珠美「珠美と幸子さんだけの秘密です!」 (34)

大きい


珠美「……」

幸子「……?」

珠美「……」

幸子「……なんですか? ボクの方をジッと見て。ボクはかわいいので、女の子でも見惚れてしまうのは無理ありませんが」

珠美「……ふっ、勝ちました」

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幸子「イラっとする笑い方ですね。いきなりどうしました? どちらかと言えば、ボクがそういう風に笑う方ですよね?」

珠美「? 幸子さんの笑顔でイラっとした事はありませんよ」

幸子「気にしないで下さい。で、何に勝ったんですか?」

珠美「身長です! 珠美は幸子さんより大きい! だから、充分高校生に見えるはず!」

幸子「ボク、中学生なんですけど……」

珠美「中学生より大きい。つまり、高校生に見えなくてはおかしいという事です!」

幸子「たった三センチじゃないですか」

珠美「たった、ではありません! 三センチも! です!」

幸子「……そのくらいの差と言えば」

珠美「あ、あの、なんで視線を下げたのですか? 具体的には、珠美の胸の方に……」

幸子「公表しているサイズでは、ボクの方が二センチ――」

珠美「それ以上は言わせません!」

幸子「口にしてもしなくても、現実は変わりませんよ。身長差も、ボクが今の珠美さんの年齢になる二年間で、どう変わるんでしょうね?」

珠美「うわぁぁん!」

読書


幸子「……」

珠美「なにを読まれているのですか?」

幸子「江戸時代を舞台にした小説です」

珠美「おおっ、時代小説ですか! 幸子さんもお読みになられるんですね!」

幸子「読書が大好き、と言うほどではありませんので、嗜む程度に読んでるだけですよ。ジャンルにこだわりもありませんし」

珠美「細かい事を気にしてはいけません。それより、どんな内容なのですか?」

幸子「妖怪――」

珠美「よ、妖怪!? た、珠美、そういった類のものは少々……その……」

幸子「に、大事にされてる病弱な主人公が頑張るお話です」

珠美「……妖怪に大事にされてる?」

幸子「えぇ、皆、愛らしい妖怪たちばかりです。まぁ、ボクの方がかわいいですけど」

珠美「妖怪に襲われたりとかは?」

幸子「作中で人が亡くなる事はありますが、妖怪が人を襲う事はほとんどありませんね」

珠美「面白そうです! タイトルを教えて頂いてもよろしいですか?」

幸子「テーブルの上に一作目がありますから、お好きに。シリーズ物ですので」

珠美「有難く拝借します」

幸子「それはそれとして……」

珠美「?」

幸子「妖怪――というより、お化けが苦手なんですか?」

珠美「なななっ! そ、そんなわけないじゃないですか!」

幸子「では、今度ボクが帰省する時について来て下さい」

珠美「喜んで! 確か、山梨でしたよね? でも、どうしてですか?」

幸子「実家の傍には有名な遊園地がありまして、そこのお化け屋敷に……」

珠美「ごめんなさい。許して下さい」

勉強


幸子「……」

珠美「事務所でお勉強ですか?」

幸子「授業で使ったノートの清書です。読み易くなりますし、復習にもなりますから」

珠美「幸子さんはすごいですね。珠美は座学と言うものがどうも苦手で。歴史だけは別ですが」

幸子「……算数、教えましょうか?」

珠美「高校生! 珠美は高校生! 算数ではなく、数学です!」

幸子「つい本音が……」

珠美「つい!? 本音!? ……ま、まぁ、今回は聞かなかった事にしましょう。珠美は幸子さんより大人ですから!」

幸子「おと、な……?」

珠美「そこ! 首を傾げないで下さい!」

幸子「すみません、ボクはかわいい正直者ですので」

珠美「……そろそろ泣いちゃいますよ?」

幸子「そんな事より、珠美さんも暇でしたら、学校の宿題でもどうですか? 時間は有効に使うべきですよ。ボクみたいに」

珠美「そうですね。では珠美もご一緒して……」

幸子「どうしました?」

珠美「勉強道具、全部寮に……」

幸子「残念でしたね」

珠美「今から急いで取って来ます! 少々お待ちを!」

幸子「お待ちをって、ボクはあと少しでレッスンに……行っちゃいましたか」

P「幸子、そろそろレッスンの時間だぞ」

幸子「片付けるので、少し待って下さい。……これでよし。かわいいボクを更に磨きに行きましょうか、プロデューサーさん」


少しして


珠美「……あれ? 幸子さんは……?」

剣道


幸子「なんでボクが剣道を……」

珠美「先日、珠美を置いてレッスンに行った罰です!」

