「都市伝説と戦う為に都市伝説と契約した能力者達……」 Part10 (1000)

「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」とは
 2ちゃんねる - ニュー速VIPで生まれた
 都市伝説と契約して他の都市伝説と戦ってみたりそんな事は気にせず都市伝説とまったりしたりきゃっうふふしたり
 まぁそんな感じで色々やってるSSを書いてみたり妄想してみたりアイディア出してみたりと色々活動しているスレです。
 基本的に世界観は作者それぞれ、何でもあり。
 なお「都市伝説と…」の設定を使って、各作者たちによる【シェアード・ワールド・ノベル】やクロス企画などの活動も行っています。
 舞台の一例としては下記のまとめwikiを参照してください。
まとめwiki
 http://www29.atwiki.jp/legends/
まとめ(途中まで)
 http://nanabatu.web.fc2.com/new_genre/urban_folklore_contractor.html
避難所

http://jbbs.livedoor.jp/otaku/13199/
■注意
 スレの性質上、スレ進行が滞る事もありますがまったりと待ちましょう。
 本スレとはあまりにもかけ離れた雑談は「避難所」を利用して下さい。
 作品によっては微エロ又は微グロ表現がなされていますので苦手な方はご容赦ください。
■書き手の皆さんへ
 書き手の方は名前欄にタイトル(もしくはコテハン)とトリップ推奨(どちらも非強制)
 物語の続きを投下する場合は最後に投下したレスへアンカー(>>xxx-xxx)をつけると読み易くなります。
 他作品と関わる作品を書く場合には、キャラ使用の許可をスレで呼びかけるといいかもしれません。
 ネタバレが嫌な方は「避難所」の雑談スレを利用する手もあります。どちらにせよ相手方の作品には十分配慮してあげて下さい。
 これから書こうとする人は、設定を気にせず書いちゃって下さい。
※重要事項
 この板では、一部の単語にフィルターがかかっています。  メール欄に半角で『saga』の入力推奨。
「書き込めません」と出た時は一度リロードして本当に書き込めなかったかどうか確かめてから改めて書き込みましょう。


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1382952233

◆用語集
【都市伝説】→超常現象から伝説・神話、それにUMAや妖怪のたぐいまで含んでしまう“不思議な存在”の総称。厳密な意味の都市伝説ではありません。スレ設立当初は違ったんだけど忘れた
【契約】→都市伝説に心の力を与える代わりにすげえパワーを手に入れた人たち
【契約者】→都市伝説と契約を交わした人
【組織】→都市伝説を用いて犯罪を犯したり、人を襲う都市伝説をコロコロしちゃう都市伝説集団
【黒服】→組織の構成員のこと、色々な集団に分けられている。元人間も居れば純粋培養の黒服も居る
【No.0】→黒服集団の長、つおい。その気になれば世界を破壊するくらい楽勝な奴らばかり
【心の器】→人間が都市伝説と契約できる範囲。強大な都市伝説と契約したり、多重契約したりすると容量を喰う。器の大きさは人それぞれである。器から少しでも零れると…
【都市伝説に飲まれる】→器の限界を迎えた場合に起こる現象。消滅したり、人間を辞めて都市伝説や黒服になったりする。不老になることもある

前スレ:「都市伝説と戦う為に都市伝説と契約した能力者達……」 Part9 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1361373676/)


   
  終章「コドクノオワリ」




 久信は目を開けた。
 顔を上げて外を見てみると太陽が赤くなっている。いつの間にか眠ってしまっていたらしい。
「久くん、起きた?」
 顔の下から修実の声が聞こえた。
「…………ん」
 半分寝ぼけたままで応じ、久信は声の方に目をやる。
 頭の少し上の方に修実の顔がある。
 どうやら久信は彼女を抱き枕にして眠っていたらしい。
 名残惜しむように修実の胸に顔をうずめて伸びをして今度こそ起き上がり、久信は問う。
「寝てた?」
「ええ」
「ごめん、重くなかった?」
「平気よ。久くんの重さなら私には心地良いもの」
 あの事件以降、とみに久信にべったりになった修実は幸福そうな笑みで言う。
 姉と二人で蠱毒との契約をした後、二人には特に中毒症状や呪詛の暴走が襲い掛かったりはしなく、
喜ばしいことに、二人はその身に契約して受け入れた蠱毒の瘴気を完全に制御できるようになっていた。
 体の中に蠱毒の毒は入り込んでいるが、蠱毒という、最後の一つの生物残された時に真価を発揮する都市伝説を二人で分割契約したことと、
自分たちが既に蛇神憑きの契約者として、都市伝説や、毒そのものに対してある程度の耐性を持っていたということがプラスに作用しているのではないかと思われた。
 蛇は自身の毒を使いこなしこそすれ、それでは死なないものだ。
 更にもう1つ喜ばしいことに、修実が町を祟り殺した件についてはその町自体が非合法な手段に手を染めた一つの都市伝説組織として機能していたことと、
その組織と関係のあった密輸組織を壊滅させるきっかけになるという役目を果たした事で、半ば不問となり、常時の観察処分も外れていた。
 どうも久信と修実が蠱毒と契約した際にそれまで蓄積された疲労と呪詛の影響で倒れていた数日の間に、裏で小野家と見塚家が働きかけていたようだ。
 そもそも町ぐるみで人身売買や暗殺に手を染めていた町の異常な状態に事件の前も後もまったく気づくことができなかった各都市伝説組織の体面の悪さに付け込んで、
公式には事件がなにもなかったということにして処理する方向で動いているらしい。
 そのような状況もあって、まだ今は外出の際に申告が必要な状態ではあるが、
それも最近昌夫を通して行っている警察の手伝いで自分たちの安全性を示し続ければやがて撤廃させることもできるだろう。
 状況は徐々に改善されており、こうして非番の今日は一日のんびり修実の胸を枕にして過ごすことができる。

 ……ああ、幸せだ。
 晴れて、2人は、実家で2人なりの平凡な日常を形成しつつあった。
 2人で分割して契約された蠱毒だが、毒や呪詛はその多くが町を祟り殺した下手人である修実に流れていた。
そのため、姉弟が持つ力は結局のところ、弟が伸ばした力の分を、姉が更に引き離したような形になっていた。
 ……修実姉には勝てないか。
 だが、それでもいい。もとより、修実を家族の中に引き戻すことができるのなら、久信の力なんて大きかろうと小さかろうと、些細な問題でしかなかったのだ。
 それが、いつの間にか力さえあれば自分だけはずっと修実の傍に居ることができるなどという考えに拘束されてしまっていた。
 ほんの少し手段を変えればもっと広い世界を見ることができるということにすら気づかなかった。
 これは自分の独占欲が成せる視野の狭さだろうかと思う。
 固定されてしまった思考に気付くまで遠回りをしてしまったが、その遠回りも、
正解に辿り着くまでの過程でぶつかる物理的な問題の解決策の一つとしては必要だったのだから、まるっきり無駄ということはないのだろうが、
 ……それならせめて郭くらいは自分の手で殴り倒したかったけど……。
 言い換えれば、久信があまり強い契約者ではないということが幸いして、こうして別の道を選ぶことができたのだ。
 久信が下手に力を持っていたら、多くの人と関わっていられる生活はけっして得ることはできなかった。
きっと姉と2人で、2人だけの世界でコドクを抱きながら朽ち果てていただろう。
 それもそれで悪くはないと思ってしまうあたりが、いかんともしがたい久信の業だ。
「久くんどうしたの?」
「いや……修実姉は俺と心中したかった?」
 軽い気持ちに少しの本気を混ぜての問いに、修実は「うーん」と呟いてしばしの時間を欲した。
 修実の胸の鼓動が100を刻むまで待つと、「久くん」と呼びかけられた。
 顔を起こすと、その頬に修実が頬を寄せた。
「こういうことができなくなることを考えたら、やっぱり生きていてよかったって、私は思うよ」
 そう言って修実は付け根からなくなっている手足も胴体も、全身を久信に押し付けた。
 久信はそれを包むように抱きしめた。
 普段の修実は両手足を切断された、ダルマ状態でいる。
 体を洗ったり、髪を梳かしたりするのは久信の役目だ。
 両手どころか六臂を生やすことができる彼女がそれをあえてしないのは、甘えてくれているということだろう。
 それを愛おしく感じて彼女の傷跡を舐めると、くすぐったそうに息をこぼして、
「久くんも、夜は甘えてくれるし、こういうのも支え合いだね」
 そう言って笑み崩れた。

 ……ああ、もう本当に。
 1人にはさせない。
 2人で満足もしない。
「もっと多くの人と一緒に生きていこう」
「それって、家族をもう1人増やそうってこと?」
 からかうような口調に、久信は応じる。
「それもいいね。
1人でも、2人でも、歴代の誰よりも都市伝説に近い姉弟から生まれる蛇神憑きの子は一族からしても宝だろうから、歓迎されるんじゃないかな」
「ちょっと打算的だね」
 少し拗ねたように修実。
「力の無い俺はこっち方面を鍛えた方がいいってあの一件で気づいたからね」
 言って、でも、と付け加える。
「それとは別で、家族は欲しいかな」
「じゃあ、まずは1人目かしら」
 修実がコケティッシュに身をよじる。
「久くん、抱きしめて欲しい?」
「んー、まずは、そのままで。抱きしめたい」
「いいよ。私の全部で久くんを迎えてあげる」
 久信に全て委ねるように力を抜いた修実を見つめて、久信は言う。
「いろんなところを見せてもらうよ」
 蛇は執念深いのだから、これは絶対の宣言だろう。


 おつきあいありがとうございました。
 長くなってしまいましたが、これにてコドクノオリ完結です。

 結局久信は弱いので
 何かをしようと思っても1人で為すだけの力がない
 頭も冴えているとはいえないから目的を見誤ったりもするし
 自分の力を過信しちゃったりして突っ走って事故ったりもする
 そんな彼も、長年の懸念が消滅して大きな壁を乗り越えた今、これから大成するんでないかな

 ちなみにお姉ちゃんの方はまだ弟以外の人との距離がうまくつかめない人見知り的なあれです
 裏切られたトラウマとかあるので今後メンタルケアしつつのもとの性格の良さで友人は増えるんでないかな
 そんな感じでコドクノオリは幕です。
 おつきあいありがとうございました。

「お父さん・・・」
「エリザベス、はやく其奴等を始末しろ」
 いつの間に現れたのか、少女によく似た面差しの、若い女性を模した人形が男の傍らに立っている。
「おとうさん!おかあさん!」
 エリザベスが身を翻す。一瞬、エディは身構えた。
「エリザベス!何を」
 アルバートの言葉が途中で途切れる。
 エリザベスは男に駆け寄りしがみついた。まるで子が親に縋るように。
「おとうさん、もう止めよう!」
「エリザベス・・・?お前、何故」
「あの人が言ってた。わたしたちのしてた事は、悪いことなんだって!」
「エリザベス」
「わたしが罰を受けるから!お父さんの分も、わたしが代わりに罰を受けるから!だから、もう止めよう、あの人を信じて、みんなで救ってもらおう?」
 エディもアルバートも、固唾をのんで男を説得する少女人形を見つめている。
「わたし、お父さんが殺されちゃうのいやだ!」
「・・・エリザベス!」
 男が、縋りつく少女を抱きしめ返した、その時。
「やれやれ・・・とんだ三文芝居だ」
 嘲笑する声と共に響いた轟音。
「危ない!」
 男がエリザベスを突き飛ばした次の瞬間。
 男と、女性の人形を劫火が包み込んだ。
「!!」
 夕暮れの紅によく似た色の光が降り注ぎ、エディもアルバートも呆然と立ち尽くした。

「我が『ソドムの劫火』で『悪』たるものは浄化された・・・いや、まだ残っているか」
 夕闇から出ずるように現れたのは、赤い法衣を纏った数人の男―「教会」の忠実な走狗たちと、薄い唇をわずかに吊り上げて笑む、白いスーツ姿の痩せた男。
「ロゼレム、てめぇ・・・」
 光が消え、炎が弱まった其処に見えたのは。
 砕け焼け焦げた白磁の欠片と、かつてヒトだった一塊の炭だった。
「あ・・・あ・・・お、おとうさーん!おかあさーん!」
 少女の悲痛な叫びが、夕闇を切り裂くように響く。
「エリザベス!無事か!」
 アルバートが少女に駆け寄り、その白磁の身体を両腕で包んだ。
「おとうさんが・・・おかあさんが」
 呆然と呟くエリザベスを強く抱きしめ、アルバートがロゼレムと呼ばれた白スーツの男を睨む。
「もう少しで罪を悔いて自首するところだった者を、何故殺した!」
「これは申し訳ありません・・・手加減はしたつもりだったのですがね」
 ロゼレムは気障ったらしい仕草で一礼する。

~~~前回までのあらすじ~~~

【太陽の暦石】の予言通りに、永遠の眠りについた黄昏正義。

しかし、大王の忘れられた力によって、正義は【アンゴルモアの大王】としての命を得た。

正義は【太陽の暦石】に挑むが、正義の力がわずかに劣っていた。

「お願い……力を貸して!大王!」

その時、【恐怖の大王】が再び空より舞い降りた。

戦いは、真の最終決戦を迎える……!

~~~閻魔の間~~~







死ねるものへの、最後の審判。それのひとつが、『閻魔の間』。

その魂にふさわしい道を【閻魔大王】が判決する。

ギリシャ神話が死の神・タナトスは、件の報告のため、そこへ訪れた。



閻魔「どうした、タナトス。今日は1人連れてくるのではなかったのか。」

そこへ、油を売っていた【鬼】と【死神】が横やりを入れる。

鬼「珍しいねぇ、あんたが仕事失敗かい?」
死神「まさか死者を横取りされたんじゃあるめぇな?きっひっひ!」

それに対して全く動じず、タナトスは淡々と説明する。

タナトス「その、まさかです。」
鬼「なっ!?」
死神「お、おい!そりゃあ……。」

【閻魔大王】はより顔を険しくし、口を開く。

閻魔「『同業者』の横取りなら、先に当人が来ていないとおかしいが、それらしい者は来ていない。
   それでも死者の横取りが発生したというならば……。」
死神「『黄泉帰り』……!」
鬼「命の理に抗い、天に唾を吐く行為……。
  黄泉の掟により、『黄泉帰り』の力を持つものは、その名を明示し、
  闇雲な力の行使をしてはないというのに……!」
閻魔「その死者、あるいはその身内に、『黄泉帰り』の力を持つものがいたのか?」
タナトス「私もその瞬間まで気付きませんでした。」

少し溜めた後、タナトスは呟く。

タナトス「『彼』の、ようです。」

鬼「『彼』……?」
死神「心当たりがあるんなら、はっきりと……。」

不意に、【閻魔大王】が手元の台帳を開く。開いたページには、丁度[黄昏正義]と記されていた。
その下には彼の来歴があり、【閻魔大王】はその半ばに目を止める。



―――『死亡』と記された行に二重線が引かれ、訂正印が押されていた―――



閻魔「……帰って良いぞ、タナトス。『こちらの手違い』だったようだ。」
タナトス「……了解しました。」

鬼「な、どういう事ですか閻魔様!?」
死神「手違いって、閻魔帳に偽りが載るわけが……!」
閻魔「お前等も仕事に戻れ。お前等に暇などないはずだ。」
鬼「しかし……!」
タナトス「止めておけ。言うだけ、無駄だ。」
死神「……おう……。」



