マミ「これよりクリスマス対策作戦会議を始めるわ」(149)

僕もクリスマスにクソスレ立てて遊びたかったです

ほむら「え?」モグモグ

杏子「んー?」モグモグ

QB「きゅい?」モグモグ

マミ「………」

マミの部屋。三人と一匹が、こたつを囲んで鍋をつついている。

杏子「やっぱちゃんこ鍋は肉団子だよなー」ヒョイ

QB「そうかい? 僕はこの、溶けているようで少し芯のある白菜なんか、とても美味しいと思うんだけど」シャク

ほむら「インキュベーターのくせに分かった口を利くじゃない……」モグモグ

杏子「白菜なんて水増しみたいなもんじゃん、嫌いじゃーねーけどさ」モグモグ

ほむら「あら、貴女はこの国に生れながら、白菜のないただの煮物を『鍋』と認めることが出来るのかしら?」

杏子「モツ鍋なんかはキャベツだろ? 必須って訳じゃないよねぇ」

ほむら「それでも葉物は必須じゃない」モグモグ

杏子「言いたいことは分かるよ」モグモグ

マミ「………ねぇ。聞いてる?」

QB「マミは食べないのかい? よく煮えてるよ?」

続けて

マミ「そうじゃなくって!」ズダンッ!

力強く、両拳でこたつの天板を叩き付ける。一瞬土鍋が浮いた。

杏子「うおいっ!」ビクッ

ほむら「ちょっと貴女、何を、っ」ゴホッゴホッ

QB「ほら、ほむら、お茶を飲むといい」トポポ…

マミ「話を聞きなさいよ! 三人とも!」

杏子「いや聞いてるけどさー」モグモグ

ほむら「クリスマスなんとかかんとか、ごほっ、でしょう? ちゃんと聞いてるわよ……」ゴクッ…

QB「そういう発言があったことは記憶に残っているようだ」モグモグ

マミ「うう……。なら無視しないでよぉ……」

杏子「だって、なぁ」

ほむら「今は素晴らしい仕上がりの鍋を食べるので精一杯なのよ。
    ああ、私がもう一人いれば存分にマミの演説に耳を傾けられるのに……」モグモグ

マミ「余計にイラッと来るから適当なセリフを付け足さないで頂戴」

杏子「ほら、よそってやるから食えって」カチャチャ… カタッ

マミ「あ、ありがとう……」

マミ「んもう、鍋なんて後回しにするんだったわ……」モグモグ

ぐつぐつと煮える鍋を睨みながら、諦めてぼやく。

ほむら「何言ってるのよ。IH土鍋なんて買ってきて、寒いから鍋! って誘ったのは貴女じゃない」

マミ「そうだけれど……。そもそもの目的は作戦会議で、ついでだから鍋もしたいなぁって話だったはずよ」

ほむら「……でも、集まるなり鍋の材料を買い出しに引っ張り出したのも」

杏子「帰ってくるなりコタツに入り込んで動かなくなったのも」

QB「お腹すいたなーって言いながら、準備を期待して僕にチラチラ目線を送ってきたのも。全部マミだね」

マミ「うぐ………」

杏子「まあ、じっくりやりたい話は後で良いだろ。今は肉団子食べよう肉団子」モグモグ

マミ「それもそうね……」

ほむら「あ、雑炊用のご飯の準備はできてる?」

マミ「それなら冷凍のご飯がまだあるはずだから、大丈夫よ」

杏子「くそっ、うどんのほうがぜってー美味いのに……」

ほむら「この世で最も公平な勝負で負けたんだから潔く諦めなさい」

ほむら (あと何回使えるかしらね……。やけにチョキばっかり出す杏子の癖)

締めは雑炊で合ってる

――半時間後――

QB「っぷいぃ……」

杏子「結構食ったなー……」

ほむら「雑炊が効いたわね。まさか卵だけじゃなく具も新しく入れるとは……」ケフッ

マミ「雑炊前にみんな食べちゃったからでしょうが……よいしょ」カラカラ…

立ち上がり、湯気で曇ったベランダの窓を開ける。外はまっ暗だ。
ぴゅうっと、一気に冷たい風が流れ込んできた。

杏子「おい、何してんのさ、寒いだろっ!」ブルッ

マミ「蒸気が籠って結露しちゃうもの。換気ぐらいしないと……」

QB「あまり結露が酷いとカビが発生してしまうからね、仕方ないよ」

ほむら「仕方ないとはいえ、結構来るわね……これは」ブルルッ

マミ「………でも確かに寒いわね」ゴソゴソ モゾッ…

一人、うつぶせでこたつの奥深く潜り込み、肩まで暖まるマミ。

マミ「うふふ、あったか~い……」

杏子「あ、対面がキュゥべえだからってこいつ……!」

QB「食べてる間こたつの上だったし、僕もそろそろ暖まらせて貰おうかな」モゾゾ…

耳毛で器用に布団を捲り、マミの足の隣に潜り込む。

杏子「キュゥべえもかよ」

ほむら「二人して……。こっちは足がぶつからないように遠慮しているのに」ゲシッ

中に向けて蹴りを入れるほむら。

マミ「あっ、どこ蹴ってるのよ」

ほむら「なんだか柔らかいわね……」フミフミ

マミ「やん、ちょっと、やめなさいって……!」

杏子「それでも出ようとはしないんだな……」

マミ「家主権限だもの」

杏子「……そうか。よしほむら、そっち側頼むわ」

そう言って、マミに見えないこたつの上で両手をわきわきさせる。

ほむら「……なるほど、了解。せーので行くわよ」ゴソソッ

マミ「?」

杏子「よし、準備オーケーだ」ゴソソッ

紫煙

マミマミ

二人してこたつに両手を突っ込み、

ほむら「せーの!」

合図と共に、マミを両側からくすぐり始めた。

マミ「え!? あっ、何を……えひっ、やあっ!」モゾゾッ

杏子「ほれほれーこしょこしょー」

マミ「や、ちょっ、やだっ! あはははっ、そこダメっ……!」バタバタ

遠慮無く与えられる刺激に、耐えきれずこたつの中で暴れ出す。

ほむら「諦めて出ないと苦しいわよ」コチョコチョ

そう言いながら、片手は体を押さえつけている。逃がすつもりはないようだ。

マミ「やっ、ははっ、ちょ、出るから! 許して! あははっ」ドタタッ

QB「きゅっ!?」プチッ

杏子「ん? キュゥべえ?」コチョコチョ

ほむら「マミの足に潰されたみたいね……。可哀想に」コショコショ

マミ「は、離してってばー! っは、ははっ!」ジタバタ

幸せそうなマミさん

マミ「はぁっ、はぁっ……」

しばらく弄ばれたあと、息も絶え絶えにこたつに突っ伏すマミ。
換気も十分と窓ももう閉められているが、部屋が暖まるにはまだ少しかかりそうだ。

ほむら「ふふふ、反省したようね」

マミ「罪人扱いしないでよ……。とりあえず体は暖まったわ、おかげさまで……」

QB「やれやれ、酷い目に遭ったよ」

杏子「こたつという戦場に潜り込むには覚悟が必要っつーことだな」モグモグ

カゴのみかんを、いつのまにか食べ始めている杏子。

ほむら「甘い?」

杏子「甘い甘い。結構良いみかんだぞこれ」モグモグ

ほむら「そう……。私も貰おうかしら」

杏子「あ、キュゥべえ、お茶を淹れてきてくれよ」

QB「また僕が働くのかい?」

ほむら「さっさと」ワコワコ

QB「分かったよ。全く、インキュベーター使いが荒い魔法少女だなあ、君たちは……」テトテト…

べえさんいい奴だな

QB「おまたせ」カタッ

湯気を噴く急須をテーブルに乗せる。と、

マミ「………」スッ

マミが伏せた姿勢から起き上がった。

杏子「お、復活した」

QB「やぁ、いいタイミングだね」トポポ…

マミ「あら、ありがとう……」ゴクッ…

入れて貰った湯飲みのお茶を一口流し込む。

マミ「……ふぅ!」

マミ「と、いうわけで……」

ほむら「そんな名前のラブホテルあったわよね」

マミ「知らないわよそんなの! 大事なことなんだからそろそろちゃんと聞きなさい!」

ほむら「はいはい」

マミ「これより! クリスマス対策作戦会議を始めるわ!」ビシッ

愛らしい垂れ目を精一杯に険しくし、指先をそらに向けながら、
マミは改めて会議の開始を厳かに宣言した。

ほむら「わー」パチパチ

杏子「わ、わー?」パチパチ

QB「僕の耳はそういう音がしないんだよね……」バフバフ

マミ「コホン。まず始めに確認しておきます。キュゥべえはともかく、二人とも24日と25日は空けてあるかしら?」

QB「僕もたまには勧誘に出かけたいんだけどなあ」

杏子「あたしはいつも暇だし、まあ毎年のことだからな」ワコワコ

ほむら「参ったわね、家でゴロゴロするのに大忙しの予定なのよ……」

マミ「全員問題無さそうね」

ほむら「それで? わざわざ改まって何の話よ。クリスマスパーティのプログラムでも組むの?」

杏子「え?」

マミ「いえ、打ち上げはやるつもりだけれど……。それは適当に騒ぐだけだからいいのよ」

ほむら「……? 打ち上げ?」

杏子「……あ、そっか。ほむら、もしかして魔法少女では初めてのクリスマスか?」モグッ

ほむら「へ……?」

QB「そうだね。戦闘経験はなかなかにあるようだが、クリスマスは経験していないようだ」

杏子「……なるほどな。わざわざ改まって作戦会議とか言い出したのはそのせいか」ゴロン

蜜柑を食べ終えて横になる。

マミ「そういうこと。人手が増えるから、去年よりは楽になると思うけれど」

ほむら「………? 話が全然見えないわよ?」

QB「魔法少女のクリスマスはね、忙しいんだよ」

ほむら「忙しい?」

マミ「それをこれから説明するわ。はい、こちらに注目!」パチンッ!

マミ (あ、上手く鳴った!)

小気味の良い音で指パッチンを披露すると、

フッ… ガガーガガー…

部屋のライトが急に消え、マミの指し示す先にプロジェクタ用スクリーンが降りてきた。
ぼんやりと青い画面を映しながら、プロジェクタのランプが発光し始めている。

ほむら「な、何これ……」

杏子 (あー、背中に回した手でリモコン操作してるっぽいな……)

QB (また何らかのフィクションに影響を受けたようだ……)

ガッコン!

