女「…斬る」 (258)


\\\注意\\\

キャラが多数出る予定です

たまに残酷映写あいます

基本不定期投稿です

厨二要素(そもそも厨二の範囲が分からないが)あります

他もろもろ

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1382866749


ある日世界中で超常現象が起きた。

それは海が凍ったり、砂漠がジャングルに変わったり、ジャングルが一瞬にして全焼したり
街中にドラゴンなどが現れたりと、数多の不可解な現象が起きた。
そしてその現象が起きてすぐ後に、人にも影響が出始めた。

それは人が超能力を持ち始めたのだ。個々の能力がどのようなものか、今も分からない。
が、人は超能力を持つ者を「化け物」など酷い物から、「神の使い」など、様々な呼び名があった。
それを一くくりにして「異能者」と呼ぶ人が現れ、人々は皆「異能者」と呼び始めた。

「異能者」はその力を使い悪さをする者が現れ、その「異能者」を捕まえる、または殺すために
作られた組織が警察内に作られた。
もちろん、普通の人では勝てない為その組織に属する者も「異能者」
が、その組織の「異能者」の殆どが子供であるといわれている。
その事を非難する者もいたが、事実、今まで確認されている「異能者」は幼稚園児から成人手前の
若者が数を占めている。
例外として犬や猫、鳥などもいたが、そのほとんどが力を発揮したと同時に死滅した。
今の所わかっているのは、「超能力」は成人には現れない。
成人になると同時にその能力を失う可能性は約80%だということ。

先生「…いじょう、これがこの半世紀で解き明かされたとされている事だ。
お前らにもいつ目覚めるかわからないが…ま、あんまり悪さはするな、と先生は言っとく」

生徒A「でもでも~、俺今まで異能者なんて見たことないぜ?」

生徒B「俺もない…が、ニュースでは頻繁にやっているな」

生徒C「ま、かかわらないのが一番…だろ?」

先生「いいこと言ったな、そう、危険なことは避けて、平和にいろ。……先生も仕事失いたくないから」

生徒B「この教師本音言ったよ」

先生「はいはい、じゃ、今日はここまで…あとは自習~」

キリーツ、レイ!『アザーーーシターー』チャクセキ


授業が終わると、みんな一斉に席を立ち、他の席を行き来しだす。
今は昼の1時。皆弁当を持ち合い喋りながら談笑をしながら過ごす。

女「…眠い」

委員長「貴方この時間毎回言ってるよ」

彼女はこの2-Bのクラス委員長。
面倒見がよく、少し腐ってる系の女子だ。

女「眠いんだもん」

委員長「それも言ってる」

女「あんたも毎回いってるよ」

委員長「…それは初めてね」

少し間が開いたのは過去の記憶から言ったか言ってないかを考えていたのだろう。
彼女は私が言うことについてなぜか記憶している。それも驚異的にほぼ全て。


女「…すごい記憶力だね」

委員長「才能…かしら」

この事を聞くと必ず口ごもるのも特徴(?)だ。

女「テストも満点なわけだ」

委員長「それは普通に勉強してるからよ」

女「さっすが全国一位は言うことが違う」

委員長「その一位に勉強教えてもらって、下から数えた方が早いのはどこのだれよ」

女「おや?そんな人いたかな?」

委員長「…はぁ……まったく」

女「辛気臭いとご飯が不味いわよ」

委員長「食べながら言う人のセリフ?」

ご飯を口に頬張りながら箸で人を差している彼女に委員長は肘をつき、
ため息交じりの感想を述べる。


そんなくだらない、いつも通りの会話をしながら食事を終えて授業がはじまり。
居眠りをしていたら教師に怒鳴られる。

 それがいつもの日常だった。

 この瞬間、その日常は崩された━━

 ━━突如教室の外側の窓に大穴が空き、外と内の境界がなくなる。

壁は何の音も、予兆もなく消え去った。崩れ去った。
壁がなくなった周囲の生徒の姿も消えていた。
ただあったのは床に残された赤い液体。
そしてそのいなくなった生徒の体液が隣の席の女子生徒の顔を半分ほど埋め尽くすように掛かっている。

女子生徒A「……え」

周りがその女子生徒の事を無言で見つめる。
沈黙が破られることはなかった。
顔が赤く塗られた女子生徒が悲鳴を上げようと口を開き、音を発するとほぼ同時に
その生徒の身体は消え、体液が周りの生徒に飛び散る。


誰も声を発そうとしない。声を発せられない。
ただただ沈黙が続く中、突如として消えた女子生徒の机の上に現れた学ランの男子生徒。

女「……」

委員長「……」

先生「………」

その男子生徒はこの学校の誰もが知る人物。

委員長「……井澄生徒会長」

井澄「…どうも、生徒会書記、そして2-Bクラス委員長」

その挨拶だけで、すべての沈黙は晴れた。
一斉にクラス中に悲鳴が広がり、次第に学校中から悲鳴が聞こえてくる。
この生徒会長はすべての教室の数人を消したようだ。

井澄「君たちはこれから…私の下僕だ!逆らう者は消す!……今までのはそれの証明だ」

校内放送がオンになっている。
この教室で話していることが校内全てにながれると同時に悲鳴はざわつきに変わり、
すぐにまた悲鳴へと変化する。

この2-Bいがいの教室は。


放送が砂嵐の雑音に変わる。

この教室内に今、先程まで独裁宣言していた井澄生徒会長の亡骸が転がっている。

つい今、彼の頭は粉砕した。
壊された壁の向こう、外から彼の頭を何かが粉砕させた。

もはや正気を保っていられるものは少ない。
クラスは気味の悪い笑いに包まれた。

先生「あ、アハハハッハハハハアハハハハハ!!」

秩序を保つために必要な教師の威厳さえ期待できない状況。
もはや誰も止められるものは居ない。

すると、上からヘリコプターが降りてきて、この教室内に、ヘリ内から人が二人、飛び移ってくる。

カツカツカツ、と音を立て、教壇に立って笑っている先生の首を思い切り、
だが力強さは感じさせず、トンッ、と一突きして気絶させる。

二人の人影は全身黒のシャツとズボン、ジャケット、ネクタイ、まるで喪服のようなスタイルに
不釣り合いな真っ黒のバイクヘルメット。
ただ、体系を見れば男女の区別はつく。
気絶させたのは男性、そして気絶した先生を抱えるように抱き込んだのが女性。
そしてそれをじっと見ていた女と女性のめがあった(気がした。実際には顔も見えないので確認できないが、
直感でそう感じた)

女「……」

肘を机に付き、手のひらに顔を乗っけるように黒の女性を見つめる。
他の生徒のように狂わず、ただ今まで起こったことがいつもの日常のように。

女性「……」

暫く目が合った(今度は完全にあった。筈だ)後、女性はジャケットの裏から無線機の様な物をだし━━

女性「ターゲットの始末を完了……校内は手遅れの模様」

『了解、後始末はそちらに一任する』

女性「オールオーケー、これより後始末に入ります」

━━現状報告の様な物をした後、巻き戻しのように綺麗にジャケットの中に無線機を戻した。
腕に抱えていた先生をその場に寝かせて、女の所へ歩み寄る。
男性はその姿をただ見ていた。

女性「名前は?」

女「……」

無言。

女性「…私達は対異能者犯罪組織の者だ」

自分の身分を、必要なことだけ答え、女の返答を伺う。

女「…いち、一般市民です」

女の変容に肩が一瞬ブルッ、と揺れた。
おそらく少しイラついたのだろう。


如月「…如月静香中尉だ」

ヘルメットを外し、素顔を見せると、後ろにいる男性が少し焦るように手を挙げていたが、
もう手遅れと思い、あきらめて自分もヘルメットを外して「佐藤大樹少尉だ」
そう述べてふたたびヘルメットを身に着ける。

女「…みんなには女って呼ばれてるわ」

如月「本名を教えてもらいたいのよ」

くるみ「……杜、杜くるみ」

渋るように答えたが、如月は笑顔で「よろしく」と言ってにっこり笑顔で言った。


佐藤「中尉、そろそろこの学校をどうにかしないと」

後ろから時計を指さしながら言ってくる。

如月「催眠音楽を流しなさい」

その事に対し、胸ポケットから音楽プレイヤーを出し、佐藤に向けて投げる。
その音楽プレイヤーを顔の前で片手でキャッチしたと同時に佐藤の姿が消える。

如月「彼は瞬間移動系の能力、テレポーター、自分と自分に触れているものを瞬間移動させられるの」

くるみ「…あなたは?」

如月「私は……内緒」

くるみ「へぇ」

如月「………あなた、妙に落ち着いているわね」

くるみ「〝いつもの事″ですので」

引っかかる事を言う。

如月「…こんなこと、初めてよね」

やはり敏感に答える。
くるみは続けて「これは私の日常です」と言う。
如月は目を細め観察するように見てくる。


如月「…あなた」

くるみの目を見て、頷く。

如月「貴方、時間系の異能者ね」

くるみ「……」

如月「力の暴走で時をループしている。それを自覚していても止められない」

くるみ「その通り…です」

俯き、しゃがみ込む。

くるみ「止めようとしても…止め方がわからないまま繰り返している」

如月「…何回繰り返してるの?」

くるみ「………」

指を一本一本、開いたり、閉じたりして数を数えている。
数秒間して顔をあげ、勢いよく立ち上がる。

くるみ「76回」

如月「そんなに?!」

くるみ「…もう私も90歳近いですね」

如月「…え?」

間を置き、如月は目をまるくして顔を突出し、あからさまに驚く。

くるみ「私は一年を76回繰り返してるんですよ」


如月「…そんなに……」

くるみ「証拠に、あと数分で雨が降ります」

如月は外を、空を見る。

くるみ「天気雨です…でも、それは今までの76回の話」

如月「え?」

くるみ「今まではあなたたちが現れない世界だった…が、今回はなぜか現れた」

如月「…それって」

くるみ「今までの世界とは違う…て事です」

如月「…それって……パラレ━━」

言いかけたところで音楽が流れてくる。

如月「!……ようやく」

心地よい音楽。いかにも眠りを誘う音色にクラス中の生徒がふらつきだす

如月「眠れ…そして忘れてしまいなさい」

そういって倒れていく生徒たちを見つめている。

今日は終り~

これはオリジナル?

>>13

一応自分で考えています。
似たのがあったのかもしれませんが、
この作品はフィクションです。
実在の創作作品や団体とは一切関係ありません。

て事でおねがいします^

>>15さんでしたね、ごめんなさい


クラスの、学校全体の人が全員音楽につられ眠りについた。
くるみ、如月、佐藤の三人を除き、すべての人が。

くるみ「……大丈夫なの?」

如月「問題ないわ、ただ記憶障害を起こしただけよ」

問題発言をする如月をくるみは黙って聞いている。
黙っているだけで瞳は疑いと嫌悪に似た眼差しを隠しきれていない。
もしくはわざと隠していないのかもしれない。

如月「大丈夫よ、記憶障害と言っても制御してあるわ。この数分の記憶を消すだけ」

くるみ「そんな事が出来るの?」

もちろん、普通ならそんな高度なことを音楽ひとつでできるわけがない。
できたとしても全員を一気になどほぼ不可能。だが、その事に対し、可能な事が一つあるとすれば…

如月「私の能力の一環よ」

そう、超能力。

くるみ「…」

無言で問う。
「貴方の能力は一体」そういった眼差しを向ける。


如月「能力を聞きたそうね」

察しがいいのか、わざとそう思わせるようなことを言って、こう言いたかったのか
それは分からないが、如月は丁寧に答えてくれた。

如月「私の能力は『音』」

間を置き、くるみの顔を少し見て続ける。

如月「『音』には音波で催眠や脳や物を内側から破裂、破壊するといった二系統のものがあるのだけれど、
私は直接、人の脳に音を響かせて命令できる催眠系ね、今の音楽は軽い記憶障害を与えるためにまず眠気を誘うの。
人は眠いときとか、意識が朦朧としてる時が一番催眠にかかりやすいらしくてね、そして眠気がいい感じに溜まったら
出来事がすさまじいことだったから、ゆったり、リラックスできる音楽をかけて衝撃的な事の真反対の感覚与えたの」

所々頭をトントン、と指で叩く仕草などをして見せながら、丁寧に説明した。
そして説明が終わると同時に教室内にヘルメットを取って、手に持った佐藤の姿が一瞬にして現れる。


佐藤「そろそろ修復班がくる…俺たちは撤退するぞ」

「修復班」そういって佐藤は如月の肩にポン、と手を乗っけた。

如月「ちょっち待ち」

おそらく佐藤は瞬間移動でこの場を離れようとしたのだろう。
が、如月は乗っけられた手を軽く払い、くるみの手を握った。

如月「彼女も、連れて行くよ」

佐藤「…危険因子ではないと?」

如月「保障するよ」

佐藤「……注意がそう仰るのなら」

見た目的には佐藤の方が年上に見えるが、大人の社会、とくに軍事的なものは
階級が物を言うらしい、とくるみは思った。

如月「じゃ、いきましょうか」

再びヘルメットをかぶろうとはせず、そのヘルメットをくるみに被せた。佐藤は自分のヘルメットを付けたが。

如月「では、頼む」

一瞬にして、教室から、学校から500メートル離れたコンビニに止めてあるワゴン車の中に移動した。
くるみの瞳は刹那の瞬間に街の風景を一気にとらえていた。
普通なら見えるはずの無い世界が、彼女には見えていた。
その事に驚きはせず、感動もせず、何も思わずただ受け止めていた。
今まで何度も世界を繰り返してきた彼女だからこそ冷静にいられるのだろう。


 車内に移動した三人は、元々いた一人の男性に迎えられた。
迎えられたのは如月と佐藤。でもくるみを見ると男性は目を輝かせて「新人ですか?!」と言った。
おそらく普通の車なら外に漏れるほどの声量だっただろうが、この車は何やらすごい防音設備らしい。
聞けば「ここで拷問をする事がおおいから」とか。すこし驚いた顔をみせたくるみだが、やはり冷静に
(心の中は穏やかではないが)聞いている。もしくは聞き流している。

くるみ「杜くるみです…よろしく」

悠「どうも!桂悠二等兵です!ほぼ雑用ばっかりしてるけどね」

「あはは」と無邪気(?)な笑みを浮かべながらもきっちりとした敬礼を見せる。

如月「こいつはモニター、周りの状況を逐一報告してくれる非戦闘員だが、役に立つぞ」

悠「お、お褒めの言葉ありがとうございます!」

如月「はいはい」

軽く受け流す。
見ていてわかる明らかな「面倒」と言いたげな顔。もはや隠す気すら見えない。
その姿を「いつもの事」と言わんばかりに悠が先程まで座って作業していた机の上にあった
缶コーヒーをのみながら見ている佐藤。

くるみ(あんな事があっても気にした様子は無い…本当に『いつもの事』みたいだ)

そんなことを三人を見て思っていたが三人は気づいていない。
少しして、悠が運転席へ行き車の運転を始めて、彼らのホームと呼ばれる場所に向かいだした。
ここでくるみはようやく自分の置かれている状況に気が付いた。

くるみ(…ん?強制的に仲間にされた?…のかな)

時すでに遅し。くるみはあがく事もできず、車に固定された椅子に腰を落とす。
この車に窓はない。が、それは見た目だけの話で内側からみればマジックミラーのように(外側は紺色一色の塗装)
外は丸見えだ。すべてではなく、椅子に腰を落としてちょうどいい位置が見えるようになっている。


数十分、車に揺られ、付いた先は高層ビル。
1階から3階以外上の部分すべてがガラス張りの78階建ての高層ビル。
その高層ビルの端にある車用のエレベーター。このビルの1階から3階までは駐車場になっている
この車用エレベーターは駐車場より上の最上階まで行くことができる(3階から77階までには止まれない)
そのエレベーターに乗り、最上階まで一気に上る。

チーン、とエレベーターが到着の合図を示す。
エレベーター内は大型車が約12台は入れる広さで、今は大型ワゴン車が一台。
余裕で人が降りても大丈夫な広さだから運転している悠以外は車から降りて二面ガラス張りのエレベーター内
から、外を見ている。

くるみ「…高い」

ガラスに手を付き、下を見てボソッとつぶやいたセリフに、
横にいて、ジャケットのポケットに手を入れいていた如月が首を曲げ、
顔だけをこちらに向けて「苦手なのかい?」と聞いてきたので、くるみは首を横に振り「好きです」
と答えた。その答えに如月は「そうか」と言って再び外を見ていた。

すでに車を室内に入れて車から降りていた悠が二人を呼びに来た。
佐藤は車が出るのとほぼ同時に降りて、先に行っていた

悠「そろそろ降りないと待ってる人がいるかもなんですから」

如月「ん、あぁそうだったな」

先程同様、首だけを向けてそう答えた後、くるみを見た。

如月「さ、半ば無理やり連れてきたが…」

くるみの手を右手で引っ張り室内に連れて行き、開いている左手で室内を廻すように腕を廻す。

如月「ようこそ、我が城へ」

そういって如月はくるみの目を見て「ようこそ」と、次はだれにも聞こえない声で言った。
室内には先の三人の他に数名の若者がいた。若い男女はくるみを様々な目で見た。
珍しそうに見る者、悠のようにうれしそうに見る者、観察する者、様々居た。
が、誰もが歓迎を込めて手を振ったり挨拶をしたりしてきた。
くるみは何も言わず一礼した。そして如月はその姿を真横で笑顔で見ている。

 今日は終りです


それからくるみは如月に言われ56階へと案内され、エレベーター(今度は普通の10人乗)に乗って降りて行った。
フロアに着くと、そのフロアはビルを支えるコンクリートの柱しかなかった。

如月「個々が君の部屋だ」

総面積300坪はある巨大なフロアを指し、彼女は「君だけの部屋だ、自由に使っていい」そう付け加えた。

くるみ「……いや、でかい…でかすぎる」

如月「まぁ、確かに一人じゃ広いだろうが、皆この広さを一人で使っている。中にはアスレチック作ってるやついるぞ」

くるみ「…」

如月「改造する場合は私に行ってくれ、資金は免除してもらえる」

「してもらえる」とは、この組織が国の全面補助を受けているということ。
資金面、食糧麺。安全面は自分たちでとの事だが、衣食住の生活面での事はすべて免除されるらしい。
予想以上のすごさにくるみは絶句する。

如月「と、言っても最初っからは無理だろうから、しばらくはルームシェアでもいいぞ」

くるみ「ルームシェア…ですか」

如月「知らない?」

くるみ「いえ、知ってますけど…誰と?」

予想はできているが、改めて問う。

如月「私と…だが?」

改めるまでもなかった。と、肩を撫でおろしため息をつく。

如月「いやか?」

くるみは頭を横に二度振り、体ごと如月を見て「よろしくおねがいします」と一礼する。
如月はニッコリ笑って頭を下げているくるみの頭をワシャワシャとかき回すように撫でる。

二人は如月の部屋(フロア)に行くために再度エレベーターに乗っていた。
エレベーターの階を示す数字のボタンはよく見れば数字ではなく名前が記入されていた。
今いた56階にはまだ名前がない。
そして如月はその名前の無い部分に『くるみ』とペンで書き加え「よし」と言って口にくわえていたキャップに
ペンを挿し、自分の名前が書かれているボタンを押した。

如月の部屋は77階。ボタンは名前だが、上に示されている階の表記はそのままだ。

如月「基本私はここか上の先程皆がいた場所にいるから何かあったら固定電話があるから連絡をくれれば行くよ」

エレベーター内に一個、そして各階に一個づつある固定電話はこのビル内以外にもかけられる。

くるみ「わかりました」

如月「あぁ、それと君の能力だが」

くるみ「はい」

エレベーターを出た所で如月は面と向かって話だす。

如月「制御できるようになってもらいたい」

「制御」とは、その文字通り、自分の意識下で使えるようになるということ。
くるみの今の状況は「暴走」。今まで何度も世界を繰り返していることから如月はその事をはっきりとわかっていた。
だから彼女は「制御」と言った。「制御」して世界を繰り返すのを止めるために。

くるみ「いえ、制御はできるんです」

如月「……へ?」

だ、予想外の言葉に如月は組んでいた腕をブランッ、とだらしなく解き、肩を下げ
目を見開き驚きと訳が分からない、と言う顔を無意識にしている。
旗から見たらただの変顔をしている変人だが、彼女は「制御できているなら世界をなぜループしている?」と思っている。
そこからさらに深く考えていき、結局はパラドックスにはまってしまい、こんな間抜けな顔になってしまっている。


くるみ「その…制御はできるんですが…できない能力があるんです」

くるみの言葉に如月はさらに体の力が抜け、ガクッ、と足のバランスを崩し、横に倒れる寸前で
体制を持ち直し、やっと自分がだらしない格好だったことに気づき、咳払いを一度して
腕を組み直し、近くにあった椅子に腰かける。
そんな如月に手で示されてくるみも席に腰かける。

如月「…すると何か…君は多重能力者…と?」

くるみ「たぶん…はい」

如月「君はまだそのもう一つの能力が制御できない…と」

くるみ「ループしているんですが、ループして無いと言うか…まだ本当に能力が二つあるのかわからなくて」

くるみの言葉を聞き、自分も訳が分からなくなり、首を傾げ考え込む。
考えても分かる事はなく、首を傾げ、上を向き、腕の中に顔を埋め、また首を傾げ、結局は同じ事を繰り返す。

如月「…だめだ、私じゃわからん」

そういって勢いよく立ち上がった如月は固定電話に手をかけ、番号を入力する。
暫くして、電話がつながる。


如月「私だ…」

そう告げると電話をスピーカーモードにしてくるみにも聞こえるようにする。

『あ、姐さん?!かえってらしたんですか!』

電話から聞こえてくるのは少しハスキーな声の若い男の声。

くるみ(姐さん…)

如月「お前頭よかったよな」

『それは…自分で言うのは』

如月「今から私の部屋にこい、三秒だ」

『そんな無茶な!俺の部屋20階ですよ!?』

如月「い~ち、に~い、さ━━」

「さん」を言おうとした瞬間、地面に足が現れ、徐々に下半身、手、上半身、腕、肩、首、顔と
砂の城が崩れたのを逆再生したように、何かが集まり体が、人が出来上がっていく。


くるみ「ひえ?!」

その光景を見て、後ずさりしようとして椅子の背もたれに抱きつくような姿になる。
その声を聴いて、姿を見た如月と現れた男性が「おっと」と、何かを忘れていた。と言う表情で
見ている。

如月「すまないすまない、こいつは……お前どんな能力だっけ」

男性「俺っすか、簡単にいうと…量子化?ですかね」

如月「疑問形で言われてもな」

男性「難しいんですよ、説明すると、量子学やらなんやら」

くるみ「えっと…トンネル効果ってやつですか?」

男性「ん!君分かる系?!」

くるみ「え、えぇ…多少は」

くるみの言葉に男性は首を思い切りねじり、勢いよく、くるみの手を握り目を輝かせている。
如月はその姿を見てポカーンとしている


如月は男性がくるみの手を握って離さずに淡々としゃべり続けているのを見てやれやれ、
と頭を横に数回振り、男性の頭を思い切りグーで殴りつけた。

男性「べひっ!」

喋っていたからだろう。下を思い切り噛み、床にうずくまりくるみの足元で、
口を手で押さえて悶えている。

くるみ「え…いいんですか」

如月「困っていたんだろう」

くるみ「まぁ…多少わ」

如月「ならば問題なし、モーマンタイ!だ」

腰に手を当てて高笑いをしだす如月をみてくるみは苦笑いしかできなかった。
男性は何事もなかったかのように一緒にわらっている。
その姿を驚きしかない表情でみつめていると男性が「惚れた?」と言ってきたので如月が再度鉄槌を下す。


その日は時間も遅いので、と男性は帰って行った。帰らされた。

それから二人は風呂に入り、皆が集まっていた先程のフロアで食事をとり、
各自、遊んだり、勉強したり、部屋に戻ったりと自由に行動していた。

結局眠りについたのは日をまたいでからだった。
くるみは久々に楽しいと思い、眠りについた。

翌朝。
起きるとくるみは如月の抱き枕にされていた。

くるみ(……胸が邪魔でしゃべれない。)

如月はかわいい熊のイラストが入った黄色っぽい色のパジャマを着て熟睡している。
パジャマの前、胸元がボタンが止まっていない。と、言うよりボタンが存在していない。
そんな彼女の豊満な胸に顔を埋めて息はできるが喋る事が困難で助けも呼べない。(よんでもこのフロアには誰もきはしない)
くるみはそんな状況で自分の胸に手を当てる。

くるみ(……………まだ大丈夫)

そんな事を思いながら力いっぱい如月の身体を話そうと押す。


あの後、如月をお越しに来た一人の少女によってくるみは助けられた。
少女の名前は「藤美咲」見た目年齢10歳前後の赤いワンピースに黒髪ロングの女の子。
彼女は如月を起こすとそのまま身支度をさせて皆が待つ上のフロアへと手を握り、連れて行った。
その間寝ぼけたように欠伸えおして目を掻いていた如月。
見ていると、ダメな親を介保する真面目な子供だった。そのまんまだが、言い方を変えるなら、親子。
そのあとに続き、くるみも身支度をしてエレベーターに乗った。

皆が集まり、昨晩同様食事をとる。
今朝はパンとサラダ、目玉焼きにウィンナー、そして飲み物は牛乳、オレンジジュースの二種類。
飲み物以外はすでにテーブルの上に並んでいた。
くるみは長テーブルの真ん中に座った。

如月「…では皆、知って入るだろうが、改めて自己紹介と行こうじゃないか」

先程までとは打って変わり、キリッと真面目な顔に変わる。

如月「と、言っても今は2人しかいないか」

2人とは、如月、佐藤、くるみ以外の人数。
この場には三人の他に、先程の少女、美咲ともう一人見知らぬ女性がいる。

佐藤「他の奴らは地方に行っている。帰るのはおそらく一週間ほどでしょう」

如月「そっか、んじゃ、私と佐藤はもう自己紹介したしいいか」

そういうと如月は「美咲と輝(てる)は自己紹介してやってよ」と続けた。
如月の言葉の通り、くるみ向かいに座っている女性、輝が手を差し伸べてくる。

輝「私は北山輝、ここで飯などを作ってる、この朝食も私が作ったんだ、今日は寝坊して手抜きだが、ゆるしてくれ」

「クールビューティー」の言葉が似合う。そうくるみは思った。
差し伸べられた手に答え、握ると輝も握り返してくる。輝は少し微笑み「さ、冷めないうちに食べてくれ」
そういって握った手を放し、手でさらに盛られた朝食を示す。