それ以上言葉はなく、タナトスは外へといった。



閻魔「全く、面倒なものだ……。」

ぽつり、【閻魔大王】は呟いた。

~~~世界~~~





正義の蘇り、大王の帰還。
たった2つの出来事で、場の空気が変わったように感じられる。

勇弥達は、現実を確認するために、正義と大王に近づく。

勇弥「正義ィ!大王さん!」
楓「大王様!よくぞご無事で!」
大王「……すまない、お互い死に損なった。」
正義「未練もあったし、仕方ないよ。……ごめん、皆。心配をかけて。」
奈海「正義くん……。」



麻夜「何故だ……!?我の予言と違う……!何故、お前まで生きている!?」
大王「俺も予想外だ。せっかくの覚悟が無駄になって少々恥ずかしいと思っていたところだ。
   もっとも……お前を倒さずに消えることの方が恥ずかしいか。」
正義「そういうこと。……【太陽の暦石】、覚悟はできた?」

大王「……会長。」
楓「はい!」
大王「正確にはカウントに、だが……質問がある。」
楓「……はい?」

正義「勇弥くん、奈海!」
勇弥「ん!」
奈海「なに、正義くん!?」
正義「……勝とう。【太陽の暦石】に。そして麻夜ちゃんを助けよう。」



正義「……みんなの力で……!」



勇弥「……あぁ!任せとけ!」
奈海「うん、やろう!」

空中で、正義と大王が横に並ぶ。
今まで見慣れた光景のようで、どこか違う。
きっと、それは服装のせいではないだろう。

正義「行くよ、大王!」
大王「任せろ、正義!」



2人は同時に【太陽の暦石】に斬りかかる。
しかし動揺しながらも、【太陽の暦石】はその鎧で2振りの剣を弾く。

麻夜「……我の予言は狂わぬ!生き返ったというなら、また死んでもらうまでだ。」
正義「それはどうかな?」
麻夜「何……?」

2人の波状攻撃が【太陽の暦石】に襲い掛かる。
【太陽の暦石】は拳に風を纏い、剣を華麗にあしらう。

正義の剣と【太陽の暦石】の拳がぶつかり合い、お互いを弾き飛ばす。
そのまま正義は距離を取り、持っていた剣を投げ飛ばす。
その軌道は、予言などなくとも避けるには容易かった。

麻夜「この程度の攻撃……。」

しかし避けた瞬間……真上から、大王が降ってきた。
大王は剣を振り下ろし、鎧となった【太陽の暦石】を斬りつけた。

大王「ふぅ……まずは1本。」
麻夜「なん……だと?」

大王は後退し、正義の横につく。
互いにちらりと視線を視線を合わせ、微笑んだ後、改めて【太陽の暦石】を睨む。

麻夜「……何故だ、奴はどうして上から……!?」

【太陽の暦石】が頭上を見ると、そこには白雲が広がっていた。

麻夜「これは奴の……しかし、何故気付かなかった……!?」

しかし【太陽の暦石】には予言の力がある。
例えば、『正義の投げた剣に気を取られ、大王の存在に気が付かなかった』など、ありえないのだ。
そんな小細工など、今まで何度も予言し続けて、対処し続けてきたのだから。

大王「なに、簡単な話だ。お前の認識に1つ、間違いがある。」
麻夜「何……?我に間違いなどない!過去も、未来も……!」
大王「お前の予言は、『俺達の予言』に勝らない。」
麻夜「ッ……!?」

正義は頭上に白雲を生成し、そこから2振りの剣を取り出す。

正義「ボクが……ボク達が!お前の未来を、滅ぼす!」

勇弥「大王さん!ちょっと来てくれ!」
大王「……正義、ここは任せた。」
正義「了解。」

大王が消えたかと思うと、勇弥の傍に黒雲が広がり、大王が降ってくる。

大王「さて、要件を聞こうか。」
勇弥「前々からやってみたかったことがあるんだ、黒雲を貸してくれ。」
大王「ふむ、それなら……。」

そう言いかけると、勇弥の近くに白雲が広がった。

大王「これを使った方がいい。」
勇弥「了解、ではさっそく……。」

勇弥は白雲に触れる。すると、白雲は0と1のヴェールを纏って淡く光る。

勇弥「第一段階成功、続きまして……。」

その様子を見て、改めて戦闘に向かおうとすると、楓が引き止める。

楓「大王様!」
大王「む……なんだ?」
楓「刀を……1振りお借りしたいのですが。」
大王「その程度なら、俺でもできるか。」

大王は黒雲を生成し、楓の前に鞘に入った刀を降らせる。
楓はそれを受け取り、鞘を腰に当て、構える。

楓「手によく馴染む……いい刀ですね。」
大王「どうも、死んで覚え直したようでな。そういった物ならいくらでも出せるぞ。」
楓「ありがとうございます。ですが、この1振りだけで充分です。」

楓はその場で目をつぶり、精神を統一する。

大王「……これで布石は完了か。では。」

改めて、大王は黒雲を生成し、正義の近くへ瞬間移動する。
同時に、【太陽の暦石】に斬撃を試みるが、予知により受け止められた。

大王「不意打ちは無意味か……。」
麻夜「何故だ……?予言が使えないわけではない、なのに、何故……?」
大王「ふむ、では予言勝負と行こうか。」
麻夜「なんだと?」
正義「大王?」
大王「(奴の精神を乱すのも攻撃の内だ。)さぁ、先手は御本家様に任せよう。」
麻夜「……いいだろう、どうせ口にしたところで何も変わらん。」

【太陽の暦石】は一瞬集中し、開眼する。

麻夜「まず、日向勇弥とやらは、あそこでただ妙な機械を妄想するだけで何もしない。
   次に、十文字楓とやらは、あそこで剣を振るうが、当然何も斬れはせん。
   そして、お前達は我には勝てない、絶対に。」
大王「……ふむ、ずいぶん具体的で、分かりやすい予言だ。」
麻夜「さて、お前の番だ。我の動きを読めるか?」



大王「お前の予言は外れる。」



麻夜「なに……?」
大王「はてさて、どちらの予言が当たるかな……?」
正義「話はそこまで。そろそろ始めるよ。」

正義と大王が同時に【太陽の暦石】に斬りかかる。
大王の攻撃は目視もせずに受け止めたが、正義の攻撃は受け止めるのに若干手間取った。
さらに大王の言葉が、【太陽の暦石】をさらに惑わせる。
しかし、今は正義の攻撃と大王の攻撃を受け止めるのが精一杯だった。



勇弥「―――エネルギー制御システム、砲門耐久度、シミュレート完了。そのまま実装。
   各種構成、再チェック……OK。エネルギーケーブル……接続開始!」

そう言い終わって間もなく、勇弥の傍にあった白雲から、大砲のような巨大兵器が降ってくる。
それの後端にはケーブルのようなものが繋がっており、その先は白雲から出てこないようだ。
勇弥はそれを何とか受け止め、すこしよろめく。

麻夜「なに!?!?」
勇弥「……重量シミュレートを怠った……。まぁいいや、エネルギー充填。
   10%……20%……。」

ケーブルが淡く光り、巨大兵器に何かを注ぐ。
【太陽の暦石】はその光景に理解が追いつかなかった。
予言とは違う光景、かつ、自分が知りえないモノの存在。
おそらく、その時【太陽の暦石】が覚えた感情は……。

大王「余所見を、するなァ!」
正義「てぇぇぇえええい!」

その感情に支配されるより前に、正義達の攻撃が襲い掛かる。
【太陽の暦石】は我に返り、攻撃を受け止める。

勇弥「80……90……100%!」

勇弥が持つ兵器が輝きだし、奇怪な電子音を鳴らし始める。

勇弥「行くぜェ……バースト!」

おもむろにその兵器の引き金を引くと、その砲身から光が放射線状に飛び出す。
光は【太陽の暦石】の方へ向かい、あっという間に【太陽の暦石】を飲み込んだ。

麻夜「ぐわああああああぁぁぁぁぁぁ……。」

数秒後、光が小さくなり、やがて消える。同時に、兵器は煙を出し、音を立てて崩壊した。

勇弥「……やっぱり冷却装置に問題があったか。あとエネルギーも全然現実的じゃねぇや。
   【恐怖の大王】パワー様様だよ、まったく。
   おっと……ターゲットは……。」

【太陽の暦石】を見ると、鎧自体はそれなりのダメージを受けているようだった。
しかし、どうも麻夜には、何も悪影響は無いようだった。

勇弥「計画通り……かね。正義は……心配するまでもないか。」

その瞬間、白雲より正義と大王が同時に現れる。

正義「でえりゃあああぁぁぁ!」
大王「だぁぁぁあああ!」
麻夜「くっ……!?」

反応が遅れ、【太陽の暦石】に2人の斬撃が命中した。
先ほどの攻撃と比べれば個体へのダメージは僅かかもしれないが、精神へのダメージは充分だった。

麻夜「……何故だ、あれは何処から出てきた……?」
正義「次……いくよ!」



楓「(十文字流……その極意は、南を目指すものの道しるべなり。)
  (力を求めるものは、見てくれに騙され大きな剣を取る。)
  (しかし真の『道』は、小さくとも鋭く、確実に目的を貫く……【心】。)」

楓は刃を【太陽の暦石】に向けながら心の中で呟く。
やがて納刀し、ゆっくりと目を瞑る。

楓「(たとえ、この身が5つに別れようとも、『道』で繋げば1つのしるべとなる。)
  (十文字をつくる星がひとつ、【技】により砥がれた刃を【体】で制御せよ……!)」

不意に、楓の姿がそこから消えた。かと思うと、【太陽の暦石】の前の白雲から降ってくる。

楓「十文字秘伝……地平一閃!」
麻夜「なっ……!?」

高速の抜刀と同時に、鋭い一太刀が【太陽の暦石】に命中した。
ただの刃だったが、食らうと同時にダメージが増幅され、【太陽の暦石】が苦しみだす。
【太陽の暦石】は反撃を試みるが、紙一重で楓の姿が消えた。

麻夜「小癪な真似を……。」
大王「小癪な真似に引っかかる予言者には言われたくないな。」
麻夜「何故だ……何故、我の予言が外れた!?」
大王「簡単な話だ。」



正義「お前の予言では……ボクが死んでいるからだ!」



不意に、正義が【太陽の暦石】に斬りかかる。
反応が遅れたのか、その斬撃は【太陽の暦石】に完全に命中した。

正義「お前の予言と、現実……その中で最も大きな変化が『ボクの存在の有無』。
   いない人間の行動は予言する必要がない。だからお前には、ボクの行動が予言できない。」
大王「予言の絶対性が裏目に出たんだろう。お前は『もしも』を推測できないんだ。
   己の予言は、絶対だからな。」
麻夜「ッ……!」

【太陽の暦石】は怒りと屈辱の表情を浮かべる。
しかしやがて、その表情は笑みへと変わる。

麻夜「……なるほど、我の予言を破ったことは褒めてやろう。
   だが、お前達にとって『これ』は大事なものであろう?傷つけていいものか?」

そう言いながら自分を、いや、麻夜を指さす。
それを見て、正義と大王は、堪えきれずに笑い出す。

麻夜「……何がおかしい?」
正義「まさか、気付いてすらいなかったとはね。」
大王「まったく、もしそうだとしたら、俺達は攻撃などしないぞ。」

その様子に、【太陽の暦石】は全く理解はできなかった。
理解させる暇も与えず、正義と大王の猛攻が始まる。



コイン「ふぅん……分かると思ったんだけど。分かってても、理解できないのかな?」



陰「(次の攻撃は30秒後です。準備してください。)」



伯爵「(カウントまでもう少し時間がかかります。攻撃を控えてください。)」



大王「(正義!まだ攻撃できないのか!?)」



コイン「(私たちが正義くんに情報を送ってることに。)」

正義くんに与えられた忌まわしき縁、「黄昏の呪い」。
正義くんには都市伝説の心を読む力が与えられている。
そのおかげで、正義くんの命中精度や回避能力が底上げされているんだけど……。

この力は、敵に向けるだけのものではない。
元々、大王さんと言葉なく息を合わせたりすることだってできた。
【アンゴルモアの大王】となった今なら、この乱れ飛ぶ情報を、全て整理できる。……らしい。
私達が、自分と契約者の動きを伝えれば、正義くんはそれに合わせくれる。

勇弥くんが武器を造った時、正義くんは微妙な動きで攻撃のタイミングを調整していたの。
【数秒ルール】が発動できるタイミングになるまで、ね。
カウントが、【数秒ルール】で麻夜ちゃんを守ってる時間を報告。
陰さんは、勇弥くんの行動について解説。
そして私は……。



コイン「(正義くん!火炎弾が来るから、斬り払ってほしいんだけど……。)」

このように近未来余地を飛ばして。

麻夜「第三の破滅……『トロメア』!」
正義「遅いッ!」

正義くんに対策してもらう。



1人1人は離れているけど、皆の心は確実に繋がっている。



互いが互いを信頼しているから。



これが、「絆」の力。



あなたにはない、「絆」の力。



これでも、あなたに勝ち目はあるの?【太陽の暦石】









正義「(でも……『まだ倒せない』のは本当だ。)」



仮にこのまま倒したとしても、麻夜ちゃんの心が無事は保証できない。
どのような手段で操っているかは分からないけど、場合によっては麻夜ちゃんの心は戻ってこない。
「心」を取り戻せなければ、おそらく麻夜ちゃんを救うことはできない。

なにより……この力は、強すぎる。
始めに当てた時、【数秒ルール】の壁を貫きかけた。
どうやらその気になれば、あらゆるものを滅ぼすことができるらしい。
だから今は、力を可能な限りセーブして戦っている。

……これでは、勝てない。
精神的に追い詰めてはいるけど、あいつを滅ぼすには「本気」を出す必要がある。
その力を、完全に制御できる自信はない。
しかし、持久戦にも限界がある。
ボクはどうか分からないけど、あいつよりも奈海達が倒れる方が早いだろう。
早く終わらせないといけない。



「麻夜ちゃんの心と体を解放する」……その方法って?



大王「ッ……!少年!」



正義「……あっ……!」



そうか……!まだ、希望はある。



彼なら、きっと……。



正義「漢くん……!」






マヤの予言編第X4話「キズナ」―完―

失礼いたしました。

兄者……遅くなってごめんよ……就活終わってないけど
あとは兄者→また自分となるのかな?
それでは。

☆はっぴーハロウィン☆

こども「「とりっく・おあ・とりーと!」」「おかしくれないとー!」「いたずらするよー!」

大王「ハロウィン、もうそんな季節か」
正義「なんか、なつかしいね」

こども「うわぁ、おっちゃんはなんのコスプレ?」
大王「おっちゃん……!?」
こども「かっけー!なにそれなにそれ!」

大王「……少年!見てないでどうにかしてくれ!」
正義「ふふっ、ボクはもうお菓子あげちゃったもん」

●大王は子どもに弱かった


☆トリック・オア……☆

コイン「トリック・オア・トリート!お菓子くれないと、悪戯だー!」

正義「ごめん、道中でお菓子配りきっちゃった」
コイン「えぇ!そんなひどい……」
大王「そもそも、悪戯って何をする気だ?」

コイン「ちょっと、お呪いさせてもらおうかな」

大王「しょしょしょ少年、本当にお菓子はもうないのか!?」
正義「全部使っちゃった……」
コイン「えっ!?冗談だよ!?」

●呪いはやめて、マジやめて

☆お菓子だけど☆

勇弥「どうかしたのか?」
正義「勇弥くん!」
大王「友よ……来てくれたのか……!」

コイン「お菓子くれないからって呪うわけないじゃん!」
勇弥「コインちゃんの呪いには、色々お世話になってるからな。ほい」
コイン「わぁい」

[十円チョコ(たくさん)]

コイン「勇弥くんのいじわる!鬼!」
勇弥「えっ!?これのどこに問題が!?」






●女心は、難しいものですな……(他人事)


☆そういえば☆

勇弥「ハロウィンと言えば、カボチャを刳り貫いて……。」
奈海「ジャック・オ・ランタンの完成ー!」

コイン「あとは、ウィルさんに入ってもらって……」
奈海「って、ウィルさんは【ウィル・オー・ウィスプ】でしょうが」
勇弥「ん?【ジャック・オ・ランタン】で合ってるんじゃないか?」
楓「いや、【つるべ落とし】だと思ったんだが……」

大王「最初にあった時【鬼火】だと名乗っていただろ?」
正義「あれ、【人魂】だって聞いた記憶が」

……あれ、どれだっけ……






●正解は、「複数混じってる」です

☆過去☆

(正義「とりっく・おあ・とりーと!」)
(大王「なんだその姿は?俺の世界征服を手伝う気にでもなったか?」)
(正義「ちがうよ、ハロウィンだよ」)

(正義「というわけで、おかしくれないと、いたずらするよー」)
(大王「俺の知ってる【ハロウィン】と違うんだが」)
(正義「そんなのしらないよ。あ、くもからふらすのもダメだから」)
(大王「では……」)

(大王「悪戯しろよ、お前にできるならな」)

正義「……それ以来、『トリック・オア・トリート』って言わなくなったなぁ」
コイン「鬼だ……!」
大王「覚悟もないやつに、脅しなぞされても怖くないという教訓を与えたまでだ」






●実際、悪戯されてる家なんてみたことないけどね


☆ハロウィンの夜は☆

こども「「わぁい、おかしだ、おかしだ!」」「みんなで食べよー!」「やったー!」
勇弥「……平和だな」
楓「全くだ」

奈海「これが、私達が守ってきたものなのね」
コイン「つらいこともあったけど……今が幸せなら、それでいいや」
大王「まったく……お人よしどもが」
正義「だから……」

正義「お前たちに、この笑顔を壊させやしない」
勇弥「【ハロウィン】に乗じて、騒ぎを起こそうって魂胆は読めてるんだよ」
奈海「というか、1年前から成長してないわね」
コイン「まったく、飽きないねぇ」
楓「では、始めるか」

大王「ということだ、お前達。『悪戯』される覚悟のないやつに、『悪戯』なぞさせん」
野良都市伝説「(あ、終わった)」「(今年は、勝てると思ったのになぁ)」「(もう俺都市伝説やめるわ)」






●今年のハロウィンも平和です

遅刻気味ながらハロウィンほのぼの

ちょっと落ち着いた気がする、では~

そろそろ学校へ行かなければ遅刻してしまう。
そう思って急いでいた俺の腕を掴んで
「お兄ちゃん、ゲームしよ!」
と妹が言った。
俺は学校へ行こうとしていた所であり、今日は平日だ。
当然、妹だって学校がある。というか、俺と同じ学校だ。
「お前、学校行けよ」
「今日は休む」
『今日は』ではない。『今日も』だ。
何を隠そう、妹は引きこもりだ。
「俺は学校行きたいんだけど」
「お兄ちゃんは学校と私、どっちが大事なの!」
「いや、学校だけど」
「……、死んでやる!」
物騒な事を叫びながら部屋に駆け込んでしまった。俺の部屋だ。
……今日は学校を休むしかないようだ。
妹の「死ぬ」は洒落にならないのだ。
妹は「ウサギは寂しいと死ぬ」の契約者だから、寂しいと本当に死ぬ。
ちなみに、ただ死ぬだけなので、戦闘には全く使えない。

「なんでお前、学校行かねえの」
一狩りしなが妹に聞いてみる。
「……だって恐いし」
「恐い?」
「私、契約者だよ?外に出たら、都市伝説とかに襲われるかもしれない。そう考えたら、恐くて……」
わりと真面目な理由だった。ビックリだ。
「それにね?そんな危ない外にお兄ちゃんが行っちゃうのも心配なんだよ?だから、一緒に部屋で」
「あ、俺は契約したから自分の身くらい守れるぞ」
「……え?いつ?」
「先週。花子さんと」
「え?」
「ん?」
「花子さん?花子さんて女子トイレにいるやつだよね?え?何?なんで?」
「いや、トイレにゴキブリが出たからなんとかしてくれって女子に頼まれて」
「え?なんでそれお兄ちゃんに頼むの?」
「知らん。よく頼まれるんだよ。買い物の荷物持ちとか、委員会の仕事の手伝いとか、夜恐いから家まで送ってくれとか
 友達とか結構いるはずなのに、何故か俺に…………どうした?」
「」
「おーい?」

次の日から何故か妹は普通に学校に行くようになった。
休み時間のたびに俺のクラスや女子トイレをうろうろしていて、ちょっとうざい。
都市伝説恐いのはどうしたんだ。

乙です!

>>41
ジュース買ってんじゃねーよwwwwww

『捨てても捨てても戻ってくる人形』みたいなタイプの都市伝説と契約する→アンティークショップで売る→戻ってくる→売る→以下繰り返し

呪われそう? そこは自己責任

       _,-――-.、

  \  ./:::::::::::::::ヽ:::.ミヽ、     、l | ll l || l l||| l l| l || l l||| l |l | ll |l l || l l|
    /::::/| | ハ :::ヽ::ミ:l    ヽ`
    |::/ ´ |八:八|ヽ::|::ミ::}   三 多々買え・・・もっと多々買え・・・
    ムイ::○::::::::::::○:イ::ミ:ノ    彡,
     |人" r‐┐" |.ノ^)      ' / l | ll | ll |l |l | ll |l l || l l| |l | ll |l l || l l|
    (ゞ:ミ/ハ ` ´ ‐< ´
 ゚ヽ | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄| | ダンッ

。 ゚ _(,,) つべこべいわず (,,)_ / ゚

 ・/ヽ|   課金しろ    .|て ─ ・。 :
/  .ノ|________.|(  \ ゚ 。  【イメージ図】
 ̄。゚ ⌒)/⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒ヽ\  ̄ 。

【都市伝説 殺 し 屋】
能力『対価として金銭を支払う事でそれ相応の殺傷力を持つ弾丸を放つ』
対価として支払われた金銭が何処へ消えるのかは不明
日本円で一発1000円から(殺傷力及び命中率は値段相応なので1000円では当たらない可能性も有り)
逆に言えば金を注ぎ込めば注ぎ込むほど威力と命中率は上がる
殺されるのはターゲットか契約者の財布かその両方

>あれだね、徳川の埋蔵金とかM資金的なのと多重契約しとかないと
>金稼ぎ系の都市伝説は少なくないけど、多重契約するのも怖いかwwwwww
二重の意味で燃費最悪なので多重契約すると多分死にますww
>>44
多分それが一番平和な金稼ぎかもww

「力が欲しくはないか?」
突然、耳元で声が聞こえた。チビは、慌てて後ろを振り返るが、誰もいない
「力?」
画面に視線を戻したチビは、感情を感じられない声でそうつぶやいた。どことなく、目が虚ろだ
「そう、力だ。これさえあれば、貴様は新しい自分になれる」
「新しい自分…」
チビは思い返す、今までの惨めな自分を。そして、自分を見て笑う者達のことを。
「僕は変わりたい…」
それは、ずっと叶わないと思っていた願いだった
「あいつらを倒して新しい自分になりたい!」
「ならば、契約せよ。望み通りの力を授けよう」
もう、迷いはなかった。チビは、「契約」をクリックした

「よう、チビ。元気にしてたか?」
チビが教室に入ると、金髪の男が笑いながら声をかけた。周りの取り巻きも笑っている
「うん」
「へー、別に来なくてもいいんだぜ」
「ちょっと~、せっかく来たのに酷いって~」
彼らは、まだ知らない。チビが、昨日までのチビではないことを。だから、自分たちの首を絞めるような言動を平気で出来る
「あのさ」
「あ?気安く話しかけんなよ」
「うっわ、ひっど」
幸せな時間は、いつまでも続かない。必ず、終わりが訪れる
「死ねよ、くそ金髪」
人が宙に舞う、それは滅多に見れる光景ではない。だから、突然空中に吹き飛ばされた金髪に、皆唖然とした
金髪は、そのまま黒板にぶつかり、床に落ちた。意識はない、どうやら気絶しているようだ
あまりに現実離れした出来事に、誰も口を開こうとしない。それどころか、誰も金髪に近寄ろうともしない
彼らは、認めたくなかった。これが現実だということを
「なんだ、この程度だったんだ。僕を支配するものって」
無音の空間の中で、チビの喜びに満ちた声だけが響き渡る
彼らにとっての幸せな時間はこうして終わり、チビにとっての幸せな時間が始まろうとしていた

金髪の件は、学校側が事故として処理をした
クラスの人間や、金髪は、真実を話したが、教師も親も信じなかった
その後、金髪の取り巻き等が、チビを犯人だとして、リンチをしようとしたことがあったが、それは見事に失敗をした
金髪の時のように、「見えない力」によって、返り討ちにされたからだ
普通の暴力と違い、「見えない力」は犯罪行為にならない。日本の法律では、説明のつかない力を裁くことができないからだ
チビは、クラスの王者となった。「見えない力」で、恐怖を与え、脅し、従わさせた
それだけでは、とどまらず、チビは欲望に任せ、様々な悪行を繰り返した
復讐者だった彼は、こうして支配者となった。その姿は、チビが憎んだ者達にそっくりだった

「やった、やった!…ん?」
勝利に浮かれはしゃぐチビだったが、突然顔に何かが張り付く
手でつまみ、見てみると、それは…
「…え?」
独特な生々しい感触、滴る血液、そして形容しがたい匂い
肉片だった
「え?え?」
チビは、もちろん人が死ぬことを知っている。が、どこかで思っていた
自分と同じ力を持つ巨漢ならこれくらいでは死なないだろうと
「え?え?え?え?え?え?え?え?え?え?」
頭をかきむしるチビ、顔は青く、目は血走っている
「嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ」
現実を拒むように、下を向きながらひたすらそう呟く
チビは、いくら悪行をしようと、「人殺し」はしなかった。いや、できなかった
あくまで、「日本の普通の人間」であるチビには
「嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ!」
腰が抜け、地面に座り込み。絶望に包まれながら、チビは意識の底に落ちていこうとしていた
その時だった
「ん?」
チビは、思わず顔を上げる。微かな音が聞こえたからだ
そして、気づく
「ま、さか」
その音が、足跡だということに
「どうした?もう終わりか?」
低いハスキーな声、ゴミひとつ付いていない制服、傷一つない巨体
クレーターの中から、巨漢は出てきた
「あ」
思考が停止するチビ。だが、再び動き出した時、今受けた衝撃で三つの事実に気がついた
一つ、ヒトガタの右拳が粉砕されたこと
二つ、先ほどの肉片はヒトガタのものだということ
「次は、こちらから行かせてもらう」
三つ、巨漢が「普通の人間」ではないということ

やば、文章矛盾した

現時点まで登場した都市伝説の紹介

【デブは喧嘩が強い】
形を持たない概念系の都市伝説
デブじゃないと契約できない。都市伝説としての格は低く、契約しても容量をあまり食わない
・能力…『戦闘時、身体能力と肉体が強化される』
肉体強化系としては、弱めなほう。発動条件が、単純なのが長所

【ターボ孫】
ターボばばあの孫とされている都市伝説
姿は、引き締まった姿をした若い男。ジャージを着ているとされている
ターボばばあより速いと噂されている
・能力…『脚力強化』
肉体強化系としては、かなり強め。脚力強化に限ればほぼ最強

【ヒトガタ】
北極に出現すると言われている都市伝説
姿は、白く人型。数十メートルの長身を誇る
・能力…『水中を自由自在に移動できる』
水中限定で、呼吸も必要とせず、自由自在に移動できる

以上です
ターボ孫は、契約者がいなかったので、能力を出せませんでした
ヒトガタは、劇中で能力を出せず、本体による攻撃しか書けませんでした
デブが喧嘩が強いは、能力としては弱いけど、契約者(主人公)が元々バカみたいに強いので、無双状態になっています

ヒロイン初登場会
いつもどおりの駄文です

 まだ、耳に馴染んでいない、目覚まし時計の音で、私は今日も目を覚ました。すぐに、体を起こし、時計のボタンを押す。針は、午前5時を示していた。
 「よかった」
 昨日、パズルにのめり込みすぎて、ついつい夜ふかしをしてしまった。なので、朝ちゃんと起きれるか心配だった。杞憂で済んで何よりだ。その後、布団をたたみ、制服に着替えた。おかしなところがないか、姿見で確認をする。うん、特にないようだ。そうこうしているうちに、お母様も起きた。
 「おはよう、お母様」
 こうして、私のいつもの一日が始まった。

 台所に向かうと、いつもと同じく彼はいた
 「おはようございます」
 「ああ、おはよう」
 包丁でネギを切りながら、拳次君は挨拶を返してくれた。巨体に似合わない、繊細な包丁の動きには、ついつい見とれてしまう。
 「卵を割っておいてくれ」
 「はい」
 冷蔵庫からたくさんの卵を取り出し、割ってボウルに入れていく。簡単な作業だけど、油断をすると殻が混じってしまう。
 「そこのだし汁と調味料を卵に入れてくれ。配分覚えているか?」
 「はい」
 どうやら、今朝はだし巻き卵のようだ。拳次君の作るだし巻き卵はとても美味しい。配分は、以前教えてもらった。
 「…ナダレ」
 「はい?」
 卵をかき混ぜていると、拳次君が話しかけてきました。
 「ここの生活には慣れたか?」
 「慣れた…とはまだ言えないです。ここの生活は楽しいですけど」
  洋風の家で暮らしてきた私には、この立派な日本家屋にはまだ慣れない。けど、いい家だとは思う。それに、拳次君を含む家族の方々は親切な人ばかりだ。
「楽しいか…、騒がしいの間違いじゃないか?」
「違いますよ、ちゃんと楽しいです」
「こんな朝からうるさいのにか?」
 確かに、この家は早朝からとても賑やかだ。というのも
 「いいじゃないですか、道場」
 そう、この家は敷地内に道場を構えている。それもいくつも。家族の方々は皆、格闘家や武道家で、人に武術を教えて生計を立てている。ちなみに、今も朝練の真っ最中で、この台所にも掛け声や物音が聞こえている
 「とっくに慣れはしてるけど、楽しいとは思えないな」
 そう言い、拳次君は調理に戻った。私もそれに従う。実は、拳次君に言っていないことがある。というのも、これは彼に言ってもどうしようもないことだからだ。だって、それは私自身の問題だから。
 「ボウルを渡してくれ」
 恩人である彼に、これ以上迷惑をかけたくないから

 教室のドアを開ける瞬間、私はここを立ち去りたくなる。けど、教室の中に入ればそんな気はなくなる。
 「昨日のロンハー見た?」
 「え~、嘘だろ」
 「見てみて」
 「お前すげーな」
 ここには、いつも雑音が広がっている。人の感情がごちゃまぜになった音が。耳を塞ぎたい、その思いを実行に移さず、私は自分の席に座る。
 「でさ~」
 「まあまあ、しょうがないじゃん」
 「は~!?」
 「うわ、食いてえ」
 鞄から、図書室で借りた本を取り出す。有名な文豪の短編集だ。私は、すぐに物語の中に潜り込んだ。ここから逃げるように。

 『お疲れ様です!』
 「お疲れ様。みんな、元気だね」
 ありがとうございます、威勢のいい声でそう言って、小学生達は道場の門をくぐっていった。彼らは、ここの道場に通っている子供達だ。この家の人たちは、皆礼儀に厳しく、挨拶などを徹底させている。道場とは、無関係の私にもさっきのような態度をとってくれる。
 「いい子達だな」
 しみじみとそう呟き、彼らとは違う門をくぐる。この家には、二つ門があり、一つは道場用、もう一つは家用だ。私が今通ったのは、後者だ。
 「あの子達みたいに人に接することができたらな…」
 自分と彼らを比べ、私は勝手に落ち込んだ。そのまま、広い庭を歩き、玄関に着く。
 「ただ今帰りました」
 どこか他人行儀な声だった。

 「ナダレ、ちょっとお使いに行ってくれないか?」
 「お使いですか」
 台所で、お手伝いをしていると、拳次君がそう話しかけてきた。
 「ああ、ちょっと足りないものがあってな。このメモのものを買ってきてくれ」
 「はい」
 手渡されたメモを読む、品数は少なくどれも軽いものだ
 「じゃあ、金」
 拳次君は、エプロンのポケットから財布を取り出すと、私に差し出した。受け取ると、その低いハスキーな声で私にこう尋ねた。
 「店の場所はわかるか?」
 「はい、何回か行ったので」
 「そうか」
 そう言うと、拳次君はすぐに調理に戻った。
 「では、行ってきます」
 

 私は、お金を使うことに慣れていない。そのせいで、人に迷惑をかけることがある。今回もそうだった。
 「…はぁ」
 茜色に染まる住宅街を、鬱々とした気持ちで歩く。体に力が入らず、右手に持ったビニール袋を落としてしまいそうだ。
 「どうして、ああなっちゃんたんだろう…」
 おつかいに行ったスーパーで、私はとんだ失態をしてしまった。レジでの会計の際、手が滑り、財布の小銭を周囲に撒き散らしてしまった。そのせいで、並んでいる人たちと店員さんに多大な迷惑をかけてしまった。
 「はぁ…」
 また、ため息が出てしまった。こんな時、私は必ずある言葉を呟く。
 「私はここにいていいのかな」
 「いい訳がない」
 後ろから聞こえた返答に、驚いた私は、思わず後ろを振り向く。動きやすそうな服装、赤がベースのキャップ帽、そして凛々しい顔立ちが特徴の青年がいた。左手には携帯ゲーム機が、右手には紅白のボールが握られている。
 「お前は俺がゲットするんだからな」
 今日は、いつもの一日にはならないようだ。

 「まさか、『鬼神の血族』のところにいるとはな。おかげで、お前が外に出るのを待つはめになった」
 不気味に笑う男、私は警戒度を急激に高める。
 「あなた、契約者ですか?」
 「ああ、もちろん。だが、いきなり襲う気はねえよ」
 その言葉を聞いた瞬間、私は少しだけ気を緩めてしまった。すぐにそれが失態だと気づき、再び警戒度を高める。
 「へえ、素直な性格だな」
 一連の私の行動に、気づいていたらしい男は、馬鹿にするような口調でそう言った。
 「襲う気がねえってのは本当だ。ただし、こちらの条件を飲んだらだがな」
 「条件?」
 「ああ」
 男は、ボールが握られた右腕を前に突き出し、こう言った。
 「俺のものになれ、都市伝説と人間のハーフ」

 私が、都市伝説と人間のハーフであることを、知られていることにいまさら驚きはしない。そもそも、知っていないと私のところに来るはずがないからだ。
 「…あなたと契約しろということですか?」
 「いや、違うな。契約ではなくゲットだ」
 「ゲット?」
 「ああ、このボールを使ってな。ちょっと見せてやる。出てこい!白ワニ!」
 男は、右手に握られたボールを上に投げた。すると、聞いたことのないような機械音と眩しい光が、ボールから発せられた。思わず、目を瞑る。少ししてから、目を開けてみると男の足元に、白い大きなワニが一匹いた。
 「どうだ?驚いたか?このボールは、都市伝説をゲットすることができる。そして、ゲットした都市伝説は俺に絶対服従する。契約したわけでもないのにな」
 恐ろしい都市伝説、素直にそう思った。人間が、契約できる都市伝説の数には限度がある。というのも、契約するのには、容量というものを消費する必要があって、それには限界があるからだ。人によっては、常人より多い容量を持っていたりもするけれど、それにも限りがある。それらを考えると、男の能力は反則と言っていいものだ。
 「おお、驚いてくれているようだな」
 私の顔を見て、男はにたりと微笑んだ。
 「さて、じゃあ話を戻すが、俺にゲットされる気はあるか?」
 「…」
 「お~や?」
 男はさらに顔を歪ませた。ありません、その言葉を言うことがどうしてもできなかった。私は、ずっと悩んでいた。あの家に来てからずっと
 「もしかして、お前「私はあの家にいて本当にいいのかな?」とか思っちゃってるか?」
 図星だった

 地獄から救い出してくた拳次君は、帰るべき家まで私に作ってくれた。家の人達や道場の人達も、とてもいい人ばかりだった。だからこそ、私は悩んでいた。私はここにいていいのかと。本来、ここまで親切にしてもらう義理はない。それにも関わらず、みなさんは私に様々なものをくれた。初めての学生服、美味しいご飯、自分の部屋、私にはもったいない洋服、そして温かい感情。もらうたびに、引け目を感じた。他にも、悩んでいることはあった。元々、人見知りな私は、高校に入学するにあたりとても緊張していた。強ばった体で、初めて教室に入った時、そこで気づいた。自分が、社会から外れた者であるということを。すぐに、私は雑音に飲まれ、身動きができなくなった。街に出てもそうだった。けど、それらの悩みは誰にも打ち明けなかった。当然だ、ここまで尽くしてもらっているのに、これ以上迷惑をかける訳にはいかない。そう思い続けて、今私はここにいる。

 「そうだよな、お前みたいな異端中の異端者が人の生活を送れるはずがないよな~」
 その言葉に、何も返答することができない。喉が異常に乾く
 「なあ、俺のところに来いよ。そんな、悪い扱いじゃねえぞ。三食昼寝付きだ」
 それなら悪くないかもしれない、内心そう思ってしまった。だって、私は長年飼われていたんだから。昔の生活に戻るだけだ。
 「何も悩まずに、ただ俺の命令に従うだけの生活だ。結構、いいと思うぞ。余計なことを考えることもないしな」
 一切苦しまずに、ただ毎日を過ごす。それは、なんて幸せなことなんだろうか。
 「さあ、来いよ。このボールを触れ。その瞬間、お前は俺のものになる」
 気がついたときには、男に向かって歩を進めていた。止める気はない。男の前に立ち、右手のボールに私の右手を伸ばす。
 「歓迎するぜ、ハーフは貴重だからな」
 新しい主人の言葉に耳を傾けながら、ボールに触れようとした。
 「…どうした?」
 私の右手は、ボールの手前で止まっていた。なぜだか知らないが、急に石のように重くなり、動かなくなってしまった。
 「ん、ん」
 いくら、力を込めても右腕は動かない。それどころか、左腕も、右足も、左足も、首も、どこも動かない。困惑しながら、その理由を考えた私は、あることに気づいた。
 「…すいません」
 「気にするな、緊張することは誰にでもある」
 「いえ、そうじゃないんです」
 「何?」
 「私…」
 全身がようやく動き始めた。一度、大きな深呼吸をする。心を落ち着かせた私は、両手を握りしまながら、力を込めた声でこういった。
 「やっぱり、あの家にいたいんです!」
 瞬間、私の体が強い冷気を放った。

 「ち!」
 男は、素早く私から距離をとると、舌打ちをした。
 「簡単に行くと思ったら、そうは行かないか。こうなったら、力づくだ。いけ、白ワニ!かみつくだ!」
 白ワニが、大きな口を開けながら、私めがけ飛びかかってくる。大きな体に似合わぬスピードで。それを、私は避けることはしなかった。ただ、来るのを待っていた。
 「ははは!びびって動けなくなったか?」
 男の言葉に、耳を貸す必要はない。だって、私にとってこの白ワニは脅威じゃないのだから。
 「何!?」
 男は、間抜けに口を開けて驚いていた。それもそうだろう、だって突然私の体が雪煙となったのだから。私が、雪煙となったことにより、白ワニの噛み付きは空を切ることになった。そのまま、白ワニの背後に移動し、姿を人に戻す。そのまま、白ワニの背中に手を当てる。こんなことをすれば、普通はすぐさま襲いかかってくるだろう。だが、白ワニはピクリとも動かなかい。
 「凍らせたか…」
 氷の塊となった白ワニから、手を離し、男のほうを向く。その顔は、苦々しかった。
 「さすが、雪女の血を持つだけはある」
 男は、口ではそう言いながら、指先は震えていた。

 あの瞬間、私は気づいてしまった。自分が、あの家に負い目を感じている以上に、あの家が大好きだということに。たとえ、迷惑をかけてもあそこにいたいと思っていることに。問題は多い、それでも私は、この思いを選んだ。

 「なら、これでどうだ!」
 男が、携帯ゲーム機のボタンを押すと、空中に先ほどのボールが大量に現れた。
 「数の力を教えてやるよ!」
 先ほどとは比べもにならないほどの、音と光が周囲に広がる。今度は、目を閉じなかった。
 「絶望しろ!俺の軍勢に!」
 ありとあらゆる魑魅魍魎が、私を取り囲んでいた。鱗を身にまとったもの、毛を生やしたもの、刃物を持ったもの、翼を持つもの、マイナーのものからメジャーなものまで、様々な都市伝説がいる。確かに、絶望した。『鎖』に縛られている私には、これだけの敵を相手に勝つことはできない。
 「ははは!いい顔だ!…ん?」
 そう、私は勝つことができない。私は。
 「おい、何を企んでいる!」
 「何も企んでいませんよ。ただ…」
 本当は、こんなことはあまりしたくない。けど、あの家に帰るにはこの方法しかない。
 「お母様に戦ってもらうだけです」
 体中が、先程より強い冷気を放った瞬間、私の意識が薄れていった。ごめんなさい、そう思いながら。

 「まったく、遠慮なんてしなくていいのに」
 わたくしは、そう言いため息をした。あの子のためならなんでもするというのに。
 「お、おい!」
 例の男が、わたくしを指さしてなにやら叫んだ。虫を見る目で、彼に視線を向ける。
 「どういうことだ!なんで!なんで!」
 本当にうるさい男だ。正直、今すぐ殺してしまいたいが、それはあの子の思想と反してしまうのでできない。
 「なんで、お前の目が明くなった瞬間、俺の奴隷共が一瞬で全員凍ってるんだよ!」
 「そんなの決まってますわ」
 どうやら、どうしようも無い低脳のようだ。仕方がない、このわたくしが親切に教えてあげることにしよう。
 「わたくしの娘は世界一だからですわ」
 娘の体で、わたくしは胸を張ってそう言った。

 娘は、本来強大な力を持っているのに関わらず、クズ共のせいで能力を制限されている。クズ共から、離れることができた今でも、それは変わっていない。だが、これには一つ抜け目がある。あの子が力を使う場合は、制限されてしまうが、わたくしが使う場合は制限が無い。それは、あのクズ共が油断した結果の盲点だった。なので、あの子がピンチになった時、代わりに私がこの体を操り戦う。あの子は、そのたびに申し訳なさそうにする。

「ち、こんなの予想外だ!ここはひとまず」
 「逃しませんわよ」
 「ひ!?」
 目の前に移動していたわたくしに、男は悲鳴を上げると、地面に尻餅をついた。見下す格好になったが、中々悪くない。わたくしは、ドSという人種なのかもしれない。
 「こ、こうなったら!」
 男が、再び携帯ゲーム機を操作し始めた。が…
 「な!?」
 生み出した氷のナイフで、ゲーム機を突き刺す。画面にヒビが入ったかと思うと、すぐに映像が消えた。
 「やはり、それが能力を使う上でのキーアイテムみたいですわね」
 「な、なぜそれを!」
 やはり、この男は低脳だ。ゲーム機がキーアイテムだってことくらい、見ていれば気がつく。
 「で、あなたが契約しているのは、なんていう都市伝説ですの?」
 彼の首筋にナイフを当て、平坦な声で聞く。怯え上がった男は、涙を流しながら情けない声でこう言った。
 「え…え『Aボタンを連打するとポ○モンが捕まりやすくなる』」
 ポケモンというものは、知らないが、どうやらゲームに関係する都市伝説らしい。その後、男の服を脱がし、他にゲーム機がないかチェックしたが見つからなかった。とりあえず、男の両足と両手を氷によって拘束しておき、路上に寝転がしておいた。これで、全てが終わり、あの子に意識を変わるだけでいい。わたくしは、そう思っていた。男が、最後の悪あがきの際、少し離れたところに、一つだけボールを呼び出したことに気がつかずに。その中から出てきていた都市伝説、『幻のスナイパー』がわたくしを狙っていることにも。銃声が住宅街に響いた。

 「…来て正解だったな」
 背後からの銃声に気づき、振り返ったとき、そこにはわたくしに背を向けた拳次がいた。
 「お、お前は『デブは喧嘩が強い』の契約者!」
 男が、なにやら騒いだが、首をナイフで薄く切ると、すぐに黙った。
 「…相変わらず、タイミングのいいところに来ますわね」
 「たまたまだ」
 皮肉を込めた言葉に、彼はそう言い返した。
 「で、どこから撃ってきたかはわかっていますの?」
 「当たり前だ、でないと」
 彼は、握り締めた右拳を解いた。
 「掴むことができない」
 金色の弾丸が地面に落ちた。

 その後、『幻のスナイパー』は拳次によってすみやかに処理された。あのクソ男は、拳次が呼び出した黒服によって連れて行かれた。これで、本当に一件落着だ。
 「…また、借りができましたわね」
 「気にするな」
 呑気に、拳次は言う。が、わたくしの心はおさまらない。
 「気にしますわ!だって、あなたは…」
 「どうでもいいことだ」
 あなたって人は!
 「いつも、いつも、そんなことを言って誤魔化して!助ける側の人間として、助けられた側の思いも受け取りなさい!」
 「俺は手伝いをしただけだ」
 ああもう!
 これ以上話しても、きりがないと判断し、気持ちを無理やり抑える。
 「…なら、もう一つ借りを作るとしますわ」
 「なんだ?」
 「絶対にあの子を嫌いにならないでください」
 あの子は、これからどんどん変わっていくだろう。色々なものに触れ、様々なことを知り、あらゆるものを失う。今回のように、迷うことも多くなるだろう。それらを承知した上で言った。
 「ならないよ、一生」
 拳次は、何でもないことのようにそう言った。わたくしの、思いをすべて理解しているはずなのに。
 「だってな―」
 それに続く言葉は、とても気恥ずかしいもので、温かいものだった。
 「まったく、あなたって人は」
 思わず、ため息が出てしまう。そのくらい、拳次という人間は、馬鹿で、優しくて、頼りがいのある人間だ。
 「それでは、私はそろそろ退散しますわ」
 「そうか」
 ナダレに体の主導権を返すため、意識を集中する。しだいに、体の感覚が薄れていく。
 「そうだ」
 突然、拳次はそう呟いた。思わず、彼に視線を向ける。
 「戦闘以外でも、たまには表に出ろよ」
 「…考えておきますわ」
 少し、頬が緩んでしまう。拳次は、どうせ気づかないだろうが。私の思い人は、とても鈍い。

 「戻ったか」
 「…はい」
 意識は、まだもやもやするが、口は動かせる。
 「また、迷惑をかけてしまい、すいません」
 拳次君に向かい、頭を下げる。助けてもらったのはこれで何度目だろう。
 「…意識の共有を出来るんじゃなかったか?」
 「え?」
 頭をあげた私は、突然の言葉に、思わずそう呟いた。
 「いや、ユキにも同じことを言われたんだ」
 「ああ、そういうことですか」
 お母様の名を出され納得する。
 「意識の共有ができるといっても、ぼんやりとなんです。なので、会話の内容とかは全然…。お互いの意思を伝えることはできるんですけど」
 私の体には、魂が二つある。自分の魂と、お母様の魂だ。普段は、私の魂が体を操っているが、お母様が私の体を使うこともできる。そして、お互いの心や意識を共有している。まあ、これが出来るようになったのは少し前のことだけど。
 「ああ、それでか」
 どうやら、拳次君は納得したらしい。
 「…帰ろう」
 夕日が沈もうとしていた

 「…拳次君」
 「ん?」
 暗闇に染まろうとしている住宅街を、拳次君と並んで歩いていた。
 「あのね」
 これから言おうとすることを考えると、胸が熱くなる。けど、口に出さないといけない。そうすることで、私は前に進めるはずだから。
 「私は、このままあの家にいていいのかな?」
 駄目だ、そう言われてもいいと思った。私は、ただ拳次君の思いを知りたかった。
 「いいに決まってるだろう」
 「本当に?」
 拳次君が、そう言うであろうことは、予想していた。けど、その言葉が彼の真意だとは限らない。だから、私は目を見て、確認の言葉を言った。
 「当たり前だ、家族が家にいてダメな理由がない」
 言葉が出ない、その意味を身をもって知った。彼は言い切った、確かな口調で、確かな瞳で、私を家族だと。
 「それとな」
 拳次君は、珍しく呆れたような表情をしていた。
 「自分の家をあの家だなんていうな」
 「…はい」
 久しぶりに、私は笑った。

長く書きすぎた…
ナダレとユキの過去話はそのうち

今回登場した都市伝説の紹介

【Aボタンを連打するとポ○モンが捕まりやすくなる】
某国民的ゲームに関する概念系の都市伝説。
ポ○モン廃人でないと契約できないと言われている。
・能力…『モン○ターボールを生み出す』
何もない場所からモン○ターボールを生み出す。
これを使うと、都市伝説を捕まえて操ることができる。
いくら捕まえても、契約と違い容量を消費しない。正し、契約したわけではないので能力は使えない。
任○堂の携帯ゲーム機とポケ○ンのソフトがないと能力を発動できない。

【幻のスナイパー】
敵軍の士気を下げるため捏造された実在しないスナイパーが実体化した都市伝説。
・能力…『気配遮断・百発百中』
気配や足音をほぼ完全に消すことができる。
正し、センサー類などには反応してしまう。
狙った的にほぼ確実に銃弾や投擲したものを当てることができる。
弱点は、あくまで自身のコントロール能力を良くすることしかできないということ。
銃弾や投擲物の軌道を無理やり曲げたりはできない。

【ユキ(雪女)】
雪女だったが、現在は魂のみの存在となり娘であるナダレの中にいる。

【ナダレ(人間と雪女のハーフ)】
人間と雪女のハーフ。
並みの都市伝説や契約者を圧倒する力を持つが能力の大部分を封じられている。
が、ユキと体の主導権を交換した場合は、封印の対象外となり全力を出せる
・能力(封印時)…『触れたものを凍らせる・氷を生み出す・自身の体を雪煙とする】
・能力(交代時)…『周囲のものを凍らせる・他多数』
封印時とは比べもにならない力を持つ
氷雪系の様々な能力を使えると言われている
(氷雪系最強と書こうと思ったんですが某隊長みたいになりそうなので止めときました)

幻のスナイパーの能力を出せなかったのが後悔

「皆さん久しぶり、黄昏裂邪だ」

「とは言っても、作者が書かなさすぎて大半が忘れているか知らないだろうがな」

「作者さんが完全にリア充ライフを満喫しちゃってますからね;」

「ったく、書かねぇならマジで爆発しちまえよリア充め!」

「まぁまぁ落ち着きなせぇ」

「因みに、今日は彼女が出勤で自分が休みだから、暇すぎてこの話を書いてるらしいよ」

「理由、最低、であります」

「なんて人望の薄い作者なんだろう」

「そ、それよりクリスマスイヴですよ! 年に一度の楽しいイベントですよ!」

「町は憎悪と悲哀に満ちてるだろうけどね、主に非リア充達の所為で」

「安心しろ、そういう者達はそもそも部屋から出て来ない」

「大体あってるけど冷たい」

「つぅか主もリア充の1人だろ!? どうせミナワと性の6時間愉しむんだろ!? テメェも爆発しろ畜生め!」

「畜生はお前だろ……てか、何僻んでんの?」

「うるせぇ! 雌の「獏」に出会わねぇ俺様の気持ちが分かるか!?」

「理夢大佐、よしよし、であります」

(理夢さん…恋愛願望あったんだ…)

(ところで裂邪、今日もミナワと寝るのか?)

(シェイドはまた明日な)

(…うん(´・ω・` ))

「クリスマスといやぁ、あっしらがプレゼントを配った事もありやしたね」

「へぇ、そんなこともあったんだね」

「あー懐かしいですね! えーっと確か3年前でしたっけ?」

「信じられるか? クリスマスネタってその話と2年前にあげたエロネタしか無いんだぜ?」

「そうだったのか?」

「ほら、2年前は「マヤの予言」があったろ? あれから執筆ペースがガタ落ちしたろ?」

「「マヤの予言」からもう2年経ってやしたか…」

「終了、去年、であります」

「しかもまだ『夢幻泡影』以外は「マヤの予言」でストップしてんだぜ?」

「あれ? クリスマスネタの筈なのに作者への不満しか出て来ない」

「そりゃそうだ、作者自身も何書こうか考えもせずにメモ帳開いてキーボード叩いてんだもん
 そしてあろうことか、これを本スレに上げようとしてんだぞ」

「大丈夫なのかそれ、止めなくて良いのか? 下手したら我々も危うくないか?」

「れっきゅんファンクラブかラピーナファンクラブの皆様方がフォローしてくれるだろ、多分」

「他力本願かね」

「…おい、これってオチはあんのか?」

「無いからビオの一言で〆ようと思う」

「めにーくるしみます、であります」

「結局クリスマスの話全然してない!?」

「というか都市伝説との戦闘は!?」

                                          ...to be continued?

知らない内に面白い連載ががが
デブは喧嘩が強いの人乙ですの
Aボタン連打…その発想は無かった、いつか使おう(

>>95
シャドーマンの契約者さん乙です
他のポケモン関連の都市伝説はあったのにAボタンはなかったので使ってみました

単発の人乙ですの
うぉいwwwギャグなのかシリアスなのかどっちだwwww
良い子も悪い子も知らないおじさんに声かけちゃダメだぞ! 変態との約束だ!

>>97
ポケモンやドラクエなんかのゲーム内の都市伝説ばかりだったからなぁ
そういやAボタン以外でプレイヤーのアクションを絡めたゲーム系都市伝説って他にあるのかしら
64とかでしょっちゅうやってたソフト抜いてふーふーする奴くらいか?w

「ひひひ、大量だ」
 聖夜の住宅街、屋根の上で黒づくめの男が笑っていた。背中に大きな白い袋を背負っている。
「さ~て、そろそろ帰るかな」
 男が、そう言った瞬間、目の前に立派な黒いソリが現れた。二匹の黒豚が繋がれている。
「まったく、この国の連中は無防備すぎだぜ」
 男はソリに乗ろうとした。その時だった。
「ああ、そうだな」
 後ろから聞こえた、低いハスキーな声に、思わず男は振り向く。
「そのくらい、安全な国とも言えるがな」
「お前、何者だ!」
 そこには、コートを羽織った巨漢がいた。
「ただの契約者だ、『黒いサンタ』」
「ちっ、しょうがねえ。これを喰らえ!」
 黒づくめの男が、巨漢に向かって指を刺した瞬間、空中に大量の臓物が現れた。
「メリークリスマス!」
 大量の臓器が、一斉に巨漢に向かって高速で飛んでいった。弾丸並みの速度だ。
「食い物を粗末にするな」
 巨漢が宙に突きを放っただけで全て吹き飛んんだが。
「ひっ」
「その袋を渡せ。渡してくれたなら見逃してやってもいい」
「な、なぜだ!なぜ、この袋を欲しがる!」
「誘拐犯から子供を助けるのは普通だと思うが?」
「子供?子供だって!こんな屑どもがか!」
 腰を抜かしながらも、男は激昂した。
「どうせ、この屑どもはろくな人間にならない!将来、世の中に迷惑しかかけない!だが、法律があるから処分することができない!それを、俺は俺達は代わりに処分してやってんだ!感謝はされても、邪魔をされる覚えはない!」
 上から目線の考え、だがどこか説得力がある。

「ひひひ、大量だ」
 聖夜の住宅街、屋根の上で黒づくめの男が笑っていた。背中に大きな白い袋を背負っている。
「さ~て、そろそろ帰るかな」
 男が、そう言った瞬間、目の前に立派な黒いソリが現れた。二匹の黒豚が繋がれている。
「まったく、この国の連中は無防備すぎだぜ」
 男はソリに乗ろうとした。その時だった。
「ああ、そうだな」
 後ろから聞こえた、低いハスキーな声に、思わず男は振り向く。
「そのくらい、安全な国とも言えるがな」
「お前、何者だ!」
 そこには、コートを羽織った巨漢がいた。
「ただの契約者だ、『黒いサンタ』」
「ちっ、しょうがねえ。これを喰らえ!」
 黒づくめの男が、巨漢に向かって指を刺した瞬間、空中に大量の臓物が現れた。
「メリークリスマス!」
 大量の臓器が、一斉に巨漢に向かって高速で飛んでいった。弾丸並みの速度だ。
「食い物を粗末にするな」
 巨漢が宙に突きを放っただけで全て吹き飛んんだが。
「ひっ」
「その袋を渡せ。渡してくれたなら見逃してやってもいい」
「な、なぜだ!なぜ、この袋を欲しがる!」
「誘拐犯から子供を助けるのは普通だと思うが?」
「子供?子供だって!こんな屑どもがか!」
 腰を抜かしながらも、男は激昂した。
「どうせ、この屑どもはろくな人間にならない!将来、世の中に迷惑しかかけない!だが、法律があるから処分することができない!それを、俺は俺達は代わりに処分してやってんだ!感謝はされても、邪魔をされる覚えはない!」
 上から目線の考え、だがどこか説得力がある。

「ひひひ、大量だ」
 聖夜の住宅街、屋根の上で黒づくめの男が笑っていた。背中に大きな白い袋を背負っている。
「さ~て、そろそろ帰るかな」
 男が、そう言った瞬間、目の前に立派な黒いソリが現れた。二匹の黒豚が繋がれている。
「まったく、この国の連中は無防備すぎだぜ」
 男はソリに乗ろうとした。その時だった。
「ああ、そうだな」
 後ろから聞こえた、低いハスキーな声に、思わず男は振り向く。
「そのくらい、安全な国とも言えるがな」
「お前、何者だ!」
 そこには、コートを羽織った巨漢がいた。
「ただの契約者だ、『黒いサンタ』」
「ちっ、しょうがねえ。これを喰らえ!」
 黒づくめの男が、巨漢に向かって指を刺した瞬間、空中に大量の臓物が現れた。
「メリークリスマス!」
 大量の臓器が、一斉に巨漢に向かって高速で飛んでいった。弾丸並みの速度だ。
「食い物を粗末にするな」
 巨漢が宙に突きを放っただけで全て吹き飛んんだが。
「ひっ」
「その袋を渡せ。渡してくれたなら見逃してやってもいい」
「な、なぜだ!なぜ、この袋を欲しがる!」
「誘拐犯から子供を助けるのは普通だと思うが?」
「子供?子供だって!こんな屑どもがか!」
 腰を抜かしながらも、男は激昂した。
「どうせ、この屑どもはろくな人間にならない!将来、世の中に迷惑しかかけない!だが、法律があるから処分することができない!それを、俺は俺達は代わりに処分してやってんだ!感謝はされても、邪魔をされる覚えはない!」
 上から目線の考え、だがどこか説得力がある。

「迷惑をかけて何が悪い」
 巨漢は、それをあっさり否定したが。
「なんだと!」
「人は生きてれば誰だって世の中に迷惑をかけるさ。それが多いか少ないかだ」
「そんな詭弁で!」
「それに」
 いつのまにか、巨漢は男の前に移動していた。
「どんな悪ガキにも悪党にも家族がいる。そいつらを」
 巨漢は、右拳を握るとそれを男に向かい突き出した。
「悲しませたくない」
 血しぶきが聖夜を彩った。

「さて」
 男とソリが消えた屋根の上、巨漢こと拳次は白い袋を開けた。すると、袋の中がまばゆい輝きを放った。
「一件落着か」
 袋に入れられていた子供達は、今頃ベットの上でスヤスヤ寝ているだろう。
「いや、そういえば」
 男は、周囲を見渡した。
「もう一つ問題があったな」

「あの、拳次君」
「なんだ?」
 朝の台所、台所に入るなり、ナダレは拳次にそう声をかけた。非常に困惑した顔で。
「なんで、朝からモツ煮なんですか」
 拳次は、モツ煮を作っていた。この家で一番大きな鍋で。
「…もったいなかったからな」



クリスマス外伝でした
>>98
かもしれませんねww

…クリックしすぎた

ヒロイン回の裏側の話です

「ああ、やっぱり返り討ちにされたか。あの若造」
 町外れの駐車場、小汚いという言葉がよく似合う中年の男が、携帯電話で部下から報告を受けていた。
「バカだよな、あいつ。反則能力くらいでハーフに勝てるはずがないってのに」
 情報を売った男のことを思い出し、鼻で笑う。
「おまけに、『鬼神の血族』も関わってるのにな。ん?」
 男は、一瞬眉をひそめた。
「あ~、そっか。お前、まだ日が浅いもんな。それなら、知らなくてもしょうがないか」
 納得したらしく、小さく頷いた。
「『鬼神の血族』ってのはな、この業界じゃ関わっちゃいけない存在なんだよ。『鬼神』の血を受け継ぐ奴らのことを言うんだけどな」
 その言葉は、どこか熱を帯びていた。
 学生が、自分が知っている喧嘩が強い人間について語っている時のように。
「まあ、どいつもこいつも化物なんだよ。……は?契約者は、みんな化け物みたいなものだって?」
 部下の返答に男は苦笑した。
「まあ、俺も契約者だからいいたいことはわかる。けどな、違うんだよ。お前さ、範馬勇○郎に勝てるか?……そう、そういうことなんだよ」
 昔、自分も同じようなことを言われたことを男は思い出した。
「しかも、あいつらだいだい契約者だからな。超能力使える範馬勇○郎なんて反則どころの話じゃないぞ」
 だが、求める者には彼らの情報を売る。
 男はそういう人間だった。
「よし、組織に見つかると面倒だしそろそろ退散するぞ。学校町ほどじゃないがこの街もそこそこ危険だしな。……おい?……なんだ、突然切りやがって。まだ、話は終わってねえのに」
 すぐに、かけ直す。が、繋がらない。その瞬間、男の脳内に一つの考えが浮かんだ。
「……捕まったか」
 男の契約都市伝説は、『第六感』。
 その能力は、簡単に言うと勘がよく当たる。
 ただ、それだけだ。
 一見、しょぼい力だが、これのおかげで男は今まで生きてこれた。
 だからこそ、あいつは捕まったんじゃないかという勘を信じた。
「さっさと退散するか」
 助ける、なんてことはしない。
 そんなことはできない、自身の勘がそう言っているから。
 ……という訳ではない。
 たとえ、助けられたとしても男は助けないだろう。
「そうじゃないと、長生きできないからな」
 呟いた言葉には、何とも言えない重さがあった。
 男は、自身の車に向かう。

「にしても、組織にでも捕まったのか?」
「違うよ~、捕まえたのはうちの自慢の妹だよ。まっ、後で組織に引き渡すけどね」
「そうか」
 後ろからの返答に男は振り向く。
 取り出した拳銃を右手に握りながら。
 が…。
「いない?」
「こっちだよ」
 声の主は、男の車の前にいた。
「……フリーの契約者か?」
「そうだよ~、情報屋さん」
 学生服を着たその女は、笑顔でそう言った。
 整った顔立ち、豊満な胸、長身のせいで中高生に見えない。
「でも、あなた達にはこういったほうがいいのかな?」
 それに続く言葉を、男は『第六感』により事前にわかってしまった。
 そのため……。
「『鬼神の血族』って」
 銃をその場に捨て、両手を上に挙げた。
「あらら、素直だね~」
「ああ、そりゃ」
 範馬勇○郎とは戦いたくないからな、その言葉を口には出さなかった。
 言わないほうがいい、『第六感』がそう警告したからだった。

「情報屋は組織に渡しといたよ~」
 女は、自分以外がいなくなった駐車場で弟に携帯電話で連絡をしていた。
「それよりもさ~、拳次。ナダレに本当に怪我はないんだよね?」
 どこか間の抜けたような口調。
 だが、憂いのある表情をしていた。
「そっか、良かった~。よし、今日はナダレと一緒にお風呂に入ろうかな~。そのほうが、心の傷が癒えるのが早くなるよ!」
 憂いはすっかり消え、欲望にあふれた顔になっていた。
「え~、ダメ~?しょうがないな、じゃ代わりに優と一緒に入って我慢するよ!」
 誰かと入るのは決定のようだ。
「それもダメ~?い~じゃん、姉妹なんだからさ~」
 拗ねる女だったが、いい考えが閃いたらしく、にこやかに微笑んだ。
「じゃあ、拳次も一緒に入ろうよ!……切れた」
 女は、不機嫌になり、そのまま自宅に向かった。
 彼女はまだ知らない、今夜の食卓に、彼女と妹の好物が並ぶことを。

姉登場回兼説明回でした。
姉も契約者ですが能力を出すのはもう少し経ってからになりそうです。
妹は、次の次の話で出せるかも。

「お洋服屋さん?」
「そうなのですよ!可愛くてエレガントで、ゴシックでロリータなお洋服屋さんなのですよ!」
 学校町にある某雑居ビル。その扉の前でふたりの少女がかしましくおしゃべりしていた。
 その傍らには少女達の連れらしい三人の男達が突っ立っている。
「俺としては、子どもにはあまり派手な格好をさせたくないのだが」
 ムーンストラックはいささか渋い顔だ。
 笑顔でまあまあと取りなしたのは柳で、貴也は既に諦め顔。言いだしたら人の言うことなど聞かない同居人が、この店で友人知人を着せ替え人形扱いしても、どうにも止めようなどないのだ。
「いやー、こんな女らしい服なんて、何十年ぶりねー」
 着せかえ要員として連れてこられた飛縁魔は興味津々。窓から店の中の様子をのぞき込んでいる。
「すみません」
 遠慮がちな少女の声に一同の視線が向いた。
 白杖をかつかつと操る少女は、手探りで入口のドアノブを探す。
「あ・・・どうぞ!」
 少女の様子に気づいたノイがさっとドアを開ける。
「ありがとう」
「あの子、目が見えないんだ・・・かわいそう」
 何気なく呟かれたノイの言葉に、少女が声のした方を勢いよく振り返る。
「可哀想なんて言わないで!」
 少女の剣幕にノイは驚いた。何気なく言ったことだったが、それが少女をいたく傷つけたことだけは、なんとなく理解できた。
「ノイ・リリス」
 ムーンストラックがノイの肩にそっと両手を置いて諭すように言う。
「もしお前が、一生懸命頑張ってもどうにもならない事があって、でも努力する姿を可哀想などと言われたら、どう思うのだ?」
 ・・・あたしだったら。
 もし、死神のせいで、なかなか外にも出られなくて、学校にも行けなくて、友達もなかなか作れない。
「あの子、お外にも行けなくて可哀想」
 そんな風に言われたら?きっと酷く侮辱されたような気持ちになるだろう。自分が彼女に言ったことは、そういうことなのだ。
「・・・かわいそうなんて言って、ごめんね」
「いえ、わたしこそいきなり怒ってごめんなさい」
 淡々と言葉を返すと、少女は扉の中に身を翻した。

「・・・『人が消える試着室?』」
 さほど広くない店内。胡桃材のテーブルの上に様々なアクセサリーが並べられ、衣服の掛かったラックや、服一式をコーディネイトしたトルソーが飾られた店内を、小さなシャンデリアが照らしている。

猫拾ったの人乙です
読んでるだけで気持ちがやすらぎました
代理投下の人も乙です

久々のバトル回
ほぼ深夜のノリで書いたのでいつも通りの低クオリティです


「ちょっと買いすぎたかな」
 夕日が茜色に照らす住宅街を制服姿の輝は歩いていた。
 右手には学校指定の鞄、左手には食材がぎっしり詰まったエコバックを持っている。
 他に通行人がいないのをいいことに彼女は歌を口ずさんでいた。
 数十年も前に流行った歌謡曲だ。
 聴いてるだけで、気楽な気持ちになれる歌詞が特徴的だ。
 輝の少年のような中性的な声が路上に響く。
 それが突然止まった。
 目の前に人影が現れたからだ。
 その者は、赤いマントを羽織っていた。

「契約者だな」
 赤いマントを羽織った男は輝の正面に立つとそう話しかけてきた。
「そうだよ、『赤マント』」
 同様した様子を見せずに輝は返答した。
 さりげなく、エコバックを路上に置いた。
「ほう、どうやら我らのような存在とは戦い慣れているらしいな」
 自身の正体を一瞬で看破されたことから『赤マント』はそう推測した。
「まあね、そういうあなたも戦い慣れてるんじゃないの?」
「ふっ、それほどでもないさ」
 『赤マント』は苦笑した。
 そして、いつのまにか左手に大ぶりなナイフを握っていた。
「では、悪いが」
 『赤マント』は既に一歩を踏み込んでいた。
「死んでもらおう――」
 普通の人間には出せない速度で『赤マント』は輝にナイフを突き出した。

 佐々木輝、彼女は契約者であることを除けば普通の人間だ。
 拳次やその家族のような超人ではない。
 それに、契約している都市伝説もそれほど戦闘向きのものではない。
 が、彼女はある偉業を成し遂げている。
 彼女は契約者となってから一度も都市伝説に敗北したことがないのだ。

 突き出されたナイフを輝はあっさり躱した。
 右側に体を移動するという実に単純な動作で。
 『赤マント』は一瞬驚いたがすぐに輝の背中をとった。
「なるほど、君は肉体強化型か」
 そう呟き、輝の首めがけナイフを突き出した。
「残念、違うよ」
 輝は、首を少し逸らし、ナイフを躱した
 次の瞬間、『赤マント』の視界から彼女が消えた。
 『赤マント』は唖然とした。
 が、すぐに気配により気づいてしまった。
 自分の背後に彼女がいることを。
 『赤マント』は、前に跳ねながら振り向くと、ナイフを後ろに投擲した。
「あちゃー、つけ刃の技じゃ通用しないか」
 地面に着地した『赤マント』は見てしまった。
 輝が呑気にそんなことを呟く姿を。
 空中に静止する自身のナイフを。
「……『ヒエロ二ムスマシン』か」
 『赤マント』はいつのまにか新しいナイフを握っていた。
「正解」
 輝は、発光したカードを右手に持っていた。
 それには、回路のようなものが描かれていて、光線のようなものが空中のナイフに対し発せられていた。
「エロプティック・エネルギーの電気的特性を強調してナイフを操ってるんだよ。ナイフは金属だからね」
「なるほど」
 相槌をうちながら、『赤マント』は輝に向けナイフを振り下ろした。
 会話をしている間に輝の前まで移動していたのだ。
「はい」
 振り下ろされていたナイフが止まった。
 輝の左手には発光したカードが握られている。
「隙を突いたつもりだったんだろうけど、ナイフを手放して素手で攻撃したほうが良かったね」
 輝の右足が地面から離れた。
「そうだな」
 次の瞬間、『赤マント』の腹部に衝撃が走った。

「前蹴り、空手家か」
 輝から距離をとった『赤マント』は、腹部に放たれた攻撃を冷静に分析した。
「そうだよ、ちなみに黒帯だよ」
 黒帯、それは様々な格闘技で強者を示す言葉だ。
「ほう、だがさっきの背後を取った技は空手のものではないな」
 『赤マント』が、握っていたナイフと空中に静止していたナイフが突然跡形もなく消えた。
 どうやら、彼はナイフを自由に生み出すことや消し去ることができるようだ。
 輝の能力の前では、邪魔にしかならないということを身をもって体験したので消したのだろう。
「あ~、あれね」
 輝は恥ずかしそうに苦笑した。
「大切な人に教えてもらった忍術なんだ。でも、使い慣れない技は使うもんじゃないね。すぐに気配がバレちゃったし」
「いや、あれだけ使えれば十分じゃないか」
「全然ダメだよ。あんなんじゃ――」
 輝は少女の顔のままでこう言い放った。
「危なげなく君達を殺すことができない」


「……面白い」
 『赤マント』は興奮していた。
 目の前の少女否好敵手に対して。
 これほどの敵とは、今までに戦ったことがなかったからだ。
「君は一流の戦士だ」
「そんなことないよ、私なんてまだまだだよ」
 謙遜する少女に『赤マント』はますます興味を持った。
 これほどの強さを持ちながら、傲慢な態度をとらないことが気になったのだ。
「……君は自分以上に強い人を知っているのか?」
「もちろん、沢山いるよ。身近にね」
「ほう、それはぜひ――」
 手合わせしてみたい、その言葉を彼は口には出さなかった。
 彼女を倒してから言うのが正しいと思ったからだ。
 正し――。
「……君以上の強者か」
 『赤マント』は感じていた。
 自分はおそらく彼女に勝てないということを。
 それでも、彼は立ち向かう。
 赤いマントを揺らし、汚れた魂を燃やし、眼光を光らせて。

 『赤マント』は、子供を誘拐し殺すと言われる怪人だ。
 噂の派生パターンも多く、知名度も高い。
 そんな、『赤マント』の一体である彼は極めて特殊な存在だった。
 『赤マント』であるにも関わらず、一切子供に手を出さず、契約者だけを襲った。
 それに、契約者が戦闘能力を持たないと知ると、すぐにその場から去った。
 彼はただ戦うことを望んでいたからだ。
 最強の『赤マント』となるために――。


 『赤マント』は『口裂け女』等と並ぶほどのメジャー都市伝説だ。
 そのため、個体がとても多い。
 彼らは、それぞれに微妙な違いはあるものの、ほとんど個性らしきものがない。
 大多数のものは、そのことに疑問を抱かず、『赤マント』として活動する。
 が、例外は存在した。
 それが、この彼だった。
 彼は、『赤マント』として生まれてからずっと疑問に思っていた。
 なぜ、自分達には違いがないのだろうと。
 そして、そのことに嫌悪感を抱いた。
 いつしか、彼は自信を苦しめるそれから解き放たれたいと思うようになった。
 そのために、彼は最強の『赤マント』になろうとしたのだった。
 最強という絶対の個性を得るために。

 夢を動力に彼は立ち向かう、目の前に立つ最高の敵に。
「いくぞ」
 赤マントは、彼女に向け一歩を踏み出した。
 重く、勇ましい一歩を。
 そして――。
「な」
 彼の胴体が横に切り裂かれた。


 夕暮れの路地が血の色に染まった。
 一体の都市伝説の死によって。
 生臭い匂いが立ち込める中、輝は『赤マント』であったものの後ろに立つ人影を見つけた。
 凛々しさを感じる眉と釣り目が特徴的な整った顔立ち、肩まで伸ばしたストレートの黒髪、そしてこの街のある中学校の制服を着ている彼女は輝がよく知っている人物だった。
「……優ちゃんか」
「お久しぶりです、輝さん」
 輝の親友の妹は、無表情で軽く礼をした。
「愛さんとはよく会うけど、優ちゃんと会うのは久しぶりだね。道場に行ってた頃はよく会ってたのになー」
「そうですね」
「それでさ」
「はい?」
「どうして、手を出したの?」
 あくまで、にこやかな表情で輝は尋ねた。
「……都市伝説に知人が襲われていたら普通助けると思いますけど」
「まあ、そうだよね。正直、女子高生兼契約者としては感謝をしてるよ、ありがとう。でもね――」
 輝はいつもどおりの調子でこう言った。
「格闘家としては『よくも水を差したな』と言わざるを得ないけどね」
「そうですか、それはすいませんでした」
 優は深くお辞儀をした。
 それが、輝をさらに苛つかせる行為だと知って。
「正直なところ、危ない状況でもないのに、わざわざ輝さんの戦いに手を出したのには理由があります」
 顔を上げた優は無表情でそう言い放った。
「理由?何かな?」
「経験を積みたかったからです」
「経験?」
「はい、強くなるためにはそれが必要ですから」
 何の経験かは優は言わなかった。
「強くなるためにねー、私よりずっと強い君にそう言われてもしっくりこないな」
 輝は愛想笑いをした。
 少しでも気まずい空気を和らげるため――ではない。
 こうでもしないと、腸が煮えくり返りそうだったからだ。
「いえ、私は弱いです」
 輝の気持ちを全く察していない優は、謙遜のように聞こえる本音を言った。
「だって、私は」
 最弱ですから、眉ひとつ動かさずに彼女は自分をそう評した。

「それでは失礼します」
「うん、師匠によろしくね」
「はい」
 『赤マント』の亡骸が自然に消え去り、住宅街は元の姿に戻った。
 そこには、赤いマントも、血に染まった肉片も、異臭もない。
 実に平和な夕暮れの風景が広がっていた。
 その中、優は輝に挨拶をすると背中を見せ、自宅に向かって歩き始めた。
「じゃあ、私も帰ろうかな」
 路上に置いていたエコバックを手に取ると、輝は自身も家路につくことにした。
 その前に、左腕の腕時計を見た。
 どうやら、予定外の出来事があったために、時間を気にしているようだ。
 が、それは杞憂に終わったようだ。
 彼女は、安堵した様子で顔を上げた。
 その時、彼女は見てしまった。
 優の隣を巨大な何かが歩いているところを。
「……こっちも久しぶりに見たね」
 巨大な何かの正体を輝は知っている。
 それは、優の契約都市伝説だからだ。
 
 夕日が照らす道を二人の少女は歩いていく。
 その先に、予想外の出来事が待っていることを知らずに。

終わり

第一の妹登場回兼輝初戦闘回でした
今回、初めてまともなバトルを書いた気がする(いつもワンパンなので)
妹の契約都市伝説の正体は次あたりでバラす予定です

今回もバトル回

 『テケテケ』。
 それは、下半身を失った女性の亡霊が足を求めて人を襲うという都市伝説だ。
 話に様々なバリエーションがあり、呼び方も様々だ。
 見た目の気持ち悪さ、あまりにも早すぎる移動速度、そしてエピソードの悲惨さ等によって、学生時代に怯えた者も多いだろう。
 そんな、『テケテケ』の一体がとある中学校の体育館にいた。
 彼女は、暗闇の中でキョロキョロと首を動かしている。
 そんな姿を月明かりだけが照らしていた。
 体育館はもちろん、校舎にもまったく人気がないことからかなり遅い時間なことがわかる。
 彼女は、二本の腕で己の体を支えながら困惑していた。
 獲物を見つけて、ここに来たはいいものの見失ってしまったのだ。
 彼女は、これまでに一度目をつけた者を逃がしたことは一度もなかった。
 ハンターとしての高い能力を持っていたからだ。
 そんな、自分が獲物を見失ったことに、彼女は酷くショックを受けた。
 彼女は、肩を落としながら体育館を後にしようとした。
 彼女は気付かなかった、己のハンターとしての高い能力ゆえに。
 天井に張り付いてる者がいることを。
 確かな経験と能力があるゆえに、そんな非常識な場所に人間がいることを想定しなかったのだ。
 背後から聞こえる、木製の床が悲鳴を上げる音を聞いて、彼女は振り向いた。
 同時に体を真っ二つにされた、天井から降りてきた者によって。
 彼女と天井から降りてきたきた者の距離は十数メートルはある。
 それにも関わらず、彼女は真っ二つになった。
 声を出す権利も、思考をする権利も失った彼女は、ただ静かに消えていこうとしていた。

「……消えたわね」
 『テケテケ』だったものが、光の粒子となり、宙に消えていく様子を優は見ていた。
 その瞳は、何も映していない。
 自分が手をかけた者が消えていく様子を見ているにもかかわらずだ。
 光の粒子が、全て消え去ったのを見届けると、彼女は出口に向かって歩きだした。
 だが、すぐに止まった。
「よくも殺してくれたわね、同胞を」
 無数の視線が自分を見つめていることに気づいたからだ。
「この恨み、返させてもらうわ」
 静寂に満ちていた体育館に無数の人影が現れた。
 彼女達は皆、下半身がない。
「一人だけじゃなかったのね」
「そう、そうよ。契約者」
 一人の『テケテケ』が優の前に出た。
 どうやら、彼女達のリーダーのようだ。
「私達は運命共同体。生者の足を求める者」
「……あなたたちも元々は『テケテケ』の被害者でしょ? なぜ、犠牲者を増やそうとするの」
「そう、そうね。そこに足があるからかしら」
「……ふざけないで」
「ふざけてなんかいないわ、契約者。今の私達にとっては足、下半身が全てなの。だから、いくらでも人を襲うわ。そして、同胞にする」
「狂っている」
「そう、そうね。狂っているわ。でも、一つのことに純粋に打ち込むというのはとても気持ちのいいことなの。この世で一番の幸せだわ」
「だからといって、人を殺していい理由にはならない」
「そう? 何事にも犠牲はつきものだわ。それに、そんなつまらない目をしているあなたには言われたくないわ、契約者」
「……黙れ」
 優は両手を前にだし身構えた。
 それに、呼応するように『テケテケ』達の雰囲気も変わった。
「それじゃあ、始めましょうか、契約者。復讐という名の聖戦を。……それとも、あなたのことはこう呼んだほうがいい?」
 リーダーは『都市伝説』とは思えないほどに優しく微笑んだ。
「糸使いと」

「糸を生み出す能力、随分と頼りない力だわ」
 優は、『テケテケ』達によって囲まれていた。
「糸を扱う技量は大したものだけど。糸と自分の力だけで『都市伝説』を切断するとは。かなりの玄人ね、糸使い」
「……中々の観察力と考察力ね」
「まあ、私達も戦闘経験はそれなりにあるの」
「……で、どうするつもり?それだけの経験があるならわかっているでしょう?」
「ええ、分かっているわ、糸使い。あなたは圧倒的に強い。私達がいくら束になっても勝てる存在ではない」
「おせじはいらないわ」
「いえいえ、本音よ、糸使い。あなたは強い。……けれど、無敵ではない」
 リーダーの目が妖しく光った。
「だから、死んでもらうわ、糸使い。私達の――」
 『テケテケ』達の体が一斉に謎の赤い光に包まれた。
「進化の力によって!」

 都市伝説は語り継がれるうちに徐々に姿を変えていく。
 インパクトの強い内容に、時代にあった題材に、より恐怖感を与えるストーリーに。
 そのため、元となる話は随分とシンプルなものだったりすることが多い。
 最初に、噂を流した者は驚くことだろう。
 情報の驚異的な変化に。
 そして、きっと思うに違いない、これは一種の進化だと――。

「私達は進化する、『テケテケ』に怯える者達や面白がる者たちがいる限り」
 そう語る、リーダーの背中から二本の腕が生えていた。
 他の『テケテケ』も同様だ。
「彼らの恐怖心や創造力が私達を進化させる。より恐ろしく、より強く――!」
 『テケテケ』達の背中の両腕が姿を変え始めた。
 肘から先が金属のような色に変わっていく。
「さあ、この進化にあなたはどう立ち向かう?」
 肘から先が刃物と化した背中の腕を、リーダーは優に突き出した。
「言っておくけど、進化したのは外見だけじゃないわ。体の中身もかなり強化されているわ」
 優は何も答えない。
「今なら、あなたの糸を切るくらい造作もないわ」
 それでも、優は何も答えない。
「……わかったわ、一瞬で蹴りをつけてあげる!」
 次の瞬間、一斉に『テケテケ』達が優に飛びかかった。
 それに対し、優は両手の指先から長い糸を十本を生み出した。
「無駄よ、そんなものこの腕で!」
 たった、十本の糸と何十本もの刃物。
 戦力差は明らかだ。
 だが、優は表情を変えない。
 それもそうだ、彼女にとってこんなものは――。
「なっ!」
 修行の一環でしかないのだから。
 言葉にならない叫びを数名の『テケテケ』があげた。
 彼女達の背中の腕が糸とぶつかり合った瞬間、真っ二つになったからだ。
「そ、そんな」
「刃物ごときで私の糸は切り裂けないわ」
 優の冷静な目がリーダーを見つめる。
「さあ、続きをしましょう」
 リーダーは悟った、自分達と彼女には進化などでは到底埋まらない差があることを。
 そして、一方的な殺戮が始まった。

 血と肉体が飛び交う体育館を数名の『テケテケ』が逃げ出した。
 彼女達は、校舎と体育館を繋ぐ渡り廊下を焦りながら走っている。
 余裕のある者は、一人もいなく、全員顔が青い。
 そのため、気がつかなかった。
 目の前に罠があることに。
 「いっ!」
 『テケテケ』達は突然身動きがとれなくなったことに驚いた。
 すぐに、身動きを取ろうとじたばたと動き始める。
 だが、それは無駄な行動だった。
 彼女達が動けば動くほど余計に身動きがとれなくなっていく。
 その内、一人が気づいた。
 自分達が、身動きがとれないのは粘着性の糸に絡まっているからだと。
 そして、この罠がクモの巣のような形をしていることを。
「ひっ!」
 彼女たちの目の前に、突然巨大な蜘蛛が現れた。
 横に並べば下手な人間より大きいだろう。
「来るなっ! 来るなっ!」
 一人の『テケテケ』が怯えながら叫ぶ。
 だが、蜘蛛はそれに構わず彼女達に近づく。
「来るなっ! 来るなっ!」
 すると、蜘蛛が動きを止めた。
 『テケテケ』は思わずホッとした。
 だが、安堵の時間はすぐに過ぎ去る。
「え?」
 動きを止めた蜘蛛は口から何かを吐き出した。
 それは、極太の糸だ。
 糸は、一人の『テケテケ』に巻き付いた。
「い、いやっ!」
 彼女の拒絶は意味をなさず糸は全身を覆っていく。
 しまいには、糸によって彼女の肉体は全く見えなくなってしまった。
 その姿は、まるで芋虫のようだ。
 その状態でも、数十秒は動いていたがついに動きが止まった。
