遠坂凛「あなたがわたしのサーヴァントね?」その2 (1000)

安価で決まったサーヴァントで聖杯戦争、2スレ目。
鯖安価は残り一騎。
あのアーチャーはギル枠に押し込んだ。

前スレ→遠坂凛「あなたがわたしのサーヴァントね?>>2」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1380884864/)

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1382798852

わざわざダグバを見た後に、メタ的なサーヴァントを呼んで対抗させるってのがなぁ・・・

やっぱヘイヘでいいや

お前はヘイヘを絶望させたいのかwww
勝ち目zeroだぞwww

>>24
別に勝たなくていいし

個人的には、このままダグバやオディオの一人勝ちでも全然構わない
面白かったら何だっていい、ついでに安価取れたらなおのこといい

>>28
わざと死にに行くような安価とる奴は参加するなよ
死 ね ルーザー

遠坂邸【玄関】


いつまでも蹲っているわけには行かない。
それどころか、蹲っているだけ危険度は増す。
アレを打倒したいのなら、他のサーヴァントとの協力は不可欠だ。
アサシン陣営は問題なく味方に付けれる。セイバーやランサーも話の運び方次第ではどうにかできるだろう。
バーサーカー陣営は、マスターに問題がある。
アレがキャスターなのかアーチャーなのかは判然としないが、あんなモノが柳洞寺に拠点を置いているかも知れないというのは最悪だ。

「……情報どころの騒ぎじゃないわ。あんな、見ただけで逃げ出したくなるようなやつ…」

敵対することさえままならない。
取り入ることも、恐らく不可能だろう。
言語能力があるかどうかも疑問だ。その程度には―――人間を外れているだろう。

「……リン。なにか策はあるか?」

「そうね……―――――――――」


1、あなたはどう思うの?
2、アサシン陣営と接触するわ。
3、アインツベルンとコンタクトを取るわ。
4、セイバーを探してみましょう。
5、アーチャー、ないしキャスターを探しましょう。

>>55

5

>>40
例えお前が安価を取ったとしても
作者が「死にました」と書けば、どんなキャラを取ろうが無意味って気づいてる?

逆に、作者が「ダグバ倒しました」と話を書けば、ヤリザ殿でもダグバに勝てるの判ってる?

そんなに最強vs最強したいなら、自分でスレ立ててしこしこしてろよ
面白ければ見てやんよ

っと、来てたか
黙って支援

>>57
テメェ、そこでヤリザ殿の名前出すとか喧嘩売ってんのか?
ヤリザ殿は煽りの道具じゃないんだよ

>>59
すまんかった
つい遊戯王スレのノリで書き込んでたわ

「……引き続き、まだ判明していない陣営を探しましょう」

アーチャー、ないしキャスター。
あの白色がそのどちらであるにせよ、もう一騎のサーヴァントが存在するはずなのだ。
まずは、そちらから調べよう。
アレをどうにかできる存在が、もしかしたら召喚されているかも知れない。

「希望的観測もここに極まった感じだけど、やらないよりマシよ」

少なくとも、気休めにはなる。
結果が芳しくなかったとしても、それはそれでいいのだ。
敵陣営の情報が大切なことに、依然変わりはない。

「判明していない陣営……あの白色がどちらのクラスであるにしても、あと一騎か」

「そう。だからそいつを見つければ、比較してあの白色のクラスが割り出せるかも知れないわ」

「いい案ではあるけれど、しかしアーチャーもキャスターもパッと見では分からないクラスだ。そこはどうする?」

「その場合は戦ってみるしかないでしょうね。まあそもそも、他陣営に遭遇することが前提だけど」

「戦うのか……正直、アレを見た後ですぐに動ける君の行動力は尊敬するよ」

「なにそれ?ひょっとして馬鹿にしてる?」

「いや。純粋に羨ましく思うよ。無駄に悩んだりしないのは、なかなか出来ることじゃない」

「……ま、いいけど。それじゃあ行きましょうか」



1、新都へ行く
2、商店街へ行く
3、間桐邸へ行く
4、教会へ行く
5、あえて柳洞寺へ行く

>>66


柳洞寺【門】


「なんだ。また来たんだね」

白色が居た。
いや、そりゃそうでしょうけど。

「何をしに来たの?もしかして、僕と戦うつもり?」

気持ち悪い汗が体中から溢れる。
対峙するだけで、死ぬ覚悟を決めさせられた。
自分の愚かさが、つくづく嫌になる。
なぜ再び、ここに足を運んでしまったのか。

「……リン……5秒だけ稼ぐ。その間に逃げて」

「ライ、ダー……!」

ライダーは、槍を構えてチョコボに跨る。
その構えは、相打ち覚悟の決死だった。

「今回の聖杯降霊がここだっていうから調べていたんだけど……これは思わぬラッキーだね」

白色は―――語る。
それは、彼がサーヴァントであることを示す内容だったが―――続く言葉は―――

「君、英霊でしょ?僕を楽しませてくれるんだよね♪」

「……生憎、そんな余裕は無い!―――はっ!」

ライダーは飛び上がる。
地の置いたチョコボは、独りでに白色に向かっていく。
二対一。これがライダーの戦闘における特性。――――だが。
そんなものは―――――闇の前に―――――何の意味も、成さない。

白色は、向かってきたチョコボを掴む。
それだけでチョコボは、風船のように弾け飛んだ。
赤い雨が降り注いで、辺りをその色に染める。

続くライダー。
彼は着地するまでも無く―――――天空で火炎となり、消える。



「この程度?つまらないなぁ。僕をもっと笑顔にしてよ」


わたしが辿るのも、それらと大差ない末路だった―――――――



                               【DEAD END】

ですよねーwww

《現時点でダグバと関わり合いになってはいけない、死ぬ》
《ちなみに、商店街行くとイリヤと遭遇だよ》

《どこからやり直す?なお、鯖安価は覆らない》

>>80

《今日はここまでー》

これってつまり、アーチャーのマスターはバゼットさんか

>>77

不死性、再生、火炎耐性のいずれかが必要
若しくは凄まじき戦士のように素の耐久で耐える

>>64

炎が鎮まったそこにはこんがり焼けた美味しそうなパンが!

アメフトの格好をした首領パッチが滑りこむようにキャッチしてダグバへ向かって行く

食えやオラー!とか何とかいいながらダグバの口元へねじ込もうとする

ここまででワンセット

>>105
腹抱えて笑ったんだが

《ダグバに勝ちたかったら、星の開拓者持ってそうな鯖呼べばいいんじゃね?》
《こういうのを相手取るためのスキルじゃん》

《あと、現状でも倒せんわけではないよ。条件は厳しいけど》

《では>>64から》

「……引き続き、まだ判明していない陣営を探しましょう」

アーチャー、ないしキャスター。
あの白色がそのどちらであるにせよ、もう一騎のサーヴァントが存在するはずなのだ。
まずは、そちらから調べよう。
アレをどうにかできる存在が、もしかしたら召喚されているかも知れない。

「希望的観測もここに極まった感じだけど、やらないよりマシよ」

少なくとも、気休めにはなる。
結果が芳しくなかったとしても、それはそれでいいのだ。
敵陣営の情報が大切なことに、依然変わりはない。

「判明していない陣営……あの白色がどちらのクラスであるにしても、あと一騎か」

「そう。だからそいつを見つければ、比較してあの白色のクラスが割り出せるかも知れないわ」

「いい案ではあるけれど、しかしアーチャーもキャスターもパッと見では分からないクラスだ。そこはどうする?」

「その場合は戦ってみるしかないでしょうね。まあそもそも、他陣営に遭遇することが前提だけど」

「戦うのか……正直、アレを見た後ですぐに動ける君の行動力は尊敬するよ」

「なにそれ?ひょっとして馬鹿にしてる?」

「いや。純粋に羨ましく思うよ。無駄に悩んだりしないのは、なかなか出来ることじゃない」

「……ま、いいけど。それじゃあ行きましょうか」



1、新都へ行く
2、商店街へ行く
3、間桐邸へ行く
4、教会へ行く

>>154

《ああそれと、ダグバが本来のスペック発揮できると思ったら大間違い》
《あんなもん聖杯如きで再現可能なわけねーじゃん》



商店街【公園】


「あ。トオサカリンだ」

「あれ?あの武道家と一緒に居た女の子じゃない。買い物?」

商店街の公園にて、ブランコで遊んでいるイリヤスフィールを発見した。
ランサーは実体化してその背中を押している。
仲のいい姉妹か、あんたらは。

「なに身構えてんのよ、今は昼間じゃない。戦争は夜やるもんでしょ?」

ランサーがまともなことを言って来る。
確かにその通りだが、昨日の昼間に戦闘を仕掛けられた身としては複雑な気分だ。
そりゃ身構えたくもなる。

「……イリヤスフィール。あんた、こんなところでなにやってるの?」

「何って、散歩だよ?せっかく日本にきたんだし、昼くらいはゆっくりしたいの」

「それであたしはそのお供ってわけ。ま、当然よね、サーヴァントなんだし」

……穏やかだ。
夜に襲ってきたときとは、雰囲気がまるで違う。

「リン。これならあの白色について、話が出来るかも知れない」

「……確かに協力者は欲しいけれど、安易に喋るべきでもないわ。ここは―――」


1、聖杯戦争に参加する目的について尋ねる。
2、世間話でも。
3、白色について話す。
4、その他

>>162

「ねえ、聞いて。これは―――マスターとして、あなたにも重要な話よ」

そう切り出す。
やはり話しておこう。不安要素は、出来るだけ潰しておきたい。
この少女とて、アインツベルン。
聖杯戦争の話題になら食いついてくるだろう。
……と、思ったのだが…――

「……聞かない。マスターなのは夜だけだもん。いまのわたしはわたしだよ?」

謎の理論で突っぱねられた。
アインツベルンのマスターとて、見た目通りの子供だということか?
イリヤスフィールは立ち上がると、ランサーに声をかける。

「行きましょう、ランサー。なんか一気に冷めちゃった」

「いいの?まだ遊び足りないんじゃない?」

「いいの。結局シロウにも合えないし……」

そのまま、イリヤスフィールは振り返りもせずに歩き出す。
ランサーはこっちを見て軽く手を振った後、駆け足で自らのマスターを追って行った。

「……やっぱり話すべきじゃなかったわね」

「…ごめん、リン。僕が余計なことを言ったから…」


1、新都へ行く
2、間桐邸へ行く
3、教会へ行く

>>166

1

新都【バス停前】


新都に来た。
そこそこの高さを誇るビル街、大型のショッピングモールから、冬木の主要な施設は殆どがこちら側に集約されている。
外来のマスターが潜伏する場所としては在り来たりだが、しかし打って付けであることに揺るぎはない。

「……そういえば、あの公園があるのもこの辺りね」

10年前の災害。その焼け跡を公園として使用しているそうだ。
地脈が負ったダメージの影響なのか、人が寄り付かない寂しい公園だという話は良く聞く。
前回の聖杯戦争―――父はそれに参加して、死んだ。
その話は散々綺礼から聞いているし、今更悲しみなおす程愚かではないけれど。
だけど、それでもやっぱり―――思う所はある。
父が敗れたその戦争に、わたしが太刀打ちできるのだろうかと。

「…しなきゃ、駄目なのよね」

後悔や不安は捨ててしまえ。そんな物は、全部心の贅肉だ。
勝利に必要なことを考えろ、余計はするな、前を見て歩け。
少しくらいの逆境は、戦略次第で覆るのがこの戦争だ。
勝てる見込みが無かろうと、それは勝てない理由じゃない。
その逆もまた、然りなのだから。
あの白色にだって、付け入る隙はきっとある。

「さて、新都。どこから調べましょうか」


1、ホテル
2、公園
3、ビル
4、路地裏

>>170

《ここまでー》

3
バゼットさんなら居そう

新都【高層ビル】


無人だった。
昼間の、賑わい盛りだと思われるこの時間に――――高層ビルには人の気配すらない。
人払いの魔術は感じなかったし、もしそんな物があったならわたしとて他のビルに行っただろう。
オフィスビル。平日の日中。
この場所が無人であるということが、何を意味するか。

「――――ライダー、構えて」

その命令にすぐさま反応して、ライダーは実体化する。
槍を構えて、わたしの一歩前に出た。

「戦闘の痕跡すらないけど……これは、間違いなくサーヴァントの仕業だよ」

「でしょうね。………魂喰いかしら…………」

となると、どの陣営だ?
わたしが認知しているのはセイバー、アサシン、バーサーカー、ランサーの四騎。
その内、セイバーのみマスターが判明していない。
魂喰いを行う必要が無い陣営、または行わないであろう陣営として、犯人候補からランサーとアサシンを除外する。
ランサーのマスターはイリヤスフィール。あの魔術回路で魂喰いを行う必要はないし、昼間はマスターとして動かないと本人が言っていた。
アサシン陣営はあの通りだ。主従そろって、こういう発想に至るやつらではない。
となると、可能性としてはバーサーカーが一番有力だが、それでも違和感は残る。
手際がどこか慎二らしくない。ここまで大規模な行動なら、もっと派手にやりそうなものだ。
証拠隠滅とでも言わんばかりに死体を消したこの見えない惨状は、あの派手好きが演出するものとは違う気がする。

「セイバー……?…いや、あれもそんな性格じゃないか…」

むしろセイバーもアサシン寄りだ。正々堂々の勝負に重きを置くタイプだろう。
それにあの余裕。とても魂喰いが必要といった様子には見えなかった。

「可能性が高いのはキャスター、あるいはアーチャーね。白色のことは……考えるだけ無駄でしょう」

「……どうやら協力は仰げそうにないね」

この惨状の犯人に協力を仰げば、アサシン陣営は敵に回るだろう。
しかし、そのリスクを踏まえてでも、場合によっては同盟を申し込まざるを得ない。
とかく情報が不足しているのだ。
差し当たっては、あの白色。
そこに繋がる何かが、得られるといいのだが……。


1、上層階を調べる
2、屋上に出る
3、一階を調べる
4、外に出る

>>187

3

新都【高層ビル・一階】


このフロアを調べること数分。
確実に言えるのは、ここには人影が―――死体も含めて、全く無いということ。

「完璧に消えてるわね。まるで、元から誰もいなかったみたいに」

最初は本当にそう思った。
もしかしたら、改装工事の途中なのではないかと。
けれど工事を表す工具やその他は見つからなかったし、何より受付のカウンターにはまだ温かい珈琲が置いてあった。

「つい先ほどまで、ここには誰か居たわけだ。それが、全く慌てた様子も無く居なくなっているなんて…」

「魔術師の仕業であることは間違いなさそうね。サーヴァントとまでは断言できないけど」

広域殲滅型で、しかも一切の暴力を感じさせない手際。
冬木でこれを実現出来るのは、間桐臓硯くらいか?
イリヤスフィールやあの白い化物を考慮するなら、更に候補は広がるが……――
しかし、イリヤスフィールは前述の通りだし、白い化物にはここまで非暴力的な惨状を作れるとは思えない。
造れるかも知れないが、それをやるとは思えない。
あの白は、暴力が形を成したような純粋さだった。

「……間桐臓硯…もしこの戦争に関わっているのなら、厄介な相手ね…」

今思えば、慎二がサーヴァントを連れていたのも間桐臓硯の補助によるところが大きいだろう。
どんな抜け道を使ったのか……ともかく、サーヴァントシステムの考案者なら多少の融通は効くのだろう。

「リン、どうする?」

「そうね、もう少しだけこのビルを調べてから―――」



突然、音がする。引き裂くような轟音。
エントランスホールの、その先。
ビルの外側から轟くのは、雷鳴だった。

そこに見えたのは、バーサーカーと―――――

「―――――桜――?」

新都【ビル街】


わたしはオディオの後ろに隠れて雷をやり過ごす。
キャスター。
お爺様の傀儡となったそのサーヴァントは、およそ魔術師らしからぬ格好をしている。
旅人と騎士を合わせたような、まるで物語の主人公のような、そんな姿。

「主人公、ですか……オディオ、行けます?」

「生憎、私は各界のそれらを打倒したものの原初でな。容易いことだ」

オディオが振るう剣はキャスターが放つ電撃を弾く。
英霊殺しの反英霊、オディオ。
絶望と憎しみで、その身で届かなかった光を斬る。

「私の無言が解けた途端、矢次早やに無言の勇者か。あの蟲も粋な計らいをする」

言うオディオの表情に、しかし楽しさはない。
笑ってはいるが、それは表面だけ。
後にも先にも、――――最早彼には憎しみしか残されていなかった。

「サクラ。新たなるオディオよ。魔王化したお前なら十分に太刀打ち出来る」

「はい、もちろん加勢しますよ。狙いはどうします?」

「蟲を探せるなら、そうしろ。私があの『勇者』を相手取ろうではないか」

憎悪はその剣に火炎を灯す。
黒く染まった、冷たい火炎。

わたしは堕ちる。
復讐の底へ、憎しみの廻廊へ。

――――――――――深く、深く。

新都【高層ビル・一階】


わたしは咄嗟に、近くにあったカウンターの後ろへと身をひそめた。
この真昼間から戦闘が行われている。
バーサーカーと、あれはキャスターだろうか?
鞭を持った、中世の旅人のような――――……。
…また神代の英霊か。

「って、そんなことはいいのよ…!……桜が、バーサーカーのマスター……成程、そういうことか……やられた!」

偽臣の書。
代理マスターを立てるマジックアイテム。
使い魔を専門とする間桐臓硯がやりそうなことだ。

「……でも、解せないわね。見た所、あの子やる気満々みたいだけど……」

桜が戦争に参加する気なら、わざわざ慎二などを代理に立てる必要は無い。
途中で、心変わりをした?……それとも、慎二が死んだのか。

「……そのどっちもって感じね…」

「どうする、リン。このままやり過ごすのが得策のように思えるけど」

「どうかしら。桜がマスターとして機能しているということは、魔術も万全に使えると考えても良さそうだけど」

「え?あのマスターと知り合いなの?」

「………妹よ。妹だった。」

「…妹……か…」

妹と言う単語で、わたし達は二人そろって暗い雰囲気になった。
ライダーにとっても、あまり触れられたくない単語だったのか。
変なところで共通点があるものだ。

「……で、どうするの?」


1、このまま覗き見
2、裏口から逃げる
3、割り込む
4、桜に助太刀

>>202


《ここまでー》

2

振りかざすだけでギガデインな剣もあってだな(リメイクⅢ)
キャスター枠での剣封印中ならオディオ有利かと

新都【高層ビル・一階】


「逃げましょう。ここにいたらいずれ見つかる」

少なくとも、それくらいの意識で居た方がいい。
桜がこちらを探知できるにせよ出来ないにせよ、相手側のマスターが居るだろう。
そいつの此方の存在を気取られれば桜が標的を変えてくる可能性もある。
それくらいのことを、遠坂はしてきた。
桜がこうして聖杯戦争に参戦しているのには、少なからずそういう意味があるのだと思う。

「裏口は……さっき見つけたわね。あそこへ向かいましょう」

「了解。僕はどうする?」

……どうするとは――――ああ、霊体化するか否か、か。
このまま実体化させておいたほうが安全ではあるが、しかし見つかる可能性は上がる。
それならば確かに、霊体化させるというのは手だろう。


1、霊体化させる
2、このまま

>>212

《あ……すみません、↓で》

「そうね。霊体化してちょうだい」

「わかった。危険だと思ったらすぐに実体化する、心配しないで」

「ありがと。じゃあ、行くわよ……」

カウンターの影から、ガラスの向こうで行われる戦闘を見る。
情報を得るためだ無く、隙を見つけるため。
バーサーカーが闇を纏いながらキャスター(仮)へ横薙ぎに剣を振る。
対して、水平に駆ける閃光の雷を弾幕とするキャスター。
その震撼すべき戦闘を前にしながら、桜は動かない。
瞼を閉じて、しゃがんで―――何かを念じているように見える。

「……魔力を探知している……?…不味いわね、逃げるなら急がないと…!」

わたしは意を決して、物陰から飛び出す。
最短で角を折れ曲がり、通路を進んで裏口へ。
この間、後ろからは雷鳴と剣撃の音が響いていたので、見つかった可能性は低い。
わたしはドアノブを掴んで捻る。
冷静なつもりだったが、存外荒い扉の開閉になってしまった。
それだけ焦っていたのだろう、それは仕方ない。

許容できないのは、扉を閉めたあとの事。
ビルを出て外側――――そこにいたのは―――――


「カカッ……これはこれは、遠坂の娘ではあるまいか。良いのか?妹の晴れ舞台を見逃して」

「……っ!…間桐、臓硯っ……!」

何故ここにいる―――という問いは、今となっては愚問だろう。
つまり―――――

「……貴方が、キャスターのマスターというわけですか」

「ほう…?この短時間でクラスの当てまで付けるとは、大したものよ」

「キャスター、アーチャー以外の陣営には既に遭遇しましたから。褒められるほどでもありません」

猫を被ってはいるが、しかしこの男を相手にして嫌悪感を抱かないというのは無理がある。
腐臭――――肉体では無く、魂から漂うそれ。
まるで、物の怪を相手に言葉を繰っているかのようだ。

「謙遜はよせ。いやいや、見事。儂も当てられるとは思わなんだわ。その通り、奴のクラスはキャスターじゃ」

間桐臓硯は笑う。
その笑みは、酷く醜い。
それにしてもなぜ、こいつはわたしを待ち伏せたのだろう。
一体何を企んでいる……?

……この会話…かまを掛けてみるか、それとも早々に切り上げるか。
或いは、実力行使に出るか。
ビルを挟んだ向こう側で桜が探知をしている可能性を考えると、それほどの猶予は無い。
それは間桐臓硯も同じだ。
ここでわたしが取るべき行動は―――――


1、話を切り上げて立ち去る
2、桜を襲う理由を問う
3、実力行使
4、ちょっと黙ってみる

>>227

《ここまでー》

2

訊かねばならないだろう。
あのキャスターが間桐臓硯のサーヴァントだと言うのなら、わたしはそれを問わない訳には行かない。

「なぜ…桜を襲うのですか?」

勿論、桜が間桐臓硯に逆らったからなのだろう。
だがわたしが訊きたいのは、そんなことでなくて。

「桜にサーヴァントを喚ばせたのは、貴方でしょう」

「左様……それがどうかしたかね?」

白々しい。

「その貴方が自らサーヴァントを召喚して、桜を襲う理由とは?」

「元々は、あやつに勝ち抜いてもらう予定だったのだがな…事情が変わった」

それは、慎二の事か。
それとも――――

「桜に、何かあったのですか?」

「…ふむ。何故そう思う」

だから、白を切るのを止めろ。
その人を馬鹿にしたような――人を化かしたような笑みを此方に向けるな。

「からかわないでください。あの戦闘を見て、なおかつ貴方がマスターと聞いて、そう思わない方がどうかしています」

キャスターが放つ雷撃が狙っていたのは、バーサーカーと桜。
桜が選択した行動がそれと対峙することだというのも、尋常ではない。
戦いから逃げない。争いから逃げない。
桜にとって、それがどれほど大事か―――わたしはそれを知っている。
どれだけ――――追い詰められていたのだろうか。

「何か…勘違いをしておるのではないか?」

「勘違い……ですって?」

「このビルの向こう側で行われている戦闘……その先手を仕掛けてきたのは、儂ではない」

「………まさか、桜が…?」

その展開は、想像していなかった。
間桐臓硯が嘘を吐いている可能性もあるが、しかしここで嘘を吐く意味があるか?
すぐに露見するような嘘は、心証を悪くするだけだ。

「その理由は、なんですか……?」

「さあなぁ……そこまではまだ分からんよ。心当たりも無い」

この男の言葉をどこまで信用して良いか、疑問が残る台詞だ。
心当たりも無い、とは……大きく出たものである。


1、臓硯の話を信じる
2、臓硯の話を否定する
3、話題を変える(自由安価)


>>244

白い奴の話を軽く話す

あの白色について、何か尋ねてみようか。
知っていることがあるかもしれない。

「先程、柳洞寺の境内で白色の化物を見ました」

「白色……?………ほう…これはなんとも…」

「……何か、御存じなのですか?」

臓硯は俯きながらも、小さく笑みを漏らす。
それはわたしから隠すための俯きか、それとも強調するためのものか。
一つ一つの挙動が、どこか胡散臭い。

「知りたいか?よかろう、それは―――――」



「見つけましたよ、お爺様」



「―――――…桜っ…!」

桜に見つかってしまった。
あの子は現在、戦闘を受け入れている。
わたしがマスターだと言うことは知っているだろうし、ならばこの状況は非常に不味い。

これではまるで、わたしが間桐臓硯と共謀しているかのようではないか。

「カカッ……遠坂の娘よ、話はまたの機会じゃな。ここは退かせて貰おう」

そう言いながら、間桐臓硯はその身を数多の蟲へと分解した。
見るに堪えない光景で、吐き気さえ催すが―――それどころではない。

「……姉さん……お爺様と、一体なんの話を?」

「……っ!」

何と答えるべきか。
正直、あの場面を見られた時点で殆ど詰んでいる。
間桐臓硯の狙いはこれか。
わたしと桜で、潰し合いをさせるとは、悪趣味な。


1、経緯を正直に話して弁明
2、ひた走って逃げる
3、交戦する
4、言い訳を考える(自由安価)

>>247

《ここまでー》

2

振り返る暇も無い。
わたしは桜に向かって走って行き、その横を通り抜ける。
後は全力で逃げるだけだ。

「――――――――……姉さん?」

声が聞こえる。
それほどの声量は出ていないだろうが、その声ははっきりと耳に届いた。
当たり前だ。ここで桜から逃げることに、なにも感じていないはずがないのだから。
だけど、感情と現状は別物だ。
逃げなければ――――きっと戦闘になる。
わたしはまだ、桜と戦う覚悟が出来ていない。

「ライダー!チョコボ出して!」

「言われなくても!」

言葉と共に、黄色い鳥に跨ったライダーが実体化する。
わたしはライダーの手を取って、勢いに任せて搭乗した。

「……オディオ。逃がさないで」

「ああ………魔王から逃げることを選択するとは、愚かな英雄も居たものだな」

バーサーカーがこちらを見遣る。
―――いや、待て。―――バーサーカー?