くるみ「あ、はい…いただきま…」

手を合わせようとしたら横から小さな手が差し伸べられる。


美咲「美咲、藤美咲よ…改めてよろしくね…名前いいかしら?」

見た目に反し、大人びた口調と冷静さ。
その事に惑わされることなく返答を返す。

くるみ「杜くるみ…よろしくね」

美咲「えぇ、よろしく……あと勘違いしているようだけど、私小学生じゃなく高3だから」

くるみ「…え」

美咲「やっぱり勘違いしてたわね」

くるみ「…先輩」

美咲「あら、そうなの…じゃあこれからよろしくね、くるみちゃん」

にこっ、と頭を無無邪気に横に傾げて笑い、自分の席に戻り、
朝食をとり始める。

輝「もー美咲ちゃん行儀悪いよ~」

美咲「あら?そうかしら」

輝「椅子の上に立って挨拶はダメだよ~」

如月「目線があわないんだろ…しょうがないさ」

美咲「ちょ!そうですけど何も直球に言うこと…」

彼女はたぶん、と言うか絶対いじられキャラなのだろう。くるみはその時確信した。


朝食を終え、くるいは如月に行ってボールを大量にもらい
自分の部屋と言われるフロアに来ていた。

くるみ「……能力の制御…か」

手に持つ袋には大量の野球ボール大のカラフルなゴムボール。推定40個。
その袋を空中に投げる。
中に入っているボールは空中でまき散らされる。

くるみ「……」

パチンっ、とくるみが指を鳴らす。
すると一瞬にしてボールがその場で動きを止めた。

くるみ「…時間を操る能力」

くるみ「制御はできる…でも」

パチンっ、再び指を鳴らすとボールは垂直に落下し、地面に叩き付けられ
大量のボールが弾ける。

くるみ「……なんでループするんだろ」

したから顔の前に跳ね上がってきたボールを手に取り、ボールを力いっぱい投げる。
そこに、エレベーターが空き、如月の顔が現れる。
如月は携帯を見ていて気づいていない。

くるみ「あぶない!」

如月「え」

その言葉でようやく気付く。が、ボールはもう顔のすぐ目の前にあった。
くるみは手を伸ばす。


ボールには届かないことをわかりながら。
当たってもけがはないが、くるみはとっさに「戻れ」そう念じた。

ボールは方向を変え、くるみの方に飛んでくる。
如月は再び(?)下を向き、携帯を触っている。
エレベーターの扉が閉まり、エレベーターは上へあがって行く。

ボールがくるみの肩辺りまでくると、ボールは地面に落ちた。
くるみが手に取るのではなく。

世界は元に戻った。世界の時間が数秒戻った。

くるみ「……今のは」

自分も知らぬ出来事。
思い耽っているとエレベーターの扉が開き、携帯を見ながら如月がフロア内に入ってくる。


ふと、頭を上げ「ん?今ボール飛んでこなかったか?」と言ったが、
くるみは無言でそれを見ている。

如月「ん?私の顔に何かついているか?」

くるみ「…いえ……きれいな顔です」

何も考えずでた言葉に如月は「そ、そうか」と照れくさそうに手を頬に当て
恥じらいをみせる。


如月「それより今……あ、いや…気のせいか」

携帯を胸ポケットにしまう。今日の姿は白い無地の半袖に白の半袖シャツにジーパン。
普段着なのだろう。昨日の黒坂らは想像もできない。
こんなことを言ったら全国のサラリーマンさんに偏見を持っていると思われるかもしれないが
ヘルメットまでかぶって全身黒を装っていたのだ。無理ない。
それに、彼女の髪色は明るい茶色。でどこにでもいる楽しいキャンパスライフを楽しんでる
普通の女子大生にしか見えない。(少なくとも今は、の話)

くるみ「あの」

如月「ん?…あぁ、そうそう君に来てもらいたいところがあってね」

くるみ「来てもらいたい?」

後ろを向き、エレベーターに向かい歩いていく如月の背中にかけられる問い。

如月「我が組織の武器を作る場所だ」

その問いに簡潔に、そして曖昧に答える。

くるみ「ぶ、武器って…」

如月「もちろん……人を殺す道具だよ」

彼女は顔を見ずに、ただエレベーターの扉をボタンを押し、開け、乗り込んだ。
そしてくるみを見て言った。

如月「見ただろう…人が殺される、私たちが殺した奴を…そして君は見慣れているはずだ」

噛むことなく、淡々と言い放った。

如月「人が死ぬ様を」


彼女の言葉にくるみは今までの言葉を、殺すと言う意味を、事を受け入れた。
今まで何度も繰り返し見てきた友の死をすべて受け入れた。
くるみの意思は死を受け入れた。
くるみはエレベーターに乗り、ビルの地下へと降りていく。

地下までは約五分。
2人は無言でいた。
聞こえる音はエレベーターが効果する時の風を押す音、そして微かに聞こえるワイヤーの擦れる音。

くるみ「……ワイヤーが擦れるってどうなんですか」

ここで沈黙が破られる。
その言葉に如月は驚き、慌ててフロアのボタンを押した。

13階。そこでエレベーターは止まり、扉が開いた。

如月「降りろ!」

彼女に背中を押され、崩れるようにフロアに投げ出される。
如月も後に続き、飛ぶようにエレベーターから降りる。


如月が降りると同時にエレベーターは傾き、耳障りな音を立て、落下していく。
エレベーターがなくなった後の空間には何もない。それが普通だった。

が、2人の目の前にあるのはゴリラのような図体をした得体のしれない『化け物』

如月「…『異獣』」

異獣(いじゅう)とは、世界が超常現象に包まれた日に現れた化け物。
その実態は明かされておらず、ただの突然変異種として言われてきたが、
この『異獣』は元はこの『世界』にはいなかった生物。
その実態はいまだ解き明かされておらず、『異能者』同様に、『超能力』を使う生物と言うことだけは
世間一般にも知らされている。
世間には能力を使ったら死ぬと言われている。が、それは嘘。

如月「…こいつらは人間より厄介だぞ…」

ガーンッガーンッ……バァアアァァンッ!とエレベーターが爆発した音がビル全体に伝わり、
すぐに振動が伝わる。

如月「あんなんじゃ壊れないから大丈夫…だと思う!」
シャツの内側から拳銃を取り出し、背中にくるみをかばいながら後ずさりをする二人を見て
異獣はズシ、ズシ、と一歩ずつ、確かに迫ってくる。


如月「こんなことなら音楽プレイヤーもとっけばよかった」

くるみ「携帯じゃダメなんですか?」

如月「私の音楽プレイヤーは想像した音楽をそのまま流すことができる特注品でね…普通の携帯じゃ何もできないんだ」

胸ポケットの携帯を異獣に投げつける。
携帯が顔の前につくと同時に引き鉄を引く。

如月「ふせて!」

異獣に背中を向けて低くしゃがむ。

銃弾は携帯に当たり、携帯は勢いよく爆発する。
爆風で前のめりになる2人。
すぐさま振り返りやったか確認をする。

如月「……しぶといのは嫌われるよ」

立ち上がり、両手で銃を構え、安定させる。


異獣「……それは困った」

くるみ「喋った?!」

異獣「…問題が?」

低い声で、鋭い眼光で睨みを利かせてくる。

異獣「…私たちは貴方たちと同じ人間ですよ、喋ります」

如月「人間だと…!」

銃口を眉間に定める。

異獣「えぇ…おっと、これ以上は有料です」

そういうとゴリラのような異獣は手のひらをこちらに差し出してきた。

異獣「ジャッジメント!…消え去るがいい」

異獣の周りが凍りつきはじめ、やがて二人の足元が音を立て広がってくる。
だが、それ以上の侵攻はない。

異獣「…どうした、なぜいかない!」

『人の部屋で何やってんだ…』

2人の後ろの柱から女性がでてくる。
その女性は…。

輝「この部屋を…この、北山輝のキッチン(部屋)と知っての事ならば…私の能力が貴様を調理するぞ?」

如月「よ!北山シェフ!」

そういって、身体は輝を見ているが、銃を持っている手は異獣へ向けている。
そして、引き鉄を引く。

くるみ(さらっと引いた…)

輝「……あ?異獣……なんでこんなところに結界は?」

如月「しらんが、たぶん爺さんに何かあったのかもしれない」

輝「っ!どうせエロ本でも見て気が緩んだんだろ」

くるみ(結界?爺さん?…え、え……本?)


異獣「結界…なんのことかしらんが…貴様、何をした」

輝「あんまり寄らないでくれ…調理場に動物が入ると衛生面に問題が生じる」

両手をクロスさせバッテンをつくり、拒否を表す。
その態度に苛ついたのか、異獣はバスケットボールは軽く手に収まるだろう大きさの
手に氷の球を、その手に収まらないほどの大きさのを作り出す。

異獣「…うせろぉ!」

そのてから放たれた氷の球は壁でもあるかのように、先程の地面の侵攻が途絶えた場所で
一気に蒸発して消える。

輝「不愉快だ…湿度が上がるじゃないか」

異獣「貴様…カグツチの眷属か…」

異獣は後ずさりを始める。
一歩一歩、ゆっくりと。

輝「カグツチ?」


異獣「……いや、アグニか」

輝「何言って?」

如月「…神の名…輝は炎の能力だから…」

異獣「ッチ、相手が悪いか…私は引かせてもらう」

そういうと異獣の身体は一瞬にして氷の氷像となり、一瞬にして崩れる。

如月「…一体なんなんだ」

輝「いや、それはこっちのセリフなんだが」

くるみ「…それより、エレベーター壊れたの…どうするんです?」

壊れて、開いたままの何もない空間を指し、考え込んでいる二人にくるみが話しかける。


如月「……非常階段…かな」

輝「え」

くるみ「え」

如月の言葉にそれしか言えなくなる2人。
このビルは70階以上ある高層ビル。
それをすべて階段で移動するというのだ。

如月「いやぁ……このビル人用これしかないし…さ」

2人は無言になる。
その無言に耐えきれず、如月は走って階段まで逃げる。
そのあとを鬼の形相で追いかける輝。その後ろにくるみ。
階段から一気に駆け降りる如月をおって二人も降りる。

結局三人は全力で会談を降りて、地上に着いた時には息切れで誰も動けなかった。


今日は終り。

いろいろつめましたが、変に考えないで流して読んでくれるとうれしいです^^;
ではまた


後で皆がエレベーターが壊れたこと。異獣が現れたことを知り、
暫くは1つのフロアを皆で使うことになった。
なぜ1つのフロアなのかは、「また異獣が現れた時に数人では対処できるかわからない」と誰かが言った事だった。

皆の投票で使うのは4階となった。1階~3階は窓がなく、日の当たりが悪いから。

あの異獣事件から数日後がたった今日。

如月「ハッピーーーーーーー!ハロウィン!」

勢いよく玄関(非常階段へのドアを今は改造して玄関風にしていた)の扉を開け、両手に大量の何かが入ったでかい袋
を持って、大声で叫びながら入ってくる。

が、フロアが広いのと、仕切りがついているせいで声が聞こえたのは近くにいた悠だけだった。

悠「うぇあ?!…あ、姐さん?どうしたんすか…その恰好」

いぶかしげに見る悠の目にはオレンジのシャツに黒のズボン。前でボタンを一つ止めるだけのマントに
パンプキンの柄が彩られた妙にでかい魔女がかぶっているような帽子。

如月「ふふふ、今日はハロウィンだぜ~悠!」

悠(…俺の名前の悠とYOUをかけたのか?…いや、姐さんに限ってそんな事)

如月「あ、いま悠とYOUがかかったみたいじゃない?私天才…!」

悠(気づいちゃった…どうしよ)

如月「…どうした悠?」

悠「あ、姐さん…かわいいっすね!」

反応に困った悠は無理やり方向転換を行ったが、それがまた悪い方向へいってしまった。

如月「おま…ようやく私のかわいさに気づいたか」

両手の袋を床に落とし、胸に手を当てて仁王立ちをしてポーズをとる。

悠「え…」

悠は気づくと如月の自分自慢を聞かされていた。


くるみ「…美咲…さん」

窓辺に椅子を置き、座って読書をしているくるみ。

美咲「ん?」

くるみの座る椅子の横に座り退屈そうにくるみを見上げている。

くるみ「何か用事ですか?」

美咲「ん、いや…ただ暇でね」

そういって「お邪魔したわね」と手を軽く振って美咲は悲しそうにフラッと去って行った。
その後ろ姿をみて「まってください!」と叫んだくるみ。美咲はすぐに戻ってきて何かを
期待した目で見つめている。
本にしおりを挟み、パタンッ、といい音を立てて閉じて椅子から立って椅子の上に本を置く。

くるみ「いっしょに何かして遊びませんか?」

美咲「…そ、そこまでいうなら遊んであげるわ」

くるみ(やばい…ツンデレとか……まじかわいい)

美咲はワンピースの右袖に左手を突っ込み、トランプを出す。

くるみ「おぉ」

パチパチパチ、思わずくるみは拍手してしまった。
その拍手に気分よ下げににやける美咲。


そこにこの前の男性が現れる。

男性「お、なに美咲また手品したの?」

美咲「あら、俊」

「早風俊」彼がそう名乗ったのは事件があった次の日だった。
彼はいつの間にかそこにいて、いつの間にかいなくなっている。神出鬼没な人だ。

俊「いや~みたかったな」

美咲「あら、あなたの首を一瞬にして手に乗っける手品見せてあげましょうか?」

ゆっくりと自分の首を親指でなぞるようなジェスチャー付きで、
不敵な笑みを浮かべながら悠々と語る。

俊「あっはは…それ俺見れなく音ね?」

美咲「あら、馬鹿でもそのくらいはわかるのね」

何処からか出したカードを俊の首めがけ投げる。
カードは滑らかに、直線に俊の首へ滑るように飛んでいく。

俊「おっと!」

砂が崩れるように、俊の身体が消え、それきり姿を現さなかった。

美咲「…くるみちゃん…ごめんね、遊ぶのはやっぱまた今度」

そういって走ってくるみの目の前から去って行った。


くるみ「……」

本を手に取り再び椅子に腰を下し本を読み始める。

くるみ「……」

静かになった。かすかに聞こえる誰かの声に耳を澄ませながら
ほんのページをめくる。

くるみ「…世界は動いている。それだけで私は幸せだ…このまま世界が止まればいいと思うほどに…」

輝「その本に書いてあるの?」

声は真後ろからだった。
気づくと輝はくるみの後ろで一緒に本を読むように顔を真横においていた。
くるみは驚き椅子から立とうとしてこけ、椅子に崩れ落ちる。

輝「おっと…驚かせたかな」

くるみ「い…いえ、大丈夫です」

なにも問題はない。ただ少し驚いただけなのだから。


輝「にしても、その言葉矛盾して無いかな」

小首を傾げるて先の台詞に対する意見を述べる。

くるみ「きっとこの本の人は、その幸せが永遠になればいい、とおもったんですかね」

輝「おぉ、そんな考えが…いや~私も本読まないとだめだね」

考え込むように腕を組んでいたが、「ひらめいた!」と言わんばかりに人差し指を立て、くるみを指す。

輝「よし、私も本を読もう!よし!よしよしよし!」

同じ言葉を連呼しながら外に走って行った輝を何も言わず見送った。

玄関前で話をしていた(一方的にされていた)如月と悠はそんな輝の姿を見て「また思いつきで行動してる」や
「野生ですね」などと言って見送った。


その日の夕方、如月が皆をフロアの中心に集めた。
中心以外は仕切りなどで区切られている。主に寝床は男性と女性に分かれている。
他にはキッチンと食事をとる場所、他は自由な所だ。
他の階から布団やテレビなどを持ってくるのは主に佐藤が能力を使って一人でやってくれた。
皆からの信頼度が少し上がった佐藤だった。

如月「今日はハロウィンです」

悠「そーですね」

如月「ですが悲しいお知らせです」

涙を拭うように腕で拭く仕草をするが、わざとらしい、というか完全に嘘泣きなのはもうばれている。
が、それでもやめようとはせず、結局は話すことよりも演技に夢中になる。

佐藤「…国の方から依頼が着た」

「「「「おぉ」」」」

皆が声を合わせ、目を合わせ、ハイタッチをして喜ぶ。

佐藤「今回は我らの任務は札幌に現れた異獣と異能者の排除だ」

如月「長期遠征です…一か月はかかるでしょう」

佐藤「現在札幌の状況は中心部はほぼ壊滅、住民は軍によってできる限り保護されているが、
今回、異獣、異能者の排除と共に保護も行う事になる」

如月「です」

もはや如月は任せ喋る気はないようだ


佐藤「それで、今回保護班と排除班に分けようと思うんだ」

如月「え、それ聞いてない」

佐藤「私の判断です」

如月「…よし、そうしよう」

どちらが情感かわからない。
が、このガン替えは正しいと思う。各個で戦っている最中に住民を見つけても助けることはほぼ不可能だからだ。

佐藤「今回保護班と排除班は二人一組で行動してもらう。むろん、保護班も住民がいない場合は戦ってもらう」

輝「ん?保護班の人同士?って事?」

佐藤「いや、保護一人、排除一人、その2人だ」

美咲「馬鹿は黙ってなさい」

俊「何も言ってないよ…」

如月「なお、任務には先に札幌に数名言っている」

佐藤「ついでに言うとここに居る美咲、輝以外は保護班だ」

輝「そらそうよ」

美咲「いろんなし」

佐藤の指揮に異を唱える者はいなかった。
もちろん、くるみもこの任務に参加は決定事項。如月はくるみをみて一度頷いた。
それだけ。その頷きだけでくるみはやることをやれと言われた様に感じ、自分の責任。
自分が受けた能力を使う時だと悟った。


会議(?)が終わり、皆は佐藤の能力で屋上に来ていた。

如月「ついに遠征用の転送台を使う時がきた!」

如月がはしゃいで両手を上げている後ろには銀の先のとがっり、細い三角の端が角ばった柱が
四本、4メートル四方で立っていた。
その柱の内側には柱とくっつく形で円形の足場があった。

佐藤「この転送台は私の『武器』だ…私が能力を使うと任意の場所にこの中にいた者(物)すべてを
一緒に転送できる」

如月「ただし帰りは自力!」

その言葉に皆は凍りついた。
現在地は東京都。今から行くのは札幌。国内といえど海をまたぐのだ
それを行きは転送、帰りは自力。そういわれて皆は目を合わせため息をついた。

如月「ま、まあ大丈夫、あっち(札幌)には篠木(しのぎ)君がいるし…ね」

皆はその名前を聞いた途端安堵のため息をついて、佐藤の指示に従い転送台に乗った。

くるみ「え、今から行くんですか!?」


転送台にのっていないくるみが皆の「あたりまえ」の行動に驚き、
一歩前にドンッ、と踏み出し、身体を前のめりに出し、大きな声で驚きの表現を表す。

如月「そうだが?」

くるみ「準備は?!」

如月「あっちに全部佐藤がおくったよ」

その言葉に対し佐藤は親指を立てている。

くるみ(っぐ!じゃないよぉ!)

如月「なお、着替えなどは新品をあちらに送りました」

佐藤「スリーサイズはばっちりだ」

佐藤の言葉に反応した女性全員が一気に殴りにかかる。
台に乗っていなかったくるみも慌ててとび蹴りを食らわせる。

佐藤「ちょ!いだ!ま、まって!いだ!そ、そこは!」

「だめぇぇぇぇぇええ」
空高く広がる声。年不相応の顔の少年(?)は甲高い声でさけんだ。

俊「南無三」

悠「南無」

股間を押さえ悶えている佐藤にしゃがみ、軽く手を合わせる二人。
その姿を憐みと嫌悪の目で見ている女性四人。


暫くして立ち直った、が足が震えていた佐藤の能力で
一気に札幌に到着した。
その刹那、くるみは風景を前と同様一気に視界にとらえた。
前とは比べ物にならない距離間の移動。視界にはいろいろなものが入ってきた。

ついた瞬間くるみは目を押さえしゃがみ込む。

くるみ「っァ!」

その姿にいち早く気付いた美咲がくるみの背中に手をまわし「どうしたの?」と心配そうに
声をかけると、周りの6人も気づいて声をかけるだす。

如月「なにかミスした?」

佐藤「いや…いつもと変わることはなかったはずだ」

如月「…とりあえずここがどこかわからないと動きたくてもどこ行ったらいいか」

周りを見て二人だけの会議を始める。
他の人はくるみを介保して、二人の言葉など聞いていない。

『ここは札幌駅だよ』

すると、上から声が降ってきた。
その声に反応したくるみ以外の全員が上に目をとられる。
紅く煌き、火の粉をまき散らす鳥「フェニックス」。

如月「フェニックス……篠木君!」

フェニックスは大量の火の粉をまき散らすと同時にその姿を消した。
火の粉舞う中から落ちてきた一人の青年。

篠木「どうも…如月さん、篠木美鶴ただいま参上しました」

参上と言うならば如月達の方なのだろうが、そんなことを気にしている場合ではないと
思った如月は「ありがたい」と敬礼をする。


敬礼に敬礼で返すと、如月は「現在の状況を聞かせてほしいの」と来る前までの
お気楽な雰囲気を一切見せずに仕事モードに入る。

篠木「…異獣、異能者は現在街を破壊、または異能者と異獣が戦っています。こちらも街を破壊しながらの先頭
私達組織の異能者はほぼ壊滅」

如月「予想以上に厄介ね」

篠木「住民の保護はほぼ不可能な状況です…なにせドラゴンが8体もいるんですから」

如月「ドラゴン…?!」

篠木「どこから現れたか知りませんが、気づくとそこに居まして…危険因子の異能者も多数被害にあっています」

報告がそこは終わる。
嫌な沈黙が襲う。普通ならそうだ。が、今回は違った。
突如、輝の身体から炎があふれ出る。

美咲「キャ!」

近くにいた美咲が横に倒れこむ。


如月「何してるんだ!」

輝「…ドラゴン……そういったね、篠木」

篠木「輝ちゃん?」

輝「ドラゴン……あの事件の日、私は見たんだよ」

あの事件、世界が超常現象に覆われた日。
その日からこの「世界」は「普通」ではなくなった。

如月「そんな報告は聞いてないが…」

輝「私の家族と友人はすべてドラゴンが食ったのを私は見たんだよ」

ボウッ、と炎が勢いを増し、全身を覆うオーラのようになって
輝の身体に巻きつく。
その姿を見て如月は「なにが言いたい」冷たい目で遠回しに告げる。「戦うな」と。
輝はその意味を察したのか、首を横に二回振った。

輝「…篠木、ドラゴンはどこ」

いつものクールとは打って変わり、目つきは鋭く、拳は力強く握られている。
その姿に如月が今度ははっきり「やめて!」そう言った。
皆は固まった。ズシンッ、と大きな音が皆の動き、言葉、すべてを凍らせた。
その音の正体を見ていない輝以外。


くるみ「……どら…ごん…?」

その言葉に輝は後ろを向いた。
暖かい風が輝の顔に当たる。その風は顔の間近にあるドラゴンの鼻息。

輝「な……」

全長5メートルほどのドラゴンに皆は息をのんだ。
腰を抜かすくるみ、それにつられ腰を抜かし立っていられなくなる悠。
一歩踏み出し、戦いを決意する佐藤、如月、美咲。
俊はこしを抜かしたくるみと悠を無理やり立たせる。

如月「…くるみちゃん」

くるみ「は、はい」

如月「渡したいものがあるの」

くるみ「え…」

如月「…それは基地にあるわ」

くるみ「……え」

まったくわからない。如月の言いたいことが何も。

如月「…篠木、案内、美咲、護衛……頼んだわよ」

「「イエス」」

2人は異を唱えない
この言葉を聞き、くるみは理解した。彼女が戦う隙にその基地に行き、
何かを取りに行けということが。

くるみ「そんな!」

如月「私だって戦うわけじゃない、…ただあしどめするだけ」

そういって如月は「音」を流し始めた。


篠木「こい!フェニックス!」

空に手をかざすと、空中に巨大な火の玉ができる。
火の玉は徐々に大きさを増し、2メートル程になると玉は散り、中からは巨大な火の鳥が
生まれる。

篠木「さ、のって!」

フェニックスの羽に足をのせ、手を差し伸べる。
美咲はその手をつかみ背中までジャンプする。
篠木は手を再び差し伸べくるみの手をつかみ、無理やり乗せる。
三人が乗るとフェニックスは火をまき散らし、ドラゴンに火球を何発か飛ばし、目くらましを
して一気に飛び立つ。
するといつの間にかその場にいた皆が乗っている。

如月「やっぱ無理!」

輝「いや~仇なんてむりだね、あれは無理」

「あははは」と笑い飛ばす。
先程までの感動までの場面は、フラグは全てなんだったのだろうか、
そう思い唇をかみしめるくるみ。その姿を見て苦笑する美咲。
フェニックスは空を翔る。

が、火をまき散らしながら空を飛ぶということは的になりやすい。


今日は終り


篠木「平常運転で基地への道を~」

身体を左右に揺らしながら愉快に歌う後ろで如月がつられて鼻歌を歌う。
その鼻歌に合わせて口笛を合わせ、その口笛に手拍子が加わり、
軽い合唱状態になっていた。

皆が盛り上がる中、突如背後から耳を割るような轟音が鳴り響く。
「オ”ォ”ォ”ォ”ォ”ォ”ォ”オ”」
その音に皆が耳をふさぎ、背後を見る。

如月「追ってきたぁ?!」

篠木「フェニックスの炎で目を焼いたはずだぞ」

輝「あれなら私に当たりそうだったから不正だけど」

「「「おまえかぁ!」」」

輝がキョトン、としていると、皆から罵声が飛ばされる。
「ばか!」「野生児!」「なんか馬鹿!」「よくもやってくれたな!」「お前な…」
呆れ交じりのため息を漏らし、篠木が「まぁ、しょうがない」そういってフェニックスを地上に下す。

如月「え…ちょっと、何で下すのよ」

篠木「すこし足止めしますから、みなさんつかまって目を閉じて」

くるみ以外の全員が何も言わず言われるがままの事をした。
フェニックスは大きく一度羽ばたきをすると、羽を大きく広げた。
上空に先程より大きい火の玉が形成されていく。


篠木「よし!」

立ち上がり、勢いよく火の玉へジャンプする。
火の玉に篠木の手が触れると、炎が身体に纏わりつき、篠木の身体を中へと引っ張っていく。
完全に体が火の中に入ると火の玉はみるみる小さくなっていく。

くるみ「なにが…」

美咲「いいからしゃがんでこの子(フェニックス)につかまって目を閉じる!失明したいなら別だけど」

一瞬だけ目を開け、くるみの頭を掴み無理やりに下を向かせる。
一回の瞬きの瞬間にくるみはフェニックスの背中に這いつくばっていた。

火の玉は約2メートルの大きさになり、篠木の身体に吸収されていく。
篠木の身体からは炎が勢いよく吹き荒れ、背中には日の翼が羽ばたき、
腰からは尾も生えたようになっている。