スクリーンが降りきると、まだ安定しない光でプレゼンテーションのタイトル画面が表示された。

『みんなのハートにティロ・フィナーレ☆ 魔法少女のちょっとハードなクリスマス♥2011』

ほむら「………もう一度言うわ。何これ?」

マミ「読めば分かるじゃない」

杏子 (無茶言うなよ)

ほむら「無茶言わないで……。帰って良い?」

マミ「ダメよ、真面目な話なの!」

ほむら「ならパワポぐらいは真面目に作って欲しかったわね」

マミ「内容は大まじめだから、ほら、始めるわよ。えーっと……」

後ろに回していた手を戻し、ごちゃごちゃとボタンの付いたリモコンを弄る。
マミの動きに合わせて、緑色の点がスクリーン上を踊っている。

QB「緑色のレーザーポインターなんて、人類にしては珍しいじゃないか」

マミ「高かったわ……。でも赤より見やすくていいのよ。自己紹介ページは飛ばしてっと」ピッ ピッ

ボタンに合わせてページが切り替わる。
何やら一瞬、マミの魔法少女姿が全身アップで映ったようだが、
杏子もほむらも見なかったことにしたようだ。

マミ「まずは前提知識から確認しましょう」

『魔獣とは何か?』

内容のわりにはポップなフォントが踊っている。
手書きで添えられた魔獣のイラストが可愛らしい。

ほむら「………」

マミ「ほら、暁美さん。魔獣とは?」

ほむら「え?」

杏子「答えないと多分、先に進まねーぞ」

ほむら「……私たち人類の、魔法少女の敵であります、Ma'am」

マミ「そうね。そして彼らは……」ピッ

新たなテキストがスライドイン。

マミ「人の感情を喰らい、グリーフシードに変えてしまう。そういう存在ね」

ほむら「らしいわね……。この世界はあまり詳しくないけれど」

マミ「大事なのは、彼らは特に負の感情を好んで食しているらしいところ。
   ……このあたりは、あなたの前の世界と似ているんじゃないかしら」

ほむら「……そう……ね。絶望を溜め込んだ塊がグリーフシードと考えれば、似たような物ね」

マミ「はい、それでは次」ピッ

『クリスマスとは?』

相変わらず味のあるタッチの絵で、クリスマスツリーの横にサンタが立っている。

ほむら「……また難しい質問ね。杏子のほうが詳しいんじゃないの」

杏子「ん? 一応そうかな?」

マミ「そんなに厳密な回答を求めてるわけではないわよ」

ほむら「それなら……。イエス・キリストの降誕祭?」

マミ「うん。正解」ピッ

キリストらしき、笑ったオジサンの絵が追加される。

杏子 (若干失礼な感じあるけど……まあいいや)

マミ「まあキリスト教の祭典だから、イスラム教なんかでは祝わないし、ユダヤ教には別の行事があるし、
   いろいろ言い出したらきりがないけれど……」ピッ

QB (何だかんだで意外と細かいなぁ)

マミ「キリスト教が大多数を占める諸国や、ここ日本みたいに宗教に頓着のない国だと、
   宗教的な祝祭と共に『親しい人と過ごす』ことが定着しているようね」

ほむら「クリスマスパーティ、というやつね……」

マジレスすると日本とキリスト教圏の人はクリスマスと正月の過ごし方が真逆

マミさんならなまはげを退治するサンタさんにもなれるよ!

マミ「さて、そうなると問題なのは」ピッ

『ひとりぼっちとクリスマス』

急に背景が真っ黒になった。フォントもホラーな血文字である。

ほむら「あー……。ようやく話が見えてきたわね」

マミ「クリスマスが皆で楽しくわいわいやる日であるという認識が大きいほど、
   『周りはみんな楽しそうにしているのに、どうして自分は一人なのだろう……』と思う。
   その考えが孤独感を加速させ、ひとりぼっちな人々は陰鬱な負の思念に捕らわれてしまうというわけね」

QB「人間というのは不思議な生き物だね。僕なんて同僚と会うことはまず無いのに」

杏子「あんたと同じじゃなくて良かったと心から思うよ」

マミ「特に、この国では『家族と過ごす』他に『恋人と過ごす』習慣が何故か定着してしまっている。
   そうすると、たとえ家族が居たとしても、恋人が居ない独り身だというだけで絶望の種になり得る……」

ほむら「……結果として、魔獣が活発になると、そう言いたいのね」

マミ「その通り!」

ほむら「本当かしら……」

杏子「それがマジなんだよ、一回経験すれば分かる……」

マミ「まあ『クリスマスは自殺者が多い』とかいうのは都市伝説らしいけれど、
   少数でも自殺している例があるのは事実だし……」ピッ

新たな画像が流れ込む。パソコンのキャプチャと思しき画像に、文字列が何行か表示されている。

『マジで…本当に…クリスマスなんだな…』
『クリスマスに一人でいない方法考えよう』
『クリスマス前だし死のうか』
『精神的苦痛を受けたのでクリスマスに慰謝料を請求する』
『マミ「クリスマスどうしようかしら…」』

杏子「……なんだコレ?」

マミ「これはインターネット上にある、某巨大掲示板にあったスレッドのタイトルね。ほんの一部だけれど。
   見ての通り、多くの人たちがクリスマスの到来に悲鳴を上げていることが分かるわ」

杏子「へぇ」

ほむら「さすがにネタでしょう……?」

マミ「まぁ、本当に死にたいと思っている人はインターネットなんかしていないかもしれないわね。
   けれど、少しでも心の奥底で『寂しい』と思う人が、クリスマスに合わせて同時期に多発する。これは事実よ」

杏子「信者じゃなくても、教会来てくれりゃーそんなに寂しい思いもしなさそうなんだけどなー……」

マミ「普段から感じている孤独感が増幅される、というのも多いでしょうし。どうしようもないわ……」

ほむら「なるほどね……」

お前ら最後の行に気づけ

マミ「そして時代の情勢もあるわ」ピッ

『ひとりぼっちは増えている』

背景色とフォントがまともに戻り、Excelの匂いがするグラフが表示される。

ほむら「『単身世帯数の増加』?」

マミ「ええ。さらに国内情勢に的を絞って、白書からのデータよ。
   見ての通り、一人で暮らしている人は年々増え続けている」

ほむら (意外と真面目にパワポ作ってたのね……)

マミ「さらに」ピッ

グラフが変わる。

マミ「これは未婚率のグラフね。やっぱりこれも、世代を問わず年々増え続けている。
   この国では、独り身で居る人々もどんどん増えていって居るのよ」

ほむら「ふうん。つまり、ひとりぼっちはどんどん増えているし、日本の風習も相まってみんな陰鬱な顔をしていると」

マミ「そういうこと。海外でも、クリスマスが根付いた所ではやっぱり魔法少女って忙しいらしいけれど……」

QB「キリスト教国では忙しいようだよ。僕自身が見たわけではないけどね」

マミ「それにも増して、私たち日本の魔法少女にとっては戦いなのよ。分かってもらえたかしら?」

ほむら「……そうね。この目で見るまでは何とも言えないけれど、理屈は分かったわ」

ふむふむ

マミ「ありがとう。そうしたら説明は終わりにして、早速作戦会議に入るわよ。
   といっても、問題があれば指摘してもらうという形だけれど……」ピッ

『タイムテーブル』

24日、25日、両日の予定が三人分、帯で示されている。

マミ「こんなふうに、基本的には二人が行動するシフト制で行くわ」

ほむら「……え?」

マミ「6時間単位で2コマ行動して1コマ休憩する形ね。最初は私と暁美さんでパトロールに出かけて、
   6時間経ったら暁美さんと佐倉さんが交代、暁美さんは睡眠を取ってもらって――」

ほむら「ちょ、ちょっと待って!」

マミ「……? 何かしら?」

ほむら「え、24日の朝から48時間、ずっと予定が入っているように見えるのだけれど……」

マミ「そうよ?」

ほむら「……本気?」

杏子「これでも楽な方だぞ、去年はマミもあたしも一人でやってたしな」

ほむら「嘘でしょ……」

マミ「ここも風習が絡んでいる所ね。本来は日没を区切りに用いる教会暦が、24日の夜からクリスマスになるから
   『クリスマス・イブ』として祝うのだけれど、日本だと24日からともかくめでたい日扱いだから……」

いい着眼点

マミ「拠点に使うのは私の家でも良いのだけれど、マンションよりは暁美さんの家の方が便利だと思うの。
   使わせてもらえないかしら?」

ほむら「……ええ、かまわないわ」

ほむら (どうしようもなく本気ね、これは……)

マミ「ありがとう。そしたら、23日の深夜に暁美さんの家に集合ということで」

杏子「了解。あたしは最初寝てていいのな」

マミ「ええ、でも居てくれないと困るから、時間には遅れないようにね」

杏子「分かってるよ」

マミ「前日はしっかり食べて、よく寝ておくこと。ぶっ続けじゃないから大丈夫だと思うけれど」

ほむら「了解……」

マミ「手ぶらな方が動きやすいから、荷物も特に必要ないわね」

QB「ところでマミ。僕の休憩時間がタイムテーブルに入ってないように見えるよ」

マミ「休憩なしで」

QB「やっぱり?」

杏子「どーせいつも付いて歩いてるだけだし、大丈夫だろ」

QB「これでも役立つ助言をしているつもりなんだけどなぁ……」

きゅっぷいきゅっぷい

マミ「とりあえずは以上ね。何か疑問や、改善案はあるかしら?」ピッ

特に隠すでもなくリモコンを押すと、部屋の明かりが元に戻った。

ほむら「……正直疑問しか無いけれど。言うことは特に、無いわ………」

マミ「……実際に見るまではしょうがないわね。佐倉さんは?」

杏子「特にないよ」

マミ「そう。それじゃ、最後に大事な魔法の講習会といきましょうか」ピッ

ガガーッ…

プレゼンもおしまいのようだ。プロジェクタスクリーンが格納されていく。

ほむら「魔法?」

マミ「ええ。これは見た方が早いから、佐倉さん。ちょっと実践して見せて」

杏子「え、あ、あたし!? マミがやればいいじゃんか!」

マミ「私は説明役よ? ほら早く」

杏子「でも、なんかこー改めてやれって言われると。恥ずかしいんだけど……」

マミ「どうせ当日はやるんだからいいじゃない」

杏子「………ああもう、わかったよ!」

はがないを彷彿とさせるな

杏子「よっと……」ノソ

寝っ転がっていた恰好から立ち上がる。

杏子「そ、それじゃやるぞ……」

マミ「どうぞ」

ほむら「……?」

杏子「………そりゃっ!」キラキラッ クルッ

皆の注目を受ける中、掛け声を上げて魔法を使う。
するとクリスマスカラーのエフェクトが輝き、中で杏子が一回転するとそこには…

ほむら「………は?」

愛らしい白のモコモコに縁取られ、真っ赤なサンタコスを着た魔法少女が立っていた。

杏子「ほ、ほら……。やったぞ………///」

服に髪だけでなく顔まで赤い。

マミ「うん、上出来ね。暁美さんには、これからこの魔法を覚えて貰います」

ほむら「……はい? え、ええっ……!?」

どこに突っ込めばいいのか分からず、目を白黒させる。

ほむら「何のために!?」

マミ「いつもは人目を忍んで魔獣狩りをしているけれど、クリスマスばかりはそうも言っていられないのよ。
   幸いなことにサンタクロースの恰好だと、変な所を見られても『ああ、クリスマスのイベントか』で済むから」

ほむら「そ、それだけ……?」

マミ「うーん、もっと大事な理由があるけれど……。まあ、それは当日分かるわ」

ほむら (うう……。この顔は本気っぽい………)

ほむら「というか、衣装って魔法で変えられたのね……」

マミ「ある程度はね。佐倉さんのも、いつもの魔法少女姿のデザインが若干残ってるでしょう?」

ほむら「……言われてみれば、そうね」ジロジロ

杏子「あんまりまじまじと見ないでくれ……///」

マミ「ま、そんなに難しい魔法じゃないわ。今から教えるから、頑張って覚えて」

ほむら「ホントのホントに、やるのね……?」

マミ「ホントのホントのホントよ」

ほむら (逃げ道はなさそうね………)

ほむら「……はあ。わかった。覚悟を決めるわ………」

QB (それにしても毎年、この時期のマミは生き生きしているね……)

あんあん!