「ライダー!今、あのサーヴァント喋らなかった!?」

「ああ、確かに聞いたよ!この分じゃバーサーカークラスだというのも疑わしい!」

そんな、まさか……イレギュラークラス?
桜が口にした単語……オディオ………それは、どこかで聞いたような―――。

「リン、どう逃げる!路地裏、大通り、どこを通ってどこに行く!?」


1、路地裏を通って教会へ
2、路地裏を通って遠坂邸へ
3、路地裏を通って間桐邸へ
4、大通りを通って教会へ
5、大通りを通って遠坂邸へ
6、大通りを通って間桐邸へ

>>257

4

ここからなら教会が一番近い。
綺礼の助けを期待しているわけではないが、しかしやり過ごす場としては悪くないだろう。
問題は、教会までの僅かな距離でバーサーカーを捲けるかという点。

「……大通りを走って、教会に向かって!場所は昨日教えたとおりよ!」

「わかった!」

ライダーは手綱を振るいながら、身を前傾にする。
わたしもそれを見様見真似でやってみるが、思いのほか安定しない。
騎乗スキルあってのものだろう。わたしには乗馬の経験すらないのだから、当然だ。

「よし!見る見る差が広がっていくわ!その調子よ、ライダー!」

「いや、楽観は出来ない!気を抜くなリン!」

―――――――――――――――――――――――――

「大通りを選ぶか。利口だな。直線ならば、騎兵に歩兵が追いつく道理も無い」

オディオは感嘆の声を上げる。
この状況下で冷静な判断が下せると言うのは、なかなか有能だ。
有能であるということは――――それだけで十分に『素質がある』と言えるが……

「……しかし、あれは駄目だな。サーヴァントの方はともかくとして、あの娘には反転するような表裏が無い」

遠坂凛に、勇者となりうる素質は無い。
大成は出来るし、名は馳せるだろう。だが、それは世界を動かす力としては、少々弱すぎる。
賢者にはなれても、勇者にはなれない。
そういう一線を画した名脇役には、魔王化の剣は意味を成さない。

「どうするつもりですか、オディオ。追う足をとめて、見逃すつもり?」

「まさか。私を甘く見るな。私の憎しみを、甘く見るな。ああいう『一般人』こそが、私の憎むべき対象だ」

故に、剣は納めない。
抜身の刀身に宿すのは――――黒竜を模した火炎。

「直線を逃げると言うのならば、その道ごと焼き尽くせば良い。その身に受けよ、この憎悪」

燃え盛る炎竜は、並び立つビル群と大差ないほど肥大化して――――
――――――太陽を喰らわんと、咆哮する。


          ド ラ ゴ ン ソ ウ ル
「―――――――『朽ちよ魂、無望の竜』」


地を這うように飛翔する黒き竜は通りを突き抜けて、呑んだもの全てを灰へと変える。

「……ぐっ…!」

火炎に飲み込まれた町並みの中、わたし達は駆け抜けることを止めない。

「シェルジャ、リジュネの重ね掛け……『黄の羽は癒しの光(チョコケアル)』まで使って、この熱量……とんでもないぞ…」

「助かったわライダー、生きているだけ儲け物よ!」

目指すは変わらず教会。
相手が大規模な攻撃を仕掛けてきてくれたのは、味方によっては助かったと取れなくも無い。
生死の確認すら出来ないような惨状なのだ。
攻撃の余波が冷めきらぬうちにこの場から逃れれば、わたし達の目的は達成される。

「これで死んだと誤解してくれたら、更に儲けなんだけど……」

「過度な期待はしない方がいい。そうだったらいいな、くらいに留めておきなよ?」

「わかってるわよ。さあ、急いで急いで!」

解けた鉄から湧き上がる白煙の目くらましも、そう長くは持たない。
わたしはライダーにしがみついて、その揺れに身を任せる。


《ここまでー》

《訂正。味方→見方》

穂群原学園【生徒会室】


昼休みを利用して、俺は一成から頼まれていた備品の修理を行う。
手は分解するために動いているが、思考しているのは全く別の事。

「………」

俺に修理を頼んだ一成すら、死体の山の一部だったというのに。
だからこれは、現実逃避でもあり―――現状把握でもある。
バーサーカーの大量殺人は、失踪事件として処理されているそうだ。
俺を除くクラスメイトが全員行方不明となっている現状、今日の午前中は事情聴取で潰されるのも当然。
全員、だ。
犯人である慎二さえも、行方不明。

「…………」

俺は黙々と手を動かす。
片手間で行っている作業なのに、上手く行くのが腹立たしい。

慎二が行方不明、それ自体はおかしいとは思わない。
あれだけの事をしでかして学校に来れるほど、馬鹿でもなければ勇敢でもないのだ。
だからそれはいい。それはいいとして。
学校に来ないなら来ないで、何か別のアクションをするのが慎二ではないか?
俺に対して朝から今まで何もしてこないというのは、普通じゃない。

「………遠坂は、学校に一報入れているみたいだしな」

少なくとも早朝の時点では、遠坂は無事だった。
それならば、あの遠坂を心配するほうが失礼だろう。
問題なのは―――

「……桜。…一体どこにいるんだ…?」

警察の話では、間桐邸はもぬけの殻だったそうだ。
そして、学校にも桜の姿は無い。

「まさか、巻き込まれているんじゃないだろうな……」

と、そこまで考えときだった。
不意に教室の扉が開く。

「衛宮は居るか?話があるのだが」

「葛木……先生?」

葛木宗一郎。
そういえば、生徒会顧問だったこともあって一成とよく話しているのを見かけた。
ならば話と言うのは、一成の事だろうか。

「話……?なんですか?」

「ああ、話と言うのは他でもない……」

立ち上がって姿勢を正した俺に、葛木は近寄ってくる。
別に先程までの位置関係でも、会話するには差し支えなかったように思うが……――

「うおっと!危ないぞシロウ!」

アサシンが声を上げ、実体化する。
何が起きたのかはさっぱりだったが、とにかく俺はアサシンの腕力で強制的に下がることになった。

「む……やはりか」

「いきなり攻撃を仕掛けてきたことと、オレが実体化しても驚かないこと。お前さては、マスターだな?」

攻撃を、仕掛けてきた?
俺は、攻撃を仕掛けられたのか?
だとしたらそれは、認識できないほどの速さで繰り出された一撃だとでも言うのか。

「衛宮がマスターだというのは、どうやら間違いないようだぞ。どうする、アーチャー」


葛木の鯖>>268

アンパンマン

《速すぎるわっ……!》
《把握》

「くずき先生、いきなり襲うのはよくないよ。悪いことをしたら、先ずはごめんなさいをしなくちゃ」

優しい声とともに、姿を現したそれは―――――
赤いマントに、まるい顔。穏やかに笑みをたたえたそれからは、懐かしく薫る甘さ。
まさか、こいつは――――…!

「あ、アンパンマン…?」

「初めまして!ぼく、アンパンマン!」

アンパンマン。
老若男女、誰もが知っていると言い切っても過言ではないキャラクター。
保育園のテレビの中で彼が活躍していてのを、曖昧ながらに記憶している。
そのヒーローとしての有り方は、特殊でありながら群を抜いて美しい。
自己犠牲による献身が、泣いている子供たちを救う。
己が身を削り、苦しむ人たちを一人一人、確実に笑顔にしていく。
その在り方は―――英雄と呼ぶには不恰好でも。
救われたものは、彼を誰よりも称えるだろう。

「ごめんね、えみやくん。ぼくだってとめたんだけど、聞かなくって」

「え、ああ。いや、それはいいんだ。いいんだけど……真名ばらしてもよかったのか…?」

「あ。つい、いつもの癖で」

駄目だったのかよ。

「……アーチャー。しかし戦わなければ勝てんだろう。お前の目的のためにも、戦闘は必要なはずだ」

「ぼくのお願いを叶えるためにケンカするなんてとんでもない!」

……葛木と、アンパンマン。
どういう絵だ。恐ろしくかみ合っていない。
アンパンマンの登場で、葛木に襲われたことさえどうでも良くなってしまいそうだ。

それから五分後。
俺とアサシンは、アンパンマン達と机を挟んで対面する。

「それで、ぼくたちがここにきた理由なんだけど」

話を切り出したのはアンパンマン。
現状が理解できていないこちらとしては、説明をしてくれるのは嬉しい限りだが――

「ちょっと待て。待ってくれ。葛木……先生。あんた、なんでアンパンマンを召喚したんだ?」

というか、なんで召喚出来た。
相性の良さそうなところが一つも見当たらない。

「その問いには答えられん。寺の資料を漁っていたら、地面が光り出して現れた」

………しかも、状況的には相性召喚のようだ。
それにしても、だ。
なぜ、アンパンマン……?

「…そもそも、アーチャーの要素とかどこにあるんだ……」

「それはね、ぼく自身が飛んでいってパンチするからだよ」

飛び道具:自分。
そんな馬鹿な話が……ここに実際あるというのだから困る。

「それで、ぼくたちがここにきた理由なんだけど」

アンパンマンが先ほどと同じ言葉を繰り返す。
確かに、それは気になるところではあるが……。


《何のために生まれて、何をして生きるのか。…葛木先生……》
《今日はここまでー》

穂群原学園【生徒会室】


「ぼくたちがここにきた理由……もちろんサーヴァントの気配を感じたからなんだけど」

それは、聞かなくてもわかる。
部屋に入るなり攻撃を仕掛けてきた葛木を見れば、誰でも察しが付くだろう。

「あっれ……オレ、ちゃんと気配消せてなかった?」

「え……おいアサシン、しっかりしてくれよ。俺が言えた義理じゃないけど、大丈夫なのか?」

アサシンのクラスは確か、気配遮断をクラス特性として身につけているはずだ。
遠坂が言うには、基本的にマスターの暗殺を主体にして、正面から戦うことは避けるべきらしい。
主従共に立ち回りの上手さが必要とされるクラスであり、使いこなせば全く傷を負わずに勝ち抜くことも可能だとか。
……俺には到底出来そうに無い。

「大丈夫大丈夫!オレの気配遮断のランクは、もともとおっそろしく低いからな!こういうこともある!」

「……そうなのか?」

「ああ。ぶっちゃけ、しっかり精神統一しないと気配が殺せない。――――ああ、だからって心配すんな?その分ステータスは高めだからさ!」

それは、アサシンクラスである意味があるのだろうか。
いやまあ、元々こちらとしてもマスターを暗殺する気は無かったので、都合がいいと言えばそうなのだが……。
もしかしたらその辺りが、無手の武道家であることと関係しているのかもしれない。
7クラスの中で武器無しで召喚されそうなのはアサシンと、それこそバーサーカーくらいのものだろう。
ライダーやキャスターは、宝具や魔術が武器となるし―――三騎士に至っては言わずもがなだ。

まあだからこそ、自身が飛び道具だと言ってのけた眼前のアーチャーを特異に感じるわけで……。

「……話が進まないな。…アーチャー、待ってやる必要はない」

「ははは。そうですか?」

……む。アンパンマンに気を遣わせてしまった。
慈愛のヒーローだとなまじ知っているが故に、申し訳ない気持ちになる。

「えっと…悪い、アーチャー。続けてくれ」

「うん。そうしよう」

穂群原学園【教室】


アーチャーの説明を余すことなく開示すると結構な長さになるため、ここは簡易的にまとめてみよう。
というのも、別に彼の話が分かりにくかったと言うわけでは無い。
むしろとても分かりやすくて、その上に加えて面白おかしくアレンジされていたため、非常に楽しかった。
流石は幼児の英雄ということか。
だがしかし、それをそのまま伝えると昼休み一杯の尺を必要としてしまうし、何より状況の正確な把握が出来ない。
たしかに面白おかしく楽しかったけど、現実はそうではなかったのだ。
むしろ厳しくて辛い、非常なものだった。

アーチャーがサーヴァントの気配を感じてこの部屋にやってきた理由。
葛木が俺に殴りかかって来たことから、それは戦闘をするためだと思っていた。
しかしそれは、実際のところ葛木の独断専行だったという。
葛木はアーチャーの話を聞かないで、敵のマスターが居るなら打倒する、アーチャーもそのつもりだ…と、そう思い込んでいたかららしい。
それでは、アーチャーの目的。俺達に会いに来たその訳とは。

つまるところそれは、協力要請だ。
現状、アーチャー一人ではどうしようもない『わるもの』が居るらしい。
アーチャーはそれを打倒せんと、協力してくれそうなサーヴァントを探していた。

「……それが、俺達だったってわけか」

確かに俺は、『あの』アンパンマンがいう『わるもの』を放っておけないだろう。
誰もいない2年C組の教室で、腕を組む。
今日は授業も行われない。
今、俺がするべきことは……―――――


1、アサシンのステータス確認
2、アサシンの願いを聞く
3、学校を飛び出す

>>339

1
しかし相変わらずここの>>1のアサシンは正面突破好きだな

「…アサシン、ちょっといいか?」

俺はアサシンに声をかける。
反応はすぐに帰ってきた。

「おう。なんだ、どうした?さっそくぶん殴りに行くのか?」

「違うって。だいたい、居場所も戦力差もわからないのに、どうやって戦い方を考えるんだ」

「なんだよ、リンみたいなこといって。考えなくたって戦えるだろ?」

いやいや……アサシンはそうなのかもしれないけど…
少なくとも、俺には出来そうもない。
只でさえ半人前以下の魔術師なんだから、自軍の戦力くらいは把握しておきたい。
さしあたっては――――

「アサシン。お前のステータスを見たいんだけど…」

「ん?ああ、ステータスか。よし、ちょっと待ってろよ……」

そう言ってアサシンは、額に手を当てて何かを念じる。
同調するように―――俺の頭の中に、アサシンの情報が流れ込んできた。



クラス:アサシン
真名:バッツ・クラウザー

筋力C 耐久B 敏捷C 魔力E 幸運A 宝具??

◆スキル
・気配遮断(E)  自身の気配を消す能力。彼の場合は武道家としての精神統一。集中して気を操らねば使えない。
・直感(B)    常に自身にとって最適な展開を「感じ取る」能力。また、視覚・聴覚への妨害を半減させる効果を持つ。
・専科百般(E)  生前の経験から来るスキル。現在はモンクで固定されているため、十全に発揮できない。
・勇猛(A+)    威圧、混乱、幻惑といった精神干渉を無効化する。また、格闘ダメージを向上させる。
・仕切り直し(A+) 戦闘から離脱する能力。また、不利になった戦闘を初期状態へと戻す。
・騎乗(B)    乗り物を乗りこなす能力。Bランクで魔獣・聖獣ランク以外を乗りこなす。


◆???

『―――――?―――――』
所有者:バッツ・クラウザー  ランク:??
種別:????
レンジ:?    最大捕捉:?人

◆???

『―――――?―――――』
所有者:バッツ・クラウザー  ランク:??
種別:????
レンジ:?    最大捕捉:?人

「………えっ…と…」

見せて貰ったのはいいが……これが具体的にどうなのか、俺には良く分からなかった。
そもそも比較対象が無ければ、こんな表には意味が無いのだ。
取りあえず運が良いということは分かったが……。

「…アサシン……どうなんだこれ、強いのか?」

「……うん?うーん……まあ、正直微妙。マスター次第では、筋力も耐久もAは固かったんだけどなぁ」

ということはつまり、微妙なのは俺のせいだということか。
分かっていたこととはいえ、少し落ち込む。

「あ、別にシロウが悪いっていうんじゃないぞ?そもそもシロウとは相性召喚なんだし、文句言っても仕方ないしな」

「……どういうことだ?」

「お前じゃなきゃ、オレは呼べなかったってことだよ。だからステータスだって、これでいいのさ」

そう言ってくれると、俺も多少は救われる。
じゃあここで、一つ気になる点を指摘してみよう。

「…じゃあ、それは良いとして………この、勇猛ってスキルなんだけど…」

「ああ、勇猛な。それがどうした?」

「………お前、クラスなんだっけ?」

「うん。アサシンだな」

…………暗殺者が、勇猛って。



《ここまでー》

新都【教会前】


「……どうやら、うまく捲けたみたいね」

それにしても、この聖杯戦争は絶対におかしい。
あの白色といい、バーサーカーといい、規格外もいいところだ。
それを言ったら、その規格外の攻撃を受け切れるライダーも同一の括りだと言えなくもないが……。
しかし、ライダーの術は魔法、しかも個人規模の防御呪文であるのに対して、バーサーカーの炎竜は広範囲を巻き込むもの。
あれだけの領域に対して均等に破壊を行ったのだから、あちらの方が格上なのは間違いない。
わたしと桜の間には、それなりの差がある。
生まれ持った実力は等価値でも、鍛錬で負けるつもりは無い。
ならばこれは、サーヴァントの差か……あるいは、相性の問題か……

「……前者だとしたら、バーサーカーの真名はすぐにわかりそうなものだけど…」

サーヴァントに差があるという前提で話を進めると、それはつまり、バーサーカーがライダーよりも格上の英霊ということになる。
ライダーが神代の英霊であり、少し調べれば名前が出てくるような知名度なのだから――それ以上の大英霊。
後者の方、つまり相性の問題ならば完全にお手上げ―――と言うわけでもないのだ。
いくら相性が良かろうと、それだけで神代の英霊を超えるのは容易ではない。
つまりバーサーカーは、ライダーと同格、あるいはそれ以上の英霊だと見てまず間違いはないだろう。

「ライダー。今一度訊くけど、バーサーカーについて心当たりは無いのよね?」

「……うん。残念ながら」

「いいのよ、仕方ないわ。知らないなら知らないで、それはヒントになるんだから」

ライダーが知らないなら、それは獅子戦争の時代とは関係のない英霊だということ。
あれほどの実力を持つ剣士の事を、大陸中を旅したライダーが認知していないはずが無いのだから。


「あとは、一つ気になるフレーズがあったわね」

桜が口に出した単語――――たしか……『オディオ』…だった。
『オディオ』……『オディオ』…似たような言葉を、どこかで聞いたような気もする。
桜があのサーヴァントをそう呼んでいたということは、イレギュラークラスか真名か、あるいは混乱させるための策か。
それにしても、何を意味するか分からない。そもそも何語なのだろうか。
真名というのは、どうだろう。流石に桜もそれくらいは隠すと思うし……しかし策という可能性も低そうだ。
そうなると、イレギュラークラスの線が強いか?
間桐臓硯がなんらかのアクションを起こしたのなら、十分に有り得るとは思う。

「いやいや、結論を急ぎ過ぎよ。まだ何もわかってないのに答えなんて出そうとするな、わたし」

やはり、少し焦っているのだろうか。
ここは一度考えるのを止めて、調査を再開するとしよう。


1、神秘秘匿の依頼も兼ねて、教会に入る
2、間桐家に向かって臓硯の話を聞く
3、遠坂邸に戻って調べもの

>>353

教会【礼拝堂】


「邪魔するわ」

わたしは教会の扉を乱雑に開けて、佇む男の背中を瞳に写す。
そういえば、直接会うのは何日ぶりだろうか。
眼前の神父は、特に変わった様子もない。
不吉な、ゆっくりとした動きで首を回して、視線をわたしの方に向ける。

「…凛か。よく来る気になったな。どういった心境の変化だ?」

「別に。町でサーヴァントが暴れたから、その報告よ」

「ほう、どの陣営だ?被害の内容は?」

「バーサーカー陣営。新都の大通りが地獄の一丁目になってるわ」

「了解した。すぐに後処理を手配しよう」

ここまで、綺礼は笑みを崩さない。
聖杯戦争についての話題も、向こうから切り出すつもりはなさそうだ。


1、『オディオ』について尋ねる
2、例の白色について尋ねる
3、踵を返して立ち去る

>>356

2

例の白色について、尋ねてみよう。
仮にも聖杯戦争の監督役なのだから、何か知っているかも知れない。
教えてくれるかどうかという疑念も、綺礼に限っては掛ける必要のないものだ。
こいつは、嘘だけは絶対に吐かない。

「ねえ、綺礼。さっき柳洞寺で、白色の化物に出会ったわ。あれが何なのか、貴方は知らない?」

綺礼は笑みを崩さないまま、少しだけ目を細めた。
まるでわたしの問いが、酷く愉快だったかのように。

「ああ、知っている。もっとも、お前の言う白色と、私の思うそれが同一だとは言いきれないが」

「それでもいいわ。何か知っているなら、教えて」

「そうだな。……いや、それよりも――――――見た方がはやい」

綺礼が片手を翳す。
それ自体に意味は無く、それはわたしにも理解できた。
しかし、続く言葉と―――現れたそれは―――――

「お前の言っている、『白色』とは――――このサーヴァントのことか?」

綺礼の後ろ、いままで何も無かったそこに。

あのバケモノが――――実体化した。



《ここまでー》

《ちょっと無理ゲーっぽくなってきたので、ダグバ攻略のヒントを》
《取りあえず、単体で対面すると現状では基本死ぬ》
《イリヤか錆さんが味方なら即死を免れ、桜かアンパンマンが味方だと勝機が見える》



白色のサーヴァントが、声を出す。
見る限り、口のような器官はない。
するとあれは仮面なのか…――――とは、少しも思えなかった。
あれの中身が、人間であるという事だけは、決してないと言い切れた。

「寺で会ったのは彼らで間違いないよ、コトミネ」

「そうだろうな。しかし、万が一もある。貴様と同格のサーヴァントが召喚されたという可能性も、無視は出来んだろう?」

「それはないよ。ぼくと同格なんて、そんなこと有り得ると思う?」

綺礼はその質問に対して、間髪入れずに首を振る。
振る方向は、もちろん横だ。

「可能性の話をしたまでだ。そのような事態は、先ず無いだろうな」

そう言うと、綺礼はわたしに背を向けた。
礼拝堂の奥、自室へ繋がる扉へと足を運ぶ。

「後は任せたぞ、アーチャー」


1、令呪切って離脱!
2、迎え撃つ!
3、綺礼だけでもぶっ飛ばす!

>>371

アーチャーと呼ばれたそれの動きは、思いのほか鈍い。
綺礼の言葉を受け入れていない訳ではなくとも、決して進んでやりたい事では無いようだ。
それが良心なのか怠惰なのかは、もはや議論するまでもないが。
とにかく。鈍いというなら、手が無いわけでもない。

「令呪を以て命ずる!ライダー!わたしを連れて逃げ切って!」

腕に刻された紋章―――令呪が、赤い光を放つ。
一瞬だった。赤色の光が、膨れ上がるように弾けて消える。
その直後には――――

「――――――――!」

ライダーが肩にわたしを背負っている。
跨るのは、赤色の鳥。

「行くぞ!『紅の羽は炎熱の星(チョコメテオ)』!!」

全力で地を駆けながら、チョコボが吠える。
教会の扉など物ともせず、最短のルートを最速で。
わたしの後ろに遠ざかって行く教会へ、飛来するのは――――炎纏う隕石。

「ちょ、あれって……!」

「まだ駄目だ!上に逃げる!」

ライダーは、チョコボの上に両の靴底を着ける。
しゃがんだ姿勢から、立ち上がりと共に空中へ。
わたしにはこの時点で、意識を保つのがやっとの速度。
だけど、これで終わりでは無かった。
ジャンプの推進力が落ちない。それどころか、いまも速度は増すばかり。
理由は簡単。

ライダーは跳んだ先で、呼び出した黒い鳥の背に跨っていたのだ。

勢いに乗ったこの飛翔の中で、わたしが瞳に収めたのは――
―――――――――――――見る影もない教会の末路だった。

《なんで桜には誰も触れてやらんのや……》
《ちなみに、オルステッドじゃなくて桜です。桜単体で勝機を見出します》


遠坂邸【リビング】


「……二回目よ、あいつから逃げ帰ってくるの」

しかも今回は令呪まで使った。
その割には、酷く物理的な逃走だった気がする。
令呪の奇跡で転移とかしてくれればいいものを。

「…もしかしたら、あのアーチャーから転移で逃げると不味い理由でもあるのかな。令呪が逃げ切るために選択した方法があれなんだから」

「おお、成程。そういう考え方もあるのね」

しかし、転移を使えない理由……?
魔力の移動を追尾できるとか、あとは……アーチャーが転移自体を封じている可能性もあるか。
後者は…どうだろう。令呪に抗うほどの転移封じならば、膨大な魔力を消費するはず。
そこまでしてわたしを追う価値があったとは思えないし、ならば令呪がそれを避ける意味も無い。
だからと言って前者だとは決めつけたくなかった。
あの白色には、何か底知れない力がある。
わたしの憶測程度では、暫定的にすら結論を出すことは出来ない。

「まあ何にせよ、関わり合いになるのは避けましょう。…今のところは」

「そうだね……あのアーチャーについて調べようとすると、碌なことにならないということは分かった」

「……まあ、収穫が無いわけでは無いし……一先ず及第点でしょう」

桜がマスターであり、バーサーカーを従えていること。
バーサーカーが理性を取り戻していたこと。
間桐臓硯が、あのアーチャーについて何か知っているということ。
綺礼があのアーチャーのマスターであるということ。

この情報から、わたしがするべきことは―――――


1、『オディオ』について調べる
2、臓硯の話を聞きに行く
3、現場百辺!新都を調べる
4、もう寝る!ふて寝してやる!

>>380

《ここまでー》

1

深山町【図書館】


「さてライダー。オディオについて、先ずは一般的なところから調べてみましょうか」

わたし達は図書館を訪れた。
当てが無かったからでは決してない。
と言うのも、わたしが知らない知識ならば遠坂邸の書庫には存在しないのだろうし、それでも聞いた覚えのある単語なので、ならば一般的な単語の一つだと考えたからだ。
まあ……ぶっちゃけて言えば、当てがないのだが。

「いいけど……僕も調べるの?そもそも、実体化してていいの?」

「なによ、不満?人手は多い方がいいでしょう?あんたの見た目なら留学生でも通るわよ」

その鎧も、ちょっとおかしな日本文化に感化されているみたいに見える。

「……それは、喜んでいい所か…?」

「いい所よ、喜びなさい。じゃあライダー、先ずは神話でも探ってみましょう」

「え?どうして?」

そう言ってライダーは、二階へ向かおうとするわたしを止める。
何事かと思って振り返ってみると、彼はある方向を指さしていた。

そこは、コンピューターが設置されているエリア。
わたしが一度も立ち入ったことのない領域である。

ライダーは残酷にも――――こんなことを言う。


「インターネットで検索かければいいんじゃない?」

酷いことを言われた。
わたしにとって、これ以上の侮辱は無い。
誰にでもインターネットが扱えると思っているなら、それは甘いのだ。

「あのね、ライダー。聖杯戦争の情報が、ネットなんかで出るわけが…」

「へぇ。オディオは、ラテン語で『憎しみ』を表すらしいよ」

ライダーがコンピューターの前に腰かけて、マウスを操っている。
しかも割とスムーズだった。
わたしなら、あそこまで調べるのに二時間はかかるだろう。
というか、あれ以上の屈辱があっさりと見つかってしまった。

「……っ…!馬鹿な!ライダー!あんた、なんでネットを…!」

「……え?聖杯から、一般知識として使い方くらいは覚えさせられたけど…」

そんな馬鹿な。
わたしが、扱いきれない技術が……一般知識だと……。

「どうする?ほかの事も調べてみる?」

ライダーが悪魔の言葉をささやいた。
わたしは―――ここで頼ってしまうのか。
禁忌の情報網、インターネットに……!


