梨花「ここは雛見沢なのです」 岡部「聞いたことがないな」(602)

・結構長い
・確実に日付をまたぐ
・メリー紅莉栖マス


↓スタート↓

岡部「・・・」

紅莉栖「・・・」

岡部「・・・」

紅莉栖「・・・」ペラリ

岡部「・・・」チラッ

紅莉栖「・・・」

岡部「・・・なぁ、助手よ」

紅莉栖「・・・」ペラリ

岡部「おい、クリスティーナ」

紅莉栖「・・・」

岡部「・・・牧瀬さん」

紅莉栖「何?」

岡部「とっとと返事をせんか!!」

紅莉栖「とっととも何も、今初めて名前を呼ばれたんだけど」

岡部「いや、さっきから何度も!」

紅莉栖「言っておくけど、私は助手でもクリスティーナでもないから」

岡部「ではなんと呼べと?」

紅莉栖「・・・紅莉栖、でいいわよ」

岡部「紅莉栖・・・ティーナ」

紅莉栖「だぁぁぁもう!何で最後にそれ付けちゃうのよ!バカなの?死ぬの?」

岡部「・・・”死ぬ”という言葉は、しばらく、聞きたくない」

紅莉栖「・・・今のは謝る」

岡部「・・・」

紅莉栖「・・・」

岡部「・・・」

紅莉栖「・・・ごめん」

岡部「いや、気にしなくていい。それよりひとつ聞きたいことがある」

紅莉栖「な、何よ、あらたまって?」

岡部「俺が退院しました。お前と再会しました。お前がラボメンとなりました。かれこれ2週間前のことだ」

紅莉栖「もうそんなに経つのね」

岡部「そうだ。2週間だ。なーーぜお前は終始無言なのだ?」

紅莉栖「別に」

岡部「『別に』ときたか。どこぞの女優かお前は!」

紅莉栖「いいじゃないの。何か話さなきゃいけないルールでも?」

岡部「いやいやいや、あのな?もっと俺に聞きたい事とかは無いのか?」

紅莉栖「別に」

岡部「はい2回目いただきました。ってやかましいわ!」

紅莉栖「うるっさいわね。何なのよ今日は。あまり騒ぐと傷に響くわよ」

岡部「岡部さん、学生なんですか?とか、ご趣味は?とか、何かあるだろう」

紅莉栖「別に」

岡部「もうそれはよい!ではお前は何しにラボに来ているのだ!」

紅莉栖「ラボメンがラボに来ちゃいけないの?」

岡部「ぐ・・・!」

紅莉栖「今これ読むのに忙しいの。あまりうるさくしないで」

岡部「・・・はぁ」

岡部は大きく溜息をつき、紅莉栖に並んでソファーに座る。

紅莉栖「な、なんでわざわざ隣に座るのよ」

岡部「別に」

紅莉栖「っ・・・はぁ」

岡部同様、紅莉栖も大きく溜息をついた。

岡部(俺は長いこと8月を繰り返して、ようやくこの世界線へとたどり着いた。
   
   ここまで来れたのも、紅莉栖がいたおかげだ。
   
   そう、俺は紅莉栖が好きだ。だから再会できたことに心から喜んだ!
   
   だがなんだこれは!デレない!こいつデレてくれない!

   俺の紅莉栖への気持ちが、一切伝わらないではないか!
  
   辛い!この温度差、凄く辛い!

   おまけに紅莉栖に合わせるように俺までツンデレっぽくなってきてしまった!

   ・・・どうすれば、紅莉栖との距離を縮められるだろうか)


―――人の子よ、今の願いは、そなたのものか?―――

ああ、俺の希望を心の中でブチ撒けただけだ。

―――・・・ふむ、面白きカケラを見つけた。どう紡いでくれるやら―――

紡ぐ?お前は誰だ。

―――ふふふ、この男ならば、出口のない迷路に突破口を見出すやもしれぬ―――


耳の奥がチクリと痛み、そのまま、岡部は意識を失った。

紅莉栖(はぁ、またやっちゃった。
 
    私だって岡部と話したいことは山のようにあるわよ。命の恩人だもの。

    あの時、私の代わりに死んじゃうかもしれないって、泣いたもの。

    それに、岡部のこと、ちょっと・・・いいな、って思ったもの。

    でも恋なんてしたこと無いから、どうしてもけんか腰になっちゃう。

    ラボに来る理由は洋書を読むため?1ページも頭に入ってないわ。

    ラボメンだからラボに来る?岡部のいない時には来たことないわよ。

    ・・・もっと、自分に、素直になりたい)


―――へぇ、あんたの頭の中、意外とお花畑なのね―――

ええ、生憎これでも18歳よ。人並みに乙女回路は内蔵されてるわ。

―――・・・あいつ、なんでこんなやつらを選んだのかしら―――

失礼ね。勝手に人の心の中覗き見といて。そもそも誰よ。

―――まぁ、退屈しのぎにはなるかしら。どうせくだらないコメディでしょうけど、くすくす―――


耳の奥がチクリと痛み、そのまま、紅莉栖は意識を失った。

「・・・いちゃん、おーい、お兄ちゃんたちー」

岡部「んが・・・いつの間にか眠って・・・」
紅莉栖「ん・・・あれ、いつの間に眠って・・・」

「気持ちよさそうに寝てる所悪いけど、ここ、終点ですんね」

岡部「しゅうてん?しゅうてん、しゅうてん・・・」

視界が明瞭になると、眼前には人のよさそうなおじさんが笑顔で肩を叩いていた。

「お二人、アベックさん?こらまたえらいべっぴんさんね」

岡部「え、えーと、あれ?どこだ、ここ」

紅莉栖「・・・バス?え?何で?さっきまでラボに」

「ほら、外の空気吸って目さましぃ。今日は絶好の散歩日和よ」

岡部「あ、はい、降ります。えーと、料金は・・・」

「100円」

載った記憶の無いバスに、全財産の1/8を払う羽目になるとは。

紅莉栖「・・・ねぇ、岡部」

岡部「ん?」

紅莉栖「・・・私、財布持ってきてない」

「何もないけど、景色は抜群ですんね。ゆっくりしていき、もっともこれが最終バスだけど。あっはっは」

古めかしいバスは、真っ黒な排気ガスを撒き散らしながら走り去った。

岡部「・・・全財産の1/4を失った」

紅莉栖「あとで倍にして返すってば」

岡部「絶対だぞ。・・・ところで、なんなんだ。一体」

紅莉栖「もしかして、あんたも?」

岡部「ああ。ソファーに座って一息ついたら、何かが聞こえて、気付いたらここにいた」

紅莉栖「私も全く同じ。夢・・・ではなさそうね」

岡部「かといって現実だと言われると余計に疑問だ。今は何時だ」


携帯を取り出す。見慣れたマークが、ない。

岡部「3時か。さほど時間は・・・あれ、圏外か」

紅莉栖「私のも」

岡部「相当田舎とみえる」

紅莉栖「そうね。どっちも圏外なんて」

岡部「ここにいてもアレだ。とりあえず歩くか」

紅莉栖「っていってもどっちに?」

岡部「ここが終点といっていた。ということは、戻っていけば中心部に向かうと思う」

紅莉栖「そういう勘だけは働くのね」

岡部「”だけ”は余計だ。行くぞ」

・♀

・♀

・♀

紅莉栖「一向に景色が変わらない件について」

岡部「だ、だがバス停は3つ通り過ぎただろう?大丈夫だ、多分」

紅莉栖「はぁ。暑くなってきた。上着脱ごう」

岡部「ほら、貸せ。持ってやる」

紅莉栖「あら、気が利くじゃない」

紅莉栖「・・・あっつい」

岡部「・・・さすがに俺も暑い」

さらに30分。時刻は4時にさしかかる。ひぐらしの鳴き声も聞き飽きてきた。

岡部「お、車の音だ。おーい!」

岡部の呼び止めに、後方からやってきた黒いセダンは二人の前で止まった。

「いかがなさいました?」

岡部「あ、いや、すいません、えーと、この先、中心部まであとどれくらいかかりますでしょうか?」

「そうですね。歩いてでしたら15分ほどでしょうか。お急ぎでしたらお送りしますが」

岡部「あ、いえ、大丈夫です。問題ないです」

「そうですか。ではお気をつけて」

黒いセダンはまたゆっくりと発進していった。


紅莉栖「・・・よく止められたわね、あんなの」

岡部「今のは怖かった・・・怖かったぞ」

詩音「今の人たち、完全にビビってましたよ。あんたの顔見て」

葛西「親切に対応したつもりだったんですが」

詩音「”ホンモノ”のオーラが出てるんですよ。あんたからは」

葛西「・・・ところで、なぜこんな所を歩いていたんでしょう」

詩音「終点まで行っちゃったんじゃない?つまんないド田舎の風景が続いて、飽きて居眠りしたんでしょ」

葛西「・・・」

どう返答していいか分からず、葛西はポリポリと頬をかいた。

詩音「でもなんでわざわざこんなド田舎まで来たのかしら?」

葛西「男性のほうは白衣を着用なさってました。入江先生のお知り合いなのでは」

詩音「ああ、納得。見るからにひ弱そうでしたもん。きっとどこかの医者か科学者ね」

葛西「・・・」

岡部「・・・あった・・・」

歩き始めてから1時間と少し。ようやく寂れた商店街の姿が見えてきた。

紅莉栖「・・・遠かった・・・」

運動とは無縁に近い二人には、子一時間におよぶ道のりですら過酷なものであった。


紅莉栖「喉渇いた。何かお店やってないかしら」

岡部「そうだな、どこかで休憩したいところだ」


精肉店、八百屋、豆腐屋。雑貨屋、理髪店。

道路も舗装はなく、均された砂利道。

昔ながらの商店街の雰囲気に、平成生まれの二人がピンと来るはずも無い。

紅莉栖「映画やドラマのセットみたい」

岡部「昭和はこんな風景がザラだったのかもしれんな。お、商店発見」

岡部「ドクペは・・・ないだろうな」

紅莉栖(あっ)

清涼飲料水の陳列された棚を眺めながら、紅莉栖は思い出した。


私、財布ないんだった。


この貧乏大学生に借りることも考えたが、後々ネチネチ文句を聞かされるのも嫌だ。

紅莉栖(いいわよ。我慢するわよ。公園で水飲むわよ)

買えない物を眺めても空しくなるだけなので、一足先に商店を出た。


紅莉栖「・・・いい天気」

突き抜けるような晴天にひぐらしの鳴き声は初夏を髣髴とさせる。


紅莉栖(・・・今、9月末よね?なんでセミが鳴いて・・・)


ペタリ。

紅莉栖「ひゃうっ!!」

岡部「どこから声を出している」

紅莉栖「え、今、首に冷た、え、それ何?」

岡部が細長いガラス瓶を差し出している。

岡部「ラムネだ」

紅莉栖「ラムネ?ラムネ・・・ラムネ」

岡部「知らないのか?これだからメリケンセレブは」

紅莉栖「き、聞いたことくらいあるわよ!なんかジュースみたいなのでしょ!」

岡部「聞いたことしかないのか。ほれ、受け取れ」

紅莉栖「え?くれるの?あんたが?」

岡部「喉が渇いたのだろう?くれてやる」

紅莉栖「え、でも私お金・・・」

岡部「くれてやると言っただろ。70円くらい構わん」

紅莉栖「・・・サンクス」

商店から数分、小さな公園のベンチに腰掛けた。

紅莉栖(・・・)

飲み方が分からない。キャップを開けようとしてもびくともしない。

岡部「そうか、知らないか。見本を見せてやる、このキャップで、勢いよくビー玉を中へ押し込む!」

カシャン!シュワー!ダバー。


岡部「な?」

紅莉栖「すごく・・・こぼれてます・・・」

岡部「昔から成功したためしがない」

紅莉栖「別にそこまで力まなくても・・・えいっ」

カシュ。・・・


紅莉栖「ね?」

岡部「くっ」

紅莉栖「でもなんでビー玉でフタしてるの?普通のキャップでいいじゃない」

岡部「100年以上前からある飲み物だ。密封する技術が乏しかったのだろう」

紅莉栖「なるほどね。でもこれじゃ飲むときに引っかかっちゃって全然飲めない」

岡部「スネーク、その凹みにビー玉を引っ掛けるんだ」

紅莉栖「誰がスネークか。・・・あ、飲めた。おいしい」

岡部「昔はこのビー玉をよく集めたな」

紅莉栖「取れるの?これ」

岡部「取れなければどうやって入れるのだ。キャップをはずせばいい」

紅莉栖「でもこれ、開かなかったけど?」

岡部「ペットボトルなんかとは違って、逆ねじになっている」

時計回りにを捻ると、いとも容易くキャップは回った。

岡部「誤って開けない為の配慮だろう」

紅莉栖「へぇ。でもこのビー玉、集めてどうするの」

岡部「特に意味はない。そういえばビー玉を打ち出すおもちゃなんかもあったな」


摘出を終えたビー玉を、白衣のポケットへしまった。

休憩も終わったところで何をしていいのかわからない。とりあえず歩く。

紅莉栖「ん、ちょっと止まって」

岡部「どうした?」

紅莉栖「・・・」

数メートル先の地面を、目を細めじっくりと眺め始めた。

紅莉栖「やっぱり。ピアノ線が張ってある」

岡部「ピアノ線?なんでこんな所に」

紅莉栖「イタズラ・・・にしては悪質ね」


物陰に隠れていた少女は、思いも寄らぬ通行人に焦っていた。

沙都子「ま、マズイですわ・・・あの方達が先に引っかかってしまっては・・・!」


圭一「くっそー、どこだ沙都子ー」

岡部達の背後から、中学生らしき少年が周りを見渡しながら走ってきた。

紅莉栖「あっ、そこ、ピアノ線・・・!」

圭一「へっ?のわぁっ!」

間一髪、15cm程の高さに張られたピアノ線を飛び越えた。

圭一「あ、あいつめ・・・!ただじゃおかねぇ!すいません、ありがとうござ

苦笑いを浮かべながら礼を述べた少年が、突然視界から消えた。

ほぼ同時に、物陰から一人の少女が飛び出す。

沙都子「ヲ、ヲーッホッホッ!忠告を受けながらも2重トラップに引っかかるようではまだまだ甘いですわよ!」

圭一「くそ、落とし穴とは古典的な・・・待てコラァー!」

真っ黒く汚れた少年が、チョコマカと走り去る少女を追いかけていった。


岡部「なんだ、今のは」

紅莉栖「田舎ではよくあること・・・ではないわよね」

はぅ~

岡部「?」

紅莉栖「どうかした?」

岡部「いや、遠くから変な声が」

はぅ~

紅莉栖「え、何これ」

はぅ~

岡部「お、おい、あそこ」

粗大ごみの集積場だろうか、奇声を発しながら鉈を振り下ろす少女。

はぅ~



紅莉栖「こ、こわぁ・・・」

岡部「いいか、俺達は何も見ていない。そうだな?」

紅莉栖「ええ、何も見ていない」

あてもなく町内をフラフラ歩き回っていると、左手に、長く続く上り階段が見えた。

紅莉栖「古手神社ですって。とりあえず行ってみる?」

岡部「階段か・・・」

紅莉栖「なによ、男でしょ。少しくらいは意地を見せ・・・」


彼があの時意地を見せたから、私は今、こうやって―――


紅莉栖「・・・行ってみましょうよ」

岡部「まあ、他に行くあても無いが、正直しんどい」


「みぃ?」


聞きなれない、いや、聞いたことが無いわけでもないような声。


梨花「どうかしたのですか?」

羽入「あ、あぅぅ」

下校中だろうか。2人の少女が二人を見上げていた。

紅莉栖「あ、ううん、なんでもないの。神社に行ってみようかって話をしてただけ」

梨花「じゃあボク達と一緒に行くのです。景色がとっても綺麗なのですよ。にぱー☆」

紅莉栖「ほら岡部、こう言ってるんだから行くわよ」

岡部「くっ・・・まあいい」



岡部「ゼェ・・・ゼェ・・・」

紅莉栖「あんた、息、切らし、すぎ」

岡部「お前だって、切れかけ、じゃ、ないか」

梨花「二人とも、こっちなのですよー」

岡部「子供は何故体力が無尽蔵なのだろうな」

紅莉栖「・・・言いたくないけど、私達の体力が無さ過ぎるのよ」

紅莉栖「わ、本当にいい景色」

仏閣の脇、4人は展望台から町内を見下ろした。

紅莉栖「あ、ほら岡部あそこ、さっき通った所。あんなに遠くだったのね」

岡部(あの紅莉栖が笑顔ではしゃいでいる)

紅莉栖「どうしたの?」

岡部「ああ、確かにいい画だ」

梨花「ここは何もない所ですが、景色は抜群なのですよ」

岡部「そういえば、ここはなんという地名なのだ?」

梨花「っ」

一瞬、少女の表情が引きつったように見えた。

梨花「ここは雛見沢というのです」

紅莉栖「知ってる?」

岡部「いや、失礼だが初耳だ」

梨花「・・・二人は、なぜ雛見沢に来たのですか?」

紅莉栖「まあ、散歩というか、観光みたいなものかしらね」

梨花「そうなのですか。ではボク達は行くのです。さ、羽入、行くのですよ」

羽入「は、はい、なのです・・・」

そういうと梨花は、羽入という名の少女の手をとって神社の裏手へ走っていった。


紅莉栖「・・・なにか気付いた?」

岡部「気になる点はある」

紅莉栖「私も。別れ際の梨花ちゃんの表情見た?」

岡部「俺からは見えなかった」

紅莉栖「一瞬だけどね、すごく神妙な顔をしてたのよ。あんたは何を?」

岡部「これでも俺は大学生だ。だが雛見沢という地名は聞いたことすらない」

紅莉栖「・・・なんか、ひっかかるのよね。ついていってみましょ」

神社の裏手。

梨花「さぁ羽入、説明しなさい」

羽入「あうぅ、ボ、ボクには何のことだかサッパリなのです」

梨花「とぼけないで。あの二人、誰なのよ」

羽入「あぅ、だからボクは何も・・・」

梨花「今日はワインのウォッカ割りを飲んでみるのですよー。にぱー☆」

羽入「そ、そんなの飲んだら、ボクは死んじゃうのです!」

梨花「おつまみは、ハバネロのキムチにするのですー♪」

羽入「だ、ダメなのです!絶対ダメなのですー!」

梨花「じゃあ話しなさい」

羽入「・・・怒らないと約束できますか?」

梨花「内容による」

梨花「・・・つまり、あの二人のカケラをたまたま拾った」

羽入「はいなのです」

梨花「それを、裾にしまった」

羽入「・・・はいなのです」

梨花「そのことをすっかり忘れて、私のカケラ紡ぎをはじめた」

羽入「・・・はい」

梨花「その時に裾からそのカケラが落ちた」

羽入「・・・」

梨花「そのことに気が付かず、混じったままこの世界が始まった、というわけね。なるほど」

羽入「っ・・・・・・?怒らない・・・のですか?」

梨花「えぇ、怒らないわよ」

羽入「り、梨花・・・!」

梨花「ただ、これからはあんたを全力で見下すことにするわ」

羽入「梨花ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

梨花「なに考えてるのよあんた!」

羽入「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」

梨花「うっさい!なんであんたは厄介ごとを増やしてくれるのよ!」

羽入「あうぅ、怒らないって言ったのですー!」

梨花「あんたが実体化した時点で嫌な予感がしてたのよ・・・これが最後なんでしょ」

羽入「・・・もう、次のチャンスはないのです」

梨花「あんたが死んでもきっと終わりよ!なんで敗北条件増やしてるのよ!」

羽入「・・・きっと、あの二人が死んでも終わりだと思うのです」

梨花「はぁぁぁぁああ!?これで敗北条件が一気に4倍になったわよ!死ね!」

羽入「あぅぅ、ひどいのですひどいのですー!」


岡部「賑やかだな」

梨花「っ!」

岡部「すまない、盗み聞きをするつもりはなかったが、あまりにも声が大きくてな」

羽入「あぅ・・・」

梨花「っ・・・ボク達は、今度発売される漫画の話をしていたのですよー☆」

紅莉栖「へぇ、ということは、あなた達は漫画の登場人物なのね」

梨花「・・・どこから聞いていたのですか?」

紅莉栖「そ、そんなの飲んだら、ボクは死んじゃうのです!  ってあたりから」

梨花「ほぼ最初からじゃないのよ・・・!」

岡部「教えてくれ梨花。お前に、そして俺らに何が起きているのか」

梨花「・・・言ったところで、信じてもらえるはずがないのです」

岡部「信じるさ」

梨花「・・・そういえばまだ名前を聞いてなかったのです」

岡部「岡部倫太郎だ。岡部でいい」

紅莉栖「牧瀬紅莉栖。呼び方は助手とクリスティーナ以外ならなんでもいいわ」

梨花「・・・というわけ。今回がきっと最後のチャンス」

岡部「・・・」

紅莉栖「・・・そんなのって・・・」

梨花「どう、信じられないでしょ?無理もないわ」

岡部「・・・そのループを終わらせるためには、何をすればいい?」

梨花「信じられるの?ただの子供の戯言かもしれないのに」

岡部「俺だって似たような経験をしてきた。聞いてくれるか」

脇に腰掛ける紅莉栖へ視線をうつす。

岡部「紅莉栖、申し訳ないが、少しだけ席を外してほしい」

紅莉栖「は?私には聞かせられな・・・わかった。終わったら呼んで」

岡部「すまない。お前にも、話せるときが来たら話す」

岡部の眼差しを受け、紅莉栖は立ち上がり展望台のほうへと足を運んだ。


紅莉栖(・・・あの時と同じ目)