――二時間後――

マミ「それじゃ、卒業試験よ。一発で決めて見せなさい」

杏子「頑張れー。失敗すると長引くぞー。キュゥべえ、みかんくうかい」モグモグ

QB「いただこう」

ほむら「ちょっと外野は黙ってなさい……!」

ほむら (よし、行くわよ……) スゥ… ハァ…

深呼吸をし…

ほむら「………とりゃっ!」キラキラッ クルッ

杏子とまったく同じエフェクトと動作で魔法を使う。すると…

杏子「……おおー」

マミ「やるじゃない!」

やはりいつもの魔法少女姿をベースに、真っ赤に染まったサンタコスほむらが姿を現した。

ほむら「ど、どうかしら……///」

マミ「良くできたわ、免許皆伝よ! なかなか似合ってるし、言うこと無しね」

ほむら (はぁ。まさかエフェクトの出し方まで強要されるとは思わなかった……)

ほむら「当日は……この恰好で行動、するのよね……?」

マミ「そうよ?」

ほむら (改めて心の準備が必要ね、これは……)

杏子「ご苦労さん、ほむら」

ほむら「……杏子もこれ、教えられたのよね?」

杏子「まぁな。厳しい修行だったよ……」

ほむら「お互い辛いわね……」

杏子「ああ……」

マミ「何よ。ホントに便利なんだから、サンタ服」

ほむら「大丈夫、そこは疑ってないから……」シュン…

とりあえず、変身を解いてもとの服装に戻る。

マミ「あら、カワイイのに戻っちゃうの?」

ほむら「もう遅いもの。帰らないと」

マミ「そっか。泊まっていてもいいのよ?」

ほむら「着替えもないしね。今日はやめておくわ」

かわいい

マミ「分かった。それじゃとりあえず、今日の作戦会議はこれにて終了ね。
   当日までに何かあったら、私に聞いて頂戴」

ほむら「了解」

杏子「ふぁー、長かったな。もうこたつで寝ちまおうかな……」ンッ…

おおあくびをしながら体を伸ばす。

マミ「佐倉さんはお風呂ぐらい入ってきなさい」

杏子「へいへい」

ほむら「キュゥべえ、帰りましょう?」

QB「それじゃマミ、杏子、お邪魔したね」ピョコッ

ほむらの肩に飛び乗るキュゥべえ。

ほむら「おやすみなさい」

杏子「おやすみ」

マミ「おやすみなさい。24日、戦場で会いましょう」

ほむら「はいはい……」

ギィ… パタン

ほむほむ

――23日 23時50分 ほむホーム――

静かな深夜の部屋の中。布団やその他いろんなものが散らかっている。

マミ「皆の者。準備は宜しいか」

腰に手を当て、険しい顔で尋ねる。

QB「契約の準備なら、僕はいつでもできているよ」

杏子「あふふ……。あ、うん、いいぞー……」

ほむら「特に準備という準備も無いじゃない……。あ、財布ぐらい持って行かないと……」

マミ「うわあ、締まらない……」

ほむら「……ていうか杏子、あなた眠そうだけど、まさかちゃんと寝てないの?」

杏子「んー? ちょっと準備作業が長引いちまってさ」

ほむら「準備?」

マミ「ええ、これよ」ドサッ

背中に抱えていた、大きな白い布包みを降ろす。

ほむら「それはいわゆる、サンタのプレゼント袋よね……。四次元ポケット的な」

マミ「四次元はあなたの盾でしょう? これは三次元よ」

ほむら「ただのコスプレアイテムじゃないわけ? コレ……」

マミ「大事な中身入りよ。私もやっていたんだけれど、佐倉さんは先に眠れるから残りを頼んでおいたの」

ほむら「まぁ、もうその……中身が何でも良いわ。とりあえずついて行くから」

マミ「うん。じゃあ早速、出かけましょうか!」キラキラッ クルッ

派手なキラキラを飛ばしてサンタに変身。
降ろしたプレゼント袋を背負い直し、どこからどう見ても完璧なサンタである。

ほむら (逆に目立つだけな気がするのだけれど……) キラキラッ クルッ

ほむらも、すこし控えめな動きでサンタ服に着替えた。

杏子「いってらっしゃーい」

マミ「留守番よろしくね」

ほむら「冷蔵庫とか漁ってもいいけど、あまり派手に食い散らかさないで頂戴ね」

杏子「大丈夫だよ、今は眠くてそれどころじゃねーし……。ふああ」

ほむら「……そう。行ってきます」

杏子「おう」

ギィー パタン…

杏子「………zzz」

トコトコ…

二人で歩く深夜の街。服はモコモコと暖かいが、
それでも顔に吹き付ける氷点下の風が少し痛い。

ほむら (今のところ、誰も……居ないみたいね) キョロキョロ

周囲の視線を慎重に確認しながら歩く。

QB「ほむら、どうしたんだい? そわそわしているように見えるよ」

ほむら「っ、貴方は黙ってなさい……」

マミ「ふふふ。そのうち慣れるわよ」

ほむら (変な趣味に目覚めるみたいな言い方ね……)

ほむら「……それで。どこに向かうつもりなの? 魔獣が出る様子も無いわよ?」

マミ「うん、基本的には一人暮らしの人がターゲットだから。
   このあたりは戸建てが多いけれど、駅の方に近づくと、
   アパートが多く建っている場所があるでしょう。あの辺から始めるわ」

QB「去年と同じルートだね」

マミ「ええ、少し早足で行くわよ!」スタスタ…

ほむら「あ、ちょっと置いてかないで……」トコトコ…

――とある集合住宅の前――

ほむら「嘘でしょ……」

マミ「……ね?」

一見、何の変哲もないアパート。廊下の蛍光灯が寿命になり、やかましく点滅している。

QB「今年も酷いね……」

しかし魔法少女の目には、そこがどす黒い瘴気に包まれていることが見て取れた。

ほむら「……でも、魔獣が居る様子はなさそうね」

手の甲のソウルジェムを見るが、特に反応は見られない。

マミ「魔獣が出現する予兆、といった所ね。早速行動に移るわ」

ほむら「え? 出現する前にどうやって……」

QB「何事もね、起こった結果に対処するのも大切だけど、それを引き起こした原因を絶つのがもっと大事なんだ」

ほむら「な、何? 偉そうに……」

マミ「ふふふ。そう言うこと。えっと……うん、あそこね! 行くわよ!」タンッ

言うが早いか、アパートの一室を見定めると、マミはそのベランダに向けて高くジャンプした。

ほむら「あえっえ!? ちょっと!」タンッ

ほむら『何突然不法侵入して、って……うっ!』

テレパシーで話しながら、先ほど眺めた瘴気のまっただ中にいることを自覚し、顔をしかめるほむら。

マミ『どう? ここまで来ると、この部屋が瘴気の発生源だって良く分かるでしょう』

ほむら『そうね……。ちょっと気持ち悪い……』

マミ『これがクリスマスによって強化された『寂しさ』よ……。だんだんクリスマスの恐ろしさが分かってきたでしょう』

ほむら『実際に見てしまうと、頷くしかないわね……。それで、どうするの?』

マミ『簡単よ。見てなさい。……こんばんはー!」コンコン

良く通るいい声で挨拶をしながら、窓ガラスをノックする。

ほむら『はいぃ!?』

マミ「開けてもらえませんかー?」コンコン

ほむら『ちょ、ちょっと何やってるのよ!』

マミ『大丈夫よ』

そのまま20秒ほど待ったろうか。カーテンが開き、若い男性がぎょっとした目でこちらを見つめた。
十代ぐらいだろうか。わりと度のきついめがねをかけている。

マミ「こんばんはー」フリフリ

それに穏やかな笑顔のまま、マミは手を振って応えた。

俺か

いや俺だろ

ガラガラッ

男「き……君たちは……? 一体……? ここで何を?」

顔は驚いた表情のまま、男が窓を開けて声を上げた。

やはりというか何というか、部屋には一人だけのようだ。
まっ暗なワンルームに、パソコンの液晶画面だけが眩く浮かんでいた。

マミ「うふふ。私たちは、通りすがりのサンタクロースです」

男「さ、サンタぁ? 何を言って……」

ほむら (………??)

男と同様か、あるいはそれ以上に混乱した表情で棒立ちのほむら。

マミ「ちょっと早いんだけれどね。よっと……」ドサッ

背中の袋を降ろし、

マミ「何だか寂しそうな気配がしたから……」ゴソゴソ…

中を漁って小さな包みを取り出した。

マミ「はい! クリスマスプレゼント!」ヒョイ

それを、男の手を取って、そっと握らせる。

男「………え?」

マミ『よし、オッケー。暁美さん、ずらかるわよ!』

ほむら『………あえ!?』

マミ『下の階のベランダに逃げ込むわ!』

マミ「それじゃあね。メリー・クリスマス!」ピョン

多くを語る前に、さっさとベランダから飛び降りるマミ。

ほむら『あ、待って!?』ピョン

ほむらも後を追ってベランダから飛び降りる。

男「えっ! ちょっと! ここ5階だぞ!!」ドタッ

それを見て、蒼白な表情で窓から飛び出す男だったが、
見下ろすベランダの下には誰一人姿が見えなかった。

男「消えた……? 何だったんだ………」

一瞬にして現れては消えた、まるで夢のような少女のサンタ二人組。

男「………」ギュッ

ただ、手に強く握っている小さな包みが、それが夢ではなかったことを確かに証明していた。

ほむら「びっくりしたわよもう……。説明しなさいよね……」テクテク

マミ「ふふふ。でも、一目で何をするか分かったでしょう?」トコトコ

ほむら「そうだけれど……」

QB「要はほむらを驚かしてみたかったんだろう、マミ?」

マミ「えへへ、バレバレよね」

ほむら「まったく……。はぁ、サンタ服の『大事な理由』って、こういうことだったのね。
    まさか本当にサンタクロースやるために着せられてるとは思わなかったわ」

マミ「でも、効果あったでしょう?」

ほむら「……信じられないほどにね」

事実、プレゼントを受け取った男の部屋からは、嘘のように瘴気が消え去っていた。

QB「初めてマミがこれを始めたときは、僕も驚いたんだ。
  人の感情がこんなことで大きく揺れ動くなんて、全く想定していなかったからね」

ほむら「え? キュゥべえの入れ知恵じゃないの?」

QB「違うよ。こんなことをやっている魔法少女は、僕の知る限りかなり珍しい」

マミ「入れ知恵とは失礼ね。私のオリジナルよ、題して、サンタ少女大作戦!」

ほむら「題するほどの名前でもないわね……」

マミ「初めはね、街中にあふれかえる瘴気に驚きながら、次から次へと沸いてくる魔獣を
   ともかく倒せるだけ倒していったんだけれど……」

ほむら「……あんな瘴気がそこかしこにあるとしたら、限界は早そうね」

マミ「ええ。魔法少女としても未熟だったこともあって、逃げて隠れてで
   悲惨な目に遭うのがオチだったわ。……生き残るだけで精一杯だった」

ほむら「………」

マミ「それで、どうしたらいいかなって、考えに考えて。
   試しにやってみたらうまくいったのよね。サンタ少女大作戦」

QB「一応、僕も一緒に考えたんだよ?」

ほむら「はいはい、偉いわね」

マミ「初めは正直、ビクビクしながら配って回ってたけれど……。
   今じゃ慣れた物よ、むしろ驚く向こうの顔が楽しくてしょうがないぐらい」

ほむら (たしかに、クリスマスの話になってからずっとハイよね、マミ……)

マミ「おかげで魔獣の発生数も圧倒的に減ったし、良いコトばかりよ。
   なかなか素敵な作戦でしょう?」

ほむら「……ええ、認めるわ。でもやっぱり、それなら先に話して欲しかったわ。
    魔獣が急激に増えるみたいな事を言われたから、グリーフシードの残りが万全かとか、
    多数に囲まれたらどうするべきかとか、結構今日まで悩んでたんだから……」