1、プライド捨てよう
2、意地でも使うか!

>>391

《ちょっとルーターが逝ってた、もう大丈夫…たぶん》


「もういい!十分よ!それ以上そんなオーパーツに頼るなー!」

わたしは全力を出して、ライダーをコンピューターから引きはがした。

「お、オーパーツ?パソコンが?」

ライダーはわたしの行動に驚いているが、これは危なかった。
あの装置を使うことが当然などと言い出した暁には、最終的に人間側が支配されてしまう。
身に余る技術には、常に代償が伴うのだ。

「何をブツブツいってるんだ、リン。どうしたの、ちょっと怖いよ?」

「ライダーがあんなモノ使うからでしょ!なんてことしてくれるのよ!」

「え……いや、まあ……悪かった、のか?……とにかく、情報は手に入ったんだし…」

「あんなオーパーツのいう事を信じるっていうの!?」

「いやいや。確かにネットの情報を鵜呑みにするのは良くないけど………今回の場合は…」

だめだ!ライダーが堕ちかけている!
これは早く何とかしなければー!


《ここまでー》

深山町【図書館】


「……憎しみ…確かに狂戦士クラスから連想できる言葉ではあるわね」

問題は、あのバーサーカーが通常のものとはかけ離れている点だ。
ならばやはり、召喚されたクラスが違うのだろうか。
慎二はイレギュラークラスだと言うことを隠すためにバーサーカーと呼んでいたと言う可能性もある。

「でもそれなら……桜の下で隠さない理由がわからない…」

有効な戦略だったものを、中途半端なところで放棄していることになる。
理性を持つあのサーヴァントが、果たして策を投げた意味とは。
何かあるのかもしれない。
わたし達に御しきれない何かが。

「ただまあ、ラテン語っていう情報は大きいわね。これで調べる範囲も絞れるし」

大方、ローマ帝国辺りだろう。
しかし一概にローマ帝国と括ってしまうと、調べる範囲は膨大だ。

「『オディオ』以外で、ヒントになりそうな情報は……」

・マスターが桜であるということ
・中世の騎士風の風貌
・黒い炎の竜

「こんな所かしら?」

あの様子だと、皇帝では無いようだし…かといって賊とも思えない。
反英霊であることは、まず間違いなさそうだが。

「………いいわ。取りあえず調べ始めましょう」

「そうだね。何を調べればいい?」

「……そうね…ローマ帝国の歴史を一から洗って貰えるかしら?わたしは個人的に当たりを付けてみる」


………そして、経過する事一時間。
『オディオ』に関する目ぼしい情報は、雀の泪ほども見つからなかった。

「なんであのレベルの英霊の情報がここまでしても見つからないのよ!」

苛立ちが募る。
ライダーがオーパーツまで使って得た情報だと言うのに……。

「…意図的に隠匿されているほどの重罪人……?…知名度補正無しであの強さっていうのは、ちょっと納得できないけど」

「咎人だとも限らないわ。あの格好で、案外貴族だったり」

「どちらにせよ、現代においてここまで情報が無いのに腕前は本物……いったいどういう英霊なんだろう…」

足掛かりになるかと思った情報も、結局は空振りか。
前向きに考えれば、知名度と強さが比例していないという情報にはなったが、その理由のほうには当てもない。
ならばそれは何もわかっていないのと同じだ。

「……くっ…イライラするわね…ここまでやって得たものが無いなんて…!」

現状では、あのアーチャーとバーサーカーには関わらない方が良さそうだ。
真名も分からず、勝てる見込みも殆ど無い。


1、遠坂邸に帰る
2、深山町を散策
3、柳洞寺に行ってみる

>>417

《ここまでー》

2

深山町【図書館前】


「もう夕方か……学校も終わった頃ね」

つまり、アサシンのマスターである衛宮くんが学校以外の場所に居る可能性が出てきた。
あの陣営自体はさほどの脅威ではない。少なくともアーチャーやバーサーカーよりはマシだ。
しかしアサシンがここで脱落すると、わたし達にとってプラスでは無いだろう。
現状でも半ば同盟状態のようなものだし、一応危険だけは知らせておくとしよう。

「ライダー、衛宮邸に向かうわ。チョコボ出して」

「もうそのフレーズも定着してきたよね」

そういえば、子供のころに見たアニメでこんなセリフがあったような気がする。
金曜日に放送していて、桜は毎週欠かさず見ていたっけ。

「あのころは日曜日も金曜日も、何故か食卓ではアニメだったのよね……」

思い出しても泣けてくる。
当時はあんなに可愛かった桜が、今ではあんなに大きくなってしまって……。

「……リン?なんで急に胸を押さえて歯ぎしりし出したの?……胸が苦しいの?」

「………なんでもないわよ」

胸が苦しい……ある意味正解だが、ある意味では一番遠い。
……いやいや別にわたしだって貧しいわけじゃないし。
ちょっと桜がおかしいだけだし。

………くっ…

「…本当に泣けてきた……考えるのやめよう…」

わたしはライダーと共に、人目につかない場所へ移動する。
流石に白昼堂々チョコボには乗れない。
だから、こそこそと乗るのだ。

衛宮邸【玄関】


衛宮邸に到着してからすぐに、わたしはインターフォンを押す。
一回押して返事がないので、ちょっと迷ったが連打してみた。
押す。また押す。押す。押す。押す。押――――

「はいはいはいはい!今行きますって!」

衛宮くんの慌てた声が聞こえたので、連打するのはそこまでにした。
少しだけからかってみようかな。

「ライダー、衛宮くんをからかうわ。どうしたい?」

「何で僕に訊いた?自分で考えなよ」

む。わたしは『どうしたいか』を聞いたのだが。
まあいい。ライダーが乗ってこないなら、わたし一人でからかおう。


1、ダメージを負った振り
2、ガンド構えてシリアスに
3、怒っている演技

>>423

3

わたしは腕を組んで眉間にしわを寄せる。
それはもう見るからに話かけたくないオーラを放っていることだろう。
しかし、これから対面する相手は衛宮士郎だ。
やつはインターフォンを押した人間を放っておける人格では無い。

「どちらさ―――――遠、坂?」

「……衛宮くん。なんでわたしが訪ねてきたかは、分かってるわよね?」

「……は?…え?」

衛宮くんはそこで真剣に考え込む。
思い当たる節が無いのだろう、しかし一向にひらめく様子は無い。
当然だ。わたしにも起こる理由は全く無い。

「……衛宮くん……あなたまさか…」

わたしはそこへ、さらに圧力をかけてみた。
横に居るライダーは少し――いや…かなり呆れているみたいだが、楽しいのだから仕方がない。
衛宮くんはわたしの言葉を受けて数秒後、バツが悪そうに顔を上げてこう言った。

「いや……済まない遠坂…俺には、ちょっと心当たりが…」

無いだろうそりゃ。当たり前である。
わたしはもう楽しさが鰻登りだが、必死でポーカーフェイスを保つ。

「……本気で言ってるの?」

衛宮くんは首を横に振る。その動作は見るからに弱弱しい。
いい感じに怯えているが、あまり続けるとキリがないネタ晴らし。
わたしは口を開いて、嘘だと宣言しようとして―――――

「えみやくん、どうしたの?」

玄関の内側から現れた詳細不明の菓子パン男を目撃した。
それはもう、絶句するしかなかった。

《ここまでー》

衛宮邸【居間】


「なんで葛木先生と……アンパンマンがいるのよ…」

どうやら衛宮くんの話によると、アンパンマンはアーチャーなのだと言う。
あの白色がアーチャーと呼ばれていたことを考慮しないにしても、それはいろいろおかしい。
創作物の主人公が英霊としてこの戦争に呼ばれていること自体は、有り得ないことではない。
そもそも神話の英霊などは、大半が創作物である。
しかしだからと言って、現代で生まれたキャラクターが召喚されるというのは……

「しかも……なんでマスターが葛木なの…」

これもまた衛宮くんの話だが、アンパンマンは葛木によって触媒も無く召喚されたと言う。
それはつまり、相性召喚だということ。
葛木とアンパンマンの相性が良いようには、とても思えないのだが。

「………それと衛宮くん…なんでアンパンマンがアーチャーなのかしら…?」

「えっとだな遠坂。質問を順番に答えて行くと…」

衛宮くんが額を押さえながら言葉を選ぶ。
それは気を遣っているとかでは全然無くて、ただ単に説明がし辛いだけだろう。

「まず一つ目の質問………アーチャー達がここに居る理由は、倒すべき敵が居るからだそうだ」

「倒すべき、敵?」

「ああ。その話はお前達にもアンパンマンが話すって言ってたぞ」

アンパンマンから協力要請を受けた、ということになるのだろうかこれは。
相手と言うのがあの白いアーチャーならば、こちらからしてみれば願ってもいない話だ。
……なのだが、どうしてこう…緊迫感に欠けるのだろう。
どうしても、そこまで重要な要件では無いような気がする。これは完全に先入観だった。


「それで二つ目の質問、葛木がマスターである理由だが……これは俺も知らない」

「…でしょうね。流石にそこまでは期待してないわよ」

むしろわかっていたら本当に衛宮くんかと疑っているところだ。
まあただ、予想できる範囲だと………―――――
………。
…駄目だ。全く分からない。合致する要素が一つも無い。

「あと、三つ目の質問だが………たしか、なんでアンパンマンがアーチャーなのか、だったよな…」

「そうね。そう言ったわ。それで?その分だと知ってるんでしょう?」

「それは……自身が弾丸となって飛んでいくからだそうだ……」

わたしは、不覚にもちょっと笑ってしまった。
いやいや、それは流石に無いだろう。
アーチャーとは飛び道具を扱う英霊のクラス。自分が飛び道具だと言い張ってなれるものでは無い。
第一、そもそもが弓兵のクラスなのだ。銃ぐらいならギリギリ認められても、そこまで制限の緩いクラスでは無いはず。

「あっはは。衛宮くん、笑わせようとしないでよ。…で?本当は?」

「いや嘘じゃない。本当に飛び道具が自分なんだ、あのアーチャー」

「ふざけないで」

「ふざけてないんだって。本人に訊いてみろよ」

……たしかに、衛宮くんはアンパンマンが言ったことをそのままわたしに話しているだけだ。
ならばアンパンマンが嘘を吐いている可能性も―――――――

「……なさそうね…それだけは…」


1、ライダーと会話
2、衛宮くんと会話
3、葛木と会話
4、アーチャー(餡)と会話

>>436

4だな

「あの……アーチャー…?…ちょっといいかしら…」

声をかけると、アンパンマンがこちらに顔を向けた。
その動作と共に、どこか懐かしい香りが漂う。
ああ……これは本物だ。
アンパンマンの皮を被った何かだという淡い期待は、これで無くなった。
こんな心洗われるような香りは、本物以外には出せない。

「やあ、りんちゃん!ぼくにご用ですか?」

「あ、えっと……用ってほどのことでもないんだけど…」


1、バーサーカー(?)について
2、アーチャー(白)について
3、アーチャー(餡)について
4、葛木について

>>441

《ここまでー》

ここは、あのアーチャーについて尋ねてみよう。
アーチャーが二騎も存在する理由、当事者ならば知っていて当然だ。

「柳洞寺と、それから教会。そこで白いサーヴァントを見たわ。そいつはアーチャーと呼ばれていた。これってどういう事?」

アンパンマンはその言葉に表情を曇らせる。
割と重要な情報を伝えたのだが、どこか気の抜ける困り顔だ。

「りんちゃん、ほんとうに無事でよかったね」

「…え、ええ…まあ、そうね」

令呪一画で命が助かるなら安いものだ。
あそこで冷静な判断が出来たのは、ひとえにライダーの存在が大きい。
バーサーカーから逃げ遂せたライダーが傍にいるという安心感は、結果的にいい方向に作用した。
桜と交戦したことも、無駄では無かったと言えるだろうか。

「それで、質問に答えてくれるかしら?アーチャーが二騎も居る、その訳を」

実際、アンパンマンが嘘を吐いている可能性は0ではないのだ。
彼が嘘を吐くと言う状況が限りなく想像しづらいというだけ。
サーヴァントにとっては、ある意味印象こそが全てではあるが、しかし優しい嘘なら吐くかも知れない。
……いや、どちらにせよ可能性は薄いか。

「あなたが嘘を吐くとは、確かに思えない。だから、あなたがアーチャーであることは間違いないのでしょう?」

或いはもう一つの可能性。
綺礼が嘘を吐いているという可能性についてだが……
これについても、考える意味は無いのだ。
あいつは、嘘だけは吐かない。絶対に。
だからあの白色がアーチャーであると言うことは、間違いないだろう。


アンパンマンが、わたしの質問に回答する。
困った顔を真剣なそれへと変えて―――いや、シュールさは殆ど変っていないけれど。
とにかくそうして、声を発した。

「そのアーチャーは、たぶん前回の生き残り…だと思う」

「生き残り?」

前回というのは、10年前に行われた聖杯戦争のことだろう。
まさか、その際に呼ばれたサーヴァントが現在まで消えることなく現界していたとでも言うのだろうか。
聖杯の補助無しで現世にその身を保つ術……といったらそんな物、一つしか思い当たる節が無い。

「……まさか、あいつは―――受肉しているの?」

アンパンマンが首を縦に振る。
受肉するということ―――即ち、生身の人間に限りなく近い状態となること。
そうなれば現界するにあたって聖杯から補助を受ける必要も無い。
多少の魔力供給を受けるか……あるいは、魂喰いでも行えばそれで済む。
あれは綺礼と結託していたようだし、魂喰いを拒むような思考回路でもないだろう。
後者か、あるいはその両方である可能性が高い。

「ぼくたちの目的は、そのアーチャーをこらしめることなんだ」

「……なるほど。得心したわ」

確かにアンパンマンなら、あんなあからさまな悪党は放っておかないだろう。
アサシン陣営は主従揃ってあの性格だし、この話に乗ってこないわけが無い。

「出来ればりんちゃんにも力を貸してほしいんだけど、だめかな…?」


1、こっちもそう言おうと思っていたところよ
2、うん、だめ。だって超怖いもん

>>450

1

ここで承諾しない意味はない。気持ち的には快諾だった。
白いアーチャーを打倒するにあたって、協力者を得られるというのは心強い。
なにせ、此方はあのアーチャーに二度対峙しながら、その両方を戦闘もせずに逃げの一手で辛うじて繋いでいるのだ。
目ぼしい情報が手に入っていないこの状況であれと遭遇し、同じ舞を三度も踊りたくは無い。

「こっちもそう言おうと思っていたところよ、お願い出来るかしら」

「ありがとう!」

眼前のアーチャーは朗らかな笑顔で万歳をしている。
何と言うか、やはり緊張感には欠ける光景だが―――安心感は、有り余っていた。

「ほんとうは、ぼく一人でどうにかしないとダメなんだけどね」

「あら、そうなの?」

「ぼくはそういうヒーローなんだ」

……良くわからないけれど、本人が言うならそうなのだろう。
その拘りを曲げてまで、わたしたちから力を借りるということは、あのアーチャーはそれほどなのか。
それほどに、危険視するべき相手なのか。

「ねえ、アーチャー。あの白色は、一体なに?」

漠然とした質問だが、しかしわたしが最も問いたかったこと。
あれは一体、何だ。
恐怖は感じたし、逃げもしたけれど。
しかし、それだけ。詳細は何も知らない。
何も知らないのに逃げたくなるような―――真っ白な闇のような違和感の正体は。

「ごめん、それはぼくにもわからない。……でも一つ言えるのは、そのアーチャーが『わるもの』だってことだ」


《ここまでー》

衛宮邸【居間】


日は落ちて、時刻は午後の6時。
衛宮邸の居間に居るのは、わたしとライダーに、衛宮くんとアサシン。そして葛木と、アンパンマンだ。
話すのは勿論『わるもの』について。

「監督役がサーヴァントを使役するっていうのは、当たり前のことなのか?」

「特例中の特例よ、そのくらいわかるでしょ」

「……なんでちょっと怒ってるのさ」

怒ってはいないが、しかしそう当たり前のことを聞かないでほしい。
ちょっと考えればわかる事だろう。

「ただまあ、綺礼の場合は特別だけどね。あいつは10年前に一度、聖杯に選ばれているから」

あのサーヴァントがその時のものと同一なのかまではわたしも知らない。
だが、その可能性は高いだろう。
一度サーヴァントを手に入れる機会があったことは明白なのだ。
現在の状況は、そう考えると不思議では無い。

「ただ、問題は……綺礼は嘘を吐かないという点…」

これだけは揺るぎなく絶対だ。
意図的に隠すことはあっても、騙すことはあっても。
あからさまな嘘だけは、絶対に吐かない。

「あいつはこう言っているのよね……『前回の聖杯戦争では、自分が真っ先に敗退した』って」

「……そいつの言葉は、そこまで信頼できるのか?サーヴァントを隠してたようなやつだろ?」

「信頼は絶対出来ないけど、信憑性はすこぶる高いわね。病的に嘘を吐かない…いや、吐けないのかしら。…どっちでも同じか」

どちらにせよ、あのアーチャーが綺礼のものであると断定しても問題無いだろう。

「そうか…いや、ならいいんだ。早速教会を調べに――――」

「………」

しまったなぁ。
確かに教会を調べられるなら、それに越したことはなかったんだけどなぁ。
もう、吹き飛ばしちゃったしなぁ。

「…………遠坂?…なんで笑顔で固まってるんだ?」

「うん?なんのことかしらー?」

ライダーはまた呆れているのだろうかと、横に目を流してみる。

「………」

額に汗を浮かべて目を逸らしていた。
笑う余裕も無いようだ。
それはまあ、そうだろう。教会を破壊した張本人なのだから。

「なんか不穏な気配を感じるんだが……どういう事だ遠坂?」

何て説明したらいいのかしら。


1、話題のすり替えでも試してみる
2、正直に話す
3、ライダーに投げる

>>471

「どういうことだったかしら、ライダー」

最低である。
しかし、そこはサーヴァント。
わたいのピンチを颯爽と救って見せてくれるはず!

「……リン!きみってやつは…!」

「ごめんなさいライダー……でも…こうするしかなかったのよ…」

「それは絶対に嘘だけど…でも、確かに僕が悪いし…」

「……どういうことだ、遠坂。ライダーが教会に何かしたのか?」

衛宮くんが質問を投げる。
それを受けて、ライダーの顔が引きつった。
ついでに、わたしの笑顔も硬直している。

「何をしたかったって言われると、その……端的に言うよ?」

「……?…ああ、頼む」

「隕石落とした」

ライダーは正直に言った。
衛宮くんは開いた口がふさがっていない。
というか、恐らく隕石という単語を正しく理解できていない。
アンパンマンの驚いている顔が和めるものである分、衛宮くんの表情は酷い。
ちなみに葛木は無表情だった。流石である。

ライダーはその一時停止をどう解釈したのか、説明に語句を追加する。

「隕石落として、吹き飛ばした。教会はもうない」

「なんでさ!?」


《ここまでー》

新都【路地裏】


「………オディオ。姉さんたちは本当に…」

「ああ、生きているだろうな。あの程度で死ぬほど格の低い英霊ではあるまい」

姉さんたちに逃げられてから数時間。
わたしとオディオはずっと街中を散策していた。
というのも、お爺様に対して牙を剥いたわたしに行く場所がないだけだ。
間桐邸に帰ることは、もちろんしない。
かと言って、いま先輩に会ってしまうといろいろ台無しだし、藤村先生を頼るのも気が退ける。
だから取りあえず、現実逃避。
この暇な時間を使って、わたしはわたしの疑問を解消しておこう。

「あの程度で死ぬほど格の低い英霊、という、その根拠はあるんですか?」

「騎乗していた生き物だ。あれは幻獣。つまり、神代の英霊とみて間違いはない」

「神代の英霊……なるほど」

サーヴァントは、信仰の深さがその存在を形成している。
オディオも例外ではなく、だからこそ全力を出すことが出来ないのだが、ライダーはその逆。
古い時代の英霊であり、しかも有名な幻獣に跨っている騎士。
それでいて召喚者が姉さんなのだから、それで格が低いわけが無い。

「つまり、知名度が高いということですか。あなたと違って、調べればすぐに出てくるような」

「そうだ、故にあの戦闘には価値があった。…そして訂正だ。私も調べればすぐに名前が上がる。…まあ、調べ方を間違えさえしなければ、だが」

「実質無理でしょう。あなたから得られる情報で、あなたの真名を当てるなんて」


オディオの真名は、現在のオディオから想起されるものとはかけ離れている。
本来はバーサーカーに該当するかどうかも怪しいと思うほどの名前。

「あなたがわたしに喚ばれたときは驚きましたよ。相性召喚だったのに」

相性など、良いはずが無かった。
わたしは日陰者の敗北者で、オディオは正道を歩んだ勇者。
どこにも共通する部分などないと、そう思っていたのに。

「……歴史は歪められ、伝承は捻じ曲がる。私からしてみれば、この結果は当然だがな」

「…あまりうれしい話ではないですけどね」

「そう言うな。お前は『桁違い』だ。この世界にも、素質の有る者はちらほら居るが……お前ほど『こちら側』に立ち入っている者はいない」

言う通り、そちら側なのだろう。
文字通り、桁が違うのだろう。
これは恐らくだけれど、―――――わたしほど、この世界を憎んでいる者はそう居ない。

ああ、憎い。憎たらしい。
笑っている蟲の塊が憎い。
肉体も精神もズタズタにして、それでもなお死ねない自分を恨むほどに細断したい。
怒っている低俗な芥が憎い。
死んでなお影の中でわたしの心を圧迫する。もうこの世には居ないと言うのに。
無関心な透き通る赤色が憎い。
その赤色を鮮血で染め上げて、その上から混濁した泥で滅茶苦茶に汚したい。

優しく微笑む、真っ直ぐな剣が憎い。


「腐れていた憎しみに火が灯り、悪意を放って燃え盛る。その様、それでこそ―――新たなオディオだ」

オディオが笑う。口だけで笑う。
その瞳にはいつ何時も、憎悪のみしか宿りはしない。
泣きながら憎しみ、怒りながら憎しみ、無表情で憎しみ、笑いながら憎しむ。

それは、いまのわたしも同じ。

「では行こう、復讐の花道へ。畔に咲く桜は、お前の門出を祝っていることだろう」

「そうですね、まさに狂い咲き。狂ったように舞い上がって、血色の花を咲かせましょう」

血塗れの桜。狂戦士。
舞おうオディオ、世界の終りを覗くまで。


《ここまで》

>>493の桜の台詞に違和感……脳内で処理してー!》

《因みに前回のスレ貼っておきます》
慎二「お前が僕のサーヴァントか!>>2!」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1366443866/)
慎二「お前が僕のサーヴァントか!」その2 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1370343502/)

《ちょっと忙しすぎるので今日は更新できません》
《許せ、サスケ……》

気に障ったのなら謝ります。失言でした、済みません。
スレの雰囲気が悪く見えたので流れを変えようと思っての書き込みでしたが、軽率でした。

では、お詫びに少々更新します。
いまから書いてきます。

《ネタを混ぜた謝罪はこれからもやると思いますので、その辺りはご了承を》
>>1は頭悪いので、スレごとに自分のキャラを変えるとか出きない》


路地裏をゆらゆらと進む間桐桜とそのサーヴァント。
セイバーは、その行軍を陰に潜んで見据えていた。

マスターから命令を受けたわけでは、無い。
寧ろその逆。
そのマスターを打倒せんとするために、戦力を欲してたのだ。
たとえかつて最強と呼ばれ持て囃された剣士であろうと、白いアーチャーを相手にしては勝てる見込みが無い。
それほどまでに、アレの力は強大だ。
サーヴァントという線引きを、最早超えてしまっている。

「―――――…」

セイバーは深く呼吸をする。
一人で勝てないのならば、協力者を―――とは言っても、相手は選ばなければならない。
生半可な戦闘能力では、アレの前では一溜まりも無いだろう。
その点では、あの主従は問題なく満点だ。
主従揃って、申し分ない。

「―――――……っ!」

セイバーは刀を抜く。
アレと対話をするならば、試合う他ないという結論からの行動だ。
たとえ交わす言葉を持っていようがいまいが、そんなことは関係なく。
切り結ぶことでしか、奴はその本音を表せはしない。

本音―――つまり、憎しみの感情は、あの騎士を形作る全てだ。


《ここまでー》

「全刀流居合――――、一揆刀銭!」

鞘から抜き放たれた影さえ作らぬ薄い刀身は空を切って走る。
オディオとセイバーの距離はおよそ10m程度、この距離で居合など当たるはずもない。
透明な刃は空気を切り裂くに留まって、それ自体は何にも触れることは無かった。
ただし、切り裂かれた空気が異常である。
全刀・錆の、その能力。
切り裂かれた空気の裂け目は、横一文字の棒状だった。

「……―――ぐ…」

裂け目は空気の流れに乗って、騎士と少女目がけて水平に跳ぶ。
かの魔王が刃を抜く暇さえなく、燃費の悪い魔力放出に頼らねば防げないほどの速さと鋭さ。
それを、ただ空気を斬るだけで発生させるセイバーとて間違いなく最高峰の強さのはずだ。
しかしそれでも、あの白色には太刀打ちできない。

「貴殿の実力は承知の上。理性を取り戻したと言うのなら、なお僥倖。手合せしていただこう。その後に話がござる」

「不意打ちで斬りかかっておいて、その言い種かセイバー。サムライは名乗った上での果し合いが美学と聞いていたが」

「拙者は堕剣士、堕ちた侍。故にこのような礼節踏まえぬ行いも、平に御容赦願いとうござる。此方とて、余裕は無い」

「余裕が無いとは、またつまらん嘘を吐く。それが真実ならば、宝具の一つや二つ使ってみたらどうだ?」

「斬り倒すことが目的ならば、その通りに。……拙者に貴殿を殺すつもりは、毛頭ござらん。……!」

話はそこで終わる。
爆縮地。セイバーが突然後ろへ移動した。
その理由はセイバーの足元――正確には、先ほどまで足元だった場所にある。
見えるは影。黒く不浄な、暗い影。
間桐桜の、心の闇。


