどうして? 今日に限って、なんでそういってくるの?」

純一「………」

伊藤「………言いにくい、ことなの?」

純一「──……いや、そうじゃないよ。大丈夫」

純一「ただ、その……あれだよ。
   ───さっきの一年の子がさ、ちょっと似ててさ」

伊藤「っ……さっきの子が?」

純一「そうそう。まぁ、誰かってことはいわないけれど……」

伊藤「…………」

純一「それでちょっと───……一年前の時のこととか、思い出しちゃって。
   あはは、まぁ…この話はいいや、うん」

伊藤「…その話は、あれの話?」

純一「…そうだね、ちょっと入っちゃうかもしれない。だから言わないでおくよ」

伊藤「そっか、それじゃあ話を変える感じで……あの一年の子のこと、教えてあげよっか」

純一「ん? 教えてくれるの?」

伊藤「……傘も借りちゃったんだし、言わなきゃあたしが悪いやつみたいじゃん。そんなの嫌だからさ」

純一「そっか。そしたら聞こうかな…よいしょっと。
   伊藤さんも椅子に座りなよ、立ったまんまじゃキツイだろうし」すっ…

伊藤「あいよー」すっ…

純一「……それで、どうしたのさ伊藤さん。あんなに必死になって色々とやってたみたいだけど」

伊藤「……まね。とりあえずは簡潔に言うとね」

伊藤「──あの子に今日、放課後……告白されちったのよ」

純一「ほほう……なるほどなるほど」

伊藤「そんでまぁー……だめです、と言ったわけ」

純一「…断っちゃったの? どうしてさ?」

伊藤「…………」

純一「……なんというかさ、色々と変わるチャンスだったんじゃないかなって思うんだけど…違う?」

伊藤「……そうだね、確かにそうだよ」

純一「じゃあ……どうして?」

伊藤「……だってまだ、色々と…解決してないこととか…たくさんあるじゃない」

純一「………」

伊藤「だから、そうやってすぐに新しい……恋、みたいなのさ。飛びつくってのは駄目だって思うのよ、あたしは」

純一「心配性だなぁ…伊藤さんは」

伊藤「……そうかもしれないけど、でも。ダメだって思う」

純一「……そっか」

伊藤「…ねぇ、橘くん。あんたがその、あたしのこと………」

純一「うん?」

伊藤「…伊藤さん、って呼ぶようになったのって……何時からだっけ」

純一「……えーと、今年に入ってからかなぁ。うん、そうだね。三年になってからだよ」

伊藤「そっか、もうそんなに経つんだ……前までは名前で読んでたよね」

純一「まあね。懐かしい話だけど、クラスで同じ名前の子がいたからって事で。
   名前を呼ぶようになったんだよ、確か」

伊藤「そうそう! んでもってそのくせが今だに抜け落ちずに…去年まで続いてた」

純一「……まぁ、いまは呼んでないけどさ。もう同じ名前の子はいないから呼ぶ必要もないし…それに」

純一「…呼ぶことも、これから一生ないと思う」

伊藤「……まね。それがいいってあたしも思ってる」

純一「…うん。わかってるよ、ちゃんとわかってる」

伊藤「……はぁーあ。なんでこんな話しちゃってるんだろ! 毎回毎回、飽きないよね~」

純一「そうだね、確かに。伊藤さんと会話していると、いつもこの話になっちゃうよ」

伊藤「名前のことは……まあ今日はじめて聞いたけどさ。
