勇者「魔王が仲良くしようとか言い出したがそんなの関係ねえ!」 (41)

勇者「いったいこれはどういうつもりだ?」

魔王「見ての通りだ。わたしたちに戦う意思はない。この城にいる魔物全員もご覧の通りだ。
   わたしたちはお前たちとの争いをやめ、安全に穏便に、平和にことを済ませたいのだ」

魔物「このとおりだ!」

魔物ども「「「ウボアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」」」

剣士「あ、圧巻だな……これだけの魔物の群れが一斉に土下座する光景は」

魔法使い「しかも、わざわざ私たちを迎えるために城の入口まで来てくれたしね。どうするの勇者?」

魔王「もちろんそんな急に仲良くしようなどと言われたら困るだろう、それはわたしたちにもわかる。
   だから、なぜわたしたちがこのような結論に至ったのかということも説明する。なんなら今から城の中へ……」

勇者「馬鹿やろおおおおおおおおおおおおっ!!」メツブシ

魔王「ああああああんっ!」

魔物ども「「ウボアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」」

魔王「な、なにをする!? キサマ、こちらが和平交渉を持ちかけているというのに! 」

勇者「なにをするだと!? そのセリフはオレのもんだ!!
   ワヘイコウショーだと!? なぜに今さらお前らと手を取り合わなきゃならんのだ!?」

魔王「だ、だからそれを今から説明しようとしたんだろうが! それなのにキサマは……」

勇者「納得のいく説明などあるものか! 
   勇者と魔王は殺し合い、どちらかが命絶えるまで闘い続ける! 国際常識だろうがっ!」

剣士「まあまあ、待てよ勇者。こいつらがこんな行動に出るのにはきっと海よりも深い意味が……」

魔法使い「そうだよ、話だけでも聞いてあげようよ?」

勇者「お前らは黙ってろ! 今はこのオレと魔王の二人の問題だっ!」

魔法使い「……わ、わかりました」

魔法使い(戦わずに終わるならそれに越したことないのに……)

勇者「そもそもお前らは恥ずかしくないのか!?」

魔王「恥ずかしいだと? どういうことだ?」

勇者「仮にもお前はすべての魔物の頂点に君臨する魔王だろうが! そのお前が部下引き連れて、城の入口まで来て、全員で土下座だと!?
   魔王としてのプライドは!? オレたち勇者パーティに対する憎しみは!? 
   そういう魔王として根本的に持っていなければならないものをお前はもってないのか!?」

魔王「そ、それは……」

勇者「おい、お前! そう、お前だ! 頭に無数の触手ぶら下げたエロ魔物!」

魔物「え? あ、はい。な、なんでしょーか?」

魔法使い(メデューサだよ、その魔物……)

勇者「お前はこんなふうに土下座を強制し、あまつさえ王でありながら自らも敵に率先して、地面に頭こすりつける魔王を見てどう思った!?」

魔物「あ、まあそーですね、えーと……」

勇者「グズグズするなあっ!」メツブシ!

魔物「ぎゃあああああああぁっ」

勇者「勇者の質問には即答! 国際常識だぞっ! おい、こいつに代わってお前が答えろ! そこの耳長族っ!」

魔物54「は、はいっ!」

剣士(エルフって言ってやれよ……)

勇者「お前はお前の王がこんな体たらくなのを見て、どう思った!?」

魔物「失望しました! 心の底からガッカリしました!」

勇者「……という解答をいただいたぞ、魔王」

魔王「ぐ、ぐぬぬぬ……」

勇者「おいそこの序盤に出てくるマスコット雑魚!」

魔物178「はっ! なんでありましょうか勇者様!!」

剣士(普通にそこはスライムでいいだろ)

勇者「今のお前の心情を顔で表してやれ!」

魔物178「はっ! 了解です!」

勇者「魔王よ! これが今の部下全員のお前に対する気持ちだ!
   まさに失望! まさに侮蔑! お前に対する軽蔑の表情!」

魔王「こ、こんな顔のスライム初めて見た……!」

勇者「そして……おいお前! 片方の目ん玉どっかに落としてきちゃったお前だよ!」

魔物1090「はっ! 勇者様!」

魔法使い(それはサイクロップスだよ……なんでいちいち覚えてないのよ)