「…流石セイバーですね。速くて、感も鋭い。『なりたて』のわたしでは、少々辛いです」

桜はそれでも諦めず、立て続けに呪文を紡ぐ。

「Es erzahlt―――Mein Sc hatten nimmt Sie……」

影が地面を這いずって、白髪の剣士に追従する。
爆縮地のメリハリのある小刻みな移動に対して、影の動きはしなやかで迅速。
一切の無駄なく、魔力を探ってセイバーを突け狙う。
セイバーの動きは読みづらい分、総合的な速度では影から逃げるのがやっと。
逃げの一手という状況は、読みづらさという長所さえも劣化させる結果を招く。

「がら空きだぞ、セイバー」

オディオが剣を横に薙ぐ。
セイバーの移動するルートを予測して、その線上へと放つ一閃。
タイミングは完璧だった。事実、剣はセイバーに命中している。

――――セイバーの掌に、命中している。

「反し手、全刀流―――逆転夢斬――」

「……っ!…何だ、これは…」

刀身を持っているセイバーの掌には傷一つ無く。
その逆に―――柄を握っているオディオの両手が、切り刻まれて血を噴いた。

「貴様…何をした……?」

「全刀流は、全てを自らの刀と変える。その剣とて例外では無い」

刃を掴んで、それ柄に。
柄を持たせて、そちらを刃に。

「拙者の手に収まったとき、既にそれは貴殿の得物では無いのでござる」



《ここまで》

向こうがあれなので今日はお休みです
すまんな。本当にすまん

そういえば数年前の二次創作の聖杯戦争スレで、クトゥグアをアーチャークラスで召喚した魔術師がいた
で、割りとマジで地球の危機だったのに抑止力が仕事しなかった

>>580
ガイア「地球が滅びなきゃどうでもいい」
アラヤ「聖杯戦争だしその内勝手に消えるだろ、下手にちょっかい出して怒らせるのもアレだし」

そもそも原作からしてそれよりヤバいORT放置してるんだよなぁ


《バッツは聖杯戦争のシステムから考えて、低燃費で高性能なチキンナイフを気配遮断で使えるシーフor忍者(アサシン)》
《ラムザは狂化で元から高いステを底上げして、暗の剣で魔力の負担も軽減できる暗黒騎士(バサカ)》
《この辺りが最強のクラスじゃないかな。なお、適性クラスとはちょっと違う》



オディオは既に刃と化している柄を無理矢理に握って、得物をセイバーの掌から引き抜く。
その際にも多少の出血はあったが、しかし力を込めて斬られた訳では無く、大した傷とはならなかった。
それは、その得物が両手剣であったが故だろうか。
棒状のものを全て刀に変えるとはいえ、切れ味までは選べない。故に両手剣の切れ味でしかオディオを攻撃出来なかった。
そう解釈すると納得が行く。
もし切れ味さえも操作できるというのなら、その両手が落ちていようと不思議では無い。

「それとも、手加減でもされたか?」

「さあ……あまり堂々と言うことでもござらんのでな」

セイバーの顔に笑みは無い。
しかし、馬鹿にしていると言うことは分かる。
なるほど、上手い挑発だ。後で言い訳も効きやすく、そして十分に効果もある。

「なるほど、ならばいつまでもそうしているがいい。やれ、サクラ」

「はい!」

どうしてかセイバー目前で動きを止めていた影。
それに向かって、桜は一気に魔力を込める。
影は魔力で風船のように膨張し、地面を這うだけの二次元の動きから三次元へと闇を延ばす。
圧し留められた水流が氾濫するように、影はその場で堰き止められて―――耐え切れずに、決壊する。

「……っ!全刀流、爆縮地!」

地面からあふれ出た影の塊は勢いよく爆散して、触れたものを無差別に飲み込む。
壁も、柱も、地面も全て。
黒塗りに染め上げられて、そこに残った力は無い。
光も、熱も、電力も、摩擦も、あらゆる全てが動きをとめ、力を喪失する闇の領域。
これこそが間桐桜の志向性。
絶対の0。虚無の闇。虚数属性、『影』の――その究極形。

爆縮地で何とか範囲から逃れたものの、その現象にセイバーは驚愕した。
触れたら最後。その時点で全ての抵抗が無意味となる攻撃。
いや、あれは攻撃などではない。
攻撃であるならば、それには対策が出来るはずだ。
逃げる他に活路がない現象を、人は攻撃とは呼ばない。
そういうものを、人は災害と呼んできた。

「まさに、魔王…!人如きにはどうしようも出来ぬでござる…!」

「ゆえに、勇者は消さねばならん。勇者の素質を消したと思って、それが魔王の素質有りだった時には、流石に笑ったがな」

爆縮地で逃れたセイバーの背後に、オディオが立つ。
構えるは片腕。剣は握っていない。

「得物が役を全うできぬなら、それこそ本分である魔技に頼るほかあるまいよ」

突き出された掌に、集まるは風。
薄く紫がかった、気味の悪い空気の流れ。

「喰らえこれぞ、魔の奔流。帆に受けるは悪魔の息吹!―――凪返せ、『翻る瘴気、嵐の夜(ミラードライブ)』!」

紫掛かった竜巻が、セイバーの間近で瘴気を解放する。
乱れ、狂い、暴れて、飛ばす。
いまだに浸食しる闇の領域に向かって、その身は放り投げられて―――――

「……かくなる上は――――全刀流・『薄刀開眼』!!」

――その名が背負う、至高の絶技を口にした。


《ここまでー》

キャスターなら黒?白?赤?青
セイバーならナイト?侍
ランサーなら竜騎士
アーチャーなら狩人
バーサーカーならそのままバーサーカー
ライダーなら半分マスターの強いすっぴん+チョコボ
アサシンなら忍者?モンク
セイヴァーならオールマスターのすっぴんかものまね士
って所かね、バッツならセイヴァー適正あるだろうし

『薄刀開眼』。
現代に残っている数少ない資料に登場する、錆白兵の奥義。
それについて分かっていることは、薄刀・針の限定奥義だと言う事だけだ。
それ以外は全て謎。
一説には太陽すら切り裂くなどと言われるその奥義だが、実際はそこまで大それたものでは無い。
そもそも、性質が違う。

「―――――っ」

セイバーは空中で放物線を描く中、その手の得物、薄刀・針を――――真上に向かって投げ飛ばす。
力を込めた投擲では無く、むしろ力なく、その刃を手放した。
すっぽ抜けたわけでも、無論諦めたわけでもない。
奥義の名を叫んだセイバーは、そのようなヘマをしない。

「薄刀・針とはそもそも、刀で在って刀では無い。ここまで薄く、ここまで脆い刀を、全刀以外の何物が振るえるというのか」

セイバーは語る。
『薄刀開眼』とは。『薄刀・針』とは。―――『全刀・錆』とは、一体何かを。

「この薄刀・針は、振るえば砕ける代物でござる。しかし、それに何の問題がある?―――もとより、『砕け散ることが目的』の刃が、薄く、脆くて―――何が悪い?」

硬直、鋭利、膨大、堅牢、鈍重、治癒、絡繰、浄化、斬心、汚染、速射。
その中に混じる一本が、只の『脆弱』であるはずがない。
薄刀・針とは、脆い刀だ。だがしかし―――弱くはない。

「この刃は、砕けるとともに無数の破片に分裂する。一つ一つが鋭利な針で形成された、視認できぬほど小さな破片に」
「破片は砕けた衝撃で風に乗り、辺り一帯に四散する。当たり一隊を死散する」
「触れれば神経を切り裂かれ、吸えば肺より体を刻む」
「見たらば瞳は刺に塗れて、聞かば耳には針の山」

薄刀・針のその落下。
地面に落ちて、砕けるだけで。
それは全てを切り刻む。

「この落下、止められるのは全刀と虚刀、二名のみ。道連れ御免と申すなら、その闇……解いて頂こう」


「……くっ…サクラ!影を解け!」

オディオは怒号とも取れる声音で、桜に命令する。
絶対的な勝機を、セイバーの言葉に揺さぶられただけで捨てるなどと―――桜は一瞬躊躇したが。
しかし、その言葉が他ならぬ錆白兵の言葉ならば。
尾張幕府最強の剣聖が、刀を放ったことを考慮するならば。
信じざるを得ないのは、結局桜も一緒だった。

「っ……はぁ……!」

桜は、影に込めていた魔力を断った。
それだけで、そこは何の変哲もない路地へと姿を戻す。
漆黒からアスファルトの色を取り戻した地面に、錆白兵は着地した。
勿論、続けて落下してくる薄刀・針もその手に収める。

「紙一重、でござるな。拙者も、貴殿らも」

「……ぬかせ。切り札が刀諸共の自爆技とは、サムライの片隅にも置けない下郎め」

「然り。拙者は堕剣士、堕ちた侍。刀は武器なり、死して主を守るが本望」

このような言葉を吐きながらも、セイバーは針を丁寧に鞘へと仕舞う。
その動作が、試合の仕舞いを合図した。

「まさか『薄刀開眼』まで出さざるを得ぬとは、予想外でござるが……しかしこれで、少しは話を聞く気になって貰えたか?」

「聞かないと言っても、その否定を貴様が聞かんだろう。話すだけ話すがいい」

オディオはセイバーの横を通り過ぎて、膝を突く桜の横に立つ。
片手を差し伸べ、手を取った。

「ただ……魔王と契約して、無事に済むとは思わんことだな」


《ここまで》

《信じられないことにこんな時間です》
《マジ忙しい。今宵の更新は無いです、ごめんなさい》

衛宮邸【居間】


「それで遠坂。当面の問題は、その白色のアーチャーってことでいいんだな?」

それぞれが持ち得る情報を交換してから、衛宮くんがそう尋ねてくる。
想定内というか、予想通りというか……。
そもそも衛宮君がこの戦争に参加している理由が一般への被害を食い止めることにあるので、白いアーチャーを放ってはおかないだろう。

「まあ、そうね。バーサーカーの件は後回しでもいいでしょう」

場合によっては桜の方が危険かもしれないが、しかしそれをここで議論しても意味がない。
それに、アーチャー―――アンパンマンの協力が得られることが確定している白いアーチャーを先にどうにかしておきたかった。
桜の危険性が何が出来るかわからない点であるのに対して、綺礼の危険性は何を考えているのかわからない点。
戦力が整っている今のうちに、確実に潰しておきたい陣営だ。
なにせ、前回の聖杯戦争の生き残り。
言うなればイレギュラーなサーヴァントを従えているのだ。
それが不安要素でない訳も無く、ならばそれを取り除こうと動くのはきっと正しい。

「バーサーカー……マスターは…桜…なんだよな」

「そうね。慎二がどうなったのかまでは、流石に把握していないけれど」

大方、他の陣営――臓硯あたりに殺されたのだろうが、しかしそれを話して衛宮くんの心を荒立てるのも面倒だ。
予想でものを言うのは良くないし、それに現状嘘は言っていないのだから良しとしよう。

「なあ遠坂。提案、なんだけどさ」

「あら、何?珍しいわね」


聖杯戦争の知識を全くと言っていいほど持ち合わせていないはずの衛宮君が、何を提案するのか。
そもそも、ここに居る面子でまともに策を練れるのはわたしとライダーくらいだが。
葛木は衛宮くんと同様で、聖杯戦争の知識が無い。というか、考える気もないようだった。
アサシンはあれだし、アンパンマンにそういうイメージは無い。

「つまらない提案だったら引っぱたくわよ」

「イリヤに―――アインツベルンにもこの話を知らせて、協力してもらうのはどうだ?」

取りあえず引っぱたいた。
眉間に右手でグーパンチ。
勢いよく振り抜かれた拳はクリティカルヒットして、衛宮くんの背中を畳に打ち付ける。

「ぐ痛って!どういうつもりだ遠坂!!」

「それはこっちの台詞だ馬鹿!あのね、イリヤスフィールはあんたを[ピーーー]ことが目的なのよ!?」

そう言っていた。
衛宮士郎を[ピーーー]と、あの少女は確かに宣言していた。

「そんな言葉を…子供の宣言を真に受けたのか!」

「受けるわよ!これは戦争なの!ちゃんと人が死ぬ殺し合いよ!!」

あれだけ念を押したのに、まだ理解できないのか。
戦争は、人が死ぬ。
それが解っているなら、軽々に出来る発言では無い。

「………悪い、遠坂。気に障ったのなら、謝る」

「……………別にいいわよ。…わたしも悪かったわ」


「だけどな、遠坂。俺はさっきの提案、別に軽々しく言ったわけじゃないぞ」

「…何よ、あいつが協力してくれるって確証でもあるの?」

正直、有るわけがないと思うのだが。
昼間の公園で会ったときは確かに穏やかだったが、戦争の話には興味すら抱いていなかった。
昼間はマスターじゃないから…とか、そんなことを言っていた気がする。
だからと言って夜にそういう話をするのは愚策中の愚策だろう。
夜のイリヤスフィールはおそらく、狂戦士よりも狂戦士だ。

「確証はない。だけど、可能性なら有る」

「…やっぱり。そんなことだろうとは思ってたけど」

確証はない。だけど、可能性なら有る。…って。
何を当たり前なことを堂々と。
そりゃ誰だってあのアーチャーの話をしたら今の内に討っておきたいと思う。
たとえ桜やバーサーカーだろうと、そういう思いは持つハズだ。
だけどそんなもので人が動くかどうかは可能性で。――実に低い可能性で。
まさに縋るにも値しない。天から垂れた蜘蛛の糸より頼りなかった。
あの子供が戦況と心境を天秤に掛けて、どちらが下がるかなど―――火を見るより明らかなのだから。

「それなら、やっぱり却下ね。確証が無い物には縋れない」

「……それなら、言い方を変える。遠坂、俺はイリヤに対して思ったことがあるんだ」

何を勝手に語り出しているのだこのロリコンは。
遮る暇も無く、衛宮君は言葉を繋げる。

「あいつは戦争の意味を、正しく理解していないんじゃないか?」



《ここまで》

戦争の意味を正しく理解していない。
確かに言われてしまえばさもありなん。そうとしか思えない。
だが、しかし。
それがどうしたと言うのだ。というか、むしろ性質が悪い。
理解してもいないのに、人を殺そうとする精神は異常以外の何物でもない。
人間は生理的に、殺害を自制するように出来ているのだから。
だから、問うた。

「理解していないから、なんなのよ」

「説明する。それで分かってもらう」

無茶言うな。死にに行くつもりか。
イリヤスフィールに会えばランサーと戦闘する羽目になる。
それをアサシンが請け負ったところで、アインツベルンのマスター相手に素人がどう立ち回ると言うのだ。
たとえイリヤスフィール本人に戦闘能力が無かったとしても、戦闘用に調整されたホムンクルス辺りが居ても不思議では無い。

「あんたねえ……」

どうしようも無い馬鹿だ。
しかもこの男、そのリスクを把握したうえでのたまっている。
信念だとでもいうつもりか?
違う、これはきっと…そんな高尚な物では無くて。

「別に遠坂に付いて来いとは言わない。ただ、俺はイリヤの居場所も知らないんだ」

「だったら、諦める事ね。わたしも思い当たる節は無いから」

強いて言うなら、商店街の公園で出会ったことが情報と言えば情報だ。
しかし、偶然の可能性が高く、今後も有用になる情報とは思えない。
それならば、このことを衛宮くんに伝えてしまっても変わらないか。
むしろ行動が抑制できるかもしれない。


1、伝える
2、伝えない

>>625

1

伝えても問題は無いだろう。
仮に出会ったとしても、昼間のイリヤなら問題ない……と思う。

「……仕方ないから一つ、良い情報をあげるわ」

「本当か。助かる」

衛宮くんが頭を下げる。
何故そんなに紳士的なのだろう。
やっぱりロリコンだからだろうか。

「商店街の、少し裏手に回ったところにある公園。そこで今日、イリヤスフィールを見たわ」

「なんだって?公園?……まさか遠坂、戦ったのか?」

「そのつもりだったけどね。あいつ、昼間は戦わない主義みたいよ。とは言えランサーは連れていたし、襲ったら反撃はされたでしょうね」

まあそのランサーも、結構緩い雰囲気だったのだが。
あそこに会ったのは中のいい姉妹がブランコで遊んでいる光景である。
いろいろと、わたしの傷口を抉ってくれるものだ。

「……商店街…公園、か………」

「ああ、一応言っておくけれど今からじゃ無駄よ?もうすぐ日も落ちるし、そもそも帰って行ったのを見たし」

「わかったるよ。ありがとう遠坂、恩に着る」

「そこまでの情報じゃないわよ。礼なんて要らない」


《ここまでー》

間桐邸【蟲蔵】


暗く湿った、蟲の這い回る蔵の中。
腰を曲げた老人が、その中心の空間に佇む。

「桜め……セイバーに懐柔されおったか」

苦虫を噛み潰したような顔で、臓硯は言う。
本来ならば、こう言う勝手を許さないために寄生させた刻印中なのだが、今はそれも意味を成さない。
現在の桜からいくら魔力を喰らっても、それは海をスプーンで掬うようなもの。
人間とは思えないほど膨大な魔力。枯渇することなく揺蕩う影。
現在聖杯の接続下にある間桐桜は、蟲の身である間桐臓硯よりも化物だ。

「小聖杯の機能を自らに吸収したか……バーサーカー…いや、オディオだったか…」

余計なことを、と―――間桐臓硯は呟いた。
伝説の勇者を二名、身内が指揮するという状況でこそこの戦争に意味がある。
そうでなければ、そもそも関わる意味がないのだった。
しかしここでキャスターを捨てるという選択肢は、臓硯には無い。
それが愚かだと言うのは、誰にでもわかる。

「桜に対抗するためにも、より馴染んで貰わんとな……キャスターよ」

言いながら臓硯が視線を向けたのは、蟲蔵の隅。
一際多くの蟲共が集っているその場所には、最早瞳から光彩すら消えた勇者の姿。

「伝説とはいえ、本領のクラスではないのだからな。ある程度の『助力』は致し方あるまいよ」

蟲がざわめく。蟲が蠢く。
それは辛うじて見えていたキャスターの肉体を覆い隠す。
勇者は蟲に沈んで、しかし抗う意思も無く…――――


時期に日が沈み、夜が来る。
そうなれば、間桐臓硯の行動範囲は大幅に拡大する。
蟲に頼る肉体故に、日の光を浴びる訳には行かなかった。

「桜を潰すか……それとも、遠坂の当主が言っておった『アーチャー』に言葉でもかけるか…」

言いながら、間桐臓硯は石段を上る。
キャスターを蔵に残して、蟲の親玉は地上に上がる。
扉が開いて、そして閉まる。二回の音が聞こえた所で。

「…………」

勇者は思う。
何を間違ったのだろうか、と。
サーヴァントとして現界して、願いを掛けて戦うためにここに来た。
それなのに現実は、殆ど戦いをしないまま蔵で大半を過ごす日々。
気色の悪い蟲に体中を這われて、魔力を循環させられる。
着実に。着実に。都合のいい人形へと。

「………………」

暗い。先も無い。
考えることを止めて。

「…―――――――――」

キャスターは意識を閉ざした。


《ここまで》

衛宮邸【客間】


わたしは現在、衛宮くんに誘導された客間に居た。
掃除は行き届いているらしく、使われていない部屋だとは思えないほどだ。
戦略的な話もあるし、今日はここに泊めて貰うつもりである。

「一度着替えを取りに戻りたいところね……」

「それなら、僕が行こうか?」

ライダーがそんな提案をしてくる。
でも、そういうことは良く考えてから発言してほしかった。

「……ライダー…貴方本気で言ってる?…下着とか」

「あ……そうか、ごめん」

ライダーのリアクションが薄いのは今に始まったことではないが……。
こんなときにまで冷静なのか、こいつ。
先程の発言といい、もしかして女子として見られていない…?
聖杯戦争に取り組む姿勢がストイックなのは有り難いのだが、しかし一応女子の身としては若干へこむ…。

「…リン?どうしたの?……怒ってる?」

ここで言及しておくべきだろうか。
いやしかし、そんなことでギスギスした関係になっても困る。


1、話題切り上げ。遠坂邸にお着替え取りに向かう。
2、言及する。わたしの女子力について…!
3、そんなことより戦争の話をしよう。

>>635

だが言及しよう。
ここは敢えて、有史以来全ての女性にとって命題とも言えるこの概念について言葉を交わそう。
つまり、そう―――――『女子力』とは、一体何なのかを。

「ライダー……極めて重大な話があるわ…」

「き、極めて…?……それは、聖杯戦争についての話か……?」

「…いいえ…そうでは無いけど…」

ライダーは男子だ。この話題において深く考えたことは無いだろう。
しかしだからこそ……『女子力』に対する解釈に、風穴を開けられるやも知れない!
仮に男の子らしさを『男子力』とするならば、それは友情とか努力とか勝利とか、熱い言葉を並べておけばいいのだろう。
しかし女子は違う。
『女子力』の高さとは、ただ単純に優れているだけでは駄目なのだ。
優しさも女子力であり、厳しさも女子力だ。強さも女子力ならば、弱さだって女子力だある。
究極の女子力とは、それら全てを内包した形――――。
ならば、それは一体何だ?
果たして人間に、形容できる領域の力なのか?

「ライダー……『女子力』って、なんだと思う?」

わたしは言う。
あらゆる女性の疑問を乗せて。

「じ、女子力?………さあ…家事の腕前とかじゃないの?」

「確かにそれも女子力の一つでしょうね…。だが違う…!わたしが問うたのはそんなことじゃないわ!」

「…リン?…なんでそんなに荒れてるの?僕がデリカシーのないこと言ったから?」

「断じて違う!わたし女子力足りてないんじゃないかな、とか全然思ってない!」

大体、家事スキルならわたしにも十分備わっている。
そんな程度で『女子力』を語れるならば、わたしだってとっくに女子力マスターである。

「『女子力』って……なんかこう、男子的にグッとくる要素のことよ…なんかあるでしょ?」

「えー…とんでもない無茶振りだぞ…」

ライダーが困った顔をする。
だがしかし、困っているのはわたしの方だ。
学校ではそこそこ人気なほうだと思っているが、しかしライダーには効果を示さなかった。
女子力とはつまり、猫を被っているわたしが持ち合わせているようなものなのか?
そういえば綾子にたびたび言われていることがあった。

――――『女子力っていうか、胸力が足りてないんじゃない?』――

「だあああ!ちがーう!女子力ってそんな単純な要素じゃなくって!」

「落ち着けリン!わかった!答える!答えるから!」

ライダーがわたしを宥めてくる。
正直少し泣きかけていたが我慢して、ライダーの方を向いた。

「……では、聞かせて貰おうかしら。ライダーの思う、『女子力』について」

「…知り合いの女性について考えてみて思ったんだけど…オンとオフの二面性にこそ、それはあるんじゃないかな」

「二面性?」

「その女性は騎士で、戦闘次はとても頼りになるんだ。だけど普段は、案外かわいらしい女の子だったり……」

成程、二面性か。
家事スキル―――胸――――二面性―――――。
あれ?

「これって桜じゃ……」


《ここまで》

遠坂邸【自室】


結局遠坂邸には、わたしとライダーの二人で向かった。
もう日は落ちてしまって、とても安全とは言えない時間帯である。
しかし、ライダーの機動力で逃げ切れないサーヴァントは居なかったように思う。
正確な戦力を把握出来ているわけでは無いが、これは殆ど確定と言っていいだろう。
白いアーチャーやバーサーカーの場合は、本気を出していないだけという可能性が無いでもないが、ならばそれは無視してしまって構わない。
あの局面でも本気を出さないようなら、今更遭遇したところで変わるものか。

「ありったけの宝石に…それと着替え……礼装も持ったし……大丈夫ね」

「本当に?またぞろうっかりとかしてないだろうね……」

「あんた、わたしを何だと思ってるのよ…」

ライダーはとっても不安そうな顔でこちらを見てくる。
いやいや、流石にそれは失礼だろう。
……ちょっと不安になってきた。
大丈夫…よね?忘れ物とかないわよね?