マミ「ふふふ。ごめんなさい」

ほむら「そういえば、あのプレゼントの中身は何なの?」

マミ「ああ、これ?」ユサッ

背中の袋を揺らして応える。

ほむら「そうそれ」

マミ「大した物じゃないわ。私の手作りクッキーを、何枚か小袋に入れてあるだけよ」

ほむら「え……。それ、全部手作りクッキー?」

マミ「ええ。そんなにお金があるわけでもないし、たくさんプレゼントにできて、
   好き嫌いの少なそうな物って言ったら、これくらいしか思いつかなかったの」

ほむら「いえ、何というか……。よくやるわね。かなり時間かかったでしょう」

マミ「時間はかかったけれど、お菓子作りは楽しいから良いのよ。
   ちょっとずつ、それぞれ味やデザインも変えてあるから」

QB「昔は僕も味見で参加できたんだけどね……。今は杏子に役割を奪われてしまったようだ」

ほむら「人間の味覚の方が信頼性高いもの。比べるまでもないわね」

マミ「そういうわけではないけれど……。余ったのあげるから、我慢して、ね?」

QB「いや、僕は別に我慢が出来ない訳じゃないんだ。だがくれるというのなら有り難く頂こう」

ほむら「何ちょっと恥ずかしい受け答えしてるのよ……」

何故俺の部屋にはマミサンタが来てくれないんだ…

マミ「あっと……丁度いいわね」

ほむら「え?」

マミ「あそこ」スッ…

指さした先、また別のアパートが瘴気に包まれている。

ほむら「あら、本当……。またプレゼントを配るのね?」

マミ「ええ。分かってるじゃない」

ほむら「いや、さすがにそのくらい覚えるわよ……」

マミ「じゃ、次はできるわよね、暁美さん?」ヒョイ

プレゼント袋を渡される。

ほむら「………え?」

マミ「次はあなたの番よ、ほら。やってごらんなさい」

ほむら「あ、え、ちょっと……その、急に……?」

マミ「大丈夫よ、優しくプレゼント渡すだけだから。はい、袋を持って」グイッ

マミ「行くわよ!」タンッ

ほむら「わわ、ま、待って……!」タンッ

ほむら「………」

カーテンの閉じた窓を見据えたまま、ベランダで固まっている。

マミ『ほーら、ちゃっちゃとやっちゃいなさい。まだこの後見回る場所はたくさんあるのよ?』

ほむら『わ、分かってるけれど……。やっぱり恥ずかしいというか、怖いというか………』

マミ『……ノックしちゃうわよ』スッ

ガラスに腕を伸して見せる。

ほむら『ああっ、ダメ! 心の準備が!』グイッ

マミ『……別に気負うこと無いのよ。どうせ知らない相手だし、通報されても逃げ切れるし、襲われても負けないし。
   今までそんなことは無かったけれどね』

ほむら『分かってる、分かってるのよ……』

ほむら「すぅ……はぁ………」

深く、息を吸って吐く。白く消えていく息が、自分を落ち着かせてくれる。

ほむら『………よしっ。行かせてもらうわ』

笑顔を浮かべるべきであると分かっていないのか、かなり硬い表情で決意を固め…

ほむら「………こんばん、わ!」ゴンゴンッ

ついにほむらはサンタ少女として、初めてのノックを力強く鳴らした。

ほむら (……? 出てこない?)

ほむら「………こんばんわー!」コンコン

二回目のノック。

ほむら (………あれ? 居ない……ってことは、無いわよね?) ジロジロ

情報を求めて閉じたカーテンの隅々を見る。
そういえば合わせ目に隙間があるな、とそこに目線を送ったとき、

ほむら「………うっわぁ!?」ズザザッ

同時にそこにぎょろりと目玉が顔を出し、驚いてひっくり返そうになった。

ズダン ガタンバタン ガラガラン…

窓の向こうでも同じ反応をもっと派手にやらかしているらしく、豪快な音が聞こえてくる。

マミ『な、何やってるのよ………』

ほむら『め、めめ、目玉がっ! 急に!』

マミ『見れば大体分かるけれど……。驚きすぎよ………』

そのまま待っていると、確認とばかりに再びそうっとカーテンの隙間から目が覗く。それに向けて、

ほむら「こ、こんばんは……」ペコリ

ほむらは深々とお辞儀を返した。

一人でこんなの書いてて悲しくならないの?

ガラガラ…

中にいた男が、おしりをさすりながら窓を開けた。
20代半ばといったところか、先ほどの男よりは年上だ。

男「っつつ……。な、何だ……? あんたら……」

ほむら「え、えっと! 私たちは……その、通りすがりの、サンタクロースです!」

ややテンパり気味だが、なんとか受け答えするほむら。

男「まぁ、たしかにサンタの恰好してるな………」

男 (子供……だよな? 何かの遊びか……?)

男「ええと、何でオレん家に?」

ほむら「な、何となく貴方の事が気になったから、ちょっと寄っただけ」ファサッ

男「………はい!?」

マミ (また微妙な発言を……)

男 (知り合い……? なわけないよな……。何だ、オレの頭がイカレたか?)

ほむら「んと……」ゴソゴソ

困惑する男をよそに、袋の中からクッキーの包みを一つ取りだして…

ほむら「はい。クリスマスプレゼントよ。う、受け取りなさい……!」

まみクッキー食べたい

男 (……よくわかんねーが、夢は最後まで見ておこう………)

男「あー、その、ありがとう……」

素直に受け取る。

ほむら「あ、いえ、こちらこそ……」ペコリ

男「……?」

ほむら「それじゃ、ええと。メリー・クリスマス! いい週末にしなさいよ!」ピョン

マミ (なんとか成功、かしらね……) ピョン

二人でさっさと飛び降りる。

男「………は? 何だおい、ちょ……!」ガタタッ

窓枠に足を引っかけながら、やっぱりこの男もベランダの下を覗く。
3階の高さから見る暗い路地には、ネコが一匹歩いているだけだった。

男「さっぱりわけがわからねぇ………」

男「………あー。寝よう。寝た方が良いな、うん………」

ガララ… ピシャッ

呟きながら男は部屋に戻る。自分で散らかした部屋の様子を眺め、
うんざりとした顔で片付けを始めたようだ。

ほむら「っはぁ、はぁ……。緊張したぁ………」

マミ「ご苦労様。何てこと無かったでしょう?」

ほむら「……ええ、まぁ。一度やってしまえば、吹っ切れる物はあるわね………」

マミ「でしょう。にしても、暁美さんがあそこまで萎縮するとは思わなかったわ。
   ……男性恐怖症、とかそういうわけじゃないわよね?」

ほむら「いや、初対面の他人の大柄な男性って、さすがの私も無理よ……」

マミ「………それもそっか。ふふ」

ほむら「この調子で配りまくればいいのよね。これなら何とかなりそう」

マミ「そうね、でも――」ピタッ

シュイン…

会話の途中で、急に足を止めて銃を束で召還するマミ。

ほむら「えっ?」

ジャキジャキッ ズダダン!

それを無言で構え、睨んだ建物の屋上に向けて打ち込むと、
遠くで出現したばかりの魔獣が粉々にはじけ飛んだ。

QB「……さすがだね。僕が警告するまでもなかったようだ」

マミ「ふぅ。こんな風に、予防が間に合わなければ魔獣は湧くわ」

ほむら「え……? ええ……」

鮮やかな撃退をぽかんと見つめる。

QB「例年、後半になるほど既に魔獣が湧いている割合が高くなるね」

マミ「そうね。だから、気を抜かないこと。いいわね」

ほむら「りょ、了解……」

マミ「一応、あそこの部屋にもプレゼントを配ってきましょう。行くわよ!」

ほむら「はい!」

こうしてほむらは初めての、マミは例年のサンタ活動を始めた。

時々顔を出す魔獣をめんどくさそうに薙ぎ払いながら、ひとりぼっちな人たちにせめてもの愛を届けて回る。

影で戦う普段とは違い、街の人たちと直接話してプレゼントを配る愉しさ。

それがいつもの、誰にも知られない戦いとは違う愉しさなんだなと、ようやくほむらもマミのテンションに合点がいく。

最初のシフトが終わる頃には、担いだ袋の中身は半分近く減ってしまっていた。

――六時間後――

ギィ… バタン

マミ「ただいまー……」

ほむら「ただいま」

QB「ただいま杏子。起きてるかい?」

空がうっすらと白み始めた頃、交代のためにほむホームへと戻ってきた。

ほむら「まぁ間違いなく……」

杏子「んが……。ぐご………」

マミ「寝てるわよね……」

布団を蹴り飛ばし、大の字になっていびきを立てている。
エアコンの温度が高めだったからかも知れない。

ほむら「……1、踏む。2、口と鼻をふさぐ。3、くすぐる」

マミ「酷い選択肢ばかりじゃない……。あなたも後で起こされるってこと、忘れてない?」

ほむら「私はちゃんと時間に起きられるもの」

マミ「そうかしら? ……ほら、佐倉さん、朝よー」ペチペチ

とりあえず、頬を叩いて起こすことにしたようだ。

杏子「んっ……うう……?」モゾッ…

マミ「ほーら、朝御飯なくなっちゃうわよー」ペチペチ

杏子「ん……」パチッ

ようやく目を開ける。

杏子「朝……?」ゴシゴシ

目を擦りながら、体を起こすが、

杏子「……もうちょっと寝させてよ、マミさぁん………」ドサッ

まだ眠いらしくマミの膝元に顔を埋める。

マミ「あら、まだ眠いの?」ナデナデ

杏子「眠いー……」

マミ「そうね。ならこのままそうしてても良いけれど……」ナデナデ

マミ「ここ暁美さんのおうちよ。こっち見てるし」

杏子「……………はっ!?」ガバッ

ほむら「………」

ようやく正気を取り戻した杏子と目が合う。

ほむら「ええと……。おはよう、杏子。いい目覚めを堪能したようね」

杏子「う……あ……あ……」

QB「そうか、ほむらは初めて見るかも知れないね。マミが起こすと、杏子はたまにこうなるんだ」

ほむら「そう、いらない解説をありがとう」

杏子「うわあああぁあぁぁぁぁあぁあ!!」ガバッ ズダダダッ ダダン

寝起きとは思えない素早さで、掛け布団をひったくり部屋の隅に逃げていく。

杏子「夢だ……夢だ……」モゾモゾ

そのまま布団を頭から被り、精神安定のためのひきこもり体制に入った。

ほむら「そこまでショックを受けなくても……。何だか気の毒ね……」

QB「君も朝の寝ぼけを披露するというのはどうだい? ほら、たまに朝起きるt」ガシッ

ほむら「磨り潰すぞ」ギチチッ

QB「きゅいっ、そこは痛いから、痛いから握らないで……!」

マミ「まあいいわ。時間もそんなに無いし、朝御飯にしましょう。サンドイッチ作ってきたから」

ほむら「じゃあお湯を沸かした方がいいわね。紅茶でいいでしょう?」

マミ「もちろんよ」

十分後、黙ってテーブルに戻ってきた杏子と朝御飯。

「「「「いただきまーす」」」」

ほむら「ん……。いいわね、チキンに若干のクリスマス感がある」モグモグ

マミ「そういう意味を込めてはいないけれど。ありもので作っただけよ」モグモグ

ほむら「なんだか悪い気がする……。朝御飯の用意なんて何も考えてなかったから」

マミ「用意は別にしなくていいと言ったのは私だし。気にすること無いわ」

杏子「………」モグモグ

QB「杏子も復活したようだね」

杏子「……ん? 復活? 何の話だ?」

QB「だからさっきn」グニッ

杏子「な・ん・の・は・な・し・だ?」ギリリッ

QB「い゙っ……し、しっぽは……尻尾は引っ張らないでよう………!」

マミ「無かったことにしたらしいわね……」

ほむら「いつまでもあのままじゃ困るし、賢明な判断ね……」

マミ「さてっと、ごちそうさま。あんまりだらだら休憩もしてられないし、出ましょうか、佐倉さん」ガタッ

杏子「あ? ああ、そうだな。袋の中身は……詰め直してあるな」ガタッ

半分にへこんでいたはずの白い袋が、またもとのサイズに戻っている。

ほむら (どれだけクッキー焼いたのよ……)

杏子「よっと」キラキラン クルッ

戦闘服に身を包み、一瞬で準備は完了だ。

マミ「暁美さん、悪いけれど、食器の片付けだけお願いして良いかしら」

ほむら「ええ、もちろん」

マミ「そしたらゆっくり寝てて頂戴、まだまだ先は長いから」

ほむら「分かってるわ。最初の6時間で、結構疲弊したもの……」

マミ「ふふふ。それじゃあね、いってきまーす」

杏子「行ってくるよ」

ほむら「行ってらっしゃい。気をつけてね」

ギィ… バタン

ほむら (………寝る前にシャワーぐらい、浴びようかな……?)