岡部「聞きそびれたな。ここはいったい何年なのだ

梨花「昭和58年の6月。西暦でいえば1983年よ」

岡部「・・・やはりな。商店の日めくりカレンダーを見ておかしいと思った」

梨花「岡部はいつのどこから?」

岡部「平成20年、東京だ」

梨花「平成って?」

岡部「ああ、すまない。西暦でいえば2010年だ」

梨花「・・・あんた、どこでカケラ拾ったのよ」

羽入「あぅ・・・」

梨花「岡部は何年生まれなの?この時代ではまだ生まれていないでしょ」

岡部「91年生まれだ。そうか、携帯が繋がらん理由もはっきりした」

梨花「けいたい?」

岡部「そうか、これも知らないのだな」

梨花「これが・・・電話だっていうの・・・?」

羽入「すごいのです!すごいのです!」

岡部「ほら、カメラにもなる」

梨花「ほおおぉぉ・・・」

岡部「そういや、この時代にテレビゲームはあるか?」

梨花「え?ああ、ファミリーコンピュータっていうのが来月出るわね」

岡部「ファミコンか。名機だ。だが」

ニヤリと不適な笑みを浮かべる。

岡部「未来では、まるで実写と見まごうほどの美しい映像でテレビゲームができるぞ」

梨花「っ!・・・岡部、私達に力を貸して」

岡部「生きる希望が湧いたようだな。だが、ひとつ条件がある」

梨花「・・・何?」

岡部「そろそろ俺の話を聞いてくれ」

羽入「話が脱線しすぎなのです」

梨花「・・・そう、牧瀬を助けるため、自分の体を盾に」

羽入「あぅぅ、痛い話は嫌なのです」

梨花「お腹をナイフで・・・その痛み、よく分かるわ。苦しかったでしょ?」

岡部「こんなものかすり傷だ。紅莉栖に比べれば」

羽入「好きなのですね。牧瀬のことが」

岡部「あいつの気持ちは分からんままだがな」

数十メートル先、展望台から遠くを眺める紅莉栖の背中を見つめ呟いた。


羽入「あぅあぅ、恋バナは大好きなのですよー♪」

梨花「ちょっと黙ってなさい」

岡部「羽入って、梨花の先祖なんだよな?」

梨花「ええ。嘆かわしい」

羽入「あぅッ!?」

梨花「明日の夕方、ここに大石、富竹、入江という男が集まる。その時また来て欲しい」

岡部「わかった。だが俺らの正体は内緒にしてくれ」

梨花「ええ、わかってる。今日はどこかに泊まるしかないわね」

岡部「泊ま・・・あっ」

財布の中身を確認する。

岡部「・・・460円で泊まれるホテルはあるか?」

梨花「ないでしょうね」

岡部「俺は野宿でも構わんが、紅莉栖はそうもいかない。どうするべきか・・・」

羽入「あぅあぅ、レディーファースト!かっこいいのですー♪」

梨花「だから黙ってなさい。そうね、岡部のその電話、使える?」

岡部「残念ながら不可能だ。昭和に携帯のアンテナなど建っていない」

梨花「しょうがない、家まで戻るわ。ついてきて」

紅莉栖「長かったわね。待ちくたびれたわよ」

岡部「すまない。ひとまず梨花の家に行くぞ」

紅莉栖「どういう結論が出てそうなったのよ」

岡部「質問だ。野宿をしたいか?それとも布団で寝たいか?」

紅莉栖「は?そりゃ後者を選ぶけど」

岡部「ならば行くぞ。梨花がどこか泊めてくれる場所を探してくれる」

紅莉栖「ああ、なるほどね」


梨花「岡部、牧瀬、早く来ないと置いていっちゃうのですよー。にぱー☆」

岡部「あいつは・・・2重人格なのか?」

紅莉栖「いや、違うわね。記憶が共有されてるもの」

岡部「そういうもんなのか」

沙都子「あら、梨花、羽入さん。お帰りなさいまし。遅かったですわね」

梨花「ちょっと、知り合いの人に会ってお話をしていたのです」

沙都子「梨花のお知り合いですの?どのような・・・あっ」

岡部「あっ」

紅莉栖「あっ」


沙都子「さ、先ほどはご迷惑をおかけ致しましたわ!危うく梨花の知り合いの方をトラップに・・・」

紅莉栖「あ、ええ、大丈夫よ。心配しないで」

岡部「あの後少年に追いかけられていたが、逃げ切れたのか?」

沙都子「ヲーッホッホッホッ!この北条沙都子、あんなヘナチョコに捕まるようなヘマはいたしませんわよ!」

岡部(変な子)

紅莉栖(変な子)

梨花(あ、今 変な子 って思ってるわきっと)

魅音「もしもし園崎です。お、梨花ちゃん、どったの?」

梨花「実は魅ぃにお願いがあって電話したのです」

魅音「梨花ちゃんがお願いなんて珍しいね。言ってみ?」

梨花「今ボクのお友達が遊びに来ているのですが、お泊まりするところが無くて困ってるのです」

魅音「ふむふむ、なるほど。どんな子?」

梨花「大学生の二人組なのです」

魅音「だ、大学生?交友関係広いねぇ」

梨花「無理ですか?」

魅音「うーん、おじさんは歓迎するけど、婆っちゃがなんて言うかなー」

梨花「お願いなのです」

魅音「むーん、ちょい待ってて、婆っちゃに聞いてみる」

・・・・・・

魅音「その二人と梨花ちゃんで挨拶に来いって言ってる。多分大丈夫っぽいよ」

梨花「みぃ、本当ですか?ではこれから行くのです」

岡部「・・・」

紅莉栖「・・・」

岡部「ところでこの玄関の門を見てくれ。コイツをどう思う?」

紅莉栖「すごく・・・大き、って言わせんな」

魅音「お、いらっしゃーい。このお二人が梨花ちゃんの知り合い?」

岡部「始めまして、岡部だ」

紅莉栖「どうも。牧瀬です。よろしくね」

魅音「ひぇー、本当に大学生だ。・・・ふーむ」

岡部「な、なんだ、何をジロジロ」

魅音「・・・うん、多分大丈夫だね。案内するよー」

梨花「お邪魔しますなのですー」


紅莉栖「・・・ところでこの家を見てくれ。コイツをどう思う?」

岡部「すごく・・・大きいです・・・」

魅音「婆っちゃ、連れてきたよー」

お魎「入り」

魅音「よし、じゃ岡部さん一人で」

岡部「へぇあ!?何故だ!?襖から禍々しいオーラが出ているぞ!」

魅音「大丈夫大丈夫。あとで皆で入るから」


岡部「し・・・失礼いたします」

老婆が一人、背中を向けて座っていた。

お魎「なんね、一人で挨拶かいね」

岡部「あ、いや、はい、本日は園崎様の邸宅にお泊め頂きたくてご挨拶に・・・」

お魎「やれやれ、梨花ちゃまの知り会いやいうからどんな子かと思たら、その声は大人やんね」

老婆は振り返り、正座で小さく縮こまる岡部の顔を見た。

お魎「よし、泊まっていき」

岡部「へ?」

襖の外では、魅音が口を抑えながら必死に笑いを堪えていた。

お魎「話す順番を間違うたんね。あんさん、名前は」

岡部「お、岡部倫太郎と申します」

お魎「歳は」

岡部「18になります」

お魎「気に入った。魅音、入り」

魅音「よかったね、岡部さん!」

岡部「え、あ、ああ」

お魎「なんね、女連れやったんかい。名前は」

紅莉栖「始めまして、牧瀬と申します。この度はお世話になります」

お魎「ふん、礼儀はしっかりしよる娘やわ。構わん。あんたも泊まり」

魅音「岡部さん、絶対婆っちゃのタイプだと思ったんだよねー」

お魎「なんであんたは本人の前で言うかねこんダラズが」


梨花(あのお魎が照れてる・・・嫌だ、怖い・・・!)

岡部「・・・同じ・・・」
紅莉栖「部屋・・・だと・・・?」

魅音「あれ、嫌なの?私てっきり」

岡部「ま、まあ俺は吝かではな
紅莉栖「嫌よ!こんなヤツと一緒の部屋だなんて、何しでかすかわからないもの!」

梨花「岡部は何をしでかすのですか?」

魅音「いっしっし、梨花ちゃんにはまだ早いかなー。ちょい待ってて。他の部屋開いてないか聞いてみる」



魅音「ごめーん、他の部屋、空いてないんだって。我慢して二人で寝てくれだってさ」

紅莉栖「うぅ・・・泊まらせて貰ってる以上、贅沢は言えないわね」

岡部「そんなに信用ないか、俺」

梨花「それじゃボクは帰るのです。また明日なのですー☆」




魅音「婆っちゃ、いいの?部屋いっぱい空いてるのに」

お魎「ひっひっひ、いいんね」

紅莉栖「ふぁーあ、疲れたわね。もう寝よう」

岡部「ああ、明日は夕方までは自由?時間となる。どうするか」

紅莉栖「そうね、もっと色々な所見て回ってみましょうか」ズズズ

岡部「おい、どこまで自分の布団を引っ張っていく気だ」

紅莉栖「どこって、あんたの対角線上ですが何か」

岡部「そこまで敬遠されたらさすがの俺もヘコむぞ」

紅莉栖「・・・わかったわよ。でもこれくらいは離すわよ」

岡部「・・・好きにしろ」

紅莉栖「おやすみ」



お魎「ん、もう寝ちまったんね。つまらん」

魅音「婆っちゃ・・・」

紅莉栖「・・・なんで、梨花ちゃんの言うこと、すぐ信用したの?」

岡部「声だ。あの声は、信用に値する」

紅莉栖「お前は何を言ってるんだ」

岡部「お前には分からない。分かるとしたら20年後くらいになるのだろうか」

紅莉栖「もういい、寝るわ」

岡部「ぐ・・・そっちから話を出したくせに・・・!」

紅莉栖「・・・」

岡部「・・・」

紅莉栖「・・・」

岡部「・・・なあ」

紅莉栖「・・・すー・・・すー・・・」

岡部「・・・はえぇ・・・!」

岡部「おい、起きろ」

紅莉栖「・・・んぁ・・・」

岡部「もういい時間だぞ」

紅莉栖「ぅぅ・・・あ、おかべぇ、おあよう・・・って岡部!?」

岡部「そこまで驚かれる筋合いはないのだが」

紅莉栖「え、あ、なんだ・・・ああ。泊めてもらったんだっけ。おはよう」

岡部「お早くないぞ。12時だ」

紅莉栖「・・・どう考えても寝すぎです本当に(ry」

岡部「まあ、お互い精神的にも疲れていたのだろう」

紅莉栖「・・・この世界は、やっぱり夢じゃないのね」

岡部「ああ、しっかり寝起きしたな」

岡部「おはようございます」

お魎「ん、よう寝とったな」

岡部「ええ、すいません。まさかもうこんな時間とは」

お魎「魅音がこれ、二人にってな」

岡部「ん?エンジェル・モート ランチ無料券とな」

お魎「あんたら、昨日から何も食うとらんでな」

紅莉栖「そういえばそうね。わたわたしてて忘れてた」

お魎「そこに魅音の妹の詩音っちゅうのがおってな。見たらすーぐわかる顔しよる」

岡部「すいません、お言葉に甘えます」

紅莉栖「すいません、色々と尽くしていただいて」

お魎「礼なら魅音に言い」

「「「いらっしゃいませー!エンジェル・モートへようこそー!」」」

岡部「」
紅莉栖「」

「ただいま席にご案内いたしまーす!」

岡部「」
紅莉栖「」

詩音「ん?あの人たちって」


紅莉栖「なんぞこれ・・・!」

岡部「2010年に帰ってきたのかと思った・・・」


詩音「はろろーん♪こんにちはー♪」

岡部「ん?あれ、魅音?」

詩音「ざんねーん、妹の詩音でーす」

詩音「昨日会ったの覚えてます?」

岡部「昨日・・・どこかで会ったか?」

詩音「ほら、道で車呼びとめたじゃないですか。あれに乗ってたんです」

岡部「ああ、あのヤク、もとい、逞しそうな人の車に」

詩音「言い直さなくても大丈夫ですよ。本物のヤクザですから」

岡部「・・・!」

紅莉栖「あ、それで魅音さんからコレを貰って来たんだけど」

詩音「あら、うちの無料チケット。ってことは梨花ちゃまの知り合いってあなた達だったんですね」

岡部「まあ、そういうことになる」

詩音「てっきり子供だと思ってたけど、梨花ちゃまって交友関係広いんですね」

岡部「魅音も同じ事を言っていたな」

詩音「双子ですから♪」

梨花「あ、岡部と牧瀬。遅いのですよー」

岡部「すまない。興宮の方で時間をくってしまって」

紅莉栖「本屋でかたっぱしから雑誌読んでるんだもの」

大石「古手さん、お知り合いの方ですか」

梨花「はい、ボクのお友達なのです」

富竹「こりゃまたずいぶん大きなお友達がいたんだね」


梨花、恰幅のいい壮年男性、マッチョなタンクトップ、細身の白衣、マッチョなイケメン。

岡部「昨日3人が集まると言っていたな。4人だったのか」

梨花「赤坂まで来てくれるなんて思っていなかったのです」

赤坂「えーと、岡部さんですか。始めまして、警視庁公安部の赤坂衛です」

岡部「あ、どうも、岡部倫太郎です。大学生です」

紅莉栖「牧瀬紅莉栖です。大学の研究所で研究員をやっています」

大石「興宮署の大石です。見かけない顔ですねぇ」

梨花「東京のほうから遊びに来ているのです」

入江「入江です。この雛見沢で診療所をやっています」

富竹「僕は富竹。フリーのカメラマンさ。あはは!」

岡部(ああ、やっと親近感の湧くポジションの人が・・・)

梨花「富竹、岡部には本当の事を話しても大丈夫なのですよ」

富竹「あはは、そうかい?じゃあ」

呑気そうに笑っていた目が、真剣な眼差しへと変わる。

富竹「始めまして岡部くん。富竹ジロウ二等陸尉です。監査役兼連絡員として雛見沢に派遣されています」

入江「では私も。入江京介二等陸佐です。入江機関という研究所の最高責任者です」

岡部「」

入江「岡部君は大学生なんですね。白衣を着ていますが、どういった分野を?」

岡部「・・・電気です」

岡部倫太郎。初めて”白衣を脱ぎたい”と感じた瞬間であった。

入江「そちらの女性が牧瀬さんですね」

紅莉栖「はい。始めまして」

入江「突然ですがメイド服には興味ありませんか?その美しい容姿、ぜひメイド服を着用していただきたいのですが」

紅莉栖(あ、この人生理的に受け付けない)

梨花「入江、自重しやがれなのです」

入江「おっとすいません、つい本音が。研究員との事ですが、どういった分野を?」

紅莉栖「脳科学です」

入江「脳、科学・・・失礼ですが、どちらの大学の研究所でいらっしゃいますか・・・?」

紅莉栖「ヴィクトル・コンドリア大学ですが何か」

入江「ヴィッ・・・!!!」

数歩後ずさり、慌てて深々と頭を下げた。

入江「も、申し訳ございません!ご無礼を働いてしまったことをお許しください!」

紅莉栖「ああ、もういいです。頭上げてください」

岡部(ダルを見るときと同じ目をしている・・・!)

岡部「4年連続で、人が・・・?」

大石「えぇ、毎年ね、この時期になると男女二人組が謎の死を遂げたり行方不明になるんですよ」

煙草に火を点けながら、大石はニヤリと笑った。

大石「巷じゃ”オヤシロ様の祟り”だなんて言われてます。あなた達も気をつけて下さいよ?」

梨花「大石、岡部達を驚かさないでください」

大石「ああ、すいませんねぇ。つい癖で。さて、私達はそろそろお暇しましょうか」

赤坂「そうですね。私は一度大石さんと署に戻ります」

富竹「僕も、興宮のホテルに戻ります」

梨花「じゃあ、今日はこれで解散なのです」


岡部「毎年、男女が、この時期に・・・」

入江「牧瀬さん」

紅莉栖「なんですか」

入江「・・・ヴィクトル・コンドリア大学脳科学研究所の一員であるあなたに、見て頂きたいものがあるのです」

岡部「雛見沢症候群、ですか」

入江「ええ、風土病のようなものです」

紅莉栖「具体的な発祥例は?」

入江「幻覚や幻聴、極度の疑心暗鬼や人間不信に陥ります。重度になると理性を失い、リンパ線に異常なまでの掻痒が現れます」

紅莉栖「疑心暗鬼に人間不信、そして理性を失う・・・」

岡部「どうやら、穏やかではなさそうだな」

入江「空気感染が主な感染経路ですので、お二人には一応予防薬を投与いたしましょう。さぁ、ここです」

岡部「入江診療所・・・失礼ですが、研究所にしては小ぶりですね」

入江「表向きはただの診療所です。研究所の部分は全て地下となっています」

紅莉栖「見て頂きたいものとは?」

入江「・・・地下に重度の感染者が極秘で入院しています」

紅莉栖「重度?面会に問題は?」

入江「大丈夫です。現在は薬によって昏睡状態となっています」

入江「北条悟史くん。ほぼ1年、この状態が続いています」

紅莉栖「・・・」

紅莉栖は神妙な面持ちで、四肢を拘束されて昏睡した少年を見つめる。

岡部「北条・・・沙都子と関係が?」

入江「おや、沙都子ちゃんをご存知でしたか。彼女のお兄さんです」

岡部「あのクマのぬいぐるみは?」

入江「沙都子ちゃんの誕生日プレゼントとして、渡す予定だったそうです」

岡部「そうですか・・・」

紅莉栖「彼がL5となった原因は?日常生活で発症するものではないのでしょう?」

入江「・・・場所を移しましょう。聞こえていないとはいえ、彼の前でこの話はできません」


”梨花とはもう1年近く、ここで一緒に暮らしているんですのよ”

昨日、沙都子は笑顔でそう話していた。

岡部(・・・強いんだな)

岡部「そうですか、沙都子と梨花の両親はもう・・・」

入江「”オヤシロ様の祟り”の2年目と3年目の事件にあたります」

紅莉栖「それで悟史くんは重度のストレスを?」

入江「いいえ、悟史くんと沙都子ちゃんは叔父夫婦に引き取られたのですが・・・」

岡部「虐待、ですか」

入江は小さく頷いた。

紅莉栖「C-PTSDね」

岡部「C・・・なに?」

紅莉栖「C-PTSD。複雑性心的外傷後ストレス障害の略よ」

入江「複雑性というのは初めて耳にしました。それはどういった?」

紅莉栖「長期間にわたる外傷やストレス等、複数の原因に起因するPTSDのことです」

入江「ほう、勉強不足でした。やはりアメリカの研究は進んでいらっしゃる」

紅莉栖(あれ、83年にはまだ無かったっけ・・・?)

入江「叔父夫婦からの暴力の日々、悟史くんは沙都子ちゃんの事を常にかばっていたようです」

岡部「それが、発症の原因に?」

入江「・・・去年の6月、叔母が何者かに撲殺されました。”オヤシロ様の祟り”4年目です」

岡部「なっ・・・!」

入江「その数日後に彼はL5を発症、そして、今に至ります」

紅莉栖「なるほど、一人が死亡、一人が行方不明ってわけ・・・」

入江「叔母を殺した犯人は後日逮捕され、留置所内で自殺を図りました」

岡部「で、ですがそれでは・・・」

入江「今はそれで納得してもらえないでしょうか。お願いします」

岡部「・・・分かりました」

紅莉栖「入江先生」

入江「はい?」

紅莉栖「私も、一時的にこの研究に携わらせて下さい」

入江「それは・・・非常にありがたい申し出なのですが、よろしいのですか?」

紅莉栖「今の話を聞いて、ただ何もせずに帰ることなんてできません」

そういうと紅莉栖は、隣に座る岡部の方を向いてフッと微笑んだ。

紅莉栖「いいでしょ?どうせ特にすることも無いんだし」

岡部「お前なら絶対そう言うと思っていた。驚きも拒否もしない」

入江「・・・有難うございます。では、早速ですがお二人は明日からこちらへ来てもらえますか」

岡部「二人・・・え、俺も?俺はただの大学生なのですが」

入江「問題ありません。実は、書類整理や事務作業も人手が足りていなくて」

岡部「だ、だからといって・・・」

入江「タダでとは言いません。無論お二人には日当をお支払いします。どうですか?」

岡部「わかりました。俺でよければお手伝いしましょう」

紅莉栖「言うと思った」

入江「それではよろしくお願いいたします。お気をつけて」


岡部「夕食までご馳走になるとはな」

紅莉栖「・・・また、あのお店とはね。詩音さんはいなかったけど」

岡部「あの制服、軽犯罪法とかにはひっからないのだろうか?」

紅莉栖「さあ、でも今よりは寛容だったんじゃないの?」

岡部「ダルは生まれてくる時代を間違えたな。まあ、明日は早い。今日は早めに寝るとしよう」

紅莉栖「そうね。忙しくなりそう」

岡部「その割には若干嬉しそうだな」

紅莉栖「人の命がかかってるんだもの。そりゃ奮起するわよ」

岡部「・・・人の命、か。そうだな」

紅莉栖「あっ・・・」

岡部「・・・」

紅莉栖「・・・」

魅音「お、お帰りなさーい。遅かったですねー」

岡部「ああ、入江先生に会っていてな」

魅音「監督に?大学の関係で用があったとか?」

岡部「まあ、そんな所だ」

紅莉栖「監督?」

魅音「ああ、少年野球チームの監督もやってるんです。忙しい人だよねー」

岡部「そうだ魅音、話を聞きたいのだが」

魅音「何ですか?アッチ系の話をするにはまだ早いですよ~?」

岡部「せんわ!」

紅莉栖「悟史、北条悟史くんのことについて教えて欲しいの」

魅音「・・・監督に、聞いたんですか?」

岡部「話したくないかも知れないが、俺達は知っておきたいんだ。頼む」

魅音「・・・わかりました。あとで部屋に行きます」

魅音「二人は悟史のこと、どこまで聞きました?」

岡部「沙都子の兄だということ、それと・・・1年前から行方をくらました事くらいか」

魅音「悟史、元々私達とおなじ学校に通ってたんです」

紅莉栖「学校?それらしい建物は見当たらなかったわね」

魅音「生徒が少ないから営林所の一部を借りて学校にしてるんです。合同学級で」

岡部「では兄弟でおなじ学校に通っていたということか」

魅音「はい。でもある日を境に、二人とも急に元気がなくなっちゃって」

岡部(それが叔父夫婦に引き取られた日か)

魅音「そしたら今度は、沙都子の誕生日プレゼントの為にアルバイトを始めたんです」

紅莉栖(そんな精神状態でさらにアルバイトなんて・・・)

魅音「で、沙都子の誕生日の直前、ドロンと姿を消したんです」

岡部(なるほど。ぬいぐるみを買って帰る途中でL5か。合点がいく)