「………よし…よし…よし…!…ほら見たことか!完璧だったじゃない!」

「いまので僕は凄く不安になったけどね…」

深山町【道路】


衛宮邸に向かって走るチョコボの背中で、わたしはライダーと策を練る。
今後の方向性。差し当たっては、白いアーチャーとバーサーカー――オディオについて。

「まず、先に落とすべきは白アーチャーね。それを目的とした三騎の同盟が、半ば締結しているようなものなんですもの」

「とは言え、戦力は未知数。二回遭遇した僕らも一目散に逃げ出している」

相手側の戦闘方法、技能、パターンのいずれについても不明である。
そもそも、その何れかでも見たら終わりだと思うほどに圧倒的だった。
圧倒的な、死の気配だった。

「正直、何でそこまで必死に逃げたのかも謎なのよね……なんていうか…本能的に面と向かうことを拒否していたみたいな…」

対峙することすら拒絶する存在感。
恐い物見たさで猛獣を檻の外から眺めるのとはわけが違う。
あのアーチャーについては、たとえ絶対に安全な『檻』に隔絶されていようとも、見たいとさえ思いはしまい。
未知の恐怖―――未知とは恐怖。
得体の知れない『現象』を、鑑賞したいと思わないのと同じ。

「何度も言うけど…あれって本当にサーヴァントなのかしら」

「そんな枠に収まるものとは思えない、か……だけどね、リン。それを言ったら英霊なんて皆そうだ」

ライダーは言う。
英霊としてでは無く、彼個人としての意見を。

「僕達は、後の人々によって有り方が変えられる。捻じ曲げられて、誤解される。本当はただのちっぽけな戦士も、時代が変われば英雄だ」

だから―――と。異端者の指揮官は語る。

「あまり気圧されないで。英霊なんて言葉、誰もが分不相応なんだから」


《ここまで》

柳洞寺【客間】


わたしはオディオと共に、柳洞寺の客間に居た。
セイバーに拠点が無いことを伝えると、連れてこられたのがこの場所だったのだ。
そう――わたしには拠点が無い。
雨風を凌げる家屋が無い。
数日なら新都の宿泊施設で過ごせないことも無いが、それでは一週間も持たないだろう。
これは女子高生として、案外切実な問題だった。
そのことを聞いたセイバーが提案した案が、これだ。

「寺ならば受け入れてくれよう。仏門は縋る物を拒まぬ故。拙者とて信ずる神や仏は持たぬが、そう言った恩義に預かったこともござる」

ということで、やってきたのが柳洞寺だ。
オディオには霊体化して貰って、わたしとセイバーで頼み込んだ。
生徒会長には不審がられたけど、とは言え頼ってくる相手を放っておける人でもない。
そういうプロセスを経ての、この客間だった。

「案外、良い場所ですね。質素だけど綺麗で、心が落ち着きます」

「あの家と比べれば、大概の場所は心が落ち着くだろうがな。…サクラ。セイバーはどうした?」

「お坊さんたちの修行に付き合ってあげるそうです。あの方、無手でも結構強いらしいですよ?」

「当然だろう。触れたものを得物に出来るのだ、最早無手とも言えん」

オディオは首をすくめて見せる。
先程の戦闘で苦渋を舐めさせられたからだろうか、セイバーに対して他とは違う感情を向けているような気がしないでもない。
少しだけ雰囲気の違う憎しみを、だが。


「まあ、二対一であの結果ですからね。セイバーさんの実力もさることながら、あの宝具が厄介ですよ」

「『薄刀・針』……だったか?東洋の歴史は良くわからんのでな」

「ええ。伝記…と言っても殆どおとぎ話みたいなものですけど…とにかく、『刀語』というお話がありまして」

それは伝説の刀を集める、蒐集譚にして復讐劇。
そのうちの一本、『薄刀・針』。
薄く脆く、弱い刀。それ以外の情報は無い。
何故ならその物語の四巻目―――錆白兵とその刀に纏わる書物だけが、綺麗さっぱり抜けているから。

「贋作は幾つか有りますが…しかしどれも偽物だとすぐにわかります。本物は――尾張幕府の当時に執筆されたもの。紙も墨も一目瞭然ですから」

「ほう……名前が独り歩きした英霊か…弱点不明、されど知名度有りと。なかなか厄介だな」

「弱点どころか、攻撃手段だって刀を使うこと程度しか分からなかったじゃありませんか」

錆白兵が真名を明かしても、得られる情報は精々クラス程度。
数ある剣技も、今は歴史の闇の中。
『針』の長所も、つい先ほどまで知らなかった。

「あの刀って…砕いて使うものだったんですね……」

「本来なら本当に自爆技だな。なんせ、アレを投げたら普通の者では無事に受け取れまい」

また、砕いたところで自分も巻き添えだ。
飛散する、無数の針に塗れて終わり。
アレを砕いてなお無事なのは、全ての者を己が刀とするセイバーくらいのものだろう。
本当に、ぴったりの所有者だ。

「『針』を砕いても無事な者―――実はもう一人だけ存在致す」

わたしの考えを読んだかと言うような、絶妙なタイミングでセイバーが襖を開けた。
お坊さんたちの修行は終わったのだろう。彼は汗一つ流していないようだが。


《ここまで》


錆の言う「もう一人」ってのは彼の生きていた時代では自称・錆のライバルの不義待秋だろうな
現代ならやっぱり…

勿論冗談、彼も『薄刀・針』を壊さずに扱えるからかなりの腕だとは思うけど…
まぁ真面目な話、虚刀以外では七実の全開状態と戦ってイーブンかそれ以上で戦えた全刀流最強の女性、錆黒鍵とかも十分に候補に入りそう

そう言えば、刀語世界の幕末に現れる沖田総司(?)は、史上最高の剣豪である錆白兵すらも上回るという冗談のようなチート性能らしい
一体どれ程強いんだろう…

佐々木小次郎なら薄刀・針も扱えるんだろうか?
まあアルトリアさんやランスロット卿は間違いなく無理だろうな

>>662
小次郎には最強クラスの燕返しとそのスピードが活かせる『斬刀・鈍』の方が良いんじゃないか?
あの「それなりの刀」でもあの強さだったし、知名度補正その他でブーストが掛かった『斬刀・鈍』を使えば最強の一角になれそう
物干し竿を得物とすることを考慮すると『絶刀・鉋』でも良いかも

バサカ系は『賊刀・鎧』や『悪刀・鐚』、『毒刀・鍍』あたりがほぼノーリスクで使えるな
毒刀を装備したサーヴァントは下手すると理性有り呂布の何倍も危険になるかもしれないが

《正直、虚刀+アンデルセンが一番ヤバいと思う》


「もう一人…?」

「左様。と言うより、桜殿も既に察しがついておるのでは?―――その刀語の主役は、一体誰であった?」

虚刀流七代目当主、鑢七花。
虚刀流―――虚刀。
だがしかし、それはおかしい。

「…ですが…虚刀流は、刀を扱う才能が皆無なのでは―――」

「だからこそ、でござる。この薄刀は砕かれるために打たれた刀。刀を刀として扱えぬ者がこれを砕いても、効果は発揮できぬよ」

虚刀流には、刀を扱う才能が無い。
それはあらゆる技術を吸収する最悪とて、例外では無かった。
だからこそ。
砕いて使う薄刀を砕いても、その刀身が無数の針に分解されない。
砕いて使うという『正しい手段』を、虚刀流には行使出来ない。

「他の完成形変体刀が『完了』に砕かれるための刀であるのに対し、薄刀のみが例外。『完了』にしか砕けぬ刀が、この一振りでござる」

「……なぜ、それをわたしたちに…?」

この話に、一体何の意味が有ったというのか。
その刀がわたし達に砕けないのは、もう十分わかっていると言うのに。
セイバーは間髪入れず、この話の意味を明かす。

「何、拙者は知ってみたかったのでござる。この『薄刀』を打った者の真意を。……この全刀を『打ち止めた』意味を」

存在の意味を知る。
それが、セイバーの願いか。

「同じ刀鍛冶ならば、その真意がわかるやも知れぬ。…複製専門とあらば尚更でござろう」

「複製専門…?…刀鍛冶なんて…この町には……――――」


「アサシンの主。衛宮士郎。かの者は魔導の刀鍛冶。……そして、我らと同じ『剣』でござる」


《少ないがここまで》

衛宮邸【客間】


「――――ン…―――リン…―――朝だよ…リン、起きて」

「………ぁい…」

昨日はいろいろと疲れた。
日中は戦いっぱなしだったし、夜は深夜まで作戦会議。
いや、あれは作戦なんて高尚な物じゃない。
衛宮くんはイリヤスフィールの協力ありきで話を進めていたようだし、わたしもわたしでそれを否定してばかりだった。
勿論、アインツベルンの魔術師が協力してくれるなら心強いのだが――――

「………すぅ…」

「寝てる。リン、二度寝してるよ。起きてって」

うるさいうるさい。
ここはわたしの聖域だ。この微睡を邪魔するものは何人たりとも容赦はしない。
そしてわたしは自身の労をねぎらうのだ。
おつかれわたし。昨日は良く頑張った。
だから今日くらい、ゆっくりお休み。

「いやだから、駄目だって。瞼閉じないで!…布団剥がすよ?覚悟出来てる?」

「……やめてー…」

「ええい!」

ぎゃー!
寒い寒い寒い眠い寒い!
冷気が布団の中で火照っていた体にザクザクと突き刺さる。
凍てつく刃は体を一瞬で半殺しにしたにも関わらず、わたしの脳は未だに睡眠を求めている。


1、起きて再び作戦会議へ
2、ライダーと会話
3、寝たいから寝る…ああ、なんて幸福。

>>678

3

そもそも睡眠欲とは人間の三大欲求の一つ。
本能レベルで生き物が求めるもの―――生きて行く上では欠かせない要素だ。
眠いと言うことはつまり、不十分であると言う事。
つまり言い換えれば、わたしは生きて行くのに不十分な状態であると言えなくもない。
眠いということは、それがそのまま死にそうであるということに繋がらないことも無いだろう。
結論として、わたしがここで二度寝をしても咎められる謂れはない気がする。
だから寝るのだ。もう寝る。寝てやる。
聖杯戦争なんて知ったことか。
名声?箔付け?
甘い甘い……そんな理性的な欲求、本能の前では塵も同然だ。

「……いろいろ考えたけどね…ライダー…」

「………何さ」

「…寝るわ…わたし」

わたしは一度だけ高速で身を起こすと、剥がれた毛布をライダーからふんだくった。
そのままそれを繭のようにして、世界から存在を遮断した。
ここは遠坂凛ただ一人の領域だ。

「お休み!お休みったらお休み!」

「子供か君は!良いから起きろ……!」

ライダーがわたしの繭を剥がしにかかる。
わたしの領域を、侵しに来る。

「ぐううう…!」

わたしはそれに、必死になって抵抗した。
個人の領域―――最後の理想郷。
これを失ってなるものか!

「ぐぐぐ……!…そんな元気があるなら起きればいいのに…!」


《ここまで》

衛宮邸【居間】


「……むぅ…」

結局起こされた。
時刻は6時である。6時……早過ぎる…。
衛宮くんはどうやら台所で朝食の準備をしているらしい。
朝早くから、本当にご苦労様である。

「………リン。顔くらい洗ってきた方がいいんじゃない?」

「…そうね……冷たいし眠いけど、エチケットだものね」

「うん。――――――……あ、あれ?今の流れは立ち上がる所だよね。なんで微動だにしないの?」

わたしは正座していた足を胡坐に組み直す。
そのまま大袈裟に溜息を吐いて、こう言った。

「ライダー。チョコボ出して」

「ふざけてるの?」

「じゃあおんぶでいいわ。おんぶ。おんぶして、お願い」

「だから子供か君は。自分で歩いて」

「いやよ。眠い寒い」

「だからいい加減にしなって」

「いーやー!ねーむーいーのー!」

ライダーが若干イライラしてきているのがわかる。
それはそうだろう。狙ってやっているのだ。

「……なんてね。イライラしたかしら?」

「…とっても……」

衛宮邸【客間】


衛宮くんの料理を平らげて、わたしは一先ず客間に戻った。
寝るわけでは無い。流石にもう睡魔は倒した。

「アーチャー、アサシン共に今日の放課後から活動出来るらしいわ。二人とも学校に行くんですって」

葛木がその選択をするのは仕方ないだろう。
仮にも職業だし、彼が居ないと多数に迷惑がかかる。
わたしならそれを覚悟で欠勤しているだろう。誰だって、自分は大事だ。
これは戦争。戦わなければ、生き残れない。
だが、その意見を他人に強要しようまではしない。葛木にとやかく言う権利は、わたしには無い。

「問題は衛宮くんよね……あいつ、クラスメイトが全員死んだのに登校って…」

普通なら休む。休まないとおかしいレベルだ。
公的には行方不明事件だが、あいつは死体の山を見ているのだから。
クラスメイトが惨殺された部屋に登校しようと言う気持ちが、わたしには欠片も理解できなかった。
常軌を逸しているとしか思えない。

「たしかに。アサシンのマスターはちょっとおかしいよね。まるで何かの真似をしてるみたいだ」

「真似……?」

「うん。なんて言うか……行動がパターン化してるっていうのかな?決まっているからそうするだけで、個人の想いが見当たらない」

問題に対して、決められたルートでしか解決できない。
だから齎す結果も決まっていて、しかしそこに苦悩は無い。
葛藤することなく、自らを捨てる。
それではまるで―――機械のようだ。
ならば彼に書き込まれたプログラムとは、一体何か。
何を根本として、衛宮士郎は駆動する…?


《ここまで》

>>1が帰宅して早々睡魔に負けた件。これは凛ちゃんさんの呪いか?》
《今日はお休みさせて頂きたく。忝い》

「衛宮くんの違和感……確かに、それは調べておいた方がいいかも知れないわね」

学校で死体の山を見たとき、あいつは殆ど動揺していなかったように思う。
まさかあの歳の学生が死体を見慣れているということはあるまい。
そんな機会は―――――いや、あるか。この冬木には。
……だとしたら、あまり追及するような話では無い。

「だからと言って……それを『見慣れている』で済ませることが出来るかしら…」

トラウマになっていても不思議では無い。
数多の死体を―――路傍の石ころの如く転がっていたであろう人の亡骸を見て、それに慣れるなど。
そんなものは正気の沙汰では無いだろう。
衛宮くんが正気で無いと断じてしまえばそれで済む話だが、これはあまりにも極論だ。

「…『衛宮くんが正気じゃない』という可能性は、一先ず置いておきましょう」

言葉にしてみると、それが案外あり得そうだから困る。
見知らぬ誰かを救うために戦争に飛び込んで。
そのくせ死体に嫌悪は無く。

「まるで……僕らの時代の人間みたいだ」

神代の英霊が現代の高校生をそう評する異常さ。
異端者が駆けたその時代は、血と謀略の戦争時代。
その時代の人間のようだと言う言葉に納得出来てしまうほどには、わたしはあいつを異常視している。
普通じゃないと、思っている。

「まるで英雄のよう……っていうこと?」

「いや、そこまでは…どうだろう。あの時代の戦士なら、誰にでも言えることだから。見知らぬ誰かのためっていうのは、ちょっと珍しいだろうけど」

名声のため、富のため。自国のために、家族のために。あるいは見知らぬ誰かのために。
誰もが死体を直視して、あるいはそれを作り出して。必死に生きようとした時代。

「珍しいのは、人の事言えないんじゃない?」

ライダーだって、見知らぬ誰かのために異端者の汚名を被った変わり者なのだから。

「……そんな話もしたっけ。失敗だったかなぁ」

「そんなこと無いわよ」

ああ、そんなことは無い。
わたしはこれで、結構ライダーを気に入っているのだ。
例え汚名を被ろうとも、信念を貫くその姿勢に。
だからこそ、思う。
衛宮士郎には―――果たして信念があるのだろうかと。
真似しているとか。パターン化しているとか。
ライダーがそう称したことが、そのまま答えなのだろうか。
彼に信念は無く――――彼に意思はないのだろうか。

「意思は無くても、信念はあるよ。アサシンのマスターはそういう目をしていた」

「……人間観察において貴方に勝るとは思えないし、そうなんでしょうけど…」

何だ、この違和感は。
意思のない信念という言葉が、酷く恐ろしい物に聞こえる。
テコ入れで、生き方を根底から覆されそうな―――

「―――根底…」

衛宮士郎の、根底。
それについて、尋ねたくないわけが無い。
だがしかし、憚られた。
他人の過去に。他人の原初に。他人の始点に後から関わるのは、酷く危険だから。
わたしがそれをされたく無いように。桜がそれを求めなかったように。
始点とは言い方を変えれば、人生で最も後悔する場所なのだから。


《ここまで》

《こうも立て続けに休むのは心苦しいのですが、いかんせん睡魔が……》
《ちょっと調子のって時間配分をミスりました。ごめんなさい、また明日ー…》

稲穂原学園【1-C】


俺は、俺とアサシンしかいない教室でミーティングを行う。
話すのは勿論、聖杯戦争の事だ。

「アサシン。アーチャーがあそこまで言うんだから、そのアーチャーはやっぱり強いと思うか?」

「ん?えっと……アーチャー…まず最初のアーチャーがあいつで…よし!OKだ!思うぞ!」

どうやらこんがらがってしまったらしい。
言っているこちらも若干ややこしかったし、これは確かに仕方無い。

「俺が悪かった……白いアーチャーっていうのは、強いとおもうか?」

「いや、分からないな。だって情報とか全然ないし」

「……それもそうか」

遠坂も、二度遭遇して二度とも一目散に逃げ出したと言っていた。
それほどの相手と言う事だが、情報はそれだけ。
ならば話題を変えてみよう。
アサシンも戦ったことのある、バーサーカーの話だ。

「遠坂の話だと、バーサーカーは自我を取り戻してるらしい。これって脅威か?」

「そりゃ脅威だろ。狂っててあそこまで冷静だったんだぜ?正直、頭で考えたら勝てる相手じゃないな」

それは暗に、『考えなければいい』と言っているようにも聞こえる。
いや、実際にアサシンはそういう戦い方だった。
直観で対応して、直感で突撃する。
あまりにも無謀に見えて、しかしそれが最善手。
あれが、勇者の戦い方だ。


「あの戦闘スキルの上に宝具まで残ってると考えると、ぞっとするな」

その勇者でさえ、恐れを抱かせるバーサーカー。
一体、どれほどの霊格なのか。

「ところでシロウさ―――」

と、いきなりもいきなり。突拍子も無くアサシンが話題を変える。

「お前、本当に強化しか出来ないの?」

「…?……どういう意味だよ」

魔術の話か?
それならば、その通りだ。
実践レベルで辛うじて行かせそうなのは、強化くらいで――――

「なんだ、やっぱり他に何かあるんじゃないか!」

「いや、投影は全然ダメなんだ。それに効率も悪い。だからずっと強化の練習ばかりしてきた」

切嗣からも、そうしなさいと言われた。
投影は非効率で、しかもリターンがリスクに見合っていない。
そんな不安定なものに頼るなら、強化を練習しなさい―――と。

「いや何言ってんだよ。投影が非効率なんて嘘だろ。あの戦争ではみんなやってた。―――ああ聖杯戦争じゃないぞ?神々の戦いだ」

それは―――神話時代の話だろうか。
俺はそっち方面について詳しく知らないので、なにも言えないが。

「そうなのか……?」

「ああ、断言する。シロウは投影を練習した方がいい。どこからともなく武器を取り出す……憧れるだろ?」


《ここまで》

「武器……武器か…」

そう言えば、訊いておきたいことがあった。
少し前に見た、夢のこと。
そのときにアサシンが所持していた剣について。

「アサシン…どういう理屈かは知らないけど、夢でお前の記憶みたいなものを見たんだ」

「夢?あれかな、契約中はそういう感覚も繋がるのかもな」

腕を組んで、大袈裟に頷いて見せるアサシン。
自分の記憶を見られてこうも平然としていられるのか。
それだけ、自分の過去に恥ずべき部分がないのだろう。
あるいは、恥ずかしい過去を見られたかもしれないという可能性に思い至っていないのか。
どちらにしても、見たのは荒野を歩く姿だけなので、気にする必要は無いのだが。

「そのときに、アサシンが持っていた赤い剣―――あれはどういうものなんだ?」

「そりゃブレイブブレイドだな。オレの宝具だよ。ちょっと待ってろ、いま出して―――」

そう言ってアサシンが掌を構える。
しかし、一向に剣は姿を現さない。

「――――あれ?おかしいな……来い!『自ら誇る勇気の剣(ブレイブブレイド)』!!」

なにやら必死の形相で、なんども剣の名を口にする。
ブレイブ――――勇気の、剣。

「うそだろ!?なんで出ないんだ!?あ!まさかナイフの方か!?…『自ら蔑む臆病の刃(チキンナイフ)』!!……こっちも出ない!」

……様子がおかしい。
俺が見てもわかるほどに、アサシンが動転している。

「お、おいアサシン?どうかしたのか?」

「宝具が出ないんだ!これじゃ必殺技の無いヒーローみたいなもんだ!」

《アサシンのステータスが更新されました》

クラス:アサシン
真名:バッツ・クラウザー

筋力C 耐久B 敏捷C 魔力E 幸運A 宝具×

◆スキル
・気配遮断(E)  自身の気配を消す能力。彼の場合は武道家としての精神統一。集中して気を操らねば使えない。
・直感(B)    常に自身にとって最適な展開を「感じ取る」能力。また、視覚・聴覚への妨害を半減させる効果を持つ。
・専科百般(E)  生前の経験から来るスキル。現在はモンクで固定されているため、十全に発揮できない。
・勇猛(A+)    威圧、混乱、幻惑といった精神干渉を無効化する。また、格闘ダメージを向上させる。
・仕切り直し(A+) 戦闘から離脱する能力。また、不利になった戦闘を初期状態へと戻す。
・騎乗(B)    乗り物を乗りこなす能力。Bランクで魔獣・聖獣ランク以外を乗りこなす。


◆宝具

『自ら誇る勇気の剣』(ブレイブブレイド)
所有者:バッツ・クラウザー  ランク:A++
種別:対城宝具     レンジ:1~50    最大捕捉:500人

彼が生前に愛用した剣の一本。
宝具としての効果は、勇気の総量に応じて切断の威力を上げるという単純な物。
しかし真名解放を伴った場合は別であり、勇気の総量に応じた斬撃を空間に対して行う対城宝具。
モーションから斬撃発動までに僅かなタイムラグがあり、そのため彼の背後で盛大な光と共に空間が引き裂かれる演出となる。
空間を引き裂くと言ってもあくまで真空を作り出す程度であり、対界宝具には至らない。
真名解放の以前と以後で、対人と対城の異なる二つの効果を持つ特殊な宝具。
スキル:勇猛によって勇気にブーストが掛かるため、非常に効率がいい。
なお、現在はモンクのため使用不可能。


『自ら蔑む臆病の刃』(チキンナイフ)
所有者:バッツ・クラウザー  ランク:C
種別:対人宝具
レンジ:1    最大捕捉:1人

彼が生前に愛用したナイフの一本。
真名解放とともに攻撃することで、戦闘から離脱がする。
強制転移であるため転移先は指定することが出来ないかわりに、確実に相手の認識から外れることが可能。
真名解放に際して必要な魔力も極端に少なく、複数回の連続使用にも十分耐えうる宝具。
なお、現在はモンクのため使用不可能。


「なんてこった……まさか宝具が両方使えないとは…」

宝具が使えない。
さきほどアサシンが言ったように、必殺技を封じられた状態。
自らの肉体を武器とする代償に、彼はそれ以外の武器を置いてきた。

「シロウが強化の魔術師だからなのか?だから相性で、オレも裸一貫で戦えってこと?」

「いや…オレに言われたって」

「それはわかってるけどさ。アサシンならアサシンで、他にもいろいろあったんだぜ?」

「ちなみに、本当は何のクラスがよかったんだ?」

「そりゃキャスターだろ。オレのものまねは凄いからな。是非とも見せたかった」

ものまね……?
見せたいなら、別に今やってくれても構わないが……


《ここまで》

穂群原学園【生徒会室】


葛木宗一郎は、自らのサーヴァントと対面していた。
椅子は全て開いているが、しかしどちらも座ろうとしない。
両者の間には、奇妙な緊張感が張りつめている。

「アーチャー。戦闘は今日の放課後だそうだな」

「はい。りんちゃんがそう言ってましたね」

「私は、この戦争のルールを今一把握できていない。状況の判断はお前に任せる」

「はい。わかりました」

「…………」

会話が途切れた。
葛木は真剣な面持ちでアーチャーの丸顔を捉えている。
アーチャーは笑顔を湛えて、その視線を返す。

「……アーチャー」

「どうしました?せんせい」

「その風貌は、どうにかならないものなのか?」

葛木が言いたいのは、その姿が戦争と言うワードに合っていないとうことだろう。
そもそもが児童向けのキャラクターだ。戦争とかけ離れていることは本来であれば正しい。
しかし、アーチャーは現在そのかけ離れているはずの戦争に参加している身。
だから苦言を呈さずにはいられない。
もっと具体的に言うならば、真剣味に欠けて見える。

「お前が真剣なのは百も承知だが、人間には先入観がある」

先入観…つまり、アーチャーの世界の価値観で語ると、勧善懲悪。
彼は決して負けないと無条件に思い込まされてしまう、そんな雰囲気がアーチャーには有った。
それこそ、いかに真剣で無かろうとも。


「ぼくはずっと真剣にたたかってきましたよ?」

それはそうなのだろう。
アーチャーはいつも全力だったはずだ。
だが、見ている側はそうでは無い。最後には彼が勝つことを知った上で、彼の活躍を観ている。
諦めにも似た信頼を寄せている。
しかし、今回ばかりはそうもいかない。
聖杯戦争は、勝つべくして勝つ者たちの集合だという。
ならば、必勝の法則は通用しないのではないか?
その法則を取り除いた彼に、一体なにが出来ると言うのだろうか。

「……アーチャー。お前は、どう戦うつもりだ?」

勧善懲悪の法則も無く。替えの頭も無く。
アンパンマンがその状態で、果たして何に勝てるのか。

「ぼくはアンパンマン。自慢になりますが、この国ではとっても知名度が高いんです」

「知名度…?」

確か、知名度の高さは実力の発揮できる割合に影響するのだったか。
しかし、全力を出したところで――――勝てる者とは思えない。

「それがどうした。知名度による補正が掛かって、お前はどうなっている?」

「だから、ゆうめいな弱点が逆に長所になったんです」

アンパンマンは、顔が湿ると弱くなる。
それを、逆説的に解釈すると――――

「顔が濡れないかぎり、ぼくはぜったいに負けません」


《ここまで》

《アーチャーのステータスが開示されます》

クラス:アーチャー
真名:アンパンマン

筋力A 耐久E 敏捷C 魔力E 幸運A 宝具EX

◆スキル
・対魔力(A)  Aランク以下の魔術を完全に無効化する。事実上、現代の魔術師では、魔術で傷をつけることは出来ない。
・単独行動(A+)  マスター不在・魔力供給なしでも長時間現界していられる能力。単独で戦闘を行うことができる。
・戦闘続行(A)  戦闘を続行する為の能力。決定的な致命傷を受けない限り生き延び、瀕死の傷を負ってなお戦闘可能。
・正義の証(EX)  同じ相手に何度同じ技を使用しても命中精度が下がらない特殊な技法。攻撃を見切られなくなる。
・献身削身(―)  自らの頭部を回復用のエーテル塊として使用できる。



◆宝具

『――――――?――――――』
所有者:アンパンマン  ランク:?
種別:?      レンジ:?    最大捕捉:?

―――――――――?――――――――


『その身不屈は愛の為』 (パワー・オブ・ヒーロー)
所有者:アンパンマン  ランク:EX
種別:対人宝具      レンジ:―    最大捕捉:―

水に弱いという有名すぎる弱点を逆説的に宝具へと昇華したもの。日本で召喚された場合のみ使用可能。
これは彼を観てきた者たちの願いであり、彼に対する愛の結晶。
対人宝具と銘打っているが、実質的には結界宝具に近い。
『顔が湿る』という特定の動作を除く、全ての攻撃を無効化する。
彼が現界した時点で定められる世界の法則であるため、顔を濡らす以外の攻略法は『星の開拓者』や『原初の一』を除いて皆無。
彼を害為す行為は例外なく全て無効化されるため、令呪による自害にさえ対抗する。
しかしアーチャークラスで現界したため、頭部を交換するための宝具を持ち合わせていない。
故に真価を発揮できない状態。一度濡れたらそれまでであるため、運用には慎重を規す必要がある。


《今日はこれだけ》



ようはヌケニン(ポケモン)のふしぎなまもりと同じか

濡れたら交換できないし乾くこともないわけか
濡れちまったら仮に一時撤退できてもほぼ逆転は無理だな

《諸事情で今日明日の更新は無しです》
《申し訳ない》

>>743
濡れた直後に令呪で「頭よ濡れる前に戻れ」と命じたらどうなるんだ?

