ヒカル「塔矢、おまえって好きな人とかいるの?」(480)

塔矢「どうしたんだ進藤?突然そんなこと聞くなんて…」

ヒカル「いやあ、和谷がさあ…」

塔矢「和谷?」

ヒカル「あっ、お前は知らなかったか。俺と一緒にプロ試験合格した…」

塔矢「ああ、彼か。その和谷くんが何か言ったのか?」

ヒカル「うん。お前ももういい年なんだから気になってる女の一人や
    二人いるだろって」

塔矢「ふうん…確かに言われてみれば僕たちも16だし、そういう年頃
   なのかもしれないな」

ヒカル「だろ?」

塔矢「でも気になる女の子と言われても、今まで囲碁一色だったし…」

塔矢「だいたい頭の中は碁ばっかりで女の子のことなんか考えた事も
   なかった」

ヒカル「お前ってば本当碁ばっかりだよな」

塔矢「それはキミだって同じだろう?僕だけそういう風に言うのは
   止めてくれないか?」

ヒカル「お、俺は違うぞ!碁だって始めたのは小6からだったし、碁
    以外もちゃんと人生謳歌してらあ!」

塔矢「ふっ、どうだか!」

ヒカル「あっ、てめえ!」

塔矢「いや、言わせてもらう。キミだって碁漬けの人生じゃないか!
   僕がキミをライバルと認めた時、すでにキミの頭のなかは碁しか
   なかった!違うか?」

ヒカル「う…」

塔矢「ふふん!言い返せないだろう」

ヒカル「は、はんっ!でもそれでもおまえよりは碁以外の遊びはやってるぜ!」

塔矢「なんだと!?」

ヒカル「小学校のときはスポーツ大好きだったし、サッカーでも野球でも
    活躍してたんだ!それにカラオケだって行ったことあるんだぞ!」

塔矢「カ、カラオケ!?あの若い人たちが思い思いに有名歌手の歌を歌って
   楽しむというあのカラオケか!?」

ヒカル「お、おう…」

塔矢(な、なんてことだ…僕でさえカラオケに行ったことないっていうのに…)

塔矢「……」グッ

ヒカル「塔矢?」

塔矢「進藤!」キッ

ヒカル「な、なんだよ?」

塔矢「僕と一緒にカラオケに行かないか?今から!」

ヒカル「ええっ!?」

塔矢「僕はカラオケに行ったことがないんだ!頼む、進藤!」ガシッ

ヒカル「ちょ、お、落ち着け塔矢!」

塔矢「はっ!?す、すまない……取り乱した」

ヒカル「ふぅ…」

塔矢「でもこんなこと頼めるのはキミだけなんだ!頼む!」

ヒカル(こいつ、一緒にカラオケ行く奴もいないとかどんだけ
    友達少ないんだよ…)

ヒカル「まあ、行っても良いけどさ。別に…」

塔矢「ほ、本当か!?」パァァァァ

ヒカル「あ、ああ」

ヒカル(カラオケ行くだけでどんだけ嬉しいんだ、こいつは)

塔矢「よし!じゃあそうと決まれば早速行こう!カラオケ屋というのは
   ドコに行けばあるんだ?」ダッ

ヒカル「ああぁぁ~~~!ちょっと落ち着けよ!男二人で行っても楽しく
    ねえだろ!」

塔矢「え…?」

ヒカル「いやだからさ、カラオケとか男二人で行くもんじゃねーだろって…」

塔矢「そう……なのか?」

ヒカル「そういうもんなんだよ!」

塔矢「そ、そうだったのか。すまない」ピタッ

ヒカル「ふう…」

塔矢「しかしどうするんだ?男二人で行くのが変だとすると、どうやって
   カラオケ屋に…」

ヒカル(こいつの頭、どんだけカラオケでいっぱいなんだよ…)

ヒカル「そりゃ他にも人呼ぶしかないだろ。誰か一緒にカラオケ行ってくれそうな
    人とか心当たりねーの?」

塔矢「そうだな。父さん……は今中国にいるし後は…」

ヒカル「ぶほっ!?」

塔矢「ん?どうした進藤?」

ヒカル「げほげほ!い、いくらなんでも塔矢名人をカラオケに連れてくのは
    勘弁してくれ!」

塔矢「そうか?父さんなら居たら一緒に行ってくれたかもしれないんだが…」

ヒカル(んなの連れてこられたら、こっちが緊張しまくるじゃねーか!)

ヒカル「そういう大御所じゃなくてさあ!もっと他にもいるだろ、いっぱい!」

塔矢「む……そうだな。後は緒方さんとか芦原さんとか…」

ヒカル「わっかんねー奴だな!だからそういうのじゃなくて、もっと若手
    を例に出せよ!」

塔矢「なっ!そんな怒らなくても良いじゃないか!こっちはカラオケは素人
   なんだぞ!ちょっと位優しくしてくれても良いだろう!?」

ヒカル(カラオケの素人ってなんだよ…)

ヒカル「ああもう!分かったよ!俺が何人か頼んでみるからお前はそこで
    じっとしてろ!」

ヒカル「間違っても高段者にカラオケ行こう!とか電話すんなよ!」

塔矢「う…」

ヒカル「ったく……」

ガチャ

ヒカル(……とは言ったものの俺も院生に入った頃から碁しかやってねーしな。
    カラオケなんか誘ってもみんな行くかな?)