   またまた昔の話を掘り返してさ~……ったく。これじゃあ桜井に合わせる顔がないよ」

純一「……そうかな? さっきも言ったけど、梨穂子は関係ないと思うけどな」

伊藤「……どうしてよ? 桜井は関係あるでしょ?」

純一「いいや…梨穂子は、もう関係ないと思うんだ。
   だってもうアイツは……あれじゃないか」

伊藤「……アイドルやってるから、もう大丈夫ってこと?」

純一「うん」

伊藤「……はぁ? なにいってんの橘くん、それ本気で言ってるの?」

純一「一応、本気で言ってるよ?」

伊藤「はぁ~……あのね? 桜井は別に去年のことでアイドルになったってわけじゃないんだよ?」

純一「知ってるよ、だって幼馴染だもの」

伊藤「…知っててどうしてそんなこというのよ、あんたは」

純一「…梨穂子がアイドルになった理由が、なにかしら別の理由があったとしてもだよ?
   でも梨穂子は……アイツは、絶対に忘れてなんか居ないんだよ」

純一「だから、アイドルになったことが去年のことから……逃げ出すためじゃないって
   ことだったとしても、アイツは今の状況が…アイドルって場所が居心地がいいはずだ」

伊藤「…なにそれ、橘くん…それはちょっと桜井をばかにし過ぎじゃない?」

純一「ばかにはしてないよ。逆にすごいって思ってる、本当だよ?」

純一「単純に居なくなるんだったら、もっと簡単なことがあったはずなんだ。
   ……例えば伊藤さんと友達をやめる、とか」

伊藤「……そんなの、あたしは嫌だよ」

純一「わかってる、でも…友達のままならもっと嫌な関係になってたと思う。
   ……なんというか、自分が言うのもなんだけどさ」

伊藤「…本当にだよ! 橘くんの女ったらし!」

純一「……おお、それを伊藤さんに言われると応えるなぁ…うん」

純一「でもまぁ…アイツはそれを選ばなかった。どっちも大切だったんだろうな、って思ってる。
   今の関係性を保ったままで…ここから居なくなるってことが、アイツにとって一番だったと」

純一「……そう思ってるはずなんだ、幼馴染の僕から言わせると」

伊藤「…なんだか、アンタが言うとそれっぽく聞こえるから困るよね」

純一「そう? どうだかなぁ…本当のところはわからないけれど、でも…ちょっとはあってるとおもうよ」

伊藤「…………」

純一「だって、伊藤さんも。そういうふうに思ってたり……してるんじゃないかな?」

伊藤「……あの子は、本当に優しい子だから」

純一「…梨穂子は何時だって、他人の事ばっかり考えてるからな。あとは食うことか」

伊藤「あははっ…そうだね、桜井はそんな奴……」

純一「…………」

伊藤「……ねぇ、橘くん」

純一「……どうかした? 伊藤さん」

伊藤「…あたしは、さ。こうなってよかったって思ってるんだよ、本当に」

純一「うん……僕もそう思ってるよ」

伊藤「こうやって……橘くんと、他愛のない話が出来る関係。それが一番だって本当に思ってる」

純一「………」

伊藤「だから……いつか、いつの日か…この場所に桜井が戻ってきて。
   この場所にある関係がどう見えて…あの子はどう考えるのかが…とても、とても…不安でしょうがなくもあるのよ」