柳洞寺【客室】


「動くのは今宵の深夜、言峰綺礼に奇襲を掛けるつもりでござる」

セイバーはオディオとわたしにそう言伝ると、本堂の方へ消えていった。
今日も修行僧さんたちの稽古を付けているのだろう。
オディオはそれを薄く開いた眼で見止めてから、話を切り出す。

「……動くのは今宵…とは言うが、実際のところどうするつもりだ?」

「え? どうするつもり、とは?」

「お前はセイバーに力を貸すのかということだ、サクラ。にべも無く断っても、実際損はなかろう?」

それはそうなのだが。
しかし、得られる益と払うリスクを考えると受けた方がいいだろう。
言峰綺礼、およびそのサーヴァントを打倒することで得られる報酬。
大聖杯の接続化にあるわたしだからこそ実現可能な裏ワザを。

「もしかして、オディオは賛成じゃないんですか?」

「………まあ、あまりいい気はせんな」

「ふふ、オディオ。あなたがいい気になる出来事なんて、はたしてこの世にあるんですか?」

「―――ふむ。それもそうだな。この程度は、常々抱いている憎しみの一片に過ぎんか」

その『報酬』を当てにしているというわけでは、別段無い。
そもそも『報酬』はおまけみたいなもので、無くてもそれは構わないのだ。
『報酬』が無くても、現状でわたしは姉さんを殺せる。
能力、メンタル共に―――十分殺せる。

「だからまあ、保険みたいなものですよ。有利な要素があって、そしてどっちにしても損するものではありませんし」

「セイバーの提案に裏が無いというのもわかるからな。確かに双方に益のある話ではある。だからこそ疑ってもいるがな」

「疑り深いですね……あなたの場合は仕方ないですけど…」


「そこで一応、この魔王化したわたしの戦闘方法について相談しておこうとおもいまして」

「いいだろう。では、いまの貴様の―――つまり、影の『魔法』についての考察を述べようか」

影の魔法。――――『魔法』。
これは、実際的にわたしが『魔法使い』と呼べるレベルにまで到達していることを表す。
現代科学では到底再現不可能の神秘を、この身に宿していることを示す。
わたしの魔法、『影』は、虚数と吸収の合わせ技。
その本質は変化していないが、端的に言ってこの魔法はわたしの劣等感の表れのようなものだ。

第虚数魔法、『魔の無力化』。

わたしの落とした影に触れると例外なく、魔に分類される全ての要素を根こそぎ吸い取る。
それが攻撃に類される魔術であれ、精神感応に類されるものであれ、―――魔術回路であれ、例外なく。
そして、その効力が及ぶのは影の上だけではない。
わたしの身体は、それこそ影のようなもの。
わたしに触れた魔術は消えて、私に触れた才能は無くなる。
魔術師の天敵。魔術師の対極。――――魔術師にとっての、まさに魔王。

「サーヴァントとは逆に、わたしの身体には一切の神秘が通用しないことになりますね」

「発動は任意か、それとも自動か。それで随分と使い勝手が変わるが」

「どうやら任意のようですよ。そうでなければ、この地の結界はとうに壊滅しています」

というか恐らく、令脈ごと崩壊していただろう。
そうなっていないのだから、やはりこれは任意なのだ

「成程な。では考察を述べようか。―――良い力だ。誇れ。憎しみを根源とする、劣等感の具現とは、また面白い物を見せてくれる」

そう言ってオディオは笑った。
わたしは笑わなかった。


《ここまで》

衛宮邸【客間】


「そろそろあいつらも帰路についたころでしょう」

「そうか。なら、いよいよだね」

いよいよ、白のアーチャーと対峙する時が来たわけだ。
と言っても、綺礼の居場所は判明していないのだから、探す手間は必要だけど。

「それでライダー。そろそろ貴方の奥の手――――もう一つの宝具について教えてもらえるかしら?」

確かにライダーは、それを切り札だと言っていた。
切り札故に、あまり使うつもりも無いとも。

「こんなイレギュラーが発生した手前、使わない訳にも行かないでしょう。切り札は切ってこそよ」

「……その宝具は、恐ろしいほど魔力を喰うよ。正直、凛でも何分持つか…」

何分持つか…?
それはつまり―――――

「…固有結界、とか?」

自身の心象風景を具現化する、魔術師でも相当に限られた者しか扱えない秘中の秘。
その点、ライダーは生前の経験が豊富だ。
魔術を扱っていたこともあるだろう。
それならば――――

「違うよ。固有結界じゃない。……そのほうがいくらか燃費が良かったくらいでね」

「……じゃあなんなのよ。説明はあるんでしょうね」

「………気は進まないけど、まあ…仕方ない、かな」

《ライダーのステータスが更新されます》

クラス:ライダー
真名:ラムザ・ベオルブ

筋力C 耐久C 敏捷D 魔力D 幸運D 宝具A++

◆スキル
・騎乗(A+)  乗り物を乗りこなす能力。A+ランクはすべての乗り物を乗りこなすことが出来る。
・対魔力(C)  魔術に対する抵抗力。魔術詠唱が二節以下のものを無効化する。
・カリスマ(C)  軍団の指揮能力、カリスマ性の高さを示す能力。複数戦闘での指揮力向上。
・軍略(A)  多人数戦闘における戦術的直感能力。自らの対軍宝具行使や、逆に相手の対軍宝具への対処に補正がつく。
・専科百般(E)  生前の経験と知識から来るスキル。ジョブチェンジ不可のため、十全に発揮できない。
・仕切り直し(D)  戦闘から離脱する能力。また、不利になった戦闘を初期状態へと戻す。


◆宝具

『怪鳥三羽・天地走破』(チョコボ・ザ・トリニティ)
所有者:ラムザ・ベオルブ  ランク:C
種別:対人宝具     レンジ:―    最大捕捉:―

個別の独立したユニットとして、チョコボを召喚する宝具。
黄チョコボ、赤チョコボ、黒チョコボの三羽から一体を選出する。
この宝具は常時発動しているものであり、チョコボは常にライダーの傍で霊体化している。
チョコボそれぞれが宝具に準ずる能力を持つため、戦況に分けて乗り換えることが重要となる。
また、個別ユニットであると言う特性上、二対一の状況を強いることが出来るのも強みの一つ。


『幻想の異端旅団』(タクティカル・ファンタズム)
所有者:ラムザ・ベオルブ  ランク:A++
種別:対軍宝具     レンジ:不定    最大捕捉:25+α人

共に旅路を歩んだ旅団を孤立ユニットとして召喚する宝具。
現実を侵食する固有結界では無く、独立したクラス無しのサーヴァントを現界させる。

召喚出来る兵士は以下の通り。
戦士系:ナイト3名、弓使い3名、シーフ2名、モンク2名、竜騎士2名、侍1名、忍者1名
魔導師系:黒魔導師2名、白魔導師2名、時魔導師1名、風水師2名、召喚師1名、アイテム師3名

召喚されるユニットは何れも無銘であり、そのため現界するにあたって必要となる魔力量も少ない。
しかしそれはあくまで通常のサーヴァントと比べての話。
全力展開した場合は、ライダー本人を含めてバーサーカー二体分以上の消費を継続して行う事となる。
リスクに対して得られるリターンは十分で、系統の違うユニットをライダーの軍略、カリスマで更に強化して運用できる上に、一体一体が強力である。
さらに固有結界ではないため範囲の指定が無く、ユニットは自由行動が可能。それぞれがジョブに合わせた宝具を持つ。
陣地攻略戦や防衛戦など、使い方によっては非常に強力な宝具。


「……何よ、これ…!」

聖杯戦争において、多対一を強いることが出来ると言うのはとても大きい。
だからこそ、チョコボを性能を知った時に感心したのだが―――

「多対一どころか、軍対個じゃない…!」

聖杯戦争において、圧倒的に優位過ぎる宝具。
宝具で展開した25人の兵士が、それぞれの宝具を携えて行動する。
しかも固有結界内ではなく、現実の地形に則ってだ。
つまり、26人同時に奇襲を掛けることが可能だということ。
しかもその一体一体が、英霊に匹敵する実力の持ち主とは――――

「これは、確かに切り札だわ…」

「だけどその分、燃費が悪い。本当にここぞと言うとき以外は、極力使わせないでくれよ」


《ここまで》

この日の夜に始まる戦闘において、勝利条件は一つ。
究極の闇たる、白のアーチャーを打倒する事。

異端の騎士にして軍略家。
救世の勇者にして無手の武道家。
子供の夢の結晶と、歴史の闇に呑まれた剣士。
そして、反転した悲劇の魔王。

少女はその想いを宝石に込めて。
少年はその信念で剣を打つ。
枯れた殺意は無私のままに。
新たな魔王は、暗い暗い影を堕とした。

拍手喝采、阿鼻叫喚。
巻き起こるは、果たして何か。

この戦いの決着は、勝つも負けるも瞬く間。
その身で誘う、戦場へ。
その身が誘う、愉悦なり。

黒く濁った悪魔の神父。
白く濁った純潔の闇。

両名は、新都――――冬木の中央公園で――――
10年前に、最後の剣戟の舞台となった彼の地で―――


その顔に笑みを湛えて待つ。

新都【中央公園】


衛宮くんたちと合流してから数時間にも満たない。
たったの数分で、私達は綺礼の居場所を確認した。
―――冬木中央公園。
まったく、いつも通りの最悪なセンスだ。
10年前の大災害。
多くの命を散らした場所で待ち構えるなどとは、正気の沙汰とは思えない。

「準備はいいかしら?」

「ああ、問題ない」

衛宮くんが返事をする。
戦闘前だというのに、少々やつれている気がするのは気のせいか?

「…調子悪そうだけど、大丈夫?」

「平気だよ。ちょっと、慣れないことをしたからさ」

「あんたがそういうなら、別にそれでもいいけど…」

ここで体調管理が出来ないやつでもないか。
サーヴァントについては、最早調子を確かめるまでもないだろう。
むしろ英気に満ち満ちている。
葛木は相変わらず、表情からはなにも分からない。
付いてきたということは、協力してはくれるのだろうが、一体彼に何が出来るというのだろう。
訊けば葛木は、魔術師でも何でもないと言う。
足手まといにならなければいいが……

「……何にせよ、ここまで来て引けないわよね。いくわよ、ライダー」

「ああ、死なば諸共だ」

不吉なことをいう……が、しかし、そのくらいの気持ちでなければ、敵うものも敵うまい。
相手はあの不条理。あの理不尽。
覚悟がなければ、ただ死ぬだけだ。


《ここまで》

私とライダー、衛宮くんとアサシンは公園の外、物陰に隠れる。
最初にアーチャーと対峙するのは、此方も同じくアーチャーだ。
アンパンマンの宝具の性質を聞いた時には唖然としたものだが、しかしこの状況で味方につけるにあたってこれほど頼りになる物は無い。
白のアーチャーの怖い所は、未知の恐怖に包まれていること。
先ずはその未知を解明して貰おう。

「……失礼だが、一つ尋ねてもいいか?」

アンパンマンを霊体化させた状態で、葛木は綺礼に話しかける。
白のアーチャーがすぐ傍にいるのに普通の会話運びが出来ると言うのは、成程葛木も只者ではないらしい。

「―――何だろう。それは、私に答えられることだろうか?」

「ああ。では訊こう。―――死ぬときは、どう有りたい」

言うが速いか。
恐らく葛木は、その拳を振るったのだろう。
わたしには視認できないほどの速度で振り抜かれたそれは、人体が描いた軌道とは思えない。
まるで、それ自体が生命を宿した――――例えるなら蛇のような、しなやかで切れのある動き。
しかしその拳は、綺礼を穿つに至らなかった。

「―――速いな」

綺礼は、葛木の腕を肘裏と脇で絡め捕る。
卓越した戦闘技能。衰えたとはいえ、その身に沁み込んだ殺人拳は簡単に抜けきらない。
その状態のまま、綺礼と葛木は同時に呟く。

「「アーチャー、やれ」」

この言葉と共に、今宵の戦争は幕を上げる。


その言葉を聞き届けて、先に動いたのはアンパンマンだったが、攻撃行動には移らない。
アンパンマンは白いアーチャーと葛木の間に割って入り、身を挺してマスターを庇う。
対する白いアーチャーは、緩慢ながら威圧的な動きで片手を上げる。

「―――――?」

その動作の直後に、白いアーチャーは首を傾げた。
まるで、起こるはずの現象が起こらなかったかのような挙動。
つまりそれは、白いアーチャーがアンパンマンを攻撃して、それが不発に終わったと言う事か。
何も見えなかったどころか、魔力の動きさえ感じなかった。
白のアーチャーの攻撃とは、放たれたことさえ知覚できないものなのか?

「へぇ、燃えないんだ。君が僕を楽しませてくれるんだね?」

表情は読めないけれど、しかし笑っているような気がした。
攻撃が通用しなかったという結果を受けての行動だとは、とてもではないが信じられない。
わたしは理性的だった狂戦士を想起して、思う。
これでは、どちらがバーサーカーか分からない。

「それっ!」

アンパンマンが掛け声と共に、低空を飛行する。
拳を構えて一直線。向かうのは勿論、白のアーチャーへだ。
白のアーチャーは避けようともせずに、その拳を受け止めた。

「本当に久しぶりだよ!僕とまともに戦ってくれる相手が現れるなんて!さあ!もっと僕を笑顔にしてよ!」

白のアーチャーの標的は、これで完全にアンパンマンへとシフトした。
葛木は綺礼と拮抗しているが、綺礼もまさか葛木が一人で来たとは思っていないだろう。
仕掛けるタイミングはいつか。
それを探っているはずである。
故に私たちは、よく考えなければならない。
アンパンマンの仕掛けが破られるよりも前に。
白いアーチャーが標的を移さないように。


《ここまで》

《ワカメの方は前半の文章が若干稚拙だったのが悔やまれる。ランサー召喚したあたりから本気出し始めたような記憶》
《照れるけど嬉しいです。今回も頑張ります》


状況は、一見拮抗しているように見えた。
それどころか、アンパンマンと葛木が優勢と感じるほどだ。
白いアーチャーの攻撃を物ともせず、葛木を守りながら戦うアンパンマン。
葛木はその奮闘を背に、綺礼と拳を弾き合う。
葛木の戦闘技能は嬉しい誤算だが、しかし拮抗しているという現状はあまり良い物とは言えない。
綺礼には預託令呪があり、その使い方を知っている。
令呪は葛木にだって宿ってはいるのだろうが、それを自身の強化に回すほどの余裕はないはずだ。
綺礼がその気になれば、いつだってこの状況は覆る。
ならばそれをしないのは、何の為か。

「……何か企んでるか、それとも令呪を渋ってるのか…」

「後者の可能性も十分高い。リン、ここはまだ様子見に徹したほうが無難だと思うよ」

「でも白のアーチャーがアンパンマンとの戦闘に熱中しているから、アクションを起こしやすい状況でもあるのよね」

白いアーチャーの性格が、戦闘を愉しむ類のものだったのは素直に儲けだ。
そういう好戦的な相手を足止めするのは、アンパンマンの宝具のお家芸だと言える。
あらゆる攻撃を無効化する身体。
それを破るために、白のアーチャーは拳の重さを加速させていく。
見当違いな対抗策が裏目に出て、大ぶりな攻撃が隙を付くる。
その隙を、しかしアンパンマンは一度も突こうしなかった。

「不味いな。戦闘がなまじ拮抗してしまったから、アーチャーもそれを崩せなくなってる」

「それは、どういうこと?」

「ここでアーチャーがあの白色を攻撃するのは簡単だ。だけどそれをしたら、あの神父も出し惜しみが出来なくなるだろう?」

……つまり、アーチャーは葛木の身を案じているのか。
令呪でブーストを掛けた言峰綺礼の殺人拳。
いかに葛木とて、神秘の欠片も無い人の身でそれを凌げるはずもない。


「……ライダー、打開策は考え付いてる?」

「まだ何とも言えない。情報不足だ。白いアーチャーの戦闘パターンが掴めない」

アンパンマンは白のアーチャーの飛び道具を無効化している。
これはアンパンマンの宝具の最大の長所でもあるが、現状ではそれがもどかしい。
アーチャークラスの所以であろう攻撃手段を、わたしたちは観測できない。

「まだ未知の領域が8割方残っている。取りあえず、肉弾戦は普通に行うみたいだけど…」

しかし、その威力の程は見当もつかない。
完全に無効化された打撃は、その余波さえも発生しない。
それは、破壊力の検討が全くできないことを意味する。

「こうしてみると、デメリットばかりが目立つわね……」

宝具としては規格外に優秀だ。
だが、あの宝具は周囲に危険度を知らせることが出来ない。
あるいは危険を感じさせないという点で、彼を象徴しているのかも知れないが……

「どちらにせよ、綺礼を何とかしないといけないのは確実…」

いくらアーチャーの戦闘パターンが分からなくても、だ。
あるいはこのまま、葛木が綺礼に勝利するという確率に賭けてみると言う選択もあるにはある。
しかし、そこまで任せるのは筋違いだろう。
わたしは彼らに、協力すると言ったのだから。


1、ライダーを行かせる
2、アサシンを行かせる
3、様子見を続行
4、二騎とも向かわせる

>>791

2

《昨日は終了宣言を失念してました。本当にごめんなさい》


ここは、アサシンに行ってもらおう。
綺礼を出し抜くにあたって、ライダーのようなタイプは相性が悪そうだ。
戦術的な意味では無くて、精神的な意味で、綺礼とライダーは対面させてはいけないと思う。
しかしその点アサシンなら―――なにも考えていないアサシンなら、一撃見舞ってあとは帰ってくるだけだ。

「アサシン。綺礼をどうにかしてきてくれる?」

「お安い御用だ。……ってあれ? マスターの方を狙うのか? あの白いの、アーチャーなんだよな?」

確かに、単独行動を持つアーチャーからしてみれば、マスターなど取るに足らないかもしれない。
だが…いや、だからこそ。そこに付け入る隙が生じる。
アンパンマンが現在攻めあぐねているのは状況が拮抗しているからで、その原因は葛木と言峰の戦闘にあるのだ。
逆に言えば、そこさえクリアしてしまえばアンパンマンは存分にその拳を振るえると言う事。

「この拮抗状態を崩したいの。それにはあなたが一番適役よ」

「とにかくあの神父をやっつければいいんだな? わかった、任しとけ!」

宣言と動作がほぼ同時。
承諾した時にはすでに、アサシンは草葉の陰から飛び出していた。

「遠坂、俺も行くぞ」

「…は? 何言ってんのよ、駄目に決まってるじゃない」

「俺だって戦える。アサシンに任せっきり、こんなところでぐずぐずしてるなんて、俺は嫌だ」

「待ちなさいっての!」

何をふざけたことを。
戦える?―――強化の魔術で戦うつもりか? あの綺礼と?


「強化じゃない。――――――投影(トレース)、開始(オン)」

魔力――――エーテルが彼の手の中に集まって行くのが解る。
だけど、それは、密度が異常だ。
一体、何をするつもりだ? あの量の魔力を一点に固定するなど、素人ではとても―――

「―――――創造理念、鑑定。―――――基本骨子、想定」

次々と、一から十まで、存在が構築されていく。
ただのエーテル塊ではない。それは、魔力で作ったとは思えない程精巧な一品。

「―――――――――――仮定完了(オールカット)。是、即無也(クリア・ゼロ)」

その手には、剣が握られていた。
扱いやすさを追求した構造の両手剣。
これ――――バーサーカーが所有していたもの。

再現どころでは無い。
その剣は、どこから見ても本物だった。
投影魔術――――わたしの知る技術と、衛宮くんが行った投影は、果たして同一のものなのか?
そう疑問を呈さずにはいられないほど、この魔術は異常だった。
まるで、最初からその手にあったかのように。
さも自然に、違和感など無く―――――だからこそ、異常なのだけれど。

「―――――投影、魔術……なの?」

「…アサシンにやり方を教わったんだ。触りだけな。そこから先は自己流だけど……上手く行ってるか?」

そんな事は、わたしにだって分からない。
ここまでの理不尽を見るのは、白いアーチャー以来だろう。
あの怪物に匹敵するほど、衛宮士郎の投影魔術は常軌を逸している。


《ここまで》

アサシンが言峰綺礼のもとに到達するまで、一秒と掛からない。
公園の中心辺りで戦闘をしている相手に、その外周にある草葉の影から仕掛けたのだ。
この速さは規格外と言っていい。
それでも彼の敏捷がCランクなのは、単にその見境の無さが理由だろう。
猪突猛進、一心不乱。
全力で突っ込んだアサシンは、その速度を乗せた拳を人間相手に打ち出した。

「うらああああああ!…あっ、やべ!」

途中で気付いたのか、速度を緩めようとするが、意味は無い。
緩めようとしたところでまったく緩んでいなかったし、なによりその状態で―――拳は言峰を穿たなかったのだから。

「…って避けんのかよ!」

「あれだけ叫べば察知も容易い。流石に素では避けれなかっただろうがな」

言峰綺麗はアサシンの攻撃を、令呪一画で避けきった。
いくら令呪とはいえ、いくらアサシンクラスとはいえ、サーヴァントの全力。
避けることが出来たのは、もともと言峰綺礼が誇るポテンシャル故。

「条件は揃った。退くぞ、アーチャー!」

アサシンの登場に合わせて、言峰から放たれた言葉。
それを、白のアーチャーは全く耳に入れていない。
戦闘に集中していて、聞く耳を持たない。

「させるかって!ぜいやぁ!」

放たれるのは、二つの拳。
アサシンと葛木は、意外なことに息の合った連係を見せる。
葛木はその特異な拳を撓らせて顔へ、アサシンは腰を落としての足払い。

言峰綺麗は、再び令呪を一画切ってそれを躱して―――――

「………令呪を以て命ずる。退くぞ、アーチャー」

計三画の令呪。
今宵の戦闘で、彼女達が得られて成果は―――たったそれだけ。

新都【路地裏】


令呪を使ってアーチャーを引き寄せ、瞬間移動で戦場から逃れた。
戦闘を求めるアーチャーの邪魔をして、只で済むことは無い。
場合によっては何画残りの5画も切ることになるかと、身構える。
アーチャーの宝具は、一度認識した相手ならばどこからでも焼き払える遠距離戦用の代物。
発動時には一度に複数攻撃するのが基本であり、今回はライダー、アサシン、そして今代のアーチャーという三陣営を同時に落とせる絶好の機会である。
彼の求める望みは、確かにアーチャーが目覚めさせたものだが――――必ずしもアーチャーに合わせる必要は無い。
究極の闇を5画の令呪で黙らせてでも、言峰綺礼は聖杯を求める気概だった。

「アーチャー、宝具でアサシンとライダー…そしてあのアーチャーを焼き払え」

「断る……だけど、お礼は言うよ。流石は綺礼。僕を飽きさせないよね」

一瞬、言峰はアーチャーが何を言っているのか分からなかった。
そして振り返る。アーチャーの視線の先、そこに居たのは――――


「こんにちは、言峰綺礼さん。このたびはどうも、お疲れ様です」


二騎のサーヴァントと、一人の少女。
一騎は良く知る白髪の剣士、もう一騎はバーサーカーだったか。
しかしそのなかで最も脅威だったのはその何れでもない。

その少女にこそ、言峰は戦慄した。

「はは!あはははは!いいよ!この僕が抗うことも出来ないなんて!なんて楽しいんだ!」

アーチャーの足元には、影が現れていた。
ズブズブと埋没しながらも、化物は前進を続ける。

「惜しいなぁ、本当に!君たちなら僕をもっと楽しませることが出来るのに!」

「生憎わたしに、そんなつもりはないんですよ。『魔法』じゃなかっただけ手加減してるんですから」

「これでまだ本気じゃないなんて!あははは!本当に楽しいよ、この世界は!」

最早顔の半分まで影に沈んでなお、アーチャーは笑っていた。


「これだから戦いは―――――――――――――」

やめられない。


《ここまでー》


「………かっ…」

薄い刃が喉を突く。
言峰綺礼は為すすべも無く、それこそ令呪さえ使う暇も無く。
セイバーの一太刀によって、身体から全ての力を失った。

「主君を裏切るのは、これにて二度目。もはや慣れたものでござる」

剣士は血の一滴さえ付着していない刀を重ねて払い、鞘へと納める。
これが本来の、人間と英霊が持つ差だ。

「……その言葉は、聞き捨てならんぞ」

「心配なさるな。三度目の正直という言葉もござる」

「それでは、これからよろしくお願いしますね。セイバーさん」

間桐桜が白のアーチャーを打倒して、得られる報酬。
それは彼女にもセイバーにも、双方に益のある話。
つまり、間桐桜がセイバーの新たなマスターとなること。
大聖杯の接続化にある現在、サーヴァントを何体従えようが魔力消費を気にする必要は無い。
生前に一度幕府を裏切り、そして今一度マスターを斬った。
言葉通り、三度目の正直。セイバーは、間桐桜の手足となる。

「これで、お爺様だろうが姉さんだろうが敵じゃないですね」

「セイバーなど居なくても、それは同じだったと思うがな」

間桐桜は言峰綺礼の死体を『処理』して、セイバーに手を向ける。
二騎のサーヴァントを使役するという、それだけで十分厄介なこと。
その上マスターが、魔王化した間桐桜であること。
水面下で進行する最悪の事態に、遠坂凛は気付いていない。

「―――――告げる。――汝の身は我の下に、我が命運は汝の剣に。――」

詠唱を始めた桜は、まるで無垢な子供のよう。
その言の葉に穢れは無く、しかし彼女にとっては、それこそが異常。

「――――聖杯のよるべに従い、この意、この理に従うのなら――」

セイバーはそれを聞き届ける。
目を瞑り、無言のまま――――まるで小鳥のさえずりに傾聴するかの如く。

「――――ならばこの命運、汝が剣に預けよう。―――」


「委細承知。セイバーの名に懸け、誓いを受けさせて頂こう」

衛宮邸【居間】


「……ハァ…結局逃がしちゃったわね」

「そうだね…あそこで退くと言う選択は、およそ有り得ないと踏んでいたんだけど」

何の成果も得ていないのに、令呪まで使って撤退するなんてだれが予想できるか。
あれから少し探しても見つからなかったので、わたしと衛宮くんは衛宮邸へと舞い戻った。
葛木とアーチャーは引き続き探索を行うそうだ。

「……それにしても、わたしたちって役に立ったかしら」

「確実に要らなかったよね」

ハッキリ言う……。
やはり慎重過ぎただろうか。

「でも、そりゃ慎重にもなるでしょ。あんな得体のしれないもの相手取ってるわけだし」

特攻を掛けれるのは反則染みた宝具を持つアンパンマンと、あとは何も考えてないアサシンくらいだ。
……というか、アンパンマンが報われない。
わたし達に宝具の情報を渡した上に、明確な成果も得られないなんて…。