幸子「すぐに珠美さんも来て、一緒にレッスンをしましたよね?」

珠美「プロデューサー殿が教えてくれなかったら、珠美は一人寂しくノートと向き合う事になっていたのですよ?」

幸子「別にそれでも構いませんが。ボクには関係ありませんし」

珠美「珠美が寂しいじゃないですか! そういうわけで、今日は珠美に付き合って頂きます!」

幸子「剣道の経験はありませんが」

珠美「授業でやりませんでした?」

幸子「授業でもした事はありません」

珠美「では、珠美が一から教えてあげます! まずは防具の付け方からです」

幸子「汗臭いですね、これ」

珠美「それが良いんじゃありませんか! 青春! って感じがして」

幸子「ぜひとも遠縁であって欲しい青春です」

珠美「防具に触れたので、もう兄弟みたいなものですよ」

幸子「随分手軽な血縁の契りですね。今すぐ断ちたいのですが」

珠美「まぁまぁ、実際にやってみれば、きっと夢中になりますよ」

幸子「こうして剣道の道着も着ている事ですし、一通り学んでみますよ」

珠美「そうこなくちゃ! では、最初に胴のつけ方から――」

十分後


珠美「これで完璧です! 手際がよかったので、すぐに出来ましたね」

幸子「想像以上に視界が悪いですね。あと、頭が重いです」

珠美「普段、面を被る事なんてありませんからね。すぐに慣れますよ」

幸子「動き難いですし、剣道をやっている人は、どうしてあんなに機敏に動けるんですか?」

珠美「そういう風に体が出来あがっているから……ん? 剣道を見た事があるような言い方ですね」

幸子「昨日、剣道をすると聞いたあと、ネットで試合の動画を少し見ましたから」

珠美「予習をしてたから、手際がよかったのですか。幸子さんは本当に勉強熱心ですね」

幸子「ボクはかわいい上に真面目ですから」

珠美「珠美も見習いたいと思います」

幸子「それで、これからどうするんですか?」

珠美「素振りをしてみましょう。竹刀の持ち方ですが、右手は鍔元、左手は柄頭を握ります。こんな感じですね」

幸子「ボク、左利きなんですけど?」

珠美「野球とは違い、利き手に関係なく持ち方は一緒なのです」

幸子「えっと……こう、ですか?」

珠美「はい。で、握る力は、左手を強めに、右手は添えるような感じで」

幸子「両手でしっかり握るわけではないんですね」

珠美「イメージ的には、左手一本で振るようにするんです」

幸子「すっぽ抜けそうですが」

珠美「いきなり全力で振るとそうなるかもしれませんが、最初は程々の力でやって、体を馴染ませましょう」

幸子「そうしてみます」

珠美「では、素振りを始めますか」

三十分後


珠美「振り方や足の運び方は完璧です!」

幸子「ボクは元々かわいい上に完璧ですけどね」

珠美「成長が速いので、ちょっと羨ましいです」

幸子「珠美さんの教え方が上手だからですよ」

珠美「そ、そうですか? 照れますね」

幸子「難しい所のコツとか、的確でわかり易かったので、すぐに覚えられました」

珠美「えへへ、ありがとうございます! 自分で苦労してた甲斐もあったというものです」

幸子「お礼を言うのはボクの方だと思いますが、まぁ、いくらでも言って下さい。遠慮せず、一から十まで受け取ります」

珠美「次は面打ちに移りましょう」

幸子「スルーですか、そうですか」

暫く後


珠美「一通り覚えたと思いますので、最後に珠美と試合をしてみましょう」

幸子「ジャッジはどうするんですか?」

珠美「心配には及びません。すでに呼んでいます」

P「呼ばれた」

幸子「いつの間に……」

P「たった今来たところだ。にしても、本当に幸子が剣道をやってるとは」

幸子「なんですか? ニヤニヤした表情でボクを見つめて」

P「いや、かわいい顔が見えなくなる剣道は嫌がると思ってたんだけどな」

幸子「顔が見えなくても、ボクのかわいさは隠す事が出来ませんから。このレベルまで来ると、罪ですよね、ボクって」

P「はいはい」

幸子「もっと温かい対応を要求します!」

P「珠美、剣道するんなら、最初から誘ってくれよ。俺も参加したかったのに」

珠美「プロデューサー殿も剣道の経験者だったのですか?」

P「俺は授業で少し齧った程度だけど、面白そうだからな」

珠美「今度はお誘いします」

P「頼むな。で、試合をするんだろ? 俺一人で悪いけど、審判は任せろ」

珠美「よろしくお願いします。幸子さん、始めましょうか」

幸子「試合中、ボクのかわいさに中てられて惚けないで下さいよ?」

P(どうやって、剣道の試合を見ながらかわいさで惚けるんだろう? ちっさい二人が竹刀でチャンバラする微笑ましさか?)