身体を渦巻いている炎は一瞬にして弾けた。
篠木の身体には鳥のような火の翼と尾がついている(纏っている)。

如月「もういい?もーいーかーい?」

掴んでいた手を挙げ、もう言われた通りにしなくていいか、と問いかける。

篠木「えぇ、大丈夫ですよ」

もう大丈夫、そう促すと皆は一斉に顔を上げ、篠木の姿を見る。
くるみも皆に一歩遅れ同じ行動をとる。

くるみ「……きれい」

激しく燃える炎の翼、先程の燃えているだけの火ではなく、燃えあがり、誰の目も引く炎、
その炎と同じように燃え盛る尾の炎。
身体全身からあふれ出る淡い炎が昼間の街中を太陽より強く照らす。
周りには熱さは感じられない。いつもと変わらぬ温度。ただ少し眩いだけの
綺麗な炎を纏い、篠木は右掌をドラゴンへ向ける。


一瞬にして燃える篠木の身体。
炎が消えるまで二秒ほど。その間に篠木の身体は先程まで居た所にはなかった。
篠木の身体はドラゴンの背後に移っていた。
その姿が見えたのはドラゴンの頭の間から。ドラゴンの頭には約80センチほどの円い穴が
ぽっかりと空いていた。

如月「よし、佐藤!篠木が『落ちたら』即回収、撤退する!」

その言葉に佐藤は立ち上がり、篠木の真下に一瞬で移動する。
如月の言葉通り、篠木の身体からは纏っていた炎が一瞬にして消え、地面へ『落ちた』。
落ちると同時に皆が乗っていたフェニックスは跡形もなく、先程のように炎をまき散らす事無く
その場から消えた。
乗っていた者全員が地面へ落とされる。
が、全員叩き付けられることなく着地する。無論、くるみも自分一人で着地した。
途中手を貸してくれようとしs多者もいたが、一瞬すぎて手を伸ばすことも出来ず一人で地面に降りた。
着地して数秒で佐藤が肩に篠木を抱え姿を現す。

美咲「さ、走れ!」

美咲の号令と共に皆は走り出す。

如月「基地どこだっけ」

篠木「お、大通り公園…です」

佐藤の肩につかまりながら後ろを走る如月の質問に答える。
答えを聞いた如月は悠を呼んだ。

悠「なんしょう!」

如月「お前、一人で行ってくる事伝えとけ」

悠「分かりました!」

悠「開け~ゴマ!」

腕を手刀のようにして思いっ切り上から下へと振り下ろす。
すると空中の斬られた部分避け、空間がよじれる。

悠「では、お先!」

その空間の中に入り悠は姿を消す。

輝「あ、ずりー!私も連れてけ!」

閉じかけている空間に無理やり走りこんでいった輝。
一気に二人が姿を消した。

如月「あ!お前居なくなったら戦えるのいなくなる!」

追っていく輝を止めようとして手を伸ばすが届かない。

美咲「私居ますよ~!」



如月「ああああああ!もう!」

頭をかきむしりながら走る如月を仰向けの状態で無表情で見ている篠木。
その篠木を如月の後ろで見ている美咲。

五人(プラス一人)は大通り公園へ向け走る。
すると、五人(プラス一人)の前に物陰から一人の少年の姿が現れる。
服装はボロボロ、所々キズや火傷が目立つ。
その姿をみた如月は倒れそうな少年に駆け寄る。

如月「大丈夫かい?!」

少年「…?」

美咲「!…だめ!その子に近づいちゃ!」

そういって速度を上げ、如月の前に躍り出る。
少年の手は氷でできた刃がが覆ている。


その手を勢いよく振り上げる。
氷の刃は美咲の服を少しかする。かすった部分は凍り、すぐに砕け散り
素肌を露にする。

美咲「きゃ!」

少年「邪魔だよ…」

沈んだ声でそう言った少年は振り上げた手を勢いよく振り下ろす。
美咲は袖からトランプの箱をだし、箱を開けて、箱を勢いよく振りカードに触れず遠心力だけで
カードを出す。カードは垂直に出たまま空中で固まり、そのまま少年の氷の刃を受け止める。

少年「っ!…お前も俺と同じならなぜ邪魔をする!」

美咲「同じじゃない…私たちは貴方たちを粛清する者!」

固まっていたカードは一瞬にしてばらけ、空中を舞うように少年を取り囲む。
四方八方に散らばったカードは少年を取り囲むと空中で静止した。


少年「何だ?!」

自分を取り囲むようにしているカードを見て少年は動きを止めた。
止まった瞬間が美咲にはチャンスとなり、一瞬にして決着がつく。

美咲「私は、念力使い…物体を自由に操れる。そう、自由に」

美咲の言葉が終わるとカードは少年の身体にめり込むように刺さる。
52枚のカードが少年のいたるところに刺さる。

失神した少年の身体から赤く血に塗れたカードが自動的にカードケースに戻って行く(ように見えるが実際は意図的に動かしている)。


美咲「大丈夫…重症だけど地は流れないようにしたし、そのうち起きて自分で動けるはずよ…たぶん」

如月「俊!」

俊「了解です」

倒れた少年の前に現れ、少年を抱える。
その姿を見て如月は皆の前に立ち、走り出す。

如月「急げ」

皆はその後ろにただ付いて行く。


暫く走り、悠と輝が手を振っているのが見えた。
2人と合流すると現地の軍の人だと思われる人が接触してきた。

雪子「清水雪子軍曹です!この度は遠いところご足労ありがとうございます!」

綺麗な敬礼のフォームに全員が敬礼で返す。雪子軍曹に尻を向け、佐藤に担がれている
篠木も見えないところで敬礼をする。

如月「如月静香中尉だ、現在の状況は一通り聞いた、住民の保護は?」

敬礼をとき、敬礼をいまだにしている雪子軍曹に直れの合図に腕を軽く振り下ろす。
敬礼を解いた雪子軍曹は後ろで手を組みなおした。

雪子「は!住民の保護はできうる限りできましたが、名簿がないが故にどれほどかまでは」

最初は大きな声だったが、徐々に不安が混じる声と共に背筋も曲がって行った。

如月「現在保護しているのは?」

雪子「……24人です」

如月「たった?!」

雪子「いえ、保護したのは200人前後なのです、他は先程輸送車が来たので」

如月「その人たちは何処へ?」

雪子「現在千歳空港へ」

如月「北海道から遠ざけるのか…確かに北海道はほかの県とかと比べて異能者の管理がいまいちだからな」

異能者だと認められ、その存在を国が認め、異能者であると知っている事。
そして適切な環境下で暮らせるように国が手配する。そうして管理課で異能者は育っている。
が、北海道はほかの場所と比べでかく、人が一か所に集まることが少ない事から
いまだに異能者がどれほどいるかわかっていない。
もちろん北海道以外も全員分かっているわけではないが、北海道は異能者だと分かっているのは
おおよそ全体の3割程度だと言われている。


2人が話していると、
奥に数個あるテントの中から子供が一人でてきてこちらに走ってくる。

美咲「…異能者か」

袖からトランプのケースをだし、左足を一歩下げ構えをとる。
その姿を見えていないにもかかわらず、如月は「待て」と言って右手で美咲の視線を閉ざした。

如月「あの子はたぶんさっきの子の関係者だろう」

さっきの子、先程美咲が重傷を負わせた氷の刃の腕を持った少年。
美咲はケースを袖の中にしまい走ってくる子供の事を見ていた。

子供「あ、あの!」

如月を見上げてくる三つ編みの少女

如月「なんだい?」

しゃがみ、話しかけてくる少女の目線に合わせる如月。
少女は如月の目を見て「男の子を見ませんでしたか?!」そういって泣きそうな顔になっている。

如月「…あの子かな?」

後ろが見えるように体の向きを変え、俊がお姫様抱っこをしている少年を見せる。

少女「~~!」

少女は口を押さえ、少年に駆け寄る。
俊はしゃがみ、少年と少女の目線を合わせる。


少女「あ……ウソ」

少年を見て涙がこぼれる。
その涙を拭い、また出てくる涙をまた拭う。少女はどんどん泣き崩れていく。

美咲「…すまない」

少女の背後に立ち小さな声であやまる。
その声を聴いた少女は振り返り目を見開き美咲の顔を見ている。
少しして少女の涙が止まる。少女は拳を握りしめ美咲の顔を真正面から殴りつける。

美咲「ッ!」

如月「……」

雪子「ちょ!」

その光景を雪子軍曹以外のすべてが目をそらさず、無言で見つめている。
止めに入ろうとした雪子軍曹を如月が止める。「何故」そう言いたげな顔をしている彼女に
如月はただ首を横に振った。それだけで彼女は止めようとするのを止めた。

少女の小さな拳が強く握られる。俯く少女の目からは涙がポロポロと零れ落ちる。
そんな涙のように雨がポツポツと降り出した。
雨か涙か、どちらかに濡らされた小さな拳は、徐々に力を失い、
少年の方へと振り返り、少年を抱く俊へ「風邪ひいちゃうから…中に入れてください」そういって
案内するようにテントの中へ入って行った。俊はその後を何も言わずに付いて行った。
それ以外の皆は雪子軍曹に案内され、別のテントに案内された。


雪子「こちらは今は住民がいないので好きに使ってください、そちらから送られた荷物もまぎれているはずですので」

そういって箱詰めにされた一杯の荷物をゆびさして雪子軍曹はテントの外へと走って行った。
総指揮官の所へでも行ったのだろう。と、いってもこんな最前線に指揮官がいるわけもない。
おそらく電話でもしに行ったのだろう。

如月「…美咲」

美咲「はい」

如月「少し休んどけ…」

美咲「ッ……はい」

如月の「休んどけ」それは今回の事が吹っ切れるまで作戦から外す、そう言う意味だった。
その意味を知っていた者すべてが口を閉ざした。

午後7:00丁度。


くるみは先程の少年が入って行ったテントに居た。
そこには怯えている住民たちの姿があった。
皆が毛布にくるまり、固まっている。内側に子供、そのに大人。
そうして暖をとっている。
そんな中にくるみが現れると、いっそう住民の顔は強張ったものになった。
中でも先程の少女は少年を背後に、両手を広げて「近寄らせない」そういう雰囲気を出していた。
くるみは少女の前に立ち、頭にポンッ、と手を乗せて言う。「大丈夫だよ」
その言葉に少女は力が抜け、腕をだらん、と下す。

くるみ「少し我慢してね…」

眠る少年の身体に両手を置く。

少女「な、何を…するの…!やめて…それ以上傷つけないで!!」

必死にくるみの背中を叩く小さな手。
くるみはそれを無視する。

くるみ「…ごめんね」

少年「…!アァァァァァアアアアアア!!!!」

少年が悲痛な叫びをあげる。
その声に外から軍人、そして如月、美咲、輝、佐藤、俊、悠、篠木、皆がやってくる。
悶え、叫ぶ少年の身体を無理やり押さえつけるくるみの背中を泣き叫びながら叩く少女の姿が、
その場にいた住民、軍人、仲間全員の目に映る。


美咲「何をやっているの!」

少年からくるみを引き離そうと必死に引っ張る美咲。
それを「やめろ」そう落ち着いた声で止めに入る如月。

美咲「何故です?!この子がこんなに泣いているのに!」

少女「やめてぇえ!!いや!やめてよお!!!やめでぇえええええ!!」

くるみの背中を殴る少女を見つめる二人。

如月「それはそうだが…少年の身体の傷を見ろ」

だが、如月が見たのは徐々に塞がって行く少年の傷と、
涙を流すくるみだった。

美咲「…え」


今日は終り


少女も如月の言葉に反応して、泣きながらも少年の血がにじんでいた傷跡に目をやる。

少年の傷口は徐々に塞がっていっている。が、傷跡が消えることはなかった。
くるみ曰く、身体の時間を一気に巻き上げ、傷口が塞がるまでにしたらしい。
その際に一気に体が活性化するから痛みが伴うらしい。少年の悲鳴は驚きからくるものだったらしく、
後から聞くとそれほど痛くはなかったとの事。少女はその言葉を聞いて少年を何度もどついていた。

それから、くるみは配給のココアを片手に噴水近くの壊れかけのベンチに腰かけていた。
壊れかけと言っても所々穴とささくれがあるだけで、すぐに崩れ落ちるようなものではない。
座る際に気の破片をどけ汗すれば不通に座れるベンチ。
くるみが座る横に破片を取り、ココアのコップをにこもってきて美咲は座り込む。

美咲「…二つ持ってきたけど…無駄だったかしら」

くるみの持つコップを見て自分の持つ二つ目のコップを見て「あらら」と肩を下す。

くるみ「いえ、飲み終わっちゃったし…いただけますか?」

美咲「あら、太るわよ?」

くるみ「持ってきたのに言います?」

美咲「……ふふ」

「負けた」そう言いたげに笑いながら右手に持つコップを手渡す。
手渡されたコップには珈琲が入っていた。

美咲「大人使用よ」

くるみ「いただきます」

両手でコップを受け取り、軽く頭を下げ、コップに口を付ける。
「にがい」と顔を引きつりながらももう一口、二口と飲んでいる間にだんだん慣れてきた。

美咲「貴方のは砂糖入りよ」

くるみ「あはは……ありがとうございます」

ひざ下が異様に短いワンピース姿の美咲は優雅に足を組み、腕を組みながら片手で珈琲をのんでいる。
体系の割に意外と足が魅力的な美咲。その足にチラチラと視線をとられながら珈琲を飲むくるみ。
そんな視線に美咲がキスか無いわけもなく。


美咲「…堂々と見たら?女どうしよ」

目を細めながらクスクスと笑いながらコップに口を付ける。
美咲はそこで気づいた。コップの中が体と言うことに。

美咲「…あら」

くるみ「…のみます?」

自分の飲んでいたコップを差し出す。そのコップを「ん」とだけ言って
受け取り、飲み干す。

美咲「全然入ってないじゃない」

くるみ「飲みましたからね」

美咲「…さ、そろそろ戻りましょうか、身体が冷えちゃう」

飲み干したコップが三つ、宙に浮き、重なり合う。
そのコップはくるみの目の前に移動し、くるみがコップの下に手を差し出すと
ポトッ、と落ちてくる。
その姿を確認して美咲はテントの方へと歩いていく。


テントに帰ると、全員が寝静まっていた。
現時刻午後11:58分。
早苦も無く、少し遅い?くらいの時間だった、平均で見ればの話だが。

くるみ「あ…ねてる」

小声でそういうと隣にいた美咲が「皆任務中はみんな早いの」そういって
用意された寝袋を二個手に取り、一つは広げ、下に敷き、もう一つは広げ掛布団として使っていた。

美咲「私は狭いところでは寝れないの…おやすみ」

そういって眠りについた。

くるみ「……私のは」

見渡すと寝袋は今ので全てらしい。
くるみは何か代用になる物はないかと探したが段ボールくらいしか見つからなかった。

くるみ「………」

如月「美咲は一度寝ると起きないから一緒に寝ると良いぞ……ムニャムニャ」

くるみ「?!……起きてますよね」

如月「結構寝てる」

くるみ「ちょっと起きてるんじゃないですか」

如月「……スピー」

鼻提灯ができて、いかにも寝ましたと態度で言っている。
くるみはあきらめて美咲が寝る横に潜り込み、眠りについた。



くるみが寝たのを計らって全員が起き上りカメラを用意している。

如月「シャッターチャーーンス」

フラッシュがテント内を覆う。


美咲「……ん………んん?」

美咲が起きると布団の中にはくるみがいた。
他にテント内は誰もいない。

美咲「ん…んん?!」

状況が把握できずに勢いよく起き上り、布団がめくりあがる。
くるみは縮こまり「寒い~」そういって布団と共に美咲も布団の中に引き戻す。

美咲「ぐっ!なんて力!」

もがくもくるみの腕の中から逃れられない。
相手が違うが、この前とは逆パターンの状況。
叫ぼうとしても無理やり体に押し付けられて声を出す余裕がない。

助けは来なかった。


午前10:00
ようやく起きたくるみは体に何かが巻き付いてる感覚を覚え、布団をめくった。
布団をめくった中には美咲が顔を赤くして、気持ちよさそうに寝息をかいていた。

くるみ「……か、カメラカメラ」

視線は美咲に固定したまま手だけでバタバタと辺りを探る。

如月「はい」

手に持っているのはくるみの携帯。それを手渡す。

くるみ「あ、どうも」

くるみ「……ん?」

如月「速くとらないと起きちゃうよ?」

視線を如月に移し、目を右らいて絶句する。
が、如月の言葉にくるみは正気(?)にもどり、再びカメラと視線を寝ている美咲にこていする。

くるみ「あ、そうだった」

くるみ「……てぇええええええ?!」

大きな声を上げた。すると美咲は起きて自分の状況をすぐさま理解してとっさに離れようともがく。
くるみは逃れようとする美咲に、あわててカメラのボタンを押した。

写真には目と口を大きく上げて顔を赤らめている美咲が自分に抱きついているものだった。

くるみ「…あり」

親指を立てあい、くるみと如月が見つめ合うのを星座でうつむきながらまだ
顔を赤らめている美咲が悔しそうに上目使いでみている。


立ち上がり、二人の目の前に立ち、手のひらを大きく広げる。

如月「ん?」

くるみ「?」

小首を傾げてその姿を呆然と見ていると、突如地響きが起こった。

如月「じ、地震だぁあ!」

くるみ「つ、机のしたです!」

おろおろと机を探し、辺りをキョロキョロ見回す。

如月「机がない!」

固まり、大声でくるみに向かい言い放つ

くるみ「如月さん!四つん這いになって机になってください!」

如月「その手があったか!」

そういうとすぐさま四つん這いになり、机になる如月。
その下にうずくまり収まるくるみ。
頬に当たるやわらかい感触。その感触にくるみはスッ、と真顔になり
如月の顔を見ようと、その感触の方へと目をやると何かが邪魔して見えない。

如月「まてよ…この格好私が死んでしまうじゃないか!」

くるみ「死ねばいいじゃないですか」

如月「な、なぜそんなことを言う!」

くるみ「…自分の胸!、にでも手を当てて考えればいいじゃないですか」

一部を強調して、体育座りになり、自分の胸を両手で押さえ目をつむる。

如月は言われた通りに、星座になり自分の胸に手を当てる。

如月「……やわらかい!」

くるみ「っ!」


美咲「私を…わすれるなぁああああ!!」

叫び、広げていた掌を一気に握る。
すると、「ボンッ!」と何かが破裂する音が聞こえるとともに、
地響きが収まる。

美咲「……今度やったら殺すわよ…静香」

ゆらゆらと体を揺らしながら近寄り、鼻が触れ合うほど間近の距離で言い放つ美咲。
その顔、希薄にやられ如月はおもわず「か、かしこまりあげます」と、変な言葉づかい
になって「はい」と了承する。

爆発したのはくるみの携帯だった。

くるみ「……美咲ちゃんフォルダがぁああ!!」

爆発した後の残骸を見てくるみはそう言った後咄嗟に「やべ」と言う顔をして
美咲の方を見ると美咲は…

美咲「なんだそれぇえ!」

そういって残骸をさらに細かくつぶす。


午後12:00

如月の号令で集まった皆は、テント内に居ない如月を待っていたが、
10分待っても来ないのでトランプをしていた。

美咲「……フルハウス」

2のワンペアにエースの3カードの手札を見てボソッとつぶやき
にやつきながら前へとだす。

篠木「なにぃ?!」

美咲「さぁ…見せてみなよアンタのカードをさ!」

ダンっ、と床を叩きつける。
すると篠木は驚きの顔から一気に口元がゆるくなり、先程の美咲のようなにやつきになる。

篠木「…10、J、Q、A…ふふふ」

美咲「そ、それは…強運の証拠…ロイヤル…フラッシュ……だと?!」

篠木「だったらよかったのになぁ!はい、ワンペア~」

美咲「勝ったぁあああああああ!!!」

俊「五回やって初めて勝ったね~」

悠「運がないなぁ」


如月「終わったなら会議したいんだけど」

美咲「あ、いたんですか」

振り向き冷たい視線と言葉を浴びせる。

如月「ごめんって…」

美咲「はいはい」

そういって座っている体の向きを一瞬だけ宙に浮き、変える。
ついでに如月の方を向いていないテント内の人すべてを無理やり方向変換する。

如月「…さて、昨日はお疲れ」

まずは昨日の出来事に対するねぎらいの言葉を。
そしてすぐに本題へと移る。

如月「先程聞いた話だが…北海道(こちら)の方の異獣が一斉に消え、と異能者は一斉に降伏してきたらしい」

佐藤「…不可解だな」

如月の言葉に一拍置き、佐藤が壁に背をもたれさせながらしかめっ面で如月の方を見て
言うと、篠木が頷く。どうやら彼も不可解、そう思っているらしい。

如月「そういうな、危険が去ったんだ」

輝「去ったって言っても消えただけだろ…またどこにいつ現れるか」

如月「それはそうだが…いったん私たちは東京に戻る」

美咲「戻る途中にまたここが襲われたら?」

もっともな心配だ。皆がそう思った。
だが、そんな心配をしていたらきりがない。
何時まで経ってもここから出ることができなくなってしまう。
その事を皆が理解している。


如月「大丈夫だ」

だがその心配はその言葉でかき消された。
如月が「入っておいで」そういうと二人の少年少女が入ってきた。

美咲「…」

2人の事を何も言わずに見ている。
2人もまた、同じように皆の事を見ている。

少年は美咲をみると駆け寄り、頭を下げた。

美咲「?!」

その姿に驚きッ体がびくッ、と震えるとともに身体が後ずさりしてしまう。
少年は頭を下げたまま「昨日はごめんなさい」そういってしばらく頭を上げなかった。
少年はつづける。「ありがとうございます。僕を止めてくれてありがとう」
そういって少年は頭を上げ、皆に向けもう一度頭を下げ「ごめんなさい、ありがとう」そう告げた。

如月「…ここはこの子が守ってくれる」

美咲「そんな!」

如月「彼も男だ…子供だが立派な私たちと『同じの』異能者だ」

クールな笑みを浮かべ、少年に「任せた」そう告げた。
少年は元気よく「はい!」と敬礼をして見せた。
その場にいた全員が立ち上がり、少年に心からの敬礼を送る。

そうして東京からの訪問者たちは彼らの家へと帰って行った。


如月「かっこよくわかれたね~」

すこし耳を赤らめて恥ずかしそうに苦笑い交じりの顔を見せる。

美咲「我ながららしくないことをした気がするわ」

片手で顔を隠し、考える人のような体制になりながら呻いている。
その横では篠木が顔を隠している。

佐藤「お前何もしてないだろ」

篠木「俺…フルハウスで勝ち逃げされるの嫌いなんす」

まだ先程のポーカー勝負の事を気にしていると分かり、佐藤は篠木を無視し始めた。
その事に気づいた篠木はチラっと他の人を見たが、全員目が逢うと目をそらす。
最後に美咲を見たらドヤ顔で見下していた。

篠木(みんなのばかーーーー!)