 この光景を見ていた、『テケテケ』達の恐怖はさらに増した。
 蜘蛛は彼女達を眺めると、その内の一人に吐き出した糸を巻き付かせた。
 そうして、全員が糸に覆われ動きを止めるまで、この惨劇は続いた。

「『チバ・フー・フィー』」
 蜘蛛は自身を呼ぶ契約主の声に反応して振り向いた。
 そこには、蜘蛛と同じく一仕事を終えた契約主こと優がいた。
「ご苦労様」
 そう言い、優は蜘蛛こと『チバ・フー・フィー』の頭を撫でた。
 『チバ・フー・フィー』は、その行為を嬉しそうに受けている。
 まるで、契約都市伝説というよりペットだ。
「それじゃあ、帰ろうか」
 戦闘中は見せなかった優しい顔で、優は『チバ・フー・フィー』にそう言った。
 『チバ・フー・フィー』はすぐに頷いた。
 その様子を、微笑ましく見つめていた優だったが、あることに気づいた。
 顔は戦闘中の時の無表情に戻り、屋上を見つめている。
「屋上にもいたのね……!」
 そう呟くと同時に、優は跳ねた。
 地上から屋上に向かって。
 まるでバッタのように。
 ちなみに、『チバ・フー・フィー』はいつのまにか姿を消していた。
 1秒もしない内に屋上に着陸する。
 そこで、優は見た。
 つい、先刻まで生きていたはずの『テケテケ』だったものを。
 そして、その近くに佇んでいる巨漢の肉親を。
「……兄さん」
 優の兄、拳次だった。
「……どうしてここに?」
 拳次から目をそらしながら優は尋ねた 。
 すると、拳次はいつものように無表情なまま、ハスキーな平坦な声でこう答えた。
「今、何時だと思ってるんだ」
 その簡潔な言葉には、近しい者にしかわからない軽い怒気が含まれていた。
「……ごめんなさい」
 優は素直に謝った。
 自分に非があることは確かだったからだ。
 だが、どこか本当の意味で反省をしてはいなかった。
 それは、きっと相手が拳次だったからだろう。
「……分かればいい、早く帰るぞ」
 拳次は、そう言うと近くの民家の屋根まで跳んだ。
 兄に抱く複雑な感情を抑えながら優もそれに続く。
 こうして、今日もこの街の都市伝説が消滅した。

終わり

妹の能力説明回でした
ぶっちゃけ、この能力は糸を生み出すだけなので糸使い以外が持っていても仕方のない能力だったりします
妹の契約都市伝説の『チバ・フー・フィー』は都市伝説というよりUMAです
しかも、検索してもほとんど引っかからないようなマイナーUMAです
正直、蜘蛛関係(というか糸関係)の都市伝説ならなんでも良かったんですがなんとなく『チバ・フー・フィー』にしました
次も妹メイン回の予定です

デブけんの番外編です
かませ犬が主人公になるまでの話

 力を持つ者が人を支配する。
 僕がそのことを知ったは、確か幼稚園児のころだった。
 当時、僕が通っていた幼稚園には、ドラ○もんでいうジャ○アンのようなガキ大将がいた。
 乱暴者だった彼は、大柄な体格と恵まれた運動能力を使い、子分達とよく他の園児を苛めていた。
 ひ弱な僕はよくターゲットになった。
 内容は、遊んでいるところを邪魔されたり、カバンや玩具を取り上げられたりされた等だ。
 今、思い出すと、ちょっとした悪ふざけだが、当時は本当に嫌だった。
 苛められるたびに、彼らに僕は立ち向かった。
 が、毎回結果は同じだった。
 ガキ大将やその子分の力の前に僕は泣くことしかできなかった。
 そして、力を持つ者が人を支配するという当たり前のことを知り、彼らに立ち向かうことをやめ、逃げるという選択肢を覚えた。
 当時の僕は思いもしなかっただろう。
 こんな情けない自分が、今では力を得て、人を支配する側の人間になったのだということを――。


「おはよう! 羽柴!」
 校門をくぐると、ジャージを着た男性教師がそう挨拶をしてきた。
 実に、爽やかな笑顔だ。
「おはようございます」
 僕も微笑みを浮かべて挨拶をする。
 少し前まで、学校でこんな明るい顔をすることはなかった。
「おっ! 朝から元気だな!」
「そんなことないですよ」
 そう言い立ち去ろうとする。
 が、そうはいかなかった。
「羽柴、ちょっと聞きたいことがあるんだが――」
 教師が呼び止めてきた。
 それに対して僕はただこう返答した。
「僕は一切関係ないですよ」
「え?」
 振り返ると、教師の間抜けな顔が目に入った。
「僕の周りで起きた事件のことですよね?」
「あ、ああ。そうだが……」
「おかしな話ですよね。突然、僕をからかっってきた人が黒板に吹き飛ばされたり、僕を襲ってきた人達が当然倒れたり、もはや怪奇現象ですよね」
「そ、そうだな」
「で、先生は僕がそれを起こしたと思っているんですよね?」
「そ、そんなことは思っていない。ただ、お前の周りで次々とこんなことが起こるのは不自然だと思っただけで……」
 教師の目は明らかに泳いでいた。
 僕は、わざとらしい溜息をつくと、こう言い放った。
「無理ですよ」
「え?」
「僕は、事件の際に彼らの周りにいただけで指一本触れてません。特別なトリックがない限りあんなことは人為的にできません」
「そ、それはそうだが……」
「それに、僕の親がモンスターペアレントだったら下手したら訴えられますよ、今の話。根拠もないのに生徒を疑ったてことで」
「え……」
 あからさまに教師はうろたえた。
 その姿は、ひどく滑稽だ。
 どうやら、かなり単純な脳みそをしているらしい。
「大丈夫ですよ、僕の両親はそんなことしません」
 あの二人はそんなことをしない。
 毎日を楽に生きることしか考えていないあの父親と、常に全てに怯えている母親は。
「それじゃ、そろそろ教室に行きますね」
「あ、ああ。 呼び止めて悪かったな」
「いえいえ」
 支配する側の人間になってから、こんな余裕のある態度をとることができるようになった。
 あの時は彼に答えることができなかったが、これは今の生活を過ごす上で得たものの一つなのしれない。
 生徒玄関に向けて歩きながらそんなことを考えていた。
 周りでは、様々な学年の生徒が入り混じって歩いているが、皆僕から一定の距離をとっている。
 それもそうだ、触らぬ神に祟りなしという言葉を日本人は大事にしている。
 生徒玄関にまであと少しというところで、僕は足を止め、振り返った。
「先生」
「ん? ど、どうした」
 僕の少し後ろに教師は立っていた。 
 まるで、僕を見張るために後ろをついてきたかのようだった。
「さっきの話ですけど、もしかしたら悪霊の仕業かもしれませんよ」
「あ、悪霊?」
 教師はあからさまに戸惑いを浮かべた。
「そうです、悪霊です。僕に取り付いた悪霊がこの騒ぎを起こしているのかもしれませんよ」
 吹き出しそうになるのをこらえながら僕はそう話す。
「だとしたら、ちょっと危ないかもしれませんね」
「え? だ、誰が危ないって」
「先生ですよ」
 瞬間、教師が半歩後ろに下がった。
「な、なんでそう思うんだ?」
 青い顔になりながら教師は尋ねる。
「だって、この瞬間にも――」
 僕は今まで生きてきた中で一番の作り笑顔を浮かべた。 
「近くにいる先生を襲ってしまうかもしれませんよ?」

 教室のドアを開けると、僕の王国がそこに広がっていた。
「おはよう、羽柴君」
「おはよう、羽柴」
「おはよう、牡丹君」
「おはよう、牡丹」
「おはよう」
 次々と投げかけられた挨拶にただそう答えた。
 彼らの顔が強ばっているのは毎朝のことだ。
 ちなみに、支配する側になる前は一切挨拶などされなかった。
 自分の机に座り、朝の準備をする。
 そうしている間にも、次々と教室の中にクラスメイトたちが入ってくる。
 ほとんどの者が、僕に挨拶をしてくる。
 そうしないと、僕に酷い目に合わされると思っているからだろう。
 一通り、準備を終えると、トイレに向かうことにした。
 僕は、窓際の一番後ろの席なので、後方の教室の入口に向かう。
 それだけの動作をしているだけなのに、クラス中から視線を感じる。
 支配する側の人間は、常に衆人環視されてしまう。
 前なら、それを誇らしく思ったが、今となっては正直少し鬱陶しい。
 軽く舌打ちをしてドアを開ける。
 一体、今の舌打ちだけでどれだけの人間が怯えたかを想像しながら。

 廊下を歩いていると、異質な視線が後方から向けられていることに気づいた。
 見てみると、丸々と太った男子が目に入った。
 特に、親交のある人間ではない。
 ということは、彼は、おそらく僕のファンだ。
 僕は、基本的にクラスの者はもちろん全校生徒や教師から恐れられているが、彼のように僕のことを好ましく思う者もいる。
 その多くは、前の僕と同じような境遇の者、つまりいじめられっ子だ。
 彼らにとって、スクールカーストの底辺から頂点に上り詰めた僕のような存在は、まさしくヒーローなのだろう。
 彼らから、視線を向けられることは正直嬉しい。
 だから、僕は振り返り、彼に向かい軽く手を挙げた。
 すると、彼は慌てながら深い礼をした。
 それを見て、僕は苦笑すると再びトイレに向かい歩き出した。
 少し前に、力を使い校内の苛めをしている者を何人か懲らしめたことがあった。
 そのせいか、どうやら今、校内で苛めと思われる行為は行われていないらしい。
 今の状態が長く続けばいい、純粋にそう願った時だった。
 目の前に、兎が現れたのは。
 正しく言うと、兎のような少女だ。
 異常なまでに美しい長い白髪、ルビーのように赤い大きな瞳が目を引く。
 が、その他のパーツも異質だった。
 肌はまるで一度も陽の光を浴びたことのないように真っ白だが、不健康さは一切感じない。
 顔は、そんじょそこらの芸能人よりも整っていて、足も腕もモデルのように細い。
 唯一、普通なのは背丈くらいだろう。
 まあ、僕より高いわけだけど……。
 自虐に苦笑いをし、彼女の姿を再び見る。
 すると、先程はあまりの美貌に気付かなかった点があったことを知った。
 彼女は、もちろんこの中学の制服である黒のセーラー服を着ている。
 が、スカートがひと目で校則違反だとわかるほどに短い。
 というか、風が吹いたら中身が見えそうだった。
 思わず、目をそらし歩く。
 が、なぜか少女の方から僕に近づいてきた。
 驚き、顔を上げると、少女は僕を見下ろしていた。
 少女は、僕の目を見ながらニッコリと笑った。
 正気な話、めちゃくちゃ可愛い。
 同年代の三次元の女子に興味がない僕がそう思うほどに。
 そして、その表情のまま僕にこう言った。
「おはよう」
「お、おはよう」
「こうして、直接君と僕が会うのは初めてだね」
 ……まさかのボクっ娘だった。
 正直、三次元のボクっ娘は気持ち悪いだけだと思っていたが、彼女は例外だ。
 ここまで、浮世離れした容姿をしていると、妙に様になる。
 そんなことを考えていたが、一つ気になる点があった。
「直接は初めてってどういうこと?」
 それが気になった。
 もしかしたら、ネットか何かで彼女と出会ったことがあるのかもしれない。
 その問いに、彼女は無邪気な可愛らしい声で答えた。
「うん、君のことはずっと見ていたから」
 ……これはあれか。
 告白イベントか!
 しかも、すごい美少女だ!
 二次元一筋だった僕でも、正直心が揺れる。
「朝から晩まで。家の中での様子もね」
 ……心の揺れが収まった。
 うん、ちょっと落ち着こう。
 これはあれか、まさかのストーカーか!
 又はいわゆるヤンデレか!
 まあ、それでもいいやと思った瞬間、再び心が揺れ始めた。
 脳内では、これから始まるであろうヤンデレ学園ストーリーが妄想されている。
 包丁で刺されることだけは避けたい。
「だって、君を試さなきゃいけなかったからね。『ヒトガタ』を託した者として」
 時が止まった。
 再び体が動き始めた時、すぐに彼女と距離をとった。
「そんなに警戒しなくていいよ。君に危害を与えるつもりはないからさ」
 彼女は、今も微笑んでいる。
 特に、先程と変わった様子はない。
 が、どこか邪悪さを感じた。
「昼休みに体育館裏に来てよ、そこで詳しい話をするから」
 そう言うと、彼女はその場を去っていった。
「じゃあね、チビ君」
 今となっては、誰も使わない蔑称で僕を呼んでから。

「やあ、さっきぶり」
 給食を食べ終えた後、体育館裏に急いで行くと、既に彼女はそこにいた。
「さっきぶり、ずいぶん早いね」
「まあね、早く君と話をしたかったからさ」
 彼女はそう言うと微笑んだ。
 さっきまでの、彼女のことを何も知らない僕なら、確実に魅力されただろう。
 けれど、今は違う。
「それは嬉しいな。でも、今は早く本題に入ろうよ」
 完全無欠の作り笑顔を返す。
 おそらく、朝のものよりさらに完成度が高いだろう。
 こうでもしないと、強がることができない。
「そうだね、そうしようか」
 赤い目を細め、少女はこう言い放った。
「実は僕達は君を試していたんだ」

「僕はとあるグループの長をしてるんだよ」
「グループ?」
「そう、グループ。活動内容は、君のような特殊な才能を持つ者の発掘とお世話をすることさ」
「特殊な才能?」
 特殊な才能と言われても、まったくしっくりこなかった。
 僕は、同年代の中でも欠点が多い人間で、得意なことなんて何一つない。
 そんな自分に、才能なんてあるとは思えなかった。
 それを見透かしたのか、彼女は僕の才能について語り始めた。
「君の才能の一つはまず莫大な容量だよ」
「容量?」
 いきなり、理解不能の言葉が出てきた。
 もしかしたら、専門用語か何かなのかもしれない。
「例えば、君が契約した『ヒトガタ』。あれは、かなり強大な力を持つ存在だ。そのかわりに、巨大な器を必要とする。そんじょそこらの人間じゃとても契約なんてできない」
 契約という言葉は分からないが、おそらくネットでした行為だということは検討がついた。
 あの瞬間から、僕は『ヒトガタ』を得たからだ。
 彼女の話の内容を、僕は自分なりに纏める事にした。
「つまり、僕の器とかいうのが他の人と比べて大きいことが才能だって言うの?」
「そういうことだよ、普通の人間が500ml ペットボトルだとすると君はポリタンクだ」
「ふ~ん」
 ということは、僕は他人よりも多く『ヒトガタ』のような特殊な力を持てるのか。
 確かに、それは才能と言っていいのかもしれない。
 そんなことを考えながら、僕は彼女に新たな質問をした。
「一つって言ってたけど、あと何個かあるの?」
「うん、もう一つ君には特殊な才能があるよ。けど――」
 そう呟くと、彼女は僕に背を向けた。
「今は言わないでおくよ」
「えー」
 ここまできて、焦らすのは勘弁して欲しかった。
 僕にM気はない。
 ……はずだ。
「それに――」
 校舎の方から大きな音が聞こえてきた。
 昼休みの終わりを告げる鐘の音だ。
「もう時間だしね」
 彼女はそのまま走り出した。
「じゃあね、さっきの話覚えていてね」
 そう言い残し、彼女は去っていった。
 校舎とは正反対の方向に。
「……やっぱり、学校の人間じゃないのか」
 一人残された僕は独り言を呟きながら溜息をついた。
 今日、僕は初めて彼女を見た。
 けれど、あんな目立つ少女を今まで校内で見たことがないというのは明らかにおかしい。
 おそらく、彼女は何らかの方法を使って、この中学に潜り込んだのだろう。
 それこそ、僕が以前持っていた『ヒトガタ』のような特殊な力を使ったのかもしれない。
「……とんでもない人間と出会っちゃったな」
 けれど、彼女がいないと僕は今も苛められていたのかと思うと、複雑な気分になる。
 再び、大きな溜息をつき、校舎に向けて歩き出した。

「田中君、ここを読んでください」
「はい」
 静かな教室の中で田中は立ち上がった。
 今は、5時間目だ。
 定年間際の山田先生が国語の授業を行っている。
 田中の朗読を聞きながら、僕は自分の席で考え事をしていた。
「実は僕達は君を試していたんだ」
 脳内で、昼休みに彼女に言われた言葉が再生される。
 彼女は説明をしてくれた。
 僕の才能を活かすには『ヒトガタ』のような存在が必要なことを。
 あんな危険な存在を与えて、大丈夫な人間かどうかを試すために、お試しとして『ヒトガタ』を授けたことを。
「本当なら、最初から直接会って話をして渡すんだけどね。メンバーの一人が、君と会うことを認めなくてね。結局、こんな方法をとることになったんだ」
 まあ、そのメンバーの選択は正しかったと思う。
 よく、ドラマや漫画ではよく優しい苛められっ子をよく見る。
 けれど、そんなのは誤解も甚だしい。
 苛めなんてものを受けた人間が、優しい人間になんてなるはずがない。
 確実に、性根が腐るか捻じ曲がる。
 実際、僕もそうだ。
 自分で言うのもアレだが、人間性はお世辞にも良いと言えない。
 だから、『ヒトガタ』を得た僕は欲望のままに暴れた。
 『ヒトガタ』を失ったあの日まで。
 この試し方は正しかったと思う。
 もし、直接会って渡されていたら、僕はありのままの姿を晒すことはなかったはずだからだ。
「で、結果はどうだったの?」
 単刀直入に聞いてみる。
 といっても、結果はなんとなくわかる。
 あれだけのことをしたのだから、どうせ不合格だろう。
 そう思っていたが、予想外の言葉が帰ってきた。
「う~ん、それがね。五分五分なんだよ」
「五分五分?」
「うん、『ヒトガタ』を得てからの君をずっと僕は見ていたんだけどね」
 彼女は、自身の長い髪をかきあげた。
 すると、陽の光に反射してガラスのように輝いた。
「正直な話、ほとんど不合格寸前だったんだよ、君は」
 まあ、あれだけのことをやったんだから当たり前だろう。
「けど、君は彼と出会った」
 彼、その言葉が指し示す人物はなんとなくわかった。
 あの頃の僕に、影響を与えた者は一人しかいない。
 そして、彼は僕から『ヒトガタ』を失わせた人間でもある。
「荒ぶる神『鬼神』の血を受け継ぐ彼と戦ったことで君は変わった」
 そうだ、僕は彼と出会って確かに変わった。
 彼との戦いで力を失ったことで、精神的に落ち着き、冷静になれた。
 また、褒められたことではないが、ハッタリを利かし人を支配するすべを会得した。
 力を持ったままでは、決してこんなことができるようにはならなかっただろう。
 人間性が良くなった訳ではないが、彼には感謝している。
「だから、悩んでるんだよ。今の君なら、再び力を与えてもいい気がするし、やっぱりやめておいたほうがいい気もするし」
 彼女は目を閉じ腕を組んだ。
 唸り声を出しながら必死に考えている素振りを見せている。
「まあ、正直な話、貰えるなら欲しいよ。ハッタリ利かせるのにも限界があるし」
 そうだ、いくら事前に力を見せつけているかといって、力を失ったことがバレれば意味がない。
 その時点で、ハッタリを利かせることもできなくなる。
「やっぱり、そうなんだ。……あっ、そうだ!」
 彼女は、目を開けると、何か閃いたことを示すように、握った右手で左手を叩いた。
 うん、正気な話、結構可愛い動作だ。
 笑顔だし。
「じゃあ、君が本当に大事なことに自力で気づいたら、また力を授けるよ」
「本当に大事なこと?」
「うん、一番大事なことだよ」
 一番大事なこと、その正体はまったく見当がつかない。
 昼休みも、今もだ。
「それじゃ、次は塚本君に……。って、今日も塚本君は来てないのか。じゃあ、寺田君呼んでくれ」
「はい」
 思案しているうちに、田中の朗読は終わっていた。
 クラス一のDQN、塚本は今日も学校に来ていない。
「はい、ありがとう。次、東条君」
「はい」
 授業の内容はほとんど頭に入らなかった。
 本当に大事なこと、その言葉だけが脳内を渦巻いていた。
 その正体を知った時、僕はどんなものを得ることができるのだろう。

 ウル○ラマンや仮面○イダーから子供達はどんなことを学ぶのだろう。
 学校からの帰り道、ふとそんなことを考えながら歩いていた。
 僕は、昔から特撮ヒーローや怪獣が好きだ。
 日曜日の朝は今でもテレビに齧り付いているし、僕が生まれる何十年も前の作品のDVDを借りて見たりもする。
 もちろん、自室にはフィギュアやグッズもそれなりにある。
 特撮オタクといっても差し支えがないレベルの人間だ。
 けれど、特撮から何か大事なことを学んだかと言われると、正直な話答えることができない。
 それは、僕の理解力が低いからかも知れないし、あくまで娯楽として特撮を楽しんでるからかもしれない。
 言葉にすることはできないけれど、体には染み込んでいるという、臭いものかもしれない。
 まあ、一つだけ言えるのは、デカイものは強い、困ったら回転すればどうにかなる、最大の敵は予算とスポンサー等のどうでもいいことはたくさん学んだということだ。
 自分があまりにも情けすぎて、思わず溜息が出る。
 もしかして、特撮のことを考えたら、一番大切なことについて、何かわかるかもしれないと思ったがとんだ的外れだった。
 なぜ、特撮なのかというと、あれには様々な大切なものが詰め込んであるからだ。
「正義とか、正義とか、正義とか」
 ……正義しか出てこなかった。
 まあ、他にも様々なものが特撮には詰め込まれている。
 ……はずだ。
 また、出そうになった溜息を抑えながら、曲がり窓を曲がる。
 すると、そこには非常に目に毒な光景が繰り広げられていた。
「……あれは」
 僕を(というか『ヒトガタ』を)叩きのめした彼がいた。
 それは、別にいい。
 あの日の帰り道、それなりに話したので、いい人だということは分かっている。
 問題は、彼の両隣にいる人達だ。
「美少女二人侍らしてるとはどういうことだ」
 おかしい、非常におかしい。
 なぜ、大巨漢の彼の両隣に美少女がいるんだ。
 右側は、黒髪ロングの清楚そうな子。
 左側は、ブラウンのショートカットが似合っている活発そうな子だ。
 しかも、様子を見ているとかなり仲が良さそうだ。
「いつから、この街ではデブがモテるようになったんだ……」
 僕の知る限り、デブがモテる時代が到来したという話は聞いたことがなかった。
 というか、聞きたくもない。
「デブがモテるならチビもモテていいだろう」
 来ないかな、チビブーム。
 ちっちゃくて可愛いとか言われたい、グラマーなお姉さんに。
「……遠回りするか」
 これ以上、あの三人を見ていたら、頭がどうにかなりそうだった。
 本当は、彼らと同じ道を通ったほうが、家に早く着くが、今日ばかりは仕方がない。
 そうだ、どうせ遠回りするなら、レンタルビデオ屋に寄ってDVDでも借りよう。
 ちょうど借りたい映画もあるし。
 無理矢理、楽しいことを考えながら僕はその場から去っていった。

 レンタルビデオ屋をよく利用する人ならわかるだろう。
 借りる気満々だったDVDが既に全て借りられていた時の絶望感を。
「パシ○ィックリムって結構人気あったんだ……」
 思わず、棚の前で項垂れる。
 興行収入があまりよくなかったらしいから、DVDもあまり借りられてないと思ったらこれだよ!
「しょうがない、他のを借りよう」
 そうだ、他にも見たい作品はいくつかある。
 今回は、それらを借りることにしよう。
 気を取り直し、他の棚に向かうことにする。
 まさか、見たい作品全てが借りられているってことはないだろう。

 5分後、レンタルビデオ屋の店先で僕は絶望していた。
「なんで、全部借りられているんだよ!」
 通りすがりのオバサンが、可哀想なものを見る視線をこちらに向けてきたが気にしない。
 というか、気にする余裕がない。
「……今日はもう帰ろう」
 ここまで、運が悪い日はそうそうない。
 きっと、今日は厄日だ。
 そう考え、家に向かった歩き出した。
 さっさと自室にこもって、ゲームでもしよう。
 いや、溜まったアニメを見るのもいいかもしれない。
 いざ、考え出すとアイディアは止まらなかった。
 家に帰ってから、何をするのかを考えるのはかなり楽しいことだと個人的に思う。
 まあ、代々は考えていた通りにいかないんだけど……。
 そんなどうでもいいことを考えていたから、気付かなかった。
 目の前に、フードを被った男が立っていることに。
 そいつの髪の毛が金髪なことに。
「よう、チビ」
 そう蔑称を呼ばれて、初めて男の存在に気がついた。
「塚本……」
 塚本王子。
 我がクラス一のDQN。
 そして――。
「お前の天下も今日で終わりだ」
 僕を苛めていたグループの中心人物だ。 

 塚本は『ヒトガタ』により、黒板まで吹き飛ばされてから学校に来なくなった。
 きっと、突然巨大な力を手に入れた僕のことが怖かったのだろう。
 その、塚本が僕の目の前に現れた。
 僕を苛めていた時のような表情で。
「どういうことかな? 僕には全く心当たりがないんだけど」
 笑顔でそう言ってやった。
 取り敢えず、探りを入れるためだ。
 塚本が、こうして僕の前に再び現れたのは何か理由があると考えたからだ。
「ふ~ん、そうか」
 塚本はただニヤニヤしている。
「けどな、そうやって白を切れるのも今のうちだ」
「……どういうこと?」
「俺は知ってるんだよ、お前が――」
 塚本は獣のような目で僕を見た。
「あの、オカルトパワーを失ったことを」
 体中に電流が走った。
 けれど、表情は崩さない。
 笑顔を貼り付けたまま、言葉を紡ぐ。
「ふ~ん、君はそう思っているんだ」
 口元を歪めハッタリをかます。
 いかにも、意味ありげな表情になっているはずだ。
 それに対し、塚本は強気な態度を変えない。
「ふん、ハッタリかまそうたって無駄だぜ。俺は思っているんじゃくて、知っているんだからな」
「知っている?」
 知っているとはどういうことだろう。
 『ヒトガタ』は一般人には見えない。
 だからこそ、説明不能の『見えない力』として恐れられた。
 力を失ったことを塚本が知ることなんてできるはずがない。
 そこまで、考えてある可能性が閃いた。
 それは、突拍子もない考えだが、理には叶っている。
「やっと、気づいたか」
 塚本は、犬歯をむき出しにして邪悪な笑みを浮かべた。
「そうだ、俺にはお前の力が最初から見えていたんだよ!」
 おそらくその報いを受けることになる、あの日彼に言われた言葉を思い出した。

「昔から、俺は他の奴に見えない物を見ることができた。だから、お前が俺をぶっ飛ばした時もあの巨大な腕が見えていた。誰も信じないことを分かっていたから黙っていたけどな」
 塚本は、僕に向かい一歩を踏み出した。
 それに対し、僕はまったく動くことができなかった。
「今日、たまたまお前を見ることができてラッキーだったよ。おかげで、お前が力を失ったことがわかったからな!」
 腹部に衝撃が走ったとき、僕は宙に浮いていた。
 蹴りをくらったと分かったのは、コンクリートの上に受身も取れず落下した時だ。
 そのまま、地面に仰向けになる。
 思わず、右手に握っていたカバンを落としてしまった。
 背中が強烈に痛む。
「チビのくせによくも今まで好き勝手やってくれたな!」
 その言葉と同時に、投げ出していた右手を塚本に踏まれた。
「ぐっ!」
「おいおい、この程度で声漏らしんてんじゃねえよ!」
 すかさず、右手を足で踏み捻られる。
 より強い痛みが体中を駆け巡った。
「お前はその姿がお似合いなんだよ! 一生、そうやって這いつくばってろ!」
 塚本の罵声が路上に響く。
 運が悪いことに、近くには誰もいない。
 それ以前に、たとえこの場から逃げることができたとしても問題はある。
 学校に行けば、塚本から真実を聞いた、僕に恨みを持つ者が確実に報復してくるだろう。
 完全に詰みだった。
「このゴミカスが! お前なんて人間以下なんだよ!」
 そうかもしれない、塚本の言葉に僕はそう思った。
 勉強もできない、スポーツもできない、友達もいない、そしてキモオタな僕は確かに社会のゴミだろう。
 力を得ないと、今のような蔑まれない日々も送れなかった。
 短い間だったけど、極楽の日々を送ることができた。
 本来、僕には送ることができなかったはずの日々を。
 どんなものにも始まりと終わりがある。
 きっと、僕にとっては今日が最後の極楽の日々だったんだ。
 心の底からそう思った。
「そう、その目だよ! お前は、その目をしていればいい!」
 塚本が何か言ったがよく耳に入らなかった。
「そして、俺達の玩具であればいい! お前になんか、その程度の価値しかないんだからな!」
 まだ、塚本に右手を踏まれているが、不思議と痛みは感じなかった。
 きっと、痛覚が麻痺したのだろう。
 力を得る前の日々もそうだった。
 いつもより、苛めが少ない日はそれだけで幸福な気分になった。
 今、考えるとひどく滑稽だ。
 けれど、僕はその日々を過ごしていた時のような、考え方に戻らなければならない。
 そう考えるのはひどく憂鬱だったが、拒絶はしなかった。
 どうせ、すぐに慣れることを知っているからだ。
「今日はこのくらいにしてやるよ、人に見つかる面倒だからな」
 そう言うと、塚本は右手から足をどけた。
「明日、学校サボるなよ。サボったら、どうなるかわかってるよな?」
 塚本のドスを聞かせたつもりの声が耳に響いた。
 正直、怖くもなんともなかった。
 どうせ、痛めつけるなら今すぐ痛めつけて欲しいくらいだ。
 いつの間にか、僕の神経はだいぶずぶとくなっていた。
 悪い方向に。
「ん?」
 そこまで考えて、僕は疑問を抱いた。
 僕が、悪い方向に図太くなったのは『ヒトガタ』を得る前からだ。
 だから、それは問題ない。
 おかしいのは、塚本に恐怖を感じなかったことだ。
 いくら、僕が図太くなっていても、『ヒトガタ』を得る前に塚本達に恐怖を感じなかったことはなかった。
 苛められっ子は基本的に弱虫だからだ。
 なのに、前と同じ力がない状況なのにも関わらず、僕は塚本を怖いと思っていない。
 なぜだろう、気になった僕はすぐに頭を働かせ始めた。
 こんな、酷い状況にも関わらずだ。
「おい、早く立て!」
 急かす塚本の声も無視して。
 脳内では、何か手がかりがないかと過去の記憶を思い出していた。
 が、僅かなヒントさえない状況だ。
 これといった記憶は、思い出せなかった。
 仕方がないので、諦めて立つことにした。
 その時だった、脳に閃きが生まれたのは。
「おい、早くしろ!」
 僕は、無言のままゆっくりと立ち上がった。
 そして、地面に落ちていたカバンを拾う。
「ったく、手間掛けさせやがって。罰として、有り金全部渡せ。……って、おい! 聞いているぐへっ!」
 体を半回転させ、そのカバンを塚本の脇腹に叩き込んだ。
 困ったら回転すればどうにかなる、その知識が初めて役に立った。

 『ヒトガタ』を失ったあの日、僕は今までの人生の中で最大の恐怖を感じた。
 それの発生源は、この街のとある高校の制服を着た一人の少年。
 彼は、人の形をしているにも関わらず、化物としかいいようがない圧倒的な力を僕に見せた。 
 その様は、今まで見たどんなものよりも恐ろしく、同時に気高かった。
 そんな彼に比べれば、塚本なんて蠅でしかない。
 だから、馬鹿らしくなったのだ。
 こんな男やその仲間に自分が支配されることを。
 だけど、一つ問題がある。
「今の僕は蠅以下の力しか持ってないんだよな……」
 万年、体力テスト最下位の僕は恐ろしく貧相だ。
 さっきは、回転の力とカバンを利用し、脇腹という誰しもが弱い部位を狙ったために、なんとかダメージを与えられた。
 だが、二度目はおそらくない。
「てめえ! よくもやってくれたな!」
 僕に比べ、塚本は非常に恵まれた体格と身体能力を持っている。
 長身に広い肩幅、帰宅部にも関わらず運動部に負けない腕力と脚力。
 しかも、今はかなり激怒しているため、容赦もしないだろう。
「うん、詰んだ」
 重大な判断ミスを犯してしまった。
 こうなったら、生きて帰るという極めて低い目標を胸に、なんとかここを切り抜けよう。
「生きて帰れると思うなよ!」
 死刑宣言を告げられた。
 塚本は、指の関節を鳴らしながらこちらに近づいてくる。
 もう、絶望的すぎて泣きたくなってきた。
 塚本に対する恐怖心ではなく、死に体する恐怖心で。
「できれば、天国に行きたいな……」
「いや、地獄も案外楽しいかも知れないよ」
 そんなわけないよ、そう言おうとして気づいた。
 僕の隣に突然現れた、第三者に。
「やあ、さっきぶり」
 兎のような風貌の少女はニッコリと微笑んだ。

「あん!! てめえは誰だ!!」
「誰でもないよ、金髪君」
 その返答で、塚本の怒りが見てわかるレベルで増した。
 漫画の世界だったら、確実に青筋が出ているくらいに。
「ちょっと! 危ないから逃げたほうがいいって!」
 さすがに、女の子を巻き込むのだけは避けたい。
 そんな僕の気持ちを踏みにじるように、少女はこう言った。
「やだよ、金髪君がボコボコにされるの見たいし」
「あん!! てめえ、今なんつった!」
 思いっきり、火に油を注げられた。
「いやいや、誰がボコボコにするんだよ」
「君に決まってるんじゃん」
「はあ!? 無理だよ! リアルの○太くんの異名を持つ僕じゃ!」 
「できるよ」
「だから、無理だ「これがあれば」……え?」
 彼女は、一枚の紙を僕に差し出した。
「……これは?」
「僕達が契約書と呼んでいるものだよ。これさえあれば、君が以前持っていた『ヒトガタ』のような異形の存在『都市伝説』の力を扱うことができる」
「これが……」
 まじまじと契約書を眺める。
 こうして、見ているだけでは特別な紙には見えない。
「でも、僕はまだ本当に大事なものに気づいてないよ」
 そうだ、彼女はあくまで、それに気づいたら力を再び授けると言った。
 僕はまだ、何も気づいていない。
「ううん、それは違うよ。君はもう気づいているよ」
 にも関わらず、彼女は首を振った。
「一番大切なこと、それは意思だよ」
「意思?」
「そう、意思。君は、力を持っていないのに意思だけで彼に立ち向かった。その時点で、もう合格なんだよ」
「いや、それは……」
 僕が、塚本に立ち向かったのは、彼に比べると塚本なんて蠅だからという後ろ向きな理由からだ。
 とても、褒められるものではない。
 顔を俯かせた僕に、彼女は優しい声色でこう囁いた。
「理由なんてどうでもいいんだよ。大事なのは、意志を持って立ち向かったってことなんだから」
 僕の心を読んだような言葉に、思わず彼女の目を見つめる。
「君は自分を誇っていい。そして、この力を使っていい。力の正体に気づいていたにも関わらず、立ち向かおうともせず逃げた金髪君に対して」
 僕は、少しの間、動くことができなかった。
 胸の中の様々な感情によって。
「ありがとう」
 体が動き出すと、すぐに彼女が差し出した紙を受け取った。
「茶番もいいかげんにしやがれ! お前は、さっさと殺されればいいんだよ!」
 塚本は、ポケットから何かを取り出し右手に握った。
 警棒だ。
「おとなしく死ね!!」
 塚本は右腕を高く上げると、僕に対し警棒を振り下ろした。
 一発でも当たれば、病院行くは確実だろう。
 だから、僕は紙を強く握り、頭の中に湧き上がる名前を叫んだ。
「来い! 『スカイフィッシュ』!」
 瞬間、周囲が金色の光に包まれた。

「な、なんなんだよ! これは!」
 光が消えると、そこには振り下ろしていたはずの警棒を空中で静止させている塚本の姿があった。
 だが、すぐにその認識が間違っていることに気づく。
 塚本は、警棒を静止させているではなく、静止させられているいる。
 警棒の前に、盾のように広がっている、無数の生物のようなもの達によって。
 彼らは皆、虫のように小さい。
 彼らこそが、僕の新しい力――。
「『スカイフィッシュ』だよ、塚本」
 そう言うと、どこからかまた無数の『スカイフィッシュ』が現れた。 
 『スカイフィッシュ』達は、僕と少女の周りを囲い込むように広がっていく。
「ふ、ふざけやがって! こんな虫けら! 敵じゃねえんだよ!」
 塚本は、警棒を今度は僕の右脇腹に向けて叩きつけようとした。
 それに対し、僕は一切の動作を行わない。
 代わりに、頭を使う。
 今や、この無数の『スカイフィッシュ』を操る管理棟となった、僕の最大の武器を。
 まず、軽くイメージをする。
 先ほど、警棒を塞いだ、『スカイフィッシュ』の集団で形成された盾を。
 次に、脳内でスカイフィッシュに対する指示を行う。
 イメージ通りの盾になれと。
 これで、全ての工程が終了だ。
「なっ!」
 予定通り、警棒は再び、『スカイフィッシュ』の盾に衝突し静止した。
 右側にいた、一部の『スカイフィッシュ』達が集まり、盾となったためだ。
 なぜ、ここまでうまく能力を使えているかは自分でもわからない。
 一つだけ言えるのは、金色の光に包まれた瞬間に、何かが頭の中に入ったということだけだ。
 おそらく、それによって僕は、『スカイフィッシュ』を自由に扱えている。
「さて、そろそろ反撃と行くよ」
 僕は、『スカイフィッシュ』にただ簡単な指令を下した。
「塚本君を襲って」
 瞬間、塚本の全身が不規則に揺れだした。
「や、やめろぉ!」
 塚本は、顔を手で覆いながらそう叫んだ。
 無理もない、無数の『スカイフィッシュ』が目にも止まらぬ速さで塚本に突進しているのだ。
 いくら、小さくて軽い存在だといっても、十分な驚異だ。

「く、くっそ!」
 全身を丸めたまま、塚本は僕に背を向け、我武者羅に走り出した。
 おそらく、逃げる気だ。
「そうはさせない!」
 ここで塚本を逃がすわけにはいかない、さっきの件のお礼をまだ返せていないからだ。
「くらえ!必殺!」
 ついつい、ノリでそんなことを言ってしまった。
 ……どうしよう、必殺技なんて一切ない。
「えっ!? 必殺技!? こんな短時間でできたの!?」
 僕の横で、少女が目をキラキラさせている。
 ……ここは、期待に応えるとしよう。
 特に意味はないが、目を閉じ、意識を集中させる。
 すると、無数の鼓動を感じた。
 『スカイフィッシュ』達だ。
 こうすると、目で『スカイフィッシュ』達を見ている時より、非常に身近に感じる。
 これはいい。
 偶然の発見に、軽い感動を覚えながら、僕はもう一つの事実に気づく。
 この状態でなら、全ての『スカイフィッシュ』達に指示を出せることを。
 先程のように、指示を出すだけでは全ての『スカイフィッシュ』を動かすことはできない。
 もちろん、これもなぜ知ることができたかは分からない。
 ただ、急に頭の中に知識として浮かんできたのだ。
 僕は、疑問を覚えながらも、躊躇いなく力を使うことにした。
 全ての『スカイフィッシュ』に脳内で指示を出す。
 目を開くと、引き続きワクワクしている少女と、背を見せて逃げている塚本が目に入った。
 そして、塚本に追いつき、囲み始めた『スカイフィッシュ』達も。
 そろそろ、技名を叫ぶとしよう。
 ……冷静に考えると、技を放ったあとに技名を叫ぶというのは中々滑稽だ。
 そんなことを考えながら、人生初の必殺技を叫ぶ始める。
「くらえ!必殺!」
 『スカイフィッシュ』達が、完全に塚本を囲み終えた。
 よし、このタイミングしかない! 今こそ叫ぶ! 必殺技の名を!
「囲んでボコる!」
「すごい地味!」
 少女が、ツッコミを入れてきたが気にしない。
 経験上、これが一番確実なダメージの与え方だということは知っている。
 絵ヅラは、地味で陰湿だけどね!
「ギャー!」
 目前で、塚本が『スカイフィッシュ』達にボコられながら、情けない悲鳴を上げていた。
 そりゃ、あれだけ高速で動くものが、大量にぶつかってきたら悲鳴くらいあげたくなるだろう。
 その後も、塚本は長い間悲鳴をあげていた。
 ……見ているうちに気がついたが、この技の恐ろしいことは、あくまで小さな物体がぶつかってくるだけなので、中々意識を失わないということだ。
 それのどこが、恐ろしい点なんだと一瞬思ってしまうが、冷静に考えるとすぐにわかる。
 中々意識を失わないために、拷問のように、延々と耐え難い痛みを味わうはめになるのだ。
 自分で考案しておきながら、恐ろしい技だ。
「ねえ、これいつまで続くの?」
 少女が、悶えている塚本を見ながら、つまらなそうに尋ねてきた。
「さあ、もうちょっとで終わるんじゃない?」
 その、約3分後、塚本はやっと意識を失った。

「やっと、終わったね」
 意識を失った塚本を見ながら、少女は微笑んだ。
 僕も、微笑み返す。
 中々、バイオレンスでシュールな光景だ。
「ありがとう、君のおかげで苛められっ子生活に逆戻りせずにすんだよ」
「いいんだよ、君は力を持つにふさわしい人間になったんだから」
 力を持つにふさわしい人間、そんな存在に自分がなったとは正直思えない。
 けれど、前よりは一歩くらい前進できたのかなと考えると、正直嬉しい。
「あっ、そういえば僕の名前教えてなかったね」
 そういえばそうだ、僕は彼女の名前を知らない。
 それに、僕も彼女に自己紹介していない。
 まあ、おそらく彼女は僕の名前を知っているんだろうけど。
「僕の名前は、ヨツバだよ。漢字じゃなくカタカナでだよ」
 ヨツバ、変わった名前だなと思った。
 幸運を持つ子になって欲しい、そう考えて付けられた名前なのかも知れない。
「じゃあ、僕も。僕の名前は、羽柴牡丹。ちなみに、豊臣秀吉とは一切関係がないよ」
 よく聞かれることなので、そう付け加えておいた。
「よろしくね、牡丹」
 ヨツバに笑顔で名前を言われた。
 それだけで、胸が激しく振動し始めた。
 苦しいほどに。
 な、なんて青春イベント……!
 思わず、生まれてきたことを神やら仏やらに感謝する。
「よ、よろしく。ヨツバ」
「うん、よろしくね」
 もう、その笑顔は反則だと叫ぶたくなっていると、ヨツバは片手を差し出してきた。
 握手をしようということだろう。
 すぐに、その手を握る。
 女子とまともに握手をするのなんて初めてだ。
「それでさ、牡丹。一つお願いがあるんだけど」
「な、なに?」
 おもわず、緊張しながら受け答える。
「僕達のグループに入ってくれないかな?実は、人手不足でね。ちょっと、戦闘要員が欲しかったんだ」
「戦闘要員……」
 正直な話、そういうのはできるだけ避けたい。
 彼に前にされた脅しが尾を引いているのだ。
「まあ、そう怯えないでいいよ。戦闘をする機会なんて、そうそうないし。もし、戦闘になったとしても牡丹には後方支援くらいしかやらせないからさ。それに、『都市伝説』のことについてももっと知りたいだろう?」
「うん、まぁ……」
 正直な話、それは興味があった。
 こんな不思議な力、男の子なら誰しもが興味を惹かれるはずだ。
 それに、僕にあるというもう一つの才能も気になる。 
「じゃあ、取り敢えずお試しで入ってみようかな」
「そう、良かった」
 ヨツバは、そう言い手を離した。
 手に残る彼女の体温に名残惜しさを感じる。
「それじゃあ、今からちょっと来てもらいたいところがあるんだけどいいかな?」
「え、今からか……」
 流石に、ちょっと急すぎる。
「悪いけど、明日にでも」
「お前に選択肢はない」
「へっ」
 突然、聞こえてきた僕ら以外の声に驚く。
 低い女の声だ
「えっと、どちらさまで「黙れ」ぐへっ!」
 そう訪ねている途中に、突然強い衝撃を受けた。
 すると、すぐに足から力が抜け、地面に倒れ込んでしまった。
 視界も、徐々に暗くなっていき、頭もぼんやりしていく。
「ちょっと! ○△! いきなり、なにするのさ!」
 聴覚も、薄れてきているために、ヨツバの言葉がいまいちよく聞こえない。
「言ったろ、私はこんな奴を信用できないと。だから、こいつを連れて行くならせめて気絶させてからだ」
 低い声の女が何か言ったが、もはやまともに聞き取れない。
 そのまま、暗い意識の底に飲み込まれていく。
 いったい、何がどうなってるんだ……。
 最後に、心からそう思った。

終わり

[ピザ]けんの人乙ですー
このチビ割と好きだったので、再登場嬉しいです

久しぶりの投下です
前回は>>8-9

 アルバート、否、ヴィクトリアのロゼレムを睨む瞳がいっそう険しくなったが、エディは脳内で数回ほどロゼレムが呼んだ名前を反芻して。

「はああああああ!?」

 緊迫感もなにもありはしない。ロゼレムが呆れたようにエディを見る。
「まさか本気で気がつかなかったのかい?君は観察眼がないね」
「うるせえ」
「其れは兎も角・・・陛下、その人形をお渡しいただかないと・・・御孫様・・・クラレンス公の潔白、証明できませんよ」
「こんな子どもに、『教会』の過酷な尋問など許さない。それに・・・」
 ヴィクトリアはちらりと人と人形の残骸に目を遣る。
「犯人は既に死んだ。被疑者死亡で始末をつければよいだろう」
「お言葉ですが陛下。その人形は言わば重要参考人です。易々とは放免できません。そこでお話なのですが・・・取引をしませんか」
「取引・・・?」
「左様です。その人形を教会ではなく僕個人にお譲りいただけるならば、此方から手を回して被疑者死亡と言うことで片をつけます」
「もし断れば?」
「名高い『切り裂きジャック』だ。王孫クラレンス公と」
 そこでロゼレムはいったん言葉を切り、エディをさも面白そうに眺める。
「流れ者のアイルランド人。どちらがより、犯人として相応しいかな?」
「なっ・・・!」
 顔色が変わったのは当のエディではなく、ヴィクトリアだった。
「馬鹿な!何故エディを巻き込む!」
「教会が俺を放り出す気になったからさ」
 交渉が成立し、エリザベスが手に入ればそれでよし。
 決裂すれば、クラレンス公を犯人になどヴィクトリアには出来ないだろうから、これをいい機会にエディを犯人に仕立てて「教会」から放逐する。そういう筋書きなのだろう。
「丁度良いぜ。こっちも偽善者共とのお付き合いにはうんざりしてたとこだ」
 躊躇うことなくエディはその銃口を、ロゼレムに向けた。
「はっ、やはり君は狂犬だ・・・君のそういうところは嫌いではないがね、残念だよ」

(さっきエリザベスを撃って弾を一発使ってる・・・最後の一発は使えねぇから、あと4発でカタをつける)

 ロゼレムの周囲の空気が熱を帯びる。「ソドムの業火」を召還するつもりなのだろう。

「させるかよ!」

 エディは2発、立て続けに撃つ。勿論、狙うのは頭部。例え心臓に命中させても、息絶えるまでに業火を発動されたら、3人とも助からない。

(一発で意識を失わせるには頭しかねぇ・・・しかし、狙いづらいもんだぜ)
 それでもエディの弾丸は「魔法の弾丸」狙った獲物は外さない、悪魔の弾丸・・・だが。

 じゅっ、と嫌な音が二度響き、硝煙の臭いが立ちこめる。

「マジかよ・・・」

「いかな『魔法の弾丸』も、ソドムの業火の前では、ただの鉛の弾だよ」
 ロゼレムは、業火の熱を全て、弾丸という一点に集中させて、弾丸そのものを蒸発させて防いだのだ。

「くそったれ!」

 更に2度、続けて引き金を引くが―

「君も大概、諦めの悪いことだね」
 結果は、同じだった。悪魔の望むところに当たる一発を残して、弾丸を使い切ったエディにはもはや、対抗する術はない。

(もう賭けに出るしかねぇ)
 エディは再び、銃口をロゼレムに向け、引き金に指を掛ける。
「もしかしたらこの銃の悪魔はてめぇが嫌いかも知れねえぜ。精々用心するんだな」
「4発が5発になっても同じだよ」
 ロゼレムの纏う空気が熱をはらむ。

(・・・頼む!)

 そして、乾いた銃声が響き―

 数瞬遅れて、陶器の砕ける音が一同の耳に響く。

「・・・なっ!」
「エリザベス!」
 胴体の中心を撃ち抜かれ、そこからひびわれて砕ける陶器の欠片を手に、ヴィクトリアは愕然とした。
「エリザベス!くそっ、ダメだったか・・・!」
「なんて事をしてくれた!折角の興味深いサンプルが・・・」
 エディとロゼレムが駆け寄り、慎重に人形の無事だった頭部に触れる。
 だが胴体が砕け、頭部と手足のみになった少女の人形は、もはや言葉を紡ぐことはなかった。

「エリザベス―!」
 慟哭するヴィクトリアと、呆然と立ち尽くすエディに背を向け、ロゼレムは立ち去ろうとする。
「いいのかよ、俺らの事は」
「僕が興味があったのはその人形でね。正直君達などどうでもいい」
「犯人はどうすんだ」
「適当に報告しておく。いざとなったら罪を被って貰うよ」
 走狗たちと去ってゆくロゼレムの背を睨む気には、不思議と起きなかった。

 ―後日。サウザンプトンの港にて。
「結局、迷宮入り扱いか・・・あんだけ骨折ったのによ」
「まあいいではないか。犯人にされなくてよかったろう?」
「まあな。それにしても」
 エディは隣に佇む少女の姿を模したビスクドールの頭をぽん、と叩いた。
「悪魔もたまには粋な真似をしやがるもんだぜ」


―あの後、ロゼレムが去った後。
「エリザベス・・・!」 慟哭するヴィクトリアと、悄然とするエディの耳に―否、精神に響いた、少女の声。
「―この声は―」
「エリザベスか!」

(しー、ふたりとも)
(わたしはここにいるよ、しんぱいないよ)

「エリザベス、良かった・・・!」
 手放しで喜ぶヴィクトリアだが、エディは怪訝な表情を隠しきれない。
「改めて聞くが・・・お前、なんの『伝説』だ?」

(わたしはね、『魂』だよ。『人が死んでも、魂は残る』の)

(わたし、死んでからもずっと側でお父さんを見守ってた。ひとりぼっちになっちゃったお父さんが可哀想で、お父さんが創った体に入って、お父さんといっしょにいたの)

(そのうち、お父さんが捕まって殺されてしまうかも知れないってわかって、なんとかお父さんも、刑事さんたちも止めたかったの)

(だから、女王さまが、お父さんを助けたいって言ってくれたのが、とてもうれしかったの)

「エリザベス・・・」

(ありがとう、女王さま)


「良かったじゃねえか、新しい体まで貰えてよ」
 事件が一段落付き、ヴィクトリアが用意させた、破壊される前とほぼ同じ大きさのビスクドールに宿ったエリザベスは、以前と殆ど同じように立ち居振る舞い出来ている。
「でもやっぱり関節がすこしきしきしする。やっぱりお父さんの創った体がいちばんだったわ。それとエディ、レディの頭をぽんぽん叩かないで」
「何がレディだ。出るとこも出てねえガキンチョが」
 案外生意気なエリザベスと、精神的に同レベルに近いのではないかと思われるようなエディとのやりとりを、ヴィクトリアは微笑んで眺めている。

そしてエリザベスとエディは、「教会」の追求を避けるため、アメリカに渡ることになった。
「船のチケットまで手配してくれて感謝するぜ、女王さんよ」
「礼を言うのはこちらだ。お前の言った事、深く考えさせてもらった。これからは、国の基盤が・・・何の犠牲の上にあるか、よく考えるようにする」

 船の汽笛が鳴り渡る。出航の時間だ。
「ありがとう、女王さま!」
「じゃあな、精々長生きしろよ!」
「二人とも、元気で―」

  ┏━━━━ふっかつのじゅもんを いれてください ━━━━┓
  ┃                                   ┃
  ┃                                   ┃
  ┃http://www29.atwiki.jp/legends/pages/4980.htmlのつづき┃
  ┃                                   ┃
  ┃                                   ┃
  ┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛

 突如土管から現れたバカ――否、男は黒かった。
 国民的人気を誇るゲームの主人公のコスプレそのものではあるが――黒かった。
 赤い帽子も赤いシャツも青のオーバーオールも白の軍手も、それどころか、どうやってか生えてきた土管すらも黒かった。
 身長は一五〇半ば、小太りの体型も団子鼻も髭もまるでゲームのキャラそのもののようだが、身に纏う全てが黒かった。
 色の他に異なる点はふたつ。
 元ネタのキャラはかけていない黒のサングラス。そして帽子の中央に書かれた文字。本来「M」と書かれているはずの文字が「A」と記されている。

「……一応訊いておくが、あれが前に言ってた六人目か?」
「まさか。――前に言ったろ、至村くんは死んだ。新居くんの火葬が終わったその日にね」
「となると、あれは――」
「きみの想像通りだろうね」

 ふたりの声が聞こえているのかいないのか、黒の男は周囲をきょろきょろと見渡して江良井と錨谷の姿を確認するとにやりと笑みを浮かべた。
 そして高らかに宣言するように胸を張って。

「イッツミー! メールィオオゥ! ナンバー! ワン! オー! シックス! アアアイイイイイム!! ナンバアアアアアアアア!! ワアアアアアアアンンンンン!!!」

 二度目の名乗りを上げた。
〈組織〉に属する黒服――A-№106と。
 しかしそれは、かつて江良井を監視していたが〈ゲーム王国〉の手によって殺されたはずのナンバーではなかったか。
 江良井を監視し、〈ゲーム王国〉に殺され、錨野が江良井に渡そうとし、A-№102が持ち帰った首。
 二人の疑問に答えるように、A-№106の後方から新たな黒服が現れた。

「私達の技術によって再生しました」

 現れたのは黒服に身を包んだ男、A-№109。
 他の黒服よりもやや小柄なA-№109は、半死半生の錨野を視界に収めると何の抑揚もない声で新たに告げる。

「やれ」

 たった一言。
 誰への言葉かは言うまでもない。
 言葉と同時に動いたのはA-№106だけではなかった。
 江良井、錨野も動いた。
 ひとりはA-№109へ、ひとりは距離を取り、ひとりは錨野に。

「ィィイイィィ! ヤッッハァァァァァァアアア!! ポォォォゥゥウウウウウゥゥ!!」
「……くそ!」

 A-№106の連撃を躱した錨野だが、江良井からのダメージのせいで躱すことすら精一杯だった。
 しかしA-№106は攻撃の手を緩めない。
 それもそのはず、江良井と錨野のふたりは知らぬことではあるが、A-№106はそういう風に造られているのだから。

「ひとつだけ言うのならA-№106の都市伝説は『ゲーム脳』です」

 江良井の攻撃を微動だにせず、全て躱したA-№109は告げる。
 それは、かつて錨野が欲し、しかし手に入れることができなかった都市伝説。
 都市伝説『ゲーム脳』を分離し再構成した存在。言うなれば改造都市伝説。『ゲーム脳』としての影響が強く出た結果が、今攻撃の手を緩めずに錨野を追い詰めていた。
 敵を斃さねば次のステージに進めないゲームのように。

「なんとも皮肉なもんじゃないか――行け、バキュラ!」

 生み出されたバキュラがA-№106と迫る。
 たかが数撃では破ることもできるはずもない。どんな力、どんな能力をもってしても軌道を変えることもできない。
 攻撃手段としても防御手段としても申し分ない能力。
 能力がわかっていたとしても江良井のように事前に用意でもしない限り破れることもない。

「アワワワワ!」

 バキュラと同じくゲーム系の都市伝説のせいか、それとも黒服としての知識があったのか、慌てた様子で避けるA-№106。その様子すらもどこかふざけているのだが。
 同じ大きさのバキュラを次々に生成し、A-№106の四方を囲う。

「出てくるな!」

 とどめとばかりに上方にバキュラで蓋をする。
 バキュラによる即席の箱。出てくるにはそれなりの時間がかかるだろう。
 もしもA-№106が錨野の予想通りならば、現れた際に生まれた土管は使えないはずだ。
 A-№106が基としているゲームに準じているのであれば、土管から土管への移動は可能だが土管を出現させる技は存在しない。

「私達と〈ゲーム王国〉が戦う理由はわかりますがあなたはどう絡んでいるのですか?」

 三人の様子を見ていた江良井を向いて問う。
 おおよその流れはわかっているが、本人の口から聞きたいとでも言うように。

「俺の敵だ」

 江良井の答えは常にシンプルだ。
 対するのが誰であっても、何であっても。

「私達〈組織〉と敵対するつもりは?」
「ない」
「私達〈組織〉と共闘するつもりは?」
「ない」
「私達〈組織〉が彼らを殺しても問題は?」
「ない」
「私達〈組織〉があなたと敵対したら?」
「殺す」

 表情ひとつ変えず問うA-№109に、同じく表情ひとつ変えずに応じる江良井。まるで〈組織〉の黒服のように。
 江良井の答えに満足したのかA-№109から読み取ることはできないが、次に息も絶え絶えの錨野に目を向ける。

「どうやって〈ゲーム王国〉なる国を造るつもりですか?」
「ここは至村くんの言葉を借りようか――企業秘密だ」
「あなたが捕まえたとされる猫が鍵ですか?」
「……そこまでわかってるんなら答える必要はないと思うんだけど」
「それではあなたが捕まえたとされる『山崎渉』の契約者である猫が〈ゲーム王国〉建国の鍵であると解釈します」
「『山崎渉』……?」
「そういえばあなたも被害に遭っていましたね」

 以前、江良井の父親が経営するラブホテル――江良井曰く最低のネーミングセンスの――ローペロペコンマに突如落書きされたことがある。
 都市伝説を使用しての落書き。厄介なことにただの落書きではなく、言語の上にも上書きする。
 害意はないと判断して終わったのだが、契約者がいたとは――否、契約者が猫だったとは流石の江良井でも考えもしていない事態であった。

「そうだ、こいつが俺らの切り札さ」

 巨大な二刀を構えるA-№102に対峙するのは嘉藤。
 この場にいないのは先に死んだ新居と至村――そして、江良井に当たっている錨野。
 対して、三人の前にはA-№102とA-№104が立っている。
 幾度か拳を交え、A-№102が中元に一撃を与えてからわずかに距離を取った。
 高城の手には持ち運び用の動物用ケージ。
 猫が入るにちょうど良さそうな大きさだ。

「こいつの能力――『山崎渉』は恐ろしいぜ、何しろ物だけじゃなく言語にまで干渉してくるんだからな」
「それをどう利用するつもりだ? いくら干渉するとはいえ、『山崎渉』としか書き込まなければ何も変えられんぞ」

 厳しい目をしたままのA-№102を嘉藤が嘲笑う。

「お前らそれでも黒服かよ。俺達契約者にはお前らにも解明できない世界があるんだよ」
「まさか拡大解釈……!」
「ご名答。この猫が拡大解釈で貼り付ける言語を山崎駅から〈ゲーム王国〉に替えればいいのさ」
「そのようなことができるとでも?」
「ダメなら契約解除させて俺らが使う。安心しな、猫を殺すほど俺達は腐っちゃいねえよ」

 けらけらと笑う嘉藤と、苦笑を浮かべる中元。
 そろそろいくぜ――そう呟くとふたりの横にイリアスとシルビアが現れる。
 ゲーム系都市伝説の『スパルタンXを24周クリアするとシルビアが襲ってくる』と『ドラクエ8のラスボスは主人公の兄イリアス』が発動された。

「俺にしてみればどうでもいいことだが、いい加減誰かが何か言わなきゃいけないことなんだとよ」
「どこにも存在しないこの町の不自然をね。この町をどう捉えているのか、あなた方の話も聞いてみたいですね」

 にやりと笑うふたりの〈ゲーム王国〉を前に、黒服達は即答する。

「愚問だな。総ては――」
「――A-№0のために」

 A-№104の言葉が引き金となり、同時に動き出すふたりと四人。
 イリアスが吐き出した灼熱の炎をA-№104が起こした風で消す。同時に殺到してきたシルビアは苦無の影縫によって行く手を阻まれる。
 嘉藤の剣を太郎太刀で、中元の足刀を次郎太刀でそれぞれ受けて返す刀が一閃――二閃。

 動けぬ高城を除いても戦力差は単純に倍の差がある。
 それなのに、これだ。
 戦力は拮抗――否、〈ゲーム王国〉が若干劣勢だ。何しろ、ひとりでふたりの攻撃を抑えられている。
 嘉藤も中元も戦闘の素人というわけではない。何度も苦戦もしたし死線も越えてきた。
 並の都市伝説契約者が相手では引けを取らない自負もある。〈組織〉の黒服を屠ったこともある。
 奇襲とはいえA-№106を斃したのは嘉藤だ。

 ――それなのにこのザマだ。

 自分達の実力と相手の実力を見誤るほど愚かではない。だからこそ、この状況は劣勢と判断できる。
 現状を打破するのは簡単だ。ふたりで同じならば倍の数をぶつければいい。A-№104を相手しているイリアスとシルビアもこちらに来ればいいだけのことだ。
 しかしそれができればの話だ。到底できそうにない。
 ならば――奥の手。

「イリアス!」

 以前肩を割られたイリアスは本調子には程遠く、今動けるのは痛みを取り除いた結果にしか過ぎない。
 江良井とは違い回復呪文を使用できない制約。そのおかげで強力にもなったが、そのせいで今追い詰められていた。
〈組織〉のナンバー持ちは確かに強敵だ。
 だが――この程度。このザマではあるが、この程度にしか過ぎない。そして、この程度ならば苦境とは言えない。
 まだふたり欠けただけ。頭が無事なら――錨野さえ無事なら〈ゲーム王国〉は何度でもやり直せる。錨野が死んでいない以上、最悪には遠く及ばない。

「いいのか?」
「出し惜しみしても仕方ねえ。やっちまいな」
「――心得た」

 嘉藤の言葉が終わらぬうちにA-№102に特攻するイリアス。
 振るう拳の一撃一撃は重く、爆裂拳と呼ぶに相応しい威力を備えている。

「当たらねば無意味と知れ」

 連撃を往なされ、無防備の体は二刀で斬り裂かれる。
 それでも立ち上がるが、A-№104が放った苦無の雨がイリアスの体を串刺しにして地に縫いつけた。

「これが出し惜しみしない結果か?」

 冷徹とも言えるA-№102に、嘉藤は笑う。嘉藤だけではなく中元も高城も。
 そして――変化が訪れた。
 イリアスの全身が内側から盛り上がり、変わりだす。
 頭が。
 顔が。
 眼が。
 首が。
 肩が。
 腕が。
 背が。
 胸が。
 腹が。
 腰が。
 脚が。
 額が。
 手が。
 足が。
 角が。
 瞳が。
 牙が。
 爪が。
 鱗が。
 尾が。
 躰が。
 人が――竜へ。

 イリアスの元となったゲームでは、主人公は竜神族と人間とのハーフであることがゲームクリア後に明かされる。
 そして竜神族の長――竜神王と主人公は戦うことになるのだが、その姿は巨竜。
『ドラクエ8のラスボスは主人公の兄イリアス』の都市伝説そのままの解釈をするならば、イリアスも竜神族と人間のハーフということになる。
 そして都市伝説そのものの黒服には永遠にわからないことだが――元となったゲームのシリーズでは過去二作を除き、ラスボスは変身する。

「第二ラウンドといこうか」

 設定上の親と同じく〈永遠の巨竜〉と化したイリアスは竜の姿で雄々しく咆吼した。


こちらに顔を出すのは去年の年末振りです。
いつの間にやら年も明けて周囲は新生活だけど実際は去年と変わらぬ日々を過ごしている皆さん乙であります。

遅れたことは申し訳なく思ってはいるものの内容についての反省や後悔はしていない葬儀屋がおよそ一年振りにゲーム王国編第八話お送りしました。
A-№106や『山崎渉』についてはまとめwikiを御覧ください。


高層ビル群が林立する「学校町」の不夜城、南区――
繁栄の影に紛れるようにして存在し、忘却された旧い雑居ビルには人知れぬ闇がある

深夜二時をとうに過ぎた時分、男はそんな一室に独り佇んでいた
もう長らく使用されていないであろうその部屋に、当然明かりなどあるはずも無い
この部屋はビルの最上階に位置するが、天井からは漏れた雨水が床を打っていた
割れたガラス窓からは湿気を多量に含んだ大気が入り込んでくる
しかしこの男はそんな室内の様子など意に介さず、ワンカップ大関を啜っていた
足元に打ち捨てられたカップヌードルの容器から微かに湯気が立っている
先程までささやかな食事を摂っていたに違いない

――来たな!?

男は大関をあおると手を振るってカップを壁に叩きつけた
派手な音と共に砕け散る
トレンチコートを翻し、男は丁度真後ろへ向き合った
外部からの照明が逆光となって判別しづらいが、何かがいる――!

「そ、『組織』です! 名を名乗りなさい! 貴方が契約者であることはわかっています!」

女の声、それも若い女の声だ

――Fuck Off Baby!!

瞬間湯沸かし器の如く、男の頭に血が上り、筋肉が隆起する

「ぬぅぅぅぅぅんン!!」

両脚に力を込め、女に向かって突進する!!


「ふンはァッ!!」

女はパンツスーツにサングラスという出で立ち、間違いなく「組織」の「黒服」だ!

男は女の腰を掴みかかる。幸いなことにベルトはする派のようだ
それとほぼ同時に彼は女の胸倉も掴んだ。間違いなく女の胸部は豊満である

両の腕をぶん回すようにして男は「黒服」を壁に向かって投げ飛ばした!
だが!!

「ま、負けません!」

なんということだろう!
女はあろうことか投げ付けた壁に貼りついているではないか!

「行きます! やああああああああッッ!!」

かくして男の眼に飛び込んできたのは、女「黒服」のブーツ底面であった











――ッ!!

男の意識が覚醒する
全身が打ち付けられたように痛む
すぐさま男は己が仰向けになって倒れていることに気づいた
急ぎ半身を起す


そこは先程まで男がいた雑居ビルの一室では無かった
まだ完成して間もない場所なのか、真新しさを感じさせる独特の臭気が鼻をつく
周囲に視線を向けるが、やはり先程の場所では無い
新調された事務用品が整然と配置されており、男が倒れていた場がガラスや礫の破片で汚れている
正面はガラス窓が砕け散っており、横殴りの雨が入り込んできている
ようやく状況を把握した――あの女に蹴り飛ばされて、別のビルへと突っ込んだのだ

男はすぐさま立ち上がる

――あの女はどこだ!?

しかし今いる空間に人の気配は無い、が

「どうもこんばんは、トレンチコート姿の紳士殿」

「ALAS!」

声のした方向へと男の裏拳が飛ぶ!
速いぞ!!


「いい攻撃です、しかし」

なんと相手は男の拳を捌いていた!

「私相手には無駄だ! ふんッ!!」

なんということだ!
男の体は舞い上がり、再び床へと叩き付けられてしまったのだ!
眼から星が飛んだが先程のように気絶する程度では無い!
男は身を立て直そうとする! しかし!

――馬鹿な!? 動かないだと!!

体が微動だにしないのだ!! これは一体どういうことなのか!?

「今宵はハードボイルドに決めたかったのですが、どう考えても朝方です
 本当にありがとうございます。どうも、いい子いい子でお馴染みの思考盗聴警察の神田です
 デブけんの人と鳥居の人、毎度乙でございます
 兄と妹の緊迫した関係の行き着く先は目が離せそうにありませんね
 『ヒトガタ』の契約者が主人公のスピンオフもこれから先どうなるか気になります
 鳥居の人もまた変化球をデッドボール気味に飛ばしてくるとは思っていませんでした
 これは新大陸アメリカ編が来るのでしょうか! 期待していいのでしょうか!?
 この田中、ハッスルし過ぎてとうとうBitCashに5万も振り込んでしまいました!!
 カーッ!! それはさておき」

そこにいた人物は一言で表現するなら、警官だった
どこからどう見ても言い逃れのしようが無いくらいに警官だった
神田、と自称した男はひとしきりまくし立てた後に、床に倒れた男を見下ろす


「ご安心を、先程の女性黒服は撤退しました」

――!? この男、何故それを!?

「しかし新たな問題が差し迫っていますですね
 過激派が第三次包囲作戦を展開するようです
 ほら、皆様お馴染みの、あの音が聞こえますでしょうか」

男の眼が見開かれた
テクノ的な音響をまき散らしながら、しかし着実に此処へと近づいてきている
あの音は忘れもしない、名前を書いたら主に著作権関係で抹殺しにくる、あの連中のパレードのBGMでは無いか――!

「まさかこのタイミングで『夢の国』が南区にやって来るとは誰も思って無かったでしょうね
 ほら、貴方もお早くお逃げなさい。命が惜しければ逃げることです。『いのちだいじに』とはよく言ったものです」

「それは出来ん! 俺はここでやらなければならんことが――」

「ご生憎ですが、貴方が落ち合おうとしていたお医者は過激派の黒服に処理されました
 『インフルエンザは地球外のウィルス』に対する抗ウイルス薬、ですか
 『組織』的には入用の筈ですが、どういうことでしょうね
 ちなみに、先程貴方を蹴り飛ばしたあの女性黒服も過激派所属です
 お医者を保護しようとしたらしいですが、もう一歩で間に合わなかったようですね」

警官は一旦そこで言葉を区切った

「貴方だって元黒服でしょう? しかし過去の作戦で見捨てられ、IDを抹消され、
 それでも『ウイルス』に冒された、大切な誰かを助けようとした――そうでしょう?
 しかし今回はもう無駄です、諦めてお早く逃げることです。次の機会に賭けることです
 『いのちだいじに』――ですよ」


「貴様……何故それを」

「ふっふっふ、私は『思考盗聴警察』――
 運が良ければまたお会いしましょう
 それでは元黒服の紳士殿、ご機嫌よう」

不意に警官の姿が、まるで大気に溶けるかのように消滅してしまった
これは、一体どういうことなのだろうか――?

男はややあって身を起こした
いつの間にか、体は動かせるようになっていたようだ
それにしても、先程の警官、まるで己の心の内を全て知っていたかのような口振りだったが――

男は頭を振った
奴は「思考盗聴警察」と名乗った
つまりはそういうことに違いない

パレードのBGMが大きくなっている
『夢の国』がそこまで近づいてきているのだ
それなりに腕に覚えがあるとはいえ、相対して決して勝てる規模の相手では無い

男は立ち上がった
一刻も早く此処から去った方が良い
落ち合う約束だったはずの医者は死んだ――あの警官はそう言っていた
裏付けが欲しい所だがすぐ近くに『夢の国』が居るとなれば、話が変わってくる
男はここで失敗し、死ぬわけにはいかないのだ


オフィスの入り口のドアを蹴破ると、男は足早にその場を去って行った
ガラス窓が破壊され激しい雨が侵入してくるオフィスには、外部からの照明と一際大きくなったパレードのBGMも流れ込んでくる
ちなみに、入口のドアの脇には「シャドーマンの人、ルートさんのネタ借りましたorz」と書かれた貼り紙が湿気に満ちた大気に揺さぶられていたのだが
あの男には知る由もない





かの悪名高き「夢の国」が倒される、丁度一年前の晩春の出来事である

誰かが過去編をどうのと言った気がしたので
満を持して思考盗聴警察初登場

しかし女黒服とこの男の都市伝説書けてないぞ
これはまた書かないといけないフラグか

                  「氷肌玉骨にして熱血の少女」
こんにちは、初めまして…。私は氷山 熔火(ひやま ゆうか)。ようかじゃないですよ。氷麗ちゃんのお友達、です…
自慢ではないですが氷のように透き通った肌をしている、とよく言われます。
火山みたいに煮え滾る熱い血をもっている、と自負しています。そんなどこにでも居ない女子高生、です…。何だろう、この自己紹介
熔火「今日も良い朝日です…。こんな日は早起きしてジョギングに限りますね」
私の毎朝の日課、ジョギング。毎日の運動は健康な身体を作ります
心なしか身体も暖まってきましたよ。ぽかぽかです…。さて、次はあの角を曲がって…

熔火「…っ!!」

角を曲がった私が見たものは。巨大なハンマーを振るう赤い人(?)と…
その傍らで真っ赤に染まる…血と青痣で赤と青に染まる氷麗ちゃんでした

熔火「あ」
その光景を見て、私の心に…怒りに火がつく
熔火「ああああああああああああ!」
私はいつの間にか高く飛び上がって…赤いハンマー使いにとび蹴りをかましていました
『がふっ』
熔火「あなた…てめぇよぉ! 私の氷麗ちゃんに何してんだ…このキチ●イハンマーがぁッ!!」
私は氷麗ちゃんを傷つけたこのゴミクズに馬乗りになり、殴る蹴るを繰り返す…絶対にゆるさねぇ!
熔火「死ね、死ね、死ね、死ね…! 地獄で侘びろ!」
『ぐふっ…がっ…み、ミタ、ナ…』
私は怒りに任せ…熱い気持ちに任せ、ハンマー使いをタコ殴りにする

そう、冷静さを失い、激情に任せて…攻撃を続けたんだ
だから私は。「既にこいつがハンマーを持ってねぇ」なんてそんな初歩的なことにも気づかず、気づけず。
故に頭上にハンマーが来ていることも察せずに…
『私をミタやツは…私のように真っ赤に染まれ!』
氷麗「あぶな…っ」
無慈悲に振り下ろされるハンマーを…遠隔操作で私の体を砕かんとするハンマーを、避けることも受け止めることも出来なかった。

私の体は。粉々に砕け散った…
ああ、畜生。頭に血が上ってた…この氷山熔火、一生の不覚だ…

目の前の都市伝説、『赤ハンマー』に手痛い、というか体中痛い打撃を受け、
血塗れになって痣だらけになっている私は白雪氷麗。ゲーム研究部の部員で、熔火ちゃんの友達…
紆余曲折あって、この『赤ハンマー』に襲われて、だから私は応戦した。
契約都市伝説『雪女』で応戦したわけだけれど。最初に不意打ちで一発貰ってしまったせいか、苦戦を強いられた
…そして結局、このザマ。惨め。『雪女』の方は雪だから大丈夫だったけれど…私は一歩も動けない
ああ、これはもう、終わったかな…
まぁまぁ楽しい人生だったわ。

「ああああああああああああ!」
と、目を閉じかけた私の耳に響く、私の目を覚ます声。熔火ちゃんの声だ
熔火「あなた…てめぇよぉ! 私の氷麗ちゃんに何してんだ…このキチ●イハンマーがぁッ!!」
熔火ちゃんは私に止めを刺さんとする『赤ハンマー』にとび蹴りを当てる
助けに来て、くれたんだ…
熔火「死ね、死ね、死ね、死ね…! 地獄で侘びろ!」
とび蹴りを当てて体制を崩した『赤ハンマー』に馬乗りになりつつ、殴る蹴るを繰り返しながら、罵倒する熔火ちゃん
少し言葉遣いが乱れているけど、私のために…あら?
さっきから『赤ハンマー』と呼んでいるが。
この都市伝説…“ハンマーを持っていない”…? さっきまでは持っていたのに…?
氷麗「……!」
上を見上げると、熔火ちゃんの上には『赤ハンマー』がもっていたハンマーが。
こいつ、ハンマーの遠隔操作もできたの…!?
『私をミタやツは…私のように真っ赤に染まれ!』
氷麗「あぶな…っ」
咄嗟に危険を知らせようと声を上げたときにはもう既に遅く。
鮮血で真っ赤に染まったハンマーは、無慈悲に容赦なく振り下ろされ。
熔火ちゃんの身体は、肉体は。
粉々に
砕 け 散 っ た …
私の、せいで。私がもっと早く、気づいていれば…

『くひっ…ははははは! わわ、私を見るからこうなるのよ…!
さて、少し邪魔がはいっ、入っちゃったけど…』
振り下ろしたハンマーを携え、『赤ハンマー』が私にゆっくりと近づく。
粉々に砕け散った熔火ちゃんの身体を間近で見ていた私は、当然茫然自失になっていたので
そのさまを目を虚ろにして眺めている。
『つつつ次はああ貴方よ…! わた、私みたいに真っ赤に染まりなさいいいい!』
ハンマーが私に振り下ろされる。
当たったら死ぬだろうけど…友達も守れなかった私に生きる価値など既にない。
だから…
『雪壁…』
…? 既に私の頭はハンマーで潰されているはずなのに、私の頭はしっかりと形を保っている。
というか、何時までたってもハンマーが落ちてこない。これはいったい…?
『まったく、氷麗ったら…今の攻撃は避けられたでしょう?』
私の契約都市伝説、『雪女』が雪で壁を作り、ハンマーを受け止めていた
赤槌『くっ…』
雪の壁を砕こうとしている『赤ハンマー』だが、苦戦しているよう…
氷麗「どう…して…?」
私は自分の傷口と血液を凍らせて応急処置しながら、『雪女』に尋ねる。
雪女『どうしてって…決まってるじゃあないですか。都市伝説が契約者を守るのは当たり前ですよ?』
氷麗「違う…」
そうじゃない。そんなことを聞いてるんじゃない。
雪女『え?』
氷麗「私が聞いてるのは、それが出来るのならどうして…熔火ちゃんを助けてくれなかったのか、ってこと…」
雪女『………』
しばらくの沈黙の後、雪女は口を開いた――いや、雪の壁を作ってハンマーを受け止めている雪女は当然向こうを向いているので、
私からは雪女の口元は見えないのだが、声がしたという理由からそう判断しただけなのだが
雪女『…できなかったんですよ。私も、ギリギリまであの赤ハンマーがハンマーを遠隔操作していることに気がつかなかった…気がつけなかったんです。
だから間に合わなかった…。その時は私の体も砕かれていて雪の量が足りなかったから、そこまで届かなかったんです…ごめんなさい』
申し訳なさそうに『雪女』は言う
氷麗「……いえ、貴女のせいじゃない。私が、もっと早く気づいていれば…。
もっと早く察していれば、あの子は攻撃を受けずに済んだ。
熔火ちゃんは、死なずに済んだのに…」
……めったに感情をもらすことがない私の目から、雫が落ちてくる。頬が濡れて、止まらない
雪女『え?』
と、『雪女』は驚いたような声を上げる
雪女『何を言っているんですか? 氷麗。あの子、熔火さんはまだ死んでいませんよ?』
え?
氷麗「……え?」
そんなわけない。そんなはずはない。私の目に焼きついて離れない。だってあの子はハンマーに叩き潰されたんだから
動くことも助けることも出来ず、無残にあっけなく圧死したんだから。
赤ハンマーに真上から叩き潰されて、
氷麗「粉々に、砕け散ったんだから」
………ん?
あれ?『粉々』?
『粉々に砕け散った』…?
待てよ、待てよ…おかしくないかしら?
『ぐちゃぐちゃに潰れた』なら分かる。けど、人間が…脊椎動物が、
氷麗「ハンマーで叩かれて粉々に砕け散るなんて、ありえない…」
そう、私の親友熔火ちゃんは、まるでガラスのように――薄氷のように、割れて砕けてしまったんだ

雪女『…ああ、そろそろ限界です…ね!』
とうとう雪の壁が破壊される。しかしそれを破壊したハンマーの勢いも殺され、つまり仕切りなおしの状態になったわけだ
赤槌『ああ…恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしいッ! 顔から火が出そうだわ…だから叩き潰す!』
と、ハンマーを『赤ハンマー』の顔面に、氷の弾丸が飛んでくる
赤槌『…え?』
「これで冷えました?」
弾丸が飛んできた方向から聴きなれた声がして、そこに見慣れた少女の姿が
…あの位置は、雪女の雪が積もった場所で…そして何より。

熔火ちゃんが、砕かれた場所…
雪煙が晴れ、影の正体が露になる。そう、そこにいたのは、やっぱり…

熔火「ありがとうございます雪女さん…お陰で、頭が冷えました」
まるで、あの時の破壊が無かったかのように。氷細工のように美しい少女が佇んでいた
赤槌『お前、は…! さっき確実に殺したはず…このハンマーで!
まさか、まさか私がしくじったとでも言うのか!? ああ恥ずかしい! 私がハンマーで仕留め損ねるなんて…!』
熔火「いえいえ、確かにしっかり砕かれましたよ、私は…。だけど残念なことに、私は砕かれたくらいじゃ死にません」
熔火ちゃんは赤ハンマーを指差しながら、ポーズを決めて、次の言葉を言い放つ
熔火「恥ずかしさで焼けてしまいそう? だったら安心してください。この私、氷山熔火の熱血で、貴女の頭を冷やして差し上げ…」
氷麗「熔火ちゃん!」
良かった。良かった。良かった…熔火ちゃんが生きてて、良かった……!
私は思わず、熔火ちゃんに抱きついていた
熔火「~///」
……ん? あれ? 熔火ちゃんから湯気が出てる? というか熔火ちゃんがどんどん痩せていってる?
熔火「駄目ッ…です氷麗ちゃん…こ、こんなところで…!」
雪女『……』
氷麗「え? な、何? どうしたの熔火ちゃん!? 大丈夫!?」
熔火ちゃんはなぜか顔を赤くしているし、雪女は冷ややかな目でこちらを睨んでいる。どうしたのかな…
よく分からないけどこのままではまずいと思ったので、熔火ちゃんから身体を離した
すると熔火ちゃんはしばし残念そうな表情をした後、自分の頭に手を当てる。すると熔火ちゃんの顔の赤みが消え、湯気も出なくなった
熔火「氷麗ちゃんにこんなところで抱きつかれるなんて……頭がフットーしちゃったよおっっ…」
氷麗「沸騰しちゃったの!?」
大事件だ。でも一体どうしてそんなことに…
雪女『氷麗、貴女はハーレムラノベの主人公ですか…?』
相変わらずの冷ややかなジト目で、雪女は私に言う
氷麗「え? ハーレムラノベに喩えるなら私はヒロインその3あたりだと思うんだけど」
クーデレポジション的な。自分で言うのもなんだけれど……最近はメインヒロインってことも多いのかしら。

熔火「こほん。では気を取り直して…。
『赤ハンマー』。私のこの煮え滾るような熱血で、貴女の頭を冷やして差しあげます……!」
どうやら立ち直った様子の熔火ちゃんは、律儀に待っていてくれた『赤ハンマー』に向き直り、ポーズをキメながらそう言った
赤槌『やってみなさい。貴女が私をどうこう出来ると思っているなら、そのふざけた幻想ごと叩いて打破して壊して砕いて、潰してあげる…って何言わせんのよ!』
顔をより一層真っ赤にしながらハンマーを構えつつ熔火ちゃんに飛び掛ってきた。照れるならやらなければいいのに…
熔火「『封氷被鎧(アイスタンク)』」
熔火ちゃんは身体に氷を鎧のように纏い、ハンマーを受け止めてしまう。もしかして、これが熔火ちゃんの契約都市伝説…? 氷を操るタイプの都市伝説は結構あるけど…
赤槌『くっ…硬い! ならば私も…「落槌注意(フリーフォール)」…ってどうしてさっきから私に恥ずかしい台詞ばかり言わせるのよぉ!』
熔火ちゃんの上空にハンマーを転送する『赤ハンマー』。そのハンマーは重力に従い、熔火ちゃんの頭上へ落ちる…咄嗟に避けようとする熔火ちゃんだったが、間に合わず、ハンマーは熔火ちゃんの頭部を砕く…
赤槌『ふんっ。口ほどにも無いわね。私を辱めるからそうなるの…え?』
頭部を砕かれたはずだが、見ると熔火ちゃんの首から上がどんどん凍っていき、頭が完成すると元の熔火ちゃんに戻った
熔火「今のは…痛かったですよ?」
赤槌『っ!! どうして!? 貴女それでも人間なの!?』
熔火「ええ、勿論人間ですよ。それにさっき言ったでしょう? 私は砕かれても死なないって」
何これ、私の応急処置なんか目じゃないくらいの再生能力…「氷で肉体を修復する」それが熔火ちゃんの能力!? それならさっきの雪女の発言にも合点がいく…!
ん? 「氷で肉体を修復する」? それってもしかして…じゃあ熔火ちゃんの契約都市伝説ってまさか…
氷麗「『ハボクック』…?」
私がぼそりと呟くと、『赤ハンマー』は何かに気が付いたように表情を変える
赤槌『「ハボクック」…!? まさか、貴女の契約都市伝説は「氷山空母」!? 計画のみに終わった、氷で出来たイギリスの航空母艦! 氷で出来ているから、「水さえあれば凍らせて損傷を補修できる」というあの…!』
熔火「おや、なかなか鋭いですね二人とも。ええそうですよ。私の契約都市伝説は『氷山空母』。私の身体は氷で出来ています」
雪のような美白と、氷のように透き通った肌を持つガラス細工のように美しい氷肌玉骨の少女、氷山熔火。けれどまさか、本当に肉体が氷で出来ていたなんて…!
熔火「だから私は冷気で空気中の水分を凍らせることが出来ますし…身体が砕かれても凍らせればすぐに元通りです。空中の水分の凍らせ方を工夫すればこんなことも出来るんですよ…?
食らいなさい、氷の巨砲、『銃凍砲(クレバスカノン)』!」
熔火は器用に氷の大砲を作ると、そこから氷の砲弾を飛ばす
赤槌『その程度!』
しかし『赤ハンマー』はそれを難なく打ち落とし、叩き壊す
氷麗「…! 『雪女』、私たちも…!」