勇者「さっきから思ってたんだけど魔王、かなりカワイイな!? 正直すごい人間チックだからオレの彼女にしたいぐらいだ!」

魔物1090「え? いや、ちょっとそのあの、人間の美的感覚は……ぎゃああああああ!?」メツブシ

勇者「勇者の言うことにはとりあえず同調しておく、これも国際常識だ」

魔法使い「ていうかなにを言ってるのよ勇者!? 彼女にしたいって……」

勇者「彼女にしたいとは言ってない。彼女にしたいぐらいにカワイイと言ったんだ」

剣士「なにがちがうのかわからないんだが」

魔王「ま、まあその勇者、お前がわたしを伴侶にしたいと言うならべつにそれでも……」

勇者「ふざけるなああああああっ!」メツブシ

魔王「あああああんっ……な、なにをするっ!? お前、わたしがカワイイことになにか文句でもあるのか!?」

勇者「大ありだっ! ふざけるなっ! なんだそのプリティな容姿は!?」

魔王「え? あ、えーっと……」

勇者「なんだそのファックスしたくなるケツは!? なんなんだその揉みしだきたくなる巨乳は!?
   敵に媚びうるような阿婆擦れを魔王だと!? ちがうだろ!!」

魔王「いや、まあ媚びをうってると言えばそうなんだけど……」

勇者「ワヘイコウショーだの言い出した時点でお前はアウトなんだよっ!
   だいたい魔王なら魔王らしく、もっと醜悪な姿でいろよ!」

魔王「ど、どういうことだ、醜悪なって……」

勇者「だからなんて言うかさ、もっど心底殺してーなってなる姿になれよ!
   唯一無二にして絶対的存在の魔王にそもそも性別とかいらねーんだよっ!」

勇者「もしくはメチャクチャこえーって感じのいかにもラスボスみたいな風貌になれよ!
   目ん玉とツノがついた甲冑つけて、全身真っ青だったりやたら八重歯が長かったり、もっとなんかがんばれよ!」

魔王「ち、ちがうんだ。これにもきちんとした理由があって……だってさ、魔王城に来た勇者たちは、絶対に魔王に勝ってるんだよ?
   で、お前らわたしの部下の卑劣な作戦とかも攻略してるだろ? 今回も勝てそうにないからわたしが和平交渉して無血で終わらそうとしてるわけだ」

勇者「はぁはぁ……ちょっとMP消費しまくったからな。休憩がてら特別に少しだけお前の話を聞いてやろう」

魔王「魔王が勇者のものになれる可能性をあげるなら、可愛いほうがいいだろ?
   たぶんわたしの作り手もそういう保険のためにこういう容姿にしたんだと思うんだが……」

勇者「なにお前、誰かに作られてるのか?」

魔王「よくわかんないけど、神様みたいな連中に作られてるんじゃないかな? 
   ていうかそれ言ったら勇者だってそうだろ?」

勇者「ふむ、たしかに。オレもなんか教会で洗礼受けて勝手に勇者にされたな」

魔王「だろ? それにそうじゃなくても最近のブームなんだよ」

勇者「ブームだと?」

魔王「勇者と魔王は仲良く手を取り合うってのは今では、むしろポピュラーなんだよ。
   いっそのことオーソドックスになりつつあると言ってもいい。
  魔王が魔王城までたどり着いた勇者をうまく説得して、二人で仲良く旅するっていうのが」

勇者「ふむ、そういえば聞いたことあるな。たしか他の星とかではそうらしいな。
  てっきり冗談とか作り話とかだと思ってたんだが、ちがうんだな」

魔法使い(暇だなあ……やることないなあ。ここまで死ぬほど苦労したから何事もなく終わるなら終わって欲しい……)

剣士(僧侶みたいに、魔王の側近に化物に変えられたあげく勇者にフルボッコされる、みたいなのもやだしなあ)