魅音「もしかしたら悟史は忍者なんじゃないかーなんて心の中で思っちゃいました。あはは」

魅音「そういえば、詩音には会いました?」

岡部「ああ、お前とそっくり過ぎて驚いた」

魅音「たまに私と入れ替わってることがあるから注意した方がいいですよー?」

岡部「そっちの方ががよっぽど忍者ではないか」

魅音「ここだけの話、詩音は悟史にホの字だったんです」

紅莉栖「そう・・・悲しんだでしょうね」

魅音「『必ずどこかで生きてるから私は悲しまない』と口では言ってるけど、絶対辛いはずです」

岡部「そうだな、絶対どこかで生きているはずだ」


魅音「沙都子に詩音、二人も女の子を悲しませるなんて、ホント罪作りな・・・男、ですよね・・・」

気丈に振舞っていた魅音の瞳から、止め処なく涙が溢れ出した。

紅莉栖「魅音さん・・・」

岡部「色々と思い出させてしまったか。すまないな」

魅音「・・・いいえ、大丈夫です・・・」

岡部「話してくれたことに感謝する。お礼に、一つだけ教えてやろう」

魅音「・・・なんですか?」


岡部「悟史は、生きている」


紅莉栖「ちょ、ちょっと!」

わかっている。慌てる紅莉栖を目で諭した。

魅音「・・・今、なんて・・・?」

岡部「悟史は生きている。訳あって、入江先生の所に誰にも気付かれないよう入院している」

魅音「・・・冗談では、ないんですよね?」

岡部「事実だ。俺と紅莉栖で実際に会ってきた。薬で眠らされている。かれこれ1年ほど」

魅音「嘘、そんな・・・悟史が、監督の所に・・・」

岡部「細かい事情はまだ話せない。いずれ、入江先生から話してくれるだろう」

魅音「そうですか・・・。ということは面会なんかも」

岡部「まだ顔を会わせる事は難しい。だが、紅莉栖が悟史を救うことに協力してくれる」

魅音「牧瀬さんが?」

岡部「ああ。こいつは俺とは比べられない程の天才だ。悟史の為に尽力してくれる」

魅音「ま、牧瀬さん・・・ありがとうございます。悟史を、助けてやってください」

紅莉栖「ううん、今までの話を聞いてたら、本気を出すしかないわね」

岡部「いいか、この事を知っているのは俺ら3人だけだ。絶対誰にも言うな」

魅音「ええ分かってます。詩音のやつ、この事知ったらビックリするだろうなー」




その頃、興宮―――

善郎「お疲れ様ー」

魅音「ふひー、バイトちかれたー。帰ろ帰ろ」

魅音「あ、こんな時間に電話?それじゃ二人とも、おやすみなさーい」

すっかり元気を取り戻した魅音は、笑顔で部屋を去った。


と思えば、30秒ほどでまた引き返してきた。

魅音「岡部さーん、梨花ちゃ・・・んから電話ですよー」

岡部「梨花?なんでまたこんな時間に」


岡部「もしもし、俺だ」

梨花「今大丈夫?」

岡部「大丈夫だ、問題ない。沙都子はどうしてる?」

梨花「今お風呂に入ってる。残念な私の先祖と一緒にね」

岡部「そうか。で、何かあったのか?」

梨花「・・・今、私に起きていることを、皆に話してみようと思う」

岡部「皆って、羽入・・・は知ってるか。沙都子、魅音、詩音と」

梨花「レナと圭一にはまだ会ってないのね。二人とも魅音の1コ下よ」

岡部「1コ下・・・その圭一ってのは、沙都子の落とし穴にハマったりするか?」

梨花「なんだ、知ってるんじゃない」

岡部「・・・レナという娘は、よもや”はぅ~”という声を出したりするか?」

梨花「いかにも。それがレナよ。どうせゴミ置き場で見かけたんでしょ?」

岡部「ああ。俺も紅莉栖も見なかったことにしていたが」

梨花「変わってるけど、いい娘だから大丈夫よ」

岡部「その言葉、信じるぞ。で、いつ話すんだ?」

梨花「そうね、明日にでも」

岡部「わかった。進展があったら教えて欲しい」

梨花「ええ、わかった」

岡部「俺達も、入江先生の所で手伝いをすることになった」

梨花「手伝いって、雛見沢症候群の研究?」

岡部「ああ、紅莉栖が俄然やる気になっていてな。あいつの頭脳は俺が保障する」

梨花「2010年の知識は心強いわね」

岡部「ああ、数日で特効薬を作り上げるかもな」

梨花「そうなってくれることを祈るわ。で、岡部は何をするの?」

岡部「・・・雑用だ」

梨花「・・・・・・ふふっ」

岡部「あ、今笑ったな?絶対笑ったな?」

梨花「わ、笑ってないわよ。あ、二人ともお風呂上がったみたい」

岡部「では続きはまた後日」

梨花「はいなのです。ではおやすみなさいなのですー」

紅莉栖「梨花ちゃん、なんだって?」

岡部「自分のおかれてる状況を、友人皆に話すそうだ」

紅莉栖「そう、信じてもらえるといいんだけど」

岡部「ループの話はせず、何者かに殺される、という部分を話すのではないか」

紅莉栖「なるほど、それならまだ話がスムーズね」

岡部「しかし、なぜ梨花が、一体何者に命を狙われるのか」

紅莉栖「女王感染者ってことに関係があるかもね。明日、研究所で色々調べてみましょう」

岡部「うむ。書類整理中にも何か手がかりが見つかるかもしれない」

紅莉栖「そっちの方はまかせたわよ。助手よ」

岡部「なっ、なにをう!」

紅莉栖「どう?助手って言われる気分は」

岡部「ぐ・・・」

魅音「ふいー、ただいまー」

詩音「お帰り、お姉♪」

魅音「あるぇー?私が二人?なーんて。影武者ご苦労であった!岡部さん達は?」

詩音「もうすぐお休みするみたいです」

魅音「今日も早いなー。まだ10時じゃん」

詩音「明日から監督のお手伝いに行くんですって」

魅音「お手伝いって診療所の?医科大学なのかな、あの二人」

詩音「私、岡部さんからすっごい話聞いちゃったんです」

魅音「なになにー?教えてー」

詩音「内緒です♪」

魅音「えー、何さそれー」

詩音「お姉が聞いたことになってるんで、それっぽい話を言われたら『うん、わかってる』って適当に返してくださいね」

魅音「いや、そこまで言うなら教えてよ!」

詩音「これは3人だけの秘密なんです♪じゃ、私帰りまーす」

紅莉栖「・・・ねぇ、岡部」

岡部「どうした」

昨日と同様、部屋の端と端に離されて敷かれた布団。

昨日は背中を向けていたが、今日はこちらを向いている。


紅莉栖「雛見沢に来てからずっと、私のこと紅莉栖って呼んでるわね」

岡部「・・・気付いていたか」

紅莉栖「どういう風の吹き回しよ。何を企んでいるんだか」

岡部「お前がそう呼べと言ったんだろう。他意はない」

紅莉栖「・・・まあ、そうだけど」

岡部「助手と呼ばれると、意外とカチンとくるものだな。考えを改める」

紅莉栖「じゃあ、もうラボに戻っても助手は禁止ね」

岡部「ああ、いいだろう。おやすみ、紅莉栖」

紅莉栖「・・・おやすみ」

就寝の挨拶を終えると、紅莉栖はまた背中を向けてしまった。

詩音「お迎えご苦労様♪」

葛西「いいえ。何やらご機嫌ですね」

詩音「ふふーん、ちょっといい事があったんです。でも葛西にはナイショ」

葛西「そうですか。ではこれ以上は聞かないでおきましょう。発車いたします」

詩音「あ、昨日この車を止めた二人組、梨花ちゃまとカントクの知り合いだったみたいですよ」

葛西「やはり入江先生のお知り合いでしたか」

詩音「明日から診療所のお手伝いですって」

葛西「ということは、お二人は医者か医大生なのでしょうか」

詩音「さあ。じゃあ私眠くなっちゃったんで、着いたら起こして下さいね」

葛西「分かりました」



詩音は外を眺め、岡部との会話を思い返す。

砂利道を橙色に照らす街灯が、頬を伝う一筋の涙をキラリと輝かせた。

入江「えー、おはようございます。今日は二人の助っ人が駆けつけてくださいました」

紅莉栖「牧瀬紅莉栖です。ヴィクトル・コンドリア大学脳科学研究所の研究員です」


ヴィ、ヴィクコンだって!?

お、おい、なんであんな権威ある研究所の方が・・・?

若い・・・そして可愛い・・・!

という事は、隣の白衣の男も・・・?

ざわ・・・ざわ・・・


岡部「始めまして。岡部倫太郎です。普通の大学生です。雑務担当です」


ほっ。

よかった、普通の人だ。


岡部(紹介順、逆にしてもらうべきだった)

「岡部くん、これしまっといてもらえるー?」

岡部「はい、わかりました」

「岡部君、これ上まで持ってって」

岡部「はい、すぐ行きます」

「岡部さん、この書類、10部づつコピーしてもらえますか?」

岡部「は、はい、急いで」

紅莉栖「岡部、これ入江先生に渡しといて」

岡部「はいはいただ今、ってお前か」

紅莉栖「忙しそうね」

岡部「見ての通りだ。そっちは?」

「牧瀬さん、dcSQUIDの準備ができました。あとこちらの書類に目を通しておいてください」

紅莉栖「わかりました。すぐ行きます。  見ての通りよ。じゃ、それよろしく」


岡部「もう現場を把握できているのか・・・真似できん」

岡部「」

紅莉栖「お疲れ」

岡部「ああ、お疲れだ」

紅莉栖「だらしないわね。まだ2時よ」

岡部「さっきからずっと走り回ったりなんだりでな」

入江「お疲れ様です。お二人とも」

紅莉栖「あ、お疲れ様です」

入江「お二人の働きっぷりに、職員の皆は舌を巻いていましたよ」

岡部「まあ、役に立てているなら本望です」

入江「この調子だと今日の分は3時には終わるでしょう。あとひと踏ん張りですよ」

紅莉栖「そんなに早く?」

入江「牧瀬さんの行動力と統率力はお見事というほかありません。リーダーになってもらいたいくらいです」

岡部「ここでも威張りちらしているのか」

紅莉栖「し、失礼ね!そんなことはないはずよ!」

紅莉栖「ふむん、こんな所ね」

「す、すごい・・・この実験を3時で終わらせた・・・!」

紅莉栖「明日も同様の実験を行い、今日のデータとの差異を分析してみましょう」

「は、はい、わかりました!ご協力に感謝いたします!」

岡部(実験大好きっ娘の本領発揮、か・・・)

三四「すごいじゃない、あの子」

入江「ええ、さすがは脳科学の権威の一員といった所ですね」

三四「入江先生、追い抜かれちゃいますわよ」

入江「彼女の着眼点には驚かされます。我々が気にしないような些細な点から新たな発見がありました」

三四「未来からタイムスリップしてきてるんじゃない?」

入江「ははは、そう思いたくもなります」


入江「今日はお疲れ様でした。はい、今日の分の謝礼です」

岡部(封筒の厚みからして3000円だな。時給600円、そんなもんか)

入江「明日もよろしくお願いいたします」

岡部「さ・・・3万円・・・だと・・・?」

紅莉栖「お札、今とデザインが違うわね。聖徳太子?」

岡部「これがバブル時代か・・・!じゃあお前には幾ら入っているんだ・・・?」

紅莉栖「私も3万円だった」

岡部「へ?なぜ俺と同じ金額なのだ」

紅莉栖「なぜって、同じ時間仕事したんだもの、当然じゃない」

岡部「いやいや、俺は雑用、お前は研究所の軸となって働いたのだぞ。不満はないのか?」

紅莉栖「別に。あんたと違ってお金のために働いてるわけじゃないもの」

岡部「く・・・金に困ったことが無いからそう言えるのだ。まあいい、飯行くか」

紅莉栖「そうね、今日は食べ損ねちゃったし。私も財布買いに行きたい」

岡部「今日の俺は大変気分がいい。奢ってやっても構わんぞ」

紅莉栖「現金なヤツ。じゃあお言葉に甘えるわ」

「「「いらっしゃいませー!エンジェル・モートへようこそー!」」」


紅莉栖「なんでここなのよ・・・」

岡部「しまった、つい・・・!」

詩音「あっ、岡部さん達、はろろーん♪仕事終わりですか?」

岡部「おお詩音、お勤めご苦労。何故それを知っている?」

詩音「ああ、お姉から聞いたんです。連日の来店なんて、ここ気に入っちゃいました?」

岡部「う、うむ、まあ」

詩音「でも彼女連れでうちに来るなんて、中々の度胸ですよねー」

紅莉栖「ふぇ!?ち、違う!そんなんじゃないから!!コイツとは何の関係も無いの!」

詩音「ありゃ、私のセンサーではてっきりカップルだとばかり。こりゃまた失礼いたしました~♪」



紅莉栖「もう!一番高いメニューとデザートまで注文してやるからな!」

岡部「いや、好きにしていいが・・・」

岡部「そういえば、研究のほうはどうだった?」

紅莉栖「必要なものは揃ってるけど、やっぱ古さは否めないわね」

岡部「お前からすれば最新機材ですら27年前のものだしな。あれはないのか?頭を輪切りにするやつ」

紅莉栖「MRIのこと?それがあればどれだけ楽か」

岡部「この時代にはまだ存在しないのか」

紅莉栖「いいえ、あることはある。でも発売されたのが先月で、まだ設置には時間がかかるって」

岡部「そうか、頑張れ」

紅莉栖「ええ、やるだけやってみる。岡部のほうは?」

岡部「運搬とコピーと書類の片付けとホッチキス止めしか記憶にない」

紅莉栖「本当に雑用ね」

岡部「俺のできることはそれくらいだ。だがコピーとホッチキスのスキルは上がったぞ」

紅莉栖「知らんがな」

紅莉栖「どれにしよっかなー」

岡部「あまり長居はできんぞ。早めに帰って梨花の報告を待たねば」

紅莉栖「わかってるわよ。あ、可愛い財布ハケーン」


「ありがとうございましたー」


紅莉栖「~♪」

岡部「随分と可愛らしいのを買ったな」

紅莉栖「な、何よ、悪い?どうせお前には似合わんとか言うつもりでしょ」

岡部「いや、いいのではないか」

紅莉栖「えっ・・・」

岡部「そういった小物の可愛らしさで中和しないとな」

紅莉栖「・・・どういう意味よ!氏ね!ハゲろ!」

岡部「なッ!ハゲてたまるか!絶対ハゲるものか!」

岡部「ただいま、は変か。お邪魔します」

魅音「お、お帰りなさーい。今日は賑やかだよー」

岡部「確かに。来客か?」

魅音「今日は梨花ちゃんの提案で、部活をうちでやってんですよ」

紅莉栖「部活?」

魅音「ま、罰ゲーム付きのゲーム大会みたいなもんです。参加します?」

岡部「ふむ、まあ時間はあるしな。多少付き合ってやる」

魅音「ひっひっひ~、どうなっても知らないですよ~?」


レナ「はぅ~」

紅莉栖(今の声って・・・!)


魅音「じゃーん!岡部さんと牧瀬さんも連れてきたよー!」

レナ「あっ、魅ぃちゃんから聞いてるよー。よろしくお願いしまーす♪」

紅莉栖「あ、う、うん、よろしくね」

圭一「あれ?一昨日の」

岡部「お、あの時の。沙都子は捕まえられなかったか」

圭一「ええ、残念ながら。こいつ逃げ足だけは速いんすよ」

沙都子「ヲーッホッホッホッ、小学生の逃げ足に追いつけないなんて、所詮都会育ちのもやしっ子ですわねー」

圭一「な、何をー!こんにゃろ、待て!」

沙都子「捕まえてご覧なさいましー♪」

岡部(変な子)

梨花「にぱー☆」

梨花め、うまいこと全員を一箇所に集めたな。

流し目を送ると、梨花は不安げな笑顔を浮かべながら小さく頷き返した。

魅音「じゃあ臨時新入部員も二人加入したって事で、恒例のジジ抜きといこうかー!」

圭一「よっしゃー!二人には悪いけど、ここは本気ですからね!」



紅莉栖「はい、1抜け」

圭一「なっ!」

紅莉栖「相手の気持ちを表情から読み取るのが得意なのよ、私」

圭一「くっ、標的変更!岡部さん、覚悟!」



岡部「残念だったな少年。俺の勝ちだ」

圭一「だーーーっ!何で!?結局俺がビリかよ!」

岡部「経過はどうあれ、圭一がビリになるという世界に収束するということだ」

岡部は急に真剣な表情となり、圭一の顔を正面から見据えた。

圭一「お、岡部、さん・・・?」


岡部「さあ、罰ゲームを、受けるのだ」

圭一「い、いらっしゃいませ・・・エンジェルモートへ・・・ようこそ・・・」

魅音「ぎゃーーっはっはっはっはっは!!!似合ってるよ圭ちゃーん!」

紅莉栖「罰ゲームがコスプレって・・・でも似合ってる・・・」

岡部「負けなくて良かった・・・!だが似合っているな・・・」

圭一「うぅ・・・屈辱だ・・・!」

岡部「そうだ紅莉栖、耳を貸せ」


紅莉栖「け、圭一くん」

圭一「はい・・・何ですか、牧瀬さん・・・」

紅莉栖「その格好、とってもかわいいわよ、圭一くん。だから・・・お姉さんに、もっといっぱい見せて?」

圭一「!・・・おおぅ!一時撤退する!」

沙都子「どうしたんですの?慌てて出て行かれましたけど」

岡部「対思春期少年用の硬化魔法だ」

紅莉栖「岡部氏ねHENTAI。ハゲろ、とにかくハゲろ」///

レナ「はぅ~、照れてる圭一くん、かぁいいよぉ~」

魅音「さて、お次は何にしよっかねーと」

梨花「魅ぃ、これは何ですか?」

魅音「ああ、チェスだよ。おじさんもほとんどルール知らないけどね」

圭一「俺も知らないな。チェックメイト!ってやつだろ?」

レナ「レナも知らなーい」

岡部「俺、昔やってたぞ」

紅莉栖「私も。ちょこっと嗜む程度だけど」

沙都子「あら、じゃあお二人にルールを教えてもらいませんこと?」

圭一「お、それもいいな。今後ゲームに追加できるかもしれないしな」

岡部「フッ・・・紅莉栖よ、この俺と戦いたい?いいだろう。返り討ちにしてくれよう」

紅莉栖「何も言っとらんわ。じゃあ、岡部と対戦しながら説明するわね」


20分後

紅莉栖「はい、チェックメイト」

岡部「なッ!!」

紅莉栖「こうやって、キングの逃げ場を抑えれば勝ちになるの」

圭一「ほー、奥が深そうなゲームっすね」

岡部「き、貴様!嗜む程度というのは嘘かっ!」

紅莉栖「ただ闇雲に突っ込んでくるだけの相手なら、初心者の私でも勝てるわよ」

岡部「そ、そうだ、全然勝てなくてやめたんだった、俺・・・」

紅莉栖「悪手とまでは言わないけど疑問手ばっかよ、あんたの打ち方」

岡部「曲がったことは嫌いでな、正面から突っ込むのが俺の流儀だ」

紅莉栖「一回でもそれで勝ててから言いなさい」

羽入「今のを踏まえて、もう一回最初から見てみたいのですー」

紅莉栖「じゃ、おさらいね。岡部、もう一局やるわよ」


25分後

紅莉栖「チェックメイト」

岡部「ぐっ!!もう一局!」

さらに3分後

紅莉栖「チェックメイト」

岡部「えっ、うそ」

紅莉栖「フールズメイトっていって、2手で勝負がついちゃう事もあるの」

岡部「もういい、小一時間で3敗とかもういい」

圭一「面白いですね。俺もやってみるかな」

沙都子「岡部さんといい勝負になりそうですわね」

岡部「おい、それはどういう意味だっ」
圭一「おい、それはどういう意味だっ」

魅音「お、だいぶいい時間になったね。今日はそろそろ解散ってことで」

梨花「待ってください」

今まで沈黙を続けていた梨花が、突然立ち上がった。


梨花「ボクの話を、聞いて欲しいのです」

圭一「梨花ちゃんが、殺される・・・?」

魅音「えーと・・・それって、なんかのゲームの話かな?」

岡部「事実だ」

壁に寄りかかって目を閉じていた岡部が、不意に口を開いた。

岡部「この家に集めたのは、俺と紅莉栖も含めた全員で話ができるから。そうだろ?」

梨花「・・・はいなのです。岡部達は、ボクの協力者なのです」

レナ「でも、一体誰が梨花ちゃんを?」

沙都子「確かに、梨花が殺される理由が思いつきませんわ。・・・皆から愛されてますのに」

梨花「直接私を殺めるのは鷹野。鷹野三四。それだけは分かっているのです」

岡部「っ!」

紅莉栖「あの鷹野さんが?なぜそうだって分かるの?」

梨花「岡部と牧瀬には、その理由を以前話したのですよ?にぱー☆」


”私は綿流しの後、何者かに眠らされ殺される。そしてまた同じ姿で生を受ける。羽入の力でね”
”前回は犯人の姿を刻み付ける為、眠らされずにお腹を裂かれたわ。フフ、とっても痛かったわよ?”

一昨日の梨花との会話を思い出し、紅莉栖はハッと大きく目を見開いた。

魅音「でも何で鷹野さんが?あの人、監督の所の看護婦さんじゃんか」

梨花「あの診療所は仮の姿。真の姿は”入江機関”という研究所。鷹野も研究員の一人なのです」

圭一「き、機関?またすごい話だな」

梨花「ここ雛見沢には、雛見沢症候群という風土病が蔓延しているのです」

沙都子「雛見沢症候群?初耳ですわね」

梨花「この事を知っているのは入江達とボク、そして、岡部達だけなのです」

岡部「実は、俺と紅莉栖でこの病気の研究を手伝っている」

圭一「その病気はどういった症状が?」

梨花「幻覚や疑心暗鬼、理性を失い、首が痒くなってしまうのです」

レナ「! それって昔、レナがなったのも・・・?」

梨花「典型的な症状の一つなのです」

岡部「魅音、昨日の夜に話したことと、話が繋がっただろう?」

魅音「ぷぇ?・・・あ、ああ、うん、わかってる」

岡部「また明日、今日と同じようにここに集まれるか?」

魅音「ええ、学校が終わり次第ここに来ます」

岡部「俺達も研究所で手がかりとなりそうなものを探してみる」

梨花「岡部、絶対無理をしてはいけないのです」

岡部「ああ、分かっている」

紅莉栖「私も、できる限り解明に尽力するわ」

梨花「・・・ありがとう。本当に頼もしいのです」

圭一「よっしゃ!明日から忙しくなるぞー!」

レナ「梨花ちゃん、レナ達だって目いっぱい協力するよ?お友達だもんね♪」

梨花「・・・信じてもらえて、本当に良かったのです」

沙都子「では皆様、明日以降に備えて今日はじっくりお休みですわよ!」

一同「おー!」


紅莉栖「よかったわね、梨花ちゃん」

岡部「仲間に話すというのは、相当な勇気を必要とするものだ」

入浴中・・・圧倒的入浴中・・・ッ!


梨花「・・・ねえ、羽入」

羽入「なんですか?」

梨花「あんた、胸でかいわね。ムカつく」

羽入「あぅ!?ど、どどどどうしたのですかいきなり!」

梨花「今度こそは、私もそれくらいになるまで成長できるかしらね」

羽入「・・・今回は仲間がたくさんなのですよ。皆信用してくれたのです」

梨花「・・・そう、よね。これが最後のチャンスだもの。うまくいくに決まってる・・・」

羽入「あぅ、梨花が泣きそうなのです。仲間が多くて嬉しいのかそれとも胸が大きくなれる喜び

ゴチーン!


梨花「一言多いのよ、バカ先祖」

羽入「み・・・眉間を殴るのは反則なのです・・・」

沙都子「り、梨花、今のは何ですの?何かすごい音が・・・」

岡部「さて、寝るとしよう」

紅莉栖「そうね、明日も忙しそう」ズズズ

岡部「それ、もういいだろう。お前に手など出さん」

紅莉栖「・・・わかったわよ。いいわよ、ここで」

離されること、約1m。


紅莉栖「おやすみ」

岡部「うむ」


岡部「・・・」

紅莉栖「・・・」

岡部「・・・」

紅莉栖「・・・ねえ」

岡部「来ると思った」

紅莉栖「じゃあいいわ」

岡部「いいから話せ」

紅莉栖「・・・梨花ちゃん、嬉しそうだったわね」

岡部「胸のつっかえが取れた顔だった」

紅莉栖「今までは誰にも話さず、自分だけで何とかしようとしてたんでしょうね」

岡部「心を開けば、自ずといい結果が導き出されるものだ」

紅莉栖「ちょっと何言ってるかわからないですね」

岡部「ああ、俺も言っててよくわからなかった」

紅莉栖「おやすみ」

岡部「ああ」


紅莉栖(心を開けば、か・・・)

急用でちょい離脱。
2~30分で帰ってくる。

翌日。

研究所に入るなり、紅莉栖は大急ぎで実験の準備を始める。

険しい表情を浮かべてはいるが、その目には力がみなぎっている。


その頃俺は、コピーとホッチキス止めに追われていた。

岡部「だーー!40枚×30部の書類とは何だ!」

ピーッ、ピーッ、ピーッ

プリンターから赤いランプと警告音が鳴り響いた。

岡部「なッ!?おい、どうした!機械が人間より先に根をあげるな!

ピーッ、ピーッ、ピーッ

いまだ止まらない警告音。

岡部「どうしたらいい!ダル!助けてくれー!」


「はい」

一人の看護婦が、紙の束を差し出していた。

三四「ただの用紙切れよ、それ」

紙を補充すると、プリンターはまた一定のリズムで印刷を再開した。

岡部「ふう、一時はどうなることかと」

三四「もしかして、機械オンチなの?」

岡部「い、いえ、ちょっとパニック状態になっていまして」

三四「うふふ、そんなに慌てなくても大丈夫よ」


鷹野さん、そのミニスカートで足を組まないでくれ。目のやり場に困る!