雪女『はいはぁーい♪』
氷麗「『寒射寒撃雨霰(サンキューブリーザード)』!」
広範囲にわたって吹雪や霰を発生させ、敵にぶつける技『寒射寒撃雨霰』。本来なら味方も巻き込んでしまう諸刃の剣だけれど、私の読みが正しければ…
熔火「そう、その通り…氷で出来ている私にとって、吹雪は寧ろメディアラハンです!」
ベホマズンではなかった。ケアルガでもなかった。熔火ちゃんはどうやらメガテン派らしい…
…と、いうか。私今までこういうのに名前つけたこと無かったんだけど。これはまさか、熔火ちゃんのペースに乗せられてる…?
幼馴染ながら恐ろしい子…!
赤槌『ぐっ…吹雪で前がよく見えないわ…! だがっ』
『赤ハンマー』のハンマーが長く伸び、先端の鈍器が反対側にも出現する。そして彼女は、それを高速回転させた
赤槌『「回転木槌(ハンマーゴーランド)」! 』
すると扇風機のように――扇風機以上の強風が、暴風が発生し吹雪を吹き飛ばした
吹雪が晴れれば視界も開ける。視界が開けば当然――
赤槌『また私に恥ずかしい台詞をォォオオオオ!!! 死ね! 血に塗れて赤く染まれぇ!!』
高速回転するハンマーを瞬間移動を利用して『射出』する! そのハンマーは真っ直ぐ私の方に――
『くひっひ…そっちの『氷山空母』の契約者には効かないだろうけど、貴女には十分有効でしょう――だから先に片づけてあげるわよぉ!!!』
この速度――しかも遠隔操作が可能……避けるのは不可能ね。雪の壁でガード? いや、この回転では破壊されてしまうでしょうね…
その前に本体を倒す? ……いえ、さすがに間に合わないわ。一体どうしたら――
熔火「これ以上氷麗ちゃんを傷つけさせない……!」
すると私の目の前には熔火ちゃんの背中が。熔火ちゃんが身を挺して守ってくれた……
赤槌『くっひひひひひひひ……!』
『封氷被鎧』を展開し、回転するハンマーを受け止める熔火ちゃんだったが、しかし当の赤ハンマーは「笑っていた」。これは、嫌な予感……
赤槌『ひっ、引っ掛かったわねぇ! 必殺……鬼殺し火炎ハンマー!』
やはり予感は的中した。赤ハンマーの高速回転するハンマーが火を放ったのだ。摩擦によるものか、都市伝説の力かは定かではないけれど――
でも、熔火ちゃんの身体は氷……! 氷タイプに炎技は「こうかばつぐん」……つまり!
熔火「くっ……氷の私に対しては、炎による攻撃が有効……!」


「……とでも、思っていたんですか?」
炎のハンマーを受けて体が溶けているが、余裕そうなセリフを吐く熔火ちゃん。……強がりとかじゃ、ないよね……?
熔火「そんなに熱いのが好きならあげますよ……飛びっきりに熱いやつをね! 『指火山(マグマズルフラッシュ)ッ!』」
熔火ちゃんは指を銃のように構えると、指先から弾丸を飛ばしました。……マグマの。
赤槌『ああああああああああ!!!! 熱い熱い熱い熱いッ!!!
こ、氷使いじゃなかったの!? 多重契約者……しかも高温と低温、真逆の能力だなんて!』
確かにそうだ。氷とマグマ。高温と低温。凍結と燃焼。全くの真逆の能力――これらを同時に扱うのは非常に難易度が高く思える
熔火「まぁ、確かにこの二つの能力――高温と低温同士折り合いをつけるのは苦労しましたけどね」
赤槌『何なんだ、この能力……! 名前からしてマグマ……『ペレ』か?『ヘーパイストス』か? 『ミノア噴火』か?
くっ……! か、顔が焼ける……! 熱い熱い熱いッ!』
顔を押さえながら狼狽える『赤ハンマー』。熔火ちゃんのファインプレーだ
赤槌『い……いや、そうね。どんな都市伝説かなんて重要じゃない……それに、私の顔が焼けるように熱いのなんていつものことじゃないか……
最初から、恥ずかしさで……顔から火が出そうなんだか、ら!』
誰かと会話しているのか、あるいは自分自身に語りかけているのか――どちらにしてもともかく、赤ハンマーは冷静さを取り戻したようだ。
いや、冷静さというのは正確ではないと思う。羞恥心に苛まれているのだし。
まぁ、とにかく調子が戻った赤ハンマーは、やはりハンマーを飛ばしてきた。私に向かって
赤槌『あんたを狙ったところでそこの二重属性女が守ってくるんでしょう。だったら――そっちから壊すまでよ』
……ではなく、そのハンマーは熔火ちゃんに向かって飛んでいた
熔火「無駄ですよ。打撃だろうと斬撃だろうと炎だろうと氷だろうと、私に物理攻撃は通じません!」
『氷山空母』の能力によって、氷の鎧を身にまとい、ハンマーを受け止める熔火ちゃん
赤槌『――かかったわね?』
しかし、その瞬間、赤ハンマーの口角がにやりと上がった
熔火「んぐ……ああああああああああああああああ!!!」
すぐに熔火ちゃんの悲鳴が聞こえる。どういうこと? 熔火ちゃんに鈍器は通じないはずなのに……!
赤槌『ビンゴ。やっぱりね。いくら氷でできていようと所詮人間。電気を流せば痺れるわ。
名付けて「雷神の鉄槌(トールハンマー)」……じゃないわよ私! 何名づけてんのよ! ああ恥ずかしい恥ずかしい! 』
顔を真っ赤にして騒ぐ赤ハンマー。でも、それどころではなく、熔火ちゃんは電撃を浴びている。
確か『氷山空母』は海水を使用することを前提に作られているし、強度の関係上パルプが混じっている。
混じりけのある水は、特に海水は電気をよく通す――つまり電気は効果覿面っ!!
赤槌『さて……厄介な壁役を封じられたし、貴女だけなら余裕よ。傷口は凍らせてある程度処置したみたいだけど、
それでも打撲や骨折まではどうしようもないでしょう……? ただでさえ一度ぼこぼこにした相手、満身創痍とあれば、ねぇ?っと!』
そう言いながらハンマーを飛ばしてくる赤ハンマー。その通りだ。一応動くことはできるとはいえ、この身体では満足に動けない
氷麗「それはどうかしらね……『雪女』!」
雪女『いえす、まむ!』
何故か軍隊みたく返事した雪女は、能力で猛吹雪を生み出す――攻撃力よりも、視界を奪うことに重点をおいた吹雪を。
そして吹雪に紛れてハンマーをかわす。……『雪女』に手伝ってもらって。
赤槌『くっ……またしても! み、見えない……!』
さて、この状況、はっきり言ってどうしようもない。だから一時撤退だ。私達は吹雪に紛れ、その場を離れた。
そして、吹雪が止む。吹雪が止めば、視界も晴れる
赤槌『ん……? あいつらはどこに行った? 逃げたのか……おや』
何かを見つけた様子の赤ハンマー。いや、見つけたのは何かではなく誰か。具体的には熔火ちゃんだった
赤槌『おやおや。随分と薄情なお友達じゃないか。私のハンマーで痺れたこいつを置いていくなんてさぁ。じゃ、止めと行くわよ――』
先ほどの『雷神の鉄槌』を、今度は手に持ったハンマーから直接電撃を流し込んで行う赤ハンマー
赤槌『死になさい!! 感電死させた後で、たっぷり真っ赤に染めてあげ………!?』
「『噴火の魔剣(ヒートソード)』。そんなに真っ赤なのが好きなら、真っ赤な炎で焼いてあげますね?」
しかし、その瞬間、赤ハンマーは背後から燃え盛る剣で刺されていた。貫かれていた。そう、これは勿論――

赤槌『二重属性女……! な、何故……!? 確かにあなたは目の前で倒れて……!』
熔火「ああ、ごめんなさい。それ、偽物なんです」
氷麗「私が氷で作った、ね。私だって多重契約くらいしてるのよ?」
赤槌『多重契約者――貴女もか! いったい何の都市伝説……ぐふっ』
ただでさえ赤い身体を、鮮血と炎で赤く染めながら赤ハンマーは言う。
赤槌『さっきの剣、芯はマグマだった……それに氷で人を作る能力……この都市伝説は
……いや、どうでもいいわね。こうなったら切り札を切らせてもらうわよ――打撃だけどッ!』
血を吐きつつ、恥ずかしいと言いながらハンマーを飛ばしてくる赤ハンマー。一見すると、ただのハンマーだけど……これが切り札?
熔火「氷麗ちゃん、危ない!」
身体がぼろぼろになっている私は、ただのハンマーでも十分に危ない。なので、熔火ちゃんは私をかばった。
かばって、ハンマーを腕に当て、『氷山空母』の力で弾いた。
熔火「ぐはっ……!?」
その瞬間、熔火ちゃんの背中から胸にかけて、焼けたような穴が開いた――そう、丁度そこの赤ハンマーと同じように。
氷麗「……! あ、貴女……! 熔火ちゃんに何をしたの……!?」
赤槌『く、くふ、くっふひひひ……き、決まったみたいねぇ。私の切り札、「偽り写し記す大槌(ヴェルグ・アヴェスター)」ってね……。
私は「赤ハンマー」として当たり前のことをしただけよ……あの女を、私と同じようにした』
氷麗「ま、まさか……!」
赤ハンマーは、出会った相手を『ハンマーで殴り』、『自分と同じように』真っ赤にしてしまう現代妖怪。
まさか、この『ハンマーで殴る』という部分と、『自分と同じようにする』という部分を拡大解釈して……!?
赤槌『その通り……ハンマーを当てた相手に、自分の今のダメージと状態異常を写す。これが私の切り札よ……ぐふっ』
血を吐きながら、不気味に笑いながら、赤ハンマーは言う。
熔火「そんな……さっきから何度も氷で補修してるのに、傷が塞がらない……!」
そういえば、赤ハンマーの方に気を取られて、惨状の方に気が行って、気が付かなかったが、
よく見ると熔火ちゃんの胸部から滴り落ちる血は、何だが煮えたぎっているように見える。
いや、さらによく見るとこれは――マグマ?
赤槌『へぇ。そこの女、体は氷で出来てるのに血液はマグマなのね……ぐふっ。まるで、火山、だわ……
ねぇ、私も種明かししたんだし――教えてくれてもいいんじゃない? 貴女たちの、二つ目の契約都市伝説……げほっ』
氷麗「『つらら女』。雪女と近縁種、もしくは同一とされる妖怪」
熔火「ごほっ……ちぇ……『チェルフェ』……ですよ。チリの火山に住む、岩と炎で出来た怪物です……ぐふっ」
情報1に対し、2では割に合わない――とも思ったけれど、ここは素直に答えておいた。
別に隠すほどのことでもないし。
しかし、赤ハンマーの傷口が開くのと、悪化するのと比例するように――同調するように、熔火ちゃんの容体も悪化しているようだった。
まぁ、同じ傷なのだから当然か。……しかし、その悪化も『氷山空母』で治せないところを見ると、本家本元の『偽り写し記す万象』より使い勝手がよさそうだ。
赤槌『貴女たちにはこっぴどくやられたけれど――それでも私と同じにできた。
叩き潰して、真っ赤に塗りつぶせた。……だから、今回はこのあたりで満足しておきましょう。
でも、覚えておきなさい――』
血まみれで、息も絶え絶えに、生まれたての――死にかけの小鹿のように、赤ハンマーは捨て台詞を吐いた
赤槌『次は勝つ。完膚なきまでに潰す。叩いて潰して塗りつぶす。真っ赤に深紅に紅蓮に――鉄槌下して塗り上げる。
首を洗って待ってなさい。腕を磨いてまた来るわ』
流血に慣れたのか――あるいは、都市伝説ゆえか。先ほどと打って変わって、途切れることなく言った。
そして、一呼吸おいて、
赤槌『それじゃあ、また会いましょう……って、何格好つけてるのよ、私! 負けたくせに! 最後のも一矢報いただけだし(ハンマーだけど)、
結局2つ目の都市伝説の謎解きは諦めちゃったし――格好つけられる要素がないでしょう!
何を大物ぶってるのよ、恥ずかしい恥ずかしい恥ず…………』
と、ただでさえ赤い顔を一層紅く染めながら、騒いでいた、喚いていた赤ハンマーは突然にも、忽然と姿を消してしまった。
文字通り跡形もない――ほかの誰かに消滅させられた、とは考えにくいだろう。それならばもっと反応していいはずだ。
少なくともただで不意打ちでやられるような都市伝説ではない――そう言い切れる。そのくらいには強かった。
氷麗「空間移動系、かな……」
私の部活仲間であり、同級生であるところの、任天堂寺君――彼の契約都市伝説、『ゲーム脳』を思い出した。
これは敵による攻撃でなく、避難、逃亡であると考える。彼のそれと同じ、もしくは似た、『空間移動系』――あるいは、『異空間生成系』の能力であると推察した。
でも、赤ハンマーにはそんな逸話ないわよね……。もしかして、あの赤ハンマー……
と、思案する私だが、その思考は強制的に中断させられることとなる。

熔火「つ、ら、ら、ちゃーん!!!」
氷麗「ぐえっ」
ぐえっとか言ってしまった。乙女チックの欠片もないし、女子力なんて微塵もなかった。
でも許してほしい。傷だらけの肉体に、自分と同じくらいの身長、体重の女の子が飛びついては、こんな声も出ようというものだ。
え? 何キロか、ですって? 女の子にそういうことを聞くものじゃない――と、取ってつけたような女子力を発揮しておきましょう。
熔火「無事でよかったよー氷麗ちゃん! 心配したんだからね! 痛くなかった?」
痛いのは今だし、無事でよかったも心配したも私の台詞だ。
氷麗「それは私の台詞だよ――本当、死んじゃったかと思ったんだから。
ああ、そういえば――もう大丈夫なの? さっきの傷……」
熔火「ええ。どうやら永続するタイプの呪いじゃないみたいですね。あるいは射程外に出たのかも」
氷麗「へぇ……。それにしても、ハンマーの遠隔操作までならまだしも、発火や発電、伝説を拡大解釈、曲解した呪いに、そして最後の消失マジック。
私にはどうも、あの都市伝説が……『赤ハンマー』が、野生の都市伝説とは思えないのよね」
熔火「確かにそこは私も気になっていました。おそらく契約者持ち――それも、多重契約者だと思いますよ」
炎までならギリギリ曲解と言えなくもなさそうですけれど、発電や消失までとなると、ね……
と、熔火ちゃんは言った。直情的で情熱だが、冷静で思慮深いのが彼女、氷山熔火ちゃんなのだ。
その矛盾した人間性こそが、性格こそが、あのつじつまの合わない二つの都市伝説――低温と高温、『氷山空母』と『チェルフェ』を同時に扱える理由だろうか。
気になったので、私は熔火ちゃんに聞いてみた。
すると、別に隠すほどのことでもなかったらしく、
熔火「そうですね。私が先に契約したのは『氷山空母』の方ですけれど、この二つの都市伝説。
『氷山空母』と『チェルフェ』――氷の体と熔岩の血液。氷を融かすマグマと、マグマを固める氷。
この二つに折り合いをつけるのは、相当苦労しました。
折り合いをつけられたのは、私の性質のこともありそうですけれど――もう一つの、3つ目の契約都市伝説も、理由の一つ、きっかけの一端でしょうね」
一呼吸置き、
熔火「『マクスウェルの悪魔』――熱力学第二法則のエントロピー増大則に逆らう、化学の悪魔。温度差を生む都市伝説。それがあったからこそ、ここまでうまく馴染んだんだと思います」
計画中止に終わった兵器に、火山のUMAに、思考実験――性質どころか種類も違う、3つの都市伝説を同時に操るだなんて。
親友ながら恐ろしい。
氷麗「熔火ちゃんはすごいなぁ……私の契約都市伝説は、みんな似通ったものなのに」
冷気を操る『雪女』、氷を人間に変える『つらら女』。似通ったというか、同じといってもいいくらいだ。
熔火「氷麗ちゃんもすごいですよ。似たような2つの都市伝説から、全く別の能力を解釈するなんて……格好いいですよ」
格好いいと言われるほどのことでもないと思うが、しかし褒められて悪い気はしない。
否定しないのは熔火ちゃんらしいと思ったし、女子に対して格好いいはどうかとも思ったけれど。
氷麗「くすっ……ありがと」
私は小さく微笑んで、素直にお礼を言った。
熔火「つ、氷麗ちゃん……」
熔火ちゃんの頭から湯気が出た。……顔が若干赤い?
扱えてると思ったけれど、扱い切れてないのかしら?
雪女『鈍いですね……心まで氷柱ですか、貴女は』
と、ひどいことを言う『雪女』のことは無視した。私にだって感情くらいある。
名前は氷柱だが、心は雪解け水だ。
熔火「あ……あの……その……」
どうやらもじもじしている様子の熔火ちゃん。花を摘みに行きたいのか――と聞くほど、私はデリカシーに欠けてない。
花も恥じらう乙女なのだ。さりげなく行かせてあげるべきだろう――
熔火「その……今から一緒に、お食事、行きま、せんか……?」
氷麗「そんなにかしこまらなくても、改まらなくても、もちろんOKよ」
友達なんだし、顔を赤らめながら、もじもじしながら言う必要はないと思うのだけれど。
まぁ、改めて誘うのも小恥ずかしいということなのかな?
氷麗「じゃ、行こうか?」
と、私は熔火ちゃんの手を引いた――すると、じゅっという音と共に、熔火ちゃんの頭が消滅した。
というか蒸発した――全然制御できてない。仕方ない子ね……
氷麗「もう……折り合い付けたんじゃなかったの?」
私は氷麗ちゃんの頭に――頭だった位置に手をかざして、冷気を放った。
冷気を操れるのは何も『雪女』だけではないのだ。
熔火「あ……ありがとうございます」
頭部は氷に戻ったが、目はまだとろーんとしている。まぁ、そこは自分でどうにかできるだろう。
瞬きとかすれば。
氷麗「しっかりしてよね……大好きな熔火ちゃんが蒸発しちゃったら、すっごく悲しいんだから」
涙腺も表情筋も固い私も、大声で泣き喚いちゃうわよ。そんな格好悪い真似、させないでよね。そう言った。
熔火「あ、あぅ……」
またもや真っ赤になって湯気を出してる熔火ちゃんだが、流石に高校生にもなってあぅ……はないでしょ。
ライトノベルか。
そういうのが許されるのはフィクションだけだと思うが、まぁ可愛いのでよしとした。
氷麗「それで、どこに行こうか? 満身創痍だけれど、まぁ、傷をいやすためにもデートと洒落込みましょうか」
その後、食事に行くまでに何度も熔火ちゃんの頭部再生に手を焼いた――冷やした。
まったく、本当に……熔火ちゃんは、私がいないと駄目なんだから。



                      続く

久しぶりの投下です。
みなさん乙です!
マリオっぽい人のの契約都市伝説がそのまま『ゲーム脳』だったとは……てっきり『マリオはキノコ中毒患者の妄言から生まれた』とか、そのあたりだと思ってました
思考盗聴警察格好いい!

ソニータイマーの人乙です
不足していた百合成分を補充することができました
赤ハンマーさんノリいいですね

約2ヶ月ぶりの本編です(チビに時間かけすぎた……)
このペースだと終わるの何年後になるんだろう……

 あの日の彼の姿を今でも覚えている。
 倒れ伏した『人面犬』達の中央に立つ彼の姿を。
 今まで見た誰よりも勇ましい顔。
 どこまでもまっすぐな瞳。
 ヒーローという言葉がピッタリ合う少年だった。
 彼は、『人面犬』達が消えると私に手を差し伸べた。
「立てるか?」
 その手を私は握り返さなかった。
 恐怖で竦んだ足に無理やり力を入れ立ち上がる。
「……ありがとう」
 潤った瞳で彼を見つめそう言った。
 1滴も涙を零さずに。
 こうして、力に怯えていた私は力を求める者になった。

 師匠、私にはそう呼べる人間が1人いる。
 その人は、空手道場の師範で、私はそこの元門下生だ。
 彼女は、私の何十倍いや何百倍も強く、とてもかっこいい。
 だから、私は彼女を師匠と呼び、尊敬している。
 ……だけれど。
「セイヤッ!」
「エイッ!」
「セイッ!」
「エイヤッ!」
「ソリャ!」
「ソリャッ!」
「トリャッ!」
「ヘイヤッ!」
「ハイヤッ!」
「オリャッ!」
 久々に道場に顔を出してみたら、いきなり10人纏めて組手しろというのは酷いと思う。


「今日こそ死ね!!」
 とんでもない暴言を吐かれながら、同期の女子から左ジャブを放たれた。
 それを、私は咄嗟にスリッピング・アウェーで躱し、お返しとして前蹴りを腹部に叩き込む。
 彼女は、苦痛の表情を浮かべそのまま倒れる。
 すると、今度は右方向から後輩の女子がタックルを仕掛けてきた。
 それに対し、私は彼女の背中に向けジャンプをした。
 彼女の背中を踏み台としてさらに高く飛ぶ。
 そのまま、体操選手のように空中で1回転し着地する。
 後輩の男子の頭の上に。
 彼は、私の重みに耐えきれずに、バランスを崩しそのまま前へと倒れこんだ。
 そこへ、ヌンチャクを振り回しながら同期の男子が突っ込んできた。
 ……いつものことながら、カオスな道場だ。
 まあ、師匠の方針が何でも有りだから当然なんだろうけど。
 ヌンチャクを奪い取り、相手の体に叩き込みながら、懐かしさを感じた。
 中学生までは、ここに週5~6のペースに通っていたから当然だろう。
「くそっ! 先輩はブランクがあるはずなのに全然攻撃が通らない!」
「落ち着け! 焦っても何の解決にもならない!」
「落ち着けるわけ無いでしょ! 私を含めてあと4人しか残ってないのよ!」
「喚くな、ここは俺が行く」
「なっ! あんただけで行ったて勝てるわけが」
「なに、一瞬の隙くらい作れるさ。その隙に、お前らが総攻撃を仕掛けろ」
 固まっていた4人の集団の中から、一人の男子が現れ私の前に立った。
 彼は、半身の構えを取り、私を睨みつけた。
「君は確かジークンドーもやってたっけ?」
「そうです、先輩。ちなみに、残りの三人は空手の他にそれぞれムエタイ・サバット・レスリングを使います」
「ああ、そうだったね」
 この街には、やたらと格闘技ジムや道場が多い。
 そのため、ここの他でも格闘技を習っているという門下生が多い。
 私は、空手しか習っていないけど。
 ちなみに、ここの道場はこの街の他のジムや道場と比べてもレベルが高いと思う。
「先程までは思わず圧倒されてしまいましたが、冷静になればいくら先輩といっても勝てない敵じゃありません」
「ふ~ん、そう」
 彼と話をしているうちに、周りを他の3人に囲まれた。
「覚悟を!」
 そう叫ぶと、彼は私へ向かって1歩踏み込んだ。
 だから、私は――。
「遅いよ」
「なっ!?」
 一瞬で彼の背後に回った。
「う、嘘!」
「そんな馬鹿な!」
「ありえない!」
「ありえるんだな、これが」
 ジークンドー君に、金的を叩き込むながら言った。
「さあ、次は誰かな?」
 残った3人に向け、歩を進める。
 後ろでジークンドー君が倒れる音がした。

「そこまで」
 平坦な声が、10人の門下生が横たわる道場中に響いた。
 声の主は、脇で腕を組んで佇んでいた師匠だ。
「ふ~、やっと終わった」
 思わず、一息をつく。
 来て早々これは、さすがに堪える。
 体中から汗も吹き出ているし。
「あ、あの」
「ん?」
 声のした方向を見てみると、そこにはタオルを持った可愛い女の子がいた。
 道場に通っていた頃には、見たことのない子だ。
「ど、どうぞ!」
「ん? ああ、ありがとう」
 差し出されたタオルを、感謝して受け取る。
 こんな細かい気配りができるとはよく出来た子だ。
 一通り、汗を拭き彼女にタオルを差し出す。
「ありがとね」
「い、いえ。あ、あの」
「何?」
「さっきはすごくかっこよかったです!」
 彼女は、大きな声でそう言い、頬を赤く染め俯いた。
 その動作一つ一つがすごく可愛い。
 というか、家に持ち帰って思いっきり甘やかしたい!
 まあ、さすがにそんな犯罪を起こす気はないはないので、せめて精一杯のお礼をしよう。
「じゃ、これお礼ね」
「え? へ!?」
 突然、頭を撫でられたことに彼女は驚いた様子だ。
 それに構わず、私は彼女の頭を撫でる。
「いやー、可愛いなー」
「か、可愛くなんかないです」
 さらに、彼女は赤くなった。
 うん、犯罪的なほどに可愛い。
 そのまま、数分ほど彼女の頭を撫で続けた。

「いい加減にしろ」
 撫で撫でを中止させたのは、頭部に直撃したチョップだった。
 めちゃくちゃ痛い。
「ちょっと痛いですよ、師匠」
 頭部をさすりながら、後ろを振り返る。
 そこには、いつものように無表情な師匠がいた。
 40過ぎとは思えないキメの細かい肌、化粧をしていないのに綺麗な顔立ちは何一つ変わっていない。
 髪型もショートカットのままだ。
「いいじゃないですか、ちょっとくらい。来て早々、こんな無茶な組手させられたんですから」
「いや、だいぶ余裕そうでしたけど……」
 誰かが、何か言ったような気がしたけれど気にしない。
「黙れ、あのくらい努力すれば誰でもできる」
『無理です!!』
 私以外の門下生が皆突っ込んだ。
「うるさい、文句を言っている暇があったら練習しろ」
 師匠がそう指示を出すと、皆渋々それぞれの練習に入った。
 師匠の言葉は絶対の権力を持つからだ。
 その風景を眺めていると、頭を軽く小突かれた。
 もちろん、師匠に。
「見てないでお前も練習しろ、輝」
「分かりましたよ、師匠。そういえば、拳次って今日どうしてますか?」
「あいつなら、朝飯の片付けをした後、すぐに山にトレーニングでかけたぞ。何か用でもあるのか?」
「いや、読みたがってた漫画本貸そうと思って。あ、師匠も読みます?」
「……ジャンルは?」
「料理漫画です」
「……ならいい」
 師匠は割と漫画好きだ。
 特に、少年漫画を好んで読む。
 けど、料理漫画は興味がないらしい。
「って、早く練習に入れ」
「はーい」
 他の皆と同じように、おとなしく指示に従って練習をすることにした。

「今日はここまで」
 師匠のその言葉に、道場中から吐息が漏れた。
 窓から漏れる光はもう茜色。
 すでに、皆クタクタだ。
「着替えたらさっさと帰って飯食って風呂入って寝ろ」
『はい!』
 その言葉に嘘はないだろう。
 皆の疲れた表情を見るだけでわかる。
「じゃあ解散!」
『おつかれさまでした!』
 その後、片付けが終わると、すぐに全員更衣室に向かっていった。
 私を除いて。
「師匠、この後ちょっといいですか?」
「……例の技か?」
「はい、それなりに使えるようになってきたので見てほしいんです」
「わかった、他の連中が帰ったら始めるぞ」
「はい」

 数時間後、道場から出ると夜空にたくさんの星が浮かんでいた。
「すいません、師匠。こんな遅くまで付き合ってもらって」
「別にいい」
 道着姿のままの師匠は、ただそれだけ言うと、話を変えた。
「そんなことより、もう夜も遅いし飯食ってけ。拳次の奴に用意させるから」
「じゃ、遠慮なく。……といきたいんですけど、今日は遠慮しときます」
「何か、予定でもあるのか?」
「まあ、いつもの通り母がちょっと体調崩してて……。できれば、一緒に夕飯食べてあげたいんです」
 本当は、今日ここに来ることも中止にしようと思っていた。
 けれど、母さんはそれを許してくれなかった。
 母さんが、自分のことで私を振り回したくないと思っているからだ。
 こんな日なのに、居残り稽古をしたのも、中途半端に練習を終わらせてくると、すぐに母さんにバレてしまうためだ。
「それに、拳次も急に私の分を作るとなったら大変ですし」
 苦笑をしながらそう言った。
 こちらは、取って付けた理由に過ぎない。
「……そうか」
 師匠は、私に背を向け家屋の方に向かって歩き始めた。
 その姿には、勇ましいという言葉がよく似合う。
「まあ、どっちにしても家には寄っていくんだろ」
「はい、拳次に漫画本貸さないとダメなので」
 師匠の一歩後ろを付いて行きながら、会話を交わす。
 前は、よくこうして師匠と話した。
 空手のことや、漫画のことや、拳次のこと等を。
 大抵、師匠はそっけない返事し返さない。
 けれど、私は知っている。
 短い言葉の中に、師匠なりに様々な感情を込めていることを。
 話をしていると、いつのまにか玄関の前まで辿り着いていた。
 そして、そこには見慣れた巨大な人影が。
「あ、拳次」
「……よう」
 腕を組んだ拳次がそこにいた。
 拳次は、師匠と目を合わせると溜息をついた。
「お袋、稽古で遅くなるなら教えてくれって前に言っただろ。飯すっかり冷めちまったぞ」
「別にそのくらいいい」
「俺が良くない」
「レンジを使えばいい」
「味が落ちるからできるだけ使いたくない」
「なら、今からまた作れ」
「……あのなあ」 
 ああ言えばこういう、その言葉がぴったりな光景だった。
 さすがの拳次も、母親である師匠には弱い。
「ごめんね拳次。私が師匠に居残り稽古頼んだから遅くなっちゃんたんだよ」
 罪悪感を感じ2人の会話に介入する。
 元はといえば、私の居残り稽古が発端となって起こった口論だ。
 黙って見ているわけにはいかない。
 すると、拳次は私のほうを向いた。
「別にお前は悪くない、練習熱心なのはいいことだろ。悪いのは、遅くなることを言わなかったお袋だ」
 拳次は師匠を睨む付けた。
「だから、別に冷めた飯でもいいって言ってるだろ」
「俺が良くない」
「じゃあ、自分で作る」
「お袋、捌くことと焼くしかできないだろ。しかも、野菜食おうとしないし」
「野菜なんて摂らなくても生きていける」
「若いうちはな。お袋も歳なんだから野菜摂れ」
「お前に心配されるほどやわな体じゃない」
「油断が危ないんだよ。爺さんの道場に通ってる藤原さんも偏った食事摂ってたせいで入院した」
「『血』の力でなんとかなる」
「『血』もそこまで万能じゃない」
 その後も、二人の口論は続いた。
 話がどんどん脱線していきながら。

「……すまん、輝」
 数分後、師匠との口論が終わったことで冷静になった拳次は僕に謝った。
 ちなみに、師匠は既に家の中に入っている。
「別にいいよ、1日ナダレを好きにできる権利をくれるな「最後の晩餐は何がいい?」すいません、調子に乗りすぎました」
 全力で謝った。
 遠まわしな脅しを拳次がする時はかなり怒ってるからね!
「……そういや、例の漫画持ってきたか?」
「ああ、それならこれだよ」
 肩にかけていたスポーツバックから漫画本を取り出し差し出す。
「はい、て○まんアラカルト」
 て○まんアラカルト、月刊マ○ジンに連載されていた料理漫画だ。
 個性豊かな主人公、斬新な調理方法、見ただけで美味しいとわかる料理の数々など、見所はたくさんあったのに残念なことに打ち切りになってしまった漫画だ。 
「この漫画、一流シェフが監修してるから出てくる料理の完成度が高いんだよ」
「ふーん」
「でも、一番の見所はね」
「ああ」
「幼女だよ」
「あ?」
「天満ちゃんっていう5歳の女の子が出てくるんだけど滅茶苦茶カワイイんだよ! お父さんの残したレストランを守ろうと頑張ったり、美味しそうに料理をほおばったりする姿がもっ最高! 萌え死ぬ! それと「黙れ」……ごめんなさい」
 ついついいけないスイッチが入ってしまった。
「まあ、とにかく面白いから読んでみなよ」
「ああ、そうする」
「……これで、拳次がロリコンへの第一歩を踏み出「さねえよ」ですよね~」
 予想どうりのツッコミだった。
 そんなことをしていると、突然玄関の戸が開いた。
 すると、私服に着替えた師匠が現れた。
「おい、拳次。もう遅いし、輝の奴家まで送ってけ」
「いいですよ、別に。もう高校生ですし」
「いいから、送られてけ。拳次、頼むぞ」
「わかった」
 こういうところは、息がぴったりの拳次と師匠だった。
「……分かりましたよ、おとなしく送られていきます」
 私がそう言うと、師匠はその答えに満足したからか、すぐに家の中に入っていった。

「拳次さ、最近元気ないよね」
「……そんなことはない」
「そんなことあるよ」
 街灯が照らす夜道を私と拳次は歩いていた。
 最近の拳次がどこかおかしいことを話題にしながら。
「ツッコミのキレがいつもよりないし、ドスも普段より利いてないし」
「判断基準がおかしいだろ、おい」
「ほら、いつもよりキレがない」
「お前な……」
 拳次は呆れた顔をした。
 ……本当は、もっとちゃんとしたおかしい点がある。
 たぶん、私や拳次の家族しか気づかないような些細な点だけど。
「話してみなよ、親友に悩み事を相談するのはお決まりの展開だよ」
「そんな展開望んでいない」
「私は望んでいる」
「……わかった」
 普段は、強情なくせに、こういう時は素直な拳次だった。
「実はな」
「うん」
 何とも言えない沈黙が生まれる。
 おそらく、よほど重大な話なんだろう。
 それから、少し経つと、拳次は重い口を上げた。
「……優の奴が俺に対して反抗期だ」
「シスコン乙!」
 直後、鈍い打撃音が周囲に響いた。


「……まさか、1日で親子両方にチョップされるなんて」
「何の話だ?」
「こっちの話だよ」
 まだ、微かに痛む頭部をさすりながら答える。
「で、優ちゃんが反抗期だって」
「……ああ」
 そう呟くと、拳次はどこか暗い顔をして俯いた。
 ……妹が反抗期だからってことを抜きにするとシリアスな光景だ。
「反抗期って言ったて、具体的にどんなふうに反抗期なのさ?」
 反抗期にも色々な種類がある。
 軽度のものだったら、口をきかなくなったり、重度のものだったらグレて非行に走ったり等だ。
 まあ、優ちゃんは生真面目な性格なので、非行に走ったりすることはないだろうから、おそらく口をきかない程度だろう。
 私は、優ちゃんの性格を考えながらそう予想した。
「……言わないんだよ」
「え?」
「言わないんだよ、料理の感想を」
 ……予想より大分しょぼかった。
「あいつの好物の納豆料理作ってもうまいの一言もない。飽きたのかと思って、別の納豆料理を出してみても何も言わない。こんな酷い反抗期があるか」
「いや、それ反抗期じゃないから」
 反抗にしては可愛すぎる。
 とういか、優ちゃんがこれで反抗をしているつもりなら正直萌える。
 しかも、拳次がいつもとキャラが変わって饒舌になってるし。
「他にもある。休みの買出しに付き合わないし、俺と姉貴がス○ブラやっていても参加しないし、姉貴にばっかり勉強しててわからないとこ聞くし」
「……」
 ……断言しよう、鬼神拳次は正真正銘のシスコンだ。
 また、チョップされそうだから口には出さないけど。
 というか、相変わらず仲いいな鬼神家。
 一人っ子の私としては正直羨ましい。
「おい、聞いてるのか?」
「ん? もちろんだよ、シス……拳次」
「……今、明らかにシス「な、何も言ってないよ。心の声が漏れたりなんてしていないよ。……ハッ!」そうか、そうか、つまりきみはそんなやつなんだな」
「なぜにエー○ール!?」
「俺は授業で習った話なら走れメ○スが好きだったけどな」
「あ、私も。セ○ヌンティウス、まじイケメン。って、なんで右手を振り上げてるの!?」
「それはもちろん」
 拳次の右手が振り下ろされた。
「おしおきのためだ」
 私の頭部に。

「で、どう思う?」
「どう思うって言われてもね……」
 本日、3回目のチョップの痛みは中々消えず、あれから少し経った今も残っている。
 そろそろ、ふざけるのはやめよう。
「まあ、私は一人っ子だから詳しくはわからないけどさ」
「ああ」
「優ちゃんは、拳次に反抗しているというより、嫉妬しているんだと思うよ。『血』のことで」
「……嫉妬か」
 拳次は小さな声でそう呟いた。
「そう、嫉妬。まあ、私は鬼神家の『血』の件について詳しく知らないけどさ。要は、拳次達の身体能力が人間離れしているのって『鬼神』とかいうのの『血』を受け継いでるからなんだよね?」
「ああ」
「で、拳次は家族の中でも特に血が濃い。つまりは、生まれつきのステータスが高い。一方で、優ちゃんは家族の中で最も血が薄い。つまり、生まれつきのステータスが低い」
「……言っとくが、優と俺にそれほどの差はない。ジ○ック・ハ○マーと刃○くらいの差しかない」
「いや、それ割と差があるような……」
 ジ○ックさん、勇○郎に血が薄いとか言われてたし。
「とにかく、優は気にしすぎだ。そのくらいの差、工夫次第でどうになるレベルだ」
「まあ、そうだろうね。けど、優ちゃんは気にしている。おそらく、2年前のことを思い出して」
「……あの時は、俺も何もできなかった」
「優ちゃんは、拳次以上に何もできなかったと思ってると思うよ」
 会話が途切れ、沈黙が生まれた。
 それから、少ししてから私はこの前のことを語りだした。
「この間さ、戦闘中に優ちゃんと出会ったんだ。その時、優ちゃんがね、自分のことを最弱って言ったんだよ」
「……」
「正直、ふざけるなと思った。あれだけの力を持っているのに、何が最弱だと。本当の弱者を馬鹿にしているとさえ思った。けどね」
 顔を上げ、星の広がる夜空を見た。
 おそらく、明日は晴れだろう。
「その時の優ちゃん、本気でそう言ってたんだよ。それほどまでに、優ちゃんは自分の弱さについて思い詰めている」
 視野は狭すぎるけどね、そう付け加えた。
 すると、拳次は静かにこう言った。
「……あいつは強い、俺より」
「謙遜はやめなよ、ムカつくから。今の優ちゃんと拳次なら拳次のほうが強い」
「だが、優は俺には持っていないものを持っている」
「ああ、私も持っているものだね」
「そうだ、俺以外の家族や道場の門下生は持っている。俺は持っていないものを」
 拳次以外の鬼神家の人間や道場の門下生が持っていて、拳次が持っていないもの、それは――。
「俺は武術を修めてないからな」
 これが優に嫉妬される要因の1つなんだろうな、と拳次は続けて言った。

「そういえば、ここだったね」
「何がだ?」
 家まであと少しの場所まで来て私は立ち止まった。
 そこは、一見何でもない住宅街だ。
 けれど、私にとっては特別な意味を持つ場所だ。
「初めて拳次に出会ったの」
「ああ、そうだったか」
 数歩先を歩いていた拳次も立ち止まった。
「ここで『人面犬』に襲われていたところを拳次に助けてもらったんだよね」
 当時小学3年生だった私は、『ヒエロニムスマシン』と契約したてだった。
 そのため、ろくに能力を使うことができず、契約者である私を襲ってくる都市伝説から逃げる日々を送っていた。
 ある日の下校中、私は数匹の『人面犬』に襲われ追い詰められた。
 そこへ駆けつけた拳次に、私は助けてもらったのだ。
「あの時、ここで拳次と出会わなかったら私はきっとここで喰い殺されていたよ」
 苦笑しながらそう言う。
 あの頃のように弱いままだったら、こんな表情は浮かべることはできない。
 それを誇らしく思う。
「あの日、拳次に助けてもらったから私は強くなることができた」
 私が空手を始め、強くなるきっかけを得たのは、拳次が師匠を紹介してくれたからだ。
「……お前が強くなったのは必死に努力したからだろう」
「うん、それは否定しないよ。でも、それだけじゃない」
 あの日、私はただ助けられただけじゃない。
 『人面犬』と戦う、まだ痩せていた頃の拳次を見て思った。
「それだけじゃないんだよ」
 彼のようになりたいと。

「ありがとね、ここまで送ってきてもらって」
「別にいい、じゃあな」
 拳次は、マンション前で背を向け、そのまま帰っていった。
 私も、すぐにマンションの中に入り、自室へ向かった。
「ただいま」
 鍵を開け、家の中に入る。
 すると、暗闇が私を出迎えた。
 明かりが一切、点いてないからだ。
 そのまま、リビングに向かい電気を付けると、両親の寝室に向かった。
 扉を開けると、そこには朝と同じようにベットに寝ている母さんの姿があった。
「ただいま、母さん」
「あら、おかえりなさい。輝」
 母さんは、上半身を上げると、私のほうを向いた。
 長時間、ベットに横になっていたせいか、長いブラウンの髪の毛に癖がついている。
「ごめんね、遅くなって」
「何言ってるの。むしろ、朝まで練習してきてもいいのよ」
「そんな健全な朝帰りしたくないよ」
 苦笑しながら、母さんの顔色を窺う。
 こうして見た限りは、そこまで具合が悪そうには見えない。
 決して、良いとはとても言えないけど。
「じゃあ、ご飯食べようか。食欲はある?」
「もちろんよ、どんぶり飯でもいけるわよ」
「いやいや、太るよ」
「……じゃあ、輝も一緒に」
「道連れにしようとしないで」
 子供は、親相手だとツッコミに徹するしかないようだ。

 ご飯を食べ終えると、母さんはすぐに寝室に戻っていった。
 やっぱり、具合はそんなによくないらしい。
 私は、することもないのでリビングで勉強に取り組んだ。
 やがて、数式を解くのに飽きて筋トレに励んでいると、扉の開く音が聞こえた。
 父さんだ。
「ただいま」
「おかえり、今日も遅かったね」
「まあね、最近は一段と忙しいから」
 リビングに入ってきた父さんは、どこか爽やかな笑みを浮かべた。
 長時間の労働を終えてきたとは思えない表情だ。
 こんな顔ができる人間を私は目指している。
「それより、母さんの具合はどうだ?」
「うん、そこまで悪くないよ。そんなに良くもないけど」
「そうか。まあ、昔のことを考えるとこのくらいで済んでることを感謝するべきかな」
「……そうだね。あ、ご飯用意するね。ビールでも飲んで待ってて」
「うん」
 ああうまいな、幸せそうにビールを飲む父さんの声を聞きながら私は料理に取り掛かった。

 母さんが病院に運ばれたのは、私が小学2年生のときだった。
 夕飯の準備中、突然母さんは倒れ、私は慌てて救急車を呼んだ。
 その後、病院で治療をしてもらったものの、具合は良くならず、そのまま入院することになった。
 様々な治療を試すも、母さんは一向に良くならず、ただ月日だけが過ぎた。
 父さんは、治療費を稼ぐため必死に働き、忙しい合間を縫って、私の世話を嫌な顔1つせずにした。
 そんな毎日が、当たり前になったある日、母さんの具合が急に良くなった。
 日を追うごとに、母さんは元気になっていき、十数日後には退院することもできた。
 家に帰ってきた母さんを、父さんは笑顔で祝福した、もちろん私も。
 だけど、それから母さんはちょくちょく体調を崩すようになった。
 幸いなことに、入院するほどのものではないけれど。

「よし、そろそろいいかな」
 行っていた作業を止め、椅子に座りながら背伸びをした。
 目の前の勉強机に置いた時計を見ると、もうすぐ深夜1時になることを示している。
 私は、机上に置かれたカードを集め纏めると、1枚を除いて、プラスチック製のケースに入れた。
 このカードは、私の契約都市伝説『ヒエロニムスマシン』を扱うために必要な道具だ。
 『ヒエロニムスマシン』を使うには、特定の回路を物体に刻む必要がある。
 かといって、戦闘中物体に回路を刻んでいる暇はない。
 そのため、こうして事前に白紙のカードに回路を刻み、準備している。
 なぜ、カードなのかというと、色々試した結果、これが1番都合が良かったからだ。
 一度でもエロプティック・エネルギーを放ったものは、その時点でボロボロになってしまう。
 いくつか、例外なものもあるけど、それは安々と使えるものじゃない。
 そのため、回路を刻むものは、安価で大量に購入できるものが向いている。
 白紙のカードは、その点で非常に優秀だ。
 さらに、ただの紙と違って、持ち歩いてもかさばらなく扱いやすい。
 だから、私は白紙のカードを愛用している。
「さすがにもう寝ているだろうし」
 私は、白紙のカードを1枚手に取り立ち上がると、自室を出た。
 暗闇に包まれた廊下を抜け、リビングへ続くドアを開ける。
 リビングにも、明かりは点いていなかった。
 予想通り、父さんの姿はない。
 この分だと、今夜もうまくいきそうだ。
 そのまま、父さんと母さんの寝室へ続く扉を開ける。
 すると、2人のすこやかな寝顔が私を迎えた。
 父さんはもちろん、母さんも幸せそうな顔をしている。
 寝ている間は、苦しみがやわらぐくようだ。
 寝室はとても静かだ。
 というのも、母さんも父さんもいびきをかかないからだ。
 私は、静寂の中、足音が響かないように、窓側の母さんのベッドに向かう。
 そして、枕元に立つと、右手に持つカードを母さんの額に当てた。
「すぐ終わるからね」
 そう呟くと同時に、発光するカードから、エロプティック・エネルギーを母さんの額に向け放つ。
 エロプティック・エネルギーは、すぐに母さんの全身に広がっていった。
 もう、数えられないぐらい見た光景だ。
 この体勢のまま、しばらく待つ。
 そうしていると、段々母さんの顔色が良くなっているのが自然とわかる。
 この時間に、私は喜びと罪悪感を感じる。
 やがて、カードは発光を止め、母さんの体中で光っていたエロプティック・エネルギーも消えた。
 治療が終わった証拠だ。
 私は、右手を額から離し、すぐに寝室を出ていった。

「治したくないか? 母親の病を」
 その誘いを受けたのは、私が小学3年生になってすぐのころだった。
 とある休日、父さんに連れられて、私は母さんの入院する病院に来ていた。
 久しぶりに、親子3人で話を出来ることを楽しみにしてだ。
 けど、現実はそう優しいものじゃなかった。
 親子3人というのは、家にいる時と変わらなかったのに、病室に漂う雰囲気は別のものだった。
 それに耐えられなくなった私は、売店に行ってくるといい、母さんの病室を飛び出した。
 父さんは、何も言わなかったけど、このままだと母さんは死んでしまうことが私はなんとなくわかっていた。
 だからこそ、余計に苦しかった。
 私は、2人に言った通り、売店に向かうことにした。
 別に、何か買いたいものがあったわけじゃない。
 ただ、気分を入れ替えたかった。
 私は、誰も人の載っていないエレベーターに乗り込んだ。
 扉が閉まり、売店のある下の階へ向かいはじめると、なんともいえない感じが私を包む込んだ。
 閉鎖空間独自の気持ちの悪い雰囲気。
 ただでも、病室のことで参っていた私は、余計に気分が悪くなった。
 気がつくと、涙を流していたぐらいに。
 そんな時、声が聞こえた。
「治したくないか? 母親の病を」
 突然の声に驚いた私は、エレベーターの中を見回した。
 もちろん、中には私しかいない。
 けど、足元に1枚の紙が落ちてあった。
 こんなものあったけ、そう思いながらそれを手に取る。
 その瞬間だった。
「昔のような日々を取り戻したくはないか?」
 紙からさっきと同じ声が聞こえたのは。 
 これが、始まりだった。

「おめでとう、お母さん」
「ありがとう、輝」
 あの日から十数日後、我が家に帰ってきた母さんは私を抱きしめた。
「もう、二度とここには帰ってこれないと思ってた」
 涙を流しながら母さんは語った。
 自分のありのままの思いを。
 それに対し、私は笑顔を返した。
「もう大丈夫だよ、これからは」
 そう、これで全てが解決したと私は思っていた。


 あの日、私は『ヒエロニムスマシン』と契約した。
 母さんを病から救うために。
 『ヒエロニムスマシン』は、エロプティック・エネルギーを生み出し様々なことを行うことができる。
 その中の1つが、病気の治療だ。
 これを、私は母さんに対して使った。
 すると、次の日から母さんの病は次第に弱まり始めた。
 日に日に、母さんの顔色は良くなり、症状もあまり出ないようになった。
 十数日後には、退院も許された。
 これで、昔のような日々に戻れると私は思った。
 契約を行なったことで、『都市伝説』によく絡まれるようになったけど、これもはあと少しの我慢だと自分に言い聞かせ、毎日の苦難を乗り越えた。
 『都市伝説』を契約解除さえすれば、ただの小学生に戻れることを、私は契約した際に無意識に知ったからだ。
 あと少し、契約をして、母さんが完全に良くなったようだったら、解除をしようと考えていた。
 この時の私は知らなかった。
 世の中にうまい話なんてそうそうないということを。

 母さんの病が、再び発症したのは退院してから2週間後のことだった。
 私が、学校から帰ってくると、母さんはリビングで仰向けに倒れていた。
 すぐに、駆け寄り揺すってみたも反応はない。
 私は慌てながらも、『ヒエロニムスマシン』の能力の一つ、身体のチェックを発動した。
 これは、エロプティック・エネルギーを流した肉体の内部を、まるでCTスキャンのように、自分の目で見ることができるというものだ。
 すると、私の目は忌々しいものを捉えた。
 母さんの肉体内部に広がる腫瘍だ。
 これこそが、母さんの病の原因だということを私は知っていた。
 あの日、『ヒエロニムスマシン』を母さんに使うと、この腫瘍は消え、母さんが健康になったからだ。
 それが再生していた。
「どうして……」
 訳がわからなかった。
 『ヒエロニムスマシン』のような特別な力をもってしても、感知できない病があることを信じられなかったからだ。
 しかし、腫瘍を見ている間に私は気づいた。
 これが――。
「まさか、『ヒエロニムスマシン』と同じ……」
 特別な力を持つ病だということを。

 その日から、私の地獄の毎日は始めった。
 第一に、『ヒエロニムスマシン』では腫瘍を抑制することしかできないと知ったから。
 第二に、契約を解除したらその抑制すらできなくなるため、このまま都市伝説に追われる毎日を続けるしかないと悟ったから。
 第三に、希望が全く見えなくなったから。
 それでも数日は、涙を流しながらも毎日を乗り越えた。
 いつか、救いがあると信じて。
 けれど、それも長くは続かなかった。
 真実を知った日から5日後、もう投げ出したいと思った。
 10日後、母さんなんか助けなければよかったと後悔した。
 15日後、弱い自分が嫌になった。
 20日後、全てがどうでもよくなった。
 25日後、下校中に『人面犬』に囲まれた。
 ああ死ぬんだ、数匹の『人面犬』に囲まれて思ったことはたったそれだけ。
 もう疲れ果てていたから、この運命に、この世界に、自分自身に。
 『人面犬』が飛びかかってきた瞬間も、楽に死にたかったなとしか思えなかった。
 けれど、『人面犬』が突然現れた少年によって吹っ飛ばされた時、そんな考えが消し飛んだ。
 彼は、勇ましい雰囲気を醸し出しながら、その整った顔立ちを『人面犬』に向けた。
「き、君は?」
 地面に座り込んだ私を庇う様に、前に出た少年にそう聞いた。
「……親より先に死ぬのは一番の親不孝だ」
「え?」
「だから死ぬな、そんな目をするな」
 残りの人面犬が一斉に少年に襲いかかった。
「教えてやる、この世界はそんなに悪くないところだってことを」
 言い終わると同時に、少年のパンチが1匹の『人面犬』に直撃した。
 『人面犬』は為すすべもなく、コンクリートの塀に叩きつけれれる。
 そして、そのまま次々と『人面犬』を倒していった。
 『人面犬』達は次々と路上に転がり、少年の攻撃はさらに激しさを増していく。
 あまりにも圧倒的な光景だった。
 きっと、普通の人間が見たら『人面犬』よりむしろ少年に恐れを抱いてしまうほどの。
 けれど、私が彼に抱いた感情は全く違った。
 憧れ。
 それが私が彼に抱いた感情。
 あの、圧倒的なまでの力。
 目をそらしたくなるほどの気迫。
 そして、どこまでも真っ直ぐな姿。
 彼になりたい、本気でそう思った。
 一度決めた思いをいつまでも貫くために。

「さて、寝ようかな」
 台所で、水を飲んだコップを片付けながら呟いた。
 抑制を行ったのでもう起きている意味はない。
 自分の部屋へ向かうため、リビングを出ようとする。
 その時、ポケットのケータイが振動を始め、電話の着メロが鳴り始めた。
「こんな時間に誰だよ……」
 もうすぐ、深夜1時になる時間帯。
 今、電話をかけてくるということはよほどの急用かもしれないと思い、ポケットからケータイを取り出す。
 そして、画面に映る名前を見て拍子抜けした。
 溜息を一度つき、通話を始める。
「もう、こんな時間になんですか。どうせ、大した用事じゃないんですよね。だったら、明日にしてくださいよ。え? 急な頼みごと」
 この人が私に頼るなんて珍しい。
 あらゆることを完璧にこなす超人である彼女が。
「頼みごとって、一体どんな。…………ふんふん、ってえー。いや、私はいいですけど、というか血が騒ぐくらいですけど」
 その内容に、思わず絶句する。
 いや、私としては大歓迎なものだけど。
「いいんですか? こんな荒治療で。あんなに大事にしているのに。え? たまには崖に落とさないとダメ?」
 普段の彼女からは考えられない、厳しい意見だった。
「へー、珍しいですね。そんなこと言うなんて。はい、分かりました」
 私は思わず微笑した。
「やりますよ、鬼退治」
 楽しみなイベントが1つ増えた。

終わり

>>245 ×感知 ○完治

輝「都市伝説スレ、五周年おめでとう! イェイ!」

ナダレ「お、おめでとうございます」

拳次「……唐突すぎるしテンションが高すぎる」

輝「だって、五年だよ! 五年! 週刊少年誌のコミックスが最低でも二十巻は出てるくらいの年数だよ!」

拳次「なんだ、その微妙な表現は……。まあ、でも五年も続いてるのはすごいな」

輝「だよねー、ということで記念になにかしようよ」

ナダレ「うーん、記念といっても一体何を……」

輝「そうだね、じゃあナダレのバストサイズを公表し「ちなみに輝はAカップだ」ちょっと拳次!?」

拳次「自業自得だ」

輝「それにしても酷すぎるよ! コンプレックスなのに!」

拳次「黙れ、まな板」

輝「傷口をえぐられた!?」

ナダレ「……あの」

拳次「ん? どうした、ナダレ」

ナダレ「疑問に思ったんですけど」

輝「なになに? なんでも聞いてよ」

ナダレ「……そもそも、どうして、拳次君が輝さんのバストサイズ知ってるんですか?」

拳次・輝『……あ』

ナダレ「やっぱり、二人はそういう関係だったんですね……」

輝「ち、違うよ! ナダレ!」

ナダレ「いえ、いいんです。そういうことなら、私は二人を応援します」

輝「ほ、本当に違うんだってば! だって、拳次って童貞だし!」

拳次「おい、てめぇ」

輝「い、今のはしょうがないって! 疑惑を晴らすためには! だから、右手を下ろして! ナダレからも何か言ってよ」

ユキ「よくも、あの子を悲しませてくれましたわね!!」

輝「なんか、別人格発動してる!? しかも、殺気が凄いんだけど! え、何!? 洒落になってないよ!」

ユキ「当たり前ですわ! あの子を悲しませた落とし前しっかり払わせていただきますわよ! 行きますわよ、拳次!」

拳次「ああ」

輝「え、え!?」

ユキ「娘を悲しませるものは全て凍りつけ! エターナルフォースブリザード!」

拳次「シェ○ブリッド!!」

輝「ギャーーーーーー!!!!」

この日、輝は一日中ナダレに土下座をすることになったとさ。

どうも、記憶されているか怪しい「舞い降りた大王」の作者です
本日は、待望の沖縄編……と言いたいのですが、ちょっと大筋の記憶が……ふふふ(

なのでリハビリがてら、いつか上げた読み切り単発をシリーズ化させました
題して「吸血鬼の路」。ヴァンパイアのロードですね

それでは、単発のリテイクからどうぞ

男「おい、もう帰らねぇか?」

ある夜、俺はクラスメイトと共に、墓地へ肝試しに来ていた。……というか。

女生徒A「なにここ、こわぁい……」“フルフル”
男生徒A「大丈夫、俺がついてるから」“ギュッ”
女生徒B「マジで変なのとか出たら、どうする気……?」“ウルッ”
男生徒B「その時は、俺が倒してやるよ」“ニッ”

……こいつらのデートのお守をしにきた。
まったく、今のご時世に肝試しデートとか流行らねぇだろ。

男生徒A「ところで君、今『帰りたい』と言ったか?」
男生徒B「いいぜ、帰っても」

自分の彼女に良いところを見せたいのか、男友達2人に耳には俺の忠告は届いていないようだ。

男「帰った方が身のためだ、と言ったんだ」
女生徒A「あぁ、怖いのね。強がらなくてもいいのに……」
男「怖いか!親の方が数倍怖いわ!」

墓場なんて怖くはない。―――人が眠る所、か。変な気分にはなるな。
空気も悪いし、あちこちから妙な気配を感じる……そんな気分だ。

女生徒B「つかマジで、こいつなんで来たの?」
男生徒A「あぁ、こいつも彼女連れてくると思って誘ったんだけど……」
男「はァ!?本気で呼ぶ気だったのか?」

実は、俺にも彼女はいる。いるにはいるんだが……。
彼女の性質上、この肝試しデートとの相性が最悪だと考えて、今日は措いてきた。

男生徒B「という事は、都合が悪いんじゃなく?」
男「どうせ冗談だ、って言って置いてきたんだよ」
男生徒A「なんだぁ、それならぜひ来て貰って、トリプルデートしたかったんだが」

気を使ったはずなのに、なぜ悪い事をしたような空気になっているんだろうか。
そして、墓場でトリプルデートとか流行らないし、絶対に流行らせない。

女生徒A「なになに?もしかしてすっごい怖がりなの?」
女生徒B「そんな子なら、マジで盛り上がったんじゃない?もったいない……」

墓場で盛り上がるな。
そういえば、この2人は俺の彼女を知らなかったな。
もはや初対面の相手にはお約束となった紹介を、2人に返す。



男「いや、俺の彼女さ、『見える』んだよ」




女生徒A「ぷっ、はは、あはははは!」
女生徒B「なにそれ、『あそこにお化けいます』とか言ってくんの!?マジで!?」

そういうと、2人は声を上げて笑う。ここまで揃ってお約束。
そのくせ、実際にお化けがいると言うと黙る。こうなると思ったから連れてきたくなかったんだ。

男生徒B「しかし実際に、学校の奇怪な事件を解決したりと大活躍なんだぞ」
男「まぁ先生の病気がどうとか、トイレの詰まりがどうとかって程度だけどな」
女生徒A「え、本当?信じられないなぁ」

半信半疑のまま、くすりと笑った。
そう、その程度。その事件には霊も怪物も関与していない。



―――彼等の中でだけでも、そういう事にしておこう。



男生徒A「ちぇ、ここら辺は出るか出ないかぐらい聞いたらよかった」
男「俺は聞いてるから帰ろうと提案をだな」
女生徒A「えっ、えっ?どこどこどこどこ!?」
男「えっと……」

あらかじめ聞いていた『出るポイント』を探すため辺りを見渡すと、数十メートル先に木を見つける。

男「あれだ、『あの木には近づかない方がいい』とさ」
女生徒A「まさか、あそこで誰かが首吊りを……?」
男「そこまでは知らん。あ、あと……」

(女「3、4人くらいかな?ちゃんと眠れなかったみたい。可哀想だね」)

男「だとさ」
女生徒B「ま、マジ怖いんだけど。なにそれ?」
男生徒B「大丈夫だって。何が出ても怖くない怖くない」
男「……何が出ても知らねーぞ」

言葉では強がりながらも、その声のせいで内心怖がっていると分かってしまった。
口では知らないと言っておきながら、俺の脚はあいつ等についていくのをやめなかった。

男生徒A「だいぶ近づいたが……」
女生徒A「何もいないみたい……きゃあ!?」

ふと、物音と共に地面で何かが動いた。思わず全員が地面の様子を見た。
そこに向けて懐中電灯の光を当てると……花が咲いていた。

女生徒B「……マジ、ビビったし。風かぁ」
男生徒B「こんなもので驚いているから、幽霊が出るなんて噂が広まるんだよ」

そう言うと、あいつはゆっくり歩きだし、花の方へ手を伸ばす。



……なんだ、この感覚。何かしてはいけない事をしている感覚。
してはいけない事?花か?花をむしるのを止めろと言うのか?
何故だ?花に何か意味があるのか?それとも花の下に何か……?



不意に、俺はあいつのかばんをつかんでこちらへ引っ張り戻す。
それと同時ぐらいに、花の下から、人の腕が伸びる。
間一髪、なんとかその腕から救出に成功した。

男生徒B「ちょ、は……?」
女生徒B「……マジ……?」

地面から生えてきた腕は、地面を掴んで己の肉体を引きずり出した。その姿はまさしく……。

男生徒A「ぞ、ゾンビ……?」
女生徒A「嘘、でしょ……?」

腐りかけた体、ボロボロになった服、なにより生気の感じられない顔、間違いなく『ゾンビ』だ。
……彼女の言った通りだったか。面倒なことになった。

ゾンビ「ゲヘヘ、ミミック作戦しっパぁい。上手クぅいくト思っタんだガなぁ」
男生徒B「なぁ、あれだろ、ドッキリだろ?最初に、お化けがどうこう、ありがちな台詞を言ってたし」
男生徒A「お、俺達を驚かせるにしては、よ、良くできたメイクだな」

ありそうな展開だが、きっと2人も本当は気付いているんだろう。
肉が剥がれた部分からは、骨や向こう側が見えている。メイクで誤魔化せる範囲を超えてしまっているんだ。

男「あんなハリウッドレベルのメイクができる知り合いが居ると思ったか?」
女生徒A「じゃあ、本……物……?」
女生徒B「マジ……?」

『ゾンビ』は俺達を改めて見定め、不気味な笑みを浮かべる。

ゾンビ「うまソぉウ……」
全員「「ッ!?」」

男友達2人は、自分の彼女の手を掴んでほぼ同時に走り出した。
女心は分からないが……このデート中、もっとも男らしいシーンだったと思う。

女生徒B「えっ!逃げるの!?」
男生徒B「当たり前ぇだろ!化け物相手に戦えるかァ!せいぜい不審者が俺の限度だ!」
男生徒A「あ、じゃあ俺はスリまで!」
女生徒A「変な部分で張り合わないでよ!」

……思ったより元気そうだな。しばらく安心か?
そう考えながら追いかけようとした時、ふとあの言葉が頭をよぎる。



―――3、4人くらいかな?ちゃんと眠れなかったみたい―――



男「お前ら止まれ!」
男生徒「「 えっ? 」」

止まったと同時に、上から死体が降ってくる。
間一髪、あいつらの頭上ではなく地面に落ちたみたいだ。間に合ってよかった。

ゾンビ2「……失敗」
ゾンビ3「おイ何しテンだよ、今ノは上手クいキソうだっタろう」

……急にもう1体現れた。これで3体。あいつの言った通りか。

男生徒A「上から、ゾン、ビ……」
女生徒B「あ、ちょっと!?大丈夫!?」

さすがにあいつ気絶したか。あ、この状況で度胆座ってる俺がおかしいのか。

ゾンビ「アぁ、ざんネぇン。でモ挟ミ撃チはぁ成功ダナぁ」
ゾンビ2「結果……オーライ」
ゾンビ3「何言ってンダよ。作戦ガ成功シタ方が気持ちガいイダろ」

どうも、この3体が計画を練り、みごと嵌ってしまったらしい。
しかし、ゾンビって案外個性的だな、なんて考えている場合じゃないか。

男生徒B「いいいだろ、う、ここここうなったら俺1人でも戦っ、たう……」
ゾンビ3「アぁ、威勢ガいいジャないかコイツ。オまえモ一緒に人を喰オウぜ?」
ゾンビ「オぉ、仲間ガ増エるノハぁ大歓迎ダぁ。さっソク死んでくれぇ」

仲間が増える―――こいつらに殺されると、俺達もゾンビの仲間か。
そして人を襲って……そんな人生、俺は嫌だ。

女生徒A「こここ、殺され、る……」
女生徒B「ちょ、あんたまで、マジで!?」

やばいぞ、既に2人も倒れた!
担いで逃げる事もできなくはないが、問題は……。

ゾンビ2「倒れた……」
ゾンビ3「そウカ、ジゃあマズはこいつかラダ、痛ッ」

俺はとっさに石ころを投げつけた。どうやら効いたみたいだ。注意がこちらにそれた。

ゾンビ3「おイ何すンダよ。弁償できルノか。マッタく」
男「……は?」
ゾンビ3「石でモ打ち所ガ悪カッタら死ぬんダゾ、弁償できルノか」
ゾンビ2「……死んでる」
ゾンビ3「あ、ソウカ。既に死ンデタな、スマんすマん」

なんだこいつら。話しするだけでも疲れる。さっさと逃げたいんだが。

ゾンビ「とりアエずぅ、こいつカラやるカぁ」
ゾンビ2「コロす……」
ゾンビ3「へへへ、コイツの方ガ元気がアルな」
男「くっ……」

よりによって3体か。ダメ元で塩でも持ってくれば良かった。効かないか。
逃げるにしても、あいつ等は腰を抜かしてて動けそうにない、か。
色々なことを考えているうちに、「彼女を誘わなくて良かった」と思う自分と、
「彼女がいれば助かったかもしれない」と思う自分がいることに気付き、自分の無力さを悟ってしまう。

せめて武器でもあればいいんだが……バールのようなものでも落ちてないか?

男生徒B「おい、……」
女生徒B「これ、マジでやばいんじゃない?」
男「さて、どうすっかな……」


既に頭は回っていなかった。


ただ我武者羅に戦う事だけ考えていた。


諦めていたんだ。



???「騒がしいなァ」


男「なっ!?」

その時だった。向こうからコツコツと足音が聞こえてきた。俺もゾンビも声の方を注目する。

そちらには何故か霧が立ち込めていてよく見えないが、男の影がうっすらと見える。
その影から妙な気配を感じる。その瞬間、彼女の言葉を思い出した。
3、4人くらい……まだ1人、この場には足りなかった。
これはまさしく……。

男「4体目、か」
男生徒B「はァ!?まだ増えるのかよ!?」
女生徒B「今度はなんなのよ……」

足音はゆっくりと、着実にこちらへと近寄ってくる。


???「リビングデッドの呼び声……求めるものは『獲物』か、あるいは……」


ゾンビ「誰ダぁ、いっタイぃ」
ゾンビ2「……知らない」
男「仲間じゃないのか?じゃあ何者だ……?」

近づいてくると霧が晴れ、男の姿が露わとなった。
翼のように広がるマント、いい音のなる黒い革のブーツ、口からはみ出た鋭い牙。その姿はまるで……。



男「…………デフォルメされたコウモリ!?」

さっきまで見えていた虚像はなんだったのか。
そこにあるのは一頭身で大きな目、航空力学を無視していますと言わんばかりの小さな翼。
玩具じゃないかとも疑ったが、すぐにその疑惑も晴れる。

蝙蝠「下らない事は止めろ。そんな事をしても、仲間が増えるとは限らないぞ」
ゾンビ「ウルさぁぁぁイ」
ゾンビ3「何言っテンだよ、おレ達ノ存在を否定スンじゃネぇよ」
蝙蝠「聞く耳持たず、か。なら、成仏してもらう!」

そう言うと、蝙蝠はどこからか笛を取り出し、吹き鳴らす。

蝙蝠「スネークチェーン!」ピィロ・ピロピィー♪
ゾンビ「なんダぁ、ずいぶんユカいな音色ぉ鳴ラしてェ、ぬおォ?」

笛の音と共に、鎖らしきものが蛇のように這いまわり、ゾンビ達を絡め捕った。

ゾンビ2「何……」
蝙蝠「しばらく大人しくしてろ、すぐに終わる」

ゾンビ達は抵抗するが、今のところ鎖が解ける様子はない。
今なら、もしかすると逃げられるかもしれない。このコウモリのようなモノをどうにかすれば。

男生徒B「ヘビだあああぁぁぁぁぁぁぁあぁぁ!?」
女生徒B「マジ来ないでぇぇぇぇぇぇええぇええええぇぇぇえ!?」
男「ゾンビを耐えた精神が、蛇に負けた!?」

ここに来て4人全員脱落。
おいおい、蛇は実在の生命体で、『ゾンビ』は本来存在しないものだぞ?
だいたい、本物の蛇じゃないし、それでいいのか?
……まぁ目の前に『ゾンビ』はいるし、そういう問題じゃないか。

とりあえず、コウモリもどきと交渉だ。

男「おいコウモリもどき!お前はいったい何なんだ?」
蝙蝠「『コウモリもどき』とは失礼な。俺にだって名前ぐらいある!」
男「なら名乗れよ」
蝙蝠「……吾輩は蝙蝠である。名前はまだない」
男「やっぱねぇのか」
蝙蝠「うるさい、お前もしばらく大人しくしていろ。スネークチェーン!」

うお、俺に鎖を巻きやがった!
くそっ、この鎖、鉄製じゃなくて石のようだ。そして妙に生温かい……なんか気持ち悪い!

蝙蝠「そうしていたら、命の保証はしてやる。あと血の保証もな」
男「ふざけんな!捕縛しといて信じられるか!」
蝙蝠「あ、そうだ。もし撃退に成功したら少し血を……」
男「血の保証は!?」

やばいぞ、これは。早くこれを何とかして逃げないと。
しかしこの鎖、生きているように俺を締め付ける。生半可な力ではどうにもならないか?
ぐぬぬ、解けろ……って。

男「……解けた」ガシャーン
蝙蝠「なんだと、人間が俺の鎖を……?」

なんというか、びっくりするほどあっさり解けた。
鎖はバラバラとなり、動く気配は全くない。
よし、さっさと逃げるか。と思って、あたりを見渡してて気付く。

俺……囲まれてたんだった。どうしよう。

ゾンビ「クぅぅ」ギシッギシッ
ゾンビ2「……」メキッ

しかも、ゾンビも鎖から解放されそうだ。これは本格的にまずい。

男「さて、どうしたものかな」
蝙蝠「おいお前。話しを聞け」
男「……」
蝙蝠「おい、お前だお前。聞こえるなら元気よく返事を!」
男「なんだよ面倒くさい!お前の相手なんかしてる場合じゃないんだよ!」

うるさいなこのコウモリ。変な技も使うし、おとなしく聞くか。
……いったいどこのコウモリなんだよ。

男「で、何の用だ?」
蝙蝠「俺と契約しろ」
男「契約ね、はいはい。……契約?」
蝙蝠「そうだ。まさか知らない訳はないだろう?」

知らねぇよ。お前はどこの会社の社員なんだよ。非合法な売り込みの勧誘か?

蝙蝠「本当に知らないのか?まったく……なら説明しよう、契約とは
   都市伝説と人間の間で行われるものである
   人間と契約した都市伝説は、自身の力をさらに高めることができる
   都市伝説と契約した人間は、その都市伝説に応じてその力を得る
   しかし代償として、契約者の都市伝説は半ば運命共同体となってしまう
   そして都市伝説が契約者を探す理由は……」
男「あぁ分かった分かったもういいもういい。
  つまり強くなりたいから契約してくださいって事か」

本当に詐欺の勧誘だった。
ただでさえ奇妙な力を持つコウモリが、これ以上強くなったら手に負えない。
これは無視して逃げるに限る。

蝙蝠「都合の悪いところだけ切り取るな!お前、【ゾンビ】共を素手で倒せるのか?
   お前に【ゾンビ】共を倒す力をやろうと言っているんだ」
男「都合の良いところだけ切り取って騙そうとしても無駄だぞ
  俺はここから逃げたいんだ。じゃあな」

背を向けた俺に、コウモリはまだ言葉を続ける。

蝙蝠「仲間を置いて、か?まさか人間3人を担いで高速で動けると言い出すんじゃないだろうな
   お前の選択肢は2つ。【ゾンビ】を倒すか、全員死ぬかだ」

一瞬たじろぐ。確かに上手く逃げられる保証はない。
しかし、こいつと契約して無事である保証もないはずだ。

ならば既に八方塞なんじゃないか。
こう考えている間にも、ゾンビの鎖は解けようとしている。

もう賭けるしかない。





……何に賭ける?


『正義の英雄』が助けてくれる事?こんな時間に、こんな場所に来るやつが他にいる確率は低い。


ゾンビが自然消滅する事?そんな奇跡に頼る事しかできないのか。


奇跡……例えば不意に俺の身体に力が漲り、ゾンビを投げ飛ばす事ができれば、全員助かるだろう。


その奇跡を現実にするためには……あぁ、そういう事か。







ゾンビ「喰ってヤルぅ、お前らァ全員ナぁ」
蝙蝠「ち、仕方がない。お前ももう逃げろ!あとは俺が」
男「待てよ」



―――そうだ。危うく重大な選択を間違えるところだった。



男「お前やあいつ等を囮にして、俺1人で逃げる事も確かにできる
  だが、あいつ等はバカで、俺に迷惑かけてばかりでも、
  俺の……友達だ」



―――友を見捨てて一生を得るなら、死んでも友を救いたい―――



男「俺と契約しろ!コウモリもどき!」
蝙蝠「……良い眼だ。気に入った!」



その瞬間、コウモリは俺の腕にかみついてきた―――って。



男「痛ってえええぇぇぇぇぇぇ血の保証はぁぁぁぁぁああああぁぁぁぁ!?」
蝙蝠「安心しろ、立派な契約の儀式だ。……この血、やはりお前は……」
男「呑気にテイスティングしてるじゃねぇか!」

ほらこんな事をしている間にもゾンビが……。

ゾンビ2「……解けた」
ゾンビ「オぉ、俺モだァ」
ゾンビ3「おイ待テよ。俺も解けタンだよ」

もう解けてるし。腕痛いし。早くしろよ……。

蝙蝠「よし、契約完了!では、キバって行くぜ!」
男「よし!さっそく俺に力を、ってえええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」

腕から離れたと思ったら、今度はスライム状の液体となって俺に覆いかぶさる。
そしてそのまま俺は……。




ゾンビ「ナンだァ仲間割レカぁ」
ゾンビ3「おイそンな事よリ早くコロしておこウぜ」
ゾンビ2「危険……」



“ダッ!”――――――










――――――“ボゴッ!”



ゾンビ「ぐワアアアァァァ!」
ゾンビ2「ッ……!?」
ゾンビ3「ギャヒィ!?」



目を開けると、そこには『ゾンビ』が倒れていた。いったい何が起こったんだ?
ふと手を見ると、自分のものとは思えない感覚に襲われる。
背中にはマントがあり、靴も自分のものではないようだ。
この服装、どことなくあの霧の中に見たシルエットを思い出す。

男「これは……?」
蝙蝠「変身完了だ。どうだ、力を得た心地は」

声の元を探ると、俺のベルトにコウモリがぶら下がっていた。

男「……どうしてそこに?」
蝙蝠「他にいいところが無かったんだ。それより調子はどうだ?体は動かせるか?」

とりあえず、手を動かしてみる。妙な違和感こそあれど、動きは正確だ。
脚もしっかりと動く。服装の割に、けっこう動けるものだ。

男「今のところ、異常はない。いったいどうなったんだ?」
蝙蝠「説明したいのも山々だが、まずは倒してからだ」
男「……そうだな。了解、うっ!?」

今度は頭痛が響く。同時に体から力が漲り、何かに飲み込まれそうになる。

男「うぅ、あぁぁぁ……!」
蝙蝠「おい、どうした!おい!」
ゾンビ3「おイちゃんすジャネェか、じゃア俺かラバラバラにしてくる」






―――俺が気を失っている間に、何が起こったのか。



ゾンビ3「おイおイおイ」
ゾンビ「終ワったなァ」





―――あとで蝙蝠が教えてくれた。





男「……はぁぁぁ、だぁ!」
ゾンビ3「」“ブチッ!”



ゾンビ「ナニ、が、起こっタ……?」
ゾンビ2「……強い」



蝙蝠「……驚いた、まさかパンチ一発とは。恐ろしい」
男「……くぅ、はぁあああ……!」
蝙蝠「まずい、力が増幅し続けている!一か八か、スネークチェーン!」



男「うっ、くぅぅぅ……、……あれ?」

気を取り戻すと、今度は腕や脚に鎖を巻きつけられていた。
せっかくの貴族風な恰好がヘビメタ風に豹変してしまった、違う違う。

男「今度はなんだよコウモリもどき!俺に鎖を巻きつけやがって!」
蝙蝠「上手くいったか」
男「お前、やっぱりゾンビの仲間だったのか!」
蝙蝠「そんな訳ないだろう。お前が死んだら俺も死ぬんだぞ。
   その鎖は、お前の暴走を止めるためだ。あれを見ろ」

コウモリが指した方向には、頭を失ったゾンビが倒れていた。
そのまま『ゾンビ』は光となって、消えていった。

男「……あれをお前が?」
蝙蝠「お前がやったんだよ。パンチ一発で跡形もなく、な
   鎖の説明や暴走の分析は後だ。残りを片付けるぞ」
男「……いいぜ、やってやる」
蝙蝠「いいか、一度しか言わないからよく聞け」

先頭なんて初めてだ。俺はしっかりとコウモリの言葉に耳を傾ける。

蝙蝠「画面上端に伸びている緑色のゲージは《HP(ヒットポイント)》、お前の体力だ」
男「……は?」
蝙蝠「《HP》が0になったらお前の負けだ。注意しろ」
男「いや、『画面上端』って?」
蝙蝠「次にその横の『○○%』と書かれているのは《BP(ブラッド・ポイント)》
   お前の血液の量だ。健康的な食生活のおかげか、100%になっている」
男「褒めてるのかは分からないけど、『その横』って?」
蝙蝠「変身中は俺の血液も貸してやる。これで300%か」

なんだこのコウモリ。

ゾンビ2「……強い」
ゾンビ「どうやらァ気ヲ引き締メた方がイイようだナぁ」

うおっ。ゾンビが急にこっちに向かってきた!本格的な戦闘の始まりだな。

蝙蝠「まずは《回避》だ。Bボタンを押すと前転ができる!」
男「だから『Bボタン』って、うおっ!?」
ゾンビ「チぃ、反応ガいいナぁ」
男「か、間一髪……」
蝙蝠「そうだ。タイミングよくBボタンを押すと細かく回避できる」

だから……誰かこいつを何とかしろ。

蝙蝠「次は攻撃だ。Aボタンで《パンチ》、Xボタンで《キック》だ」
男「格闘だけか?投げる武器とか無いのか?」
蝙蝠「たしかコウモリを召喚できたと思う。が、やり方は忘れた」

はァ!?格闘なんてやった事ねぇぞ……。
こいつ、どうでもいい情報ばかりで、大事な情報を忘れやがって……。

男「あ、コウモリいたぞ」
蝙蝠「俺を投げようと思うな!」

と、漫才をしていてもゾンビ共は笑うどころか止まってすらくれない。

ゾンビ「ごちゃごちゃァ、ウルサいなァ」ダッ!

迷ってる暇はないか。俺は渾身の力を振り絞って殴りつけた。

ゾンビ「ぐわぁぁぁ!?」
男「え、効いた!?」

ゾンビが大きく仰け反った。本当に自分じゃないような強さだ。

蝙蝠「当たり前だ、お前の身体能力は俺の力で底上げされている
   鍛えているのか?素の能力が合わさって凄まじい威力だ」
男「生憎、ケンカでしか人を殴った事はねぇよ」

そのままキックで『ゾンビ』を吹き飛ばす。おぉ、気持ちいい。
……コウモリが《コンボ》とか何とかうるさいけど、もう気にしないことにした。

ゾンビ2「……仕返し」
男「ぐっ!?ちっくしょう!」ブゥン!

もう1体の『ゾンビ』の後ろからの不意打ちを受けてしまう。
爪を立てていたのか、腕に浅い切り傷が刻まれた。
とっさに回し蹴りで反撃したが、こちらの攻撃も深くは入らなかったようだ。

男「くっそ、変な病気にならねぇよな?」
蝙蝠「いや……回し蹴りのコマンドは、無いんだが……」
男「ゲームっぽい話はいいんだよ!なんか無いのか!?」

理解不能な愚痴を無視だ。解決策がないかコウモリに聞いてみる。

蝙蝠「ん?あぁ、怪我をしたのか!ならばRとBボタンを同時押しして、傷口に集中しろ!」
男「なんかよく分かんねぇけど、分かった!」

とりあえずRとBの事は忘れて、傷口に意識を集中させる。
すると、あっという間に傷が治った。しかし、感覚的に自分の中の何かが減った気がした。

蝙蝠「そう、それが《回復》だ。ただし《回復》にはBPを消費する。
   使い過ぎで血が足りなくなって……だけは絶対に避けろ。
   もっとも、怪我を放置していてもBPは減っていく。《回復》をケチるのも良くないぞ」
男「回復には血を消費するのか。分かった」

まぁ薄々勘付いていたがな。それで……というわけか。

男「どうやらお前は力自慢のようだな。まずお前から倒す」
ゾンビ2「やってみろ……」




殴打を繰り返し、相手が殴り返す瞬間に後ろへステップする。パターンに入ると、案外戦いやすいものだ。
爪は鋭利になっているようだが、逆に言えばそれ以外はただの人間と同じ。
爪の攻撃をされそうなときは、あえて懐に入り爪を立てづらくすれば、出血は避けることができる。
出血さえなければ、ダメージなんて大したものではない。この姿はけっこうタフなようだ。

しかし、相手は既に一度死んだ『ゾンビ』。そもそもダメージは蓄積しているのだろうか?
持久戦になった時、本当に不利なのはこっちじゃないのか?
いつまでも変わらない表情に、その疑問は膨らみ続けるだけだった。

蝙蝠「そろそろ良いだろう」
男「なんだ、まだ何かあるのか?」
蝙蝠「【ゾンビ】は俺達と同じで、ある程度のダメージに耐性がある
   しかし、この程度の威力で攻撃を続ければ、そろそろ限界のはずだ」
男「なんでそんな事分かるんだよ。顔色も変わってないぜ?」

ちょうど考えていたという事もあり、俺は少々食いつき気味に質問する。

蝙蝠「【ゾンビ】のほとんどは顔の筋肉が動かない
   つまりダメージそのものに鈍く、怯まないだけなんだ。ダメージ自体は通っている
   そしてこれは直観だが、俺達と同じように回復にも制限があるはずだ
   例えば、『回復には時間がかかる』といった制限がな。
   もしそうなら、ダメージに回復が間に合わなくなる……それが『そろそろ』だと予想した」
男「……参考になる」

改めて様子を見ると、ゾンビの動きが一層ぎこちなくなっている。
なんとなく『これ以上攻撃を受けたくない』という雰囲気を纏って見えた。
無駄のように思える知識も、決して役に立たないわけではないのか。おかげで勝機が見えた。

男「つまり、必殺の一撃で終わらせろって事だな」
蝙蝠「よく分かってるじゃないか。R+Xボタンで大ジャンプキックだ!」
男「よし、やってやるぜ!」

俺はコウモリの言葉を信じて力の限りジャンプする。まるで翼でも生えたような感覚だ。
地面には『ゾンビ』がいる。動きは鈍っているんだ、狙いを定めて……。




蝙蝠「景気付けだ!」ピィロ・ピロピィー♪


コウモリが笛を吹くと、右足の鎖が解け、全身の力が集中してゆく。


同時に、また意識が飛びそうになる。


男「くぅ、まだだ、持っていかれてたまるか……」


―――あいつ等を助けるまで、俺は、死ぬわけにはいかない!


ゾンビ2「……来い」


男「いっけえええぇぇぇぇぇぇ!」


蹴りはゾンビにクリーンヒットした。
表情の変わらないと言っていたゾンビが、苦しがっているように見えた。

そのままゾンビはだんだんと姿が消えていき、光となって俺の靴に吸い込まれていく。
完全に消えた瞬間、靴についていた石が1つ外れた。

ゾンビ「ばカな、そんナ事ガ……」
男「……だァ!」

最後の最後で意識が飛び、無意識の内に石を踏み壊してしまった。

蝙蝠「なん……だと……?」
ゾンビ「……チクショオオオォォォォォォ……」

最後に残ったゾンビは、俺に怯えてか、全力で闇の彼方へと走っていった。

男「あ……お、おい!うッ……?」
蝙蝠「血が切れたか。ここで止めておかないと命に係わる
   だが、友達を救えたんだろ?」
男「……そうだ、助かったんだ……良かった」

一瞬真っ暗になったと思うと、コウモリが目の前に移動していた。
自分の服装を確認すると、元の服装に戻っていた。

男「おぉ。じゃない、あの石すまなかったな」
蝙蝠「ん、あぁあれか。気にするな。あんな物また探せばいい
   その様子だと、血の量は50%になっていないようだな。低血量性ショックの様子も見られない」

怪我こそ少なかったが、あの姿でいる事自体に血が必要なようだ。
もう二度とならないだろうが、面倒なものだな、あの姿は。

男「そうか。すまんな、いろいろと。じゃあな」

俺はコウモリに別れを告げて、友達4人を墓場の位置口まで運ぶ。
正直、今日一番面倒な作業だった気がする。あの姿になってやればよかった。










男「おい、起きろ!」

俺は友人達を起こすために大声を上げる。

男生徒A「ん……ここは?」
女生徒A「……墓地の入り口だ。なんで?」
男「何言ってるんだ。『地面が盛り上がった』とか言って全力で逃げてたじゃねぇか」

そう、俺達は『地面が盛り上がった瞬間に』逃げ出したんだ。

男生徒B「……そうだ!ゾンビと蛇は!?」
女生徒B「あ!マジであんなの居たんだ!」
男「何言ってるんだ。気絶しているうちに変な夢でも見たんじゃないのか」

ゾンビも居なければ、デフォルメされたコウモリなんてのもいない。

女生徒A「じゃあ、盛り上がった地面から何が出てきたの?」
男「えぇっと……も、モグラだったよモグラ」
女生徒B「マジ!?見たかったなぁモグラ」
男「ははは、モグラは臆病だから、もう逃げたかもしれないな」

今日の出来事は、夢だったんだ。

男生徒A「じゃあ、すまなかったな。俺達はもう帰るな」
男生徒B「また何かあったら宜しくな。気をつけろよ!」
男「またやる気かよ。お前等も気をつけろよ!」



―――あいつ等の中でも、俺の中でも、そういう事にしておこう―――







こうして、俺はいつも通りの帰路についた。
思い返してみれば、『化け物を倒して友を救った』なんて、本当に夢のような話だ。
こんな経験は、一生に一度あるものでもないだろう。



……家につけば、またいつも通りの人生だ。それでいいんだ。
あいつ等も、いつも通りの人生を送るだろう。
あのコウモリには、感謝の言葉しかない。



男「コウモリ、ありがとうな。縁があったら、また一緒に戦ってくれ」



こうして、俺の奇妙で、とても貴重な経験は終わった。


















蝙蝠「何が『縁があったら~』だ。契約したら運命共同体だと言っただろう?
   まぁいい。積もる話と、血の件もある。話しは家に帰ってからにするか」