ヒカル「……」

ヒカル「と、とりあえず和谷に電話してみっか」

PrrrrrPrrrrr

ガチャ

和谷「もしもーし」

ヒカル「あっ、和谷?」

和谷「どーしたんだよ進藤?」

ヒカル「あのさあ、今日暇だったりする?」

和谷「あん?」

ヒカル「いや、久し振りにカラオケとか行たくなっちゃったり
    したんだよね、俺」

ヒカル「で、他に行きそうな人とかいねーかなーなんて…」

和谷「お前、カラオケの為に電話してきたのかよ…」

ヒカル「ご、ごめん」

和谷「ま、良いけどさ。俺無理だぜ。今愛知にいるから」

ヒカル「えっ?」

和谷「ちょっとイベントでの指導碁の仕事頼まれちゃってさ」

ヒカル「そ、そうだったんだ…」

和谷「というより、先週おまえにも言ったろ?今週の俺の部屋の研究会は
   ないって」

ヒカル「あ……そ、そうだった」

和谷「しっかりしろよな!んじゃ」

ヒカル「あ、ああ…」

ピッ

ヒカル「……」

塔矢「どうだった、進藤?」キラキラ

ヒカル「!?」

塔矢「人数は集まったのか?何人くらいなんだ!?自己紹介の練習とか
   必要かな!?」キラキラ

ヒカル(うわぁ…)

ヒカル「いや、ごめん。今愛知にいるから無理だって…」

塔矢「なんだって!?」

ヒカル「イベントで指導碁があるからってさ」

塔矢「くそう!なら今から僕たちも愛知に向かおう!そしてそのまま
   カラオケに!」

ヒカル「ちょ、カラオケ行くために愛知までって、それはねーよ!」

塔矢「じゃあどうすればいいんだ!」ダンッ

ヒカル「塔矢…」

塔矢「僕は、僕はカラオケにも行けないのか!」

ヒカル「……」

ヒカル「しゃーねーな」スッ

塔矢「進藤!?」

ヒカル「今から一応あかりにも電話してみるよ。ちょっと待ってろ」

塔矢「ありがとう!ありがとう!」

ヒカル「……やれやれ。でも期待はすんなよ?あいつ高校行ってるからな」

塔矢「ああ!」


PrrrrrPrrrrrr ガチャ

あかり「もしもし、ヒカル?」

ヒカル「よう、久し振り」

あかり「どうしたのこんな時間に?対局はもう終わったの?」

ヒカル「あ、ああ。まあな」

塔矢「……」ジー

あかり「ふうん、そうなんだ。勝った?」

ヒカル「いや、負けたよ」

あかり「そうなんだ。相手は、塔矢くんだったよね?」

ヒカル「ああ」

あかり「で、どうしたの?もしかして塔矢くんに負けて悔しかったから
    慰めて欲しいとか?」

ヒカル「そ、そんなとこかな!」

あかり「えぇっ!?」

ヒカル「ちょ、そんなに驚くことじゃねーだろ?」

あかり「え、でも、意外だったから…」

ヒカル「そうかあ?」

あかり「…うん」

あかり「そ、それで。あたしは何したらヒカルを慰められるのかな?」

ヒカル「そうだな……カラオケとか?」

あかり「カ、カラオケ?」

ヒカル「う、うん。なんか負けたせいかなんなのかしんねーけど、
    無性に歌いてーんだ」

あかり「ふーん?」

ヒカル「でも一人で歌っても気ぃ晴れそうにねえし、お前と一緒に
    歌えたら少しは気分も落ち着くかなって思ってさ…」

あかり「……」

ヒカル「あかり?」

あかり「あっ、ご、ごめん!ちょっと考え事してた!」

ヒカル「おいおい大丈夫かあ?」

あかり「へ、平気!それでどこ行けばいいかな?」

ヒカル「そうだな。じゃあ……」


5分後


ヒカル「ふう…」

塔矢「どうだった進藤!?」

ヒカル「ん、オーケーだってさ」

塔矢「いやったぁぁぁぁぁ!!!」バッ

ヒカル「バッ、こんなトコで騒ぐな!みんな見てるから!」

ヒソヒソ クスクス

塔矢「!?」

塔矢「す、すまない…」シュン

ヒカル「まあいいや、出ようぜ」

塔矢「ああ、それでどこで歌うんだ?」

ヒカル「うちの近所のカラオケ屋さん。あかりのヤツもちょうど帰ってる
    とこだったし、店の前で合流しようってさ」

塔矢「そうか」

ヒカル「なに、緊張してんのお前?」

塔矢「なっ!僕を誰だと思ってるんだ!?たとえカラオケ屋に来るのが
   どんな相手だろうと怖気づいたりはしない!」

ヒソヒソ クスクス

ヒカル「あ、ああ。そう…」

ヒカル(やべえ、恥ずかしくなってきた)

塔矢「さあ行くぞ、進藤!カラオケが僕等を待っている!」ダッ

ヒカル「お、おい!」

ガラッ プシュー

奈瀬「ん?」

ヒカル「あ…」

奈瀬「あら、進藤じゃない。棋院の前で何してんのよ」

ヒカル「な、奈瀬こそ」

奈瀬「あたしはちょっと師匠に用事が…」

ヒカル「ふーん?」

塔矢「おい進藤。さっきから話しているが、この人は?」

奈瀬「え……と。塔矢……くん?」

ヒカル「ああ、悪い。院生仲間の奈瀬だよ」

塔矢「なるほど。初めまして、奈瀬さん」ペコッ

奈瀬「あっ、いえ。こちらこそ?」ペコリ

ヒカル「!」ピコーン

ヒカル「そうだ!奈瀬さ、今ヒマ?」

奈瀬「えっ、だから師匠にちょっと…」

ヒカル「それって碁の話だよな?」

奈瀬「ま、まあうん」

ヒカル「じゃあその話は俺達が引きうけても良いワケだ!」

奈瀬「え、ええぇっ!?」

塔矢「! 進藤!まさか!」

進藤「ああ!奈瀬!俺達と一緒にカラオケに行かない?」

奈瀬「カ、カラオケェ!?」

進藤「ああ、今人数が揃わなくて困ってたんだ!頼むよ!」

奈瀬「いや、だから…」

進藤「師匠に教わらなくても指導碁なら任せとけって!」

奈瀬「え?」

進藤「なんせこっちには塔矢もいるんだ!カラオケ終わったら何局でも
   付き合うからさ!なっ?」

奈瀬「い、いやでも…」

塔矢「奈瀬さん……ここで会ったのも何かの縁でしょう」

塔矢「いっしょにカラオケに行きませんか?」キラッ

奈瀬(本当は自分の力に限界感じて院生やめる旨伝えに来たんだけど…)

進藤「塔矢!おまえ今最高に輝いてるぜ!」

塔矢「ふふふ」キラッ

奈瀬(なんだかこの二人見てたらそんな気分じゃなくなっちゃったかなあ?)

奈瀬(うーん…)

ヒカル「なあ、行こうぜ奈瀬!たまには囲碁から離れて気分転換するのも
    悪くねえだろ?」

塔矢「奈瀬さん!」

奈瀬「うーん…ま、いっか」

ヒカル「ほ、ホントか!?」

奈瀬「ま、今回だけね」

塔矢「いやったああああああああああああああ!!!!」ダッ

奈瀬「ちょ、えぇっ!?なにこのテンション!?」

ヒカル「やったな塔矢!」

塔矢「ああ!」

奈瀬「……」

ヤッター ワーワー

奈瀬「まったく……」

奈瀬「でも、たまにはいっか。こういうのも」

そしてカラオケ屋。


あかり「ねえ、ヒカル」

ヒカル「な、なんだよ。あかり。そんな怖い顔して…」

あかり「塔矢くんに負けて、慰めて欲しいからあたしを
    呼んだんじゃないの?」

ヒカル「そ、そうだけど?」

あかり「じゃあなんで塔矢くんがいるのよ!あと知らない女の子もっ!」

ヒカル「え、えーと……成り行き、かな?」

あかり「成り行き~?」ギリギリギリ

ヒカル(あ、あかりの奴なんでこんな怒ってんだ?俺なにか不味ったか~?)

塔矢「おい進藤!マイクの持ち方はこれで変じゃないか?」

ヒカル(こいつはこいつで良く分からんこと聞いてくるし…)

奈瀬「ふーん、進藤ってば囲碁のことしか頭にないと思ってたら、
   こんな可愛い女の子の知り合いがいたんだ」ピキピキピキ

奈瀬(なによ!あたしなんかこんなに頑張ってもプロになれない
   のに、進藤は楽にプロになっただけじゃなくて囲碁以外もちゃんと…。
   なんなの、この差は!?)

ヒカル(奈瀬もなんか機嫌悪いし…正直帰りてぇ…)

あかり「ちょっとヒカル、聞いてる?」

ヒカル「き、聞いてるって!」

あかり「じゃあどういう事なのかきちんと説明してほしいんだけど!」

ヒカル「いや、だからこれはさぁ…」

奈瀬「……」

奈瀬「ねえ、あかりちゃんだっけ」

あかり「へ?」

奈瀬「あなた、進藤の彼女なの?」

あかり「えぇっ!?」

あかり「な、なんであたしがヒカルとっ!」

奈瀬「それ」

あかり「?」

奈瀬「さっきから進藤のことヒカルって呼んでるじゃない。それって
   付き合ってるからよね?」

あかり「ち、違います!あたしとヒカルは幼稚園からの幼馴染で!」

奈瀬「ふーん。それで幼馴染って理由で進藤と毎晩遊んでるんだ」

あかり「あ、遊んでなんかないです!だ、だいたいヒカルと会うのも
    久し振りだし!」

奈瀬「そうなの、進藤?」

ヒカル「あ、ああ」

ヒカル(急に俺に話ふらないでよ)

奈瀬「ふーん…」

あかり「な、何が言いたいんです?」

奈瀬「べっつにー?」

あかり「むむむ…」

ヒカル「ふ、二人ともどうしたんだよ?機嫌直そうぜ、なっ?」

塔矢「おい進藤!マイクの持ち方はこれで合ってるのか!?」

ヒカル「お前はさっきからそればっかりじゃねーか!」グアッ

奈瀬(どー見ても、このあかりちゃんって子は進藤の彼女よね。
   彼女じゃなくても絶対進藤のこと気になってる。女の勘が
   そう言ってる!)

あかり(なによこの奈瀬って人、さっきからこっちばっかりジロジロ見て。
    そんなにあたしが気にいらないの!?会ったばっかりなのに感じ悪い。
    というより、あたしが何したってのよ?なんでそんなに睨んでくるの?)

あかり(…………!!!)

あかり(もしかして、この人ヒカルの彼女!?)

あかり(そ、そんな筈ないよね。だってヒカルは囲碁のこと以外
    頭になんかないもん…)

あかり(でも、だったら…)

奈瀬(なんか、こんな可愛い彼女もいてプロになった進藤がちょっと
   ムカつくかも……あたしなんか普通の子とデートに行っても
   すぐ振られるのに!)

奈瀬(…………よーし、ちょっと意地悪しちゃお)

奈瀬「ねえ、進藤…」

ヒカル「今度はなに?」

奈瀬「進藤ってあたしと対局してた時、いっつも胸ばっかり見てたよね」

ヒカル「ぶはっ!?」

あかり「!?」

ヒカル「げほっ、げほっ!?な、奈瀬!?」

奈瀬「ねっ☆」ニコッ

ヒカル「え、えぇぇぇぇっ!?」

あかり「ヒカル~?どういうこと~?」ピキピキピキ

ヒカル「え?いや?あの…えぇっ!?」

奈瀬「ま、あたしも進藤にだったら見られても悪い感じしなかったし
   別に良かったんだけどさ」

あかり「な…!?」

奈瀬「でも、あんなに見つめられたらあたしもちょっと恥ずかしかったよ?」

あかり「ヒカルぅ~~~?」ピキピキピキ

ヒカル「お、俺見てねーよ!?見てねーって!」

奈瀬「えぇ~?今でも毎週胸ばっかり見てるじゃない?」

あかり「!?」ビキッ!

あかり「ま、毎週?」

奈瀬「あれ、進藤ってば、あかりちゃんには言ってなかったの?
   毎週あたしと碁を打ってるって」

ヒカル「そ、それは…」

あかり「どういうこと、ヒカル?」

あかり「あたしには内緒で毎週この奈瀬って人と碁を打ってたの?」

ヒカル「い、いや。毎週じゃ…」

奈瀬「毎週だよ?」ニコッ

ヒカル「な、奈瀬!?」

あかり「ヒカルってあたしの高校にはまだ来てくれたことないし、
    あたしにも打ってくれた事なんてほとんどないよね?」

ヒカル「あ、あのな。あかり?奈瀬とは和谷のアパートでいっしょに研究…」

あかり「!?」

あかり「ア、アパート?アパートで二人で?」フルフル

ヒカル「ふ、二人じゃねーから!他にもたくさん人は…」

奈瀬「でもこの前はみんなが帰った後もあたし達だけ残ってたよね?」ニコッ

ヒカル「わ、和谷はいたろ?」

奈瀬「でも買出しのときは二人っきりだったでしょ」

ヒカル「そ、そりゃあそうだったけどさ。でも…」

あかり「!?」ビキッ!

あかり「ふーん、そうなんだ。ヒカルってばあたしの知らないトコで
    そんなに楽しんでたんだ…」ビキビキビキ

ヒカル「あ、あかり?」

あかり「ふーん、へー…」ビキビキ

ヒカル「あかり、さん?」

奈瀬「ふふん!」バチバチバチ

あかり「む!」バチバチバチ

ヒカル「……」ゴクッ

塔矢「HEY!HEY!HO~♪」

ヒカル(うるせえ、塔矢!黙ってろ!)

あかり「すー、ふー……」ピタッ

ヒカル「……」

あかり「ねえ、ヒカル?」ニコッ

ヒカル「は、はいっ!」

あかり「ヒカルは別に奈瀬さんとは付き合ってないんだよね?」ニコニコ

ヒカル「あ、ああ!付き合ってなんか、ないぜ?」

あかり「だよね~」ニコニコ

奈瀬「でもあかりちゃんとも付き合ってはないんだよね~?」ニコニコ

ヒカル「あ、ああ」

あかり「……む!」

奈瀬「ふふふっ」ニコニコニコ

奈瀬「でもさ~、進藤ももう16だし彼女くらい欲しいとかって
   思ったりするわよね?」

ヒカル「いや、俺は別に……」

奈瀬「……」ズゴゴゴゴゴゴゴゴ

あかり「……」ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

ヒカル(な、何故かここは『うん』と答えなきゃいけない気が…そうじゃないと詰む?)

あかり「どうなの、ヒカル?」ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

ヒカル「う、うん。そーいえば、そろそろ欲しいかな―なんて…」

奈瀬・あかり「「だよね~~~♪」」ニコニコニコ

ヒカル(うっ…)

奈瀬「で、彼女にするならやっぱりちょっと大人っぽいお姉さんが
   いいわよね?」グイッ

ヒカル「わっ、とととと?」

あかり「えぇ~、ヒカルはやっぱり同い年の子のほうが良いよね?」グイッ

ヒカル「わわわっ?」

奈瀬「そうかな~?胸ばっかり見てる進藤はやっぱりお姉さん好きだよね?」グイッ

ヒカル「ちょ?」

あかり「む、胸なんかそのうち大っきくなるから関係ないもん」グイッ

ヒカル「ぐえっ」

奈瀬「そんなことないと思うけどな~」チラッ

あかり「ふ、ふんっ!大きければ良いってもんじゃないですよ!」

あかり「大きすぎたら形崩れやすいし、それにその内垂れて来るし!」

奈瀬「自分が小さいからって胸が大きい人けなしちゃいけないと思うな~、あたし」

あかり「ち、小さくないですから!」

奈瀬「だって進藤。どう思う?」

ヒカル「い、いやどう思う?って聞かれても…」

あかり「ヒカル…」ウルウル

ヒカル(どーすりゃいいんだ、俺は!?)

ヒカル(はっ!そういえば塔矢は?)チラッ

塔矢「ぼくがーいーまー、キミをーささーえるー♪」

ヒカル(まだ歌ってるし!)

奈瀬「ねえ進藤!進藤はやっぱり胸は大きい方が好きだよね?」

あかり「ヒカル…」

ヒカル(ああ、もう……誰か助けて…)

カランラン

三谷姉「お待たせしました~♪ご注文のコーラお持ちしました~」

ヒカル「あ…」

三谷姉「え?」

ヒカル「み、三谷のおねーさん?」

三谷姉「あら、進藤君じゃない」

ヒカル「お、おねえさあああああああん!!!」ガバッ

三谷姉「えっ!?えぇぇっ!?ちょ、どうしたの?」

塔矢「ああ、僕が先程注文したコーラが届いたようだね」スッ

塔矢「『僕が注文した!』」キーン!

ヒカル(塔矢がなんか言ってるけどどーでもいいや)

ヒカル(それより三谷のおねーさん、ネットカフェのバイトやめたと思ったら
    こんなトコで働いてたんだ…)

ヒカル(たすかった~~~~♪)

三谷姉「し、進藤くん!?どうしたのよ?」

ヒカル「あ、ああゴメンなさい。今ちょっとヤバい空気だったから…」

三谷姉「やばい空気って……もしかして後ろの二人のこと?」

ヒカル「え?」クルッ

あかり「ヒカル~~~?」ズゴゴゴゴゴゴゴゴ

奈瀬「進藤ぉぉぉ~~~~?」ズゴゴゴゴゴゴ

あかり・奈瀬「「いったいどういう事なのっ!?」」

ヒカル「ひいっ!?」

奈瀬「ちょっと進藤!誰なの、その人?」

あかり「ヒカル!囲碁の勉強毎日してるって聞いてたのに、いったい
    ドコで知り合ったの?」

三谷姉(うわぁ……修羅場ってやつ?)

ヒカル「ふ、二人ともちょっと落ち着いて…」

塔矢「そうだよ。せっかく僕がコーラを頼んだんだからここは一つ…」

あかり・奈瀬「「あなたはちょっと黙ってて!」」

塔矢「は、はい…」シュン

あかり「ねえ、ヒカル?」

奈瀬「ちゃんと答えないと、あとが怖いわよ?」

ヒカル「あ、あの、この人はあかりも知ってると思うけど三谷のおねーさんで…
    別に俺はなにも…」ブルブルブル

あかり「ヒカル!」

ヒカル「は、はいっ!」ビクッ

奈瀬「あたし達が聞いてるのはその人が誰かって事じゃなくて、その人と
   どういう関係なのかって聞いてるの。分かってるわよね?」

ヒカル「だ、だから別に俺は三谷のおねーさんとは何も…」

あかり「それ、本当?」

ヒカル「ほ、本当だって!」

ヒカル「ね、ねえ?そうですよね?」

三谷姉「えぇっ!?それあたしに振るの?」

あかり・奈瀬「……」ジー

三谷姉「う、うん。そ、そうよ。あたしと進藤君は別にそんな関係じゃないから
    安心して二人とも」タラッ

奈瀬「信じて良いんですよね?」

三谷姉「も、もちろん!進藤君とは昔バイト先で(ネット碁のやり方とか)
    色々教えてあげただけで…」

あかり「い、いろいろ教えてあげったってなに教えたんですか!?」

三谷姉「そ、それはネット碁を…」

奈瀬「碁って……進藤はプロなんですよ?失礼ですけどあなたに
   進藤を教えられるようには…」

あかり「!?」ガタッ

あかり「じゃ、じゃあバイト先でヒカルが教わったのって…」フルフル

三谷姉「あの…二人とも?」

ヒカル「お、おいおい。それは誤解、あのときの俺はパソコ…」

あかり「ひ、ヒカルのバカッ!いったいなに教わったのよ!」

ヒカル「いぃっ!?」

ヒカル「お、落ち着けってあかり!だから俺はネット碁を…」

あかり「だ、騙されないんだからっ!ヒカルが碁強いのあたしが一番知ってるもん!
    ネット碁なんか教わるはずないじゃない!」

ヒカル「そーじゃなくてパソコンの使い方…」

三谷姉(これは巻き込まれないうちに退散したほうが良さそうね…)

三谷姉(進藤くん、悪いけどあと頑張って…)コソコソ

奈瀬「あぁっ!?いつの間にかあの人いないわよ!」

ヒカル「!?」

あかり「や、やっぱり……やっぱりそうだったんじゃない!」

ヒカル「あ、あのなぁ…」

あかり「しょーじきに言ってヒカル?三谷君のおねーさんとはどういう関係なの?」

ヒカル「だから何でもねえって…信じてくれよ」

奈瀬「じゃあなんでその三谷君のおねーさんとやらは勝手に居なくなったのよ?」

ヒカル「そんなのこっちが聞きてーよ…」

奈瀬「なにかやましい事でもあったんじゃないの?」

あかり「や、やましいこと?」ドキドキ

奈瀬「例えば……」

あかり「ゴクッ」ドキドキ

奈瀬「せっ…」

塔矢「ちょっと待ってくれないか?」

あかり「えぇっ!?」コテッ

ヒカル「な、なんだよ塔矢?」

塔矢「進藤……さっきネット碁という単語が聞こえたんだが、僕の
   気のせいではないよな?」

ヒカル「ん?そうだけど…」

塔矢「キミはネット碁をしていたのかい?」

ヒカル「ああ、してたよ。だからさっきの三谷のおねーさんに習ったって
    言ってるじゃないか」

あかり「うそつき!」

奈瀬「あたし達は騙されないわよ!」

ヒカル「だからぁ…」

塔矢「いつだ?」

ヒカル「え?」

塔矢「キミはいつ、ネット碁をしていたんだ?」

ヒカル「いつって……確かあれは中一の夏……」

塔矢「中一の夏?僕がプロになった年の?」

ヒカル「そうだよ!それがどうし……」

ヒカル(あっ!?)

塔矢「その年、ネットにはsaiという打ち手がいた…」

塔矢「進藤、キミはsaiという名を知っているか?」

ヒカル「し、しらねーよ!あの時も言ったろ!」

塔矢「でもキミは今、はっきりとネット碁をしていると言った」

ヒカル「お、俺がネット碁しちゃいけねーってのかよ?」

塔矢「そうは言っていない」

塔矢「でも碁打ちなら、ネット碁でsaiを知らないはずがない!」

ヒカル「!?」ビクッ

塔矢「進藤!キミはあのときsaiを知らないと言ったが」

ヒカル「……」ゴクッ

塔矢「本当は知っていたんじゃないのか?」

塔矢「というよりも、saiはやはり……」

ヒカル「だぁぁぁぁぁぁぁ!違うって!俺じゃないってば!」

塔矢「なら何故、僕がキミの中にsaiの碁を見たと言った時、
   僕にはいつか言うかもしれないと言ったんだ?」

ヒカル「それは…」

塔矢「進藤!」

ヒカル「…………」グッ

ヒカル「言ったろ?お前にはいつか言うかもしれないって」

塔矢「ああ」

ヒカル「でも、今はまだ言えない」

ヒカル(俺はまだ佐為ほど上手く打てない…けど……)

ヒカル「けど、いつかきっと言える日が来るから…だから…」

塔矢「それまで待てと?」

ヒカル「そうだ」

ヒカル(俺が佐為に追いついたと思うまで…いや、自分で自分を納得できる程の
    腕前になるまで…)

ヒカル「頼む」

塔矢「…………」

ヒカル「お前は納得出来ないかもしれないけど……頼むよ」

塔矢「いや、分かった」

ヒカル「塔矢…」

塔矢「すまない。ネット碁と聞いて少し興奮してしまったみたいだ」

塔矢「確かにキミの言う通りだ。知りたくて仕方ないけど、無理矢理
   聞くのも良くない」

ヒカル「……」

塔矢「だから、キミが話したくなった時まで待つよ」

ヒカル「……サンキュ」

塔矢「……ああ」

シーン

あかり「……」

奈瀬「……」

ヒカル「……」

塔矢「……」

4人(あ、あれ?なにこの空気?)

ヒカル(俺達ってカラオケしに来たんだよな?)

あかり(な、なんかさっきの続き聞きにくい雰囲気に…)

奈瀬(というより、話をするのもちょっと、みたいな空気が…)

塔矢(歌ってもいいんだろうか?)

塔矢(し、しかし多分この空気にしてしまったのは僕なんだろうし、
   ここで空気を読まずに突然歌い出すのもオカシイか…どうしよう)

ヒカル(やっべー。塔矢のおかげであかりと奈瀬の質問からは回避できたけど
    これはこれですっげー息が詰まる…)

あかり(結局ヒカルって三谷君のおねーさんから何を習ったのかしら。
    やっぱりあれ?アレなの?)ドキドキ

奈瀬(あーあ、何やってんだろあたし。ちょっと意地悪するだけの
   はずだったのに……大人げない)

奈瀬(でもなんか負けたくなかったのよね。なんでだろ…)

奈瀬(もしかしてあたし進藤のこと本気で……)

奈瀬(ないない!年下よ、年下?いくら最近ちょっと大人っぽく
   なったからって……)チラッ

ヒカル「……ん?」

奈瀬「!」ドキッ

奈瀬(な、ないって!だいいち、進藤にはあかりちゃんって可愛い
   彼女がいるじゃない!)ブンブン

奈瀬(……って、まだ彼女じゃなかったっけ)

奈瀬(…………そっか、そうだよね)

奈瀬(…………え?)ドキドキ

あかり(うぅぅぅぅ……)

あかり(なんかさっきから奈瀬さんがヒカルの方チラチラ見てるよぉ…)

あかり(なんなんのよ、も~…)

あかり(も、もしかして、三谷君のおねーさんがヒカルに教えてたモノが
    分かったとか?)

あかり(そう言えばさっき言おうとしてたもんね。確か、せっ……せっ……)

あかり「…………」

あかり「!!!」ボン!

ヒカル「!?」ビクッ

あかり「」プシュー

ヒカル(なんかさっきから視線を感じる)

塔矢「……」チラッ

ヒカル(いや、お前まで視線送らなくていいから早くなんとかしてくれ)

ヒカル(まあ、こいつに何とかしろってのも無理な話か。でも…)

あかり・奈瀬「……」ジー

ヒカル(痛ぇ、視線が痛ぇ。一刻も早くこの場から抜け出したい)

ヒカル(こんなプレッシャー、高段者との対局でも味わったことねえよ)

ヒカル(はあ、誰か助けてくんねえかな…こんなとき佐為がいてくれたら……無理か)

塔矢(前略、お父さん)

塔矢(僕は今、進藤とその友人達とカラオケに来ています)

塔矢(ですが僕の先走った言動により、部屋の中はすでにお通夜状態です)

塔矢(僕はどうすればいいのか皆目見当がつきません)

塔矢(やはり僕には囲碁以外の才能がまるでないのでしょうか?)

塔矢(もし出来る事があるなら試してみたいのですが…)

塔矢(でも試したら試したでさらにドツボにはまりそうな予感もします)

塔矢(お父さんならこんな時どういう一手を指し示すのでしょうか?)

塔矢(お父さんっ!)

その頃、モニター室


三谷姉「うっわぁ…」

バイト「この子たちカラオケに何しに来たんだろ?」

三谷姉「あぁ~多分アレよ。青春ってやつ」

バイト「ふーん。それってあんたも入ってるの?」

三谷姉「あ、あたしは違うって!なんで弟の友達寝取らなきゃいけないのよ!」

バイト「寝取る?」

三谷姉「あ、違う違う!違うって!」ブンブン

バイト「まあいいけど?」

三谷姉「それよりなんだか可哀想だし、適当に理由つけて出しちゃおーよ!」

バイト「いーの?」

三谷姉「いいの、いいの♪店長いないし」

三谷姉(たぶん修羅場が激化したのあたしの所為っぽいし…うん)

バイト「まあ、あんたの知り合いみたいだしあたしは別にいいけど」

三谷姉「ありがとっ!あんたのそういうトコあたし好き~」

バイト「はいはい。それじゃ部屋に連絡しとくから」

三谷姉「うん。じゃ適当によろしくぅ」

バイト「あんたはどうすんの?」

三谷姉「あたしは隠れてるっ♪」

バイト「……」

三谷姉「♪」コソコソ

バイト「はぁ…」

そして。


PrrrrrPrrrrrr


ヒカル「はい」

「申し訳ありませんが只今の時間大変込み合っておりまして一部屋
 二時間までとなっておりまして……大変申し訳ないのですが出て
 頂いてもよろしいでしょうか?」

ヒカル「えっ!?そうだったんですか?」

「はい。お客様には大変ご迷惑をおかけしますが…」

ヒカル「い、いえっ良いです!もう歌わないんでっ!」

「そうですか。ではフロントまで…」

ヒカル「はーい」

ヒカル(た、助かったぁ…)ホッ

ガチャ

塔矢「進藤…」

ヒカル「みんな聞いてくれ」クルッ

奈瀬「?」

ヒカル「どうやらこの時間混んでるみたいでさ。もう出なくちゃ
    いけないっぽいんだ」

塔矢「なんだって!?」

ヒカル「つーわけで、今日はこれで解散っ!という方向で」

ヒカル「良いよな?あかりも」

あかり「ほえ…?」

ヒカル「だから今日はこれでお開きって事で…」

あかり「?」

ヒカル「おい、聞いてるのか?」

あかり「え……ヒカルが三谷のおねーさんにあんなことやこんなこと
    習ったって!?」

ヒカル「はあ?」

あかり「ヒカルのバカッ!」

ヒカル「お、おい。あかり!?」

あかり「バカッ!ヒカルのバカッ!」

ヒカル「あかり!しっかりしろ!」ガシッ

あかり「あ……」

ヒカル「?」

あかり「」ボンッ! シュー

ヒカル「ちょ、ちょぉ!?」

塔矢「進藤?」

ヒカル「わ、悪い。なんだかあかりの奴調子悪いみたいだ」

塔矢「そうか」

ヒカル「とりあえず俺、家まで送ってくよ。ここからだと
    そんなに遠くないし」

塔矢「ふむ」

ヒカル「なんか悪いな。せっかくカラオケ来たってのに」

塔矢「気にするな。僕はかなり歌ったし、カラオケならまた来ればいい」

ヒカル「サンキュ」

奈瀬「進藤…」

ヒカル「奈瀬…」

ヒカル「なんか、今日はごめんな?」

ヒカル「棋院で用事あったみたいなのに無理矢理誘っちゃって」

奈瀬「ううん。あたしも楽しかったし気にしないで」

ヒカル「ホント?」

奈瀬「うん」

奈瀬「それにあたしも収穫あったし♪」

ヒカル「収穫?」

奈瀬「コッチの話♪」

ヒカル「ふーん」

奈瀬「それより早く出ようよ。あかりちゃん送ってくんでしょ?」

ヒカル「ん?あ、ああ…」

奈瀬「今日の所はあかりちゃんに譲ってあげるわ。でも次はあたしの
   番だからねっ?」

ヒカル「何の話だよ?」

奈瀬「それもこっちの話!」

ヒカル「???」

ヒカル「さっきから全然分かんねーんだけど」

奈瀬「分かんなくて良いの!闘いは始まったばかりなんだから♪」

ヒカル「闘い~?」

奈瀬「そっ、闘い♪」

ヒカル「……別に誰が闘おうと文句は無いけど、またこんな空気に
    なるのだけは勘弁な?」

奈瀬「それは約束できませんっ♪」

ヒカル「……だと思った」

塔矢「ふっ、まだまだだな進藤も…」

ヒカル「てめっ、誰のせいでこんな空気になったと…」

塔矢「そんなことより進藤!」

ヒカル「あん?」

塔矢「今回僕の出番があまりなかったような気がするんだが…」

ヒカル「よし、出ようっ!出るぞ奈瀬!」ダッ

奈瀬「うんっ!」

塔矢「あっおい!進藤?話はまだ……進藤!」ダッ

それから。


あかり「う、うーん…」

ヒカル「あっ、気がついたか、あかり?」

あかり「ほえっ?ヒカル?なんで……」

ヒカル「なんでって、お前が急に倒れたりするから運んでやって
    んじゃねえか」

あかり「え?」

あかり「…………」キョロキョロ

あかり「うわわわわわわ!?」バタバタ

ヒカル「ちょ、暴れんな!落としちまう!」ヨロヨロ

あかり「ご、ごめん…」

ヒカル「ったく……」テクテク

あかり「……」

ヒカル「……」テクテク

あかり「ねえヒカル?もう降ろしてもらっても大丈夫だけど…」

ヒカル「いいよ。もうすぐソコだしこのままで」

あかり「そ、そうじゃなくて!」

ヒカル「あん?」

あかり「お、重くない?あたし…」

ヒカル「なんだ体重のこと気にしてんのか?別に大丈夫だよ、おまえを
    おんぶするくらい」

あかり「そ、そう…」

ヒカル「おう」

あかり「…………」ギュ

ヒカル「わわっ?」

あかり「ヒカルの背中、あったかい…」

ヒカル「……冬だからな。そう感じるんだろ」

あかり「ううん、違うよ」

ヒカル「?」

あかり「ヒカルの背中だから、温かいんだよ」ギュ

ヒカル「……意味分かんねー」

あかり「あたしも」

ヒカル「なんだよそれ」

あかり「でも、ヒカルの背中だから温かいって思ったんだもん」

ヒカル「……」

あかり「ねえ、ヒカル」

ヒカル「ん?」

あかり「三谷君のおねーさんとは何でもなかったんだよね?」

ヒカル「まだそれ言うのかよ?なんでもねーって!」

あかり「奈瀬さんとも?」

ヒカル「当たり前だろ!」

あかり「そっか……そうだよね」

ヒカル「そうそう!」

あかり「……」