顔全体を腕の中に沈め、しばらくすすり泣く声が空間一帯を包んだ。

今、八人がいるのは水中。
篠木の能力、『具現化』で大きなクラゲのような生き物を作り、皆はそのクラゲでいうカサの
中に入っている。中には内側に向け、円形に設置された椅子がある。
このクラゲ(のような生き物)は傘を動かさずに移動している。
クラゲ(略)は触手を自在に操り、海底の岩山を巧みによけ、無造作に動かし、上下前後左右へと
移動している。


くるみ「…このまま東京湾にいくんですか?」

篠木「ん?いや…途中からヘリになるよ?」

くるみの問いに顔を上げた。目の下には何も跡がない。
そこからわかることが今までのすすり泣きは嘘。

輝「なんで最初からそうしないの?」

篠木「ロマンを求めて!」

拳を振り上げて叫ぶ。
クラゲの中は音がよく響くので皆が一斉に見をふさぐ。

如月「少しボリュームさげろよ!」

篠木の頭を軽くどつき静かに叫ぶ。
すると篠木は軽く頭を押さえて「このままいったら異獣と間違われて俺たち以外の異能者が殺しに来るから」
と笑いながら言った。
くるみとしては笑えない事実だった。


そんなこんなで2.3時間の間海の中を移動していた。

たまに叫ぶ篠木を叩く如月、その光景を見て笑う人、
岩山にぶつかりそうになったが助かってホッとするとき、
鮫が襲ってきてクラゲが殺したとき。
いろいろあってようやく水面へと上がった。

クラゲの頭の部分が水面から出ると、上から階段が一段一段現れ、皆は上へと上がった。
上がったところに用意されていた大型のヘリコプター。
操縦は自動運転、ではなく、美咲の能力で移動。
皆が乗ると同時にヘリは宙へと音もなく飛び立った。
飛んでから暫く、ヘリコプターのプロペラが回り始めた。
皆は耳に通信気を付けた。

如月「ここまでリアルに再現しなくても」

篠木「リアルがいいんじゃないですか」

輝「さっきロマンって言ってたやつが何言うか」

篠木「……」

言葉に詰まり、外を見る篠木を余所に、初ヘリコプターのくるみと美咲は
外をカメラ、携帯で撮っていた。
くるみの携帯は自分の能力で巻き戻し、復元したが、美咲にデータをのぞかれ
全て初期化された。

美咲「高い……」

くるみ「おぉ…東京タワーを上から見ている」


しばらくの間、空を滑空して、東京を上空から見て回ったあと、
びるの屋上へと降り立った。

北海道を出てから約六時間がたっていた。
現時刻は午後9:30分。

悠「て言うか、屋上降りてもエレベーターないじゃん」

篠木「え?!」

美咲「そういえばそうよね」

篠木「え、ちょ、無いって?なんで?!」

「「「異獣に壊された」」」

さらっと全員がそろって言った言葉に篠木は口を大きく開けて「ホワット?!」と片言で
そう言った。

如月「具現化能力よろ」

親指を立ててぎこちないウィンクをする。

篠木「俺が寝たら消えますよ?」

如月「役立たず」

ペッ、と誰かが唾を吐いて篠木の足元に飛ばした。

篠木「美咲ちゃぁん?!」

美咲「あ、いたの?ごめ~ん気づかなかった~」

拳をこつん、と頭に着けて下をだして、視線を左上に向ける。


しばらくの間、空を滑空して、東京を上空から見て回ったあと、
びるの屋上へと降り立った。

北海道を出てから約六時間がたっていた。
現時刻は午後9:30分。

悠「て言うか、屋上降りてもエレベーターないじゃん」

篠木「え?!」

美咲「そういえばそうよね」

篠木「え、ちょ、無いって?なんで?!」

「「「異獣に壊された」」」

さらっと全員がそろって言った言葉に篠木は口を大きく開けて「ホワット?!」と片言で
そう言った。

如月「具現化能力よろ」

親指を立ててぎこちないウィンクをする。

篠木「俺が寝たら消えますよ?」

如月「役立たず」

ペッ、と誰かが唾を吐いて篠木の足元に飛ばした。

篠木「美咲ちゃぁん?!」

美咲「あ、いたの?ごめ~ん気づかなかった~」

拳をこつん、と頭に着けて下をだして、視線を左上に向ける。


皆は疲れから
その日は最上階の78階で寝る事になり、
非常階段で一斉に降りて行った。

非常階段のドアはエレベーターが壁の真ん中にあるのに対し、端っこに設置されている。
エレベーターとの距離はそこまでない。

非常階段の扉を開けると、いつも通りの憩いのフロアがあった。
最上階のこのフロアはほかの個別フロアと違い、4フロアをぶち抜いた高さがある。
個別フロアは高さ3メートルある。つまり、このフロアは12メートル超の高さがあり、
二階建ての家が入るほど高い。
そんなフロアをほかのフロアと同じく一階建て使用にはせず、
工事で会談を付け、半分ほど吹き抜けの二階建て(巨大なロフト)使用にしてある。
フロアの真ん中には横幅1メートルの階段があり、そこをあがれば本など、寛ぐスペースがある。
他にも、ダーツ、ビリヤードなど娯楽もある。
下は10人は余裕で座れるL字のソファー。ソファーの前には大型のテレビ。
テレビの周りにはゲーム機などが置いてある。
そして二階(巨大ロフト)の下にはこれまた中規模なキッチンがある。ここに立ち入るのは輝が殆ど。
他にも筋トレ用の器具やバランスボールが数個転がっている。
その風景を見て安堵のため息をつき、ソファーに腰かける。

如月「帰ってきたぁ」

力が抜ける声に皆一斉に「ふーー」と息をつく。


くるみ「そういえば…私このフロアのそこまで見てないな」

如月「ん、この機会に見てみると良いよ、ロフトは軽い図書館使用になってるから」

くるみ「おぉ、みてきます」

小走りで会談を登り切ったくるみは「すごーーい」と叫びながら本の中に消えて行った。

如月「…若いなぁ」

輝「何言ってんすか~まだ若いっすよ」

くるみの姿を見ておばさんみたいなことを言う如月を輝は笑い飛ばした。

篠木「おっし…悠!ビリヤードで勝負!」

悠「あ、ぼくは部屋で寝ますんで、疲れましたから…ひらけ~」

手刀で空間を切裂き、その中に入って行く悠。

篠木「あ、おい!……俊!」

俊「眠るなり~」

量子化して姿をくらます。

篠木「お前らぁ……チラッ」

佐藤「ん?……あぁ、私も自室にいくよ…お疲れ」

そういって立ち上がった佐藤は人差し指と中指を額に当て
瞬間移動で自室へと言った。

篠木「なんでここの男は俺以外そんなのうりょくなんだよぉ!!」

如月を見て問い詰める。

如月「しらないよ」

シレっと言い放たれた言葉に篠木は心が折れ、ソファーに顔から倒れこんだ。

美咲「…馬鹿じゃないの」

その姿を蔑むように見て、心の中で唾をかけた。


しばらく、くるみは本の中を探索していると一冊の薄い本を見つけた。
くるみはその本を手に取り、本を読むためのテーブルがあるスペースへと持って行った。
オレンジで薄く照らされた空間。

くるみ「『さるでもわかるぞ☆天地創造の書~』…か」

おおよそ十枚程度の紙が詰まっただけの何も書いていない皮のカバーの本をめくる。

━━ 一日目、暗闇がある中、神は光を作り、昼と夜が出来た。

━━ 2日目 神は空(天)をつくった。

━━ 3日目 神は大地を作り、海が生まれ、地に植物をはえさせた。

━━ 4日目 神は太陽と月と星をつくった。
 
━━ 5日目 神は魚と鳥をつくった。

━━ 6日目 神は獣と家畜をつくり、神に似せた人をつくった。

━━ 7日目 神は休んだ。

くるみ「一ページに一行だけ?次のページは?」

ぺらっ、と紙をめくる。

━━ 以上、旧約聖書の創世記からのコピーでした~(てへ☆
   わざわざ読んでくれてありがとうね~感謝感謝~人

そこで本は終わっていた。

くるみ「……」

無言で立ち上がり、本を思い切り机に叩き付ける。

くるみ「ただの同人誌的なやつじゃねぇか!しかもまるパクリって!」

本を手に取り、あった場所に戻し、再度本を探し始めた。

暫くして時計が一日の終わりと始まりを告げた。
そこで漸くくるみは探索をやめ、皆の居るソファーに戻り、用意されていた毛布にくるまって寝静まった。


翌朝、起きるとなぜかみんながグローブとバットを持って待っていた。

如月「起きたか!くるみ!」

短パンジャージに白の半袖Tシャツ胸元には『魂』と書かれている。。
頭には何処の球団のかわからない野球帽。
右手にバットを持ち、肩に乗せている。そしてくるみに突き出された左手には野球ボール。
もうここまでされれば言われるまでもなくわかりきったことだが、くるみは確認のために
「なんですか」と聞く。答えは案の定の回答だった。

如月「野球しよう!」

くるみ「…しってます?野球ってね、八人ではできないんですよ」

如月「あ、馬鹿にしてる?」

くるみ「いえ」

如月「ま、大丈夫、応援として修復班の人が来るから」

くるみ「そういえばその修復班ってなんですか」

佐藤「修復班と言うのは、異獣、異能者との戦闘の後に残る残骸、破壊痕などを元通りに復元する人の事」

佐藤が如月の後ろで俊とキャッチボールをしながら答える。

くるみ「ん?…じゃあここは?」

俊「俺たちは前衛班ね~」

ボールを佐藤に投げる。
受け取った佐藤がしゃべりだす。

佐藤「俺達前衛班は先のように前線に赴き、戦う役目、だ!」

ボールを思い切り俊へとなふぇる。

俊「っ!…しびれるねぇ……ま、そういうこと」

くるみ「なら私は修復班の方があってるんじゃ?」

如月「あ~、まぁ確かにね…でも修復班がおおすぎてね、貴方にはこっちに居てもらってるの」

くるみ「仕方なくってことですか?」

如月「いえ、こないだのでわかったけど、瞬時の回復には適してると思うの前衛にはね
修復班の子はたいてい者同士を張り付けたり跡を塗りつぶす程度のしょぼい能力だから」

言ってはいけないことをさらっと言うあたりがもうこの人らしい。
そう思えるほどになじんでると実感できた瞬間だった。

そんな雑談をした後、くるみは着替え(着替えは輝のを借りた。まだ衣服などは買い揃えていなかった)
皆で車に乗り込み、大型エレベーターで一階、地上まで降りて行き、
野球の試合を行う野球場へと走って行った。


くるみ「一般人と試合って…詐欺行為ありそうですね…私達」

如月「あ~大丈夫、監視カメラで能力使ったらすぐわかるから」

人差し指と親指を使って四角の輪っかをつくり、その中からくるみをみて説明する。

くるみ「そういうものなんです?」

如月「なんか能力使う時に微量の電磁波が発生するらしくてね~特殊カメラでわかるらしい~」

佐藤「サーモグラフィーカメラだと一瞬脳天から熱が放出されたように見えるらしいぞ」

頭上を指し、佐藤も説明に参加しだす。

くるみは二人の言葉を聞いているだけで時間を費やした。
逆に、二人も説明だけで、野球場までの時間を費やした。

野球場に付くと、十数名の大人の集団が仁王立ちで待ち構えていた。


くるみ「おぉ…それっぽい人が」

車を降りて目にする闘気あふれるおじさんたちに目を奪われる八人。
如月が先陣を切って話しかけに行く。

如月「今日はよろしくお願いします…えっと」

岡島「私がここのリーダーの岡島だ、今日はよろしくね」

そういって差し伸べられた握手の手を握り返す。

如月「如月です、今日はご協力ありがとうございます…いい勝負をしましょう」

如月のか細い、きれいな手に握られた岡島は少し照れ臭そうだった。
後ろのおじさんの岡島を見る目が怖かった。

お互いにベンチに行き、作戦会議をしだす。


くるみ「あの、訓練って」

如月「基礎体力と戦術の訓練…結構楽しめながら無意識にやるから楽しいよ、ま戦術は監督である私が言うけどね!」

美咲「で、この子?修復班の子は」

皆がベンチに着くと、すでにいたジャージに身を包んだポニーテールのくるみと変わらないくらいの
見た目年齢の少女。
少女は美咲の言葉に反応してベンチから立ち上がり、皆へ向け挨拶を交わす。

御憑「鳳翔御憑(ほうしょうみつき)です!修復班から参りました!能力は斥力の操作です!」

スレンダーなボディにスレンダーな胸。
すらっと長い、見ただけでわかるサラサラの髪。

御憑「あと、もう一人いるんですが、トイレに行ってて」

すると、扉をガチャッ、と開けベンチ入りするもう一人の少女。
少女は皆の姿を見るなり、姿勢を直し、敬礼をする。

楓「ども!茜楓(あかねかえで)です!名前みたいな苗字っていわれます!よろしくです!」

元気のいい短髪の少女。見た目はスレンダーだが、女の子の部分は女です!と主張している。
敬礼するとその部分がさらに主張を増す。

くるみ「    」

くるみはバッドを手に取りヘルメットをかぶり、マウンドへと足を踏み出す。

如月「あ、こっち後攻ね」

くるみはバッドとヘルメットを戻し、グローブとボールを手に取り
ピッチャーズプレートの上に立つ。

キャッチャー佐藤、ファースト俊、セカンド美咲、サード悠、ライト篠木、センター茜、レフト御憑、ショート輝。

如月「さあ!勝負のはじまりじゃああ!」

すると、ウグイスがアナウンスを始める。
『え~今回は特別ルールで、異能者側の皆さんは、ずるの無い範囲での能力使用を許可します』
突然のウグイスの発言にくるみはボールを落とした。

如月「なんだってーーー?!さ、みんなも考える脳はあるよね!じゃあ始めようか!」

━━━
そのころ反対ベンチでは。

村田「おかっち~」

岡島「……これも国からの命令だ…受け入れるしかなかったんだ。我ら商店街の継続のためにも」

何やら負けられない雰囲気(?)が漂っていた。


一回表。
『バッター13番、藤島、藤島』

藤島「…まけないよ、お嬢ちゃん」

声の届かない距離で威勢を張る藤島。
その背中を期待のまなざしで見る仲間たち。

如月「プレイボォオオオオオオオオオオオ!」

如月はバットを片手で振り回して盛り上がっている。
セカンドの美咲とショートの輝は二人で如月の異様な盛り上がりを見て少し引き気味に話していた。

美咲「何があの人をあそこまでさせるの」

輝「さ、さぁ…」

グローブで口を隠しながら喋る2人

輝「まぁ、頑張ろう、ずるの無い様に」

美咲「そうね」

そういって二人はグローブでタッチして、配置に戻った。


くるみ「…時間を止めて投げるのは絶対ダメ……なら何がいい?…きまってる」

片足をへその前まであげ、体制を横にして両手を頭の中心まで思い切り振り上げる。

くるみ「…ボールの時間を速めて豪速球のようにすればいい!」

振り上げた左足を地に着け、思い切り踏込み、右手を振り下ろす!
ボールはくるみの手を離れ宙を舞い、まっすぐと佐藤が構えるグローブの中心へと向かう。

藤島(はやい!)

ボールはものすごい速さで地面に落ちた。


藤島「……」

佐藤「……」

球場が静まり返り(もともと客などいない)如月が相手チームの岡島と話をつけていた。

如月「ショートくるみ、ピッチャー輝」

親指と人差し指を立て、クイックイッと左右に動かしながらベンチに戻る。


岡島「あのお嬢ちゃん…なかなかいい根性だ」

村田「何話た」

岡島「『交代いいですか』だって…かわいい」

村田「なんであんたまであっち行ったの」

ショートとピッチャーが変わり、輝がボールを握っている。

輝「燃えるじゃないか」

輝の足元の土が少し燃え上がる。

美咲「ほんとに燃えてどうすんのよ!」


輝は先程のくるみとは逆の足を上げる。輝は左利きだ。
右足を地面につけ思い切り左手を振り下ろす。
それと同時に輝の手の甲に爆発が生じる。
小規模な爆発だが、勢いをつけるには十分すぎる威力。
爆風にやられ輝の腕が高速で振り下ろされ、ボールは一瞬で佐藤のグローブの中へと入って行く。
「ストライクッ!」審判の声が告げる。

輝「奥義、爆風球!」

振り下ろした手を挙げ、顔を前に向け顔をきめる。

美咲「ゲホッゲホッ…ま、真後ろの事考えなさいよ!」

藤島は笑顔でホームラン予告のポーズをとる。
そのポーズに輝までも笑顔になる。笑顔と言うよりは滾った顔に近い。

輝「…奥義!」

美咲「ちょ!また!?」

足を上げ、膝まで顔を下げ、膝と顔がすれ合う目の前に両手を持ってくる構え。

如月「メジャーのジョーギブソンか!?」

一瞬にして地に足を付け腕を高速で振り下ろす。
今度の爆発は手の甲ではなく、投げたボールから生じた。

輝「奥義、回転しないよ☆勢いだけのすごい球!だ!」

佐藤(ばか!)

藤島の顔面スレスレでキャッチする佐藤。
「ファール」審判は冷静にそう告げる。
藤島は驚き一歩後ずさりしてしまう。

如月「こえーこえーよあの球」

美咲「殺す気かよ!」

一方外野はたつのに疲れ座って固まっていた。

篠木「へ~二人とも高校生なんだ」

茜「そうです!若いでしょ」

篠木「かわいいね~」

御憑「茜も調子にのらないの」

そんな三人を気に留める者はだれ一人いなかった。

今日は終り

野球詳しくないので変なところあっても気にしないで、特別ルールだと思って見逃してください。
巨人と楽天の見てたら書きたくなってしまったので。


如月「先程のくるみのも合わせれば…いや、あれはノーカウントだから1ストライク1ボール」

如月「あいつ勝負ごとになるとすぐ熱くなるからなぁ…」

ベンチで状況を冷静に考えるポーズをとる。
問っているだけで何も実は考えていない。

三球目、今度は能力を使わずに普通に投げる。
「ストライク!」
佐藤はボールを投げ返す。
ボールをキャッチして佐藤のサインを見る。

輝(なんかやってるけどわからない!)

サインに頷き、振りかぶり、再度能力を使わずに投げる。

佐藤(通じてないな…コレ)

投げられたボールは藤島が降ったバットの手元近くに当たった。

藤島(しま…!)

ボールはマウンドを跳ねながら転がって行く。
如月はベンチで叫んだ。「ゴロだ!拾って一塁!」

輝「わかってるって!」

駆け足で転がるボールを手に取り、前かがみの状態で左腕を振るってファーストの俊
めがけ投げる。


投げられたボールは放物線を描くように宙を舞い、
グローブを構える俊の真上に落ちる。
ボールにポスっと音を立て落ちるボール。が、藤島はすでに1塁を踏み、
セカンドへと走っている。

俊「美咲ちゃん!」

キャッチの体制から一瞬にして左足を前にして右手を振るい、ボールを美咲に投げる。

俊「しまった!美咲ちゃんの伸長考えてなかった!」

咄嗟の事に俊は普通に投げてしまった。
美咲の身長は140センチ(±3センチ)俊の身長は178センチ(±1センチ)。
よって普通に投げれば、美咲の頭上を通過してしまう。

美咲「あんたねぇ!」

が、美咲は高く飛び上がり、ギリギリでキャッチする。

美咲「取れないかと思った?残念!とれちゃうんだ」

ゆっくりと地面に降り、走ってくる藤島にタッチする。

「アウト!」
審判がそう告げると藤島はチームの下へと歩いて行った。

美咲「俊…覚えときなさい」

声は聞こえないが、確かに言っていると分かる鋭い眼差しに俊は目をそらした。
暫くの間俊は美咲を見れなかった。


1アウトを得て、異能者チームは少し気分が上がっていた。

『25番、叢雲~』

バッターは左側に立っている。
どうやらこのが体のいい中年は左利きの様だ。
左利きのピッチャーにバッター。右利き同士では普通だが、左利きで一緒になるのは
結構まれだと思う。
右利きのバッターに左利きのピッチャーは多少有利と聞いたことがある。
だが、この場合は五分五分、普通の右利きどうしと変わらない。

バッターの叢雲はヘルメットを少し左右に動かし調整すると、輝を見て
構えをとる。

その姿を見て輝は今までの熱い雰囲気は一気に冷める。
普段何もしない、いつもみんなに料理を振る舞った時の冷静な雰囲気、
安心して任せられる雰囲気を一気に醸し出した。

輝「左利きに…勝てる気がしない!」

だがその瞬間守備の者は全員一気に構えを、前屈の体制をとった。
どうやら負けを確信したらしい輝の背中に皆は何も期待していない。


足を上げ、振りかぶる。

輝「ふっ!」

勢いよく腕を振るう。
ボールは一瞬にして佐藤の構えるグローブに入る。

叢雲「…かわいい女性の球は…打てない!」

佐藤(えぇ)

輝「……お、いけるんじゃない?」

美咲「いいからそのまま押しなさい」

ボールが輝の手に握られる。

輝「了解!」

くるみ(まだ一回しかアウト取れてないんだよな…)

輝が振るった手の甲に小規模な爆発が起き、ボールは剛速球で
佐藤のグローブに収まる筈だった。
が、グローブの前にバットが現れ、その球をたやすく打ち上げる。

打たれたボールは放物線を描き、場外へと飛んでいく。

如月「ほ……ホームラン…………場外ホームラン」

腕を振り下ろしたままの輝は固まっている。

叢雲「…女性のは打たない…が、異能者となれば別よね」

投げキッスをファーストを踏み、セカンドに至ったところで輝の背後からする。
輝は背中に悪寒を覚えると同時に呆けている体を動かし、佐藤が審判からもらって、
投げてきた球を受け取る。

如月「……あ、負けず嫌いの性分が」

如月が胸の中からサングラスを手に取り掛けると、突如輝の身体が
紅く燃え上がる。

美咲「まぶし!」

グローブで顔を覆う。

光はすぐに収まった。

『一番…赤城』

中年の中に混じっていた若い青年、赤城。
彼は甲子園で優勝経験のある学校に居て、レギュラーだったらしい。

赤城「お手柔らかに」

そう横に構えている佐藤へ告げると佐藤は「無理かな」と言い返した。
赤木はヘルメットを深くかぶりバットを構える。

構えて数秒、爆発するように「バァンッ」と音が赤城の横から発せられた。

赤城「……え」

ゆっくりと佐藤の方を見ると、そこには煙が微かに出ている玉をグローブで受け止めている
佐藤の姿があった。

佐藤「…今のあいつの球を打つならバットが何本あっても足りないんじゃないですかね」

そういう佐藤の身体は少し後ろに下がっていた。
足元には土を削った後が残っていた。


その後、連続でストライクを取られ、赤木はベンチに戻って行った。

赤城「何あの子…怖い」

岡島「……お疲れ」

肩に手を置きそういって岡島は次の人を送り出した。

『三番、山崎』

マウンドに出た山崎もやはり、同じように三振されてベンチに戻って行った。
3アウトで交代。

如月「おっつかれ~」

輝「ふぅ…お疲れ様」

美咲「お、お疲れ」

くるみ「……」

悠・俊・篠木・御憑・茜「「「「「お、おつです…」」」」」

佐藤「手が、てがぁあああ!」

如月「…えどうしたの」

佐藤「こいつの球で腕がいかれた。」

佐藤がそう言って見せた手は指があらぬ方向に曲がり、
所々から血が流れていて、積めなんかは跡形もなく割れたり、はがれたりしていた。

如月「あ~…どうしよ、他の替えいないよ」


くるみ「…棄権したほうがよくないですか?」

そういって横目で一瞬輝を見ると、如月も一瞬見た。

輝「いや、ここは誰かが後退して続ける!」

その言葉に全員が輝の見えないところで胸の前で腕を振り「絶対に嫌だ」と
そう表現して、無言で答えた。

如月「……」

如月「交渉してくる~」

そういってベンチを飛び出していった背中を追おうとする輝を止めながら
見送った。

その後、十分ほどして如月が両手を丸の形にして戻ってきた。
その姿を見て安堵のため息を漏らす皆とは反対に、拳を握りしめて
悔しそうにしている輝。

その姿を見て如月は「しょうがないんだよ」となだめるようにした。

如月「…たこ焼き奢るから」

輝「50個!」

如月「多くない?!」

たこ焼きの言葉を聞き、一気に吹っ切れたように鼻歌を歌い出し、
いち早く車へと戻って行った。


輝以外の皆で相手チームに謝罪とお礼を言って、その場は解散となった。
修復班から来ていた御憑、茜はしばらくの間前衛班と一緒にいることになった。
話によると修復班が多すぎるので、戦えもする能力の2人を送ったらしい。
まずはためしに暫く雇ってやってくれ、とお偉いさんからのお達しの手紙が御憑から
如月へと手渡されたのは、皆が車に乗って移動しているときだった。

しばらくの間車の中で談笑をしてにぎわっていると、車は一つの巨大なショッピングモールについた。
輝の要望(?)のたこ焼き、そして今後の食糧調達、そしてくるみの生活用品一式を揃えるため、
そういって皆は車を降りて、数人一組で行動を開始した。

如月「さって、今が…3時だから…5時までに車に集合な、ちなみに悠はずっと車にいるから」

悠「え、俺も見たいものあるんすけど!」

如月「あ~今度一人で来て」

悠「ひどい!それはひどい!」

悠が必死に抗議する。地団太を踏んだりして。
その姿に如月は少し引いたが、観念して「ならば」と言い出した。

如月「4時半までにお前は戻ってこい…」

右手で、呆れたように顔を押さえ、て首を横に振りながら
喜んでいる優に背を向け、輝と一緒に歩いて行った。
悠は俊と篠木と佐藤を連れて男子(性?)群で店内へと入って行った。

残された美咲、くるみ、御憑、茜はとりあえず一緒に行動することにした。
が、店内に入るとゲームコーナーがすぐあり、茜はすぐさまそちらへ走っていた。
その後を保護者のような雰囲気で追っていく御憑。
2人は「やれやれ」と見送って、「服やにいるからね」と言って別行動を開始した。


最初に店に入っていた如月と輝。
輝に手を引かれ如月は半笑いで「わかったわかった」と小さな子を持つ親の
感覚を味わっていた。

そうしてたどり着いたたこ焼き屋。
たこ焼き屋に着くと輝は元気よくたこ焼きを注文しだした。

輝「店員さん!たこ焼き80個!」

如月「なんで増えてる?!」

その注文に店員は戸惑った様子で如月をチラチラ見てくる。

如月「あ、……あぁ…50個って、頼めます?」

申し訳なさそうに尋ねると、店員はさらに驚いた。
普通ならば「8個です、ごめんなさい」と言うところだっただろう。
が、予想外の答えに店員は「お、おまちください!」と言って店の奥に引っ込んでいった。

如月「お前すこし落ち着けよ」

目を輝かせ、他の店員がたこ焼きを焼いている姿を眺めている。


しばらくすると、先程の店員が店長と書かれたネームプレートを付けている
女性を連れて出てきた。

店長「お客様。何かお困りでしょうか?」

あくまでも下手に話しかけてくる。
その態度に申し訳なさそうに、こちらも下手にに問いかける。

如月「あの~、たこ焼き50個……て、頼めます…かね?アハハ」

無理ですよね、と笑い飛ばすが、返答は予想外に「大丈夫ですよ」と簡単に、
あっさりと帰ってきた。
拍子抜けな答えに如月はマヌケに「へ」と言ってしまった。
店長は再度「できますよ」と言って焼いている店員に薬用に命令した。

如月「い、いいんですか?!」

店長「はい、少々時間がかかりますので、そちらの席でお待ちください」

そういって笑顔で席を指示されて、2人はおとなしく席について待つことにした。
15分ほどたって、呼ばれた2人はレジに行き会計を済ませると、
店員が定量のたこ焼きが入った箱が入っている袋を持ってきた。

2人はその袋を持って座れるところ、休憩所へと向かった。

一方、男全員で歩いている4人はぶらぶらと店内を歩き回っていた。
横一列ではなく、前の右に悠、左に俊が、後ろの右に篠木、左に佐藤が並んで歩いている。

俊「で?悠くんは何が見たいの?」

悠「ちょっとパソコン用品をね、車内モニターを固定するための器具がゆるくなってて」

車内モニターは任務中などに、辺りの監視カメラをハッキングして、
周囲の状況を確認するためなどに、主に使われている。

篠木「ん~そっち系は3階にあるんじゃない?」

悠「まじで」

篠木「テレビとかも3階だし、たぶんね」

そういうと4人はエレベーターの前に行き、エレベーターが来るのを待って、
乗り込み、3階へと行く。

3階に着くとそこはパソコン用品店の目の前だった。

篠木「ビンゴ」

「パチンっ」、と指を鳴らす篠木。
エレベーターを降りるとすぐに悠は佐藤を連れ店舗内に入って行った。

俊「あ、俺本屋いってくるわ」

篠木「あ、俺も~」

2人に手を振り二人並んでエレベーターに残り5階の書店へと上がって行った。


それぞれ2人組みとなる。
悠と佐藤はしばらく店内で物色していた。
2人と別れた俊と篠木は本屋に行き、俊が見ている本を一緒に見る篠木。
本屋での買い物は雑誌とロフト図書館に置くための童話と他数冊の本。計2万円の買い物。

40分程でたこ焼きを食べ終り、輝が見たがっているもう一つの場所、
食品売り場へと如月と一緒に向かっている途中、ゲームセンターでダンスゲームをして遊んでいた
御憑と茜を見て声をかけ、一緒に食品売り場に行こうということになり、4人行動を開始した。

そんなことは知らずに、くるみの服などを選ぶ美咲。
美咲はくるみを着せ替え人形のようにして面白がるついでに似合う服も探し、
いいと思ったものをキープしている。
くるみは最初は抵抗していたが、美咲の能力で体を動かされるのが嫌になり、観念して
自分から(?)きるようになった。