何これ気まずい。とりあえずこのでかいホッチキスで書類をまとめていこう。


三四「紅莉栖ちゃん、よく働いてくれてるわね」

岡部「ええ、あいつは俺と違って脳のエキスパートですからね」


三四「紅莉栖ちゃんのこと、好きなんでしょ?」

岡部「ふぉあ!?」


ピーッ、ピーッ、ピーッ

岡部「あー、ホッチキスがズレてしまった・・・」

三四「あらあらうふふ、図星?」

岡部「な、何を言うんですか突然!」

三四「だって、紅莉栖ちゃんのことばかり見てるもの」

岡部「へ?俺がですか?」

三四「ええ、気付いてないの?」


そういえばさっきから紅莉栖の状況説明ばかりしていた。

ああ、見てたな。俺ずっと紅莉栖見てた。


岡部「見てますね」

三四「鈍感なのね」

岡部「否定できません」


三四「で?どうなのよ?好きなの?」

岡部「・・・好きです」

三四「でしょうね。応援してるわよ」

岡部「で、ですが、あいつも中々心を開いてくれないんです」

三四「そんなの簡単よ、『黙って俺について来い』って言って強引に手を引っ張っていけばいいの」

岡部「そんなことをしたら背中を蹴り飛ばされます」

三四「そうね、じゃああの子が困ってる時、手助けしてあげればいいのよ」

岡部「あいつが困ってる時をほとんど見たことが無いです」

三四「んー、前途多難ね。でも道は険しくてもかならずゴールはあるわ。頑張ってね。それじゃ」


案外気さくで優しい人なのだな。それに、人の恋バナ(笑)に目を輝かせていた。

こんな人が、梨花を・・・?


去り際、三四の手にしていたファイルから1枚のプリントがハラリと落ちた。

数分後、若干慌てた様子で三四が岡部のもとへやってきた。

三四「岡部くん、この辺でプリント落としたかもしれないんだけど、見なかった?」

岡部「プリント?いいえ、見てないですが。あ、それじゃないですか?」

通路の端に落ちているプリントを指差すと、俺に見えないようにしゃがみこんで中身を確認した。

三四「ああ、これよ。よかった。大事なものだったの」

岡部「すいません、落としたときに俺が気付いていれば」

三四「ううん、いいのよ。邪魔したわね」

三四はプリントをファイルにしまうと、苦笑いを浮かべながらそそくさとその場を立ち去った。



岡部(印刷スキルの上昇が、こんな形で役に立つとはな)

紅莉栖「岡部、休憩よ。お昼行きましょ」

岡部「もうそんな時間か。その前に入江先生の所へ行ってくる。お前も来い」

紅莉栖「何でよ?」

岡部「例の件で、重大な話がある」

紅莉栖「・・・わかった。行く」



岡部「失礼します」

入江「おや、二人揃ってどうなさいました?」

岡部「先にお尋ねします。この部屋に監視カメラは?」

入江「・・・音声は記録されません。話す分には大丈夫です」

岡部「先ほど、鷹野さんが落としたプリントをコピーしたものが手元にあります」

「入江先生の部屋に訪問者です。記録開始します」

「訪問者は・・・岡部と牧瀬の二人です」

小此木「なんだ、助っ人とかいう二人組か」

「なにやら談笑しているようですが」

小此木「どうせ他愛も無い話だろう。記録しなくてもいい」

三四(・・・本当に見てはいないようね。命拾いしたわよ、岡部くん)


入江「表情が読み取れるほど精細に記録されるので、今はそれを受け取らないほうがよろしいでしょう」

岡部「では、どこでお渡ししましょうか」

入江「そうですね、私の行きつけのお店があるんです。ウェイトレスの制服がとても素敵でして」

紅莉栖「もしかして・・・エンジェル・モートですか?」

入江「おや、ご存知ですか?いかにも」

紅莉栖「3日連続になるのね・・・」

岡部「俺らにとっても十分行きつけの店だな」

「「「いらっしゃいませー!エンジェル・モートへようこそー!」」」


入江「はぁーい!みんなのイリーがやってきましたよー!」


紅莉栖「はぁ・・・」

詩音「あら、今日は3人なんですね」

岡部「ちょっとした話し合いがあるんだ。奥の席をお願いできるか」

詩音「はいはーい、ごあんなーい♪」


入江「で、鷹野さんの持っていたプリントというのは?」

食後のコーヒーが運ばれて来る頃には、”みんなのイリー”は”入江京介二等陸佐”の顔に戻る。

岡部「こちらです」

入江「・・・滅菌、作戦ですって・・・!」

岡部「俺もまだ流し読み程度ですが、穏やかでない文章が並んでいるのは分かります」

紅莉栖「滅菌作戦・・・名前だけを見ればいいことだけど」

岡部「その作戦が、”宿主ごと全ての寄生虫を葬り去る”事だとしたら、どうする?」

紅莉栖「・・・なるほどね」

入江「まだ、こんなものを持っているなんて・・・」

岡部「この作戦の最終的な決定権を持つのは誰になりますか」

入江「最高責任者である私となります。ですが、断じて決行する気はありません」

岡部「わかっています。ですが、入江先生が”何らかの原因で”決定権を失った場合は」

入江「・・・鷹野さんに、決定権が移ります」

紅莉栖「つまり、もしもこの作戦が決行された時は」

入江「きっと私は”何らかの原因で”もうこの世からいなくなっているのでしょうね」

岡部「入江先生。十分に気をつけてください」

入江「はい、あなた方も」

紅莉栖「入江先生の話では、女王感染者が死亡すると村人は全員L5を発症する、と」

入江「ええ、あくまでも仮説の一つですが」

紅莉栖「つまり、鷹野さんが梨花ちゃんを殺し、村人が発症する前に作戦を発動し、事態の沈静化を目論む」

岡部「何故そのようなマッチポンプを?」

紅莉栖「雛見沢症候群を最初に発見した人物はどなたですか?」

入江「鷹野さんの祖父にあたる、高野一二三という方です」

紅莉栖「鷹野さんはお爺ちゃんっ子で、その遺志を継いで研究を続けていることは本人から確認済み」

岡部「む・・・つまり?」

紅莉栖「簡潔に言うわ。”雛見沢症候群は実在する”これが証明されて一番浮かばれるのは誰?」

岡部「そりゃ鷹野さんの祖父ではないか?志半ばで亡くな・・・っ・・・!」

入江「す、すごい・・・全てが繋がった・・・!」

紅莉栖「祖父の研究は間違いではなかった。全てが正しかった。胸を張って論文を公開できるのよ」

「「「ありがとうございましたー!」」」


入江「私は一度古手さんの家に行きます。園崎家までお送りいたしましょうか?」

岡部「いいえ、ちょっと考えたいことがあるので歩いて帰ります」

入江「わかりました。このプリントはお返しいたします。私が持っていてはいけません」

岡部「了解です。では」


岡部「・・・」

紅莉栖「相当ショックだったみたいね」

岡部「お前が一緒にいてくれて、本当に良かった」

紅莉栖「なっ、何よ、急に」

岡部「お前がいなければ、ここまで全容を掴めなかった」

紅莉栖「珍しく普通に褒めたわね。雪でも降るかしら」


岡部「・・・お前はそろそろ身を引いたほうがいい」

岡部「これ以上踏み込むのは危険だ。あとは俺と圭一達で梨花を守る」

紅莉栖「何よ、心配してくれてるの?」

岡部「当たり前だ!」


突然の大声に、道行く人も何事かと奇異の目を二人へと向けた。

紅莉栖「ちょ、突然大声出さないでよ、ビックリするわね」

岡部「もうこれ以上・・・!」

紅莉栖の両肩が、両手で強く捕まれた。

岡部「もうこれ以上、お前を危険な目に会わせたくない・・・」

紅莉栖「い、痛ッ、痛いって・・・どうしたのよ・・・?」

岡部「っ・・・すまない。取り乱して」

紅莉栖「・・・残念だけど、あんたの意見は取り入れられない」

震えた声と、今にも泣きそうな顔。これも、あの時の岡部の顔と一緒だった。


紅莉栖「中途半端で終わらせるの嫌いなのよ。でも無理はしないから、心配しないで」

だから、わざと明るくつとめて、こう言うしかなかった。

魅音「あ、お帰りなさい。もう皆集まっています」


岡部「皆、このプリントに目を通して欲しい」

圭一「滅菌作戦、ですか」

岡部「鷹野さん、いや、鷹野が隠し持っていたもののコピーだ」

レナ「この”女王感染者の死亡”っていうのが、梨花ちゃんのこと?」

岡部「ああ、梨花の死亡が村人全員のL5発症のトリガーとなっている」

紅莉栖「あくまでも仮説、だけど」

沙都子「で、では滅菌作戦というのは・・・」

岡部「単刀直入に言う。『梨花を殺し、村人がL5を発症する前に村人全員を抹殺する』ということだ」

梨花「っ・・・!」

圭一「ひ、ひでぇ・・・こんなの人間のやることじゃ・・・」

岡部「数千人を一度に殺すということは、細菌、服毒、毒ガスあたりであろうな」

紅莉栖「ええ、手間を考えると、それが一番効率的でしょうね」

沙都子「梨花が死んでから何時間でL5を発症いたしますの?」

岡部「プリントには24時間以内とある」

沙都子「では、24時間経過していても誰もL5を発症していなければ仮説は間違いですわよね?」

岡部「ああ。そうなるな」

沙都子の口が、ニヤリと歪んだ。

沙都子「では、既に梨花が死んでいれば、私達は発症してなくてはおかしいですわよね?」

岡部「う、うむ、そうだが」

圭一「あっ・・・なるほどな!珍しく賢いぞ沙都子!」

沙都子「”珍しく”は余計ですわ。 さて、梨花」

梨花「みぃ?」

沙都子「悪いですけども、一足先に梨花には死んでもらいますわよ」

圭一「ああ、骨は拾ってやるぜ?梨花ちゃぁ~ん?」

梨花「み?み?み!?」

圭一「みおーん!今すぐ大石さんに電話だァー!」

岡部「ぎ、偽装・・・だと・・・?」

沙都子「ええ、梨花がもう既に死んいることにしてしまえばいいのですわ」

圭一「ですが、俺達はいつもどおりピンピンしてる、と」

沙都子「そうすれば、仮説は間違っていた!?と鷹野さん達は大パニック必至ですわよ」

紅莉栖「そ、その発想はなかったわ・・・!」


大石「ふぅーむ・・・」

岡部に渡されたプリントを隅々まで読んでいた大石が、顔を上げた。

大石「もしそんなことがバレたら、私は何の罪に問われるんでしょうかねぇ?」

梨花「大石・・・」

眉間に皺を寄せた渋い表情が、ニッと明るくなる。

大石「もし退職金が吹っ飛んだら、村人からのカンパ集めを手伝ってくださいよ?」

魅音「お、大石さん・・・じゃあ・・・!」

大石「困ったことに、鑑識に古い友人がいるんですわ。話を持ちかけてみましょうかね」

大石「返事は明日まで待ってもらえませんか。私一人じゃ決定できないんでね」

圭一「あ、ありがとうございます!お願いします!」

大石「そいつは酒が大好きでねぇ、ちょいと飲ませたらすーぐ心が大きくなるんですよ」

レナ「だったら大石さんの奢りでジャンジャン飲ませちゃえばいいよー!」

大石「おおっと、じゃあその分もカンパ集めも手伝ってもらわないと」

やんや、やんやー!



紅莉栖「大石さん、いいんですか?そんな安請け合いをしてしまって」

大石「雛見沢だって興宮署の管轄です。住民の安全を守るのが警察の仕事なんですよ」

岡部「ご協力、感謝します」

大石「退職金はたいて、でっかい打ち上げ花火を買ったと思えばいいんです。んっふっふ」

岡部「大石さん、さっそく署に帰っていったな」

魅音「融通の利く人だったんだね。あの人、いつもはうちを目の敵にしてたからさ」

梨花「大石はもう、魅ぃたちを悪く思ったりはしてないのですよ。にぱー☆」

岡部「ん?そういえば入江先生は梨花の家に行くといっていたが、留守なのでは?」

梨花「赤坂が中にいるのです。ボク達が中にいるフリをしてくれているのですよ」

魅音「梨花ちゃんはキーパーソンだからね。今日から3人ともうちに泊まることになってるんです」

羽入「お世話になりますです」

沙都子「お泊り会みたいで楽しそうですわね」

紅莉栖「部屋、空いてないんじゃなかったの?」

魅音「うぇ?あ、ああ、昨日たまたま一部屋空いたんです。牧瀬さんも移ります?」

紅莉栖「・・・ううん、このままでいい」

岡部「っ」

圭一「そうだ、腹減らないか?」

魅音「んー、言われてみれば。もういい時間だもんね」

沙都子「それでは壮行会も兼ねて、どこか外食しませんこと?」

レナ「あ、さんせーい!」

圭一「じゃあ、場所は決まりだな!」


紅莉栖「・・・ねぇ」

岡部「ああ、この流れは・・・」



「「「いらっしゃいませー!エンジェル・モートへようこそー!」」」


岡部「・・・」

紅莉栖「・・・」


詩音「・・・えーっと、そんなに気に入ってもらえました?」

紅莉栖「じゃあ、寝ましょうか。今日はすごく疲れた」

岡部「ああ、心労とエンジェル・モートあたりを起こした」

紅莉栖「1日2回はさすがにね」

岡部「・・・離さないのだな」

紅莉栖「へ?あ、布団・・・もういいわ。めんどくさい」

岡部「ほう、どんな心境の変化だ」

紅莉栖「・・・信用してるから。あんたの事」

岡部「だから最初からそう言っただろうが」

紅莉栖「ほら、いいからとっとと寝なさい」

岡部「おやすみ」

紅莉栖「おやすみ」

岡部「・・・」

紅莉栖「・・・」

岡部「・・・なあ」

紅莉栖「そっちから来たか」

岡部「梨花の家には、梨花のフリをして赤坂さんが泊まっていると言っていたな」

紅莉栖「ええ、それが何か?」

岡部「『やあ牧瀬さん、ボクは警視庁公安部の赤坂なのですよ、にぱー☆』」

紅莉栖「ブフッwwwwww夜中に笑わすな馬鹿wwwwww」

岡部「それだけだ」

紅莉栖「氏ねwwwwwww」

岡部「今俺が言ったことは誰にも内緒だ。いいな」

紅莉栖「言わねーよwwwwww」

岡部「・・・」

紅莉栖「・・・www」

岡部「『こう見えても小学生なのですよ。にぱー☆』」

紅莉栖「だwwwwwまwwwwwれwwwwwwwwwwww」


沙都子「岡部さん達のお部屋、賑やかですわね?」

岡部「・・・」

紅莉栖「・・・」

岡部「・・・」

紅莉栖「・・・」

背中を向けた紅莉栖の肩に、優しく触れた。

紅莉栖「ひわぁっ!?ちょ、あんた、絶対手は出さないって言っ・・・!」

岡部「昼間は、すまなかった」

紅莉栖「ふぇ?」

岡部「つい感情的になってしまった。俺の悪いクセなのかもしれない」

紅莉栖「あ、ああ・・・ううん、気にしてない」

岡部「肩、痛かっただろう?すまない」

紅莉栖「・・・大丈夫、これくらい。心配しないで」

岡部「今度こそおやすみ」

紅莉栖「・・・おやすみ」

「「「おお・・・」」」

2件の実験データの照合が終わると、研究所内にどよめきが響いた。

紅莉栖「予想通りだわ」

「ほ、本当に改善されている・・・!」

紅莉栖「ええ、でもまだ2件。もう少しデータを取っていきたいですね」

「す、すごいです牧瀬さん!たった一人でここまで結果を出されるなんて!」

紅莉栖「いいえ、皆さんが出した過去のデータがあったからこその成功です」

「順調に行けば近いうちに新薬の試作も・・・!」

紅莉栖「ええ、そちらは専門の方々にお任せします。期待しています」

三四「・・・すごいわ、紅莉栖ちゃん、本当に天才なのね」

紅莉栖「あ、鷹野さん。これも全て病気の解明のためです。お役に立てたようで何よりです」

「なあ、牧瀬さんってすごいな」

「ああ、すごい」

「かわいいよな」

「ああ、かわいい」

紅莉栖「お疲れ様です。岡部見ませんでした?」

「おっ、お疲れ様。岡部くんだったらまだそこの部屋に、あ、出てきた」

紅莉栖「いたいた、岡部ー、お昼行きましょうよ」

岡部「ああ、もうすぐ終わる」

紅莉栖「早くしないと置いてくぞー」

岡部「わーかったわかった、あと5分で終わらせるから待ってろ」

紅莉栖「300、299、298、297、296・・・」

岡部「だー!カウントするな!」


「・・・いいな」

「・・・ああ、いいな」

紅莉栖「~♪」

一足先に外に出ていようと、地上への階段を上る。

今日は気分がいい。天気もよく、研究も順調。

それに、少しづつお互いの距離が近づいてきた気がしなくもない。


「・・・ええ、実行は例年通り、明日の予定です」

どこからか話し声がする。声は一人だけだった。

紅莉栖(電話かな?静かにしないと)

落ち着いた、艶のあるトーン。この声は鷹野さんだ。

「はい、そちらは幾らでも破棄は可能です。データなんて物は所詮、紙切れに過ぎませんから」

紅莉栖(・・・何の話かしら、破棄?)

息を潜め、聞き耳を立てる。

行儀が悪いことは分かっている、だが今、彼女の前に姿を現すのは得策でないと直感的に感じた。


「ええ、もしご希望なさるのでしたら『研究所に来たのは岡部くん一人』ということにもできますよ?」

岡部「待たせたな。どこへ行く?」

紅莉栖「・・・」

岡部「いい天気だな。絶好のエンジェル・モート日和だ」

紅莉栖「・・・」

岡部「おい、ツッコミはどうした。本当に行ってしまうぞ?」

紅莉栖「・・・え?あ、ああ、いいんじゃないかしら」



「「「いらっしゃいませー!エンジェル・モートへようこそー!」」」


岡部「・・・」

詩音「・・・はろろーん。ついにカントクと並びましたね」

岡部「何がだ?」

詩音「連続来店日数です。カントクは3食全部でしたけど」

岡部「なんという紳士」


紅莉栖「・・・」

紅莉栖「・・・」

岡部「・・・何かあったのか?」

紅莉栖「えっ、何が?」

岡部「絵に描いたようなうわの空だぞ」

紅莉栖「あぁ、ううん、気にしなくても大丈夫」

岡部「・・・俺が6分遅れたことに怒っているとか?」

紅莉栖「失礼ね。そんなことで怒るような小さい人間じゃないわよ」

岡部「ふむ・・・では、なんだというのだ。相談ならのってやるぞ」

紅莉栖「・・・ねぇ、岡部」

岡部「どうした」

紅莉栖「ううん、やっぱいい」

岡部「・・・何があったかは知らないが、一人で抱え込むのだけはよすんだ」

岡部「失礼します」

入江「どうぞ。どうなさいました?」

岡部「紅莉栖が、相談したいことがあるということで連れてきました」

入江「ま・・・まさか・・・ついにメイド服を着る気に・・・?」

紅莉栖「失礼しました」

入江「じょ、冗談ですって!半分は記録映像を誤魔化す為の演技ですから!」

岡部(半分・・・?)

部屋を出ようとしていた紅莉栖が踵を返し、入江の机に強く両手を突いた。

入江「ひぃッ、な、何でしょうか・・・?」

紅莉栖「・・・じゃあ、私も”賃上げ交渉”を装って話をさせて頂きます」



「入江先生の部屋に訪問者。記録開始します」

「訪問者は・・・岡部と牧瀬です」

「牧瀬が部屋を出ようとしましたが、戻って机に両手を突きました。怒っているようです」

小此木「賃上げ要求に来たら、メイド服着用を勧められたって所だろうな。映像だけでもわかる」

「牧瀬が笑顔に戻りました。・・・映像の保存はどうしましょうか」

小此木「必要だと思うか?」



入江「・・・では、確かに『実行は明日』と・・・?」

紅莉栖「はい、間違いなく鷹野さんの声でした」

入江「・・・明日は綿流しのお祭りの日です。そして、例年通りと・・・」

岡部「まさか、”5年目の祟り”を・・・?」

入江「・・・明日は忙しくなりそうです。ご報告ありがとうございました」

紅莉栖「はい、それでは失礼いたします」


机についた両手を戻すと、紅莉栖はニッコリ微笑み、部屋を後にした。

魅音「あ、おかえりなさい!大石さんももう来てますよ!」

岡部「おお、で、どうだった?」

魅音「へっへーん」

白い歯を見せながら、右手でOKサインを出した。

岡部「本当か!礼を言わないとな。部屋にいるんだろ?」

魅音「うん、こっち」


レナ「はぅ~、大石さんのポヨポヨお腹、かぁいいよぉ~」

大石「いやはやこれは困りましたねぇ、身動きが取れませんよ。んっふっふ」


岡部「なんだこれ」

魅音「気にしなくても大丈夫ですよ。よくある光景ですから」

岡部「鑑識の方の説得には成功したんですね」

大石「いやぁそれがね、二つ返事でOKが出たんですよ。しかも私の部下までその気になっちゃいまして」

圭一「酔わせなくても、最初からやる気だったって事ですか?」

大石「なぜか私の周りには血気盛んな輩が多いんですよ。私も含めてね。んっふっふ」

岡部「大石さん、改めて礼を言わせて貰います」

大石「打ち上げ花火は大勢で見たほうがより楽しめるんですよ。それと園崎さん」

魅音「ぷぇ?」

大石「私は長年、園崎家を疑っていました。全ての黒幕はあの園崎お魎なんじゃないかってね」

魅音「その件は、全部うまくいったあとに改めて話して下さい。もちろん婆っちゃとサシでね」

大石「おお怖い、五体満足で園崎家から出られるんでしょうかねぇ?」

やんや、やんやー!