魔王「まあ他の星の魔王も一応いかにもそれっぽい理屈をつけて、おつむりの足りない勇者を篭絡して仲間にするみたいだ」

勇者「なんかあれだろ。実は深い理由があって云々みたい、な。
   それで勇者は意味もわからないまま、その体のいい建前のもと、エロくて可愛い魔王の魔王城に勇者のつるぎをぶっ刺すのを目標に旅するんだろ?」

魔王「まあ一応世界を平和にするためだったり、もしくは互いの私利私欲のためだったり、建前の理由は色々あるけど結局はそーなんだろうな」

勇者「お前が美女の時点でなあ、ほぼ確定だよな」

魔王「姿は直接の力にはなんの影響もないって、魔王がほとんどだしな。わたしも第二形態になればまたべつの姿になるし」

魔法使い(がんばって魔王! 勇者を説得して!)

勇者「で、お前らは結局なんで和平交渉もちかけてんだっけ?」

魔王「話せば長くなるが……実はわたしたち魔物はかくかくしかじかでこのままでは世界は滅ぶ可能性がありかくかくだからわたしたちと和平を結ぶっていうか仲間になれ」

勇者「ふむ……だったらこういうのはどうだ?」

魔王「おお、ついにわたしの話を聞き入れてくれる気になったのか?」

勇者「ああ。魔王、お前ら魔物どもが支配している土地をすべてよこせ。さらに魔物は一匹残らず奴隷として,こちらの労働資源となること。
   もちろんお前も例外じゃないぞ、魔王。ただし命の保障だけは約束してやる」

魔王「な、なんだと!? いくらなんでもそれは……平和条約だぞ、わたしがお前たち人間側の国と結びたいのは」

勇者「笑わせんなあ! 条約なんてもんはたいていの場合不平等でどちらかが一方的に損するようにできてんだよっ!」

魔王「だ、だが……」

勇者「そもそもさあ、他の星の事例とか聞いてて思ったんだがよ。なんでお前らはそんなにえらそうなんだよ!
   普通、そういう交渉するなら自分から出向くだろ!」

魔王「そ、それは……その、この城にたどり着けるぐらいの……」

勇者「やかましいっ! 本当に平和を求めるなら待つな!
   自分の城にこもってんじゃねえよ! 無駄に長いだけの理屈並べて説得しようとすんな! 城出て自分の行動で説得してみせろよ!」

魔俺「ぐ、ぐぬぬぬ……」
   
勇者「話がもうないのならオレはもう戦うぜ」

魔王「まっ、待て! ならばわたしの第二形態を見て判断してくれないか!?」

勇者「第二形態、だと?」

魔王「あまりこの姿にはなりたくないんだがな。仕方あるまい」

魔物1988「ま、魔王様が真の姿になられるぞ……!」

魔物17854「なにげに見たことないからな……楽しみだ!」

剣士(なぜ第二形態になるんだ……)

魔法使い(とりあえず相手の条約の条件だけでも聞いてくれればいいのに……)
勇者「さあ見せてみろ! 真の姿を!」

魔王「ぐおおおおおおおおおおおおっ!!!」


魔王「ふええぇ……だいにけーたいだよぉ……」

勇者「……なんだその姿は?」

魔王「ふえぇえぇ……第二形態は勇者を落とすためにさらに攻撃しづらいように幼女化したんだよぉ……ふぇふぇふぇ……」

剣士「か、かわいい……」

魔王「ふええぇ……攻撃しづらいふぇぇぇ……もうやれないだろぉ? ふ、ふええぇ……」

勇者「……」メツブシメツブシメツブシメツブシメツブシメツブシメツブシ

魔王「ふ、ふ、ふなっしいいいいいぃぃぃぃ!!?」

勇者「もとに戻れ。さもないと殺すぞ」

魔王「……な、なぜだ!? 貴様この幼女状態のわたしを見てもなにも思わんのか!? 少しぐらい攻撃を躊躇する気にはならんのか!?」

勇者「ならん! オレは金髪ボインのお姉ちゃんがいいんだ!」

魔王「くっ……あくまで戦うというのか?」

勇者「ああ、絶対にオレは和平交渉なんかには応じない」

魔王「たとえ世界がのちのち厄介なことになってもか?」

勇者「ああ、オレはお前を殺すことしか教わってないし、それ以外のことはどうでもいいと思ってるからな」

魔王「だ、だが待ってくれないか? もはやみんなやる気なんてほとんどないんだ……」

勇者「ならオレがお前らがオレたち勇者パーティと戦いたくなるようにしてやるよ」

魔法使い(なぜそのようなことを……)