―――完―――

というわけで、単発リテイクでした
……実は、リテイクしていて恐ろしいミスに気付いたのはナイショ
その辺りも修正したので、今度こそ大丈夫だといいなぁ

コンセプトはお察しの通り、キバって行く仮面をつけたバイク乗りです
気持ち熱めの、バトル重視な物語にしたいなぁというコンセプトでやっていく予定です
ドガバキな仲間も登場予定!?

では最後に、次回予告をどうぞ


☆次回予告SS

男「お前、なんでここにいるんだよ!」
蝙蝠「まったく、もう一度説明してやろう。」


女「あなたが彼を苦しめたのね。退治してくれるー!」
男「止めてくれ!そいつは俺の命の恩人なんだ!」


蝙蝠「それがいるんだ。最終的に己が一族を神にせんと、数々の所業を尽くした男と、その末裔……。」


―――この力が、呪われた血の代償だとしても―――


→Next Card「血の代償」

大王の人乙です!
土壇場になると男より女のほうが精神的に強いですよね(主人公はもっと強かったけど)
主人公の彼女の登場が楽しみです

キバはもっと評価されてもいいと思う

毎週日曜部投稿とかやってみたかったけど無理でした
とりあえず出来上がってはいるので、こっそり投下します

>>272-273
おつありです~
キバは、2週目で面白いと思う人が増えるタイプかな、という気がします

それでは、第2話どうぞー!

男「んんー、いい天気だ!」

昨日、俺は奇妙な夢を見た。
コウモリの姿をした化け物と契約を交わし、【ゾンビ】の群れを退治して友達を助ける夢。
まるでヒーローにでもなった心地だった。



実は、現実の出来事だ。
しかし、こんな事を話してもおそらく誰も信じないだろう。
実際、自分さえも信じられない出来事だった。
だから、あれは夢にする。それでいいのだ。
年老いた時に思い出せたら、孫に話せる種となるだろうか。



男「……そうか、今日は休みだったんだ」

うっかり肝試しに行った事まで夢にしてしまった。
早起きしたのに勿体ないな、どこかへ散歩にでも行こうか。
これからまた、新しい人生が始まるんだ。たまには変わった事でもしよう。

蝙蝠「おぅ、起きたか。今日の朝食はなんだ?」
男「あぁ、そうだな。まずは朝食……は?」

声の方を見ると、広げた覚えのない新聞が床に敷かれていて、その上に何かが浮かんでいた。

蝙蝠「消費税増税だとさ。政府のお偉いさんは取る側だろ?取られる側にもなってみろ
   会社も消費税に合わせて値下げを図り、その下の子会社・孫会社が苦労する事になるというのに
   デフレはデフレを招く。それが繰り返されれば消費税の税収が悪くなるか、
   あるいは回収できても、まるで民衆から金を搾り取る王宮の様になるだろう
   やはりここは、税率を下げる賭けに出るのが妥当だと思わないか?」
男「お前、なんでここにいるんだよ!」
蝙蝠「……ちゃんと聴いてたか?2択だぞ。増税に賛成か、反対か
   350文字以上の理由もつけて答えられるのが望ましい。試験で出るぞ?
   面接なら、1分で丁寧に、はきはきと答えるのがベストだ」
男「質問に質問で返すな。いいか、『 ど こ か ら 来 た ? 』」

まったく、相変わらず訳の分からないコウモリだ。
起きたそばから不法侵入とは、どんな了見だよ。
蝙蝠「勝手に新聞を読んだのは謝る。なんせ新聞なんてしばらくぶりでな
   久しぶりに世界の情勢をと思って借りたんだ
   しかしここにいる事は謝らん。契約の範囲内だ」
男「契約?そう言えばしていたな。どんな内容だったか」
蝙蝠「まったく、もう一度説明してやろう」



(蝙蝠「説明しよう、契約とは。都市伝説と人間の間で行われるものである)
(   人間と契約した都市伝説は、自身の力をさらに高めることができる)
(   都市伝説と契約した人間は、その都市伝説に応じてその力を得る」)



(蝙蝠「しかし代償として、契約者の都市伝説は半ば運命共同体となってしまう」)




男「あぁなるほど、って は あ あ あ ぁ ぁ ぁ !?」
蝙蝠「そんな調子では詐欺に遭うぞ」
男「既にあったよ!昨夜、お前に!」
蝙蝠「代償として、お前は力を得たぞ?」
男「嬉しくは無ぇよ……」



どうにかして追い出さないと。……あれ、どうなんだ?
追い出さなくても、これから俺はヒーローとして……いやいや、ありえん
こいつと暮らす事になれば、あの化け物と命を懸けて戦う事になる
血がいくらあっても足らん。どうするか……



と、考えていると、玄関の方から物音がする

蝙蝠「客人か。じゃあ俺はベッドの下にでも隠れている」
男「窓から帰るという選択肢もあるぞ」
蝙蝠「もし帰れというなら、日が出ている間は無理だ。日に弱くてな」
男「……分かった」

こいつがあの時来なかったら、おそらく全員死んでいた。
仮にも命の恩人だ。自殺してくれとは言える訳がない。
……と言っても、そのまま居つかれる可能性もある。夜までに追い出す方法を考えないと。

色々考えながら、俺は玄関のドアを開ける。

女「おはよう」
男「あ、お前か。おはよう。何でこんな早くに?」
女「買い物に付き合ってくれる約束、忘れたの?」

あ……忘れてた。それで早起きしたのか、俺。
しかし、あのコウモリを置いて外出もなんか不安だ。
仕方がない、今日は断るか。

男「あー、悪い。忘れてた。すまないが今日は調子が悪いから、止めとく」
女「えぇー、残念。じゃあ今日はゆっくり休んで……」



女「……もしかして、誰かいる?」
男「は……?お、俺が浮気なんてするガラに見えるか?」

俺の言い訳も聞かずに勝手に上り込む。やばい、信用されてない。

男「だ、だから俺は何も……」
女「昨日の肝試しの時、悪霊さん持ってきたでしょ?だから調子悪いんだよ」
男「え、あぁそういう……、じゃなくて、それとこれは違うと思うぞ」
女「でもこの部屋何かいるよ。あ、大丈夫、また私が何とかしてあげる」



まずい、お仕事モードだ。こうなるとコウモリを追い払うまで帰らないかも……。
どこかにコウモリを隠すか。しかしどこだ……鍋の中や箱の中ならすぐにバレて開けられてしまう。
冷蔵庫はコウモリに悪いか、いや、冷凍保存と言えば許してもらえる、って開けたらバレバレか。
この部屋の可能性を考えろ……待てよ、あいつもしかして……よし、これだ!

女「見つけたぁ!」
蝙蝠「なんだと!?」
男「って、俺が必死に作戦を練ってる内に見つかってんじゃねぇよ!」



女「あなたが彼を苦しめたのね。退治してくれるー!」ブンブン!
蝙蝠「ちょ、ちょっと待て!目が回るー!」



やばいぞ、あいつなら出来かねん。何とかして止めないと。
こうなったら、一か八か……。



男「止めてくれ!そいつは俺の命の恩人なんだ!」
女「え、そうなの?」ピタッ

信じたァァァ!?そこは疑えよ!こんなコウモリに救われる命があるか!
……ここにあるけども!

女「そういえば邪気もないし、見かけも可愛らしいし
  なんだ、悪霊さんじゃなくて妖精さんなのか」
男「……それでいいのか?」

蝙蝠「可愛いとは失礼な。騎士たる者、可愛げは不要!
   しかし賛美の言葉と言うなら、気持ちだけ受け取ろう」
男「よく分からん。だいたい騎士って、お前は何者なんだ?」
蝙蝠「お、よくぞ聞いてくれた」

するとコウモリは彼女の掌から飛び立ち、テーブルに降りる。

蝙蝠「まぁお前は気付いているかもしれないが、改めて自己紹介しよう
   俺は【吸血鬼】の都市伝説だ。以後宜しく」

薄々勘付いてはいた。霧の中から現れて、あのシルエット。
そして俺が変身した姿とその能力。
正しく【吸血鬼】と言えるだろう。……って。

男「トシデンセツ?『都市伝説』って言ったのか?
  そう言えば契約云々の時も『都市伝説』って言ってたが、妖怪の間違いじゃないのか?」
蝙蝠「『都市伝説』というのは、人の噂や妄想を元に生まれたものの総称だ
   妖怪も、怪談も、UMAも。実在しないはずのものが具現化された存在だ
   カブトムシも蜘蛛もダンゴムシもムカデも、『虫』と一括りにされるのと一緒だ」
女「あぁ、チワワからセント・バーナードまで、姿は違えど全部『犬』、みたいな?」
男「それでいいのか……?両方とも」

説明に関しては納得いかないが、『都市伝説』という存在は理解できた。
【幽霊】も、あの【ゾンビ】も、都市伝説として現れたんだろう。
むしろ、それ以外での説明の方が困難だ。ここは大人しく信じておこう。

女「でも、【吸血鬼】ってあの……。血を吸ったり死ななかったり、
  マントを翼にして飛んだり、ぐるぐる回転しながらキックする人でしょ?
  なのにどうして妖精さんはそんな姿なの?」
男「変な認識が混じっているが、俺も気になっていたんだ
  【吸血鬼】の都市伝説なら、そのコウモリみたいな姿はなんなんだ?」
蝙蝠「ふむ、それを理解するためには、まず【吸血鬼】からだな」



説明しよう、【吸血鬼】とは。
『ヴァンパイア』とも呼ばれ、人々の血をすすり自分の糧とする、怪人の一種である。
日の光に弱いため、日中は棺の中で眠り、夜に活動する。
前述の日光の他の弱点としては、聖水、十字架、ニンニク、流れる川、バラの花が挙げられる。
または銀の武器・弾丸などが非常に有効である。
これらのものがあれば、【吸血鬼】を退かせる事ができるだろう。

【吸血鬼】の主な特徴は、コウモリや霧に姿を変える事が可能で、
ネズミ、コウモリ、オオカミなどの群れを操る事もできる。
非常に優れた再生能力を持ち、仮に物理的に破壊したとしても、棺桶に戻り休息する事で再生できる。
また、血を吸われた人間は【吸血鬼】の仲間なる、というのも有名な話だろう。



蝙蝠「他にもあるが、今はこれぐらいでいいだろう」
女「ふぅん、意外と知らない事もいっぱいあるね」
男「で、本題だ。何故その姿なんだ?」
蝙蝠「『コウモリや霧に姿を変える事が可能』と言っただろう?
   そこから、俺はありとあらゆる姿に変身できるんだ」
男「なら人間の姿にもなれるだろ?どうして人間の姿にならないんだ?
  人型になれば【ゾンビ】共にも苦戦しなかっただろ」

ふと、コウモリが少し悲しげな顔になる。

蝙蝠「確かにお前の言うとおり、人間態にもなれた。昔はな」
男「『昔』?今はできないのか?」
蝙蝠「変身には血が必要なんだ。特に人間態なら、人間の、多くの血が
   今では俺の生前の血が枯れて、もう人間態にはなれなくなった
   しばらくは『あの力』で戦ってこれたがな」

男「生前の血って、血なんて補充できるものじゃないのか?」
蝙蝠「【吸血鬼】の都合上、勝手に血は増えん。他人から吸わない限りな
   だが俺は一滴も人間の血を口にしていなかった
   おそらくお前と契約した時の血が、最初で最後だ」
女「ふぅん、妖精さんも大変なんだね」

かなりシリアスな会話だったのだが、彼女のせいでよく分からない空気になる。
要は『人間の血が足りないせいで人間の姿に戻れない』という事だ。

ただ、同時に『生前』は人間だったという事まで明らかになってしまった。
当たり前のようだが、自分も死ぬと【ゾンビ】か【吸血鬼】みたいなものになるのか。
人生の寂しさを垣間見た瞬間だった。

男「で、『あの力』ってのは?」
蝙蝠「気付いてなかったのか?」
男「どこに気付く要素があるんだよ」
蝙蝠「そうか、では」



説明しよう、【石には魂が宿る】とは!
『石を媒体として、生き物の魂が宿ると信じられていた』事から誕生した都市伝説である。
故に、河原の石を拾うと、その中に宿った霊に呪われる事がある。
また、古来より水晶や翡翠が儀式に使われるのも、これが由縁と言われている。

俺はそれと契約していて、その能力を得ている。
その力は、『都市伝説を封印する』というもの。
霊を封印する力が拡張され、そのような能力となった。



女「へぇ。そう言えば、河原とかでよく人の声を聞くね。それでだったんだ」
男「聞かねぇよ。聞いても聞こえないフリしてるぞ普通
  ……で、じゃああの鎖はなんなんだ?石を生き物のようにコントロールできるのか?」

蝙蝠「いや、本当に生き物が入っているんだ」
男「……は?」
女「なにそれこわい」

するとコウモリはどこからか鎖を取り出した。
無造作に床に置かれた鎖は少しずつ動き出した。
その容姿と動きから、嫌でも蛇を思い浮かべる。

男「……これも、【石】が何とかの力か?」
蝙蝠「正確には【吸血鬼】の能力も組み合わせたものだ
   【吸血鬼】には小動物を操るという伝承もあってな
   その力も駆使して蛇の霊を、石の鎖に定着させていたんだ」

そう言いながら、コウモリは事前に出していた石を鎖にコンとぶつけてみせる。
すると鎖はバラバラになってしまった。

女「ありゃりゃ、なんで?」
蝙蝠「霊力でくっついていたんだ。元々はこのバラバラの石で構成されていた、という事さ
   今はこっちの石に蛇の霊を移動させたから、また鎖に返すと元に戻る」

持っていた石を、バラバラになった鎖にまたコツリとぶつける。
するとあっという間に鎖状に戻り、活き活きと動き出した。

蝙蝠「俺よりも強くない限り、封印している都市伝説の意志を反映するか否かは自由に選択できる
   厄介な都市伝説は石に閉じ込めたままにできるし、
   利用できる都市伝説は、このように石に閉じ込めたまま利用する事もできる、という訳だ」
女「へぇ、面白いね」

能力の実態が分かったところで、本題だ。

男「で、なんでこいつを巻きつけたんだ?しかも封印できていなかったようだが」
蝙蝠「お前が人間だという事と、『俺よりも強かった』せいで封印はできなかった
   血があったら、【ゾンビ】共も封印できたんだろうが……
   まぁ元々、お前を封印するためにお前に巻いたわけではない
   封印だけでなく、力を吸収する拘束具としても使えるんだ。都市伝説に対しては、な」

鎖の蛇と石をどこかへしまいながら、解説を続ける。

蝙蝠「普段は敵に巻きつけて徐々に力を奪って、って戦法だった
   そしてお前と契約したおかげで、俺は『お前を変身させる』力を得た」
男「そこはお前が変身するところだと思うんだが……」
女「え、【吸血鬼】に変身しちゃうの!?」
男「違ッ!……あ、合ってるな」

蝙蝠「ところが、だ。少々問題が発生し、力が著しく暴走した
   このままでは俺もお前も危ないと判断し、力を封印させてもらった
   それでも、【ゾンビ】共をあしらうには充分な力だったがな」
男「力が暴走……どういう事だ?お前の能力に何かあったのか?」

蝙蝠「正確にはお前の『力』だ。契約した事によって、都市伝説の力が上昇する
   それが前の場合、一般人の場合とでは比にならんほど上昇し、暴走したんだ」
男「……えっと、だから?」

女「彼は特別製って事?」
男「何だよ、都市伝説と契約する事に特化した人間って」



そんなバカげた事、と思っていると。



蝙蝠「それがいるんだ。最終的に己が一族を神にせんと、数々の所業を尽くした男と、その末裔……」



蝙蝠「知らないのか?[黄昏]」
男「は……?」









男「なんで俺の名字知ってるんだ……?」








.

蝙蝠「はぁー、良い空気だ。しばらく墓場の淀んだ空気しか吸ってなかったからな」
女「ふふっ、外に出れてよかったね」



男「ちょっと待て、何かおかしいぞこの状況……。お前日に弱いんじゃなかったのか?」
蝙蝠「おぉ、太陽……俺には眩しすぎるぜ……
   あ、そうだ。純粋な【吸血鬼】は日を浴びても消失しない
   日を浴びて消失するのは【吸血鬼】に襲われて【吸血鬼】になった奴だけだ
   これは覚えておいた方がいい」
男「マジかよ。さっさと追い出せばよかった」

急に『話しの続きは買い物でもしながらでいいだろ』とか蝙蝠が言い出したので俺達は外に出ていた。
よく考えれば、俺達に気を使ってくれたのかもしれない。おかげで彼女の約束を破らずに済んだし。
案外良い奴なのかもな。

……じゃない、話の続きだ。

男「[黄昏]って名字にどんな意味があるんだ?」
蝙蝠「……まぁ、子に教えたくもないほど、忌まわしい歴史だろうからな
   親に教わる事なく育てられても不思議ではないか」
女「そんなに……。悪い人だったの?彼のご先祖様」

蝙蝠「悪いというより、超マッドサイエンティストと言った方がいいだろう
   都市伝説……当時は【妖怪】やらが主流だったか、
   初代[黄昏]はそれらの研究をしていたんだ」
女「へぇ、畑の豊作を願うとか、雨乞いするとか?」
男「マッドじゃないだろ、それ。研究のために平気で盗みや殺人をしていた、とかか?」
蝙蝠「そんな事はしない」
男「だろうな。安心したよ」



蝙蝠「……と言って欲しかっただろうが、残念だな」
男「……はァっ!?していたのか!?」
女「な、何のために!?」



蝙蝠「実は情報が無くてな、噂程度にその話が残っているだけだ
   『人を喰うとその力を得られる能力』を得るため、あらゆるものを喰らった、
   【神】になるために自らを祭り上げた、
   恐ろしい力を持つ何かと契約した、その他もろもろ……」

男「『神』か、なれたなら俺は神の末裔になるな」
女「え……。わ、私、なんて恐れ多い事を……」
男「俺が神様に見えるか?神になるのは失敗したんじゃないか、って事だよ」

蝙蝠「その通り。だから初代[黄昏]は己の夢を、子に託す事にした
   ……が、失敗した」
女「何があったの?」

考えられる理由は、2つ。
『その子どもがいなかった』または『何者かに妨害された』。

1番目は、末裔がいる時点で普通に考えればありえない。
しかし、神隠しにあえば一時的に行方不明になり、初代の魔の手から逃れる事もできよう。
だとしたら、運の良い2代目さんだ。

2番目だとしたら、誰が妨害したんだ?
まぁ、『私は神になる』なんて言ってる人間を野放しにする方が怖いか。
となると当時の侍とかが何とかしてくれたんだな。
……待て、それでは血を絶やすために2代目もコロされていないとおかしい。
いったい何故助かったんだ?



蝙蝠「いやそれがな、2代目が……」
男&女「「2代目が……?」」










蝙蝠「恐ろしいほど善人だったんだ」



男「は?」
女「え?」



蝙蝠「これほどにない真人間で、『よく働く』『面倒見がいい』『明るい』の3拍子が揃っていた
   2代目は今の生活に満足しきっていたため、当然『神になりたい』なんて思う気にもならなかった
   だから研究を継ぐ事を蹴ってしまい、そのまま初代は息絶えてしまったんだ」

女「その後2代目はどうなったの?」
蝙蝠「まるで初代との関係を感じさせない2代目は、村人にも好かれ、初代とは逆の意味で有名人だった
   最初は[黄昏]の血を絶やそうとする輩もいたが、村人のおかげと当人の努力もあり、2代目は事なきを得た
   やがて良妻と結婚。そのまま幸せに暮らしましたとさ」
女「うぅ、良かった。やっぱりいい人は救われるんだね……」

……信じていいのか、この話。
おい、殺人を平気でする親の子だぞ。生かしておくなよ。危険だろ。
我が祖先ながら恐ろしいぞ初代[黄昏]。そして2代目も。

男「ちなみに、その後はどうなってるんだ?」
蝙蝠「お前が[黄昏]の名字を持っている事からも分かるだろう?
   そのまま3代目、4代目も善人の集まりになり、初代の存在は忘れ去られていった
   さらに初代の遺志を中途半端に受け継ぎ、能力が評価されたり、人の上に立つ人間が多い
   これは『黄昏家のジンクス』と呼ばれている」
女「うわぁ、ご先祖様、ちょっと可哀想だね」
男「同情してやる相手じゃないだろ」

……しかし、祖先に対して失礼だ、とかあるかもしれないが、それにしても疑問が残る。

男「善人ばかりってのは信じられんな。そんなのありえるのか?」



蝙蝠「実際お前がそうだろ」
女「実際あなたもそうでしょ」

ハモるなよ。なんか恥ずかしいじゃん。
まぁ、あんまり気にしていなかった自分の祖先の過去がしれて良かったよ。
俺の祖先は2代目以降だ、うん。
……あれ、なんか忘れてるぞ?

蝙蝠「おっと、『能力』の件だな」
男「そうだ、何が起こったんだ?」

蝙蝠「簡潔に言うと、初代は自分の子孫にある力を与えたらしい」
男「それが、あの暴走に繋がるのか」
蝙蝠「おそらく、な。なにせ[黄昏]に会うのは初めてでな。
   それ自体が都市伝説だとも思っていたぐらいだ。情報が少ない」

無駄に知識の多い奴だと思っていたが、知らない事もあるのか。
それでも、全く知らない俺には充分価値がある。

女「どんな、力なの?」
蝙蝠「それはだな……」







コウモリはじっくり溜める。






じっくり溜めて、じっくり溜めて。






買い物カゴの中に、すっぽんの血がたっぷり入った瓶を、こっそり入れた。



男「おいちょっと待て」
蝙蝠「俺の隠密に気付くとは、さすがは黄昏家」
女「私も気づいてたよ!すごいでしょ!」
男「誰でも気づくし、精算の時にばれるだろうが……」

俺が元の場所に戻そうとすると、妨害するように俺の手の甲に乗っかる。

蝙蝠「まて、これは俺の大事なエネルギー源だ。買ってくれ」
男「エネルギー源って……俺の血じゃないのか?」
蝙蝠「俺は人間の血なぞ吸いたくない。だから動物の血をエネルギー源としているんだ
   これ1本で生きていけるんだ、毎日吸われるよりはマシだろう?」

まぁそうだが。しかしすっぽんの血って……。

男「生きるためとはいえ、お前もつらいだろ?」
蝙蝠「いや、生前好きだったんだ。すっぽんの血」
男「……は?」

蝙蝠「まぁ、あれは大人の味ってやつだ、分からないのも無理はない。
   だが俺は愛飲していてな、クラスメイトに付けられたあだ名は『血吸いコウモリ』だった」
女「だから【吸血鬼】になっちゃったんだ。それにしても、おませさんだったんだね」
蝙蝠「はっはっは、非行に走っていた時期でな。その由縁で飛べるわけだ」

……無視しよう。

女「ところで、『力』って都市伝説に気付く事なの?」
男「急に話が戻ったと思ったら、どうしてそんな思考になった」
女「だって、コソコソやってたときに『さすが黄昏家』って言ってたから」
男「そんなんだったら、ぶん殴ってやるよ」

だいたい、都市伝説の気配ぐらい分かるだろ。
その理屈なら、お前だって黄昏家の一員じゃねぇか。

蝙蝠「まぁ、ひとつはそうだな」
男「はァ?!」
蝙蝠「殴らないでくれ。常識的に考えろ。誰でも都市伝説が気配で分かるなら、近寄らないだろう?」

……それもそうか。
俺の友人がバカばっかなのかと思ってたんだけど、気付かないのが普通だったのか。

蝙蝠「その性質上、黄昏家は表立って、あるいは人知れず都市伝説と戦うものが多い。
   『鬼退治伝説』のいくつかには、裏で黄昏家が活躍していたんだという説もあるらしい」
女「なるほど……」
男「おいおい、都市伝説の気配なんて、こいつだって分かるんだぞ?すごい事なのか?」

それを聞いたコウモリは、ただでさえデフォルメされたように丸い目をさらに丸くする。

女「え、私?」
男「お前、肝試しするっていった墓地を見て、なんて言ったか覚えてるか?」
女「んっと……『3、4人くらい悪霊さんがいる』って言ったっけ?」

蝙蝠「……あそこに居たのは、俺と【ゾンビ】3体……」
男「しかも『ちゃんと眠れなかった』……つまり、死にぞこないだということも言い当てた
  俺なんかよりも、よっぽど正確に都市伝説の気配を感知している。それに、退治だって」
蝙蝠「なんとッ?」

女「悪霊さんの退治なら任せてよ。私がガツンと言えば、すぐ帰ってくれるから」
男「これは事実だ。俺が把握しているだけでも、教師に憑りついた霊を成仏させたり、
  作法を誤って怒らせた【こっくりさん】を帰らせたり……」

蝙蝠「……契約者、なのか?」
女「けーやく?都市伝説って言葉も初めて聞いたんだけど、身に覚えが……」
男「そもそも、こいつの周りから都市伝説の気配を感じないだろ?それはない」

出会ってまだ1日も経っていないが、コウモリがうんうんと頭をひねる様は新鮮だった。
「黄昏家以外にも、霊感や特殊な力を持った人間はいる。彼女もそれだろうか」と
それらしい考えを言ったものの、コウモリ自身が納得していなかった。
そして、事の発端が閃いたように顔を上げる。

女「あ。私のお母さん、[黄昏]」

……ここにまで浸食していたか、黄昏家!

男「そういえば初めてあった時から思ってたんだよな。
  なんで従兄妹でもないのに家族ぐるみで会うのか……。
  あれは黄昏家の集会だったのか……?」
蝙蝠「……なるほど、それならしっくりくる。やはりこのニオイが黄昏家のものか……。
   お前よりも薄いが、ほのかに香るこの禍々しくも優しいニオイ。
   ならば、都市伝説を退かせる力もまた……」
女「黄昏家の……力?」

口調的に、分かってはいたが……もうひとつあるのか。

蝙蝠「俗に、【黄昏家の呪い】と呼ばれる力……その共通点は……。
   『都市伝説に影響を与える』という点だ」
男「都市伝説に……影響?単なる人間に、そんなことができるのか?」
蝙蝠「そもそも噂から生まれた『都市伝説』だ。
   『契約』だって影響を与えているといえば、一般人でも影響を与えることができる。
   だが……黄昏家の人間は、『都市伝説との親和性が高い』んだ」

「親和性」―――なかなか奇妙な単語だ。
初代黄昏は、俺の先祖は、何をしたかったんだ?

蝙蝠「俺だって話半分に聞いていた。だがお前に会った時、真実だと認めた。
   黄昏家の人間は、『契約すら介せず都市伝説に影響を与えられる』」
男「……えっと」
女「どういうこと?」

コウモリは、どこからともなく鎖の蛇を取り出す。

蝙蝠「俺が最初に、お前にこれを巻きつけた時、覚えているか?」
男「【吸血鬼】に変身した時、だったよな?」
蝙蝠「もうひとつ前だ」
男「ん?……あぁ、訳が分からなかったから、引きちぎったやつか」

彼女が「貸して」といって鎖を受け取り、おもむろに引っ張る。
当たり前のように、それが千切れる気配はない。

女「霊力でくっついているんだよね。簡単に千切れるものなの?」
蝙蝠「当然、普通は千切れん。簡単に壊す方法はあるが」
男「俺はなにをやらかしたんだ?」



蝙蝠「俺の契約都市伝説の能力をな、使ったんだよ」



男「……それって、やっていい事なのか?」
蝙蝠「契約者どころか、都市伝説の意志すら無視して、能力を勝手に使う……
   やっていい事だと思うか?俺は規格外だと思うが」

規格外……それが【黄昏家の呪い】か。
都市伝説、なんていう掟破りな存在にも、『契約』というルールがある。
そのルールを無視して、都市伝説を支配する。
そんなやつがいっぱい居るんだと思うと、怖くて仕方ないが。

女「じゃあ、私もこれを壊せる……よね?」
男「うーん、無意識に使ったから何とも言えないが……意識をそいつに飛ばすような感覚、か?」
蝙蝠「おっと、言い忘れていたが……【黄昏家の呪い】は唯一無二らしい
   きっと『都市伝説を退かせる力』だけが彼女の力だ」
男「逆に言うと、俺にその力はない、と」

まぁ、どうであれだ。
俺はこの力を使いこなす事で、あいつらと戦う事ができるってこと……。
あれ?なにか忘れているような……あ。

女「これからよろしくね、妖精さん」
蝙蝠「あぁ、共に都市伝説と」

男「ちょっと待てぇーい! 俺は『友達を助けたい』とは言ったが、
  『一生、都市伝説と戦い続ける』とは言っていない!」

蝙蝠「……なら、どうする?」
男「都市伝説と戦いたいならひとりでやれ。契約を切る方法を教えろ」

そうだ、俺は一般人。都市伝説と戦う義務なんてない。
あんな特殊な経験は、一生に一度で充分だ。
今度こそ、いつも通りの人生を……。



―――聞いた?昨日、【ゾンビ】が出たんだって―――



男「ッ!?」



―――知ってる、ゆらゆらと夜道を彷徨っていたんだっけ?―――



―――トモコ、襲われそうになって必死に逃げたんだって―――



―――転んで怪我したんだってさ。その程度で済んでよかったね―――



男「あの時……逃げた【ゾンビ】か……?」



女子高生「こわーい!夜道は気をつけよっ」「「ねー♪」」「夜道といえば、最近【狼男】が―――」



蝙蝠「『契約解除』だ」



男「は?」
蝙蝠「その一言で、俺達の縁は切れる。お前は日常に帰ることができる
   だが、これだけは言っておきたい」



蝙蝠「この世のすべての人間が、契約すれば都市伝説と戦えるわけではない
   例えどれほど勇気が満ち溢れていようとも、力が無ければただの愚者として散る
   例えどれほど力が満ち溢れていようとも、勇気が無ければただの弱者として朽ちる
   都市伝説と戦うことができるのは、勇気を持って力を使い、愚者と弱者を守れるものだけだ
   ……あくまで、持論だがな」

勇気と、力……

昨日、俺はこのコウモリと出会った。
俺には、【黄昏家の呪い】という力があって、『友達を守る』という勇気があった。

もしもあの時、俺がいなかったら……他の誰かが契約していたら……
あいつ等は、助かっていたんだろうか?

ふと、俺の服の裾を引く手に気が付く。

女「私はね、別にあなたが【神】になっても【吸血鬼】になってもいいよ
  だから……後悔だけは、しないで」



この感覚は、昨日も感じた。

昨日、俺は奇跡に懸けて【吸血鬼】と契約した。

そのおかげで、俺達は助かった。奇跡が本当に起きたんだ。



……そうか、あの時起きた『奇跡』は……
あの日起きた、本当の『奇跡』は……





ゾンビ「仲間、ナカマぁ……マた仲間ヲ、つくラナいと……」

ゾンビ「……もウ、独りは、いやダぁ……仲間ぁ……」






男「そこまでだ、ゾンビ野郎」

ゾンビ「ヒィッ……ば、バケモノぉ……」



男「おいおい……【ゾンビ】に化けもの扱いされるとはな」
ゾンビ「くるな、来るなァ……」

俺は、ゆっくりと【ゾンビ】に歩み寄っていく。
【ゾンビ】は、俺に怯えて後ずさる。

男「この力が、忌むべき血の代償だとしても……
  俺はこの力で、お前達を倒す!」

天高く手を掲げ、大声で叫ぶ。



男「来い!コウモリもどき!」

蝙蝠「キバって!いくぜぇ!」

コウモリがドロドロの液体となり、俺の身体にまとわりつく。
その液体はゆっくりと固まっていき、不快感がなくなる頃には、立派な衣装に変化していた。
そう、俺はまた【吸血鬼】の姿になった。

男「とっとと終わらせるぞ」
蝙蝠「そうか、ならあれで行くか!」

俺が大ジャンプすると同時に、コウモリが笛を吹く。
その瞬間、右脚の鎖が弾け飛び、全身の力が右脚に集中する。



今回は気を抜かないようにと集中し、気付いたことがある。



これは、誰の力だ?



俺はいったい、何の都市伝説から、この力を奪っているんだ?



俺の脚は、あの【ゾンビ】へ向けて一直線に飛んでいく。



俺の脚は、禍々しいオーラを放ちながら、敵の元へと飛んでいく。



……これは、本当に俺の足か?



これは、本当に俺の……



蝙蝠「意識を強く保て!」
男「ッ!?」
蝙蝠「お前はお前だ!自分を信じ、貫け!」



その言葉を頼りに、俺は再度集中する。



ゾンビ「イヤ……」



俺の脚は、確実に【ゾンビ】を貫いた。

ゾンビ「ァ……ぁぁ……」



振り返ると、ゾンビの身体はじわじわと何かに吸収されているようだった。
最後に残ったのは、妙な輝きを放つ丸い石……どうやら、俺の靴にあった装飾品の石が、また外れたようだ。

男「今度こそ、踏み壊さないぞ」
蝙蝠「いや、踏み壊しておけ」
男「……いいのか? いや、やるべきなのか」

俺はコウモリにいわれて、石を踏み壊す。
壊した瞬間、瘴気のようなものが溢れ出たが、すぐに霧散してしまった。

男「大丈夫なのか?今のでアイツを解放しちまったんじゃ……」
蝙蝠「今のは『魂解』。魂を、本来あるべき場所へ送り届ける力だ
   お前は、都市伝説化という魂の呪縛から、アイツを解放してやれたんだ」
男「……お前、そんな力まであったのか」
蝙蝠「そんな力があると知っていれば、とうの昔から使っていただろうな」

意味が理解できずに小首をかしげていると、すぐにその答えが返ってきた。

蝙蝠「お前が見つけたんだよ、俺の契約都市伝説の、新たな使い方を」
男「俺が……?」
蝙蝠「お前の能力は、決して卑怯なものではない
   お前の工夫次第で、誰かを救う事だってできる
   ……その能力を手にしたのが、お前で良かったよ」

……相変わらず、よく分からない事を口にするコウモリだが……。
とりあえず、『俺は俺の力で戦える』ってことは分かった。
まだまだよく分からないが……この呪いとも付き合っていかないといけないようだ。

また、感謝する事がひとつ増えてしまった。

蝙蝠「奴らが、俺と同じ元人間だったとしたら……人間を襲うことに抵抗があっても、野性には逆らえなかったとしたら……
   あるいは、呪縛から解放されたことを感謝しているのかもしれないな」
男「感謝するのは俺の方だがな」
蝙蝠「ん?」






―――あの日、もしもあそこに【ゾンビ】がいなかったら。


俺とこいつは永遠に出会わなかっただろう。


きっと、あの日起きた、本当の奇跡は―――






俺とこいつが、出会ったこと……なんてな。






蝙蝠「……臭いな」
男「はぁっ!?」
蝙蝠「いや、【ゾンビ】の残り香。【吸血鬼】は嗅覚が犬並でな……つらい」
男「そうかい。じゃあ今晩はニンニク祭りにしよう」
蝙蝠「冗談でなくやめてくれ」
男「ははは、冗談だよ。まぁ……」



仲良くやろうぜ、コウモリもどき。



―――Draw to Next Card ?

うぅむ、ドリアンに見られたら「アマチュアのお遊びね!」って言われそうな……
ちょっと突貫工事過ぎました。反省。

さて、裂邪と正義よろしく「黄昏家」の設定が、まさかのこっちで初お披露目
(本当は、光彦が語る回があるんだけど……なぜか投稿していなかったんだよね)
兄者と話しつつ決めた部分もあるんですが、結局自分が押し通したり捏造した設定もいくつかあったり……
今度、改めて設定について話し合うべきかなぁ

では、次回予告コーナー
なんとなく、ライダーの次回予告ってこんな感じ~というイメージで作っているので
構成など、本編とは異なる場合がございます。あしからず
実際、「全く違うシーンで会話成立」みたいな次回予告があった記憶が……



☆次回予告SS

?A「目が覚めたと思ったら、この仕打ちとはね」
?B「今回のゲームはッ?!……もうゲームオーバーは、御免だッ!」


狼男「グルルルルルルゥ……」
男「丁度いい……実験台になってもらうか!」


狼男「俺の契約者となれ!」
女「嫌ぁぁぁぁぁぁ!」


―――魔性の月よ!今宵だけでもいい、俺の傷を癒すための……力となれ!―――


→Next Card「魔性の月」

前回から13日も経ってる……

 武術の達人は基礎鍛錬を怠ることがない。
 それは、武術というものが身につけるのは難しく、手放すのは容易いものだからだ。
 そんなことはない、一度身につけた技術はそうそう消えないと考える人間もいるだろう。
 例えば、自転車に数年乗っていなくとも運転することができるようにと。
 しかし、その場合、数年前並に運転することはできないだろう。
 僅かではあるが、バランスが取りにくくなっていたり、前ほど軽快にペダルを漕げなくなっているはずだ。
 武術のような勝負の世界では、そのような小さな事柄が命取りとなる。
 また、ひどい場合だと技を使う上で必要な勘を失ってしまうこともある。
 一度失った勘を取り戻そうとすると、かなりの時間を使わないといけない。
 武術はひどく繊細なものだ、達人はそれを理解し常に基礎鍛錬を怠らない。
 私が習得しているような、特殊な戦闘技術の場合、その事実が顕著に現れる。
 約十メートル先の大岩に載っている、アルミ缶を見つめながら、そのことを強く意識する。
 今からする鍛錬は単純なものだ。
 糸でアルミ缶を真っ二つにする、ただそれだけ。
 私の実力からすれば簡単にできることだ。
 けれど、これを一日行わないだけで僅かに腕と勘が鈍る。
 そのため、毎日欠かすことなく行っている。
「……」
 ゆっくりと深呼吸を行い、右手の人差し指から能力で糸を生み出す。
 細く透明な糸だ。
 しかし、見た目に反して、耐久度は普通の糸と比べ物にならない。
 右手を前に突き出し、人差し指を軽く動かす。
 これだけの行為で、アルミ缶を真っ二つにする準備が出来たことを悟ることができるのは、同じ技術を持つ者か武術の達人くらいだろう。
 感覚を強化する能力を持つ者もわかるかも知れない。
 あくまで憶測に過ぎないけれど。
 それよりも、今は目の前のことに集中するべきだ。
 微かに吹いている風、先程の模擬戦闘で温かくなった体、少し早くなった心臓の鼓動。
 その他の様々な条件、これらが糸の動きに影響を及ぼす。
 全てを意識しながらも、目線はアルミ缶から離さない。
 体感時間で数秒が経った頃、鳥が木から飛び立つ音が聞こえた。
 私の中でそれが合図となった。
 脳内に浮かび上がった刀のイメージを胸に、人差し指を横へ動かす。
 指には力を込めない。
 あくまで、水面を波が立たないように、なでるかのように慎重かつ潔く。
 この技術を授けてくれた恩人の言葉が蘇る。
「……今日も問題なしね」
 真っ二つになった空き缶の上部が岩の上に落ちた。

一回目が成功したあとも私は同じ鍛錬を続けていた。
 技は、気が遠くなるほどの反復練習を繰り返して初めて身につくものだからだ。
 十五回目も成功し、真っ二つになったアルミ缶を新しいものに交換していると、鳥の飛び立つ音が聞こえた。
 それも無数の。
 山中からありとあらゆる種類の鳥の鳴く声が聞こえる。
 普通なら異常事態と判断できる現象だ。
 しかし、私は驚かない。
 なぜならば、これは毎朝この山で起きている現象だからだ。
「今日もピッタリ四時半ね」 
 左腕の腕時計を見て呟く。
 そして、顔を上げた時、私はほぼ毎朝ここで繰り広げられている光景を見た。
 大きなリュックを背負った巨漢の男が猛スピードで斜面を一直線に下っていく姿を。
 何も知らない人が見たら夢だと思ってしまうだろう。
 しかし、これは現実だ。
 彼こと私の兄は、大胆な行動を危なげのない精密な動きで行い、今日も斜面を下っていく。
 その姿を見ていると、いつものようにある感情が生まれた。
 それは、今日も心に粘りつく。
 猛スピードで斜面を下るだけなら私でもできる。
 けれど、兄さんと同等のスピードは二つの理由のせいで出せない。
 一つ目の理由は、兄さんは我が家の中で唯一、武術や戦闘技術を収めずに肉体の鍛錬だけを集中的におこなっているからというが理由の一つ。
 そのため、単純な身体能力だけで我が家でもトップラクスだ。
 二つ目の理由はもっと単純なもの。
 それは――。
「どうしたの、『チバ・フー・フィー』?」
 隣に姿を現した自身の契約都市伝説である巨大蜘蛛に声をかける。
 山での鍛錬中は、基本的にこの子を自由にさせていて、この子自身も私に気を使ってか接触をしてこない。
 なのにも関わらず、この子が現れたということは……。
「ごめんね、気を使わせちゃって」
 そう言い、『チバ・フー・フィー』の頭を撫でてあげる。
 すると、『チバ・フィー・フィー』は目を細めて気持ちよさそうにしてくれた。
 本当に、優しい子だ。
 今のように、感情に押しつぶされそうになった時は必ずそばにいてくれる。
 そのおかげでどれだけ助かったことか。
 私という人間は、この子がいてくれるから成立しているといっても過言ではない。
「それじゃあ、ちょっと手伝ってもらっていい?」
 チバ・フー・フィーにそう尋ねると、すぐに頷いてくれた。
 本当は、もう少し基礎鍛錬をするつもりだったが、予定を変更することにした。
 中途半端な状態では中途半端な成果しか得られないと思ったからだ。
 それならば、この子と一緒に他の鍛錬をしたほうがいい。
 どの鍛錬をするか考えながらも、私は既に山を下り、公道を走り抜けている兄を目で追っていた。
 優は焦りすぎなんだよ、姉の言った正しい四つ目の理由が脳内で再生された。
「……焦るに決まっている。だって、私は」
 最弱なんだから。

 物心をついて初めて求めたものは、玩具でも、母の温もりでもなかった。
 誰にも負けない強さ、それが私の求めたものだった。
 それは何も不思議なことではない。
 私達『鬼神の血族』にとっては。
 『鬼人の血族』の発祥は大昔まで遡る、詳しい年代はわからない。
 まだ、そのころ神は人の身近にいた。
 科学が発達していないかったため、神の存在を信じる人が多かったからだ。
 その思いがたくさんの神を生み出し人々の願いを叶えていた。
 そんな中、一体の荒々しい神が生まれ、暴虐の限りを尽くした。
 もちろん、人々はその神が消滅することを他の神に祈ったが無駄だった。
 圧倒的な力を持つその神の前に、他の神々は敗北しからだ。
 唯一頼れるものを失った人々は、その神に屈服し、『鬼神』と名づけ崇めた。
 名を得た『鬼神』は、益々強力な力を得たが、暴虐を行うことはなくなった。
 それどころか、圧倒的な力を使い人々を災いから守りさえした。
 こうして、恐ろしい神でしかなかった『鬼神』は、善い神なのかもしれないと人々に思われるようになった。
 しかし、ある日鬼神は人々にこんな要求を行った。
 この国で一番の美人を献上しろ、と。
 女達はその要求に震え上がった。
 『鬼神』に生贄として喰い殺されると解釈したからだ。
 その後、この国では奇怪な騒動が繰り広げられることとなった。
 とある山村で一番の美人と言われた女は、自慢の顔を自らの手で包丁を使い傷だらけに。
 美しい純粋な少女は、『鬼神』に喰い殺されるくらいならと、自身の思い人と心中。
 裕福な商人の美人妻は、娘に化粧を教え込み、自分以上の美人にしようと。
 女達は生贄になることをおそれ、それぞれ様々な手段を取った。
 が、要求があってから一月、自体は急展開を迎える。
 年端もいかない少女が、自ら『鬼神』の生贄になると名乗り出たのだ。
 その少女は、文句のつけようがない美人で、都合がいいことに身寄りもなかった。
 少女は、すぐに『鬼神』へと献上され、奇怪な騒動は終わりを告げた。
 それから十数年、大きな厄災も争いもなく、平和な時が流れていた。
 だが、ある日、事件は起きた。
 例の生贄の少女が、年相応の姿で帰ってきたのだ。
 それだけなら、大事にはならない。
 問題は、少女改め女の姿と、連れている者達だった。
 女は、腹を膨らませていて、幾人もの子供を連れてきていたのだ。
 人々は、ある予想をしながら女に尋ねた。
 これは誰との間にできた子だと。
 その質問に、女は笑って答えた。
 この子達は『鬼神』との間にできた子だと。

 この子供達が、最初の『鬼神の血族』と呼ばれている。
 話通りだと私達は、彼らの遠い祖先にあたるわけだ。
 けれど、そもそもこの『鬼神の血族』に伝わる話が、真実だとは限らない。
 むしろ、後から捏造した話の可能性の方が高い。
 確かなことは、『鬼神の血族』と呼ばれる者は、並外れた身体能力や五感、都市伝説に対する親和性と耐性をほぼ生まれつき持ち、その力は子孫に遺伝するということだ。
 そして、もう一つ。
 『鬼神の血族』は物心がつくと同時に強さを求めるようになる。
 本能的に。
 衝動的に。
 絶対的に。
 その効果は凄まじく、まるで自身の体に欠けている何かを探すように、強さという酷く曖昧なものを必死に追いかけてしまう。
 大抵の者は、強さを得るために武道の道に走る。
 我が家が特にいい例だ。
 私の両親と祖父母は、皆『鬼人の血族』だ。
 そのため、祖父は剣術、祖母は薙刀と弓道と独自の体術、父は柔術、母は空手と八極拳の道を強さを求め極めた。
 今は、それを生かし敷地内で道場を開き、それぞれ習得した武術を教えて生計を立てている。
 勿論、強さを求めていくうちに、何か強くなりたい他の理由が生まれることはある。
 けれど、核はあくまで、誰よりも強くなりたいという本能だ。
 このあまりに強力すぎる効果から、私達はこの本能をこう呼んでいる。
 『鬼神の呪い』と。

 自分が同じ『鬼神の血族』である姉達に比べ劣っていると気づいたのは、まだ武術を学ぶ前のころだ。
 ある日、家の中を徘徊していた幼い私は、たまたま姉達が鍛錬を行っているところを見てしまった。
 行っていたのは、別に特別な訓練等ではなく、基本的なもの。
 けれど、私はその風景を見て、感覚的に、自分と姉達の間に差があることを知った。
 数年後、都市伝説を知り武術を習い始めた私は、あの日なぜそう感じたのか、詳しく理解できるようになった。
 『鬼神の血族』は、都市伝説に対する親和性が高いほど、自身の異形の力をより引き出すことができる。
 私の場合は、その親和性があまり高くないため、姉達に比べ力を引き出すことができず、身体能力等が劣っている。
 ちなみに、この親和性が高いことを血が濃いといい、低いことを血が薄いという。
 大きなハンディキャップの存在を認識した私は、それでも強くなることを諦めることはしなかった。
 いや、できなかったというほうが正しい。
 『鬼神の呪い』は壁を知ってよりいっそう力を求めるようになり、私自身も弱い自分を許せなかったからだ。
 普通の武術を習うだけでは、姉達に勝つことができないと思い、祖父母の知人が使っていた糸の曲芸を戦闘に使えないかと考え、その技術を伝承した。
 それからは、より一層強さを求めた。
 曲芸の習得、曲芸を戦闘用にするためのアレンジ、基礎鍛錬、武術の鍛錬。
 忙しい時間を経た私は、昔の自分の何十倍も強くなった。
 糸を自由に操れるようになり、『チバ・フィーフィー』というパートナーを得て、実戦経験も磨いた。
 それでも、私は一家最弱だった。

 両親や祖父母には、最初から勝てると思っていなかった。
 いくら、私が強くなったとしても、差がありすぎる。
 少なとも、天と地ほどは。
 私が勝てるかもしれないと思っていたのは、姉こと鬼神愛と兄こと鬼神拳次だった。
 二人のほうが才能が上でも、これだけの鍛錬をしたんだからチャンスはあると。
 けれど、それはとんだ思い違いだということは、私は姉と戦いすぐに知る。
 磨き上げられた忍術、かけひきの上手さ、鋭い観察眼、予測を安々と超える行動。
 何もかも完敗だった。
 姉はちょっとした差だと言った、私のほうが経験が長いからと。
 私は、そこまで楽天的には考えられなかったが、少しは納得することができた。
 優れた年長者に勝つというのは、一筋縄ではいかない。
 そのため、いまだに姉に勝てないことについては、ある程度納得がいっている。
 ……けれど、兄さんに関しては事情が違う。
 兄は、『鬼神の血族』の中でも極めて異端な存在だ。
 なにしろ、兄は『鬼神の血族』であるにも関わらず、強さを求めることに執着を見せない存在だからだ。
 本来は、そんなことは考えられない。
 『鬼神の血族』として生まれた人間は、誰にも負けない強さを求め生き死んでいく存在だ。
 特に、兄は人一倍親和性が高く、その分『鬼神の呪い』の効果も高い。
 なのにも関わらず、兄は強くなることを、あくまで手段としか見ていない。
 力を求めるのは、あくまで何かを成し遂げるために必要だからに過ぎないと。
 さらに、兄は一家の中で唯一、武術や戦闘技術を習っていない。
 その代わりに、人一倍体の鍛錬に力を入れているからといっても、『鬼神の血族』としては極めて珍しい。
 これらのことから、私は一時期兄が自分より弱いと思っていた時期があった。
 強さに執着を見せず、武術も習っていない兄が、必死に強くなるための努力を重ねてきた私に勝てるはずがないと。
 その思い込みを砕かれたのは、山での修行帰りに襲ってきた契約者との戦闘中でのことだった。
 契約者は、『村正』・『グロック17はプラスチック製』と多重契約をしている中々の手馴れだった。
 近距離では『村正』での斬撃、中距離では能力で生み出したグロッグ17での銃撃を行い、運動能力で勝るはずの私を翻弄させた。
 それでも、徐々に私が押して行き、勝利が目前となった瞬間、予想外の出来事が起こった。
 突然、背後から耳をつんざくような音、銃声が響いたのだ。
 振り返ったときには、私の胴体に既に着弾していた。
 目線の先には、猟銃と思える銃を構えた男が。
 どうやら、仲間は何かしらの能力の力で気配を消していたらしい。
 これが、普通の銃弾だったら、致命的な問題にはならない。
 もちろん、『鬼神の血族』だからといって銃弾は肉体を貫くが、そう簡単に致命的な損傷にはならない。
 最低でもS&WM500を超近距離で使わないと無理だよ~、と姉は言っていた。
 付け加えてこうも言っていた、普通の銃だったらの話だけど。
 銃弾を喰らった私は、その場に膝をついてしまった。
 このままだとまずいと判断し、痛みをこらえながら立ち上がろうとする。
 しかし、膝に全く力が入らなかった。
 後から知ったことだが、私を撃った契約者は『麻酔銃最強説』という都市伝説と契約していたらしい。
 この都市伝説は、言葉の通り、麻酔銃の効果を極限まで高め、まさしく一撃必殺の最強の武器とする。
 その効果は、『鬼神の血族』に対しても有効なそうだ。
 そんなことを知らなかったあの日の私は、せめて指を動かそうとするが、震えが止まらずまともに動かすことができなかった。
 頼りの綱の『チバ・フィーフィー』も、『村正』の契約者の相手をするので精一杯だ。
 死を覚悟した。
 この絶望的で致命的な状況に。
「――おい」
 そんな時だった。
「お前ら、俺の妹に」
 ただ歩くだけで周辺の道路にヒビをいれながら。
 『麻酔銃最強説』の契約者の銃弾を右拳で弾きながら。
 隠れていた三人目の契約者の『狐火』を左拳で吹き飛ばしながら。
「何をしている……!!」
 兄は現れた。
 私の意識が遠のいたのはその直後だった。

 この戦闘の被害は凄まじかったらしい。
 道路は粉に、電柱は石になり、クレーターがいくつもできてしまったらしい。
 しかし、『組織』が全力で隠蔽したらしいので大事にはならなかった。
 聞いた話によると、『組織』は我が家に多大な借りがあるらしく、祖父母達がそれを理由に組織に速やかな隠蔽を要求したらしい。
 私の怪我は、目が覚めた時には既に治っていた。
 『鬼神の血族』のもつ高い再生能力と、懇意にしている契約者の能力のおかげで。
 兄は、あれだけのことをしたのに、一切怪我を負っていなかった。
 さらに、三人の契約者も生きたまま捕まえ、組織に引き渡したそうだ。
 姉からその話を聞いた私は、ある感情を強く抱いた。
 それは、兄に対する感謝でも自身に対する憤りでもなく、どこまでも純粋で粘着的なもの。
 嫉妬心だった。
 圧倒的に優れた才能を持つというだけで、戦うための努力を重ねてきた私よりも高い位置にいる。
 戦う技術を持っていないのにも関わらず。
 そのことが、たまらなく不快だった。
 この日から、私は兄にコンプレックスを抱くようになる。
 それが本格的なものになったのは二年前で、態度に出るようになったのは少し前のことだ。

続く

7月中には終わらせたい……

お酒回っているので変なことを書いてそうです、書いていたらすみません

>>302
【黄昏家の呪い】は、無尽蔵に都市伝説と契約できる器を作ろうって計画なんです。発端は
当然、それを体現できた黄昏家の人間はいません
最も近づいたのが裂邪でしたが、都市伝説と融合できる裂邪でも「未完成」です
これについてと、「偽りの噂」も吸血鬼の路で明らかにしたい所存

>ワンパン

敵の悪行を強調する、敵が自分より強い相手と遭遇した時の心理描写……自分ではこの程度です
「ワンパンで敵を倒した主人公を見て、彼の背中を追いかけようとするサブ主人公」なんていうものアリなんでしょうかね?
限界が来るかもしれないと思った時、ワンパンから徐々に、かつ違和感なくダイエットできますから
メインとサブ両方の主人公によるWパンチ……というのもまたいい気がする

>>303
>ワンパンで敵を倒した主人公を見て、彼の背中を追いかけようとするサブ主人公
自分のだと輝がその立ち位置です

先に影の人と大王の人へ
裂君ですが存在を匂わせる発言だけで個人名称は出てきません
ただ、融合の設定をお借りします
問題がある場合は申告お願いします

それでは始めます

「ゆっちー、ちょっとゆっちー」
 隣に座る人物が発する不快な呼び名によって、私の意識は遠いところから戻ってきた。
「……その呼び方は、前にやめろと言ったはずです」
「えー、ココロ的にはーかわいいと思うんだけどなー」
 海老名ココロは、首をかしげ、二つに結った髪を揺らしながら、両手に顎を載せ言った。
 典型的すぎるぶりっ子ポーズだ。
 日常的にこんなことをするのは、きっと彼女くらいだろう。
「前に言ったように、苗字か名前で呼んでください」
「いやだよー、私とゆっちーの仲でしょー」
 ぶかぶかなジャージの裾を掴みながら彼女は嘯いた。
 私と彼女はクラスメイトなだけで友人でも何でもない。
 ただ、少し特殊な関係ではある。
「いいから仕事の話をしましょう」
「えー、もう少しーお喋りしようよー」
「時間の無駄です、早く本題に入ってください」
「もー、わかったよー」
 こちらに向かって、羽根が飛んできたのは、彼女が渋々納得したのと同時だった。
 私は、それに対し仰ぐように右手を動かす。
 すると、予想通りに羽は方向を転換し、使っていたプレイヤーの下へ飛んでいった。
 ラケットを片手に、プレイヤーは唖然としていたが、こちら向かいお辞儀をするとすぐに試合を再開した。
「触れてないのにー持ち主の場所にー返すなんてねー。相変わらずー、ゆっちーはすごいよー」
「私は、恥ずかしげもなくぶりっ子ぶるあなたのほうがすごいと思います」
「えー、ぶりっ子ぶってなんかないよー。ココロはーもとからこうだよ」
 海老名ココロは、胡散臭さしか感じないウインクをした。
「……一度あなたの面の皮をはいでみたいです」
 思わず溜息が出る。
 疲れた心を気分転換するため、体育館の風景を見ることにした。
 今、私達第一中学校二年A組は体育の授業を行っている。
 男子はグラウンドでサッカー、女子はこの体育館でバトミントンを行っている。
 私と海老名ココロは、バトミントンを行わず、体育館の隅でこうして座りながら会話をしていた。
「じゃあー、最初にーサービストークでもしようかなー」
 海老名ココロは、私の気分が良くなった頃にそう切り出した。
「第二中学のー『ヒトガタ』使いの件はー知ってるよねー?」
「もちろん、あれだけ派手に力を使っていたら」
「うちの学校の生徒もー被害に遭ってたしねー。まあ、不良とかにしかー手は出してなかったみたいだけどー」
「で、彼がどうしたんですか? このごろ、噂を聞かないので組織に始末されたと思ってましたけど」
「それがねー、なんとなんとーゆっっちーのお兄ちゃんがー彼と戦ったらしいんだよ!!」
 唐突に出てきた兄の名前に、私は特に驚かなかった。
「あれー、驚かないのー?」
「そのくらいのことじゃ驚きませんよ。よくあることですし。で、どうせ兄が『ヒトガタ』を倒して肩がついたんですよね」
 兄は、よく都市伝説絡みの事件に手を出す。
 そのたび、都市伝説を倒し、契約者は見逃すか組織に引き渡す。
 この行動は、一見正義感ゆえの行動に思えるがおそらく違う。
 兄は、この街が好きだ。
 そのため、街に事件が起きることを極端に嫌う。
 今時、見上げた地域愛だと思うが、力を一方的に振りかざしているだけとでも言える。
「要約するとーそうなんだけどねー。契約者はーそのまま更生してー元の生活に戻ったらしいよー」
「それだけですか?」
「いやいやー、問題はここからだよー。その契約者がー、また他の都市伝説とー契約したらしいんだよー」
「……一度、都市伝説と関わった人間は再び都市伝説と関わる可能性が高いです。それを考えると、そう大したことではないです」
「それはココロもー知っているよー。ココロがー、なんで気にしているかっていうとねー」
 海老名ココロは、その大きな瞳を細めた。
「どうもー裏でー、ココロがー最近調べている集団がー関わっているらしいんだよねー」
「その集団というと、前に言っていたあの」
「そうだよー、正体不明のーリーダーが率いる謎の小集団。中にはー、きょーりょくな能力を持つ人間がいるって噂だよー」
 謎の小集団。
 海老名ココロは、それについての情報を集めている。
 しかし、大したことを知ることはできず、今に至っているらしい。
「うーん、ココロがーここまで頑張っているのにー情報が集まらない存在なんてー初めてだよー」
 海老名ココロ、彼女は都市伝説関係の情報屋であり契約者だ。
 自身で集めた情報を売り、他人の情報を買うということを日常的に行っっている。
 思いのほか、繁盛しているらしく、彼女の財布の中にはいつも福沢諭吉がいるという話だ。
 ちなみに、不本意ながら私も彼女のお得意様の一人だ。
「あなたが、そこまでしても見つからないってことは、ただの噂にすぎないんじゃないですか?」
「そんなことないよー、きっと存在するもん。だからー、ココロはー諦めないよー」
 海老名ココロはそう宣言した。
「でー、見つけるためにはーたくさんのー情報を買う必要があるんだよねー。そのためにはー、たくさんのーお金が必要だからー」
 次に続く言葉は簡単に予想できた。
「ゆっちーにはー、ココロからーできるだけ多くのー情報を買って欲しいんだよねー」
「品揃えがよかったらお金に糸目はつけません」
 ジャージのポケットから財布を取り出しながら私は言った。
「そうこなくっちゃー」
 海老名ココロは、本当に嬉しそうに笑った。

『幽霊探知機』、それが海老名ココロの契約している都市伝説だ。
 かつて、あのエジソンが開発しようとしたという話を元として生まれたと思われる。
 能力は、幽霊や都市伝説の探知。
 これを使い得た、都市伝説の位置情報をメインに売り、彼女は情報屋稼業を営んでいる。
 私がよく買うのも、この都市伝説の位置情報だ。
「まいどありがとねー、ゆっちー。お礼にー今度なにか奢るよー」
「お礼なら、情報量の割引にしてください」
 財布をしまいながら私は溜息をついた。
 海老名ココロの情報はかなり正確だ。
 彼女の情報通りの場所に行って、目当ての都市伝説と遭遇しなかったことはない。
 そのかわり、かなり値段が高いのが難点だ。
「それはーできない相談だよー。でもー、ゆっちーはいつもーよくこれだけのお金を払えるねー。しょーじきー、学生にはかなり厳しい額なのにねー」
「普段、あんまりお金を使わないから貯まってるんです」
 この言葉は、真実の半分でしかない。
 というのも、私は複数の家族からお金を得ているからだ。
 一人目は、我が家の家計を預かっている祖母。
 毎月、他の家庭から見たら、多めのお小遣いをもらっている。
 二人目は、父。
 母さん達には内緒だと言い、中々の額をたまにくれる。
 三人目は、母。
 急に、数枚の札を渡してくることがある。
 四人目は、姉。
 手伝いをした時等に、かなりの額を渡してくる。
 なぜ、同じく学生である姉が多額のお金を持っているかというと、忍者業を行っているからだ。
 忍者業こと現在でいうスパイ活動は、危険を伴うことなのでそれなりに報酬がいい。
 姉はフリーの忍者なので、特に報酬が高い。
 以上のことから、私は海老名ココロの情報を大量に買うことができている。
「そうなんだー、まーあーココロ的にはー情報をたくさん買ってくれるならーそれでいいんだけどねー」
 彼女は満面の笑みを浮かべた。
 正直な話、私は海老名ココロという人間が苦手だ。
 考えを読み取れない表情、あきらかに作ったキャラ、情報屋稼業という常識から外れたことを平気でできる異常性。
 何をとっても不気味だ。
 彼女が有能な情報屋でなかったら、近づこうと思わなかっただろう。
「ところでさー、ゆっちー」
「なんですか?」
「ゆっちーはどうしてー都市伝説と戦うのー?」
「前にも言ったと思いますが、実践経験を積むためです。強くなるためには必要なことです」
「ふーん、そうなんだー。でもー、本当にそうなのかな?」
「……どういう意味ですか?」
「いやさー、たまにいるんだよねー。都市伝説を殺すことをー無意識のうちに楽しんじゃってる人」
「私はそんな人間じゃありません」
「じゃーあー、聞くけどさー」
 海老名ココロは、先程から変わらず笑顔のままだ。
 まるで、顔に貼り付けられているかのように。
「ゆっちーはー、都市伝説をーサンドバックか何かのようにー思ったことはないー?  自分のー苛立ちをーぶつけたりしたことはないー?」
「そんことは一度もな――」
 否定の言葉は途中で言えなくなった。
 私は、強くなるために実戦経験を積むという名目で都市伝説と戦ってきた。
 けれど、それは偽りの理由だったのではないか。
 都市伝説を殺す本当の理由を隠すための。
 そう思えてきた。
「戦士とー殺戮者はー全くの別物だよー」
 海老名ココロの、耳障りな声が鼓膜を刺激した。

 放課後、私は夕飯の時間まで毎日鍛錬を積んでいる。
 内容は、日によって違う。
 肉体の鍛錬を集中的に行う日もあれば、糸の操作を中心にする日や、祖母や両親に稽古をつけてもらう日もある。
 今日は、基礎鍛錬の後、家の庭でひたすら打撃の鍛錬をした。
 朝の敗北の件の影響もあったが、複雑な鍛錬を行える気がしなかったというのが一番大きな理由だ。
 日が暮れ、夕飯の時間が迫った頃、私は家の中に入りシャワーを浴びた。
 鍛錬の際に、溢れ出した汗を洗い流すことは気持ちがいい。
 けれど、今日はそんな気分になれなかった。
 浴室から出たあと、洗面台の前で髪を乾かしていると、赤い何かが一瞬鏡に映った。
 慌てて、背後を振り返るも、そこにはいつものように壁しかなかった。
 赤い何かを、ただの見間違いと思えなかった私は、警戒心を高めながら再び鏡を見る。
 そして、私は再び見てしまった。
 赤い何かを。
 今度ははっきり。
 また、一瞬で消えてしまったが、しっかり瞳に焼き付いた。
 私は、すぐにドライヤーを切り、急いでジャージを着ると廊下に出た。
 早歩きで、あと十数分で夕飯が並ぶはずの茶の間に向かう。
 赤い何か、その正体は私の肉眼では本来直接見ることができないもの。
 血に染まった私の顔だった。
 目も、鼻も、口も、眉毛も、髪も、何もかが私そのもの。
 同じ顔が、鏡に二つ並ぶとこんなにも気持ち悪いということを、私は初めて知った。
 そして、まったく同じ二つの顔は、血を浴びているかいないか以外にも、もう一つ違いがあった。
 表情だ。
 私は、普段と同じ特に感情がない顔。
 血に染まった顔は、その真逆の表情をしていた。
 茶の間に通じる戸に右手をかけるが、開くことを躊躇ってしまう。
 けれど、無理矢理力を込め、戸を開けた。
 血に染まった顔は、ひどく愉快そうに口元を歪ませていた。
 まるで、弱い者いじめをする下衆な人間のように。
 内に溜まった感情を吐き出しているかのように。

「あ、優~。おつかれ~」
「おつかれさまです、優さん」
 茶の間に入ると、テレビの前に座る姉とナダレさんが声をかけてきた。
 二人は、W○iで遊んでいた。
「……スマ○ラですか」
 ちなみにXではなくDXだ。
 なので、使っているコントローラーはゲーム○ューブのものだ。
 我が家には、Xもあるが、いつ頃からかDXばかりをプレイするようになった。
 というのも、兄も姉も私も、DXのほうがシンプルで面白いと思っているためだ。
「うん、優もやる?」
「私はいいです」
 とても、のんきにゲームをプレイする気分ではなかった。
 私は、既に茶碗や小皿が用意されているテーブルの近くに座る。
「え~、つまんないの~」
 姉は、そう言うと、拗ねたような顔をしたが、すぐに笑みを浮かべた。
 邪悪さが滲み出ている笑みを。
「じゃあさ、こういうのはどう~?」
「何ですか?」
「優がス○ブラで勝ったら~、私が教わった戦闘用の忍術を直々に教えてあげる」
「……本当ですか?」
「本当に、本当に」
 これは、中々魅力的な提案だ。
 姉が習得している忍術は、他の武術と比べてかなり特殊な技術で使い手も少ない。
 そのため、忍術を習得できるということはかなりの得だ。
 私は、すぐに姉に了承の返事をしようとしたが、あることが頭に引っ掛かった。
「……私が負けたらどうなるんですか?」
「あっ、やっぱり気づいたか」
「当然です、何年一緒に暮らしてると思ってるんですか」
「……なんか今のセリフエロ「くないです」もう、最後まで言わせてよ~」
 文句を垂れる姉は子供そのものだった。
「いいから、早く教えてください」
「う~ん、わかったよ。優が負けた場合は、土曜日に私とデートしてもらうよ~」
「……」
 姉と二人っきりで出かけて疲れなかったことは一度もない。
 それを考えると、一瞬ためらいが生まれた。
 けれど、忍術を習えるのはかなり魅力的だ。
 それに、最近は姉とス○ブラで戦った場合、ほぼ三分の二の確率で私が勝っている。
 二つの異なる考えに、頭を悩ませた私は一つの結論を出した。
「わかりました、その勝負受けてたちます」
「おっ、そうこなくっちゃ~。じゃ、早速やろうか~」
 そう言うと、姉は自分のコントローラーを手放した。
「え?」
「あ、言ってなかったけど相手をするのは私じゃなくてナダレだよ~」
「え!?」
 ナダレさんは口を大きく開けて驚いた。
「優さん、私そんなの聞いてないですよ!」
「大丈夫だって~、ナダレの腕は私が保障するよ!!」
「そ、そんなー」
 うな垂れるナダレさんだった。
 ……ナダレさんには、可愛そうだが私は自身の勝利を確信した。
 ス○ブラなどの対戦ゲームは経験が物を言う。
 例え、ナダレさんにゲームのセンスがあったとしても、長年姉や兄達と腕を競ってきた私に勝てるとは思えなかった。
「それじゃ~、始め!」
 私は、姉の言葉を合図に、コントローラーを動かし使用キャラを選び始めた。

 土曜日、午前十時ごろ。
 普段なら、鍛錬を行っている時間、私はバスの座席に座っていた。
「楽しみだね~、優」
 隣には、新品と思われる丈の短い黒のワンピースを着た姉が。
 とても上機嫌な様子だ。
 私は思わずため息がこぼれ出てしまった。
 ……あの日、私はナダレさんに見事に敗北た。
 別に手を抜いたわけではない。
 選んだキャラも、使い慣れたサ○スだった。
 それでも私は負けた。 
 というのも、ナダレさんのプレイヤースキルが予想以上に高かったのだ。
 ナダレさんは使用キャラであるアイス○ライマーの特性を十二分に発揮していた。
 私も、負けじと奮闘したもののあちらのほうが上手だった。
 大差ではないが、僅差とも言えない結果で私は負けた。
 プレイ後、ナダレさんはうな垂れる私に頭を下げ謝罪した。
 私は、土曜日のことを考え気が滅入りながら、ナダレさんに謝る必要がないことを伝え宥めた。
 見ただけでわかるほど、うきうきしている姉を横目に。
 そして、今日に至る。
「姉さん」
「何、優? スリーサイズでも教えようか?」
「どうでもいいです。それより、聞きたいことがあります」
「うん、なんでも聞いてよ~。私はなんでも知っているからね!!」
「……そうですか、すごいですね」
 手放しに褒めてみる。
「突っ込む気がないならせめてスルーしてよ!! それが一番非道な反応だよ!!」
 姉は全力で突っ込んだ。
 ちなみに、姉は実際にあらゆることに詳しかったりする。
 忍者はあらゆる事柄に通じてなければならないと、自身の師匠に教育されたからだそうだ。
 普段は、クイズ番組の時くらいしか、それを活用していないが。
「それじゃあ、本題に入りますよ」
 頬を膨らませている姉を無視し話題を切り出す。
「こないだのナダレさん、いくらなんでも強すぎませんでしたか?」
「あ~、さすがに気にかけるよね」
「当然です、昔からずっとやってきたゲームなんですから。つい最近、始めたばかりの人があそこまで強いのが異常だってことはわかります」
 ナダレさんの腕は、スマ○ラをやり込んだゲーマー並みだった。
「だよね~、まあ優には別に言っていいかな。私が調べたナダレの秘密」
「……秘密ですか」
「そう、秘密。とりあえず、拳次がナダレをうちに連れてくる前、都市伝説研究者の団体に実験動物扱いされてたことは覚えてるよね?」
「はい」
「その時にね、だいぶ体を弄られたみたいなんだよ」
「……人体実験ですか」
 思わず顔をしかめる。
「うん、都市伝説を利用した超科学によるね。幸い、体に傷がつくようなことはされなかったみたいだけど」
 いつもよりトーンが低い声で姉は言う。
 どこか憂いるような目をしながら。
「目的は、ナダレを最強のハーフにすること」
「……科学者がやるにしては随分夢見がちなことですね」
「まあね、そもそもこの計画はあくまで代表者の娯楽みたいなものだったらしいしね。本筋の計画は、資金集めのための融合者の強制製造」
「融合者というと」
「そう、R-No所属のあの子の劣化品を人工的に大量に生み出す。人間を改造してね。そして、『組織』に反抗する組織に売り渡す」
「……恐ろしいですね」
 その契約者の噂は有名だ。
 何体もの都市伝説と契約し、その力を己の身に宿すことができると。
 おそらく、私では勝てない相手だ。
 劣化品といっても、彼と同じ力を扱える人間が大量製造されればかなりの脅威だ。
「調べたところ、まだ実用段階には至ってないみたいだけどね。じゃ、そろそろ話しを本題に戻すよ」
「はい」
「ナダレを最強の存在にするために施されたのは、能力の強化、融合度の上昇、そして天才といっていいレベルまでの知能の上昇」
「知能の上昇ですか」
「そう、優も知っての通り戦闘は頭を使うからね。いくら、優れた能力を持っていても頭が弱かったら宝の持ち腐れだしね。そして、これがナダレがゲームの強い理由だよ」
「……知能が高いからアクションゲームが強いというのは少し無理がありませんか?」
 ボードゲームなどでなら、話は別だが、アクションゲームでその理論はどうかと思う。
 しかし、姉はこう言い返した。
「考えてみなよ、優。それだけ、頭がいいってことは普通の人よりはやく、ゲームのコツに気づけるってことなんだよ。ということは、常人より何倍もの速さで強くなることができるってことだよ」
「……そんな」
 姉の説明を聞いたあとでも、いまいち受け入れがたい話だ。
 しかし、ナダレさんが私に勝ったのは揺るがない事実だ。

「これがナダレが異常にゲームが強い理由だよ~。ナダレが妙に勘がいいのも同じ理由。あと、何か聞きたいことはある~?」
「はい、もう一つ」
「お~、なになに?」
「姉さんは」
「うん」
「なんで全て知っていたのにナダレさんと私を戦わせたんですか?」
 あの日、ナダレさんは私に謝った。
 すごく申し訳なさそうに。
 姉は、普段から私や兄やナダレさんに迷惑をかけてくる。
 けれど、それは悪質なものではないし、困っている時は助けてくれたりもする。
 しかし、今回はいつもと違い、少しタチが悪い。
 なによりも、姉がナダレさんが落ち込むようなことをするのが不自然だ。
 私の問いに対し、姉は考える様子も見せずにこう言ってきた。
「優はさ~、自分がス○ブラでナダレに絶対に勝てないと思う?」
「当たり前です、姉さんの理論だとナダレさんは、これから戦闘を重ねるごとに今以上に強くなることになります。そんな相手にどうやって勝てというんですか」
「もしかしたら、運良く勝てるかも知れないよ~?」
「無理です、姉さんならまだしも私みたいな凡人には」
「ス○ブラなら優のほうが私より強いじゃん」
「それは、姉さんがやり込んでないからです」
 私の姉、鬼神愛は普段の言動から想像できない、とても器用な人間だ。
 あらゆることをそこつなくこなす。
 しかし、何でも出来る分、一つのことを極めるということはほとんどない。
 唯一の例外は、忍術だろう。
 姉さんは、まだ若いにもかかわらず、師匠からお墨付きをもらうほどの一流忍者だ。
 このように、姉が何かを極めれば、私をはるかに凌駕する能力を発揮する。
 ス○ブラで、姉より強いのは、ただ単に私のほうがやり込んでいるからに過ぎない。
「とにかく、私では無理です」
 私は、口を閉じ、窓の風景を見始めた。
「……やっぱり、体でわからせるしかないね」
 姉が、何かを呟いたような気がしたが気のせいだろう。

「……姉さん」
「何~? 優」
「確か、姉さんはデートに連れて行くとかぬかしてましたね」
「うん、そうだよ~。楽しい~、楽しい~デートだよ」
「じゃあ、なんで山に来てるんですか」
 バスから降りた私は、先導する姉に連れられてきた場所。
 それは、私達が普段から修行している持山だった。
 ちなみに、今朝は姉に長距離ランニングに連れ出されて来ていない。
「ほら~、いま山ガールとかブームだし」
「もう古いです」
「……ブームの廃れって早いね~」
「話をずらさないでください」
 なんというか、もういい加減にして欲しい。
「なんで、こんなめんどくさい事したんですか? 山に連れてくるならそう最初から言ってください」
「いや~、今日はちょっといつもと事情が違うからね」
「どういうことですか?」
「実はね、今日優にはある人と模擬戦をして欲しいんだよ~」
「……模擬戦ですか」
「そう、だから敢えて教えなかったんだよ~。緊張感を持ってもらいたかったし、変に準備とかして欲しくなかったからね」
 確かに、事前に知っているのと知っていないのでは緊張感が違う。
 それに、実戦を想定するなら準備はしてないほうがいい。
 中々、考えられたプランだ。
「わかりました。で、相手は誰ですか?」
 一家で最弱といっても、私も『鬼神の血族』だ。
 おそらく、相手はかなりの強敵だろう。
「うん、そろそろ出てきてもらおうかな~。お~い、出てきていいよ~」
 すると、近くの木の陰からその人物は現れた。
 にこやかな顔で。
 リラックスした様子で。
 殺気を身に纏わせて。
「こないだぶりだね、優ちゃん」
 兄の親友、佐々木輝はそう挨拶をしてきた。

続く

>【黄昏家の呪い】
マジかよ…

デブけんさん乙です
妹さん、これからどのような成長を遂げるのかな……そして次回、いったい何が始まるんです?

ナダレの過去に、間接的とはいえ裂邪が関わってくるとは……
しかし、劣化とはいえ「融合」の再現ですか。吸血鬼の路で言葉だけ引用してもよろしいですか?
その話題に食いつきそうな新キャラがいるので……

>>313
「1万の都市伝説と契約すれば『万能』、全ての都市伝説と契約すれば『全能』」という脳筋論ですけどね
なまじ行動力がある人間がやったせいで、中途半端に力を持っちゃったけども

また、体現している能力として常人よりも器が大きいという傾向もありますが
正義みたいに「兄に器を喰われたせいで誕生した、契約すると寿命が極端に減る器」という欠陥品もあったり
「黄昏家」の歴史を見ていけば、そういった貧乏くじを引かされた人間も見つかるでしょうね

7月中に終わらせるといったな。あれは嘘だ
……なんかすいません



「ルールは簡単。先に、相手を気絶させるか先に三回攻撃を当てたほうが勝ち。都市伝説の使用もありだよ~」
「生命の危機に関わるようなことになったらどうするんですか?」
「その場合は、私が全力で阻止するから大丈夫。まあ、輝ちゃんはともかく優はそう簡単に死ぬような体じゃないしね~。優の方は何か質問ある~?」
「……いえ、特には」
「そっか~、じゃそろそろ始めよっか~」
 突如現れた輝さんと、私は向き合っていた。
 数メートルほどの距離感を保って。
 ちなみに、彼女の服装は私と同じパンツルックだ。
 中間地点には姉が立っている。
 場所は、よく私達が鍛錬の際に好んで使う、木々に囲まれた比較的平坦な所。
「輝ちゃんと優が手合わせするのは初めてだね~。私はどっちともやったことがあるけど」
 呑気に姉はそんなことを言った。
「愛さんがやったっていうと卑猥な意味にしか聞こえないですね」
「ちょっと~、輝ちゃん失礼だよ!! 義理の妹でもないのにそう簡単に手は出さないよ!! ここは足利でも千葉でもないんだよ!!」
「いや、それって義理の妹だと容赦なく手を出すってことじゃ……。ハッ! ということは、ナダレの貞操が危ない!?」
「大丈夫だよ~、ナダレには手を出さないから」
「ふー、そうですか」
「……少なくとも調教が終わるまでは」
「ちょっと愛さん!?」
「義妹だけど愛と性欲さえあれば関係ないよねっ」
「不穏なワードが混ざってるんですけど!?」
「いい加減、コントをやめてもらっていいですか?」
 このままでは、いつまでたっても始まりそうもなかったので私は言った。
「コントなんかじゃないよ!!」
「じゃあ、漫才ですか?」
「あんまり変わってないよね、それ!! ……いい加減に始めようか」
「最初からそうしてください」
 姉は右手を上げた。
「私が手を下ろしたら始まりだよ~」
「わかりました」
「わかりました。それと輝さん」
「ん? なに?」
 こんな状況にも関わらず輝さんは微笑んでいる。
 それが、何か秘策があるからなのか、勝つ気がないための笑みなのかはわからない。
 けれど、私は一言こう告げた。
「手は抜きませんよ」
「それは喜ばしいね」
 姉が右手を振り下ろしたのはその直後だった。

 佐々木輝。
 彼女の戦闘能力は中々に高い。
 母の指導により身につけた空手。
 幼い頃から契約してる『ヒエロニムスマシン』を使い繰り出す数々の能力。
 磨き上げられた高い戦闘センス。
 これらを使い、とても女子高校生とは思えない戦闘を行う。
 けれど、私の敵ではない。
 あくまで、普通の人間である輝さんの打撃は『鬼神の血族』である私には通用しない。
 『ヒエロニムスマシン』も同様だ。
 都市伝説と人には系統というものがある。
 強化系、放射系、操作系、変化系、創造系の五つが特に一般的だ。
 そして、契約者と都市伝説の系統が一致した場合、強力な能力を発揮する。
 私の系統は、強化系と創造系。
 『チバ・フィーフィー』の系統は、放射系と創造系だ。
 私が、強靭な糸を生み出せるのは、『チバ・フィーフィー』が同じく創造系なのと、強化系だからだ。
 輝さんの場合は、全ての系統を持っているも、その分全ての力が低い。
 いわゆる、器用貧乏というやつだ。
 なので、『ヒエロニムスマシン』を使っても、殺傷性の低い攻撃しかできない。
 輝さんにとって『鬼神の血族』は最高に相性が悪い相手ということだ。
 なのにも関わらず、模擬戦をするということは、おそらく新しい都市伝説と契約したのだろう。
 『鬼神の血族』を相手に戦える、強力なものと。
 それでも、私は負ける気がしない。
 いくら、強力な都市伝説だろうと、輝さんの系統だとあまり力を発揮できないというのが一つ目の理由。
 二つ目の理由は、この場所が私の知り尽くした場所だということ。
 三つ目の理由は、私が『鬼神の血族』だということだ。

 模擬戦が始まると同時に、動いたのは私だった。
 すぐさま、地を蹴り輝さんへ真正面から突っ込む。
 輝さんが、新しい能力を使う前に速攻で終わらせようと思ったからだ。
 今回、糸と『チバ・フィーフィー』は使わない。
 輝さんの『ヒエロニムスマシン』から放たれるエロプティック・エネルギーは電気的特性を持つ。
 よって、糸を伝ってエロプティック・エネルギーが私の体に流れてしまう。
 殺傷力が低いため、私の体なら楽に耐えることができるので、実戦なら無視してもいいが今回はそうはいかない。
 この模擬戦のルールでは、気絶させるか先に三回攻撃を当てた方が勝利する。
 そのため、エロプティック・エネルギーが体に流れると、ダメージはなくとも攻撃を受けたことになってしまうからだ。
 『チバ・フィーフィー』と共に戦わないのもほぼ同じ理由。
 あの子の主な攻撃手段も糸なので、同じくエロプティック・エネルギーが流れてしまう。
 頑丈な私と違い、あの子はおそらく痺れてしまう。
 そのため、私は一人素手で輝さんに挑むことした。
「おー、元気がいいね」
 正面から襲ってくる私に対し、輝さんはそう呟いた。
 一切の構えをせずに。
 その態度に、一瞬怒りを覚えた私は、さらに足を速める。
 輝さんまで、後数歩というところまできた私は、左拳を放つ構えをした。
 一撃で気絶させることを決意して。
 その刹那だった。
 私の顎に向けて、足元の土中から小さな鉄塊が勢いよく飛び出したのは。
 突然の攻撃を、私は思わず顔を逸らし躱した。
 だから、気付かなかった。
 この一瞬に、輝さんが私にむけ拳を放ったことを。
 腹部に説明のしようがない衝撃が来るまで。
「ちょっと強引すぎたね」
 直後、私は宙に吹き飛ばされた。

 地面に仰向けに倒れた私は、右手で痛む腹を押さえながら立ち上がろうとした。
 けれど、力が入らない。
 そればかりか、吐き気がこみ上げ、思考もまともに纏まらない。
 最悪の状況だった。
 頭を少し上げ、輝さんの方を見てみると、先程と同じ場所に構えもせずに立っていた。
 余裕が有り余っているかのように。
 湧き上がる感情を抑えながら、私はバラバラな思考を纏め始めた。
 本来、輝さんの打撃で私が吹き飛ばされるなんてことはありえない。
 しかし、私は輝さんの打撃を食らった直後に、味わったことのない痛みを感じ吹き飛ばされた。
 そう考えると、あの打撃には何かしらの都市伝説の力が備わっていたと考えるのが自然だ。
「あ、そうそう」
 推論を考えていると、突然輝さんが声をかけてきた。
「さっきの打撃、都市伝説の力は直接的には関係ないから」
 その一言で、積み上げた推論が崩れた。
「……どういうことですか」
 徐々に動き始めた体で、膝立ちをしながら私は言った。
「そのまんまの意味だよ、さっきの打撃はちょっと特殊な殴打技にすぎないってこと」
「……殴打技」
「うん、名称を言うとあの有名な発勁だよ」
「発勁!?」
 発勁、それは中国拳法の奥義の一つだ。
 高度な技術を必要とする技なので、本来達人クラスの人間しか使うことができない。
 それを、輝さんは使ったという。
「発勁は、そんな安々と使えるものではないはずです。母さんですら、習得までに長い時間がかかった技のはず」
「ああ、そうだよ。だから、私が初めて成功した時、師匠は悔しそうにしていたしね」
「でたらめを! あなた如きが発勁を使えるわけが」
「『ヒエロニムスマシン』」
 輝さんは右手に握った、回路が書かれた一枚の紙を前に出した。
「これを使って反則気味の方法で習得したんだよ」
「……どういうことですか?」
「『ヒエロニムスマシン』を使い発したエロプティックエネルギーを自分の体に流すんだよ。そして、能力で肉体の内部を細かく見渡す。発勁の動作を確認するために。さらに、確認してもどうしても直せないところがあったらエロプティックエネルギーを使い無理やり矯正する」
「そんな無茶苦茶な方法で習得できるわけがありません!」
「けど、私は実際その方法で習得したんだよ。ま、本物の達人のには劣るけどね」
 苦笑する輝さんを私は睨みつけた。