岡部「・・・フ・・・フフ・・・」

紅莉栖「岡部?」

岡部「フゥーハハハ!どうやら運命は我等に味方をしたようだな!」

一同「!?」

岡部「よもやファースト・ムーブからスインドルとはな!これ以上ないオープニングだ!」

圭一「そ、そうだぜ!作戦は完璧だ!」

岡部「全ての駒はここに揃った!鷹野三四率いる”東京”など、恐るるに足らん!」

圭一「そうだ!俺達の力、見せ付けてやりましょう!」

岡部「これより、本作戦を”オペレーション・ヴォルスパー”と命名する!」

圭一「おお!なんか分かんないけどかっけー!」

岡部「既に勝利は手中に収めたも同然である!フゥーハハハ!」

圭一「よっしゃ!面白くなってきたー!フゥーハハハ!」

レナ「はぅー!レナも頑張っちゃうよ!」



大石「こういうのって、若い人の間で流行ってるんですかねぇ?」

紅莉栖「・・・いずれ、流行るんじゃないでしょうか」


紅莉栖は呆れながら答えるも、その顔には安堵の笑みが広がっていた。

梨花「岡部、すごいわ、一瞬で士気を高揚させた」

羽入「レナが青く燃える炎なら、圭一は真っ赤に燃える炎なのです」

梨花「じゃあ岡部は送風機ってとこね」

羽入「どういう意味なのですか?」

梨花「二つの炎に風を送って皆に炊き付け、風向きを変えて敵に送る」

羽入「確かにその通りですが・・・あまりかっこよくないのです」

梨花「うっさいわね」

羽入「でも・・・彼はボク達に、新しい風を運んできてくれたのです」

梨花「ほら、やっぱり送風機よ」

羽入「あうぅ・・・もう送風機でいいのです」

梨花「じゃあ牧瀬は何になるのかしら」

羽入「牧瀬は、この強力な送風機を動かすための強力な電源なのですよ☆」

梨花「・・・うまいこと言うわね」


岡部「さて、梨花は何時に死ぬのがいいだろうか」

梨花「みぃ!?」

沙都子「そうですわね、明け方、4~5時に死ぬなんてのはいかがでしょう?」

岡部「大石さん、お願いできますか?」

大石「やれやれ、年寄り相手に遠慮がないですねぇ」

レナ「大石さん、ごめんなさい。ワガママばかりで」

大石「ま、この後はひとっ風呂浴びて、ビールでもかっくらって早々に寝る予定でしたがね」

圭一「じゃあ、梨花ちゃんは昨日の朝4時に死亡、警察の発表が今日の5時ってことで」

紅莉栖「ふむ、寝起きでそんな報告が来たら、パニックは必至ね」

岡部「ああ、自然だな」


梨花「できればもう少しオブラートに包んで欲しいのですよ?」

魅音「じゃ、今日はこれにて解散!各自、英気を養うように!」

圭一「じゃーなー!また明日!」

レナ「明日は5時前には来るからねー!」

大石「失礼しました。ご武運をお祈りしますよ。んっふっふ」


沙都子「さてと。私も裏山のトラップの準備にかかりますわよ」

岡部「トラップって、こないだみたいなヤツか。一人で出来るのか?」

沙都子「できたら、お二人のどちらかに手伝っていただけると助かりますわ」

岡部「よし、そっちは紅莉栖に任せる。俺は梨花達と打ち合わせだ」

紅莉栖「おk。じゃあこっちも打ち合わせしよっか」

沙都子「牧瀬さんの頭脳があれば百戦危うからずですわね!」

紅莉栖「トラップは足止め程度?それとも、心身ともに二度と立ち直れなくなるくらい?」

沙都子「え、えっと・・・その中間くらいがよろしいですわ」

岡部「さて、そろそろ寝る準備だ」

紅莉栖「明日って私たちはどうしたら?」

岡部「俺達は普通に研究所へ行き、入江先生と行動を共にしよう」

紅莉栖「そうね、迂闊に動いたら怪しまれるし」

岡部「梨花達と大石は朝5時前から行動に移るそうだ」

紅莉栖「だから梨花ちゃんたち、もう寝てるのね」

岡部「お、ちょっと見てみろ、なんとも綺麗な星空だ」

紅莉栖「あっ、ほんと。雲ひとつ無い」

岡部「星がこんなにも輝いているとは、よほど空気が澄んでいるのだろうな」

紅莉栖「綺麗。都会じゃ絶対見られないわね、こんなの」

岡部「いい所だな。雛見沢というのは」

紅莉栖「ええ、この景色は守らないと」

岡部「おやすみ」

紅莉栖「ねえ、岡部」

岡部「早いな」

紅莉栖「もしも、もしもだけどさ」

岡部「言ってみろ」

紅莉栖「もし、私が危ない目とかに逢ったとしちゃったら・・・どうする?」

岡部「・・・」

岡部は体を紅莉栖の方へ向け、そっと手を伸ばし、

紅莉栖「・・・!」

頭をワシャワシャと撫でた。

紅莉栖「ひっ、な、なによ・・・?」

岡部「いつもの強気はどこへいったのだ」

紅莉栖「な・・・なんでもない!おやすみっ」

岡部「・・・」

紅莉栖「・・・」

岡部「・・・」

紅莉栖「・・・まだ起きてる?」

岡部「うむ」

紅莉栖「明日って、お祭りがあるんですってね」

岡部「ああ、古手神社でな。綿流しとかいう」

紅莉栖「明日、全部が片付いたら一緒に行かない?」

岡部「ああ、そのつもりだった」

紅莉栖「そこでまた・・・二人で星空を見たいな」

岡部「そうだな。約束しよう」

紅莉栖「・・・ありがと。おやすみ」

三四「ふぁ・・・誰よこんな時間に・・・まだ5時じゃないのよぅ・・・もしもし・・・」

小此木「三佐、おはようございます。小此木です」

三四「うぁ、小此木、なんの用よ」

小此木「それが、興宮署でRの死亡が確認されました・・・!」

三四「死亡・・・ちょうどいいじゃない・・・」

小此木「発表によると、死亡推定時刻は24時間以上前との事なのですが・・・」

三四「・・・・・・うーーーー・・・・・・」

小此木「・・・三佐?起きて下さい!」

三四「24時間・・・24時間・・・・・・はぁ!?」

小此木「うぉっ、はい、間違いなく」

三四「ちょっと待って、どういうことよ!説明しなさい!」

小此木「いや、今確認を取っている所です」

三四「わかった、すぐ行くわ!」

興宮 某ホテル―――

富竹「うぇひひ・・・鷹野さぁん・・・にへへへへ・・・ムニャムニャ」


「突入!ドアを蹴破れ!」

「・・・ダメです!一足先に逃げられました!」

「くそ、窓から飛び降りたか!急いで回り込め!」


富竹「くそ・・・あと一歩だったのに・・・!」


「いたぞ!囲め!」


富竹「・・・山狗の連中か・・・」

「さあ、もう逃げられんぞ!」

富竹「・・・ああ、夢さ、夢とはいえ」

「・・・?」


富竹「鷹野さんといい雰囲気だったのに!許さんぞ貴様ら!死して償えぇぇぇぇ!」

三四「入江先生」

入江「あ、おはようございます」

三四「昨日、梨花ちゃんの家に診察に言ったと言っていましたわよね?」

入江「はい、それが何か?」

三四「梨花ちゃん、元気だった?」

入江「え、ええ、まだ体調は優れないそうですが、お祭りには間に合いそうだと」

三四「それは何時ごろ?」

入江「え、えーと、午後4時頃だったと思いますが」

三四「・・・そう、わかりました」

入江「・・・? 何だったんだ・・・?」


岡部「おはようございます。早速ですが重要な話がありまして」

入江「あ、はい。では私の部屋で」

「入江先生の部屋に訪問者です」

「訪問者は・・・岡部と牧瀬ですが」

小此木「もういい。その二人は放っておけ。今はそれ所じゃない」



岡部「・・・という作戦です。死角はないと思います」

入江「古手さんが、24時間以上前に死亡・・・?」

紅莉栖「どうしました?表情が引きつってますけど」

入江「・・・私、昨日古手さんの家に伺ってしまいまして」

岡部「ええ、行くと言ってましたね」

入江「・・・さっき、その事を鷹野さんに言ってしまいました」

紅莉栖「oh...」

岡部「いきなり暗礁に乗り上げた、だと・・・?」

紅莉栖「でもまあ、これはこれで情報が錯綜できてるわね」

岡部「そうだな。入江先生と警察が違うことを言っているのだからな」

窓から外を見下ろすと、白いワゴンからゾロゾロと男達が降りるのが見えた。

入江「っ!あ、あれは・・・富竹さん!?」

岡部「どうしました?」

入江「ボコボコにされた富竹さんが男達に担がれています!」

そう言うと、慌てた様子でどこかに電話をかけ始めた。

入江「お二人とも、一緒に来てください!ここにいては危険です!」



「・・・あっ!入江先生の部屋から電話の発信です!」

小此木「な、なにぃ!?どこへだ!」

「発信先はRの自宅です!ですがもうカメラに姿はありません!」

小此木「くそ、油断した・・・!警邏中の奴らに尾行させろ!」

岡部「さっきはどこへ電話を?」

入江「古手さんの自宅です。赤坂さんへ避難のサインを送りました」

紅莉栖「今はどこへ?」

入江「園崎家に向かっています。前原くんたちと合流しましょう」

岡部「そうですね。そこまで行けばなんとか」

入江「間違いなく追跡されるはずです。後方の確認をお願いできますか」

岡部「はい、わかり・・・もういます。白いワゴンが」



小此木「何人乗っている?」

「3人の姿が確認できます。岡部と牧瀬が同乗している模様」

小此木「ヘタに部外者は巻き込めん。足止め程度でいい」

「了解」

岡部「っ!紅莉栖!頭を下げろ!」

紅莉栖「え?きゃっ!な、何!?」

岡部「助手席の男が銃を構えています!」

入江「くっ、二人とも、絶対に頭を出さないで!」



男の放った銃弾は、入江の車のリアタイヤを打ち抜く。

バランスを失った車体はスピンし、後部側面が立ち木に激突。

その勢いで10mほど斜面を数回横転しながら下の道路へ転がり落ちていった。



「馬鹿野郎!やりすぎだ!」

「す、すいません!まさか下に落ちていくなんて!」

「急げ!逃げられるぞ!」

入江「ぐ・・・大丈夫ですか、二人とも」

岡部「・・・紅莉栖、怪我はないか」

紅莉栖「うぅ・・・多分平気」

強く抱きしめた両手を緩めると、紅莉栖はゆっくりと顔を上げた。

紅莉栖「岡部は大丈、あっ・・・!」

岡部「どうした?どこか痛むか」

紅莉栖「す、すごい血出てる・・・頭から・・・!」

岡部「え?・・・うおっ、本当だ!」

頭に触れると、粉々になったガラス片がパラパラと落ちてきた。

岡部「どうやら、割れた窓ガラスの破片を浴びたようだ」

紅莉栖「いや・・・また私のせいで・・・」

岡部「・・・まだ、昨日の夜の質問に答えていなかったな」

紅莉栖「昨日の夜?・・・あっ・・・」


岡部「この状況が、俺の答えだ」

入江「だめです、エンジンがかかりません。ひとまず外へ出ましょう」


車外へ出ると、入江先生が傷を診てくれた。

入江「あまり深くはないですね。少しの間安静にしてハンカチなどで患部を押えていれば大丈夫でしょう」

紅莉栖「あ、私持ってます」


岡部「大丈夫なんですか?こんな所に長居していて」

入江「上の道路とこの道路は繋がってないんです。急いでも30分はかかると思います」

岡部「田舎道に感謝ですね」


紅莉栖は、ずっと俺の頭にハンカチをあててくれている。

目を合わせると、今にも泣きそうな目をふっと逸らしながら俯いてしまった。


岡部「心配するな。これくらいかすり傷だ」

頭をポンポンと軽く叩いてやると、紅莉栖は俯いたまま小さく頷いた。

入江「そういえば、お二人は恋人同士なのでしょうか?」

岡部「あっ、い、いや」

紅莉栖「いいえ・・・違います」

入江「ありゃ、違いましたか。これは失礼。ははは」

岡部「えーと、とりあえずこの先、どうしましょうか」

入江「山狗の連中に見つからないよう、歩いていくしかなさそうですね」

紅莉栖「っ!車!隠れて!」

岡部「なっ! いや、あの車は・・・」


1台の黒いセダンが、木陰に佇む岡部達の前で停車した。

詩音「はろろ~ん♪岡部さん、この様子だと来店記録の更新は無理っぽいですね」

岡部「ああ、残念ながらな」

葛西「ひとまず乗ってください。事情はそれから聞きましょう」

魅音「あれ、詩音・・・に監督達まで?」

詩音「来ちゃいました。年に一度の綿流しですから♪」

圭一「ちょ、岡部さん、服に血が!」

岡部「ああ、いろいろとあったが特に問題ない」

魅音「ひとまず中に入って!地下なら安全だよ!」



「標的は園崎家に侵入した模様です」

小此木「くそっ、厄介な所に逃げ込みやがった」

「発信機の電波、ロストしました」

小此木「ロスト?地下に入られたか・・・地図は持ってるか?」

「はい、全部隊所有しております」

小此木「よし、行け!相手は袋の鼠だ!」

詩音「事情はさっき聞きました。何やら大変みたいですね」

葛西「私たちでよければ加勢いたしましょう」

詩音「よいしょっと、私たちにはこれがありますから。予備マガジンもたっくさん」

岡部「なっ!AK47だと!本物なのか!?」

詩音「あら、岡部さんご存知?もちろん本物ですよ」

岡部「知ってるも何も名器ではないか!正式名はアブトマット・カラシニコバ、ふむ、Ⅲ型か」

葛西「お詳しいですね。どこかでこういった経験がお有りなのですか?」

岡部「いや、ゲーm・・・本で読んだ程度です」

詩音「岡部さんも使います?今日を逃したらもう持てる機会なんて無いですよ?」

岡部「ぐ・・・だが引き金を引ける気がしない」


次の瞬間、地下牢内の電灯の灯りが消滅し、一面が闇となった。

葛西「電線をやられましたな。手馴れているようです」

詩音「皆さんは奥に避難していてください。ちゃっちゃと片付けますから」

岡部「なにそれこわい」

詩音「古井戸を降りていくと横道がありますから、そこで待っててくださいね」

圭一「おい、本当に大丈夫なのか?いくらなんでも二人だけじゃ・・・」

詩音「大丈夫ですって。岡部さん、ちょっとお耳を拝借」

岡部「俺?」

詩音に耳を傾けると、はにかんだような表情で耳打ちをしてきた。


詩音「私、ある人に会えるまでは絶対に死にませんから」

岡部「ん?あるひ・・・え?あの時の魅音ってまさか」

詩音「”注意したほうがいい”って先に忠告はしましたよ♪」

岡部「・・・フフッ、やられた。ではこの場は任せた」

詩音「りょうかーい♪ 葛西、行くわよ」

葛西「はい、では皆様、後ほど」


レナ「はうぅ~、大丈夫かな?かな?」

魅音「ん~、大丈夫だと思うよ。あの二人なら」

「クリアー!」

閂をかけた扉はC4で爆破され、山狗の隊員5~6名が地下牢へと侵入する。

「赤外線だらけだ、慎重に進め。ここは園崎家だ。何が仕掛けてあるかわからんぞ」


隊員の足元に、何かが転がってきた。

扉の破片にしては妙だ。暗視ゴーグル越しに円筒形の何かが・・・円筒形?

「っ! グレネード!伏せ―――」


突然の破裂音と閃光に、赤外線と戯れていた隊員たちは成す術もなかった。

「くそっ・・・こんなにあっけなく死・・・んでない?」


詩音「皆さん生きてます。ただのフラッシュバンですよ」

「だ、誰だ!くっ、暗視ゴーグルが・・・」

詩音「メインの入り口をあんたたちのハンバーグ工場にする気はありませんから♪」

葛西「別の入り口から侵入していたら命の保障は出来かねましたがね」

「くそ!どこにいやがる!」

詩音「あら、その暗視ゴーグルはもう使い物にならないんですね。すぐ近くにいますよ」

「くっ!」

「待て、撃つな!」

葛西「その方が懸命です。同士撃ちも免れないでしょう」

詩音「電線切っちゃったのが裏目に出ましたね」

葛西「ちなみに私達からはあなた方の姿がはっきりと確認できます」

詩音「1、2、3・・・6人に、主兵装はMP5ですね」

葛西「では取引といたしましょうか」

詩音「このまま引き下がってくれれば、扉と電線の事は目を瞑りましょう。どうします?」

「く・・・くそぉっ!」

「馬鹿、やめ・・・!」


隊員の放った10数発の弾丸が地下牢内の壁に突き刺さる。

同時に、空となった薬莢が甲高い金属音を立てて地面へと転がった。

詩音「・・・交渉の余地なし、と」

葛西「宣戦布告とみなしました」

詩音「同じく。・・・さて皆さん」

先ほどまでの軽快さはなく、低く落ち着き払ったトーンで続ける。

詩音「扉の破壊、電線の切断。そして敷地内での無許可での発砲」

「そ、それはこいつの勝手な行動で・・・」

詩音「お黙りください。ここが園崎家と知っての狼藉か」

冷たく、鼓膜に突き刺さるような声だけが響き渡る。

詩音「この地下牢にはですね、長い事使ってない深い古井戸があるんですよ」

隊員の一人の額に、赤いポインターが点いた。

「ひっ・・・!」

葛西「おっと、動かないでください。慌てて引き金を引いてしまいます」

詩音「最近は園崎家も丸くなっちゃって、久しく生贄が放り込まれていないんですよね」

頭上の暗視ゴーグルが、銃声と共に四散した。

「わぁぁっ!・・・あ・・・」

葛西「おっと、申し訳ございません。いかんせん命中精度が低いもので」

詩音「こら葛西、早く楽にしてやんなさい」

葛西「次こそは必ず当てますので、ご安心を」

「た・・・助けてくれ・・・!」

詩音「残念ですが受け入れられません。手遅れです」

葛西「園崎家に安易に踏み込んだ事を、地獄で深く後悔なさるといいでしょう」


セレクターをフルオートに切り替えると、二人は躊躇いなく引き金を引いた。


詩音「さあさあ最初に古井戸にブチ込まれたいのはどいつですかねぇ!!」

「た、退避ぃぃぃ!!」


詩音「ホントに命中精度悪いですね。一発も当たりませんでしたよ」

葛西「奇遇ですね。私もです」

詩音「皆さーん、終わりましたよー。上がってきてくださーい」

入江「よかった。二人ともご無事なようで」

葛西「ちょっと話をしたらわかって頂けたようで、すぐにお帰りになられました」

岡部「いや、銃声と詩音の怒声が響き渡っていたが」

詩音「あら、聞こえちゃいました?」

葛西「もう外に出ても大丈夫でしょう。私の後に続いてください」


大破したワゴン車。昏倒する数人の山狗の隊員。
そして、仁王立ちで岡部達を見据える、マッチョなイケメン隊員。

赤坂「梨花ちゃん、君を助けに・・・来たつもりだったんだけど」

梨花「ヒーローになりそこねたのです。でも嬉しいのですよ」

詩音「葛西、この気絶してる男達はどうします?」

葛西「若い衆を呼びましょう。”お説教”が必要です」

詩音「ま、けじめとして一人4~5枚ってところですかね」

岡部「なにその数字こわい」

入江「私は富竹さんを救出しに一度診療所に戻ります」

詩音「はーい!私も行きまーす!」

赤坂「男手は多いほうがいいでしょう。私も行きます」

圭一「じゃ俺達と岡部さん達は裏山に逃げ込むか」

沙都子「・・・ついに、ついにあのトラップを発動させる瞬間がきましたわぁー!」

魅音「ああ、せっせせっせとなんか作ってたねぇ」

沙都子「私と牧瀬さんの合作トラップ、楽しみで昨日は殆ど眠れなかったですわよ!」

岡部「紅莉栖、何を仕掛けたんだ?」

紅莉栖「え、えっと」

沙都子「さあさあ皆様方、山の頂までレッツゴーですわ!」

梨花「沙都子、心から笑ってるわね」

羽入「あんな笑顔、久々に見たのですよ」

「三佐、どちらへ?もう出発の時間ですが」

三四「別れの挨拶をすませてくるわ」


ジロウさん。
あなたと会話をするのはきっとこれで最後。
あなたは今日、雛見沢で奇怪な死を遂げる。
そう、自らの手で首を掻き毟って命を落とすの。

手足を縛られ部屋で一人、傷だらけのあなたは何を想うのかしら。
今頃必死に命乞いの言葉を選んでいる?
いいえ、それはない。ジロウさんはそんな人じゃない。
「君に殺されるなら本望だ」とでも言い出しかねない。

残念だけど、あなたを殺すのは私じゃない。
雛見沢という地があなたを殺すの。

ガチャ

三四「ジロウさん」

富竹「鷹野さん、それ以上はやめ・・・いや、やめないで、痛い痛い痛い、うぇひひひ・・・ムニャムニャ」

三四「・・・」

バタン


もういい。勝手に死ね。

魅音「おー、ゾロゾロとワゴン車が連なってきたよー」

圭一「あ、あれ全部山狗が乗ってるのか?ちょっと多すぎるんじゃ・・・」

沙都子「少なすぎるくらいですわ。100人くらいを想定していましたのに」

岡部「第一の目標は梨花の安全だ。そこを忘れるなよ」

沙都子「わかってますわ。梨花を殺そうとする不届き者なんて、最初のトラップで地獄行きですわよ!」

梨花「沙都子、何を仕掛けたのですか?」

沙都子「ウフフ、見てのお楽しみですわよ」

魅音「よーし、それじゃ最初のトラップ発動後、各自持ち場へと移動!」

岡部「これより”オペレーション・ヴォルスパー”第2段階、敵殲滅フェイズへと移行する!」

圭一「よっしゃあ!のってきたぁー!」

岡部「第一目標は敵の無線機の奪取!精神攻撃を仕掛ける!」

一同「おー!」

小此木「これより、Rの確保を開始する」

三四「Rはこの山の中にいる。袋の鼠よ」

「Rの他、民間人も一緒にいるとの事ですが、いかがいたしましょう?」

三四「殺しちゃいなさい」

「なっ・・・!」

三四「邪魔をするものは誰だろうが容赦なく撃ちなさい。その銃は飾りじゃないの」

「りょ、了解しました!」

三四「私は本部で吉報を待つとするわ。小此木、指揮は任せたわよ」

小此木「了解です」


「こ、殺せって言われたって・・・」

「ああ、相手は子供なんだろ?」

「そもそも、Rを捕獲してどうするつもりなんだ?」


小此木「・・・」

小此木「改めて作戦を言い渡す。目標はRの身柄確保だ」

「はっ!」

小此木「それに、銃のセーフティは外すな」

「えっ、ですがそれでは・・・」

小此木「ここ数日、三佐の様子がおかしい。あまりにもカリカリしすぎている」

「何かあったのでしょうか?」

小此木「まあ、思いあたるフシは無くもない。よし、行け」

「了解です!各員、行くぞ!」

小此木「いいか、女子供を撃つような落ちぶれたマネだけは許さんぞ!」



沙都子「そわそわ、そわそわ」

岡部「口でそわそわ言う人を初めて見た」

お腹すいたので離脱。
1時間以内に戻る。

カッ―――

「うおっ!なんだ!眩し・・・」

ドーーーン!

「「「どわーっ!」」」

ブワッ!

「「「げふっ!」」」

ドドドドドドドド

「わ゛ーーっ!!お、鳳1、聞こえますか!トラップが!」

小此木「聞こえているも何もすぐ近くで音がしたが。大丈夫か?」

「総員の7割近く、行動不能に陥っています!」

小此木「あぁ!?」

「ん、なんだこれは・・・殺す気か・・・!」

「うぅ・・・たす・・・け・・・」

「悪意の塊だ・・・!」

小此木「・・・!」

沙都子「いえーーい!」

岡部「おい沙都子」

沙都子「大成功ですわ!今頃あの辺一帯は阿鼻叫喚の渦に・・・うふふ」

岡部「おい北条沙都子」

沙都子「さすが牧瀬さん、お陰で完璧なトラップになりましたわ!」

岡部「おい北条沙都子と牧瀬紅莉栖」

沙都子「何ですの?人が成功に喜んでいる最中ですのに」

岡部「まず紅莉栖、何を吹き込んだ」

紅莉栖「わ、私は心理学に基づいて配置とかをアドバイスしただけで・・・」

岡部「沙都子、何を設置した」

沙都子「まずは目くらまし、その後に○○○、×××、△△△、それから・・・」

岡部「字にできんわ!殺す気か!」

沙都子「失礼ですわね、命を奪うほどの威力は持たせてありませんわよ!」

岡部「・・・まさか敵の安否を気遣う事になるとは・・・」

小此木「・・・部隊は全部で30人いたよな?」

「はっ!」

小此木「行動可能が5人しかいないってどういうことだ!」

「も、申し訳ありません!まさかあんなトラップが・・・」

小此木「くそっ!追加召集をかけるしかないか・・・!お前らは待機!」



入江「・・・っ!皆さん、身を隠して!」

赤坂「どうされました?」

入江「今走っていったワゴンに、山狗達が乗っていました」

葛西「増員ということでしょうか」

入江「わかりません。研究員の姿もありました」

詩音「研究員って戦えるんですか?」

入江「いいえ、訓練すら行っていないはずですが・・・うーむ」

赤坂「富竹さんが心配です。急ぎましょう」

富竹「鷹野さん、それはさすがに・・・いえ、お願いします。うぇひひひ・・・ムニャムニャ」

ガチャ!