数分後


P「一本、それまで」

珠美「やった! 勝ちましたよ、プロデューサー殿」

P「素直に褒めてやればいいのか、ど素人の幸子に大人げなく完勝した事を叱ればいいのか、俺にはわからん」

幸子「て、手加減してあげたんですよ! 感謝して下さい!」

P「その言い訳は流石に無理があるだろ。なんで下手な方が手加減するんだよ。意味わからん」

幸子「ボクってかわいいですし」

P「かわいさは関係ないよな?」

珠美「なんと! 珠美は手加減されていたのですか……」

P「落ち込むな。幸子のはただの強がりだ」

珠美「強がりだったのですか?」

幸子「本人にそんな事聞いてどうするんですか。そうです、なんて言うほど馬鹿じゃありませんよ、ボクは」

P「なにはともあれ、お疲れさん。ジュース飲むだろ? ここに来る前に買っておいた」

珠美「ありがとうございます!」

幸子「気が利きますね。まっ、かわいいボクの担当をしている人なんですから、この程度の事は当然ですが」

P「珠美、二本とも飲んで良いぞ」

幸子「ちょっ!」

珠美「それは幸子さんに悪いので、珠美は一本だけで構いません」

幸子「た、珠美さんもこうおっしゃっているので、やっぱり残りの一本はボクが……」

P「審判して喉乾いたし、俺が飲もうかなぁ」

幸子「……」

P「冗談だって。そんな顔すんな。俺が悪かったよ。ほら」

幸子「ま、まぁ、どうしてもというのなら受け取りますが」

P「どうしても幸子に飲んで欲しいんだよ。そのために買って来たんだからな」

幸子「仕方ありませんね。なら、頂きましょう」

P「飲む前に面を外すのを忘れるなよ」

幸子「そんな面白味のないボケ、芸人でもしま――」

珠美「わわっ! 面の中にジュースが! うわっ、道着の中まで入って来た! お腹が冷たい!」

P「……」

幸子「……」

ライブ


珠美「一緒にライブをするのは初めてですね。ファンの人たちに喜んで貰えるよう、頑張りましょう!」

幸子「ボクがいるだけでファンの人たちは恍惚となるでしょうが、珠美さんがいれば心強いですね」

珠美「そう言って貰えて、恐縮です」

幸子「リハーサルも上手く行きましたし、あとは本番を待つだけですね」

珠美「このライブが終わったら、何をします?」

幸子「また突然ですね。急にどうしました?」

珠美「ふと、そう思いまして」

幸子「ライブのあとですか……。そうですね。打ち上げをして、帰ったら横になります。明日は普通に学校ですし」

珠美「そうではなくて、今回のライブのあとは、少しの間お仕事がお休みになるじゃないですか。だから、なにをして遊びましょうか?」

幸子「……それはあれですか? ボクと遊ぶ、という事ですか?」

珠美「はい。あれ? 珠美の言い方、おかしかったですかね?」

幸子「言い方はおかしくなかったと思いますが……ボクと?」

珠美「そうですよ。一緒にレッスンをして、本を読んで、剣道をした仲ではありませんか。そうだ、また剣道をしましょう!」

幸子「剣道はもう少し先にします。少し自分だけで練習してみたいので」

珠美「自分で聞いておいてなんですが、本当にまた一緒にやってくれるのですか?」

幸子「負けたままなのは、ボクの主義に反しますので」

珠美「やった! 約束ですよ! 絶対です!」

幸子「かわいいボクと一緒に剣道が出来て嬉しいのはわかりますが、喜び過ぎでは?」

珠美「そ、そうですか? あっ、でも、剣道を先延ばしにするのなら、お休みはなにをして遊びます?」

幸子「……洋服でも見に行きますか?」

珠美「申し訳ありませんが、珠美、流行には少々疎くて……」

幸子「服なんて、自分の好きな物を買えばいいんですよ。ボクはどの服も似合うので、毎回困ってしまいますが」

珠美「好きな物と似合う物は、意味が違ってくるのではありませんか?」

幸子「好きな物が全部似合うので、全て買いたくなってしまう、と言う悩みですよ」

珠美「なるほど! ちなみに、珠美はどのような服が似合うでしょうか?」

幸子「珠美さんが自分で似合うと思えば、それで良いのでは?」

珠美「そうかもしれませんが、幸子さんの意見も聞きたいので」

幸子「そうですか。なら、買い物の時に思った事を言いますよ」

珠美「よろしくお願いします!」

P「おーい、そろそろ出番だ。準備は良いな」

珠美「ばっちりです!」

幸子「当然じゃないですか。ボクは、常に準備を怠ったりはしません」

P「そりゃなによりだ」

幸子「……珠美さん、話の続きですが」

珠美「?」

幸子「このライブを成功させるのが前提です。万が一、いえ、無量大数が一、失敗したら、ボクでも落ち込むかもしれません」

珠美「無論です! 幸子さんが落ち込まないように、奮闘する次第です!」

P「なんの話だ?」

幸子「内緒のお話ですよ」

珠美「珠美と幸子さんだけの秘密です!」

P(二人が前より仲良くなったのは良いけど、なんだろ、この疎外感……)

短いけど終わり
読んでくれてありがとう

脇山珠美(16)
http://i.imgur.com/dCNoLEJ.jpg

輿水幸子(14)
http://i.imgur.com/b05cvaU.jpg

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