杏子「さってと、どこ行くんだ?」トコトコ

マミ「次は風見野まで行くわ。あそこも担当範囲だから」テクテク

杏子「そっか。ちょいと出遅れたから、湧いてそうだなぁ、魔獣」

マミ「寝てる人ばかりでしょうしね。でも佐倉さんは、そっちのほうが好きでしょう?」

杏子「んー……。どっちもどっちかな。どうせ大量にグリーフシード手に入るし、好みなんて無いよ」

マミ「ふふふ。そっか」

杏子「そんじゃ、ちょっと離れてるし……飛ばすよっ!」ピョンッ

力強く地面を蹴り、民家の屋根を跳ねていく。

マミ「あ、待ってよ! キュゥべえ、肩に乗って」

QB「頼むよ」ピョコン

シュルル…

マミの方は、リボンを使って体を引っ張るように追いかけていく。

杏子「はは、鬼ごっこしたらあたしは無敵かもなー」スタッ ピョン

マミ「調子に乗ってコケたこともあるじゃないの、慎重に行きなさい」スタッ シュルル…

杏子「う……。分かってるよ」

朝日の眩しい町並みを、忍者のように駆けていく二人のサンタ。
さすがにクリスマスと言えど、異様な光景としか言えないだろう。

マミ「ふぅ、初っぱなから飛ばしまくりね、佐倉さん……」スタッ

杏子「……あれだな」ピョン

マミ「うん?」シュルル…

杏子「いや。この二人組で、クリスマスってのは久々だろ」

マミ「そうね。何年ぶりかしらね……」

杏子「一人でやってる時も、クリスマスはサンタ作戦を借りてやってたけど……。
   なんかあのときは、自分が一番ひとりぼっちじゃねえかと、哀しくなっちまう時があったからなー」

マミ「それは……。うん、私にも言える、かな」

杏子「………だからさ。今日は、その。改めて、笑顔でプレゼントが配って回れる気がしてさ。
   多分、それでちょっと浮かれてんだよ、あたし……」

マミ「………」

杏子「………な、何か言ってくれよ……///」

マミ「うふふ、私もよ。あなたとまた二人でこうしてクリスマスを迎えられて、すごく嬉しい。
   今年は暁美さんという仲間も増えて、気分は向かうところ敵無しだからね。浮かれちゃうわよね」

杏子「………へへっ、だよなっ!」

そんな会話をしながら跳ね回り、既に場所は風見野郊外。
魔法少女にとっては、車で10分の距離も徒歩10分とかからない。

マミ「そろそろ風見野に入ってるわよね?」

杏子「そーだな。んっと、例年だと、この辺……?」キョロキョロ

見回すと早速、朝の平穏を破る迷惑な獣の姿があった。

QB「近くに反応はあるようだね」

杏子「ああ、居た居た。ほら、あそこ」

マミ「やっぱり居たわね」

杏子「よっしそんじゃ……」ダッ

手に槍を召還しながら、踏み込んで魔獣の元へと飛んでいく。

その勢いのまま振りかぶると、

杏子「いただくぜっ!」ズバッ

多節棍をしならせて叩き付ける。

一撃で霧散し、魔獣は姿を消してしまった。

これはいいものだ

杏子「うし一丁上がり! 調子良いぜ今日は!」

と、調子に乗ってるところを、

マミ「佐倉さん!」シュルル… グイッ

マミのリボンで絡め取られ、急に引っ張られる。

杏子「ぐえっ! 何を――」

文句を言おうとしたその間際、

ジュジュッ!

と音を立てて、一瞬前に杏子がいた場所をレーザーが焦がした。

杏子「――って何だ、もう一匹居たのか!?」

マミ「油断しないの!」ズダダンッ

建物の影に居た魔獣を銃で撃ち払った。

QB「危ないところだったね。杏子にしては珍しい油断だったよ」

杏子「わ、わり……。テンション上がりすぎだった」ポリポリ

マミ「気をつけてね。みんなで居られるクリスマスを確かめた直後に、一人失うなんてイヤよ」

杏子「いや、うん。その通りだな……」

その後は、魔獣を蹴散らしながらの、いろんなひとりぼっちとの出逢いだった。

寒い中で元気に動き回り、三者三様に疲弊しながらも、笑顔で愛を届けていく。

時には、危機に陥ったりもしながら――


杏子「よっと……ここだな』ヌッ

ベランダに捕まって、体を持ち上げる。なかなかどす黒い瘴気。

ほむら『心臓に悪いから、足を踏み外したりしないで頂戴……』

杏子『悪い悪い。次はあたしでいいか?』

ほむら『よろしく』

杏子「それじゃ。こんばんはー! いるかい?」コンコンッ

すぐには出てこない。毎回、この瞬間はちょっとドキドキ感がある。

杏子「いねーか?」コンコン

二度目のノック。すると、

「はぁ~い? なんでしゅか~?」

中から呂律の回らない声が聞こえてくる。

杏子「開けて貰えねーかな?」

「ちょっと待ってねーん……」

シャッ ガラガラ…

全く警戒感を見せずに、カーテンも窓も開け放つ。そこに立っていたのは…

ほむら「うげっ!!」

めがねの奥で、定まらない目線を泳がせる女性。
どう見てもほむらの担任である、早乙女和子先生その人だった。

片手に発泡酒の缶をぶら下げている。

ほむら『ちょ、ちょっと、これはマズいわよ……』クルッ

背中を向けてベランダの隅っこに逃げるほむら。

杏子『ほむら? どうかしたか?』

ほむら『担任! うちの、クラスの、担任!!』

杏子『え、マジかよ。へぇ、この行き遅れ感漂うオバサンがほむらの担任かぁ……』

ほむら『合ってるけど言わないであげて!』

和子「ん~? サンタさんだ~?」

杏子「ああ。何だその、すげー酔ってるっぽいけど……。飲み過ぎるなよ?」

和子「………これが! 飲まずに! 居られますかっ!!」ドスッ

床を踏みならす。

杏子「お、おい……?」

和子「何よ、私ばっかり置いていかれて! 去年まで一緒に飲んでた幸子も聡美も、
   二人して今年は男を作って! 来年も一緒だって約束したくせに!!
   これじゃ私は一人でやけ酒するしかないじゃないのよ!!!!!」

杏子「わ、悪かった、とりあえず落ち着け!」

和子「ぬぬぬぬぅ……」

ほむら (飲むと余計酷いのね、先生……)

杏子「あんたが飲むのは勝手だけどさ、ほら、体こわしちまうと悲しむ人が居るだろ?
   あたしも、あんたが倒れるところか、見たくないしさ」

和子「………そう。そうね……。
   ……分かったわ。サンタさんの言うことなら、私ちゃんと守ります!」

杏子「あ、おう……。そうしてくれると助かる……」

和子「んふふふ、そうよ。サンタさんが来てくれるなんて、私もまだまだ純粋で若いって事よね。
   まだまだ私はいけるっ! 間違いない!」ニマニマ

杏子 (うわあ、ツッコミてーなぁ……)

和子「………あれ~? そっちでうずくまってるのも、サンタさん?」

ほむら「!!」ビクッ

急に声をかけられて震える。

杏子「あー、一応。サンタ仲間? というか」

和子「んー? そっちの子、なぁ~んか見覚えがあるな~?」ジロジロ

杏子「そそ、そんなことねーと思うけどなー……」

和子「お話ししてくれないのかな~?」

杏子『おい、何か言えって!』

別にほむらはこのまま逃げてもいいのだが、状況に狼狽して身体が動かない。
あれやこれや解決策を考えた据えにほむらが出した結論は、

ほむら「に、にゃんだい? あたしは、とーりすがりの、サンタクロースだ、ぜ?」

鼻声で妙な口調の返事をすることだった。

和子「………」

ほむら「………」

和子「………気のせい、かな?」

ほむら (セーフ! ナイス酔っぱらい!!)

杏子「ま、まぁそのなんだ、それじゃ……これ、プレゼントな」ゴソゴソ ヒョイ

クッキーの包みを渡す。

和子「えへへー、ありがとう! 何年ぶりかしら、サンタさんにプレゼント貰うなんて」

杏子「それじゃ、まだ配りに行く場所があるから、またな!」ノシ

和子「うん、まったね~」ノシ

杏子『行くぞほむら!』ピョン

ほむら『危なかったッ!』ピョン

QB『お酒、興味深いね。思春期の少女には一般的に提供されていないから、あんまり研究していないけど……』

ほむら『貴方の役には立たないと思うわ……』

和子「………はれ。飛んでいっちゃった」

誰も居なくなったベランダをぼーっと見送る。

和子「……最近のサンタさんは、トナカイを使わないんでしょーか?」

回らない頭でちょっと考える。

和子「………ま、いいや、寒い寒い」ガラガラ ピシャッ

回る頭で考えても多分分からないだろう。
早乙女先生はまた、一人で発泡酒を消費する作業に戻っていった。

おい、誰か早く参考資料を持ってこい

いや、後生ですからおながいします

時には、現実にうんざりしながら――


ほむら「ここは……」

マミ「………ええ。その、分かる……わよね?」

ほむら「一応……」

日も暮れた、本格的なイブの夜。
看板やネオンの眩しい建物が並ぶそこは、いわゆるラブホテルの立ち並ぶ一角である。

ほむら「その、ここって、一人で寂しい人が来る場所じゃないわよね……?」

マミ「そうね。ただ、もしもということがあるから。見回らないわけにはいかないわ」

ほむら「ううん。でもね……」キョロキョロ

当然のように、悦びで満ちて居るであろうこの一角に瘴気は感じられない。

代わりに目に映るのは、「FULL」のランプが明るく灯る看板ぐらいだ。
どこのホテルも皆さんお楽しみ中らしい。

ほむら (性なる夜とはよく言った物ね……)

マミ「ふぅ。大丈夫そうね」

ほむら「さっさと行きましょう。ラブホテル街を守るために戦ってると考えるのは、ちょっと辛い物があるから……」

マミ「同感ね……」

時には、本当に危ない人にも会って――


杏子「あ、おい、あそこ」

駅前の建物。中でも背の高いデパートの屋上から。
双眼鏡を覗く杏子が、何かを発見して指さした。

マミ「……? ベンチ?」

深夜3時、電車も来ない駅のホームで、スーツ姿の男が一人ベンチに座っていた。
濃い瘴気を漂わせながら。

QB「あれは相当に暗い感情を持っているようだよ」

杏子「………ちょーっと、重そうだけど。どうする」

マミ「……行くしかないでしょう? 出来る限りは、試してみるべきだわ」

杏子「うん。だよな、行くぞっ」ピョン

ためらいなく飛び降りる。

マミ「ちょっと、ちゃんと入場券買いなさいよ?」ピョン

杏子「わーってるよ!」

直接ホームに飛び降りるつもりはないらしい。

男「………はぁ」

顔を覆い、ため息ばかりを繰り返す。
日も沈んでから既に長く、相当冷える外気に震えながらも、動こうとする気力すら見られない。

杏子「………」スッ

マミ「………」スッ

そんな男の左右に、ふたりのサンタクロースが腰を下ろす。

マミ「……おじさん? どうか、なさいました?」

男「………え?」

誰も居ないはずのホームで突然かけられた声に、幻聴かと顔を上げる男。

男「君たちは……一体……」

驚きを表現する気力もないのか、だるそうに左右に首を回しながら唸る。

杏子「あたしらはサンタさ。見ての通りな」

男「サンタ……? はは……ははは。そうか。僕にもサンタなんかがやってくるのか」

笑いでもしなければこらえきれない、そんな表情で。

杏子「………サンタは、別にめでたいめでたいってはやし立てるために居る訳じゃないよ」

マミ「通りかかったら、こんな時間に一人で寒そうにしていたから。風邪をひきますよ?」

男「………」

男 (こんな子供が……? 夜中に? 何なんだろうな、一体……)