入江「富竹さん!」

富竹「へぇあ!?ここはどこ?僕は誰?鷹野さんはいずこに?」

入江「ああ、よかった。ご無事なようで」

富竹「えぇ?・・・ああ、夢だったのか・・・」

葛西「眠らされていたのですか?」

富竹「え、えーと、そんな所です。助かりました」

詩音「見張りの一人もつけないなんて、山狗ってどこかぬけてますね」

富竹「いえ、数人が待機していたはずですが、いないのですか?」

赤坂「やはり、さっきのは臨時増員ということか・・・」

入江「見張りや研究員にすら召集をかけるとは、どういうことでしょうか」

富竹「番犬部隊を呼びましょう。幸いここの電話はまだ繋がっている」

入江「お願いいたします。私は詩音さんと話があるので」

詩音「悟史くん・・・?本当に生きててくれたんだ・・・」

入江「まさか、岡部さんから聞いていたのですか?」

詩音「はい。実はお姉に扮して、こっそり聞いちゃいました」

入江「そうでしたか・・・ですが、彼はまだ目を覚ますことが出来ません」

詩音「そう、まだ無理なんですね・・・」

入江「ですが、牧瀬さんのお陰で新薬の開発段階まで進むことが出来ました」

詩音「牧瀬さんが?本当に天才なんですね、あの人」

入江「とても不思議な方です。まるで未来を生きてるかのような発想力をお持ちで」

詩音「お礼を言わないといけませんね。ところでカントク」

入江「はい?」

詩音「今はまだ、目を覚まさないんですよね?」

入江「・・・はい、今は薬で強制的に」

詩音「ということは、今は何をしても大丈夫ってことになりますよね?」

入江「はい・・・はい?」

富竹「番犬部隊と連絡がつきました。30分ほどで急行できるとのことです」

入江「ありがとうございます。事態は収拾しそうな感じですね」

赤坂「では私たちも園崎家に向かいましょう」

詩音「えー、また歩きですかー?もう歩きたくないですー。ぶーぶー」

葛西「車での移動は人目につきやすいものです。ここは歩いたほうが得策かと」

富竹「同感です。どこから監視されているかわかりません」

詩音「疲れたー。私ここに残るー」

葛西「詩音さん、わがままを言っている場合では・・・」

入江「詩音さん、男というのは活発的な女性を好むものなんですよ」

詩音「よし!ちゃっちゃと我が家まで歩きますよ!ほらほら急いだ!」

入江(悟史くんと詩音さんだけをここに残してはいけない・・・!)



レナ「誰も来ないねー」

圭一「全滅させちゃったか?」

小此木「非戦闘員を合わせても15人か・・・!」

「あの、何をすればいいのかも聞かされていないのですが」

「ええ、何も聞いていません」

小此木「R、古手梨花がこの山の中に隠れている。連れ出して欲しい」

「古手さんが?何故こんな山の中に」

小此木「詳しい事情は後で話す。とりあえず着替えてくれ。念のためこれもな」

「はあ」


三四「手を焼いているようね。待ちくたびれたわ」

小此木「三佐。どうも予想外の事態が発生しまして」

三四「子供の仕掛けた罠ごときにひっかかるなんて、あんたの指揮も大したこと無いのね」

小此木「申し訳ありません。まさかあんな」

三四「言い訳はいいからとっとと捕まえてきなさい」

小此木「・・・了解しました」

岡部「来た・・・!」

紅莉栖「一人ね。無線は・・・担いでる」

岡部「願ったり叶ったりだ」

紅莉栖「気をつけて」

岡部「ああ、大丈夫だ。台本通りに頼む」

久しく電波の入っていない携帯電話を取り出し、内臓のストップウォッチを起動した。


「~♪」

岡部(鼻歌交じりとか何コイツ)

木の陰に隠れた岡部に気付くことも無く、横を通過する。


岡部「動くな」

「なっ・・・」

隊員の背後に回りこみ、心臓の辺りに携帯電話を突きつけた。

岡部「動くなと言ったはずだ」

「あ、あんた、研究所で見かけたことがありますぜ」

岡部「それは光栄だな。これが何かわかるか?」

左胸に突きつけられた機械の液晶に表示されるタイマーは、残り60秒を表示していた。

「・・・なんですかい?これは」

岡部「この数字が0になった瞬間、貴様の心臓は停止する」

「・・・そんなハッタリ、俺には通用しませんぜ?」

岡部「ヴィクトル・コンドリア大学脳科学研究所が開発したガジェットだと聞いてもか?」

紅莉栖「それの実力は、私が保証するわよ」

「あ、あんた、噂の・・・」

紅莉栖「光栄ね。もうすぐ死ぬ相手にすら知られてるなんて」

「な・・・ってこたぁ、これって・・・」

岡部「だから言っただろう?あと40秒でこの世とはお別れだ」

紅莉栖「言い残したことはある?」

「何が望みですかい?」

岡部「銃を下へ置け。そして無線機をいただく」

「ふむ・・・」

岡部「さあ、残り30秒だ」

紅莉栖「念仏は唱え終わったかしら?」

「・・・わかりやした。条件をのみましょう」


紅莉栖「っとと・・・えいっ!」

下に置いた銃を恐る恐る拾い、崖下へと投げ捨てた。

岡部「無線機を下ろしたら、振り返らずにまっすぐ走って下山しろ」

「ヒャッハ、あんたら最高にクールですぜ」

男は無線機を降ろすと、振り返ることなく小走りで下山し、姿を消した。


紅莉栖「・・・この作戦、驚くほどうまくいったわね」

岡部「携帯電話の新たな可能性を感じた」

紅莉栖「いや、今は1983年ですから」

岡部「というわけで、無線機をいただいてきた」

圭一「さっすが岡部さん!いったいどうやって?」

岡部「ナイショだ」

梨花「で、これを使って何をするのですか?」

岡部「ああ、精神攻撃を仕掛ける。まずは女子グループ全員で・・・」



岡部「で、ラストに紅莉栖のセリフで締めて、無線を切る、と」

魅音「あっはっは、そりゃ怖いねー」

岡部「圭一、俺とお前の演技力がカギとなる」

圭一「超面白そうじゃないっすか!本気出しますよ!」

岡部「よし、ではリハーサルの後、作戦を実行する」

通りゃんせ、通りゃんせ―――

『お、おい、今、何か歌声が・・・?』

ここはどこの 細通じゃ―――

『ああ、聴こえる・・・っ!誰だ!!』

オヤシロ様の 細道じゃ―――

『・・・誰もいない・・・だがはっきりと視線を感じた・・・!』

ちっと通して 下しゃんせ―――

『お、俺もだ・・・誰だ!姿を見せろ!』

御用のないもの 通しゃせぬ―――
この子の七つの お祝いに―――

『やめろ!見るな!俺を見るな!やめろぉぉぉぉ!!!』

お札を納めに 参ります―――
行きはよいよい 帰りはこわい―――

ガーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

『ウボァーーーーーーー!!』
『ぬわーーーーーーっっ!!』

―――・・・その目、だれの目?――― ブツッ

岡部「・・・はーいオッケーイ!」

羽入「あぅ~、緊張したのですー」

魅音「ところでこれ、どういう意味です?」

沙都子「なんかこう、心の底からゾッとするような・・・」

岡部「大人になればわかる」

圭一「あと俺の断末魔、ウボァーってなんですか?」

岡部「ちょっとした遊び心だ」



「隊長!我々はもう一歩も動きたくないであります!」

小此木「バッキャロウ!こんなもんただのハッタリだ!」

「ですが、はっきりと”オヤシロ様”という言葉が・・・」

「ま、まさか本物のオヤシロ様の祟りが・・・!」

小此木「チッ、ヘタレどもが!いいから慎重に進め!何かあったら引き返せばいい!」


三四「・・・なるほどね、あの二人も一緒・・・」

岡部「各自、持ち場につけ!懲りずに登ってくる罰当たり者を排除されたし!」

一同「りょうかーい!」

梨花(一番楽しんでるの、岡部よね)



「なあ、なぜ俺達は研究員なのに山を登っているんだ」

「ああ、何故だろうな」

「無線を持った人はすぐにはぐれてしまうし、古手さんも見つからない」

「ああ、むしろ誰もいないな」



岡部「なっ、あの二人組は研究所の・・・?」

紅莉栖「そうね、間違いないわ」

岡部「どうする?」

紅莉栖「多分、人手不足で呼び出されたんだと思う。話はできそう」

岡部「わかった、一応背後から呼び止める」

岡部「動くな」

「ひっ!」

研究員の二人組は、呼び止めると即座に両手を上げた。

岡部「武器は?」

「て、手ぶらです」

紅莉栖「ゆっくり振り返って」

「その声・・・牧瀬さん?岡部さんまで。なんでこんな所に?」

岡部「まあこっちのセリフでもあります。なぜあなた方がここに?」

「こいつと研究所にいたら、突然ここに呼び出されてしまって」

紅莉栖「ここでの目的は聞いてる?」

「古手さんがこの山にいるから、連れてきて欲しいとしか」

「ええ、同じく」

岡部「・・・その先の事は?」

「いや、聞いてないけど・・・?」

「鷹野さんが古手さんを殺すだなんて・・・」

紅莉栖「ええ、事情は今話した通り」

「なんてことだ・・・最大の協力者である古手さんを手にかける作戦になど、手を貸せるわけがない!」

紅莉栖「よかった、あなた達なら分ってくれると信じてました」

「俺達は下に降りて、この捜索から離脱する」

岡部「大丈夫なんですか?敵前逃亡になってしまうのでは」

「元々非戦闘員だし、期待なんかされてないさ」

「ああ、正規部隊の人ともはぐれてしまっって無線も使えないしな」

岡部「・・・もしかしてそいつ、”ヒャッハ”って言います?」

「あれ、会った?」

岡部「武装解除して下山していきましたが」

「えぇー・・・」

紅莉栖「では、トラップに気をつけて下山してください」

「北条さんの心理テストの解析もやってるからね、大体設置場所に見当はつくよ」

紅莉栖「あの・・・私のアドバイスも入ってるのでお気をつけて」

小此木「ん、えーと、お前らは・・・」

「雲雀14(仮)と雲雀15(仮)です」

小此木「ああそうだ。雲雀13はどうした?」

「それが、早々にはぐれてしまって」

小此木「チッ、あいつ・・・定時連絡もよこさない上に単独行動か・・・!」

「やはり私たちにはこの作戦を務めるのは無理があるようです」

「ええ、他の部隊の足を引っ張りかねません」

小此木「・・・」

しかめっ面で頬をかくと、フフッと苦笑いを浮かべた。

小此木「ま、非戦闘員に最初から期待はしてなかったがな」

「申し訳ありません」

小此木「お前らはここで待機、次の指示があるまではけが人の処置にあた―――


2発の銃声。
その衝撃に倒れこむ二人を、鷹野は表情を変えずに銃を構えたまま見下ろしていた。

三四「知ってるわよ、防弾チョッキを着せてることくらい」

小此木「あ、あんた!自分が何したかわかってんのか!」

三四「何って、敵前逃亡しようとした裏切り者への制裁よ」

呻き声をあげる二人の容態など気にすることも無く、三四は言い放つ。

三四「いい?あんた達は今、私に撃たれて死んだ。だからもう2度と私の前に現れないで」

三四は踵を返し、山へと歩き出した。

小此木「・・・どちらへ」

三四「役立たずばかりじゃ埒が明かない。私が直接仕留めにいくわ」



小此木「おい、しっかりしろ!傷は・・・ないな」

「す、すいません、防弾チョッキ、感謝します」

小此木「・・・お前らは白衣に着替えて研究所に戻れ」

近くにあった無線機を手にする。


小此木「こちら鳳1。各員に告ぐ。至急下山されたし。姫様のご乱心だ」

岡部「ん?あいつら降りていくぞ」

紅莉栖「無線で何かを聞いたみたいね」

岡部「圭一達の無線にも何か届いてるかもしれない。戻るか」

紅莉栖「そうね、一度合流しましょ」


紅莉栖「あ、雨」

岡部「本当だ・・・うおぉ!スコールか!」

紅莉栖「な、なんぞこれー!?」

岡部「あの木の下に避難だ!」


紅莉栖「やーん、濡れちゃった」

岡部「ガタッ」

紅莉栖「橋田かおのれは」

紅莉栖「ひどい雨」

岡部「この降り方なら通り雨だろう」

紅莉栖「お祭り、中止にならなきゃいいけど」

岡部「すぐにやむさ」

紅莉栖「・・・夜には晴れるかな」

岡部「さあな。そうなってくれる事を祈るが」

紅莉栖「・・・」

岡部「・・・」

紅莉栖「・・・」

岡部「・・・フフッ」

紅莉栖「なぜ笑ったし」

岡部「いや、つい先日もよく似た出来事があってな」

紅莉栖「雨宿りを?誰と?」

岡部「・・・この戦いが終わったら、お前に全てを話そうと思っている」

紅莉栖「それなんて死亡フラグ?」

岡部「・・・無意識だった。悔しい」

紅莉栖「くすくす・・・話って、前に神社で梨花ちゃん達とした話のこと?」

岡部「よく覚えているな」

紅莉栖「あの時の岡部、私を助けてくれた時と同じ目をしてたから」

岡部「・・・そうか、そうかもしれないな」

紅莉栖「岡部の話、聞かせて欲しい。だから無事に帰ろうね」

岡部「・・・ああ。絶対だ」


視線を降ろすと、紅莉栖の右手が見えた。

岡部(たとえ何が起きようと・・・今日だけは必ず、お前を守ってみせる)

その右手に触れようと、岡部は左手をそっと伸ばす。


だが、紅莉栖の手には、触れられなかった。

紅莉栖「きゃっ!」

岡部「紅莉栖?どうし・・・!」

三四「通り雨もいいものね。足音が聞こえないんだもの」

岡部「鷹野・・・!」

三四「それ以上近づかない方がいいわよ?」

紅莉栖「い・・・いや・・・!」

銃口がこめかみに押し付けられ、ゾッとするような冷たさが全身を巡った。


圭一「岡部さーん!お、いたいた!山狗の奴ら、全員下山したそうですよー!」

岡部「来るな!」

梨花「っ・・・鷹野・・・!」

岡部「お前達はそこから近づくんじゃない!」

梨花「・・・どうして・・・あと一歩だという所で、どうして・・・!」

羽入「・・・」

岡部「お願いです、落ち着いてください」

三四「あら、私はいたって冷静よ」

岡部「せめて、せめて紅莉栖を放してもらえませんか」

三四「嫌よ」

三四から微笑みが消え、無表情で紅莉栖のこめかみに銃口を強く押し付けた。

三四「紅莉栖ちゃん、本当に頭脳明晰よね。研究所ではよく働いてくれたし」

岡部「で、では何故・・・」

三四「それが気に入らないの」

目をスッと細め、冷たい視線を岡部に送る。

三四「この研究はね、祖父と私が歳月を費やしてようやくここまで来れたのよ」

岡部「・・・入江先生から話は聞いています」

三四「それを、こんな小娘が、たった数日で、今まで以上の成果をあげた」

岡部「それは、鷹野さんや悟史の為を思って尽力しただけであって・・・」

三四「それでは報われないのよ!」

こめかみに突きつけていた銃を岡部の方へ向け、引き金を引く。

爆発音に近い銃声が、その場にいた8人の身をすくませる。

岡部「っ!・・・ん・・・?」

三四「当てないわよ。岡部君に恨みは無いから」

そう言うと三四は、力が抜けたように右腕を下ろし、自嘲気味に笑った。

三四「論文を発表したら、非常識だ、馬鹿げていると散々罵られ、失意の内に亡くなったのよ」

岡部「・・・高野一二三さんのことですか」

三四「ええ。私は恨んだわ。祖父の論文を嘲笑ったそいつらが祖父を殺した。いつか仇を取るって」

岡部「その執念が実を結んで、いまの研究所を建てたわけですか」

三四「これでようやく研究が進むと思ったのに、なかなか成果が現れなくてね」

岡部「そこに現れたのが俺達、と」

三四「紅莉栖ちゃんが手伝ってくれるって聞いたときは、神に感謝したくらいよ」

降ろしていた右腕を再び上げ、同じようにまた銃を押し付ける。

三四「でもね、やりすぎたのよ、この小娘は」

三四「私たちでは思い付かないような発想で、どんどんと結果を出し続けていく」

岡部「喜ぶべきことではないんですか、あなたにとっては」

三四「ええ、喜んだわ。紅莉栖ちゃんがイニチアチブを取るまではね」

紅莉栖「そ、そんな、私はただ・・・」

三四「私と祖父の研究を横取りされるんじゃないかって心配もあったのよ」

岡部「そんな、紅莉栖はただこの病気を・・・!」

三四「数回脳波を計測しただけで結果を出すんだもの、自分の無能さに笑っちゃったわよ」

岡部「そ、それではただの逆恨みじゃないですか!」

三四「ええ、そう。ただの逆恨み。岡部君も女の逆恨みには注意したほうがいいわよ?」

紅莉栖「お、岡部・・・助けて・・・」

岡部「くっ・・・」


―――岡部、聞こえますですか―――

岡部(っ・・・羽入か?どうやって話しかけて・・・)

―――オヤシロパワーなのです―――

岡部(どうしたら・・・どうしたらいいんだ・・・教えてくれ・・・)

―――スキを見て銃を奪い取るのです!―――

岡部(スキと言われても、一歩でも動けば紅莉栖が・・・)

―――大丈夫、次に放つ銃弾は絶対に誰にも当たりません―――

岡部(何故そう言い切れる?)

―――それもオヤシロパワーなのです―――

岡部(・・・便利な言葉だな。信じるぞ)

―――1発目を撃ったら、すぐさま飛びつけばチャンスは生まれるのです―――

岡部(・・・2発目以降にはオヤシロパワーは通用しないのか・・・)

―――あぅぅ、今のボクにはそれで精一杯なのです―――

岡部(まあいい、感謝する)


紅莉栖「・・・まだ・・・」

辛うじて保たれていた紅莉栖の感情の糸が、溢れ出る涙と共にプツリと切れた。

紅莉栖「ひっく・・・まだ、死にたくない・・・死にたくないよ・・・」

その言葉に思わず足が出そうになるが、三四の鋭い視線によって制止させられた。

紅莉栖「怖いよ・・・岡部・・・助けて・・・」

三四「あらあら、今まで我慢してたのね」

紅莉栖「まだ、私の気持ちも伝えられてないのに・・・ひっく、死にたくない・・・」

岡部「っ!」

三四「あらあらうふふ、よかったわね岡部くん、両想いだったみたいよ?」

紅莉栖「・・・え・・・?」

三四「でもその想いは通じないのよ。紅莉栖ちゃんはもう死んじゃうんだもの」

紅莉栖「い・・・いや・・・!」

三四「紅莉栖ちゃんは死んで、岡部君は失意により行方不明。あら、5年目も祟りは起きるのね。くすくす」

岡部「や・・・やめ・・・」



三四「もう少し離れたほうがいいんじゃない?返り血、浴びちゃうわよ?」


岡部「・・・放せ」

三四「動いちゃだめよ」

岡部「紅莉栖を、放せ」

三四「あら、じゃあ先に貴方を撃とうかしら?」

銃を突きつけられても、なお岡部はゆっくりと三四との距離を詰める。

岡部「聞こえないか。紅莉栖を放せと言っている」

紅莉栖「だ、だめ・・・岡部、やめて・・・」

三四「恨みは無いけど、紅莉栖ちゃんに絶望を味わわせる為なら躊躇無く撃つわよ」

紅莉栖「い、いや・・・岡部が死んじゃったら、私・・・」

岡部「当ててみろ」

短く言い放ったその言葉に、畏怖を覚えるほどの怒りを感じた。

三四「っ・・・わかったわ、お望み通りにしてあげる」

紅莉栖「いやぁっ!岡部っ!やめてぇっ!!」

三四「死ねぇっ!」

岡部を照準に定めると、三四は力強く引き金を引いた。

その銃弾は、岡部の頬の数センチ横をかすめ、木の幹にめり込む。

その事を気にも留めず、三四から視線を外さずに近づく。

三四「なっ、こ、このガキっ!」

必死に体を動かして抵抗を見せる紅莉栖に、三四の怒りが頂点に達した。

三四「もういいわ、二人ともこの場で殺してあげる!あの世で仲良くしてなさい!」


どちらを先に撃つか、一瞬の躊躇いを岡部は見逃さなかった。

間合いを詰め、三四の手にしていた銃のスライドを目いっぱいに引く。

三四「ぐ・・・な、引き金が・・・」

岡部「オートマチックの弱点だ」


白衣のポケットから何かを取り出し、排莢口に押し込み、手を離す。

岡部「ジャムだ。片手で直せるものなら直してみろ」


手を離してもスライドが戻りきらない。

排莢口から半分だけ姿を見せたビー玉が、雨粒をうけてキラリと光った。

二人がもみ合うそのスキをついて、紅莉栖が三四の腕から逃げ出した。

紅莉栖「岡部っ!」

岡部「俺の後に下がれ!」

三四「く・・・こんなガキ相手に・・・!」


お世辞にも力があるとはいえないが、女性の力に劣るほどひ弱ではない。

必死に抵抗を見せるも、やがて力の差に圧倒され、銃が三四の手から滑り落ちた。

三四「きゃっ!」

尻餅をつくとほぼ同時に銃のスライドを引く音がして、視線の先に弾薬とビー玉が落ちる。

顔を上げたときには、銃口は岡部の手によって三四の額に向けられていた。

三四「な・・・!」

岡部「終わりだ」

三四「い、いや・・・やめ


雨足が一層強くなる鈍色の空に、13発の銃声が鳴り響いた。

三四「あ・・・ああ、あ・・・」

カチッ、カチッ。引き金は空打ちを繰り返す。

天に向けて撃ち尽くした銃を地面に落とすと、ノズルからジュッと湯気が発生した。


岡部「・・・人を殺めるのは、バーチャルの世界だけでいい」


「銃声だ!近いぞ!」

「いたぞ!囲め!」


三四「な・・・なによ、あんた達・・・」

残り少ない正規隊員の山狗達が三四を取り囲み、一斉に銃を構える。

三四「なんで、私に銃を向けるの?敵はあっちよ・・・?」

「どの口がほざいてやがるんです」

一人の男が、銃を片手で構えたまま遅れて現れた。


小此木「あんた、自分のやったことをもうお忘れですかい?」

三四「小此木・・・説明しなさい」

小此木「説明も何も、見りゃわかるでしょう?裏切り者の処分ですよ」

三四「うらぎ・・・何で、私が・・・?」

小此木「予告も無しに味方を後ろからズドン。これが裏切りじゃなかったら何だってんです?」

三四「あ、あれは、あいつらが先に・・・」

小此木「ありゃあね、俺らの間じゃ”戦線離脱”って呼ぶんですよ」


いつの間にか、雨はすっかりやみ、雲の切れ間から太陽が顔を覗かせている。

小此木はシガーケースから取り出した一本に火をつけ、溜息混じりに煙を吐き出した。


小此木「残念ですが、己の都合の為だけに人を殺そうとするあんたに、もう味方は一人もいないんですわ」

三四「ひっ・・・!」

小此木「おっと、動かんでください。敵前逃亡になりますよ」

三四「・・・ふ、ふふふ・・・あはははは・・・!」

予想外の高笑いに、隊員たちも困惑気味に顔を見合わせる。

三四「撃ちなさい、気の済むまで。私をもう楽にして頂戴」

小此木「辞世の句を詠む時間くらいは設けますよ」

三四「そうね。せめて遺言だけでも私が存在した証を残さないとね、くすくす・・・」


突如、静寂を切り裂くような轟音と風が巻き起こり、空から数本のロープが垂れた。

何事かと空を見上げると、ダークグレーの迷彩服を纏った集団が、ヘリコプターから降下を始めた。

『入江機関の全職員に告ぐ、直ちに武装を解除し、投降せよ』

小此木「おおっと、お早いお着きで。三佐、どうやら時間いっぱいのようです」

鷹野「番犬部隊?誰が・・・誰が呼んだのよ!?」

小此木「緊急だったもんで、富竹の監視役も連れてきちまったんですわ。スキをついて呼んだんでしょうなぁ」

『繰り返す!直ちに武装を解除し、投降せよ』

小此木「へいへい、聞こえてますよ」

小此木と隊員は、手にしていた銃を地面に放り投げる。

小此木「ま、最初っからセーフティは外してなかったんですがねぇ」

三四「・・・なんでよ。何で私は生きてるのよ・・・?」

「さあ、立て!」

三四「殺して!誰からも必要とされていない私をとっとと殺しなさい!」

番犬部隊の手にしたMP5のフォアグリップを掴み、銃口を自らの額に押し当てる。

「こ、こら!離せ!」

三四「ほら、早く引き金を引きなさいよ!早くお祖父ちゃんに会わせて!」


「もう、よすんだ」

何者かに後ろから強く抱きしめられ、思わずフォアグリップを離す。

三四「誰よ!私に触らな・・・あ・・・!」

富竹「誰にも必要とされない命なんて、存在しない」

三四「じゃあ私は・・・誰に必要とされているの・・・?」

富竹「勘の鋭い君なら、もう言わなくてもわかっているだろう?」

三四「ジ、ジロウ・・・さ・・・」


静寂の森の中、皆の耳に届くのは三四が子供のようにむせび泣く声だけだった。

富竹「彼女には高レベルの発症が見られる。我々の方で身柄を預かりたい」

「はっ!かしこまりました!」


レナ「・・・終わった、ね」

魅音「うん、終わった」

圭一「岡部さん!最高にかっこよかったですよ!・・・岡部さん?」


遠くの空を見つめていた岡部の体が、グラリと揺れる。

右腕をつかんいた紅莉栖が咄嗟に支えようとするも間に合わず、ついには膝から崩れ落ちた。

紅莉栖「岡部?・・・岡部!大丈夫!?ちょっと!岡部!」


岡部「・・・・・・った・・・」

紅莉栖「え?今なんて・・・?」


岡部「怖かった・・・めっちゃくちゃ怖かった・・・!」

沙都子「えぇー・・・」

岡部「見ろ、両手の震えが止まらん」

圭一「無意識の内に突っ込んでいったんですか?」

岡部「いや、頭に血が上っていた」


心配そうに見つめる紅莉栖に、なんとか笑顔を作る。

岡部「お前を守れてよかった。ケガはないか」

紅莉栖「・・・馬鹿!馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿!!岡部の超馬鹿ぁ!ぅわぁーん!」