純一「梨穂子は…そうだね、どう思うだろうね」

伊藤「もしかしたら…喜んでくれるかもしれないし、もしかしたら……あの子は自分のせいだって、
   自分を責め続けるかもしれない…」

純一「…………」

伊藤「………あたしは、でも。これでよかったって思ってる。
   全部全部ひっくるめて……こうなって、全てなくなって…よかったって」

純一「……。さっきの、伊藤さんに告白してきた一年の子。いたじゃない?」

伊藤「う、うん……それがどうかしたの?」

純一「それが僕が……誰かに見えるっていったでしょ?
   この話になるからって、やめておこうって言った奴」

伊藤「結局はしてるけどね……うん、確かに言ってた」

純一「あの誰かっていうの……実は言うと、伊藤さんなんだよね」

伊藤「あ、あたし…?」

純一「そうそう。雨にぬられてさ、何かを探しているような…でも、もうそれがないって知っているような。
   そんな表情した、伊藤さんみたいだった」

伊藤「なに、それ……それがあたしに似てるってワケ?」

純一「そう、その表情が…去年の伊藤さんに似てたんだ」

伊藤「………」

純一「──なんというか、まぁ。もうこの際さ、ハッキリ聞いておこうって思うんだけど」

伊藤「え……なに、橘くん…?」

純一「あの時、去年の……クリスマス。あれから僕らは」

伊藤「………」

純一「……別れてしまったわけだけど、それでもあの時。伊藤さんは、僕に何を言おうとしたの?」

伊藤「………あの時、は…」

純一「うん、あの時。最後にってお別れを言おうとして……別れ際に僕の手をつかんだよね?」

伊藤「………」

純一「──…あの時の表情が、今日見た一年の子にそっくりなんだ。だから、少し思い出しちゃってさ」

伊藤「………あたしは、その…」

純一「…言いたくなかったら、いいんだけどさ。でも、僕はいいチャンスだって思ってる」

純一「これから先、またこうやって出会うたびに……変に慣れ合った状態で。
   付き合ってた期間と、その分かれ目を語り合える仲…それって変だって僕は思ってる」

伊藤「っ………」

純一「……多分それは、あの時の。伊藤さんが…いや、香苗ちゃんが言えなかった言葉が…」

純一「……原因だって僕は思ってるんだよ」

伊藤「…………」ぎゅっ…

純一「僕は伊藤さんがやりたいようにやって、これから先をどう進んでいくのか…
   …それにあわせるつもりでいたんだ、でも…それはもうオシマイにしようと思う」

伊藤「…………」

純一「伊藤さん──いや、香苗ちゃん。君は、あのとき…」

純一「…何を伝えたかったの?」

伊藤「………………」

伊藤「………あたし、は……あの時…」

純一「…うん、あのとき?」

伊藤「……あんたに、橘くんに…………純一くんに…」

純一「………」

伊藤「っ……」ぎゅっ…

純一「……頑張って、香苗ちゃん。ちゃんと僕は聞いてるよ」

伊藤「………純一、くん…」

純一「あの時、僕に言えなかったこと……今度はもう聞き逃さないからさ」

伊藤「……っ……でも、これをいったら…あたしはっ……あたしは……」

純一「………」

伊藤「あたしはっ……また、あの時を…去年のように、また……!」

純一「──ならないさ、絶対に」