「……そこは今度謝ろうか」

「もしくは、わたしたちで成果を出すけよね。……現状では無謀に近いけれど…」


《ここまで》

クラス:アーチャー(四次)
真名:ン・ダグバ・ゼバ

筋力A 耐久A 敏捷B 魔力A 幸運C 宝具A++

◆スキル
・対魔力(C)  魔力に対する抵抗力。魔術詠唱が二節以下のものを無効化する。
・単独行動(EX)  魔力供給無しでも長時間現界していられる能力。EXランクではマスター不在でも行動できるようになる。
・変化(A)  文字通り「変身」する。人間体から究極体まで、任意で変身可能。
・戦闘続行(EX)  名称通り戦闘を続行する為の能力。決定的な致命傷を受けない限り生き延び、瀕死の傷を負ってなお戦闘可能。
・魔力放出【炎】(A) 集中した魔力を炎へと変換し、瞬間的に放出する事によって攻撃することが可能。
・怪力(A)  魔物、魔獣のみが持つ攻撃特性で、一時的に筋力を増幅させる。


◆宝具

『究極の闇』(キュグキョブン・ジャリ)
所有者:ン・ダグバ・ゼバ  ランク:A++
種別:対軍宝具     レンジ:制限なし    最大捕捉:1000人

彼のプラズマ発火能力を宝具としたもの。
一度認識した相手であれば、距離や弊社物に干渉されずに発火させることが出来る。
これは魔力放出【炎】とは異なり、体内物質の分子・原子を分解・再構成することで発生する現象であるため、外的な防御は無効。
しかし宝具として昇華された反動か、マスターには多分な魔力消費が要求される。
ステータスの高さに加え、優秀な攻撃スキルを併せ持っているため、魔力消費というデメリットがあるこの宝具を使う場面は限られてしまう。
なお、使用する際は捕捉した攻撃対象1だろうが1000だろうが魔力消費に差が無いため、終盤における切り札となる宝具。


《ステまとめるのは楽しいけどい時間がかかる。今日はここまで。》

衛宮邸【客間】


そして翌朝である。
前日はあのアーチャーと向き合うという精神的なストレスで参った。
この疲弊したメンタルを癒す方法――――もちろん睡眠である。

「……リン。もうすぐ10時だけど」

「…………ぅ……」

「…ごめん、聞こえなかった。なに?」

「……起きたら……死ぬ…」

この微睡を振り切って立ち上がろうものなら、瞬く間に崩れ落ちてしまうだろう。
そうして力なく倒れたわたしは受け身を取ることも出来ず、最悪の場合は頭部強打で即死である。
嗚呼、なんと恐ろしきことか。くわばらくわばら。

「……死なないよ………脳内で言い訳するな」

「…あんで言い訳してるってわかんのよぉ……」

「かれこれ何回目だと思ってるんだよ。もう大体思考は読めるって。……サーヴァントになんてこと学習させてるんだ、君は」

むしろ何故学習してしまったのだろうか。
別に放置しておいてくれてれば良いのに。
そうしたらわたしもライダーも両方ハッピーじゃないか。
うん。結論出た。
わたしをこのまま寝かせておくことこそが、一番幸せな方法だ。

「…すぅ……」

「うーん……起きないと後悔するのはリンなんだけどなぁ…」


1、ライダーは布団を引きはがした
2、ライダーはもう諦めた

>>826

2

「……もう諦めよう」

リンは、ここらで一回後悔した方が今後のためだろう。
取り立てて起きる理由が(生活習慣意外に)無い状況だし、これを教訓として欲しい。
有効な作用が見られればいいが、何にせよ理不尽な叱責は避けられないので、それを含めた諦めである。

「となると、あと二時間は暇だな……僕個人で出来ることなんて限られてるし…」

出来ることと言ったら、アサシンやそのマスターと交流する事くらいだ。
そう考えると、案外悪くない時間かも知れない。
その二人と会話ないし作戦会議を行うというのは、それなりに実のある行動だろう。

「そうだな……じゃあ――――」


1、アサシンと会話
2、アサシンのマスターと会話

>>829

1

衛宮邸【道場】


僕は道場に足を運ぶ。
快活な、それでいて緊張感のある掛け声が聞こえてきたからだ。
アサシンに用―――と言うほどでもないが、少しだけ話がしてみたかった。
自分が生きた時代には、既に伝説だった人物。
参考になる話も、多分にあることだろう。

「アサシン。ちょっといいかな」

「―――ん? ああ、ライダーか。今日は早いな」

「いや、リンはまだ寝てるよ」

「そうなのか? なんだよ、あいつ案外だらしないのな。あっはははは!」

言われている。
こういう事になるから、早起きはした方がいいと思うのだが。
…あのマスターは聞き入れてくれそうもない。
一応フォローは入れておこう。

「リンがだらしないのは睡眠が絡んだ時だけ…だと思うよ、たぶん」

「なんか自信なさそうだなぁ。まあそうだよな、あいつ結構抜けてるもんな」

散々な言われようである。
……本人には言わないでおこう。僕が酷い目に遭ってしまう。

《会話内容、↓一~↓三》
《今日はここまで》

「アサシン、これからの戦況について意見を聞いてもいいかな」

「別に構わないけど、そういうのってお前のほうが得意だとおもうぜ?」

「状況判断は得意不得意じゃないよ。多くの意見を聞いて吟味しなくちゃ始まらない」

個人的な印象だけで結論を急ぐと碌なことにならないのは、生前に嫌と言うほど思い知っている。
全員の意見を聞いて、全ジョブの役割を考察し、それから戦略を練っても遅くは無いのだ。
そこへいくと、アサシンの経験からくる戦士としての意見は是非とも聞いておきたい。

「そうだなぁ……取りあえず、一人だけ際立って強い敵がいるっていうのはポイントだよな」

敵味方の何れにせよ、一人だけが隔絶した強さをもっている場合にそのほかのユニットが取る行動は大きく分けて二つ。
その一騎を袋叩きにするか、あるいは完全に無視するかだ。
昨日は前者を選択した僕達だが、しかし今思えば後者を選ぶのも間違いでは無かったかもしれない。
白のアーチャーはイレギュラー、そういう情報が入ってきていたのだから。
聖杯の起動には英霊の魂が6つ必要だが、だからこそ―――イレギュラーを相手にする必要は無い。

「オレの心情を抜きにものを言わせてもらうと、アーチャーの二人はどっちもヤバい。正直勝てると思えないって」

「そうだよね……」

片や得体の知れぬ白い闇。片や特定の攻撃以外効かないヒーロー。
どちらも相手にしたくない。
将を射んと欲すれば先ず馬を射よとは言うが、この場合はその馬が堅牢な要塞であり、更に単独行動スキルを持っている。
将を射たところで、すぐに堕ちる要塞ではないということ。


「ああ、あと戦況と言えば、シロウが剣の投影をマスターしたぜ。頭の上に☆ついてる」

☆が付いているというのは冗談だとしても、それは少々意外だった。
投影なんて、それこそ神代の技法。現代の魔術師が物に出来るとは。

「しかも何かオレの知ってる投影と違っててさ。出したものがいつまでも消えないんだ」

「投影したものが消えない? …この時代の魔術で、それが可能なのか?」

それはつまり、無から有を作り出しているに等しい。
物理法則を、軽く飛び越えているじゃないか。
確か魔法の定義とは、『現代の科学力で再現不可能な魔術』だったはずだ。
それならば、彼の投影は魔法と言っていいんじゃないか?

「……それとも、『剣を打つ』という結果が魔術ってことなのか…それは、随分と無理のある解釈だぞ…」

例え素材が有ろうと無かろうと関係なく、結果だけ見れば。
『剣を造った』という結果だけ見れば、それは現代の科学力でも十分に可能だと?

「いやはや、オレの宝具まで投影できるとはな。……結局、ジョブ縛りで使えなかったけど」

「そりゃあ、モンクなら仕方な……待ってアサシン。いま、『宝具を投影出来た』って言った?」

「ん? おう、言ったぜ。それがどうかしたか?」

「それは君から見て、どんな出来だったの?」

「いやもう完璧だな。本物かと思ったくらいだ」

宝具の、投影?
アサシンが本物と見まがうほどの、そんな完成度の宝具を?
……いよいよ持ってアサシンのマスター―――エミヤシロウの魔術に疑念が沸く。
これは後で、リンと相談した方がいいかもしれない。

《ここまで》

ここからは個人的な話。
今回の聖杯戦争には全く関係の無い個人的な興味。
僕はアサシンに、一つ訊きたいことがあった。

「アサシンが共に旅をした仲間の話を聞かせてほしい」

「え? そんなの聞いてどうするんだ?」

「英霊の話を聞きたいと思うのに理由がいるかい? 仲間の話が聞きたいのは、気になったからだよ」

僕も、生前は旅団を率いて旅をした身だ。
だけどその在り方は、果たして仲間と言えただろうか。
兵士には賃金を渡していたし、解雇と雇用も繰り返した。
本当に仲間と呼べたのは数人だけで、あとは傭兵の寄せ集めみたいなものだった。
だからこそ訊きたい。
人望で集めた仲間との旅路を。彼らと築いた輝きの世界を。

「仲間かぁ……いきなり言われてもな…王女ばっかりだったってのは知ってるよな」

「お、王女ばっかりって……」

確か、四人中二人が王女だったか。
その割合で見ると確かに凄いが、王女ばっかりという言い方はしっくりこない。
それに、男性が一人いたような…

「あ、そっか。男ってことになってんだな、ファリスの奴。実はあいつ女だぞ。タイクーン王国第一王女だ」

衝撃の真実をさらっと明かされた。
しかも、確かファリス・シェルヴィッツは海賊だったはずだが…?

「王女が…なんで海賊を?」

「なんか子供のころに海に落ちたらしくてな、海賊に助けられてそのまま国には戻らず成長したんだってよ」

だからなんでそんなに軽いノリなんだ。
それって凄く重要な真実だと思うけど。


「じゃあライダー。次はお前の番な。聞かせてくれよ、お前の仲間の話」

「……アサシンみたいに新事実を提示したりとかは、たぶん出来ないけど…」

ゾディアックブレイブが怪物だったという話でもしたらいいのか?
それを打倒するべく、僕は異端者の汚名を被ってまで戦ったのだと。
……今言うことではないか。
このことについては、まだリンにだって話していない。

「じゃあ、そうだな……僕達は当時、異端者として追われる身だったんだけど…」

「おい、マジかよ。何やったんだお前」

「退くなよ……僕の信念に則った行動をしただけだ。それで、教会を敵に回した」

「なんだそれ!カッコいいじゃん!」

「退いたり目を輝かせたり、忙しい人だなぁ……」

「……ん? それで、仲間の話はいつになるんだ?」

「いまからその話をするところだよっ…!」

僕はアサシンを目で黙らせて、落ち着かせる。
何と言うか、本当に子どもみたいな人だ。

「協会から認定を受けた聖騎士も、同じような経緯から異端者の烙印を押されてしまった。僕と彼女の境遇は、かけ離れているようでよく似ていた」

敬愛し、忠誠を誓っていた王女から引きはがされた騎士。
彼女の芯はそれでもなお、強くてまっすぐで、可憐だった。


―――――今さら疑うものか!―――私はおまえを信じる!!


あの時に言われた言葉に、僕は何度救われたことか。


《ここまで》

「なるほど。いい奴だな、そいつ。友達になれそうだ」

それはどうだろうか。
アサシンと彼女では性格に差が有り過ぎて、噛み合わないと思う。
というか、彼女が苦労しっぱなしの関係になりそうなので、僕としては是非とも遠慮して欲しいところだ。

「まあ、彼女は女性らしさと男らしさを絶妙に兼ね備えていたからね」

「やっぱり一人はいるもんだな、そういう奴。もしかして男装とかしてた?」

「いや流石にそこまでは……いかにも騎士っていう格好だったよ」

僕の我儘でアイテム師になって貰ったときさえ、あの鎧は脱いでいなかった。
相当のこだわりがあったのだろう。
僕としては、白魔導師の格好をした彼女も少しだけ見たかったりもしたが、高望みは良くない。
どこかちぐはぐで、それもまたかわいらしかったから騎士鎧のままでOKをしたのだったか。
ここまで聞くと僕の趣味で彼女を着替えさせたかったみたいだから捕捉を入れておこう。
衣装はジョブごとに最も適した機能性を持ち、またユニットの役柄を仲間に知らる意味合いもある。
だからジョブを変える場合は、僕のように旅団の筆頭である場合を除いて衣装も変えるのが正しい。
決して、彼女のコスプレが見たかったわけでは無い。決してだ。

「…彼女の話はもういいよ……要約すると、あの時代としては仲間に恵まれていた方じゃないかな」

全幅の信頼を寄せることが出来る仲間がいたこと。
僕が親友に勝る、唯一の誉れだ。
彼は歴史の勝者で、英雄王とまで呼ばれた騎士。
しかしそれは、誰かを利用して成りあがった地位だ。
だったら僕は異端者でいい。
この思いは、当時から何も変わっていない。

衛宮邸【客間】


「……ぅん…………――――――――うん? いま何時…?」

私は布団の中でもぞもぞと動いて、時計を見―――っ…

「う、嘘でしょ……午後…2時……ですって…?」

これは酷い。
わたしでも流石にこれは酷いと思う。
独り暮らしとときはまだ自制が効いて、休日であれ少なくとも10時には起きていた。
ライダーが来てからは、彼に目覚まし役を任せきってしまっている。
その結果がこれだ。

「…………」

唖然である。言葉もなかった。
起こしてよライダー―――などとは口が裂けても言えないだろう。
きっとわたしは、呆れられたのだ。
まさかこんなことで、サーヴァントの関係が悪化するなんて……

「う……うぅ…」

わたしは布団を押し上げると、その場で膝を抱え込む。
なんだか、無性に情けなかった。
自分勝手な我儘を押し付けられる英霊の気持ちを、わたしは考えていなかったから。
彼も生前はその信念を胸に戦った騎士。
小娘の子守りなど、その矜持を汚すものでしかない。
サーヴァントとの良好な関係もなにも、それはライダーがやさしかっただけの話だった。
わたしからは、彼に何もしていない。

それのタイミングで、ライダーが扉を開けて部屋に入って来た。

「リン、流石にもう起きた方が――――って起きてる! ていうか泣いてる!? 何で!?」

「ごめん……ごめんね…ライダー…わたし…わたし…!」

「あ、謝ってる! 寝過ごしたくらいで後悔し過ぎだよ……と思ったけどこの時間は酷い!」


《ここまで》

衛宮邸【居間】


「…………」

「拗ねないでよ…」

だってライダーが起こしてくれないし。
そりゃわたしにだって非はあるけど、それを認めさせるためだけに戦争中の貴重な時間を使うだなんて。
だがしかし、どんなに文句を思いついても口には出来ない。
今回ばかりは客観的に見て明らかにわたしが悪いのだから、ここでごねたらわたしの評価がエンゼルフォールだ。
言いたいことは無いでもないが、言ったら負け。
……反省していないわけじゃないけど、女の子はそう簡単には素直になれないのだ。

「…………」

だから無言である。
モンクはないけど、認めたくも無い。
それを示すための無様な抵抗だった。
ライダーは困った顔をして、此方をことあるごとに伺っているが―――わたしは無言である。

「リン……理不尽すぎるよ」

「…………」

もっともな感想だった。
ぐうの音も出ません。

「………悪かったわよ、わたしが子供でした」

「…やっぱりまだ怒ってるよね?」

「怒ってない!」


「まあ、取りあえず切り替えていこうか。僕がアサシンと交流して気になったことを報告しようと思う」

「気になったこと?」

というか、わたしが寝ている間にライダーはしっかり仕事をしていた。
ますますわたしの立つ瀬がない。

「アサシンのマスター、エミヤシロウのことだ」

「衛宮くん…? 彼がどうかしたの?」

「彼が、というよりは、彼の魔術が、だね。彼の投影は、常軌を逸している」

「それは……わたしもそう思ったけど…」

無から有を生み出す魔術。
発火や発熱も、そのカテゴリに分類されるのだろうが、投影魔術は訳が違う。
あの精度で。あの現実味で。
たとえ数秒間だけだとしても、この世に形を成すことがどれほど難しいことか――――

「違うんだ、リン。数秒なんかじゃない。―――彼の投影は、消えない」

「――――消えない?」

「彼の投影は抑止力を無視して形成されている。完全に独立した物質として、この世界に固定される。概念としては、発生ではなく『創造』だろう」

炎や熱は、時間が経てば自然と消える。
投影も同じように、時間と共に消滅する。
あるべきでは無い物として、この世界から爪弾きにされる。
それがこの世界に発生した魔術だ。発生しただけで、固定されない。
しかし――――新たに物質を『創り出した』ならば、話は別。
しかし、物質の創造など…―――――それは、魔術の域では無い。

「まさか…ね…」


《ここまで》

衛宮邸【居間】


ここまでを踏まえて、では今日の行動を考えよう。
と言っても既に時刻は午後の三時を回っている。
限られた時間で出来そうなこと…いま思いつく限りだと……

まず、衛宮くんやアサシンを交えての戦略会議。
だがこれについてはもう議論し尽くしたといっていい。
今更会議をしたところで、これまでのお浚いになるのが落ちかも知れない。
衛宮くんが今日一日で何かアクションを起こしていたのなら話は別だが、しかし彼に出来ることは限られる。
下手に動くと命が無い状況だ。台所に立っているところを見るに、そう言った情報は期待できまい。

そして次、イリヤスフィールに会いに行く。
出来ればこの選択は取りたくない。
あの少女は危険だ。単純な危険性では無く、混濁した危うさがある。
簡単に殺すと言える危うさ。簡単に標的を見逃す危うさ。
相反しているようで、その癖実に分かりやすい取り合わせだ。
その思考は、見た目通りのお子様か。
ならば彼女は何をしでかすか分からないというより、いつ動くか分からないというほうが近い。
およそ取りそうな行動パターンは決まっているが、それを実行に移すタイミングが予測できないのだ。

そして最後の選択肢。索敵だ。
これはある意味で最も試行するべき項目であり、またある意味では絶対に選ぶべきでは無い項目だ。
現状の打破を求めるなら、究極的にはこれを選択する他無い。
なにも今現在に限った話ではない。これは戦争なのだ。
戦わなければ、終わるものも終わらない。
だがしかし、圧倒的な戦力差を実感しているいま、果たして闇雲に剣を取ることが正しいと言えるか?
勝機の無い戦場に身を投げ出すことは勇気では無い。
もはや無謀ですらなく、それは体の良い自殺行為ではないか。

1、作戦会議
2、イリヤに会う
3、索敵

>>866

《少ないけどここまで》

2

そのことをライダーに話すと、

「そうだね。この予想はむしろランサー以外が行いそうなことだ。じゃあ次は、彼女たちが取りそうな行動を言おう」

わたしたちとの同盟手結を拒む理由として、イリヤスフィールが述べるであろうそれは―――

「彼女はこう言う。『相手が誰でも関係ない。ランサー一人で、わたしには十分』」

イリヤスフィールがそのセリフを言い放つ場面は、簡単に想像できた。
セリフに対してランサーがどう出るかが鍵なのだが、しかしわたしはランサーについてよく分かっていない。
第一印象では、快活というか天真爛漫というか、お転婆な町娘というイメージだったが。
……この印象がそのまま正解なら、ランサーがイリヤスフィールに煽てられてしまうというケースは十分にあり得るだろう。

「まいったわね……そうなったら取り付く島もないじゃない」

「だから、話の展開を誘導するのが今回のリンの仕事だ。脅威を交渉材料にするんじゃなくて、利益を提示することが重要かな」

「白のアーチャーを打倒するのが目的なのに、その恐ろしさを隠しながら交渉する……って、いうほど簡単じゃないわよ?」

こちらの真意を隠して、尚且つ相手に利益がある提案をしなければならない。
この場合は交渉相手がイリヤスフィールであることが、難易度を跳ね上げていると言える。
彼女が欲するものとは何だろうか。
戦力は、求めていないだろう。
仲間と呼べるものも、いまの彼女には事足りている。
魔術師として求めるものはなく、人として求めるものもない。
これのどこに、果たして交渉の余地があるのか。

「そう難しく考えなくてもいいんじゃない? 極論、アサシンのマスターに交渉を担当して貰ってもいいだろう」

それは自殺行為なんじゃないかしら。
ライダーの提案に一抹の不安を覚えたのは、これが初めてだった。


≪ここまで≫

うん、酉バレしちゃったぜ☆
まあいいや、これからは文章で本人証明とさせて頂く

【商店街】


「で、結局俺を連れてきたわけか」

「そうよ、悪い? わたしじゃイリヤとの交渉はできないわ」

白いアーチャーを打破するまでの間とはいえ、信用できないマスターに共闘を申し込むというのは気が引ける。
その点衛宮くんは何故かイリヤスフィールに半ば同情しているみたいだし、ここは一任してしまおう。
他ならぬライダーの提案だ、無下にはしたくない。

「でも、葛木達に話をしておかなくていいのか?」

「別にいいでしょう。あのアーチャーなら、仲間が増えることを歓迎してくれると思うし」

仲間というよりは、一時的な共同戦線というか、停戦協定のようなものだ。
現状アーチャー陣営との関係も似たようなものであり、ならば文句を言われる筋合いもなかろう。
なにより、白のアーチャーを打倒できるならそれで構わないのだから。
そのあとは後腐れなく、正々堂々と相対する心積りである。

「衛宮くん、あなただって例外じゃないのよ。時期がきたら容赦はしない」

「……ああ、こっちこそ」

数秒の沈黙は、決意の時間だったのか。
鋭い目付きと低い声音で、彼は避けようのない決裂を容認する。
容認というより、それは覚悟だったのかもしれない。
わたしと戦う覚悟。わたしを打ち負かす覚悟。わたしを殺す覚悟。

「……ごちゃごちゃ考えるのはここまで。行くわよ、衛宮くん」

わたしは考えることを止めて、公園の方へと足を向けた。

白銀の雪を連想させる、小さな少女。
澄んだ空を想起させる、朗らかな少女。
二人は戯れに時を過ごす。

ランサーが召喚に応えたのは、今から二ヶ月前。
雪の降りやまぬ辺境、冬の城にて彼女は第二の生を受ける。
マスターは人造の少女、イリヤスフィール・フォン・アインツベルン。
召喚方法はしっかりと手順に則った触媒召喚だったが、相性は良好だと自負している。
アインツベルンの当主が望んだサーヴァントは、もっと位の高い大英雄だったのだろう。
希望した触媒が手に入らず、ランサーは否応なしに呼ばれた英霊。
だからあからさまに邪険にされたが、しかしイリヤはそうではなかった。
それ以前に、ランサーを使い魔の類とすら思っていない。
まるで友達のように。姉のように。
彼女はランサーを慕い、ランサーは彼女を守ろうと誓った。

「ねえランサー。ランサーは、わたしといて楽しい?」

いつのことだったか、イリヤはランサーにそんなことを問うた。
サーヴァントとマスターの間には、魔力のパスと―――あとは最低限の信頼関係があればいい。
だからそもそも、『楽しいか』などという質問は意味を持たないものであり、サーヴァントによっては憤怒することもあろう。
戦争に生きながら―――戦争に生きたからこそ、戦争を嫌う者もいる。
マスターとサーヴァントは言うなれば、国と兵隊の関係なのだから。
その質問は、『戦争は楽しいか』と問われているに等しい。そう解釈することも、出来なくは無いのだ。
だが、その反面。
ランサーのように、信頼関係を重んじるサーヴァントも居る。
そんな英霊が、少女の質問を曲解する筈もない。
彼女はそのとき、素直に答えた。
いつもと変わらぬ調子で。いつもと変わらぬ言葉で。

「モチのロンよ!決まってるじゃない!」

胸を張って、声を張って―――堂々と言い切る。
誰かと共にいることは楽しいことだと、その考えに疑いもなく。

≪ここまで≫

【商店街・公園】


俺はイリヤと対峙する。
もっとも、向こうには対峙なんて心構えは無いだろう。
昼間のイリヤは、戦おうとしない。遠坂の言っていたことは本当のようだ。
もちろん俺には、夜のイリヤが戦う理由さえも見当が付かないのだが、それは一先ず置いておくとして。
本題を切り出す。
イレギュラーなサーヴァントたる、白のアーチャーのことを。
しかし、俺が想像していたような反応―――つまり驚くとか、そういうリアクションを、イリヤは取りはしなかった。

「しってるわ。サーヴァントの気配が8つあったのは感じていたもの」

やはりイリヤはマスターとして規格外らしい。
あの遠坂でさえ、サーヴァントの残数までは図り知れていなかった。
ここで俺は遠坂の方に話を振る。

「知っているなら話ははやいじゃないか。遠坂、さっそくイリヤを――――」

「ちょっといいかしら、イリヤ。――感じて『いた』っていうのは、どういうこと?」

それは―――言葉の綾ではないのか?
幼いが故の言い間違いもあるだろうし、そもそも言語からして慣れていないのだから――

「まさかとは思うけど……既にどこかの陣営が脱落しているの?」

「――――そうよ。あなたたちのいう『白のアーチャー』は脱落したわ。倒したのはたぶん、マキリの杯」

イリヤが告げる一言。
それは驚愕すべき事実であるとともに、喜ばしい報であるはずだった。
しかし遠坂の表情は依然として固く、何より悲壮だった。


わたしはイリヤの話を聞いて―――もっと具体的に言うなら、『マキリの杯』という単語を聞いて確信した。
アインツベルンのホムンクルスであるこの少女の魔術回路は、見れば見るほど不可解で奇妙だ。
まるで、人外にしか為せない異端を背負うための量であり編成。

「……イリヤ…あなたが――――聖杯の器なの?」

突拍子もない。
だが、アインツベルンの魔術師ならば技術的にも道徳的にも、可能だろう。
自立する聖杯。なるほどそれは効率がいい。施行する価値はあるかもしれない。

「へぇ? よくわかったね、リン。見直しちゃった」

だからと言って、実際にやるとなると話は違う。
わたしの目の前で明朗な微笑みを浮かべている少女こそが、此度奪い合われる聖杯そのものなのだ。

「そうよ、わたしが小聖杯。わたしはこの戦争で使われるために造られた」

実感もへったくれもない。
わたしの脳がシグナルを放つ。道徳的な拒絶を。文化的な拒絶を。本能的な拒絶を。

「もちろん、役目が終わったらわたしは死ぬけど…だからこそ今を楽しんでおきたいの」

人の身でありながら人を争奪するという行為。
それを下劣と感じるようでは、まだ魔術師として未熟だろうか。
心の贅肉が捨てきれていないだろうか。
わかっている。この気持ちは魔術師としては恥ずべきものだ。
わたしはわたしの中のナニカを、心の奥に終おうとして――――その時、衛宮士郎の声を聞いた。