勇者「魔王城べいべー!!」

魔物ども「……おー」

勇者「魔王城の中にはいっぱいチャンスが転がってるんだぜ!」

魔物ども「……はあ」

勇者「なつかしい呪文を見て思い出に浸るチャンス!」

魔物ども「……おお」

勇者「激しい呪文を浴びて苦しみ悶えるチャンス!」

魔物ども「……おおお!」

勇者「自分の仲間たちと仲良くなるチャンス!」

魔物ども「おおぉっ!」

勇者「そして今は……普段は戦えない勇者と戦うチャンスだあああ」

魔物ども「いええええええぇっ!」

勇者「みんな是非このチャンスを掴んでキモチよくなるんだあああああ」

魔物ども「いえええええええええっ!」

勇者「チャンスをつかめるかああ!?」

魔物ども「いええええええええええええっ!」

勇者「いけるか魔王城!?」

魔物ども「いえええええええええっ!」

勇者「いいぞいいぞだんだんノッてきたじゃないかあああ!?」

魔物ども「いええええええええええっ!」

勇者「みんなああああああ勇者が来るのはこれが最後だと思ってくれええええ!!」

魔物ども「うおおおおおおおおおおっ!」

勇者「このチャンスは今しかないぞおおおおおおお」

魔物ども「うおおおおおおおおおおおっ!」

勇者「今を逃したらもうないぞおおおおおおお」

魔物ども「うおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」

勇者「勇者来ないとお前ら戦わないだろおおおお!?」

魔物ども「うおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」

勇者「今なら存分に戦えるぞおおおおおおおおお」

魔物ども「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」

勇者「いけるか魔物どもおおおおおおおっ!?」

魔物「うおおおおおおおおおおおっ!!」

勇者「いくぞおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

魔物「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

勇者「ナマ勇者あああ!?」

魔物ども「「「よろこんでえええええええええええ!!」」」

魔王「し、信じられん……一瞬でここまで士気をあげるとは……」

勇者「これでいくらでも戦えるだろ?」

魔王「部下がこれではわたしが逃げるという選択はできんな」

勇者「魔王と勇者は争う……これは避けてはならないんだ!!」

魔王「いいだろう」

勇者「最奥で待ってろ。ここの魔物を一匹残らずつぶしたらお前のもとへいく」

剣士「まじかあ……」

魔法使い「はあ……」

こうして魔王と勇者は無事戦いましたとさ

おしまい

………………………………
…………………………
………………


子ども「ママぁ、この話はいつの話なの?」

母「うーん、わりと最近みたいねー」

子ども「まおーとゆーしゃはどっちが勝ったの?」

母「それはまた明日教えてあげるわ。今日は寝なさい」

子ども「はーい」

…………
………………
……………………

魔王城

勇者「魔王、ついにここまでたどりついたぞ!」

魔王「ふっ……待っていたぞ勇者!」

勇者「ここまで様々な艱難辛苦を乗り越えなんとかここまできたぞ!」

魔王「くくくく、では来るがいい!」

勇者「いや、待て!」

魔王「なんだ……?」

勇者「実はオレたちは和平交渉に来たん……」

魔王「馬鹿やろおおおおおおっ」

勇者「なっ、なんだと!? こっちは安全かつ平和に決着を……」

魔王「わたしは魔王だぞ! そしてお前は勇者だぞ! 争わなくてどうする!?」

勇者「え? あ、いや、まあ……」

魔王「魔王と勇者は争わなければならんのだ! これは国際常識なのだ!」

勇者「そ、そーなのか……」

魔王「前の勇者はそう言ってた!
   和平交渉を持ちかけたわたしを説教し戦いに導いてくれた」

勇者「前の勇者がそう言ったんならオレも戦うぞ!」

魔王「ふははははは来い勇者!」

勇者「いくぞおおおおおおおおおおお」

おしまい

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