伊藤「っ!……どうして、そんなこといえるの…?」

純一「……僕らはもう、大人だよ。もうすぐ卒業だし、もうそんな子供っぽいことは…
   …出来たくてもできなくなってくるはずだ」

純一「…答えから逃げ続けるなんて、気持ちから逃げ続けるなんて。
   もうできないんだ…こういった関係を今後ずっと続けるのなら」

伊藤「………」

純一「言えないのなら、僕はもう……伊藤さんの前から居なくなるつもりだよ」

伊藤「っ…ど、どうして…!」

純一「……だから、これはいいチャンスなんだ。
   僕は君の生き方についていくつもりだった、でも…」

純一「いつまでもこの関係が続くことは、いいって思ってはない。
   それに、それを伊藤さんが悪いって思ってないのなら……尚更だよ」

伊藤「だ、だってそれは……桜井のため、に…!こうしなきゃ、いけないくて…!」

純一「だから、梨穂子は関係ないんだ。いつまでたっても、アイツは関係ない」

伊藤「っ……そんなこと…そんなことは絶対にない…!
   あの子は、いつだってあんたのことを考えてた…!な、なのに…あたしが、あたしが…!」

純一「……もっかい言うよ? 梨穂子は関係ないんだ。アイツはアイツなりにやったことがあった。
   でも結果が残せなかった。僕は結局……香苗ちゃんと付き合った」

伊藤「っ………」

純一「僕は香苗ちゃんと幸せになると決めて、君を好きになったんだ。
   ……アイツはその僕の思いをちゃんと理解してくれたって思ってる」

伊藤「そんな、こと…あたしには……っ…」

純一「言ってないだろうね、その前にアイツはアイドルになったから。
   ……何も言わずに、梨穂子はここからいなくなった」

伊藤「っ……それじゃあ、あの子はやっぱりあたしのことを恨んでるんだよ…っ…」

純一「………」

伊藤「あたしが、純一くんをあの子から……奪って…それで、なにもかも全て壊して…っ
   あの子がどれだけ悲しんだのか、わかってて…わかってたつもりなのに…」

伊藤「あたしは、目の前の幸せに夢中だったっ…だから、もうそんなことは、もう…!」

純一「………───」

純一「──…本当にそうかな」

伊藤「……え…?」

純一「本当に、梨穂子は伊藤さんを恨んでいるのかな」

伊藤「だって、あんただって……ぐすっ…あの子がここから逃げ出すためにって…
   優しい子だけど、なにもいわなかったことが…あの子の答えだって…」

純一「……。そしたら、これを聞いて欲しいんだ」こと…

伊藤「これって……ウォークマン…?」

純一「そう、そして中にはいってるのは……」ぴっ

~~♪~~~♪

伊藤「……こ、これ…桜井の…!」

純一「───そう、これは桜井リホの新曲。そして次は」

~~~♪~~♪

純一「……初めてアイツがソロで出した、新曲」

伊藤「……ほんと、あの子は歌はうまいね…いっつも歌ってたから…」

純一「そうだね、確かにアイツはいっつも歌ってた。
   …嬉しかった時とか、楽しかった時とか。いっつも歌ってた」

伊藤「……でも、これがどうしたの…?」

純一「……わからないかな、伊藤さん」

伊藤「え……?」

純一「これさ……歌ってる歌詞が──……全部、恋の応援歌なんだよ」

伊藤「っ……!」

~~~♪~♪

純一「……全部が全部、出してる曲は全て…恋愛を応援する歌ばかりなんだ」

純一「調べてみたら……どうやらプロデューサーの反対を押し切って、
   こういった応援歌しか歌わないようにしてるらしいよ」

伊藤「……そ、そんなっ……どうして、そんなこと…!」

純一「──僕にはわかるよ、そして香苗ちゃんもわかってるはずだ」

伊藤「っ……」

純一「……梨穂子は、本当に優しいやつだよ。それは僕だって香苗ちゃんだってわかってることだ。
   だからこれが……何を伝えたいのか、僕らにはわかるはずなんだ」

伊藤「……さく、らい……っ…」

純一「………」

伊藤「あんたって……ばか、本当にっ…なにやってるのよ…こんなことまでして…!」

純一「……香苗ちゃん」

伊藤「ぐすっ……あの子って、本当にばかだよね、純一くん……っ…」

純一「…そうだね、本当にアイツはばかな子だ。
   アイツも君も……そして僕も。本当にばかなやつらだ」

伊藤「ひっくっ…桜井っ……」

純一「…香苗ちゃん」ぎゅっ…

伊藤「……ぐすっ…じゅんいち、くん……ひっく…」

純一「──どうか、聞かせて欲しい。あの時の言葉を」

伊藤「ぐすっ…ひっく…」

純一「あの時言えなかった、君の言葉を僕はどうしても聞かせて欲しいんだ」

純一「……香苗ちゃんはあの時、なにを僕に伝えたかったの?」

伊藤「ぐしゅ…あ、あたしは……あ、あの時っ……!」

純一「うん、続けて……」

伊藤「別れようとっ……した、時っ……君の、手を掴んでっ…」

純一「僕の手を掴んで、どうしたの……?」

伊藤「……───っ……純一くんに、言いたかったの…っ」

伊藤「行かないでってっ…ひっく……あたしの側から、離れないでって……ぐすっ…」

純一「そっか……それが言いたかったんだね。香苗ちゃんは」

伊藤「でもっ…ひっくひっく…!…そんなこといったら、だめだって…ぐすっ…わかってて…っ…」

純一「…そうだね、あの時の僕らは。あれが正しいって思ってた」

伊藤「だ、だから…っ…あたしは、君とっ…前の関係に、ひっく…戻るのが一番で…っ…」

純一「…うん、うん…」

伊藤「でも、桜井はもうっ…いなく、いなくなっててっ…ぐすっ…どうにもできなくてっ…
   このまま、ずっと…ぐしゅしゅ……ずっと、桜井とは会えないんだって…!」

純一「……でも、アイツは遠くから応援してくれてたよ。ちゃんと、僕らのことを思ってた」

伊藤「…う、うんっ……桜井は、ちゃんとあたしらのこと見てた…ひっく…」

純一「うん、だね……香苗ちゃん、顔を上げて」

伊藤「なっ…ひっく……なに? ずずっ…じゅんいちくんっ…?」すっ…

純一「……ほら、そんにこすると眼が真っ赤になるからさ、やめとこう」

伊藤「…うんっ…ごめん、心配させてっ……」

純一「いいんだよ、香苗ちゃん。心配ぐらいさせて欲しいんだ」

伊藤「……ど、どうしてっ…ひっく…?」

純一「だって、僕はもう伊藤さんの……からかい相手じゃないんだよ」

伊藤「……じゅん、いちくん…」

純一「僕は、君の……香苗ちゃんの恋人なんだ。
   伊藤さんはもう、ここにはいない。呼ぶ人も、呼ばれる人も」

伊藤「で、でもっ……あたしは、じゅんいちくんも……傷つけて…!」

純一「僕はいいんだ、大丈夫。そうやって香苗ちゃんが…素直に泣いてくれれば。
   素直に気持ちを出してくれれば、それだけでいい」

伊藤「…………」

純一「だから、さ。どうかもう一度、香苗ちゃんに言わせて欲しい」

伊藤「………わ、わかったよ…そしたら、聞いてあげる」

純一「うん、ありがとう。そしたら言うね?」

純一「──僕は、香苗ちゃんのことが……好きだ」

純一「この世の誰よりも、君が好きだ。他の誰かと比べ用がないぐらいに、
   ……君のことを好きでいるんだ」

伊藤「っ……うん、聞いたよ…純一くん……」

純一「…うん、ありがと。それでご返事は?」

伊藤「へ、返事は……そのっ…」

純一「うん?」

伊藤「あ、あたしも……君のことが、心から…」

伊藤「……好き、だよ…?」

純一「…そっか。よかった、そう言ってもらえて」

伊藤「……うん…」

純一「………」

伊藤「………」

純一「……今日は頑張ったね、香苗ちゃん。最後に、遅れちゃたけど…
   クリスマスプレゼント、いいかな?」

伊藤「…クリスマス、プレゼント…?」

純一「うん、ちょっとクサイけどね……これでよかったら。受け取って欲しいかな」

純一「………」ぎゅぅ…

香苗「……っ…じゅ、じゅんいちくん…?」

純一「……大好きだよ香苗ちゃん…」すっ…

香苗「……あ、う、うぅっ…───」ぎゅっ……ちゅ

純一「──ありがとう、受け取ってくれて。僕も嬉しいよ」

香苗「っ……こ、こちらこそっ……ど、どうもっ…!」

純一「あはは…今度はさ、二人で桜井リホのライブでも見に行こうよ」

香苗「え、ライブ…?桜井の?」

純一「そうそう、そしてさ……大きな声で入ってやろうよ」

純一「──はやく戻って来いって。僕はお前を何時でも待ってるぞ! ってさ」

香苗「……そんなこといったら桜井、本気にするよ?」

純一「いいんだよ、本気にしてやろうよ」

純一「……僕らをここまで本気にしあってくれたんだ。だったらさ」

香苗「──なるほどね、おかえしにってことか~……本当に純一くんって」

香苗「……ときに意地悪な性格になるよね…っ!」

香苗ちゃんおわり
このお話は呼名を間違った所から作られました。


ここでほごうこく
お仕事の時間がはじまりそうなので
ここで終わらせていただきたいと思います

ご支援ご保守本当にありがとう
途中で休みまくってすみませんでした

次は麻耶ちゃんと紗江ちゃん書きたいので
次も来ます ではではノシノシ

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