そして四着ほど服と下着などを買い、ショッピングモールのフードコートで
クレープを買って休憩していた。


美咲「ごめんごめん、つい楽しくてね」

くるみ「お嫁にいけない……もうだめ!」

そんな事を言いながらクレープを頬張る。
口元についているクリームを人差し指で丁寧にふき取り、ペロッ、となめとる
美咲の姿にくるみは少し顔を赤らめる。

美咲「ん?」

俯くくるみを見て不思議そうな顔をして自分のクレープを食べだす。

下を向き、顔を横に向けると、周りがざわつきながら自分たちを見ているのが目に入ると
くるみは今までの事に気づき、耳まで赤くなる。
しばらく経っても顔を上げないくるみを心配して美咲が「大丈夫?」と椅子から立ち上がり
横に寄り添ってくると、周りの目が、言葉が鮮明にわかるようになった。
「きゃー、あのこ攻めに行ったわよ!」「いい!…いぃいい!」「姉妹かな?姉妹かな?!」
など、聞こえてきたのは非難ではなく、歓喜の声だった。
その声を聴いてくるみは余計恥ずかしくなり、能力を使い逃げたくなった。
が、異能者は蔑まれる存在。故に正体を隠して暮らしている。
ここで使うことは歓喜の声が本当に非難の声に変わってしまう。


くるみは考えた末、荷物を持ち逃げるという、普通の行動をとった。
美咲は驚き、少しその場にとどまり見ていたが、次第に周りの目に気づき、
後を追ってはしりだした。
周囲は最初は残念そうだったが、次第に落ち着きを取り戻していった。

車のある外の駐車場まで走って、車の前に行きつく。

くるみ「はぁはぁはぁ…はぁ」

荷物を地面に置き、前かがみで肩で息をする。
その後に追い付いてきた美咲が、くるみとは違い息を切らしていない。

美咲「置いてかないでよ…恥ずかしいじゃない」

くるみ「だ、誰のせい…だと」

まだ少し荒い息を整えながら喋るが、まだすこし途切れる。

美咲「だ、だって…無意識だったから」

顔を真っ赤にしてモジモジと、身体をくねりながら黙り込んでしまう。
気まずい空気が流れる前に、車のドアが開かれる。

悠「…ん?何やってるの」

ドアを開けたのは先に戻っていた悠だった。

現時刻、午後4:15分。
30分までには少し時間がある。

美咲「あら…早いのね」

悠「欲しい物が買えたからすぐに取り付けたくてね」

そういって車の中を見せつける。
いつもと変わらず、椅子が十人分、そしてその後ろに改造して広さを増した部分には
モニターが三つあるだけだ。一つは普通に机の上に。
他二つは壁に着けられている金網に金具を付け、取り付けられている。

美咲「変わらないじゃない…いつもと」

くるみ「パソコンでも変えたんですか?」

悠「ん~…パッと見わかんないよね」

少し「がっかり」と肩を下してモニターを取り、買ったばかりの金具を見せる。


悠「超合金でできた丈夫な金具だよ」

美咲「私の能力でもつぶれない?」

掌を開いたり閉じたりして、指をぽきぽき鳴らす。

悠「やめて!?」

その姿に恐怖を覚え、金具を両手で握り、胸の前に持っていき必死に守ろうとする。

くるみ「………?」

くるみも自分の手を同じように開いて閉じる、指が鳴らないことに疑問を浮かべる。
それでも何度もやっていると気づいた美咲が「やってもいいことないわよ?」
と言って自分もやるのをやめる。

悠「そうそう、指太くなるだけだよ」

美咲「私が太いって?」

顔は笑っているが、目は見開いたまま笑っていない。
悠はすぐに金具と金網とモニターをくっつけて、運転席に戻りラジオを流し始める。


『では、次のニュースです、今朝、八時ごろ東京都で異能者に対するデモがありました。
このデモは、異能者が安全とはっきりわからせてほしい、もっと情報を公開してほしい、など
まえから言われてきた国の情報隠蔽に対するデモともいえます。』

佐藤「たしかに…国は俺たちの存在を隠しているからな」

そこから現れたか、佐藤は助手席に座りお茶を飲んでいる。
助手席の窓から「隠しきれるとは限らないのにね」と篠木がガムを噛みながら顔をのぞかせている。
ラジオを聞いている間に、男共は皆戻ってきていた。

くるみ「隠してるんですか」

篠木「いままで俺たちの組織の存在…あやふやにしか知らなかったでしょ」

くるみ「確かに」

美咲「私たちがいると安心する人もいる、けど同時に恐怖して私たちを襲ってくる人も少なからずいると思う」

「だから」そういってドアを開けて如月と輝がでかい段ボール箱を四つ持ちながら入ってくる。

如月「だから、私たちは記憶を消し、証拠を残さないようにしているってわけ」

荷物を重ね、席に着くと、最後に篠木と俊が車に入ってきて、席に座る。
車のエンジンをかけ、出発。
家へと帰る。

帰り道、皆は窓を見ながらラジオを聞いていた。
内容はどれも異能者に関することばかり。

帰り道は雲一つない晴天で、皆の心とは正反対だった。


ビルに着くと、
皆はそれぞれの個人フロアに戻って行った。
例外として、俊は買った本を棚に納めていた。
それから本を手に取り、テーブルの所へ持っていき、椅子に腰かけ読書タイムとなる。

くるみは何もない、まだコンクリートの柱しかない灰色のガラス張りの部屋に一人、
椅子を持ってきて腰かけ、外を眺めていた。
一応50階を超える高層フロア。景色はそれなりに良かった。
今日は雲一つないわけではないが、綺麗な青空が夕日に照らされてオレンジ色に
色を染めていく。
その光景をただ眺めていた。
雲が過ぎ、夕日はどんどん落ちていく。
町並みは所々明かりがついていくのがわかる。

くるみ「……」

『時は金なり』時はお金のように大切な価値がある。決して無駄にしてはいけない。
そんなことが頭をよぎる。

くるみ「無駄にはできない…でも、無駄をする時間もまた価値がある」

空をみて一人、黄昏る。
すると、「チーン」とエレベーターの扉が開く。

輝「これからご飯作るんだけどー」

姿の見えないくるみを叫んで探す。
その声に反応して柱の陰となっていた部分からくるみがでてくる。

輝「ご飯作るけど、歓迎会もかねて手伝ってくれないか?もちろん、くるみの歓迎会でもあるんだが」

くるみ「その主役にたのみます?」

輝「ふふ、料理しながら好き嫌いを教えてくれるとうれしいな」

手を差し伸べて「どう?」とにっこり笑って問うてくる。
そう言われて差し伸べられた手の上に、手を重ねる。
格好は男性が女性をダンスに誘うような恰好。
輝はすこしも照れくさそうにせず、当たり前のようにくるみの手を握り、エレベーターへと
連れて行く。
その姿をすでに乗っていた御憑と茜が照れくさそうに見ていた。
くるみも二人に気づき、すこし照れる。

くるみが乗り込むとエレベーターの扉が閉まり、皆が集まるフロアへと上がって行く。


78階につくと、予想外に皆が集まっていた。

輝「あれ、みんな居たの」

如月「いたよ~暇だからきちゃうんだよ」

バランスボールの上で仁王立ちをしている如月はそのままボールごと跳ね、
御憑と茜に改めて自己紹介、と言って名乗りだす。

如月「如月静香、よろしく」

そのまま跳ねてソファーにだいぶした如月は「グハッ」と言ったきり
起き上らなかった。


そんな如月を放置して、四人はキッチンへと入り、エプロン姿になり
料理を開始する。

輝「んじゃ、今日は簡単にシチューでも」

茜「コーンたっぷりいれてよ!」

手を挙げ、身を乗り出してコーンの缶詰を見せつけてくる。

輝「私そんなの買ってないんだけど」

御憑「この子のマイコーンです」

輝「そこまでして食べたいなら入れようか」

しかたない、と笑い飛ばし缶詰を受け取る。

四人はそれから黙々と料理に取り掛かった。
途中途中話しながらも、できたシチューを味見したりして楽しく。


今日は終ります

だんだんネタが尽きてきてますわ
終りの下りしか考えないでつくってるので。gdgdでも大目に見てください


杜くるみ (17) 主役、能力:時間操作、 性格物静かで照れやすい。
訳は分からないが何度も世界をループしている。

如月静香 (19) 能力:催眠など。 お姉さんみたいな人。メリハリがありすぎて普段はうるさい人、変わった人。
任務中は真面目な頼れる女性。皆からは中尉と呼ばれている。

佐藤大樹 (18) 能力:瞬間移動 こわもてのおじさん顔。実は高3。
如月の補佐的な自称少尉の人。結構頼りになる。

藤美咲 (18) 能力:念力(サイコキネシス・テレキネシス) 見た目は子供だが、高3。逆鱗に触れると怖い
合法ロリ。

北山輝 (19) 能力:炎操作 普段はクールビューティーだが勝負事などになると一気に熱血になる。
一回負けるとキレて馬鹿力になる。料理大好き。本能の赴くままに行動することが多々ある。

桂悠 (19)能力:空間移動 普段は運転手などをしている。とくに特徴のないメカニック。

早風俊(18) 能力:量子化 どこにでもあらわれ、すぐにどこか行く。神出鬼没。

篠木美鶴(18)能力:具現化、変身 顔立ちは女性に見える美形。ロマンを求める現実主義者。

鳳翔御憑(15)能力:斥力操作 おとなしい性格。相方の茜と一緒にいると保護者見たい。

茜楓(14) 能力:『そのうち公開』 活発で元気な子。常に本能に従い生きている。
巨乳。

こんなところ。まだ結構キャラとか出る予定あるので━━。


翌日、早朝五時。

くるみは何もないフロアに布団を敷き、眠っていたが、珍しく早く目が覚めた。

くるみ「……何時だろ」

このフロアには時計がない。
時計と言えばいつもは携帯を開いて確認していた。
今はその携帯が手元にはない。今は78階にある。
昨晩騒いでそのままおいてきてしまった。

くるみ「…動きたくない寒い」

布団の中で起きなきゃいけない自分と起きたくない自分と葛藤しながら
布団から手先を出し、引っ込めてまた出す。何もないフロアは暖房もなく隙間あれば寒気がすぐに中に入ってくる。
その寒気を暖気に変えるために手を引っ込めて中をあっためなおす。

くるみ「…ぬくい」

顔が緩む。

くるみ「でもやっぱり、せめての絨毯が欲しい」

片腕を出して、コンクリートの固い床をペタペタと触る。
コンクリートから伝わる冷たさが手を通じて布団の中の自分の体まで冷やしていく感覚。
その感覚から逃れるため腕を布団の中に引き戻し目をつむり再び眠りにつく。



午前七時半。

二度寝から起きたくるみは枕元に置いておいた着替えを手に取り布団の中へ引っ張り込む。
布団の中でガサゴソとパジャマを脱ぎ、置いておいた少しひんやりする服を着込む。
五分程で着替え終わってパジャマを着替えの置いてあった場所へ無雑作に置き、
布団の中でひんやりしている服を温める。

くるみ「ひんやり温い」

言葉として矛盾している。
そんなことは気にせず三、四分して布団から起き上がったと同時に
エレベーターが到着する。

くるみ「…そういえばこのエレベーターいつ治ったんだろ」


俊「や、おはよ」

エレベーターから降りてきたのは予想外の人物だった。
何時も朝や昼ごろには如月か輝がご飯だと呼びに来るのだが、今日は何故か(と言ったら本人に失礼だが)俊が
起こしに来た(?)━━

俊「あ、今起きた所かな?…」

━━ようではないようだ。起こしにきたなら「起きてるならよかった」など、それに関係あることを
述べるはずだ。
ではいったい俊は何をしに来たのだろうとくるみは布団から出て、素足で冷たいコンクリートの床を踏む。

くるみ「ひゃっ!?」

その冷たさに驚き、身体が跳ね上がると同時に甲高い声がフロアを駆け巡る。
くるみの発した声にピクッ、と俊の体が一瞬反応した。

俊「あぁ、な、なんかごめんね」

何も悪くないのに謝る俊にくるみは首と手を横に思い切り振り「そんな事ない」と態度で促す。
その態度に「そうかい」とだけ言って俊は近くに置いてあったくるみの靴を布団のそばに置く。
一礼し、置かれた靴に足を入れる。


靴を履いたくるみは近くに置いてあった椅子に腰かける。
本当は俊に座るのを進めたがかたくなに「いいよいいよ」と手を振りながら断る姿に
やられくるみが仕方なく座っている。
俊は柱に背中を預け腕を組んでいる。

俊「ほんと、こんな朝早くにごめんね」

再度あやまる俊に首を横に一回ふる。

俊「今朝は少し話したいことがあってね」

話したいこと。その事がなんだかくるみには少しわかっていた。
ここに来て約二週間。学校の事件から二週間。
くるみは一度も学校に行かず、家にも連絡を入れていない。


俊「…その感じだと分かってるみたいだね」

考えていることが表情に出ていたのかもしれない。
その表情を読み取ったのか、俊がそう言って「行ってみる?」と親指でエレベーターを
指して告げた。
行くとは学校にだ。

くるみ「はい」

前から行ってみたいとは思っていた。
その思いからくるみは即答した。
軽くうなずいたくるみを見てもたれている柱から離れエレベーターの前に行き、開きっぱなし
のエレベーターに乗り込む。
その後に続いてエレベーターの乗り込む。

俊は何も書いていないボタンを押した。
そのボタンは誰の部屋でもない、フロント、一階のボタン。
エレベーターは一秒二階のペースで下って行く。


ビルを出て、二人はくるみの通っていた学校への通学路を歩いていた。

現時刻7時43分。
丁度登校時間と言うこともあり、道にはちらほら制服を着た男女の姿が見受けられる。
くるみは見覚えのある者も、相手は覚えていない。
如月は記憶を消す時にくるみの記憶も消してしまった。そういっていた、
と、俊が歩きながら話していた。

あの後、くるみたちが消えた学校には催眠の音声が流されていたらしい。

くるみ「…こうしてみると人の関係って脆い物ですね」

俊「人っていうのは常に思っていない限り忘れってしまうんだよ」

くるみ「…思う…か」

俊「好きな人、とか」

少しにやけながら顔をのぞいてくる俊の顔を無性に殴りたくなった。
顔と顔の間に握りしめた拳を見せると俊の顔が引きつり、除くのをやめ前を向いて歩きだした。


2人はしばらく無言で歩いていた。

そうしてついた校門前では教師が生徒数人と挨拶をしていた。

俊「まだやってるんだ、風紀委員と教師の挨拶習慣」

くるみ「しってるんですか?」

俊「俺も一応個々の卒業生だしね」

くるみ「え、先輩…」

俊「OBだよ~」

そういって俊は並んでいる教師に挨拶代わりに手を軽く振った。
教師は気づき軽く手を挙げて、再び生徒との挨拶に戻った。

くるみ「記憶あるんですね…」

俊「俺の場合事件に巻き込まれたわけじゃないし、大学に入ってから能力に気づいて
自主退学したからね、記憶消してないんだ…ま、家族の記憶は消えたけど」

少し悲しげな俊はくるみを見て「さ、行こうか」と言ってきた道を戻りはせず、そのまま前へと進み始めた。
くるみはその後を、学校を横目にその後を付いて行く。


道を歩いているとくるみは一人の少女に目をとられた。

くるみ「……」

委員長「………」

その瞳に映るのは、いつも話しかけてきていた委員長。

くるみ「…無事だったんだ」

そういって彼女の前を通り過ぎる。
すると、後ろから委員長が声をかけてきた。

委員長「あ、あの!」

くるみ「?!」

すぐに後ろを振り向く。
その瞬発力にすこし驚き肩をピクッ、とさせたが、委員長はクルミの前に立ち
ハンカチを差だし「おとしましたよ」くるみにハンカチを手渡し一礼をして小走りで
去ろうとする。
くるみは咄嗟に「まって!」と手を前に出し走る少女の背中に声をかける。


その声に反応して少女は背後を振り返る。
振り返ると、結んでいる髪がなびいて香りを辺りにふりまく。

くるみ「…あ、…その」

委員長「?」

くるみ(…覚えてるわけないか)

そう思うと一瞬にして何かが心の中で壊れる音がした。
きっとそれは壊れてはいけなかった何か。くるみはハンカチを手渡してくれた彼女の目を見て
ただ一言、「ありがとう」そういって後ろを振り向きハンカチを持った手を振りながら去って行った。
その姿をしばらく見ていた少女は何かを思い出した様に携帯取り出して学校へと走っていった。

俊「知り合い?」

くるみ「いえ…知らない子です」

俊「そのハンカチは?」

くるみ「さぁ、…誰のでしょうかね」

そういってハンカチを横にあったポストの上に置き、
二人は遠回りをして自分達の家に帰って行った。


時刻8時40分

2人はエレベーターで78階に行くと皆がそろっていた。

篠木「早朝デートとは…俊君だいた~ん」

エレベーターから降りて、一番最初に気づいた篠木が二人を見た瞬間
嫌な笑みを浮かべ、右手を口に当てながらそう言ってきた。
俊は顔を赤らめ「ち、違う!」と言いながら、笑いながら逃げる篠木を追いかける。

くるみ「ははは」

美咲「で、どうだった」

学校に行った事はもうわかっているようで、美咲はそう聞いてきた。

くるみ「……」

美咲「想像以上でしょ…全て忘れられているって」

同情の表情も、言葉もなく、美咲は「それが私たちの世界」と言わんばかりの表情で
くるみの顔を見ずに、追いかけっこをしている二人を見ながら告げる。

美咲「ま、慣れればあいつらみたいになるわよ」

そういってご飯を並べている輝の下へ歩いて行った。

輝「さ、くるみちゃんも食べよ」

手招きをしながら呼びかけてくる言葉に考えるのをやめ、くるみは言われる我慢に席に着く。

くるみ「いただきます」

手を合わせ端をとり、朝食をとる。


今日は終り


午前10時。

くるみはやる事がないということで美咲の連れられてきていた。
内装はフロアの真ん中に畳が四畳半。四畳を四角に枠取り、真ん中の空いた部分に
普通の半分の大きさの畳をはめてある形。他の部分は白いベニヤ板のような壁が天井までありさえぎられていて見えない。
所々に花や動物の模様が彩られている。
真ん中の畳の上に小さなちゃぶ台。その上には蜜柑と緑茶のペットボトルが置いてある。

美咲「私の一番落ち着くスペースよ」

そう述べて和のスペースを余所に、遮られていない場所から奥に入って行くと
ロッカーが三個ほど置かれたスペースがあった。
天井や床、壁(個々だけベニヤではなく、取り外し不可能な分厚いコンクリートの壁になっていた)に所々何かで切裂いたような傷跡がある。
その傷跡の付近には赤い水滴の様な跡が見受けられる。

美咲「ここは私の訓練ルームよ、ここだけ特別に作ってあるの」

くるみ「壁がありますね」

美咲「表面はコンクリートで中心部分が特殊合金で作ってあるわ、戦車で撃っても壊れないんじゃないかしら」

ロッカーを開けて中に入っていた包帯を二個ほど手に取り「少し下がっててね」と言うと
包帯の帯が美咲の周りをゆらゆらと舞うように伸びていく。

美咲「私の能力は物を動かす能力って言ったけど、こんなはさみで切れちゃうような脆い包帯でも━━!」

右手と前にクロスさせるように差し出し、勢いよくクロスさせていた手を放す。
包帯はその動作に見せられるように同じ動きをして見せた。
クロスし、斜めに勢いよくコンクリートの壁に刺さるとそのまま壁を切り裂くようにクロスを解きながら
斜めに斬れ線を入れていく。

美咲「━━こんなふうに武器になる…ってこと」

手を顔の前でパーに開居ていると、宙を舞う包帯がくるくると巻き戻されていく。

美咲「ま、どのみち切れるし、燃えるからそんなに使い道ないけどね」

笑いながら手に取った包帯をもとあった場所に戻し、
同じロッカー内にあった剣をくるみに渡し、自分はロッカーのドアに掛けられていた鎖と
同じくロッカーに掛けられていた袋の中から手裏剣(一束五枚)を取り出す。


美咲「ちょっと練習付き合ってよ…最近誰も付き合ってくれなくて」

中心の穴に紐を通し、束ねてあった手裏剣。
その紐を解き、無雑作にばらまく。すると手裏剣は空中で回転し始め、その場でずっとまわり続ける。
そんな事には気にもせず、もう一つ、手に持つ長さ一メートル程の黒光りする鎖を、
左手に少し輪っかを作るように束ね、もう片方の手で力強く引っ張る。
「ガシャンッ」と音が鳴り響く。

くるみ「……ど、どうしたら」

美咲「私の攻撃を避けるなり受けるなりしてくれればいいわ…怪我は…しないでね!」

そう言い終えると唐突に鎖を投げつけてくる。
鎖の軌道はくるみの顔面を目がけ、ぶれずに進んでくる。

くるみ「!」

咄嗟に、横へ転ぶように避けると鎖の軌道は「へ」の字に曲がり再びくるみ目がけ飛んでくる。

美咲「この鎖が届く範囲では避けることは不可能よ!」

くるみは立ち上がり、美咲のの背後に走り避ける。


この練習空間の広さはおよそ、半径15メートル程。その空間にロッカーが三つあるだけ。
他には何もない。しいて言えば傷跡の溝がある程度。
だが歩くも走るもその溝は引っかかるほどの深さや広さを持たない。

美咲が持つ鎖の長さは1メートル程。
くるみはその鎖を背後に美咲の周りを円を描くように走っていた。

美咲「後ろも、上も、下も、私が扱うものに死角はないのよ」

体の向きを変え、くるみ目がけ余っている部分の鎖の部分も広げて投げつける。

美咲「私の周りを走って鎖で私を縛ろうなんて思ったんだろうけど、さすがに私も馬鹿じゃないし」

くるみ「ひっかかりませんよね」

美咲「…そうね」

くるみは追いかけてくる鎖へ向けて剣を投げた。
「ガシャン」と剣が鎖に弾かれ、床に落ちる音が響く。
美咲は剣に一瞬目をやった。その刹那━━

美咲「な…!?」

くるみの姿は一瞬にして鎖の周囲から消えた。
鎖は勢いよく壁に叩き付けられる。

くるみ「チェックメイト」

美咲の首筋に剣が突きつけられる。
くるみが持っている剣は先程床に落ちた剣。
美咲が見る先に剣は落ちていない。

くるみ「……ありゃ」

くるみは勝を疑っていなかった、が、その考えはすぐに捨て、
剣を床に落とし両手を軽く上げて「参りました」と言った。


くるみの首には、ギリギリのところで回転し続ける手裏剣。
美咲はその状態でくるみを正座させて、自分は腕を組み勝ち誇った顔で見下げていた。

美咲「戦略、反応、行動力、ともに良し、が、敵の武装を見抜く…と言うより私の投げていた手裏剣の事を
忘れていた……」

くるみ「うっ…」

美咲「…ま、初めてにしてはいい動きだったし、総合的に見て…48点ね」

くるみ「低い…」

美咲「あら、平均点よ」

そういって手に持っていたノートを広げて見せる。

美咲「私は特訓を誰かとやる時その相手を採点するんだけど…今までで一番ひどかったのが輝ね」

くるみ「輝さんが?」

輝の勝負と言ったらあの野球の時の熱い雰囲気しか思い浮かばない。
いつもの優しいのとは違い、負けるとなると途端に変わるあの雰囲気しか。

美咲「一回私の勝ちだったんだけど、負けたと知った途端この部屋を火の海に変えたわ…
そして、仲間の事を考えないで暴走することって事で1点」

くるみ「低いですね…」

美咲「1点はすぐに収まったことへの褒美みたいなものよ」

この人は見た目に反し厳しい人だな、と正座させられながらしみじみと思ったくるみだった。
最後に美咲が「お茶と蜜柑あげる」と言って先程の緑茶と蜜柑一個を手渡してくれた。

くるみはその二つを持って屋上へと上がって行った。


屋上にはこの前乗ってきたヘリコプターはなくなっていた。
あのヘリコプターは篠木の能力で作り出した幻術。術者が解けば自然とソレは消える。

屋上にはガーデニングされた小さな庭のような場所があった。
ビルの端の部分は柵で囲まれてはいるが、庭はほぼ中心の位置にあるため、それほど気にならない。
よく見れば地面も人工芝のようになっていて、それほど違和感のない庭づくりになっている。

その庭の中心には浅い溝ができており、青く塗装されている。そして溝の中には水が流れている。
溝は十字の形をしており、横に50センチ縦に8メートルはある。
所々小さな石の橋が架かっている。

庭の中は人口ではなく、本当の土の上に草が生えていた。
よく見ると横にある看板に『土足禁止』と書いてあった。その看板の下には下駄箱のような収納ボックスがあったので、
そこに靴を脱ぎ、収納してくるみは庭の中へと足を踏み入れた。

くるみ「……」

三人は座れるであろうベンチに腰を掛け、横にお茶を置き蜜柑の皮をむいてた一口食べる。
「サーー」と風が草を揺らす心地よい音。

くるみ「……すっぱい」

まだ少し熟していない蜜柑をもう一口食べる。
何もない、何も遮るもののない空と言うのは街中ではなかなか見られない。
田舎でも山など広いところに行っても見れるかどうかの、かなり貴重な風景になってしまったこの時代。
この風景を独り占めできるというのは贅沢な物だ。
そう、蜜柑を食べ終えてベンチに深く座っていたくるみは思った。
陽気な空の下、心地良い日の当たりと温度に当てられくるみは瞼が重くなり、
眠りに堕ちた。

普通に治癒能力専門の人っていないんだね
北海道のみたいな大きい任務でも、くるみがいなかったら
もし誰か負傷してもすぐに治せなかったのか

>>154
居なくはないです、
修復班の中にいるって言う設定です、
そのあたりも後程書きますね(わすれてた)


少し前、美咲とくるみが二人で下の階へと降りて行った後。

輝「……」

黙々と朝食の片づけをする輝。
その横では席に着いたまま何かを考えるようにしている如月の姿があった。
その姿に輝は「どうかしたの?」と問いかけるが、集中しているのか反応がない。

輝「…屍の様だ」

如月「生きてるよ」

拳で口を押さえ考え込んでいた如月。その手が口から離れそう一言告げて
再び先までの姿勢へと戻る。
両肘を机につけ、右拳で口を押えて目をつむる。


輝「……考えるならソファー移ってよ」

そういうと如月は上半身はそのままに立ち上がり、
無言でソファーへと移り、倒れこむように眠り込んだ。

輝「ねるの…風邪ひくよ?」

無言でソファーの陰から親指を立てて、また戻して眠りについた。

輝「何処のターミネーターだよ」

そうは言いながらも黙々と食器を重ね、キッチンへと運んでいく。
皆が食べた後の食器を洗い始める。

今日は終わり


午前11時00分。

あれから如月はずっと考え込んだまま自分の世界から帰ってこない。
その姿を全員何も言わず、と言うか何も思わずただいつも通りに暮らしていた。

すると突然ソファーから起き上がった如月が腕を一直線に上げて
「注目!」そう告げた。
その一言に今まで騒いでいた連中は皆一気に静まり、腕を上げ、
目を閉じたままの如月を直視する。