 本来、多大な努力の上に成り立つ技を簡単に習得し使う。
 その行為が、どうしても許せなかった。
「侮辱です、それは武術に対する侮辱です!!」
 震える足で、無理やり立とうとする。
 バランスを保てず、崩れかけるも、必死で踏ん張る。
「そうかな? 武術ってのは元々は生き残るための術だよ。侮辱も何もあったもんじゃないと思うけどな」
「それは……」
「戦闘は、勝利こそが全て。敵はこっちの努力なんて認めてくれないしね」
「……」
 何も言い返せず口ごもる。
 輝さんの言ってることは正しい。
 けれど、気に入らない。
 私より遅く武術を始めた人間が言っていることが。
 宿命を持たぬ人間が語っていることが。
 ただの人間がほざいているいることが。
 どうしようもなく気に入らない。
「きついなら、立たないほうがいいよ。発勁ってのは肉体の内部に衝撃を届ける技だからね。内蔵がだいぶ痛んでるはずだよ」
「……黙れ」
 なんとか立ち上がるも、体にはほとんど力が入らず、立っているだけできつい。
「だから、無理しないでよ。いくら、丈夫だからといっても内蔵にダメージを食らってるんだから。大怪我なんかさせちゃったら師匠に顔向け出来ないし」
「黙れよ、人間!!」
 それでも、私は駆け抜ける。
 歯を食いしばりながら。
 壊してしまいたい敵を目指して。

「もー、しょうがないな」
 敵は、『ヒエロニムスマシン』からエロプティック・エネルギーを地面に向け発した。
 次の瞬間、いくつもの鉄塊が地中から飛び出した。
 エロプティックエネルギーの電気的特性を利用した金属の操作だ。
 先ほども、確実にこれを使ったのだろう。
 いくつもの鉄塊が、私を囲い込むように飛んでくる。
 しかし――。
「見えていればなんでもない!!」
 襲いかかる鉄塊を最低限の動作で躱す。
 このくらいの攻撃、不意打ちでない限り、当たり前に対応できる。
 全ての鉄塊を交わし、私は再び敵に向け歩を進める。
 拳を固く握りながら。
「あらら、せっかく朝から準備したのになー」
 敵は、私が近づくと、呑気にそんなことを呟きながら、鋭い上段蹴りを放ってきた。
 それを体を反ることで避け、左拳を放とうとした時だった。
 敵の靴裏から、こちらへ向かいエロプティック・エネルギーの光線が飛んできたのは。
 まさかの事態に慌てながらも、斜め後方へ跳ぶことで回避する。
 光線は、そのまま空へ吸い込まれるような軌道をとった。
 足裏に回路の紙を貼っていたのは完全に予想外だった。
 よく考えれば、先ほど紙を持ってもいないのに鉄塊を操った時点で察しておくべきだった。
 が、これであちらの手札も切れたはずだ。
 これ以上の奇策を、さすがに用意はしていないはず。
 なら、今すぐに決着をつけるのが得策だ。
 鞭を打つように、未だに痛む肉体に力を込める。
 狙うは目の前の敵、たった一人。
「終わらせる!」
 意思が決まった時には、体は既に動き出していた。
 足は歩を進めることを望み。
 拳は肉を殴ることを望み。
 脳は汚れを取り除くことを望む。
 痛みは次第に消え失せ、強い思いが心を満たす。
 目の前の目障りな敵を叩き潰したいという思いが。
「終わるかな?」
 敵はついに構えを取った。
 左足を前にだし拳を構える。
 だが、そんなことに意味はない。
 人間が策を持たず『鬼神の血族』を超えることなどできない。
 私達は人を凌駕した存在。
 呪いを力に変える者達。
 求めるのは圧倒的にして単純な概念。
 その誇りにかけて、ただの人間にこれ以上好きにはさせない。
 目前に迫った敵に、疼く拳をぶつけようとする。
 全てを終わらせることを誓って。
 だが、その拳は途中で止まった。
 空から降り注ぐ刃に気づいて。
 バックステップを踏むと、目の前の地面に幾本ものナイフが刺さった。
 それらは、文具であるカッターナイフではなく、かなり本格的なもの。
 当たっていたら、切り傷くらいは付いただろう。
 そんなことを考えてしまったのがミスだった。
 敵のことを一瞬忘れてしまった。
 慌てて、目線を戻すもそこに既に敵はいない。
 だが、すぐにどこにいるか気づく。
 敵はすぐ近くにいた。
「一言言わせてもらうね」
 そう、私の背後に。
「寝てろ、超人」
 振り返った私の顔面に拳が直撃した。

続く

キャットファイト()回でした
それにしてもこの妹慢心しまくりだ

おつです~
妹さんが最弱と評される理由……十中八九慢心なんじゃ?(タブンチガウ
慢心を直すだけで、一回り二回り成長できる気がする。逆に言うと、伸び代がある気がする、とも
しかし、輝さんも強いなぁ。負けるヴィジョンが浮かばない

>「そうかな? 武術ってのは元々は生き残るための術だよ。侮辱も何もあったもんじゃないと思うけどな」

楓「[道]とは[精神]、[術]とは[手段]。武を極めるとは、心と技、そしてその器たる体を鍛えること
  しかし、精神の強さだけでは敵には勝てない。時に心を捨て獣となる覚悟も必要かもしれない……
  それこそが、陸奥に勝つための……」
勇弥「陸奥って誰だよ」

「かはっ……」

男が血を吐きながら、呻き声をあげて倒れ伏す
震える腕で己の身を起こそうとするが、目の前に漆黒の刃が向けられた
目を見開き、諦めたように男は俯く

「……ま、まいった…」
「フン、面白味の無い」

黒い鎌を下げ、彼は――顔の無い仮面を被った少年は男を背に立ち去った
そして、湧き起こる歓声
観客席にある巨大モニターには、“SEMIFINAL Winner Noface”と表示されていた

《決まったぁ!!
 決勝戦への切符を勝ち取ったのは、顔の無い仮面を被った謎の少年“ノーフェイス”!!
 平均5分で勝利を手にしてきた彼を、『エフェクター』が導いているとでもいうのかぁ!?》

実況が響き、また歓声が湧き上がる
ハァ、と少年は誰にも届く事の無い溜息を吐き、武舞台を後にする

「…もっとマシな奴はいないのか
 俺は目隠しをしているんだぞ? これ以上のハンデは無いだろ?」
「仕方無イ。コレモ任務ダ」

少年の持った鎌が、黒いローブを羽織った人影に変わる
それを見て、少年も口を開いた

「確かにそうだが…こんな下らん催し物に付き合わされる俺の身にもなって欲しい」
「普段カラ戦イバカリ求メテイルオ前ニハ好都合ジャナイカ」
「ただ戦うだけなら何時だってできる…俺が求めるのは、俺に本気を出させるような奴との戦いだ
 5分程度で降参するような弱者ではなく…全身の血が煮えたぎらせるような強者との…」
「言ッテオクガ、オ前ノ任務ハコノ大会ノ優勝賞品デアル『エフェクター』ノ回収ナノダゾ?
 頼ムカラ、本来ノ目的ヲ忘レルナ」
「分かってるよ、シェイド」

そう答えると、一度無貌の仮面を取り外して、
少年―――黄昏裂邪はまた、深い溜息を吐いた





     †     †     †     †     †     †     †

それは昨日の事だった

「“闇のコロシアム”だと?」
「ええ、どうやらそういった催し物が存在するそうですの」

ノートパソコンのディスプレイに映し出されたのは、
件の“闇のコロシアム”についての詳しい情報
場所や日程、参加資格などが細かく記されていた

「いつからこんなものが始まったのかは分かりませんけど…問題はもう一つ、」
「……優勝賞品が『エフェクター』…か」

資料の一部を裂邪が読み上げると、
御明察、と言うようにローゼは大きく頷き、話し始めた

「貴方もご存じかと思うけれど、近年『エフェクター』の使用者が増えつつありますわ
 確かに中には無害な物も存在しますわ
 それは、100ある内の半分だと言っても差し支えありません
 けど、そのもう半分は……」
「都市伝説との同化を促進させ、最悪の場合……使用者は破滅の運命を辿る
 俺は1度、その瞬間をこの目で見ている」
「そのような悲劇をこれ以上起こす訳にはゆきませんわ
 そこで……貴方にはこの“闇のコロシアム”に参加し、『エフェクター』を獲得して頂きたいの」
「成程な。というか、ローゼちゃんなら大会参加なんてまどろっこしい事しないで、
 適当に潜入して『エフェクター』の奪取だけ指示するもんだと思ってたが」
「それも考えに入れておりましたけれど、リスクが大き過ぎますわ
 参加者としてなら、疑われるようなことは少ないし安全に任務に臨めますの
 まぁ、貴方でしたら心配無用だとは思ったけれど…万が一の場合に備えて、ね?」
「確かにその方が賢明だな…」
「あら、珍しくノリ気じゃありませんのね?」
「参加者は『エフェクター』を狙ってる訳だろ?
 『エフェクター』を使えば、都市伝説の情報を歪曲させて新たな力を引き出せる
 だが実際、そこまでしなくても殆どの都市伝説は応用すればある程度の戦闘は可能だ」
「正直、貴方の場合はナントカ補正が入ってると思いますけれど」
「メタっぽいからスルーするぞ
 それでも大した力を引き出せない奴が『エフェクター』なんて物に縋る
 つまり、この大会ははっきり言って雑魚ばっかりな訳だ
 俺に言わせれば、俺じゃなくとも“Rapidity”や“Reflector”、最悪“Reader”でも良い筈だろ?
 なのに俺を呼んだって事は……他に何かあるな?」
「おほほほほ、本当に察しがよろしいですわね
 『Rangers』はその立場上、R-No.の構成員以上に顔が知れやすいですわ
 貴方が挙げた様な主力メンバーの皆さんは特に、ですの
 中でもトップクラスで有名なのは“Rainbow”……貴方なのだけれどね」
「そんな奴が参加すりゃ、主催者側も黙ってない筈だ」
「その通り。だからこそ貴方が“Rainbow”だとバレないように変装して頂きたいの」
「やっぱりそういうことか…」
「別に女装しろ、という訳ではありませんわ
 仮面を被って頂くだけでも立派な変装ですし」
「こういう時が来ると思って蓮華ちゃんに作って貰ったんだ」

そう言って、裂邪が取り出したのは、金色に眩く輝く仮面だった
いや、目も鼻も口もないそれは、仮面と言うには程遠く、寧ろ円盤と言った方が近いだろう

「…それは?」
「少し殴られたくらいじゃ壊れない素材で出来てる
 南極の一件以来、「ジャック・オ・ランタン」の力が強化されて余所見してても戦えるようになったからな
 良い機会だし、ハンデして戦ってやろうと」

す、と彼は仮面を被り、軽く御辞儀をするような素振りを見せた
その瞬間、ローゼの背筋が凍てつきそうになったことを、誰が予感しただろうか

「……あの、裂邪さん? それだけはちょっと……」
「ん? 安心しろ、バレそうになったらそれなりの対処はする
 この大会は殺しOKらしいが、不殺を貫くことも約束するよ」
「いえ、そうではなくて―――」
「それじゃ、皆と作戦練ってくる」
「あ、ちょっ、裂邪さん!」

早々に部屋を出て行くその背を見て、深い溜息を吐くローゼ
彼女が抱くは、たった1つの不安

「……また一つ、近付いてゆく……
 ねぇ、貴方は何処まで行ってしまうの? 裂邪さん…」





     †     †     †     †     †     †     †

《お待たせ致しました! 決・勝・戦です!
 遂に『エフェクター』に相応しい最強の契約者が決まります!》

熱い歓声の中、武舞台にスポットライトが照らされる
輝く鮮血の痕が、ここで繰り広げられた数多の戦いを物語っているようだった

《まずはAブロック代表!
 貌の無い仮面を被りながらもたった5分で、それも殺人OKのこの大会で1人の死者も出さなかった強者!
 謎多き無貌の少年、ノーフェイス!!》

紹介が終わると、彼は―――裂邪は通路から出て、スポットライトと歓声を浴びる武舞台に上がる
「だっせぇ前振りだな」という呟きは、巻き起こる声に飲まれて消えた

「……ま、今までの連中は寒気がする程弱い奴等ばかりだったからな
 俺に半殺しにされる為にここまで勝ち上がってきた雑魚か、俺と対等に渡り合えるようなそこそこ出来た馬鹿か……
 どちらにせよ、この長過ぎる茶番劇がようやく終わる訳だ」
《そしてBブロック代表!
 奇しくもノーフェイスと同じく不殺を貫いて勝ち上がってきた、烏の仮面を被った少年!
 燃え盛る漆黒の翼、紅(クレナイ)グレン!》

「うおおおおおおおおお!!」という雄叫びと共に、翼の生えた火球が裂邪とは反対側の選手入場口から飛び出した
ばさっ!と黒い羽根を散らしながら翼を羽ばたかせてスピードを殺し、
火球はゆっくりと武舞台に舞い降りて、気合を込めた一声と共に炎が弾け飛んだ
先程の紹介通り、烏をモデルにしたらしい仮面で目と鼻を覆った少年
背格好から見るに裂邪と同年代くらいだろうか

「じゃじゃああああああああああああああん!!」
「…は?」
「カーッカッカッカ、お前がノーフェイスだな? 俺様は紅グレン!
 お前の試合は観客席で見させて貰ったが、相当に出来る奴だと見た!」
「あぁ、そう」
「しかぁーし!! お前の命運はここまで!
 あの『エフェクター』は俺様が頂く!」

―――何だこの暑苦しい奴は
呆れた裂邪は小さく溜息を吐いた
その直後、試合開始を告げるゴングが響いた

「行くぞ! 『戦天必焼』ォ!!」

先に動いたのはグレンだった
彼の背から黒い翼が生え、羽ばたいて裂邪に急接近すると同時に、燃え盛る炎の拳を振りかぶる

「『シャドーサイス』」

裂邪は己の影から現れた漆黒の鎌を手に取り、グレンを押さえるべく振り下ろした
グレンは空中で身体を捻って脚を烏のそれに変化させ、鋭い爪と鎌の刃をぶつけて火花を散らした

「ひゅー、危ねぇ危ねぇ、今終わっちゃ烏の行水も良いところだぜ」
「……ほう、少しは楽しめるか」

裂邪は爪を弾いてグレンを遠ざけると、
影から2個3個と、黒いスパークを放つ球体がふわりと飛び出し、浮き上がる

「…『シャドーボール』」

球体は真っ直ぐに、グレンへ目掛けて放たれる
対するグレンは大きく飛び上がり回避を試みたが、球体は彼を追尾し続ける
ばちっ、と黒い雷光が邪悪に煌めいた

「本当に少しだけだったな…これで最後(レッツト)だ―――」
「『昇天霹靂』ィ!!」

一瞬の雷光の後、場内に轟くは雷鳴
その刹那の間にグレンを追っていた球体は跡形も無く消滅していた
ただ、漆黒の翼を織りなすグレンが、炎と雷を纏って悠然と降り立とうとしていただけだった

「カッカッカ! お前やっぱすげぇな!
 久しぶりだぜ、こんなにワクワクするような戦いはよぉ!
 ……だが、目隠しなんてしてないで、そろそろ見せてくれねぇか? お前の“本気”を」
「…ウヒヒヒヒヒ……前言撤回、だな
 この戦い……大いに楽しめそうだ!!」

裂邪は俯いて仮面を外し、何処かに投げ捨てた
瞬間、彼の影から夥しい数の黒い腕が伸び、その身体を包み込む
昆虫のような4枚の翅と長い触角、鋭い爪
その両目は闇に浮かぶ光の如く、紅く輝いた

「……影、推参」
「そうそう、そう来なくっちゃなぁ!」

グレンは身体に炎を纏い、翼を羽ばたかせて裂邪に急接近する
対する裂邪はその攻撃をひらりと躱し、すれ違い様に膝蹴りを入れた

「ごふっ!?」
「この程度か……はぁ!!」

そのまま打ち返し、武舞台の壁に強く打ちつけられるグレン
小さく呻き声をあげる彼に、裂邪は態勢を整える猶予すら与える気配はない

「『シャドーズ・アスガルド/ooting(スラッシューティング)』」

瞬く間に、裂邪の姿が変わり始める
長い爪のあった両腕は長い砲門になり、背からも同じような砲門が伸びた
直後に黒い稲妻が走り始めた3つの砲口は当然ながら全てグレンに向けられている

「しまっ――――」
「『シャドーブレイカー』」

放たれる黒い3本の光条
咄嗟に、グレンは右手を大きく振るうと、稲妻がその場に弧を描いた
電気特性を持つ光条は稲妻の弧を伝わってグレンに命中する事なく、大きく反れて会場の天井を破壊した
彼はふっ、と呼吸を整えて立ち上がり、舌を打つ裂邪に向けて拳を振りかぶって接近した

「今度はこっちの番だぜぇ!『業炎拳乱』!!」

名の如く赤々と燃え盛る炎を纏った拳を何度もぶつけるグレン
先程の形態から元の身軽な姿に戻った裂邪はそれをひらりひらりと躱してゆく
「鬼火」の一である「ウィル・オ・ウィスプ」の能力で、目を瞑ってでも容易に回避出来る彼ではあるが、
グレンによる息も吐かせぬ連続攻撃は、当たれば相当のダメージを受ける事は目に見えて分かる
しかし、そうでなくとも熱を発する彼の拳は確実に裂邪の体力を徐々に奪っていった
当たれば直接的に、避ければ間接的に、相手を苦しめる
自分も得意とする戦法だけに、ちっ、と裂邪は舌を打った

「…『レイヴァテイン・シールド』」

呟いた瞬間、裂邪の目の前――グレンと己を隔てるように、金色の壁が出現した
ぎょっとするグレンに構いもせず、裂邪は盾――「レイヴァテイン」を持ち、
殴られた勢いに身を任せて後方へとグレンとの距離を取った

「…俺が2つの都市伝説を使う羽目になるとはな」
「す、すげぇ! お前も多重契約者だったのかよ! カーッ燃えるじゃねぇか!!
 けどよ、まだ俺は物足りねぇ……お前、まだ本気を出しちゃいねぇだろ?」
「は?」
「俺はお前の本気と戦いてぇんだ
 こんなうずうずする戦い、初めてなんだよ!
 なぁ、早くお前の本気を見せてくれねぇか!?」

それは、まるで玩具を強請る子供のような、純粋な眼だった
ふん、と裂邪は鼻を鳴らし、盾を降ろした

「…グレンと言ったな。人が強くなるにはどうすれば良いと思う?」
「え?」
「俺の身の回りの人間は皆、己を鍛えていた
 確かに、そうすれば契約者は勿論、運命共同体である契約都市伝説も強化されるかも知れない
 だがもっと効率的なものがあるんじゃないか」
「……んー……難しいことは分かんねぇが……何が言いてぇんだ?」

―――脳筋かこいつ
思わず裂邪は溜息を吐く

「“心”…特に怒りや恨み、妬み…殺意
 邪悪な心を持ち、その気持ちを高めれば、自身と、契約者と“心”で繋がっている都市伝説を大幅に強化できる
 お前に分かるように言えば…お前を殺したいと強く願えば、俺も本気を出せる…という事だ」
「だったら話が早ぇ! 俺も殺されないようにするからよ!」
「お前は本ッ当に馬鹿だな…俺はこのつまらん催しに任務で参加してるんだ。“お前と同じ”で、な」
「ッ……き、気付いてたのか?」
「ごろつきの多いこのコロシアムで不殺を貫き、尚且つ『エフェクター』のような道具に頼らずとも高い戦闘力を持つ…
 判断材料としては十分だと思うが」
「…お前の言う通り、細かい事は言えねぇが俺は上からその『エフェクター』って奴を取ってくるよう言われてる
 けどそれ以上に、俺は戦いてぇんだ! 本気を出したお前と! 全力で!!」
「どこの組織か知らないが、同じ『エフェクター』を処分する側だとすれば俺にお前を殺す必要はない
 悪いが諦めてくれ」

そう言うと、裂邪は盾を黄金の鎌に変え、
くるくると振り回して構えた

「……と言いたいところだが、」
「?」
「人が自由に己の“心”を…感情を変化できるとしたらどう思う?
 怒りや悲しみ、優しさや殺意の配分を、思いのままに操作できれば……人間は簡単に強くなれる」
「なっ…そ、そんなこと―――」
「悪いが9割9分9厘人間じゃなくなってから“心”が不安定でな
 感情の配分を満遍なく、もしくは極端に、振り分ける事が出来る…殺意100%も容易い
 俺の計算では約50%…半分の殺意も出せばお前を夢幻泡影に帰すことも出来るが今日は特別だ」

その直後だった
鎌に変えた「レイヴァテイン」がどろどろと融けて金の水となり、
裂邪の影から夥しい量の影が溢れ出て、裂邪を包み込もうとする

「楽しかった…こんな戦闘をしたのは本当に久しぶりだった
 今見せてやろう…お望みの殺意100%をなぁ!!!」

びくっ、と小さく跳び上がってしまったグレンの目の前に現れたのは正しく“化物”
武舞台の3分の1を占めるその巨体は龍のような長い身体に昆虫のような6本の脚を持ち、
太い腕には黄金の爪、背には黄金の翼、頭部には黄金の兜のような角、
そして身体中に骨か血管のように、黄金の甲殻が張り巡らされている

【『シャドーズ・アスガルド“王金武装(ゴールデンアームズ)”』!!!】
「な……なああああああああああああああ!?
 マジかよすげぇ!! こ、これがお前の―――」
【無駄話はそこまでだ!!】

ずんっ!!と巨大な腕が振り下ろされる
寸でのところで避けたグレンだが、裂邪の身体から伸びる刃の生えた触手が彼を襲う
間一髪で電撃を放って触手を撃退し、裂邪に向けて火球を放った
が、火球は虚空を真っ直ぐに突き進んで武舞台にぶつかり掻き消えた
化物が、どこにもいない

「ッ!? 消えた!?」
【『シャッテン・ゴルト・ファウスト』ォ!!!】

重過ぎる一撃を背に受け、グレンは力強く地面に叩きつけられる
2、3回バウンドし、横たわった身体はぴくぴくと痙攣していた

【まだ息があるか? だろうな、これは貴様が望んだ事……
 地獄で俺に戦いを挑んだ事を後悔するが良い】

裂邪はその腕を振り上げ、グレンを踏み潰そうとした
だが、彼はぴたりと止まって、会場の観客達に向けて声を張り上げた

【ここに集まった馬鹿共に告ぐ!! 俺を殺したいならするがいい!!
 だが貴様ら如きが何千、何万と集まろうが、大軍隊を率いようが俺は殺せん!!
 その胸にこの光景を、そして俺の名を深く刻み込め!!】
(オ、オイ、裂邪、興奮シ過ギd―――)
【俺はR-No.所属契約者集団『Rangers』…“Rainbow”!! 黄昏裂邪だ!!!】

しー……ん
と、一瞬静まり返ったコロシアムに、突然声が溢れ出した
それは殆どが怯え、恐れ、慄く声だった
会場に、マイクの音声が響く

《た、た、た…黄昏裂邪ぁ!? 『Rangers』最強の契約者が何でこの大会に参加してるんだ!?》
【…あ、やべ、ばらしちまった】
(遅イワ脳筋)
【うるさい、殺意100%にすると色んな事が疎かになるんだよ
 あぁそうだ、おい貴様等! 『エフェクター』はR-No.が回収させて貰う!!
 ついでに全員ブタ箱送りだ、覚悟しやがれ!!!】
《ひっ、つ、次はーえぐり出しー!えぐり出しー!!》

裂邪の周囲を、巨大なスプーンを持ったボロ布を纏う小人がわらわらと群がる
が、裂邪は触手を伸ばして僅か2秒で大量虐殺を行なった

《そんなっ……!?》
【ウヒヒヒヒヒヒヒ……ヒハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!
 ヒィッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!】

     †     †     †     †     †     †     †







―――その後、「組織」R-No.の部屋にて

「お前が“Rainbow”だったのか! カーッカッカッカ!! そりゃ勝てる訳ねぇな!」
「…まさか身内の人間だったとはな」

R-No.の救護班に治療を施され、元気になった(ついでに仮面も外した)紅グレンが、
裂邪の肩をベシベシ叩いて朗らかに笑っていた
どうやら、グレンも『Rangers』のメンバーだったようだ
こほん、とローゼが咳払いをする

「……言いたい事が山ほどありますけれど、まずは彼を紹介致しますわ
 R-No.の研究班に所属して頂いてる“Raven”…“大烏”の―――」
「ノワール・アカオウだ! 宜しくな裂邪!」
「へぇ…で? 上位メンバーの前で堂々としてるってことは」
「…えぇ、その高い戦闘力から、研究班トップである蓮華ちゃんから直接指示を出すことがございますの
 それは今回も例外じゃありませんわ…」

珍しくジトっとした眼差しを向けるローゼ
視線の先ではR-No.1――六条蓮華が丸くなって両手の人差し指をくるくる回していた

「…蓮華ちゃん、何故ワタクシに黙って“Raven”に『エフェクター』回収の指示を?」
「うー……だって『エフェクター』分解したくてたまりませんでしたから…」
「『エフェクター』は謎も多くて危険極まりないものですのよ!?
 もしものことがありましたらどうするつもりでしたの!?」
「で、でも、謎だらけだからこそその謎を解明するのが我々研究班の仕事であって…
 というか、あわよくば構造さえ分かれば裂邪さんのベルトのようなアイテムを簡易化して量産できるのでは、と…」
「他には何か?」
「……一研究者の……好奇心……です…」

―――ローゼちゃんが蓮華ちゃんを説教してる…珍しいな
そっとしとこう、と裂邪は2人に向けていた視線をグレン、もといノワールにシフトした

「ノワールだったか。“大烏”っつってたが、契約都市伝説は「烏は太陽の化身」とかか?」
「カーッカッカッカ! 流石だな“Rainbow”! もう一つは「烏は不吉の象徴」だ!」
「なるほど、あの雷はそれか…」
「それよりよ! お前の都市伝説も教えてくれよ!
 あんな芸当ができるってんならすげぇ都市伝説使ってんだろうなー」
「まぁ俺が契約したのは名の通り7つだが、あの時使ったのは―――」
「そうですわ裂邪さん! 貴方にもお話がありますの!」

どきっ、と裂邪が硬直する
その場から逃げようとしたが時既に遅し

「『エフェクター』の回収はお疲れ様でしたの
 それとコロシアムに参加していらっしゃった契約者の方々の殆どが犯罪者でしたの、そこは評価致しますわ
 けど逮捕者の100%が大怪我をしてるのはどういうことかしら!?」
「それは、ほら、動かない方が補導しやすいと思tt」
「や・り・す・ぎ・で・す・の!!
 万一殺してしまった場合はどうなさるおつもりですの!?
 実際、殆どが失血死寸前でしたのよ!
 貴方は少し命というものを軽く見過ぎですわ!
 いつから貴方はたった一つしか与えられない命を奪おうとお考え始めになって!?
 そもそもワタクシ達R-No.は、たとえどんな犯罪者であろうと殺しを行なう事はガミガミガミガミガミガミガミガミガミガミガミガミガミ―――」

この後、裂邪は2時間以上もローゼに説教されたそうだ



   ...To be Continued

読み直してしくじったことに気付く

1:ノワール(グレン)の一人称(俺様→途中で俺になってる)
2:終盤の裂邪の融合(正しくは『シャドーズ・ラグナロク“皇金武装”』)

話あげたのは久しぶりだなー
書きたいものは山ほどあるけどまずは一眠りするわー(ぇ

その前にデブけんの人乙ですの
優ちゃん負けちまったか…
そういや輝さんの「ヒエロニムスマシン」がうちのレクイエムと使い方が違って新鮮だわ
こういうことがあるからこのスレは楽しい


そういや弟よ、仮○ライダーキバ風の話さー
何でサブタイが遊戯王縛りなんd(ここから先は影に覆われて読めない

そうそうついでに
裂邪の感情の配分だけど、『夢幻泡影』を最初から読み返すと地味に殺意100%やってると思われるシーンがちょいちょいあるよ
「あー呼吸しかすることないわー」っていう時に読んでみよう(ヤだわ

影の人乙です
実は今回みたいに大暴れている裂君の方が好きだったり
ローゼちゃんに責められる蓮華ちゃんが予想以上に可愛かった(小並感)

>そういや輝さんの「ヒエロニムスマシン」がうちのレクイエムと使い方が違って新鮮だわ
あーこっちの『ヒエロニムスマシン』は元ネタと大分乖離しているので(ハガレンの錬金術並みに)
話の都合上エロプティック・エネルギーを電気に近いものとして扱ってますし

>自分で最弱だって思ってるのに慢心していくのか……
あくまで『鬼神』の血を持つ家族の中で最弱なので
ただの人間相手には慢心しちゃってます

ぶっちゃけた話、優は血もそうですけど武術の才能の方も乏しかったり
それを特殊な戦闘術と幼い頃から続けてきた努力で補っている感じです
輝の方もかなり努力はしてますが元々戦闘センスは高いです
なので輝がもし『鬼神の血族』だったら優には普通に勝てます
拳次にも主人公補正が入らない限り勝てます

……そういえばうちのキャラって幼女いないな
まな板ならいるk(激しい打撃音

おまけで自キャラのバストサイズ(唐突)
ナダレはFカップ・愛はHカップ、拳次はDカッp(より激しい打撃音

>>336
>実は今回みたいに大暴れている裂君の方が好きだったり
俺も書いてて楽しかったりする
ただしやっぱり主人公らしさが皆無www
元々“主人公らしくない主人公”がコンセプトだから良いんだけどね

>ローゼちゃんに責められる蓮華ちゃんが予想以上に可愛かった(小並感)
良かったー、彼女が出来てから「今の俺に女の子キャラが可愛く書けるのだろうか」と割とガチで悩んでた(
俺の彼女が可愛すぎt(以下のろけ話なので省略

>あーこっちの『ヒエロニムスマシン』は元ネタと大分乖離しているので(ハガレンの錬金術並みに)
ははは、俺なんて設計図の刺青して契約者自身を「ヒエロニムスマシン」化させたりしてるんで大丈夫!(何がだ

>……そういえばうちのキャラって幼女いないな
※影の人の作品に登場する女の子は全て18歳以上です♪(

>まな板ならいるk(激しい打撃音
>ナダレはFカップ・愛はHカップ、拳次はDカッp(より激しい打撃音
無茶しやがって…

>>338
学校町にくる前に6,000体の都市伝説倒してたことが主な原因ですね(邪笑
ノワールも割と強いはずなのに相手が悪過ぎた
寧ろ裂邪にどうやって手を抜かせるか考えるのが面倒…

そうだ、こいつにもう一人弟子ができるんだ
その話も書かんとなぁ

>>339
皆忘れてるけど先祖の霊に狙われてるからね!

遊戯王カードでサブタイっぽいの…
『魔性の月』『闇より出でし絶望』『早すぎた埋葬』『終焉のカウントダウン』『大革命』『ラストバトル!』
探せば結構ありそうね

>>339
サブタイトルっぽい遊戯王のカード名……
『ライバル登場!』『デーモンの召喚』『ヒーロー見参』『ヒーロー逆襲』『選ばれし者』『苦渋の選択』
意外とたくさんありそうですね

>>340
>皆忘れてるけど先祖の霊に狙われてるからね!

いや、確かに狙ってたけど、あの時は「体現者になれるかも」程度で、10%ぐらいの可能性だったんだよ?(当然、正義は0%。光彦は1%未満)
このままいけば、もしかすると裂邪の「地球の器」が覚醒するんじゃないかと
裂邪はこれ以上契約しないから、覚醒せずに済むと思ったけど……

>探せば結構ありそうね

問題は、「物語の内容から、カードを探す」のパターン
既に大筋は決まっているから、「カード名からシナリオを書く」なんてことできないのよね……しばらくは

ちなみに、現在のサブタイトル集(ネタバレ)
「魔性の月」(ガルル初登場)、「野性解放」(ガルルセイバー回)
「ウォーターハザード」(バッシャー初登場)、「ハイドロプレッシャーカノン」(バッシャーマグナム回)
「闇晦ましの城」(ドッガ初登場)、「ゴーゴンの瞳」(ドッガハンマー回)
「牙竜転生」(キャッスルドラン回)、「竜魂の城」(キャッスルドラン初戦闘)

ガルルセイバー回は未だに迷ってて、最初は「身剣一体」だった。
でも自然な台詞にならないから没った

あと候補に「一族の掟」「終わりの始まり」「団結の力」「封印されし者の右腕」だけメモしてあった

>>341
「選ばれし者」「苦渋の選択」は使うかもしれませんね
パピヨン登場回にでもしようかな

妹編完結回です
だいぶ粗い締め方になっちゃったような気がしますがどうぞ

「いや~、あれは優も予想外だっただろうね~。外れた光線が木の上のナイフを操っただなんて」
「正直、賭けでしたけどね。あの時、冷静に対応させられてたら負けてましたし」
「でも、勝ちは勝ちだよ。勝負なんて正直時の運だしね~」
「愛さんとか師匠はそこらへん割り切ってますよね、絶対的な強さを求める呪いなんてものを持っているのに」
「まあ、戦い続けているうちに折り合いのつけ方がわかっちゃうからね~。優は生真面目だから実力が全てだと思い込んでるけど」
「真面目過ぎるのも毒ですね。そういえば、拳次に至っては呪い自体を押さえ込んでるんでしたっけ?」
「うん、結構きついはずなのに頑張ってるよ~。言ってしまえば、アル中が酒を我慢しているような状態なのにね~。しかも、アル中と違って治療のしようがないし」
「うわ、中々えぐいですね……」
「まあ、その分料理でストレスを発散してるみたいだけどね~。どんどん、レパートリーは増えるし、手が込んできてるし」
「……拳次は一体どこを目指してるんでしょうね。あれ、もうプロの域ですよ。こないだなんて、デザート付きの料亭みたいな弁当持ってきてましたし。ナダレが困惑してましたよ」
「その割に、将来は公務員になるとか言ってるしね~。あそこまで入れ込んでいるのに、あくまで趣味として割り切れるのは弟ながらすごいと思うよ」
 暗い闇の中に私はいた。
 どこからか聞こえる二人の女の声を耳にしながら。
 聴き慣れた声のようが気がするが思い出すことができない。
「発勁を顔面に当てたのはすいませんでした。一歩間違えれば障害を負う可能性もあったのに」
「大丈夫だよ、輝ちゃんもだいぶ力を抑えてたし。なにより、あのくらいじゃ『鬼神の血族』は壊れない。まっ、脳震盪にはなっちゃたけどね~」
「……このまま目が覚めなかったりしないですよね」
「大丈夫だって~。それにしても、今は随分と冷静だね。さっきは、あんなに容赦なかったのに」
「いやー、戦闘中はちょっと私怨が混ざってましたしね」
 二人が繰り出す言葉一つ一つがなぜか私を刺激する。
 まるで、仇敵に嘲笑されているかのように。
 とてつもなく不快な気分だ。
 それに、比例するかのように次々と感情が生まれた。
 あの二人を超えたい。
 あの二人を倒したい。
 あの二人を殺したい。
 願いは段々と生々しくなっっていく。
 その時――。
「力を欲したな」
 目の前に、突然巨大な何かが現れた。
 具体的な形がなく、霧のように広がるそれの色は深紅。
「ならば、貴様の望むままに力を授けよう。さあ、思いを述べよ」
 深紅のそれは語る。
 ただ静かに。
 私は、頭に浮かんだ言葉を深紅に叫ぶ。
「ああ、私は欲する。あの才能に恵まれた同族を殺す力を。ただの人間であるにも関わらず私を横たわらせた女を殺す力を。あの憎らしい男を殺す力を。この世界で一番の力を!!」
 すると、肉体が変化を始めた。
 鉄の棒のように鍛え上げた腕は、今以上に密度を増し。
 獲物を追う肉食獣と遜色ない足は、より無駄のない形へ。
 刃物のように磨き上げた指は、さらに鋭利に。
 全てが強靭に生まれ変わっていく。
「強くなることを選んだお前に、昔の記憶は必要ないだろう。戦いの邪魔にならないために私が貰おう」
「ああ、それでいい。私に必要なのは力だけだ」
 私は生まれ変わる。
 ただ本能のままに。
「では、早速取り出そう」
 深紅が私を取り囲む。
 すると、体がより強く変化し始めた。
「目が覚めたとき、お前は新たな存在となっている。そう――」 
 説明しようがない力が湧き溢れる。
 今の私なら、どんな者にも勝てると確信できるほどの力が。
「『悪鬼』に」

 闇の中から解き放たれた私を、赤と黒だけで構成された世界が出迎えた。
 黒い樹木。
 黒い草花。
 黒い地面。
 赤い大空。
 全てが私好みだった。
「……愛さん」
「大丈夫だよ、予想はしていたから。だからこそ、酷くならないうちに荒行事をすることにしたんだから」
 この世界の異分子達は何かを話していた。
 けれど、そんなことはどうでもいい。
 私が行うべきことは、あの二人を消し去ることのみ。
 圧倒的な力を魅せつけながら。
 肉体から噴き出る深紅の光は輝きを増していく。
「あれが『悪鬼』……」
「うん、まだ初期段階だけどね。紋章が右手の甲にしか浮かんでないから。あの蜘蛛みたいなの」
「あれですか」
「うん、優らしい紋章だね。今ならなんとかできるよ」
「良かった、具体的にはどうするんですか?」
「そんなの決まってるよ」
 髪を一つに結った異分子が動くと同時に私も動く。
 奴を上回る移動速度で。
「取り敢えず戦う!!」
 異分子に距離を詰め、紋章が浮かんだ右手をぶつけようとする。
 だが、奴が地面から拾ったナイフがそれを向かい打つ。
 しかし、それは無意味なことだ。
「やっぱりね」
 異分子は樹木へ跳びながら言った。
 私の五本の指によってバラバラとなったナイフの柄を捨てて。
「一応、対人外用の特別製なんだけどね。予想通り通用しないか」
 当然だ。
 私の指はあらゆる刃物を凌駕する切れ味を持つ。
「『悪鬼』化による肉体の情報変換ってところかな。優の指は今刃になってるわけか」
 小生意気な分析をする異分子に構わず、奴が登った木めがけ右手を振りかざす。
「おっと」
 異分子は倒木するその前に、他の樹木へ飛び移った。
 地面に木片が衝突する激しい音が、周囲に響き渡る。
 奴の身のこなしはかなりのものだ。
 倒すことは当然できるが時間がかかるだろう。
 そう考えた私は、短髪の異分子に飛び掛った。
 短髪は、特に何をするでもなく棒立ちしている。
 きっと、私に怯えているのだろう。
「そうはいかないよ」
 激しい音がしたと同時に、私の鼻先を高速で通過したものがあった。
 銃弾だ。
 後ろに下がり頭上を仰ぐと、樹木の枝の上で二丁の拳銃を握った異分子が目に入った。
「やっぱり、記憶がないみたいだね。私がSIG SAUERP266を使ってるのを初めて見たって顔をしているし。それに、動きも荒い」
 異分子が何かを言っているが詳しい内容はわからない。
 だが、おそらく私を貶している。
 そうに違いない。
 いつの間にか、体は勝手に動いていた。
 一瞬で異分子の頭上まで飛び跳ね、奴めがけ両腕を振り下ろす。
 掠るだけでも負傷を免れない一撃。

「私のことを忘れちゃ困るな」
 当たらなければなんの意味もないが。
 両横から飛んできたナイフの群れを両手で切り裂く。
 すぐに、全てを無効化させたが、髪を結った異分子は既に枝の上にいなかった。
「愛さんが言ってた通り本当に記憶がないみたいだね」
 枝の上に立った私は、邪魔をした短髪の異分子を見下ろす形で睨みつけた。
 奴の握るカードから放たれた光線がナイフを操ったのだ。
 脅威となる力とは思えないがひたすらに鬱陶しい。
 すぐに、単発に向かって飛び落ち、苛立ちに震える左手を奴の顔に向かって放つ。
 異分子は私の速度に反応しきれてない。
 あっさりと、鋭利な五本の指によって、一瞬で顔面スライスが出来上がる。
 はずだった。
「っ!」
 思わず舌打ちをする。
 私が切り裂いのは、異分子の顔面ではなく、ただの太い棒きれ。
 奴は、スライスされる瞬間に姿を消したのだ。
「変わり身の術だよ、これもよく優に使ったんだけどね」
「結構メジャーな技ですね。それと、愛さん」
 二人の異分子は、いつの間にか少し離れた樹木の枝の上にいた。
 思い通りにならない事態に唇を噛む。
「別にお姫様抱っこをする必要はなかったんじゃ……。片腕貸してくれたらなんとかなりましたよ」
 髪を結った異分子は、短髪を両手で抱えていた。
「いいの、いいの、輝ちゃんいや輝は頑張ってくれたしね」
「……姉としてその呼び方をしてくれるのは久しぶりですね」
「最近はあっちの立場としてばっかり呼んでたからね。けど、輝が私の第二の妹だってことには変わりないからね」
「ありがとう、愛ねえ」
「輝がその呼び方してくれるの久しぶりだね」
 微笑する異分子達。
 その姿を見ていると猛烈な怒りがこみ上げてきた。
 まるで、自分の何かを侵されたように感じながら。 
 気がついたときには、片手で引き抜いた樹木を異分子達に向け投擲していた。
 当然のように、異分子達はそれを躱し、他の樹木の枝に飛び移る。
 苛立ちは頂点に達した。
 私のほうが性能は上にも関わらず、一向に奴らを倒すことができない。
 それは、奴らが小賢しい真似で翻弄するから。
 ならば、答えは一つ。
 より強力な力で何もかを押し潰せばいい。
 そう思考した瞬間、目の前に再び形のない奴が現れた。
 私に力を授けた者、深紅が。
「力をよこせ、もっと強力な力を」
 感情のままに私は叫ぶ。
「よかろう、だが条件が必要だ」
「条件?」
「そうだ、貴様の心を貰おう。これさえなければ、お前は最強の戦士となることができる」
 誘いに躊躇する必要はなかった。

「わかった、私の心を貴様にやろなっ!?」
 契約の言葉を述べていると、突然深紅は消えた。
 その代わりのように、目の前に現れた者があった。
 人間と遜色ないほどの全長を誇る巨大な蜘蛛だ。
「何者だ! 邪魔をするな!!」
 突如現れた、蜘蛛の都市伝説に対し右手を振りかざす。
 しかし、何も反応がない。
「なら!!」 
 そのまま、右手を振り下ろす。
 こんな奴に構っている暇はない。
 私は一刻も早く、奴らを粉砕する力を手に入れる必要があるからだ。
「なにっ!?」
 だが、右手は奴の目前で止まってしまった。
 力を入れるもなぜか動かない。
 ならばと思い、蹴りを出そうとしたが、なぜか足が上がらない。
 左手も動かそうとしたが無理だった。
 まさか、奴の能力か。
 そう思い、奴に視線を向けるも、特に何かをしている様子はない。
 深まる謎に、苛立ちと焦りを感じる。
 それに、今攻撃されれば為すすべがない。
 いい的だ。
 けれど、異分子達も目の前の蜘蛛もなぜか何もしてこない。
 舐められている、そうとしか考えれない状況。
 吹き上がる怒りが、そのまま力に変換されるが、一向に肉体を動かすことはできない。
「なぜだ、なぜ動けない!!」
「そんなの簡単だよ」
 いつのまにか、枝から地上に降りていた、髪を結った異分子がすぐ近くにいた。
「その子が優の大事な相棒だからだよ」
「相棒だと、こいつが」
 蜘蛛に視線を向けるも、八つの瞳で見つめてくるだけ。
 実に間抜けだ。

「こんな奴を相棒にした覚えはない!! そもそも、最強は一人だけでぐっ!?」
 急に激しい頭痛が起こった。
 思わず、頭を押さえ蹲る。
 吐き気がこみ上げ、視界が不規則に揺れ始める。
 しまいには、何も見えなくなり、意識も曖昧になってきた。
 すると、突然目の前に映像が見え始めた。
 まるで、映画のように。
 そこに映し出されたのは――。
「私?」
 幼いが私によく似た少女だった。
 しかし、こんな記憶はない。
 そもそも、強さ以外のものなど不要だ。
 映像は、私に似た少女の姿を次々と移していった。
 ある時は、老婆に糸の使い方を教わり。
 ある時は、幼い頃の異分子達や、見ているだけで何故か苛つく男等と遊び。
 ある時は、都市伝説と戦っていた。
 この映像も、何かの能力によるものなのか。
 やっと、そこまで思考が巡った時には、映像の中の少女はだいぶ背丈が伸びていた。
 糸の戦闘技術は上達し、肉体も逞しくなっている。
 都市伝説もより容易く倒していた。

 だがある日、少女は男の契約者に追い詰められた。
 男の契約都市伝説は『ゴーレム』。
 人が作り出した、動く巨大な人形。
 一般的に、土や泥を素材として生まれると言われている。
 男の『ゴーレム』は、岩や泥ではなく金属でできていた。
 それも、普通の金属ではなく、おそらくオリハルコン等の伝説上のもの。
 少女が、いくら糸で攻撃しても、傷がつかないことがそれを証明している。
 その上、数が多い。
 といっても、少女の実力なら、契約者本体を狙うことはできる。
 だが、彼女の後ろに邪魔者がいるからそれはできない。
 先程、私の目の前に現れた蜘蛛型の都市伝説だ。
 同一個体かはわからない。
 少女は、男に襲われていた巨大な蜘蛛を助けるために戦っている。
 今も映像の中で、蜘蛛を守るように立っていた。
 くだらない。
 淘汰されるだけの存在である弱者を庇うなど愚の骨頂だ。
 少女の糸は、しまいには切れてしまった。
 彼女は動揺しながも、素手での勝負を仕掛けたが、鉄壁の『ゴーレム』の前には通用しない。
「終わりだ」
 少女は、蜘蛛ともに無惨に殺されるだろう。
 無駄な情けをかけたがゆえに。
 ゴーレム達は、少女を囲い込んだ。
 ある『ゴーレム』は足を上げ。
 ある『ゴーレム』は岩を持ち。
 ある『ゴーレム』は拳を握る。
 数秒後に、血潮が飛び散るのは確定した。
「やれ」
 男の命令が告げられ、『ゴーレム』達は止めを刺すために動き出した。
 そのときふしぎな事が起こった。
「なにっ!?」
 男は驚愕した。
 それもそうだ、なぜならたった一瞬で『ゴーレム』達がバラバラになったからだ。
「お前、一体何をした!?」
 崩れ落ちた、『ゴーレム』達の破片の中から少女と蜘蛛は出てきた。
 彼女の指先には、先程切れたはずの糸が。
「この子の力を貸してもらったんだよ」
 少女は蜘蛛の頭に手を載せた。
 蜘蛛は、気持ちよさそうにそれを受け入れている。
 しばらく黙っていた男は、目を見開き言った。
「まさか、契約を!? しかし、そんな雑魚都市伝説と契約したところでなぜ」
「二人だからだよ」
 少女は迷いのない瞳で断言した。
 同時に、再び頭痛が起こり始める。
 とても、不快な気分だが、なぜか安心感がある。
「私一人じゃ糸を操ることしかできない。この子一人じゃ糸を吐き出すことしかできない。けど、二人なら強靭な糸で切り裂くことができる。どんなに硬いものでも!」
 脳内に見覚えのない場面が次々と映し出された。
 山で鍛錬を積む私と蜘蛛。
 月に照らされながら都市伝説と戦う私と蜘蛛。
 広い庭で蜘蛛に餌を食べさせている私。
 そこまでで十分だった、全てを思い出すのには。
 ああ、私はなんて馬鹿だったんだろう。
 こんなに頼れる存在が側にいたのに、全てを一人で抱え込んでいた。
 醜い嫉妬心も。
 溜め込んだ鬱憤も。
 己の弱さも。
 あの子は、全てを受け入れてくれると分かっていたのに。
 私は、唯一無二の相棒のあの子に、何もかをさらけ出すことができなかった。
 その結果がこれだ。
 力に溺れ我を失い、武人として失格といってもいいだけのことをしてしまった。
 今の私に、あの子の隣に立つ資格はないのかもしれない。
 それでも、私はまた相棒になりたい。
 今度こそ、二人で最強を目指すために。
「やめろ、お前は力を求めていたはずだ」
 いつのまにか現れた深紅の言葉に耳は貸さない。
 私の答えは決まっている。
「あんな力はいらない。私はあの子と二人で強くなる。お願い、来て」
 相棒の名前を私は呼ぶ。
 不安と確信の狭間で。
「『チバ・フィーフィー』!!」
 瞬間、周囲を包み込んでいた暗闇と深紅は消え去った。
 その代わりのように、隣にはあの子がいた。
 込み上げる言葉にならない感動を抑えながら、腰を低くする。
「ありがとう。本当に、ありがとう」
 『チバ・フィーフィー』の頭を撫でると、いつものように嬉しそうにしてくれた。

「あ、起きた~」
 目を開けて、最初に目に入ったのは姉の顔。
「なんで、膝枕をしているんですか?」
 起き上がりながら気づいたことを言う。
 ここは、ビニールシートの上のようだ。
 姉の隣には、優さんが座っている。
 輝さんのものと思われるバックも置かれてあった。
「いや~、こっちの方が早く目覚めるかなと思って」
「どういう理屈ですか」
 辺りを見渡すと、見慣れた森林が広がっていた。
 山から下りてはないらしい。
「今、何時頃ですか?」
「一時だよ」
 輝さんが答えた。
 私がここに来たのが、十時過ぎ。
 戦闘時間は、おそらくそれほどかかっていない。
 ということは、二時間少し気を失っていたことになる。
「……すいませんでした」
「いいよいいよ、気を失わせたのは私だし」
「そうではなく、あなたを侮っていたことです」
「それも別にいいよ。第一、優ちゃんが糸を使ってたら私は負けてたし。卑怯な罠とルールのおかげで勝てたようなもんだしね」
「でも……」
「だから、気にしなくていいって。この戦いは、元々優ちゃんにある教訓を教えるためだけのだったしね」
「教訓ですか」
「そう、大事な教訓だよ~」
「姉さんは黙っててください」
「ちょっと酷いよ!?」
「そうです、黙っていてください。愛さん」
「輝ちゃんにも苛められた!?」
 ビニールシートの隅で、俯きながら体育座りを始めた姉さんを無視しながら、輝さんは語り始めた。
「強弱なんてものはさ、結構曖昧なんだよ。大番狂わせなんてものが起こるのはそのためだよ」
「……私にはどうもそうは思えません」
 私の知っている強者は、皆圧倒的な強さを誇っている。
 あの人達が、自身より弱い者に負けるところなんて想像のしようがない。
「まあ、正面勝負なら弱者が強者に勝つのは難しいと思うよ。でも、それが奇襲だったりすればどうかな?」
「……運さえよければ倒せると思います」
「だよね、私が言いたいのはそれ。何も卑怯な真似をしろとは言わないけどさ、工夫をして運さえよければ強者にも勝てると思うよ」
 輝さんの言葉の説得力はとても強い。
 なにしろ、私は先程、この人に負けたばかりだ。
「だからさ、優ちゃんの実力なら拳次くらい簡単に倒せると思うよ。所詮、拳次なんてただの筋肉馬鹿だしね」
「……はい」
「よし、じゃあ話は終わり。もう、午後だしお昼にしよう。拳次ほどじゃないけど、それなりに腕によりをかけたよ」
 輝さんは、バックの中から大きなプラスチック製の容器を取り出した。
 中を開けると、彩りみどりの美味しそうなおかずが入ってあった。
「美味しそうですね」
「たくさん食べてね。おにぎりもあるから」
「それじゃ~遠慮なく」
「愛さんが食べていいのは少しだけです」
「まだ苛めが続いてる!?」
 二人の掛け合いを聞きながら私はあの子を呼んだ。
「『チバ・フィーフィー』」
 すぐに、『チバ・フィーフィー』は現れた。
「一緒に食べよう」
 誘うと、素直に頷いてくれた。

「あ、おかえりなさい、優さん。」
 玄関の戸を開けると、靴を履いたナダレさんが挨拶をしてくれた。
 右手には回覧板を持っている。
「ちょっとお隣まで出かけてきます」
「私が行きましょうか?」
「いいですよ、今帰ってきたばかりで疲れてるでしょうし」
「……すいません」
「いえいえ」
 微笑むながら、私の横を通り抜けようとしたナダレさんは急に立ち止まった。
「あれ、優さん。何かいいことでもありましたか?」
「……はい」
「それは良かったですね」
 まるで、自分に幸せが訪れたかのようにナダレさんは言うと、玄関を出て行った。
 私は、どこかこそばゆいまま、台所へ向かった。
 これから、私は宣戦布告をする。
 今までの自分にけじめをつけるために。
 台所では、いつものように巨体の男が料理をしていた。
 緊張しながらも、私は彼に声をかける。
「兄さん」
 すぐに、兄は振り向いた。
「どうした?」
「話があります」
「話?」
「はい、大事な話です」
 話すことは決まっている。
 けれど、うまく声が出せない。
 今日話すのはやめよう、思わずそう考えてしまう。
 でも、それは絶対にとってはいけない案だ。
 窮地に陥った私は、必死に思考を巡らせた。
 すると、一つの策が思い浮かんだ。
 普段なら絶対にしないようなやり方。
 しかし、今に限っては最善の方法だ。
「兄さんいや拳次にい」
 いつのもように、着飾った言葉を使わない。
 たったそれだけのことで、口は滑らかに動き始めた。
「私、いつか拳次にいを超えるから。『チバ・フィーフィー』と二人で誰よりも強くなるから」
 伝えたい思いを全て口にした。
 これで、私はけじめをつけることができた。
「……そうか」
 兄はただそれだけ言った。
 その日の夕飯には、私の好物が食卓に並んだ。

終わり

あれは夏の暑い日の事です。
部活で疲れていた私は何時もは使わない人通りの少ない裏道を使って帰る事にしました。
何時も使わない理由は単純に人通りが少なく物騒だから。
今日使おうと思ったのはここは日陰が多く、さらに普段の道よりも距離が短いから。
だから家を目指して軽く走っていると妙な物を踏んづけてしまいました。
「ふぎゅ」
ゴギッ
「え?」
見れば私の右足が見知らぬ男の人の後頭部を思い切り踏んでるんじゃないですか。
しかも何か砕けた様な音。
「だ、大丈夫ですか?!」
抱え起こして揺すってみる、無視するのは流石に申し訳なさ過ぎるし
見ると歳は高校生か大学生位?私よりは年上の男の人。
こんな若い人がこんな所で何で…
「お…」
「お!?」
か細い声で紡がれた言葉は
「お腹空いた…」
「は?」
何と言うか私の想像からは外れていた。

「10日近く何も食べてない?!」
「ん」
私が持っていたお弁当をかっ込んだ男の人は次にコンビニで買ってきたおにぎりに手をかけるとそうのたまいました。
「お金持ってないし、ここ何処だかわかんないし、簡単に言うと行き倒れてた?」
「いや、行き倒れてたって…」
「学校町に行こうとしてたんだけど、道に迷っちゃうし変なのには襲われるしでへとへとになっちゃって」
「はぁ…」
まるで他人事の様に話す彼に私の思考は一寸着いていけない。
「とりあえずここ学校町ですよ?」
「ホント?」
「えぇ、ってか嘘つく必要ないじゃないですか」
そっかーとまぁ、嬉しそうに見えなくも無いけど抑揚の無い声で話す彼を見て少々不安がよぎる。
これ、かかわっちゃだめな部類の人じゃないかな、と。
「じゃ、私はもういきますね」
「え?お握りとお弁当の分のお金は?」
持ってたら貴方行き倒れてないじゃないですか。
「いいですよ、無一文の人間からお金取る程鬼じゃありませんから」
「…天使?」
「はい?」
何を言ってるんだろう、この人は。
「ま、反省したなら二度と行き倒れないでください
 ではサヨウナラ」
彼をこの場において去ろうとすると後ろから声が
「この恩はその内返すよー」
「……期待できそうにないので忘れてくれてもいいですよ?」
「そー?」
今度こそ私はそこを去りました。

その翌日
今日も今日とて部活だった私は
「…流石に今日は大丈夫だよね」
等と言いながらも
「……ハァ」
気になってしまい昨日と同じルートで様子を見に行く事にしたのです。
何と言うか彼は抜けていると言うか関心が乏しい様に見え、もしかりに金銭を入手していてもうっかりほかの誰かに取られたりしてそうな感じが…

「みぃつけた」
「!?」

突然背後からかけられた声に振り返ると
「あれ?君確か同じクラスの」
同じクラスの男子がそこにいた。
「……誰だっけ?」
生憎、大人しく内向的と言うか、存在感の薄い人間まで覚えてられない。
「やっぱり覚えてないよね、でもそれで良いんだよ
 どうせこれから起こる事も忘れるんだから」
…何を言ってるんでしょう。
昨日の息倒れと言い暑さで頭をやられた人間が多いんでしょうか。
「いや、何の話?」
「……き、君はさ
 都市伝説って…知ってる?」
…ヤバイ
何がヤバイって色々と、本格的に。
こいつは正気なんだろうか、頭がやられてるんじゃないかな。

「噂位は聞いた事あるけど、生憎私はそういうオカルトの類は信じない事にしてるの
 そういうマニアックな話をしたいなら他を当たってくれる?」
そう言って私が完全に彼の方へ振り返ると…
「そんな事言わずにさ、知らないなら教えてあげるから」
彼の姿は無く、背後から声が
「!?」
「都市伝説ってのはね…あぁ、ほぼこの町に限っての話だけど存在するのかしないのか不確定な物も含むんだ」
こいつ何言って…いや、どうやって私の背後に回ったの?
「で、その都市伝説と契約して力を使える様になった人間が契約者」
「悪いけど、私にはアンタの相手してる時間無いから」
と、背後を振り返りもせず走ろうとすると
「だぁめぇ」
目の前に彼が
「………」
「僕が契約したのはね、タイムマシン…聞いた事位あるよね?○ラえもんとかにも出てくるもんね?あれだよ」
いや、訳わかんないし…
「時間を移動できるんだ…僕は
 例えばこうやって…」
「同じ時間の一寸ズレた場所に移動すれば瞬間移動したみたいだろう?」
目の前にいた彼が後ろに…「あんまり距離は稼げないけどね」とか言ってるけどまじめに考えたら気がおかしくなりそう
「でも、この力で過去に戻ればそれは無かった事になる」
「だから僕は何をしても許されるんだ」
そう言いながら彼…"タイムマシン"の契約者がこちらの体に手を伸ばしてくる
「そう、何をしても…」
「やっ「おーい」…え?」
「え?」
二人そろって声のした方を見ると………昨日のお兄さんが

「だ、誰だよお前!!」
「…昨日のお兄さん?」
「何かヤバそうだけど助けいる?」
いや、見たらわかりません?
「いります!!」
「ん、わかったー」
「邪魔する気か?
 でも、僕には"タイムマシン"があるんだ」
そう言いながら"タイムマシン"の契約者は次々に瞬間移動してお兄さんを威嚇する。
動き回ってるけど攻撃する気配が無い所を見ると戦うとかそういう度胸は無いんだろう、だからただ威嚇して、後は逃げるだけ……"タイムマシン"の契約者の言葉が本当なら逃げてもすぐにチャンスを作れるから。
「最悪過去に逃げれば良い、何しても無駄だよ」
「んー………どうしよう?」
「いや、私に聞かないでよ!」
駄目だ、こいつアテにならな…「あ、タイムマシンか!」…ん?
「それがどうかしたの?」
「タイムマシンってさ、機械だよね?」
まぁ、マシンって言う位だからね。
「ねーねー、君ー」
お兄さんが…"タイムマシン"の契約者に声をかけた。
「何だよ?」
「……グレムリンって知ってる?」
「え、そりゃ――」
そこまで言った所で"タイムマシン"の契約者は消えた。

「…………何が起こったの?」
「んー、僕ねーグレムリンなんだ」
「…グレムリン?」
話位は聞いた事がある、と言うか映画も見た事ある。
グレムリン…機械にいたずらをする妖精。
コンピュータとかの原因不明のトラブルはグレムリンの所為なんて話もある…とか。
「あ…タイムマシン」
「うん、タイムマシンが機械だったみたいだからさ…一寸悪戯しちゃった」
グレムリンの悪戯、原因不明のトラブル…
「あいつは?」
「多分消えて出てこれなくなったんだと思う、タイムマシン壊しちゃったし」
うわぁ…うちの学校から行方不明者とか勘弁してよ。
「…お兄さんは、グレムリンの契約者なの?」
「詳しくは違うけどそれでいーよー」
ふむ…
「助けてもらったのは確かだし何かお礼しなきゃね」
「昨日のご飯のお返しの積もりだったんだけど…」
「ならお礼いらない?」
「……ご飯ください」

こうして、私と彼は出会いました。
ここから話が続くかどうかは今の私にはわかりません。

終わり

以上
腹ペコグレムリン系男子と比較的まともな感性してるであろう女の子のお話でした
お目汚し失礼

拳次「なんだ、この出オチなタイトルは」

輝「こらこら、メタ発言しちゃだめだよ、拳次。私達はあくまで二次元の人間なんだから」

拳次「お前も十分メタ発言してるじゃねえか。で、今回は何をするんだ? タイトルからしてナダレ回か? それともユキ回か?」

輝「どっちでもないよ」

拳次「あ?」

輝「いやー、今回はカラオケ回なんだけどさ。作者が気の利いたタイトルが思い浮かばなかったんだよ。で、こないだカラオケ行った時に隣の部屋の男子学生達がひたすらLet It Goを歌ってたのを思い出した結果、このタイトルになったらしいよ」

拳次「……ちょっと三次元に行ってくる」





愛「次レスから始まるよ~」

~鬼神家 居間~

ナダレ「カラオケですか」

愛「うん、カラオケ。今度、みんなで行こうよ!」

拳次・優『……』

ナダレ「でも、私。歌はそんなに知らなくて……」

愛「大丈夫だよ! 私が手取り足取り教えるから」

ナダレ「それなら……」

拳次「おい、姉貴。みんなの中に俺も入ってるんじゃないだろうな?」

愛「もちろん、入ってるよ~」

拳次「……行かないからな」

愛「え~、来てよ。拳次、割と歌上手いじゃん。何歌っても声のせいで異常に渋くなるけど」

拳次「だから、行きたくないんだ。それに料金も馬鹿にならない。誘うなら、輝の奴にでもしてくれ」

愛「もちろん、輝ちゃんは誘うけどさ~。拳次も来なよ~。最悪、ドリンクバーとトイレ往復するだけでいいからさ~」

拳次「そんな無意味なことをするはめになると知って誰が行くか。金の無駄だ」

愛「……本当に来ないの~?」

拳次「ああ」

愛「ふ~ん、だってナダレ」

拳次「!」

ナダレ「……拳次君、行かないんですか?」

拳次「……」

拳次「……姉貴」

愛「な~に?」ニヤニヤ

拳次「年長者で職持ちの姉貴が誘ったってことは全員分の料金出すってことだよな」

愛「! い、いや~、それは……」

拳次「この前の仕事の収入が最近入ったとか言ってたよな」

愛「そ、それはほとんど弾代とかナイフ代とかで消えて……」

ナダレ「拳次君、愛さんに悪いですよ。お金ならちゃんとあるので大丈夫です」

愛(ナイス! ナダレ!)

拳次「……ナダレ、確か最近大型パズル買ったって言ってたな」

愛(……あ)

ナダレ「はい、奮発して買っちゃいました。毎晩、寝る前にやるのが楽しみで。……あ」

愛「……私が全員分出すよ」

~鬼神家 廊下~

優「……」コソコソ

優(……人前で歌うなんて拷問でしかない。逃げるのが最善だ)コソコソ

愛「ゆ~う」ガシッ

優「」ビクッ

愛「も~ち~ろ~ん、優も来るよね?」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

優「」ビクッビクッ

愛「お金なら心配しなくていいよ~。私が全額出すからさ~」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

優「」コクッコクッ

愛「良かった~」ニッコリ

優(やはり、私は最弱だ……)

~後日 カラオケ店前~

輝「おまたせしましたー、早いですね」

愛「おはよ~、輝ちゃん! ちょっと早く来すぎちゃってね~」

ナダレ(一時間前はちょっと早いの内に入るんでしょか……)

輝「お、ナダレ。今日は、なんだか浮き足立ってるね」

ナダレ「そ、そうかな?」

輝「いつもより心拍数が高いよ」

ナダレ「なんでそんなことがわかるの!?」

輝「ふっふーん、それは私がナダレの全てを知っているか「黙れ、変態」……ふふふ、甘いよ拳次。今日の私はその程度の暴言に屈しない!」

ナダレ「ちょっと拳次君! いくらなんでも酷すぎますよ。輝さんは女の子が大好きなだけです!」

輝「まさかのナダレからの攻撃!?」

拳次「いいんだ、こいつマゾだから」

輝「人の性癖を勝手に決め付けないで!?」

愛「はいは~い、輝ちゃんが来たから中に入るよ~」

優(……帰りたい)

~カラオケ店 個室~

ナダレ「カラオケってスープバーまであるんですね。ちょっと感動しました」コーンスープ

愛「初めて来たらそうだろうね~」コーラ

輝「拳次ってさ、なにげにコーヒー好きだよね。もしかして喰○?」ウーロンチャ

拳次「……進んで料理をする喰○がどこにいる。それに俺はペ○スマン派だ」アイスコーヒー

優(ペ、ペ○ス!?)ココア

愛「それじゃ、言いだしっぺの法則に従って私が最初に歌うよ~」

ナダレ「が、頑張ってください!」

拳次「……変なの歌うなよ」

愛「大丈夫だよ。そんなマニアックなのは歌わないって~」ピッ


甲賀忍法帖 陰陽座


拳次「……姉貴の割にまともだ」

愛「ちょっと、拳次!! 失礼だよ!!」

ナダレ「輝さん、この曲は?」

輝「ああ、バ○リスクってアニメのOP曲だよ」

ナダレ「へー、そうなんだ」

優(アニソンという時点で十分マニアックだと思うのは私だけなのか……)

愛「下弦の月が朧に揺れる夜を
  包む叢雲」ギセイ

ナダレ(ふ、普段と声が違う!? しかも、うまい)

輝(うわー、いきなりハードル上げたなー。声も完璧に真似てるし。完全に本人だよ、これ)

拳次(……相変わらずなんでもこなすな)

愛「水の様に優しく 花のように劇しく
  震える刃で貫いて」ギセイ

優(な、なんて格好良い歌詞)ウットリ

輝(優ちゃん厨二病か)チラッ

愛「貴方を瞼が憶えているの」ギセイ

愛「へっへ~ん、どうだった。ねえ、どうだった?」

拳次「……姉貴の割に普通の選曲すぎてあまり印象に残らなかった」

愛「変な選曲するなって言ったの拳次だよね!?」

輝「まあまあ。それじゃ、次は私が歌いますね」

ナダレ「頑張って、輝さん!」

輝「チッチッチッ、ナダレ。カラオケってのは、頑張っちゃダメなんだよだよ」

ナダレ「え? どうして」

輝「カラオケってのは、力を抜いて歌ったほうが良かったりするからさ」

拳次「で、何歌うんだ?」

輝「これだよ」ピッ


恋しさとせつなさと心強さと 篠原涼子 with t.komuro


ナダレ「こいしさとせつなさと心強さと?」

輝「あー、違うよナダレ。こいしさじゃなくていとしさって読むんだよ」

ナダレ「あっ、そうなんだ」

拳次「当て字だからな、読めなくてもしょうがない」

輝「恋しさとせつなさと心強さと
  いつも感じている あなたへと向かって」

優(輝さんもうまい……)

ナダレ「あれ? 愛さん、拳次君は?」

愛「拳次ならトイレに行ったよ~」

輝「出来なくて あこがれて
  でも少しずつ理解ってきた 戦うこと」

愛「この曲もアニソンなんだよね」

優(!?)

ナダレ「そうなんですか?」

愛「ス○リートファイターっていうゲームのアニメ映画の曲だよ~」

優(……知らなかった)

愛「あやまちは おそれずに 進むあなたを
  涙は見せないで 信じていたいよ」

輝「ま、こんなものかな」

ナダレ「輝さん、うまかったよ!」

輝「いやー、久しぶりだったから緊張したけどね」

拳次「ま、悪くなかったぞ」

輝「あれ? 拳次、いつの間に戻ってたの?」

拳次「ちょっと前だ。それより、次は誰が歌う?」

優「……私はまだいいです」

拳次「そうか。じゃあ、ナダレ歌うか?」

ナダレ「は、はい」

輝「そんな緊張しなくいいって。何もステージで歌う訳じゃあるまいし」
 
愛「大丈夫だって~、練習の時はちゃんと歌えてたじゃん」

ナダレ「……はい!」ピッ

拳次(普段の姉貴なら、ナダレに変な曲教えそうだが、今日は大丈夫だろうな。さっき、割と普通の曲歌ってたし)

輝(いくら、愛さんでも、ナダレのトラウマになりそうな曲は歌わせないはず)


さくろんぼキッス KOTOKO


拳次「このクソ姉貴が!!」ファーストブリット

愛「ふっふふ~ん」カワリミノジュツ

ナダレ「あ、あれ?この曲って、人気があるんじゃ……」

輝「……ナダレ、ちょっとは人を疑おうよ」エンソウチュウシ

優(……KOTOKOって誰?)


輝「じゃー、気を取り直してナダレ歌う?」

ナダレ「え!? いいの?」

輝「もちろん、どっかの誰かさんのせいで台無しになっちゃったからね」ジー

愛「電波ソング歌う女の子って素敵だよね!!」

拳次「いっぺん、死ね。……ちゃんと、普通の歌も教えたんだろうな?」

愛「もちろんだよ~。どうせ、阻止されるってわかってたしね~。ナダレ、あの好きだって言ってた曲歌えば?」

ナダレ「はい! そうします!」ピッ


北風 槇原敬之


輝(割とストレートだな、ナダレ。無自覚なんだろうけど)

ナダレ「小さなストーブじゃ窓も 曇らないような夜
    毛布を鼻まで上げて 君のことを考えるよ」

輝(なんだ、うまいじゃん。ナダレ)

優(ナダレさんもうまいなんて、私の立場が……)

ナダレ「手の届く距離で君を 感じるたびに
    かっこ悪い位 何も話せなくなるよ」

輝「拳次、ちゃんとこの歌を聴いておくように」コソコソ

拳次「……わかってる」コソコソ

ナダレ「明日もしこの雪が 積もっているなら
    小さく好きだといっても 君に聞こえない」

ナダレ「お、おかしいところなかったですか?」

愛「ぜ~んぜ~ん。完璧だったよ~ナダレ~」

拳次「……良かったぞ」

ナダレ「あ、ありがとうございます」テレテレ

輝(初々しいねー)

輝「じゃあ、次優ちゃん歌う?」

優「え、その……」

優(ど、どうすれば。この流れで下手な私が歌うなんて……)ウツウツ

愛「……拳次」チラッ

拳次「……わかった」

愛「ゆ~う~、ドリンクバー行こうよ~。グラスの中空っぽだよ~」

優「え」

愛「喉が渇いてちゃ歌えるもの歌えないよ~。ということで、先にドリンクバーに行こう~」

優「で、でも……」

拳次「だったら、しょうがない。俺が先に歌うぞ」

愛「うん、それがいいよ~。ほら、優!」スタッ

優「は、はい」スタッ

拳次(……ちゃんと策はあるんだろうな)チラッ

愛(もちろんだよ~)ウインク

拳次(ならいいが)

バタン

輝(……過保護すぎない?)チラッ

拳次(ひとんちの教育方針に口を出すな)チラッ

輝(わかったよ)ハァ

ナダレ(なんで、みんな視線だけで会話できるんだろう……)

拳次「じゃあ、これにするか」ピッ


冬の稲妻 アリス


輝「相変わらず渋いねー」

拳次「ほっとけ」

拳次「あなたは稲妻のように 私の心を引き裂いた
   青ざめた心ふるわせて 立ちつくす 一人立ちつくす」

ナダレ(う、うまい。けど、それ以上に迫力がすごい)

輝(改めて聞くと本当に低いな、拳次の声)

拳次「忘れない あなたが残していった傷跡だけは」





拳次「……俺だけ尺短くないか?」

輝「だから、メタ発言は駄目だって」


拳次「……姉貴達来ないし二人で歌ってろよ」

輝「そうしようかな。あ、ナダレ。これ、歌える?」

ナダレ「この前、聞かせてくれた曲だよね。歌えるよ。デュエット曲だよね」

輝「うん、どうせなら二人で歌おうよ」

ナダレ「いいの?」

輝「もちろん、そっちのほうが楽しいしね」

拳次「お前の聴いてるデュエット曲……。フロンティアか?」

輝「違うよ、私は歌姫じゃなくて――」ピッ


逆光のフリューゲル ツヴァイウイング


輝「適合者だからね!」ドヤッ

拳次「……」イラッ


輝「「聞こえますか?」 劇場奏でるムジーク」

ナダレ「天に」

輝・ナダレ『解き放て!』

ナダレ「「聴こえますか?」 イノチ始まる脈動」

輝「愛を」

輝・ナダレ『突き上げて』

拳次(ナダレの奴、輝からあんまり変な影響受けないばいいが)

輝「遥か」 ナダレ「彼方」 輝「星が」

ナダレ「音楽となった彼の日」

ナダレ「風が」 輝「髪を」 ナダレ「さらう」 輝「瞬間」

輝「君と僕はコドウを詩にした」

ナダレ「そして」 輝「夢は」 ナダレ「開くよ」

輝・ナダレ『見た事ない世界の果てへ』

拳次(……まあ、少しくらいならいいか)

輝・ナダレ『Yes, just believe 神様も知らない
      ヒカリで歴史を作ろう』

ナダレ「逆光のシャワー」

輝「未来照らす」 

輝・ナダレ『一緒に飛ばないか?』

輝・ナダレ『Just feeling  涙で濡れたハネ
      重くて羽撃けない日は Wish」

ナダレ「その右手に添えよう」

輝「僕のチカラも」

輝・ナダレ『二人でなら翼になれる Singing heart』


ガチャ

愛「おまたせ~」

拳次「遅いぞ。……おい、クソ姉貴」

愛「なに~?」

拳次「お前、優に何をした!」

優「(*´∀`*)」ベロンベロン

愛「いや~緊張を取り除こうと」

拳次「取り除こうと?」

愛「一服盛っちゃった」テヘ

拳次「よーし、そこ動くなよ」セカンドブリット

愛「大丈夫だって~、一時的に酔っぱらいと同じ状態になるだけの薬だから」ヒョイ

拳次「そういう問題じゃない!!」ラストブリット

優「でへへー。何歌おう?」ベロンベロン

輝(完全に酔っ払ってるね、これ)

ナダレ「あ、あの優さん。水でも飲んだほうが……」

優「みーずー? いーらない。ジョッキないの? ジョッキ」ベロンベロン

輝(おっさんかい)

ナダレ「いや、あの未成年ですからお酒はダメですよ」

優「えー固い事言わないでよー。ナダレねえ」ベロンベロン

ナダレ・輝『!?』

ナダレ「い、今なんと言いました」

優「だーかーらー、ナダレねえって言ったんだよ。そーれーとーもお姉ちゃんの方が良かったー?」ウルウル

ナダレ「ぐはっ!?」ズキューン バタッ

輝「ちょっと、ナダレ!? ナダレ!?」

優「あーれー、輝ねえ。ナダレねえどーしたのー?」ウルウル

輝「ぐ、ぐはっ!? こ、この程度で!」ズキューン

優「あっ、どうせーならー輝お姉さまの方がー良かったー?」ウルウル

輝「」バタッ

優「あーれー、輝ねえも倒れちゃったー」ベロンベロン

優「あっ、これいいなー。歌おうっとー」ピッ


Marionette -マリオネット- BOOWY


拳次「もっと輝けぇぇー!!」シェルブリット

愛「速さが足りないよ!」ラディカル・グットスピード ヒョイ


優「もてあましてる Frustration
  You've got an easy day 」ベロンベロン

輝(呂律が回ってない。でも、それがいい!)ビクンビクン

ナダレ(倒れながら輝さんが興奮している……)

拳次「俺のこの手が光って唸る! お前を倒せと輝き叫ぶ!」シャイニングフィンガー

愛「当たらなければどうということはないよ!」ヒョイ

優「疑う事をいつからやめたのさ
  そろえた爪<ネイル>じゃ OH! NO NO! とても狙えないぜ 」ベロンベロン

優「鏡の中のマリオネット もつれた糸を絶ち切って
  鏡の中のマリオネット 気分のままに踊りな
  鏡の中のマリオネット あやつる糸を絶ち切って
  鏡の中のマリオネット 自分の為に踊りな」ベロンベロン

チバ・フー・フィー「(m´・ω・`)m」

優「(-_-)゜zzz…」

ナダレ(歌い終わったら寝ちゃいました……)フッカツ

輝(優ちゃんの寝顔ハスハス)フッカツ

拳次「」キゼツ
 
愛「ふっふ~ん、修行が足りないよ! 拳次!!」ドヤ

輝(拳次が喧嘩で愛さんに勝ったの見たことないな)

ナダレ(愛さんってこんなに強かったんだ……)

愛「さ~て、これでも歌おうかな」ピッ


fancy_baby_doll 田村ゆかり


輝「キタ━(゚∀゚)━!」サイリウム

ナダレ「どこから取り出したの!?」

愛「チェックのキャミソールを着て 今夜」

輝「今夜!」サイリウム

愛「ねえ」

輝「ねえ!」サイリウム

愛「遊びにゆくわ」

輝「ふーふふっふっふ!」サイリウム

ナダレ(こ、この合いの手は一体……)

愛「Happy! fancy baby doll!」

輝「おぉぉぉぉっ いぇい!」サイリウム

愛「Love me fancy baby doll!」

輝「おぉぉぉぉっ!」サイリウム

輝「世界一可愛いよ!!」サイリウム

愛「ありがと~!」

ナダレ(も、もう何が何だか……)

愛「何万回 生まれても 君に会いたい」

輝「ふーふふっふー!」サイリウム

愛「約束よ」

愛「輝ちゃん、いくらなんでも準備良すぎない?」

輝「いやー、サイリウム常備してますし」

ナダレ「いやいやいや!?」

輝「おお、ナダレが突っ込んだ。珍しい」

ナダレ「さすがにこの状況なら突っ込むよ……」ツッコミニメイゲキチン

愛「ふっふふ~。あ、次ナダレ歌えばいいよ~。輝ちゃんは今ので消耗してるし」

ナダレ「あ、はい。それじゃあ、愛さんに教えてもらったこれで」ピッ


届かない恋  上原れな


輝「……愛さん」

愛「私はどっちでもいいんだよ。ただ、後悔はして欲しくないけどね」

ナダレ(何を話してるんだろう?)

ナダレ「孤独なふりをしてるの?
    なぜだろう 気になっていた」

輝「トイレ行ってきます」

愛「行ってらっしゃ~い」

ナダレ「どうすれば この心は鏡に映るの?」

ナダレ「届かない恋をしていても 映しだす日が来るのかな
    ぼやけた答えが 見え始めるまでは 今もこの恋は 動き出せない」

拳次「……クソ姉貴」フッカツ

優「お、生き返った」

拳次「勝手に殺すな。……今はナダレが歌ってるのか」

愛「そうだよ~」

拳次「そうか」

愛(……なんで、輝ちゃんの思いには気づかないかな)

輝「うわー、せっかくのナダレの歌声を全部聞けなかったー」

ナダレ「いいよ、別に。上手いわけでもないのに」

拳次「あれだけ歌えれば十分だ。もっと、自身を持て」

ナダレ「そ、そうですか?」

愛「そうだよ、ナダレはもっと自信を持つべきだよ~。なんたって、私が手取り足取り教えた「じゃあ次、拳次歌う?」ちょっと輝ちゃん!?」

拳次「……お前が歌えよ。俺は別にいい」

輝「私はナダレとも歌ったから拳次が歌えばいいよ。別に、歌うこと自体が嫌いなわけじゃないんだしさ」

拳次「……わかった、そうする」

ナダレ(輝さんは拳次君のことなんでも知ってるな……)

愛「……」チラッ

愛「で、何歌うの~?」

拳次「これだ」ピッ


旅立ちの鐘が鳴る 酒井ミキオ


愛「本当に好きだね~。まあ、私も好きだけどさ~。主にか○みちゃんが」

拳次「黙れロリコン」

輝「私は君○が好きだよ」

拳次「そうか」

輝「何かリアクションとってよ!?」

ナダレ(会話の内容に全然ついていけない……)

拳次「今歩き始めた 新たな扉開けるように
   失われた大地へ その足跡を刻み込め」

拳次「深く激しく傷つけあうたび 迷う心消えてゆく
   今ならばわかるはず 本当の強さを」

愛「なにげに下ネタ多いよね~、ス○ライド」

輝「太いんだよ?固いんだよ?暴れっぱなしなんだよっ!」

愛「僕の大事な玉を~!!」

ナダレ(……助けて、拳次君)

拳次「果てなき空の彼方に 信じるべき明日があれば
   譲れない誇りととともに それぞれの場所へと旅立て」

~その後のダイジェスト~

愛「アイタイloveloveloveのに
  アエナイlovelovelove今夜は」

輝「最後のガラスをぶち破れー」

ナダレ「ありがとうって伝えたくて あなたを見つめるけど
    繋がれた右手が まっすぐな想いを 不器用に伝えてる」

拳次「くだらねえとつぶやいて 醒めたつらして歩く」

優「ひとすじに ひとすじに
  無敵の男 ス○イダーマン」ベロンベロン

愛・ナダレ『何もかも忘れられない 何もかも捨てきれない
      こんな自分がみじめで 弱くてかわいそうで大きらい』

拳次・輝『今から一緒に これから一緒に
     殴りに行こうか』

~帰り道~

愛「いや~、楽しかったね~」

拳次「……誰かさんがいなかったらな」

愛「え~、誰のこと?」

拳次「……」イラッ

輝「じゃ私はここで」

ナダレ「うん。さようなら、輝さん」

拳次「じゃあな」

愛「バイバ~イ」

優「さようならー」ベロンベロン

輝「じゃあね」スタスタ

数分後

拳次「姉貴、先に帰ってくれ。ちょっと、買い物してくる」

ナダレ「あ、私も一緒に行きます」

愛「りょうか~い。気をつけてね~」

拳次「……優に変なことするなよ」

愛「大丈夫だって~。今日は、これ以上何かするつもりはないよ~」

拳次「ならいいが。行くぞ、ナダレ」

ナダレ「はい」

スタスタ

優「愛ねえ」ベロンベロン

愛「ん? どうしたの~、優」

優「この間の模擬戦のときってさー」ベロンベロン

愛「うん」

優「『チバ・フィフィー』がー私を止めてくれるってー確信してたんでしょ?」ベロンベロン

愛「もちろんだよ~。でも、どうしてわかったの?」

優「愛ねえが保険無しでー危ないことするはずがないもーん。愛ねえ、頭がいいからー」ベロンベロン

愛「いや~、優に褒められるなんてね~。実際のところ、確信はしてたよ~。あの子なら、優が『悪鬼』化しても止めてくれるって」

優「どうしてー? どうして、そこまで『チバ・フィフィー』を信頼したの?」ベロンベロン

愛「そんなの決まってるよ~。だって――」

優「だって?」ベロンベロン

愛「あの子は優をずっと支えてきてくれた子だもん。だから、今回も、きっと何とかしてくれると思ったたんだ」

優「……そっか」ベロンベロン

愛「さあ、早く帰ろう~。いつまでも、優をその状態にさせるのはちょっと罪悪感があるしね~」

優「……愛ねえ」ベロンベロン

愛「ん?」

優「ありがとう」ニコッ

愛「どういたしまして」

拳次「……ナダレ、ちょっとユキと変わってもらっていいか?」

ナダレ「いいですけどどうしたんですか?」

拳次「いや、ちょっと話したいことがあってな」

ナダレ「わかりました、ちょっと待っててください」

ナダレ→ユキ

ユキ「――いきなりどうしたんですの?」

拳次「カラオケに行ったことで謝りたいと思ってな」

ユキ「どういうことですの? 別に謝られるような覚えはありませんわ」

拳次「……前にナダレから聞いた。お前、歌好きなんだって?」

ユキ「……別にわたくし自身は大して好きじゃありませんわ。だから、謝る必要はありません。どうせ、生殺しのような目に合わせて悪かったと言おうとしたんでしょうけど」

拳次「そうか」

ユキ「そうですわよ」

ユキ「……」

拳次「……」

ユキ「……前にあの人が言ってくれたんですの。わたくしの歌声が好きだと」

拳次「そうか」

ユキ「きっとあの世で喜んでますわ。ナダレが、私の歌声を受け継いでくれてることを知って」

拳次「……」

ユキ「そろそろ戻りますわ。ナダレにあまり重い荷物を持たせにように」

拳次「ユキ」

ユキ「なんですの?」

拳次「今度、聞かせてくれ。お前の歌」

ユキ「い、嫌ですわよ!! はしたない! で、でも、まあ、どうしてもというのなら歌ってあげないことも……」セキメン

拳次「嫌なら別にいい」

ユキ「う、歌いますわよ!! 歌います!!」

拳次「そうか」

ユキ(なんなんですの!! この鈍感男は!!)

ユキ「もうナダレと変わりますわ!!」

拳次「ああ、ありがとな」

ユキ「礼を言う暇があったら自分という人間を見つめ直しなさい!! まったく……」

拳次「ユキ」

ユキ「今度は何ですの!」

拳次「歌、楽しみにしてるぞ」

ユキ「あ、あああああ」セキメン

ユキ「あなたって人は!!」バチーン



ナダレ「ご、ごめんなさい!!」

拳次「……大丈夫だ、問題ない」ヒリヒリ

終わり


「ん…」
「気づきましたか」
目を開けるとそこは…ファミレス?
何故に?
「えっと…私は…」
「我々の戦闘に巻き込まれ気を失ったのです。
 貴方は普通の人間だったのですね、 貴方をグレムリンの仲間と勘違いし巻き込んだ事を謝罪します」
向かいの席で私に頭を下げているのは確かお兄さんと私を襲撃した黒服の女性。
「あの…彼は?」
「逃げられました…こちらに多大な被害だけ残して
 貴女を保護できたのも運が良かったと言う外無い」
えっと…もしかして…
「…助けてくれたんですか?」
「都市伝説の存在を貴女達の様な一般人から秘匿し、またその被害を最小限に食い止めるのが我々の責務です」
こちらを見る目はまっすぐで、それこそ恥じる様な事はしてないとそう胸を張ってる様にすら見えて……悪い人じゃ無いのかな?
「でも、それなら何で彼を狙ったんです?
 あの人は確かに都市伝説みたいですけど、割と人畜無害と言うか…私の前では大人しかったですよ?」
「しかし、現に私の部下はアレの犠牲になった」
「先に仕掛けたのは貴女達じゃないんですか?」
「えぇ、しかしそれもアレを生かしておくわけにはいかないだけの理由があったからです」
理由?