「なんでさ。そんなのは駄目だ。お前がその運命を受け入れていようと関係ない。俺はお前を死なせないぞ」

その声ははっきりと断じていた。間違っているのは魔術師の常識だと。
その目はしっかりと見据えていた。救うべき少女が、薄く湛えた涙を。


「え?―――シロウ、なに言ってるの?」

涙といっても、水滴が頬を伝っているわけでは無い。
ともすればそれは、生理現象で片付く程度の薄い薄い涙液だったかもしれない。
例えそうでも、衛宮士郎は変わらずあの台詞を言い放っただろう。
もしイリヤが泣いていなかったとしても、その声音は十分に悲劇を感じさせるに足りていた。
わたしでさえ、それは感じ取ったのだから……衛宮士郎が見逃すはずもなかった。

「助けるっていったんだ。この言い方が気に入らないなら、ただのお節介とでも思ってくれ。とにかく、お前は死なせない」

「そんなの、無茶だよ。わたしはこの戦争のために生まれてきた。だから例え聖杯を使わなくったって、わたしの寿命は――」

「だったら聖杯を使って、イリヤの延命を望めばいい。それなら誰にも迷惑は掛からない」

「それは、駄目よ…だって、アインツベルンには悲願があって…」

返すイリヤの声量は、もはや聞き取れないほどに小さい。
まっすぐな言葉と眼差しに、たじろぐのも無理はないが――――
わたしはその光景を見て、押し黙るしか無い。
なぜなら、衛宮士郎が救うべき対象は自動的にもう一つ追加されてしまったのだから。
『マキリの杯』。
その言葉が表す意味を、流石のわたしでさえ見落とすことは無かった。
見落とすことは―――出来なかった。
これを士郎が知れば、今と同じようなことをいうのだろう。
イリヤが特別なわけでは無い。ただ単に、衛宮士郎に見境が無いだけだ。
ならばその見境の無さで、この上ないほどの枷を―――非業の器を二人分も背負ってしまった時…――――
―――待つのは果たして、非業以外にあり得るだろうか。


【間桐邸】

決着を付けよう。
わたしはセイバーを味方につけたこのタイミングで、そう決意した。
長らく縛られてきた呪縛を断つ。それがどれほど為し難いかは、痛いほど身に染みている。
それでも、断ち切ろうと思った。
このまま暗くて惨めな畜生染みた『修練』を積み重ねるくらいなら、ここで死んでも本望だ。

「何をいうやら。貴様があの老い耄れに敗れるなど天地逆さになろうと無い。ましてや私が付いているのだ」

オディオはわたしを励ましてくれる。
いや、励ますというよりも、事実を述べたまでだろう。
実際、わたしはサーヴァントだって殺せる身。いくら優れた魔術師でも、対処には万全を要するだろう。
さらに言えば、あの『人』は人外だ。その身全てが己の総べたる蟲である。
万全でもなく、人ですらないあの魔物が―――『魔王』に勝てる道理もない。

「では、拙者は退いておる故。存分にその恨み果たされよ」

セイバーはそう言って霊体化した。
この反逆に無粋を働くつもりはないと、そういうことだろう。
よくわかってくれている。
わたしの手で下すからこそ、この行動に意味があるのだ。

「行きましょう、オディオ。キャスターの相手は任せます」

「無論だ。私の相手が『伝説の勇者』とは、これも運命の悪戯か?」

憎悪を込めた笑みで、真の魔王は狂気と進む。
彼の者は、もはや狂化するまでもなくバーサーカー。
理性の内に狂い、栄光の内に狂った者。或は言い方を変えるなら、周囲に狂わされた者。

「討ち果たして見せようではないか。これは、我らが運命に対する反逆だ」


時を同じくして間桐邸。
間桐臓硯はキャスターの『最終調整』を行っていた。
辛うじて機能を果たしている刻印蟲の機能で、桜が標的をマキリとしてのは知っていた。
巻き起こるであろう事態に備えて、万難を排すべく念を入れて蟲を繰る。
キャスターの肢体に、数多の偉業を這わせ続ける。

「………」

その姿に、かつての栄光は残存しない。
もはや朽ちたかというほどの虚ろな目で、無言のままに虚空を見る。
骸と言われようが否定さえしないだろうが、その絵面は死体に這い回る蛆を連想させるには十分過ぎた。
それほどまでに無気力で、よもや戦いに馳せ参じることなど到底不可能と思える。

「さて……そろそろじゃ、キャスター。迎え撃つ準備をせよ」

「…………」

生きた屍の如く、腐った死体の如く身を持ち上げるかつての勇者。
その力ない挙動とは裏腹に、その身には魔力が満ち満ちていた。

「…………………」

首を上げる。見据えるのは階段の上部、蟲蔵の入り口。
扉を開けて入って来たのは、本来打つべき宿敵の系譜。
しかしもはやこの場には勇者の影『しか』無く―――――――

「……お爺様。あなたを殺します」

「来るがいい、『伝説の勇者』。摂理を覆すのはさぞ愉快だろう!」

かつて勇者だった者たちは、互いに植えつけられた闇を翳す。


≪ここまで≫

先に動いたのはオディオ。
その身に纏うのは、マスターから――及び大聖杯から直接送り込まれる際限なき魔力。
両足に魔力を込めて解き放つ。

「くははははは!! 受け止めてみろ!この程度で死なれては興醒めだ!」

『魔力放出』。
Aランクを誇るそのスキルの性能は、最早肉体を弾丸へと変える。
下層に位置するキャスターに向かって跳んだオディオの身体は、放物線さえも描かない。
流星の如く一直線だった。―――ただし、その輝きは暗い紫色だが。

「…………」

キャスターはそれを、無気力のままに盾で受け止めた。
力無い動きでもなお受け止めることができたのは、その盾が宝具である故。
『勇者の盾』(シールド・オブ・ブレイバー)。
その当時、世界で最高の防御力を誇った盾は、接した全ての衝撃を弾く。

「そうだ、それで良い! さあ得物を構えろ!伝説の剣か!?聖なる呪文か!?」

弾かれたオディオは体性を立て直しながら着地する。
彼の保有するスキル、『対英雄』の効果を受けた上で攻撃を受け切ったキャスター。
これほどまでの実力を誇るならば、例え相手が失意のうちにあろうともそこを討つことに躊躇いは無い。
何せ、これは元来無謀。
魔王が勇者に挑み、あまつさえ勝利を掴み取ろうというのだ。
世界の摂理が認めないだろう。数多の逸話が証明している。
ならば否定する。ならば破壊する。ならば反逆してこそだろう。
世界の摂理など、覆せば良い。数多の逸話など、鼻で笑ってやる。

「魔王を討つのが勇者の宿命ならば、そこには加護が有るのだろう? ならば貴様を殺せば、それは神殺しにも相成ろう」

虚ろな瞳のまま、キャスターはその言葉に耳を傾ける。
加護――――果たして神は、未だ彼を守護しているのか。
天の声は、既に聞こえては来なかった。

勇者ロトとは、即ちあらゆる勇者の原型である。
彼がセイバーやセイヴァー、ブレイバーのクラスで召喚されていたら、その武勇に並び立つものなど居ないだろう。
しかしそこには条件があり、余程のことが無ければロトが剣士として現界することは無い。
条件とは、相性である。
マスターと精神性が限りなく似通っていることを条件として、彼は勇者の身として第二の生を受けることができる。
セイバーが空席ならそこに組み込まれて、埋まっているならイレギュラークラス。
ただしマスターとの相性が芳しくない、今回のようなケースは別だ。
剣は封じられて、乏しい魔力を行使せざるを得ないキャスタークラスに押し込まれる。
それでも彼は大英霊。最弱のクラスでありながらも、十分に勝ち残ることができる実力を誇るのだが―――――

「………」

彼は現在、すべての勝機を失っていると言っていい。
マスターの愚かな『調整』のせいで、殆どのスキルは失われている。
戦闘に関する有用なスキルは、総じて無効になっている有様だ。
マスターは、それでも勝てると踏んでいるのだろう。
確かにキャスターの宝具は強力だし、彼の魔術も神代のそれではある。
だからと言って、英霊に対する扱いとしてあの『調整』を褒めることが誰に出来ようか。
無論、そうでなくてはロトが間桐臓硯に従うことは無かっただろう。
令呪による強制も意味はない。たった三画で埋まるほど、ロトと臓硯の差異は小さくない。

「……………」

故に、思うのだった。
呪術によって無理やり従わされている身で、傀儡の如く鞭を振りながら思う。
出来れば殺してくれ、と。
この有様で、何が勇者だ。救うべき世界もなければ、救いを求める者もいない。
最早この世界に、勇者の居場所はどこにも無かった。

クラス:キャスター
真名:ロト

筋力A 耐久A 敏捷C 魔力C 幸運C 宝具A

◆スキル
・陣地作成(×) 魔術師として自らに有利な陣地な陣地「工房」を作成可能。魔術師ではないため使用不可。
・道具作成(×) 魔力を帯びた器具を作成可能。魔術師ではないため使用不可。
・啓示(A)  "天からの声"を聞き、最適な行動をとる。現在は『調整』の影響で使用不可。
・コレクター(A) より品質の良いアイテムを取得する才能。
・精霊の加護(EX)  武勲を立てうる戦場に限り、幸運を呼び寄せる能力。現在は『調整』の影響で使用不可。


◆宝具

『勇者の盾』(シールド・オブ・ブレイバー)
所有者:ロト      ランク:C
種別:対人宝具     レンジ:-    最大捕捉:-

かつて世界最高の防御力を誇った盾。
盾として機能する面へのダメージを、一切合財はじき返す。
また、火炎や吹雪などの波状攻撃は面に触れた瞬間に無効化される。
本来は『王者の剣』と共に運用するのだが、キャスタークラスでは持ち合わせていない。
そのため対人宝具であり、専守の性能となる。

『―――?―――』(―――?―――)
所有者:ロト      ランク:?
種別:?        レンジ:?    最大捕捉:?

『―――?―――』(―――?―――)
所有者:ロト      ランク:?
種別:?        レンジ:?    最大捕捉:?


≪ここまで≫

>>266,>>651,>>691
一成は生きてるの?死んでるの?
生きているのにシンデルマン

>>900
一成さんのこととか正直深く考えてなかったですハイ
思慮不足でしたが、本筋にはほぼ無関係ですので……


自決する他無い。
間桐臓硯はそういった。
なるほど、わたしの心臓に本体が巣食っているというならば自決が手っ取り早い手段ではあるだろう。
だが、この妖怪は何もわかっていない。
わたしが既に人間を止めてしまっていることを、全く計算に入れていない。

「そうですか。心臓にいるあなたの本体を殺せば、あなたはしっかり死ぬ訳ですね?」

「無論、そうなっては一溜りもない。しかし分かっているか? 心臓を穿てば、貴様とて死ぬ。故に自決じゃ」

分かっているわけないだろう。
自殺なんて理解の範疇を超えている。
道連れなんかじゃ意味が無い。一方的に殺す。諧謔的に笑って殺す。
そもそもわかっていないのはそちらの方だ。
わたしの力は――――わたしの『魔法』は――――――

「体内とは盲点でしたね。教えてくださってありがとうございます。これで、いつでもあなたを殺せる」

第虚数魔法、『魔力の消滅』
魔に類されるものを完膚なきまでに滅する、非情なまでに現実的な魔法。
これが魔法たる所以は、魔術を否定するところにある。
現代科学で為しえない事こそ魔法であるならば――真祖だって殺せるコレは、魔法以外の何物でもない。
この魔法を行使したのは、セイバーとの戦闘のみ。
あの時には、自身の体内まで闇を伸ばしてはいなかった。

「……体内にまで『魔法』を使うと、魔術は使えなくなっちゃいますね」

わたしの魔術回路を犠牲に、間桐臓硯を殺しきる。
魔術を行使する機構は失われるけれど、問題ないだろう。
その状態でも、魔法は使える。この闇は、喉奥に根付いているから。
決して潤わぬ渇きの如く、魔術師の殲滅を求めるのだから。


その言葉を聞いて、間桐臓硯は焦燥に駆られて。
その言葉を聞いて、キャスターはしかし何も変わらず。
その言葉を聞いて、オディオは純粋に笑みを浮かべた。
彼の笑みは邪悪でこそあったものの、今までの嘲笑染みたそれとは一線を画している。
つまり、憎しみがそこには存在しなかった。
魔王の誕生を憂いながらも喜び、そして桜が憎しみの形を確立したことに対して――オディオは確かに笑っていた。

「素晴らしい……素晴らしいぞ、サクラ! 貴様は私と同じになった!」

オディオは振るわれる鞭を捌きながら、声高に述べる。
魔桜オディオのあり方を語る。

「『他者の憎しみを生み出し』『人間の憎しみによって生み出され』『人間を憎み、絶望し』『憎しみを生み出す人間を抹殺しようとする』!」

それはかつての同族達が持ちえた性質。
それは彼が併せ持つ憎しみの形。

「貴様は魔術師にとっての最悪だ! なればこその、その魔法! 私と同格の魔王の誕生を憂い、そして憎もうではないか!!」

オディオの宝具はきっかけを与える。
触発されれば魔王となり、因子が無ければその場で死ぬ。
つまり、彼は復讐の機会を与えているのだ。
魔王とならねば抗うことすら出来なかった状況に、一筋の道を切り開く。
人間に取っては悪夢でしかない宝具でも、桜にとっては―――――それは確かに光だった。

「判決を下すが良い!制裁を加えるが良い!! 『勇者』を討つことなどよりも、そちらの方が一際重要だ!」

オディオとは憎しみ。
憎しみを乗せた刃を振るうことを、彼の魔王は止めなかった。

「憎しみに身を任せ、その絶望を乗り越えて見せろ! その先にある、更なる絶望に会いまみえたとき、私はもう一度貴様の手を取ろう!」


喉を起点として、わたしの憎しみが身体の中を駆け巡る。
わたしの魔法に、魔力は一切使用しない。
喉に回線を置いた後天的な超能力という解釈が最も正しいのかもしれないが、しかしこれは魔王の技。
ならばその名に『魔』を冠するほうが、わかりやすくていいだろう。

「命を犠牲に誰かを殺すなんて嫌です。それがあなたみたいな妖怪なら尚更。なので、わたしの魔術回路を生贄にすることで勘弁してください」

闇が身体を侵していく。
この闇は、元々わたしの一部。わたしの心で、わたしの憎しみ。
だから怖くなかったし、だからこそ気持ちが悪かった。

「――――!……桜、お主…!…やめ、ろ……やめんか!」

先ずは足から。
徐々に徐々に、けれど確実に。身体を蝕む刻印蟲を消していく。
こんなにもあっさりと。こんなにも簡単に。
魔術回路を捨てるだけで、わたしは間桐の支配から解放された。

「……ああ…馬鹿だな、わたし」

こんなことなら、さっさと捨ててしまえばよかったんだ。
魔術回路なんて、わたしはそもそも要らなかったし。
これが魔術師にとっての命だというなら、命の方を捨ててもよかった。
今だからこそ、そう思う。あんなに、死ぬことだけは拒絶していたわたしが思う。

「生きていたって、いいことなんて無いんです。だからわたしは殺します。憎きこの世界を、憎しみから救ってあげます」

間桐臓硯は呪詛を吐きながら死んでいく。
その言葉も、憎しみだろう。

「オディオ。人間を殺しましょう。この世界には憎しみが多すぎます」


「是非もない。それこそが私の願い。必ずや聖杯をこの手に得る」

間桐臓硯というマスターを失ったことで、キャスターは目に見えて力を失った。
オディオにとって、相手はもはや打倒すべき勇者などではなかった。

「摂理に抗えなかったのは残念だが、しかし機会はまだあるだろう。ガイア、アラヤの抑止力を相手取らねばならないしな」

摂理を覆すことを、現在のキャスターに臨むことはできない。
彼は『精霊の加護』を――――ガイアの加護を失っていたのだから。
魔王の相手として相応しき勇者とは、とてもではないが言えない状態だった。

「…………」

「…その無言は、縛られていたからというわけではなさそうだな。私への挑発としては、中々に上出来だった」

かつて勇者であったころ。
それを思い出すたびに、オディオは憎しみを再燃させる。
挑発は結果的に、オディオの強化に他ならなかった。

「………………」

最早、半身が見えず残った部分も光子となって散っている。
キャスターはその散り際に何を思うのか。

「さらばだ、忌まわしき蛮勇の剣士。貴様の絶望も、貴様の憎しみも―――私が共に壊しておいてやろう」

オディオの剣は振り下ろされて。
キャスターの残滓はこの世界から形を消した。


≪ここまで≫

ロトはイリヤがマスターだと一番輝いたと思う
桜の鯖は描く側の楽しさ的にダークヒーローかラスボスが安定

衛宮士郎は、その手に剣を投影する。
形作るのは扱いやすさに重きを置いた両手剣。
憎き魔王と、同じ得物。

「シロウ!? まさか戦うつもりかよ!」

「当たり前だ!こいつは人間を殺した!とてもじゃないが、見逃せない!」

錬成した剣を地面と水平の中段に構えて、衛宮士郎はオディオへと向かう。
対するオディオも、静かに剣を抜いていた。

「力量差も測れないか。いい傾向だな、後は邪魔な『呪い』を拭い去るだけ…」

鋼と鋼が接触し、小さく火花を散らす。
水平に振りぬかれた模造の剣と、それを遮る正規の剣。
月下の剣戟は、悲鳴の如く甲高い異音と、生命の如く儚い輝きで彩られていた。
衛宮士郎は冷徹に刃を剥き、オディオは冷静にそれを捌く。

「悪を切ることに迷いは無いか。まさに偽善だな」

「そんな言葉で、俺が止まると思ったか!」

「まさか。 偽善は、大いに結構。真なる善ほど虫唾の走るものは無い」

争い無くして叶う願いはこの世に無い。
真なる善とは、争い自体を否定すること。
ならば、それほど偽りに満ちた信念も無いだろう。
偽善か否か以前に、善とはそもそも虚構である。

「誇れ!その偽善は尊い!悪を討とうとするその信念に敬意を表そう!」

オディオは笑う。
彼の宝具は、全てを悪性へ転化する。
尊い信念が反転したとき、この偽善者はどうなるのか。
その様は、一つの希望が潰える瞬間。
魔王の身として、これが楽しくないはずがない。


アサシンは焦っていた。
止めに入ろうにも、両者の戦いには立ち入る隙が無い。
バーサーカーは、只でさえ強力なサーヴァント。
加えて、その剣技に何故か追従している衛宮士郎。
繰り広げる打ち合いは、生前にも数えるほどしか見られなかった領域だった。

「シロウの投影は普通じゃない……それって、つまりこういう事か…?」

剣を投影する。
それと同時に――――――その剣に纏わる全てを投影する。
刀匠の意思を。刀剣の歴史を。啜った血潮を。振るった猛威を。担い手の技巧を。
自身と投影物とで完全に模倣し、この現世に再現する。
まさに、剣だ。剣に特化した投影魔術。
その魔術を扱う衛宮士郎は、一振りの剣。―――彼の身体は―――――

「――――――『体は剣で出来ている。』―――」

何かがおかしい、そうアサシンは思った。
新しい呪文? それはいい。成長の証に他なるまい。
ただ――――その詠唱は、何かが違うと。

「――――『血潮は鉄で――心は硝子。』―――『幾たびの戦場を越えて不敗。』――」

何かに突き動かされるように。何かを渇望するように急成長する彼の魔術。
それが、取り返しの付かない過ちであるように思えてならない。

「――――『ただの一度も敗走はなく、――――ただの一度も――――』」

『理解されない。』と、衛宮士郎は言葉を紡ぐ。
剣戟の中にあっても、その声は酷く冷徹に響き渡る。
『理解されない』?
違う。そうではない。――――――その詠唱は間違っている。

「違う!正気に戻れシロウ!お前の正義はそうじゃない!!」


≪ここまで≫


【柳洞寺・山門】

山門から石段を見下ろす、白髪の剣士。
その隣には、全てを終わらせて原点へと回帰した少女。
組み合わせとしては、無くも無いだろう。
少なくとも、セイバー―――錆白兵に文句は無かった。
ある一点を除けば、彼は武士の見本のような人格だ。
己が忠を尽くすべき相手には、全力で仕えるのが流儀。
故に、この関係には微妙な距離感を覚えている。
彼は彼女の正当なサーヴァントでは無く、仕えるに値する者なのかも未だ不明だった。
もしも間桐桜が召喚したサーヴァントがかの魔王オディオではなく、この侍だったら。
また別の関係を築いていたのかも知れないが―――――

「気配が二つ―――片や殺気、片や明気。不釣り合いな組み合わせでござるな」

「それは、サーヴァントとそのマスターで間違いありませんね?」

セイバーは首を縦に振って肯定する。
殺気などまるでないが、しかし歴戦の風格を感じさせる気配――――これは、違いなく英雄のそれだ。
剣を合わせるに不足の無い相手。
もとよりセイバーには『合わせる』剣など無いのだが。

「『薄刀・針』では、鍔迫り合いが出来ぬのが悲しい所。いっそこれを禁じて見るのも面白いかも知れぬな」

「セイバーさんがそうしたいのなら、別に構いませんが……それで勝てないとかは嫌ですよ?」

「承知。主に仕える身として、手抜かりなく切り結ぶ所存でござる」

セイバーはまだ見ぬ英霊に向けて、その薄弱な刀身を抜き放つ。
いつぞやのように剣も抜けないというのは、如何にも恰好が付かないだろう。

石段の下部、現れたのは桜の知っている人物だった。

「葛木先生………と…あれ、は……?」

葛木宗一郎の隣に立つ、あり得ない生命体に驚愕する。
これが聖杯戦争という特殊なシチュエーションでなければ、疑ったのは自分の頭の方だっただろう。
全体的に丸い。茶色のマントと赤色の衣服。そしてなにより、その顔面。

「……アンパンマン…?」

「それがやつの真名でござるか?……面妖な…化生の類か…」

セイバーにしては珍しく、真実とは正反対の予想だ。
彼はむしろ、化生を打ち倒す側の者。
この現代において、誰もが真っ先に知るヒーロー。

「気を付けてください、セイバー…! 彼の知名度は最高クラス、どんな性能になっているかわかりません…!」

「今の桜殿にそこまで言わしめるとは………」

大抵の英雄は、武勇の先に悲惨な最期が待っている。
救国の王が部下の反乱で生涯を終えるように。
不死の英霊がその弱点を突かれて命を落とすように。
しかし彼は英雄ではなく、ヒーローだ。
そもそもが、神話には類を見ない勧善懲悪。
幾度となく弱点を突かれて、それでもなお、勝利する者。

「頭部以外の無敵性と一撃必殺の宝具があるというのは、まず間違いありません…!」

その予想は、確かに的を得ていたが、それでもまだ足りなった。
アンパンマン。彼の宝具は―――――必中必倒。


≪ここまで≫

アーチャーの宝具『正義の拳に勇気を込めて(レジェンド・オブ・アンパンチ)』は、全ての混沌、全ての悪を打ち砕く。
その真名を解放したとき、それは即ち彼が勝利するときだ。
何故なら必中。何故なら必倒。
その一撃は必ず相手を打倒する。その一撃は決して外れることが無い。
効率も、威力も、命中精度も、燃費も―――――その全てが最高の性能。
『正義の拳に勇気を込めて(レジェンド・オブ・アンパンチ)』と、『その身不屈は愛の為(パワー・オブ・ヒーロー)』。
最強の矛と、最強の盾。
しかしそこに矛盾は無い。しかしそれに不思議はない。
彼はヒーロー。勝つべくして勝つ宿命の元に生まれた、生粋の英雄。

「くずき先生、無事ですか?」

「……うむ。問題ない」

難点があるとしたら、彼は宝具を悪人にしか行使しない事か。
その縛りさえなければ、彼は文句なく最強のサーヴァント。
苦戦すること無く他の六騎を降参させるだろう。

「アーチャー。あれには宝具を撃たないのか?」

「うーん、悩みどころです。どちらも、本物の悪い人にはみえません」

魔王とその従者にたいしてそう言えるのも、アーチャーの度量の広さか。
或は、真に討つべき元凶の存在に感づいているのか。
何にせよ、彼はこの戦いで真っ先に宝具を使用することは無かった。
それはつまり、予定調和の決壊を意味する。
アーチャーがその完全性をいまいち発揮出来ていないのは、彼の甘さと勘の良さ故。
しかし甘さを否定しては、彼の存在が成り立たない。

彼はアンパンマン。――――どこまでも甘い、慈愛のヒーローなのだから。

≪アーチャーの情報が更新されました≫


◆宝具

『正義の拳に勇気を込めて』 (レジェンド・オブ・アンパンチ)
所有者:アンパンマン  ランク:EX
種別:対悪宝具      レンジ:1~1000    最大捕捉:1人

彼の代名詞にして、文字通り必殺技。
空中で構えを取り、真名解放と共に自ら砲弾となって拳を放つ。
彼がアーチャーたる所以でもある。
この宝具の能力は、『必ず命中する』と『相手を絶対にノックダウンする』の二つ。
招く結果はサーヴァントの消滅では無く、気絶である。
気絶させるのに必要なだけの攻撃力に自動調整して放たれるため、相手を殺すことは無い。
相手がどんなに弱くても気絶までしか暴力が展開されず、逆にどのような耐久力・防御力を誇る相手でも気絶する。
彼が四次アーチャーにこの宝具を使わなかったのは、止めが刺せないから。
気絶から復帰した後に激昂、または暴走する相手とは相性が悪い。


『その身不屈は愛の為』 (パワー・オブ・ヒーロー)
所有者:アンパンマン  ランク:EX
種別:対人宝具      レンジ:―    最大捕捉:―

水に弱いという有名すぎる弱点を逆説的に宝具へと昇華したもの。日本で召喚された場合のみ使用可能。
これは彼を観てきた者たちの願いであり、彼に対する愛の結晶。
対人宝具と銘打っているが、実質的には結界宝具に近い。
『顔が湿る』という特定の動作を除く、全ての攻撃を無効化する。
彼が現界した時点で定められる世界の法則であるため、顔を濡らす以外の攻略法は『星の開拓者』や『原初の一』を除いて皆無。
彼を害為す行為は例外なく全て無効化されるため、令呪による自害にさえ対抗する。
しかしアーチャークラスで現界したため、頭部を交換するための宝具を持ち合わせていない。
故に真価を発揮できない状態。一度濡れたらそれまでであるため、運用には慎重を規す必要がある。


≪ここまで≫

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