如月「…全員いるか」

腕をゆっくりおろし、腕を組んで目を閉じたまま皆を見るように首を左右に動かして問う。
するとすぐ目の前に正座している茜が弱弱しく腕を上げて「くるみさんだけいません」そういって
弱弱しく上げていた腕を膝の上にもどす。

如月「よし…ではこれより会議を始める」

茜「え、くるみさん…」

言いかけた所で「彼女には今回の会議は内緒だ…」そう言って目を見開き茜を見つめ
言いかけた言葉を言わせない。
彼女の目は「反論は許さない」と告げている。
その眼光に皆が一斉に黙り込む。最初は不真面目に椅子に座りながら聞いていた者も姿勢を正す。


如月「現時刻『一一〇五』、これより杜くるみの今後の取り扱いについての会議を行う。
尚、今回の内容は当人には決して話してはならない!」

先程よりも強く眼光を利かせる。
その目、力強い口調、そして腕を後ろで組んだ姿勢に場の空気が引き締まる。
ソファーに立ったままの如月はそう述べてソファーに寝っころがる。

如月「え~上の命令でくるみちゃんの配属を修復か最前線のどちらにするか今日中にきめろとのことです」

先程までの威勢は欠片も残さず、いつも通りの不真面目な態度でテレビを見ている。
その態度の急変に御憑と茜は目をまるくさせている。
他の皆は変わらず真面目な態度で聞いている。
その光景に二人も先程までと変わらず真面目な姿勢で聞き耳を立てている。

如月「彼女の能力的には回復として修復班もいいでしょう、が、あの能力は最前線でも使える」

佐藤「回復しかできなければ修復班、だが彼女は戦うこともできると?私は彼女の実力を知らないから何も言えないが」

美咲「くるみは佐藤、貴方より上よ?ま、能力勝負での話ならだけど」

名前を呼ぶと同時に一息おいて対象の人物を見つめて指を指す。
そうして客観的な思いをぶつける。
美咲の言葉を聞いて佐藤は少し顔がにやけた。おそらくは「おもしろい」とでも思っているのだろう。
その雰囲気に当てられてか、他の男達も「おもしろそう」と顔を緩ませる。
それを察してか如月が一言「なら訓練してみれば?」と促す。


『訓練』
先程美咲とくるみがやった一対一での勝負が彼らにとっては訓練らしい。
怪我をしたら自分の弱さが悪い。
ただそれだけの何でもありの時間、ルール無制限の訓練。

美咲「そんな事より、くるみの事はどうするの?」

輝「美咲ちゃんはくるみちゃんの事心配?」

美咲が腕を組んで立っている後ろでずっと黙っていた輝が
ソファーに寝転んでいる如月を見つめたままの体制で話しかける。
すると美咲は輝の顔を見上げて黙り込む。

輝「正直に言っていいんだよ」

視線を美咲に移し、二人は見つめ合う。

如月「素直に言ってほしい…私はずっといてほしいと思っているよ、もちろん危険はあるから本人の意思も聞く」

美咲「……」

輝「ま、もう決まったみたいな物だけどね」

微笑む輝の顔を見て、決まり悪げに「わたしも一緒にいたいよ」そういった。


如月「ん…他は?」

起き上り、皆の方を見て少しにやけながら腕を組んでソファーの背もたれの
上に仁王立ちをして見せる如月の言葉に座っていた物は立ち上がり、
片手を上げて「異議なし」そう述べる。

輝「ね?」

美咲「な、なによ」

輝「ふふ……よかったね」

美咲「ふん!」

優しく微笑む輝から顔をそむける。

誰にも見えない体制で美咲は小さく微笑んだ。
「チーン」とエレベーターが到着し、中から複数人の黒服の男性を連れた老人がおりてくる。


如月「そ、総本部司令官?!」

如月の口から述べられた「総本部司令官」とは、この日本に存在する
異能者、異獣の取り扱いを行う組織の総締め。
そしてくるみ達が属する対異能者組織もその一部で、この老人、名を「間宮幾次(まみやいくじ)」

世界が震撼した超常現象事件の被害者であり、世界最高齢の異能者だ。

旗から見れば50代前半の白髪のダンディなおじさんだが、実年齢は68歳の老人。

間宮「如月くん…だったね」

幾次に問われ、如月は背もたれから降り敬礼をしてみせる。

如月「は!如月静香であります!」

間宮「あぁ、そういうのはいい」

軽く会釈して、背後にいる男性たちをエレベーターに残し、エレベーターの扉は閉じる。
中の男性たちは焦ってボタンを押して開けようとしたり、「指令?!」や「危険です!」など
叫んでいたが扉が閉まり、エレベーターは下へと降りていく。

間宮「いや、騒がしいし付きまとわれる和でうるさい連中だよ」

如月「は、はぁ…大変ですね」

間宮「まったくだよ」

苦笑いを浮かべながら「ここ、いいかな?」と言って近くのダイニングテーブルの席を
指さす。もちろん答えはOKで、幾時は「どっこいしょ」と声を上げて深く腰かける。


大物の登場で一気に静まりかえる。
その空気を理解し、口を開く。

如月「今日はどのような?」

間宮「ん?来ては迷惑だったかな?」

人の悪い笑みを浮かべて横に立つ如月を見ると、「と、とんでもないです!」と言う反応を見せる
如月を見てまた一段と人の悪い笑みを浮かべて見せる。

間宮「ははは、すまないね少しからかっただけだよ」

佐藤「で、今日は一体どのような用件で?」

佐藤が問う事に幾次も同じことは繰り返さない。
一度やったことはうけないと幾時は分かっている。

間宮「新入りの杜……くるみちゃんだっけ?」

如月「はい」

間宮「…どうやらそちらは決まっているようだね」

如月「はい」

同じ口調で、再度答える。
幾次は立ち上がりエレベーターの前に立つ。

間宮「決まっているようでよかった」

如月「それはどのような…」

間宮「決まってなかったら彼女は…」

「チーン」と、鳴り、エレベーターの扉が開くと先程の男性たちが降りてきて幾次の周りを囲む。

間宮「いや、すまん……じゃあ道を外さぬように…よろしく頼むぞ」

口調を重くして言った言葉に如月と佐藤は敬礼をして答える。
男性を連れてエレベーターに乗り込み帰って行く姿を2人以外はただ見つめていた。


輝「……なんか嵐のような人ですね、言葉の使い方あってます?」

幾次がいなくなった後、第一口を開いたのは輝だった。

美咲「知らないわよ」

皆が再び静まり返りエレベーターを見つめていた。
そこへ、突如現れたくるみが皆の後ろの扉から入ってくるが誰も気づかない。
全員が見つめるエレベーターの方を茜の横から顔をのぞかせ一緒に見る。

変わったところは何もない普通の扉。
するとくるみは茜の足が小刻みに震えているのを見た。

くるみ「………」

好奇心から人差し指を立て、ゆっくりと茜の足へと手を運ぶ。
ツン、と少し触れた瞬間「ひぃゃああんっ!!」と声を発すると同時に跳ねるように立ち上がる。
が、すぐに前のめりに崩れると一斉に皆が茜の方を振り向く。
そこには腰を上げて顔面から地面に倒れこんでいる茜と両手を上げてキョドるくるみの姿があった。


如月「く、くるみちゃん!?」

くるみ「は、はい」

如月「えっと……いつから?」

そういってポケットから音楽プレイヤーを出してみせる。

くるみ「え、…いまさっきですけど」

如月「そ、そお?」

一歩ずつ確かに近づいてくる。

くるみ「えぇ…えっと何か?」

しゃがんだ体制のまま一歩下がる。

如月「な、なんでもないわよ!…そ、そうだ!訓練しましょう訓練!」

持っていた音楽プレイヤーを懐にしまい腕を上げると
周りにいた佐藤が「いい考えだ!」と賛同してきた。
それに続き他の人も賛同し始めた。

くるみ「え?え?!……えぇ!?」

今日は終り


如月「そうと決まればさっそく移動だ移動!」

先頭に立ち、皆を先導する。

美咲「久々に腕が鳴るわね」

輝「さっき美咲ちゃん負けたんでしょ?ならもうやらなくても…」

美咲「あんなの本気じゃないに決まってるじゃない!!てか勝ったし!」

輝の言葉に苛立ち、輝の腕をポカスカと殴りつける。
痛くもないその攻撃を薄ら笑いで受け続ける。
周りからはどう見ても子供が親に駄々をこねているようにしか見えない。

2人がじゃれあう後ろを訳も分からず付いて行く。
皆がエレベーターに乗ると如月が円の中に『ク』とカタカナで書かれたボタンを押す。
エレベーター内は無言で降りていく数字の点滅を眺めていた。
「チーン」と到着の音が鳴る。

先頭に立っていた如月が、今度は佐藤に先頭を譲った。
佐藤は先に部屋の奥に一人で走って行き、何やら床に書いている。
その後ろを壁沿いに、佐藤が何か作業をしている横まで縦一列になって歩いていき、
真横に到着すると同時に佐藤も作業を終え、こちらへ振り向く。


佐藤の足元には半径4メートル程の円が描かれていた。
円の真ん中には10センチ程縦線がクロスされたのバツ印がある。
その印の真上に立ち、一つ咳払いをしてみせる。

佐藤「これより、訓練を始めることにする。ルール、時間などは無制限、どちらか片方の意識がなくなるか
ギブアップを宣言するまで続けてもらう。尚この円の外に出た場合は観客の皆からの攻撃も行われる」

如月「ではまず、私と佐藤が実演して見せよう…くるみちゃん、みててね!」

親指を立て、目を輝かせてそういわれるとくるみも何も言わないわけにはいかず、
「が、がんばって!」と同じように親指を立てて返事を返してしまった。
その返答に如月は腕を廻しながら円の中へと入って行く。

円の縁に立ち、両手を大きく上げる篠木。

篠木「これより訓練、『佐藤大樹VS如月静香』の勝負を開始します…」

両方を目で見て「準備は」と問う。

佐藤「かまわん」

右足を前に出し中腰になり、右手を胸の前に拳を握りしめ、
左腕を『く』の字に曲げて腰の位置に手を構える。

如月「いくよ!」

いつも通りに立ち、左足のかかとを少し浮かせて両腕の力を抜いてたらす。
視線は佐藤の目をとらえている。

篠木「レディッ!……ファイッ!」

2人の体制をみて両腕を勢いよく振り下ろす。

二人のはその声と共に動き始めた。


両者床を蹴り、一瞬にして手を伸ばせばすぐにあたる距離まで間合いを詰めた。

佐藤は構えの体制のまま移動し、右手を如月の首筋へと伸ばす。

如月は移動の反動で腕が真後ろに伸びていた。

伸びる右手が一瞬にして叩き落とされる。

佐藤「?!」

何が起こったかわからない、と言う顔を見せる佐藤の腹に如月のけりが突き刺さる。

如月「考えていては始まらないよ!」

その一言に佐藤は何が起こったか考えるのをやめ、目の前の標的を倒すことだけを床に這いつくばらせる
その事だけを考えて左手で如月の足を掴む。


如月「おわ?!」

バランスを崩し倒れこむ、が、佐藤がそれを許さずに振り回し投げる。

宙をまう如月の身体は見ていた輝の下へと飛んでいく。
大人の女性の身体をその身に受け止めた輝は何ともなく、ニッコリと笑って見せた。
御姫様抱っこ状態の如月は動くことができないまま顔を引きつらせている。

如月「じ、慈悲を…」

輝「ルールですので」

笑顔のまま目を見開いている。目は笑っていなく、如月の目をじっと見つめている。

如月「~~!!」

腕の中でもがく。
余計に強く抱きしめる輝。
いっそうあがく如月。

如月「っ!」

ズンッとビル全体が揺れる感覚がその場にいた全員を襲う。

如月「なん?!」

輝「おわぁ」

如月を抱いたままの状態で前のめりに倒れる。
右足を素早く前に出してギリギリのところで体制を持ち直すと、抱いていた如月を下し、
その場にしゃがみ込むようにして体制をとる。

如月「地震か」


くるみ「……この世界も…ですか」

ぽつりと、誰かが気づくか気づかないかの音量で発せられたくるみの言葉に反応したのは
近くに居た如月と輝だった。
輝は振り返り頭上に「?」マークを浮かべるようにして首をかしげている。
如月は「何?どういう事」と積極的に聞いてくる。
その問いに顔を青ざめてくるみは告げる。

くるみ「…この地震から約一時間後…もう一度自身が着ます、そのはずです」

如月「…それで?」

身を乗り出し興味津々になって続きえを聞きたがる。

くるみ「ただそれだけです、特に災害は起きません」

如月「……そ、そう」

少しずつ身を引いていき、最終的に胡坐の体制になる。

如月「次の地震も強いの?」

今起きた地震も結構強かったが、特にビルが壊れたりするほどではない。

くるみ「今の半分もないです…寝てれば気づかないと思います」

如月「…そっか……」

少しくるみの顔を見つめていたが、くるみが首を傾けると苦笑を浮かべて
すぐに顔の向きを変えた。
「…なんであんなに不安そうだったんだろう」そうくるみ視界のギリギリにとらえて如月は
思っていた。たぶん隣にいた輝も同じこと尾をもったのか、チラチラと目が逢った。


それから皆は各自でわかれずに一緒に行動を(同じフロアで)していた。
案の定、地震は起きた。が、どこにつかまらなきゃ立っていられないほど強くは無かった。
ニュースも地震ニュースが続いていたがキャスターも軽く手渡された紙を見て震度を伝え
津波の心配はない、そういって警戒を最後に促していつも通りのニュース番組に戻って行った。
ニュースをやっていなかったチャンネルは画面の上に場所と震度などが映ったくらいの小さな地震。

如月「本当に起きたね」

美咲「さすがループしてるだけはあるわね」

くるみ「……」

輝「…」

他のみんなが笑ってお茶をしている中、カップを手にも取らず下をうつむいているくるみを心配そうな
眼差しでずっと見ている。

すると椅子から立ち上がり「…夕飯になったらよんでください」と、その一言を残して
一人自分のフロアに戻って行った。

如月「どうしたんだろうね」

輝「…私も少し行ってくるね」

如月「ん」

カップに口をつけて、開いている手で手を振って見送る。
エレベーターの中でドアを開けたまま待っているくるみ。
中に入ると丁寧に輝の分のボタンも押してくれた。
二人の空間はモーター音だけが鳴り響いていた。


自分のフロアにある予備のカップを二つとポットと茶葉の缶、クッキーの缶を籠に詰めていた。

輝「…紅茶でいいかな、あとはチョコクッキーっと…よし!」

一つ一つを指さし確認した後に拳を握りしめて小さくガッツポーズをとる。
籠の持ち手に腕を通し、腕を曲げて、腕に掛ける様にして持ちエレベーターに乗り込み、
円の中に「く」と書かれたボタンを押す。
目指すはくるみの部屋。


輝を乗せたエレベーターが降りて行った後。
部屋の真ん中に敷いてあった布団の掛布団だけを取り敷布団は三つ折りにする。
手に持った掛布団と、布団の横に置いてあった椅子を手にくるみは窓際まで運んで行き
椅子に座り布団を纏うようにして被さる。

くるみ「……」
冷えている手に「はぁ~」と息を吹きかける。
暖房もストーブも何もないフロア。
コンクリートは外並み冷え切り、触るとすごく冷たい。
吐いた息は微かに白くなっていた。
時期的にはもう冬だろう、雪は降っていないが落ち葉が舞う季節。
このフロアは上層階なこともあっていっそう寒く冷え切っている。

くるみ「……ココア飲みたいな…お母さんの」

再度息を吐く。
やはり白くなる息を見て両手を頬にあてる。
「つめたいっ」そういってすぐに手をよける。

「チーン」と後ろから音が鳴る。


エレベーターから輝が中位の大きさの籠を腕に抱えて降りてくる。
胸元で軽く手を振りながら椅子に座っているくるみの所まで小走り移動してくると
籠を床に下し、中からカップとポットと缶を二つだし、籠の蓋を閉じてその上にすべてを並べる。

輝「小さくてごめんね、さすがにテーブルはもってこれないから」

笑いながら茶葉を透明のティーポットの中に軽く缶を振って入れる。

輝「いつもはもうちょっとちゃんとやるけど、器具は大きくてね、今回はこれでゆるしてね」

そう言いながら淡々と作業を進める。
ティーポットの中にパーカーのポケットから出したペットボトルの水を入れれて蓋をする。

くるみ「…な、なにを?」

輝「ん?何が」

しゃがんだままくるみの真正面で作業をする輝に軽く問いかけると、問い返されたので
再度問い返す。

くるみ「いや、ここで何を?」

この質問に輝は「あ~」と納得の顔を見せて「寒いでしょ?」と笑顔で答えた。
くるみとしてはさらに謎が深まっただけだった。
これ以上質問してもまた今のように答えられると思いそれ以上は追及しなかった。


くるみ「……どうしたんです?」

暫くしていると輝の動きが少しずつ遅くなっていった。
そして最終的には完全に動きを止めて静止してしまった。
作業が止まり静止しているので声をかける。

輝「…コンロ忘れた」

ティーポットを右手に持ち左手でティーポットの下の部分をさすりながら
半泣きの顔で見上げてくる。

くるみ「えっと……能力で火を…」

輝「は!そうだ!」

目を見開き、立ち上がるとポットの下をさするのをやめ、ペタッと手を張り付ける。
すぐに手とポットの間から小さく火が吹き荒れ始めた。

落ち着いたのか、窓の外を見たまま「すこしまっててね」と言ってもう一つの缶を開けて
クッキーを差し出してきた。

くるみ「い、いただきます」

差し出されたクッキーを手に取り、食べる。
程よい甘さ。サクッと言う触感に噛んでいると更に甘くなり、溶けてなくなる。
もう一枚。もう一枚とさらに食べてしまう。


輝「はい、紅茶」

カップからはほのかに甘い香りが漂ってくる。
カップを乗せているソーサーを受け取り、少し匂いを嗅いでから少しずつ飲む。
その光景を自分も飲みながら見ている。

輝「どう?おちついた?」

くるみ「……はい」

輝「一体どうしたの?顔色おかしいよ?」

くるみ「いえ…」

答えられずに口を閉ざしてしまう。
だが、そんなくるみを責めるわけでもなく、質問をやめるわけでもなく輝は続ける。

輝「……地震の後、また何かあるの?」

この一言で俯いていたくるみの顔が立ってくるみを見下ろしている輝の視線と合う。


顔は上げたが口が開かない。
しばらく二人は見つめ合っていた。

輝「…もう一杯いる?」

ティーポットを片手にくるみの持つカップを取ろうとする。
が、くるみはその手を避け、首を横に二度振る。

輝「…話す?」

ティーポットを籠の上に置く。
するとくるみは一つ頷き、カップの中に余っていた紅茶を飲み干して、ソーサーと一緒に
ポットの横に置き、姿勢をただし窓の外を見つめた。

くるみ「…地震が起きました」

話し始めると輝は窓に背中を預け腕を組んで目を瞑り、耳を傾ける。


くるみ「今までの世界は同じようで違う世界でした。だから私も飽きずに生きてこれた。
同じ人でも性格が違ったり、つるむ友達が違うなんてこともありました、
私の友達はみんな変わりませんでしたけど…楽しかった。まぁ授業は何回も受ける羽目になりましたね
でも二つ、変わらない出来事があったんです」

そこで一息つく。
その一息の間に黙っていた輝が目を開けて一言「地震」とだけ告げ、もう一度目を瞑る。

くるみ「…そうです、地震です」

一つ頷き、輝の回答に丸を付ける。
だが輝は組んでいた腕の間から指を一本出して問題を出す。

輝「もう一つの共通点は…?」

それへの答えはしばしの沈黙の後に返ってきた。

くるみ「…ループする瞬間の事です」

視線は徐々に下へと下がって行く。
必死に前をむこうとするから完全には下がらずにいられる。

輝「瞬間?…覚えてるの?」

俯きかけているくるみの目を見つめて答えを待っている。


くるみ「私がループする時……」

輝「うん」

くるみ「…死ぬんですよ、必ず」

輝「……」

くるみ「死に方は全く違うんです…だから怖いんです」

くるみの両手は両腕を押さえて体を小刻みに揺らしている。
室内温度は低い。だがそれだけではない何か、これはもう明白にわかっている。
この体の揺れは恐怖。過去のトラウマからくるもの。
だがくるみの場合先の未来に怯えている。
今までの世界で必ず起きていたという地震が起きたことではなくその先地震が起きた。
では必ず自分は死に、また世界を繰り返す
くるみにとっては他人の死には慣れても自分の死はやはり怖いのだろう。

不安に駆られるくるみに輝は紅茶を一杯手渡し、飲ませた。
少しずつだが体の震えが止まっていく。
次第に眠気に襲われ、くるみは眠りに堕ちた。

如月「……予想以上に根深いことがありそうね」

くるみが寝静まる椅子の横の柱から音楽プレイヤーを片手に持った如月の姿が現れる。


自分が持っていたカップに紅茶を注ぎ、立っている如月へと手渡す。

輝「いつから?」

如月「どうも……さぁ、いつからだろうね」

輝「まったく」

如月「音を操るお姉さんは足音も機械の音も消せちゃうわけよん」

手渡された紅茶の入ったカップに口を付ける。
液体を勢いよくそそるように飲むが、音は聞こえない。
静かに紅茶を飲んでいるようにしか見えはしない。

輝「カップの縁を持つのはいいけど、落とさないでよ?」

籠の上に置いてあったものすべてを籠の中に収納し終え
如月が飲み干したからのカップを手渡すよう、要求するように手を差し伸べる。

如月「私もそこまで握力ないわけじゃないのよ?」

輝「逆です~、ゴリラ並の握力で壊されないか心配なの」

如月「いっそ本当に割ってやりましょうか?」

口元を引きつらせ、ぎこちない笑顔でカップを持つ手に力を入れる。

輝「そのカップ10万だから」

が、輝の一言で一瞬にして真顔に戻り、
丁寧に両手でカップを包み込むようにして差し伸べられた手の平の上へと手渡す。

輝「現金な人だこと」


如月「んじゃ、私はもどるわ~」

パーカーのポケットに手を入れて、首を手の代わりに横に振りながら去って行くその後ろ姿を輝は
呆れた顔で見送る事しかしなかった。
手に持っているカップを籠の中へとしまい蓋を閉じる。

輝「……この部屋寒いな」

如月「室内温度3度で~す」

エレベーターの横にある室温計をみて、背中を向けて手を振りながらそう言うと
扉の空いたエレベーターに乗り込み、自室(フロア)へと戻って行った。

輝「風邪ひいちゃうし、連れてくか」

俊「手伝う?手荷物一杯そうで一人じゃ運べないでしょ?」

輝が立つ足元に顔だけを出現させて上を覗き込むようにしている。
下を向くと視線が合う。
幸い、輝の服装は七分丈のズボンなので、何も見えないが
女性として男性の視線がまた下からのぞいているというのはどこか許せない(許せる人も例外的に入るが)。

俊「おっと…クールな視線ですね」

ニッコリ微笑む俊の顔の真横から一瞬にして火が吹き荒れる。

俊「Oh!ホット!ファッキンホット!(クソ熱い!)」

そういって俊の顔はその場から消えた。が、すぐに輝の真正面に全身完全体で現れる。

輝「…俊くん…いけないよ?女性の足元にいるなんて?」

相変わらず冷たい視線で少し首を横に傾けている。
細めた視線と垂れる前髪。背後の夕焼けが恐怖感を増す。

俊「夕焼けに照らされてくびれたラインがまたいいね!」

親指を立てて微笑む俊に拳を向ける。

輝「わかった、君はやはり馬鹿だ、そして変態だ」

微笑み、拳を開き、掌を天井にむけてもう一度閉じる、
閉じるときに勢いで腕が少し内側に曲りガッツポーズのようになった。

俊の身体が一瞬にして炎の柱へと変わる。


勢いよく吹き荒れる炎の柱から火傷も服が焦げた跡も何もない言葉通り無傷の状態で
両手を上げて降参を表しながらでてくる。

俊「おれじゃなかったら死んでますよ?」

輝「お前以外にはやらないよ」

俊「それは告白と受け取っても?」

輝「死にたいならいいぞ」

椅子に横たわるくるみをの前でしゃがむ。

俊「んも~出れていいんですよ?」

輝「来世に期待しとけ、それよりほら、くるみちゃんを私の背中に」

俊「あら?俺じゃないんです?」

輝「お前は私の荷物持ちだ」

俊「了解です…」

くるみの脇へと手を通し、体制を起こして輝の背中へと預ける。

くるみ「ん……」

色っぽい声が輝の耳元で発せられる。
その声を聞いて輝は俊を睨みつける。

俊「無実です」

輝「今回は許す」

俊「ありがたき幸せ」

丁寧にお辞儀をして、置いてある籠を手に取り、三人はエレベーターに乗り込み、
13階、輝のフロアへと降下していった。


午後七時半。

くるみ以外の全員が集まって夕食をとっていた。
くるみは如月の能力によって眠らされたままだ。
本人曰く「そこまで協力な催眠はしていない」と言っていた。
輝の考えでは日頃の疲れがたまっていたんだろうと。
二人が食事中に口論するのは珍しく、皆は食事のおかず変わりのような感じで聞き流していた。
いつもは輝が行儀悪いと剣かはすぐに止めるのでいつもはおしゃべり程度。
だが突然二人の喧嘩はぴたりと止まった。
その場にいた全員がつけられていたテレビへと意識を集中させることになった。
テレビの画面には海に浮かぶ残骸と人が数十人しか上陸できないであろう孤島のような物が
数か所ある映像が流れていた。
夜なので、撮影しているヘリコプターの光でしかわからないが、所々人なども浮いているように見えた。
ニュースには小さく映し出された画面しか動きがない。
座っているキャスターはその画面を食いるように目をまるくして見つめている。
テロップには『北海道崩壊』そう書かれていた。


「………」
室内には呼吸音、そして時計の二つの音だけが混じっている。
誰かが息を飲んだ。
誰かがお皿に箸を落とした。
誰もが止まった瞬間、世界中が、あの超常現象の日に戻った感覚を覚えた。

如月「……なんだ……これは」

少人数の室内には如月の声だけが響き渡るように感じた。
現時刻、七時十三分。空はとっくに暗くなる時間。
だが今室内は電気がついているかいないかすらわからないほどに外からの光を吸収している。


外の光がいっそう強さをまし、太陽を見たときのように目を瞑るほどの明るさとなる。
徐々に体が熱くほてり始める。それは室内の温度も同じだ。
机に置いてあった一枚の紙が燃え始める。