「聞いても?」
「貴女はもう巻き込まれてるから構いませんよ、全て終わった後に必要なら記憶を消させていただく可能性はありますが」
なら教えてもらうとしよう。


「元来、我々組織は都市伝説の秘匿を第一に活動を行っていました。
 しかし、漏れる時は漏れます、組織だって万能ではない」
「あれだけ何でもありなのに?」
タイムマシンにグレムリン。
私が今まで見てきたそれらは確かに理解の外に居る存在だった。
「それでもです…そして、都市伝説の存在にある機関が気づいてしまった」
「ある機関?」
「流石に名前は伏せさせていただきますが…まぁ、某国の軍隊やら何やらですよ」
話が大きくなってきてません?
「彼らが考えたのは、都市伝説を軍事利用する事」
「突飛も無い話ですね」
「えぇ、ですがそれは実行に移された
 その中の一体があのグレムリンです」
お兄さんが?
「身寄りの無い子供等を実験台に捕獲に成功した都市伝説と無理矢理契約させる
 契約した都市伝説が身の丈に合った存在ならば能力を制御できますが……器を越える容量の物と契約した場合、器からあふれた部分が肉体にまで影響を及ぼし…呑まれます」
「呑まれる?」
「都市伝説に取り込まれ、都市伝説契約した人間ではなく、人間を取り込んだ都市伝説となるのです…あのグレムリンの場合は後者だ」
外国、日差しの強い所…お兄さんの言葉の意味が少しずつ繋がって行く様な気がする。
「そうやって、生まれた化物達は実際に戦場に投入され大きな戦果を上げたと言います…まぁ、当然ですよね。
 戦場に出すだけで相手の戦闘機から戦車から…機械仕掛けの兵器を片っ端から機能不全に陥らせられるのだから」
「だけど、今彼はこの町に居る…逃げてきたんですか?」

「えぇ、何人かで脱走を試みた様です。
 アレの他にも何人か居る様なのですがそちらの発見には至ってません。
 そして…組織も一枚岩ではない、あのグレムリンは人為的に契約させられた上で都市伝説となりながらも僅かながらに理性と記憶を保持しているレアケースだ…組織にだって研究材料としてほしがってる輩も居ます」
「だけど…」
「えぇ、その様な連中にアレを与える訳には行かない」
「だから始末するんですか?」
「えぇ、そして私はその過程で部下を奪われた…アレを見逃す理由はもう何処にもありません」
黒服さんと私は店を出る。
「貴女の記憶はしばらく放置します…がくれぐれも他言無用でお願いします」
こんな事まじめに語った所でキ印扱いだと思うんだけど…
「それは…私を泳がせておけば彼から接触してくると?」
「否定はしません」
はっきり言う人だ。
「ですが、貴女の身の安全は保障する積もりです」
「保障するって言い切ってほしかったな」
「確約はできませんから」
個人的にこういう生真面目堅物は嫌いじゃないけど…どうするのが正解なのかなぁ。

「では、私はこれで失礼します」
そう言って黒服は去っていく。
「……私も帰ろ」
もう、夜も大分遅いし「お姉さん、お姉さん」…ん?
見れば目の前に可愛らしい女の子。
だけど…何で私は今までこの子が目の前に居る事に気付かなかったんだろう。
いや、それ以前に何でこんな時間にこんな子供が出歩いてるの!?
「き…「駄目よ」!?」
口を指で押さえられる。
「声を上げちゃ駄目よ、さっきの黒服に気付かれるかもしれないわ」
………この子は
「そう、静かにしてなさい、命は惜しいでしょう?」
軽く物騒な事言ってるよね!?
「一応彼の恩人みたいだし名乗ってあげる。
 私は"グレムリンの契約者"…ま、それ以外とも契約してるんだけど」
今、何て―――
「私の大事な彼の恩人さん、少し付き合ってもらうわよ?」
私は、まだまだこの事件から抜けられなさそうだ………


そして、その頃…
「随分派手にやったみたいですねぇ」
「ここの組織は地元のよりは真面目なんだろ」
「ま、とりあえず僕らも自分の仕事ガンバろっか」
更に三人程この町に入り込んでいた様なのですが
この時点では私も、黒服さんも、彼も
誰もその事には気付けて居なかったのです。

続く

そんなこんなでグレムリン3話め
[ピザ]の人いつも感想ありがとうございます

次は何時になるかなぁ

 深夜、あらゆる場所は不気味さを醸し出す。
 闇があらゆる物を引きずり込むように存在しているからだ。
 そんな中、路地裏に一組の男女が佇んでいた。
 男は、一目で分かるほど高級なスーツを着ていた。
 オールバックでまとめた白髪、意地の悪そうな顔。
 いかにも、悪人といった感じだ。
 女は、ジーンズと黒いTシャツを着ている。
 色気を振りまく長い黒髪、整っているが勝気そうな顔立ち。
 美人だが、どこか危なげだ。
 共に怪しげな二人は、先程から押し問答を繰り広げていた。
「だから、早くそれを渡せっての。金なら大元叩いた後に返すって言ってるだろ」
「馬鹿を言うな! 俺の金で買ったものをほいほい渡せるか!!」
「だからあ」
 宥めるように話す女と抵抗する男。
 どちらも乱暴な口調だ。
「それは危険なものなんだって。悪いこと言わねえから渡せ」
「うるさい! 危険なことは百も承知だ!! だからこそ、武器としての価値が有る!」
 男は、右手に球状の物体を握っていた。
 手頃な大きさで、上半分は黒、下半分は白い配色をしている。
 上半分には黄色のラインも入っている。
 真ん中には、スイッチと思われるものが。
「あのなあ、それを銃や刃物なんかと同等に思うなよ。別次元なんだよ、危険度が」
「いい加減にしろ! こうなったら、力で認めさせてやる!!」
 男は、球状の物体を前に突き出し、スイッチを押した。
「出てこい! 『クー・シー』!!」
 瞬間、眩い光が周囲を包み込んだ。
 発光源は、もちろん球状の物体。
「さあ、その姿を見せろ!!」
 光が消えると、アスファルトの上にそれは立っていた。
 暗い緑色の毛が特徴的な犬だ。
 長い尾も目を引く。
 しかし、最大の特徴は別の点。
「……でかいな」
 思わず、女は呟いた。
 目の前の犬、『クー・シー』があまりに巨大だからだ。
 路地裏を埋め尽くすほどの胴体、人の頭部をも飲み込んでしまいそうな口、あまりにも太く長い足。
 おそらく、仔牛くらいのサイズはあるだろう。
「さすが、『妖精犬』ってところか」
 『クー・シー』は、スコットランドに伝わる『妖精犬』だ。
 妖精達の番犬と言われているが、厄災の前兆としても有名。
 どこにでもいるような都市伝説と比べ強力な存在だろう。
「どうだ! 痛い目を見たくなかったら降参しろ!!」
 男は勝ち誇った表情を浮かべた。
 恐らく、都市伝説についてある程度の知識を持っているのだろう。
 『クー・シー』を出した途端、傲慢さがさらに増した。
 しかし――。
「そっちも犬か。いいな、面白い」
「あ?」
 女は笑みを浮かべていた。
 どこからか取り出した、鋭い短刀を手に。
「犬だと。なんだ、お前は『人面犬』とでも契約しているのか?」
 挑発するように男は言う。
「違う違う、というかこいつとは契約しているわけじゃないからな」
「あ? どういうことだ?」
「言葉通りの意味だ。私が契約しているのはあくまでこれ」
 男によく見えるように、女は短剣を掲げた。
 柄頭に宝石が飾られたそれを。
「――『アゾット剣』だ」
 宝石が輝いたのはその直後。
 光に反応した『クー・シー』が動いのも同時。
「で、宝石の中にこいつが入っているってわけだ」
 見えない何か、女の言葉を信じると犬が現れたのは、『クー・シー』が女を襲おうとする寸前。
 『クー・シー』の首が路上に落ちたのはコンマ一秒後だった。
「……あ?」
 刹那の出来事に男は目を丸くしていた。
「よし、これで片付いたな。じゃあ、色々話してもらおうか」
 詰め寄る女に気づかず、男はあることだけを思考している。
 ――透明な犬ってなんだ?
 と。

 数十分後、女は歩道を歩いていた。
 どこか不満げな顔をしながら。
 そんな彼女に近づく人影があった。
「凛々香さ~ん」
「ん? ああ、お前か。愛」
 トレードマークのポニーテールを揺らしながら、鬼神愛は微笑んだ。
 格好は、ショートパンツに紺色のTシャツというシンプルなもの。
「どうした? 仕事帰りか」
「そんなところです、今日は打ち合わせだけですけど~。愛さんもですか?」
 二人は歩きながら会話を始めた。
「いや、帰るのは事務所にこれを届けてからだ」
 凛々香は、右腕に握っていたそれを愛に見せた。
 先程の男から回収した球状の物体だ。
「あ~、これって」
「そうか、お前は知ってたか」
「はい、前に『あいつら』を調べたので。にしても、便利ですよね~それ。都市伝説の捕獲と使役がこれ一つでできるなんて」
「契約をする必要もないからな」
 凛々香は、物体を上に投げて遊び始めた。
「ポ○モン系の都市伝説をベースに作り上げた都市伝説捕獲兼使役装置。まあ、長いんでハ○パーボールでいいですか~」
「いいだろ、私もハ○パーボールって呼んでるし」
「今日の任務は、これの回収ってところですか?」
「そうだ、あとハ○パーボールの購入者からの聞き取りもだ」
「なるほど~。で、様子を見る限り目ぼしい情報は得られなかったと」
「……ああ」
 先程のことを思い出したのか、凛々香は苛ついた様子を見せた。
「ハ○パーボールの所持者から聞き出そうとしたのは良かったが何も知らなかったんだよ。そいつ曰く、急にチンピラ風の男が現れてハ○パーボールの取引を持ちかけられたんだと。購入後は、連絡が通じなくなったらしい」
「なんか、都合のいい話ですね~」
「だろ? かといって、嘘をついてはなかったしな」
「よっぽど手際がいいんですかね。あと、チンピラ風の男ってことは」
「ああ、『あいつら』の一員ではないな。多分、下請け団体か何かの奴だろう」
「なるほど~」

 会話はそこで途切れた。
 二人は、どこか考えるような表情をしながら歩を進めていく。
「そういえば、ナダレの奴は大丈夫か?」
 何でもないことのように凛々香は切り出した。
「健康面で言えば極めて大丈夫ですよ~。裸の付き合いでちゃんと確認してますから!」
「……」
「無言で『アゾット剣』構えないで! 宝石がちょっと輝きかけてますよ!」
 愛を睨みつけながら、凛々香は『アゾット剣』をしまう。
 安堵の息を吐いた愛は、いつにもなく真面目な表情になった。
「家や道場の人間には馴染みましたけど学校ではまだまだですね。クラスの中でも孤立しているみたいですし」
「……そうか」
「まあ、悪い虫がつかないので私的にはいいんですけどね~。本人の事を思うとあれですけど」
「ああ」
 哀しげな目をして俯く凛々香。
 彼女との付き合いが長い愛は知っている、凛々香が年下の人間を心配して世話を焼こうとする面があることを。
 だからこそ、彼女を安心させるように愛は言葉をかける。
「でも、ナダレにも友達ができましたよ」
「本当か」
「ええ、輝ちゃんと仲良くなったんですよ~」
「ああ、輝か。あいつなら安心して任せられ……ないな」
「変態ですからね~」
「お前が言うな」
 言葉とは裏腹に、凛々香の表情は柔らかなものだった。
「友達はノーマルな奴に限る」
「なんか、凛々香さんが言うと説得力ありますね。さすが、同性に押し倒された経験が豊富なだけはある」
「やめろ、思い出させるどな! 相手の好意とノーマルな自分の間で悩んだ日々を思い出させるな!!」
「え~、羨ましいですけね~。女学院の王子様なんて最高のポジションじゃないですか」
「私がノーマルじゃなかったらな!! つーか、私の高校生活はかなり悲惨な部類だろ」
「ええと、確か『アゾット剣』で悪魔達を倒したり~、八極拳使いの神父と戦ったり~、同性に惚れられたり~、百合ハーレムを形成したり~、壮絶な修羅場が発生したり~とかでしたっけ」
「細かいところだと、文化祭でバンド演奏をするはめになったり、生徒会に無理やり加入させられたり、謎のクラブに強制的に入れられたりとかだな」
「楽園じゃないですか」
「だから、私はノーマルだ!!」
「で、卒業後には白さん達にスカウトされて辛組之零(辛No)に所属ですか。なんか、すごい人生歩んでますね~」
「忍者なんて訳わからん職業に就いているお前には言われたくない」
 もっともな指摘だった。
「いや~、でも人間なのにNo持ちなのは珍しいですよ。しかも、一桁って」
「別に、いいだろ。噂だと他の部署にも人間のNo持ちはいるらしいし。あと、一桁なのはうちの部署の人員が異常に少ないからだ」
「いや、一桁なのは実力があるからだと思いますよ~。あ、じゃあ私はここで」
 いつのまにか、二人は鬼神家のすぐ近くまで来ていた。
 向かって右の道を行けば、鬼神家に。
 向かって左の道を行けば、辛組之零の事務所に辿り着く。
「ああ、じゃあな。……今回の件はナダレには内緒にしておけよ」
「もちろん、そのつもりですよ~」
 この言葉には、二つの意味があることを愛は察していた。
 一つは、ナダレのことを心配していたことを恥ずかしいから隠しておけというもの。
 もう一つは、ハイパーボールの件をナダレに知られるなというもの。
 それはなぜか。
「過去のことなんてさっさと忘れさせたいですし」
 二人は知っている。
 ハ○パーボールを製造しているのが、かつてナダレを実験動物として扱っていた団体だということを。
 愛がハ○パーボールのことを知っていたのは、ナダレ絡みの調査を行った時に偶然知ったためだ。
「……そうだな」
 哀愁が漂う言葉を最後に二人は別れた。

 その後、事務所に戻った凛々香は驚愕することになる。
 なにしろ、愛の仕事の打ち合わせというのが、自身の上司が依頼したハ○パーボール絡みのことだったからだ。
 つまり、愛はすべてを知っていた上で、何も知らないふりをしていたということになる。
 からかいやがって、怒りを隠せない凛々香に上司は諭すように言う。
 あれは、彼女の忍としての癖のようなものだと。
 こちらの情報はできるだけ隠し、相手から情報を引き出す。
 人には誰しも職業病があるさ、と言って上司こと辛組之零の〇(ゼロ)は笑った。

続く

伏字が多すぎていまいち締まらない……

グレムリンの人乙です
三つ巴になりましたか
人外達に囲まれてヒロインがどうなるか気になります

>>415の9行目
×「そんなところです、今日は打ち合わせだけですけど~。愛さんもですか?」
○「そんなところです、今日は打ち合わせだけですけど~。凛々香さんもですか?」

結構重大なミス

 少女は可能性に愛されていた。
 あらゆることを粗忽なくこなす力を与えられ、この世に生まれてきたからだ。
 テストを受ければ高得点。
 歌を披露すると人を魅了。
 創作をさせると必ず入賞。
 その上、容姿も非常に恵まれていた。
 まさに、神に選ばれたような子供。
 だが、そんな彼女にも勝てない存在がいた。

 畳が敷かれた狭い部屋。
 そこには、年代物と思われる箪笥や、古びた勉強机等が置かれている。
 過度な装飾がされたものは置いてなく、質素な印象が漂う。
 最低限のものだけが揃えれれていると人は感じるだろう。
 電子機器に関しては、たった二つしかない。
 その内の一つ、黒いノートパソコンは絶賛使用中だった。
 キーボードの上で踊る十本の指。
 素早くかつ軽やかに入力を行っている。
 画面に、次々と数字やアルファベットの羅列が映っていく。
 指の持ち主は茶色の髪の少女。
 豊満な胸と整った顔立ちが特徴的だ。
 少女の指さばきは段々とゆっくりとなっていた。
 やる気がなくなったから――ではない。
 あと少しで作業が終わるからだ。
「おい、姉貴。早く、朝飯食え。片付けられないだろう」
 彼女の指が止まるのと、廊下に通じた障子が開くのは同時だった。
 敷居を挟んだ先には巨漢の男が。
「はいは~い、今行くよ~」
「ああ。なんだ、朝からネットでもやってたのか」
 男は遠慮せずに少女の部屋に入りパソコンを眺める。
「違うよ! 仕事だよ! 仕事!!」
「仕事? ああ」
 男は苦々しい表情をした。
「ハッキングか」
「うん、しょぼいセキュリティだったからすぐに終わったけどね~。これぞ、本当の朝飯前!!」
 朝だというにも関わらず、少女の気分は高揚しているようだ。
「ハッキングな」
「ん? どうかした」
 まだ、苦々しい表情をする男はこう言った。
「……ハッキングで仕事を済ませる忍者を忍者と言っていいのか?」
「いいに決まってるよ! 昔とやり方が違うだけで結果は同じだからね!!」
 茶色の髪の少女こと鬼神愛は、笑顔で弟である鬼神拳次に親指を立てた。

「そういえば、優とナダレは?」
 畳張りの広い部屋、大きなローテブルを挟んで愛と鬼神拳次は向き合っていた。
 愛は朝食を摂り、拳次はコーヒーを飲んでいる。
「優もナダレも朝飯を食べてすぐに出かけた」
「え~、面白くない」
 だし巻き卵を箸で掴みながら、愛はつまらなそうな顔をした。
 好意を寄せる妹達がいないことが不満なのだろう。
「普段から十分拘束してるんだから別にいいだろ」
「ダメだよ! 姉は妹分を常に補給しないと死んじゃうんだよ!!」
「変な成分を捏造するな。勝手に死んでろ」
「そういう拳次だってナダレと優がいないと寂びそうにしてるじゃん!」
「目の錯覚だ」
「ふっふ~ん。姉である私にそんな戯言は通じないよ!!」
 愛は拳次に向かって指を差した。
「ナダレや優がいない時、拳次の作る料理の品数が明らかに減るからね!」
「そんなことは」
「あるよ! 私の記憶力を舐めてもらっちゃ困るね!!」
 拳次は閉口した。
 十数年もひとつ屋根の下で暮らしてきただけあって、姉の能力の高さを知り尽くしているからだ。
「ふふ~ん、何も言い返せないみたいだね~。ねえ、今どんな気持ち!どんな気持ち!」
「てめえ……」
「いや~、シスコン兄貴とか誰得なんだろうね~。百合要素のあるシスコン姉には遠く及ばないよ!!」
 拳次の拳が怒りで固く握られた。
 とてつもないほどの力が込められている。
 一方の愛も、いつでも立てるように備えていた。
 まさに、一発触発の状況。
 今にでも、壮絶な姉弟喧嘩が開かれようとしていた。
 ――が。
「……はあ」
 拳次は拳を解き、コーヒーに口をつけた。
「あれ? やんないの?」
「こんな朝っぱらからやってられるか。第一、今は飯の途中だ」
「さすが、主夫だね~。食に対する敬意が違う」
「うるせえ」
 拳次は決して言わない。
 喧嘩をやめたのが、姉が自分より強いからだと。
 勝機のない戦いだと無駄でしかない。
「俺も食器片付けたら山に出掛けるから早く食え」
「はいは~い。あっ、私もこの後出かけるから~。遅くなると思うから夕飯はいいよ~」
「……仕事か?」
「うん、白さんからの依頼だよ~」
「そうか」
 拳次はそっけなく言うと、テレビの画面に目を向けた。
 地方の特産品を紹介する番組が放送されている。
「あ~、そうそう」
「なんだ?」
 鮭の身をほぐしながら愛は呟いた。
「『あいつら』がこの辺でも活動を始めたよ」
「……」
 具体名が出ていないにも関わらず、拳次は何も聞き返さなかった。
 彼の直感が囁いているからだ。
 愛の言う『あいつら』が自分の想像したものと同じだということを。
「まあ、仕事は下請けにやらせてるみたいだけどね。内容もある装置を売りさばいているだけだし」
「それでも『あいつら』にしては大胆だな」
「まあね、ひたすら隠れて組織から逃げてきた『あいつら』にしては大胆だよ。でも、何もかも曝け出してるわけじゃないよ」
 緑茶をすすると、愛は推論を語り始めた。
「まず、売っている装置というものがそこまで貴重なものじゃない。
 都市伝説の捕獲と使役ができるって言う便利な品物だけど技術的な価値はそこまでじゃないからね。
 組織も作ろうと思えばすぐに作れるレベルの品物だよ。
 本命の品は最低限露出しないようにしているんだろうね」
「本命、前に言ってた劣化融合者か」
「多分ね。拳次と母さん達には言っておくけど、もう実用までこぎつけているらしいよ。量産できているからは怪しいところだけど。もし、成功してたとしても一体一体の性能は低いだろうね。ナダレにはもちろん、優にも内緒だよ」
「……話を戻すぞ。なんで、あいつらは今更こんな大胆な行動をやり始めたんだ。本命の商品を出してないとしても今までの『あいつら』からは考えられない行動なはずだ」
「うん、ここからは完全な想像だよ。私が思うに『あいつら』は――」
 テレビから流れるグルメリポーターのありふれた感想を遮るように、愛は言い放った。
「この国から逃げる気だよ」

「つまり、急にその装置を大胆に売りさばき始めたのは国外逃亡前のデータ収集と資金集めのためってことか」
 拳次は、もう冷めてしまったコーヒーを飲んだ。
「私の考えだとね。『あいつら』の技術力は高いから、手元に置きたがる結社は海外にいくらでもあると思うよ」 
「そうだな」
 しばらく、二人は沈黙に徹した。
 愛は食べることに徹し、拳次はただ番組を眺める。
 静かに時は流れた。
「ごちそうさま」
 朝食を片付けた愛は、食器を持ち立ち上がった。
 そのまま、廊下へ通じる障子へ向けて歩き出す。
 だが、急に彼女は振り返り――。
「安心した」
 小さな声で呟いた。
「もう『あいつら』がナダレに手を出すことがないかもしれないと思ったら」
「……」
 『あいつら』が海外に逃げた場合、ナダレに手を出す可能性はほぼなくなる。
 高度な都市伝説を応用した科学と、便利な道具を要する『あいつら』は『鬼神の血族』にとっても厄介な存在だ。
 いくら、『鬼神の血族』が強いといってもナダレを完全に守りきれるとは限らない。
 なので、あちらから消えてくれるに越したことはないのだ。
 しかし、移住先の住民達が何らかの被害に遭うことは確実だろう。
 ナダレをかつて実験動物として扱っていた団体はそういう存在だ。
 それを見越した上で、愛は安心したと言った。
「もう誰も失いたくないからね」
 愛は明るく微笑んだ。
 まるで、道化師のように。
 行動により、沢山の他人よりも一人の家族が大事と肯定した。
「なんてね~、ちょっとシリアスモード入っちゃったよ~」
 前を向き、愛は障子に手をかけ、廊下に出ようとする。
「俺もだ」
 彼女の背後から言葉は届けられた。
 低くハスキーな声で。
「誰も失いたくないのも同じだ」
「そっか」
 愛は思う。
 弟が短い言葉に込めた感情について。
「そうだよね」
「ああ」
 そっけない返答を聞き、愛は改めて確信した。
 この声が既にいない自分の思い人のものと似ていないと。
「まあ、感情論だけで言わせてもらうと『あいつら』をこの手でぶっ潰したいんだけどね~」
「それも同じだ」
「だよね~」
 振り返った愛は、偽りのない笑顔を浮かべた。

続く

 夜道を少女は逃げていた。
「はぁはぁ」
「急いで! 契約者さん!! 奴らが来る!!」
 おかっぱ頭の友達とともに。
「で、でも……。もう足が……」
「駄目だよ!! 走らないとあいつらがキャッ!?」
 少女達の目の前に、突然炎の壁が現れた。
 暗闇をから二人を炙り出すように。
 その先には……。
「『ジャックランタン』……」
 無数の宙に浮くかぼちゃが待ち構えていた。
 彼らは『ジャックランタン』。
 日本で言う人魂に近い存在だ。
 かぼちゃに己を宿し光を放っている。
「……契約者さんは逃げて。私が足止めをするから」
「で、でも! それじゃ『華子』さんが!!」
「いいから早く!!」
 契約者を押しのけ、『トイレの華子さん』は前に出た。
 能力を使い、両手から水を出しながら。
 それを見た、『ジャックランタン』達は火球を作り出した。
「華子さん……」
「今まで楽しかったよ、契約者さん。ありがとう、私を生きながらさせてくれて」 
 絶体絶命の状況。
 しかし、『華子』さんは笑っていた。
 もう思い残すことはないとばかりに。
 だが――。
「そんなの認めないよ」
 バットエンドを許せない者がいた。
「だ、誰!?」
「誰? そうだね、全ての美少女の味方かな」
 乱入者は現れた。
「眺めいいね、ここ」
 木の頂上から。
「そ、そんなところで何をしているんですか!! 早く逃げてください!!」
「逃げる? そういう訳には行かないな。私はそこのかぼちゃたちにあるセリフを言わないといけないんだから」
 そう宣言すると、乱入者である高校の制服を着た女は木の先端に立った。
 とんでもないバランス力だ。
「まったく、ハロウィンは仮装したロリを愛でる日なのにね。異常発生した『ジャックランタン』のせいで台無しだ。ということで」
 女は、いつのまにか両手にあるものを掴んでいた。
 右手には数本のナイフ。
 左手には回路らしきものが書かれたカード。
「トリック・オア・デス!!」
女は、『ジャックランタン』達めがけナイフを投げつけた。
 だが、こんな雑な投げ方をしても本来なら目標には当たらない。
 ――補助をするものがあれば話は別だが。
 ナイフが手から離れた瞬間、カードから光が放たれた。
 それは、いくつかの光線となり、ナイフに当たるとそのまま包み込んだ。
 すると、急速に速度を増し、それぞれ『ジャックランタン』目掛け飛んでいった。
 ナイフは、次々と『ジャックランタン』の宿主であるかぼちゃを切り裂いていく。
 どうやら、光がナイフを操っているようだ。
「す、すごい……」
 少女は目の前の圧倒的な光景を見て思わず呟いた。
 助けられた、という事を理解する前に。
「聞いたことがある」
 『トイレの華子さん』は語り始めた。
 少女に聞かせるためではなく、自分を納得させるように。
「この街には、凄腕の『ヒエロニムスマシン』の契約者がいるって」
 空中に舞う『ジャックランタン』は残り一体にまで減っていた。
 光を浴びた数本のナイフが一斉に追尾する。

 たった一校にしか伝わらないマイナー都市伝説の契約者は、こうして街の有名人に出会ったのだった。

ちょっとだけ続く


「まったく、小学生がこんな時間まで外に出てちゃダメだよ。契約者なら尚更さ」
「ご、ごめんなさい」
 『ジャックランタン』達との戦闘後、少女と『華子さん』は学生服の女に自宅まで送ってもらっていた。
 また、彼らに襲われるかもしれないからと女が申し出たのだ。
「さっきの様子を見る限り戦闘は初めて?」
「は、はい。都市伝説を見かけたらいつも逃げてたので」
 緊張した様子で少女は答える。
 どうやら、人と話すことが苦手らしい。
「二週間前に契約したばかりなんです。契約者さんが存在が消えかかっていた私を生きながらせるためにしてくれて」
 庇う様に、『華子さん』が事情を説明する。
 まるで、少女の保護者であるかのように。
「なるほどね。割とよくあるケースだ。マイナー都市伝説は生存競争が激しいからね」
 女は、腕組をし、わざとらしく幾度か頷いた。
 自分はよく分かってると表現しているのだろうか。
「で、君達はこの先どうするつもりなんだい?」
「そ、それは……」
 二人にとって痛い所を女は突いた。
「今回の件でわかったと思うけど、契約者である限り戦いは避けられない。非戦闘系都市伝説ならまだしも『華子さん』は違うだろ?」
 神妙な顔で『華子さん』は頷く。
「力を持つ都市伝説は同類を引き寄せてしまう。これは避けられない宿命だ。だから、君達はこれからどうするか選び必要がある」
 女は三つ指を立てた。
「一つは、『華子さん』と契約解除し元の生活に戻る」
「そ、それは駄目です! そんなことをしたら『華子さん』が!!」
「でも、契約者さんにとっては一番安全な選択肢だよ。そうですよね?」
 『華子さん』は、取り乱す少女を制して言う。
「一度都市伝説と関わった人間は引き寄せやすくなっちゃうから、絶対に安全とは言えないけどね。まあ、取り敢えず三つ全部聞いてよ」
「はい……」
 少女が落ち着くと、女は一つ指を折った。
「二つ目は他の契約者に守ってもらう」
「守ってもらう?」
「そう、お人好しの強い契約者に守ってもらう。この街は割と契約者が多いからね。そこまで難しい話じゃないよ」
「でも、そんな押し付けるようなこと」
「契約者の中にはヒーロー願望を持つ人間も結構いるんだよ。そういう、人種からすれば大歓迎さ」
「で、でも……」
 顔を下に向け、唇を噛む少女。
 彼女はまだ幼い。
 心根も優しいのだろう。
 『華子さん』を助けるために契約したのが証拠だ。
 そのため、他人を利用するようなやり方には賛同できないのだろう。
「それじゃ、三つ目の選択肢。これが一番過酷かな」
 言葉と裏腹に、女の声には変わりがない。
 彼女が冷酷な人間なため――ではない。
 だったとしたら、そもそも『華子さん』と契約者を助けていないだろう。
「君達が強くなる。どんな都市伝説も倒せるほどに」
 女は語る。
 どこまでも真っ直ぐな様子で。

「私は水を集め操ることしかできません」
 『華子さん』は、広げた右手の上に水の塊を浮かせていた。
 子供の顔くらいの大きさだ。
「トイレの中ならもっと色々な物を操れますがここではこれが限界です」
「なるほどね。その辺は、『花子さん』と変わらないか。他に、何か独自の特徴はない?」
「特徴ですか。そうですね、身体能力がちょっと高いことです。私の噂に、怪力だという話があるので多分その影響です」
「へえ、それは面白いね」
 三つの選択肢を提示された少女は、まだ答えを決めきれずにいた。
 『トイレの華子さん』の契約を放棄したくない、誰かを頼りたくない、という思いはあったものの、三番目の選択肢を選ぶのも不安だったためだ。
 なので、今こうして、通りかかった公園で自分達の戦闘能力を改めて検査している。
 判断基準を増やすために。
 主に話しているのは、自分の能力をよく知っている『華子さん』と、都市伝説について中々の知識をもっているらしい女だ。
 二人は、細かいところまで語り合っている。
「あ、あの」
「ん? どうしたの?」
 黙っていた少女は、顔を赤くしながら女に話しかけた。
 自分なりに、勇気を振り絞ったのだろう。
「私、契約者なのに能力が使えないんです。『華子さん』みたいに、トイレのものを操ったり水を集めたりできないんです」
 彼女は自身の苦悩について喋り始めた。
 何かあった時のために、役に立とうと思って、能力を使う特訓をしていること。
 しかし、それが実にならず、一向に能力が使えないこと。
 今日も、特訓のために学校に遅くまで残っていたことを。
「いや、それはしょうがないよ。都市伝説の個体によって、契約者が能力を使えたり、使えなかったりするから」
「そうなんですか?」
「うん、中には後から能力が使えるようになる人もいるけどね」
 教えられた知識に少女は目を丸くした。
 隣で、『華子さん』も感嘆している。
 彼女も知らなかったようだ。

「それじゃあ、一旦纏めるね。
 『華子さん』は、トイレの中のものを操ることが出来る。
 正し、他の場所だと水を集めて操ることしかできない。それもあまり強力なものじゃない。
 あと、身体能力が高いか。                             」
 纏めてみると、 都市伝説から身を守るためには、心許無いことがさらによく分かる。
「……やっぱり、契約を破棄しよう。契約者さん」
 『華子さん』は、述べられた自身の能力を聞き、改めて少女にそう言った。
「私はもう消えていたはずの存在。この世に未練はないよ。だから、契約者さんを危険に巻き込んでまで存在したくない」
 静かだが力の篭った言葉。
 『華子さん』の心の底からの思いが全て込められていた。
「い、嫌だよ!!」
 しかし、少女はそれを受け入れることができない。
 なぜなら――。
「一番の友達を見捨てることなんてでいないよ!!」
 彼女にとって、『華子さん』は唯一無二の友。
 絶対に失いたくない存在だ。
「私の代わりなんていくらでも見つかる」
「そんなことはない! 『華子さん』は『華子さん』じゃないといけない!!」
「それじゃあ、契約者さんは戦えるっていうの? 都市伝説達と」
「それは……」
 白熱していた会話が止まった。
「震えずに、常識の通用しない存在と戦えるの?」
「……」
「諦めずに、理解不能の敵に立ち向かえるの?」
「……」
 『華子さん』は、諭すような口調となっていた。
「私は自分よりも契約者さんが大事。だから、お願い。私と約束して、元の生活に戻るって」
「……『華子さん』」
 少女の瞳は濡れていた。
 押し寄せる感情によって。
「契約者さんならこれから先も大丈夫。誰かの為に行動できる契約者さんなら」
「それは、私には夢も目標もないから、そうしているだけで」
「違う、契約者さんのしたことは誰にでもできることじゃない。だから、きっと――」
 轟音が響いたのはこの直後だった。
「キャッ!?」
「な、何!?」
 三人が最初に感じたのは、生暖かい風。
 次に、宙を舞う無数の火の粉が目に入った。
「あ、あれは!?」
 彼女達から数メートル離れた場所で、太い火柱が上がっていた。
 先程まではこんなものはなかったはずなのにだ。
「二人とも下がってて」
 女は、一人前に出た。
 どうやら、火柱の正体に心当たりがあるようだ。
「まさか、私の所に来るなんてね。ついてないよ」
 女はそう呟きながら、ポケットから取り出した黒い手袋を両手に装着した。
 火柱は、段々と火力を失い、細くなっていく。
 すると、人型としか言えない形になった。
「ゲーム風に言うとイベントボスだね、こいつは」
 炎は、驚くべきことに、肉体へと変わり始めていた。
 骨、肉、皮、爪、毛。
 あらゆる物が再現されていく。
 人間そっくりに。
 五体が完成すると、残った炎が体を包み込み、派手な衣服へと変わっていった。
「初めて見たよ、人間態は」
 炎は完全に人間となった、頭部を除いて。
「さあて、ボス戦と洒落こもうか」
 かぼちゃでできた頭部を揺らし、人間態の『ジャックランタン』は三人へと近づき始めた。

もうちょっとだけ続く

 先に動いたのは女だった。
「脚部限定強化」
 取り出した二枚のカードから、光線を自身の両足に放つ。
 言葉の通り、自身の脚力を強化したのだろう。
 それを見た『ジャックランタン』が、宙に幾つもの火球を生み出す。
 だが、その時既に女は動き出していた。
 『華子さん』とその契約者がいる反対側へ向かい、人間離れした速度で走っている。
 そのまま、使った二枚のカードを捨て、新しいカードを取り出すと、すぐに『ジャックランタン』に向け光線を放った。
 青い一閃が闇を切り裂いていく。
 しかし、『ジャックランタン』は焦る様子を見せない。
 こんなものは驚異にならないとばかりに。
 次の瞬間、火球の一つが光線を向かい打つように飛んでいった。
 光線に負けないほどの速度で。
 戦いを眺めていた二人の予想通り、火球は光線と衝突した。
 園内に、爆炎の花が咲き、眩しい光と激しい爆発音が響く。
 少女は思わず目を閉じ耳を塞いだ。
 これは、人間否生物として当たり前の行動。
 軍人でもない限り、普通はこうする。
 音も光もない世界で、少女は想像した。
 光線が通じず、火球の前に敗れる女の姿を。
 それほどまでに、『ジャックランタン』の力は圧倒的だった。
 あんなのに勝てるわけがない、誰かの声が囁いた。
 少女が現実に戻ってきたのは、数十秒ほど経ってから。
 そして、驚愕した。
 爆炎の中を駆け抜け『ジャックランタン』を拳で殴る女を見て。
 よろめく『ジャックランタン』。
 女は、その隙を逃さず打撃を与える。
 『ジャックランタン』の火球は強力だ。
 生身の人間が巻き込まればひとたまりもないだろう。
 同時に、その威力が仇となっている。
 あまりに強力な為に、自身の近くでは使えないのだ。
 それを素早く見抜いた女は、『ジャックランタン』に張り付き、ひたすら鋭い打撃を浴びせている。
 『ジャックランタン』は、身体能力の方は高くないようで、なされるがままだ。
 離れようとはしているものの、女はその動作を見逃さずに下段蹴り。
 決して、自分の優位を失おうとしない。
「す、すごい」
 少女は、目を見開き呟いた。
 女の見せる熟練した強さに。
 同時に思う。
 自分もあれだけ強ければ『華子さん』を守ることが出来るんじゃないか、と。
 そのまま、しばらく彼女は見惚れていた。
「契約者さん、もっと離れよう」
 怯える少女を見ていた『華子さん』は心配した様子で言う。
「ううん、ここでいいよ」
 何かに取りつかれたように返答する少女。
 彼女は魅せられているのだ、強さを披露する女の姿に。
「契約者さん……。ん? に、逃げて!! 契約者さん!!」
「え?」
 背後を振り返った『華子さん』が慌てた様子で言った。
 少女もそれに倣う。
 すると――。
「そ、そんな……」
 絶望は一つだけではなかった。

「腕部限定強化」
 幾多もの打撃を受け、今にも倒れそうな『ジャックランタン』を前に、女は光るカードを手にして呟いた。
 輝く両腕。
 そのまま、『ジャックランタン』に向け殴打のラッシュを放った。
 左。
 右。
 左。
 右。
 左。
 右。
 三発目の右拳で、『ジャックランタン』は地面に両膝を付いた。
 すかさず、かぼちゃの顔面に前蹴り。
 一切の容赦がない。
「思ったよりは苦労しなかったか」
 さらに、数発の打撃が当てられ、『ジャックランタン』は光の粒子へと変わり始めていた。
「師匠にもらった耐火手袋。あんまり意味なかったな」
 女の手に嵌められた黒い手袋。
 それは、組織の人間でも手に入れるのに苦労するほどの品物だ。
 おそらく、伝説上の鉱物や生物の皮膚が使われているのだろう。
「二人共、もう大丈夫だよ」
 少女と『華子さん』に、振り返りながら女は言った。
 安心感を与えるような笑顔で。
「……嘘だろ」
 一瞬で崩れ去ったが。
「脚部限定強化!!」
 再び、二枚のカードを使い両足を強化して走り出す。
 目指す先は、ただ一つ。
 二人の後方で、貼り付けられた笑みを浮かべる人間態の『ジャックランタン』。
 空中には、既に幾つもの火球が浮かべられている。
「どうして、もう一体いるって気づけなかったかな。私は!!」
 自身に対する怒りを吐き出しながら、女は向かう。
 何でもできるが強引に事態を突破できない、自身の器用貧乏な系統を呪いながら。
「お前の敵は私だ!!」
 注意を引くために、女はカードを取り出し光線を放とうとする。
 しかし――。
「は、『華子さん』!!」
 二人に向かい火球が飛ばされるのが先だった。 

 少女は夢を抱いたことがない。
 理由は不明だ。
 両親が現実的過ぎるからか。
 夢を持つという感覚がよくわからないからか。
 それとも、生まれつきの欠陥なのかもしれない。
 幼稚園に通っていた頃、将来の夢を絵に書かされたことがある。
 他の子供達は、すいすいとクレヨンを動かした。
 花屋さん。
 看護師さん。
 女優さん。
 ケーキ屋さん。
 色とりどりの絵が描かれていく。
 何も書いていないのは少女だけだった。
 しばらく、そうしていると一人の先生が話しかけてきた。
「なんでもいいから書いてみて」
 少女は困った。
 できることならとっくにそうしている。
 しかし、どうしてもできない。
 どうにかしようと、少女は他の子の絵を見た。
 カラフルで、希望にあふれた未来予想図の数々を。
 彼女はそれらを眩しいと思った。
 真っ白な自分には刺激が強すぎると。
 けれど、同時にこうも感じた。
 自分が持つことができない、綺麗なこれらを守りたい。
 夢を持つことができる人達の役に立ちたいと。
 少女は警察官になった自分の絵を書いた。
 別に、本当になりたかったわけではない。
 ただ、警察官のように人の役に立ちたいという意識の表れではあった。
 この日以降、少女は意識的に優しい性格になった。
 少しでも美しいものの糧となるために。
 そんな日々を送り数年、小学校のトイレで少女は出会った。
 今にも消えそうなおかっぱ頭の女の子と。
「あなた、私が見えるの?」
 女の子は驚いた顔で言った。
 その後、おかっぱ頭の女の子こと『華子さん』と少女はすぐに仲良くなった。
 気弱な少女としっかり者の『華子さん』は相性が良かったのだろう。
 仲良くなると同時に、都市伝説や契約者についての知識を少女は知った。
 これを『華子さん』は今でも後悔している。
 そのせいで、存在が消えかかっていた彼女と少女は契約してしまったからだ。
 契約を申し出たのは少女。
 最初、『華子さん』は申し出を断った。
 契約をしたら、少女を危険に巻き込んでしまうからだ。
 しかし、少女は食い下がった。
 『華子さん』が、思わず承諾してしまうまでに。
「だって、『華子さん』に消えて欲しくないから」
 その一言だけを武器に。
 だから、彼女達は今ここにいる。
 新たに現れた、人間態の『ジャックランタン』の前に。

「そ、そんな……」
 『ジャックランタン』を前に少女は一歩も動くことができなかった。
 足は震え、瞬きをすることも忘れている。
 『ジャックランタン』は、そんな彼女を追い詰めるように宙に火球を生み出す。
 先程の個体より、さらに多くの数を。
「こんなのって……」
「契約者さん」
 怯える少女の肩に、『華子さん』が手をかけた。
 彼女は、こんな状況にも関わらず笑みを浮かべていた。
 怖いものなど何もないとばかりに。
 少女は、その笑顔に安心感を感じた。
 温かいものが体に溢れていく。
「『華子さん』……」
「大丈夫だよ、契約者さん。だって――」
 『華子さん』の笑みは崩れた。
「えっ?」
 次の瞬間、少女は『華子さん』に突き飛ばされていた。
 宙に浮かんでしまうほど、強い力で。
「うわっ!」
 少女は、仰向けで地面に倒れた。
 突然の事態に思考が追いつかず、唖然としている。

  体のあちこちが痛んでいるが、大きな怪我はないようだ。
「ど、どうして。『華子さん』! 
 動揺しながら少女は立ち上がった。

 なぜ、あの『華子さん』がこんなことをしたんだろうという疑問を持ちながら。
 しかし、それは目の前の光景を見て一瞬で消えた。
「は、『華子さん』!!」
 『華子さん』は、飛んでくる火球を交わしながら『ジャックランタン』に近づこうとしていた。
 『花子さん』では出せない、強い脚力を持って。
 思えば答えは明白だった。
 『華子さん』が理由もなく、誰よりも大事な少女に暴力を加えるはずがない。
 だとしたら、真実は単純。
 少女が、時間稼ぎのための突撃を止めるであろうことを予想して突き飛ばしたのだ。
「『華子さん』……」
 少女は思う。
 今の『華子さん』はとても勇ましく美しいと。
 誰よりも強く光り輝いていると。
 何もできない自分がどうしようもなく情けないと。
 少女の中で負の想いが膨れ上がる。
 何が誰かの役に立つだ。
 大切な友達一人守れないじゃないか。
 なぜ、自分みたいな欠陥品が生きて、彼女が消えねばならないんだ。
 自分を責める言葉が無限に溢れ出す。
 中断されたのは、友達が爆発により吹き飛ばされた時だった。
「『華子さん』!!」
 火球の爆発に巻き込まれ、吹き飛ばされた『華子さん』の元に駆け寄る少女。
 その途中で彼女は見た。
「え?」
 女と戦う、三体目の人間態の『ジャックランタン』を。

「ふざけすぎじゃないかな!!」
 突如現れた三体目の『ジャックランタン』と女は交戦している。
 本当は、二人の元へ早く向かいたいのだが、目の前の敵がそれを許さない。
「面倒くさいんだよ!」
 彼女の目の前の『ジャックランタン』は、他の二体とは違う力を持っていた。
「『ジャックランタン』は生前鍛冶屋。そして、煉獄の石炭を持っているとは言うけどさ!」
 敵の攻撃を躱しながら女は隙を伺う。
「炎の剣を振り回すってのはどうなのかな!!」
 『ジャックランタン』は、見事な身のこなしで女と戦っている。
 炎を纏った剣を使って。
 いつもなら、女は都市伝説との肉弾戦を楽しんで行う。
 自身の格闘家としての血が騒ぐからだ。
 しかし、切羽詰まった今の状況ではそんな余裕はない。
 目の前の『ジャックランタン』は、女が苦戦するほどに強い。
 隙のない構え。
 鋭い斬撃。
 素早い身のこなし。
 そして、灼熱の炎。
 先ほどの二体と違い、火球を飛ばしたりはしてこないものの、女としてはこちらの方が何倍も厄介だ。
 一度、『ヒエロニムスマシン』の力で剣を操ろうとしたが不可能だった。
 おそらく、特殊な金属が使われているためだろう。
「ちっ」
 『ジャックランタン』の背中を取ろうとした女だったが、見事に反応される。
 並みの武道経験者では反応できないはずの技を使ったのにも関わらずだ。
 おそらく、彼ら『ジャックランタン』は熱による探知ができるのだろう。
 だから、相手の盲点と隙を利用した忍の技が効かない。
 女は、動揺を見せずに相手の懐に入り一気に決めようとする。
 しかし、『ジャックランタン』の剣がそれを許さない。
 打撃を加えようとしても、必ず剣に邪魔をされる。
「くそ、このままじゃ」
 女はちらりと二人の方を伺う。
「駄目!! 契約者さん!!」
 『華子さん』の叫び声を耳にしながら。

「『華子さん』!! 『華子さん』!!」
「駄目……。契約者さん、逃げて……」
 倒れ、息も絶え絶えとなっている『華子さん』の手を少女は握っている。
 再び、瞳を濡らしながら。 
「そんなことできないよ!!」
「逃げて……。そうじゃないと敵が……」
 『ジャックランタン』は、火球を飛ばしてこない。
 まるで、苦しむふたりを弄んでいるかのように。
「嫌だ。嫌だよ!! 私の命なんかどうでもいい!! 『華子さん』のいない世界に生きてる意味なんてない!!」
「駄目……。生きて、お願いだから……」
「嫌だ!! 嫌だ!!」
 少女は、ただ涙を流す。
 それは、友を嘆いてのものであると同時に、何もできない自分を情けなく思うからの涙でもあった。
 彼女はただ思い返す、二人で過ごした楽しかった日々を。
 初めて一線を超えた友達である『華子さん』。
 彼女と一緒にいると、ただ毎日が楽しかった。
 しっかり者の『華子さん』は抜けたところのある私を助け、いつも帰りの遅いお父さんとお母さんの代わりにずっと一緒にいてくれた。
 役に立ちたい以上の感情を私に抱かせてくれた。
 少女の顔は酷い有様になっている。
 顔と目は真っ赤。
 鼻水が垂れ、目からは涙。
 口からは大声と涎。
 『華子さん』と過ごした日々が宝物だったことを何よりも表していた。
「『華子さん』!! 『華子さん』!!」
 少女は願った。
 『華子さん』を失いたくないと。
 そのためなら、自分はどうなってもいい。
 だから、『華子さん』を助けてほしいと。
 願いは虚しく、現状には何も変化が見えない。
 『ジャックランタン』は、貼り付けられた笑顔をただ浮かべる。
 この世界はどうしようもなく残酷だ。
 都合のいいヒーローは存在せず、魑魅魍魎の悪ばかりがあちらこちらにいる。
 そんな世界で、この弱い二人は淘汰される運命にあるのかもしれない。
 ――だが、微かな光はある。

「……」
 急に、少女がある一点の方向を凝視し始めた。
「けい…やく……しゃさん。どうしたの?」
 先程より弱ってきている『華子さん』は尋ねる。
「戦ってるんだ」
「え?」
「戦ってるんだ、お姉さんは」
 少女の見つめる先で、女は『ジャックランタン』と死闘を繰り広げていた。
 強敵相手にも関わらず、闘争心を潜める様子を見せずに。
 少女にとって、その姿は強者そのものだった。
「すごいよ、お姉さんは」
 心の底から少女は思う。
 あの人はすごいと。
 こんな、恐ろしい存在を相手に一歩も惹かずに戦っている。
 大人の人でもそうできることじゃない。
 なのに、当たり前のようにやってのけている。
「私もなりたい」
 少女は無意識に呟く。
「あんな風に戦って」
 虚ろな目で。
 確かな口調で。
 拳に力を込めて。
「大切な人を守りたい」
「け……いやく……しゃさん?」
 少女は立ち上がった。
「たくさんの輝きや夢を守りたい」
 先程とは別人のような顔をして。
「糧なんかじゃ足りない。私は守る人間になりたい!!」
 少女が叫んだ瞬間、幾多もの火球が二人に向け発せられた。
 つまらない茶番は見たくないとばかりに。
 だが――。
「負けない」
 茶番は終わらなかった。
「絶対に負けない」
 『華子さん』を抱えた少女は、先刻までと反対の地点にいた。
 『ジャックランタン』は首を傾げる。
 宙に新たな火球を生み出しながら。
 それに対し、少女は足元に『華子さん』を置いた。
「ここで待ってて。『華子さん』」
「ま……て。いまのは……一体?」
 『華子さん』の疑問に答えず、少女はただ笑みを浮かべた。
「大丈夫。すぐに終わらせるから」
「駄目!! 契約者さん!!」
 気力を振り絞り『華子さん』は呼びかけた。
 少女の後ろ姿に。
「大丈夫だよ」
 少女は走り出した。
 人間離れした速度否『華子さん』以上の速度で。
 動揺したように、火球達が一瞬揺らめく。
 しかし、すぐに『ジャックランタン』により発射される。
 少女を狙い、無数の火球が闇夜を飛行する。
 だが――。
「効かない」
 今の彼女の敵ではない。 
 飛びかかってきた全ての火球を躱し、爆炎の中を走り抜ける。
 その姿に、先ほどの彼女の面影はない。
 『ジャックランタン』は、初めて露骨に狼狽を見せた。
 頭を揺らし、これでもかというほど火球を生み出す。
 ――もう手遅れだったが。
「終わらせる」
 『ジャックランタン』が気がついたとき、既に少女は目の前にいた。
 強く握った拳を振りかぶりながら。
 そこで、『ジャックランタン』は暗闇に飲まれた。
 何も見えず聞こえず、体に残る痛みだけが唯一の感覚。
 時の狭間に閉じ込められたかのようだった。
 意識が戻った時、『ジャックランタン』は驚愕した。
 先程までいた場所から数メートル離れた木の下にいたからだ。
 重く痛む体で立ち上がり、『ジャックランタン』は気づく。
 先程まで、自分がいた地点に浅い穴のようなものができていることを。
 首をかしげる『ジャックランタン』。
「まだ足りなかった」
 なぜか、『ジャックランタン』は悪寒を感じた。
 近くに佇む、小さな少女の声に。
 『ジャックランタン』は覚えていない。
 少女が自分を拳で吹き飛ばしたことを。
 穴がその際の衝撃によりできたことを。
 自分が狩る側から狩られる側になったことを。

「なるほど。そういうことか」
 『ジャックランタン』に光線を使った牽制をしながら女は納得した。
 少女が『華子さん』のように能力を使えなかった訳、契約者の中でも特に高い身体能力を発揮した理由を。
「あの子は強化特化型か」
 都市伝説と契約者は主に五つの属性のどれかを持っている。
 強化系。
 放射系。
 操作系。
 変化系。
 創造系。
 そして、都市伝説は、自身の持つ属性に関する能力を持つ。
 また、契約者と都市伝説の属性が一致していれば、特に強い力を発揮することができる。
 その最たるものが特化型契約者だ。
 普通の契約者は、自身の系統以外の能力も扱うことができる。
 しかし、特化型契約者はそれができない。
 あくまで、自分の持つ系統の力しか使えないのだ。
 一見大きなデメリットに思える。
 しかし、特化型契約者は一つの系統しか扱えない分、強力な力を発揮する。
 かつて、世を騒がせた『ハーメルンの笛吹き』等がその例だ。
 少女は強化系統の特化型契約者。
 『華子さん』のように、操作系や放射系の力を使えないのは必然だ。
「まったく、ぐずぐずしている内に後輩契約者に美味しいところ取られちゃったな」
 お気楽な口調で女は言う。
 微かな安心感を見せながら。
「さて、私も覚悟を決めようかな。こんな時くらい、博打を打ってもいいだろうさ」
 女は、新たに二枚のカードを取り出す。
「腕部限定強化最大出力!!」
 両腕が凶暴なまでに光り輝く。
 優しさのいっぺんも感じられないそれは、まさに暴力の象徴。
「来なよ。ハイリスクなことをしたんだ。そっちも全力で来てよ」
 挑発の言葉に、『ジャックランタン』は行動で意思を示す。
 剣を中段に構え、女に向かい前進してくる。
「そうだ、そうじゃないと面白くない!!」
 女は、改めて構えを取る。
 膝を曲げ、左足を前に出し、両手を前に出す。
 激闘が始まったのは直後。
 『ジャックランタン』の鋭い斬撃と、女の素早い拳が次々と放たれる。
 炎の剣と光り輝く両腕が高速で動く光景は、とても幻想的だが、勝負の内容はどこまでも凄惨。
 どちらかの攻撃が当たった時点で、生き残っているのはおそらく片方のみだからだ。

「ちっ」
 先に、限界が近づいたのは女だった。
 両腕の輝きが段々と失われてきたのだ。
 そのせいで、拳の速度は先程より遅くなってきている。
 運は『ジャックランタン』に向いてきた。
 炎の剣が、一刻でも早く女の肉体を裂こうと襲いかかる。
 対し、力が薄れている女は反撃ができない。
 『ジャックランタン』の炎が勢いを増す。
「……ちょっとやばいかな」
 女は段々と『ジャックランタン』にペースを握られていった。
 打撃を放つことが困難になってゆき、斬撃を交わすことで精一杯となる。
 女にとって苦しい展開。
 そして、ついに女は決定的な隙を生み出してしまった。
 回避の際によろめいてしまっただ。
 すかさず『ジャックランタン』は横薙ぎの一撃を放つ。
 完璧なタイミングで。
 勝負は決まったも同然。
 『ジャックランタン』は、魂を愉快そうに燃え上がらせる。
 ――剣を左手で抑えられるまでは。
「!?」
 『ジャックランタン』は慌てふためく。
 自慢の業火を纏った剣が、手袋を握っただけの女に取り押さえられるなど予想もしていなかったのだ。
「冥土の土産に覚えておくといいよ。相手の隙を突くと言うことは自分の隙をさらけ出すっていうことをね!!」
 女の右拳が唸る。
 目の前の敵を完膚なきまでに叩き潰すために。
「発勁」
 『ジャックランタン』は吹き飛ばされた。
 まるで、紙くずか何かのようにあっさりと。  
 そのまま飛ばされ、地面に落下すると光の粒子となり始めた。
 あれほど苦戦したかと相手とは思えないほどあっさりと。
 塵一つ残らず消えるのに時間はあまりかからなかった。
 消滅を確認した女は、強化を解き、ため息をつく。
「ふう、やるもんじゃないね。こんな賭け」
 強化の副作用により、女の腕は酷く傷んでいた。
 二三日、筋肉痛になるのは確定だろう。
「精神消耗の方も大きいな」
 『ヒエロニムスマシン』を使うたびに、女は精神力を消費する。
 肉体は疲れないが、使いすぎると意識が朦朧となり、倒れることもある。 
「さて、この後どうしようかな。このまま、一人で戦うのはきついし、あの子達を安全なところに送ったら誰かと合流しよう「お姉さん」ん? ああ、お疲れ。よく頑張ったね」
「ありがとうございます!」
 戦闘前の弱々しさがさっぱりと消えた少女が頬笑みを浮かべる。
「本当によく頑張ったよ。小学生の時の私じゃここまでできなかったね」
「お姉さんにも弱かったころがあるんですか?」
 心底不思議そうな表情で少女は尋ねた。
「そりゃ、あるよ。私も生まれた時は普通の人間だったんだから。いや、そんな嘘だーみたいな顔しないでよ!!」
「でも、お姉さんの戦う姿を見てたら信じられなくて」
「そりゃ、半分鬼の師匠にしごかれたり、格闘漫画みたいなトレーニングしてたら強くなるよ」
 女は自虐的な笑みを浮かべる。
「まあ、でも私が強くなったきっかけはあるけどね」
「きっかけですか?」
「うん、憧れたんだよ。ある奴の戦う姿に。こんなふうに己を貫き通せる強さが欲しいって」
「……私もです」
「え?」
「私もお姉さんの姿に憧れました。だから、戦うことができました!! お姉さんは凄いです。すごくすごく強いです!!」
 瞳を光らせ少女は語る。 
「……参ったな」
 女は苦笑いを隠せない。
 自分より強い人間がいくらでもいることを知っているから。
 少女があまりにも無邪気だから。
 こんなふうに言ってもらえることがどうしようもなく嬉しいから。
「私も出世したもんだ」
 星が散らばる夜空に女は呟いた。

「おまたせ」
「遅いぞ。……まあ、今回はしょうがないけどな」
「そうそう。しょうがない、しょうがない。あの娘とついついキスをしちゃったのもしょうがな「葬儀場はどこがいい?」すいません、なにもしてません。嘘です」
「……早く行くぞ。郊外の方に『ジャックランタン』の残党が集まってる」
「おお、最終決戦って奴か」
「そうだ、ちゃっちゃっと終わらせて寝るぞ」
「別に徹夜くらいいいじゃん。明日は休みだし」
「朝飯の用意がある」
「主夫乙!!」
「……一回、ドレスをやってみたかったんだ」
「ごめんなさい、本当にごめんなさい。人間凶器にするのは勘弁してください」
「わかればいい。……そうだ」
「何?」
「お袋も今現場に向かっている」
「……それ、私達が行く必要ないんじゃ」
「取りこぼしを始末しないと駄目だろ」
「逆に言うとそれくらいしかやることがないってことだよね」
「……とにかく行くぞ」
「了解」

終わり

お菓子も仮装も出てこない誰得ハロウィン話でした(ぅゎょぅι゛ょっょぃ話ともいう)
……いや、最初はもっと別の話にする予定だったんですけどね
女子メンバーが仮装して拳次がデレる話とか
拳次と輝が大量のお菓子を作って門下生に配る話とか
ツインテールのジャックランタンが出てくる単発とかいろいろ考えたんですが最終的に出来たのがこれです
ハロウィン要素が敵側にしかありません(せめてロリ二人を仮装させとけばよかった……)

なお、あの二人は単発か何かでまた出すかもしれません

 ある日少女は感じた。
 兄に得体の知れない力が眠っていることを。
 それは、彼女も持っている力だが明らかに格が違った。
 少女は考えた、まともに戦っても兄にはどうやっても勝てない。
 ならば、自分の能力を活かした独自の技を身に付けるべきだと。
 以降、少女は両親の旧友から忍術の指導を受けるようになった。
 武の才能以外にも、様々な力を必要とする忍術は彼女にぴったりのものだったからだ。
 変化は、もう一つあった。
 あの日以降、兄に強く惹かれるようになったのだ。
 頭のいい彼女は、すぐに気づいた。
 自分が抱いている感情が恋心というものだと。
 この時、少女は知らなかった。
 自分が、兄に対する強い嫉妬心と、恋心を抱いた原因が、自分達の持つ血によるものでしかなかったということを。
 彼女は本能的に引き寄せられただけなのだ、自分より濃い『鬼神』の血に。

「……捕まったな」
 椅子にもたれ掛かりながら男は呟いた。
 応接用のソファなどが置かれた簡素な部屋だ。
「いや、社長。そうと決まったわけじゃ」
 正面に立つ部下と思われる者は冷や汗をかいている。
「もう何時間連絡がないと思ってる」
「なにか事情があるのかもしれませんし」
「そんな訳ねえだろ! どんな状況でも連絡を欠かすなってのがうちの決まりだろうが!!」
「す、すいません」
 頭を下げる部下。
 社長と呼ばれた男に怯えきっている。
「ちっ、こうなったら拠点を変えるぞ」
「え、そこまでしなくても」
「お前は本当に馬鹿だな! 用心しないとこの世界生きていけねえぞ!!」
「は、はい!!」
 社長は心底呆れた様子で部下を見る。 
「たぶん、組織が動き出した」
「組織がですか」
「ああ、お前『学校町』は知ってるな」
「は、はい。あの有名な危険地帯ですよね」
「そうだ。で、この周辺にも似たような街がある」
「似たような街?」
「ああ、都市伝説関係者は『格闘町』って読んでる。『学校町』ほどじゃないが都市伝説が多く生息している街だ」
「そんなところがあったんすね」
「……言っとくが、こないだお前が行った街だぞ」
「……え!?」
 部下は必死に記憶を思い返す。
 一体、どの街が『格闘町』だったのかと。
「もしかして、『クー・シー』の取引をした街っすか」
 直感を信じて部下は言った。
「馬鹿のくせに相変わらず勘はいいな、お前。そうだ、あの街だ。で、あそこには組織の辛Noっていう部署がある」
「辛No?」
 部下にとって初めて耳にするNoだった。
「『格闘町』周辺でしか活動していないマイナーNoだ。……少数精鋭の手ごわい連中らしいがな」
「ま、まさか。そいつらに目を付けられたって言うんすか?」
「確定じゃねえけどな。可能性は十分にある」
 社長は立ち上がると部下に指をさした。
「今晩中にここを出るぞ。すぐにほかの奴らにも身支度させろ」
「こ、今晩中っすか?」
 あまりに急な命令に部下は呆然とする。
「あ? 文句があんのか」
「い、いいえ!!」
「なら返事をしろ!!」
「は、はい!!」
 部下は慌てた様子で部屋を出ていった。
「たく、あれでもうちょっと馬鹿じゃなかったら使えるのによ」
 煙草を更かしながら社長は呟く。
 どうやら、ある程度は部下のことを評価しているようだ。
「俺も準備しとくか」
 煙草を吸い終えると社長は立ち上がり、部屋の端に置かれた大きなダンボールに近づいた。

「お、お前!! 何者だ!!」
 隣室から部下達の怒声が聞こえたのは同時だった。
 社長は、扉に目を向けた。
 が、隣の部屋には行こうとせず机の引き出しを開ける。
 中には黒光りする物体。
 トカレフTT-33。
 言わずと知れたソ連生まれの自動拳銃だ。
 社長は、トカレフを手にすると、スーツの内側のホルスターに収める。
 すると、今度は机上のパソコンに手をかけた。
 マウスで簡単な操作をしたかと思うと、ディスプレイに幾人もの人相の悪い男達が出た映像が表示される。
 隣の部屋の映像だ。
 おそらく監視カメラを設置しているのだろう。
 彼らの視線の先には黒いスーツを着た一人の男がいる。
「おい、手を上げろ!!」
 部下の一人が、黒服に対し取り出した拳銃を向ける。
 しかし、彼は動じる様子を見せない。
「おい、聞いてんのか!!」
「びびってんじゃねえぞ!!」
「返事しろ!! おら!!」
 罵声を浴び続ける部下達。
 その中には、先程まで社長室にいた男も含まれている。
「おい、なんとか「落ち着いてください」あ?」
 今まで、口を開けなかった黒服が急に喋りだした。
「私は組織の使いです。あなた達の活動は非常に危険なものなので止めに来ました。今すぐ、投降してください」
「はっ、何が投降しろだ」
 金髪の男が露骨に嘲笑を浮かべる。
 他の男達も同じような顔をしていた。
「組織なんか別に怖くねえよ。俺達も都市伝説の力を扱えるんだからよ!!」
 懐から男達は球状の物体を取り出す。
 都市伝説捕獲兼使役装置だ。
「俺達全員がこれを持っている。商品も合わせればまだまだあるぜ。その上、拳銃もだ」
 装置と拳銃を金髪は誇るように見せつけた。
「お前一人くらいどうどでもなるんだよ」
 男達全員が黒服に銃口を向ける。
 装置のスイッチもいつでも押せるように準備をしていた。
「そうですか」
 黒服はこんな状況にも関わらず無表情だ。
「それは非常に残念です」
「ああ、残念だな。せっかくの命が消えちまうんだからな!!」
 社長は確信した。
 終わったなと。

「では、実力行使をさせていただきます」
 ――自分の部下達の命が。
「あ?」
 それはあまりにも一瞬だった。
 金髪の男は黒服に対し引き金を引こうとしていた。
 だが、気がついた頃には銃がなくなっていたのだ。
 一体、どこにいったんだ?
 男は落としたのかと思い下を見る。
 大量の血液によって濡れた床を。
「……は?」
 男は理解できなかった。
 なぜ、こんなことになっているのかを。
 この時点で、彼は自身の異常に無頓着だった。
 周りの仲間はすっかり唖然としているというのに。
「……せ、先輩」
「あ? なんだよ」
「あの、そこ」
 男は後輩の指さした先にあるものを見た。
「……嘘だろ」
 拳銃を握った一本の腕を。
 男が肉体の欠損に気がついたのはこの時だった。
 刹那、言葉にならない叫びを上げ床に崩れ落ちる。
 それもそうだ、自身の片腕が見事に切断されたのだから。
 むしろ、今まで気づかず、痛みを感じなかったことがおかしい。
 呆然とする男達は、切断をした張本人に視線を向ける。
 どこからか取り出した短刀を手にしている黒服に。
 彼はいつの間にか、金髪の男の隣に移動していた。
 人間の腕を切り落としたというのに衣服には血の一つもついていない。
 切断の証明は赤く濡れた刃のみだ。
「お、お前いつの間に!!」
 一人の男が怯えきりながら問いかける。
 彼らは男に銃口を向けていた。
 なのにも関わらず、気づかぬ間に移動をされ、仲間の腕を切断されたのだ。
 疑問を抱くのは当然だ。
 黒服は何も答えなかったが。
「こ、こうなったら!!」
 長髪の男が装置に手をかけた。
 だが、都市伝説を召喚する事は叶わない。
 なぜなら――。
「う、嘘だろ……」
 黒服が投擲した短刀が装置に突き刺さったからだ。
 男は、諦めずにスイッチを押すが反応はない。
「く、くそが!!」
 圧倒的な力を魅せつけられた男達は、狂ったように黒服に向かって引き金を引く。
 絶えず響く銃声。
 だが、気づけば射線上に黒服はいなくなっていた。
「そ、そんな馬鹿な……」
 再び、目の前から消失した黒服。
 男達は、今度は困惑ではなく恐怖を抱く。
 一体、どこにいったんだと目を動かしながら。
 黒服の居場所を知ったのは、またしても仲間の負傷が原因だった。
「ぐが……」
 長髪の男が突然崩れ落ちる。
 血に濡れた腹部を押さえながら。
 側には、もはや当然のように黒服が。
 男達は驚愕する。
 二度も気づかれずに致命傷を与えた黒服に。
 そこから先は、彼の独壇場だった。
 仲間の近くのため拳銃を使えない男達を、短刀でひたすら切り裂き突き刺し殺していく。
 美しいとも思える程の卓越した動作で。
 男達は状況を理解できずに意識を失っていく。
 ただ一つわかるのは、目の前の黒服が圧倒的に強いということだけ。
「こ、こんなことが……」
 戦闘が始まって一分も経たないうちに、男達は一人を残し屍となった。
 白かったはずの床は、血液により紅に染まり、肉片が散らばっている。
 黒服は、相変わらず靴以外には血が付着していない。
「……潮時だな」
 画面越しに惨劇を見ていた社長は、冷たい瞳をしながら呟いた。
 この光景を見ていたら当然出る言葉だ。
 だが、一つおかしな点がある。
 社長は、諦めの表情は浮かべているものの、死に体する恐怖を抱いている様子を見せなかったのだ。
「しょうがねえ。ボールと『新商品』を失うのは惜しいが――」
 部屋の中央に何かが現れた。
 黒い翼を広げながら。
「逃げるか」
 社長は、その言葉を最後に部屋から姿を消した。 
 画面の中では、先程までこの部屋にいた部下が首を切断されていた。

 男達が全滅して一分も経たずに、なぜか部屋から惨劇の痕跡はなくなっていた。
 紅に染まっていたはずの床は白さを取り戻し、死体は一つ残らず消えている。
 室内には、机や椅子等と黒服しか存在していない。
 黒服は、隣の部屋に続く扉のドアノブに手をかけた。
 開くと、その場で室内を軽く見回す。
 仲間がいないか警戒しているのだろう。
 やがて、誰も見つからなかったためか部屋の中に入った。
 彼は、室内の机や棚を物色する。
 出てくるのは、大量の都市伝説捕獲兼使役装置や銃火器。
 物騒なものばかりだ。
 黒服はポケットから携帯電話を取り出しボタンを押し始めた。
 おそらく、上司か仲間に連絡をするのだろう。 
 その時だった。
 黒服が人間の気配を感じたのは。
 咄嗟に彼は、その方向を見る。
 そこには大きなダンボールが置いてあるだけだった。
 特に怪しそうには見えない。
 だが、黒服は携帯をしまうと、油断した様子を見せずにダンボールに近づき始めた。
 新たな短刀を握りながら。
 慎重な足取りで。
 ダンボールから物音が聞こえたのは、後三歩ほどの地点だった。
 黒服は、動きを止め短刀を構えた。
 その判断は正しい。
 なぜならば、ダンボールから突如飛び出てきた者の攻撃に落ち着いて対応できたからだ。
 黒服は、唐突すぎる襲撃に慌てず、接客用のテーブルの上に跳ぶことで躱した。
「不審人物に存在を認識されました。これより、自己防衛行動に移ります」 
 ダンボールから飛び出た少年は、虚ろな瞳で説明をするように語る。
 どこまでも無感情な声で。
 しかし、彼の変わっている点はそれだけではない。
 赤く光る眼球。
 黒く長い体毛に覆われた手足。
 頭部に生えた獣のような耳。
 何もかも異常だった。
 競泳用水着のような白い服を着ていることが普通に思えるほどに。
「噂の劣化融合者ですか。主に置いて行かれたんですね。契約都市伝説は『ブラックドック』でしょうか」
「……」
 少年は何も答えない。
 黒服もそれ以上話そうとはせずに短刀を構える。
 見つめ合う二人。
「これより戦闘を開始します」
 律儀否機械的な少年の言葉により火蓋は切って落とされた。

 夜道を社長は走っていた。
 アスリートのような軽やかな足取りで。
 チンピラとは思えない速力だ。
 場所は町外れの林。
 道路こそ整備されているが人気は全くない。
 社長は、息切れをする様子を見せずに駆けていく。
 向かう先には、一件の廃屋があった。
「車を用意しておいて正解だったな」
 社長はそこに逃走用の車を準備していた。
 今夜のような事態を想定して。
 相当用心深い性格のようだ。
 そう時間の経たないうちに、社長は廃屋に辿り着いた。
 すぐに、裏手に置いてある車の元に向かう。
 しかし――。
「はじめまして~。社長さん」
 先客が既にいた。
 鬼神愛だ。
「……組織の使いか」
「違うよ~。雇われてはいるけど普段はフリ~だよ」
 愛は、いつもと変わらない間延びした口調で答える。
 歪に潰されたワンボックスカーの前で。
「なら、俺に雇われる気はないか?」
「残念ながらその気はないよ~。雇い主さんとは長い付き合いだしね~」
「そうか」
 社長はホルスターから銃を抜かない。
 愛が、拳銃くらいでは対抗しようのない強者だと見抜き諦めているからか。
 それとも、別の理由があるかもしれない。
「そもそも~、あなたも元は雇う側じゃなくて雇われる側でしょ~」
「調べたのか、嬢ちゃん」
「調べるまでもないよ、裏の世界じゃあなたは有名人だったからね~。師匠に教えてもらったよ、神出鬼没の殺し屋として」
「昔の話だ。あんなリスクの高い仕事はもう勘弁だからな」
「だから~、今の仕事を始めたってこと?」
「ああ、研究者の連中の下につくのは癪だったがメリットが多かったからな」
「ふ~ん」
 二人は何でもないように会話を交わす。
「嬢ちゃん。俺のことを有名人だといったがお前の師匠のほうが遥かに有名だろ」
「あれ? 誰か、気づいたの~?」
「当たり前だ。これだけの人材を育てられる忍なんて今時奴くらいしかいない」
「へえ、師匠ってすごいね~。見ただけで私を忍だって見抜いたあなたもすごいけど~」
「すごいのはお前もだろ。『鬼神の血族』なんだからな」
「ありゃ~、そっちも気づいてたのか~」
「奴が『鬼神の血族』を弟子にとったって話は小耳に挟んだことがあったからな」
「ふ~ん。私も思ってたより有名だったんだね~。じゃあ、私をさらに有名にするために――」
 愛が針を取り出すのを社長は見逃さなかった。
「捕まって「そうはいかねえよ」ん?」
 突然、男の頭上にそれは現れた。
 黒い翼を広げ、巨体を揺らしながら。
 何よりも目を引くのは頭部。
 まるで、人間のような顔をしていた。
 烈風が周囲に吹き渡る。
「その都市伝説はぐっ!?」
 突然、愛は喉元を抑えた。
「こっちの能力を使うのは久しぶりだ。引退してから戦闘は避けてたからな」
 愛は、それに対して何も答えずに体を丸める。
「いくら、『鬼神の血族』と言っても呼吸器をやられたらどうもこうもないようだな」
 社長の契約と都市伝説は、アフリカに伝わるUMAだ。
 空間移動や呼吸不全を引き起こす超常的な力を持つ人面蝙蝠。
「これが俺の契約都市伝説『ジーナフォイロ』だ」
 喉を抑えながら、愛は地面に崩れ落ちた。

 都市伝説と契約者の半融合。
 それは、組織でさえ把握しきれていない未知の力だ。
 強力な能力を発揮するということは認知されているが詳しいことはよくわかっていない。
 R-No所属のとある少年くらいしか使い手がいないのだから当然だろう。
 しかし、それを独自に研究していた団体があった。
 組織のように有名な存在ではないが、技術力は確かだったらしい。
 何しろ、融合者の人口製造を可能としてしまったのだから。
 現在、黒服と先頭を行っている『ブラックドック』の契約者がその一人だ。
 彼は、尋常ではない身体能力を発揮していた。
 普通の強化型契約者を軽く凌ぐほどのものを。
 だが――。
「損傷重大。損傷重大」
 『ブラックドック』の契約者である少年は目の前の黒服に圧倒されていた。
 四肢に刻まれた無数の切り傷がその事実を物語っている。
 一方、黒服は一切傷を負っておらず、血液も付着していない。
 短刀は何本か壊されていたが。
 少年のために言っておくと、彼は決して弱いわけではない。
 あくまで人工的に作られた融合者のため、本物には遠く及ばないが十分な強さを持っている。
 ここまで苦戦しているのは、この場所が狭い部屋の中だということもあった。
 彼が真価を発揮するのは屋外だ。
 高い身体能力は広い場所でこそ生かされる。
 一方、ここはその真逆。
 力を十二分に発揮できない。
「現状での敵の排除を不可能と判定。リミッターを解除します」
 少年を赤い光が包み込む。
 すると、彼の肉体に変化が現れ始めた。
 全身の筋肉が高速で肥大化し始めたのだ。
 細身だったはずの体が、ボディビルダー顔負けの筋肉の塊へと変わっていく。
「これも融合の力ですか、恐ろしいですね」
 言葉とは裏腹に眉一つ動かさない黒服。
 ただ、突然握っていた短刀を床に投げ捨てた。
「最終形態に移行。これより攻撃を再開します」
 何も道具を持たない黒服に、変化を終えた少年が突進する。
 家具を吹き飛ばし踏み潰しながら。
 豪腕と鋭い爪で黒服を切り裂いてしまおうと。
 その姿は圧巻としか言えない。
 直後、血しぶきが吹いた。

「『ジーナフォイロ』の能力の一つは呼吸不全だ。俺は拡大解釈で窒息死を可能とするけどな。発動条件は簡単、こいつの姿を見るだけだ」
 倒れ伏している愛を見下しなが社長は語る。
 自身の契約都市伝説の能力を。
「それともう一つの能力、空間移動。二つを組み合わせて俺は殺し屋として活動してきた。これが神出鬼没の殺し屋の実態だ」
 勝利をより決定的なものにするように言葉を並べる。
「残念だったな、『鬼神の血族』。お前は俺の暴力の前に屈する、人間の構造上避けられない弱点によってな!!」
 社長は勝ち誇る。
 愛する暴力によって、『鬼神の血族』を仕留めた喜びから。
「あ?」
 信じられない、社長はそんな表情をした。
 なにしろ、仕留めたはずの獲物。
 ――鬼神愛が立ち上がったのだから。
 本来、『ジーナフォイロ』の能力を使われた人間は何もできずにうずくまる。
 こんな異例は初めてだった。
 だが、能力は効いているらしく顔が青い。
「お前……!!」
 社長は、慌ててトカレフを取り出した。
 『鬼神の血族』に銃撃があまり効果がないことは知っている。
 ただ、窒息死するまでの時間稼ぎにはなると思ったのだ。
 引き金を引く社長。
 静寂に包まれた森に戦場を思わせる音が鳴り響く。
「ちっ!」
 しかし、金色の弾丸は愛に当たらなかった。
 躱したわけではない。
 そんな事をすれば、体により強い負担が掛かり死が近づくだけだ。
 彼女は片手だけで窮地を脱した。
 自身の愛銃、SIG SAUER P226を瞬時に取り出し、社長と同じタイミングで引き金を引いたのだ。
 すると、恐ろしいことに銃弾同士がぶつかり合いあらぬ方向に飛んでいってしまった。
 まさに神業、ワンホールショットどころの話ではない。
「特別なのは肉体だけじゃねえってことか!!」
 社長は舌を巻く。
 目の前の少女の特別さに。
 だが、社長が優位なのに変わりはない。

「『ジーナフォイロ』!!」
 愛が続けて放つ銃弾を『ジーナフォイロ』が肉厚な翼で受け止める。
「無駄だ! そのまま死ね!!」
 今、社長は『ジーナフォイロ』の翼を盾替わりとしている。
 おかげで、前が見えないが今の愛相手になら心配ないだろう。
 このまま、彼女が窒息死するのを待てば社長の勝ちだ。
「ふん、諦めたか」
 突然、銃撃が止んだ。
 社長はそれを諦めの意思だと判断した。
 この際、社長が前を見ることができていれば気づいていただろう。
 鬼神愛がまだ諦めていないことを。
 逆転の策を見つけたことに。
 再び銃声が鳴った。
 社長はそれを悪あがきと思い気に止めない。
 悠然と構え彼女の死を待つ。
「ぐ!?」
 だからこそ、左肩に痛みを感じるまで気付かなかった。
 『ジーナフォイロ』の翼が覆いきれていない角度から銃弾が飛んできたことに。
 社長は、自覚と共に広がった耐え難い苦痛に思わず膝をついた。
 口からは呻き声が漏れる。
 しかし、戦闘に慣れているからか社長の思考は回っていた。
 それが当たり前のように。
 社長は考える、一体どうやって自分に銃弾を当てたのだと。
 あの女は動くことがままならない状況だったから移動したわけじゃない。
 とすると、奴は『魔弾』の契約者か。
 いや、それならもっと早く俺を撃っているはずだ。
 次々と考えが浮かんでは消えていく。
 ここで社長は気づくべきだった、今はそんなことを考えている場合ではないということに。
 なぜなら――。
「あ~、苦しかった~。も~、私達だって不死身じゃないんだよ~」
「お、お前!?」
 銃撃による激しい痛みにより、『ジーナフォイロ』の能力が切れてしまっていたのだから。
 社長は今まで気づけなかった。
 痛みが『ジーナフォイロ』と繋がっている感覚を麻痺させていたからだ。
「ちなみに~、さっきのはただの跳弾だよ~。あの状況で角度を計算するのはきつかったけどね~」
 翼を隔てた先で語る愛に対し、社長はもう一度能力を発動する。
 この化物め、侮蔑の言葉を込めて。
 だが、今度はうまくいかなかった。
 社長は背後から生々しい音を聞いた。
 金属や機械のものではない。
 生物だけが発することができるであろうものだった。
 悪い予感を抱きながら社長は振り向く。
 最悪の事態が起こったことは、浴びせられた温かい血液が初めに知らせてくれた。
 次に、真っ二つにされた『ジーナフォイロ』が目に入る。
「チャックメイトだね~」
 最後に、ナイフを持った愛が瞼を開くのを見た。
 もちろん、刃は赤く染まっている。
「目を閉じて能力の発動を防ぐ気だったのか」
「うん、確証はなかったけどね~」
「お前は俺が能力を発動しようとする瞬間に『ジーナフォイロ』を殺したんだろ。だったら、関係ないだろうがよ」
「保険だよ~、保険。念には念を入れないとね~」
「保険は弱者が使うものだ、化物」
「その化物を追い詰めた人に言われても説得力ないな~」
「怪物を倒すのはいつだって弱者だ。俺の暴力はお前に通じなかったけどな」
「あんな初見殺しを使っておいてよく言うよ~。ちなみに~、この後自分がどうなるかは予想ついてる~?」
「『ジーナフォイロ』を真っ先に殺したってことは拘束するつもりだろ。あいつら、研究者達の情報を聞き出すのが目当てで」
「ごめいと~。ま~、後のことは全部、組織がやるから私はあんまり関係ないけどね~」
「そうかよ。……最後に酒飲んでもいいか?」
 ポケットから取り出したスキットルを手に社長は言った。
「だ~め。毒が入ってたら困るしね~」
「ちっ、お見通しかよ」
 スキットルが地面に捨てられた。
「協力しだいでは生かしてくれると思うよ~。まあ、記憶は消されるだろうけどね~。いいじゃん、真っ白な体にさせてくれると思うよ~」
「馬鹿言うな、欲のない生活送るくらいなら死んだほうがましだ」
「少なくとも悲惨な人生を送って悲惨な結末を迎える可能性はなくなると思うけどな~」
「誰だろうと死ぬときは悲惨な結末を迎えるもんだ、くそったれ」
「まあ、誰でもってのは言い過ぎだと思うけどちょっとは賛成するよ~。少なくとも、私は悲惨な結末を迎えそうな気もするしね~。でも――」
 社長の吐き捨てた言葉に愛はこう返した。
「大事な人達にはハッピーエンドを迎えて欲しいよ」

 部屋には血の海が出来ていた。
 なにしろ、劣化融合者である少年の片腕が切り裂かれたのだから。
「み、右腕消失。右腕消失」
 血が溢れ出る切断面を抑えもせずに彼は語る。
 相変わらず、声に感情がこもっていない。
 しかし、わずかの焦りが見られた。
 一方、窓際に佇む黒服は至って落ち着いている。
 いつの間にか、手には太刀が。
 この太刀で黒服は、少年の逞しい獣の腕を切断した。 
 見事としか言えない足運びと鮮やかな太刀捌きで。
 まさに達人技だった。
「もうやめましょう」
 黒服は無機質な声で提案する。
「あなたに自己意識が少しでも残っていることを祈って提案します。もうやめましょう」
 黒服は知っている。
 劣化融合者は、誘拐され人体改造や洗脳を受けた哀れな元一般人だということを。
 ゆえに、殺さずに済む道を模索したいのだ。
「あなたは加害者ではなく被害者だ。だから、やめま「質問の意味が不明です。戦闘を続行します」……わかりました」
 彼は悟った。
 少年は、もう日常に戻れないほど壊されていることを。
「なら――」
 黒服の目の色が変わった。
 何も映さない灰色に。
「遠慮はしません」
 片手で太刀を構える。
 呼応するように、少年は態勢を低くし残った左腕を前に出す。
 死ぬか生きるかという状況なのにも関わらず、どちらも殺気は出していなかった。
 少年は感情を奪われているからだろう。
 黒服に関しては不明だ。
 ただ一つ言えるのは、彼がおそらく殺しに慣れている人間だということ。
 それも二桁ではきかないほどの数を葬ってきたのだろう。
 あまりに冷静すぎるのがその証拠だ。
 先ほどの太刀筋には一切の迷いがなかった。
 今にもどちらかが動き出しそうな緊迫した時間が過ぎていく。

「おい、霧! 手伝いに来てやったぞ!!」
 ドアを開けて現れた女がぶち壊したが。
「敵の増援と思われる存在を確認。迎撃に入ります」
 少年は、背後を振り返り女と距離を詰める。
 左腕を振り上げて。
 鋭い爪を月光に照らしながら。
「ぐ!?」
 彼は理解ができなかった。
 女に攻撃を与えようとした瞬間、突如体が浮き上がり、自分から見て右側の壁に叩きつけられたのだ。
 黒服が何かをした素振りはない。
 女も一切動いていなかった。 
 けれど、少年が強い力を感じたのは確かだった。
 壁の砕け散る音を聞きながら少年は床に崩れ落ちる。
 すると、身体の上にずしりとくる重みを感じた。
 そのせいで立ち上がることができない。
 だが、少年がいくら目を凝らしても何も見えなかった。
「話は聞いてたぜ。しかし、最近犬に妙な縁があるな」
「……おい、何しに来た」
 先程とは打って変わった口調で、黒服こと霧は女に話しかけた。
「あ? だから、手伝いに来たって言っただろ」
「必要ない」
「強がり言うなって。一人で敵のアジトに乗り込んで怖かったろ?」
 茶化すように女は言う。
「お前と一緒にするな」
「は? ふざけんな、私が敵ごときにびびるかっての。こそこそと斬るしか能のないお前の方がよっぽど臆病だろ」
「使い魔に頼って自分で戦わないお前に言われたくない」
「戦う必要がないから戦ってないだけだ」