冷静に考えて、明らかにただならぬ存在なのは確かだ。
かといって、今の自分の状況を打開してくれる神様ではないことも分かっていた。

男「……サンタってのは、下らない話の相手になってくれたりもするのかい?」

マミ「! ええ、もちろん」

それでも、抱えているモノを抱えたままにしていることに耐えきれず、
男はぽつぽつと事のあらましを話し始めた。

男「僕は……3年前から、名古屋まで単身赴任になってるんだ」

杏子「単身赴任ってーと、会社の都合で遠いとこ行かされる、ってやつだっけな」

マミ「じゃあ、ご家族は……」

男「……うん。子供は居ないんだけど、家、買っちゃってたからね。妻だけ一人こっちにいた」

マミ「………」

男「出来れば、いっしょにいたかったんだけどね。そうワガママもいってられない状況っていうのかな……」

杏子「大変、だな……」

男「……そうだね。我ながら、結構大変だった」

男「週末には、少ないお金をやりくりして、結構頻繁に帰ってきてたんだ。
  たまに花を買って帰ったり、あいつの好きなチーズケーキを買って帰ったり……」

マミ「……うらやましいくらい、いい、旦那さんじゃないですか」

男「………」

表情は、寂しいまま変わらない。
二人とも、結末を予感しながらも、じっと男の話を待っていた。

男「……仕事も、ね。忙しかったんだ。サービス残業は当たり前だったし、
  土日にも出勤しなければ終わらないようなことも多かった。
  それで、帰るって伝えてあったのに、帰ってこれないこととかも多くて……」

杏子「………」

男「それが、悪かったのかな。今日もホントなら、帰ってこれるはずはなかったんだ。
  せっかくのクリスマスだって言うのに、仕事仕事で。
  でも、何となく……あいつに、会いたくって。ものすごい勢いで仕事を終わらせた」

男「ちょっとしたサプライズのつもりだった。急いで駅に行き、惜しい時間の中でプレゼントを選んで、
  新幹線に飛び乗って……」

杏子「それで……家には………」

男「………うん。うかれていた僕がバカみたいだったよ。
  妻が、知らない男と寝ていたんだ。浮気って、いうやつだね………」

マミ「………」

男「………はは。ごめんね。こんなおじさんが、子供にする話じゃないよね」

マミ「……いえ、そんなことは。今は、私たち、サンタクロースですから」

男「………」

杏子「………でもまぁ、そうだな。あたしらになんとかできるような話じゃない」

マミ『え、あっ、ちょっと佐倉さん、何を……!』

杏子『大丈夫だよ、ほら……』

男「………はは。分かってる。これは僕の問題だからね、僕が何かしなければ話にならない」

杏子「……ああ。そういうことさ。まぁ、ほら。これ……」ゴソゴソ…

肩の袋から、また一つプレゼントを取り出して渡す。

杏子「あんたに、ちょっとしたクリスマスプレゼントだよ。少しは、元気だしなよ」ヒョイ

男「………ありが、とう……?」

訝しげに受け取る男。

杏子「………生きてれば、いいこと有るよ。多分な。メリー・クリスマス」ピョンッ

マミ「メリー・クリスマス」ピョン

それだけ言って、二人のサンタは大きく飛んで駅の外へと消えていった。

俺のとこには来なかったんだけど・・・

>>86
美滝原と風見野限定なんじゃないの

お前がサンタなんだよ

また元の、背の高いデパートの屋上から。

杏子「……ひひ、ぼーっと空を見上げてるぜ。最後の最後で驚いたろう、あれ」

QB「あまり派手なことは控えた方がいいと思うんだけどね」

悪趣味に双眼鏡を覗いて男を観察している。

マミ「まったく。急に偉そうに話し始めるから、何かと思ったわよ……」

杏子「ん? やっぱ気づいてなかったか。もうあの人が話し始めてた時には、瘴気もかなり薄くなってたんだよ」

マミ「え、そうだったかしら……」

杏子「時間的にも、クリスマスという時期的にも、まぁ……なんだ。吐き出す相手が欲しかった、んじゃねーかな」

マミ「………」

杏子「あとは、あの瘴気の濃さから言って、結構深刻だったろ。
   それは……。衝動的な、そういう……感情だったんじゃないかって。
   電車が走ってる時間じゃなくて良かったと思うよ」

マミ「そうかも、ね……」

杏子「……大丈夫だって。それに心配してても、あたしらじゃどうしようもないのは事実だしさ。
   あとはおじさんがなんとかするだろうよ」

マミ「うん……。そうね………。次、いきましょうか」

杏子「ああ」

時には、力不足を嘆きながら――


杏子「んっ。ここだな?」

ごくごく普通の建て売りの一軒家。
ただ、二階の辺りが、なぜか瘴気に包まれている。

ほむら「……そのようね。あれ、でも、見たところ……普通の家庭よね?」

杏子「……そうとも限らないよ」ピンポーン

ごく普通に呼び鈴を鳴らす。

ほむら「え!? え、何このパターンは?」

杏子「まあ見てろって。毎年、一人か二人はこういうの見るから……」

ほむら「………?」

急に普通の家庭訪問になって困惑するが、そのまま応答を待つ。

しばらくしたら、

「ブツッ…… 誰?」

インターフォンから、子供と思しき声が聞こえてきた。

杏子「メリー・クリスマス。あたしたち、サンタなんだけどさ。開けてもらえないかな?」

「………待ってて」ブツッ

インターフォンが切れる。そのまま待っていると、

ギィ…

玄関のドアが開き、小学生の低学年にも満たないような男の子が顔を出した。

男の子「………? おねーちゃんたち、誰?」

杏子「うん? 見て分かるだろう、サンタクロースさ。こんにちは」

男の子「こんにちは……?」

杏子「こっち、来てもらえないかな」

男の子「うん……」トテトテ

不思議そうな目で見つめながら、玄関を出て門の所まで歩いてきた。

男の子「……サンタさん?」

杏子「そうさ。良い子の味方のサンタクロースだよ」スッ

しゃがんで目線を合わせる杏子。

男の子「サンタさんって……昨日の夜、来るんじゃなかった?」

杏子「……はは。ごめんな、あたしたちまだ見習いなんだ。ちょっと来るのが遅れちまってさ」

素晴らしいとしかいいようがない

男の子「………サンタさんにも、おちこぼれって、居るんだ?」

杏子「うっ……キビシーな。うん、そうなんだ。ごめんよ」

ばつの悪そうな、それでも笑った顔をする杏子。

杏子「だからまぁ、プレゼントもさ、ちゃんと……欲しいモノを用意はできなかったんだけど……」ゴソゴソ

袋からクッキーを取り出して渡す。

杏子「ほら、あたしたちが、頑張って作ったクッキーなんだ。食べてくれないかい?」

男の子「………うん。食べる」

杏子「そっか。ありがとな! 君が食べてくれると、あたしたちもサンタとして頑張れるからさ。
   君も、頑張ってくれよな」グリグリッ

少し乱雑に、男の子の頭を撫でてやる。

男の子「………うんっ」

杏子『……よし、それじゃ、後ろの家の屋根を飛び越えて消えるぞ』

ほむら『了解』

杏子「じゃーな。また来年、もしかしたら会うかもな。バイバイ!」ピョンッ

男の子「ば、バイバイ!」ノシ

ほむら「来年も、いい子でね」ピョン

トコトコ…

先ほどの家とは一本違う道を並んで歩く。

ほむら「……それで、どういう事? 日曜日の朝に一人って、結構小さい子に見えたけれど……」

杏子「………親がさ、そういう連中なんだよ。多分あれ、クリスマスプレゼントも貰ってないし、
   両親とも昨日から出かけてるとか、そういう状況だと思うぞ」

ほむら「そんな……。どうして」

杏子「子供を、まぁあんまり大事に見てないんだろ。そういうのが、たまに居る」

ほむら「………」

理解できない。でも、杏子の言うとおり、確かに居るらしい。

ほむら「……その、こういうのって、なんとか……できないの?」

杏子「なんとか?」

ほむら「児童相談所とか……」

杏子「おいおい。別に、あの子は虐待受けてたふうではなかったろ。健康だったじゃん」

ほむら「そうだけれど……」

杏子「……あんまり深入りしてもしょうがないよ。あたしらはこうしてサンタの真似事してるけど、
   単に自分達が無駄に戦わなくて済むように、楽な方法を選んでるに過ぎない」

ほむら「それは……」

杏子「所詮、魔法少女でしかないんだから、魔法少女が出来る範囲のことを頑張るしかない。
   人として出来るコト、って意味も含めてね」

ほむら「………」

杏子「何よりあれは、あの子の家庭の問題だよ。全ての家庭が100%幸福で100%円満なんてありえない。
   だったらあとは、あの子が頑張って、自分の境遇を受け入れて。強く生きるしかない」

ほむら (それを……貴女に言われたら………)

ほむら「何も言えないわ……。たしかに、私たちの出る幕では無いわね」

杏子「……うん」

QB「………ほむら、杏子。右の方角に魔獣の反応が無いかい?」

ほむら「え? ……あ、ほんとだ。行きましょう!」

杏子「おっと、了解!」

そして時には、この作戦の暗部を目にして――


最終シフトも近づき、クリスマスもほとんど終わり。
この時間帯になると、瘴気も魔獣も目立っては見あたらない。そんな中…

ほむら「……あ、マミ。あそこの部屋!」ピッ

指を差す。久々に見つけた瘴気に、むしろちょっと機嫌が良い。

マミ「あら、本当ね。……って、あ、あれは………」

なぜか顔を曇らせる。

ほむら「……? どうしたの、知り合いの家?」

マミ「……いいえ、知り合いではないわ。でも……ある意味、知り合いかも」

ほむら「何それ……」

QB「ああ、僕も記憶にあるよ。例のあの部屋だね」

マミ「ええ……。暁美さんは、今からこの作戦の底知れぬ闇を目撃することになるわ……」

ほむら「……? 良く分からないのだけれど……。行くの?」

マミ「行くわよ、もちろん」タンッ

ほむら「了解」タンッ

マミ『まぁ、これは……私がやるべきよね』

QB『そうだね』

ほむら (何なのよ一体……)

一人置いてけぼりのほむらを残して、マミが窓にノックをする。

マミ「こんばんはー。居ますかー?」コンコンッ

ドタンッ

その途端、部屋の中で大きな音がしたかと思うと、

シュウゥゥゥ…

辺りに漂っていた瘴気が急速に引いていった。

ほむら (………え? どういうこと!?)

カタッ ガララッ!

そしてすぐに窓が乱雑に開けられたかと思うと、

男「来てくれた! 今年も来てくれたんだねサンタさーん!!」ガバッ

少し太めの男が現れ、マミに抱きつこうと突進してきた。

ほむら (今年も……ですって……?)