微かに焦げる臭いが皆の鼻にかかる。

篠木「これは!」

如月「能力…か?」

この異常な現象に誰もがそう思い、慌て始めた。

茜「……これは」

皆が目を瞑り両手で目を覆う中、一人手を目に当てずこめかみに触れるか触れないかの
ところで両手を構えて何かを察したように、視線は合っているかわからないが皆と目を
合わせるように顔を上げる。

如月「今度は何?!」

声の下方向へと顔を向け、耳を傾ける。
その声に反応したものすべてが茜の次の言葉を待っていた。

茜「この階層の…外、空中に生体反応が三つ、ヘリコプターが一機です」

御憑「ってことは」

如月「…なんでまた敵襲なんか」

部屋の意温度は上昇し続ける。
だが光は徐々に弱まり、目を開けても大丈夫になってきた。


目を開けるが、室温にやられまともに開けていられる時間が数秒しかない中、
皆の目に映ったのはロフトの上が火の海になっていた光景。

篠木「部屋の温度上昇はこの所為か」

俊「本……ほーーーーーーーーん!!!」

燃える本の山を見て泣き叫ぶ俊。
彼のコレクションは一瞬にして灰になった。
泣き叫ぶ俊を佐藤が担ぎ、皆は非常階段から屋上へと登りだした。
エレベーターを使おうとしたが、ワイヤーが解けてエレベーターが使い物にならなかった。

 


屋上に上がると一人の青年が小さな園庭の中にあるベンチに座り、空を眺めていた。

如月「……」

青年を見て黙り込む如月。
その後ろから茜を支えながら階段を上がってくる御憑。
茜は先程から同じ体制で周りを伺うかのように数秒単位で左右に首を振っている。

茜「…彼の背後…2人」

青年「おや、探知系の人が最前線班にいるとは驚きだ」

茜の子と合を聞き、見た目の割に少し老けた声をしている青年が立ち上がり
人差し指と親指をくっつけて輪っかにして、目の前に持ってきて指で眼鏡を作り
頭の横に両手を固定している茜を見つめる。


如月「…なんでここにいる」

左足を半歩分下げ、体制を青年に対し斜めにして構えをとる。
警戒の体制に入る如月。後から上ってきた佐藤も青年の姿を見て如月とは左右反対だが
同じ体制を取り、警戒の体制に入る。

青年「なんでって…酷いこと言うね静香、大樹もそう警戒しないで」

両手を下に戻し、背後に隠れている二人の男女を手招きで呼び寄せてベンチに座るように指示する。

美咲「ふ、二人とも…?」

警戒する二人の背後から声がかけられる。


青年「ほら、話しかけられてるよ?返事しなきゃ…ね」

月明かりに照らされ青年の目に不気味な光が宿る。

如月「……どうしたの」

体制はそのまま、一歩下がり美咲の横に移動し視線だけを向けている。

美咲「あれは誰…なの」

佐藤「彼はもともと私達二人と一緒に軍で訓練していた兵士の一人で…俺たちの班の結成当時組みだ」

青年「yes!…よくできました」

「パチパチパチ」と手を叩き歩み寄ってくる青年。
慌てて前に出て臨戦態勢を取る如月の手には剣銃が握られていた。

青年「…そんなもので俺は止められないよ…」

構えられている拳銃を指さし、如月を睨みつけるように見つめる。
月明かりの眼光が鋭さを際立たせてより強い睨みとなる。

輝「やばいのか」

構える佐藤の耳元に輝が小さく囁く。
その答えを頭を一度上下させるだけで済ませる。
答えを聞いた輝は背後の御憑、茜をゆっくり後ずさりさせる。

突如音もなく突風が吹き荒れ、行く手を遮る。


輝「なっ!」

突風に乗った砂が輝の目にはいり、視界をふさがれる。

茜「っ!ノイズが酷くて周囲が読めない!」

三人を取り囲むのは砂の竜巻。
威力はなくとも移動を制限するにはちょうどいいものだった。

行く手を阻まれ移動することができない三人。
その姿に気づいた青年が「おやおやおや」といかにもわざとらしい演技がかった台詞を言っている。

青年「逃がさないよ…君たちには協力してもらうんだから」

如月「悪党には手を貸さない…」

青年「なら言葉を変えよう」

そういうと青年は背後の男女と共に地に膝を着け、深く体制を前に倒す。
三人は土下座をし始めた。


頭を下げる姿にすっかり気を取られ、警戒の体制を解き
三人の前に立ち尽くし、見下ろす。

如月「…何が目的だ」

青年「お前たちに協力させてくれ」

如月「……ごめん、意味が分からない」

青年「え?!」

いきなり顔を上げると青年は何も言わずに立ちあがって青年は如月の前に立ち、
顔をじろじろと嘗め回すように見てくる。

如月「…なんだよ」

あまりの奇行に一歩後ずさりしてしまった。

青年「…いや、北海道の兼調べ始めるのかと思って…一緒に調べようと思い来たのだが」

如月「た、確かに気になっているけど…ニュース見たばかりだし、戸惑ってたし」

身を乗り出し如月の上にくっつくようにして話しかけてくる。
如月は体をどんどんそり返していき、青年の下になっている。


青年「ネット見ろよ…情報なら三時間前に出回ってたぞ」

如月「しるかよ!後近いよ!なんかあたってる!」

青年「ふっ…俺のゴールデンな物だよ」

青年「…ん?」

突如青年は如月から離れる。
如月の顔の前を三枚のトランプが音を立てて通り過ぎる。

如月「?!」

驚き体制を崩して後頭部から崩れ落ちる。
ギリギリのところで体制を180度回転させて鼻が地面スレスレで体を受け止める。
その横を走り去るゴスロリ衣装の美咲。

美咲「なんか知らないけど…早くあの三人の周りの砂をどうにかしろ!」

腕を振り回す動きと連動してトランプが青年へと襲い掛かる。


青年「いや、あれは俺が同行できるもんじゃ」

美咲「じゃあさっきの演技っぽいのはなんなんだよ!」

青年「あ、あれは見事に敵さんが来たから喜びの表現的な…っ!」

後ろに下がっていた青年がぴたりと止まる。
青年の首回りを三枚のトランプがスレスレのところで高速回転している。
それと同時に美咲の身体もとまる。

美咲「…敵?」

青年「そう…北海道沈めた犯人みたいなもんだよ」

美咲「じゃああれは…」

青年「俺の仲間はこの2人しか連れてきてないよ」

如月「…じゃあさっきの光は?」

青年「光?何の事だ」

首を傾げて両手を顔の横まで持ってきて「何のことかさっぱり」と手をぶらぶらと振り回し始める。

如月「篠木、俊、悠…早く三人を助け出せ!」

慌てて立ち上がり、砂の竜巻へと走り出す。
だが途中で佐藤の腕に引き留められる。

篠木「具現…巨大扇風機!」

俊「あ、俺なんもできない」

悠「いっけ!扇風機…スイッチオン!」

突如現れた三メートル程の大きさの扇風機そのスイッチを押す。
扇風機は大きく風を引き起こし、竜巻を巨大化させた。

篠木「……」

悠「なにやってんの!」

篠木「…悠さん…いけ!能力で竜巻の中に行って助けてこい!」

悠「丸投げかよ」

二人がコントをしていると、風の音の中から「皆下がってて」と輝の声が聞こえてきた。


声が止むと同時に風も止み、一瞬にして竜巻はその姿をけし
砂埃だけが空中を舞っている。
近くにいた男子三人は砂が目に入ったり口に入ったりでせき込んだりしていた。

砂埃が晴れ、中からは二人を腕で包みこんでいる輝の姿が出てきた。

輝「…で、結局みんな最初は無視と?特に男子!」

篠木・俊・悠「誠に申し訳ありませんでした!」

息のそろった心の無い土下座が女性三人の目の前に繰り広げられる。

輝「ご覧、男ってのはこれをやるとなんでも許してもらえると思っているんだよ」

御憑「……唾吐く?」

輝の顔を見て、三人を指さしもう片方の手を口の中に入れてつぶやく。

輝「いいとも」

茜「やめなよ汚くなるよ?御憑の手が」

輝「それもそうだ、やめなさい。そこに在る鉄のパイプで後頭部を殴るくらいにしなさい」

その会話を聞いて男子三人は冷や汗を流しながらコソコソと横同士で会話をしていた。
おそらく、女性三人には聞こえていない。
御憑は指示された通り輝パイプを引きずりながら二本もってきた。


如月「そこ六人、早くこっちに!」

何かを話していた如月、佐藤、青年の三人は馬鹿やっている六人を園庭近くに呼び寄せる。
指示通り歩いていると真横を青年と美咲が横切る。

美咲は御憑が持っていたパイプを「借りるよ」とだけ言って奪い取り走って行く。

輝「…何?」

如月「今の砂嵐、さっきの光の奴と同じ…敵襲よ」

輝「異能者なの?」

両腕の中に居た2人を先に行かせ、如月と2人立ち話しを始める。

如月「私もよく知らないけど…あいつが言うには北海道を消し去った犯人っぽいわ」

輝「そんなのが私たちにいったい何の用なの」

二人が走って行った方向を見ると、巨大なヘリコプターが上昇してきた。
プロペラは回っていない。
ヘリコプターの扉が開いている。中には慎重二メートルはありそうな屈強な体の男性が
ロングコートのポケットに手を入れてこちらをジッと見つめている。


青年と美咲を見ている男性の補遺後には獣の尻尾の様な物がうごめいている。
青年は立ち尽くしていた篠木の肩をたたいた。

篠木「誰?!」

青年「君の先輩だ…君刀って出せる?」

篠木「だ、だせますけど」

青年「どんなのでもいい、出してくれ」

篠木「え、は、はい」

篠木は両手を大きく広げ勢いよく手を叩く。
「パンッ」と大きな音が響くと、一瞬篠木の合わせられた掌の中から閃光が走り
手を放すと刀が光の中から製錬されて出てくる。
宙にうかぶ刀を手に取り青年へと手渡す。

手渡された刀を鞘から抜き取り鞘を投げ捨てる。
投げ捨てられた鞘は地面に落ちることなく消滅した。

青年「そういえば…まだ名のってなかったね」

刀の刃むき出し恩状態で刃の部分を肩に乗せながら振り返り一つお辞儀をしてみせる。


目の前にいた篠木はつられて頭をかるく上下させる。
横に立っている美咲はパイプを左手で一つ逆さに持ち、右手で一つを不通に持った状態で
お辞儀する青年の姿を横目で見ている。

ゆらぎ「ゆらぎ、杜ゆらぎだ」

篠木「杜?」

ゆらぎ「ん?」

篠木「……」

後ろに立ち、ヘリコプターに乗っている男を見ている如月を見る。

男性「そろそろいいかな!諸君…私もそろそろ待つのは飽きてきた!」

するとタイミングを見計らったかのように男性は声をかけてきた。
その声に皆が彼に注目する。後ろを振り返っていた篠木も声に反応し再度振り返り
男性へと視点を合わせる。



ゆらぎ「おっと失礼…つい忘れていたよ」

男性「それはそれは、では今度は永遠にその脳に刻んであげましょうか?」

二人の間に火花が散ったような錯覚を覚えるほどの緊張感が流れる。
だがそれは二人以外の者で当の2人はお互いニヤニヤと不敵な笑みを浮かべている。

如月「おい!貴様!」

男性「女性が貴様などはしたないですよ」

如月「貴様は…異獣なのか?」

如月は男性の背後にうごめいている尻尾を指さして言った。
男性はコートに隠していたはずの尻尾を見て「あぁ…」と声を漏らした後
に一つ頷いた。

男性「貴方たちの世界では私たちはそのように呼ばれているようだ…」

遠回しの回答。
皆の顔が引きつる。
男性はヘリコプターから飛び落り、屋上へと着地する。

ヘリコプターとビルまでの距離はおよそ五メートル。
その距離を軽く前に歩く程度の力で渡ってきた。


間近でみる男性の瞳は綺麗な緋色をしていた。
そして尻尾は本物。顔はもみあげと顎髭がつながっていて、目つきはつ居りあがっていて
さらに尻尾まである
まるで狼の様な物だった。

男性「私は狼と人間の混血でね…そう驚かないでほしい」

如月「混血…?!」

男性「いやはやこの世界には驚きましたよ…まさか人間と他の動物が交わっていないとは」

男性はそういうとコートを脱ぎ始めた。

ウルフ「我が名はウルフ、本名は長いので省略させていただきたい」

コートを脱ぐ捨てたウルフの身体はズボンははいていたが上半身は普通の人の身体をしている。
胸元には斜めに入った深い傷跡が残っていた。

如月「……お前は一体何が目的でここに来たんだ」

ウルフ「私たちが帰るために必要な物を取りに来たのです」

如月「なんのこと…だ」


ウルフ「時間を操る少女、彼女の能力があればあの事件のあった日に戻り、過去を変えられる」

如月「?!」

美咲「くるみをどうする気」

ゆらぎ「?!」

ウルフ「くるみ…少女の名か」

ゆらぎは肩に乗せていた刀を下し、左手を前に、刀を右手に後ろで構える。
美咲は両手をクロスさせて構えを取る。

ゆらぎ「……静香…後で聞かせてもらうぞ」

如月「わかった……だから今はこいつらを追い返そう」

「追い返す」如月は本能的に勝てないと思っていた。
その言葉には誰も反論しなかった。
今は何としてもこの狼男をこのビルから、くるみから遠ざける必要があると思ったのだ。


ウルフ「協力してくれませんかね」

大きな右手で顔を覆い、指の間から緋色の瞳をのぞかせている。
左手は大きく広げられ、手のひらの上には紫に光る火球が燃えている。

如月「確かに、事件を起こさないようにするのはいい、だがくるみを犠牲にはさせない」

ウルフ「犠牲ですか…たしかに彼女は過去に取り残されますね」

ウルフ「交渉決裂ですか…残念です」

最初から交渉などする気はなかったように見える。
如月はそう思いながら二人に命令を出した。

如月「ゆらぎ、美咲…やっちゃって」

ゆらぎ「行くぞ、二人とも援護しろ」

ゆらぎの連れが命令に対し無言で頷き、ゆらぎの前へと走り抜け、男性を通りすぎて
後ろのヘリコプターの中の人物に対し攻撃をしけかる。
ヘリコプターの中から出てきた二人の人物。

一人は膝の関節が動物みたいに後ろに突っ張っていて、飛び出した男性の頭めがけ蹴りを入れてくる。
もうひとり出てきた人物には羽が二羽分生えていた。
空を飛び、とびかかって行った女性の攻撃をかわし、背中を掴みビルの屋上めがけ投げ捨てる。
投げられた女性コンクリートの地面に身体が埋まりは口から血を吐き気絶した。

ゆらぎ「…人間業じゃねぇな」

ウルフ「まぁ、半分人間やめてますから」

口元を引きつらせニヤリと笑い火球の灯っている手をゆらぎへ向け、
その火球を飛ばしてくる。
飛ばされた火球はウルフとゆらぎの中間あたりの距離で煙を上げて消滅した。

ウルフ「ほう…」

ゆらぎの体制は少しも動いていない。
火球が消えた位置からは燃えたトランプがゆらゆらを空中を漂いながら落ちてきた。
ウルフの視線はゆらぎから美咲へと瞬時に移された。

美咲「私も見て頂けないかしら…狼男さん」

ウルフ「…おっとすまない、小さくて気づかなかった」

驚いた表情で言われたその言葉に美咲は瞬時に持っていたパイプを一つ投げた。
投げられたパイプはウルフの腕に弾かれ、地面にめり込んだ。

ウルフ「おっと…小さくても力は相当なものだ」


力ではない。能力だ。
コンクリートに綺麗にめり込んだ鉄パイプ。それは粘土に指を埋めるときの様に滑らかな入り方だった。
それをこの狼男は片腕で、じゃれてくる相手の手をよけるかのように軽々と弾いたのだ。
そう思った瞬間、美咲の額には汗が垂れ、目は同様のあまり一瞬視界がぶれた。
パイプを見ようとして目を一瞬ウルフから放し、刹那の速さで目を離してはいけないと目を戻す。

目の前には大きな手が顔を覆うように開かれていた。

ゆらぎ「いつのまに!」

瞼を閉じて開く一瞬の出来事の間に目の前から姿は消されていた。
探す間もなく姿を見つけることができたのは自分の視界の広さに感謝だ。
だが、見えてはいても体が動かない。動く時間がなかった。
首を動かし美咲とウルフの方向へと向ける時間は一秒未満。その間に美咲の頭は
ウルフの手につかまれコンクリートの中へと埋まっていた。

ウルフ「御嬢さんの力は少々私としても恐れるものがある…初めに退場してくれ」

コンクリートに埋もれていた手を抜いた。その手には赤く光る液体がべったりとこびりついていた。
手に付いた液体を見てニヤリと笑い嘗め回す。
一口なめるとゆらぎを見て一歩足を踏込つま先を向ける。
手を上にあげ、下に思い切り振り下ろす。
「ベチャッ」濡れた雑巾を床に落とした時のような音を上げて血しぶきが灰色のコンクリートの地面を
覆うようにまき散らされる。

ウルフ「若い血は喉を潤す…若い狩人は狼を楽しませてくれるかな?」

体制を前に倒したかと思うと、その姿は再び消えていた。
今回は瞬きをする暇も与えてくれなかった。


視界が一瞬にして真っ暗闇へと誘われる。
何が起こったかわからない。
自分が今どんな体制でどこにいるのかがわからない。
視界は真っ暗だ。でも視界が揺らぐ感覚がある。
体中が痛い。
冷たい…寒い…俺は…一体何をして…倒れているのか?負けた?戦ってもいないのに…負けた?
自然と拳が握られる。感覚は体には伝わらない。

地面に倒れこむゆらぎの身体の上に立ち、二人がやられる様子を見ていた者全員を
呆れたと言わんばかりの顔でため息を漏らしながら見ている。

見られる者は皆一歩後ずさりしてしまっている。
戦えない…勝てない。あきらめるとは人が生きていくことで一度はしなければいけない事。
だが、それは今なのか?今あきらめていいのか?……いや今は。
拳を胸の前で握りだす。
「あきらめない」
だれかがつぶやいた。
その言葉が皆の耳に入るとあきらめて逃げようと腰を引かせ後ずさりしていた一人が
前へ一歩踏み出した。

ウルフ「……勇気と無謀は違うと…どこかの誰かが言ってたぞ?もちろん、私も同意見だ」

踏み出した者の震えている体を見て乗っていたゆらぎの身体から降り、
ゆっくり、一歩ずつ確かに近づいていく。
足音をきき、俯いていた顔を上げるとゆっくり近づいてくる巨体を見て
体の震えが近くの者に振動として伝わってしまうのではないかと思うほど強くなり、汗がにじみ出る。
身体は動くことをせず、硬直を選んだ。

ウルフ「小僧…覚悟が無いならば私の前に立つな…私は優しくないぞ?見てただろ?」

悠「お、俺は…みんなを運ぶんだ……!」

両手を大きく振りかぶり、縦に振り下ろす。
空間が歪む。歪んだ空間にてを入れて何かを掴みだす。

悠「あぁぁあああああ!!」

中から出てきたのは倒れた美咲とゆらぎ。
二人を後ろに投げ捨て如月と佐藤に渡す。

悠「佐藤大樹…先輩命令だ、みんなを責任もって連れて行け」

覚悟を決め、シャツのッ袖を肘までまくり上げゆっくり近づいてくるウルフへと歩み寄って行く。

如月「あんた戦えるほど強くないじゃない!」

佐藤「わかった」

如月「あんたまで!」

佐藤「だから…」

如月の目の前から一瞬姿を消し、再び現れたその傍らには悠の姿がある。
みなを無理やりくっつけ一瞬にして屋上から姿をくらます。

ウルフ「……逃げるか、正しい判断だ」

消えた場所を見て少し立ち尽くし、後ろに視線だけを向ける。

ウルフ「お前らがやった奴達は?」

問いには首を横にだけ振る2人の部下。

ウルフ「……このビルにはもう一人いたはずだが……そいつの匂いも消えているな……ククク」

血に汚れた手で顔を覆い空を見上げて笑うその姿は二足歩行する狼の如く、
満月を求める狼男だった。
肌にしみこむ血は月明かりに照らされ、美しく光っていた。


━━

一同は国が用意している非常用の秘密シェルター内に来ていた。
ここは多摩川の地下数十メートルの位置にある政府内でも数名しか知らない本当の秘密シェルター。
秘密にしている理由は市民の心配をあおらない為、とされているが実際は
いざと言う時はお偉いさんだけが助かればいいと思って経費をギリギリまで減らした末
片手で足りるほどしか作られていないからで、広い意味で言えば市民の心配を煽るというのも
確かにあっているかもしれない。
シェルター内には月一で非常食などが入れ替えられている。
非常食と言ってもお金持ちのお偉いさん用のいわばVIPシェルター。用意されているのは
高級品の冷凍加工されたものなどが多くあり、非常食と言うには程遠い、日持ちのするものではない。
他にもシェルターにはトイレ、風呂、キッチン、寝室などのホテルかとつっこみたく物がそろっている。
至れり尽くせりすぎるだろ、と思っていてもそれを言ったところで度鬼もならない事を知っている
如月は黙ってベットの上に起きないくるみを寝かせる。

寝室からでてくると何やら皆が騒いでいる。
近づいて囲んでいる中をのぞき見る。

如月「っ!」

皆が囲んでいた中心には赤く染められた二人の姿があった。
美咲は顔だけがコンクリートへと埋められていたが、目だった傷はそれほどない。かすり傷もない。
だが、一つ重症とは言えない。もう手遅れであろう傷があった。
片目が……!
閉じてある目だが、左目からは凡そもう無事ではない。跡形もなくグチャグチャになってしまっているであろう
と思わせる程の出欠があった。
それは血だけではなく、他にも黒と白の塊まで飛び出していた。
見ているだけで目がいたくなり、吐き気を誘う光景。
もう一人寝ているゆらぎは先程も見ていた通り、左腕が捻じ曲がり右腕は自分の腹部に突き刺さっている。
足はどうもなっていないが、おそらく骨折、最悪粉砕骨折。
肩から上は無傷だが、それより下が重傷なんて物じゃない。
すぐに手当てをしてあげたい。だがこの班の中に回復系はいない…。
くるみが起きていたとしても彼女の力では傷は一分ほどで完治とはいかずとも傷口は塞げる。
だが今の2人にこれ以上の痛み…負担はかけてはいけない。
どうすることもできずに下唇を噛む。


佐藤「二人とも…頼みがある」

皆の後ろで怯え抱き合っていた二人が佐藤の提案を聞いて是非と言って受け入れてくれた。
提案とはこれから三人で修復班本部まで行き回復係を数人連れてくる事。
本来、佐藤の能力は一人から三人程度+α(武器、乗り物など)位しか運ぶことのできない能力。
だが修練の成果で今は二十人までなら一緒に移動できる。
だが、そう多くの人数を運ぶのにはスタミナが大きくそがれる。
一人、二人、三人の時は大して変わらないが、三人から四人になった時のスタミナの消費は
天と地ほどの差と言っていいほどに違う。
それがまた一人、もう一人と増えるたびにその差は広がって行く。
本来ならば今ので体力が着れて眠り込んでもおかしくないほどのスタミナを使ったのにその様子を
見せるそぶりすらない。
そんなことを知らない二人は佐藤の言われるままに修復班本部へと皆に一言残し、移動を開始した。

━━━
埼玉県、山岳地帯の一角に作られた施設。
そこには超能力にめざめた異能者を集め、能力の制御方法、そして正しい使い方を教える場所。
知っているものは少ないが、人は街一つ分の人口がある。
そこにいる者全員が異能者、そして国から派遣された科学者だ。
その施設の中心に立つ白い三階建ての館。
全面白の壁で覆われ、汚れ一つない清潔感を漂わせる。
館表玄関へと姿を現した三人の姿を見た者は待ち構えていたかのように立っている背景とは
不釣り合いの黒のロングコートに身を包んだ金髪にサングラスの男性。
男は修復班の最大権利を持つ最重要責任者、御剣健次郎。国から派遣された軍人、元軍人だ。
現役時代は世界各国で衛生兵として、時には最前線の戦場で戦い、傷を癒してきた。その世界では
少し名のしれた人物だ。

今日は終り


御剣「待っていたよ」

佐藤「御剣さん…頼みが」

御剣「待って居たと言っただろ?さ、この子を連れて行くと良い」

背後に構えていた一人の少女が言われて前に建て来る。
彼女は御憑や茜より少し年上に見える。

茜「あ、雪音ちゃん!」

雪音「元気?茜、御憑も」

御憑「はい」

佐藤「じゃあお借りいたします」

一つ例をして三人を腕の中に抱きかかえ、再び元居た場所へと背景を戻す。


如月「帰ってきた!」

雪音「お久しぶりです、静香姉さま」

如月「雪音か…たのむ、すぐに二人を!」

指さされた方向には見ているだけで体の芯が凍りつくほどに
見るに堪えない二人の姿が床に寝そべっていた。
だがそんなことはもう何度も経験している雪音は小走りで二人の下へ歩み寄ると
背中に背負っていた小さなバックから50センチ程度の細い棒を何本か出し、
二人を覆うように四角に組み立てる。
秋空雪音。彼女の能力は空間変化。
限られた空間の身を自分の想像する空間へと変えることができる能力。
それは認識すればその場所が限られた空間となる。だが雪音はこの様に棒や何かで囲っている。
視覚で確認してやっとそこが限られた場所だと認識できる程度のまだ幼い頭脳。
本当ならば最前線でも戦える彼女だが、この欠点の所為で修復班の回復係とされている。
鉄棒で囲われた中の空間にいる二人。
ゆらぎの手を腹から無理やり抜くと、抜いた瞬間血が雪音の顔に飛び散る。
目を一瞬瞑ったが、すぐに血を拭い握っていた手を体の横にそっと下す。
鉄棒に手をかざす。
囲われた空間に変化はない。だが徐々に血は傷跡から体内へと侵入し、戻って行く。