「口でなら何とでも言える」
「あー!! 一々言い返しやがって!!  わかった、私が直々に戦ってやる!!」
 女は宝石が飾られた短剣を手に声を荒らげた。
「私が殺るから下がれ!!」
 少年の身体の上から重みが消えた。
 彼はふと目を上げ気づく。
 何もないはずだった宙に、少しずつ姿を晒し始めているものがいることを。
 『ブラックドック』以外の獣の毛が舞い漂う。
「『グラシャラボラス』!!」
 翼を持つ犬はいて当然のように現れた。
 毛の色は灰色。
 大型犬くらいのサイズだ。
「よし、私はお前なんかより強いってことを教えてやるよ!!」
 翼をはためかせ後退する『グラシャラボラス』。
 女こと凛々香は、入れ替わるように少年に近づく。
 『アゾット剣』を携えながら。
「悪いが殺らせてもらうぞ。遺体はちゃんと埋葬「ソロモン七十二柱の一体、『グラシャラボラス』を確認。戦闘の継続は無意味と判断。よって、隠匿処理を開始します」おい、何をするつもり……あ!?」
 凛々香は驚愕した。
 倒れていた少年から、大量の煙が溢れ出たのだ。
「な、なんだよ。これ」
「文字通り隠匿処理だ」
 慌てる凛々果と対照的に霧は落ち着いていた。
 予想通りだと言わんばかりに。
 少年の肉体が溶け出したのはその直後だった。
「劣化融合者は『あいつら』以外からすればブラックボックスだ。なら、研究材料にならないよう肉体が残らない細工をするのは当然だ」
 毛。
 皮。
 肉。
 骨。
 全てが平等に溶けていき液体となる。
「……勝手に誘拐して体と脳を弄っておいて遺体を残すことすら許さないってか」
「技術を守ることを考えれば当然の判断だ」
「……ちくしょう!」
 煙が消えた頃、部屋には赤い水たまりが広がっていた。
 中心には先程まで白かった服が浮いている。
 少年が残せた遺物はこれだけだった。
「……霧。お前の『死体洗いのアルバイト』で転送できるか」
 服を拾い上げ凛々果は言った。
 着用しているTシャツが汚れることも気にせずに。
「死体には変わりないから問題ない」
 言葉通り、水たまりは一瞬で消失する。
 後に残るものは何もない。
「……なんなんだろうな」
「なにがだ」
「いや、殺すのに躊躇いはなかったんだ。あいつはもう手遅れだったから」
 服を握る手に凛々果は力を込める。
「でも、なんでだろうな。今、すげーむかついてるんだよ。いや、元々『あいつら』のことは潰してえと思ってたけどな」
 彼女は湧き上がる感情をそのまま言葉にする。
「ここまで何かを憎むのは久しぶりだ」
「……そうか」
 二人はそれから暫く口をきかなかった。
 鬼神愛からリーダー格を捕まえたとの連絡があるまで。

「ただいま~。……あれ?」
 玄関に入ると、鬼神愛は食欲をそそる匂いを嗅いだ。
 時刻は深夜。
 とっくの昔に家族は食事を終えたはずだ。
 愛は靴を脱ぐと、暗い廊下を歩き、匂いの発生源へと向かった。
 辿り着いたのは台所。
 ここだけ、明かりがついているらしく、光が廊下にまで漏れていた。
「まさか」
 愛はある予想をしながら台所の中に入る。
 そして、見事的中していたことを知った。
「拳次~? 何してるの?」
 ガスコンロの前に彼女の弟、鬼神拳次が立っていた。
 コンロの上では、小ぶりな鍋が温められている。
 鬼神拳次は、その巨漢ぶりに反して普段夜食を取らない。
 その分、三食を大事にしている。
 なので、拳次がこうして夜中に料理を作っているのは、姉の愛からしても珍しい光景なのだ。
「……やっぱり聞いてないか」
「え? 何を?」
 拳次は、淡々とこう言った。
「凛々香さんから連絡があったんだ。姉貴がろくに飯を食ってないみたいだから何か作ってやれって」
「あ~」
 愛は思わず苦笑する。
 あの人らしい気遣いだと。
「で、何作ってくれてるの~?」
「フレッシュ雑炊だ」
「フレッシュ雑炊? あ~、それって」
 にやりとする姉に、拳次も口元を緩める。
「懐かしいね~。第一巻のレシピだっけ?」
「ああ、一度作ってみたかったからな。不味いはずはないから別にいいだろ」
「もちろ~ん。面白いしね~」
「出来るまで居間で待ってろ。持って行くから」
「りょ~か~い」
 愛は踵を返し、台所から出ていこうとした。
 だが、突然立ち止まる。
「拳次」
「なんだ」
「今日さ、拳一兄のこと思い出したんだ」
 刹那、静寂が訪れた。
「そうか」
 何でもないように拳次は相槌を打つ。
「でさ~、思ったんだよ。寂しいな~って」
「だからどうした」
「そんな冷たいこと言わないでよ~。家族だったんだからさ~。それに~」
「……なんだ」
 背を向け合っている二人は顔が見えない。
 だが、拳次にはわかった。
「一番引きずってるのって拳次じゃん」
 姉が今、どんな顔をしているか。

「俺は引きずってい「『鬼神の血族』は厳密には人間じゃない」……姉貴」
 微かな苛立ちを見せる拳次を愛は無視して続ける。
「『鬼神』を宿し、呪いも背負わされているから。だけじゃない」
「姉貴」
「肉体の作りが人間とは違う。『鬼神』を宿すのに耐えられる頑丈な肉体に変貌させられている。見た目は人間と変わらないし子供も作れるけどね。そのおかげで先祖達は人の世界で生きていけた。
 けど、人と私達は同族ではない。同じようで全く違う。だから、私達が本当の意味で心を許せるのはほとんど、同じ血を持つ『鬼神の血族』だけ。私達の家族愛が強いのはそれだけのこと。
 『鬼神の血族』が近親相姦をすることが多いのも同じ。家族以外での同族はそうそう見つけられるものじゃない。母さんに父さん、おじいちゃんとおばあちゃんはラッキーだよ」
「いい加減にしろ」
「なのにも関わらず、拳次はナダレを我が家に引き入れた。確かに、人間と『雪女』のハーフであるナダレは私達に似た存在だよ。でも、近いように見えてより遠い存在でもある。
 そんなナダレを引き入れたのは、拳次が誰よりも拳一「違う!!」……拳次」
 鬼神拳次は、感情をほとんど顔に出さない。
 また、怒りを覚えている時こそ直接的な言葉を使わない。
 しかし、今の拳次はどちらも当てはまらなかった。
 振り返った愛が見たのは、感情を剥き出しにした弟。
 こんな姿は滅多に見ることができない。
「ナダレは替りじゃない! ナダレがナダレだったからこそ、俺は家にいて欲しいと思った。
 ユキのナダレに普通の生活を送らせたいという願いを叶えたかったから。あいつを実験動物として見る連中から遠ざけたかったから。そして、なによりも」
 拳次は吐き出す、ありのままの感情を。
「俺自身が離れたくなかったから」
 鬼神拳次は、お人好しであっても善人ではない。
 都市伝説退治や悪質な契約者を懲らしめることはあるが、それは正義によるものではない。
 あくまで、彼がそうしたいからやっているだけだ。
 正義漢だったとしたら己の持つ力をもっと世のために活かしているだろう。
 そんな彼の言葉ゆえに嘘偽りはない。
「……やっぱり拳次は拳次だね」
 愛は穏やかな様子で呟いた。
 姉である彼女にはきっとわかっていた、弟がする返答を。
 その上で試した。
「安心した」
「……」
 拳次は何も言わなかった。
 ただ、普段通りの無表情に戻ったかと思うと愛に背を向ける。
「ごめんね、試すようなことをして。ちょっと憂さ晴らししたくてさ」
「……別にいい」
「うん、ごめん」
 愛はいつものように茶化したりしない。   
「拳次はさ、やっぱりすごいよ」
「……何がだ」
「自分を貫くところが」
「……それは褒めてるのか」
「褒めてるよ、血に縛られている私としては」
 またしても、拳次は何も言わない。
 彼は知っているからだ。
 強い血を持つ『鬼神の血族』は同族を惹き寄せることを。
 姉が兄に抱いている想いを。
「おかしい話だよね。一番拳一にいに惹き寄せられているはずの拳次が自我を貫いていて、私は血にいつまでも縛られているって」
 愛は自嘲する。
 いつまでも前に進めない自分を。
「私は今でも拳一にいを超えたいと思っている。そして、今でも好き。もういないっていうのにね」
 彼女は思い出す。
 最後に見た『悪鬼化』した兄の姿を。
「……一つ聞く」
「何?」
「今でも兄貴のことが好きっていったな」
「うん、未練たらしいでしょ。だから、私は駄「その言葉は」え?」
 拳次は鍋を見ながら言った。
「その言葉は本当に血の言葉なのか」
「え?」
「血の影響はあっただろう。でも、それ以上に」
 彼は明らかにする。
「姉貴は兄貴のことが好きだったんじゃないか」
 誰よりも近くで二人を見てきたゆえに断言できる、真実を。

 鬼神拳一は、いわゆる天才だった。
 武術に対して天賦の才を持ち、幼い頃からあらゆる技を叩き込まれた。
 それも父と母、祖父と祖母の四人からだ。
 彼らは、もちろん自分の得意とする武術を教えた。
 父は柔術。
 母は空手と八極拳。
 祖父は剣術。
 祖母は薙刀術と弓術と合気よりの柔術。
 その全てを恐るべき速度で拳一は習得していった。
 もちろん、才能のおかげもあったが、それ以上に拳一の向上意欲が高かったからだ。
 彼は鬼神家の中で最も濃い血を持っていた。
 そのため、強さに対する呪いが誰よりも強く、ただ貪欲に高みを目指していた。
 かといって、ただ修行だけをしていたわけではない。
 長男として三人の妹や弟の世話もちゃんとしていた。
 少なくとも平均的な兄よりは。
 つまり、真面目な性格なのだ。
 妹や弟は当然、拳一によく懐いた。
 彼の後ろには必ずと言っていいほど、三人が引っ付いていたほどに。
 特に長女である優は兄にべったりだった。
 正し、他の二人と違い女としての顔を見せながら。
 自分にとって、あなたは兄以上の存在であると示すように。
 しかし、拳一はそれらに反応を示さなかった。
 全て、冗談だと思っていたからだ。
 確かに、愛の行動は全てが本気だったわけではない。
 茶化すものや面白半分の行動も多かった。
 ただ、中には本気としか思えない行動も多数あった。
 それすらも拳一は冗談の一言で済ました。
 別に、本物の愛情を向けてくる妹を危ないと思っての行動ではない。
 『鬼神の血族』では、近親相姦が大して珍しいことではなかったからだ。
 ならばなぜか?
 恐ろしいことだが、彼は本当に妹が向ける好意に全く気づいていなかった。
 雀の涙ほども。

「まったく~、下手なラノベ主人公よりタチが悪いよ~」 
 縁側に座りながら愛は呟いた。
 どうやら、食事は終えたようで満足そうな顔をしている。
 雲一つないよざらには月が輝いていた。
「……生まれつき、意中の女がいるようなものだからな。兄貴は」
 隣に座る拳次が相槌を打つ。
「強さを求める呪いが恋人だからね~。攻略難易度MAXだよ~」
 制御しきれないくらいの強さの呪い。
 その代償により、鬼神拳一はただ武術に打ち込んでいた。
 他の物が見えなくなるほどに。
「……まあ単純に鈍かったてのもあるんだろうけどな」
「だろうね~。ぶっちゃけ、天然だったし~」
 愛は笑う。
 悲しいことなど何もないと言わんばかりに。
「でも、そんな人を好きになっちゃんたんだよね~。私は」
 初めは血による本能的な想いに過ぎなかった。
 けれど、長い時間一緒に居るに連れて、愛の中で芽生えてしまったのだ。
 本物の愛情が。
「まったく、ここまで惚れさせた上で消えちゃうとかふざけるなって話だよ~。悪質すぎるって~」
 言葉と裏腹に愛の表情は穏やかだ。
 あくまで外目でそう見えるだけかもしれないが。
 しばらく沈黙が続く。
「ね~、拳次」
 それを破ったのは愛。
「何だ」
「拳次の初恋の相手って拳一にい?」
 破るどころか爆弾を投下した。
「あ!?」
「いや~、恥ずかしがることはないよ~。もしそうだったとしても、血の影響なんだから!!」
「ふざけるな! 俺にそっちの気は……ん?」
 突然、拳次は黙ったかと思うと顎に手を乗せ始めた。
「…………ん? …………あ? …………!?」
 拳次が頭を抱えるまで約十秒かかった。
「しょうがないって~。拳次は拳一にいの次に血が濃いせいで惚れやすかったんだから~。
 それに、倫理の壁のおかげで長くは持たなかったんだからさ~。いや~、同性の壁はきつかったか~」
「…………」
 しばらく再起できなそうな弟を愛は励ます。
 彼女にしては珍しいことだ。
「いや~、私達二人共被害者か~。ま~、優には影響がなかったみたいだからいいか~」
「……だな」
 溺愛する妹の話題になると復活する拳次に、思わず愛は苦笑した。
 それからしばらく、二人は会話を続けた。
「う~ん、すっきりした~」
 その一言が愛から漏れるまで。
「よ~し、もう寝ようか~」
「そのほうがいいな」
 二人は立ち上がった。
 拳次が縁側の窓を閉める。
「あ~そうそう。最後に一ついいこと教えてあげる~」
「ん? なんだ」
 愛に目を向けた拳次は気づく。
 いつの間にか、彼女が髪を下ろし眼鏡をしていたことを。
「前に思ったことがあるんです」
 その声色には品があった。
 普段の騒がしさとは無縁のものが。
「拳次が兄だったら良かったのにって」
「……それは無理だってわかってるだろ」
「ええ、拳一にいがいたから拳次が今の拳次になったことはわかっています」
 姉である彼女はよく知っている。
 拳次が兄の反対になろうと意図的にしていることを。
「それでも思うんです。拳次が兄だったらよかったのにって」
「……そうか」
 気恥ずかしそうにそっけない返事をする拳次。
 そんな弟を見て愛は微笑む。
「はい」
 この後、自室に戻った愛はある行動を取る。
 拳次の親友であり、母の弟子である佐々木輝への連絡だ。
 彼女に対して愛はあることを頼む。
 妹の荒療治に対する協力だ。
「ガス抜きは早めにしないとね~」
 いつもの間の抜けた口調で愛は呟く。
 切実な思いを胸に秘めながら。



「教授。第一陣があちらに到着したようです」
「ああ、そうですか。報告ありがとう」
 僅かな光が灯る暗い一室。
 白衣を着た二人の男が佇んでいる。
「引き続き、第二陣と第三陣も到着予定です」
「ふむふむ。で、組織に目は付けられてないだろうね」
「安全対策には念を入れておきました。おそらく、大丈夫です」
「君がそう言うなら大丈夫だろうね。うん、わかった」
「……それで教授。例の件についてですが」
「うん、それについては心配いらないよ。僕の方でメンバーを揃えているから」
 教授と呼ばれている初老の男は頬笑みを浮かべる。
「商品をあまり使うわけにもいかないからね。戦闘要員以外のみんなを巻き込みたくもないし。君も作戦開始前にあちらに渡るといい」
「いいんですか?」
「半分、私の不始末の処理だからね。優秀な君を巻き込みたくはないよ」
「……わかりました。では、失礼します」
「うん」
 部下の男は、一礼をすると部屋を出えいった。
「……さて、そろそろ個人的な準備も始めようかね」
 教授は、右手に握る一枚の紙を改めて見る。
「ナダレ君奪還作戦兼」
 そこには一組の男女の写真が載せられていた。
「鬼神拳次君捕獲作戦の」
 野望が動き出そうとしていた。

終わりそして続く

姉回兼町名初登場回でした
……町名に関しては事前に許可取っといた方よかったかな?
次の話からは主人公()も本格的に動かします(今年に入ってからただの保護者になりかけてたからな……)
その前に拳次達の短編をいくつか挟もうかと(チビもできれば書きたい)
ではでは

久々に主人公が主人公する回

 元祖という言葉に惹かれる者は多い。
 飲食店等がいい例だ。
 初めに、ある料理を作り始めたというだけの理由で沢山の客が訪れる。
 始まりの味を求めて。
 例え、近辺にもっと完成度を高くしたそれを提供する店があってもだ。
 それだけ、オリジナルの価値が高いと人々は思っている。
 意地が悪く言うと、そう思考に植えつけられている。
 磨かれた技術よりも独創的な発想のほうが偉いと。
 ゆえに、人は二番煎じのものを批判する傾向がある。
 独創性がない。
 面白みがない。
 元祖への冒涜だ等の言葉を用いて。
 少し頭の回る人なら、そんな風潮をくだらないと言うだろう。
 細かいことを気にせずに一番優れたものを選べばいいじゃないかと。
 真っ当な人間ならここで思考は終わり行動に移るだろう。
 だが、無駄な事を考える癖のある弄れた人間ならこう考えるかも知れない。
 これだけオリジナルを信仰する人間が、自身の偽物に会ったらどんな反応をするだろうと。
 未知の恐怖に竦んでしまうかもしれない。
 自分こそが本物だということを必死に強調するかもしれない。
 目の前の存在こそが本物ではないかと疑うかも知れない、と。
 今宵、そんな夢のような出来事を体験している男がいた。
 彼の名は鬼神拳次、呪われた血族の巨漢。
 拳のみで異形を消滅させることができる者だ。
 彼の場合は偽物と殺し合いをしていた。
 自分と同じ容姿、運動能力、都市伝説を持つ者。
 偽物の鬼神拳次と。
 武器を使わずに己の肉体だけを用いて。
 ここで人は思うだろう、自分自身が相手なら実力が均衡して決着が着かないんじゃないかと。
 だが、本当にそうだろうか。
 現実の戦いというものはゲームのように数値では表しきれない。
 ステータスでは表すことができない要素により勝敗がつくことがある。
 今回の戦いも例外ではなかった。
 同等の力を持つ巨漢二人が戦った結果、現在優位に立っているのは――。
 偽物の鬼神拳次だった。

 激闘の舞台は町外れの廃工場の敷地内。
 周辺に人影は見えず戦うには絶好の場所だ。
 それを歓迎するかのように、両者は闘争をしていた。
 場違いなほど穏やかな月明かりの元に。
「……!」
 片方の拳次が、左のジャブを放ち注意を引いた後で前蹴りを繰り出す。
「……!」
 もう片方の拳次は、ジャブは防いだものの前蹴りを腹部に喰らう。
 だが、眉一つ動かさずに相手が蹴りに使った足を掴もうとする。
 それをすぐに察せられたのか、足は素早く元の位置に戻された。
 おまけのように右のストレートが放たれ頬に直撃する。
 これも彼は耐え打撃に移った。
 ちなみに、前者の拳次が偽物で、後者の拳次が本物だ。
 ここだけ見ても明らかのように、本物の拳次は偽物の前に苦戦していた。
 受けているダメージも、本物の方が圧倒的に多い。
 それには理由がある。
 偽物の正体は『ドッペルゲンガー』、自分そっくりの姿で身を現す都市伝説。
 見てしまった者には死が訪れるという不気味な存在だ。
 能力は、人の姿形や能力を模倣すること。
 また、噂に従って模倣した相手を殺そうとする。
 拳次が今こうして、『ドッペルゲンガー』と戦っているのは街の住民に危害が及ぶ前に倒そうとしているからだ。
 そして、今拳次と対峙している個体には一つの特徴があった。
 感情がないのだ。
 『ドッペルゲンガー』の中には、相手の心まで模倣する者がいる。
 ただ、この個体はあくまで肉体と能力しか模倣しない。
 おかげで、本人のふりをすることなどはできないが戦闘ではそれが有利に働いていた。
 感情がないため、機械的とも言える確実な動作を行えるのだ。
 自分は論理だけで動いていると言わんばかりに。
 その上、戦闘技術もこの個体は高かった。
 場数慣れしている拳次相手に有利に立てるほどには。

 偽拳次は、顔面に向かってくるジャブを躱し下段蹴りを放った。
 空手家にも引けを取らないほどの鋭さで。
 本物は何もできずにそれを受ける。
 二人の技量差は明らかだった。
 拳次は、場馴れをしているといっても武術や格闘技を習っているわけではない。
 そのため、技の一つ一つが洗練されていない。
 まったくの素人よりはだいぶましだが。
 戦闘はどこまでも地味に続いていた。
 人外同士の戦いであるにも関わらず、行われているのはただの肉弾戦。
 これなら、そこらの都市伝説同士の戦闘の方がよっぽど派手だ。
 ――二人が動くたびにアスファルトが砕け散ってはいたが。
 偽拳次の拳が本物の顔面に直撃した。
 鈍い音が響く。
 拳次は倒れこそしなかったが、一瞬ぐらついた。
 偽物はそれを見逃さない。
 畳み掛けるように、次々と打撃を繰り出す。
「……」
 容赦のない打撃の雨を浴びせる偽物、必死に躱し防ぐ本物。
 この光景を見てもオリジナルは優れていると人は言えるだろうか?
 打撃の雨は、遂に拳次の体を捉えた。
 男の最大の急所、睾丸を蹴り上げたのだ。
「……!」
 今度こそ、拳次の動きが止まった。
 歯を食いしばり耐えるが解決には至らない。
 偽拳次は、この最大のチャンスを逃さずさらなる打撃を加える。
 左拳。
 右拳。
 左拳。
 右拳。
 左拳。
 一撃一撃が必殺の力を持つ殴打のラッシュ。
 それをこれでもかというほど、偽拳次は放つ。
 二度と本物が立ち上がらないために。
 機械的な模造品は、ただ確実に己の目的を果たそうとする。
 拳次は、自分より技量の優れた偽物の前になすがままとなっていた。
 肉体に痛まない箇所など存在せず、視界は振り子のように揺れ、顔面は見るも無残なことになっている。
 構えもまともに取れていない。
 普段の彼からは考えられないような惨状だ。

 しかし、鬼神拳次は倒れない。
 どれだけ、優れた偽の拳を受けてもだ。
 肉体の耐久性は既に意味をなしていない。
 今の彼を支え立たせているのはまったく別のものだ。
 偽拳次は、倒れない拳次に対して延々と拳を振るう。
 拳が赤く染め上がることを気にせずに。
 そんな単調な動作が止まったのは突然のことだった。
「……」
 偽拳次は本物から急に距離をとった。
 瀕死の獲物から逃げるような愚かな行為。
 ――ではない。
 彼は噛まれたのだ、今にも息が耐えそうな猛獣に。
 証拠は右手。
 近くで見れば一瞬で気づく。
 五本の指がおかしな方向を向いていることに。
 指の骨が砕けてしまったのだ。
「……握りが甘かったな」
 ぼそりと拳次は呟いた。
 彼がしたことは実に単純。
 偽拳次の拳に自分の額をぶつけたのだ。
 一見、血迷ったかの行為。
 しかし、相手の拳の握りが甘かった場合は攻撃になる。
 拳というものは人が思っているより脆い。
 何も鍛えていない人間が、顔面を殴ると指を骨折してしまうと言われる程に。
 一方、頭蓋骨は厚く硬い。
 ちょっとやそっとの打撃では、どうしようもできないほどに。
 豆腐を壁にぶつけた光景を想像してもらえばいい。
「……」
 偽拳次は駄目になった右拳から目を離す。
 実にそっけない動作で。
 次に、彼は残された左拳を固く握った。
 同じ失敗は繰り返さないということだろうか。
「……来い」
 一方、拳次はだらりとした体勢のまま手招きをした。
 挑発だ。
 感情のない偽物は、この行為に何も感じない。
 しかし、彼は目の前に踏み出す。
 獲物は牙を残しているといっても既に瀕死。
 右手が使えない状態でも殺すことが出来ると判断したのだろう。
 迫る偽物、待ち構える本物。
 初撃を放ったのは、偽拳次だった。
 腰の捻りを利用し右足を本物の脇腹にぶつける。
 中段蹴りだ。
 文句のつけようがない速度、体重もしっかり乗せられていた。
 だが、拳次は動じない。
 それどころか、偽物をじろりと睨みつけている。
 脇腹への攻撃が効いていない。
 そう推測した偽拳次は、左拳でむき出しの顎を狙うことにする。
 この瞬間、拳次も動いていた。
 といっても、ガードをするためではない。
 偽物の拳が顎を捉えようとしたころ、もう一つ宙を切るものがあった。
 拳次がしたことは実に単純だ。
 彼は足を動かした。
 蹴りを繰り出したわけではない。
 ただ、地面に転がるアスファルトの破片を蹴り上げたのだ。
 偽物の目に向かって。
「……!」
 見事、眼球に破片が直撃し、左拳がわずかに逸れた。
 拳次はそれを見逃さない。
 安々と左拳を躱すと、一気に偽物の懐に入った。
 そして、次々と急所を殴打する。
 先程と比べ、段違いに速度が上がった拳で。
 こめかみ。
 水溝穴。
 顎。
 喉仏。
 鎖骨。
 鳩尾。
 あばら。
 圧倒的な爆発力を持つ打撃は止まらない。
 偽拳次は離れようとするが、ままならずなすがままにされる。
 戦況は短時間でひっくり返ってしまった。
 外傷は拳次の方が酷いが、追い詰められているのは偽物。
 足取りが覚束なく、今にも倒れそうだ。
 ダメ押しをするかのように、拳次は金的を決めた。

「ぐ……」
 偽物は音を上げ地面に膝をついた。
 驚くことに、感情が存在しないはずの顔に苦しみを浮かべている。
 拳次は、勝ち誇ることなく彼を見下ろしていた。
「……なぜだ」
 偽拳次が口を開いた。
「なぜ、お前は私に勝てた。私の方が技術が優れていたというのに」
 それは、本物よりも優れた偽物である彼には理解できない事柄だ。
 肉体と能力の条件は同じ。
 技術についてはこちらの方が上。
 彼は自分が勝って当たり前だと思っていた。
「……喧嘩だからだ」
 問いに対し、拳次は一言そう答えた。
「どういうことだ?」
「簡単なことだ。これが試合か何かだったら俺は負けていた。お前のほうが技量が優れているからな。だが――」
 本物は偽物と目を合わせた。
「これは喧嘩だ。負けたほうが死ぬ。だったら、俺は負けるわけにはいかない」
 偽拳次否『ドッペルゲンガー』はこの瞬間気づいた。
 自分が負けた理由を。
「……そうか、そういうことか」
 鬼神拳次にあって『ドッペルゲンガー』にないもの。
 それは――。
「勝ちたい、負けたくないという意思」
 『ドッペルゲンガー』は、あくまで自分の伝承に従って人を殺していたに過ぎない。
 義務的な作業でしかなかったのだ。
 勝ちたいから殺すのではなく、そう決められているから殺す。
 ただそれだけだった。
 だが、目の前の男は違う。
 彼は負けたくないから勝つ。
 帰りたい場所があるから。
「そうか、そういうことか」
 『ドッペルゲンガー』は理解する。
 人の持つ強さを。
「本物」
「なんだ」
「私はお前に勝ちたい」
 『ドッペルゲンガー』が立ち上がった。
「そうか」
「ああ、お前に勝ちたい。どうしようもなく」
 本物と偽物は再び向かい合う。
 一人は変わらぬ不屈の精神を持ち。
 もう一人は手に入れたばかりの意思を武器に。
「覚悟しろ、本物」
「……」
 さらに厄介となった偽物を前に、拳次は何も答えない。
 ただ、急に右腕を挙げた。
「何の真似だ」
「……『ドッペルゲンガー』。お前の一番の目的は何だ」
「お前に勝つことだ」
「そうか、俺の一番の目的は」
 この時、『ドッペルゲンガー』は気づいていなかった。
 自分に忍びよるものに。
「生きて家に帰ることだ」
「ぐ!?」
 拳次が言い終える寸前に、『ドッペルゲンガー』が苦しみだした。
 激しく悶えているが、体はピクリとも動かない。
「俺は今のお前に勝てない。だから貸りる」
 意識が途絶える瞬間、『ドッペルゲンガー』は見た。
 自身の肉体に絡みつく細い糸を。
「妹の手を」
 赤い花が闇の中に咲いた。
 六つに分断された肉塊と共に。

「終わりましたね」
「ああ、助かった」
 『ドッペルゲンガー』が光の粒子となり消えた頃、物陰から鬼神優は現れた。
「……兄さんが弱らせていたからこそ殺すことができました。だから、礼は言わないでください」
「お前がいなかったら俺は負けていた。礼を言うのには十分な理由だ」
 今回、『ドッペルゲンガー』と戦うのにあたって拳次は一つの保険をかけていた。
 優の同行だ。
 普段、彼は一人で都市伝説と戦っている。
 しかし、今回のような特殊な敵の場合、万一のことが起こる可能性があった。
 そんなケースを想定して、拳次は優に同行を頼んだ。
 最初から二人で戦わなかったのは、二人ともコピーされる可能性があったからだ。
「兄さんは私がいなくても勝ってましたよ」
「……世辞はいい」
 妹の言葉に拳次は無愛想な返事をする。
 そして、ぼそりとこう呟いた。
「……それより悪かった」
「何がですか?」
「嫌な役目をやらせた」
「別に気にしてません。生き残るためには手段を選ばないことも大切です」
「……そうか」
 拳次は確かに妹の変化を感じ取っていた。
 前の優ならここまで割り切ることができなかったはずだと。
「それよりも早く帰りましょう。傷の手当てをしないと」
「ああ、そうだな」
 二人は敷地の外に向かって歩き出そうとした。
 だが――。
「……!」
 拳次が突然、バランスを崩し倒れそうになる。
「兄さん!」
 それに気づいた優が支えた。
「悪い、もう大丈夫だ」
「……駄目です」
 そう言うと、優は拳次の手を自分の肩にかけた。
 左手も拳次の背中に回す。
「さすがに損傷が激しすぎます。痩せ我慢はやめてください」
「……大丈夫だから離せ」
「嫌です」
 優は、無理矢理歩き始めた。
 彼女らしくない行動だ。
「たまには私にも何かさせてください」
 それは優の心の底からの本音。
 彼女が拳次に向ける瞳はどこまでも純粋だ。
「……わかった」
 ついに折れた拳次は、優に体を預ける。
 この夜、二人はこのまま家に帰った。
 それが原因で、姉にからかわれたり、ユキにとある誤解を受けたりするのだがそれはまた別の話。
 翌朝、優の好物である納豆オムレツが食卓に並んだのも別の話だ。

終わり

こんなタイトルなのにデブが喧嘩らしい喧嘩をするのはこれが初めてっていうね
あと妹はデレ期に突入しました
まあ、この二人は千葉の某兄妹(電撃のほう)みたいには絶対ならないけどね
せいぜいGAの某兄妹レベルが関の山(あっちもあっちで結構あれだけど)

―鬼神家 居間―

(障子を開く音)
  
ナダレ「拳次君、すいません。部屋の電球が切れそうなんですけど。……あれ?」

愛「これで終わりだよ~! レダメでダイレクトアタック!!」

拳次「手札から『速攻のかかし』発動だ」

愛「その子がいたか~。でも、状況は私のほうが有利だよ! カードを伏せてターンエンド」

拳次「俺のターンドロー。……これか」

拳次「手札から『カップ・オブ・エース』を発動。……効果はわかってるな」

愛「もちろん。そう都合よく表が出るとは思わないけどね~」

拳次「何もしないよりはましだ。……いくぞ」

(コインを弾く音)

拳次「……表だ」

愛「!!」

愛「運がいいね。でも、いいカードが来るとは限らないよ」

拳次「どうだろうな。とりあえず二枚ドローする」

拳次「……」

愛「いいカードは引けた?」

拳次「……『ジャンク・シンクロン』を召喚」

愛「!!」

拳次「効果で『ドッペル・ウォリアー』を墓地から特殊召喚」

拳次「そして、シンクロ召喚」

拳次「来い、『ジャンク・ウォリアー』」

拳次「『ドッペル・ウォリアー』の効果で俺の場には『ドッペル・トークン』が二体並ぶ」

拳次「よって、『ジャンク・ウォリアー』の攻撃力は三千百に跳ね上がる」

愛「確かに、レダメの攻撃力は上回ったね。でも、このターンで蹴りは着けられない」

愛「私には次のターンに拳次を倒せるだけの備えがある!! この勝負もらったよ」

拳次「……それはどうだろうな」

愛「なに!?」

拳次「俺は手札から装備魔法『最強の盾』を発動。『ジャンク・ウォリアー』に装備する」

愛「そ、そのカードは!?」

拳次「このカードは装備モンスターの守備力分、攻撃力をアップさせる」

拳次「『ジャンク・ウォリアー』の守備力は千三百。つまり、攻撃力は四千四百になる」

拳次「バトルだ」

拳次「『ジャンク・ウォリアー』でレダメを攻撃」

拳次「一撃必殺(スクラップ・フィスト)」

愛「あ、ミラフォ発動するよ」

拳次「……」

拳次「……ターンエンド」

愛「はい、私のターンだね~」

愛「レダメでダイレクトアタックだよ~」

拳次「……終わりだな」

愛「うん、楽しかったね~」

拳次「……楽しかったな」

ナダレ(拳次君がこの瞬間見せた虚しそうな顔を私は忘れることがないだろう)

終わり

効果とか省力しているので遊戯王知らない人はわからないかも

「君の命は百円だよ」

 ピエロは笑顔で言った。

「厳密に言うともっと安いけどね。こう言ったほうがわかりやすいだろ」
「そうだな、そっちのほうがイメージしやすい」
「随分冷静だね」
「それだけが取り柄だからな」

 手足にかけられた手錠は本物。
 いくら力を入れてもびくともしない。

「『マク○ナルドのハンバーガーには人肉が混ざっている』か。随分悪趣味な都市伝説だな」
「挑発はほどほどにしたほうがいいよ。ミンチになる時間が早くなるから」
「別に気にしないさ。なんなら、今すぐにでも実行すればいい」
「……生意気なガキは好きじゃないよ」
 
 ピエロは肉切り包丁を手にした。
 やけに様になっている。

「今まで何人バラした?」
「君は今まで食べたハンバーガーの数を覚えているかい?」
「四個だ」
「随分少ないね」
「ああ、だって俺は」

 下半身に慣れた痛み。

「フライドチキンが好きだからな」
「なっ!?」

 ピエロが驚愕の表情を浮かべた。
 
「サイコキラーが何を驚いている」
「……そりゃ驚くよ。いくら僕が手馴れだからって六本足の人間は捌いたことがない」
「足が四本増えただけだ。気にするな」
「いやいや、そこまで図太くないよ。しかも、それが商売敵の都市伝説とあっちゃね」

 俺の契約都市伝説は『ケン○ッキーに使われている鶏の足は六本足』。
 飲食系都市伝説の中ではメジャーな方だ。

「まさか、手錠を外さずに移動を可能にするなんてね」
「といっても、割と不便だぞ。いくら、足が六本あるといっても中心の二本が使えないから歩きにくくてしょうがない」
「いいんだよ、それで。じゃないと、捌くのが余計難しくなる」

 いつの間にか、ピエロは空いていた手にも肉切り包丁を握っていた。

「包丁の二刀流ってはどうなんだ?」
「君の足が六本なんだ。このくらいしないと見劣りする」
「そうかい」

 会話はそれっきりだった。
 俺とピエロは睨み合う。
 一瞬の隙も見逃さないとばかりに。

「ラン」

 ピエロが小さく呟いた。

「ラン」

 俺も同じ言葉を口にする。

『ルー』

 俺と奴はほぼ同時に動き出した。

―完―

「初詣の帰りにこんなもん見つけるなんてな」

 目の前に全裸の死体が転がっていた。
 全身の皮が剥かれている。

「で、お前がやったのか?」
「ああ、俺が殺した」

 犯人はあっさり自供した。

「こいつに何か恨みでもあったのか」
「いや、俺が恨んでいるのは人類そのものだ」
「随分話が大きくなったな」 

 ただの殺人事件が地球規模の話になった。
 正月だからだろうか。

「人間は俺の同族を管理し利用している」
「否定はできないな」
「俺にはそれが許せない。だから、こうして実力行使に出た」
「人一人殺したくらいじゃ何も変わらないだろ」
「そうだな。だが、俺いや俺達には人間を殺す権利がある」
「かもしれないな」

 犯人は語る。
 自分という存在を誇示するために。

「で、お前は俺も殺す気か。怪人『ヒツジ男』」
「ああ、この体がある限り俺は目に入った人間を殺し尽くす」

 どうやら、見逃してはくれないようだ。
 なら、戦うしかない。

「奇遇だな、『ヒツジ男』」
「何がだ、人間」
「俺はお前と同じ遺伝子組み換え系の都市伝説と契約してるんだ」

 下半身に慣れた痛み。
 肉体の感覚が一気に増える。

「『ケン○ッキーに使われている鶏の足は六本足』か」
「知っていたか」
「似たルーツの都市伝説だ、把握している」
「そうか。なら、さっさと始めよう」
「ああ、そうだな。六本足」

 『ヒツジ男』がこちらに踏み込んできた。
 圧倒的な速力で。 
 もともにぶつかり合えばひとたまりもないだろう。

「!!」

 だから、俺は跳んだ。
 六本の足を使い『ヒツジ男』の背後へ。
 すかさず、空中で奴の後頭部に回し蹴りを叩き込む。

「空中戦は苦手か、『ヒツジ男』」

 『ヒツジ男』は吹き飛んだがすぐに体勢を立て直した。
 さすが、怪人なだけはある。

「……鶏が空中戦を得意とするのはどうかと思うが」
「気にするな。それと『ヒツジ男』」
「なんだ?」
「後ろを見てみろ」

 『ヒツジ男』の顔面を細く逞しい足が踏みつけた。
 そのまま、体勢を崩し倒れる。 

「黒服ですか」
「ええ、そうです。『ヤギ男』の顔面を踏んでるのは『首切れ馬』です」

 『首切れ馬』の後ろから現れた女の黒服は、懐から拳銃を取り出すと『ヤギ男』に銃口を向けた。

「邪魔をするな黒服!」
「邪魔はしません、駆除はしますが」

 黒服は躊躇なく引き金を引いた。

「ご協力感謝します」
「俺は何もしていません」
「あなたが『ヤギ男』と遭遇してなかったら一般人が被害に遭う可能性がありました。礼をするには十分な理由です」
「そうですか」
「ちなみに、組織に所属する気はありませんか?」
「ないです、面倒事に自分から首を突っ込む気はないので」
「……そうですか」
「それじゃあ、俺はこれで」

 たまにはジンギスカンでも食べたい、なんとなくそう思った。

―完―   

「あ、カーネル君!」
「おう」

 コンビニからの帰り道。
 中学以来の知り合いに会った。

「コンビニ帰り?」
「ああ」
「そっかー。私は今からコンビニに行くところ」
「入れ違いか」
「そうだね」

 この知り合いの名前を俺は覚えていない。
 誰もが彼女をそれぞれのあだ名で呼ぶからだ。
 なので、頭の中でディズニーと名づけている。
 ミッ○ーやミ○ーのキーホルダーをカバンに付けていたからだ。

「そういえば、彼女とは最近どう? なにか進展した?」
「特に何も」
「クリスマスやお正月があったのに?」
「いつも通り暮らしてただけだ」
「……ああ、そっか! カーネル君達の場合はいつも通りがすごいからね」
「すごいって何が」
「学校で噂になってるよ。同棲して夫婦同然の生活してるって」
「昼飯と夕飯をいつも一緒に食ってるだけだ」
「いや、それって十分にすごいからね!?」

 ディズニーのような明るい人間と話すのは久しぶりだった。
 俺の周りには彼女のようなタイプは少ない。

「それじゃ、この辺で」
「ああ、今年もよろしく」
「こちらこそ。あ、それとね」
「何だ」
「帰り道、気をつけてね。ちょっと嫌な気配がしたから」
「都市伝説か」
「多分」

 ディズニーはいわゆる霊感体質だ。
 幽霊や都市伝説の気配に敏い。

「有害なのではないと思うけどね。嫌な感じもあまりしなかったし」
「そうでないと困る」
「いやいや、カーネル君は私と違って契約者じゃん」
「面倒くさい」
「理由が単純すぎる!!」
「早く家に帰ってプレミアムチキンが食べたい」
「即物的だね!!」

 ツッコミを入れ彼女はコンビニに向かった。

 結論を言うとディズニーの勘は外れていた。

「足、足、足、足、足、足をよこせ!!」
「どう見ても有害だ」

 目の前の『テケテケ』を見て呟く。
 なぜか、やたら荒ぶっていた。
 
「お前の足をよこせ!!」
「豚足でも食ってろ」

 六本しかない足をやるわけにはいかない。

「ここは沖縄じゃない!」
「鹿児島でも食うらしいぞ」
「知るか!!」

 『テケテケ』が俺めがけ飛びかかってくる。
 腕だけでよくやるものだ。

「殺られる気はないけどな」

 上段蹴りで迎撃する。
 幸いなことに顔面を捉えた。

「ぐがっ!?」

 『テケテケ』はブロック塀に激突した。
 それも頭から。

「く、くそ! 人間のくせに!!」
「丈夫だな」
「都市伝説を舐めるな!!」

 頭から血を流しながらも『テケテケ』は俺を睨みつける。

「許さない!! 絶対にお前の足を……あれ?」
「どうした」
「あ、足。そう、私は足を。いや、違う? 違うの? いや、そんなはずは!? え? え?」
「おい」
「私。私が求める者。私、私が。欲しいもの、それはそれは。それは!?」

 『テケテケ』は頭をかきむしる。
 よくわからないが錯乱しているのだろう。

「それはそっか。それはそれは」
「気が狂ったか」
「そうだ、私は」

 虚ろな言葉を吐き出すことを『テケテケ』は止めた。
 同時に、奴の額が赤く光り始める。

「私は私は!!」

 額には文字らしきものが浮かぶ始めていた。 
 よく見てみるとそれはさっきみたばかりのもの。
 六六六。
 不吉な三ケタの数字。
 
「不幸を求める! 死という不幸を!!」

 瞬間、肉の弾丸が横を通り過ぎる。
 反射的に移動していなかったら危なかった。

「さっきとは段違いだな」
「絶望しろ、私の力に!!」

 『テケテケ』は明らかに強化されていた。
 おそらく、六六六によって。
 
「こっちも六でいくか」

 下半身に慣れた痛み。
 一瞬にして足が四本増える。

「絶望しろ、絶望しろ、絶望しろ!!」
「したことがないな」

 襲いかかる『テケテケ』の脇腹に蹴りを入れる。
 だが、さきほどと違い吹き飛ばない。
 体重が変わっていないはずなのに、という疑問は持たない。
 都市伝説に常識を求めるだけ無駄だ。
 それに――。

「効かないのならもっと打撃を加えればいいだけだ」

 休みなく反対の足で蹴りを加える。
 二本足ならこんな芸当はできない。
 片方の足が宙に浮いている状態で蹴りは不可能。
 バランスが崩れる。
 だが、足が複数あれば話は別。

「無駄だ! 無力なお前の蹴りなんて効かない!!」
「かもな」
「そうだと決まっている!!」

 蹴りを加えて離れる、という行動を繰り返す。
 今の『テケテケ』とまともに戦えばどうなるかは明白。

「ちょこまかと!!」
「それが好きなんだ」

 俺はこの戦い方が嫌いじゃない。
 同じ行為を繰り返す、というのが鍛錬に似ているからだ。

「いい加減にしろ!!」

 『テケテケ』が前列の右足を掴んだ。
 引きちぎろうと力を入れられる。
 左足で蹴りを加え引き剥がそうとするも離れない。

「もいでやる、もいでやる、もいでやる!!」
「俺は果物か」

 右足が悲鳴を上げる。
 そろそろやばいかもしれない。

「そうだ」

 いい考えが思い浮かんだ。
 六本の足に力をいれ跳躍し宙返りをする。

「無駄だ! 遠心力など通用しない!!」
「誰が遠心力に頼るなんて言った」
「なに!?」

 俺が頼るのはもっと単純なもの。

「ブロック塀だ」
「が!?」

 回転を利用しブロック塀に『テケテケ』を叩きつける。
 不意をつかれたせいか奴は右足から手を離した。

「お、お前!!」
「まだやるか」
「当然だ!! お前の攻撃なんてちっとも効いて……あ!?」

 体勢を立て直していた『テケテケ』は路面に倒れ伏した。

「か、体が重い!?」
「あれだけ蹴りを食らったらな」
「ダメージはほとんどなかったはずだ!!」
「蹴りってのは後から響くんだ。で、まだやるか?」
 
 さっさと家に帰ってプレミアムチキンを食べたい。

「ふ、ふざけるな!! この私が人間如きに!!」

 『テケテケ』は諦める気がないらしい。
 震える腕を動かそうとする。

「お前に死という不幸を与えるまではやられるわけにはいかない!!」
「お前、最初は足が欲しいと言ってなかったか」
「違う、私が欲しいのはお前の死という不幸!! ……不幸? 私は不幸を……。不幸?」
「またか」 
「私が求めていたのは不幸。……ではなく、そうそれは」

 『テケテケ』は恐る恐る呟いた。

「足?」

 奴の額から六六六が消えた。
 まるで、最初からなかったかのように自然と。

「そうだ、私は足を足を求めていた」
「みたいだな」
「じゃあ、私はなんで不幸を求めた?」
「俺が知るか」

 六六六が関係しているのは確か。
 しかし、六六六こと『獣の数字』が洗脳能力を持つというのもおかしい。
 拡大解釈というレベルじゃない。

「で、続けるか?」
「……今日は見逃す。整理をしないといけない」
「上から目線だな」
「うるさい! さっさと家に帰って豚足でも食べてろ!!」
「俺が家に帰ってから食べるのはドラムだ」
「知るか!!」

 俺は家に向かい歩き始めた。
 
「今度会ったら覚えてろよ!!」

 背後から捨て台詞を吐かれながら。

「……連絡しとくか」

 ポケットからスマフォを取り出す。
 電話帳を開き登録したばかりの番号をタッチ。
 幸いなことに相手はすぐに出てくれた。

「黒服さんですか」
「はい、どうしました?」
「六六六を発見しました」
「……早いですね」
「といっても、もう消えましたけど」
「いえ、情報だけでも十分です。発見した経緯を教えてください」
「はい、あの後……「どうしました?」すいません、ちょっと事故が起きまして」
「事故!? 大丈夫ですか!」
「俺は大丈夫です。ただ」

 目線の先、バンがブロック塀に突っ込んでいた。
 路上には血痕。

「もう一人の当事者が死にました」

 電車にひかれ両足をなくした女は、車にひかれ命をなくした。

―完― 

「本当に大丈夫!? 怪我してない?」
「大丈夫だ」

 自宅に帰ってきた俺は、玄関で恋人に抱きしめられていた。
 都市伝説絡みで遅くなると連絡していたので心配していたらしい。

「怪我の一つもない」
「本当?」
「本当だ」

 『テケテケ』の死亡後、『首切れ馬』の黒服と合流した。
 六六六こと『獣の数字』のことを話すためだ。 

「洗脳ですか」
「はい、足を求めるはずの『テケテケ』がなぜか急に不幸を求め始めました。それに戦闘能力もなぜか上がって」
「……妙ですね、『獣の数字』にそんな能力があるなんて」
「ちなみに、『獣の数字』の能力ってどんなものがあるんですか」

 『獣の数字』が洗脳能力を持つというのがおかしいとはわかる。
 けれど、具体的にどんな能力かはいまいち分からない。

「不幸や不吉に関するものだとは想像できるんですけど」
「それもありますが皇帝の力と呼ばれる能力もあります。まあ、普通の人間には扱えないはずなので今回は関係ないでしょう」
「大体、俺の想像通りってことですか」
「はい」

 情報を得た黒服はすぐに仕事に戻った。
 色々と調べてみるそうだ。

「本当に大丈夫なんだよね?」
「ああ」
「……うん、わかった」

 恋人は俺から離れた。

「絶対に無茶なことはしないでね」
「わかった」
「約束だよ」
「約束だ」
「うん、それじゃあ温かいもの淹れるね」
「ウーロン茶で頼む」
「わかった。居間であったまってて」

 居間では、カンさんがテレビを見ていた。

「おかえりなさい」
「ただいま」
「災難でしたね」
「だな」
「詳しく話を聞いてもいいですか」
「ああ」

 ウーロン茶を持ってきた恋人にも話をした。
 ドラムを食べながら。

「そうなんだ。へえ、黒服さんと二人でお話をしてきたんだ」
「ああ」
「へ~」
「……六本足さん」
「なんだ、カンさん」
「ちょっと一緒に来てください」

 カンさんに連れられ廊下に出る。

「あなたって人は……。黒服さんのことは話さなければいいのに」
「なんでだ」
「……いいです、忘れてください」

 言われた通り忘れることにする。

「それよりも改めてお願いがあります。これから先、厄介事に巻き込まれる可能性がありそうなので」
「なんだ」
「死なないでください」
「いつまで」
「契約者さんが死ぬか、契約者さんがあなたへの愛情を失うまで」

 居間から恋人の独り言が聞こえていた。
 何と言ってるかはわからない。

「契約者さんにとって、あなたは誰よりも大事な存在です。彼女にとって、あなたは王子様ですから」
「白馬に乗ったことなんかない」
「でも、ピンチのお姫様は助けましたよね」
「あれは俺がいなくてもなんとかなった」
「だとしてもです。あの日、契約者さんはあなたを王子様に認定しました。そして、あなたは彼女の告白を受けとった。責任はとってください」
「めんどくさい」
「……ご飯を作ってもらってる恩を返すと思ってください」
「ならしょうがないな」
「……」
 
 カンさんはなぜか、六本の腕で頭を抱えた。

「……俗世の人間よりはまし、俗世の人間よりはまし」
「何か言ったか」
「自分で想像してください」

 ちっともわからなかった。

―完―

「すいません、呼び出して」
「いえ、仕事ですから」

 新学期が始まり数日後。
 俺は『首切れ馬』の黒服をある要件で呼び出していた。

「でも、学生であるあなたがこんな時間に外に出て大丈夫なんですか」

 時刻は十一時過ぎ。 

「うちは放任主義なので」
「……ならいいのですが。それで見せたいものというのは何ですか」

 彼女には都市伝説絡みの件だということしか伝えていない。

「はい、実は知り合いが許せないものを見つけまして」
「許せないものですか」

 夜の街を黒服と並びながら歩いていく。

「黒服さんはファーストフードを食べますか?」
「あまり好みはしませんが食べることはあります」
「そうですか、俺は好きです。ハンバーガー以外は」
「……なぜ、ハンバーガーが例外なのかは聞きません。で、ファーストフードが関係しているんですか?」
「関係どころかそれが本題です」

 俺は足を止めた。
 目的地の前についたからだ。

「ハンバーガーショップですか。……健康志向というのは珍しいですね」

 ガラスに貼られたポスターを黒服は既にチェックしていた。

「最近、出来た店です。何でもカロリーが低いとか、素材にこだわってるとかで人気みたいです」
「主に女性にですか」
「男は油を好みますから」

 会話を交わしながら裏口に足を向けた。

「正直な話、ある程度の予想はつきました」
「気づきましたか」
「定番ですからね。健康志向という言葉もありましたし」
「低カロリーですからね、あれ」
「漢方としても使われてますね」
「それじゃあ、念を入れて答え合わせと行きましょうか」

 鍵がかけられたドアを蹴破る。
 その先には厨房が広がっていた。

「お、お前達は!?」

 厨房には一人の男がいた。
 おそらく、店主だろう。

「保健所です」
「う、嘘をつくな! 正体を言え!!」
「黒服です」
「フリーの契約者です」
「こ、この!!」

 店主は包丁を握っている。
 俺達を警戒してではない。
 その前から、彼は包丁を握っていた。
 食材を捌くために。

「で、黒服さん。組織的にこれはアウトですか」
「アウトですね、人体に影響がないとは言い切れませんから」
「お前ら、無視するな!!」

 怒鳴る店主の前には巨大な食材が置かれていた。
 太く長い体。
 ヌメヌメとした肌。
 口も目も鼻もない顔。

「やはり、『ミミズバーガー』ですか。巨大ミミズは能力で発生させたものですね。それを捌いて肉として使っていると」
「だ、だったらなんだって言うんだよ! 別にいいだろうが!! ヘルシーなのには変わりないんだから!!」
「先程も言ったように人体に影響がないとは言い切れません。それに食品偽造です」
「う、うるせえ!! こうなったら、ただで返すわけには行かねえ!!」

 厨房中から異音が鳴りだした。

「教えてやる!」

 どこからともなく、幾匹もの巨大ミミズが湧き出した。

「ミミズの力を!!」
「別に知りたくない」
「え?」

 俺は、巨大ミミズを無視し店主に上段蹴りを決めた。
 鍛えていない彼では、耐えられなかったらしい。
 前のめりに倒れ伏した。

「相変わらず鋭いですね」
「さっさと済ませたいので」

 巨大ミミズ達は厨房から消えていた。
 店主が気絶したためだろう。 

「後は私に任せてください」
「お言葉に甘えます」

 俺は帰ることにした。
 ここに長居する理由はない。

「最後に聞いてもいいですか?」
「なんですか」
「あなたはなぜ、この男を許せなかったんですか」
「ファーストフードが好きだからですよ」

 誰だって、好きなものが汚されたら洗い流したくなる。

「それと」
「それと?」

 この厨房は油の匂いがあまりしない。

 ハンバーガーショップだというのに。    
 
「俺は健康志向が嫌いなんです」


―完―

「っこの、逃げてないで戦いなさいよ!!」
「んー、プリティーな女の子を傷つける趣味はないのでねぇ」

私が追っているのはとある都市伝説
頭には2本の角、半裸で腰巻1枚、背にはいつくもの小太鼓
そんな格好でさらに雲に乗って飛んでいる
その姿はどう見ても「雷さま」と呼ばれるものに違いない
あからさまに怪しいから退治してやろうと思ったんだけど…

「ええい面倒ね! これでも喰らいなさい!!」

足を止め、私は勢い良く腕を振りかぶる
直後に私が起こした“風”はナイフのように鋭く、「雷さま」に向かって飛んでいった
「鎌鼬」
私の重く鋭い風は、どんなものでも切り刻む

「これで真っ二つに!!――――――ッ!?」

風は文字通り空を切る
「雷さま」の姿が、何処にもない
―――消えた!?

「ウソ!? あの一瞬でどこに!?」

辺りを見回す私
ふわりと、お腹周りを冷たい風が撫でた

「んーこれはプリティーなヘソだな」
「~~~~~~~~~~~~~~~~~~!?」

「雷さま」が私の目の前に現れた
私のシャツをあげてヘソを舐めるように見ている

「きゃああああああああああああえっちいいいいいいいいいいい!!??」
「ごろごろごろ、このヘソいただき」

随分長い間、眠っているような感覚だった
実際、ほんの数秒だけ何も見えず、何も聞こえない状態だっただけなのに
たった一瞬の光と音
それが、私の視力と聴力を少しの間だけ無力化していた

「か、雷……「雷さま」だから当然よねッて、あれ?」

いない
さっきまで私の目の前にいた「雷さま」が、何処にも
それともう一つ、お腹の違和感

「やられた……ヘソが取られてるぅ……どうしよう、とりあえず黒服さんに……」

スマホを取りだしたけど、それもおかしかった
何故か、スマホが使えない
契約が切れてサービスが使えないって、どういうこと!?
さっきの雷の所為!?

「もぉ~~~~!!……あ、お母さん!」

良かった、丁度良い所に通りすがってくれた
私が契約者だって事は内緒だけど、何とかごまかして携帯を借りよう
黒服さんの番号はちゃんと覚えてるし―――

「?……ご、ごめんなさいね、誰かと間違えてるんじゃないかしら」
「へ? 何言ってるのお母さん? 私は」
「あら、そんなに似てる? そっくりさんは3人いるっていうけど不思議ね
 でもごめんなさい、私まだ子供がいないの」

そんなことない
そのカバン、私が誕生日にプレゼントしたじゃん!
何でそんなこというの!?

「ねぇ、お母さん!! 私だってばぁ!!!」




「パパぁ、どうしてカエルにはおへそがないの?」
「卵から生まれるからだよ。カエルだけじゃない、ヘビやお魚、鳥や虫も、卵から生まれる生き物はおへそが無いんだ」
「へぇ~…パパはおへそあるね」
「ははは、お前もパパも、犬や猫も卵から生まれないだろう?おへその無い人間なんて、この世界には存在しないんだ」

   ...end

ひっさびさに書いたけどこういうテイストどうっすか?
ダメ? 反省しよう

仕事中にね
「ヘソ出して寝たら雷さまにヘソ取られるって……ヘソ取られたらどんなデメリットがあるんだろう」
とか考えてものの数十秒で導き出した答えがこれでした
もうちょっとギャグと外道をはっきりさせたかったんだけどね、難しいね

よーしやっと追い付いたから感想書いてこう

デブけんの人乙です~
例の劣化融合きたね、こりゃ本人がこのプロジェクトの全容知ったら大暴れする前にローゼにぶん殴られて3日寝こむレベル(
しかもナダレちゃんだけじゃなく拳次まで狙われるだと…!?

グレムリンの人乙です~
グレムリンかっけーな! 契約者可愛いから俺の妹にする(
そして色々事件に巻き込まれすぎて財布空っぽの女の子にはマジで頑張ってほしい

六本足の人乙です~
ランランルーからの連載化でコーンスープ吹いたぞどうしてくれるwww
学園ラブコメwktkと同時にヤンデレ彼女可愛いから俺の妹にすr(

単発の人乙です~
偏食、いや変食か?何にせよ雪女ちゃん可愛いから俺のいもうt(
マジレスするとナポリタンは美味い。シチューは外側だけ美味い。コンポタは喰い逃した

「よう、サンダース!」
「ヒーローか」
「その呼び方はやめろって」

 食堂の自販機前で面倒くさい奴に出会った。

「なんだ、お前もコーヒー買いに来たのか」
「ああ」
「なんか、意外だな。お前は流行とかには左右されないと思ってたけど」
「匂いには左右される」

 缶コーヒーのプルタブを開ける。
 香りはあまり漂わない。

「ブラックか、渋いな」
「コーヒーだから渋くて当然だ」
「ふっ、そりゃそうか」

 ヒーローはどれを買うか悩んでいた。  

「うーん、俺は微糖にしとこう。ブラックはまだ早い」
「コーヒーに早いも何もないだろ」
「いやいやあるぜ、ブラックを飲むのは大人の証拠だ」
「勝手に人を成人にするな」

 しばらく高校生のままでいい。

「まあ、大抵の奴らはミルクとか砂糖がたっぷり入った奴を飲んでるけどな」
「糖尿病になりそうだ」
「それは気が早いだろ。まあ、俺も甘すぎるのは飲む気がしねえけど」

 空手家の敵だからな砂糖は、ヒーローは笑った。

「そういや、会長から聞いたぜ」
「何を」
「『ミミズバーガー』の件」

 会長、ヒーローはディズニーのことをそう呼ぶ。
 中学時代、二人が同じクラスだった時、彼女が学級会長をしていたからだ。

「まさか、お前が自分から進んで都市伝説退治をするなんてな」
「あれは例外だ。ファーストフード絡みだったからな」
「でも退治したのは確かだろ? やっぱり、お前もいい奴だよな」
「お前らと一緒にするな」

 ヒーローも契約者だ。
 俺と違い、積極的に都市伝説を退治する。
 仲間達と共に。

「いやいや、お前もあいつらと同じでいい奴だよ。……そういや、サンダース」
「今度は何だ」
「六六六って数字に心当たりはないか?」
「ない」

 真実を言えば、こいつらの活動に巻き込まれる。

「そうか。いや、今それを使った契約者がこの辺で暴れててさ。最近、みんなで犯人を追ってるんだ」
「成果は」
「ない。仲のいい黒服に色々教えてもらったりはしてるんだけどなー」

 こいつの顔は広い。
 契約者はもちろん、黒服にも協力者がいる。

「お前も協力してくれないか」
「断る」
「そこを頼む! お前がいてくれれば助かるんだ」
「仲間がいるだろ」
「あいつらのことはもちろん信用している。けど、お前の技と経験があれば「それは無理な頼みですね」……君か」
「お久しぶりです」

 カンさんは、ヒーローに軽く頭を下げた。

「六本足さん、契約者さんが掃除当番を終えました」
「わかった」

 空になった缶をゴミ箱に投げ捨てる。

「じゃあな」
「ちょっと待ってくれ!」
「勇者一向に加わる気はない」
「サンダースじゃない。『姦姦蛇螺』の君に聞きたいことがあるんだ」
「なんでしょうか?」
「さっきのことだ。なんで、サンダースに協力を要請したら駄目なんだ」
「ああ、そのことですか。六本足にはもっと大事な役目があるというだけの話です」
「大事な役目?」
「はい」

 カンさんは微笑した。

「王子様はお姫様の隣にいないといけませんから」

「助かった」

 歩きながらカンさんに礼を言った。

「契約者さんに使える者として当然のことをしたまでです」
「だとしてもだ。あいつを振り払うのはめんどくさい」
「私もあの人は苦手ですから。生贄になる前の自分を見ているみたいで」
「そうか」
「……詳しく聞かないんですね」
「今のカンさんさえ知っていればいい」
「そういう格好良い台詞は契約者さんにだけ言ってください」

 思ったことをを口にしただけだ。

「あと、六本足さん。六六六の件なんですが」
「あれがどうかしたか」
「いえ、例の矛盾点のことです」
「六六六の影響下に合った『テケテケ』が俺を殺そうとしたことか」
「はい。他の事件では、死者が出ないようにされている中で六本足さんだけは命を狙われました」
「一件ぐらいミスが出ることもあるだろ」
「楽観視はできません。私は意図的に命を狙われた可能性があると思っています」
「他の事件では死者が出ないようにされてるのにか」

 黒服と師匠は、犯人は人の不幸を楽しんでいると言っていた。
 俺も同意見だ。

「はい、私の推測だと六本足さんは特別扱いされているんだと思います」
「犯人が俺に恨みのある奴だってことか」
「かもしれません。ちなみに、心当たりはありますか」
「ありすぎて困る」
「……今までどんな生活を送ってきたんですか」
「契約者だからな」

 人や異形に恨まれやすい。

「それは一旦置いておいて、今後起こるかも知れない危険を考えておきましょう」
「また、襲撃されるかもしれないってことか」
「はい、私の憶測通りだったら」
「外れていることを祈る」

 厄介事からは距離を置きたい。

「それにしても、あいつといると疲れる」
「六本足さんならそうでしょうね」
「カンさんは一緒にいると落ち着くけどな」
「……だから、そういうのは契約者さんに言ってあげてください」

 教室の前で恋人が手を振っていた。

―完―

そろそろバトルよー

六本足さんは美味しいんだろうか(錯乱

恋人さんは「私を食べて♪」とかやらないんだろうか
恋人さんは「私を食べて♪(物理)」とかやらないよね……?

「え!? シシャモってシシャモじゃないの!」

 下校中、俺達は会話に興じていた。

「そうですよ」
「知らなかったのか」

 驚く恋人に対しカンさんは説明を始めた。

「スーパーや居酒屋でシシャモとして売られているのは、カラフトシシャモと呼ばれる魚ですよ。本物のシシャモは北海道の一部でしか獲れないから貴重なんです」
「へーそうなんだ」
「味もまったく違うらしいしな」

 一生に一度は食ってみたい。

「あれ? なんで、シシャモの話になってるんだっけ。たしか、夕飯の話をしてたんだよね」
「おかずを魚にしようかという流れで脱線しましたね」
「で、どうする」
「んー、バランスを考えると魚だけど」

 昨日のメインは生姜焼きだった。

「ちなみにロク君は何が食べたいの?」
 
 ロク君というのは、恋人が俺に対して使う愛称だ。

「鶏の照り焼き」
「おもいっきり肉じゃないですか」
「よし、照り焼きにしよう」
「即決するんですね、契約者さん……」

 現在、自宅の冷蔵庫に鶏肉は入っていない。
 なので、スーパーに寄ってから帰ることになった。

「前にテレビで、照り焼きのタレにマーマレードを入れると美味しいと言っていました」
「へえ、マーマレード。でも、甘すぎないかな」
「そうでもないらしいですよ。風味が良いそうです」
「そうなんだ」

 マーマレードも有名だがオイスターソースを入れるのもいい。
 味にコクが出る。

「六本足さんは何か隠し味に心当たりはありますか?」
「俺が知っているのだと」

 オイスターソースの事を話そうとした時だった。

「ん」

 背後から風切り音が聞こえたのは。
 反射的に後ろ回し蹴りを放つ。
 足に確かな感触。
 襲撃者は吹き飛び、コンクリート塀に叩きつけられた。

「だ、大丈夫!?」
「問題ない。それより、カンさん。こいつの名称は」

 翼を持つ襲撃者に目線を向ける。
 今はもう、ぐったりとして動けそうにない。
 図鑑で見た翼竜にそっくりだ。

「『コンガマトー』、アフリカのUMAですね。人を襲うことで知られています」
「あれか」

 知っているUMAだ。

「で、六本足さん。『コンガマトー』の額に注目してください」
「当たってたか」
「そうですね、残念なことに」

 六六六。
 三桁の不吉な数字が、額にしっかりと刻まれていた。

「さらに残念なお知らせもありますしね」
「ああ」

 上空には二つの大きな影。
 仲間の『コンガマトー』だ。

「カンさん、一体頼んでいいか」
「一体でいいんですか?」
「二対二のほうが見栄えがいい」

 二体の『コンマガトー』が降下を始めた。

「わかりました。でも、補助はします」

 瞬間、俺とカンさんの下半身に変化が起こる。
 俺は足が六本に。
 カンさんは、胴体の断面から大蛇の尻尾が生える。

「動きを鈍らせることしかできませんが」

 『コンマガトー』達の動きが微かに乱れ始めた。
 尻尾が生えた状態のカンさんを見たものは呪いを負うからだ。 
 ただの人間だと瞬殺、都市伝説や契約者なら肉体に異常を起こす。
 俺と恋人は対象外に設定されているので問題ない。


「契約者さん、ここは私達に任せて逃げて「その必要はないよ、カンさん」……しかし」
「大丈夫、足でまといにはならないから」 

 恋人の手に、幾枚もの札が握られれていた。

「それに、身の程知らずの雑魚には落とし前をつけないといけないよ」
「……わかりました」

 宙に恋人が持つのと同じ札が大量に現れた。
 重力を無視して浮いている。
 これもカンさんの能力によるものだ。

「痺れろ」

 大量の札が、一匹の『コンガマトー』に向かい飛んでいった。
 圧倒的な物量を前に回避など叶わない。
 『コンガマトー』の全身に札が張り付く。
 
「完全に弾幕だな」
「そんな便利な品物じゃないですよ」

 無駄口を交わす内に、札が貼られた『コンガマトー』の動きは悪くなっていた。
 羽ばたくことすら精一杯という有様。
 しまいには、ここから少しずれた場所に墜落した。
 
「では、私達は落下地点に向かいます」
「わかった」
「……大丈夫ですか? 同じ手はおそらく通用しませんよ」

 もう一匹の『コンガマトー』はすぐそこまで迫っている。

「大丈夫だ、問題ない」
「それ、死亡フラグだよ!! やっぱり、私達も「本当に大丈夫なんですね」カンさん!」
「策がなかったら逃げてる」
「わかりました、行きましょう契約者さん」
「でも!」

 渋る恋人にカンさんが近づいた。

「あなたの王子様を信じてください」
「そ、それは……」

 カンさんがそっと何かを囁いた。
 小さな声なので聞き取れない。

「わかった。行こう、カンさん」
「はい」
「絶対に無事でいてね、ロク君」
「当たり前だ」

 入院する予定も棺桶に入る気もない。

「終わらせたらすぐに来ます」

 足早に二人が去っていた。
 残されたのは俺と『コンガマトー』。

「来るか」

 前方から『コンガマトー』が向かってきた。
 地表ギリギリの飛行。
 だが、危なっかしくはない。

「蹴りは通用しないな」

 さっきの蹴りは不意打ちだったからこそ効いた。
 最初からわかっていれば悠々と避けられる。
 奴らは、空を自由に翔けることができるのだから。
 『コンガマトー』が急降下ではなく、前方から突っ込んできているのもそれが関係しているのだろう。
 斜め上より平行の方が、いざという時に動きやすく視界もいい。
 奇声を上げながら、『コンガマトー』が目前まで迫ってきていた。
 対して、俺は動かない。
 奴が巨大な嘴を広げても。
 鉤爪が鋭い光を放っても。

「これしかないな」

 『コンガマトー』との距離が皆無となる瞬間。
 俺は飛び跳ね、奴の嘴を踏み台とした。
 そのまま、よろめく『コンガマトー』の背中に飛び乗る。
 重荷を背負った『コンガマトー』は、地面に滑り込んだ。
 甲高い悲鳴が奴の口から漏れる。
 おそらく、摩擦で皮膚はボロボロだろう。
 『コンガマトー』が苦しんでいる内に、両翼をそれぞれ二本の足で踏む。
 飛び立たれるのを防ぐために。
 これから止めを刺すのだから。
 残された前の両足で『コンガマトー』の首を締め付ける。
 頚動脈を押さえつけるのが目的だ。

「対翼竜用三角絞めってところか」

 『コンガマトー』は、意識のある限り悶えた。
 声にならない声を上げ、体を必死によじらせる。
 都市伝説なだけあってしぶとい。
 二人が戻ってきたころ、『コンガマトー』はやっと消滅した。

「ロク君、怪我はない!?」
「ああ。そっちは」
「直ぐに終わったよ、だいぶ弱っていたから」
「そうか」
「……あのロク君」
「どうした」
「早くズボン履いたほうがいいと思うよ」

 すっかり忘れていた。

「いや、私はいいんだけどね! ほら、人に見られたらまずいから」
「そうだな」

 足を二本に戻しズボンを履く。

「私はいいんだけどね! うん、本当に」
「……強調しないほうがいいと思いますよ、契約者さん」

 なぜか、恋人が顔を赤らめていた。
 意味がわからない。

「ズボンも履いたしスーパーに行くぞ」

「え、もう? もう少し休んでいかなくても大丈夫?」   
「別に疲れてない。それより、腹が減った」 
「う、うん。じゃあ、行こうか」


 俺達は再びスーパーに向かい始めた。

「六本足さん」
「なんだ」

 普段の状態に戻ったカンさんに、制服の袖を引っ張られる。

「ちょっと淡々としすぎてませんか」
「何が」
「都市伝説、それも難敵との戦闘があったというのに、あなたは普段と様子がまったく変わっていません」
「そんなもんだろ」
「普通の人間ならもっと動揺してますよ」
「普通の契約者なら動揺しない」

 時代遅れの鳥を殺しただけの話だ。

「……あなたはやっぱり」
「やっぱりなんだ」
「いえ、ちょっと思っただけです。六本足さんは」

 生まれる時代を間違えたんだなって、カンさんはそんな失礼なことを言った。

―完―

巫女は弾幕を使うもの(東○感)

>>524
若鶏並にジューシーです

>>525
まだ病み度が足りない
今後に期待してね(え

それはさておき、カンさんの仕草が好感度かなり高め
このスレのせいで姦姦蛇螺はかわいいという定義付けが自分の中でできてしまう

「なるほど。『獣の数字』の契約者はあなたに恨みを持った人物かも知れないと」
「はい、二回も襲われましたし」
「わかりました。こちらとしては、あなたに協力を要請したいのですが大丈夫ですか?」
「もちろん。俺も厄介事は取り除きたいので」
「そう言ってもらえるとありがたいです」

 『首切れ馬』の黒服は、コーヒーに口をつけた。

「俺が嘘をついているとは思わないんですか。黒服さん曰く、六六六によって操られている都市伝説を見たのは俺と連れだけなんですよね」
「ええ、そうです。本来ならあなたの証言を疑うべきでしょう」

 コーヒーカップが受け皿に置かれた。

「ですが、私はあなたが嘘をつく必要があるとは思えません」
「犯人と共犯なのかもしれませんよ。捜査をかく乱するためにあなたに近づいているのかも」
「あなたは人の不幸になんて興味ないでしょう」
「ええ、もちろん」

 食えない蜜よりも食える蜂蜜のほうがいい。

「そう言うと思っていました。ちなみに、昨日も聞きましがこんな時間に外に出て大丈夫なんですか?」
「普通に送り出されました」

 ゴムはちゃんとしておきな、とも言われた。

「深夜の喫茶店に来るのは初めてですけどね」
「高校生ならそうでしょう」

 待ち合わせ場所で黒服と合流した後、この喫茶店に案内された。
 個人経営の店で、木製の家具が多く使われているのが印象的だ。
 雰囲気は悪くなく心地いい。

「いい店ですね」
「気に入ってくれてなによりです」
「何よりもハムサンドがおいしいです」

 手にしたハムサンドを頬張る。
 ハムとレタスのバランスが最高だ。
 マスタードもほど良い。

「よく食べますね」
「成長期ですから」

 今度来た時は、卵サンドを食べてみよう。

「今日もありがとうございました」
「礼を言うのはこちらです」

 店を出た後、黒服と並んで歩いていた。
 途中まで道が一緒らしい。

「いえ、いい店も教えてもらいましたし」

 その上、奢ってもらった。

「……これは昨日の謝礼だと思ってください。都市伝説の発見と討伐の」
「謝礼ですか」
「はい、組織に所属していないあなたには金銭が渡せないので。その代わりです」
「俺はこっちのほうが嬉しいですよ」
「そうですか。なら、幸いです」
「じゃあ、俺はこっちなので」
「はい、ありがとうございました」

 黒服と別れようとした時だった。
 エンジン音が急に聞こえたのは。

「ん」

 振り返ると、そこには一台のバイクが停まっていた。
 たまに見かけるありふれた機種だ。
 
「あー」

 おかしいのはバイクではなく、ライダーだった。

「『首なしライダー』か」

 頭部のないバイク乗りは、アクセルをふかした。
 俺達を轢くつもりだろう。

「黒服さん、どうしますか」
「……」
「黒服さん」

 応答がない。

「すみません。ちょっと確認をしてまして」
「そうですか。で、どうします」
「あなたは乗り物酔いするほうですか」
「いえ、平気なほうです」
「そうですか。だったら」

 馬の嘶きが響いた。

「逃げましょう」

 現れた『首なし馬』に飛び乗るのと、『首なしライダー』が走り出すのはほぼ同時だった。

―完―

どう見ても浮気です本当にありがとうございます(作者が言うな

>>532
姦姦蛇螺ってポテンシャルが高いと思うんですよ
モンスター要素+巫女要素ですから

「乗馬するのは初めてですけど思ったより安定してますね」
「馬といっても『首切れ馬』ですから。本物とは違いますよ。それと跳ねるので気をつけてください」
「はい」

 一瞬、浮遊感が訪れた。

「舌を噛まないように」

 落下の衝撃が体に響く。

「大丈夫ですか」
「警告されましたから」
 
 体を預ける『首なし馬』は、足を休めることなく走る。
 止まったら殺されるから。

「『首なしライダー』にか」

 後方から、頭部のないライダーが乗るバイクが追いかけてくる。
 両手をハンドルから離しながら。
 よく見ると、十本の指先にワイヤーが付いているのがわかる。

「反撃に出ます」

 背後に座る黒服が、懐から拳銃を取り出した。
 すぐに構え、引き金を引く。
 夜の街に銃声が響いた。

「……」

 『首なしライダー』は、何事もなかったかのように走っている。

「いい反応ですね。ここまで強い『首なしライダー』は初めて見ました」
「あの個体は特別なんです。それと見えたんですか?」
「目はいい方なので」

 黒服の狙いは正確だった。
 本来なら、『首なしライダー』かバイクに銃弾が当たっていただろう。
 しかし、それは阻止された。

「ワイヤーで銃弾を切断なんて漫画以外で初めて見ました」

 ライダーから糸使いに名称を変更したほうがいい。

「私もあの個体くらいしか知りません。あと、また跳ねるので気をつけてください」

 再び、浮遊感が訪れた。
 下を見ると、一本のワイヤーが月光に照らされている。

「走りながらトラップを仕掛けられるって厄介ですね」
「厄介で済ませていいレベルを超えています」

 追いかけられてから、幾度もワイヤーのトラップを仕掛けられた。
 その度に、『首切れ馬』が跳ねたり、俺達が頭を引っ込めたりして躱していた。

「で、どうします」

 このままだとジリ貧になるのは確定だ。

「応援を要請します、と言いたいところですが正直厳しいです。あの個体に対応できて、尚且ついますぐ動ける人員とというのは心当たりがありません」
「でしょうね」

 いくら組織でも限界はあるだろう。

「あなたに何か策はありますか?」
「ありますよ」
「……即答ですか。一体、どんなものですか?」
「その前に試してもらいたい事があります。『首なしライダー』に、あと何発か撃ってもらってもいいですか」
「わかりました」

 銃声が続けて何発か鳴った。
 それでも、『首なしライダー』に変化はない。

「どうですか?」
「だいだいわかりました。で、作戦の内容ですが」

 黒服の耳に顔を近づけた。

「……確認しておきますが本当に大丈夫なんですね」
「はい」

 おそらくは。

「わかりました。では、十秒後にやりましょう」
「はい」

 風切り音とエンジン音だけが聞こえる。
 お互いに反発しているように。

「ズボンを頼みます」

 足に慣れた痛み。
 下半身の感覚が一気に増える。 

「気をつけてください」
「はい。じゃあ」

 六本の足で馬上に立つ。

「――行きます」

 垂直に跳躍した。
 六本足は伊達じゃない。
 すぐに、二本足では到達できない高度にまで上昇。
 下では、『首切れ馬』が先に進んでいき、『首なしライダー』が向かってくる。

「さて」

 『首なしライダー』のワイヤー捌きはかなりのものだ。
 正面から突破するのは難しい。
 だが、穴はある。
 さっきの動きを見てわかった。
 奴は、前後と左右しかワイヤーで迎撃できない。
 正しく言うと、それで十分だと思っている。

「そりゃそうだ」
 
 真上や真下からの攻撃などそうそうあるはずがない。
 そんな、滅多に来ないものを想定するくらいなら四方向に注意を向けたほうが効率的だ。
 首なしライダーが俺の真下に到達しようとしていた。
 その瞬間を狙う。
 右手に握る物を下に向けた。
 ごつごつとした握り具合と、腕を疲れさせるほどの重量を感じながら。

「終わりだ」

 引き金を引いた。

「銃を使えたんですね」
「前に、師匠の知り合いから教えてもらったんですよ」

 うちの組に入らないか、とも言われた。

「……どんな知り合いかは聞かないでおきます」

 黒服は、返却した拳銃を『首なしライダー』に向けている。 
 俺の銃弾は命中した。
 『首なしライダー』は、バランスを崩しそのまま転倒。
 ガードレールにぶつかった。
 今はもう虫の息で、仰向けに倒れている。

「どうするんですか、この『首なしライダー』」
「殺します」
「そうですか」

 黒服が引き金に手をかけた。
 その時。

「たすけて」

 か細い声が聞こえた。

「これ、『首なしライダー』の声ですか」
「おそらく、そうでしょう」

 口どころか頭がないライダーは助けを請う。 

「で、どうします」
「殺します」
「でしょうね」

 一発、銃声が鳴った。

「これで本当に終わりました」
「お疲れ様でした」
「いえ、巻き込んでしまいすいませんでした。あなたには関係がないのに」
「しょうがないですよ、あの状況じゃ。あと黒服さん」
「なんでしょうか」
「あの『首なしライダー』、元人間ですか」
「……気づいていたんですか」
「なんとなくは」

 『首なしライダー』だった物は、輝く粒子に変わり始めている。

「ええ、あの『首なしライダー』は元人間です。組織に所属していた契約者でした」
「道理で妙に強かったわけですか」
「はい、呑まれる前はやり手として活躍していたので」

 黒服は拳銃を懐にしまった。

「担当者は私でした」
「そうでしたか」
「……やはり、あなたは驚かないんですね」
「何にですか」
「昔、担当していた者をあっさりと殺したことについて」
「あの状況じゃあれが適切です」

 殺そうとしてくるのならやり返すしかない。

「相手が助けを求めたとしてもですか」
「戻れませんよ、あそこまで染まっていたら」
「わかっています。それでも、躊躇くらいはしたかった」

 実際は容赦なく撃ちましたが、黒服は自嘲した。

「皮肉な話です。都市伝説に強く飲み込まれた彼が助けを請い、ある程度人間らしさを保てている私は引き金を引いた。私は彼と違って思考ができるのに」
「だからこそじゃないですか」
「……そうかもしれませんね。だとしたら、この世で一番恐ろしいのは人間なのかもしれません」
「違いますよ」
「なら、なんだって言うんですか」
「蚊です」
「え?」
「人間を一番多く殺しているのは蚊だそうです。二番目が人間です」
「よく知ってますね、そんなこと」
「テレビで見たので」
「でも、私は人間が一番怖いです。そして、自分自身が何よりも怖い」

 人それぞれ意見は違うだろう。

「都市伝説は人を襲います。が、その都市伝説を生み出すのも人間です」
「全人類が間接的に同族殺しをしていると言いたいんですか」
「はい、飛躍しすぎている気はしますが。この言い方が一番わかりやすいと思いませんか」
「確かにわかりやすいですね。一部が文句を言いそうですが」
「言わせておきましょう。ここまで聞いてもあなたは蚊が怖いと言うんでしょうね」
「海外の蚊は強力みたいですから。それと、俺は人間が好きですよ」
「……なぜですか。できれば理由を聞かせてください」
「だって――」

 ハムサンドを食ったのに腹が減ってきた。
 戦闘をしたせいだ。

「人間にしかフライドチキンは作れませんから」
「…………ふふ」

 含み笑いを黒服はした。

「この場面でそれを言いますか」
「おかしいこと言いましたか」
「おかしいというか何というか。あなたらしい答えだとは思いますけど。でも、そうですね。結局はそんな答えに終極されるのかもしれませんね」

 彼女は、ついに声を出して笑い始めた。

「ありがとうございます。少し吹っ切れることが出来ました」
「それはなによりです」
「思い出すこともできました、私にとってのフライドチキンを」
「何の料理ですか」
「秘密です」

 なぜか、『首切れ馬』が嘶きを上げている。

「じゃ、俺はこの辺で」
「送っていきますよ、迷惑をかけましたし」
「事後処理はいいんですか」
「後で同僚とやります」
「なら、お言葉に甘えて」

 本日、二度目の乗馬体験をしながら帰宅した。
 機嫌のいい黒服と会話をしながら。

―完―

だいぶ荒めの出来上がり

「お前、今日から三代目な」

 一年前、師匠にそう宣言された。

「いきなりですね」
「いや、前から決めてた」
「それ、初めて聞いたんですけど」
「言ってなかったからな。そもそも、お前にしかこの喧嘩殺法は教えてない」

 俺は足技のみの喧嘩殺法を習っている。
 元々、ある喧嘩師が使っていたもので師匠がそれを受け継いだらしい。
 なので、師匠は二代目を名乗っている。
 
「師範代にも教えたらいいじゃないですか」
「あいつはダメだ。俺の息子なのに短足だ」

 師匠の本業は空手家だ。
 道場を経営しているが、今はもう息子である師範代に任せきっている。

「じゃあ、道場の門下生にでも」
「駄目だ駄目だ、こんな荒っぽいもの教えられるか」
「弟子の前でよく言いますね」
「いいんだよ、お前は。直弟子だし」

 道場に俺は所属していない。
 空手は習っていないからだ。
 施設はよく利用している。

「そこまで嫌がらなくてもいいだろ。むしろ喜べ」
「俺は稽古が好きだから続けているだけですよ」
「そんなマゾ野郎はそうそういねえよ。資格としては十分だ」
「不十分です」

 こういうのは、やる気のある奴に任せればいい。

「とにかく、今日からお前は三代目だ。覚えとけ」
「忘れておきます」

 実際、今日この瞬間まで忘れていた。

「お前が三代目だな」

 朝のジョギング中、見知らぬ男に問い詰められるまでは。

「人違いだ」
「白切るなよ。裏付けは取ってあるんだ」
「誰から」
「お前の師匠から」

 この後、文句を言いに行こう。

「で、どこの流派だ」

 三代目、と俺を呼んだことから武術家なのは疑いようがない。
 
「ふん、言ってもわからねえと思うぞ」
「ならいい」
「……いや聞けよ! 漫画なら聞くだろ」
「現実だしな」

 そもそも興味がない。

「いいか! 俺の流派は狼牙拳だ!!」
「ふーん」

 聞いたことがない流派だ。
 狼牙風○拳なら知っている。

「で、ヤ○チャが何の用だ」
「その呼び方やめろ! 結構気にしてるんだからな」

 繊細な奴だ。

「武術家が武術家のところに来たんだ。やることは一つだろ」
「俺は武術家じゃないけどな」

 師匠曰く、喧嘩師らしい。

「やるなら場所を変えるぞ。橋の下でいいか」
「ああ、人目がない場所ならどこでもいい」
「わかった」