おまえら自重しろwww

マミ「はーい、ストップストップ」ゴスッ

その巨体のど真ん中に向けて、慣れた感じで強化した拳をたたき込むマミ。

男「うげふっ……。い、いい、パン、チ……」ガクッ

その場にくずおれる。

マミ「まったくもう。そんな悪い子には、サンタクロース来なくなるわよ?」

ほむら (『子』って年齢には見えないのだけれど……)

男「ごめんなさいっ! 見捨てないでっ!!」

そのまま土下座に姿勢を変える。

マミ「……うん、よろしい。それじゃ……」ゴソゴソ

同じようにクッキーを取り出して、

マミ「はい、プレゼント。大切に食べなさい」

男「有り難き幸せっ!」

渡すと、まるで表彰状の受け取りのように手に取る男。

ほむら (……大体分かった。大体分かったけど、何なのよ。これ………)

糞ワロタ

男「……あれ、そちらの方は……?」

ほむら「! わ、私?」

マミ「うん? この子は新入りよ。今年からサンタになったの」

男「新入りさんですか! こんばんは!」

ほむら「こ……こんばんは……」

どういう顔をすればいいのか分からない。

マミ「まあ、もしかしたら、来年来るかもしれないわね……」ボソッ

間違いなく来ることになるだろうなと、確信を持って呟く。

マミ「それじゃ、私たちはもう行くわ。メリー・クリスマス、いい夜を」ピョン

ほむら「メリー・クリスマス……」ピョン

男「ああ、そんなっ、もう行っちゃうの……!?」

別れを惜しんで手を伸すが、既に二人は消えた後。

男「……でも、うへへへ……。今年も、来てくれた………」

ベランダに残ったのは、若干気味の悪い男のニヤけ顔だけであった。

ほむら「……はい、解説」テクテク…

マミ「………あれはね、リピーターよ」トコトコ…

ほむら「まぁ、言わんとしたいことは分かるけれど……」

マミ「この作戦、唯一にして最大の欠点よ。私たちのことを覚えていて、寂しさを解決しようともせず、
   サンタに縋ってしまう人が稀にいる」

QB「あれで、多分3人目だね。マミが見てきた中では」

ほむら「………」

マミ「そうするとああやって毎年、今年もサンタさんこないかなーって、信じて待ち続けるのよ。
   ……まあ、信じさせようとしている私も悪いのだけれど」

ほむら「……それは、別に悪くはないでしょう。信じているからこそ、
    自分を気にかける誰かがどこかにいると、そう思っていられるというのがポイントだと理解しているわよ?」

マミ「それは間違っては居ないわね」

ほむら「なら」

マミ「だけれども、本当にサンタしか信じる物が無い人だと、毎年必ず来てくれる、来てくれると信じ続け、
   こうしてクリスマスが終了する間際になると、『今年は来なかった』って、
   まるで時限爆弾のように絶望を始めてしまう」

ほむら「はた迷惑ね……」

ほむほむ
まみまみ

マミ「今のところどうしようもないわ。稀にしか起こらない事だから、目をつぶるしか」

ほむら「もうほっといて、魔獣に心食べて貰うしかないんじゃないの?」

マミ「……あのね」

ほむら「冗談よ」

マミ「そういうわけだから、まぁその……。もしもこの先、私が居なくなって、
   それでもこのサンタ少女作戦を続ける気があったら、一応記憶にとどめておいて」

ほむら「………分かったわ。でも」

マミ「うん?」

ほむら「『私が居なくなったら』っていうのは、きっと私よりもたちの悪い冗談ね」

マミ「……ごめんなさい」

ほむら「早まらないでよ?」

マミ「努力はしているわ」

ほむら「……そうね」

ちょっと円環の理に行ってマミさんたちに無敵チートを施すよう、直談判してくるわ。

――最終シフト――

25日の深夜。もう、ほとんどクリスマスは終わってしまっている。
この時間帯になれば、もう殆ど魔獣も瘴気も見られない。

48時間の長い間、広い範囲でいろいろな人たちと出会ってはプレゼントを届けた三人のサンタ。
魔法で編んだ服はいつだってピカピカと綺麗だが、中の少女達は随分とお疲れの顔色である。

マミ「暁美さん、三連続で大丈夫? 寝ていても良かったのに」

ほむら「大丈夫よ。どうせもう、ほとんど仕事も無いじゃない。最後ぐらい一緒の方が良いわ」

杏子「まぁそうだな。あと数時間もすれば、25日も終わりだよ。んー、疲れたっ」コキッ

腕を伸ばして体を鳴らす。

マミ「……そうね。最後ぐらい、残り少ないクリスマスを楽しみましょうか」トコトコ…

ほむら「ええ」テクテク…

人の少ない夜道を歩く。

杏子「……あ、コンビニ、ちょっと寄ろうぜ」ピタッ

明かりの眩しい一角を見て、足を止めた。

マミ「いいわね。おでんとか」

ほむら「肉まんが良くないかしら。おでんは虫が入っていそうで苦手だわ……」

O-DEN

ガーッ

「ありがとうございましたー!」

杏子「ほぇー、あったけぇー。指の感覚が戻ってきた気がする」

肉まんの包みを握って暖を取る。

マミ「暁美さんも成長したわね。サンタ服でも、何のためらいもなくレジを済ませるくらいまで」

ほむら「もう慣れたわ……。よく見れば店員もサンタコスだし、何だか無言の仲間意識を感じたし……」

マミ「ああ、それはあるわね。多分、同じクリスマスのアルバイトをどこかでしていると思われたのね」

ほむら「大変さで言えば似たような物かも知れないわね……。時給0円なのが玉に瑕」

杏子「キュゥべえ、時給10円ぐらい出してくれよ。牛丼食えるぞ」

QB「魔法少女のお仕事は、報酬完全前払いだよ?」

ほむら「まぁ、そうね……。期待していないわよ」

マミ「それで、どうする? 公園にでも行く?」

杏子「んー、どうしよっか」

ほむら「そうねぇ……」

ほむら「……あの、ビルの上に行かない? 見滝原で一番高いビルの上」

マミ「えっ? あそこ?」

杏子「……上空は寒いぞ?」

ほむら「何だか、魔法少女だけの秘密の場所なんだもの。普通はあんな場所、入れないし。
    一応街中を監視するにも、悪くないと思うわよ」

杏子「うーん、それはまーそうだな」

マミ「いいんじゃない。すぐ降りてこられるし、三人だけのお茶会をしにいきましょうか」

QB「僕も居ることを忘れないで欲しいな」

マミ「失礼、四人ね」

ほむら「三人と毛玉一つよ」

杏子「どっちでもいいよ……。ほら先行くぞっ!」ピョン

マミ「あっと、また一人で先走って……!」シュルル…

ほむら「もう、よく疲れてあれだけ飛べるわね……」ピョン

円環世界もクリスマスだったらいいなぁ

――夜景を眺めながら――

「「「「かんぱーい!」」」」

ガコンッ

買ってきた、ホット指定のペットボトルをつきあわせる。

マミ「ちょっと早いけれど。まずはみんな、お疲れ様」

ほむら「お疲れ様」

QB「ご苦労だったね、三人とも」

杏子「今年も大変だったなー」カリリッ

蓋をねじ切って飲み始める。

杏子「……ん、やっぱちょっと冷めてるか。まあいいや」ゴクゴク…

ほむら「最初はまさか、サンタの真似事をさせられるとは思っていなかったけれど。
    無事に終わって何よりよ」

マミ「ふふふ。魔法少女がサンタクロ~ス♪ 本当はサンタクロ~ス♪」

杏子「リズム全然合ってねーから……」

>>110
サンタコスで救済に現れるまど神とな?

で、正月には振り袖で、顔に墨で○とか書かれたまど神が来るわけだな?

まど神様が「プレゼントは私だよ…」とか言ってほむらちゃんの前に現れる展開キボン

誰か>>112の参考資料をくれ
会議で使うから急ぎで

ほむら「はぁ……。サンタクロースが本当に居てくれれば良いのに……」ハグッ

冷めた肉まんを囓りながら呟く。

杏子「ん? 何か欲しいもんでもあんのか?」

ほむら「そう言う訳じゃないけれど。信じさせる側じゃなくて、信じる側に回りたいって意味よ」モグモグ

マミ「ふぅん……。でも、本物のサンタクロースなら、ちゃんと居るわよ?」

変なことを言わないで頂戴、とでも言うように返す。

ほむら「………はい?」

杏子「だよな。ほむら、サンタに何か貰ったことないのか?」

ほむら「え………え? いえ、有る、けれど………」

マミ「去年は来なかったとか、そういうことかしら。ふふふ、暁美さんも案外悪い子なのね」ニヤリ

杏子「みたいだなー」モグモグ

ほむら「え、いやサンタってのは……え?」

何を言っても地雷くさくて二の句が継げない。

ほむら (うう、この二人、たまーにツッコみづらい冗談かますのよね……。勘弁して欲しい)