時間にして約十秒。
ほんのわずかな時間無いで2人の身体には傷一つない状態へと戻った。

雪音「…これで一日安静にしていっればいいはずです」

振り向いた雪音の顔には飛び散った血の跡はなかった。

如月「よかった…じゃあ二人をベットに運ぼう」

如月と佐藤で眠っているゆらぎの手と足を持ちつるした状態で運ぶ。
美咲を輝がおんぶで運ぶ。

三人が扉の前に行くと部屋の内側から扉が開かれる。
扉が開いた暗闇の部屋の中には扉を開けたくるみがこちらをジッと見て固まっていた。

輝「おきたか…おはよう」

くるみ「……なんでその人がここに居るんです?」

指を指して示した自分物は二人に抱えられぶら下がっているゆらぎ。

如月「…そういえば君の記憶は消してないんだったな」

くるみ「…なぜ生きてここに居るんです?…いや、死んでるんですか?それ」

如月「今生き返ったところだ」

如月「とりあえず後で話そう…とりあえず二人をベットに運びたい」

くるみ「……わかりました」

道をふさいでいるのを気付いて体制を反らし二人を抱えた三人が通れる間を作った。


二人をベットに置いた如月がくるみだけを連れてシェルターを出た。

シェルターの入り口は光学明細でカモフラージュされただけの普通の入り口だった。
この機能がなければ普通に目に入ってしまうほど開けた場所にぽつんと目立つ形で設置されていた。
が、それも一歩外に出てしまえばまったくと言っていいほどわからない。
シェルターを挟んで二人が立ったとしてもまったくわからないほどに鮮明に姿が見える。

如月はくるみの前を歩き近くのベンチに座り込んだ。

如月「………」

くるみ「………」

如月「何から聞きたい?」

くるみ「…なんであの人が…と聞きたいですが…まず何があったかを」

如月「そうだな…まずは私とあいつの成り立ちからでも話すか」

くるみ「あの、聞いてます?てか聞いたのそっちですよね?」

如月「あれは八年前、能力が認知され始めたころの話だ」

くるみ「あ、女子特有の聞くけど結論は出てるんですってやつですか」


八年前━━


超常現象発生から約一年と少し立った頃、世界中で異能者と今後呼ばれる存在が認知されてきた頃。
政府は異能の子供を集めた。
目的は監視や能力の暴走を防ぐためのちゃんとした環境など言っていた。
が、実際はもっと現実味を帯びていた。能力の暴走も現実味はあるがそれを制御するのは第三者には不可能だ。
第三社の所為で暴走したというのはこの時もう世間が知っていたからだ。だから監視と口外していた。
子供たちを集めた実際の目的は軍事利用。日本は兵器を持たないと世界中に行っていたからだとも世間では騒いでいた
がそれは結局語られずじまいで忘れ去られていた。

ある日家に知らない軍服を着た人が二人と黒服の人が二人訪ねてきて言った。
「これから君は日本の将来のために役立つんだ」
唐突過ぎて意味が分からなかった。だけどすぐに理解したよ。
逆らったらだめだと。
だからおとなしく付いて行った。付いて行った先には数十人は乗れる大型車があった。
中には本当に数十人の子供が小さい子は五歳くらいからいた。大きくて十七歳くらいかな。
泣きじゃくる子供を年齢が上の子が慰めていたのを覚えている。


しばらく車に揺られているとついた先は山奥にある山を半分ほど削ったようなところにある軍の基地
みたいなところだったよ。

車を降りると一人の若いサングラスの白衣を着た人が立っていて
私達を見るなりサングラスを取ってみんなを無理やり抱き寄せて「ようこそ」って泣きながら言ってた。
今も昔も不思議なおっさんだよ。

それから年齢別に分けられることもなく車を降りた順番で二人一組にされた私たちは
グラウンドみたいな所にいどうしたんだ。
何の予告もなしにアナウンスから放たれた言葉は「自己紹介しろ」だった。
すこし困惑したけど隣り合わせ同士自己紹介した。
それがゆらぎ。杜ゆらぎだった。
最初のアナウンスから五分程経ってからグラウンドの正面に置かれた台座の上から拡声器つかって
さっきのおっさんが注目って叫んだ。

皆はおっさんをみた。
おっさんは唐突に組み手をするって言ってみんな困惑したよ。
子供もいるのに何言ってんだと起こった奴もいた。
それでもなんていうんだろうね、威圧みたいなもので次第に皆逆らわないようになって行ったよ。

ここでやっと組み手わけが行われた。まぁ小さい子だけだけどね。


私とゆらぎはそのまま二人で組み手をしたよ。
何していいかわかんないから適当にやってたよ。
私は空手やってたから型とかで何とかこなした。
ゆらぎは右手と左手を使って器用に私の攻撃を後方に流して避けてニヤニヤと笑いながらこっちを見て
ちょくちょく挑発するんだ。次第に私もむきになって無雑作に蹴りあげたり裏拳で何としても一発
当てようとした。

結局最後は私のスタミナ切れで負けた。気づいたら周りはみんな私たち二人を見てるだけになっていた。
知らないうちに終りの合図があったらしい。

私が参りましたっていうと拡声器を使わずに近くまで来ていたおっさんが「そこまで」ってしめた。


組み手が終わったころには日も暮れていた。
そこで女の軍人さんがきて女を連れていったよ。男子はおっさんが連れて行ったんだと思う。

連れて行かれた先は寮みたいな建物だった。

女性「様こそ異能者専用訓練施設へ、ま、半場強制だけど」

口調は無関心の中に少しの軽蔑が混じった嫌味腐ったものだった。
それを悟った年上の人たちは彼女を毛嫌いするようになったよ。
分からない子供たちは頼りにしてたけど頼られるたびあの人は顔をしかめて言い訳をして逃げてた。

そんな繰り返しの毎日が一か月くらいかな、立った頃基地に侵入者が入ってきたんだ。


覆面A「そこの女…これで全員か?」

その場にいた全員を銃で脅し縛り上げた覆面を付けた複数人の集団。
テロではなかった。
彼らは異能者は脅威だ、すぐに殺せと言っていた。
でも自分たちでは殺さず国の力で殺せと要求していたよ。

女性「……全員だ」

本当は三人この場にはいなかった。でも女性は毛嫌いしている私達をかばってくれた。
そのいなかった三人て言うのが私、佐藤、ゆらぎだった。
私たちはこの時サングラスのおっさんに頼まれて基地内の倉庫の整理をしていたんだ。
私たちがみんなの状況を知ったのは倉庫から出てグラウンドを歩いていた時、武装した人に襲われたときだった。
武装犯は三人もいればすぐに倒せたけどね。

それから私たちはッ巡回している武装犯を倒して武器を手に入れてみんなの所に向かった。


ゆらぎ「なんか戦争で三人しかもういない中戦う的な感じでわくわくするね!」

拳銃を一丁、肩からライフルを二丁ぶら下げて中腰で壁際をなぞるようにゆっくりと、焦らずに
小走りで縦並びで三人はみんなが捉えられている基地内一階玄関ロビーへと向かっていた。
三人は裏口の二階へと通じる階段から玄関ロビーまでの階段の道を歩いていた。

佐藤「ゆらもちょっとは緊張感もったら?」

ゆらぎ「大樹は固いんだよ、いつもの自分だからこそいいことだってあるんだぞ?」

佐藤「いつものお前だと失敗するフラグしかないんだが」

如月「その通りだね」

ゆらぎ「静香まで…」

如月「いいから、いくよ」

難なく私達三人は一階ロビーまで通じる階段まで着た。
階段の陰からは一か所に固められている女性と子供たちが目視で来た。

ゆらぎ「いるね~」

佐藤「しっ!」

ゆらぎ「……」


あの時の私たちはちょっと調子に乗っていたんだ…武器もあるし敵も倒せた。
だから大丈夫ってたかをくくって天狗になっていた。


ゆらぎ「…静香、何人いるか分かるか?」

静香「皆の周りにふたり、玄関入口に一人、廊下を巡回してるのが四人……五人かな」

自然とリーダーになるんだよ、あいつはいつも。

ゆらぎ「……大樹、玄関の奴だけを基地の外…川においてこれるか」

佐藤「三秒あれば」

ゆらぎ「今から三秒だ、いち」

数え始めると同時に大樹の背中を軽くたたいた。
一瞬で消えた大樹はゆらぎが「さん」と言い終えると同時に先程までの位置にもどっていた。

ゆらぎ「実質二秒くらいか」

佐藤「ん」

ゆらぎ「巡回してるのは二人一組か?」

静香「いや、……道を一本挟んでるね、でも後ろから丸見えだから前の方から狙うのは…」

ゆらぎ「時計回りで巡回してるのか?」

静香「うん」

ゆらぎ「大樹、後四回か五回いけるか?」

佐藤「十回だろうがやってやる」

ゆらぎ「それでこそ…じゃあ十五秒で頼む」

佐藤「了解」

ゆらぎ「俺達は十秒たったらあそこに突っ込む」

如月「異論なし」

三人は壁に背を付けて深呼吸を三度、深くした。

ゆらぎ「……開始!」

大樹の姿が消えて二人は心の中で銃数え始めた。


五、六、七、八、九、十。

何も言わずに立ち上がり階段を真ん中まで駆け降り真ん中から下まで飛び降りる。
覆面犯が反応したのはすでに銃口を向けられた時だった。

覆面A「っ!まだいるじゃねぇかクソ女!」

覆面B「な!」

女性「撃っちゃダメ!」

女性の声に引き金を引こうとしていた手が止まった。

女性「今撃ったら貴方たちは本当に世界から脅威と判断されてしまう!」

一瞬の戸惑い、それが戦場では戦況を大きく揺るがせる。
勝利とは生きる事。敗北とは死を意味する。
向けた銃口は床を向いていた。
代わりに覆面犯の持っていた銃口が二人へと向けられていた。


だが戸惑ったのは私一人でゆらぎは戸惑いなんて持っていなかったかのように
引き鉄を引いた。
放たれた弾は引き鉄を引こうとしていた覆面の銃と手の間に当たって覆面は銃を落とした。

覆面B「うぐぁあ!」

三十。

倍の時間がかかって大樹が皆の前に現れる。

ゆらぎ「殺さなければいいだけだ!怯えるな!」

如月「?!」

手に持ったハンドガンを最後の一人の覆面犯に向ける。

ゆらぎ「お前の仲間はもういない…おとなしく降参しろとは言わない…仲間の所に行ってこの事を口外しないか
このまま世間に存在を隠されて死ぬか…選べ」

覆面A「っ!化け物どもめ!!!」

向けられた引き鉄が引かれる。

銃口は如月を向いている。
銃口が光る。

バババババババババババババババババババッ!!!


銃声が止み、閉じていた目を開けた。
目の前は真っ暗で見えなかった。

痛みはない。
…暖かい。
苦しい…?

大丈夫?

頭上から掛けられた声。
体を少し押され光が差し込み、見える顔。
いつもは目を合わせようとしない人の優しい笑顔がそこにはあった。

如月「ち、……中尉……?」

キャーーーーー!
女性の背後から子供の叫び声が聞こえた。

その声で自分の状況を悟った私は倒れこんでくる中尉の身体を受け止めてゆっくり床に下した。


床に寝そべると中尉の背中からは血が水道の蛇口をひねったかのように止まらず出てきた。
何もすることができずにオロオロしていると中尉が私の顔にてを当てて優しく行ってくれた言葉が

「人は気づつけてはいけない。たとえ自分がどんな痛みを負おうと決して悪になってはいけない」

って。
今思えば軍人が言う台詞とは思えないものだったよ。
中尉はその後に今まで冷たくしたことを謝って理由を話してくれた。
ただたんに子供が好きすぎて甘やかしちゃうから普通に接しようとしたらつめたくなっちゃったって。
不器用な人…だよ。あの人は。

私は思わず笑っちゃった。

女性「あはは……静香ちゃんの笑った顔…はじめてみたよ」

そういって私の頬にキスをして頭をなでると中尉の手はゆっくり私から離れていった。

女性「…でも…ね……人を守る…のは正義……なんだよ」

最後にそう言って本当に眠るように目を閉じた。
もう起きないのに不思議とまた起きるような気がしてた。起きないのに。

気付いたら二人が最後の一人を気絶させてた。
銃声を聞いて駆けつけてきた軍人の人に私は抱き寄せられた。

それからしばらくして覆面犯たちはつかまった。
私達はいつもと変わらない訓練をして過ごし始めて、政府が作った組織に入った。
そこで私達三人は最前戦班のリーダーとして名を上げられて今に至る。



如月「ゆらぎは多くなり過ぎた政府の在り方に反対した異能者を統一するって言って組織を抜けた。
あいつが統一するまでは本当にひどい物だったよ、街中じゃないが人目につかない所で
一般人を能力でいたぶったり盗み、テロまで働いてたやつがいた。
そんな奴らを統一したからか、あいつは政府からも世界からも手配される大悪党の汚名を着せられちゃって
いまじゃ隠居生活してた。
でもさっきビルにあいつが来た。そして異獣人間野郎にやられてさっきの通り。」

如月「そんなわけさ」

くるみ「私の聞きたいところ全部飛ばしましたよね」

如月「まぁ今それを言ったところで多分…くるみちゃんはどうもできないよ」

くるみ「……」

図星を付かれ黙り込む。

如月「まぁとりあえずシェルターに戻ろう、本部と連絡を取るのを忘れてた」

二人はベンチから立ち上がり来た道をまっすぐ戻る。


今日は終ります


帰り道、シェルターの入り口の前には先程寝かせたはずのゆらぎが松葉杖をついてこちらをジッと見て
立ち尽くしていた。

ゆらぎとくるみの目が逢う。
如月は見合っているくるみを余所に一人シェルターへと戻って行った。
横からひと言ゆらぎに「本人から聞け」と残して。
如月がシェルターに入るさまは突如空間に穴が開いたかのように一瞬にして彼女の姿が消えるようなものだった。

ゆらぎ「久しぶり…」

くるみ「死んでればよかったのに」

ゆらぎ「んもぅ!妹よーーー!」

松葉杖を投げ捨て大きく両手を広げてくるみへ走り寄る。
二、散歩踏み出したところで崩れるように前に顔面から崩れ落ちる。
たおれると「ぐぼぇ!」と汚い声を上げて両手をカクカク動かしながらゆっくり顔を上げる。

ゆらぎ「……お兄ちゃん…立てない」

くるみ「土と結婚するんですか、おめでとうございます」

ゆらぎ「俺はくるみの結婚するよ」

くるみ「私人間以外と結婚しませんので」

ゆらぎ「俺ヒューマン!!」

転んだままの状態で腕を使って匍匐前進で寄ってくる。


くるみ「近寄らないで!きもい!」

ゆらぎ「兄にその言葉づかいは酷いよ!」

数十センチずつ近寄ってくる兄を一歩一歩後ろに下がり遠ざかる。
負けづと匍匐前進の速度を上げる。

くるみ「こないでぇ!」

ゆらぎ「おこしてぇええ!」

起き上り足で走って追い付いてくる。

くるみ「起きてる!もう起きれてる!」

ゆらぎ「久しぶりのハグ!だめならキス!」

くるみ「ハードル上げんなシスコン!」

二人はふと聞こえた少し大きめの吐息の方向へ目をやった。
二人が叫びながら追いかけっこしてる姿をシェルターの入り口の上に立っているが体のいい体の男性が
見つめている。

その姿を見た途端、兄の動きが止まり、微かに体が震えているのが見えた。

ウルフ「生きていたか若狩人」


ゆらぎ「…なんでここに」

ウルフ「鼻がいいんだ」

鼻を人差し指で指して自慢げにニヤリと微笑む。

くるみ「…誰」

声を発した瞬間、ウルフの視線がくるみに向く。
見られた身体は一瞬で大量の汗を拭きださせた。

ウルフ「…くるみかさんですかな」

名前を呼ばれた。不思議となぜ知っているのかとは思わなかった。
それよりも先にヤバイと思った。
口を閉ざしてはいけない。だが真実を言ってはいけない。嘘も言ってはいけない。
そう思って結局は言葉が途絶えてしまった。

ウルフ「口は災いの元とは言います。だから喋らなければ沈黙は金。単純ですよね」

ウルフ「でも今は…了承、または死を意味するんですよ」

牙を輝かせてこちらを食うように見てくる。


くるみ「……これって逃げる所?」

視線はウルフに固定したまま横で汗を流している兄へと聞く。

ゆらぎ「いや…逃げる所だが…無理だ」

ウルフ「その通り…あなたが瞬きをした瞬間に殺すことも可能ですよ」

ニヤリと口元が緩む。

瞬間、横から土を蹴る音が聞こえた。

目を開けると走って行く兄の姿が見えた。

ゆらぎ「今度は油断しない!」

ウルフ「油断しない、そういってる時点で…油断しているんですよ」

先程まで目の前にいたはずの男性の姿が兄の後ろに見えた。
危険だと思った。
手を伸ばした。届くはずの無い手を。

時は止まる。


無意識に発動した能力。
二人の姿は静止している。
ウルフの鋭い爪が兄の首筋ギリギリで止まっている。

くるみ「は……は!…」

立ち上がり銅像の様に固まった姿の兄を抱えシェルターの中へ入る。

━━━

シェルター内に入るとみんなは固まっていた。
どうやら世界の時間を止めたらしい。ここでようやく自覚して、今度は意識して能力を解除しようとした。
解除しようとした瞬間上にいるウルフの事が脳裏をよぎった。
このまま能力を解除すればどうなる?
一分は時間が稼げるか?…無理だ。できても数十秒。
その数十秒で皆で佐藤の能力で移動するもいいが、止まった世界の佐藤は苦しそうな顔で介保
されている。
おそらく能力による心身の疲労。この状態では能力者は普通の無能力の人以下。
逃げる術はない。
ではどうするか…答えは一つ。今のくるみにはポジティブよりネガティブな考えしか思い浮かばなかった。

くるみ「…私がやる!」

兄の身体を床に投げ捨てシェルターの外へと駆け出した。


━━━

先程の状態で固まったままのウルフを前に親指と中指をこする。
「パチンッ」と音が鳴る。

「ヒュンッ」棒を振り下ろしたような音が鳴り、ウルフの腕が兄の首があったはずの場所の
空気を切り裂く。
一瞬目が見開かれたが目の前に立つくるみの姿を見てすぐに元に戻り、口の量端を思い切り吊り上げ
牙を輝かせている。

ウルフ「…面白い能力だ…いや、どんな能力かは分からんがすごいと言う事だけわかる」

くるみ「そりゃどうも…」

背筋が凍るような笑みと気迫に半歩後ずさりしてしまう。


だがここまで来たんだ…逃げる事なんてできない!

突如目の前からウルフの姿が消えた。

焦りはない。さっき見た通りなら来るのは…

くるみ「後ろ!」

来ることを予想し、腕を後ろに振るう。
だが腕は何にも当たらず遠心力で身体が半回転してバランスを崩して倒れそうになった。
何とかギリギリのところで踏みとどまりからぶった腕を見つめる。
確かにどこにもかすった後はない。

ウルフ「正解、後ろだ…!」

くるみ「…!」

反応して後ろを振り向こうとした瞬間、くるみの身体は後ろからものすごい力で押されて、
いや、前の方から強力な磁石で私の身体がひきつけられるように飛んだ。

くるみ「な…に!?」

数メートル飛ばされ、顔を上げると目の前には見知った顔の女性がいた。

くるみ「…如月…さん」

如月「無茶しないでくれるかな…」

そこにはいつもの優しい笑みではなく、鋭い目つきで獲物を狩る獣のような近づきがたい雰囲気を漂わせている如月の姿があった。


如月「…またお前か」

視線をくるみに向けることなく、こちらをジッと見つめてくるウルフを睨みつける。

ウルフ「また…とはご挨拶ですね、こちらは一度も引くなんて言ってませんのに!」

今度は真正面から突進してくる。
決して見えぬ速さではない、が、私は動けなかった。

くるみの目の前を通り、如月の首にむけ伸ばした腕は首元に触れようとした瞬間、
普通では曲がらない方向へと不快な音を立てて曲がった。

ウルフ「なっ!」

その出来事に動きが止まる。
その一瞬に如月はくるみを抱きかかえ走り出す。


抱き上げられた途端、私の意識は薄れて行った。
きっと緊張しすぎていたのだろう、如月さんが来たことで私は何処か安心したんだと思う…だから緊張の糸が切れて私は
意識を失ったのだと思う。
意識を失う前、声が聞こえた…懐かしい声が。


夢を見た。昔の夢。
何年か前、私からすればもう何十年も前の記憶。
私達はまだ超能力、異能の力を信じていなかった頃の話。

何もない田舎の中にある少し大きな和風の屋敷。
そこには私と兄、そして祖父母がいて、祖母は庭で遊ぶ私たち兄弟を日の当たる廊下に座布団を敷き、正座してこちらを
ニコニコ笑いながら見ていた。
私達はサッカーボール柄のゴムボールを使ってキャッチボールをして遊んでいた。
するとそこに白衣姿の祖父がやってきて祖母の隣に座り同じく笑っていた。

そんな何気もない普通の夢を見て私はどこか胸の奥が苦しくなった。
何かやらなきゃいけないことがある気がする。そう思わせる夢だった。


私は見知らぬ部屋のベットの上で目を覚ました。
横には如月が腕を組んだまま寝ていた。

くるみ「起用…」

思った言葉がそのまま小声で口に出た。
その言葉が聞こえたのか如月は目をさました。

如月「ん……あぁ、起きたか」

くるみ「おはようございます」

如月「あぁ、おはよう…よく眠れたみたいだな」

くるみ「はい、おかげさまで」

「そちらも」とはあえて言わなかった。

起きた私を如月はベットから降りると如月に上着を手渡され、それを羽織った。


起きた私を連れて如月は外に出た。
そこには見覚えのある風景があった。

くるみ「…ここは」

如月「とある博士が使っていた隠れ家さ」

先程まで見ていた風景、でも少しばかり雑草が伸びている。
でもここは間違いなく、あの夢の、祖父母と私たち兄弟がいた風景。

博士、そうか…おじいちゃんの事か。

私は思い出した。
繰り返す世界の中ですっかり忘れてしまっていた記憶。家族の記憶。
祖父の記憶。
博士と言われる祖父の記憶。
この世界のすべてを変えてしまった…世界から疎まれる祖父の記憶を、すべて。
そして私が手にしたこの力の本来の力の使い方。

拳を握り、私は前をむく。

そこにはこちらを恨めしそうに睨みつけてくる野獣の眼光。
今にも襲い掛かってきそうな気迫を放っているウルフの姿が。

私は動じない、もうやる事が分かったから。

ウルフ「さぁ!くるみさん…もう選択の余地など与えません…こちらに来てもらいましょう」

如月「誰が渡すか!」

その言葉にウルフの視線は如月へと襲い掛かった。
容赦なき攻撃が如月の胸にぽっかりと穴をあける。
飛び散る鮮血。
宙を舞う血は光を浴び、赤く煌めいている。

くるみ「如月さん…」

差し伸べたその手は届くことはない…だが一瞬にして穴は塞がり、如月は地面に尻餅をついただけの形へと変わった。

ウルフ「…な、何?!」

くるみ「…もう、終わりにします!」

くるみが手に持つ懐中時計。その懐中時計は時を刻んでいない。

如月「…懐中時計」

そっとウルフへ歩み寄り、手を握る。

ウルフ「…?」

やわらかい風が庭一面に生い茂る草を揺らし心地よい音を立てる。
風が頬を撫でると同時にウルフの姿はそこから消えた。


如月「…!?」

一瞬の出来事に周りを見回し警戒の体制を取る。
だがその警戒は一瞬にして無意味な物へと変わった。

くるみは如月に抱きついた。

くるみ「…わかりましたよ如月さん…私の能力の使い方」

如月「…何…突然?」

くるみ「如月さんと会えてよかったです、おかげで全てが良い結末で今度は追われそうです」

如月「何言ってるの…私にもわかるように説明してよ」

そっと離れ、目を見つめ会う。
そのままニッコリと笑うと如月はぎこちない笑みで笑い返してくれた。

くるみ「私、この力で全部変えてみせます、間違った結末を正しい方向に」

如月「…過去を変えるって事?」

くるみ「ちがいます、未来を変えるんです」

如月「そんな事」

くるみ「何度でも、やって見せます」

如月「…ははは」

何がおかしいのだろうか、笑いだした如月は私の肩を叩きながらずっと笑っている。
でも目からは涙が零れ、次第に笑いが収まり次は声の無い泣きで私を抱きしめた。
不思議と私も涙をこぼしてしまう。
悲しくないけど出てしまう、悲しくないけど悲しい。
不思議な感情が溢れてきて訳も分からず悲しくなってしまう。

如月「一人でできると思ってんの?」

そう言った如月の声は震えていた。

くるみ「…やってみせます」

私の声も震えていた。

如月「無茶しすぎるから…一人じゃ無理よ…だから」

いっそう強く抱きしめられた。

如月「私も行く!一緒に!」

言葉が出ない…。
でも私は無意識に頷いていた。

私達はしばらくの間そこで泣きながら笑い続けた。


二人がウルフと戦い終えた時、シェルターの中は騒然としていた。
連絡が取れず姿も見えぬ二人を探すべく皆は集まっていた。

ゆらぎ「心配ないよ…二人なら」

だがその中でも揺らぎはいつも通り、いつも以上に平常心を保っているような様子で壁に寄り掛かる形で座っている。

ゆらぎ「大樹ならわかるだろう?静香は強いし、俺ならわかる…妹も、くるみも強い。だから大丈夫」

その言葉にはなぜか説得力があった。強い云々とかではなく、「大丈夫」その言葉に皆の焦っていた様子が一変した。

━━━

くるみ「…じゃあ、行きましょうか」

如月「うん……で、さ」

頬を軽くさすりながらこちらに目線を向けないように顔をそむけながら「どこ行くの?」と言ってきた。

くるみ「さっき一緒に行くって言ってたじゃないですか!」

如月「なんとなく言っただけ」

くるみ「『一人でできると思ってんの?(キリッ)』ってしてたじゃないですか!」

如月「そこまでしてないような気もするけど…」

くるみ「え?本当に何もわからず言ってたんですか?」

如月「うん、だから教えて?」

ウィンクをして舌を軽く出して右手を握りこめかみにコツンッ、と当てて見せるその恰好は年不相応、見た目相応の格好だった。


くるみ「…(妙に似合ってるのがイライラする)いい加減な人ですね」

如月「まぁまぁ、言ったことは曲げない、だからさ…どこ行くか教えてよ、どこまでもついていくよ」

くるみ「はぁ…過去です」

如月「past?!」

くるみ「なぜ英語、しかも発音いいですね」

如月「昔隣に住んでたおじいさんが外国の人だったらしく教えてもらってた、どこの人か知らないけど」

如月「で、過去って…何しに?」

くるみ「超能力の根源を止めに行くために」

如月「……」

腕を組み視線を固定せず、首も上下左右にうごかしている。
この人は考えるときこの格好をすることをクルミはもう覚えていた。だから、というわけではないが
如月が考えをまとめるまで口は出さなかった。
そしてもう一つの癖が、考えがまとまったとき、腕を解き口を開き無言でうなずくということ。
この一通りの言動を終えて如月はクルミに話しかけた。

如月「…この、異能を作った人物がいると仮定して、その人物を止めに行くってことでいいのかな

くるみ「…はい」

如月「…でも一体全体何年前に戻る気?」

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