岡部「ぅおうッ!どうした、いきなり!」

紅莉栖「なんであんな無茶すんのよぉ!心配させないでよ!」

岡部「すまなかった。俺の悪いクセだ」

紅莉栖「あんたが死んじゃったら、私、頼りに出来る人いなくなっちゃうんだから・・・」

胸に顔をうずめて泣きじゃくる紅莉栖の背中を、ポンポンと優しく叩いてやる。


おっ、これは! 圭一達は顔を見合わせた。

「君、大丈夫かい?立てる?」

番犬部隊の一人が、へたり込む岡部に手を差し伸べた。

岡部「あ、すいません。よっこい・・・痛っ!」

紅莉栖「ど、どこか痛むの?」

岡部「右手首が痛い。そうか、片手で撃ったから」

紅莉栖「もう、無茶しないでよ・・・」

「君がこの銃を?・・・まあ、聞かなかったことにしよう。ほら、左手を出して」

差し出した左手を引っ張られ、ようやく立ち上がる。

岡部「今気付いたが、右耳もあまり聞こえない」

紅莉栖「だ、大丈夫なの?鼓膜とか・・・」

「難聴だな。病院で診てもらうといい」

岡部「病院・・・なんて説明をすればいいんでしょう」

「入江研究所の人だったら事情は知っているだろう?」

「軽い捻挫だけど、ちゃんと安静にしてね」

包帯を巻き終えると看護婦は立ち上がり、頭の切り傷を眺める。

「うん、消毒だけで大丈夫ね。あと耳の方は突発性の難聴だから、すぐに治ると思うわ」

岡部「ありがとうございます。わざわざ診ていただいて」

「それが看護婦の務めだもの。服、もう少しで乾くからちょっと待っててね」


待合室へ戻ると、患者用のパジャマを纏った紅莉栖がうなだれて座っていた。

岡部「待たせたな」

ハッと顔を上げると、慌てて両目を拭った。

紅莉栖「あっ、ううん、大丈夫」

岡部「まだ泣いてたのか」

紅莉栖「な、泣いて・・・泣いてたわよ」

岡部「泣き虫」

紅莉栖「な、何よ!悪い?」

紅莉栖の右隣に腰を下ろす。

岡部「何を泣くことがある」

紅莉栖「・・・もしも、もしもあの時、岡部が撃たれて死んじゃってたらって考えちゃって・・・」

またも項垂れ、鼻をすする音が聞こえる。

紅莉栖「すごく悲しくて、ひっく、辛くて・・・」

岡部「・・・はあ」

小さく溜息をつくと、左手で紅莉栖の肩を抱き寄せた。

紅莉栖「な、あ・・・っ」

岡部「俺は見ての通り元気だ。少なくとも左半身は」

紅莉栖「・・・うん」


「二人ともお待たせ。服、乾い・・・あっ」

二人分の服を抱えた看護婦が診察室から出てこようとしたが、すぐに体を引っ込めた。

「邪魔しちゃった?」

岡部「あ、いや、お気遣いなく」

岡部「ありがとうございました」

「お大事にねー」


岡部「圭一達は?」

紅莉栖「お祭りの準備を手伝うって言ってた。梨花ちゃんも儀式のリハーサルですって」

岡部「そうか。何時からだったか」

紅莉栖「圭一くん達と6時に待ち合わせしてる」

岡部「そうか、まだ5時間近くあるか」

紅莉栖「疲れたでしょ?一度魅音さんちに戻りましょ」

岡部「そうだな。今日は色々なことがありすぎた」

紅莉栖「本当にお疲れ様。ゆっくり休んで」

岡部「・・・鷹野さん、どうなるんだろうな」

紅莉栖「さっき聞いたけど、診療所のほうに入院するんですって」

岡部「・・・そうか、ひとまずは安心だな」

紅莉栖「ええ、富竹さんと入江先生もつきっきりで対処してるみたい」

紅莉栖「はあ、到着」

部屋の襖を開けると、朝と変わらぬ状態で布団が敷かれていた。

紅莉栖「なんか、すごく久々に戻ってきたみたいな感じ。岡部もそう思わな・・・ひゃぁっ!」

帰路の途中からすっかり黙りこくっていた岡部に、強く抱きしめられた。

紅莉栖「え、ちょ、あの、え?え?」///

岡部「よかった・・・お前が無事で、本当によかった・・・」

紅莉栖「っ・・・岡部・・・泣いてるの?」

岡部「怖かった。また、お前を失ってしまうのではないかと。それだけが、怖くて仕方が無かった」

紅莉栖「また・・・ラジ館の時のこと?」

岡部「・・・違う。その、もっと前の話だ。日付でいえば後になるがな」

紅莉栖「・・・どういうこと?」

岡部「お前には全てを話したい。俄かに信じ難いだろうが聞いて欲しい」

紅莉栖「うん。聞かせて」

岡部「だが、少しでいい。あと少しでいいから、このままでいさせてくれ・・・」

紅莉栖「・・・わかった。3分間待ってやる。ふふ」

岡部「ぜぇ・・・ぜぇ・・・」

紅莉栖「ほんと、体力、ないわよね、私たち」

レナ「あっ、岡部さんたち、こっちですよー!」

魅音「ちょっとちょっとー、階段だけで疲れてたら今日の部活の勝ち目はないですよー?」

岡部「部活だと?こんな日にもやるというのか」

魅音「早食い、射的、型抜き、これ以上ない大舞台ですよ!」

沙都子「ま、圭一さんにはどれも勝機が見えませんわね」

圭一「なっ、何だと!いいだろう、俺の本気を見せてやる!後で吠え面かくなよ!」

詩音「はろろ~ん、お待たせしましたー」

魅音「お、詩音も来たね。一人?」

詩音「葛西なら、わたあめ買って帰りましたよ」

遅れること数分、梨花と羽入が小走りでやってきた。

レナ「はっぅ~!巫女服姿の梨花ちゃん、かぁいいよぉ~!」

岡部「古手梨花。古手神社の一人娘。巫女服がとても似合っている・・・だがおと

紅莉栖「違う違う違う」

魅音「よっしゃ、今年の部活は盛り上がっていくぞー!」

岡部「すまないが、俺は辞退させて欲しい。生憎手負いなものでな」

紅莉栖「私も。審査員側にまわるわ」

魅音「そっか、お疲れですもんね。じゃあ7人で勝負!」

岡部「そのかわり」

おもむろに財布から1枚の紙幣を抜き出す。

岡部「フゥーハハハ!見事総合優勝を飾ったものには、俺から1万円を贈呈しようではないか!」

圭一「おおお1万円!大学生ってすげぇ!」

紅莉栖「あら太っ腹。じゃあ私からは2位の人に5千円!」

魅音「さぁさぁ、今年はスポンサー付きだ!七凶爆闘、開始!」

―――1時間後―――

魅音「いっちまんえーん!」

沙都子「ごっせんえーん!」

圭一「ちくしょう、早食いですら勝てないとか何者なんだよお前ら・・・」

岡部「総合1位の園崎魅音、栄誉を称え、ここに1万円を贈呈する」

魅音「へへぇー。ありがてぇありがてぇ」

紅莉栖「はい、沙都子ちゃん。大事に使うのよ」

沙都子「しばらくは夕食にもう一品追加できそうですわね」

梨花「では、ボクはそろそろ儀式の準備に入るのですよ」

圭一「よし、俺達も行こうぜ!最前列とらなきゃな!」

魅音「オッケー!岡部さん達も絶対見に来てくださいよー!」


岡部「やれやれ、ついさっきまで闘志むき出しだったというのに」

紅莉栖「試合以外では敵見方なし。ノーサイドの精神ってやつよ」

岡部「儀式まではもう少しありそうだな」

紅莉栖「もうちょっと色々見て回らない?」

岡部「そうだな、何でも買ってやろう。なんたって今の俺は超リッチメンだからな」

紅莉栖「ったく、ちょっと財布が潤っただけで態度が大きくなるんだから」

岡部「”ちょっと”だと・・・?このセレブめが」

紅莉栖「私だってこんな大金手にしたことないわよ。お札で財布がパンパンなんて初めて」

岡部「・・・似合っているぞ、その財布」

紅莉栖「ふぇ・・・あ、ありがと」

岡部「その財布を買ったとき、なにか失礼な事を言った気がする」

紅莉栖「『そういった小物の可愛らしさで中和しないとな』って言ったわ。ハッキリと」

岡部「なぜ一字一句覚えているのだ・・・その、すまなかった」

紅莉栖「・・・手、繋いでくれたら許してあげる」


圭一「お、羽入、遅いぞー」

羽入「ごめんなさいです。お手洗いが混んでたのです」

富竹「お、岡部くん達」

岡部「富竹さん、間に合ったんですね」

富竹「うん、今日の儀式はどうしても写真に収めたくてね」

紅莉栖「鷹野さんはどうなりました?」

富竹「うん、容態も少し落ち着いて、ぐっすり眠っているよ」

紅莉栖「そう・・・よかった」

富竹「雛見沢症候群の予防には、9時間以上の睡眠がいいといわれているんだよ」

岡部「じゃあ俺達は知らぬうちに予防対策を行っていたのだな」

紅莉栖「そういえばそうね、10時には寝てたもの」

富竹「しかし、二人ともいつの間にそんな仲に?」

二人の繋がれた手に視線を落とし、少年のような笑顔を見せた。

富竹「ここで始めて会ったとき、そうは見えなかったんだけどなぁ」

岡部「い、いや、そんなんじゃないですよ」

富竹「僕にもいつかそういう相手が出来たらいいなぁなんて。あっはっは」

紅莉栖「・・・鷹野さんは、この後どうなるんですか?」

富竹「彼女の件は、僕が全面的に引き受けた。近いうちに投薬療法を進めていこうと思っている」

岡部「投薬?もう薬が完成したのですか?」

富竹「今はまだ実験段階さ。これから改良を加えていくんだ」

紅莉栖「お願いです。絶対に鷹野さんを助けてあげてください」

富竹「・・・彼女は雛見沢症候群の”最大の被害者”だ。全力を尽くすつもりだよ」

岡部「献身的な姿を見せて、鷹野さんの気持ちを引きつけるんですね」

富竹「あれ?僕の完璧な作戦がもう見破られちゃったのかい?なんてね。あっはっは」


わざとらしい乾いた笑いが収まると、帽子を脱いで遠くを見つめた。

富竹「・・・今年の綿流しは、今までで一番忘れられない日になりそうだよ」


『皆様、これより古手梨花様による綿流しの儀式が行われます。境内までお集まりくださいませ』

巫女服姿の梨花が姿を見せると、観客からは小さなどよめきが起こった。

身の丈よりも長い鍬を振り上げる度に、小さな体がよろめきかける。

紅莉栖「ふふ、かわいい」

岡部「たとえ何年ループしようと、体は小学生のままだものな」


梨花(くっ・・・子供用の鍬ぐらい、用意しといてよ・・・!)

さすがに重い。額にジワリと汗が滲む。

チラリと横目で観客を見渡すと、老人達は皆手を合わせ拝み続けている。


そんな中、仲睦まじく手を繋ぐ岡部と紅莉栖の姿があった。

梨花(あら、あの二人ったらいつの間に)

次いで羽入と目が合うと、ニッコリと微笑み返してきた。

梨花(? 何よあいつ・・・ああ、そういうことね。すっかり忘れてたわ)