本当に信じてるのか、自分たちへの皮肉なのかw

杏子はまさか

二人とも親がいないから始末に困るwww

ほむら「ふぅ……」

肉まんも食べ終わり、一息ついて街を見下ろす。
人の存在を示す明かりが、遠くまで一面に広がっている。

ほむら「……随分と回った物よね。ここから見える範囲、大体見滝原でしょう?」

QB「そうだね。丁度あそこに見える、国道より手前が君たちの縄張りだね」

杏子「言われて見りゃ広いな……」

ほむら「これだけ広ければ、いろんな人が居て、いろんな寂しさを抱えているのも納得できるわね……」

マミ「そうね……」ガサッ

マミも食べ終えた包みを、小さく丸めて片付ける。

ほむら「……これ、来年もやっぱりやるのよね」

マミ「それはもちろん。魔法少女のクリスマスは、いつだって戦いよ?」

ほむら「うう……。今からちょっと、憂鬱かも」

杏子「まだ一年も先の話じゃねぇか」

マミ「まぁ、疲れるから、気持ちは分かるけれど。わりと悪くはなかったでしょう。
   私は好きよ、人の役に立ってるって実感があって」

ほむら「うん……。仕事量さえ少なければ、好きになれると思う」

マミ「それじゃ、そろそろ帰りましょうか。打ち上げの本番は、明日だから」

ほむら「ああ、そういえばそんなこと言っていたわね……」

マミ「ええ。一日遅いクリスマスパーティよ。私の家でやるから、えっと……。
   午後3時ぐらい? だったら、準備できてると思う」

杏子「とりあえず美味いモンが食えると思ってていいのかい?」

マミ「ちょっと料理の腕を振るう余力は無いけれど、ケーキぐらいは焼くつもりよ?」

杏子「そりゃいいや。あたしも出来る限りの菓子を買ってこよう」

ほむら「私は……まぁ、適当に食べ物でも買っていくわね」

それぞれに明日の宴を思い浮かべる。

QB「安全のために一応言っておきたいんだけど、僕の分も用意してくれると有り難いな」

マミ「あーら、忘れるわけ無いじゃない? 二日間、ずーっと働いてくれたんですもの」

ほむら「まぁ……苦労に報いることは悪い事じゃないわよね」ファサッ

杏子「おお、ほむらにしては優しい言葉だ……」

QB「ありがとう、これは期待できそうだね」

ほむら「じゃ、また明日。キュゥべえ、行くわよ」

QB「また明日会おう、マミ、杏子」ピョン

杏子「ああ、またな」

マミ「おやすみなさい」

ほむら「おやすみなさい!」ピョンッ

椅子から降りるような動作で、ほむらは夜の街の中へと沈んでいった。

『みんなのハートにティロ・フィナーレ☆ 魔法少女のちょっとハードなクリスマス♥2011』も、
今年はこれで無事におしまい。

杏子「あたしらも帰ろうぜ、かなり本格的に冷えてきた……」ブルッ

マミ「そうね。あったかーいお風呂に入りたいわね。……一緒に入る?」

杏子「あ、アホかっ。一人で入るよ!」ピョン

マミ「あら残念……」ピョンッ

残った二人も、しょうもない話をしながら家へと帰っていった。

――ほむホーム――

ほむら「ふはぁ……。さっぱりした………」ホワホワ

夜も深く、1時を回ろうかという頃。風呂場から湯気を浮かべてほむらが現れた。

QB「やあ、おかえりほむら。随分長かったね」

ほむら「労働の後のお風呂は格別なのよ……。若干、寝そうになったのもあるけれど」

QB「それは良くないね。入浴中に寝るのは、通常の睡眠と違って失神に近いんだ。
  だから万が一溺れたりしても、目覚めずにそのまま死んでしまいかねないよ」

ほむら「……警告、痛み入るわ。さて………」ボフッ

だるい体を布団に投げ出す。

ほむら「きなさいキュゥべえ。夜は冷えるわよ」ノソノソ

QB「僕は冷えても問題ないように出来ているんだけどね」テトテト

そう言いつつも、ちゃんと言うとおりにほむらの元へと歩いていくる。

ほむら「……ああ、憎たらしい」ギュッ

QB「………」

それをそっと布団の中に引っ張り込み、寂しい胸元に抱きしめた。

おいQBそこ代われ


ってまど神様が言ってた

べぇーさんでは小さすぎてほむほむがあたたかくなれないだろうし
俺が入るしかあるまい

QB「たまに思うんだけど、君は何故僕を抱きしめて寝るんだい?」

ほむら「え、何よ……? 急に」

QB「いや。今日は、特に抱きしめる力が強いと感じたから、気になったんだ」

ほむら「………分かるでしょ?」

QB「分かるはずが無いじゃないか。言葉にして貰わないと、意志は伝わらないよ」

ほむら「………」

キュゥべえの言うとおり。本当に正論しか吐かない、憎たらしい生き物。
だからと言って、『ひとりぼっちは寂しいの』だなんて、ほむらが正直に答えてあげる義理もない。

ほむら「……そうね。良い事を教えてあげるわ」

QB「なんだい?」

ほむら「感情を持つ生き物は、何も喋らなくても意志を伝えることが出来る場合がある。
    それも、言葉よりずっと分かりやすく、ね……」

QB「……そんなはずはないだろう。君たちは、意思疎通のために言語を覚えて発展してきたはずだ」

ほむら「そうかもしれないわね。でも、たとえばこうやって……」ギュッ

もっと、より強くキュゥべえを抱きしめるほむら。

ほむら「……どう? なにも伝わってこないかしら?」

QB「さっぱりわけがわからないよ……」

変わらない表情で、ただ声色で思い切り困惑を表現してみせるキュゥべえ。

ほむら (………まあ、それはそうよね。期待していた……わけではないけれど)

ほむら「ふふ。貴方達にも分からないことはあるのね。まだまだ研究が必要なんじゃない?」

QB「そうだね。今でも、母星では感情の研究は続いているよ。
  僕たちの科学力があれば、近いうちに君の言うことも理解できるようになるだろうね」

ほむら「………」

それはきっと、この二種類の生き物の間にある厚い壁で、
いくら時間が過ぎても永遠に壊すことは出来ない壁なんだろうなと、なんとなく確信がある。

ほむら「だと、いいわね」

それでもほむらは、愛想を込めて希望的な返事をした。

ほむら「……明日もあるわ。そろそろ寝ましょう」カチッ

ベッドサイドの明かりを消す。

ほむら「おやすみ、キュゥべえ」

QB「おやすみ、ほむら」

いつもと同じ挨拶をして、わかり合えない二人はゆったりとした眠りに沈んでいった。

――深夜――

ほむら「………」スゥ… スゥ…

疲労困憊の魔法少女達も、今は深く安らかの眠りの中にいる。

QB「………」キュゥ… キュゥ…

一応は生物であるらしいインキュベーターも、ほむらの腕の中で眠っている。

カーテンの隙間から覗いた見滝原市街には、いつの間にか雪が積もり始めていた。
真っ白な街が音を吸い込み、怖いほどに静かな丑三つ時。

シャン… シャン…

そんななか、明るい鈴の音が近づいてくる。

ウェヒ… ヒヒ…

奇妙な歌声も混じって。

ウェッヒッヒ~ ウェッヒッヒ~ 鈴が~鳴る~♪

それがどうやら風変わりな『ジングル・ベル』であることが分かりかけた頃、
鈴の音と歌声はほむらの家の目の前でぱたりと止んだ。

きたか…!!

  ( ゚д゚ ) ガタッ
  .r   ヾ
__|_| / ̄ ̄ ̄/_
  \/    /

ほうほう素晴らしい

「んしょっと……」スゥ…

足音もなく、すっと壁を通り抜けて歌声の主が姿を現す。
桃色の髪をした、サンタ服の女の子。

それは、ほむらだけが知っている、この世には居ないはずの鹿目まどかの姿だった。
よく見れば、全身ぼんやりと幽霊のように透き通っている。

まどか「一日遅れのメリークリスマス! ほむらちゃん!」

大きな声で挨拶をする。

まどか「……といっても、聞こえないんだよね。仕方ないや」スス…

そのまま体を、ベッドの近くに寄せる。

まどか「ティヒヒ、よく寝てるなぁ……。ほむらちゃんは魔法少女になって初めてのクリスマスで、
    大忙しだったもんね……。お疲れ様」

ほむら「ん………」スゥ… スゥ…

まどか「……さて、残念だけど、あんまり長居はできないんだよね。ほむらちゃんの欲しい物は……?」スッ

そう言って、撫でるように右手をほむらの頭に持って行く。
ただ、触れ合うことはなく、手は頭の中に沈んだ。

お脳のあたりをチュクチュクと

まどか「……ん? お金? はみんなそう言うし……。………銃? もしかして趣味になってたのかな……」

読み取った思考を一つ一つ吟味する。

まどか「………うん、やっぱり、わたしの姿が出てくるよね。ありがとう、ほむらちゃん。
    でも、サンタクロースは正体を明かすわけにはいかないから……」

寂しげに微笑んだ。

まどか「……そうだね、これかな。ほむらちゃんが、自分では買うのを躊躇いそうな服……。
    でもすごく欲しがってるんだね。これにしよう!」

まどか「そうと決まったら……」ポンッ

戻した右手に、今度は謎のステッキを召還した。
どこぞの魔法少女アニメに影響を受けたような、そんなマジカルステッキ。それを、

まどか「えいやっ!」ポポン

掛け声と共に振るうと、ほむらの枕元に大きな靴下が現れた。

まどか「これでオッケーだね! 明日、驚く顔が想像できるなぁ……♪」

まどか「あ。キュゥべえにも、一応」ポポン

もう一度振るうと、先ほどの靴下の隣にかなり小さな靴下が並んだ。

まどか「チロルチョコぐらいあげとかないとね」

私がプレゼントだよとかそういうアレじゃないんですか

なんやかんやで一緒に風呂入ってそうな気がしてきた、マミあん

まどか「……じゃあね、ほむらちゃん!」ノシ

見えない、聞こえないことを分かっていながら、元気よく別れを告げる。
そのまま足早に壁を抜けて外に出ると、宙に浮いたソリが待っていた。

まどか「よーし、次に行かなくっちゃ。さやかちゃん、お待たせ」

トナカイに向けて、そう声をかける。

さやか『………』

まどか「あれ? 待ちくたびれて寝ちゃった?」

さやか『起きてるわよ……』

中身がどうも、さやからしい。テレパシーで答える。

まどか「もうー、無視しないでよー。機嫌悪いの?」

さやか『機嫌、悪い、のぉ?』

さやか『人が魂になって静かに寝てるとこ、急にたたき起こされたと思ったらそのまま、
    あろうことかトナカイに魂入れられて、ソリを引かされて!
    それで機嫌が悪くならないわけがないじゃないのよ!!』

まどか「……えへへ、冗談だよ冗談」

さやか『いや実際今あたしトナカイじゃん……。冗談じゃないじゃん……』

ワロタ

導かれてもこの扱い、流石っすねwww

まどか「でも、久しぶりに見滝原これて良かったでしょ?
    わたしもさやかちゃんと、久しぶりにお話ししたかったし……」

さやか『そりゃそうですが……。人の姿で良いじゃないのさ』

まどか「だめだよ。サンタの相棒はトナカイって決まってるの」

さやか『さいですか……』

諦め切った声。

さやか『……それでまどかは、なんでこんな事してんのさ。
    魔法少女にプレゼント配って回るだなんて』

まどか「それはね。わたしが概念になったとき、ものすごーく、哀しかったから」

さやか『哀しかった?』

まどか「あのときから、私は全ての物が見えるようになって。
    過去から未来まで、全ての物事が理解できるようになった。
    そうしたら、その中に……。サンタクロースはお母さんだったって、衝撃の事実があったの……」

さやか『………え。まさかあんた、サンタクロース信じてたわけ? 中学2年で?』

まどか「信じてたよ! 毎年毎年、ちゃんとお手紙も書いて欲しい物をねだってたよ!」

さやか『………それはそれは。ご愁傷様です』

あれ?おかしいな。
冗談で書いた筈なのにマジでまど神さまがサンタコスとか……

気付いたら終点まで寝過ごしてるし、これは夢か何かに違いない。

まどか「他にも色々、驚いたことはいっぱいあるんだけどね。
    子供はどうやって作るんだとか、わたしを生んだとき、本当はママが男の子を欲しがってたとか……」

さやか (あー、それは微妙な気持ちになるわね……)

まどか「わたしが昔なくしたブローチ、本当はさやかちゃんが壊してたってこともショックだったな」

さやか『ゔっ……。ご、ごめん……。隠してて………』

まどか「今更だし、別に怒ってはないよ」

さやか (もしかしてその腹いせ? この姿………)

まどか「そんなふうに、いろいろあった中でも、サンタクロースが本当は居なかったなんて、
    わたしは絶対に許せなかった。耐えられなかった!」

さやか『はぁ……』

まどか「だから、希望を信じる魔法少女には、サンタクロースも信じて欲しいの。
    ううん、私が信じさせてみせる」

さやか『無駄に固い決意だわね……』

さやか『………ま、いいわ。この恰好に文句言ってもしょうがないみたいだし。
    次はマミさんと杏子んとこ行くんでしょ? 乗って乗って』

まどか「あ、うん! 急がなきゃね!」ピョン

軽くジャンプしてソリに乗る。

まどか「まだ日本にも魔法少女はいるし、これから地球を一周しないといけないからね。忙しいよ!」

さやか『はー、肉体的な苦痛が切り離されているのだけが救いだよ全く……』

シャン… シャン…

また鈴が鳴り始める。

出発したソリは、高く浮き上がったと思うと、あっという間に姿を消してしまった。

世界中を駆け巡るには、かなりのスピードが必要ということかもしれない。

ほむら「………まど……か…………」スゥ… スゥ…

QB「………」キュゥ… キュゥ…

静かに眠る二人は、まだまだ楽しい夢の中。

翌朝は、サンタの存在を信じる女の子が一人、また増えるに違いない。

きっと明日の打ち上げも、本物のサンタについて、話が弾むことだろう。

~fin~

乙ー
面白かったよ!

乙乙
やっぱほのぼのエンドはええね

プレゼントと一緒にまど神様からの手紙とか入ってたらいいなとか思いました
乙まど

乙なんだよ!
とっても面白かったんだよ!

これって、マミさんサンタを信じていなかった場合、泣いちゃいそうだな

乙~

乙!

乙乙乙

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom