P「失った”モノ”」 (105)


朝、目が覚めると

ずしりと重い感覚が体を襲った

二日酔いにでもなったかのような

ぐちゃぐちゃな思考

ボケて見える視界

「くそっ……」

貧血でもないし、初めての経験だ

ただの疲れか?

最近は働き詰めだったからな……

ぐちゃぐちゃの思考回路を整理しながら

次第に普段の感覚を取り戻し、ゆっくりと起き上がる

今はもう

視界も頭の中も何事もなかったかのように静まり返っていく

「疲れてんだなぁ」

かと言って休むわけにもいかず、俺は事務所へと向かった

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「おはようございます、小鳥さん」

「おはようございます。本当に早いですね」

「そうですか?」

「今日はお昼からじゃありませんでした?」

「いえ、今日は……」

いや……今日はお昼からだよな?

何か仕事あったような気がしたんだが、気のせいか

一応スケジュール確認しておくか

「色々と確認したいことがあったんですよ」

「もう、確認程度なら連絡一つで私がしておいたのに」

「いやいや、小鳥さんの手を借りるようなことでもないですし、早く来れば他のアイドルとも話せると思って」


「ん? 誰ですか? 誰が狙いですか?」

「そういうんじゃりませんよ。ただ、体調、気分その他もろもろの把握も必要ですから」

「ふふっ、プロデューサーさんは自分の体調管理して欲しいんですけどねぇ?」

小鳥さんの含み笑い

自分だって二日酔いだとか、寝不足だとか

全く気にしていないくせに

「私は一応、仕事に差しさわりのないやり方ですから」

「いやいや、この前頬にキーボードを模写してたような気がするんだよなぁ……」

「あれは……事故です」

「どっちにしろダメじゃないですか」


とはいえ

俺は今朝まさにその危機感を抱いたわけだけど

「とにかく、お互い気をつけましょうか」

「そうですね」

いつものような他愛ない会話

でも何かがそこには足りない気がした

「雪歩ちゃん、早く来て欲しいですね」

「今日はオフだけど、多分こないと思いますよ」

「そうなんですよねぇ……やよいちゃんはお家のことで来れないだろうし」

みんなはかなりの人気で

普段は仕事であちこちに行き、オフともなれば家でぐったりするくらいで

この事務所もかなり寂しいものになってしまったわけだ

俺達の会話が止めば外の音かキーボードを打つ音しかしない


「常に顔を出してくれるような良い子はいないんですかぁ?」

「俺はいつも来てるじゃないですか」

「そりゃそーですよ。でも、それじゃ代わり映えしないというか。色がないというか」

「そうですか、データ持ち帰って今度から来るのやめ――」

「ごめんなさい」

しがみつくような強さで袖を引かれ思わず笑ってしまうが

独り身な俺もその気持ちはよくわかる

家で独り、職場で独り

これぞ天涯孤独の人間の姿! みたいな感じになるのはなぁ


「プロデューサーさんが来てくれることにはすごく感謝してるんですよ?」

「俺自身、疲れた時にコーヒー入れてくれたり、ココア入れてくれたりする小鳥さんには感謝してますよ」

「あら? ココアなんて入れたことないですよ?」

「そうでしたっけ? 疲れた時には糖分取った方がいいって」

「ふふっそれじゃ年中疲れてる私達は肥満になっちゃうじゃないですか」

それはそうかもしれないけど

平然と肥満になるとか女性が言うべきなのか?

いや、相手を意識していないなら

別に取り繕う必要もないってやつか?

だよな、妄想癖晒してる時点で眼中にあるわけないか


「いいなぁ、プロデューサーさんは」

「いやいや、結構疲れますよ?」

「でも、律子さん含め12人もの可愛い女の子に囲まれてるじゃないですかっ」

「なんでそんな鬼気迫る表情なんです?」

確かに

俺じゃなくてもそんな状況は嬉しい限りだと思う

思う……が

「結構辛いですよソレ。俺が男だからかもしれないですけどね」

「生殺しってやつですか?」

「……もう少しオブラートに包めません?」

「包んだら溶けちゃうんじゃないですか? オブラートが」

「何を包んだかは言わなくていいですからね」


「っていうか、12人って小鳥さん入ってないじゃないですか」

「えっ……入っても、良いんですか?」

目をパチクリとさせ

可愛らさを出そうとしているようだけど……

「妄想癖その他もろもろで落第ですかね」

「そんなっ、プロデューサーさんが入れて良いですかって」

「いや、入ってないって――」

「だ、ダメよそんなっ……2人きりだからって――っ――ぁ」

トリップしてしまった……

まぁ妄想癖とか色々問題はあるけど

一緒にいる分には楽しい相手だよな


しかし……いつも一人、か

そりゃ寂しいよな

みんなにも時間があるときは事務所に来るように頼んでみるか?

いや、それじゃなんか強制してるみたいだよな

小鳥さんが寂しがってるなんて

みんなにとっちゃ効果ありすぎるからな

余計に疲れさせちゃうか

「―――で、――あ――――さ」

「いい加減戻ってきましょうよ……そろそろ千早来ますよ?」

「――はっ」

「お帰りなさい」

「……き、聞かなかったことにしてくださいね?」

少し紅くなりながら、小鳥さんは照れくさそうに笑う

けど、そんな心配は無用

「いや、聞いてませんけど」

「えっ」

「毒されちゃいそうですし」

正直に言っただけなのに、小鳥さんに睨まれてしまった


中断

ほそぼそと続けて100レス以内には終わる予定

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