あかり「ヒカルってさ、まだ彼女とかいないよね?」

ヒカル「今まで俺が碁ばっかりやってたのはお前が一番知ってるだろ?」

あかり「うん。知ってる…」

ヒカル「だろ?だから彼女なんか作ってる暇なんか俺には無かったって」

あかり「うん。そうだよね」

ヒカル「……多分、これからも俺の中では碁が中心だと思う。
    囲碁からは離れられねー」

あかり「うん…」

ヒカル「だから…もし彼女とか出来ても、迷惑ばっかかけるかもしんねーし、
    幸せにできるかどうかなんてのも分かんねー」

ヒカル「多分囲碁と、囲碁をやってる俺のこと本気で好きになってくれる
    人じゃねーと上手くいかないと思う」

あかり「うん…」

ヒカル「それに、まだ今はやっぱり碁のことしか考えられなくて、彼女とか
    作ろうとも思わないし…」

あかり「うん…」

ヒカル「でも、そんな俺でも良いって言ってくれる人がいたら、たぶん…」

あかり「いるよ」

ヒカル「……いるかな?」

あかり「いる。きっといる、そんな人。だから…」

あかり「だからヒカル。ヒカルはずっと――」



~~~~~~

塔矢「と、僕が進藤の後をつけて知っているのはここまでだ」

社「なんでやねん!?こっからがいっちゃんええとこやないかい!」

塔矢「残念だが僕が話せるのはここまでだ」

塔矢「この後はさらに立ち入った話になるから本人達に聞いてほしい」

倉田「え~、もっと聞かせろよ!俺はこの話が聞きたいがために今回も
   わざわざ団長に立候補した位なんだぞ!」

社「倉田さん、そないに露骨な嘘は…」

塔矢「すみません。けど流石にこれ以上は…なんせこの後…」

ヒカル「ちーっす。来たぞ~塔矢!」

社「おっ、来たぁ!?」ダッ

倉田「主役の到着だな!」ドタタタタタ

ヒカル「え?え?」

社「進藤!おまえ、幼馴染とはどうなったんや!?」

倉田「それより奈瀬の方だろ!幼馴染の話ばっかりで胸やけ気味!
   奈瀬の話を聞かせろっ!」

ヒカル「え?え?」

塔矢「すまない進藤。二人がどうしても僕たちのカラオケの話を
   聞きたいと言ったもので…」

社「あほ!自分がカラオケの話したい言うて勝手に話し始めただけやないか!」

倉田「んなことはどーでもいいから続き!ほら、進藤!」

ヒカル「塔矢!?お前まさか…」

塔矢「ああ、大丈夫。キミの話はあかりさんをおぶって帰る途中までしか
   話してないから」

ヒカル「それ、ほとんど全部じゃねーか!」

塔矢「?そんなことはないだろう。あれからキミたちは更なる修羅場に…」

ヒカル「ちょ!?なんでお前がそこまで知ってるんだ?」

塔矢「何故ってあの後もキミをずっと付けてたからね」

ヒカル「お、お前ストーカーかよ!?」

社「んな事はえーから!その後どーなったかはよ教えんかい!」

倉田「そーだそーだ!」

ヒカル「え、いや。あの……」

ヒカル「……」

ヒカル「ていっ!」ダッ

社「あっ、逃げた!?」

倉田「待て、進藤!」ダッ

ヒカル「んな事言ったって!?」

塔矢「そうだぞ進藤、そろそろ皆に発表する頃じゃないのか?いいかげん
   覚悟を決めろ!」

ヒカル「も、元はと言えば、お前のせーだろ!?」

塔矢「人に責任転嫁するのは良くないな」

塔矢「そんなんだからあの後…」

ヒカル「だぁぁぁぁぁ!!!言うなって!」

塔矢「ふふふふふ。安心しろ、僕の口はかたい」

ヒカル「嘘つけっ!」

塔矢「ま、キミも散々僕に隠し事してるから良いじゃないか」

ヒカル「~~~~!!!」グヌヌヌヌ

ヒカル(あのヤロー、俺がsaiについて未だに全然何も言わないの
    根に持ってやがったのか…)

社「進藤!」

倉田「進藤!!!」

ヒカル「だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!勘弁してくれよ、ホント!?」

塔矢「美少女二人を泣かした奴はこれでもまだ温いくらいだ」ウンウン

市河「うんうん♪」

日高「あたしもそう思う」

塔矢「……」サァァァァァ

塔矢「市河さんに、日高先輩…?」

市河「ふふふ♪」ニコニコニコ

日高「うふふふふ♪」ニコニコ

塔矢「や、やあ今日は良い天気ですね?」

市河「アキラくーん?」

日高「あなたも勿論分かってるわね?」

塔矢「うわあああああああああああああああああ!!!!」ダッ

市河「こら、待ちなさいっ!」

日高「待てっ!」

ヒカル「……」ダダダダ

塔矢「なんだ?」ダダダダ

ヒカル「いや、お前も結局追われてんじゃん」ダダダダ

塔矢「う、うるさいっ!それよりどこまで走れば良いんだ?
   言って置くが僕は体力には自信は無いぞ?」ダダダダ

ヒカル「知るかよっ!とりあえずぶっ倒れるまで走るしかねーだろ!」

塔矢「本気で言ってるのか!?」

ヒカル「俺はいつだって本気だよっ!」ダッ

塔矢「ま、待て進藤!急にペースを……しんどぉぉぉぉ~~~~~~!!!!」


こうして、良く分からない物語りは良く分からないまま終わりを迎えた。
たまにはこういう終わりもええじゃない……誰かが言った、そんな気がした。



ヒカル「塔矢、おまえって好きな人とかいるの?」  終わり

終わりです
こんな変なSSを読んで下さった方がいたらありがとうございました

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