観客には聞こえないよう、フフッと小さく鼻で笑う。



―――オヤシロ様は元々 縁結びの神様なんだっけ―――

詩音「あら、梨花ちゃま、お帰りなさい」

梨花「はふー、緊張したのですー」

レナ「ヨタヨタしてて、とーってもかぁいかったよぉ~!」

沙都子「でも、あの真剣な表情はとてもかっこよかったですわ!」

羽入「大役お疲れ様なのです」

圭一「さて、この後どうする?綿流しまではまだあるんだろ?」

梨花「ボクは着替えたりなんだりで忙しいので、皆で楽しんできて欲しいのです」

岡部「俺達もちょっとその辺をブラっと散歩してくる。気にせず遊んでてくれ」

魅音「はーい。そんじゃ各自、自由行動ー」


魅音「・・・さて、と、ちょっと行く所があるんで」

圭一「おや魅音さん、奇遇ですな、私もちょっとアテがありまして」

レナ「はぅ~、二人とも悪い顔してるー」

圭一「そういうお前だって、目が笑ってるぞぉー?」

紅莉栖「はあ、楽しかった。こういうお祭りなんて久しぶり」

岡部「ちょうどいい、そこに腰掛けるか」

紅莉栖「祭具殿・・・何かしら、この建物」

岡部「名前から察するに、さっきの鍬みたいな物の保管庫だろう」


入り口前の石段に、並んで腰掛ける。

紅莉栖「本当に、夢じゃないのよね、これって」

岡部「もし夢だとしたら、悲しいな」

紅莉栖「また今まで通りの貧乏学生に戻るから?」

岡部「いや。・・・それも無くはないが」


体の向きを変え、紅莉栖の顔を正面に見据えた。

紅莉栖はつい目を逸らしてしまう。


岡部「お前の気持ちを聞けたことが、幻となってしまうからだ」

紅莉栖「あ、あれはその、今までの感謝の気持ちというか、その」

岡部「言うまでもないが、あえて言わせて欲しい。お前のことが好きだ」

紅莉栖「うが・・・」///

岡部「これが俺の本心だ。お前の気持ちも聞かせて欲しい」

紅莉栖「え、わ、私だって、あんたのこと、尊敬できたり頼りになる面とかもあるけど・・・」


―――心を開けば、自ずといい結果が導き出されるものだ―――


紅莉栖「っ・・・」

岡部「どうした」

紅莉栖「・・・うん、私ももう隠さないことにする」

覚悟を決め、岡部の顔を正面に見据える。

紅莉栖「・・・わ・・・私も、す、すすす、すす好きです!」

岡部「うぉっ、声でかい」


少し離れた所の草場が風もないのにガサリと揺れたが、二人は気付かなかった。

羽入「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

鈴羽「失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した」

紅莉栖「・・・はぁー、か、顔が熱い・・・!」

岡部「・・・やっと、聞けた。長かった」

紅莉栖「や、やっとって、どういうことですか?」

岡部「何故敬語になる。まあ、8月に色々と、な」

紅莉栖「ああ、さっき聞かせてくれた話・・・」

岡部「あの時ほどEnterキーを憎んだ日はない」

紅莉栖「・・・その時の私って、もう岡部のことが好きだったのかな」

岡部「好きでもない相手と2回もキスするのか、お前は」

紅莉栖「ふぇ!?キ、キスって何それ、早くない!?って2回!?」


梨花「賑やかなのですー☆」

紅莉栖「ひわぁっ!!」

梨花「せっかくの所邪魔してごめんなさいね」

紅莉栖「え、えっと、いや、その」

羽入「あぅあぅ、恋愛成就、恋愛成就なのです~♪」

紅莉栖「・・・ど、どこから聞いてた?」

梨花「お前の気持ちを聞けたことが、幻となってしまうからだ。  ってあたりね」

紅莉栖「ほぼ最初からじゃないのよ・・・!」

梨花「初めて会った時のお返しよ、ふふ」

岡部「・・・あー、見事な流れだ」

梨花「実は二人を探してたの。そしたら羽入がここにいるんじゃないかって」

岡部「それもオヤシロパワーか」

羽入「いいえ、必然なのです」

梨花「オヤシロパワーって何よ」

梨花「二人にどうしてもお礼が言いたかったの」

岡部「なんだ、それくらい別に皆の前でもよかっただろう?」

梨花「今まで、数え切れないほどの6月を繰り返してきた」

岡部「・・・そういう話か」

梨花「今回が最後って時にこのバカ先祖が間違って二人を連れてきたときは心底ムカついたけど」

羽入「あぅー」

梨花「まさか、その二人のお陰で助かるなんてね・・・」


ポタリ、梨花の目から雫がこぼれ落ちた。

サッと地面を足でもみ消し、顔を見られないように俯く。


岡部「隠さなくてもいい。存分に泣くといい」

梨花「な、泣いてなんか・・・」

岡部「強がるな。お前はもうただの小学生だ」

岡部「今日は”100年を生きた魔女・古手梨花”から”小学生・古手梨花”に戻れた記念日だ」

梨花「っ・・・!」

岡部「だから泣け。小学生らしく精一杯な」

梨花「・・・っく、ひっく、う、うぁ・・・うわあああああん!」

体にしがみついて泣きじゃくる梨花の頭をやさしく撫でる。

彼女の心を覆い尽くしていた魔女の影は、満天の星空の光によって霧消した。




圭一「よかったな、梨花ちゃん」

レナ「ほんと、よかった・・・ぐす」

沙都子「梨花が泣いてる所なんて、初めて見ましたわ」

魅音「あーだめだ。おじさんこういうの弱いんだー。ほら、皆もう戻るよ」

圭一「そうだな。今はそっとしといてあげよう」

詩音「やれやれ、盗み聞きなんて悪趣味ですこと」

魅音「って、あんたも最初からいたじゃんか」

自分、涙いいすか

梨花「・・・ありがと、もう大丈夫。羽入、戻るわよ」

羽入「先に戻っててください。ボクも岡部とお話があるのです」

梨花「そう、あまり邪魔しちゃだめよ。私は夜風に当たってくる」


羽入「岡部、そして紅莉栖。二人の多大なる働きに改めてお礼を言わせてもらいます」

絶対に恋バナ(笑)が来ると思っていた二人は、羽入の真剣な表情にたじろいだ。

岡部「いや、感謝の言葉はもういい。当然のことをしたまでだ」

紅莉栖「私はまだ研究の途中だもの。まだ終わってないわ」

岡部「で、話とは何だ。お礼を言うために残ったわけではないのだろう?」

羽入「・・・お二人には、謝らなければならないことがあります」

岡部「・・・話してみろ」

羽入「以前、お二人は私の不注意でこの世界に紛れ込んだという話をしましたね」

岡部「ああ、俺達のカケラを拾って、途中で落としたとかいう」


羽入「・・・実は不注意ではなく 私の意志でお二人をこの世界へと招いたのです」

>>440
しょうがないにゃあ

岡部「・・・ほう?」

羽入「今にして思えばなんという愚行か、ましてや命の危機に晒してしまうなど。詫びても詫びきれません」

岡部「どういう経緯で俺達のカケラを手に入れた?」

羽入「それ自身は偶然といいましょうか。たまたま目に入ったカケラが、不規則な動きをしていたのです」

岡部「不規則、か。理由はわかる」

羽入「時を遡り、世界を移動し、そしてまた時を跳躍する。そのようなカケラは初めて目にしました」

岡部「あの頃は必死だった。命も顧みずな」

羽入「この男達ならば、塞がれた迷路に光を呼び込める、・・・つい、魔が差したのです」

岡部「・・・」

羽入「許しをいただけるのであれば、今はどのような罵りの言葉でさえも心に受け止めましょう」

岡部「・・・」

深々と頭を下げる羽入に、大股でズカズカと近づく。

紅莉栖「お、岡部、優しくしてあげて・・・」


岡部「そんなことはどうでもよい!というか、脅かすな!」

岡部「てっきり”これは全て夢”とか”もう2010年に戻れない”とかいうのかと思ってビクビクしたわ!」

紅莉栖「あ、あれ・・・?」

羽入「・・・お怒りにはなられないのですか?」

岡部「怒る?別に怒る理由などない」

羽入「・・・あ、あぅ・・・」

岡部「むしろ感謝している。その・・・紅莉栖と、な?」

紅莉栖「ま、まぁ確かにそれはこの事が無かったら言えなかった、かも」

岡部「まあ、鷹野さんとのアレだって気にはしない。あの程度のピンチなど慣れっこだ」

紅莉栖「腰ぬかしてたけどね。くすくす」

岡部「あっ!笑いやがった!慣れているとはいえ怖いものは怖いのだ!」

紅莉栖「うふふ、ごめんごめん」


羽入「あぅ、あぅあぅあぅあぅあぅあぅあぅあぅあぅあぅ・・・」

岡部「なっ!?お前まで泣き出すのか!なんか俺が泣かしてばかりいるみたいではないか!」

羽入「だ、だってだって、絶対怒られると思ったのですー!」

羽入はヘナヘナと、力なく地面に膝をついた。

羽入「難しい言い回しも練習して、少しでも反省してる感を出そうと頑張ったのですよ!」

岡部「まあ、確かに威厳はあったが」

紅莉栖「もし本当に罵りの言葉をぶつけられ続けたとしても、耐えられたの?」

羽入「・・・途中で、静かに涙を流す作戦だったのです」

岡部「うわ、こいつ小賢しい!」

羽入「あぅあぅあぅあぅあぅあぅあぅあぅあぅあぅあぅあぅあぅあぅ」

岡部「・・・もういい。泣きやめ。怒ってないから」

羽入「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい・・・」

岡部「これが夢でもなく、ちゃんと2010年に戻れるのならば何も問題はない」

紅莉栖「ほら、そろそろ梨花ちゃんの所に戻らないと、それこそ怒られちゃうわよ」

羽入「あぅ!?じゃ、じゃあボクは戻るのです!また後で!」

魅音「はい、綿」

岡部「いや、いきなり『はい、綿』と渡されてもだな」

紅莉栖「どうするの?これ」

魅音「説明してませんでしたっけ?これをそこの川に流すんです」

詩音「古くなった綿の供養と同時に、この綿が自分の悪いところを吸い取って流してくれるんですよ」

紅莉栖「日本ってこういうところがロマンチックね」

岡部「だが、こんなものを大量に川に流していいものなのか?」

魅音「ご心配なく、ちゃんと下流に回収班がいますから」

岡部「回収班というのはレナのことか?」

レナ「? なんでレナなの?」

岡部「いや、かぁいいかぁいいと言いながら全部を集めて回るのかと」

魅音「あっはっはっは!想像できるー!」

レナ「んもー!綿は別にかぁいくないよー!」

圭一「お前は口が悪いところを吸い取ってもらえるといいなー」

沙都子「その言葉、そっくりそのままお返ししますわ」


紅莉栖「うーん、悪いところか・・・何にしようかな」

岡部「提案がある。俺とお前の綿、合わせて一つにしないか」

紅莉栖「なんで?」

岡部「二人分の綿の力で、雛見沢症候群という悪しき風土を流してもらおう」

紅莉栖「・・・素敵ね。賛成」

二つの綿を重ね合わせると、簡単にくっついて大きな綿となった。

岡部「ほら、上に手を重ねるんだ」

綿を持った左手の上に自分の右手を重ね、目を閉じて強く念じる。

岡部「よし、綿よ、お前には少しばかり荷が重いかもしれんが、頼んだぞ」

願いの詰まった大きな綿はゆっくりと川の流れに乗り、二人のもとを離れていった。


レナ「あっ、岡部さんの綿、おっきい・・・かぁいい・・・!」

岡部「やめてくれ」

魅音「全行程しゅーりょー。今何時ー?」

レナ「んーとね、9時ちょっと過ぎたくらい」

魅音「んー、微妙な時間だなー」

岡部「今日はもう解散にしよう。皆も疲れただろう」

圭一「そうですね。じゃあ皆、また明日な!」

レナ「ばいばーい!」

沙都子「では、私も梨花達と合流して帰りますわ」

詩音「私はお姉の所に泊まります」

魅音「じゃ、私たちも帰るか」


大石「おや皆さん、お帰りですか」

岡部「大石さん。いらしてたんですか」

大石「なに、ちょっと寄っただけですよ。んっふっふ」

魅音「ところで岡部さん達」

岡部「なんだ」

魅音「二人って、付き合ってんの?」

岡部「・・・何を今更。さっき覗いていただろ」

魅音「あちゃー、バレてました?」

岡部「えっ?本当に覗いていたのか?」

魅音「えっ?適当に言ったんですか?」

岡部「むぅ・・・まあいい、そういうことだ」

詩音「牧瀬さん、夜道でもわかるくらい顔が真っ赤ですよー?」

紅莉栖「こ、こっち見んな!」///

魅音「・・・いいですね、両想いって」

詩音「ホント、お姉ももっとがんばらないとね」

岡部「ほう、相手は圭一か?今夜はその辺をじっくり聞かせてもらおうではないか」

魅音「だー!なんで矛先こっちに向けんのさ!詩音のバカ!」

W主人公になってないからしかたないけどKの存在感ェ…

部屋に戻るなり、岡部は布団に倒れこみ、枕に突っ伏した。

岡部「ふはへは」

紅莉栖「ほんと、充実した1日だったわ」

岡部「ほはへはまはへんひほうはは」

紅莉栖「日本語でおk」

岡部「よっ・・・お前はまだ元気そうだな」

紅莉栖「私だってクタクタよ。岡部ほどではないだろうけど」

岡部「明日も研究所に行くのだろう?もう休もう」

紅莉栖「そうね、気持ちを切り替えないと」

岡部「折角だから一緒の布団で寝るか?さあ来い」

紅莉栖「ちょ、調子に乗んな」///

岡部「冗談だ。おやすみ」

紅莉栖「ねえ」

岡部「ほいきた」

紅莉栖「なんで銃の知識に長けてるの?詩音さんの銃を知ってたり、咄嗟に撃てないようにしたりとか」

岡部「FPSのおかげだな」

紅莉栖「FPS?FPS・・・え、ゲーム?」

岡部「知識だけは豊富だぞ?最初で最後の実践で右手首がご覧の有様だが」

紅莉栖「・・・呆れた。ゲーム脳もここまでいったら大したもんね。耳は大丈夫?」

岡部「ああ、そういえばもうほとんど治っている」

紅莉栖「そう、よかった。・・・ちょっと、手出して」

左手を差し出すと、紅莉栖の両手が優しく包み込んだ。


紅莉栖「一緒の布団ではまだ寝られないけど・・・これくらいだったら」

岡部「ああ、十分だ。おやすみ」

紅莉栖「うん、おやすみ」

岡部「・・・昨日の就寝時間は?」

紅莉栖「・・・確か、10時頃」

岡部「・・・現在の時刻は?」

紅莉栖「・・・11時」

岡部「・・・経過したのは1時間だけか?」

紅莉栖「・・・太陽が出てるわ」

岡部「・・・」

紅莉栖「・・・」


二人は飛び上がり、猛ダッシュで玄関へと向かう。

紅莉栖「ああもう!寝坊ってレベルじゃねーぞ!」

お魎「おお、よう寝とったな」

岡部「よく寝すぎました!」

岡部「おはようございます!」

研究所のドアを開けると、入江が驚いた顔でこちらを見ていた。

入江「ひっ、あれ、岡部くんと牧瀬さん?」

岡部「・・・誰もいない」

入江「昨日は色々とあったんで、今日はお休みにしました」

紅莉栖「・・・あるぇー?」

入江「お二人の話は聞きました。なので今日はてっきり休むものだとばかり」

紅莉栖「入江先生は一人で何を?」

入江「昨日の件の整理です」

岡部「せっかくなので手伝います。このまま帰っても恥ずかしいので」

入江「それは助かります。そういえば、お二人はいつまでお手伝いを?」

岡部「・・・そういえばそうだな」

紅莉栖「後で羽入ちゃんに聞いてみるしかないわね」

羽入「はーい、どちら様なのですか?」

岡部「俺だ」

紅莉栖「他の二人は?」

羽入「お買い物に行ってるのです。どうしたのですか?」

岡部「聞きたいことがある。俺達はいつまで雛見沢にいればいいのだ?」


羽入はハッと目を見開き、申し訳なさそうに目を伏せた。

羽入「・・・誠に言い辛いのですが・・・」

岡部「お、おい・・・まさか・・・」


羽入「・・・あと1週間、滞在してもらいたいのです」

岡部「いや、だからその不安を煽る前フリはやめろ」

紅莉栖「1週間後に何かあるの?」

羽入「ボクのオヤシロパワーが満タンになるのです」

羽入「昨日、銃弾が誰にも当たらない力を使ってしまったのです」

岡部「あれって、紅莉栖が腕の中でもがいたから逸れただけではないのか?」

羽入「そうなるように仕組んだのもボクの力なのです」

岡部「実体化してもそのような力が使えるのか」

羽入「ちなみに二人を元の世界に戻すには、オヤシロパワー2か月分を要するのです」

岡部「仲介手数料かっ」

紅莉栖「戻ったとして、元の世界ではどれくらい時間が経過してるの?」

羽入「多分、来たときからさほど経過していないと思うのです」

岡部「・・・まさに、夢のような話だ」

紅莉栖「聞きたかったのはそれだけなの。じゃあね」

羽入「はい、いつでも来てくださいなのです」

将棋つよい羽入可愛い!

―――1週間後―――

入江「本日をもって、岡部君と牧瀬さんがお帰りになられます」

研究員達から、大きな拍手が巻き起こる。

岡部「お世話になりました。これからは印刷とホッチキス留めのプロとして生きていきます」

所内が笑いに包まれる。

紅莉栖「私も、微力ながら研究に携わらせてもらったことに感謝します」

入江「何をおっしゃいます。我々だけではこの成果の3分の1も到達できませんでしたよ」

岡部「しかし、1週間前まで実験段階だった薬がもうここまでできるとは」

入江「資金だけは不自由しておりませんので。ここまで来れたのも牧瀬さんのお力添えがあったからこそ」

紅莉栖の手を取り、硬く握手を交わす。

入江「今回の研究、お二方との連名で論文を書かせてもらえませんか」

岡部「いや、俺なんて雑用ばかりでしたし、論文に名を残すようなことはしていませんよ」

紅莉栖「私、お忍びでここに来てるんです。名前を残しちゃったらちょっとマズイかも」

入江「そうですか、残念です。ではお気をつけて。いつでも遊びに来てください」


研究所を出ると二人は深々と研究所に頭を下げ、その場を後にした。

岡部「お?」

園崎家の玄関に、見慣れた5人の姿があった。

魅音「お帰りなさーい」

レナ「もう帰っちゃうんですね。寂しくなっちゃいます」

沙都子「また遊びに来てくださいまし!いつでも歓迎ですわよ!」

紅莉栖「・・・うん、ありがと」

詩音「お送りはいいんですか?葛西に言えば駅まで送ってくれますけど」

岡部「ああ、ちょっと寄るところがあるんでな」

圭一「それじゃ、気をつけて!またいつか会いましょうね!」

岡部「ああ、またいつか、な」


手を振り続ける5人の姿が見えなくなる。

岡部「・・・よし、行くぞ」

紅莉栖「うん。本当に最後に会う人がいるもの」

岡部「待たせたな」

梨花「ごめんなさい、わざわざ神社まで呼びつけちゃって」

紅莉栖「羽入ちゃんは?」

梨花「もうすぐ来ると思う」

羽入「お待たせなのですー」

巫女服姿の羽入が小走りでやってきた。

梨花「何よ、遅れたのはそれに着替えるためだったの?」

羽入「はいです。最後の大仕事なので」

岡部「それ、オヤシロ様の公式コスチュームなのか」

紅莉栖「脇のところ、大胆なスリットね」

岡部「腕のところ、どうなってるんだ?それ」

羽入「そ、そのことは別にどうでもいいのです!」

羽入「では、これより二人を元の世界へ返そうと思います」

手にした大幣をゆっくりと高く振り上げた。

羽入「人の子よ、一歩前へ」

数分前から想像も出来ないような荘厳な立ち振る舞いに、3人は息を呑む。

羽入「では、参ります」

高く構えた大幣を勢いよく振り下ろし、カッと眼を見開いた!


羽入「オヤシロあぅあぅ、ペタペタあぅあぅ、オヤシロパワー2か月分!!!ドーーーン☆」


梨花「・・・ひっどいわね」

岡部「っ・・・ん?あれ?まだ移動していない」

紅莉栖「まさか、失敗?」

羽入「今のは魔法をかけたようなもの。来たときと逆の手順で戻れるようになったのです」

岡部「来たとき・・・ああ、なるほど」

羽入「ちなみに、この儀式には何の意味もないのです。雰囲気作りなのですよ」

岡部「それじゃ、本当のお別れだな」

梨花「ええ、お別れ。岡部達との2週間は忘れられない思い出になるわ」

岡部「では、2010年の秋葉原で待っているぞ」

梨花「・・・ふふ、そうね。どこに住んでるの?」

岡部「”未来ガジェット研究所”だ。巨大な高層ビルの1フロアを借しきって運営している」

紅莉栖「うわ」

梨花「嘘でしょそれ。古手神社の巫女をなめないでよ」

岡部「さあな、見てのお楽しみだ」

羽入「バスの時間も近いのです。そろそろ行かないと」

岡部「もう7月だ。悔いの残らない夏を堪能しろよ。じゃあな」

紅莉栖「さようなら、梨花ちゃん、羽入ちゃん」

羽入「バイバイなのですー!」


梨花「悔いの残らない、か・・・。羽入、めいっぱい遊ぶわよー!」

羽入「おー!賛成なのですよー!」

高度な複製技術 偽造硬貨が見つかる   興宮日報

興宮署は3日、雛見沢内の複数の場所から偽造と思われる硬貨が見つかったと発表した。
硬貨は材質、重量ともに本物と見分けがつかないほどに精巧であるものの、
「昭和」ではなく「平成」と刻印がされており、愉快犯である可能性が高いという。
発見されたのは、鹿骨交通興宮営業所から2枚、雛見沢内の商店から2枚、
先月26日に行われた綿流し祭の露店から1枚の計5枚。
他の場所からの発見も可能性もあるため、興宮署では引き続き捜査を続けている。


熊谷「しかしまぁ、なんで”平成”なんて入れたんですかね?」

大石「どういう意味です?」

熊谷「だってこれ、”昭和”って入れてたら絶対バレてないですよ」

大石「熊ちゃん、署内では下手なことは言わないほうがいいですよぉ」

熊谷「おっと」

大石「んっふっふ、聞かなかったことにしときましょう。ですがね」

胸ポケットから一本のタバコを取り出し、近くにあったマッチで火をつける。

大石「この事件の犯人は、きっと我々では捕まえられない、そんな気がしてならないんです」

熊谷「大石さんとは思えない弱気な発言ですね」


大石「それこそ、神様の力でも借りない限りね。んっふっふ」

支援

   *``・*。.    。.:☆   .     *。+゚ ★
   |   `*。 ;*  †▲_*;.。.: ∧  ∧  /*。
  ,。∩    *. ゚*: (('A`);゚' +< ,,‘∀‘> つ  *。+゚
 + (・ω・`)*。   ゚・* (  7  `*。 二つ *゚*
 `*。 ヽ つ*゜* .  < ヽ   \+。*・'

  `・+。*・`゜⊃ +゜   *。+゚    ∪`J
  ☆  ∪~。**'``・* 。
  `・+。*・゜.  |     `*。
      ,。 _,,∩,_     * このスレに書き込んだ奴幸せにな~れ~☆

     + / ,' 3 `ヽ* 。+゚
     `*⊂    ,j *゚ *
       ゚と・+。*・' ゚ +゚
       ☆ `(ノ′ 。*

新500円硬貨は使えないな~、とか思ってたら平成バレか

「お、いつだかのアベックさん達やんね」

岡部「覚えてましたか」

「若い人なんて滅多に乗らんからね。あっはっは」

他の乗客はいない。一番後ろの席に並んで腰掛けた。


紅莉栖「・・・もう、会えないのよね。あの子達、ううん、雛見沢の人たちに」

岡部「ああ、多分会うことはないだろう」

紅莉栖「・・・悲しいね、とっても」


小さく嗚咽をもらす紅莉栖の手を取り、目を閉じた。

岡部「何も死ぬわけじゃない。会えないとはいえ俺達とは違う世界でちゃんと生き続けるさ」

紅莉栖「そうだよね。うん、そう」

岡部の肩に頭を乗せ、瞳を閉じる。


耳の奥がチクリと痛み、そのまま二人は意識を失った。

―――一部始終を見せてもらった。よくやった、人の子よ―――

ああ、いつだかの天の声か。

―――なるほど、時に強制手は戦法になりうる、と―――

そのようだな、記念すべき初勝利だ。

―――よい棋譜だった。我が物語の次の題の参考とさせてもらおうか―――

盗作か。

―――む、言うではないか―――

ま、好きにするといい。無論主人公は俺だな?

―――それではただのノベライズに他ならぬ。キャストは変えさせてもらおうか―――

なんだ、なにも見返りは無しか。

―――ふむ、それもそうだ。わかった、その内、もう一つだけ小さな奇跡をご覧に入れようぞ―――

ああ、期待しないで待っている。

―――ふふふ、これだから偏屈者との会話はやめられぬ―――

なっ、誰が偏屈だ。失礼な・・・いなくなりやがった、くそ。

―――はーぁ、最ッ低な物語だったわ―――

あら、2週間前の。ごきげんよう。

―――最悪な気分よ。何よこのゲロカスラブコメ。吐き気がするわ―――

妬いてるの?

―――・・・あんたのこと、本気で嫌いになりそう―――

そういえば貴方、梨花ちゃんに声が似てるわね。口は汚いけど。

―――・・・に、にぱー―――

えっ。  えっ。

―――な、なんでもないわよ。もう帰るわ―――

待って。この物語を見せてくれたのって、貴方なの?

―――正確には違うけど、まあそんなところよ―――

ありがとう。感謝するわ。

―――なっ・・・ああああもう甘ったるい!もうあんたとは二度と会わない!―――

・・・行っちゃった。

カシャ。


岡部「ん・・・」

ここは?・・・まさか!

寝ぼけ眼で周りを見渡す。

岡部「・・・帰ってきた・・・紅莉栖、起きろ!帰ってきた!ラボに帰ってきたぞ!」

紅莉栖「ふぇ、何・・・ラボ?えっ、あ、本当!」

岡部「今は何日の何時だ!」

慌てて携帯を取り出す。

岡部「あの時から、1時間も経っていない・・・?」

紅莉栖「ほ・・・本当に夢じゃないのよね・・・?」

岡部「あ、あんなはっきりとした記憶が夢とは思えんが・・・」


まゆり「トゥットゥルー♪」

岡部「ふぉう!?」
紅莉栖「ふぉう!?」

眉しぃは早くしねよ

岡部「ま、まゆり!いつの間に!?」

まゆり「30分くらい前からいたよー。今日はバイトだから立ち寄ったのです」

まゆりの携帯電話が鳴る。

まゆり「あ、萌郁さんから。”ちょっとちょっと何コレ!キャー(///▽///)”だってー♪」

紅莉栖「・・・嫌な予感がするけど、何てメールを送ったの?」

まゆり「二人の寝顔を撮って、送っちゃったのです」

岡部「そうか、その音で目を覚ましたのか・・・まぁ、萌郁だけなら」

まゆり「ちなみに、ラボメン全員に送っちゃった♪」

岡部「なっ!何をするだァーッ!」
紅莉栖「なっ!何をするだァーッ!」


まゆり「はいこれ、仲よしさんだねー♪」

まゆりが携帯電話をこちらへ向ける。

そこには、手を取り合い、肩を寄せ合って中睦まじく眠る二人の姿が映っていた。

まゆり「二人がラブラブだったなんて、まゆしぃは全然気がつかなかったのです」

紅莉栖「ち、違うの!いや違わないけど!じゃなくて、これは・・・」

岡部「・・・もういい、ラボメン全員に知れ渡った以上、隠しても無駄だ」

岡部は勢いよく立ち上がり、紅莉栖の手を取り、起立を促す。

岡部「そう、俺と紅莉栖は”2週間の時”を経て、ついに想いが通じ合ったのである!」

紅莉栖「ちょ、声大きい!外に聞こえちゃうから!」///

岡部「まゆり!ラボメン各員へ召集メールの送信を命ずる!」

まゆり「イエッサー!」

紅莉栖「な、何をする気?」

岡部「フゥーハハハ!我等の関係をラボメンに見せ付けてやるのだ!」

紅莉栖「なっ!ちょ、まゆり!メールは送らないで!」

まゆり「もう送っちゃったー♪」

紅莉栖「な、なにをする、きさまらー!」


岡部「なお これより本作戦を”オペレーション・フレイヤ”と命名する!」

-fin-

おつ

岡部「・・・」

紅莉栖「・・・」

岡部「・・・」

紅莉栖「・・・」ペラリ

岡部「・・・」チラッ

紅莉栖「・・・」

岡部「・・・なぁ、紅莉栖」

紅莉栖「・・・」ペラリ

岡部「・・・あの、紅莉栖さん」

紅莉栖「・・・」

岡部「・・・牧瀬紅莉栖さん、応答願えますでしょうか」

紅莉栖「何?」

岡部「・・・やはり、怒ってらっしゃいます?」

紅莉栖「別に」

岡部「ど、どうみても不機嫌なようにお見受けするのですが」

紅莉栖「怒ってない」

岡部「・・・まあ無理もない。正直すまんかった」

紅莉栖「・・・恨むからな」

岡部「完全に舞い上がっていた。冷静に考えたら、あれはないな」

紅莉栖「・・・もう、恥ずかしくて死ぬかと思った」

岡部「ダルのドス黒いオーラに呪い殺されるかと思った」

紅莉栖「ああもう、あのオペレーション何だかの日は思い出したくない」

岡部「・・・本当にすまない」

紅莉栖「だから怒ってないってば。謝らなくていい」

岡部「いや、だがしかし・・・」

紅莉栖「本当に怒ってたら・・・ラボには来てないわよ」

岡部「耳、真っ赤だぞ」

紅莉栖「う、うるさい、こっち見んな」///

紅莉栖「怒ってないけど、許して欲しいのなら条件を提示する」

岡部「ゴクリ・・・!」

正座する俺を冷たい目で見下ろしていた紅莉栖が、恥ずかしげに微笑む。

紅莉栖「・・・買い物行きたいから、付き合って」

岡部「・・・フッ、わかった。お詫びに何でも欲しい物を買ってやろうではないか」

紅莉栖「あんた、貯金しないの?」

岡部「1日1回財布の中身を見てニヤリとする。いい気分だぞ」

紅莉栖「貧乏学生が大金を掴むとこんなことになるのね」

岡部「失礼な。彼女にプレゼントを買ってあげる素敵な彼氏と


玄関から小さくノックの音がする。

入室時にノックをするという礼儀の備わったラボメンは地球上には存在しない。

ミスターブラウンのノックはこんなかわいいものではない。

―――この二つの真実から導き出される答え―――


来客だ。

お?

岡部「はい」

30代ほどであろうか。すらりと背の高い女性だった。

麦わら帽子で遮られ、表情は読み取れない。


「へえ、高層ビルの1フロアね」

岡部「えーと、どちら様でしょうか?」

「何よ、呼んだのはそっちじゃない」

聞きなれない、いや、聞いたことが無いわけでもないような声。


岡部「・・・誰だ?」

紅莉栖「どうしたの?」

奥から紅莉栖が顔を出す。

「あら、もしかしていいところを邪魔しちゃったかしら?」

紅莉栖「ふぇ・・・な、何ですか、いきなり」

「けっこう探したのよ。大きなビルを中心にね」

岡部「探したって、俺をか?」

「ええ、でも途中で気付いたの。460円しか持ってない大学生がそんなビルにいるわけがないってね」

岡部「・・・! ま、まさか・・・」

紅莉栖「嘘・・・!」



―――その内、もう一つだけ小さな奇跡をご覧に入れようぞ―――



麦藁帽子を脱ぐと、青みがかった長い髪が姿を現す。

そして、少女のようなあどけない笑顔を見せた。




「岡部、牧瀬、お久しぶりなのですよ、にぱー☆」



-fin-

SS投稿5作目「祭囃子のフォースドムーヴ」終了。
5作目にして始めてツンデレ紅莉栖を書いた。

これの続き?となる、鈴羽in雛見沢というゆかりんパラダイスを構築中。
公開は某所。

これは良SS

ちなみに天の声はフェザリーヌさんとベルンカステル
原作やらないとフェザリーヌさんわかんないよね

ついでに無線機を盗られたのは天草十三



いやー書いてて楽しかった
少しでも今日という日を楽しく過ごしてもらえたのなら幸いです。

ノシ!!!

あ、ID:dgNkufTZOも保守乙!

今までのは某投稿サイトにあるから、興味ある人は探してみてね
胸焼けするくらいオカクリだから

乙カレー

毎度毎度作戦名が凝っていて感心する

http://www.pixiv.net/member.php?id=990073
はい、某所貼っちゃうのです♪

>>596
なっ!何をするだァーッ!

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